法律取調委員会 民法草案議事筆記 第70回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案財產取得編議事筆記 , 自 第六十六回 至 第七十一回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案財產擔保編第七十回議事筆記
自第千十六條至第千三十條
明治二十一年七月十日午前第八時五十分開會
(委員長)
ヤリマシヨウ
第千十六條朗讀ス
第千十六條 若シ債務者カ上ニ要セラレタル條件ヲ具フル保證人又ハ引受人ヲ供スルコト能ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ得テ動產又ハ不動產ノ物上抵保ヲ與フルコトヲ得〔第二千四十一條〕
(修正案) 第千十六條「又ハ引受人」ノ五字ヲ刪リ「抵保」ヲ「擔保」ト改ム
(栗塚)
昨日ノ通リニ「保證人又ハ引受人」ヲ刪リマシタガ彼ノ修正ハ御採用ニナリマセンカラ元トノ通リニシテ置キマス、併シ「抵保」ハ「擔保」ト致シマス
(松岡)
全體不要ノ法文デアルガ、害ガナケレバ置クトシテ「裁判所ノ認可ヲ得テ」ト云フコトハ刪テ宜シイ、權利ヲ得テ出來ルト云フコトデ、向ウデ權利ヲ得テ居ルカラ、左モナイト相對デハ出來ヌ樣ニナル、此人ガ出來ルト云フ權利ガアレバ「裁判所ノ認可ヲ得テ」ト云フコトハ云ハヌデモ宜シイ
(南部)
保證人ガ代ハリニ物上ノ擔保ヲ出スノダカラ一方ノ者ハ此不動產ト云ヒ、一方ノ者ハ動產ト云フテ双方ノ論ノ合ハヌトキハ裁判所ノ認可ヲ得ルノダカラ必要ト思フ
(松岡)
論ノ纏マラヌトキト云フコトハ無論分ツテ居ル、元トノ約束ガ人ヲ供スルト云フ約束デ其レガ出來ナイトキハ之レト云フノダカラ
(栗塚)
保證人ヲ出スト云フ約束デ保證人ガ出セナカツタ、動產質カ、不動產カ、動產ヲ出スト云フノデ御座イマスカラ
(松岡)
是非トモ裁判所ノ認可ヲ得ル樣ニナル
(栗塚)
相手方ノ承諾ヲ得レバ宜シイト云フコトハ分リマシヨウ
(南部)
保證人ガナケレバ擔保ハ入ラヌト云フコトカ知レナイ、其邊ハ差支ナイ
(栗塚)
勿論爭ヒノアツタトキデス
(松岡)
刪ルト云フ說ダカラ六ケ敷イノハ定マツテ居ル
(大尾崎)
保證人ノ財產ヲ動產デモ不動產デモ換ヘルコトガ出來ルト云フノダカラ何時デモ裁判所ノ認可ヲ得ル樣ニナル
(栗塚)
議協ハザルトキハデス
(大尾崎)
本人サヘ承諾スレバ無論ノ話シダ裁判所ノ認可ヲ得テト云フト何時デモ裁判所ニ持テ行ク樣ニナル嫌ヒガアル
(南部)
其レヲ除イテモ何時デモ擔保ヲスル樣ニナル
(栗塚)
詰リ裁判所ノ認可ヲ得テト書イテアルト議ノ協ハヌトキデモ協ウトキデモ出來ル樣ニナル、若シ議ノ協ハザルトキハ裁判所ノ認可ヲ得ルハ當リ前ダト云フ御論デ御座イマシヨウ
(松岡)
是レ丈ケノ物ヲ得ルト云フコトヲ云フテ置ケバ議ノ協ハヌトキハ裁判所ヘ出ルノハ當リ前ノコトダ
(栗塚)
起案者ノ書キ樣ガ惡ルイト云フニ止マルノデ裁判所ノ認可ヲ得テト云フノハ爭ヒノアルトキハ裁判所デ決スルト云フノデス
(松岡)
ソレ迄云ハズトモ宜シイ餘リ子供ヲ見タ樣ナ話シダ
(村田)
佛蘭西ニモ無イ樣ダガ、何ゼ裁判所ノ認可ヲ受ケルカ
(栗塚)
論ガアツタトキデス
(村田)
嫌忌ト云ヘバ仕方ガナイ
(南部)
彼云フ不動產デハ擔保ニナラヌト云フノダロウ
(村田)
ソウスルト裁判シナケレバナラヌ樣ニナル、認可ヲ得ルト云フノハ可笑シイ
(西)
之ハ澤山アリマス
(南部)
私ガ裁判所デ是レ丈ケノ效力ヲ有スル積リダ、唯刪ツテ若シ事ノ出來タトキ之ガアツテモ差支ナイ話ダ
(村田)
金時計ハ嫌忌ダト云フトキ其レヲ裁判所デ認メルトハ甚ドイ
(栗塚)
ソウスルト權利ヲ與ヘヌト云フ論デスカ
(村田)
ソウハナラヌ、貴君ノ時計デハ嫌忌ダト云フノヲ無理ニ裁判所ヘ持テ往ツテ裁判所デ認可ヲスルト云フノハドウ云フモノダロウ
(栗塚)
議ガ協ハナカツタトキハトシタラ宜カロウ
(松岡)
村田サンノ論ハ他ヘ食ヒ込ンダ樣ダガ私ハ文章上奇麗ニナツテ良カロウト思フノダ
(渡)
其レ程八釜シク云フ程デハナイト思フガ物上擔保ヲ以テ換ヘルコトガ出來ルト云フノダカラ換ヘルニハ双方ノ納得ナレバ必ラズ裁判所ヘ行カナケレバナラヌト云フコトモナカロウ、ケレドモ一方ノ者ガ一應裁判所ノ認可ヲ受ケルコトガ要用ト云ヘバ往ツテモ宜シイガ唯議協ハザルトキハ裁判所ヘ行カナケレバナラヌト云フコトハ此事バカリデハナイ總テソウダカラ刪ツテ宜シイトハ思ハレナイ、アツタ方ガ宜シイ
(村田)
認可ト云フ字ハ入ルマイト思フ
(松岡)
註デ讀ンデ見ルト或ハ翻譯ノ文字ノ置キ場所ガ顛倒シテ居ルノデハナイカ、元ト人ヲ約束シテイケナイトキハ動產不動產ヲ供スルハ當然ナリ況ンヤ何々スベキニ於テオヤ但双方ノ議協ハザルトキハト云フノダ
(栗塚)
但デハアリマセン總テ議協ハサルニ於テハ裁判所ノ認可ヲ經ルハ勿論ナリトアリマス、動產又ハ不動產ノ物上擔保ヲ與フルコトヲ得裁判所ノ認可ヲ得テトアルノト同ジデス
(北畠)
「但議協ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ受クヘシ」トシタラ宜カロウ
(渡)
何時デモコウ云フ譯柄ダ
(松岡)
順ニ讀ンデ行クト「裁判所ノ認可ヲ得テ」ト云フノハ困ル
(栗塚)
始終裁判所ノ認可ヲ得ルト云フノデハアリマセン
(松岡)
日本文ヲ平心デ讀メバソウ外讀メヌ
(淸岡)
其レハ此處ノミナラズ、全體ガ惡ルイト云ヘバ兎モ角モ是レ迄幾ツモアツタ、爭ヒノナイ、裁判所ヘ持テ行ク馬鹿ハナイト云フ論ガアツタ
(松岡)
極點ヲ云ヘバ日本ニハ證人ヲ立テマシヨウト云テ後ニ其レニ代ユルニ物ヲ持テ行キマシヨウト云フノハ今迄想像ニモ及バヌコトデアツタ
(栗塚)
之ヲ除ケバ動產デモ不動產デモ勝手ニ權ガアルト云フコトニナツテハ困ル
(松岡)
滿足スルモノデナケレバナリマセン、供スルコト能ハヌ事情ガ定マツタル以上ハ適當スル擔保ガナケレバナラヌト云フノハ定マツテ居ル、其レヲ百圓ニ滿足スル物ヲ持テ行ケバ嫌忌ト云ハセルコトハナイ、其處ヘ五十圓トカ三十圓トカ持テ行キ我レノ權利ト云フ嫌ヒガアルカト云フニ其心配ハナイ
(栗塚)
元ト々々供スルコトガ出來ヌカラ私ノ勝手ノ物ヲ取リナサイ、私ハ斯樣ナ權利ヲ持テ居ルト云フ樣ナコトガアツテハ大變デス
(松岡)
元ト々々擔保ハ百兩ノ物ハ百兩ノ物デナケレバナラヌト云フコトレ分ツテ居ルダロウ
(栗塚)
百兩ノ抵當ニ編笠一蓋デハイケナイ、家デモ百兩、時計デモ百兩ノトキハ裁判所ヘ持テ行カナケレバナリマセン
(松岡)
同ジ百兩ノ物ナラバ債務者ノ都合ヲ計ツテ都合ノ好イ物ヲ渡シテ宜シイ
(南部)
承知ヲシタ上ハ裁判所ヘ持テ行クト云フ御說ノ出ヨウ筈ハナイ、其レデモ裁判所ヘ持テ行クノハ法律ヲ知ラヌ奴ガ云フノデ苟モ法律ヲ知ツタ以上ハ裁判所ヘ持テハ往カヌ
(渡)
擔保ハ之デ滿足ダケレドモ取換ヘル爲メニ裁判所ヘ行クト云フカ知レナイソウ云フコトガアレバ往ツテモ宜シイ
(栗塚)
分析スルト論ガナクナツテ仕舞ウ、第三者ニ金ヲ預ケ樣ト云フ、其レデモイケヌト云フ論デ、金高ノ少ナイト云フ論デハナイ
(委員長)
文字ノ通デ宜シイト思フ、認可ヲ得ズニ與フルコトモ出來ルト云フ意味ダカラ一向構ハヌ認可ト云ヘバ裁判ヲセズニ濟ムカラ之デ良イカト思フ
(村田)
認可ヲ得テモ得ナクテモ宜シイコトニナリマス
(委員長)
合意サヘ屆ケバ認可ハ要ラヌ
(村田)
認可ヲ得ズニ與フルコトガ出來ルト云フコトニナリマシヨウ
(委員長)
ソウハナラヌ、一體ニ民法ノ上デソウナツテ居ル
(村田)
ソウスレバ無イ方ガ宜シイ
(委員長)
無シニシタ處ガ本訴ニナツテ當リ前ノ裁判ノ手續ヲ履マナケレバ證人ト擔保ト引換ヘルコトハ出來ヌ、一ノ訴件トナツテ出ナケレバナラヌ
(栗塚)
ソレノミナラズ保證人ヲ供スルコトガ出來ヌトキハ債務者ニコウ云フ權ガアルカラ債權者ハ何トモ云フコトハ出來ナイ
(委員長)
終リニ書ケバ宜シイガ、終リニハ書キ惡クイ「若シ其議協ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ得ルコトヲ要ス」トシナケレバナラヌ
(北畠)
ソウシタラ良カロウ、此議場デモ間違フテ讀ム人ガアルカラ
(槇村)
當リ前ニ讀ンデ裁判所ノ認可ヲ得テカラデナケレバ出來ナイコトニナル
(栗塚)
「若シ議協ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ得ヘシ」
(西)
ソレコソ知レタコトヲ書クノデ御座イマシヨウ法律ハ何時デモ爭ヒノアツタトキニ出ルノデ爭ヒモナイニ裁判所ニ出ルコトハアリ樣ガナイ
(委員長)
認可丈ケノコトヲ示スノダカラ
(松岡)
私ハ刪ル論デ御座イマスガ、其レ迄ナラ歩ミ合ヒニシマシヨウ
(大尾崎)
其レハ可笑シイ
(松岡)
多少數デ決スルガ宜シイ
(村田)
「認可ヲ得テ」ト云フト得ナケレバナラヌ樣ニナル
(委員長)
多數デ決シマシヨウ
(大尾崎)
私ハ原案ニ就キマシヨウ
(北畠)
ソレデハ負ケタ
(槇村)
與フルコトヲ得ト云フノハ誰ニ與ヘルカ
(栗塚)
債務者ガ債權者ニ與フルコトヲ得保證人ヲ誰レニ供スルカ債權者ニ供スル
(槇村)
「債務者若シ」ト書カナケレバソウハナラヌ
(松岡)
「若シ」ヲ刪ツテハドウカ
(栗塚)
刪ツテモ宜シイ
(槇村)
保證人ガ立テラレナケレバ物上擔保ト云フノダカラ「若シ」デナケレバナラヌ
(北畠)
「若シ」ヲ置クガ宜シイ
(栗塚)
「與ヘサルトキハ債務者カ」トシテ宜シウ御座イマシヨウ
(南部)
コウ云フ所ハ「若シ」ノアツタ方ガ宜ロシイ
(村田)
「動產又ハ不動產」ヲ刪ツテ物上擔保デ宜シイ
(松岡)
之ハ刪ツテ宜シイ
(渡)
極ク妙處、ケレドモ置イテモ宜シイ
(村田)
不動產バカリナレバ不動產擔保ト云フガ物上ト云ヘバ動產モ不動產モアルコトハ分ツテ居ル
(槇村)
ソレナラ「カ」ノ字ヲ刪ツテ「債務者上ニ要セラレタル」トシタラ宜カロウ
(南部)
ソレガ宜シイ
(栗塚)
「債務者若シ上ニ要セラレタル」ト致シマシヨウ
(村田)
動產不動產ヲ刪ロウ
(委員長)
ソレデハ刪リマス
本條ハ左ノ如ク決ス
債務者若シ上ニ要セラレタル條件ヲ具フル保證人又ハ引受人ヲ供スルコト能ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ得テ物上擔保ヲ與フルコトヲ得
第千十七條朗讀ス
第千十七條 商ヒ證券ノ保證ノ特例及ヒ仲買人カ委託者ニ對シテ約シタル擔保ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス
(松岡)
之ハ刪除ガ宜シイ斯樣ナコトヲシテ置クト皆送リヲ付ケナケレバナラヌ
(栗塚)
皆迭リヲスル積リデス、商法ニハ別段ノ規則ガアルカラ
(松岡)
民法ノ外ニ特例ガアレバ一々示サズトモ宜シイ、再調査ニナレバ皆刪ルダロウ
(村田)
之ハ有ル方ガ宜シイ
(栗塚)
商ヒ證券ニハ此保證ヲ適用セズト云フト本條ヲ置ケト仰シヤルデシヨウ
(松岡)
ソンナ愚ナコトヲ云フニ及バヌ
(南部)
此條ハ商法ト引合セテ見マシタガ分リマセンカラ商法ノ報吿委員デ能ク調ベテ貰ヒマシヨウ
(大尾崎)
仲買人ガ擔保ヲ出スト云フ特例ハ商法デ見ナカツタ
(委員長)
其レデハ調ベルコトニシ樣
本條ハ商法ノ報吿委員ニ於テ調スルコトニ決シ未定
第千十八條朗讀ス
第二節 保證ノ效力
第一款 保證人ト債權者トノ間ニ於ケル保證ノ效力
第千十八條 債權者ハ債務者ニ爲シタレトモ效果アラサリシ辨濟又ハ履行ノ催吿ノ證ヲ供セスシテ保證人ヲ訴追スルコトヲ得ス〔第二千十一條〕
然レトモ若シ債務者カ行方知レス又ハ宣吿セラレタル破產若クハ顯然タル無資力ノ形狀ニ在ルトキハ右ノ催吿ヲ必要トセス
(修正案) 第一項左ノ如ク改ム債權者ハ債務者ニ辨濟又ハ履行ノ催吿ヲ爲シタルモ其效果アラサリシコトノ證據ヲ供セスシテ保證人ヲ訴追スルコトヲ得ス
(栗塚)
一項ハ「債權者ハ債務者ニ辨濟又ハ履行ノ催吿ヲ爲シタルモ其效果アラサリシコトノ證據ヲ供セスシテ保證人ヲ訴追スルコトヲ得ス」ト致シマシタ
(松岡)
「辨濟又ハ履行ノ」ト云フコトハ餘計ナコトト思フ如何トナレバ前ニモ履行ハ何デモアルト云フコトヲ承ツテ居ルカラ辨濟又ハ履行ト二ツ程ノコトハ恐ラクアルマイト思フ
(村田)
辨濟卽チ履行ト云フノダ
(栗塚)
「辨濟又ハ」ヲ削リマシヨウ
(松岡)
「供スルニ非サレハ」トシテハドウデス
(栗塚)
同ジコトデス
(渡)
其方ガ強イ
(委員長)
「供スルニ非サレハ」トスルカ
(栗塚)
宜シウ御座リマス
(委員長)
「アラサレハ」ガ二ツアル
(大尾崎)
「供セスシテ」ガ宜シイ
(淸岡)
「供セスシテ」ガ宜シイ
(松岡)
「效果ナキコトニ」トシタラ宜カロウ
(淸岡)
「辨濟又ハ」ヲ置イタ方ガ宜シイ
(栗塚)
「義務履行ノ催吿」トシタラ良カロウ
(南部)
義務履行ガ良カロウ
(栗塚)
ソレカラ「行方知レス」ヲ修正シヨウト思ヒマシタガ出來マセン
(松岡)
事實ヲ定メヌト宜クナイ
(栗塚)
失踪ト云フト債權者ガ迷惑ヲスル、横濱ヘ往ツタト云フ警察署デ調ベテモ居ラン、ケレバ行方知レズデ、消ヘ失セルト云フ字デス
(松岡)
此字ノ意義ヲ確カメテ置カヌト良クナイ、多分參リマシタト云フコトハ能ク云フガ其樣ナ時分ニ果シテ往ツテ居ルカ、往ツテ居テモ遠方デ容易ニ歸ツテ來ラレヌデ期日ヲ切ツテ買ツタトキハドウスルカ
(栗塚)
期日ガ無クモ必ラズ歸ヘルコトガ知レテ居レバ宜シイガ、避ケ樣ト思ツテ逃ゲ隱レヲスル者ヲ防グ爲メデス
(松岡)
倫敦ヘ往ツタコトガ知レテ居タラ、ドウスルカ
(栗塚)
身ヲ隱スト云フコトデス
(淸岡)
身ヲ隱シテモ行方知レズダ
(栗塚)
起案者モ船ヘ乘ツテ難船シテ何處カヘ上陸シテ居ルカ知レナイ、見ヘナクナレバト云フテ居リマス色々考ヘテ見マシタガ行方知レズデ仕方ガナイ
(松岡)
「所在知レス」トシテハドウデス
(委員長)
宜シウ御座イマシヨウ
本條第一項ハ左ノ如ク決ス
債權者ハ債務者ニ義務履行ノ催吿ヲ爲シタルモ其效果アラサリシコトノ證據ヲ供セスシテ保證人ヲ訴追スルコトヲ得ス
第千十九條朗讀ス
第千十九條 其他保證人ハ下ノ制限及ヒ條件ニ從ヒ債權者カ豫メ債務者ノ財產ヲ討索シテ之ヲ賣ラシムルコトヲ債權者ニ要求スルコトヲ得〔第二千二十一條〕
(栗塚)
「討索」ハ譯字ガ穩ヤカデアルカ無イカバ後チニ定メル積リデ御座イマスカラ假リニ御決シヲ願ヒマス討索ト云フ字ハ當リマセン、債務者ノ財產ヲ吟味シテ呉レト云フ字デ御座イマス、當リ前ハ議論スルト云フ字デ御座イマスガ、此處デハユスブルト云フ字デ御座イマス羅旬語デハ木ノ枝ヲ振ツテ葉ヲ落シテ來イト云フコトデ卽チ本人ヲユサブツテ來テ呉レト云フ字デス保證人ガ本人ノ身代ヲユサブツテ落チル丈ケノ金ヲ落シテ呉レト云フ樣ナ字デ御座イマス、討索ト云フト討手ニ往ツテ家索シヲスル樣ニナリマスカラ「吟味」ガ良イトカ「沙汰スル」ガ良イトカ云フ論モアリマシタガ討索ト致シマシタ
(村田)
差押デハナイカ
(栗塚)
差押迄行クト大變骨ガ折レル保證人ガ往ツテ一々債務者ヲ身代限リサセテカラデナケレバ係レヌト云フノハ不便デ元ト々々保證人ヲ立テルノハ、ソウ云フ蒼蠅イコトヲ避ケル爲メデ、其レヲ一々負債者ヲ身代限リサセテカラデナケレバ保證人ニ係レヌト云フコトハナイ、其レダカラユサブツテ來イト云フノデ差押迄ニハ至ラヌ
(松岡)
「債權者カ」ト云フ字ハ主客ヲ間違ヘルト思フ、討索ハ債務者ガスルノダロウ
(栗塚)
債權者ガスルノテス
(松岡)
ソレデ宜シウ御座イマシヨウ
本條ハ原案ニ決シ「討索」ノ二字ハ未定
第千二十條朗讀ス
第千二十條 保證人カ明示又ハ默示ニテ財產討索ノ利益ヲ抛棄シ又ハ主タル債務者ト連帶シテ義務ヲ負擔シタルトキハ保證人ハ討索ノ利益ヲ享ケス〔第二千二十一條〕
總テノ場合ニ於テ若シ保證人カ基本ニ於テ主タル債務ヲ爭フノ前ニ債權者ニ討索ノ利益ヲ對抗セサリシトキハ保證人ハ其利益ヲ失フ〔第二千二十二條〕
(修正案) 第一項冒頭「保證人カ」ヲ「保證人ハ」ト改メ下ノ「保證人ハ」ノ四字ヲ刪ル第二項「債權者」ノ上ヲ左ノ如ク改ム「總テノ場合ニ於テ保證人ハ主タル債務ノ基本ヲ爭フノ前ニ」又「保證人ハ」ノ四字ヲ刪ル
(栗塚)
一項ノ「保證人カ」ヲ「保證人ハ」ト致シマシテ後チノ「保證人ハ」ノ四字ヲ刪リマシタ二項ニモ修正ガ御座イマス
(村田)
保證人ニバカリアル權デスネ
(栗塚)
ソウデス
(槇村)
「對抗」ト云フハ分ラヌ字ダ
(栗塚)
之ハ一番訴訟デモ本論ニ掛ル前ニ云ハナケレバイケマセン
(淸岡)
主タル債務ノ基本ヲ爭フト云フ場合カ
(栗塚)
債權者ト債務者トノ間デス、甲乙ノ爭ガ主タル債務デ、金ノ貸借ノアツタカ無イカノ訴訟ニナル前ニト云フコトデス
(淸岡)
佛蘭西ノ二千二十條ニハ保證人ニ對シテ起シタル最初ノ訴訟デアルガ、此處テハ主タル債務者ニ對シテ起シタル訴訟ノ前ト云フコトニナル
(南部)
矢張リ保證人ニ對シテ起シタルコトデス
(栗塚)
保證人ガ爭ハナケレバ勿論何モアリマセンガ、保證人ニ爭ヒノアルモノハ勿論何モアリ樣ガアリマセンカラ主タル債務者ト債權者トノ爭ヒガ定マツテハイケナイ
(大尾崎)
保證人ガ訴ラレテ居ル樣ニハ見ヘヌ
(淸岡)
金ヲ借リタトカ借ラヌトカ云フ基本ノ定マラヌ前ハ討索ノ利益ヲ對抗スルコトハ出來ナイ
(南部)
拂ハナケレバナラヌトナツタトキ討索ノ權利ヲ失フ
(淸岡)
ナツタトキ云フテ良サソウナモノダ、愈拂ハナケレバナラヌコトニナツタラ債務者ヲ討索シテ見ルト云フコトニシタラ良カロウ
(栗塚)
先キニモ御座イマスガ「保證人ハ千二十五條ノ基本ニ付イテ答辯スルトキハ主タル債務者ノ組成又ハ其消滅ヨリ生シタル抗辯又ハ不受理ノ理由ヲ債權者ニ對抗スルコトヲ得」ト御座イマスカラ保證人カラサヘモ云ヘマスカラ、一體其金ハ疾ウニ返ヘシテ仕舞ツタト云フコトガ云ヘル、此處デ云フノハ債務者ト債權者トノ訴訟ガ濟ンデ仕舞ヒタル後チカ、前カト云フニ、前ニヤル、詰リ訴訟ヲ無クサセ樣ト云フノデ御座リマス、勿論義務ガ無イモノナラ拂ウニハ及ビマセン
(大尾崎)
保證人ト債務者トガ訴ヘラレタ場合ヲ見ナケレバナリマセン
(南部)
保證人バカリ訴ヘラレタ場合デ宜シイ
(大尾崎)
「主タル債務ノ基本ヲ爭フ前ニ」トアルカラ本人ガ訴ヘラレタトキダロウ
(南部)
本人ガ爭フノデナイ、保證人ガ爭フノデス
(松岡)
本案ニ立入ラヌ前ニ管轄ノ爭ヒヲ定メル樣ナモノダ
