法律取調委員会 民法草案議事筆記 第77回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案債權擔保編議事筆記 , 自 第七十七回 至 第八十一回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案財產擔保編第七十七回議事筆記
自第千百二十一條至第千百四十一條
明治二十一年九月三日午前第八時二十分開會
(委員長)
ヤリマシヨウ
○第千百二十一條朗讀ス
第三章 不動產質
第一節 不動產質ノ目的、本性及ヒ組成
第千百二十一條 不動產質契約ハ不動產質債權者ニ他ノ總債權者ヨリ先ニ不動產ノ果實及ヒ入額ヲ債務ノ期限前ニ收取スルノ權利ヲ付與ス伹不動產質債權者ハ其果實及ヒ入額ヲ債權ノ利息ニ充當シ超過額アルトキハ附隨ニテ之ヲ元本ニ充當シ又債權カ利息ヲ生セサルトキハ其果實及ヒ入額ノ全部ヲ元本ニ充當スル事ヲ要ス〔第二千八十五條第二項〕
期限ニ至レハ債權者抵當權アル債權者ノ權利ヲ行フ
其期限ハ三十年ヨリ多ク遲延スル事ヲ得ス之ニ過クル場合ニ於テハ當然三十年ニ減縮ス
其期限ハ之ヲ伸暢スル事ヲ得ス
第千百二十一條(改正案) 不動產質契約ハ不動產質債權入額ヲ債務ノ期限前ニ收取スルノ權利ヲ付與ス
期限前ニ至レハ債權者抵當權アル債權者ノ權利ヲ行フ其期限ハ三十年ヨリ多ク遲延スル事ヲ得ス之ヲ過クル場合ニ於テハ當然三十年ニ減縮ス
其期限ハ之ヲ伸縮スル事ヲ得ス
修正案 不動產質ハ質取主ニ他ノ債權者ヨリ先ニ其不動產ノ果實及ヒ入額ヲ債務ノ滿期前ニ收取スルノ權利ヲ付與ス
期限ニ至レハ質取主ハ抵當權アル債權者ノ權利ヲ行フ
其期限ハ三十年ヲ超過スル事ヲ得ス之ヲ過クルトキハ當然三十年ニ減縮ス
其期限ハ縱令之ヲ更新スルモ前後通算シテ三十年以上ニ伸ス事ヲ得ス
(栗塚)
修正ガアリマス
(元尾崎)
之ハドウ云フ譯デス
(栗塚)
假令バ二十ケ年目ニ今二十ケ年ヤルト云ヘバ四十年ニナルカラ出來ナイ
(槇村)
更新デハナイ延期ダ
(栗塚)
更新ト云フ語ハ意味ヲ明カニスル爲メニ入レタノデス、其期限ハ之ヲ三十年以上ニ延ス事ヲ得ズト云フノガ旨意デス
(元尾崎)
此間ガ六ケ敷イ
(南部)
ソレヲ全ク定マリナシニヤツテモ期限ガ分ラヌ事ニナツテ仕舞フ
(元尾崎)
三十年ヲ超過スル事ヲ得ズ之ヲ過ギタトキハ三十年ニ減縮スルト云ヘバ良カロウ
(槇村)
「變更」トカ何トカスレバ宜イ、更新ト云フト薩張リ改マツテ仕舞フ
(元尾崎)
一日間ヲ置イテ濟マセテ、翌日ヤリ變ヘレバ復タ三十年行クノデシヨウ
(栗塚)
ソウデス、前ノ期限中ニ復タ延バソウト云フ事ハ出來ナイ
(元尾崎)
二十年ノ證文ヲ止メテ是レカラ先キ三十年更新シテヤレバ出來ルノダロウ
(村田)
通算三十年ト云フト具合ガ惡イ
(元尾崎)
一日間ヲ置ケバ良イト云フ事ハナイ
(栗塚)
併シ三十年經タ後ノ話シデス
(南部)
更新シテ行クト期限ヲ三十年ト定メタ功ハナイ
(元尾崎)
功ガアル、初メカラ四十年ト定メテモ三十年デ打切テ仕舞フ
(南部)
二十年デ又三年復タ三年ト更ヘル、ソウスルト四十年ニナツテ仕舞フ、是レ迄ノ質ノ期限ハ功ガナイ、期限ヲ置ク以上ハ定メナケレバナラヌ
(元尾崎)
假令バ二十年トシテ期限ガ來タ、今三十年ヤリ度イ、併シ更新シテハイケナイト云フ事ニナル、ソンナラ返ヘシテ三十年ヤレバ良イト云フ事ニナル
(南部)
ソウデス、ソウシナイト、三十年ト云フ期限ガ役ニ立タヌ
(元尾崎)
之ハ書イテ置イテモ反古ニナルダロウ
(栗塚)
其レデハ更新シタルモ前後通算シテト云フ字ヲ削リマシテハ如何デス
(松岡)
三十年ヲ通過スル事ハ出來ヌト云ヘバ約束デモ出來ヌ事ハ分ツテ居ル
(槇村)
間デ更ヘテモト云フ旨意ダロウカラ「變更」トシタラ良カロウ
(□□)
永貸借ノ元ノ分ハ五十年ヲ超過スルヲ得ズ五十年以上ノトキハ短縮スル、ソレカラ、次ギニ「更新スル事ヲ得但更新ヨリ五十年ヲ超過スル事ヲ得ス」トシテアル
(西)
更新スルト云フ字ハ無イ方ガ宜カロウ「其期限ハ三十年ヲ延ス事ヲ得ス」デ良カロウ
(松岡)
ソンナラ言ハンデモ宜シイ
(元尾崎)
私ハ削テ宜シイト思フ
(松岡)
「三十年ヲ超過スル事ヲ得ス」ト云ヘバ三十年以上ニ延バス事ヲ得ズト云フノハ入ラヌ事ダ
(委員長)
三十年約束シテ二十年濟ンダ、其レデ復タ新タニ二十年ヲ更新シタ、前後併セテ五十年ハ出來ヌゾヨト云フノダロウ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
其レナラ宜シイ
(元尾崎)
私ハソウ思フ
(松岡)
文字ノ上デハソウハ讀メナイ
(槇村)
更新ト云フ字ガ惡ルイ
(村田)
六百六十六條ニモ「更新」ト云フ字ガアリマス
(元尾崎)
舊約ヲ延バスナラ更新デハナイ
(栗塚)
舊約ヲ延バスト云フノデス「其期限ハ之ヲ三十年以上ニ增件スル事ヲ得ス」トシタラ良カロウ
(西)
其レガ宜シイ
(松岡)
其レヲ無クシテモ其期限ハト云フノハ何處ヲ指スノダロウ
(南部)
假令バ十年過ギテ居ル、年ヲ約束スル時分ニ仕變ヘテ仕舞ヘトナル、併シ前ニ三十年アロウガ、今十年ヤルト云フ事ハ出來ナイ
(元尾崎)
三十年ハ超サレヌト云フカラ入ラヌ事ダ
(南部)
削テモ差支ナイ
(松岡)
更新スレバ其時カラ出來ルトスルカ
(栗塚)
更メテ三十年出來ルト云フト原按ノ旨意ト違ウ
(元尾崎)
更新ト云フ字ハ其旨意デハナイカラ削ツテ宜シイ
(栗塚)
「三十年以上ニ增伴スル事ヲ得ス」デ宜シウ御座イマシヨウ
(松岡)
何ゼ更新ガ出來ヌダロウ、外ノ所ハ皆ナ許ス
(栗塚)
外ハ許スガ此處ハ出來ナイ、不動產ハ出來ナイト云フ
(栗塚)
更新デハイカヌ
(松岡)
更新ト云フノハ契約ガ更マルノダ
(南部)
兎ニ角削ツテハ如何デス
(松岡)
前後通算シテヲ削レバ宜シイ
(栗塚)
旨意ヲ改メ樣ト云フノデシヨウ此處デ云フノハ起案者ガ氣ヲ付ケテ入レタノデス
(松岡)
此處デ入レタノナレバ入ラヌ話シダ
(元尾崎)
期限ノ更新丈ケナラ宜シイ
(栗塚)
期限ノ更新デス、義務ナラバ更改デス
(松岡)
質物ハ三年ダケレドモ更新スレバ幾ラデモ出來ル舊幕ノ時分ハ十ケ年ガ極點ダ、今日ノ處ハドンナ事ヲシテモ相對ノ契約ハ不動產質ハ三十年以上ハ出來ヌトスベキモノダロウカ、更メテスル外ハ宜シイトスルカ
(栗塚)
其レハ原案デモ宜シイノデス一ツ定メタ期限ヲ中途デ伴ハス事ハ出來ヌゾヨト云フノデス
(松岡)
ソレナラ入ラザル話シダ
(淸岡)
三項ヲ削ツテ超過ヲ相傳トスルガ宜シイ
(元尾崎)
其レハイカヌ、初メノ原則ガ三十年ト極マルノダカラ其レハイケナイ、槇村サンノ云フ樣ニ「縱令之ヲ延期スルモ前後通算シテ」トスルガ宜シイ
(村田)
「延期」ト云フト期限ガ來テカラノ事ニナルカライケナイ
(委員長)
「延期スルモ」トスルカ
(大尾崎)
ソンナラ宜シイ
(元尾崎)
ソウシマシヨウ
(松岡)
三十年ヲ二十年トシタラ良カロウト思フ永小作ハ二十年カラ初マル、畢竟質ト云ヘバ金銀ノ貸借ダカラ
(委員長)
佛蘭西ハ
(栗塚)
佛蘭西ハ期限ナシデス
(槇村)
三十年ト定メタノハ
(委員長)
餘リ長クシテハイケナイト云フノダロウ
(栗塚)
「縱令延期スルモ前後通算シテ」デ御座イマスカラ三十年デ御置キニナツテハ如何デス
(淸岡)
契約ヲ仕變ヘレバ宜シイカラ二十年デモ宜シイ
(南部)
先取特權ノトキ順ガ變ツテ來マスカラ
(委員長)
伊太利ハ
(栗塚)
無期限デ御座イマス
(元尾崎)
期限ハアル方ガ良イ
(松岡)
期限ハ三年ダカラ餘リ短カ過ギル
(元尾崎)
二十年デ宜カロウ
(委員長)
二十年ニシマスカ
本條ハ左ノ如ク改ム
不動產質ハ質取主ニ他ノ債權者ヨリ先ニ不動產ノ果實及ヒ入額ヲ債務ノ滿期前ニ收取スルノ權利ヲ付與ス期限ニ至レハ質取主ハ抵當權アル債權者ノ權利ヲ行フ其期限ハ二十年ヲ超過スル事ヲ得ス之ヲ過クルトキハ當然二十年ニ減縮ス其期限ハ縱令之ヲ延期スルモ前後通算シテ二十年以上ニ伸ス事ヲ得ス
○第千百二十二條朗讀ス
第千百二十二條 不動產質ハ債務者ノ爲メ第三者ヨリ之ヲ設定スル事ヲ得其不動產質ハ債務者ト設定者トノ間ニ於テハ同一ノ方法ニテ設定セラレタル動產質ノ爲メ第千百二條ニ定メタル効力ヲ生ス〔第二千九十條〕
(修正案) 「設定セラレタル」ヲ「設定シタル」ト改ム
(栗塚)
「セラレタル」ヲ「シタル」ト致シマシタ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百二十三條朗讀ス
第千百二十三條 不動產質ハ第千二百三條及ヒ第千二百四條ニ從ヒ抵當ト爲ス事ヲ得ヘク且設定者ニ屬スル不動產權利ノ上ニ非サレハ之ヲ設定スル事ヲ得ス
設定者ハ質ト爲シタル物件又ハ權利ノ收益權ヲ自カラ有スル事ヲ要ス其質ハ孰レノ場合ニ於テモ其收益權ノ繼續期ヲ超過スル事ヲ得ス
不動產質ヲ設定スルカ爲メニ要スル能力ハ第千二百十五條及ヒ第千二百十六條ニ定メタル如キ抵當設定ノ能力ト同一ナリ
(修正案) 第三項「不動產質ヲ設定スルカ爲メニ」ヲ「不動產質設定ノ爲メニ」ト改ム
(栗塚)
末項ノ「不動產質ヲ設定スルカ爲メニ」ト云フノヲ「不動產質設定ノ爲メニ」ト致シマシタ
(元尾崎)
自分ニ能力ノナイ者ハ質ハ置ケヌト云フノダネ
(南部)
ソウデス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百二十四條朗讀ス
第千百二十四條 不動產質カ合意上ノモノナルトキハ其質ハ合意上ノ抵當ノ爲メ第千二百十一條ニ定メタル如キ公證人證書ヲ以テスルニ非サレハ當事者ノ間ニ於テ設定セラレス〔第二千八十五條〕
其不動產質ハ此第千二百十八條ニ從ヒ遺言上ノ抵當ノ許サルル場合ニ於テハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スル事ヲ得
其不動產質ハ之ヲ證明スル證書又ハ之ヲ設定シタル口頭合意ノ成立ヲ認定スル判決書ヲ第三百六十八條第一號及ヒ第三號ニ從ヒ登記シテ公ニ爲シタル當時ヨリ後ニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ對抗スル事ヲ得ス〔千八百五十五年三月二十三日ノ法律第二條第一號、第二號、第三號、第二千八十五條第一項〕
右ノ登記ハ抵當ノ順位ヲ保存スル爲メ記入ニ等シキ効力ヲ有ス
(修正案) 「之ヲ設定シタル口頭合意ノ成立ヲ認定スル」迄ヲ刪リ「登記シテ公ニ爲シタル當時ヨリ」ヲ「登記シタル」ト改ム
(栗塚)
「證明スル證書又ハ判決書ヲ」トナリマス
(松岡)
御尤モデス
(栗塚)
ソレカラ「登記シタル後ニ非サレハ」トナリマス「之ヲ設定シタル口頭合意ノ成立ヲ認定スル」ト云フ字ヲ刪テモ三百六十八條ニ書イテ御座イマスカラ差支アリマセン
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百二十五條朗讀ス
第千百二十五條 登記シタル證書又ハ判決書ニハ不動產質ト爲シタル不動產ノ精確ナル指示ノ外元本及ヒ利息ニ於ケル債權ノ額ヲ記載スル事ヲ要ス
右ノ指示カ不十分ナル場合ニ於テハ旣ニ爲シタル登記ノ緣邊ニ補足合意ヲ附記シテ之ヲ補フ然レトモ右ノ附記ハ其日附ヨリニ非サレハ効力ヲ生セス
(修正案) 第一項「登記シタル」ヲ「登記ス可キ」ト改メ「不動產質」ヲ「質」ト改メ「元本及ヒ利息ニ於ケル債權ノ額ヲ」ヲ「元利ノ債權額ヲ」ト改ム第二項「補足合意ヲ附記シテ之ヲ補フ」ヲ「補足ノ約束ヲ附記ス」ト改ム
(栗塚)
「不動產」ト云フ字ハ起案者ガ削テ來マシタ「登記ス可キ證書又ハ判決書ニハ質ト爲シタル不動產ノ精確ナル指示ノ外元利ノ債權額ヲ記載スル事ヲ要ス」ト致シマス末項ハ「補足ノ約束ヲ附記ス」ト致シマス
(槇村)
「附記シテ之ヲ補フ」ノ方ガ宜シイ
(松岡)
「服スル事ヲ得」トシタラ宜カロウ
(南部)
「得」デハナイ「要ス」ダ
(村田)
「附記シテ之ヲ補フ」ガ宜シイ
(元尾崎)
一體入ラヌ事デハナイカ
(栗塚)
地券面ダト繩伸ビナドガアリマスカラ書イテ置クガ宜シイ
(南部)
間違ツタ事ガアツタリ、落チタトキ後チニ書ク事ヲ云フタノデス
(松岡)
二項ハ削ツテモ宜シイ
(村田)
無イト登記ヲシ直サナケレバナリマセン
(栗塚)
「補足ノ約束ヲ附記シテ之ヲ補フ」デスカ
(大尾崎)
「補フ」ガ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項報吿委員ノ修正ニ決ス第二項「合意」ヲ「約束」ト改メ他ハ原案ニ決ス
○第千百二十六條朗讀ス
第千百二十六條 若シ不動產質ト爲シタル物權カ用收權、賃借權永借權又ハ從前ノ不動產質權ナルトキハ右權利ノ設定證書ノ緣邊ニ其不動產質權ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
(修正案) 左ノ如ク修正ス質ト爲シタル物權カ用益權、賃借權又ハ永借權ナルトキハ右權利ノ設定證書ノ登記ノ縁邊ニ其質權ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
(栗塚)
修正ガ御座イマス
(元尾崎)
一體箇樣ナ事ヲ許スノハ良クナイ
(松岡)
已ニ用益賃貸借ニシテアルモノヲ云フノデハアリマセンカ
(南部)
ソウデス
(栗塚)
借リテ居ル物ヲ質ニ入レル
(松岡)
已ニ人ヘ貸シテアル物ヲ質ニ入レルト云フノデハナイカ
(西)
權ダカラ質ニ取テ居ル方ダロウ
(松岡)
借リテ方デハ面白クナイ
(南部)
賃借ノ方ハ未ダ定マラヌ
(大尾崎)
ドウモ少シ穩カデナイ
(委員長)
人ニ馬車ヲ借リルトカ船ヲ借リルトカ云フトキハ復タ質ニ置イテモ睹易イガ家ヲ借リタトカ田地ヲ借リタトカ云フトキ借リタ物ヲ質ニ置クノハ困ル
(南部)
其方ハ登記デ分ツテ居リマスカラ却テ宜シイ
(委員長)
抵當ニ取ル方デ左程珍重スマイ
(元尾崎)
若シ惡イ事ヲスル方ノ側カラ見ルト安ク借リテ貴樣ニヤルカラ金ヲ貸セト云フ事ガ出來ル
(松岡)
貸借ノ所ハ如何ナルヤラ分ラヌ起案者ハ動產物サヘ特權ダカラ自由ニ出來ル樣ニナツテ居ル其所ニ「但反對ノ約束カアレハ此限ニ在ラス」トアル
(委員長)
一番多イノハ賃貸借デス
(松岡)
賃貸借ノ所迄御預リニシタラ良カロウ
(委員長)
其レガ良カロウ
(栗塚)
永借權ハ無論デスナ
(大尾崎)
ソウデス
本條ハ賃貸借ノ部ヲ議定シタル後ニ決スル事ニ決ス
○第千百二十七條朗讀ス
第千百二十七條 不動產質債權者ハ右ノ外動產質ニ關シ第千百七條ニ記載シタル如ク其債權ヲ擔保スル不動產權ノ現實ノ占有ヲ得且之ヲ保存スル事ヲ要ス
(修正案) 「不動產權ノ」云々ヲ「不動產又ハ權利ヲ現實ニ占有スル事ヲ要ス」ト改ム
(栗塚)
修正ガ御座イマス
(松岡)
「要ス」ハ惡ルイ樣デス不動產ノ質ハ外ヘ小作ヲサセルノモ人ヘ貸シテモ構ハヌ
(南部)
併シ名前ガ分ラヌ
(松岡)
直小作ト云フノハ元ノ所有者ガ持テ居ル元トノ按ニハ「占有ヲ得」トアル
(栗塚)
「占有ヲ得ル事ヲ要ス」デス
(委員長)
何ゼ權利ト云フ字ヲ入レタロウ
(栗塚)
前ニ二樣ニ書イテアリマスカラ、百二十九條ノ二項ニモ「不動產又ハ權利ヲ」トアリマス實ハ御丁寧ナ話シデス
(委員長)
保存ト云フ字ヲ削ルト保存ノ義務ガナイ樣ニナリハセヌカ
(栗塚)
保存ト云フノモ占有ヲ保存スルノデ御座イマスカラ
(委員長)
占有デハアルマイ
(栗塚)
權利ノ占有ヲ得ナケレバナラズ、ソウシテ其占有ヲ保存シナケレバナラヌト云フノデ御座イマス
(委員長)
不動產又ハ權利ト云フト、不動產ノ占有、權利ノ占有ト其レカラ保存ハ不動產ノ保存ト占有ノ保存ノ樣ニナル
(南部)
保存ノ所ハ千百三十五條ニ適用ノ條ガアリマス
(栗塚)
翻譯ガ惡ルイノデス止マラナケレバナラヌト云フノデス
(元尾崎)
人ニ貸シテアル物ヲ質ニ置ク譯ニハイカヌダロウ
(南部)
ソウデス
(村田)
保存ト云フ字ガ惡ルイ
(栗塚)
占有シテ居ル事ヲ要スト云フノデス「存スル」トヤレバ良イノダ
(松岡)
質ニ取レバ人ニ貸シテ宜シイ
(元尾崎)
自分デ住ハナケレバナラヌダロウ
(南部)
自分ノ名義ナレバ宜シイ
(元尾崎)
此家ヲ借リテ質ニ入レタトキハ質取主ガ住マウトモ人ニ貸ソウトモ勝手ナノデス
(松岡)
ソレハソウデス、現實ニ占有スルト云フノハ云ハヌトモ良カロウ
(村田)
矢張リ現實ニ占有シナケレバナラヌ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百二十八條朗讀ス
第千百二十八條 不動產質ハ第千百十條ニ於テ動產質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ〔第二千九十條〕
(栗塚)
之ハ此儘デス
本條ハ原按ニ決ス
○第千百二十九條朗讀ス
第二節 不動產質ノ効力
第千百二十九條 不動產質債權者ハ其債權ノ擔保ノ爲メ受取リタル不動產又ハ權利ヲ第百二十六條乃至第百二十九條ニ規定シタル制限ニ從ヒ賃貸スル事ヲ得伹右ニ反スル約束アルトキハ此限ニ在ラス
又不動產質債權者ハ其不動產又ハ權利ヲ自己ノ權利ノ繼續期間ニ限リ動產質ニ付キ第千百十二條ニ記載シタル如ク自己ノ責任ヲ以テ其不動產質ヲ讓渡スル事ヲ得
(修正案) 第二項「自ラ不動產」ノ五字ヲ刪ル
(栗塚)
「不動產質債權者」ハ「質取主」トナリマス、終リノ「自ラ不動產質ト爲ス事ヲ得」ハ「質ト爲ス事ヲ得」ト致シマシタ
(元尾崎)
質ヲ復タ質ニ入レルノハドウ云フ積リデシヨウ
(栗塚)
實際無イ積リデス、是レ丈ケノ權利ハ與ヘルノガ當然デアロウ
(元尾崎)
今ノ處デ本人ノ承諾ヲ得ナケレバスル事ハナラヌ、今ノ處デハ動產質デモソウダロウ
(南部)
此法律デハ出來ナイ
(栗塚)
芝居小屋デハ客ノ羽織ヲ質ニ持テ行キマス
(松岡)
私ガ貴君ニ質ヲ置ク、貴君ハ質ヲ取テ居ル間ニ尾崎サンニ賃貸ヲシタ、私ハ金ガ出來テ受戻シニ行クト尾崎サンニ賃貸シタ期限内ハ待テ居ラナケレバナリマセン
(委員長)
併シ初メ質ニ入レタ三年ナラ三年ヨリ伸ス事ハ出來ヌダロウ
(松岡)
出來マス
(南部)
註ハ縱令取テモ註モ取ル者ハナイト云旨意デハナイカ
(松岡)
不動產ノ質ハ不動產ノ質ノ繼續スベキ時期デナケレバ賃貸ガ出來ヌトハ云ヘヌ若シ賃貸借ガ其樣ナ不確定ナ期限ニ附セラルルトキハ其賃借人タラントスル者ハナイ、故ニ此點ニ關スル權利ハ他人ノ物ノ管理者ト同樣ノ意ヲ要ス此條ハ管理人ノ賃貸ノ繼續及ビ更新ノ期限ヲ規定スル第六百二十六條乃至第六百二十九條ヲ援用シタトアル
(南部)
不動產質ハ期限ガ定マツテ居ルデシヨウ
(栗塚)
起案者ノ旨意ハ賃貸スルト云フ事ヲ許シテ居ナガラ負債ノ期限ニ隨テ賃貸ノ期限ヲ定メレバ金サヘ返ヘセバ取戻ス、ソウスレバ期限ガ有リ樣ハナイ假令バ十ケ年不動產ヲ質ニ入レテ金ヲ借リテモ三ケ月目カ四ケ月目ニ金ヲ持テ往ケバ不動產ヲ返ヘサナケレバナラヌ十ケ年間小作ニ入レテ其翌日金ヲ拂テ呉レタトキハ迷惑スル、元來小作ニ入レル旨意ハ惡ルクスルノデ管理ノ所爲ダカラ遵奉シナケレバナラヌト云フ旨意ニナツテ居ル
(元尾崎)
期限ハ一方丈ケノ契約ダ
(栗塚)
ソウデス
(元尾崎)
十ケ年間小作ニ入レテアレバ其間ハ小作人ニ渡シテ置カナケレバナラヌ、ソウスルト質取主ニ繼續スル
(村田)
一體不動產質ハ三十年行ク、併シ管理ノ所有ハ五年デス假令バ二十年ノモノデモ三十年ノモノデモ卽チ百二十六條百二十九條ニ從テ五年ヨリ往カヌト云フ事ヲ示シタノデハナイカ
(松岡)
先キ迄往ケルト書イテアル
(栗塚)
貴君ニ私ノ地面ヲ質ニ入レテ金ヲ借リテ二年經タトキ二年間外ナラヌト云フト大變困ルカラト云フノデス
(委員長)
期限ヲ立テ借リタ金ヲ返ヘシテ其期限ガ過ギタトキハ
(栗塚)
何時デモ不動產質ノ權利ガ消ヘル事ハ出來ル、ソウスルト期限ノ立テ樣ハナイ、其不確定ナル期限ニ從テ居ルト云フ事デハ管理ガ出來ヌカラ管理ノ所爲トシテ之ヲ許スト云フノデス
(松岡)
ソウスルト之ヲ直サナケレバナラヌ百二十六條百二十九條ト云フト所ヲ讀ンデ見ルト期限内トハ讀メヌ
(栗塚)
賃貸借ハ功ガアルガ不動產質ハ無クナツテ仕舞フソウスルト此期限ガ分ラヌ、其不確カナ不動產質ノ期限ニ賃貸ノ期限ヲ從ハセル事ハ出來ヌ、併シナガラ不動產質ハ二年ト定ツテ居ルニ三年ト云フ事ヲヤル事ハ出來ヌ
(松岡)
其レハ見ヘヌ元トノ期限ヨリ出ラルルト云フノハ分ラヌ
(栗塚)
必ラズシモ不動產質ニ限ルト云フト賃借ハ出來ヌ
(委員長)
註解ニ明亮ニ書イテ置カヌト良クナイ、松岡サンノ讀ンデ來タ樣ニナルト期間外ニモ及ボス樣ニナル
(南部)
「但不動產質契約ノ期間ヲ超過スル事ヲ得ス」トスレバ良イ
(松岡)
ソウスレバ宜シイ
(元尾崎)
唯ノ金ノ貸借ハ一年借リル、ソウスルト一年ヨリ前ニ金ヲ持テ來レバ受取ラヌ權利ガアリマシヨウ
(栗塚)
ソレハアリマセン
(元尾崎)
利息ハドウスルダロウ
(栗塚)
損害賠償ハ取レテ利息ハ取レマセン
(元尾崎)
同ジ譯ダ其理窟ハ質デモ同ジ事ダロウ
(栗塚)
其レハ同ジ事デス
(南部)
損害賠償ノ高ガ利息ヨリ多クナルカ又少ナクナルカ分ラヌ
(元尾崎)
其レガ分ルカ知ラヌ
(栗塚)
貸借篇ニ在リマス
(松岡)
ソンナラ入レマシヨウ
(栗塚)
「但質契約ノ期限ヲ超過スル事ヲ得ス」デ宜シウ御座イマシヨウ
(西)
質取主ト云フト質ニ取テ居ル間丈ケ外ヤレヌ樣ニナリハセヌカ
(委員長)
之ハ註ヘ書イテモ良イ位ダ
(栗塚)
「權利ヲ規定シタル制限ニ從ヒ質契約ノ期限内ニ於テ賃貸スル事ヲ得」トスレバ宜シイ
(南部)
「從ヒ且質契約ノ」トスルガ良イ
(栗塚)
「期間ニ限リ」ガ宜シウ御座イマシヨウ
(元尾崎)
其レガ宜シイ
(委員長)
其レデ良カロウ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項左ノ如ク改ム質取主ハ其債權ノ擔保ノ爲メ受取リタル不動產又ハ權利ヲ第百二十六條乃至第百二十九條ニ規定シタル制限ニ從ヒ且質契約ノ期間ニ限リ賃貸スル事ヲ得第二項報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百三十條朗讀ス
第千百三十條 不動產質債權者ハ租稅及ヒ入額ノ其他ノ每年ノ負擔ヲ辨償スルノ責ニ任ス
不動產質債權者ハ亦保持ノ修繕及ヒ必要ニシテ且急迫ナル大修繕ヲ爲スノ責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス伹シ必要ニシテ且急迫ナル大修繕ノ費用ハ之ヲ償還ス〔第二千八十六條〕
(修正案) 第一項「入額ノ」ノ三字ヲ刪ル第二項但書左ノ如ク改ム但其大修繕ノ費用ハ質置主之ヲ償還ス
(栗塚)
起案者ガ二項ノ終リヘ「但其大修繕ノ費用ハ質置主之ヲ償還ス」ト入レマシタ
(元尾崎)
一項ノ每年ノ負擔ヲ辨償スト云フノハ自分ガ拂テ居ルノダロウ
(南部)
ソウデス
(元尾崎)
「負擔ス」ト云ヘバ宜シイ「負擔ヲ辨償ス」ト云フト後ニ辨償スル樣ニナル
(栗塚)
負擔金トカ加役トカ協議費トカ云フモノデス
(元尾崎)
「費用ヲ負擔スルノ責ニ任ス」デ宜シイ
(南部)
「公課」トシテモ宜シイ
(松岡)
「辨償」ノ字ハ良クナイ
(栗塚)
是レ迄「辨償」ト云フ字ハ拂フト云フ所ニ使テアリマス
(元尾崎)
「負擔ヲ支辨スルノ責ニ任ス」ナラ宜シイ
(南部)
「公課ヲ負擔ス」トアル
(元尾崎)
「公課ヲ負擔ス」デ宜シイ
(村田)
再調査デ直シテ貰オウ
(委員長)
再調査ノ字ニ依テ直セバ宜シイ「每年ノ公課ヲ負擔スルノ責ニ任ス」トヤロウ
(栗塚)
「租稅其他每年ノ公課ヲ負擔ス」デ宜シウ御座イマス
本條ハ左ノ如ク決ス
質取主ハ租稅其他ノ每年ノ公課ヲ負擔ス」質取主ハ亦保存ノ修繕及ヒ必要ニシテ且急迫ナル大修繕ヲ爲スノ責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負擔ス但其大修繕ノ費用ハ質置主之ヲ償還ス
○第千百三十一條朗讀ス
第千百三十一條 若シ不動產カ市府ノ財產ニ存スルトキハ債權者ハ自ラ其財產ヲ領スルト之ヲ賃貸スルト否トヲ問ハス其借賃ヲ自己ノ債權ノ利息ニ又超過額アレハ附隨ニテ又ハ債權カ利息ヲ付セサルトキハ全部ニテ元本ニ充當ス
若シ不動產質カ田舎ノ財產ニ存スルトキハ當事者ノ間ニ於テ果實ノ計算ヲモ又利息ノ計算ヲモ爲サス其果實及ヒ利息請負ニテ相殺ニ供セラレタリト看做サル但反對ノ合意アリ且他ノ債權者ニ對シ顯著ナル詐僞アルトキハ此限ニアラス
(修正案) 左ノ如ク改ム
質ノ建物宅地ニ存スルトキハ質取主ハ自ラ之ヲ占領スルト之ヲ賃貸スルトヲ問ハス其借賃ヲ自己ノ債權ノ利息ニ充當シ若シ超過額アルトキハ附隨ニテ又ハ債權カ利息ヲ生セサルトキハ全部ニテ元本ニ充當ス若シ質ノ田畑山林ニ存スルトキハ當事者ノ間ニ於テ果實ノ計算ヲモ又利息ノ計算ヲモ爲サス其果實ト利息トハ互ニ之ヲ相殺ニ供シタリト看做ス但反對ノ約束アルカ又ハ他ノ債權者ニ對シ顯著ナル詐僞アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
之ハ起按者ガ直シマシタノヲ復タ修正致シマシタ
(大尾崎)
借賃ハ貸賃ガ宜シイ
(南部)
建物質ハ全國ニナイカラ起按者ノ通リ一歩讓テ置イテ宜シイ事ニナリマシタ
(元尾崎)
質ニスル以上ハ田畑ト建物宅地ト違フノハ可笑シイ
(栗塚)
此歴史ヲ御話シ致シマス不動產質ノ性質ヲ云フトキニ日本ニハ地所ノ質入ガアル、如何ニモ彼ノ方ニ基コウト云フノデ「超過額アルトキハ全部ニテ元本ニ充當ス」ト云ヒ度イト云ヒマスカラ不動產ハ日本ノ大體ニシテ建物ト宅地ノ質入ハ日本ニナイケレドモ、有レバ「ボアソナード」ノ旨意ガ其レ丈ケ行ハレル
(松岡)
餘計ナ事ダ、東京府下デ宅地ノ質入レハナカロウガ
(元尾崎)
アルダロウ
(大尾崎)
抵當ハアルガ質ハアルマイ
(元尾崎)
田舎ニアルダロウ
(栗塚)
田舎ニハ尙ホナイ一體論ハ起案者ノガ宜シイ、金ヲ貸セバ利息サヘ拂ヘバ宜シイ
(元尾崎)
建物宅地ト田畑山林ト同ジ質デアリナガラ仕樣ガ違ウト云フノハ可笑シイ
(栗塚)
日本デハドウシマス、日本ニハナイ
(元尾崎)
萬一此後スレバ矢張リ同ジニスルガ宜シイ、今ノ處デ宅地ヲ質ニ置ク者ハナイカラ設ケテ置イテモ用ヲ爲サヌ
(南部)
地所ノ書入ノ慣習ガアルカラ家ノ質ヲ拵ヘルト云フ事ハ理窟ガナイ
(元尾崎)
君方ノ論ニシテモ拵ヘルデハナイ
(南部)
質ノ本體ヲ見セル
(松岡)
若シ家ヲ質ニ取テ、借家ニスルトキハ利息ト差引ニシナケレバナラヌト云フ事ハ誰ニデモ思ヒ付キハセヌカ
(元尾崎)
「地所建物質入書入規則」トアル
(南部)
質入ハ地所バカリデス
(元尾崎)
田畑ト宅地ト別ニシナケレバナラヌト云フ理由ハナイ
(栗塚)
今日日本デシテ居ルノヲ現ハソウトスルニハ修正ノ三十一條ハ我々ガ按ヲ立テヤツタノデス、起案者ノ考ヘデハ千百二十一條ノ通リニスルト云フ如何ニモソウデ御座イマス、何國ノ法律ヲ見マシテモ皆日本ノ法律ノ樣ナノハアリマセン年ノ豐凶ニ依テ利息ノ高ノ違ツタリスル事ハナイ、處ガ日本ノ習慣ガアルカラ其レニ基イテ拵ヘテ呉レ宅地建物ニハナイガ田畑山林ニ在ル慣習ヲ亂ス事ハ出來ヌカラ
(松岡)
田舎ノ田畑山林デモ利息ノナカツタ時分ハ前項ヲ用ユルト云フ旨意デス
(村田)
用ヒ樣ガナイ
(松岡)
此區別ヲ立ルニハ及バヌ、總テ果實ハ質取主ニ屬スルモノデ一ノ原則デ通シテ宜シイ二樣ニ分ケル要用モナイ
(栗塚)
詰リ千百二十一條ノ但ヲ刪テ千百三十一條ノ一項ニシタノデス
(松岡)
千百二十一條ノ果實入額ハ何處迄モ通シテ仕舞ツテ無利息ハ契約ニ任セテ仕舞ツタラ良カロウト思フ
(南部)
地所ニ付テハ箇樣、建物ニ付テハ箇樣ト分ケル事ハ外ニモアリマス
(栗塚)
元來利息ト云フモノハ人ニ金ヲ貸シテ質ヲ取タガ、質カラ出タ物ヲ殘ラズ利息ニシテ宜シイカ
(松岡)
其レハ任カセテ構ハヌ宅地デモ必ラズ借人ガ地代ヲ拂フニ限リモシナイ
(栗塚)
金ヲ拂テ來ルモノト權能ニシテアレバ利息丈ケヲ取テ其掛リハ返ヘスノガ當然ダロウト思フ、餘分ヲ取ルト云フノハ勘定ガウルサイカラト云フノデ御座イマシヨウ
(元尾崎)
色變リノ物ヲ二ツ置クニハ及バヌ
(大尾崎)
併シ二ツニシテモ違ヒハナイ、全體質ハ日本ノ今迄ノ心得デハ田畑ハ利息ヲ定メズ其土地カラ上ツテ來ル物ヲ質取主ガ取テ利息ヲ見ナイ、併シ本體ヲ云フト利息ガナケレバナラヌ併シ慣習ニナイ、宅地ノ事ヲ定メルノハ原按ノ通リデ宜シイ
(淸岡)
宅地ヲ質ニ取ル事ハアルマイ
(元尾崎)
無イト明言スル事ハ出來ヌ
(栗塚)
只今迄ノ統計デアリマセン
(淸岡)
宅地ヲ貸シテ人ニ家ヲ建テサセル、一ト坪幾ラヲ取ルソレヲ質取主ニ宛ガツテ取ラセル事ハ出來マイ
(栗塚)
シテモ構ヒマセンガアリマセン
(元尾崎)
ナイモノデハナイ有リ得ベキ事柄ダ西京邊デハ信券ヲ質ニ置ク事ガアル
(南部)
建物ハナイ
(元尾崎)
建物ハ今迄不動產ト看做サナカツタ位ダ
(北畠)
西京長崎奈良ナドハ宅地ハ賣買ガ出來タノデス、其レダカラ估券ト云フ名ハナカツタ
(栗塚)
貸借ハ金ニ困ツタ人ノスル事デ利息ノ高イ安イハ問ヒマセン、金貸ノ貸シテ呉レルノヲ好ミマスカラ金ノナイトキハ騰貴スルカ知レマセン、其レヨリ利息ヲ引イテ質買主ニ返ヘセバ當然デアル
(松岡)
格別結構ナ按デモナイ、利息制限ヲ氣ニスルノモ「ボアソナード」ガ云フノデ世間ニナイモノモ幾ラモアル
(南部)
利息制限ヲ此會議デ決定シテ居ルカラ止メテ仕舞フト云フ事ハ出來ナイ
(栗塚)
私モ一個人ノ說ヲ申セバ制限者デハ御座イマセン
(松岡)
利息制限法ハ擴メテ行カナケレバナラヌカト云フト到底狹メテ行カナケレバナリマセン
(委員長)
是レカラ追々宅地建物モ質ニ入レル事ガ初マルニ違ヒナイ、質ニ置クト云フ事ガ出來レバドウスルカト云フト法律ガナイ、舊慣通リニスル、舊慣デハ相殺スル事モアル、返ヘス事モアル、之ニ書キ分ケテ置ケバ之ニ依テヤル樣ニナル
(元尾崎)
餘リガアレバ返ヘシ足リナケレバ双方ノ契約ニ任カセル
(委員長)
銘々ノ合意ニ任カセテ問ハンデモ良イトスルカ、其レガ不動產質トナル以上ハ斯ノ如ク規定シテ置クガ良イカ孰レカニ決シナケレバナラヌ
(元尾崎)
双方ノ意思ガ分ランケレバ質ノ原則ニ依ル、契約ナレバ勝手ニ出來ル
(委員長)
之ガアツテモ同ジダガ、契約ノナイモノハ此法律ニ依テヤル、其レヲ貴君ノ論デハ契約ノナイモノガアツタトキハ裁判官ノ腦髓デ決シナケレバナラヌ
(大尾崎)
田畑ノ如キモノハ慣習デ利息ニ充テル樣ニナツテ居ルガ今家ヲ質ニ取ツタ處ガ其レカラ掛リ高ハ餘リガナイカ分ラヌ
(西)
利子ヲ制限スル法ガ立タ以上ハ之デ良カロウト思フ
(元尾崎)
其レヲ云ヘバ田畑山林デモ非常ニ收入ノ多イ所ハ制限シナケレバナラヌ
(委員長)
之ガアツテモ大變害ヲスルト云フ論モナイカラ孰レカニ決シマシヨウ
(松岡)
ドウセ少數デス
(委員長)
ソンナラ是レデ置キマシヨウ、借賃ハ貸賃トシマスカ
(北畠)
貸賃トシナケレバナラヌ
(槇村)
借賃デナケレバナラヌ
(南部)
「貸借賃」トスレバ宜シイ
(大尾崎)
貸賃デナケレバ可笑シイ
(松岡)
借賃ト云フ事ハアルガ貸賃ト云フ事ハナイ
(委員長)
語呂ハ「貸賃ヲ」ノ方ガ良イ
(西)
借賃トハ云フガ貸賃トハ云ハヌ
(栗塚)
「其賃料ヲ」トシマスカ
(元尾崎)
貸賃デ宜シイ
(南部)
「貸賃」ガ宜カロウ
(委員長)
「賃料」デ宜シイ
(南部)
「賃料」ハ可笑シイ
(元尾崎)
「借賃」デ宜シイ
(西)
「借賃」トシマスカ
(委員長)
田畑山林ノ中ヘ外ノモノガ籠リマスカ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
外ノモノトハ
(委員長)
池トカ河トカデス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百三十二條朗讀ス
第千百三十二條 借賃ト利息トノ充當及ヒ果實アルトキニ其果實ト利息トノ充當ハ每年ノ負擔保持管理及ヒ栽培ノ費用ヲ減除シ純益價額ニ付テ之ヲ爲ス
(修正案) 左ノ如ク改ム借賃ヲ利息ニ充當シ及ヒ果實アルトキ其果實ヲ利息ニ充當スルニハ每年ノ負擔竝ニ保持、管理及ヒ栽培ノ費用ヲ減除シタル純益價格ニ付テ之ヲ爲ス
(栗塚)
「借賃ヲ利息ニ充當シ及ヒ果實アルトキ其果實ヲ利息ニ充當スルニハ每年ノ負擔竝ニ保持、管理及ヒ栽培ノ費用ヲ減少シタル純益價額ニ付テ之ヲ爲ス」ト致シマス
(南部)
每年ノ負擔ハ「公課」トシナケレバナラヌ
(栗塚)
ソウハ行キマスマイ茲デ負擔ト云フト種々ノ物ガ入ル
(南部)
ソウデナイ皆別々ニシテアル
(栗塚)
營繕モ入リマシヨウ
(松岡)
其レハ別ダ
(元尾崎)
原按ノ通リダ
(栗塚)
是レカラ負擔ト云フ字ガ使ヘヌト困ル
(大尾崎)
「負擔」デ宜シイ
(松岡)
前條ノ第一項ノ所ニ當ルノダ
(栗塚)
ソウデス
(大尾崎)
之ハ原按ガ宜シイ
(槇村)
修正ガ宜シイ
(松岡)
修正ガ宜シイ
(槇村)
「價格」ノ「格」ノ字ハ妙ナ字ガ書イテアル
(南部)
「額」ノ誤リデ御座イマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百三十三條朗讀ス
第千百三十三條 債權者ハ主タリ及ヒ從タル債務ノ皆濟ヲ受クルマテ質ト爲サレタル不動產又ハ權利ノ占有ヲ留保スル事ヲ得〔第二千八十七條第一項〕
(修正案) 第一項「主タリ及ヒ從タル」ノ八字ヲ刪リ「不動產質ト爲サレ」ヲ「質ニ取リ」ト改ム
(栗塚)
「質取主ハ債務ノ皆濟ヲ受クル迄」トナリマス
(元尾崎)
「債務管理ノ皆濟ヲ受クル爲メ」トシタラ良カロウ
(栗塚)
皆濟デ盡ス積リデス
(松岡)
利息ノ濟マヌ前ニ元トノ濟ム筈ハナイ
(槇村)
管理ガ良カロウ
(栗塚)
然レドモ以下ハ削テアリマス
(委員長)
良カロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百三十四條朗讀ス
第千百三十四條 賣買ノ場合ニ於テハ質債權者ハ其順位ニ於テ其抵當ヲ行ヒ且其債權者カ如何ナル先取特權又ハ抵當權アル債權者ニモ先ンセラレサルトキハ獲得者ハ質債權者ノ尙ホ受クヘキモノヽ爲メ第千百二十一條ニ從ヒ質ノ終了スヘキ時期ニ至ルマテ其留置權ヲ尊重スルノ責アリ
然レトモ若シ不動產質債權者カ自ラ競賣ヲ求メタルトキハ其留置權ハ消滅ス但其公賣ニ於テ明示シテ此權利ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
(修正案) 第一項「獲得者」ヲ「取得者」ト改ム第二項「競賣」ヲ「公賣」ト改ム
(元尾崎)
且其債權者ト云フノハ
(栗塚)
質取主デ御座イマス
(元尾崎)
「尊重」ト云フノハドウカシ度イ
(栗塚)
「ベスペクト」ト云フノデ御座イマス
(村田)
「注意」デハナイカ
(元尾崎)
注意位デハイケナイ遵奉シナケレバナラヌ
(北畠)
「崇重」トシタラ宜カロウ
(淸岡)
留置權ニ從フ責ガアルト云フノダロウ
(栗塚)
留置權ヲ害ス可カラザルノ責アリデス
(北畠)
「妨ケル事ヲ得ス」カ
(委員長)
「維持スル」トハ書ケヌカ
(栗塚)
人ノ權ニ頭ヲ下ゲテ居ラナケレバナラヌト云フノデ御座イマス
(淸岡)
「服從スルノ責アリ」カ
(南部)
「服從」ヨリ「尊重」ガ宜シイ
(栗塚)
「重ンスルノ責アリ」デハイケマセンカ
(元尾崎)
重ンズルデハイケナイ、「從フ」トカ「害スル」トカガ宜シイ
(村田)
「從フノ責アリ」ガ宜シイ
(元尾崎)
留置權ヲ妨ゲル事ヲ得ズ
(松岡)
質物ヲ賣タ處ガ八百圓ニ外賣レナイ二百圓殘テ居ル時分ニマダ二百圓アルカラ留置權ヲ持テ居ルト云フノカ、ソウスルト地所ヲ引取ル事ハ出來ヌカ
(南部)
其レハ出來ヌ
(松岡)
ソウスルト賣テモ役ニ立タヌ、實際公賣シテ質ハ元トノ債權ハオ流レニナラヌケレドモ千兩ノ所ヘ千五百圓モアロウト思テ入レテ置イテ其レヲ賣タ所ガ八百圓ニ外賣レナイ錢ヲ出シテモ地所ガ取レナイト錢ヲ出ス人ハナイ
(南部)
質取主ハ抵當權ヲ行フ
(松岡)
足リナイ時分ニ千兩ノ物ニ八百圓外價ガナイ、ドウシテモ二百圓足ラヌカラ二百圓ノ爲メニ留置シテ置クト云フト買タ者ハ役ニ立タヌカラ買ハヌ
(栗塚)
滌除法ヲ行ツテ除去シテ仕舞フ
(南部)
自分ガ他ノ者ノ爲メニ賣却サレタノデシヨウ、自分デヤツタノデハイケナイ、其レダカラ賣ラセヌ方ガ宜シイ
(松岡)
公賣トナツタラドウダロウ
(南部)
其趣キヲ示シテ賣ラナケレバナラヌ、若シ賣却シテ取テ仕舞フト云フト質取主ハ損ヲシナケレバナラヌ
(松岡)
ソンナラ年限内ハ公賣ヲサセヌトスレバ宜シイ
(南部)
幾ンド其レダ
(栗塚)
賣タトキハ誰レニ賣タト云フ事ガ書イテアルカラ買フ人ハ知テ居ラナケレバナラヌ、先キガ留置權ガアルゾヨト云フ事ヲ知テ居レバ金ヲ持テ行カナケレバ取ル事ハ出來ナイ
(元尾崎)
「留置權ニ從フ」ト仕樣
(槇村)
「從フ」ガ宜シイ
(委員長)
「留置權ニ從フノ責アリ」カ
(元尾崎)
但書ハ
(栗塚)
若シ公賣シテ足リナケレバ矢張リ留置權ヲ持テ居ルゾヨ
本條第一項「留置權ヲ尊重スルノ責アリ」ヲ「留置權ニ從フノ責アリ」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百三十五條朗讀ス
第千百三十五條 第千百十一條第千百十四條第千百十五條第千百十八條第千百十九條及ヒ第千百二十條ハ不動產ニモ之ヲ適用ス
(栗塚)
之ハ修正モアリマセン
本條ハ原按ニ決ス
于時午後零時五分休憩
午後第一時開會
○第千百三十六條朗讀ス
第四章 先取特權
前置條例
第千百三十六條 先取特權ハ合意上ノ質ナキ場合ニ於テ或ル債權ノ原由ニ附着シタル優先權ナリ〔第二千九十五條〕
先取特權ノ存在スルニ必要ナル原由、條件及ヒ其存在スル目的物ハ法律ニ制限シテ之ヲ定ム
先取特權カ第三保有者ニ對シ追及權ヲ與フル場合及ヒ其權利行用ノ條件ハ亦法律ヲ以テ之ヲ定ム
(修正案) 左ノ如ク改ム先取特權ハ或ル債權ノ原由ニ附着シタル優先權ナリ但動產質及ヒ不動產質ニ關シ約束ヨリ生スル先取特權ハ此限ニ在ラス先取特權ハ法律ヲ以テ制限シテ定メタル原由、條件及ヒ目的物ニ於ケルニ非サレハ存セス先取特權カ第三所持者ニ對シ追及權ヲ與フル場合及ヒ其權利行使ノ條件モ亦法律ヲ以テ之ヲ定ム
(元尾崎)
二項ハ原按ガ宜シイ
(松岡)
詰リ制限シタノデ、類推ハ出來ナイト云フ旨意ダカラ元トノ旨意ニシテモ其レガ無ケレバ役ニ立タヌ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百三十七條朗讀ス
第千百三十七條 先取特權ハ第千百十條及ヒ第千百二十八條ニ於テ動產質及ヒ不動產質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
(栗塚)
之ハ修正ハアリマセン
(元尾崎)
宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
○第千百三十八條朗讀ス
第千百三十八條 若シ先取特權ノ負擔アル物カ第三者ノ方ニテ滅失シ又ハ毀損シ第三者カ此カ爲メ債務者ニ賠償ヲ負擔シタルトキハ先取特權アル債權者ハ他ノ債權者ニ先タチ右ノ賠償ニ於ケル債務者ノ權利ヲ行フ事ヲ得伹其先取特權アル債權者ハ辨濟前ニ適正ノ方式ニ從ヒ辨濟ニ付キ異議ヲ述フル事ヲ要ス
先取特權ニ屬シタル物ノ賣却又ハ賃貸アル場合及ヒ其物ニ關スル法律上又ハ合意上ノ權利ノ行用ノ爲メ債務者ニ金額又ハ有價物ヲ辨濟ス可キ總テノ場合ニ於テモ亦同シ伹災害ノ場合ニ於テ保險者ノ負擔スル賠償ニ關シ第八百三十九條ニ記載シタルモノヲ妨ケス〔伊民第千九百五十一條〕
(修正案) 第一項「方ニテ」ヲ「所爲ニテ」ト改メ「第三者カ」ヲ「第三者」ト改メ「異議ヲ述フル事ヲ要ス」ヲ「故障ヲ爲ス事ヲ要ス」ト改ム第二項「行用」ヲ「行使」ト改メ「第八百三十九條ニ」ヲ「商法第□ 條ニ」ト改ム
(栗塚)
「若シ」ヲ刪リマシテ「第三者ノ所爲ニテ」トナリマス
(槇村)
「此カ爲メ」ノ「此」ハ「之」デ良カロウ
(栗塚)
「之」デ宜シウ御座イマス「辨濟ニ付キ故障ヲ爲ス事ヲ要ス」ト致シマス
(淸岡)
「合意上」ハ約束上ダロウ
(栗塚)
「約束上」デ御座イマス、「賠償ニ關シ商法第條」ト致シマス
(委員長)
商法ハ分ツテ居ソウナモノデス
(栗塚)
何條ニナルカ分リマセン
本條ハ左ノ如ク決ス第一項「此」ヲ「之カ」ト改メ、第二項「合意上」ヲ「約束上」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百三十九條朗讀ス
第千百三十九條 先取特權ノ種類ハ左ノ如シ
第一 一般ノモノ卽チ債務者ノ總テノ動產及ヒ附隨ニテ其總テノ不動產ニ係ルモノ〔第二千九十九條、第二千百條、第二千百一條、第二千百四條、第二千百五條〕
第二 或ル動產ニ付キ特別ノモノ〔第二千百二條〕
第三 或ル不動產ニ付キ特別ノモノ〔第二千百三條〕
(修正案) 第一號左ノ如ク改ム一般ノ先取特權卽チ債務者ノ總動產及ヒ附從ニテ其總不動產ニ係ルモノ第二號「或ル動產ニ付キ」云々ヲ「或ル動產ニ係ル特別ノ先取特權」ト改ム第三號「或ル不動產ニ付キ」云々ヲ「或ル不動產ニ係ル特別ノ先取特權」ト改ム
(栗塚)
第一ノ「一般ノモノ」ヲ「一般ノ先取特權」ト致シマス「債務者ノ總動產及ヒ附隨ニテ其總動產ニ係ルモノ」トナリマス
(槇村)
「附從」トアル
(栗塚)
之ハ附隨デ御座イマスガ跡デ直シマスカラ
(槇村)
修正ガ宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第千百四十條朗讀ス
第千百四十條 一般又ハ特別ノ先取特權ヲ有スル債權者ノ相互ノ順位ハ此章ノ各節ニ之ヲ規定ス
不動產ニ付キ先取特權ヲ有スル債權者ハ其同一ノ不動產ニ付キ抵當權ヲ有スル債權者ニ先タツ伹法律カ之ニ異ナリテ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス〔第二千九十五條〕
同名義又ハ同順位ノ先取特權アル債權者ハ其債權額ノ割合ニ應シテ辨濟ヲ受ク〔第二千九十七條〕
(栗塚)
「先タツ」ト云フ字ハ良イ字ガアレバ直シ度イト思ヒマス
本條ハ原按ニ決ス
○第千百四十一條朗讀ス
第千百四十一條 此法律ニ定メタル先取特權ハ商法又ハ各人若クハ公ノ金庫ノ爲メ特別法ニ設定シ又ハ設定スヘキ先取特權ノ妨ケト爲ラス〔第二千九十八條〕
其他右ノ先取特權ハ別段ノ規定ナキ總テノ點ニ付テハ下ニ定メタル一般ノ規則ニ從フ
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム此法律ニ定メタル先取特權ハ各人又ハ國庫ノ爲メ商法又ハ特別法ヲ以テ設定シ又ハ設定ス可キ先取特權ノ妨ケト爲ラス
(元尾崎)
「設定」ト云フ字ハ是レ迄法律デ定メル事ニ使ハヌ樣ダ今互ヒノ契約ニ使テ居ル
(栗塚)
用收權ノ所ニ「設定」ト云フ字ガアリマス
(松岡)
「規定」ノ方ガ良カロウ
(栗塚)
「規定」デモ宜シイ
(委員長)
規定トスルカ
(北畠)
「總テノ點」ハ「場合」ノ方ガ宜カロウ
(槇村)
之ハ「場合」ダロウ
(栗塚)
「點」デ御座イマス
(委員長)
「場合」トシテモ良カロウ
(南部)
「事項ニ付テハ」トナスツテハドウデス
(栗塚)
「事項」トカ「條項」トカスルガ宜シイ
(北畠)
場合モ同ジ事ダ
(村田)
「點」ト云フノハ直譯ダ
(松岡)
「規定ナキモノハ下ニ定メタル」デモ宜シイ
(元尾崎)
「其他右ノ先取特權」ト云フノハ
(南部)
商法ニ定ムベキ先取特權デス
(松岡)
右ト云フノハ商法又ハ特別法ダ
(元尾崎)
商法又ハ特別法ニ規定シタル先取特權ト雖モ別段ノ規定ナキモノハ下ニ定メタルト云フノダ
(南部)
ソウデス
(委員長)
「規定シタルト雖モ」ト云フノハ重複スルカラ云ヘナイ
(松岡)
其方ニ特別ノ規定ガナケレバト云フノダ
(委員長)
「總テノ場合」トヤルカ「規定ナキニ於テハ」トヤルカ
(南部)
「總テノ場合」デ宜シイ
(松岡)
「其他」ト云フノハ無クテ宜シイ
(淸岡)
「其他」ヲ削ロウ
(松岡)
「規定ナキ場合ニ於テハ」デモ宜シイ
(委員長)
「一般ノ規定ナキ場合ニ於テハ」トスルカ
本條ハ左ノ如ク決ス
此法律ニ定メタル先取特權ハ各人又ハ公ノ國庫ノ爲メ商法又ハ特別法ニ規定シ又ハ規定ス可キ先取特權ノ妨ケトナラス右ノ先取特權ハ別段ノ規定ナキ總テノ場合ニ於テハ下ニ定メタル一般ノ規定ニ從フ
于時午後一時四十分閉會