法律取調委員会 民法草案議事筆記 第20回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案第二編物權ノ部議事筆記 , 自 第十七回 至 第二十二回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草按第二部第二十回議事筆記
第七百四十一條七百四十二條七百四十三條
再自第七百六十六條議至第七百八十條
明治二十一年二月一日午前第九時開會
(委員長)
「ボアソナード」ニ聞キタル所カラヤリマス第七百四十一條ハ之デ宜シイカ
○第七百四十一條朗讀ス
第七百四十一條 若シ泉源ノ水カ一邑又ハ一村落ノ住民ノ家内ノ使用ニ必要ナルトキハ所有者ハ其水ノ自己ニ不用ナル部分ヲ流過セシムヘシ
又邑ハ自費ニテ水ノ集合及ヒ引入ニ必要ナル工事ヲ泉源ノ土地ニ於テ行フ事ヲ得但其工事ノ爲メ償金ヲ償ヒ且其土地ニ永久ノ損害ヲ生セサル事ヲ要ス
其他邑ハ水ノ使用ノ爲メ償金ヲ拂フヘシ但三十年間無償ニテ其使用ヲ行ヒタルトキハ此限ニ在ラス〔第六百四十三條〕
(鶴田委員)
「泉源」ノ事ハ除キテ置キマシヨウ
(松岡委員)
七十二條ノ雨水ヲ受ケル人ハ四十二條ガ元トニナリマスカラ四十二條ノ棄テタル水ヲ貰ウ人ハ元方ニ行キ必要ノ工事ヲスルハ決シテ許スベキ道理モナケレバ其樣ナル權能權利ヲ與フル譯モアリマセン、ソレカラ四十一條モ是レハ畢竟水ノ餘リガアレバ之ハ人ニ取ラセテモ宜シイ協議スルハ格別自身ノ他設カラ生ズルモノト見レバ、所有者ノ餘リタル水ヲ人ガ用フルナレバソレハ宜シウ御座イマスケレドモ此方ニモ地面ヲ持テ水ノ集合引入ノ爲メニ工事ヲ爲シテハ自家撞着デアリマシテ土地ニ損害ヲ生ゼザル事ヲ要スルハ行ハレザル事デアリマス、又如何ニ大勢ノ爲メデモ公益ノ爲メ土地ヲ買上ゲルハ別デアリマス水ノ集合ノ引入ニ必要ナル工事ト云フノハ唯水ノ道ヲ付ケテ、下ノ方ノ村ナリ町ナリ村落ニテ團結ヲ爲シテ居ル所ノ者ノ飮料ノ水ナリ、便利ノ工事ヲ與ヘル丈ケノ事ニ解釋ヲ定メテ置ク方ガ宜シイダロウト思ヒマス
(南部委員)
七百四十一條ト七百四十二條ト一緒ニ擧ゲテ論ジナケレバナリマセンガ、四十二條ハ第二段トシテ、四十一條ハ一方ハ町村ニシテ一方ハ一個人デ御座イマスカラ、一町村ノ爲メニ少シク一個人ノ利益ヲ損害スルハ致シ方ノナイ事デ御座イマシヨウシ、且又集合ハ「ボアソナード」ノ答ヘノ趣ヲ見マシテモ左樣ニ大キナ物ヲシナイデモ、隨分集合ノ場所モ出來マシヨウカラソレデ泉源ノ地ヘ溜リノ樣ナモノヲ拵ヘテ、ソレヘ水ヲ集メテ引クノハ起案者ノ修正ノ通リ、矢張リ泉源ノ地ニ於テ集合ノ場所ガ出來ル事ヲ致シマシテモ大ナル差支モアリマスマイ加之大ニ必要デアリマス、何トナレバ若シ集合ガ其所ニアラザレバ出來ザル場合ニナリタルトキハ町村ニテ水ヲ得ル事ガ出來マセン樣ニナルカラ、此案ノ修正ハ矢張リ泉源ノ地ニ行フトシテ置キ度イト思ヒマス、然ラバ償金ヲモ拂ヒマシヨウシ、又土地ノ永久ノ損害ヲ生ゼザルノ制限モアリマスカラ無理ナ事モアリマスマイ、起案者ノ旨意デ補フテ行ク方ガ宜シイト思ヒマス尙ホ四十二條ハ跡デ申シマス
(委員長)
ソレデハ一條ヅツヤリマシヨウガ、皆サン四十一條ハ如何デスカ
(松岡委員)
四十一條ハ原案ノ儘デ宜シイト思ヒマス
(鶴田委員)
此儘ガ相當デ御座イマシヨウ
(尾崎委員)
四十一條ハ原案ノ通リデ、別ニ解釋ノ仕樣ガナイ
(松岡委員)
解釋ノ仕樣ハ他ニテスルノト、溜ハ泉源ノ地デナク外ニテ水ヲ溜メルノト、泉源ノ地デヤレルノトアルカラ直チニ泉源ノ土地ヘ溜ナリ何ナリ拵ヘテ意義ノ定メ方ニ差支ガアリマス
(淸岡委員)
所ガ協議上ニテ御前ノ土地ヘ水溜ヲ拵ヘ度イト云フ事デ協議ガ出來ルナレバ勿論宜シイガ、此所デハ泉源ノ所有者ハ迷惑極マル事デ其樣ナ工事ヲ起サレテハ困ルト云テモ「行フ事ヲ得ル」ダカラ、本條ニ違ウト云フ事ハ出來マセン然ルトキハ償金ハ拂ヒマシヨウガ償金ヲ拂フテモ左樣ニ取レルモノデモナシ、百坪ナラ百坪、五十坪ナラ五十坪ノ極マリガアリマスカラ、大變困ル事ガ出來マシヨウ
(委員長)
其村ノ害ニハナリマセン
(淸岡委員)
村ノ害ニナラズトモ所有者ノ害ニナル
(村田委員)
村ノ害デハナク却テ良クナル、此水ノ爲メニ生活シテ行クノデアリマスカラ
(松岡委員)
「泉源ハ所有者カ自己ノ不用ニナル部分ヲ流下セシムヘシ」ト云フ事ガ本體デアリマスナラ所有者ガ必用ノ水ナレバ使ハセズトモ宜シイ、ソレヲ泉源ニ穴ヲ掘リ水ヲ溜メル權ガアルト云フ事ハ出來ナイ
(南部委員)
左樣ナル旨意デハナイ
(栗塚報吿委員)
實ハ松岡サンノ云フ樣ニ見マシタガ、佛蘭西法ヲ見ルト、一項丈ケニ止マリマシテ二項三項ハアリマセン此ハ「ボアソナード」ガ作リマシテ入レタノデアリマス
(松岡委員)
實際撞着シタ話デアリマス
(栗塚報吿委員)
一項ニ於テ斯ノ如ク所有權ハ確カナルモノデアルト云フテ住民ノ必要デナケレバナリマセン必要ナルトキハ其水ノ不用ノ部分丈ケヲ渡サナケレバナリマセン、然ルトキハ二項ハ流下セシムルノデハナクシテ源カラヤラナケレバナラヌト云フ事デ、壞ハシテ居ルノデス
(松岡委員)
委ハシク云ヘバ泉源ノ所有者ハ隨意ニ使用スル事ヲ得所有者ハ自己ノ地ニアル泉源ノ水ハ自己ニ充分ノ使用權ガアル、併シナガラ自己ノ水ダト云フテモ餘分ノアリタルトキハ是非流下シテヤラナケレバナラザル條件ガ定マツテ來タノデアリマス、ソレ故ニ村ノ者ト雖モ有益ノ事業ニシテ箇樣ナ必要ガアルト云フトキ丈ケハ泉源ノ水ノ所有者ノ勝手ニ流下サセル樣ナ處分ヲサセズ、當リ前ニ使ヒタル以上ハ不用ノ水ハ流サルルトアリ二項ニテ集合ノ溜ヲ其所ヘ造ル權利ガアルト云フトキハ一項ノ不用ノ餘分ヲ流下セザルト云フ旨意ガ摩滅スル事ニナリマス
(南部委員)
左樣ナル事ハナイ
(村田委員)
一村ノ人民ナレバ公共物ダカラ、一村ノ人民ノ爲メニハ假用スル必要アルトキハ、餘分ノ水ガアレバヤラナケレバナリマセン、一個人同志ナレバヤラズトモ宜シイ
(松岡委員)
ヤラヌトハ申シマセンヤル事ハ定マツテ居ルケレドモ上ノ方ハ不用ノ部分ヲ流下セシムルノデアリマス
(村田委員)
流シテヤルノデス
(松岡委員)
噴出ス泉源ガアルカラソレヲ集合シテハ、流シテヤルノデハアリマセン
(村田委員)
松岡サンノ云フ樣ニシテハ流下サセル事ハ出來ザル樣ニナリマス其水ヲ溜メル升ハ或ハ此方ヘ出來ル場合モアルガ、向ウヘヤラナケレバ出來ザルトキガアル貴君ノ云フノハ泉源地ヘ集合スル工事ハサセヌト云フノダロウ
(松岡委員)
集合ト、工事トハ別デアリマス
(村田委員)
集合ト云フモ矢張リ工事ダ
(松岡委員)
「ボアソナード」ノ云フノハ貴君方ノ云フ樣ニナルガ、私ハ其通リニシテハ前項ト撞着スルト思フノデアリマス
(南部委員)
撞着シマセン、前項ハ不用ノ分ヲ流下セシムルノデアリマス、其不用ノ部分ヲ流下セシムル、ソレヲ町村ガ泉源ノ土地デ集合スルト云フデアリマスカラ決シテ矛盾致シマセン、不用ニアラザル水ハ二項ニ於テ集合セシメテ町村ヘ取ル旨意デハアリマセン
(尾崎委員)
撞着ハシマセン、工事ヲ求メナイデ流下セシムルノデアリマス、又流下ノ出來ナイ場合ニハ町村ガ自分デ泉源地ニ水ヲ集合サセテ工事ガ出來ルト云フノダカラ差支アリマセン
(栗塚報吿委員)
立法論デハアリマスガ、自分ノ不用ノ水ヲ流下セシメヨト云フテモ流下セシムル事ガ出來ズシテ別ニ川路ノナキ水デアリシトキハ如何シマスカ
(尾崎委員)
其樣ナル場合ニハ引入レノ工事ヲシナケレバナリマセン
(淸岡委員)
引入レニ必要ナルトキハ集合ノ工事ハ何レ丈ケ工事ヲシテ、集合ノ工事ト云フカ泉源ノ地ハ僅カ一反ガ半反ノ地所ナルニ、其所ヘ以テ集合ノ爲メ百坪カ百五十坪ノ池ヲ掘ル若シ其位掘ラザレバ干魃ノトキニ困ルカラ水ヲ貯ヘテ村ヘ引クト云ヘバ其泉源ノ所有者ハ自分ノ地所ハ半バ溜池ニ供シナケレバナラザル事モアリマシヨウ
(村田委員)
其トキハ償ヲ取ルカラ宜シイ
(淸岡委員)
償ヲ取ルカラ如何ナル事ヲシテモ宜シイト云フ事ハアリマスマイ
(尾崎委員)
永久ノ損害ヲ與フル事ナレバ出來マセン
(淸岡委員)
所有權ノ上ニ付キテハ償ヲ目的トシテ論ズルハ不都合デアリマス
(村田委員)
併シナガラ不用ノ水ナレバ一村ノ生活ニ必要ナレバ與ヘテモ宜シイ
(淸岡委員)
成程水下ノ人民ガ窘ム譯ナレバヤリモ致シマシヨウガ、法律ニテ集合所ヲ設ケラルルト云ヘバ是カラ先キ如何ナル事ニナリマスカ、已ニ水ノ衞生上必要ヲ感ズレバ至ル所水ノ集合所ニ大ナルモノヲ拵ヘル樣ニナリマシヨウ、却テ泉源ヲ持テ居ル爲メニ、土地ノ半分モ取ラレル樣ナ事ニナリマシテハ甚ダ不都合デアリマス
(村田委員)
