旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第80回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案財產擔保篇第八十回議事筆記
自第千百八十一條至第千二百條
(委員長)
ヤリマシヨウ
○第千百八十一條朗讀ス
第五則 資產離分ノ先取特權
第千百八十一條 相續ノ債權者及ヒ受囑者カ死亡者ノ資產ト相續人ノ資產トノ離分ヲ請求スルノ權利ヲ行フニ付キ服從スル所ノ條件ハ相續ノ章ニ之ヲ規定ス〔第八百七十八條乃至第八百八十條、第二千百十一條〕
(修正案) 「服從スル所ノ」ヲ「服從スヘキ」ト改ム
(村田)
五則ノ表題ニ特ニ「死亡者ノ」ト云フ字ガアリマスネ
(栗塚)
佛蘭西ニハアリマセン
(元尾崎)
「離分」ト云フノハ分離ト云フ事ダロウ
(栗塚)
左樣デス
(委員長)
之ハ相續ノ章ノ草案ヲ引合セテ見タノカ
(栗塚)
引合セテ見マセン
(西)
人事篇ノ磯部ノ書イタ方ニアリマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百八十二條朗讀ス
第千百八十二條 移付者、共同派分者及ヒ資產ノ離分ヲ請求シタル債權者竝ニ受囑者ノ先取特權ハ債務者自己ノ所爲又ハ其權ニ基キ且債務者ノ費用ヲ以テ不動產ニ加ヘタル增加及ヒ改良ニ及ハス
(修正案) 「自己」ノ二字ヲ刪リ所爲ノ下「ニ因リ」ノ三字ヲ挿入シ「權ニ基キ」ヲ「權利ニ基キ」ト改メ「債務者ノ費用」ヲ「其費用」ト改ム
(栗塚)
「移付者」ハ「讓渡人」トナリマシテ「債務者自己ノ所爲」ト云フノハ「債務者ノ所爲ニ因リ」トナリマス
(村田)
所爲デハナイ行爲ダ
(栗塚)
「行爲」デ御座イマスガ「所爲」ト願ヒマス契約ガカツタ所爲ヲ行爲ト云フ
(元尾崎)
別ニ六ケ敷イ事ハナイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百八十三條朗讀ス
第二款 不動產ニ係ル特別先取特權ノ債權者間ニ於ケル効力及ヒ其順位
第千百八十三條 前款ニ揭ケタル先取特權ハ下ニ定メタル方法、條件及ヒ期間ヲ以テ公示セラレ且保存セラレタルトキニ非サレハ之ヲ以テ他ノ債權者ニ對抗スル事ヲ得ス〔第二千百六條〕
(修正案) 「公示セラレ」ヲ「公示シ」ト改メ「保存セラレ」ヲ「保存シ」ト改ム
(栗塚)
「公示シ且保存シタルトキニ非サレハ」トナリマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百八十四條朗讀ス
第千百八十四條 賣却代價及ヒ補足額ノ爲メノ賣主及ヒ共同交換者ノ先取特權ハ代價又ハ補足額ノ全部又ハ一分ヲ未タ辨濟セサル旨ヲ記シタル所有權移轉證書ノ登記ニ依リテ保存セラル〔第二千百八條〕
又證書ノ登記ハ交換ニ於ケル追奪擔保ノ爲メ及ヒ賣買、交換其他所有權ヲ移轉スル契約ノ附從負擔ノ爲メ先取特權ヲ保存ス伹擔保及ヒ負擔カ證書其モノニ於テ金圓ニテ評價セラレタルトキニ限ル
(修正案) 第一項「賣買代價」ノ下「ノ爲メ賣主ノ先取特權」ノ十字ヲ挿入シ「ノ賣主及ヒ共同」ノ七字ヲ刪リ「登記ニ依リテ保存セラル」ヲ「登記ヲ以テ之テ保存ス」ト改ム又交換第二項ニ於ケル追奪擔保ノ爲メ及ヒ賣買、交換其他所有權ヲ移轉スル契約ノ附從負擔ノ爲メノ先取特權ハ證書ノ登記ヲ以テ之ヲ保存ス但擔保及ヒ負擔ノ評價ヲ證書中ニ記載シタルトキニ限ル
(栗塚)
一項ヲ「賣却代價ノ爲メ賣主ノ先取特權及ヒ補足額ノ爲メ交換者ノ先取特權ハ」ト致シマス
(松岡)
「全部一分」ハ活カスカ
(栗塚)
削ツテ良イ所ト惡ルイ所ト御座イマス
(委員長)
良カロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百八十五條朗讀ス
第千百八十五條 共同派分者ノ先取特權ハ裁判上又ハ裁判外ノ派分ヲ爲ス所有權認定ノ證書ニシテ不可分物公賣ノ代價額又ハ補足額若クハ配當部分ノ取戾額及ヒ追奪擔保ノ評價額其他各配當部分ニ付セラレタル的確又ハ未定ノ負擔ノ評價額ヲ記載シタルモノヲ登記スルニ因リテ保存セラル〔第二千百九條〕
(修正案) 「代價額」ヲ「代價」ト改メ「配當部分ノ取戻額」ヲ「配當ノ過分」ト改メ「評價額」ヲ何レモ「評價」ト改メ「的確又ハ未定ノ」ノ七字ヲ刪リ「因テ保存セラル」ヲ「因リ之ヲ保存ス」ト改ム
(栗塚)
「不可分物」ハ「不分物」ノ間違ヒデ御座イマス「又ハ補足額」ハ餘計デ御座イマス「配當部分ノ取戻額」ハ「配當ノ過分」ト致シマス
(村田)
「代價額」ノ「額」ノ一字ヲ削リマスカ
(栗塚)
削リマス「其他各配當部分ニ付セラレタル負擔ノ評價ヲ記載シタルモノヲ登記スルニ因リ之ヲ保存ス」ト致シマス
(松岡)
證書ヲ登記シナケレバナラヌト云フ事ダ
(元尾崎)
「爲ス所有權認定ノ證書」ト云フノハ足ラヌ樣ダ
(栗塚)
派分ノ保證デアルガ、ソレハ所有權ヲ移轉スルノデナイ認定スル派分ノ證書ダ
(松岡)
裁判所内外ヲ云ハヌ方ガ宜カロウ
(栗塚)
裁判上デ派分スルノト裁判外デ派分スルノトヲ問ハズ
(南部)
鳥渡所有權認定ト云フト裁判上ノ樣ニ見ヘル
(村田)
裁判上デ派分ヲ爲スト云フノダ
(栗塚)
其レカラ持テ居ルノト派分ノ爲メ權ヲ與ヘルノトヲ申スノダカラ認定ノ字モ惡ルイノデス宣吿デ御座イマス
(松岡)
意味ハ認定ガ宜シイ
(元尾崎)
掛リドコロガ長イカラ困ル
(委員長)
「デクララシヨン」ハ認定バカリデハナイ
(栗塚)
「アクト、デレララチーブ」ハ所有權認定トナツテ居リマス
(委員長)
認定デハナイ人ニ知ラセル爲メダカラ
(松岡)
明言スルト云フ事ダロウ
(栗塚)
左樣デス、權利ヲ與ヘルノデナイ、元來持テ居ル權利デス
(委員長)
「リシタシヨン」ト云フ字ハ
(栗塚)
「不分物公賣」デ御座イマス
(委員長)
「額」ノ字ヲ削ツテ宜シイカ
(栗塚)
入レレバ殘ラズ云ヒマシテ「評價ノ總テノ額ヲ登記スルニ因リ」トスレバ宜シイ
(委員長)
價ト云フモノハ何カト云ヘバ額ト違ウト云フ議論ガ起リハセヌカ
(松岡)
少シ其氣味ガアリマス
(村田)
評價ヲ記載スルト云フト外ニナイ
(栗塚)
負擔ヲ記載スルノデ御座イマスカラ
(南部)
「負擔ノ評價ノ額」ト入レテモ宜シイ、皆受ケルカラ
(委員長)
成程其レデモ宜カロウ、大槪間違ハスマイト思フガ文面ノ上カラ云フト可笑シイ先ヅ入レテ置キマシヨウ
本條ハ「負擔ノ評價額」ヲ「負擔ノ評價ノ額」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百八十六條朗讀ス
第千百八十六條 右ノ移付又ハ派分ノ所爲カ登記セラレサル間ハ凡ソ得取者又ハ共同派分者ノ承諾シ又ハ其權ニ基キテ生シタル物上抵保ハ工事ヨリ生スル先取特權アル債權ヲ除クノ外前記ノ抵保カ公示セラレタルトキト雖モ其物上抵保ヲ以テ先取特權アル債權者又ハ其一般若クハ特別ノ承權人ニ對控スル事ヲ得ス然レトモ利害關係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得スト雖モ何時ニ拘ハラス右ノ登記ヲ爲サシムル事ヲ得〔千八百五十五年三月二十三日ノ佛法律、伊民第千九百四十二條第二項〕
(修正案) 左ノ如ク改ム右ノ讓渡又ハ派分ノ證書カ登記セラレサル間ハ取得者又ハ共同派分者ノ承諾シ又ハ其權利ニ基キテ生シタル物上擔保ハ公示シタルトキト雖モ之ヲ以テ先取特權アル債權者又ハ其承接人ニ對抗スル事ヲ得ス但工事ヨリ生スル先取特權アル債權ハ此限ニ在ラス然レトモ利害關係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得スト雖モ常ニ右ノ登記ヲ爲サシムル事ヲ得
(栗塚)
右ノ讓渡又ハ派分ノ證書カ(所爲ハ翻譯ノ間違デ御座イマス)(證書カ登記セラレサル間ハ收得者又ハ共同派分者ノ承諾シ又ハ其權利ニ基キ生シタル物上擔保ハ公示シタルトキト雖モ之ヲ以テ先取特權アル債權者又ハ)ト致シマス
(松岡)
此公示ハ上ノ登記ノ事ヲ云フノデスカ
(南部)
「其擔保ノ公示セラレタルトキト雖モ」ダ
(委員長)
公示シタルト云フノハ分ラヌ
(南部)
擔保ガ公示シタルデス
(委員長)
擔保ガ公示シテ證書ガ登記シテナイ、公示ト云フノハ登記ノ事ダロウ
(栗塚)
左樣デス
(委員長)
其權利ニ基キト云フノハ
(南部)
得取者ノ權利ニ基キデ御座イマス
(元尾崎)
「承接人」ハ「承權人」ガ宜シイ
(松岡)
前ニ「承接人」トシタ
(元尾崎)
