旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第11回甲

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法財產編再調査案第十一回ノ甲
自第四百八十三條至第五百十八條
(委員長)
始メマシヨウ
第四百八十三條朗讀ス
第四百八十三條 特定物ノ債務者ハ引渡ヲ爲ス可キ時ノ現狀ニテ其物ヲ引渡スニ因リテ義務ヲ免カル但有條件義務ノ危險ニ關スル第四百三十九條ノ規定ヲ妨ケス
債務者ノ費用ニテ物ヲ保存シ若クハ改良シ又ハ其過失若クハ懈怠ニ因リテ之ヲ毀損シタルトキハ替償ハ上ノ第一章第二節第三節ニ從ヒ當事者相互ニ之ヲ負擔ス
(栗塚)
「有條件」ノ云フノハ「條件付ノ義務」ト前ナツタカラソレニ倣ヒマスソレカラ「替償」ハ「償金」トナリマス
(村田)
「上ノ第一章」ト云フノハ「本節ノ第一章第三款」トヤラナケレバナランカ未ダ一章二節三節ハ出マセンデシヨウ
(栗塚)
此部ノト云フノデ「上ノ」デ分ルヨウデス
(南部)
「上ノ」「下ノ」ト云フ事ハ使ツテ居ルカラ良シイ
(委員長)
「相互ニ」ト云フニハ「各々」ト云フ事ダロウネ
(南部)
左樣デス債務者ノ費用デ保存シ改良シタハ債權者ノ方カラ負擔致シマス一方ハ過失解怠デヤツタ毀損一方ハ債務者ガヤルノデアルマス
(松岡)
更ニ調ベルト記シテアリマスガ平常ノ相互トハ些少ト違テ居リマス
(淸岡)
彼レト是レト相互ニ賠償ヲ爲スト云フノダネ、併シ之ハ些ト分リ惡クカツタカ今日考ヘテ見ルト之デ充分分リマス、一方ハ保存シ一方ハ毀損シタ方ダカラドウシテモ相互ニ、デスネ
(委員長)
良シイ
本條ハ「有條件義務」トアルヲ「條件付ノ義務」ト改メ「替償」ヲ「償金」ト改メ其他原案ニ決ス
第四百八十四條朗讀ス
第四百八十四條 金錢ヲ以テ目的トセル債務ニ於テハ債務者ハ其選擇ヲ以テ金若クハ銀ノ國貨又ハ強制通用ノ紙幣ヲ與ヘテ義務ヲ免カル
債務者ハ法律ニ依リ貨幣ノ名價又ハ純分ニ變更ヲ生スルモ約束シタル數額ヨリ多ク又ハ少ナク負擔セス
本條ノ規則ニ違背スル契約ハ無效ナリ但第四百八十六條第二項ノ規定ヲ妨ケス
(栗塚)
此ハ「金錢ヲ以テ」ヲ「金錢ヲ目的トセル」ト改メ「以テ」ノ二字ヲ削リマシタ
(渡)
強制通用ノ事ハ大藏省ヘ問合セルト私ノ手控ニ御座イマスガ如何
(栗塚)
此事ニ付テ三遍程會議ガ御座イマシタガ之デ良イトナツタノデ御座イマス
(南部)
本法ハ之デ良イト云フノデス
(渡)
商法ニハ如何デアリマスカ
(松岡)
商法ハ矢張此方ノヨウニ置キマシタラ良シイ
(栗塚)
ソレカラ「純分」ト云フハ「其純分ノ割合ニ變更ヲ生スルモ」ト致シマス割合ニト云フハ日本ノ貨幣條例中カラ純分ノ割合ト云フコトヲ出シテアリマス、純分ノ割合ヲ變更シタトキハ何何ト云フ金八銅二トカ云フガ純分ノ割合デ御座イマスカラ「其割合ニ」トヤツタ方ガ良シイト思ヒマス
(渡)
其方ガ良シイ
(元尾崎)
「名償」ト云フノハ純分例ヘバ一圓金貨金八銅ニガ銅七トナツテモ一圓ハ一圓ト云フト云フノカ
(松岡)
左樣
(元尾崎)
「名償」變更シテモ數額デ行ケバ天保ガ八厘ニナツテモ一錢デ宜イノカ卽チ數額ハ一錢デシヨウ
(栗塚)
八厘ト云フ數額ニナツテ仕舞ウノデアリマス
(松岡)
變更シタノダカラネ
(元尾崎)
少シ違フ、金八、一オンス金ハ一圓ト見テ一オンス、ナルニ七分位ヒニナツテモソレモ一圓ト云ヘバ一圓ノモノト云フノダロウ然ルニ名價ガ變ハルト云フトソレハ實際ハ初メヨリ直打ガ下テ居ルカ一圓デ行クト天保ガ實際下ツテモ一錢デ行クトナルゼ
(槇村)
百錢デハ行カントナルダロウ矢張天保ハ八厘ノ通用ト定マツタ、スルト八厘デス一方ハ假令九十九錢ノモノデモ一圓ニ通用セヨト云ヘバ一圓デス
(元尾崎)
オカシイ、純分ガ減テモ一圓ニ通用シテト云フノダネ
(栗塚)
貨幣ノ名價ガ減テモ殖ヘテモデアリマス、法律ガ通用セヨト云フノデス
(元尾崎)
減テモ一圓ニ有效ト云フノダカラ同ジデス
(松岡)
「純分」ト云フノヲ讀マナケレバ良シイノダロウ貨幣ノ名價ガ變更ヲ生ズルトモ約束シタ數額丈ケスルト云フノデ、スルト數額丈ケデス
(元尾崎)
ソウハ讀メンネ
(村田)
續メンネ
(三島)
百文ノ名價ダガ八厘ノ數額ト云フノデス
(栗塚)
天保ガ八厘ニナツタノダカラ百文返スニハ二厘足サナケレバナラン
(松岡)
大藏省ヘ問ヒ合セル事ハ其儘カ
(村田)
松岡一人デ問ヒ合セルナラ上言タノダロウ
(松岡)
ソンナラ言フガ私ガ起案者ニ間フト言フト、スルト南部君ノ言フニ委員會ノ名譽ヲ汚スカラ一人デ問フガ良イト言フノデ「ボアソナード」ノ註解ヲ見ルト日本ノ紙幣ハ卽チ強制通用ナリト謂テ居ルノデ、ソレダカラ私ノ言フ事ヲ問ヒマスレバ日本ノ紙幣ハ強制通用ナリト云フニ違ヒナイ、故ニ之ハ名譽ヲ毀損シナカツタ
(村田)
兌換銀券ハ強制通用デナイト云フ論ハアツタ
(元尾崎)
此ニ一ツ疑ヒガアルガ金若クハ銀ノ國貨ト補助銀貨ト云フノガアル一體割ハ低ヒ併シナガラ十錢ナリニ十錢ナリ通用スルガ之ヲ以テ強イル事ハ出來ン
(南部)
ソレハ第四百八十七條デ議場デ削タカラソコデ論ズベキデアリマス此デ論ズベキデハナイ
(元尾崎)
コウ書イテアルト疑ヒガ起ルネ
(渡)
金若クハ銀ノ國貨デ盡務ヲ免カルルト云フトドウカ
(栗塚)
先ヘ行テ御論ジヲ願ヒマス
(委員長)
貨幣條例ト同ジヤウナモノガアツタガアレヲ削タカラネ
(栗塚)
削タノガ惡ケレバ置イテモ良シイ
(南部)
其所ヘ往テ論ジマシヨウ
(淸岡)
前ノ如ク「多ク又少ク」トヤツタガ「モ」ノ字丈ケ欲イ
(西)
ソウデス
(栗塚)
併シ生ズルモ、トアリマスカラ
(大尾崎)
「モ」ノ字ハ入レンデモ宜シイ
(渡)
之デ良シイヨウデス
(元尾崎)
金若クハ銀ノ國貨ヲ與ヘハ足ランヨウニモ見ヘル、銅貨ハドウスルト云フ、書ク以上ハ明瞭ニ書イテ置カント往カン
(委員長)
此所ハ極ク正式ノ處ヲ謂タノデス
(元尾崎)
金貨銀貨ヲ謂テ銅貨ハ貨幣條例ニ讓ルノカ分ラン
(村田)
補助貨ト云フモノガアルカラネ
(元尾崎)
ナゼ、ソンナラ銅貨モ書イテ置カン、銅貨ハ貨幣條例ニアルカラ分ラン金貨モ貨幣條例ニアルガソレ丈ケ書クト云フノハ分ラン銅貨デモ一圓ノナラ良イデハナイカ
(栗塚)
銅貨ハ幾ラ迄強ユル事ガ出來ルカ四百八十七條ヲ、惡イモノト議論ヲ願ヒマス
(元尾崎)
貨幣條例ニ依テ銅貨ヲ書イテ置ケバ良シイガ金銀ヲ謂テ銅ノナイノハオカシイ
(栗塚)
金銀ヲ謂テ銅ヲ謂ハント云フノハ銅ハ五圓ヨリ往カンノデス
(元尾崎)
貨幣條例ハ一圓デス
(栗塚)
貨幣條例ハ一圓ダガ起案者ノ書イタノハ五圓迄デス之ヲ一圓ニ改メタガ尙ホ貨幣條例ニ出ルトシテ削リマシタガ義務ヲ免カルルトキハ何デ免カルルカ孰レ金貨銀貨ニ相違ナイ、銅デ免カレヨウトシテモ一圓以上ノ債務ハ免カレヨウハナイ
(元尾崎)
ケレドモ向ウガ受取レバ良シイ
(栗塚)
金錢ヲ目的トセル債務ハデス
(元尾崎)
銀補助貨十圓迄銅貨一圓迄ト見レバ良シイカ
(南部)
補助貨ノ事ハ先ニアリマス
(松岡)
最初銀ハ補助貨デ十圓ノ制限モアツタガ今ハ幾ンド兩本位デアリマシヨウ
(元尾崎)
正貨ハ一圓銀貨丈ケデ五十錢以下ハ補助貨デス
(委員長)
何方モ上モ下モ往カンノデス
(南部)
補助貨ノ話ナラ第四百八十七條デ往テ論ジテ良シイ
(元尾崎)
削タト云フカラデス
(南部)
削テモ論ガアレバソコデ論ジテ良シイ
(委員長)
八十七條ヘ往テ削タハ良クナイト云フナラソコデ論ジヨウ此ハ補助貨ノ處デハナイカラネ
(元尾崎)
私ハ、金銀銅貨又ハ強制通用ノ紙幣ヲ與ヘテ義務ヲ免カルル但制度ハ貨幣條例ニ依ル、ト書イテ置ケバ良イト思フ
(南部)
未ダ理窟ガアリマス
(元尾崎)
ソウ云フコトニ入レルト御同意下サレバ良シイ
(南部)
終リ迄讀ンデ見ナケレバ論ジラレナイ
(元尾崎)
欺カレテ仕舞、言フニ機會ガナクナツテ仕舞カラネ
(委員長)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第一項「金錢ヲ以テ」トアル「以テ」ノ二字ヲ刪リ第二項「債務者ハ法律ニ因リ貨幣ノ名價又ハ其純分ノ割合ニ變更ヲ生スルモ約束シタル數額ヨリ多ク又ハ少ナク負擔セス」トシ其他原案ニ決ス
第四百八十五條朗讀ス
第四百八十五條 右ニ反シ辨濟期ニ於テ諸種ノ貨幣ノ爲替相場ヨリ生ス可キ相互ノ高低ノ差ハ債務者ノ選擇スル法律上ノ貨幣ヲ以テ平均價額ノ辨濟ヲ爲シ當事者ノ間ニ之ヲ平分スル契約ヲ爲スコトヲ得
(南部)
平分スル合意、ダロウネ
(栗塚)
合意デアリマス
(村田)
分ランネ
(松岡)
分リ惡イ
(元尾崎)
債務者ノ選擇ニ依ルト云フ事ガ惡イネ
(栗塚)
「金」百三十圓「銀」百十圓「紙」百園トアル商事爲換ノ相場ヨリ生ズル高低ダカラ金ハ紙ヨリ三十圓高シ銀ハ十圓高ヒ差ガアル金ト銀ト較ブルトニ十圓差ガアル其時債務者ガ選擇スル法律上ノ貨幣ヲ以テ何レデモ拂フ事ガ出來ル平均額ノ辨濟ヲ爲スダカラ平均スルト恰ド三百四十圓ト云フモノヲ三ツデ割ルカラ百十三圓三十三錢トナル此割デ返スト百十三圓三十三錢ヲ返ス事ガ出來ルト云フノデアリマス
(元尾崎)
百十三圓三十三錢ヲ紙幣デ出スノカ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
金貨ヲ出スト
(栗塚)
金貨デモ百十三圓三十三錢デス
(元尾崎)
金ニ直シテ金ノ數ヲ云ヘバ八十圓ト謂ハザルヲ得ン金ノ數ハ實際八十圓デ百十三圓三十三錢トハ云ヘンダロウ
(栗塚)
紙デ百十三圓三十三錢ヲ拂ヘバ良シイ、スルト金ナラバ紙ノ百十三圓三十三錢ヲ幾ラヲ以テ行クカ八十圓持テ行ケバ良シイ銀ナラ九十圓ヲ持テ行ケバ良シイノデス
(槇村)
分リ兼ル、三箇ノモノヲ較ベテカ
(栗塚)
金ト銀デモ良シイ
(槇村)
三箇ヲ較ベテ平均スルト幾分ト云フガ出ルソレヲ以テ辨濟ヲ爲スソレカラ又當事者ノ間ニ平分スルト云フノハドウ云フノカ、辨濟爲シテ平分スルノカ
(栗塚)
辨濟爲シテ平分スルノデハ御座イマセン
(松岡)
合意シナカツタラ矢張返スニハ同種類ヲ以テ往カナケレバナラン
(渡)
理窟上コウナルデシヨウ
(松岡)
道理ガ斯ウナリト云テ押付ケラルルハドウモ往カン
(栗塚)
併シ合意丈ケデスゼ
(渡)
今日ノ如ク差ガナケレバダガ十二三年ノ如キ差ガアルト分ランカラ割合ヲ謂フノダロウ
(元尾崎)
平均額ハ三箇合シテスルノデナク時ノ相場デハナイカ
(南部)
ソウデナイ
(元尾崎)
金デ約束シテ金ガ元ト百圓ガ百三十圓ナレバ紙幣百三十圓ヲ拂フト云フノダロウ
(松岡)
ソレハ往カン替換デ來ル金幾ラニ當ルカ調ベル
(元尾崎)
日本ニ貨幣デ金何程借リト云フト金ヲ現場受取テ紙幣デ返シテモ仕方ガナイ
(南部)
ソレハ良シイガ此ハ平均相場デナク三種ノ貨幣ヲ平均スルノデス
(村田)
之ハ仕方ガナイ
(元尾崎)
三種ト書クカラオカシイ
(栗塚)
種子ト云フ丈ケデ、今日本デ三種ダカラ三種ト出シタノデ金ト銀トシテモ良イノデス
(元尾崎)
ドウ云フ意味カ今ノヨウナラ意味ノナイ事ダ
(松岡)
替換相場ト云フノハ兩換相場ノ日々取引ダガ替換ハソウデナイ
(元尾崎)
日々取引ダ
(大尾崎)
之ハ兩換ノ事デス
(松岡)
替換ト云フノト兩換トハ違フゼ
(栗塚)
之ハ兩換ノ事デス
(淸岡)
寧ロ原案ノ方ガ分リ宜シイ辨濟ヲ爲シト云フカラ、又相場ヨリ生ズルト云フ、間違ガ生ズル、前ノハ替換市價トアル又平均額ニ辨濟ニ依ルトアル今度ノハ辨濟ヲ爲シ原文ト云フカラ分ラン
(松岡)
同ジ事ダロウ、替換市價モ相場モ異ナツタ事ハナイ
(大尾崎)
原案ガ良シイ、原案ナラ略ボ分ル
(南部)
辨濟ヲ爲ス、ハ成程惡イネ
(大尾崎)
原案ノ如ク「塡補」ト云フカガ良シイ
(淸岡)
之デハ薩張リ分ラン
(村田)
「塡補」ノ方ガ分ル
(栗塚)
詰リ百圓借タラ百圓返セバ良シイ併シ借タトキ差ガ出ルト思タラ返ス時ニ兩換相場デ差モアルカラシテソレヲ平均シテ呉レト言タラ紙デ百圓返セバ良イノヲ三十三圓三十三錢餘計ヤルト云フノデス
(大尾崎)
ソレダカラ「原分」ヲ「槇補」トスルト良シイノデ、今金貨一萬圓ヲ借タガ紙幣デ一萬圓返ス事ハ出來ヌ一萬圓五千圓返サナケレバナランカラ一萬圓デ宜イノモ五千圓丈ケ「塡補」ニ持テ往カナケレバナラント云フノデス
(槇村)
ソレデハ分ラン「當事者ノ間ニ之ヲ塡補スル」ト云フノハドウカ當事者ノ間塡補ヲ合意ナスガ卽チソレダロウ平均シテ貴君ガ若シ御返シスル時ハ二百五十圓ヅツ損シヨウト云フカ
(大尾崎)
間ニト云フノガ惡イノデス
(委員長)
「塡補」スルト云フガ良クナイ
(松岡)
旨意ハ平分デ、一方ニ損ヲ掛ケテハ往カンカラ爲メニ合セテスルノデス
(西)
卽チ平分デス
(村田)
之ハ元老院デ削タ處デス
(元尾崎)
削リマシヨウ
(松岡)
コウ云フ事モ出來ルト云フ方法ヲ示スト云フノハオカシイ
(委員長)
高下ガアロウト思フカラ最初ニ豫備ヲシテ置クノデ若シ差ガアツタラ半分ヅツ拂ヒマシヨウト百三十圓ニナツタラ十五圓ヅツ損ヲシヨウト云フ契約ダ
(松岡)
左樣デス
(委員長)
「法律上ノ貨幣ヲ以テ當事者ノ間ニ平均額ノ合意ヲ爲ス事ヲ得」トシテハドウカ
(粟塚)
原ノ字ニハ及バンノデ只返ス事ヲ得デ宜シイ分ツ事ハ假令均シクモ均シカラズニモセヨ出來ルト云フノデアリマス
(大尾崎)
成程考ヘルトソウ聞ヘルネ互ニ分ツタ部分ハ互ニシヨウト云フノダネ
(委員長)
ソレ丈ケデス當事者ノ間ニ平均價額ヲ以テトシテ良シイ
(松岡)
上ニハ數額バカリデ其時ニ貨幣サヘ持テ往ケバ否應云ヘヌ、ト云フガ右ニ反シテ「辨濟期ニ於テ諸種ノ兩換相場ヨリ生スヘキ差額ノ爲メニ契約ヲ爲ス事ヲ得」ト云テハ何ウカ
(委員長)
スルト差額ノ爲メニ簡單過ギテ分ラン
(松岡)
併シ平均セヨ抔ト云フヨリハ「ボアソナード」ノ註ニモアルガ種々仕方ハアルガ併シ算盤ノ目安ヲ定メナケレバナラント云テアリマス畢竟前條デハ種々ナ約束ハ何モ出來ヌヨウ見ヘルガ、ナレドモ兩換ノ相場デ時々分ル其爲メニ契約スルノハ當事者間デ出來ル法律ガ止メハセント云フ丈ケニシテドウデ御座イマシヨウカ
(委員長)
意味ハソレデ充分デス
(栗塚)
平均ト云フノハ塡補ガ相殺デス
(松岡)
同ジ事ダ兩換相場ノ狂ヒニ依テ契約ガ出來ルト云ヘバ良イ、コウ云フ兩換相場ニ差額ニ付テモ合意ガ出來ルトシテ置ケバ良シイ
(栗塚)
ソレサイ申セバ良シイノデス
(松岡)
一方バカリ損得ガ出來ル契約モ出來ル然レドモ法律ガ兩方公平ニシナケレバナラント云フガソレハ合意ヲ許ス丈ケノ考ヘ斯クヤツテ見ルト一方ガ一人得ヲ取リ契約ハ賜來ヌト見ナケレバナラン雙方ニ係ル平分ナリ塡補ナリ出來ル契約ガ出來ルト云フト一人ハ相場デドウ□□ スル契約ハ無效ト解釋シナケレバナラン、寧ロ其事ハ謂ハズ兩換相場ヨリ生ズル差額ニ付豫メ合意ヲ爲ス事ヲ得、トシテ置ケバ良シイ
(槇村)
元トノ方ガ分ル
(南部)
併シ只合意スルコトガ出來ルト云フヨウニナルト註ノ意味ガ逹セン、全ク結約者間ノ損益ヲ一人ニ歸スル痛痒ヲ防止スル旨意ダカラ原案ノ通リ意味ニスルナラソレハ贊ケナケレバナラン
(栗塚)
八十六條ノ金貨デ此丈ケ借リタト云フト、スルト金貨デ矢張兩換相場ノ損益ヲ受ケテ免カレマセン併シナガラ返ストキハ矢張金ヲ以テ返サナケレバナラン紙幣デ金丈ケノモノヲ持テ行ケバ良イト云フノデス
(松岡)
初メカラ金ナラ金銀ナラ銀ト定メタトキデス
(栗塚)
定メテ返濟ノトキハ金ヲ以テ行クニハ及バン紙幣ヲ金ニ代ハル丈ケニ以テ行ケバ良シイ許サナケレバナラン、ソレカラ二項ハ金貨又ハ銀貨ヲ以テ負擔ノ金額ヲ辨濟スルニハ金デ借リタカラ金デ御返シ申マシヨウト云テモ其トキハ紙幣デ以テ行ケバ良シイ其コトデ御座イマスカラ八十四條五條六條ハ例外ヲ示シタノデアリマス
(松岡)
五條デ見ルト今一ツ間ニ立テ兩換ノ其トキニ損得ハドウスルカ合意ガ出來ルト其合意ノ出來ルノハドノヤウナ合意デモ自由デアルカ起案者ハ兩方餘リ片落チノナイヨウニ云フノデシヨウ
(栗塚)
片落チノ合意モ出來ルノデス
(松岡)
此所ト五條デハ片落ノ合意ハ出來ヌダロウ
(栗塚)
ソレハ出來ルダロウ平分スルト謂テモ平分スルヨリ外合意ハ出來ヌカト云フニ平分スレバ百十三圓三十三錢ダガ返ストキハ百十圓デ返サウト云テモ良シイ又一割丈ケ減ジヨウト云フト減ズルコトモ出來ル
(松岡)
此所デハサウハ往カン塡補ト云フト平分ト同ジダガ平分スル合意デナケレバ片落チノ方ハ往カントナル、ダカラ平分ナドハ云ハナクツテモ良シイ相場カラ生ズル差額ニ付テモ合意ヲ爲スコトヲ得、ト云ヘバ良シイ
(栗塚)
斯ウシテモ實際ハナイダロウト思フソレハ問題デコウシテ置ケバ外ニ合意ハ出來ヌト見ルダロウガ合意ダカラ片落ニスル合意モ滅多ニハアリマスマイガアツタラスルコトヲ得ト見ルト思フ問題ハソコニ歸スルノデアリマス
(松岡)
當事者間ノ塡補スルト云フコトハ云フタ筈ハナイソレハ雙方合意ニ任セルノデ、併シ當事者間ニ合意ヲ爲スコトヲ得ト云フト相對ノ契約ハ許サント云フノガ一般デアリマス
(栗塚)
社會ノ秩序ニ關係シタ法律ナラ此ノミナラズ出來ヌト云フコトニ謂ハナケレバナラン
(元尾崎)
此々出來ルト云フト外ノコトハ出來ント云フカモ知レン
(南部)
全ク一人ガ損シ全ク一人ガ得スルト云フコトハ出來ント云フノデス
(栗塚)
ソウデス
(松岡)
貨幣ハ八十四條カラ始メテ一方カラ損スル事ハ許サント云ナケレバナラン
(西)
許サント思フ
(元尾崎)
次ノ條デ許シテ居ル
(南部)
ソレハ債務者ガ引受ケテ居ルノデ全ク別デス
(元尾崎)
金貨ヲ以テ負擔スベキ約束ヲ爲シテ金貨デ拂ヒマシヨウト約束シタ以上ハ後チハ、百五十圓ガ二百圓ニナロウトモ拂フハ同ジダ
(松岡)
一方ハ損ダガ合意ガ金トカ銀トカ定メンノダロウソレデ損害ハ兩換相場ヨリ生ズルハ兩方是非擔當シナケレバナラン
(北畠)
私ハサウ云フノデナイト思ヒマス、之ニ、諸種ト書イテアリマスカラオカシイヨウデスガ本文ヲ見ルト私ガ貴君ニ金貨ヲ一萬圓借リタ然ルニ紙幣一萬五千圓デ行ケル然ルニ金ガ六ケ月以後一萬二千圓ニナツテ三千圓下ルカモ知レン北畠ニ一萬五千圓デ通用スルニ六ケ月經テ利息ヨリ餘計損ヲスルト私ハ返サン是ニ於テ貴君ニ向テ、何ト斯ウシテモ呉ンカ總額カラ下タ處デ今日ノ通貨トノ間デ平分シテ拂ヒヲスルカラ半分丈ケ擔ヒマスカラ返シテ呉ソカト相談スルコトガ出來ルカドウカ出來ルト云フノデ格別六ケ敷一モノデハナイト思フ
(元尾崎)
其通リデス
(松岡)
今日ノ價ト拂フ時分ノ價ト三千圓違フガ中間ヲ取テ千五百圓ニ折合シテ呉レト云フト其通シマシヨウト云フト八十五條デ平分デ行クカ私ハ否ト云フ、矢張三千圓皆損ヲスル
(北畠)
ソレハ金貨デ一萬五千圓借リテ相場デ返スカラ八十六條ハ構ハン貴君ガ金貨デ返シテ貰ヒタイ私ハ一萬五千圓ハ外ヘ拂ヒ通用スルガ御前ニ貸テ三ケ月先ニナルト損ガ往クト其バトキハ貴君ハ損ヲスルト御思ヒナサロウカラ其トキノ相場ト今日ノ相場ト中間デ拂ヒマシヨウ若シ上タラドウカ其トキモ半分ニシテ下サランカソレモ出來ルト云フノデ、諸種ト書クカラ迷フガ格別ハナイ
(松岡)
全ク一人ノ損ヲ防グ爲メト何所ニアルカ
(元尾崎)
差支ハナイガ餘程變ナコトダ
(渡)
八十五條、六條ハ有ラユル種類ヲ見セタバカリデ五條ハ平均額デ平分ト云フノガ旨意デアロウ、卽チ頭割ト云フノデスネ
(南部)
註ヲ讀ムト八十六條ノヤウナ弊ガアルカラソレヲ防グガ良イト云フノデス
(松岡)
八十六條ニ金銀價額ヲ以テ負擔ノ金額ヲ指定シタルトキハ指定ノ金銀デナケレバ往カンカト云フニ替換相場モ損益モ一人ニハ歸セント云フノデ初メ契約スル時分ニ自由ニ出來ルト云フノデス
(村田)
一人ニ歸スルト云フニハ出來ヌヨウデス
(松岡)
八十五條ハ「ボアソナード」ガドウ云フコトヲ書クカト云ヘバ一方ニ損得ヲ掛ケテハ惡ルイト云フ是非兩方擔當セヨト云フノデス
(村田)
ソウ云フ合意シタラ無效トナルノデスネ
(松岡)
ソンナラ云ハンデモ良シイ
(淸岡)
分テ居ルカラ文字ヲ修正シマシヨウ
(渡)
之デ能ク分ル實ハ八十五條ハナクトモ差支ナイ合意スルコトヲ得、デスカラネ併シ折角書イタノダカラアルモ良シイ
(松岡)
ソウ讀レテハ私ハ恐クハ原意ヲ盡スマイト思ヒマス
(栗塚)
平分スルト云タ爲メニ論ガ出タノト思ヒマス
(槇村)
併シ平分デス平均額ノ辨濟ダカラドウシテモ二ツ割トナルノデス
(栗塚)
契約ノ自由ヲ示シタノデアリマスカラ何ウシテモ勝手ニ出來ルト云フノデス
(槇村)
若シ差ガアツタラ二ツ割ト云フノデス
(元尾崎)
七分三分ニハ出來ンノカ
(栗塚)
ソレモ出來ルノデス
(南部)
平分ト云フハ惡イカ知レンガ七分三分モ出來ルノデシヨウ
(南部)
七分三分モ出來ルノデス
(松岡)
ソンナラ、丸々ハドウカ
(栗塚)
ソレハ次ノ條ニアリマス
(北畠)
突如ト見テハ分ランガ能ク見ルト分ル、塡補ト譯シタハ註ノタメニダネ
(栗塚)
辨濟ニ因リデスネ、辨濟ニ因リ當事者ノ間ニ之ヲ塡補スルトカ、之ヲ相殺スルトカ、合意爲スコトヲ得、ト云フノデスネ
(大尾崎)
塡補ガ良シイ
(渡)
事柄ハ分テ居ル
(栗塚)
當事者ノ間ニ之ヲ相殺スル合意ヲ爲スコトヲ得、デハ如何
(村田)
相殺ハ惡イ
(淸岡)
塡補ガ良シイ
(南部)
塡補ガ良シイ
(栗塚)
之ヲ分ツノ合意ヲ爲スコトヲ得、デハ如何
(北畠)
委員長ノ御說ノ樣ニ貨幣ヲ以テ當事者間ニ平均額ノ辨濟ヲ以テスルコトヲ得、デ良シイ
(渡)
茲デヤツテモ往カンカラ報吿委員ノ方デヤツテ貰ヒマシヨウ
(元尾崎)
刪ル論ハナイカ
(淸岡)
アリマセン
(松岡)
私ハ兩換相場ヨリ生ズ可キ差額ヲ云々約束スルコトヲ得トスレバ良イト思フ
(北畠)
「平分」一アモ分ルコトハ分ル
(淸岡)
平均額ノ辨濟ニ因リ當事者ノ間ニ之ヲ塡補スルコトヲ得デ良シイ
(元尾崎)
塡補ハ良クナイ
(渡)
塡補ガ良シイ
(南部)
法律上價額ヲ以テスル平均價額ノ辨濟ニ因リデ良シイ
(北畠)
辨濟ニ因リハオカシイ
(淸岡)
以テスルガ良カロウ
(元尾崎)
以テスルハ分ランゼ原案ノ通リデ良シイ塡補丈ケヲ直シテ良シイ
(松岡)
替換デハ往カン兩換デ良シイ
(渡)
兩換デ良シイ
(北畠)
兩換デ良シイ
(大尾崎)
兩換デ良シイ
(栗塚)
爲替ト云フノハ京都大阪東山尽ト云フトキ市價ガ使ヘントスルト兩換ハ爲替ト見テハ如何
(松岡)
日本デハ爲替相場ト云テ決シテ兩換相場トハ云ヘン
(栗塚)
兩換相場ト云フト東京丈ケハ參ルカ大阪トカ京都ハドウカ
(南部)
爲替デ良シイ
(粟塚)
兩換ト云フハ良イヨウダガ兩方含マンヨウニナルト困ル
(渡)
爲替デ良カロウ
(元尾崎)
ソンデハ先ヅ良シイ
本條ハ左ノ如ク修正ス
右ニ反シ辨濟期ニ於テ諸種ノ貨幣ノ爲替相場ヨリ生ス可キ相互ノ高低ノ差ハ債務者ノ選擇スル法律上ノ貨幣ヲ以テスル平均價額ノ辨濟ニ因リ當事者ノ間ニ之ヲ塡補スル合意ヲ爲スコトヲ得
第四百八十六條朗讀ス
第四百八十六條 金貨又ハ銀貨ノ價額ヲ以テ負擔ノ金額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ獨リ爲替相場ノ損益ヲ受ケ法律上ノ他ノ貨幣ヲ以テ義務ヲ免カルコトヲ得
金貨又ハ銀貨ヲ以テ負擔ノ金額ヲ辨濟ス可キコトヲ約束シタルトキモ亦同シ
外國ノ貨幣ヲ以テ辨濟ヲ爲ス可キコトヲ約束シタルトキハ債務者ハ右ノ規定ニ從ヒ自己ノ選擇スル法律上ノ貨幣ヲ以テ其外國ノ貨幣ノ價額ヲ辨濟シテ義務ヲ免カルコトヲ得
(栗塚)
此所ハ金貨又ハ銀貨ヲ以テ、デ良シウ御座イマシヨウ「價額」ハイランヤウデス
(淸岡)
下ト同ジヨウニナルゼ
(栗塚)
違ヒマス金デ拂フト云フノト價額ヲ定メタノト違ヒマス指定ト云フノニ氣ヲ付ケレバ良シイ
(元尾崎)
「價額」ガアツテハ惡イ
(村田)
價額ト云フコトハナイ方ガ良シイ
(元尾崎)
金百圓ト云タラ紙幣デ返シテモ良シイノダ
(淸岡)
指定シタトキ金百圓ト書イテアツテモ往カン負擔金額ヲ指定シタルトキガ、ダカラ金ト書イテアツテモ銀ト書イテアツテモ往カン
(村田)
何ガ往カンカ
(淸岡)
負擔價額ヲシテ指定シテアツタラ義務ヲ免カルル
(村田)
其トキ紙ヲ持テ往テモ宜シイ
(槇村)
證文ニ何ウ書カウガ金貨額ヲ以テト書クト分ル
(南部)
金百圓ハ銀百圓ト云フ
(北畠)
指定ハ貸借スルトキニ指定デシヨウ、スレバ金貨百圓借リタ然ルニ實ハ百五十圓デソレヲ價額ト云フノデシヨウ
(元尾崎)
百五十圓ナリ右ハ金貨百五十圓ナリト云フコトダ
(南部)
註ニアリマスガ、地所ヲ賣タトキ此代價金百圓ナリト書イタラ宜イノデソウシタトキハ損益ヲ以テ法律上金貨百圓ト書イタモ同ジデス
(元尾崎)
價額ヲ書ケト云フノダカラ工合ガ惡イ
(南部)
金貨百圓ト書イタト云フ譯ケデ次ニハ金貨ヲ以テ返セト云フノデス
(元尾崎)
ソウ書イテモ紙幣デ行クノデス
(南部)
ソレダカラ又同ジデス
(元尾崎)
註ニアルガ、銀貨ノ價額ヲ以テト云フト其時ノ相場ヲ書イテ置カナケレバナランナンデコンナコトヲ云フノカ
(北畠)
ソレダカラ「ノ價額」ト云フ字ハ刪ルト云フノデス
(栗塚)
初メ刪ルコトヲ申シマシタガ恰度コウ見レバ良シイ「金貨又ハ銀貨ヲ以テ負擔金額ヲ」ト云フト金何圓ト云フノデ何圓負擔金額ヲ以テ金トカ銀トカ付ケルノダカラ金又ハ銀デ負擔金額ト云フハ何圓ト云フノデ丁度金何圓拜借シマシタト云テアレバ紙ヲ以テ往ケバ良シイ
(元尾崎)
ソウデハナイゼ
(栗塚)
ソウデス次ノ條ハ金デ御返シ申ス銀デ御返シ申ス、辨濟ニ係ルノデ金又ハ銀貨ヲ以テ負擔ノ金何圓ヲ御返シ申スト書イテアツタラ辨濟ト云フ字ト指定ト云フ字ニ注意スレバ宜イ
(村田)
「價額」ハナイ方ガ良シイ
(松岡)
「ノ價額」ハ刪ルガ良シイ
(栗塚)
第二項ハ「約束」ト云フ字ハ「要約」ト云フニ決シタガソウ致シマスカ「要約アリタルトキモ亦同シ」トシマス、ト云フノハ返シテ呉レト向フカラ言タトキ、金デ返シテ呉レ上百タニモセヨト云フノデアリマス
(松岡)
スルト諾約ナンカ、約束デモ良カロウ
(栗塚)
原文ニアルノハ金デ貸タ人ガ金デ返シテ呉レト云タトキモ亦同ジト云フノデアリマス
(元尾崎)
原案ノ翻譯モ間違テ居ルネ原書ハ簡單ニ書イテアツテモ返ストキハ紙幣ヲ百圓返シテト云フト
(渡)
三項ノ約束ドウカ
(元尾崎)
羅紗ノ代價千圓ト云テ其返ストキハ二千圓ニナツテ居ツテモ矢張千圓ト云フト二項ト全テ違フノデアリマス
(委員長)
三項ハ
(栗塚)
「右ノ規定」ト云フト前二項ノ規定ニ從ヒ、デ之ハ再調査ノ文例デ右ト云フト前條ヲ承ケルト云フ
(三島)
前二項モ承ケルノデス
(栗塚)
ソンナラ右デモ良シイ
(元尾崎)
前ノ處ヲ金ヲ以テ負擔金額、トシタ處ヲ債務者一人法律上他ノトシテ但爲替相場ノ損益トシテハ如何
(南部)
矢張之デ良シイ
(元尾崎)
價額ト其時ノ相場デ拂ハナケレバナランヨウニ見ヘル
(栗塚)
之丈ケガ、カツコノ内ニ在ルト見レバ良シイ但爲替相場ノ損益ハ債務者一人之ヲ負擔ストシテモ良シイ
(南部)
ソンナコトヲ言ハンデモ良シイ
(槇村)
良イニシテ置ク
(委員長)
元尾崎サン先刻論ノアツタハ此デシヨウ
(元尾崎)
私ハ八十四條ニ戻ルヨウダガ彼所ノ註ノ原案ヲ見ルト債務者ノ目的ニナルトキ債務者其選擇ニ從ヒ云々ト彼ノ意味ニシテ強制通用、強制ト云フ字ヲ紙幣ト云フ字バカリニ冠ラシタラ惡イノデ私ハ銀ハ否トハ云ハンノデス
(委員長)
紙幣バカリダ
(村田)
英文モ紙幣バカリデス
(松岡)
貨幣ヲ制スルト云フ方カラ云フ金銀銅モ強制ダガ此デ云フノハ金銀ハ無論デ強制ノ字ヲ用ヒタノハ紙幣バカリデアリマス
(元尾崎)
八十四條ハ金銀銅貨ヲ以テ、ト入レテ良シイ法律上金銀貨幣ダカラ法律ト云フ法律ガ貨幣條例ガ惡イト云フモノデドウ云フコトニナルカ補助銀貨十圓ヨリナラントカ云フコトニナルノデ強制ト云フハ紙幣バカリカケテ金若クハ銀ノ國貨ト云フト此所デ補助銀貨デモ免カルルヨウニ見ヘル
(村田)
ソレハ特別法デス
(元尾崎)
特別法律ガアルカラト云フナレバコンナコトヲ讓ルナラ書カンデモ良シイ
(大尾崎)
置ク可シ々々
(淸岡)
八十七條ハ置クガ良シイ
(南部)
置クガ良シイ
(渡)
コウヤツテ見ルト刪レマセン
(元尾崎)
置クナラ良シイ
(渡)
貨幣條例ハ不易トハ云ヘン
(元尾崎)
民法デモ不易トハ云フモノデナイ
(松岡)
法律ノ制限ヨリ多クト云テ良シイ
(栗塚)
銅貨及ビ五十錢以下補助銀貨カ
(淸岡)
五十錢以下ト云フコトハイラン
(元尾崎)
補助貨幣デ良シイ
(南部)
銅貨及ビ補助銀貨ト云フコトハ謂テ良シイ
(渡)
ソレデ良シイ
(栗塚)
銅貨及ビ補助銀貨ハ特別法ヲ以テ其額ヲ定メタル數額以上之ヲ與フルコトヲ得ズ但反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラズトシテハ如何
(渡)
其位ヒデ良シイ
(委員長)
銅貨ト云フノハ何トカ定メズ置クコトハ出來ンカ
(元尾崎)
只補助貨デ良シイ
(南部)
金銀トバカリ謂セタイ
(渡)
八十四條デ銅貨ヲ何ゼ入レント云フ論デス
(大尾崎)
補助貨デ良シイ
(栗塚)
補助貨ハ法律上制限ヨリ多ク取ルコトヲ得ズガ、銅貨及ビ補助銀貨ト謂イタイ
(西)
ソウ云ハナケレバナラン
(槇村)
銅貨ハ元ト補助貨カ
(元尾崎)
アレハ元ヨリ補助貨デス
(村田)
補助貨ト云ヘバ銅貨ハ這入ルノデス
(南部)
前ニ金銀ト謂テ居ルカラソレト照應シテ矢張銅貨及ビ補助銀貨デ良シイ
(村田)
ソウスレバ補助銅貨ト云ハナケレバナラン
(大尾崎)
補助貨デ良サソウナモノデス
(村田)
補助貨ト云フハ兩方這入ル
(南部)
ソレハ分ラン金銀ノ論ガアツタカラデ、ソウ分タナラバ論ハナイ銅抔ハ土臺義務ヲ免ルルコトハ出來ント云フ疑點ガアツタカラ、ソレダカラ銅ト云フ字ヲ入レテ良シイ
(槇村)
補助貨ト云ヘバ矢張銅ガ這入ルノデス
(渡)
銅貨及ビデ良シイ
(槇村)
ドウカ、知ラン
(栗塚)
銅貨及ビ補助銅貨ハ特別法ニ定メタ數額ヨリ多ク之ヲ附與スルコトヲ得ズ但反對ノ合意アリタルトキハ此ノ限ニ在ラズ
(元尾崎)
辨濟ノ給付ガ良シイ
(栗塚)
多ク辨濟ニ之ヲ用スルヲ得ズカ
(元尾崎)
給付スルコトヲ得ズ、デ良シイ
(北畠)
辨濟トシテ給付ガ宜シイ
(栗塚)
辨濟トシテ之ヲ與フルコトヲ得ズ
(元尾崎)
ソレガ良シイ
(栗塚)
交付デモ良シイ、銅貨及ビ補助銀貨ハ特別ニ定メタル數額ヨリ多ク辨濟トシテ之ヲ交付スルコトヲ得ズ但反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラズ、カ
(元尾崎)
ソレデ良シイ
(三島)
餘計ナ事ヲ言フ樣デスガ文章上ノ事ヲ鳥渡念ノ爲メ申シマスガ文章上ニ同ジ文字ヲ書クヲ刪タガ後ノ二項ノ所ト同樣ナ文デ、金又ハ負擔辨濟スルト云フト只指定ト辨濟ノミデ字ヲ刪タノガ一方價額ト云フト本位ヲ照シ合シテト云フノデ相場ヲ付ケルト云フノデハナイ
(南部)
ソレハ只金額ト書イテモ分ラン
(三島)
金何程金ノ價額銀何程銀ノ價額ト云フノデス
(元尾崎)
ソウハ讀メン
(三島)
御直シニナツタノダカラ良シイ
(元尾崎)
原案通リニシテ置ケバ良シイ金貨何圓ト書ンデモ斯ウ云フ理窟ニ季タク書イテ置ケバ良シイ價額ト云フト代價ト云フ字ニ使テ居ルカラ金貨ノ代價ト云フニナルカラ此代價百三十圓ト書イテ置クト云フヨウニナルカラネ
(南部)
先ヘヤリマシヨウ
第四百八十六條第一項「ノ價額」ノ三字ヲ刪リ第二項「約束シタルトキモ亦同シ」ヲ「要約アリタルトキモ亦同シ」トシ其他原案ニ決ス
第四百八十七條ハ左ノ如ク改ム
第四百八十七條 銅貨及ヒ補助銀貨ハ特別法ニ定メタル數額ヨリ多ク辨濟トシテ之ヲ交付スルコトヲ得ス但反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第四百八十八條朗讀ス
第四百八十八條 金錢ノ貸借ニ特別ナル規則ハ第八百七十八條ニ於テ之ヲ規定ス
(栗塚)
本條ハ建議ノ通リ刪除ガ良イト思ヒマス
(元尾崎)
刪除ガ良シイ
(松岡)
論ハナイ刪除シヨウ
(槇村)
刪除ニ同意シヨウ
本條ハ刪除ニ決ス
第四百八十九條朗讀ス
第四百八十九條 當事者カ辨濟ノ場所ヲ定メサリシトキハ辨濟ハ債務者ノ實地ノ住所ニ於テ之ヲ爲ス但後ニ揭クル或ル契約ノ場合及ヒ第三百五十三條ニ從ヒ特定物ノ引渡ニ關スル場合ハ此限ニ在ラス
自己ノ住所ニ於テ辨濟ヲ受ク可キ當事者カ詭譎ナクシテ轉任シタルトキハ辨濟ハ其新住所ニ於テ之ヲ爲ス但其當事者ハ爲替相場ノ差額及ヒ人ノ往復若クハ物ノ運送ノ補足費用ヲ一方ノ當事者ニ拂フコトヲ要ス
辨濟ノ其他ノ費用ハ債務者之ヲ負擔ス
(栗塚)
「實地」ノ字ヲ「本住所」ト改メマシタ
(村田)
良シイ
(松岡)
寧ロ只「住所」トシテハ惡イカ
(栗塚)
ソレハ良シイ
(元尾崎)
良シイ
(南部)
先キニ新住所トアルカラソレト照應シテ居ルノデス
(栗塚)
住所ト云フト居所ト見ラレテハ往カンカラ、デス、ソレカラ二項ハ「自己ノ住所ニ於テ辨濟ノアル可キ當事者」トシタイ「受クル」ト申シタハ不都合デ之ハ再調査ノ間違デ辨濟サルル所ハ何處カ分ラン、受ケル人ハ債權者トナルデシヨウガ、カウデハナイ
(松岡)
債權者ダロウ
(栗塚)
債權者ト見ラレテハ困ル、貴君ト私ト賣買スルネ、其トキ私ガ貴君ノ處ヘ往テ受取リ申スト云フカモ知レン、ダカラ自己ノ住所ニ於テ辨濟ノアル可キデナイト往カン
(松岡)
爲ス可キ、デモ良シイ
(栗塚)
爲ス可キト云フト此度又債務者バカリニナル辨濟ガアルト云ヘバ働キニナランデ良シイ
(松岡)
ソウデス「本住所」ハ刪テ良シイ
(元尾崎)
「本住所」ハ刪テ良シイ
(栗塚)
刪リマスカ
(南部)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第一項「實地ノ」三字ヲ刪リ第二頂ハ「ヲ受ク」ヲ「ノアル」ト改メ其他原案ニ決ス
第四百九十條朗讀ス
第四百九十條 辨濟ヲ爲ス可キ時期ハ第四百二十三條乃至第四百二十八條ニ於テ之ヲ規定ス
辨濟ノ期日カ法律上ノ休暇日ナルトキハ辨濟ハ其翌日ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
(栗塚)
第一項ハ刪除デス
(松岡)
一項刪除ハ良シイ
(元尾崎)
刪除ハ良シイ
(渡)
良シイ
本條ハ第一項刪除其他ハ原案ニ決ス
第四百九十一條朗讀ス
第二款 辨濟ノ充當
第四百九十一條 一人ノ債權者ニ對シ一樣ノ性質ナル數箇ノ債務ヲ有スル債務者カ總債務ヲ全消スルコトヲ得サル辨濟ヲ爲ストキハ債務者ハ辨濟ノ時ニ於テ其孰レノ債務ニ充當セントスルノ意ヲ述ヘ且此充當ヲ受取證書ニ記入セシムルコトヲ得
然レトモ債務者ハ債權者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ債權者ノ利益ノ爲メ定メタル期限ノ至ラサル債務ニ充當ヲ爲シ又費用及ヒ利息ニ先タチ元本ニ充當ヲ爲シ又一分ツヽ數箇ノ債務ニ充當ヲ爲スコトヲ得ス
(村田)
之ハ明瞭デス
(元尾崎)
良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第四百九十二條朗讀ス
第四百九十二條 債務者カ有效ナル充當ヲ爲サヽルトキハ債權者ハ受取證書ニ於テ自由ニ辨濟ノ充當ヲ爲スコトヲ得但會社契約ニ關スル第七百七十七條ノ規定ヲ妨ケス
債務者カ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ受取證書ヲ受取リタルトキハ債務者ハ自己ノ錯誤又ハ債權者ノ欺瞞アリタルニ非サレハ充當ヲ非難スルコトヲ得ス
(元尾崎)
會社契約ノ第七百七十七條ト云フハドウ云フコトカネ
(松岡)
有效ナリト云フ字ハドウダロウ
(南部)
有效デナケレバ往カン
(栗塚)
後ノ「自由ニ辨濟」ハイランコトデス
(村田)
此儘デ良シイ
(淸岡)
下ヲ取レバ上ニ辨濟ノト云フ字ヲ入レナケレバナラン
(大尾崎)
之デ良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第四百九十三條朗讀ス
第四百九十三條 債務者及ヒ債權者カ有效ニ充當ヲ爲サヽルトキハ當然左ノ如ク充當ス
第一 期限ノ至リタル債務ヲ先ニシ期限ノ至ラサル債務ヲ後ニス
第二 費用及ヒ利息ヲ先ニシ元本ヲ後ニス
第三 總債務カ期限ニ至リ又ハ至ラサルトキハ債務者ノ爲メ最モ辨濟ノ利益アル債務ヲ先ス
第四 債務者カ辨濟ノ先後ニ付キ利益ヲ有セサルトキハ期限ノ最モ先キニ至リタル又ハ至ル可キ債務ヲ先キニス
第五 總債務カ何レノ點ニ於テモ相等シキトキハ充當ハ各債務ノ額ニ應シテ之ヲ爲ス
(松岡)
第三ハ總債務カ
(南部)
左樣デス
(元尾崎)
細カシイコトヲ謂タノダネ、之ハ良シイ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百九十四條朗讀ス
第四百九十四條 上ノ規定ハ交互計算上ノ振込ニ之ヲ適用セス此振込ハ振込人ノ貸方ニ之ヲ記入ス
(南部)
「振込」ト云フ字ハ「梯込」トカ云フニシテハドウカ
(村田)
「梯込」ガ良イヨウダネドウ云フ譯ケデ「振込」トシタカネ
(大尾崎)
振込ト云フヨウナ事ダカラ斯ウナツテ居ル
(北畠)
打入リシタヲ振込ト云フノダ
(村田)
銀行ノ帳面ニ出入勘定帳ヘ振込ト云フカ知レン
(北畠)
梯込ト云フト悉皆拂フト云フニナル
(元尾崎)
「交互」ト云フハドウ云フモノカ
(南部)
「交互」ト云フハ商法ニアリマス
(元尾崎)
「交互」デハナイ當座勘定ダナ
(松岡)
銀行カラハ振込ハナクトモ信用シテ居レバ出ス、又此方カラ拂テ往クコトモアル
(淸岡)
振込ノ方ガ良シイ
(元尾崎)
交互計算ト云フノハ惡イ
(淸岡)
惡イコトハナイ
(元尾崎)
交互トハ云ハン當座勘定ト云フ
(今村)
商人同士デ兩方カラ行ク
(元尾崎)
問違ハアリマスマイ
(松岡)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百九十五條朗讀ス
第三款 辨濟ノ提供及ヒ供託
第四百九十五條及ヒ第四百九十六條 債權者カ辨濟ヲ受クルヲ欲セス又ハ之ヲ受クル能ハサルトキハ債務者ハ左ノ區別ニ從ヒ提供及ヒ供託ヲ爲シテ義務ヲ免カルコトヲ得
第一 債務カ金錢ヲ目的トスルトキハ提供ハ貨幣ヲ提示シテ之ヲ爲スコトヲ要ス
第二 債務カ特定物ヲ目的トシ其存在スル場所ニ於テ引渡サル可キトキハ債務者ハ其物ノ引取ノ爲メ債權者ニ催吿ヲ爲ス
第三 特定物ヲ債權者ノ住所其他ノ場所ニ於テ引渡ス可クシテ其運送カ多費、困難又ハ危險ナルトキハ債務者ハ契約ニ從ヒ引渡ヲ卽時ニ實行スルノ準備ヲ爲シタルコトヲ提供中ニ述フ定量物ニ關シテモ亦同シ
