法律取調委員会 民法草案議事筆記 第74回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案債權擔保編議事筆記 , 自 第七十二回 至 第七十六回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案債權擔保編第七十四回議事筆記
自第千七十五條至第千九十條
明治二十一年七月二十四日午前第八時二十分開會
第千七十五條朗讀ス
第二節 働方卽チ債權者間ノ連帶
第一款 働方連帶ノ本性及ヒ原由
第千七十五條 同一債務者ノ數人ノ債權者間ニ於ケル連帶ハ權利ノ保存及ヒ行用ニ付キ債權者ヲシテ互ニ代人タラシム
其連帶ハ合意、遺囑又ハ法律ノ明定ノミヨリ生スルコトヲ得
(修正案) 第二節「働方卽チ」ノ四字ヲ削ル第一款「働方」ヲ「債權者間ノ」ト改ム第一項「同一債權者ノ數人」ヲ「働方連帶卽チ數人」ト改メ「ニ於ケル」ヲ「ノ」ト改ム第二項「明定ノミ」ヲ「規定」ト改ム
(栗塚)
初メヲ「債權者間ノ連帶」トシテ「第一款債權者間ノ連帶ノ本性及ヒ原由」ト致シマシテ第七十五條ヲ「働方連帶卽チ數人ノ債權者間ニ於ケル連帶」ト致シマス
(村田)
「債權者ニ於ケル」デヨカロウ
(栗塚)
前ガ「間ノ連帶」トナツテ居リマス二項ハ「法律ノ規定」ト致シマス
(松岡)
法律ノ規定カラ連帶ガ生ズルト云フノハ何ニ在リマスカ
(栗塚)
民法ニハアリマセン、他日出來タトキノ用意デス
(松岡)
ソレダカラ可笑シイ
(栗塚)
報吿委員デモ可笑シイト云フ論ガアリマシタガ列ヘテ置イテモ恐ロシイコトハナイ、只無イ丈ケダト云フコトデアリマスカラ置キマシタ
(松岡)
道理上カラ云フテモ、コウ云フコトヲ拵ヘル要用ハナイ
(栗塚)
向ウノ裏ヲ云フ爲メニ置イタノデス
(松岡)
無イカラ書イテ構ハヌト云ヘバ世界ニ目ノ四ツアル奴ガアルソウナト云フコトヲ書イテモ構ハヌ樣ニナル
(南部)
唯疑シイノハ民法ニモ商法ニモ無イモノヲ外ノ法律デ拵エ得ルカト云フコト丈ケデス
(松岡)
二項ハ削除シテ貰ヒ度イ
(村田)
ソンナラ受方ノ方モ削ルガ宜シイ
(栗塚)
併シ御議定ニナツテ居リマスカラ其處迄遡ラズトモ宜シウ御座イマシヨウ
(大尾崎)
無イモノナラ削ロウ
(渡)
之ヲ削ルナラバ受方ノ方モ一緒ニ削ラナケレバナラヌ一ツ殘シテ一ツ削ルト之ハ總則ヲ見タ樣ナモノダカラ無クテモ列ヘテ置クト云フナレバ兩方置カナケレバナラヌ
(大尾崎)
無クテモ宜シイ
(南部)
答ヘニ困ル
(栗塚)
問合セニヤリマスカラ此儘御置キヲ願ヒマス
(松岡)
前ノ方ハ有ルラシイ、彼ノ方ハ削ルト云フノナレバ見當ラヌカラ起案者ニ問合セテモ宜シイカ、此處ハ殘ス譯ハナイ
(委員長)
法律ヲ作ツタトキハ作ラレル道理ノアルモノダト云フノダロウ
(南部)
民法デ定メテナイモノデ外ノ法律デ連帶アリトカ何トカ定メラレルト云フコトヲ書クノハドウ云フモノデスカ
(委員長)
此處ヘ書イテ置ケバ「ボアソナード」ノ考デハ他ノ特別法デモ規定サレルモノデアルト云フコトヲ見セ樣ト云フ丈ケノ旨意ダ
(南部)
刪除スルノハ譯ハナイデスガ註解ノ意味ハ何ノ爲メカ分ラヌカラ其レヲ聞イテ刪除シテモ宜シイ
本條第一項ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第二項ハ起案者ニ質問ノ上刪除スルコトトシ未定
第千七十六條朗讀ス
第千七十六條 數人ノ連帶債權者ニ對スル債務者ノ約務ハ同一ノ所爲ヲ以テ又同一ノ時期ニ於テ又同一ノ場所ニ於テ之ヲ負擔スルコトヲ必要トセス其義務ノ目的及ヒ原由カ同一ナルコトヲ要ス
債務者ハ亦數人ノ債權者ニ對シ種々ノ態樣又ハ異別及ヒ不均ノ負擔ヲ以テ義務ヲ負フコトヲ得
(修正案) 第一項「所爲ヲ」ヲ「行爲ヲ」ト改メ「時期ニ」ヲ「時ニ」ト改メ「必要トセス」ヲ「要セス」ト改メ「其義務ノ目的及ヒ原由カ」ヲ「但其義務ノ目的及ヒ原由ハ」ト改ム第二項ヲ左ノ如ク改ム又債務者ハ數人ノ債權者ニ對シ異別及ヒ不均ノ態樣又ハ負擔ヲ以テ責ニ任スルコトヲ得
(栗塚)
「同一ノ所爲」ハ「同一ノ行爲」トナリマス「又同一ノ時期ニ於テ」ハ「又同一ノ時ニ於テ」トナリマス五十三條ト毫シモ變ツタコトハアリマセン「負擔スルコトヲ要セス但其義務ノ目的及ヒ原由ハ」ト致シマス
(松岡)
註デハ五十三條ト似タケレドモ債務者ヲ債權者ト換ヘタ丈ケダト云フケレドモ矢張リ變ツタコトハナイ
(栗塚)
唯連帶債權者ニ對スル債務者ノ約務ト云フコトガアル丈ケデス、之ガ「權利ハ」ト云フ言葉ノ立テ方ナレバ宜シイガ、債務者カラ言葉ヲ立テアルデハナイカト質問シテヤリマシタ
(松岡)
私モ御同意デ刪除デ御座イマス、之デハ唯債權者ノ債務者ハドウシテ作ルノ、コウシテ作ルノト書イテアル丈ケデ債務者ハドウスルト云フコトハ書イテナイ
(栗塚)
唯債權者ガ大勢アツテ債務者ガ一人ト云フコトハ想像ガ出來ル、五十三條ハ債務者ガ多クナツテ債權者ガ一人ノトキヲ云フ、其レ丈ケノ差ヒガアル丈ケデ矢張リ連帶債務ヲ規定シテ居ル
(松岡)
數人ノ連帶債權者ニ對スル債務者ノ約務ハ同一ノ時、同一ノ場所デ無クモ宜シイ
(栗塚)
南部サント貴君ガ私ニ金ヲ貸シテ下サルニ南部サンハ今日貸シテ下サルニ貴君ハ明日貸シテ下サル
(南部)
一方ガ數人ト一方ガ數人トノ違ヒ丈ケダ
(委員長)
起案者ニ聞イテアルノカ
(栗塚)
ヘイ
(委員長)
債權者ノ方カラ書ケソウナモノダ
(栗塚)
出來マセン
(南部)
債權ト云フモノハ債務ノ契約デ御座イマスカラ
(委員長)
債務ノ契約デハアルケレドモ債權ガアル故ニ債務ヲ引受ケル
(南部)
引受ケルノデナイ、契約スルノダ
(村田)
行ハセルコトハ要用デナイト書カナケレバナラヌ
(委員長)
行ハセルコトガ出來ルト書カナケレバナラヌ
(栗塚)
「種々ノ態樣」ト云フノハ翻譯ノ間違ヒデ「異別及ヒ不均ノ態樣又ハ負擔ヲ」ト云フノデス
(委員長)
起案者カラ返事ガアツタ上ニ削ルベキモノナラ削ツテ良カロウ
本條ハ起案者ニ質問中ニ付未定
第千七十七條朗讀ス
第二款 働方連帶ノ效力
第千七十七條 各連帶債權者ハ唯一ノ債權者ナル如ク義務全部ノ履行ヲ債務者ニ要求スルコトヲ得〔第千百九十七條〕
債權者ノ一人カ訴ヲ起シタルトキハ他ノ各債權者ハ共通ノ利益及ヒ自己ノ利益ノ保護ノ爲メ訴訟ニ參カルコトヲ得
(修正案) 第二款「働方」ヲ「債權者間ノ」ト改ム第一項「唯一ノ」ヲ「唯一人ノ」ト改ム第二項「保護」ヲ「辯護」ト改メ「參カルコトヲ得」ヲ「參加スルコトヲ得」ト改ム
(栗塚)
「債權者間ノ連帶ノ效力」トヤリマシタ末項ノ「保護」ヲ「辯護」ト致シ「唯一」ヲ「唯一人」ト致シマス
(松岡)
五十六條ニモ「保護」トアル
(栗塚)
アレモ「辯護」ト御直シヲ願ヒマス
(松岡)
利益ト云フト「保護」ガ宜シイ訴訟ナラ「辯護」ガ宜シイガ
(栗塚)
訴訟デ御座イマス
(委員長)
「保護」ノ方ガ宜シイ
(栗塚)
其レデハ保護ニシテ置キマス「訴訟ニ參カル」ハ「參加スル」ト致シマス
(委員長)
良カロウ
本條第二項「保護」ハ原案ノ儘ニ存シ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千七十八條朗讀ス
第千七十八條 債務者ハ自己ノ方ニ在テハ他ノ債權者ヨリ訴追又ハ適式ノ要求ヲ爲サヽル間ハ債務ノ全額ノ辨濟ヲ受取ルコトニ債權者ノ各自ヲ強要スルコトヲ得之ニ反スル場合ニ於テハ要求者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス〔第千百九十八條第一項〕
若シ同時ニ數箇ノ要求アルトキハ債務者ハ合同シタル要求者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
(修正案) 第一項「訴追」ノ上ヲ「債務者ハ債權者ノ一人ヨリ」ト改ム第二項「債務者ハ」ノ下ヲ左ノ如ク改ム要求者ノ合併シタル者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
(栗塚)
「債務者ハ債權者ノ一人ヨリ」ト致シマス二項ハ「債務者ハ要求者ノ合併シタル者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス」ト致シマス「合同シタル」ト云フノハドウシテモ分リマセン
(松岡)
同ジデハナイカ
(村田)
「合併シタル要求者」トシテハドウカ
(栗塚)
其人等ガ集ツタ樣ニ見ヘハシマセンカ、此方デ併セタ樣ニ見ヘマスカ
(松岡)
上ヘ書イテモ、下ヘ書イテモ同ジデス「同時ニ數箇」ト云フノハ人ヲ指シマスカ
(栗塚)
要求ヲ指シマス
(松岡)
一ノコトヲ數箇ト云フト
(栗塚)
幾ツモ訴訟ガ起ツタラバデス「數人ノ」デモ宜シイ
(松岡)
「數箇」ト云ヘバ事ト外讀メナイ「同時ニ數人」トスルガ宜シイ
(栗塚)
原文ニハ「數箇」トハナイ「數」トアルノデス
(淸岡)
「數人ノ要求者アルトキハ」デ宜シイ
(松岡)
大勢デヤツテ來テモ向ウガ連帶ナレバ一人デ良サソウナモノダ
(南部)
訴訟ガ起ツテ居ルカラ其レヲ一人ニヤルト云フコトハ出來ナイ
(栗塚)
三人デ御貸シ下スツタカラ三人揃ツテ御出下サレバ上ゲマスガ、一人ニ返ヘシテ復タ跡カラ來ルト困リマスカラ
(松岡)
本質ガ一人ニ濟セテ仕舞ヘバ他ノ人ガ我レモ々々々トハ云ヘナイ
(栗塚)
訴訟ノ起ラヌ中ハ全部ノ辨濟ヲ受取ツテ呉レト債權者ノ各自ヲ強要スルコトガ出來ル、訴訟ガ起ツタ以上ハ頭マヲ列ヘテ下サイ
(元尾崎)
之ハ宜シイ
(栗塚)
「數人ノ要求者アルトキハ」ト致シマス
(元尾崎)
「要求者ノ合同シタルトキニ非サレハ」ガ宜シイ
(村田)
「總テノ要求者ニ對スルニ非サレハ」
(南部)
「合併シタル」ト云フノガ必要ダロウ、別々ニ拂ツテハイケナイカラ
(栗塚)
「總テノ」デハ足リマセン「總テノ要求者ヲ集メテニ非サレハ」デスカ「合同シタル」デハ如何デス
(村田)
合同ト云フト要求者ガ頭マヲ揃ヘテ會議ヲスル樣ニ見ヘル
(槇村)
「總テ」ガ宜シイ
(南部)
「合同」ガ宜シイ
(西)
「合同」ガ宜シイ
(松岡)
「總テ」ガ六人ダカラ多數ダ
(委員長)
「總テ」トヤリマシヨウ
本條第一項ハ報吿委員ノ修正ニ決シ第二項ハ左ノ如ク改ム
若シ同時ニ數人ノ要求者アルトキハ債務者ハ總テノ要求者ニ對スルニ非サレハ辨濟ヲ爲スコトヲ得ス
第千七十九條朗讀ス
第千七十九條 義務組成ノ瑕疵ヨリ生シタル抗辯ニ付キ爲サレタル判決ハ總テノ債務ニ付キ總テノ債權者ノ不利ニ於テ又ハ其利益ニ於テ其效力ヲ生ス其名ヲ訴訟ニ表ハササリシ者ニ對シテ亦同シ
(修正案) 「抗辯」以下「利益」迄ヲ「答辯方法ニ付キ爲サレタル判決ハ債務ノ全部ニ對シ總テノ債權者ノ利害」ト改メ「其名」ノ上ニ「但」ノ字ヲ加フ
(栗塚)
「答辯方法ニ付キ爲サレタル判決ハ債務ノ全部ニ對シ總テノ債權者ノ利害ニ於テ其效力ヲ生ス但」ト致シマス
(委員長)
「抗辯」ハ「答辯」トシタカ
(栗塚)
起案者ハ自在ニ使ツテ居リマス
(松岡)
訴訟法ニ合セレバ「攻撃方法」ダロウ
(村田)
「訴訟ニ參カラサリシ」デモ宜シイ
(栗塚)
「名ヲ表ハシテ訴訟ニ參カラサリシトキモ亦同シ」ト云フ原文デス
(西)
分ルコトハ分ツテ居ル
(栗塚)
「名ヲ」ト云フノハ債權者ガ皆要求者ニナルコトガ出來ル、其レニモ皆利害ガ及ブカト云フコトヲ論ジテ居ルカラ、名ヲ出シテ居ラヌ者デモ效力ガアルゾヨト云フノデスカラ、自分ノ名デ名代ガ往ツテ居タラバト云フコト迄見セテ居ルダロウト思ヒマス
(松岡)
ソンナコトハ訴訟ノ上カラ云ツテ來レバ代人ヲ出セバ本人モ同ジコトダト云フコトハ三尺ノ童子モ知テ居ルカラ「訴訟ニ參カラサル者ニ對シテモ亦同シ」デ宜シイノダ
(渡)
此儘デ宜シイ
(松岡)
次ギノ條ニハ「其名ヲ表ハシ」トアル
(栗塚)
「若シ訴訟ニ參カラサリシ者」トハ書ケマセン矢張リ債權者ト云フ字ヲ入レナケレバナリマセン
(松岡)
其爲メニ「債權者ノ利害ニ於テ」トアル
(西)
原案ノ說ガ多イ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千八十條朗讀ス
第千八十條 若シ判決カ義務消滅ノ原由ヨリ生シタル抗辯ニ付キ爲サレタルトキハ其判決ハ下ノ區別ヲ以テスルニ非サレハ訴訟ニ參カラサリシ債權者ニ對シテ其效ナシ
第一 第千七十八條ニ定メタル條件ニ從ヒ債權者ノ一人ニ爲シタル辨濟ハ全部ニ付キ總テノ債權者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得又第五百四十四條第三項ニ記シタル如ク債權者ノ一人ニ對シ債務者ノ得取シタル相殺ノ原由カ債務者ノ第千七十八條ニ從ヒ其債權者ニ有效ニ辨濟スルコトヲ得ヘキ時期ニ於テ生シタルトキハ其相殺ニ付テモ亦同シ
第二 一人ノ債權者ノ所爲又ハ權利ヨリ生スル更改、合意上釋放及ヒ混同ハ第五百二十三條第三項第五百三十七條第一項及ヒ第五百五十七條第二項ニ從ヒ其債權者ノ部分ニ非サレハ債務ヲ消滅セシメス右ノ所爲カ他ノ債權者ヨリ何等ノ訴追又ハ要求モ有ラサル前ニ爲サルコトヲ要ス又右ニ等シキ所爲ニ關シ及ヒ辨濟又ハ相殺ニ關スル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕及ヒ和解ニ付テモ亦同シ〔第千百九十八條第二項、第千三百六十五條第二項〕
(修正案) 第一項「判決ハ」ノ上ヲ「義務消滅ノ原由ヨリ生シタル答辯方法ニ付キ爲サレタル」ト改ム第二號「所爲又ハ權利ヨリ」ヲ「行爲ヨリ」ト改メ「合意上」ノ三字ヲ刪リ「債務ヲ消滅セシメス」ノ下「要ス」迄ヲ「債務ヲ消滅セシメス但右ノ行爲カ他ノ債權者ノ訴追又ハ要求ノ前ニ在リシコトヲ要ス」ト改ム「又右ニ等シキ所爲ニ關シ」云々ヲ別項ト爲シ左ノ修正ニ加フ「又右同一ノ行爲ニ關シ云々亦同シ」
(栗塚)
四十四條ハ四十三條ノ間違ヒデス其レカラ修正ガ御座イマス
(委員長)
權利ヲ止メタノカ
(栗塚)
說明カス部分ニ入レタ樣デス、實ハ「身柄」ト云フ字デス
(委員長)
七十九條ノ方ハ義務組成ノ瑕疵カラ生ジタノデ、八十條ハ義務消滅ノ原因カラ生ズルノデ、其間ガ混淆シ易イ、其レニ一方ハ其名ヲ出シテ居ラヌ者デ效力ヲ生ズル、一方ハ參加セヌ者ニ對シテハ效力ヲ生ゼヌトナツテ居ル
(栗塚)
瑕疵ト義務ノ消滅ノ原由中ニモ色々種類ガアリマスカラ
(南部)
消滅ハ成立ツタ物ガ消滅スルノダガ、瑕疵ハ成立タヌノデス
(委員長)
七十九條ハ成立テ居ルノデス
(栗塚)
表向キ成立テ其實成立テ居ラヌト云フノハ錯誤トカ強暴トカ云フ類デ御座イマス
(委員長)
一方ハ名ヲ出シテ居ラヌ者迄モ效力ガ及ビ、一方ハ效力ガ及バヌト云フノカ
(南部)
消滅ノ原由ニハ一人ガ辨濟スルトカ、相殺スルトカ、訴訟ヘ參カラヌ者ガ相殺ト云フモノハ關係ガナイ、一人々々ノコトニナル、瑕疵ノ方ハ元トニ瑕疵ガアリマスカラ誰レニデモ係ツテ訴訟ガ出來ル
(委員長)
成程元トガ消ヘテ仕舞フカ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千八十一條朗讀ス
第千八十一條 債權者中ノ一人ノ一身ニ關シ其債權者ニ對シ債務者ニ屬スル抗辯ニ付キ爲サレタル判決ハ他ノ債權者ヲ害セス又之ヲ利セス又債務者ト債權者ノ一人トノ間ニ於テ連帶ニ於ケル其債權者ノ權利ニ付キ爲サレタル宣誓又ハ其拒絕及ヒ和解ニ付テモ亦同シ
(修正案) 左ノ如ク改ム一人ノ債權者ニ對シ其一身ニ關スル債務者ノ答辯方法ニ付キ爲サレタル判決ハ他ノ債權者ヲ害セス又之ヲ利セス又債權者ノ一人ノ連帶ニ於ケル權利ニ付キ其債權者ト債務者トノ間ニ爲サレタル宣誓又ハ其拒絕及ヒ和解ニ付テモ亦同シ
(栗塚)
「一人ノ債權者ニ對シ其一身ニ關スル債務者ノ答辯方法ニ付キ」トナリマス
(松岡)
「債權者ノ連帶ニ於ケル權利ニ付キ其連帶者ノ一人ト債務者トノ間」トシテハドウカ
(元尾崎)
債權者ト債務者ト誓ヒヲシタトカ何トカ云フコトハ他ノ者ニ利害ハナイ
(松岡)
連帶ハ便利ナモノダケレドモ、連帶ニ責メルコトハ止メルカト云フト外ノ者ハ構ハヌ、話シタ人丈ケ效力ガアル
(元尾崎)
「爲サレタル」ハ「爲シタル」デ宜シイ
(栗塚)
「爲シタル」デモ宜シウ御座イマシヨウ「又債權者ノ一人ノ連帶ニ於ケル權利ニ付キ」
(松岡)
元トノ方ガ良クハナイカ「債權者ノ一人トノ間ニ於テ連帶ニ於ケル權利ニ付キ爲シタル」トシタラ良カロウ
(元尾崎)
「又連帶債權者ノ一人カ其連帶ノ權利ニ付キ債務者トノ間ニ爲シタル」トシ樣
(栗塚)
「債務者ト爲シタル」デ宜シイ
(南部)
「一人ノ連帶ニ於ケル權利」ト云フト一人ガ總テノ連帶ニ於ケルトナリマス
(元尾崎)
「宣誓拒絕」デ良カロウ
(委員長)
ソウヤリマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
一人ノ債權者ニ對シ其一身ニ關スル債務者ノ答辯方法ニ付キ爲サレタル判決ハ他ノ債權者ヲ害セス又之ヲ利セス又連帶債權者ノ一人カ其連帶者ノ權利ニ付キ債務者ト爲シタル宣誓、拒絕及ヒ利解ニ付テモ亦同シ
第千八十二條朗讀ス
第千八十二條 債權者ノ一人ノ其債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ之ヲ遲滯ニ付スルノ所爲ハ全部ニ付キ他ノ債權者ヲ利ス〔第千百九十九條〕
債權者ノ一人ノ利益ニ於テ法律ノ設定シタル時效ノ停止ハ債權ニ於ケル其部分ニ限リ其一人ノミヲ利ス
(修正案) 第一項「全部ニ付キ」ノ上ヲ「一人ノ債權者ノ債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ其債務者ヲ遲滯ニ付スルノ行爲ハ」ト改ム
(栗塚)
「一人ノ債權者ノ債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ其債務者ヲ遲滯ニ付スルノ行爲ハ」ト致シマス「之ヲ」ノ指シドコロガ每時ノ文例ト違ウト云フ論ガアリマシタ
(松岡)
「之ヲ」モ「債務者」モ削ツタラ良カロウ
(栗塚)
「又ハ遲滯ヲ爲ス合意ハ」デ良カロウト思ヒマス
(委員長)
「中斷又ハ」ト云フ字ガアルカラ具合ガ惡ルイ
(栗塚)
「時效ヲ中繼シ遲滯ヲ何々スル」ナラ宜シイ
(渡)
修正デ宜シイ
(委員長)
良ケレバ先キヘ行キマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千八十三條朗讀ス
第千八十三條 若シ連滯債權者ノ一人カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債權ノ分割及ヒ前ニ指示シタル所爲ノ效力ハ第千六十二條ニ記載シタル如ク受方連滯ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ働方ニテ生ス〔第千二百二十條〕
(修正案) 「所爲」ヲ「行爲」ト改ム
(元尾崎)
數人ノ相續人ヲ遺スコトガ日本ニ在リマスカ
(松岡)
今ニ人事編ガ出來レバアリマス
(元尾崎)
遺言デ人ノ財產ヲ遺スノハ相續人トハ云ハヌ、相續人ト云ヘバ日本デハ卽チ家督相續ヨリ外ニハ無イ
(委員長)
ソレハ家督相續人ト財產相續人トハ違フ
(元尾崎)
此處ハ數人相續人ト云フト數人ノ相續人ガアルモノト定メテ仕舞フ樣ニナリマス
(南部)
已ニ此間再調査ノ所ニモアツタ
(松岡)
之ハ人事編ヲ議スルトキニ適不適ヲ云ハナケレバナリマセン
(元尾崎)
其時ニナレバ已ニ民法デ定テ仕舞タト云フダロウ
(栗塚)
其レハ違ヒマス
(松岡)
ソンナ論ハ出ドコロガアリマセン
(委員長)
併シナガラ良ク論ジテ貰ハヌト之ハ始終アル、日本ノ慣習ニ遺言ナドガアルカラ
(元尾崎)
遺言ハ別ダ
(栗塚)
相續人ヲ多ク見タ爲メニ日本ノ相續ハ一人デ取ルモノデナイト定メルニ及バヌ
(元尾崎)
人事編ヲ設クル上ニ於テハ已ニ千八十三條ニ認メテアルト云フ樣デハ困ルカラ
(委員長)
遺言ヲシテ死ンダトキハ
(元尾崎)
遺言ハ別デス
(松岡)
遺言モ同ジコトデス
(元尾崎)
相續ト云ヘバ家督ヲスルノダカラ
(松岡)
之デ規定サレルナレバ我々モ論ガアルガ用收權ノ所デ女房ノ財產ヲ子ガドウスルト云フコトハ其方ガ出來テ後ノコトダ
(栗塚)
起案者ニモ聞キマシタガ私ノ書イタノハ人事編ノ規定如何ニ關ハラズ行ヘルル日本デハ矢張リ手ヲ付ケルコトハ出來ナイ多分一人デアロウト思フガ一人デアルニモセヨ遺言デ他ノ財產ヲヤル權ガ無イトカ云フモノハアルマイ
(元尾崎)
默ツテ死ンダトキノ話シハ
(栗塚)
其レハ人事編デ定メル話シデ私ハ豫メ云ハズ、其國ノ風俗ニ基クカラ法理カラ推シテ行クコトハ出來ヌ
(松岡)
分家スル者モ相續ト名ヲ付ケル法ガ出來レバ始メテ相續ニナル、唯分家ト云ヘバ家督相續ニナル
(委員長)
相續ハ家督相續バカリトカ又ハ人事編ガ出來ナケレバ此法律ハ施行ガ出來ヌト云フト困ルカラ
(松岡)
其レハ出來マセン、債權者ノ連帶云々ト云フノハ法律ノ何處デ規定シテアルカ、無ケレバ適用シナイ迄ダト云フ樣ニナリマスカラ
(委員長)
財產ノ分派ハ現ニ行ハレテ居ル
(松岡)
數人ト云フ名ヲ付ケレバ此條ガ直グニ行ハレルル一人ノ相續キリデモ此民法デハ差支ヘナイ
(委員長)
ソウスルト財產ノ處分ハドウシマス幾人モ子供ガアツテ財產ヲ幾人ニモヤルト云テ死ンダトキハドウシマス
(栗塚)
其レハ相續デス
(松岡)
相續ト云フ名ハナイ分家デス
(委員長)
日本デハ分家ガ一戶ヲ爲スガ、家ヲヤラズシテ財產バカリヤツタノハドウシマスカ、相續ト云フ字ガ人事編デ定マラヌトキハドウシマス
(松岡)
子弟ガ公債證書ヲ持テ居テモ相續人ガスルバカリ、之ハ人事編ノ方デ數人ノ相續人ト云フコトガ定マツタトキダ
(栗塚)
大勢ノ子ニ財產ヲ分ツタトキハ何ト名ヲ付ケマスカ
(北畠)
千兩ノ公債證書ヲ持テ居レバ財產相續人
(南部)
ソウ云フコトハ此處デ論ズベキモノデナイ
(委員長)
人事編ヲ立テナケレバ此法ガ布カレヌト云フ樣ニナツテ人事編デ日本ハ家督相續バカリデ宜シイト云フト此條ガ不要ニナル
(南部)
人事編ヲ議スルトキデナケレバ定マラヌト思ヒマス
(委員長)
人事編ヲ議シタトキ尾崎サンノ說ガ多數ヲ占メテ家督相續デナケレバ日本ニハ入ラヌモノト云フト之ガ反古ニナル
(南部)
此條丈ケ反古ニナルノデス
(委員長)
此處バカリデナイ相續ト云フコトハ皆反古ニナル
(松岡)
家名ハ家督相續ト定メタ譯デモアリマセン
(委員長)
私ガ「ボアソナード」ニ云フニ分家ハ家督相續ト云フト日本デハ慣習ガ家督相續人ト同ジコトガアルカラ書イテモ差支ナイト思ツタカラ書イタノデ、其レヲ百姓デモ町人デモ家督相續ト云ヘバ大議論デスカラ
(松岡)
華士族ニハ長子相續ガナイ、農工商ハ財產ヲ分ケ家モ分ケルカ、此法ヲ書レタ丈ケデ分家ヲシタノモ田地ヲ子弟ニ分ケテヤツタノモ此法律ヲ適用スルト云フト、分家ハ人事編ト名ヲ付ケルノトハ違ヒマス
(委員長)
人事編ガ定マラヌ以上ハ此法律ヲ認メズト云ヘバ人事編ガ定マラヌトキハ此法律ハ適用ガ出來ヌカラ若シ人事編ガ想像意外ノ結果ヲ現ハセバ此法律ノ相續ノ所ハ皆書換ヘナケレバナラヌ、ソウスレバ人事編ガ定マランケレバ此法律ハ發布ガ出來ナイ
(松岡)
ソウデハアリマセン他日ノコトハドウナルカ定マツタコトハアリマセン、此處デモ相續ハ必ラズ數人ニサセルト定マツタノデハアリマセン
(元尾崎)
數人トシテアルト相續人ガ數人アル樣ニ見ヘルカラ
(松岡)
假定ト見テ置ケバ宜シイ日本ニハ是非トモ一人ノ外家名相續ヲサセヌ、外ハ如何ナル財產ヲ貰ツテモ他人ニ對スル義務ハ持タセヌト云フコトハ出來ナイ
(栗塚)
起案者ガ私ニ云フテ來タノハ一人デアロウト二人デアロウト出來ル樣ニ書イテアル大勢ノ相續人ノ場合ニハコウスル、無ケレバ適用セヌ迄ノコト、又日本ニ男ト女ト居テ夫婦ハナイト云フカ知レヌ、西洋流儀ノ夫婦デナイカ知レヌ
(渡)
之ハ數人ニ分ツタラ此場合ニハ之ト云フノダカラ此處デ云フテモ定マラヌカラ
(元尾崎)
委員長ハ之ヲ決シ樣ト云フノダ
(委員長)
私ノ外ニ氣遺ウコトハナイケレドモ相續ハ家名相續バカリニスルト云フコトガアル樣デハ初メカラ能ク論究シテ置カヌト後チニ大キナ論ヲ決スル樣デハ困ルカラ初メ相續ハ財產相續モ家名相續モアルト考ヘナケレバ此法律ヲ議シテ往ツテモ後チニ家督相續バカリニスルガ宜シイト云フ論デハ困ルカラ
(元尾崎)
慣習バカリニスルガ宜シイ
(委員長)
慣習ノ中ニ遺言デ一人ニ公債ヲヤルトカ一人ニ新家ヲヤルトカ一人ニ家ヲヤルトカ云フコトガアル
(元尾崎)
其レヲ相續人ト指スト慣習ガ違ツテ來ル
(委員長)
今ハ云ハヌガ、之ヲ法律カラ財產相續人ト云ハナケレバナラヌ其レヲ貴君ガ名ヲ付ケテ家名ヲ繼グ者ハ家名相續人ト付ケテ財產ヲ相續スルモノハ別ニ付ケルト云フナレバ宜シイガ
(元尾崎)
其レハ別ニ付ケテモ宜シイ英國ノ書物ヲ翻譯シタトキ承繼人トシタコトガアリマス、遺言デ財產ヲ引受ケルモノハ「レガシー」承繼人デ「サクセー」ヲ相續ト云フ、日本デモ慣習上受ケルノハ「サクセー」デ御座イマスカラ
(栗塚)
起案者ノ考デハ法律上ノ考ヘハ「サクセー」ダ
(元尾崎)
日本デハ相續人ト云ヘバ一人デ遺囑ヤ何カヲ入レテ財產ヲ受ケルノハ別ノ名ニシタ方ガ宜シイ
(委員長)
其レハ名バカリデ事柄ヲ止メル論デハアリマセンカ
(元尾崎)
事柄ヲ止メル論デハアリマセン言葉ガ惡ルイ
(委員長)
言葉ハ順序ニ依テ跡ヲ繼グモノトハ區別ガ付イテ居ル
(元尾崎)
其レヲ同ジク相續人ト云フノハ日本ノ慣習ヲ破ル
(南部)
慣習ガアルカラ慣習ヲ助ケテ行クノダ
(元尾崎)
嫁入リシテ居ル娘ニ財產ヲヤツタノハ相續人トハ云ハヌ遺囑者トカ名義ヲ換ヘレバ宜シイ
(委員長)
相續ト云フ字ニ拘泥シテ居ルカラ仕方ガナイ
(元尾崎)
日本デ親ノ遺言デ財產ヲ分ケテ貰ウノト、或ル國デハ平分シテ貰フノト混淆シテハ困ル、其處ヲ心配シマス
(委員長)
其レハ人事編デ定メル
(元尾崎)
此處ヘ揭ゲテ置クト早ヤ其事ガ定マツテ居ルト云フダロウ
(松岡)
其レハ云フテモ役ニ立タヌ
(委員長)
今度ノ人事編デハ古來ノ如クニ戶主ガ自分ノ總領ノ子ニ財產ヲヤツテ、次男三男ハ嫡子ガ引受ケテヤルト云ヘバ其レモ出來ルシ、親ガ分ケテヤロウト思ヘバ出來ルノデシヨウ
(西)
家督相續ト財產相續ト兩方デス
(南部)
何トモ云ハヌトキハ
(西)
家督相續デ行キマス
(元尾崎)
家トカ寶物トカハ家督相續人ガ取ツテ其外ハ平分スルトアル
(委員長)
松岡サンノ樣ニ相續人ト云フコトハ法律ガ定メヌ以上ハイケナイト云フ論ハ書物ヲ解スル論ナレバ宜シイガ、之ヲ議シテ行ク人ガ相續財產ニナルヤラ家名相續ニナルヤラ分ラヌト云フ位ノ考デ他日人事編ヲ議スルトキ都合ニ依レバ財產相續ヲ止メルト云フ樣デモ困ルカラ、ドウナルヤラ知レヌ
(松岡)
其レハ人事編ハ元來ドウナルヤラ知ラヌト思ヒマスガ、未ダ案ハ揭ゲテアツテモ見タコトハアリマセン良シ見タ處ガ當ルヤラ當ラヌヤラ分リマセンカラ其レヲ引當テニ明言ハ出來マセンケレドモ相續財產ヲ分ツコトニナレバ多少心得ナケレバナラヌト云フノハ分家ヤ何カデ權利丈ケアツテ義務ハ穀ノ者ニ持タセルコトハ出來ナイ之ヲ出セバ何デモ事實ハ相續人トナルカラ適用スルト外見ラレヌ
(委員長)
委員トナツテ議シテ行ク以上ハコウ云フ品物ガアレバ處分ノ仕方ハ是レヨリ外ニナイト思フカラ事ガ纏ツテ行クガ、之ガドウナルカ分ラヌ相續編ニ於テ相續ト云フ字ガ變レバ處分ノ仕方迄變ルト云ヘバ之ハ議スルコトハ出來ヌ
(松岡)
縱令何ト云フ名ガアツテモ相續ハ相續ニ相違ナイ、之ガアレバ之ヲ用フルト云フコトハ出來マスマイ、夫婦ノコトガ用收權ニ在ルカラ亭主ガ保證ヲ立テヨト云フコトハ夫婦ノコトガ定マラヌデハ出來マセン
(委員長)
此委員ガ夫婦ノコトモ之ニ相應スル如クニ定メルト思ハナケレバ此法律ハ先キヲ書イタ以上デナケレバ議セラレヌト云フコトニナル
(松岡)
其レハ人事編ヲ後ニシテ財產編丈ケ先キヘ出シタ國モアリマスガ「スイス」抔ハソウデスガ、相續ノコトハ定マラヌトシテ置カナケレバナラヌ
(委員長)
ソウ云フ御論デハ相續ト云フ文字ハ削ツテ仕舞フトノダカラ答ヘ樣ハナイ
(栗塚)
今日ノ分家ヲ相續人ト見ルカ見ナイカト云フ問題デス、彼ノ親父ガ死ヌトキ私ガ相續人デ私ノ妹ヤ弟ガ幾ラカ錢ヲ貰ツテ居ル其レヲ相續人ト云フカ云ハヌカト云フトキハ人事編ノトキカ又ハ刑法デ無能力者ハ女ト瘋癲白痴ト云フ樣ニ此法律デ相續人ト云フモノハ何ダト云フコトヲ定メテモ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
相續人ト云ヲウガ、何ト云ヲウガ、此數人ノ相續人ヲ削ルト云フ論ガアツタカラ削ラレテハ大變ダト思ツテ云フ、又松岡サンガ云フテ居タガ、人事編ガ出來ナイデモ現在ノ法律デアツタトキハ此條ヲ適用シナケレバナラヌ
(松岡)
今ハ數人ト云フコトハアリマセン
(委員長)
貴君ノハ人事編ガ出ナケレバ適用ガ出來ヌト云フノダロウ
(松岡)
ソレハ御聞キ違ヒデス、人事編ヲ議スル時分ニ此事ヲ議ソウト云フノデス
(委員長)
數人ノ所ハ人事編デナケレバ定マラヌガ數人ノ者ガ出來ル樣ニナレバ此取扱ヒヨリ外ニ仕方ガナイト云フコトヲ見テ置イテ貰ハヌト困ル
(松岡)
他日ニナレバ分家ヤ何カハ相續ト云フ名ヲ付ケレバ他ノ權利者ヲ防グコトハ出來ヌト思ヒマス、唯尾崎サンノ懸念ハ此處デ數人トアルカラ人事編ニナツテモ議スコトガ出來ヌト云フコトニナルカラ、其レハ議スルコトガ出來ルト云フノデ、貴君ノ最初ノ御說デハ事實サヘ之ニ適ヘバ名目ハ何トアロウトモ數人ノ相續人ノアルトキハ之ヲ當テルゾト云フ樣ニ聞キマシタカラ
(委員長)
現在コウ云フモノガアレバ當テルト云フノハ法律ガ許シテ居ル
(松岡)
分家ナドハ人事編ヘ持テ往ツテ義務ヲ負ハセルト云フ目的デ此處ヲ議スルナラ宜シイ
(委員長)
ソウ云フ譯デハ處分スル道ハ此道ニ依ラナケレバナラヌ、併シ此處ニ在ルモノハ今日各省ノ達シヤ法律ヲモ多少アリマシヨウ、卽チ公衆ニ認メラレテ居ルモノ或ハ財產ナドニ殆ンド分派ノ處分ヲスル樣ナモノガアル
(松岡)
後チニ定メナケレバ此通リ適用シテ實際當テラレナイ只今分家ト云フ名ガアツテモ本家ノ義務ヲ負ハセマセンカラ
(委員長)
戶主ニ現在ヤツテ居ル相續ヲヤラナケレバナラヌ其方ハ現ニ法律ガ許シテアルモノハ云フテ行カナケレバナラヌ、其方トソレカラ私ノ恐レタノハ人事編ヲ發布セヌ以上ハ此法律ガ行ハレヌト云フ樣ニ聞イタカラソレデハ人事編ガ出來ヌ以上ハ相續ガ定メラレヌ樣ニナルカラ
(松岡)
其レハ重ク御聞キ過ギニナツタノデシヨウ
(元尾崎)
人事編ハ見マシタガ能クナイト思ヒマス
(村田)
ソレハ今日ノ問題デナイ
(委員長)
其レデ家督相續ノ旨意ガ分リマシヨウ、總テ歐羅巴ノ主義ニスルノデハアリマセンカラ
(委員長)
數人ノ相續人ガアルト思テ下サラヌト困ルカラ
(元尾崎)
其レハ知ツテ居リマスガ其レヲ直チニ相續人ト見ルカ見ナイカ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千八十四條朗讀ス
第千八十四條 義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ得タル連帶債權者ハ他ノ債權者ノ特別ノ關係及ヒ共通ノ利益ニ於ケル其相互ノ部分ニ從ヒ之ニ其利益ヲ分ツコトヲ要ス
(松岡)
「特別ノ關係及ヒ共通ノ利益ニ於ケル」ハ入ラヌノダロウ
(槇村)
此處ハ格別ハナイ
本條ハ原案ニ決ス
第千八十五條朗讀ス
第三款 働方連帶ノ絕止
第千八十五條 働方連帶ハ抛棄ニ因テ止ム其抛棄ハ明示ニ非サレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
(修正案) 第三款「働方」ヲ「債權者間ノ」ト改ム
(栗塚)
「債權者間ノ連帶」トナリマス
(元尾崎)
其中ノ一人ガ指定ト云ヘバヤルノダネ
(栗塚)
左樣デス、併シ明示デヤツテ呉レヌト迷惑シマス
本條ハ「働方」ヲ「債權者間ノ」ト改ム
第千八十六條朗讀ス
第千八十六條 連帶ノ抛棄ハ債權者ノ一人若クハ數人又ハ其總員ヨリ之ヲ爲スコトヲ得
總テノ債權者ノ働方連帶ノ抛棄ハ第千七十一條ニ規定シタル如ク受方連帶ノ抛棄カ共同債務者ニ對シテ生セシムルト同一ノ效力ヲ其債權者間ニ生セシム若シ債權者ノ一人又ハ數人ノミカ抛棄ヲ爲シタル者ノ部分ニ付テノミ訴ヲ爲シ又ハ辨濟ヲ受クルノ權利ヲ失フ
(南部)
七十二條ハ七十一條ノ誤リデ御座イマス
(元尾崎)
「債權者ノ働方」ハ「債權者間」トナリマスカ
(栗塚)
之ハ宜シイ積リデス、次ギニ「受方連帶」ト云フコトガアリマスカラ
(村田)
「若シ債權者ノ一人」ト云フ處カラ別項ニナツテ居ル
(栗塚)
成程別項ニナツテ居リマス
本條ハ「若シ債權者ノ一人」ヨリ別項トス
第千八十七條朗讀ス
第三章 任意ノ不可分
第千八十七條 連帶ノ抛棄ハ債務者ノ承諾ナクシテ有效ナリ
然レトモ其抛棄ハ之ヲ債務者ニ吿知セシカ又ハ債務者明確ニ之ヲ知リタルトキニ非レハ前ノ規定ヲ以テ債務者ニ許シタル辨濟又ハ其他ノ行爲ニ對シテ之ヲ援唱スルコトヲ得ス
債務者ハ抛棄ヲ利唱スルノ利益アルトキハ之ヲ利唱スルコトヲ得又抛棄カ其權利ノ詐害ニ於テ爲サレタルトキハ之ヲ駁撃スルコトヲ得
(修正案) 左ノ如ク改ム債務ハ第四百六十二條及ヒ第四百六十三條ニ規定シタル如ク或ハ義務ノ目的物ノ本性或ハ契約者カ企圖シタル目的或ハ設定證書ヲ以テ債務者ノ一人ノ負擔ト爲ス債務ノ指定ヨリ生スル不可分ノ外尙ホ數人ノ債務者ノ負擔又ハ數人ノ債權者ノ利益ニ於テ不可分タルコトヲ得但第四百六十四條ニ指示シタル如ク全部履行ノ擔保トシテ受方又ハ働方ノ連帶ニ連合シ又ハ連合セサルコト有リ此不可分ハ合意又ハ遺囑ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得之ヲ任意上ノ不可分ト謂フ但其不可分ハ明示タルコトヲ要ス
(栗塚)
之ハ翻譯ガ間違ツテ居リマスカラ修正致シマシタ
(村田)
八十八條ハ一條削レテ居ル
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千八十九條朗讀ス
第千八十九條 任意ノ不可分カ債務者ノ負擔又ハ債權者ノ利益ニ於テ明示ニテ設定セラレタルトキハ之ト同一ナル本性ノ連帶ハ默示ニテ設定セラレタルト看做サル伹反對ノ約定アルトキハ此限ニ在ラス
(修正案) 左ノ如ク改ム債務者ノ負擔又ハ債權者ノ利益ニ於テ任意ノ不可分ヲ設定シタルトキハ之ト同一ナル本性ノ連帶ハ默示ニテ之ヲ設定シタルモノト看做ス但反對ノ約定アルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚)
「債務者ノ負擔又ハ債權者ノ利益ニ於テ任意ノ不可分ヲ設定シタルトキハ之ト同一ナル本性ノ連帶ハ默示ニテ之ヲ設定シタルモノト看做ス」ト致シマス
(委員長)
「之ト同一ナル」ト云フノハ事柄ノ同ジナノヲ云フノカ
(栗塚)
「債務者ノ負擔又ハ債權者ノ利益ニ於テ」デ御座イマス
(委員長)
利益モ負擔モ無シト云フト違ヒ樣ガナイ
(南部)
不可分ヲ設定シタルトキハ又ハ債權者ノ利益ニ於テ不可分ヲ設定シタルトキハト云フノデ御座イマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千九十條朗讀ス
第千九十條 若シ任意ノ不可分カ債務者ノ負擔ニ於テノミ設定セラレタルトキハ其不可分ハ同時ニ債權者ノ利益ニ於テ働方タル可キコトノ明定アリタルトキニ非サレハ存立セス
又債權者ノ利益ニ於テ設定シタル不可分ハ其同時ニ受方タル可キコトノ定メラレタルトキニ非サレハ債務者ノ負擔ニ於テ存立セス
(修正案) 左ノ如ク改ム債務者ノ負擔ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ働方タル可キコトノ明示アルニ非サレハ債權者ノ利益ニ於テ存立セス又債權者ノ利益ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ受方タル可キノ明示アルニ非サレハ債務者ノ負擔ニ於テ存立セス
(栗塚)
「債權者ノ負擔ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ働方タル可キコトノ明示アルニ非サレハ債權者ノ利益ニ於テ存立セス」トナリマス
(委員長)
前條ノ「同一ナル本性」ト云フト一方ノ義務ガ不可分デ設定サレタトキハ權利モ設定サレルト云フノデスカ
(栗塚)
ソウデハアリマセン不可分ガ明示デ設定サレタトキカ連帶カ默示デ設定サレル
(委員長)
不可分ダカラ連帶シナケレバナラヌト云フノダロウ
(栗塚)
此義務ハ不可分ニシ樣ト云ヘバ自カラ連帶ノ義務ト看做スゾヨ
(委員長)
同一ナル本性ト云フコトハ同ジ事柄ト云フコトカ
(栗塚)
債權者ノ利益ニ於テ任意ニ連帶スルト云フノデス、不可分ガアレバ連帶ガアル
(委員長)
不可分ノ處デ連帶セヌコトガアツタ
(栗塚)
「但反對ノ約定アルトキハ此限ニアラス」デス
(南部)
四百五十九條カラ以下ハ皆連帶ト不可分ト兩方デ御座イマス
(委員長)
四百九十二條ノ二項ト牴觸シマス
(南部)
ソレハ千八十九條ニ御座イマス
(栗塚)
「之ト同一ナル本性ノ連帶」ト云フコトハ入ラヌノデス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
于時正午閉會