取得者ガ質ニ置イテモ、他ノ先取特權者ニ對抗スル事ハ出來ヌト云フノダ
(南部)
元ト賣ツタ者ニ代價ヲ拂ハヌデ元トノ賣主ガ先取特權ヲ持テ居ルト思ヘバ良ク分ル、併シ買ツタ者ハ契約ヲ登記スル事ガ出來ル其レヲスレバ質ヲ取ツタト云フ公示ガ付イテ出來ル
(委員長)
登記ガ出來ヌ事ニナリハセヌカ
(南部)
登記ハ出來マス
(元尾崎)
承諾シナクモ登記ガ出來ルト云フト對抗ヲ爲サヌト云フノハ役ニ立タヌ
(松岡)
貴君ガ私ニ讓ツテ私ト貴君ト登記シテナイ内ニ南部サンニヤツタ、南部サンバ貴君ニ向テ假令私ト貴君ト登記シテモ役ニ立タヌ何ゼカト云フニ私ノ方ニ公然ニナツテ居ラヌ、ソウスルト南部サンバ貴君ト私ノ間ニ何ヲサレテモ云ヒ分ガナイ、其處デ貴君ト私ノ間ノ契約ヲ登記サセテ仕舞フソウスレバ南部サンヲ害スル事ハ出來ヌ
(元尾崎)
ソウスレバ私ハ代金ヲ受取ツテ居ラヌニ登記シテ仕舞フ樣ニナル
(南部)
ソレノミナラズ質ニ取ツタ者ノ權利ガ確カマラヌ
(松岡)
私ガ南部サンニヤツテモ確實ノモノニナラヌ
(元尾崎)
讓渡シタ者ハ派分者ノ一人ノ事ダロウ
(南部)
ソウデス、承權人ニハ登記シタ後對抗スル事ガ出來マシヨウ
(渡)
此修正文ハ原案ノ樣ニシテ然レドモヲ但ニ書イタ方ガ分リ良クハナイカ
(栗塚)
「然レトモ」ヲ別項ニシマシタ
(松岡)
「擔保ハ之ヲ公示シアルトキト雖モ」トスレバ宜シイ
(南部)
ソレガ良カロウ
(松岡)
最初登記シテナイ間ニデモ何レシタレバト云フ樣ニ聞ヘル
(南部)
「間ハ」トアルカラソウハ見ヘヌ
(委員長)
金ヲ渡サズニ置イテ登記ト云フ事ガ出來ルカ
(南部)
未濟ノ場合ガ出來マス、唯ノ登記デモ出來マス
(委員長)
其處デ所有權ガ移ツタト云ヘルカ知ラヌ、品物ヲヤラナケレバ先取特權ガアルガ私ヨリ先キニ先取特權ガ居ル純然タル所有權ハ移ツテ居ラヌ
(栗塚)
移ツテ居リマス
(委員長)
後ロカラ後見人ガ付イテ居ル南部サンノ地面ヲ私ガ買ツテ尾崎サンニ賣ツタ、尾崎サンガ登記ヲスルト云フ場合ニ尾崎サンガ金ヲ半分外拂ハヌトキ南部サンノ承諾ヲ得ズシテ私ガ登記スルト、貴君ガ受取ル金ニ付テハ貴君ハ私ノ財產ノ上ニ先取特權ヲ及ボス事ガ出來ル、私ハ充分ノ所有權ヲ働カセル事ハ出來ヌ
(南部)
ドウ云フ弊ガアリマス、尾崎サンハ貴君ガ代金ヲ私ニ拂ハヌト云フ事ヲ知テ居ル
(委員長)
貴君ト私ト兩人出レバ宜シイガ貴君ニ知ラセヌカラ何ト云フテヤルカ分ラヌ
(南部)
證書ヲ持テ行キマス
(委員長)
「承諾ヲ得スト雖モ」ト云フカラ惡ルイ
(栗塚)
登記役所デ登記ヲスルニハ證書ガナケレバナリマセン、證書ニハ代價ヲ拂テナイト云フ事ガ書イテアルニ違ヒアリマセン
(委員長)
我輩ガ自分デ證明スル丈ケデ南部サンハ何トモ云ハンデ宜シイ
(栗塚)
證書ニ「代價未濟」ト云フ事ガアリマスカラ何トモ云ハンデ宜シイ
(委員長)
代價未濟ト云フ事ハ南部サンハ五百圓未濟ト云フ、私ハ三百圓未濟ト云フ後チニ知レテ登記所デソウデアツタト云フ樣ニナリヤセヌカ承諾ヲ得ズシテヤルト云フ事ハドウデアロウカ
(栗塚)
承諾ハ必要デナイト云フ積リデス南部サンハ許サヌト云フ事ハ云ヘヌ事デスカラ
(南部)
縱令双方ガ合意シテ登記シテモ彼ハ五百圓ト書イテアツタケレドモ三百圓ホカナイト云フ事ヲ賣主ガ云フカ知レヌ
(委員長)
他ノ事ハ承諾ヲ得テヤルニ茲ニ至テ承諾ヲ得ズシテヤルト云フ必要ガアレバ兎モ角モ
(南部)
私ガ承知デナイト云フト尾崎サンハ登記ハ出來ナイ
(委員長)
其レハ此處ニハ限ラヌ、總テ土地ノ賣買ナドモソウダロウ
(南部)
私ガ元トノ賣主デ故障ヲ云フ爲メニ次ギノ人ハ質ニ置ク事ガ出來ヌ事ニナル其不便ヲ避ケル
(委員長)
双方有リノ儘ノ事ヲ云フノダカラ登記ヲスルニ故障ヲ云フ筈ハナイ
(南部)
否ヤト云フカ知レマセン
(委員長)
讓渡ヤ派分ノトキニ云フノデナイ賣買ノトキヲ云フノダ
(栗塚)
承諾ヲ得ヌカラトテ登記ヲスル事ガ出來ル、登記ハ何ヲ書クカト云フト原契約ノ證書カラ移ツテ出タ所ノ權利ヲ登記スルノデ御座イマスカラ不都合ハ御座イマスマイ
(村田)
登記シナクモ所有權ハ移ツテ居ル
(委員長)
理窟ヲ云ヘバソウダガ、先取特權ガ後カラ逐驅ケテ來ルカラ純然タル働キヲ爲サヌ
(元尾崎)
金モ拂ツテナイ、承諾モナイニ登記シテハ困ル
(栗塚)
登記シテモ權利ヲ餘計ニ得ルナレバ兎モ角モ金ヲ拂ツテナイ權利ホカ得ラレマセン
(委員長)
私ノ氣遣ウノハ混雜ヲ來シバセヌカト思フ、承諾ヲ得テヤレバ納得ヅクダカラ宜シイガ、承諾ヲ得ンデモ宜シイト云フト其レガ爲メニ一ノ訴權ヲ增シヤセヌガ双方承諾ヲサセテハドウカ
(松岡)
承諾ヲサセルノガ元トデ御座イマスケレドモ否應云フナラ縱令首ヲ振ツテモ權利デ裁判所デ壓シ付ケテ出來ル
(委員長)
否應云フナラバト云フ事ハ見ヘヌ、否デモ應デモ何トモ云ハンデ宜シイ
(栗塚)
之ハ云ハンデ宜シウ御座イマシヨウ、後ニ縺レノ出ヨウ筈ハアリマセン、登記スルカラト云テ缺ケタ權利ダケノモノホカ登記シテアリマセンカラ、缺ケタ權デアルニ全キモノヲ登記スレバ欺ク樣ニナル
(委員長)
當リ前ニ云ヘバ人間ハ欺カヌカラ宜シイガ、一方ノ承諾ヲ得ヌトキハ五百圓ノモノヲ三百圓ト云テモ登記スルカ知レヌ
(栗塚)
其レハ證書デヤリマス
(委員長)
一方ノ人ノ證書ヲ持テ來レバ宜シイガ
(栗塚)
之ハ私ノ地所デ御座ルト云フ證書ガナケレバナリマセン其證書ガ利害關係人ノ印ノ捺シテアル證書ガナケレバ出來ヌ事デアルカラ
(委員長)
只今ノ登記デモ本人ガ出ストモ契約書サヘアレバ良イ譯ダケレドモ其レヲ本人ガ出ナケレバナラヌト云フノハ間違ガ多イカラダ
(栗塚)
其レハ印形ヲ捺サナケレバナラヌカラデ御座イマシヨウ
(委員長)
印形ヲ捺サナケレバナラヌバカリデハナイ、印形ハ戶長役場ニアル、印形ヲ持テ行ケバ本人ガ出ストモ宜シイガ、定約ヲ確カメル爲メニ双方本人ガ出ル、此場合デハ承諾ヲ得ズト雖モダカラ證書バカリデ宜シイ地所船舶ノ賣買ニハ出頭ヲ要スルシ、コウ云フ場合ニハ承諾ヲ得ズトモ宜シイト云フ輕重ノアルノハ公平デナイ樣ニ見ヘル
(栗塚)
今日デモ地券ト賣渡證書ト戶長役場ノ印鑑證書ト委任狀ガ御座イマスレバ登記ハスル
(元尾崎)
委任狀ハ本人ガ出ル代ハリダ
(委員長)
法文バカリノ事デスレバソウダケレドモ、今ノ處デ證書デモ偽證ガアリ印判デモ偽筆ガアルカラ双方本人ガ出頭スル樣ニナツテ居ル、混雜ガ多クテ事件ガ增スカラダロウ、此處ハソンナニセズトモ宜シイ唯地所、船舶、家屋ノ賣買丈ケ本人ガ出レバ宜シイト云フ區別ハ入ラヌ事ニナツテ來ル
(南部)
之ハ裁判ヲ受ケタモノト見レバ仕方ガ御座イマスマイ、初メ契約丈ケデ登記シナイノガ違約デ御座イマスカラ其レヲ登記シナイノハ賣主ガ惡ルイ、其レデ御座イマスカラ其契約ニ依テ登記スルノハ差支ナイ其レヲ出來ナイトナルト契約ヲシテ後ニ登記スルトキ否ダト云フト出來ナイ事ニナリマス
(委員長)
之ハ「得スト雖モ」ダカラ何トモ云ハンデ宜シイ
(松岡)
承諾ヲスルノガ當リ前デ縱令否ト云ヲウトモト云フノデ御座イマシヨウ
(栗塚)
私ハ相談ニ及バヌト思ヒマス
(渡)
「承諾ヲ得スト雖モ」ト云フノハ無言デヤツテモ宜シイト見ヘル
(委員長)
佛蘭西デハ登記ヲスルニ一方ノ人ヲ呼バヌカ
(栗塚)
一方ノ人ヲ呼ブ必要ハナイ、私ガ地所ヲ買ウノデモ相手方ノ證書ヲ集メテモ宜シイ
(委員長)
委任狀ガアレバ宜シイガ之ニナレバ委任狀ハ入ラヌ
(松岡)
最初讓渡ト派分ノ間ニ登記スルノガ現行法ニアルノデス、此處ハ二人ノ行爲ガアツテ三番ノ人ガ二人ノ間ノ登記ヲサセルト云フノデ御座イマスカラ登記シテ呉レト云ハナケレバ無沙汰デシ樣ト云テモ出來樣ガナイ、契約證書ハ甲乙ガ持テ居ル、丙ガ乙カラ買受ケタ爲メニ自分ノ權利ヲ確カメ樣ト云フノデ御座イマスカラ甲ノ所ノ證書ガナケレバ確カメル事ハ出來ヌ
(委員長)
苦情ヲ云テ出頭シナイトキハ其レヲ書カンノデ登記役所ヘ往ツテ本人ガ承諾シナイカラ登記シテ下サイト云フナラ宜シイガ、其レヲ云ハヌトキハ自分ニ權利ガアル
(松岡)
此法律デ承諾ガナクモ出來ルト云フ權利ヲ與ヘテ御座イマセン、登記ハ丙ガ幾ラ登記役所ヘ往ツテモ出來マセン恰度之ハ獨逸ノ強制執行ノ三ケ條ニアル樣ナモノデ、登記ハ卽チ權制執行ダ裁判ヲ受ケタカラ登記ガ出來ルト云フノト同ジ事ニナル
(委員長)
貴君ノ仰シヤル樣ニスレバ「原契約ノ承諾ヲ受ク之ヲ得スト雖モ」ト書カナケレバナラヌ
(松岡)
ソウデス
(元尾崎)
甲ニ知ラセズシテ乙ト丙トデ登記役所ヘ行ク事ガ出來ル
(南部)
其レハ出來ヌ事ハナイガ、出來テモ差支ナイ
(委員長)
伊太利ニ千百四十二條ハアルカ
(栗塚)
アリマス、尾崎(元)サンガ利害關係人デ自分ノ權利ヲ登記セシムルコトガ出來ル其トキハ南部サント買主ノ委員長ノ承諾ガナクモ出來ル
(村田)
卽チ甲乙ノ間ノ證書ダ
(南部)
尾崎サンガ若シ此證書ヲ登記致シマセントキニハ私ハ其地所ヲ他ヘ賣ルカモ知レマセン其トキ尾崎サンノ質ノ功ハナクナツテ仕舞フ
(委員長)
其爲メニハ宜シイカ貴君モ登記シテ居ラズ、私モ登記シテ居ラズ、尾崎サンニ至テ始メテ登記スル
(南部)
私ト貴君ト登記ヲスル、尾崎サンガ登記スル時分ニ貴君ト私ノ證書ヲ持テ行カナケレバ登記シマセン
(委員長)
尾崎サンノ證書ノ中ヘ南部サンノ地所デアツタノヲ讓リ受ケテ今御尾崎サンニ質入レシタト云フカラ尾崎サント私ノ契約書ニ書イテアル、其契約書ニ依テ登記スル
(南部)
當事者ノ間ノ契約書デナケレバイケマセン
(委員長)
登記ヲ承諾セヌモノハ證書ヲ見セ樣ガナイ
(南部)
双方取リ換ハセヲシテ居リマス
(委員長)
原契約書ト云フカラ貴君モ私モ承諾セヌノヲ松岡サンガ登記スルノダロウ
(南部)
尾崎サンノ所有者ハ貴君デ御座イマスカラ其間ハ當事者デ御座イマス
(委員長)
貴君ト私トノ契約書デナイ、尾崎サント私ノ間ノ事ヲ登記シテ貰フ
(南部)
ソウデハアリマセン、私ト貴君ノ證書ヲ以テ尾崎サンカラ屆ケル
(委員長)
其レハ尾崎サント私ノ間ノ契約ヲ確カメル爲メデアツテ、貴君ト私ノ間ノ契約ヲ確カメル爲メデナイ、私ノ云フ處ハ貴君ト私ノ契約ハ誰ガヤツテモ尾崎サント私ノ間ノ契約ヲ確カメル登記デ第一第二ノ人モ登記シテ居ラヌニ第三ノ人ガ承諾ナクシテ登記シテ良サソウナモノダ
(南部)
尋常ノ事ト異常ノ事トヲ御混淆ニナツテ居リマス、只今デモ甲乙丙ト三人居ル、甲乙ノ登記ノ絕ヘテ居ルトキハドウスルト云フ伺ヒガアリマシタ、ソレハ仕方ガナイ、其レハ丙ガ登記シテ良イト云フ事ニナツテ居リマス
(栗塚)
隱然ト利害ノ關係人デアル、若シ南部サンノ物ダト云フテ他ヘ賣ラレテハ構ハヌカラ抵當ニ取タト云フ事ニナルカラ尾崎サンハ安心ガ出來ル、其レガ登記ガ出來ヌトナレバ不動產ノ融通ガ止ツテ仕舞フ
(委員長)
承諾セヌトカ死ンダトキハ宜シイガ「承諾ヲ得スト雖モ」ト云ヘバ承諾ヲシテモセンデモト云フ事ニナル、之ハ承諾ヲ得ルノガ本體デアツテ得ラレナイトキハコウスルト云フナレバ宜シイガ、初メカラ承諾ヲ得ズシテ宜シイト云ヘバ現行ノ登記モ承諾シナイデ宜シイ
(南部)
「承諾セヌトキハ」ト云フテモ宜シイ
(栗塚)
其レハ差支アリマセン、唯南部サンガ故障ヲ云テ承諾ヲセヌトキハ
(元尾崎)
其トキハ訴ヘルガ宜シイ、二項ヲ削レバソウナル
(栗塚)
ソウスレバ其間ハ抵當ニ取ル事モ委員長ガ賣ル事モ出來ヌ
(松岡)
承諾セヌト云フ事ヲ證明スルノハドウシテスルカ
(元尾崎)
其レハ二番目ノ人ト三番目ノ人ト往テ云ヘバ出來ルト云フデハナイカ
(松岡)
承諾シナイト云フ證明ヲシナケレバナラヌ
(元尾崎)
承諾ヲセンデモ宜シイト云フ本則ダカラ證明スルニ及バヌ
(委員長)
松岡サンノ味方ナラ宜シイガ、ソウハ解セラレナイ
(委員長)
原案者ノ旨意ハ松岡サンノ旨意カ、栗塚ノ旨意カ分ラヌ
(南部)
元トノ旨意ハ栗塚君ノ云フ旨意ダ
(元尾崎)
松岡サンハ無理ニ引付ケテ見ルノダ已ニ賣ツタト云フテ何ゼ登記センデ置クカ
(松岡)
ソンナ事ヲ云ツタラ止メルカ知レマセン
(元尾崎)
一旦契約シタルモノヲ止メヌト云フノハ君方モ承知ダロウ
(渡)
「契約者ニ請求セサル場合ト雖モ」トスレバ宜シイ、削ルノハ良クナイ
(大尾崎)
一體登記シテナイモノヲ抵當ニ取ル筈ハナイ
(委員長)
「ボアソナード」ノ旨意ハ賣主モ買主モ關係セヌトアル
(栗塚)
買主ハ義務ヲ示シテアルカラ承知ヲスルダロウガ、賣主ハ知ラヌト云フダロウ、其レハ買タ人ガスルガ宜シイト云テモ其時買主ニ頼メバ承知スルニ違ヒナイ、南部サント云フ賣主ノ承諾ナクモ登記スル事ガ出來ルトアリマス
(委員長)
ソレノミナラズ買主ノ承諾ナクモ出來ルトアルカラ、南部サント契約シテ尾崎サンカラ金ヲ借ル當時ニ證書ヲ見セテ契約書ヲ書イテ箇樣々々ナ文章デ南部サント契約シテ所有權ガ移ツテ居ル
(委員長)
其レガ宜シケレバ他ノ地所賣買デモ承諾ヲ得ンデ出來ソウナモノダ
(栗塚)
其レハ別デ御座イマス、間ノ所有權ノ定マリ方ヲキメタノデス
(委員長)
賣買ニシロ服從シナケレバナラヌト云フ程ノ力ヲ持ツモノナレバ他ノ契約書モ承諾ナクモ効力ガアリソウナモノダ
(栗塚)
其レハ今日ノガ良イカ惡ルイカノ問題デス
(元尾崎)
返ヘリ證文ト云フノガアル
(大尾崎)
元來登記シテナケレバ金ヲ貸サヌ
(栗塚)
私ガ極ク南部サンヲ信ジテ居ラナケレバ登記シナイ
(松岡)
之ハ私ノ解スルノガ良カロウト思ヒマスガ「ボアソナード」ニ聞イテ貰ヲウ
(委員長)
註ニモ立派ニアリマス、尤モ尾崎サンノ論ハ私ノ論トハ違ウカ知レヌガ、第二ノ得取ダケニ對シテハ前ノ權利ヲ確カメルニ容易ニスルガ、人ト人ト相互ノトキハ簡易デナイ、一方ヲ鄭重ニシナケレバナラヌト云ヘバ一方モ鄭重ニシナケレバナラヌ、此處ハ簡便デアルガ其裏デ混雜ヲ受ケルノハ免カレヌカラ其處ハ講究シ度イト思ヒマス
(南部)
講究ナサル程ノ事ハナイ
(委員長)
伊太利法ニモ原契約者ノ承諾ヲ得ズシテト云フ事ハナイ、第三者ハ仕合セカ知レヌケレドモ南部サンハ利益ガナイ
(栗塚)
利益ガナイドコロデハナイ、貴君ノ取テ仕舞ツタノデスカラ
(委員長)
其トキ登記ヲシナイノヲ第三ノ人ノトキ登記シナケレバナラヌト云フ必要ガアルカナイカ、ソウ云フ場合ニハ元トノ人ノ登記カラサセテヤルノガ當然デ、登記ヲシナケレバ承諾サセテヤル
(栗塚)
併シ何カ必要ガアリマシヨウ
(委員長)
ケレドモ人ハ死ニモスルシ、如何ナル變ガアルカ知レヌ、然ル爲メニ登記ヲスルノハ當然ダ其レヲセズシテ居ル位ノ者ハ承諾ヲセズシテ第三者ガ一人デ往テ登記ヲシテ宜シイト云ヘバ地所ノ賣買モ何モ契約サヘアレバ承諾サセル必要ハナイ、其レ程ナレバ此處ノミデハナイ、全體ノ登記ハ總テ契約書ニ依テヤル承諾ハ入ラヌト云ハナケレバナラヌ其レヲ一方ハ卽チ不動產ノ賣買移轉ハ總テ双方ノ承諾ヲ得ナケレバ登記ヲサセヌト云フ事ヲ置イテ此處丈ケハ簡便ニナルニ依テ第三者ガ登記サヘスレバ第一モ第二モ何トモ云フ事ハナラヌト不權衡ニ定メルカ
(栗塚)
貴君ガ勝手ニ登記ナサイ、兩人ノ間ハ登記ナドヲスルニ及バヌ、處ガ抵當ノ取主ハ復タ南部サンガ他ヘ賣ル事ガアルカ知レヌカラ登記スル
(委員長)
ソンナラ尋常ノ不動產ノ登記モ同ジ事ダ
(栗塚)
同ジ事デス
(委員長)
此手續ヲ箇樣ニシテ宜シイト云ヘバ今日ノ手續モ箇樣ニシテ宜サソウナモノダ、兩人ノ間ノ契約ハ現行法ナレバ南部サント我輩ト賣買シタトスレバ南部サンノ承諾ヲ得テ登記所ヘ行ク
(栗塚)
抵當ニ付テハ承諾ガ入ル
(委員長)
抵當ニハアル、我輩ト尾崎サント抵當ハ承諾シタケレドモ登記ノ事ハ我輩ノ承諾ヲ經ンデモ尾崎サンバ登記ガ出來ル、其レデ效力ガアル、登記法ハ南部サント我輩ト登記ヲシナケレバナラヌトナツテ居ル
(栗塚)
ソレハ登記スルトキ二人デ出ルト云フ話シデス
(南部)
否ト云フタトキ仕方ガ御座イマスマイ
(委員長)
現行法デ否ト云フタラドウスル
(南部)
現行法ハ二人ノ間ヲ云フノデ御座イマスカラ向ウガ承知ヲスレバ當リ前ノ手續ヲスル、何ゼ承諾ガ入ラヌカト云フト若シ承諾セシムルト云テモ承諾サセル事ガ出來マセンカラ
(委員長)
之ハ承諾ヲサセンデモ宜シイト云フ事ダ、二項ノ場合ト現行法ノ登記ノ場合デハ其權利ヲ確カメルニ於テ違ツタ事ハナイ
(南部)
現行法デ先取特權ナドヲ支配スル事ハ出來マセン
(委員長)
之ハ承諾ヲ得ルト得ヌトノ違ヒダカラ
(南部)
現行法ノ承諾ヲ得ルト云フノハ
(栗塚)
此處ハ貴君ト五、六ケ月前ニアツタ賣買ノ事ヲ登記スル
(委員長)
ソウ解シテハイケナイ
(南部)
ソレハソウデス
(委員長)
前ノ事ヲ登記スルノハ自分ノ抵當ヲ確カメルノダカラ
(栗塚)
右ノ登記ト云フノハ南部サント貴君トノ事ヲ尾崎サンガ登記サセレバ自分ノ權利ガ確カマル
(委員長)
尾崎サンガ取ツタ抵當ヲ確カメル爲メニ登記スルノダ
(栗塚)
兩人ガ賣買ト云フモノガ確カニナツテ居レバ私ガ登記サセテモ良カロウ
(委員長)
登記官ノ面前デスルト云フノハ今日必要ナ處ダ、其レヲ契約ハ何時シタヤラ分ラヌノヲ其者ガ承諾センデモヤルト云フ事ハナイ
(元尾崎)
六ケ月モ前ノナラ古證文カ何カ分ラヌ、其レダカラ本人ガ出テ行カナケレバナラヌ
(委員長)
法律ヲ丸呑ミニサレテハ困ルカラ良ク議シテ貰ヒ度イガ、私ノ云フノハ原案者ガ「契約者ノ承諾ヲ得ス」ト云フ事ヲ入レタ所以ハドウ云フモノカト云フ事ヲ講究シテ貰ヒ度イ
(栗塚)
詰リ今日ノ處デ甲乙ノ間ノ登記ニハ双方出ルト云ヒ、第三者ノ所ハ書イテナイガドウシタラ良カロウト云フ御考デスガ、第三者ニ賣ル量見モ何モナシデ南部サント賣買ガ成立テ其レヲ抵當トスルトキ尾崎サンバ貴君ノ地所ト仰シヤルケレドモ南部サンノモノデハアリマセンカ、其レハ登記コソシナイケレドモ證書ガアル、私ハ信用ガ出來ヌカラ兩人デ登記シテ參リマシヨウト云フ事ガ出タトキハドウシマスカ
(委員長)
尾崎サンノ登記ヲシテ貰フノハ何ノ爲メカ第三者ノ爲メニ登記スル、第一者ノ關係ノ爲メニ登記ヲ置ク場合デアル、唯二人デヤルトキハ第三者ノ爲メニ登記スルノデアル第三者ノ爲メニ登記ヲスルトキハ登記官ノ面前ニ出ナケレバナラヌ、第四者ノ爲メニスルノハ何ゼ承諾ガ入ラヌカ
(栗塚)
登記ガシテアリマスカト聞イテ、登記ハシテアリマセント云ヘバシテナケレバ金ヲ貸ス事ハ出來マセン、其レハ兩人ノ間デ信用ガアリマスカラソレデハ登記シテ參リマシヨウト云フ
(松岡)
抵當ヲ取ルト云フ相談ノトキナレバ宜シイガ、自分ノ抵當ハ濟ンデ仕舞ツテ居ル、已ニ自分ノハ公示シタ程ノ事デアツテモ元トノガ登記ガナケレバ元トノ人ニ向ツテ口ガキケナイ、其時分ニ元トノ人ノ契約ヲ登記シ樣ト云フトキ元トノ人ノ承諾ドコロデハナイ何モ云ハズシテ一人デ登記スルノハ如何ナル秘術ガアツテ知ルカ
(栗塚)
前ノ條デハ抵當取主ガ南部サント委員長トノ間ニアツタ讓渡ヲ登記シテナイトキハ私ガ質ニ取ロウトモ私ノ權ヲ登記スル事ハ出來ヌ、登記シテモ對抗ハ出來ヌ
(松岡)
何ヲ登記スルダロウ
(栗塚)
所有權ガ貴君ニ移ツテ居ルト云フ事ヲ
(松岡)
貴君ハ私ノモノト信用シテ質物ニ取ツテ居ル
(栗塚)
貴所ノ物ト云フ事ヲ信用シナケレバ金モ貸サヌ
(松岡)
貴所ノ云フ樣ニスルト公示ヨリ前ニスルトキニ限ル樣ニナル
(栗塚)
前デモ後デモ假令バ南部サンハ貴君ガ所有者デナイト云フ事ハ云フマイ萬一彼ハ賣テナイト云フ樣デハ困ルカラ南部サンガ賣ツタト云フ事ヲ登記シテ置キ度イ其レハ南部サンノ承諾モ貴君ノ承諾モ受ケナイデ宜シイ
(松岡)
ドウシテ知レルダロウ
(栗塚)
登記役所ニ「南部サン」ト云フ事ガ書イテアル、ドウ云フ譯ダト云フト之ハ南部君デアツタト云フ、ソンナラ登記シ樣否ト云フテモサセル
(松岡)
其レハ神通力ガナケレバ分ラヌ、已ニ公示スルト云フノハ登記ヨリ前ニ合意ノアツタノガアル、其レハ對抗ガ出來得ヌ
(栗塚)
第三者ガ知テ居ルト見ナケレバナラヌ
(松岡)
共有物デアツタリ會社デアツタリスルトキハ必ラズ南部サンノモノト思フ筈ハナイ私ノ物ト思フカ知レヌ
(栗塚)
然ルニ登記シテ置キ度イト云フ念ハ何カラ出來テ來マス
(松岡)
買主モ賣主モ承諾ガ得ヌトキ登記役所ニ往ツテモ分ラヌ
(栗塚)
之ハ南部サンノ地所トナツテ居リマシタガ、私ガ抵當ニ取リマシタトキニ始メテ貴君ノ物ト云フ事ガ分ツテ居ル
(松岡)
其レハ共同ニ派分スル樣ナモノダ
(栗塚)
元トノ名ガ貴君トナツテ居ラヌ登記役所ノ帳簿ガ分ツテ居ラヌ場合ニ書換ヘガ出來ル
(松岡)
ドウシテ出來ルダロウ、詰リ私ノ云フノハ賣主買主ノ承諾ヲ得ズ走ツテ往ツテ出來ル筈ハナイ
(栗塚)
賣主ト買主ノ關係ガ定マツテ居ラヌ以上ハ初マル筈ハナイ
(元尾崎)
起案者ニ聞クガ宜シイ
(淸岡)
委員長ノ云ハルル如ク承諾ヲ要スルガ良イカ惡ルイカヲ講究モスルガ宜シイ
(委員長)
起草者ニ聞クノハ別段ノ事トシテ現行ノ法律ハ獨リデ出タノデナイ、佛蘭西ノ登記法ニ因ツタノデ登記官ノ面前デヤルトナツテ居ルカラ現行ノ法律ハ面前デヤラナケレバナラヌ、然ルニ此處デハ一方デ宜シイト云フガ之ハ一樣ニナルベキモノカ、其レ程ノ區別ヲシナケレバナラヌモノカト云フ事ヲ報吿委員ニ於テモ調ベテ貰ヒ度イ
本條ハ報吿委員ニ於テ調査シ且起案者ニ質問スル事ニ決ス
○第千百八十七條朗讀ス
第千百八十七條 若シ移付又ハ派分ノ證書ニ其對價物ノ全部若クハ一分ヲ未タ辨濟セサル事又ハ負擔ノ付セラレタル事ヲ記載セサルトキハ債務ノ成立スル間ハ日後ノ證書ヲ以テ此遺脫ヲ補フ事ヲ得テ其證書ハ債權者ノ注意ヲ以テ移付ノ證書ト相合シテ之ヲ公示スル事ヲ得
若シ右ノ證書ヲ登記ヲ以テ公示セサルトキハ移付者ハ何時ニテモ抵當ノ章ニ定ムル所ノ方式ニテ爲シタル要旨ノ記入ヲ以テ其證書ヲ表顯スル事ヲ得然レトモ此場合ニ於テ先取特權ハ單純ナル法律上ノ抵當ニ變性ス
二回ノ公示ノ間ニ於テ債務者ニ移轉セラレタル不動產ニ付テノ物權ヲ債務者ノ權ニ基キテ得取シ且合式ニ之ヲ公示シタル第三者ニハ右ノ抵當ヲ以テ對抗スル事ヲ得ス
若シ移付若クハ派分ノ證書ニ記シタル負擔又ハ擔保ノ未定債權カ主タル證書ヨリ後ノ證書ニ於テノミ評價セラレタルトキモ亦同シ伹其證書ノ抵當記入ハ其記入ヲ爲シタル日附ノミニ於テ債權者ニ其順位ヲ付與ス
(修正案) 第一項「負擔ノ付セラレタル事ヲ」ヲ「負擔ノ付シ有ル事ヲ」ト改メ「補フ事ヲ得テ」ヲ「補フ事ヲ得且」ト改メ「相」ノ一字ヲ刪ル同條第二項「右ノ」ヲ「右日後ノ」ト改メ「登記ヲ以テ」ヲ「登記ト共ニ」ト改メ「所ノ」ノ二字ヲ刪リ「然レトモ」ヲ「但」ト改ム同條第三、四項左ノ如ク改ム第三項右ノ抵當ハ二箇ノ公示ノ間ニ於テ債務者ノ權利ニ基キ物權ヲ取得シ且合式ニ之ヲ公示シタル第三者ニ之ヲ以テ對抗スル事ヲ得ス第四項若シ讓渡若クハ派分ノ證書ニ記シタル負擔又ハ擔保ノ評償ヲ日後ノ證書ニ記載シタルトキモ亦同シ但其證書ノ抵當記入ハ其記入ヲ爲シタル日附ニ從ヒ債權者ノ順位ヲ定ム
(栗塚)
「若シ」ヲ削ツテ「讓渡又ハ派分ニ因リ」ト致シマス
(元尾崎)
二項ハ讓渡人バカリカ、派分ノ方ハ籠ツテ居ラヌカ
(村田)
「讓渡ハ」デハナイカ、英文デハ「讓渡」ニナツテ居ル
(元尾崎)
ソレナラ宜シイガ、讓渡人ト云フト賣買バカリニナル
(委員長)
其レヲ云ヘバ一項モソウダ
(栗塚)
一項モ「讓渡又ハ派分ノ證書」ト致シマシヨウ二項モ「讓渡人又ハ共同派分者ハ」ト致シマス
(元尾崎)
「債權者ハ」デモ宜シイデハナイカ
(栗塚)
「債權者」デモ宜シイ
(槇村)
其證書ヲ表顯スルト云フノハ公示デスカ
(栗塚)
公示デ御座イマス、公示ノ結果デ御座イマス
(槇村)
「公示」トシテハ惡ルイカ
(栗塚)
記入ヲ以テ表示スルト云フノガ公示デ御座イマスカラ記入スルト云フト重複ニナリマシヨウ
(村田)
一項ノ「派分」ノ上ニ「登記シタル」ト云フ字ハアリマセンカ
(栗塚)
アリマセン
(委員長)
「債務者ノ權利ニ基キテ物權ヲ取得シ」ト云フノハ
(栗塚)
債務者ガ誰レニカ賣テアツタト云ヘバ債務者ノ相續人ガ權利ヲ得ル、債務者ニ相續シテトカ、債務者ニ代位シテトカ云フ事デス
(委員長)
債務者ノ權利ニ基キ得取シタルモノハ
(栗塚)
債務者カラ物ヲ買テ合式ニ公示シタルデ御座イマス
(委員長)
ソウカ、債務者ガ得取シタ樣ニ見ヘル
(松岡)
二項ハチト分リ兼ル「若シ右ノ證書ヲ登記ヲ以テ公示セサルトキハ」ト云フ事ニナルガ一項デハ主タル證書ヲ登記シテナカツタトキハ後チニ行ヘル、二項デハ主タル證書ノ登記シテナカツタトキハ一分ヤ何カノ事柄ガ必要ニナツタトキハ其レニ附記シテ出サセル、其レヲ修正デハ「日後ノ證書ヲ登記セサルトキハ」ト云フト違ウ
(栗塚)
右ノ證書ト云フノハ何デス
(松岡)
註デ見ルト主タル物ヲ登記シタケレドモ色々ノ事ヲ何シテナイトキハ日後ノ證書デ補フ、右ニ反シテ一ノ區別ガアルニ主タル證書ノ登記ノ非ザルトキハ補充證書ヲ加ヘテ登記スルト云フノダガ、日後ノ證書ヲ登記ト共ニト云フト違ウ
(栗塚)
日後ノ證書ヲ本證書ノ爲メニト云フノデ御座イマス
(松岡)
元トノ分ガ主タル證書ニ登記シテナイトキハト云フノダ
(南部)
讓渡ノ證書ガ抵當ニナル
(栗塚)
註ノ二項ニ若シ其證書ガ登記ト共ニ記入セラレザルトキニハ讓渡人ハ次ギニ之ヲ示ス事ガ出來ル
(南部)
二項ノ場合デハナイ一項ノ場合ダ
(松岡)
前項ヲ二ツニ分ケルノハ已ニ登記ヲシタトキト、登記ヲシテナイトキト云フノカ
(栗塚)
左樣デス「日後ノ證書ヲ讓渡シ又ハ派分ノ證書ト共ニ公示セサルトキハ」トシテモ宜シウ御座イマス
(村田)
其方ガ良カロウ
(栗塚)
「證書ノ登記ト共ニ」デモ宜シイ
(委員長)
三項ガ分ラヌ
(栗塚)