否ト思ヘバ有用ノ水ダト云フテヤラズトモ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレハ出來マセン
(村田委員)
否出來ル
(栗塚報吿委員)
有用ノ譯ガナケレバナリマセン、一町村一部落ノ家用ニ必要ナルトキハ只ヤルノハ否デアルト云フ事ハ出來マセン
(南部委員)
左樣ナ大キナ工事ヲ慮ラズトモ宜シイダロウ
(尾崎委員)
高ガ家内用ノ水デアリマシテ、田地ニ引クノデハナシ、飮水計リニ供スルモノデアリマス又永久ニ夥シキ損害ヲ蒙ラセル樣ナレバ水ヲヤリハセンカラ其樣ニ慮ラズトモ宜シイ
(淸岡委員)
御說ノ如ク必要ニシテ、一村ノ利益ニ關係スルナレバ公然取ラシテ宜シイ、「永久ノ損害ヲ生セサル事ヲ要ス」ト云テ範圍ヲ狹クシテ置クノハ所有者ヲ害セザル事ヲ必要トスルカラ箇樣ナル事ガ出來ルノデアリマス起案者ハ恐ラクハ少シノ工事ト思フノデアリマシヨウガ能ク考ヘルト隨分大キナ工事ヲサレテモ仕方ガアリマセン然シテ永久ノ損害ヲ生ズルトキハ出來ヌト云フトキハ一條ノ内デ撞着スル旨意ニナリマス
(栗塚報吿委員)
起案者ニ問ヒマシタ所ガ泉源抔ハアリマセン唯幾ツモ蜂ノ集ノ如キ穴ガアル故其所ヘ溜ヲ拵ヘルト云フ事デアリマシタ
(尾崎委員)
泉源地ハ先ヅ荒地デアリマス
(渡委員)
私ハ横文字ノ意味ヲ讀ンデ見ルニ泉源ノ所有者ハアリマスケレドモ泉源ノ所有者ハ其水ヲバ餘サズ漏ラサズ使ハナケレバナラズト云フテハナクシテ、所有者ハ自ラ水ヲ公益ノ爲メニ灌ガザルベカラザル義務アルモノトアリマス、此條デモ泉源ノ所有者ハ自分ノ水ハ一村落ノ飮用家用ニ必要ナレバ、自分ノ入用丈ケハ所有者ガ使フハ自由ダガ、餘リハ流シテ一般ニ通下セシムベシトアリマスガ、原文ニテハ「セネバナラヌ」ト「ヤラナケレバナラヌ」トアリマシテ、義務トシテアリマス之ヲ義務トシテ己レノ使ヒタル餘リヲ一般ニ灌グ義務トナレバ二項モ出テ來リマス其場合ニ於テ一般ニ灌ガナケレバナラズト云フ以上ハ一般ノ者ハソレヲ導ク工事ヲ爲シテ妨ゲハアリマセン然レドモ其工事ガ所有者ノ泉源ノ所有權ニ永久ノ損害ノ生ゼシメザル樣ニシナケレバナリマセン、又水ノ餘リヲ貰ウ以上ハ其償ヲシナケレバナリマセン故ニ道理ニ於テ矛盾或ハ牴觸ハ致シマセン
(委員長)
原案通リデ置クノハ宜シイガ、解釋ハ如何デス
(松岡委員)
私モ工事ヲ爲シテナラズト云フノデハアリマセン工事ヲ爲シ溜池ヲ拵ヘタリスル爲メニ、道ニ管ヲ伏セルトカ、水ヲ引クトカ云フ工事ヲ許スハ土地ニ集合スルノデハナク、此方カラ水ヲ集合スル爲メノ工事ヲ爲スト云フカラ少シ其場合ガ違ヒマス池モ掘ラズ夫ノ熱海ニ於テ水ヲ引ク如ク石垣ヲ以テ水溜ヲ拵ヘルカ水ノ道ヲ付ケル工事ヲ泉源地ニ爲スヲ許ストハ違ヒマス
(渡委員)
其所ハ互格デアロウト思ヒマス所有地ニ工事ヲ爲ス故ニ永久ノ損害ヲ爲シテハナラザル義務ト又一ツハ水溜ヲ取ル爲メニ償ヲシナケレバナリマセンカラ互格デアリマス
(淸岡委員)
償ヒサヘスレバ宜シイト云フ事ハ云ハレマセン止ヲ得ザルトキ償ヒヲスルハ無論ナレドモ人ノ所有物ヲ傷ケテ償ヒサヘスレバ宜シイト云フ事ハ法律上ニ於テ許スベカラザル事デアリマス
(南部委員)
ソレガ卽チ地役デアリマス
(委員長)
多數デ決シマシヨウ
(淸岡委員)
「集合」ト云フ字ハ不要用デアリマスカラ削除シテ宜シイ
(委員長)
貴君ヤ松岡サンノ論ハ「集合」ヲ除ク積リデアリマシヨウガ、多數デ決シマシヨウ
(松岡委員)
尙ホ念ノ爲メニ申シマスガ「集合」ト云フ字ヲ削除セズトモ差支ハアリマセンガ、解釋ノ仕樣ガ違ウ丈ケデアリマス
(委員長)
貴君ノ仰シヤル理窟モアリマスガ、又他人ノ水ヲ呉レト云テ是非ヤラナケレバナラヌト云フ事モアリマスマイカラ差支モアリマスマイ
(松岡委員)
少數ナレバ仕方ガアリマセン
(委員長)
斷念サレテ宜シカロウ、之ハ多數ニ依テ原案ニ決シテ七百四十二條ヲヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
○第七百四十二條朗讀ス
第七百四十二條 其他ノ場合ニ於テ若シ私ノ泉源ノ餘分ノ水カ何人ニモ益スル事ナクシテ外ニ流出スルトキハ其水ノ出口ニ接シタル隣人ハ前條ニ記載シタル如ク必要ナル工事ヲ爲シ容假ニテ己レノ方ニ其水ヲ導クノ權能ヲ求ムル事ヲ得〔伊民第五百四十五條〕
(栗塚報吿委員)
前ノ集合ガ決スレバ愈々困リタルモノデアリマス
(松岡委員)
此樣ナル前後不恙カナ法文ハアルモノデハアリマセン前條ニ記載シタル如クト云フトキハ、前條ニ記載シタル如ク必要ナル工事ヲ爲スト云フノデアリマスカラ溜井ノ内ヘ工事ヲ爲スト云フ事ニナリ大變デアリマス
(栗塚報吿委員)
本條ノ認メタル所ハ若シ隣人ガ水ヲ使用セザルトキハ何處ヘ流出スルカ、場合ニ依テハ自己ノ土地ニ工事ヲ爲サザルヲ得ズ泉源者ガ十分ニ使ヒタル餘リノ水ガアレバ云々デアリマスカラ隣リノ地ヘ水ノ溢レテ來ルトキハ其溢レタ所カラ工事ヲ爲スノデアリマス、松岡サンノ地面ヘ水ガ溢レマスカラ私ノ地面ヘ口ヲ付ケルト云フノデアリマス故ニ泉源地ヘ踏込ムト云フ事ハアリマセン
(松岡委員)
其事ハ何所デ見ヘルカ
(鶴田委員)
「ボアソナード」ノ不都合デアリマス、前ハ泉源ノ土地ニ工事ヲ行フト云フテ本條「前條ニ記載シ」云々ト云フトキハ同樣ニシナケレバナリマセン
(松岡委員)
前條モ水ノ出口ニ接シテ工事ヲ爲スト云ヘバ宜シイガ、然ラズシテ前ニ記載シタル必要ノ工事ガ出來ル樣ニナル故自家撞着ニナリマス
(尾崎委員)
他人ガ使ヘバ自分ノ水ハ幾ラカ減ズル勘定デアリマス
(委員長)
「前條ニ記載シタル」ヲ削レバ論ハナイ
(南部委員)
左樣デス
(淸岡委員)
「工事」ト云フ字ヲ存スルトキハ、前條ノ工事ト云フノト照シ合ハセマスカラ必ラズ泉源ノ地ニ行キテ工事ヲ爲スデアリマシヨウ
(松岡委員)
自分ノ家ヲ自分ガ造ルノナラバ權能モ何モ要シマセン
(委員長)
自分ノ土地ヘ直グニ水ガ出ザルモ侍ベリテ水ノ出ルノヲ自分ノ土地ヘ引クハ權ハズト云フノダ
(松岡委員)
此所ハ否ト云フタラヤラズトモ濟ムノデアリマス
(委員長)
流レル水ヲ以テ隣人ガ水口ヲ付ケテ取ル事ハ隣人ニ權利ガアルト看做スノデアリマス
(南部委員)
「隣人ハ其出口ニ於テ」トシテハ如何デアリマスカ
(松岡委員)
何ノ要ガアルカ
(南部委員)
何レ關係ヲ有シテ居ル
(淸岡委員)
前條ノ如ク工事ヲ爲ス精神ヲ考フレバ、之ハ自分ノ方ヘ水ヲ引入レル事必要ニシテ工事ヲ爲スノデアリマスカラ先キ方ニ道ヲ付ケナケレバナリマセン故ニ先方ノ地面ヘ行キマシテ眞直グニ水ノ來ル樣ニ工事ヲ爲スト云フノデアリマス然ラバ前條ノ工事モ同樣ニヤラナケレバナリマセンカラ前條ノ「ボアソナード」ノ精神ハ宜シイト思ヒマス
(松岡委員)
前條ガ原案ニ決スレバ本條ハ要用ハアリマセン
(工藤報吿委員)
ソレハ要用ガアリマス
(村田委員)
併シ之ハ佛蘭西ニハアリマセン
(栗塚報吿委員)
七百四十九條ヲ見ルニ隣地ニ流ルベキ水ヲ隣地ニ供セザルガ原則デアリマス然ルニ是ハ供セナケレバナラヌトアリマスカラ隣人ハ除キテモ宜シイノデス
(松岡委員)
隣リノ者ガ水ヲ呉レト云フトキハヤラナケレバナリマセン
(工藤報吿委員)
經濟上カラ世ノ中ニ水ヲ充分流ス丈ケハ許シテヤラナケレバナリマセン
(渡委員)
「隣人ハ容假ニテ」トシタラバ宜シカロウ
(南部委員)
ソレデ宜シイ
(鶴田委員)
ソレナレバ宜シイ
(松岡委員)
ソレデ何所ニ益ガアルカ、今迄左ニ水ヲ出シタルヲ今度ハ右ニ水ヲ出スモ所有者ノ勝手デアルカラ何ノ益モアリマセン
(渡委員)
此條ノ容假ニテト云フ事ハ權利義務ガナイカラ容假ト云フ事ガ要用ト見レバ宜シウ御座イマス、容假ニシテ權能ガ出來ル以上ハ今迄貴樣ノ所ヘ流シタケレドモ最早流サヌト云フ事ハ出來マセン
(松岡委員)
然ラバ地主ガ變リマシテモ其通リシナケレバナリマセンカ
(渡委員)
ソレハ論ズルニ及ビマセン、地役トスレバ、容假トハ云ハレマセン
(南部委員)
「前條ニ記載シタル如ク必要ノ工事ヲ爲ス」ト云フ事ハ削リマシテハ如何デスカ
(淸岡委員)
ソレヲ削ルトキハ自己ノ權能ガ出來ナイ
(委員長)
「ボアソナード」ニ尙ホ能ク聞ク事ニシマシヨウ
(淸岡委員)
然シテ今一應確カメタイ
(委員長)
四十一條ニ泉源ノ土地ヘ溜池ヲ掘リテ宜シイト云ヒ、四十二條ニ於テ「前條ニ記載シタル」トアレバ矢張リ隣地ノ泉源ニ行キ掘テ宜シイト見ヘルカラ論ガアルノダガ、能ク考ヘルト隣リノ人ハ使用スル權利ガアル故地役ノ一部トシテ置カナケレバナリマスマイガ權利ガアルト云フトキハ容假ト云フモノニデハナク純然タル權利ト云ハナケレバナリマセン之ハ再ビ起案者ニ聞キテ宜シカロウ
