旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第81回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案擔保編第八十一回議事筆記
自第千二百一條至第千二百二十條
(委員長)缺席ス
(元尾崎)
ヤリマシヨウ
○第千二百一條朗讀ス
第千二百一條 抵當ハ質ヲ設クル事ヲ要セスシテ法律又ハ人意ニ因リ或ル義務ヲ他ノ義務ニ先チテ辨償スルニ供シタル不動產ノ上ノ物權ナリ〔第二千百十四條第一項〕
(修正按) 抵當ハ法律又ハ人意ニ因リ他ノ義務ニ先チ或ル義務ノ辨償ニ充テタル不動產上ノ物權ナリ但其不動產ノ握有ヲ要セス
(元尾崎)
「握有」ト云フノハ
(栗塚)
質トハ違フト云フノデス
(村田)
元トハ質ヲ有ストアツテ分ランノデ、之ハ「握有」デ良シイ
(槇村)
他ノ義務ニ先ダチト云フノハ
(元尾崎)
他ノ義務ト云フハ外ノ事ダネ
(栗塚)
左樣デス手ニ有ル物ヲ先取リ權ガナルト云フノヲ見セルノデ、百圓借リテ居ル方ニハ抵當ガナイ、今一ツ第二ノ方ニ抵當ガアルト百圓ノ方ヨリ先キ不動產ヲ賣テデス
(元尾崎)
時貸ダネ
(栗塚)
外ニアツテモ先キニ辨償スルゾヨト云フノデス
(大尾崎)
占有トハ云ヘンカ
(栗塚)
占有ト云フト人ニ持タシテモ宜シイヨウニナルカラ、併シ我々ハ握有スルト云フ字ヲ質ニ取リタル物ト直シタ所モアリマス
(元尾崎)
之デ良シイ
(村田)
之デ宜シイ
(渡)
握有ト云フハ原語デ何ト云フ字カ
(栗塚)
「ナンキスマン」ト云フ字デ尤モ意味ハ質トハ違ヒマス
(村田)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百二條朗讀ス
第千二百二條 抵當ハ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク反對ノ合意アルニ非サレハ働方及ヒ受方ニテ不可分タリ〔第二千百十四條第二項〕
(修正案) 抵當ハ動產質及ヒ不動產質及ヒ不動產ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但反對ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
(北畠)
質ト云フ字ガ這入ルノデスネ
(栗塚)
左樣デス、之ハ寫字ノ間違ヒデス
(松岡)
之ハ結構デス
(大尾崎)
之ハ宜カロウ
(元尾崎)
宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百三條朗讀ス
第千二百三條 抵當ハ不動產ノ完全所有權ノ上ノミナラス父母ノ法律上ノ用益權ヲ除クノ外ノ用益權、賃借權、永借權及ヒ地上權ノ上ニモ又虛有權ノ上又ハ右等ノ權利ヲ支分シタル不動產ノ上ニモ之ヲ設定スル事ヲ得〔第二千百十八條〕
然レトモ完全ノ所有權ヲ有スル者ハ虛有權又ハ用益權ヲ離分シテ別々ニ之ヲ抵當ト爲ス事ヲ得ス又建築若クハ植付ナクシテ土地ヲ抵當トナシ又ハ土地ナクシテ此等ノ物ヲ抵當ト爲ス事ヲ得ス
之ニ反シテ右ノ者ハ其不動產ノ分レタル部分又ハ分レサル部分ヲ抵當ト爲ス事ヲ得
地役ハ要役地ヨリ離分シテ抵當ト爲ス事ヲ得ス又用方ニ因ル不動產ハ其附着スル不動產ヨリ離分シテ抵當ト爲ス事ヲ得ス
鑛坑ノ開掘カ特許セラレタル場合ニ於テハ鑛坑ト土地ノ表面トカ同一ノ所有者ニ屬スルト否トヲ問ハス同一ノ債權者又ハ異別ナル債權者ノ爲メ其鑛坑及ヒ土地ノ表面ニ各別ニ抵當ヲ設クル事ヲ得〔千八百十年四月二十一日ノ佛法律第七條及ヒ第十七條乃至第二十一條〕
(修正案) 第一項「虛有權ノ上又ハ」ノ七字ヲ刪ル同條第二項第三項左ノ如ク改ム第二項然レトモ完全ノ所有權ヲ有スル者ハ虛有權又ハ用益權ノミヲ離分シテ之ヲ抵當ト爲ス事ヲ得ス又建築若クハ植付ヲ離分シテ土地ノミヲ抵當ト爲シ又ハ土地ヲ離分シテ此等ノ物ノミヲ抵當ト爲ス事ヲ得ス第三項之ニ反シテ右ノ所有者ハ其不動產ノ限界ニ因リ定リタル部分又ハ其不分ノ幾部分ヲ抵當ト爲ス事ヲ得同條第四項「抵當」ノ上何レモ「之ヲ」ノ二字ヲ挿入ス同條第五項刪除
(松岡)
賃借デ貸シタ所有者ノ方モ虛有者ニナツテ居ルカ
(栗塚)
左樣デス毀缺權ト譯シテ居ル
(松岡)
右等ノ權利ヲ支分シタル不動產ト云ヒソレデ「處有權」ヲ刪タノカ
(栗塚)
右等ノ權利ヲ支分シタル、ト云ヘバ用益權モ這入ルノデス
(松岡)
權利ヲ支分シタルモノト一體書分ケラルルト虛有權ヲ置ケバ宜シイガ、虛有權ト置クト外ガ出ナイカラ之デ宜シイ
(元尾崎)
建物ノミ抵當ニスル事ハナラント云フノカ
(栗塚)
實際ヲ御覽ナスツテ、地所ヲ借リテ家ヲ建タ人ハ勿論デスガ東京ノ町中デ地所モ自分ノ建物モ自分ノ物ト云フ人ハ家ト地面ヲ引離シテ抵當ニヤル者ハアリマセン
(元尾崎)
否、私ハ現在ヤツテ居ル私ハ地面丈ケヲ抵當ニシテ金ヲ借リタ事ガアリマス
(栗塚)
ソレハ損デス
(元尾崎)
損モ何モナイ
(松岡)
禁ジナケレバナラン理由モナイ
(南部)
只立樹ニナツテ居ルモノヲソレ丈ケ抵當ニ入レルハ困ルネ
(元尾崎)
立樹ヲ抵當ニ入レル事ハ滅多ニナカロウ、尤モ山林ハアル
(南部)
抵當ト云ヘバ不動產ノミニ限ルカラ、立樹ノ事ハ少シ困ルネ
(北畠)
立樹丈ケ質ニ入レル事ハアリマス
(元尾崎)
之ハ必ラズ登記シナケレバナランカ
(松岡)
シナケレバナラン
(北畠)
大和吉野郡一郡ニ大津淸左衞門ト云フ者ガアル之ハ百萬圓ノ價ヒアル抔ト云フ、ソレハ何デアルカト云フニ二十里モ續ク山ヲ持テ居ルノデ、其内村ハ何十ケ村アルカ樹ハ一代限リデ伐タモノデ此等ガ皆抵當ニシテ居リマス
(元尾崎)
之ハ羅馬法ノ宜シクナイノデス
(西)
建築若クハ、丈ケ刪タラ宜シイ
(南部)
家ハ禁ジテ置クガ宜シイ
(北畠)
又建築以下ハ刪テハ如何
(西)
樹木ハ土地ニ着テ居ルカラ不動產ダガ、之ハ一所ニ往カントナツテハ
(栗塚)
御承知デモ御座イマシヨウガ斯ノ如クシマシタ修正ハ報吿委員デモ論ガアツテ、之ハオカシイデハナイカ日本デハ家ト土地ハ別ニ論ゼラルル、西洋デモソウダガ殊更ニコウヤツタカト云フト松岡サンガ一寸御氣付ニナツタヨウニ起案者ハ斯ノ如ク見ルト之ヲ引離シテ損カ得カト云フ、モ一ツアル、成程抵當ニ取タ人モ地面丈ケ取ルヨリモ家ト土地ヲ取ル方ガ宜シイ
(元尾崎)
ソレハ都合次第デアリマス家丈ケハ殘シテ地面丈ケ置クト云フハ互ノ都合ニ任カシテ宜シイ
(栗塚)
今日、日本ニハ第一抵當第二抵當第三抵當ト云フ時分ニハ仰シヤル通リデアリマス
(松岡)
山林樹木抔ヲ云フニハ及バヌ又以下ハ刪ルガ宜シイ
(元尾崎)
