旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第26回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草按人權ノ部第二十六回議事筆記
自第三百五十九條至第三百七十二條
(委員長)
ヤリマシヨウ
第三百五十九條朗讀ス
第三百五十九條 債權者ハ自己ノ債務者ニ屬スル權利ヲ主張シ及ヒ物權ト人權トヲ問ハス其訴權ヲ行フコトヲ得
 債權者ハ此事ニ付テハ或ハ差押ノ方法ニ依リ或ハ自己ノ債務者ヨリ又ハ自己ノ債務者ニ對シテ行ハレタル訴ニ於ケル參加ノ方法ニ依リ或ハ民事訴訟法ニ遵ヒ得タル裁判上ノ代位ニ憑レル第三者ニ對スル間接ノ訴ニ依リテモ處辯ス
 然レトモ債權者ハ自己ノ債務者ニ屬スル單純ナル適法ノ權能又ハ專ラ債務者ノ一身ニ留保セラレタル權利ヲ行フコトヲモ又法律又ハ合意ヲ以テ差押フルコトヲ得サルモノト宣言セラレタル財產ヲ差押フルコトヲモ得ス〔第千百六十六條〕
(修正) 第二項憑ノ下「レル」ノ二字ヲ刪リ「據シテ」ノ三字ヲ挿入シ對ノ下「スル」ノ二字ヲ刪リ「ニ行フ」ノ三字ヲ挿入ス、リノ下「テモ」ノ二字ヲ刪ル同條第三項二行目「ニ」ノ下「留保セラレタル」ノ七字ヲ刪リ「附着スル」ノ四字ヲ挿入ス四行目「宣」ヲ「明」ニ改メ「セラ」ノ二字ヲ刪リ「シ」ノ一字ヲ加フ
(淸岡委員)
本條初項ノ自己ノ債務者ニ屬スル權利トアリマスガ、之ハ屬スルト云フハ考ヘ違ヘガ出來ソウデスガ、對スルト云フノデハ御座イマセンカ
(栗塚報吿委員)
「屬スル」デ御座イマス
(淸岡委員)
權利ハ債權者ノ權利デシヨウ
(南部委員)
債務者ノ權利デアリマス、私ガ貴君ニ金ヲ借り、債主ガ三人アレバ私ニ對シテ如何ナル權利ガアルカナレバ、抵當ハ取テ居ラヌケレドモ主張スル權利ガアルノデス
(尾崎委員)
債務者ニ屬シテ居ル權利ヲ債務者ニ代ツテ主張スルカ
(栗塚報吿委員)
主張ノ仕方ハ次ギノ項ニ云テ居リマスガ、先ヅ此所デハ原則ヲ定メテ、負債者ノ財產ハ詰リ質ニ取タモ同樣ト云フ原則ヲ示シタノデアリマシテ、債務者ニ屬スル權利ヲ主張スルコトモ出來、又人權物權ヲ問ハズ訴權ヲ以テ、差押方法ニ依タリ、又ハ訴訟ニ參加シタリ、又ハ裁判所ニ對シ、間接ニ訴ヲ行フノデス
(尾崎委員)
裁判所ヘ代理ヲ願ツテ許サルル譯ケデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、裁判所ヘ代位デ間接ノ訴ヲ爲スノデス
(尾崎委員)
債務者ノ位地ニ代ツテデシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、此所デハ債務者及ビ自分ノ仲間ノ債權者ニ代ツテデアリマス當前ノ訴訟參加方法ニ依テ間接ノ訴デ御座イマシヨウ、私ガ負債者デ貴君ガ債主、南部サント訴訟ガアレバ、栗塚ヲ參加セシムルガ、貴君ニ取テハ、間接ノ訴デアリマス、民事訴訟法ニ從ヒ、裁判上代位ニ憑據シ、ハ貴君ガ參加ナサルハ宜シイガ未ダ外ニ債主ガアリ、松岡サンガ私ノ債主トスルト、貴君ガ參加シテ、若シ敗訴シタラ栗塚ガ辯護ノ仕方ガ惡ルイカラ、南部サンモ松岡サンモ債主權ヲ持テ居ルカラ、貴君ト同一ノ權利ガ私ニ對シテアリマス、所ガ左樣デナク貴君ガ裁判上代位ニナルト、松岡サンモ代表シ、栗塚ヲモ代表シテ、南部サンニ係テ訴ヘル、貴君一人デ引受ケル、數債務者ヲ代表シテ、債務者ト訴訟シテ居ル人ニ向ヒ、私ト南部サント訴訟ヲシテ居ル所ヘ貴君ガ參加訴訟ヲスル、栗塚ニ任セルト馴合ツテ南部サンニ負ケテ仕舞コトモアロウト云フ心配モアルカラ、栗塚ニ代ツテ貴君ガ訴ヲナサルコトガ出來ル、尤モ直接ノ訴訟デハナイ、何ゼナレバ栗塚ト南部ノ間ニアル訴訟ダカラ栗塚ニ代ハル、獨リ栗塚ニ代ツタ丈ケカナレバ、松岡サン其他ノ債主ニ代ツテヤル、然レバ貴君ノ所作ハ皆外ノ者ガ承諾シナケレバナラント云フコトデアリマス
(松岡委員)
代位ト云フノハ今出來掛ツタ訴訟デハナイ樣デスガ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、身代隈リヨリモ前ノ話デス
(尾崎委員)
今迄日本ノ樣デハ箇樣ナ場合ハナイ、訴訟デ箇樣ナコトハ定メント往カヌ
(松岡委員)
參加方法ニ依ルハ訴訟法ニ出來テ居ル
(栗塚報吿委員)
左樣デス、之ハ皆負債者ニ對シテ差押ヘデハアリマセン
(松岡委員)
訴訟法デモ左樣デシヨウ
(南部委員)
註ニモアリマスガ、差留ハ寧ロ權利ニ代ハツテヤル場合デナクシテ、自分ガ權利ヲ行フ場合デス
(栗塚報吿委員)
己レノ債務者ニ屬スル訴權ヲ行フコトガ出來ルガ、之ヲ行フ二三ノ方法ガアルト云タノデアリマス
(委員長)
差押方法ハ直接ニ債務者ニ代ハルノデハナイカ
(栗塚報吿委員)
左樣デハ御座イマセン、參加ハ無論宜シイ、代位憑據シテモ宜シイ、差押方法ニ依ルト云フノハ債務者ニ對シテ云フノデナクシテ、第三者ニ對シテデアリマス
(南部委員)
之ハ前項ハ卽チ債務者ノ權利ヲ行フトアリマスカラ、意味ハ左樣ナルノデアリマス
(委員長)
差押方法ハ債務者ニ代ハルハ當然ダガ、此所デ第三者ニノミト云フハ自己ノ債務者ニ對シテ行フコトハ直接ニ行フノダロウ
(南部委員)
行ハレタル訴ニ參加スルノデス
(尾崎委員)
第三者ニ對シテ代ハツテ差押ヘルト云フハ如何ナル場合デスカ
(栗塚報吿委員)
私ガ貴君ノ負債者デ、甲某ハ私ノ負債者デアリマス、私ハ甲ガ茲ニ居ル、之ニ係テモ效能ガナク、取テモ貴君ニ取ラレテ仕舞フナラ棄テ置ク、不的腐テ詰ラヌ、貸金ガアツテ、之ヲ取ツテモ、直グ貴君ガ取テ仕舞フカラ怠ルコトガ世ノ中ニアリマシテ、栗塚ガ押ヘテ置ケバ宜シイニ、甲某ハ財產ガアリナガラ栗塚ガ行ハヌ爲メニ、貴君ガ損ヲスル、栗塚ガ差押ヘレバ貴君ノ都合ガ宜シイ、私ガ取テモ貴君ニ取ラレルカラ投ゲヤリニシテ置クコトガアルカラ貴君ハ之ニ代ツテ差押ヘルコトガ出來ルノデス
(尾崎委員)
ソレハ訴訟法ニ定メルカ
(栗塚報吿委員)
之ハ原則ヲ極メルノデス
(尾崎委員)
私ハ何ノ權利モナイデハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
原則デ極メルノデス
(尾崎委員)
訴訟法ニナイデハナイカ
(栗塚報吿委員)
權利義務ヲ定メルハ民法ニアルノデス
(尾崎委員)
南部サンガ栗塚ニ對シテノ義務ハ、私ニ對シテノ義務デナイカラ、直接ニスルコトハ出來ヌ
(南部委員)
今ハアリマセヌ
(栗塚報吿委員)
今ハアリマセンガ、是レカラハ大切ニナルノデス
(尾崎委員)
參加トナリ、或ハ代位デ、第三者ニ係レル差押ハ如何ナル風ニ係レルカ分リマセン
(栗塚報吿委員)
卽チ直接ノ差押デアリマス
(尾崎委員)
其方法ガ出來ナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
ソレハ卽チ訴訟法デ出來マス、私ガ甲某ノ財產ヲ差押フルノハ、四通リ程アリマス、假差押、又權利保存ノ差押、執行差押、回復差押モアリマス、左樣スルト甲某ナル債務者ニ對シテ訴訟デ充分勝テ、私ニ訴ヘラレテ公賣シテモ宜シイガ、良シ公賣シテモ貴君ニ取ラレルカラ棄テ置クト云フコトガアル、スルト浪費シテ仕舞ヒ仕方ガナイカラ直グニ貴君ガ裁判所ヘ行キ、栗塚ト云フ者ニ、貸金ガ此通リアルカラシテ、栗塚ガ財產差押ヲ怠ルト困ルカラ、栗塚ニ代ツテ押ヘルト云フノデアリマス
(尾崎委員)
ソレハ公賣デ、公衆ノ知タ折デシヨウ
(栗塚報吿委員)
知ラヌ折デアリマス
(尾崎委員)
先ヅ私ハ貴君ガ南部サンニ對シテ權利義務ガアルカ知リマセヌ
(松岡委員)
此間カラ議論ガ出マシタガ、差押ハ人ノ權利義務ヲ知テ居ルカラ甲ノ人ヘ云ヒ掛ルノデ分ラヌト云タラ、分ラヌ、實際誰カラ某ニ對シテ貸ガアルト云フコトハ知レルコトデアリマス
(栗塚報吿委員)
ソレヲ知テ居ラヌデハ金ヲ貸サヌ、金貸ハ栗塚ノ身代ハ如何カ知ラナケレバ金ハ貸サヌ、栗塚ハ何デモ甲某ニ金モ貸テ居ルカラ、ト云テ安心シテ居ラルル然ルニ私ノ怠リデ、種々ヤツテ見テモ取ラルル、ドウセ身代限リシテモ宜シイト云フ栗塚ナレバ、ソンナモノニハ構ハヌ、栗塚ノ負債者ガアルソウダカラト云テ、裁判所ヘ訴ヘテ行カルルコトハ便利ナ話デ、此三ツ方法ガアレバ、第一項ノ自己ノト云フハ尾崎サンデ尾崎サンハ自己ノ債務者ノ栗塚ノ權利ノ主張及ビ物權人權ノ訴權ノ訴權ヲ行ヘ得ル爲メニ、貴君ハ滿足ニ貴君ノ權利ヲ主張シテ損ヲナサラヌコトガ出來ルノデアリマス、ソレデ又甲某ト私ト訴訟ヲシテ居ル、私ガ勝ツ工夫ガアルガ勝ツテモ貴君ニ取ラルルト思テ、故意ニ負ケルカモ知レズ、或ハ馴合デ負ケテヤルカラ幾分カ呉レンカト云フカモ知レヌ、ソレハサセヌゾヨ、栗塚ト甲ノ人ノ間ニ訴ヘラレ、其時貴君ガ參加スルコトガ出來ルト、自己ノ債務者ニ行ハレタルト衣ノ項ニアリマス、此場合ハ、參加スルコトガ出來ル、又ソウスルト貴君ガ訴ヘルト松岡サンモ栗塚ニ對シテ債權ガアルカラ、ト云テ二人デ栗塚ヲ訴ヘル場合ニハ寧ロ二人デヤルヨリハ一人デ引受ケテ相手取ルト、栗塚ヲ代表シ、又松岡サンモ代表シテ甲某ヲ訴ヘルコトガ出來ルト云フノデアリマス
(委員長)
一項ノ物權人權ヲ問ハズトアルハ債權者ガ物權人權ヲ問ハズ、自己ノ債務ト權利ヲ行フコトヲ得ル旨意デシヨウカ
(栗塚報吿委員)
其積リデス、債務者ニ屬スル訴權ヲ行フコトヲ得ル、ソレハ物權人權ヲ問ハズト云フノデアリマス
(委員長)
日本文ヲ見ルト、權利主張ハ物權人權ニハ拘ハラヌノデス
(栗塚報吿委員)
ソレドコロデハナイ訴權丈ケハ一方ノ權利ヲ債務者ニ屬ス權利、物權人權ト云ヒ度クモナク、總テ債務者ニ屬ス、財產ハ債權者ニ屬スノデス
(委員長)
日本文デハ何モ箇モ、物權人權以外ノモノ迄モ及ブト見ヘルガ、債權者ハ物權人權ヲ問ハズ債務者ニ屬ス權利ヲ行フ、若シ此儘置クト人權物權ヲ問ハズ訴權ヲ行フ、權利ヲ主張スルト云フノハ債務者ノ一身ニ屬スル權利ハ皆嵌ルト見ハセンカ
(栗塚報吿委員)
此所ニ書イタハ權利ヲ主張シ、物權人權ト云フヲ問ハズデハ分リマセヌ、只訴權デアリマス、債權者ニ屬スル權利主張ハ恰モ財產ハ權利ナリ、權利ハ財產ナリト云フト同ジク、債務者ノ財產ハ己レノ擔保ニナツテ居ルモノト云フ意味ヲ現ハシテ居ルノデアリマス
(松岡委員)
主張ノ項ニ訴權ヲ持ツト云フコトニナラナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
「債權者ハ訴權ヲ行フヲ得、物權人權ヲ問ハス、債務者ニ屬ス」トアリマス
(委員長)
債務者ニ屬ス、物權人權ヲ問ハズ、訴權ヲ行フコトヲ得、トアルカラ我輩ガ不作法ニ讀ムト、債務者ニ屬スル物權人權ヲ問ハズ訴權ヲ行フコトヲ得、ト讀ム、債務者ニ屬スハ物權人權ヲ問ハズ直グニ訴權ニナル
(栗塚報吿委員)
ソウ往カヌノハ「レゼン」「アクシヨン」ハ女姓ダカラ「ドロアー」ニナルト、女姓男姓ガアルト形容スレバ男姓ニ書カナケレバナラン「アクシヨン」丈ケニ掛ツテ居ルノデアリマス、自己ノ債務者ニ屬ス、權利ヲ主張シ其訴權ヲ行フコトヲ得ルトアリマス
(松岡委員)
及ビニ係ル意味デハナイガ主張スルハ卽チ訴權ヲ行フコトニナルノデハナイカ
(栗塚報吿委員)
左樣デハアリマセヌ
(村田委員)
必ラズ權利ヲ主張スルハ物權人權バカリデハナイカラ、期滿免除ガ來ルト注意スルガ、權利ノ主張デス
(松岡委員)
委員長ノ仰シヤル通リ及ビト書イテハ主張スルガ上下皆這入テ分ラヌ
(渡委員)
上ヘ入レルガ宜シイ
(鶴田委員)
債權者ハ自己ニ屬スル權利ヲ主張スルガ宜シイ
(村田委員)
權利主張ハ滿期免除ヲ注意スル等總テ主張シナケレバナランデシヨウ
(松岡委員)
如何ナルモノデアロウカ
(栗塚報吿委員)
謂ハバ權利ハ物權人權ノ外ニアリハセヌ、幾ラアツテモ債務者ト權利者ノ關係ニナラヌ、債權者自己ノ債務ニ屬ス、債權者己レノ抵當ナリト讀ム、ソレジヤニ因テ行ハセルヲ得ルト註ニ云テアリマス
(村田委員)
上ノ權利主張ハ債權者債務者ニ對シテ充分權利ノ主張ガ出來ルト云フノデス
(委員長)
此書方ハ物權人權ハ意外ニ出來ル樣ニ見ヘル
(栗塚報吿委員)
物權人權ト云タノハ困ルノデス、佛ノ第六十六條ニ明カニ云テアリマスガ、債主其債務者ノ總テノ權利及ビ訴權ヲ行フコトヲ得トアリマス、但專ラ共一身ニ付着シタルモノハ格別ナリト云テアリマス、只負債者總テノ權利及ビ訴權ヲ行フコトヲ得トアレバ誠ニ宜シイガ彼ノ人ノ註解ニ出ルカラ、上ノ權利ハ物權人權ハ這入ラヌノカト見ヘマス
(松岡委員)
ケレドモソレハ這入ラヌ筈ハナイ
(栗塚報吿委員)
權利ヲ主張シ及ビ訴權ヲ行フコトヲ得ト云ヘルダロウ、ロハ物權人權ヲ問ハズト這入ル丈ケガ往カヌノデアリマス
(渡委員)
ソレヲ除ケバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
何モ必要ハナイ、必要ガアレバ上ノ權利主張ト云フ所モ物權人權ヲ問ハズト云ハナケレバナラン
(松岡委員)
訴權ヲ行フハ卽チ權利ヲ主張スル事柄ニナルノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
否、方法ニナルノデアリマス
(松岡委員)
主張ノ實ハ訴權ヲ行フ上ニ現ハレルノデ、及ビハ二段ニ見ヘテ、字ノ儘デハ誠ニ往カヌノデス
(鶴田委員)
物權人權ヲ問ハズト前ニ入レレバ宜シイ
(委員長)
債權者物權人權ヲ問ハズト云ハナケレバナラン
(松岡委員)
日本文ニ書クト「債權者物權人權ヲ問ハス」トシテ宜シイ、併シ佛文ニ違テモ惡ルイ
(栗塚報吿委員)
私ハ佛文ノ心配ハナイト思ヒマス、債權者自己ノ債務ニ屬ス權利及ビ訴權ヲ主張シ、ト置イテ宜シイデシヨウ
(委員長)
ソレナラ立派ナモノデス、左樣シヨウ
(栗塚報吿委員)
差押ハ主張ノ側デ御座イマス
(松岡委員)
私モ左樣思ヒマス、差押モ詰リ訴訟シナケレバ、只差押ハ出來マセヌデシヨウ
(南部委員)
假差押ガ出來マスカラ訴訟ニハナリマセヌ
(松岡委員)
ソレデモ跡デ訴訟シテ本體ヲ極メナケレバナランデシヨウ、只押ヘ切リデハ濟マヌ
(委員長)
ケレドモ松岡サン、餘程困ルノハ權利ヲ主張シ、訴權ヲ行フコトヲ得ルトナルト、訴ヲシナケレバナラン樣ナルカラ、訴ヲセヌデモ權利ノ主張ヲスレバ濟ムト云フ場合ガアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
現在次ノ項ニ、假差押ノ場合ガアリマス
(委員長)
物權人權ト云フコトハ跡デドウカシテ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
債權者ハ物權人權ヲ問ハズ自己ノ債務者ニ屬ス權利ヲ主張シ、及ビ其訴權ヲ行フコトヲ得トシテハ如何
(鶴田委員)
ソレハ宜シイ
(村田委員)
英國ニハ權利ヲ主張シ得トアリマス
(渡委員)
刪テ仕舞フヨリモ、文章ハ惡クトモ存シテ置クガ宜シイ
(鶴田委員)
折角アルノダカラ置イテ宜シイ
(松岡委員)
物權人權ハ訴訟ノ上ニ付テ云フ言葉デス
(南部委員)
ソンナコトハアリマセヌ、財產ハ權利ナリ物權人權、ト云テ居ル
(栗塚報吿委員)
意味ハ同ジダガ、債權者自己ノ債務者ニ屬ス、物權又ハ人權ヲ主張シ及ビ其物ノ訴權又ハ人ノ訴權ヲ行フコトヲ得トナルノデス、權利ヲ主張シト、物權ト人權ニ係ルノデス
(村田委員)
「物權人權ヲ問ハス」ハ刪テモ宜シイ
(松岡委員)
刪タ方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
割書キニシテ、「物權人權ヲ問ハス」ト入レタモ同樣デアリマス
(松岡委員)
物權人權ト云フ字ガナカツタラ論ハナカツタロウ
(委員長)
左樣デス、之ガアル故撞着シテ來タノデス
(松岡委員)
寧ロ刪テ仕舞テ宜シイデシヨウ
(委員長)
アツテモ前ヘ入レレバ宜シイデハナイカ
(鶴田委員)
宜シイデシヨウ
(委員長)
債權者或ハ差押方法第三者ニ對スルヲ云ハヌデモ宜シイカ
(松岡委員)
入レタリ入レナイダリスルハドウ云フモノカ
(栗塚報吿委員)
置キ換ヘタ儘デス
(南部委員)
委員長ノ御尋ネハ債務者權利ヲ主張スルコトニシテ差押ノ方法ニ依テ處辨スト云テ三者ノコトハ云ハヌノデス
(淸岡委員)
然レドモハ惡クハアリマセンカ、前ニ主張ノ權利ヲ許シ、而シテ債權者ニ無上ノ權利ガアルカト云フト、然レドモ此丈ケハ出來ヌト抑ヘルハ如何ナルモノカ、報吿委員ノ修正ノ樣ニ物權人權ヲ問ハズ、訴訟ノコトニシテ仕舞フト、下ノ方ニ響キノ工合ガ惡ルイト思フ
(松岡委員)
訴訟デナイモノト主張スルモノト、二ツアルノデ、私ハ「及ヒ」ヲ除イテ主張スルト、云タガ潰レタガ、主張スルハ三個ノ訴件ヨリ出ナイ樣ニ見ヘルガ
(栗塚報吿委員)
然レドモ債權者債務者ニ屬ス、權利ヲ主張スルト云テ置クガ、單純ナル適法ノ權能又ハ專ラ債務者ノ一身ニ附着シタ權利ノ主張ハ出來マセヌト云フノデス、若シ初メニ債權者ハ自己ノ債務ニ屬ス物權人權ヲ問ハズト書イテアリマスト、跡デ云フノ必要ハナイ、何ゼナレバ物權人權ト云フ丈ケハ前ニ這入リマス、物權人權ヲ問ハズト書イテナイト、廣イモノニナル、債務者ノ一身ニ附着スル權利迄這入ルト云フカラ、取除ケヲ付ケタノデアリマス、初メニ物權人權ノ主張トアレバ專ラ債務者ノ一身ニ關スル權利ハ這入ラヌトナリマシヨウ
(松岡委員)
左樣デス
(村田委員)
其意味ガアル
(淸岡委員)
原案ノ通リニスルヤ否ヤ、不都合ナレバ刪リマシヨウ
(栗塚報吿委員)
之ヲ換ヘルト前ノ物權人權ヲ問ハズト云フ意味ガ弱クナル、註ヲ見テモ原則ヲ擧ゲテ、負債者ノ財產ハ債主ノ抵當ナリ一個ノコトハ例外ナリトアリマス
(南部委員)
原案ノ儘デ宜シイデシヨウ
(村田委員)
原案ノ儘ガ宜シイ
(委員長)
本條原案ノ儘ト云フト、先刻申シタ債務者ノ一身ニ屬スル權利迄ヲ云フノダ
(栗塚報吿委員)
ソレ迄云フノデス、ソレデ三項デ取除ケヲ付ケタノデス
(淸岡委員)
權ハ總テ債權者ニ屬スト廣ク云タノデアリマシヨウ
(南部委員)
矢張リ原トノ儘ガ宜シイナ
(淸岡委員)
原トノガ完全ナ文章デス
(栗塚報吿委員)
原トノ儘デ、物權人權ヲ問ハズヲ刪ルト尙ホ宜シイノデス
(渡委員)
前ヲ廣ク云ヒ、跡ハ其取除ケダカラ、アツテモナクツテモ宜シイノデス
(淸岡委員)
併シ之ハ回復論ニシヨウ
(栗塚報吿委員)
何ゼ此所バカリ、物權人權ヲ置イタカ知ラン
(南部委員)
相續ノ爭ヒヤ何カアルカラ前ニ權利ヲ主張スルト云テ居リ、下ハ參加差押ノ場合ダカラ訴權ト云フノデシヨウ
(委員長)
ソウ云フ起草者ノ意カ知ラヌ、自己ノ債務者ニ屬スト云フハ、財產ナレバ債務者ノ權利ヲ自分デ出來ルガ、其他ノコト迄ハ但ト云テハ如何カ
(栗塚報吿委員)
ソレ故例外ヲ出シタノデアリマス
(南部委員)
註ニモ相續ノコトガアリマス
(淸岡委員)
財產ノコトハ假令バ千圓ノ貸金ガアツテ、自己ノ債務者ハ千圓アルカ、二千圓アルカ知レヌケレドモ、卽チ債務者ニ屬ス、權利ヲ主張スルデス
(委員長)
債務者ニ屬ス財產ノ權ナレバ宜シイガ、何デモ箇デモデハナイ
(淸岡委員)
一向間違ハナイ、債務者ノ女房ヲ逐イ出スコトハアリマセヌ
(委員長)
ソレハナイガ其所迄出來ルノダカラ
(松岡委員)
負債者ノ財產ハ債主ノ抵當ト云フノダカラ、此條ガ出來タノダカラ財產ヨリ外ハ目ハ着ケヌダロウ
(栗塚報吿委員)
ソレダカラ、例外ヲ付ケタノデス
(松岡委員)
詰リ財產ヨリ外ハ債權者ニ押ヘラルルモノデハナイデシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
此所ハドンナニシテモ、財產外ニ權利ノ行ク筈ハナイ
(栗塚報吿委員)
併シナガラ私ガ南部サンニ物ヲヤツタトスルガドウモ恩知ラズダカラ、取消スト云フ權利ヲ持テ居ル、ソレヲ取レバ私ノ財產權デ幾ラカ殖ヘル、ソレヲ債主ガ行フコトモ出來ルカナレバ、ソレハ出來マセヌ
(松岡委員)
財產ノ訴訟ハ人權物權ノ二ツ外ハ出來マセヌデシヨウ、物權人權ノ中カラ取除ケガ出來ル丈ケニシヨウ
(栗塚報吿委員)
何ゼナレバ一身ニ附着シテ居ルカラデス、財產ハ卽チ抵當ナリト云フ原則ダカラ、殘ラズトハ云フガ、一身ニ附着シタルモノハ往カヌゾヨト云フノデス
(松岡委員)
矢張リ財產ニ關係シタモノダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
上ノ物權人權ト云フハ狹クハナイ、之ヲ除ケテモ財產權ヨリ外ハナイトハ云ヘヌ
(委員長)
物權人權ト云フガ無ケレバ宜シイ
(松岡委員)
アツテモナクトモ、頭マデ債務者ニ屬スル權利ハ財產外迄アルカナレバソレハナイ
(委員長)
左樣思フガ、原案ノ儘ヲ日本文ニシテ讀ムト、私ノ考ヘデハ權利ハ人權物權外ノモノ假ヘバ子ノ財產ヲ親父ガ管理デ後見シテ、子ノ財產迄我レガシテヤルト云フ迄、及ブヤラ知レヌカラ、總テ財產外ニ及ブモノトナツタ方ガ宜シイ
(南部委員)
一身ニ附着ト云フ取除ケガアリマス
(委員長)
三項ハ左樣ダガ、一項ノ權利ノ主張ハ何カナレバ物權人權以外ニ主張スルコトト見ナケレバナラン
(南部委員)
物權人權ヨリ外ニ權利ハアリマセント一槪ニハ云ヘヌデシヨウ
(委員長)
何ガアルカ
(南部委員)
卽チ註ニモアリマスガ、離婚ノ訴抔ガアリマシヨウ
(委員長)
ソンナモノハ立入ルモノデナイ
(南部委員)
ナイカラ然レドモト云テ取除ケヲ付ケタノデス
(委員長)
最初第一項ノ書方ガ惡イカラ終リニソウ云フコトヲ云ハナケレバナランガ、併シナガラ第三項ハ畢竟人權ニシテ、債務ニ付テ一身ニ附着シタ單純ナモノト云フノデ、之モ外ノ相續トカ、親子ノ間ノ權利トカ云フモノ迄、這入ル旨意デハアリマスマイ
(栗塚報吿委員)
ソレデ第三項ハ申シタノデ、ソンナモノニ立入ル可キデナイト云タノデ、初メノ云ヒ出シガ債務者ニ屬シタ權ハ總テ債主債權ノ抵當デアルト云タカラデス
(委員長)
其云ヒ方ガ惡ルカロウ、債權者ハ私權迄立入テ行ク可キデナイ、畢竟財產權丈ケ立入ルコトニスルノガ當然デ、物權人權ノ以外ニハ及ボサヌ、然ルニ左樣デハナイト親權、子ノ權迄他人ガ立入テヤラナケレバナランコトニナルカラ、ソレハ法律ガ範圍ヲ廣メ過ギタモノデハナイカ
(渡委員)
其主義ニナルト、一項ニ揭ゲレバ第三項ハ這入ラヌコトニナル、五十九條ハ債權者ノ權利ハ財產ノコトニハ違ヒナイガ、槪括シテ、物權人權ヲ問ハズト云フカラ、何モ箇モ這入ル、依テ第三項デ、取除ケヲ云テ居ルカラ、若シ初メ債權ノミト云フト第三項ハ要ラヌノデス
(委員長)
矢張リ要スルノデス、財產ニ付テ單ニ一身ニ附着シタモノガアリマスカラ、ソウ云フモノハ立入ルコトハナラヌガ、物權人權ヲ問ハズト云フハ除イテモ、權利ヲ主張シ、及ビ訴權ヲ行フコトヲ得ルト書イテモ、一身ニ附着シタ權云々ハアル方ガ宜シイ、財產ニ付テアルガ當然ト思フ、若シ物權人權ヲ自己ノ債務者ノ上ニ入レタラ牴觸スル故惡ルイト云フコトガアル論ナラバ全體物權人權ト書イタ故ニ、左樣ニナルカラ、此字ガアルハ惡イト思フ
(渡委員)
私ハ有ツテモ無クトモ同ジト思フ、畢竟取除ケデ、前ニ債權者ト云タカラ、債權ノ外立入ルコトハナランハ性質上疑ヒナイガ、物權人權ヲ問ハズト網羅シタ言葉ガアルカラ、此所ニ取除ガアルノデス
(淸岡委員)
權利ヲ主張シ、訴權ヲ行フコトヲ得ルト云フカラ分ル、下ニ然レドモト對シテ物權人權ヲ除テモ訴權ヲ行フコトヲ許シタ以上ハ何ヲスルカナレバ、矢張リ物權人權ヲ問ハズダカラ
(委員長)
債權者ト云フモノハ一家ノ「ドロハミー」迄立入ルコトハ全體出來ルコトノアロウ筈ハナイ
(南部委員)
ソレデ然レドモ云々ガ必要ナノデス
(委員長)
全體「屬ス財產ノ權利ハ」ト云ヘバ宜シイガ總テノ權利ト云フガ惡イ
(渡委員)
若シ左樣ニスレバ第三項ハ要リマセヌ
(委員長)
イヤ、ソレハ要ルノデス第三項ノ一身ニ附着シテハナケレバナラン、之ハ子ヲ親ガ管理スルトキハ他人ガ行ツテモ承知シナイカラ、當然ダガ、一項ニ是非物權人權ヲ問ハズト云フコトヲ訴權許リニ掛ケテ其外ハ債務者ノ私權迄主張スルコトニナルト、債務者ニ屬ス、私權迄立入ルコトノ出來ルト云フハ酷イ書方ト思フ
(松岡委員)
ドンナニシテモ財產ヨリ外ハ行カレタノデシヨウ
(委員長)
左樣デスガ、此文章ヲ表カラ云フト、財產以外ノモノニ立入ルコトガ出來ルト思フ
(松岡委員)
上ヲ物權ト斯ノ如クシタカラ、財產ノミニナルカラシテ、第三項ハ支ガアルカナレバ差支ナイ、物權人權トナリ時ニ債務者ノ一身ニ屬スハ取除ケルカラ差支ハナイ
(委員長)
「物權人權ヲ問ハス」ヲ債權者ノ間ヘ這入ルカ、之ヲ除イテ仕舞ヘバ宜シイガ、舊ノ如クデハ宜シクナイ
(松岡委員)
舊ノ如クデハイケマセヌ
(栗塚報吿委員)
刪ル方ガ宜シイ
(村田委員)
刪ルナレバ宜シイ
(委員長)
刪ルガ宜シイ
(委員長)
刪ルガ多數ニナリマスカ
(鶴田委員)
代位ニ據ルハ債權者ニナル場合デスカ
(栗塚報吿委員)
代位ト云フノハ種々ナ講釋スルガ、權利者ガ多勢アツタトキ、裁判所ヘ代位ヲヤツテ置クト裁判所ハ詰リ三人債主ガ居レバ悉ク代表シテ仕舞フコトガ出來ルノデアリマス、負債者ニモ債主ニモ代ツテ訴ヘルト云フコトデ私ト甲某トアル、貴君ハ負債者デ、貴君ハ私ノ權利ヲ行フ方デ、甲某ト爭ヒニナリ貴君ハ債權者ノ一人デ參加シテ、私ヲ勝タセヨウト負カセヨウト、工夫デ出來マシヨウ、ソウシテ代位ノ法デ這入ルト、又三四人モ參加デ這入レルト云フノデス、ソレデ栗塚ガ負ケルカモ知レヌ、他ノ債主ヲ除ケテ、貴君ガ喧嘩ガ出來ル、其時ハ栗塚ヲモ皆代表シテ居ル、棄テ置クト再ビ此訴訟ハ出來ヌ、併シ裁判所ノ許可ヲ得ナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
勿論許可ヲ得ナケレバナラン
(松岡委員)
之ハ訴訟法ニ合ウ樣ニシタイガ、獨逸訴訟法ニハ代位ト云フコトハナイ樣デス、獨逸法ノ第二十四條ニ債務者ノ債權ヲ甲ガ行フコトガアル、之トハ違フガ、似テモノニナル、甲ト丙ノ貸金ガアルト云フヲ乙ガ入ルコトガアル
(南部委員)
アレトハ全ク違ヒマス
(松岡委員)
訴訟法ニハ純粋ノ代位ト云フノハナイト思フ
(村田委員)
ナクツテハナラント思フ
(松岡委員)
併シ極マツタノハナイ
(委員長)
訴訟法ニ入レルトシテ先キヘヤリマシヨウ
本案第一項「物權ト人權トヲ問ハス」十字ヲ刪リ他ハ報吿委員ノ修正案ニ決ス
第三百六十條朗讀ス
第三百六十條 右ノ反對ニテ債權者ハ自己ノ債務者ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ承諾シタル義務、抛棄及ヒ移付ノ效力ヲ受ク但ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ債權者ノ權利ノ詐害ニ於テ爲シタル所爲ハ此限ニ在ラス
 債務者其所爲ノ債權者ヲ害スルコトヲ知リテ自己ノ働方ヲ減シ又ハ自己ノ受方ヲ增シタルトキハ詐害アリトス〔第千百六十七條〕
(修正) 初項但ノ下「債務者其」ノ四字ヲ挿入ス
(栗塚報吿委員)
之ハ「アクシヨオーンボーリヤン」ト云フノデ羅馬ノ「ボーリウス」ト云フ人ノ發明シタ訴權ダソウデス
(淸岡委員)
債務者ガ承諾シタ義務抛棄ト云フハ如何ナル譯ケデスカ
(栗塚報吿委員)
私ハ貴君ノ負債者デ居テ、村田サンニ金ヲ借ルトカ、義務ヲヤルトカ、或ハ村田サンニ貸金ガアツタトカヲ抛棄スルト、私ノ家ヲ村田サンニ賣ルトカ云フコトハ債權者ハ仕方ガナイゾヨト云フノデ、前ハ債權者ヲ強メ、六十條ハ債務者ヲ強メタ方デ御座リマス、債務者モ斯ウ云フ權利ガアル、ソレハ債權者モ受ケナケレバナランゾヨ、債務ガ抵當ニナツテ居ルカラト云テモ、栗塚ハ貴君ニ金ヲ借リテ居ル以上ハ、權利ノ抛棄モ移付モ出來ヌト云フカモ知レヌガ、左樣デハナイゾヨ、ソレハ仕方ガナイ、各自ノ自由ダカラト云フノデス、但若シ權利ヲ詐害デシタトキハ往カヌゾヨト云フノデアリマス
(鶴田委員)
前條デハ何デモ取ル樣ニ云テ此所デハ當リ前ニナツテ仕舞ウノデスナ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
前ノハ未ダシナイ方、是ハ已ニ債務者ガシタ方デス
(尾崎委員)
ソレハ左樣デス
(淸岡委員)
是レヨリスルコトモアルダロウ
(尾崎委員)
今デモ箇樣ナコトヲシテ居ルコトガアル、併シソレハ詐害ダカラ往カヌガ、善意ナレバ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
債主ト負債者ノ間デハアリマセヌ、債務者ノシタ移付ハ債權モ仕方ガナイト云フノデアリマス
(鶴田委員)
移付ハオカシイ、義務ノ效力ハ抗拒スベカラズト云フノデシヨウ
(委員長)
ソウ云フノデス
(栗塚報吿委員)
私ト村田サンノコトハ貴君ハ受ケナケレバナラント云フノデス
(尾崎委員)
移付ノ效力ヲ受クハ惡ルイ
(委員長)
「移付ノ效力ヲ受ク」ハ何カ適當ノ文字ハナイカ
(鶴田委員)
處分スル樣ニ見ヘルナ
(村田委員)
詰リ否ト云フコトハ出來ヌノデス
(栗塚報吿委員)
「シユビール」デアリマスカラ、效力ヲ否ト云フコトハ出來マセヌノデス
(松岡委員)
地役ノ所ニモアルナ
(栗塚報吿委員)
地役ハ貴君ト私ノ間デスガ、此ハ左樣デナイ、私ガ貴君ニ金ヲ借リテアルガ、私ガ村田サンニヤツテモ仕方ガナイト云フノデス
(鶴田委員)
「ヲ受ク」ノ三字ヲ變ヘテ貰ヒ度イ
(尾崎委員)
「效力ヲ認要ス」デスカ
(村田委員)
ソレモオカシイ
(鶴田委員)
ドウコウハ言ヘヌト云フノダ
(尾崎委員)
一寸見テハ分リマセヌ
(栗塚報吿委員)
一寸見テハ分ラヌガ、能ク見テ分ラヌト云フノ外改メルコトハ出來マセヌ、修正ハ「但債務者」ト云フコトヲ入レマシタ
(渡委員)
「但債務者ノ承諾ヲ移付ノ效力ニ從屬ス」トシテハ如何カ
(淸岡委員)
承諾シタル他人トハ云ヘヌデシヨウ
(渡委員)
他人ニト云ハナケレバナランデシヨウ
(栗塚報吿委員)
效力ヲ受クハ何レニシテモ穩カナラヌ、元來契約ハ契約外ニ效力ハナイ旨意デアリマス
(渡委員)
受クト云フハ惡ルイ、翻譯ハ從ハナケレバナランコトダガ、受クト書イタハ餘リ上手デハナイ
(委員長)
「承ク」ト云フ字ニシ度イ
(鶴田委員)
「甘受」トシテハ如何
(松岡委員)
甘ジテハナイダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、否デ溜ラヌガ、仕方ガナイト云フノデ、心服デハアリマセヌ、詰リ喙ヲ容ルルコトハ出來ヌノデアリマス、義務抛棄及ビ移付ヲ爲ストモ小言ヲ云フベカラズデアリマス
(鶴田委員)
效力ニ抗拒スベカラズトカ、抵抗スベカラズトシテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
異議スベカラズデスカ
(村田委員)
咎ムルコトヲ得ズトシテハ何ウカ
(淸岡委員)
咎ムルコトガ出來ナケレバ受ケナケレバナラン
(松岡委員)
第三百六十五條ニ「合意ハ一般ニ契約者間及ヒ其承權人ニ對スルニアラサレハ效力ヲ有セス」云々トアリ之ハ當リ前デス、私ハ貴君ノ債務者ニセヨ、村田サンノスルコトハ貴君ハ何モ云ヘヌノデ、元來私ト村田サント二人ノ間ニ止マツテ居ル、貴君ハ構ハヌガ、之ヲ云フニハ及バヌ其コトデナイ、村田サンニ金ヲヤルハ貴樣負債主デアリナガラ不埒千萬ト云フコトハ出來マセヌ、若シ貴君ノ損害ニナツタラソレハ仕方ガナイノデス
(委員長)
裏カラ書ケバ、效力ニ對シ遺棄スルコトヲ得ズトカ、或ハ移付ノ效力ヲ認承ストヤルカ
(淸岡委員)
「得ス」トシテ宜シイ
(鶴田委員)
裏カラ書ク方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
設令腹ガ立トウトモ、苦シカロウトモ、咎メタカロウガ、默ツテ居ナケレバナラン
(鶴田委員)
默受ス、デスカ
(松岡委員)
全體云フト、但書以下ハ本體ニ立テ宜シイノデス
(栗塚報吿委員)
佛蘭西ハソウ書イテアリマスガ、ソレハ「ボアソナード」ガ撃ツテ居リマス、詐害ヲ本體ニ立テ居ル筋ハナイ、權利アリト書キ、併シ詐害ハ往カヌゾヨ、私ハ佛蘭西ノ惡ルイコトヲ直シタト云テ居リマス
(渡委員)
「ジユビー」ト云フ字ヲ書キ直シテ貰ツテ宜シイデシヨウ、此儘デハ六ケ敷イ
(栗塚報吿委員)
移付ノ效力ヲ受クハドウカ知ラヌ
(尾崎委員)
ソレ丈ケデ御座リマス、何ゾ宜シイ御考ヘハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
報吿委員デ旨ク練リ上ゲタノデアリマス
(委員長)
翻譯局デ話ヲシテ宜カロウ、舊案ニハ認容シトアリマスガ、認容シハ「默受ス」トカ「認承ス」トカシテハ何フカ
(鶴田委員)
私ハ裏カラ書イテ貰ヘバ宜シイト思フ
(委員長)
翻譯局デ相談シテ貰ツテ宜カロウ
(淸岡委員)
債務者ハ他人ノ爲メ承諾シタル義務云々ト前ノ譯ノ樣ニ「スベシ」トナルト宜シイ
(委員長)
「他人ニ對シ」トカ「第三者ニ對シ」トカシテハ如何
(栗塚報吿委員)
ソレハ無論見ヘルト云フノデス
(松岡委員)
多數ナラ仕方ガナイガ、承諾シタ我ニ向ツテ抛棄移付ヲ受ケル權ハナイ、全體上ノ條デハ債務者ノ任意ニ付テハ債權者ハ默ツテ居ナケレバナランゾヨト云フハ別デス
(渡委員)
此文章デ、效力ヲ受ケテハ分ラヌカラ、今ノ修正ノ樣ニ分カラセヨウト云フノデス
(渡委員)
兎ニ角之ハ一應調ベテ貰ヒ度イ
(委員長)
「他人ニ對シテ」トスルカ
(南部委員)
前ニ第三者トアリマスカラ、矢張リ「第三者ニ對シテ」トシテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
第三者ニ對シテトハ誰ガ承諾シタカナレバ先キノ債務者ト云フ積リデシヨウ
(鶴田委員)
先キノ債務者ガ第三者ニ對シテ義務ノ抛棄トナル
(栗塚報吿委員)
債務者ガ第三者ニ從フ、第三者ハ何カナレバ債權者ガ債務者ニ從フトナリマス
(委員長)
抛棄ト云ツタラ權利ノ外ナイカラ抛棄デ宜クハナイカ
(栗塚報吿委員)
承諾シタル抛棄、承諾シタル義務デ御座イマス
(委員長)
「アリエナシヨン」ノ外使ハナイノナラ宜シイ、抛棄ハ何時モ權利ヨリハ使ハヌト云フナラバ宜シイ、時々抛棄スルヲ得ト云フト外ノモノデモ抛棄スルヲ得ルカ
(南部委員)
義務移付トアリマスカラ移スコトモ同ジデシヨウ
(委員長)
移付ト抛棄ハ何時モ權利ノ移付權利ノ抛棄ト、皆サンガ御承知ニナレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
之ガ出マス以上ハ左樣ナロウトモ第三百七十二條抔ニモ登記セラレタル移付解除抔トアリマスカラ、移付デ、「アリエナシヨン」トバカリハ見マセヌ
(村田委員)
移付スベキアリ、スベカラザルモノアリ、初メニアリマスカラ分カラヌコトハナイ、精ハシク云フト、權利抛棄、效力移付ノ權利ト云ハナケレバナラン
(松岡委員)
詐害ニ於テ爲シタル所爲ハ詐害スル所爲ト何ガアリマス
(栗塚報吿委員)
詐害ト云タハ次ニ義解ガアリマス
(松岡委員)
詐害ノ所爲ト云テモ、法律ノ認ムル所ハ是レダトスレバ詐害スル所爲ハ詐害ニ於テ爲シタル所爲ト云テモ到底言ヒ詰メレバ詐害スル所爲ヨリハアリマセン
(栗塚報吿委員)
ソレニ違ヒナイガ、次ノ項ニ於テ詐害ハ如何ナルモノカト云フ位ニ一ノ名詞ガ出來テ居ルカラ此所デ明示シテ宜シイ
(淸岡委員)
「詐害ヲ爲スニ於テ」ガ宜シイ
(渡委員)
事柄ハ分テ居ル詐害デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「自己ノ働方ヲ減シ又ハ自己ノ受方ヲ增シタルトキハ詐害アリトス」ハ御分リニナリマシタカ
(委員長)
能ク分ル
(淸岡委員)
受方ヲ增スハ直接ニ受取增スト云フ樣ニ見ヘル
(鶴田委員)
受方ヲ增スハ借リ方ヲ增スノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
權利ヲ減シ義務ヲ增スト云フノデアリマス
(鶴田委員)
前ノ働方受方ヲ增スト云フノト同ジカ、又ハ違ヒマスカ
(村田委員)
同ジデアリマス
(松岡委員)
之レハ宜シイ
(尾崎委員)
此條ハ異議ハアリマセン
(委員長)
宜ケレバ先キヘ參リマス
本條ハ第一項「自己ノ債務者」ノ下ニ「カ第三者ニ對シ」ノ七字ヲ挿入シ他ハ報吿委員ノ修正案ノ如クニ決ス
第三百六十一條朗讀ス
第三百六十一條 債權者ノヽヽヽヽヽヽヽヽヽ詐害ニ於テ爲シタル所爲ノ取消ハ次條ニ記載シタル區別ニ從ヒ債務者ト約定シタル者ニ對シ又轉得者ニ對スヘキトキハ之ニ對シ債權者ノ方ヨリ廢罷訴權ニ依テ裁判所ニヽヽヽヽヽヽヽ請求セラル
 若シ債務者カ詐害ノ意ヲ以テ被吿トシテ敗訴シ又ハ原吿トシテ請求ヲ却下セラレタルトキハ債權者ハ民事訴訟法ニ遵ヒ第三者故障ニ依テ訴フ
 如何ナル場合ニ於テモ債務者ヲ訴訟ニ參カラシムルコトヲ要ス若シヽヽヽヽヽヽヽヽヽ所爲ノ廢罷カ其儘ニ被吿ヨリ得ラルヽコトヲ得サルトキハ被吿ハ債權者ニ對シ損害賠償ヲ言渡サル
(修正) 初項一行債權者ノ下「權利」ノ二字ヲ挿入シ三行目又ノ下「ハ」ノ一字ヲ加ヘ對ノ下「スヘキトキハ之ニ對シ」ノ九字ヲ刪リ「シ」ノ一字ヲ加ヘ四行目者ノ下「ノ方」ノ二字ヲ刪リ所ニノ下「之ヲ」ノ二字ヲ挿入シ求ノ下「セラル」ノ三字ヲ刪リ「ス」ノ一字ヲ挿入ス同條二項一行吿ノ下「トシ」ノ二字ヲ刪リ「ニ」ノ一字ヲ加ヘ二行目吿ノ下「トシ」ノ二字ヲ刪リ「ニ」ノ一字ヲ加ヘ三行目障ノ下「ノ方法」ノ三字ヲ加フ同條三項參ノ下「加セ」ノ二字ヲ加ヘ「カラ」ノ二字ヲ刪ル同條「若シ」ノ二字ヲ刪リ「被吿人ヨリ」ノ五字ヲ挿入シ二ノ下「得ル能ハサルトキハ」ノ八字ヲ挿入シ「被吿ヨリ得ラルルコトヲ得サルトキハ」ノ十五字ヲ刪リ償ノ下「ヲ」ヲ「ノ」ニ改メ渡ノ下「サル」ノ二字ヲ刪リ「ヲ受ク」ノ三字ヲ挿入ス
(栗塚報吿委員)
修正ガアリマス
(松岡委員)
詐害ハ權利ニ限リマスカ
(栗塚報吿委員)
限リマス
(松岡委員)
限ルナラバ要リマセン
(鶴田委員)
「其儘」ト云フノハ
(栗塚報吿委員)
之ハ歴史ガアツタノデ、初メハナカツタノデスガ、ソレヲ起案者ガ殊更ニ入レテ參ツタノデアリマス
(松岡委員)
廢罷ガ出來ルニハ相違ナイガ、何モナイ樣ニナツテハ詰ラヌカラ、其儘物ナラ物カラ受ケナケレバナラン
(委員長)
其儘ト云フハ物品ヲ買ヲウト云フ、其品物ガ惡ルイ品物カ何カデ、取消シテ其儘受取ルコトハ出來ヌ場合デアリマス故ニ損害賠償ヨリハ仕方ガナイ、損害金ヲ取タラ品ヲ取テモ宜シイト云フデシヨウ
(鶴田委員)
廢罷ハ出來ルガ物ヲ其儘得ルコトハ出來ヌノカ
(南部委員)
廢罷ガ其儘得ラルルノデス
(委員長)
此物ヲ買ヲウト云テ、煙草ト思フタニ干葉ダカラ廢罷シテ損害賠償デス
(南部委員)
次ノ者ガ知テヤリマシタ輾轉シテヤツタトキハ廢罷取還ヘスコトハ出來マセヌ
(委員長)
ソウ云フ場合モアロウ
(栗塚報吿委員)
詰リ品物ニナルノデス
(淸岡委員)
廢罷ハ出來テモ幾分カ疵ガ出來タノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
被吿カラ直チニト申テハ往カヌカ知ンガ、諸方ヘ往ツテ仕舞ヘバ仕方ガナイト、殊ニ被吿カラト云フ意味デアリマス
(委員長)
一項ハ無論デス
(松岡委員)
二項ハ
(南部委員)
訴訟法ニ依レバ双方ノ間ニ裁判ヲ受ケタ人デナクトモ、他ノ者デモ詐害ノアツタトキハ取消スコトガ出來ルト云フ處ヲ指シタノデス
(尾崎委員)
訴訟法ノ方ヘ通ズルカ
(南部委員)
通ズルノデス
(栗塚報吿委員)
詐害ト云フノハ貴君ニ賣ロウト云フモノヲ外ヘ賣タノデ、債權者ガ害スルコトヲシテ、働方ヲ減シタリ、受方ヲ增スコトガアリマスカ
(尾崎委員)
アリマストモ、相手取テ訴ヘル、ソレヨリハ簡便ダカラ
(委員長)
之ヲヤル爲メニ訴訟ガ多クナル、自分ガ取ロウト思ツタニ他人カラ取ラルルカラト云テ故障ヲ云フノダカラ
(栗塚報吿委員)
然カモ自分ニ來ルベキデナイノニデス、私ガ貴君ニ金ヲ借リテ、返ヘスノハ蒼蠅イカラシテ返ヘス金ハ百圓アルガ、何カ物ヲ買ヲウト云フトキ、相手ノ人モ知テ居ラナケレバナラン、債權者ノ詐害ニ於テ、ト云フノデ害スルコトヲ知テ居テスルカラ、知テ居レバデス
(委員長)
「其儘」ト云フ字ハ考ヘレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
之ハ箕作サンモ翻譯ニ苦シンデ問フテヤツタノデ、起案者ハ何ゼ入レタカ、如何ナル意味ニ譯シテ宜シイカト云フニ「廢罷其モノヲ」デ、日本語デ申セバ被吿カラ廢罷ヲ得ルコトハ出來マセントキハ廢罷ヲ求メ、且得ルコトハ出來マセヌ廢罷ニハナラヌガ「廢罷自ラヲ」ト云フニ譯セト云フカラ、其儘トシタノデアリマス
(村田委員)
其儘ト云フハ廢罷シテモ取ルコトハ出來マセン、其物ハ現ニ他ヘ往ツテ仕舞ツタト云フコトヲ多ク見ルノダカラ、其儘ト云フノダロウガ、此場合ハ金デバカリ償ハナケレバナランデシヨウ
(淸岡委員)
一寸考ヘルト「廢罷其儘」ト云フハ疵モ付カズソツクリ廢罷ガ出來ル、若シ廢罷ガ出來テモ、疵ガ出來タラ損害丈ケハ得ナケレバナラント云フ旨意ナラバ「其儘ニテ」デス
(南部委員)
左樣ナルノデス
(栗塚報吿委員)
廢罷ノ自ラ得ルコトハ出來マセヌトキハデ宜シイノデス
(淸岡委員)
左樣見テ宜シイダロウ
(渡委員)
宜シイ
(委員長)
宜ケレバ修正ニ決シテ先キヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第三百六十二條朗讀ス
第三百六十二條 攻擊セラレタル所爲ノ如何ヲ問ハス權利者ハ自己ノ債務者ノ詐害ノ證ヲ供スルコトヲ要ス其他有償名義ノ所爲ニ關シテハ債權者ハ債務者ト約定シ又ハ之ト訴訟セシ者ノ方ニ通牒又ハ詐害ノ關與アリタルコトヲ證スルコトヲ要ス
 移付ノ廢罷訴權ハ有償又ハ無償ノ名義ノ轉得者カ最初ノ得取者ト約定スルニ當リ債權者ニ對シテ行ハレタル詐害ヲ知リタルトキニアラサレハ其轉得者ニ對シテ之ヲ行フコトヲ得ス
(修正) 初項冒頭ニ「債權者ハ」ノ四字ヲ加ヘ撃ノ下「セラレタル」五字ヲ刪リ五行目謀ノ下「又ハ」ノ二字ヲ「卽チ」ノ二字ニ改ム同條末項三行目「行ハレ」ノ三字ヲ刪リ「爲シ」ノ二字ヲ挿入ス
(淸岡委員)
有償名義ハ債務者ト先キノ人ノ有償名義デ、債權者ノ方デハナイデシヨウネ
(南部委員)
左樣デス
(鶴田委員)
無償名義ナレバ詐害ニ係ラヌデモ宜シイノカ
(栗塚報吿委員)
知テ居ロウトモ、居ラヌトモ、ソンナコトハ構ハヌ、私ガ人ニ金ヲヤツタト云フトキハ村田サンハ知ラナイデモ只取ラルルノデアリマシテ、故ニ滅多ニ物ヲ貰フコトハ出來マセヌ、呉レタ者ハ宜シクナイ、取戻サルルモノト思ハナケレバナラン、栗塚ガ呉レルト能ク聞イテ見ナケレバナラン
(淸岡委員)
攻撃スルノ所爲ハ請求スルトカ、方法ニ依ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
攻撃スルノ所爲ハ、是レカラ取消スト云フ所爲デアリマス、賣買カ贈與カ何カ知ラヌガ、所爲卽チ債權者カラ攻撃スル債務者ノ所爲デアリマス
(尾崎委員)
有償無償ヲ兼ネテカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、賣買ニモセヨ債務者ニ私ノ權利ヲ詐害スルコトヲ債權者ハ證據立テナケレバナラン
(松岡委員)
證據法モ極メテアルノデ、自ラ無資力ト知タラ、何時モ詐害アツタコトト見テ居ルノデス
(委員長)
之ハ矢張「セラレタル」ガ宜シイデハナイカ
(栗塚報吿委員)
債權者ヲ冒頭ニ出セバ宜シイ、債務者ノ所爲ニシテ債權者ニ攻撃セラレタル意味デアリマスカラ、債權者ヨリ債務者ニ向ケラレタルノデアリマス、卽チ所爲ハ誰カナレバ債權者ノ所爲デハナイ
(委員長)
「債權者攻撃シタル所爲如何ヲ問ハス」トシナケレバナランデシヨウ
(栗塚報吿委員)
「攻撃セラレタル所爲如何ヲ問ハス」デハ、誰ガ攻撃スルノカ分リマセヌ、卽チ攻撃スル所爲ハ誰カナレバ矢張リ債務者ノ所爲ト云フノデアリマス
(尾崎委員)
攻撃スル方法手段デスカラ「手段」トシテハ如何
(委員長)
攻撃スルト云フ所爲トハ云ヘヌ、債權者ノ所爲ト見ルノダロウ
(栗塚報吿委員)
債權者ガ攻撃スルノデス
(委員長)
誰ノ所爲カ
(栗塚報吿委員)
債務者ノ所爲デス
(委員長)
所爲ハ誰カナレバ、矢張リ債權者ガスルト見ヘルカラ
(南部委員)
「債權者攻撃セラレタル」ト云フト「セラレタル」ハ是非債權者ノ下ハ行カナケレバナラン、左モナイト債權者ガ攻撃セラレタルニナリマスカラ
(尾崎委員)
債權者ヲ除ケタラ宜シイダロウ
(南部委員)
只攻撃セラレタルデハ變ニナル
(栗塚報吿委員)
「債務者ノ所爲如何ヲ問ハス」トシテモ宜シイノデス
(松岡委員)
ソレデモ工合ガ惡ルイ、債務者ノ字ハ書カシテ下ノヲ刪ツテ宜シイ
(南部委員)
下ハ矢張リ必要デアリマス
(淸岡委員)
附會シテ讀メバ分ル
(栗塚報吿委員)
「攻撃スル債務者ノ所爲ノ如何ヲ問ハス」ト入レテ宜シイ
(南部委員)
之デ分ルデシヨウ
(委員長)
債務者ノ所爲ト見ナケレバナランカラ、「セラレタル」ガ宜シイ樣デス
(栗塚報吿委員)
ソレナレバ元トノ方ガ宜シイ
(松岡委員)
原トノ通リト云フハ「債權者」ノ文字ナンデンカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(尾崎委員)
自己ノ債務者ト云フハ宜カロウ
(淸岡委員)
債務者ヲ攻撃シテモ宜シイデハナイカ、所爲ヲ攻撃スレバ自カラ左樣ナルノダカラ、關係シテナランコトハナイ
(松岡委員)
「攻撃スル所爲ノ如何ヲ問ハス」デ宜シイノデス
(淸岡委員)
修正ノ通リニシヨウ
(南部委員)
贊成
(渡委員)
「攻撃セラルル所爲ノ如何ヲ問ハス」デ宜カロウ
(委員長)
前ノ樣ニ變ヘレバ「自己ノ債務者」ト入レテ宜シイト思フ
(渡委員)
報吿委員ノ修正ヨリモ、原案ノ方ガ宜シイ
(鶴田委員)
私ハ修正ガ宜シイト思ヒマス
(委員長)
ソレデハ多數ニ依リ修正ニ決シテ二項ハ如何デスカ
(村田委員)
是レモ之レデ宜シイ
(栗塚報吿委員)
隨分八釜敷イ訴訟デス、證據ノ擧ゲ方ハ六ケ敷イ
(村田委員)
六ケ敷イガ之モシナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
此條デ詐偽者ハ平降スルデシヨウ
(委員長)
栗塚、之ハ「卽チ」ニ相違ナイカ
(栗塚報吿委員)
相違御座イマセン、日本デ「若クハ」ト云フトキハ「又ハ」トハ違ヒマス
(村田委員)
同ジデス刑法抔ハ同ジデス、只重ナルノヲ嫌ツテ「又ハ」ヲ「若クハ」ト云テ居リマス
(委員長)
之ハ何所迄モ轉得ハ出來ルカ
(村田委員)
知テ居レバ出來マス
(委員長)
私ガ少シク考ヘテ見ルニ、最初得取者ト債權者ガ約シテ詐害ガアツタナレバ、五番目、八番目ノ者ハ取上ゲラルルガ、其中間ノ者ハ如何カ知ラン
(南部委員)
中斷シマスカラ
(委員長)
中斷スルト取上ゲラレナイノデスカ
(南部委員)
左樣デス
(委員長)
續テ行ケバドウデス
(南部委員)
甲ガ得テ乙丙ハ共ニ承知シテ得取スレバ丙迄出來ル
(委員長)
スルト知ラヌ者ガ間ニ在タトキハ、損害賠償デ跡ハ切レテ仕舞ヒマスカ
(南部委員)
左樣デス
(村田委員)
同人ナレバ別デスカ、續テ行カルルハ卽チ人權ニナツテ仕舞フ
(南部委員)
二番目デモ知ラヌトキハ出來マセン
(委員長)
例ヘバ煙草ヲ買ヒ此煙草ヲ貴君ガ買ツタノデ栗塚ヲ欺イテ買ツタコトハ私ハ知テ居ルケレドモ、私ト貴君ノ取引ハ當リ前ノ取引デヤツタノデ、ソレデモ私ハ取消サルルノデシヨウ
(南部委員)
取消サナケレバナラン、何ゼナレバ前ノ抛棄ニナルカラ債權者自己ノ詐害ニ供セバ宜シイノデスカ、詐害ノ證ガ出マセヌ
(委員長)
私ハ知テ居ルノデス
(南部委員)
知テ居レバ無論取消サルル
(委員長)
栗塚ヲ貴君ガ欺イタコトハ私ハ知テ居ルガ、貴君トノ取引ハ正當デス
(南部委員)
知テ居ルカラ往カヌノデス
(鶴田委員)
品ノ原因ヲ知テ居ルカラ往カヌ
(委員長)
宜シケレバ修正ニ決シテ是レデ食事ニ致シマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正案ニ可決ス
(委員長)
ヤリマシヨウ
第三百六十三條朗讀ス
第三百六十三條 廢罷ハ債權者ノ中ニテ詐害所爲ノ以前ニ權利ヲ得タル者ニアラサレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス然レトモ廢罷カ得ラレタルトキハ其廢罷ハ區別ナク總テノ債權者ヲ利ス但其債權者ノ間ニ於テ優先ノ適法ノ原由存スルトキハ此限ニ在ラス
(修正) 三行目罷ノ下「カ」ヲ「ヲ」ニ改メ得ノ下「ラレタル」ノ四字ヲ刪リ「タル」ノ二字ヲ挿入シ四行目「ニ」ヲ「ヲ」ニ改ム
(栗塚報吿委員)
此内修正文デハ御座イマセンガ「廢罷ヲ得タルトキハ」ニ直リマス「總テノ權利者ヲ利ス」ト直リマス、此所ハ此通リデ御分リデシヨウ、優先ト云フハ、書入質權ガアルトカ、又ハ抵當トカ、質取主質取權迄失フノデハナイ、ケレドモ私ノ債主ハ鶴田サン、松岡サン、南部サントアツタトキハ私ノ債主ニハ相違ナイガ、併シナガラ私ハ一月ニ松岡サンノ金ヲ借リタトカ、權利ヲ抛棄シタトカ、家ヲ賣ツタトキガアツタナレバ、跡デ假令バ南部サンハ私ノ債主ナレバ廢罷ヲ、一月ノ所爲ヲ訴ヘルコトハ出來マセヌ
(鶴田委員)
之ハ分ツタ話デ、言ハヌデモ宜シイナ
(栗塚報吿委員)
「然レトモ」カラハ云ハナケレバナラン、南部サンハ跡デ栗塚ノ債主ニナツタガ、其南部サンニモ廢罷スレバ利益ガアルゾヨ、但其中四人債主ノ並ンダトキ、先取權ガアルトカ、質取主トカ云フコトハ此限ニ在ラズト云フノデス
(淸岡委員)
誠ニ結構デス
(栗塚報吿委員)
所爲ノ以前ニ權利ヲ得タルモノニアラザレバ畢竟訴ヘルコトハ出來マセヌガ、先ノ人ガ得タル利益ヲ得ラルルト云フ特別ノ優先ノ原由アレバ往カヌノデス
(鶴田委員)
分リマシタ
(委員長)
自分ニ權利ノナイ者デスカ
(栗塚報吿委員)
權利ハアルノデスガ、以前ニ權利ヲ得タノデナイ、以後ニ得タモノハ利益ヲ得ラレナイノデス
(淸岡委員)
之ハ仕樣ガナイ
(松岡委員)
廢罷ノ請求デスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、詰リ訴ヘト書キタイガ、「ドマンデー」ト云フ字デ「請求」デアリマス、請求ト云フハ訴ヘルト云フ意味デ御座イマス
(委員長)
宜クバ先キヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ可決ス
第三百六十四條朗讀ス
第三百六十四條 廢罷訴權ハ詐害ノ所爲アリタル時ヨリ三十年ヲ經過スルニ因テ時效ニ係ル然レトモ其廢罷訴權ハ債權者カ詐害ヲ發見シタル當時ヨリ起算シテ二年ニ短縮セラル
 右ト同一ノ規定ハ第三者故障ニ適用セラル
(修正) 初項スルノ下「ニ因テ」ノ三字ヲ刪リ「トキハ」ノ三字ヲ挿入シ「係ル」ノ二字ヲ刪リ「因リ之ヲ失フ」ノ六字ヲ挿入シトモノ下「其廢罷訴權ハ」ノ六字ヲ刪リ、ルノ下「トキハ其廢罷訴權ハ發見」ノ十一字ヲ挿入シ、リノ下「起算シテ」ノ四字ヲ刪リ短ノ上ニ「之ヲ」ノ二字ヲ加ヘ縮ノ下「セラレ」ノ三字ヲ刪リ「ス」ノ一字ヲ挿入ス同條末項適ノ上ニ「之ヲ」ノ二字ヲ加ヘ用ノ下「セラル」ノ三字ヲ刪リ「ス」ノ一字ヲ挿入ス第二則冒頭「合意ノ」ノ三字ヲ刪リ效ノ上「合意ノ」ノ三字ヲ加フ
(村田委員)
「二年」ハ「一年」ノ間違ヒデシヨウ
(南部委員)
「二年」デアリマス
(栗塚報吿委員)
伊太利ハ五年デアリマス
(淸岡委員)
三年ニシテモ、五年ニシテモ、其間ニ言ヘバ宜シイ、五年ニシタカラト云テモ、其間ニ言ハレナイコトハナイ
(栗塚報吿委員)
ケレドモ人ガ迷惑致シマスカラ、此所ハ二年經テ言ハヌ、ソレハ往カヌノデス
(松岡委員)
知タ以上ハ早クサセルガ宜シイ
(南部委員)
取消無效ハ五年デス
(栗塚報吿委員)
此所ヲ二年ニシタハ報吿委員デシタノデハナイ、起案者ガ一年デモ二年デモ宜シイトシタノデス
(尾崎委員)
起案者ハ十年デアリマスゼ
(南部委員)
起案者ガ改メタノデス
(栗塚報吿委員)
元來起案者ハ一年デモ宜シイト云テ居ルノデス
(尾崎委員)
五年デ宜サソウデス
(淸岡委員)
五年位ガ宜シイ
(松岡委員)
併シナガラ非常攻撃法ト云フ位ノモノデ分散ノトキデモ獨逸抔ハ二年デス
(栗塚報吿委員)
家資分散ノトキ時效ハ六ケ月ト思フ、當リ前ノ所トハ違ウ
(南部委員)
家資分散ト匹敵ハ出來マセンデシヨウ
(淸岡委員)
但三十年ノ時效ヲ持タセルカラ五年位デ宜シイダロウ
(松岡委員)
村田サンハ私ト共謀シテ、貴君ノ財產ヲ取タノデモナイカラ金ヲ返ヘス代リニ、金ヲ返ヘサヌデ、爲メニ家ヲ賣タノデアリマスカラ、財產ヲ藏匿シタ場合デアリマスカラ、恰モソレデ債主ガ損ヲ受クル、其コトヲ知タ以上ハ二年位ニ訴ヘラルル
(尾崎委員)
先ノ者ハ千圓ノ物ヲ百圓デ取テ居ルノダカラ、此レハ三十年モ經タナケレバ己レノモノニナラント通謀モアリ
(栗塚報吿委員)
知ラヌデ居レバ三十年、知タ以上ハ二年ノ間ニ訴ヘルノデス
(尾崎委員)
ソレハ短イ、彼レ是レシテ居ル中ニ二年位經テ仕舞ヒマス
(南部委員)
二年ハ餘リ減縮シ過ギル
(栗塚報吿委員)
ソレデナクトモ債權者其人ハ訴ヘ度イノダカラ、二年モ待タラ澤山デシヨウ
(淸岡委員)
無理ニ訴ヲ促ス樣ナコトヲシナイデモ示談モアリマス
(松岡委員)
左樣云ヘバ期滿免除モ何モイラヌ
(南部委員)
ソレハ極點ヲ云フノデ、二年ニスル理由ハナイ、況ンヤ取消シ訴權ハ卽チ五年ダカラ
(栗塚報吿委員)
急グ譯デハアリマセンガ、起案者ガ改メテ來タカラ、其方ガ宜カロウト云フノデス
(南部委員)
改メタノデモ佛ニ依ツタノデモ伊太利ニ依ツタノデモナイ、日本カラ云フト期限ハ長クナケレバナラン、且又人モ開ケテ居ルカラ長イガ宜シイ、却テ之ヲ縮メル理由ハ出マセヌ、十年ハ餘リ長過ギルダロウカラ五年ガ宜シイ
(渡委員)
知タ當時カラ二年ト云フノダカラ
(栗塚報吿委員)
立法上カラ云フト、一年デモ宜シイ、成丈ケ短イ方ガ宜シイ
(渡委員)
「ボアソナード」ガ二年トシタニ五年トスル理由ハナイ、知ツタ時カラ起算シテ二年ト云ヘバ交通不便デモ、人民ガ開ケヌデモ權利ニ關係スルカラ等閑ニスルコトハナイ
(尾崎委員)
貧乏人ハソウ云フモノデハナイ、是レカラ先キハ長クシテモ害ハナイ
(村田委員)
二年ハ些ト短イ
(栗塚報吿委員)
權利ノ上ハ、長イ間不確カニシテハ往カヌノデアリマス
(委員長)
債權者ノ怠ラセナイ樣ニ云フノダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(村田委員)
三年位ニシテハ如何デスカ
(鶴田委員)
之デモ宜シイ
(松岡委員)
商業抔ハ一年デモ宜シイ
(南部委員)
民法ダカラ商業バカリデハナイ
(松岡委員)
勿論左樣デスガ、多クノモノハ商業ニアルノデス
(南部委員)
交通不便ノトキハ期限ハ成丈ケ長クスル理由ハ從デアリマス
(松岡委員)
日本ニハ當リ前ノ貸金ハ五年、短イノハ期滿免除ハ六ケ月デシヨウ
(南部委員)
期滿免除トハ違イマス
(松岡委員)
二年ニ短縮スルハ時效ヲ短クスル、卽チ期滿免除デ、外ノコトデハアリマセン
(委員長)
二年デモ、五年デモ、何レデモ多數ニ依テ極メマシヨウ
(南部委員)
私ハ五年ニシタイ、少數ナレバ仕方ガナイ
(尾崎委員)
五年ガ宜シイ
(鶴田委員)
五年ヲ贊成
(松岡委員)
宜シイ
(村田委員)
私ハ三年
(渡委員)
私ハ二年
(委員長)
二年ノ說ガ三人、五年ノ說ガ三人ダカラ私ガ極メマスガ私ハ原案ノ通リニ致シマス、之ハ一體ノ手續サヘシテ置ケバ宜シイノデス、先キヘヤリマシヨウ
本案ハ報吿委員ノ修正案ノ如ク可決ス
第三百六十五條朗讀ス
 第二則 合意ノ第三者ニ對スル效力
第三百六十五條 合意ハ一般ニ契約者間及ヒ其承權人ニ對スルニアラサレハ效力ヲ有セス又合意ハ法律ニ定メタル場合ニ於テシ且法律ニ定メタル條件ニ從フニアラサレハ第三者ニ利セス又之ニ對抗スルコトヲ得ス〔第千百六十五條〕
(修正) 五行目者ノ下「ニ」ヲ「ヲ」ニ改ム
(栗塚報吿委員)
修正ガアリマス、前ノ一則ト同ジニ表題ヲ「第三者ニ對スル合意ノ效力」ト致シ、ソレカラ條中デハ「第三者ヲ利セス」ト致シマシタ
(淸岡委員)
承權人デスカ
(栗塚報吿委員)
皆承權人デ御座リマス
(鶴田委員)
承權人ハ第三者ニモ見ヘルカラ云タノデシヨウ、此所ハ相對間デシヨウ
(栗塚報吿委員)
當事者間ノ爲シタルモノニ對シテ、法律ガアリ、今度ハ爲シタルモノト承權人ト云フト、又一歩進ンデ來テ居ルノデス
(鶴田委員)
第三者ニ對スルハ合意ノ眞面目デ云テ、半分カラ先キハ合意ノ眞面目デシヨウ
(委員長)
承權人ハ第三者ノ如ク見ルノデシヨウ
(鶴田委員)
承權人ハ第三者デハアリマセン
(委員長)
ケレドモ第三者ノ位地ニ居ルモノト思フ
(鶴田委員)
承權人ハ左樣デハナイ樣ニ思フガ、第三者ニ對スル合意ノ效力ト云テ、又ト云フカラハ附ケタリデス
(栗塚報吿委員)
附ケタリハ往カヌノデス
(尾崎委員)
承權人ハ第三者トハ見ヘマセン
(松岡委員)
ソレハ見ラレナイ
(村田委員)
モノヲ買タ者モ承權人デアリマス
(松岡委員)
第三者ノコトハ第三百四十六條ノ場合ヲ云タノデ、「他人ノ利害ニ爲シタル要約ハ得益者云々ヲ指シタノデアリマス、而シテ契約ハ双方間ニト云タノデ鶴田サンノ云フ通リ、附ケタリト云ヒタイノデス、此所ヲ書イタハ、「何人モ他人ノ爲メニハ苦シメス」ト云フ格言デス
(栗塚報吿委員)
第三者ニ對スル合意ノ效力ハ、佛蘭西ニハ合意ハ契約者間ニアラザレハ效ヲ有セズ、又合意ハ第三ノ人ヲ害セズ、從テ千百二十一條ニ定メタ場合ニアラザレバ益セズトアリマス
(鶴田委員)
先キヲ言ヒタイ爲メニ又ハガアルノデ之ハ如何
(栗塚報吿委員)
此「又ハ」ハ文ノ續キヲ云フ爲メニ這入ツテ居ルノデアリマス
(鶴田委員)
之ニ對抗スルヲ得ズ、彼所ニモ又ハト這入テ居ル、此所ハ合意ハ第三者ニ對抗スルヲ得ズトアリマス
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
承權人ハ矢張リ契約者ト同ジク看做サルルヲ示シタモノト見ナケレバナラン
(鶴田委員)
前ニモ書イテアリマス
(栗塚報吿委員)
之ハ第三者ハ這入ラヌモノト御覽下サイ
(松岡委員)
詰リ書キ過ギタノデス、對抗スルト云フハ對抗スルヲ得ズダ、利スニハ對抗スルニナラヌ
(委員長)
法律ニ定メタ場合ニ於テスルニアラザレバ第三者ヲ利セズ、又デシヨウ
(栗塚報吿委員)
「又」デハアリマセン、法律ニ定メタ場合、「加フルニ」デ御座イマス
(委員長)
或ハ兩方、一方デモ行キハセンカ
(栗塚報吿委員)
法律ニ定メタ場合ハ必ラズ承權人ニ從フニアラザレバト云タガ、場合ニ從フトハ云ヘマセンカラ
(委員長)
兩方ナクテナランカ
(栗塚報吿委員)
兩方デアリマス、此所ハ第三者ヲ利セズ、又對抗スルヲ得ズ、但法律デ定メタ場合ハ此限ニアラズト云フハ宜シイノダガ、ソレデハ又萬一間違ウト往カヌカラト云フノデス
(委員長)
兩方ヘ掛ルト見ヘル
(鶴田委員)
法律ノ承權ト法律ノ場合ガ二ツアルカ
(栗塚報吿委員)
左樣デシヨウ
(委員長)
格別意見ガナケレバ先キヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ可決ス
第三百六十六條朗讀ス
第三百六十六條 然レトモ若シ一個ノ有體ノ動產カ異別ナル二人ト爲シタル二箇ノ與フルノ合意ノ目的タリシトキハ其二人中ニテ動產ノ現實ノ點有ヲ爲ス者ハ證書ノ日附ハ後ナリトモ優先トセラレテ其所有者タリ但其者カ自己ノ合意ヲ爲ス當時ニ於テ最初ノ移付ヲ知ラス且最初ノ合意ヲ爲シタル者ノ財產ヲ管理スルノ責任ナキコトヲ要ス〔第千百四十一條〕
 此條例ハ所持人式債權證書ニ適用スルコトヲ得
(修正) トモノ下「若シ」ノ二字ヲ刪リ「若シ一箇」ノ四字ヲ挿入シ四行目テノ下「動產ノ」三字ヲ刪リ現ノ下「實」ノ一字ヲ刪リ「ニ其」ノ二字ヲ挿入シ五行目トノ下「セラレテ」ノ四字ヲ刪リ「シテ」ノ二字ヲ挿入シ、タノ下「ル」ヲ「リ」ニ改ム同條末項「所持人式」ノ四字ヲ刪リ適ノ上「之ヲ」ノ二字ヲ加フ
(栗塚報吿委員)
「無記名債權證書」ト改メタイノデ御座イマス之ハ商法ニ澤山アルト思ヒマス
(委員長)
商法ニハ大槪「無記名」ダロウ、之ハ商法ノ決スル迄置イテハ如何カ
(鶴田委員)
之ハ講釋シテ貰ハヌデハ分リマセン
(栗塚報吿委員)
例ヘバ馬ヲ貴君ニモ、松岡サンニモ、賣タノデ、二人ニ二ツノ與フノ義務ヲ爲シタト云フトキハ馬ガ合意ノ目的ダカラ、二人ノ内現ニ馬ヲ持テ居ル者ハ所有者トナルト云フノデ、日附ハ殊ニ依ツタラ、貴君ガ先キカモ知レヌ、松岡サンハ跡カラ約束シタカモ知レヌガ、馬ヲ持ツテ居ル時分、卽チ合意スルトキニ栗塚ガ先キニ鶴田サンニ賣タト知テハ往カヌガ、知ラヌコトヲ要ス、且最初合意ヲシタトキニ、栗塚ノ後見人デモアレバ無論知レソウナ話デ、最初合意シタモノノ財產管理スルノ責任ナキコトヲ要ス、松岡サンガ後見人カ、又ハ財產管理人ナレバ所有者ニナレヌト云フノデアリマス
(鶴田委員)
一項ハ、「所有者カ一個ノ有體動物ヲ異別ナル二人ニ與フル合意ヲナシタルトキハ」トシテ如何カ
(栗塚報吿委員)
「若シ所有者カ一個ノ有體動產ヲ異別ナル二人ニ與フル二個ノ」ガデスカ
(松岡委員)
異別ナルト示シタカラ二個デモ一個デモ宜シイ
(村田委員)
二個ハ必要デアリマス
(松岡委員)
異別ナルト云ヘバ下ノ二個ハ云ハヌデモ宜シイ
(淸岡委員)
云ハヌデモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
實ハ報吿委員中デモ、「然レトモ若シ所有者カ一個ノ有體動產ヲ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的ト爲シタルトキハ」トヤツテモ見タノデアリマス
(尾崎委員)
其方ガ分ル
(渡委員)
分ル
(委員長)
二個ノ合意ハ宜カロウ
(鶴田委員)
但書以下ハ尙ホ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
何ヲ目的ト爲シタルカナレバ、動產ヲデシヨウ、目的ト爲シタルト云フハ「何々ヲ目的」ト云ハナケレバナラン、「ヲ」ト云フノハ「與フル」デ使ツテ仕舞ツタカラ二度ハ使ヘマセヌ
(南部委員)
私ハ左樣ニハ讀マヌ、「合意ノ目的ヲ爲シタル」デ宜シイ、ソレカラ跡ハ附ケ加ヘタカラ幾ラモ箇樣ナ文章ハアリマス
(栗塚報吿委員)
「若シ所有者カ一個ノ有體動產ヲ合意ノ目的ト爲シタル」ト云ハナケレバナランガ、左樣スルト異別ナル二人ニ與フルガ何カナレバ「ヲ」ノ格ヲ與ヘタノデアリマス
(淸岡委員)
私ハ一ツ困ルト云フノハ、二個ノ合ヲ爲スコトナクツテ仕舞フ、何ゼト云フニ字ヲ拵ヘナケレバナラン與フル合意ト爲シタバカリデハ往カヌ、合意ヲ爲シタコトハ見ヘマセヌ、合意ヲ爲シタト云フコトガナケレバナラン、下ノ爲シタルハ目的ト爲シタノダカラ、此ノ内合意ヲ爲シタ目的ハ卽チ動產デアルト爲スノ字ハナクナツタカラ分ツタ樣ダガ、理窟ヲ云フト不都合デス
(鶴田委員)
「有體物ヲ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的ト爲シタル」トスルカ
(栗塚報吿委員)
「然レトモ若シ所有者カ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ヲ爲ス一個ノ有體ノ動產ヲ其目的ト爲シタルトキハ」、トシテハ如何
(委員長)
與フルノ合意ト云フハ翻譯ハ宜シイカ
(栗塚報吿委員)
「若シ所有者カ二人ニ與フル二個ノ合意ヲ爲シ、一個ノ有體ノ動產ヲ其目的ト爲シタルトキハ」トシテハ如何
(淸岡委員)
ソレガ宜シイ
(南部委員)
ソレニ委ハシク云ハナクツトモ宜シイ、合意ノ目的ト云ヘバ分テ居リマス
(尾崎委員)
之デ宜シイデハナイカ
(栗塚報吿委員)
「然レトモ若シ所有者カ異別ナル二人ニ與フル合意ヲ爲シ一個ノ有體ノ動產ヲ其目的ト爲シタルトキハ」トシテハ如何デス、ソレナラバ淸岡サンノ旨意ニモ適ヒマシヨウ
(委員長)
紫ノ字ノ方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「然レトモ若シ一個ノ有體ノ動產カ所有者ヨリ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的タリシトキハ」トシテハ如何
(村田委員)
其方ガ分リ易イ
(渡委員)
目的トナリシトキハ何ガ目的デスカ
(栗塚報吿委員)
動產ガデス
(南部委員)
所有者ハ異別ナル二人ニ與フルハ何ヲ與フルノカ
(栗塚報吿委員)
與フルハ二人ノ合意デス
(南部委員)
二人ト云フハ何所ニアリマスカ
(栗塚報吿委員)
御尤モデス二人ト云フコトハ申セマセヌ
(松岡委員)
矢張、前ノ修正ガ宜シイ
(南部委員)
「異別ナル二人ニ與フル合意ノ目的」ト云ヘバ差支ナイ
(栗塚報吿委員)
矢張リ紫字ノ方ガ宜シイデシヨウ
(鶴田委員)
一ツカ二ツニ響クト云フノデス
(淸岡委員)
「若シ一個ノ有體ノ動產ハ二人ノ合意ノ目的タリシトキハ」トシテ宜シイ
(村田委員)
之ハ報吿委員デ今一應調ベテハ如何デスカ
(栗塚報吿委員)
御決シヲ願ヒマス、原案ノ儘ナレバ誠ニ宜シイ
(松岡委員)
「所有者一個ノ動產ヲ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的ト爲シタルトキハ」トシテハ如何カ
(栗塚報吿委員)
動產ヲ二人ト爲シタルハ分ラヌ樣ニナリマス
(尾崎委員)
朱書ハ、所有權ガ一個ノ有體ノ動產ヲ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的ト爲シタルトキハトナリマスカ
(尾崎委員)
左樣デス
(鶴田委員)
但書以下ハ移付、知ラズヲ要スト讀メマスネ
(栗塚報吿委員)
知ラズ管理スノ積リデス
(渡委員)
知ラザルコトデスカ
(栗塚報吿委員)
知ラザルコトヲ要スデアリマス
(松岡委員)
之デ分リマス
(鶴田委員)
「此條例ハ」ト書イタコトガアリマスカ
(栗塚報吿委員)
アリマス
(栗塚報吿委員)
動產ヲト云フ格ヲ二ツノ動詞ニ使ツタコトハ御考ヘヲ願ヒマス、ソンナコトハ決シテ和學風ニ云フノデハナイガ、西洋文日本文ニモ書ケヌト思フカラデス
(委員長)
先ヘヤリマシヨウ
本條第一項ハ左ノ如ク修正シ第二項「所持人式」ノ四字ハ商法ノ議決未定、「然レトモ若シ所有者カ一個ノ有體動產ヲ異別ナル二人ニ與フル二個ノ合意ノ目的ト爲シタルトキハ其二人中ニテ占有ヲ爲ス者ハ證書ノ日附ハ後ナリトモ優先トシテ其所有タリ但」以下原案ニ決ス
第三百六十七條朗讀ス
第三百六十七條 記名債權證書ノ讓渡ハ被讓債務者ニ合式ニ吿知セラレ又ハ被讓債務者カ公正證書若クハ確定日附ノ證書ヲ以テ其讓渡ヲ受諾シタル當時以後ニアラサレハ其讓受人ハ自己ノ權利ヲ以テ讓渡人ノ承權人又ハ被讓債務者ニ對抗スルコトヲ得ス〔第千六百六十五條〕
 被讓債務者ノ受諾ハ讓渡人ニ對抗スルコトヲ得ヘカリシ總テノ抗辨又ハ拒却ノ理由ヲ以テ讓受人ニ對抗スルコトヲ妨ク又讓渡ノ單純ナル吿知ハ被讓債務者ヲシテ其吿知後ニ生シタル抗辨ヲ失ハシムルノミ〔第千二百九十五條〕
 前記ノ所爲ノ一アルマテハ債務者ノ辨濟若クハ義務免除ノ合意又ハ讓渡人ノ債權者ヨリ爲シタル拂渡差留卽チ拂渡故障又ハ合式ニ吿知シ若クハ受諾セラレタル債權ノ新ナル得取ハ總テ善意ニテ爲サレタルモノト推定セラレ懈怠ナル讓受人ニ對抗セラルルコトヲ得〔第千六百九十一條〕
 當事者ノ惡意ハ其自白ニ因リ又ハ裁判所ニ於ケル宣誓ノ拒絕ニ因ルニアラサレハ證セラルヽコトヲ得ス然レトモ讓渡人ト共謀シタル詐害アリシトキハ其通謀ハ總テノ通常ノ證據方法ヲ以テ證明セラルヽコトヲ得
 裏書ノ方法ヲ以テスル商ヒ證券ノ讓渡ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ定ム
(修正) 第一項二行目吿ノ上「之ヲ」ノ二字ヲ加ヘ知ノ下「セラレ」ノ三字並ニ四行目ルノ下「當時」ノ二字ヲ刪リ同條三項ノ下「セラレ」ノ三字ヲ刪リ「シ」ノ一字ヲ挿入シ爲ノ下「サ」ノ一字ヲ刪リ「シ」ノ一字ヲ挿入シ抗ノ下「セラルル」ノ四字ヲ刪リ「スルコトヲ」ノ四字ヲ挿入ス
同條四項證ノ下「セラルル」ノ四字ヲ刪リ「スル」ノ二字ヲ挿入シ明ノ下「セラルル」ノ四字ヲ刪リ「スル」ノ二字ヲ挿入ス本項宣誓ノ得失如何ハ證據編ニ至リ意見ヲ提出スル見込ナルヲ以テ宣誓云々項ハ假リニ存シ置キタリ
(栗塚報吿委員)
「讓受」ハ「讓渡」トスル方ガ分ルカト思ヒマスガ、之ハ何レ直ス積リデアリマス
(委員長)
「記名債權」ハ商法ト同ジニシテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
左樣
(委員長)
「セラレタル」、ハ「シタル」トシテモ左程ノ違ヒハアリマセヌ
(栗塚報吿委員)
原文ノ意ハ違イマセヌ、推定セラレズ、ハ法律ガ推定セズモ、推定セラレズ、モ同ジト云フ、讓受人ニ對抗セラルルモ、對抗スモ同ジデ、拒絕ニ因ルニアラザレバヲ之ヲ證スルコトヲ得ズト云タモ同ジデ、證明セラルルコトヲ證セラルルヲ得、ト云フモ同ジデアリマス
(委員長)
セラルルト云フハ三人稱デ云フノト、直接ニ云フ丈ケノ違イ丈ケダカラ分ルナレバ、歐羅巴文ガセラルルナレバ此方モ「セラルル」ト書イテモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
私等ノ方デハ反對ニ思テ居リマス、原意ニ傷カヌナレバ日本人ニ分ル樣働キ掛ケニシマシタ、併シナガラ原意ヲ傷ケテハナラヌカラ設令平日使ハヌ言葉ニセヨ、報吿委員ノ領分デ致シマシタ
(委員長)
歐羅巴文ニ書クトキニ歐文ニナレバ宜イカラ、是非、「セラレ」ヲ「スル」ト云フ方ニ直シテ止ヲ得ヌ所丈ケ、「セラレ」ト書クト一昨日話タ裏ガ出テ來ルカラ
(鶴田委員)
分レバ此方ガ宜シイ
(委員長)
今度歐羅巴文ニ書クトキハドウスルカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ構ハヌト思フガ、受身ニ書クノト働キ掛ケニ書クノトハ違ヒマス日本ハ平日始終働キ掛ケニ書イテ居ル意味ヲ取違ヘルナレバ兎モ角モ、意味ノ違ハヌ以上ハ成丈ケ分ル樣ニ働キ掛ケニ書ク方ガ宜シイト云フノデ、萬一意味ヲ傷ケル樣ナコトハ「拂ハレ」、ト「受取ツタ」トハ意味ガ違ウト云フガ、箇樣ナ場合ガアレバ「拂ハレタリ」「受取タル」ト書クヨリモ「拂ハレタル」ト受身ニ書クノハ原文ガ受身ダカラデス、日本文ヲ受身ニスルト少シク違ウカラ原文ノ意味ヲ傷ハヌ以上ハ受身ト働キ掛ケノ區別ハ今日一般ノ使フ所デ「適用セラルル」ヲ「適用ス」ト致シマシタ
(委員長)
私ガ之ヲ云フハ三箇ノコトガアル、一ハ翻譯デ日本文カラ翻譯文ニ間違ヘ、一ハ翻譯者ガ何程歐羅巴文ヲ書クニセヨ、讀ムニモ間違イガアルカモ知レヌト思フカラ間違イノナイ樣ニ、ソレカラ「セラルル」、ハ少シノ違イデ反對ノ意味ヲ生ズルコトハナイカ知レヌガ、成リ丈ケ依タガ宜シイ、自在ニ左カラ書イテモ右カラ書イテモ宜シイナラ、ドウデモ書カルル論ガ出ル、元ト外國文ダカラ元トヲ知ラネバナラント思テ居ル、分ラヌ所ハ働キ掛ケデモ宜シイガ分ル所ハ成丈ケ向ウノ文ガ働キ掛ケナラ働キ掛ケニ書キ、受身ナレバ受身ニ書クト云フ樣ニ、成丈ケ原文ニ依ツタ方ガ宜シイト思フ
(南部委員)
ソコハ一昨日相談ニナリマシタカラ報吿委員カラハ其旨意ノ立ツ積リデ、私抔ノ意見ハ原文ニ差支ガナイナレバ「推定ス」ト書イテモ宜サソウニ思ヒマス
(委員長)
必ラズシモ左樣シナケレバナラント云フコトハナイガ、殊更ニヤラヌ方ガ宜シイ、ドウシテモ出來ナイ所ハ格別出來ル所ハ成丈ケ原文ニ依テ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
併シ第三百六十二條ニ「詐害ヲ知リタルトキニアラサレハ行フコトヲ得ス」トアル、原文ニハ「行ハルルコトヲ得ス」トアリマスカラ同ジデ、「廢罷訴權ハ轉得者ニ對シ行ハルルヲ得ス」ト、「行フヲ得ス」デハ分ラヌ「對抗セラルルコトヲ得ス」ヲ「對抗スルコトヲ得ス」デ意味ニ違イハアリマセヌ
(委員長)
意味ハ違ハヌガ「對抗セラルルコトヲ得」ガ宜カロウ「對抗セラルルコトヲ得」デハ此所デ分ラヌガ殊更ニ分ル處ヲ「セラルル」ヲ止メテ「スル」トシナケレバナラントナレバ無用ダカラ、分ラヌトキハ「スル」、ト云フコトニ直スガ宜シイ
(松岡委員)
働キ掛ケト、受身ヲ逐條其佛文ト並ベテ働キ掛ケノモノヲ受身ニ書クト、規則ヲ極メテ間違イハナイ
(委員長)
「セラルル」、ト「セラレ」デハ大變間違イヲ生ズルカラ成程讀ミ易イガ、一字ヲ改メタ爲メニ間違イヲ生ズルカラ餘程注意シナケレバナラン
(松岡委員)
「拂ハレタル」ハ受身ニ書ケバ「受取タル」デ、「拂ハレタル」ト書クベキダガ日本文デハ讀メヌカラ「受取タル」トスルノデ、「吿知セラレ」ハ「吿知ス」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
第三百五十七條ノ如キモ「第四百二條ニ規定セラレ」トアツタノヲ「規定ス」トシマシタ又第三百五十四條ノ終リノ如キモ「其例外云々事項ニ付キ之ヲ規定ス」、デ明日カラ私モ翻譯ニ列シマスカラヤリ樣モ分リマスカラ今日ノ修正ハ「當時」ト云フ字ヲ刪ル丈ケデ置キマスカラ左樣御心得下サイ
(委員長)
我輩ノ云フノハ翻譯者ガ出鱈目ニヤツタト云フ樣ニナラヌ樣、總テ何々スルト云フコトニ書クナレバ何所モ左樣スルナレバ、此度ノ翻譯ハコウスルト云フコトモ明言ガ出來ル、時アツテ受方ニ、或時ハ働キ掛ケニ書イテ原書ニ依テ云ハレテハ辯解ノ道ガナイ
(松岡委員)
願ハクバ始終原文ノ意味ニ違ハヌコトハ「セラルル」ハ「スル」ト云フコトニシタイ
(委員長)
出來サヘスレバ宜シイガ、或ハ間違イガアロウカト思フ、字ノ通リニ書ケバ間違ヘマイ、「スル」トカ「爲ス」トカスルト、時トシテ萬一間違ガ出來ヤアセンカト云フ恐レガアリマス貴君方ノ考ヘハ成丈ケ受身ニ皆書クガ宜シイト仰シヤルノデスカ
(栗塚報吿委員)
働キ掛ケニスルノデアリマス
(委員長)
「ボアソナード」ハ始終受身ニ書イテ居ル、貴君方ハ働キ掛ケニナサルコトガ出來ルナレバ宜シイガ、左樣ニハ行クマイ、時トシテハ受身ニ書カナケレバナランコトモアロウ、左樣スルト其間受身ニ書カナケレバナランコトハ少クテ働キ掛ケニ書クコトガ多クナルト、向フノ字ハ多ク變ヘナケレバナラン
(南部委員)
變ヘテモ分リ易イ方ガ宜シイ、旨意ハ失ハヌコトニ致シマス、必ラズ一定ニ改メラレナイガ、實ハ分リ易イノガ宜シイデシヨウ
(委員長)
貴君方ノ考ヘハ私ノ考ヘト反對シテ居ル、何ゼナレバ「セラルル」、ト「ラルル」トハ成丈ケ「ラルル」ヲ用ヒ、萬止ヲ得ザル場合ニ「スル」ト書クトスレバ變ヘルコトガ少イカラ原文ノ意ヲ害スルコトモ少イガ、若シ「ス」トヤルト誤リガ多イダロウ、翻譯ノ誤リガ出來ハセンカ、誤リハ少ヒ樣シタイカラ「ラルル」ヲ用ヒラルル丈ケハ用ヒテ、分ラヌ時ハ始メテ「スル」ト云フ方ヲ用ヒタイ反對ノ考ヘヲ持テ居リマス
(栗塚報吿委員)
申上ル迄ハ御座イマセンガ西洋デハ受身ハ始終「物」「人」ノ所デ書クノデ、相續ガ開カレタト云フガ如キ相續ト云テモ左樣デ、犬ガ彼ノ人ニ因テ撲タレタト云フガ如キ文章ノ格ガ起ルノデアリマス
(委員長)
文章ノ書方ハ若シモ三人稱ニシテ書カナケレバナラン場合ニ、二人稱ニシテ仕舞ツタコトガアツタラ如何カ、翻譯ノ誤リガアレバ爲メニ權利ト義務ガ變ツテ仕舞フカラ其誤リノ危險ヲ履マヌ樣ニシタイ
(栗塚報吿委員)
尤モナイトキハ仕方ガナイノデシヨウ、條件ニ從フ場合ニ於テ、必ズ法律ニ定メタ條件ニ從フハ條件ニ從フトアリマスソウシテ平日使フ言葉デ働キ掛ケニ書イテ意味ガ通ズルト云フノデス
(委員長)
使ヘヌ言葉デハナイカラ總テ働キ掛ケニ書クト云フコトナレバ私ハ構ハヌガ、時トシテハ受身ニ書クカラ
(栗塚報吿委員)
ソレハ萬止ヲ得ザルトキデス
(委員長)
總テ二人稱ニ書クト云フナレバ宜シイガ、時トシテハ三人稱ニ書クノナレバ危險ト思フ、要スルニ原案ガ三人稱ナレバ三人稱ニヤツテ、止ヲ得ザルトキ二人稱ニ書クトスレバ危險ノ度合ガ少イト思ヒマス
(松岡委員)
日本ノ言葉使ヒニ三人稱ノ言葉ガ起ルデシヨウカ
(栗塚報吿委員)
ナイト思ヒマス
(委員長)
一寸云フト、栗塚ノ家來ガ云フニ、私ノ旦那樣ハ如何ナサレマシタカト云フハ三人稱デナケレバナラン
(南部委員)
アレハ尊敬言葉デスカラ違イマス
(委員長)
書ケルナラ宜シイ、書イテハナラヌト云フノデハナイ
(松岡委員)
「ス」トヤツテ見マシテ、萬一差支ガアツタラ除クトシテハ如何デスカ
(委員長)
左樣ナレバソレデモ宜シイ、總テ歐羅巴デ三人稱ハ日本デ二人稱トスレバ間違ハナイ、三人稱ト二人稱ト區々ニアルト往カヌ、條約上抔ニハ箇樣ナ小サイ部分ニ何時モ議論ガアツテ、翻譯字ノ間違ヒカラ論ガ起ルノデアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
止ヲ得ザルトキ三人稱ニ譯スノデアリマス
(委員長)
「セラレ」デ分ラヌナレバ「規定ス」デモ宜シイ、左樣ニ極マツテ居レバ宜シイガ、時アツテ「規定ス」トシ又時アツテ「規定セラレ」ト書クト、日本文ヲ見テ向フノ文ニ書クハ六ケ敷カロウト云フノデス
(松岡委員)
先ヅヤツテ見テ宜シイデハアリマセンカ、ソレデ行キ詰ツタラ其時分降參シテモ宜シイ
(委員長)
其トキハ前ノヲ取回ヘシテ貰ハナケレバナラン
(南部委員)
何所迄モ一徹ニヤツテ「セラルル」ハ一言モ使ハヌノ旨意デスカ
(委員長)
時々使フコトナレバ歐羅巴文ニ三人稱ニ書クヲ主トシテ、萬止ヲ得ナイ場合ニ「何々ス」ト云フ方ノ文章ニシナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
「物カ引渡サレタル」云々ハ物ヲ引渡シタル場合ト書イテモ宜シイ、日本ノ格ニ「引渡サレタル」トハ云ヘヌト云フカラ左樣ナルトキハ直シマス
(委員長)
他日ノ困難ヲ恐レマス、法律ノ解釋ガ五人三人デスラ苦ムコトガアリマスカラ、若シ此先キ起草者ガ法律文ニ注意シテモ、翻譯者ガ權利義務ノ位地ヲ變ヘナケレバナランコトガアツテハナラヌ、ソレハ私ノ云フヨリハ其方ガ宜クバ甘ンジテ從フノデス
(栗塚報吿委員)
意味ガ何方モ同ジナレバ「セラレ」ヨリハ「ス」ノ方ガ聞ヘモ宜シイト云フノデス
(委員長)
何レニ依テモ宜イト思タナレバ宜シイガ、自分ニ左樣思テ居テモ豈計ラヌ、人々分ラヌコトモ澤山出ルカラ、爲スト云フノデアルニ「ナサレ」ト出ルカモ知レヌ原文ニ書ケバ箇樣ナコトハナカツタロウニト云ハレルカラ、起草者ガ誤タノナレバ仕方モナイケレドモ、翻譯者ガ旨意迄取違ヘテ人ヲ誤マラシテハ濟マヌカラ成丈ケ起草者ノ旨意ニ據ル丈ケハ依タ方ガ萬全ト思フノデス
(南部委員)
以前ノ所ハ報吿委員デハ分ラヌ所デナケレバ改メナイト云テ居リマス
(委員長)
箕作サンハ左樣ヤツテ居ルガ、栗塚ハ話ヲ間違ヘテ居ルノデハナイカ
(南部委員)
今聞キマシタラ違ヒテハ居リマセン
(松岡委員)
委員長ノ御氣遣ヒハ百ニ一間違イガアルカモ知レヌ、極論スレバ受身ニ書イタラ皆受ケ身ニシナケレバナラント云フデス
(南部委員)
報吿委員ノ方デハ翻譯局トノ關係ガアリマスカラ、原ノ儘ニシテ能々分ラヌ所丈ケ修正シテ出シマシヨウ、併シ此所ハ研究シテ「ラルル」ト云フヨリハ「スル」ト云フ方ガ宜シイト云フトキハ修正シテ宜シイダロウ
(栗塚報吿委員)
此所デ修正ナスツタラ大變デシヨウ何レガ宜シイカナレバ受身ニ書イテ宜クバ受身ニ書イテ宜クバ受身ニ書ク積リデアリマス
(委員長)
左樣ナレバ歐羅巴デ二人稱ノトキモ三人稱ヲ使テ、ソウ云フ場合ニハ却テ日本ニハ何々スト云フ字ニ書イテ行クト直接ニ二人稱ノミソウ書クト極マツテ「デフニーシヨニ」ガアレバ他日見テモ注意シテ見ルカラ、間違テモ文章ノ解シ方ガアル、一方ハ二人稱、一方ハ三人稱トスルハ據リ所ガナイト云ハレルガ殘念ダカラ
(松岡委員)
法律文デ二人稱ガアリマスカ
(栗塚報吿委員)
法律上ニ二人稱ハ御座イマセン、三人稱デ使イ方ヲデス假令バ栗塚ニ書物ヲ付シタト云フ、栗塚ノ書物ガ付サルルト云フハ三人稱デ、栗塚ガ書物ヲト云フ格ヲ取ルト、働キ動詞デ書物ヲ付ス、書物ガ付サルルデ、法律ニハ三人稱ホカ御座イマセヌ、三人稱ニシテモ「裏書ノ方法ヲ以テスル商ヒ證券ノ讓渡ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ定メラル」ト、何所デモ書クノデアリマス
(淸岡委員)
原文ニアル以上ハ間違ヘマセヌト、受合ウ者ガ出ナケレバナラン、ソレガナイ以上ハ往カヌ
(栗塚報吿委員)
受合ウコトハ出來マセヌガ、私ハ出來ルト思ヒマスガ、私ガ腹ヲ割テモ法律ノ間違ハ改メラルルモノデナイカラ
(渡委員)
此問題ハ此席デ御定メハ出來マセヌト思ヒマス
(淸岡委員)
萬一ニモ百三ニモ間違テハナラヌカラ、成丈ケ日本人ニ解シ易キ樣ニ書クト云フコトニスルカ、或ハ萬一ニモ間違ヘナイト云フ譯ニナレバ總テ三人稱ニ書クカデス
(栗塚報吿委員)
御許シニナレバ宜シイガ、成丈ケ受身ニ書ケルナレバ受身ニ書キ、併シナガラ意味ガ間違テハナラヌカラ、「規則ハ商法ヲ以テ之ヲ定ム」ト御許シガ出レバ「物カ引渡サレ」抔ト云フノモ「引渡シ」ト書クカナレバ彼レハ意味ガ同ジダカラト答フルヨリ外ハアリマセヌ、一徹ニ皆何所モト云ハレルト恐レガアリマス
(委員長)
君等ガ先ヅ十日ナリ二十日ナリヤツテ見ルガ宜シイ、愈愈出來ルカ否ヤガ分ルダロウ、私ハドウシテモ成丈ケ原文ノ儘ニシナケレバナラント思フ
(南部委員)
翻譯局ト報吿委員トノ相談ガ調フカ、左樣デナケレバ委員長ノ命デナケレバ一定シ難イト思ヒマス
(松岡委員)
一二直シテモ責任ヲ負ハナケレバナランカラ、直スナレバ何所迄モ直ス積リデナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
今日丈ケハ修正ノ儘デ願ヒマス
(渡委員)
今日ハ此儘デ宜シイデシヨウ
(委員長)
出鱈目ニヤツテハ往カヌ、ヤレバ一徹ニシナケレバナラン「ラレ」トヤツタリ、「ス」トヤツタリシテハ往カヌ、ヤルナレバ悉皆二人稱ニシナケレバナラン、日本文デ無茶苦茶ニ法律文ヲ書クベキデハアリマスマイ
(栗塚報吿委員)
其所デ今日迄出來マシタモノカ御分リニナルカ否デ御座イマス
(委員長)
事柄ハ分ルカ、直シテ來テ、此方ニハ必ラズ分ラヌカラ直シタノデハナイ、「ラレ」トアレバ、「ス」ト書キ分ラレヌデモナイ、皆ナ直シタト見ヘルカラ、ソレデハ理由ガナイ、ソレナレバ一切動詞ヲ直スナレバ宜シイ、左モナケレバ出鱈目ニナルカラ
(栗塚報吿委員)
我々モ一致ニシタイノデスガ、必ラズ何所デモ貫カナケレバナラント云フナレバ此儘デ宜シイデシヨウ、何所デモト云フハ受合ヘマセヌ
(委員長)
佛文デハ大槪三人稱ダカラ日本文デ「ラレ」デモ分ル
(村田委員)
本條一項ハ「記名債權ノ讓受人ハ」デナケレバナランデシヨウカ
(南部委員)
「讓リ受」ガデアリマス
(栗塚報吿委員)
證書讓渡ト云フモノハ被讓債務者ニ對抗スルコトヲ得ズ斯ク々々シタニアラザレバト云フノデ、吿知シタ後デナケレバ對抗ハ出來マセヌ
(村田委員)
債務者ニ通知シナケレバ往カヌト、若シソレヲ言ハナケレバ讓渡人ニ買フカ知レヌ
(鶴田委員)
被讓債務者ト云フハ讓タ人デハナイ
(南部委員)
證書ノ負債者デアリマス
(栗塚報吿委員)
「記名債權證書讓渡ハ被讓債務者ノ合式ニ之ヲ吿知シ又ハ其讓受人ハ自己ノ權利ヲ以テ讓渡人ノ承權人又ハ被讓債務者ニ對抗スルコトヲ得ス」デス
(松岡委員)
是カラ名ヲ拵エルナラ何ゾ宜シイ名ハナイカ、讓、被讓、賣、被賣ト云フ二人ノ樣ダガ
(栗塚報吿委員)
ケレドモ此所ハ三人デアリマス
(淸岡委員)
被讓人自己ノ讓受人ト書イテアリマス
(栗塚報吿委員)
私ガ松岡サンニ對スル債權ヲ淸岡サンニ讓ルト、淸岡サンハ讓受人、栗塚ハ讓渡人、松岡サンハ被讓債務者デ御座イマス
(松岡委員)
之ヲ置キマスカ
(委員長)
「讓渡」ハデスカ
(淸岡委員)
「讓渡ヲ被讓債務者ニ合式ニ吿知シ」トスレバ宜シイ
(南部委員)
「讓渡ハ」ト改メマス
(栗塚報吿委員)
「護渡カ」デシヨウ
(松岡委員)
「カ」ト云フタラ、「セラレ」デナケレバナラン
(村田委員)
誰ガ吿知スルカ、人ガ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
原文ヲ直譯スルト、吿知セラレ、又ハ被讓債務者ガ公正證書、若クハ確定日附ノ證書ヲ以テ受諾セラレタル以後ニアラザレバトアリマス
(南部委員)
吿知シテ宜シイダロウ
(委員長)
之ハ法式ニ吿知シト今ノ論デハナイ、吿知シト云フト何所カラ吿知スルカト云フト、他人ニ對シテ云フノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
讓渡人カラスルコトハドウデモ、被讓債務者ニ知レサヘスレバ宜シイ旨意デアリマス
(鶴田委員)
「讓渡カ」ト云フト、讓渡人カラシ「讓渡人ハ」ト云フト讓渡人ガスル樣ニ見ヘルカラ
(村田委員)
「之ヲ」ト云フ字ガ惡イノデス
(栗塚報吿委員)
讓受ト云フ字ハ必ラズ渡ト云フ字ニナル
(委員長)
分ルコトハ分ル
(村田委員)
「吿知セラレ」ガ宜クハナイカ
(松岡委員)
ソレハ村田サン一人デアリマスゼ
(鶴田委員)
本統ノ債務者ハ抵抗スルコトハナイカ
(淸岡委員)
讓ラントホカ思ハレナイ
(渡委員)
「被讓」ハ、原被ノ「被」ノ字デハナイ
(栗塚報吿委員)
何時モ「被」ノ字ハ二人ノ間ハ使イマス
(村田委員)
讓ラルルト云フ意味デスカ
(栗塚報吿委員)
貴君ノ債權ヲ栗塚ガ持ツテ居ツタ、ソレヲ淸岡サンニヤツタノデ、淸岡サンバ讓受人、貴君ノ債權ガ讓ラレタ、ソレハ何ニ因テカ、栗塚ニ因テデアリマス
(松岡委員)
栗塚ニ借錢ガアツタ、ソレヲ拂フ期限前ニ、栗塚ガ淸岡ニ讓タノデ、松岡ハ被讓債務者ダカラ疑イハナイ
(栗塚報吿委員)
義務ハ栗塚ニ對シテアツタガ、此度ハ淸岡サンニ對シテ義務ガアル樣ニナツタノデス
(淸岡委員)
分ツテ居ルデハナイカ
(尾崎委員)
被讓ト云フハ讓ラレ債務者、私ガ南部君ニ金ヲ借リテ居ツタガ、債權者ノ南部君ガ私ノ證文ヲ松岡サンニ讓ツタノダソウスルト私ガ拂フ折ニハ松岡サンニ拂ハナケレバナランコトニナルノデス
(淸岡委員)
被讓ノ字ハ分テハ居ルガオカシイ、併シ仕方ハナイ
(栗塚報吿委員)
債務者ト云フ字ガアルカラ宜シイ、佛蘭西法律ハ只被讓人ト書イテアリマス
(淸岡委員)
栗塚サン、次項ノ「妨ク」ハ如何ナル意味デスカ「得ス」トハ違ウデシヨウカ
(南部委員)
「得ス」デシヨウ
(栗塚報吿委員)
「得ス」ノ意味デアリマス
(松岡委員)
受諾ハ妨ゲタカラ債務者受諾ヲ爲セバ、何々スルコトヲ得ズト云フナレバ宜シイ「受諾ハ」ト云ヘバ「得ス」トハ云ヘヌノデス
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(尾崎委員)
妨ゲデ分リマス
(栗塚報吿委員)
讓受單純トアルハ矢張リ讓渡單純ト改メマス
(淸岡委員)
受諾ハ得ベカリシハ如何カ
(栗塚報吿委員)
得ベカリシハ、債務者ガ受諾シタナレバ讓渡ニ得ベカリシト讀メルト困ルノデアリマス
(尾崎委員)
私ハ原案維持デアリマス
(委員長)
箇樣ナ所ハ解シ難イ所ダカラ「セラルル」抔ハ能ク注意シテ貰ヒタイ
(淸岡委員)
私等ハ實ニ箇樣ナ文章ヲ見タコトハナイ
(栗塚報吿委員)
此所ハ無論被讓債務者ガ讓渡ヲ受諾スルニ於テハ對抗シ得ベカリシ理由ハ讓受人ニ對抗スルヲ得ズ、ト書ケバ分ルト思フガ、報吿委員デモ若シヤト思フノデス
(松岡委員)
栗塚サンニモ似合ハヌコトヲ云フネ
(淸岡委員)
單純ト云フノハ如何云フ譯デスカ
(南部委員)
吿知債權者ト云フノデス
(淸岡委員)
以前ニ生ジタ抗辯ガ出來ルノハドウ云フ場合デスカ
(南部委員)
吿知シテハ、知ラセテヤツタ爲メニ證文ヲ讓受タト、債務者ニ知ラシテヤツタノデ、債務者ガ知タ以上ハ往カヌノデス
(淸岡委員)
又ハ以下ハ受諾セヌノデスネ
(南部委員)
左樣デス
(松岡委員)
單純ト云フテモ、合式ノ吿知ダロウ
(南部委員)
左樣
(鶴田委員)
單純ト云フハ合式ノ吿知デハナイコトダロウ
(南部委員)
左樣デハ御座イマセヌ、矢張り合式ノ吿知デ御座イマス
(尾崎委員)
吿知シテ默ツテ居タラ抗辯ハ出來マセヌゾヨト云フノデス
(栗塚報吿委員)
「被讓債務者ノ受諾アルトキハ讓渡人ニ對抗スルコトヲ得ヘカリシ總テノ抗辯又ハ拒却ノ理由ヲ讓渡人ニ對抗スルコトヲ得ス又單純ノ吿知ヲ得タルトキハ被讓債務者吿知後ニ生スル抗辯ヲ失フノミ」ト云フコトニナリマス
(南部委員)
被讓債務者ハ分ラヌ、現在ノ樣ニ負債者ガ承諾シナケレバト云フトハ違フノデス
(尾崎委員)
構ヒマセヌ
(淸岡委員)
「吿知アリタルトキハ」、ト云フハ宜シクナイ、又單純ハ要ラヌノデシヨウ
(渡委員)
「拒却ノ理由ヲ以テハ」、生キマスカ
(栗塚報吿委員)
直譯シタノデス
(委員長)
拒却ヨリモ前ノ方ガ宜シイ、宜ケレバ次ギノ項ヘ移リマシヨウ
(村田委員)
此所デハ債務者ノコトバカリ言テ居ル
(栗塚報吿委員)
左樣
(委員長)
二項目ノ讓受單純ナル吿知ヲ受ケタ者ハ吿知ヲ生ジタラ往カヌカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ失ハシメル結果ヲ示シタノデアリマス
(委員長)
前ニ讓ラレテハ困ルト云フコトナレバ云ヘルノダロウ
(栗塚報吿委員)
吿知ガ受諾アル迄ハデス
(委員長)
吿知ハアツタガ、吿知ノ仕方ガ惡イト云フノデシヨウ、讓ラレタ者ハソウ云フコトガアレバ箇樣ナコトヲシテト讓方ガ惡イト、前ノ抗辯ガ出來ル樣ニ見ヘル
(栗塚報吿委員)
抗辯ト云フモノハ何カラ起ルカ、受諾シタトキハ抗辯ヲ行フコトハ出來マセヌ、吿知シタラ吿知後ハ抗辯ハ出來マセヌト云フタニ止マラズ、吿知ノ受諾アル迄ハ債務者ハ讓受人ニ對抗ノ出來ルト云フハ、私ガ淸岡サンニ債權ヲ讓リ度イ、ソレハ未ダ松岡サンニハ吿知シナイ、吿知ノ受諾ガアツタラ往カヌガ、未ダ吿知ガナイニ依テ松岡サンガ受諾シナイカラ淸岡ニ對抗ガ出來ルノデス
(委員長)
吿知云々ノミトアル被讓債務者ヲシテ、吿知前ニ抗辯ハ失ハシメズト見ヘル
(栗塚報吿委員)
吿知アル迄讓受人ニ對抗スルヲ得ルノデアリマス、抗辯ノ論ハ出マセヌ抗辯ヲ爲スヲ得ルノデハナイ、對抗スルヲ得ルハ何ヲ對抗スルカナレバ辨濟トカ若クハ義務免除、拂テ仕舞ツタトモ云ヘルノデス
(松岡委員)
私ガ貴君ノ借リ人デ、貴君ハ淸岡サンニ債權ヲ讓タノデ、淸岡サンカラハ私ニ通知ガナイシ、受諾モナシ、貴君ニ辨濟シタコトガアル、其トキハ淸岡サンニ斯ク々々ト云フテモ構ハヌ、貴君ト私ハ合意免除ノ約束ガ出來タ、淸岡サンハ怠リデ、通知シナイカラ、ヤリ付ケルト云フノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、「前記ノ所爲ノ一アルマテハ吿知若クハ受諾アルマテ」ト書ケバ明カデアリマス
(松岡委員)
「ボアソナード」ニシテハ簡ニ書ケテ居ル
(栗塚報吿委員)
吿知ガ受諾ノアルマデト云フノデスほし
(尾崎委員)
何所カラ出テ來ルカ、讓受人カラ又讓リ受タノデスカ
(松岡委員)
栗塚ガ二度讓リマシタ場合デ、證文ノアルトキニハ限ラヌデシヨウ
(栗塚報吿委員)
爲替手形、名ノアル手形、約束手形デモデス
(松岡委員)
爲替ハ記名デモ三四通モ出來ルカラ二樣ニシタモノデ、栗塚ハ惡イガ、私モ尾崎モ善意ダカラ
(淸岡委員)
ソウ云フモノヲ見ルト大變不都合デス
(栗塚報吿委員)
村田サンヲ欺イテ貴君ニ讓ルモノヲ又讓ルコトガ出來ルカ否ヤ、出來ルニハ相違ナイ、併シナガラ其場合ハ善意ナレバ村田サンハ立派ニ云ヘル
(松岡委員)
淸岡サンニ物ヲ渡シテ、栗塚サンハ善意デ讓ラレタノデ、貴樣認メテ居ルナレバ拂ヘト云テ拂フカモ知レマセヌ、私ハ此宣誓ノコトハ後ナラ大論モノデ、又自白ト云フモ全體如何ナルモノカ、日本デ宣誓ト云フハオカシイ、之ハ姑ク措テ修正通リニシテ、他日ニ任シテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
宣誓ハ修正モ致シマセヌ、之ハ宣誓ト致シマシテモ、他日刪ルカモ知レヌ、何レ證據編デ申シマス積リデ御座イマス
(委員長)
尤モ構成法ニモアツタノデ、異論モアルガ是非裁判所デ證據人トスルトキハヤルコトニナル
(南部委員)
宣誓ノコトハ種々論モアリマスカラ、何レ證據編ヲ議シテ見ナケレバ分リマセヌ、ソレ迄ハ此儘ニ御置キヲ願ヒマス
(栗塚報吿委員)
後チニ此所ヘ立戻ルコトヲ御許シ下サレト云フノデス
(委員長)
ソレナレバ左樣ニシテ次項ニ移リマス
(松岡委員)
末項ハ論ナシ
(淸岡委員)
宣誓ハナクツテハ困ル
(委員長)
宣誓ト云フコトハ證據編迄未定ニシテ置キマシヨウ
(松岡委員)
借リタカ、借リヌカ、宣誓セヨ、私ハ村田ニ借リタ覺ヘハ御座イマセヌト、宣誓ノ上デヤレバ證據トアツテモ致シ方ガナイ
(村田委員)
ソンナコトハナイ
(松岡委員)
左樣デス、ソレヲ聞クトビツクリナサルダロウ、裁判官モ指モ指セヌノデス
(栗塚報吿委員)
ソレダカラ證據編デ定メルト云フノデス
(委員長)
宣誓ノコトハ證據論デ論ズルトシテ、末項ハ如何デスカ
(尾崎委員)
末項ハ宜シウ御座イマス
(委員長)
宜クバ先キヘヤリマシヨウ
本條第一項「讓受」ヲ「讓渡」ト改メ他ハ悉ク報吿委員ノ修正ニ決ス
第三百六十八條朗讀ス
第三百六十八條 左ノ書類ハ財產所在地ノ戶長役場又ハ郡區役所ニ備ヘタル特別ノ帳簿ニ其全文ヲ登記ス
 第一 公正證書ト私署證書トヲ問ハス又有償名義ト無償名義トヲ問ハス不動產所有權又ハ其他ノ不動產物權ノ移付ヲ記載シタル生存者間ノ總テノ證書
 第二 右同一ノ權利ノ改樣又ハ抛棄ヲ記載シタル總テノ證書
 第三 前記ノ目的ノ一ヲ有スル口頭ノ合意ノ成立ヲ證明シタル總テノ判決書
 第四 不動產差押ノ上公賣落札ノ總テノ判決書
 第五 公用ニ因由スル所有權徵收ヲ宣吿シタル裁判上又ハ行政上ノ證書〔千八百五十五年三月二十三日佛法律第一條、第二條、伊民第千九百三十二條〕
 不動產ノ抵當及ヒ先取特權ノ公示ニ特別ナル規則ハ第四編ニ之ヲ定ム
(修正) 初項ノ下「戶長役場又ハ郡區役」ノ九字ヲ刪リ「裁判」ノ二字ヲ挿入シ「其全文ヲ」ノ四字ヲ刪リ「之ヲ」ノ二字ヲ挿入ス
(栗塚報吿委員)
修正ガアリマス、「財產所在地ノ區裁判所ニ備ヘタル特別ノ帳簿ニ登記ス」ト改メマシタ
(委員長)
「商ヒ證券」ハ商法ト合ハセタカ
(南部委員)
合ハセテアリマス
(鶴田委員)
裏書スルモノハ皆商ヒ證券ト思テ居ルカモ知レヌ
(松岡委員)
「ボアソナード」ハ佛蘭西ノ通サセルト云フノデ論ガアリマシタ
(南部委員)
論ハアツテモ、此所ハドウシテモ書ケナイ、合意ノ效力丈ケダカラ
(委員長)
相續ノ所ハ書イテ宜カロウ
(松岡委員)
宜シウ御座イマシヨウ
(南部委員)
落札ノ判決書トアルハ、本案ノ裁判デハアリマセヌカラ「判決」ト云フヨリ廣イ字ヲ用ヒテ宜カロウ、故ニ第三第四ハ「判決書」トアルハ皆「裁判書」ト致シマス
(委員長)
宜カロウ先キヘヤリマシヨウ
本條第三第四「判決書」トアルハ「裁判書」ト改メ其他ハ報吿委員ノ修正ノ通リニ決ス
第三百六十八條〔第二〕朗讀ス
第三百六十八條〔第二〕 登記ハ一個ノ規則ニ憑リ公示スヘキ證書ノ同樣ナル二個ノ原本ヲ登記役所ニ納ムルコトヲ以テ之ニ代フルコトヲ得其二個ノ原本ハ之ニ校合シ相同シト認メタル後各葉每ニ其双方ノ緣邊ニ登記ノ割印ヲ付ス
 其原本ノ一ハ其要旨ヲ特別ノ帳簿ニ記載シテ右ノ役所ニ之ヲ保有シ他ノ原本ハ其納付ヲ爲シタル場所ト時日トヲ緣邊ニ記載シテ當事者ニ還付ス
 登記ニ關スル其他ノ法式ハ特別ノ規則及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ定ム
(修正) 全文刪除
(栗塚報吿委員)
之ハ皆刪ル旨意デアリマス、手續ノコトハ登記法デ定メテアリマスシ、起案者ハ又左樣ナル手續ノコトハ見ナイデアリマス、今日戶長役場デヤツテ居ルノデ、然ル上ハ末項「其他」ノ法式トアルヲ「總テ」ノ法式ト改メ民事云々ハ次ノ條ヘ入レル積リデアリマス、故ニ本條刪除ノ修正デ御座イマス
(委員長)
刪ルノカ
(尾崎委員)
宜シイ
(委員長)
刪テ先キヘヤリマシヨウ
本條ハ刪除ニ決ス
第三百六十九條朗讀ス
第三百六十九條 登記ハ合式ノ辨明ノ後當事者ノ請願ニ因リ其費用ヲ以テ之ヲ爲ス
 請願者ニハ登記セラレタル證書ニ付キ登記ノ保證書ヲ交付ス
 又何人ニテモ自己ノ指定シタル不動產ニ關スル登記帳簿ノ拔書ヲ自費ニテ要求スルコトヲ得〔同上第五條、佛民第二千百九十六條以下〕
(修正)
二項記ノ下「セラレ」ノ三字ヲ刪リ「シ」ノ一字ヲ加ヘ書ノ下「ニ付」ノ二字ヲ加ヘ「置タル項目ノ拔抄シテ記載シタル」ノ十五字ヲ刪ル
末項朗讀ス
本條末項ニ左ノ一項ヲ置ク登記ニ關スル總テノ法式ハ特別ノ規則及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ定ム
(栗塚報吿委員)
前條ノ末項ヲ本條ノ末項ヘ挿入スルノデアリマス
(南部委員)
今ノ登記法ニ依ルト、謄本ト拔書ト二ツアルカラ牴觸スルカラ廣ク、修正致シマシタ
(委員長)
宜ケレバ先キヘヤリマシヨウ
本條ハ末項ヲ挿入スルコトニ決ス
第三百七十條朗讀ス
第三百七十條 上ニ揭ケタル所爲ノ效力ニ因リ得取セラレ改樣セラレ又ハ取回サレタル物權ハ其登記ニ至ルマテハ仍ホ其表見ノ本主タル當事者ト右權利ニ付キ約定シ又ハ本主ヨリ若クハ其權利ニ依テ右ノ權利ト相容レサル權利ヲ得取シタル承權人ニ對抗セラルヽコトヲ得ス但右二箇ノ場合ニ於テ其承權人ハ善意ニシテ且其證書ノ登記又ハ記入ヲ要スルトキハ自ラ之ヲ爲サシメタルコトヲ要ス〔同上第三條伊民第千九百四十二條〕
 惡意及ヒ通謀ハ第三百六十七條ニ從ヒ證セラルヽコトヲ得〔佛民第千七十一條、千八百五十一年十二月十六日白耳義法律第一條〕
(修正) 「所爲」ノ二字ヲ「證書」ニ改メ取ノ下「セラレ」ノ三字竝ニ樣ノ下「セラレ」ノ三字四ノ下「サレ」ノ二字ヲ刪り各「シ」ノ一字ヲ挿入シ表見ノ下「本主タル當事者ト」ノ八字ヲ削リ「所有者ト」ニ改メ「定メ」ノ下「又ハ本主ヨリ若クハ其權利ニ依テ」ノ十五字ヲ刪リ「主タル承權人又ハ約定セスシテ法律若クハ裁判ニ依リ」ノ二十四字ヲ挿入シ抗ノ下「セラルル」ノ四字ヲ刪リ「スル」ノ二字ヲ挿入ス同條證ノ上ニ「之ヲ」ノ二字ヲ加ヘ證ノ下「セラルル」ノ四字ヲ刪リ「スル」ノ二字ヲ挿入ス
(鶴田委員)
之ハ要リマセン
(委員長)
佛文ヲ變ヘタノデスカ
(栗塚報吿委員)
註ノ意味ヲ入レタノデス
(委員長)
「ボアソナード」ニ言ハヌト分ラヌゼ、箇樣ナ所ハ「ボアソナード」ニ云フ方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
上ニ揭ゲタル「所爲」トアルハ「證書」ト改メマシタ
(松岡委員)
本統ノ登記ガ濟マヌ間ハ他人ニ對シテ權利ガナイゾヨト云フノデス
(栗塚報吿委員)
左樣デス、登記ノ濟ム迄ハ承權人ニ對シテ威張ルコトハ出來ヌゾト云フノデス
(松岡委員)
修正ノ出テ居ル樣ニ「セラレ」「何サレ」ヲ「得取シ改樣シ回收シタル物權ト雖モ其登記ノアラサル間ハ對抗スルコトヲ得ス」ト爲シ度イ
(渡委員)
其方ガ分リマス
(南部委員)
權利ト相容レザル、ハ用收權ヲ他ヘ讓リ、第二ニ賃借權ヲ讓タト云フ場合ヲ相容レザルト云タノデアリマス
(栗塚報吿委員)
約定セズトモ後見人ノ資格デ財產ヲ書入質ニ入レ、夫タル者妻ノ財產ニ對シテハ夫ノ財產ハ抵當ニナルト云フノデス
(鶴田委員)
分リマセヌ
(委員長)
表見ノ所有者ト云フハ如何ナル云フ譯カ
(栗塚報吿委員)
先ヅ所有者ト見ヘル人デス
(鶴田委員)
外ノ者ガ約束シテ居ルノデス
(委員長)
私ガ外ノ所有者デ、私ノ前デ登記簿ニアル、所デ私ト鶴田サント賣買シテ居タノデ、其内私ガ尾崎サントヤツタトキニ鶴田サンガ尾崎サンニ係ツテノ話ダ
(南部委員)
左樣デスソレハ何ゼカナレバ登記ガ濟ンデ居ナイカラデス
(委員長)
私ニ向テ對抗ハ出來ルカ
(南部委員)
ソレハ出來マス
(栗塚報吿委員)
其コトハ論ジナイノデ、物權ハ其承權人ニ對抗スルコトヲ得ズデス
(南部委員)
尾崎サンハ登記シテアルノデ、二番目ハ但書以下ニナルノデアリマス、惡意ナレバ登記シテアツテモ往カヌノデアリマス
(委員長)
表見ノ所有者ト云フハ何カ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
表見丈ケ所有者ト見ヘルト云フノデアリマス
(委員長)
スルト所有者ト區分サレタ人デス
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
併シナガラ登記簿カラ見ルト、所有者デアリマス
(尾崎委員)
委員長ハ元トノ所有者デ、ソレヲ私ノ名前ニ登記シタラ、委員長ノ所有デハアリマセヌ
(松岡委員)
委員長ハ前ニ鶴田サンニ賣タコトガアルダロウ、ソレハ私ニスル、私ハ委員長カラ屋敷ヲ得取シタ、卽チ買フタノデ、私ハ得取シタケレドモ未ダ私ハ登記簿ニ登記シテナイ間ノコトデ、其間ニ表見ノ所有者ト委員長ト屋敷ノコトニ付テ約定シテ、買切ツテ仕舞ツタ、左樣シタトキ貴君ガ登記シタ、其時分ニ私ハ貴君ニ向テ、貴君ヨリ先ニ買テ居ルト云テ對抗スル、貴君ノ云フニ否ヤ私ハ表見ノ所有者ヨリ買受ケタ、卽チ委員長デ、登記簿ヲ見ルト、委員長ノ持物トナツテ居ル、ソコデ私ガ買タノデ、御前ハイケナイト云フ登記簿ノ表ニ名前ガ立テ居ル人デ、貴君ガ表見デハナイ、卽チ委員長ガ表見ノ所有者デアリマス
(淸岡委員)
箇樣ノコトハ註釋ニハ御座イマセンガ、假令バ相續ノトキ當然相續スベキ者ガ居ラヌト、其トキニ第二ノ相續者ガ爲シタトスル、最早相續スベキ人ハ死ンダト思ツタラ、突然相續者ガ歸ツタト云フ場合ノ如キハ如何
(松岡委員)
ソレハイカヌ、假令バ、鶴田サンハ得取シテハ居ルケレドモ、登記シテナイノデアリマス、登記シテ居ラヌ間ニ尾崎サンバ知ラズニ登記簿ニ名ノアル委員長カラ買タデ、表見ノ所有者デモ尾崎サンハ先キニ登記シタノデアリマス
(淸岡委員)
ソレハ表見ノ所有者デハナイ、眞ノ所有者デ、鶴田サンノ買フタノハイカヌノデアリマス
(松岡委員)
ソレヲ云フノデアリマス、依テ鶴田サンハ尾崎サンニ物ハ言ヘヌノデアリマス、今デモ買取テ本統ニ割印セズ居ルモノモアリマシヨウ、懇意デ登記セズ奧書ヲ取ラズニ怠ツテ居ル者モアリマシヨウ、其時分ニ他ノ人カラ金ヲ取テ割印スレバ先ノ人ハ眞ノ所有者ニアラズ、之ハ「セラレ」トアルガ分リ惡イ之ヲ「シ」ト讀ムト分リマス
(渡委員)
其方ガ分リマス
(松岡委員)
得取シ、改樣シ、又ハ取回シタル物權ハ其登記ニ至ルマデ、仍ホ其表見所有者ト、右ノ權利ニ付約定シタル云々、トスレバ宜シイ
(南部委員)
此所ハ「シ」ト致シマシテハ如何、「得取シ」、「改樣シ」、トシテ宜シイデシヨウ
(委員長)
宜シイデシヨウ
(栗塚報吿委員)
承權人ニ對抗スルコトヲ得ズデス
(委員長)
暗ニ三人稱ヲ現ハスノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
受身ト働キ掛ケトハ違イマス
(委員長)
「スルト」ヨリハ表見抔ハ分ル樣ニシテ貰ヒタイ
(栗塚報吿委員)
内幕ヲ申マスガ名詞、形容詞、ノ字書ヲ拵エ只今表見ト云フ字ヲ外ノ字ニスルト、地役ノ所ニ使タ表見ト云フ字ヲ又變ヘナケレバナラン、尤モ使ツタ所ハ一個所ノホカアリマセヌ、併シナガラ地役ヲ表見トシタカラ此所デ分ラヌカラト云テ、外ノ字ニスルコトモ出來マセヌ
(松岡委員)
「相容レサル權利」ト云フノハ此處ヘ言ハズニハ置ケヌガ、上ノ權利ニ付テ冠ラセタラ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
註デハ分リマセンカ
(松岡委員)
註解ニ依ルト、ドンナモノデモ分ルノデアリマスカラ
(南部委員)
虛有權ト用收權丈ケデス
(委員長)
書イテナケレバ分ラヌデシヨウ、之ヲ無クシテハ往カヌ、法律若クハ裁判ニ依リ右權利ヲ得取シタル承權人ニ對抗スルコトヲ得ズト云タラ分ラヌデシヨウ
(栗塚報吿委員)
突當ルモノデナケレバナラン
(鶴田委員)
突當リサヘスレバ宜シイト見レバ宜シイ
(松岡委員)
先ヅ退キマシヨウ
(鶴田委員)
許サナイモノモアリマスカラ書タノデスカ
(栗塚報吿委員)
用收權ト虛有權ト突當ル、其他ノモノハ皆相容レザル權利デアリマス
(鶴田委員)
登記ヲ要サナイモノデナケレバ許サナイデシヨウ
(委員長)
此レデバカリハ云ヘヌデシヨウ
(栗塚報吿委員)
其所ハアリマス
(南部委員)
法律上ノコトガアリマス
(栗塚報吿委員)
法律上ノ抵當ハ公用ニ原因スルコトガアリマス
(鶴田委員)
登記ヲ要サナイモノガアル、ソレハ取除ケテ登記ヲ要スルモノハ登記シナケレバナラント云フノダロウ
(松岡委員)
法律デ確カニ相續シタモノデアツタラ往カヌト云フノデ、要セヌモノナレバ宜シイ、登記シテ居ラヌデモ勝ツノデアリマス
(南部委員)
左樣デス
(委員長)
宜シケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第三百七十一條朗讀ス
第三百七十一條 登記ノ闕無ハ、法律裁判又ハ合意ニ因リ最初ノ登記ヲ爲サシムルコトヲ任セラレタル次後ノ得取者又ハ讓受人カ善意タリトモ此等ノ者ヨリモ又其相續人又ハ一般ノ承權人ヨリモ最初ノ得取者ニ對抗セラルヽコトヲ得ス〔第九百四十一條、伊民第千九百四十四條第三項〕
(修正) 判ノ下「又」ノ一字ヲ削リ「若ク」ノ二字ヲ挿入シ初ノ下「ノ」ヲ「ニ」ニ改ム爲ノ下「サシムルコトヲ任セラレタル」十三字ヲ削リ「スノ義務アル」ノ六字ヲ挿入シ者ノ下「又」ノ一字ヲ刪リ「若ク」ノ二字ヲ挿入シリノ下「モ」ノ一字ヲ刪リ又ノ下「ハ」ノ一字ヲ挿入シ人ノ下「ヌ」ノ一字ヲ刪リ「若ク」ノ二字ヲ挿入シ承權人ヨリノ下「モ」ノ一字竝ニ抗ノ下「セラルル」ノ四字ヲ削リ「スル」ノ二字ヲ挿入ス
(栗塚報吿委員)
登記ノ闕無ハ對抗セラルルコトヲ得ズ、誰ニカナレバ最初ノ得取ハ對抗セラルルコトハ出來マセヌト云フノデ、登記シナケレバナラン人ガ登記シナイトキハ人ニ向テ次後ノ得取者ニ向テ出來ナイト云フノデアリマス
(淸岡委員)
登記ノ闕無ト云フハオカシイネ
(委員長)
此レコソバ分ラヌ
(村田委員)
假令バ幼者ノ後見人デアツテ、其時分ニ財產ヲ登記シナケレバナランニ之ヲシナイデ置イテ後、登記ガアリマセンカラト云フテ、取ルコトハ出來マセヌト云フノデシヨウ
(尾崎委員)
此文デハ分リマセヌ
(南部委員)
法律裁判又ハ合意ニ因テ、其者ガ義務ガアツテ、爲ナイカラ對抗スルコトガ出來ナイ結果ガ生ズルノデアリマス
(尾崎委員)
最初ノ得取者ガ何所デ登記シタカ分リマセヌ
(淸岡委員)
登記シテナイガ自分ガ爲テヤラナケレバナランニ自分ガ怠タノデ、而シテ後ニ買フテアレバ登記ガナイカラ、效アルト云フコトハナラヌノデス
(栗塚報吿委員)
最初ノト云フハ松岡サンノ爲メニ登記ヲ爲スノ義務アルハ栗塚デ、其栗塚ガ次後ノ得取トナツテ登記セズニ居テ、松岡サンニ向テ威張ルコトハ出來マセヌノデ、登記シナイカラ闕無ガアルトキニハ承權人カラモ、私ノ相續人カラモ云フコトハ出來マセヌ、何ゼナレバ義務アル栗塚デアリナガラ、之ヲ爲サズ躬ラ得取者トナツタカラ、最初ノ得取者トナルベキ松岡サンニ對シテ對抗ハ出來マセヌト云フノデ、最初ト次後ハ之デハ分リ惡イト存ジマシテ、修正致シマシタノデ御座イマス
(松岡委員)
我子ガ分家シタトキニ登記ノ任アル者ガ之ヲ爲サズシテ、他日躬ラ得取シ、又讓リ受人トナリ、躬ラ登記ヲ爲シタリトモ、之ヲ以テ前本主ニ對シテハ本人ハ勿論、其相續人ヨリモ主張スルコトハ出來ヌト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
之デハソウハ讀メナイ
(栗塚報吿委員)
伊太利ノハ、「此登記ヲ闕キタルヲ口實トシテ以テ他人ニ對抗シ得ヘカラス」トアリマス
(南部委員)
「登記ヲ爲ス義務アル者次後ノ得取者若クハ讓リ受人トナリタルトキハ善意タリト雖トモ此等ノ者ヨリ」云々トスレバ宜シイデシヨウ
(村田委員)
ソレナレバ分ル
(淸岡委員)
乙ハ甲ノ爲メニ最初登記シナケレバナラン者デ、ソレヲ爲スニ置イテハ得取後ニ對抗ハ出來マセヌト云フノデシヨウ
(委員長)
「法律裁判又ハ合意ニ因リ」ヲ頭マヘ出シテ「最初登記ノ義務アル者之ヲ爲サスシテ」トヤルカ
(栗塚報吿委員)
「法律裁判合意ニ因リ最初登記ヲ爲ス義務アル者之ヲ爲サスシテ次後得取者又ハ讓受人トナリタルトキハ此等ノ者ヨリ又ハ相續人ヨリモ登記ノ闕無ヲ以テ最初ノ得取者タル者ニ對抗スルヲ得ス」トスレバ宜シイ
(委員長)
ソレナレバ分ル
(村田委員)
ソレナレバ分リマス
(松岡委員)
「得取者卽チ」トナルカ
(栗塚報吿委員)
「法律裁判又ハ合意ニ因リ最初ニ登記ヲ爲ス義務アルモノ之ヲ爲サスシテ次後ノ得取者又ハ讓受人トナリタルトキハ善意タリトモ此等ノ者ヨリ又ハ相續人若クハ一般ノ承權人ヨリ登記ノ闕無ヲ以テ最初ノ得取者ニ對抗スルコトヲ得ス」、ト致シマス、最初登記ヲ爲スハ私ガ松岡サンノ代デ管理シテ、松岡サンガ最初買フタノデ、ソレカラ松岡サンカラ私ハ善意デ屋敷ヲ買タノデ、登記シナケレバナランノヲ、松岡サンハ西洋ヘ行テ居ルカラ、私ガ爲ナケレバナラヌノヲシナカツタノデ、最初ニ登記ヲ爲ス義務ヲ爲サズシテ、私ガ次後得取者トナリ、登記シテ仕舞ツタノデ、何ゼナレバ登記シナイト威張ルコトガ出來マセヌカラ、私丈ケハ錢ヲ拂テ登記シテ、ソレカラ私ガ死ンダノデ私ノ悴卽チ相續人ガ松岡サンニ對シ、私ノ親父ガ買フテ登記シテアルカラト云フト、否ヤソレハイカヌ遡テ見レバ一體松岡ニ登記スベキヲ、シナカツタカラト松岡サンカラ云ヘルノデ、私ノ悴ハ威張ルコトハ出來マセヌト云フ話デアリマス
(委員長)
栗塚ノ講釋ハ註ニアリマスカ
(栗塚報吿委員)
註ニハ登記シテ置カナケレバ往カヌトアリマス、私ガ南部サント年ハ違ウガ南部サンノ後見人デ、財產ヲ買フタノデ、ソレハ登記シナケレバナラン所ヲ登記セズニ置キ闕無ガアリマシタソレヲセズニ置イテ其家ヲ南部サンノ相續人カラ買フタノデ、私ガ今度ハ登記シテ私ノ名ニシタノデ、ソウスルト南部サン並ニ相續人ハ私ノ所有ダト云ヘルノデアリマス
(松岡委員)
全體登記ガナケレバ對抗ト云フコトハ起ラヌノデ、管理人ノ打棄テ置イタ責罰ガ起ルノデアリマス
(淸岡委員)
其所ハ闕無ト云フ字ガアルカラ宜シイ、今モ昔モナイ樣ニ見ヘルガ、登記ナカリシヲ以テシナケレバナラン
(松岡委員)
「ナカリシ」デハナイ「ナキ」デ宜シイ、自分ニアツテ向フノガナイト云テ威張ルコトハ出來マセヌト云フノデス
(淸岡委員)
登記ノナキヲ闘ト云フハオカシイデハナイカ
(南部委員)
登記ト云フモノガナイノダカラ宜シイデシヨウ
(鶴田委員)
例ヘバ栗塚サンハ南部サンノ爲メニシナクツテ、貴君ハ自分デ登記シテ金ハ相當ニ南部サンニ拂ヒ善意ニシテ自分ノモノニシタノデ、南部サンハ承知シテ金ヲ取リ段々跡デ氣ヲ付ケルト、己レノ名ニ登記セズニアツタノデアルト、遡ルコトガ出來マスカ、ソレハ承知シテ金ヲ取タノダカラ出來マスマイ
(南部委員)
ソレハ別ノ話デ、他人ニ對シテ己レノ物トハ云フタノデアリマス
(栗塚報吿委員)
幼年者ガ金ヲ取ルハ例ニナサソウデ御座イマス、貴君ガ松岡サンニ家ヲ賣タノデ私ハ松岡サンノ代理ダロウ登記シナケレバナラン人デアル、所ガソレヲセズニ置イテ貴君ガ二重賣ヲナスツタノデ私ガ買テ登記シタ、私ガ登記シタカラ私ノモノデス、併シナガラ其實ハ松岡サンノ爲メニ登記スベキ義務ガアツタノデ、威張ルコトハ出來マセヌ、又栗塚ノ悴モ出來マセヌ、何ゼナレバ爲スベキ義務者ガシナカツタカラデアリマス
(鶴田委員)
ソレナレバ分リマス、善意タリトモト云フノハ如何
(栗塚報吿委員)
所ガ私ノ息子ハ善意デ、實ハ少シモ知リマセヌ、松岡サンハ併シナガラ御前ガ云テモ往カヌ、親ノ時分コウダカラト云フコトガ出來ルノデアリマス
(鶴田委員)
ソレデ善意タリトモト云フハオカシイ、次後ノ本人ガ死ンデ其息子ト云フノデハナイカ
(栗塚報吿委員)
左樣デハナイ、得取ハ松岡サンデ次ノ得取ガ私デ、松岡サンハ最初ノ得取者デアルガ、登記シナカツタノデ、其登記スル人ハ栗塚デ、ソレヲシナカツタト云フノデス
(松岡委員)
栗塚サンガ松岡ノ後見人ニナツテ居ル、然ルニ後見人ニナツタトキヨリモ已ニ松岡ノ家ハ鶴田サンガ買フテ居ル、後見人ニナツタ以上ハ栗塚ハ知ラナケレバナラン、ソレヲ知ラズシテ貴君カラ地面ヲ買フダロウ、惡意ハナクトモ後見ヲスル以上ハ知ラヌトハ云ハレヌゾヨト云フノデアロウ
(委員長)
ナリタルトキハト云フト義務ノアル者ガ次後ノ得取者トナツタトキトナルカ
(村田委員)
ソウ云フコトデアリマス
(委員長)
栗塚ノ解釋通リナレバ「合意ニ因リ他人ノ爲メ」ト書カナケレバ分ルマイト思フ
(栗塚報吿委員)
後見人檢察官又ハ日本ナレバ縣知事カ何カデアリマス、檢事ハ政府ノ爲メニスベキヲ怠ツテ人民ガ買フタトスル、所デ登記シナケレバナラン筈ヲ未ダ登記ヲシナイトキハ、私ガ檢事ニナツテハ之ヲ爲ナケレバナランデシヨウ、政府ガ昨日貴君ノ地所ヲ買受ケタノデ、ソレヲ知ラズ今日私ガ郡長ニナツタトスルソレデ私ハ知ラズシテ得取シタラ登記シタノデ、然ルニ郡長ノ資格ノアル以上ハ政府ノモノニナツタラ登記シテ置カナケレバナラン、義務ガアルノデシヨウ、併シ政府デ買受ケタコトヲ知ラズシテ、私ガ今日買フテ登記シタノデ政府デ書イテナイカラ御無理デスト私カラハ云ヘナイ、又栗塚ノ相續人カラモ償ヒヲ拂テアツテモ、ソレハ云ヘヌト、何ゼナレバ登記シナケレバナラン誰ガソレヲスルノ義務カナレバ郡長デシナケレバナラン併シナガラ、ソレヲシナイカラ登記シナカツタト云フコトデス
(委員長)
第三者ノ爲メト云フテモ宜シイ
(村田委員)
理ヲ推スト、他人ノ爲メデス
(松岡委員)
最初得取ノ爲メニ義務アル人ダ
(南部委員)
物ヲ稱シテ他人ト云フハ如何カ
(委員長)
ソレハ無形人ト云フノデシヨウ、財產ノ始末ヲ付ケルニハ總テ人ト看做サヌトイケマイ、賣買モ貸借モ矢張リ人同樣ノ規則ヲ用ヒナケレバナランデシヨウ
(栗塚報吿委員)
法律裁判合意ニ因テ登記ヲ爲ス承權人ハ此登記ノ闕無ヲ以テ他ニ抵抗スルヲ得ズトシテハ如何
(南部委員)
ソレハ往カヌ
(委員長)
他人ノ爲メトアレバ宜シイト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
私ノ考ヘデハ伊太利民法ノ如シテハ如何カト思ヒマス
(南部委員)
簡單過ギテ分リマセン
(渡委員)
今ノ、他人ノ爲メト云フコトヲ入レルヤ否ヤ
(栗塚報吿委員)
他人ノ爲メハ宜シイデシヨウ
(南部委員)
他人ノ爲メハ卽チ最初ノ得取者ト見テ置ケバ宜シイ
(鶴田委員)
他人ノ爲メト入レマシヨウ
(委員長)
宜ケレバ左樣致シマシヨウ
本條ハ左ノ如ク修正スルコトニ決ス
法律裁判又ハ合意ニ因リ他人ノ爲メ最初ノ登記ヲ爲スノ義務アル者之ヲ爲サスシテ次後ノ得取者卽チ讓受人ト爲リタルトキハ善意タリトモ此等ノ者ヨリ又ハ其相續人若クハ一般ノ承權人ヨリ登記ノ闕無ヲ以テ最初ノ得取者ニ對抗セラルルコトヲ得ス
第三百七十二條朗讀ス
第三百七十二條 登記セラレタル移付ノ解除、銷除又ハ廢罷ヲ主旨トスル訴權カ善意ノ轉得者ノ害ニ於テ行ハルヽコトヲ得サル場合ニ在テハ裁判所ニ於ケル請求ハ原吿ニ對抗スルコトヲ得ヘキ登記又ハ記入ヲ止ムル爲メ其攻擊セラレタル證書ノ登記ノ緣邊ニ拔抄シテ記載セラル
 若シ前記ノ訴權カ區別ナク總テノ轉得者ニ對シテ行ハルヽコトヲ許サヽルトキハ請求ハ攻擊セラレタル證書ノ登記ノ緣邊ニ記載セラレサル間ハ裁判所ニ於テ受理セラレス〔白耳義法律第三條及ヒ第四條〕
 所爲ノ取消ヲ宣吿スル判決ハ亦假ノ執行タリトモ之ヲ執行ニ付スル以前請求ノ登記ノ末ニ記載スルコトヲ要ス又如何ナル場合ニ於テモ其判決カ攻擊スルコトヲ得サルモノト爲リタル時ヨリ一个月内ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス若シ之ニ違ヒタルトキハ其判決ヲ得タル者ニ十圓乃至百圓ノ罰金ヲ科ス〔千八百五十五年佛法第四條〕
 若シ請求カ却下セラレ又ハ其手續ノ失效ヲ宣言セラレタルトキハ其却下又ハ其手續失效ノ判決カ攻擊スルコトヲ得サルモノト爲リタルトキニ至リテ實行セラルヽ爲メ裁判所ハ職權ヲ以テ其請求ノ記載ノ抹消ヲ命ス〔伊民第千九百三十三條、第千九百三十四條〕
 若シ原吿カ取下ヲ爲ストキハ當事者ノ請願ニ因リ請求ノ記載ノ抹消ヲ爲ス
(修正) 行ノ下「ハルルコト」ノ五字ヲ刪リ「フ」ノ一字ヲ加ヘハノ下「裁判所ニ於ケル請求ハ」ノ十字ヲ刪リ吿ノ下「其」ノ一字ヲ刪り撃ノ下「セラレタ」ノ四字ヲ刪リ「スル」ノ二字ヲ挿入シ「ニ」ノ下「裁判所ニ於ケル請求ヲ」ノ十字ヲ挿入シ載ノ下「セラル」ノ三字ヲ「セシム」ト改ム同條二項行ノ下「ハルルコトヲ許ササルトキハ請求ハ」ノ十六字ヲ刪リ「フコトヲ得ル場合ニ在テハ」ノ十二字ヲ挿入シ撃ノ下「セラレタ」ノ四字ヲ刪リ「ス」ノ一字ヲ挿入シ「ニ」ノ下「請求ヲ」ノ三字ヲ加ヘセノ下「ラレ」ノ二字ヲ刪リ「受」ノ上ニ「之ヲ」ノ二字ヲ加ヘセノ下「ラレス」ノ三字ヲ刪リ「ス」ノ一字ヲ挿入ス同條三項所爲ヲ「證書」ニ改メハノ下「亦」ノ一字ヲ削り「之ヲ」ヲ「其」ニ改メ行ノ下「ニ對スル」ノ四字ヲ刪リニノ下ニ「亦之ヲ」ノ三字ヲ挿入ス同項「十圓乃至百圓」ヲ「五圓以上五十圓以下」ト改ム同條四項求ノ下「カ」ヲ「ヲ」ニ改メ下ノ下「セラレ」ノ三字ヲ刪リ「シ」ノ一字ヲ加フ言ノ下「セラレ」ノ三字ヲ刪リ「シ」ノ一字ヲ加ヘ「ハ」ノ下「裁判所ハ」ノ四字ヲ加ヘ其ノ下「却下又ハ其手續失效」ノ九字ヲ刪リ「至リ」ノ下「其請求ノ記載ヲ抹消スヘキ爲メ」ノ十四字ヲ加ヘテノ下「豫メ」ノ二字ヲ加ヘ「其請求ノ記載ノ抹消ヲ」ノ十字ヲ刪リ命ノ上ニ「之ヲ」ノ二字ヲ加フ
(委員長)
轉得者ガ害スル樣見ヘル
(栗塚報吿委員)
轉得者ヲ害シタノデス
(淸岡委員)
善意ノ轉得者ダ
(鶴田委員)
「對抗スルコトヲ得」ト云フノハ分リマセン
(南部委員)
他ハ又轉ジテ行ク場合デシヨウ
(鶴田委員)
此方ニ對抗スル向フノ訴ヘガ勝ツデシヨウ、勝ツトキ此方デ止メ樣トスル、其攻撃セラレタル證書ハ何カ知ラヌ證書ノトキデスカ
(南部委員)
前ニ登記シタル證書デス
(鶴田委員)
攻撃セラレタル證書ノ縁邊ニト云フハ最初ニ書イテ居リマスネ
(南部委員)
害ヲ取消ス廢罷ヲ旨トスルモノデス
(鶴田委員)
書イテアルノデス
(南部委員)
左樣デス
(鶴田委員)
左樣スルト、對抗シ得ベキトハ違ウ
(淸岡委員)
「裁判所ニ於ケル請求」ト云フハ誰ノ請求デスカ
(栗塚報吿委員)
自分ノ請求デアリマス、移付ノ解除ヲ登記シテアルガ、卽チ松岡サンガ南部サンカラ買フテ登記シテアル、併シナガラ其場合ハ私ハドウカシテ解除シタト云フトキデ、訴ヲ起ソウト思フガ元々南部サンハ善意デアル、轉得者デ、元來私ニ賣テアツタヲ知ラナカツタノデ、松岡サンハ私ニ賣ツテアツタニ拘ハラズ、又南部サンニ賣タノデス、南部委員ハ栗塚ニ賣ツテアツタコトヲ知テ居レバ往カヌノデアリマス
(松岡委員)
ソレデハ違イマス
(栗塚報吿委員)
南部サンカラ今一ツ買フタ人デ、都合三名デス
(松岡委員)
左樣デス
(栗塚報吿委員)
南部サンガ村田サンニ賣タ場合ニ登記サレテハ困ルト云フノデ、村田サンハ登記シ得ベキダガ、ソレハ村田サンニサセヌ爲メニ裁判所ヘ請求シテ何卒箇樣ナコトヲト申シテ訴書ノ寫ヲ登記役所デ書イテ貰フノデス、何所ヘ書イテ貰フカナレバ南部サンノ持テ居ルハ間違イト、南部サンノ書イテアル上ヘ書クノデス
(鶴田委員)
私モ左樣讀ンデ居ル
(栗塚報吿委員)
次ノ項ヘ行クト轉得者ニ對シテ行フコトノ出來マセヌ意味デアリマス
(淸岡委員)
轉得者ガ登記シナイ中トハ見ヘナイ
(南部委員)
登記又ハ記入ヲ止メル爲メト云フノデ分ル
(栗塚報吿委員)
村田サンニサレテ仕舞ヘバ往カヌカラ、松岡サント、南部サンノ間ニ移付ヲ取消シタ、併シ登記ハシテアル、ソレヲ取消シタガ、公證猶豫ヲ願フノデアリマス、村田サンガ買フタニハ相違ナイガ、登記丈ケサレテハ困ルト云フノデ、ソレカラ次ギハ一向無差別ニ誰ニモ行ケルトキト云フノデ、其時ニハ攻撃スル證書ノ縁邊ニ松岡サンガ南部サンニ登記ノ縁リニ請求ヲ記載シテ居ル間ハ裁判所ヘ訴ヘルコトハ出來マセヌ
(委員長)
一項ノ「害ニ於テ」ハ分ルカ
(栗塚報吿委員)
「裁判所ニ於ケル」ト云フヨリモ宜シイ積リデアリマス
(鶴田委員)
二項ノ「記載セス」ハ「記載セラレス」デ宜サソウナモノデス
(栗塚報吿委員)
併シ書イテ置カヌト、裁判所ニ於テ蒼蝿イカラ兎ニ角登記簿ニ書イテカラデナケレバ訴ヘラレナイト云フノデス
(鶴田委員)
成程先ヅ登記ノ縁邊ニ書キ、而シテ訴ヘルノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
裁判所デ蒼蝿イカラト云フノデスカ
(松岡委員)
左樣デハナイ、先カラ先ヘ轉ジテ世間ノ人ガ多勢迷惑ヲスルカラデシヨウ、自分ガ取消ニナレバ先ヅ先キヲ止メテ置ケバ無益ノコトナラ原吿ニ義務ヲ申付ケル樣ナモノデス
(淸岡委員)
記載セネバ受理シテモ役ヲシナイ、裁判所デ受理セヌト云フコトハ元來ナイコトダ
(鶴田委員)
害ニ於テ得ザル場合ナレバ裁判シテモ役ヲシナイ
(委員長)
栗塚、之ハ「善意ノ轉得者ノ他ノ害ニ於テ」トハ書ケヌカ
(栗塚報吿委員)
「他ノ」デハ御座イマセヌ轉得者ノ害デアリマス
(委員長)
轉得者ノ害ハ他ノ害ニ於テ訴權ヲ行ハレヌノダ
(栗塚報吿委員)
轉得者自ラヲ害スルコトハ出來マセヌト云フノデス
(委員長)
害スルガ爲メダ
(南部委員)
其旨意デス
(渡委員)
其方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「害ニ於テ」ハ分リマセンカ
(淸岡委員)
此所ニ轉得者害ニ於テ行ハルルヲ得ザルト云フハオカシイ
(松岡委員)
オカシイ
(委員長)
轉得者ガ害スル樣ニ見ハセンカ
(淸岡委員)
左樣見ヘマス
(渡委員)
「轉得者ノ害トナリテ」トハ云ヘヌカ
(委員長)
「害トナリテ」ガ宜シイ
(松岡委員)
「害トナリテ」ガ宜シイデシヨウ
(委員長)
「轉得者害トナリテ」ハ如何カ
(栗塚報吿委員)
宜シウ御座イマス
(鶴田委員)
「害トナリテ」ガ宜シイ
(委員長)
「害トナリテ」ト改メマス二項ハ如何デスカ
(鶴田委員)
二項ハ宜シイ
(渡委員)
二項ハ宜シイ
(南部委員)
「攻撃セラレタル」デハナイ「攻撃スル」ダ
(栗塚報吿委員)
成程左樣デス
(淸岡委員)
攻撃セラレタノダカラ、元トノデ宜シイ
(栗塚報吿委員)
攻撃スルデ宜シイノデス
(委員長)
攻撃セラレタル證書ト云フノハ被吿カラシテ轉得者ガ攻撃サレテ居ルノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
未ダ轉得者ハ往カヌ中ニ松岡サンカラ私ガ買フタト思フタ、然ルヲ南部サンニ賣リ、南部サンハ村田サンニ賣ルト、村田サンガ持テハ往カヌガケレドモ、南部サンニ向テ移付ノ解除廢罷ガ出來ル場合デ、南部サンバ松岡サンガ賣タト知テ居ナガラ買ハレタ、南部サンニ向テ訴ヲ起ソウト、此間登記ガ出來テ南部委員ノ所有ニナツテ居ル、登記ノ縁邊ヘ栗塚ガ訴ヲ起スト書入レルノデ、左樣シナイト村田サンカラスルカラデス
(松岡委員)
私ハソウ云フ例ヲ出スノハ混雜ト思フ、私ガ南部サント賣買ノ約束シタガ、廢罷シナケレバナラン、疵ヲ持テ居ル南部サント私ト約束シタハ廢罷シナケレバナラン場合ニ、廢罷訴權ヲ行フトキニ、若シ村田サンニ賣テ、登記シテハ取消ソウトスル、乃チ攻撃スルノデス
(淸岡委員)
同ジデス
(栗塚報吿委員)
同ジデス
(松岡委員)
人ノ契約ヲ明カニ取消スコトデハナカロウ、甲乙約束シタラ丙ガ取消ス場合デハナイ
(栗塚報吿委員)
其場合ガアロウ、貴君ハ私ニ賣テ又南部サンニ賣タノデ、南都サンハ登記シタ、併シ南部委員ハ栗塚ニ賣タコトヲ知テ居ル、惡意ナレバ私ハ訴ヘルコトガ出來マス、ソレヲ村田サンニ賣ラレテハ溜ラヌカラト云フノデス
(委員長)
宜シイ、二項ハ論ガナイ樣ダ
(淸岡委員)
二項モ同ジト思フ登記シナケレバ受理セヌハ一項ト同ジデアリマシヨウ、知レテ居リナガラ止メズ、訴ヘルコトハ實際アリマスマイガ、併シナガラ矢張リ蒼蝿イカラデシヨウ
(南部委員)
二項ノ所ハ何所ヘ行テモ訴フルコトガ出來ルノデハナイ、故ニドンドンヤツテ來ルカモ知レヌ
(栗塚報吿委員)
村田サンハ賣ラレテハ溜ラヌカラ否デモ前ニヤルガ、私ハヤラレルカモ知レヌ、ソレ丈ケノ違イデス
(松岡委員)
前項トハ違ヒマス
(淸岡委員)
登記シナケレバ訴ヘルコトハ出來マセンデシヨウ
(南部委員)
是非登記シテ貰フ譯ダカラ受理セヌト云フマデ云ハナクツテモ宜シイ、若シ善意ノ轉得者デアツタラ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
訴訟ヲスル煩ヒヲ避ケル爲メデアリマス
(村田委員)
豫防法ダカラ宜シイデシヨウ
(南部委員)
何レ善意ノ氣遣イハナイ
(淸岡委員)
原吿人保護ノ爲メ受理セズト云フノダロウ
(南部委員)
外ノ人ヲモデアリマス
(村田委員)
詰リ不動產ノ足止メデス
(淸岡委員)
一項モ左樣ダロウ
(南部委員)
數ノ人ニ迷惑ヲ掛ケルカラデス
(尾崎委員)
分リマシタ
(鶴田委員)
先ヘヤリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
三項ハ尙ホ明瞭デスガ、五圓以上五十圓以下ハ如何デスカ
(鶴田委員)
宜カロウ
(松岡委員)
「科料」デスカ
(村田委員)
「罰金」デスカ
(栗塚報吿委員)
「科料」デス
(村田委員)
「科料」ナラ宜シイ
(鶴田委員)
登記ノ解除ハ登記セラレタ證書デシヨウ
(南部委員)
ソレハ左樣デス
(淸岡委員)
賣渡證書デハナイデシヨウ
(南部委員)
賣渡證書デアリマス、卽チ賣渡證文ノ登記デアリマス、元トノ證文ガ消ヘタトキデアリマス
(栗塚報吿委員)
登記ノ取消デハナイ
(鶴田委員)
登記セラレタル登記ノ取消ダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
二項ハ攻撃セラレテ宜シイカ
(栗塚報吿委員)
攻撃スルデアリマス、科料ニ處シテナケレバ往カヌデシヨウ
(南部委員)
判決ヲ記載スルコトヲ要スデアリマス
(淸岡委員)
「宣吿スル判決」ハオカシイ、「宣吿セラレタル判決」デシヨウ
(鶴田委員)
宣吿シタルダ
(南部委員)
其執行以前トアリマス
(淸岡委員)
判決執行以前ト云フハ具合ガ惡イ
(栗塚報吿委員)
「シタル」ト致シマシヨウ
(南部委員)
「スル」モ、「シタル」モ違ヒハナイ
(淸岡委員)
「シタル」ナレバ「宣吿セラレタル」ダカラ
(栗塚報吿委員)
之ハ先キマデ讀ムト左樣ニハナリマセヌ
(淸岡委員)
先キマデ讀メバ分ルト云フハ惡ルイ
(南部委員)
「科料ニ處ス」デ宜ウ御座イマシヨウ
(松岡委員)
「處ス」デス
(栗塚報吿委員)
裁判確定スルト云フコトデス「其判決カ攻撃スルヲ得サルモノトナリタルトキニ職權ヲ以テ豫メ之ヲ命ス」デアリマス
(尾崎委員)
判決ヲ登記簿ヘ載セルノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(尾崎委員)
確定シテハ攻撃ガ出來ヌト云フノデネ
(栗塚報吿委員)
ソウ云フ意味ニ御讀下サイ
(南部委員)
末項ハ如何デスカ
(淸岡委員)
箇樣ニ罰金ヲ取ラヌデモ宜サソウナモノデス
(栗塚報吿委員)
安クシテコウシタノデス
(淸岡委員)
登記ヲ怠タノデシヨウ、コンナニ取ラヌデモ宜シイデシヨウ
(南部委員)
害ガ他人ニ及ブカラデス
(淸岡委員)
登記セザル者ハ如何ナリマスカ
(南部委員)
止タセヌ者ハ罰ハアリマセヌ、之ハ何フシテモ登記シナイト治リガ付カヌ、前ニ請求ガ書イテアリマスカラ、他ヘ轉ズルコトガ出來マセン、良シ輾轉ガ出來テモ皆知テ居ル、他人ハ少シモ取ルコトハ出來マセヌ、經濟上カラ云フト、財產ハ運轉シテ流通スルガ宜シイデス
(淸岡委員)
所有權ヲ得ラレナイカラドウシテモスルノデス、ソレヲ怠ラヌ爲メニ強クシナケレバナランコトハナイ
(南部委員)
ケレドモ移轉セヌカラ
(尾崎委員)
移轉セヌデモ登記シナケレバ自分ノモノニナラン
(南部委員)
第一登記スレバ費用ヲ出サナケレバナラン、寧ロ登記セズニ置クガ宜イトナル、何時マデモ行ク氣遣イハナイカラ流通ヲ妨ゲルノデス
(栗塚報吿委員)
起案者ハ百圓トシタノヲ、半減ニシタノデアリマス、伊太利ハ五十圓迄デス、白耳義ハ尙ホ嚴デス
(尾崎委員)
末項ハ宜シイ
(淸岡委員)
此文章デ云フト、失效命令ガアツタラ取消スト豫メ命ジテ置クトコウ云フトキハ登記役人ニ命ズト云フハ如何カ
(村田委員)
原案デ宜シイ
(淸岡委員)
登記官吏ニ命ズトハ見ヘナイ
(栗塚報吿委員)
職權ヲ以テスルノデスカラ
(淸岡委員)
命ズト云タ以上ハ普通ノモノニ命ズルコトハナイ
(南部委員)
記載ノ抹消ヲ命ズルモノハ原吿人ニ命ズルコトハナイ、記載ハ誰ガシタカ、卽チ登記官吏ガシタノデ然レバ登記官ノ外命ヲ受ケルモノハアリマセンコトハ明カデアリマス
(尾崎委員)
宜カロウ
本條ハ左ノ如ク修正ニ決ス
第三百七十二條登記セラレタル移付ノ解除ハ銷除又ハ廢罷ヲ主旨トスル訴權カ善意ノ轉得者ノ害トナリ行フコトヲ得サル場合ニ在テハ原吿ハ自己ニ對抗スルコトヲ得ヘキ登記又ハ記入ヲ止ムル爲メ其攻撃スル證書ノ登記ノ縁邊ニ裁判所ニ於ケル請求ヲ拔抄シテ記載セシム若シ前記ノ訴權カ區別ナク總テノ轉得者ニ對シテ行フコトヲ得ル場合ニ在テハ攻撃スル證書ノ登記ノ縁邊ニ請求ヲ記載セサル間ハ裁判所ニ於テ之ヲ受理セラレス證書ノ取消ヲ宣吿スル判決ハ假ノ執行タリトモ其執行以前請求ノ登記ノ末ニ亦之ヲ記載スルコトヲ要ス又如何ナル場合ニ於テモ、其判決カ攻撃スルコトヲ得サルモノト爲リタルヨリ一个月内ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス若シ之ニ違ヒタルトキハ科料ニ處ス若シ請求ヲ却下シ又ハ其手續ノ失效ヲ宣吿シタルトキハ裁判所ハ其判決カ攻撃スルコトヲ得サルモノト爲リタルトキニ至リ其請求ノ記載ヲ抹消スヘキ爲メ職權ヲ以テ豫メ之ヲ命ス若シ原吿カ取下ヲ爲ストキハ當事者ノ請願ニ因リ請求ノ抹消ヲ爲ス
(委員長)
今日ハ是レ迄デ置キマス