(鶴田委員)
四十一條デハ論ハ起ラズシテ本條ニ在ル「前條ニ記載シタル必要ノ工事」ト云フノガ論ノ初メデ御座イマス
(委員長)
ソレヲ聞キテ報吿委員ニテ修正スルナレバ修正ノ意見ヲ付ケテ出シタラ宜シイ
(工藤報吿委員)
左樣致シマシヨウ
本條ハ起案者ニ問ウ事ニ決ス
(委員長)
次ニ七百四十三條ヲ議シマシヨウ
○第七百四十三條朗讀ス
第七百四十三條 第五百二十五條ニ從ヒ公有ノ部分ヲ爲サス又各個人ニモ屬セサル流水ニ聯接シタル土地ノ所有者ハ家内ノ使用又ハ自己ノ土地ノ灌漑又ハ自己工業ノ爲メ其流水ノ通路ニ於テ之ヲ用ユル事ヲ得然レトモ其水路ヲ變スル事ヲ得ス
若シ之ニ反シテ右ト同一ノ本性ノ流水カ土地ヲ通過スルトキハ其所有者ハ右ト同一ノ需用ノ爲メ其土地内ニ於テ水路ヲ轉スル事ヲ得然レトモ其土地ノ水ノ出口ニ於テハ之ヲ其天然ノ水路ニ復スル事ヲ要ス〔第六百四十四條〕
右何レノ場合ニ於テモ沿岸者ハ地方ノ規則ニ從ヒ捕漁ノ權利ヲ有ス
(松岡委員)
公有ニアラズ又各個人ニモ屬セザル水ト云フハ妙ナモノデアリマス佛蘭西ノ樣ナ公有ノ川ト云フト一樣ノ川ニナリマス、日本ノ用惡水ノ如キハ船筏通シマセン、用惡水ノ船筏ノ通セザル川ハ除キ又大キナ網ヲ用ヒテナラヌトカ云フ如キ川ハ實ニ見出セマセン
(南部委員)
此「各個人」ト云フ中ニハ村ニ這入ルト云フ事ハ之ノミデハ分リマセン、愈々村ガ這入ルヤ否ヤヲ研究シテ、果シテ村モ這入リ居ルナレバ「各個人」ト云フ事ハ修正ヲ加ヘテ出サナケレバナラヌト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
箕作サンノ云フニ「各個人又ハ社團國「デパルトマン」」何々ト云テ此處ニテ各個人ト云フ中ニ村ガ這入ラザレバ五百一條ニ於テ「コンミユーヌ」ト云フ事モ云ヘマセン
(村田委員)
「各個人若クハ」トシテハ如何デスカ
(松岡委員)
船筏ノ通セザル川ノ川床ハ皆ナ所有者ノ有ニ屬スト「ボアソナード」ハ見テ居ルノデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デアリマス之ハ利根川ノ如キモノニ止マルデアリマシヨウ偖國民ノ公有ニモ非ラズ、縣ト云フ無形人ノ私有ニモアラズ又一身ノ私有ニモアラザル川ノ川床ハ、兩岸者ニ屬スゾヨト云フノデアリマス
(松岡委員)
利根川許リトモ見ラレマセン、捕漁ノ權利ヲ有ストアリ、捕漁ト云フハ「ボアソナード」ハ鰌ヲ云フノカソンナ愚ナ事ハ云フマイ、上流ノ人ガ大キナ魚ヲ捕テハ下流ノ人ガ困ル抔ト註ニモ云フテ居ル
(村田委員)
「ボアソナード」ニ聞ク方ガ宜シイ
(委員長)
之ハ聞クヨリモ日本ニ適スル樣ニ改メテ宜シイ、沿岸ト云フトキハ如何ニシテモ大キナ川トナリ、責メテハ隅田川位ナケレバナリマセン
(松岡委員)
「ボアソナード」ノ考ニテハ淨カナル魚ノ捕レル所ト云フノデアリマシヨウ
(委員長)
ソレハ左樣デアリマシヨウガ大小ヲ議スルニハ及バズ日本ニハ川端ニ住ム人間ハ水流ヲ妨ゲズシテ使ヘルトアレバ宜シイノデアリマス
(栗塚報吿委員)
千五百十七條邊ハ「舟筏ノ流通セサル島ハ川床ト齊シク沿岸者ニ屬ス」云々トアリマスガ、少シ面白クナキ樣デアリマス
(委員長)
日本ニ於テ川ノ底ヲ川端ノ人間ガ所有スルト云フ事ヲ此所デ定メルノハ宜シクアリマセン
(栗塚報吿委員)
ソレハ獲得デ定マルノデアリマスカラ此所ハ暫ク御預ケ置キナサレテ川床ノ所有者ハ誰ナリト定メルノハ「川床舟筏」云々ノ所ニテ論及ガ出來樣ト思ヒマス
(南部委員)
其方ガ宜シイデアリマシヨウ
(村田委員)
其方ガ宜シイ
(松岡委員)
其時分迄ニ内務省ニモ打合セテ見タラ如何デス
(委員長)
内務省ノ中村ニ能ク聞イテ見ルガ宜シイ
(工藤報吿委員)
承知致シマシタ
(委員長)
ソレデハ先キヘヤリマシヨウ
本條ハ内務省ヘ問合セノ上再議スル事ニ決ス
○第七百六十六條朗讀ス
第四款 圍障
第七百六十六條 總テノ所有者ハ其適宜ト考フル材料ヲ用ヒテ其適宜ト考フル高度ニ自己ノ土地ヲ圍フ事ヲ得但第七百六十七條ニ定メタル最下限ハ此限ニ在ラス
若シ土地カ隣人ノ入來又ハ通行ヲ許ス法律上又ハ人爲上ノ地役ニ服スルトキハ其地役ヲ行フノ權能ヲ妨クル事ヲ得ス〔第六百四十九條及ヒ伊民第四百四十二條〕
(村田委員)
地役ヲ行フ「權能」ハ「權利」デハ御座イマセンカ
(栗塚報吿委員)
「權能」デ御座イマス「入來」ハ餘程困リマシタガ外ニ書キ樣ガ御座イマセン
(南部委員)
俗ニ「入來」ト云フ事ヲ云ヒマス
(栗塚報吿委員)
觀工場ニ「縱覽勝手次第」トアリマス彼ノ事デアリマス
(鶴田委員)
之ハ宜シイ樣デス
(委員長)
宜シカロウ
(鶴田委員)
「垣根ヲスルヲ得」ダカラシナイデモ宜シイノダロウ、若シスレバ六尺ト云フノダカラ
(南部委員)
シナイデモ宜シイノデアリマス
(委員長)
次ギヘヤリマシヨウ
本條ハ第一項但書ヲ刪除ニ決ス
○第七百六十七條朗讀ス
第七百六十七條 若シ連接シタル土地ガ居宅又ハ農工業ノ利用ノ建物ノ間ニ内庭又ハ庭園ヲ成シテ異別ナル所有者ニ屬スルトキハ各自何レノ場所ニ於テモ其隣人ニ分界圍障ヲ分擔スベシト強要スル事ヲ得議協ハサルトキハ其圍障ハ板塀又ハ竹塀ニアラサレバ之ヲ要求スル事ヲ得ス
其高度ハ分界線ノ平面ヨリ少ナクトモ六尺タルヘシ
土地ノ一カ他ノ土地ヨリ堆地タルトキハ圍障ハ堆地ニ設ケ且其高サハ單ニ底地ヨリ六尺ニ達スルヲ以テ足レリトス但三尺以下タル事ヲ得ス
(修正) 初項「各自何レノ場合ニ於テモ」ノ十一字ヲ刪除シ「市街ト村落トヲ問ハス各自」ノ十二字ヲ挿入ス同條竹ノ下「塀」ノ一字ヲ「垣」ニ改ム
(栗塚報吿委員)
第一項ノ「議協ハサル」ヨリハ別項ニナルノヲ寫字ノ間違ヒデ一ツニ致シマシタカラ別項ニ改メマス又末項ハ起案者ガ刪除シテ參リマシタ
(工藤報吿委員)
之ハ修正ガ御座イマス
(鶴田委員)
「農工業ノ利用ノ建物ノ間ニ屬ストキハ」デアリマスカ
(栗塚報吿委員)
建物ノ間ニ内庭又ハ庭園ヲ爲シテ別々ニ屬スルトキハデアリマス若シ連接シタルトキハ卽チ何方ガ内庭又ハ庭園ヲ爲シテ居ルカ知レマセン、何ノ間カナレバ、家ノ間カ又ハ建物ノ間デアリマス
(南部委員)
「内庭又ハ」ハ前ニ削リマシタカラ御削リヲ願ヒマス
(松岡委員)
板塀、竹塀ト云フモノハナイ
(南部委員)
「竹塀」ハ「竹垣」ト云フ字ニ直リマシタ
(淸岡委員)
活垣モ宜シイデアリマシヨウ
(松岡委員)
相當ノ家ハ格別ダガ、板塀抔ハ田舎ニ行キマシテハアリマセン
(淸岡委員)
「竹垣等ノ類ニ非サレハ」トシテ如何デス
(委員長)
「等」ノ字ヲ入レバ宜シイダロウ
(淸岡委員)
板塀抔ト云フモノハ田舎ニテハ大家デナケレバアリマセン
(委員長)
南部サン「板垣又ハ竹垣ノ類ニ非サレハ」トシテ宜シカロウ
(南部委員)
宜シウ御座イマス
(松岡委員)
之ハ尤モデス
(委員長)
前ノ條ニモ「六尺以上」云々トアルカラ宜シカロウ
(村田委員)
杉抔ハ六尺ハ迚モ出來マセン
(委員長)
併シ大槪六尺ハアルダロウ
(栗塚報吿委員)
六尺ト云フタノハ高サハ六尺ナケレバナリマセンガ、周圍ハ六尺デモ一尺デモ構ヒマセン
(村田委員)
ソレハ左樣デハアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
六尺デナケレバナラヌト云フハ、居宅ト居宅ノ間デアリマシヨウ之ハ竹垣トカ、板塀位ガ相當ニシテ、活垣抔ハ低イモノデ爲シテモ宜シイガ
(工藤報吿委員)
「竹垣類」トスル論モアリマシタガ「類」デハ宜シクアリマセン
(松岡委員)
若シセザル時分ニハ法律ニテ押付ケルケレドモ、相互ノ間ハ如何シマスカ
(栗塚報吿委員)
適宜ト考フル高サト云フハ二尺デモ出來ルゾヨ但シ七百六十七條ノ場合卽チ連接シタル土地ガ内庭又ハ庭園ヲ爲シ異別シタル所有者ニ屬スルトキハ六尺ノ高サガナケレバナラヌト云フノデアリマス
(松岡委員)
上ハ原則ヲ云ヒ、此所ハ取リ除ケヲ云フノダ
(栗塚報吿委員)
御分リニナリタル以上ハ御削リニナリマシテモ宜シイガ、分ラズシテ削ラレテハ溜リマセン
(松岡委員)
分リマシタカラ削ルノデス
(南部委員)
置キマシテモ宜シイノデアリマシヨウ
(委員長)
誤リハナイカラ宜シイダロウ
(栗塚報吿委員)
適宜ト考フル高サト云フノハ二尺デモ、三尺デモ宜シイケレドモ異別ナル所有者ノ間ニ在テハ、六尺ニシナケレバナラヌゾヨト云フノデアリマス
(村田委員)
併シ隣リ同士デハ如何ダロウ
(松岡委員)
伊太利ノ法律ト同ジデ所有者ハ地面ニ垣ヲ拵ヘル事ガ出來ル次ノ條ガナケレバ如何樣ナモノデモ拵ヘテ仕舞フ、隣人ト連接シタルトキハ七百六十七條ノ一ノ事情ガアルノデ、此方ハ所有者ハ適宜ト云フハ當リ前ノ事デ跡ニ取リ除ケガ一ツ出來ルノデアリマス