第四 債權者ノ立會又ハ參同ヲ要スル作爲ノ義務ニ關シテハ債務者カ義務履行ノ準備ヲ爲シタルコトヲ述フルヲ以テ足ル
(北畠)
「契約」ハ「合意」デシヨウ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
之ハ良シイ
(村田)
第三ノ文ハオカシイ、特定物云々定量物ニ關シテモ亦同ジダカラ、特定物定量物ト初メニヤツテハドウカ
(南部)
ソレハ往カン初メハ金錢デソレカラ特定物トソレカラ特定物ノ住所ニ於テトソレカラ定量物ニ關シテ亦同ジデアリマス
(松岡)
亦同ジデ良カロウ
(村田)
代替物ト云フモノヲ云テ良クハナイカ定量物消費物ハ代替物ト同ジニ見ルト云テ居ルカラ彼所カラ見ルト代替物ト云フハ定量物ニナルカ之ハ代替物ト云テ良クハナイカ
(淸岡)
定量物丈ケハ項ヲ分ケテハ如何
(栗塚)
定量物丈ケデ良シイ
(村田)
例ヘバ肥後米幾ラト云フト
(南部)
ソレハ定量物デス
(村田)
肥後米ハ代替物デアリマス
(南部)
馬鹿ナコトヲ言フ
(栗塚)
定量物卽チ米一石ノ如キデス
(村田)
代替物デ良シイ、代替物ナラ定量物モ這入ルカラ
(栗塚)
ケレドモ定量物ノ方ハ代替物ガ這入ルト云ヘバデスガ定量物丈ケデ代替物中ノ定量物ナラ之デ良シイデシヨウ
(村田)
肥後米ナラ肥後米ト云フトキハ往カンノダ一石ト云フトキハ定量物デス
(栗塚)
米一石船一頓卽チ數量尺量デ定メルモノヲ定量物ダ
(淸岡)
定量物ヲ項ヲ分ケテハドウカ、贊成ガナケレバ良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第四百九十七條朗讀ス
第四百九十七條 右ノ外提供ハ辨濟ノ有效ナル爲メ上ニ定メタル條件ヲ具備シ且民事訴訟法ノ方式及ヒ條件ニ從フニ非サレハ有效ナラス
(南部)
之ハ良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第四百九十八條朗讀ス
第四百九十八條 時期ヲ失セス且有效ニ爲シタル提供ハ法律ヲ以テ規定シ若クハ契約ヲ以テ約束シタル失權、解除及ヒ責罰ヲ豫防ス
此提供ハ付遲滯ヲ防止シ又既ニ付遲滯ノ存セルトキハ將來ニ向テ其效力ヲ止マシメ且遲延利息ヲ停ム
(栗塚)
遲延利息ノ進行ヲ止ムトカシタノデスガ之デ良イカ如何
(松岡)
將來ニ向テ止ムダロウ
(栗塚)
止ムト云フノハ「止マシメ」ハ困マル「其效力ヲ止メ」デス
(松岡)
左樣
(栗塚)
將來ニ向テダカラ「進行」ハ入リハセンカ
(村田)
進行ハ入ラン
本條ハ第二項「止マシメ」ヲ「止メ」トシ其他原案ニ決ス
第四百九十九條朗讀ス
第四百九十九條 債權者カ提供ヲ承諾セサルトキハ債務者ハ供託ノ日マテニ債務ニ生シタル塡補ノ利息ト共ニ辨濟ノ金額ヲ供託物取扱所ニ供託スルコトヲ得
特定物又ハ定量物ニ付テハ債務者ハ其物ヲ供託ス可キ場所ヲ指定スルコト及ヒ其監守ヲ選任スルコトヲ裁判所ニ請求ス
供託ノ方式及ヒ條件ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚)
塡補ノ利息ト、申シタラ「ノ」ノ字ハ入ラント云フ說ヲ出シタ者ガアリマス
(松岡)
塡補利息デ良カロウ
(村田)
良カロウ
(栗塚)
ソレカラ「監守ヲ」トアルハ「監守者」トシマス
(村田)
「監守者」デスネ
(渡)
民事訴訟法ハ良シイカ
(栗塚)
良シイ
本條ハ「塡補ノ利息」トアル「ノ」ノ字ヲ刪リ「其監守ヲ」トアルヲ「其監守者ヲ」トシ其他原案ニ決ス
第五百條朗讀ス
第五百條 有效ニ爲シタル供託ハ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且債務者カ意外ノ事ニ任シタルトキト雖モ其物ノ危險ヲ債權者ニ歸セシム
然レトモ債權者カ供託ヲ承諾セス又ハ其供託カ債務者ノ請求ニ因リテ有效ト裁判セラレ其裁判ノ確定ニ至ラサル間ハ債務者ハ其供託物ヲ引取ルコトヲ得
債權者ノ承諾アリ又ハ裁判ノ確定ト爲リタル後ト雖モ債務者ハ債權者ノ承諾ヲ以テ供託物ヲ引取ルコトヲ得然レトモ共同債務者及ヒ保證人ノ義務免除ヲモ動產質權及ヒ抵當權ノ消滅ヲモ又供託物ニ付キ債權者ノ債權者カ爲シタル差押故障ヲモ妨碍スルコトヲ得ス
(南部)
此所ハ皆論ガアリマス
(松岡)
不可抗力ハウルサイ
(村田)
一體ナラ仕方ガナイ
(元尾崎)
一面刪除ト云フハドレデスカ
(南部)
引取タ時分ニ義務ハ不成立ト見ルト云フコトガ惡イ、義務免除ハナクナルト云フハ分テ居ルカラ刪除ト云フノデス
(栗塚)
原案ノ第二項ト此度ノ第二項トハ何ウカ
(元尾崎)
被判事物ノ力ヲ與ヘルト云フハドウ云フコトカ
(栗塚)
一項二項ニアリマス此「供託ヲ承諾セス」トアルハ「受諾セス」ト願ヒマス「供託ハ債務者ノ請求ニテ既判力ヲ有スル判決ニ因リ有效ト宣吿セラレサル間ハ其裁判」云々デス、自分ノ受ケタ裁判ナラバ期限ニ至ランデモ止メテモ宜シイ控訴上吿ノ期限ガ切レタツテ斯ク裁判ヲ受ケタカラ其裁判デ有效トハ見ラレナイカラ供託物取戻スコトヲ得デ御座イマス
(元尾崎)
供託物、供託シタバカリデハ往カンノカ裁判所ヘ請求シテ有效カ
(南部)
債務者ガ請求セント有效ニナランカラ
(松岡)
ソウダロウ千圓ノ所ヘ百圓持テ往クカハ知レンカラネ
(元尾崎)
百圓ニ求メラルルカ判決ヲ受ケント往カンカ
(松岡)
千圓ノ爭ヒニハ千圓持テ往カナケレバ供託ニナランダロウソレヲ認メルニハ裁判所ヘ持テ往カンケレバナラン、成程確定裁判デハ困ルネ、既判ガト云フ字ヲ拵イナケレバナラン
(栗塚)
ソレカラ次ニ「裁判ノ確定ト爲リタル後ト雖モ」ヲ直シタノデ「確定」ト云フハ之ヲ違タ字ヲ譯シタ「債權者ノ受諾又ハ廢罷ス可カラサル判決ノ後ト雖モ」トシテ後ハ同ジデアリマス、ソレカラ「義務免除」ハ「義務解脫」ト直シマシタソレカラ終リノ「差押故障」ハ「拂渡差押」トシマス
(松岡)
廢罷ス可カラザル、ハドウカ
(元尾崎)
有效ニ判決セラレタ後ト雖モダ
(栗塚)
債權者受諾又ハ右ノ受諾ダ、又ハ供託ヲ有效ト判決スル後ト雖モカ、左モナケレバ只判決デハドウカ
(元尾崎)
ソウシテ置カウ
(村田)
ソレデモ良シイ
(槇村)
爲ス可カラザル、ハ刪リマシヨウ
(北畠)
受諾アリ、ハ良シイ
(村田)
アリト云ヘバ良シイ
(南部)
スレバ下ハ判決アリタル後ト雖モトシナケレバナラン
(栗塚)
ソレデ良シイ
(委員長)
前ノ宣吿ト云フハ此ニ判決ト云フト惡イゼ
(南部)
判決ニ因リトアリマスカラ
(委員長)
判決ト云フハ有效無效ハ分ルマイ
(粟塚)
ソレデ前項ニアリマス
(委員長)
後ノ項ハ有效トセラレナイトキダロウ
(松岡)
無效ト宣吿セラルルハ引取テ來ルハ云フ迄ハナイ
(委員長)
承諾アルカ或ハ有效ト判決セラルルカ後ト雖モダ
(松岡)
「有效ノ」ト三字ヲ入レルカ
(委員長)
ソウシナケレバ有效カ無效カ分ラン
(元尾崎)
ソンナラ有效ト云フヲ入レヨウ
(今村)
有效ニ宣吿ト云テハ往カンカ
(栗塚)
有效ノ判決ト元來アルノデス
(北畠)
又ハ右有效ノ判決トヤランカ
(委員長)
有效デナケレバナラン
(南部)
有效ト云フ判決ガ判決ガ有效ト云フ嫌ヒガアリマス
(栗塚)
供託有效ノ判決トヤリマシヨウ
(南部)
右ノ判決トヤツテハ如何
(栗塚)
ソンナラ右ノ受諾又ハ判決ノ後ト雖モデ良シイ
(南部)
右ノ受諾ガ、良シイ
(松岡)
右ノ受諾ガ、良シイ
(栗塚)
右ノ受諾又ハ判決アリタル後ト雖モカ
(松岡)
良シイ
(元尾崎)
良シイ
本條ハ二三項左ノ如ク改メ一項ハ原案ニ決ス
然レトモ債權者カ供託ヲ受諾セス又ハ其供託カ債務者ノ請求ニテ既判力ヲ有スル判決ニ因リ有效ト宣吿セラレサル間ハ債務者ハ其供託物ヲ引取ルコトヲ得
右ノ受諾又ハ判決アリタル後ト雖モ債務者ハ債權者ノ受諾ヲ以テ供託物ヲ引取ルコトヲ得然レトモ共同債務者及ヒ保證人ノ義務解脫ヲモ動產質權及ヒ抵當權ノ消滅ヲモ又供託物ニ付債權者ノ債權者カ爲シタル拂渡差押ヲモ妨碍スルコトヲ得ス
第五百一條朗讀ス
第四款 代位ノ辨濟
第五百一條 代位ヲ以テ第三者ノ爲シタル辨濟ハ債權者ニ對シテ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且其債權及ヒ之ニ附着セル擔保ト效力トヲ併セテ其第三者ニ移轉ス但場合ニ從ヒ第三者ノ有スル事務管理又ハ代理ノ訴權ヲ妨ケス
代位ハ下ノ區別ニ從ヒ債權者若クハ債務者ヨリ之ヲ許與シ又ハ法律ヲ以テ之ヲ付與ス
(村田)
「代位ノ辨濟」トアルハ「代位辨濟」デ宜ロシイ
(松岡)
宜カロウ
(南部)
代位編デ宜ロシイ
(松岡)
代位ヲ以テト云ハナケレバナラヌ
(元尾崎)
之ハ何ウ云フ譯カ人ノ代札ヲ以テ買フコトガ出來ルノデスカ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
何時ノ間ニカ知ラン人ニ證文ガ渡ツテ居ルノデ苦シイ譯デス
(粟塚)
然ドモ貴君ガ死ヌマデ持テ居ラルルト云フ貴君ヲ信用シテノコトデアリマス
(元尾崎)
何時ノ間ニカ酷イ高利貸ノ手ニ這入ルト困リマス
(南部)
高利貸ノ手ニ渡ツテモ利息ハ上ゲラレナイカラ宜ロシイ
(元尾崎)
仕方ガナイ宜ロシイトシテ先ヘ往キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百二條朗讀ス
第五百二條 債權者ノ許與シタル代位ハ受取證書ニ之ヲ明記スルニ非サレハ有效ナラス但辨濟ニ付第三者ノ利害ノ有無及ヒ辨濟者ノ名義ノ誰タルヲ問ハス
(栗塚)
但書ヲ修正シテ元トニ戻シタノデアリマス「但シ第三者ガ辨濟ニ付キ利害ノ關係ヲ有スルヤ否ヤ及ヒ自己ノ名又ハ債務者ノ名ニテ辨濟スルヤ否ヤヲ區別スルヲ要セス」ト致シマシタ辨濟者名義ノ誰タルヲ問ハズトスルハ少シ意味ガ違ヒマス
(元尾崎)
スルト何ニモ別ニ書ンデモ唯此者カラ受取テ此者カラ債權ヲ讓ツタト云ヘバ宜イノデスカ
(栗塚)
左樣デス
(南部)
名宛サヘ書ケバ宜ロシイノデス
(元尾崎)
受取證書ニ明記スルト云フノハ何ウ云フ譯カ
(栗塚)
但シ第三者ガデアリマス
(渡)
宜カロウ
本條ハ但以下左ノ如ク修正シ其他原案ニ決ス
但第三者カ辨濟ニ付キ利害ノ關係ヲ有スルヤ否ヤ及ヒ自己ノ名又ハ債務者ノ名ニテ辨濟スルヤ否ヤヲ區別スルヲ要セス
第五百三條朗讀ス
第五百三條 債務者ハ其債務ノ辨濟ニ必要ナル金額又ハ有價物ヲ己レニ貸與シタル第三者ヲシテ債權者ノ承諾ナク其權利ニ代位セシムルコトヲ得
右ノ場合ニ於テ借用證書ニハ其金額又ハ有價物ノ用方ヲ記載シ受取證書ニハ其出所ヲ記載ス
公正證書又ハ確定ノ日附アル證書ニ非サレハ他ノ第三者ニ對シテ右ノ行爲ノ證トスルコトヲ許サス
然レトモ借用ト辨濟トノ間ニ不相當ナル長キ時間ノ經過シタルトキハ裁判所ハ代位ヲ不成立ト宣言スルコトヲ得
(栗塚)
本條ノ末項「宣言スルコトヲ得」トアルハ「宣吿スルコトヲ得」ト致シマシタ其レカラ第三項「他ノ第三者ニ對シテ」トアリマスガ之ハ再調査ノ所デ注意シテ一項ノ第三者ト混ズル爲メ原文ニナイ「他ノ」ト云フ字ヲ入レタノデアリマス然ルニ「他ノ」ト云フ字ハ廣ク大勢ノ第三者ニ對シテ居ルコトダカラ「總テ第三者ニ對シテ」ト改メマシタ
(元尾崎)
他人ニ對シテガ宜ロシイ
(松岡)
他ノ第三者ト云フモ格別不都合ハアリマスマイ
(栗塚)
單數複數デ見セタノダカラ總テト云ツテ置キタイノデアリマス
(渡)
總テガ宜カロウ
(松岡)
私ハ「他ノ」トヤツテ貰ヒタイ
(村田)
「他ノ」方ガ宜シイ
(元尾崎)
如何ナル事デアロウカ債務者ガ債務ノ辨濟ニ必要ナル金額ハ外カラ借リテ先ノ債權者ニ返シテ仕舞ツタ、スルト二番目ノ人ガ同ジモノニナルノデスカ
(栗塚)
貴君ガ貸シテ下サルト私ハ南部サンニ借リテ居ツタカラ貴君カラ借リテ南部サンニ返シテ貴君ハ南部サント同ジ樣ニナルノデアリマス
(元尾崎)
スルト登記シナクテモ宜シイカ
(栗塚)
登記シナケレバナリマセン
(元尾崎)
詰リ同ジ事デ言ヒ回シガ違ウ丈ケデス
(栗塚)
新規ニ抵當ニ入レルト松岡サンヨリ貴君ノ抵當ハ後ニナルガ然ルニ南部サンニ代ルカラ一番ノ取主ニナルノデアリマスカラ其處ガ違イマス
(委員長)
次ノ項ニ公正證書云々トアルハ先キニ原則ヲ書ク同樣デアルガ訴訟法ニ照應スルトコロガアリマスカ
(松岡)
確定日附ト云フノハ訴訟法デハアリマセン
(委員長)
訴訟法ニ書クカ別段ニ書クカデス
(松岡)
日附丈ケ認メヲ受ケラルル樣ナコトハ是非民法デ斯クスルナラバ其レ丈ケノ法律ガナケレバナリマセン其レヲセン時ハ之ハ止メナケレバナリマセン
(南部)
出來ルマデハ公正證書デアリマス
(栗塚)
アレガ出來ルト不都合ガ出來ルカモ知レマセン錢取リ主義デアリマス
(松岡)
日附ガ不確定ト云ヘバ私ノ證書ヲ保護セヨト云ハナケレバナリマセン
(栗塚)
公證人ノ上デハ錢ガ入ルカラ一方ニハ錢ノ入ルモノヲ置キ又一方ニハ錢ガ入ラソデ效能ノアルモノヲ置タンデアリマス
(松岡)
早ク云フト證文稅デアリマス
(栗塚)
裁判書サヘモソウデアリマス
(松岡)
アレハ貧乏ノ時分收稅カラ起ツタノデアリマス
(元尾崎)
之ハ宜ロシイ
(松岡)
之ハ至極宜ロシイ
(槇村)
「總テ」ハ如何
(栗塚)
矢張リ「他ノ」ノ方デス
(南部)
仕樣ハアリマセン
(委員長)
其レデハ食事ニ致シマシヨウ
本條ハ末項「宣言スルコトヲ得」ヲ「宣吿スルコトヲ得」ト改メ其他原案ニ決ス
第五百四條朗讀ス
第五百四條 代位ハ左ノ者ノ利益ノ爲メ當然成立ス
第一 或ハ他人ト共ニ又ハ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リ或ハ先取特權又ハ抵當權ヲ負擔スル財產ノ第三所持人トシテ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リ其義務ヲ辨濟スルニ付キ利害ノ關係ヲ有スル者
第二 或ハ抵當訴權ヲ豫防スル爲メ或ハ不動產ノ差押又ハ契約解除ノ請求ヲ止ムル爲メ他ノ債權者ニ辨濟シタル債權者
第三 自己ノ財產ヲ以テ相續ノ債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタル享益相續人又ハ表見ニシテ善意ナル相續人
(栗塚)
第一ノ處ヲ「自身ニテ他人ト共ニ」ト改メマシタ、自カラ一身上デ義務ヲ負擔シテ居ル人、其レカラ抵當先取特權ヤ抵當ノ付イタ財產ヲ持テ居ル爲メ負擔シタガ二ツヲ見セナケレバナリマセン自身ト他人ト共ニ或ル先取特權トシマス「第三所持人」ヲ「第三所持者」ト致シマシタ其レカラ「又ハ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リ」ヲ削リマシタ
(元尾崎)
分ツテ居リマス
(栗塚)
第三ノ「表見ニシテ善意ナル相續人」ハ「善意ナル表見相續人」トシテハ如何
(松岡)
宜カロウ
(南部)
宜カロウ
(渡)
宜ロシイ
本條ハ第一「自身ニテ他人ト共ニ或ハ先取特權又ハ抵當權ヲ費擔スル財產ノ第三所持者トシテ他人ノ爲メ義務ヲ負擔シタルニ因リ其義務ヲ辨濟スルニ付キ利害ノ關係ヲ有スル者」トシ第三「自己ノ財產ヲ以テ相續ノ債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタル享益相續人又ハ善意ナル表見相續人」
第五百五條朗讀ス
第五百五條 前三條ニ依リ代位シタル者ハ債權ノ效力又ハ擔保トシテ債權者ニ屬セシ總テノ對人及ヒ物上ノ權利及ヒ訴權ヲ行フコトヲ得但左ニ揭クル場合ヲ例外トス
第一 當事者カ代位者ニ移轉セシメシ權利及ヒ訴權ヲ制限シタルトキハ其制限ニ從フ
第二 第三所持人カ債務ヲ辨濟シタルトキハ保證人ニ對シテ代位セス保證人カ債務ヲ辨濟シ第千三十六條ノ規定ニ從ヘルトキハ第三所持人ニ對シテ代位ス
第三 一箇ノ債務ノ抵當トナリタル數箇ノ不動產カ各別ニ數箇ノ第三所持人ノ手ニ存スル場合ニ於テ其一人カ債務ヲ辨濟シタルトキハ各不動產ノ價格ノ割合ニ應スルニ非サレハ他ノ第三所持人ニ對シテ代位ノ權ヲ行フコトヲ得ス
第四 互ニ擔保人タル共同債務者ノ一人カ債務ヲ辨濟シタルトキハ辨濟者ハ他ノ債務者カ分擔ス可キ債務ノ限度ニ應スルニ非サレハ其各自ニ對シテ代位スルコトヲ得ス
(栗塚)
第一ヲ「當事者カ代位者ニ移轉セシメシ」ハ「移轉シタル」デ宜カロウト思ヒマス
(元尾崎)
第三所持者デスカ
(栗塚)
左樣デス此所ハ第一第二ハ「第三所持者カ債務ヲ辨濟シタルトキハ保證人ニ對シテ代位セス」ヲ一項トシテ後トハ第三ニナルノデアリマス卽チ第四ガ第五ニナリマス
(松岡)
此所持者ハ最初カラ所持者デハナイ轉得者デシヨウ
(南部)
抵當ニナツテ居ルモノヲ買フタリ讓リ受ケタモノデス
(元尾崎)
保證人ニ對シテ求償スルコトハ出來ン然シ重モナル債務者ニ對シテハ出來ルデシヨウ
(松岡)
私ノ物ヲ地面ヲ抵當ニナリシテ別ノ人ガ保證人ニナツテ貴君ガ其品物ヲ渡サンガ引キ取ツタラ私ハ別段ニスルコトハアリマセン
(栗塚)
保證人ハ債務ヲ辨濟シ第千三十六條ノ規定ニ從ヒタルトキニ非ザレバ第三所持者ニ對シテ代位セズト致シマス第五モ同ジク「非サレハ代位セス」ト致シマス
(元尾崎)
宜ロシイ
本條ハ第一「轉移セシメシ」ハ「轉移シタル」トシ第二「第三所持者カ債權ヲ辨濟シタルトキハ保證人ニ對シテ代位セス第三保證人ハ債務ヲ辨濟シ第千三十六條ノ規定ニ從ヒタルトキニ非サレハ第三所持者ニ對シテ代位セス」第四「一箇ノ債務ノ云々第三所持人」ヲ「第三所持者」ト改メ第五互ニ擔保人タル云々「スルコトヲ得ス」ヲ削リ「代位セス」ト改メ其他原案ニ決ス
第五百六條朗讀ス
第五百六條 代位者ハ自己ノ支拂ヒタル金額ヲ超エテ債權者ノ訴權ヲ行フコトヲ得ス
(元尾崎)
此レデ云フト前ニアツタコトダガ千圓ノ證文ヲ百圓カ二百圍ニ賣ツテ仕舞ウコトガアリマスソウ云フ場合ニハ既ニ拂ツタ金高ヨリモ訴ヘルコトハ出來マセンカ
(南部)
讓渡ト代位トハ違イマス讓渡ノ方ハ全部デ往クガ代位ハ之レデナケレバナリマセン
(元尾崎)
ソンナラ宜ロシイ
本條ハ原案ニ決ス
第五百七條朗讀ス
第五百七條 代位ハ原債權者ヲ害セサルコトヲ要ス
數箇ノ債權ヲ有スル者ハ其一箇ニ係ル代位辨濟カ他ノ債權ノ抵保ヲ減スルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得
(栗塚)
「抵保」トアルハ「擔保」トナリマス
(南部)
數箇ノ債權ハ或ハ一人デ有シテ居ルスルト一箇ニ係ル代位デ私ガ抵當ヲ持ツテ居ル權ガアル其第一番ノ抵當權ヲバ讓ツテ松岡サンガ代位シタスルト松岡サンガ卽チ代位デ私ノ權利ヲ害シテ抵保ヲ減ズルヤウナコトハ出來マセント云フ其割合ハ色々アリマスガ大變六ケ敷ノデアリマス
(淸岡)
之ハ債權者カラ言葉ヲ立テルノデアリマスカラ一箇ノ債權者ト云フ字ヲ入レテハ如何
(栗塚)
數箇ノ債權ヲ有スルモノデアリマスカラ矢張リ債權者デアリマス
(元尾崎)
債權者ガ一人ト見テ宜シイ
(南部)
代位ダカラ一人デス債權ガニツアツタラ見ナケレバナラヌ抵當モ二ツトセナケレバナラヌ
(松岡)
日本ハ物ガ單純デアルカラ斯ウ云フコトハ出マセン
(渡)
宜ロシイ
本條ハ「抵保」ヲ「擔保」ト改メ其他原案ニ決ス
第五百八條朗讀ス
第五百八條 代位辨濟カ債務ノ一分ノミニ係ルトキハ代位者ハ自己ノ辨濟ノ割合ニ應シテ原債權者ト共ニ其權利ヲ行フ
然レトモ原債權者ハ全部ノ辨濟ヲ受ケサルトキハ獨リ契約ノ解除ヲ行フ但代位者ニ賠償スルコトヲ要ス
(元尾崎)
妙ナコトヲ云フガ代位者ガ迷惑デアリマス
(南部)
迷惑ナコトハアリマセン
(栗塚)
原債權者ニ南部サンガ辨濟ヲ行ナハナカツタ時ハ貴君ガ殘ラズ拂ツテ下サレバ貴君ガ代位ニナリマスガ私ガ南部サンカラ千圓借リテ貴君ガ七百圓拂ツテ呉レタラ七百圓丈ケノ代位ヲナスツタトコロガ契約ヲ南部サンガ解除シテ仕舞ツタ一文モ入ラントスルト貴君ガ拂ツタ丈ケ損ガ往クカラ貴君丈ケハ償ハナケレバナリマセン
(槇村)
宜ロシイ先ヘ往キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百九條朗讀ス
第五百九條 代位辨濟ニ因リテ全部ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ハ債權ノ證書及ヒ質物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス
債權者カ一分ノ辨濟ノミヲ受ケタルトキハ要用ニ應シテ代位者ニ證書ヲ出示シ且質物ノ監護ヲ之ニ許スコトヲ要ス
(元尾崎)
「質物ノ監護」ト云フト向フヘ渡シテ置クノデアリマスカ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
要スト云フト渡シテ仕舞ナケレバナラン
(南部)
監護ヲ要スルノデアリマス
(栗塚)
只今質ニ取ツテ居ルモノガアル栗塚カラ銀時計ヲ取ツテ居ルガ保存シヨウト云ヘバ渡サナケレバナリマセン
(村田)
「監護」ト云フヨリ「保存シヨウールコトヲ得」ガ宜ロシイ
(栗塚)
質物ノ保存ニ注意スルコトヲ要スト致シマスカ
(松岡)
保存ニ注意スルト云フト監護モ同ジコトデス
(元尾崎)
監護ト云フト罪人デモ監護スルヨウデアリマス
(渡)
元ノ通リデ宜ロシイ
(松岡)
此儘デ宜にシイ
(元尾崎)
保存ニ注意スルコトヲ要スガ宜カロウ
(槇村)
質物ノ保存ニ注意スルコトヲ許スコトヲ要スハオカシイ
(元尾崎)
注意スルコトヲ要スト云フハ貴樣ノ時計ハ何ウト尋ヌルコトガ出來ルダロウ
(粟塚)
且質物ノ保存ニ注意スルコトヲ之ニ許スコトヲ要ストシテハ如何
(大尾崎)
宜カロウ
(北畠)
許ス可シデ宜シイ
(元尾崎)
許ス可シデ宜シイ
(村田)
民法ニハ可シト云フ文例ハアリマセン
(淸岡)
保存ニ注意丈ケハ聞ヘガ惡ルイ監護トカ何ントカ云フ方ガ宜ロシイ
(南部)
元トノ債權者ハ持テ居ランノデ向フデ心ノ内ニ注意シテモ一向何ンニモナリマセン
(淸岡)
保存ニ注立恩ヲ許ス許サント云フコトハアリマセン監護トカ何トカ云フト許サンケレバ出來ナイ、注意ハ許サンデモ出來ル
(元尾崎)
監護ト云フハドウ云フコトニ見テ居ルカ
(大尾崎)
保存モアツテカウシテ傷ケンヨウニ矢張注意シナケレバナラン
(元尾崎)
假令バ家ニシテモ家根ハ大變漏リソウダ、アレハ早ク修覆シナイト疊ガ損スルトカ云フヨウナル保存ニ注意ト云フ、時々言フコトガ出來ルガ監護ト云フト親テ居ラナケレバナラン
(大尾崎)
心ニ思テ居ルバカリデハナイ、良シイデハナイカ
(栗塚)
原書ハ要ス、デアリマス
(松岡)
再調査ノ通リデ良シイ
(村田)
再調査ノ監護ト云フ字ガ惡イ、要スガ良シイ
(南部)
可シバ往カン
(大尾崎)
注意スルコトヲ之ニ許スコトヲ要スカ
(三島)
原書ハ要ス、ダソウデス
(栗塚)
保存ニ注意スルコトヲ之ニ許スコトヲ要ス、ト致シマス
(大尾崎)
ソレデ良シイ
(北畠)
保存ニ注意モオカシイ
(栗塚)
保存ニ氣ヲ付ケルコトヲ要ス、デスネ
(南部)
ソレデハ注意ダネ
(淸岡)
注意ヲ許スト云フコトハナイ
(元尾崎)
注意スルコトヲ許ス、ノダ
(北畠)
監護ガ良シイ
(淸岡)
注意抔ハ許ス許サンモナイ
(槇村)
監護ガ良シイ
(元尾崎)
注意ガ良シイ
(村田)
注意デ良シイ
(西)
私モ注意ガ良シイ
(淸岡)
日本文章デ保存ニ注意スルコトヲ許スト云フノハオカシイ
(北畠)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ「質物ノ監護ヲ之ニ許スコトヲ要ス」トアルハ「質物ノ保存ニ注意スルコトヲ之ニ許スコトヲ要ス」ト改メ其他ハ原案ニ決ス
第五百十條朗讀ス
第五百十條 代位辨濟ノ有效、充當、提供及ヒ供託ニ付テハ前三款ノ規定ニ從フ
(栗塚)
之ハ修正ノ方ガ良シイト思ヒマス辨濟ニ有效ナルトソレカラ辨濟ノ充當、辨濟ノ提供、辨濟ノ供託ニ付テハデ御座イマス
(委員長)
有效ナルハ條件ニ付テ居ルノデ有效ト云フ一ツノモノデハナイ
(栗塚)
有效ノ爲メ有セラレタル條件デアリマス
(委員長)
良シイカネ
(栗塚)
良シウ御座イマス
(元尾崎)
修正デ良クナツタヨウデ御座イマス
(南部)
有效ト申スコトハ前ニ御座イマシタ有效ノ一條件デ御座イマス
(委員長)
有效ト條件トハ違ヒマスカラネ
(栗塚)
有效ナルコトニ付テハ、デ御座イマス
(委員長)
有效ナルコトニ付テハ有效ナル條件ニ付テ、ダロウ條件ノコトヲ書カズ有效ナルコトニ付テトヤルカ、私ノ考ヘデハ有效ナル條件デナクテハ往カント思フ無效デハ往カン
(栗塚)
ソレデハ代位辨濟ノ條件デモ良シイ
(淸岡)
代位辨濟ノ有效ニ付テハ、カ
(委員長)
分レバ良シイ
(元尾崎)
差支ナイヨウデス
(村田)
有效ノ爲メ有セラレタル條件ト原文ニアリマス
(栗塚)
寧ロ有效ト謂ハズ、代位辨濟ノ成立デスネ成立ニ付テハト云フモ同ジデアリマス
(委員長)
成立ナレバ良シイガ有效ニト云フハ有效ナラシムルニハ、ト云フヨウダカラネ
(栗塚)
四百七十六條方リ量定物ハ斯ウ云フ風ニ渡サナケレバナラントカ云フ讓渡ノ能力ナキ者ガシタトキハ無效ヲ請求スルコトガ出來ルト云フヨウナコトデアリマス
(委員長)
斯ウ云フ例ニナツテ居レバ良シイ
(栗塚)
例デモナイガ略シタノデアリマス
(元尾崎)
良シイ
(委員長)
良ケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百十一條朗讀ス
第二節 更改
第五百十一條 更改卽チ新義務ヲ以テ舊義務ニ代フルコトハ左ノ四箇ノ方法ニ因リテ成ル
第一 當事者カ義務ノ新目的ヲ以テ舊目的ニ代フル契約ヲ爲ストキ
第二 當事者カ義務ノ目的ヲ變セスシテ其名義ノミヲ變スルノ契約ヲ爲ストキ
第三 新債務者カ舊債務者ニ替ハルトキ
第四 新債權者カ舊債權者ニ替ハルトキ
(栗塚)
始メデ御座イマスガ「シヤンジンマン」ト云フ字ヲ更改トヤツタノデ御座イマス「更改」卽チ舊義務ノ新義務ニ變更スルコトガトアリマス
(渡)
良カロウ
(栗塚)
ソレカラ第二ハ、名義ヲ變ズル、デ御座イマスカラ「ノミ」ヲ刪ル、賣上ゲ代金ヲ貸借金ニスルモ目的ハ金ニ相違ナイ名義ヲ變ジタトキデアリマス
(北畠)
良シウ御座イマス
(淸岡)
「代」ト「替」ト使フハドウカ
(栗塚)
人ノトキハ替デ良イト云フコトデス
(淸岡)
一緒ニシテ良イダロウ殊更ニ分ケナクツテモ良シイ
(栗塚)
責メテハ日本ハ言葉ニ富ンデ居テ種々ナ字ニ書ケルト云フノデス
(村田)
一體換ノ字ガ良シイノデス
(元尾崎)
之デ間違フコトハナイ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第一項「舊義務ニ代フル」トアルハ「舊義務ノ變更スルコトハ」トシ第二ノ「其名義ノミ」トアル「ノミ」ヲ刪リ其他原案ニ決ス
第五百十二條朗讀ス
第五百十二條 當事者カ期限、條件又ハ抵保ノ加除ニ因リ又ハ履行ノ場所若クハ負擔物ノ數量、品質ノ變更ニ因リテ單ニ義務ノ體樣ヲ變スルトキハ之ヲ更改ト爲サス
商證劵ヲ以テスル債務ノ辨濟方ハ其劵面ニ債務ノ原因ヲ指示シタルトキハ更改ヲ成サス又債務ノ認定ハ其證書ニ執行式アルトキト雖モ亦同シ
(栗塚)
「認定」ハ「追認」トナリマス、ソレカラ一項ハ刪除ノ建議デアリマスガ之ハ知レ切タコトト云フノダロウガ報吿委員中裁判官等ノ話ヲ聞クニ日本デ更改ト云フハ抵當ヲ付ケタカラ更改トナツタト思フ人モアリマス又今迄抵當モアツタガ之ヲ止メタ爲メニ更改ト云フ人モアル、條件ニ付テアツタラ條件ヲ止メタトカ條件ノ無カツタヲ付ケタトカ、更改ト思タ人モアロウト云フカラ矢張入レテ置キマシテ良シイダロウ
(松岡)
置クガ良カロウ
(大尾崎)
置クガ良シイ
(松岡)
期限ノ加除ト云フハドウカ
(南部)
ソウデスネ
(村田)
分ラン
(元尾崎)
條件ノ加除期限ノ伸縮ダネ
(栗塚)
左樣デス、伸縮ニ因リトヤルカ期限ハ變更デモ良シイ
(松岡)
下ニ變更ト云フノガアル
(渡)
加除デモ良シイ
(元尾崎)
當事者條件又ハ擔保ノ加除ニ因リ又ハ期限履行ノ場所若クハ負擔物ノ數量品質ノ變更ニ因リ、カ
(大尾崎)
之デ良シイデハナイカ
(委員長)
「除」ノ字ハ良クナイ「加減」ノ方ハ良イカ「除」ト云フト算術ニ使フヨウニナツテ仕舞
(北畠)
加減ガ良シイ
(大尾崎)
「加減」ナラ良シイ
(村田)
「加減」ナラ良シイ
(栗塚)
二項ハ「商證券ヲ以テスル債務ノ辨濟ハ」トヤリマシタ
(元尾崎)
之ハドウ云フコトカ
(栗塚)
爲替手形デ金ヲ拂フトキ其券證ニ債務ノ券面ヲ指示シタトキハ更改ニナラント詰リ金ト同樣ト云フノデソレカラ默テ何ノ誰トモ言ハズ置ケバデス
(松岡)
賣上代金ノ爲メ之ヲ渡スト云ヘバ賣上ゲ代金ハ除ケテ居ルノダ
(元尾崎)
ケレドモ書イテアツタラ其儘行クノダネ
(栗塚)
左樣デスソレカラ終ノ二行目「又」ノ字ハ刪リマス
(村田)
前債務ノ追認ダカラ「又」ヲ刪リ「前」ト一字入レテ良シイ
