旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案再調査案議事筆記 第7回甲

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法財產編再調査案第七回之甲議事筆記
自第二百七十三條至第三百十三條
(委員長)
始メマシヨウ
第二百七十三條朗讀ス
第二百七十三條 高サノ不同ナル二箇ノ建物ヲ隔ツル牆壁ニ付テハ其牆壁カ低キ建物ヲ踰ユル部分ニハ互有ノ推定ヲ適用セス
又牆壁カ一箇ノ建物ノミヲ支持スルトキハ右ノ推定ハ如何ナル部分ニモ之ヲ適用セス
(元尾崎委員)
條ノ上ニ「數字削除ノ建議」トアルハ如何
(今村委員)
土藏石藏アノ事デス、以前ハ一向極リガナカツタカラアツタノデス、ガソレヲ削タノデス
(委員長)
建物ヲ隔ツルト云フノハ如何
(槇村委員)
間ニ在ルノデシヨウ
(南部委員)
離隔シテ居ルト云フノデス
(今村委員)
離隔シテ居ルト云テモ同ジデアリマス
(委員長)
隔ツルト云フト間ガ離レテ居ルニナリハセンカ
(南部委員)
ソレハ其フデシヨウ
(淸岡委員)
建物ヲ隔テ居ルト云フノガオカシイノデス
(松岡委員)
建物ノ隔壁ニシテ分界線トスト七十一條ニアリマスガ此計モ「建物ノ隔壁ニ付テハ」トシテハ如何
(元尾崎委員)
此條ハ分リ切テ居ル
(委員長)
隔ツルガ良ケレバ、宜シイ
本條ハ原案ニ決ス
第二百七十四條朗讀ス
第二百七十四條 二箇ノ土地ヲ分界スル一箇ノ圍障其他ノ工作物ニ互有ノ目標ト非互有ノ目標トノ併存スルトキハ裁判所ハ狀況ニ從ヒテ其所有權ノ共通ナルヤ專屬ナルヤヲ查定ス
(松岡委員)
裁判所ハ査定セー抔ト餘計ナ事ヲ云フ
(村田委員)
之ハ良ササウデス
(南部委員)
良シイ、先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百七十五條朗讀ス
第二百七十五條 互有界ノ保持及ヒ修繕ハ互有者平分シテ之ヲ負擔ス但其一人ノ所爲ヨリ毀損ノ生シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ第二百六十七條ニ定メタル義務上ノ圍障ニ非サルトキハ互有者ノ各自ハ互有權ヲ抛棄シテ保持及ヒ修繕ノ負擔ヲ免カルヽ事ヲ得但自己ノ建物ヲ支持スル牆壁ノ保持及ヒ修繕又ハ自己ノ所爲ニ因リテ必要ト爲リタル修繕ヲ負擔ス可キトキハ此限ニ在ラス
(今村委員)
「免カルル」トアルガ斯ウ云フトキニハ「ル」ヲ返サン譯例デアリマスカラ「ル」ヲ削テ下サイ
(元尾崎委員)
互有界ト云フモノガアルカ
(今村委員)
界デアリマス、塀ナリ壁ナリデ界ニシテヤルモノト云フノデアリマス
(元尾崎委員)
界ヲ保持スルト云フノハ語ヲ成サンネ
(三島委員)
略シテ來タノデス
(今村委員)
今日ハ煉瓦モ石モ木モ種々アルカラ總稱シテ互有界トシタノデアリマス
(元尾崎委員)
互有界ノ牆壁ト云フヨウナ字ヲ入レント何ウカ
(今村委員)
入レルト種々混淆シテイカン
(南部委員)
牆壁バカリデハナイ
(元尾崎委員)
溝モアルカ
(南部委員)
生籬柴垣モアル
(委員長)
互有界ト云フヨリ外アリマスマイ
(元尾崎委員)
互有界ヲ保持スルト云フハドウ云フ事カ
(三島委員)
此所丈ケデハ下ラン事ハ分テ居ルガ前カラアルカラ仕方ガナイ
(槇村委員)
ドウモ仕樣ハアルマイ
(大尾崎委員)
互有權ヲ抛棄スルト互有ノ物ヲ取ラレテ仕舞カ
(南部委員)
左樣デス
(大尾崎委員)
貧乏人ダト抛棄シサウダ抛棄サレテモ困タモノダネ
(南部委員)
仕方ハアリマスマイ
(今村委員)
隣リノ無イ處ヘ家ヲ建タモ同樣デ仕方ガナイ
(大尾崎委員)
矢張負擔シソウナモノデス抛棄シテ義務ガナイト云フノハオカシイ
(南部委員)
之ハ良イデハアリマセンカ互有ノ場合デアリマスカラネ
(村田委員)
良シイ
(委員長)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百七十六條朗讀ス
第二百七十六條 相隣者ハ互有界ヲ其性質及ヒ用方ニ從ヒ使用スル事ヲ得但其堅牢ヲ傷ハサル事ヲ要ス
相隣者ハ互有ノ牆壁ニ其厚サ四分ノ三ニ至ルマテ梁棟ヲ穿入シテ建物ヲ支持シ又ハ之ニ煖爐ヲ嵌入シ若クハ煙突、水管、瓦斯管、其他家用、工業用ノ爲メ筒管ヲ通スル事ヲ得但其牆壁ノ性質及ヒ厚サカ此ニ耐フルトキニ限ル然レトモ互有者ハ其牆壁ニ牖孔ヲ鑿チ又室內用ノ爲メ些少ノ凹穴ヲモ鑿ツ事ヲ得ス
互有者ハ互有ノ牆壁ノ高サヲ增ス事ヲ得但其牆壁ノ堅牢此ニ耐フルトキ又ハ自費ニテ堅牢ノ工事若クハ改築ヲ爲ストキニ限ル此場合ニ於テ其高サヲ增シタル部分ハ互有ニ非ス
互有者ハ互有ノ溝渠ニ雨水又ハ家用、工業用ノ水ヲ流入スル事ヲ得
互有者ハ互有ノ生籬ヲ剪伐シタル樹枝ヲ平分スル事ヲ得又其生籬ニ存スル高木ノ伐除ヲ請求スル事ヲ得
(元尾崎委員)
コンナ壁ハアリマスマイ
(南部委員)
ナイ
(元尾崎委員)
四分ノ三迄梁ヲ突込權利ガアル以上ハ「些少ノ凹穴ヲモ鑿ツ事ヲ得ス」トアルガ其位ヒノ事ハ宜ササウナモノデス
(三島委員)
棚ノ替リニスルノデシヨウ
(南部委員)
「堅牢ノ工事」ト云フノハ報吿委員デハ「工事ヲ加ヘ若クハ改築ヲ爲シ之ヲ堅牢ナラシムルトキニ限ル」トスルト云フノデス堅牢ノ工事ト云フト工事ガ堅牢トナルカソウデナク工事ヲ加ヘ又改築シテ而シテ牆壁ヲ充分ニスルトキニ限ルト云フ旨意ダカラ修正シタイト云フ說デアリマス
(元尾崎委員)
ソレハ良ササウデス
(北畠委員)
「工事ヲ加ヘ若クハ改築ヲ爲シ若クハ堅牢ナラシムルトキニ限ル」ガ良シイ
(槇村委員)
スルト少シ違フネ
(今村委員)
一方堅牢ノ工事ヲシナケレバナラン改築ハ堅牢デナクツテモ宜イカナレバ無論堅牢デナケレバナラン矢張堅牢ト係タ方ガ穩カデアロウト思ヒマス
(村田委員)
「堅牢ナラシムル」デ良シイダロウ
(今村委員)
前ノモノヲ改築シテ堅牢ニスルハ假令バ一尺ノ壁ヲ一尺五寸ニシタトキデシヨウ「ボアソナード」ガ改築ト云フノヲ入レタノデス
(西委員)
修正ノ通リデ良シイ
(元尾崎委員)
自費ニテ工事ヲ加ヘ若クハ改築シテ堅牢ナラシムルトキニ限ルト云テ良シイ
(槇村委員)
ソウスルト一人ノ改築デハ出來ヌトナルゼ
(南部委員)
是非丈夫ニナラント往カンデシヨウ
(松岡委員)
ソレデハ改築モイラン位ヒデス
(今村委員)
改築モイラント云フ說モアツタノデス
(松岡委員)
工事ヲ加ヘ堅牢ト云フトドンナ事ニナルカ
(南部委員)
高サヲ增スト云フノガアルカラネ改築ト云フノガ考ヘ當ルノカモ知レン
(今村委員)
削ル程ノ文字デハナイ
(松岡委員)
改築ノ堅牢ト云ハンデモ良シイ
(槇村委員)
其儘ノモノヲ以テ土ヲ增シテモ良イト云フノダ
(村田委員)
改築ト云フト元トノ通リニシナケレバナランネ
(槇村委員)
改築ト云フト元トノ通リダロウ
(南部委員)
斯ウ云フ牆壁ハ高サヲ增ス事ガ出來ルト云フノデ又自費デ工事ヲ加ヘテ堅牢ナラシムルトキニ限ルト云フノデアリマスカラネ
(淸岡委員)
自費ト云フ事ヲ上ヘ揚ゲナケレバナラン、互有者自費ニテ高サヲ增ス事ヲ得トスルカ
(今村委員)
增ス丈ケハ無論自費デアリマス
(元尾崎委員)
之デ良シイ理窟ヲ云フ程ノ事ハナイ
(槇村委員)
自費デ工事ヲ加ヘ自費デ改築スルトキト云フノダ
(村田委員)
元トノ儘デモ分ル事ハ解ル
(槇村委員)
報吿委員ノ修正方宜シイ
(北畠委員)
ソレデ良シイ
(委員長)
良ケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第三項「自費ニテ堅牢ノ工事若クハ改築ヲ爲ストキニ限ル」トアルヲ「自費ニテ工事ヲ加ヘ若クハ改築ヲ爲シテ堅牢ナラシムルトキニ限ル」ト報吿委員ノ修正ニ改メ其他原案ニ決ス
第二百七十七條朗讀ス
第二百七十七條 相隣者ノ一人カ石又ハ煉瓦ニテ土地ノ圍障又ハ建物ノ牆壁ヲ分界線ニ接シ又ハ之ヨリ一尺ニ滿タサル距離ニ於テ築造シタルトキハ他ノ一人ハ現時ノ相場ニテ材料代及ヒ築工費ノ半額ヲ償ヒテ常ニ其互有權ノ讓渡ヲ要求スル事ヲ得前條第三項ニ從ヒテ增築シタル牆壁ニ付テモ亦同シ
互有權ノ讓渡ヲ要求スル相隣者ハ圍障牆壁ノ敷地及ヒ之ト分界線トノ間ノ地面ニ付キ地上權ノミヲ要求スル事ヲ得此地上權ニ付テハ鑒定人ノ評定シタル年額ヲ建物ノ存立間拂フノ責ニ任ス
增築セシ牆壁ノ互有權ヲ取得シタル者ハ前條ノ規定ニ從ヒテ之ヲ使用スル事ヲ得然レトモ人爲上ノ觀望ノ地役トシテ其牆壁ニ設ケタル牖孔ヲ塞カシムル事ヲ得ス
石造煉瓦造ニ非サル圍障、隔壁及ヒ籬棚、溝渠土手ニ付テハ共擔ノ費用ヲ以テセル設定又ハ協議ノ讓渡ニ因ルニ非サレハ互有權ヲ生セス
本條ノ規定ハ土藏ニ之ヲ適用セス
(今村委員)
第三項ノ「增築セシ」トアルハ「本條ニ依リ」ノ誤リデアリマスソレカラ末項ノ「土藏ニ之ヲ適用セス」ト云フノハ削リマス
(渡委員)
無論削ラナケレバナラン
(今村委員)
七十七條ニ付テハ「ボアソナード」ト往復シマシタ、コウ云フ註文ヲヤツタ處ガ向フガ同ジニ言テ來タガ、一尺ト云フヲ一尺五寸ト註文シタガ、ソウマデ及ブマイト云フノデス
(元尾崎委員)
互有壁ノ處ヘ以テ建物ヲ二ツ建タラ互有ノ土地ハ隣リ者ガ買フ權ガアルノカ
(南部委員)
地上權デアリマス
(今村委員)
「ボアソナード」ノ元トノ案デハ所有權ハ得ラレナイヨウダガ、ソレヲ地上權丈ケニシテ貰ヒタイト言テヤツタガ向ウデモ私モソウシテ良イト云フ位ヒデアリマシタ
(松岡委員)
御尤モ之ハ大變喧シイ論デアツタダガ大變良クナリマシタ
(委員長)
先ノデハ往カンガ之ナレバ良シイ
(松岡委員)
此所ハ鶴田ガ頻リニ維持シテ人間ハ足ガアルカラ逃ゲルガ土藏ハ逃ゲンカラト言タ處デアリマス
(委員長)
互有權ノ設定ヲ要求スルトデモ云フノカ
(今村委員)
左樣デス
(委員長)
何人デモ讓渡ト云フカ
(南部委員)
二人ノモノデ一人カラ讓渡一人ハ損ヲシテ居ルノデス
(委員長)
一人ガ半分殘シテ半分向ウヘ讓ルノデシヨウ
(南部委員)
皆取テ仕舞テハ互有權デナイ
(委員長)
讓渡ヲ要求スルト云フト自分ノモノヲ無クシテ仕舞テ讓ルヨウニ見ヘルガ
(大尾崎委員)
穩カデナイ
(村田委員)
半分ノ權ヲ讓ルノダネ
(西委員)
半有權ヲ讓ルノカソレデ互有ニナルノカ
(南部委員)
互有スル權利ヲ求ムル事ヲ得デス
(槇村委員)
互有權ヲ要求スル事ヲ得デハ往カンカ
(元尾崎委員)
末項ヲ削ルト云フノハ何ウ云フモノデスカ
(南部委員)
之ハナンデシヨウ互有權ハ分界線ト違テ土藏抔ノ事ハ關係ナイモノト云フハ石又ハ煉瓦デヤツテ居ルデシヨウソウ云フヨウナ堅牢ナルノハ土藏デモ何デモ構ハヌ互有シテ差支ナイ
(元尾崎委員)
土藏ノ中ヘ梁ヲ突込デモ良イカ
(南部委員)
四分ノミ迄ハ宜シイ
(元尾崎委員)
酷ヒネ
(槇村委員)
一人ヲ隔ツテ居レバ互有ニナル事ハナイ
(西委員)
土藏ハ別ノ話ニナルノデス
(南部委員)
兎ニ角土藏ハ除ク事ニシヨウ
(渡委員)
云ソレデモ宜シイ事ダ
(大尾崎委員)
削除ハ其理由デ宜シイガ石藏トカ煉瓦位ヒ流行ゼ
(槇村委員)
ダカラ一人ハ是非隔テナケレバナラン
(大尾崎委員)
一尺モ隔タヌ處ヘ建ツルハ無理ダネ四分ノミ位ヒ突込マレテモ仕方ハアリマスマイ
(委員長)
讓渡ノ字ハ穩カデハナイ
(槇村委員)
互有權ヲ要求スル事ヲ得トヤツテハ如何
(渡委員)
只デハ往カンノデ半分丈ケト云フノダネ
(村田委員)
矢張讓渡ダネ
(北畠委員)
地上權ノミヲ要求スル事ヲ得トシテハ如何
(村田委員)
此儘デ宜シイ
(委員長)
良シクバ末項ヲ削テ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ第三項「增築セシ」トアルハ「本條ニ依リ」ト正誤ス末項ハ削除其他ハ原案ニ決ス
第二百七十七條ノ二朗讀ス
第二百七十七條ノ二 所有者ハ石造煉瓦造ニ非サル建物ヲ築造スルトキハ其建物ト土藏ノ分界線トノ間ニ少クトモ一尺ノ距離ヲ存スル事ヲ要ス
此距離ヲ存セスシテ築造スルトキハ一方ノ相隣者ハ築造ノ間ハ第二百十四條ニ從ヒ新工吿發ノ占有訴權ヲ行フ事ヲ得
右築造竣成ノ後一方ノ相隣者ガ建物ヲ築造セントシ其工事ノ爲メ自己ノ地上ニ於テ分界線ヨリ一尺ヲ超ユル距離ヲ要スルニ因リ建物ヲ一尺外ニ却ケタルトキハ其餘分ニ却ケタル地面ニ應シ前築造者ニ對シ償金ヲ要求スル事ヲ得
(元尾崎委員)
石造煉瓦造ニ非ザルデスネ
(今村委員)
左樣デス
(元尾崎委員)
煉瓦ヤ石造ナラ構ワンカ
(南部委員)
互有スラ宜シイ
(元尾崎委員)
互有スラ宜シイガ石造煉瓦造ナラ要求ガ出來ヌカ
(今村委員)
石造煉瓦造ナラ互有スル事ガ出來ルカラ
(元尾崎委員)
石造煉瓦造ナラ要求ガ出來ヌト云フノハ如何
(今村委員)
互有ガ出來ルカラデス
(南部委員)
外ノモノハ互有ガ出來ヌカラ此條ヲ置イタノデス
(元尾崎委員)
外ノ建物ナラ常ニ要求ガ出來ルト云フノハ如何
(渡委員)
ソレハ互有シ得ルガ故ニデス
(元尾崎委員)
歐羅巴ノ如ク煉瓦バカリデ建ル家ナラコウ云フ義務モ出ルガ日本抔ハ煉瓦ハ稀レデ木造ガ重モデアルソコヘ以テ煉瓦ナラ互有ガ出來ルカラト云フノハ理由ガ立タヌ
(今村委員)
ソウ云フト互有ト云フモノカラ抑々毀ワサナケレバナラン
(元尾崎委員)
互有ハ毀ハサンデモ良シイ矢張自分ノ建物ニスル爲メ一尺ヨリ隔テナケレバナラヌト云フト同ジヨウニシナケレバナラン
(今村委員)
ソレハ勝手デス
(元尾崎委員)
煉瓦壁ヲ利用スルニハ此方デモ煉瓦ヲ建テヨウト云フ場合デナケレバ用ハナイ其時分ニ互有壁ナラ償フテヤラレント詰リ西洋流ニシタ者ハ權利ヲ抑ヘ付ケラルルヨウナ有樣ニナル
(南部委員)
ソウデナイ煉瓦デナイ方ヲ佐ケタノデス
(元尾崎委員)
互有壁ハ何カ建物ヲ建ツル必要ガアルカラ許スノデ煉瓦ヲ以テスルハ此方モ同ジモノヲ建ル必要ガアルカラデス一方デハ必要ガナケレバ利用ガナイ餘儀凹メナケレバナラン其トキ一方ガ煉瓦ナラ構ハント云フノハ、コウ云フ法律ヲ立ルノハ偏頗デス
(村田委員)
ソウ云フト互有壁ヲ止メナケレバナラン
(南部委員)
互有壁ガアル爲メ仕方ガナイ
(松岡委員)
一尺ニ滿タザル距離デ石、煉瓦造ノ共用ヲ求メラルルト云フノハ煉瓦造リニ一尺每ニ建築スルトキハ大キナ建築ハ出來ヌカラソコデ互有ト云フ其方ハ良シイ然ルニ日本ハ木造ガ多ヒガ一尺ヅツモ間ヲ置クハドウモナランネ
(南部委員)
ソレハ全テ反對デス
(松岡委員)
如何ナル反對ガアルカ知レンガ互有ヲ許サント云ヘバ勿論許サンガ今迄ノ習慣ハ人ノ支配ニ雨落チハ落サレシハ何レモ習慣デ雨落ヲ落サントスレバ少クモ五寸カ八寸ハアルノデ其餘地ガアツタナラバ此所デ六ケ敷フ定メズトモ良イト思フ、此條ハ削テモ宜シイ
(南部委員)
隣リデ隔テ建ツルト雨落チ丈ケ取ルト一方ガ建ルトキハ是非後ヘ退ケナケレバナラン、ソレ丈ケ自分ニ權力アツテモ建ラレナイ先ノ者ハ占有權ヲ以テ隣リノ地面ヲ害スル事ニナツテ仕舞
(松岡委員)
我地面デモ一ツパイニ初メカラ建ル事ハ出來ルモノデハナイ、町ヲ氣ヲ付ケテ見ルト何ウシテモ二箇ノ家ノ間ハ五寸カ七寸位ヒシカナイト思フ
(今村委員)
松岡サンノ說ニシテハ先ニ建タ者ガ權ヲ得テ仕舞ヒマス
(委員長)
東京ノ裏店ヲ見テモ葺下シノ間カツカツニナツテモ距離ガアルネ
(松岡委員)
ナイ事モアリマス
(南部委員)
互有壁ヲ拵イテ煉瓦石造、互有壁ト法律ガ斯ウト定マル以上ハ之ハナケレバナラン
(松岡委員)
先ニ向ウガ堅牢ニ造レバ後ハ薄弱ナ物ヲ造テ制セラルルヨウナモノダ
(槇村委員)
舊幕時分ニハ制度ガアリマシヨウネ
(元尾崎委員)
是迄ハ習慣法ニナツテ居ルノデス
(松岡委員)
我輩ハ之ハ無クモ差支ナイト思フ、之ガアレバ差支ルト思フカラ削除
(南部委員)
差支ハ決シテアリマセン
(西委員)
之ハ設ケテ置キ度今迄ハ詰リ滿足ナ家ハ建テラレナイノデス
(元尾崎委員)
町家ノ人ハソレデ宜シイノデス
(西委員)
決シテ宜クナイ、勝手次第ニ建ツルモノダカラ、オツ付ケテ建ルノデ難儀ナ建方スルノデ、ソレカラ是ヨリ後ハ滿足ナモノヲ建ツルヨウニ法律ガシテ良シイ
(今村委員)
日本デハ本統ノ土藏ヲ造ルニハ、ヱライ金ガ係ルソウデ二十度練レナハ本統ノ土藏ニハナラン、幾日乾ハカシテ又塗ルト云フノデヱライ金ガ係ル、煉瓦ヤ石ヲ積ムノハ日本デハ餘程廉ニ出來ルソウデ其安物デ造レバ地界迄往ケルト云フ事ガ一ツアルノデス
(淸岡委員)
一尺ヨリ離レズ建ツル事ハナラント云フノデ、ドウダロウカ
(松岡委員)
二尺ヅツ距離ヲシテソレデ宜イ抔ト云フハ以テノ外デス
(元尾崎委員)
之ハ能ク町家ノ習慣ヲ聞イテハドウカ
(委員長)
之ハ隨分關係モ大キイカラ東京府ニモ話シテ調ベテ見マシヨウ
(北畠委員)
ソレガ宜シウ御座イマシヨウ
(今村委員)
尙ホ御話シテ置キマスガ私ハ注意シテ實ハ左官ヤ何カニ聞キマシタガ通常壁ヲ塗ルニドレ丈ケ距離ガアレバ、ト聞クニ、一尺四寸ガ極ク少ヒノダソウデ壁ヲ當リ前塗ルニハ一尺五寸ダソウデスソレヲ「ボアソナード」ハ半分ニ見テ七寸五分ト云フガケレドモ一尺トシテト云フノデス
(北畠委員)
堅牢ニ塗ルニハ三寸五分デナケレバナラン
(渡委員)
其論ハ實際ヲ質シテカラデ宜シイデハナイカ之ハ受置ニシテ置キマシヨウ
(委員長)
南部サン東京府ノ屬官カ何カニ知タ人モ居ルダロウカラ照會狀ヲ遣テ調ベテ下サイ
(南部委員)
ハイ
(委員長)
京橋邊ハドウ又市中ヲ隔タ所ハドウカ調ベテ見テ、地借ト地主トノ區別モアリマシヨウカラ防火線路ノ如キハ合壁ニハナランノデ塗家デナケレバナランカラ之ハ警察署ノ調ベモアルカラ、調ベル事ニテ未定
本條ハ尙ホ再調スル事ニテ未定
第二百七十八條朗讀ス
第六款 他人ノ所有地ニ對スル觀望及ヒ明取窓
第二百七十八條 二箇ノ土地ノ分界線ヨリ少ナクトモ三尺ノ距離アルニ非サレハ建物ニ窓又ハ緣ヲ設ケテ他人ノ所有地ヲ直線ニ觀望スル事ヲ得ス
此距離ハ窓又ハ緣ノ突出シタル部分ヨリ直角線ニテ分界線ニ至ルマテヲ測ス
(委員長)
之デモ直看望斜看望ノ字ヲ書イテ見ナケレバ分ランネ
(村田委員)
縁ノ字ハ木偏デハナイカ
(三島委員)
木偏ニナルト、タルキ、ニナツテ仕舞、之ハ漢字ニハナイ俗字デ御座イマス
(元尾崎委員)
之ハドウ云フ譯ケデスカ
(委員長)
斜ニ三尺デモ何方ヘ三尺デモ窓ヲ付ケテ宜イノダガ若シ二尺ノ處ヘハ付ケラレナイノダネ
(淸岡委員)
「明取窓」ト云フノハ何ウカ
(三島委員)
明取窓ハ漢字ニナイカラ俗字ニシマシタ
(村田委員)
觀望及ビ窓トシテ良イダロウ
(南部委員)
明取窓ダカラ只ノ窓トハ違フ
(委員長)
良カロウデハナイカ
本條ハ原案ニ決ス
第二百七十九條朗讀ス
第二百七十九條 右距離ノ制限ヲ遵守スルニ不便ナルトキハ目隱ヲ以テ窓ヲ蔽フ事ヲ要ス但其目隱ハ分界線上ニ突出スル事ヲ要ス
目隱ヲ設クル能ハサルトキハ寛假ノ明取窓ニ非サレハ之ヲ設クル事ヲ得ス此明取窓ハ其下部ヨリ座上マテ少ナクトモ六尺ト爲シ鐵又ハ木ノ格子ヲ附着シ其格眼ハ一寸以內タル事ヲ要ス
此場合ニ於テ隣地ノ所有者ハ目隱ノ一尺以上分界線ヲ踰エルヲ許シテ之ヲ設ケシムル事ヲ得
(南部委員)
「格眼」ト云フ字ハドウカ「其格子目」ト元トノ通リニシタイ
(松岡委員)
宜シイ
(槇村委員)
元トノ通リガ宜シイ
(元尾崎委員)
ソレデ宜シイ
(村田委員)
「座上」ト云フノハドウカ
(今村委員)
苦ンデヤツタガ、何カ良イ字ガアレバ直シマス
(北畠委員)
「床板」カ「座上」ハオカシイ
(委員長)
「床板」トシテハ惡イカ
(今村委員)
板ト云フ字ハ弊ガアルノデス
(委員長)
畳ノ下ハ床板ダロウ
(今村委員)
スルト二坪程違フカラ
(村田委員)
「座上」ト云フト敷物デモ布クト又違フカラ床板デ良カロウ
(大尾崎委員)
「床板」ガ良カロウ
(委員長)
床板ノ方ガ良カロウデハナイカ
(淸岡委員)
五間デスト床板ハナイネ
(元尾崎委員)
五間バカリ家ト云フモノハナイ
(三島委員)
「窓下」トヤツテハ如何
(今村委員)
窓ノ下框ナラ分リマス
(北畠委員)
窓下、ガ良イダロウ
(大尾崎委員)
窓下デハ分ラン
(渡委員)
窓下ト床板ノ間トシテハ如何
(委員長)
床板、デ良カロウ、先ヘヤリマシヨウ
本條ハ「座上」ヲ「床板」ト「其格眼」ヲ「其格子目」ト改メ其他原案ニ決ス
第二百八十條朗讀ス
第二百八十條 觀望又ハ明取窓ニ關スル前二條ノ規定ハ建物ト對向スル隣地ノ建物ニ窓ナキトキハ之ヲ適用セス
(委員長)
之ハ論ハナイ、先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百八十一條朗讀ス
第七款 或ル工作物ニ要スル距離
第二百八十一條 自己ノ土地ニ井戶、用水溜、下水溜又ハ糞尿坑ヲ穿タントスル所有者ハ分界線ヨリ少ナクトモ六尺ノ距離ヲ存スル事ヲ要ス但土砂ノ崩壞又ハ水液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル工事ヲ爲ス可シ
乾燥シテ覆蓋アル地窖ニ付テハ右距離ヲ三尺ニ減ス
水路ニ供シタル石樋又ハ溝渠ニ付テハ右距離ハ少ナクトモ其深サノ半ニ均シキ事ヲ要ス然レトモ三尺ヲ踰エル事ヲ要セス
右溝渠ハ分界線ノ方ノ崖ヲ斜ニ削下シ又ハ石垣若クハ木柵ヲ以テ之ヲ支持ス可シ
(元尾崎委員)
之ハ良シイ
(委員長)
宜シクバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百八十二條朗讀ス
第二百八十二條 高サ三間ニ踰ユル樹木ハ分界線ヨリ六尺ニ滿タサル距離內ニ之ヲ植付ケ又ハ保持スル事ヲ得ス
高サ三間ニ滿タス一間ニ踰ユル樹木ニ付テハ二尺ノ距離ヲ存スル事ヲ要ス
其他矮小ノ樹木ハ直チニ之ヲ分界線ニ接著セシムル事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ相隣者ハ樹木ノ所有者ニ對シ分界線ヲ踰エタル枝ノ剪除ヲ要求スル事ヲ得又自己ノ土地ヲ侵セル根ヲ自ラ裁去スル事ヲ得
(渡委員)
良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第二百八十三條朗讀ス
第二百八十三條 右ニ異ナリテ古ク且爭ハレサル地方ノ慣習アルトキハ前二條ノ規定ニ依ラスシテ其慣習ヲ遵守ス
前二條ノ規定ハ二箇ノ土地ノ分界カ互有ナルトキト雖モ之ヲ適用ス
(南部委員)
之ハ良シイ
(渡委員)
之ハ穩カデス
(今村委員)
此所等ハ原譯トハ違フガ原譯ガ誤テ居タノデアリマス
本條ハ原案ニ決ス
第二百八十四條朗讀ス
第二百八十四條 危險ヲ含ミ衞生ヲ害シ又ハ障碍ヲ爲ス營業ニ付キ近隣ノ利益ノ爲メニ要スル條件ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
前諸款ニ共通ナル規則
(南部委員)
「工業」ト云フ字ハ「營業」トシタガ何ゼ「工業」トシタ
(村田委員)
矢張「工業」ガ良シイ
(今村委員)
「工業」デスネ、併シ「營業」デモ良シイ、營業ノ方ガ廣クハナリマス
(委員長)
工業バカリデハアリマスマイト云テ「營業」トシタノデス
(今村委員)
ソレデハ「營業」トシマシヨウ
(渡委員)
良シイ、先ヘヤリマシヨウ
(西委員)
往キマシヨウ
本條ハ「工業」ヲ「營業」ト□ メ其他原案ニ決ス
第二百八十五條朗讀ス
第二百八十五條 本節ノ規定ハ公ノ無形人ノ私有及ヒ公有ノ財產ニ付キ働方及ヒ受方ニテ之ヲ適用ス
然レトモ公有財產ハ水樋及ヒ互有要求ノ權ニ服セス
(南部委員)
水樋ノ權トシテ「ノ權」ヲ入レント分リ惡クハナイカ
(元尾崎委員)
働方受方ヲ入レナケレバナランカ、之ハナクトモ適用スデ良ササウナモノデス
(村田委員)
公有財產ト云フモノハ私有財產ノミニ適用セントアルガ起案者ガ入レタノカ
(今村委員)
デハ修正ト致シマシヨウ
(村田委員)
元トノ方ガ良イト思フ
(委員長)
公有ノ財產ハ仕樣ガアリマスマイ
(南部委員)
「水樋」ハ權ヲ入レナクテモ良イカ
(今村委員)
「ノ權」ト入レテモ良シイ
(栗塚委員)
入レテ置ク方ガ良クハアリマセンカ
(委員長)
入レンデモ分ルダロウ
(栗塚委員)
水樋要求ノ權ト讀ミハセンカト云フキリデス
(今村委員)
「ノ」ノ字ガアレバダガ無イカラソウハ讀ムマイ
(槇村委員)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百八十六條朗讀ス
第二節 人爲ヲ以テ設定シタル地役
第一款 人爲ヲ以テ設定シタル地役ノ性質及ヒ種類
第二百八十六條 相隣者ハ其不動產ノ利益又ハ負擔ニテ諸種ノ地役ヲ設定スル事ヲ得但其地役カ公ノ秩序ニ反セサル事ヲ要ス
所有者若クハ其不動產ニ在ル或人ノ勞力ヲ主トスル負擔又ハ所有者若クハ之ニ代ハル人ノ一身ノ利益ヲ主トスル負擔ハ之ヲ地役ト看做サス此第一ノ負擔ハ雇使ノ人權トシテ效力ヲ有シ第二ノ負擔ハ情況ニ從ヒテ使用若クハ賃貸借ノ物權トシ又ハ使用貸借ヨリ生スル人權トシテ效力ヲ有スル事ヲ得但第三百五條第二項ノ規定ヲ妨ケス
(栗塚委員)
二項ノ削除ノ事ニ付キマシテ報吿委員中此二項ハ削除シテ貰イタクナイト云フ、併シ萬止ヲ得ズ是非削除論ナラバ責メテ「之ヲ地役ト看做サス但第三百五條第二項ノ規定ヲ妨ケス」ト云フ丈ケデモ殘シテ第一第二ノ負擔ハト云フ事ヲ削リニナルヨウ建議セヨト頼マレテ參リマシタガ私ハ悉皆置キマシタ方ガ良イト思ヒマスガ併シ茲デ若シ削除說ナレバ「第一ノ負擔ハ雇使ノ人權トシテ第二ノ負擔ハ物權トシテ效力ヲ得ル」ト云フ丈ケヲ御削リニナル事ヲ希望致シマス
(渡委員)
ドウ云フ理由デ之ヲ削ルノカ
(今村委員)
此削除ハ往カン前ノヨウニセヨト云フノカ、理由丈ケ演ベロト云フナラ說明致シマシヨウ
(渡委員)
理由ナシデハ削除ハ出來ン
(栗塚委員)
上ニ「削除」ト書イタハ何ゼ爲字ノ間違ヒト言ハンカ
(今村委員)
詰ラン事デ、何ノ事ダカ分ランノデ、之ハ鳥渡申ソウカ地役ト云フモノハ人間ニ付キマシタモノデハナイ土地其モノニ付テ居ルモノデアリマスカラ、例ヘバ甲乙二ツノ地面ガ在ル甲ノ地面ノ所有者ガ茲ニ住居シテ乙ノ地面ニ御前ノ土地ハ廣イカラ朝散歩ニ行クト云フヨウナ約束スルトソレヲ人ガ地役ト看做スダロウカ、ソウデハナイ甲ノ地面ノ所有者ト乙ノ地面ノ所有者トノ約束デ地面ヲ散歩スル爲メノ約束デアルカラ地役デハナイト云フヨウナ事デ、甲所有者ハ乙所有者ヲ幾ラカ使フ甲ノ地面ヘ來テ三月トカ一日トカ草ヲ刈ルトカ云フ約束ガアルカモ知レンソレモ地役デハナイ矢張約束デ乙ノ地面ヲ雇フタノデ土地ニクツ付タノデハナイト云フヨウナモノデ地役デハナイ、場合ニ依テ雇ヒ約束ニナリ或ハ狀況ニ從テ使用權トモ賃貸借物權ノ事モアル又使用貸借ノ人權トモナルト云フノデ之ヲ要スルニ地役ニ似タ契約シテモソレハ地役デナイ外ニ向テ效力ガアルカ知レン地役トシテ效ハナイト云フノデ假令バ用收權ヲ以テ所有權ニ似タ契約デモ所有權デハナイト云フ叮嚀ニ謂タト云フニ過ギマセン
(村田委員)
地役ト看做スト云フナレバ宜シイ看做サレンノダカラネ
(今村委員)
本會議ノトキニ申シタト思フガ之ハ歴史ガアルノデ、註ニモアリマスガ佛蘭西デハ昔シハ一種ノ奴隷見タイナモノデアツテ、甲ノ土地ハ乙ノ土地ヲ持テ居ル奴ト一種ノ約束ガアリ假令持主ガ代テモ矢張御勤メヲスル約束ガアルソウ云フ事ハ佛蘭西デ「ナポレヲン」ガ民法ヲ布吿シタ以上ハ成立ント云フガ佛蘭西ニアルノデソレガ出テ來タノデ日本ニハ奴隷ト云フ事ガナイカラ、強イテハ主張ハセンガソウ云フ事デ削除ノ理由デアリマス
(松岡委員)
削除ヲ贊成前ノ會議ニモ削除說ヲ申シタガ「ボアソナード」ノ註ニ精シク云フ通リ今村君ノ云フ封建制度ノ餘勢廢スル爲メニ書イタノデ日本ニハアリマスマイ法律ガ中ニアルヨウナ約束ハ妨ゲズ、處デソウ云フモノガアツタラ性質ハ何ト云フ事ヲ書クニハ報吿委員カラ云フ、第一ノ負擔ハ雇使ノ人權トシテ效力ヲ云ート到底餘計ダカラ削除ハ尤モト思フ
(栗塚委員)
未ダ言盡サンガ報吿委員ノ考ヘデ之ヲ置キ度ト申スハ歴史ニ係タ譯デハアリマセン日本デ地役ト云フモノハ見間違ヒヲスル人モアロウト承知シテ居ルシ私等モ講釋ガアツテ始メテ地役ト云フヲ承知シタノデ地役ノ性質ヲ論ズルニ先立テ例ガ出タ通リ隣リノ甲ノ地面ノ者ガ乙ノ地面ノ抹ヲ取リニ來ヨウト言タトキ乙地主ノ代タトキハ甲ノ人ハ矢張草ヲ取リニ來ナケレバナランカ、ソレハ來ナクツテ良シイ人ト人トノ契約ダカラ土地ト土地トノ契約デナイト云フ論ガ出テ地役デナイト云ヘルノデ、申スモ如何デアリマスガ議場ノ御方ニモ、ソレハ毛頭御座イマセンガ實ハ近イ例ニ大審院ノ例ニ過チガ出タノデ橋梁ノ事デ橋ヲ架ケテ橋錢ヲ取ルト云フトキ、橋錢ヲ取ルト云フ契約ヲ爲シテ橋ヲ造タ然ルニ橋ノアラン限リハ私ハ賃ヲ取ル權ガアル橋ハ爲メニ墜ルトモ矢張橋錢ヲ取ル權アリト云フ者ガアツテ之ヲ大審院ガ地役ト看做シテ判決シタ例ガ御座イマス如何ニモ不□ ヲ申スヨウデスガ隨分地役ノ性質ハ一ト□云フト± 地ノ義務ト云フガ入組ト或ル人ノ勞力ヲ負擔スルト云フ一身ニ係ル負擔ハ地役ト看做サズトスル、今日地役ヲ日本ノ法律中ニ揭ゲルハ必要ト思フ之ハ何モ無學ノ人ガ多ヒカラト云フノデハ御座イマセンガ兎ニ角誤リ易ヒ箇條デアリマス此一項ガアル爲メニ其爭ヒガ出マシタトキハ大變都合ガ良イト思フ、デ實際大審院方リデハ此項ガアツタラ地役ノ性質ハ斯ノ如キトナレバ餘程便利ト思ヒマス
(元尾崎委員)
橋ノ契約ハ例ニナラン假令バ此ノ地面ヲ人ニ貸シ十年ノ約束デ貸シ其地主ガ他ニ移轉シタラ契約ガ付テ廻ハルノト橋ノ橋錢ヲ取ラセル權ヲ與ヘタト云フノハ契約ノ性質ニ依テソウナルカ知レンガ之ノ例ニハナラン
(南部委員)
ソレハ別ノ話デス
(村田委員)
元老院デヤル時分、削ル約束デアツタ、ト云フモノハ、ソンナ事ハ、二百七十二條ノ地役ノ所ニ、地役ハ土地ノ上ニト云フハ明カデ、佛蘭西ノヨウニ貴族ノ土地ヲ借ルハ貴族ニ對シテ勞力ヲ供スルトアルカラ疑ヒモ出ルガ日本デハ勞力上ノ事ハ地役デナイ事ハ分テ居ルカラ要シマセン
(松岡委員)
大審院デソウ云フ事ガ若シアツタニモセヨ多クノ中ノ間違ヒデ外國ノ歴史ニアツタ事ヲ擔込ムハ思ヒモ依ラン事デス
(栗塚委員)
歴史ノ方カラ起案者ガ書イタニモセヨ日本ニハ必要ト思ヒマス
(元尾崎委員)
私ハ削ル方ガ良イト思ヒマス
(大尾崎委員)
別ニ必要ヲ見ンヨウデス
(西委員)
カイテモ別ニ邪魔ニハナラン
(村田委員)
謂ハナクツテモ無論ナ話デス
(松岡委員)
私ハ削リタイト思ヒマス
(槇村委員)
削ル可シ
(南部委員)
私ハ何方デモ宜シイ
(松岡委員)
南部サンガ何方デモト言フ位イダカラ削ル方ダナ
(栗塚委員)
南部サンヲ代表スレバ削ル方デシヨウ
(村田委員)
削リマシヨウ
(渡委員)
建議採用トシヨウ
本條ハ二項ヲ削除其他原案ニ決ス
第二百八十七條朗讀ス
第二百八十七條 地役ハ不動產ノ所有權カ他人ニ移轉スルモ働方又ハ受方ニ於テ其不動產ニ從トシテ附着ス
働方ノ地役ハ要役地ヨリ引離シテ之ヲ讓渡シ賃貸シ又ハ抵當ト爲ス事ヲ得ス又其地役ニ他ノ地役ヲ負ハシムル事ヲ得ス
(委員長)
之ハ良シイ
第二百八十八條朗讀ス
第二百八十八條 地役ハ不動產カ數人ノ共有ニ屬スルトキハ其一人自己ノ持分ニ付キ要役地ニ地役ヲ失ハシメ又承役地ニ之ヲ免レシムル事ヲ得サルニ因リテ之ヲ不可分トス
又土地ノ分割又ハ其一分ノ讓渡ノ場合ニ於テ地役ハ不可分ニテ承役地ノ各部分ヲ累ハシ又ハ要役地ノ各部分ヲ利ス但其地役カ承役地ノ一部分ニ對スルニ非サレハ有益ニ行ハレス又ハ要役地ノ一部分ノ爲メニ非サレハ便益ヲ得セシメサル場合ハ此限ニ在ラス
(村田委員)
「累ス」ハ穩カデナイネ
(今村委員)
累ルト云フ事デス
(元尾崎委員)
前ノ條ニ「其地役ニ他ノ地役ヲ負ハシムル」トアルガ之ハドウ云フ事カ
(松岡委員)
貴君ノ畑ケヲ私ガ通ル權ガアレバ地役ダ私ノ隣リニ今一ツ居ル其人間ニモ通ラセル事ハ出來ヌト云フノデ土地ト土地トニ於ケル同權ト云フノデ極ク叮嚀ニ云フ事デアリマス
(委員長)
宜シクバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百八十九條朗讀ス
第二百八十九條 要役地ノ所有者ハ自己ニ屬スト主張スル地役ニ付キ占有ニ係ルト權原ニ係ルトヲ問ハス要請訴權ヲ行フ事ヲ得
又承役地ナリトノ主張ヲ受ケタル不動產ノ所有者ハ其爭フ地役ノ行使ヲ拒ミ又ハ之ヲ止マシムル爲メ占有ニ係ルト權原ニ係ルトヲ問ハス拒却訴權ヲ行フ事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ占有ノ章ニ定メタル規則及ヒ區別ヲ遵守ス可シ
地役ニ關スル用益者及ヒ賃借人ノ權利、訴權竝ニ義務ハ第六十九條、第七十條、第九十九條、第百四十四條及ヒ第百五十一條ニ之ヲ規定ス
(今村委員)
右孰レノ場合ニ於テモ「所有者ガ占有ノ訴權ノミヲ行フトキハ」ト云フ丈ケハ起案者ヨリ入レテ來マシタ
(松岡委員)
尤モデス
(今村委員)
終リハ只送リ丈ケデアリマス
(渡委員)
說明ヲ要センダロウ
(村田委員)
良シイ
本條ハ第三項「右孰レノ場合ニ於テモ」ノ下「所有者カ占有ノ訴權ノミヲ行フトキ」ノ數字ヲ起案者ヨリ挿入ス末項ハ削除其他ハ原案ニ決ス
第二百九十條朗讀ス
第二百九十條 前三條ノ規定ハ法律ヲ以テ設定シタル地役ニ之ヲ適用ス
(松岡委員)
之モ良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第二百九十一條朗讀ス
第二百九十一條 地役ノ種類ハ左ノ如シ
第一 繼續又ハ不繼續ノ地役
第二 表見又ハ不表見ノ地役
第三 有爲又ハ無爲ノ地役
右孰レノ地役モ其設定、行使及ヒ消滅ハ下三款ノ規定ニ從フ
(今村委員)
之ハ末項ヲ削ル建議之ハ物權ハ賃借權用收權デモアンナ契約カラ成立タモノハ初メ設定ハドウシテ出來ル其間ノ權利ハドウシテ行フト書イテ終リニ權利ノ消滅ヲ書クノデ地役ニモソウデス三款ニ消滅ノ事ヲ規定シテ居ルソレヲ仕舞ノ三款ニ從テ消滅スルト云フ、此所バカリ書クノハオカシイ、直グ先キヘ行クト出テ來ルノデス
(渡委員)
宜シイ
(委員長)
表見々々ト云フハ□ □ □ □ ト云フヲ改メタカドウカ
(村田委員)
此所ハ直ラン
(委員長)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ末項削除其他原案ニ決ス
第二百九十二條朗讀ス
第二百九十二條 地役カ場所ノ位置ノミニ因リ人ノ助力ヲ要セスシテ間斷ナク要役地ニ便ヲ與ヘ承役地ニ累ヲ爲ストキハ繼續地役ナリ
地役カ要役地ノ便益ノ爲メ人ノ現時ノ所爲ヲ要スルトキハ不繼續地役ナリ
(元尾崎委員)
之ハ矢張「所爲」デスカ
(槇村委員)
前ノ繼續不繼續ノ事ダ
(元尾崎委員)
現時ノ所爲ヲ要スト云フノハドウ云フ事カ
(南部委員)
水ノ來テ居ル間ハ繼續ニナルノデアリマス
(元尾崎委員)
取リニ行カナケレバ用ニ立タヌト云フノカ
(委員長)
良シイダロウ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百九十三條朗讀ス
第二百九十三條 地役カ外見ノ工作物又ハ形跡ニ因リテ顯露スルトキハ表見地役ニシテ之ニ反スルトキハ不表見地役ナリ
(槇村委員)
之モ講釋ダナ
(松岡委員)
顯露ト云フ字ガアリマスカ
(三島委員)
アリマス顯レ露レデス
(松岡委員)
三島サンノ言フ處デハ珍ラシイ
(三島委員)
大分進歩シテ、アヤフヤ、ノ字ヲ使フ事ヲ覺ヘマシタ
(委員長)
良カロウ、先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百九十四條朗讀ス
第二百九十四條 地役ハ左ノ場合ニ於テハ有爲地役ナリ
第一 不動產ノ所有者カ他人ノ不動產ヨリ或ル便益ヲ取ル事ヲ得ルトキ
第二 不動產ノ所有者カ相隣便益ノ爲メ法律ノ普通ニ制禁スル或ル工作ヲ自己ノ不動產ニ爲ス事ヲ得ルトキ
地役ハ左ノ場合ニ於テハ無爲地役ナリ
第一 不動產ノ所有者カ普通ニ所有者ニ許サレタル所爲ヲ隣人ノ自己ノ不動產ニ爲スヲ禁スル事ヲ得ルトキ
第二 不動產ノ所有者カ普通ニ從ヒ自己ノ不動產ニ於テ相隣便益ノ爲メニ爲ス可ク又ハ許ス可キノ所爲ヲ爲サス又ハ許サヽル事ヲ得ルトキ
(今村委員)
普通法ノ「法」ノ字ハ脫字デ御座イマス
(委員長)
良クバ先ヘヤリマシヨウ
本條「普通ニ」トアルハ「法」ノ字ノ脫ナルニ依リ之ヲ正シ其他原案ニ決ス
第二百九十五條朗讀ス
第二百九十五條 地役ハ約束又ハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スル事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ當事者ノ間ニ於ケルト第三者ニ對スルトヲ問ハス地役ノ有效ナル爲メニハ不動產物權ノ無償又ハ有償ノ名義ノ讓渡ニ關スル通常規則ヲ遵守ス可シ
(委員長)
良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第二百九十六條朗讀ス
第二百九十六條 不動產所有權ニ關シ時效ヨリ生スル法律上ノ取得推定ハ繼續且表見ノ地役ニノミ之ヲ適用ス
隣地ヨリ引ク水ノ取得ニ關スル時效ノ期間ハ其時效ヲ申立ツル所有者カ自己ノ土地又ハ承役地ニ於テ其便益ノ爲メ水ヲ聚合シ及ヒ引入スル外見ノ工作物ヲ作リタル當時ヨリ起算ス
(大尾崎委員)
良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第二百九十七條朗讀ス
第二百九十七條 初メ一人ノ所有ニ屬シタル二箇ノ土地カ末分ノ時旣ニ繼續且表見ノ地役ノ成立ス可キ位置ヲ成シ其分離ノ時此形狀ヲ變更セス又之ヲ變更スル事ヲ約束セサリシトキハ所有者ノ用方ヲ以テ此種ノ地役ヲ設定シタルモノト看做ス
(松岡委員)
之ハ餘程良クナリマシタ
(元尾崎委員)
一ツノ地面ヲ二ツニ分ケタト云フトキダネ
(西委員)
誠ニ能ク分リマス
本條ハ原案ニ決ス
第二百九十八條朗讀ス
第二百九十八條 不繼續地役及ヒ不表見地役ハ第二百九十五條ニ記載シタル二箇ノ名義ノ一ニ依ルニ非サレハ之ヲ設定スル事ヲ得ス
(元尾崎委員)
二箇ノ名義ト云フハ何カ
(村田委員)
有償無償デアリマス
(元尾崎委員)
地役ト云フモノヲ日本デ故ラニ設ケル者ガアリマシヨウカ是迄ハ大抵慣習デ成立テ居ルノダガ、貴樣ニ今年カラ通行スル權利ヲ與フル抔ト設ケル者ハアリマスマイ
(村田委員)
ソウデモナイ
(西委員)
契約ハ隨分アリマスヨ
(元尾崎委員)
遺言デ與フルモアロウカ
(今村委員)
遺言デハナイデシヨウガ契約デハアリマス
(南部委員)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第二百九十九條朗讀ス
第二百九十九條 要役權ヲ有スト主張スル所有者ハ承役地ノ所有者又ハ其前所有者ノ一人ヨリ出タル地役追認ノ證書ヲ差出ス事ヲ得ルトキハ前ニ揭ケタル方法ノ一ニ因レル地役設定ノ直接ノ證據ヲ擧クル事ヲ要セス
(三島委員)
「因レル」ト云フ字ハ「依」ト云フ字ノ誤リデス
(大尾崎委員)
良カロウ
本條ハ「因レル」トアルハ「依レル」ト正誤シ其他原案ニ決ス
第三百條朗讀ス
第三百條 適法ニ取得シタル地役權ハ其性質ニ從ヒテ行使ニ必要ナル從タル權利及ヒ權能ヲ帶フ
右ノ外約束又ハ遺言ヲ以テ設定シタル地役ニ付テハ其約束又ハ遺言ノ解繹ニ關スル普通ノ規則ニ從フ又時效ニ因リテ取得シタル地役ニ付テハ實際占有ノ廣狹ヲ量リ所有者ノ用方ニ因リテ生シタル地役ニ付テハ設定者ノ意思ヲ推定シテ其權利ノ廣狹ヲ定ム
(村田委員)
「解繹」トアルハ「解釋」デハアリマセンカ
(今村委員)
「解繹」デアリマス
(三島委員)
「解繹」デハ、トク、トナリマス繹ハ、タヅネル、ト云フ字デアリマス
(西委員)
良イデハナイカ
(元尾崎委員)
良カロウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百一條朗讀ス
第三百一條 通行ノ地役、繼續若クハ不繼續ナル取水ノ地役、牧畜又ハ物料採取ノ地役ニ付キ設定名義又ハ其後ノ約束ニ於テ行使ノ時日、場所、方法又ハ收取ノ數量ヲ定メサリシトキハ當事者ノ一方ハ常ニ他ノ一方ト立會ノ上其定メヲ裁判所ニ請求スル事ヲ得
此定メ方ニ付テハ裁判所ハ雙方ノ需用ヲ斟酌シ且地役權行使ノ從來ノ實蹟ヲ照查ス可シ
(村田委員)
此條ハ良クナリマシタ
(南部委員)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百二條朗讀ス
第三百二條 取水ノ地役ニ服スル不動產ノ所有者ハ自己ノ所爲ニ因リテ水ノ缺乏ヲ生セシメタルトキニ非サレハ其責ニ任セス
二箇ノ不動產ノ需用ノ爲メニ水ノ不足スルトキハ先ツ家用ニ次ニ農業用ニ次ニ工業用ニ之ヲ供ス右ハ總テ其不動產ノ分度ニ割合フ可シ
數箇ノ要役地アルトキハ各要役地ハ家用ノ爲メ相共ニ水ヲ使用ス農工業用ニ付テハ取水ノ先後ハ地役權取得ノ先後ニ從フ
(槇村委員)
之モ良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第三百三條朗讀ス
第三百三條 地役權ヲ有スル者ハ承役地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ正シク定置キタル行使ノ時日、場所又ハ方法ヲ變更スル事ヲ得ス但承役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ右變更ニ付キ正當ナル利益ヲ得且要役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ承役地ノ所有者ハ其變更ヲ請求スル事ヲ得
(槇村委員)
之モ良シイ
(南部委員)
分リキツテ居ル
本條ハ原案ニ決ス
第三百四條朗讀ス
第三百四條 地役ヲ設定スル爲メ或ル工作物ヲ必要トスルトキハ其費用ハ要役地ノ所有者ノ負擔ニ屬ス但承役地ノ所有者ノ負擔ニ屬ス可キ事ヲ約束シタルトキハ此限ニ在ラス
(村田委員)
工事ト云フノガ元トアツタガ、工事ハ工作物ダカラト云フノデシヨウカ
(三島委員)
左樣デス
(元尾崎委員)
之ハ良シイ
(村田委員)
良シイ
(西委員)
誠ニ結構デス
本條ハ原案ニ決ス
第三百五條朗讀ス
第三百五條 地役ノ行使ニ關スル工作物ノ保持及ヒ修繕ハ亦要役地ノ所有者ノ負擔ニ屬ス但修繕カ承役地ノ所有者ノ過失ニ因リテ必要ト爲リタルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ保持及修繕ヲ負擔ス可キヲ約束スル事ヲ得此場合ニ於テ承役地ノ所有者ハ地役ノ存スル不動產ノ部分ヲ要役地ノ所有者ニ委付スルトキハ常ニ右ノ負擔ヲ免カル事ヲ得
(南部委員)
分リマシタ
(村田委員)
又所有者ハ、デハナイカ
(南部委員)
所有者ガ之ヲ負擔スルト云フノデス
(元尾崎委員)
「ハ」デナケレバナラン
(槇村委員)
「カ」――方ガ宜シイ
(北畠委員)
良シイ先ヘ往キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百六條朗讀ス
第三百六條 承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ニ如何ナル妨碍ヲモ爲サス又其便益ニ如何ナル減少ヲモ生セサルニ於テハ其所有權ノ固有スル適法ノ權能ヲ行フ事ヲ得
又承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ノ爲メ其不動產ニ設ケタル工作物ヲ便用スル事ヲ得但其所有者カ工作物ヨリ收ムル便益及其使用ニ因リテ增加ス可キ費用ニ應シ其建設又ハ保持ノ費用ヲ分擔ス
(松岡委員)
之モ當然ノ事デス
(南部委員)
「工作物ヲ使用スル事ヲ要ス」トシヨウ
(元尾崎委員)
使用ガ良シイ
(三島委員)
使用デ良シイノデ之ハ寫字ノ間違ヒデス
本條ハ「工作物ヲ便用」トアルハ「工作物ヲ使用」ト改メ其他ハ原案ニ決ス
第三百七條朗讀ス
第四款 地役ノ消滅
第三百七條 地役ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 地役ヲ設定シタル期間ノ滿了
第二 設定名義又ハ設定者ノ權利ノ解除、銷除又ハ廢罷
第三 承役地ノ公用徵收
第四 抛棄
第五 混同
第六 三十ケ年間ノ不使用
第三者カ地役ナキモノトシテ承役地ヲ占有シ其占有ニ不動產所有權ノ取得ニ關スル占有ニ必要ナル條件ヲ具フルトキハ地役ハ正當ナル原因ニ由リテ消滅シタリトノ推定ヲ受ク
(三島委員)
「消滅シタリトノ推定ヲ受ク」トナルノデ之モ寫字ノ間違ヒデス
(元尾崎委員)
知ラズニ買タラ地役ハ無クナルノカ
(今村委員)
左樣デス
(元尾崎委員)
要役地ノ者ハ迷惑スルネ
(今村委員)
只デハ往カン三十年經タシデハ往カン
(元尾崎委員)
之デハソウ見ヘヌデハナイカ
(今村委員)
一條件ガ三十年デアリマス
(元尾崎委員)
錢デ買タ場合ハ此條件ノ中ヘ這入ランカ
(今村委員)
錢デ買テモドウシテモ宜シイノデス
(元尾崎委員)
不動產取得ニ關スル占有ニハ三十年アルノカ
(南部委員)
第六ノ不使用ハ違フノデ三十年不動產ヲ所有權ヲ取得スルニハ占有ノ條件ガアル其條件ノ内三十年經テバ往カント云フ事ガアル其ウチ早ク得ルノモアルガ條件ニ依テハ取得ノ所ヲ見ナケレバナラン
(今村委員)
元ト第七ノ得取時效ト云フノガアツタソレヲ削テ斯ウ云フ項ヲ加ヘテ來タノデ、スルト元トノ十二條ト一ツ事ニナツテ仕舞タ、ソコデ重複ヲ言テヤツタカラ十二條ノ方ヲ削タノデアリマス
(三島委員)
アレガ此方ヘ來タノデアリマス
(南部委員)
往キマシヨウ
本條ハ末項「消滅シタルト」トアルハ「消滅シタリト」ノ寫字ノ誤リニ付正誤シ其他原案ニ決ス
第三百八條朗讀ス
第三百八條 地役ノ抛棄ハ之ヲ明示スル事ヲ要ス然レトモ繼續地役ノ行使ノ爲メ承役地ニ設ケタル工作物ノ毀壞又ハ其使用ノ廢止ニ付キ要役地ノ所有者カ異議ヲ留メスシテ明示ノ承諾ヲ與ヘタルトキハ其地役ヲ抛棄シタリト看做ス
抛棄ハ抛棄者カ自己ノ不動產權利ヲ讓渡スノ能力ヲ有スルトキニ非サレハ其效ナシ
(松岡委員)
精ハシク吟味スルト地役ノ方ハ入レンデ契約デ人權デ濟ムモノガ大分アリマシヨウ
(今村委員)
アリマス此條ノ二項抔モデス
本條ハ原案ニ決ス
第三百九條朗讀ス
第三百九條 地役ハ要役地及ヒ承役地ヲ一人ノ所有ニ併合シタルトキハ混同ニ因リテ消滅ス然レトモ其併合ノ行爲ヲ裁判上ニテ解除シ銷除シ又ハ廢罷シタルトキハ其地役ヲ曾テ消滅セサリシモノト看做ス
右不動產ヲ再ヒ分離シタルトキハ繼續且表見ノ地役ハ第二百九十七條ノ規定ニ從ヒテ再ヒ生出ス
(三島委員)
「所有ニ併セタル」ト云フハ「併合シタル」トヤリタイ次ニ「併合」トアリマス
(松岡委員)
ソウデス、其フシナイト下ハ合ハナクナリマス
(今村委員)
之ハ二百九十七條ヲ見ルト能ク分ルノデス
(槇村委員)
良クバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百十條朗讀ス
第三百十條 地役ハ要役地ノ所有者カ任意タルト否トヲ問ハス其地役權ヲ行フ無クシテ三十ケ年ヲ經過シタルトキハ不使用ニ因リテ消滅ス
右期間ハ不繼續地役ニ付テハ最後ノ使用ノ行爲ヨリ之ヲ起算シ繼續地役ニ付テハ地役ノ自然ノ作用ニ對スル形體上ノ妨碍ノ起レル當時ヨリ之ヲ起算ス
右妨碍カ承役地ニ起發シタル事變ヨリ生スルトキハ要役地ノ所有者ハ自費ニテ舊狀ニ復スル事ヲ得又其妨碍カ承役地ノ所有者ノ所爲ヨリ生スルトキハ其費用ヲ以テ復舊ス
(槇村委員)
之モ良シイ
本條ハ原案ニ決ス
第三百十一條朗讀ス
第三百十一條 要役地カ數人ノ共有ニ屬スルトキハ其一人ノ權利ノ行使ニ因リテ他ノ人ノ權利ヲ保存ス
此他免責時效ノ進行ノ停止又ハ中斷ニ關スル規則ハ地役ノ不使用ニ之ヲ適用ス
(委員長)
之モ良クバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百十二條
(削除)
第三百十三條朗讀ス
第三百十三條 地役權ノ行使ノ時、場所及ヒ方法ニ關スル利益ハ不使用又ハ時效ノ結果ニ因リテ滅殺ヲ受クル事有リ
(村田委員)
之ハ「時日」ハアルガ、時間デナケレバ往カンダロウ、何時カラ何時ノ間デナケレバナラント云フノダカラ時間ノ方ダロウ元ト時間トアツタガ「時日」ト云フノトハ違フダロウ
(南部委員)
元トハ時及ビトアツタ
(村田委員)
「時」デモ良シイ
(大尾崎委員)
「時」トシマシヨウ
(三島委員)
「減却」トアルハ「滅殺」トシテハ如何
(南部委員)
成程之ハ「時」ガ良シイ「時日」ト云フト少シ嫌ヒガアル
(槇村委員)
「時」トシテ置キマシヨウ、ソレカラ「減却」ハ「減殺」ガ良シイ
(元尾崎委員)
「減殺」ト良シイ
(委員長)
中斷ト云フ字ヲ「截斷」ト改ヘタガ總テ斯ウスルノカ
(今村委員)
前カラ斯ウナツテ居リマス
(村田委員)
此間斯ウナツタガ、「中斷」ノ方ガ良イト思ヒマス
(松岡委員)
「中斷」ノ方ガ良シイ
(委員長)
「中斷」ニシテ置キマシヨウ
(槇村委員)
「中斷」ガ良シイ
(委員長)
「適用スル事ヲ得」ハ「スル事有リ」ノ方カ
(今村委員)
「適用スル事得」ハ箕作サンガ八釜敷言テ「アツプルカーフル」ト云フ字ハ「適用スル事ヲ得」ト云フ字デハナイ、適用スルト云フ字デアリマス、ト云フノデソレデ「得ル」ト云フ字ハ止メマシタ
(委員長)
ソレデハ良シイ
本條ハ「時日」トアルヲ「時」ト「減却」ヲ「減殺」ト改メ其他原案ニ決ス併ニ第三百十一條ニ遡リ同條末項「截斷」トアルハ「中斷」ト改ム
(委員長)
ソレデハ之デ置キマス