旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第30回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案財產篇中人權ノ部第三十回議事筆記
自第四百十八條至第四百三十二條
(委員長)
ヤリマシヨウ
第四百十八條朗讀ス
第四百十八條 他人ト共ニ又ハ他人ノ爲メニ義務ヲ負擔スル者ハ保證、連帶及ヒ不可分ノ事項ニ於テ規定セラレタル如ク他人ノ免責ノ爲メ辨濟シタルモノニ付キ擔保ノ求償權ヲ有ス〔第千二百十三條、第千三百十四條、第千二百十六條〕
 又債權者ノ一人カ連帶又ハ不可分ノ義務ノ全キ高ヲ受ケタルトキハ他ノ債權者ハ他ノ特別ナル訴權ノ缺無ニ於テハ其一人ノ收メタル利益ノ分與ニ付キ之ニ對シテ擔保ノ訴權ヲ有ス
(栗塚報吿委員)
「缺無」ノ「缺」ノ字ハ「闕」ノ字デ御座リマス、十八條ハ貴君ガ松岡サンカラ金ヲ借リテ私ガ保證人ニナリマシテ私ガ松岡サンニ金ヲ拂ヘバ貴君ハ私ノ擔保人デ誰ニ係テ行クカト云フニ貴君ニ係テ行ク、貴君ハ私ニ擔保シナケレバナリマセン、私ハ貴君ニ對シテ擔保ノ求償權ガアル、日本語デ云ヘバ保證人ガ擔保サレテ居ル、保證人ハ負債者カラ擔保サレテ居ルト云フ事ガ茲ニ書イテアルノデ御座イマス
(尾崎委員)
其場合デ貴君ハ私ニ對シテハ擔保ト云ハナケレバナラヌカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
「擔保」ト云フ字ハ
(栗塚報吿委員)
茲ニ限テアル通リデス
(尾崎委員)
擔保ト保證トハ同ジコトダト思ツタ
(南部委員)
同ジデ御座イマス、併シ茲デ云フノハ違ヒマス
(栗塚報吿委員)
保證人ガ金ヲ拂ウト保證人ニ對シテハ負債者ガ擔保人ニナル
(南部委員)
保證人ニ係テ訴ヘタトキ本人ヲ呼出シテ呉レト云フ、ソレハ本人ガ擔保ダカラ
(鶴田委員)
ソコニナルト擔保ト保證トハ丸キリ違ツテ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
契約ガアリテ成立ツノト、無クテ成立タヌノガ御座イマス、保證人ノ私ガ松岡サント契約シナケレバ私ハ義務ハ負イマセン、貴君ノ家ヲ出セバ何モ云ハズシテ私ノ保證人ニナル
(南部委員)
「規定セラレタル」ハ「規定シタル」デ宜カロウ
(松岡委員)
御尤モデス
(栗塚報吿委員)
保證人ト云フモノガ拂ウベキ筈ハナイ、本人カラ拂ウベキダ、併シ貸主ノ方カラ云ハレルト本人カラ拂ハヌカラ栗塚ニ保證人ヲ頼ンダノダ、私ト尾崎サンノ間デハ貴君御拂ヒナサルノガ當然ダ、何モ私ガ貴君ニ代ツテ拂ウト云フ譯デハナイ、義務ガ主トシテ拂ハナケレバナラヌ如クアルカラ保證人ガ拂ヘバ保證人ヲ擔保シナケレバナリマセン
(尾崎委員)
拂フテ貰ヒタル者ガ擔保人ニ顛倒ルノダロウ
(南部委員)
債權者ノ持分モ自分デ受取ツタ者ガ擔保スル
(鶴田委員)
他ニ特別ナル訴權ガアツテモカ
(栗塚報吿委員)
起案者ニ問ヒマシタ處ガ、會社ノ社員ト云フ資格デ訴權ガアリ、又代理ノ訴權モアル、左樣ナルモノモナイトキニハト云フ意味デアツテ、擔保ノ訴權計リ外ナイカト云フト、未ダ外ニアル、其訴權ノ行ヘザルトキハ擔保ノ訴權ガアルト云フノデス
(淸岡委員)
外ノ負債者ヘ對シテ訴權ガ無クナツタノデスカ
(鶴田委員)
「債權者ハ他ノ特別ナル」ト云フト、一人ノ債權者ガ取テ仕舞ヒタルニ依リ他ノ者ハ取ルコトガ出來ナイ、ソレデ刪ルト云フノデハナイカ
(栗塚報吿委員)
否々他ノ特別ナル代理契約デ、訴權ガ生ジテ居ルカ、或ハ會社契約デモ出來ルシ、其訴權ガナケレバ擔保ノ訴權デ往ケルト云フノデス
(鶴田委員)
金ヲ取ルニハ會社ナラ會社ノ社員カラ取ル權利モアル
(栗塚報吿委員)
私ト尾崎サント兩人デ松岡サンカラ取ル金ガアツタ、松岡サンモ私ニ拂ウカ、或ハ尾崎サンニ拂ウカデ濟ンダ、私ガ取ツテ仕舞ヒタルトキハ尾崎サンハ私ニ對シテ如何ナル權利ガアルカト云フト、私ハ尾崎サンノ代理者ノ云フ資格デ訴ヘルカ、ソレモナケレバ擔保デ訴ヘルコトガ出來ル
(尾崎委員)
取ツタル人ガ擔保ニナル
(淸岡委員)
闕無ノ場合ニ於テハ仕方ガナイカラ擔保訴權デ行キマス、闕無デナケレバ素ヨリソレデ行クガ當然デアルケレドモ若シソレガ無ケレバ擔保訴權デ行クカト云フ樣ニ見ヘル之ハ素ヨリ連帶不可分ノ全キ義務ヲ受ケレバ擔保訴權デアツテ、然シテ代人トカ會社ノ何々ト云フコトニ付テハ之ハ格別ノコトニナル
(鶴田委員)
之ヲ書クナレバ「義務ノ全キ高ヲ受ケタルトキハ一人ノ收メタル利益ノ分與ニ付キ之ニ對シテ他ノ訴權アルトキハ之ヲ妨ケス」トスレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
之ハ本體ヲ擧ゲタモノデ、特別ノモノハ特別ノ訴權デ行ク、特別ノ訴權ノ外ニ訴權ガナイカト云フト未ダアルゾヨ、其訴權ヲ行ハヌカラト云テモ擔保ノ訴權ガナイコトハナイ、前ノ裏ダゾヨト云フコトデ御座イマス
(淸岡委員)
「高ヲ受ケタルトキハ其一人ノ收メタル利益ノ分與ニ付キ債權者ハ他ノ特別ナル訴權ノ闕無ニ於テハ擔保ノ訴權ヲ有ス」トスレバ宜シイ一人々々拂ツタノハ惡ルイカラ我ノ方ヘヨコセト云フ別段ノ訴權ガアルトキカ又ハ負債者ヘ係ルカラ宜シイ、其レガナイトキハ擔保訴權デ取ツタ債權者ヘ係レト云フ樣ニモ見ヘル
(栗塚報吿委員)
併シソウハ續メマセン、「之ニ對シ」ト云フコトモアリマスカラ
(淸岡委員)
誰ニ對シテノ闕無カト云フト、先キノ者ガ取ツテ仕舞ツタカラ取リ樣ガナイ、其場合ニハ取リタル者ニ係レト云フ樣ニ見ヘル
(栗塚報吿委員)
「之ニ對シ他ノ特別ナル訴權ノ闕無ニ付テハ擔保ノ訴權ヲ有ス」トシテモ差支アリマセン又「高ヲ受ケタルトキハ其一人ノ收メタル利益ノ分與ニ付キ他ノ債權者ハ他ノ特別ナル訴權ノ闕無ニ於テハ擔保ノ訴權ヲ有ス」ト致シマスカ
(尾崎委員)
ソレデ宜シ
(南部委員)
「之ニ對シテ」ト云フコトガ今一ツアル樣ニナル、之デ宜シイ
(村田委員)
之デ宜シイ
(淸岡委員)
直シタノト直サヌノト孰レガ易イカ
(松岡委員)
直サソケレバ議論ガ起ル
(渡委員)
「他ノ特別ナル訴權ノ闕無ニ於テハ」ヲ「之ニ對シテ」ノ下ヘ入レルカ
(南部委員)
「之ニ對シテ」ノ上ヘ入レルガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「他ノ債權者ハ其一人ノ收メタル利益ノ分與ニ付之ニ對シテ他ノ特別ナル訴權ノ闕無ニ於テハ擔保ノ訴權ヲ有ス」ト致シマス
(委員長)
前ノ項ガ分リ惡クイ
(栗塚報吿委員)
迚モ此一條丈ケデ能ク分ルト云フコトハ出來マセン
(委員長)
ソレデハ修正シテ先ヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「規定セラレタル」ヲ「規定シタル」ト修正ス第二項又債權者ノ一人カ連帶又ハ不可分ノ義務ノ全キ高ヲ受ケタルトキハ他ノ債權者ハ其一人ノ收メタル利益ノ分與ニ付キ之ニ對シテ他ノ特別ナル訴權ノ闕無ニ於テハ擔保ノ訴權ヲ有ス
第四百十九條朗讀ス
第四百十九條 擔保ニ付キ權利ヲ有スル者ハ其訴ヘラレタル當時ニ於テ民事訴訟法ニ定メタル方式ニ從ヒ擔保人ノ訴訟參加ヲ請求スルコトヲ得〔佛訴第百七十五條以下〕
(栗塚報吿委員)
私ハ擔保人デハアリマセン私ハ保證人デ貴君ガ私ノ擔保人デ御座イマス
(松岡委員)
尾崎サンガ私ニ對シテ借人デ貴君ガ保證人デ、云ハバ貴君ガ尾崎サンヲ擔保シテ居ル證人ダ
(栗塚報吿委員)
保證シテ居リマスガ、擔保ハ致シマセン、尾崎サンハ私ニ對シテ擔保人デス、松岡サンガ訴ヘレバ貴君ヲ訴訟ニ參加セシムルコトガ出來ル、貴君ハ松岡サンニ對シテハ借主ナリ私ニ對シテハ擔保人ナリ、賣買デ申シマスルト、貴君ハ私ニ御賣リニナツタ賣主トセヨ買主ニ對シテノ擔任デス、其トキニ松岡サンガ私ノ所ヘ來テ、御前ノ家ダト云フガ、御前ガ家ヲ持ツ筈ハナイ、私ノ家ダト云フト私ノ賣主ハ私ヲ擔保シテ居ルト云フテ貴君ヲ參加セシムルコトガ出來ル
(渡委員)
擔保ハ保證ノ返報ト云フノデ御座イマシヨウガ、保證シタ場合ニ尾崎サンガ入ラナケレバ貴君ガ辨ズルガ、唯尾崎サンガ拂ウト云フコトヲ保證シテ居ルトキハ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西法デハ直グ私ニ來マスガ、日本デハ本人ヲ身代限ニシナケレバ私ニハ來マセン、私ガ松岡サンニ拂ヒマスガ、跡デ尾崎サンカラ取ラナケレバナリマセンカラ擔保人ヲ訴訟ニ參加セシムルト云フノデス
(渡委員)
本人ヲ質ニ取テ保證スルノダ
(委員長)
宜ケレバ次ギニ行キマス
本條ハ原案ニ決ス
第四百二十條朗讀ス
第四百二十條 若シ擔保人カ訴訟ニ參加セシメラレサリシトキハ追奪ヲ受ケ又ハ他人ノ債務ヲ辨償シタル者ハ主タル訴權ヲ以テ擔保ノ訴ヲ爲スコトヲ得但擔保人カ請求ヲ却下セシムルニ有効ナル方法ヲ有セシコトヲ證スルトキハ此限ニ在ラス〔第千六百四十條〕
(南部委員)
「セシメラレサリシ」ハ「セシメサリシ」トシナケレバ分リマセンカラ直シマス
(松岡委員)
ソレデ無ケレバ分ラヌ
(鶴田委員)
「セシメスシテ」デ宜カロウ
(淸岡委員)
「擔保人カ」ハ「擔保人ヲ」デ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
「追奪」ハ第三十三條カラ取ラレタノダロウ
(松岡委員)
「セシメスシテ」デモ同ジコトダ
(尾崎委員)
擔保人ガ請求ヲ却下スルト云フノハ擔保人ガ保證人カラ係ツテ來タ請求ヲ却下セシモノハ南部サンガ訴訟ニ參加スレバ斯樣ナル方法ヲ以テ來テ追奪シテ來タ者ニ勝ツ筈ダ、然ルニ其トキ呼出サナカツタカラ今日箇樣ニ負ケタト云フノデス
(松岡委員)
證明ガ出來レバ訴ヘタ人ガ敗北スルノダカラ「此限ニ在ラス」ト云フノハ漠然トシテ居ル
(鶴田委員)
成程每モノ「此限リニ在ラス」トハ違ウネ
(南部委員)
併シ此範圍デハナイト云フコトダ
(栗塚報吿委員)
別ナリト云フコトデス
(鶴田委員)
訴ヘ出タ處ガ無効ニナツテ敗ケニナルカラ間違ヘバ訴ヲ爲スコトヲ得ト云フコトガアルカラ訴ヲ保證人ガ却下スルニ有効ナル方法ヲ有シタトキハ敗ケニナルト讀メハセヌカ
(松岡委員)
「此限ニ在ラス」ト云フコトハ原文ニハナイ樣ダ
(栗塚報吿委員)
「箇樣ナルコトニ非サレハ何々スルコトニ」ト書テアリマス
(松岡委員)
證明スルトキハ言ヒ分ガ立タヌ、其證明ト云フコトハ裁判所ヘ行クコトダロウ
(淸岡委員)
裁判所ヘ行ツテ證明サレレバ一モ二モナイト云フトキハ之ヲ以テ證明サレレバ成程ト思ヘバ宜シイ
(松岡委員)
訴權ト云フノト勝敗ヲスルノトハ別ノ話シダ
(委員長)
追奪ヲ受クト云フノハ
(栗塚報吿委員)
是レガ先逹テ申シマシタ例デ、追奪ヲ受ケマシタノガ家ノ買主デス、家ヲ買ヒマシタ栗塚ガ或ル人カラ御前ガ買タト云フガ、御前ノ家ニナラヌト訴ヘラレレバ私ニ家ヲ賣テ呉レマシタ尾崎サンニ對シテ訴ヘルコトガ出來ル、尾崎サンハ私ヲ擔保シナケレバナリマセン、賣主ガ借主ノ擔保ニナルト云フノデ御座イマスカラ買主又ハ他ノ債務ヲ辨濟シタルデ御座イマスカラ保證人ガ擔保人ヲ參加セシメナカツタトキハ主タル訴權デ訴ヘルコトガ出來ル
(委員長)
參加セシメヌトキハト云フト、自分ガセシメタ樣ニナル
(栗塚報吿委員)
買主ガ先キニ訴ヘラレタトキニ參加セシメテ置カナケレバ訴ヘルコトガ出來ヌ、ソレヲ參加セナカツタノデ御座イマス
(委員長)
買主ガ訴ヘラレタトキニ參加セシメナカツタノダロウ
(栗塚報吿委員)
賣主ヲ訴訟ニ參加セシメテ置カナケレバ賣主丈ケヲ相手取テ訴ヘルコトガ出來ルト云フノデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
「參加セシメラレサリシ」ヲ「參加セシメサリシ」ト修正ス
第四百廿一條朗讀ス
 第四節 義務ノ諸種ノ樣態
第四百二十一條 義務ノ効力ハ下ノ諸款ニ記シタル如ク義務ニ左ノ區別アルニ從ヒテ改樣セラル
 第一 義務ノ成立ニ關シテ單純ナリ有期ナリ又ハ條件付ナルトキ
 第二 負擔シタル目的ニ關シテ單一ナリ擇一ナリ又ハ任意ナルトキ
 第三 債權者又ハ債務者ノ數ニ關シテ單一ナリ又ハ複合ナルトキ
 第四 義務ノ本性又ハ其履行ニ關シテ可分ナリ又ハ不可分ナルトキ
 働方並ニ受方ノ連帶ノ効力及ヒ合意上ノ不可分ノ効力ハ債權ノ抵保トシテ第四編ニ之ヲ規定ス
(淸岡委員)
文中ヲ「ナリ々々」トシテ終リヲ「ナル」トシタル例ガアルカ知ラン
(南部委員)
前ニ例ガアリマス、「アリ々々」ト云テ終リニ「アル」ト云フノガアリマス
(淸岡委員)
「ナリ々々」ノ云フノハ「條件付ナルトキ」ト云フ理窟ニ書カンデハ分ラヌ
(鶴田委員)
此處ハ樣態ヲ論ジテ、樣態ニ從テ効力ガ出來ルト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、是カラ四節中ノ四款迄御座イマス、之ハ目錄デ御座イマス茲デ呼出シテ說明ガ出來マス
(尾崎委員)
先キヘ往ケバ分ルダロウ
(委員長)
「シユールテー」ト云フノハ抵當トハドレ丈ケノ違ウ
(栗塚報吿委員)
「イポテツク」ヲ抵當ト譯シマシタ、動產質不動產質ハ「シユールテー」デス
(委員長)
抵保ノ方ガ廣イノダネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、廣イ方デス、動產質抔ヲ總括シタ字デス
(淸岡委員)
單純ナル有期ナル條件付ナルト云フノハ可笑イ、重複ナル樣デアリマスケレドモ「單純ナルトキ有期ナルトキ條件付ナルトキ」トスルガ宜シイ
(南部委員)
無クナツテ分ラヌトキハ宜シイガ茲ハ分ツテ居リマスカラ
(淸岡委員)
之デハ單純デアレ、有期デアレ孰レデモ宜シイト云フ樣ニナル
(鶴田委員)
「義務ノ成立ニ關シテハ單純アリ有期アリ條件付アリ」ダロウト思フ
(淸岡委員)
「單純」トシテ「ヽ」ヲ打ツテ「有期又ハ條件付ナルトキ」トスレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「義務カ單純ナルトキ義務カ有期ナルトキ義務カ條件付ナルトキ」ト云フノデ御座イマス
(淸岡委員)
譯ハ左樣デ御座イマシヨウカラ重複ヲ厭フコトハナイカラ「單純ナルトキ有期ナルトキ」トスレバ宜シイ
(委員長)
「單純」トシテ「ヽ」ヲ打ツテ「有期」トスレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ第一ヲ「單純、有期又ハ條件付ナルトキ」第二ヲ「單一、擇一又ハ任意ナルトキ」第三ヲ「單一又ハ複合ナルトキ」第四ヲ「可分又ハ不可分ナルトキ」ト致シマス
(委員長)
ソレデ宜シイ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一 義務ノ成立ニ關シテ單純、有期又ハ條件付ナルトキ
第二 負擔シタル目的ニ關シテ單一、擇一又ハ任意ナルトキ
第三 債權者又ハ債務者ノ數ニ關シテ單一又ハ複合ナルトキ
第四 義務ノ本性又ハ其履行ニ關シテ可分又ハ不可分ナルトキ
第四百廿二條朗讀ス
第四百廿二條 義務ノ成レル當時ヨリ其成立カ保セラレ且其要求スルヲ得ヘキコトカ卽時ナルトキハ其義務ハ單純ナリ
(栗塚報吿委員)
此表題ノ「ナリ」ヲ二ツトモ御刪リニナラナケレバナリマスマイ、之ハ成立ガ確カデアリ且要求スベキコトガ卽時ナルトキデス
(淸岡委員)
「保セラレ」ト云フノハ如何ナル意味デス
(栗塚報吿委員)
抑單純ナル義務ハ債權者ニモ無効ナルモノナリ、其權利ガ確カニ存シ毫モ未來ノ事件ニ關セズト云フ意味デ御座イマス
(松岡委員)
矢張リ確カナルト云フコトニ違ヒナイ
(鶴田委員)
單純デ分ルダロウ
(松岡委員)
要求ト云フノハ延商ヒデナイト云フコトヲ示ス丈ケダロウ
(栗塚報吿委員)
「條件付テナキトキハ單純ナリ」ト云ヒ度イノデ御座イマスガ、其レハ語ヲ爲サヌ
(尾崎委員)
宜シカロウ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
第一款ノ表題ヲ左ノ如ク改メ本條ハ原案ニ決ス
第一款 成立ニ關シテ單純、有期又ハ條件付ナル義務
第四百廿三條朗讀ス
第四百二十三條 債權者カ或ル時期前又ハ到來期節ハ不確實ナルモ到來スルニ相違ナキ定マリタル事件前ニ履行ヲ求ムルコトヲ得サルトキハ其義務ハ有期ナリ〔第千百八十五條〕
 期限カ當事者ニ因リ定メラレ又ハ法律ニ因リ與ヘラレタルトキハ其期限ハ權利上ノ期ト稱セラル
 若シ債務者カ自己ノ爲シ得ヘキ時又ハ自己ノ欲スル時ニ辨濟スヘシト言ハレタルトキハ裁判所ハ債權者ノ請求ニ因リ狀況及ヒ當事者ノ推定セラレタル意思ニ從ヒ履行ノ爲メ期間ヲ定ム但當事者カ無期ノ年金權ヲ設ケント欲シタル場合ハ此限ニ在ラス〔第千九百一條〕
(修正案) 第三項「言ハレタル」ヲ「定メアル」ト改ム
(南部委員)
末項ハ「狀況及ヒ推定シタル當事者ノ意思ニ從ヒ」ト修正シ度イト思ヒマス「當事者ノ推定セラレタル意思ニ從ヒ」ト云フトキハ當事者ガ推定シタル意思ノ樣ニ聞ヘマスカラ
(鶴田委員)
當事者ノ爲メ推定セラルベキ意思ニ從テト云フノダロウ
(尾崎委員)
法律上ノ權利ト云フノハ
(鶴田委員)
法律ノ與ヘタノガ權利ニナルト云フノダロウ
(鶴田委員)
「推定」ハ及ビノ下ヘヤツタ方ガ宜シイ、「意思」ト云フ字ヲ當事者ト離スト困ル
(淸岡委員)
「及ヒ推定シタル當事者ノ意思」トシマスカ
(鶴田委員)
四百二十一條ノ「改樣セラル」ヲ「改樣ス」トシテ本條ノ二項モ「期限ト稱セラル」ハ「期限ト稱ス」トシタ方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
其レデ宜シウ御座イマス
(委員長)
修正シマス
(栗塚報吿委員)
「言ハレタル」ト云フトキハ債務者ガ言ハレタル樣ニナリマス「定メアル」トシタ方ガ宜シカロウト思ヒマス、併シ定メアルト云テモ確定シテアルト云フ意味デハアリマセン
(松岡委員)
確定デモ宜シイダロウ
(南部委員)
處ガ註ニ箇樣ナル文字ハ普通ニ用フル文字デ、之ハ有合次第ニ返ソウト云フコトノアルトキヲ云フノダカラ定メアルデハ少シ強イト思フ併シ言ハレタルデハ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
定メアルト云テモ寸分違ハヌト云フノデハアリマセン
(委員長)
推定セラレタルハ裁判所カラ推定サレルノカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス裁判所ガ推定スルノデ御座イマス
(淸岡委員)
此但書ハ必要ダロウカ
(南部委員)
之ハ必要デス
(栗塚報吿委員)
之ハ能ク御研究下サイマセント分リ惡クイ
(委員長)
之ハ裁判所ガ推定スルトハ思ヘヌ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ誰ガ推定シマス
(渡委員)
當事者ノ推定シタル意味ダ
(松岡委員)
自ラ推定スルコトハ出來ヌ
(委員長)
事柄ヲ推シテ行ケバ裁判官デナケレバ推定ガ出來ヌ樣ダガ佛蘭西文デハ推定サレタル意思ト云フノダカラ双方當事者ガ推定シテ箇樣ダロウト云フ意思ニ從フテ裁判官ガヤルト云フノダカラ、從フノモ推定ノモ兩方裁判官ガヤラナケレバナラヌ樣ニナル
(栗塚報吿委員)
推定ニ從フノデハアリマセン、意思ニ從フノデス
(委員長)
推定ガ裁判官ナレバ意思モ裁判官デナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
一人ハ右ト云フ、一人ハ左ト云フトキハ裁判官ガ見テ定メル
(南部委員)
有合次第ニ返ヘソウト云ヘバ少シモ論ハナイ
(委員長)
意思ノ違ウトキ裁判官ガ定メル
(南部委員)
其レデスカラ裁判官ガ推定シナケレバナリマセン
(委員長)
推定シタル意思ト云フト佛蘭西文ト合ハヌ樣ニナル、佛蘭西文ニハ裁判官ガ推定シタ意思ハ當事者ガ推定シタ意思デナケレバ分ラヌ
(鶴田委員)
裁判官ガ彼ハ箇樣ニ考ヘテ居ルト見極メタ意思ダロウ
(栗塚報吿委員)
推定スルト云フコト丈ケハ入ラザルコトデス、裁判所ガ當事者ノ意思ヲ見テモ分ラヌカラ推定シタノデ御座イマス
(渡委員)
原書デハドウシテモ裁判官ガ推定スルトハ讀メヌ
(栗塚報吿委員)
若シ御分リニナレバ但カラ先キハ刪ツテモ宜シイト云フ御說ガアリマシタガ、私共ニハ分リマセン、無期ノ年金權ヲ向ケ樣トシタトキハ此限ニ在ラズト云フノハ分ラヌカラ皆デ研究シマシタガ此位ニナリマシタ、此末項デ云フテ居リマスコトハ我レガ止メルトキガアツテ遣ロウ、又私ガヤリ度ナツタラ返ヘソウト云フノデシヤウ隨分債務者ノ身ニ取テハ我儘デ御座イマス、其樣ナコトガ證文ニ書イテアレバ債權者カラ請求シテ期限ヲ定メテ貰フ、貴君ニ金ヲ借リテ居テ何時カ定メテ呉レト貴君カラ云ヘルト云フコトデ御座イマス、處ガ右ノ年金權ノ性質ハ決シテ元金ヲ請求スルコトハ出來ヌ、ソレハ一生涯ドコロデハ御座イマセン何時迄デモ御座イマス、公債證書ハ元金ヲ拂ツテ呉レロト云フコトヲ政府ニ云フコトハ出來ナイ、政府ノ方カラハ元金ヲ何時デモ己レノ欲スルトキ返ヘスコトガ出來ル、當事者ガ右ノ年金權ヲ返濟シ樣ト云フトキハ元金ヲ返濟スルト云フコトガ云ヘルト云フ意味ダロウト思ヒマス、又債權者カラ請求スルコトモ出來ヌカラ債務者カラ返ヘスト云フトキ何時デモ返ヘスコトガ出來ルカラ此項ハ當篏ラヌゾヨト云フノデアロウト思ヒマス
(淸岡委員)
ソウナルト上ノ項ヲ當篏メルコトガ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
「但當事者ハ合意ニテ右ノ年金權ヲ設定シタル場合ハ此限ニ在ラス」トシテモ宜シウ御座イマス
(淸岡委員)
元トヨリ前項トハ全ク別ノ話シデハナイカ
(松岡委員)
政府ノ年金權ハ別ダガ、通常ノ年金權ハ勝手次第ニ戻スコトガ出來マスカ
(栗塚報吿委員)
出來マス、何時戻スカト云フト貴君ニ無期ノ年金權ヲ上ゲルト云ヘバ何時迄ニ元金ヲ拂テ呉レト云フコトハ出來ヌガ、私カラハ上ゲルコトガ出來ル
(尾崎委員)
成程一理アル
(渡委員)
少シハ利益ガアル
(淸岡委員)
上ノ項デ無期ヲ云フテ無期ノ場合デモ定メルコトハ出來ヌト云フノナレバ宜シイガ、之ハ無期ニハ關係シナイ
(鶴田委員)
爲シ得ベキトキト云フノハ期限ガナイノダカラ
(委員長)
無期ノ年金モ無期ダカラ何時デモ返スコトニナツテ居ルガ、其レヲ茲ニ混淆シテハナラヌト云フノダ
(栗塚報吿委員)
債務者ハ何時デモ金ノアツタトキ返ヘシマシヨウト云フト債權者ガ期限ヲ定メテ貰ウコトガ出來ル併シ年金權デハソレハナラヌゾヨト云フノデス
(松岡委員)
可笑イコトダ年金ヲ受ケル人ガ受取ニ行筈ハナイ、債權者ノ請求ニ因ルト云フコトハ起ラヌ
(栗塚報吿委員)
ソレヲ云フテモ裁判所デハイケヌゾヨト云フノデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「稱セラル」ヲ「稱ス」ト改ム第二項「言ハレタル」ヲ「定メアル」ト改メ「及ヒ當事者ノ推定セラレタル意思ニ從ヒ」ヲ「及ヒ推定シタル當事者ノ意思ニ從ヒ」ト改ム
第四百二十四條朗讀ス
第四百二十四條 債務者ハ期限ノ利益ヲ抛棄シ滿期前ニ其義務ヲ履行スルコトヲ得但要約ニ因リ又ハ事實ノ狀況ニ因リ期限ハ當事者双方ノ利益又ハ專ラ債權者ノ利益ノ爲メ定メラレタルコトカ證セラルヽトキハ此限ニ在ラス此終ノ場合ニ於テハ債權者モ亦期限ヲ抛棄スルコトヲ得〔第千百八十七條〕
 當事者カ錯誤ニ因リ滿期前ニ辨濟シタル場合ハ第三百八十六條ニ之ヲ規定ス〔第千百八十六條〕
(栗塚報吿委員)
之ハ不當ノ利得ノ處ニ申シテ御座イマスガ未ダ拂ヒ期限ノ來ラザルニ拂ツタノデス
(南部委員)
茲ガ商法ト違ツテ居ル處デス
(淸岡委員)
此終リノ場合ト云フ處ハ債權者ノ利益ノ爲メト云フ處ヲ云フノデスガ此終リノ場合ト云フ字ヲ使タ處ガ上ニモアリマシタ、アレハ商法デスガ私ノ解釋ハ諸君ト違ツタケレドモ諸君ノ御說ガアツタカラ其通リト思テ居タガ、之ハ項ヲ半分指シテ居ル樣ニ思フ
(南部委員)
半分デハナイ、三分ノ一指シテ居ル
(淸岡委員)
商法ハ利息ヲ拂ハナケレバ出來ナイ、之ハ利息ヲ拂ハズトモ宜シイ
(尾崎委員)
之ハ宜シイ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百二十五條朗讀ス
第四百二十五條 債務者ハ左ノ場合ニ於テ權利上ノ期限ノ利益ヲ失フ
 第一 若シ債務者カ破產シ又ハ顯然無資力ト爲リタルトキ〔第千百八十八條〕
 第二 若シ債務者カ其財產ノ多分ヲ移付又ハ其多分カ他ノ債權者ヨリ差押ヘラレタルトキ〔佛訴第百二十四條〕
 第三 若シ債務者カ自己ノ供シタル特別ノ抵保ヲ毀滅シ若クハ減少シ又ハ自己ノ約束シタル抵保ヲ供スルコトヲ缺キタルトキ〔第千百八十八條、第千九百十二條〕
 第四 若シ債務者カ塡補ノ利息ヲ拂フコトヲ缺キタルトキ〔第千九百十二條第一項〕
(淸岡委員)
「多分」ト云フノハドノ位デスカ
(南部委員)
半額以上デス
(栗塚報吿委員)
之ナレバ疊建具丈ケ遺スト云フコトハ出來マセン
(鶴田委員)
此第一ハ今實際如何ナツテ居リマスカ
(南部委員)
實際此通リデス、第三ノ場合モ箇樣ナルコトガアツタラ無論行クデアリマシヨウ
(尾崎委員)
第三ノ場合ハ抵保ヲ入レサセルコトニナツテ居ル、之ハ入レサセソデモ直ニ訴ヘラレル
(委員長)
特別ノ抵保ト云フハ尋常ノ抵保デハナイカ
(南部委員)
質地抵當ガ例ニ出テ居リマス書入質ヲ減ジタルトカ、又ハ山林ヲ書入レテ其山ノ樹ヲ伐テ仕舞ツタト云フ場合モ見テ居リマス
(委員長)
何故ニ特別ト云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
別ニ意味ハアリマセン、自分ノ供シタル抵保ヲ毀滅シタノデ御座イマス
(委員長)
人ノコトダカラ特別ト思タガ、ソウデハナイカ
(栗塚報吿委員)
ソウデハアリマセン只特別ノト云フノハ質、動產質、不動產質、先取特權ナドヲ列擧スル爲メダロウト思ヒマス
(委員長)
一旦出シタ物ヲ毀滅シタリ、其レカラ今度ハ出ソウト云フ物ヲ出サナカツタト云フノダ
(南部委員)
左樣デス
(栗塚報吿委員)
元來「特別」ハ入ラヌ字デス、複稱デサヘ書イテ置ケバ宜シイノデス、抵保ノ内デモ質トカ不動產トカ、殊ニ離シテ見ルコトノ出來ルモノト云フノデス
(南部委員)
前項ハ一般ニ係ルモノ、之ハ特別ニ係ルモノト云テアル
(委員長)
其樣ナル處カラ出テ居ルノナレバ何デモナイ
(栗塚報吿委員)
特別ノ抵保ハ保證人ノコトモ入リマシヨウ
(松岡委員)
權利上ノ利益ヲ失フカラ制限法デ擧ゲテ居ル制限シタモノカラ、商人ガ身代限ヲシタラ如何スルダロウ、本人ガ裸體デ保證人ガ確カナルトキハ
(栗塚報吿委員)
期限ハ失ヒソウモアリマセン茲ハ債務者ガヤツタノデナクテ、ハイケナイ、自分デ毀滅スルト云フ働キガナケレバナリマセン
(松岡委員)
ソウスルト天災デ田地ガ流レテ仕舞ツタノハ
(村田委員)
ソレハ無論ダロウト思フ、抵當ガ毀滅スルト云フノハ天災デ無クナツタノヲ云フノダロウト思フ
(南部委員)
田地ガ天災ニ係タトキハ新ラシク抵保ヲ入レテ呉レト云フデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
之ハ自分ノ働ヲ定メテ減少シタノデス
(松岡委員)
之ハ制限法ト云テ八釜シク云フト「ボアソナード」ニ聞テ天災ノコトヲ入レテ貰ヒ度イ
(栗塚報吿委員)
抵當物ガ燒ケタラ代ハリヲ入ルト云フコトガアリマス
(淸岡委員)
無期ノ年金ハ此場合ニハ默テ居ルヨリ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
其レハ土臺仕方ガ御座イマセン
(鶴田委員)
併シ年金ノ利息ガアルダロウ
(淸岡委員)
假令バ十二月ニ年金ヲ十圓ヤルト云フ處ガ二、三月頃ニ破產シタレバ素ヨリ十二月ニナツテ年金ヲ要求シテモヤルコトガ出來ズ元金モ拂ハズシテ居ル、其トキハ仕方ガナイノデ御座イマスガ佛蘭西抔デハ無期限ニ設定シタル年金權ハ家資分產ノトキハ要求スルコトガ出來ルトアル
(松岡委員)
其レハ出來ルト云ハナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
茲ハ期限ノ利益ヲ失フ丈ケデス
(淸岡委員)
無期限ノ年金ノ元金ヲ取ルコトガ何處ニ在リマス
(栗塚報吿委員)
ソレハ外ニ在リマス
(松岡委員)
年金ヲ以テ來ルトキガ十二月デアルニ五月ニ破產スルトキハ無論請求ガ出來ルト思フ
(淸岡委員)
利息ハ請求ガ出來ルガ其者ガ五月ニ破產スレバ十二月ニ貰フベキ年金ハ取レヌ元金モ無クナツテ仕舞フ
(鶴田委員)
無期ノ年金ノミナラズ前ニ在ル當事者ノ意思ニ從テ推定セラルルコトガ出來ルカ知ラヌ
(委員長)
ソレハ出來ルダロウ
(南部委員)
千三百八十八條カラ無期年金ノ契約ト云フコトガアリマス
(淸岡委員)
今鶴田サンノ云フタ裁判所デ期限ヲ定メルノハ
(南部委員)
其レハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
期限ガナイカラ期限ガ定マラヌトイケナイ
(淸岡委員)
期限ガアツテサヘ失フカラ勿論出來ルト思フ
(松岡委員)
私モ出來ルト思フ
(尾崎委員)
破產ノ場合ニハ出來ルダロウ
(南部委員)
破產ノ場合ニハ出來ルガ其外出來ナイ
(栗塚報吿委員)
私ガ金持ニナツタラ貴君ニ物ヲ上ゲ樣ト云フトキハ如何シマス
(松岡委員)
ソレハ當リ前ノ義務ノアル者ノ云フコトデハナイ、元ト返濟シナケレバナラヌト云フコトハ定マツテ居ル
(淸岡委員)
其レハ宜シイガ、第一ノ場合ニ限ルト云フコトハ分ラヌ、四百二十五條ハ丸ルデ行カナケレバナラヌ
(松岡委員)
其レデモ宜カロウ
(南部委員)
這入ラヌモノト思フ畢竟不確定ノモノデ裁判所デ、期限ヲ定メテ貰テ始メテ有期ノモノニナル、夫レ迄ハ有期ノモノデハナイ
(淸岡委員)
夫レデハ道理上宜シクナイ
(栗塚報吿委員)
請求ガ出來ル、出來ヌヲ御論ジニナルノハ宜シイガ、法律上期限ヲ失フト云フコトハ申セマセン、無論請求ハ出來マスガ、權利上ノ期限ガ生ジテ居ラヌニ如何シテ此條ノ適用ガ出來マシヨウ
(淸岡委員)
此條ニハ適當セヌガ、除ケテ仕舞フト道理上宜シクナイ
(栗塚報吿委員)
除ケテ仕舞ツテモ請求スル權利ガナイト云フノデハアリマセン、裁判所デ定メテナイ中ニ之ガ這入ル筈ハナイ
(尾崎委員)
其レニ違ヒナイ、併シ身代限ノトキ訴ヘルコトガ出來ヌト云フコトハナイ
(鶴田委員)
破產ト云フトキニ前ノ條ノ樣ナ約定ヲシテ居ル其レハ裁判所デ期限ヲ定メテ此條ニ當嵌メナケレバナラヌト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
裁判所デ何ト云ヲウガ直グニ此場合ニ這入テ破產ヲ受ケルト云フダロウ
(南部委員)
分配ニハ無論加ハル
(淸岡委員)
ドノ條ニ因テ加ハリマスカ
(南部委員)
破產ノ處ヲ見レバ總テノ債權者ハ訴ヘル期限ノアル人デモ、無イ人デモ出來マス
(栗塚報吿委員)
期限サヘ定メテ貰ウ權利ノアル者ガ破疲ニ加ハレヌト云フ道理ノ出樣筈ハナイ
(淸岡委員)
其レ程明亮ノモノナラ法律ニナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
何處ニカアリマシヨウ
(淸岡委員)
無期ノ年金ハ八十八條ニ在タカラ安心シタガ、前ノ若シ以下ハ何處ニ這入リマスカ
(栗塚報吿委員)
併シ拂ヒ期限サヘ定メテ貰ウコトノ出來ル權利ヲ持テ居ル債權者ハ負債者ガ身代限ヲシタルトキ加入スルコトガ出來ヌト云フ御想像ガ出來マスカ
(淸岡委員)
出來ルトシマシヨウ、第二ノ場合デ多分ヲ移付シタ場合ハ
(栗塚報吿委員)
其レハ出來マスマイ、其レハ權利上ノ期限ノ利益ヲ失フ處ヲ說イテ居ルノデ御座イマスカラ
(淸岡委員)
千三百八十八條ト見ルト第二第三モ這入テ居ル、年金デサヘ這入ルニドウシテ之ガ這入ラヌカ
(栗塚報吿委員)
特別ノ抵保ヲ定メテシタノデモ這入ラヌト思フ、貴君ノハ期限ノ話シデナク直ニ訴ヘルコトガ出來ルカ出來ヌカト云フコトヲ云フノデスガ、茲ハ期限ノコトヲ云フノデス、請求ヲ期限ト混淆スルカラ左樣ナル御論ガアルカト思ヒマス
(淸岡委員)
無期ノ年金ノ話シハ纏ツテ居ル、其レハ八十八條ニ明文ガアルカラ安心シタガ、若シ以下ノ分ハ明文ガナイ、二十五條ハ適用セラルルカト云フ
(栗塚報吿委員)
否破產ノトキモ訴ヘルコトガ出來ルト云フノデ御座イマス、破產ト多分ヲ移付スルトハ違ヒマシヨウ
(淸岡委員)
年金ノ方デハ何ゼ出來マスカ
(栗塚報吿委員)
年金デハ期限ノアツタノト同樣ニ看做スト云フノデス
(淸岡委員)
其レモ看做セバ此レモ看做サナケレバナラヌ
(鶴田委員)
年金ハ無期ノモノデモ身代限ヲスルトキハ訴ヘラルルガ茲ハ有期ノコトヲ云フカラ關係セヌケレドモ、前條ノ若シ以下ハ何處ヘカ顔ヲ出シテ居ラナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
無期ノ年金ハ期限ハナイ、ソウスルト自己ノ欲スルトキ返濟シ樣ト云フ者モ期限ガナイカラ何レカデ定メ樣ト云フノデ御座イマシヨウ
(淸岡委員)
ソウデス
(栗塚報吿委員)
自己ノ欲スルト云フノハ期限ヲ定メナケレバナラヌ、ソウ云フモノガアルト云フ想像ハ萬一ヲ計テ書イタノデス、併シナガラアツタトキハ期限ヲ定メルト云フコトヲ云フ爲メニ書イタモノデ無期ノ年金權ト同樣ノモノト想像スレバ立法官モ定メタデ御座イマシヨウ
(委員長)
萬一ヲ豫防シタルモノデ常ニアルマイト云フノデ何處ニ入レルト定メマイト云フ解釋ダガ、私ノ考デハ無期ノ年金ハ千三百八十八條ニ在ル、二十三條ノ若シ以下ハ此中ニハ這入ルモノデハナイカト思フ法律カラ期限ヲ定メタモノト看做スト云フコトデアルカラ債權ト債務ガ備ツタモノダカラ二十五條ヲ適用サセル旨意デハナイカト思フ
(栗塚報吿委員)
二十五條ハ權利上ノ期限ヲ失フト云フコトヲ云フテ居ラヌト宜シウ御座イマスカ
(栗塚報吿委員)
其期限ト云フモノガ何月何日ト云フコトハナイガ借リタ金ハ返ヘサナケレバナラヌト云フコト丈ケハ分ルニ違ヒナイ、然レバ法律上有期ト看做スゾヨト云フ以上ハ何月ト云ハズトモ元トヨリ借リタルモノハ返ヘサナケレバナラヌ、之ハ均シク期限ノ立タモノト同樣ニ丸ルデ二十五條ノ支配ヲ受ケルモノト思ヒマス
(淸岡委員)
ソウデ御座イマシヨウ權利上ノ期限ガ法律デ定メタノト當事者ガ定メタノハ立派ナモノデ、若シ定メヌトキハ裁判所デ定メルカラ立派ナ權利上ノ期限ニナル
(南部委員)
期間ト云フモトヲ裁判所デ定メテ始メテ期限ガ出來ルノデス
(栗塚報吿委員)
己レノ欲スルトキト云フ約束ヲシタトキハ拂フニ及バヌト云フ說ガアルガ、其レハ許セヌト云フコトガアリマス、又欲セヌトモ云ヘル其レ丈ケニ因テ裁判所デ期限ヲ定メルト云フノハ無理ダト云フ人モアル、何トナレバ返ヘシ度イトキハ返ヘスト云フコトヲ貴君モ御承知ニナツテ居ル恩恵ノ贈與ヲ見タ樣ナモノデ御座イマス、返ヘシ度クナリマスレバ御返ヘシ申スト云フトキハ裁判所デ期限ヲ定メルコトサヘ六ケ敷イ、其欲スルトキニ辨濟スル權能ヲ有スルトキハ債務者辨濟ヲ拒絕スルコトヲ得ト云フテ居リマス
(南部委員)
期限ト云フ字ハ何處カラ出マシヨウ、裁判所デ定メテ始メテ期限ガ出來ル、若シソウ仰シヤレバ無期ノ貸借ハ何處ニ在リマシヨウ、其コトモ茲ニハ何トモ云フテナイ
(鶴田委員)
私ハ此内ニハ這入テ居ラヌト思フ、無期ノ貸借ノ處ニ入レテ宜シイ
(尾崎委員)
私ハ鶴田君ト同說ダ
(委員長)
此法律中ニ別ニナケレバ此中ニ這入ルヨリ外ニ仕方ガナイ
(鶴田委員)
之ハ起案者ニ聞カナケレバナラヌ
(委員長)
ソレデハ起案者ニ聞クコトニシマシヨウ
本條ハ起案者ニ質問スルコトニ決ス
(委員長)
ヤリマシヨウ
第四百二十六條朗讀ス
第四百二十六條 權利上ノ期限アルト否トヲ問ハス又執行力アル證書アルトキト雖モ若シ債務者ノ不幸及ヒ善意ナルトキ且債權者カ猶豫ノ爲メ顯實ナル損害ヲ受ケサルヘキトキハ裁判所ハ債務者ニ相應ノ恩惠期間ヲ許與スルコトヲ得〔第千二百四十四條〕
 又裁判所ハ右ト同一ナル條件ニ從ヒ債務ノ一分ヅヽノ履行ヲ許スコトヲ得〔第千三百四十四條〕
 右ニ反スル總テノ要約ハ無効ナリ
(栗塚報吿委員)
「恩恵期間」ハ「恩惠上ノ期間」ト反譯デ改メマス
(鶴田委員)
「右ニ反スル」ト云フノハドウ云効ガアルカ
(南部委員)
要約ヲ許セバ効ヲ爲サヌト云フノデス
(鶴田委員)
要約ガ無効カ
(南部委員)
裁判所デ云ハレテモ期限ハ延ベヌト云フ約束ヲシテモ無効ダ
(鶴田委員)
其樣ナコトヲ云ハナケレバナラヌ必要ガアリマスカ
(南部委員)
起案者ハ必要ト云フテ居リマス
(栗塚報吿委員)
氣ノ毒ダト云フコトガアツテモ仕方ガナイ
(南部委員)
此條ハ實際ニ大變必要デ御座イマス
(松岡委員)
其代ハリ餘程注意セヌト良クナイ
(淸岡委員)
不幸ニシテ善意ナルトキト云フト幸ガアレバ不幸ガナケレバ善意デサヘアレバ宜シイダロウ
(栗塚報吿委員)
ソウハ云ヘマセン、及ビデ御座イマスカラ不幸ト善意ト兩方デナケレバナリマセン
(松岡委員)
之ハ苦情ナドハ付キマスマイ
(栗塚報吿委員)
其レハ付キマスマイ、併シ不幸デモ御座ラヌ、善意デモナイ、又顯實ナル損害ヲ受ケルトキハ云ヘマシヨウ
(鶴田委員)
自由ハ御座イマスケレドモ危イコトハ危イ
(南部委員)
裁判官モ滅多ニハヤリハシマセン、自分ノ身ニ係ツテ來マスカラ
(栗塚報吿委員)
裁判官ヲ相手取ルコトハ出來マス
(鶴田委員)
其レハ出來マイ
(栗塚報吿委員)
馴合テヤレバ一體ニ出來マス
(松岡委員)
惡事ノコトハ冤モ角モ
(栗塚報吿委員)
其レデナケレバ出來ナイ
(淸岡委員)
茲ニハ謹愼ト云フ字ハアリマセンガ、此處コソ謹愼ト云フノガ大切ダロウ
(南部委員)
條件ガ擧ゲテアリマスカラ謹愼ハ入リマセン
(淸岡委員)
佛蘭西ニハ謹愼ト云フ字ガアル
(松岡委員)
顯實ナル損害ヲ受ケナイト云フ證據ハ誰カラ立ルカ
(鶴田委員)
受ケルト云フ證據ヲ立テナケレバナルマイ
(松岡委員)
人ニ物ヲ貸シテ損害ヲ受ケルト云フ證據ヲ立テルト云フノハ困ル
(村田委員)
裁判官ガ支ヘガアルト云テ聞クダロウ
(栗塚報吿委員)
其レハ聞キマス
(松岡委員)
隨分危險ナモノダ、顯實ナル損害ヲ受ケタルト云フノハ何處カラ來テ居ルダロウ
(南部委員)
事實ヲ見テ裁判スル裁判官ニ任セルヨリ外ニ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
滅多ニ行ハレマイガ行ハレレバ仕合セデ御座イマス
(松岡委員)
謹愼ト云フトキハ裁判官ガ餘程困難デ、不幸ト善意ハ自身デ證據ヲ立ルデアロウガ、顯實ナルト云フ證據ハ誰ガ立テマスカ
(栗塚報吿委員)
裁判官ガ見込ムノデス
(渡委員)
債務者ガ斯ク々々ノ不幸ニ陥リマシタ、元トヨリ返濟ノ期限ハ切レテ居リマスガ、斯ク々々ノ不幸ニ陥リマシタガ延期シテ呉レト云フコトヲ裁判所ヘ持出シテ債權者ニ戻サンデ差支ナイト思フト云フ
(栗塚報吿委員)
其レハ此方カラハ申シマセン、裁判官ガ見ナケレバナリマセン
(渡委員)
裁判官ガ債權者ヲ呼出シテ聞イタ上ヤルト云フコトハ聞クダロウ、其レラ甘ンズレバ宜シイガ、成程彼ノ不幸ニ陥タノハ氣ノ毒デ御座イマスガ、期限ヲ延サレテハ困ルト云タラ如何シマスカ
(栗塚報吿委員)
其レハ秤リニ掛ケテ見ナケレバナラヌ、縱令大キナル身代ノ人ニ十圓ノ金ヲ催促シテ今日中ニ身代限ヲサセテヤルト云フ人モアル
(渡委員)
一方ニハ誰ガ見テモ憫然ト思フニハ違ヒナイ、善意ニモアラズ、然ル處債權者ハ期限ガアツテ延ベラレテハ困ルト云テ、不幸ヲ救フノハ宜シイガ、恐ロシイコトガアル
(南部委員)
却テ債權者ノ益ニナル場合ガアル、少シノ金ノ爲メニ身代限ヲスルトキハ十日延セバ返ヘスカ知レヌ、今日取ラナケレバナラヌト云テ直グニ取レルモノデナイ
(淸岡委員)
早ク迫ツタラ取レルカ知レヌト云フコトハ債權者ノ方デ知ルカラ、ソウ云フコトヲ債權者ノ利益ニナルト云フベキモノデナイ
(渡委員)
認メ次第ト云フノハ如何ナルモノダロウ
(栗塚報吿委員)
不幸善意デ一方ニ害ガアツタトキハ與ヘルカ與ヘヌカ、刀デ云ヘバ日本ノ裁判官ガ惡イカラ使ヘヌト云フノナラバ宜シイガ、良ク使ヘバ斬レルト云フノナレバ置イタ方ガ宜シウ御座イマシヨウ
(渡委員)
双方期限ヲ定メタ約定ヲ一方ガ不幸ニ陥リマシタ、一方デモ延期セヌト云ヘバ宜シイガ、其レデハ困リマスト云テモ、裁判官ガ損害ト看做サヌト云フトキハ契約シタ効ガナイ、裁判官ノ見計ラナイト云フコトハ御座イマセン
(栗塚報吿委員)
其レハ裁判官ガ無茶ナコトヲ云フノデ裁判官ガ騙サレテ居ルカモ知レヌ
(淸岡委員)
不幸ト善意丈ケデヤルノハ宜シクナイ、不幸ナドト云フコトハ、債務者ノ懷中ニハ孰レ不幸ガアルモノデ、不幸ハ憐レナモノデアルガ、實際上カラ考レバ弱イ者ヲ助ケ度イト云フノガ人情デアルカラ裁判官ニ愛憐心ヲ起サセ之ハ債務者ニ弱身ヲ惹起スカ知レヌ
(栗塚報吿委員)
其レハ債權者デシヨウ
(淸岡委員)
債權者デス、愛憐ヲ起スト困ル、裁判ヲシナイコトガアルダロウ
(栗塚報吿委員)
裁判ヲシナケレバ不受理ノ罪ガアリマス
(淸岡委員)
延期シテモ三割ノ利息ヲ拂ウカラ損デハナイダロウト云ヘバ損デハナイガ、ソレゾレ使ヒ方ガアツテ債權者ノ心算モアル、其レヲ顯實ノ損害ヲ受ケテハイケナイト云フト困ル
(南部委員)
今迄恩惠ノ裁判ノナイトキハ外國人ガ訴ヘテ示談スルト云フト、何ゼ貴君ノ方カラ命ジテ呉レマセンカト云フ、之ハ萬國共ニ備ツテ居ル、其レ丈ケ結好ナ法律デアツテ、其上「ボアソナード」ガ深ク注意シテ佛蘭西デハ負債者ノ形容ヲ考察シ謹愼シトアツテボンヤリシテ居ルノヲ制限シテ、不幸デナケレバナラヌ、不幸ト云テ一家病人デアルトカ何トカシナケレバナラヌ、ソシテ善意デアツテ債權者ニ損害ノナイ樣ニシナケレバナラヌカラ結構ナル條デアリマス
(淸岡委員)
ソレハ「ボアソナード」廣クシタ積リダロウガ、佛蘭西ノ如クシテ置ケバ、止ヲ得ザル處ガ現レテ其弊ガアルマイガ、此條ノ如クシテ置ケバ大變弊ガアルト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
今日ハ罪人ヲ酷簿ニ扱ウ、其レダカラ法律デ債務ヲ助ケテヤラナケレバナラヌト云テ居ル
(村田委員)
家内中病氣デ寝テ居テモ取立ルト云フ樣ナモノヲ防グニハ極ク宜シイ
(尾崎委員)
今ハコウ云フ法律ガナイカラ皆身代限ニナル
(鶴田委員)
良イ裁判官バカリ入ツテヤルト見テ置キマシヨウ、法律ハ良サソウダガ裁判官ガ良クアルマイト思フ
(委員長)
總テ裁判官ノ人ニ依ルノダカラ
(尾崎委員)
總テ法律ハ裁判官ガ適用スルノ處カラ、之バカリデハナイ
(栗塚報吿委員)
良法ハ立テ度イガ、萬一惡ク使ウト宜クナイカラ刪ルト云フノハ分リマセン
(松岡委員)
佛蘭西法ト之ト孰レガ良イカト云フト、佛蘭西法ノ不明亮ヲ確メタト云フカラ之ガ良カロウ、進ンデ論ズレバ伊太利法ニハ之ヲ採ラヌノデハナイカ、日本ニ之ヲ採ルニ及バヌト云フノナラ論ガ立ツガ、置クナレバ箇樣ニスルガ宜シイ、日本デモ三度カ四度ニ切テ拂ハセタコトガアル、彼ハ恩惠ノ契約ダ
(尾崎委員)
日限リ濟方ト云フノデス
(松岡委員)
唯氣遣ヒナノハ此法ノ爲メニ裁判官ガ妙ナモノニ御猶豫ヲ與ヘラルルノガ多クナラナケレバ宜シイト思フ
(淸岡委員)
裁判所ヘ往テ被吿ヲ見レバ可愛ソウナ者バカリダ、損害ヲ受ケザルト云フノハ利息サヘ拂ヘバ宜シイト云フノダロウ
(南部委員)
其レハアリマセン、利ヲ拂ツテモ顯著ナル損害ガアレバ許シマセン
(鶴田委員)
次ノ條デ許シタトキ逃ゲテ仕舞ツタトキハ裁判官ガ償ウカ
(南部委員)
ソンナコトハ出來ナイ、其代バリ財產ヲ押ヘテ仕舞フ
(松岡委員)
ソンナコトヲ云ヘバ押ヘルヨリ逃ゲル方ガ易イ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第四百二十七條朗讀ス
第四百二十七條 恩惠期間ヲ得タル債務者ハ第四百二十五條ニ定メタル原由ノ爲メ且其他左ノ場合ニ於テモ其恩惠期間ヲ失フ
 第一 若シ債務者カ逃亡シ又ハ其住所ヲ去リテ債權者ニ其居所ヲ隱秘スルトキ
 第二 若シ債務者カ一年又ハ更ニ長キ禁錮ニ處セラレタルトキ〔佛訴第百二十四條〕
 第三 若シ債務者カ判決ヲ以テ負ハシメラレタル條件ノ一ヲ行フコトヲ缺キタルトキ
 第四 若シ債務者カ適法ノ相殺カ爲サレ得ヘキ場合ニ於テ自ラ其債權者ノ債權者ト爲リタルトキ〔第千二百九十二條〕
 恩惠期間ハ裁判所ニ因リ延ハサルヽコトヲ得ス〔佛訴第百二十二條〕
(栗塚報吿委員)
此四ツノ外ニ前ノ四ツガ入リマスカラ八ツニナリマス
(鶴田委員)
第四ハ云フニ及バズダロウ
(南部委員)
此方ノ期限ハ恩惠ノ期間ヲ見テ居ルカラ返ヘサヌ者ニハ取ルト云フコトハ出來ヌト云フノデス
(鶴田委員)
差引勘定ヲシテ尙ホ殘リノアルトキハ此方ガ債權者ニナルカラ恩惠ノ期間モ何モ消ヘテ仕舞フ
(鶴田委員)
之ハ死ンダトキデシヨウ
(栗塚報吿委員)
ソウデハナイ、若シ恩惠ノ期限ガアルトキトスレバ相殺ハ出來ヌガ恩惠上ノ期間ハ相殺ヲ妨ゲズト云フ原則ヲ取出シタノデス
(鶴田委員)
債權者ノ債權者トナリタルトキト云フト、最早濟ンダ後ト思フ
(南部委員)
爲サレ得ラルルトキト云フノデス
(栗塚報吿委員)
若シモ恩惠上ノ期間ガアレバ相殺ハ出來ナイ、適法ノ相殺ガ出來ルト云フノハ恩惠上ノ期間ガナイカラデ、若シ期間ガアレバ消滅スル
(南部委員)
得ベキト云フノハ同ジ金高ナレバ宜シイガ、同ジデナイ者ハ出來ナイト云フコトヲ含ンデ居リマスカラ得ラルル場合デ、自ラ債權者ノ債權者トナツタト云フノデス
(尾崎委員)
相殺ヲシテ自ラ債權者トナルトキハ恩惠ノ期間ハ入ラヌト云フノダ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西ノ千二百九十二條ヲ引イテ居リマスガ、恩惠ノ期間ハ相殺ヲ妨ゲズト書イテアル
(鶴田委員)
ソレナラ宜シイガ此處ハ先キノ先キ迄云フテ居ルカラ
(南部委員)
ナリタルトキダカラ前ノコトデス
(松岡委員)
債務者ガ自ラ債權者トナツタトキハ適法ノ相殺ガ爲シ得ベキ場合ト云フノダカラ兎モ角モ「爲サレ得ヘキ」ハ「爲シ得ヘキ」トシタラ宜カロウ
(鶴田委員)
債權者ノ債權者トナレヌトキデモ相殺デ出入勘定ガナイト云フトキデモ出來ソウナモノダ
(南部委員)
其レガ卽チ債權者ノ債權者デス
(栗塚報吿委員)
「適法ノ相殺ヲ爲シ得ヘキ場合」ト修正致シマス
(委員長)
修正シテ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第四「相殺カ爲サレ得ヘキ場合」ヲ「相殺ヲ爲シ得ヘキ場合」ト修正ス
第四百二十八條朗讀ス
第四百二十八條 當事者又ハ法律カ義務ノ起生又ハ其解除ヲ未來ニシテ且不的確ナル事件ニ關セシムルトキハ其義務ハ條件付ナリ第一ノ場合ニ於テハ條件ハ停止ト稱セラレ又第二ノ場合ニ於テハ解除ト稱セラル〔第千百六十八條、第千百八十一條、第千百八十三條〕
 又主タルト從タルトヲ問ハス物權ハ停止又ハ解除ノ條件ニ從ハシメラルヽコトヲ得
(修正案) 第二項主タル上ニ「物權ハ」ノ三字ヲ加ヘ問ハスノ下「物權ハ」ノ三字ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
修正ガ御座リマス
(松岡委員)
詰リ物權モ同ジコトダト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(松岡委員)
「從ハシメラルルコトヲ得」ハ「從ハシムルコトヲ得」トシタラ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
其レハ茲デ御改正願ヒマス
(村田委員)
「停止ト稱シ解除ト稱ス」トシマスカ
(松岡委員)
ソウダ
(南部委員)
此例ヲ擧ゲレバ私ガ賣人デ松岡サンガ買人ニナリマス
(松岡委員)
ソレデ既成ノ未必條件、既成ノ停止條件デ私ガ大金持ニナツタラ買ウト云フ義務ガアル、松岡ニ金ガ出來タラ賣テヤルト云フ、其レ迄ハ停止デ、金ガ出來レバ之ガ起ツテ來ル、又解除ハ一遍買テ置イテ南部君ガ金持ニナレバ買戻ス
(鶴田委員)
期限モ立テラレマシヨウ
(尾崎委員)
三年ト云フ期限ガアツテ三年經テ金ガ出來ナケレバ解除ニナル
(委員長)
稱シノ下ノ「又」ヲ刪リマシヨウ
(淸岡委員)
物權ハ主タルト從タルトヲ問ハズト云フノハ
(栗塚報吿委員)
主タルハ用收權トカ何トカデ、從タルハ書入質トカデ、其レモ解除ヤ停止ノ條件ニ從ハシメルコトガ出來ル
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「停止ト稱」ノ下「セラレ又」ノ四字ヲ「シ」ノ一字ニ改ム第二項又ノ下ヘ「物權ハ」ノ三字ヲ加ヘ問ハスノ下「物權ハ」ノ三字ヲ刪リ「從ハシメラルルコトヲ得」ヲ「從ハシムルコトヲ得」ト改ム
第四百二十九條朗讀ス
第四百二十九條 豫見セラレタル事件カ成就スルトキハ停止ノ條件ハ合意ノ日ニ遡リテ効アリ〔第千百七十九條第一項〕
 解除ノ條件ノ成就ハ當事者ヲシテ合意前ノ互相ノ地位ニ復セシム〔第千百八十三條第一項〕
(修正案) 豫見ノ上ニ「停止ノ條件ハ」ノ六字ヲ置キトキハノ下「停止ノ條件ハ」ノ六字ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
「セラレタル」ヲ「シタル」トシテハ如何デハ
(松岡委員)
ソレハ最早委員長モ御許シニナツテ居ルカラ報吿委員デ直シタラ宜カロウ
(委員長)
二項モ「解除ノ條件ハ」トハ云ヘマセンカ
(松岡委員)
之ハ云ヘマセン
(栗塚報吿委員)
栗塚ガ今年内ニ佛蘭西カラ歸テ來レバ貴君ニ家ヲ賣ルト云フテ置クト、歸テ來レバ約束シタ日ニ遡テ効ヲ生ズル
(鶴田委員)
解除スレバ元トノ默阿彌ニナル
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「停止ノ條件ハ豫見シタル事件カ成就スルトキハ合意ノ日ニ遡リテ効アリ」ト改ム
第四百三十條朗讀ス
第四百三十條 停止又ハ解除ノ條件カ成就セサル間ハ當事者ノ各自ハ合意ノ目的ニ付キ自己ノ權利ト同一ナル條件ニ從フタル權利ヲ付與スルコトヲ得〔第二千百二十五條〕
 然レトモ條件カ第三百六十七條及ヒ其下ノ條ニ記載シタル公示ノ方法ヲ以テ知ラシメラレタルニアラサレハ當事者ノ一方又ハ其承權人ヨリ他ノ一方ノ承權人ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
(修正案) 第二項「及ヒ其下ノ條」ヲ「以下」ト改ム
(南部委員)
「附與スル」ト云フ字ニ第三者ト云フ字ヲ入レテ御覽ニナルト能ク分リマス
(淸岡委員)
第三者ヲ入レテハドウダ
(淸岡委員)
「條件ニ從フタル」トタルト云フ「從フタル」ハ入ラヌ樣ダ
(南部委員)
條件付ノ權利ヲト云フノデス
(鶴田委員)
第三者ヲ入レテ貰ヒ度イ
(村田委員)
原文ニモナイカラ入レナイ方ガ宜シイ
(渡委員)
入レ樣デハナイカ
(淸岡委員)
附與ト云フ字ハ人ニヤルヨリ外ニ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
條件付キノ權利ヲ人ニ與ヘルコトガ出來ルト云フノデス
(鶴田委員)
之ハ移轉デハナイカ
(栗塚報吿委員)
違ヒマス、讓ルコトヲ得ト云フタノト同ジデス
(松岡委員)
「移付」ト云フ字ノ方ガ良クハナイカ
(栗塚報吿委員)
違ヒマス、皆書分ケテアリマス
(淸岡委員)
次ノ項ガ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
「然レトモ其條件ヲ第三百六十七條以下ニ記載シタル公示ノ方法ニテ知ラシメタルニアラサレハ」デモ宜シウ御座リマス
(鶴田委員)
ソレデ宜シイ
(委員長)
「承權人ニ之ヲ」ト云フ「之ヲ」ハオカシイ
(栗塚報吿委員)
條件ヲ對抗スルコトヲ得ズト云フノデス
(委員長)
權利ヲ向ケルノデ、條件ヲ向ケルノデハナイダロウ
(栗塚報吿委員)
條件ヲデ御座イマス
(尾崎委員)
松岡サンガ家ヲ越シタ場合ニ南部サンガ買ヲウト云フ條件ガアツタトキ
(栗塚報吿委員)
松岡サンカラ村田サンガ買テ、南部サンカラ私ガ買タ自己ノ權利ト同樣ノ條件ニ從タル條件ヲ以テ付與スルコトガ出來ル、南部サン松岡サンノ條件ト云フコトヲ私ガ知ラナカツタ、當事者ノ一方ト云フノガ南部サンデ、承權人ノ栗塚カラ他ノ一方ニ對抗スルコトハ出來ヌ
(南部委員)
私ト栗塚サンノ二人ダカラ孰レモイケヌ
(尾崎委員)
第三者ガ付與シテ公示ノ法ヲ行ハヌ
(栗塚報吿委員)
未必條件デ賣買シタノヲ登記簿ニ書イテナイカラ第三者ハ知ラヌ
(南部委員)
ソレデ私カラ村田サンニ對抗スルコトハ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
私カラモ出來ナイ
(鶴田委員)
「之ヲ」ハ刪レマセンカ
(栗塚報吿委員)
今日迄例ガアリマス
(委員長)
「承權人ニ對シ條件ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス」ト云ヘバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「條件ハ對抗セラルルコトヲ得ス」トシテモ同ジデス
(委員長)
「之ヲ」ヲ刪リサヘスレバ立派ニ分ルト思フ
(栗塚報吿委員)
貴君ニ此煙草入ヲ向ケ付ケルコトハ出來ヌト云フノデ、栗塚ノ顔ハ委員長ニ向ケラルルコトヲ得ズト云フノモ、顔ヲ委員長ニ向ケルコトヲ得ズト云フノト同ジデス
(松岡委員)
「之ヲ」ト云フコトハナクテモ向ケ付ケルコトハ出來ヌト云フコトニナル
(栗塚報吿委員)
「ヲ」ハ「アラサレハ」デ切レテ仕舞フ
(松岡委員)
「ヲ」ト云フ字ヲ長ク引ケバ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
其條件ハ當事者ノ一方又ハ其承權人ニ對抗セラルルコトヲ得ズトナリマス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項然レトモ其條件ヲ第三百六十七條以下ニ記載シタル公示ノ方法ニテ知ラシメタルニアラサレハ當事者ノ一方又ハ其承權人ヨリ他ノ一方ニ承權人ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス
第四百三十一條朗讀ス
第四百三十一條 解除ニ從フヘキ權利ヲ有スル者ノ善意ニテ且法律ニ從ヒ爲シタル管理ノ所爲ハ第三者ノ利益ノ爲メニ維持セラル
 第三者ト解除セラルヽコトアルヘキ權利ヲ有スル當事者トノ間ニ爲サレタル判決ハ他ノ當事者又ハ其承權人ニ因リ援唱セラルヽコトヲ得然レトモ右ノ判決ハ他ノ當事者又ハ其承權人カ異議ヲ述フル爲メニ召換セラレサリシトキハ之ニ對抗セラルヽコトヲ得ス但其判決カ管理ノ所爲ノミニ關係スル場合ハ此限ニ在ラス
(渡委員)
此條ノ六ケ敷イコトハ豫テ承知シテ居ル、且條件付ダカラ講釋ヲ願ヒマス
(栗塚報吿委員)
南部サンガ松岡サンニ家ヲ賣リマシタ、若シ國カラ母親ガ來レバ解除スルト云フ契約デ松岡サンガ村田サン賃貸ヲシテ置キマシタ、其賃貸ハ管理ノ所爲デス、賃貸ノ内ニ解除ガ到着シタトキハ村田サンノ爲メニ管理ノ所爲ヲ維持シナケレバナリマセン南部サンガ取消シテ仕舞フコトハ出來ヌト云フノガ第一項デ御座リマス尤モ善意デナケレバナリマセン、態ト南部サンノ權利ヲ害ソウト思テハイケナイ、處ガ其次ノ項ノ第三者ハ今ノ第三者トハ違ウ、其レガ分ラヌノデス害セラルルコトアルベキ當事者デ御座イマスカラ松岡サント栗塚トノ間ニ判決ガアリマシタ、其家ヲ取ルニハ松岡サンノ御住居ハ私ノ家デス、相續ヲ得タノデスト云テ松岡サンヲ相手取テ訴ヘテ判決ガ下リマシタ、其判決ハ他ノ當事者卽チ南部サン、又ハ南部サンヨリ讓受ケルコトガ出來ル人ニ依リ援唱セラルルコトヲ得デ御座イマスカラ己ニ此通リ裁判ガアリマシタト云フコトヲ南部サンガ云ヘルコトガ出來ル、併シ其レハ勝訴ノトキ丈ケノコトデ南部サンニ利益ノアルトキハデス、併シナガラ南部サンノ不利益ノトキハト讀ンデ御覽ナサイ、右ノ判決ガ栗塚ト松岡サンノ間ニ在タトキハ南部サンノ相續人ガ呼バレテ居ラナカツタトキハ南部サンニ向ケ付ケテ行クコトハ出來ナイ、何トナレバ其訴訟ニ居ラナカツタカラト云フコトデス、但カラ先キハ前項ヲ受ケテ居ルノデ、南部サンニ向テ對抗スルコトガ出來ルゾヨト云フコトデ御座リマス
(委員長)
講釋ハ分ルガ文章ハ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
解除ノ未必條件ヲ有スル權ヲ賃貸シ松岡サンガ第三者ニ賃貸シ解除シテモ賃貸ハ成立テ居ル、其理窟ハ第三者ニ賃貸セラレ卽チ有益ニ管理セラルルハ公益ニシテ且借家人若クハ借地人ノ權利ガ其嘗テ關係セシコトナキ未必條件ノ功力ニ因リ消滅スルハ認メ難キ所ナリト爲スニ在リ然レドモ斯ノ如ク管理ノ處置ヲ維持スルニハ其善意且法律ニ恰好シテ爲シタルモノナルヲ要スデ御座リマス
(委員長)
「承權人ニ因リ」トアルカラ
(栗塚報吿委員)
南部サンカラハ云ヘルガ人カラ南部サンガ彼ノ裁判ガアツタト云フコトハ出來ナイ
(委員長)
「承權人ヨリ」トシ樣
(栗塚報吿委員)
「承權人ヨリ之ヲ援唱スルコトヲ得」ト致シマス、其レカラ「召喚セラレサリシトキハ之ヲ對抗スルコトヲ得ス」トナラナケレバナリマセン
(南部委員)
「當事者トノ間ニ爲シタル判決ハ」トナリマス
(松岡委員)
上ノ項ニハ「解除ニ從フヘキ」トアツテ、次ノ項ニハ「解除セラルルコトアルヘキ」トアルカラ一ツニスルガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
同ジコトデス、其レダカラ「解除ニ從フヘキ權利」トナスツタ方ガ宜シイ
(委員長)
何レデモ宜シイ
(南部委員)
一項モ「解除セラルルコトアルヘキ」ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「解除ニ從フ權利ヲ有スル者」デハ如何デス
(南部委員)
解除ニ從フデモ宜シイ
(渡委員)
第二項﹇ハ「解除ニ從フヘキ」デハオカシイカラ、兩方共ニ「解除セラルルコトアルヘキ」トスルガ宜シイ
(委員長)
「解除セラルルコトアルヘキ」ノ方ガ宜イカ知レヌ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ第一項ヲ「解除セラルルコトアルヘキ」ト修正致シマス
(村田委員)
「維持セラル」ハ「維持ス」ガ宜カロウ
(渡委員)
「維持セラル」デ宜シイ
(松岡委員)
誰カラ維持スルカ
(渡委員)
人カラ維持セラル
(松岡委員)
其レデハ原案ニシテ宜イ
(栗塚報吿委員)
二項ノ「之ニ」ト云フノハ人ニト云フコトニナツテ居リマス、前ノ條モ「之ヲ」ト云フコトハ條件ト云フコトデ御座リマスカラ「其當事者又ハ承權人ニ對抗スルコトヲ得ス」デナケレバナリマセン
(渡委員)
ソレデ宜シイ
(委員長)
箇樣ナ處ノ「之ヲ」ハ「之ヲ以テ」ト云ハナケレバ分ラヌ
(鶴田委員)
半分カラ前ノ處ハ利益ガアレバ他ノ當事者ガ援唱シテ訴ヘルコトガ出來ル
(栗塚報吿委員)
訴ヘルノデハナイ、判決ノアツタト云フコトハ主張スルコトガ出來ル
(鶴田委員)
然レドモ以下ハ他ノ當事者ノ相手ニナル第三者デスカ
(栗塚報吿委員)
私ト松岡サントノ間ニ在タ判決ハ私ガ負ケタトキ、南部サンガ條件付デ松岡サンニ家ヲ賣タトキ、私ト松岡サンノ間ニ判決ガアツテ私ガ負ケルト私ガ松岡サンニ負ケタカラト云テ南部サンノ處ニ行クト、南部サンハ松岡サンニ勝タ理窟デ私ニ向付ケルコトガ出來ル、其レガ前段デス、然レドモ右ノ判決ト云フハ松岡サント栗塚トノ間ニ在タ判決ハ南部サンニ云フコトハ出來ヌゾ南部サンノ方カラハ云ヘテモ、私カラ南部サンニ向テ云フコトハ出來ヌ、利益ナレバ南部サンガ主張スルガ、不利益ノトキハ云ヘナイ
(松岡委員)
其時分ニ南部サンハ小言ヲ云フ人ダカラ呼出シテ置ケバ宜シイ呼出シテ置カナカツタラ、イケナイト云フノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
ソウデス
(松岡委員)
「之ニ」ハ「之ヲ」ト直セバ宜シイ
(南部委員)
「之ヲ援唱スル」ノ「之ヲ」ハ刪ルガ宜シイ
(村田委員)
「當事者又ハ承權人ニ之ヲ對抗スル」ガ宜シイ
(淸岡委員)
次ギノ項ハ分ラヌカラ刪テモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
益ガアリマス南部サンノ位地ニナツテ御覽ナサイ、南部サンガ松岡サンニ賣タ家ヲ栗塚ニハ權ガナイ
(淸岡委員)
其レハ云ヘヌ話シデス
(栗塚報吿委員)
若シ南部サンノ物デナイト云フ判決ノ下ツタトキハ南部サンニ向テ、此通リ貴君ノ物デナイト云フ判決ガ下ツテ居ルト云テモ對抗ハ出來ナイ、私ハ其裁判ニ居ラナカツタ
(淸岡委員)
自分受ケナイ裁判ダカラ宜シイ
(栗塚報吿委員)
南部サンガ訴訟ノトキ居ラナカツタカラ松岡サント私トノ間ノコトデ援唱スルコトガ出來ヌカト云フト援唱スルコトガ出來ルト云フノデ大變必要デ御座イマス
(淸岡委員)
援唱シタラ必ラズ勝テルト云フコトハ出來ナイ今日デモ援唱スル事柄ナレバ援唱ガ立ツガ、幸ヒ左樣ナルコトガアツテモ貴君ト南部サンヲ裁判スルトキニ當テハ裁判所デ、効ヲ成サヌコトガアル
(栗塚報吿委員)
其レハアリマシヨウガ、兎ニ角南部サンニ利益ガアル
(淸岡委員)
必要ナルコトナレバモツト分リ易ク書クガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
誠ニ分リ易イ文章デハアリマスガ、事柄ハ今ノ通リデス
(松岡委員)
但ハ入ラヌ樣ダ
(南部委員)
前ニ第三者ト云フコトガアルカラ但書ハアツテ宜シイ
(淸岡委員)
貴君ガ尾崎サンニ家ヲ賣テ解除セズニ渡サンガ係テ渡サンガ負ケタ、貴君ノ方ニ家ガ還ツタ、渡サンガ一論ヲ起シテ栗塚ニ係テ行クデシヨウ、其トキ御前ハ尾崎サンノトキニモ負ケタデハナイカ、裁判ガ確定シテ居ラヌト云テモ之デ貴君ガ刎子付ケテ裁判所ヘ行クコトハ出來ヌト云フコトハ出來マイ
(栗塚報吿委員)
裁判確定ノ効ヲ有スル
(鶴田委員)
修正ノ方ガ幾分カ分ルガ「之ニ」ニハ分ラヌ
(南部委員)
茲ハ「之ニ」デモ宜シウ御座イマス「人ニ」デ御座リマスカラ前ノ「之ヲ」ハ削リマス
(松岡委員)
前ノ「之ヲ」ハ刪テモ宜シイ
(委員長)
其レデハ前ノ「承權人ニ之ヲ」トアル「之ヲ」モ刪ラナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
「之ヲ」ヲ殘ラズ御止メ下サイ、然ラズシテ前ノ條ノ「之ヲ」ト云フノハ條件ヲ指シ後ノ「之ヲ」ハ人ヲ指スト云フノハ困リマスカラ
(南部委員)
前條ハ「然レトモ其條件カ」トシテ「之ヲ」ヲ刪テハ如何デス
(委員長)
ソレガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレハイケマセン、「條件ガ」トシテ「之ヲ」ト願ヒマス
(委員長)
其レデハ「ヲ」デモ「ハ」デモ同ジコトダ
(南部委員)
ソウスレバ「之ヲ」ハ分ラナイ
(委員長)
「條件ハ承權人ニ對抗スル」トスレバ宜シイ
(鶴田委員)
其レデ宜シイ
(委員長)
反譯ノトキハ一方ハ「對抗スル」ト云テテ一方ハ「對抗セラルル」ト云テ又カラ下ヲ受ケルノダロウ
(栗塚報吿委員)
又カラデ御座イマス、「召喚セサリシトキハ其當事者又ハ承權人ニ之ヲ對抗セシムルコトヲ得ス」トスレバ宜シイヒ、若シ「之ヲ」ガ嫌忌ナレバ「セラルルコトヲ得ス」ト願ヒマス
(委員長)
前條ハ「當事者ノ一方又ハ其承權人ヨリ他ノ一方ノ承權人ニ對抗スルコトヲ得ス」トシテモ宜シイ
(鶴田委員)
「之ヲ一方ノ承權人ニ對抗スルコトヲ得ス」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
其レデモ宜シイ
(委員長)
箇樣ナ所ハ「以テ」ト云フ字ヲ用ヒテ「之ヲ以テ對抗スルコトヲ得ス」トスレバ宜シイ
(淸岡委員)
條件ヲ以テト云フガ當ルノデハナイ、判決ヲ直グニ向付ケルト云フノデス
(委員長)
併シ人間ヲ向付ケルノダカラ「以テ」ト云フ字ヲ入レテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「諸人ニ對抗シ得ヘキ權利ヲ以テ」ト云フカラ權利カラ論ズルトキハ所有權ヲ人ニ向付ケルコトガ出來マス
(松岡委員)
五百二條ニ「物權ハ直チニ之ヲ物ノ上ニ行ヒ且總テノ人ニ對抗シ得ヘキ」トアルハ如何ナルコトデスカ
(栗塚報吿委員)
對抗ト言フノハ向ケ付ケルト云フノデス人ノ上ニ行ヒ且對抗シ得ベキト言フ形容詞ニシテアルノデス、承權人ニ對抗スルハ何ヲ對抗スルカト云フト條件ヲ對抗スル
(松岡委員)
ドウモ對抗ト云フ字ハソウハ讀メナイ
(南部委員)
一體何ガト云テ之ヲト云フノハ日本文デハ分ラヌ文ダ
(委員長)
コウ云フ處ハ却テ「セラルル」ノ方ガ讀ミ易クハアリマセンカ
(南部委員)
元トカラ「對抗スルコトヲ得ス」トナツテ居リマスカラ「セラルル」ヨリ宜シイト思ヒマス
(松岡委員)
舊幕時分ノ「慥ニ之ヲ受取候」ト云フノト同ジコトダ
(委員長)
誰レニデモ見セルガ宜シイ、ドウシテモ「之ヲ對抗スルコトヲ得ス」トハ讀メナイ、向ケ付ケルナラ分ルカラ「ムケツケル」ト假名ヲ付ケテ置キマシヨウ
(鶴田委員)
「之ヲ」他ノ一方ノ上ニ入レルガ宜シイ
(委員長)
其レデモ宜シイ
(南部委員)
其レハ一向分ラヌ
(淸岡委員)
「對抗」ト云フ字ヲ向ケ付ケルト云フ樣ナ字ニ直シテ貰ウガ宜シイ
(南部委員)
「召喚セサリシトキハ其當事者又ハ承權人ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス」ト致シマス
(委員長)
ソレデハ修正シテ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「解除ニ從フ」ヲ「解除セラルルアル」ト改ム第三項ハ左ニ修正ス第三者ト解除セラルルコトアルヘキ權利ヲ有スル當事者トノ間ニ爲シタル判決ハ他ノ當事者又ハ其承權人ヨリ之ヲ援唱スルコトヲ得然レトモ右ノ判決ハ他ノ當事者又ハ其承權人カ異議ヲ述フル爲メニ召喚セサリシトキハ其當事者又ハ承權人ニ之ヲ對抗スルコトヲ得ス但其判決カ管理ノ所爲ノミニ關係スル場合ハ此限ニ在ラス
第四百三十二條朗讀ス
第四百三十二條 條件カ成就スルトキハ物又ハ金額ヲ引渡シ又ハ返還スヘキ當事者ノ一方ハ其條件ノ成就セサル時間ニ於收取シ又ハ滿期ト爲リタル果實若クハ利息ヲ供給スルコトヲ要ス但當事者ノ之ニ反スル意思ノ證カ狀況ヨリ生スルトキハ此限ニ在ラス
(委員長)
「意思ノ證カ狀況ヨリ」ト云フト狀況カラ出テ來ル樣ニナル
(栗塚報吿委員)
反對ノ證ガアレバ無論ノコトデス、明示ハ勿論ノコト默示デモト云フノデ御座イマス
(村田委員)
物又ハ「金額」ハ「金錢」デハアリマセンカ
(淸岡委員)
之ハ如何ナル場合デスカ
(栗塚報吿委員)
私ガ貴君ニ、若シ私ガ今年ノ暮ニ裁判官ニナル樣ナコトガ御座イマシタナラバ私ノ家ヲ賣ルト云フ、其レデ停止ノ條件デ家ヲ賣テ置キマシタ、ソウスルト今年ノ暮ニ私ガ裁判官ニナリマシタトキハ、今日御約束ヲシタル日ニ遡テ効ガアルノデ御座イマスカラ、今日カラ本年ノ暮迄家賃ヲ取テ居リマシヨウ、或ハ田畑ナレバ物ヲ取テ居レバ其レハ貴君ニ上ゲルノデ御座イマス、其レカラ今日貴君ニ家ヲ賣テ今年ノ暮ニ若シ裁判官ニナリマセンケレバ此家ヲ御返ヘシ下サイト云フト返還スベキ義務ガアルカラ裁判官ニナラナケレバ家ヲ下サルル其トキハ家賃ヤラ收獲ヤラ下サルト云フノデス
(鶴田委員)
之ガ原則ダロウガ果實ナドハ成就シタトキカラ初メツテ宜サソウナモノダ
(南部委員)
期限ガ來テ始メテ箇樣ナコトヲシ樣ト云フノト同ジニナル
(鶴田委員)
未必契約ダカラ約束ハスルガ期限ガ來テカラ執行スルノダカラ裁判官ニナツテ遠方ヘ派出スル間ハ賣ラナイト云フノダカラ
(南部委員)
商法デモ同ジコトデス、初メカラ成立テ居ルト書イテアル、若シ出來ナカツタトキハ契約ガ消ヘテ仕舞フトシテアリマス
(松岡委員)
今日本ニハナイガ物ガ細カクナレバ箇樣ニナツテ來ル
本條ハ原按ニ決ス
(栗塚報吿委員)
今日ノ分ハ是レ丈ケデ御座イマスガ三百八十九條ヲ「ボアソナード」カラ直シテ來マシタカラ之ヲ御議決ヲ願ヒマス
(起按者修正)
第三百八十九條 第二項善意ノ場合ニ於テハ取戻ハ其移付ニ付キ得タル代價又ハ其代債ノ事ニ關シテ存スル訴權タルノミ又惡意ノ場合ニ於テハ其取戻ハ不動產ノ評價額タルコトヲ得
(鶴田委員)
之ハ此方ノ旨意ノ通リニナツタノダ
(栗塚報吿委員)
惡意ノ場合ハ盜ンダ物ダカラ安ク賣テ居ルダロウ、處ガ評價額ガ代價ヨリ安イトキガアル、其レハ惡意ノ者ノ迷惑スル樣デナクテハナラヌト云フノデ何レカラデモ出來マス
(松岡委員)
善意ノ人ハ百兩惡意ノ人ハ八十兩デ其レヲ今日ノ評價ニスレバ七十圓ニナツテ居ル知ンカ
(南部委員)
ソウスレバ高イ方ヘヤル
(松岡委員)
善意ノ人ガ取戻ストキハ百圓、惡意ノ人ハ八十圓、善意ノ人ガ取戻ストキハ幾ラ取ルカ今日評價サセレバ八十兩ヨリ安イコトガアル、其トキハ如何スルカ
(南部委員)
其ウスレバ八十兩取ル
(栗塚報吿委員)
代價デモ何ンデモ出來ルコトニシテ呉レ、必ラズ評價額デ限テハ不都合ガアル、其レカラ四百六條ニ松岡サンノ御論ニナツタコトガアリマス、此二項ハ廣キ義務ニ掛ルコトデ御座イマス、債務者ニ直接ノ無効ヲ證スルニハ單リ行フベキ義務バカリデハナイカト云テ聞キマシタ處ガ全ク此旨意ハ唯推定サセルコトノ出來ヌ場合ガアルト云フ處丈ケ見テ呉レバ宜シイ、決シテ爲スベキ義務爲サザル義務ハ見ズシテ宜シイ、尤モ爲サザル義務ハ論ハナイ、爲サザル義務ハ爲シドキガ惡ルイノダト云フコトデ御座イマス、其ウスルト遺ツタモノハ行フベキ所爲ト引渡スベキ義務デス爲スノ意トハ醫者ノ診察ハ行フベキ義務ニ當リ、引渡スベキ義務デ財產中ニ在レバ宜シイガ債務者ノ財產中ニナイトキハ如何スルカ、此場合ニモ當ルゾヨ、米ヲ賣ルト云フタケレドモ其米ハ自分ノ財產中ニナイ、良シアツタニシタ處ガ、ドノ米ト指シテナイ場合モアル、併シ代補物ノ如キハドレト分ツテモ宜シイカラ、ドノ部分ノ百俵デモ宜シイガ、詰リ賣ルト云フタ物ノナキ場合ヲ見ル、其場合ニハ引渡スコトガ出來ナイカラ遲延ニ付シテ期限ヲ定メテ一日怠レバ幾ラト云フモノヲ取ルゾヨ、迚モ私ハ米ヲ見出スコトハ出來ヌカラト、精算ヲ促ガスコトガ出來ル、必ラズ行フベキ義務バカリデハナイ、引渡スベキ有體物ニシテ財產中ニ在ル物ハ宜シイガ、無クシテ裁判所デ差押ヘルコトノ出來ヌ物モ這入ルト云フノデ御座イマス
(松岡委員)
此通リニ書イテアツテ、引渡スベキ義務爲スベキ義務ト一般ニ書イテアツタラ品ヲ引渡ストキ直グ精算スルト云フコトガ出來マシヨウヨ
(南部委員)
四百六條ニ行ケバ主タル損害賠償ハ主タル訴トナツタトキデ其例ハ援引シテ四項五項トナツテ居ルカラ品物ガアレバ品物ノ方ヘ行クノダカラ
(松岡委員)
宜カロウ
(委員長)
本人ノ物デアツテ本人ノ手ニナイ物ヲ云フノダネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
ソレデハ改正ニ決シテ今日ハ是レ迄ニシテ置キマス
本條ハ起草者ノ改正按ニ決ス