(委員長)
云ハズトモ宜シイ事ヲ云タニ過ギナイ
(松岡委員)
正則ヲ極メルニ變則ヲ混淆シタト思ヒマス
(委員長)
ソレデモ誤リハアリマセン
(松岡委員)
普通ヲ云フトキハ自由ニ出來ルモノデアル、併シ出來ナイ場合ハ外ノ條ニアル事ヲ持テ來テ援引スルモ宜シイガ、先キハ前ノ取除ケヲ云フノデアリマスカラ
(委員長)
併シナガラ之ヲ以テ最下減ハ六尺トアリマスカラ適宜ト云フテモ六尺ヨリ以下ハナラヌト云フナレバ害ガアルガ、左樣デナケレバ害ハナイ
(南部委員)
之ハアツテモ宜シイ
(淸岡委員)
七百六十七條デ六尺ト定メタケレドモ最下減ハ此所デ又低クスル事ハ出來マセント解スルダロウ
(渡委員)
「ボアソナード」ガ跡カラ削タノデアリマスガ、彼ヲ削リタルニ準ジテ前ノ但ヲ削ラナケレバナラヌデハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ貴君ニモ似合ハヌ御說デ御座イマス
(渡委員)
一ハ高ク一ハ低クダカラ、此但ハ削ラナケレバナラヌデハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
最下減ハ此限ニアラズデ御座イマス
(渡委員)
總テ所有者ガ適宜ト考ヘル材料ヲ以テ高サヲ圍ウ事ガ出來ル、併シ六尺ハ圍フベシト云フノデアリマシヨウ然ラバ但書ハ削除シテ貰ヒ度イト思ヒマス
(委員長)
前條ノ但書ハ削ルカ如何
(尾崎委員)
此方ハ私ガスルカラ彼方ハ貴君ガナサレト契約スルモノモアリマシヨウ
(南部委員)
ソレハ互有ノ所ニアリマス
(鶴田委員)
高キ所ニ設クルニハ垣根ハ低クモ宜シイ筈ダガ之ヲ削レバ矢張リ六尺ニスル積リカ、又前ヘ戻テ適宜ニナルノカ
(栗塚報吿委員)
左樣ニハ行キマセン之ハ第一項ノ場合ヲ指ス條ト思ヒマス
(鶴田委員)
私ハ左樣ニハ見マセン、高キ土地ガ自分ノ土地デアリマス、高キ土地ヘ高キ垣根ハ出來マセンカラ高キ人ハ自分ノ土地ヘ設ケテモ宜シイ故ニ之ヲ設ケレバ卽チ六十六條ノ適宜ニスル旨意ニ戻ルノデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ戻リマスマイ
(鶴田委員)
ソレデ先キヘハ尺ヲ云ハザルノデアリマシヨウ
(工藤報吿委員)
之ハ一體報吿委員カラ「ボアソナード」ニ問フタノデアリマス三尺以下ハ建ル事ヲ得ズトアリマスカラ、一體地面ガ二ツ並ビテ、一方ハ高ク一方ハ低クモ互ヒニ見ヘザル樣ニ六尺ニシナケレバナリマスマイカト云フタラソレハ行カヌト云フテ刪リマシタ
(淸岡委員)
六尺ナケレバ見ヘルデアリマシヨウ
(鶴田委員)
堆地ハ制限ハナク前ニ戻リテ適宜ニスル事ガ出來ルト思ヒマス
(委員長)
私モ左樣ニ思フ
(松岡委員)
左樣ナルト之ハ必要デナイ
(栗塚報吿委員)
第一犬ヤ何カノ這入ラザル爲メノ豫防デアリマス
(委員長)
私ハ三年間皆一人デヤツテ居リマス
(南部委員)
詰リ堆地ヘ設ケルト云フ事丈ケヲ定メレバ宜シイ
(松岡委員)
然ルトキハ共有ノ地役ニナリマスマイ
(淸岡委員)
見セナイト云フテ禁ズルハ駄目ナ事デアリマス
(南部委員)
覗イテ見ルニアラズシテ當リ前ニシテ見ヘルカラト云フノデス
(淸岡委員)
堆地ニ建テナケレバ見透サレテ不都合ダカラ刪リタルノデアリマス然シテ見レバ今日東京市街其外ニシテモ堆地ハ始終六尺以上ノ人ニ見透サレザル樣ニシナケレバナリマセン、此民法ガ出ルト高臺ニ居ル人ハ皆ナ垣ヲ造ラナケレバナリマセン
(南部委員)
左樣デハアリマセン側ヘ行キテ見レバ見ヘルガ、ソレデナケレバ見ヘハ致シマセン
(栗塚報吿委員)
家ト家ノ間ノ所ヘ、頭ヲ入レテ見タラバ見ヘマシヨウ
(南部委員)
觀ルト云フ事ヲ頻リニ云フガ、之ハ家畜ノ往來スルヲ禁ズル旨意デアリマス
(委員長)
堆地ト低地ヲ圍ウトキハ六尺カ、又ハ前ノ適宜ニスルカト云フ問題デアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス併シ境界デ御座イマスカラ六尺デナケレバナリマセン、堆地ナレバ堆地ニ垣ヲ造レト云フノデアリマス、之ヲ定メタル以上ハ高サハ幾ラト云フ事モナシ、双方ノ庭ニナリテ縁側ヨリ見ヘタルトキハ一方カラ垣根ヲスル恰度私ノ居ル所ノ縁側ト天野ノ居ル所ト對シテ居テ彼方ハ堆地デアリマス、ソレデモ高サハ六尺ダガ、樹ヲ植ヘルカ何カシナイト向ウカラ見ヘルト云フカラ又三尺繼ギ足シヲシタノデ御座イマス
(淸岡委員)
觀望ヲ防グ爲メノ事ダロウ
(南部委員)
犬ヤ猫ノ入ルヲ禁ズル旨意デアリマスカラ之ハ無理デハアリマセン
(渡委員)
犬猫ノ出入ヲ禁ズルトシテモ、亦觀望ノ爲メトシテモ、栗塚君ノ云フ通リナレバ此條ハ差支アリマセン
(寺島報吿委員)
之ハ教師ガ七尺ニシタルヲ又六尺ニシテ、種々變更シテ居リマス、註ニモ人ノ背丈ケハ七尺アレバ最早其上ヲ超ヘテ見ル事ハ出來マセント云フ事ガ書イテアリマシタ三尺ニテハ人ノ帶ノ處迄外ナイカラ覗イテ見ラレテ不都合デアロウト聞キマシタ所ガ、成程不都合デアルトソレデハ直シマシヨウト云テ教師ガ直シマシタノデアリマス
(淸岡委員)
觀ル方デスカ
(寺島報吿委員)
觀ル方デアリマス
(淸岡委員)
以前ノ原案デ見ルト、此ノ方ハ簡單デアリマス、所ガ六尺ノ塀デモ上カラ見レバ何デモナイ、地所ガ曲リテ居レバ尙更デアルト處カラ元老院ニテモ論ガアリマシタ、所ガ此原案ニテハ變ジテ居リマス、此邊ハ起案者ノ旨意ハ觀望ヤ犬猫ノ事モアルガ、私ノ考ヘルニ堆地ニ設ケルト云テモ悉ク六尺ノ塀ヲ拵ヘナケレバナラヌ事ニナリ大變ノ事ニナルト云フ論モアリマス
(松岡委員)
要スルニ六尺ニセヨト云フ事ハ末項ヘ持テ來マセンカ
(寺島報吿委員)
持テ來ルノデアリマス
(南部委員)
持テ來ルナレバ之デハ宜シクアリマセン
(栗塚報吿委員)
分界線ノ平面ヨリト云ハナケレバナリマセン
(南部委員)
「ボアソナード」ハ如何ナル旨意カ知リマセンガ、六尺ノ制限ヲ置ク氣ハアリマセン、何トナレバ堆地ニ設ケルトアリマスカラ、分界線トハ決シテ云ハレマセン
(松岡委員)
詰リ分界線ト云フ高低ノ界ニアルト云フノダロウ
(栗塚報吿委員)
縁側ニ向テ上ニ大キナル築山ガアレバ觀望カラ云ヘバ築山ノ上ヘ目隱シテ造ラナケレバナリマセン
(松岡委員)
高キ所ヨリ六尺ト云ハナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
左樣ニナリマス
(松岡委員)
然ルトキハ下カラ云ヘバ二間ニナリマス、若シ二間モ高カリシナラバ如何デアリマシヨウガ、觀望ノミ防グモノナレバ練塀ヤ竹垣モ皆左樣ニシナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
庭先キ又ハ家等ノ間デアリマスカラ
(松岡委員)
「ボアソナード」ハ之ヲ都府許リト云フナレバ宜シイガ、田舎抔ハ板塀ニセヨ、竹垣ニセヨ目ニ付カザル樣ニセヨト云テモ出來マセン、依テ竹垣抔ハ築キサヘスレバ宜シイトシテ、裁判官ガ場所ニ依テ取捨シナケレバナリマスマイ
(栗塚報吿委員)
原案ガ分リ惡イ故說キ明シヲシタノデアリマス然ルニ其案ノ分リ惡イト云フナレバ別段デ、私モ宜シイトハ申シマセン詰リ堆地カラ六尺ト云フ事丈ケデアリマス
(鶴田委員)
說明ハ分リマシタ
(南部委員)
田舎デモ庭ト庭ノ間カラ見ヘザル樣ニスレバ六ケ敷イガ「ボアソナード」ノ旨意ハ前ノ六尺ト庭園ニテ堆地カラ起算スルカ、又ハ低地カラ起算スルカ分リマセン而シテ分界線ハ低地ト堆地ノ分界ニアルナレバ制限ナクシテ宜シイ
(松岡委員)
三尺ノ高サナレバ三尺ノ板塀ヲ拵ヘテモ、下ノ者ハ制限シテ、前ノトキ高低ノアル時分ニハ適宜ナリト云フ旨意カ
(南部委員)
左樣デアリマス
(栗塚報吿委員)
左樣ニ原案ヲ解スレバ宜シイケレドモ左樣デハアリマセン
(村田委員)
スルト解釋ガ違フ事ニナル
(淸岡委員)
「ボアソナード」ノ旨意ハ左樣デハアリマセン、堆地ニ設ケルト云フ旨意デス
(南部委員)
已ニ行ハレヌト云フ事カラシテ「竹垣」ト云フノモ遂ニ「類」ノ字ガ這入リタル位デアリマスカラ行ハレル樣ニシナケレバナリマセン
(松岡委員)
最モ高キ崖抔ハ下ノ人カラハ見ラレマセンカラ「ボアソナード」ガ云ハズトモ宜シイ
(委員長)
末項ハ無イ方ガ宜シクハアリマセンカ
(南部委員)
末項ハ削リマシテモ宜シイ
(松岡委員)
佛蘭西ヤ伊太利ハ如何デスカ
(栗塚報吿委員)
御座イマセン
(松岡委員)
無イ方ガ宜シイ
(南部委員)
削リマシヨウ
(尾崎委員)
削リテ差支ナイ
(委員長)
