旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第73回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案債權擔保編第七十三回議事筆記
自第千六十一條至第千七十五條
第千六十一條朗讀ス
第千六十一條 連帶債務者ノ一人ニ對シ債權者ノ利益ニ於テ時效ヲ中斷シ又ハ付遲滯ヲ成ス原由ハ他ノ債務者ニ對シテ同一ノ效力ヲ有ス〔第千二百六條、第千二百七條、第二千二百四十九條第一項〕
債務者ノ一人ニ對シ債權者ノ利益ニ於テ成立スル時效停止ノ原由ハ他ノ債務者ノ利益ニ於テ其部分ノ爲メ時效ノ經過スルコトヲ妨ケス
(修正案) 第二項「成立スル」ヲ「存スル」ト改メ「經過スルコトヲ妨ケス」ヲ「經過ヲ妨ケス」ト改ム
(栗塚)
二項ノ「成立スル」ヲ「存スル」ト致シ「經過スルコトヲ」ヲ「經過ヲ」ト致シマス
(村田)
債權者ノ利益ニ於テト云フノハ幼年者トカ瘋癲者トカ云フノデ御座イマスカ
(栗塚)
ソウデス
(松岡)
夫婦ノ樣ナモノダ
(大尾崎)
二項ノ「成立スル」ト云フノハ
(栗塚)
債權者ト債務者中ノ一人ト事ガアツテ時效ガ一時止マル其レハ他ノ債務者ノ利益ニモナルカト云フト他ノ債務者ノ利益ニナラヌ、他ノ債務者ノ利益ニ對シテハ時效ハ漸々過ギル、單ニ一人丈ケ中止ニナツテモ外ノモノニハ矢張リ時效ガ有ル
(大尾崎)
一人ニ對シテ時效ガ中止スルト云フノカ
(栗塚)
夫婦ノ間柄デス
(南部)
債權者ガ債務者ノ一人ノ妻ニナツタ樣ナトキ夫婦ハ互ヒニ用捨シテ居ルカラ催促モ出來ヌ
(栗塚)
債務者ノ一人ガ期限ノ利益ヲ持テ居ルトキ貴樣ダケハ何時カラデナケレバ催促ヲシマイト云フテ居ル其時ハ其債務者一人ガ時效ヲ停止スル原因ヲ以テ居ルガ、其レダカラト云フテ他ノ債務者ガ其利益ヲ持タヌカラ時效ノ經過ヲ止メハセヌ
(大尾崎)
所謂唯一人ニ對シテ恩惠ヲ與ヘタノハ他ノ者ニハ恩惠ハ及バヌト云フノダ
(委員長)
債權者ノ利益ハ債務者ノ利益デアリソウナモノダ
(栗塚)
詰リソウデス
(松岡)
時效ガ流レテ仕舞フト債權者ハ取レヌコトニナル
(南部)
經過ノ方ハ債務者ノ利益デス
(委員長)
利益ニ於テ存スルト換ヘタ丈ケノ妙ガアルカ
(松岡)
前ニモ直シテ來マシタ
(村田)
併シ他ノ債務者ノ爲メニハ利益ニナル
(栗塚)
利益ニハナラヌ關係ハナイ
(槇村)
成立ト存スルハ所ニ依リテ變リハセヌカ
(栗塚)
「存スル」デ能ク分ル樣デ御座イマス、實ハ「在ル」ト云フ字デス
(委員長)
分ラヌコトハナイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千六十二條朗讀ス
第千六十二條 若シ連帶債務者ノ一人カ數名ノ相續人ヲ遺シテ死亡シ其相續人ノ部分カ均等又ハ不均等ナルトキハ他ノ債務者ノ一人ニ關スル訴追ノ所爲、言渡、自白及ヒ宣誓又ハ其拒絕ハ債務ノ全部ニ於ケル各相續人ノ相續部分ノ爲メニ非サレハ其各相續人ニ對シテ效力ヲ生セス
各相續人ハ亦其相續部分ノ爲メニ非サレハ訴追セラレス又前記ノ所爲ノ效力ヲ受ケス此場合ニ於テ前記ノ所爲ハ亦從來ノ債務者ノ各自ニ對シ同一ノ限度ヲ以テ其效力ヲ生ス〔第千二百二十條第二千二百四十九條第三項〕
債權者ト右相續人ノ一人トノ間ニ爲サレタル右同一ノ所爲ハ其共同相續人ニ對シテ效力ナシ〔第二千二百四十九條第二項〕
(修正案) 第一項「死亡シ」ノ下「其相續人云々ナル」迄ヲ刪リ「トキ」ノ上ニ「タル」ノ二字ヲ挿入シ「其拒絕ハ」云々ヲ「其拒絕ハ其各相續人ニ對シ債務ノ全部ニ於ケル其相續部分ノ爲メニ非サレハ效力ヲ生セス」ト改ム
(栗塚)
初メノ「其相續人ノ部分カ均等又ハ不均等ナルトキ」ト云フノハ入ラヌ樣デ御座イマスカラ削リマシタ、若シ均等トカ不均等トカ云フナレバ入ル樣デ御座イマスガ、兩方云フテ居レバ入ラヌ樣デ御座イマス、日本デハ總領ガ餘計取ルト思フ佛蘭西デハ同ジニ取ルト云フノデ均等不均等ト書イタノデ御座イマシヨウガ入ラヌ樣デ御座イマス「其各相續人ニ對シ債務ノ全部ニ於ケル其相續部分ノ爲メニ非サレハ效力ヲ生セス」ト致シマス
(村田)
言渡ハ「辨濟ノ言渡」デ無クモ分リマシヨウカ
(栗塚)
判決ト云テモ宜シイ
(南部)
「判決」ガ宜シイ
(栗塚)
「判決」ト致シマシヨウ
(村田)
ソレカラ「所爲」ト云フ字ハ皆「行爲」ト直ツタ樣デ御座イマス
(栗塚)
成程仰シヤル通リデ御座イマス此宣誓ハ裁判外デ御座イマス
(委員長)
訴追ハ
(栗塚)
構成法カラ云フテ來タカラ換ヘマセン
(大尾崎)
他ノ債務者ノ一人ト云フノハ相續人外デスカ
(栗塚)
ソウデス松岡サント南部サント私ト三人連帶デ貴君ニ金ヲ借リテ私ガ死シ私ノ子ガ三人アツタ場合デス、其時ニ松岡サンカ又ハ南部サンニ對シテ判決ガアツタリ又ハ訴追カ合意ガアツタルトキニ其レハ幾許ノ效力ヲ有スルカト云フト當リ前ナレバ私ガ死ンデ居リサヘシナケレバ我々ニ對シテ生ズルガ私ガ死ンデ相續人ノ身ニ取ツテハ連帶債務者ニ違ヒナイ、併シ三人ノ子ガ連帶シテ居ルカト云フニソウデナイ、假令バ總領ガ十分ノ五ヲ取リ二番目ガ十分ノ三ヲ取リ三番目ガ十分ノ二ヲ取リタルトキハ其割合デ債務ノ全部ニ於ケル相續人ノ爲メデナケレバ效力ハ生ゼヌ、詰リ三人相續人ガアリテモ、三人ガ栗塚ノ相續人デアルカラ栗塚一人ヲ三人ガ代表シタル、モノト見ル、栗塚ガ死ンデモ死ナヌモノト見テ係ルト云フノデ御座イマス
(大尾崎)
南部サンガ一人デシタモノガ各相續人ニ效力ガ及ブト云フノカ
(栗塚)
其レハ千五十九條ニ他ノ債務者ノ利害ニ於テ效力ヲ有スルト云フノデ御座イマスカラ私ガ活キテ居レバ私ニ對シテ效力ヲ生ジタノデ御座イマシヨウ
(松岡)
三人デ五千圓借リテ一人ニテ相續人ガ三人アルトキ三分一丈ケヲ皆デ引受ケソウナモノダ
(南部)
ソウデハナイ
(栗塚)
佛蘭西流義ナレバ九百圓ノ連帶デ甲乙丙三人デ借リテ居タ處ガ、丙ガ死ンデ三人相續人ヲ遺シタトキハ各三百圓ヅツ負擔スレバ宜シイ
(松岡)
死ンダカラ相續人デ三百圓ヅツ受ケレバ宜シイ
(栗塚)
ソウデハナイ三人デ九百圓受ケル
(松岡)
ケレドモ「相續人ノ部分ニ非サレハ」トアル
(栗塚)
其レハ相續人ノ相續ノ部分デス九百圓甲乙九百圓丙第一三百圓第二三百圓第三三百圓
(松岡)
全部ニ於ケル相續部分ノ爲メト云フコトハ入ラヌダロウ
(栗塚)
其相續部分ト云フノハ第一ガ四百圓第二ガ二百圓第三ガ百圓ナレバ其割合ヲ負擔シナケレバナラヌゾヨト云フノデス
(委員長)
債務ノ全部ニ於ケルト云フト債務ガ甲乙丙三人ノ樣ニ見ヘル、丙ノ債務ガ三百圓ト見ヘレバ宜シイガ
(栗塚)
ソウデハアリマセン、丙ハ三百圓デハアリマセン九百圓デス、到底此負擔スベキモノガ三百圓、丙モ三百圓デ御座イマスガ戊カラ係ツテ行クトキハ一人ニ係テ九百圓取レルカラ詰リノ持分ハ三百圓
(委員長)
連帶債務ノ上ニ就イテハ三人ガ均シク持ツガ死ンダ丙ノ負擔スベキ高ヨリ外ニ負擔シナイカラ甲乙ノ債務迄モ負擔スルト云フコトハ云ヘヌダロウ
(栗塚)
處ガ縱令一人ガ死ンデモ相續人ノ丙ヲ代表シナケレバナラヌカラ九百圓ヲ拂ハセナケレバナラヌ
(委員長)
相續人カラ云ヘバ丙ノ負擔スベキ債務ヲ負擔スルト云ハナケレバナラヌ
(栗塚)
丙ノ負擔スルノハ詰リハ三百圓デアルガ、連帶デアルカラ九百圓デナケレバナラヌ
(委員長)
債務ノ全部ト云フテ甲乙ノ部分マデモ負擔スルコトハナイ「丙ノ債務ノ全部ニ於ケル」トスレバ宜シイガ「債務ノ全部ニ於ケル」ト云フト甲乙ノ部分迄モ引受ケナケレバナラヌ樣ニナル
(栗塚)
債務者ハ丙ガ死ンダカラ其相續人ニ對シテ九百圓訴ヘナケレバナラヌ
(委員長)
相續人ヲ代表スルハ何ヲ代表スルカト云フト丙ヲ代表スルノデ甲乙ヲ代表シハセヌ
(栗塚)
丙ヲ代表スルト云フノデ丙ヲ代表スレバ卽チ九百圓ニナリマス
(委員長)
債務ノ全部ニ於ケルト云フノハ甲乙丙ニ均シクト云フト
(栗塚)
相續人ガ三人デ連帶義務ヲ持テ居ル
(委員長)
丙ガ死ンダケレドモ相續人ガ連帶義務者ニナツタ樣ニ見ヘル
(栗塚)
ソウスルト第一モ九百圓第二モ九百圓第三モ九百圓持ツト債權者ガ大變得ニナル
(南部)
ソンナラ原案ノ通リデ宜シイ
(委員長)
「債務ノ全部」ト云フノハ良クナイ、死ンダ人ノ債務ノ相續人ト云ハナケレバ分ラヌ
(村田)
三人ニ連帶デ行クノナレバ此條ハ入ラヌ
(松岡)
各相續人ニ對シテ效ガ生ズ然レドモ各相續人間ニ在テハ相續部分ノ多少ニ從ヒトカ比例ニ準ズトカ云フタラ分リマシヨウ
(西)
ソウハ云ヘナイ
(栗塚)
ソウスルト相續人ガ連帶義務ニナル
(村田)
日本ノ樣ニ唯一人デ相續スレバ入ラヌノダ
(西)
今ニ人事編デ相續ガ分レマスカラ
(松岡)
「全部ニ於ケル」ト云フノハ惡ルイ
(委員長)
「相續人ニ對シ死者ノ債務ノ全部ニ於ケル」
(栗塚)
死者ノ債務ノ全部ト云フノハ幾ラデス
(委員長)
卽チ九百圓ダ
(栗塚)
甲ニ向テモ九百圓行ケル、乙ニ向テモ行ケル、丙ニ向テモ行ケルゾヨト云フノデス、丙モ生キテ居レバ九百圓行ケル
(南部)
死者ノ部分ト生者ノ部分トヲ分ツコトハ出來マセン
(松岡)
三人ガ一ツナレバ全部ニ當ルケレドモ其レハ分ケルノダ五、二、二ト分ケルト云フノダガソウハ讀メヌ
(栗塚)
文字ガ平易デ事柄ガ六ケ敷イ
(南部)
相續ノ部分ハ債務ノ全部ニ於ケル部分ト云フコトニナルカラ差支ナイ
(委員長)
相續人ガ丙ノ存生中ニ連帶義務ヲ持ツノデハナイ、丙ノ相續丈ケ外出來ナイ、併シ連帶義務ヲ丙ガ負擔シナイトキハ九百圓ヲ三人デ負擔シナケレバナラヌト云ヘバ云ヘルガ、其レハ直接デナイ、間接ニ負擔スルト云フコトハ無クモ宜シイカ
(栗塚)
其相續部分ニ非ザレバト云フノガ間接デ御座イマス
(松岡)
相續人ノ部分ト云フノハ債務ヲ引分ケタノデ割合ハ死ンダ人ノデシヨウ其レダカラ債務ノ全部ニ於ケル相續部分ト云フモノノアロウ筈ハナイ
(栗塚)
相續人ニ割合ノ全部ヲ割付ケテト云フノデス
(西)
借リト有リ金ヲ併セタモノガ相續部分デ御座イマシヨウ
(栗塚)
ソウデス
(委員長)
「於ケル」ト「爲メニ」ト換ヘレバ分ル「債務ノ全部ニ付キ其相續全部ニ非サレハ」トハ書ケヌカ
(栗塚)
「付イテノ」トカ何トカ云ハナケレバナリマセン、「相續部分ノ割合ニ非サレハ」ガ宜シウ御座イマシヨウ
(槇村)
相續部分ノ割合ト云フトキハ
(栗塚)
九分ノ五トカ、九分ノ二トカニナリマス
(槇村)
三人ヲ合シテ尙ホ九百圓ヲ負擔スルト云フノハ分ラヌ
(栗塚)
其レハ此處デ見セルニ及バヌ連帶債務ヲ負擔スルトキハ相續人ガ第三者デハナイ當事者ト同ジモノダト云フコトガアリマス
(槇村)
債權者ガ丙ノ死シタル跡ニ向ケ行クトキハ十分ノ五デ四百五十圓ホカ係ツテ行ケヌ相續負擔額長男十分五四百五十圓衣男十分三二百七十圓三男十分二百八十圓
(村田)
「相續ノ割合」トシタラ良カロウ
(松岡)
相續ノ割合ノ所ヘ債務ヲ持テ往ツテ割合ハセルカラ
(委員長)
相續ノ部分ト云フノハ十人ニ割ルノガ部分デ今度割合ト云フノ割合ト五トカ三トカニ解スル字デナケレバ、相續ノ部分ニ非ザレバト云フト相續ガ割レタ部分ト云ハヌト分ラヌ
(栗塚)
相續人ノ持分デナケレバト云フノデ御座イマス
(村田)
會社ノ派分ノ持分ト同ジコトデス
(委員長)
「相續部分ノ割合」トスレバ宜シイ
(栗塚)
「割合」ト入レマシヨウ
(委員長)
「全部ニ付キ」デハイケナイカ
(南部)
「全部ニ付テノ」ガ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
「付キ其相續部分ノ割合」トシタラ良カロウ
(栗塚)
「於ケル」デハ如何デス、其效力ヲ生ゼズト云フノハ良クアリマセン
(南部)
「付キ效力ヲ生セス」ト云フノハ能クアリマセン
(委員長)
「付キ效力ヲ生セス但相續部分ノ割合ニ非サレハ」ト云フノダカラ
(南部)
全部ニ付テハ效力ヲ生ゼズ一分ニ付テハ效力ヲ生ズトハ見ヘマセンカ、全部ニ付テノ相續ノ部分ト云フノデ御座イマスカラ
(委員長)
皆ハ生ゼヌ、割合ナレバ生ズルト云フノダカラ同ジコトダロウ
(松岡)
「任セス」ハ原因ノ爲メニ非ザレバ負債ヲ辨濟スルニ及バズトアル
(南部)
其レデハ元トノ方ガ良クハナイカ
(栗塚)
「爲メ」ト云フ字ヲ割合ト見レバ宜シイ
(大尾崎)
「全部ニ於ケル」トシマスカ
(委員長)
「付キ」ナラ宜シイガ「付イテノ」ヨリハ「於ケル」ガ宜シイ、二項ニモ「爲メ」ト云フ字ガアルガ「爲メニ」ヨリ「對スル」ノ方ガ良クハナイカ
(栗塚)
之モ「割合ニ非サレハ」デ宜シイ
(委員長)
「其共同相續部分」ト云フノハ
(栗塚)
相續人ノ中間デス、仲間ニ對シテハ效ハナイ
(委員長)
「共同」ハ何ト云フ字デス
(栗塚)
「マンミン」デス
(委員長)
共同ト云フト權利モ義務モ負擔シテ居ル樣ニ見ヘル、今迄ノ共同債務者ハ權利モ義務モ同ジダガ、之ハ違ウカラ
(松岡)
仲間ト云フ字ハ良イ字ダ
(栗塚)
「他ノ相續人ニ對シテ效力ナシ」デモ宜シイノデ御座イマス
(渡)
其相續人中ノ他ノ者ニ對シテハト云フ意味ダ
(委員長)
何處デモ分ル樣ニナツテ居レバ「共同」デモ宜シイ
(大尾崎)
「他ノ」トシ樣
(委員長)
「他ノ」デモ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項左ノ如ク改ム若シ連帶債務者ノ一人カ數名ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ他ノ債務者ノ一人ニ關スル訴追ノ行爲、判決、自白及ヒ宣誓又ハ其拒絕ハ其各相續人ニ對シ債務ノ全部ニ於ケル其相續部分ノ割合ニ非サレハ效力ヲ生セス第二項「爲メ」ヲ「割合」ト改ム第三項「其共同」ヲ「他ノ」ト改ム
第千六十三條朗讀ス
第千六十三條 若シ負擔セラレタル物ノ滅失又ハ總テ其他ノ義務履行ノ不能カ連帶債務者ノ一人ノ過愆ニ因リ又ハ其付遲滯後ニ生スルトキハ他ノ債務者ハ債權者ニ對シ連帶シテ損害賠償又ハ過怠約定ノ責ニ任ス伹債務者中過愆アリ又ハ遲滯ニ在リシ者ニ對スル他ノ債務者ノ求償權ヲ妨ケス〔第千二百五條〕
從來ノ債務者ノ一人カ死亡シタルトキハ他ノ債務者ト死者ノ相續人トノ相互ノ責任ハ前條ニ從ヒテ之ヲ規定ス
(修正案) 第一項「若シ負擔セラレタル物」云々ヲ「義務ノ目的物」云々ト改メ「但」ノ下「債務者中」ノ四字ヲ刪リ「在リシ」ノ下ニ「債務」ノ二字ヲ挿入ス第二項「從來ノ」ノ三字ヲ刪ル
(栗塚)
「若シ負擔セラレタル物ノ滅失」ヲ「義務ノ目的物ノ滅失」ト致シマス但「債務者中」ヲ削リマシテ「遲滯ニ在リシ債務者」ト致シマス二項ハ「從來ノ」ト云フコトハ云フニ及ビマセンカラ削リマシタ
(村田)
「從來」ト云フ字ハアツタ方ガ宜シイ元トノヲ云フノダカラ
(栗塚)
新債務者ガナイノデ御座イマスカラ相續人ニ對シテノ言葉デス
(村田)
相續人モ債務者ダ
(松岡)
入ラナイ、千六十一條ノ債務者ト同ジコトダ
(栗塚)
末項ハ「前條ノ規定ニ從フ」ト致シマス
(委員長)
義務ノ目的物ノ滅失ト云フノハ入用ナシデ云フテ居ルカ
(栗塚)
義務履行ノ不能ヲ言渡ス爲メニ重モナル物ガ無クナツタトキダ、家ガ燒ケタトキ又其他ノ義務ノ不能ガト云フノデ御座イマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千六十四條朗讀ス
第千六十四條 連帶債務者中ニテ自己ノ出捐ヲ以テ全部又ハ一部ニ付キ債務ヲ辨濟シ又ハ共同ノ免除ヲ得セシメタル者ハ他ノ各債務者ニ對シ債務又ハ自己ノ辨濟シタルモノニ於ケル其各債務者ノ實擔部分ニ付キ自己ノ權利ヲ以テ求償權ヲ有ス〔第千二百十三條、第千二百十四條第一項〕
右ノ求償中ニハ會社及ヒ代理ノ規則ニ從ヒ辨償金及ヒ必要ナル出捐ノ賠償ノ外辨償以後ノ法律上ノ利息及ヒ避クルコトヲ得サリシ費用ヲ包含ス
(修正案) 第一項左之如ク改ム連帶債務者中ニテ自己ノ出捐ヲ以テ債務ヲ辨濟シ又ハ共同ノ免除ヲ得セシメタル者ハ他ノ各債務者ニ對シ債務ニ於ケル其各自ノ負擔部分ニ付キ自己ノ權利ヲ以テ求償權ヲ有ス
(栗塚)
「債務者又ハ自己ノ辨濟シタルモノニ」ト云フノヲ刪リマス、其レカラ「全部又ハ一分ニ付キ」ヲ削リマシタ「債務ニ於ケル其各自ノ負擔部分ニ付キ」デ御座イマス之ハ先達テ分リ惡クイト仰シヤリマシタ相續人ノ割合部分ト同ジデ御座イマス
(松岡)
辨濟ト免除ヲ二ツ書キマシタカ
(栗塚)
此間二ツアリマシタ、金ヲ出シタ人ハ他ノ人カラ取レルト云フノデス
(村田)
「自己ノ出捐ヲ以テ」ト云フノハ入ラヌ
(栗塚)
債務ヲ辨濟シ又ハ共同ノ免除ヲ得セシムル爲メ自己ノ出捐ヲシタモノハト云フノデ御座イマス
(松岡)
前ニモソウ云フ論ガアリマシタガ「主タル債務ヲ辨濟シ又ハ自己ノ出捐ヲ以テ」トアルカラ彼處ト同ジニシナケレバナラヌモノナレバ同ジニシナケレバナラヌ、左モナケレバ債務ヲ辨濟シタル者ガデ宜カロウ
(南部)
前ノ通リガ宜シイ
(栗塚)
「債務ヲ辨濟シ又ハ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免除ヲ得セシメタル者ハ」デ御座イマス
(松岡)
「又」ハト云フノハ入ラヌダロウ「又ハ其他」ト云フノハ皆削ツタ
(西)
再調査デ直シタラ良カロウ
(委員長)
「又ハ」ガアレバ「其他」ハ入ラヌ
(栗塚)
「又ハ」デモ宜シイ
(栗塚)
「其他」トシテ「又ハ」ヲ削リマス、六十三條モ「又ハ」ヲ削リマス
(村田)
三十條モ「又ハ」ヲ削ロウ「避クルコトヲ得サル費用」ト云フノハ無イ「必要ノ費用」デ良カロウ
(南部)
必要費用ト云フノハ別デス
(北畠)
避クベカラザル費用ダ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項左ノ如ク改ム連帶債務者中ニテ債務ヲ辨濟シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免除ヲ得セシメタル者ハ他ノ各債務者ニ對シ債務ニ於ケル其各自ノ負擔部分ニ付キ自己ノ權利ヲ以テ求償權ヲ有ス
第千六十五條朗讀ス
第千六十五條 債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタル債務者ハ亦債權者ノ實際受取リタルモノヽ限度ニ於テノミ第五百四條第一號ニ從ヒ法律上ノ代位ニ因リ其債權者ノ權利及ヒ訴權ヲ行フコトヲ得〔第千二百五十一條第三號〕
然レトモ其債務者ハ前條ニ記載シタル如ク其共同債務者ノ各自ノ間ニ於テ自己ノ訴ヲ分ツノ義務アリ
(修正案) 第二項「自己ノ訴ヲ分ツノ義務アリ」ヲ「自己ノ訴ヲ分ツコトヲ要ス」ト改ム
(栗塚)
「ノ義務アリ」ヲ「コトヲ要ス」ト致シマス
(松岡)
全部又ハ一分ハ入リマスカ
(栗塚)
「限度ニ於テ」トアリマスカラ入リマス
(松岡)
千兩ノ物ヲ九百兩デ濟マセテ貰ヘバ九百兩ト云フノデ最初ノ内拂ヒダノ皆拂ヒダノト云フノデハナイ
(栗塚)
九百圓丈ケノ限度デス
(松岡)
其レダカラ「全部又ハ一分」ハ入ラヌ之ヲ云フト出捐ノコトヲ云ハナケレバナラヌ
(栗塚)
詰リ代位スルト云フタ丈ケデス
(南部)
限度ト云フノハ債權者ガ受取ツタ丈ケト云フノダカラ全部一分トハ少シ違ウ
(委員長)
併シ拂ツタ方ガアルカラ受ケ取ツタ限度ハアルガ拂ヒ方ハ皆拂ツタ樣ニ見ヘルト受取ツタトキ限度ガ照應セヌ樣ニナル
(松岡)
ソコデ實際受取リタル限度ト云フノハ千兩持テ來レバ千兩ノ證文ガ來ルカト云フト實際九百圓ト云フナラ九百圓ト云フ丈ケデス
(委員長)
債務ノ全部ヲ辨濟シタルト云フト皆辨濟シタ樣ニナル
(南部)
「全部又ハ一分」ヲ置クナラ前モ置カナケレバナラヌ
(松岡)
現ニ受取ツタ限度ガ算盤ノ元トニ立ツト云フノダカラ一分全部ハ關係ヲ持タヌ
(大尾崎)
自己ノ訴ヲ分ツノ義務アリト云フノハ自分ガ出ス物丈ケハ引キ除ケナケレバナラヌト云フノカ
(南部)
自分ノ求償ノ部分丈ケヲ分ツテ法律上ノ代位
(村田)
鳥渡分ラヌ
(松岡)
原吿デ訴ヘテ置クナラ其部分丈ケハ除ケナケレバナラヌ
(栗塚)
六十四條ノ全部又ハ一分ハ報吿委員デ削ツタ人ガ削ラナイ人モアリマスカヲ此處ヲ削レバ先キモ削ラナケレバナリマセン
(松岡)
六十一條デ代位ハ使ウ金額丈ケデナケレバ訴權ガナイトアル
(渡)
刪ツテ宜カロウ
(大尾崎)
債權者ノ上ノ「亦」ノ字ハ入ラヌ樣ダ
(栗塚)
之ハ報吿委員ノ粗漏デ御座イマス
(松岡)
刪ロウ
(栗塚)
「辨濟ヲ爲シタル債務者ハ」デ良サソウナモノダ
(南部)
債務ヲ云フタ方ガ宜シイ
(栗塚)
「債務ヲ辨濟シタル債務者ハ」ト致シマス
(委員長)
「訴ヲ分ツコトヲ要ス」ト云フト分タズトモ良カロウ
(松岡)
實ハ云ハズトモ良イノダ我割前ハ自分デ拂ヘト云フノダカラ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條第一項ハ左ノ如ク決ス「債務ノ全部又ハ一分ヲ辨濟シタル債務者ハ亦債權者ノ」トアルヲ「債務ヲ辨濟シタル債務者ハ債權者ノ」ト改ム第二項報吿委員ノ修正ニ決ス
第千六十六條朗讀ス
第千六十六條 不注意ニテ辨濟シタル保證人ニ對シ第千三十二條及ヒ第千三十三條ニ揭ケタル求償ノ失權ハ之ト同一ノ場合ニ於テハ訴追又ハ辨濟ヲ共同債務者ニ吿知スルコトヲ怠リタル連帶債務者ニ對シ之ヲ宣吿スルコトヲ得
(修正案) 「訴追」ノ上「ハ」ノ一字ヲ刪ル
(松岡)
「宣吿スルコトヲ得」ト云フノハ「對抗スルコトヲ得」ト云フ方ガ良クハナイカト思フ之デ見ルト求メノナイコトヲ裁判所ガスル樣ニナル
(栗塚)
コウ云フ場合ニハ、コウ云フコトガアルゾヨト云フノデ御座イマス
(渡)
「對抗」デモ宜シイ
(村田)
三十二條ニモ「宣吿セラルルコトアリ」トアル
(栗塚)
人ガ云フテ來ヌノニ裁判所ガ宣吿スルト云フコトニハ見ヘヌデシヨウ
(南部)
「債務者ニ之ヲ適用ス」ト云ヘバ宜カロウ
(栗塚)
千三十二條ニ揭ゲタル求償失權ノ規定ハ之ヲ適用ス
(南部)
「求償失權ノ規定ハ」デ宜シイ
(委員長)
千三十三條ニ「宣吿セラルルコトヲ得」トアル
(松岡)
アレハ三十二條カラ來テ居ルノデス
(南部)
「適用ス」ガ良カロウ
(村田)
「之ト同一ノ場合ニ於テ」ハ無クテモ宜カロウ
(松岡)
入ラヌ樣ダ
(西)
ソウ云フ場合デト云フノダカラアツタ方ガ宜シイ
(松岡)
規定ハダカラ違ウモノニ行ク筈ハナイ
(大尾崎)
削リマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
不注意ニテ辨濟シタル保證人ニ對シ第千三十二條及ヒ第千三十三條ニ揭ケタル求償ノ失權ノ規定ハ訴追又ハ辨濟ヲ共同債務者ニ吿知スルコトヲ怠リタル連帶債務者ニ對シ之ヲ適用ス
第千六十七條朗讀ス
第千六十七條 若シ共同債務者ノ一人カ上ニ指示シタル方法ノ一ニ因リ求償ノ行ハレタル當時ニ於テ無資力ナルモ要求者ノ責ニ歸スヘキ懈怠アラサリシトキハ無資力者ノ部分ハ辨濟シタル者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ割合ニ應シテ之ヲ配當ス〔第千二百十四條第二項〕
(修正案) 冒頭「若シ」ノ二字ヲ刪ル
(栗塚)
「若シ」ヲ削リヤス
(大尾崎)
「求償ノ行ハレタ當時」デハ何時行ツテモ構ハヌ樣ダ
(南部)
何時行ツテモ構ハヌガ懈怠ガナケレバナラヌ
(大尾崎)
期限ガナケレバ
(栗塚)
遲ク來タガ爲メニ、彼ノ當時ニ來ルハ無資力デナカツタガ遲ク來タカラ無資力ニナツタト云ヘルデシヨウ
(南部)
此無資力ニナツタ者ハ佛蘭西法ニ依ルト如何ナル事ガアツテモ直グヤラナケレバナラヌ其レダカラ懈怠アラザリシトキハト云フテ居ルノダ
(松岡)
懈怠ト云フコトハ入ラヌコトヲ求償シテ來レバ外ノ者ガ引受ケル
(栗塚)
誰ノ責メニナル
(松岡)
誰ノ責メモナイ皆デ分ツ、皆ガ無資力ニナレバ其人ガ一人デ引受ケル
(栗塚)
假令バ丙ガ甲ノ所ヘ求償ニ行クニ早ク行ケレバ資力ガアツタニ遲クナツタカラ乙ニ損ガ掛ル、其レハ惡ルイト云フノデス
(松岡)
三日目ナレバ宜シイ、五日目ナラ惡ルイト云フコトハ分ラヌ
(栗塚)
甲ガ拂ツテ乙、丙ニ行ケル、處ガ皆デ分ツ部分ガ九百圓ノモノナラ三百圓ヅツ負擔スルノヲ一人デスル
(松岡)
催促ヲ早クセヌ者ハ不調法ニナル
(栗塚)
三ケ月四ケ月經テ行ク、早ク行ケバ無資力ニナラナカツタノデモアロウニト云フトキハドウシマス
(松岡)
凡ソ金貸シタリ立替ヘタリシテ其權利義務ガ定マツテ居ラナケレバ貴樣ハ遲カツタカラト云ハレテハ大變ダ
(栗塚)
唯裁判官ノ見分ケヲ云フタノダロウカ、甲ガ乙ヘ往ツタ處ガ無資力ダ、其三百圓ガ少シ遲レタルガ爲メニ甲ノ損ニナルト云フコトハナイト云フコトデ御座イマシヨウ
(松岡)
甲ノ間ハ全クハ行カヌデシヨウ
(栗塚)
乙ニ行ケレバ取レタデアロウニ愚頭々々シテ居ル爲メニ無資力ニナツタノハ、甲ノ不調法デナツタノハ甲ハ自分ノ三百圓ノ外ニ三百圓ヲ負ハナケレバナラヌ
(松岡)
遠慮ヲシテハナラヌゾヨ、目ヲ閉ヂテ取ラナケレバナラヌゾヨト云フト同ジコトダ
(栗塚)
其レハ懈怠ガアツタカ無イカ
(松岡)
大勢ノ金ヲ立替ヘテ居ル一緒ニ酒ヲ飲ミニ往ツテ出訴期限モナシニ御前ガ拂ツタ處ガ誰某ガ他ヘ往ツタカラ御前一人デ脊負ヘト云フノハ同ジダ
(栗塚)
佛蘭西ノ如クニスレバ、マダ宜シイガ怠ツテ居テハイケヌゾヨ
(南部)
辨濟シタトキ迄ノ無資力デ無ケレバ負擔セヌト云フノハ一槪ノ論ダ
(松岡)
慈愛デ猶豫ヲスル人間ハ損ダト云フコトニナル
(栗塚)
乙ニ猶豫ヲ與ヘタ爲メニ丙ニ損ヲ掛ケテハ困ル、無資力者ガ出來ルノハドウシテ出來タノカ、甲ガ丙ノ處ヘ往ツタ處ガ、此間丙ノ所ヘ行ケバ金ガ有ツタノヲ御前ガ怠ツタカラ無資力ニナツタト云フテ此損ヲサセルノハ氣ノ毒カ、又ハ丙ニ百五十圓損ヲサセルノガ氣ノ毒カト云フノデ御座イマス甲ノ怠リガアツタトキハ六百圓、怠リガナケレバ四百五十圓デ宜シイト云フノデ御座イマスカラ其斟酌ハ裁判官ニ任カセテ置クノガ宜シイ
(松岡)
立替ル人間ハ他人ノ金迄モ出シテ居ル怠ルト云フノハ何ダロウカ立替タ人間ガ猶豫シテ居ルノハ社會ノ利益カ不利益カコウ云フ法律ヲ立テ置ケバ損ヲスルカラ直グ取リニ行ク樣ニナル
(南部)
早ク取ラセルガ宜シイ
(委員長)
自ラ怠リタルコトガナケレバ皆デ拂フ、怠リタルトキハ自分一人デ拂ウト云フノダカラ
(大尾崎)
一人無資力者ガ出來レバ皆ガ拂ハナケレバナラヌ
(西)
併シ早ク行ケバ無資力ニナラヌノニ遲クナツタ爲メニ無資力ニナツタノダカラ
(大尾崎)
一體ノ債務者ト皆デ負擔スレバ宜シイ
(渡)
之ハ松岡君ノ異論ハアリマスマイ反對ノ論カラ云フト懈怠ハ裁判官ガ見分ケルカラ云ハセルガ宜シイト云フガ、ソンナ法規ハナイ、五人デ持テ居ル借金ヲ一人デ立替テ他ノ四人ニ分ケ前ヲ出サセ樣ト云フト一人無資力ガ出來テ無資力ノ分ケ前ヲ云ハナカツタラ貴君脊負ヘト云フノハ道理ニ於テ許サズ
(南部)
何デ法理ニ合ハヌカ
(渡)
期限ガアレバ宜シイガ、期限ガ無イノニ起ツタカラ脊負ハセルノハ良クナイ
(南部)
無資力ト云フノガ期限ダ、無資力ト云フ期限ガアレバ法律ニ定メルハ分ラヌカラ裁判官ニ任カセル
(渡)
法文デ定マツタ事ヲ怠ツタノデナケレバ懈怠ト云ヘヌ、之ハ便宜ダケレドモ全體人ノ物ヲ仲間同士デ拂ツタノダ
(栗塚)
ソウデハナイ銘々ニ三百圓ヅツ拂フ
(渡)
ソレハ分ツテ居ル全體取換ヘタ物ヲ出サナケレバナラヌノハ普通ノ義務ダ其レヲ怠リガアツタカラ出サズトモ良イト云フノハ滅法界ダ、佛蘭西ノ通リニスレバ宜シイ
(委員長)
佛蘭西ノ通リニシテモ大變怠リガアル自分ガ金ヲ拂ツテ一方ノ人ガ無資力ニナツタトキ前日ニ往ケバ良カツタモノヲ往カナカツタ爲メニ損ヲシタトキハ著シイ怠リテヤツタ、前日往ケバ瑕疵ノナイモノヲ翌日往キタル爲メニ瑕疵ガアツタ、其場合ニ皆ガ分擔スルノモ辨濟シタ人ヲ保護シ過ギル樣デモアル
(渡)
一體事柄ハ皆ノ分ケ前ヲ徵收シテ見ナケレバナラヌニ其前ニ無資力トナツタノハ貴樣ノ怠リダカラ貴樣ガ脊負ヘト云フノハ酷ダロウト思ヒマス、前刻モ松岡君ノ云フ通リ法律ガ規定スレバ人ノ立換ヘ物ハシナイガ宜シイ、若シ拂ツタナレバ無茶苦茶ニ往ツテ取レト云フ樣ナ結果ヲ起スコトガアル
(栗塚)
裁判官ニ是レ丈ケノ鉈ヲ渡シテ置クノハ怖イト云フノナレバ別段デス
(渡)
裁判官ガ怖イト云フコトハナイガ全體此事柄ニ於テ取換ヘタ者ハ後チニ相當ニ出サナケレバナラヌ、其後無資力ニナツタモノハ皆デ出サナケレバナラヌト云フノガ穩カデアロウト思ヒマス
(松岡)
分擔デ配當スルト書イテアル
(栗塚)
其佛蘭西ノ法律ニモウ少シ早ク來レバ無資力デナカツタ遲ク來タ爲メニ無資力ニ
(栗塚)
幾年中ニ借リテ居テ今年ノ一月一日ニ拂ツタ乙ハ六月迄ハ有資力者デアツタ、若シ一月カラ六月迄ノ間ニ取リニ來ラ呉レバ立派ニ取レルモノヲ七月ノ今日ニナツテ來タカラ無資力ニナツタト云フトキハ甲ノ怠リタル所爲ハ丙ガ脊負ハナケレバナラヌト云フノハドウ云フ譯カ
(松岡)
「ムーロン」ハ無資力トナツタトキハ他ノ共同義務者ニ對シテ其部分ノ返還ヲ求メタ一人ニテ分擔スルヲ要セヌ總テノ義務者ニテ此責ヲ擔保スベキナリ、佛蘭西ノ法文ニ命ズル處ハ無資力者ノ分ハ有資力者ガ分擔スル、矢張遺ツテ居ル人ガ分擔スレバ宜シイノダ、之ハ餘リ小細工過ギテ良クナイ
(委員長)
佛蘭西法文通リニシ度イ意カ「ボアソナード」ノ法文通リニスルカ佛蘭西法デハ怠リガアツテモ無クテモヤツテ仕舞フ其レカラ其間ニ怠リガアツテ一方ノ者ガ他ノ義務ヲ負ウテ居ル者ガ無資力者ノ分ヲ分擔シナケレバナラヌト云フトキ、裁判官ガ見テモ其者ガ懈怠カラ無資力者ニナツタトキハ其者ガ負擔シナケレバナラヌカト云フ論デ「ボアソナード」ノ原文ダト懈怠ト云フモノガ確カニ現ハレテ其ノ者ガ怠リノ爲メニ裁判官ノ目前ニ現ハレタトキハ負擔サセテモ宜シイ又佛蘭西流儀ニシテモ代言人ナドガ頻リニ非ヲ擧ゲテ云フタトキハ云フテ行ケルカドウカ
(松岡)
法律デハ求償權ガアルト云フノハ定メナイモノデ見ルト云フコトハ六ケ敷イ慈悲深クシ辛抱シテ居ヌト云ヘバ大變宜シイ
(委員長)
慈悲深イト云フノハ裁判官ガ怠リトハ云ハヌ、乙ト云フ者ガ相場師デアツタ、昨日迄財產ガアツタガ明日相場デヤツテ大負ケヲシテ翌日損ヲスルコトハ出來ヌ昨日迄日數ガ掛ツテ居ルニ取リニ行カヅシテ昨日其家ヘ往ツタガ催促スルコトヲ遺シタト云フトキ佛蘭西流義デ假令バ損ナコトガアツテモ分擔シナケレバナラヌト云フト一方ノ代言人ガ云フニ、彼ノ日ニ向ウヘ行キマシタガ、何トモ云ハヌ爲メニ今日身代限リニナツテ仕舞ヒマシタト裁判官ニ云フタトキハドウスルカ
(松岡)
コウ云フ條件ヲ履マナケレバナラヌト云フノデ背イタノナラ仕方ガナイガ、年月ヲ切ツテ居ルノナラ致シ方ガアリマセンガ催促ハ三年ノ期滿免除モアリ五年ノモアル人ニ物ヲ立替ヘテ自分モ損ヲスルノデ御座イマスカラ好ンデ自分ガ損ヲスル筈ハアリマセン、其レヲ何ノ定メモナク怠ツタト云フノハ良クナイ
(委員長)
期限ノアルコトモアリマシヨウ、期滿免除モアリマシヨウ
(松岡)
經時效ナドデ期限ヲ過ギタノナレバ據ナイコトデ御座イマス
(委員長)
其レモアル
(栗塚)
「方法ノ一ニ依リ求償ノ當時ニ於テ無資力ナルトキハ無資力者ノ部分ハ辨濟シタル者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ割合ニ應シテ之ヲ配當ス但要求者ノ責ニ歸スヘキ懈怠アリシトキハ此限ニ在ラス」トシテハ如何デス
(大尾崎)
其レガ宜シイ
(松岡)
同ジコトダ
(栗塚)
此本文デハ條件付ニナリマスカラ
(西)
其レ丈ケニナレバ是デモ宜シイ
(南部)
但ノ方ガ宜シイ
(村田)
「其者ノ部分」ガ宜シイ
(北畠)
「其者ノ都分」ガ宜シイ
(栗塚)
「其無資力者ノ部分ハ他ノ」トシマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
共同債務者ノ一人カ上ニ指示シタル方法ノ一ニ因リ求償ノ行ハレタル當時ニ於テ無資力ナルトキハ其無資力者ノ部分ハ辨濟シタル者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ割合ニ之ヲ配當ス但要求者ノ責ニ歸スヘキ懈怠アリシトキハ此限ニ在ラス
第千六十八條朗讀ス
第千六十八條 若シ連帶債務者ノ一人ノ無資力カ何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ生シタルトキハ債權者ハ其債權ノ全額ニ付淸算中ニ加ハルコトヲ得
此ノ如クシテ債權者ノ辨濟ヲ受ケサルモノハ他ノ債務者之ヲ負擔シ其債務者ノ自己ノ部分外ニ辨濟シタルモノニ對スル求償カ其淸算ニ加ハリタル他ノ債權者ヲ害スルコトヲ得ス
(修正案) 第一項「タルトキ」ノ上ヲ「何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ連帶債務者ノ一人ノ無資力ト爲リ」ト改ム第二項「其淸算ニ」ノ上ヲ「此場合ニ於テ辨濟ノ殘額ハ他ノ債務者之ヲ負擔ス但其債務者ノ自己ノ部分外ニ負擔シタルモノニ對スル求償ハ」ト改ム
(栗塚)
「何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ連帶債務者ノ一人ノ無資力ト爲リタルトキ」ト致シマス二項ハ「此場合ニ於テ辨濟ノ殘額ハ他ノ債務者之ヲ負擔ス但其債務者ノ自己ノ部分外ニ負擔シタルモノニ對スル求償ハ」ト致シマス
(松岡)
加ヘルヲ得ズト云フノダロウ、上ノ方ハ前後ニ書分ケテ受ケルト云フテ今度ハ淸算ニ加ハラセン
(栗塚)
其實債權者ノ權利ヲ害スルカラ往ケヌカ知レヌガ害サヌケレバ往ケルデシヨウ
(松岡)
害セヌ位ナレバ入ルニ及バヌ云フテ害セラルル爲メニ入レヌト云フノデ已ニ前項ガ入テ居ルカラ十ノモノハ十幾ツ入ル樣ニナル
(南部)
「加ハリテ」ダロウ
(松岡)
「加ハルコトヲ得ス」デ宜シイ
(西)
他ノ債權者ト云フノハ
(松岡)
關係セヌ人デス
(大尾崎)
入ツテ行ケソウモナイモノダ
(松岡)
云フテナイト前項ノ所デ皆賣ツテ仕舞ズトモ高ハ分ル、ソウスルト出スト云フテ出シタノハ宜シイガ餘分丈ケハ加エテ呉レト云ヘソウダガ、ソレハ出來ヌ前ノ所デ前項デ拂ツテ居ル其レヲ入レルト十ノモノガ十幾ツニナル、外ノ債權者ハ割合ガ少ナクナルカラ「加ヘルコトヲ得ス」デ良カロウト思ヒマス
(大尾崎)
若シ返ヘシサヘシナケレバ取テモ宜シイト云フノダカラ同ジコトダ
(南部)
淸算ニ加ハツテ他ノ債權者ヲ害スルコトハ出來ヌト云フノダカラ意味ガアル
(松岡)
其レハ云ハズトモ知レテ居ル
(西)
ドウシテモ加ハルコトハ出來ヌ勘定ダ
(松岡)
商法ノ分產ト訴訟法ノ差押トハドウナツテ來ルカ知レマセンガ訴訟法ハ差押ハ質取リト
(栗塚)
之ハ商人デナイ積リダカラ訴訟法ノ差押ヘノ結果カラ之ガ生ズルノデス
(松岡)
良ク注意シテ貰ヒマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千六十九條朗讀ス
第千六十九條 若シ債務者ノ一人カ無資力ト爲ル前ニ一回又ハ數回ノ一分辨濟アリタルトキハ債權者ハ其未タ受ケサルモノヽ爲メニ非サレハ無資力者ノ財產ノ淸算中ニ加ハラス又一分辨濟ヲ爲シタル一人又ハ數人ノ債務者ハ第千六十四條ニ從ヒ自己ノ受ク可キモノヽ辨償ノ爲メ淸算ニ於テ債權者ト競分ス〔佛商第五百四十四條〕
(修正案) 「債務者ハ第千六十四條」云々ノ上ヲ左ノ如ク改ム債務者ノ一人ノ無資力ト爲ル前ニ一分ノ辨濟アリタルトキハ債權者ハ辨濟殘額ノ爲メニ非サレハ其淸算中ニ加ハルコトヲ得ス又一分ノ辨濟ヲ爲シタル他ノ
(栗塚)
「債務者ノ一人ノ無資力ト爲ル前ニ一分ノ辨濟アリタルトキハ債權者ハ辨濟殘額ノ爲メニ非サレハ其淸算中ニ加ハルコトヲ得ス又一分ノ辨濟ヲ爲シタル他ノ債權者ハ」ト致シマス
(松岡)
「淸算ニ於テ債權者ト競分ス」ハ「淸算ニ加ハルコトヲ得」トハ出來マセンカ
(栗塚)
「淸算ニ加ハルコトヲ得」デモ宜シウ御座イマス
(委員長)
是レデ食事ニ致シマス
本條ハ「淸算ニ於テ債權者ト競分ス」トアルハ「淸算ニ加ハルコトヲ得」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千七十條朗讀ス
第千七十條 總テノ連帶債務者又ハ其中ノ數人ガ何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ無資力ト爲リタル場合ニ於テ債權者ハ其債權ノ全額ノ爲メ各淸算中ニ自己ノ債權ヲ記入セシム
然レトモ債權者カ淸算ノ一ニ於テ最初ノ配當金ヲ受ケタルトキハ他ノ淸算ニ於テ其債權ノ全額ニ從ヒ債權者ニ付與ス可キ新配當金ハ其未タ受ケサルモノヽ割合ニ應スルニ非サレハ債權者其拂渡ヲ受クルコトヲ得ス
殘餘ノ物ハ各箇ノ淸算カ名稱債務ノ額內ニテ辨濟シタルモノヽ割合ニ應シテ其各淸算ヲ賠フ爲メ特別ノ財團ヲ組成ス〔佛商第五百四十二條、第五百四十三條〕
(修正案) 左ノ如ク改ム何等ノ辨濟モ有ラサル前ニ總テノ連帶債務者又ハ其中數人無資力ト爲リタル場合ニ於テ債權者ハ其債權ノ全額ニ付キ各淸算中ニ加ハルコトヲ得然レトモ債權者カ淸算ノ一ニ於テ配當金ヲ受ケタルトキハ他ノ淸算ニ於テ其債權ノ全額ニ從ヒ債權者ニ充テタル新配當金ハ以前ノ配當ニ於テ未タ受ケサルモノノ割合ニ應スルニ非サレハ之ヲ債權者ニ拂渡スコトヲ得ス右拂渡ノ殘額ハ各淸算ニ返償ス但其各淸算カ辨濟シタルモノノ割合ニ從フ
(栗塚)
修正致シマシタ
(村田)
辨償債務ト云フタハ千圓ヲ拂ツテ來タ額ニ於テ連帶シタルモノノ割合ニ從テ淸算ヲ償フ爲メニ特別ノ一ツノ財團ヲ設ケ樣ト云フノダカラ淸算ニ辨償スルト云フノハ良クナイ「財團」ト云フ字ヲ入レタラドウダロウ
(栗塚)
此修正ノ通リデ宜シイト思ヒマス
(村田)
元トノ財團ノ方ヘ返ヘス爲メニ特別ノ財團ヲ作ルト云フノダロウ
(栗塚)
ソウデハアリマセン、拂ヒ渡ス部分丈ケハ一ト纏メニシテアルカラ意味ハ一ト纏メニスルモニタ纏メニスルモ入ラヌコトダ
(村田)
元トノ儘デモ分ラヌコトハナイ
(松岡)
私ハ旨意ガ分ラヌ、右拂渡シノ殘額ハト云フト、一項デハ金額ニ對シテ百ノ内三十ナリ五十ナリ拂ツタ然レドモカラ二項ハ目ニナリマシヨウ
(村田)
拂ヒ餘リガアツタトキハ遺ツタ方ヘ返ヘセト云フノダ
(松岡)
皆ヘ係ツタ腱ガ、思ヒノ外取レテ餘ツタトキノコトダ
(栗塚)
九百圓ノ連帶債務デ甲乙丙三人デ何レニテモ九百圓係ツテ行ケル筈デアツタ處ガ九百圓○甲十分ノ五○乙十分ノ三○丙十分ノ二甲ヘ行キ九百圓取レルノカ五、九、四百五十圓外取レヌ、ソウスルト殘リガ四百五十圓アル乙ヘハ四百五十圓外係レヌガ九百圓金額係ツテ行ク處ガ十分ノ三デ三、九、二百七十圓貰ウ、是レ丈ケ取レルカ取レヌカト云フト未ダ受ケザル物ノ割合ニ應ズルニ非ザレバ拂ヒ渡スコトガ出來ナイガ是レ丈ケ取レル割合ガ立ツ、處ガ正味取レルノハ四百五十圓ノ十分ノ三デナケレバナラヌカラ百十五圓外取レヌ、ソウスルト百十五圓ト二百七十圓ト較レバ百五十五圓返ヘサナケレバナラヌ、其レガ右拂渡ノ殘額ノ一ツデス今度ハ丙ヘ往ツテ幾ラ取レル取レヌカト云フト二、九、十八圓取レル之デ恰度九百圓ニナル、處ガ是レ丈ケハ取レナイ、四百五十圓ニ百十五圓ヲ入レバ五百六十五圓ニナル其レヲ九百圓ノ内カラ引クト三百三十五圓ノ十分ノ二出サナケレバナラヌカラ六十七圓デス、此四百五十圓ト百十五圓ト六十七圓ヲ併セルトキハ六百三十二圓ニナル、其レデ百八十圓ノ内カラ六十七圓引イタモノガ丙ニ返ヘル二百七十圓ノ内カラ百十五圓引イタモノガ乙ヘ返ツテ行ク、甲ニハ返ヘラナイ、丙ハ百十三圓殘ル之ヲ甲乙ニ分タナケレバナラヌ、其レヲ十分ノ五ト三ニ分タナケレバナラヌ百五十五圓ハ甲ニ返ヘル、丙カラ返ツテ來タ金ハ甲ニ幾ラ行クカト云フト五十四圓五十錢デ乙ノ方ヘハ三十三圓九十錢行ク、殘リノ二十二圓六十錢ガ丙ノ殘リニナル、乙ニ殘ル七十七圓五十錢ハ甲ノ方ニ行カナケレバナラス、二百六十八圓ハ債權者ガ損ヲシナケレバナラヌ何トナレバ九百圓ノ處ヲ六百三十二圓外取レヌカラ
(松岡)
此註デヤツテ見マシヨウ一萬圓百分ノ五十甲五千圓千四百圓百分ノ三十乙千五百圓八百四十圓三千五百圓ノ二十割丙七百圓五百六十圓計七千二百圓殘二千八百圓債權者ノ損
(栗塚)
一番先キノ云ヒ出シハ甲デ五千圓乙デ三千圓丙デ二千圓取レルト云ハナケレバナラヌノダ
(松岡)
佛蘭西ノデハ大勢アルトキハチビチビ取ツテモ或ハ本額ヨリ多イカ知レヌ
(栗塚)
最初ハ甲ニモ一萬圓ト云フテ係ツテ行クト百分ノ五十渡サレル、其レデ乙ヘ行クト百分ノ三十外渡サン、三千圓ヤルベキダケレドモ五千圓ノ三十外ヤラヌト云フテ千五圓外ヤラヌ、又丙ヘ行クト七百圓外渡サヌ其殘リハ何處ヘヤルカト云フト各債主ニ返ヘスゾヨ
(南部)
一番先キヘ取ルト次ギノ奴ガ少ナクナル
(委員長)
殘ツタ千八百圓ヲ百分ノ五ナラ五十圓、百分ノ三十ナラ三十圓ノ割合デヤルト云フノデスカ
(松岡)
千四百圓ヤル
(大尾崎)
債權者ニハ對シテハ平等ニ義務ヲ負ハナケレバナラヌ
(松岡)
平等ニハナラヌ、身代限ノ資力ガ甲ハ百分ノ五十アルノダカラ
(大尾崎)
餘計出シタ奴ガ少ナク出シタ奴ニ求償權ガアリソウナモノダ
(松岡)
ソレハアリマシヨウ、後ニ分ル
(大尾崎)
拂殘リト云フコトハ分ラヌ
(栗塚)
殘餘ヨリ拂渡殘リノ方ガ分ルダロウト思ヒマス、前項ニ「拂渡スコトヲ得ス」トアリマスカラ分ルダロウト思ヒマス、處デ丙ガ二千圓ノ處エ七百圓外拂ハヌト云フタカラ千三百圓ハ各淸算者ニ辨償スルト云フノデ御座イマス
(委員長)
辨償ト云フノハドウカネ
(村田)
「財團ヲ組成ス」ト云フノハ別ノ財團デハナイカ
(栗塚)
ソウデハナイト思ヒマス
(委員長)
財團ハ辨償スル爲メノ財團ト云フテ居ル
(松岡)
財團ト云ハズトモ遺リタル分ハ淸算ヘ返ヘスト云フ、其レハ百分ノ五ナリ百分ノ三ナリノ比例ニ依ル
(栗塚)
「但各淸算ニ辨濟シタルモノノ割合ニ從フ」デハ如何デス
(松岡)
其レデモ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項第二項報吿委員ノ修正ニ決ス第三項左ノ如ク改ム右拂渡ノ金額ハ各淸算ニ返償ス但各淸算ノ辨濟シタルモノノ割合ニ從フ
第千七十一條朗讀ス
第三款 受方連帶ノ絕止
第千七十一條 債權者其總テノ債務者ニ對スル連帶ノ抛棄ハ第四百五十八條第一項ニ規定シタル如ク其債務者ノ間ニ於テ單ニ連合ノモノトシテ義務ヲ成立セシメ義務ノ其他ノ性質ヲ變スルコト無シ
(修正案) 第三款「受方」ヲ「債務者間ノ」ト改ム左ノ如ク改ム債權者ノ總テノ債務者ニ對スル連帶ノ拗棄アルトキハ第四百五十八條第一項ニ規定シタル如ク其債務者ノ義務ハ單ニ連合ノモノトナリテ存シ其他ノ性質ヲ變スルコト無シ
(栗塚)
「受方」ハ「債務者間ノ連帶ノ絕止」ト致シマス本條ニモ修正ガ御座イマス
(松岡)
古イ譯ニハ「連帶義務」トアル
(栗塚)
「連合」ハ「共同」ト譯シテアリマスカ
(村田)
連帶連合ト云フコトハ澤山アリマス
(栗塚)
四百五十八條ニ「連合」トアリマス
(南部)
債權者ノ總テノト云フノハ可笑シイ
(栗塚)
「債權者總テノ債務者ニ對シ連帶ヲ云々スルトキハ」デ宜シウ御座イマス
(松岡)
ソレガ宜シイ
(渡)
「對シテ」ガ宜シイ
(委員長)
連合ト云フノハドウ云フ譯カ
(栗塚)
一人ニ對シテ皆行クト云フコトハ出來ナイ、併シ皆デ義務ヲ負ウテ居ル
(槇村)
千圓ヲ十人ニテ借リテ居レバ一人前百圓拂ヘバ宜シイ
(栗塚)
ソウデス
(槇村)
自分ノモノバカリ拂ヘバ宜シイカ
(松岡)
連合ナラ頭マ割リデ宜シイ、ドウモ連合ハ惡ルイ
(委員長)
良ウ御座イマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千七十二條朗讀ス
第千七十二條 若シ抛棄カ第五百三十二條ニ從ヒ明示又ハ默示ニテ債務者ノ一人又ハ數人ニ對シテノミ爲サレタルトキハ他ノ債務者ハ連帶ノ釋放ヲ得タル者ノ部分ニ於テノミ其義務ヲ免カル〔第千二百十條〕
若シ連帶ヲ免除セラレサル債務者中ニ無資力者アルトキハ債權者ハ其無資力中ニテ連帶ノ釋放ヲ爲シタル者ノ部分ヲ負擔ス〔第千二百十五條〕
(修正案) 第一頂「若シ抛棄カ」ノ五字ヲ刪リ「數人ニ對シテノミ爲サレタルトキハ」ヲ「數人ニ對シテノミ連帶ノ抛棄アルトキハ」ト改ム
第二項「若シ連帶ヲ免除セラレサル」ヲ「連帶ノ釋放ヲ得サル」ト「連帶ノ釋放ヲ爲シタル」ヲ「連帶ノ釋放ヲ得タル」ト改ム
(栗塚)
之ハ少シ直シマシタ
(村田)
「明示又ハ默示」ト云フハ入ラヌノダ
(松岡)
之ハ入ラヌ
(委員長)
無資力中カ無資力者中カ
(栗塚)
「無資力中」デ御座イマス
(委員長)
六十七條ノ適用ガ無イカ、知ラヌ一方ハ債務者カラ釋放サレタノダカラ
(栗塚)
一人無資力者ガ居レバ甲ノ人ガ連帶ノ釋放ヲ得マシタ處ガ他ノ丙丁ハ羅放ヲ得ナカツタノダ、丙丁ノ中ニ無資力者ガ出來ルト甲ト乙デ御座イマス、ソウスルト債權者ガ釋放シタカラ債權者ハ自分デ責ヲ負ハナケレバナラヌ
(委員長)
釋放ヲシタ者ノ責ヲ負ウナラ宜シイガ
(栗塚)
「釋放ヲ得タル者ノ部分」ト致シマス
(委員長)
釋放ヲ得ヌ無資力者ガアツタトキハ釋放ヲ得ヌ債務者ノ無資力中ニテ釋放ヲ得タルモノト云ツタラ分ルマイカ
(槇村)
代ハリニシテヤラヌト跡ノモノガ迷惑ヲスル、債權者ガ釋放ヲシタノハ甲ガ釋放ヲ得テ、乙丙ガ釋放ヲ得ヌ債權者ハ其無資力中ニテト云フカラ丙ノ無資力中ニダ
(栗塚)
甲ノ負擔スベキモノヲデ御座イマス
(委員長)
甲ト云フコトハ分ラヌ
(栗塚)
丙ガ無資力者トナツタニ付イテ乙ノ義務モ重クナツタ甲ノ義務モ重クナラナケレバナラヌ、栗塚ト云フ債權者ガ居テ甲ニハ連帶ヲ免除シテ丙ガ無資力トナツタトキニ義務ヲ免カレテ居ルカラ甲ノ負擔スベキ部分ヲ栗塚ガ負擔スルト云フノデス
(委員長)
成程事柄ハ分ツタガ、文字ガ分ラヌ
(栗塚)
「無資力ニ於ケル部分ヲ負擔ス」ト云フテハドウデス
(南部)
得タル者ガ無資力ニナル樣ニ聞ヘル
(村田)
自分ガ釋放ヲシテヤツタ者ノ部分ヲ負擔シテヤル
(栗塚)
債權者ハ連帶ノ釋放ヲ得タル者ニ代ハリ右無資力中ニ於テ其者ノ部分ヲ負擔ス
(南部)
代ハリニヤル樣ニナル
(委員長)
「其無資力ニ關シ」トカ「付キ」トカ云ハヌト分ラヌ
(南部)
「無資力ニ就テ」デハドウデス
(栗塚)
「無資力ニ付キ」デモ宜シイ
(南部)
ソレガ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項第二項報吿委員ノ修正ニ決ス第三項「無資力中ニテ」ヲ「無資力ニ付キ」ト改メ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千七十三條朗讀ス
第千七十三條 債權者カ連帶債務者ノ一人ヨリ供シタル抵保ニシテ他ノ債務者カ辨濟シテ代位スルコトヲ得ヘキモノヽ全部又ハ一分ヲ毀損シ又ハ滅失セシメタルトキハ他ノ債務者ハ債權者カ其抵保ヲ失ヒタル者ノ部分ニ付キ連帶ノ義務ヲ免カレント請求スルコトヲ得
此ノ如ク宣吿セラレタル免責ハ連帶ノ任意釋放ト同一ノ效力ヲ有ス
(修正案) 左ノ如ク改ム債權者カ連帶債務者ノ一人ヨリ供シタル擔保ノ全部又ハ一分ヲ毀損シ又ハ滅失セシメ且其擔保ニ對シ他ノ債務者カ辨濟シテ代位スルコトヲ得ヘキトキハ他ノ債務者ハ其擔保ヲ供シタル者ノ部分ニ付キ連帶ノ義務ヲ免カレント請求スルコトヲ得右ノ請求ニ因リ宣吿シタル免責ハ連帶ノ任意釋放ト同一ノ效力ヲ有ス
(松岡)
末項ハ入ラヌノダ
(村田)
代位スルコトヲ得ベキモノナルトキハ
(栗塚)
擔保ヲ代位スルコトハ出來マセン
(委員長)
「代位スヘキトキハ」ノ方ガ良カロウ代位スルコトヲ得ベキトキハト云フト、モノナルトキハト云フ樣ニナル
(栗塚)
代位ノ出來ルトキハト云フノデ御座イマス
(委員長)
代位スベキコトダロウ
(南部)
スルコトヲ得ザルトキハイケナイト云フコトガ裏ニ在ル
(村田)
代位ノ出來ルモノガアツタラト云フノダロウ
(南部)
「得ルトキハ」ト云ヘバ宜シイノデスカ
(村田)
「得ルトキハ」ト云フノダ
(松岡)
「得ル」デハ強ヨ過ギル
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千七十四條朗讀ス
第四款 單ニ完全ナル義務
第千七十四條 第百五十二條、第三百九十八條、第五百十九條第二項及ヒ其他總テ法律カ數人ノ債務者ノ義務ヲ其各自ニ對シ「完全卽チ全部ノモノ」ト定メタル場合ニ於テハ其債務者ハ全部又ハ一分ニ付キ完全辨濟ノ言渡ヲ受ケタルトキト雖モ相互代理ニ付セラレタル連帶ノ效力ヲ之ニ適用スルコトヲ得ス
然レトモ一人ノ債務者ノ爲シタル辨濟ハ債權者ニ對シテ他ノ債務者ヲ免除シ辨濟シタル者ハ事務管理ノ訴權ニ依リ又ハ己レノ當然代位シタル債權者ノ訴權ニ依リ他ノ債務者ニ對シテ其部分ニ付キ求償權ヲ有ス
(修正案) 第四款左ノ如ク改ム全部辨濟ノ義務第一項左ノ如ク改ム第三百九十八條、第五百十九條第二項及ヒ其他總テ法律カ數人ノ債務者ノ義務ヲ其各自ニ對シ全部辨濟ノモノト定メタル場合ニ於テハ相互代理ニ付シタル連帶ノ效力ヲ適用スルコトヲ得ス但其債務者カ債務ノ全部ニ辨濟スルノ言渡ヲ受ケタルトキモ亦同シ第二項「債權者ニ對シテ」ノ下左ノ如ク改ム他ノ債務者ヲ免除セシム又辨濟シタル者ハ事務管理ノ訴權ニ依リ又ハ債權者ノ代位訴權ニ依リ他ノ債務者ニ對シ其部分ニ付キ求償權ヲ有ス
(栗塚)
修正ハ「全部辨濟ノ義務」トヤリマシタ「第百五十二條」ハ削リマシタ「其各自ニ對シ全部辨濟ノモノト定メタル場合ニ於テハ相互代理ニ付シタル連帶ノ效力ヲ適川スルコトヲ得ス但其債務者カ債務ノ全部ニ辨濟スルノ言渡ヲ受ケタルトキモ亦同シ」ト致シマシタ、縱令全部一人デ辨濟セヨト云ハレテモ連帶ノ效ハナイ
(南部)
但書ハ入ラヌダロウ
(栗塚)
起案者ガ連帶ノ字ヲ改メルト云フテ居リマスカラ再査査デ「連帶」ト云フ字ヲ刪ツテ來マシタ、此條ヲ置イタ以上ハ三百八十九條デ云フタ連帶ハ全部辨濟ノモノナリト改メルト申シマシタカラ
(松岡)
ソウスレバ之ハ入ラヌノダ
(栗塚)
五百十九條ノ二項ニ在ル連帶ト云フノモ完全辨濟ト直サナケレバナリマセン、彼ノ場合此場合デ一人ニ對シテ殘ラズヲ拂ヘト云フテ居ロウトモ其代理ノ效力アル連帶ハ此處ニハ當ラヌゾヨト申シタノデ御座イマス
(村田)
「其各自ニ對シテ」トアリマスカ
(栗塚)
各ニ對シテトアリマス
(南部)
「債務ノ全部ニ辨濟スルノ言渡ヲ受ケタルトキモ亦同シ」ト云フノハ入ラヌ樣ダ
(栗塚)
其レハ明日起案者ノ修正文ガ來テカラ申シマシヨウ、本日ノ分ハ今一條アリマスガ第二節ニナリマスカラ一條ハ明日ニ願ヒマス
(委員長)
本日ハ是レ迄デスカ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス