旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第33回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草按財產篇人權ノ部第三十三回議事筆記
自第四百六十三條至第四百八十二條
(鶴田委員)
ヤリマシヨウ
第四百六十三條朗讀ス
第四百六十三條 義務ハ其本性ニ因リ可分ナルモ左ノ場合ニ於テハ尙ホ當事者ノ意思ニ因リ受方ノミニテ不可分タリ
 第一 債務者ノ一人ノ處分ニ在ル特定物ノ引渡ニ關スルトキ此場合ニ於テ其一人ハ全部ニ付キ訴追セラルヽコトヲ得然レトモ若シ同時ニ數人ノ債權者アルトキハ其一人ノ債務者ハ此等ノ債權者ニ對シ同時ニ義務ヲ免ルヽ爲メ其總テノ債權者ノ訴訟參加ヲ要求スルコトヲ得〔第千二百二十一條第二號〕
 第二 若シ債務者ノ一人カ債務ノ設定名義ニ因リ獨リ履行ニ任セラレタルトキハ履行ハ其一人ノミニ對シ要求セラルヽコトヲ得〔第千二百二十一條第四號〕
(淸岡委員)
此當事者ハ債權者デスカ
(南部委員)
ソウデス
(淸岡委員)
ケレドモ「受方ノミ」トアリマス
(栗塚報吿委員)
不可分ノ方ハ受方デス
(南部委員)
第二ヲ御覽ニナレバ分リマス、此評定名義ハドウシテモ双方ノ意思デナケレバ出來ナイ
(松岡委員)
四百四十七條ノ特定物ガ幾ツアツテモ單一ナリト云フデシヨウ
(栗塚報吿委員)
二人ニテ馬二頭渡ストキ二頭トモ私ノ廏ニ在ルトキハ、其レヲ引渡スニ一頭渡スト云フコトハ出來ナイ、併シ南部サンモ私ノ馬ヲ取ル權ガアツテ貴君ニ上ゲタ後ニ南部サンガ取ルト云テハ困ルカラ同時ニ南部サンモ御出ナサイト云フコトガ云ヘル、ソウスレバ私ハ義務ヲ免カレル
(南部委員)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
第四百六十四條朗讀ス
第四百六十四條 不可分ハ第四編第一部第三章ニ規定シタル如ク本性ニ因リ可分ナル債務ノ履行ノ抵保トシテ之ヲ連帶ニ併合シ又ハ併合セスシテ債務者ノ負擔ニ於テ之ヲ要約スルコトヲモ得〔第千二百二十一條第五號、第千二百二十二條、第千二百二十三條〕
(修正案) 要約スルコトヲモ得ノ「モ」ノ字ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
要約スルコトヲモ得ノ「モ」ノ字ヲ刪リマス、第四編トアルハ恰度擔保篇ノ處分デス
(尾崎委員)
此場合ヲ云テ下サイ
(栗塚報吿委員)
連帶ニ合セテ不可分ト云フノモアリ又連帶ニ合セズトモ不可分ノコトガアルト云フコトデス
(鶴田委員)
連帶ニ合セルト云フノハ元ノ債務連帶デスカ、抵保ガ連帶デスカ、債務ト云フモノガ一ツアツテ、之ヲ履行シナケレバ之ヲ渡ソウト云フノガ抵保ダロウ
(栗塚報吿委員)
私ト南部サントデ義務ヲ履行シナケレバナラヌト云フトキ不可分トシテ履行スルノミナラズ、尙ホ連帶デト云フコトデス、連帶ト不可分ノ別ハ尙ホ先キデ分リマスガ、連帶丈ケダト可分ニナルコトモアリマス、相續人ガ出ルト可分ニナルガ、ソレヲ可分ニシナイコトモ出來ル
(南部委員)
「之ヲ」ト云フノハ不可分ヲ指シマス
(鶴田委員)
債務者ノ負擔ニ於テ之ヲ要約スルト云フノハ
(栗塚報吿委員)
債務者ガ連帶ノ上ニモ尙ホ不可分ト云フコトヲ云フテ呉レロト云フコトヲ債權者ノ方カラ云フコトガ出來ル
(村田委員)
之ハ併シ餘程念ヲ入レタノデス
(栗塚報吿委員)
念ニハ念ヲ入レタ債權者デス
(淸岡委員)
「合併セスシテ」ト云フノハ
(栗塚報吿委員)
不可分丈ケデト云フノデス
(南部委員)
可分ノ債務者デスカラ連帶ハナイデス
(栗塚報吿委員)
本性可分ノ物デモ、私ト南都サント米ヲ十石ヅツ上ゲマシヨウ
(淸岡委員)
連帶ト云フモノガアツテ不可分ヲ合併シテト云フデス、連帶ハ連帶デ措イテ不可分ヲ切ル樣ニ見ヘル
(栗塚報吿委員)
其通リノ意味デス
(淸岡委員)
其レハ如何ナル場合ダロウ
(栗塚報吿委員)
約束デ、私ト南部サント米ヲ十石貴君ニ上ゲマシヨウト云フト、貴君ハ本性可分ノ物デハアルガ、若シ御前逹ノ一人ガ無資力ニナルト困ルカラ連帶デヤツテ呉レ、尙ホ其上ニモ相續人ノ中ガ死ヌト困ルカラ連帶ナシデ、不可分デヤツテ呉レト云フノデス
(淸岡委員)
連帶ト不可分ト別ニナツテ、合併セズシテト云フノハ不可分丈ケト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(淸岡委員)
合併セズシテト云フト各獨立デ居ル樣ダ
(栗塚報吿委員)
左樣デハナイノデス
(鶴田委員)
不可分ハ不可分デ獨立サセテ別々ニ行ク
(淸岡委員)
不可分ハ連帶ヨリ強イ
(栗塚報吿委員)
債權者ガ一人ノトキハ不可分ヲ云フニ違イナイ、債務者ガ二人居タトキハ連帶ト不可分ヲ要求スルニ違イアリマセン、子ガ五人アツテ一人デ米ヲ十石上ゲルト云フコトヲ約束スレバ不可分ト云ハナケレバナリマセン
(尾崎委員)
債務者ノ負擔ニ於テト云フコトヲ云ヒマスカ
(南部委員)
卽チ受方ノ不可分ト云フヲ示シタノデス
(尾崎委員)
之ハ講釋ヲ聽カンデハ中々分ルモノデナイ、先キヘ行ケバ分リマシヨウカラ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第四百六十五條朗讀ス
第四百六十五條 債權者中ニテ己レ一人ニ不可分ノ債權ノ履行ヲ得タル者ハ他ノ債權者ノ權利ノ限度ニ於テ之ニ其利益ヲ分與スルコトヲ要ス
 右ニ等シク債務者中己レ一人ニテ義務ヲ履行シタル者ハ義務ノ原由ニ從ヒ又ハ前來ノ互相ノ關係ニ從ヒ他ノ債務者ノ分擔スヘキ部分ニ付キ之ニ對シ擔保ノ求償權ヲ有ス〔第千二百二十一條末項、第千二百二十二條〕
(栗塚報吿委員)
第一項ハ私ガ貴君方三人ニ馬ヲ上ゲナケレバナラヌト云フトキ村田サンノミニ上ゲレバ貴君モ尾崎サンモ村田サンカラ配當ヲ受ケナケレバナリマセン、ソレカラ二項ハ債務者ガ三人デ貴君一人ニ馬ヲ上ゲレバ宜シイノデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百六十六條朗讀ス
第四百六十六條 如何ナル債權者ニテモ要約シタル如ク辨濟ヲ受クルニアラサレハ他ノ債權者ノ權利ヲ減シ又ハ消スコトヲ得ス
 若シ債權者ノ一人カ更改、債務ノ釋放又ハ總テノ債務者若クハ其中ノ一人ノ義務免除ヲ主旨トスル或ル他ノ合意ヲ爲シタルトキ又ハ其一人ノ債權者ニ對シ適法ノ相殺ノ原由存スルトキト雖モ他ノ債權者ハ尙ホ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得然レトモ他ノ債權者ハ右一人ノ債權者カ其權利ヲ失ハサリシナラハ第五百二十三條第四項、第五百三十七條第二項、第五百四十三條第三項並ニ第四項ニ記載シタル如ク且此等ノ條項ニ記シタル區別ニ從ヒ其一人ノ債權者ニ對シテ負擔スヘカリシ價額ニ付キ訴追セラレタル債務者ニ對シテ計算ヲ爲ス〔第千二百二十四條第二項〕
(修正案) 末項「其一人ノ債權者ニ」ノ下「對シテ負擔」ノ五字ヲ刪リ「分與」ノ二字ニ換フ
(栗塚報吿委員)
「一人ノ債權者ニ對シテ」ヲ「分與スヘカリシ價額ニ付キ」ト修正致シマシタ、之デ御分リニナロウト思ヒマス
(淸岡委員)
其レデハ債權者ノ方カラ分與スル樣ニナリヤセヌカ
(南部委員)
債權者ニ分與スルノデス
(松岡委員)
第一項ノ處ハ舊譯デハ「債權者中何人ニ限ラス」トシテアツテ能ク分ル、之ハ數人アル、ドノ人デモト云フノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
債權者ノ誰タルヲ問ハズデス
(松岡委員)
此通リニ書クト同一ノ人デナイ別々ニナツテ居ル債務者ニ響ク樣ニ聞ヘル
(南部委員)
併シ前條ノ續キデモアリ、且又他ノ債權者ト云フコトガアルカラ分ルダロウ
(栗塚報吿委員)
債權者ノ誰デモト云フノデス
(鶴田委員)
然レドモヨリ以下ガ分明シマセン鳥渡私ガ解釋スル處デハ一人ノ債權者ガ自分ニ相殺ガアル時分ニ相殺シテ仕舞フト他ノ者ハ困ツテ仕舞フ、ソレニ頓着ナク全部ノ無効ヲ主張スルコトガ出來ル、然レドモ他ノ債權者ハ右ノ一人ノ債權者ガ權利ヲ失ハナカツタナレバ其一人ノ債權者ガ分ケル取ル丈ケノ價額ニ就テ債權者ニ對シ差引勘定ヲ立テ其レ丈ケハ拂ハナイ樣ニナルト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、然レドモ他ノ債權者ハ債務者ニ對シテ計算ヲ爲スト云フノデス
(淸岡委員)
其分丈ケ取テ返ヘスト云フ旨意デハナイカ
(栗塚報吿委員)
差引勘定ヲシテ義務ヲ免レテ居ルカラ
(淸岡委員)
其レダカラ「負擔ス可キ」ガ宜クハナイカ
(松岡委員)
「スヘカリシ」ハ「ヘキ」デ宜イダロウ、以前ニ彼ノ樣ナコトヲシナカツタナレバ今日五圓ナリ八圓ナリ取レル物ヲト云フノダカラ、鶴田サン淸岡サンノ云フ樣ニ上ヲ「失ハサリシナラハ」ト云ヘバ下ハ「スヘキ」デ宜シカロウ
(委員長)
一人ガ更改ナリ釋放ナリ、一方ハ合議ガ調ツテ債務者ハ義務ノ免除ヲ致シマス、權利者ガ權利ヲ失ヘバ訴追セラルルコトハアルマイ
(栗塚報吿委員)
恰度貴君方三人デ私ノ債權者デス、其中委員長丈ケガ栗塚ノ債務ヲ釋放スルコトヲ承諾シテヤル約束ヲシタトキハ私ハ貴君ニ對シテ三百圓ノ中百圓ハ返ヘサズトモ宜シイコトニナリマシタ、其レデモ三百圓ヲ鶴田サント淸岡サンハ委員長ガ其權利ヲ失ハナカツタナレバ訴追セラルル部分卽チ百圓ハ栗塚ニ算入シテヤラナケレバナラヌト云フモノハ二百圓ホカ取ルコトハ出來ヌゾヨ
(委員長)
訴追ト云フノハ一人ノ釋放シタノヲ二人ガ取ルノカト思フタ
(栗塚報吿委員)
左樣デハアリマセン、栗塚ノ差引シテヤル其百圓ヲ栗塚カラ拂ヘバ貴君ニ上ゲナケレバナラヌモノデアツタ、其モノ丈ケハ栗塚ニ差引シテヤル
(委員長)
分ツタ
(鶴田委員)
此條ハ惡ルイトハ申シマセンガ三人デ債權者ガ連帶シテ物ヲ貸シテ居ルカラ一人ガ三人前ヲ分ツテ皆呉レテヤルト云フコトハ出來ナイ話シダ
(栗塚報吿委員)
茲デハ連帶債權者トハ見テ居リマセン、普通ノ債權者ト見テ居ル、詰リ如何ナル債權者デモ一人ニテ他ノ者ノ權利ヲ減ズルコトハ出來ナイト云フノガ原則デス
(鶴田委員)
私ガ人ノ前ヲ憚ツテ彼ハ皆返ヘサンデ宜シイト云テモ出來ナイノハ當リ前ダガ連名デ貸シテ其中一人ハ皆返ヘサンデ宜シイト云ヘバ連帶ダカラ返サンデ宜サソウナモノダ
(南部委員)
之ハ不可分ダカラ一身ニ屬シタ物ヲ以テ許スコトハ出來ナイ
(鶴田委員)
之ハ不可分ノ物ダカラ馬ヲ一頭ヤルコトハ出來ナイガ、若シ金ヲ千圓三人デ貸シテ居ルガ或ハ一人ガ返ヘサンデ宜シイト云タナレバ返ヘサンデ宜シイ、一人ガ取テ宜シイト云フ反對ガアルナレバ返ヘサンデモ宜カロウ
(松岡委員)
管理スルニ人ヲ害スト云フ管理ハ出來ナイ、取ルナレバ一人デ取テ宜シイガ、一人デ許スコトハ出來ナイ
(鶴田委員)
詰リ取ル方ニハ權ガアルガ、許ス方ニハ他人ノ分迄遮テヤルコトハ出來ナイト云フノガ原則ニナル
(尾崎委員)
三百兩ヲ三人デ貸シタモノヲ一名ガ釋放シタル折ニハ自分ノ權利ハ無クナツテ居ル
(鶴田委員)
無クナツテ居ルガ不可分ダカラ三百兩ニシテ訴追シテ宜シイ、訴追ハ三百兩スルケレドモ二百兩ホカ取ルコトハ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
債權者ノ一人ガ爲シタ功能ハ他ニモ及ブト云フノデス
(南部委員)
債務者ガ一人デ債權者ガ數人アル場合ヲ見レバ良ク分リマス、債權者二人デハイケマセン
(委員長)
若シ二人ノ場合ガアツタラ如何スル
(栗塚報吿委員)
之ハ次ノ條ト相俟テ居リマスカラ次ニ行キマシヨウ
(委員長)
先キヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第四百六十七條朗讀ス
第四百六十七條 右ニ反シテ債權者ノ一人ノ爲シタル付遲滯及ヒ其他ノ保存ノ所爲ハ他ノ債權者ニ利ス
 之ニ等シク債權者ノ一人ノ利益ニ於テ時効ヲ停止スル適法ノ原由ハ同時ニ他ノ債權者ノ利益ニ於テ之ヲ停止ス〔第七百九條、第七百十條〕
本條ハ原案ニ決ス
第四百六十八條朗讀ス
第四百六十八條 如何ナル債務者ニテモ他ノ債務者ノ地位ニ加重スルコトヲ得ス又債務者ノ一人ノ付遲滯ハ他ノ債務者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
 然レトモ債務ノ追認及ヒ其他債務者ノ一人ニ對抗スルコトヲ得ル時効ノ中斷又ハ停止ノ原由ハ等シク他ノ債務者ニ之ヲ對抗スルコトヲ得〔第二千二百四十九條第二項〕
(修正案) 「地位ニ」ヲ「地位ヲ」ト改ム
(栗塚報吿委員)
債務者ノ地位ニヲ地位ヲト致シマス「加重スル」ト云フノハ刑法ノ加重ト同ジデス
(淸岡委員)
義務ノ地位ヘ加重スルノダカラ「地位ニ」ノ方ガ良クハナイカ
(栗塚報吿委員)
債務者ト云フモノハ元來苦シイ位置ダガ、其苦シサヲ增スコトガ出來ルゾヨト云フノデス
(村田委員)
負擔ヲ加重スルト云フノダ
(栗塚報吿委員)
負擔ニ負擔ヲ加ヘルト云フ意味デスカラ地位ヲ加重スルデ差支ナイ樣デ御座リマス
(渡委員)
債務者ノ不遲滯ト云フノハ
(栗塚報吿委員)
私ト南部サントデ貴君ニ金ヲ借リテ、私ニ催促書ヲ出シテモ南部サンニ對抗スルコトハ出來ナイト云フノデス
(委員長)
「地位ヲ」トスルカ
(栗塚報吿委員)
他ノ債權ノ「ヨンジシヨン」デス
(委員長)
是レ迄ハ狀況トカ事情トカ云フ字ガ書イテアリマシタ、地位ヲ加重スルト云フト債務者ノ上ニ債務者ガ加ハル樣ニナル、俗ニ云ヘバ義務ヲ加重スルト云フノダ
(鶴田委員)
詰リ債務者ノ債務ヲ加重スルノダ
(栗塚報吿委員)
一事件ニ於テ利益不利益ノ一ツト云フ意味デス、又人ガ明示或ハ承諾スル條件負擔義務ト云フ意味ニモナリマス
(委員長)
「負擔」トスレバ極ク宜シイ
(栗塚報吿委員)
「負擔」デ宜シウ御座リマス
(南部委員)
佛蘭西民法二千三百四十九條トアルハ二千二百四十九條ノ誤リデ御座リマス
(栗塚報吿委員)
ソレカラ四百六十六條ノ終リニ千二百四十九條トアルハ千二百二十四條ノ誤リデ御座イマス
(委員長)
次ギニ行キマス
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「地位ニ」ヲ「負擔ヲ」ト改ム
第四百六十九條朗讀ス
第四百六十九條 若シ債務者ノ一人ノ過愆ニ因リ不可分義務ヲ履行セラルヽコトヲ得サルトキハ過怠約款カ可分義務ノ全部ノ履行ヲ保スル爲メ設ケラレタルトキト雖モ損害賠償又ハ要約セラレタル罰ハ過愆ニ在ル者ノミ之ヲ負擔ス〔第千二百三十二條、第千二百三十三條〕
(修正案) 過怠以下「雖モ」迄ヲ刪リ「負擔ス」ノ下左ノ數字ヲ加フ然ノミナラズ過怠約款カ可分義務ノ全部ノ履行ヲ保スル爲メ設ケラレタルトキト雖モ亦同シ
(栗塚報吿委員)
修正ガアリマス
(委員長)
可分ノ義務デモ全部ノ過怠約款ヲ要約スルコトガアルカ
(栗塚報吿委員)
アリマス
(淸岡委員)
過怠約款デ可分義務ニナツテ居ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
可分義務ノ履行ノ爲メニ過怠約款ヲ設ケタトキデス
(南部委員)
元トガ可分義務デモ同ジコトダト云フ旨意デス
(尾崎委員)
三人ニテ馬一頭ヲヤルト云フ約束ヲシテ三人ノ中一人ガ馬ヲ打殺シタルトキハ打殺シタ人ガ損害賠償ニ逢フ、ソウスルト他ノ二人ハ義務ガ無クナルカ
(南部委員)
ソウデス
(尾崎委員)
ソコデ連帶ト違ウ所以ダ
(栗塚報吿委員)
四百六十九條デ云フテ居ル所ヲ註デ見マスルト、伊太利法ト佛蘭西法ト違ツテ居ル、過怠約款ハ一人ノ不調法デ出來タトキデモ遺ラズノ債務者ノ負擔ト云フノガ原則ニナツテ居ルソレガ分ラヌ、過怠約款デモ一人ノ不調法ノアツタトキ皆ンナデ負擔シナケレバナラヌト云フコトハナイ、損害ノ樣ニ過愆ヲ爲シタル者ガ一人デ負擔スルガ宜シイト云フテ居リマス、過怠約款モ要求セラレタル罰ニ過ギナイカラ過怠約款モ亦同ジト云フノデ御座リマス
(鶴田委員)
長イカラ分ラナクナルノデス、過怠約款モ亦同ジト云フ意味デスネ
(尾崎委員)
一人惡ルイコトヲシタ御蔭ニ他ノ二人ガ義務ヲ免カレル
(松岡委員)
鳥渡變ダケレドモ此損害賠償ハ今引渡スコトガ出來ナカツタ爲メニ生ズル方ノ利益デ向ウノ論デハ馬ノ代ハ三人ガ免カレヌト云フコトニナリヤセヌデシヨウカ
(栗塚報吿委員)
損害賠償又ハ要約セラレタル罰ハ一人デ負擔スルト云フノデス
(尾崎委員)
一人ガ負擔スレバ他ノ二人ハ馬ヲ渡ス義務ヲ免カレル
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(南部委員)
殺シタ損害ノ償ヲスル丈ケデス
(栗塚報吿委員)
連帶ニ於ケル如ク共ニ責任ヲ帶ビ樣ゾヨト云フ代理契約ノ如キモノガアレバ、ソウハ行カヌガ、左樣デナケレバ過チハ一人ガ任ズルノガ原則ダカラ、其レヲ茲ヘ揭ゲタノデス
(鶴田委員)
矢張リ「ボアソナード」ノ說ガ宜シイ
(淸岡委員)
過リタル者ガ類定物ダト損害賠償ヲ係ツテ來テモ何モナイカラ一向取レナイ
(渡委員)
若シ一人デ引受ケルコトノ出來ヌトキハ如何スルカ
(栗塚報吿委員)
其レハ債權者ノ迷惑デス、併シ連帶ナラ別ゾヨ
(淸岡委員)
過怠約款丈ケナラ宜シイガ、損害賠償ヲ免カレルト云フノハ、ドウ云フモノカ
(栗塚報吿委員)
如何ナル部分ガ過怠約款カ、ドノ部分ガ損害カ裁判所デ分ラヌ過怠約款デモ擇一義務カ或ハ條件付ノ義務ナラ若シ三人デ馬ヲ一頭上ゲ樣、馬ガ上ゲラレナイトキハ金ヲ上ゲ樣ト云フトキハ「人ノ責ニ歸スルコトハ出來ナイガ、其レデハ過怠約款デハナイ、故ニ過怠約款ノ損害賠償ニ過ギヌ、唯過怠約款ヲ前以テ定メテ於イタ丈ケダカラ
(南部委員)
連帶ト不可分トハ全ク違ウト云フコトヲ御覽ニナラヌトイケマセン
(淸岡委員)
一人ノ過愆デ滅失スル、債權者ハ一向知ラヌ、其中途中デ流シタトカ、燒イタトカ云フトキハ債灌者ハ馬鹿ナ目ニ逢ウダロウ
(南部委員)
迷惑ナレバ連帶シテ置ケバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
不可分丈ケデハ仕方ガナイ、假令バ相續人ガ三人ニテ馬ヲ一頭上ゲナケレバナラヌト云フトキ、一人ノ不調法デ、馬ヲ殺シタルトキハ他ノ相續人ハ構ヒマセン
(渡委員)
此場合デハ連帶デナケレバ損ヲスルト云フコトダ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第四百七十條朗讀ス
第四百七十條 第四百六十二條ノ場合ニ於テ不可分義務ノ履行ノ爲メ訴ヘラレタル債務者ハ若シ他ノ債務者ヲシテ己レト共ニ併合シテ言渡ヲ受ケシムヘキトキハ之ヲ受ケシムルコトニ付キ他ノ債務者ヲ訴訟ニ參加セシムル爲メ及ヒ是等ノ債務者ニ對スル自己ノ補隨ノ求償ヲ決セシムル爲メ期間ヲ請求スルコトヲ得
(松岡委員)
「言渡ヲ受ケシムヘキトキハ之ヲ訴訟ニ參加セシムル」ト云ヘバ宜シイノダ
(渡委員)
自己ニ補隨ト云フノハ如何ナルコトデスカ
(栗塚報吿委員)
私ト南部サント兩人デ馬ヲ一頭貴君ニ上ゲナケレバナラヌト云フトキ私ガ訴ヘラレレバ南部サンヲ合併シテ言渡ヲ受ケシムベキトキハ南部サンヲ訴訟ニ參加セシムル爲メニ參加サセル、後チニ南部サンニ取リニ行ク金モ此處デ決シテ下サイト云フコトガ出來ル
(村田委員)
立替ヘタ物ヲ取ルト云フノダ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(松岡委員)
附帶ノ訴訟ト云フコトカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(鶴田委員)
詰リ水泡ダ
(栗塚報吿委員)
「シブシジエル」ト云フノハ主タル物ヲ助ケニ來ルト云フ意味デス
(松岡委員)
ソウスルト協力サセル譯ニト云フコトニナル
(栗塚報吿委員)
私ガ主トシテ渡君ニ拂ツテ置クガ、南部君ハ其別前ヲ佛ツテ呉レヨト云フノデス、原文ノミ正味ハ已ニ用ヒタ理窟ニ續イテ用フル處ノモノト云フノデスカラ前說ヲ補フト云フノデス
(委員長)
茲デ變ヘルコトハ出來ヌ
(栗塚報吿委員)
左樣デス之ハ定ツテ居リマスカラ茲デ變ヘルコトハ出來マセン
(松岡委員)
主タル義務ヲ補ハセル援兵ノ爲メト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
主トシテ之ヲ有シ、之ヲ行フ爲メニ第二ノ位置カラコウ云フコトヲ云フ、私ガ今拂テ置ケバ從テコウ云フ權ガ隣リノ人ニ在ルカラ私ガ義務ヲ盡シテ置ケバ後ニ拂テ呉レト云フコト迄茲デ云フテ仕舞フ
(松岡委員)
指ス處ガ違ツテ居リヤセヌカ
(栗塚報吿委員)
私ハ渡サンニ馬ヲ上ゲテ仕舞ツタカラ私ノ缺乏シタモノヲ補ツテ呉レト云フノデス
(松岡委員)
其レデハ主タル物ヲ補フト云フコトニハナラヌ主タル物ハ十個ナレバ十個ヤツテアルカラ主タル物ノ補ヒトハ云ヘヌ樣ニナル
(栗塚報吿委員)
南部サント二人デヤルモノヲ私ガ一人デヤレバ南部サンカラ取ルコトガ出來ル
(松岡委員)
其レデハ補塡トナル
(栗塚報吿委員)
補塡ノ爲メニ附隨シテ求償ガ出來ルト云フノデス
(南部委員)
此字ハ又先キニ在リマスカラ之ヲ置テハ如何デス
(委員長)
「補」ノ字ノ下ニ「塡」ノ字ガ付イテ居ルト思テ讀ムカ
(松岡委員)
缺ヲ補ヒ且本案ニ附從スルト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
前ニ云フタコトヲ補フ爲メニ出スト云フ意味デス
(委員長)
「補塡ノ爲メニ本案ニ附隨スル求償」ト云ヘバ良イニ違イナイ
(栗塚報吿委員)
四百七十三條ヲ御覽ナサイ、附隨ノ義務ヲ本人ガ拂ヘバ良シ、拂ハザルトキハ本人ノ次ギノ位置ニ立テ拂フト云フノデス
(松岡委員)
矢張リ分ラヌ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百七十一條朗讀ス
第三章 義務ノ消滅
第四百七十一條 義務ハ左ノ諸件ニ因リ消滅ス
 第一 辨濟
 第二 更改
 第三 合意上ノ釋放
 第四 相殺
 第五 混同
 第六 履行ノ不能
 第七 銷除
 第八 廢罷及ヒ解除
 第九 免責時効〔第千二百三十四條〕
(栗塚報吿委員)
之レデ恰度終リマス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百七十二條朗讀ス
第一節 辨濟
第四百七十二條 辨濟卽チ義務ノ方式及ヒ實旨ニ從フ其履行ハ下ノ第一款及ヒ第四款ニ記シタル區別ニ從ヒ單純ナルコト又ハ代位ヲ以テスルコトヲ得
 數箇ノ債務アリテ只一箇ノ辨濟アルトキハ第二款ニ從ヒ債務ノ一箇又ハ數箇ニ付キ辨濟ノ充當ヲ爲ス
 若シ債權者カ辨濟ヲ受クルコト能ハス又ハ欲セサルトキハ債務者ハ第三款ニ記載シタル如ク實物提供及ヒ供託ノ方法ヲ以テ自ラ義務ヲ免カルヽコトヲ得
 債務者カ其債權者ニ自己ノ財產ノ抛棄卽チ委付ヲ爲スコトヲ許サルヽ場合ハ民事訴訟法ニ之ヲ規定ス
(修正案) 第四項「抛棄」ノ下「卽チ委付」ノ四字ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
渡サンノ御說ニ「代位ヲ以テスルコトヲ得」トアルハ、スルコトガ出來ルカ、出來ナイカ翻譯ニ相談スル積リデス、末項ノ委付ト云フ字ハ今一ツノ委付ト云フ字ト混スルカラ「抛棄ヲ爲スコトヲ許サルル場合」デ宜シカロウト思ヒマス、註ニモ左樣申シテ居リマスカラ
(淸岡委員)
委付モアル方ガ宜シイ、日本デ抛棄ト云フノハ極ク廣ク云フテ居ル
(鶴田委員)
二項ノ一個又ハ數個ト云フノハ一個ニ割當テル、數個ニ割當テモ宜シイト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(淸岡委員)
抛棄デナク委付バカリデ良クハナイカ
(栗塚報吿委員)
委付ト云フノハ讓渡ト云フ字デ御座イマス、茲デ殊更ニ委付トシタノハ次條ヲ見ルト財產讓渡ハ卽チ訴訟法デ云フ財產抛棄ナリトアリマスカラ態々委付ト書イタノダロウト思ヒマス
(松岡委員)
報吿委員ノ修正ノ通リデ宜シイ
(淸岡委員)
上ノ方デハ辨濟卽チ義務ノ抛棄トアルカラ抛棄卽チ委付ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ置キマシヨウカ
(渡委員)
委付ハ置カヌガ宜シイ
(尾崎委員)
報吿委員ノ修正デ宜シイ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第四百七十三條朗讀ス
第一款 單純ナル辨濟
第四百七十三條 辨濟ハ債務者ニ因リ又ハ若シ債務カ連帶若クハ不可分ナルトキハ共同義務者ノ一人ニ因リ有効ニ爲サルヽコトヲ得ルノミナラス尙ホ保證人又ハ債務ノ抵當タル財產ノ第三保有者ノ如キ補隨ノ義務者又ハ利害ノ關係アル者ニ因テモ有効ニ爲サルヽコトヲ得
 又辨濟ハ利害ノ關係ナキ第三者ニ因リ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ爲サルヽコトヲ得〔第千二百三十五條〕
(修正案) 「補隨ノ義務者」ノ下「又ハ」ヲ「卽チ」ト改ム
(栗塚報吿委員)
「補隨ノ義務者又ハ」ヲ「「卽チ」ト致シマス、「單純ナル辨濟」ハ「單一ナル」トカ「單ナル」トナルカ知レマセン
(松岡委員)
「單一」ガ良イノダロウ
(淸岡委員)
補隨ノ義務者ト云フノト關係ノアルモノトハ違イヤセヌカ
(栗塚報吿委員)
起案者ハ他ノ國ノ法律ハ利害ノ關係ノアル者トアルガ、其レヨリ補隨ノ義務者ト云フガ宜シイト云フテ居リマス
(松岡委員)
茲ハ素ヨリ主デハナイ人ダ
(淸岡委員)
補隨ノ義務者ト云テ、卽チ利害ノ關係アル者ト云フノハ具合ガ惡ルイ
(栗塚報吿委員)
其レナラ「利害ノ關係アル者」ト云フノヲ御刪リニナツテモ宜シウ御座イマス
(南部委員)
「利害ノ關係アル者」ヲ刪ルコトハ出來マセン
(淸岡委員)
其レハナケレバナラヌガ、補隨ノ義務者ト云ヘバ元トヨリ利害ノ關係アル者ニ違イナイト云フノデハナイ、本家ガ潰レタラ末家ガ困ルト云フ位デ、棄テ置ケバ自分ニハ關係ガ來ナイ、併シ本家ガ潰レレバ厄介ヲ引受ケナケレバナラヌト云フ關係ガアル位ノモノデ
(南部委員)
當リ前ノ義務者デナイ、補隨ノ義務者デス
(栗塚報吿委員)
本家ガ潰レレバ末家ガ云々ト云フノハ利害ノ說明シニ這入ツテ居リマセン、茲デ云フノハ保證人又ハ不動產ノ上ニ抵當ヲ持テ居ル者ヲ云フノデス
(南部委員)
「如キ利害ノ關係アル者」ト御讀ミ下サレバ宜シイ
(淸岡委員)
「補隨ノ義務者ノ如キ利害ノ關係アルモノ」ト云ヘバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
第三者ノ如キ補隨ノ義務者デ御座イマス
(南部委員)
抵當ノ不動產ヲ買受ケ讓受ケタモノト云フコトヲ御注意下サイ
(栗塚報吿委員)
抵當ヲ無クスルノガ得ナ人ト云フコトヲ覺ヘテ置イテ戴クト宜シイ
(鶴田委員)
「又ハ若シ」「若クハ」トクルカラ、「又ハ債務カ」トシタラ宜カロウ
(松岡委員)
其レガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
之ハ「若シ」ヲ刪リマシヨウ
(委員長)
二項ノ終リノ自己ノ名ヲ以テ爲サルニハ何ノ名デスカ
(栗塚報吿委員)
債務者ノ名デスルノハ山田サンノ御使ニナツテ貴君ノ名デヤラヌ處ハ私ノ名デヤル
(松岡委員)
「第三者ヨリ」トシタラ宜カロウ
(南部委員)
ソウデス「第三者ヨリ云々之ヲ爲スコトヲ得」デ宜シイ
(松岡委員)
ソウスルト前モ債務者ヨリトスルカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス「共同義務者ノ一人ヨリ」トシテ宜シイ
(南部委員)
「關係アル者ヨリモ有効ニ之ヲ爲スコトヲ得」トナリマス
(委員長)
修正シマシヨウ
(栗塚報吿委員)
自己ノ名ヲ以テスルト云フノハ分ラヌコトデスガ之ハ私ガ拂ウノダト云フト代位辨濟ガ生ズルノデス、詰リ代理デヤルト、代理デヤラヌトノ違イデス
(委員長)
是レデ食事ニシマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
辨濟ハ債務者ヨリ又ハ債務カ連帶若クハ不可分ナルトキハ共同債務者ノ一人ヨリ有効ニ爲サルルコトヲ得ルノミナラス尙ホ保證人又ハ債務ノ抵當タル財產ノ第三保有者ノ如キ補隨ノ義務者卽チ利害ノ關係アル者ヨリモ有効ニ之ヲ爲スコトヲ得又辨濟ハ利害ノ關係ナキ第三者ヨリ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ之ヲ爲スコトヲ得
(委員長)
ヤリマシヨウ
第四百七十四條朗讀ス
第四百七十四條 債權者ノ承諾ハ利害ノ關係アリ又ハ利害ノ關係ナキ第三者ノ爲シタル辨濟ノ有効ニ付キ必要ナラス但債務者ノ一身カ特ニ債權者ニ因リ着目セラレタル爲スノ義務ニ關スルトキハ此限ニ在ラス〔第千二百三十七條〕
 又債務者ハ第三者カ爲シタル辨濟ヲ承諾スルコトヲ必要トセス但第三者ニ利害ノ關ナキトキト雖モ亦同シ此終リノ場合ニ於テ債務者モ又債權者モ辨濟ヲ承諾セサルトキハ其辨濟ハ存立スルコトヲ得ス
(修正案) 第一項「債務者」ノ下「ノ一身ヲ」ヲ「其人」ト改ム第二項「第三者カ」ヲ「第三者ノ」ト改メ但ノ下左ノ如ク改ム利害ノ關係ナキ第三者ノ爲シタル辨濟ノ場合ニ於テ債務者モ又債權者モ之ヲ承諾セサルトキハ其辨濟ハ存立スルコトヲ得ス
(栗塚報吿委員)
修正ガアリマス
(鶴田委員)
一項ハ「債權ニ因リ」ハ「債權者ヨリ」トスルガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
日本デハコウ云フコトガ是レカラ起ルカ知レマセンガ、佛蘭西ニハアリマス兄弟親子皆一個々々デ親ノ借錢ヲ子ガ拂ヒ、弟ノ借錢ヲ兄ガ拂フコトガアリマス、其トキ弟カ妹ガ兄ノ借錢ヲ拂ツタトキハ兄モ債權モ其レハ餘計ナコトヲシタト云フコトガアルカ知レマセン
(松岡委員)
拂ツテ呉レタ後チニ取返ヘシニ來ナケレバ誰モ何トモ云ヒハシナイ
(栗塚報吿委員)
其レハ後チニ取リニ來マス、然カモ代位辨濟ニナルノハ債權者ニナロウト思テ拂フノデス、私ガ尾崎サンニ拂ヲウト思テ居ルノヲ松岡サンガ横合カラ拂ツテ呉レマシタ、實ハ私ハ松岡サンニ借リ度ナイト云フコトガアリマシヨウ
(鶴田委員)
日本ニモ隨分アルダロウ、相手ニ借リ度ナイト云フノハ
(栗塚報吿委員)
其レヲ代位辨濟デ取立テラレテハ困ル
(松岡委員)
兩方デ否ト云ヘバ中ヘ立ツタ者モ否ト云フ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
債權者ノ承諾ハ利害ノ關係アリ又ハ利害ノ關係ナキ第三者ノ爲シタル辨濟ノ有効ニ付キ必要ナラス但債務者其人カ特ニ債權者ヨリ着目セラレタル爲スノ義務ニ關スルトキハ此限ニ在ラス又債務者ハ第三者ノ爲シタル辨濟ヲ承諾スルコトヲ必要トセス但利害ノ關係ナキ第三者ノ爲シタル辨濟ノ場合ニ於テ債務者モ又債權者モ辨濟ヲ承諾セサルトキハ其辨濟ハ存立スルコトヲ得ス
第四百七十五條朗讀ス
第四百七十五條 辨濟シタル第三者カ法律又ハ合意ニ因リ債權者ノ權利ニ代位セラレタル場合ノ外ニシテ代理ナキトキハ其第三者ハ辨濟カ債務者ニ得セシメタル利益ノ限度ニ於テ之ニ對シ求償權ヲ有ス
(栗塚報吿委員)
茲ハ唯讀ムト大變易イ樣デ御座イマスガ、代位ト代理ノナイトキハ如何スルカト云フコトヲ定メタ條デス、是レカラ先キニ代理辨濟ガ御座イマス、代位シタ人ガコウ云フ權ガ有ルトカ、無イト云フ場合ハ云ハズ、其場合ヲ除キ論ジタルトキハ第三者ニ如何ナル權利ガアルカト云フト代理契約ガアレバ代理契約デ行キマス、其レガ無ケレバ債務者ニ得セシメタル利益ノ限度ニ於テ求償權ヲ有スル、私ガ自己ノ名デ松岡サンニ代ハツテ拂ヒタルトキハ如何ナル權利ガアルカト云フト、債權者ノ代理ト云フ場合モアルダロウ、其レヲ別ニシテ松岡サンニ得セシメタル利益ノ限度ニ於テ求償權ヲ有スル
(松岡委員)
代理ナレバ利子モ何モ取レル、茲ハ代理契約モナク事務管理ダ、ソウスルト費シタル丈ケハ取レナイ、若シ間違ツテ居レバ骨折リ損ガアルカ知レヌ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、故ニ茲デハ若シ貴君ト貴君ノ債權者ノ村田サント差引勘定ガアツタトキ、私ガ知ラズニ拂ツタトキハ栗塚ハ餘計ナ事ヲスルナト云テ、元トヘ取戻シニ行クヨリ外ニ仕方ガナイ、不當ノ利得デ行キマス
(松岡委員)
代位ニモ非ズ、代理ニモ非ズト云フコトニシ度イ
(栗塚報吿委員)
此場合ハ外ニシテ論ジテト云フノデス
(松岡委員)
此法律ハ代理ニモ掛リマスカ
(栗塚報吿委員)
代位バカリニ掛リマス、代理契約ガアレバ無論訴權ガアル
(鶴田委員)
詰リ代理ノ名義ナキトキハト云フノダカラ「代理ニ非サル」トシテハ如何カ、「ナキ」ト云フ言葉ガ惡ルイ、詰リ七十三條ノ「自己ノ名ヲ以テ」ト云フ所ニ當ルノダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(尾崎委員)
餘計ナ世話ヲシタ樣ナ勘定ダ
(栗塚報吿委員)
「代理契約ナキトキハ」デモ宜シウ御座リマス
(南部委員)
代理契約トシテハ事務管理ハ這入ラヌ
(栗塚報吿委員)
「代理訴權ナキトキハ」ト云フノデス「代理ニ非スシテ辨濟シタルトキハ」デス
(委員長)
「代理權ナキハ」ト讀ムガ一番宜シイ
(南部委員)
「代理ニ非サルトキハ」デ宜カロウ
(松岡委員)
「第三者カ法律又ハ合意ニ因リ債權者ノ權利ニ代位シタル場合ノ外代理ニアラスシテ辨濟シタルトキハ其第三者ハ」トスレバ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
其レデモ分リマス「場合ノ外且」ト云フノデス
(鶴田委員)
「且」ハ無クテモ宜シイ
(松岡委員)
早ク云ヘバ「債務者ノ利益トナリタル限度」ト云フノダ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、第三者ノ辨濟ニ因リ債務者ガ得タル利益ノ限度ニ於テト云フノデ御座イマス
(松岡委員)
後ニソウ直リマシヨウ
(栗塚報吿委員)
三ツアル場合ガアル代理訴權ト、代位訴權ト求償訴權ト三ツアルノデス
(委員長)
修正シテ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第三者カ法律又ハ合意ニ因リ債權者ノ權利ニ代位シタル場合ノ外代理ニアラスシテ辨濟シタルトキハ其第三者ハ辨濟カ債務者ニ得セシメタル利益ノ限度ニ於テ之ニ對シ求償權ヲ有ス
第四百七十六條朗讀ス
第四百七十六條 義務カ量定物ノ所有權ノ轉移ヲ目的トスルトキハ引渡又ハ其他ノ方法ヲ以テスル其辨濟ハ之カ所有者ニシテ且之ヲ移付スルノ能力アル者ニ因ルニアラサレハ爲サヽルコトヲ得ス〔第千二百三十八條第一項〕
 若シ他人ノ物カ引渡サレタルトキハ當事者双方ヨリ辨濟ノ無効ヲ陳辨スルコトヲ得
 若シ物カ移付スルノ能力ナキ所有者ニ因リ引渡サレタルトキハ其所有者ノミ辨濟ノ無効ヲ請求スルコトヲ得
 右何レノ場合ニ於テモ債務者ハ有効ナル辨濟ヲ提供スルニアラサレハ引渡シタル物ヲ取戾スコトヲ得ス
 債務者ハ若シ債權者カ辨濟ニ受ケタル動產物ヲ善意ニテ消費シ又ハ移付シタルトキハ最早取戾ヲ爲スコトヲ得ス〔第千二百三十八條第二項〕
 又債權者ハ他人ノ物ノ辨濟ヲ確認スルコトヲ得但眞ノ所有者ヨリ回收ヲ訴ヘタル場合ニ於テ債務者ニ對スル其擔保訴權ヲ妨ケス
(修正案) 第一項左ノ如ク修正シタリ義務カ量定物ノ所有權ノ轉移ノ目的トナルトキハ其物ノ所有者ニシテ且之ヲ移付スルノ能力アル者ニ因ルニアラサレハ引渡又ハ其他ノ方法ヲ以テ其辨濟ヲ爲スコトヲ得ス第四項冒頭「債務者ハ」ノ四字ヲ刪リ「最早」ノ上ニ「債務者ハ」ノ四字ヲ挿入ス
(栗塚報吿委員)
一項ハ文章ヲ顛倒シマシタ
(松岡委員)
「若シ他人ノ物カ引渡サレタルトキハ」ハ「他人ノ物ヲ引渡ストキハ」トシテ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「若シ他人ノ物ノ引渡シアリタルトキハ」デ御座イマス
(鶴田委員)
「若シ引渡シタル物カ他人ノ物ナルトキハ」ト云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
其意味デス
(淸岡委員)
一項ノ「因ルニ」ト云フ字ヲ刪ツタガアル方ガ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「ナサルル」ト云ヘバ「因ルニ」ト云ヒマスガ、「ナス」ト云ヘバ「因ルニ」ハイリマセン
(南部委員)
二項ハ「他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ」デ宜シイ
(鶴田委員)
ソウ修正致シマシヨウ
(南部委員)
三項ハ如何デス
(栗塚報吿委員)
二項ハ「若シ物ヲ移付スルノ能力ナキ所有者ヨリ引渡シタルトキハ」デ御座イマス
(鶴田委員)
辨濟ヲ確信シタルト云フコトハ人ノ物ノ云フコトヲ知テ取テ置クコトガ出來ルト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
人ヲ物ヲ持テ來タノダカラ無効ト云ヘルガ、人ノ物ト承知シテ取ルト云フノデス
(松岡委員)
村田サンノ馬ナラ良シ、取戻シガ來タラ宜カロウト云テ村田サンガ栗塚サンノ所ヘ往ツテ、彼ノ馬ハ如何ト云フトキハ鶴田サンヲ引張ツテ來ルコトガ出來ルカ
(栗塚報吿委員)
其レハ出來マセン、鶴田サンカラ栗塚ヲ擔保スルト云フコトハ私ニ向テ云ヘルト云フノデス、相續ナドノトキハ澤山アリマス
(村田委員)
詰リ其トキハ分ランデ、後ニ分ツタトキダ
(鶴田委員)
其馬ヲ早ク食ツテ仕舞ヘバ戻サヌデモ宜シイ
(淸岡委員)
併シ善意デナケレバイケナイ
(松岡委員)
之ハ村田サンガ取リニ來ルカラ早ク食ツテ仕舞フト云フノデハイケナイ
(尾崎委員)
之ハ隨分アルコトデス貧乏人ヲ酷ク催促スルト、隣リノ物ヲ持テ來テ之ヲ持テ往テ下サイト云フトキハ寧ロ取ラヌヨリ勝ルト云テ取テ行クノガアリマス
(鶴田委員)
「右何レノ場合ニ於テ」ト云フノハ有効ノ物ヲヤラヌ以上ハ無効ニナラヌノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、幼年者ト云フノヲ付ケ込ンデ金ヲ取ルコトハ出來ナイト云フノデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス第一項ハ報吿委員ノ修正ニ決ス第二項「若シ他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ」ト改ム第三項「若シ物ヲ移付スルノ能力ナキ所有者ヨリ引渡シタルトキハ」ト改ム第五項報吿委員ノ修正ニ決ス
第四百七十七條朗讀ス
第四百七十七條 辨濟ハ債權者又ハ其代人ニ之ヲ爲スコトヲ要ス然レトモ辨濟ヲ受クルノ分限ヲ有セサル者ニ爲シタル辨濟ハ若シ債權者カ之ヲ確認シ又ハ之ニ因テ利シタルトキハ有効ナリ〔第千二百三十九條〕
(鶴田委員)
然レドモカラ以下ハ極ク惡ルイ
(松岡委員)
「然レトモ」ト云フノハ變體ダ
(鶴田委員)
「然レトモ」ヲ刪テ「爲シタル辨濟ト雖トモ」トスレバ分ル
(淸岡委員)
「要ス」ト云フ字ハ爲サザルトキハ無効ナリ然レドモト云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、意味ガ分ラナケレバ御直シニナルモ宜シイガ、分ラヌコトハアリマセンカラ御置キヲ願ヒマス、ソウシテ今日今五條願ヒマス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百七十八條朗讀ス
第四百七十八條 眞ノ債權者ニアラスシテ債權ヲ占有シタル者ニ爲シタル辨濟ハ若シ債務者カ善意ニテ之ヲ爲シタルトキハ有効ナリ
 表見ナル相續人又ハ其他ノ包括ノ承繼人、記名債權ノ表見ナル讓受人、所持人ニ拂フヘキ證書ノ占有者ハ債權ノ占有者ト看做サル〔第千二百四十條〕
(栗塚報吿委員)
債權ノ所有者ニ拂ツタ眞ノ債權者、其レカラ債權ノ占有者ノシタモノデモ宜シイ、債權ノ占有者ト云フノハ訴ハ起リマスガ、次ギノ項デ債權ノ占有者ハコウ云フモノダト云フコトガ分リマス
(南部委員)
「之ヲ債權ノ占有者ト看做ス」デ宜シウ御座イマシヨウ
(鶴田委員)
之ハ分リ過ギ樣ダ
(栗塚報吿委員)
千二百三十條トアルハ千二百四十條ノ過リデ御座イマス、之ハ前項ノ下ヘ這入ルノデ御座イマス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項「債權ノ占有者ト看做サル」ヲ「之ヲ債權ノ占有者ト看做ス」ト改ム
第四百七十九條朗讀ス
第四百七十九條 受クルノ能力ナキ債權者又ハ占有者ニ爲シタル辨濟ハ其債權者又ハ占有者ノ請求ニ因リ之ヲ取消スコトヲ得但其利シタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス〔第千二百四十一條〕
(鶴田委員)
「利シタル」ハ債權者占有者ガ利シタルノデスカ
(南部委員)
ソウデス
(淸岡委員)
債權者占有者ハ請求セズトモ受取ルベキ物ハ渡スカラ
(南部委員)
相手ノ能力ガナイカラヤツタ物ヲ取戻スト云フコトハ出來ナイ
(淸岡委員)
其レヲ管督シテ居ルモノカラ云ヘル
(南部委員)
之ハ管督シテ居ル者カラ云フノデス
(鶴田委員)
之ハ他カラハ出來マイ
(南部委員)
當人カラデス
(栗塚報吿委員)
當人ガ子供ナラ後見人カラ云フデシヨウ
(鶴田委員)
唯利シタルト云フノハ分ラヌ
(尾崎委員)
迂闊ニ拂フコトハ出來ナイ
(鶴田委員)
子僧ナドガ取リニ來タトキハ拂ハヌガ宜シイ
(淸岡委員)
能力ノナイ債權者ガ拂ツタ物ヲ能力ノナイ債權者ガ請求シテ取ルト云フノハ變ダ
(尾崎委員)
後見人ガ來ルコトモアロウ
(淸岡委員)
此文章デハ能力ノナイ者ガ受取テ能力ノナイモノガ私ガ惡ルカツタト云フテ取戻スコトガ出來ル樣ニ見ヘル
(鶴田委員)
茲ハ先ヅソウ見テ置カヌト人ヲ立テルト良クナイ
(南部委員)
子供ノ訴權ハ誰ニ在ルカト云ヘバ後見人ニ在ル
(鶴田委員)
今デハ之ガナイカラ途中デ饅頭ヲ買ツタリ、登樓ナドヲスル者ガアルガ親方ガ損ヲシナケレバナラヌ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百八十條朗讀ス
第四百八十條 若シ辨濟ガ民事訴訟法ニ從ヒ正シク爲シ及ヒ續行シタル債權ノ拂渡差押ノ後爲サレタルトキハ差押債權者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ辨濟スヘキコトヲ債務者ニ強要スルコトヲ得但辨濟ヲ受ケタル債權者ニ對スル債務者ノ求償權ヲ妨ケス〔第千二百四十二條〕
(栗塚報吿委員)
「辨濟カ何々ノ後チニ爲サレタルトキハ」トナルノデス、其レカラ「正シク爲シ續行シタル」ハ拂ヒ渡シ差止メニ掛ルノデスカラ、「若シ辨濟カ」ヲ刪リマシテ「民事訴訟法ニ從ヒ正シク爲シ及ヒ續行シタル債權ノ拂渡シ差押ノ後辨濟ヲ爲シタルトキハ」トスル方ガ宜カロウト思ヒマス
(南部委員)
「若シ民事訴訟法」トシテハ如何デス
(松岡委員)
「若シ」ハ刪ツテ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「若シ」ハ入リマセン
(鶴田委員)
但以下モ同ジ樣ニナリマスカ
(栗塚報吿委員)
貴君ガ私ヲ差押ヘタガ、私ハ南部サンニ金ヲ貸シテ居ル、其トキニ私ガ今ハ無資力デ御座リマスケレドモ、南部サンニ貸シガアルカラ其レヲ栗塚ニ拂ツテ呉レルカト云フコトヲ南部サンニ對シテ差止メヲナスツタ、其後貴君ニ構ハズ南部サンガ私ニ拂ツテ下スツタ、ソウスルト差押債權者ノ貴君ガ損害ヲ受ケタ、其トキハ栗塚ガ無資力デアツタラ南部サンニ今一遍拂ツテ呉レト云フコトガ云ヘル其トキ南部サンガ扨私ハ二度拂ヲサセラレタカラ私ニ向テ返ヘシテ呉レト云フコトガ出來ル
(尾崎委員)
南部サンニ貸シテ居タ物ハ取ル權利ガアルノヲ取ツタノダ
(南部委員)
私ハ二重拂ヲシテ居ル
(松岡委員)
南部サンカラ栗塚サンガ取ツタノハ内證ゴトニナル
(栗塚報吿委員)
拂ツタノモ内證ゴトニナリマス
(委員長)
差押ヘラレル人ガシテハナラヌノダ、若シ尾崎サンガ元トノ金ヨリ大層餘計ナ損ヲシタトキデモ「限度」トアルカラ多クテモヤラナケレバナラヌダロウカ
(南部委員)
矢張リヤラナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
佛蘭西ノ法律デ差止メハ役人ニ對シテノ差止メガ出來マス、月給ノ六分一ハ差止メガ出來マス
(尾崎委員)
中々恩典ダ
(栗塚報吿委員)
其レヨリ多クヤルト役人タル資格ヲ失フカラデス
(尾崎委員)
日本ノ訴訟法ニモ規定シテ置キ度イモノダ
(栗塚報吿委員)
大藏省デ六分ノ一丈ケハ止メテ仕舞ツテ私ノ月給ハ其レ丈ケ司法省ヘ來ナイ
(尾崎委員)
續行ト云フノハ
(栗塚報吿委員)
大藏省ヘ往テ今月モイケマセン、來月モイケマセン、ト云テ置カナケレバナリマセン
(鶴田委員)
此辨濟ハ差押ノ後辨濟ヲ爲シタルトキハト云フ意味デスガ、此方ヘ取ロウト思テ差押ヘタ物ヲ他ヘヤツテ仕舞ツタト云フ辨濟ダ
(南部委員)
辨濟ト云フ字ヲ御覽ニナルト、債權者ガ表見ノモノデナケレバ出來マセン
(栗塚報吿委員)
南部サンガ私ニ義務ヲ負フテ居ル、貴君ガ南部サンニ向テ栗塚ニ拂フ金ガアルナラ拂テハイケナイト云テアルニ、其レニ拘ハラズ栗塚ニ拂ツタトキハ今一遍拂ヘト云フ樣ナ目ニ逢ウゾヨ、併シ南部サンハ栗塚ニ對シ求償權ガアルゾヨト云フノデス
(淸岡委員)
差止メラレテ居ル南部サンガ鶴田サンニ對シテハ債務者デナイ、其レヲ南部サンガ債務ノ樣ニ見ヘルカラオカシイ、差止メセラレテ居ルノハ債務者デナイ
(栗塚報吿委員)
債務者デハナイガ、差止メラレタニ就テハ義務ヲ負フテ居ル人デス
(松岡委員)
「ボアソナード」ハ鶴田サンヲ差止人、栗塚サンヲ差止メラレ人、南部サンヲ第三ノラレ人ト云フテ居ル
(委員長)
債權者ノ拂渡差止人ト云フノハ良イカネ、債權ノ拂渡ト云フテハ一向分ルマイ
(栗塚報吿委員)
金ヲ拂フコトヲ差止メラレタリデス
(南部委員)
今ノ場合ニ於テ栗塚サンカラ私ヘ貸シテ居ル債權ヲ差止メルノデス
(委員長)
ケレドモ日本字デ見ルト、債權ノ拂渡シノ差止メダ
(栗塚報吿委員)
私ガ南部サンニ金ヲ貸シテ居ルカラ其レヲ拂フコトハナラヌ
(委員長)
「債務ノ拂渡」ト云ハナケレバ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
併シ之ガ熟語ニナリマスカラ
(南部委員)
「債務」トハドウシテモ云ヘマセン
(松岡委員)
訴訟法デハ「差止メ」トスルカ、「差押」トスルカ
(栗塚報吿委員)
「拂渡」ハ殊ニ寄ツタラ止ムデシヨウ差押、差止メトデモナルカ知レマセン
(委員長)
翻譯ヘ相談シテ貰オウ
(南部委員)
訴訟法ニハ「差止メ」トアル
(松岡委員)
續行ト云フモノハ一人ガシタノニ又シタト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
否、手初メモ正シクヤリソウシテ正シク續イテ行クト云フコトデス
(松岡委員)
ソウスルト、此後ノ手續ト云フノカ
(栗塚報吿委員)
初メモ終リモ正シク差止メテ居タトキト云フノデス
(淸岡委員)
義務ノ差止メデハナイカ
(南部委員)
訴訟法ニモ要求權差止メトアリマス
(栗塚報吿委員)
栗塚、御前ハ南部サンカラ錢ヲ取ルコトハナラヌゾヨ、其レニ就テハ南部サンハ栗塚ニ錢ヲ拂ツテハナラヌゾヨト云フノデス
(渡委員)
差止メラレル人ハ南部サンダケレドモ栗塚サンガ取ルト云フ手ヲ押ヘラレル
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(松岡委員)
南部サンノ手ヲ押ヘルノデハナイ、先ヅ栗塚ノ受取ルノヲ押ヘル、次ギニ南部サンノ拂ウノヲ押ヘル
(委員長)
債權ノ差押ナラ宜カロウ、其レカラ鶴田サンノ說ハ差押ノ後辨濟ヲ爲シタルト云フト止メタ者ハ南部サンガ栗塚サンニ御拂ナスツタノヤラ、南部サンガ尾崎サンニ拂ツタノヤラ分ラヌコトニナル
(南部委員)
私ハ栗塚ノ方カラ義務ヲ負フテ居リマスカラ
(委員長)
栗塚カラ義務ヲ負フテ、其レヲ拂フノヲ尾崎サンガ止メタ、此辨濟ハ貴君ガ栗塚ニ拂ツタトキハト云フノダロウガ、栗塚ニ拂ツタトキト見ヘルカ、尾崎サンニ拂ツタトキハト云フコトニナルヤラ
(栗塚報吿委員)
更ニ辨濟スベキト云フコトガアリマスカラ分リマシヨウ
(委員長)
「其辨濟」トカ「他人ニ辨濟ヲ」トカスレバ分ル
(栗塚報吿委員)
「其差止メニ拘ハラス辨濟ヲ爲シタルトキ」トスレバ如何デス
(委員長)
其レナラ能ク分リマス
(松岡委員)
其レハ同ジコトデシヨウ
(南部委員)
差止メト云フコトガ分レバ自然ニ分ル
(委員長)
意味ハ能ク分ツテ居ルガ、文字ガ分ラヌ「債權ノ差押ノ後其辨濟ヲ爲シタル」ト云ヘバ分ル
(鶴田委員)
「其」デモ分ラヌ
(南部委員)
之ハ訴訟法ト一緒ニ見ナケレバ分リマセン
(尾崎委員)
南部サンガ勝手ニ拂ツタノダカラ、栗塚サンハ返ヘサズトモ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
「求償權ヲ妨ケスシテ」デスカラ、南部サンガ行ハナケレバ行ハナイ迄デス、是非受ケルト云フノデハアリマセン
(尾崎委員)
兩方カラ差止メタモノヲこつそり渡シタモノヲ法律ガ問ハズトモ宜サソウナモノダ
(委員長)
尾崎サンノ云フ樣ニスルト、南部サンハ苛イ目ニ逢ウ
(栗塚報吿委員)
私ガ貴君ニ對シテ借ガアツタ處ガ栗塚ガ無資力ダニ因テ、私ガ財產ガアレバ差押ヘヲスル、其レト同ジコトデ債權ヲ差押ヘタノデス詰リ私ノ金時計ヲ差押ヘタモノモ同ジデス其レニ拘ハラズ私ガ私ノ金時計ヲてかして賣タト云フト、云フト、私ニ無調法ガアリマシヨウ、其レト同ジク南部サンニ、栗塚ニ拂ツテハナラヌト押ヘテアル、其レヲ南部サンガ栗塚ニ拂ツタトキハ貴君ハ其錢ヲ今一遍拂ヘトハ云ヘヌ、私ハ南部サンカラ拂ヒマシテ求償權ガナイト云フト、二重取リニナル、其レハナラヌゾヨ、卽チ求償權ガアルカラ南部サンハ栗塚ニ係ツテ取ル
(尾崎委員)
良シ々々仕方ガナイ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
民事訴訟法ニ從ヒ正シク爲シ及ヒ續行シタル債權ノ拂渡差押ノ後辨濟ヲ爲シタルトキハ以下原案ノ通リ
第四百八十一條朗讀ス
第四百八十一條 債權者ハ己レニ對シテ負擔セラレタル物ヨリ他ノ物ヲ辨濟ニ受クルノ責ニ任セス但提供セラレタル物ノ價格カ高キトキト雖モ亦同シ〔第千二百四十三條〕
 又債務者ハ自己ノ負擔シタル物ヨリ他ノ物ヲ與フルノ責ニ任セス但請求セラレタル物ノ價格カ低キトキト雖モ亦同シ
 種別ノミニ因テ定マリタル代補スルコトヲ得ヘキ本性ノ物ニ關シテハ債務者ハ最良ノ品質ヲ與ヘ又債權者モ最惡ノ品質ヲ受クルノ責ニ任セス〔第千二十二條、第千二百四十六條〕
(渡委員)
「但」ト云フノハ釣合ガ惡ルイ樣ダ
(栗塚報吿委員)
今日迄皆箇樣ニヤツテ來マシタ、「縱令何々ト雖トモ」ノ體デス
(鶴田委員)
「負擔セラレタル」ハ「負擔シタル」デ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
矢張り「セラレタル」デ御座イマスニ項ハ「シタル」デ宜シウ御座イマシヨウ
(南部委員)
其方ガ宜シイ
(松岡委員)
「セシメタル」ガ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「セシメタル」ト云フ程デモアリマセン
(淸岡委員)
「種別ノミニ因テ」ト云フノハ
(栗塚報吿委員)
代補物ニ關シテハト云フコトデス
(松岡委員)
「ノミ」ト云フ字ヲ刪レバ宜シイ
(村田委員)
「代補物」トスレバ宜シイ
(委員長)
其樣ニ大刀ヲ使ハヌガ宜イ
(鶴田委員)
「單ニ種別ニ因テ」ト云フコトダロウ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(村田委員)
此儘デ宜カロウ
(委員長)
宜シカロウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百八十二條朗讀ス
第四百八十二條 若シ共同一致ニテ物ヲ金圓ノ代リニ若クハ金圓ヲ物ノ代リニ又ハ一箇ノ物ヲ他ノ物ノ代リニ辨濟ノ爲メ與ヘ又ハ約束シタルトキハ原ノ義務ハ更改セラレタリト看做サレ其行爲ハ場合ニ從ヒ賣買又ハ交換ノ規則ニ因テ管知セラル
(栗塚報吿委員)
「原ノ義務ハ更改シタリト看做シ其行爲ハ場合ニ從ヒ賣買又ハ交換ノ規則ヲ以テ之ヲ管知ス」ト改メマス
(松岡委員)
「共同一致」ハ合意ト云フコトデスカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス、原文ハ双方ノ一致ト云フ字デス
(委員長)
今日ハ茲迄ニ致シテ置キマス
本條ハ左ノ如ク決ス
(前文略)原ノ義務ハ更改シタリト看做シ其行爲ハ場合ニ從ヒ賣買又ハ交換ノ規則ヲ以テ之ヲ管知ス