(淸岡)
ソウスルト「主タル」ト云フ字ガ惡ルイガ、主タル債務ト間違ヒハセヌカ
(栗塚)
主タルト云フノハ金ヲ貸シテ居ルカ居ラヌカト云フ爭ヒヲスル前ニト云フコトデス
(淸岡)
主タルト云フコトヲ云ハンデ良カロウ
(南部)
保證人ハ以前資格ガナイト云フコトガ云ヘル
(松岡)
其レハ註デ書イテアルガ本文デ書イテナイカラ行ツテ貰ヒタイ
(松岡)
其レハ主タル債務ト云フ處デ見ヘテ居ル
(村田)
之デ宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千二十一條朗讀ス
第千二十一條 討索ヲ要求スル保證人ハ債權者ノ訴追ニ於テ債務者ノ不動產ニシテ辨濟ノ爲サル可キ控訴院ノ管轄地內ニ在ルモノヲ指示スルコトヲ要ス
保證人ハ爭ニ係ル不動產ヲモ又優先ニテ他ノ債權者ニ抵當ト爲サレタル不動產ヲモ又訴追シタル債權者ニ抵當ト爲サレタル不動產カ第三保有者ノ手裏ニ存スルトキハ不動產ヲモ指示スルコトヲ得ス〔第二千二十三條〕
債務者ニ屬スル物又ハ移動有價物ニ關シテハ保證人ハ其物又ハ有價物カ物上抵保トシテ旣ニ債權者ニ供セラレタルトキニ非サレハ其討索ヲ要求スルコトヲ得ス
(修正案) 第一項「債務者」ノ上ヲ「討索ヲ要求スル保證人ハ」ト改メ「指示」ノ上ニ「債權者ニ」ノ四字ヲ挿入ス第二項左ノ如ク改ム保證人ハ爭ニ係ル不動產ヲモ又他ノ債權者ニ優先ニテ抵當ト爲サレタル不動產ヲモ又訴追ノ債權者ニ抵當ト爲サレタル不動產ニシテ第三保有者ノ手裏ニ存スル物ヲモ指示スルコトヲ得ス第三項既ニノ上ヲ左ノ如ク改ム債務者ニ屬スル動產ニ關シテハ保證人ハ其動產カ物上擔保トシテ
(栗塚)
第一項ハ「債權者ノ訴追ニ於テ」ヲ刪リマシテ終リニ「債權者」ト置キ換ヘマシタ、二項ハ「又優先ニテ」ヲ後チニシテ「又他ノ債權者ニ優先ニテ抵當ト爲サレタル」ト致シマス「又訴追ノ債權者ニ抵當ト爲サレタル不動產ニシテ第三保有者ノ手裏ニ存スル物ヲモ指示スルコトヲ得ス」ト致シマス
(村田)
「訴追ノ債權者」ト云フノハ可笑シイ「訴追シタル」ガ宜シイ
(槇村)
訴追シタルハ其儘デ置クカ
(栗塚)
「訴追シタル」デ宜シウ御座イマス
(委員長)
終リノ有價物ハ有價物ノ價値ノアルノデハナイカ
(栗塚)
詰リ動產ト云フ字デ跡ノ物卽チ有價物トアルノデ御座イマスカラ動產デアル積リデス
(南部)
註ニハ「動產」トアリマス
(淸岡)
一項デ「債務者ノ訴追ニ於テ」ヲ刪ツテ二項ニ「訴追シタル債權者」トアル
(栗塚)
二項ハ他ノ債權者ト云フコトガアリマスカラ置カナケレバナリマセン
(淸岡)
一項ヲ刪ルトニ項ハ突然出ル心持チガスル
(栗塚)
訴追シタル債權者ノ指示スルコトヲ要スト云テモ宜シウ御座イマシヨウ
(松岡)
上ノヲ活カスト云フノデスカ後チノヲ刪ルト云フノデスカ
(栗塚)
上ノヲ活カシ度イト云フノデス
(松岡)
私ニ云ハセルト二項ノ訴追シタルヲ刪リ度イノデ
(委員長)
再調査デ字ヲ變ヘタノヲ構成法ヤ商法ニアル字ハ云フテヤラヌト良クナイ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項報吿委員ノ修正ニ決ス第二項「訴追シタル」ハ原案ノ儘トシ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千二十二條朗讀ス
第千二十二條 若シ債權者カ有效ニ討索ヲ對抗セラレタル債務者ノ財產ヲ討索スルコトヲ怠リテ債務者カ其後無資力ト爲リタルトキハ保證人ハ債權者カ討索ニ因リ得タル可キ金額ニ滿ツルマテ其義務ヲ免カル〔第二千二十四條〕
(修正案) 「怠リ」ノ上ヲ「若シ債權者カ討索ヲ爲ス可キニ之ヲ」ト改メ又「債務者カ」ヲ「債務者」ト改メ「債權者カ」ヲ「債權者ノ」ト改ム
(栗塚)
若シ債權者討索ヲ爲スヘキモ之ヲ怠リテ債務者其後無資力トナリタルトキハト致シマシテ保證人ハ債權者ノ討索ニ依リ得タルヘキ金額ニ滿ツル迄其義務ヲ免カルト致シマス
(北畠)
之デ良ク分ル
(委員長)
其時アツタラ千兩アルダロウト云フト千兩丈ケ免カレル
(栗塚)
ソウデス
(村田)
「得タルヘキ」ハ「得ヘカリシ」デハナイカ
(栗塚)
得タデモアロウト云フノデス、未來ヲ指ストキハ過去ヲ指ストキトハ違ヒマス
(松岡)
同ジコトダ
(淸岡)
宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千二十三條朗讀ス
第千二十三條 若シ人ノ債務者ノ爲メ數名ノ保證人アルトキハ債務ハ分頭卽チ均等ノ部分ニテ當然其間ニ分タル伹其部分カ右ニ異ナリテ定メラレ又ハ右ノ保證人カ或ハ債務者ト共ニ或ハ自己ノ間ニ連帶シテ義務ヲ負擔シ若クハ其他ノ方法ニテ分割ヲ抛棄シタルトキハ此限ニ在ラス
保證ノ約務カ各別ノ證書ヨリ生スルトキト雖モ右ノ利益存在ス〔第二千二十五條乃至第二千二十七條〕
(修正案) 第一項「分頭卽チ」ノ四字ヲ削ル第二項「右ノ」ヲ「分割ノ」ト改ム
(栗塚)
「分頭卽チ」ハ均等ノ部分ト致シマシタ「分頭」ト云フ字ハ譯ガ間違ヒデ、均等ノ意味ヲ示シテ居ルト宜シウ御座イマスガ、頭マ割リト云フノハ始終均頭カト云フトソウデナイ場合ガアルソウデス、誰某ガ二十兩、誰某ガ三十兩、誰某ガ百兩ト云フノモ分頭ト云ヘルソウデス其レカラ末項ノ「右ノ利益」ヲ「分割ノ利益存在シ」ト致シマス「利益ハ」ト「ハ」ノ字ガ入ツタ方ガ宜シウ御座イマスカ
(村田)
入ツタ方ガ宜シイ
(槇村)
「利益ハ」ガ宜シイ
(栗塚)
保證人ノ間ハ分割デ良カロウ
(南部)
此方ノ裁判デハ連帶トサセル、其代ハリ無ケレバ訴ヘルコトハ出來ナイ
(村田)
其他ノ分割ハ約束デモシテ分割スルノカ
(栗塚)
ソウデス
(松岡)
「ボアソナード」ノ案デハ徹頭徹尾分割デアルカラ脫ケタ者ガアルカ、無資力ノモノガアルカ其人ノ分ニ當ル物ハ構ハヌト云フノダ
(栗塚)
ソウデス「ボアソナード」ノ主意ハ便利ニシタモノダロウト思ヒマス
(南部)
連帶者ト同ジコトダ
(松岡)
百兩ノ金デ十人居レバ十圓持テ行ケバ宜シイ
(栗塚)
其間ニ分タルノデス、債權者ノハ百兩ヤラナケレバナラヌ
(松岡)
ソレハイカヌ、一人ノ債務者ノ爲メニ二十人ノ保證人ガアルトキハ債務ハ分タルトアルカラ
(南部)
不完全ナル連帶ト云フノダ
(松岡)
草案ハ佛蘭西ニ反對シテ分割ハ法律ノ力ノミニ依テ分頭ニ爲サルルガ故ニ保證人カ義務ヲ負ヒタル當時ヨリシテ成立ツモノトス依テ保證人ノ中若シ既ニ資力ナキモノアルトキハ債權者ハ其無資力者ヲ承引シタルノ故ヲ以テ自ラ責メニ當ラサルヲ得ストアルカラ百圓ノ所ガ十圓外ナケレバ債權者ガ損ダ
(栗塚)
初メニ十人ガ何某ノ保證人ニナツタガ、各ノ分等ガ拂ヒマセント云フコトガ云ヘルノデス
(松岡)
ソレダカラ無資力ガ出來レバ債權者ガ損ダ
(栗塚)
ソウデス
(松岡)
詰リ此方ガ良イダロウ、併シ現今ノ所ハ債權者ニ對シテ連帶ニナツテ居ル
(栗塚)
抛棄シテ呉レト云フニ違ヒナイ
(淸岡)
無論連帶デナケレバ貸サナイ、實際同ジコトダ
(松岡)
又人情デ頭マヲ揃ヘテ行ケバ連帶ト云フノガ當リ前ダ
(委員長)
末項ガ分ラヌ
(栗塚)
大槪保證ハ借用證文ニ書クノガ當リ前デアルケレドモ保證ヲ別段ノ證書デシタトキデモ矢張リ分割ニナル
(委員長)
ソウスルト前項ト牴觸スル、前項ハ但右ニ異ナリテ別ニ定メラルルト云フカラ
(栗塚)
前ノハ均等ノ部分デナイト云フテアレバト云フノデス
(委員長)
均等デナクテ一人ハ百圓、一人ハ五十圓負擔シ樣ト云フ場合ダロウ、末項ノ「各別ニ生スル證書ト雖モ」ト云フハ均等ニ分ツノダロウ
(栗塚)
各別ニト云フノハ借用證文デハナイ
(松岡)
最初ニハ借用證文デヤツテ、別ノ證人ヲ見付テ出シタトキデモ頭マ割リニナル
(委員長)
ソレモアルダロウガ、前約束シタ三人ガ別々ニ約束ヲシテモ分割ノ利益ハ同ジクスル故ニ前ニ約束ヲ違ヘテ居テモ效能ハナイ、末項デ打消サレテ特別ノ契約ヲシタ者ハ功能ガナイ
(松岡)
二人分持チ、三人分持チト云フコトガアツテモ後ニ平等ニナルト云フノデ御座イマスカ
(委員長)
ソウデス
(南部)
各別ト云フノハ證書ノ積リデス
(委員長)
各別ト云フ字ヲ其レ丈ケニ見ロト云テモ見ラレナイ
(村田)
前ノハ同時デ跡トノハ後ニヤル
(委員長)
元ト三人デヤツタトキ其中ノ一人ガヤツタノモ各別ト云ヘルダロウ
(南部)
主タル債務ノ證書ト各別ナル證書ト云フコトデス
(村田)
英文デハ證書ト云フ字ニナツテ居ラヌ「各別ナル契約ヲシタルトキト雖モ」トアル、ソレカラ保證ト云フ下ニ「人」ノ字ガアル
(栗塚)
「各別ノ契約」トヤリマシヨウ
(淸岡)
ソレハイケナイ
(委員長)
「證書」ヨリ「契約」ガ宜シイ
(栗塚)
松岡サンカラ金ヲ借リテ證人無シデ良カツタ、栗塚貧乏ニナツタラ證人ヲ立ル、初メニハ一人デアツタガ、不安心ダカラ今一人立ル今度ハ特別ニ村田サンガ約束シタトキデスカラ約束シタトキデ宜シイ
(委員長)
初メニ「此限リニ在ラス」トスルカ
(南部)
ソレハ但書デ御座イマスカラ、之ヲ刪ツタ以上ハ分割スルゾト云フノデ御座イマス
(委員長)
ソウシテ末項ニ至レバ「分ツ」ト云フ
(南部)
前文ハ之ヲ除クノ外ハ皆均等ト云フノダカラ二項ガ照應シテ居リマス、唯主タル債務ト各別ナル契約ガ入ツタ方ガ宜シイ
(淸岡)
原案ノ通リデ分ツテ居ル、別ニ契約ヲシテモ分割ノ利益ハ存スルト云フト其トキニ一緒ニ證書ニシナイデモ別段ノ證文トシテモ之ハ別デアルカラ一切負擔シナケレバナラヌト云フコトハナイ
(委員長)
ソウスルト前項ノ但書ト同ジニナル
(松岡)
委員長ノ說ト淸岡サンノ說ト違ヒマス、淸岡サンノハ本證文ニ書イテモ良シ、後チニ書イテモ同ジ均等ニ外ナラヌ、其レハ間違ツテ居ル、前ノ方ハ最初定メタ人ガ三人アツタ、ソウスレバ三人デ百兩ナレバ三十三圓ニ當リソウナモノダガ、ソウデナイ、一人這入レバ四人デ、二十五圓ヅツノ分割ニナルト云フコトデス
(淸岡)
ソレハ同ジコトダ
(栗塚)
委員長ガ各別ノ定メ方ト御讀ミニナルト困ル
(委員長)
主タル債務ノ外ニ證書ト云フコトガナイト各別ト云フ字デハ然ウハ讀メヌ
(大尾崎)
ドウモ疑ヒガアル
(栗塚)
「別ニ契約シタルトキト雖モ」トシタラ良カロウ
(淸岡)
各別ノ證書デモ一紙ノ證文デモ同ジコトダト云フノダ
(栗塚)
ソウデス
(村田)
證書ガ惡ルイ樣ダ
(松岡)
但以下ノ利益ガアルダロウガ、利益ガ無イ利益ト云フノハ討索ノ利益ダロウ
(村田)
「契約ヲ別個ニ爲シタルトキト錐モ」トシタラ良カロウ
(栗塚)
ソウスルト「保證ヲ」ト云ハナケレバナリマセン「保證ヲ別個ニ約シタルトキト雖モ分割ノ利益ハ存在ス」ト云ハナケレバナラヌ
(村田)
「保證人ノ義務ハ各別ニ契約サルルコトアリト雖モ」カ
(南部)
之ハ元トノ儘ガ宜シイ樣デス、主タル債務ト別段ト云フコトニナルト前ノ證文ニ書イテアツテ後ノ證書ニモ保證人ガアル樣ナ場合ニモ頭マ割リデ、前ノ保證人ノ分量ガ減ジテ來ル樣ナ悟リガ遠クナリマスカラ
(委員長)
皆サンガ良ケレバ宜シイ
本條第二項「利益ノ下ヘ「ハ」ノ一字ヲ加ヘ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千二十四條朗讀ス
第千二十四條 保證人カ討索ノ利益ヲ用ヒタルト否トヲ問ハス又分割ノ利益ヲ享クルト否トヲ問ハス裁判上ニテ訴追セラレタルトキハ其保證人ハ第千二十九條ニ明示シタル目的ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ參カラシムル爲メ基本ニ於ケル總テノ答辯前ニ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ條件ニ從ヒ債權者ニ延期抗辯ヲ對抗スルコトヲ得〔佛訴第百七十五條以下〕
(修正案) 第一項「トキハ其」ノ四字ヲ刪ル
(栗塚)
「訴追セラレタルトキハ其保證人」ヲ止メマシテ「裁判上ニテ訴追セラレタル保護人ハ」トヤリマシタ
(松岡)
參加セシムルト云フコトダ
(栗塚)
ソウデス
(委員長)
抗辯ヲ向ケ付ケルト債權者ニ參加スルカラ待テ呉レト云フノカ
(栗塚)
ソウデス
(槇村)
宜シウ御座イマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千二十五條朗讀ス
第千二十五條 保證人カ基本ニ付テ答辯スルトキハ債權者ニ主タル債務ノ組成又ハ其消滅ヨリ生シタル抗辯又ハ不受理ノ理由ヲ對抗スルコトヲ得
保證人カ債務ヲ保證スルニ當リ債務者ノ無能力又ハ其承諾ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ保證人ハ亦是等ノ事項ヨリ生スル無效方法ヲ對抗スルコトヲ得〔第二千三十六條〕
(修正案) 第一項「債權者ニ」ノ四字ヲ刪リ「對抗」ノ上ニ「債權者ニ」ノ四字ヲ挿入ス第二項「保證人カ」ヲ「保證人ハ」ト改メ「保證人ハ亦」ノ五字ヲ刪リ「對抗スルコトヲ」ヲ「對抗スルコトヲモ」ト改ム
(栗塚)
一項ハ債務者ヲ後ニ持テ行キマシタ
(松岡)
之ハ要ラヌノダ
(栗塚)
「又保證人カ」トシタ方ガ宜シイカ知レヌ
(松岡)
前項ヲ受ケテ小イサイモノヲ一ツ入レルノダカラ其方ガ良イカ知レヌ
(委員長)
良カロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千二十六條朗讀ス
第千二十六條 右ノ抗辯ニ付キ債權者ト保證人トノ間ニ爲サレタル判決ハ債務者ヲ害スルコトヲ得ス然レトモ之ヲ利スルコトヲ得
然レトモ右ノ判決ノ牽連シタル箇條ハ債務者ニ利ナルモノト不利ナルモノトヲ分ツコトヲ得ス
(修正案) 本條第二項ヲ修正シテ但書ト爲ス但其判決ノ牽連シタル箇條ハ債務者ニ利ナルモノト不利ナルモノトヲ分ツコトヲ得ス
(栗塚)
二項ノ「然レトモ」ヲ刪ツテ「但其判決ノ」トシテ別項ニシマス
(南部)
續ケズニ但トスルノハ可笑シイ
(栗塚)
人權ノ所ニモアリマス、續ケテモ宜シウ御座イマス、併シ事柄ガ全ク別デ御座イマスカラ
(委員長)
害スルコトハ出來ヌコトハ出來マイ
(松岡)
隨分迷惑ナ話シガ起ロウト思ヒマス
(南部)
債務者ガ無能力ノ爲メニ一ケ條取消シ他ノ一ケ條ハ合意ノ爲メニ利益ヲ得タラ取消スコトハ出來ヌ
(松岡)
一ツノ事デナク判決ニ牽連シタルト云フト一ツノ裁判ニナレバ牽連ト云ハレハセヌカ
(栗塚)
自分ノ得ニナルモノハ反古ニシ、損ニナルモノハ損ニセヌト云フコトハ云ヘマセン
(松岡)
得ガ小イサク、害ガ多キトキハ
(栗塚)
ソレデモ仕方ガナイ
(松岡)
利ノ方ガ多ウケレバ少シハ害ヲ被ラナケレバナラヌ、害ノ方ガ多ケレバ拒マヌ樣ニト云フコトハ六ケ敷イ、判決ガ牽連シタ箇條デアルト云フト利ト不利トヲ分ツコトガ出來ヌト云フト
(南部)
利ノ方ハ知ルガ害ノ方ハ知レヌト云フコトハ云ヘヌ、恰度連帶者ト權衡ガ同ジニナリマス
(松岡)
詰リ其選ブ處ニ往ヌト云フコトニナルカ
(南部)
ソウデス
(栗塚)
利ヲ占メ樣ト云フトキハ害ヲ受ケナガラ利ヲ占メレバ宜シイ
(淸岡)
ドウ云フ場合カ
(栗塚)
債務者ガ金ヲ借リタ場合ガアル借リタトキニ承諾ニ瑕疵ガアツタトカ或ハ無能力ノトキハ取消スコトガ出來ル取消スト云ヘバ取消シテモ金ヲ使ツテアルトカ家ヲ買テアルトカ云フトキハ不當ノ富デ取戻シヲ受ケル、保證人ガ云フニ彼レハ無能力者デアルカラ彼ノ義務ハ受ケヌト云フテ免カレ樣ト思ヘバ免カレル併シ不當ノ利得デ責メラレルコトハ仕方ガナイ其時保證ヲ免カレタ方ガ結構ダガ後トノ五百圓ニ對シテ金ヲ拂ハヌト云フコトハ出來ナイ
(松岡)
保證人ノ意カラナラ勘忍ガ出來ルガ債務者ヲ利シ債務着ヲ害スト云フト隨分迷惑ナ話シガ出來ル、保證人ガ出テ抗辯ヲシタトキデハナイ、債務者ガ無能力者デアツテ其無能力者ガ取消サレタ處ハ宜シイガ利益ヲ得タト云フコトト承服セヌト云フコトハ云ヘナイ
(南部)
知ラヌト云ヘル、債務者ヲ害スルコトハ出來ヌガ利スルコトハ出來ル二項ニ至ツテ債務者ノ利ナルト不利ナルトガ牽連シタトキハ利ナルモノヲ取テ不利ナルコトヲ棄テルコトハ出來ナイ、取ラヌト云ヘバ裁判ヲ受ケル丈ケダ
(松岡)
分ケルコトハドウシテモ出來ヌカラ其儘取ラナケレバナラヌ
(南部)
取ルカ止メルカ二ツニ一ツダ
(委員長)
矢張リ「然レトモ」ノ方ガ良クハナイカ
(栗塚)
「然レトモ」ガ宜シウ御座リマスガ、「然レトモ」ガ二ツアリマスカラ
(渡)
後チノ「然レトモ」ヲ刪ツテハドウダロウ
(村田)
前ノ「然レトモ」ヲ刪ルガ宜シイ
(大尾崎)
「然レトモ」ガ二ツアツテモ差支ナイ
(栗塚)
却テ前ノ「然レトモ」ノ方ガ嚴シクテ後チノ方ガ輕イノダ
(委員長)
ソレナラ元トノ通リニシ樣
(栗塚)
「右ノ判決」ハ「其判決」トナスツテハ如何デス
(大尾崎)
「其」方ガ宜シイ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項「右ノ」「其」ト改ム
第千二十七條朗讀ス
第千二十七條 債務者ニ對シテ時效ヲ中斷シ又ハ債務者ヲ遲滯ニ付スル所爲ハ保證人ニ對シテ同一ノ效力ヲ生ス〔第二千二百五十條〕
保證人ニ對シテ爲シタル右同一ノ所爲ハ保證人カ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ債務者ト連滯シテ義務ヲ約シタルトキニ非サレハ債務者ニ對シテ時效ヲ中斷セス
(修正案) 「保證人ニ對シテ爲シタル」ヲ「保證人ニ對シタル」ト改メ「時效ヲ中斷セス」ヲ「效力ヲ生セス」ト改ム
(栗塚)
末項ハ「保證人ニ對シタル」ト致シマス、終リノ「債務者ニ對シテ時效ヲ中斷セス」トアルヲ「效力ヲ生セス」ト致シマス、前ニ時效ヲ生ゼズ遲滯ニ付スルト云フコトガアリマス其所爲ヲ受ケテ居リマスカラ「效力ヲ生セス」ト云フタ方ガ良カロウト思ヒマス
(村田)
其方ガ宜シイ
(松岡)
「保證人ニ對シタル」デ宜カロウ
(渡)
ソレデ宜シイ
(南部)
「對スル」デハナイカ
(栗塚)
對シテ爲シタルト云フ對シタルト云フノト同ジコトデス
(南部)
其レハ六ケ敷イ
(松岡)
後チニ所爲ト云フ字ガアルカラ良カロウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第千二十八條朗讀ス
第千二十八條 主タル債務者ノ爲シタル自白又ハ債務ノ認知及ヒ債務者ト債權者トノ間ニ爲シタル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絕ハ保證人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス
保證人ト債權者トノ間ニ爲シタル右同一ノ所爲ハ債務者ヲ利ス然レトモ委任又ハ連帶アル場合ニ非サレハ之ヲ害セス〔第千三百六十五條第三項第五項及第六項〕
(修正案) 第一項「裁判外ノ」四字ヲ刪ル
(栗塚)
「裁判外ノ」ト云フ字ヲ刪リマシタ何ゼ裁判外ノト云フ字ヲ入レタカナレバ先キノ證據編ニ宣誓ト云フモノヲ出サセヌ元來宣誓ト云フ風俗ガアルナラバ宜シイガ、日本ニハナイ樣デスカラ裁判所デ宣誓サセルコトハ止メル積リダ、ソコデ裁判所ノ宣誓ガナイ處カラ「裁判外ノ」ト入レタト云フコトデアリマスガ其レハ無イト云フコトハ知レテ居リマス、宣誓ト云フテ裁判外デヤルノハ稀レデアリマスカラ
(松岡)
之ヲ除クトキハ却テ裁判所内ノ宣誓ヲ置クコトニ聞ヘハセヌカ、宣誓ハ裁判外ニナルノガ變體デ裁判内ニ在ルノガ普通ダ、寧ロ無クシテハ如何ト云フコトデアリマシタ
(栗塚)
報吿委員一同ノ考ハ其レデス併シ裁判外デヤルコトガアツテハナラヌカラ
(松岡)
裁判外デヤルコトハナイ
(村田)
刪ツテ宜シイ
(南部)
之ヲ刪レバ證據編デモ裁判所外ノ宣誓ヲ刪ラナケレバナラヌ
(栗塚)
併シ構成法ニ在リマシヨウ、宣誓ガ日本ニ無イノデハナイ、有ルト云フコトヲ想像シテ構成法ガ出來テ居リハセヌカ
(松岡)
全クナイコトハナイ
(南部)
此儘ニ置イテ證據ノ所ヲ議シタ方ガ宜シイ
(村田)
ソレデモ宜シイ
(委員長)
人ニ信ジナカツタ宣誓ヲシタトキ裁判所デ採ラヌト云フコトハ出來マイ
(松岡)
約束ナラアリマシヨウ
(委員長)
約束デハナイ神ニ誓ツテ此通リニ相違ナイ、ソレナラ宜シイト云フコトガアルダロウ、其レデ裁判所ガ宣誓デハイケナイトハ云ヘマイ
(松岡)
ソレハ求メル方カラ違ヒアルマイト云フナラ誓ヲスル
(委員長)
何レカラ云フテモ双方ガ誓ヒヲスルコトヲ知テ承諾ヲスル者ハ裁判所ハ宣誓ハイカヌト云フコトハ云ヘヌ
(松岡)
自白カ認知カデ、日本ノ習俗デ誓ヒヲシナケレバ誓ヒノ拒絕ダカラ御前ニ負ケタト云フコトハアリマスマイ
(委員長)
近來學校抔デヤルノハ宣誓デ僞リヲ云フカ云ハヌカヲ決シテ居ル
(松岡)
其レハ治罪法デモ僞リヲ云ハヌト云フコトヲ申シマス、之ハ抑制シテ決スルノデ御座イマスカラ否ヤト云ヘバ拒絕デス、其人ガ詐欺ニナル、宣誓ト拒絕デ債務ヲ決スルノハアリマスマイ
(南部)
其レハ證據編デ論ズルガ宜シイ
(委員長)
近來ハ宗旨ガ廣マツテ居ルカラ我々ノ考ヘト子供ノ考ヘトハ違フ
(松岡)
裁判所内ノ宣誓ヲ不要ト見テ止メル位ナレバ裁判外ノ宣誓ヲ置クノハ本末ヲ誤ツテ居ル
(村田)
「債務」ト云フ字ハ自白ノ上ニ在ル
(栗塚)
御尤モ、デス上ニ上ゲル方ガ宜シイ、之ハ翻譯ノ間違デス「債務ノ自白又ハ認知」ト致シマス
(委員長)
起案者ノ考ハ宣誓拒絕ハ和解ニナツテ仕舞フ考デス
(南部)
ソレハ其ウダロウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「自白又ハ債務ノ認知」ヲ「債務ノ自白又ハ認知」ト改ム裁判所外ノ宣誓ハ證據編ニ至リテ議スルコトトス
于時正午休憩
午後第一時開會
第千二十九條朗讀ス
第二款 保證人ト債務者トノ間ニ於ケル保證ノ效力
第千二十九條 債權者ヨリ訴追セラレタル保證人ハ第四百十九條及ヒ第千二十四條ニ揭ケタル如ク主タル請求ニ對シ債務者ノ答辯ヲ要ス可キ場合ニ於テ其答辯ヲ爲サシムル爲メ又債務者カ敗訴ノ言渡ヲ受クル場合ニ於テハ其債務者ニ對シ次條ニ定メタル賠償ノ言渡ヲ得ル爲附帶ノ請求ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ召喚スルコトヲ得
右ノ附帶ノ擔保請求ハ債務者ノ委任ヲ受ケテ義務ヲ約シタル保證人ノミニ屬ス
(栗塚)
之ハ何モ改メマセンガ「場合ニ於テ其答辯」ハ宜シウ御座イマスケレドモ「於テハ」ト「ハ」ノ字ヲ入レタ方ガ宜シイカト思ヒマス
(槇村)
其方ガ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「於テ」ノ下ヘ「ハ」ノ一字ヲ加フ
第千三十條朗讀ス
第千三十條 主タル債務ヲ任意ニテ辨濟シ又ハ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務者ニ義務免除ヲ得セシメタル保證人ハ下ニ定メタル區別ニ從ヒ債務者ヲシテ己レニ賠償セシムル爲メ之ニ對シテ擔保訴權ヲ有ス
第一 若シ保證人カ債務者ノ委任ニ憑テ義務ヲ約シタルトキハ其保證人ハ其債務者ニ義務免除ヲ得セシメ又ハ債務者ノ名ニテ辨濟シタル元本及ヒ利息ノ額其擔當シタル費用、立替ヲ爲シタルトキヨリ其立替金ノ利息及ヒ其他損害アルトキハ總テ其損害賠償ノ金額ヲ債務者ヲシテ己レニ償還セシム
又此委任ノ場合ニ於テ保證人ハ其保證人タルノ分限ヲ以テ言渡ヲ受ケタル時ヨリ賠償ヲ受クル爲メ訴フルコトヲモ得
第二 若シ保證人カ債務者ノ知ラサルニ事務管理者トシテ義務ヲ約シタルトキハ其保證人ハ債務者ノ義務免除ノ日ニ於テ之ニ得セシメタル有益ノ限度ニ於テ右ノ賠償ヲ受ク
若シ保證人カ債務者ノ意ニ反シテ義務ヲ約シタルトキハ右ノ賠償ハ保證人ノ求償ノ日ニ於テ債務者ノ爲メ存在スル有益ノ限度ニ非サレハ保證人ニ辨濟セラレス〔第二千二十八條〕
(修正案) 第一項「保證人ハ」ノ下左ノ如ク改ム債務者ヨリ賠償ヲ受クル爲メ之ニ對シテ擔保訴權ヲ有ス但左ノ區別ニ從フ第一號左ノ如ク改ム若シ保證人カ債務者ノ委任ニ憑テ義務ヲ約シタルトキハ其債務者ニ義務免除ヲ得セシメ又ハ債務者ノ名ニテ辨濟シタル元本及ヒ利息、其擔當シタル費用立替ヲ爲シタル時ヨリ其立替金ノ利息其他損害アルトキハ其賠償ノ金額ヲ債務者ヨリ償還セシム又此委任ノ場合ニ於テ保證人ハ其保證人タル分限ヲ以テ言渡ヲ受ケタル時ヨリ賠償ヲ受クル爲メ訴フルコトヲモ得第二號第一項「其保證人ハ」ノ五字ヲ刪リ「限度ニ」ノ下「於テ」ヲ「從ヒ」ト改ム第二號第二項「右ノ賠償ハ」ノ五字ヲ刪リ「保證人ニ辨濟セラレス」ヲ「右ノ賠償ヲ受クルコトヲ得ス」ト改ム
(栗塚)
之ハ委任ヲ受ケタノト、知ラザルノト、意ニ反シタノト三ツデ御座イマス、一項ハ「債務者ヨリ賠償ヲ受クル爲メ之ニ對シテ擔保訴權ヲ有ス但左ノ區別ニ從フ」トヤリマシタ
(松岡)
之ハ主タル債務ヲ任意ニテ辨濟シタト云フト任意デナク裁判上デ強制サレタノハ
(栗塚)
辨濟シタル保證人又ハ自分デ損ヲシテ義務免除ヲ得セシメタ保證人トヤツテ來タノデス
(松岡)
任意ト云フト強制ヲ受ケタモノハ入ラヌカ
(栗塚)
這入リマセン
(松岡)
自己ノ出捐ヲ得セシメタ方ハ裁判所デヤラレタコトモ這入ルダロウカ
(栗塚)
判然御受合ハ出來マセンガ、之デ網羅シテ居ルダロウト思ヒマス
(村田)
裁判所カラ拂ハセラレタノハ無論ト思フ
(松岡)
任意ト云フノハ無用ト思フ
(渡)
第一號ハ
(栗塚)
「其保證人」ヲ削リマシタ
(松岡)
「任意ニテ」ト云フ字ヲ削リ度イ
(栗塚)
初メニハ「主タル債務ヲ辨濟シタル保證人ハ」デ何モ入ラヌ、任意モ出捐モ辨濟デハナイカ、廣ク辨濟ト使ウトキハ相殺デヤツタノモ辨濟ダ混同モ辨濟ダ義務デ消滅セシムルト同ジデアルト云フタ處ガ第一デ支ヘマシタガ、義務免除ヲ得セシメト云フコトガ必要ニナツテ來マシタ義務免除ガアルゾヨト云フト義務免除ト云フタ以上ハ任意ニテ拂ツタガ相殺デシタカ
(松岡)
下ハ削ランデ宜シイガ、任意ト云フト強制ヲ受ケルノハ任意トハ云ヘヌ、法律上定マツテ居ルコトモ云ヘヌカラ任意ト定メヌ方ガ宜シイ
(栗塚)
併シ自己ノ出捐ヲ以テ債務者ノ義務免除ヲ得セシメタルノモアル
(松岡)
此任意ト云フノハ誠ニヒヨロリトシタ奴ダ
(栗塚)
主タル債務ヲ辨濟シタカ、又ハ辨濟ト云フ手續キハシナカツタカ、他ノ方法デ義務免除ヲ得セシメタノデスカラ任意ハ無クテモ宜シイ
(松岡)
任意ヲ刪レバ裁判上強制シタノモ入ル樣ニナル
(槇村)
出捐ノ中ニ裁判上ノ強制ハ入リハセヌカ
(松岡)
ソレハ入ラヌ
(淸岡)
任意デヤツテモト云フノダ
(南部)
ソウ讀ンデモ分ル
(栗塚)
削ツテハ如何デス
(村田)
削リ度ナイ
(大尾崎)
任意デモ良シ、言ヒ付ケラレテモ良シ
(松岡)
其レノ爲メナラ削ツテモ宜シイ、自己ノ出捐ト云フノハ裁判デ言ヒ付ラレタノデハナイ
(栗塚)
這入ルコトハ這入ルガ、起案者ノ意ハ相殺カ何カヲ云フ積リダ
(大尾崎)
置イテモ宜シイ強テ八釜シク云フ程ノコトデハナイ
(松岡)
其他自己ノ出捐ヲ以テト云フノハ裁判所カラ言ヒ付ケラレタノモ入ルダロウト云フ積リダロウガ起案者ハソウデハナカロウ、ソウスルト物ヲ出シテ拂ツタノモ現ニ出シテ買ツタノデモト云フノダカラ任意ト云フコトヲ云ハヌ方ガ宜シイ
(村田)
自分デ醉狂デヤツタノモ入ルダロウ
(松岡)
ソンナ事デハナイ任意強要ト云フ字ダカラ任意ハ惡ルイ字デナイ
(淸岡)
自分ガ勝手ニヤツタノデハナイカト云フコトヲ云ハセヌ爲メダ
(栗塚)
訴ヘラ呉ズニ拂ツタノデモ訴ヘラレタノデモト云フノデス
(淸岡)
佛蘭西ノ二千二十八條ハ其意味ガアル
(松岡)
任意ト云フノニ意味ガアルト思フト不都合デス、自分デ全ク出シタノデモ、出サセラレタノデモト云フノデ御座イマスカラ
(淸岡)
此任意ヲソウ讀ソデ強制ヲ出捐ノ中ニ入レルノハ良クナイ
(村田)
千三十八條ニ云フテアル「任意ニ出テタルト否ヤトヲ問ハス」トアル
(松岡)
任意ニ出デザルモノハ何處ニ在ル
(村田)
ソレハ云フテナイ
(淸岡)
強要ノコトハ云ハンデモ知レテ居ルカラソレデ任意ト云フノダ
(大尾崎)
「出捐」ト云フノハ變ナ字ダ
(栗塚)
初メニ「捐給」トヤリマシタガ契約編ヲ議ストキ有償名義無償名義ノ所デ出捐トシテ仕舞マシタ再調査デ御議シニナルトキモ出捐ト云フ字ハ御注意ニナルト思ヒマシタガ詰リハ自分ノ身ヲ殺スト云フ字デ御座イマス其他自己ノ實ヲ殺イテ債務者ノ義務ヲ免カレシメト云フノデ御座イマス
(大尾崎)
任意モ出捐モ同ジ樣ナモノダ
(栗塚)
出捐ト云フ字ハ保證人ガ身金ヲ出シテ居ラナケレバ債務者ニ係ツテ行クコトハ出來ヌゾヨ假令バ債務者ガ義務ヲ免カレサセタトキハ係ツテハ行キマセンカラ
(村田)
實ハ自分ガ全ク損ヲシテ掛ツテ居ルノダカラ
(松岡)
主タル債務ヲ辨濟シ卽チ自己ノ出捐ヲ以テト云フニ意味デハナイカ
(栗塚)
其意味デス、ケレドモ此處デ云フ必要ハ身金ヲ出シテ居ラナケレバイケヌゾヨト云フノガ必要ナノデス
(松岡)
任意ハ強要ニ對スルノダ
(村田)
強要ハ無論ト云フコトハ分ル
(栗塚)
其他ハ修正ガ御採用ニナリマス
(大尾崎)
外ハ宜シイ
(栗塚)
強要ハドウスルカト云フト其他ヘ入リマス
(松岡)
畢寛任意ガ邪魔ダ
(大尾崎)
捐ノ字ガ穩デナイ
(北畠)
ステルト云フ字ダ
(栗塚)
貴君ハ金ヲ捐テル、呉服屋ハ反物ヲ捐テル、双方デ捐テ合ウト云フコトデ御座イマス
(西)
之ハ再調査ニ任カセル
(栗塚)
「任意ニテ」ハ如何デス
(大尾崎)
削ツテモ宜シイ
(淸岡)
置イテモ宜シイ
(栗塚)
此處ハ兩方ト云フコトデハ御座イマセンガ意ニ反シテ義務ヲ約シタルトキト云フノハ起案者ニ問フテアリマス、千十一條ニ「何人ニテモ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ其不知ニ於テ又其意ニ反シテ其債務者ノ保證人ト爲ルコトヲ得」トアリマス、其制裁ガ此三十條ニアリマス、三種類アルガ、意ニ反シテ義務ヲ約シタト云フモノハ昨日モ可笑シイト云フ議論ガアリマシタ、起案者ニ代位辨濟ト違ヒガアルカト問フテヤリマシタ答ヘノ模樣デハ此邊ハ改マルカモ知レマセン、其レ迄ハ留保ヲ願ヒマス
(委員長)
「任意ニテ」ハ削ルカ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項左ノ如ク改ム主タル債務ヲ辨濟シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務者ニ義務免除ヲ得セシメタル保證人ハ債務者ヨリ賠償ヲ受クル爲メ之ニ對シテ擔保訴權ヲ有ス但左ノ區別ニ從フ此他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス