旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第75回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案債權擔保編第七十五回議事筆記
自第千九十一條至第千百五條及千八十七條追加
(委員長)
始メマシヨウ
第千九十一條朗讀ス
第千九十一條 受方ナルト働方ナルトヲ問ハス任意ノ不可分カ明示ニテ設定セラレタルトキハ受方又ハ働方ノ連帶其モノカ明示ニテ排除セラレサルニ於テハ從來ノ債務者又ハ債權者ノ間ニ於テ右連帶ノ效力ヲ生セシム
其他若シ債務者又ハ債權者ノ一人カ數名ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債務者ノ各相續人ハ全部履行ノ要求ヲ爲スコトヲ得伹其各自ノ間ニ於テ連帶アルコト無シ〔第二千二百四十九條第二項〕
(修正案) 第一項「不可分カ」ヲ「不可分ヲ」ト改メ「設定セラレタルトキハ」ヲ「設定シタルトキハ」ト改メ「連帶其モノカ」ヲ「連帶ヲ」ト改メ「排除セラレサル」ヲ「排除セサル」ト改ム又「從來ノ」ノ三字ヲ刪ル
(栗塚)
本條ハ僅カ修正致シマシテ「受方ナルト働方ナルトヲ問ハス任意ノ不可分ヲ明示ニテ設定シタルトキハ受方又ハ働方ノ連帶ヲ明示ニテ排除セサルニ於テハ債務者又ハ債權者」トシテ「從來ノ」ヲ削リマシタ、之ハ起案者ニモ申シテヤツテ何ンノ爲メニ從來ノト云フ字ヲ置イタカト問フニ相續人ノコトヲ謂フラシイガ、相續人ノコトハ後トデアリマスカラ未ダ申スコトハ入リマスマイト、言フテヤリマシタガ起案者モ之ハ異存ハ無イ鹽梅デアリマスカラ、「從來ノ」ト云フ字ハ削リマシタ
(元尾崎)
各自ノ間ニ連帶アルコトナシト云フハ如何
(栗塚)
相續人中ニ連帶ハナイ相續人ヲ除キ相續人カラシテ債權者ノ相續人カラ要求ヲ受ケルコトガアルガ、相續人中ニハ連帶ハ無イト云フノデアリマス、甲、乙、丙トアツテ丙ノ相續人ノ間ニ連帶ハ無イト云フコトデアリマス
(元尾崎)
相續人ハ銘々部分ニ應ジテスルノデスカ
(栗塚)
左樣デス
(南部)
乍併訴ヘルコトハ一人ニ對シテスルノデアリマス
(元尾崎)
一人ガ私ノ分丈ケ出シテ遁レルコトハ出來ンガ自分ガ自分ノ分丈ケ出シテ後トハ知ラント云フコトガ出來ルカ
(栗塚)
出來マス
(元尾崎)
相續人一人ニ對シテ請求シテ全部分ヲ拂ハナケレバナランカ
(栗塚)
債權者ニ對シテハ不可分ダカラ拂ハナケレバナリマセン
(南部)
甲ノ相續人ハ乙相續人連帶デヤツテ往クコトハ出來マセン
(淸岡)
「排除セサルニ於テハ」デスカ
(栗塚)
左樣デス
(委員長)
宜シケレバ先キヘ參リマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千九十二條朗讀ス
第千九十二條 從來ノ債務者ノ一人ニ對シ又ハ死亡シタル債務者ノ相續人ノ一人ニ對シテ時效ヲ中斷スル原由ハ亦總テノ債務ニ付キ他ノ債務者又ハ相續人ニ對シテ中斷ヲ生ス
又從來ノ債務者ノ一人ノ權利又ハ死亡シタル債權者ノ相續人ノ一人ノ權利ヨリ生スル時效ノ中斷又ハ其停止ノ原由ハ他ノ債權者又ハ相續人ヲ利ス
(栗塚)
「從來ノ」ト云フ字ヲ削ツタノハ之ハ債權者ト云フノ間違ヒデ「債務者ノ一人ニ對シテ」トシテ「原由ハ」ノ下「亦」ヲ削リマシタソレカラ二項ノ「從來」モ削リマシタ債權者ハ債務者ノ間違ヒデアリマス
(元尾崎)
一人連帶ノ時效中斷トアルハ後トハ皆ナ中斷シテ仕舞ウカ
(南部)
左樣デス
(槇村)
宜シイ
本條ハ一、二項トモ「從來ノ」ヲ削リ「亦」ヲ削リ第二項債務者」トアルハ「債權者」ト正誤ス
第千九十三條朗讀ス
第千九十三條 相續人ノ一人ノ付遲滯及ヒ過愆ハ他ノ相續人ヲ害セス
相續人ノ一人ニ不利ナル被判事物、自白及ヒ裁判外ノ宣誓ニ付テモ亦同シ〔第千二百三十二條、第千二百三十三條〕
(栗塚)
「被判事物」ハ再調査デ何ントカ直スデアリマシヨウ
(元尾崎)
何ウ云フコトデスカ
(栗塚)
捌カレタ物ト謂フノデアリマス之ハ何ウシテモ通リマスマイガ去リトテ今日迄參イツタカラ被判事物ト云フ字ハ再調査デ何ントカ相談シテ定メ樣ト云フノデアリマス
(元尾崎)
被判事物ハ困ルネ
(栗塚)
乍併今日ハ此儘通シテ再調査デ何ントカ致シマス
(村田)
被判事物ノ下ニ又同一不利ナルト云フ字ハ御座イマセンカ
(栗塚)
其意味デハ御座イマスガ佛文ニハ御座イマセン
(元尾崎)
裁判外ノ宣誓ト云フノハ
(栗塚)
自白マデ及ビ裁判外宣誓ト云フノハ證據ノトキ定マルノデアリマス
(淸岡)
讀ミ憎クハ御座イマセンカ相續人ノ一人ノ不利ナルト云フハ前項ト同ジ事柄デハナイカ相續人ノ一人ノ爲シタル爲メニ、ソレガ他ノ相續人ヲ害セズト云フノデシヨウカ、相續人ノ一人ノ不利ナルハ、ドウカ不利ナルモノヲ、他人ノ所デシテモ其人ノ不利ガ能ハント云フ鹽梅ニ他ノ相續人ト云フハ上ニアルカラ、工合ガ良イカ何ウカ
(栗塚)
「亦同シ」デ他ノ相續人ヲ害セズ、デアリマス
(村田)
續イテモ他ノ相續人ヲ害セズ、ト云フノデアリマス
(栗塚)
被判事物ト云フ字ガ追テ定マリマスト裁判外宣誓ト云フノハ證據ヲ論ズルトキ大槪削除ニナロウト思ヒマス
(元尾崎)
ソンナラ宜シイ
(委員長)
宜シクバ先キヘ參リマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第千九十四條朗讀ス
第千九十四條 債權カ同時ニ受方又ハ働方ニテ連帶及ヒ不可分ナルトキハ第五百三十二條及ヒ第千八十五條ニ記載シタル區別ニ從ヒ明示ナルト默示ナルトヲ問ハス連帶ノ抛棄ハ亦任意不可分ノ抛棄ヲ惹起ス
右ニ等シク二箇ノ抵保ノ併セ存スル場合ニ於テ不可分ノ抛棄ハ連帶ヲ存立セシム
(修正案) 第一項「受方」ノ上「同時ニ」ノ三字ヲ刪リ「働方ニテ」ノ下ニ「同時ニ」ノ三字ヲ挿入ス第二項「右ニ等シク」ヲ「右ト同シク」ト改メ「抵保」ヲ「擔保」ニ「併セ」ヲ「共ニ」ト改ム
(元尾崎)
「同時ニ」ト云フハ
(栗塚)
連帶ト不可分ガ同時デアリマス
(村田)
右ト同ジクト云フコトハ何ウカ
(栗塚)
右同一ノ場合ト云フ鹽梅ニ見ルノデス
(南部)
不可分ト思ハウガ連帶ガアルト云フノデス
(栗塚)
不可分ハ抛棄シテモ連帶ガ殘ツテ居ルノデス實ハ右ノ場合デモ良イノデス
(村田)
ソレデ宜シイノデス
(元尾崎)
二箇ノ擔保ト云フハ何ウ云フコトカ
(栗塚)
不可分ト連帶ト存シテ居ルノデス
(村田)
右ノ場合ニ於テ、トシテハ如何
(栗塚)
擔保ト共ニ存スル、ト言ハズ、右ノ場合ニ於テ不可分ハ連帶ヲ存立セシムト言ツテモ宜シイデシヨウ
(元尾崎)
宜シイ
(村田)
宜シイ
(委員長)
「ト同シク」丈ヲ削ツタラ善カロウ
(栗塚)
同時ニ連帶及ビ不可分ナルトキト云フノデアリマス
(村田)
「右二箇ノ擔保ト共ニ存スル場合ニ於テ」デ宜シイ
(栗塚)
ソレデ宜シイ
(南部)
宜シイ
(西)
宜シイ
本條ハ第一項「右二箇ノ擔保ト共ニ存スル場合ニ於テ」云々トシ其他報吿委員ノ修正ニ決ス
第千九十五條朗讀ス
第千九十五條 天然不可分ノ事項ニ關スル四百六十五條乃至第四百七十條、第五百二十三條第四項、第五百二十八條第三項、第五百三十一條第一項、第五百三十五條、第五百三十七條第二項、第五百四十三條第四項、第五百五十八條及ヒ第五百五十九條第二項ノ條例ハ任意ノ不可分ニ適用スルコトヲ得ヘキトキハ之ヲ適用ス
債權者カ不可分ニテ義務ヲ負フタル債務者ノ代位ニ因テ得ルコト有ル可キ抵保ヲ滅失セシメ又ハ減少セシメタルトキハ其債務者ハ債權者ニ對シ第千七十三條ヲ援唱スルコトヲ得
(修正案) 第一項冒頭「天然」ヨリ「關スル」迄ヲ刪リ「條例」ヲ「規定」ト改ム第二項「抵保」ヲ「擔保」ニ改メ「第千七十三條ヲ援唱スルコトヲ得」ヲ「第千七十三條ノ免責ヲ申立ルコトヲ得」ト改ム
(栗塚)
「免責」ヲ申立ルト、シマシタ、モウ之デ悉皆分ツタコトデアリマスカラ、第何條何條ト云フテ不可分ニ適用スルコトガ出來タラ適用シロト云フノデアリマス
(元尾崎)
代位ニテ得ルコトガ出來ルト云フノカ
(栗塚)
代位ニテ得ルコトノ出來ル擔保デアリマス
(元尾崎)
ソレヲ滅失シタト云フノハ何ウ云フ譯ケカ、無クシタト云フノダロウ、人ヲ無クシタノデハナカロウ
(南部)
擔保物ノ方デアリマス
(栗塚)
貴君ガ南部サンニ金ヲ借シテ擔保ヲ取ツテ居ル、スルト私ガ貴君ニ係ツテ質カ何カニ取ルコトヲ出來ルノデ貴君ニ金ヲ拂ツテ貴君ノ質ヲ取ツテ私ガ貴君ニ代ツテ南部サンニ對シテ私ガ債權者ニナルコトガ出來ルノデアリマス
(元尾崎)
免責ヲ申立ルコトヲ得ト云フノハ
(栗塚)
責ハ免カレマシタト云フノデアリマス
(元尾崎)
質ヲ無クシテ仕舞テ、無論借リテ居ル、ヤツガ金ヲ以テ是非返シテ呉レト云フ權利ガアルダロウ
(栗塚)
アリマス併シ又質物ヲ無クシテ仕舞ツタラ返サントモ言ヘルノデアリマス
(村田)
宜シイ
(槇村)
宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千九十六條朗讀ス
第二部 物上ノ抵保卽チ擔保
第一章 留置權
第千九十六條 留置權カ此法律第二編及ヒ第三編ノ特別條例ヲ以テ債權者ノ爲メニ認メラレタル場合ノ外亦債權者カ旣ニ正當ノ原由ニ依リ其債務者ノ動產物又ハ不動產物ヲ占有シ且債權カ此占有ニ連繋シ又ハ債權カ債權者ヨリ爲シタル其物ノ讓渡ニ因リ或ハ其物ノ保存ノ爲メニ爲シタル費用ニ因リ或ハ所有者カ其物ニ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キトキハ此損害ニ因リ其物ニ關シテ生シタルトキハ其債務者ノ動產物又ハ不動產物ニ付キ總テノ債權者ニ屬ス
委任ヲ受ケスシテ他人ノ事務ヲ管理シタル者ハ必要ノ費用及ヒ保持ノ費用ノ爲メニ非サレハ其管理シタル物ニ付キ留置權ヲ享有セス
(修正案) 第一項左ノ如ク修正ス留置權ハ此法律第二編及ヒ第三編ニ於テ特別ニ之ヲ規定シタル場合ノ外亦債權者カ既ニ正當ノ原由ニ依リ其債務者ノ動產又ハ不動產ヲ占有シ及ヒ其債權カ其物ノ讓渡ニ因リ或ハ其物ノ保存ノ費用ニ因リ或ハ其物ヨリ生シタル損害賠償ニ因リ其物ニ關シ且其占有ニ連繋シテ生シタルトキハ其債權者ハ占有シタル動產又ハ不動產ニ付キ留置權ヲ有ス第二項「委任ヲ受ケスシテ」ヲ「委任ナクシテ」ト改ム
(松岡)
「亦」ト云フ字ハ削ツタ方ガ宜シイ
(栗塚)
場合ノ外「亦」ト云フ字ハ削ルノデアリマス
(松岡)
原由ト云フハ名義ト同ジデアリマスカ
(元尾崎)
二項ハ原案ノ方ガ良イ樣デアリマス
(栗塚)
ソレデモ宜イノデス、只原文ガ「サンマンダー」トアリマスカラ、ヤツタノデ別ニ必要ハアリマセン
(村田)
債權者ガ讓リ渡スノデスネ
(栗塚)
左樣デス
(村田)
債權ガ其物ノ讓リ渡ニ因リ、ト致シマシヨウカ
(栗塚)
意味ハ分ル積リデアリマス、其物ノ讓リ渡シニ因リ其物ニ關シデアリマス
(村田)
其物ノ讓リ渡シハ債權者ニテモ讓リ渡シタ樣ニ見ハセンカ
(栗塚)
皆サンガ分ラント云フナレバ改メマシヨウ
(松岡)
獨乙ノ押ヒ置キハ何ント譯シタ、之ハ「アレスト」ト云フ字トハ違ヒマスカ
(栗塚)
違ヒマスアレストハ差止メトアリマシタ、之ハ留置キデアリマス
(村田)
自分ノ手ニアルカラ押ヘルト云フノデアリマス
(松岡)
握リ置キデアリマス
(村田)
讓リ渡シハ私ハ債權者ヨリト云フ字ヲ入レテハ良イダロウト思ヒマス
(栗塚)
後トニ債權者ヲ出シタノデアリマス
(村田)
分リマスカネ
(大尾崎)
債權ガ其物ノ讓リ渡シニ因リト云フハ何ウ云フコトニナリマスカ
(栗塚)
其債權ガ生ズルト讀マナケレバナリマセント存ジマス、扨テ其債權ガ生ジタハ何ウシテカナラバ讓リ渡サナケレバナラント云フノデ詰リ貴君ニ私ガ家ヲ賣ル、賣レバ讓リ渡シテヨイ家ヲ賣ル、ト云フコトカラシテ金ヲ取ルト云フ債權ガ生ジタノデソウシテ未ダ占有シテ居ルノデ又時計ヲ貴君ニ賣ル、スルト金ヲ取ルト云フ債權者ガ生ズルガ未ダ時計ヲ持ツテ居ツタナラ止メテ置クコトガ出來ルト云フノデアリマス
(大尾崎)
成程
(村田)
債權者ヨリト云フコトガナクツテ分ルカ、私ハ債權者ヨリト云フ字ヲ冠ラシテ宜シイト思ヒマス
(松岡)
鈍ナ、修正デスガ、笑ヒ草ニ出シテ見マスガ「連繋シ」ト云フ字ヲ後ニ廻シテ「場合ニ因リ」トシテ「其物ニ關シテ」ト云フハ讀ミ惡イ「動產不動產占有及ヒ債權カ其物ニ關シテ卽チ讓リ渡保存ノ場合ニヨリ生シ其債權者ハ」トシテ分リ善イカト思フガ二ツノ條件ト云フハ「占有」トヤツテモイカヌ、卽チ讓渡トカ損害トカ云フモノニ因テ生ジタトキト並ベテ仕舞ト良イカト思フ、其占有ヲ連繋シテ生ジタルト云フ、連繋ト云フガ些ト縁ガ惡クハナイカト思ヒマス
(南部)
時計ガ損ジタデスネ、之ヲ修復シタ場合ニ物ニ關シテ費用ガ生ジタノデス、而シテ費用ガ卽チ此占有ヲ此方カラ連有シテ居ル事柄ニ關連シテ居ラナケレバナラン、別ノ事柄デ生ジテハ往カンノデ占有シタト云フ品物ト其物カラ生ジタ事柄ト續カナケレバナラン
(松岡)
其物ヲ占有シテ居ラナケレバナラン其物カラ生ジタト云フト、否トモ續イテ居ルハ言ハズトモ免カレヌノデス
(南部)
債權ト云フモノガ占有ニ關係シテ居ラナケレバナラン別ノ事柄カラ起ツタラ仕樣ハアルマイ
(村田)
英文ハ松岡サンノ言フ樣ニ書イテアル、占有ニ因リ生ジタル、ト矢張占有ニ關係シタトキ又ハ彼ニ因テ讓渡シタル、斯斯云フ、保存スル爲メ生ジタルトキ或ハ損害ノ生ジタルトキハ所有者ガ責任ヲ負フ可キトキ費用ニ付トアリマス占有ハ勿論ソレカラ占有ニ連繋シテ居ラナケレバナラン
(松岡)
意味ハ分ランガ其占有ニ連繋シテ生ジタルト云フコトカ或ハ占有ニ連繋シテト云フコトヲ除ケタイ
(淸岡)
之デ分ランコトハナイ併シ連繋ト云フコトハ除ケテ仕舞テモ宜イコトハヨイ
(栗塚)
除ケルコトハ往カン
(元尾崎)
費用ガ掛タラ出スマデ留メテ置クト云フノダ
(栗塚)
ソウデス生ジ方ノ源シツヲ示シタノデアリマス其債權ト云フモノソレカラ占有ニ連繋シテ生ジタナレバト云フノデアリマス
(松岡)
連繋シテ生ジタト云フノト其物ニ關シテ生ジタト云フノト生ズルト云フノハ連繋ト云フノ間ニ續クナレバ格別デス
(栗塚)
其物ニ關シ生ジ且其占有ニ連繋シタトキト云フコトニ書ク說モアリマシタガ同ジデアリマスカラ
(松岡)
生ズルバカリデナクシテ、事柄ガ占有シ居ル物ト連繋ト云フコトニダ
(栗塚)
其物ニ關シテ生ジ且占有ニ連繋シテ生ジタルトキトシテモ宜シイ
(松岡)
文例ハ外ニモ見ナイヨウデ債權ガ物ノ讓渡ニ因リ何ニ因リ其物ニ關シテト三ツノ因リデ宜シイ
(栗塚)
ヨリ、其物ノ上ニデス、動產又ハ不動產ニ關シテアリマス
(松岡)
物ノ讓渡、物其モノニ爲シタ
(栗塚)
其物、動產不動產デアリマス、詰リ生ジ方ノ三通リアルト云フヲ示ス爲メデアリマス
(村田)
法律ニ原由シテ既ニ債權者ガ占有シテ居ル動產不動產ソレカラ占有ニ屬シテ居ルモノ、彼ノ請求ガ占有ニ屬シテ居ルモノソレカラ今一ツ生ズルト云フノデ其財產ニ關シテ生ジ其トキ債權者ガ賣渡ニ付起タ原由トカ或ハ財產ヲバ保存シテ置ク費用トカ或ハ品物ニ付損害ノ起タトキソレハ所有者ガ責ヲ負ハナケレバナラン處ノ費用デスネ、夫ニ付財產上ニ占有ガ出來ルト云フノデアリマス
(栗塚)
ソウデス、同ジデス
(松岡)
此條件ハ二ツ、一ツハ正當ノ原由ト一ツハ占有ト此二ツハ留置權ヲ以テスルノデス
(栗塚)
註ノ意ヲ採テヤツタノデアリマス
(大尾崎)
分テハ居ル、之ヨリ良イ修正ガアレバ兎モ角モ之デ分テ居リマス
(村田)
譯ハ元ノガ分テハ居ル
(栗塚)
意味ハ些トモ變ヘマセン
(南部)
元ノニスルト、占有、連繋、瑕疵トシ三ツニナル
(栗塚)
註ニ依テモ明カニ二ツノ條件デアリマス
(松岡)
又ハト云フノハ卽チト解シテ讀メバ宜シイ決シテ三ツノ條件デハアリマセン
(槇村)
修正通リデ宜シイ
(委員長)
宜シクバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千九十七條朗讀ス
第千九十七條 若シ債權者カ其留置スルノ權利ヲ有シタル物ノ一分ノミヲ留置シタルトキ保存シタル部分カ總テノ債務ヲ擔保スルニ足ルニ於テハ其部分ハ總テノ債務ヲ擔保ス
之ニ反シテ債權者又ハ其相續人ハ債務者又ハ其相續人ヨリ一分ノ辨濟ヲ享ケタリト雖モ全部ノ辨濟ヲ受クルニ至ルマテ留置權ニ服シタル總テノ物ヲ保存スルコトヲ得〔第二千八十三條〕
(修正案) 第一項冒頭「若シ」ノ二字ヲ刪リ「物ノ一分ノミヲ」云々ヲ「物ノ一分ノミヲ留置シタルトキ其部分ハ總テノ債務ヲ擔保スルニ足ルニ於テハ之ヲ擔保ス」ト改ム同條第二項「享ケ」ヲ「受ケ」ト改メ「保存」ヲ「留置」ト改ム
(淸岡)
之ハ原案ガ宜シイ
(元尾崎)
原案ガ宜シイ
(北畠)
修正ガ宜シイ
(槇村)
修正ガ宜シイ
(大尾崎)
修正ガ宜シイヨウデス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千九十八條朗讀ス
第千九十八條 留置權ハ物ノ價額ニ付キ債權者ニ先取特權ヲ與ヘス
然レトモ若シ留置シタル物カ天然又ハ法定ノ果實又ハ產物ヲ生スルトキハ留置者ハ他ノ債權者ニ先タチテ之ヲ收取スルコトヲ得伹其果實又ハ產物ハ其債權ノ利息ニ充當シ又附隨ニテ元本ニ充當スルコトヲ要ス
留置者ハ其收取スルコトヲ怠リタル果實及ヒ產物ニ付キ其責ニ任ス
(修正案) 第一項「留置權ハ」ノ下ニ「留置」ノ二字ヲ挿入ス同條第二項「然レトモ云々トキハ」ヲ「然レトモ留置物ヨリ天然又ハ法定ノ果實又ハ產出物ノ生スルトキハ」ト改メ「又附隨ニテ」ヲ「尙ホ餘分アルトキハ」ト改ム
(元尾崎)
「尙ホ餘分アルトキ」ノ方ガ宜シイ
(松岡)
價額ニ付先取特權ト云フト賣ラレテ物ヲ取ルト云フコトガ出來ルカ、留置權ト云フノハ品物ヲ先賣テ先ニ取ル旨意デナクシテ一方ノ處ニ在ルモノヲ買テ持テ來ル迄押ヘテ置クト云フノデ其實占有權ヨリ變タコトハナイ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
占有ノ權ハナイ
(村田)
併シ金ヲ持テ來ナケレバ渡サヌト云フコトガ出來ル
(元尾崎)
百圓ノ質ニ時計ヲ取タトスルカ
(淸岡)
カタ、トハ違フ
(松岡)
松岡ガ栗塚ニ時計ヲ賣テ所有者ハ栗塚ダガ金ヲ拂ハヌカラ私ガ押ヘテ居ル、栗塚ガ身代限リヲスルト松岡ノ所ニ時計ガ在ルト云テ其時計ヲ賣レルノデ栗塚ガ分散ノトキニ賣レルノデ賣テ百圓ノ金ガ出來タト見テモ私ハ幾許ニ賣レテモ一切構ハヌ栗塚カラ取ルニ滿足スル迄ニ先取特權ト同ジデス
(委員長)
產出物トナルカ
(栗塚)
左樣デス
(松岡)
一項ハ平常ニ似合ハヌ簡單過ギル
(栗塚)
留置シタルヲ入レタラ宜シイデシヨウ
(元尾崎)
行キマシヨウ
(松岡)
商法ニ留置トアルカ今現行日本法ニモアルカラ能ク見合シテ貰ヒタイ
(南部)
註デ見ルト品物ヲ賣テ向ウカラ留置シタ品物ヲ取リニ來ルマデ持テ居ルト云フ旨意デス
(松岡)
何時迄モ持テ來ナイト困ルネ
(南部)
債權ヲ擴張スレバ宜シイ
(松岡)
訴訟法ニモ之ニ類似シタ場合ニモ押置トカ云フモノガ出來ル
(南部)
彼レハ別デス
(栗塚)
商法トノ答ハ尙ホ調ベテ見マシヨウ
(北畠)
往キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千九十九條朗讀ス
第千九十九條 留置權ハ債務者カ留置セラレタル物ヲ移付シ又他ノ債權者カ之ヲ差押ヘ及ヒ之ヲ賣却セシムルノ妨ト爲ラス伹其物カ差押フルコトヲ得サルモノナルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ右孰レノ場合ニ於テモ得取者ハ留置債權者ニ全ク辨濟セスシテ其物ヲ占有スルコトヲ得ス
(修正案) 第一項「留置セラレタル物ヲ移付シ」ヲ「留置物ヲ讓渡シ」ト改メ「之ヲ」ノ二字及ヒ但書ヲ刪ル
(栗塚)
「得取」ハ翻譯デ「取得」ト直リマス
(松岡)
但書ハ刷ルガ宜シイ
(南部)
「之ヲ」ト云フノハ刪ルガ宜シイ
(栗塚)
「之ヲ差押ヘ及ヒ」ノ下「之ヲ」ハ刪リマス
(村田)
宜シイヨウデス
(元尾崎)
宜シウ御座イマス
(委員長)
宜クバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千百條朗讀ス
第千百條 右ノ外動產又ハ不動產ノ留置者ハ次ノ二章ニ規定シタル如ク動產質債權者又ハ不動產質債權者ノ責任ト同一ノ責任ニ從フ
其他動產質及ヒ不動產質ニ關スル條例ハ此章ノ條例ニ觸レサル諸件ニ付キ留置權ニ之ヲ適用ス特ニ債權者カ實際留置權ヲ行フコトヲ怠リ又ハ之ヲ行フコトヲ止メタルトキハ其留置權ヲ失フ
(修正案) 第一項「不動產質債權者」ヲ「質取主」ト改ム同條第二項「諸件」ヲ「諸項」ト改メ「實際留置權云々行フコトヲ」ヲ「有意ニテ留置權ヲ行フコトヲ怠リ又ハ實際之ヲ行フコトヲ」ト改ム
(栗塚)
規定スル如クトシテ宜シイト云ヒマス
(槇村)
矢張「シタル」ガ宜シイ
(栗塚)
「シタル」デ宜シイデシヨウ
(松岡)
「規定ノ如ク」デモ宜シイ
(村田)
「動產質債權者」デ良クハナイカ
(栗塚)
先ニ質取主ハト改メタカラ
(元尾崎)
動產又ハ不動產ノ質取主トシテハ如何
(栗塚)
宜シイ「動產又ハ不動產ノ質取主ノ責任ハ同一ノ責任ニ從フ」デ宜シイデシヨウ
(松岡)
「同一ノ責任ニ從フ」デ上ノ「責任」ハ刪リマシヨウ
(栗塚)
宜シイデシヨウ
(松岡)
有意ニテ怠リト云フノモ紛ラ敷イ
(元尾崎)
宜シイ
本條ハ第一項「動產又ハ不動產ノ質取主ハ同一ノ責任ニ從フ」トシ其他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千百一條朗讀ス
第二章 動產質
第一節 動產質契約ノ本性及ヒ組成
第千百一條 動產質ハ債務者カ一箇又ハ數箇ノ動產ヲ特ニ其義務ノ擔保ニ供スル契約ナリ〔第二千七十一條、第二千七十二條第一項〕
(修正案) 「擔保ニ供スル」ヲ「擔保ニ充ル」ト改ム
(栗塚)
「擔保ニ供スル」ハ「擔保ニ充ル」ト直シマシタ
(松岡)
ドウ云フ譯デスカ
(栗塚)
先キニ充ルト直シテ參タノガアリマスカラデス
(南部)
擔保ニ供スルハオカシイデシヨウ
(栗塚)
擔保ヲ供スルナラ宜シイ
(元尾崎)
擔保ニ供シテ宜シイデハナイカ
(松岡)
擔保ト云フノガ全體供シテ居ルノデス
(元尾崎)
先ヅ宜カロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千百二條朗讀ス
第千百二條 動產質契約ハ亦債權者ト債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ好意ニテ債務者ノ爲メ擔保ヲ供スル第三者トノ間ニ之ヲ爲スコトヲ得〔第二千七十七條〕
右孰レノ場合ニ於テモ動產質ヲ供シタル第三者ハ第千三十條及ヒ第千三十一條ニ從ヒ保證人ノ如ク債務者ニ對シテ求償權ヲ有ス
(修正案) 第一項「亦債權者ト」ノ五字ヲ刪リ「第三者トノ間ニ」ヲ「第三者ト質取主トノ間ニモ亦」ト改ム
(栗塚)
「亦債權者ト」トアルヲ刪テ「第三者ト質取主トノ間ニモ亦之ヲ爲スコトヲ得」トシマシタ
(元尾崎)
他ノ人ガ金ヲ借リテ遣ルヨウナモノダナ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
「好意ニテ」ト云フハ頼ミモセズニ勝手ニト云フコトカ
(栗塚)
左樣デス
(淸岡)
之モ宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千百三條朗讀ス
第千百三條 債務者ヨリ動產質ヲ供シタルト第三者ヨリ之ヲ供シタルトヲ問ハス若シ此ニ因テ擔保セラレタル義務カ純粹ニ天然ノモノナルトキハ其場合ハ第五百八十八條及ヒ第五百八十九條ニ之ヲ規定ス
(修正案) 刪除
(栗塚)
此條ヲ刪除シタノハ報吿委員ノ考ヘデアリマス第一送リデモアリマスシ第五百八十八條、九條ヲ見レバ御座イマスシ夫カラ又天然義務ト云フノヲ彼ノ儘ニ存スルカ否ヤハ報吿委員中再調査ノ所デ問題ニモナイ彼ノ運命ニ從テ多少變更ヲ來ス條デモ御座イマスカラ良シ彼レハ置クコトニナルモ此條ハ送リテアリマスカラ置カヌデモ宜シイ萬一彼レガ刪レレバ無論ト云フノデ刪除致シマシタ
(村田)
ナクツトモ宜シイヨウデス
(南部)
分テ居リマスカラネ
(淸岡)
要ラヌ
(槇村)
イラヌヨウデス
(村田)
無論刪テ宜シイ
(松岡)
起案者ハ佛蘭西法典ニ於テハ債權者ノ手ニ物ヲ渡シテ置クト云フコトガアルガ草案ニハ書イテハナイガ意味ハ其通リダト云フノダガ質ト謂ヘバ妙ナ樣ダケレドモ留置權ハ占有ノ一ノ條件ニモナルシ何トカ動產ヲ債權者ニ交付シテ義務ノ擔保ニ充ルトカ何トカ云フ字ヲ加ヘテ、良クハナイカ渡シテ置ント約束バカリデスルト所謂抵當ダネ、ソレデハ勿論質ト云フコトガ生ゼヌガ動產質ガ出來タラ斯ウシテコウスルト云フ、敵ニ渡シテ置ク交付スルト云フコト丈ケハ加ヘテハ如何
(南部)
其トキ第三者ニ抵抗スル丈ケノ話デ千百七條ニ謂テアリマス
(松岡)
宜カロウ
(元尾崎)
刪リマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千百四條朗讀ス
第千百四條 動產質ハ質ト爲シタル物ヲ處分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ有效ニ之ヲ供スルコトヲ得ス
合意上、法律上及ヒ、裁判上ノ代理人及ヒ管理者ニ付テモ亦同シ是等ノ者ハ其權限ヲ踰エサルコトヲ要ス
若シ動產質カ債務ニ關係ナキ第三者ヨリ供セラレタルトキハ其第三者ハ第千十二條ニ記載シタル如ク無償名義ニテ處分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
(修正案) 第一項ハ「質ト爲シタル」ヲ「其目的」ト」改ム同條第三項「動產質カ」ノ四字ヲ刪リ「第三者ヨリ供セラレタルトキハ」ヲ「第三者ヨリ動產質ヲ供シタルトキハ」ト改ム
(栗塚)
「動產質ハ其目的物ヲ處分スルノ能力」ト改メソレカラ第三項ハ「動產質カ」ヲ刪テ「第三者ヨリ動產質ヲ供シタルトキハ」云々トシマシタ
(松岡)
「目的物ハ動產質其物ヲ」トシテハ如何
(栗塚)
ソレデモ宜シイ
(村田)
質ト爲シタル物ヲ處分スト英文ニアリマス
(槇村)
「動產質ハ其物ヲ處分スルノ能力」デ宜シイデシヨウ
(南部)
「其物」ト云フハ何ウカ
(栗塚)
質ト爲シタル物トハ云ヘヌノデ「質ト爲スヘキ物」ヲデス
(元尾崎)
其物ヲデ宜シイネ
(村田)
考ヘルト矢張「其目的」ト云フ方ガ宜シイ
(松岡)
質ト爲ス物ダ、ダカラ動產質ト云フ
(栗塚)
其動產ヲデモ宜シイ
(淸岡)
目的物ト云フト其外ノ物ニ及ビハセンカ
(栗塚)
動產質ノ目的物デアリマスカラ
(南部)
其物ハ質ト爲ツタ樣ニ見ヘル
(栗塚)
意譯ナレバ質ト爲スベキモノヲデアリマス
(元尾崎)
分テ居リマス「其物」デ宜シイ
(松岡)
先ヅ提出通リニシテ置キマシヨウ
(元尾崎)
二項ノ處ハ合意上ノ代人ガ處分スルノ能力ヲ有スルモノニアラザレバト云フノカ
(栗塚)
左樣デス
(元尾崎)
能力者ナレバ人ノ代人ニモナレヨウデハナイカ
(南部)
亦同ジデアリマスカラ有效ニ供スルコトガ出來ヌト云フノデス
(村田)
權限ヲ踰ユルコトヲ得ズダ
(南部)
物ヲ處分スル能力ト云フノモ無能力デハナイ處分スルノ力ガアルモノデナケレバナラン
(村田)
管理人ハ賃借物ヲ管理中貸テモ宜シイ併シ權限外ノモノデナケレバナラント云フガアル
(栗塚)
管理者ニ付テモ亦同ジト云フノト其權限ヲ踰ヘザルコトヲ要ス、トハ別デアリマスカラソウ見ナケレバナラン前ノ後見人ノ如キモノデアリマス
(尾崎)
元文ヲ見ルト、處分スル能力アル者ノミ有效ニ之ヲ爲スコトヲ得トアルソレダカラ二項ガ能ク分テ來ル
(栗塚)
其意味デ非ザレバ得ズト云フノカ
(元尾崎)
轉倒スルカラ分ランノデ、二項モ權限内ニ於テ出來ルト云フカラ分リ易ヒノデ同ジ事柄ガ合意上法律上裁判上代人ニモ適用スルコトガ出來ル、併シ權限ヲ守テ居ラナケレバナラント、何ウカコウカ分ルカネ
(西)
分ルデシヨウ
(村田)
分リマス
(栗塚)
亦同ジ且トカ、其他トカ原文ニアリマスガ、其他トカ入レマスカ
(村田)
其他ト云フトオカシイ
(松岡)
入レンデモ宜シイ
(北畠)
イラン條デスネ
(委員長)
宜シクバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千百五條朗讀ス
第千百五條 動產質權ハ確定ノ日附ヲ有シ且主タル債權並ニ從タル債權アレハ其債權及ヒ質ト爲シタル物ヲ明ニ指定セル證書ヲ錄製シタルニ非サレハ同一ノ物ニ付キ債務者ト約定シタル第三者又ハ他ノ債權者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
右ノ物ハ之ヲ他物ニ易フルコトヲ得サル樣詳細ニ記載シ且已ムヲ得サレハ之ヲ評價スルコトヲ要ス
若シ右ノ物カ量定物ナルトキハ其種類分量及ヒ其重量、數量又ハ尺度ヲ以テ之ヲ指定スルコトヲ要ス〔第二千七十四條第一項〕
(修正案) 第一項「動產質權云々物ヲ」ヲ「動產質權ハ確定ノ日附ヲ有シ且債權及ヒ質物ヲ」ト改ム同條第二項「右ノ物ハ」ヲ「右質物ハ」ト改メ「且已ムヲ得サレハ」ヲ「尙ホ足ラサルトキハ」ト改ム同條第三項「若シ右ノ物カ」ヲ「若シ質物カ」ト改メ「分量及ヒ其重量」「又ハ」ノ數字ヲ刪ル
(栗塚)
之ハ餘程修正シテ御座リマス
(村田)
「足ラサル」ト云フハ何ガ足ランカ
(栗塚)
金側ノ時計ヲ質ニ取タラ委ハシク書イタネ併シ量モ澤山アルノデ金側ノ時計ト云テモ凡ソ何ンナニ詳細ニシテモ量ガアルカラ評價シテ置カン、イカン
(松岡)
金側ノ時計ナラバ斯ウ書イテ置ケバ宜シイ
(元尾崎)
之デ見ルト動產質ト云フモノハ物ヲ此方ヘ取ランデモ出來ルヨウニナルネ
(栗塚)
占有スルニアラザレバ第三者ニシテ對抗ガ出來ン併シ借貸シタ相對ナレバ之デ宜シイ
(松岡)
第一ドウカト思フノハ「確定日附」ト云フノデ之ハ證書ト云フト公證書ハ勿論私證書デモ宜シイ併シ私證書ニシテ確定日附ト云フハドウカ
(南部)
拵ラユルト云フノデス
(松岡)
六ケ敷ゼ
(南部)
註ニハ二人相對デスルコトヲ許スト詐欺ガ出來ルトアル夫レヲ防グ爲メト云フ旨意デス
(松岡)
確定日附ト云フハ何ウモ、公ノモノニシテ登記役所ヘ行ツテ何月幾日何ウト記シテナケレバナラン
(元尾崎)
確定ト云フハ、ハツキリシテ居ルト云フコトダロウ
(松岡)
ソウデハナイ、確定日附ト云フノハ登記役所ヘ行クノガ一番多ヒ
(栗塚)
登記役所ト云フノハ現行ノ地所家屋賣買ノ登記役所トハ違フノデアリマス
(松岡)
佛蘭西ハ之デ稅ヲ取ルノデス
(栗塚)
登錄稅デアリマス
(松岡)
起案者ガ確定日附ト書クノハ必ラズ相對デ出來ルノデハナイ第三者公ノ官吏トカ何トカニ認メラルルノデアリマスガ併シ果シテ之デ良イカ惡イカ、ダ
(元尾崎)
日本ニハソンナ登記役所ガナイカラ斯ウ書イテアツテモ差支ガナイ何月何日ニト云ヘバ宜シイ
(南部)
ソレハ往カン自分ノ品ヲ他人ノ品ニシテ質ニ取テ居ルトカ何トカ云フコトガ出來ルカラネ
(元尾崎)
第三者ニ對シテ效ハナイ
(南部)
效力アルコトニナルカラ注意ヲ願ヒマス
(元尾崎)
註ニ何トアロウトモ確定日附ト云フハ登記公吏ノ手ヲ經ナケレバナラント云フコトハナイ日附ガ判然シテ居レバ則チ確定デス
(松岡)
商法ハ別デ質屋規則モ別ニ立ナケレバナラン併シナガラ之ガ立テナイト相對デ押付ケラルル併シ尋常普通ノ質ニヤツテ居ルニ斯ウ云フ手數ヲシナケレバ質ノ效ガナイト云フハ何ウカ不動產ハ登記ガアルカラ宜シイカネ
(元尾崎)
動產デモ相對ノ證文ガアルカラネ
(栗塚)
之ハ公證人ニ頼マナケレバナラン樣デス或ハ裁判所ヘ行テ日附ヲ確カメナケレバナラン、スルト二十五錢要ルノデス
(元尾崎)
佛蘭西ハ之ガ一ノ稅法ニナツテ居ルノデアルガ物ヲ確カメテ貰フ爲メニソウ云フ手續ハ日本ニ是迄ナイカラネ
(栗塚)
之ハ公證人デナケレバナランヨウデアリマス
(南部)
之ガナイト詐欺ガ出來ル
(元尾崎)
ソウ心配シテハ限リガナイ、何ウセ人間ハ詐欺ヲスルモノダカラネ
(南部)
ソレダカラ防ガナケレバナラン
(元尾崎)
一方ガ詐欺ノ相手ヲシナケレバ宜シイ
(南部)
ソウ云ヘバ法律ハ要ラン
(元尾崎)
ソンナ細密ナ法律ヲ立テモ一方ガ防ガナケレバナラント云テモ盜賊ヲ防ガナケレバナラント謂テモ夜ル歩行者ハ皆取ラレルト云フ理由モナイ
(松岡)
實際ハ何ウデシヨウ
(大尾崎)
實際ハ面倒デスネ
(村田)
之ハ聞テ見テハ何ウカ
(松岡)
誰ニ聞クノカ、聞クニハ及バヌ
(南部)
註ニ確カニアル
(大尾崎)
公證人ガ何カカ書イテダロウガ實際ハ何ウカ
(南部)
權利ヲ確カメル方デアリマスカラネ
(淸岡)
質屋ノ藏ヘ這入タハ別段ノ話デ是丈ケノ何カシテ置カント一向仕方ガナイ
(元尾崎)
貸借ノ證文ヲ直ニ書イテヤツテ置クニ之モ公證人ガ認メテ居ナケレバナラント有效ニナラント云フト交通ガ絕ヘテ仕舞ソンナ法律ヲ立ルニハ及バヌ今迄事柄ノ生ジナイニ法律デソウ密ニスルニハ及バヌ
(南部)
登記ガアツテ保護スル旨意ダカラ之バカリ私證書デ宜シイト云フハ權衡ヲ得ナイ
(元尾崎)
我輩ハ不同意デス
(村田)
公證人ニ作テ貰フト云フナレバ確定ノ日附ハイランノデスネ
(栗塚)
公證人ニ限タコトハナイ裁判所デモ宜シイ
(松岡)
佛蘭西バカリガ本家デモナシ、又何モナシデハ不確カナ話、先取特權ヲ持テ威張ルノデアルカラ勝手ニスルノモ理窟ガ惡イ、之ハ何ウカ動產質ニ付テ他國ノ法律ヲ調ベテ見テハ如何
(南部)
身代限リノ差押ト云フ場合ニ詐欺ガ行ハルルカラ餘程考ヘナケレバナラン、之ハ私ノ品デハ御座イマセン誰某カラ質ニ取タ抔ト云テ隨分詐僞ガ行ハルルモノダカラ能ク御考ヘニナラント困リマス
(元尾崎)
萬ニ一或ハ千ニ一二アルカハ知レンガ爲メニ社會ニ容易ナラン不便ヲ來スコトハナイ利害ノ爲メニ比較シテ法律ガ定メナケレバナラント云テ害ガ多ヒト謂テ之ヲ打捨テ置クト害ガ多ク法律ヲ立タ上ハ便利ヲ蒙リ害ガ少ケレバ立ルモ宜シイガ今日迄ナイコトダカラネ
(南部)
多ヒモノダケ保護スルト云フノデアリマスカラ、百六條ヲ御覽ナサイ、權衡ヲ取テ居リマスカラ
(元尾崎)
此法ガ出ルト皆ソウシナケレバナラン
(松岡)
私ハ、佛蘭西ハ收稅ノコトモアルガ誠ニ判斷ガ六ケ敷イ理窟上ハ斯ウシナケレバナランガ實際ヲ云フト隨分迷惑ナモノデ之ハ佛蘭西バカリデナク他國ニモ動產質ニ付確定日附ヲスル規定ガアルカ否ヤヲ見合セテ調ベテ貰ハウト思ヒマス
(栗塚)
調ベマシヨウ
(元尾崎)
調ベテ貰ヒタイ
(南部)
我輩ハ他ノ國ハドウデモ宜シイ、之デ宜シイ金高ノ大キイモノ丈ケ權利ヲ補ケルヨウニナツテ居ルカラ法律ガ密ニナツテ來テ公證人モ出來ル以上ハ人民ニ奸ヲ爲ス者ガ多ヒカラ然ル以上ハ制限シテ行カナケレバナラン、又日附ヲ確カメルモ公證人デヤルト云フト安クモ行クダロウト思フ、調ベルハ宜シイガ之ハ置クガ良シイ
(元尾崎)
人民ハ繁忙ニ堪ヘズト云ハナケレバナラン
(南部)
自由世界デ、何モナイ方ガ一番好イコトハ宜シイガ、ソウハ往カン
(淸岡)
ソンナラ調ベテ貰ヒマシヨウ
(村田)
「尙ホ足ラサル」ハドウカ分ランヨウデス
(委員長)
之ハ調ベテ下サイ
(栗塚)
畏リマシタ
(松岡)
伊太利ハ確定日附ハ見ヘナイヨウデス
(委員長)
二項ノ「尙ホ足ラサル」ハドウカ
(栗塚)
詳細ニ記載シタノデ未ダ足ラヌト云フノデアリマス
(村田)
ソレガ分ランネ
(委員長)
盡サザルトキハ何トカ謂テ宜シイ、足ラザルハ分ランネ
(栗塚)
盡サザルデアリマス
(松岡)
詳細ニ記載シタラ宜シイノダ
(村田)
詳細ニ記載シト云タラソレデ分ル
(南部)
實際書クコトモ出來ヌモノガアルカラダ
(松岡)
刪ロウデハナイカ
(栗塚)
記載ト評價トカ違ヒマス尙ホ要用アルトキハ之ヲ評價スルコトヲ要ス、デハ往キマセンカ
(委員長)
ソウナラ宜シイ
(元尾崎)
宜シイデシヨウ
(村田)
尙ホ要用ナラ「且」デ宜シイ
(南部)
「且」デ宜シイ
(北畠)
且要用アルトキハ、カ
(委員長)
宜シクバ、措キマシヨウ
本條ハ第一項「確定日附」ハ尙ホ再調ノコトニ第二項「右質物ハ之ヲ云々記載シ且要用アルトキハ之ヲ評價スルコトヲ要ス」トシ其他報吿委員ノ修正ニ決ス
(栗塚)
翻譯デ一條落チタノガアリマス、第千八十七條ハ第千八十八條トナツテ一條這入リマス、之ハ少シ不都合ノコトデ起案者ガ來コシタト云フノデ翻譯ノ方デハ受取ラヌカラ譯サヌト云フノデ、ドウモ起案者ノ不調法ガ何方カト思ヒマスカ知リマセンガ翻譯デ落シタラシウ御座イマス之ヲ一應朗讀致シマス
第千八十七條朗讀ス
第三章 任意ノ不可分
第千八十七條 連帶ノ抛棄ハ債務者ノ承諾ナクシテ有效ナリ
然レトモ其抛棄ハ之ヲ債務者ニ吿知セシカ又ハ債務者明確ニ之ヲ知リタルトキニ非レハ前ノ規定ヲ以テ債務者ニ許シタル辨濟又ハ其他ノ行爲ニ對シテ之ヲ援唱スルコトヲ得ス
債務者ハ抛棄ヲ利唱スルノ利益アルトキハ之ヲ利唱スルコトヲ得又抛棄カ其權利ノ詐害ニ於テ爲サレタルトキハ之ヲ駁撃スルコトヲ得
(栗塚)
之ハ「利唱」ト云フ字ト「援唱」ト云フ字ヲ「申立」ト直シ「其他ノ行爲ニ對シテ債權者ヨリ之ヲ申立ルコトヲ得ス」トヤリマシタ
(南部)
之ハ論ガアルマイ
(村田)
「前ノ規定」ハ「前條ノ」デシヨウネ
(栗塚)
前ノデ宜シイノデス之デ今日ノ議ハ終リデス