末項ハ削ル事ニシ他ハ修正ニ決シテ是レデ食事ニ致シマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス若シ連接シタル土地カ居宅又ハ農工業ノ利用ノ建物ノ間ニ庭園ヲ成シテ異別ナル所有者ニ屬スルトキハ市街ト村落トヲ問ハス各自其隣人ニ分界圍障ヲ分擔スヘシト強要スル事ヲ得議協ハサルトキハ其圍障ハ板塀又ハ竹垣ニアラサレハ之ヲ要求スル事ヲ得第三項原案ニ決ス第四項刪除ニ決ス
于時午後零時十分休憩
午後第一時開會
(栗塚報吿委員)
「七百六十八條」ハ「七百六十九條」ニナリ「九條」ハ「八條」ニナリマスカラ御改メ下サイ、而シテ改メタル八條ヲ御議シヲ願ヒマス
○第七百六十八條朗讀ス
第七百六十八條 相隣者中ノ一人カ他ノ隣人ヲ圍障ヲ分擔スルノ遲滯ニ付セスシテ之ヲ作リ及ヒ之ヲ竣リタルトキハ其隣人ニ入費ノ共分ヲ要求スル事ヲ得ス〔第六百六十三條〕
第七百六十八條 開設保持及ヒ修繕ハ共通ノ費用ニテ之ヲ爲シ各自其半額ヲ負擔ス
然レトモ相隣者ノ一人カ上ニ定メタルモノヨリ他ノ材料ヲ以テ又ハ更ニ一層高ク圍障ヲ作ル事ヲ自己ノ利益ト信スルトキハ一人ニテ其建築ノ代價ノ差額ヲ拂ヒ常ニ之ヲ作ルノ權能アリ但此場合ニ於テハ保持及ヒ修繕ハ其專擔トス
(村田委員)
格別論モナイ樣ダ
(鶴田委員)
「及ヒ修繕ハ專擔トス」ト云ヘバ土臺迄ヲ云ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
「總テ」トカ、何トカ云フ字ガ欲シイ
(栗塚報吿委員)
板塀ノ高サヲ栗塚ハ六尺ニスルト云フトキ貴君ガ六尺五寸ニシタイト云フトキハ五寸ノ費用ハ貴君ガ自分デ出サナケレバナリマセン又跡ノ保持修繕モ、悉ク六尺五寸ノ保持修繕ハ、貴君ガナサルト云フノデアリマス故ニ滅多箇樣ナル物好キヲ爲ル人ハアリマスマイ
(松岡委員)
六尺デ宜シイモノヲ三尺層ソウト云フノダカラ仕方ガナイ
(南部委員)
好物キデ增シタル以上ハ仕方ガナイ
(鶴田委員)
道理ハアルガ、文字ガ怪シイカラ「總テ」ト云フ字ヲ入レテ如何デスカ
(南部委員)
「此場合ニハ專擔トス」ト云フノデ前ニ判然「分擔」トアルカラ分リマシヨウ
(栗塚報吿委員)
「專擔」ト云フ字ハ意味ノアル字デアリマス
(松岡委員)
板塀ガ朽チテ根カラ直サナケレバナラザルトキハ六尺ノ半分丈ケハ出サセルノダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デアリマス保持修繕ナレバ其人ガ出サナケレバナリマセン
(松岡委員)
畢竟計算ガ六ケ敷イト云フダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(南部委員)
格別論モナケレバ先キヘ行キマシヨウ
(渡委員)
異議ハアリマセン
(淸岡委員)
保持修繕モシナケレバナラヌカ
(栗塚報吿委員)
贅澤ニ爲シタル方ハ皆シナケレバナリマセン
(淸岡委員)
成程煉化ガ切レル抔ト云フハ滅多ニナイガ、寸尺ナドニナルト、自分ノ方ニテハ今二尺モ高クシテ貰ヒ度ク思フ所ヘ、ソレデハ私ガ一尺足ソウト云フテ、一尺ノ費用ヲ出シタルトキハ、ソレガ爲メニ保持修繕迄シナケレバナラヌト云フハ酷イ話ダ
(栗塚報吿委員)
何ゼカト云フト、計算ガウルサイカラト云フ理窟デアリマス
(淸岡委員)
計算ハ三分一ニ分ケレバ容易デアリマシヨウ
(南部委員)
高キ屋根ハ早ク傷ムカラデアリマス
(松岡委員)
板塀デ爲スベキモノヲ、煉化ニテ爲シタルトカ、練塀ニテ爲シタルトキ板ナレバ、三人ナリ四人ニ掛ケル事ガ出來マスガ其他デハ差支ガアリマス
(工藤報吿委員)
註ニモ物好キト云テアリマス
(淸岡委員)
單ニ物好キトハ云ハレマセン別ニ物好キニハナキモ向ウヨリ見超サレテハ甚ダ困ルカラ今二三尺高クシテ貰ヒ度イト云フ事ガアリマシヨウ
(尾崎委員)
物好キニテヤレバ物好キノ者ガ擔任スルカラ宜シイ
(淸岡委員)
共通ノ費用ニテ之ヲ爲スト云フハ餘計ナル話デハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
共々ニ之ヲスルト、費用モ出サナケレバナリマセン、貴君ト私ノ入費デヤリマシヨウ、然シテ半分ヅツ出シマシヨウト云フタノデアリマス
(鶴田委員)
出來テ見ナケレバ分リマセンカラ、出來タラバ半分ヅツ出シマシヨウト云フノダロウ
(渡委員)
「改設」ヲ「設置」ト直スノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ取消シマシタ
(鶴田委員)
先キヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
○第七百六十九條朗讀ス
第七百六十九條 開設保持及ヒ修繕ハ共通ノ費用ニテ之ヲ爲シ各自其半額ヲ負擔ス
然レトモ相隣者ノ一人カ上ニ定メタルモノヨリ他ノ材料ヲ以テ又ハ更ニ一層高ク圍障ヲ作ル事ヲ自己ノ利益ト信スルトキハ一人ニテ其建築ノ代價ノ差額ヲ拂ヒ常ニ之ヲ作ルノ權能アリ但此場合ニ於テハ保持及ヒ修繕ハ其專擔トス
(栗塚報吿委員)
之ハ「ボアソナード」カラ改メテ參リマシタ「相隣者中一人カ他ノ隣人ヲ圍障ヲ分擔スルノ遲滯ニ付セスシテ之ヲ作リ又ハ之ヲ修繕シタルトキハ」トナリマシタ、板塀ヲ作リ貴君ガ催促セズシテ跡デ金ヲ呉レト云フ事ハ出來マセント云フノデアリマス
(鶴田委員)
「遲滯ニ付スル」ハ何トカ書キ樣ハアリマセンカ
(南部委員)
「遲滯ニ付スル」ハ此處ノミナラズ是レ迄使ヒ來テ居リマス
(鶴田委員)
今少シ書キ樣ガアリソウナモノダ人間ノ讀ム文章ニシテ貰ヒタイ、神代ヨリ我輩ノ知ル迄箇樣ナル文章ハナイ
(淸岡委員)
神武以來ニ無キ文章ダ
(栗塚報吿委員)
「相隣者中一人カ遲滯ニ他ノ者ヲ付セスシテ」ハ可笑イデアリマシヨウ
(尾崎委員)
遲滯ノ怠リヲ責メズシテト云フ事デアリマシヨウガ
(栗塚報吿委員)
事實使ヒタルニ依リ金ヲ御拂ヒ下サレト云フタル後デナケレバ裁判所ヘ訴ヘラレナイト云フ理窟デアリマス
(淸岡委員)
之モ一種ノ法律語ニナレバ宜シイダロウ
(村田委員)
「遲滯ニ付スル」ハ今迄使ヒタル事ハアリマセン
(工藤報吿委員)
遲滯ニ付サナケレバナリマセン向ウガ執行吏ノ書面ヲ以テ參リマス
(松岡委員)
元トノ通リ「置ク」ト云フ字ニシテハ如何デアリマシヨウ、「付スル」ト云フヨリハ「置ク」ト云フ方ガ確カニ聞ヘルラシイ
(尾崎委員)
之ハ丸デ爲サザル場合ニナリマシヨウガ修繕許リデアリマスカ
(栗塚報吿委員)
作ルノト、修繕トデアリマス
(鶴田委員)
「隣人ヲ以テ」ト云ハレマスカ
(南部委員)
「以テ」ハ可笑シイ
(栗塚報吿委員)
「圍障ヲ」ト云フ字ガアルカラ可笑シイノデス
(鶴田委員)
人ヲ付スルト云フ語ハアリマセン
(栗塚報吿委員)
「人ヲ監視ニ付ス」抔ト云フ事ガアリマス
(鶴田委員)
ソレハ「監視」ト云フモノガアルカラデス
(栗塚報吿委員)
遲滯ト云フモノハ使丁ヲシテ催足狀ヲヤリ、返答ヲシナケレバ則チ遲滯ト看做スノデアリマス
(鶴田委員)
自然ニ延引シタノデス
(南部委員)
自然デハアリマセン
(栗塚報吿委員)
法律デ定メテ居ルノデアリマス
(渡委員)
法律語ト見レバ宜シイ
(鶴田委員)
先生方ハ能ク御讀ミナサルネ
(栗塚報吿委員)
催促狀ヲ遺シテ促サズシテ、スル事ハ出來マセン
(工藤報吿委員)
恰モ「不動產」ト云フ樣ナモノデアリマス
(栗塚報吿委員)
「農商務省」ト云フノト同ジデアリマス、可笑シクモ馴レルト同ジデアリマス
(南部委員)
「付スル」ト云フ字カ「置ク」ト云フ字カ何レカニナラナケレバナリマセン
(委員長)
鳥渡他人カラ見レバ遲滯ト云フモノハ、遲滯ノ責メニアル樣ニ見ヘル
(栗塚報吿委員)
「遲滯」ト云フ字ガ原文ニアリマス
(委員長)
佛蘭西文ノ讀メル人ハ宜シイガ「遲滯ニ付スル」ト云フトキハ遲滯ハ實名詞デアリマシテ、畢竟彼ガ此レ丈ケノ怠リヲシテ居ルト云フ事ノ實跡ガ明カニナリタル上デト云フ事デアリマシヨウ其所迄人ガ分ル樣ニスルニハ、鶴田サンガ今迄讀ンデサヘ分ラヌト云フ位ダカラ困ル
(南部委員)
「遲滯ニ付スル」ハ人權ノ所ニ澤山アリマスカ
(委員長)
「遲滯」ト云テモ、字ニ一向格別ハナイガ、ソレ丈ケノ手數ヲスルト云フ事ガ「遲イ」ト云フ字ト「滯ル」ト云フ字デ分リマスカ
(南部委員)
今迄云ヒ來テ居リマスカラ分リマシヨウ
(鶴田委員)
上ヲ實名詞ニ書ク事ハ出來マセンカ
(栗塚報吿委員)
書カレザル事ハアリマセン
(松岡委員)
私ハ元トノ通リニシテ置クガ宜シイト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
直譯スレバ「他ノ一人ハ分擔スルニ遲滯ニ付セラレスニ圍障ガ他ノ隣人ノ地ニヨウ爲サレタナレハ」何々ト云テ居ルノダカラ「圍障分擔」ト云フ字ニシテモ宜シイ
(鶴田委員)
然ラバ「相隣者一人カ圍障ヲ作リ替ルトキハ其隣人カソレヲ分擔スル」トシテハ如何ダロウ
(淸岡委員)
「遲滯」ト云フ字ガ分レバ宜シイ
(渡委員)
法律ノ講究上ノ秘訣トシテ遺シテ置テハ如何デアリマス
(委員長)
事柄ハ分テ居ル
(栗塚報吿委員)
書キ替ヘテモ「圍障ハ相隣地中ノ一人ニ依テ爲サレタル他ノ隣人ヲ分擔スルノ遲滯ニ付セサルトキハ」ト云フノデアリマス
(渡委員)
遲滯ニ付スルハ免レヌカラ宜シカロウ
(委員長)
ソレデハ先キヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第七百七十條朗讀ス
第五款 互有
第七百七十條 若シ本性ノ如何ニ拘ハラス圍障カ或ハ前款ニ定メタル義務ニ憑リ或ハ任意ニ且協議ニテ共通ノ費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ作ラレタルトキハ其圍障ハ之ヲ支持スル土地ト共ニ不分ニテ相隣者ノ各自ニ屬シ之ヲ互有圍障ト稱ス
相隣者双方ノ建物ヲ離隔スル石造煉瓦造又ハ土造ノ牆壁及ヒ連接シタル土地ノ分劃線上ニ共通ノ費用ヲ以テ掘リタル溝渠又ハ設ケタル生籬又ハ柴垣モ又同シ〔第七百五十三條乃至第六百七十三條伊民第五百四十六條乃至第五百六十九條〕
(修正) 一項若シノ下「圍障カ」ノ三字ヲ挿入シ拘ハラスノ下「圍障カ」ノ三字ヲ刪ル
(栗塚報吿委員)
初メカラ「本性ニアラス」トシテハ分リマセンカラ「若シ圍障カ本性ノ如何ニ拘ハラス、或ハ」ト修正致シマシタ
(松岡委員)
頭マニ「若シ」ト云フ書キ出シハ佛蘭西文ノ癖デアリマシヨウカ
(栗塚報吿委員)
「若シモ斯ク々々シタナレバ」ト云フノデアリマス
(淸岡委員)
土地ヲ持テ、例ヘバ便利ノ爲メ分界線上ニ作ルノガアリマスカ
(栗塚報吿委員)
練塀ヲ貴君ト私トノ界ヘ拵ヘマス、然ルトキハ何レモ共有ト云フモノデアリマス
(淸岡委員)
良シ彼ヲ削リテモ一二尺地先ガ高クナルトキハ高キ所ヲ雙方カラ持ヘルトナリマシヨウ、實際ヲ見テモ高キ所ハ高キ人ノ所有地デアリマスケレドモ、法律ガ共通ノ費用ニテヤルト云タトキハ、其指示スル土地ト共ニ不分ニテ各自ニ屬スト云フト塀ヲ拵ヘタルガ爲メニ地先迄ガ各自ニ屬スカ
(栗塚報吿委員)
此所ハ、土地ノ分界線上ニ作ラレタトキデアリマス、貴君ノ地面ト私ノ地面ノ分界線上ニ作リタルトキハ箇樣デアルゾヨト云フタノデアリマスカラ分界線上ニアレバ宜シイノデアリマシヨウ
(淸岡委員)
境界ノ分レタルトキハ觀易キガガ一尺トカ或ハ石ノ二ツ三ツ離レテ居テ高地ニナツタ所ハ澤山アリマス處ガ是ハ並ンデ居ル分界線ノ朽チ掛リタルトキハ如何フスルカナレバ其雙方カラ費用ヲ出シ合ヒテ持ヘルダロウガ實際ハ一尺ナリ、又ハ石ナリガアリマシテ高クナリタルトキハ高キ方ヘ築クト云フノカ
(栗塚報吿委員)
其トキハ分界線ニナリマス
(淸岡委員)
例ヘバ分界線ヘ一尺出ルトキハ兩方ガスルハ無論デアリマスカラ部分ニテスル事ハ書クニハ及ビマセン
(栗塚報吿委員)
必要ガアリマス、例ヘバ一尺線トシテ崩レタルトキハ貴君ノ側ヘ付イテ宜シイ樣ダガ左樣デハナク、法律ガ斯ノ如キ圍障ハ共有ナリト云フノデアリマス煉化ノ壁ハ矢張リ互有壁デアリマス
(村田委員)
互有ト云フハ五百三十八條ニアリマスカ彼レトハ違ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
違ヒマス
(松岡委員)
圍障ト障壁ト分ケマスカ
(栗塚報吿委員)
圍障ハ大ナル圍ヒデアリマス
(松岡委員)
障壁ハ
(工藤報吿委員)
土藏ノ障壁デアリマス
(村田委員)
一項ニハ「分界線上」ニトアリ後チニハ「分劃線上」トアリマスガ如何ナルモノデアリマスカ
(栗塚報吿委員)
同ジ事デアリマス、意味ニ變リハアリマセン同ジ字ヲ繰返ヘサスニ書キタル丈ケデアリマス
(松岡委員)
ソレハ惡ルイ事デアリマス法律ハ文字ヲ飾リ又ハ文章ヲ飾ルモノデハアリマセン
(渡委員)
同ジニシテハ如何デス
(村田委員)
同ジナレバ宜シイ
(松岡委員)
法律ハ議論文デナイカラ文字ヲ拈ルノハ惡ルイ
(栗塚報吿委員)
日本ニハ語ガ富ミテ居ルニモ拘ハラズ之ヲ狹クシナケレバナラヌト云フ事ハアリマスマイ「分劃」ト書キタルガ爲メニ疑ヒガ起テ來ルナレバ別デアリマス
(松岡委員)
代名詞ハ幾ツモアリマス「貴樣」トカ「君」トカアルガ法律ニハ種々ノ字ヲ用ヒルハ惡ルイ
(栗塚報吿委員)
ソレハ社會ノ秩序ニ對シテノ語デアリマスガ之ハ何所ニ弊ガアリマスカ
(村田委員)
弊ハアリマスマイ
(松岡委員)
報吿委員ハ原案ニ在ル儘ヲ守ルト云フ精神カラ云フノデアリマシヨウガ苟モ一國ノ法律ヲ作ルニ面白ガツテ種々ナ語ヲ書クノハ惡ルイ事デアリマス
(淸岡委員)
石造煉化石ノ上ヘ溝ヲ掘ルト云フノハ如何ナル譯デアリマスカ
(鶴田委員)
煉化土藏ノ壁デアリマシヨウガ牆壁ト云フノハ土壁ノ樣ニ見ヘル
(淸岡委員)
建物ノ内ノ壁ノ樣ダカラ「牆」ノ字ハ可笑シクハナイカ
(栗塚報吿委員)
成程御尤モデアリマス鶴田サンノ云ハレタル通リデ家ノ間ニ在ル壁ヲ指スノデアリマシテ壁ト壁トガ附着テ居ルノヲ指スノデアリマスカラ煉化又ハ石造ノ壁デアリマス
(鶴田委員)
ソレナレバ宜シイ
(南部委員)
七百七十二條ノ一ヲ御覽下サイソレ許リデハアリマスマイ
(淸岡委員)
建物ノ中ノ石ガ煉化ノ壁ヲ云フノダカラ「牆」デハ文字ガ當リマスマイ
(工藤報吿委員)
建物ノ境界ヲスル爲メニ牆壁ヲ使ウ場合モアリマスカラ差支アリマセン
(栗塚報吿委員)
ソレ許リデハナク、家ト家トノ間モアリ又家ガ離レテ其間ニ在ル塀モ這入リマス
(松岡委員)
府下抔ハ圍障ニ籠ルデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
七百七十一條、二條ニ總テ圍障ト云テ居リマスカラ宜シイデアリマシヨウ
(南部委員)
併シ牆ト壁ト違ウト困ル、劃スルト云フ事ガアリマスカラ「牆壁」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
建物ニ分劃スル壁トカ圍ヒトカヲ壁ト云フノデアリマス、ソレヲ「牆壁」ト譯シマシタ東京ニハ銀座通リノ煉化造リノ家屋モ一棟ヲ區別スルハ卽チ「壁」ト云フカラ差支アリマセン
(松岡委員)
殘ラズ「壁」トシテ宜シイダロウ
(南部委員)
「籬劃」トスルカ
(栗塚報吿委員)
五百四十條ニハ「籬壁、溝渠」トアリマス
(淸岡委員)
五百六十五條ニハ「建物牆壁及ヒ其他」云々トアリマス
(栗塚報吿委員)
「牆壁」ト書キテモ差支ハナイ
(委員長)
翻譯局ト能ク相談シテ貰ウトシマシヨウ
(淸岡委員)
「生籬」ト「柴垣」トハ如何ナル差ガアリマスカ
(栗塚報吿委員)
「柴垣」ト死シタル方ヲ云フノデアリマス原文ニハ「生キタル垣」「死シタル垣」トアリマス
(松岡委員)
此條ト次ノ條ト照ラストキハ牴觸シハシナイカ
(栗塚報吿委員)
牴觸致シマス之ハ併セテ議シテ如何デスカ
(松岡委員)
「分劃線上」ハ「分界線上」ト改メ度イ
(栗塚報吿委員)
一方ハ「分劃」ト書キ一方ハ分界ト書キマシテモ事實差支ハアリマセン
(松岡委員)
一條中二樣ニ書クノハ好マシクアリマセン
(委員長)
「ボアソナード」ガ殊更ニ異ナリタル字ヲ書キタルノデハナイカモ知レマセン其所ヲ考ヘテ見ナイト互有ト云フ字ヲ一ツ書イタノデハナイ、然ラバ矢張リ土地ノ區別ヲスルハ分界線上ト云フノト、煉化トカ土藏トカ云フモノトノ區別ヲ示シタルモノデアリマス併シナガラ害ガアレバ兎モ角モ然ラザレバ置クガ宜シイ
(松岡委員)
併シナガラ直線ニスルヲ旨意トシテ境ヲ分ケルハ目的ガ違ヒマス
(松岡委員)
相隣者各自ニ屬スカラ互有圍障ノ文字ハ二項モ亦同ジトテ承ケテ居リマス元ト土地ノ境ニアルカラ雙方ニ屬スルナレバ宜シイケレドモ境ノ方ハ構ハズシテ一直線ニ爲シタルモノハ、矢張リ地ノ境ニ關係セズシテ相隣者各互有ト云フトキハ妙ナモノニナリマス
(委員長)
何故ニ分劃ト分界ノ字ニ區別シタカト云フニ其區別ヲ推シテ行ケバ石造トカ、煉化トカ云フ樣ナモノハ境ニ接スル事ハ出來マセン、時トシテハ跨ガル事ガアリマス又土地ニ接セズシテ分界モアレバ、所有權ノ境トナラザルモノヲ使用ノ爲メ仕切ラナケレバナラザルモノモアリマス、其時此條ヲ適用スルノデハナイカ
(箕作委員)