刪ル々々
(大尾崎)
刪ル々々
(槇村)
植付ト云フト田ノ樣ナモノモ這入ルノカ
(西)
植付バカリ抵當ニスルト不動產ト謂ヘルカ
(松岡)
植付テ居ルト不動產ヘ離シタラ動產デス
(西)
土地ト別ニスルト離シタ所ノ抵當ト云ハナケレバナラン
(元尾崎)
ソンナ事ハナイ
(渡)
民法ノ定義ニ於テ土地ニ着タ物ハ不動產ト定メテ居ルカラ之ハ成程土地ト樹木ハ別ニスルガ樹木ガ土地ニ着テ居ルカラ不動產タルハ免カレン
(槇村)
又ハ以下ハ刪リマシヨウ
(元尾崎)
又建築以下ハ刪ルガ良シイ、第三モ刪ルガ宜シイ
(松岡)
左樣
(槇村)
宜カロウ
(村田)
又以下丈ケ刪ルガ良シイ
(淸岡)
刪テ差支ハナイガ結果ハドウデスカ
(北畠)
結果ハ差支ハナイ
(栗塚)
結果ニ差支ハナイガ訴訟ヲ增シタリスル
(淸岡)
訴訟ノ增スト云フ事ハナイ
(西)
動產不動產ノ定義ハ之デ動キハセンカト思フ併シナガラ多數デ刪ルト云フナラ仕方ガナイ
(大尾崎)
假令動イテモコンナ事ヲ書イテ置カンデモ宜シイ
(西)
用方ニ因ル不動產抔ト云フ事ニ背イテ居ルゼ
(村田)
ソウデナイ
(槇村)
宜シイ、先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第二項「又建築若クハ」云々以下ヲ刪除シ其他報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百四條朗讀ス
第千二百四條 下ニ揭クルモノハ之ヲ抵當ト爲ス事ヲ得ス
使用權竝ニ住居權及ヒ移付スル事ヲ得ス又ハ差押フル事ヲ得サル其他ノ財產
第十一條第二號及ヒ第三號ニ揭ケタル不動產債權
同第十一條第四號ニ揭ケタル如キ國ニ對スル年金權及ヒ不動產トセラレタル其他ノ債權伹之ヲ不動產ト爲ス事ヲ許可スル法律カ其抵當ヲ許サヽルトキニ限ル
動產伹特別法ニ於テ船舶ニ付キ記スルモノヲ除ク〔第二千百十九條、第二千百二十條、千八百七十四年十二月十日ニ決議シ同二十二日ニ頒布シタル佛法律〕
(修正) 第一項「下」ヲ「左」ニ改ム同條第四項第五項左ノ如ク改ム第四項同第十一條第四號ニ揭ケタル如キ不動產トセラレタル債權但之ヲ不動產ト爲ス事ヲ許可スル法律カ其抵當ヲ許シタルトキハ此限ニ在ラス第五項動產但船舶ニ付キ特別法ニ規定シタルモノハ此限ニ在ラス
(松岡)
法律カ許シサヘスレバ宜シイノデスカ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
差押フル事ヲ得ザル不動產ト云フハ何デス
(栗塚)
公有ノ土地、城トカ臺場トカ道路トカ川トカ云フモノデアリマス
(村田)
公有物ダナ
(松岡)
公有物ヲ自由ニシテ居ル者ハアリマスマイ
(元尾崎)
第四項ハ何ウ云フノデスカ
(栗塚)
不動產ニ關スル債權デアリマス
(元尾崎)
先ノ方ガ良クハナイカ抵當ヲ許サザル限リト云フハ抵當ニスルハ當リ前デ、許サヌ方ガ取除ケニシタ方ガ良クハナイカ
(栗塚)
不動產ト定メル債權之ハ抵當トスル事ガ出來ント云フ但不動產トスルモノカ、許シタモノハ宜シイト云フノデス
(元尾崎)
原案ノ意味デハ、抵當ハ許サヌトキハ出來ン、ト裏カラ言葉ヲ立テ、默テ居レバ出來ルデシヨウ、乃チ此度直シタ樣ニスルト許シタハ此限ニ在ラス、殊更ニ許シタノデナケレバ出來ヌ默テ居ルハ出來ヌトナルゼ
(栗塚)
其積リデアリマス
(元尾崎)
原案ノ意味ト違フネ、原案ハ許サント言テ置ケバ、禁ズル方ニ這入ル、默テ居レバ出來ル方デス
(栗塚)
左樣、法律デ許セバ格別許サヌトキハ往カンゾヨトナツテ居ル、之ハ當リ前ノ不動產デハナシ債權ノ如キモノト云フハ、品物ナラ抵當ニ出來ルガ債權ヲ抵當ニスル事ハ出來ヌ併シ出ルト法律ガシテアレバ格別ト云フ積リデアリマス
(元尾崎)
質ニ置クノハ構ハヌカ
(栗塚)
質ニハ置ケマセン
(元尾崎)
今ハ大槪抵當ダネ、原則ニ背クカハ知ランガ今公債證書抔取テモ動產ダロウネ、アレヲ抵當ニ入レルネ、アレハ如何
(栗塚)
アレハ寧ロ握有スルカラ質デスネ、此所ノハ品物ヲ渡シテ置クニハ及バヌデ或ハ國立銀行ノ帳簿ニ名前ヲ記セバ宜シイノデス
(松岡)
實例ヲ見出シ得ナイガ、差押フル事ヲ得ザル其他ノ財產ト云フハ何カ例ガアリマスカ
(南部)
其他ノモノトヤツタト同ジデ、使用權竝ニ住居權等トハ書ケマセン
(松岡)
其他ト云ヘバ何カナケレバナリマセン
(南部)
等ト云フタモ同ジデス
(村田)
官職或ハ恩給ト云フ樣ナモノデス
(松岡)
ソレハ不動產ダカラ往カンゼ
(南部)
若シ何カアツタトキニ困ルカラネ
(栗塚)
先ヅ此所ヘ出ス例ハ公有財產ノミデアリマス
(元尾崎)
華族銀行株券抔ガ這入テ居ルダロウ
(村田)
アレハ別デス
(元尾崎)
ソレハ世襲財產デス
(南部)
ソレモ公有財產ト見テ宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百五條朗讀ス
第千二百五條 此法律ノ條例ハ商法及ヒ特別法ニ之ト異ナリタル規定ヲ設ケサル總テノ點ニ付テハ商法及ヒ特別法ニ設定シタル抵當ニ之ヲ適用ス
(松岡)
コンナ事ヲ謂ハナケレバナランカ
(村田)
再調査デ刪ルデシヨウ
(南部)
之ハ大變調法デアリマスゼ
(栗塚)
此法律ヲ以テ適用ス、併シ別ニアルモノハ往カント云フノデス
(松岡)
適例ノナイモノハ民法デ支配スルノハ當リ前デス
(大尾崎)
之ハ置イテモ害ハナイ
(渡)
文章ハオカシイネ
(淸岡)
此法律ノ條例ハ抔ト云フハ廣過ギルネ抵當ニ關シタ事バカリデスカラ、ソコヘ以テ此法律ノ條例ト云フト全般カト云フ樣ニ聞ヘル
(渡)
刪テモ宜シイ
(栗塚)
抵當ノ章ハ商法ニモ用ユルト云フノダカラ文章ヲ直スハ格別刪ルト云フハオカシイ
(村田)
此儘デ宜シイ
(南部)
此章ノ條例ハデモ宜シイ
(淸岡)
總則ニデモアルヨウナ書樣ダカラネ
(栗塚)
此章ノ條例ハ、トナスツテハ如何
(淸岡)
ソレデ宜ウ御座イマシヨウ
(渡)
宜シウ御座イマシヨウ
本條ハ「此章ノ條例ハ」トシ其他原案ニ決ス
○第千二百六條朗讀ス
第千二百六條 抵當ハ漸積地ノ如キ意外及ヒ無償ノ原由ニ因リ或ハ建築、植付又ハ其他ノ工作ノ如キ債務者ノ所爲及ヒ費用ニ因リ不動產ニ生スル事アルヘキ增加又ハ改良ニ當然及フモノトス伹他ノ債權者ニ對シテ詐欺ナキ事ヲ要シ且前章ニ規定シタル如キ工匠及ヒ工事請負人ノ增價ニ對スル先取特權ヲ妨ケス〔第二千百三十三條〕
其抵當ハ債務者カ新圍障ノ設立ニ因リ又ハ舊圍障ノ廢棄ニ因リ隣接地ヲ抵當不動產ニ合體シタルトキト雖モ債務者ノ有償ハ勿論無償ニテ得取シタルモノタリトモ其隣接地ニ及ハサルモノトス
(修正) 第一項「植付」ノ下「又ハ」ノ二字ヲ刪ル同條第二項左ノ如ク改ム其抵當ハ債務者カ縱令無償ニテ取得シタルモノタリトモ其隣接地ニ及ハサルモノトス但新圍障ノ設立ニ因リ又ハ舊圍障ノ廢棄ニ因リ隣接地ヲ抵當不動產ニ合體シタルトキモ亦同シ
(北畠)
漸積地ト云フノハ如何
(栗塚)
聚テ來タ寄洲デ御座イマス
(南部)
之ハ前ノ條ト關係シテ居リマス
(松岡)
前記ハ刪テモ宜シイ
(村田)
宜シイ之ハ初メカラナイモノハヤリヨウハナイ
(南部)
ソウデハナイ、地所ヲ抵當ニシテ家ヲ建タラ、家ハ抵當ニナルト云フノデス
(元尾崎)
此條ハ刪ルガ宜シイ
(村田)
此儘デ宜シイ
(松岡)
明地ヲ借リテソレヘ建築スレバ家ハ抵當ニナツテ仕舞カ
(村田)
ケレドモ貴君ハ家バカリ抵當ニ入レタノダカラソレニ地面ガ及ブ道理ハナイデハナイカ
(栗塚)
及スト書イテアルノデス
(村田)
初メ別々ダカラ、及ブ道理ハナイ
(松岡)
ソレダカラ之ヲ刪ルト云フノデス
(南部)
法律ノ精神ヲ其儘ニシテ置クガ宜シイ
(村田)
家バカリ抵當ニナツタモノヲ地面ガ往ク道理ガナイ
(渡)
輿論ヲ問フテ見タラ宜シイデハナイカ、ソレデ大槪定マリマス
(松岡)
村田サン、貴君ノ解釋ハ良シイガ、「ボアソナード」ノ心持ハソウデナイノデス
(村田)
ソレハ分テ居リマス
(松岡)
ソレナラ本案ハ先ヅ姑ク措キ、建築ガ付テ往クト惡イカラ、「建築」ト云フハ刪テ仕舞ヒ植物モ除テ仕舞カ
(元尾崎)
漸積地、モ刪テ宜シイ
(南部)
宅地ヲ立派ニシタモノデ這入ラントハ謂ヘヌ
(元尾崎)
ソレハ往カン
(渡)
建築ト植付丈ケヲ刪タラ、跡ハ宜シイデハナイカ
(松岡)
「其他ノ工作ノ如キ」マデ刪タラ宜シイ
(槇村)
ソレデ宜シイ
(村田)
之ヲ刪ルト往カヌト思フカネ、ソウスルト兩方併セテ抵當ニ入レタトキハ往カン樣ニナル
(南部)
土地建築物ニ生ズル事アルベクデ宜シイダロウ
(槇村)
不動產ニ生ズル事アル可クデ宜シイ
(南部)
詰リ地所ハ、地所、建物ハ、建物デ往クト云フノデス
(栗塚)
ソレデハ三條ニ其事ヲ謂テ置カント往カンデシヨウ、土地ヲ抵當ニシタルトキハ家ヲ抵當ニシタトハ看做サズ家ヲ抵當ニシテモ土地ヲ抵當トハ看做サズト謂ハナケレバナラン
(元尾崎)
ソレハ云フニ及バヌ
(栗塚)
ソレヲ云ハント始終牴觸スルデス
(松岡)
不動產ニト云フノデ卽チ家屋モ這入ルト云フガ土地又ハ家屋ト云フカ
(南部)
土地又ハ建築物ト云ハナケレバナラン
(渡)
スルト漸積地ノ如キハ何ウカ
(松岡)
ソレハ例ダカラ構ハヌ
(元尾崎)
建築物ノ增加ト云フハ何ウカ
(栗塚)
障子ノ張替、畳表替トカデス
(元尾崎)
ソレハ增加デハナイ改良ノ方デス、增加ト云フハ家ヲ建增スノデス、家ハ天然ノ無償名義デ殖ヘル事ハナイゼ
(南部)
川ダカラ宜シイダロウ
(元尾崎)
川ダツテ、殖ヘル事ハアリマスマイ
(南部)
債務者ノ所爲ヲ云フノデス
(元尾崎)
僅カノ藁家ヘ以テ檜ノ庇ヲ建テハ困ルネ
(南部)
ソレガ建增ヲ云フノデス
(渡)
雪隱ヲ餘計付ケタ位ナ話デス
(元尾崎)
雪隱ハ建增デ宜シイ座敷ヲ一ツ別ト云フ事ハ云ヘヌ
(渡)
座敷モアツテ宜シイ、漸積地モ別ニシテ宜シイ
(村田)
別ニスルナラ此條ハ無クトモ宜シイ
(元尾崎)
漸積地ト家ノ建增トハ違ヒマス
(西)
建繼ギト云フノデスネ
(栗塚)
主從ノ區別ガアル、土藏又ハ座敷ニモセヨ母屋ガ大キケレバ這入ルト思ヒマス
(元尾崎)
入レル理由ハナイ
(南部)
改良ト對スルネ
(大尾崎)
改良ナラ宜シイ
(南部)
五十坪六十坪建增シタハ宜シイ土地家屋ニ這入ルトシテモ繼イデ建增シタ方ハ這入ラヌト不權衡ダ
(元尾崎)
ソンナ事ハナイ
(渡)
若シ分ケルト雪隱一ツ持テ分テ取ラナケレバナラン
(元尾崎)
今日モソウダガ何モナイ
(松岡)
此不動產ニ生ズルモノアルトキト云フト主ニ付從アルモノデナケレバナラン
(元尾崎)
改良ハ宜シイガ增加ハ往カント云フノデス雪隱一ツ殖ヘテモ別デス
(栗塚)
公賣スルニ雪隱丈ケハ抵當デナイ公賣外ダカラ落札シテモ雪隱丈ケハ公賣ニ御座イマセン、ト云ヘバ不都合極マル
(元尾崎)
雪隱一ツ丈ケ置イテ宜シイ、人間ハソウ不自由ナモノデナイ僅カノ物ダカラ置イテ呉ンカト協議デモ出來ル
(南部)
協議スル場合ハ別デス、協議ノ場合ヲ以テ法律ノ適用ヲ云フハ間違テ居ル
(渡)
理窟ハ立ツガ經濟ノ點カラハ往カンネ
(栗塚)
座數ヲ一ツ建增シサレテ公賣ガ出來ヌ抔ト云フ事ガ出來ルネ
(元尾崎)
入レヌデモ宜シイ
(栗塚)
ドウシマスカ
(元尾崎)
殘シテ置クガ宜シイ
(栗塚)
實ニ分ラン、座數ヲ一ツ建增シテ其建增ガ公賣ニ這入ラヌ抵當ニナラントシテ、落札ハシタガ座敷丈ケハ別トシテハ、買フ者ガアリマスマイ
(元尾崎)
ソレハ現ニ行ハレテ居ルノデス
(栗塚)
座數ノ爲メニ折角抵當ニ取タモノガ何モナラン樣ナ事ニナル
(元尾崎)
ソンナ事ハナイ、雪隱一ツ出來タカラ跡ハ皆無ニナルト云フ事ハアリマセン
(淸岡)
元尾崎サンノ云フ樣ナ事ガアル、先ヅ假リニ住居丈ケヲ構ヒ跡カラ客跡ヲ拵ユル事モ澤山アリマス、今建テ在ル日本作リ平家ヲ千圓カ千五百圓デ賣テ其間ヘ煉瓦ノ一ツモ建テ見ルトソレモ增加ノ内ニ這入ル
(大尾崎)
增加ハ除ケ度イ
(元尾崎)
改良丈ケニシテ宜シイ
(南部)
改良ト云テモ增加ニナルノデス
(栗塚)
ソレハ一ツモ抵當ニ取ル人ガナクナツテ仕舞
(南部)
改良ト云フノハ不權衡ガ出來ル
(大尾崎)
畠ヲ田ニスルガ如キハ直段モ違フ改良シテ增スニ當ル
(南部)
ソレハ增加モ同ジデス
(大尾崎)
增加ト云フト違フ、圖ヲ引イテ是々ト約束シテ抵當ニスルモノデスカラネ
(南部)
皆併セテシナケレバナラン
(大尾崎)
併セルニハ及バヌ、實際ハ相談シタラ建增デモ差支ハナイ
(栗塚)
協議ガアルカラト仰ヤルノデスカ
(大尾崎)
左樣デス
(栗塚)
協議セヨト裁判官ガ言フ事ハ出來マセン
(大尾崎)
ソレハ言ヘヌガネ
(栗塚)
協議セントキハ何ウカ
(大尾崎)
抵當ニ取タモノガ無駄ニナルノダ
(南部)
ソレハ酷ヒ
(栗塚)
裁判ニ當ラン御方ナラ格別裁判ニ當タ方ノ御說ニシテハ實ニ驚キ入タ
(松岡)
生ズル事アルベキ、ハ付屬スル事アルベシ、トシテハ如何
(西)
別ニ在ル物ガクツ付ク樣ニナルカラ往カン
(栗塚)
其論ノ前ニ一部分モ增スノガ這入ルカ否ヲ定メナイト往カン
(槇村)
這入ラヌ
(西)
這入ルガ多ヒデシヨウ
(松岡)
住居ハ皆增加ダネ
(西)
左樣
(栗塚)
不動產ニ生ズルト云フ事ナイ書ケバ宜シイノデシヨウ
(南部)
建增植繼又ハ其他ト云ヘバ宜シイ
(元尾崎)
北畠サン松岡サンハ何ウカ御同意カ
(北畠)
ソウシナケレバ裁判ガ出來ヌ
(松岡)
之ハ報吿委員ニ一ツ文章ヲ直シテ貰ヒマシヨウ
(栗塚)
承知致シマシタ
(村田)
ソウシマシヨウ
(元尾崎)
二項ハドウカ、無用ノモノダロウ
(槇村)
之ハイラン
(南部)
之ハ漸積地ト云フノガアツタカラデス
(淸岡)
二項ノ旨意ハ我々ハ異論ハナイガ但ト云フハ何時モノ文例トハ違ウト思フ
(南部)
左樣デス
(淸岡)
又ハトカ云フ意味デハナイカ
(栗塚)
ソウデスネ
(松岡)
實ハ卽チト云フ元ノ方ガ大分工合ガ良イ
(渡)
之モ任カシテ置キマシヨウ
(松岡)
ソレガ宜カロウ
(元尾崎)
二項ハ要ラヌ
(村田)
但以下ハ要ラヌカ疑ヒガアリマス
(元尾崎)
西洋ニハ地券ガ無イカラ斯ウ云フ事モ必要ダカ知レンガ日本ニハ帳簿ニ數モ書イテアリマスシ反別ハ判然トシテ居ルカラ要ラヌ
(栗塚)
登記寫シガ地券ニナルノデス
(槇村)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ再調スル事ニテ未定
○第千二百七條朗讀ス
第千二百七條 意外若クハ不可抗ノ原由又ハ第三者ノ所爲ニ出テタル抵當財產ノ滅失減少又ハ損壞ハ債權者ノ損失タリ伹先取特權ニ關シ第千百三十八條ニ記載シタル如ク賠償ヲ受クベキ場合ニ於テハ債權者ノ賠償ヲ受クルノ權利ヲ妨ケス
若シ抵當財產カ債務者ノ所爲ニ因リ又ハ其保持ヲ爲サヽルニ因テ減少又ハ損壞ヲ受ケ之ガ爲メ債權者ノ擔保ガ不十分ト爲リタルトキハ債務者ハ債權者ニ抵當ノ補足ヲ與フルノ責ニ任ス〔第二千百三十一條〕
若シ其補足抵當ヲ與フル事能ハサル場合ニ於テハ債務者ハ債權者ノ擔保ガ不十分ト爲リタル限度ニ於テ滿期前ト雖モ債務ヲ辨償スルノ責ニ任ス〔第千百八十八條〕
(修正按) 第一項「如ク」ノ下左ノ如ク改ム債權者ノ賠償ヲ受クヘキ場合ニ於テハ其權利ヲ妨ケス同條第二項「因テ」ヲ「因リ」ト改ム同條第三項「抵當」ノ二字ヲ刪ル
(松岡)
之ハ言分ナシ、結構デス
(元尾崎)
之ハ割合ニ上手出來テ居ル
(北畠)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百八條朗讀ス
第千二百八條 抵當財產ノ差押ラレサル間ハ債務者ハ第百二十六條及ヒ第百二十七條ニ定メタル期間中其不動產ノ賃貸シ、土地ヲ離レサルモノト雖モ其果實及ヒ產物ヲ移付シ及ヒ一般ニ總テ管理ノ所爲ヲ爲スノ權利ヲ保存ス〔佛訴第六百八十一條乃至第六百八十五條〕
(修正案) 「差押ラレサル」ヲ「差押ナキ」ト改メ「賃貸シ」ヲ「賃貸スル事ヲ得ス」ト改メ「所爲」ヲ「行爲」ト改メ「爲スノ權利ヲ保存ス」ヲ「爲ス事ヲ得」ト改ム
(松岡)
一般ニ總テ管理ノ行爲ヲ爲ス事ヲ得「一般ニ總テ」ト云フハ
(栗塚)
「一般ニ」ヲ刪リマシヨウ
(村田)
先ヘ行キマシヨウ
本條「一般ニ」ヲ刪リ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百九條朗讀ス
第二節 抵當ノ種類
第千二百九條 抵當ハ法律上、合意上又ハ遺囑上ノモノタリ〔第二千百十六條、第二千百十七條〕
(栗塚)
「合意上」ハ「約束上」ト改メマス
(南部)
此所ニ付テ諸君ニ申度事ガアリマス組合ノ方デハ充分申サヌデアツタガ、報吿委員デモ佛蘭西法デ抵當ノ種類ノ中裁判上抵當ト云フノガ一ツアリマス二千百十六、七條ノ二ツニアリマス、裁判上抵當ト云フモノハ何ウカナレバ、債權者ガ卽チ債務者ガ金ヲ拂ハヌニ付訴ヘテ來タ、金ヲ拂ハヌカラ拂ヘト云フ裁判ヲ受ケナケレバナラン其場合ニ於テハ其裁判ノ確定スレバ裁判書ヲ以行テソレカラシテ其登記簿ニ記入シテ貰フニ非ザレハ債務者ノ持テ居ル不動產ハ抵當ニ記入シテ貰フ事ガ出來ヌ不動產ノ差押ハ記入シテ貰フ、スルト裁判上ノ抵當トナルソコデ「ボアソナード」ハ裁判上ノ抵當ハ之ヲ廢シテ換ユルニ遺囑上ノ抵當ヲ以テシタ、處ガ裁判上ノ抵當ト云フモノハ一體良クハナイガ畢竟債務者ガ義務ヲ果サヌ時分債權者ガ出テ來テ返シテ貰ヒ度イト請求シテ裁判上デ勝タノデ、ソレカラ不動產ヲ取テ書入レテ貰フト云フハ便利ト思フ、之デモ是迄ノ身代限リノ不都合ナル弊ヲ去ルノ一ニモナル實際ニ効アルノデ、登記法ノ起草ノ時分關係シテ居タガ其時分モ裁判上ノ抵當ト云フモノハアル理窟ニシテ登記法ノ第九條ヘ以テ船舶云々裁判所ノ命令書ニ依テ登記簿ヘ記入ヲ爲スベシ、ト加ヘタガ今ノ登記法ニ依レバ裁判上ノ抵當ト云フモノガ行ハレテ居ルト見ナケレバナラン、スレバ裁判上ノ抵當ト云フモノヲ加ヘテ三種ヲ四種トスルノデス、乃チ抵當ノ種類ヲ四種ニシタ方ガ良カロウト思ヒマス之ニ付テ現在日本ノ登記法ハ斯ウナツテ居ルト云フ旨意ヲ以テ「ボアソナード」ニ請求シタラ起案上者モ容レヌ事ハアリマスマイ最モ理アツテ確答ガアレバ格別ダガ左モナケレバ此方等デ入レテモ良シ兎ニ角裁判上ノ抵當ハ入レル事ヲドウカ贊成ヲ願ヒタイ
(村田)
白耳義デハ裁判上抵當ハ惡イト云フノデ止メテ遺囑上ノ抵當トアルガ廣イ方ガ良イト云フノデス
(栗塚)
起案者ノ入レヌト云フ旨意ハ元來裁判所デ、負ケタノデ負ケタ爲メニ抵當ガ生ズルト云フ事ハ出ヨウカ、一體抵當ト云フモノハ双方納得ノ上ニ出ルノデ、裁判所デ負ケタカラト謂テ抵當ノ負擔マデスル筈ハナイト云フ話デアリマス
(元尾崎)
現在日本ノ登記法ニハ如何
(栗塚)
御座イマセン
(南部)
裁判上ノ抵當ト云フノガアリマス
(松岡)
利害ハアル「ボアソナード」ノ謂テ居ルノハ既ニ裁判上ノ抵當ハ幾分カ法律上ノモノダト云フノデス、註ニ書イテアルノハ、併シナガラ「ムーロン」抔ノ云フノハ、第一裁判ノ多ヒト云フモノハ必ラズ今其通リ執行スルモノトハ限ラン、凡ソ裁判言渡ハ槪シテ言フト何シロ爭ヒノ上デ言渡サルル、スルト取ル人ハ義務ヲ執行サレナイトキモ抵當ヲ押ヘテ確カニシテ置クト云フ事、又今一ツ云フト裁判確定シナクトモ始審裁判ヲ受ケルト控訴上吿シヨウモ差押ヘテ登記ガ出來ル卽チ物ヲ取テ置ク事ガ出來ル、ソレカラ恰ド強制執行ノ事ヲ此頃ヤツテ居ル訴訟法中ニモ其通リノ事ガアル強制執行ハ競賣モ強制差押自カラ管理シテ收益丈ケ取ルモ發亂サセヌ爲メ、權利ガ確カニナツタ以上ハ差押フル事ヲ得登記シテ置ク、意ニ背スル事ハ皆強制執行ダカラ裁判上ノ抵當抔ト云フモ或ハ保證ヲ立サスル事モアロウガ、始審ノ裁判デ勝タ人間ガ、向ウハ上吿控訴スルト雖モ其間抵當ニ取テ置ク事モ登記シテ置クハ良イ理窟ダ、兎モ角モ之ヲ刪タ理由ハ分ラヌ又此方デ考ヘルト既ニ此方ノ權力ガ確定ニナツタ以上ハソレヲ抵當ニ取テ確カニシテ置ケバ隨分便利デ善イ事ガ多イダロウ、私ハ之ヲ加フル事ハ發言者ノ說大贊成
(栗塚)
抵當ヲ取ルナラ合意デスルガ宜シイ、裁判ニ負ケタカラト云テ抵當ガ自然ニ出ル事ハナイ債務者ガ甚ダ迷惑デス
(元尾崎)
私モイラント思フ
(松岡)
孰レ訴訟ニナツテ來レバ爭ハナケレバナランデシヨウ、爭フテ居ル位ヒデアルカラ餘程信用ハナクナツタモノト見ナケレバナラン、ソレガ其トキナラ差押テ執行ガ出來ルモ又控訴上吿スルト云フ後ハ執行ハ出來ヌ場合モアロウ、一〇ノ物ニ付キ特別ニ先取特權ヲ中途デ拵ヘナケレバナラン
(栗塚)
抵當權設定スル程ノ理由ニナリマシヨウカ、敗訴シタモノカ或ハ賣上代金カモ知レンネ、ソレデ爭ヒガ生ジタトキ、借リテ居ル居ラヌト爭テ居リ途ニ負ケテ抵當ガ出來ルト云フハドウカ知ラン
(松岡)
信用アルトキコウ無證文デ出來ルガ既ニ義務ガアルトカナイトカ裁判沙汰ニナツテ相對信用ハナイヨウニナツテ來タト謂ハナケレバナラン、ソコデ物ヲ取テ抵當ヲ取ルト云フハ信用ヲ確カニスル丈ケデ管理收益ハ義務者ガシテ居ルノデス
(栗塚)
外ニ抵當ヲ取ラザル債權者ハドウカ
(松岡)
ソレハ差押ト同ジデス
(南部)
兎ニ角佛蘭西通リニシテモ宜シイ
(栗塚)
佛蘭西ハ歴史付デスネ
(南部)
良イ歴史付デハナイカ
(松岡)
「ムーロン」ノ云フ理窟ダ
(渡)
之ハ「ボアソナード」ニ聞クガ宜シイ
(南部)
債權者ガ勝ト何時モ取レルノダカラ、却テ債務者ノ爲メ有難ト云フ方デハナイカト思フ
(渡)
聞カズニ加フルカ否ヤ定メルカ
(松岡)
我々ハ加ヘル論デアリマス
(南部)
入レルト云フ所ヲ以テ質問シタイ
(渡)
尤モ入レルハナラント駁撃ヲ以テ來ルダロウカソレハ夫トシテ聞テスルガ宜シイ
(元尾崎)
我輩ハ容レヌ方ノ論デス
(槇村)
之ハ問フガ宜シイ
(松岡)
我々ハ何所ニデモ入レルトシテ聞クガ宜シイ
(大尾崎)
入レヌデモ宜シイ
(淸岡)
惡イト云テ認メタ所モアルカラ入レンガ宜シイ
(北畠)
私モ入レンデモ宜シイ論ダガ聞クノハ妨ゲナイ
(栗塚)
訴ヘタラ抵當權ガ出來ルト云フハオカシイ理窟デス
(松岡)
ソレヲ云フト差押ノ如キハドウゾ
(栗塚)
執行シナケレバナラン
(淸岡)
佛蘭西ノ立案ニハナカツタノデス
(南部)
ナイカラ存シテ置イテ良カロウト思フ
(槇村)
問フ問ハヌノ話ダネ
(渡)
問フ方ニシテ宜シイ
(槇村)
問フガ宜カロウ
(松岡)
ソウシヨウ
(南部)
問フハ宜シイ
本條ハ「合意上」ヲ「約束上」ト改メ其他草案ニ決ス、尙ホ抵當ノ種類三種ヲ裁判上ノ抵當ヲ加ヘテ四種トスル南部委員ノ議ハ起草者ニ問フ事ニ決ス
○第千二百十條朗讀ス
第一款 法律上ノ抵當
第千二百十條 抵當ハ總テ要約ニ關セス左ノ各人ノ利益ニ於テ當然成立ス
第一 婦カ其夫ニ對シテ有スル事アルヘキ總テノ債權ノ爲メニハ婚姻ノ日ニ於テ現ニ夫ニ屬スル財產ト名義ノ如何ニ拘ハラス後日之ニ屬スル事アルヘキ財產トヲ問ハス夫ノ未成年タルトキト雖モ其夫ノ總テノ不動產ニ對シ婚姻シタル婦ノ利益ニ於テ〔第二千百二十一條第一項、第二千百三十五條第二號〕
第二 未脫後見ノ未成年者及ヒ亂心ノ爲メ裁判上ニテ治產禁ヲ受ケタル者又ハ處刑言渡ノ効力ニ因リ法律上ニテ治產禁ヲ受ケタル者ノ其後見人ニ對シテ有スル總テノ債權ノ爲メニハ現在ト將來トヲ問ハス後見人ノ總テノ財產ニ對シ此等ノ者ノ利益ニ於テ〔第二千百二十一條第二項、第二千百三十五條第一號〕
第三 行政法ヲ以テ定メタル限度ト條件トニ從ヒ會計役員ノ管理ニ付テハ其會計役員ノ財產ニ對シ國、「デパルトマン」、「コンミユーヌ」及ヒ公設所ノ利益ニ於テ〔第二千百二十一條第三項〕
又第千百八十七條及ヒ第千百九十條ノ明文ニ從ヒ變性シタル先取特權ヨリ生スル抵當ハ之ヲ法律上ノ抵當ト看做ス
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム左ノ抵當ハ總テノ要約ニ關セス當然成立ス同項第一號「爲メニハ」ヲ「爲メ」ニト改メ「對シ婚姻シタル婦ノ利益ニ於テ」ヲ「付キ有スル抵當」ト改ム同項第二號左ノ如ク改ム未成年者及ヒ治產禁ヲ受ケタル者カ其後見人ニ對シテ有スル總テノ債權ノ爲メ現在ニ屬スルト將來ニ得ルトヲ問ハス後見人ノ總テノ財產ニ付キ有スル抵當同項第三號左ノ如ク改ム行政法ヲ以テ定メタル限度ト條件トニ從ヒ會計吏員ノ管理ニ關シ其吏員ノ財產ニ付キ國府縣町村及ヒ公設所ノ有スル抵當
(元尾崎)
婦ガ夫ニ、ハ女房ガ夫ニ金ヲ貸テ居ル事カ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
ソンナ事ガアロウカ、オカシイネ
(松岡)
之ハ未ダ人事編モ定マランガ娘ヲ嫁ニヤリ、其時分夫ガ蕩樂デ皆使ハルルノダ
(元尾崎)
ソレガ債權ニナルカ、夫ノ持テ居ル物ヲ女房ガ使タラ債權トハ云ヘヌダロウ
(松岡)
ダカラ抵當ヲ書入レナケレバナラン
(元尾崎)
有スルモノ、デ宜シイ
(栗塚)
ソレデモ宜シイ
(村田)
抵當ト謂テ置イテモ宜シイ
(元尾崎)
之ハ會社ガ這入ルノカ
(栗塚)
這入リマセン
(松岡)
構成法デ定マルノダカラネ
(元尾崎)
公設所ト云フノハ何カ分ラン
(栗塚)
分リマセン、去リトテ事柄ハ日本ニモアルノデアリマスカラ會計吏員デ、卽チ勘定方デアリマスネ
(元尾崎)
帳面ノ上下ハ構ハンカ
(栗塚)
ソレハ別デス
(松岡)
之ハ宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十一條朗讀ス
第二款 合意上ノ抵當
第千二百十一條 合意上ノ抵當ハ公正證書ノ通常ノ方式ニ從ヒ公證人ノ面前ニテ爲シタル合意ノミヨリ生スル事ヲ得若シ之ニ違フトキハ全ク無効トス〔第二千百十七條第三項、第二千百二十七條〕
委任者ノ財產ニ對シ抵當ヲ承諾スルノ委任ハ特別ニシテ且右ニ同シク公證人ノ面前ニテ之ヲ與フル事ヲ要ス又其委任ハ抵當ノ合意中ニ其要旨ヲ揭クル事ヲ要ス
(修正案) 第一項「面前ニテ」ノ下左ノ如ク改ム爲シタル約束ニ非サレハ之ヲ設クル事ヲ得ス若シ之ニ違フトキハ抵當ハ全ク無効ナリ同條第二項又ノ上要ス迄ヲ左ノ如ク改ム代理人ヲ以テ抵當ヲ設定スルノ委任ハ特別ニシテ右ニ同シク公證人ノ面前ニテ之ヲ爲ス事ヲ要ス
(元尾崎)
之ハ原案デ宜サソウデス
(槇村)
トスデ宜カロウ
(村田)
修正デ宜シイ
(松岡)
登記スル役所ト公證ヲ契約スル所ト二ツアリマスカ
(栗塚)
左樣デス、抵當ニスルニハ公正證書デナケレバナラント云フ話デアリマス
(松岡)
公正證書ト云フノハ公證人ノ面前デ拵イテソレヲ以テシナケレバナランカ
(栗塚)
ソレハ登記役所デスルノデス
(南部)
之ハ登記所ノ手數ガ省ケルノデアリマス
(栗塚)
自身ノ財產ヲ人ニ遣ル事ハ書面ノ作リ方ガ六ケ敷イノデス
(村田)
公證人ノ規則ガ出來レバ大槪ヤルダロウ
(元尾崎)
ソレハ宜シイカ、コンナ酷イ事ハアリマスマイ
(松岡)
今日ノ登記スラ田舎デハ喧シク言テ溜ラン
(栗塚)
喧シクハナイガ、證書ノ粗漏カラ起ルノデス
(元尾崎)
ソコマデ往クノハ大變デ、之ハ廢ウデハナイカ
(栗塚)
公證人ハドンナ者カ
(元尾崎)
勝手ニサシテ宜シイ
(村田)
公證人規則ハ登記トハ別デス
(南部)
之ハ斯ウナケレバ大變デス
(栗塚)
公證人ヲ一切置カヌガ宜イト云フ話デスネ
(松岡)
好キデスル丈ケデ宜シイ
(南部)
今ノ登記ハ登記役所ヘ雙方出ナケレバナラン殊ニ遠方ノ道ニナツテモ二人出ナケレバナラン之ハ債權者ガ書面ヲ持テ往ケバ出來ル、スレバ契約ヲ確カメルニハ公證人デナケレバナラン、確カメルニハ近邊ニ於テ充分頼ム事モ出來又難義ナル場合ニハ來テ貰フ事モ出來ル公證人ハ役所トハ違テ自由ニナル、取扱手續モ簡便ニナル譯ケデアリマスカラ、餘程ノ人民ニ便益ヲ與フルモノト思フ却テ公證ヲ止メテ仕舞登記バカリシテハ人民ヲ遠方ヘ引出スハ迷惑ト思ヒマス
(松岡)
ソレモ公證人ニサセルサセヌノデハナイ公證人ノ手ヲ經タモノハ書面ナラ雙方揃ハンデモ宜シイガ、先キニ往テシテ貰ヘバナレドモ出來ルト云ヘバ調法ト思フガ必ラズ之ニスルハ、エラ過ギルダロウト思フ
(南部)
公正證書デナケレバナランモノト公正證書ノ自由ニ任シタモノト二ツアツテ證據ノ原則ヲ指シテアリマスカラソレヲ刪ル如キアレハ格別ダガ今申ス通リ裁判所ノ手續ニ於テ却テ現今ノヨリモ簡便ニナルノダカラ良シイ
(松岡)
登記役所デ登記シテ貰ヘバ今日ノ場合ニ於テ何々事件ハ必ラズ公證人ノ手ヲ經ザルトキハ効力ナイト云フハドウモ、エラ過ギル、
(元尾崎)
現今田舎デハ困テ居ル、公證人ノ面前デ約シテ登記所ヘ行ノハ面倒デス
(松岡)
登記役所ヘ直カニ雙方行ク事モ出來ルト便益テス
(南部)
ソウハ往カン
(松岡)
必ラズ公證人ノ前デ作タノデナケレバナラント云フハ窮屈過ギルネ
(西)
之ハ最モ善シイ
(元尾崎)
公證人ニヤラセルハ便利ト云フ南部サンノ說ダガ公證人ガ澤山居レバ宜シイガネ田舎ニハソウハ居ラヌカラ、登記スレバ宜シイデハナイカ窮屈ニスルニハ及バヌ
(栗塚)
窮屈ト云フ事ハナイ
(元尾崎)
松岡サンノ言フ如ク何方等モ出來ルトスルナラ便利デス
(南部)
ソウスルト有式契約ガ無クナツテ仕舞法律ヲ設ケルニハ筋ヲ立ナケレバナラン
(村田)
贊成者ガナイカラ、修正デ置イテ、先キヘ行キマシヨウ
(栗塚)
原則ガ立タヌ、カラネ
(北畠)
原則ノ爲メ人間ガ生テ居ルノデハナイ人間ノ爲メニ法律ガ必要ナノダカラ
(元尾崎)
勝手ニスルモ差支ヘナイト云フノデ、手數爲度ト思フ者ニハ爲シテ宜シイ又之ハ抵當ヲ取テ置イテモ、ソウ云フ氣遣ヒハナイト思ヘバソレデ宜シイ自由ニ任カシテ宜シイ
(栗塚)
ソウ云フト贈與モ公證人ノ手ヲ經ルニハ及バヌト云フヨウニナル
(槇村)
左程ノ事ハナイ
(淸岡)
之ハ組立ハ斯ウシナケレバナランデシヨウ
(渡)
組織上カラ來ルト仕方ガナイ
(元尾崎)
仕方ガナイト云フ事ハナイ
(栗塚)
實際ノ便益ハ、斯ウ云フ事デスネ、公證人ノ面前デ書前ヲ拵ヘテ置ケバ後デ訴ヘヲ起スニモ及バヌ、ソコデ登記シテ置クソレヲ爲サズニ置ケバ一旦訴ヘナケレバナラン、初メニ其便益ガアルノデス
(元尾崎)
ソレハ其人ノ勝手デス
(栗塚)
ソレヨリ初メカラ公證人デ定メタラ便利デシヨウ
(松岡)
公證人デナケレバナラント云フト不便益デアリマス、自由ニ任カシタラ便益ダロウ
(栗塚)
國民ノ多數ヲ見ルニ字ノ書ケル人ト書ケヌ人ト比較シタラ何方カ
(松岡)
後ニ効力ガアルカラ都合デ好キシテ宜シイ
(元尾崎)
束縛スルニハ及バヌ
(松岡)
兎モ角モ今ノ登記法ノ行ハレ、公證人ノ手ヲ經テアレバ、ソレモ往クハ便利デシヨウ
(南部)
ソレハ當座ノ考ヘデス
(西)
先キヘ往キマシヨウ
(元尾崎)
少數カ
(村田)
少數々々、先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十二條朗讀ス
第千二百十二條 日本ニ存在スル財產ニ關シ外國ニ於テ爲シタル抵當ノ合意ハ此種類ノ所爲ノ爲メ外國ニ於テ用ユル方式ニ從ヒ日本人ノ間ニ之ヲ爲シタルトキハ其効ヲ生スル事ヲ得然レトモ第千二百十九條及ヒ第千二百二十四條以下ニ定メタル條件ヲ遵守スルニ非サレハ右ノ合意ニ依リ日本ニ於テ其記入ヲ爲ス事ヲ得ス〔第二千百二十八條〕
(修正按) 「日本人ノ間ニ」迄ヲ左ノ如ク改ム日本ニ存在スル財產ニ關シ外國ニ於テ爲シタル抵當ノ約束ハ此種類ノ行爲ノ爲メ外國ニ於テ用ユル方式ニ從ヒ
(北畠)
此間カラ帝國ト謂テ之ニ日本ト云フハオカシイ、一定ニシナケレバナラン
(栗塚)
外國デ爲タ抵當ト云フノダカラ
(北畠)
ソンナラ内國トシナケレバナラン、尤モ此所バカリ修正シテモ往カヌ一般ニシタイ
(村田)
内國位ヒニシテ宜シイ
(南部)
然レドモ千二百十九條デスネ、方式ニ定メタル云々ト方式ニ依テモ矢張リ此方等ヘ書カナケレバナランカ
(栗塚)
之ハソウデス
(松岡)
登記簿ニ記入ガナケレバ設立マセン
(栗塚)
公正證書デ無クトモ公正證書見タイナ事ヲスレバ宜シイ併シ此方ヘハ記入シテ置カナケレバナラント云フノデス
(槇村)
之ハ宜シイ、先ヘ往キマシヨウ
(元尾崎)
宜シイ往キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十三條朗讀ス
第千二百十三條 抵當設定ノ證書ニハ義務ノ擔保ニ供シタル不動產ヲ其本質及ヒ所在ニ因テ特ニ指示スル事ヲ要ス〔第二千百二十九條第一項〕
若シ抵當ノ設定カ債務者ノ現在ノ各不動產ヲ特ニ指示セスシテ其不動產ノ全部又ハ一分ヲ包含スルトキハ債務者ノ請求ニ因リ債權ノ擔保ニ必要ナルモノニ其抵當ノ設定ヲ減少スル事ヲ得〔同上〕
債務者ノ將來ノ財產ニ對スル一般又ハ特別ノ抵當ノ設定ハ全部ニ付キ無効タリ〔第二千百二十九條第二項〕
(修正按) 第一項「供シ」ヲ「充テ」ト改ム同條第二項「其抵當ノ設定」ヲ「其抵當ヲ」ト改ム同條第三項「對スル」ヲ「付テノ」ト改メ「全部ニ付キ」ノ五字ヲ刪ル
(元尾崎)
其性質及ビ詳細ニト云フハドウ云フ事カ性質ト詳細ニヤツテ置ケト云フノカ
(栗塚)
左樣デス詳細ニヤツテ不動產ヲ指示セヨト云フノデアリマス
(松岡)
何所ソコニ在タ畠山ト云フ事ダ
(元尾崎)
親父ガ死ダラ地面ハ己レノ物ダカラ抵當ニシヨウト云フ事ダネ、コンナ事ヲ謂ハンデモ良ササウナモノデス、乃チ第二項公證セヨト云フ事ハ債權者ノ承諾ガナクツテモ良シイカ
