旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第39回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草按財產篇人權ノ部第三十九回議事筆記
自第五百五十四條至第五百六十九條竝ニ強制通用ノ件
(委員長)
始メマシヨウ
第五百五十四條朗讀ス
第五百五十四條 裁判上ノ相殺ハ被吿カ原吿ニ對シ自己ノ利益ニ於テ債務ヲ追認又ハ淸算セシムルヲ趣旨トスル其反訴ノ方法ニ因テ得ラル
 此場合ニ於テ裁判所ハ場合ニ從ヒ或ハ先ツ主タル訴ヲ決シ或ハ之ヲ中止シテ相殺ヲ行ヒ且債務ノ最多額ナル者ノミニ對シ辨濟スヘキノ言渡ヲ爲シテ二個ノ訴ヲ併セテ決スルコトヲ得
 裁判上ノ相殺ハ其對抗セラレタル日ニ遡リテ効アリ
(修正) 第一項「追認」ヲ「追認セシメ」ト改メ「淸算セシムル」ヲ「明確ナラシムル」ト改メ「其」ノ一字ヲ刪ル第二項「此場合」ヲ「此時」ト改ム
(栗塚報吿委員)
第一項「債務」ハ「債權」ト翻譯デ改メマス第一項ト第二項ニ修正ガ御座ヒマス
(松岡委員)
「此時ニ於テ」ハ珍ラシイナ
(栗塚報吿委員)
「此時ニ」デモ宜シウ御座ヒマス
(村田委員)
「明確」ト云フ字ハ英文デハ「額ヲ定ル」ト云フコトニナツテ居リマス
(栗塚報吿委員)
其レハ少シ云ヒ過ギデ御座ヒマシヨウ確實ニ爲スト云ヘバ宜シイ、確實ニ爲スト云ヘバ分量モ本性モ籠リマス
(松岡委員)
自己ノ利益ニ於テト云フ字ガアツタ爲メニ分リ惡クイ、被吿ノ持テ居ル自己ノ債權ダ
(栗塚報吿委員)
「被吿カ原吿ニ對シ自己ノ債權ヲ」デ御座ヒマス
(尾崎委員)
中止シテ相殺ヲ行ヘト云フノハ和解ニデモスルコトデスカ
(栗塚報吿委員)
主タル訴ヘヲ決シテモ爭ハナイデモ中止シテ相殺ヲ行フ
(鶴田委員)
主タル訴ヲ決スル迄ハ一ツデシヨウ
(南部委員)
明確ナラシムル間暇ガアルカラ其間中止スルト云フノデス、一方ヲ中止シナケレバ一方ノ調ベガ出來マセン
(尾崎委員)
訴ガ成立テ居ル
(南部委員)
原吿ノ訴ヲ中止シナケレバ原吿ノ訴ガ變ツテ居ル、第一項ノ終リハ「反訴ノ方法ニ因テ之ヲ得」ト致シマシヨウ
(栗塚報吿委員)
一項ノ終リハ「之ヲ得」ト致シマシヨウ
(鶴田委員)
其レデ宜カロウ
(南部委員)
末項ハ「之ヲ對抗シタル日ニ遡ル」トシテハ如何デス
(松岡委員)
「其對抗シタル」デ宜カロウ
(鶴田委員)
「其對抗シタル」デ宜シイ
(松岡委員)
獨乙ノ訴訟法ヲ移セバ之レガ出テ來ル
(南部委員)
共レハソウデス
(松岡委員)
法定ノ相殺ハ裁判所ノ處デ云フト職權デスルコトハナイダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
詰リ此意味ガ他ニ在ルトシテモ裁判官ガ處分スルノハ同ジダロウ
(栗塚報吿委員)
「之ヲ對抗シタル」ノ方ガ宜シイ樣デス
(鶴田委員)
其レデ宜カロウ
(委員長)
債務ノ最多額ノ者ノミニ對シテト云フノハ比較シテ債務ノ多額ト云フコトダネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
「債」ノ字ガ穩カナラヌノデ御座ヒマス比較級ノ多少デ御座ヒマス
(渡委員)
債ト云フヨリ外ニ仕方ガアルマイ最下額最下減ト云フ「ラプリウ」ハ「債」ノ字ヨリ外ニ仕方ガナイ
(委員長)
宜ケレバ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
裁判上ノ相殺ハ被吿カ原吿ニ對シ自己ノ利益ニ於テ債權ヲ追認セシメ又ハ明確ナラシムルヲ趣旨トスル反訴ノ方法ニ因テ之ヲ得
「此場合ニ於テ裁判所ハ」云々以下原案ノ通リ裁判上ノ相殺ハ之ヲ對抗シタル日ニ遡リテ効アリ
第五百五十五條朗讀ス
第五百五十五條 若シ當事者ノ一方カ他ノ一方ニ對シ法律上又ハ裁判上ノ相殺ニ係リタル數箇ノ債務ヲ有スルトキハ其債務ノ相殺セラルヽ順序ハ第四百九十三條ニ規定シタル如ク辨濟ノ法律上ノ充當ノ順序タリ〔第千二百九十七條〕
 若シ相殺カ任意上卽チ合意上ノモノナルトキハ充當ハ第四百九十一條及ヒ第四百九十二條ニ記載シタル規則又ハ當事者ノ協同一致ニ從フ
(修正案) 第二項「卽チ」ヲ「又ハ」ト改ム
(栗塚報吿委員)
二項ノ任意上「卽チ」ハ「又ハ」ノ誤リデ御座ヒマス任意上ノモノナルトキハ第四百九十一條九十二條ノ規則ニ從フシ、合意上ノトキハ當事者ノ共同一致ニ從ヒト云フ意味ニナラナケレバナリマセンカラ「又ハ」デ御座ヒマス、四百九十三條ハ「若シ債務者ヨリモ又債權者ヨリモ有効ニ充當ヲ爲ササルトキハ充當カ當然ニナルコト左ノ如シ」トアリマス又費用ヲ先キニシ元本ヲ後ニスルトカ云フ順ガ御座ヒマス相殺モ先キヘ差引ノハ期限ノ至タモノヲ先キニシテ費用ヲ先ニシテ元本ヲ後ニシマス其コトデ御座ヒマス
(鶴田委員)
之レハ分ツテ居ル
(松岡委員)
債務ヲ相殺スル順序トシマスカ
(南部委員)
其債務ヲ相殺スルノ順序デモ宜シイ
(鶴田委員)
其レデ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「規定シタル如ク」デハアリマセン「如キ」デ御座ヒマス
(松岡委員)
「第四百九十三條ノ規定ニ從フ」デモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
其ウデス、法律上充當トハ云ハヌカ知ラヌ
(委員長)
格別ハナイ樣ダ、先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
若シ當事者ノ一方カ他ノ一方ニ對シ法律上又ハ裁判上ノ相殺ニ係リタル數箇ノ債務ヲ有スルトキハ其債務ヲ相殺スルノ順序ハ第四百九十三條ニ規定シタル如キ辨濟ノ法律上ノ充當ノ順當タリ第二項ハ「卽チ」ヲ「又ハ」ト改ム
第五百五十六條朗讀ス
 第五節 混同
第五百五十六條 一義務ノ債權者タリ及ヒ債務者タルノ分限カ相續又ハ其他ノ事ニ因テ一人ニ併セラレタルトキハ義務ハ混同ニテ消滅ス〔第千三百條〕
 若シ右ノ混同カ前來ノ適法ナル原由ノ爲メ解除、銷除、又ハ廢罷セラレタルトキハ義務ハ消滅セサリシモノト看做サル
(修正案) 第一項「一義務」ヲ「同一ノ義務」ヲ改メ「其他ノ事ニ因テ」ヲ「其他ニテ」ト改メ「一人ニ」ヲ「同一ノ人ニ」ト改メ「混同ニテ」ヲ「混同ニ因テ」ト改ム
(栗塚報吿委員)
之レハ修正ガ御座ヒマス
(松岡委員)
「其他ニテ」ト云フノハ少シ語ガ足ラヌ樣ダ
(栗塚報吿委員)
相續ノ外ノ事ニテト云フノデス原書ニ「事」ト云フ字ガアレバ入レマスガ原書ニアリマセン原書ニハ「オートルマン」トアリマス
(鶴田委員)
語ハ足ラヌガ分ラヌコトハナイ
(栗塚報吿委員)
其外デト云フ意味デス、若シ分ラヌケレバ起案者ニ相談シナケレバ入レラレマセン「オートルマン」ヲ其他ノ事ニテトハ云ハレマセンカラ「ナートルフエー」ト云ヘルト云ナレバ宜シイ
(松岡委員)
「其他ニテ」トハ云ヘヌ
(南部委員)
其他何々ニ適用スト云フノガアルカラ同ジコトダロウ
(松岡委員)
何々トアレバ宜シイガ、ナイカラ困ル
(栗塚報吿委員)
原文ニハ「相續又ハ相續ノ他ニテ」ト書イテ御座ヒマス
(松岡委員)
意味ハ分テ居ルガ、「其他ニテ」ト云フノハ宜クナイ
(鶴田委員)
アレバ尙ホ宜シイガ、無ウテモ分ラヌコトハナイ、混同ハ解除、消滅スルノハ混同シテ消滅スルノデ御座ヒマスカ、混同ハ成立タヌノデ御座ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
混同ガアツタ樣ニ見ヘテ其實一ノ物ガナイトキハ混同ガ止ミマスカラ
(鶴田委員)
混同ガ成立テカラ死ンダノハ、止マツタ方デ見レバ一度義務ガ消滅シテカラ復タ再生スル樣ニナルガ、場合ハ如何ナル場合ダロウ
(南部委員)
元トヘ復ヘルノデス
(栗塚報吿委員)
消滅シナイガ、消滅シタモノト見ルゾヨ
(鶴田委員)
一度混同シテ相續人ガ死ヌトカ又ハ一度ヤツテ破裂シタトカ云フ場合ヲ云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
一度相續ヲシタガ親不幸デ相續ガ出來ヌ、併シ親ガ死ンデ子ガ相續シテ混同ガアツタ樣ニ見ヘルノハ親ヲ殺シタノデ
(南部委員)
看做スデ宜シイ樣ダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
子ガ親ノ債權者トカ、又ハ親ガ子ノ債權者トカ云フ場合ノ外ハナイカ知ラス
(栗塚報吿委員)
一通ノ遺囑書ニハ私ニヤルトアル、後ニ見タ處ガ取消シテアツタケレドモ松岡サンニヤルト書ヒテアル、或ハ南部サンガ物ヲヤルト云テ條件ヲ付ケテ置イタ處ガ私ガ條件ヲ履行シナカツタ
(松岡委員)
餘程難義ナノダ主タル所ヲ見ルニハ子ガ父ニ對シテ義務ヲ負フトカ、父ガ子ニ對シテ義務ヲ負フテ居タノガ意味ノ眼目ダナ
(栗塚報吿委員)
左樣デ御座ヒマシヨウ
(松岡委員)
相續人ハ如何ナルカ知レヌガ親ガ義務者デ子ガ權利者トナル場合ガアルカ知ラヌ
(栗塚報吿委員)
其レハ幾ラモアリマシヨウ母親ガ死ンデ母方ノ親ガ死ンダトキハ其財產ヲ相續スル場合ガアリマシヨウ
(松岡委員)
子ガ親ノ債主ナドト云フコトハナイ
(南部委員)
アリマス、一身ニ關シタコトハ法律上デ子ガ親ノ債權者トナツテ居ル、親カラ子ニ借財スルコトガ出來ルカラ子ガ親ニ借財スルコトガ出來ヌト云フコトハナイ
(松岡委員)
子ガ親ヲ訴ヘテ親ヲ身代限リサセルコトハ出來ナイ
(南部委員)
アリマス
(村田委員)
商事ナドニハ隨分アリマス
(松岡委員)
併シ理窟上ナイコトダ
(南部委員)
係ツテ來タトキハ拂ヘト云フヨリ外ニ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
相殺デモ代位デモ相續法ニ關係ヲ持テ居ル
(松岡委員)
代位ハ保證人カラ幾ラモ出來ル此處ハ「ボアソナード」ハ一番ノ源ヲ見タノダロウカ
(栗塚報吿委員)
左樣デ御座ヒマシヨウ、外ニナイカラデ御座イマシヨウ
(松岡委員)
此處ニ在テモ身分ガ定マルモノデハナイガ何時ノ間ニヤラ日本ノ社會ヲ斯樣ナ方法デ定メハセヌ疑フノデアリマス
(渡委員)
無クテモ同ジコトダ
(尾崎委員)
相續ヨリ外ニアルマイ
(村田委員)
債權ヲ讓受ケタ者ガアル
(松岡委員)
實際ハ混同ナドハ出來ナイ、差引シテ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
公然ニヤルト混同ニナラナイ
(松岡委員)
私ガ氣遣ツテ居ルノハ斯樣ニ定ツテ居ルト後ニ身分ノ處ヲ論ズルトキ此處デ決シタデハナイカト云フ轡ニヤリヤセヌカ
(栗塚報吿委員)
左樣デハアリマセン此處ハ本源ヲ定メタノデアリマスカラ
(南部委員)
相續法ハ如何ナロウトモ親子ノ間兄弟ノ間ニ貸借ガアレバ此規定ニ因ル
(松岡委員)
貸シタ人ノ相續ヲシテ居レバ訴ヘ樣ハナイ
(南部委員)
ソコデ混同ニナル
(鶴田委員)
相殺ハ誤リガアレバ返ヘスガ、之ハ誤リガアツテモ返サナイカラ其レ丈ケ違フ目本デモ親類内ヘ養子ニ行ツタトキナドハ斯樣ナコトガアル
(栗塚報吿委員)
持參金ナドヲ持テ來ルノハ混同シテ居ルノデス
(委員長)
今デモアルコトハアルダロウ
(委員長)
混同ガ廢罷セラレタルト云フノハ混同ガ成立タヌノダロウ
(鶴田委員)
一旦混同ヲシテ死ンダトカ離縁シタトカスルト適法ノ原因デナイ
(栗塚報吿委員)
一ノ遺囑證書ニハ貴君ニ此家屋ヲヤレト書イテアル又第二ノ遺囑書ヲ見ルト栗塚ニヤレト書イテアツタ場合デス、貴君ノトキニハ混同ガアツタガ、栗塚ヘ移ツテ混同ガ無クナツタ
(鶴田委員)
正當ナルコトヲ混同シテ間モナク事故ガアツテ分離スレバ之レハ一度消ヘタカラ再ビ起ル譯ハナイ
(村田委員)
相當ノ相續人ト思タ者ガ死ンダト思テ居タ處ガ歸ツテ來タ場合ダ
(栗塚報吿委員)
ソウ云フ場合デス
(松岡委員)
養子ニ行ク前ニアツタ借金ハ養子ガ離縁シテ行クトキハ元トノ通リ戻サナケレバナリマセンカ
(栗塚報吿委員)
其レハ混同ニハナリマセン、新義務ガ生ズルノデ
(鶴田委員)
其レハ此ノ方デハナイノデス
(松岡委員)
養子ニ來ル前ニ貸借ニナツテ居ルモノハ養子ニナレバ混同スル、其レヲ離縁スルトキハ
(栗塚報吿委員)
養子取消カ或ハ離縁デス
(松岡委員)
養子ガ借人デ養子ガ相續スレバ混同ダガ、其前ニ貸シテアツタ金ハ如何スルカ
(南部委員)
其レハ相續養子ノ處デ出テ來マス
(松岡委員)
何處デ定メテモ道理ハ同ジニ定メナケレバナリマセン
(南部委員)
相續ヲシタ家ガ潰レレバ無クナツテ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
註デ見ルト連帶デナクトモ宜シイガ其レデナイト第三者ニ功ガナイ、五百五十三條デ第三者ナル保證人トカ、先取特權ヲ利唱スルコトガ出來ナイ、其兩人ノ間ハ宜シイガ第三者ニ對シテハ鶴田サンノ仰シヤル通リデナケレバイケナイ
(鶴田委員)
義務ハ消滅セザルモノト看做スト云フノハ第三者モ義務ヲ負フテ居ル、此内ニハ入ラヌ持テ來タ金ノ内カラ持テ歸ヘレト云フ新タナル義務ガ生ズルノダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「一義務ノ」ヲ「同一ノ義務ノ」ト改ム
第五百五十七條朗讀ス
第五百五十七條 若シ債權者カ連帶債務者ノ一人ニ相續シ又ハ連帶債務者一人カ債權者ニ相續シタルトキハ連帶債務ハ此債務者ノ部分ニ付テノミ消滅ス〔第千二百九條、第千三百一條第三項〕
 若シ混同カ連帶債權者ノ一人ト債務者ノ間ニ行ハルヽトキハ其混同ハ亦一分ニ付テノミ成ル
(栗塚報吿委員)
「連帶債務者ノ一人カ」トナリマス之ハ寫字ノ誤リデ御座ヒマス
(鶴田委員)
債務者ノ間ニト云フノハ
(栗塚報吿委員)
債務者ガ一人デ債權者ガ大勢ノ場合デス、此處ハ連帶債權者ノ一人ガ債務者ノ相續シタルトキハト云フノデス
(鶴田委員)
「間」ト云フ字ハアツテモ無クテモ同ジデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス第一項ノ裏ヲ二項デ見セタノデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百五十八條朗讀ス
第五百五十八條 若シ義務カ不可分ナルトキハ債權者ノ一人ト債務者ノ一人トノ間ノ混同ハ他ノ者ノ利益又ハ負擔ニ於テ全部ノ義務ヲ存立セシム然レトモ其身ニ就キ混同アリシ者ハ第四百六十六條ニ從ヒ一分ノ償金ヲ供シ又ハ受クルニアラサレハ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルルコトヲ得ス
(栗塚報吿委員)
終リハ「第四百六十六條ニ從ヒ一分ノ償金ヲ供スルニ非サレハ全部ニ付キ訴追スルコトヲ得ス又一分ノ償金ヲ受クルニ非サレハ全部ニ付キ訴追セラルルコトヲ得ス」ト云フコトニナリマス
(松岡委員)
「訴追セラルルコトヲ得ス」ト云フノハ可笑シイ
(栗塚報吿委員)
「訴追セラルルコトナシ」デモ宜シイノデ御座ヒマシヨウ
(渡委員)
訴追セラルルコトナシデハ不充分ダガ之ヲ顛倒シテ書イタラ出來ルカ知レヌ
(松岡委員)
一定スルダロウカラ先ヅ之デ置コウデハナイカ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原安木ニ決ス
第五百五十九條朗讀ス
第五百五十九條 若シ一人カ二人ノ連帶債權者又ハ二人ノ連帶債務者ノ分限ヲ併セタルトキハ權利又ハ義務ノ消滅ナシ其身ニ就キ併合ノ成リタル者ハ債權者ノ利益ニ從ヒ或ハ自己ノ名ヲ以テ或ハ己レカ相續シタル者ノ名及ヒ權利ヲ以テ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルヽコトヲ得
 働方又ハ受方ニテ不可分ナル義務ニ付テモ亦同シ
(栗塚報吿委員)
此條ハ起案者ニ質問シテヤリマシタガ未ダ返事ガ參リマセン、起案者モ之ニハ一言モアルマイト云フノハ債權者ガ二ツ重ナリ又ハ債務者タルノ資格ガ二ツ重ナツテモ義務ノ消滅ノ原由ニナリマセン、義務ノ消滅セヌ事ヲ持テ來テ斯樣ナ者ハ義務ガ消滅セヌト云フ、固ヨリ義務ノ消滅スル筈ハナイ、何トナレバ二人ノ義務者ヲ一人ニテ兼ネタノデスカラ混同ト云フ字モ使ヘマセン、併合ト云フ字ヲ使テ居リマス、訴ノ出來樣ハナシ又訴ノ出ヨウ筈モナイ
(鶴田委員)
刪除ニナツテモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
無論刪除ニナルダロウト思ヒマスガ一應聞イテ見ヨウト云フノデ聞キニヤリマシタ
(村田委員)
混同ト云フ字ハ入テ居ナイ
(栗塚報吿委員)
「レニオン」ト云フ字ガ入テ居マス
(尾崎委員)
ドウモ不要用ダ
(松岡委員)
此處等ハ報吿委員デヤツテ呉レタノガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
義務ノ消滅ノ中ヘハドウシテモ置ケヌデス
(委員長)
返事ノ來タ後ニヤリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
文字ノ修正モ致シマセンカラ此儘置ヒテ宜シイカト思ヒマス
(委員長)
先キヘ行マシヨウ
本條ハ起案者ニ質問ノ上議スルコトトシ未定
第五百六十條朗讀ス
第五百六十條 若シ保證人カ債權者ニ相續シ又ハ債權者カ保證人ニ相續スルトキハ保證ハ其總テノ附從ノモノト共ニ消滅ス〔第千三百一條第一項及ヒ第二項〕
 若シ債務者カ保證人ニ相續シ又ハ保證人カ債務者ニ相續スルトキハ債權者ハ主タル債務者ニ對シテモ、共同保證人ニ對シテモ又保證人ノ擔保人ニ對シテモ自己ノ訴權ヲ保存シ保證ニ附着シタル動產質及ヒ抵當モ亦存立ス
(栗塚報吿委員)
第二項ハ矢張リ本條ト同ジコトデス、之ハ詰リ債務者ガ保證人ニナツテモ保證人丈ケハ消ヘハセヌト云フノデ御座ヒマス
(松岡委員)
愈々確カニナツタト云フ樣ナモノダ之モ前條ト同ジニ刪ルガ宜シイ
(委員長)
之レモ佛蘭西デハ均分シテアルカネ
(栗塚報吿委員)
一項ハ混同シテ宜シウ御座ヒマス債務者ガ權利者ノ相續ヲシタノデ御座ヒマスカラ同ジコトデス權利者ト義務者ト一ツノ所ヘ置ケルデス、保證人モ債務者ノ一人デスカラ混同ノ處ヘ置キマス、前ノ併合ナドトハ違ヒマス
(鶴田委員)
保證人總テ附隨ノモノト共ニ消滅スルト云フガ付隨ト云フノハ主ノコトヲ云フノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
保證ノ抵當ハ何ガ入テ居タカ知レマセン又保證人ノ擔保モアツタカ知レマセン
(鶴田委員)
私ハ主ガ消ヘテ仕舞フカラ擔保人ガ消ヘルノカト思ツタ
(栗塚報吿委員)
左樣デハナイデス債務ガ存シテ居リマスカラ保證人ガアツテモ保證人ガアツテモ質物ガ入テ居タニモセヨ保證ノ付イテ居ルモノガアツタナレバト云フノデ御座ヒマス
(鶴田委員)
宜シウ御座ヒマス
(委員長)
之モ質問中ダト云フコトデアリマスカラ未定ニシテ先キヘ行キマシヨウ
本條第二項ハ起案者ニ質問中ニ付未定
第五百六十一條朗讀ス
 第六節 履行ノ不能
第五百六十一條 義務カ特定物ノ引渡ヲ目的トシタル場合ニ於テ其目的物カ債務者ノ過愆ナク且債務者ノ遲滯ニ在ル前ニ滅失シ紛失シ又ハ通易スルコトヲ得サルモノト爲リタルトキハ其義務ハ消滅ス若シ義務カ定マリタル物ノ聚合中ヨリ取ルヘキ一箇ノ物ヲ目的トシタル場合ニ於テ其何レノ引渡モ不能ト爲リタルトキモ亦同シ〔第千三百二條第一項〕
 又爲シ又ハ爲サヽルノ義務ハ其履行又ハ封止カ右同一ノ條件ニ於テ不能ト爲リタルトキハ消滅ス
(修正案) 第一項末段「引渡モ」ヲ「引渡カ」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「引渡モ」ハ「引渡カ」ト致シマス
(松岡委員)
「引渡カ」ハ可笑シイ、マダ「モ」ノ方ガ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
ソウスルト後ノ引渡モ不能トナルダロウト見テハ尙ホ分リマセン
(鶴田委員)
「總テ」ハナイノデスカ
(栗塚報吿委員)
「總テ」ト云フ字ヲ起案者ガ改メテ「如何ナルモノノ」トシマシタ、土藏ノ中ニ在ル米ノ内百石アルガ、此内五十石ヤルト云フ、處ガ孰レモ五十石揃ヘルコトガ出來ナイ「何レノ物ノ引渡カ不能トナリタルトキモ亦同シ」デ御座ヒマス
(鶴田委員)
「何レノ物カ引渡ニナリタルトキモ」ト云フノダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
「モ」ハ何處カヘ入レ度イ
(栗塚報吿委員)
「何レノ物ノ引渡モ」デモ宜シイ
(渡委員)
其レデ宜シイ
(鶴田委員)
左樣修正致シマシヨウ
(淸岡委員)
「遲滯ニ在ル」ト云フノハ前ニモアリマシタカ
(南部委員)
元トカラアリマス
(淸岡委員)
遲滯ノ前トカ遲滯ニ付スル前トカスレバ宜シイ
(南部委員)
遲滯前カ
(村田委員)
「遲滯前」ガ宜シイ
(鶴田委員)
遲滯ニ付セラレザル前ト云フノダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(渡委員)
其方ガ宜シイ
(南部委員)
「付セラレサル前」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
當然遲滯ニ看做サルト云フコトガ次ノ條ニ在リマス「遲滯ニ在ル」ト云フノデ遲滯ニ付セラルルト云フコトガ分リマシヨウ
(淸岡委員)
分テハ居ルガ、遲滯ニ在ル前ト云フカラ可笑シイ
(栗塚報吿委員)
若シ御注意ガアルナレバ標シヲ付ケテ後ニ直シマス
(松岡委員)
四百四條ニ「遲滯ニ在ル」ト云フテアル
(鶴田委員)
其レデハ一定シテ貰オウ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「何レノ引渡モ」ヲ「何レノ物ノ引渡モ」ト改ム
第五百六十二條朗讀ス
第五百六十二條 若シ債務者カ意外ノ事及ヒ不可抗力ノ損失及ヒ危險ヲ擔任シ又ハ第三百五拾六條及ヒ第四百四條ニ從ヒテ或ハ債權者ノ所爲ニ因リ或ハ義務ノ本性ニ因リ遲滯ニ付セラレタルトキハ其債務者ハ前記ノ原由ニ因テ義務ヲ免レス〔第千三百二條第二項〕
 犯罪ノ爲メ他人ノ物ヲ返還シ又ハ其物ノ滅失ヲ賠償スルノ責ニ任スル者ハ當然遲滯ニ在リト看做サル〔第千三百二條第四項〕
(修正案) 「損失及ヒ危險」ヲ「危險及ヒ損失」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「損失及ヒ危險」ハ「危險及ヒ損失」トナラナケレバ分リマセン、之ハ翻譯ノ誤リダロウト思ヒマス原文ニハ「危險」ガ先キヘ出テ居リマス、末項ノ終リハ「看做ス」トシテ宜シウ御座イマシヨウ「犯罪ノ爲メ他人ノ物ヲ返還シ」ト云フコトハ三百八十八條ヲ御參觀ニナレバ分リマス、此本文丈ケハ異議ハアリマセンガ註ヲ見ルト少シ不都合ガ出來マスカラ起案者ニ牴觸シ居ルト云フコトヲ云テヤリマシタ、註ニ「當然遲滯ニ付スルコトハ確定物ノ外之ナキナリ付遲滯ハ殊ニ之ヲ全額ニ及ホス可カラス蓋シ金額ニ係ル付遲滯ハ遲滯ノ利子ヲ生スルモノニシテ裁判所ヘ請求スルニ非サレハ能ハサルモノトス」トアリマス然ルニ三百八十八條デハ裁判所ヘモ何モ訴ヘズニ不當ニ付シタルトキカラ利息ヲ拂ヘトアリマス、然シテ四百十三條ニハ「遲滯ノ利息ヲ生セシムル爲メ必要ナル付遲滯ハ裁判所ニ於ケル其利息ノ請求又ハ債務者ノ特別ナル追認ノミヨリ生スルコトヲ得但法律カ當然此利息ヲ生セシムル場合及ヒ法律カ催吿ノミニ因リ又ハ之ニ等シキ所爲ニ因リ此利息ヲ生セシムルコトヲ許ス場合ハ此限ニ在ラス」トアリマス、法律ガ當然利息ヲ生ゼシムルノハ三百八十八條ノ場合デス利得ヲ與ヘルトキヨリ其適法ノ利息ガ付クノデ御座ヒマス此方ハ盜賊ヲシテモ裁判所ヘ訴ヘテカラデナケレバ利息ガ取レヌト云テアリマス、其レハ可笑シイデハナイカ現在三百八十八條デハ第一元金ヲ受ケタルトキヨリ適法ノ利息ヲ取ルトアリマス而シテ註デハ裁判所ヘ訴ヘタ上デナケレバ取レヌト云フノハ可笑シイト思テ報吿委員カラ問ヒニヤツテアリマス
(松岡委員)
弘法モ筆ノ誤リダロウ
(渡委員)
四百四條ニ從ヒ遲滯ニ付セラレタルト云フノハ遲滯ニ在ルト云フテ居ルガ之ハ同ジニシテハ如何デス
(南部委員)
上ニ「所爲ニ因リ」トアルカラ下ハ「遲滯ニ付セラレ」ト云ハナケレバナラヌ「遲滯ニ在ル」トハ云ヘヌ
(松岡委員)
「在ル」ト云フト付セラレタ後ヲ云フノダ全體之レハ不能ト責任ト混淆シテ居ル
(委員長)
「前記」ト云フノハ此初メノコトヲ云フノデスカ、又ハ前條ヲ云フノデスカ
(南部委員)
前條デ御座ヒマスカラ「前條」ト改メマシヨウ
(栗塚報吿委員)
「前條」ト直シマシヨウ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「損失及ヒ危險」ヲ「危險及ヒ損失」ト改メ「前記」ヲ「前條」ト改ム第二項「看做サル」ヲ「看做ス」ト改ム策二項ノ註繹ハ三百八十條ト牴觸ニ付キ起案者ヘ質問スル事トス
第五百六十三條朗讀ス
第五百六十三條 債務者ハ自己ノ援唱スル意外ノ事又ハ不可抗力ヲ證スルノ責アリ
 若シ債務者カ遲滯ニ在リナカラ第三百五十五條第二項ニ從ヒ其義務ヲ免ルヽ爲メ物カ債權者ノ方ニ在テモ等シク滅失スヘカリシコトヲ申立ルトキハ其證ヲ立ツルコトヲ要ス
(栗塚報吿委員)
二項ニ第三百五十五條第二項ト云フノハ此裏ヲ云テ居リマスカラ報吿委員中デモ「裏面ニ從ヒ」トシタラ宜カロウト云フ論モアリマシタガ三百五十五條ノ二項デハト讀メ樣ガナイト云フ注意ガアリマシテ云ツテヤリマシタ處ガ尤ノコトデアルカラ前ヲ改メ樣ト云フ約束ガ出來マシタカラ何レ直シテ參リマシヨウト思ヒマス故ニ刪除ハ致シマセン三百五十五條ノ二項ニハ「然レトモ若シ諾約者カ物ヲ引渡スノ遲滯ニ在リ且物カ引渡サレシ場合ニ於テハ必ラス滅失セサルヘク又ハ毀損ヲ受ケサルヘカリシトキハ其損失ハ諾約者ノ負擔ニ歸ス」トアリマス此處デハ其義務ヲ免カルル爲メ物ガ債務者ノ方ニ在テモ等シク滅失スベカリシデ、彼方ハ消滅シナカツタロウト云フノデ恰度裏ヲ云テ居ルノデ御座ヒマス、向フヲ直ソウト云フコトデ御座ヒマスカラ
(松岡委員)
前ヲ直サナケレバナラヌ、彼ノ二項ハ求償ノ責ハ權利者ニナツテ來ル
(栗塚報吿委員)
貴君ノ御說ノアツタ處デス
(鶴田委員)
此條ハ無クテモ分テ居リマス
(松岡委員)
矢張リ此處ニ云フテ彼方ヲ直スガ宜シイ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第五百六十四條朗讀ス
第五百六十四條 債務者カ履行ノ不能ニ因リテ義務ヲ免レタルトキハ其債務者ハ己レニ約セラレタル對價物ニ付テハ其履行ノ爲メ旣ニ爲シタル出捐ノ限度ニ於テノミ權利ヲ有ス
(栗塚報吿委員)
「捐給」ト云フノヲ「出捐」ト直シマシタ、三百十九條ノ二項ノ「捐給」モ「出捐」ト改メマス
(鶴田委員)
幾ラカ品物ヲヤツテ居ル場合デスネ
(栗塚報吿委員)
例ガ御座ヒマス、鐵砲ト云フ物ヲ拵ヘテモ宜シイト思ツタ處ガ通益物デナクナツテ不能ニナツタ、併シ鐵砲ヲ造ル爲メニ鐵ヲ買込ダリ何カシタ代ハ頂戴ガ出來ル
(鶴田委員)
ソウスルト出來テ居タ鐵砲ガ廢リタルトキハ其地金ノ代ト賃錢ヲ取レバ損ハナイ
(栗塚報吿委員)
債務者ハ損ヲシマセン、債權者ガ損ヲシマス
(鶴田委員)
勘定ハ此通リナラナケレバナラヌカ知レヌ
(栗塚報吿委員)
併シ物ハ要約者ノ損ナリト供フ理窟デ御座ヒマスカラ
(松岡委員)
仕樣ガアルマイ、拂ハヌト云フ譯ニモ行クマイ
(鶴田委員)
日本ノ裁判ハ是レ迄兩損ダロウ權利者ノ出シテ居ル物モ其レ限リニナリ、義務者ノ方デヤツテ居ル物モ其レ限リダロウ
(栗塚報吿委員)
鍛冶屋ガ鐵砲ヲ拵ヘル爲メ既ニ爲シタル限度ダケハ代價ヲ貰フコトガ出來ル之ハ隱カナ樣デス
(南部委員)
向ウハ儲ケガナイ
(渡委員)
其代ハリニ仕掛ケニナツテ居ル品物ハ取レル
(南部委員)
鐵ダケハ取レマス
(淸岡委員)
對價物ト云フノハ品物デスカ
(栗塚報吿委員)
金デ御座ヒマシヨウ、併シ金デナク外ノ物ヲヤルト云フコトガアルカ知レマセン
(淸岡委員)
ドウモ困ル、價ニ對スル物ニ付テト外讀ミハセヌ
(鶴田委員)
値段ニ對スル物トハ違ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
私ノ箇ニ對スル物デス
(鶴田委員)
貴君ニ鐵砲ヲ拵ヘルコトガ頼ンデアル鐵砲ガ百圓
(栗塚報吿委員)
卽チ其百圓デス
(鶴田委員)
百圓ニ對スル鐵砲デハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
鐵砲ヲ拵ヘレバ書物ヲヤルト云フコトガアルカ知レマセン
(鶴田委員)
「對價ニ付テハ」デ宜シイ
(南部委員)
鐵砲ニ對スル金デス
(淸岡委員)
價ニ對スルト外讀メナイ
(栗塚報吿委員)
反對ノ有價物ト御讀ミナスツタラ宜シウ御座ヒマシヨウ
(委員長)
「對價」ト云テ「物」ト云フ字ヲ取タラ宜カロウ、「物」モ中ニ籠ツテ居ルト見レバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
對價デモ宜シウ御座ヒマス翻譯ヘ相談致シマシヨウ
(鶴田委員)
對價デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
跡デ代價ノ間違イデハナイカト云フ樣ナコトヲ云ヒソウデス
(鶴田委員)
對等ノ貨物ダナ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
「對價物ニ付テハ」ヲ「對價ニ付テハ」ト改ム
第五百六十五條朗讀ス
第五百六十五條 物ノ全部又ハ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ若シ債務者カ其滅失ノ爲メ第三者ニ對シ或ル補償訴權ヲ有スルトキハ債權者ハ物ニ付キ殘ル所ノモノヲ要求シ且右ノ訴權ヲ行フコトヲ得〔第千三百三條、伊民第千二百九十九條〕
(村田委員)
「全部」ト云フノハ可笑クハアリマセンカ全部デハ讀切レヌ樣ダ
(栗塚報吿委員)
直シテ參ツタノデス
(村田委員)
ソウスルト「殘ル所ノ物」ト云フノハ可笑シイ、全部ノ物ガアレバ處ノ物ガ出ヨウハナイ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、自カラ一分ノ物バカリニナリマス殘ル所ノ物ヲ要求シ「又ハ」ヲ原文デ「且」ト直シテ參リマシタ
(鶴田委員)
補償權ヲ義務者ガ持テ居ル
(栗塚報吿委員)
之ハドウシテモ物ノ全部一分ハ私ノ家ヲ貴君ニ賣ルト云フトキニ私ガ滅失ノ爲メニ第三者ニ對シテアル補償訴權ヲ有スルトキ第三者ナル松岡サンガ私ノ家ニ火ヲ放ケテ燒イタ、ソウスルト貴君ニ家ヲ賣ツタニ付イテ貴君ハ物ニ付キ殘ル所ノ物ヲ要求シ燒ケタ丈ケヲヨコセ又松岡サンニ對シテノ私ノ持テ居ル補償訴權ヲ貴君ガ行ウ、扨如何ナルトキニ此訴權ヲ貴君ニ出來タリ私ニ作リ出スコトガ出來ルカト云フニ賣買ハ所有權ガ移轉スル然ルニ私ガ家ヲ賣レバ貴君ガ補償權ヲ行ヘバ私ハ行ウコトハ出來ナイ私ガ所有權ヲ行ヘバ貴君ニ行ヘナイ孰レカ二ツノ一ツデス、又所有權ガ移ツテ居ラナケレバ栗塚ガ持テ居ルノダカラ、栗塚ガ松岡サンニ向テ補償訴權ヲ行ヒ、鶴田サンハ右ノ訴權ヲ行フコトヲ得ト云フノデ直接ニ松岡サンニ係ツテ行キマス若シ鶴田サンガ行ハヌト云ヘバ栗塚ハ行フ事ガ出來ナイト報吿委員ガ論ジテヤリマシタ處ガ未ダ返事ハ來マセン
(松岡委員)
私ガ起案者ナレバ確定物デ家ヲ渡ス場合ナレバ其レガ宜シイガ前條ニ在リマスカラ先キヘ仕掛ケテ行ク仕事デ、遂ニ本體ノ物ヲ取ル利益ハ失フ唯自分ガ出捐シタ處ノ限度バカリデ錢ヲ取ラナケレバナラヌ場合ニナルト大變損ヲスル譯ニナル、其レ故ニ其債務者モ自ラ其義務執行ノ方法ヲ爲シタ第三ノ人ニ對シテ賠償ノ訴權ヲ行フ
(栗塚報吿委員)
二人リノアリ樣ハナイ如何シテモ起案者ノ不調法ダロウト思ヒマス
(鶴田委員)
御尤モデスガ私ガ「ボアソナード」ノ說ニ左袒シテ云ヘバ不能ト云フ方ハ詰リ自分ガ過テハナク又遲滯ニ付セラレザル前デス、ト云フノハ自分ノ注意ガ足ラヌトカ或ハ物ガ延引シタルトキハ品物ハ權利者ニ移テ居ルケレドモ保存スル義務ハ品物ニ付テ殘テ居ルノヲ松岡サンノ樣ナ惡戲ガ來テ毀ハシタ、貴君ヲ權利者ト見レバ毀シ賃ヲ私カラ取ラレテモ仕方ガナイ、松岡サンガ毀ハシタト云テモ松岡ト云フ者ハ知ラヌト云ハレテモ仕方ガナイソウスルト品物デ御返ヘシ申シテ毀ハレ賃ヲ貴君ニヤルガ松岡サンニ對シテハ御前ガ毀ハシタ爲メニ毀ハレ賃ヲ取ラレタカラ私ニヤツテ呉レト云フコトガ云ヘル其レヲ捷徑ニシテ毀ハレ賃ヲ松岡サンニ取テ呉レト云フト貴君ハ松岡サンカラ取レルト云フ旨意ダロウト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
貴君カラモ訴權ガアリ私カラモ訴權ガアルト云ヘル
(松岡委員)
鶴田サンニサセテ置クト鶴田サンガ資力ガ少ナイ、松岡」サンカラ取テモ鶴田サンノ外ノ債主ハ
(鶴田委員)
此處ハ所有權ニ補償權ガ付イテ參ラレテモ引分ケテ權利者ニ引クト云フコトニスレバ論ハナイト思フ
(渡委員)
鶴田サンノ解釋ノ如クニ依レバソウモ讀メル
(南部委員)
補償訴權ヲ債務者ガ約シテ居ルガ行フコトハ出來ナイ行フノハ債務者ガ行フ
(鶴田委員)
行フコトハ出來マス人ノ物ヲ保存シテ居ルノヲ他カラ毀ハサレタラバ其補償ヲ第三者カラ取レル捷經デ直グニ債權者ニ移シテ宜シイ
(南部委員)
「ボアソナード」ハ移スノハ惡イト云テ居リマス
(鶴田委員)
法律デ自然ニ移テ宜シイト思フ、權利者ガシナイトキハ債務者モ持テ居ル所有權デナイ保存權ニ對シテ惡戲ヲシタノダカラ
(尾崎委員)
兩方ノ内ノ一方カラ行テ宜シイ
(渡委員)
若シ債權者ガ有スルナレバ債權者ハ物ヲ受取ルト同時ニ行フカラ鶴田サンノ解釋ガ或ハ當テ居ルカ知レヌ若シ何レカニ在ルト云ヘバ有スルト云ハナケレバナラヌ、行フコトヲ得ルト云フノハ債權者ガ出來ルト云フノダ
(松岡委員)
之ハ「ボアソナード」ノ返事ヲ聞イテカラ議スコトニシマシヨウ
(尾崎委員)
兎ニ角聞ヒテカラガ宜シイ
(松岡委員)
前條ハ不明瞭ノ樣ニ思フモノヲ判然書キ過ギタノデ、義務ヲ免カレタルト云フノハ何處ニ當リマスカ
(南部委員)
六十一條デス
(松岡委員)
特定物ナレバ大槪取レルノデスネ
(栗塚報吿委員)
義務ハ消滅シマス
(松岡委員)
義務ハ消滅シテモ代金ハ取レマシヨウ
(栗塚報吿委員)
其レヲ六十四條デ云ツテ居ルノデス
(栗塚報吿委員)
家ヲ賣リタルトキ其賣リタル人ノ過チニモ非ラズ引渡ヲ遲滯ニ付シタノデモナク燒ケテ仕舞ツタカラ代金ハ取レルデシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
ソウスルト代金ハ取レルガ不確定ノ集合中ヨリシタ物デモ皆燒ケタラ代金ハ取レル、此藏ノ米十俵賣ルト云フトキ百俵燒ケレバ取レル、註デ云フト分ルガ本文デハ分ラナイ
(栗塚報吿委員)
確定物トカ集合物ノ一ツカラシテヤツタトキハ所有者ノ損ニナル
(南部委員)
其レハ茲デ云フ處デナイ
(鶴田委員)
矢張リ造リ掛ケノ物ダ、賣買ノトキカラ物ガ移ツタト云フト讀メナイ
(栗塚報吿委員)
大工ガ家ヲ建テ掛ケテ其處ガ公用地ニナツタトキハ木材ノ代ハ取レマシヨウ
(松岡委員)
其レハ分テ居ル
(委員長)
之ハ返事ノアツタ後ニシマシヨウ
本條ハ起案者ニ質問中ニ付回答ヲ竢テ議スルコトトシ未定
(委員長)
始メマシヨウ
第五百六十六條朗讀ス
 第七節 銷除卽チ無効
第五百六十六條 無能力者ノ契約シタル義務又ハ錯誤ニ因テ承諾ヲ與ヘ他ノ一方ノ強暴ニ因テ承諾ヲ嚇取セラレ若クハ其詭譎ニ因テ承諾ヲ騙取セラレタル人ノ契約シタル義務ハ五个年間ニ在テハ或ハ是等ノ者又ハ其代人ノ請求ニ因リ或ハ履行ノ訴ニ付キ是等ノ者ヨリ對抗シタル無効ノ抗辯ニ因リ裁判上ニテ銷除セラレ卽チ取消サルヽコトヲ得〔第千三百四條第一項〕
 同一ノ期間ハ折損ニ付テノ銷除訴權ノ行用ノ爲メ又ハ折損ノ抗辯ヲ對抗スル爲メ成年者ニ許與セラル但法律カ右ノ訴權又ハ抗辯ヲ一層短キ期間ニ制限シタル特別ノ場合ハ此限ニ在ラス
(修正案) 第一項「或ハ是等ノ者」ノ上ヲ左ノ如ク修正ス無能力者又ハ錯誤ニ因テ承諾ヲ與ヘタル人又ハ他ノ一方ノ強暴ニ因テ承諾ヲ嚇取セラレ若クハ其詭譎ニ因テ承諾ヲ騙取セラレタル人ノ契約シタル義務ハ五个年ノ間ハ第二項「銷除訴權ノ行用ノ爲メ」ヲ「銷除訴權ヲ行フ爲メ」ト改メ「對抗」ヲ「援唱」ト改ム
(栗塚報吿委員)
少シク修正致シマシタ
(松岡委員)
其代人ト云フノハ法律上ノ代人カネ
(南部委員)
無能力者ノ代人デス
(栗塚報吿委員)
二項モ修正ガ御座ヒマス
(南部委員)
「抗辯ヲ爲ス爲メ」デモ宜クハナイカ
(渡委員)
其レデ宜カロウ
(松岡委員)
倒サニ云テ來ルカラ「何々ニ許與セラルル」ト云フノハ可笑シイ
(栗塚報吿委員)
「抗辯ヲ爲ス爲メ成年者ニ許與シ」デ御座ヒマス
(淸岡委員)
抗辯ヲ爲ス爲メデハ足ラヌ樣ダ
(栗塚報吿委員)
抗辯ヲ言ヒ立ルノデ御座ヒマスカラ援唱スルト致シマシヨウカ三百六十九條ニ在リマス、折損ヲ援唱スル爲メト云フノデ御座ヒマス併シ抗辯ガナイト云フコトヲ懸念シテ居リマシタガ、折損ヲ援唱スルト申セマスカラ
(淸岡委員)
折損ハ援唱スルガ宜シイガ、抗辯ハドウデシヨウ
(栗塚報吿委員)
折損ノ抗辯ト云フノハ裏カラ云タノデス今度ハ此方カラ云ヒダシタノデナイ、向ウカラ何カ云ヒ出シテアルト折損ガアルト云ツテ向ケ付ケルノデ御座ヒマス
(松岡委員)
此處ハ矢張リ向付ケルノダカラ對抗トシテ、後ニ「對抗」ト云フ字ヲ直シテ貰フガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
向フカラ來タトキ折損ヲ以テ抵抗スルト云フノデ御座ヒマス
(南部委員)
前ニ「對抗シタル無効ノ抗辯」トアルカラ矢張リ「抗辯ヲ對抗スル爲メ」デナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
「對抗」トシテ置イテ後ニ殘ラズ「對抗」ノ字ヲ直スコトニ致シマシヨウ
(鶴田委員)
矢張リ前ノ「對抗」モ「援唱」ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
折損ノ受ケ太刀ヲ向ケ付ケルト云フノデス
(淸岡委員)
特別ノ場合ト云フノハ如何ナル場合デアリマスカ
(鶴田委員)
「銷除」ト「取消」ハドレ程違ヒマスカ
(南部委員)
同ジコトデス
(鶴田委員)
二ツ書カナケレバナラヌカネ
(松岡委員)
「裁判上ノ銷除卽チ取消スコトヲ得」トシタラ宜カロウ
(委員長)
其方ガ宜シイ樣ダ
(南部委員)
裁判上ニテ銷除卽チ取消サルルト云フコトデス
(栗塚報吿委員)
淸岡サンノ御尋ネハ此處ハ起案者ガ是レ丈ケノ餘地ヲ取テ後チニ賣買篇デ例外ヲ出シテ居リマス、之ハ五年トシテアリマスガ、二年カ三年ダソウデ御座ヒマス、裁判上ニテ銷除卽チ取消サルルト云フコトデス
(松岡委員)
「取消スコトヲ得」デ宜カロウト思フ、人ガ云フテ取消スノデスカラ
(鶴田委員)
裁判所ガ取消スノダロウ
(栗塚報吿委員)
裁判所ニ訴ヘテ取消スコトヲ得ト云フノデ御座ヒマス
(松岡委員)
「裁判上ノ銷除卽チ取消スコトヲ得」
(南部委員)
「之ヲ銷除卽チ取消スコトヲ得」
(松岡委員)
「ニテ」ヲ止メテ「裁判上之ヲ銷除卽チ取消スコトフ得」トシタラ宜カロウ
(村田委員)
「之ヲ銷除シ」ト云ハヌト可笑シイ
(栗塚報吿委員)
其方ガ宜シウ御座イマシヨウ淸岡サン、六百九十一條ニアリマス
(南部委員)
其レハ解除ダロウ
(鶴田委員)
之レハ訴ヘル期滿免除ダ
(栗塚報吿委員)
銷除ノ請求ハ六百八十條デ御座ヒマス
(渡委員)
「鎮除シ」ガ宜カロウ
(松岡委員)
「履行ノ訴ニ付キ」ト云フノヲ「對シ」ト直ラヌカ
(南部委員)
對抗シタルト云フコトガアル
(栗塚報吿委員)
或ハ是等ノ者ヨリ履行ノ訴ニ對抗シタルダカラ
(南部委員)
此方ガ分ル
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
無能力者又ハ錯誤ニ因テ承諾ヲ與ヘタル人又ハ他ノ一方ノ強暴ニ因テ承諾ヲ嚇取セラレ若クハ其詭譎ニ因テ承諾ヲ騙取セラレタル人ノ契約シタル義務ハ五个年ノ間或ハ是等ノ者又ハ其代人ノ請求ニ因リ或ハ履行ノ訴ニ付キ是等ノ者ヨリ對抗シタル無効ノ抗辯ニ因リ裁判上ニテ之ヲ銷除シ卽チ取消スコトヲ得同一ノ期間ハ折損ニ付テノ銷除訴權ヲ行フ爲メ又ハ折損ノ抗辯ヲ對抗スル爲メ成年者ニ許與ス但原案ノ通リ
第五百六十七條朗讀ス
第五百六十七條 此時効ノ期間ハ強暴ノ場合ニ於テハ其強暴ノ止ムマテ錯誤ノ場合ニ於テハ其錯誤ヲ認メ知ルマテ詭譎ノ場合ニ於テハ其詭譎ヲ見出スマテ無能力ノ場合ニ於テハ其無能力ノ止ムマテ停止セラル〔第千三百四條第二項及ヒ第三項〕
 然レトモ喪神ノ爲メノ禁治產者又ハ瘋癲者ト爲シタル合意ニ關シテハ此時効ハ是等ノ者カ能力ヲ恢復シタル以來其承諾シタル所爲ノ要旨ノ通知ヲ受ケ又ハ其所爲ヲ知リタル後ニアラサレハ經過シ初メス〔千八百三十八年六月三十日ノ佛法律第三十九條〕
 法律上治產ヲ禁セラレタル處刑言渡サレ人ニ關シテハ無効ノ訴權及ヒ抗辯ハ其者ノ爲メニモ又之ニ對シテモ其刑期滿了以後ニアラサレハ時効ニ係ラス
 成年者ノ折損ノ場合ニ於テハ時効ハ契約ノ時ヨリ經過シ始ム
 其他免責時効ノ停止及ヒ中斷ノ通常ノ言由ハ此時効ニ之ヲ適用ス
(修正案) 第三項「處刑言渡サレ人」ヲ「處刑人」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「處刑言渡サレ人」ヲ「處刑人」ト修正致シマシタ
(松岡委員)
其レデ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「其止ム迄」デハ分リマセンカ
(南部委員)
「其」デハイケマイ
(淸岡委員)
「喪神」ト云フノハ分ラヌ
(鶴田委員)
「心」ト云フ字デハナイカ
(鶴田委員)
「神」ノ字ハ精神病ト云フ處カラ來タノダロウ
(淸岡委員)
「神」ト云フ字バカリ使フノハ無理ダ
(鶴田委員)
墓所ニ書イテアル「萬物喪心」ナドト云フノハ心ノ字ガ書イテアル
(栗塚報吿委員)
心ハ愛ノ出ル源、精神ハ知慧ノ出ル源デ、心ヲ喪ウト愛情ガナイ精神ノナキ者ハ馬鹿ダト思テ居リマス
(南部委員)
其レナラ喪精神ナラ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ぶけるト云フ字デス
(村田委員)
知覺精神ノ喪失シタル物ダ
(鶴田委員)
知覺ヲ失フト云フト神心不隨ノ樣ニナル摘レテモ痛サヲ覺ヘナイ樣ナコトヲ云フ矢張リ「心」ダ、「經過シ始メス」ハ「經過ヲ始メス」デハドウダロウ
(栗塚報吿委員)
「經過」ト云フノハ一ノ名詞デ此處ハ動詞デ御座ヒマスカラ「經過ヲ始メス」デモ宜シイ「喪神」ノ字ハ翻釋ニ問ヒ合セマシヨウ
(淸岡委員)
「禁治產」ト云フ字ハ云ヒ惡イ
(南部委員)
之ハ始終使ツテ居リマス
(松岡委員)
之デ見ルト瘋癲者ハ禁治產者デハナイ樣ダ
(栗塚報吿委員)
瘋癲者ハ必ラズ禁治產デス喪神ノ爲メ禁治產ノ者デス
(村田委員)
瘋癲ノアルガ爲メニ治產ノ禁ヲ取ラレタル者トアルカラ兩方ダ
(栗塚報吿委員)
原文ニハ然レドモ喪神ノ爲メニ治產ノ禁ヲ受ケタル者トアリマス
(松岡委員)
喪神ト云フノハ一時ノ喪神モアロウガ瘋癲ハ永久ノ瘋癲デスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、之ハ人事篇ニ讓テ御置キニナレバ宜シイノデス
(松岡委員)
瘋癲者ニナレバ法律上デ禁治產ガ起ラナケレバ瘋癲者ト云フ認メガ付カヌ
(栗塚報吿委員)
瘋癲者ト云フノハ禁治產者ト云フノト同ジデス
(松岡委員)
直譯ノ方デハ若シ其レガ己レニ反スルトキハ白痴瘋癲ノ爲メニ禁治產者又ハ精神錯亂者ダロウ
(栗塚報吿委員)
精神錯亂者ハ瘋癲者デス
(松岡委員)
「デマンス」ハ
(栗塚報吿委員)
「デマンス」ハ喪神トヤリマシタ
(松岡委員)
一時ぶけタモノモ永久ぶけタノモ入ルダロウ
(栗塚報吿委員)
ソウデ御座ヒマス此處デ瘋癲者ト云フノハ禁治產ガ入ラヌカト云フ御心配ハ入リマセン屹度入リマス唯喪神ノ爲メニハ禁治產デナイノモアリマスカラ喪神ノ爲メニ禁治產者ト書イタノデ御座ヒマス
(松岡委員)
喪神ノ爲メ禁治產者瘋癲ノ爲メト書ケレバ宜シイ
(鶴田委員)
者人ノ禁治產ハ此中ニ入リマセンカ
(栗塚報吿委員)
入リマセン
(松岡委員)
外ノ人ヲ保護スル爲メニ浪費者ガ契約シテモ後見者ガ出テ來テ止メル樣デハ第三者ヲ害スル
(栗塚報吿委員)
瘋癲ト同一ニ外入レラレマセン
(鶴田委員)
其レト爲シタル契約ハ本契約ト看做サルルト治產ヲ禁ジタ功ガナイ
(松岡委員)
喪神者ノ内ニ浪費者ガ入ルダロウ
(栗塚報吿委員)
入リマセン
(鶴田委員)
此處等ハ入レタ方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
日本デ浪費者ノ定メ方次第デス人事篇ノコトハ人事篇ノコトダカラ私ハ知ラヌ、此處デ浪費者ノコトヲ定メルノガ良イトハ一槪ニ云ヘヌ、佛蘭西デハ其レニ係タ箇條ガアルガ、日本デハドウスルカ分リマセン
(鶴田委員)
私ノ考デハ浪費者ハ治產ノ禁ヲ受ケタ方ガ宜カロウト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
浪費者ノ權限ノ定メ方一ツデス、佛蘭西デハ訴訟ヲスルコト和解ヲスルコト動產ヲ借ルコト、受取ルコト、交易ヲスルコト、賣ルコト、質ニ入レルコト是等ノ事ハ總テ補佐人ノ助ケヲ借ラナケレバ出來マセン此後見無クシテ爲シタル事ハ幼年者ノ爲シタル通リニスルト云フテアリマスソウスルト無能力ノ止ム迄ノ方ニ入リマス
(鶴田委員)
免責時効ノ停止中斷ノ原由ハ
(栗塚報吿委員)
此時効ガ中斷サレタリ又ハ中止ニナルノハ免責時効ノ原由ヲ用フルゾヨ證據篇ノトキノ時効ノ原由ハ此處ニモ當篏メルゾヨト云フノデ御座ヒマス
(松岡委員)
浪費者デモ治產ノ禁ヲ受ケレバ之ト同ジニナラヌモノカネ
(栗塚報吿委員)
浪費者ハ治產ノ禁ゼラレナイノデス、唯補佐人ガ付クバカリデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス第二項「喪神」ノ二字ハ未定第三項報吿委員ノ修正ニ決ス
第五百六十八條朗讀ス
第五百六十八條 若シ無効訴權ヲ有シタル人カ前記ノ期間ノ滿了以前ニ死亡シタルトキハ訴權ハ其相續人ニ移ル
 右ノ訴權者ハ相續人ニ對シテハ若シ期間カ死者ニ對シ末タ經過シ始メサリシトキハ相續人ノ權利開始ノ時ヨリ又反對ノ場合ニ於テハ末タ經過セサル殘期ヲ以テ時効ニ係ル〔伊民第千三百十二條〕
(修正案)
第二項「相續人ニ對シテハ」ヲ「相續人ニ付テハ」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「訴權者」ハ「訴權」トナリマス之ハ寫字ノ誤リデ御座ヒマス「相續人ニ對シテハ」ヲ「相續人ニ付テハ」ト致シマス「殘期ヲ以テ時効ニ係ル」ハ餘程修正シ樣ト思ヒマシタガ、良イ修正ガ出來マセンデ此儘ニシテ置キマシタ
(村田委員)
「前記ノ期間」ハ「前條ノ期間」ト修正シマスカ
(栗塚報吿委員)
分ル處ハ「前記」デ宜シウ御座ヒマシヨウ
(松岡委員)
同ジニシタラ宜カロウ
(南部委員)
前ノ條デ御座ヒマス
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
(栗塚報吿委員)
今日ノ分ハ是レ迄デ終リマシタガ是レカラ前ノ報吿ガ御座ヒマス
第四百八十八條 強制通用ノ件
(今村報吿委員)
四百八十四條ハ商法ノ方ヲ調ベテ見マシタ處ガちんちん鳴ル金ト強制通用ノ紙幣ト強制デナイ紙幣ハ官ノ物デ其外銀行ノ紙幣ト四通リノ内デ債務ガ勝手ノ物ヲ用ヒテ宜シイ其土地デ通用スルモノデ他ノ眞ノ金ト金額ヲ持テ居ル物此二ツノ條件サヘアレバ銀行ノ紙幣デモ宜シイ「ボアソナード」ニ聞イテヤリマシタ處ハ商法ノ方デハ此四ツデ勝手ニ出來ルガ民法デモ此四ツニシ度イト云フテヤリマシタ處ガ民法ハ商法ト一ツニハナラヌ如何トナレバ外ノ金ト金額ヲ持テ居ルヤ否ヤハ商賣人ナラバ知ルコトガ出來ルガ民法デ支配サレル一般ノ者ハ此紙幣ハ金額ヲ持テ居ルヤ否ヤハ分ラヌ、又商人ハ直チニ手渡シスルコトモ容易デアルガ、一般ノ人民ハ受取テ他ヘヤルコトガ容易デナイカラ民法デハ出來ナイト云フ返事デ御座ヒマス
(南部委員)
強制通用ノ外ノ紙幣ヲ以テ無理ニ渡スコトハ出來ナイ
(今村報吿委員)
英文ニ翻譯シテアル商法ヲ寫シテ「ボアソナード」ニ送リマシタガ其レニ「エツプル、レガール、テレプル」ト云フコトガアリマシタ、然シテ強制通用デナイモノハ如何ナル物ダロウ、受取ラナイト云フコトガ云ヘルダロウ
(委員長)
民法ナレバ云ヘルガ商法ノ樣ニ書イテアツテハ受取ラヌトハ云ヘナイ
(今村報吿委員)
此モノハ強制デアル、此モノハ強制デナイト定メテアルニ之ハ強制デナイト云ヘル
(委員長)
商法デハ云ヘナイ
(今村報吿委員)
卽チ其レガ強制ニナルノデ、法律ガ取ラセヌト云フコトヲ云ハナケレバ其レハ強制ニナルノデス
(委員長)
其土地ニ於テト云フコトガアル
(今村報吿委員)
一體ノ旨意ハ商法デハ定メテモ宜シイガ、民法デハ定メテハナラヌト云テアリマス
(淸岡委員)
然ルトキハ義務ハ免カレヌ樣ニナル、却テ保護ヲシ樣ト思テ出來ナイ
(鶴田委員)
金貨ガ兌換紙幣ト定マルノダ
(栗塚報吿委員)
他ノ者デモ義務ヲ免カルルコトノ出來ナイコトハアリマセンガ債主ガ否ト云ヘル
(松岡委員)
廣ク命令シテアルモノハ強制ノ樣ニ云ツテアル、「ロエスレル」ハ戰爭ノトキニ用ユルノガ強制ノ樣ニ云フテアル、此處ニ云フ「ボアソナード」ノ強制ハ法律ガ國民ニ向テ租稅ニモ何ニモ通用スルト云フノガ強制通用ト見ルノダ、法律デ命ジタ物ノ外ハ誰デモ否ト云フコトガ云ヘルダロウ
(尾崎委員)
銀行ノ紙幣モ強制ノ中ヘ入レテ宜シイ
(今村報吿委員)
日本ノ今ノ紙幣ハ強制ノ樣ダ
(尾崎委員)
稅關デハ通ラヌダロウ
(鶴田委員)
稅關デモ何デモ通ルノガ強制ダロウ
(尾崎委員)
稅關デハ銀行ノ紙幣ハ通ラヌ
(今村報吿委員)
銀行ノ紙幣ト云フコトモ日本ノ銀行ニ限ルカ、或ハ外國ノ銀行デモ宜シイカ、上海「バンク」ノ如キハ如何ダロウト聞イテヤリマシタ
(鶴田委員)
商法ハ何處ノモ入ル、上海デ取引ヲスレバ無論通ズル樣ニ出來テ居ル
(今村報吿委員)
假令バ横濱デ拂ヲスルニハ
(鶴田委員)
其レハイケナイ
(今村報吿委員)
通用モシ、且金額ヲ持テ居ルカ知レヌ
(松岡委員)
上海「バンク」ノ紙幣ガ横濱ヘ來テ通用スルト云フ譯ニハ行カヌ
(今村報吿委員)
通用ガアルト云フノハ法律上ノ通用デナイ、實地ノ通用ガアツテ金額ヲ用ヒト書ヒテアル、然ウスレバ上海「バンク」ノ紙幣デモ横濱デ通用シナケレバナラヌ
(松岡委員)
ドノ商賣人デモ伊太利トノ爲換ガアルト云テ他ノ商賣ニ向付ケルノハ如何ナルモノダロウカ
(栗塚報吿委員)
銀行ノ信用ガアレバ行ハセテ差支ナイガ、法律上デ強制シテ用ヒサセルト云フコトハ出來ナイ
(委員長)
他ノ國ノ紙幣ヲ認ムベキモノデナイ日本國丈ケノ紙幣ヲ認メルノダ
(今村報吿委員)
商法ハ民法ニ用ヒラレヌト云フ理由ノ内ニ金額ヲ持ツト云フコトハ今日金額ヲ持ツテ居ルモノガ明日下落スルカ知レヌ、商賣人ハ下落シテモヤリ繰リガ付クガ非商人ハ其樣ナコトハ出來ナイ、強制通用デナキモノデ今日ハ外ノ弗ト同ジ相場ヲ持テ居ルカ知レヌガ明日ハ下落シテ來ルカモ知レヌ、商人ハ其處ニ猶豫ガ付クガ、素人ハ付カヌ
(松岡委員)
「ボアソナード」モ商法ヲ攻撃スル氣味ガアルダロウ、其レハドウデモ良ヒトシテ此處デ疑ヒノ起ツタノハ強制ト云フノガ氣ニ入ラナイ、強制ト云フノハ「ロエスレル」ガ書イタノハ戰爭トカ何トカ云フ時分ニ政府ガ曲ゲ付ケテヤルノダカラ通常ノ流通紙幣ヲ以テ強制通用ト云フ字ヲ付ケルノハ惡ルイト云フ論デアツタ、「ボアソナード」ノハ法律デ國民ニ通用ヲ許スモノゾト命ジタモノハ卽チ強制通用ト見テアル、今日ノ紙幣ハ勿論銀行ノ紙幣デモ政府ノ貨幣ニ匹敵スル力ガアルカラ租稅デモ何デモ通用スレバ強制ト見テ宜シイ
(渡委員)
民法デハ其レデ通テ宜カロウガ商法ノ強制通用トハ頭マガ商法デハ分ケテアルカラ
(今村報吿委員)
商法デモ法律ガ之ヲ通用ト云タモノハ強制通用ニナル
(渡委員)
商法ノ強制通用ハ事變ニ際シテ一時通ズルモノト云フ積リデ書イテアルカラ之ト付キ合ハヌ、商法ヲ此方ニ合セレバ都合ガ宜シイガ之ヲ商法ニ合セレバ強制通用バカリダト通ラヌ品物ガ出來ル孰レカ一ツニナラナケレバナラヌ
(今村報吿委員)
商法デハ戰爭ノトキデナクシテ法律上否ト云フコトノ云ヘナイモノハ何ト云フダロウ
(渡委員)
「ロエスレル」ノハ強制通用ト金額ヲ以テ通用スル紙幣トアル
(今村報吿委員)
否ト云テモ取ラナケレバナラヌカ
(渡委員)
金額トアルカラ取ラナケレバナラヌ若シ明治十四、五年頃ノ紙幣ナレバ通用スルコトハ出來ナイ併シ政府デ一圓ハ一圓ニ通ズト云フ說ト金額ヲ有サナイ紙幣ハナイト云フ論トアツタ
(今村報吿委員)
金額ト云フ目安ノ通ル處ハ抑モ何デアル金貨ガ本位ナレバ金位ニ依ラナケレバナリマセン、本位ノ物ニ比較ヲ取テ金額ト云ハナケレバナラヌ
(渡委員)
「ボアソナード」ノ旨意ハ政府カラ發シタモノハ何デモ箇デモ一圓ハ一圓ニ通ラナケレバナラヌ
(今村報吿委員)
法律ガ定メルニ通用ノ品物ト定メルノガ一ツト、其レカラ持テ來レバ否ダト云ハレヌノガ一ツアル、佛蘭西ノ紙幣ハ流通ノモノダケレドモ強制トハ言ハヌ、獨逸ト戰爭ノトキハ強制ト云フコトヲ付ケタカラ誰デモ否ト云フコトハ出來ナイト其レカラ四、五年經テ強制ヲ解イテ通用シテ居ル
(委員長)
日本ノ兌換ナドハ強制トハ云ヘヌ
(栗塚報吿委員)
兌換銀券ハ強制カト云フト「ボアソナード」ハ左樣デハナイト申シマシヨウ
(委員長)
日本ノ眞ノ紙幣ハ兌換ヲ除イタラ外ニハナイ
(渡委員)
「ボアソナード」ノ返書ノ旨意ニ依レバ商人ナレバ金額デ通用スルト否ヤトハ直チニ分ル又其レヲ取テモ容易ニ他ヘ移スコトガ出來ルガ外國人ハ其レヲ見分ケルコトガ難イニ因テ斯樣ニ書イタカト云フト其反對ニ出テ此法文デハ兌換銀券ヲ義務ヲ免カルルコトハ否ダト云フコトガ云ヘル、然ル處ガ兌換ヲ否ガルノハ強制通用デナイカラ否ダト言ヘルガ、兌換銀券ハ持テ行ケバ直グニ換ヘテ呉レル、ソウスルト「ボアソナード」ノ書イテアル結果ガ實價ノ上デハ免レ難イ
(栗塚報吿委員)
實際行ハレテ下落スルトキハ通用セズシテ良イトキハ漸々通用スル
(委員長)
直グニ引換サヘスレバ其レハナイ
(今村報吿委員)
若シ大變ナ戰爭ガアツテ兌換銀券ヲ出シテ引換ヘナイトキハ
(渡委員)
其レハ政府ヲ信用セヌト云フ論デアルカラ其レハ止メテ
(委員長)
政府ガ認メテ此銀行ニ幾ラノ紙幣ヲ發行サセルト云フコトヲ認メル
(渡委員)
成程銀行ガ政府ノ紙幣ト換ヘルコトニナル
(今村報吿委員)
銀行ガ潰レカカツテハイケナイ
(渡委員)
ソウスルト結果ハ同ジニナル
(委員長)
少シ違ウ、商法ハ明カニ書イテアル民法デハ揭ゲテ行カヌト云フノデス、若シ否ムモノガ居テ之ハ否ダト云フト矢張リ強制通用ノ物ヲ出サナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
其レト今一ツ裏ヲ見テ現實下落シテ居ルカ如何ト疑ガアツテモ取ラナケレバナラヌコトハ商人ニ非ザルモノガ之ハ金額ガアルノダロウガ近頃ハ銀行紙幣ノ相場ガ惡ルイト云フ疑ヒヲ以テ通ラナケレバナラヌ
(南部委員)
私ナドハ總テノ金額ヲ有スル、有セント云フ差別ヲ涌常ノ人ニ付ケサセルノハ餘程危イコトデアル、其レヨリ實際通用スレバ極メテ良イ内ノ惡イ物デナケレバ拒ムコトハナイカラ強制通用デナケレバ義務ヲ免カレヌト云フコトカ
(渡委員)
法律ヲ定メル者ガ滅多ナコトヲ云テハナラヌ
(南部委員)
民法ヲ見テ民法通リニヤルモノデナク、若シ拒ンダトキニ民法ガ出來ル
(渡委員)
成ル可ク融通ノ付ク樣ニシタラ宜カロウ、抗拒スルノデアロウガ、強制通用ト云フト起案者ガ之デ何デモ行ケル、兌換銀券モ無論差支ナイト云フダロウガ強制通用ヲ有スル紙幣ニ限ルト云フト其差支ノ廉ハ其レヲ以テ義務ヲ免カルルト云テモ唯出來テ來ル
(南部委員)
銀行紙幣ヲ持テ行キ銀行紙幣ガ通常ノ金ト同ジ價値ノアル場合ニ拒ミタルトキハ如何スルカト云フ疑ガアレバ拒ム譯ハナイ
(渡委員)
強制ト云フコトヲ「ロエスレル」ノ書イテ居ルノハ時ニ臨ンデ出スト云フカラ強制紙幣ト並ミノ紙幣ト違ウト云ヘルガ「ボアソナード」ガ強制ト云フカラ質問シタ處ガ併セタコトヲ云フノダト云フカラ此方ガ宜シイガ、銀行紙幣ナドヲ云ハヌノハ不都合ダロウト思フ
(今村報吿委員)
併シ銀行ノ紙幣ガ幾ラ下落シテモ取ラナケレバナラヌト云ツタラ困ルデシヨウ、潰レ掛リタル銀行ノ紙幣ハ一萬圓アツテモ五千圓ニ外通ラナイト云フノヲ與ヘテモ民法デハ左樣ナル者ヲ取ラナケレバナラヌ商法デハ取ラナケレバナラヌト云フト銀行ノ紙幣モ卽チ強制ニナル
(渡委員)
國立銀行ノ紙幣ハ強制ニハ入レラレマスマイ
(今村報吿委員)
民法デモ商法デモ彼ヲ取レト定メタ以上デ強制デアルカ無イカ、強制ニナツテ仕舞フ
(渡委員)
強制ノ中ヘ入レマイ
(今村報吿委員)
併シ民法デ命令スレバ出來マシヨウ
(南部委員)
民法デ取ラナケレバナラヌト定メルノハ酷イ
(渡委員)
全額ガアレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
全額ト云フコトヲ如何シテ知リマスカ、十錢紙幣ハ東京デハ通用ガ止ツテ居ルニ奧州邊デハどんどん使テ居ルカラ取テハ復タ其レヲ使ウ、併シ其レヲ否ダト云フ人ニ使ツタトキハ無理ニヤルコトハ出來ナイ、案外盲目デ宜カツタト云フコトガアル
(渡委員)
盲目デハナイ御互ヒノ信用上デ使ツテ居ルカ知レヌ
(松岡委員)
民法デ見ルト「ボアソナード」ガ書イタノハ政府カラ法律デ認メテアルノハ強制ダト云フガ「ロエスレル」ハ戰時非常ノ時分ニ使ウト云フ金額ノ紙幣ト云フノハ日本ニ如何ナル物ガアルダロウ、ソウスルト紙幣ト名ノ付イテ居ル物ハ皆強制ト云フヨリ外ニナイ兌換紙幣モ租稅、海關稅其他一切ノ取引ニ通用スルモノトスルトアル銀行紙幣モ同ジコトデ政府發行ノ貨幣同樣通用スベシトアル
(委員長)
通用ノ方カラ云ヘバ左樣ダガ額ハ兌換銀券ト銀行紙幣ハ人ガ價ヲ付ケタ以上ハ政府ガ價ヲ付ケルコトハナラヌト云フコトハ出來ナイ
(松岡委員)
相對デ相場ヲ定メルコトハアルカ知レマセンガ、前日金百圓ノ代ヲ拂ハナケレバナラヌト云フトキ紙幣ヲ百圓持テ來テ之ハ紙幣ガ下落シテ居ル、之ハ政府ノ紙幣デアルト認メナケレバナラヌ
(委員長)
兌換銀券ハソウデナイ、兌換銀券ハ何時デモ換ヘテ呉レレバ下リヤセヌ、併シ政府ガ其レヲ引換ヘナイト下ツテ來ル政府ガ一圓ニ取レト云テモ八十錢ニ外取ラヌモノヲ一圓ニ取レト云フコトハ出來ナイ
(松岡委員)
一圓ノ價ノ物ニ一圓ノ紙幣ヲヤツテ否トハ云ハセヌ
(委員長)
換ヘヌ故ニ直ガ下ツタトキ之ヲ上ゲルカラ換ヘテ下サイト云ヘルダロウ
(松岡委員)
其レハ政府ガ信用ヲ失ツタトキデス
(委員長)
兌換銀券ハ經濟上ノ消長ガアルカラ止ヲ得ザルトキハ下落スル、故ニ三分ノ一ノ金ヲ政府ニ積マナケレバナラヌ、政府ガ三分ノ一積ンデ置ケバ下落スルコトハナイ、下落スルコトガナケレバ人民ガ苦情ヲ云フコトハ出來ナイ、若シ五分ノ一モ積マレヌトキハイケナイ
(松岡委員)
此法律ヲ立ルトキハ金ト云ヘバ金九銅一デ少シモ違ハヌト云フ處デ國民タル者ガ通用スルトキ、金一圓デモ、銀一圓デモ紙一幣圓デモ、義務ヲ免カルルモノダ其レヲ物價トシテ金ガ入用ダカラ買オウ、銀ガ入用ダカラ買ウト商賣人同士デ扱ヘバ宜シイガ義務ヲ免カルル爲メニハ紙一枚デモ動カヌト見テ置カナケレバナラヌ
(委員長)
ソレデハ強制通用トハ云ヘヌデシヨウ只ノ紙幣ト云テ宜シイガ其レハ云ヘヌノデ立法者ノ眼ノ中ニナケレバナラン、ソコデ下落シタトキハ如何スルカト書イタノデ變ノアルコトヲ豫想シナケレバナラン、其トキ若シ信用ガナクナツタラ何ウト止ヲ得ザルトキノ防グ道ガナイカラネ
(栗塚報吿委員)
ソレデ萬一ノトキニ必要デアリマス
(淸岡委員)
強制通用ヲ止シテ全價額ヲ以テ通用ヲ要スル紙幣トシテ仕舞テ宜シイ
(松岡委員)
ソレハ同意ハ出來マセン苟モ政府ノ通用ダカラ頭マデ政府發行ノ紙幣國民以テ斯々ノトキハ普通ノモノゾヨト全價額ガアレバ金銀ト同ジニ立ツルト示セルモ同樣デ大變ナ話デ國ガ立タヌ樣ニナリマス
(淸岡委員)
ソンナコトガアルモノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ大變デ相場ヲ付ケロト云フト同ジデアリマスカラソレハ往カヌ
(松岡委員)
私ノ思フニハ商法ヲ議シタ時分此丈ケノ議論ヲセズニ來タノハ過チデアリマス
(尾崎委員)
全價額ヲ有スルト云フハ差支ナイ流通スルモノダカラ全價額ヲ以テ通用スルト云ヘバ貨幣デナケレバナランカ
(南部委員)
ソウ云フノデナイ、先度商法ノトキ全價額ヲ以テト云フ言葉ハ畢竟差額デアルカラ全價額ヲ以テト云フコトヲ商法ノトキ云タノデアリマス、ソウスルト悉ク全價額ヲ有スルトハ云ヘヌ
(淸岡委員)
全價額デ計算ト云フト下落シタトキハ仕方ガナイ、全價額ヲ有スルト云フハ畢竟強制モアルニ因テダロウ全價額ヲ有セナイモノハ何カアルカナレバ先ヅナイト云テ宜シイ
(松岡委員)
通用ト云フノト見樣ガ違ウ
(鶴田委員)
違ヒマス
(松岡委員)
全價額ヲ以テ通用スル紙幣ト云フハ時ノ相場ガ百圓カ□ 百圓アルトキデスソレヲ今日本ノ法律デ認メタラ何ノ樣ナ紙幣ニ差ノ立ツコトヲ認メルカ分リマセン今迄ハ素首ヲ押ヒテ強制セラレタガ今日カラ差シテ構ハヌノダ全價額ヲ以テト較ラベテハ工合ガ惡イノデス
(淸岡委員)
字ガワルケレバ改メテモ宜シイ
(尾崎委員)
強制通用ト云フノヲ除リタイ
(南部委員)
ソレハ分ラヌ
(松岡委員)
強制ト云フノハ壓制ト云フノデハナイ
(尾崎委員)
皆強制ニナルノダカラ別段ニ強制ト云フコトガアリマシヨウカ
(栗塚報吿委員)
兌換券ハ強制デハアリマセン
(尾崎委員)
通ラヌト云フコトガアリマシヨウカ
(栗塚報吿委員)
一朝事アレバ一圓ヲ以テ兩替ノ出來マセヌトキデス
(尾崎委員)
出來ヌトキハ政府ハ制ヲ改ヘナケレバナラン一圓ノ通用ゾヨト云フ令ヲ出スコトガ出來ル
(南部委員)
兌換銀券ノ性質タル金銀ニ替ヘル性質ノモノデス、只ノ紙幣ハソウデナイノデスカラ卽チ強制デス
(松岡委員)
只困タコトト思フノハ若シ之ヲ認メナケレバナラント云フハ下方デ今ノ紙幣ナリ銀行紙幣ナリヲ以テ政府ヘ納メル租稅ヲ持テ行ク、直ノ下テ居ル紙幣ヲ以テ行ク其時分政府ハ何ト云フカ之ハ此頃相場ガ安イカラ租稅ニハ取レヌトハ言ハレマセヌ其方ニハ言ハレズシテ一方ニ拂フニ政府ハ其受取ル人間ニ貴樣ハ受取ラヌデモ宜シイ相場ガ下落シテ居ルカラト言ハレマシヨウカ政府ハ我ガ租稅ヲ取テ一圓ニテ取リ一方ノ權利者デ取ル時分ニハ取レヌト云フコトハアリマセン
(淸岡委員)
政府カラ命令シテ發行シタモノハ下ツテモ一圓デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレガ卽チ強制通用トナルノデアリマス
(南部委員)
強制通用ハ卽チ全額ヲ以テ通用スル云フコトハ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
全額ノアル間ハ強制通用ニスルト云フ御說ニナル樣デス
(尾崎委員)
全體強制ト云フコトハ云フニ及バヌ
(淸岡委員)
兌換券ノ如キハ金モ同ジコトデ其レハ勝手ニ出來ル
(栗塚報吿委員)
相場ヲ許サザル紙幣ト書イテアルノデス
(尾崎委員)
現行ノ紙幣モ何モソウナツテ仕舞フ
(松岡委員)
外國ノ法ニスルト相場立テ公然許ス紙幣ト云フノガアルダロウ
(委員長)
公然許サスガ勢ヒ免レヌ、兌換銀券銀行紙幣ナドヲ外國デモ相場ヲ許スト云フコトハアリマセヌ、此處デ論ノ歸着スル處ハ民法ハ斯樣ニ書イテ置ケバ商法ト同ジニ行クダロウカ、殊ニ依ルト好事家ガ出來樣ト云フノガ一ツト商法ノ樣ニシテ行ケバ商人互ヒデハ知リ惡クイデアロウガ其者等ガ自分ガ知ラシテモ取ラナケレバナラヌト云フ丈ケノコトデス、其處丈ケニ論點ガ約マツテ居ル
(渡委員)
商法ノ方モ未定ニナツテ居リマス商法モ起案者ニ聞イテ民法ト同ジク論ズルコトニナツテ居ル、事實ハ大層違イハセヌト思フ幾ンド一ニ陷ルト思ヒマスガ強制ト云フコトノ精神ハ兩起案者ガ別ニナツテ居ル
(委員長)
違ツテハ居リマセン
(鶴田委員)
違ツテハ居ラヌ
(渡委員)
「ロエスレル」ハ三通リニ書イテ居リマス之ハ槪シテ強制トナツテ居ル
(委員長)
槪シテ此内ニ包含シテ居ルト云フノデハナイ、金銀ノ代ハリヲスルノハ強制通用デナケレバナラヌト云フノガ「ボアソナード」ノ旨意ダガ此裏ヲ云ヘバ人ガ同ジ紙幣ヲ出セバ否ト云フコトハアルマイ金銀貨ヲ求メルトキ金銀貨ノ代ハリニスルニハ強制通用ノ紙幣バカリダト定メ度イノダカラ、此通行ニシテ民法ハ狹ク見テ商法ハ廣クシテ置ケバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
其レデ宜シウ御座ヒマス
(松岡委員)
紙幣ト云フモノヲ一般學問上通常行ハルル處ノ論ニスルト信用不信用カラ起ル、然レドモ法律ノ力ニ依リ斯クナルトキハ別段トストアル其別段ト云フ種類ヲ契約デ定メテナイトキハ負債者ガ定メル、負債者ガ定メルニ一ノ制限ガナケレバナラヌカラ實價ノ少ナイ物ヲ返付シテ債主ニ損ヲ掛ケテハナラヌ、金ニ換ヘルニ銅貨ヲ與ヘルコトハ出來ヌ然リト雖モ法律ノ力デ拒マレヌモノハ卽チ強迫ノ命令ニ依テ一般融通スベキトアルカラ金銀ノ貨幣モ銀行紙幣モ一般ニ通用スル
(栗塚報吿委員)
今日ノ銀行紙幣ハ「ロエスレル」ガ強制ト見テ居ルカ居ラヌカト云フノデシヨウ
(松岡委員)
此處デハソウナツテ居ル
(委員長)
ソウデナイ金ノ代ハリニ銅ヲヤツテハナラヌ損ヲサセテハナラヌカラ之ニ換ヘルノハ單リ強制通用ノ紙幣ヲ以テシナケレバナラヌ併シナガラ銀行紙幣ガアツテモ其他ノ紙幣デアツテモ全額ヲ以テ通用スル紙幣ナレバ通用スルコトガ出來ル
(松岡委員)
紙幣ト云フモノハ二ツナケレバナラヌ法律デ拒ムコトノ出來ルモノト出來ヌモノトアル
(委員長)
拒マナイモノハ今ノ兌換銀券ヲ下落シテモ良イト云フコトハ云フテナイガ是非通用セヌト云フコトガナケレバ下落シテモ仕方ガナイ「ロエスレル」ハ場所ニ於テ全額ヲ以テ通用スルト區別ガシテアルカラ決シテ日本ノ銀行紙幣ヲ僞造スレバ僞造賣貨ノ罰ニ當テラレルト云フ處ヲ以テ兌換銀券ト銀行紙幣ト同ジト見ルコトハ出來ヌト思ヒマス唯民法ト商法ト違ヘテ置イテ宜シイカト云フ丈ケデス
(南部委員)
違ヘテ宜シイ
(鶴田委員)
違ヘテ宜シイト思フ
(栗塚報吿委員)
銀行紙幣ヲ強制通用ノ紙幣トハドウシテモ云ヘヌ大藏大臣ハ「此紙幣ノ抵當トシテ大藏省出納局ニ預リ候也」ト云テアル
(松岡委員)
其法律ニハ銀行紙幣ハ諸官廳又ハ銀行會社其他ヲ見ヌデス日本全國何レノ地ニ於テモ租稅貸借ノ取引工業其他一切公私ノ取引ニ於テ總テ政府發行ノ貨幣同樣通用スベシトアル
(委員長)
其レハ通用丈ケダ
(松岡委員)
拒ムコトハ許サヌ其レガ卽チ強制通用ダロウ
(淸岡委員)
其ウスルト銀行紙幣ヲ與ヘテ義務ヲ免カレルコトハ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
原則カラ論ズレバ斯クノ如クナル
(村田委員)
相場ノ違ツテ居ル紙幣ヲ持テ行ケバ斷ルコトガ出來ル
(今村報吿委員)
潰レ掛ツタ銀行ノ紙幣ヲ持テ來テ此間借リタ百圓ノ借リニ返ヘスト云テハ困ルダロウ
(渡委員)
水掛ケ論ニナル、強制通用ノ紙幣ヲ以テ義務ヲ免カルルト云ヘバ強制通用ノ紙幣デナケレバ義務ハ免カレヌ樣ニナル
(松岡委員)
併シ通用ヲ拒ム者ハ國法デ罰スルトアル
(栗塚報吿委員)
其レハ通用丈ケダ
(淸岡委員)
今日ノ銀行デ眞ニ信用ノアル銀行ハ寥々タルモノデ、何處ノ銀行ハ評判ガ惡イト云フト其銀行ノ紙幣ハ否ダ否ダト云テ刎ネ付ケラレルト銀行ノ紙幣ハ頓ニ下落スル
(委員長)
民法バカリナレバ貴君ノ樣ナ弊ガアルガ商法ハ幅ガ廣クシテアルカラ實際差支ナイ唯文面デ云フト好事家ガ居レバ否ダト云テ困ラセル者ガアルカ知ラヌト云フ丈デス
(栗塚報吿委員)
其信用ノナイ紙幣ヲ如何シテ強テ取レト云フコトガ政府デ云ヘマシヨウ
(淸岡委員)
政府ハ抵當ヲ取テ居ルカラ損ハシナイ
(尾崎委員)
政府ガ自カラ出シタノト同ジコトダ
(南部委員)
不換紙幣ヲ政府ガ發行シタト同ジニ見ヘマスカ
(尾崎委員)
同ジコトデス少シモ變ツタコトハナイ
(今村報吿委員)
併シ換ヘテヤルコトハ換ヘテヤル
(尾崎委員)
銀行ガ潰レヌ以上ハ政府發行ノ紙幣ト同ジニ見ナケレバナラヌ
(委員長)
政府發行ノ紙幣ニハ換ヘテヤルト云フコトハ書イテナイ、外ノ銀行紙幣デモ何デモ換ヘテヤルト云フノハ保證ニナツテ居ル取付ニ來テ是非紙幣丈ケノ引換ヘ正金ヲ呉レト云フト拂フコトガ出來ヌカラバツタリ倒レテ仕舞フ、換テヤレヌト云フコトヲ以テ居ルノハ強制デナイ標シデス、不換紙幣ハ卽チ強制通用デス價格ノ付クモノト見ナケレバナラヌ
(委員長)
銀行ガ自分デ紙幣ヲ出シテ居ル處ヘ人ガ行ツテ政府ノ通貨ト換ヘテ呉レト云テ若シ換ヘヌトキハ値段ガ下落シテ來ル
(松岡委員)
發行シテ居ル銀行デハ換ヘラレマセン其銀行紙幣ヲ換ヘタイ者ハ政府ヘ云ハナケレバナラヌ、政府ハ何處デ換ヘサセルカト云フニ日本銀行デ換ヘサセル
(委員長)
日本銀行モ政府ノモノデハナイ一私人デス
(松岡委員)
併シ日本銀行ノ役人迄政府デ任命スルカラ政府モ同ジデス
(委員長)
何ト仰シヤツテモ日本銀行ヘ行ツテ換ヘテ呉レト云テ換ヘテ呉レヌト日本銀行ガ自ラ其義務ヲ果スコトハ出來ヌカラ紙幣ノ價ガ下落スル、下落シテモ罰スルコトハ出來ヌ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西銀行デモ英國銀行デモ金ノ棹ヲ下ヘ入レテ置カナケレバナラヌ、銀行ノ土藏ノ縁ノ下ニ金ノ棹ガ入テ居ルカラ銀行ノ紙幣ガ發行スルノデ、政府ノハ左樣デハナイ何デモ一圓ノ紙幣ハ一圓デ通スト云フノデス
(今村報吿委員)
私ハ佛蘭西ノ銀行デ金ノ棹ヲ見テ行キマシタガ、二寸ノモアリ三寸ノモアリ棚ニ載セテアリマシタ
(栗塚報吿委員)
其金ノ棹ガアルカラ人ガ信用スル若シ其棹ガ減ズルト紙幣ガ下落シマス
(松岡委員)
相場ノ差ノ立ツコトハ金デモ銀デモアルノダ
(栗塚報吿委員)
處ガ政府ノ紙幣ハ差ガ付カナイ
(松岡委員)
政府ノ命令デ通用サセテアルモノハ
(南部委員)
干渉スル紙幣ヲ通用紙幣トハ云ヘヌ
(松岡委員)
其論ヲ負ケタモノトシタ處ガ民法デ云フノハ何ノ爲メカト云フト強制通用ト政府ガ命令シテ否應ナシニ通用サセル紙幣ヲ持テ行ケバ金ヲ借リテモ銀ヲ借リテモ義務ハ免カレル
(栗塚報吿委員)
縱令世間デ相場ガ立トウトモ政府ノ紙幣ヲ持テ行ケバ相場ガナイ偖テ何ノ支ヘガアルカト云フト支ヘハナイ唯銀行ノ紙幣ヲ持テ強制通用トスルカセヌカト云フ丈ケデス
(松岡委員)
商法デ云フト強制通用ノ紙幣ト云フモノハ民法ノトハ違ウ
(渡委員)
商法ノハ栗塚サンヤ今村サソバ辯明ノ責ニ任ゼヌダロウガ民法ハ民法、商法ハ商法デ宜シイト云ヘバ其レデ宜シイガ商法ハ別ニ會ヲ開イテ商法ノ起案者ニ聞イテ見テ、民法ト商法ノ權衡如何ヲ決シ度イ
(栗塚報吿委員)
民法ハ之デ御置キヲ願ヒ度イ
(鶴田委員)
其レガ宜カロウ
(松岡委員)
宜カロウ
(南部委員)
之ハ此儘ニ願ヒ度イ
(渡委員)
之レハ此レデ假定メニシ度イ
(松岡委員)
之レハ本統ニ定メテ宜カロウ、此處デ云フノハ政府ノ紙幣ガ目的ナノダカラ
(淸岡委員)
兌換銀券ハ此内ヘハイケナイトシタ以上ハ治マリガ付カヌ
(松岡委員)
商法ノ方デ論ジ樣
(渡委員)
此處ヲ決スレバソウハ行カヌ
(松岡委員)
商法ハ三ツニ分ケテアル其レヲ議スルトキニ之ヲ論ジ樣
(淸岡委員)
彼ノ銀行ハ危イト云タトキ其紙幣ハ刎ネ付ケラレルダロウ、銀行紙幣ノ相場ヲ作テヤル樣ナモノダ
(今村報吿委員)
ソウ云フ紙幣ヲ無理ニ取レト云フノモ困ル
(栗塚報吿委員)
ソコデ土藏ノ縁ノ下ニ金ノ棒デモ入レテ置カナケレバ功ガナイ
(南部委員)
無理ノ法律ヲ以テ紙幣ノ相場ヲ維持サセルコトハ出來ナイ
(淸岡委員)
商賣上ハ中々ソウ云フモノデハナイ
(栗塚報吿委員)
商賣上ハソウハ行キマセンガ非商人ノ栗塚ニハ御免ヲ蒙リタイ
(淸岡委員)
今日相場ト云フモノハナイ
(今村報吿委員)
ソウスレバ如何シマスカ
(淸岡委員)
皆通用サセテヤレバ宜シイ今日兌換紙幣丈ケハ原價ガアリマスガ
(尾崎委員)
紙幣ト云フモノハ金デモ銀デモ換ヘテヤラナケレバナラヌモノダ換ヘテヤレバコソ紙幣ノ價値ガアルノダ換ヘヌト云ヘバ價値ハ持タヌ
(栗塚報吿委員)
其レヲ持タセルノガ強制通用デス
(尾崎委員)
太政官紙幣ナドハ百兩ノ紙幣ガ五十兩ニ外通ラズ
(村田委員)
彼ノ時分ハ強制デハナイ
(尾崎委員)
皆強制ダ
(淸岡委員)
若シ之ガ此通リニシテモ大事ノコトデアルカラ大藏省ノ方ヘデモ充分打合セテ其邊ハ尙ホ大藏省ノ意見ナドモ御聞キニナツタ方ガ宜カロウト思フ
(渡委員)
私ハ此條ト商法ノ三百七十一條トハ同ジデアルカラ之ハ商法ノ報吿委員モ此處ニ出テ兩方ノ意見ヲ聞イテ定メタレバ兩方トモニ決スルダロウト思フ
(南部委員)
其レニモ及バヌ商法ハ彼レデ宜シイ民法ハ之デ宜シイ
(松岡委員)
御耻カシイコトナガラ強制ノ意味ヲ一向知ラナイ、此間云ハレテ驚イタ、其強制通用ト云フ言葉ノ入ルノハ如何ナルモノカト云フコトハ未ダ定マラヌ銀行ノ紙幣ガ入ル入ラヌト云フ論デ入ラヌト云フノハ通用ノ見方ガ判然定マラヌ、今民法丈ヲ定メ樣ト云フテモ政府發行ノ紙幣ニ限ルト定メルノモ其他ノ銀行紙幣ヤ兌換紙幣ヲ持テ來タトキ拒ムト云フト裁判ノ上デ認メナケレバナラヌ斯樣ナコトハ一ツ違ウト社會ノコトカラ財產上ニ如何ナル影響ガ及ブカ分ラヌ
(尾崎委員)
其處ニ至ツテハ分ラヌ
(松岡委員)
佛蘭西デハドレ丈ケガ強制ト云ノカ分ラヌ、今一應質問シテ定メテ貰ヒ度イ
(尾崎委員)
政府發行ノ紙幣ニ限ルト云フト此法律ヲ布イタ後ハ大黒樣ノ付イテ居ル穢ナイ紙幣ハ否デ御座ル、政府發行ノ紙幣デナケレバ否デ御座ルト云テ拒ム樣ニナリ社會ノ安寧ヲ害スル
(栗塚報吿委員)
何ゾ知ラン其レハ價格サヘアレバ通ルデス
(淸岡委員)
其レガ大變サ
(今村報吿委員)
日本ノ兌換銀券ハ何デアルカト云フ問題ヲ決スルヨリ民法ノ拂ヒ方ハ強制通用ヨリ外ノ物ヲ與ヘテ宜シイカ如何ト云フノデ御座ヒマス、其處デ其論ガ定マツテ銀行ノ紙幣ハ第二ノ問題ニナル、若シイケナケレバ政府ノ布吿ヲ改メテ宜シイ
(松岡委員)
銀行ノ法律ガアレバ強制ト解釋ガ出來ルカ出來ヌカ
(栗塚報吿委員)
強制ト云フコトハ出來ヌ、銀行券ハ強制通用カ強制通用デナイカト云フノハ第二ノ問題デス、之ヲ御決シニナツタ處デ御決シニナルガ宜シイ
(今村報吿委員)
法律ガ取レト云フモノヨリ債主ガ取ラヌト云ハナケレバナラヌ疑ガアレバ條例ヲ動カスガ宜シイ、其レガ惡ルイト云テ民法ヲ變ヘルト云フコトハナイ
(尾崎委員)
彌々強制ノ方ニ入ルカ入ラヌカハ確カメテ置キ度イ
(渡委員)
銀行ノ紙幣ハ強制デナイト云フノガ普通ノ精神デソウト決シタ以上ハ之ヘハ入ラヌ積リニスルカ
(尾崎委員)
其レハ第二ノ問題ダ
(淸岡委員)
此處ヲ決スルノハ危イ
(渡委員)
講究シテ定メ度イ、之ハ確定デナイコトニシタイ
(委員長)
強制通用ト云フモノヲ民法デ金銀貨ニ換ヘルモノハ何カト云フト強制通用ノ紙幣ノ外ナイト云フ「ボアソナード」ノ精神ダカラ民法ハソウシテ置イテ商法デハ銀行紙幣迄入ルトシテアルカラ世ノ中ノ多クノ場合ニハ商法ガ適用サレルカラ差支ナイト云フ譯ナレバ民法ハ此儘ニシテ金銀ニ換ヘルモノハ政府ノ紙幣バカリニスルト云フ精神ナレバ其レデモ宜シイ其レヲ民法モ商法ノ如ク銀行ノ紙幣迄モ入ラセルト云フナレバ之ハソウ變ヘナケレバナラヌ
(渡委員)
非商人ガ大キイカラ僅カニヤルトキデモ強制通用ノ紙幣デナイト出來ナイト云フト其レハ大變困ル、銀行紙幣ガ價格ガ下落スレバ下落シタ丈ケニシテ通用スルト云フコトニシテ市價ニ應ジテ取引ヲスルト云フ融通ヲ付ケ度イ入レナケレバ財政ノ上ニ大困難デス
(栗塚報吿委員)
其レハ商人ニハナリマスガ非商人ニハナリマセンカラ
(渡委員)
之ハ日本ノ財政ノ上ニ大變ナ影響ヲ及ボスカラ議定スルコトヲ御延ベニナツテ充分調ベタ上デ決シ度イ
(南部委員)
強制通用ハ銀行紙幣デナイト御覽ニナレバ分リマシヨウ
(栗塚報吿委員)
其レナラ今日御決シニナツテハ如何デス
(松岡委員)
今日此處デ決スルコトハ出來ナイ
(渡委員)
之ハ一片ノ條理論デハイケナイ
(淸岡委員)
強制通用ノ紙幣ト云フモノハ斯樣々々ナモノデアル、卽チ佛蘭西ハ斯ウ云フモノガアル、何處ノ國ニハ斯樣ナモノヲ拵ヘタト云フコトハ私ナドハ知ラヌ又此強制ト云フノガ出タトキモ商法デ始メテ見タトキ種々ノ想像ヲシタリ聞イタリシテ稍強制ハ斯樣ナモノト云フコトガ分ツタ位デ固ヨリ我々ノ職分デナイ、縱令大藏省ガ法律ヲ知ラヌニシテモ紙幣ノコトナドハ實際調ベモアルダロウト思フカラ銀行ノ紙幣ハ強制ニ屬シテ居ルト認メテ居ルカト云フコトヲ問ヒ合セ度イ
(栗塚報吿委員)
併シ此處デ御決シニナルノハ相場ノ立ツモノガアツテモ其相場ハ見ヌゾヨト云フモノデナケレバ受取ルコトハ義務ハナイ、又負債者ガ拂フニ相場ノアルモノデハナラヌ、商法デハ相場ノ立ツモノヲ許スト云フ問題デスカラ大藏省ヘ御問合セニナツテモ關係ハナイコトト思ヒマス
(淸岡委員)
一圓ナラ一圓デ滯リナク通用シマシヨウ、處ガ兌換紙幣ハ強制デナイト云テ刎ネ付ケルコトガ出來マシヨウ
(南部委員)
何デ刎ネ付ケマシヨウ
(淸岡委員)
大藏省デハ強制トシテ居ルカ居ラヌカ聞イテ見ルガ宜シイ
(南部委員)
其レヲ聞イテ何ニシマス
(淸岡委員)
裁判所デハ強制デナイト云フ大藏省デハ斯ク々々ノ條例ガアルカラ強制デナケレバナラヌト云フト忽チ矛盾スルダロウ
(南部委員)
條例ヲ改メレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
若シ銀行ノ紙幣ニ二種アレバ強制通用ナレバ許スシ強制通用デナケレバ許サヌト仰シヤルナレバ此處ハ強制ヲ止メル丈ケデ宜カロウ
(淸岡委員)
強制通用ニ比順シテヤルベキモノト思フ、其レダカラ強制通用ノモノハ政府ノ發行紙幣ニ限ル、銀行紙幣ハソウデナイ、併シナガラ實際其レデハ不都合デアルカラ今日ノ場合ニ於テハ強制通用ト均シク看做シテヤラナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
此條ニ如何ナル影響ヲ及ボシマス
(淸岡委員)
強制通用又ハ同一ノ證券ヲ以テ通用スル紙幣トデモ入レナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
ソウスルト銀行券ノ紙幣ノ性質ガ定マツタ上デナケレバ此條ハ定メラレヌト云フノデ御座ヒマスカ
(淸岡委員)
商法ノ方ニ云テ居ル
(栗塚報吿委員)
其レナラ其レニ改メタラ宜カロウ
(淸岡委員)
併シ其考ヘガ間違ツテ居ルカ知レヌカラ強制通用ノ各國ノ例ナドヲ以テ大藏省ヘ問合セ度イ
(松岡委員)
強制流通ト云フ語ハ商法デ出テ漸ク其意味ガ分ツタ處ガ民法ハ又違ツテ來タ
(委員長)
民法ト商法ト違ウト云フト總テノ論ガ違ツテ來マスカラ一樣ニ見ナケレバナリマセン
(松岡委員)
抑モ強制通用ト云フ語ハ此頃始メテ聞イタノデ、愈強制流通ト云フノハ佛蘭西語デハドウ云フコトヲ云フノカ獨乙語デハドレ丈ケカ私共ニハ分ラヌカラ少シ各國ノ實物ノ例ヲ擧ゲレバ何レガ強制通用ニナルカ其レヲ聞キ度イ、他ノ國デハ斯樣ナモノガ強制通用ニ當ルト云フコトガ決定シテナレバ我兌換紙幣ニハ斯樣ナ法律ガアル其レハ強制流通ノ處ニ合ウカ合ハヌカヲ質問シテ之ハ性質上イカスモノダト云フガ如何カ、兩人ノ起案者ニ對シテ聞イテ見タイ、私共ハ日本ノ銀行ノ紙幣ナドハ強制ノ力ヲ持ツト思ヒマスガ尙ホ「ロエスレル」ニ聞キ度イノハ強制流通ノ紙幣ト云フモノノ外ニ全額ヲ持テ通用スル紙幣ト銀行紙幣トアルガ之レハ孰レニ當ルカ強制通用ノ紙幣ノ性質ヲ聞キ定メテ其意義ノ定マリタル以上デ他ノ國ニ通用セヌコトヲ日本獨リ分ツテモ仕方ガナイカラ其事ヲ聞キ定メタ上デ民法モ商法モ決議ニナルコトヲ希望致シマス
(委員長)
其レモ宜ウ御座イマシヨウガ貴君ノ仰シヤル旨意ヲ聞イテ見レバ私ガ只今申シタ通リ其他ノ御方ニモ充分貴君ノ御考ト同ジ人モアロウシ貴君ハ疑テ御出ナサルガ外ノ人ハ分ツテ居ル日本ノ強制通用ハ政府ノ紙幣ノミデ其他ノ兌換銀券銀行紙幣ガ入ラヌト云フノハ貴君ハ入ルト云フダロウ其解釋ノ爲メニ議決スルコトヲ止メルガ宜シイカ又畢竟民法デハ極ク確カナルモノ丈ケニシテ商法ハ區域ヲ廣クシテアレバ實際差支アルマイカラ、民法デハ證券ト價ヲ同ジクスルモノ丈ケニシ樣ト云フ論ト二ツアリマス貴君樣ニ起案者ニ問フガ宜シイト云フ說ガアレバソウシマシヨウ其レノヲ問フニハ餘程書イテヤラナケレバナラヌ元尾崎ハ屡「ロエスレル」ニ質問シテ居ルカラ元尾崎ノ云フノヲ聞イテ其レガ分ラヌト云フコトヲ問フ樣ニシナイト松岡サンノ云フ通リ「ロエスレル」ニ聞ケト云テモ元尾崎ハ疾クニ聞イテ居ルカ知レヌカラ
(松岡委員)
其レハソウシテモ宜シウ御座イマス
(委員長)
「ボアソナード」ノ方ハ今村サンニデモ聞イテ貰ヒマシヨウカラ松岡サンガ注文シテ聞クガ宜シイ
(松岡委員)
併シ問フヲ俟タヌト云フ人ガ多イケレバ仕方ガナイ
(尾崎委員)
之ハ假定ニシテ強制流通ニ入ラヌモノトナレバ其トキ議スル丈ケノコトヲ御遺シ下サレバ宜シイ銀行紙幣デモ價格ヲ下サザル場合ハ強制流通ヲサセル樣ニシタイ
(委員長)
質問スルカセヌカヲ決シマシヨウ
(鶴田委員)
民法ハ假リニ御定メニナツテ宜カロウト思フ、民法ハ商法ト違ツテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
詰リ「ボアソナード」ニ聞クノハ銀行紙幣ヲ強制流通紙幣ト云ヘルカ云ヘヌト云フノデ御座イマシヨウ
(南部委員)
聞クナレバ委員會ノ名前デナク其人ノ名前デ聞ク樣ニ願ヒマス、分リ切ツタコトヲ聞クノハ甚イカラ
(松岡委員)
委員會ノ名ヲ假ラレテモ松岡ノ名前ヲ以テ聞ク
(淸岡委員)
私ハ大藏省ヘ聞キ度イ
(委員長)
其レハ別ノ問題ダ
(渡委員)
疑ノアル處ハ質スガ宜シイ
(今村報吿委員)
民法ハ銀行紙幣デモ價格ガ同ジナレバ取テモ宜シイト云フコトハ書ケヌト思ヒマス何レカニ定メテ是レヨリ日本ノ銀行紙幣ハ否デモ宜シイト云テ銀行ガ倒レテハ大變ダト云フナレバ別段布吿ヲ出シテ銀行紙幣モ同樣ニ通用スルト云ヘバ宜カロウト思ヒマス
(尾崎委員)
果シテ之ガ強制流通ニ入ラヌモノナレバ銀行紙幣モ價格ヲ下サザル以上ハ強制紙幣ト同樣ニ義務ヲ免カレルト定メテ置キ度イ
(今村報吿委員)
其レナレバ「ボアソナード」ニ日本ノ條例ヲ見セレバ如何云フカ知レマセンガ此議場デ御說ノ違ウ通リ「ボアソナード」ガ如何ニ解釋スルカ知レヌ此會ノ議決ヲ動カスコトハ出來ナイ貴君ガ今日其事ヲ入レ樣ト思ヘバ「ボアソナード」ニ聞イテモ矢張リ書加ヘナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
今日ノ銀行條例ニ牽連シテ此處ヲ御決シニナルニハ及バヌト思ヒマス
(委員長)
民法ト商法ト同ジニスルハ宜シイカ違ヘテ宜シイカト云フ丈ケデス、ソウスルト問フノハ松岡サンガ自分デ聞キマスカ
(淸岡委員)
「ボアソナード」ニ聞イテ耻ヲカクコトモアルマイ
(委員長)
松岡サンガ聞イテモ委員會ガ聞イテモ同ジデス
(淸岡委員)
強制ニハ此レ々々ノ理由ガナケレバ云ハレヌト云フ法則ガアルカモ知レヌ
(委員長)
其レハ問ハズトモ何カニアルダロウ
(今村報吿委員)
佛蘭西ニハ昔ハアツタソウデスガ、ソウ云フコトヲスレバ大藏省ガ身代限ヲスル樣ニナツテ紙幣ト銀行切手ト區別ヲシナケレバナラヌ銀行切手ハ無理ニ渡スコトハ出來ナイ紙幣ハ無理ニ渡サレル、強制通用ヲスルノハ是レ丈ケハナラヌト云フノガ定マツタト云フヨリ外ニ仕方ガナイ
(委員長)
今日ハ是レ迄ニシテ置キマス
強制流通紙幣ノコトハ「ボアソナード」ト「ロエスレル」ニ質問スルコトニ決ス