一ツヲ二ツニスルト云フ意味デアリマス
(尾崎委員)
分界モ分劃モ同ジ意味ニ讀マナケレバナリマセン
(松岡委員)
同ジ法律ニ異ナリタル字ヲ並ベルハ宜シクナイ
(栗塚報吿委員)
「分劃」ト云フ字ガ惡ルケレバ起案者ニ聞キマスガ、日本字ニテ意味ニ變リガナケレバ御置キヲ願ヒマス
(村田委員)
此所許リ「分劃」トアリテ他ハ皆ナ「分界」トアル
(箕作委員)
一方ハ一ツモノ、一方ハ二ツヲ別ニスルノデス
(委員長)
違ヒガナイノナレバ起案者ニ問ウガ宜シイ
(工藤報吿委員)
之ハ問ウ事ニ致シマシヨウ
(委員長)
「分界」ト「分劃」ニ違ヒガアルカナキカハ起案者ニ聞テ貰ヒマシヨウ
本條中「分界」ト「分劃」ニ差支アルヤ如何ヲ起案者ニ問フ事ニ決シ他ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第七百七十一條朗讀ス
第七百七十一條 土地又ハ建物ノ總テノ圍障又ハ分界ハ其本性及ヒ場所ノ如何ヲ問ハス共通ノ費用ヲ以テ分劃線上ニ作リタル互有界ト推定セラル或ハ證書ニ因リ或ハ三十年ノ時効ニ因リ又ハ下ニ指示シタル如キ法律カ非互有ノ推定ヲ付シタル有形ノ標記ノ一ニ因リ相隣者ノ一人ノ爲メ反對ノ證アルトキハ此限ニ在ラス〔第六百五十三條〕
(栗塚報吿委員)
互有界ノ「界」ノ字ハ翻譯デ刪リマシテ或ハノ上ニ「但」ガ這入リマス、此所ノ分劃モ從テ起案者ニ問ヒマスル
(鶴田委員)
共通ノ費用ヲ以テ出來タルカ、或ハ一人ノ費用ニテ出來タルカ、分ラザルモ法律ニテ共有費用ヲ以テ爲シタルモノト推定セラルデアリマシヨウガ、一體實際ヲ云ヘバ自分ノ地ヘハ自分ニテ作リ、向ウニテ作ルノガ多イデアリマシヨウ
(南部委員)
其場合ナレバ七十二條デ御座イマス
(工藤報吿委員)
此所ハ互有ニナルモノヲ、法律ガ一般ノ推測ヲ以テ定メタルモノデアリマス
(鶴田委員)
元トノ案ハ誰カ一人デ爲シ若シ爲サザルトキハ分界線上トスル
(工藤報吿委員)
併シナガラ但書ニ「反對ノ證アルトキハ此限ニアラス」トアリマス
(鶴田委員)
證據ガナケレバ共通ニ拵ヘタルモノト看做スノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
「圍障又ハ分界」ト書ク以上ハ有形物ニシテ土地ニ在ル圍障分界ハ如何ナルモノヲ云フカ
(栗塚報吿委員)
本性ノ圍障デハアリマセン
(淸岡委員)
圍障ハ刪除シテ宜シイダロウ
(松岡委員)
「土地又ハ」ト云フトキハ家ノ内ヘ拵ヘテモ圍障デアリマスカラ分界ナル圍障ハ互有ト推定スト云フノハ如何ナルモノダカ
(栗塚報吿委員)
圍障卽チ分界デアリマス
(南部委員)
前條二項ノ石造煉化造土藏牆壁ノ如キモノハ圍障トハ云ヒ難イ
(栗塚報吿委員)
土藏又ハ建物ノ總テ圍障ト云フハ七十條一項ヲ指シ、又ハ分界ト云フハ二項ヲ指スノデアリマス
(松岡委員)
圍障卽チ分界ナレバ分リ易イ
(委員長)
分界ニハ籬モアルシ、皆這入ルモノト見ナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
圍障物ト分界物トアルハ柴垣モ板塀モ家ノ壁モ皆ナ這入ル事ニ願ヒタイ
(尾崎委員)
圍障卽チ分界デアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
圍障卽チ分界ト云ヘバ圍障ハ前項分界ハ後項ト云フ樣ニ違ウノハ可笑シイ
(鶴田委員)
卽チ上ハ圍障下ハ分界ト云フ嫌ヒハアリ卽、ス
(委員長)
圍障ハ矢張リ前條一項ヲ指スモノト見ルガ、二項ノ壁トカ生籬トカモノハ何カラ圍障ニナルカ分リマセン
(栗塚報吿委員)
壁生籬抔ハ圍障トハ決シテ云ハレマセン
(南部委員)
分界ト定メテ置キマシテハ如何デスカ
(松岡委員)
生籬柴垣モ、圍ヒガアレバ圍障デスガ
(南部委員)
左樣デアリマス
(尾崎委員)
從來ノ慣習トシテ圍障抔ハ假令バ松岡サンノ圍障ハ石ナラ石ヲ以テシテ居ル、私ハ別ニ竹ヲ以テ爲シテ居ル、ソレヲ慣習ヲ問ハズ共通費用ニテ作ル互有ト推定セラルルト云ヘバ互ニ別別ニシタ舊慣ハ措テ一ツニシテ宜シイトナレバ地境ノ論ガ八釜敷クナリマス、故ニ委員長ノ御考ヘデハ從來ノ慣習アル分ハ格別トシテ置テハ如何カト云フ御考ヘデアリマスカ
(栗塚報吿委員)
其御心配ナレバ、境爭ヒヲ防グハ七十二條デ充分デアリマシヨウ
(淸岡委員)
所ガ二ツアルト互有ニ推定セラルル時分垣ヲ取テ仕舞ト例ヘバ二ツノ生籬ガ在ルダロウ一方ノ人ハ矢張リ生籬ヲ取テ板塀ニシヤウトシテ板塀ニシタ隣リデ板塀ニシタラ朽タ生籬ヲ置クハ宜シクナイト云テ取テ仕舞ウトスルト一ツノ板塀ガ互有ノモノト推定セラルルダロウ然ウ云フ理窟ニナルト僅カナ事ダガ一尺トカ一尺五寸デモ直キニ遣ルモノデナイ東京方リデハ一尺デモ五寸デモ八釜敷隣リノ人ガ自分入費デ板塀ヲ拵ヘ一方ノ人ハ從來アル生籬ヲ除テ仕舞ト一寸デモ二寸デモ向ヘ這入テ板塀ハ一ツデ互有ト云フモノデ境ニナリマスカ
(南部委員)
ソレハ互有ニハナリマセン
(栗塚報吿委員)
土地ヲ取ラルル憂ガアルナレバ七百五十七條ニテ防グ事ガ出來マス
(松岡委員)
七百六十七條ノ「隣人ニ分界圍障ヲ分擔スヘシ」云々ハ東西南北ノ區別ハアリマセン然ルニ東京ニモ田舎ニモアリマスガ、私ノ國抔デ習慣ハ陽向ノ者ガスル習慣デアリマス
(栗塚報吿委員)
南ト北トニ地面ヲ持テ間ハ北ノ人ガスルノデアリマスカ
(南部委員)
左樣デス
(工藤報吿委員)
ソレハ木ヲ植ヘル方ノ事デハアリマセンカ
(松岡委員)
田舎デ樹木ヲ植ヘルノハ八釜敷イガ左樣ナル場合デハアリマセン町家ノ垣根デアリマス町家ノ垣根ハ如何ナル場所ヘ入レテ宜シイカ
(栗塚報吿委員)
六百六十七條デアリマス
(松岡委員)
其トキハ「土地ノ習慣ノアルモノハ強要ノ限リニアラス」トアレバ滿足ヲ得ル譯デス
(南部委員)
習慣モアロウガ、一體ヲ云ヘバ分擔ノ方ガ宜シクハナイカ
(尾崎委員)
其方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
陽下ノ者ニ迷惑ヲ掛ケテハナラヌト云フ旨意ラシク見ヘマス
(尾崎委員)
私抔ハ自分ノ周圍ハ皆ナ自分デ作リマスガ隣リデ分擔シテ呉レト云フト、昔カラノ習慣デ、ヤツテ御座イマスト云フデアリマシヨウ
(松岡委員)
ソレハ此法律ガ出レバ一ツニスレバ宜シイ
(南部委員)
四面皆ナ庭園ナシト云フ事ハアリマスマイ
(淸岡委員)
表庭デモ人ガ通行スレバ矢張リ庭園ノ内デアリマス
(尾崎委員)
屋敷内ハ皆ナ庭園デアルカラ決シテ構ハズシテ宜シイト云フ事ハアリマセン
(松岡委員)
七百六十七條ノ隣人ニ強要スル所ヲ、必ラズ隣人ニ強要スルノデナクシテ、習慣ノアルモノハ此限ニアラズトスレバ強要スル事ヲ得ルト云フノガ本體デアルカラ宜シカロウト思ヒマス
(委員長)
ソレヲ入レルカ否ヤハ此條ヲ議シタル後チニ致シマシヨウ
(渡委員)
ソレガ宜シイ
(尾崎委員)
ソレハ宜シイ
(淸岡委員)
敢テ此條ガ不必要ト云フデハアリマセンガ、土地ノ慣習ニ依リ裁判官ノ判定ニ任シテ置テ宜シイ無理ニ法律ニテ推定スルハ宜シクナイト思ヒマス
(南部委員)
之ハ法律上ノ推定ニシナケレバナリマセン
(委員長)
本條ハ先ヅ可トシテソレカラ六十七條ヘ「慣習」云々ヲ入レル事ハ如何デス
(南部委員)
私ハナクツテモ宜シイト思ヒマス、總テノ習慣ヲ參酌セザレバ鳥渡見ヘタル丈ケデ、ヤルノモ宜シクアリマスマイ
(尾崎委員)
習慣ガアリマシテモ必ラズ分擔ト極マレバ宜シイデアリマシヨウ
(委員長)
其方ガ多數ナレバ先キヘヤリマシヨウ
本條「互有界」ノ「界」ヲ刪リ「或ハ」ノ上ニ「但」ヲ加ヘ他ハ原案ニ決ス
○第七百七十二條朗讀ス
第七百七十二條 相隣者ノ一人ノ獨專所有權ヲ定ムル證書又ハ時効アラサルトキハ非互有ノ標記ハ土地ニ付テ左ノ如シ
第一 石造煉瓦又ハ土造ノ牆壁ニ付テハ雨水流下ノ爲メ設ケタル傾斜面又ハ小簷牖、凹其他種々ノ工作物又ハ粧飾物ノ單ニ一方ニ存スル事
第二 板又ハ竹ノ圍障ニ付テハ其支柱ノ單ニ一方ニ存スル場合
第三 溝渠ニ付テハ其除土ノ單ニ一方ニ存スル事
第四 生籬又ハ柴垣ニ付テハ一方ノ土地ノミ四面ヲ圍ハレタル場合〔第六百六十六條及ヒ千八百八十一年八月二十日ノ佛法律〕
右四箇ノ場合ニ於テ獨專ノ所有權ハ相隣者中特別ナル工作物ノ存スル方ニ在ル者又ハ土地ノ全ク圍ハレタル方ニ在ル者ニ屬スト推定セラル〔第六百五十四條〕
(村田委員)
「牖」ノ字ハ「窓」デシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
四個ノ場合ト限ルカラ先刻淸岡サンノ云ハルル如ク石ヲ掘リ取リタル痕跡ガアルト其證據ヲ以テ來タ時分ニ四箇ノ外ノ證據ハ七百七十四條デ見テ宜シイカ