(松岡)
一遍シテモ二遍シテモ同ジダト、ソレデハスル方ガ得ダ
(元尾崎)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第一項「加除」ハ「加減」トシ第二項商證券云々「辨濟方ハ」トアル「方」ノ一字ヲ刪リ、「成サス又」トアルヲ「成サス前債務」トシ「認定」ハ「追認」ト改ム其他ハ原案ニ決ス
第五百十三條朗讀ス
第五百十三條 債權者ハ原債權及ヒ其抵保ヲ有償名義ニテ處分スルノ能力ヲ有スルニ非サレハ更改ヲ承諾スルコトヲ得ス
右規定ハ契約上、法律上又ハ裁判上ノ管理者及ヒ代理人ニ之ヲ適用ス但代理ノ總般ナラサルトキニ限ル
(栗塚)
「但代理ノ總般ナラサルトキニ限ル」ハ刪テ參リマシタ
(元尾崎)
良シイ
本條ハ「但代理ノ總般ナラサルトキニ限ル」ヲ刪リ其他原案ニ決ス
第五百十四條朗讀ス
第五百十四條 更改ノ意思ハ債權者ニ在リテハ推定ヨリ生セス明カニ證書又ハ事情ヨリ生スルコトヲ要ス
然レトモ當事者ニ交替ナキ場合ニ於テ義務ノ更改アリタルヤ又ハ二箇ノ義務ノ兩存セルヤノ疑ヒアルトキハ第三百八十條ニ依リ債務者ノ利益ノ爲メニ更改ノ意義ニ從フ
(栗塚)
二項ハ再調査ノ委員カラシテ刪除ノ建議デ御座イマスガ三百八十條ノ議決ニナツタトキ、保護主義ダカラ刪ラナケレバナラン債務者バカリ加勢スルニハ及バント云フ處デ刪除建議ガ出テ居リマスガ併シ其說ハ採用ニナリマセン、總テノ場合ニ於テ當事者意旨ニ疑ヒアルトキ其合意解釋ガ諾約者ノ利トナルベキハ格別ニトナツタラ自カラ刪除ノ建議ハ採用ニナランコトト思フ、ソレカラ「更改ノ意思ハ債權者ニ在リテハ推定ヨリ生セス」、ト之ニハ報吿委員中意思ガ生ゼズト云フコトハナイ注意ヲ推定スハ良シイカ、推定カラ意思ガ生ズルコトハナイカラ、推定セラレズナラ分ルカラ、推定セラレズノ意味ヲ採テ之ヲ推定セズ、トヤリマシタ
(村田)
良シイ
(栗塚)
下ハ「事情ヨリ顯ハルルコトヲ要ス」トシテ二項ハ「然レトモ同一ノ當事者間ニ於テ義務ノ更改アリタルカ又ハ二箇ノ義務ノ共ニ存スルヤノ疑ヒアルトキハ第三百八十條ニ依リ債務者ノ利益ノ爲ニ更改ノ意義ニ解釋ス」ト致シマシタ
(元尾崎)
宜ロシイ
本條ハ左ノ如ク改ム
第五百十四條更改ノ意思ハ債權者ニ在リテハ之ヲ推定セス明カニ證書又ハ事情ヨリ現ハルルコトヲ要ス
然レトモ同一ノ當事者間ニ於テ義務ノ更改アリタルカ又ハ二箇ノ義務ノ共ニ存スルヤノ疑ヒアルトキハ第三百八十條ニ依リ債務者ノ利益ノ爲メニ更改ノ意義ニ解釋ス
第五百十五條朗讀ス
第五百十五條 舊義務カ停止又ハ解除ノ條件ニ從シヒトキハ更改ハ同一ノ條件ニ從フモノトノ推定ヲ受ク
又新義務カ有條件ナルトキハ更改ハ停止條件ノ成就シ又ハ解除條件ノ成就セサルトキニ非サレハ成ラス
右孰レノ場合ニ於テモ當事者カ單一ナル更改ヲ爲サント欲シタルノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
「舊義務カ停止又ハ解除ノ條件附ナルトキハ」ト致シマシタ
(村田)
條件附デ良イダロウ
(元尾崎)
條件附ナルトキハデス
(栗塚)
ナリシトキデアリマス
(村田)
ナルトキニシマシヨウ二項ニモナルトキトアリマス
(南部)
ソレハ違ヒマス
(淸岡)
下ガナルトキダカラ上モナルトキト云フハ主意ガ違ヒマス
(委員長)
「ナリシ」ガ宜ロシイ
(南部)
「ナリシ」デナケレバナリマセン
(元尾崎)
「ナリシ」ハ過ギ去ツタ時デアリマス
(委員長)
約束ハ前ニシタノデアリマス
(村田)
「ナリシ」ニ致シマシヨウ
(渡)
「ナリシ」デ宜ロシイ
(元尾崎)
二項ハ舊義務ガ條件附デナカツタ場合デアリマスカ
(南部)
左樣デス
(元尾崎)
例ヘバ先生ニ十二月ニ金ヲ幾ラ拂フト單純ナ約束ガアツテ後チニ例ヘバ船ガ横濱ヘ着イタナラヤロウト云フト停止條件デアリマシヨウスルト最早更改デアリマスカ
(栗塚)
ソレハ更改ニハナリマセンナゼナラバ船ノ來ナイ内ハ貴君ノ義務ガ生ジマセン
(元尾崎)
十二月ニ拂フト云フノガ今度何ウ云フ事ガアツタナラバト云フノダカラ更ツテ來タノデアリマシヨウ
(栗塚)
ソレハ五百十二條ニナルノデアリマス
(松岡)
二項ハ元ト條件ナシ單純ナモノヲ二度目ニ條件附ニシタ、サテ條件附ニシタラ更改ガ成就カナラマダ往カン前ニ成リ立ツテ居ルコトハ條件附ニスルト今度ハ未必ニナル未必ガ愈々解除ナラ解除ト定マツテ後チノ日カラデナイト前ノガ更ツタトハ言ハレマセン
(元尾崎)
前ノガ無クナツテ今度何ウ云フ事ガアツタラトナルダロウ
(栗塚)
後トノガ來テ見ナケレバ分リマセン近イ例ヲ云フト貴君ノ地所ヲ買フテ賣上代金デ私ガ其代金滯ツテ居ル之ハ卽チ舊債務デアル貴君ノ債權ハ栗塚カラ取ル債權ガアツタ所ヲ今度私ガ新義務ヲ以テ置キ代ヘ樣ト思ツテ來年ノ春船佛蘭西カラ船デモ這入リマシタラバ私ハ其時分金ガ儲カルカモ知レンカラ其時贈與致シマシヨウト云フト義務ノ代ヘ樣ガナイカラ停止條件ガ成就シナケレバ矢張リ貴君ニハ私ハ代金ヲ上ゲナケレバナラン義務ヲ負フテ居ルノデアリマス
(元尾崎)
當事者ノ約束次第デアリマシヨウ
(栗塚)
然シ更改ニハナリマセン更改ト云フノハ一ツノ新シイ義務ガ出ナケレバナリマセン其ガ出ナケレバデスダカラ停止條件ガ成就シタラバト云フノデアリマス
(元尾崎)
實ハ更改シタノデアリマス
(栗塚)
停止條件ノ義務ヲ定メナケレバナリマセン
(元尾崎)
初メ十二月ニ拂フト云フ確定ノ義務ヲ止メテ今度ハ停止條件ノ事ガアツタラト云フノダカラ更改シタノダロウ
(栗塚)
條件ハ更改シタナラ條件附ニナルノデ條件附ノ義務ヲ以テ置キ代ヘルノデアリマス
(南部)
來ナイトキハ更改ノ目的ガナイノデス
(元尾崎)
卽チ射倖契約見タイナモノデ法律デ無理ニ仕樣トスルノダロウガソウ云フ譯ノモノデハナイ
(松岡)
然シナガラ未必條件ノ成就解除條件ノ成就セシトキハ兩方損ガナイト云フ丈ケデ元々ニナルノデアリマス
(元尾崎)
十二月ニ例ヘバ百圓拂ハナケレバナラン金ガアル、處デ今ハナイ然シナガラ來年ノ二月ニナレバ佛蘭西カラ船ガ來テ金ガ儲カルカラソウスレバ五百圓拂フト其代リ十二月ノ事ハ止メテ呉レトナレバ更ツタデ卽チ更改デアリマシヨウ
(松岡)
前ニ百圓ノ貸金アツテ其ハ止メルガ五百圓呉レルト言フノハ恩惠デヤルノカ
(元尾崎)
代リニヤルノデアリマス
(松岡)
只拂フノハ期限ヲ延スノデス
(元尾崎)
未必條件ノ事ヲ云フノデアリマス
(栗塚)
條件ヲ加ヘタ丈ケデ五百十二條ニ這入ルノデアリマス
(元尾崎)
更改ハナイノデアリマス
(栗塚)
更改避ケル爲メニ當事者ガ期限、條件ヲ加ヘ樣トモ之ヲ更改トナサズ單ニ義務ノ大樣ガ變ジタト雖モ之ヲ更改ト君做サント云フノデアリマス
(松岡)
ソウデアリマス今百圓ハ困ルカラ佛蘭西カラ船ガ來タラバト云フノハ期限ヲ延ベタノデ更改トハ云ヘマセン
本條ハ第一項「舊義務カ停止又ハ解除ノ條件ニ從ヒ」ヲ「舊義務云々條件附ナリシトキハ」云々ト改メ第二項「有條件ナルトキ」ヲ「條件附ナルトキ」ト改メ第三項「單一」ヲ「單純」ト改メ其他原案ニ決ス
第五百十六條朗讀ス
第五百十六條 舊義務ガ初メヨリ法律上成立セス又ハ法律ノ定ムル原因ニ由リテ消滅シ若クハ取消サレタルトキハ更改ハ無效ニシテ新義務ハ成立セス
又新義務カ其成立及ヒ有效ニ要スル法律上ノ條件ヲ具備セサルトキハ舊義務ハ存立ス
右孰レノ場合ニ於テモ當事者カ自然義務ヲ法律義務ニ又ハ法定義務ヲ自然義務ニ變換セント欲シタルノ證據アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
之ハ自然義務ノ所ニ置テト云フノデ第三項疑問トシテ置キマシタガ若シ自然義務デアルト云ヘバ無論之ハアツテ然ル可キデアリマスカラ文字ハ一字モ改メマセン
(元尾崎)
博奕ノ金ハ借用證ニシテモ益ニ充タナイカ
(栗塚)
左樣然シ博奕ノ金モ返シタラ元ヘ戻スコトハ出來マセン
(元尾崎)
宜ロシイ
本條ハ原案ニ決ス
第五百十七條朗讀ス
第五百十七條 舊義務ヲ更改スル爲メ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ有效ニ新義務ヲ約束シタル債務者ハ其了知セル舊義務ノ無效ノ理由ヲ以テ債權者ニ對抗スルコトヲ得ス
債務者カ次條ニ從ヒ舊債權者ノ囑託ニ因リ新債權者ニ對シテ義務ヲ約束シタルトキモ亦同シ
(栗塚)
理由ト云フノハ無效ノ方法トヤリマシタ此ハ訴訟法ノ例ニ倣ヒマシタ
(松岡)
訴訟法ニハ無效方法ト云フノハアリマセン
(栗塚)
無效訴權ノ方法デアリマス
(松岡)
無效方法ト云フノハアリマセン
(栗塚)
其レデハ無效ノ理由デ宜ロシイ其レカラ「新義務カ諾約」ト致シ末項モ「約束」ハ「諾約」デアリマス
本條ハ「約束」ヲ「諾約」ト改メ其他原案ニ決ス
第五百十八條朗讀ス
第五百十八條 債務者ノ交替ニ因ル更改ハ或ハ舊債務者ニ爲セル囑託ニ因リ或ハ舊債務者ノ承諾ナクシテ新債務者ノ隨意ノ干涉ニ因リテ行ハル
囑託ニハ完全ノモノ有リ不完全ノモノ有リ
第三者ノ隨意ノ干涉ハ下ニ記載スル如ク除約又ハ補約ヲ成ス
(栗塚)
「除約」「補約」ノ解キ明シハ先キニアリマスカラ分ラン樣デモ御座イマシヨウガ先キヲ往クト分リマス此處デ干渉ト云フノハ參與ト前ニアツタノデ干與トヤツテハ何ウカト云フノデ訴訟ニ參加ト云フ字ニナルノデアリマス此所デハ隨意ニヤリマシヨウト云フノデアリマスカラ干與ノ方ガ宜イト云フノデアリマス
(松岡)
干渉ノ方ガ宜カロウ
(栗塚)
ソコハ別ニ異議ハ御座イマセン
(元尾崎)
宜カロウ
(松岡)
宜ロシイ
(栗塚)
今日ハ此デ終リマス
本條ハ原案ニ決ス