(南部)
ナケレバナリマセン
(元尾崎)
之デハ債務者ガ勝手ニ出來ルヨウ思ヒハセンカ
(村田)
債權者ハ謂ハントキハ出來ヨウハナイ
(南部)
請求ト云フノハ裁判デスヨ裁判シテヤル其命令ニ依テ行クノデス
(元尾崎)
酷イネ、一萬圓ト債務者ガ云テモ案外五、六千圓シカナイト見込デ居ルカモ知レン
(村田)
斯ウ云フモノガアルカモ知レン
(淸岡)
出來ナイ話デス
(南部)
債權者承知シヤセン
(槇村)
之ハ宜カロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十四條朗讀ス
第千二百十四條 合意上ノ抵當ノ設定證書ニハ右ノ外義務ノ原由、態樣及ヒ主タルト從タルトヲ問ハス義務ノ目的物ヲ明カニ指示スル事ヲ要ス
目的物カ直接ニ金額タラサルトキハ金額ヲ以テ之ヲ評價スヘシ然レトモ此終ノ條件ハ第千二百二十六條ニ記載スル如ク記入ニ於テノミ之ヲ履行スル事ヲ得〔第二千百三十二條〕
(修正案) 第一項「義務ノ目的物」ヲ「其目的」ト改ム同條第二項「目的物」ヲ「義務ノ目的」ト改メ「此終ノ條件」ヲ「其評價」ト改メ「記入ニ於テノミ之ヲ履行スル事ヲ得」ヲ「記入ノ場合ニ於テモ亦之ヲ爲ス事ヲ得」ト改ム
(栗塚)
ソレカラ次ノ條ハ起案者ニ問フテ本文ヲ改メヨウト云フノデスカラ姑ク擱キヲ願ヒマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十六條朗讀ス
第千二百十六條 未成年者、禁治產者及ヒ失踪者ノ財產ハ第一編ニ定メタル原由ノ爲メ同編ニ定メタル方式ヲ以テスルニ非サレハ其代人ニ於テ之ヲ抵當ト爲ス事ヲ得ス〔第二千百二十六條〕
商ヲ爲ス事ヲ許サレタル旣脫後見ノ末成年者及ヒ婚姻シタル婦ニ於テ抵當ヲ設定スルノ能力ハ商法ニ之ヲ規定ス〔佛商第六條第七條〕
(修正案) 第一項「ノ爲メ同編ニ定メタル」ノ十字ヲ刪リ「方式ヲ以テスルニ」ヲ「且方式ニ依ルニ」ト改ム同條第二項抵當ノ上ヲ左ノ如ク改ム既脫後見ノ未成年者及ヒ婦ニシテ商業ヲ爲ス事ヲ許サレタル者ノ
(元尾崎)
商ヒヲ爲ス事ヲ許サレタルカ
(栗塚)
之ハ刪タノデス
(松岡)
折角ノ修正ダガ刪ラレタカ商法ニハ此事ヲ謂ハズニ居ルガ期限ヲ免カレタモノハ外ノ人ト同ジト云フ位ヒニナツテ居ル
(南部)
左樣デス
(松岡)
謂ハヌデモ宜シイダロウ
(渡)
宜シイデシヨウ
(栗塚)
ソウデスカ
(渡)
二項ハ刪除シテ宜シイ
(元尾崎)
二項ハ刪ルガ宜カロウ、先ヘ往キマシヨウ
(淸岡)
公證人ノ面前デ本人ガヤラナケレバナランカ
(松岡)
此家來ヲ以テ代人トスルト云フ事ヲ公證人ノ前デ委任ヲ拵ヘナケレバ効ガナイト云フンデ、之丈ケハ特別ニ委任シナケレバナラント云フノダ
(元尾崎)
ソレハ分ラン
(淸岡)
分ラン
(西)
分テ居リマス
(淸岡)
上ノ條デ自分ガ面前デナケレバ無効デアル併シ、ソンナラ代人モ出來ヌカトナルカラ代人ヲ以テヤルトキハ格別デアルニ因テ其代人ハ委任ヲ受ケタ奴ガ右ト同ジク公證人ノ面前デヤレト云フノダ
(南部)
何ヲ爲スカ、委任ヲ爲スノデシヨウ
(栗塚)
契約ヲスルノデハナイ
(元尾崎)
是非自分デ往カナケレバナラン事ナレバ出來ハセン
(南部)
代人ト云フノハ種々弊ガアルカラネ
(槇村)
文ヲ修正シテハドウカ
(西)
分テ居ルヨウデスガネ
(淸岡)
私ニハ分ラン
(松岡)
意味ガ二樣ニナツテ居ルヨウニ思フガ
(栗塚)
委任ハ特別タル事ヲ要スデス
(淸岡)
何ヲ特別ニカ
(栗塚)
特別ノ委任デナケレバナランノデス
(槇村)
他ノ委任ハ公證人ノ前デナクトモ宜シイガ抵當設定スル委任ハ公證人ノ前デナケレバ往カント云フノダ、之ハ良シイ
(淸岡)
抵當ヲ設定スル爲メ代人ヲ委任スルニハ特別ノ委任ト同ジク公證人ノ面前ニ於テ之ヲ為ス事ヲ得トシテハ何ウカ併シ如何ヨウトモ多數ニ從フ
(村田)
之ハ先ヘ往キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十七條朗讀ス
第千二百十七條 合意上ノ抵當ハ第千百三條第千百四條及ヒ第千百二十二條ニ於テ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク第三者ノ債務ヲ擔保スル爲メニ之ヲ與フル事ヲ得
此合意上ノ抵當ハ常ニ債務者ニ對シテハ恩惠ナリトス又其抵當ハ債權カ無償ノ原由ヲ有スルトキ又ハ其抵當カ有償ナルモ約束シタル事ナクシテ主タル合意以後ニ之ヲ設定シタルトキハ債權者ニ對シテモ恩惠ナリトス
(修正按) 第二項「此合意上ノ」ヲ「右ノ」ト改メ又以下ヲ三項ト爲シ尙ホ左ノ如ク修正ス第三項又抵當ハ債權カ無償ノ原由ヲ有スルトキ又ハ有償ナルモ諾約ナクシテ主タル約束以後ニ之ヲ設定シタルトキハ債權者ニ對シテモ恩恵ナリトス
(栗塚)
千百三條千百四條及ヒ千百二十三條ガ此間ヘ這入ルノデアリマス
(松岡)
何ウ云フ場合ニナルノカ
(栗塚)
私ガ物ヲ無償ニテ遣セウト云フ原由デス
(松岡)
能力アル者デナケレバ出來ント云フノデスカ
(栗塚)
左樣デス恩恵ダト云フ事ヲ拵ヘタノデ、此所デハ抵當恩恵ダゾヨト云フノデス
(元尾崎)
何ウ云フ効力ガアリマスカ
(村田)
斯ウ云フノハ抵當恩恵ダト云フヲ示シタモノデス
(松岡)
後見人ハ幼者ノ物ヲスル事ハ出來ヌト云フノダロウ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
債務者ニ對シテ求償權ガアルノダロウ、ガ併シ債權者ガ無償ニテト云フハドウ云フ譯ケカ
(栗塚)
只、物ヲ上ゲヨウト云フ、貴君ハ取ル權ガアル其トキハソレヲ何モ物ヲ貰ハズ抵當ニ上ゲナケレバナラン其債權ト云フモノハ、貴君ノ持テ居ル債權ハ貰フタ債權ダ之ヲ恩恵ト云フノデス、贈與スルノ能力ヲ持タ人デナケレバナランゾヨト云フンデス、恩恵ナラ有式契約デナケレバナラント云フノデス
(南部)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十八條朗讀ス
第三款 遺囑上ノ抵當
第千二百十八條 抵當ハ遺囑者ノ贈遺ノ全部若クハ幾分ノ擔保又ハ第三者ノ債務ノ擔保ノ爲メニ非サレハ遺囑者ノ一箇又ハ數箇ノ不動產ニ對シ遺囑ヲ以テ之ヲ與フル事ヲ得ス〔第千八百五十一年十二月十六日ノ白耳義法律第四十三條、第四十四條〕
有効ニ遺囑上ノ抵當ヲ設定スルニハ設定者ヨリ債務者及ヒ債權者ニ對シ遺囑ニ因テ互ニ授受スルノ能力アル事ヲ要ス
(修正按) 第一項左ノ如ク改ム抵當ハ贈遺ノ全部若クハ幾分ノ擔保又ハ第三者ノ債務ノ擔保ノ爲メニ非サレハ遺囑ヲ以テ之ヲ與フル事ヲ得ス
(栗塚)
之モ申スマデハナイ事デス
(淸岡)
ドウ云フ事デスカ
(栗塚)
詰リ死際ニ私ガ此家ヲ誰某ニ遣ル積リデアル、誰某ハ金ヲ借リテ困テ居ル樣子ダガアレハ私ガ所ノ家ヲ抵當ニシテモ宜シイト云テ私ガ貸シタトキデス、ソレカラ又誰某ニ金時計ヲ遺ルゾ若シ金時計ヲヤレヌ樣ナ事ガアツタトキ此抵當ヲ遣ルゾヨ、不動產ヲ抵當トシテ置クゾヨト云フノデス
(元尾崎)
相續人ニ義務ヲ負ヘセルノダネ
(栗塚)
左樣
(元尾崎)
コウ云フ事ハナイ
(槇村)
死トキハ默テ居テ宜シイ
(元尾崎)
コンナ事ハ佛蘭西ニモナイノダロウ
(栗塚)
アリマセン
(元尾崎)
第二項ハドウ云フモノカ
(南部)
二項ハ債權者ニ對シテ能力ヲ以テ居ルニ遺囑者ガ持テ居ラヌトキハ抵當ガ出來ヌト云フノデス
(元尾崎)
債務者及ビ債權者ト云フハ如何
(南部)
ソレニ對シテヤルノデナケレバナラン
(元尾崎)
債務者ト云フノハ
(南部)
相續人ガ第三者債務者デス
(大尾崎)
互ニト云フハ要ラン
(元尾崎)
遺囑抔ハ誰レニ遣ルト云フニ證書ノ出來ヌモノニハヤレンネ
(南部)
代理人ダカラ能力ヲ持テ居ランデハ出來ヌ
(渡)
佛蘭西流ニ遺囑ノ抵當ト云フハ良シイカ白耳義流ハ往カン
(栗塚)
ナゼ往カヌカ研究シナケレバナラン
(元尾崎)
刪ルカ
(栗塚)
アツテ害ガアルト云フナラ刪ルトシテハ如何
(南部)
害ガ御座イマセン
(栗塚)
害ガナケレバ置カウデハナイカ
(西)
珍ラシクテ良シイ
(松岡)
置クトシテモ互ニト云フ字ハ刪テハ如何遺ル人ガ能力ガアレバ宜シイデハナイカ
(村田)
ソレハ往カン、假令バ醫師カ病人トカ云フヤウナ事ガアリマスカラネ
(栗塚)
御尤モデス
(松岡)
贈與デハナイ抵當ダモノ
(栗塚)
右抵當ハ債務者ニ對シテ恩恵ナリト云フガアルノデス
(松岡)
ソレハ第三者ノ事バカリデス
(栗塚)
贈遺ト看做ス事ガ出來ル場合ガアツタトキニデスネ
(松岡)
贈遺デハナイ、抵當ダカラ
(栗塚)
抵當ニモ恩恵ト云フ事ガアリマス、恩恵ナラ恩恵丈ケノ能力ガナケレバナラント云フ事ハ申シテモ宜シイデシヨウ
(村田)
能力、ヲ云フノデス
(松岡)
前條ハ第三者ノ爲メダネ
(栗塚)
左樣デナイ、貰フ事ノ出來ル人ト出來ヌ人トアル醫者ト病人ノ間トカ云フ事ガ贈與ノ所ニアリマスアレ丈ケハ除カナケレバナリマセン贈與ト云フノデ理窟モ付ク、有テ害ガアレバ何デスガ、害ガナケレバ御置キナスツテ
(槇村)
先ヘ往キマシヨウ
(元尾崎)
刪ロウ
(淸岡)
分タ以上ハ置キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百十九條朗讀ス
第三節 抵當ノ公示
第一款 記入ノ條件、方式及ヒ繼續期
第千二百十九條 總テ法律上、合意上又ハ遺囑上ノ抵當ハ下ニ定メタル條件及ヒ方式ニ從ヒ抵當不動產所在地ノ登記役所ニ於テ記入セラレタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スル事ヲ得ス〔第二千百三十四條、第二千百四十六條〕
若シ財產カ甚タ廣大ナルニ因リ二箇又ハ數箇ノ役所ノ管轄ヲ受クル場合ニ於テ其全部抵當ト爲サレタルトキハ其財產ノ主タル部分ノ所在地ヲ管轄スル役所ニ於テ記入ヲ爲シ其他ノ役所ニ於テハ右ノ記入ト其日附トノ記載ノミヲ爲ス
(修正按) 第一項「抵當不動產」ヲ「其不動產」ト改メ「登記役所ニ於テ記入セラレタルニ非サレハ」ヲ「登記所ニテ記入セサルニ於テハ」ト改ム同條第二項左ノ如ク改ム二箇又ハ數箇ノ登記所ノ管轄ニ跨ル不動產ノ全部ヲ抵當ト爲シタルトキハ其主タル部分ノ所在地ヲ管轄スル登記所ニ於テ記入ヲ爲シ其他ノ登記所ニ於テハ右ノ記入ト其日附トノ記載ノミヲ爲ス
(南部)
其抵當ト云フ字ガナクテ宜シイカ
(栗塚)
其不動產ガ抵當ト云フ字ヲ置キ換ヘタ積リデ、實ハ抵當ニシタルト云フ字デ御座イマス
(村田)
登記所ニ於テト云フノカ
(栗塚)
登記所ニテ記入セザルニ於テハデス
(槇村)
宜カロウ
(松岡)
「記入シタルニ非サレハ」ト云テハ如何
(栗塚)
ソレモ宜シイ
(南部)
ソレデモ宜シイ
(栗塚)
此一項デスガ、其不動產所在地ノ登記所ニテト云フヲ矢張リ松岡サンノ修正說ガ出タガ、登記所ニ於テ記入シタルニ非ザレバ、ト云フ方ガ良クハナイカト思ヒマス
(南部)
我輩ハ贊成
(元尾崎)
非ザレバ、デ宜カロウ
(槇村)
宜カロウ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第一項「其不動產所在地ノ登記所ニ於テ記入シタルニ非サレハ之ヲ以テ」云々トシ其他報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百二十條朗讀ス
第千二百二十條 抵當ハ左ノ二箇ノ場合ニ於テハ債務者ニ對シ有効ニ之ヲ記入スル事ヲ得ス
第一 抵當發生ノ後債務者ノ無資力カ適正ニ宣吿セラレ又ハ其財產ノ全部又ハ其大部分ノ差押ニ因リ顯然ト爲リタルトキ伹商法ニ於テ破產ノ場合ニ於ケル記入ノ權利ニ加フル事アルヘキ其他ノ制限ヲ妨ケス
第二 債務者カ死亡シテ相續ヲ受クヘキ總テノ相續人カ單純ニ其相續ヲ受諾セサルトキ〔第二千百四十六條〕
若シ抵當ヲ負擔シタル財產ヲ移付シタルトキハ債權者ノ第三保有者ニ對シテ記入スル權利ノ制限ハ第五節ニ之ヲ定ム
(修正按) 第一號左ノ如ク改ム抵當設定ノ後ニ於テ債務者ノ無資力カ適正ニ宣吿セラレ又ハ其財產ノ差押ニ因リ顯然ト爲リタルトキ但其他破產ノ場合ニ於ケル記入ノ權利ニ加フル事アル可キ商法ノ制限ヲ妨ケス
(南部)
「全部又ハ大部分」ハ要ラヌカ
(栗塚)
要リマセン
(元尾崎)
相續人ハ相續ヲモ拒ンダトキハソレハ記入ガ出來ヌノカネ
(栗塚)
左樣デ御座イマス、何ゼナレバ債務者ガ御座イマセンカラ、債務者ニ對シテ有効ニ記入スル事ハ出來マセン
(元尾崎)
其財產ニ對シテ取ル事ガ出來ルダロウ
(栗塚)
ソレハ併シ抵當ニハナリマセン、實ハ債務者ニ對シテト云フ字ハイラヌ字デ抵當ハ左ノ二箇ノ場合ニ於テ有効ニ記入スル事ヲ得ズ、デ宜シイノデス
(元尾崎)
ソレデ宜シイ
(槇村)
ソレハ良カロウ
(松岡)
第三者ニシテ有効ガ、本統ハ
(槇村)
債務者ニ對シテト云フ字ハ拔ケマセン
(松岡)
債務者承知シテモ第三者ニ向テ効ノ無イノダ
(栗塚)
左樣デス
(南部)
有効ニ出來ヌト云フノカ
(栗塚)
債務者ニ付キト原文ニアルノデ、何ウ云フ意味カナレバ債務者ノ財產ノ上ニ、トアルノデアリマス
(北畠)
債務者ニ對シテ、ハ刪テモ宜シイ
(栗塚)
宜シウ御座イマス
本條第一項「債務者ニ對シ」ヲ刪リ其他報吿委員ノ修正ニ決ス