旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第79回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案財產擔保篇第七十九回議事筆記
自第千百六十一條至第千百八十條
(委員長)
ヤリマシヨウ
○第千百六十一條朗讀ス
第四則 動產物保存者ノ先取特權
第千百六十一條 動產物ノ修繕又ハ保存ノ費用ノ爲メ債權者タル者ハ第千九十六條ニ從ヒ己レニ屬スル留置權ヲ行ハサルトキト雖トモ其修繕シ又ハ保存シタル物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第三號〕
右同一ノ先取特權ハ金額、有價物又ハ其他總テノ動產物ニ於ケル人權又ハ物權ヲ債務者ノ利益ニ於テ認知セシメ、保存セシメ又ハ實行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ所爲ノ費用ニ之ヲ適用ス
(修正案) 第一項「費用ノ爲メ」ヲ「費用ニ付テノ」ト改メ「タル者」ノ三字ヲ刪ル第二項「同一」ノ二字ト「又ハ」ノ二字ト「總テ」ノ二字トヲ刪リ「於ケル」ヲ「關スル」ト改メ「所爲」ヲ「行爲」ト改ム
(栗塚)
「認知」ハ「追認」ト翻譯デ直リマス其レカラ字句ノ修正ハ「費用ノ爲メ」ト云フノヲ「費用ニ付テノ債權者ハ」ト致シマス第二項「右同一ノ」ヲ「右ノ」ト致シ「所爲」ヲ「行爲」ト致シマス「有價物其他動產物ニ關スル」ト致シマス
(松岡)
「其他ノ」「ノ」ノ字ハナイ
(大尾崎)
留置權ヲ行ハンデモ保存費用ヲ證明サセテ掛ルノデスカ
(南部)
ソウデス保存ノ費用ヲ證明シナケレバナリマセン
(大尾崎)
保存ト云フノハ規則デモアリマスカ
(南部)
一般ノ證據法ニ據ル丈ケデス
(栗塚)
「其他ノ」「ノ」ノ字ハ報吿委員ノ削リ損ヒデス
(村田)
「實行セシメ」ト云フ字ハ換價セシムル方デハナイカ
(栗塚)
實ニスルノデスカラ實行スルノデス「換價」ト云フ字ハ民法ニ一ツモアリマセン
(村田)
實行セシムルト云フト物ヲ金ニ換ヘル樣ニナリハセヌカ
(栗塚)
人權ハ人權デ行ヒ物權ハ物權デ行ヘト云フノデス、假令バ品物ヲ引渡スト云フ約束ヲ實行スレバ實行デシヨウ、約束ニ止マツテ居タモノヲ實行スル
(委員長)
先取特權ハ債務者ノ利益ニ於テ追認シタル、保存シタル、實行シタルカ
(栗塚)
右先取特權ハ費用ニ適用シ費用ハ何カナレバ追認セシメタル、何々セシメタル、裁判上裁判外ノ行爲ノ費用ニデス
(委員長)
債務者ヲシテ追認セシムルノダロウ
(栗塚)
債務者ノ爲メト云フノデス
(元尾崎)
「債務者ノ利益ノ爲メ」ト云フタラ良カロウ
(委員長)
債務者デハナイ、他人ダ
(南部)
ソウデス、セシメタ人ハ債權者デス
(栗塚)
「爲メ」ノ方ガ宜シウ御座イマシヨウ
(淸岡)
「利益ニ於テ」ト云フノハ「爲メ」ト云フノハ先逹テ論ガアツタ
(元尾崎)
先逹テ「爲メ」ト直シマシタ
(槇村)
「爲メ」トシ樣
(栗塚)
「利益ニテ」ト云フ事デス
(委員長)
「債務者ノ利益ノ爲メ」カ
(栗塚)
「債務者ノ爲メニ」デ宜シウ御座イマス
(大尾崎)
之デ宜シイデハナイカ
(淸岡)
日本ノ言葉ナラ「債務者ノ爲メ」ト云ヘバ分ル、併シ「利益ニ於テ」ト云フノハ少シ意味ガアル
(大尾崎)
「利益ノ爲メ」ガ宜シイ
(栗塚)
「利益ノ爲メ」デハ重言デス
(委員長)
「爲メ」ト云フト利益ト云フ事ガ見ヘヌ樣ダ「爲メ」ヨリ「利益ニ於テ」ガ宜シイ
(松岡)
「セシメ」ト云フノハ債務者ノ爲メニセシムルノカ
(南部)
ソウデス
(松岡)
四十三條ハ一般ノ財產ニ付テ債務者ノ財產ノ保存ト云フ、此處デハ特ニ一物一箇ヲシタラ其物ニ付テノ先取特權ガアルト見ヘル
(南部)
前ノハ有體物、後ノハ無體物ト云フ、債務者ノ爲メニ債權者ガ保存セシメ、追認セシメ、實行セシムル
(松岡)
四十三條デハ第三ノ人ニサセル意味デナク、自分デヤル意味ダ
(南部)
債務者ガ追認スルト云フト分ラヌ事ニナル
(元尾崎)
「利益ノ爲メ」デ宜シイ
(委員長)
「利益ノ爲メ」トスルカ
本條第二項「利益ニ於テ」ヲ「利益ノ爲メニ」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百六十二條朗讀ス
第五則 動產物賣上ノ先取特權
第千百六十二條 動產物ノ賣主ハ代價辨濟ニ付キ期限ヲ與ヘタルト否トヲ問ハス賣却代價及ヒ利息アラハ其利息ノ爲メ賣却物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第四號〕
若シ補足額ヲ以テスル交換アリテ其補足額カ移付シタル物ノ價額ノ半ヨリ多キトキハ先取特權ハ其補足額ニ付キ存在ス
(修正案) 第一項「辨濟ニ付キ」ヲ「辨濟ノ爲メ」ト改メ「賣却代價」ヲ「其代價」ト改ム第二項「移付」ヲ「讓渡」ト改メ「其補足額ニ付キ」云々ヲ「其補足額ノ爲メ交換物ニ付キ存在ス」ト改ム
(栗塚)
「代價辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘタルト否トヲ問ハス」トナリマス二項ハ「其補足額ノ爲メ交換物ニ付キ」トナリマス
(南部)
「其物」デハイカヌカネ
(村田)
交換物ノ方ガ良ク分ル
(元尾崎)
コウ云フ先取特權ノ事ハ今日本ニアリマセンカ
(元尾崎)
無イ
(南部)
記入スル法ガナイ
(淸岡)
「交換物ニ付キ存在ス」ト云フノハ分ラヌ
(栗塚)
交換物ガ代價ニナルノデス
(淸岡)
補足額ノ爲メニ交換シタル物ニ存在スト云フノカ
(栗塚)
ソウデス、代價ノ爲メ交換物ニ付キ存在スデ御座イマス
(元尾崎)
補足ヲ削ルカ
(栗塚)
今迄ノ文例ヲ逐フテ來タノデス
(元尾崎)
「交換物ニ付キ先取特權ヲ有ス」トスレバ宜シイ
(栗塚)
ソウスルト人カラ言葉ヲ立ナケレバナリマセン
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百六十三條朗讀ス
第千百六十三條 先取特權ハ賣却物カ用方ニ因リ又ハ不動產ニ合體スルニ因リ不動產ト爲サレタルトキト雖モ變形セスシテ尙ホ買主ノ占有ニ存スル間ハ存續ス伹合體ノ場合ニ於テハ不動產ヲ損壞セスシテ其物ヲ離分スル事ヲ得且如何ナル場合ニ於テモ其物カ變形セラレサル事ヲ要ス
(修正案) 「雖モ」ノ下左ノ如ク改ム尙ホ買主ノ占有ニ存シ且變形サル間存續ス但合體ノ場合ニ於テハ不動產ヲ損壞セスシテ其物ヲ離分シ得ル事ヲ要ス
(元尾崎)
「不動產ト爲サレタル」ハ「不動產トナリタルトキ」デ宜シイ
(栗塚)
左樣デス「ナリタル」デ宜シウ御座イマス
(元尾崎)
植木ハドウカ
(村田)
植木ナドヲ損害スル事ハナイ
(元尾崎)
地面ヲ取ラナケレバナラヌカラ不動產ヲ損害スルダロウ、家ニ建テタ材木ナドハイケヌネ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
之ハ植木ハ持テ行カレルカ
(大尾崎)
持テ往ケル
(村田)
金ト銀トヲ鎔シテ一緒ニシテ仕舞ツテハイケナイ
(栗塚)
ソウデス
本條中「不動產ト爲サレタル」ヲ「不動產トナリタル」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百六十四條朗讀ス
第千百六十四條 賣主ノ先取特權ハ第六百八十四條及ヒ第七百二十一條ニ規定シタル其留置及ヒ解除ノ權利ヲ妨ケス〔第二千百二條第四號、第二項〕
(修正案) 「其」ノ一字ヲ刪ル
(栗塚)
「其」ト云フ字ヲ削リマシタ
(委員長)
之ハ無論ダロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百六十五條朗讀ス
第六則 旅店主ノ先取特權
第千百六十五條 旅店主ハ旅人其雇人及ヒ此ニ率來レル駄負又ハ牽挽ノ獸ノ宿泊及ヒ食料ノ債權ノ爲メ其旅客ノ携帶シテ尙ホ旅館又ハ旅店ノ內ニ存スル手荷物ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百二條第五號〕
(修正案) 左ノ如ク改ム第六則「旅店主」ヲ「旅店ノ主人」ト改ム旅店ノ主人ハ旅客並ニ其從者及ヒ獸類ノ宿泊料及ヒ食料ノ爲メ其旅客ノ携帶シテ尙ホ旅店ニ存スル手荷物ニ付キ先取特權ヲ有ス
(栗塚)
表題ヲ「旅店ノ主人ノ先取特權」ト致シマス本文ハ「旅店ノ主人ハ旅客並ニ其從者及ヒ獸類ノ宿泊料及ヒ食料ノ爲メ其旅客ノ携帶シテ尙ホ旅店ニ存スル」ト致シマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百六十六條朗讀ス
第七則 舟車運送營業人ノ先取特權
第千百六十六條 商人タルト否トヲ問ハス舟車運送營業人ハ荷物又ハ商品若クハ人ノ運送賃並ニ食料ヲ携ヘタラハ其食料ノ運送賃ノ爲メ及ヒ關稅又ハ其他正當ナル附從ノ費用ノ爲メ旅客ト共ニ又ハ旅客ト別ニ運送シ尙ホ自己ノ手裏ニ存スル物ニ付キ先取特權ヲ行フ〔第二千百二條第二號〕
若シ運送營業人カ引渡ヨリ四十八時間內ニ債務者又ハ債務者ノ名ヲ以テ荷物ヲ受取リタル者ニ對シテ其物ノ占有ヲ返還シ又ハ自己ノ受取ル可キモノヲ辨濟ス可キノ催吿ヲ爲シ且其効果ヲ生セシムル爲メ短キ期間內ニ裁判上ノ請求ヲ爲シタルトキハ其先取特權ハ物ノ引渡後ト雖モ存續ス如何ナル場合ニ於テモ第三取得者ニ對シテ物ノ回收ヲ請求スル事ヲ得ス第千百五十三條ニ規定シタル如ク詐僞アル場合ハ此限ニ在ラスシテ且第千百三十八條ノ適用ヲ妨ケス
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム商人タルト否トヲ問ハス舟車運送營業人ハ荷物又ハ旅客ノ運送賃ノ爲メ及ヒ關稅其他正當ナル附從ノ費用ノ爲メ自己ノ手裏ニ存スル運送物ニ付キ先取特權ヲ有ス第二項「引渡」ノ上ニ「運送物ノ」四字ヲ挿入シ「荷物」ヲ「其物」ト改メ「返還シ」ヲ「返還ス可キノ催吿」ト改ム第三項「得取者」ヲ「取得者」ト改メ「此限ニ在ラスシテ」ヲ「此限ニ在ラス」ト改ム
(松岡)
運送營業人カ
(栗塚)
商法ト相談致シマシタ所ガ、先取特權ハ民法ニ讓ル事ニナツテ居ルソウデス
(松岡)
裁判所ヘ預ケテ競賣スルト云フ事迄アルガ、彼レ迄拔クカ
(栗塚)
起案者ハ民法ニ讓ルソウデス
(松岡)
此所ハ商法ニ入レタラ良カロウト思フ
(栗塚)
入レルベキモノナラ跡デ入レマス
(南部)
彼方ハ起案者ガ削ルト云フ事ニナツテ居ルカラ此方ヘ入レル樣ニナル
(委員長)
食料ヲ携ヘト運送賃ヲ何ゼ削ツタカ
(栗塚)
運送賃ハ取リマセン食料ヲ携ヘ外國人ガ日本ヲ歩クニハ食物ガナイカラ持テ歩クノデ御座イマシヨウガ彼ハ荷物ノ中ニ入ルカラ宜シウ御座イマス
(委員長)
商品ハ
(栗塚)
荷物ノ中ニ入リマス、其レカラ「旅客ト共ニ運送シ又ハ旅客ト別ニ運送シ」ハ無クテ良カロウト思ヒマス
(委員長)
商品ハ荷物ニナルカ知ラヌ
(南部)
手荷物デ御座イマス
(委員長)
商品ト荷物ト手荷物ト三ツニナツテ居ル
(栗塚)
商品ヲ入レテモ差支アリマセン
(委員長)
荷物ノ中ニ商品ガ籠ルト云フ事ナラ宜シイガ
(栗塚)
商品ヲ置キマシヨウ
(松岡)
商品ト云テモ送ルトキハ荷物ニナツテ仕舞フカラ修正デ宜シイ
(槇村)
修正ガ宜シイ
(委員長)
商法ノ方ニ聞イテ貰オウ我輩ノ覺ヘテ居ルノハ手荷物ト荷物ハ其人ノ持テ居ル物其レカラ賣買スルノガ商品ト云フ、商品デハ初メ商法デハ商品ト現ハレテ居テ其カラ先キハ荷物ト書イテアルト思フ、唯荷物ト云フト人ノ身體ヘ付ク方ノ荷物ニナリハセヌカト思フ
(栗塚)
自己ノ手裏ニ存スル物ト云フノハ皆含ミマスカラ運送物ニ付キ先取特權ヲ有スト致シマシタ
(淸岡)
「物ノ占有スヘキ催吿ヲ爲シ又ハ自己ノ受取ルヘキ物ノ催吿」トナリマスカ
(栗塚)
「返還スヘキノ催吿又ハ自己ノ受取ルヘキ物ヲ辨濟スヘキノ催吿」ト「催吿」ヲ入レマシタ
(元尾崎)
返還スベキノ催吿ト云フノハ
(栗塚)
渡シタケレドモ殘ヲ拂ハヌカラ御返ヘシ下サルカ又ハ金ヲ拂ヲ下サルカト云フ催吿ヲスル
(松岡)
商法ヲ削レバ之デ宜シイガ、商法ト之ハ牴觸シテ居ル
(栗塚)
商法ニハ何トアリマス
(松岡)
三日間ハ質權ガアツテ請求ガ出來ルトアル去リ乍ラ其レモ第三ノ人ニ輾轉シテハイケナイ
(松岡)
商法デハ占有ヲ返還スルト云フ事ハ出來ナイ話シダ、商法ハ急ヲ要スルカラ其時ニ出テ來ナケレバ公賣スル法モアル、渡シテ仕舞ヘバ權ヲ失フ
(淸岡)
短キ期間ト云フノハ四十八時間ヨリ短イト云フノカ
(栗塚)
速ニヤレト云フ事デ御座イマス
(村田)
出來ル丈ケ早クト云フノダ「相當ノ期間内」トシタラ良カロウ
(栗塚)
何日間ト云ハナケレバ裁判官ノ腦髓デ定メルノデ御座イマスカラ分リマセン、短キ時間内デモ宜シイ
(元尾崎)
縱令催吿シテモ裁判所ノ請求ノナイ間ハ何所ヘ持テ往ツテモ構ハヌカ
(南部)
裁判所デ短キ期間ヲ定メ樣ト云フノダ
(元尾崎)
之デ宜シイ
(栗塚)
時ト場合デ違ウカラ一槪ニハ云ヘヌ
(北畠)
時間内ノ方ガ宜シイ
(南部)
「期」ノ字ハ日ニバカリ掛ツタ事ハナイ後刻ヲ期シテ矢張「期」ダ
(北畠)
時間ト云フト何月カラ何月迄ト云フ樣ニナル
(淸岡)
時間内ガ宜シイ
(栗塚)
「時間内」ト致シマス
本條第二項「時間内」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百六十七條朗讀ス
第八則 負擔ノ所爲ノ爲メノ債權者ノ先取特權
第千百六十七條 保證ニ服シタル公役員ノ其職務履行ニ於テ爲シタル負擔ノ所爲、過愆又ハ濫用ヨリ生スル債權ハ其保證金ニ付キ先取特權アリ〔第二千百二條第七號〕
(修正案) 第八則「負擔」ヲ「職務上」ト改ム過愆迄ヲ左ノ如ク改ム保證ニ服シタル公吏ノ職務上ノ過失
(栗塚)
「負擔」ヲ職務上ト改ム千百五十一條ハ「公吏ノ職務上ノ所爲」トヤリマス千百六十七條ハ保證金ニ服シタル公吏ノ職務上」トヤリマス
(元尾崎)
「職務上ノ所爲ヨリ生スル債權者ノ先取特權」トシタラ良カロウ
(栗塚)
職務上ノ所爲ヨリ生ジル債務者トハ云ヘマセン
(元尾崎)
ソンナラ「債權者ノ先取特權」トシタラ良カロウ
(南部)
債權ノ先取特權ト云フ事ハ云ヘナイ皆人カラ來テ居ルカラ「債權者ノ先取特權」ト云ハナケレバナラヌ
(大尾崎)
表題ハドウデモ宜シイ
(委員長)
文字ガ穩カデナイ「公吏ノ所爲ニ對スル債權者ノ先取特權」ト書ケバ宜シイ
(元尾崎)
ソレデモ宜シイ
(栗塚)
職務上ノ所爲ニ對スル債權者ダカラ云ヘマシヨウ
(南部)
前ニハ「吏員ニ對スル債權者」ト云フテ居ル
(栗塚)
「職務上ノ所爲ニ付キ公吏ニ對スル債權者ノ先取特權」トシタラ良カロウ
(南部)
ソウスルト前ヲ「所爲ニ付キ」ト直サナケレバナラヌ
(栗塚)
ソンナラ「所爲ノ爲メ公吏ニ對スル」デハ如何デス
(槇村)
「所爲ニ付キ」ガ宜シイ
(村田)
修正ガ宜シイ
(栗塚)
「職務上ノ所爲ノ爲メ債權者ノ先取特權」デハ如何デス「爲メ」ト云フ事ヲ申シ度イノハ今日迄「運送賃ノ爲メ」先取特權ガアリ、働イタ爲メニ先取特權ガアリ、肥料ヲ供給シタル爲メト云テ始終「何ノ爲メ」ト云フテ居リマスカラ
(淸岡)
元トノ通リニシテ置キマシヨウ
(委員長)
其レデハ舊案通リカ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第八則ノ表題ヲ左ノ如ク改ム
職務上ノ所爲ニ付キ公吏ニ對スル債權者ノ先取特權
○第千百六十八條朗讀ス
第九則 保證金貸主ノ先取特權
第千百六十八條 保證トシテ差出シタル金圓カ第三者ヨリ借受ケタルモノニシテ其第三者ハ貸付ノ當時ニ於テ又ハ辨濟ニ付キ何等ノ異議ヲモ述ヘサル前ニ於テ規則ニ從ヒ其權利ヲ證明シタルトキハ其第三者ハ第二ノ順序ニ於テ卽チ負擔ノ所爲ヨリ害ヲ受ケタル者ノ辨濟ノ後右保證金ニ付キ先取特權ヲ有ス〔千八百五年一月十五日、千八百五年二月二十五日、千八百六年八月二十八日、千八百十二年十二月二十二日ノ佛法律〕
(修正案) 左ノ如ク改ム保證金カ第三者ヨリ借受ケタルモノナルトキハ其第三者ハ職務上ノ所爲ヨリ害ヲ受ケタル者ニ辨濟ノ後右保證金ニ付キ先取特權ヲ有ス但其第三者カ貸付ノ當時ニ於テ又ハ他ノ債權者ヨリ何等ノ故障ヲモ述ヘサル前ニ於テ規則ニ從ヒ其權利ノ證明シタルトキニ限ル前ニ同シ
(栗塚)
「保證金カ第三者ヨリ借受ケタルモノナルトキハ其第三者ハ職務上ノ所爲ヨリ害ヲ受ケタル者ノ辨濟アリタル後」ト致シマス
(松岡)
「辨濟ノ後」ガ宜シイ
(栗塚)
「辨濟ノ後右保證金ニ付キ先取特權ヲ有ス但其第三者カ貸付ノ當時ニ於テ又ハ他ノ債權者ヨリ何等ノ故障ヲモ述ヘサル前ニ於テ規則ニ從ヒ其權利ヲ證明シタルトキニ限ル」トナリマス
(元尾崎)
「規則ニ從ヒ」ト云フ事ハドウ云フ事ダロウ
(栗塚)
身元金ヲ出ス規則ニアロウト思ヒマス
(元尾崎)
ソウスルト貸付ケタトキニ之ハ私ガ貸付ケタト云フテ居ルカ
(栗塚)
後ヲモ他ノ人ハ故障ヲ云ハナケレバナラヌ
(元尾崎)
「規則ニ從ヒ」ト云フノハ可笑シイ
(栗塚)
保證金差入規則トカ何トカ云フモノデス
(元尾崎)
公吏ト云フハ官員カ
(栗塚)
登記役所ノ役人トカ、裁判所ノ書記トカ云フモノデス
(元尾崎)
現行ヘ住ミ込ムニ付テ保證金ガ入ルガ彼レモ入ルカ
(栗塚)
アレハ入リマセン公ノ力ヲ持テ居ル人デナケレバ入リマセン
(槇村)
前ニ金ヲ貸シタ丈ケノ話シデスカラ可笑シイ事ハアリマスマイ
(栗塚)
保證金ヲ其人ガ出サズニ第三ノ人ガ出シテ居タ其保證金ガ保證金タル役目ヲ濟マセタトキハ其貸シタ人ハ先取特權ヲ持テ居ルト云フノデ御座イマスカラ何ニモアリマセン
(元尾崎)
辨濟ノ後ニ効ヲ爲サヌ
(栗塚)
其レデハ「辨濟アリタル後」デハ如何デス
(委員長)
此職務上ハ何ノ職務上ヤラ分ラヌ、前條ノ事ハ思ヘバ分ルガ
(南部)
千百五十一條ノ第八ハ保證ノ金額ニ對スル債權者其保證ノ金子ヲ貸シタルモノト云フノガ此貸主ト云フモノカ
(委員長)
職務上ハ借主ノ職務上ダロウカ、借主ヤラ何ヤラ分ラヌ
(栗塚)
保證金ヲ出スノハ何カト云フト公吏ガ出ス其金ヲ第三者ガ出シタト云フ事ガ書イテアリマスカラ
(委員長)
何カ借リタヤラ分ラヌ
(栗塚)
「前條ノ保證金カ」デモ宜シウ御座イマス
(槇村)
其レガ宜カロウ
(松岡)
ソンナラ「右」トシテハドウダ
(南部)
一則飛ンデ居ルカラ「前條」ガ宜シイ
(委員長)
「前條ノ」トヤルカ
(元尾崎)
但以下ヲ刪リ度イ
(南部)
故障ヲ述ベタラ大變デス
(元尾崎)
述ベテカラ證明シテモ良カロウ
(南部)
其レハイケナイ
(松岡)
此證明ト云フノハ證明方法ヲ爲シタルモノダ、規則ノ上デ手數ヲ盡シテ置ケバ其規則ヲ證明シタルモノニナルト云フノダ
(委員長)
「其權利ヲ證明シタルトキハ權利ヲ」デハナイカ
(栗塚)
「權利ヲ」デ御座イマス
本條冒頭「保證金」ノ上ニ「前條ノ」ノ三字ヲ加ヘ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百六十九條朗讀ス
第二款 動產ニ係ル特別先取特權ノ順位
第千百六十九條 動產ニ係ル特別先取特權ト一般先取特權ノ全部又ハ一分トノ間ニ抵觸アルトキハ優先ノ順序ヲ左ノ如ク規定ス
第一 訴訟費用ハ其費用ノ有益タリシ總テノ債權者ニ其有益ノ限度又ハ割合ニ應シテ先タツ
第二 其他四箇ノ一般先取特權ハ亦其相互ノ重要ノ割合ニ應シ且第千百四十一條ニ定メタル順序ヲ以テ總テノ特別先取特權ニ先タツ伹他ノ先取特權ニ服セサル動產ノ不足ナル場合ニ限ル
(修正案) 第一項優先ノ上ヲ左ノ如ク改ム動產ニ係ル特別ノ先取特權ト一般ノ先取特權ト相會スルトキハ第一號「債權者ニ」ノ下ニ「對シ」ノ二字ヲ挿入シ「先タツ」ノ上ニ「之ニ」ノ二字ヲ挿入ス第二號「且」ノ一字ヲ刪リ但ノ下「他」ヲ「特別」ト改メ「動產」ノ上「他ノ」二字ヲ播入ス文意明了ナラシムル爲メ修正シタリ
(栗塚)
「特別ノ」ト「ノ」ノ字ガ入リマスカラ「一般ノ先取特權」トナリマス「一般ノ先取特權ト相會スルトキハ優先ノ」トナリマス
(元尾崎)
「相會スルトキハ」ト云フノハ
(栗塚)
出會ウトキト云フノデス
(元尾崎)
待合茶屋ダナ
(松岡)
特別ト云フト同時デモ良イ事ニナルガ此處デハ惡ルイ事ニナルノダ
(元尾崎)
之ニ先ツト云フノハ
(栗塚)
債權者ニ先ツ
(槇村)
「之ニ」ハ分ラヌ
(栗塚)
訴訟費用ハ總テノ債權者ニ先ツゾヨ
(元尾崎)
他ノ債權者ニ先ヅナラ宜シイケレドモ
(栗塚)
併シ「有益ノ限度ニ於テ」トアリマスカラ
(大尾崎)
特別ノ先取特權ニ先ヅト云フノデハナイカ
(槇村)
「之ニ」ガナケレバ一般ノ先取特權ニ應ジテ先ツト云フ事ニ讀メルカラ無イ方ガ宜シイ
(元尾崎)
「之ニ」ト云フ事ハ入ラヌ
(松岡)
「重要ノ」ト云フ事ハ列記シタル内デ重要ノト云フ事ナラ入ラヌ事ダ「千百四十二條ニ定メタル順序ヲ以テ」デ宜シイノダ
(南部)
其レデ「且」ヲ削ツタノデス
(委員長)
有益ノ限度ヤ割合ニ應ジテト云フノカ
(栗塚)
總テノ債權ニ先ツ、併シ有益デアツタ債權者デアツタ内ハ割合デ往クゾヨ、有益デモ有益ノ度合ガアル
(松岡)
註ニ不動產ノ抵當權ヲ以テ居ル人ガアル、ソウスルト訴訟ニナツテ財產ニ負擔シタ總テノ負擔物ニ對シテ持テ居ル人ハ其レデ利益ヲ受ケマスガ特ニ持テ居ル人ハ功能ガ無イカラ費用ヲ掛ル事ハ出來ヌト云フノガ有益ノ割合ニ應ジテデ御座イマス
(元尾崎)
重要ノ割合ニ應ジテト云フト又割合ガアル樣ニナル
(栗塚)
其レハ御削リニナツテモ差支アリマセン
(松岡)
無イ方ガ宜シイ
(元尾崎)
「先取特權ハ第千百四十二條ニ定メタル」デ宜シイ
(槇村)
千百四十二條ニ五ツアルソレヲ四ツニスルハドウ云フ譯カ
(栗塚)
訴訟費用ヲ除イテ四ツニナリマス
(元尾崎)
「之ニ」ハ削ロウ
(栗塚)
總テノ債權者ニ先ツト云フノデス
(元尾崎)
ソウシマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十條朗讀ス
第千百七十條 若シ同一ノ動產ニ付キ特別先取特權ヲ有スル諸種ノ債權者ノ間ニ抵觸ノ起ルトキハ其相互ノ優先權ハ下ノ順序及ヒ區別ニ從ヒテ生ス
第一ノ順位ハ先取特權ノ目的物ヲ保存シタル者ニ屬ス
若シ保存ノ漸次ノ所爲ニ因リ數名ノ債權者アルトキハ優先權ハ其間ニテ最モ近キ保存所爲ヲ爲シタル者ニ屬ス
第二ノ順位ハ明示卽チ合意上ノ動產質ニ因リ或ハ不動產ノ賃貸人、旅店主ニ又ハ運送營業人ノ如ク默示ノ動產質ニ因リ物ヲ握有シタル債權者ニ屬ス
第三ノ順位ハ右ノ物ノ賣主ニ屬ス
然レトモ質物トシテ握有スル債權者ハ動產質設定ノ時其物ノ保存費用ガ未ダ支拂ハレザル事ヲ知ラザリシトキハ第一ノ順位ヲ得
之ニ反シテ質物トシテ握有スル債權者ハ若シ賣却代價カ未タ支拂ハラレサリシ事ヲ知リタルトキハ賣主ニ先セラル
收獲物ニ關シテハ第一ノ順位ハ農業ノ職工ニ屬シ第二ノ順位ハ種子及ヒ肥料ノ供給者ニ屬シ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ屬ス
工業ノ職工ハ亦鑛坑、石坑及ヒ其他土地ノ採掘事業又ハ土地ノ工業ヨリ生スル產物ニ付キ賃貸人ニ先タツ
公役員ノ保證金ニ關シテハ負擔所爲ノ爲メ其役員ニ對スル各債權者ハ相共ニ其相互ノ債權ノ割合ニ應シ其債權ノ日付ニ關セスシテ總テノ他ノ債權者ニ先タチ又保證ノ金圓ヲ貸シタル債權者ニモ先タツ其保證ノ金圓ヲ貸シタル債權者ハ保證金ノ殘額ニ付キ「第二ノ順序ト」稱スル先取特權ヲ行フ
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム同一ノ動產ニ付キ特別ノ先取特權ヲ有スル諸種ノ債權相會スルトキハ其相互ノ優先權ハ下ノ順序及ヒ區別ニ從ヒ之ヲ定ム第三項左ノ如ク改ム若シ數名ノ債權者漸次ニ保存ヲ爲シタルトキハ優先權ハ最後ノ保存者ニ屬ス第四項「合意」ヲ「約束」ト改メ「握有シ」ヲ「質ニ取リ」ト改ム第五項「右ノ」ノ二字ヲ刪ル第六項「債權者」ノ上ヲ左ノ如ク改ム然レトモ物ヲ質ニ取リタル第七項「質物トシテ握有スル」ヲ「質ニ取リタル」ト改メ「若シ」ノ二字ヲ刪ル第八項「職工」ヲ「稼人」ト改ム第九項「職工」ヲ「稼人」ト改ム第十項「公役員」ヲ「公吏」ト改メ「負擔」ヲ「職務上ノ」ト改メ「其役員」ヲ「其吏員」ト改メ「保證ノ金圓」ヲ何レモ「保證金」ト改メ「第二ノ順序ト稱スル先取特權ヲ行フ」ヲ「第二ノ順序ニ於テ先取特權ヲ有ス」ト改ム
(松岡)
卽チ約束書ヲ刪テ下ニ默示ニトアリマスカラ「明示ノ動產質」ト云フタラ良カロウ
(栗塚)
其レガ宜シウ御座イマス何レカト云フト約束上ノ動產質ハヲ受ケタノデス
(村田)
置ク方ガ良カロウ
(元尾崎)
「工業者」ハ「職工」ガ良カロウ
(栗塚)
此邊ハ「職工」ガ宜シウ御座イマスガ前ニ「稼人」トヤリマシタカラ
(槇村)
「工業ノ稼人ハ亦」ト云フ「亦」ト云フノハ
(栗塚)
「工業ノ稼人モ亦」ト云フノデス
(元尾崎)
「亦」ヲ刪ロウ
(淸岡)
「鑛坑」ハ
(栗塚)
「鑛坑」ハ置イテモ宜シウ御座イマス賃銀デ御座イマスカラ
(村田)
「亦」ハナイ方ガ宜シイ
(槇村)
「亦」ヲ刪ロウ
(委員長)
鑛坑石坑ハ農業ト見テアルカ
(栗塚)
工業デ御座イマス種子ヤ肥料ハ工業ト見テアリマス
(委員長)
山ヲ掘テ炭ヲ出スノヲ工業ト云フカ
(栗塚)
工業デ御座イマス千百六十條ニアリマス收獲ノ爲メノ產出物ニ付キ栽培及ビ收獲ノ爲メノ勞働ト云フノハ農デ御座イマス、ソレカラ森林炭坑石坑養蠶所ニ於テ勞働シタル債權者ニ屬スハ工デ御座イマス之ヲ出シタノデ御座イマス
(委員長)
工業ト云フノハ蠶ヲ飼ウノハ工業デナイト云フト其レハ孰レヘ入ルカト云ヘバ前項ヘ入ル樣ニナル
(栗塚)
尤モ工業ト云フノハ製造ト云フ意味デハアリマセン
(委員長)
一旦天然物ニアルノヲ人工デ作リ成スノヲ工業ト云フノダロウカラ
(委員長)
蠶ヲ育テル事ハ農ダ
(槇村)
先逹テ糸ヲ取ル迄ハ農業ト云フ論ガアツタ
(委員長)
之ハ「ボアソナード」ニ聞イテ見タラ良カロウ、農商務省ナドデモ養蠶ナドハ工業ト思テ居ル、其レカラ炭ヲ掘ルノモ掘リ出スノハ農業ト見テ居ル、其レヲ「コツクス」ニスルノハ工業ト見テ居ル
(松岡)
炭ヲ掘ルノハ農業デハアルマイ
(栗塚)
山鹽ヲ掘ルノハ工業デ御座イマシヨウ
(委員長)
農ト工ノ區別ハ六ケ敷クナツテ來ル
(栗塚)
工業ニ付テハ職工ト云フ字ガ使ヘマスガ農業ニ付テハ職工ト云フ字ハ使ヘマセンカラ稼人トシテアリマズ
(南部)
ソレナラ職工トスルガ宜シイ
(槇村)
兩方併セテ云フトキハ稼人ト云フ、區別シタトキハ職工ト云テモ宜シイ
(栗塚)
千百六十條ハ職工トシタラドウデ御座イマシヨウ、ソウシテ二ツヲ併セタトキハ稼人ト云フ
(村田)
三則ノ表題ハ
(栗塚)
二ツ併セタトキハ稼人トシテハドウデシヨウ
(村田)
ソレハ困ル
(栗塚)
其レデハ「農業ノ稼人及ヒ工業ノ職工」ト致シマス
(委員長)
其レガ宜シイ
(淸岡)
養蠶所ノ職工ト云フノハ可笑シイ
(栗塚)
其所デ働ク人ヲ云フノデ御座イマスカラ宜シイノデハ御座イマセンカ、其レカラ五十一條ノ第三ヲ「農業ノ稼人及ヒ工業ノ職工」ト致シマス、ソレカラ今議シテ居ル所ハ「工業ノ職工」トナリマス
本條第九項「亦」ノ字ヲ刪リ第八項第九項「工業ノ職工」ハ原案ニ決シ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十一條朗讀ス
第三節 不動產ニ係ル特別ノ先取特權
第一款 不動產ニ係ル特別ノ先取特權ノ原由及ヒ目的物
第千百七十一條 左ノ債權ニ付テハ下ニ定メタル條件ニ從ヒ不動產ニ係ル先取特權アルモノトス
第一 賣買交換又ハ其他ノ有償所爲若クハ負擔ヲ帶ル無償所爲ニ關ルモ不動產ヲ移付シタルモノハ其移付シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第二 共同派分者ハ派分中ニ包含シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス
第三 工匠、土木師及ヒ工事請負人ハ自己ノ工事ニ因リテ不動產ニ生スル增價ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條〕
第四 先取特權ヲ發生セシムル所爲ノ當時ニ於テ全部又ハ一分ニテ移付者、共同派分者、工事請負人ニ支拂ヒタル金圓ノ貸主ハ右同一ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條第二號及ヒ第三號〕
第五 死亡者ノ資產ト相續人ノ資產トノ離分ヲ請求スル相續ノ債權者及ヒ受囑者相續ノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第八百七十八條乃至第八百八十條、第二千百十一條〕
(修正案) 第一項竝第一號ヲ左ノ如ク改ム第一項下ニ定メタル條件ニ從ヒ不動產ニ係ル先取特權ヲ有スル債權者左ノ如シ第一號第一賣買、交換其他有償ノ行爲ニ因リ又無償名義ニモセヨ負擔ヲ帶ル行爲ニ因リ不動產ヲ讓渡シタル者ハ其讓渡シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス第三號土木師ヲ「技師」ト改メ「自己ノ」ノ三字ヲ刪ル第四號「發」ノ一字ヲ刪リ「所爲」ヲ「行爲」ト改メ「全部又ハ一分ニテ」ノ八字ヲ刪リ「移付者」ヲ「讓渡人」ト改ム
(栗塚)
「下ニ定メタル條件ニ從ヒ不動產ニ係ル先取特權ヲ有スル債權者左ノ如シ」ト致シマス
(元尾崎)
「セヨ」ト云フノハ可笑シイ
(栗塚)
「ト雖モ」デモ宜シイ
(村田)
「名義タリトモ」カ
(栗塚)
「名義ナルモ」カ
(槇村)
「セヨ」ガ宜シイ
(委員長)
負擔ヲ帶ル行爲ニ因リト云フト讓渡シタ財產ガ負擔ヲ帶ビテ居ルノカ
(栗塚)
唯地面ヲヤルケレドモ其代リニドウトカシテ呉レト云フ事モ入リマス
(委員長)
租稅ヲ拂ハナケレバナラヌトカ或ハ其土地ヲ持テ居ル以上ハ疏水費ヲ出サナケレバナラヌトカ土地ヘ付イテ居ル、其レヲ貰ツタトキハ其レヲ拂ハナケレバ前ニヤツタ人ガ先取特權ガアルト云ヘバ宜シイガ、無償名義デ負擔ヲ帶ルト云フ事ハアリソウモナイ話シダ
(委員長)
「無償名義ニモセヨ」ト「ボアソナード」ノ筆ノ走リ過ギデハナイカ
(栗塚)
一方ニ義務ガ無ケレバ先取特權ガアリマセンカラ唯人ニヤツタノモ義務ガアレバ義務ニ付テ先取特權ヲ有スル
(委員長)
唯ヤツテモ其代リニ條件ガ付イテ居ル、條件付ノ贈與ハ總テ無償ト云ヘルカ云ヘヌカ
(栗塚)
其レハ立派ニ云ヘマス、有償無償ト云フノハ償ヲ拂ツテト云フ事デス代價ハナイ
(委員長)
代價ハナイガ、其レヲ貰フ故ニ義務ガ生ズル
(南部)
贈與ト云フノハ無償名義ニ違ヒナイ、併シ負擔ハ付ケラレヌカト云フニ付ケラレル
(委員長)
代價ヲ拂ハヌ丈ケノ話シデ償ヒヲシナケレバナラヌカラ
(南部)
有償ト無償ノ規則ガ違ヒマスカラ、ソウスルト手續ガ崩レテ仕舞ヒマス負擔ガアツテモ無クテモ元トガ無償デス
(栗塚)
成立チハ母ガヤルガ孝行ト云フ事ヲシナケレバナラヌ、其孝行ト云フ事ヲシナケレバナラヌト云フノガ有償ダト仰シヤルノデスカ
(委員長)
ソウサ
(栗塚)
代價ヲ取ラズニ又代價ヲ取ラセルニモセヨ負擔ヲ帶ル行爲ニ因リデス
(栗塚)
所業ト云フノハ直ルデ御座イマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十二條朗讀ス
第一則 移付者ノ先取特權
第千百七十二條 移付者ノ先取特權ハ左ノ各人ニ屬ス
第一 元本又ハ無期若クハ終身ノ年金ニテ定メタル賣却代價、利息又ハ利子及ヒ賣買ノ其他ノ負擔ニ付テハ賣主〔第二千百三條第一號〕
第二 交換ニ於テ受ク可キ補足額竝ニ負擔ニ付キ及ヒ對換トシテ受取リタル物ニ於テ受クル事有ル可キ追奪ノ擔保ニ付テハ共同交換者
第三 贈與ノ負擔ニ付テハ贈與者又ハ其承繼人
又受クル事有ル可キ的確又ハ未定ノ對價ニ付キ及ヒ得取者ノ課セラレタル負擔ニ付テハ有償又ハ無償ノ名義ニ於ケル不動產ノ總テノ移付者
(修正案) 第一號「及ヒ」ノ上ヲ左ノ如ク改ム元本ニテ又ハ年金權ニテ定メタル賣却代價利息又ハ年金第二號左ノ如ク改ム交換ノ補足額竝ニ負擔及ヒ交換物ノ追奪擔保ニ付テハ交換者第三號「承繼人」ヲ「承接人」ト改ム同號末段左ノ如ク改ム其他有償又ハ無償ノ名義ニ於ケル不動產ノ讓渡人ハ一般ニ其對價及ヒ負擔ニ付キ先取特權ヲ有ス
(元尾崎)
「移付者」ハ「讓渡人」トナルノデスネ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
動產デハ
(栗塚)
私ガ「ダイヤモンド」ヲ持テ居ル、之ヲヤルカラ年金權ヲヨコセト云フ事ハ云ヘソウナモノデス
(槇村)
第三ノ「承繼人」ハ「承接人」トナリマスカ
(栗塚)
再調査デソウナツテ居リマス、義務モ權利モ受ケタ人ガ承接人ニナリマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十三條朗讀ス
第千百七十三條 賣却代價及ヒ交換補足額ノ外此等ノ移付ノ負擔竝ニ贈與ノ負擔及ヒ交換竝ニ其他有償名義ノ合意ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償ハ移付ノ證書又ハ日後ノ別證書ヲ以テ金圓ニテ之ヲ定ムル事ヲ要ス
其他右ノ證書ハ次款ニ記載スル如ク之ヲ公示スル事ヲ要ス
(修正) 第一項左ノ如ク改ム賣却代價交換補足額ノ外賣買交換並ニ贈與ノ負擔及ヒ交換其他有償名義ノ約束ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償ハ讓渡ノ證書又ハ日後ノ證書ヲ以テ金圓ニテ之ヲ定ムル事ヲ要ス
(栗塚)
「賣却代價交換補足額ノ外賣買交換竝ニ贈與ノ負擔及ヒ交換其他有償名義ノ約束ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償ハ讓渡ノ證書又ハ日後ノ證書ヲ以テ」ト致シマス
(元尾崎)
二項ハ此通リデスカ
(栗塚)
ソウデス此所デハ賣買交換竝ニ贈與ノ負擔トソウシテ交換其他有償名義ノ約束ニ於ケル追奪擔保ノ未定ノ賠償デ賠償ト負擔ハ豫テ定メテ置カナケレバナラヌ賣却代價補足額ハ定マツテ居ルカラ宜シイケレドモ負擔ト賠償トハ證書デ定メテナケレバナリマセン其證書ハ讓渡ノ證書デモ日後ノ證書デアロウトモ證書デ定メテ置カナケレバナラヌ
(元尾崎)
若シ此物ヲ他カラ取ラレタラ其賠償ハ是レ丈ケヤルト云フ事ヲ證書デ定メテ置クノダネ
(栗塚)
先取特權ハ鄭重ニシテ置カヌト皆先取特權ト極リマスカラ
(元尾崎)
追奪サレタラ其物ノ原價ヲ戻シテ貰ヘバ宜シイダロウ
(栗塚)
貴君ト賣買ヲスルガ若シ之ヲ取ラレタラナラ賠償ヲヤルト云フ事ハ分リマスマイ
(元尾崎)
取ラレタラ又丈ケ損ヲシタト云フ事ガアルカネ、約束シテ置カナケレバ約束シテ置イタ高ホカ取レヌカ
(栗塚)
ソウデス
(南部)
其代リ先取特權ハ見ナイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十四條朗讀ス
第千百七十四條 交換又ハ不動產ノ其他ノ移付ノ對價トシテ受取リタル不動產ノ追奪擔保ニ付テノ先取特權ハ其追奪カ移付ノ時ヨリ十箇年內ニ生シ且確定ト爲リタル判決ニ因リテ一旦追奪ヲ受ケタル上一箇年內ニ擔保ノ請求ヲ爲シテ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
對價トシテ受取リタル動產權利ニ關シテハ擔保ノ先取特權ハ追奪カ一箇年內ニ生シ且確定ト爲リタル判決ヨリ一箇月內ニ請求ヲ爲シテ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
(修正) 第一項「又ハ不動產ノ其他」ヲ「其他不動產」ト改ム第二項權利ノ二字ヲ刪ル
(栗塚)
「交換其他不動產ノ讓渡ノ代價」ト致シマス
(村田)
「追奪」ハ「交換」トアル
(栗塚)
交換丈ケダト宜シウ御座イマスガ、外ニモアリマスカラ
(村田)
其レダカラ讓渡デモイケナイ
(栗塚)
宜シウ御座イマシヨウ、交換デモ賣買デモ贈與デモ何デモ入ツテ仕舞ヒマス
(元尾崎)
「確定トナリタル請求ニ因リ一箇年内ニ生シ」デ良カロウ
(南部)
追奪ガ確定トナルト云フ事ハ分ラヌ
(栗塚)
併シ一項ガアツテ二項ガ分ル一旦追奪ヲ受ケタルト云フ事ハ入ラヌ、判決ヲ受ケレバ追奪ヲ受ケタルニ定マツテ居ルカラ
(元尾崎)
「之ヲ公示ス」ト云フノハ
(栗塚)
公ケニスル
(元尾崎)
裁判所ニ訴ヘタバカリデハイケナイ、新聞紙ニ出サナケレバナラヌカ
(南部)
登記デス
(松岡)
登記サヘスレバ公示ニナル
(元尾崎)
動產デモ登記スルカ
(南部)
向ウガヤツタモノハ不動產デナケレバナラヌ、此方ヘ取ルノハ動產ト不動產トアルケレドモ
(栗塚)
皆不動產ニ係ル先取特權デ御座イマスカラ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十五條朗讀ス
第二則 共同派分者ノ先取特權
第千百七十五條 共同相續人、社員又ハ其他不分ノ共有者ハ或ハ抽籤ノ方法ニ因リ或ハ合意上ノ指定ニ因リ或ハ不分物公賣ニ因レル派分ヨリ生スル左ノ債權ノ爲メニハ其派分ニ於テ各自ノ得タル不動產ニ付キ互ニ先取特權ヲ有ス
第一 補足額又ハ配當部分ノ取戾ノ爲メニハ其補足額ヲ負擔セル共同派分者ニ歸シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條第三號、第三百九條〕
第二 不分物ノ公賣ノ代價ノ爲メニハ其公賣シタル不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百九條〕
第三 共同派分者ノ一人カ其配當部分ニ於テ受ケタル追奪ノ擔保ノ爲メニハ他ノ共同派分者ニ歸シ又ハ他ノ共同派分者ノ爲メ指定シタル總テノ不動產ニ付キ先取特權ヲ有ス伹義務ニ於ケル各共同派分者ノ部分ニ限ル〔同上、第八百八十四條、第八百八十五條〕
(修正) 第一項「共同」ノ二字ト「又ハ」ノ二字ト「不分ノ」ノ三字ヲ刪ル第一號左ノ如ク改ム補足額ノ爲メ又ハ配當ノ過分ノ爲メニハ之ヲ負擔セル共同派分者ニ歸シタル不動產ニ付キ先取特權アリ第二號「不分物ノ」ヲ「不分物」ト改メ「先取特權ヲ有ス」ヲ「先取特權アリ」ト改ム第三號「又ハヨリ指定シ」迄ヲ刪リ「ヲ有ス」ヲ「アリ」ト改ム
(村田)
受ケタル擔保追奪擔保ハ入ラヌダロウ
(栗塚)
之ハ入リマセン、ソレカラ第一ノ三百九條ハ二千百九條ノ誤リデ御座イマス
(元尾崎)
但ハドウ云フ意味カ
(栗塚)
各共同派分者ノ義務ヲ共同派分者ガ負擔シテ居ル、其負擔ノ商ダケデ先取特權ヲ受ケナケレバナラヌ
(元尾崎)
三人ガ受ケテ置イテ、船ヲ人ニ取ラレタトキハ跡ノ二人ニ係テ償ヲ求メル
(村田)
自分ノ持分丈ケニ限ル
(元尾崎)
ソレナラ入ラヌ事ダ、アルト却テ紛ラハシイ
(村田)
義務外ニ及ンデハイケナイ
(元尾崎)
ソンナ事ハナイ、ソノ外ノモノ迄モ及ボスト云フ事ハナイ、ソウ云フト皆云ハナケレバナラヌ
(栗塚)
之ハ實ハ申サヌデモ宜シイノデ御座イマス
(南部)
佛蘭西ノ八百八十條ニ或ハ過失ニ因テ剥奪ヲ受ケタル追奪ヲ受ケタルト云フ事ガ書イテアル、ソレヲ此中ニ含メテアルノデシヨウ
(委員長)
第三ノ所ハ共同派分者ノ一人ガ其部分ヲ受ケタルト云フノカ
(栗塚)
私ト南部サント松岡サント會社ヲ組ンデ一ツノ家ヲ三人デ分ケタ所ガ私ノ取タ土藏ハ他ノ人ノ物デアツタト云フノデ追奪ヲ受ケマシタ、ソウスルト私ハ南部サント松岡サンニ係テ行ケルト云フノデ御座イマス
(委員長)
「有ス」ヲ「アリ」トシタノハ
(栗塚)
前ニ「有ス」トアツテ人ヲ出シテ來テナラ宜シウ御座イマスガ補足額ニ付キ先取特權アリト申シテ置ケバ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
註解見タ樣ナモノダカラト云フノカ
(栗塚)
左樣デス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十六條朗讀ス
第千百七十六條 右ノ擔保ハ共同派分者ノ一分派分ニ因リテ己レニ歸シタル動產及ヒ不動產ノ受ケタル追奪ニ之ヲ適用ス
右ノ擔保ハ亦左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 共同相續人又ハ社員ニシテ他ノ共同相續人又ハ社員ニ對シ補足額又ハ不可分物公賣ノ代價ヲ負擔シタル者ノ無資力
第二 債權ガ一人ノ配當部分ニ加ヘラレタルトキ共同派分者タルト外人タルトヲ問ハス相續又ハ淸算ニ於ケル會社ノ債務者カ派分ノ當時ニ旣ニ無資力タルニ於テハ其債務者ノ無資力
(修正) 第一項本項ハ修正ノ意見アリト雖モ起案者ニ質問中ニ付他日報吿ヲ爲スヘシ第一號「共同」ノ二字ヲ何レモ刪除ス第二號「共同派分者タルト外人タルトヲ問ハス」ヲ「債務者カ」ノ下ニ轉置ス
(栗塚)
「一分」ハ「一人カ」デ御座イマス第一ハ共同ヲ削リマシタ
(元尾崎)
「不動產ノ追奪ニ適用ス」ト云フ事ハ云ハンデ宜シイ、動產ノ追奪ナラ分ル
(南部)
動產デモ云ハンデ宜シイ
(栗塚)
之ハ第一項ヲ質問シマシタ「右ノ擔保ハ共同派分者ノ一人カ」ト云フノハ配當部分デス、己レニ歸シタル追奪ニハ他ノ共同派分者ニ歸シタル先取特權ヲ有スト云フノデ御座イマスカラ前條ノ第三ト如何ニ違ウカト云フノデ御座イマス
(村田)
不動產ヲ取タル所ノ
(栗塚)
不動產ト云フ事ガ何所ニ在リマス
(村田)
第三ノ擔保モ其場合ト思フ不動產ニ付テノ擔保デス
(南部)
各自ノ得タルト云フノヲ自分ノ得タルト見テ居ルノデシヨウ
(栗塚)
第三ノ其配當部分ニ於テ受ケタルト云フノハ不動產バカリト云フ事ガドウシテ云ヘルカ
(村田)
之ハ不動產バカリダ
(南部)
向ウヘヤツタノハ不動產ダ
(栗塚)
人ノ手ニ在ツタ不動產ニ付テ此方ノ權ヲ行フ、其權ヲ行フハ動產デモ不動產デモ構ハヌ
(村田)
追奪擔保ハ三人デ貰フ、之ニ付テ擔保ヲシテ居ルカラ私ニ先取特權ガナケレバナラヌ
(栗塚)
取ラレタトキハ其レデハ無イ、他ノ人ノ物ヲ取ルノダ
(南部)
賣買ノ所デ見レバ分リマス
(栗塚)
之ハ第三ノ共同派分者ノ配當部分ト云テ居ルカラ不動產ト云フテ呉レバ分ルガ、配當部分ト廣ク云フテ、次ギニ同ジ事ヲ云フカラ分ラヌ
(槇村)
之ハ起案者ニ問フテカラニシマシヨウ
(委員長)
其債務者ガ無資力ナラ他ノ者ニ行クト云フ樣ナ譯ダ
(村田)
英文デハ不動產ニ於ケルガ如ク動產ニ適用スルト云フ事ダ
(元尾崎)
動產ニモ不動產ニモ適用スルト云フノダ
(大尾崎)
派分ノ當時ニ既ニ無資力タルトキカ其債務者ノ無資力ト云フノハ派分ノ當時ニ無資力ナレバ擔保ガ入ルト云フ事ハ分ツテ居ルガ、其債務者ノ無資力ト書カナケレバ分リマセンカ
(栗塚)
誰デモ宜シイ、債務者ガ無資力ニナツテ居タラバト云フノデ御座イマス、私ノ配當部分ノ金ハ御前ニハヤラヌゾヨ、併シ誰某ニ貸金ガアルカラヤルト云フ、私ハ其債權ハ取レル事ダト思フタ處ガ豈斗ラン無資力デアツテ其無資力ガ派分ノトキ無資力ナレバ擔保シナケレバナラヌ併跡カラナラ構ハヌト云フノデ御座イマス
(元尾崎)
共同派分者タルトキト外人タルトキトヲ問ハズト云フノヲ削レバ宜シイ
(南部)
ソウスルト派分者バカリト云フ疑ガ起ル
(元尾崎)
相續又ハ會社ニ於ケル債務者ダカラ
(南部)
之ハ隨分アリソウナ疑デス
(元尾崎)
置イテモ宜シイガ、コンナモノガアルト讀ミ惡クナル
(松岡)
字ヲ讀ンデ分ルノハ無理ダ、目ヲ閉ヂテ考ヘルガ宜シイ
(南部)
一項ヲヤルトキニ書キ直シテ貰ツタラ良カロウ
(委員長)
一項ト一緒ニ文章ヲ書キ換ヘテ貰ヲウ
本條第一項ハ起按者ニ質問中ニ付未定第二ハ文字不明ニ付キ報吿委員ニ於テ尙ホ文章修正ノ事ニ決ス
○第千百七十七條朗讀ス
第千百七十七條 第千百七十四條ハ共同派分者間ノ追奪擔保ノ先取特權ニ之ヲ適用ス
共同派分者タルト否トヲ問ハス債務者ノ無資力ニ關シテハ其擔保ハ要求期限ニ逹シタル元本ノ全部又ハ一分ヲ辨濟セサルヨリ一箇年內ニ請求ヲ爲シテ公示シタルトキニ非サレハ當事者ノ間ニテモ又第三者ニ對シテモ負擔セラレス
若シ債務カ無期又ハ終身ノ年金タルトキ債務者ノ無資力カ派分ノ日ヨリ十箇年後ニ生シタルニ於テハ其擔保ハ負擔セラルヽ事ヲ止ム
債務カ利息ヲ生スル元本ニシテ其滿期カ十个年以上ニ及ヒシトキモ亦同シ
(修正) 第二項「負擔セラレス」ヲ「之ヲ負擔セシムル事ヲ得ス」ト改ム第三項「其擔保ハ負擔セラルル事ヲ止ム」ヲ「其擔保ノ負擔ハ止ム」ト改ム
(栗塚)
二項ハ「之ハ負擔セシムル事ヲ得ス」ト致シマス三項ハ「其擔保ノ負擔ハ止ム」ト致シマス
(松岡)
元本ガ利子ノナイトキハ先キヘ行クガ其レハ困ル
(村田)
「滿期カ派分ノトキヨリ十个年以上」トシタ方ガ分ル
(栗塚)
併シ前項ニハ「無資力カ派分ノ日ヨリ十个年」トアリマス
(松岡)
此滿期ト云フノハ元本ヲ取ルベキ滿期ダ
(村田)
ソウデハナイ、派分ト云フ事ガアル
(松岡)
滿期ト云フノハ元金ノ取レル期限ダロウ
(南部)
分ルカラ差支ナイ、「亦同シ」トアルカラ宜シイ
(元尾崎)
貸金ガ十个年以上ノ約束ナレバ十箇年以上迄行カナケレバナラヌ
(松岡)
利息ガアツタラ十箇年デ切ラレルガ無利息ナレバ何時迄モダ
(元尾崎)
其レハ甚イソウスルト無期ノ年金デモ十箇年デ切ラレル
(松岡)
若シ無利息ナレバ其元本ハ十个年ガ十五个年デモ行キマス
(元尾崎)
擔保ノ負擔ハ止ムト云フノハ重復ダ
(栗塚)
「擔保スルノ義務ハ止ム」デ御座イマス「之ヲ擔保スルノ負擔ハ止ム」
(松岡)
「擔保ハ消滅ス」トナル
(南部)
占有ノ所ハ止ムトシテ或ル場合デハ止ム
(栗塚)
「擔保スルノ限リニ在ラス」カ
(村田)
「最早止ム」ト云フノダ
(南部)
「最早」ト云フ事ハナイ
(松岡)
ソンナラ上ノ樣ニ「擔保セシムル事ヲ得ス」トスレバ宜シイ
(委員長)
公示ハ登記ノ事ヲ云フト云フ事ハ何所デ定マツテ居ルカ
(南部)
先キニモアリマス登記ノ效力ト云フ所ニ御座イマス、是レ迄「公式ノ公示」ト書イテアル所ハ皆登記デ御座イマス
(委員長)
公示ト云フタラ登記ト云フ事ニ分ルカ
(南部)
先取特權ノ所ハ皆ソウデ御座イマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十八條朗讀ス
第三則 工匠、技術師及ヒ工事請負人ノ先取特權
第千百七十八條 工匠、技術師及ヒ工事請負人ハ建物、露臺、堤塘若クハ堀割ノ造設若クハ修繕ノ爲メ又ハ地上ニ爲シタル乾涸灌漑、開墾、置土及ヒ其他之ニ類似スル土工ノ爲メ自己ノ指揮シ又ハ擧行シタル工事ヨリ生スル債權ニ付キ先取特權ヲ有ス〔第二千百三條、第四號〕
右同一ノ先取特權ハ鑛坑及ヒ石坑ノ開掘若クハ利用又ハ其閉鎖若クハ廃止ニ關スル地下又ハ外部ノ工事ノ爲メ技術師及ヒ工事請負人ニ屬ス
(修正) 第三則「技術師」ヲ「技師」ト改ム第一項「露臺」ノ二字ヲ刪ル第二項「同一」ノ二字ヲ刪ル
(栗塚)
「技術師」ハ悉ク「技師」トナリマス「露臺」ハ建物ノ中ニ入リマスカラ削リマス二項ハ「右ノ」トナリマス
(村田)
地下地上ノ工事ト云フ事デシヨウ
(栗塚)
左樣デス
(委員長)
宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百七十九條朗讀ス
第千百七十九條 前記ノ工事ヨリ生スル先取特權ハ其工事ニ因リ土地又ハ建物ニ生セシメタル增價ニシテ先取特權行用ノ當時ニ於テ尙ホ存在スルモノヽミニ付キテ存立ス〔第二千百三條第二項〕
右ノ增價ハ裁判所ヨリ任命シタル鑑定人ノ作レル三箇ノ調書ヲ以テ之ヲ證明スル事ヲ要ス
其第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ作リテ場所ノ現狀ヲ證明シ且目論見タル工事ノ槪略ヲ指示スル事ヲ要ス
其第二調書ハ工事ノ受取カ爭ハレ又ハ遲延セラレタルトキト雖モ其工事ノ竣成又ハ原由ノ如何ヲ問ハス其工事ノ絕止ヨリ三个月內ニ之ヲ作リ且右ノ工事ヨリ現ニ生スル增價ヲ證明スル事ヲ要ス〔第二千百三條第四號、第一項及ヒ第二千百十條〕
其第三調書ハ配當順序指定ノ請求ノ當時ニ於テ之ヲ作リ且右ノ增價中ニ就キ存在スル所ノモノヲ證明スル事ヲ要ス
(修正) 第一項「付キテ」ヲ「付キ」ト改ム第四項左ノ如ク改ム其第二調書ハ工事ノ竣成ヨリ又ハ原由ノ如何ヲ問ハス其絕止ヨリ三箇月内ニ之ヲ作リ且其工事ヨリ現ニ生スル增價ヲ證明スル事ヲ要ス第五項「順序指定」ヲ「加入」ト改メ「所ノ」ノ二字ヲ刪ル
(栗塚)
一項ハ「右ニ付キ存立ス」ト致シマス四項ハ「其第二調書ハ工事ノ竣成ヨリ又ハ原由ノ如何ヲ問ハス其絕止ヨリ三个月内ニ之ヲ作リ且其」トナリマス報吿委員デハ「工事ノ」ヲ削リマシタガ「工事ノ」ヲ置イタ方ガ良カロウト思ヒマス
(松岡)
置ク方ガ宜シイ
(栗塚)
ソレカラ末項ハ「配當加入ノ請求ノ當時ニ於テ之ヲ作リ」ト致シマス
(委員長)
「受取ガ爭ハレ又ハ遲延セラレタルトキト雖モ」ハ削ツテ宜シイカ
(栗塚)
括弧ガ入レバアツテモ宜シウ御座イマスガ無イカラ削リマス
(元尾崎)
仕樣書ヲ見タ樣ナモノカ
(栗塚)
ソウデス
(元尾崎)
初メニ作ツタノモ鑑定人ニ作ツテ貰ハナケレバナラヌカ
(栗塚)
左樣デス大キナ受負人デモナケレバ此位ノ事ヲシテ置クデ御座イマシヨウ
(元尾崎)
家ヲ建テルニ裁判所ノ鑑定人ニ作ツテ貰フノハ困ル
(村田)
之ハ受負人ノ方デ云フノダ
(南部)
此方ハ作ラヌ方ガ宜シイ
(元尾崎)
我々ハ受負人ニナラヌカラ構ハス
(村田)
其代リ之ヲシナケレバ先取特權ノ損ニナル
(栗塚)
高島嘉右衞門ガ司法省ノ仕事ヲ受持ツ樣ニナツタラスルデシヨウ
(南部)
「其工事」ト云フ「其」ノ字ハ削ツテ良カロウ
(栗塚)
アツテモ宜シウ御座イマシヨウ
(栗塚)
此調書ノ事ハ後ニ澤山出マスカラ御記憶ヲ願ヒマス
本條中「其工事ノ」ハ原按ノ儘ニ決シ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百八十條朗讀ス
第四則 金圓ノ貸主ノ先取特權
第千百八十條 前數條ニ揭ゲタル先取特權ハ移付、派分又ハ工事請負人トノ契約ノ當時ニ於テ賣買若クハ不分物公賣ノ代價、交換若クハ派分ノ補足額又ハ工事ニ付キ內金トシテ支拂ヒタル金額ノ辨濟ノ爲メ金圓ヲ貸付ケタル者ニ直接ニ且法律ニ憑テ屬ス伹其金圓ノ貸付及ヒ使用ヲ此等ノ所爲ノ關係アル證書中ニ記載シタルトキニ限ル〔第二千百二條第二號、第五號〕
若シ移付者共同派分者又ハ工事請負人ノ利益ニ於テ先取特權ノ發生セシ後ニ金圓ヲ貸付ケタルトキハ貸主ハ第五百二條及ヒ第五百三條ニ定メタル條件ト方式トニ從ヒ債權者又ハ債務者ヨリ合意上ノ代位ヲ得タルトキニ非サレハ先取特權ヲ得取セス〔同上〕
右孰レノ場合ニ於テモ若シ金圓ノ貸主カ債務ノ一分ノミヲ辨濟シタルトキハ貸主ハ先取特權ノ行用ニ於テハ其辨濟シタルモノノ割合ニ應シ第五百八條ニ從ヒテ主タル債權者卽チ原債權者ト競分ス〔第千二百五十二條〕
(修正) 第一項「工事ニ付キ」ヲ「工事ニ付テノ」ト改メ「トシテ支拂ヒタル金額ノ」ノ十一字ヲ刪リ「直接ニ且」ノ四字ヲ刪リ「法律ニ憑テ屬ス」ヲ「法律ニ憑リ直接ニ屬ス」ト改ム第二項ハ「發生セル」ヲ「生セシ」ト改ム第三項「テ主タル債權者卽チ」ノ九字ヲ刪ル
(栗塚)
「移付」ハ「讓渡」トナリマス「工事ニ付キ」ハ「工事ニ付テノ」トナリマス
(松岡)
「憑リ」ハ「依リ」デハナイカ
(栗塚)
法律ノ御蔭デト云フ事デ御座イマス
(元尾崎)
ソレデモ「依」ノ字デ宜シイ
(村田)
「所爲」ハ「行爲」ダロウ
(栗塚)
行爲デ御座イマス、二項ハ「先取特權ノ生セシ後ニ」トナリマス
(村田)
「主タル債權者卽チ」ヲ削ロウ
(元尾崎)
「競分」ト
(栗塚)
競ヒ分ツト云フノデ御座イマス
(元尾崎)
其レハ可笑シイ
(村田)
「工事受負人」ノ上ニ「工匠技師」ト云フノガアリマスネ
(栗塚)
皆アルノデ御座イマスガ佛蘭西ノハ入テ居リマセン
(村田)
工事受負人バカリデハ分カラヌ事ニナリハセヌカ
(南部)
内金ト云フ字ハ
(栗塚)
「前拂」ト云フ字デス
(元尾崎)
競分ハ可笑シイ
(栗塚)
原債權者ト共ニ分ツト云フ事デス「共分」ト改メル樣ニ再調査人申シマシヨウ
(元尾崎)
讓渡ス事柄、派分ノ事柄、工事受負ノ事柄ト、別々ニナツテ居ル
(栗塚)
ソウデス「讓渡ノ當時ニ於テ賣買若クハ不分物ノ代價ノ辨濟ノ爲メ派分ノ當時ニ於テ交換若クハ」デ宜シイノデス
(村田)
唯一ツ違ウノハ下迄掛ツテ居ル樣ダ
(委員長)
若シ金圓ノ貸主ガ債務ノ一部分ノミ辨濟ト云フノハ
(栗塚)
金圓ヲ貸シマシタ人ハ假令バ工事ヲ受負フ人ガアツテ錢ガナイト云フカラ貸シテヤル、其レヲ一部分外拂ハナカツタ時デ御座イマス
(委員長)
人ノ爲メ貸シテヤツタカ
(栗塚)
左樣デ御座イマス
(南部)
「内金」ト云フノハ可笑シイ
(元尾崎)
内金ト云フノハ誂ヘ主カラ拂フノダロウ、其レヲ貸シテヤツタノダカラ若シ返ヘサヌトキハ其家ニ付テ先取特權ガアル
(南部)
其レハソウデスガ、内金デ無クモ全部デ宜シイ
(村田)
内金ト云フ字ハナイ
(栗塚)
アリマス
(元尾崎)
ケレドモ内金ト云フ事ハナイ、全部デモ半分デモ云ヘル
(松岡)
「日後辨濟ノ爲メ金圓ヲ貸付ケタル」デ良カロウ
(栗塚)
代價、補足額、内金ト三ツアリマスカラ「工事ノ代金」トカ何トカ云ハナケレバナラヌ
(南部)
内金ト云フ事ハ分ラヌ
(元尾崎)
工事ニ付テ支拂ノ爲メニト云フノダカラ「工事ノ支拂ノ爲メニ」デ良カロウ、全部デモ半分デモ宜シイ
(松岡)
之ハ全部ヲ重モニ見タト云ハヌト末項ニ一分ヲ重モニ見テ居ルカラ
(栗塚)
負債ノ内ノ一部ノ拂デス
(松岡)
ソウスルト仕舞ノ競分ニ行カナケレバナラヌ
(栗塚)
全部ハ勿論一部ヲ使ウノデモト云フノデス
(南部)
ソウスルト末項ハ一部ノ一部トナル
(松岡)
之ハ前項ノ方ヲ見テ置カヌト良クナイ
(栗塚)
「又ハ工事ノ代金ノ辨濟ノ爲メ」デハ如何デス
(槇村)
其レガ良カロウ
(元尾崎)
交換若クハ派分ノ補足額ト云フノハ交換若クハ派分ノ場合ニ於テハ補足額ト云フノデハナイカ
(栗塚)
其積リデス
(松岡)
去リナガラ一、二、三ノ調書ヲ拵ヘテ置カナケレバナラヌ
(委員長)
「工事ノ代金ノ辨濟ノ爲メ」トスルカ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「工事ニ付キ内金トシテ支拂ヒタル金額ノ辨濟ノ爲メ」ヲ「工事ノ代金ノ辨濟ノ爲メ」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第二項報吿委員ノ修正ニ決ス第三項「テ主タル債權者卽チ」ヲ刪ル