二箇ノ公示ノ間ニ、南都サンノ公示ニ基イテ栗塚ガ物權ヲ得タトキハ栗塚ニ對抗ハ出來ヌゾヨ、南部サンガ抵當權ガアルト云テモ其レハ出來ヌ
(南部)
登記セズシテ他ヘ移ツタノデ御座イマスカラ
(委員長)
公示ノ間ト云フト一方ガヤツテ、一方ガヤラヌ間ノ樣ニ見ヘル
(栗塚)
元トノ證書ハ登記ガシテアル、二度目ノ代價ガ不足シテアルトカ
(松岡)
主タル證書ノナイ間ハ一所ニ出來ル
(栗塚)
ソウデス其間ニヤラレタモノガ三項デス
(松岡)
代價ヲ取ランデ居テ一所ニ公示スレバ賣ツタト云フ事ダケ單純ニ登記シテ後チニ代價未濟ト書ケバ
(栗塚)
知ラヌ前ニ抵當ニ取ツタ者ハ知リマセント云フ事ガ出來ル
(松岡)
四項ハ假令バ負擔ガアツテ代價未濟ト書イテアツテモ高ガ書イテナケレバ役ニ立タヌ高ヲ書イタ日カラ抵當ニナル
(栗塚)
ソウデス
(委員長)
右ノ抵當ガ二箇ノ公示ノ間ニ於テト云フト最初ニ賣買契約ヲシタト云フモノト、今度ノ日後ノ證書ノ間ニ見ヘヌ樣ダ、二箇ト云フノハ日後ノ證書ト合シテ公示スルト云フ樣ニ見ヘルカラ、ソウスルト日後ノ證書ノ補ヒヲシテカラ今度讓渡派分ノ證書ト合シテ公示セヌ前ニ誰レカ外ノ者ガ合式ニ公示シタトキハト云フ樣ニ見ヘハセヌカ
(元尾崎)
之デ宜シイト思フ
(委員長)
二箇ノ證書ハ
(栗塚)
日後ノ證書ト讓渡派分ノ證書デ御座イマス
(委員長)
日後ノ證書ガ先キヘ書イテアルカラ本證書ノ前ト讀ミハセヌカ
(南部)
其疑ヒハアリマセン
(委員長)
權利ニ基イテ得取シタト云フノハドウカ知ラヌ
(栗塚)
直譯スルト債務者ノ一方カラト云フノデ御座イマス
(委員長)
權利ニ基ヅキハ澤山極ツテ居ルカ知レマセンガ
(栗塚)
之ハ大變研究シテ再調査ガ宜シイト云フノデ箕作サンモ服シタノデ御座イマス
本條ハ左ノ如ク決ス第一項「移付ノ證書ト相合シテ」ヲ「讓渡又ハ派分ノ證書ト合シテ」ト改メ第二項「若シ右ノ證書ヲ登記」ヲ「若シ右日後ノ證書ヲ讓渡又ハ派分ノ證書登記」ト改メ「移付者」ヲ「債權者」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百八十八條朗讀ス
第千百八十八條 賣主及ヒ其他ノ移付者又ハ共同派分者ノ先取特權ガ法律上ノ抵當ニ變性シタルトキハ右抵當ノ記入前ニ移付又ハ派分ノ目的タル不動產ニ付テノ物權ヲ債務者ノ權ニ基キテ得取シ且合式ニ保存シタル第三者ヲ害シテ義務不履行ノ爲メノ解除訴權ヲ行フ事ヲ得ス〔千八百五十五年三月二十三日ノ佛法律第七條〕
(栗塚)
本條ハ質問中デ御座イマス、其質問ノ點ハ解除訴權ヲ行フ事ヲ得ズト云フ解除訴權ノ意味デ御座イマス其レヲ質問中デ御座イマス、法律上ノ抵當ニ變性シタト云ヘバ解除訴權ハナサソウナモノダ
(南部)
前ノハ持ツケレドモ後チノハ持タヌ
(栗塚)
抵當ニ變ジテ解除訴權ヲ行フハ變デ御座イマスカラ質問致シマシタ
(槇村)
之ハ答ヘノアル迄此儘ニ置イテ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ起案者ニ質問中ニ付未定
○第千百八十九條朗讀ス
第千百八十九條 工匠、技術師又ハ工事請負人ノ先取特權ハ第千百七十九條ニ定メタル最初ノ二箇ノ調書ノ記入ニ因リテ保存セラル
場所ノ現狀ヲ證明シ及ヒ行フ可キ工事ヲ指示スル第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ記入スル事ヲ要ス
竣成シ又ハ絕止シタル右ノ工事ヨリ生スル增價ヲ證明スル第二調書ハ前記ノ條ニ定メタル期間ニ爲セシ其作成ヨリ一ケ月內ニ於テ之ヲ記入スル事ヲ要ス
第二調書ノ記入ノ効力ハ第一調書ノ日附ニ遡及シ總テ工事前又ハ工事後ニ債務者ト約定シタル各人ニ對シ先取特權アル債權者ニ其增價ニ付キ優先權ヲ保ス〔第二千百十條〕
利害關係人中一人ノ爲シタル右調書ノ記入ハ委任ナキトキト雖モ他ノ者ニ利シ且總テノ者ヲシテ其債權ノ割合ニ應ジテ辨濟ヲ受クル爲メ同一ノ順位ヲ保有セシム伹此カ爲メニハ有益ノ時期ニ於テ必要ナル證明ヲ爲ス事ヲ要ス
(修正案) 第一項「最初ノ二箇」ヲ「第一第二」ト改メ「記入ニ因リテ保存セラル」ヲ「記入ヲ以テ之ヲ保存ス」ト改ム同條第二項「場所」ヨリ「指示スル」迄ヲ刪リ第一ノ上ニ「其」ノ一字ヲ挿入ス同條第三項左ノ如ク改ム其第二調書ハ作成ヨリ一ケ月内ニ於テ之ヲ記入スル事ヲ要ス同條第四項左ノ如ク改ム第二調書ノ記入ノ効力ハ第一調書ノ日附ニ遡及シ且工事ノ前後債務者ト約定シタル各人ニ對シ其增價ニ於ル優先權ヲ先取特權アル債權者ニ保有セシム同條第五項「他ノ者ニ」ヲ「他ノ關係人ヲ」ト改メ「總テノ者ヲシテ」ヲ「總テノ者ニ」ト改メ「爲メ」ノ下「ノ」ノ一字ヲ挿入ス但以下修正ノ意見アリト雖モ起案者ニ質問中ニ付キ他日報吿スヘシ
(栗塚)
「技術師」ハ「技師」ト致シマス
(元尾崎)
記入ト云フノハ登記ノ事ダロウ
(栗塚)
ソウデス
(松岡)
之モ「公示シ」トシタラ良カロウ
(元尾崎)
「第二調書ハ其作成ヨリ」トシタラ良カロウ
(渡)
「其」ハ削ルガ良カロウ
(栗塚)
其レデハ「第二調書ハ其作成ヨリ」ト致シマシヨウ、四項ハ「遡及シ且工事ノ前後債務者ト約定シタル各人ニ對シ增價ニ於ケル優先權ヲ先取特權アル債權者ニ保有セシム」ト致シマス
(槇村)
「其增價」ノ「其」ハアリマセンカ
(栗塚)
「增價ニ於ケル」デ宜シイト思ヒマス
(松岡)
「其」ノ有ル方ガ宜シイ
(渡)
五項ノ但以下ハ質問中トアル
(松岡)
入ラヌ事ト思フ
(栗塚)
質問ノ理由ヲ忘レマシタ
(松岡)
調書ヲ一所ニ拵ヘタ人デ記入丈ケヲ一人ガスレバ外ヘ係ルト云フノダナ
(南部)
ソウデス
(委員長)
一人ノ人ガ記入ヲスル迄ニ銘々ノ持分ヲ申出シテ置カナケレバナラヌト云フノダカラ當然ダト云フノダロウ
(栗塚)
之ヲシナカツタラ無論出來ヌデハナイカ云フ迄ハナイ
(元尾崎)
跡カラ云フ事カ知レヌ
(栗塚)
證書ニ載テ居リマセンカラ但之ガ爲メニハトハナイノデ御座イマス總テノモノガトアリマス、是レ丈ケノ事ナラ書クニ及バズ但ガ入用ナラ何トカ入用ラシク書イテ呉レヌト是レ丈ケナレバ削リ度イト云フテヤツタノデ御座イマス
(槇村)
ソレデ置キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項第二項報吿委員ノ修正ニ決ス第三項左ノ如ク改ム第二調書ハ其作成ヨリ一ケ月内ニ於テ之ヲニ記入スル事ヲ要ス第四項「其增價ニ」ハ原案ノ儘トシ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第五項但書ハ起案者ニ質問中ニ付未定トシ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十條朗讀ス
第千百九十條 若シ前條ニ規定シタル期間ニ於テ二箇ノ調書中一箇ノ記入ヲ爲サヽリシトキハ先取特權ハ法律上ノ抵當ニ變性シ其抵當ノ順位ハ增價ニ付テハ左ノ日附ヲ以テ定メラル
第一 若シ第二調書ヲ工事ノ竣成又ハ絕止ノ時ヨリ三ケ月內ニ於テ作成シ且次月內ニ之ヲ記入シタルトキハ第一調書ノ遲延記入ノ日附
第二 若シ右ノ三ケ月內ニ於テ第二調書ヲ作成セス又ハ三ケ月內ニ於テ之ヲ作成シタルモ次月內ニ之ヲ記入セサルトキハ其第二調書記入ノ日附〔第二千百十三條〕
(修正案) 第一項「一箇」ヲ「其一」ト改メ「抵當ノ」ノ三字ト「增價ニ付テハ」ノ六字ヲ刪リ「定メラル」ヲ「之ヲ定ム」ト改ム
(元尾崎)
「增價ニ付テ」ト云フ事ハ入用デハナイカ
(南部)
增價ト云フ事ハ初メノ原則デ分ツテ居ル
(栗塚)
「前條ニ規定シタル期間ニ於テ二箇ノ調書中其一ノ記入ヲ爲ササリシトキハ先取特權ハ法律上ノ抵當ニ變性シ其順位ハ左ノ日附ヲ以テ之ヲ定ム」ト致シマス
(村田)
之ハ第一調書ヲ作ラヌ場合デスカ
(栗塚)
遲ク作ツタ場合デス第二ノ調書ガ記入シテアロウトモ第一調書ガ記入シテナイトキハ第二調書ヲ記入シタトキカラダゾヨ
(村田)
第二調書ヲ記入シタ後ニ第一調書ヲ記入スル事ガ分ルカ知ラヌ
(南部)
ソンナ事ハナイ、第一調書ノ遲延記入ト云フ處デ遲クナツタ事ガ分ツテ居ル
(栗塚)
詰リ怠リタル人ヲ責ムル爲メニ怠リタル日カラト云フノデス
(元尾崎)
第二ノ場合ハ第一調書ヲ出シテ無クモカ
(栗塚)
第一ガ立派デモ第二ガ後レテ居レバ其後レタ時ヨリト云フノデス
(大尾崎)
第二ノ調書ヲ遲延シテ記入シタトキハ其遲延シタ日カラ
(南部)
第二調書ガ規則通リニ往ツテ居レバデス
(松岡)
何デモ間違ヘバ間違ツタ時カラ食ヒ付カレル
(委員長)
前ノ同一ノ順位ト云フノハ均シク分ツト云フノデハアリマセンカ
(栗塚)
前ノハ左官ニ大工ニ家根屋ト居テ其内左官ガスレバ他ノ大工モ家根屋モ利益ヲ蒙ツテ抵當權ヲ持テ居ルト云フノデ御座イマス
(委員長)
人間ガ別々ニナルカ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十一條朗讀ス
第千百九十一條 得取、派分又ハ工事ノ爲メ初メニ金圓ヲ貸付ケタル者ニ第千百八十條第一項ニ從ヒテ屬スル先取特權ハ其者ノ代リタル債權者ト同一ノ方法ヲ以テ保存セラル
若シ右貸主カ後日代位ニ因リテ債權者ニ承繼シタルトキ未タ先取特權カ公示セラレサルニ居テハ其貸主ハ主タル證書及ヒ代位證書ノ登記又ハ記入ニ因リテ其公示ヲ爲サシム〔第二千百八條第二千百十條〕
若シ公示ガ代位ニ先タツトキハ右貸主ハ登記シタル證書ノ緣邊ニ代位證書ノ附記ヲ請求スヘシ
右同一ノ公示ハ先取特權アル債權ノ讓受人ニ因リテ與ヘラル〔第二千百十二條〕
此終ノ二箇ノ場合ニ於テ其規定セラレタル附記ヲ爲サシムル事ヲ怠リタル代位者又ハ讓受人ハ以前善意ニテ債務者又ハ其承繼人トノ間ニ爲サレタル辨濟又ハ其他ノ免除ノ所爲ヲ非難スル事ヲ得ス
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム得取、派分又ハ工事ノ爲メ初メニ金圓ヲ貸付ケタル者ノ第千百八十條第一項ニ從ヒ有スル先取特權ハ賣主共同派分者又ハ工事請負人ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ保存ス同條第二項「債權者」ヲ「賣主共同派分者又ハ工事請負人」ト改ム同條第三項貸主ノ上ヲ左ノ如ク改ム若シ代位前ニ公示シアリタルトキハ同條第四項左ノ如ク改ム又先取特權アル債權ヲ讓受ケタル者ハ讓渡證書ノ附記ヲ請求ス可シ同條第五項左ノ如ク改ム此末ノ二箇ノ場合ニ於テ附記ヲ爲サシムル事ヲ遲延シタル代位者又ハ讓受人ハ其以前善意ニテ債務者又ハ其承接人ト原債權者トノ間ニ爲サレタル辨濟又ハ其他ノ免除ノ行爲ヲ非難スル事ヲ得ス
(元尾崎)
「爲サレタル」ハ「爲シタル」デ宜シイ
(栗塚)
「アリタル」デ宜シウ御座イマス
(淸岡)
「爲シタル」デモ宜シイ
(栗塚)
「爲シタル行爲ヲ保存スル事ヲ得ス」ト致シマス
(元尾崎)
以前ト云フノハ登記ノ以前ト云フ事カ、ズツト前ト云フ事カ
(南部)
附記ヲスル以前ト云フノダ
(元尾崎)
以前ト云フト前ノ樣ニ見ヘル
(栗塚)
「附記ノ以前」トヤリマスカ
(元尾崎)
ソウスレバ宜シイ
(委員長)
一項ハ修正通リデ宜シイカ、賣主ト共同派分者ト工事請負人ニ限ルカ
(栗塚)
之ノ爲メニ金ヲ貸シタノデ御座イマスカラ外ニハ御座イマセン
(委員長)
「先取特權ハ之レ々々ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ保存ス」トアルカラ
(南部)
保存スハ登記ノ事ヲ指シテ居リマス
(委員長)
貸付ケタルモノノ先取特權ハ之ヲ保存スト讀ンデ「一項ニ從ヒ有スル」ト云フノト、受負人ニ於ケルト云フノト、先取特權ハ共同派分者又ハ工事受負人ニ於ケルト云フノハ何カト云フト其主客ガ分ラヌ
(栗塚)
先取特權ハ同ジ仕方デ保存スルゾヨ、茲ニ受負人ガアツテ司法省ヲ建ル金ガナイト云フテ私ガ貸シテヤレバ先取權ヲ持テ居ル
(委員長)
得取派分又ハ工事ノ爲メ初メニ金圓ヲ貸付ケタル者ニ第千百八十條一項ニ從ヒト云フノハ卽チ大工ニ金ヲ貸シタ者ハ大工ト同ジク先取特權ヲ有スト八十條ニ在ル、其レデ借リタ者ト同樣ニ貸シタ者ガ先取特權ガアルト云フ事ガ書イテアル、其權ハ賣主共同派分者工事受負人ニ於ケルト云フノハ何處ニ在ルカ
(南部)
保存ノ仕方ハ八十四條ニアリマス
(委員長)
分ツテ居レバ宜シイガ賣主共同派分者得取派分者ト前ニ書イテアルカラ同ジ事ダロウ
(栗塚)
併シ金ヲ貸シタ人ト云フ事ハ書イテアリマセン
(委員長)
其レハ八十條ニ書イテアル
(南部)
ソレハ保存デハアリマセン先取特權ノ事デス
(渡)
第二項ノ「未タ先取特權カ公示セラレサルニ於テハ」ト云フノハ「未タ先取特權ノ公示ナキニ於テハ」トシテハドウダ
(栗塚)
其レガ宜シウ御座イマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項報吿委員ノ修正ニ決ス第二項「先取特權カ公示セラレサルニ於テハ」ヲ「先取特權ノ公示ナキニ於テハ」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第三項第四項ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第五項「爲サレタル」ヲ「爲シタル」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十二條朗讀ス
第千百九十二條 利息又ハ利子ヲ生スル先取特權又ハ抵當ノ附キタル債權ニシテ上ニ記載シタル如クニ保存セラレタルモノハ利息又ハ利子ノ二ケ年分ノミニ付テハ元本ト同一ノ順位ニ其配當順序ヲ定ムル事ヲ得伹滿期ノ利息又利子ノ中ニテ最モ舊キモノヽ爲メ順次ニ特別ノ抵當記入ヲ爲ス可キ債權者ノ權利ヲ妨ケス〔第二千百五十一條〕
(修正案) 「利子」ハ何レモ「年金」ト改メ「同一ノ順位ニ其配當順序ヲ定ムル事ヲ得」ヲ「同一ノ順位ニテ配當ニ加入スル事ヲ得」ト改メ「最モ舊キ」ヲ「二年以外ノ」ト改メ「順次」ヲ「漸次」ト改ム
(栗塚)
「利子」ハ皆「年金權」トナリマス
(松岡)
不動產ヲ年金權デ賣ツタ場合カ
(栗塚)
左樣デス
(淸岡)
「保存セラレタル」ハ「保存シタル」デ良カロウ
(栗塚)
「保存シタル」デ宜シウ御座イマス
(元尾崎)
「ネガチーブ」ノ方カラ書イテアルカラ分リ惡クイ
(栗塚)
「二ケ年分ニ非サレハ元本ト同一ノ順位ニテ其配當ニ加入スル事ヲ得ス」デモ宜シウ御座イマス
(南部)
其レガ良カロウ
(槇村)
「二ケ年分ノ以内」デハドウカ
(栗塚)
其レデ宜シウ御座イマス
(松岡)
「分」ト云ヘバ「以内」ハ無クモ良カロウ
(栗塚)
下ニ「以外」トアリマスカラ「以内」デ宜シウ御座イマシヨウ
(北畠)
「分」ノ字ハナイ方ガ宜シイ
(南部)
「分」ノ字ハナケレバナラヌ
(渡)
「二ケ年分以内」デ宜シイ
(南部)
「二ケ年分以内」ト云ヘバ宜シイガ「分以内」ト云フト可笑シイ
(元尾崎)
「二ケ年以内ノ分ニ非サレハ」ト云ヘバ分ル
(村田)
ソウシマシヨウ
(西)
二ケ年ガ入ルカネ
(松岡)
無論入リマス
(西)
ソンナラ「以内」ト云フノハ可笑シイ
(南部)
「分」ノ字ヲ削ロウ
(委員長)
槇村サンノ云フ樣ニ「以内」ト云フ事ハ入ラヌ
(栗塚)
「二ケ年分以内」デ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
二ケ年分以内ナラ誤ツテモ宜シイガ二ケ年内トシテ誤ルト困ルカラ
(南部)
元トガ付イテ先取權ヲ得ルカラ
(元尾崎)
「分以内」トシテ置コウ
本條「二ケ年分ノミニ付テハ」トアルヲ「二ケ年分以内ニ非サレハ」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス「利子ヲ生スル」ハ「年金ノ附キタル」ト次條ヲ議スル際ニ改ム(次條ノ筆記見合セ)
第千百九十二條第二朗讀ス
第千百九十二條〔第二〕 死亡者ノ不動產ニ關シテ資產ノ離分ヲ請求スル債權者及ヒ受囑者ハ自己ノ抵保ノ爲メ留置セント欲スル財產ニ付キ相續ノ發開ヨリ六ケ月内ニ其債權又ハ贈遺ヲ記入スル事ヲ要ス
其記入ニハ債權又ハ贈遺ノ額ト其記入ヲ爲ス主旨トヲ附記スル事ヲ要ス
相續人ノ權ニ基キ右ノ期間内ニ爲シタル記入又ハ登記ハ離分者ニ之ヲ以テ對抗スル事ヲ得ス但請負人ノ先取特權ニ關シ次條ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス〔第二千百十一條〕
(修正案) 第一項「自己ノ」ノ三字ヲ刪リ「抵保」ヲ「擔保」ト改ム同條第三項「權ニ基キ」ヲ「權利ニ基キ」ト改メ但ノ下ニ「工事」ノ二字ヲ挿入ス
(栗塚)
「自己ノ抵保」ハ「擔保」トナリマス第二項ノ「權ニ基キ」ハ「權利ニ基キ」トナリマス「受負人」ハ「工事受負人」トナリマス
(元尾崎)
「離分者」ト云フノハ誰カ
(栗塚)
離分ヲ請求スル債權者受囑者デ御座イマス
(南部)
「離分請求者」ガ宜シイカ知レヌ
(栗塚)
離分請求者ト致シマシヨウ
(元尾崎)
ソレデ宜シイ、工事受負人ノ事ヲ出シテ來ナケレバナラヌカ
(南部)
工事受負ノ先取特權ハ對抗スル事ガ出來ルカラ
(元尾崎)
相續人ノ權ニ基イテ先取特權ヲ記入スル事ハナカロウ
(松岡)
ソレハ無イ
(元尾崎)
此意味デハ當ラヌネ
(松岡)
コウ云ハヌト皆對抗ガ出來ヌト思フ樣ニナル、併シ登記記入ノ樣ニ建物ガ一ツアル、工事受負人ハ次ギニアル
(委員長)
年金ヲ生ズルト云フ事ハ前ノ條ニアルガ是レ迄澤山使ツテ來タカ
(栗塚)
申シマス
(委員長)
私ハ良ク覺ヘヌガ、年金ヲ定メルトカ年金ヲ生ズルトカ云フ事ヲ云フタカ知ラヌ
(南部)
年金權ガ年金ヲ生ズル
(委員長)
生ズルノデナイ、付イテ居ルノダカラ
(松岡)
年金トナレバ元金モ混淆ニ來マスカラ生ズルト云フ事ハ六ケ敷イカ知レヌ
(委員長)
生ズルト云フ字サヘ書キ換ヘレバ宜シイ
(栗塚)
「付キタル」トスレバ宜シイノデ御座イマス、併シ「抵當ノ付キタル」ト云テアリマスカラ
(栗塚)
債權ガ利息ヲ生ジ年金ヲ生ズト云ヘソウナモノデス
(委員長)
年金ハ債權カラ生ズルモノデナイ
(栗塚)
年金ヲ取ル權利卽チ對人權ナル債權デス、私ガ貴君ニ年金ヲ差上ゲマシヨウト云ヘバ貴君ガ債權者デ貴君ガ債權ガアル爲メニ私ハ年金ヲ出ス義務ガアル
(委員長)
年金ガ生ジテ來ルノデナイ、利息ガ生ズルナラ宜シイガ、年金ノ生ズルト云フノハ少シク通用シ兼ル
(栗塚)
年金ヲ取ル丈ケハ債權デ御座イマスカラ生ズルト申サナケレバナリマセン
(委員長)
「利息ノ生シ又ハ年金ノ付キタル先取特權」トスレバ宜シイ
(栗塚)
矢張リ債權デ御座イマスカラ利息又ハ年金ヲ生ズル債權デ、先取特權ノ付イテ居ル先取特權デ御座イマス年金ヲ生ズル先取特權デハ御座イマセン
(委員長)
債權ニシテモソウ云ハナケレバナラヌ、利息ノ生ジ又ハ年金ノ付キタル債權
(松岡)
利子ト書イテ置クト千百七十二條ニ「元本ニテ又ハ年金權ニテ定メタル賣却代價」ト書イテ其下ヘ「利息又ハ利子」ト書イテアル、彼ハ年金トシテ利子ヲ止メレバ彼處デ書イタノハ可笑シイ
(南部)
可笑シイ事ハナイ、利子ハ元本ニ付イテ居ル
(槇村)
「利息ヲ生スル又ハ年金ノ付キタル」トシタラドウダロウ
(栗塚)
併シ「先取特權又ハ抵當ノ付キタル債權」ヲ止メナケレバナリマセン
(委員長)
「抵當ノ付キタル」ト云フ事ヲ云ハンデ良カロウ
(栗塚)
唯ノ債權デモ先取特權ノ抵當ノアル債權デナケレバ茲ニ論ズル事ハ出來マセンカラ
(委員長)
「付キタル」ト云ハンデモ宜シイ
(南部)
今迄付キタルトナツテ居リマス
(栗塚)
「アル」トモナツテ居リマス
(元尾崎)
「抵當アル債權」デ宜シイデハナイカ
(委員長)
利息又ハ年金ヲ有スルトカ、持ツトカシテ「生スル」ト云ハヌ方ガ宜シイ
(栗塚)
「利息又ハ年金ノ付キタル先取特權又ハ抵當アル債權」デモ宜シウ御座イマス
(栗塚)
其レガ宜シイ
(松岡)
無抵當ト云フ事ガアルカラソレガ良カロウ
(委員長)
抵當ノ付キタルト云フノハ前ニアツタロウト思フカラ前ト比ベテ見ナイトイケヌ
(栗塚)
色々ニナツテモ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
意味ニハ害ハナイ
(村田)
第百九十五條ニ「抵當權アル」ト云テアル
本條第三項「離分者」ハ「離分請求者」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十三條朗讀ス
第千百九十三條 不動產ニ付キ先取特權アル債權者ノ間ニ於ケル相互ノ優先權ハ左ノ順序ニ從フ
第一 工匠、技術師及ヒ工事請負人ノ債權カ後ニ生シタルトキト雖モ是等ノ各人其工事ヨリ生スル增價額カ此等ノ各人ニ全ク辨濟スルニ足ラサル場合ニ於テハ此等ノ各人ハ其債權ノ割合ニ應シ皆同一ノ順位ニテ配當順序ヲ定メラル
第二 移付者又ハ共同派分者
逐次ノ移付又ハ派分ノ場合ニ於テハ優先權ハ相互ノ間ニ於テ最モ舊キ債權者ニ屬ス〔第二千百三條第一號〕
金圓ノ貸主ハ或ハ初ヨリ或ハ合意上ノ代位ニ因リ其金圓ニテ全部又ハ一分ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ト同一ノ順位ヲ有ス
資產ノ離分ヲ請求スル債權者及ヒ受囑者ハ死亡者ノ財產ニ付テハ其財產カ相續人ニ皈シタル後相續財產ニ增價ヲ與ヘタル工匠、技術師及ヒ工事請負人ノミニ因リテ先セラル
資產ノ離分ハ死亡者ノ債權者及ヒ受囑者ノ間ニ於ケル其相互ノ權利ヲ變更セス
(修正案) 第一號「請負人」ノ下左ノ如ク改ム但其債權カ後ニ生シタルトキモ亦優先權ヲ有ス同號末段左ノ如ク改ム其工事ヨリ生スル增價額カ右ノ各人ニ全ク辨濟スルニ足ラサル場合ニ於テハ債權ノ割合ニ應シ同一ノ順位ニテ其配當加入ヲ定ム第三項「先セラル」ノ上「因リテ」ノ三字ヲ刪ル
(栗塚)
「第一工匠技師及ヒ受負人」トヤリマシタ「但其債權ハ後ニ生シタルトキモ亦優先權ヲ有ス」ト致シマス「其工事ヨリ生スル增額カ右ノ各人ニ全ク辨濟スルニ足ラサル場合ニ於テハ債權ノ割合ニ應シ同一ノ順位ニテ其配當加入ヲ定ム」ト致シマス
(松岡)
一番先ヘ讓ツタ人ガ一番先キヘ取ルト云フノカ
(栗塚)
ソウデス
(委員長)
全部ノ辨濟ヲ受ケタル債權者ト云フノハ
(栗塚)
無クテモ有ツテモ宜シイ
(委員長)
「一部ノ辨濟ヲ受ケタル」ガ宜シイカ「全部」ト云フタカラ害ニナリヤセヌカ
(松岡)
詰リ代位トナル丈デ御座イマスカラ辨濟ノ代位トナリマス
(委員長)
害サヘナケレバアツテモ宜シイ全部ノ辨濟ヲ受ケタ債權者ガ順位ヲ讓ル事ガアルカ知ラヌ
(南部)
債權者トデ御座イマス
(栗塚)
工事受負人ナラ工事受負人ト同一デ御座イマス其代リニナルノデ御座イマス
(委員長)
代リニナルト云フ事丈ダ
(松岡)
末項ハ債權者ハ受囑者ニ先ダツト云フノカ
(南部)
ソウデス
(栗塚)
財產ヲ分トウト思フテモ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十四條朗讀ス
第千百九十四條 先取特權ノ記入ノ方法、其更新及ヒ記入ノ抹殺又ハ減少ヲ爲ス可キトキハ其抹殺又ハ減少ニ關スル規則ハ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ノモノニシテ抵當ノ事ニ付キ次章ニ於テ之ヲ揭示ス
(修正案) 左ノ如ク改ム先取特權ノ記入ノ方法其更新及ヒ記入ノ抹殺又ハ減少ニ關スル規則ハ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ノモノニシテ次章ニ之ヲ定ム
(栗塚)
「先取特權ノ記入ノ方法其更新及ヒ記入ノ抹殺又ハ減少ニ關スル規則ハ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ノモノニシテ次章ニ之ヲ定ム」ト致シマス
(松岡)
此初メノ記入ハ登記ダロウ
(元尾崎)
登記ダ「登記ノ方法」トスレバ宜シイ
(栗塚)
更新ニハ方法ガナイ唯「記入」トスレバ宜シイノデス
(村田)
「方法」ト云フ字ハ入ラヌ
(栗塚)
佛蘭西ニハアリマセン
(松岡)
「共通ノモノニシテ」ハ可笑シイ
(委員長)
「記入ノ」ハ入ラヌ樣ダ
(栗塚)
何ノ抹殺カ分ラヌデ御座イマシヨウ
(委員長)
「其」デ受ケルダロウ
(栗塚)
記入ノ更新デハ御座イマセン先取特權ノ更新デ御座イマス
(委員長)
記入ノ更新ノ方法カト思ツタ
(元尾崎)
何レデモ同ジ事ダロウ記入ガ更新スレバ特權ガ更新スル
(栗塚)
原文ハ特權ト云フ字ガ複稱デ御座イマスカラ其レニ係テ居リマス
(渡)
「先取特權ノ記入其更新」トヤロウ
(栗塚)
ソレデモ宜シイ
(元尾崎)
「共通ニシテ」ダ
(栗塚)
「共通ニシテ」デモ宜シイ
本條ハ左ノ如ク改ム
先取特權ノ記入、其更新及ヒ記入ノ抹殺又ハ減少ニ關スル規則ハ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ニシテ次章ニ之ヲ定ム
○第千百九十五條朗讀ス
第三款 第三保有者ニ對スル不動產ニ係ル先取特權ノ効力
第千百九十五條 前款ニ記載シタル如ク合式ニ公示シテ保存シタル先取特權ハ其先取特權ヲ負擔シタル不動產ニ付テハ第三保有者ノ手裏ニ於テ之ニ追及ス
第三保有者カ後ノ條ニ定ムル方法ノ一ニ因リテ先取特權アル債權者ニ辨償セサルトキハ其先取特權アル債權者ハ不動產ノ代價ヲ先取特權及ヒ抵當權アル各債權者ノ間ニ其優先權ノ順序ニ從ヒテ配當スル爲メ第三保有者ニ對シ其不動產ヲ差押ヘテ之ヲ競賣ニ付スル事ヲ得〔第二千百六十六條、第二千百六十九條〕
