法律取調委員会 民法草案議事筆記 第41回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案第二編人權ノ部議事筆記 , 自 第三十八回 至 第四十一回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案財產編人權之部第四十一回議事筆記
自第五百八十六條至第六百條第七百四十一條第七百四十二條第五百五十九條第五百六十條第五百六十五條修正ノ議事
明治二十一年三月二十七日午前第九時二十分開會
(委員長)
ヤリマシヨウ
第五百八十六條朗讀ス
附錄 天然義務
第五百八十六條 天然義務ノ履行ハ訴ノ方法ニ因テモ又相殺ノ抗辯ニ因テモ之ヲ要求スルコトヲ得ス其履行ハ債務者ノ方ニ在テ任意ナルコトヲ要シ其履行ハ法律ニ因テ債務者ノ善意ト理心トニ委セラル
又天然義務ハ第三者ニ因リ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ辨償セラルヽコトヲ得
(修正案) 第一項「要シ」ノ下左ノ如ク修正ス法律ハ之ヲ債務者ノ善意ト理心トニ委ス
(栗塚報吿委員)
第一項ヲ修正致シマシタ、「理心」ト云フノハ語ヲ爲サヌデハナイカト云フノデ三島サンニモ御出席ヲ願ヒマシテ色々議シマシタガ遂ニ理心ニ歸シテ仕舞ヒマシタガ、之ハ識別スル力ト云フコトデ、辨別ノ力ガアツテ之ハシナケレバナラヌト云フ心デ御座イマス、初メ「義心」トモヤツテ見マシタガ矢張リイケマセン
(尾崎委員)
「良心」デハイケナイカ
(鶴田委員)
「良心」ト云フト「善意」ニ近クナル
(栗塚報吿委員)
之デ穩カナラヌトアレバ翻譯ト相談シテ良イ字ヲ造ルヨリ外ニ仕方ガナイ
(淸岡委員)
「理心」ト云フ字ガアリマスカ
(南部委員)
「心理」ト云フコトハアルガ、「理心」ト云フ字ハアリマセン
(淸岡委員)
「道心」ト云フ字ハアル
(鶴田委員)
「道心」ノ方ガ宜カロウ
(南部委員)
「理性」トモ譯シマシタ
(栗塚報吿委員)
「道心」ト改メ度イト相談シテヤリマシヨウ
(南部委員)
「道心」デハ少ク廣過ギル
(淸岡委員)
「理心」ト云テモドノ位廣イカ知レヌ
(栗塚報吿委員)
元來私ハ返ヘスノガ筋デアルカラ返ヘサナケレバナラヌト云フコトデス
(尾崎委員)
其レハ卽チ良心デス
(栗塚報吿委員)
良心トナリマスト、法律デシロト云ハヌコトデモ良心デハスルト云フコト、卽チ乞食ヲ憐レンデヤレト云フコトハ一モアリマセン、子供ノ中ニ借リテ銷除訴權ヲ行ヒ向ウデハドウシテモヤルコトハ出來ヌガ、自分ノ心デヤラナケレバ濟マヌト云フノデ徳義心カラ返ヘスト云フノデ御座イマス
(尾崎委員)
頓ト違イハナイ、道徳上ト天然ノ義務トハ近イモノデ
(栗塚報吿委員)
御尤モデ御座イマス天然ノ義務トハ云フモノノ道徳トハ違イマス
(尾崎委員)
元トノ譯ニモ「良心」トシテアル
(委員長)
尙ホ翻譯局ヘ相談シテ貰オウ
(栗塚報吿委員)
此修正ハ宜シウ御座イマスカ
(鶴田委員)
宜シウ御座イマス次ギノ「又ハ」ハ債務者ノ名ヲ以テ又ハ第三者ノ名ヲ以テモ出來ルト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
二項ハ「辨償スルコトヲ得」デ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「之ヲ辨償スルコトヲ得」デ宜シウ御座イマス
(南部委員)
此處ハソウハ云ヘマイ
(鶴田委員)
天然ノ義務ダカラ自然ニ辨償サセルカ
(松岡委員)
天然義務ノ履行ハ履行スル人ガ善意デシタラ惡意ハナイ、法文ニ何々ヲ要スト云フト法律ガ要スル樣ニナル、又其下デハ法律ガ善意ト理心トニ委ストアル
(鶴田委員)
天然義務ノ履行ハ債務者ノ方ニ在テ任意ナルヲ要ス
(尾崎委員)
他人ニ誘ハレルノデナイ善意ト理心トニ出ルノダロウ
(栗塚報吿委員)
善意ト理心ハ九十一條カラ先キヲ見ルト分リマス
(鶴田委員)
任意ト云フ迄ハ返ヘスト返ヘサヌ迄入テ居ル善意ト理心ハ害ス方ニナツテ居ル法律ニ依テ返ヘサヌト云フノハ惡意ダ
(南部委員)
ソウデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條第一項「理心」ノ二字ハ穩當ナラザルヲ以テ尙ホ報吿委員ト翻譯局ト相談ヲスルコトトシ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第五百八十七條朗讀ス
第五百八十七條 債務者自身又ハ第三者カ任意ニテ辨濟シ又ハ供給シタルモノハ不當ノ辨濟シタリトシテ之ヲ還償セシムルコトヲ得ス〔第千二百三十五條第二項〕
天然債務ヲ辨償スル意思ノ證カ事實ノ狀況ヨリ生スルニ於テハ辨濟ノ原由ヲ明示スルコトヲ必要トセス
(栗塚報吿委員)
「不當ノ」ハ「不當ニ」ノ誤リデ御座イマス
(鶴田委員)
一遍返ヘシテ取戻スコトハ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
之丈ケガ天然義務ノ必要ナ所デス
(鶴田委員)
此證據ハ
(栗塚報吿委員)
天然義務ヲ盡ソウト云フ意思ガ事實カラ現ハレテ居レバ辨濟ノ理由ガ斯樣ダト云フニハ及バヌ
(尾崎委員)
元トノコトヲ證明センデモ宜シイト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
債務者ガ天然債務ヲ辨償スル意思ノ情ハ實際物ヲヤツタカ何カノ事實ハ情ニ於テ現ハレテ必ズ昔ノ借金ノ爲メニヤルト云フコトハ云ハナイガ、事實ガ其處ニ至テ居レバ三十年前ニ貴君ニ拜借シタ金ヲ上ゲマスト明示シナイデ宜シイト云フノデハナイガ
(栗塚報吿委員)
前項カラ推シテ來レバ報吿ト云フ方ガ宜シウ御座イマス
(尾崎委員)
其意デナケレバ味ガナイ
(鶴田委員)
之ハ證據立テナケレバナラヌトキハ債權者ガ證據立テナケレバナラヌ、其レガ及バヌト云フト裁判官ガ見ルバカリデ何カ證據ニナリマスカ
(尾崎委員)
卽チ裁判官ガ見ル
(栗塚報吿委員)
私ニ今日某ト云フ者ガ拂ツテ參リマシタノハ昔ノ義務デアツタカラ拂ツテ參ツタノデ御座イマスト云フコトガ分レバ宜シイ
(南部委員)
其代ハリ事實ノ狀況カラ見ヘナイトキハ原由ヲ明示シナケレバナリマセン
(委員長)
債務者ト見ナイデモ債權者ト見テモ宜シイ
(委員長)
久シク御恩ニナツテ居リマシタト云フコトヲ云テ金ヲ持テ來レバ其レナリデ濟ンデ居ル
(委員長)
其レデモ宜シイ何レカラ立テモ同ジニナル
(栗塚報吿委員)
註ニモ申シテアリマスガ、或ル人ガ金ヲ返ヘシニ來タトキハ元來天然義務デ成立テ居ルカ居ラヌカト云フ問題ヲ債權者ガ知テ居ルカ居ラヌカト債務者ガ返ヘス意思ガアルカ無イカトハ見ナケレバナラヌ第一ニ天然義務ガアルカ無イカハ法律ノ問題第二ハ事實ノ問題デ、事實ノ問題ハ裁判官ガ見レバ分ル法律上ノ問題ハ五百九十一條カラ五百九十六條迄云テ居ル、天然義務ハ斯樣ナトキニ在ルゾヨト云テ居ルゾヨト云テ居ルノデス
(淸岡委員)
證據ハ債務者ガ擧ゲルノダロウ
(栗塚報吿委員)
債務者ガ證據ヲ擧ゲナケレバナラヌ
(淸岡委員)
天然義務ノ債務者ガ取戻サレル場合ニハ、之ハ元トコウ云フ譯ノ債權ガアツテ私ガ受取リマシタト云フコトヲ明示スル
(栗塚報吿委員)
事實カラ證據ガ出レバ其原由ヲ云フニ及バス
(南部委員)
事實ノ狀況カラ出ルト云フノハ原吿カラ之ハ不當ニ返ヘシマシタト云フテ債務者カラ取戻シヲスルデシヨウ、其場合ニ天然義務ヲ辨償スルト云フノデナクシテ不當ニ渡シタカラ取返ヘスト云フコトハ出來ナイ、ケレドモ裁判官ガ證據ヲ調ベテ意思ト云フモノガ事實上カラ現ハレタルトキハ別ニ被吿ニ於テ辨濟ノ原由ヲ明示スルニ及バヌ
(淸岡委員)
前項デ取戻スコトガ出來ヌト定メテアル
(南部委員)
天然義務ノ債務ヲ辨償シタカ又ハ不當ノ物ヲ與ヘタカト云フコトハ分リマセンカラ
(鶴田委員)
分ラセルコトヲ此處デ云フタ丈ケデ、其證ト云フモノハ事實ノ狀況カラ見ヘル、其レデ見ヘサヘスレバ前ヲ確カメル爲メニ云フタモノト見テモ宜シイ
(南部委員)
理窟ハ同ジニナル
(淸岡委員)
理窟ハ同ジニナルガ、勝手ニヤツテハイケマイ、取戻シヲ訴ヘラレタ元トノ債權ノ原由ヲ明示スルコトヲ必要トスル
(栗塚報吿委員)
詰リ事實丈ケデ定メテ宜シイ
(鶴田委員)
其證ハ裁判官ガ見ルト云フコトサヘ定メテ置ケバ宜シイ
(松岡委員)
初項ニハ天然義務ト云フコトハナイノデスカ
(栗塚報吿委員)
第一項ニハアリマセン
(松岡委員)
天然義務ノ章ダカラ疑ヒモアルマイケレドモ
(村田委員)
前條カラ受ケテ來テ居ル
(松岡委員)
前項ニナクテ却テ二項ニ在ルカラ「第三者カ天然義務ヲ」ト云タラ宜カロウ
(南部委員)
天然義務ト云フト云フ迄モナイコトニナル、任意ニテ辨濟シトアルカラ前ノ天然義務ト云フコトハ自然ニ分テ居ル
(松岡委員)
ソウスレバ二項モ入ラヌ
(南部委員)
之ハ二項ニ疑點ガアルカラ天然義務ガ入リマス
(栗塚報吿委員)
不當ニ辨濟シタルト云フノハ佛文ニ書クト云ヘナクナリマス
(鶴田委員)
「不當」ト云フノガ古術ダネ
(栗塚報吿委員)
任意デ金ヲ拂ツタ者ガアル不當ダト云ヘルシ、天然義務ト云ヘバ不當トハ云ヘナイ
(松岡委員)
ソウスルト任意デ辨濟シタルハ廣ク掛ラナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
貴君ノ樣ニスルト此條ガ書ケナイ、不當ノ字ハ入ラナクナリマス
(松岡委員)
順ニ讀ンデ見ルト、上ノ方デハ天然義務ハ債務者ノ善意ヲ要ス、其レカラ善意ニテ辨濟スルト云フノハ何ヲ辨濟シタルカ一般ノ債務者ガ任意ニテ一般ニ義務ヲシタノハソウデナイ、天然義務ヲ任意デ辨濟スレバ法律カラ責メタノデナイ、自分デ任意デスレバ不當ナリト云テ取返ヘスコトハ出來ヌ、言葉ノ順カラ云フト天然義務ヲ善意デ辨濟シタルトキハ不當ナリト云テ取戻スコトハ出來ヌ、其證ガ發覺スレバ如何ト云フノガ順ダロウト思フ
(栗塚報吿委員)
任意ニテ辨濟シタルハ天然義務ト御覽ニナレバ宜シイ
(松岡委員)
任意ノ辨濟ト云フコトハ天然義務ニ限ツタト云フコトハ云ヘマイ
(栗塚報吿委員)
云ヘマセン
(南部委員)
天然義務ト云フ字ヲ入レヌ方ガ味ガアル樣ダ
(尾崎委員)
宜シカロウ
(松岡委員)
原案ニナイカラ君逹ハソウ云フガ若シ原案ニ在ルノヲ刪ルト云タラ嫌忌ガルダロウ
(淸岡委員)
二項ガ分ラヌ、訴訟ニナツテ抗辯ヲ云テ居ルトキノ樣ダ
(栗塚報吿委員)
私ガ南部サンニ任意デ金ヲ拂ツタトキハ子供ノトキニ斯樣ナコトガアツテ借リタノデ御座イマスト云ヘバ辨濟スル理由ヲ云フニ及バヌ
(淸岡委員)
ソウ云フ理窟ニナルカ知レヌガ、其レ迄云フノデハナイト思フ、之ハ如何ナル譯デ御返ヘシスルト云フニハ及バズト云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
喧嘩ニナツテ一人ガ取戻サントスルトキデス
(淸岡委員)
喧嘩ニナツタトキ斯樣ナ拂ヒ方ヲシテ居ルニ因テ原由ノ明示モナクシテ拂テアル物ヲ取返ヘシニ往キタルトキニ元ト受取ツタ債權者、今ノ被吿ハ辨濟スルニ及バヌト云フコトハ後ニ生ジテ來ルダロウ
(栗塚報吿委員)
其コトデス
(淸岡委員)
此處デハ辨濟ノ理由ヲ明示シテ返ヘサズトモ宜シイ
(南部委員)
返ヘサンデモ宜シイ
(淸岡委員)
貴君ニ天然義務ガアツテ御返ヘシ申スト云フ理由ガアツテ返ヘセバ明示スルニ及バヌ
(栗塚報吿委員)
法律ハ極度ヲ見テ居リマスカラ
(淸岡委員)
取戻シノトキニ證據立テヲシナケレバナラヌト云テモ出來ル話シデナイト云フコトガ後ニ生ジテ來ル
(委員長)
先キヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百八十八條朗讀ス
第五百八十八條 任意ノ履行ナキトキハ天然義務ハ債務者ノ明確ナル認知、第三者ニ因レル保證、債務者若クハ第三者ノ方ニ於ケル更改又ハ動產質若クハ抵當ノ付與ノ目的タルコトヲ得
此諸種ノ場合ニ於テ認知セラレ更改セラレ又ハ擔保セラレタル天然義務ハ通常ナル法定ノ効力ヲ生ス〔第二千十二條〕
(鶴田委員)
顛倒シテ通常ノ義務ニナルノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(南部委員)
保證ノ下ヘ點ヲ御切リニナルト分リマス、認知ノ目的タルコトヲ得、保證ノ目的タルコトヲ得、デス
(委員長)
「任意ノ履行ナキトキハ」ト云フノハ之デハ註ニ在ル丈ケノコトハ盡キテ居ラヌ樣ダ
(栗塚報吿委員)
履行ノ缺無ニ於テトアリマス
(尾崎委員)
言葉ガ足ラヌ樣ダ、履行ハナイケレドモ斯樣ニシタ場合ニハト云フノダカラ
(鶴田委員)
履行ナキトモト云フノダロウ
(南部委員)
履行ヲ除クノ外ト云フノダ
(尾崎委員)
「履行ナキモ」トシタラ宜カロウ
(委員長)
其レナラ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソウ致シマシヨウ
(委員長)
「ナキモ」トシ樣
(南部委員)
元トノハ「ナキニ於テハ」トアル
(委員長)
「ナキニ於テハ」ト云フト云ヒ過ル
(南部委員)
ナクテモ之レ々々ノ目的ナルコトガ出來ル、アレバ天然義務ガ何ノ目的ニナルト云フコトニ聞ヘハセヌカ
(栗塚報吿委員)
履行スルコトモアレバ履行セズニ斯樣ナ目的ニスルコトモ出來ルト云フノデ御座イマスカラ
(委員長)
其レダカラ「ナキモ」デ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
二ツノ内一ツハ云フテ來タガ、又ト云フノデ御座イマス、其代ハリ其トキハ法定ノ効力ヲ生ズルゾヨ
(南部委員)
「ナキトキト雖モ」デハ如何デス
(栗塚報吿委員)
共レハ些ト烈シイ
(南部委員)
「ナキモ」デ宜カロウ
(村田委員)
又天然義務ハト云テ宜シイノデス
(松岡委員)
「ナキモ」デ宜カロウ
(鶴田委員)
之モ嫌忌ダト云テハ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
自由任意ナルコトヲ要スト云フノデ御座イマス
(委員長)
「ナキモ」トシマシヨウ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西ノ法律ニ「天然」ト云フ字ガ怖々ニケ所バカリ使テアリマス、縱令幼年ノトキ金ヲ借リテ後ニ返ヘスト云ヘバ保證人ニ立ツコトガ出來ルト云テ天然ト云フコトハ省イテアル位デ、其レヲ先生ガ安心シテ書イタカラ長クナツタノデシヨウ
(松岡委員)
憖イ仕掛ケルト病付キニナルカラ先ヅ々々ト云フ樣ニナル
(尾崎委員)
天然義務ニ關シテ拂フトキハ第三者ニ私ノ弟ガ負債ヲシテ居ルカラ我ガ拂テヤラナケレバナラヌト云フノガ多イ
(松岡委員)
其レハ千圓一度ニハヤレヌガ三百圓モヤツテ置コウト云フト跡ハ天然義務ニナルカラ三百ヤルコトハヤレル樣ニナル
(尾崎委員)
矢張リ之ハ良イコトデス
(淸岡委員)
大體上カラ云フト甚ダ不同意ダガ、云フタ處ガ仕方ガナイ
(委員長)
之ガナイト云フノモ困ル矢張リ求メルコトハ出來ナケレバナラヌ、其レハ決定次第デ法律デハ求メヌト云フノハ酷イ
(淸岡委員)
社會ノ徳義心ニ任セテ宜シイ法律デコウ云フモノヲ立テ置クノハ政略上宜シクナイ
(委員長)
是非ソウシロト云フノデハナイ、金ヲヤツタ者ハ正當ニ辨濟シタモノト看做サレルト云フノダ
(淸岡委員)
徳義上デヤルコトト法律上デヤルコトト隔テテ置カヌト宜クナイ
(栗塚報吿委員)
任意デ履行シタ以上ニハ取戻セヌゾヨト云フノデアリマスカラ道徳ヲ責ムルナレバ任意デ是非ヤレト云フト道徳ノ區域ニ入リマスガ、任意デヤレバ取戻シ訴權ヲ與ヘヌゾヨ
(委員長)
弟ガ借金ヲシタルヲ兄ガ拂ツタトキ其レハ某ノ恩惠デ兄ノ辨濟ト思ハヌト云フ樣デハ宜クナイカラ法律上カラ道徳上ヲ保護シテヤラヌトイケヌト云フコトヲ「ボアソナード」ガ云フテ居リマスカラ道徳ト云フコトハ僧侶バカリガヤツテ屆カヌカラ法律上カラ助ケテヤラナケレバ良クナイ
(鶴田委員)
動產質抵當ト云フモノモ本人カラ取ルノダロウ
(南部委員)
本人デモ第三者デモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
債務者ノ名ヲ以テ自己ノ名ヲ以テ目的ト爲スコトヲ得デ御座イマス
(鶴田委員)
之モ任意ダ
(栗塚報吿委員)
總テ任意デス、其處ガ主眼ナノデス善意ト理心トノ意思デアリマスカラ
(鶴田委員)
ナツタ以上ト云テモ矢張リ之ハ無能力者ノ如キ者ハ幾ラ質ニ取テモ無能力ダロウ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、其レカラ先キヘ往テ天然義務ニナレル
(鶴田委員)
詰リ法定ニ換ヘルト云テモ無能力ヲ持テ居ル間ハ換ヘラレヌ
(松岡委員)
一ト口ニ云ヘバ天然義務ハ相手方ノ人ガ天然義務ガアルノデ双方ニ法定ノ權利ハナイ、向ウニ天然ノ權利ガナケレバ恩惠デ卽チ乞食ニ物ヲヤルノハ恩惠ダガ、之ハ天然カラ云ヘバ向ウモ貸シタニ違イナシ、此方モ借リタニ違イナイト云フノダ
(南部委員)
恩惠ナレバ道徳ニナル
(栗塚報吿委員)
併シ社會黨ナドデハ財產配分法デ云ヘバソウ云フカ知レマセンガ小野九太夫ナドモ御金分配ノ權利ヲ持テ居ル
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「履行ナキトキハ」ヲ「履行ナキモ」ト改ム
第五百八十九條朗讀ス
第五百八十九條 第三者カ債務者ノ代理ナクシテ天然義務ノ履行、更改又ハ擔保ヲ爲シタルトキハ債務者ハ償還ニ付テハ天然義務ノミヲ負擔ス
(松岡委員)
之ハドウデモ良イト云フノカ
(鶴田委員)
債務者ノ代理ナクシテト云フノハ
(栗塚報吿委員)
兄ガ弟ノ代理デナク、弟ノ借リテ居ル金ヲ返ヘシタルトキハ弟ハ其償還ニ付テハ天然義務ノミヲ負擔シテ居ル
(鶴田委員)
弟ガ誰ニ對シテデスカ
(栗塚報吿委員)
兄ニ對シテデス
(鶴田委員)
無法ナ奴ダ
(栗塚報吿委員)
天然義務ガアルト云フノデスカラ
(南部委員)
弟ガ認メレバ復タ行キマス
(委員長)
「代理ナクシテ」ト云フノハ可笑シイ
(鶴田委員)
「代理ニアラスシテ」ト云タラ宜カロウ
(委員長)
代理ノ委任ガナクシテト云フノダ
(南部委員)
四百七十五條ニ「代理ニアラスシテ」トアル
(委員長)
「アラスシテ」ト修正シ樣
(松岡委員)
舎弟ガ吉原ヘ往テ使ツタ金ヲ兄ガ拂ツテ良イカネ
(栗塚報吿委員)
宜シウ御座イマス
(鶴田委員)
揚代金ナドヲ天然義務ニサレテハ取レヤシナイ
(尾崎委員)
丁年ニ至ル迄頻リニ遊ビニヤツテ置ケバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
併シ案外二十一歳以上ト見セテ居タカ知レマセン
(委員長)
宜シケレバ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
「代理ナクシテ」ヲ「代理ニアラスシテ」ト改ム
第五百九十條朗讀ス
第五百九十條 天然義務ノ任意履行其認知又ハ其擔保ハ移付シ又ハ義務ヲ負擔スルノ能力アル人ニ出ツルニアラサレハ有効ナラス
(修正案) 認知ノ上ノ「其」ノ一字竝ニ擔保ノ上ノ「其」ノ一字ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
履行ノ下ヘ翻譯デ「更改」ト入レマス、其レカラ報吿委員デ「其」ト云フ字ヲ二ツ刪リマシタ
(松岡委員)
幼年者中ニヤツテ置イテ成年ニナツテ、其コト昨日御返ヘシシタガ今日ハ成年者デ御座イマスト云フ
(鶴田委員)
之ハ抵當モ入ラナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
アレハ擔保ニ入リマス
(委員長)
八十九條ニハ任意ト云フコトハナイネ
(栗塚報吿委員)
併シ第三者ガ認知スルト云フコトハ出來マスマイ、弟ガ借金シタノヲ弟ガ自ラ認メレバ宜シイガ、兄ガ認メルト云フコトハ出來マスマイ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決シ其他翻譯局ニテ履行ノ下ニ「更改」ノ二字ヲ挿入ス
第五百九十一條朗讀ス
第五百九十一條 天然義務ハ法定ノ承諾ヲ排除スル錯誤ノ爲メ目的ノ指定ノ缺無若クハ不足ノ爲メ又ハ要セラレタル公式ノ缺無ノ爲メ初ヨリ無効ナル合意ヨリ生スルコトヲ得
然レトモ方式ノ缺無ノ爲メ無効ナル贈與ニ關シテハ贈與者自ラ天然義務ノ履行又ハ認知ヲ爲スコトヲ得ス其相續人又ハ承權人ノミ之ヲ爲スコトヲ得〔第千三百三十九條、第千三百四十條〕
此條例ハ方式上無効ナル遺囑ヲ遺シタル者ノ相續人ニ之ヲ適用ス
(栗塚報吿委員)
「錯誤ノ爲メ」ノ下ヘ點ヲ入レルト能クハアリマス、法定ノ承諾ヲ排除スル爲メノトキヘハ幼年者モ入テ居リマス
(尾崎委員)
相續人ヲ害スルモノナラ縱令相續人ガシテモ、其下ノ相續人ヲ害スル
(南部委員)
處ガ相續人ヲ害スルノハ贈與ハ直接ニナツテ害スルガ、其以下ノ相續人ニナレバ自分ノ財產ヲ保護スルモ同ジコトニナル
(尾崎委員)
初メモ同ジコトニナル
(南部委員)
初メハ相續人ガ定マツテ居ル
(松岡委員)
跡ノ相續人ガ出來ルドコロデハナイ、親父ニセザルガ宜シイト云ヒ度イ位ダ
(尾崎委員)
私ハ一切ヤレヌモノニシタ方ガ宜カロウト思フ親ニハ天然義務ヲ行ハセヌト云フノガ旨意ダカラ
(松岡委員)
之モ古法ノ殘リ物ダロウ世ノ中ガ進メバ誰モ出來ル樣ニナル
(南部委員)
古法ノコトヲ殘シテ置クガ宜シイ一々自由々々トナツテ仕舞フノハ良クナイ
(栗塚報吿委員)
親父ガ馬鹿デ未亡人ノ能力デ皆ヤツテ仕舞フト云フ樣デハ困ル
(尾崎委員)
財產ヲ保護スル點デヤラセヌ樣ニスルノモ宜カロウ
(鶴田委員)
承諾ヲ排除スル錯誤ト云フト承諾ハシテ居ルケレドモ法ニ適ハナイト云フコトカ
(栗塚報吿委員)
承諾ヲ排除スル錯誤ハ種々アリマス
(鶴田委員)
法定ノ承諾ヲ錯誤ノ爲ニ排除スルカ
(栗塚報吿委員)
承諾ガアツテモ無クシテ仕舞フ
(鶴田委員)
錯誤ヲ理由トシテ排除スルノダ
(栗塚報吿委員)
詰リ無効ナル合意デ宜シイノデス
(淸岡委員)
爲メ々々ト云テ來テ初メヨリ無効ナル合意ヨリ生ズルコトヲ得ト云フノハ文章ガ可笑シイ
(栗塚報吿委員)
娼誤デ初メカラ無効、不足デ初メカラ無効、缺無デ初メカラ無効ナリト云フノデ御座イマス
(松岡委員)
娼妓ト約束ヲシタノデモ認知スレバ法定ニナルカト云フコトニナル言ヒ詰メレバ向ウニ天然ノ權利ガアツテ法定ノ力ヲ變ヘテ居ルモノデナイト生ジサセヌ樣ダ
(委員長)
合意ヨリ生ズルト云フト合意ヨリ天然義務ガ生ズル樣ニナル
(栗塚報吿委員)
ソウデ御座イマス、元ト間違ツタモノデモ天然義務ガ生ズルガ當リ前ノ義務ハ生ジマセン
(委員長)
私ノ云フノハ初メカラ無効ナル合意ニシテモ生ズルコトヲ得ルト云フ意味ダロウト思フ、天然義務ガ無効ノ合意カラ生ジ出ルト天然義務ハ正當ノ義務カラ產ミ出サヌ
(栗塚報吿委員)
當リ前ノモノハ天然義務トハ申シマセン
(委員長)
當リ前ノモノヲ天然義務ト云ハナケレバナラヌ、人ノ任意ナレバ天然義務
(栗塚報吿委員)
ソウデハナイノデス天然義務ハ人カラ強テヤラセルコトノ出來ナイ法律カラ見レバ缺ケテ居ルモノ
(鶴田委員)
法律上カラ見レバ過怠ダ
(委員長)
其レナラ未ダ良イガ、私ガ此本ヲ害スルト天然義務ノ幅ガ缺ケタモノデナケレバ幅ニナレヌ
(栗塚報吿委員)
九十一條カラ九十六條迄ハ其レデス、出ル源ヲ云テ居ルノデス
(委員長)
缺ケタ處ノ幅カラモ生ジ出ルナラ宜シイ
(栗塚報吿委員)
缺ケナイ幅カラハ出ナイ
(委員長)
缺ケナイ幅デモ出來ルト云ハヌト天然義務ハ捻レタルモノバカリニナルカラ其レハ良クナイ
(栗塚報吿委員)
法律カラハ生レス
(委員長)
法律カラ生レヌナレバ宜シイガ、目的指定ノ缺無或ハ不足ト云フコトガアル、コウ云フモノハ法定ノモノモ法定デナイモノモアル
(南部委員)
法定デナイモノハ如何ナルモノダロウ
(委員長)
私ガ良心デ人ノ借財ヲ拂ツテヤルトカ云フコトハ隨意デ、理心デコウ云フモノカラ生レ出ル
(南部委員)
不當ノ借財ト云フモノガアリマシヨウ、其借財ガ天然義務デナク法定義務ノ借財義務ナレバ法定義務ニナリマス
(栗塚報吿委員)
元ガ拈クレテ裁判所ヘ訴ヘルコトノ出來ヌモノヲ天然義務ト稱シマス
(委員長)
裁判所ヘ訴ヘラレナイモノデモ、其モノガ必ラズシモ不當ノモノデアルト明言スルコトハ出來マイ
(栗塚報吿委員)
母親ガ當リ前ニ子ヲ產メバ裁判所ヘ採上ゲルガ民法デ產ムコトノ出來ナイ母親ガアル
(鶴田委員)
之ハ私生ノ子ダ
(栗塚報吿委員)
出ガ私生ナノデス
(委員長)
出ガ私生デアツテモ法律ニ因テ居ラナケレバ其義務ガ法律ニ依ラヌカラト云テモ義務ハ其法律ニ依ルモノカラ生レルト云フコトガ云ヘルカ知ラヌ
(鶴田委員)
一體法定デ切テ仕舞ツタカラ據ナク天然義務ヲ作ラナケレバナラヌ樣ニナツタ
(栗塚報吿委員)
詰リ法律ガ制裁ヲ付ケテ居ラヌ義務ト云ヘバ宜シイ
(松岡委員)
法定ノ義務ト道徳ノ方デアルモノトアル之ハ價ノ倍ニ賣ルモノト見テ法律ト道徳トノ中間ニ在ル間ノ子ト見ナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
初メ有効ナル合意ナレバ天然デハナイ、法定ノ義務ガ生レル
(鶴田委員)
内所ノ母カラ生レタノダ
(淸岡委員)
私生ノ子バカリナレバ宜シイガ、飯炊キニ子ガ出來タトキハドウスル、子守ニ子ガ出來タトキハドウスルト云フコトハ法律ニ云フノハ宜シクナイ
(委員長)
必ラズシモ生ズルト云フコトハナイケレドモ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、生ゼヌノハ次ギノ條デス
(鶴田委員)
私ノ國デハ「下女相孕ミ候節ハ女子ハ一人扶持ヲヤル」ト云フコトガアル
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百九十二條朗讀ス
第五百九十二條 原由ノ缺無又ハ不法ノ原由ノ爲メ無効ナル合意ハ天然義務ヲ生スルコトヲ得ス公ノ秩序ノ爲メ契約ノ目的トスルコトヲ禁セラレタル物ヲ目的ト爲ス合意ニ付テモ亦同シ
(村田委員)
之ハ交換カラ出來テ居ル項ダ
(委員長)
原由ノ缺無ト目的思想ノ缺無ノ區別ハ
(南部委員)
原由ノ缺無ト目的ノ缺無ハ初メニ二ツアル原由デス
(栗塚報吿委員)
一般ノ合意ノ成立ニ就テハ左ノ三箇ノ條件ヲ必要トストアル彼ノ處分デス
(委員長)
各箇人ノ目的ガナケレバ思想ノ缺無ダネ
(栗塚報吿委員)
左樣
(委員長)
原由ノ缺無ハ
(南部委員)
博奕ノ金ナドハ原由ノ缺無デス
(鶴田委員)
借モ貸モナイノニ貸ノ證文ヲ取テ置クナドハ無原因ダネ
(南部委員)
ソウデス
(委員長)
空ダネ不適法ノモノハ無原因トナルノダネ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本案ハ原案ニ決ス
第五百九十三條朗讀ス
第五百九十三條 他人ノ所爲ノ約束及ヒ他人ノ利益ニ於ケル要約ニ關シ第三百四十三條及ヒ第三百四十四條ニ宣言シタル無効ハ諾約者ノ方ニ於ケル天然義務ノ作成ノ妨ト爲ラス
(修正案) 「宣言シ」ヲ「定ム」ト改ム
(松岡委員)
「生セス」ト云フノノ間ノ子ニナルノダナ
(鶴田委員)
「作成」ト云フノハ前ニ在リマスカ
(南部委員)
前ニ在リマス
(委員長)
約束ハ要約デモ諾約デモナイ双方ヲ云フノカ
(栗塚報吿委員)
諾約ノ方デス
(委員長)
「プロメス」ハ兩方ヲ云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
「プロメス」ハ諾約ニ使イ來テ居リマス、詰リ此約束ハ諾約トナリマス
(委員長)
諾約ト書キ來ツタノデハナイカ
(栗塚報吿委員)
諾約者ト云フ人ノ所ヘ使ツタノハアリマスガ、諾約ト云フコトハアリマセン
(委員長)
約束ト書イタトキハ諾約ノコトト思ヘバ良イノカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第五百九十四條朗讀ス
第五百九十四條 債務者カ不當ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ條例ニ依リ法律上義務ヲ負擔スルコトアルヘキ場合ノ外債務者ハ此名義ニテ天然義務ヲ負擔シタリト有効ニ自ラ認ムルコトヲ得〔第千九百六條〕
(鶴田委員)
此名義ト云フノハ前ノ三ツノ名義デスカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、不當ノ名義法定ノ名義又ハ法律上ノ條例カラ義務ヲ負擔スル
(鶴田委員)
之ハ云ハズトモ宜カロウ其外ニ此名義デ同ジ樣ニ負擔スルノダカラ
(淸岡委員)
之ハ二重ニナル
(栗塚報吿委員)
假令バ私ガ貴君ニ對シテ法定ノ損害ヲ蒙ラセテ裁判所ハ私ニ五百圓正金ヲ拂ヘト云フ、私ノ心中デハ五百圓デハ足リナイト思テ千圓上ゲル其レデ善意デ御座イマス
(松岡委員)
嘘バカリ云テ居ル
(淸岡委員)
ソウ云フ場合ハ裁判所デ五百圓ナラ五百圓、千圓ナラ千圓請求スルカラ其レデ濟ンデ仕舞フ、其上債權者ガ訴ヘルトキモ此名義デ天然ノ義務ヲ負擔スルノデハナイカ
(松岡委員)
親族間ノ養料ノ義務ニ付テハ一層擴張スル、其處ニ至ルト分リ良イ、親ガ十兩ヤレト云テモ中々能ク世話ヲシタカラ二十兩ヤルト云フ、栗塚サンノ細君ガ馬ニ乘リ子供ノ袖ヲ切テ其レヲ償テヤルノハ天然義務ダ
(淸岡委員)
其レハ天然義務デハナイ
(松岡委員)
法定デ三圓ヤルベキモノヲ栗塚サンガ澤山ヤツタノハ天然義務ダ
(南部委員)
利息ヲ澤山ヤラナケレバナラヌト思テヤツタノモ天然義務ダ
(鶴田委員)
之ハ云フテ置カンデモ良イデハナイカ、ヤルモノハヤツテ良イ、其レハ法律外ノコトダ
(南部委員)
取戻スコトハ出來ナイト云フ制裁ガアル
(鶴田委員)
其レハ人ニ物ヲヤレバ取戻スコトノ出來ヌコトハ分テ居ル
(栗塚報吿委員)
不當ノトキハ取戻スコトガ出來マス
(村田委員)
是丈ケハ附錄トシテ見ナケレバナラヌ
(鶴田委員)
成程附錄カ
(淸岡委員)
附錄デモ法律ノ効ヲ成ス附錄ハ是レ丈ケニ負ケテヤルト云フコトハナイカラ
(松岡委員)
價ハ同ジコトダ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百九十五條朗讀ス
第五百九十五條 天然ノ義務ハ法定義務ノ取消、廢罷又ハ解除カ裁判上ニテ宣吿セラレタル後存立スルコトヲ得
法定義務カ其他ノ法律上ノ消滅方法ニ因リ消滅シタル後ニ於テモ亦同シ
(村田委員)
尙ホ存立スト云フ樣ナ字ガアリマシタガ、其方ガ分リ良クハナイカ
(栗塚報吿委員)
存立スルト云フ字ハ尙ホ殘ルト云フ字デスカラ其意味デス
(淸岡委員)
法定ノ方デハ取消シトカ廢罷トカ云テ仕舞ツタケレドモ後ニ天然義務ヲ殘シテ置ケルト云フノデスカ
(南部委員)
又其レヲ認定スレバ復タ出來ル
(淸岡委員)
何ノ爲メニ置クカ分ラヌ
(南部委員)
之ヲ再ビ認知スルトキハ再ビ元トノ通リニナル實ニ果ガナイ
(鶴田委員)
其レガ天然ダカラ不可思議ナル處ダロウ
(淸岡委員)
道理上カラ云ヘバ珠玉ノ循環スル如ク道理カラ飛出スコトハ出來ナイガ、法律ニ書イテ置クノハ困ル
(南部委員)
此處バカリ御論ニナルノハ困リマスヨ、前ニ元トカラナイモノデモ天然義務ト認メテアルカラ
(委員長)
「アニラツシヨン」ト云フ字ハ初メニ「レシジヨン」ト云フ字ガアツタネ
(栗塚報吿委員)
取消シト同ジコトデス
(南部委員)
茲ハ取消シ卽チ銷除トヤラナカツタネ
(松岡委員)
金ノ代ハリニ物、物ノ代ハリニ金ガ銷除訴權無効訴權ト一條每ニナツテ居リ初メノ題ハ銷除卽チ無効トアツテ、今度ハ無効卽チ銷除トアリマス之ハ一定ニシテ貰ヒ度イ
(栗塚報吿委員)
括弧ニスル方ガ宜シカロウト思ヒマス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百九十六條朗讀ス
第五百九十六條 免責又ハ得取ノ時効ノ利益ヲ用ヒ被判事物ノ力ヲ得タル判決ノ利益ヲ受ケ又ハ自己ノ權利若クハ自己ノ免責ノ總テノ其他ノ推定若クハ直接ナル證ヲ援唱スルコトヲ得ヘキ者ハ尙ホ天然上ニテ義務ヲ負擔シタリト自ラ認ムルコトヲ得
(修正案) 「用ヒ」ヲ「用ヒタル者」ト「受ケ」ヲ「受ケタル者」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「時効ノ利益ヲ用ヒタル者」「判決ノ利益ヲ受ケタル者」ト修正致シマス
(松岡委員)
「被判事物」ハ「被判物」ト致シ度イ
(栗塚報吿委員)
其レハ翻譯ノ方デ改メテ貰フ積リデスガ未ダ決シマセン
(鶴田委員)
之ハ分ツテハ居ルガ前ガ見ヘヌ
(南部委員)
權利ノ總テニ直接ノ條デス
(鶴田委員)
利益ヲ用ヒタルト云フノハ
(栗塚報吿委員)
私ハ時効ガ來タカラ貴君ニ金ハ返ヘシマセント云タ人デス
(鶴田委員)
被判事物ノ力ヲ得タル者ハ
(栗塚報吿委員)
被判事物ニ判決ノ力ヲ得タ者デス
(尾崎委員)
自己ノ免責ノ總テノ其他ノト云フノハ困難デスネ
(南部委員)
其他ト云フノハ得取時効被判事物ノ外ノト云フノデス
(鶴田委員)
一ツハ取テモ宜カロウ免責ノ總テノ其他ノト云フハ面白クナイ「あしびきの山鳥の尾のひたりをの」ヨリモ甚イネ
(松岡委員)
「秋の田のかりほのいをの」ト云フノハ「の」ガ四ツガアル、之モ同ジコトデス
(委員長)
佛蘭西文ハ字ガ違ツテハ居ラヌカ
(栗塚報吿委員)
違ツテハ居リマセン
(鶴田委員)
其他ト云フノハ總テノ外デスカ
(栗塚報吿委員)
自己ノ權利ノ其他ノ總テノ推定時効ト外ノ推定若クハ直接ナル證デス、其他ノ推定ト云フノハ時効ヤ判決モ一ツノ推定デシヨウ
(鶴田委員)
時効ハ證據ガアツテスルノダロウ
(栗塚報吿委員)
時効モ推定デス
(鶴田委員)
其レハ推定デ御座イマスケレドモ判決ノ内ニ入テ居ル推定ダ
(栗塚報吿委員)
判決ト時効ノ外ノ推定デス
(鶴田委員)
「其他」ハ無クテモ分ル
(栗塚報吿委員)
其レハ無クテモ分ル
(鶴田委員)
無クテモ其外ト云フコトハ分ル
(栗塚報吿委員)
時効モ推定判決モ推定ダニ依テ此外ノ推定ゾヨト云フノデ御座イマス
(南部委員)
被判事物ノ力ニ判決ノ利益ノ力ヲ受ケタ者ハ判決ノ證據ヲ援唱スルコトガ出來ル者モ天然上ノ義務ヲ負擔シタリト認ルコトガ出來ルト云フノデス
(尾崎委員)
總テノハ何處ヘ掛リマス
(栗塚報吿委員)
推定ト時効ニ掛リマス
(南部委員)
總テノハナクテモ宜シイ
(鶴田委員)
ソウスルト權利免責ヨリ外ノト云フ樣ニナル
(松岡委員)
「利益ヲ受ケタル者又ハ其他」トシテハ如何ダロウ
(栗塚報吿委員)
ソウスルト推定ニナリマセン
(南部委員)
「又ハ其他ノ自己ノ權利」ト云タラ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
矢張リ其他ノ者ニシテ何々シタル者ハト云フ樣ニナル「自己ノ權利若クハ免責其他」デハイケマセンカ
(南部委員)
其レデモ宜シイ
(委員長)
「免責ニ付キ」ノ方ガ宜シイ
(南部委員)
付キト云フト前ノコトガ免責ニナラナクナリマスカラ
(栗塚報吿委員)
「免責ノ其他ノ推定」デハ如何デス
(鶴田委員)
其他ノハ時効ト判決ヲ持テ來タトハ見ヘナイ
(栗塚報吿委員)
又ハ其他ノ權利若クハ免責ノ總テノ推定デス
(南部委員)
「免責ノ推定」デ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
又ハ權利若クハ免責ノ總テノ其他ノ推定デハ如何デシヨウ
(委員長)
「又ハ其他自己ノ權利若クハ免責ノ推定」デハ如何ダロウ
(南部委員)
ソウスルト物ニ掛リハシマセンカ
(委員長)
其他ト云フノハ物ニ移リ樣ハナイ
(南部委員)
「前ニ受ケタル者」トアリマスカラ「又ハ其他ノ者」トナリマシヨウ「其他」ガ宜シイ
(委員長)
「其他ノ」デモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「又ハ其他ノ權利若クハ免責ノ推定若クハ」トナリマス
(委員長)
「自己ノ」ト云フ字ハ一ツ殘シテ置イタラ宜カロウ
(南部委員)
援唱スルト云フコトガアリマスカラ「自己ノ」ハ入リマスマイ
(委員長)
其レデハ修正致シマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
免責又ハ得取ノ時効ノ利益ヲ用ヒタル者被判事物ノ力ヲ得タル判決ノ利益ヲ受ケタル者又ハ其他ノ權利若クハ免責ノ推定若クハ直接ナル證ヲ援唱スルコトヲ得ヘキ者ハ尙ホ天然上ニテ義務ヲ負擔シタリト自ラ認ムルコトヲ得
于時零時五分休憩
午後第一時十五分開會
第五百九十七條朗讀ス
第五百九十七條 天然債權ノ法定ノ讓渡ハ破產者ノ債權者ノ方ヨリシ且寬恕約定ヲ以テ破產者ニ釋放セラレタル金額ニ付テノミ許サル〔佛商第六百四條〕
(栗塚報吿委員)
「寛恕約定」ハ「協諧契約」ト翻譯デ改メマス
(鶴田委員)
法定ノ讓渡ハ
(栗塚報吿委員)
天然債權デ讓渡ヲスルニハ協諧契約デ出來ル、其レハ破產者ノ債權者デ出來ル
(鶴田委員)
「且」ト云フ字ハ無クテモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
債權者ノ方カラ
(鶴田委員)
債權者ノ方カラデナケレバ外カラハ出來ナイ、之ハ協諧契約ノ場合丈ケデスネ、天然債權者ガ身代限ノ場合ニ出シテ効ガアルモノナラ釋放ニナルケレドモ素ヨリ天然債權ハ身代限ノ財團ニ向テ議論トスル力ガナイダロウ
(南部委員)
釋放シタ金額ノ債權ヲ讓渡スノデス、其釋放シタ分ハ其レ丈ケノ義務ガ殘ツテ居ル、向ウガ物權ヲ得ヨウト思ヘバ其金ヲ返ヘサナケレバナラヌ、返ヘセバ取ルト云フ權利ハ自然ニ出テ來ル
(尾崎委員)
今身代持直シタラ返ヘサナケレバナラヌト云フ義務ガ存シテ居ル、釋放ト云ヘバ許シテ仕舞ツタコトデ跡ニ義務ハ殘ラナイ
(南部委員)
釋放ト云フモノハ留保ガアツテ釋放スル
(尾崎委員)
ソウ云ハナケレバナラヌ
(南部委員)
身代持直シタトキハ此釋放ガ係ツテ行ク
(尾崎委員)
係ツテハ行クマイ
(南部委員)
係ツテ行ク、其レデ法定ノ讓渡ニナリマス
(尾崎委員)
最早取立テヌト云フノデハナカロウ、明白ニ之ハ御許シシマスト云フノデハナカロウ
(栗塚報吿委員)
「協諧契約ヲ以テ」デ御座イマス
(尾崎委員)
自然ニ釋放ニナツテ居ルト云フノカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(鶴田委員)
釋放シタ金額ハ天然義務トナツテ居ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
貴君ニ金ヲ借リテ居テ彌返ヘスコトガ出來ズ身代限ヲシテ各ニ五百圓ヅツ御返ヘシ申ス、ソウスルト貴君ハ栗塚ニ向テ釋放シタノハ五百圓アル、其五百圓ハ私ガ協諧契約ガアルカラ貴君ニ返ヘスニ及バズ併シ私ガ世ノ中ニ頭マヲ上ゲ樣ト思ヘバ其レヲ拂ハナケレバナリマセン
(尾崎委員)
之ハ天然義務トハ云ヘナイ
(鶴田委員)
是レ迄ノ天然義務トハ違ウ
(南部委員)
併シ復權ヲ得ヨウト思ハナケレバ構ハナイ
(尾崎委員)
ソウスルト天然義務ノ内ノ取除ケモノダ
(松岡委員)
天然義務モ全ク影形チノナイモノデハナイ權利者ノ方ニモ天然ノ權利ガアルノダ
(尾崎委員)
アルケレドモ無効ノ契約デモ取レルコトハ取レル
(松岡委員)
裁判所ニ訴ヘテ取レナイモノハ皆天然義務ダト云フ積リノ樣デス理論デハアルカ知レヌガ實際ハアルマイ
(栗塚報吿委員)
身代持直ソウト云フ元氣ノ奴ガアレバ良イノデス
(松岡委員)
無償名義デハ或ハ出來ルカ知レヌ
(尾崎委員)
身代ヲ持直シタトキニ權利ガ復セヌト云ヘバ義務ハ免カレヌモノダ
(松岡委員)
其レデ外ノモノト違ウノダ
(淸岡委員)
之ヲ天然義務ニ換ヘルノハ惡イ
(栗塚報吿委員)
詰リ相手カラ訴ヘルコトノ出來ナイ債務ヲ天然債務ト云フノデス
(鶴田委員)
今ノ出世證文ハ訴ヘルコトハ出來ヌカ
(松岡委員)
彼ハ法定義務デス議員ニナラズトモ構ハヌ、役人ニナラズトモ權ハヌト云ヘバ數萬圓ノ金ヲ積ソデ拂ハズトモ宜シイ
(南部委員)
返ヘソウト云フトキニナレバ我ガ讓受ケテ居ルト云フコトガ云ヘル
(鶴田委員)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ翻譯局ニテ「寛恕約定」ヲ「協諧契約」ト改メ他ハ原案ニ決ス
第五百九十八條朗讀ス
第五百九十八條 連帶又ハ不可分ノ性質ヲ有スル法定債務ニ換替シ又ハ之ヨリ後ニ遺存スル天然債務ハ連帶又ハ不可分タルコトヲ得
(栗塚報吿委員)
「換替」ハ五百九十一條デ御座リマス「之ヨリ後ニ遺存スル」ハ五百九十五條デ御座イマス
(松岡委員)
法定債務ト交替シタトモ云ハレルシ、外カラ來テ法定債務トナルト云フコトニモ讀メハセヌカ
(鶴田委員)
ドウモ讀メヌ
(村田委員)
元トガ不可分ナラ混同モ不可分ダト云フノダ
(淸岡委員)
遺存スルトキハ宜シイガ換替シタトキハ法定債務ニナル
(南部委員)
法定債務ニ換替スル天然債務カ
(鶴田委員)
連帶不可分ノ債務ハ變ツテモ矢張リ連帶ト不可分ノ債務ダト云フコトダ、其レヲバ法定債務ニ換ハルダノ、後ニ遺存スル抔ト云フカラ分ラヌ
(南部委員)
其レデハ換替スル又ハ遺存スルトシマスカ
(尾崎委員)
原案デ宜カロウ
(鶴田委員)
之ハ入ラヌコトダ
(淸岡委員)
天然債務ハ徹頭徹尾不同意ダ、政治家ニ見セレバ笑ハレル
(尾崎委員)
「ボアソナード」自ラモ之ハ理論ダト云テ居ル
(村田委員)
附錄ダト思テ見レバ宜シイ
(鶴田委員)
「換替シル」ト云フコトハ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
「シシスル」ト云フ例ハ澤山アリマス
本條ハ原案ニ決ス
第五百九十九條朗讀ス
第五百九十九條 通常裁判所カ天然義務ノ任意履行、認知又ハ其他ノ法律上ノ効力ヲ決スヘキトキハ全權ヲ以テ債務者ノ意思ヲ判決ス然レトモ裁判所カ前記ノ法律ノ條例ニ付キ誤謬ノ適用ヲ爲シタルトキハ其決定ハ破毀ニ付セラル
(松岡委員)
之ハ刪ツタ方ガ宜シイ
(村田委員)
日本ノ裁判官ヲ赤兒ノ如クニ思テ居ルノダ
(南部委員)
ソンナコトヲ云テ刪ツテハ困ル
(鶴田委員)
斯樣ナ處ハ「ボアソナード」先生ハ御幣擔ギダカラ條數ニ關係シテ書イタノダロウ
(尾崎委員)
之ハ置キマスカ
(南部委員)
前ニ駢ヘテ來タカラ仕方ガナイ
(鶴田委員)
誤謬ガアレバ破毀ニ付スルト云フノハ之バカリデハナカロウ、之ハ上吿セズトモ破毀シテ呉レルト云フノデハナイカ
(淸岡委員)
「宣言」ト云フノハ直シ樣ハナイカ
(松岡委員)
宣言ト云フト神樣ト同ジコトダ
(栗塚報吿委員)
君主權ト云フノデス
(鶴田委員)
「天皇ノ御名ヲ以テ」ト云フ處ダネ
(松岡委員)
御名ハ控訴上吿ガ出來ルガ之コソ控訴上吿ハ出來ヌ
(鶴田委員)
通常裁判所ハ始審ト扣訴ヲ指シマスカ
(南部委員)
左樣
(尾崎委員)
大審院モ這入テ居ルダロウ
(南部委員)
大審院ハ這入テハ居リマセン
(松岡委員)
大審院モ始終審ノ裁判ヲ一所ニスレバ這入ルダロウ
(鶴田委員)
平翻スルトキハアルケレドモ
(尾崎委員)
破毀ニ附セラルルト云フノハ大審院ダ
本條ハ原案ニ決ス
第六百條朗讀ス
第六百條 當事者ハ天然義務ノ任意ノ履行又ハ認知アラサル前ト雖モ仲裁契約ヲ以テ其天然義務ノ成立又ハ廣狹ノ判決ヲ仲裁人ニ委スルコトヲ得此場合ニ於テハ天然義務ヲ宣言シタル仲裁人ノ決定ハ法定ノ義務ヲ生ス然レトモ若シ仲裁人カ法律ノ天然義務ヲ拒否スル場合ニ於テ其成立ヲ認許シ又ハ之ヲ認知スルコトヲ許シタル場合ニ於テ其不能ヲ宣言シタルトキハ其決定ハ無効タリ但右何レノ場合ニ於テモ當事者カ仲裁人ニ調停者タルノ全權ヲ與ヘタルトキハ此限ニ在ラス〔佛訴第千十九條〕
(修正案) 「法律ノ天然義務ヲ拒否スル場合ニ於テ」ヲ「法律ニ於テ天然義務ヲ拒否スル場合ニ」ト改メ「其不能」ノ上ノ「於テ」ノ二字ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
第二項ヲ修正致シマシタ
(南部委員)
法律デ天然義務ハ出來ナイト禁ジテ居タ處ヲ仲裁人ガ良イトシタト云フノデス
(尾崎委員)
法律モ何モ頓着ナク御前サンガドウデモシテ呉レト云フ全權ヲ與ヘタトキハ有効ダト云フノカ
(南部委員)
ソウデス
(栗塚報吿委員)
仲裁ト調停トハ違イマス調停トナレバ御前等ノ云フコトハ何デモ聞クト云フノデス
(淸岡委員)
仲裁人ハ畢竟聞ク者デ此二廉ノミハ聞カヌ、此場合ニ限リ無効タリトアルノ併シナガラ此後トモ異議ハ云ハヌト云テ調停者タル全權ヲ與ヘレバ宜シイト云フノカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス調停人ト云フ處デ變ツテ來ルノデス
(鶴田委員)
無茶苦茶デモ有効ト云フノダ、無茶苦茶ガ有効ニナツテ天然義務ガ法定義務ニナルノダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
我輩ハ仲裁人ニナツテ無茶苦茶ナコトヲシ樣
(栗塚報吿委員)
仲裁人デハイケマセン調停人デナケレバイケマセン
(鶴田委員)
仲裁人ガ調停人ニナツテモ宜イカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(淸岡委員)
調停ト云フノハ
(南部委員)
今デモ扱ヒニ人デ御前ニ任スト云フノガ調停デス
(鶴田委員)
天然義務ヲ拒否シタルトアルガ拒否ト云フノハ必ラズト云フ處デナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
之ハ拒ムト云フノト同ジデス
(鶴田委員)
「拒ム」トシヨウ
(栗塚報吿委員)
「拒ム場合ニ於テ」デスカ
(南部委員)
「拒否」ガ宜シイ
(松岡委員)
其レデハ拒否ニシヨウ
本條ハ報吿委員ノ說ニ決ス
以下前ニ議了シタル内修正ノ議事ヲ開ク
第七百四十一條第七百四十二條
(今村報吿委員)
七百四十一條ハ未定ニナツテ居リマシタ之ヲ原案者ニ質問シマシタ處ガ原案ノ通リデ宜シイト云フコトデ御座イマス
(南部委員)
先キニ此條ヲ讓ストキニ少シ論ジ過ギタノデス
(今村報吿委員)
四十二條モ元ノ通リデ宜シイ
(鶴田委員)
泉源ノ方ニ行クコトガ出來ルト云フノデスカ
(今村報吿委員)
ソウデス
(南部委員)
ソレデハ原案ノ通リニシテ置キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百五十九條第五百六十條
(今村報吿委員)
其レカラ五百五十九條ト五百六十條デ御座イマス之ハ混同デナイモノガ混同ノ内ニ入テ居テ不都合デハナイカト云テ起案者ニ問合セマシタ處ガ五百五十九條ハ全ク混同デナイモノバカリ又六十條ノ一項ハ混同デナクテ二項ハ混同デ御座イマス之ハ混同デナイデハナイガ連帶債務者ト債權者ト一緒ニナリ債務者ト債權者ト一緒ニナルガ混同ハ本源ガ混同デナケレバイケナイト云フテアルデハナイカト聞キマシタ處ガ此コトハ云フ處デナイ連帶ノ場合ニ入レタラ宜カロウト申シマシタ、處ガ連帶ノ場合ニ入ラナイ場合ガ一向出テ來ナイ、彼方ヘ入レ樣トスルト斯樣ナル場合ヲ別段ノ條ヲ設ケテ呼出シタル上デナケレバナラヌカラ入レルコトハ出來ナイ、其レモ矢張リ動カスコトハ出來ナイ又之ガ爲メニ一章ヲ作ルコトモ出來ヌカラ此處ニ入レテアル之ハ一番類似シテ居ルカラ入レテ置クト云フコトデ御座イマシタ、其レカラ我々共ガ修正シ樣ト思テ調ベテ見マシタ成程入レル場所ハアリマセント云フモノハ連帶ノ處ニ連帶ノ總則ガ一ケ條カ二ケ條アツテ受身ノ連帶ト働キ掛ケノ連帶ト二ツニ分ケテアリマス、ソウスルト働キ掛ヲ讀ムト働キ掛ケバカリデ受身ノ所モアル、其通リデ茲ニ云フテアル處ガ働キ掛ケテモ受身ニモナツテ居リマスカラ總則ヘ入レナケレバナリマセンガ總則ヘ入リマセン第二項ハ不可分ノコトガ云フテアリマスガ不可分ガ一緒ニナツテ之ヘモ入リマセン、保證人モ一緒ニナツテ茲ニアルコトヲ持テ行ケバ章ガ三ツニ分レテ居リマシテ三ツトモ總則ヲ入レナケレバナリマセンカラ止ヲ得ズ原案通リニシ樣ト云フ考デ御座イマス
(南部委員)
因ミノ樣ダ
(今村報吿委員)
此處ナレバ邪魔ニハナラヌ唯體裁バカリダカラ此處ガ縁ガアル
(村田委員)
混同ノ親類ト思ヘバ宜シイ
(今村報吿委員)
餘程縁ノ遠イ親類デ御座イマスガ、外ヘ宿換ヘニ行ク場所ガアリマセン五十九條ノ二項ハ此處ヘ揭ゲバ一行デ濟ミマスガ外ヘ持テ行クト一項ノ樣ニ長ク書カナケレバナリマセン
(尾崎委員)
ドウモシ樣ガナイ
本條ハ原案ニ決ス
第五百六十五條
(今村報吿委員)
次ニ五百六十五條デ御座イマス「若シ」ノ下「債務者カ」ノ四字ガ消ヘマシテ「或ル補償權ヲ有ストキハ」ガ「或ル補償權アルトキハ」トナリマス之ハ「ボアソナード」カラ直シテ來タノデ御座イマス此コトニ付テ「ボアソナード」往復シタ歴史ヲ御話シマス此處デ「ボアソナード」ガ佛蘭西ノ法律ヲ駁シテ曰ク確定物ヲヤルト云ヘバ所有權ガ債務者ニ移ツテ居ルカラ若シ其者ニ損害ヲ加ヘレバ損害賠償ハ卽チ所有者ニ屬ス畢竟昔ハ契約シテモ物ヲ渡サナケレバ所有權ガ移ラナカツタト云フコトヲ駁撃シテ其レハ惡イカラ此規則ガ出來タガ債務者ガ補償訴權ヲ行フノハ債務者ガ持テ居ル補償訴權ハ債務者ニ屬シテ居ルノヲ云フノカ、左樣デハナイ、第三者ニ補償訴權ガアルガ御前サンノ註ニハ債務者ニ訴權ガ屬シテ居ルカ債權者ニ屬シテ居ルカ其二ツヨリ外ハナイガ如何デ御座ルカト云テ聞キマシタ處ガ家ガ保險ニヤツテアレバ保險會社ニ對シテ保險料ヲ取ルト云フ種類ダト云フ漠然タル挨拶ヲシテ來マシタ其内「ボアソナード」歸テ來マシタカラ直接ニ聞キマシタ處ガ矢張リ醫者ノ樣ナ例ヲ出シテ判然ト何レニ訴權ガ屬スルトモ云ヒマセン債務者ノ訴權ト云フト間接訴權ノコトヲ云フノデアルガ其レナラ其レト判然云テ下サルト宜シイト云テ來マシタ所ガ債務者ガ訴權ヲ有スルトキ其訴權ヲ債務者ガ行フト云フノヲ止メテ其滅失ト漠然トシテ置テ其說明ニ間接ト直接トアル、家ガ債權者ニ在テ品物ガ債務者ニ在テ損害ヲ受ケレバ損害要償ハ債務者ガ行フ、今一ツハ不動產デモ賃貸ヲスルトキ之ヲ貸スガ假令バ人ニ復タ貸ヲスルコトハ出來ヌ、然ラバ是レ丈ノ罰ヲ付ケルト云フ約束ノアツタトキ債權者ニ關係ノナイ訴權モ起ラヌ其レハ間接デ行ク直間共ニ云フノデアルト云テ來マシタ其レナレバ云フニ及バヌ、自分ノ訴權ナラ勿論ノ話デアルカラ云フニ及バヌ刪テ宜カロウト思ヒマスケレドモ、アツテモ害ハアリマセンカラ置キマシタガ質問ニ行ツタ人ノ話シニ「ボアソナード」ガ答辯ニ狼狽タト云フコトデ御座イマスガ、ソウ云フニナレバアツテモ害ハアリマセン
(南部委員)
「債務者」ト云フコトヲ刪ツタカラ害ハナカロウ
(松岡委員)
害ハナイ
本條ハ起案者ノ修正卽チ左ノ如ク決ス
「若シ」ノ下「債務者カ」ノ四字ヲ刪リ「補償權ヲ有スルトキハ」ヲ「補償訴權アルトキハ」ト改ム
于時午後第二時三十五分閉會