法律取調委員会 民法草案議事筆記 第54回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案財產取得編議事筆記 , 自 第五十三回 至 第五十八回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案取得篇第五十四回議事筆記
自第七百二十三條至第七百二十八條
明治二十一年五月八日午前九時三十分開會
(箕作委員)
ヤリマシヨウ
第七百二十三條朗讀
第七百二十三條 賣主ハ賣買證書ノ中ニ記入シタル買戻ト稱スル約定ニ依リ若シ買主ノ辨濟シタル代價及ヒ費用ノ一分ヲ定マリタル期間内ニ買主ニ返還スルトキハ其賣買ヲ解除スヘキコトヲ要約スルコトヲ得〔第千六百五十九條〕
其期間ハ不動產ニ付テハ五个年又動產ニ付テハ二个年ニ過クルコトヲ得ス〔第千六百六十條〕
若シ一層長キ時期ニ付キ要約ヲ爲シタルトキハ其要約ハ當然右ノ期限ニ短縮セラル〔同上〕
期間カ一旦定メラレタル上ハ二个年又ハ五个年ノ制限内ト雖モ之ヲ長伸スルコトヲ得ス〔第千六百六十一條〕
然レトモ其長伸ハ買主ニ因レル再賣ノ豫約ト看做スコトヲ得此場合ニ於テハ其長伸ハ第六百六十三條及ヒ第六百六十四條ノ條例ニ從フ
賣買ノ後ニ爲シ又ハ別證書ヲ以テ爲シタル買戻ノ要約ニ付テモ亦同シ
賣主ハ若シ代價ノ半額又ハ半額以上ノ辨濟ノ爲メ期限ヲ與ヘ且其期限カ買戻ノ爲メ定メタル期間ノ半ニ等シク又ハ半ヲ踰ユルトキハ有効ニ買戻ノ權能ヲ要約スルコトヲ得ス
(修正案) 第一項「一分」ヲ「部分」ト改ム
(南部委員)
訴訟法ニハ「伸長」トアルガ「長伸」ト同ジコトデスカ
(箕作委員)
同ジデス
(栗塚報吿委員)
「買戻」ハ多分「受戻」トナルコトデ御座イマシヨウ、茲デ直シテ見マシタガ後ニモ澤山アリマスカラ
(松岡委員)
其レハ原文ヲ變ヘルノデスカ
(栗塚報吿委員)
「受戻ト稱スル」ト直シテ來マシタ
(松岡委員)
之ハ「買戻」トヤツテ來テアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西ニ過チガアツタカラト云テ日本デ誤リノ字ヲ使ウニハ及バヌカラ「買戻」ト直スガ宜シイト云テ居リマス
(箕作委員)
註ヲ見ルト「レソロシヲンドバン」トアリマスカラ「解賣」デス
(栗塚報吿委員)
六百七十七條ノ二項ニ「ウルトシー」ト云フ字ガアリマス
(箕作委員)
原案者ハ「買戻」ハ惡ルイト云テ居ル
(尾崎委員)
日本デ「賣買買戻」トシテ居ルカラ「買戻」デ宜シイ
(松岡委員)
賣買ナラ双務ニナルガ其レナラ年期換ヘト云フカラ其レハ許スマイ、恩惠ハ賣買デナイト云フ理窟ヲ云フカラ買戻ト云フコトハ邪魔ニナルラシイ
(栗塚報吿委員)
「賣買引戻」ガ一番宜シフ御座イマシヨウ
(箕作委員)
佛蘭西ノ「ラシヤイ」ト云フ字ダカラ買戻デ宜シイカ、元トノ字ハ良クナイト云フノダカラ
(栗塚報吿委員)
此處ハ買戻デハナイ、賣買ヲ止メテ仕舞フノデス
(尾崎委員)
一旦賣ツタ物ヲ五ケ年目ニ返ヘスノダロウ
(栗塚報吿委員)
ソウデハ無イ金サヘ持テ行ケバ賣買ガ止ンデ仕舞フ
(尾崎委員)
人ノ所有ニナク登記モシテアル
(栗塚報吿委員)
登記ニ書テアリマスカラ
(淸岡委員)
強ク云フト解除ニナル
(栗塚報吿委員)
其レダカラ箕作サンノ云フ樣ニ解賣ニナルノデス
(箕作委員)
「解賣」トカ「賣買引戻」トカシナケレバナラヌ
(南部委員)
當リ前ハ「買戻」デ宜シイト思フ佛蘭西デモ買戻ト云フ字ヲ用ヒテ居ルガ日本デ用ヒヌカラ改メルト云フノハ理論カラ結デ行クノデ法律ハ之デ差支ナイ
(淸岡委員)
其樣ナコトハ幾ラモアル「買受」デモ「賣買」ト云フ
(栗塚報吿委員)
其レデハ原文ニ必ラズ「買戻」ト云フ字ヲ置ク併シ原文ガ改マルノデス
(箕作委員)
佛蘭西文ニ「ラシヤー」ト云フ字ヲ使ツテ置カナケレバナラヌ
(尾崎委員)
昔カラ云ヒ來テ居ルカラ「買戻」デ宜シイ
(箕作委員)
原案者ハ八釜シク云フガ、買戻デ置クカ
(淸岡委員)
五年、三年、二年ト云フノハ今日ノ慣行カラ云フト七年トカ十年トカダ、今ハ質地ハ年限ガアリマスカ
(尾崎委員)
今ハ三年デス
(栗塚報吿委員)
起案者ノ云フテ來タノハ合意ノ引渡ト云フ辭ハ既ニ註解ニモ云フタガ併シ引戻ト云フト種々意味ガアルカラ唯引渡ト云フテハ良クナイカラ「合意上ノ引渡」トスルガ宜シイ、併シ合意上ノ引戻モ澤山アルカラ「賣買ノ引戻」ガ良カロウト思フ其レカラ物ヲ呼ブニハ其眞ノ名ヲ呼ブガ宜シイ、併シナガラ始終「賣買ノ引戻」ト使ウニハ及バヌ、唯一ケ所使ヘバ宜シイ、表題ハ引戻ノ權能トシタラ良カロウ、七百二十三條ノ初メニ「賣買ノ引戻ト稱スル權能ニ依リ」トスレバ先キヘ往ツテ引戻ト書イテモ賣買ノ引渡ト思フダロウ、現在七百三十一條ニ引戻ト云フ字ヲ使ツテアル、今迄ハ一般ノ人ノ用ヒヌコトヲ用ヒナイト云フコトヲ御考ヘニナツタノト肝心ト思フ、却テ日本ニモアツテ斯樣ナ不適當ノ辭ハ使ハヌ方ガ良カロウト云テ居リマス
(淸岡委員)
引戻ト解除ト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(南部委員)
唯引戻ト云フテハ分ラヌ、外ノ處ヘ出シハ賣買引戻ト云ハナケレバ分ラヌ
(尾崎委員)
買戻デ宜シイ
(松岡委員)
關東デハ年季賣ト云ヒ、上方デハ本物返ヘシト云フ
(淸岡委員)
起案者ガ其レ程熱心ナラ引戻ト云タラ宜カロウ
(尾崎委員)
引戻ト云フコトハ聞イタコトハナイ
(南部委員)
引戻ト云フト遡ル樣ニナル
(西委員)
賣ツタ物ヲ復タ買ウノデナク賣ツタコトヲ止メルノダ
(箕作委員)
賣買ヲ解除スベキコトヲ要約スルコトヲ得デ分ル
(栗塚報吿委員)
「買戻ト稱スル」ト云フコトヲ止メテ仕舞ヒ度イノデス
(箕作委員)
其レガ宜シイ
(淸岡委員)
「買戻ノ解除ニ依リ」トシタラ良カロウ
(栗塚報吿委員)
證書ニ書イテアリサヘスレバ宜シイ
(淸岡委員)
「稱スル」ガ惡ルケレバ「買戻ノ約定バ依リ」トスレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
買主ト拂ツタ代價ト費用ノ部分ヲ定リタルトキニ買主ニ返ヘセバ解除スルコトガ出來ルト云フコトガ書イテアツタ
(松岡委員)
若シ何々スルスルト云フノハ未必ダカラ「若シ」ト云フハ普通ノ文章カラ云フト變ナ樣デス
(栗塚報吿委員)
若シト云フノハ約束ノ辭ニナツテ居リマス、若シ夫氣ナレバ參リマシヨウト云フノデ、「時」ト云フ字ト「トキ」ト云字ハ違ヒマスカラ若シ斯々シタナラバト云フトキハ若シガ付ク文例ニナツテ居リマス
(淸岡委員)
阿州邊ニ年季賣ガアル樣ダ
(松岡委員)
一年賣五年賣リト云フノガアル、五年過ギレバ返ヘル
(栗塚報吿委員)
之ハ五年ノ内何時デモ返ヘルカラ之トハ違ウ
(南部委員)
之ハ制限ヲシタノダ
(淸岡委員)
買タ人ガ嫌忌ト思ヘバ我ハ五年デナケレバ嫌忌ダト云ヘル
(栗塚報吿委員)
ソウハ云ヘマセン、金サヘ持テ行ケバ何時デモ返ヘシマス
(淸岡委員)
五年ノ内バ受戻セバ何時デモ戻スト云フ約束ガ出來ル、期限ヲ延レバ延ベタ丈ケヤラナケレバナラヌト云フコトハナイ
(栗塚報吿委員)
何時デモ上ゲナケレバナラヌカラ、貴君ガ不安心デ別ニ寄越ソウトモ思ハナイ
(淸岡委員)
不安心ト思ヘバ四年丈ケナラ辛抱シ樣、或ハ二年ナラ辛抱シ樣、或ハ一年ナラ辛抱シ樣ト云フカラ之ハ延テ置イテモ同ジコトダ、五年ト云ヘバ五年ヲ一月デモ超レバ御戻シハ出來ヌ責メテハ七年ナレバ買戻スコトガ出來ルト云フモノデモ五年ガ來レバ取ラレテ仕舞フ
(南部委員)
其レヲ云ヘバ七年デモ足ラヌカ知レヌ十年經レバ買戻ガ出來ルトナルカ知レヌ、總テ佛蘭西デモ五年トナツテ居リマスカラ
(西委員)
五年デ宜シイ
(淸岡委員)
是レ迄ノ慣習ハ五年七年ト云フコトハナイ、皆長イ期限デヤツテ居ル、其レヲ忽チ五年ニシテハ餘程困ルト思フ
(南部委員)
今迄ハ出來ナイコトニナツテ居タ公證ヲ與ヘヌデ居タカラ
(淸岡委員)
今日ハ公證ヲ與ヘルデシヨウ、前ニハ與ヘテ居タノヲ御維新後理窟ヲ構ヘテ與ヘズシテ居タノダガ、地方ニハ澤山アル
(松岡委員)
隨分有用ナモノデ、質ト云フノデハ都合ガ惡イ賣放シテ仕舞フノハ先租代々ノ地面デ困ルカラ賣戻シテ貰ウト云フノガアル、唯五年デ置クカ、七年ニスルカト云フ丈ケデス
(南部委員)
之ハ成ル可ク年限ヲ縮メテ置クガ良カロウト思フ
(箕作委員)
長イト第三者モ困リマス、其間ニ抵當ガアツテモ何ガアツテモ駄目ニナツテ仕舞フ
(淸岡委員)
弊害ガアレバ縮メテ仕舞フ、尙ホ冀望ヲ云ヘバ、無シニスルト云フ考ナレバ無クテモ宜シイガ、弊害ハナイト思フ唯中途ニ置クト地所ヲ改良スルト云フコトハナイ、改良シナケレバ年年收穫ガナイ
(南部委員)
其レヲ云ヘバ用收權ト同ジダ、所有權ヲシテ中途ニ置クノハ成ル可ク短イ方ガ宜シイ、況ンヤ此制限ハ強イカラ
(尾崎委員)
制限ト云フモノハ何處迄ト云フコトカ分ラヌ、佛蘭西ニ五年トアルバカリデ七年ガ良イカ十年ガ良イカ分ラヌ
(淸岡委員)
良クナケレバ三年ニデモ二年ニデモスルガ宜シイ
(南部委員)
其レハ極點論ダ、民法上禁ズルコトハ出來ナイ
(松岡委員)
私ハ十年ニシ樣ト思フ
(西委員)
原案ガ良イ
(村田委員)
原案デ良イ
(箕作委員)
原案者ガ七年トシタラ七年デ良カロウ
(尾崎委員)
私モ十年トシ樣
(淸岡委員)
十年ガ良カロウ
(栗塚報吿委員)
動產ハ何年ニナリマス
(箕作委員)
原案デ宜シイ
(尾崎委員)
原案ガ多數ダカラ仕方ガナイ
(松岡委員)
動產ハ餘リ新規過ギハセヌカ、第三ノ事ハ云ハズトモ宜カロウ、動產ハ止メ度イ
(栗塚報吿委員)
證明スル道ガナイカラ止メルノデスカ
(松岡委員)
第三者ガ取テ居レバイケナイカラ兩人ノ間ヲ何デ定メルダロウ大キナ御世話ダ
(栗塚報吿委員)
第三者ニ關係アルトキニノミ法律ニ規定シテ一人ト一人ノトキハ入ラヌト云フノデスカ、契約ハドウデス
(松岡委員)
其レハ双方ノ權利ニ關係スルケレドモ相對デ定メルカラ何デ二年ト定メルカ
(栗塚報吿委員)
相對デ定メルナラ不動產モ何デ入用デスカ
(松岡委員)
不動產ハ改良セント云フガ、動產ニ改良ガアリマスカ、何所ノ國デモ不動產ト動產ト同樣ニ扱ツテ行ケルモノデハナイ
(尾崎委員)
日本ノ慣習ニ質ハ抵當ガアルガ買戻ハアルマイ
(松岡委員)
佛蘭西ニ在リマスカ
(箕作委員)
アリマセン、餘リ世話ヲ燒キ過ルノダ
(村田委員)
佛蘭西ノハ動產モ入テ居ルダロウ
(箕作委員)
不動產バカリダ
(淸岡委員)
登記モ何モナイカラ仕樣ガナイ
(箕作委員)
理窟ヲ云ヘバ動產モ買戻シテ宜シイト云フ論ガ出ル
(淸岡委員)
是非置カナケレバナラヌト云ヘバ五ケ月カ六ケ月ニシ度イ
(箕作委員)
正宗ト云フ家重代ノ短刀ガアツテ其レヲ質ニ入レルノモ嫌忌ダカラ何年ト云フ年期デ賣ルト云フコトハナイダロウ
(南部委員)
佛蘭西ハ不動產バカリト云フコトハ何處デ分リマス
(箕作委員)
佛蘭西ニハアリマセン
(栗塚報吿委員)
不動產デナケレバ五年ト云フ事ハ申セマスマイ動產ニ五年ト云フコトハ出來ナイカラ
(南部委員)
不動產ト云フコトハナイ
(栗塚報吿委員)
アツテモ害ハ一ツモナイ、駄目押シト云フ御論ハ御尤モデス
(南部委員)
不動產ガ出來レバドウシテモ動產ニ出來ナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
不動產ト云フ以上ハ動產モ云フテ宜カロウト思ヒマス
(松岡委員)
動產ニ就テハ二ケ年ヲ刪リ度イ
(村田委員)
皆動產不動產ノ區別ヲ立テ居ルカラ此處バカリ各メルニハ及バヌ
(尾崎委員)
動產ハ止メテ宜シイ
(南部委員)
削ル御旨意ヲ承リ度イ、動產ニ就イテハ買戻ヲサセヌト云フ御旨意デスカ
(尾崎委員)
日本ノ慣習ニナイ、佛蘭西ニモナイ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西デハ動產トモ不動產トモ云ハヌ
(尾崎委員)
動產ハ買戻ハナイ
(南部委員)
アツタラ如何シマス
(尾崎委員)
アレバ効ガアル
(南部委員)
何年デスカ
(尾崎委員)
何年デモアル
(南部委員)
不動產ガ十年デ動產ハ五十年デモ百年デモ宜シイト云フコトハナイ、用收權ノ如キモ置キタル如キモノデ今習慣ガナイト云フテ止メルコトハ出來ナイ
(村田委員)
之ヲ刪ルト影響ヲ生ジマス
(栗塚報吿委員)
斯ノ如クニ書キ分ケテ七百二十四條ニモ不動產ニ付テハ何々、動產ニ付テハ何々トシテ來タ法律デアルカラ茲ニ置イテモ不都合ハナイ、唯御念入リ丈ケノコトデス
(西委員)
置ク方ガ宜シイ
(淸岡委員)
刪ツテ宜シイ
(箕作委員)
私ハ說無シダ、唯アツテモ役ニ立タヌ
(淸岡委員)
アツテモ役ニ立タヌカラ害ガアル、二ケ年ト定メレバ法律デ公證ヲ與ヘレバ宜シイガ、其レモナイニ二ケ年トシタノハ如何ナル譯カ
(栗塚報吿委員)
不動產ニ公證ノ與ヘ樣ハナイ
(箕作委員)
佛蘭西ニハ何トモ書イテナイカラ五年ヲ過グベカラズニナルノダ、害ガナケレバ置イテハドウデス
(松岡委員)
長伸ト云フハドウ云フコトデス
(村田委員)
延ルコトハ出來ナイト云フノダロウ
(尾崎委員)
五年ノ間デモ長伸ガ出來ナイカラ可笑シイ、金ノ都合デ二ケ年トシタケレドモ二ケ年デハ出來ナイ、今二ケ年經レバ金ガ出來ルト云フテ五年トスルコトハ出來ヌト云フコトハナイ、何故ニ五ケ年ヲ許スカ
(栗塚報吿委員)
人ノ契約ノ自由ダカラ弊害ガアルカラ制限ヲ付ケタノデス
(尾崎委員)
弊害ハナイ
(栗塚報吿委員)
立法者ハ弊害ガアルカラ今日用收權ヲ得テモ今日死ネバ直グ止メル
(箕作委員)
一旦三年ト約定シテ第三者迄モ知ラセテ置テ、第三者ガ、三年ト思テ居タ處ガ二年ト云フト困ルト云フ丈ケデシヨウ
(栗塚報吿委員)
次ギノ項ニ然レドモ若シ長クスレバ豫約ト看做スゾヨト云フテ居リマス、買戻トシテ長ク出來ナイデ豫約トシテ出來ルト云テ居リマスカラ
(尾崎委員)
之ハ無駄ナコトデハナイカ知ラヌ
(南部委員)
佛蘭西デモ學者ノ說ハ延スコトハナラヌト云テアル
(箕作委員)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項「證書ノ中ニ記入シタル買戻ト稱スル約定ニ依リ」ヲ「證書中ニ明記シタル約定ニ依リ」ト改ム其他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第七百二十四條朗讀ス
第七百二十四條 不動產ニ付テハ法律ノ定メタル期間内ニ其定メタル條件ヲ以テ買戻ノ權能ヲ行ヒタルトキハ買主ノ付與シ又ハ其權利ニ依テ第三者ノ得取シタル總テノ物權ヲ免カレテ其不動產ヲ賣主ノ手裏ニ復セシム但經過スヘキ殘餘期間カ三ケ年ニ過キサル賃借ハ此限ニ在ラス〔第千六百六十四條、第千六百七十三條第二項〕
動產物ニ關シテハ買戻ノ權能ハ善意ニテ其動產物ニ付キ物權ヲ得取シタル第三者ニ對シ之ヲ行フコトヲ得ス
(修正案) 第一項「條件ヲ以テ」ノ下ヨリ「免カレテ」迄ヲ左ノ如ク改ム爲シタル賣買受戻ノ權能ノ行用ハ買主ヨリ其權利ニ依テ第三者ノ得取シタル總テノ物權ノ負擔ヲ脫シテ
(栗塚報吿委員)
一項ヲ修正致シマシタ
(箕作委員)
「其權利ニ依テ」ト云フコトガアルゼ
(栗塚報吿委員)
其レモ止メマシタ
(松岡委員)
其レハ入ルマイ、原案ノ通リ一言モナイ、事柄ガ二ツニ分レテ居ルカラ
(箕作委員)
是レ等ハ削テモ良シ、削ランデモ良シト云フ理由ダ
(淸岡委員)
負擔ト云フコトハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
負擔ハ誤リデ御座イマス、買主ノヤツタノト買主ノ權利デ第三者ノ得タノト是レ丈ケノコトヲ云フ必要ガアルカト云フト茲デ云フ必要ハ第三者ノ得取シタ物權ハ無クテ品物ガ戻テ來ルト云フコトサヘ云ヘバ宜シイ、權利ニ依テハ分リ惡クイ爲メニ六百七十條ノ登記ノ處デ八釜シイ論ガアツテ、裁判所デ得タル權利又ハ法律上デ得タル權利、後見人ノ財產ノ上ノ幼年者ノ抵當權、又夫ノ財產ノ上ニ妻ガ抵當權ヲ得ル、其レ等ノコトヲ「權利ニ依テ」デ見セルノハ難イカラ茲デ云フノハ單ニ株主カラ第三者ノ得タ權利ハ消ヘテ仕舞フト云フ積リデ修正シマシタ
(村田委員)
修正ガ宜シイ
(箕作委員)
諄クナイカラ修正ガ宜シイ
(今村報吿委員)
七百二十五條ハ起案者ガ修正シテ來テ未ダ其修正ガ屆キマセン
(南部委員)
其レデハ二十五條ヲ後ニシテ先キヘヤレバ宜シイ
(淸岡委員)
「買主ヨリ脫シテ」ト云フノハ困ル
(南部委員)
「買主ヨリ得取シタル」デス
(栗塚報吿委員)
物權ヲ免ガレテヨリモ免脫シテトヤルト云フ說ガアツテ遂ニ「脫シテ」ガ良カロウトナリマシタ
(淸岡委員)
買主ヨリ脫シテト讀メル
(箕作委員)
「第三者カ買主ヨリ得取シタル」トスレバ宜シイ
(南部委員)
「第三者カ脫シテ」ト讀ンデモ惡ルイネ
(箕作委員)
脫シテガ惡ルイ
(尾崎委員)
行用ハ株主ヨリ卽チ第三者ノ得取シテ居ル者ヨリ免ガレシメテト云ヘバ分ル
(南部委員)
行用ハ免ガレシメル
(栗塚報吿委員)
「免カレシメテ」トハ申セマスマイカ
(淸岡委員)
株主ヨリ免ガレシメテトナルカラ尙ホ宜シクナイ
(箕作委員)
修正デ宜シイ
(尾崎委員)
賃借ハ此限ニ在ラズト云フノハ
(栗塚報吿委員)
借リテ居ル者ガ遂出サレテハ困ルカラ
(箕作委員)
借主ハカリテナイ、貸主モ保護シテ居ル樣デス
(村田委員)
三年以内ナレバソウヤラヌ、四年ナレバ丸デ取ラレルノハ氣ノ毒ダ
(箕作委員)
ソウデナイ、五年デヤルカ何デヤルカ、三年ニ殘ランケレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
賃借ハ三年ト云フノデハアリマセン
(村田委員)
三年置カレマスカ、四年ナレバ出サレル樣ニナル
(南部委員)
物權デ登記シテヤツテ居ル
(箕作委員)
之ハ承知ノ上デヤツタノデス
(松岡委員)
其處デ伊太利ノハ知ラナイト云フ條件ガ入ル
(南部委員)
物權トシテ登記スル以上ハ此限ニ在ラズトハ云ヘマイ、賃借ニ限テ除クト云フ理由ハ立タヌ樣ダ、之ハ起案者ノ間違ヒデハナイカ、元トノ佛蘭西ノ樣ニ物權トセヌ樣ナ考デ書イタノデハナイカ
(栗塚報吿委員)
物權ノ性質ヨリ賃貸ト云フ性質カラダロウト思ヒマス
(南部委員)
住居權ナドハドウダロウ
(栗塚報吿委員)
用收權、使用權、住居權デス
(松岡委員)
凡ソ日本ノ地面ハ耕地ガ多イ、耕地ヲ買戻サントスル人ハ大槪年賦デ其レヲ三年待ツト云フノガ難義ダ
(村田委員)
之ハオカシイ
(淸岡委員)
殘餘期間ト云フノハ賃借期間ダロウカ
(尾崎委員)
ソウダロウ
(西委員)
賃借ダケハ五年ノ内デ三年丈ケヲ許スノダロウ
(南部委員)
其トキハ宜シイガ五年ノ末ニ戻シタ場合ハ
(西委員)
五年ノ末ニ戻シタ場合ヲ云フタノデハナカロウ
(南部委員)
ソウデハナイ
(箕作委員)
ソウ云フ積リノ樣ダ
(淸岡委員)
殘餘期間ト云フノハ可笑シイ
(松岡委員)
五年デモ六年デモ殘リガ三年ナレバ我慢シナケレバナラヌ
(尾崎委員)
賃借ノ殘餘ノ期間デス
(淸岡委員)
五年ノ末ニ戻ストキハ買戻スト云フ契約ガアルカラ賃借權ヲ與ヘテ置クコトハ出來マイ
(南部委員)
出來ナイ
(箕作委員)
「ボアソナード」ノ旨意ハ短キ期間ノ賃借ナレバ管理ノ行爲ニ過ギヌ、管理ノ行爲ナレバ買戻ノ契約ガ立テモ害ハナイ、其レガ長クナレバ賃借デナイ、所有權ノ一部分ヲ切タ樣ニナルカラ害ニナルト云フ旨意ノ樣デス
(村田委員)
十年デヤルマイモノデモナイ
(松岡委員)
都府ノ大キナ地面ナレバ宜シイガ日本ニハ耕地ガ多イ、耕地ヲ賣ル者ハ手作ガ多イ、手作デヤツテ見樣ト思ヘバ三年取ラレテ居ルト云フノハ害ガアル
(松岡委員)
併シ小作ガ取レルコトハ取レル
(箕作委員)
家作ノ方ハドウデス、自分ガ住ハント思テモ賃借人ガアツテ入ルコトハ出來ナイ
(村田委員)
但書ハ刪ルガ宜シイ
(淸岡委員)
其年ノ分丈ケハ良イト云フコトニシ度イ、其年ニ田地ヲ引上ゲハ困ルカラ
(南部委員)
其レハ一體ニ收穫ノ來タモノハイケナイ
(村田委員)
買ツタ物モ一年置キマスカ
(淸岡委員)
之ハ小作ノコトヲ云フノダ
(村田委員)
同ジコトデス
(松岡委員)
買ツタ人ガ作ツテ居ルノハ構ハヌ借地ハ遠慮シナケレバナラヌト云フコトハナイ村田サンノ論ハ名論ダ、君モ中々議論ヲスル
(尾崎委員)
但ヲ刪ロウ
(西委員)
刪ツタ方ガ宜シイ
(松岡委員)
速ニ同意スル
(栗塚報吿委員)
伊太利ニモアリマス
(南部委員)
伊太利デハ賃借ヲ物權ニシテアルマイ
(栗塚報吿委員)
人權ナラ無論取レル、其レデサヘモ取レマセン況ヤ物權ダカラ立退カセルト云フコトハ出來マスマイ
(松岡委員)
其レカラ云ヘバドノ物權デモ物權ヲ脫スルコトハ出來ナイト云ハナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
物權人權ト云フ性質カラ離スノハ惡イト思ヒマス
(箕作委員)
佛蘭西ノ賃借ハ皆登記スルノデハナイ
(栗塚報吿委員)
九年トカ十八年トカヲ登記スルノデス
(箕作委員)
日本ニハ皆登記スル、一ト月デモ一日デモ登記スルカラ知ラヌト云フコトハ云ヘマイ、善意惡意ト云フコトハ其處デ出テ來ナイ
(南部委員)
ソウダロウ、年限ガ長イカラ買戻ノ契約ハ五年ダ、三年ダカラ人ガ知リ樣ガナイト云フノダロウ
(箕作委員)
處ガ日本ハ一日デモ登記スル
(村田委員)
其理由ハアルネ
(尾崎委員)
刪リマシヨウ
(栗塚報吿委員)
登記ガアルカラト云フ御論デスナ
(南部委員)
ソウデス
(淸岡委員)
其年ニ直グ止メルト云フノハ酷イ
(南部委員)
十八年以上繼續スル賃借トアルカラ八年位ハ宜シイト云フノデ置イタノダロウ、其理由ヲ以テ刪ロウ
(箕作委員)
削リマシヨウ
(淸岡委員)
起案者ニ聞イテ貰オウ
(栗塚報吿委員)
聞イテモ動キマスマイ、詰リ登記ヨリモ實際小作人ハ不都合ト云フ理由ハ宜シイ樣デス、賃借ト云フモノハ縱令物權ニシテモ登記スル者ハナイダロウト云フ御論デスカ、登記ハシテモ住ハナケレバ第三者ニ功ハナイ、其トキ賃借人ハドウデスカ
(南部委員)
其レハ自分デ權利ヲ怠ツタノダロウカラ仕方ガナイ
(箕作委員)
其レハ賣買ヤ質入ト同ジニナル修正シテ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項不動產ニ付テハ法律ニ定メタル期間内ニ其定メタル條件ヲ以テ爲シタル買戻ノ權能ノ行爲ハ買主ヨリ第三者ノ取得シタル總テノ物權ヲ脫シテ其不動產ヲ賣主ノ手裏ニ復セシム第二項原案ノ通リ
第七百二十六條朗讀ス
第七百二十六條 若シ賣主カ買戻約定ヲ以テ賣リタル物ヲ後日抵當トシ又ハ之ニ其他ノ物權ヲ負擔セシメタルトキハ其權利ノ効力ハ賣主自身又ハ前條ノ場合ニ於テハ其債權者ニ因レル買戻ノ行用ニ繋ル
若シ賣主カ買戻ニ服シタル物ノ所有權ヲ移付シタルトキハ其得取者ハ自己ノ名ヲ以テ買戻ヲ行フコトヲ得然レトモ其得取者ハ賣主ニ因リ移付前ニ承諾セラレ且登記ヲ以テ公示セラレタル他ノ物權ヲ尊重スルコトヲ要ス但擔保ニ於ケル得取者ノ求償權ヲ妨ケス
(修正案) 第一項「前條ノ場合ニ於テ」ノ九字ヲ刪リ「繋ル」ヲ「從フ」ト改ム第二項「ニ服シタル物ノ所有」ノ九字ヲ刪ル
(南部委員)
前條トアルカラ今一條先キヘ行キマシヨウ
(箕作委員)
宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「前條ノ場合ニ於テ」ト云フノヲ刪リマシタ、前條デ云フテ居ルノハ買戻ノ債權者ト云フノデアリマスカラ
(南部委員)
之ハ元トノ儘ガ良クハナイカ
(箕作委員)
買戻權ヲ移付シタルデハ分ラヌデハナイカ買戻ヲサセル筈ニナツテ居ル所有權ヲ他ヘ賣ツタノダカラ分ラヌコトニナル
(栗塚報吿委員)
此處ノ旨意ハ詰リ買戻權ヲ移付シタノデス、成程買戻ニ復シタルト云フト違ウ樣ニナルガ、云ヒ結メルト同ジコトダ
(南部委員)
買戻丈ケノ權デハナイ、所有權ヲヤツタノダカラ
(松岡委員)
所有權モナイノダ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、所有權ハ二ツアルカト云フ論ガ起ツタノデス私ガ貴君ニ地所ヲ賣テ貴君ニヤツタ物ヲ復タ人ニ賣ルコトガ出來ルカ、詰リ所有權ヲヤルノデナイ、買戻權ガアルカラ、南部サンニ買テ下サラヌカト云フコト外云ヘヌ、註ニ云フテ居ルノハ適當ナ辭ヲ使ヘバ買戻ノ權ヲ有スルト云ハナケレバナラヌ、ソウスルト暗々裡ニ物ヲヤルト云フコトニナル、物ヲヤレバ權ヲ讓ツタコトニナルケレドモ所有權ヲヤルト云フコトガ云ヘルカト云フ論デ御座イマス、之ハ起案者ニ云フテアリマス
(箕作委員)
理論カラ云ヘバ所有權ヲ二ツヤツタ樣ニナルガ、立案者ニ云フテヤツテアルカラ先ヅ是レデ置イテハ如何デス
(南部委員)
物權ヲ負擔セシムルト云フ内ニ用收權モアル、他ヘ賣ツテアル物ヲ用收權ヲ設定スルコトハ出來ナイコトニナルガ、用收權ヲ設定スルコトハ出來ル
(栗塚報吿委員)
故ニ抵當トシテモ負擔シ樣ト効ガ生ジナイ、買戻タ上デナケレバ抵當ニ入レルコトモ、用收權ノ設定モ出來ヌト云フテ居リマス
(南部委員)
効ハ生ゼヌデス、買戻シタトキニ生ズルデシヨウ
(栗塚報吿委員)
詰リ二項ハ買戻ノ權ヲ讓ツタト云フノハ能ク分ル
(南部委員)
買戻權ヲ讓ツタト云フト買戻ダケノ權利ニナリヤセヌカ
(栗塚報吿委員)
其物ヲ買ヘバ權ガ自然ニ移ツテ來ル
(松岡委員)
至極結構ト思フ
(栗塚報吿委員)
物ヲ讓ルコトハ出來マイ買戻權ダケ外讓ルコトガ出來ナイト云テヤリマシタ
(箕作委員)
他人ノ物ノ賣買ト云フノデナイ、如何トナレバ買戻カラ得ル者ガアリ未必條件付ノ所有權ニナルノダ其レヲ賣ツタト云ヘルダロウ
(栗塚報吿委員)
他人ノ物ノ賣買ト云フ說ガアリマシタガ、ソウデハナイト思ヒマス
(箕作委員)
原案ノ方ガ分ル
(栗塚報吿委員)
買戻ニ服シタ所有權ヲ移付スルノハ賣主カト云フ辭デスカラ賣レバ持テ居ルカト云フ問ヒガ起ルト之ハ買主ガ持テ居ル賣主ハ持テ居ラヌト云フノデハナイカト思ヒマス
(南部委員)
註ニ物ヲ賣ルコトモ亦物ヲ讓ルコトモ出來ル、其トキハ買戻ノ權利ヲ讓ツタトシテアル、而シテ原案ニハ所有權トアルカラ所有權ハ宜シイ
(栗塚報吿委員)
買戻權ヲ移付スル方ハ宜シイト云フ報吿委員ノ論デス
(箕作委員)
矢張リ所有權ヲ移付シタト云ハナケレバナラヌ
(西委員)
六百六十二條ノ「從ハシムル」トアルノヲ削ツテ「繋ラシムル」トシテアリマスガ、之ハドウナリマス
(南部委員)
彼處ハ定ツタノデス、繋ラシムルニナツタノデス
(栗塚報吿委員)
買戻前カラ此効ガ生ズル樣ニ見ヘマスカラ初メニ抵當ニ入レルコトガ出來ルト思フカ知レヌ
(箕作委員)
其レハ文章ノ論デ其權利ノ効力意味ハ賣主ガ買戻シヲ行フト人ニ關シト云ヘバ分ル
(栗塚報吿委員)
原案ノ儘ニシマシヨウカ、條件付ヲ入レマシヨウカ
(村田委員)
原案デ宜シイ
(南部委員)
宜カロウ
(松岡委員)
「賣主ヨリ」トシテハ如何デス
(南部委員)
「賣主ヨリ移付前ニ承諾シ且登記ヲ以テ公示シタル」トシタラ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
宜シウ御座イマシヨウ「但擔保ニ於ケル求償權ヲ妨ケス」
(箕作委員)
賣主ガ公示シタトナリハシマセンカ
(栗塚報吿委員)
成程
(南部委員)
此儘デ宜シイ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第二項ハ原案ノ通リ
于時午後零時十分休憩
午後一時二十分開會
(箕作委員)
ヤリマシヨウ
第七百二十七條朗讀ス
第七百二十七條 買戻ノ權能ヲ行フ賣主ハ定マリタル期間内ニ賣買ノ原價及ヒ契約ノ費用ノ外物ノ保存ノ爲メ爲シタル出費ヲ買主ニ辨償スルコトヲ要セス
若シ買主カ右ノ金額ヲ受取ルコトヲ拒シタルトキハ其金額ハ猶豫ナク供託セラルヽコトヲ要ス
又賣主ハ物ヲ改良シタル出費ヲ辨償スルコトヲ要ス然レトモ賣主ハ此事ニ付キ裁判所ヨリ猶豫ヲ受クルコトヲ得
買主ハ右ノ金額ノ皆濟ヲ受クルマテ物ノ留置權ヲ有ス〔第千六百七十三條第一項〕
(修正案) 第二項「其金額ハ」ヲ「賣主ハ」ト改メ「猶豫ナク」ノ下「之ヲ」ノ二字ヲ挿入シ「供託セラルル」ヲ「供託スル」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「要セス」ハ「要ス」ノ寫字ノ誤リデ御座イマス「其金額ハ」ヲ「賣主ハ」ト改メ「猶豫ナク」ノ下ニ「之ヲ」ト入レテ「供託セラルル」ヲ「供託スル」ト改メマシタ
(淸岡委員)
必ラズ買戻ノ上ニ原價ノ保存ノ費用ヲ置クノハ隨分酷イ
(栗塚報吿委員)
金ヲ取テ居ルカラ良イデハアリマセンカ
(淸岡委員)
之ハ卽チ買主ノ利益ニナツテ居ルカラ
(栗塚報吿委員)
買主ガ家ヲ賣ツタノデ、賣主ハ利益ヲ取テ居リマス
(淸岡委員)
何レ買戻ノ分ハ幾分カ安イ値段デ賣テアル、田地ハ年年收穫ヲシテ居ル家デモ段々家賃ヲ取テ居テ互ヒニ償ツテ居ル其レハ保存ノ爲メニ出シタ出費ヲ償フト云フト隨分五年ノ間ノ費用ハ大變ニナル
(栗塚報吿委員)
自分ガ持テ居テモ、シナケレバナラヌノデス、板塀ガ倒レレバ起サナケレバナリマセン
(淸岡委員)
其レハシナケレバナラヌガ家賃ヲ取ルトカ何トカシテ塡メテ行ク、然ルニ五年ノ後出費ヲ出セト云ハレテ見ルトキニ酷イ話シダ
(栗塚報吿委員)
原價ト契約ノ費用ハ知レタモノデスガ物ノ保存ノ爲メニ出費ヲ每年出水カ何カアツテ田地ガ流レル又每年其レガ續イテ家ヲ毀ハシタ、買戻サントスル人ガ持テ居テモ入ルモノハ止ヲ得ナイト思ヒマス
(尾崎委員)
賣ツタ物ナラ縱令收穫ガ取レンデモ田地ガ毀ハレテモ買主ノ損ニ歸スベキモノデスガ、所有權ガ變ツテ居ル、己レハ五ケ年ヲ過ギタモノニナルカラ
(淸岡委員)
保存費ハ隨分アル
(尾崎委員)
買戻ノアル田地ニ入費ヲ掛ケテ計算シテ受取ルコトハ今迄ハナイ
(栗塚報吿委員)
費用ニ必要ナル費用ト有益ナル費用ト奢靡ナル費用ト三ツアリマス、肥料ヲ入レテ地面ガ良クナルト云フ費用モ入ルカト云フト此處デハ必要ナル費用ト見ナケレバナリマセン
(淸岡委員)
處ガ買戻ハ家トカ田地トカ云フ樣ナ年々收穫ノアルモノデナケレバシマセン、收穫ガアルニ就イテ其收穫ヲ見込ンデ買ウノダカラ、買テ置イテモ損ニナラヌカラ算盤ノ上デ買テ置クノヲ保存ノ費用デ出サセルノハ酷イ話シダ
(箕作委員)
保存ヲシテ直グニ取返ヘサレル保存ガ十年モ二十年モ續クト人ノ犢鼻褌デ角力、ヲ取ル樣ニナル
(栗塚報吿委員)
此費用ヲ出シテ呉レタ爲メニ買戻ノ目的ガ逹シタノデ、云ババ當リ前ト云テ宜シイ
(淸岡委員)
保存ヲシナケレバ庇ガ崩レルトカ戶ガ倒レルカ云フノハ買タ者モシナケレバ借人モナイカラシテ買ツタ物カラ相當ノ利益ヲ得ナケレバナラヌ、收穫ノアル物ニ贊用ノ掛ラヌト云フコトハナイ一ケ月入費ガ凡ソ三圓掛ルトカ五圓掛ルトカ云フノヲ差引シテ幾ラト云フ處カラ物ノ賣買ヲスル
(南部委員)
其レヲ差引カズシテヤル
(箕作委員)
若シ保存ノ費用ヲシナケレバ後ハ構ハヌト云フコトニナル
(松岡委員)
家ナドハ保持修繕モ入ルカ知ラン
(南部委員)
入ルダロウ
(尾崎委員)
大修繕トカ保持修繕トカ云ハヌト困ルダロウ
(栗塚報吿委員)
其レハ大審院デス
(淸岡委員)
保存ノ費用刪ツタラ宜カロウ
(南部委員)
改良ハ削ツテモ保存ハ置カナケレバナラヌ
(箕作委員)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第七百二十八條朗讀ス
第七百二十八條 若シ買戻約定ニ於ケル賣買カ不動產ノ不分ノ部分ヲ目的トシタルトキ買主カ己レニ對シテ促サレタル公賣ニ因リテ財產全部ノ競落人ト爲リタルニ於テハ賣主ハ其受取リタル代價ニ公賣ノ代價ヲ加ヘテ全部ノ爲メスルニアラサレハ買戻ヲ行フコトヲ得ス〔第千六百六十七條〕
又買主ハ全部ノ買戻ニ故障ヲ述フルコトヲ得ス
若シ買主カ公賣ヲ促シタルトキハ賣主ハ其賣リタル部分ニ付テノミ買戻ヲ行フコトヲ得
又買主ハ全部ノ買戻ニ故障ヲ述フルコトヲ得
(修正案) 第一項「其受取リタル代價ニ」ヲ「前條ニ記載シタル金額」ト改メ「公賣ノ代價」ヲ「公賣拂足シノ代價」ト改ム
(松岡委員)
之ナドハ日本ニハナイコトダ
(栗塚報吿委員)
修正ガアリマス
(今村報吿委員)
公賣ト云フ字ハ惡ルイト思フ、三人デ外人ヲ入レズニヤルコトガアル其レハ三人デスル、共有者ノミガ雜ルコトガアル、其トキハ公賣デハナイ
(箕作委員)
不分物競賣ダ
(栗塚報吿委員)
「競賣」ト翻譯デ修正致シマシヨウ
(南部委員)
不分物ガアリマシヨウ、松岡サント私ト不分デ私ノ部分ヲ栗塚サンニ賣ツタトキ
(松岡委員)
ソウシテ栗塚サンガ落札人ニナツタ
(南部委員)
ソウスルト栗塚サンガ半分拂フ
(松岡委員)
鳥渡見ルト重複ノ樣ダケレドモ重複ニ錢ハ出サナイ
(栗塚報吿委員)
拂ヒ出シト云フコトハナイ
(南部委員)
拂ヒ出シハ入ラヌ
(栗塚報吿委員)
競賣ノ代價ト云フト不分ノ部分デ是レ丈ケヲ二人デ持テ居テ競賣ノ代價ト云フト殘ラズニナル
(松岡委員)
半分ハ人ニ出シ半分ハ自分デ出ス
(箕作委員)
唯文字ニ拘泥シタ議論デシヨウ
(栗塚報吿委員)
入ラヌ樣デス
(南部委員)
削リマシヨウ
(箕作委員)
先キヘ行キマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス其他「公賣」ハ「競賣」ト翻譯ニテ改ム
第七百二十九條朗讀ス
第七百二十九條 若シ賣主ニアラサル共有者ノ一人又ハ外人一利益ニ於テ公賣ノ競落アルトキハ其何レノ當事者ヨリ之ヲ促シタルヲ問ハス賣主ハ若シ公賣ニ召喚セラレサリシ場合ニ於テ其賣リタル部分ノミニ付キ競落人ニ對シ買戻ノ權利ヲ保存シ之ニ反スル場合ニ於テハ其權利ヲ失フ
(修正案) 冒頭「若シ」以下「問ハス」迄ヲ左ノ如ク修正シタリ公賣カ何レヨリ促サレタルヲ問ハス若シ買主ニアラサル共有者ノ一人又ハ外人ニ競落シタルトキハ同項中其他「場合ニ於テ」ノ下「ハ」ノ一字ヲ挿入ス
(栗塚報吿委員)
之レニハ修正ガ御座イマス
(村田委員)
修正ガアリマス
(箕作委員)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ修正委員ノ修正ニ決ス
第七百三十條朗讀ス
第七百三十條 若シ現物ヲ以テ派分ヲ爲シタルトキ賣主カ派分ニ召喚セラレタルニ於テハ賣買ハ何レノ當事者ヨリ派分ヲ促シタルヲ問ハス他ノ所有者ニ歸シタル部分ニ付キ何等ノ要求ヲモ爲スコトヲ得ス其賣主ハ買主ニ歸シタル部分ヲ取回スコトヲ得ルノミ但當事者雙方買主ノ供給シ又ハ受取リタル補足額ヲ互ニ計算スルコトヲ妨ケス
若シ賣主カ派分ニ召喚セラレサリシトキハ賣主ハ其撰擇ヲ以テ或ハ爲サレタル派分ヲ確認シテ買主ニ對シ前ニ指示シタル權利ヲ行ヒ或ハ自己ノ受取リタル代價ヲ買主ニ辨償シテ共有者ニ對シ再派分ヲ促スコトヲ得
(修正案) 第一項「ノ當事者」ノ四字ヲ削リ但書「當事者雙方」ヲ「互ニ」ノ上ニ轉置ス第二項「自己ノ受取リタル代價」ヲ「第七百二十七條ニ記載シタル金額」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「賣買」ハ「賣主」ノ誤リデ御座ヒマス、其他修正ガ御座イマス
(箕作委員)
其レハ能ク分ルガ、末項ハ「或ハ自己ノ受取リタル代價第七百二十七條ニ記載シタル代價ヲ」ト修正致シマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第七百三十一條朗讀ス
第七百三十一條 若シ不分物ノ共有者カ一箇ノ契約ヲ以テ唯一代價ニテ其物ヲ買戻約定ヲ以テ賣リタルトキハ買主ハ一分ニ付キ買戻ニ服スルノ義務ナシ〔第千六百六十八條〕
又買主ハ賣主ノ一人ヨリ爲ス全部ノ買戻ニ故障ヲ述フルコトヲ得但其賣主ノ一人カ他ノ賣主ノ委任ニ憑リ買戻ヲ行ヒタルトキハ此限ニ在ラス〔第千六百七十條〕
若シ一人ノ賣主カ數人ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキモ亦同シ〔第千六百六十九條第一項〕
若シ之ニ反シテ數人ノ共有者カ各別ノ契約ヲ以テ其各部分ヲ賣リタルトキハ各自ハ各別ニテ買戻ヲ行フコトヲ得但第七百二十八條及ヒ第七百三十條ヲ適用スヘキトキハ之ヲ適用スルコトヲ妨ケス〔第千六百七十一條〕
(修正案) 第一項「ニ服スルノ義務ナシ」ヲ「ヲ受クルノ責ナシ」ト改ム
(栗塚報吿委員)
一項ヲ修正致シマシタ
(村田委員)
同ジコトダ
(箕作委員)
「受クル」デ宜シウ御座イマシヨウ
(松岡委員)
「義務ナシ」ノ方ガ良クハナイカ
(栗塚報吿委員)
何レニシテモ變リハアリマセン
(西委員)
部分ダカラ「責ナシ」ノ方ガ良カロウ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西デハ始終相續人ト云テ居リマス
(村田委員)
適用スベキトキハ之ヲ適用スハ可笑イデハナイカ「適用スヘキトキハ此限ニ在ラス」デ良カロウ
(南部委員)
此限ニ在ラズトハ違フ、適用スルコトガアレバ適用シテ宜シイト云フノダカラ
(箕作委員)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第七百三十二條朗讀ス
第七百三十二條 若シ數名ノ買主カ一箇ノ契約又ハ各別ノ契約ニ因リ買戻約定ヲ以テ一箇ノ不動產ヲ得取シタルトキ賣主カ買主ノ間ニ派分ヲ爲サヽル前ニ買戻ヲ行ハント欲スルニ於テハ賣主ハ或ハ併合シテ或ハ各別ニテ各買主ニ對シ其部分ニ付キ買戻ヲ行フコトヲ得
若シ既ニ派分アリタルトキハ賣主ハ各買主ニ對シ派分又ハ公賣ニ因リテ其各自ニ歸シタル部分ニ付テノミ買戻ヲ行フコトヲ得若シ一人ノ買主ガ數名ノ相續人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ右同一ノ規則ヲ適用ス〔第千六百七十二條〕
(修正案) 第一項「約定ヲ以テ」ヲ「約定付ノ」ト改メ「或ハ」ノ下左ノ如ク改ム總テノ買主ニ對シ或ハ一名若クハ數名ノ買主ニ對シ各自ノ部分ニ付受戻ヲ行フコトヲ得
(栗塚報吿委員)
修正ガアリマス
(村田委員)
修正ガ宜シイ
(西委員)
修正ガ分ル樣ダ
(箕作委員)
各自ノ部分ニ付キダケレドモ未ダ派分シナイ前デスカ
(栗塚報吿委員)
何ゼ各ト云フ字ヲ入レタカト云フト各買主ダカラ宜シカツタノデスガ、今度ノ修正デハ一名若クハ數名ノ買主ニ對シテ御座イマスカラ各自分ノ部分トヤリマシタ
(箕作委員)
無クテモ分ル
(松岡委員)
元トノガ分ル
(栗塚報吿委員)
唯併合シテ嫌ツタカラデ御座イマス
(箕作委員)
「約定付ニテ」ナラ宜シイガ「付キノ」ノ可笑シイ
(南部委員)
「付キニテ」ガ宜シイ
(松岡委員)
「約定ヲ以テ」ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
各自ノ部分ハ宜シユ御座イマシヨウカ
(箕作委員)
無クテ宜カロウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項或ハノ下左ノ如ク改ム總テノ買主ニ對シ或ハ一名若クハ數名ノ買主ニ對シ買戻ヲ行フコトヲ得
第七百三十三條朗讀ス
第三款 折損ノ爲メノ銷除
第七百三十三條 若シ不動產ノ賣買カ契約ノ日ニ於ケル其實價ノ半以下ノ代價ニテ爲サレタルトキハ賣主ハ折損ノ爲メ銷除ヲ請求スルコトヲ得但賣主カ契約ヲ以テ明示ニテ此銷除ヲ抛棄シ又ハ代價ノ補足ヲ抛棄スルコトヲ述ヘタルトキモ亦同シ〔第千六百七十四條、第千六百七十五條、第千六百八十三條、伊民第千五百二十九條〕
折損ノ爲メノ銷除ハ代價カ當事者間ニ合意シタル第三者ニ因リ定メラレタル場合ニ於テハ之ヲ許サス但第六百七十條第三項及ヒ第四項ノ適用ヲ妨ケス
(今村報吿委員)
第三款總體ニ付テノ考ガアリマス、折損ノ爲メノ銷除ヲ全廢シ度イト思ヒマス、ドウ云フ理由カト云フト「ボアソナード」自ラ註ニ書イテアリマスガ、抑モ所有者デモナケレバ不能力者デモ無ケレバ當リ前ノ睾丸ヲ持テ居ル男ガ契約ヲシタモノヲ後ニ毀ハソウト云フノハ抑モ何ノ理由ガアツテ毀ハスカト云フ事ハ佛蘭西ノ學者モ白耳義ノ學者モ大變議論ガアツテ、佛蘭西ノ參事院デモ議論ガアリマシタ學者ガ種々ノ理由ヲ出ス「ボアソナード」ガ撃テ居ルガ一ツモ立タヌ、或ハ貧乏シテ餘義ナイカラ安ク賣タ、其レデハ金滿家ガ賣ツタトキハ如何スルカト云フト「ボアソナード」ガ云フニハ金滿家ガ賣ツタトキモ銷除ガ行ハレルト云テハ合ハヌ、要スルニ「ボアソナード」ガ不當ノ利得ヲ受ケタト云フコトニ陷ルト云フ理由デ毀ハシタト云フノデ案ガ出來テ居リマス、處ガ佛蘭西ノ學者ノ說ヲ讀ンデ見ルト、近來名高イ「ローラン」ト云フ白耳義ノ民法ヲ起草シテ居ル人ガ佛蘭西ノ參事院デ議シタ處ヲ聞キマスト初代那波翁ガ云タコトヲ通過シテ居ル一體不動產ニ限ツテ居ル法則ト云フモノハ不動產ヲ辯ンズルカラデアル、動產ハ何ゼ所有權ガナイカト云フトソウ云フ答ヘナノデス、動產ハドンナ高イ「ダイヤモンド」ヲ安ク賣ツテモ社會ガ立入ラヌ、不動產ハ社會ガ立入ルト云フ理由ダソウデ御座イマス、其レカラ價ガ半分ニモ足ラナイ物ヲ賣ツタトキハ價ガナイノデアルカラ賣買ト云フコトハ成立タナイ、處ガ此方カラハ果シテ價ガ半分ニナラナケレバ何ゼ不動產デモヤラヌカ、不動產デモ同ジコトデアル、又何ゼ賣買ニ限ツタカ交換デモ同ジコト、賃貸デモ同ジコトダ、不當ノ利得ヲ得ルト云フコトナラバ之モ理窟ハ立タヌ交換シテモ半分ニ成立タンケレバ矢張リ不當ノ利得デス、私ノ地面ヲ上ゲテ貴君ノ公債證書ヲ貰ヒマシヨウト云テ、公債證書ガ半分ニ屆カナケレバ貴君ノ方ノ地面カラ銷除ヲヤツタラ宜カロウ畢竟理由ガナイ、佛蘭西人モ困ツテ賣リタルトキハ眞實ノ承諾ハナイ、所謂強暴デ果シテ其レヘ入ツテ來レバ其レデ行ケバ宜シイ、處ガ強暴ノ種類ト云フコトハ法律家ノ云フコトデナイ段々學者ノ論ヲ讀メバ陳腐ナ法律デ、昔シ不動產ヲ持テ居ル人ガ抵當ニ入レ樣ト思テモ出來ナイ、仕方ガナイカラ二束三文ニ賣ルト云フ世ノ中ト今一ツハ不動產ヲ唯引續イテ存シテ置クト云フコトデス獨乙ノ何トカ云フ人ガ八釜シク之ヲ撃テ居ル、佛蘭西ノ民法ヲ議スルトキモ參事員中ニ刪除說ガ澤山アツタガ贊成家ガアツテ可決シタト云フ、其樣ナ歴史ハ擱キ今日ヤツテ、家ナリ地面ナリ半分損ヲシタト云テ訴ヘテ來タトキハ非常ニ困難デ又差當リ金ガ入用デ、千圓ノ地所ヲ二三百圓ニ賣テ金ノ用ヲ足シテ銷除ヲ訴ヘレバ直グニ元ヘ戻テ來ルト云フ樣ニ一人前ノ男ガ約束シタノヲ役ニ立タヌ樣ニスルノハ法律ガスルノデ御座イマスカラ此款ハ全廢シ度イ
(南部委員)
刪除說ガ起ツタガ、今刪除ノコトヲ論ジテ逐條ニ及ブガ當リ前デ御座イマシヨウガ、併シナガラ全般ノコトヲ一應銷除ハ斯樣ナモノダト云フコトハ長イ章デモナイカラ一應議シタ上旨意モ充分ニ分ツタ上デ愈刪除スベキモノカ刪除ス可カラザルモノカヲ決シ度イ、少シ轉倒シテアルケレドモ一時刪除ニ決シテハ後ニ困ルカラ
(今村報吿委員)
至極其レガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
私モ刪除デアリマス、實價ノ半バ以下ト云フノハ可笑シイデハナイカ、責メテ百分ノ九十九トカ何トカ云フナレバ格別半バ位ナラ金ニ困ツタ人ハ賣ルダロウ、今一歩進メタラ刪除シテモ宜シイト云フコトヲ申シマシタ處ガ、反對論デアツテ隨分金ニ困ツテ安ク賣ルコトガアル、暴行カ強暴デ得タカ說明シカ出來ヌ
(箕作委員)
損ヲシタト云フナレバ買主ノ方ニモ損ガアツテ取消スコトガ出來ナケレバナラヌ、獨乙ノ草案ニモアルマイ
(栗塚報吿委員)
アリマスマイ
(松岡委員)
相對デ半値ニナルモノハ滅多ニアルマイ
(栗塚報吿委員)
土地ヲ公賣スルトキ村中申合セテ買ハヌコトガアル、二束三文デ一反三十錢位デナケレバ買ハヌト云タトキ賣ツタノハ中々買戻シガ出來ヌ其レヲ救フニハ之ガナケレバ救ヘヌト云フ說ガアリマス
(箕作委員)
三十四條ヲヤリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
若シ之ヲ存シテ置ケバ實價ノ半バ以下ハ少ナイコトデ御座イマスカラ
(箕作委員)
三分ノ二トカ三分ノ一トカニシ樣ト云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
十分ノ七トカニシ樣ト云フ積リデス
(箕作委員)
先キヘ行キマシヨウ
第七百三十四條朗讀ス
第七百三十四條 銷除ハ賣買カ條件附ナルトキト雖トモ契約ノ時ヨリ二个年内ニ之ヲ請求スルコトヲ要ス〔第千六百七十六條第一項〕
此期間ハ賣買契約ヲ以テ之ヲ增減スルコトヲ得ス
若シ買戻ノ權能カ要約セラレタルトキハ二箇ノ期間ハ最モ短キ期間ニ滿ツルマテ混同ス〔第千六百七十六條第三項〕
(修正案) 第二項ヘ左ノ但書ヲ置ク但日後特別ノ契約ヲ以テ其期間ヲ減縮スルコトヲ得
(栗塚報吿委員)
此條ヘ但書ヲ加ヘマシタ
(箕作委員)
增減ハ置クノデスカ
(栗塚報吿委員)
短クスルコトハ出來ル日後デス何ゼ置キ度イカト云フト成ル可ク止メ度イト云フ處カラデ御座イマス
(今村報吿委員)
日後デモ增ハ出來ルガ減ハ出來ナイ
(南部委員)
「此期間ハ之ヲ增減スルコトヲ得ス但日後特別ノ契約ヲ以テ其期間ヲ減縮スルハ此限ニ在ラス」ト云テモ宜シイ
(箕作委員)
「賣買契約ヲ以テ增減スルコトヲ得ス」デ宜シイデハナイカ
(栗塚報吿委員)
ソウスルト日後ノ契約デ增減スルコトガ出來ル樣ニナル
(村田委員)
之ガナイト少シ足リマセン
(淸岡委員)
「得ス」トシテアル以上ハ日後ナレバ何ゼ出來ルデシヨウ
(栗塚報吿委員)
賣買契約デナケレバ出來ルデス
(村田委員)
但ガナケレバ兩方出來ル
(南部委員)
增スコトガ出來ルカ出來ヌカ見ヘヌ樣ニナル
(栗塚報吿委員)
增スコトハ云ハヌデス
(松岡委員)
賣買ノ契約デハ減ジラレナイデ後ニ減ズルコトガ出來ルト云フノハドウ云フコトダロウ
(今村報吿委員)
「ボアソナード」ガ自カラ矛盾スルト云フノハ金ニ困ルト云フ理由デハナイ、處ガ此處ヘ來ルト其精神ガ現ハレルカラ自ラ矛盾シテ居ル
(松岡委員)
翌日スレバ直グ日後ニナル、ソンナコトハイカヌ
(淸岡委員)
ドウ云フ譯ヤラ分ラヌ、賣買契約カラ出來ヌ、翌日ナラ出來ルト云フノハ困ルカラ日後デモ出來ヌトシテ仕舞ツテハ如何カ
(南部委員)
ソウスレバ賣買ヲ刪ツテ契約ヲ以テトシナケレバナラヌ
(尾崎委員)
入レテ宜カロウ
(箕作委員)
入レルコトニシマシヨウ、判然トシテ宜シイ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第七百三十五條朗讀ス
第七百三十五條 賣買ノ日ニ於ケル不動產ノ價額ハ證書及ヒ證人又ハ鑑定人ヲ以テ之ヲ證ス
當事者ハ各常ニ一人ノ鑑定人ヲ選任スルコトヲ請求スルコトヲ得
總テノ場合ニ於テ裁判所ハ職權ヲ以テ鑑定人一人ヲ選任スルコトヲ要ス
右ノ外後ノ第五編及ヒ民事訴訟法ニ定メタル鑑定ノ一般ノ規則ヲ適用ス〔第千六百七十七條乃至第千六百八十條〕
(修正案) 第二項「各」ノ字ヲ「當事者」ノ上ニ換置ス
(栗塚報吿委員)
「各當事者」ト致シマシタ
(南部委員)
各當事者ノ一人ト云コトニナリハセヌカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(南部委員)
ソレダカラ各常ニデハナイカ
(尾崎委員)
職權ヲ以テ鑑定人ヲ選ブニ一人デモ二人デモ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
双方カラ出シマス
(箕作委員)
一體二項三項ハ刪テ宜シイ
(南部委員)
其方ガ宜シイ、後ニ訴訟法ガ來タトキ困リマスカラ
(委員長)
訴訟法ヘ入レルト困ルカラ此事ト云フテ御ヤリナサイ訴訟法ヘ入レタラ立テ刪ルガ宜シイ、獨乙流義デ來タノハ訴訟法デモ遣レヌガ、佛蘭西流義ノハ遣レルカラ
(栗塚報吿委員)
訴訟法ノ方ヘ申シマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正說ニ決ス
第七百三十六條朗讀ス
第七百三十六條 折損ノ爲メノ銷除ハ第三百七十二條第一項ニ從ヒ爲シタル公示ニ先タチ證書ヲ登記シタル物權ノ轉得者ニ對シ之ヲ行フコトヲ得ス〔伊民第千三百八條〕
(栗塚報吿委員)
賣ツテ登記サヘスレバ宜シイノデス、安ク買ヘバ人ガ折損ヲ云フテ來ルカラ賣ツテ仕舞ヘバ宜シイ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第七百三十七條朗讀ス
第七百三十七條 若シ買主カ第五百七十六條ヲ以テ許與セラレタル正當代價ヲ補足スルノ權能ヲ行ハント欲スルトキハ請求ノ日ヨリノ補足額ノ利息ヲ負擔ス〔第千六百八十一條第千六百八十二條第一項〕
若シ買主カ物ヲ返還スルコトヲ欲スルトキハ其辨濟シタル代價ヲ請求後ノ利ト共ニ請求後ニ收取シタル果實ヲ返還ス〔第千六百八十二條第二項〕
此終ノ場合ニ於テ買主ハ代價ノ皆濟ヲ受クルマテ占有ヲ留置スルコトヲ得
(栗塚報吿委員)
二項ノ「利息ト共ニ回收シ且請求後ニ」ト翻譯デ改メマス
(箕作委員)
五百七十六條デ御論ガアリマシタネ
(栗塚報吿委員)
アリマシタガ、先キヘ往ツテ折損ノコトガアルカラト云フコトデ御座イマシタ
(村田委員)
末項ハ代價バカリデハナイ、利息モナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
之ハ翻譯ノ誤リデ御座イマス
(箕作委員)
後ニ「ボアソナード」ガ入レテ來タノダ
(栗塚報吿委員)
「代價及ヒ其利息ノ皆濟」ト致シマス、是レ迄デ十五條デ御座イマスカ今一條願ヒマス
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項「共ニ」ノ下ヘ「回收シ且」ノ四字ト第三項「代價」ノ下ヘ「及ヒ其利息」ノ五字トヲ翻譯ニテ加フ
第七百三十八條朗讀ス
第七百三十八條 買戻權能ノ可分又ハ不可分ノ行用ニ付キ第七百二十八條乃至第七百三十二條ニ定メタル規則ハ折損ノ爲メノ銷除ニ之ヲ適用ス〔第千六百八十五條〕
(栗塚報吿委員)
是レ迄デ御座イマス
于時午後第三時三十分閉會