法律取調委員会 民法草案議事筆記 第28回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案第二編人權ノ部議事筆記 , 自 第二十三回 至 第二十八回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案財產篇第二十八回議事筆記
自第三百八十八條至第四百二條及ヒ第三百二十九條留保
明治二十一年二月二十一日午前第九時三十分開會人權
第三百八十八條朗讀ス
第三百八十八條 第三百八十一條第二號ニ定メタル給付ヲ惡意ニテ受ケタル者ハ訴ノ日ニ不當ニ利ヲ得テアリシモノヽ外元金ヲ受ケタル時ヨリノ其適法ノ利息、確定物ノ果實及ヒ產物ヲ收取スルコトヲ怠リタルトキト雖モ其果實產物及ヒ自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ生シタル滅失又ハ毀損ハ勿論意外又ハ抗拒スルコトヲ得サル原由ニ出ツル滅失又ハ毀損ト雖モ若シ其滅失又ハ毀損カ物ヲ引渡シタル者ノ方ニ於テ生スヘカラサリシトキハ其償金ヲ返還スヘシ〔第千三百七十八條、第千三百七十九條〕
(修正案) 第三百八十八條第三百八十一條第二號ニ定メタル給付ヲ惡意ニテ受ケタル者ハ訴ノ日ニ不當ニ利ヲ得テアリシモノノ外左ノモノヲ返還スヘシ第一元金ヲ受ケタル時ヨリノ適法ノ利息第二確定物ノ果實及ヒ產物但其收取ヲ怠リタルトキト雖モ亦同シ第三自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ生シタル滅失又ハ毀損ノ償金然ノミナラス意外又ハ不可抗ノ原由ニ出ツル滅失又ハ毀損ト雖モ其滅失毀損カ物ヲ引渡シタル者ノ方ニ於テ生スヘカラサリシトキハ其償金
(村田委員)
此八十一條第二號ハ「又」カラ下ヲ云フノデスカ
(今村報吿委員)
第二號ハ全體デ御座イマス
(鶴田委員)
修正ノ通リデ異議ナシ
(今村報吿委員)
「訴ノ日」ト云フコトハ修正シタ方デス、第一第二第三ト擧ゲテ都合ガ惡ルウ御座イマスガ原書デハ一項ニ書イテ仕舞ツテ然シテ原文ノ順序ヲ云フト第二項ニ定メタル給付ヲ受ケタルモノハ返還スベシトナツテ居リマス、然ウシテ間ニ「訴ノ日ニ不常ノ利ヲ得テアリシモノノ外」ト云フコトガ御座イマス、箇樣ナ訴ガ起リマシタ、私ハ百圓受取テ其年ノ十二月三十一日ニ訴ヘガ起ル、三十一日ニ不當ノ利ヲ得タノハ元金ノ百圓ト利息ト併セテ、訴ノ日ノ不當ノ利ト外讀メナイ、處ガ後ヲ讀ンデ見ルト元金ヲ受ケタルトキヨリノ適法ノ利息トアルカラ二重ノ利ヲ取ル樣ニナルカラ「ボアソナード」ニ質問シマシタ、受ケタ日カラ訴ヘノ日迄ハ二重ノ利ヲ取ル積リカト聞キマシタ處ガ、成程文字デハ其樣ニ見ヘルカ知レヌガ、全ク一體ノ文章ハ不當ノ利ヲ得テアリシモノガ何デ入用デアルカト云フト終リノ處ニ若シ物ガ滅失シテモ拂ハナケレバナラヌ訴ノ日ニ存シテ居ルモノハ無論ノ話シダガ、滅失シテモ不當ニ得タモノハ拂ハナケレバナラヌト云フコトガ此項ノ終リニ書イテアルト云フ說明デアリマシタ、成程左樣ニ云ヘバ然ウ聞ヘマスガ、此樣ニ修正スレバ尙ホ以テノコト日本ノ文章デハ「訴ノ日」ト云フコトハ無イ方ガ宜シイト思ヒマス
(鶴田委員)
第三ニ至テ如何ナル譯デ訴ノ日ニ入リマスカ、私ハ無クテモ宜シイト思フ、訴ヘガナケレバヤラズニ濟ムト云フコトダロウガ、之ハ法律上ノ義務ヲ示シタモノダロウ
(今村報吿委員)
返ヘサナケレバナラヌト云フコトハ大體定ツテ居ル、元金丈ケカト云フト左樣デハナイ、其外果實又ハ金ナレバ利息、又滅失スレバ己レノ過愆ナレバ無論デス
(鶴田委員)
「訴ノ日」ガ其處ニナケレバナラヌト云フノハドウ云フ譯デスカ
(松岡委員)
私ニ云ハセルト翻譯ガ惡ルイト思フ、前譯ヲ見ルト、「訴ヲ受ケタ日迄不當ニ得タ利益ノ外」トアル、之ヲ書イタ人ノ心持ヲ探ネルト惡意デ受ケタ人間ガ訴ノ日迄不當ニ得タル利益ハ別段ノ催促モナクトモ遲滯ニ付シタル道理デ利息ガ生ズル果實モ返ヘス
(今村報吿委員)
訴ノ日迄ニ得テアリシ外ト云フノデス、私モ貴君ノ如クニ讀ンデ私ガ惡意デ金ヲ受取り、六月三十日ニ訴ガ起リマシタ、其レデ私ガ商賣シテ利息ヲ取テ居ルカモ知レヌ、又果實モ公債證書ヲ買テ利ヲ取テ居ル、貸シテ居ル外ノ利息ヲ取テ居ル、尙ホ其外ニ不當ノ利ヲ得テ居ルカ知レヌ
(松岡委員)
不當ノ利ト云フノハ百兩デ、夫レヲ戻スノハ云フ迄モナイ、之ハ受取タトキカラ訴ノ日迄利息ガ付クゾト云フノダ
(今村報吿委員)
然ウスルト二重ニナツテ居ル
(松岡委員)
不當ニ得タ利ト云フノガ元金ダ前條デモ五十圓ノ馬ヲ受取ルニ七十圓受取タノガ元金ダ
(今村報吿委員)
共意味ナレバ惡意ニ受ケタルモノハ不當ニ得タルモノノ外元金ヲト云フノデス「訴ノ日」ト云フ文字ガアルト貴君ノ樣ナ解釋ハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
松岡サンノ樣ナ解釋ダト「訴ノ日」ト云フノガ必要ト思ヒマス、取テ返ヘサズニ持テ居テ、訴ヘラルルトキ迄持テ居タト云フ意味ヲ現ハシテ居ルノデス、現ニ受取ツタ富ト云フモノヲ訴ノ日迄返ヘサズニ持テ居タ人ト云フノデス、最早一部分デモ返ヘセバ宜シイ、然ウスレバ訴ノ日迄返ヘサヌモノヲヤレト云フノデス
(松岡委員)
之ガナケレバ分ラヌカト云フニ左樣デハナイ、去り乍ラ之ガアツテ甚ダ惡ルイト云フコトモナイ、利ト云フ字ヲ物ト書カヌノハ確定日附ト分ケタノダロウ
(栗塚報吿委員)
「訴ノ日」ト云フ字ガアル爲メニ儲ケヲシテ置イタ去年ノ六月ニ貴君ガ私ニ下スツタ、私ハ去年ノ六月ニ取ルベキモノデナイ、去年ノ暮ニ取ルベキモノダ、ソレデ私ガ金ヲ儲ケテ百圓ノ物ガ二百圓ニナツタノハ利息デハナイ、元金ダト云フ說ガアリマス
(松岡委員)
ソレハ這入ラヌ、ソレヲ云フト損ヲシタトキハ如何スルカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、貴君ト私ト御同論ダカラ
(今村報吿委員)
訴ノ日ニ不當ノ利ヲ得テアリシモノト云フト、私ガ百圓取テ一年經テ訴ヘラレル、其前ニ盜賊ニ取ラレレバ不當ノ利ヲ得ナイ、損ヲシテ居ルカ知レヌカラ惡意ニテ受取タルモノハ兎モ角モ其外ノ金ナレバ果實田地ナレバ米ナリ姿ナリ作ルト云フコトニナロウト思ヒマス、ソレデ私ガ「訴ノ日」ト云フ字ヲ刪リマシタ
(鶴田委員)
訴ノ日ニ不當ノ利ヲ得タルト云フト語ガ惡ルイ
(今村報吿委員)
訴ノ日ニ不當ノ利ヲ得テアリシモノ百圓ナラ百圓デ金儲ケヲシテ、二百圓ニナツテ居ルカ知レヌ、若シ其反對デ五十圓ニナツテ居ルカ知レヌ、訴ノ日ヲ以テ返ヘスベキ高ヲ定メタノハ惡ルイ金デ受取ツタモノト云フコトガ分リサヘスレバ宜シイ
(淸岡委員)
訴ノ日ト云フノハ如何ナルコトカ
(栗塚報吿委員)
訴ノ日迄ニ返ヘセナカツタモノト云フノデス
(渡委員)
成程「訴ノ日」ハナイ方ガ宜シイ
(鶴田委員)
ナイ方ガ宜シイ
(淸岡委員)
訴ヘル訴ヘナイニハ關係セヌカラ刪ツテ宜シイ
(今村報吿委員)
唯論ノ起ルノハ不當ニ得タ元ノモノハ無論返ヘサナケレバナリマセン、或ハ惡意デ滅失シタモノハ如何スルカト云フ論ガ起ルガ、惡意デ得タ物ヲ返ヘサナケレバナラヌト云フノハ無論デアル、無論ノモノニ「訴ノ日」抔ト云フ苗字ヲ付ケルハ宜シクナイ
(尾崎委員)
削リマシヨウ、ソレカラ「不當ニ」ハ無クテモ宜シカロウ
(松岡委員)
「不當ニ得タル利益ノ外」トスルカ
(渡委員)
「不當ニ利ヲ得テアリシモノノ外」デ宜シイ
(南部委員)
「アリシ」ハ「訴ノ日」ニ掛テ居ルダロウ
(今村報吿委員)
左樣デス、「訴ノ日」ヲ刪レバ「アリシ」ハオカシイ
(松岡委員)
「不當ノ利ヲ得タルモノノ外」ガ宜シイ
(鶴田委員)
前ニ「者」ト云フ字ガアルカラ「モノ」ハオカシイ「不當ニ得タル利得ノ外」ガ宜シイ
(淸岡委員)
「不當ニ得タル利益ノ外」デ宜シイ
(南部委員)
「利益」ト云フト語弊ガアル
(松岡委員)
八十一條カラ「利益」ト云フ字ガ通ツテ居ルカラ「利益」デ宜シイ
(鶴田委員)
ソレデハ「不當ニ得タル利益ノ外」トシマシヨウ
(尾崎委員)
ソレガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「物ノ外」ガ宜シウ御座イマス
(今村報吿委員)
鳥渡參考ニ申上マスガ、此「不當ニ得タル」ト云フノハ八十一條ノ二項デ御座イマス
(南部委員)
「モノ」ガ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ保證シマス「物」デ宜シウ御座イマス
(鶴田委員)
下タノハ「モノ」カ
(栗塚報吿委員)
之ハ「モノ」ト願ヒマス
(鶴田委員)
「尙ホ左ノモノヲ」シタラ宜シカロウ
(尾崎委員)
「尙ホ」ハ無クテモ宜シイ
(松岡委員)
「自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ生シタル滅失」ト云フノハ何處ヲ受ケテ居ルダロウ
(栗塚報吿委員)
不當ニ得タル物ノ自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ生ジタル滅失デ御座イマス
(松岡委員)
宜シウ御座イマス
(栗塚報吿委員)
ソレハ受合マス
(松岡委員)
原案デハ確定日附ヲ受ケテ居ル
(栗塚報吿委員)
原書デハ三百八十一條ニ受ケタ給付ハ返ヘスベシトシテアリマス、元金ノ利息、次ギニ果實產物、次ギニ自己ノ過愆又ハ懈怠ヨリ生ジタル滅失デ御座イマス
(松岡委員)
些ト頭マガ足ラヌデハナイカ
(渡委員)
初メノ「物」ト云フ字ヲ受ケテ居ルノダロウ
(淸岡委員)
「不可抗力」デハナイカ
(栗塚報吿委員)
「不可抗」デ御座イマス
(今村報吿委員)
「不可抗力」ト云ヘバ「原由」ト云フ字ハ入ラヌ樣ニナル
(松岡委員)
誠ニ角兵術獅子ノ樣ナ文ダ
本條ハ左ノ如ク決ス第三百八十一條第二號ニ定メタル給付ヲ惡意ニテ受ケタル者ハ不當ニ利ヲ得タル物ノ外左ノモノヲ返還スヘシ第一第一一第三ハ報吿委員ノ修正說ニ決ス
第三百八十九條朗讀ス
第三百八十九條 若シ不當ニ受ケラレタル物カ不動產ニシテ且其不動產カ移付セラレタルトキハ之ヲ引渡シタル者ハ自己ノ撰擇ヲ以テ或ハ第三占有者ニ對シテ其回收ヲ訴ヘ或ハ之ヲ移付シタ者ニ對シテ其取戾ヲ訴フルコトヲ得
惡意ノ場合ニ於テハ取戾ハ不動產ノ評價格タリ善意ノ場合ニ於テハ其不動產ニ付キ得タル代價又ハ其代價ノ事ニ關シテ存スル訴權タルノミ〔第千三百八十條〕
(修正案) 第一項且其不動產カノ下ニ「第三者ニ」ノ四字ヲ挿入シトキハノ下ニ「最初ニ」ノ三字ヲ挿入ス同條第二項惡意ノ上ニ「其取戻ハ」ノ四字ヲ挿入シ「於テハ」ノ下「取戻ハ」ノ三字ヲ刪除ス
(栗塚報吿委員)
「其取戻」ハ「還償」トナリマス、其外修正ガ出テ居リマス
(鶴田委員)
取戻ト回收トハ違ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
同ジデス、取戻ガ還償トナツタノハ其レカラ起ツタノデ御座イマス「不當ニ受ケラレタル」ハ「不當ニ受ケタル」ト致シマシヨウ
(松岡委員)
左樣ニシナケレバ分ラヌ「受ケラレタル」ト云フノハ何ノコトヤラ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
「且其不動產ヲ第三者ニ移付シタルトキハ」トナリマス
(尾崎委員)
惡意ノ場合ニハ評價額デ辨償シテ善意ノ場合ニハ代價デヤルノハオカシイ
(南部委員)
惡意ノ場合デハ安ク賣リマス、ソレヲ見ナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
盜賊品ヲ高ク賣ル氣遣ヒハアリマセン
(尾崎委員)
第三者ニ係ツタ物ヲ取返ヘス場合ニハ還償ト云フノハ自分ノ勝手ダ
(松岡委員)
併シ法文ガ不充分ダナ、必ラズ評價額ニシナケレバナラヌ樣ニナリヤセヌカ
(淸岡委員)
必ラズ評價額ニナル
(松岡委員)
少シ値段ノ下ツタ時分ニ評價サセルト損ヲスル、去年他デ取タトキハ百園デ返ヘストキ評價額ガ八十圓ナレバ二十圓儲カル、評價額デモ何レデモ擇ブ樣ナコトヲ見セ度イ
(淸岡委員)
左樣ナル場合ニハ回收ヲ訴ヘルダロウ
(松岡委員)
地面ガ下ツタトキハ
(栗塚報吿委員)
下ツタトキハ其評價額ニ依ル
(松岡委員)
上ツタ時分モ當時ノ評價デスカ
(栗塚報吿委員)
代價モ當時ノ代價デス
(尾崎委員)
最初千兩ニ取ツタノガ今地ガ下ツテ八百圓ニナツタトキハ
(栗塚報吿委員)
然ウスレバ品物ノ回收ヲ訴ヘマス
(南部委員)
品物ヲ受取ツタトキノ價デス
(松岡委員)
ソレナラバ「當時ノ評價」ト云フコトヲ入レナケレバナリマセン
(渡委員)
果シテ當時ガ宜シイカ分ラヌ
(鶴田委員)
高イ評價額ニ依ルノダロウ、之ハ現品ノ高クナツテ居ル處ヲ見テ法律ヲ書イタノダロウ、元トノ代價ハ云ハズトモ知レテ居ル
(松岡委員)
當時安クナツテ居ルトキハ
(鶴田委員)
元ノ代價ト云フコトハ云ハズトモ宜シイ、ソレハ取戻シノ權利ガアルカラ云ハナイデモ善者サヘ元ノ代價デ行クカラ惡意デシタ者ハ勿論ダ
(渡委員)
必ラズ高イ方ヲ見テ居ルノダロウ
(鶴田委員)
元ノ高カツタトキニ行カレナイ樣ニ見ヘルノハ不都合ダカラ書換ヘルガ宜シイ
(松岡委員)
法文ガ不完全デス
(鶴田委員)
原案者ニ質問スルガ宜シイ、詰リ評價額ガ元ノ代價ヨリ高ケレバ其代價デ行ク
(松岡委員)
惡意トハ云フモノノ惡意ヲシタノハ去年ノコトデ、去年ハ高クモナク相當ノ代價デアツタ、然ルニ今年代價ガ上ツタノハ誰ガシタノデモナイ、天然デシタノダ、渡シタル人モ去年渡セバ千圓ノモノガ今年千二百圓ニナツテ居ルカモ知レマセン
(尾崎委員)
取ツタ者ガ惡意デ利益ヲ得テ居ル、千圓ノモノヲ千二百圓デ賣テ評價サセテ八百圓ニナレバ四百圓ノ儲ケニナル
(松岡委員)
今日千三百圓ニナツテ居ル、ソレヲ千三百圓デヤルノハ酷イダロウ
(渡委員)
ケレドモ惡意ダカラ夫レ丈ケノ報ヒハ免カレナイ
(栗塚報吿委員)
又一方デ貴君ガ不當ニ富ンダ爲メニ貴君ハ金ノ運轉ガ生ジタリ、家ノ賣買ガ上手デ高ク賣ルコトガ出來テ、百圓ノ物カラ二百圓ノ利ヲ見タ、其レヲ皆返ヘスカト云フト、左樣ニスルト私ハ不當ノ利ヲ得ルコトニナル
(尾崎委員)
併シ元金ガ働ケル丈ケノモノダカラ、某ナラ働ラケル、某ナラ働ラケヌト云フコトハ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
人ノ働キカラ出タモノハ返ヘスニ及バヌ、誰デモ持テ居テ取レル利息ハ取テモ宜シイガ、貴君ノ手ニ在タ百圓ガ二百圓ニナツタノヲ私ガ取レバ不當ノ富ヲ得ルコトニナル
(南部委員)
評價額デ宜シイ
(鶴田委員)
「評價額ヲ用フルコトヲ得」トシ度イト思フ
(栗塚報吿委員)
貴君方ノ御經驗ハ評價額ヨリ代價ガ高イトキガアルト云フノデシヨウ
(鶴田委員)
然ウデス
(栗塚報吿委員)
之ハ多イ場合ヲ想像シテ書イタモノデス
(松岡委員)
其トキノ評價額ニ定メルノガ、適當デハナイカ
(村田委員)
其當時ヨリ安イトキモアレバ高イトキモアル
(栗塚報吿委員)
ソコガ評價額デス、昔シデモナシ、今デモナシ、詰リ惡意ヲ懲ラス積リガアル
(松岡委員)
善意ノ人ナレバ今日高イ安イハ云フニ及バヌ、又當時ノ安イ高イヲモ云フニ及バヌ、得タ丈ケヲ吐キ出セレバ宜シイ、惡意ナレバ他ヘ安クヤツテ置クカ知レヌカラ其奪ハレタトキノ相場ト云フノガ道理ニ適ツテ居ルト思フ
(鶴田委員)
ソレハ惡意ダカラ仕方ガナイト思フ
(南部委員)
評價額ハ當時ト云フコトガナケレバ今日ノ處デナケレバナラヌ
(松岡委員)
今日下ツテ居タラ如何シマス
(南部委員)
若シ現時ト云フコトナレバ「現時」ト云フ字ガナケレバナリマセン、前ニモ「現時」ト書イテアル、ソレガ無ケレバ今日ノ評價額ニ違ヒナイ
(松岡委員)
此解釋ハ三樣アル、君ハ何彼レナシニ今日當リ前ガ當時ダト云フ、今一ツハ彼レ此レナシニ高イトキト云フ三說アル
(南部委員)
不動產ノ評價額又ハ不動產ニ付キ得タル代價ト云フコトヲ決シ度イト思フ、評價ト云フコトヲ孰レニ決シタニシロ、當時ノ評價デモ安シ、其後デモ安シ、又賣拂ツタ代價ニスレバ却テ高イト云フコトハ免カレマセンカラ「評價額又ハ不動產ニ付キ得タル代價」トスレバ孰レノ說モ消滅スルカラ、其レヲ決シテ貰イ度イト思フ
(尾崎委員)
評價額ガ元ノ代價ヨリ安カツタトキハ元ノ代價ト云フ樣ニシ度イ
(松岡委員)
之ハ書イタル人ノ文字ガ足ラヌト思フ其人ガ良イト思テ賣タ丈ケ外善意ノ人ハ取レヌ、惡意ノ人ハ安ク賣テ居ル、前ノ高イ價ガアレバ高イ丈ケヲ取ル、左モナケレバ今日ノ評價額トスレバ下ツテ居タトキハ善意ノ人ガ取ルヨリ、モツト少イ惡意ノ人ガ唯儲ケルコトニナル今日ノ評價額ハ其處ヘ用イラレヌ、併シ千二百圓ニナツテ居タラ宜シカロウト云フカ知レヌガ、其レハ無理ナ話シデ、千圓外得テ居ラヌモノヲ惡意ノ人カラ出サセルコトハ出來ナイ、然ウスルト今日ノ評價ト云フコトニスレバ事賣ニ合ハヌ、又今年ガ高ケレバ今年、去年ガ高ケレバ去年ト云フノハ勝手次第ノ說デ、不正ニ得テ居テ居ラザル利益ヲ出サセル樣ニナル
(南部委員)
賣ツタト云フノハ自分ノ手ヲ離レタトキノコトヲ云フノカ
(松岡委員)
左樣デス
(南部委員)
其レハ奇態ナコトダ
(松岡委員)
惡意者ガ第三者ニ渡シタトキノ代價デス
(南部委員)
註ヲ見テモ「不動產ノ全部ニ見積ル額」トアル、一體不動產ハ財產差押ノ評價額ニスル當時ノ額ニ因ル、又訴訟ノ裁判管轄ヲ定メルトキモ當時ノ見積り額ニ因ル、若シ當時ナレバ當時ト云フコトガナクテハ分リマセン、以前ノ案モ當時ト云フコトガ這入ツテ居ル、此トキノ文章ヲ以テ見レバ當時ノ場合デナクシテ、今日ノ場合デナケレバナリマセン
(村田委員)
之ハ惡意ノ場合デハ安イト見タノダロウ
(淸岡委員)
日本ノ樣ニ今年高クテ、明年安イ樣ナコトハ考ヘナイノダロウ、之ハ起案者ニ聞イテ貰ウガ宜シイ、日本ナドデハ條約改正ガアルト云フト突然地所ノ價ガ騰ツタリ又下ツタリスルカラ
(尾崎委員)
聞ク方ガ宜シイ
(今村報吿委員)
私モ變ダト思ヒマシタガ「ボアソナード」ハ惡意ノ者ハ何處ヘデモ早ク賣付ケナケレバナラヌカラ安ク賣ル、評價額ヨリ一割ナリ、二割ナリ、三割ナリ安ク賣ルト假定メテ掛ツタニ相違アリマセン
(渡委員)
然ウシテ日本ノ樣ニ亂高下ノアルコトヲ知ラヌノダロウ
(栗塚報吿委員)
中々老爺ハ亂高下ノアルコトヲ知テ居リマス、孰レノ評價デモ宜シイ、成ル可ク損ヲシナイ樣ニト云フ樣ナコトヲ云ヒマスヨ
(鶴田委員)
ソレデハ起按者ニ聞イテ此處ヲ改メテ貰ウコトニシマシヨウ
本條ハ起案者ニ質問スルコトニ決ス
第三百九十條朗讀ス
第三節 不正ノ損害卽チ犯罪及ヒ准犯罪
第三百九十條 自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ之ヲ償フノ責アリ
若シ害ト爲ルヘキ所爲カ有意ナルトキハ其所爲民事ノ犯罪ヲ成シ惡意ナルトキハ准犯罪タルノミ〔第千三百八十二條〕
犯罪及ヒ准犯罪ノ責任ノ輕重ハ次章ノ第二節ニ記載シタル如ク合意ノ執行ニ於テ行ヒタル詭譎及ヒ過愆ノ責任ト同樣ニ之ヲ規定ス
(栗塚報吿委員)
此第一號ハ始終必要ノ條デ、御座イマス
(今村報吿委員)
評價額ハ物ガ段々古クナツタ處ヲ見込ンデ居ル樣デス
(鶴田委員)
卽チ犯罪及ビ准犯罪
(南部委員)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百九十一條朗讀ス
第三百九十一條 各人ハ自己ノ所爲又ハ懈怠ニ付キ其責ニ任スルノミナラス尙ホ自己ノ威權ノ下ニ在ル者ノ所爲又ハ懈怠ニ付キ及ヒ自己ニ屬スル物ニ付テモ下ノ區別ニ從ヒ其責ニ任ス〔第千三百八十三條、第千三百八十四條第一項〕
(尾崎委員)
之ハ明カナモノダ
(鶴田委員)
之ハ結構ダ
(渡委員)
自己ニ屬スルモノト云フノハ
(栗塚報吿委員)
猫ダノ犬ダノデ、三百九十四條カラ先キデ御座イマス
本條ハ原案ニ決ス
第三百九十二條朗讀ス
第三百九十二條 父權ヲ行フ尊屬親ハ己レト同居スル未成年ノ卑屬親ノ加ヘタル損害ノ責ニ任ス〔第千三百八十四條第二項〕
後見人ハ其受後見人ノ加ヘタル損害ニ付キ又夫ハ其婦ノ加ヘタル損害ニ付キ同一ノ責ニ任ス但右ニ同シク同居ノ條件アルコトヲ要ス
瘋癲者又ハ白痴者ヲ看守スル者ハ此等ノ者ノ加ヘタル損害ト爲ルヘキ所爲ノ責ニ任ス
敎師、師長及ヒ工場長ハ未成年ノ生徒、徒弟及ヒ職工カ自己ノ監督ノ下ニ在ル時間ニ此等ノ者ノ加ヘタル損害ノ責ニ任ス〔第千三百八十四條第四項〕
此條ニ指定シタル人ノ責任ハ若シ其人カ害トナルヘキ所爲ヲ防止スル能ハサリシコトヲ證スルトキハ止ム〔第千三百八十四條第五項〕
(鶴田委員)
分ツテ居ル
(今村報吿委員)
私共ハ反對論デ御座イマス第二項ニ「又夫ハ其婦ニ加ヘタル損害ニ付キ」ト云フコトヲ刪リ度イト思ヒマス、「ボアソナード」ノ註ヲ讀ンデモ佛蘭西ニモナイト云テアリマス、日本ハ夫ノ權力ガ盛ンデ女房ガ氣ニ入ラザルトキハ何時デモ逐出サレマスカラ何時デモ逐出シサヘスレバ宜シイト云フコトガ書イテアリマス、夫レダカラ日本ノ民法ニ箇樣ナ新發明ヲシタト云フコトカアリマス
(村田委員)
處ガ英國ハ皆箇樣ダ
(今村報吿委員)
此樣ナモノハ日本ノ法律ニ正條ガナイ方ガ宜シイト思フ、幼者ナレバ宜シイガ婦ハ宜シクナイカラ刪リ度イト思フ
(鶴田委員)
之ヲ入レテ置ケバ逐出セヌト云フノデスカ
(今村報吿委員)
逐出ス、逐出セヌト云フノデハアリマセンガ、孰レ人事編デ女房ヲ逐出ストキノ理由ガ出テ來マシヨウ、今日ノ樣ニ女房ガ倦キタカラ逐出スト云フコトハ出來マスマイト思ヒマス
(淸岡委員)
此按デハ同居サヘシテ居レバ夫ガ財產ノ共通ナドニハ關係ナク總テ責ニ任ジマスカ
(今村報吿委員)
別レテ居ル女房ハ取締ガ付カヌカラ夫ハ責ニ任ゼヌト云フコトデアリマス
(淸岡委員)
同居サヘシテ居レバ財產ノ云々ハ素ヨリ他人ニ對シテハ必ラズ夫ガ責ニ任ジナケレバナラヌト云フノデスカ
(南部委員)
左樣デス
(村田委員)
亭主ト女房ハ同體ト見テ居ル、夫レガ原則ダ
(栗塚報吿委員)
其原則カラ出テ女房ノ爲シタルコトヲ亭主ガ負ハナケレバナリマセン、昔シカラ女房ハ奴隷デ來タカラムコデモ奴隷デ置クト云フノヲ法律デ云フノダロウ、唯ソレヲ風俗デ改良シテ行クノデ、正逆貴君ノ云フ樣ナコトハアリヤシナイ
(松岡委員)
報吿委員デ論ノ岐レタノダロウガ、孰レノ論モ聞取レヌガ、「ボアソナード」ノ書イタコトハ姑ク措イテ實際上カラ云フテ日本ニハ女房ノ爲シタコトヲ亭主ニ責任ヲ持タスコトハ現今如何、將來ハ如何ト云フコトハ聞キマセン
(今村報吿委員)
理論カラ云フテモ成程女ハ亭主ヲ持テ居ル場合ニ於テハ未成年ニ似タ取扱ヒヲシテ居ルガ、本統ノ未成年者ト違ウ、日本ニハ左樣ナ法律ハアリマセンケレドモ是レカラ民法ヲ拵ヘ訴訟ヲ起ス時分ニハ人事編ニテ權利ガ定ツテ來マスカラ孰レ丈ケニ定マルカ知レマセンガ、佛蘭西ヨリ狹クナルコトハアルマイト思ヒマス、佛蘭西ノ今日ノ民法ハ怖ロシク狹クナツテ居ルガ、今日民法ヲ拵ヘレバ彼ノ樣ナコトハナイガ、昔ノ慣習カラ出タ法律デ極ク狹イ、日本デモ實地ハ女モ未成年者デナク立派ナ女ガ幾ラモアルカラ全ク未成年ニ取扱ウコトハナカロウト思フ、全ク未成年者デナイモノヲ畫一ノ法律ヲ立テ如何ナル場合デモ女房ノ爲シタコトヲ亭主ガ責ニ任ジナケレバナラヌト云フ法律デアリマスカラ、此法律デハ女ヲ全ク未成年者ニ爲シタノデアルカラソレハ宜シクナイ、女デモ立派ナモノガアル、商賣ヲスル者モアルシ、獨立シテ居ル者モアルシ、亭主ハ場合ニ依テ責ニ任ジナケレバナラヌト云フコトハアルカ知レマセンガ、畫一ニシテ如何ナル場合デモ責ニ任ジナケレバナラヌト云フコトハナイ
(松岡委員)
貴君ハ區別ガナイカラ惡ルイト仰シヤルガ、總テ夫婦同等デアルカラ責任ヲ持ツト云フコトハサセヌト云フノデスカ
(今村報吿委員)
夫婦ハ關連シテ同ジク責ニ任ジナケレバナラヌコトガアルカ知レマセンガ、普通法ハ箇樣ニ書イテハ惡ルイト云フノデアリマス
(松岡委員)
分リマシタ
(栗塚報吿委員)
普通法ハ何ゼ斯ノ如クナケレバナラヌカト云フニ單リ之ノミナラズ、一體日本デ戶主ノ權ハ一戶ノ内ニ居ル者ガ戶主デ責ニ任ズル位ノモノデ、尊屬親ヤ何カノ外ノ責ヲ負フテ居ル、現在一家ノ兄弟ヤ何カノ責ヲ負フテ居ル、私ハ後見人デハナイガ、二十一ヲ超ヘタル弟ノ爲シタ所作モ私ガ責ニ任ジナケレバナリマセン、單リ茲ニ揭ゲタ計リデナク尙ホ重イダロウト思ヒマス、併シ他日日本民法ヲ定メルトキ後見人ガアツテ未成年者ノ責ニ任ズルニ相違ナイカ、強イ者ニ弱イ者ガ負ケ、大キナモノニハ小サイ者ガ負ケルト云フ旨意ニ過ギナイ、日本ノ女ハ是レカラ如何ナルカト云フト矢張リ今日ノ女ト同ジデ、女ニハ三從ノ教ヘガアリ卽チ「幼ニシテハ父ニ從ヒ嫁シテハ夫ニ從ヒ夫死シテハ子ニ從フ」ト云フコトガアリマス、外國ノ法律デハ身分ノ支差ハ三從デナイト云テ日本デ之ヲ變ヘルニ及ビマセン、夫ハ女房ノ爲シタコトノ責ヲ負フハ今日能ク分ツテ居ル、又刑法ニ夫ハ民事ノ責ニ任ズルト云フコトガアル、白痴瘋癲未成年者ハ其者ニ對シテノ民事擔當人ハ誰某ガ任ズト書イテアル、之ガ理由ニ至テハ不當ナ理窟ヲ「ボアソナード」ガ云フノハ忌ムベキコトデアリマスガ、此法律ハ實際ヲ穿チタルモノト思ヒマス
(今村報吿委員)
治罪法デ不能力者ト云フモノハ癲瘋白痴ノ内ニ人ノ妻タル者ガ列記セラレテ居ル、其樣ナコトハ日本ノ法律ニ幾ラモアルカラ、ソレガ良イト論ズルコトハ出來ナイ、之ガ今私ガ申シタ通リノ理由ノ外ニ今一ツ理窟ニ於テ賃借人ガ家屋ニ付イテ連帶責任ヲ負ハナケレバナラヌト云フコトハ已ニ決シマシタガ、彼ノ說明ニモアリマス通リ人ノコトニ付イテ責ニ任ジナケレバナラヌト云フノハ餘程ノ理由ガナケレバナリマセン、人事編モ佛蘭西ニ似タモノガ出來ルトスレバ佛蘭西デハ未成年ハ蒙獄シテモ宜シイ樣ニナツテ居リマス、其位ノ權ヲ持テ居レバ責ニ任ジテモ宜シイガ、夫婦ノ間ハ子供デナイ、失婦ハ幼者ヲ取扱ウ樣ニ牢ヘ打込ムコトハ出來ナイ、如何ニ人事編デモ女房ヲ逐出サセルコトハ出來ナイ、幾ラ惡ルイ女房デモ子ガアツタリ親族ガアツタリシテ、「ボアソナード」ハ直ニ逐出サレルコトガ出來ルト思召知レヌガ、容易ニ逐出スコトハ出來ナイ、夫ニ責任ヲ負ハセル、土臺ガ毀レテ居ル夫ノ保護ヲ持テ居ラヌ其毀レテ居ル處ヘ堂々タル民法ヲ背負イ付ケルノハ宜シクナイ、三好次官ナドモ條約改正ニデモナツテ外國人ノ女房ニ之ヲ負ハセ樣ト云フトキ、此女房ハ私ノ云フコトヲキキマセン、肯カザルトキハ私ガ取締ヲシテ言ウコトヲ肯カセルトキ、箇樣ナル責ヲ亭主ガ負テハ宜シクアリマセン、隣リデ火事ヲ出サセヌ樣ニスルニハ隣リデ火ヲ多ク焚イテ居レバ、貴樣火ヲ焚イテハナラヌト云ハナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
日本ノ親族ハ一家ノ内ニ居ル人ノ獨立ハ外國ニ其比ヲ見ザル處デ御座イマス、支那ト日本ト、土耳其ハ左樣カ知リマセン、一戶中ニ在ル者ノ責ガ戶主ニ在ルト云フ、然ルニ西洋デハ父ノ權トカ何トカ分籍シテ居リマスガ、日本ニハ分籍ガナクシテ一戶ノ者ガ多イ、私ノ女房ガ尾崎サンニ害ヲ被ラシタルトキハ責ヲ負ハナケレバナリマセン處ガ妻タル者ノ今日ノ位地ハ如何アルカト云フニ財產ハ無シト申シテモ宜シイ、何ゼ財產ガ無イカト云フニ幼年者ト同樣ニ扱ツテ居ル、慣習カラ女房ノ財產ガ無イソコデ尾崎サンニ被ラセタ害ヲ女房ガ償フカト云フト償ハナイ、其トキ私ノ身ニ取テ如何ナル責ガアルカト云フト、法律ニ書イテナクモ社會ニ對シテ私ハ外ニ出テ歩クコトハ出來ナイカラ私ガ償ハナケレバ私ノ面目ガナイ、何トナレバ私ガ妻ヲ制サン爲メニ左樣ナル害ヲ與ヘタカト云フト夫ガ苦シム、若シ妻ニ財產ガアレバ妻ガ償フガ日本ノ妻タル者ハ財產モ無シ總テ三從デ人ニ從テ居ル故ニ妻ガ償ウコトガ出來ナケレバ私ハ徳義上償ハナケレバナリマセン徳義上ハ人事編ヲ組立テ行ク規則カト思フ、近ク例ヲ擧レバ私ノ家内ガ番町邊ヲ馬ニ乘テ歩イテ子供ノ袖ヲ切リマシタ、其レハ惡ルイカラ金ヲ持テ往ツテ償フト云テ五圓トカ三圓トカヤリマシタソウデ御座イマス、若シソレヲ償ハナケレバ彼ハ栗塚ノ女房ダト云フト私ハ堪リマセンカラ妻ノ責ヲ夫ガ負ハナケレバ社會ニ對シテ濟ミマセン、若シ他日女タル者ノ財產ガ持テ、矢張リ一箇人デアルゾヨト云フ世ノ中ニ到着スレバ兎モ角モ今日ハ幾分カ男子ト同一ノ力ヲ持タセテ置クコトハ出來ヌト云フガ日本ノ今日ノ有樣カト思ヒマス
(渡委員)
兩君ノ御論旨ヲ承リマシタガ、私ノ意見ハ夫婦間ノ責任ノコトハ世上ニ大切ナル權限ノ分レテ居ルト思フ、ソレニ就テ斯樣ナル法律ヲ設ケルニハ理由ノ存スル處ガアツテ、ソレカラ出テ來ルノデアルガ、夫ガ責ニ任ズルノハ先刻今村君ノ演ベラレタル尊屬親ニ於ケル如キ關係ノモノデハナイ、一般ニソレヲ取締ル權利ナクシテ責任ヲ負フ理ハ無イト云フ論ヲ立テラレタガ、是レハ正シイ論デアルト考ヘマス、抑此條中ヘ後見人、父權ノ處ヘ女房ノコトヲ揭ゲラレタルハ「ボアソナード」ガ日本ノ現狀ヲ見ラレテ日本デハ箇樣ニシテ置カナケレバナラヌト云フコトダロウガ、是レハ驚イタコトデアル、民法ヲ編纂スルニ學者的ノ論ヲ持テ來テ加ヘ追々審査シテ居ルコトデアルガ、此コトハ佛蘭西ニモナイ、日本デハ現今ノ有樣ハ箇樣ニシテ置カナケレバナラヌト云フガ、一方ノ懲戒スルコトガナクシテ責ニ任ズルト云フノハ理ノ許サヌ處デアル、一體此民法ヲ編纂シテ日本ニ適用スルニハ歐米各國ニ用ヒテ居ラヌ法律ノ外ニ自分ノ考ヲ入レテ居リナガラ、之ヘハ箇樣ニスルガ適當デアルト見タ計リデアル、此民法ハ日本ノ法典デアルガ、他日内外雜居モシナケレバナラヌコトハ目ニ見ヘテ居ル縱令外ノコトハ大變日本ノ風土人情ニ從ツテ多少ノ取捨ヲ加ヘルニシテモ箇樣ナルコトヲ日本ノ法律ニ入レルハ以テノ外ノコトデアル、又内外人共ニ此法律ニ服從シナケレバナラザルトキハ法律ノ瑕瑾ニナル種子デアル、又後ノ栗塚君ノ辯明ニ若シ妻ノ責ニ任ジナケレバナラヌトスレバ、其妻ニハ財產ガナイ、其トキニ夫ハ世上ニ對シテ知ラザル顔ヲシテ居ルコトハ出來ナイカラ夫ガ償ハナケレバナラヌト云フ是レモ一理アル論ナレドモ一家ヲ統御シテ居ル以上ハ縱令財產ハ共通デ居ルニモセヨ、又別々ニ成立テ居ルニモセヨ財產ノ有無ニ關ハラズ、妻ノ損害ヲ賠償スルトキ、妻ノ財產ガナケレバ無論徳義上夫ガ償テヤルノハ無論ノ話シデ、夫ノ名ヲ以テスルヲ要セズ、斯ノ如ク解釋シテ見ルト元ト々々夫ニ其レ丈ケノ權力ヲ與ヘズシテ責ニ任ズルト云フノハ道理ニ合ヒマセン、妻ニ對スル損害ハ誰レガ償ウカト云フニ此條ヲ茲ニ揭ゲルノハ以テノ外ノコトデアル、箇樣ナ忌ムベキコトヲ日本ノ法律ニ揭ゲルハ瑕瑾ト思フカラ刪ラナケレバナラヌト考ヘマス
(南部委員)
私モ渡君ニ御同意致シマス、成程三從ノ說モ出マシタガ、今日裁判上ニ於テ三從ノ教ヘニ從ハナケレバナラヌカラ妻ヲ離別スルト云フコトヲ許ス筈モナイ、徳義上ニ於テハ妻ノ責ヲ夫ガ負フコトニナツテ居ルガ、ソレハ徳義上ニ任カシテ宜シイ、夫婦トシテ居ル者ハ始終婦ヲ監護シテ居ラナケレバナラヌ、始終抑留シテ置カナケレバナラヌト云フト亭主ハ耐ヘラレルモノデナイ、或ハ奴僕トカ何トカ云フモノデアレバ威權ノ別ノモノダカラ出來マシヨウガ、幾ラ妻ヲ奴隷ノ如クスルトハ云ヘ決シテ奴僕ト同一ニハ出來ナイ、況ンヤ妻ハ未成年者デモナシ、能力ノアルモノデアリマスカラ若シ間違イノアリタルトキハ亭主ガ償ヒヲシナケレバナラヌト云フト亭主ノ心配モ甚ダシク、亭主ノ負擔ガ大變多クナル、之ヲ要スルニ箇樣ナコトハ風俗ニ任セテ民法ノ干渉セヌ方ガ宜シイ
(淸岡委員)
之ガ無ケレバドレ丈ケノ風義ヲ破ルカ、慣習ニ悖ルカト云フニ決シテ悖ラヌ、成程夫ガ償ハナケレバ世間ニ顔出シガ出來ヌト云フコトハ尤モデアルガ、今日ノ慣習ナリ、風俗ナリ社會ニ適當シナケレバナラヌト云フノハ尤モデアルガ、是非夫ガ償ハナケレバナラヌト法律デ示シテ婦ハ三從トカ何トカ云フガ親爺ガ支配シテ居レバ二十ニナツテモ、三十ニナツテモ、四十ニナツテモ、五十ニナツテモ親爺ガ償ハナケレバナラヌ、年ガ寄レバ子ガ償ハナケレバナラヌ(ヒヤヒヤ)詰リ之ガ無イカラト云テ栗塚サンガ世ノ中ニ顔ヲ出セヌカラ三圓ノ償ヒヲ出セヌト云フコトハアルマイカラ刪ツタ方ガ宜シカロウト思フ
(栗塚報吿委員)
之ハ害ヲ被ツタ人ニ訴權ガアルトカ無イトカ云フコトガ定マルノデアリマス尾崎サンニ私ノ妻ガ害ヲ被ラセタトキハ妻ノミニ係ル、其トキニ私ノ妻ノミガ責ガアルトシテ、妻ニ資產モナシトスルト、害ヲ被リタル貴君ハ私ニ係レバ害ヲ償テ貰ヘルガ、妻ニ係ツタ爲メニ其害ヲ償テ貰フコトガ出來ナイ、恰モ私ノ奴僕ガ害ヲ貴君ニ加ヘタトキ何ゼ私ニ係ルカト云フト、償ウコトガ出來ルカラ私ニ係ルノデ御座イマス、成程徳義上夫ガ償ウダロウト云フノハ夫ガスル丈ケデ、害ヲ被ツタノヲ責メテ行クノハ何處ヘ行クカ妻ニ外行クコトハ出來ナイ、若シ之ガアレバ夫ヘ係ツテ行クコトガ出來ルノデアリマスカラ大變ナ違ヒデアロウト思ヒマス
(淸岡委員)
ソレハ大變ナ違ヒデアルカラ容易ニ揭ゲラレヌ
(栗塚報吿委員)
之ヲ書イテ置カナケレバ徳義デアルデアロウト云テモ、被害者ハ誰ニ係ルト云フコトヲ御考ヘニナラナケレバナリマセン
(渡委員)
之ニ揭ゲテ夫ハ其婦ノ責ニ任ズルト云フト、婦ノ犯罪ニ付キ損害ヲ負ハセタコトニ就イテ其本人ヲ訴ヘ婦ガ支辨スルガ宜シイ、若シ揭ゲテナケレバ婦ニ對シテハ訴訟ガ起サレヌト云フコトデアレバ成程損害ヲ受ケタ人ハ係ルコトハ出來ヌガ、凡ソ人ニ對シテ損害ヲ被ラシメタル者ヲ訴ヘルコトハ出來ルデアリマシヨウ、而シテ其婦ガ訴ヘラレテ其婦ガ犯罪人デアルニ依テ賠償ノ責ニ任ジナケレバナラヌ、而シテ裁判所ニ出テ判決ヲ受ケテ其責ニ任ジナケレバナラヌト云フ賠償ノ場合ニ於テ其婦ガ躬ラ携ハル財產ガナイニ依テ賠ウフトハ出來ヌト云フ心配ハ一般平均スルコトハ出來マセン、其トキハ一家ノ内デ他人デモ償テヤラナケレバナラヌ、況ンヤ夫ガ償ウノハ當然デアル、夫ガ我ハ知ラヌ、貴樣ガ爲シタノダカラ、貴樣賠ヘト云フト婦ハ何處カラカ金ヲ拵ヘテ來テ償ハナケレバナラヌ、ソレハ罪ニ對シテノ賠ヒデアルカラ私ノ女房ガ他人ニ損害ヲ掛ケレバ私ノ女房ガ訴ヘラレテ差支ナイ夫レヲ裁判所ヘ呼バレテハ困ルト云フ者ハ格別デアルガ、其本人ヲ訴ヘルト云フノハ至當デアル、然レドモ九十二條ニ揭ゲタル卑屬親ノ尊屬親ニ於ケル被後見人ノ後見人ニ於ケル如キハ全權ヲ持テ居ルカラ隨テ其責ヲ負ハナケレバナラヌ、然ルニ妻ガ他人ニ損害ヲ被ラセタノヲ夫ガ訴ヘルト云フノハ分ラヌ、夫ニ權力ヲ持タセズシテ夫ニ責ヲ負ハシムルト云フノハ理ニ於テナキコトダカラ、法律ニ揭ゲルコトハ出來ナイ
(淸岡委員)
當然斯ノ如キ理由ガアツテ揭ゲルト云フナレバ尤モデアルガ、何等ノ理由デ揭ゲタカト云フト、言語同斷ノ話シデアル、シテ見レバ此法律ヲ揭ゲタ道理ガ分ラヌ、其理由ヲ以テ日本デ甘ンジテ揭ゲルト實ニ不都合千萬ダ、若シ之ヲ置クコトナレバ起按者ノ確乎タル理由ヲ受取テ置クナレバ格別、其點カラ云テモ置クコトハナラヌ
(村田委員)
私ハアル方ガ宜シイト思フ、女房ガ自分ノ了簡デ物事ガ勝手ニ出來ルカ、出來ヌカト云フニ、一個デハ出來ナイ、恰度幼年者ガ親ニ於ケルト同ジ樣ナモノデ出來ヌコトハナイガ、親ノ監督ヲ受ケテ居ル内ハ出來ナイ、矢張リ女房モ之ト同ジ樣ナモノデ、女房ハ夫ニ附帶スルモノデアルカラ亭主ノ命ヲ受ケナイデハ出來ナイ、又財產モ其通リ女房ノ財產ヲ償ウ法律デアルケレドモ、夫婦同體ト法律デ見ルカラ
(淸岡委員)
鳥渡御待チ下サイ、過愆懈怠デスカラ
(村田委員)
途中カラ其樣ナコトヲ云フト困ル貴君ニ注意サレズトモ其位ノコトハ知テ居ル
(南部委員)
大變違ツタ話シダ
(村田委員)
ソレガ法律上デハ多ク見テアル、「ボアソナード」ハ佛蘭西ニハナイト云フガ、現ニ英國ニ在テ女房ノ財產ノコトモ見テ居ルシ、刑事上ナドハ酷イモノデス
(南部委員)
日本ノ風習デ女房ニ何モ出來ヌト云フノハ間違ツテ居ル、日本デハ女房ガ訴訟ガ出來ル、訴訟權ト云フモノハ大變ナモノデス
(村田委員)
亭主ニ聞カナケレバ何デモ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
此處ハ過愆懈怠デ、貴君ノ物ヲ碎イタト云フ話シデス、日本人ノ女房ハ何時デモ逐出サレルカラドウデモ宜シイト云フノハ困ル、理由ヲ書直スナレバ書換ヘルガ、日本ノ法律ヲ揭ゲマス
(南部委員)
女房ハ幼年者デモナシ、氣違ヒデモナイ
(栗塚報吿委員)
貴君方ハ何ヲ御書キニナリマスカ、日本ノ今日ノ仕方ヲ御寫シニナリマスカ
(松岡委員)
私ハ刪ル刪ラヌト云フ論ハ根モ葉モナイ議論ダト思フ、如何トナレバ何カラ起ツタカト云フト「ボアソナード」ガ女房ヲ逐出スコトガ出來ルト云フコトガ嫌厭サニ火ノ手ガ上ツテ仕舞ツタモノト思フ、逐出ス逐出サヌハ書キ方ガ惡ルイノデ、左樣云ヘバ我子ヲ逐出スカト云フニ然ウデナイ、故ニ彼ノ理由ハ此ヘハ取レヌ然ラバ何故ニ婦ガ箇樣ナコトガ出來ルカト云フニ財產上ノ關係カラ出來ナケレバナリマセン、日本ノ夫婦ノ財產ハ如何ナツテ行クカ、今迄ハ女房ノ爲シタコトヲ亭主ガ受ケヌモノハナイ、現今ノ儘ナレバ御互ヒ女房ガ掛ケタ過誤ハ夫ガ賠償シテ居ルニ違ヒナイ、其レハ財產ノ關係デ我々ノ女房ハ初メカラ百兩、亭主モ百兩ト財產契約ヲシタモノナラ決シテソレハ受ケヌガ、我々ノ女房ハ裸體ダ(亭主モ裸體ダガ)然ラバ亭主ガ責任ヲ持タナケレバナラヌ、段々是レカラ先キ日本ノ妻ガ、自分デ財產ヲ持ツ權力ガアル樣ニナレバ此事ヲ本條ニ置クベキモノデハナイガ、財產ハ始終亭主ガ管理シテ女房ト「コンペニー」デ働イテ行クモノデナイトナツテ居レバ世界ヘ對シテ愧ルコトモ何モナイ、右リノ儘デスルヨリ外ニ仕方ガナイ、依テ人事編デ夫婦ノ財產ノ定メ次第デ、存廢ノ起ルベキモノデアルト思フ
(栗塚報吿委員)
人事編ハ如何定メ樣トモ人事ハ我儘ニ定メテモ不都合ハナイ、之ハ必要的カラ來テ居ル法律デアルカラ御置キニナルヨリ外ニ仕方ガナイ
(南部委員)
過愆ト計リ仰シヤルガ、有爲デシタコトモ盜賊ヲシタコトモアルカラ刑法ハ女房ガ盜賊ヲ爲シタノヲ亭主ガ負ハナケレバナラヌト云フノハ困ル、人ノ一心ハ何時變ズルカ分ラヌ、女房ヲ取ルニモ左樣ニ痛ク穿議スル譯ニハイカヌ、下等ノ者ハ良イ加減ノ處デ婚姻ヲスル共レガ俄カニ心ガ變ジテ盜賊ヲシテ亭主ガ民事擔當人トナルノハ甚ダ困ル
(松岡委員)
女房ガ盜賊ヲシテモ夫ガ刑ヲ受ケルト云フノデハナイ、一家ノ財產ハ如何ナツテ居ルカ、女房ガ他ノ財產ヲ持テ來テ生活ノ足シ前ニシタ、隣リノ槇ヲ盜ンデ來テ自分ノ家ノ竈ニ入レタ
(南部委員)
他人ノ物ヲ持テ來テ自分ノ家ニ使ツタノハ別ダ、一體財產ノ責任ガ起ツタノガ分ラヌ中ニ權ヲ行フ尊屬親ガアル、夫レカラ又瘋癲ノ看守人トカ教師トカ、然ウ云フ種類ノ者ガ合シテ此條ガ出來テ居ルノデ、財產ノコトカラ成立タノデハアリマセン
(松岡委員)
ソレハ可笑シイ、父權ト後見人ト教師ト皆ナ違ウ、己レデナイ別ノ人間ノ爲シタモノノ類ヲ寄セタノダ
(渡委員)
ソレガ間違イノ種子ダ
(松岡委員)
夫婦ハ如何ト云フニ此樣ナコトガ起ツテ來タ是レカラ先キ夫婦ノ財產ハ別々ニナルモノナレバ宜シイガ、是レ迄通リニ女房ガ百萬圓持テ來テモ、其日カラ亭主ガ使ウカラ矢張リ女房ノ落度ハ亭主ガ償ハナケレバナラヌ、何トナレバ女房ノ持テ來タ物ハ亭主ガ使ツテ女房ハ裸體デ居ルカラ亭主ガ其償ヒヲシナケレバナリマセン
(渡委員)
松岡君ハ姑ク默クシテ後チニ云ハルルカラ一種ノ御論說ガアルダロウト思テ承ツタ其發言ニ曰ク之ヲ刪ル論モ置ク論モ取リ留メガナイト云フガ、全體「ボアソナード」ノ註釋ニアルノニ引掛リテ之ヲ刪ルト云フノハ以テノ外ノコトダ、自分ハ茲ニ見ル處アリト云フカラ如何ナルコトヲ云フカト思フト旨意ヲ取違ヘテ居ルノデアル、九十二條ハ父權ト後見人ト教師トノ責任ヲ云フテ居ルノダ、然ルニ之ハ何モノカト云フト、別ニ辯ヲ費サズシテ御承知デアロウガ、松岡サンノ爲メニ一言申シマシヨウ
(松岡委員)
我輩ノ爲メニ云ハズトモ宜シイ
(渡委員)
ソレデハ分ツテ居タモノトシテ略シテ其中ノ夫ノ妻ニ對シテ云フノハ以テノ外ノコトデアル、何故ニ處ヲ失シテ居ルカト云フト、此條ニ於テハ一方ニ權力ガアルニ依テ一方ニ義務ガアルト云フコトガ生ジテ相對シテ居ル處ヘ「ボアソナード」ハ夫ハ其婦ノ爲メニ責任ヲ負ヘト云フノハ以テノ外ダト云フ我々ノ論旨ハ茲ニ揭ゲテアル處ノモノト別段ノモノヲ持テ來タノハ日本デハ斯ノ如クシナケレバナラヌト云フニ過ギヌ、然ルニ松岡サンガ夫婦財產ノ法ガ立タザレバ茲ガ定メラレヌト云フノデアル、短ク云ヘバ左樣ナルガ、以テノ外ノ方計ガ違ツテ居ル、折角ノ御親切デアルガ方計ガ違ツテ居ル、夫レヲ理由トシテ抵抗スルニ足リマセン
(鶴田委員)
多數デアリマスカラ刪ルコトニ決シマス
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項「又夫ハ其婦ニ加ヘタル損害ニ付キ」ヲ刪除ス
于時正午十二時休憩
午後第一時十分開議
(委員長)
ヤリマシヨウ
第三百九十三條朗讀ス
第三百九十三條 主人及ヒ親方、工事、運送又ハ其他ノ給務ノ企作人公私ノ事務所ハ其召使人、職工、使用人又ハ屬員カ己レニ委任セラレタル職務ヲ行フニ付キ又ハ之ヲ行フニ際シテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス〔第千三百八十四條第三項〕
(修正按) 親方ノ下「又ハ」ノ二字ヲ挿入シ運送ノ下「又ハ」ノ二字ヲ刪除ス
(淸岡委員)
給務ト云フノハ
(栗塚報吿委員)
運送ニ限ラズ何デモデ御座イマス
(淸岡委員)
給務ト云フノハモノヲサセルト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
他ノ仕事デ御座イマス、運送工事デナク、米搗場ヲ持テ居テ米ヲ搗イテヤリ又ハ召使人ガ主人ニ對シ、主人ト召使、親方ト職工、企作人ト使用人、公私ノ使用人ト屬員トナリマス
(淸岡委員)
其他ノ給務ト云フノハ務メヲ給スルト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(尾崎委員)
官廳ノ役人抔ガ仕出シシテ損害ヲ掛ケレバ官廳ガ償ウカ
(南部委員)
小使ガ損害ヲ掛ケレバ司法ガ償ウ
(村田委員)
事務所ノ中ヘ會社モ入リマスカ
(栗塚報吿委員)
入リマス
(尾崎委員)
役人ガ御用デ旅行シテ損害ヲ與ヘタトキハ
(鶴田委員)
職務ト云フ見分ケガ付ケバ宜シイ
(南部委員)
一般ノ職務ヲ以テヤルノハ別デシヨウ、假令バ會計ノ役人ガ普請ヲスル樣ナトキハ
(鶴田委員)
戶長ガ奧印ヲシテ失錯ヲシテ自分ガ損害ヲ蒙リタルトカ、良シ故意ニシテモ戶長ノ名義ガアルカラ職務上デ爲シタルモノト見ナケレバナリマセン、損害賠償ヲ云テ來ルモノガ澤山アル、其レハ政府カラ出スカ、戶長カラ出スカト云フ論ガアル、種種論ジマシタガ出シ切レヌカラ出サヌコトニ裁判ヲシマシタガ、據ナイノガアルカラ内閣ニ迫テ到底出サナケレバナラヌト云タガ、出ソウトモ云ハズ、今以テ出サナイ
(南部委員)
行政ノコトハ別デ御座イマシヨウ
(尾崎委員)
司法カラ頼マシテ過ツテ損害ヲ掛ケタトキハ官廳ガ償ウノハ困ル
(栗塚報吿委員)
兵隊ガ過ツテ人ニ怪我ヲサセタノハ
(鶴田委員)
林謹一ナドハ兵隊ニ茶畑ヲ荒サレタ
(栗塚報吿委員)
尤モ適用スルニ困難モアルガ、原則ハドウシテモ之ガ本統ダロウト思ヒマス
(鶴田委員)
道理カラ云ヘバ之ガ原則ダロウ
(栗塚報吿委員)
困難ニモセヨ、此裏ヲ考ヘテ見レバ職務ヲ行ウトキダカラ知ラヌト云フコトハ出來マセン
(尾崎委員)
其レハ役人ガ償ウ、役人ナドハ知識モ具ヘテ居ルカラ自分デ惡ルイコトヲシテ損害ヲ掛ケレバ自分デ償テ宜シイト思フ
(南部委員)
官ガ償ウ、役人ガ償ウト云フコトハ別ニ細カイ法律ガ出來ナケレバナラヌト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
唯箇樣ナ原則ニ定メテ置クト云フノデ足リルト思ヒマス
(淸岡委員)
司法省ノ普請ヲスルトキ怪我ヲシタ者ニ藥代デモヤルノハ今日デモヤツテ居ル
(渡委員)
假令バ兵隊ガ調練ヲスルトカ、或ハ野外演習トカデ、畑ヲ踏荒シタトキハ皆軍馬局カラ償テヤルカラ理ニ於テハ同一ナル譯デアル
(南部委員)
同ジコトデス
(淸岡委員)
企作人ト云フノハ何ノコトデス
(鶴田委員)
企作人ハ前ニ在タ樣ニ思フ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、日本デ云フト請負人デス
(委員長)
ドウモ仕樣ガアリマスマイ、親方ガ子分ノ爲シタ責ニ任ズルカラ役所ヲ役人ノ責ヲ負ハナケレバナルマイ、之ハ原案トシテ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百九十四條朗讀ス
第三百九十四條 動物ノ加ヘタル損害ノ責任ハ其所有者又ハ損害ノ當時ニ於ケル其使用者ニ歸ス但意外ノ事變又ハ不可抗力ニ出ツルモノハ此限ニ在ラス〔第千三百八十五條〕
(委員長)
不可抗力ト云フモノハ通則デヤリソウナモノダ
(栗塚報吿委員)
私ガ村田サンノ馬ヲ拜借シテ表ヲ乘リ歩キテ人ニ怪我ヲサセタ、ソレハ雷鳴ノ爲メニ馬ガ驚イテ怪我ヲサセタノハ不可抗力デアリマス
(鶴田委員)
乘リ手ガ上手ナラヤルカ知レヌガ、馬ハ驚クモノダカラ驚イテモ仕方ガナイト云フコトハ入ルマイ、之ハ上手デモイケナイトキノ場合ダロウ
(南部委員)
上手ノトキ計リデス、下手ノ場合ハ此限ニ在ラズデス、騎兵ノ如キ例ガ擧ゲテアリマス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第三百九十五條朗讀ス
第三百九十五條 建物、露臺又ハ其他ノ築造シタル工作物ノ所有者ハ此等ノ工作物ノ隨倒カ修繕ノ闕無又ハ建築ノ瑕疵ノ結果ナルトキハ其隨倒ニ因リ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但此終ノ場合ニ於テ企作人ニ對スル求償權アルトキハ之ヲ行フコトヲ妨ケス〔第千三百八十六條〕
堤ノ破潰ニ因リ又ハ樹木、柱竿、目隱、看板、屋瓦及ヒ建物ノ堅牢ヲ缺キタル其他ノ部分ノ隨倒ニ因リ加ヘタル損害ニ付テモ又投錨又ハ繋纜ノ宜キヲ失ヘル船舶又ハ小舟ニ因リ加ヘタル損害ニ付テモ亦同一ノ責任アリ
(栗塚報吿委員)
「柱竿」ト云フノハ旗竿デ御座イマス
(鶴田委員)
堅牢ヲ缺キタル其他ノ部分カラ何處ヘ行キマス
(栗塚報吿委員)
堅牢ヲ缺キタル目隱シ看板其他ノ部分デ御座イマス、目隱シ看板ナドモ堅牢ヲ缺キタルカラ起ツタノデス
(鶴田委員)
其他ノ部分ノ堅牢ヲ缺キタルニ因リト云フノカ
(委員長)
「其他」ヲ「及ヒ」ノ下ヘ書イタノモ同ジデシヨウ
(栗塚報吿委員)
同ジデス、箇樣ナ文ハ幾ラモ御座イマス
(鶴田委員)
「及ヒ其他ノ建物ノ堅牢ヲ缺キタルノ」デ宜シカロウ
(南部委員)
旗竿ナドハ建物デナイカラ其他ト云フト違ウダロウ
(尾崎委員)
上ニ擧ゲタノハ例ヲ出シタノデ其外ニ色々アル
(鶴田委員)
是レ迄例ヲ擧ゲタノハ大體ヲ書イテ「其他ノ」トナツテ居ル
(南部委員)
「其他堅牢ヲ缺キタル建物ノ部分」トスレバ宜シイ
(鶴田委員)
ソレデ宜シイ
(淸岡委員)
少シ違ヒヤセヌカ、堅牢ヲ缺イタル部分丈ケガ壞レタトハ見ラレナイ
(栗塚報吿委員)
「其他堅牢ヲ缺キタル建物ノ部分」ト致シマシヨウ
(渡委員)
是レデ能ク分ル
(村田委員)
英文デハ「木ダノ、旗竿ダノ、日隱シ、瓦ノ落ルニ依リ、其他建物其レガ良ク出來テ居ラヌニ因リ」トアル
(栗塚報吿委員)
「建物ノ惡ルク付イテ居ル他ノ部分ノ落ルニ因リ」ト佛文ニ書イテアリマス
(淸岡委員)
直接ニ不堅牢ノモノガ來タトキト不堅牢ナル物ガ間ノ物ヲ挾ンデ落チ掛リタルトキ堅牢ナル物ガ碎ケタ場合モ之ヲ適用シナケレバナリマセン、然ルニ箇樣ニ書クト不堅牢ナル物ガ直接ニ來タ場合デナケレバ適用ガ出來ナイ樣ニナルカラ原按デ宜シイ
(鶴田委員)
其レナラバ書キ樣ヲ變ヘナケレバナリマセン
(村田委員)
修正スルト建物計リニナリヤシマセンカ
(尾崎委員)
修正デ宜シイ
(委員長)
修正ニ決シテ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項及ヒノ下「建物ノ堅牢ヲ缺キタル其他ノ」トアルヲ「其他堅牢ヲ缺キタル建物ノ」ト修正ス
第三百九十六條朗讀ス
第三百九十六條 旣脫後見ナルト否トヲ問ハス未成年者ハ其有意又ハ不注意ニテ加ヘタル不正ノ損害ノ全部又ハ一分ニ付テハ刑事上ノ責任ヲ免ルヘキトキト雖モ民事上責任アリト宣言セラルルコトヲ得〔第千三百十條〕
其未成年者ハ亦其召使人若クハ屬員又ハ自己ニ屬スル物ノ加ヘタル損害ニ付キ民事上其責ニ任セシメラル但後見人ニ對スル求償權アルトキハ之ヲ行フコトヲ妨ケス
(修正案) 末項其未成年者ノ上ニ「又」ノ一字ヲ加ヘ共下ノ「亦」ノ一小子ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
モ亦ヲ書イテモ一向意味ハ通ゼヌソウデ御座イマスカラ初メニ「又」ノ字ニシテ入レマス
(南部委員)
初メノ「其」ト云フ字ハ入ルマイ、下ニ「其」ト云フ字ガアルカラ
(鶴田委員)
前ノ其ヲ受ケナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
一項ヲ御讀ミニナルニハ「又ハ一分ニ付テハ民事上責任アリト宣言セラルルコトヲ得、刑事上責任ヲ免カルルトキト雖モ」ト御讀ミ下サラヌト、一分ニ付キ刑事上ノ責任ヲ免カルルト御讀ミニナリマシテハ困リマスカラ
(鶴田委員)
損害ノ刑事上ト云フコトハ理窟ガ合ハヌカラ左樣ニハ讀メマイ
(南部委員)
直スナレバ未成年者ノ下ヘヤツテ「未成年者ハ刑事上責任ヲ免カルヘキトキト雖モ」トシテモ宜シイ
(渡委員)
ソレデモ具合ガ惡ルイ
(淸岡委員)
「宣言セラルルコトヲ得」ト云フノハ可笑シイ
(南部委員)
「宣言スルコトヲ得」デモ同ジコトデス
(栗塚報吿委員)
先ヅ大槪ハ責任ガナイト云フデアロウガ、併シナガラ責任アリトスルコトモ出來ルト云フノデ御座イマス
(淸岡委員)
責任ガナイト云フコトハ未成年デナクテモ裁判所ノ裁判ニ因テハ出來ル
(鶴田委員)
裁判所デ此位ノコトハ未成年者ダト公テ見遁スコトモアルト云フノダカラ「宣言セラルルコトアリ」ガ宜シイ
(松岡委員)
裁判所ガ取捨スル權ガアルト云フノダカラ「セラルル」ハ可笑シイ
(淸岡委員)
「處セラルル」ナラ宜シイ
(南部委員)
「セラルルコトアリ」トシマシヨウ
(委員長)
彌宜シイカネ、裁判所ガ得ルト云フ意味ハ何處ニモ見ヘザル樣ニナル
(鶴田委員)
未成年者トアリマスカラ分リマシヨウ
(渡委員)
裁判所ハ不言ノ間ニ存スルコトニナル
(委員長)
未成年者カラ云フトキハ宜シイガ、裁判所カラハ得ルカ、得ナイカ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
「宣言」ト云フ字ハ裁判所カラ云フ言葉デ御座イマスカラ「未成年ハ宣言セラルルコトアリ」ト云ヘバ分リマシヨウ
(委員長)
「裁判所ト云フモノハ未成年者ノ有意又ハ不注意ニテ加ヘタル全部又ハ一分ニ付テハ宣言スルコトヲ得ル」ト云フコトヲ裁判官ガ認定ヲスルノデ、受ケル方ノ人間ガ自分デスル、セヌト云フ文章デハナイ
(栗塚報吿委員)
裁判所カラ宣言スルコトモアリテ、自分デハ出來ナイ
(渡委員)
之ハ受ケ方ノ方カラ書イタカラ顛倒シテ見レバ裁判所カラ出來樣ニナル
(南部委員)
「處セラルルコトヲ得」ト云フ處ト同ジデ御座イマス
(渡委員)
委員長ノ御說ニスルト「裁判所」ト云フコトガ顔ヲ出シテ居レバ宜シイノダ
(栗塚報吿委員)
「責任アリト裁判所ハ宣言スルコトヲ得」トシテモ宜シイ
(鶴田委員)
「宣言セラルルコトアリ」デ宜シカロウ
(松岡委員)
「未成年者ノ何々ニ付テハ宣言スルコトヲ得」トシテハ如何デス
(南部委員)
「セラルルコトアリ」トシマシヨウ
(尾崎委員)
「アリ」ガ宜シイ
(松岡委員)
後見人ヲ受ケテ居ル人ガ有意無意デシタコトカ
(栗塚報吿委員)
親父サンナラ親父サン、後見人ナラ後見人デスルコトモアルガ、責任アリト云フコトガ言ヘル、乳呑子ナレバ後見人デスルガ、十四五ニナツテ紙凧ヲ揭ゲルコトハ惡ルイト云フコトハ知テ居レバ子供デモ叱ラレルコトガアルゾヨト云フコトデス
(松岡委員)
後見ヲ受ケテ居ル者ガ如何シテ宣言ヲ受ケルダロウ
(栗塚報吿委員)
十二三歳ノ子供ガ紙凧ヲ揚ゲテ他ノ人ニ傷ヲ付ケタルトキハ其子供ハ責任ガアルカ無イカ知レヌ、刑事デハ免カルルカ知レヌガ、民事デハ財產ヲ差押ヘテ償ハスルゾヨ
(松岡委員)
後見人ガ受後見人ニ加ヘタルトキハ
(南部委員)
此次ギノ條ヲ御覽ニナレバ分リマシヨウ、主タル責任ト從タル責任ガアル、本人ガ幼稚デ分ラザル者ハ後見人ガ責任ヲ負ウガ、左モナケレバ本人ヲ主トシテ責任ヲ負ウト云フコトハ分ツテ居リマス
(松岡委員)
ソレナラバ宜シイ
(鶴田委員)
屬員ハ先刻ノハ工事ノ屬員トアルガ、茲ノハ未成年者ガ事務所デモ持テ居ルトキカ知ラヌ
(栗塚報吿委員)
持テ居ルトキデ御座イマス、工業商會トカ、銀行トカ云フモノヲ持テ居リマス
(鶴田委員)
「民事上ノ責ニ任セシメラル」ト云フノハ未成年者ニ任ジテモ宜シケレバ、後見人ニ對シテ要求シテモ宜シイト云フノカ、或ハ未成年者ニ係テ金ガ足リナケレバ後見人ニ係ルノデスカ
(南部委員)
其レハ次ギノ條デ分リマス
(委員長)
「屬員」ト云フノハ工事ノ事務所ヲ云フノカ、若シ事務所ガ無クテ自分ノ家ニ居ルノハ如何スルカ
(栗塚報吿委員)
家ニ居ルノハ召使デ御座イマス
(松岡委員)
私ノ事務所ト云フト會社ノ樣ナモノカネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス銀行ノ樣ナ所デス
(松岡委員)
彼ハ商業使用人ト云フノダロウ
(南部委員)
大キク云タ方ガ宜シイ
(渡委員)
此條ハ既脫後見人ニハ宜シイガ、二項ハ不適當ダ
(栗塚報吿委員)
子守ノ爲シタ不調法ヲ乳呑子ガ負ウコトハ如何シテモ不適當ダ、註ニモ此條ハ大キナ者デナケレバ當テラレヌト云フテアリマス、報吿委員デ論ジマシタガ、詰リ後見人ニ求償權ガアルカラ宜シイト云フコトニナリマシタ
(渡委員)
「任セシメラル」トアルカラ困ル、ソレヲ酌量シテ彼ハ無能力ノ赤兒ダト云ヘバ宜シイガ
(栗塚報吿委員)
「損害ニ付キ民事上其責ニ任セシメラル」ト云フノハ「任セシムルコトヲ得」ト云フノデ御座イマス
(委員長)
前ト同ジダカラ「任セシメラルルコトアリ」デ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
私ノ家ノ瓦ガ落チテ貴君ガ私ノ家ノ軒下デ怪我ヲシタ、併シ瓦師ガ惡ルケレバ私ハ瓦師ニ向テ要求權ガアル、幼者ガ後見人ヲ相手取ルノハ私ガ惡ルカツタニ違イナイガ、御前ガ乘テ行ケト云テ始メテ乘テ往タカラ叔父サンガ惡ルイト云フノデス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第一項「宣言セラルルコトヲ得」トアルヲ「宣言セラルルコトアリ」ト修正ス第二項「其責ニ任セシメラル」トアルヲ「其責ニ任セシメラルルコトアリ」ト修正ス
第三百九十七條朗讀ス
第三百九十七條 前數條ニ定メタル場合ニ於テ若シ害トナルヘキ所爲ヲ爲シタル者カ其所爲ニ付キ自身ニ責任アリト看做サルルコトヲ得ルトキハ裁判所ハ其者ニ對シ主タル裁判ヲ言渡シ且民事上責任アル人ノ從タル義務ノ廣狹ヲ定ム但民事上責任アル人ヨリ犯罪者ニ對スル求償權アルハ當然ナリ
他人ノ所爲ニ付キ民事上責任アル人ハ法律ヲ以テ特ニ定メタル場合ニアラサレハ犯罪者ニ對シ言渡サルコトアルヘキ罰金ノ責ニ任セス
(栗塚報吿委員)
「言渡サルル」ノ「ル」ノ字ガ一字翻譯デ落チマシタカラ御入レヲ願ヒマス、今度ハ後見人ヨリ幼年者ニ對スル要求權ヲ第一項デ云テ居リマス、前數條ニ揭ゲタ場合ハ私ノ僕ガ貴君ニ頭マニ疵ヲ付ケタトキハ主人ニ責任ガアレバ裁判所ハ私ノ僕ニ裁判ヲ言渡シテ裁判所ハ栗塚ノ從タル義務ヲ定メル、次ギノ項ハ私ノ車夫ガ博奕ヲ打テ牢ヘ入テモ私ガ罰金ヲ出スニハ及バヌ、併シ法律デ出セト云フ場合ハ別ダト云フノデ御座イマス
(委員長)
立派ナ文章ダ
(淸岡委員)
下ノ犯罪者ハ少シ違ウ樣ナ心持ガスル、前項ノ犯罪者ハ民事上ダロウ
(栗塚報吿委員)
否々之ハ同ジ犯罪デス
(淸岡委員)
下ノ方ハ罰金ガアルカラ、犯罪ト云フコトガ立派ニ分ルガ、上ノ上ハ罰金ガナイカラ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
私ノ車夫ガ貴君ノ車夫ヲ殺シタルトキ私ハ貴君ノ車夫ニ對シ民事上ノ責ガアルカラ金ヲ出シタ
(淸岡委員)
總テ犯罪ハ普通ニ云フ犯罪ト違ウ場合ガ幾ラモアル
(栗塚報吿委員)
違ウ場合モアリマスガ、刑事デ云フ犯罪デス、唯害トナルベキ處爲ト或ハ加ヘタル損害ハ犯罪デ加ヘタルモアリ、又犯罪カラ加ヘスノモアリマスガ、犯罪モアルト見ナケレバナリマセン
(淸岡委員)
民事上ハ犯罪ヨリ多クハ過愆カラ出タノダカラ
(栗塚報吿委員)
過愆カラ出テモ犯罪ガアリマスカラ、一槪ニハ申セマセン
(南部委員)
併シ之ハ民事ノ犯罪ダロウ
(栗塚報吿委員)
名ハ民事犯罪デモ刑事モ同ジコトデス
(鶴田委員)
之ハ民事犯罪ダト思タガ、刑事ト同ジコトダ、詭譎ト云テモ詐欺取財モ入テ居ル
(南部委員)
唯民事ノ犯罪ハ必ラズ刑事ノ犯罪ト云フコトハ出來マセン
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
第三百九十八條朗讀ス
第三百九十八條 此節ニ定メタル總テノ場合ニ於テ若シ數人カ同一ノ所爲ニ付キ責ニ任シ各自ノ過愆又ハ懈怠ノ部分ヲ知ルコト能ハサルトキハ其義務ハ連帶ナリ〔伊民第千百五十六條〕
(委員長)
此節ニ揭ゲタルノダカラ之ヲ皆云フノヂヤネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(尾崎委員)
誰レノ投ゲタ石ヤラ分ラザルトキハ連帶ト云フノダ
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
第三百九十九條朗讀ス
第三百九十九條 若シ民事犯罪又ハ准犯罪カ同時ニ刑法ヲ以テ罰セラルヽ犯罪ヲ成ストキハ犯罪者其者ニ付テモ又民事上責任アル人ニ付テモ刑事訴訟法ヲ以テ定メラレタル如キ民事ノ訴ノ管轄及ヒ時效ニ關スル規則ヲ遵守ス
(修正按) 「規則ヲ遵守ス」ヲ「規則ニ遵フ」ト改ム
(委員長)
近頃ハ翻譯ガ變ツタ樣ダ
(鶴田委員)
此「如キ」ト云フノハイツモノ「如キ」トハ違ヒハシマセンカ
(栗塚報吿委員)
イツモノト同ジデス
(委員長)
此條ニ小言ヲ云テハ勿體ナイデハナイカ
(鶴田委員)
治罪法ノ通リト云フノダカラ「通リ」デハナイカ
(栗塚報吿委員)
前ノト同ジデス
(松岡委員)
「定メラルル」丈ケハ御免ヲ蒙リ度イ
(栗塚報吿委員)
「定メタル如キ」デ宜シウ御座イマス
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
「定メラレタル」ヲ「定メタル」ト修正シ「規則ヲ遵守ス」ヲ「規期ニ遵フ」ト修正ス
第四百條朗讀ス
第四節 法律
第四百條 或ル義務ハ現時ノ所爲ニ拘ハラス法律ニ依リ負ハシメラル卽チ左ノ如シ
或ル親屬及ヒ姻屬ノ間ノ養料ノ義務
宥恕又ハ免除ヲ許サヽル場合ニ於テ後見ヲ爲スノ義務
共有者ノ間及ヒ相隣者ノ間ノ義務カ地役ヲ成サヽルトキ其義務〔第千三百七十條〕
此等ノ義務ハ之ニ特別ナルモノニ付テハ其關係アル事項ニ於テ之ヲ定ム
(栗塚報吿委員)
義務ハノ下ヘ「人ノ」ト云フ字ガ這入リマス、宥恕ノ下ヘ「又ハ卽チ」ヲ入レマス
(南部委員)
法律ト云フコトハ前ヲ御覽ニナレバ分リマス
(栗塚報吿委員)
三百十六條ノ四ツ目デ御座イマス、宥恕卽チハ佛蘭西民法デハ「宥恕」モ「免除」モ使テ居リマスガ後見ヲ免除スルト云フコトハ法文ニ明カニ御座イマスガ、免除丈ケデ宜シイト云フコトデ御座イマス
(南部委員)
之ハ後見ノ處ヘ云テ茲ハ省イテハ如何デス
(淸岡委員)
相隣者間ノ義務ハ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
日本文デ書ケバ「相隣者間ノ義務」トシテ「但其義務カ地役ヲ爲ササルトキニ限ル」ト云フノデス、大審院長ガ後見義務ヲ免カルルトカ、又ハ子供ガ多人數アレバ一人ノ後見デ宜シイトカ、役向キニ依テハ卑イ役ヲ勤メテ居テモ免カルル事ガ出來ル、原文ニハ「後見ヲ爲スノ義務宥恕又ハ免除ヲ爲ササル場合ニ於テ」トアリマス
(委員長)
「後見義務」トシテ下ヘ書イタラ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
「宥恕卽チ免除ヲ許ササル場合共有者ノ間及ヒ相隣者ノ義務地役ヲ爲ササル場合」トシマスカ
(松岡委員)
免カレタラ後見ノ職ハナイ
(南部委員)
法律デ定メタノハ遁ルルコトハナイ場合ダカラ
(鶴田委員)
「後見ヲ爲スノ義務但」何々トシマシヨウ
(栗塚報吿委員)
三項ハ「後見人ノ義務但宥恕卽チ免除ヲ許ササル場合ニ限ル」トシテ四項ハ「共有者及ヒ相隣者間ノ義務但其義務ハ地役ヲ爲ササルトキニ限ル」ト致シマス
(南部委員)
「其義務」ハ入ラヌ
(栗塚報吿委員)
「其義務」ハ無クテモ宜シイ
(南部委員)
末項ハ「此等ノ義務ハ其關係アル特別ノ事項ニ於テ之ヲ定ム」デ宜シイ
(鶴田委員)
「此等ノ義務ノ特別ナルモノ」デ宜シイ
(委員長)
「此等ノ義務ハ其特別ナル」デ宜シイ
(南部委員)
「其特別」デ宜シイ、然シテ下ノ「其」ヲ取テ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
下ノ「其」ハ入用デ御座イマス
(委員長)
下ノ「其」ハ無クテ宜シイ
(松岡委員)
「此等ノ義務ハ其特別ナルモノニ付キ關係アル事項ニ於テ之ヲ定ム」デ宜シイ
(南部委員)
「此等ノ義務ハ其特別ナルモノニ付テハ其關係アル事項ニ於テ之ヲ定ム」ト致シマシヨウ
(委員長)
其レデ宜シカロウ
(松岡委員)
表題ノ「法律」ト云フ字ハ餘リ大キ過ギヤセヌカ
(委員長)
總テノコトヲ云ヘバ「法律」ト云ヘル
(南部委員)
第一章義務ノ原由其中「合意不當ノ利得、損害、法律ノ條例」トナツテ居リマス
(委員長)
義務ノ中ノ法律デアル
(栗塚報吿委員)
「法律ノ條例」トシタラ宜シカロウ
(委員長)
「法律ノ義務」トシタラ宜シカロウ
(松岡委員)
「法律ノ條例」トシテハ如何デス
(委員長)
表題ト云フモノハ中ノコトヲ包含シテ居ル、之ハ法律ト云ヘバ法律ノ全體ヲ云フコトニナルカラ權利モアレバ義務モアル、其中ノ片端ヲ「法律」ト云フノハ可笑イ
(栗塚報吿委員)
併シ三百十六條カラ出タノデ御座イマス
(委員長)
「法律上ノ義務」ト云ヘバ宜シイ
(南部委員)
法律上ノ義務デナイモノハ一モナイ、之ハ前ニ表題ヲ擧ゲタノデアリマスカラ
(委員長)
義務ニ關スルモノハ之計リト云フコトハナイ
(松岡委員)
「ボアソナード」モ左樣思ツタト見ヘテ註解ニ書イテアリマス
(委員長)
之ハ人ノ拵ヘルノデナイ、法律ガ命ズルモノダト云ヘバ
(栗塚報吿委員)
第一章ノ初メニ「左ノ諸件ヨリ生ス」ト云フノガ源デアルニ、源ヲ示シテ於テ出來タモノヲ示スニハ及ビマセン
(渡委員)
「ボアソナード」ガ書換ヘテ來タノハ理由ガアロウガ、書換ヘテ分ラヌ
(南部委員)
分ラヌケレバ兔モ角モ、分ルナレバ「ボアソナード」ガ改メテ來タノダカラ直スニハ及バヌト思ヒマス
(渡委員)
意味ヲ害セヌカラ直シ度イト思フ、意味ヲ害スルナラ小刀細工デ直スコトハ出來ナイ、原案者ノ文章ヲ動カスノデナイカラ差支ナイ
(淸岡委員)
之ハ色々ノモノヲ付ケレバ不味クナル、鳥渡見レバ付ケタ方ガ分ルガ、段々此法律ヲ研究スレバ分ル
(渡委員)
「第四節法律」ト云フノハ分ラヌデハナイカ
(南部委員)
人事モ人ノスルコトハ皆人事デシヨウ
(栗塚報吿委員)
元トノ樣ニスルト「義務ノ原由ナル法律」トシナケレバナリマセン
(鶴田委員)
「法律ノ條例」トスレバ宜シイ
(村田委員)
ソレガ宜シイ
(松岡委員)
ソレデ宜シイ
(南部委員)
ソレナラ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ「法律ノ條例」ト致シマス
(淸岡委員)
法律ノ條例ハ可笑シイ
(委員長)
「法律ノ條例」トスルカ、一項ハ二項ノ樣ニ書ケヌカ
(栗塚報吿委員)
「質ハシメラル」ハ「負ハシム」トシマス
(委員長)
一項ヲ「養料ノ義務但親屬及ヒ姻屬ノ間ノ義務」トシテハドウダ
(栗塚報吿委員)
八十八條ガ恰度此ト同ジデ御座イマス
(委員長)
彼レトハ違ウガ強テ主張スル譯デハナイカラ先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第四節法律ノ條例第四百條或ル義務ハ人ノ現時ノ所爲ニ拘ハラス法律ニ依リ負ハシム卽チ左ノ如シ或ル親屬及ヒ姻屬ノ間ノ養料ノ義務後見人ノ義務但宥恕又ハ免除ヲ許ササル場合ニ限ル共有者及ヒ相隣者ノ間ノ義務但地役ヲ爲ササルトキニ限ル此等ノ義務ハ其特許ナルモノニ付テハ其關係アル事項ニ於テ之ヲ定ム
第四百一條朗讀ス
第二章 義務ノ效力
前置條例
第四百一條 義務ノ主タル效力ハ下ノ第一節第二節及ヒ第三節ニ記載シタル區別ニ從ヒ其義務ノ直接ノ履行ノ爲メ又不履行ノ場合ニ於テハ從トシテ損害賠償ノ爲メノ訴權ヲ債權者ニ與フルニ在リ〔第千百四十二條、伊民第千二百十八條〕
右ノ外義務ノ前記ノ效力ニハ第四節ニ定メタル如キ義務ノ諸種ノ樣體ニ隨ヒテ廣狹アリ
(松岡委員)
「契約者カラ義務者ニ負ハシムル效力ハ」ト降ツテ來ナケレバナラヌカ
(栗塚報吿委員)
一番大切ノ效力ハ私ガ義務ガアル、栗塚ノ義務ノ結果ガ貴君ニ斯樣ナ權利ヲ與ヘテ裁判所ヘ訴ヘルコトガ出來ル、其訴ヘ方ガ二ツアル、直接ニ履行ノコトモアリ又履行シナイコトモアル、契約ノ目的ハ何カト云フト、訴權ヲ與ヘルト云ヘルカモ知レヌ法律ノ條例デ栗塚ニ義務ガアルト云タトキハ私ノ親父ハ私ヲ訴ヘテ錢ヲ出サセル効力ガアルト云フノデス
(鶴田委員)
効力ガ訴ヘサセルカ
(栗塚報吿委員)
効力ハ訴權ヲ與ヘルニ在リト云フコトデス
(委員長)
翻譯ハ立派ニ出來テ居ル
(栗塚報吿委員)
二ヲ先キヘ說明シテ行キマスガ直接ノ履行ノ爲メノ訴權ト損害賠償ノ訴權ト二ツアリマス、第一節ハ直接ノ履行、第二節ハ損害賠償ノ訴權ヲ云フノデス、直接ノ履行ヲサセヌトキハ損害賠償ニナルト云フノガ茲ノ大主眼デ御座イマス
(尾崎委員)
ドウモ宜シイ樣デス
(栗塚報吿委員)
「諸種ノ樣體」ノ「體」ノ字ハ「態」ノ字デ御座イマス、之ハ翻譯デ直リマス
(南部委員)
「態樣」ト云フコトハアツタガ、「樣態」ハ始メテダ三百二十八條ニ「態樣」トアル
(栗塚報吿委員)
三百二十八條ノ「態樣」ハ首デヤルノデ、之ハ有期トカ、無期トカ、條件附トカ、條件無シトカ云フコトデス
(南部委員)
家ヲ顛倒シタ丈ケデハ困ル
(委員長)
先キヘ行キマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項「樣體」トアルヲ「樣態」ト改ム
第四百二條朗讀ス
第一節 直接ノ履行ノ爲メノ訴權
第四百二條 義務ノ方式及ヒ實旨ニ從ヒ其義務ノ直接ノ履行カ債權者ヨリ求メラレ且債務者ノ身體ヲ拘束セスシテ得ラルヽコトヲ得ル總テノ場合ニ於テハ裁判所ハ其直接ノ履行ヲ命スルコトヲ要ス
引渡スヘキ有體物ニシテ債務者ノ財產中ニ在ルモノニ關シテハ裁判所ノ威權ヲ以テ之ヲ差押ヘ債權者ニ引渡ス
行フヘキ所爲ニ關シテハ裁判所ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ行ハシムルコトヲ債權者ニ許ス〔第千百四十四條〕
爲サヽルノ義務ニ關シテハ債權者ハ義務ニ背キ爲サレタルモノヲ亦債務者ノ費用ヲ以テ毀滅セシメ及ヒ將來ノ爲メ適當ナル處分ヲ爲スコトヲ許サル〔第千百四十三條〕
總テノ此等ノ場合ニ於テ損害アルトキハ其賠償ヲ爲サシムルコトヲ妨ケス
債務者ニ對スル強制執行ノ方法ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
(修正按) 第四項爲ササルノ上ニ「又」ノ一字ヲ加ヘ債務者ノ上ノ「亦」ノ一字ヲ刪除ス
(松岡委員)
方式ト云フノハ何ト講釋シテ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
義務ニ公正證書デナクテハ出來ナイモノモアリ、然ラザルモノモアル、ソレデ贈與ノ如キハ是非公正證書デナケレバナラヌト云フトキハ「ホルム」ニ從ハナケレバナラヌト云フノデス
(鶴田委員)
第四ノ終リノ「許サル」ハ「許ス」デ宜シカロウ
(南部委員)
前ニ「債權者ハ」トアレバ終リハ「許サル」トシナケレバナリマセン
(淸岡委員)
第四ノ「爲サレタル」ハ前ノ方ハ「爲シタル」トナツテ居ル
(南部委員)
「債權者ニ許ス」トシナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
「爲シタルモノヲ債務者ノ費用ヲ以テ毀滅セシメ及ヒ將來ノ爲メ適當ナル處分ヲ爲スコトヲ債權者ニ許ス」トシテ前ノ「債權者」ヲ刪リマス
(松岡委員)
ソレガ宜シイ
(淸岡委員)
三項ノ「行フヘキ」ヲ「爲スヘキ」トシタラ宜シカロウ
(松岡委員)
「爲スヘキ」ト「行フヘキ」トハ違ウ
(栗塚報吿委員)
「引渡スヘキ」ト云タラ「爲スヘキ」ト云ハナイノデス、實行スベキ義務ハ大工ガ家ヲ建レバ建テヤル、其トキ久次ト云フ大工ガシナイトキハ八兵衞ト云フ大工ニサセテ宜シイ
(鶴田委員)
「方式及ヒ實旨」ト云フノハ是レ迄無イ樣デ御座イマス
(栗塚報吿委員)
「實旨」ト云フノハ中ニ人テ居ルモノデス
(鶴田委員)
「實ノ旨」ト云フダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
「得ラルルコトヲ得」ハ宜シウ御座イマスカ
(鶴田委員)
「得取スルコトヲ得」ト同ジダカラ宜シイ
(委員長)
ソレデハ是レ迄トシテ次ギニ三百二十九條ノ改正案ヲ議シマス
本條ハ左ノ如ク決ス第四項又爲ササル義務ニ關シテハ義務ニ付キ爲シタルモノヲ債務者ノ費用ヲ以テ毀滅セシメ及ヒ將來ノ爲メ適當ナル處分ヲ爲スコトヲ債權者ニ許ス他ハ原案ニ決ス
第三百二十九條改正案朗讀ス
民法第三百二十九條左ノ如ク改正ス
第三百二十九條第一項 舊第一項ノ儘
第二項 又受諾ハ提供者ニ知ラレサル問ハ言消サルルコトヲ得
第三項 提供ハ受諾ノ爲メ明示又ハ默示ニテ許與セラレタル期間ノ滿了ノミニ因リ終ル
第四項 提供ヲ受ケタル者カ其受取ヲ出シタルトキ卽チ明示又暗示ノ期間内ニ之ニ答フルコトヲ留保スル旨ヲ書面ニ依リ又ハ其他ノ方法ニ依リ述ヘタルトキハ提供者此期間ノ滿了前ニ提供ヲ言消スコトヲ得ス
第五項 舊第二項ノ通
第六項 舊第四項ノ通
(淸岡委員)
三項ハ如何ナル意味ダロウ
(尾崎委員)
三項ノ「提供ハ受諾ノ爲メ明示又ハ默示」トアリマス、之ハ買ヲウト云フ受諾デスネ
(栗塚報吿委員)
私ノ方カラ賣ルノハ三日ナリ四日ナリ時ヲ上ゲルカラ此間ニ受諾ナサイト云フノデス
(松岡委員)
之ヲ買ハナイカト云フトキ御前サンノ云フ通リ三日ナリ四日ナリ緩リト考ヘテ返事ヲ致シマシヨウト云フノカ
(淸岡委員)
受諾者ノ方カラ三日待テ呉レト云フノデスカ
(南部委員)
左樣デス
(淸岡委員)
七日待テ呉レト云テモ仕方ガナイ返事ヲ出ストキ御申越ノ趣承知シタ少シ勘考スルカラ五日待テ呉レト云フトキ其間待タナケレバナラヌト云フノハ困ル
(松岡委員)
三日ノ内ニ返事ヲ呉レト云フトキ承知致シタ、三日ノ間ニ返事ヲシ樣ト云フトキダロウ
(南部委員)
左樣デス
(松岡委員)
「暗示」ハ「默示」ダロウ
(栗塚報吿委員)
原書ハ同ジコトデス
(委員長)
「默示」ト直シマシヨウ、此意味ニ付テハ論ハ無イ樣デスカラ文字ノ惡ルイ處ハ變ヘマシヨウ
(松岡委員)
左樣デス、適當ナ樣デス
(栗塚報吿委員)
一項ハ「之ヲ受諾スルコトヲ得」デ御座イマス
(淸岡委員)
「セラルルコトヲ得」ノ方ガ宜シイト思フ
(南部委員)
珍說ヲ御出シニナルネ
(委員長)
前ニ「之ヲ」ト云フコトガアル
(栗塚報吿委員)
「之ヲ」デ宜シウ御座イマス
(淸岡委員)
「提供者カ言消ササルトキハ受諾スルコトヲ得」ト云フト提供者ガ受諾スル樣ニナル
(栗塚報吿委員)
ソレデハ意味ガナクナル
(委員長)
少シ淸岡サンノ云フ氣味ガアル
(松岡委員)
言消ス方ハ二項ニ出シテ來マスカラ
(委員長)
受諾ハ主ニ云フタケレドモ「受諾ハ」ト最初ニ書イテアレバ宜シイガ、一番仕舞ヒニ「受諾」ト云テアルカラ少シ淸岡サンノ云フ氣味ガアル
(南部委員)
一項ハ之デ御置キニナツテモ宜シウ御座イマス「受諾者之ヲ受諾スルコトヲ得」ト御ヤリニナツテハ如何デス
(尾崎委員)
一項ハ元トノ通リデ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「其者之ヲ受諾スルコトヲ得」トシテハ如何デス
(委員長)
其者ガ受取ル者ヲ指ストハ云ヘヌ
(淸岡委員)
「受諾セラルル」ト云フノハ提供者ガセラルルト思テ居ルノデス、每モノセラルルニハ見ヘナイ
(委員長)
「受諾者之ヲ受諾スルコトヲ得」デ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
又受諾者トハ云ヘナイカラ其者之ヲ受諾スルガ宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
受ケタル者之ヲ受諾スルガ宜シイ
(南部委員)
「其者」トスレバ少シモ差支アリマセン
(鶴田委員)
ソレデモ宜シイ
(尾崎委員)
此儘デ宜シイ
(委員長)
「其者之ヲ受諾スルコトヲ得」トスルカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、二項ハ「之ヲ言消スコトヲ得」トナリマス
(松岡委員)
ソレデ宜シイ
(南部委員)
三項ハ「許與セラレタル」ハ「許與シタル」トナリマス
(松岡委員)
「期間ノ滿了ニ因テ了ル」デ宜シイ
(淸岡委員)
其樣ナコトハ改メルニ及バヌ
(栗塚報吿委員)
「ノミ」ハアル方ガ宜シイ
(委員長)
「ノミ」ハ刪ラヌ方ガ宜シイ、四項ハ如何デス
(南部委員)
四項ハ宜シイ
(栗塚報吿委員)
貴君ガ栗塚ダト仰シヤレバ私デス
(鶴田委員)
「其受取」ハ提供ノ受取デスカ
(南部委員)
御申込ガ屆キマシタト云フノデス
(淸岡委員)
「受取」ハ入ラヌデハナイカ
(南部委員)
「其受取ヲ出ササルトキ卽チ」ハ入リマセン
(村田委員)
入ラヌダロウ
(松岡委員)
有テモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「受取ヲ出シタル」ト云フノハ惡ルウ御座イマス、受取ト云フノデハアリマセン、貴君カラ云フタノヲ承知シマシタト云フノデ御座イマス、併シ書面デ云フテヤレバ格別デ御座イマス、ソレヲ說明ガシテ見レバ書イタモノカ又ハ默示デ御座イマス、私ノ考ヘデハ孰レカト申セバ「明示又ハ默示ノ期間内ニ之ニ答フルコトヲ留保スル旨ヲ書面ニ依り」ヲ御刪リニナツタ方ガ宜シカラウト思ヒマス、承知シタト云フコト計リデ宜シイ
(南部委員)
日本ノ受取ト云フノハ何ヤラ分ラヌ、留保シタノ迄認メルノハ難イ
(栗塚報吿委員)
「受取ヲ渡シタルトキ又ハ」デ御座イマス
(渡委員)
「又ハ」トシテ「其受取ヲ出シタル」ハ刪ルガ宜シイ
(委員長)
刪テモ宜シカロウ、尤モ箕作ニ云フガ宜シイ
(渡委員)
明示ノ下ノ「又」ハ「又ハ」トスルガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
五項ハ如何デス
(松岡委員)
提供卽チハ刪テ宜シイ
(委員長)
刪テモ宜シカロウ
(南部委員)
「提供ヲ爲シタル者」ガ宜シイ
(委員長)
ソレデ宜シカロウ
(松岡委員)
郵便電信ハ此處ハ漠然トシテ居ルガ、商法デハ委シク云フテアル
(鶴田委員)
商法トハ少シ違ウ
本條ハ左ノ如ク決ス
提供卽チ言込ハ之ヲ受ケタル者ニ知ラシメテ言消ササル間ハ其者之ヲ受諾スルコトヲ得又受諾ハ提供者ニ知ラレサル間ハ言消スコトヲ得提供ハ受諾ノ爲メ明示又ハ默示ニテ許與シタル期間ノ滿了ノミニ因テ終ル提供ヲ受ケタル者カ明示又ハ默示ノ期間内ニ答フルコトヲ留保スル旨ヲ書面ニ依リ又ハ其他ノ方法ニ依リ述ヘタルトキハ提供者此期間ノ滿了前ニ提供ヲ言消スコトヲ得提供ヲ爲シタル者カ死亡シ又ハ契約スルノ無能力ニ陷リタルトキハ他ノ當事者ノ受諾ハ其未タ此事實ヲ知ルニ至ラサル間ハ無效ナリ末項ハ原案ノ通リ
于時午後第五時閉會