(修正案) 第三款「第三保有者」ヲ「第三所持者」ト改ム第一、二項左ノ如ク改ム合式ニ公示シテ保存シタル先取特權ハ其負擔アル不動產ヲ第三所持者ノ方ニ追及ス第三所持者カ後ニ定ムル方法ノ一ニ因リ先取特權アル債權者ニ辨償セサルトキハ其債權者ハ第三所持者ニ對シ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ競賣ニ付スル事ヲ得
(栗塚)
「第三保有者」ハ「所持者」トナリマス冒頭ガ「合式ニ公示シテ保存シタル」トナリマス
(松岡)
「合式ニ公示シタル」デ宜シイ
(栗塚)
公示シタルデモ宜シウ御座イマス「先取特權ハ其負擔アル不動產ヲ第三所持ノ方ニ追及ス」ト致シマス
(元尾崎)
「方ニ」ハ可笑シイ
(栗塚)
私ノ犬ガ隣リニ逃ゲテ行コウトモ隣リノ方ニ逐驅ケテ行クト云フノデ御座イマス二項ハ「第三所持者カ後ニ定ムル方法ノ一ニ因リ先取特權アル債權者ニ辨償セサルトキハ其債權者ハ第三所持者ニ對シ其不動產ヲ差押ヘ之ヲ競賣ニ付スル事ヲ得」ト致シマス
(元尾崎)
「後ニ」ト云フノハ單簡ニ過ギル
(栗塚)
「後ノ章ハ」ト云フノデ御座イマス
(渡)
簡ニナツタ
(栗塚)
簡ニナツタト云フヨリ明ニナツタト云フ評ヲ願ヒ度イ
(松岡)
我ニハ薙刀ガ良ク斬レタト思フ
(委員長)
訴訟法ニ「競賣」ト「公賣」トアルガ之ハ「競賣」デ宜シイカ
(栗塚)
之ハ「公賣」デ御座イマス
(元尾崎)
一項ノ「負擔アル」ヲ削リテハドウダ
(栗塚)
其負擔アル不動產デナケレバイケマセン
本條ハ左ノ如ク決ス第一項「公示ニテ保存シタル」ヲ「公示シタル」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第二項「競費」ヲ「公賣」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十六條朗讀ス
第千百九十六條 一般ノ先取特權ハ第三保有者ノ得取證書ノ登記前ニ記入セラレタルトキニ非サレハ其第三保有者ノ手裏ニ移轉シタル不動產ニ付キ追及權ヲ與ヘス
(修正案) 「記入セラレ」ヲ「之ヲ記入シ」ト改メ「ノ手裏」ノ三字ヲ刪ル
(栗塚)
「一般ノ先取特權ハ第三所持者ノ取得證書ノ登記前ニ之ヲ記入シタルニ非サレハ其第三所持者ニ移轉シタル不動產ニ付キ追及權ヲ與ヘス」ト致シマス
(松岡)
之ハ當リ前ダ
(委員長)
良カロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十七條朗讀ス
第千百九十七條 初メニ登記シタル轉得者ノ證書ノ登記前ニ登記セラレサル移付又ハ派分ニ因リテ先取特權ヲ有スル債權者ハ自己ノ先取特權ヲ生セシメタル證書ヲ登記セシムル事ニ付キ轉得者ヨリ催吿ヲ受ケタレトモ其催吿カ距離ニ應シテ法律上ノ期間ヲ增加シタル一ケ月間其効ナカリシトキニ非サレハ其追及權ヲ失ハス
然レトモ新得取者ハ讓渡人カ十ケ年ヲ喩ユル時期間不動產ニ付キ法定ノ占有ヲ爲シタルトキハ右ノ催吿ヲ爲スノ責ナクシテ舊所有者ノ總テノ先取特權ヲ免カレタリト自ラ看做ス事ヲ許サル
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム轉得者ノ證書ノ登記前ニ登記セサル讓渡又ハ派分ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ其先取特權ノ生シタル證書ヲ登記セシムル事ニ付キ轉得者ヨリ催吿ヲ受ケタレトモ一ケ月内ニ其登記ヲ爲サシメサリシトキニ非サレハ追及權ヲ失ハス第二項「新得取者」ヲ「轉得者」ト改メ「十ケ年ヲ踰ユル時期間」ヲ「十ケ年以上」ト改メ「責ナクシテ」ヲ「責ナク且」ト改メ「免カレタリト自ラ看做ス事ヲ許サル」ヲ「免カル」ト改ム
(栗塚)
「轉得者ノ證書ノ登記前ニ登記セサル讓渡又ハ派分ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ其先取特權ノ生シタル證書ヲ登記セシムル事ニ付キ轉得者ヨリ催吿ヲ受ケタレトモ一ケ月内ニ其登記ヲ爲サシメサリシトキニ非サレハ追及權ヲ失ハス」ト致シマス二項ハ「然レトモ轉得者ハ讓渡人カ十ケ年以上不動產ニ付キ法定ノ占有ヲ爲シタルトキハ右ノ催吿ヲ爲スノ責ナク且舊所有者ノ總テノ先取特權ヲ免カル」ト致シマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百九十八條朗讀ス
第千百九十八條 不動產ノ工事ニ因リテ先取特權ヲ有スル債權者ハ第一調書ノ記入ニ依リテ追及權ヲ行フ事ヲ得伹工事ノ竣成又ハ其絕止ノ前ニ移付ノ證書ノ登記ヲ爲シタル事ヲ要ス
工事カ竣成シ又ハ絕止セラレタルトキ工事ノ受取ト第二調書ノ記入トニ關スル二箇ノ期間ガ未タ經過セサルニ於テハ右ノ債權者ハ右期間ノ滿了后又ハ其月內ニ於テ第二調書ヲ記入セシム可キ催吿ヲ受ケタルニ其催吿ニ應セサリシ后ニ非サレハ先取特權ヲ失ハス
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム不動產ノ工事ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ工事ノ竣成又ハ其絕止ノ前ニ讓渡アリテ其證書ノ登記アリタルトキハ第一調書ノ記入ニ依リ追及權ヲ行フ事ヲ得第二項本項修正ノ意見アリト雖モ起案者ニ質問中ニ付他日報吿スヘシ
(栗塚)
一項ハ「不動產ノ工事ニ因リ先取特權ヲ有スル債權者ハ工事ノ竣成又ハ其絕止ノ前ニ讓渡アリテ其證書ノ登記アリタルトキハ第一調書ノ記入ニ依リ追及權ヲ行フ事ヲ得」ト致シマス
(南部)
二項ハ「受取」ト云フ事ガ分ランデ質問中デ御座イマス
(松岡)
「受取」ト云フノヲ入レルノハ惡ルイ七十九條デハ受取ルカ又ハ三ケ月内ニ調書ヲ作ラナケレバナラヌト定メテアル
(村田)
二箇ノ期間ト云フ字ハナイ二倍ノ期間ト云フノダ調書ヲ作ル期限ガ三ケ月ナレバ六ケ月ダ
(栗塚)
二倍シテト云フ意味ハソウデハアリマセン
(委員長)
末項ハ質問中カ
(栗塚)
左樣デ御座イマス
本條第一項ハ報吿委員ノ修正ニ決シ第二項ハ起案者ニ質問中ニ付未定
○第千百九十九條朗讀ス
第千百九十九條 先取特權アル債權者ニシテ追及權ヲ保存シ及ヒ之ヲ行フ爲メニ必要ナル公示ヲ其先取特權ニ與ヘサル者カ自カラ債權者タル事ヲ知ラシメ且代價ノ辨濟前又順序ヲ定ムルノ手續カ開始セラレタル場合ニ於テハ其順序ヲ定ムル手續ノ閉鎖前ニ自己ノ債權ヲ證明シタルトキハ其先取特權アル債權者ハ第三保有者ノ負擔シタル讓受代價ニ付キ優先權ヲ失ハス
(修正案) 左ノ如ク改ム追及權ヲ保存シ及ヒ之ヲ行フ爲メニ必要ナル公示ヲ爲ササル先取特權アル債權者ハ第三所持者ノ負擔シタル讓受代價ニ付キ優先權ヲ失ハス但代價ノ辨濟前又順序配當手續ノ閉鎖前ニ自ラ債權者タル事ヲ知ラシメ且之ヲ證明シタルトキニ限ル
(松岡)
之ハ報吿委員ノ御蔭デ漸ク分ル樣ニナツタガ本文ハドウシテモ分ラヌ
(栗塚)
順序配當手續ト云フノハ不動產ヲ配當スルノカ配當順序ノ手續ガアリマスカラ
(元尾崎)
代價ハ取ル事ガ出來ルノダ順序配當手續ハ之ガ破產者ニナツタトキダ
(松岡)
ソウダ一ハ辨濟ヲシナイ前デナケレバ拂ツテ濟ンダラ二度拂ヒセヨト云フ譯ハナイ
(村田)
「又ハ」ノ「ハ」ノ字ガ落チタロウ
(松岡)
「又ハ」ダ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千二百條朗讀ス
第千二百條 追及權、其條件竝ニ其効力及ヒ第三保有者カ所有權ノ徵收ヲ避クル爲メノ方法ニ關シテ先取特權及ヒ抵當權ニ共通ノ規則及ヒ先取特權ノ消滅スル原由ハ次章ノ附錄ニ記載スル如ク抵當權ノ事項ニ於テ之ヲ定ム
(修正案) 「次章ノ附錄ニ記載スル如ク」ノ十二字ヲ刪ル
(栗塚)
「保有者」ヲ「所持者」トシテ「原由ハ抵當權ノ事項ニ於テ之ヲ定ム」ト致シマス
(委員長)
徵收ヲ避クルト云フノハ
(村田)
公用土地買上規則ダ
(栗塚)
所有權買上ヲスルノダ
(松岡)
賣タ人ノ方ニ云ハセルノダ買ツタケレドモソンナ物ナラ我ハイヤダ
(委員長)
追及權ノ徵收ヲ避ケル爲メカ
(栗塚)
ソウデハアリマセン徵收ヲ避ケル爲メデ御座イマス追及權ニ關シ其效力ニ關シ第三所持者ガ所有權ヲ避ケルガ爲メノ方法ニ關シデ御座イマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス