法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第9回(1)
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案財產編再調査案議事筆記 , 自 第七回 至 第十回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案財產篇再調査第一部物權中賃貸借ニ關スル建議ニ付テノ議事筆記第九回ノ一
明治二十一年十月四日午前第八時四十分開議
(委員長)
始メマシヨウ
(光妙寺報吿委員)
論ノ前ニ一言シマスガ建議者ノ考ヘデ御座イマスト修正ハ僅カ十日二十日間デ出來ル御見込ト見ヘマスルガ元來「ボアソナード」ノ草按ニモ物權說ガ善イカ惡イカヲ外ニシテ牴觸シナイ丈ケニハ出來テ居ルニ相違ナイ然ルニ茲ニ人權論者アリテ夫レニ決シ十日カ二十日間ノ中ニ出來ルトシテモ自分ハ縱令入權說ニ同意者デアツテモ其日限内ニ出來ルヤ否ヤモ分ラヌシ先ヅ人權論者修正案ヲ拵ヘサセテ其修正案ガ出來タ上果シテ「ボアソナード」氏ノ草案ニ易ユル丈ケノ修正案カ否ヤヲ見テ其上「ボアソナード」ノ草案ヲ本トスルカ建議者ノ如ク人權說ヲ本ニスルカヲ對照シテ而シテ論決ニナツタラ宜カロウト思ヒマス若シ人權論者ガ修正案ヲ拵ヘテ其曉キニ人權論ガ排斥ニナレバ幾分カ徒勞ニ屬スル樣デアリマスガ併シナガラ畢竟之ハ大問題ナリ民法編纂トシテ後世ニ殘ルモノデアリマスカラ敢テ徒勞デモナカロウシ致シマスカラ先ヅ人權論者ノ修正案ヲシテ物權人權ノ定マル前ニ提出サセテ宜カロウト思フ私ノ意見デアリマス
(委員長)
ソレハ一ノ建議トシテ夫レデ磯部君ノ建議書ヲ朗讀シテ貰ヒマシヨウ
(松岡委員)
今ノ建議ハ本體ノ人權說ガ善イカ物權說ガ善イカト云フコトヲ論決シテ人權說ガ善イトナレバソレカラ案ニ係ロウト云フ今村ノ考ヘデ御座イマスガ光妙寺君ノ意見ハ左樣安ラカニ出來ルナラバ一應出シテ本案ト修正案ト比較シテ見テ然シテ定メタラ宜カロウト云フノデ御座イマスカ
(委員長)
私ハ結局多數ニ問フヨリ仕方ハナイト思ヒマス
(磯部報吿委員)
ソレモ要ラヌト思フ何ゼナレバソレハ人權ガ善イカ物權ガ善イカト云フ基本ガ定マツタ上デアリマス態々人權ナラ人權ヲ骨ヲ折テ拵ヘル迄ハナイ愈々人權ガ善イト分テソレカラ案ヲ立テルガ宜シイト思ヒマス
(光妙寺報吿委員)
人權說ハ善イカ知レヌガ何時出來ルカ知レヌ物權說ハ已ニ出來テ居ルカラト云フ樣ナ理由モ當テニナラヌカラ兎ニ角是レハ惡イト云フ說ト箇樣ナ代ヘルモノガアツテ是レデ人權說ヲ本ニシテ草案ガ惡イト云フノデハ議論ノ間ニ於テ大ニ影響ヲ及ボソウト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
私モ光妙寺君ト同說デ御座イマシテ到底「ボアソナード」ノ案ハ物權トシテ始メカラ終リマデ出來テ居ルノデ之ヲ人權ニ改メマシテ、ドレ程各條ニ就テ影響ヲ及ボスコトヤラ實ハ「ボアソナード」氏ニシテ服シテ呉レテ彼ノ人ガ筆ヲ執テ爲テ呉レレバ出來ルト思ヒマスガ左モナイ以上ニハ非常ノ歳月ヲ費サナケレバ學者間ニ論ノアルモノデアリマスカラ此案ヲ變ヘシハ何ノ位迄手ヲ着ケナケレバナランカト云フコトハ豫メ案ガ出來テ居レバ大變仕合セデアリマス若シ大變ニ歳月ノアルコトナラバ宜シイガ左樣デナイト其結果ニ於テ到底物權人權ト云フ丈ケデ其歸着スル所ハ同ジデアロウト云フコトヲ申上度キ積リデアリマス是ハ議論ガ始マツテカラ申ス積リデアリマスガ實ハ案ガ出來テ居レバ比較シテ此位デ出來ルモノト分テ居レバ安心シテ掛ケレ樣カト云フノハ光妙寺君ノ申シタ樣ナ論者モアリハセンカ私モ其一人デアリマスソレデ人權ニスレバ箇樣ナ方法ガアルゾヨト云フコト丈ケガ分テ居レバ仕合セト思ヒマス
(磯部報吿委員)
併シ佛蘭西ニモ千八百五十一年ノ法律發布以來賃借權ヲ物權ニシテ居タノハ疑ヒナイコトデアリマス我等ハ物權デアル人權デアルカ分ラヌ主義デハアリマセン私ハ物權ト確信シテ居ルカラ我等ノ考ヘハ人權ニ關スル所ヲ拵ヘナケレバナラント云フコトハ無用ト思テ居リマス、若シ人權デアルカ或ハ物權デアルカト云フ基本ガナケレバ心配ト云フ御考ノ方ハ成程左樣云フ御考ヘモ或ハ尤モカモ知レマセンガ、如何ニ考ヘテモ之ハ物權ニ疑ヒナイト考ヘテ居ルカラソンナコトハ效用モアリマスマイカト思テ居リマス
(南部委員)
左樣云フ論ヲスルハ物權人權ノ論ニナルノデアリマスカラ、兎ニ角今日ハ物權人權ノ區別ヲ議スル爲メノ會議ニナツテ居ルノデアリマスカラ物權人權ノ議論ヲ致シテ、ソレカラ愈々人權トナリタルトキハ起草セシメテ其上存廢ヲ議スルカ或ハ人權カ物權カニ歸スル決議ハ後トニ殘シテモ折角諸君ガ集テ居ル譯デアルカラ物權人權ノ區別丈ケノ討論ハ今日行ハレテ宜イト思ヒマス
(委員長)
光妙寺君ノ議論ハ隨分宜イ、併シ兎ニ角物權人權ノ議ヲ躊躇シテ起案者ノ書クノヲ待タナケレバナラン其時間ガ餘程ニ困ル、起案者ハ何時迄ニ書ケルト云フガ實ハ成ルカ否ハ分ラヌ樣デス然ラバ先ヅ此論ハ前後ヲ更ヘテ只今ノ建議說ハ後トニ議スルトシテ先キニ人權タルベキカ物權タルベキカヲ議スルトシテハドウデスカ
(光妙寺報吿委員)
人權カ物權カ定マレバ私ノ建議ノ必要ハ見マセン
(委員長)
左樣デナイ、判然ト定マレバ或ハ無用カハ知レヌガ相半バシタラ君ノ說ガ行ハルルカモ知レン
(光妙寺報吿委員)
敢テ異議ヲ主張致シマセン
(委員長)
諸君如何デシヨウ
(松岡委員)
ソレデハ先ヅ今村君ノ意見ヲ先ニ御決シニナル方ニ致シタイ
(大尾崎委員)
宜シイ
(栗塚報吿委員)
尙ホ一言申マスガ今村君ハ矢張不快デ御座イマシテ呼ベバ參リマスガ議席ヘ列シマスト自然病氣モ重モルコトト存ジテ呼ビマセンガ皆樣ガ之ヲ議定ニナル前ニ今村ノ意見ニ反對ノコトハ書面ニ認メテ貰ヒ度ク又我々報吿委員ノ說モ書イテ呉レト云フノデアリマスカラ議定ニナルコトハ今村ニ此梗槪ヲ知ラセタ上デ御議定ニナレバ今村モ極ク仕合セト思ヒマスケレドモ今村ニ拘ハラズ御決シニナレバ致シ方ハ御座イマセン、就テ反撃スベキ點ガアレバ口デ演ベラレナイカラ書面デ出シタイト申テ居リマシタ
(委員長)
ソレデハ讀ンデ下サイ
磯部報吿委員ノ意見書朗讀ス
賃貸借ニ關スル建議ニ對シ上ル卑見
其第一問題ノ論決ハ賃借權ヲ以テ人權ト爲スヘシト云フニアルナリ而シテ其理由トスル所ヲ見レハ佛國民法ノ規定モ二三ノ學說ヲ除クノ外性質ノ人權タルコト疑ナシ他ナシ賃貸主ハ賃借人ニ其物件ヲ引渡シ置クノミナラス尙ホ日々賃借主ヲシテ收益セシムルノ義務ヲ身ニ負フモノナレハナリト云ヒ或ハ伊太利荷蘭獨乙白耳義等ノ民法モ皆此權ヲ人權ト爲セリト云ヒ或ハ我カ國從來ノ慣習ニ據ルモ先ツ人權ト論決セサルヲ得ス他ナシ耕地ノ如キハ借主ハ之ヲ轉貸スルヲ得ス地所ニ破損アレハ地主ニ其修繕ヲ請求シ云々ノ狀況ハ皆其人權ヲ組成スル適證ナリト云フニアルナリ
而シテ慕氏ノ原案ニ於テ之ヲ物權ト爲セシ論決ヲ駁スルニ或ハ賃借權ハ主トシテ物權ヲ生シスルモノナレハ双務契約ト云フヲ得ス然ルニ原案第百二十五條ニ曰ク賃貸借契約ハ双務ノ契約ノ規則ニ從フトアルハ非ナリト云ヒ或ハ賃借契約ハ物權ヲ生スルモノトセハ管理所爲中ニ入ルヘキモノニアラサルヘキニ原案第百二十六條乃至第百三十一條ニハ之ヲ管理所爲中ニ屬セリ是モ亦物權タラサルモノヲ強テ物權ト爲スヨリ來リタル論理ノ自家撞着ト謂ハサルヲ得スト云ヒ或ハ貸主ニ貸借主ヲシテ收益セシムルノ義務アル以上ハ之ヲ如何シテ物權ト爲スコトヲ得ルヤト云ヒ或ハ物件ノ損失ハ其物上ノ權利ヲ有スル者ノ負擔ニ歸スルハ物權固有ノ性質ナリ然ルニ原案第百三十八條ニ據レハ借主カ變災ニ因リ收益ノ若干ノ損失ヲ受ケタルトキハ借貸ノ減少ヲ請求スルコトヲ得ルハ是レ賃貸借ノ物權ニアラサル確證ナリト云ヒ其他第百四十條ノ規則ニ據ルモ亦此權ノ物上タラサルコト明カナリト云ヒ而シテ賃借權ノ第三者ニ對抗スル力ヲ有スル點ニ至リテハ此效力ハ物權其モノノ妙處ニアラスト論決シタルニ過キサルナリ
小官ハ是レヨリ建議者ノ之ヲ人權ト爲スヘキモノトシテ提出シタル理由ハ果シテ正當ナルヤ又原案攻撃ノ論旨ハ一々的中スルヤ如何ニ就キ謹テ卑見ヲ呈セント欲ス
第一 佛國民法ニ於テ規定シタル賃借權ノ性質物權タルヤ將タ人權タルヤノ問題ニ就キ論決ノ一定セサルハ是レ佛國民法ノ規定判明ナラサルノ致ス所ニシテ決シテ此權利ハ性質對人ノモノト云フヨリ來タルモノニアラス何ヲカ佛國民法ノ規則判明ナラスト云フヤ元來佛國民法ニ於テハ啻ニ賃借權ニ關スルイミナラス民法全般ノ事項ニ關シ一トシテ斯々ノ權利ハ物上ノモノナリ又斯々ノ權利ハ對人ノモノナリト明記シタル條文ナク物權人權ノ區別ハ只其權利ノ第三者ニ對抗スルヲ得ルト否サルトニ由リ學設ト判例トヲ以テ之ヲ區別スルニ止マルモノトス而シテ賃借權ハ貸主ノ身ニ負フ所ノ義務者大ナル點ヨリ見レハ人權ニ類シテ借主ノ此權利ヲ第三者ニ對抗スルヲ得ル點ニ從ヘハ又物權ニ似タル所ヨリ其論說二派ニ分レタルモノナリ然ルトキハ佛國民法ニ於テモ若シ之ヲ物權ト明記シ置ケハ誰カ之ヲ爭フ者アランヤ其法文ノ曖昧ヨリ來リタル論爭ヲ以テ慕氏ノ原案ノ如ク之ヲ物權ト明記シタル條文ヲ非難スルノ材料ト爲スハ所謂杓子ヲ定木ト爲スニ均シ故ニ佛國民法ノ賃借權ヲ以テ人權ト爲スノ論決ハ慕氏ノ原案攻撃上ニ何等ノ勢力ヲ有セサルモノト謂フヘシ
第二 借主ヲシテ收益セシムルノ義務ヲ貸主其身ニ負フハ卽チ賃借權ノ人權タル證據ト爲スカ如キハ小官ヲシテ奇怪ノ懷ヲ爲サシムルモノトス抑々所有權ノ賣買交換ハ其買主其交換主ニ完全ノ所有權卽チ最上ノ物權ヲ轉移スルモノナルコトハ建議者モ亦疑ハサル所ナルヘシ然ルニ其賣主及他ノ一方ノ交換主ハ毫モ身ニ負フ所ノ義務ナキモノト思考スルヤ賣主ハ第一物件ヲ引渡シ第二其引渡シニ至ルマテ之ヲ保存シ及引渡シテ後尙ホ第三者ノ妨碍及奪取ヲ擔保スルノ義務ヲ其身ニ負フニアラスヤ交換主モ亦之ニ同シキモノニアラスヤ然ルトキハ結約者ノ身ニ負フ所ノ義務アルカ爲メ其對手人ノ有スル權利ヲ人權ト爲スハ毫モ根據ナキノ說ト謂ハサルヘカラス故ニ建議者ノ此理由モ亦慕氏ノ原案ヲ變シテ人權ト爲スニ足ルヘキ價値ヲ有セサルモノト思考ス
第三 諸他國ノ法律ニ於テ之ヲ人權ト爲スヲ以テ我カ民法モ亦之ニ倣フヲ良トスト云フカ如キハ一理ナキニアラスト雖トモ其諸他國ノ法律トシテ引證シタルモノハ悉ク佛國民法ヲ模範ニ取リタルモノノミニシテ其規定ノ一ニ出テタルハ數國ノ法律期セスシテ一致シタルニアラス皆佛國民法ノ寫影タレハ其名數國ノ法律ナリト雖トモ其實ハ佛國民法タルニ過キス故ニ之ヲ以テ法理ヲ占フコトヲ得ヘキモノニアラサルナリ而シテ我新法上賃借權ニ關シテハ佛國民法ノ曖昧ナルモノニ據ルヘカラサル理由ハ前陳ノ如クナルヲ以テ隨テ之ヲ模範トセシ諸他國ノ法律モ亦我ニ採ルヘカラサルモノトス故ニ是モ亦原案ヲ改正スヘキ理由ト爲スヘカラサルモノト思考ス
第四 我國從來ノ慣習ニ據ルモ人權ナリ故ニ新法モ亦之ニ倣フテ可ナリト謂フカ如キハ建議者一己ノ思想ニシテ普通ノ實證ヲ擧ケタルモノニアラス小官ハ却テ其性質物權タルノ證據ヲ明示シテ新法ノ規定精々從來ノ慣習ニ基クヲ良トセハ賃借權ハ愈々以テ物權ト爲ササルヘカラサルコトヲ顯然タラシムヘシ而シテ其實例ヲ遠キニ求ムルヲ要セス當府下ニ於テ家屋ヲ賃借シ以テ其内部ヲ仕切リ之ニ他人ヲ居住セシムルカ如キハ其都度借主ヨリ貸主ノ承諾ヲ得ルモノナルヤ決シテ然ラス全ク借主ノ獨斷ヲ以テ其行爲ヲナスモノニアラスヤ而シテ其所爲ハ賃借權一分ノ轉貸ヲ組成スルモノニアラスヤ若シ賃借權ハ純然タル人權ナレハ其義務者ノ承諾ナク之ヲ讓リ渡スコトヲ得可キヤ現ニ我カ民法ニ於テハ入權卽チ債主權ノ讓リ渡シハ必ス其義務者ノ承諾ヲ得ルニアラサレハ無效ノモノナリ然ルニ賃借權ハ借主ノ隨意ヲ以テ右ノ如ク他人ニ分與スルコトヲ得ルハ從來ノ慣習上物權ノ性質ヲ備フル確證ニアラスシテ何ンソヤ右ノ事例ハ家屋ノ賃借ニ就キ陳ヘタルモノニ過キスト雖トモ尙ホ動產物件ニ就キテモ亦之レト同一ナルヘシ例ヘハ損料貸ノ夜具若クハ蚊帳ノ如キモノヲ一纏メニ借リ受ケテ更ニ之ヲ各需用者ニ貸與スルカ如キ是レナリ又建議者ハ耕地ノ如キハ之ヲ轉貸スルヲ得スト斷言スト雖トモ予ハ其眞ニ然ルヲ知ラス現ニ我カ郷里ニ於テハ一人ノ小作者ニシテ數萬坪ノ土地ヲ借リ之ヲ細別シテ更ニ勞働者ニ小作セシメ其者ニ對シテハ自ラ土地所有者ノ權利及義務ヲ有スル者少カラス是等ノ實況ハ建議者ノ云フ所ト全ク反對スルモノニシテ卽チ賃借權ハ從來物權ヲ組成スルモノ適證ナリ是レヨリボ氏ノ原案ヲ駁セシ建議者ノ論據ハ果シテ正當ナルヤ否ヤニ就キ卑見ヲ呈スヘシ
第一 原案第百二十五條ニ賃借契約ハ双務契約ノ規則ニ從フトアルヲ駁スルニ主トシテ物權ヲ生スルトキハ決シテ双務ノ契約ト云ハス云々ト建議者ノ論セシハ不可思議千萬ナリ夫ノ確定物ノ賣買交換ノ契約ハ主トシテ物權ヲ生スルモノナルヤ將タ人權ヲ生スルモノナルヤ斯ノ如キ問題ヲ提出セハ人皆曰ハン其契約ハ主トシテ物權ヲ生スルモノナリト而シテ此契約ヲ如何ナル種類ニ屬スルヤト問ハハ又皆曰ハン双務契約ナリト實ニ契約ノ種類如何ハ其由リテ生スル權利ノ物上タルト對人タルトニ隨テ異ナルモノニアラス双方ニ義務アルモノハ之ヲ双務ト云フノミ卽チ賃借契約ハ賣買交換ニ於ケルカ如ク其双方ニ義務アルヲ以テ原案第百二十五條ニ於テ之ヲ双務契約ノ規則ニ從フモノト謂フノミ此條文ヲ以テボ氏此權ヲ物權ト爲セシヲ非難スルノ根據ト爲セシハ建議者ノ心意果シテ如何ヲ知ル能ハサルナリ或ハ双務契約ノ何モノタルヲ理會セサルノ致ス所ナランカ
第二 總テ物權ハ所有主ニアラサルモノ及無能力者ハ決シテ之ヲ設定スルコトヲ得サルヲ原則トスボ氏ノ原案ヲ以テ其證トスヘシ然ルニ賃借權ヲ物權トナシナカラ第百二十六條乃至第百三十一條ニ於テ他人ノ物ヲ管理者又ハ既脫後見ノ未成年者等カ締結シタル賃貸借ハ大體有效ナリトスルハ忽チ民法ノ原則ニシテボ氏ノ承認スルモノニ牴觸スルニアラスヤト蓋シ所有者ニアラサレハ物件ヲ處置スルヲ得ス他人ノ物件ヲ契約ノ目的ト爲スコトヲ得スト云フノ原則ハ羅馬法ニ存シテ佛國民法ニ入リ今日其然ル所以ハ小官モ亦會得スル所ナリ然レトモ建議者ハ此原則ノ適用ヲ全ク誤解シタルモノト思考ス卽チ此原則ハ所有者ニアラサルモノ他人ノ物件ヲ自己ノ名義ニテ處置スルコトヲ禁制シタルモノニ止マリテ所有者ニアラサルモノ其物件所有者ノ名義ヲ顯ハシテ處置スルコトハ佛國民法ニ於テモ我カ草案ニ於テモ法律ノ定式ヲ履行スル以上ハ決シテ之ヲ禁制セサルナリ(羅馬法ハ此原則ヲ極端ニ適用シタルヲ以テ之ト異ナレリ)夫ノ後見人法式ヲ履行シテ未成年者ノ財產ヲ賣却シ代理者其權限内ニ於テ依託物ヲ他人ニ讓リ渡シ其他失踪者ノ財產管理人相當ノ手續ヲ經テ財產ヲ賣却スル等是レ皆所有者ニアラサル者カ他人ノ物件ノ所有權卽チ物權ヲ他人ニ讓リ渡スモノニアラスヤ然ルヲ尋常賃借ヲ或ル制限内ニ於テ管理所爲中ニ置キタルヲ以テ其性質物權ト爲スヘカラサルモノト云フハ根據ナキモノト思考ス又管理ノ所爲ハ果シテ物權ヲ設定セサルモノト云フコトヲ得ルヤ曰ク然ラス佛國民法ニ據ルモ動產中之ヲ保存シテ損破シ易ク若クハ許多ノ費用ヲ要スルモノハ後見人又ハ既脫後見ノ未成年者一己ノ獨斷ヲ以テ之ヲ賣却スルコトヲ得ルモノニアラスヤ而シテ其賣却ハ買主ノ爲メ物權ヲ設定セサルヤ其他收穫ノ賣買ハ皆管理ノ所爲ナリ然レトモ其買主ノ爲メ常ニ物權ヲ設定スルモノトス然ルニ物權ハ管理ノ所爲ヲ以テ設定スルコトヲ得ストハ予ノ曾テ聞知セサル所ナリ
管理ノ所爲ト否トノ區別ハ物權設定ノ有無ニアラスシテ元本ヲ減少スルト否トニ由リテ其性質ヲ定ムルニアルモノトス卽チ元本ヲ減少スルノ所爲ハ單ニ管理權ヲ有スル者ノ爲シ得ヘキニアラス宜ク處置權ヲ有スルコトヲ要スト謂フヘキノミ而シテ賃借權ノ設定ハ元本ヲ減少スルニアラス却テ其收益ヲ得ルニアルナリ之ヲ管理所爲中ニ置キタルハ固ヨリ當然トス而シテ此點ニ就キテハ建議者モ亦爭ハサル所ナリ然レトモ物權ノ設定ハ管理所爲中ニ入ルヘキモノニアラスト云フニ至リテハ輕忽ヲ免カレサルモノトス
第三 貸主ハ借主ヲシテ收益セシムルノ義務ヲ負フモノナル點ヲ以テ是レ人權ノ證據ナリト云フノ論旨ニ至リテハ前ニ其然ラサル理由ヲ說明シタルヲ以テ茲ニ重復ノ勞ヲ取ラス
第四 物件ノ損失ハ其物上ノ權利ヲ有スル者ノ負擔ニ歸スルハ物權固有ノ性質ナリ然ルニ原案第百三十八條ニ據レハ借主カ變災ニ因リ收益ノ若干ノ損失ヲ受ケタルトキハ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得ルハ是レ賃貸借ノ物權ニアラサル確證ナリト云フカ如キハ是モ亦普通ノ法理ニ偏シテ此例外ノ物權他ニアルコトヲ知ラサルノ致ス所ト謂ハサルヲ得ス夫ノ從タル物權ト稱スル動產質不動產質及抵當權ノ如キモノヲ見ヨ物件消滅スルモ權利者ハ毫モ其權利ヲ失ハサルノミナラス更ニ其消滅シタル物件ノ代物ヲ請求スルノ權利ヲ有スルニアラスヤ然ラバ物件ノ損失ハ權利者ノ負擔タル原則ハ一定不變ノ通則ニアラサルナリ賃借權モ亦其例外ノ一種ヲ組成スルモノトセハ毫モ障碍アルヲ見ス加之賃借物收益ノ減少ハ借賃減少ノ原由ト爲ルモノハ貸主カ借主ヲシテ收益セシムルコト完全ナラサル所ヨリ其完全ノ收益ヲ旨トシテ定メタル賃料ヲモ亦減少セサルヘカラサル双務契約ノ性質ヨリ出テタルモノニシテ其權利ノ物上タルト對人タルトノ區別ニハ毫モ關係ヲ有セサルモノトス實ニ物件滅盡ノ負擔甲ニアルト乙ニアルトハ權利ノ性質ニ關係ナク契約其モノニ基ク證據ハ茲ニ確定物ノ所有權ヲ賣買シテ其際賣主ニ於テ天然ノ滅盡モ亦自ラ擔保スル事ヲ約セハ其契約ハ固ヨリ有效ナルモ其賣買ニ由リテ買主ニ移リタル權利ハ當然物權タルニ因リテ明カナリ卽チ我カ民法ハ只此特約ヲ俟タス法律上貸主ハ之ヲ擔保シタルモノト爲シタルニ適キス其擔保ハ不當タラス既ニ不當タラサレハ之ヲ存シテ可ナリ而シテ之ヲ存スルカ爲メニハ其賃借權ノ性質ヨリ變更スルコトヲ要スト主張スルハ意味ナキノ至ナリ
第五 第百四十條合壁ノ二家ヲ有スル者カ其一ヲ賃貸シ借主カ小賣リ商業ヲ營ムトキハ他ノ一方ノ家ニ於テ同業ヲ營ム者ニ之ヲ貸スコトヲ得ス云々ノ法文ハ畢竟收益セシムル義務ヨリ生スル自然ノ結果ナリ何トナレハ同業ノ小賣者數ノ多キヲ加フルニ隨ヒ需用者ノ購フ所數箇ニ分ルルヲ以テ其一家ノ占ムル收益減スレハナリ故ニ是モ亦收益セシムルノ義務アルコトヲ認知シタル以上ハ別ニ之カ爲メ賃借權ノ性質ニ反スルモノト云フノ論據ト爲スヲ得サルナリ而シテ其收益セシムルノ義務貸主ノ身ニアルモ爲メニ賃借權ノ物上タルコトヲ妨ケサル理由ヲ說明シタル以上ハ其義務ノ結果タル一點ニ就キ又何ヲカ喋々スルコトヲ爲サンヤ小官敢テ言ヲ好ムモノニアラス故ニ無用ノ辯ハ之ヲ省ク
第六 獸類ノ賃貸借ニ就キテ建議者ノ喋々スル所ハ原案ノ基本ニ關スルヨリモ編纂ノ順序ニ對スルモノナルヲ以テ其是非ニ就キテノ卑見ハ建議者提出ノ第二問題ノ處ニ於テ開陳スヘシ
第七 建議者ハ原案上賃貸借使用權及住居權ヲ物權トシテ特リ使用貸借ト稱スル一種ノ契約ヨリ生スル權利ヲ人權ト爲セシヲ大ニ非難セシモノノ如シ然レトモ小官ノ見ル所ニ於テハ建議者ハ其相類スルモノハ基本ニ於テ異ナル所アルモ外形上相似タルモノハ盡ク一ニ纏メンコトヲ希望スルモノナランカ小官ハ決シテ之ヲ以テ策ノ得タルモノト謂フヲ得ス抑々使用貸借ハ建議者ノ陳フル如ク親戚朋友ノ間或ハ近隣相識ノ間交際ノ通誼双方ノ好意ヲ以テ全ク無償ニテ之ヲ爲スモノナレハ夫ノ我カ物件ヲ貸與シテ利益スルコトヲ旨トスル賃借契約ト情ニ於テ相異ナリ使用貸借ノ如キハ之ヲ貸スモ其人ニ由リ之ヲ借ルモ亦其人ニ由リ双方ノ意思上互ニ物件ト利益トヲ主トスル賃借契約ノ如キモノニアラス是レ賃借契約ト使用貸借ト其權利ノ性質ヲ異ニスル所以ナリ然ルニ二箇共ニ物件ヲ借リテ用フル外形ノ事實同シキカ爲メ其權利ノ由リテ生スル原由ヲ顧ミス共ニ同一ノモノト爲サント欲スルハ情ニ戻ルコト著シキモノト謂フヘシ蓋シ是等ノ事ハ法律ノ規定ヲ異ニスル理由ト爲スニ足ラスト爲スモノナレハ亦止ムヲ得サル次第ナリ然レトモ其外形ノ事實ハ二箇共ニ全ク同一ナルカト云フニ尙ホ異ナルモノアリ卽チ賃借契約上期限ヲ約定シアラサルトキハ法律ニ於テ相當ノ期限ヲ與フルト雖トモ使用貸借ハ之ト異ナリ其期限ヲ約定シアラサルトキハ貸主ノ請求次第返還スヘキヲ原則トス是等ハ皆一方ノ好意ニ戻ラサルコトヲ主トスルノ理由ニ出ツルモノニシテ其間終始人ト人トノ關係ヲ旨トセサルモノナシ又使用權及住居權ノ物權タル理由ハ畢竟此二箇ノ權利ハ用益權ノ範圍ヲ減縮シタルノ點ヨリ來リタルモノナレハ之ト賃借權トヲ對比シテ其是非ヲ論スルハ當ラサルモノト云フノ外ナキナリ使用權住居權ノ用不用ハ用益權ト對比シテ相論シテ可ナリ賃借ノ人權ヲ組成スルヤ將タ物權ヲ組成スルヤヲ研究スルニ方リ用益權ノ制限權ヲ持チ來ルハ只自意ヲ達センコトヲ力メテ無用ノ辯ヲ好ムニ類シ其狀況ハ猶ホ好事ノ訴訟人徒ラニ訴訟關係人若クハ證據人ヲ增加シテ偏ニ訴訟ヲ煩雑ナラシメンコトヲ力ムルカ如ク然ルナリ
第八 ボ氏カ賃借權ヲ物權ト爲シタルハ此權利ハ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルノ理由ニ基クモノナルカ建議者ハボ氏ノ此理由ヲ駁スルニ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルノ效力ハ物權ノ物權タル眞ノ妙處ニアラスト云フヲ以テ單簡ニ了レリ若シ第三者ニ對抗スルノ效力ハ物權ノ妙處タラストセハ其妙處ハ果シテ何レニ在ルヤ小官未タ曾テ之ヲ知ラサルナリ小官ハ之ニ反シ物權ノ妙處ハ特リ此效力ニ在ルモノト思考ス而シテ又此效力ハ動產ニ就キテハ有名無實ナリト建議者ハ斷言スルモノノ如シト雖モ決シテ有名無實タカラ只動產ニ關スル物上權ノ所在ヲ公示スルノ方法備ラサルカ爲メ其所在ヲ知ラサル者ノ正當ニ獲得シタル物權ヲ取戻スコトヲ得サルノミ原則ニ於テハ物權ノ第三者ニ對スル效力ハ決シテ動產ト不動產トヲ撰ムモノニアラス而シテ又假リニ賃借權ヲ對人ノモノトスルモ之カ爲メ動產物件ノ轉々ヲ防止スルコトヲ得ヘキニアラス然ルトキハ動產物件ニ就キ法律ノ規定完全ノ效ヲ奏セサルハ其權ノ性質如何ニ基クニアラス物件其モノノ性質ニ基クモノナリ然ルニ動產ノ賃借權ヲ法律上強テ物權ト爲スモ其法律ハ不能ノ法律ト謂フヘシ不能ノ法律ハ徒法ナリト建議者ノ斷定シタル意見ハ尙ホ之ヲ人權ト變更スルモ亦均シク其法律ニ適用スルコトヲ得ルモノト謂フヘシ
右ノ理由ナルヲ以テ小官ハ徹頭徹尾ボ氏ノ原案ヲ維持シテ賃借權ヲ物上ノモノト爲スハ之ヲ人權ト爲スニ優ルコト萬々ノモノト思考ス建議者第二問題ノ論決ハボ氏ノ原案中貸借ノ名稱ヲ有ルモノ五箇アリテ其一箇每ニ一章ヲ置キタルハ不當ナリ之ヲ一章ニ纏メテ可ナリト云フニアルナリ而シテ其理由トスル所ハ一民法中同表題ノ章ヲ五箇ニ分ツハ奇怪ナリト云フニ過キス蓋シ此五箇ノ事項各貸借ノ名稱ヲ有スルト雖トモ其事實ハ一々異ナルモノナルヲ以テ隨テ其規則ヲ異ニスヘキハ事情止ムヲ得サルニ出テタルモノナルヘシ然ルニ之ヲ一章ニ纏ムルトキハ却テ彼是混淆ノ恐アルヤモ亦知ルヘカラサルナリ然レトモ原案ノ基本ヲ害セス只其編纂ノ順序ヲ變更シ以テ原案ヨリモ一層簡明ナラシムルコトヲ得ルモノトセハ之ニ優ルノ良法ナカルヘシ然レトモ是レ未必ノ事ニシテ今日ヨリ豫メ是非ヲ占フヘキニアラス故ニ建議者ヲシテ其事ニ當ラシメ其竣工ヲ侯チテ後原案ト對照シ何レヨ是何レカ非ナルヲ研究セサルヲ得サルモノト思考ス然レトモ獸類貸借ノ事ハ我カ從來ノ慣習ニ存セス故ニ之ヲ民法ヨリ省クヘシト云フニ至リテハ小官ノ取ラサル所ナリ今日民法制定ノ主義ハ特ニ我カ國從來ノ慣習ヲ蒐集シテ之ヲ大成スルニアラス法理ノ在ル所ハ未タ慣習上存セサルモノモ亦之ヲ取リテ我カ將來ヲ待ツニアルナリ然ルトキハ特リ獸類ノ貸借ニ限リ慣習ニ存セサルヲ口實トシテ削除スヘキノ理由アラサレハナリ
建議者提出ノ第三問題ニ就キテハ小官ハボ氏ト其意見ヲ同フスルモノトス抑々民法ハ普通規則ニ止マリテ若シ農商務省若クハ其他ノ公署ニ於テ之ト牴觸スル規則ヲ制定スルニ至ルモ之カ爲メ民法ノ規則ヲ變更スルニ及ハス何トナレハ其規則ハ特別法ヲ組成シ特別法ハ常ニ普通法ニ關セス適用スヘキハ法律適用ノ原則タルヲ以テ其特別法ニ規定シタル點々ニ民法ヲ適用セサルマテニテ事足レハナリ實ハ小作永小作ノ事ニ限ラス民法中規定シタル事項ニシテ特別法ニ由リ更ニ規定シ彼是牴觸スルニ至ルモノ此後少カラサルヘシ其都度普通ノ民法ヲ改正スルコトヲ得ルモノニアラス是ニ於テカ何レノ時ヨリヲ知ラスト雖トモ普通法ト特別法ト相牴觸スルトキハ特別法ヲ先キニシテ普通法ヲ後ニスヘキノ格言存スル所以ナリ我カ新法モ亦此格言ニ從テ可ナリ強テ他ニ求ムルハ萬徒勞ニ屬スヘシ
明治二十一年十月三日
法律取調報吿委員磯部四郎
法律取調委員長伯爵山田顯義殿
(委員長)
條項ノ變換丈ケデ其他ハ悉ク採用セズデスネ
(元尾崎委員)
強ク駁撃シマシタガ普通ハ家ヲ貸ニ例ヘバ磯部四郎ト云フ其人ヲ信ジテ貸テ居ルソレガ何時ノ間ニヤラ他所ノ者ガ這入テ居テハ困ルデシヨウ
(磯部報吿委員)
ケレドモ磯部四郎ガ擔當スルカラ宜シイデシヨウ、一分ノ論デハアリマスガ私ハ實際左樣デアロウト思テ居リマス、ソレカラ中ニハ何軒モ家ヲ借リテ復タ貸ヲスル者ガアリマス、現ニ洲崎抔ニハ澤山アリマスガ、廣イ地面ヲ借リテソレヲ使用者ニ高イ價デ貸テ居ル者ガアリマス、開港場デモ出來ルト安イ中ニ約束シテ地面ヲ澤山借リテ復タ貸ヲスル者ガアリマス
(委員長)
熊野君井上君ハドウデスカ
(井上報吿委員)
私ハ賃貸借カラ生ズル賃借人ノ權ハ人權デアルト云フ說ヲ贊成致シマス、尤モ永小作ト譯シテアリマス卽チ原案ニアリマス永貸借ト云フハ適當スルヤ否ハ分ラヌガ却テ永小作ト云フノハ卽チ法文ニ至テ譯字ヲ用ヒラレタハ如何カト思テ居リマスガ、永小作ニ付テハ之ハ物權ト思ヒマス、併シナガラ通常ノ賃貸借權ハ人權ト考ヘマス、第一人權ト物權トヲ區別スル標準ニ就テハ種々說モアリマシテ餘程困難ノコトト考ヘラルルガ私ノ考ヘル所ハ其標準ニ就テハ其權利ヲ第三者ニ對抗スルコトガ出來レバ卽チ物權デアリマス、ソレカラ甲乙ノ間ニ關係ヲ保テ例ヘバ甲ノ者ノ權ヲ乙ニノミ對抗スルコトノ出來レバ是レハ人權デアル云フコトヲ以テ區別ノ標準トスル說モアリマスガ併シナガラ物權人權ヲ區別スルノ確乎タル標準ニモナラヌカト考ヘラルル何ントナレバ縱令物權タリトモ或ハ第三者ニ對抗スルコトノ出來ナイ場合モアリマス、先ヅ一例ヲ申セバ不動產ナリ動產ナリ甲カラ乙ニ賣テ、佛蘭西法ニ依テデモ賣買契約ヲシテ双方承諾スレバ物權ハ賣主カラ買主ヘ移ルコトニナツテ居リマス、卽チ特定ノ財產ヲ賣タトキハ第三者ハ卽チ買主ニ物上權ヲ直チニ對抗スルコトガ出來ルカト云フト例ヘバ不動產ナラ登記シタル上デナケレバ對抗ハ出來マセン、動產ナラ引渡ヲ受タ上デナケレバ物上權ノ對抗ハ出來マセン、第三者ニ對抗セラルルヲ以テ人權物權ノ區別スルコトガ多クノ場合ニ出來ルカモ知レマセンガ或ハ出來ヌ場合モアリマスカラ之ヲ以テ確乎タル標準トハ申サレマセン、ソレナレバ何ヲ以テ卽チ物權人權トノ區別ノ標準トナスカト云フニ是レハ或ル人ガ特定物ニ付テ人ノ手ヲ假ラズ人ノ保證ヲ受ケズ直チニ其物ニ付テ利用スルコトノ出來ルト云フ考ヲ持テ居タラ卽チ之ハ物權デアリマス、例ヘバ債主權ノコトニ於テモ甲カラ乙ニ債主權ヲ利用スルニハ乙カラ取立テナケレバ債主權ノ旨味ヲ得ルコトハ出來マセン、若シ之ガ物權デアリマシテ或ル家屋ヲ持テ居レバ直チニ其物ト其人ノ間ニ充分利用ガ出來テ他人ノ手ヲ假リズ利用スルコトガ出來ル卽チ直接ニ物ト人トノ間ニ利用ガ出來ル出來ルニ由テ卽チ物權ト人權トノ區別ガアロウト考ヘラルル、就キマシテハ賃貸借權デ賃借人ノ權ハ如何ナルモノデアルカ通常賃貸借契約カラ生ジタ賃借人ノ權ハ如何ナルモノカト云フト、賃貸人ノ補助ヲ得テ賃貸物ノ物件ヲ利用スルコトガ出來ル若シ其物件ガ或ハ破損スルトカ何ントカシタトキハ卽チ充分利用スルコトガ出來ヌ、其場合ニハ賃借人ハ所存ヲ話シテ賃貸人ノ卽チ補助ヲ得テ物件ヲ利用スルコトガ出來ルソレデアリマスカラ賃貸借カラ生ジタ賃借人ノ權利ハ私ハ人權ト考ヘマス、今ノ永小作ニ就テノ賃借人ハ縱令物ガ破損爲タトキハ決シテ賃借人カラ修繕等ヲ爲スノ義務ハアリマセン、幾ンド用收權デ用收者ノ權ニ等シキ權デ卽チ自分デ修繕等ヲシテ利用シナケレバナラン、デアリマスカラ同ジ賃貸借デモ永小作ニ付テハ永借人ノ權ハ物上權デ通常ノ賃貸借ニ付テノ賃借人ノ權ハ人權デアロウト考ヘマス、先ヅ簡單ニ申セバ私ノ考ヘハ前述ノ通リデアリマス、ソレデ是ハ只ダ理論上ノ區別デ御座イマシテ近來デハ大抵動產ノ貸借ニハ登記シテ居リマス登記シタ以上ハ私ハ理論上デハ賃貸借カラ生ジタ賃借人ノ權ハ人權ト考ヘマス、實際ニ至テハ登記ヲ爲スコトニナリマスカラ或ハ物權ト御極メニナリ、或ハ人權ト御極メニナツテモ實際上差程差支ハナイカト存ジマス併シナガラ今申ス通リ道理上デハ何所マデモ賃貸借權ハ人權ト考ヘマス
(光妙寺報吿委員)
動產ハ自カラ結果ガ異ナリマス
(井上報吿委員)
動產ニ就テハ物上權ト極メテモ人權ト極メテモ動產ニ付テハ他人ニ正當ノ原因デ移レバ他人ニ對抗スルコトハ出來マセントナツテ居リマスカラ重モニ不動產ニ付テ論ジテ宜カロウト思ヒマス、矢張リ今申シタ如ク賃借カラ生ジタ賃借人ノ權原ハ人權ニハ違イナイ、ソレカラ編纂ノコトニ付テハ磯部君ニ同意デ成丈ケ簡明ニナレバソレニ越シタコトハアリマセンソレカラ獸類ノ賃借ノコトニ就キマシテモ之ハ幾ンド磯部君ノ說ヲ贊成致シマシテ、今獸類ノ賃貸借ハ要ナイカラト云テ之ヲ刪除シテ宜イト云フ說ハ如何デアロウカト思ヒマスカラ矢張御議定ニナツタ方ガ結構ト思ヒマス
(委員長)
熊野君ドウデスカ
(熊野報吿委員)
別ニ異ナツタ意見モアリマセンガ併シナガラ之ハ餘程六ケ敷キコトデアリマシテ容易ニ決定スル譯ニモ往キマセンガ第一ノ問題ハ大元トナツテ居ル若シ人權トシテ置ケバ「ボアソナード」ノ編纂ノ順序ヲ變ヘナケレバナラン是レ或ハ六ケ敷イカモ知レマセン、ソレカラ終リノ第三ノ問題ハ別ニシタ上デハ研究スル丈ケノ材料ガ御座イマセン實際今日日本ノ規則ニ當ルヤ否ハ論ハ殆ンド出來マセン、併シ人權トスルカ物權トスルカヲ重モニ論ジテ居ルカラ之ハ當テ居ルカ否カハ研究モ出來ルガ、私ハ何レガ正當カト云フト惟フニ私ハ虛心デ考ヘルト人權迄ガ相當デハナイカト思フ「ボアソナード」ガ之ヲ以テ物權トシタハ餘程ノ理由ガアツテ拵ヘタコトト思ヒマス其理由ハ「ボアソナード」先生ノ草案中ニ明言シテアリマセンカラ充分ニハ分リマセンガ、第三者ノ買人ニ對抗スルコトガ出來ル佛蘭西ノ規則ニ一歩ヲ進メテ物權トシタ理由デアリマシテ、外ニ之ヲ物權トスル理由ガアツタモノデハナイカト思ヒマスガ註解ニモ明瞭デナイカラ分リマセン「ボアソナード」先生箇樣ニ物權トシタハ何カ理由ガナイカ研究シヨウト思テ考ヘマシタガ物權ノ定義ヲ與ヘテ居リマセン、物權ハ物ノ上ニ之ヲ行ヒ諸人ニ對抗スルコトノ出來ルモノデアルト云フ定解ヲ與ヘテアリマス此定解カラ勢イ物權トスルニ至ツタモノデハナイカト思ヒマス、賃借人ノ權利ヲ見ルト他人ノ物ヲ自由ニ使テ居ル權利ハ物ノ上ニ行ハレ、又佛蘭西ノ法ハ復タ買人ニモ對抗スルコトハ幾ンド第三者ニ對抗スルコトノ出來ル有樣デ、權利ハ箇樣ニ物ノ上ニ行ハレ又佛蘭西ノ如ク復タ買人ニモ對抗ガ出來ルトスレバ幾ンド物權トシテ居ルノデス、若シモ廣ク第三者ニ對抗スルコトガ出來ルトスレバ眞ニ物權ト異ナルコトハナイ樣ニ當リマス、ソレデ「ボアソナード」ガ物權トシタハ自己ガ物罐ノ定解ヲ與ヘ之ニ誤マラレテ物權トシタニ至タモノデハナイカト思ヒマス眞ニ賃貸借ノ權ハ物權カ人權カハ眞ニ物ノ上ニ行ハルルヤ否ヲ決定スル所デアロウカト思ヒマス、鳥渡一見スルト賃借人ノ權利ハ物ノ上ニ行ハレ、家ナラ住デ居リ、土地ナラ耕作シテ居ル自分ノ權利ハ物ノ上ニ行ハレテ居ルト見ヘマスルガ、併シナガラ之ハ外面デ實ハ權利ハ物ノ上ニ行ハレテ居ラヌデハナイカ併シナガラ昔シガ人權トシテモ物權同樣ノ性質デアルカ世間ハ人權ト一方ニ偏シテ居ルカ二ツノ性質アルモノヲ「ボアソナード」ハ一ニ混淆シテ物ノ上ニ權利ガ行ハレテ居ル樣ニ見タノデ、家ナラ住居シ、土地ナラバ耕スカラ有形上物上權ト同樣ニ權利ハ物ノ上ニ行ハルル樣デスケレドモ、實ハ賃借人ノ權利ハ眞ニ左樣デナクシテ家ノ賃貸人ニ義務ガアツテ其義務ノ御蔭デ物ノ上ニ行ハレテ居リ、賃借人ハ擔保ノ義務ト同體デ兎ニ角收益ヲ與ヘナケレバナラン、デスカラ一方ハ代價ヲ拂ヒ一方ハ其組立ヲスル卽チ賃貸ヲ約束シテ家ニ住居シ、又ハ土地ヲ耕スコトガ出來ル又苦情ガアレバ苦情ヲ取除ケルト云フ、卽チ爲スノ義務ヲ賃貸人カラ約束シテ居ル、其義務ガアルカラ一方ハ借賃ヲ拂フ義務ヲ約スルモノデアリマス、卽チ雙務契約デ賃借人ノ權利ハ眞ニ物ノ上ニ行ハルルデナクシテ賃貸人ノ所爲ヲ以テ權利ヲ行フノデソレ故直チニ物ノ上ニ行ハレルノデハナイ賃貸人ノ所爲ガアリ收益ヲ得セシムル義務ニ屬スカラ物ノ上ニ實益ヲ收ムルノデ「ボアソナード」ガ誤マラレタハ此點デハナイカト思ヒマス、直接ニ行ハレルデナクシテ間接ニ賃貸人ノ所爲ヲ以テスルヲ見テ眞ニ物ノ上ニ行ハレルト見タカラ物權トナシタモノデハナイカト思ヒマス、ソレカラ使用貸借ノ例ガアリマスガ賃借人ノ權利ト比較シテ見ルト明瞭デ、使用貸借ノ中ニ借主ハドウ云フ地位ニアルカト云フニ物ヲ使テ居ルハ賃借人ト少シモ違ヒハナイ自由自在ニ使テ居リマス、スルト眞ニ直接ノ關係ガアツテ物ヲ使テ居ルハ使用貸借ノ上ニアルガ之ヲ能ク比較スルト寧ロ使用貸借ハ物權ニシテ賃借ノ權利ト違ヒハナイト思ヒマス何ゼナラバ賃貸人ニ義務ガアツテ賃借人ニ收益ヲ得セシムルゾヨ、苦情ガアレバ除テヤルト云フ一方カラ義務ヲ盡シテヤルカラ、賃借人ハ收益ヲ得ルコトモ出來ル有樣デアリマス、使用貸借ハ借人ハ自分ノ勝手ニスル貸主ハ義務ヲ持テハ居ラヌガ使用貸借ト云フ名義カラ受取タ以上ハ自分ノ權利ヲ行ツテ居ル、使用貸主ニ義務ガアツテ其御蔭デ收益ヲ得ルノデナイカラ其方ガ却テ物權ニ近ヒノデアリマス、貸主ニ義務ナクシテ物件ノ利益ヲ得ルト云フノハ權利モ種々アリマスガ物件ヲ持テ居ルモ同樣ナル使用貸借ガ既ニ人權デアルナラバ況ンヤ賃借人ノ權利ハ是非共人權ガ相當デアロウト思ヒマス、賃借人ノ權利ハ賃貸人ノ義務ト相對スルノデアリマス、ソレデ箇樣ニ私ノ考ヘデハ性質上人權デアルベキモノト思ヒマス、之ヲ人權トスルガ良イカ物權トスルガ良イカト云フニ此點ニ付テモ寧ロ人權ト爲ス方ガ便利デハアリマスマイカ、所有權ニハ種々ノ利益モアリマスガ之ヲ勝手ニ使フコトノ出來ルハ便益ニハ相違アリマスマイ、自分ノ所有權ヲ使フ時分ニ支分權ヲ他人ニ與ヘルコトモ出來、又收益ノミヲ約束シ收益ノミ他人ニ得セシムルハ一ノ便利ニハ相違アリマセン、所有者ノ自由デ支分權ヲ支ヘナイデ收益ノミ得セシムルコトノ出來ルト云フ二個ノ方法ガアツタ方ガ所有者ノ爲メ便利デアリマス、然ルニ賃貸借權ヲ物權トスル方法ガ一ツ外御座イマセンケレドモ用收權ガ一ツアツテ物權ヲ讓ロウト云フトキハ物權ヲ讓ルコトモ出來、又支分權ヲ讓ロウト思ヘバ(人權トシテ置ケバ)人權トシテ支ヘルコトモ出來マス、却テ賃貸借權ヲ物權トスルト一ノ用ホカ出來マセン用收權ト賃貸借權ト並ビ立テ置ケバ便益デアリマスガ、實際ハ少イモノデ、約束ヲ以テ用收權ヲ與ヘルコトハアリマセン、賃貸借契約ハ□ 用ノ契約デアリマス、一ハ人權トシテ與ヘ、一ハ物權トシテ與ヘ權利ハ人權ノ方ハ弱イケレドモ實際ニ行ハレヌガドウ云フ譯カ賃貸借權ハ用收權ヨリハ便益ガアルニ相違ナイ、其便益ハ何カナレバ則チ賃借ノ權利ハ自分デ爲スルノ利益ヲ得ルニ止マラズ賃貸人ニ義務アツテ是非收益ヲ得セシメナケレバナリマセン、收穫ガナケレバ借賃ヲ減ズルトカ云フ賃貸人ニ義務ガアルカラ、賃借人ハ收益ヲ得ルコトハ確カデアリマシヨウ、之ニ反シテ物權トスルト自分デ得ルノデアルカラ負擔ヲ拂ヘバ不足ガアレバ收益ハ少クテモ口實トスルコトモ出來ヌ、損得ハ自分デ引受ケナケレバナラン、人權ハ損得ハ借主ガ引受ケズ、物權ハ用收者ガ引受ケルモノデアリマスカラ損得ハ少ナイ。契約デ行ハルル所ノ所爲卽チ用收權設定ハ屡々行ハレナイ樣ナ結果ニ至ルノデハナイカ、スルト物權トスルハ利益ヲ減少スルノ憂ガアリハセンカ。□ カラ物權トシテモ人權ト同樣ノ結果ヲ付シテ人權ノ性質ト幾ンド異ナラザルヨーニナリハセンカ、ソレデ立法上ノ便益ヲ見テモ兩方アツタ方ガ便益ト思ヒマス。用收權ト賃貸借權ト並ビ立テ、一ハ物權ノ用ヲ爲シ、一ハ人權トナシテ、社會ノ用ヲ存シタイト思ヒマス。用收權ハ實際用ヲ爲サヌト云フハ別ニ理由モアリマスガ、佛蘭西法デ、羅馬以來用收權ハ畢生間ノ權利トシテ居ル、之ハ用收權ノ惡ヒ所ト平常カラ考ヘテ居リマス、用收權ヲ以テ畢生間ノ權利トシテアルカラ、偶生ノモノデ、賭博同樣デアリマスカラ用收者ノ權利ハ物權ヲ得タ時分ニハ確カナモノデ、何レ丈ケノ利益ヲ得ルカ見込モ立ツタ、用收權ノ設定ハ實際行ハルルニ相違ナイ、然ラバ偶生ノ性質ヲ奪ヒ、有期ノ權利トスレバ足リルデシヨウ、是ハ佛蘭西ニモ例ガアツテ、無形人ニ與ヘル用收權ハ三十年デ消滅スルトアリマス、如何ニモ所有權、支分權、□ 有權、收益權ト別ニスレバ、用收權ハ消滅スル性質ガアルニ相違ナイカラ、其所カラ畢生間ノ權利トシタルノデシヨウガ、有期ノ權利トスレバ期限ガ來レバ消滅スルカラ、所有權ハ復歸シテ、完全ノ所有權ガ還ルト思ヒマス。地上權トカ賃借權トカハ皆ナ法律デ期限ヲ設ケタカラ、完全ノ所有權ノ蘇生スルコトガ出來テイルカラ、用收權ハ之ニ倣テ宜シイ、法律上用收權ハ例ヘバ一生ノ間與ヘ樣ト云フ積リカラ、畢生問デナケレバナラズトシタノデアリマシヨウ併シ箇樣ナ場合ニ畢生間用收權ヲ得ル時分ニ畢ニ用收權ヲ與ヘルト云ハズ、例ヘバ配偶者ノ夫婦ノ一方ガ死ダ時分ニ配偶者ニ唯ダ用收權ヲ與ヘルト云ヘバ、畢生間ト云ハナケレバナラヌガ生キ殘リタル配偶者ニ一生用收權ヲ與ヘルト云フハ充分用ヲ爲スカラ、有期ノ權利ト云フハ用收權ハ實際行ハルルニ相違ナイ、スレバ用收權ハ物權ノ用ヲナシ、賃貸借權ハ人權ノ用ヲナシテ、社界ニ用ヲ爲スト思ヒマス。ソレカラ反對論者ノ根據トスル所ハ佛蘭西法律デ復タ貸入ニ對抗スルコトガ出來ルト云フ理由ガアル、之ヲ說明シナケレバ性質上人權トスル說モ立マセン反對說ノ根據ハ何カ說明スル必要ガアルカ至テ要用ヲ爲スト考ヘル。總テ此物權ト云フモノハ物權カラ人權ト爲スコトモ出來、性質上人權カラ物權トスルコトモ出來ヌニ相違ナイ、佛國ノ立法者モ容易ニ人權ヲ物權ニスル筈ハナイ、人權ヲ變ジテ物權ト爲シタモノデハナイトスレバ、別ニ道ヲ立テ賃借人ノ權利ハ復タ買人ニ對抗スルコトガ出來ルト云フノハ理由ガナケレバナリマセン如何ニシテ之ガ說明ハ出來ルガ賃貸人ハ權利ヲ他ニ讓タトスレバ受タ者ハ所有者デモ所有者ノ權利ヲ自由ニ出來テ前ノ契約デ出來タ賃借人ノ權利ヲ奪フコトガ出來ルカト云フニ、佛蘭西法ニ依ルニ斯樣ナ場合ニハ法律上生ズル義務デアツテ復タ買人ハ前所有者ノ爲シタ所爲ヲ尊重シテ行カナケレバナラヌ義務ヲ法律ガ命ジタニ過ギナイ、卽チ前所有者ノ爲シタ契約履行ヲ後チノ所有者ニ命ジテ後チノ所有者ガ奪重シナケレバナラント法律ガ命ジタモノトスレバ差支ナイ、必ラズ物權トシナケレバナラン必要モアリマスマイ、斯ノ如クスルト「ボアソナード」先生トシタ利益ヨリモ少シ利益ハ減ズルヨーデスガ、併シナガラ減ジタル處ガ別ニ關係ノナイコトト思フ「ボアソナード」ガ賃借權ヲ物權トシタルニ付ドレ丈ケノ結果ガ生ジタカト云フト復タ買人ニ對抗スルコトガ出來ルト云フコトハ佛蘭西ト同樣デアリマス、之ヲ一歩進メテ廣クシテ何人デモ權ハズ對抗スルコトガ出來ルト云フカラ占有訴權ヲ對抗スルコトガ出來ル自分ガ借リタ物ヲ他人ニ奪ハルレバ、賃貸人ハ取返ヘシテ呉レト云フコトヲ請求スルニ及バス、自カラ取返スコトガ出來ルト云フ便益アルニ過ギマセン、併シナガラ賃貸人ト云フ者ハ自分ノ占有訴權ヲ行ハナケレバ其目的ヲ達スルコトガ出來ヌト云フコトモナイト思ヒマス、又擔保ノ義務ガアリテ賃貸人ノ請求通リ增サセルコトモ出來ルカラ、占有訴權ヲ持タセヌデモ不便ハアリマセン、又賃借權ヲ書入レルコトガ出來ルト云フモ、之ハ抵當ニ入レルモ取ル人ハアリマスマイ、又實際益モアリマスマイ、然ラバ「ボアソナード」ノ草案ヲ見ルト、物權ノ結果カラ生ジタ權利デ、此二說ハ□ □ 訴權ヲ得ル丈ケデ、他ハ格別意ナリタルコトハナイ故ニ人權ニシテモ不都合ハアリマスマイト思ヒマス
(磯部報吿委員)
今述ベラレタルコトニ付テ答辯シテ宜シウ御座イマスカ
(委員長)
宜シイガ、外ニ仰シヤル方ガアルナラ言テ、ソレカラ答辯シテハドウデスカ
(光妙寺報吿委員)
「ボアソナード」ハ物權トシテ居リマスガ、私ノ考ヘハ諸君ト異ナリ冷淡ナ考ヘデアリマス、何カ理由ガナイカト信ジマシタガ、熊野君ノ云フコトハ物權ノ定義上カラ箇樣ニナツタト云フ、或ハ左樣カモ知レマセン、草案ヲ見ルニ地上權、賃貸借權、永小作ト三ツアリマスガ成程地上權抔ハ物權デアルト云フ方カラ遂ニ賃借モ物權ニ引込マレテ物權ト云フタノデハナイカト考ヘマシタ、併シ今、熊野君ノ云フ通リ定義上カラ來タカモ知レマセン、其所マデハ未ダ考ヘマセンガ要スルニ雷同スル樣デスガ、初ヨリ私モ人權ト考ヘテ居リマス、今磯部君ノ讀ンダモノヲ一々論ズルコトモ出來マセンガ、熊野君ガ用收權トノ比較ヲ論ジラレマシタガ建議者ハ物權デアレバ支分權ヲ讓ルモノダカラ收益ヲ得セシムルモノデナク勝手ニ收益スルト云フガ幾分カ人權幾分カ物權デナケレバナラン、ト云フモノハ或ハ第三者ニ對抗スルハ重モノ點デアリマス、之ハ井上君ノ云フ通リ第三者ニ對抗スルハ物權ナルコトハ動カス可カラザル性質デハナイカト云フハ私モ同感デアリマス。デ人權デアリナガラ物權ニ近キモノノ起ルノハ畢竟賃借人ト賃貸人トデ物ヲ交換スル目的ヨリ止ヲ得ズ起ルモノデ、佛蘭西ノ規定モ全クソレニ爲ツテ居リマス、デアルカラ性質上人權デアルト云フ□ 私モ疑ヒヲ容レマセン、實際物權ノ要用デ見ルニ彼レ□ □ 公益ヲ保護シヨウト云フ精神カラ起ル法律デ、原則ハ動カスベカラザルモノデハナカロウト思ヒマス、性質上人權デアリ、第三者ニ對抗スルモノダカラ爲メニ直チニ物權ナリト云フコトハ決シテナカロウト思ヒマス、只今熊野君ガ委シク論ジタ用益權ハ物權ナリト云フ論デ明瞭ニ說カレタ所デ充分ト思ヒマス、ソレカラ建議者ノ說モ皆ナ適當トハ思ハレマセンガ、要スルニ人權ト云フコトハ私モ疑ヒヲ容レマセン其外編纂法ノコトハ餘リ必要デモアリマスマイ、ソレカラ獸畜貸借モ牧場抔ハドノ位日本ニ行ハレテ居ルカ分リマセンカラ意見ヲ呈スルコトハ出來マセン、其他ノコトハ敢テ別ニ論ズルコトハアリマセン
(委員長)
ソレデハ磯部ノ說ト、ソレカラ井上、熊野ハ類シテ居ル樣ダガ、先ヅ此二說ニ對シテ討議シテ見マシヨウ
(磯部報吿委員)
只今熊野君ノ云ハレタコトハ人權論中勢力ヲ持タ說ノ樣ニ思ヒマスカラ、少シク私ハ之ニ答ヘ度イト思ヒマス、今熊野君ノ主トシテ云フ所ハ、卽チ賃借主ガ賃借物ニ付テ、直接ニ權利ノ行ハレテ居ルハ卽チ賃貸主カラ權利ヲ與ヘタカラデ、貸主ガ收益スルノ權利ヲ與ヘナケレバ決シテ賃借主ハ賃借物ニ直接ニ收益ノ權利ヲ以テ居ルノデハナカロウ、スルト賃貸主ガ補助シテ收益セシムル權利ヲ與ヘテ、初メテ以テ居ルノダカラ、ドウシテモ賃貸主ガ義務ヲ盡サザルトキハ賃貸主ニ權利ノアル筈ハナイ、卽チ義務ヨリ來ツタ賃貸主ノ權利デ是レ人權ヲ蘇生スル原因デアル、ソレカラ他ノ權利ト異ナリテ用收權抔トハ大ニ異ナリタルモノト云フ之ガ人權論ノ根據ト思ハレマス。所ガ私ノ疑ヒヲ容レルノハ、然レバ用收者ハ用收物ヲ持テ居ル權利ハ物ニ直接ニ持テ居ル權デ、何人ガ用收者ニ用收權ヲ與ヘルモノカナレバ、用收者ノ權利ハ生ジテ來マイト思ヒマス、又虛有者ハ何モ義務ガナイカト云フト、契約編ノ初メニ義務ヲ三ツニ區別シテアル、卽チ與フル義務、爲スノ義務、爲サザルノ義務ト云フモノガアリマス、所デ今其ノ用收權ヲ他人ニ與ヘレバ私ハ用收者ヲシテ收穫ヲ得セシムルノ義務ハアリマセン、爲ス義務モアリマセン、ケレドモ用收物ヲ借シタ物ニ付テハ用收權ノ成立シテ居ル間ハ私ニハ爲サザルノ義務ハ充分ニアリマス、ドウイフ事カナレバ從來我ガ所有物デアツテ收益ガ出來ヌ、從來持テ居タ使用權ハ用收權ノ成立シテ居ル間ハ出來マセヌ、卽チ私ガ用收權ヲ他人ニ與ヘマスレバ其用收權ノ成立中ハ收益セシムルノ義務ハナイ、而シテ爲サザルノ義務ガアル熊野君ノ說デ見レバ、用收權モ亦同ジク人權ト謂ハザルヲ得ン、何ゼナレバ用收者ノ權利ハ所有者用收權ノ成立中用收權ニ屬シタ物上權ニ付テハ收益モセヌ、使用モセヌ、爲サザルノ義務ヲ身ニ負フテ居ルノデ、用收權ハ完全ニ成立シテ居ルノデアリマスデアルカラ用收權モ亦同ジク虛有者自分ノ權利ヲ蘇生スル所カラ生ジタ權利デアルカラ、之モ亦人權ト答ヘナケレバナラン而シテ見レバ貸主ガ收益ヲ得セシムル義務ヲ負フテ居テ、賃借物ニ生ズルモノノ權利ハ人權ナレバ所有者ノ收益スル權利ヲ止メテ、收益スル丈ケノ權利ヲ用收者ニ與ヘタラ卽チ用收者ニ權利ガアル。デアルカラ之モ亦同ジク對人權デアリマス。斯ク演ルコトニ至ルト最早彼ノ眞ニ物上權ト云フハ完全所有權ヨリ外ニハナイモノト云フ論結ニナラナケレバナラント思ヒマス、所ガ一但權利ハ止メテ物ニ權利ヲ置クノデ、且加フルニ第三者ニ對抗ノ出來ルハ卽チ賃借權デアリマスカラ、生ズル權利ハ良シ賃貸人ノ盡スベキ義務ニ依テ生ジテモ、爲メニ人權ト變ズルモノデハナイト思ヒマス、第一熊野君ニ向ケテハ私ノ考ヘルニ決シテ賃借權ハ夢ニモ人權トハ思ヒ當ラヌモノト考ヘマス。ソレカラ用收權ト賃貸權ト云フモノハ並ビ存シテ賃貸權ハ人權、用收權ハ物權トシテ置クト、一ノ法デ二箇ニ使フコトガ出來ル、或ハ支分權ヲ讓テ、用收權ヲ設定シ或ハ他ノ收益權ヲ交付シテ、ソレカラシテ別ニ物上權ヲ支ヘルコトガ出來カラ一物ヲ二、三樣ニ使フコトガ出來テ、理財上利益アリト、此點カラ見テモ用收權ヲ物權トシ賃借權ハ對人權トスルガ利益ト云フ人權論者ノ根據デアルガ、之ハ餘程ヲカシナ話デ、若シ人權デ組成スルナラバ物ノ使用ノ道ヲ廣クスルノデハナイ、卽チ自分ノ義務ノ種類ガ多クナル丈デ物ノ使用ヲ分ツトスレバ、熊野君自カラ物權說ヲ贊成シタモノト云ハナケレバナラン又用收權ハ畢生間トシテ物上權ヲ讓ルト初ノ使用ヲ廣クシテコソ物ノ運轉ヲ助ケルカ知レヌガ對人權ガ多クナツタラ物ノ使用ヲ廣クシタモノデハアリマスマイト思ヒマス又用收權ヲ有期トシテ畢生間ト云フコトヲ省ケバ餘程善イダロウト是レハ尤モデスガ私ニ言ハセルト畢生トシテモ是非期限ヲ欲スルトキハ特別ニ期限ヲ要シ死去スレバ期限ガ來ル來ナイニ拘ハラズ消滅スルモノデアルカラ用收權ヲ畢生間トシタハ所有權ノ實力ヲ失フカラ畢生トシタノデアリマスカラ必ラズ期限ヲ設ケナケレバ用收權ノ運用ヲ盛ンニナルト云フト奇怪ナ話デ何十年ノ久シキ期限ヲ積ルカ知レヌガ用收權ハ永イモノデハアリマスマイ又今日ハ用收權ノコトヲ主トシテ爭フノデナイカラ措キマスガ用收權ハ畢生間生活ヲ確カナルヲ基トシテ成立タモノデアリマスカラ若シ期限ヲ設ケテ子々孫々ニ傳ハルトスレバ用收權ノ性質ヲ害スルモノデ收益セシムル義務ナク、決シテ用收權デハアリマセン左樣ナレバ一種特別ノ義務ヲ減少シタ賃貸主ガ出來ルカラ熊野君ノ用收權ノ論ハ暗ニ廢滅論ト考ヘテ居リマス、ソレカラ今一ハ全體對人權トソレカラ物上權ノ區別ハ天然ノモノデ立法官ノ改正スルコトノ出來ヌモノデアル古ヘ諸方ノ法律ガ對人權トシテ卽チ對人權ヲ物上權トスルハ立法官ガ我儘ニ對人權ヲ物上權ニシ物上權ヲ變ジテ人權ニスルコトハ出來ナイト云フ論デスガ私ハ對人權トカ物上權トカ云フハ學者間カラ出タモノデアリマシテ佛蘭西法ニモ其區別ハ明瞭ニ揭ゲテモナシ又殊ニ依レバ古ヘハ對人權デ今日ハ物上權ト變ジタ例モアリマス又古ヘ物上權デ今日ハ人權ニ變ジタモノモアリマス、故ニ熊野君ノ論ニハ驚キマシタ、立法官ガ命令ヲ以テ對入權ヲ物上權ニ變ジテ居ルノデアリマスカラ熊野君ノ論ハ自家撞着ト謂ハザルヲ得ン、ソレカラ之ヲ人權トシテモ「ボアソナード」氏ノ草案ヲ害スルコトハナイ僅カ賃借權ニシテ抵當ニ入レルトカ占有權ヲ行ハルルコトガ出來ルトカ云フ二ツノ利益ニ止マル丈ケデアルト云ヒマスガ成程賃借權ヲ抵當ニ入レルハ常ニアリマスマイケレドモ佛蘭西法デハ槪シテ人權トシタ法デモ書入質抵當義務者ノ進退ニ因テ賃借權ノ終ルハ當然ダガ若シ安イト之ヲ轉ジテ他人ニ貸スト云フコトガアリマス是等ハ人權ト定メテ後チニ物權ニシテ居ル證據デアリマス、時トシテ安イ賃借權ナラバ抵當ニ取ルコトモアルカモ知レマセン又利益ヲ爲スカモ知レマセン、又抵當ニ入レルトシテ置ケバ熊野君ノ希望ノ運用ノ道ヲ廣クト云フニ之ヲ人權ニシナケレバナラヌト云フ論ト牴觸ト考ヘル私ノ考ヘハ人權トシテ幾分ノ利益ガアルカト云フニ熊野君ハ之ヲ人權トシテ何レ丈ケノ利益ガアルト云フコトハ說明セズ井上、光妙寺、兩君モ明瞭ノ說明ハナイ樣ニ考ヘル然ラバ之ヲ變ジテ利益ナクシテ害モ澤山ハアルマイ今日二ツノ利益ヲ失ハシメル丈ケト云フナラ從來ノ如ク利益アルモノヲ保存スルガ優レリト思フ、ソレデ光妙寺君ノ意見モ略ボ類シテ居ルカラ私ノ考ヘデハ一モ感服シタ論ハナイ樣ニ思ヒマス
(栗塚報吿委員)
學者ノ論ヲ御聞ナサレタロウガ、私共ニハ價値アル論デアリマス就中物權論ノ根本ヲ攻撃サレタ熊野、井上君ノ論モアリマシタケレドモ賃借權ハ勿論人權何レガ良イカ惡イカハ肝腎デアリマシテ人權トシテ置テ物權ガ效能ヲ附ケ樣ト云フガ物權ニシテ置ケバ效能ヲ付スルニ及バヌト云フ所ニ論ガ歸着シヨウト思ヒマス私ハ學者ノ論カラシテモ其歸着スル所ハ人權ニシテ置テ物權ト同ジ效能ヲ付スト云フ丈ケデアリマス反對者ノ人權ト云フ人モ夫レ丈ケハヤルト云フコトデアリマス物權ト同ジ效能ト云フノハ轉得者ニ對シテ對抗スルヲ得ルヤ否ヤヲ結果ヲ必要トスルノデ源ニ遡テ之ハ人權之ハ物權ト云フ爭ヒデアリマスガ抑モ其性質ヲ論ズル必要ハナイト思ヒマス、何ノ爲メニ賃借權ヲ物權トシタカ起案者ニ問フニ商業ヲ保護シヨウ農業ヲ保護シヨウ工業ヲモ保護シヨウト云フノデアリマス今日他人ノ地面ヲ耕作シテ居ルノハ地主ガ地面ヲ賣タカラト云テ耕作人ヲ直グニ逐ヒ出スコトガアツテハナリマセン又製造場ヲ借リテ居テ物ノ製造ヲシテ居ルトキニ製造場ノ持主ガ他ノ人ニ賣リタルトキ持主ガ代テ逐出シテ仕舞フ樣ナコトガアツテハナリマセン又或ル見世ヲ借テ商業ヲ營ミ居ルニ持主ガ代タ爲メニ營業者ヲ逐ヒ出ス樣ナコトガアツテハナリマセンソレ丈ケノ效能ヲ盡シテヤラナケレバナラン卽チ賃借ハ固クシテ置カナケレバナラン之ヲ物權ノ如ク固クシテ置ケバ農事、商事、工事ノ基本ヲ固メルコトガ出來ル然ルニ佛蘭西法律デハドウナツテ居ルカト云フニ其源ハ昔時カラ羅馬以來人權トシテ來タカラ矢張リ人權ニ居ルケレドモ千七百四十何條カニ新ラシキ條ヲ置キテ物權ト同ジ效果ヲ與ヘタカラ、日本デハ矢張リ人權ニシテ物權ト同ジ效果ヲ付スルカ物權トシテ其效果ヲ付スルカト云フモ同ジデ、實際カラ云フト却テ面倒ガナイカト思フ是レハ單純ニ學者論デ、物權ダ人權ダト云フ爭ヒハ何時マデヤツテモ宜シイガ立法上斯ノ如ク爭テ學者ノ非難ヲシテ物權ト書イテアツテモ物權デナイト結果ハ之ト同ジ結果ヲ許スノデアリマスカラ是レハ物權トシテ置テ差支ナイノミナラズ結句人權トシテ置テ妙ナ結果ガ出來ルヨリモ物權トシテ國家秩序ガ定マルト思フ是レハ幾ラ論ジテモ學者間ノ論丈ケデ實際ノ必要ハナイト思ヒマス
(熊野報吿委員)
磯部君ノ返答モアリマスガ理窟上ノ論ダカラ置キマシテ一言申シマスガ磯部君ハ物權ノ場合ニ義務ガアル卽チ爲サザルノ義務ガアルト云ヒマシタ此處ガ物權ト人權ト岐ルル所デ一方ニ爲サザル義務トアレバ其權利ハ人權デアル何ゼナレバ所有權ガ完全デアルカラ爲サザル義務ニ對スル權利ハ必ラズ人權デアリマスソレカラ實益ハ人權ト爲スカ物權ト爲スカハ今栗塚報吿委員ノ云フ通リ利益ガナケレバ此通リデ置クト實益ハ(ボアソナード)ノ草案ニハ二ツ外ナイ、ソレカラ磯部君ハ之ヲ置ク方ガ利益ト云フガ磯部君ノ云フ丈ケノ利益モアリマセン賃借權ヲ抵當ニヤル者ハ滅多ニアルモノデナイカラ實際何カ實益ガアルカト云フニ既ニ理由書中ニアリマス通リ動產ノ賃貸借ハ如何ナル結果ニナルカ此時分ニ物權トシテ如何ナル便益ヲ與ヘルカヲ論ジテ居ルカ「ボアソナード」ノ草案ヲ見ルニ物權ト爲スハ不動產ニ限テ動產ニ出來樣ガナイトアリマス如何ニモ動產ノ賃借ハ弊害ガ澤山出來ルニ違ヒナイ、動產デハ一方ノ者ガ物權ヲ自由ニ出來ルト云フト不都合ハ隨分アロウト思フ、第二賃借權ヲ物權トスルト用收權ノ弊害ハ賃借權ニ悉ク移ルカト思フ、實際ノ憂ハナイト云フガ或ハ左樣カ知レマセン、ケレドモ權利義務ノ關係ガ異ナルカラ訴訟ノ起ルハ幾分カ生ズルト思ヒマス
(委員長)
永小作ハドウデスカ
(熊野報吿委員)
永小作地上權ハ物權ノ性質デアリマス、一方ハ收益ヲ擔保スルコトナクシテ爲スノ義務ヲ約束シタ場合デアリマセンカラ一方ノ義務ニ對シテ居リマセンカラ性質上物權デナリマス、又物權トシテ置ケバ宜シイニ相違御座イマセン
(委員長)
磯部ハ未ダ論ガアリマスカ
(磯部報吿委員)
熊野君ノ云フノハ爲サザルノ義務ヲ與ヘテ居ルカラ卽チ是ハ物權デアル何ゼナレバ所有權ガアルト社會公衆ノ人ハ私ノ所有權ヲ尊重シテ私ノ收益卽チ所有權ノ利益ヲ見ル上ニ妨ゲニハナラヌ、爲サザル義務ガアルカラ眞ノ物權デアル、入額所得權モ左樣デアル、賃借權ハ社會公衆ノ人ガ尊バナクテモ宜イカト熊野君ハ云フガ、私一箇ノ家屋ヲ賃借シテ社會ガ平穩ニナツテ居ル以上ハ何人ト雖モ私ノ家ニ侵入スルコトガ出來ルカナラバ、決シテ我輩ノ賃借權ハ社會ノ人ガ尊重シナケレバナラヌガ尙ホ我輩ノ所有權ヲモ尊重シナケレバナラザルト同樣デアリマス、ソレカラ動產ノコトニ付テハ效力ガナイト云フガ、之モ誠ニ間違タ話デ動產ニ付テ第三者ニ對抗スルコトノ備ハラザル丈ケデ、之ヲ人權トスルカ物權ニスルカ、動產ニ付テハ動產物ハ性質カラ來タノデ、物權ダカラ始末ガ出來ナイ、人權ダカラシテ宜イト云フコトハアリマセン權利ニ付隨シテ居ル弊デナイ、デアルカラ熊野君ヤ建議者ノ最モ信仰シテ居ル「ムーロン」抔ノ云フ所ノ動產ニ付テ方法ヲ立タノデ是等ノ場合ハ動產ニ付テノ憂ハアリマセンガ、今日物權トスルカ人權トスルカノ爲メニ動產上ノ豫防ヲスルトカ云フコトハ思ハナケレバナリマセン又物權ナレバ訴訟ノ原因ヲ增加シ人權トスレバ增加シナイト云フモ說明ガナカツタカラ御答ヲ申ス處ハ些モアリマスマイ、爲サザル義務ガ一方ニアレバ他ノ一方ヲ持テ居ルモノハ必ラズ物上權ヲ組成スルカト云フト契約編デモ見レバ、爲サザル義務モ種々アリ一方ノ者ガ我ニ對シテ斯樣々ノコトヲ爲ナイト云フ義務ヲヤツタ爲メニ私ノ得ル權利ハ決シテ物上權トナルモノデナイ、假令バ其人ガ自分ノ物ヲ持テ居ル權利丈ケ私ノ爲メニ施行シナイト云フノヲ約束シタトスレバ無論私權利ト云フモノハ對人權デ物上權ノ組成デナイト、ソレカラ身體上ノ權利ヲ私ノ爲メニ行ハヌトスレバ我ガ爲メニ物上權ヲ與ヘルモノデナイ、一方ニ爲サザル義務ガアルカラ、他ノ者ハ物上權ノ證據ト云フハ牽強附會ノ說ト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
實際論ノ中デ利益ノコトヲ申遺シマシタガ、物權ニシテ置クト轉貸スルコトガ出來ル、賃貸借人卽チ私ガ三箇年間ノ契約デ或ル人カラ家ヲ借リタルトキ大阪在勤ヲ云ヒ付ケラレタトキハ三箇年ノ家賃ヲ拂テ契約ヲ解クカ、或ハ三ケ年ノ錢ヲ損スルデアリマスガ私ハ三ケ年間借テ居ル權ガアルカラ期間中ハ他人ニ復タ貸スルコトヲ許セバ此上ニモ實際復タ貸ヲ爲ル方ガ便利ト思フ、又貸タ人モ家賃ヲ取ルガ目的ダカラ、家賃サヘ拂ヘバ宜シイ借リテ居ル私ハ急ニ立退カナケレバナラヌニ一文モ損ヲセズ他ノ人ニ貸テ行クコトガ出來、又動產ニ付テモ不便ノ樣ニ云フガ動產ナル卽チ人力車ヲ貸テ居ル人ハ東京ニハ幾ラモアリマスガ、十輛二十輛貸テ其利息ヲ積ンデ大體六ケ月デ其車ヲ買ヘル樣ナ鹽梅デアリマスガ、其間ニ業ヲ轉ズルトカ云フトキハ六ケ月間ノ車ノ借賃ヲ返シテ車ヲ還ヘスガ宜シイカ、又ハ車ヲ他人ニ貸ガ便利カ、中ス迄モナイ貸借期間ニ復タ貸スルコトヲ許スガ便利デアリマス、又車ヲ貸ス人モ車賃卽チ齒代サヘ取レバ宜シイ齒代ガ這入ル以上ハ甲ガ曳クノヲ乙ガ曳イテモ元ト賃ヲ取テ貸ノヲ目的デアルカラ差支ナク恰モ貸本屋ガ誰レ彼レヲ問ハズ賃ヲ取テ貸スモ同ジデアリマスカラ、物權ニシテ置クハ便利デアリマス、良シ人權ニスル人ニシテモ此論ハ價値ノアル論ト思ヒマス其兩論興廢ヲ爲ス元トハ人權デアル物權デアルト理窟デ爭フ丈ケデ妙ニ論理一片ニ拘泥シテ何所迄モ人權ノ性質ダカラ結果ハ人權ノ結果外與ヘナイト云フハ敬服デスガ、人權ニサレテモ物權丈ケノ效力ヲ與ヘナケレバ宜イ、ト云フ論モアリマスガ、賃借權ノ辯解ガ付カヌト云フコトナラ源ニ遡テ物權トシテ結果ヲ與ヘルト、若シ急ニ物權ト論ズル「トロロン」ノ如キ人ガアレバ奇ナ思ヒヲ爲スカモ知レマセン立法上ノ論デ賃貸借ハ人權トスルカ物權トスルカト云フト佛蘭西學者ハ人權トスルガ、我國ハ物權トシテ差支アリマセン何ゼナレバ其結果ノ如キハ物權ノ結果ヲ生ゼシムルハ賃貸借デアリマスカラ、理論上ハ人權ニシナケレバナラザルニセヨ悉ク結果ガ物權ナラ物權トシテ差支ナイ、是等ハ實際カラ申スノデアリマス、學者ニ論ジサセレバ五人十人ノ間デモ論ガアルガ併シ立法上ノ論デハ物權トシテ差支アリマセン
(光妙寺報吿委員)
轉貸ヲサセル利益ト云フハ栗塚ガ借リテ居ルニ又私ガ借ルトキハ貸シタル人ハ利益デナイカモ知レヌガ貸タ人ガ復タ貸シタ人ニ貸ス意思ハナイコトハ初メカラナイノデアリマス、デアルカラ復タ貸ヲ以テ物權ノ利益ト云フコト出來マセン
(栗塚報吿委員)
尤モ反對ノ合意アルトキハ此限ニ在ラスデ、ソレ丈ケハ制限ガ出來マス
(光妙寺報吿委員)
貸タ人ノ思想カラ論ジナケレバナラヌガ物品ヲ人ニ貸スハ人ヲ目的ニシテ貸スノデアリマシヨウ
(熊野報吿委員)
復タ貸ノコトハ建議者ノ意見書中ニモ物權ノ結果トシテアルガ併シ佛蘭西ニモ人權ト定マツタ權ニモ復タ貸ガ出來ルカラ必ラズシモ物權ノ結果デハアリマセン、物權ヲ借リ自分ノ權利ヲ人ニ移スコトガ出來ル、賃借權ハ人權デモ自分ガ家ニ住ウ權利ヲ得テ居ルカラ、住ウ權利ヲ以テ他人ヲ住ハセルコトモ出來ルニ相違ナイ復タ貸ノ出來ル權利ハ必シモ物權ノ結果トスルコトハアリマスマイ第二ニ賃借權ヲ物權トナスコトガ出來ルガ卽チ賃借權ヲ物權ト爲シタ曉キニモ人權ハ賃借權ニ尙ホ存スルト云フガ、契約ハ自由デアリマスカラ双方契約スルトキニ至テ御前ニ支分權ヲ與ヘルハ好マナイ、物權ハヤラズシテ完全ナ所有權ヲ持テ居ル旨意カラ收益丈ケヲヤラセルカラ代價ヲ拂ヘト云フト此契約ハ無效トハ云ハザルニ相違ナイ、賃借ハ物權トシテモ人權ノ賃借ハ行ハレルカラ到底賃借權ハ物權ニハ出來ヌモノデ、人權ノ賃借ヲ約スコトガ出來ルカラ、無理ニ物權ニスルニハ及ビマセン
(委員長)
寺島抔ノ論ハアリマセンカ
(寺島報吿委員)
私ハ別ニ說モアリマセン、私ハ原案デ一向差支ナカロウト思ヒマス
(委員長)
貴君ハ實際論カ又ハ法理論デスカ
(寺島報吿委員)
實際ニ就テ差支ナイト思ヒマス
(委員長)
如何ナル譯デスカ
(寺島報吿委員)
人權ニナツテモ物權ニナツテモ變リハナイ考ヘテ御座リマスカラ
(委員長)
結果丈ケヲ云フノカ、又ハ理窟ガ左樣ナルノデスカ
(寺島報吿委員)
結果ヲ申スノデアリマス
(委員長)
他人カラ問ハレタトキ、結果ガ人權ニセヨ物權ト同ジニ扱ウ、何方デモ宜イト云フノト、又理窟ヲ付ケルノトアルガ何方デスカ
(寺島報吿委員)
私ノ考ヘル所デハ、先ヅ磯部先生ノ御說ト異ナラン考ヘデ御座リマス、矢張原案ノ通リ使用收益ヲ賃借人モ致シマスカラ、性質カラ云ヒマシテモ、物權デ宜シカロウト考ヘマス、結果ニ至リマシテモ人權ニシテモ、物權ニシテモ異リモアリマセンカラ、原案ノ儘デ宜カロウト云フ考ヘデアリマス
(委員長)
磯部ノ論ハ物權デ、總テ扱ヒモ廣クスルト云フソレカラ物權ト云フカ人權ト云フカ、何方カラデモ中間ノモノダカラ、何ト名付ケルモ實際差支ナイカラ、何方ニデモ極メ次第デ宜イ、民間ニ行ハルルニ至テハ何方デモ差支ナイカラト云フ論モアル、貴君ノ說ハ純然タル物權デ初メカラ終リマデ貫クガ宜シイト云フノデスカ
(寺島報吿委員)
私ハ元ト左樣ニ考ヘマシタガ、又井上先生ヤ熊野先生ノ微密ナ考ヘモアリマスカラ、ソレニ付テハ其說ハ善イカ惡イカ、未ダ私ハ茲ニ決シ兼ネマス、併シナガラ元トハ磯部先生ノ考ヘタ通リノ考ヘデアリマス
(委員長)
外ニ議論ハアリマセンカ
(箕作委員)
私ハ熊野先生ノ云フ所ハ結構ト思ヒマス、實ニ敬服致シマシタ、唯ダ私ガ演ベルト地上權ハ人權デ、永小作ハ物權デアロウト思ヒマス
(熊野報吿委員)
地上權ハ一ノ所有權ト云フ、卽チ土地ノ上ニ家屋所有權ヲ持テ居ルト云フ、佛蘭西ノ說デアリマス
(箕作委員)
ドウシテモ何方カ一ニ決シナケレバナランガ、結果ガ同シダカラドウデモ宜イト云フハ杜撰ナ說ト思ヒマス
(渡委員)
物權論者ガアリマスカ
(大尾崎委員)
アリマスマイ
(村田委員)
我等ハ不動產ハ物權、動產ハ人權デ宜シイト思ヒマス、不動產ノ賃借人ヲ見ルト地上權ト同ジ樣ナ所モアリマス
(元尾崎委員)
一旦貸テ復タ貸テ宜イト云フハ、所有主ガ困リマス
(栗塚報吿委員)
轉貸ヨリ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルヤ否ヤノ問題デ耕作人地主ガ地所ヲ賣タトキハ矢張リ借リテ居ル者ハ依然トシテ居ラルルヤ否ヤ、若シ人權ナラ、居ルコトハ出來マセン
(大尾崎委員)
實際ヲ云フト、地主ガ代ツテ其耕作人ヲ逐ヒ拂フコトハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
出來ヌノハ物權デアリマス
(熊野報吿委員)
出來ル方ガ本則デアリマス
(栗塚報吿委員)
人權トシテ置ケバ結果ハ何時デモ立退クトシナケレバナリマセン
(箕作委員)
詰リ賃借人ハ義務ガアル、其義務ハ向ウニソレヨリ餘計ナ權利ヲ地主ニ渡スコトハ出來ナイカラ買タ者ハ元トノ義務ガ付テ來ルト論ジテハイカンデスカ
(栗塚報吿委員)
抵當ニデモシテアルト宜イガ、抵當ヲ付ケヌカラ憂ルノデス、私ガ貴君ニ家ヲ賣テ、家ハ抵當ニナツテ居タトスル、抵當ハ物權ダカラ家ニ付ク、若シ抵當ガ付カヌナラ、一向知ラヌト仰シヤツテモ宜シイ、其理窟デ、小作ニ付シタ物ヲ賣タラ矢張リ小作ガ付クガ、物權ダカラ付クト云フ方ガ說キ明スニ宜シイ
(熊野委員)
其方ガ說キ明シガ易イト云フ丈ケデス
(委員長)
一體磯部ハ建議ニ反對シソレカラ熊野井上ノ人權論トシナケレバナリマセン
(松岡委員)
人權トスルカ物權トスルカデアリマスガ私ハ大體ハ熊野ノ說ノ通リ贊成デアリマス、何ノ爲メニ人權ト物權ト云フコトガアルノカト考ヘルト元トハ天然自然デ世ノ中ノ公益上ノ如何ト云フノカラ起スノガ第一ノ話デアロウト思ヒマス、多少物ニ依テ地面ヤ家ヤ何カハ物權ニシナケレバナラザルモノモ人權ニシナケレバナラザルモノモ幾ラモアルガ、詰リ世ノ中ノ必要ニ應ジテ、公益ヲ保護スルガ、第一ノ目的デアロウト思ヒマス、所ヲ動產不動產ヲ問ハズ、悉ク物權トスルト、餘程今日ノ場合ニ觸レルモノガ多クアロウト思フ、ソレニ物權ダト云フ論ヲスル人ハ多ク不動產ヲ例ニ出シ、報吿委員ノ先刻カラノ論モ土地ノ貸借、家ノ貸借ヲ重モニ例ニ出シマスルガ賃貸借ト云フト、皆ナ這入ラナケレバナラザル譯デアリマス、左樣シテ見マスレバ家モ地面モ何所ヲ要用トスルカト云フニ、物權トシナケレバ、前ノ持主ガ代リタル時分ニハ勝手ニ取ラレテハ困ルト云フ、外ニ人權ト差シテ變ハルト廉ハナイ樣デアリマス、私ハ總テ人權ト云フモノニシテ置キ、左樣シテ唯登記ヲ爲タナレバ第三ノ人ニ對抗ガ出來ルト云フ、佛蘭西、伊太利ノ如クニ設ケラレ、登記ノ仕方モ違ヒガ生ズルモ詰リ物權ニシテ置キマシテモ、法律ハ物權ノ部類ハ入レルカラ、何所デ對抗ガ出來ルカト云フト、賣買シタ不動產モ登記廣吿ヲ爲ナケレバ、第三者ニ對シテ效力ナイトスレバ、何所ヘ入レテ置キマシテモ、第三者ニ對抗スルニハ登記法ヲ以テスルガ、一番ノ標準ニナツテ居ルカラ、一體ノ所ハ人權トシテ、左樣シテ土地ノ貸借デモ、家ノ貸借デモ、公然之ヲ登記シタラバ第三者ニ對抗ガ出來ルト云フ丈ケヲ設ケテ置ケバ、實際ニモ出來樣シ、法律上ニモ差支ナイコトデアロウ、ソレヲ一ト括メニシテ物權ニシナケレバナラザル理由モナシ、又人權トスルカラ土地モ持主ガ代ハレバ勝手ニスルト云フ理窟モアル筈ハ御座イマセンカラ、本體ハ入權トシテ左樣シテ土地家屋モ悉ク借人ガ登記シタラ、其權利ハ第三者ニ向テ對抗ガ出來ルト云フ箇條サヘ設ケレバ、差支ナイト思ヒマス
(元尾崎委員)
登記サヘスレバ復タ貸モ出來ルノデスカ
(松岡委員)
左樣デス
(元尾崎委員)
ソレハ一ノ問題デスナ
(松岡委員)
人ニ向テ對抗スルハ登記ノ上ニアルノデス
(南部委員)
ソレハ間違テ居ハセンカ
(磯部報吿委員)
左樣スルト、物權人權ト云フ區別ハ要ヌ樣デス、何デモ第三者ニ對スル效力ハ物權ノ妙所デアルカラ、賣買トカ何トカ直接ニ行フトキハ何ト云フカ、凡ソ法律ノ對人權物上權ノ區別ハ、第三者ニ對抗スルヤ否ヤカラ出ルノデアリマスカラ、之ヲ人權トシテ置キ對抗ガ出來ルトシタラ宜シイ云フハ、便利デハアリマスガ、詰リ折角對人權ト物上權トヲ分ケテ其根據ガ立タザル樣ニ思ヒマス、先程カラ承ハレバ、佛蘭西法律ト云フガ、賃借權ニ關スル法律ハ曖昧ナ法律デアル殊ニ千八百五十五年登記法ヲ以テ、不動產ニ關スル賃借權ヲ登記セシムルコトニナツテカラ賃借權ニ付テハ、物上權ト對人權トノ區別ヲ現ハシメ利益ガナクナツテ、今日ハ全ク物上權トナツタノデ、學說ハ一定シテ居リマス之ハ虛ハ咄ケヌ、報吿委員ニ聞テモ左樣デス、物上權對人權ト分ケテ何時迄モ對人權ノ性質ヲ負ハシメタモノデナケレバ分ツタ利益ハアリマセン、大體ヲ人權ニスルト云フハ分ラヌ、卽チ原則ニ及シタ法律ニナリマス、此コトニ付テハ佛蘭西法ハ栗塚君モ云ハレタガ、法律ガ進歩ノ定マラザル前ニ、佛蘭西法ハ勢力アツテ行ハレテ止ヲ得ズ、人權トシタガ、第三者ニ對スル效力ハ賃借權ニ付テハ之ヲ人權トスルモノデナイノミナラズ、總テ物上權ニ付キ物ノ上ニ直接ニ行フ權利ハ誠ニ結權デアリマス、併シナガラ物上權ノ純粋ノ旨味ハ第三者ニ對抗シ得ルノデアリマスガ、大體人權トシテ物上權ノ旨味ヲ付ケルト云フハ、百年前ニモ法律學ハ開ケテ居タロウガ完全ナルモノデハアリマセン、殊ニ佛蘭西法千八百五十五年以來物權ト云フニ今之ヲ人權トシテ物權ノ旨味ヲ付ケルハドウカト思ヒマス
(松岡委員)
佛蘭西ハ模範ダカラ、佛蘭西法ヲ云ハナケレバナラン、又用收權ノ時分ハ羅馬法以來アルト云ヒ、又都合ノ惡イ時分ニハ、百年前ノ開ケナイ時分ノ法律ダカラ取ルニ足ラヌト云フ、時々都合次第デ云ヘルコトハ云ヘルケレドモ、私ハ勿論學理論ヲ云フマデモナイガ、兎モ角モ賃貸借ニハ動產ト不動產トアル、然ルニ今ノ通リ悉ク物權トスルト、總テ動產モ其通リニスル、左スレバ物權ト云フハ誰ニモ逐ヒ馳ケテ行ケルガ、動產物ヲ賣テ仕舞ヘバ逐ヒ馳ケルマガ出來ザル場合ニナルデアロウ、然ラバ物權トスルニシテモ悉ク物權ノ扱ヒガ出來ルカト云フニ決シテ出來マセン、又良シ百年前ガ二百年前ノ法律ニシテモ、其時世ニ適當シテ害ノ少ナキモノハ用ヒテモ權ヒマセン若シ今日出來ル法ガ皆ナ斯樣ニナツテ現在獨逸法ヤ白耳義法抔ハ役ヲ爲ナイト云ヘバ如何デアリマシヨウソレモ悉ク賃貸借權ヲ物權トハ致シマセン又之ヲ物權トシナケレバ、原則ガ立タズト云フガ、一家ノ著述ハ一家ノ言ヲ立テナケレバナラヌコトノ差支ハアルカ知レンガ、畢竟貸借スルハ「何ヲ貸借スルトキハ云々」「何ヲ貸借スルトキハドウ」ト法律ガ適宜ニ設ケサヘスレバ立法者ノ本意ハ達スルノダロウカラ、物權トヤツタトテ、百ガ皆ナ同一ノ扱ヒガ出來ルカト云フテ決シテ出來マセン現在用收權ト賃貸借權ハ道行ノ違ウモノデ、賃貸借モ動產不動產ニ依テ異リ、又國ノ習慣モアルカラ、部類ヲ分ケテ箇樣ナモノハ斯クト云フハ差支ナイコトト思フ、又今迄ノ所デ見ルト通常ノ貸借ハ家屋ハ何時ニテモ立退クト云テ、何時デモ立退ケラレタノデアリマスソレガ近年ニナツテ、左樣ニハサセヌ樣ニナツタ裁判例モアリマス、元來物權人權ト頭マデ大別シタ習慣ハナイガ、頭マデ區分ヲ分ケタカラ徹頭徹尾同一ニ扱ハナケレバナラント云フモ、ソレハ出來ナイニ依テ、原則ハ違フモノト學者ハ云フカハ知レンガ、私ハ實際ニ敢テ差支ナイ見込ハ、賃貸借ハ相對ノ契約上ニ止マツテ居ル、公益上カラ地所又ハ家ハ第三者ニ對抗スルノハ登記シテ置ケバ役ニ立チ、ソレデナケレバ借家人ガ居ロウトモ、家ヲ賣テモ一向顧ミナイコトニシテモ致シ方ガナイ、原則ヲ動カスト云フコトハ苦シクナイ、一ツ極メテ何モ箇モ籠ルト云フハ行ハレマスマイト思ヒマス
(磯部報吿委員)
松岡先生ノ御說ヲ聽クト原則ガ貫徹シナイト云フ、如何ニモ御尤モデス、併シ原則ヲ、ドウシテモ設ケテ、先ヅ都合好ク往カナイトキハ都合好クシナケレバナランガ、今日物權ナラ物權トシテ並ベテ書イテ、牴觸モナシ、差支モナク行フコトガ出來ル樣シテアル、ソレヲ原則ガ缺ケテハ面白クナイ、ソレヨリモ之ヲ入權トシテ登記シナケレバナラナイト云フニ付テハ其理由ガナケレバナラント考ヘル、其所ハ先程カラ承ハルニ唯ダ外國モ箇樣ダカラ人權ガ宜カロウト云フ樣ナ論デアリマスガ、「ローラン」ノ云々通リ人ハ原則ニ依テ支配サレルモノデナイカラ之ヲ變ヘルト云フニハ重大ノ理由ガナケレバ變ズベカラザルモノト思ヒマス、又今動產ニ付テ物權人權ノ追求權ガナイデハナイカト、ソレハ勿論デアリマスガ、之ハ賃借權ノミナラズ賣買ニシテモ、其通リデ、動產ニ付テハ追求權ハナイ、之ハ如何ニ法律ヲ改正シテモ動產ノ弊ハ防ゲナイ、動產ニ付テ追求ノ出來ザルハ佛蘭西ノ二千二百七十九條ヲ適用スル場合ニ於テ卽チ期滿所得ノ適用ニ依テ、追求權ハナイノデ、理窟カラ云フト、十分追求權ハアリマス、卽チ惡意ノ者ガアツテ情ヲ知テ持テ居レバ追求ガアルノデス、總テ賣買贈與デモ動產ニ關係シテハ同ジデアリマスカラ、動產ニ付キ追求權ガ行ハレナイカラ、賃借權ヲ人權ニシテ宜イト云フニ至テハ少シ無理デハナイカト考ヘマス
(委員長)
南部君ハドウデスカ
(南部委員)
私ハ之ハ物權ト人權ノ詰リ中間ニアル樣ナモノデアルト思ヒマス、其賃貸人ガ義務ヲ持テ居ル所ノ邊カラ考ヘルト、成程熊野君ノ御說ノ通リ人權ト云フ所モアリマス、又第三者ニ對抗スル裏カラ考ヘルト、物權ノ性質ヲ持テ居ルカラ、之ハ物權トスル方ノ說ガ理ガアリ、又人權トスル方ノ說モソレ丈ケノ理ガアリ、兩方トモ一理アル譯デアリマスカラ、何方トモ決定スルニ苦ム場合デ御座イマス、併シ之ヲ物權トシテ今日歴然タル弊ガアルト云フコトハドウモ見ルベキコトガ御座イマセン、就テハ矢張リ此案ハ原案ガ物權ニ出來テ居ルモノダカラ、此儘ニシテ置キマシテ、差支アリマスマイト思フ丈ケデアリマス
(西委員)
私モ南部先生ノ說ト同說デアリマス、一體物權人權ト云フニ至テハ、磯部ノ說モ熊野ノ說モ御座イマシテ、到底之ハ或ハ物權トモ定メラレザル理ガアルカハ知レマセンガ、併シナガラ之ハ人權デ押シ通シテハ參リマセン物權ヲ幾分カ支ヘナケレバナランコトハアルノデス、今日物權トナツテ居テハ不都合ガアルト云フ樣ナコトハ或ハアルカハ知レマセンガ、併シナガラ夫レハ栗塚先生ガ云フ通リ、反對ノ契約ガ出來ルノデアリマスカラ、ソレデ一向其害ハアリマスマイカト思ヒマス、故ニ矢張リ此原案ハ物權トシテ差支ナカロウト思ヒマスカラ此儘デ宜カロウト思ヒマス
(委員長)
村田君ハドウデスカ
(村田委員)
實ハ動產ト不動產ト分ケルコトガ出來レバ宜シイガ容易ニハ往キマスマイ、ソレガ分ケラレナイナラバ矢張リ此儘デ「ボアソナード」ノ起草ノ通リシテ宜シイト思ヒマス、實際ヲ考フルニ格別物權ニシタカラト云テモ、弊ノアルト云フコトハ見ナイ樣デアリマス、中々之ヲ人權ニスルトカ云フト、容易ノコトデハ出來マスマイ、皆物權ノ說ニ出來テ居ルカラ、先取特權抔ト云フコトモアリ、總體ニ改正スルト云フニ至テハ、容易ノコトデハ出來マスマイ、皆物權ノ說ニ出來テ居ルカラ、先取特權抔ト云フコトモアリ、總體ニ改正スルト云フニ至テハ、容易ノコトデハ出來マスマイト思フ、今度今村君カラ出タノハ一週間位デ案ガ出來ル樣デスガ、中々此通リ出來ルト宜シイガ、出來ナイト云フト、兼テ當年中ニ議シ了ト云フノモソレガ爲メニ出來ナイコトニナルト思ヒマス、ソレニ「ボアソナード」ガ熱心デ物權トシテ設ケタモノヲ、今人權ニシテモ、此先キニドウ云フコトガアツテ、尋ネルコトガアリマスマイモノデモナイ、然ルトキハ此後同人ヲ頼ム樣ナコトガアツテ其時不都合ガアツテモナリマセン、人權ニシナケレバ不都合ト云フナラ仕方ガナイガ、何モ人權ニシナクツテモ、不都合ハナイカラ、何卒原案ノ通リニ置キ度ク、磯部氏ノ說ニ左袒致シマス
(委員長)
渡サンハドウデスカ
(渡委員)
私ハ人權ト定メ度イ希望デアリマス、其理由ハ追々先刻來人權論者ガ演ベラレタカラ、私ハ更ニ他ノ理由ヲ提出スル程ノコトモアリマセンカラ、演ベルニモ及バヌ、人權ニ定メラレタイノデアリマス
(槇村委員)
私ハ原案デ宜シイト思ヒマス
(大尾崎委員)
私ハ御說明カラ彼レ此レ考ヘルト、矢張リ人權ガ相當ト思ヒマス、加之ナラズ物權ニシテハ今迄ノ慣習トモ違ウコトガ多々アリ已ニ借タ物ヲ其者カラ復タ他ヘ轉ジテ貸スト云フ樣ナコトハ、田地或ハ家ノ貸借デモ今迄ハ左樣云フコトハ決シテアリマセン之ヲ物權トシテ勝手次第ニ借タ者ガ第二ノ人ハ復タ貸シスルト云フコトハ甚ダ混雜スルノミナラズ大ニ慣習トモ違ヒマス是程苦シキ六ケ敷イモノヲ見ス々々物權トシテモ益ハアリマセン
(委員長)
其所ハ悉皆人權ニスルト云フノト、ソレカラ熊野ノ云フ所トハ違ヒマス
(大尾崎委員)
違イマスガ、何レ物權トスルト、今ノ「ボアソナード」ノ草案トハ違ウノデアリマス
(委員長)
貴君ハ純然タル人權ニシ樣ト云フノダネ
(大尾崎委員)
左樣デ御座イマス
(南部委員)
人權トナツテモ復タ貸シスルコトモ出來ルノデス
(大尾崎委員)
人權トナツタラ元トノ貸主トノ承諾ヲ經テ貸スノデアリマシヨウ
(南部委員)
ソレハ何所ニアリマスカ、左樣云フコトハ見ルコトハアリマセン
(大尾崎委員)
物權ニナツタラバ借タ人ハ承諾ヲ經ナイデモ復タ貸シテモ宜イノデシヨウ
(南部委員)
左樣ニ解釋ニナツタラ恐ラクハ違ヒマシヨウ、物權人權ノ區別ハ唯第三者ニ對抗スルコトノ出來ルヤ否ヤノ所デアリマスカラ、ソレハ別デアリマス
(栗塚報吿委員)
尾崎サンハ小作人ガアツテ貴君ノ地主ヲ賣タトキハ立退ケト云ヘルカ否ヤデ御座イマシヨウ
(箕作委員)
佛蘭西ノ樣ニ買主ニ對抗スルコトハ出來ヌト云フノデスネ
(尾崎委員)
ソレデ宜シイ
(南部委員)
ソレハ別論デアリマス
(松岡委員)
人權トスル、物權トスルト云フガ、人權ニシテモ動產不動產トモ第三者ニ對抗スルト云フコトハ謂ハレナイ、結果ハドウナツテモ、永小作ノ如キハ多少違ウノデ御座イマス
(委員長)
純然タル人權デ、往ケルカト云フニ、所ニ依レバ物權ノ取扱ヒモ受ケルト云フカラ論ガ起ルノデ、人權タリ物權タリト云フ論ト、其中間ヲ往クト云フ論ト三ツアルガ、熊野ノ論ハ佛蘭西流義ノ理窟デ行キ、人權ト名ヅケルガ所ニ依レバ物權ノ取扱ヲシヨウト云フノデス
(光妙寺報吿委員)
人權ノ結果ガ重モニ擧ゲテアリマス
(西委員)
ソレハ交ジツテ居ルニハ相違ナイ
(元尾崎委員)
松岡君ノ說ノ如ク或ル場合ニ物權デ出來ルトシテ置ケバ、今日ノ習慣ニモ反セズ、一體理論上デモ宜シイト思イマス
(委員長)
實際人權ト名ヅケテモ、「ボアソナード」ノ草案ノ樣ニシナケレバナラン、物權ト名付ケテモ此通リダカラ實際ニ適用スルニハ餘程講究シナケレバナリマセン、ソレヲ論議スルト面倒デアリマス
(渡委員)
ソレハ左樣ニナリマス、一種ノ論デアリマスガ、原案ニモ拘ハラズ、建議ニモ拘ハラズ、一種ノ說ガアリマス、ソレハ尾崎サンノ說デアリマスガ、サテ物權人權ト唱フルガ建議者ノ草案ニハ、人權物權トモ云フテモ結果ハ異リマセン、ソレカラ徹頭徹尾人權ト云フノト「ボアソナード」ノ起案トソレカラ建議案トノ區別ヲ立テナケレバナラザル樣ニ思ハレマス
(松岡委員)
左樣ニ不都合ヲモアリマスマイ建議ガ宜イカ「ボアソナード」ノ案ガ宜イカデス
(南部委員)
尾崎サンノ說ハ左樣デナイ
(大尾崎委員)
建議者ノ說ノ通リデアリマス、慣習上ニモ違フト云フノデ、ソレハ建議案ニモアルガ、私ノ論ハ其所ガ惡イト云フノデアリマス
(渡委員)
要スルニ建議案ニ同意デアリマスカ
(大尾崎委員)
固トヨリ左樣デス
(委員長)
尾崎サンノ論ハ賃借人ハ他人ニ貸スコトハ出來ナイト云フコトヲ最初論ガアツタノダカラ、其所ヲ能ク考ヘナイト、第三者ニ對抗スルコトヲ得ルカ否ヤハ畢竟人權物權ノ區別デ、大體人權トシテモ、第三者ニ對抗スルコトヲ得ルトスレバ矢張リ物權デアリマスカラ
(大尾崎委員)
細カニ論ズルト、地上權デ、屋敷ヲ借テ家ヲ建タモノハ、矢張リ物權ノ性質ヲ持テ第三者ニ對抗ガ出來ル樣ニシタイト思ヒマス
(委員長)
ソレデハ家ヲ借テ居ルノハ如何シマス
(大尾崎委員)
ソレハ復貸ヲサセナイ
(箕作委員)
後チニ買タ人ニ對シテ賃借權ヲ主張スルコトハ出來ルヤ否ヤ、仰セラレテ宜シイ
(大尾崎委員)
ソレハ永借權トカ地上權トカ得テ居ルモノナラバ第三者ニ對抗スルコトヲ得ルトシテ宜シイ
(箕作委員)
委員長ノ家ヲ私ガ借テ居ル、所ヲ委員長ガ其家ヲ貴君ニ賣タノデ、宜ウ御座イマスカ、其場合ニ所有權ハ貴君ニ轉ジタノデ、之ニ依ルト、私ハ賃借主ダカラ所有者ガ代ツテモ、矢張リ私ハ山田サンカラ借タニシロ、矢張リ借テ居ルト云フ權利ヲ貴君ニ向テ言ヘルノカ、言ヘナイノカ
(大尾崎委員)
ソレハ言ヘル、ソレハ約束ニ基クカラ云ヘマス
(委員長)
約束ノナイ場合デス
(大尾崎委員)
對抗サセル方デス
(委員長)
其所ハ物權ニシヨウト云フノデスネ
(大尾崎委員)
必ラズ左樣論ジナイデモ宜シイト思ヒマス、ト云フモノハ元來人ニ貸テアルト、家ナリ土地ナリソレヲ又貸主ガ賣レバ卽チ買タ人ハ義務付キノモノヲ買タノデ、貸テアルコトハ知リナガラ買タノデアリマスカラ、前ノ所有者ノ通リシナケレバナラン、必ラズ物權トシテ人ノ權利ヲ取リ上ルト云フコトハ宜シクアリマセン
(西委員)
人權ナラ左樣ニナルノデス
(大尾崎委員)
人權ナラ斯樣ニシナケレバナランコトハナイ、人權ハ斯樣ニスル、物權ハ斯樣ニスルト云フコトハ出來ナイ
(元尾崎委員)
ソレハ何方ニシテモ結果ハ左樣ナルノデス
(箕作委員)
尾崎サンノ說ハ分テ居ル、建議者モ矢張リ對抗ガ出來ルカ、併シ人權ニシテ置テ對抗シヨウト云フノデアリマス
(委員長)
分テハ居ルノデス
(元尾崎委員)
物權デモ宜イト云フ說ヲ聞クニ、折角案ヲ立タニ殊更ニ直スハ大層ナルコトナリ又、要用デナイカラ、結果ハ強テ害ガナイカラ此儘ニシヨウト云フ考ヘカ、餘程勢力ガアルヨウニ思フガ、之モ已ニ建議者ハ七日經テバ出來ルト云フタカラ、先ヅ起案ヲサセテ見タラドウデスカ
(松岡委員)
二十四五日ノ日子ガアレバデス
(南部委員)
人權ニシテモ效ハアリマセン
(北畠委員)
私ハ今村君ノ說ハ此中ニモアリ物權トシテ置キマシテモ、人權デ行クモノモアリ、人權トシテモ物權ノ扱ヒヲシナケレバナラヌモノモアルカラ、人權トシテ置キ、左樣シテ物權ノ扱ヒニシナケレバナランモノニシヨウト云フハ、大ニ學說ニモ相應スルカラ、今村ノ說ハ採用ニナツテ然ルベキモノト考ヘマス
(淸岡委員)
私ハ人權論デ御座イマス、詰リ學說ハ兎モ角モ箇樣ナコトハ廣ク見テ宜シイ、今日之ヲ物權ト云フハ人ヲ驚カスカラ先ヅ數ノ多イ方ニ置テ宜シ、矢張リ人權ガ宜シイト思ヒマス
(委員長)
スルト建議者ノ意見ト同ジデスカ
(淸岡委員)
左樣デス
(委員長)
所デ、熊野ノ說ノ如ク人權ニスルト「ボアソナード」ノ案ノ中賃貸權ヲ抵當ニスルコトト占有スルコトト二ツヨリ外ハナイカ知ラン
(熊野報吿委員)
定義ガ出來テ居リマスガ、賃貸權ハ箇樣ナモノデアルトカ云フノ定義ハ更ヘナケレバナリマセン
(磯部報吿委員)
二ツヨリナイガ物權ヲ持テ居ルカラ二ツ外ナイノデ、人權ニスレバ、刪ラナケレバナランコトガ澤山アリマス
(栗塚報吿委員)
左樣ニ多ク刪ラレテハ大變デアリマス第三者ニ對抗ガ出來ヌト云ハレテハ民法ガ成立テモ日本ガ立チマセン
(委員長)
成程私ノ一己ノ考ヘニスルト、世上ニナイコトヲ起草者ガ發明シテハナラヌト云フガ、學者ノ說デアルガ、法文ニ顯ハレタコトハ見ヘヌ位デス
(熊野報吿委員)
其點ハ研究スルコトモ出來ズ、外國文ヲバ調ベマセンガ墺地利ハ賃借權ハ物件ニナツテ居ルソウデアリマス
(南部委員)
賃借權ヲ抵當ニ入レルハ困ルネ
(磯部報吿委員)
融通ヲ助ケルカラ結權デアリマシヨウ
(委員長)
私ノ一個ノ考ヘデ見ルト、成程物權ニスルハ隨分拙ノ樣ニモアリマスガ、又人權トスルニ至テハ必ラズ人權デ貫キ通ル明案ガアレバソレデモ宜シイ、又物權ナラ物權デ純然タル物權デ貫カレテ、卽チ「權利ニ二個アリ人權物權之ナリト」ト云フ二ツノ定義ガ貫ケルナラソレデモ宜シイ、何レニシテモ不具モノデハ惡ルイト思ヒマス之ヲ物權ト書イタモノヲ、人權ニ換ヘテモ主義ガ貫カズ、物權ニシテモ貫カズト云フナラ、學理上デ人權ト云フ字ヲ物權ト云フ字ニ換ヘタ丈ケデ、之ハ起草者ノ草案通リニナルニ相違ハナイト思ヒマス其他若シモ起案者ノ「權利ニ三個アリ人權物權支分權是ナリ」ト云フコトガ出來レバ別デスガ左樣デナケレバ若シ建議者ガ起案シテ來レバ今度物權論者ヨリ只今ト同ジ攻撃ヲスルト思ヒマス、其所ハ皆サン能ク御考ヘヲ下サイ、又起草者モ隨分骨ヲ折テ書イテ居ルノダカラ、現ニ日本ニ於テハ行ハレヌ、トカ或ハ道理ニ撞着ノコトガアルトカ、斯樣ナル明法ガアルカラ斯クセヨト云フモノナラ何所迄モ論理ハ立ツガ、左リノ手ガ右ノ手ト變ハリタル結果ナラ起草者ニ依頼シ起草シタ所ノ精神ヲ酌量シテ見ルト起草者ノ意ヲ採テ、宜カロウト思ヒマス、私ノ老婆心カバ知レヌガ自分ノ思フ所ヲ演ベテ置キマス
(栗塚報吿委員)
委員長ノ御言葉ガアツテノ後ヲ申スニモ及バヌガ、前キニ申シタ通リ、歸スル所ハ一ナルモノデアリマス、唯ダ法文ノ體裁ガ今迄物權ト云フノガ人權トスル丈ケデ、歸着ハ同一デアリマス
(元尾崎委員)
賃借權ヲ抵當ニスルモ實際取ルモノハナイカモ知レヌ
(栗塚報吿委員)
ソレナラ其點丈ケ除クガ宜イデアリマシヨウ
(磯部報吿委員)
ノミナラズ二千百十八條ヲ見ルト、不動產取戻シ訴權ハ矢張リ物權デ左樣シテ不動產權デアルカラ抵當ノ出來ルモノトアル、ソレガ惡ルイト云フナラ栗塚ノ云フ通リ省キマシテモ宜シイ
(元尾崎委員)
物權トシテ置ケバ何カ理窟上弊害ガアリマスカ
(熊野報吿委員)
弊害ハ滅多ニアリマスマイ「ボアソナード」ガ物權ト人權ノ結果ヲ付ケテアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
唯ダ名ノ付ケ方ガ違ウ丈ケデ、物權ノ結果デス、草案デハ主トシテ物權從トシテ人權、佛蘭西法ハ主トシテ人權、從トシテ物權トアリマスガ、歸着スル所ハ同ジデアリマス
(松岡委員)
動產ハ物權ノ扱ヒハ出來ナイデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
動產ハ人權デアリマス
(熊野報吿委員)
動產ハ悉皆人權デス
(磯部報吿委員)
賣渡シタ物件ガ天災ニ因テ消滅シタルトキハ、賣主ハ擔保スルカラ、ソレニ依テ買主ノ得タ權利ハ對人權ニナルカ、決シテ左樣デナイ、矢張リ物上權ダカラ擔保ノ問題ニ依テ物權人權ノ區別ハ立タヌト思ヒマス
(箕作委員)
用收權ト區別ガナクナツテ來ル、用收權ハ打捨テ置ク所ニ用益セシムルト云フハ人權ノ樣ニ義務ヲ生ゼシムルト思フ
(南部委員)
其所ハ人權ト思フ、對抗セシムル方ハ物權ダカラドウシテモ半バニナリマス
(箕作委員)
我輩モ純粋ノ人權トハ申マセン
(委員長)
半分々々デスネ
(栗塚報吿委員)
唯ダ私ノ申スノハ變ヘル程ノ妙ハナイト云フノデアリマス、今村ノ考ヘデハ自身ニ感ジタコトモアリ、又再調査モヤツテ居ルカラ、若シモ人權ト極マツタ以上ニハ此案ヲ手掛ケタル人ヲ更ニ頼ムト申シテ居リマス
(委員長)
今デハ、今村ノ建議ハ多數ノ樣ダガ、今村ガ起草シテ見ナイト分リマセン、極ク大體ノコト外議シテ居ラヌカラ、書イタ物ニ就テ議サナケレバナランカラ、今村ガ書カレヌト云フト、誰カ書カナケレバナランガ、今村ニ聞テ貰ウカ
(栗塚報吿委員)
頼ミマシヨウ
(委員長)
熊野ハ意見ヲ言ハセル爲メニ呼ンダノダカラ、依頼スル譯ニハ行カズ、又磯部ニ書ケトモ云ヘヌ
(磯部報吿委員)
ソレハ迚モ書ケマセン
(委員長)
再調査ハ君等ガヤツテ居ルカラ、出來ヌト云ヘバソレマデダガ、第二問題ハ食後ニ致シマシヨウ賃貸借ヲ人權ニ決シ建議者ニ起草セシムルコトニ決ス
于時正午十二時休憩
午後第一時開議
(委員長)
是レヨリ第二ノ問題(原案中賃借ノ名稱ヲ付シタル章ハ前後合セテ五箇アリ一民法中同標題ノ章ヲ五箇ニ分チ設クルハ論纂ノ宜シキヲ得タリトセズ之ハ修正スルノ方法ナキヤ)ヲヤリマシヨウ、之ハ報吿委員ハ如何ナル考ヘデアリマスカ
(磯部報吿委員)
私ノ考デハ五箇ノ事實ガ違テ居ルカ居ラヌカ、若シ違テ居ルナレバ之ヲ別ニシナケレバナリマセン、人權論者モ彼レ此レノ區別ヲ立テズニ規則ヲ立ルノデナイ、唯所々ニ在ルノヲ一緒ニシタ方ガ簡明ニナルト云フノデ御座イマスガ、是レハ今云フコトハ出來ナイ果シテ一ニ集メタモノガ茲ニ出來テ原案ト對照シテソレガ良ケレバ事實ハ變ツテ居リマセンカラ簡明ノモノヲ採ルガ宜カロウト思ヒマス、豫メ之ヲ是非スルコトハ出來ヌ問題デアルカラ起草者ガ精々順序ヲ分ケタルモノヲ今一贋簡明ニナルモノナラ簡明ニシタ方ガ宜シイ、ソレガ成立タル上デ孰レガ是孰レガ非ト云フコトヲ見ナケレバナリマセン、詰リ順序論デアルカラソレ等ハ追テ出來タル上デ對シテ見テ是非ヲ決シナケレバナリマセン、ソレカラ獸類ハ貸借ノコトハ建議者ハ省イテ宜シイト云フ、其省カナケレバナラヌト云フ理由ハ全ク日本ノ慣習ニ存シテ居ナイカラ省イタ方ガ宜シイト云フ御論デ御座イマスガ民法中ニ日本ノ從來ノ慣習ニ幽カニ存シテ居ルモノ或ハ存シテ居ラヌモノデ這入テ居ルモノガ澤山アリマス、之ハ慣習ニ無イカラト云テ省カナケレバナラヌト云フコトハアリマセン、今日絨毛ノ織物ノ用ヒ方ガ這入テ來タスカラ遂ニハ輸入ヲ止メル樣ニナツテ獸類ヲ飼ウ樣ニナルカラ民法ニ規定シテ將來民法ガ惡クモ契約者ハ自由ニ契約ガ出來ルカラ慣習ガナクトモ害ハナシ、後ニ慣習ガ出來レバ今日規定セズトモ後ニハ規定シナケレバナラヌカラ之ハ存在スルヲ必要ト思ヒマス、ソレ丈ケデ御座イマス
(光妙寺報吿委員)
編纂法ハ建議者ニ修正ヲ御委任ニナレバ宜シカロウト思ヒマス畜類ノ貸借ノコトハ存ジマセン
(委員長)
第二ノ問題ハ賃借ノ章ヲ五ツノモノヲ三ツニスルトカ何トカ極ラナケレバ起草者ニ命ズルカ命ゼヌカ、又決定セヌノデ御座イマスカラ本會ノ決定次第デ建議者ニ願ムカモ知レマセン
(光妙寺報吿委員)
之ハ方々ニ岐レテ居ルノヲ一ト所ニ纏メルノハ宜カロウト思ヒマス畜類貸借ノコトハ少シモ存ジマセン
(井上報吿委員)
第一ノ問題ノ結果デ第二ノ問題ガ起ルコトデ御座イマスカラ矢張リ人權トスレバ使用貸借其他ノ貸借モ成ル可ク一ツ所ニ集メテ編纂スル方ガ宜カロウト思ヒマス、別ニ意見ハアリマセン
(熊野報吿委員)
賃貸借ガ人權トナレバ人權ノ章中ニ這入テ來ルコトハ確カデ御座リマス、五ツ駢ンデ居ルノハ宜シイガ、「ボアソナード」ノ案ハ順ニナツテ居ルカ顛倒シテ居ルカ知リマセンガ消費ノ貸借ト使用貸借トアリマスガ佛蘭西デハ名ガ違テ居マス消費貸借ト使用貸借ト一ツデ尋常貸借ト勞力ト畜類ガ一ツニナツテ居マス此二ツハ何處ガ違ウカト云フト一方ハ賃ガ無クシテ一方ハ賃ガ付イテ居リマス、若シモ夫レ丈ケノ差ヒナレバ一緒ニシテ宜シイ、無賃デヤルコトモアリ賃ヲ取テヤルコトモアリマスカラ一緒ニシテ宜シイ併シ中ノ規則ヲ見マセンカラ規則ニ差異ガアルヤ否ヤハ分リマセンガ之ハ順々ニナツテ居リマスカラ別々デモ差支ヘナイト思ヒマス
(委員長)
別々デモ差支ナイカ
(熊野報吿委員)
左樣デ御座イマス、併シ案ヲ作リタル上デナケレバ分リマセン
(栗塚報吿委員)
建議者ハ一章ノ中ヘ纏メルト云フノデス
(南部委員)
之ハ別章デモ差支ヘナイト思ヒマス、斯樣ナルコトニ時日ヲ費シテハ困ル
(熊野報吿委員)
畜類ノ賃貸借ノコトハ利害得失ヲ論ズルコトハ出來マセンガ經濟家ノ說ハ之ハ大變大切ダト云テ居リマス、併シ佛蘭西ノ法律ハ役ニ立タヌ、畜類ノ貸借ヲ妨ゲル計リデ役ニ立タヌト云フデアリマス、併シ佛蘭西デ實際如何ナル風ニ貸借スルカト云フコトヲ知リマセンカラ分リマセンガ或ル經濟學者ハ大切ダト云フテ居リマスカラ存シテアリマシテ差支ナイト思ヒマス
(光妙寺報吿委員)
日本ノ實際ニナレバ省イテ置イテ實際行ハレル樣ニナツテ特別ノ法ヲ以テ設ケテモ宜シイ
(磯部報吿委員)
一體獸類ノ賃借ハ賃借デハナイノダ
(栗塚報吿委員)
畜類規則ダ
(磯部報吿委員)
建議者ガ畜類ノ貸借ヲ此處カラ省クト云フ原因ハ畜類ノ貸借ハ對人權トハ云ヘヌト云フノカ
(栗塚報吿委員)
起案者モ物上權ダト云フテ來マシタ
(磯部報吿委員)
ソレハ素ヨリ物上權デ、建議者ガ人權トシタカラ其處ヘ持テ往キ畜類ノ貸借計リ物上權トスルコトハ出來ナイカラ之ヲ省ク理由ハナイカト思ヒマス
(南部委員)
此會議デ省イタノデ實際畜類ノ貸借ハ無イカラ省クコトニナツタノデス
(松岡委員)
第二ノ問題ハ本案ノ解釋ト云フ名ヲ付ケテ方々ニ置テアルノハ不體裁デハナイカト云フコトデアロウト思ヒマス、已ニ使用權ニスレバ類ノ違タモノヲ一ツ所ヘ寄セテ至當ノコトト思ヒマス、一緒ニシテ「節」トカ「款」トカスレバ分ルデ御座イマシヨウ
(南部委員)
篇ヲ拵ヘルトカ何トカスルト時間ヲ費スカラ中々早クハ出來ナイ
(熊野報吿委員)
矢張リ聯ベタ方ガ都合ガ宜カロウ
(松岡委員)
畜借ハ前ノ會議デ廢案ニナツタガ勞力ノ貸借ハ如何シマシタカ
(栗塚報吿委員)
アレハ「傭雇」トシテ別ニナツテアリマス
(元尾崎委員)
勞力ノ貸借ハ困ルネ
(栗塚報吿委員)
ソレハ名ヲ變ヘル丈ケノコトデス
(松岡委員)
格別論無シ
(箕作委員)
商法デハ雇傭契約トシマシタ、之ハ別々ニシテ差支ヘアリマスマイ
(松岡委員)
私ハ孰レノ案ニ書クニシテモ其人ニ任カセタ方ガ宜カロウト思フ
(箕作委員)
之ヲ書ク人ハ合併シ樣ト云フ意見ガアルガ合併スルニモ及バヌト思フ
(西委員)
合併スルニハ及バヌ
(槇村委員)
合併セズトモ宜シイ
(元尾崎委員)
畜類貸借ハ當ルカ當ラヌカ
(槇村委員)
之ハ當リマセン
(委員長)
皆サンノ議論ハ一緒ニスル方ガ多イカ、少イカ
(渡委員)
賃貸借ガ人權トナレバ一緒ニシタ方ガ體裁ガ宜カロウト思ヒマス
(松岡委員)
私ハ建議者ノ云フ樣ニ勞力ノ賃貸借ハ雇傭ノ名稱ヲ付シテ一緒ニスルヲ可トス、畜借ハ削リマス、然シテ傭雇貸借ト使用貸借ト尋常貸借ト合併シテ第三編ニ置クノガ宜カロウト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
雇傭ハ無論一章ヲ立テ居リマス
(箕作委員)
一章ノ中ニ三ツ置クカ別々ニスルカト云フ違ヒガアル
(磯部報吿委員)
建議者ノ論ハ一緒ニ纏メテ細別スル樣ニ書イテアリマス、熊野モ云フテ居リマシタガ、幾ンド丸デ改正シナケレバナリマセン、貸借ヲ消費貸借ト使用貸借ト尋常貸借ト三ツ置イテ其定義ヲ與ヘルト「第一ニ貸借契約トハ有名ノモノアリ無名ノモノアリ」ト書カナケレバナラヌ
(箕作委員)
佛蘭西ニハソンナ字ハ無イ
(磯部報吿委員)
私ガ一歩ヲ讓タノハ或ハ私ノ考ト違テ旨ク出來ルカ知レマセンガ丸デ書換ヘナケレバナラヌノハ重大ノコトト思ヒマス
(委員長)
之ヲ一緒ニスレバ定義ヲ一ニシテ共通ノ理窟ノモノハ總則デ云テ、違タ處ヲ格別ニシナケレバ功能ハナイ
(磯部報吿委員)
然ウスルト丸デ書換ヘナケレバナリマセン
(元尾崎委員)
良イ案ガアレバ變ヘルガ無ケレバ此儘デ宜シイト思ヒマス
(南部委員)
此儘デ宜シイ
(委員長)
之ハ甚ダシイ不都合モナイカラ多數ハ如何カ知リマセンガ起草者ノ儘ニシテ置キマシヨウカ
(渡委員)
異論ハアリマセン
(第二問賃貸借ノ名義ヲ付シタルモノヲ合併スルノ建議ハ否決シ原案ニ可決ス)
(委員長)
次ギニ畜類ノ賃貸借ハ如何デス
(松岡委員)
畜借ヲ廢スルハ全會一致デ御座イマス
(元尾崎委員)
畜借ハ無イ方ガ宜シイ
(槇村委員)
アツテモ差支アリマセン
(栗塚報吿委員)
千葉縣ニ畜類貸借ガ出來マシタ
(委員長)
現在ハ續々殖ヘマス、西卿ナドノ牧場ハ牛ヤ馬ガ多イ
(熊野報吿委員)
アレハ畜類貸借デハナイ尋常貸借デ御座イマシヨウ
(委員長)
今畜類貸借ガ無イカラ尋常貸借デヤルガ、日本ノ古イ所ハ畜類ノ貸借デヤル、之ガ廢スルト云フコトニシテモ畜類貸借ヲ尋常貸借トスルト云フノデハナイ
(光妙寺報吿委員)
唯佛蘭西ニ行ハルルモノガ日本ニ起テ來ルカ如何ト云フコトデ御座イマス
(磯部報吿委員)
鳥渡申マスガ之ヲ廢シマスト、ドウ云フコトニナルカト云フニ獸類ハ一種ノ動產デ御座イマスカラ尋常貸借ノ支配ヲ受ケルコトニナリマス、特別ノ契約ガアレバ兎モ角モ特別ノ契約ガナケレバ動產物ニナリマス
(栗塚報吿委員)
分收小作ト同ジト申シテ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
元ガ動產ト不動產ノ差ヒガ出來テ來ルカラ
(栗塚報吿委員)
之ヲ置イテ害ノアルコトハ毛頭アリマセン
(元尾崎委員)
斯樣ナ無イモノヲ負クコトハ害ガアルカ知レヌ
(南部委員)
害ガアルカ分ラヌ
(村田委員)
日本ニハ此樣ナルコトハ無イダロウト思フ
(磯部報吿委員)
行政法ナレバ一旦設ケタモノハ實際行ハナケレバナリマセンガ、之ハ行法デ御座イマスカラ良シヤ行ハレズトモ特別ノ契約デ如何樣ニモナリマスカラ宜シイト思ヒマス
(南部委員)
徒法ニナル
(元尾崎委員)
日本ニハ牧畜ノ國デナイカラ此樣ナルモノヲ設クル必要ガナイ
(委員長)
左樣ナル論ニスルト極端ニナルカラ特別法ニスルカ、或ハ民法ニ揭ゲ樣カト論デアリマシタ、之ヲ尋常ノ貸借ニシ樣ト云フコトハアリマセンデシタ、尋常ノ貸借ニスルト云フナレバソレヲ論ジナケレバナリマセン、又物權ト見ルカ人權ト見ルカ、又動產ト見ルカ、又動產ト見ルカ不動產ト見ルカヲ定メナケレバナリマセン、今但馬ヤ千葉縣ニ段々畜類ノ貸借ガアル、ソレハ尋常ノ貸借デヤツテ居ルガ彼通リ從來ヤルガ良イカ惡イカト云フコトヲ議シテ貰ハナケレバナリマセン
(元尾崎委員)
已ニヤツテ居ト云ヘバ實際ヲ見ナケレバ決スルコトハ出來マセンガ尋常ノ貸借ニ違ヒナイ、若シ實際アルカラ置タト云ヘバ其實際ヲ取調ベタ上牴觸セザル樣ニシナケレバ良クナイ
(南部委員)
之ヲ物權ニスルト物權ノ所ヘ入レナケレバナリマセン、賃貸借ガ物權ニナツテ居レバ宜シイガ賃貸借ガ人權ニナツテ是レ丈ケガ物權ノ中ニ這入ルノハ困リマシヨウ
(委員長)
今馬ヲ借リテ使用スルノハ大變多イ、然ルニソレガ第三者ニ及ボスコトガ出來ナイト云フト大變困ル
(松岡委員)
之ハ馬ヲ借リテ使ウノデハアリマスマイ、馬ヲ借リテ其子ヲ產マセテ子ヲ取ルト云フノデアリマス
(委員長)
ソレモアルガ、子ヲ取ル計リデハアリマセン
(松岡委員)
借馬ハ這入リマセン
(委員長)
借馬トハ違フガ身體ヲ借リテ來テ子ヲ產マセレバ使ヒモスル
(南部委員)
併シナガラソレハ常ノ賃貸借ト同ジコトデス、常ノ賃貸借ガ人權ニナツテ、ソレデモ畜類ノ賃貸借ヲ物權ニ置クト云フノハ變ダロウト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
畜類ノ賃借ハ牛ヲ十頭トカ集マリタル群ヲ借リテ其子ヲ上ゲ樣又其糞ヲ取ル鳥ナレバ玉子ヲ上ゲ樣ト云フ、ソレカラ羊ナドハ毛ヲ取リマスガ貧乏人ハ亞米利加カラ羊ヲ買ウ資本ガナイカラ金持ガ羊ヲ澤山買テ大勢ニ渡セバ借リテ居ル人ハ羊ノ世話ヲシテ幾分カ其毛ヲ貰ヒマス、詰リ資本家ハ自分デ其世話ヲスルノハ蒼蠅ク又奉公人ニ世話ヲサセルヨリモ羊ヲ小作ニ入レタラバ宜カロウト云フノデ御座イマス
(元尾崎委員)
白耳義ナドハ追々之ヲ廢シテ居リマス
(磯部報吿委員)
白耳義ハ「ミラン」ノ草實丈ケデ行ハレタノデハアリマセン
(南部委員)
之ハ御削除ニナツテ一向差支ナイト思ヒマス
(委員長)
別法デ作テモ宜シイガ、之ハ農商務省デナケレバ分リマセン我々ノ考デハ之ガナクテモ良イト云フノモ想像ナリ有ル方ガ良イト云フノモ想像デアルカラ若シ之ガ必要デ農商務省ノ人ガ之ヲ置カナケレバナラヌト云フト困ル
(南部委員)
特別ノ必要ガ出來レバ特別ノ法律ヲ設ケテモ宜シイ、若シソレ迄ニ實際之ガアレバ無名契約デアリマス
(元尾崎委員)
農商務省ヘ聞ケバ宜シイ
(委員長)
日本ニモ實際畜類ノ賃借ヲシテ子ヲ二頭取ルト云フコトヲ實際ヤツテ居ルヤ否ヤハ我々ニハ分リマセン
(松岡委員)
左樣ナルコトガ必ラズアツテ其契約ヲスレバ乳ハ如何スルトカ、毛ハ如何スルト云フコトガ必要ニナリマシヨウガ、餘リ聞キマセン
(委員長)
我々ガ與カラヌカラ聞カヌノデ、與ツテ居ル人ハ澤山知テ居ルカ知レヌ
(槇村委員)
農商務省ニ聞ケバ宜シイ
(委員長)
之ハ皆サンノ意見次第ダガ農商務省ニ聞合セテ農商務省ノ意見通リニシ樣デハアリマセンカ
(渡委員)
ソレガ宜シイ
(南部委員)
聞クニ及バヌ、聞イテ決スルノハ少シ違ウダロウ
(委員長)
聞カズニ決スルノハ尙ホ可笑シイ
(南部委員)
聞ク位ナラ民法ヲ削ルガ宜シイ、何ヲ農商務省ヘ聞キマスカ
(渡委員)
有益デアルカ無イカヲ聞キマス
(南部委員)
其樣ナコトヲ聞クニ及バヌ、如何ナル目的ヲ以テ聞クカ分ラヌ
(渡委員)
聞イテ後チニ存廢ヲ決スル
(箕作委員)
裁判官ガ鑑定人ヲ呼ブト思ヘバ宜シイ
(南部委員)
農商務省ハ何ヲ以テ答ヘルカ
(委員長)
此法律ヲ見セテ、之ガ實際適合スルカセヌカ、必要デアルカナイカヲ聞ク
(南部委員)
農商務省デ之ヲ必要トスレバ如何致シマス
(委員長)
必要ト云ヘバ置キマス
(南部委員)
ソレハ不同意デ御座イマス、ソレデハ此一篇丈ケハ農商務省ニ御任セニナツテモ宜シウ御座イマシヨウ、然ウスレバ一向此委員會ハ入リマセン
(委員長)
農商務省ニ聞ク丈ケ諸君方ガ精シク答ヘラレレバ宜シイガ、答ヘラレマイ
(南部委員)
多少ヲ聞キマスカ
(委員長)
實際歐羅巴ノ畜類ノ貸借ヲ見タ樣ナコトヲシテ居ルニ如何ナル契約ヲシテ居ルカ、馬ノ畜借、豚ノ畜借ト違フカ知レヌ、農商務省デ指令ヲシテ居ルノガ分ラヌ、貴君ガ知テ居テ辯明ガ出レバ宜シイガ、ソレガナケレバ想像デヤルヨリ仕方ガナイ、可ト決シテモ當事者ニ云テ見ルト案外此樣ナコトヲヤラレテハ困ルト云フカ知レマセン
(南部委員)
民法ハ權利義務ノ規定ニ外ナラヌカラ唯得失上計リニ拘泥シテ立ルコトハ出來マセンカラ農商務省ハ之ヲ置クガ利益ト云フモ農商務省ノ云フ通リ制定スルコトハ出來マスマイ
(委員長)
此草案ヲ見セテ、向ウガ之デ宜シイト云ヘバ置キマス
(南部委員)
然ラバ海上ノコトハ海上ノ人ヲ呼ンデ制定シナケレバナラヌデ御座イマシヨウ
(委員長)
河ノコトデモ海陸軍ノコトデモ其省ニ聞クデハナイカ
(南部委員)
ソレハ別デス河ノコトヲ聞クト云コトハ私ハ主張致シマセン
(渡委員)
貴君ガ聞カズトモ委員會デ聞イテ居ル
(淸岡委員)
私ハ南部君ニ同意スル積リデアリマス、法律ヲ拵ヘテ此通リスルガ良イカ惡イカト云フコトヲ聞クノハ宜シクナイ、唯畜類ノ貸借ハ今日如何樣ニナツテ居ルト云フ實地ヲ聞イテ實地ノ扱ヒ振リヲ聞イテ取捨スレバ宜シイ、此通リ法律ヲ拵ヘテ之デ宜シイカト云フ聞クノハ感服シマセン
(元尾崎委員)
見セルガ宜シイ、見セナケレバ向ウデ想像ガ起ラヌ
(松岡委員)
ソレヲ聞イテ必ラズ其通リシナケレバナラヌト云フノハ違ウ
(淸岡委員)
見セズトモ宜シイ
(北畠委員)
見セル方ガ主デナク向ウノコトヲ聞ク序デニ見セルノナラ宜シイ
(西委員)
問フ方ガ多數ダロウ
(委員長)
問フノガ多數ナラバ兎ニ角問ヒマシヨウ、ソレカラ第三ノ永小作ノコトヲヤリマシヨウ、磯部ノ論ハドウ云フノデアツタ畜類貸借ノコトハ農商務省ヘ問合セノ上議スルコトニ決ス
(磯部報吿委員)
一向權ヒマセン、農商務省デ如何ナルコトヲ拵ヘ樣トモ民法ノ規則ハ此通リデ差支アリマセン、農商務省デ永小作ノコトニ付キ如何ナル規則ガ出來マシヨウトモ其規則ハ特別規則デアリマスカラ、特別法ト民法ト牴觸スルトキハ特別法ヲ先キニシテ民法ヲ後チニシマスカラ差支アリマセン、其總則ヲ置クノデアリマスカラ同ジ民法中ニシテモ普通ノモノニ足ラザル處ガアレバ特別法デ行フコトガ出來マスカラ丸デ牴觸シテモ民法ノ規則ニ影響ヲ及ボスコトハアリマセン、此コトニ付テ農商務省ノ特別法ト民法ト牴觸スルカラ直スト云フト、是レカラ種々ノコトニ付テ民法ノ規則ヲ變ヘナケレバナリマセンコトガ度々出テ參リマスカラ、左樣ナルモノハ特別法ヲ先キニシテ民法ヲ後チニスルガ普通ノ原則デアリマスカラ其通リ日本ノ新民法モシテ置テ差支ナカロウト思ヒマス、若シ又小作永小作ノコトニ就テ農商務省、デ特別法ヲ設ケルニ付キ民法ノ規則ニシテ幾許ノ害ガアルカト云フト、毫モ害ハアリマセン、差支ノアルトキハ反對ノ契約ヲ以テ結バレルカラ如何樣ニモナルカラ差支ナイト云フ積リデアリマス
(熊野報吿委員)
建議者ノ意見モアリマセンカラ別ニ論ズルコトモ出來マセン農商務省ノ規則書モ見タコトハアリマセン
(栗塚報吿委員)
農商務省ノハ英國ノ小作條例ヲ移シタノデ未ダ實際ニ行ハレズ、又其案ヲ採ロウトモ定マラヌノデス、農商務デモ之ヲ大事ノモノトシテ内閣ヘ出ソウト云フモノデモナク、唯北畠ト云フ人ノ手扣ヘデアリマス
(磯部報吿委員)
明治四五年頃ニ小作永小作ノ論ガ出テ農商務ニ尋ネルガ宜カロウト云フ論デ總裁ノ命令デ尋ネタ處ガ此方ニハ何モナイ其方ニアルダロウト云フカラ、此方カラ書類ヲ送ツタコトガ御座イマス、ソレガ參照ニナツタコトト思ヒマス
(松岡委員)
大體「ボアソナード」ノ草案ヲ採テ、ソレヘ日本ノ慣習ヲ入レタノダ
(熊野報吿委員)
「ボアソナード」ノ案ハ日本ノ實地ニ適當スルカセヌカト云フコトヲ調ベルノデアロウト思ヒマス日本ニハ小作永小作ハ大變大切ノモノデアルカラ報吿委員ガ充分調ベテアロウト思ヒマスガ、只是レ丈ケノ注意ニ止ツタ建議ト思ヒマス、兎ニ角小作條例ガアルニシタ處ガ是レナリデ出セバ之ヲ適用スルノデ御座イマス
(栗塚報吿委員)
特別條例ガ出來ルト云テ茲ニアルコトヲ棄テハナリマセン之ガ惡イト云フコトナレバ之ヲ直スガ宜シイ
(南部委員)
先ヅ宜イ積リダガ惡イ處ガアレバ直ス
(箕作委員)
小作永小作ハ此場デ之ハ害ガアルトカ此條ガ當ラヌト云フ論モアリマシタカ
(松岡委員)
大分修正致シマシタ
(箕作委員)
修正シタ處デ日本ノ慣習ニモ背カヌト云フ位ノコトデスカ
(栗塚報吿委員)
害ノナイコトニハナツテ居リマス
(箕作委員)
之デハ足リナイカモ知レヌガ、大體ノ處ハ強テ牴觸スル處ハナイト云フノデスネ
(南部委員)
然ウデス
(箕作委員)
磯部君ノ說デ差支ナイト思ヒマス
(元尾崎委員)
「其土地ノ性質ヲ變更スルコトヲ得」ト云フコトナドハ如何デス
(大尾崎委員)
ソレハ日本デモヤツテ居リマス
(松岡委員)
之ハ新案ヲ造ルカ「ボアソナード」ノ通リニスルカ農商務ノ案ノ通リニスルカト云フノデ御座イマスガ矢張リ民法中ニ小作永小作ノ要領ヲ定メナケレバナラヌト云フコトヲ御決定ニナツテハ如何デ御座イマス
(松岡委員)
小作ト云フモノヲ賃貸借ヨリ別ニ作ルノデスカ
(松岡委員)
節ヲ分ケルコトニナロウト思ヒマス
(委員長)
小作丈ケハ尋常ノ賃貸借ト同ジニ見ルト云フノト、小作ハ別ニ一章ヲ置テスルノト違ヒガアリマス、永小作ノ方ハ舊慣ヲ破ラザル樣ニ出來テ居リマスガ、只小作ハ一ツ別ニスルト面倒デ御座イマス
(松岡委員)
地上權ノ宅地ノ貸借ノ樣ナモノト見レバ尋常ノ貸借ノ中デ小作ニ違ウ性質ガアレバソレ丈ケヲ貸借ノ末ノ方ニ別ニ拵ヘテ小作、永小作、地上權ト民法ニ並ンデ置ケル樣ニナリマス
(南部委員)
原案ノ通リニシテ小作條例ニ付テ別ニ條例ヲ要スルモノガアレバ特別法ニ屬スベキモノハ民法ニ屬スデ御座イマシヨウ
(委員長)
別ニ永小作ニ付テ規定ヲ設ケルコトヲ民法ニ書キマスカ
(南部委員)
ソレハ書カズトモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
何處ノ國ニモ「農法」ト云フモノガ御座イマス、佛蘭西デモ「コードリユラー」ト云フモノヲ拵ヘテ元老院ニ回ツテ居ル位デ御座イマス
(委員長)
ケレドモ原則ハ此處ニ置カナケレバナリマセン、ソレデ宜シウ御座イマスカ第三問題小作永小作ハ民法ニ存スルニ決ス
(栗塚報吿委員)
之ガ終レバ六月迄ノ議事ノ成行キト民法草案ノ議場ニ登ツテ居リマス草案ノ性質ヲ說イテ初メ御議決ニナツタ賃貸借ノ狀況ヲ述ベマスカラ若シ氣ノ毒ト云フ御考ガアツタナラバ今一應御議決ヲ願ヒマス
(松岡委員)
然ウスルト舊ノ議決ヲ變ヘ樣ト云フノデ御座イマスカ
(栗塚報吿委員)
萬一私ノ申スコトガ御採用ニナレバデ御座イマス、民法ノ出來マシタノハ今日茲デ御議決ニナツテ居リマスノハ「ボアソナード」ノ書キマシタモノデ此中字句ヲ改メルコトハアリマスガ、事柄ヲ改メルコトハ成ルベク丈ハ起案者ト押シ問答ヲシテ往復ノ上ヤツテ居リマス、今日何ゼ左樣ニシタカト申シマスニ急速ノ場合デ此法ヲ議スコトデ御座イマスカラ萬一ノ不調法ガアツテハナラヌト云フコトデ前後撞着スル恐レガアリマスカラ起案者ニ聞キマシタノデ御座イマス、些細ノコトデモ刪除スルトカ變更スルトカ云フトキハ問合セヲ致シマシタ、又再調査モ起案者ニ問フテ起案者ノ承諾ヲ得ルト云フ意味デハアリマセンガ、同意シテ呉レヌカ、他ニ矛盾ハセヌカト云フコトヲ問フタル上ニ刪除修正ヲ致シマシタ此案ノ議場ニ登リマシタノハ左樣ナル有樣デ御座イマス、元來民法其他ノ法律ノ捗取リハ昨年皆サンガ御初メニナツテ今年一杯ニ終ルト云フ御規約デ御座イマシタ、其手順ニ着着運ンデ居リマシテ今年中ニ豫約ノ通リニ仕事ヲ卒ル積リデ御座イマシタ、然ルニ第一ノ首ノ問題トナリマシタル賃貸借ハ物權ヲ人權ニスルト云フコトニ付テ之ヲ人權トスルコトニ御議決ニナツテ如何スルカト云フト其起案ヲ今村ニ命ズルト云フコトデ御座イマシタ、今村ヘ命ジテ今村カラ定メテ完全ナルモノヲ出スデ御座イマシヨウ、ソレデ他ノコトハ僅カニ一條或ハ二條ノ修正、又ハ其條中ノ一ノ事柄若クハ二ツノ事柄ヲ變更スルニ付テモ起案者ニ質問シタル上修正致シテ居リマシタニ此物權ヲ人權ニスルハ重大ノコトデアルカラ「ボアソナード」ニ向テ此旨ヲ急ニ改メ度イ、物權ヲ人權ニシ度イカラ御前見テ呉レト云フコトハ仰セラレニナリマシタ方ガ宜クハアリマスマイカ、自然皆樣ノ御注意デ洩レモ御座イマスマイ又報吿委員モ物權ヲ人權ニシタ以上ハ一心ニ吟味モ致シマシヨウガ、只今迄御議決ニナリタル他ノ條ノ振合カラ見レバ萬一ノコトガアルカ無イカト云ヘバ先ヅアルダロウト思ヒマス、併シ我々報吿委員ガ力ヲ盡サヌ樣デ御座イマスガ、是レ丈ケノコトヲ書キマシタ旨意ヲ皆サンノ修正デ御改メニナルノハ宜シウ御座イマスガ、他ノ振合ト權衡ヲ得ザル樣デ御座イマス、實ハ人權論ヲ茲ヘ出ス迄ニ今村カラ三遍程起案者ト問答ヲシテ之ヲ出シマシタ、今村ニ信ヲ措カヌノデハアリマセン、又委員諸君ガ見落シガアルト云フ意見ヲ持テハ居リマセンガ外ハ一々起案者ニ相談シテ起案者ノ意ヲ枉ゲル丈ケハ枉ゲサセテ來タノデ御座イマス、然ルニ僅カニ賃貸借ノ事ハ理論ニ適ハナカツタ計リデ實際ハ同ジコトデアルト云フコトハ皆サンガ御許シニナツテ居リマスカラ如何ニシテモ出來ヌト云フ御論ナレバ致シ方ガ御座イマセンガ、實ハ「テオリ」理論カラ出タル御議決デハアルマイカト思ヒマス、民法ノ初メノ方ハ近日印刷シテ當路ニ進達スル手續キニナツテ居リマス然ルニ賃貸借ガ人權ト改マルトキハ第二章ノ處ヲ「物權ハ左ノ如シ第一所有權第二用收權第三賃借權」ト申スコトハ出來マセンカラ賃借權丈ケハ削テ出サナケレバナリマセン、又此儘置キマシテ追テ此所ハ取調委員ニ於テ或ル者ニ命ジテ調ベサセテ居ルト云フ都合ニナリマスガ、今年歳末ニナリマシテ夫々ニ議シ了ルベキ筈デアルニ其邊ハ如何致シテ宜シウ御座イマシヨウカ、今村ニ調ベサセタ上デ尙ホ再ビ賃貸借ノ章ガ此議場ニ登リマスコトデ御座イマスレバ夫レ迄ハ之ニ手ヲ着ケルコトハ出來マセン、今茲デ物權ヲ人權ニシテ仕舞ヘバ報吿委員モ皆樣ノ御眼鏡ヲ借リテ間違ヒノナキ樣ニ致シマシヨウガ、ソレニシテモ「ボアソナード」ノ方ハ今ノ通リノ問題デ御座イマス、又一方ニハ今申通リノコトガ御座イマス、且之ヲ人權トスルコトハ今日滿場ノ御贊成デモナク中ニハ「テナリー」上ノ問題デ實際夫レ我ノ影響ハナイト云フコトモ御座イマスカラ此會ノ憲法デハ出來ヌコトデ御座イマシヨウガ、私ノ困難ノ情ヲ申上ルノデ御座イマス若シ此會ノ憲法ニ拘ハラズ栗塚ガ可愛ソウダト云フ御考ナレバ今一應御議決ヲ願ヒマス
(委員長)
少シ栗塚ノ云フ如キ困難ノ事情ガ到來シマス、私ニ於テモ如何シタラ宜シカロウト考案ハ付キマセンガ、此程内閣ヘ云テ元老院ヘ通知シタノハ十二月中ニ民法ノ一篇ヲ元老院ヘ出ス積リデ御座イマスカラ、ソレヲ今日ニ到リ先キニ十二月中ニ回ハス云フタケレドモ出來ナイト云フコトハ私ニハ云ヘマセン場合ニ立到テ居リマス、且今村ガ病氣デナケレバ宜シイガ病氣デアルカラ夜ヲ日ニ次イデヤレト云フコトハ出來マセン萬一今村ガ煩ヒ付キデモスレバ薩張リ運バナイトキハ困ル、内閣ヘ云フニモ日本ニ行フニ先日ハ是レガ宜シイト思タガ、是レ丈ケノ不都合ガアルカラ改メナケレバナラヌト云フノハ困リマス良シ縱令一旦言ヒ出シテモ又改メラレヌト言フコトハアリマセンケレドモ右カラ書クノヲ左カラ書ク方ガ宜シイト云フ位デ澤山ノ違ヒハナイニ此方ガ宜シイト云フコトハ出來マセン且確カナルモノヲ書イテ出サヌトキハ前日書出シタルモノハ甚ダ力ノ弱キモノトナリマスカラ其處ニ良イ仕方ガアルナレバ御考ヲ願ヒマス
(箕作委員)
今村ノ說ヲ可トスレバ多少日子ガ掛リマス、若シ栗塚サンノ說ノ通リニスレバ建議ヲ議シタノハ無駄ニナル、左樣ナ譯ナレバ初メカラ議サヌ方ガ宜シイ
(委員長)
折角今村ガ熱心シテ居ルカラ皆サンノ意想ヲ充分ニ盡シテ貰ウガ宜シイ、然ウシテ茲デハ今月中ニ出來ル樣ニシテ貰ヘバ宜シイ、今月中ニ出來ルコトト云フコトト「ボアソナード」ヤ内閣ヘ云フ論ヲ確カメテ貰ハナケレバナリマセン
(元尾崎委員)
今月一杯ト云フノハ不可變期間デ、ソレヲ過レバ持出スコトハ出來ヌト云フノデハアリマセン
(委員長)
止ヲ得ナイコトナラ宜シイガ、止ヲ得ルコトデ出來ナイト云フノハ困ル
(元尾崎委員)
斯樣ナ建議ガ出テ幾許ノ日數ガ後レルト云フノハ止ヲ得ナイ理由ト思ヒマス
(委員長)
起草者ガ同意スレバ宜シイガ、起草者ノ不同意ノモノヲ直スノデアリマス、起草者モ政府カラ命ゼラレテ居ル、ソレヲ委員會デ改メルトキハ政府カラ見ルト半數々々ニナルカラ政府デ承諾スルカセヌカ分リマセン、又尤モト思フノト、物好ヲシタト思フノトハ感ジ方ガ違ヒマス
(淸岡委員)
「ボアソナード」モ物好キニ箇樣ナコトヲ書イタノデス
(委員長)
物權ニ向テノ攻撃論ハ多イケレドモ人權トシテ不都合ノアル攻撃ハ甚ダ少イ、入權トスルコトヲ攻撃シタル論ヲ御覽ニ成ト成程尤モダト思フ御方ガアリマシヨウカラ此論抔ハ孰カラモ論ズルコトガ出來樣ト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
用收權ノ存廢論ノトキモ實際不都合ガアルカ弊害ガアルカト云フト詰リ實際不都合ハナイト云フノデ置クコトニナリマシタ、今日御議決ニナリマシタ處ハ現論ハ人權ニシテ置ク方ガ穩カデアルト云フ論デ之ヲ物權ニシテ害ガアルト云フ議論ハナイ樣デ御座リマス、若シ害ガアルト云フ議論ガ出レバ其害ヲ除クト云フ論モ出タノデ御座イマスガ害ガアルト云フ論ハ出マセン、今日ノ處デハ害ガアルト云フ意味デ之ヲ嫌フノデナクシテ、起案者ガ之ヲ物權トシテ置クハ學理上穩カナラヌト云フコトデアロウト思ヒマス然ラバ今日ノ困難ニ當テ今村ニモ篤ト話シテ今月二十日迄ニ出來ルデアロウカ出來ヌダロウカ、尙ホ物權ヲ人權トシタル爲メニ他ニ不都合ガアリハセヌカト云フコトヲ起案者ニ問フテ貰オウト思ヒマス「ボアソナード」ニ御前ノ學理ハ委員會ノ學理ニ合ヌト云ヘバ此案ヲ書カセマシタ政府ノ御旨意モ如何ノモノデアリマシヨウカ、夫レ程私ノ學理ニ信用ヲ措カナケレバ外ニモ信用ヲ措ケザルコトガアリハセヌカト云フコトニナリマシテハ困リマスカラ、今日ノ御議決ハ學理上デアルカ實際上デアルカト云フコトヲ御議決下サレテ學理上デ御定メニナツタト御決定ニナレバ今村ニモ書カセヌコトニシ度イト思ヒマス
(元尾崎委員)
學理モアリマシヨウケレドモ實際賃借物ヲ復タ抵當ニスルト云フコトモ賃借ヲ物權トスルカラ起ルコトデ我國デハ實際ナキコトデアリマス
(栗塚報吿委員)
其害ヲ除クコトハ出來樣ト思ヒマス、人權トシテモ其結果ガアル、人權論者タル熊野、井上、光妙寺モ占有訴權ヲ與ヘルノト與ヘヌトノ差ヒデス、今日決シマシタル處デ人權論者ノ說ヲ聞ケバ起案者ノ說ノ通リデ唯吿優訴權ヲ與ヘザルト賃貸權ヲ抵當ニセザルトノニツガ物權ノ效果デアル、是レハ磯部ノ說ニシマスレバ夫レ丈ケノ利益ヲ與ヘテアルカラ削ラズトモ宜イデハナイカト申シタル位デ、我々報吿委員ニ於テモ人權ト物權ト何ノ位ニ差ヒガアルカト云ヘバ先優訴權ヲ與ヘザルト賃貸權ヲ抵當ニセザルトノ二ツニ過ギマセン、我々ノ說ガ御採用ニナレバ其點ヲ削リマシテモ宜シウ御座リマス、併賃借シタル物ヲ抵當ニスルノハ害ガアル我國デハ行ハレヌト云ヘバ起案者ニ向テ之ヲ削ルト云フコトヲ申スコトガ出來樣ト思ヒマス、我々ノ主張シマシタ外ニ人權ト物權ノ效果ガ違ウト云フ御考デ御議決ニナレバ其旨意ヲ今村サン御申聞ケニナリマセント、出來上リタル處デ箇樣ナルモノヲ拵ヘル筈デハナカツタト云フコトニナリマシヨウ、人權ニシタラバ人權ノ功果ヲ出セト云フコトデモナシ、若シ我々ガ申シマシタ人權物權ニ非ザルナレバ今村モ書キ樣ガ御座リマシヨウガ學理上ノ問題ガ右トナルベキガ左トナリタル以上ハ左ノ結果ガナケレバナリマセン先優ト抵當ノ出來ザルノミナラズ未ダ々々違ウ虛ガナケレバナラヌト云ヘバ今村モ筆ヲ執ルコトハ出來マセン、是レハ今村ト論ジタル處デ御座イマス、唯學理上カラ人權ニシテ置カナケレバナラヌ、物權ハ學理上許スコトハ出來ヌト云フコトデアリマシタ是レハ學理上ノ問題デハナイカト思ヒマス孰レヘカ御決定ニナリタル以上ハ先優ト抵當ノ外ニ物權ト人權ノ差ヒガアルト云フ御考ナレバ其箇條ヲ御示シニナツテ今村ニ御訓令ニナラヌト餘程危險デアルト思ヒマス
(渡委員)
栗塚君ノ提出ノ論モ故アリト思ヒマスガ、全體今日ノ問題ノ爲メニ議場ヲ開カレタノハ建議者ガ起案者ニ就テ再度打合セテ見タ處ガ折合ハズ日本ノ民法ヲ編纂スル上カラ賃貸借ハ物權ニ置クヨリハ人權ニ置クノガ至當デアルト云フノハ起案者ト議ガ協ハザルニモ拘ハラズ建議ガ出テ其建議ノ通リ採用サレレバ之ヲ人權トシテ民法草案ヲ終始完全ナラシムルト云フ建議デ固ヨリ起案者ト熟議ノ後チニアラザルコトモ分ツテ居リマス、又建議ガ採用ニナレバ凡ソ何日デ出來ルト云フコトハ建議者ガ受負テ居ル樣ニ讀ンデ居リマシタ此コトニ付イテハ之ヲ孰レニスルカト云フ議ガ決シタル上若シ物權ニ決スレバ原案ニ手ヲ着ケルニ及バズ又人權ニ決スレバ建議ノ通リ御委任ニナツテ時日ヲ假シテ取調ベサセ起案者ト議ノ協ハザルトキハ(此中ニハ見ヘナイケレドモ)今村モ再調査ノ任ニ當テ居ル以上ハ若シ建議ガ採用ニナツテ人權トナレバ其先キハ起案者ノ打合セモ擔ウテヤルト云フコトニ最早カラ見テ居リマシタ、ソシテ之ヲ孰レニスルガ宜イト云フ問題デアルト思テ居リマシタ、建議者モ纔カノ日數デ出來ルト明言シテ居ル人權ニナルガ宜カロウト思テ人權ヲ贊成シマシタ然ルニ人權ト決シタル以上今村ニ其請負ガ出來ルヤ否ヤ、次ギニ其受負ガ出來テモ起案者ト協議ガ調フヤ否ヤト云フコトハ一理アル樣デ御座イマスケレドモ起案者ガ居ラズシテ質問ハ出來ナイガ今村ノ建議案計リデハ此條ヲ組換ヘテ前後完全ノモノヲ拵ヘテ起案者ト協議スルニ違ヒアリマセン、假リニ私ガ今村ニナツテ考テモ起案者ノ考タル之ガ道理ニ適ハヌコトデアルト云フ樣ナコトデアリシナラバ請求シテモ承諾セザルコトデアリマシヨウガ、已ニ賃貸借ガ或ハ人權ト云ヒ或ハ物權ト稱シテ居ル位デアレバ學理的カラ論ジテモ物權トナルニ委員會デ人權ト直シタノハ道理ニ適セズ又各國ニ對シテ人權デアルト云フハ不都合デアルニ因テ同意セズト迄ハ云フマイト思ヒマス、人權物權ハ學理論デアル、「ボアソナード」ガ物權トシテ出シタノハ研究シテ出シタノデ御座ロウガ之ヲ人權トシテ前後矛盾セザル樣ニシ度イト云フ委員會決議デアルガ、今一應對照シテ見テ呉レヌカト云テモ之ハ私ノ主議ト違ウトハ云フマイ左程ノ天地月鼈ノ違ヒノアルモノデハナイ、此先キノコトハ栗塚君ガ報吿委員ノ職ニ居ラレ今村モ病氣デ明日カラ如何樣ニナルカ分ラズ、又「ボアソナード」ガ異論ヲ唱ヘタルトキハ内閣ヘ發表ノ上ニ大層ナル響キガ出來ルト論ズルハ職掌上尤モト思ヒマスガ、今日決議ノ上デ是レ丈ケノ困難ガアルト云フコトハ考タ方モアルカ知リマセンガ私ガ考テ居タノハ委員會デ決スレバ「ボアソナード」モ物權人權ニハ左程ノ差ガナイカラ異論ハアルマ、イ、況ンヤ法律ノ結果ニ於テハ大槪頭マガ違ツテモ尾ガ同ジニナルカラト云フノハ「ボアソナード」ハ博學大家デアルカラ素ヨリ見分ケルデアロウト思テ居リマシタ一ト度建議ガ採用ニナレバ先以テ建議シタ今村ニ命ジテ成ルベク早ク仕上ゲル樣ニシテ、仕上ゲタ處デ「ボアソナード」ニ協議スル樣ニスレバ困難デハアルマイカト思ヒマス又上申ノコトデ御座イマス一時ニ進ンデ早クナレバ好結果デ御座イマスガ、委員會ノ爲メニ此案ヲ動カシタル故時日ガ掛リタルコトハ會議カラ生ズルヲ得ザル結果デアルニ因テ豫算ノ時日ガ定メテ申立テアツテモ、ソレヲ以テ委員長カラ御述ベニナレバ無用トシテ付ケラルルコトハアルマイト思ヒマス、唯一ツノ困難ハ「ボアソナード」ノ協議如何デアルガ、今村ハ建議者デアルカラ夜ヲ日ニ次イデヤルニシテモ協議ノ調フヤ否ヤハ困難デ御座ルガ、物權ト人權ノ差ヒ位デアルニ因テ左程ニ刎ネ付ケテ固ク執テ動カヌト云フ狹イコトハ彼ノ碩學ニシテナカルベシト思ヒマス、縱令如何ナルコトガアツテモ今日忽チ決シテ忽チ翻ヘスコトハ出來マイト思ヒマス
(委員長)
一旦決シタ上デ御座イマスカラ起草ヲサセル手續キハ致シマスガ、餘程之ニ付テハ實考シテ貰ハザレバ困ルノハ起草者ニ云フタラ折合ハザルコトハアルマイトカ書クコトガ出來樣トカ云フコトハ固ヨリ架空デアリマシヨウガ私ノ評定ダカラ如何樣ニナルカ分リマセン、若シ今村ニ書ケザルトキハ如何致シマスカ、今村ガ書カナケレバ私ガ書キマスト云フ者ガアレバ宜シイガ、ソレガ無イト困ルカラ其處モ考ヘナケレバナリマセン、起草者ニ話サズシテヤルト云フコトモ出來ズ、委員ガ原案ニ不同意ト云ヘバ書クデアロウガ之ハ起草セザル前ノ考デアリシナラント思フカラ鄭重ニシテ壞サナケレバ徳義上宜シクアリマセン、其位ノ結果デアルカラ其位ノ感覺ハ固ヨリアルト承知シナケレバナリマセン、夫カラ内閣ヘ云フニモ建議者ガ病人デ起草ニ掛ル人ハ如何樣ニナルカ分ラヌト云フ位ダカラ今月ハ出スコトハ出來ナイトシテモ何時出スト云フコトヲ定メナケレバナリマセンソレガ甚ダ苦シイノデ御座イマス
(元尾崎委員)
内閣ヘ御出シニナルノハ斯樣ナル譯デ遲レルト云ヘバ其理由ガ立タヌト云フコトモナカロウト思ヒマス
(委員長)
最初之ヲ初メルトキニ當テ實際行ハレザルコトハ除キ、又牴觸スル處ガアレバ除クト云フコトニ憲法ガ定メテアリマス今日ノ論ハ其元ニ立戻テ見レバ削ルコトガ出來ザルノデアリマス併シ其建議ヲ持出シテ皆サンノ意思ヲ充分述ベテ貰ウガ宜シイト思テ居ルカラ申シマセンデシタガ、期限ガ迫ツテ居ルカラ困ル
(箕作委員)
今村モ當テニハナリマセンガ、任シテヤル積リデアリマスカラ建議者ガ如何ナル風ニ引受ケルカト云フコトヲ見テ愈々イケナケレバ決議ガ無效ニナリマシテモ仕方ガアリマセンガ先刻人權ニ決シタルモノヲ又忽チ物權ニ變ズルノモ困リマスカラ之ハ御斷リニナツテハ如何デ御座イマシヨウ
(委員長)
一體今村ト熊野ト「ボアソナード」ヲ茲ヘ出シテ論ジサセレバ宜シイノデアリマス
(淸岡委員)
事實上ニ慣習ノアルコトガアル、其因デ來ル處ハ人權物權ガ種子ニナツテ居リマス
(委員長)
賃借ヲシタ者ガ復タ貸ヲスルニハ貸主ノ承諾ヲ經ナケレバナラヌト云フトキハ純然タル人權ニナリマスガ建議ハ左樣ニ思フカ思ハヌカ分リマセンカラ夫レハ別ノ題トシナイト宜クアリマセン
(大尾崎委員)
害ノナキコトナレバ物權トシ樣ガ人權トシ樣ガ構ヒマセン
(箕作委員)
磯部ノ云フ通リ復タ貸シト云フハ人權物權ニハ關係ナイコトト思ヒマス
(磯部報吿委員)
私ハ左樣ニ思フ、其所ハ今村モ間違ヘタト考ヘマス、人權論者ガ間違ヘタト云フ、已ニ淸岡サンモ熊野モ反對論者カ建議者カ間違タト云ヘバ明瞭ナ話デアリマス
(委員長)
一旦起案ヲ命ズルコトニ極メタカラ、栗塚ガ往テ相談シテ見タラドウカ、併シナガラ時ノ都合モアルカラ病ニ構ハズ、ヤル、ト云フカモ知レヌカラ其所ハ能ク話テ見テ、今尾崎サンノ云フ樣ナ旨意ニ違テ居テハイカヌカモ知レヌガ、書イテ貰テ、其上デ議シタ方ガ宜シイカト思フ
(栗塚報吿委員)
ソレデ私ノ建議デアリマスガ、元ト論ノ岐レハ「テオリー」ノ問題デ御座イマスカラ寧ロ人權ト極メテハ如何デスカ、人權ト御極メニナツテモ恐レハアリマスマイ
(委員長)
初メニ人權トスルト折合ウカ知レヌガ、今人權トスルトハ言ハヌ
(槇村委員)
今村ノ草案ガ出来テソレニ付テ議シマシヨウ
(箕作委員)
若シ今村ノ草案ニ付テ議シテ、イカヌトキハ原案ニ戻スノデス
(委員長)
此間ノ樣ニ簡單ノ答ヘハ味ガナイカラ充分辯明シテ貰ツタラ今村ノ論ニ反對シタ論ガアルカモ知レヌカラ、ソレデ皆サン宜シウ御座イマスカ、今村ニ起草ヲ命ジテ、ソレガ出來タ上デ今一遍議スルト云フコトニスルト、今村ガ、ヤラヌト云フカモ知レマセン其トキハ今一遍相談シナケレバナラン
(尾崎委員)
宜シウ御座イマス
(淸岡委員)
私モソレナラ宜シイ
(委員長)
ソレデハ是レデ措キマス賃貸借ヲ物權ニスルヤ人權ニスルヤノ問題ハ今村報吿委員起草ノ上議決スルコトニ決ス
于時午後第四時閉會