(南部委員)
左樣デハアリマスマイ、牖或ハ板塀ト云フモノニシテ或ハ柱ガ一本存シテアルノ如キハ別デアリマシヨウ
(松岡委員)
互有ノ標記ハ證書ト時効トノ二ツヲ除クノ外四箇ノ場合ヨリ外ハ許サヌノカ果シテ四個限リデアルトスレバ裁判官ノ働キガ至テ狹クナルガ、外ノ擧證ハ許シマセンカ
(南部委員)
左樣デハアリマスマイ、例ヲ擧ゲタノデス
(松岡委員)
標記ノ位置トアリ、右四箇トアルカラ制限ラシク思フ
(南部委員)
左ノ如シトアルカラ例デアリマシヨウ、制限シタモノデハアリマスマイ
(村田委員)
「其他種々ノ」ト云フハ餘リ漠然トシテ居リマス、七百七十六條ノ二項モ齊シク工作物デアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
壁ニアル工作物ト御覽ナサレテハ如何デスカ
(松岡委員)
七百七十二條ノ場合ヲ一、二、三、四、ニ分ケテ四箇ノ場合ノ證據ヲ許リシテ法律ノ推定ガアリマシテ推定ヲ破ルハ證書ト、三十年ノ時効ト、四箇ノ内一トアリマスカラ、若シ是レヨリ外互有ニアラズ、證書ガアリテモ法律上推定ノ爲メ決シテ採用シナイカ、又七十二條ノ法律ノ推定ニ反對スル例ヲ示シタ迄ノモノダロウカデアリマス
(栗塚報吿委員)
報吿委員デナク、私ノ資格デ申シマスガ、註ニモ何トモ申シテ居リマセン佛蘭西ノ六百五十四條ヲ引イテ居リマスガ同條ニハ若シ壁ノ傷ミガ一方ニ屬セバ一直ニシテ一方ノ傾斜面ニアラザルトキハ非互有ノ窓石ノ羽目及ビ牆圍トアリ、又一方傾斜面一方所有ニノミ屬ストアル、ソレヲ以テ廣メタノデ傾斜面ガ此方ニアレバ互有ニナル之ハ佛蘭西ノ學者間ニモ裁判上デ是レ是レハ制限シタト云フモノモアリ、又制限シナイト云フモノモアリ、區々デアリマスケレドモ、板塀カ壁カ何カデナケレバナラヌ此場合デ壁ノ形チヲ制限シテ居ルノデハアリマセン單ニ小簷又ハ凹ト云フモ制限デハナク壁ノ形チニ依テ如何樣ニモ極マルト云フテ居リマス
(南部委員)
七百七十四條ノ非互有ノ標記ト、互有ノ標記ト兩方存シテ居ル場合ニ七百七十二條ハ如何ナル場合ガアルカ
(栗塚報吿委員)
例ヘバ貴君ト私ノ間ニ練塀ガアリマシテ屋根ガ兩方ニナツテ居ルトキハ互有ト云ハナケレバナリマセン然ルニ私ノ方ニ許リ穴ガ開イテ居ルトカ、工作物トカ、粧飾物トカノアルトキハ非互有デアリマシヨウ
(南部委員)
傾斜面ガナクツテモ同ジデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
之ハ互有ト云フノダロウ、互有ト思テ居タ所ガ豈圖ランヤ貴君ノ地面ニ凹ミヤ工作物ガアレバ非互有ノ標シデアリマス
(松岡委員)
上ヲ互有ト推定セラルルトキハ土地迄境界スルカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
然ラバ制限シタモノデアリマスガ、裁判官ハ之丈ケニ制限セラレテハ甚ダ紛議ノ場合ガ生ジハシマセンカ
(南部委員)
制限不制限ハ如何デスカ
(渡委員)
不制限ト見マス
(栗塚報吿委員)
制限不制限ヲ定メル前ニ一言致シマス、私ノ見ルノハ何故ニ制限デアルカト云フニ生籬柴垣ニ付イテ互有カ否ヲ見ル場合ハ何レ丈ケアルカナレバ、非互有ノ場合ハ一方ニ地面ヲ奪ハレタル場合ト云フ、又溝渠ニ付テハ土ガ一方ニアルトキ又板トカ竹トカノ圍ニ付テハ柱ノ一方ニアル場合ヲ云ヒ其外ハ非互有デアリマセン、又石造、煉化、土藏、牆壁ガ是レ又一方ニ存スル場合許リヲ非互有ト云フ、故ニ非互有ハ此四箇ノ場合丈ケデアリマス其外ハ分界ノ外ニアルナレバ其場合ハ揭ゲテ居リマセン生籬柴垣ハ互有カ非互有カト論ジタルトキハ非互有ト云フ事ハ此場合許リデアリマス、四箇ノ場合ヲ此レヘ揭ゲタルハ支柱ノ一方ニ在ルトカ、除ケ土ノ一方ニ存スルトカ云フ場合デアリマス
(松岡委員)
左樣スルト制限デハナイト云フ事ニナルノデスカ
(渡委員)
敢テ云ハズトモ讀デ字ノ如シダ
(栗塚報吿委員)
家ノ方デハナク、土地ニ付テト云フ事デアリマス
(松岡委員)
圍障壁ニ付テト云フ事デハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
左樣デハアリマセン家ノ事ハ云ヒマセン、土地ニ在ル牆壁、土地ニ在ル竹板ノ圍障、土地ニ在ル溝渠、土地ニ在ル生籬柴垣ノ非互有ハ箇樣ナル場合ナリト云フノデアリマス
(鶴田委員)
土地ニ付テト書キ出シテモ同ジ事デス
(栗塚報吿委員)
左樣デス「相隣者ノ一人ノ土地ニ付テノ標記ハ左ノ如シ」ト云フテ、家ノ所有權ヲ極メルノデハアリマセン
(松岡委員)
圍障ト云フ前ノ壁モ這入ルデアリマシヨウ
(南部委員)
七百七十三條デ「建物分界」云々トアリマス
(委員長)
「土地ニ付テノ非互有ニシテ」ト云テハ惡ルイ
(栗塚報吿委員)
惡ルイ事ハアリマスマイ
(委員長)
土地ニ付テト書キテモ、日本文デ佛文ノ意ヲ害スル事ハアルマイ
(栗塚報吿委員)
害シハ致シマセン
(鶴田委員)
左樣ニ書クト少シハ分リマス
(渡委員)
此レデ宜シイ
(松岡委員)
土地ニ付テハ分リマセン
(委員長)
家屋ハ取除ケト見レバ宜シイ
(松岡委員)
佛ノ六百六十六條及ビ千八百八十一年八月二十日ノ法律ニハ不動產ノ分界ヲ爲ス溝抔モ出テ居ルガ、之ヲ七十二條ニ援キ佛ノ六百五十三條ヲ七十一條ニ援イテ居ルノハ、溝及ビ低キ家ト寄リ添フテ居ルトキハ、家ニ至ル所ノ高低ハ左ノ如シ云々トアリマスカラ、七十一條ノ家ノ間ノ壁モ卽チ建物ノ間ノ壁モ、圍牆ノ垣根モ總テ互有ト看做ストアリマス故ニ家ノ間ノ壁モ這入ラナケレバナリマセン
(委員長)
七十二條ハ全ク違ヒマス
(松岡委員)
七百七十二條ハ佛ノ六百五十四條ヲ援イテ居リマスガ、壁モ這入ルノデアリマス
(委員長)
ソレハ土地ノ區別ガアリマス
(南部委員)
七十一條ニ「土地又ハ建物」トアリマス
(松岡委員)
成程私ノ土地ト云フノハ地所ノ事ト思ヒマシタ、此所ニ土地ト云フノハ家デハナク圍障ノ類ト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
土地ノ圍障又ハ分界ノ方デアリマス、七十二條七十三條ハ建物ノ圍障又ハ分界デアリマス
(委員長)
外ノ論ナレバ私モ同意ダガ、私ノ思フノハ四箇ノ例ヲ擧ゲルニ、傾斜面トカ、粧飾物トカ、或ハ板ヤ竹ヤ支柱ノアルトカ又ハ一方ニ土除ケシテアルトキハト云フ事柄ノミヲ他日ノ證據トシ例ヘバ溝ノ周圍ニ土ガ盛リ上ツテ居ルトカシテモ石垣ノ石ハ此方カラシテ居ル事モアルカモ知レマセン、土ヲ上ゲタ事ノミヲ以テ非互有ノ證據ト云フ事ハ出來マスマイ
(栗塚報吿委員)
ソレハ私ガ先刻辯明シタ如ク縱令石垣ガアロウトモ卽チ一方ニ除ケ土ガアレバ縱令尙外ニアロウトモ許サナイ精神デ出來テ居ルト思ヒマス
(委員長)
我輩ノ論ハ溝渠ニ付テ土ノアリタル外ハ證據ニナラヌト云フノデハアリマセン矢張リ一方ニ確カメタル證據ガアレバ出來ルト云フノデアリマス、左ノ如シトシテ此通リト定メタルモノデナケレバ宜シイガ隨分南風ノ烈シキトキハ北ニ支柱ガアルカモ知レマセン、南ニ柱ガナイカラ必ラズ北ノ所有ナリト判斷スルハ困難ナル故左樣ナ事ナレバ融通ノ付ク樣ニシナケレバナリマセン
(栗塚報吿委員)
非互有ノ標記ヲ付シタルトキハ法律ガ非互有ニ付シタル標定ヲ推定シ、又板塀トカ生籬ガ支柱ノ一方ニ存スルトキハ法律ガ非互有ノ推定ヲ付セザルモノデ法律モ裁判官ガ非互有ノ推定ニ付シテ有形標記ト云ヘルカト申セバ云ヘザルモノト思ヒマス
(南部委員)
外ニハアリマスマイ
(栗塚報吿委員)
今ノ土除ケデアリマス、例ヘバ石垣ヲ築キ溝ノ續キガ庭ヘ來テ居ルト云フ樣ナ事デハアリマセン
(委員長)
私ノ云フノハ溝ガアリテ兩方ニ私ガ石垣ヲシテ私ハ土ヲ一向揚ゲマセン貴君ハ揚ゲタカモ知レマセン然ルニ石垣ダケハ私ガ爲シタルニ相違アリマセン石垣ニ依テ推定セズシテ土ヲ揚ゲタ方ト云フトキハ貴君ノ方ヘ土ヲ揚ゲタカラ非互有ノ證據トナリ貴君ノ方ヘ取ラレテ仕舞ヒマシヨウ
(南部委員)
土ヲ揚ゲルニ、他人ノ地面ヘ揚ゲル事ハ出來マセン
(委員長)
今デモ低キ所ト高キ所トアルト低キ方ヘ揚ゲルノデス
(南部委員)
向ウニ借地權ガアレバ何トモ仕樣ガアリマセン
(委員長)
此法律ガ出テ除ケ土許リヲ以テ推定シテハ宜シクアリマセン別ニ證據ニナルベキモノアレバ、除ケ土ノミヲ以テ證據トセザル樣ニシテ證明ガアレバ無論トシテハ如何ダロウ
(栗塚報吿委員)
有形ノ標記ハ何カト云フニ非互有ニハ除ケ土抔デアリマス
(委員長)
除ケ土ニ非ズシテ非互有ノ標記ガアリタルトキハ採用サレル樣ニセザレバ困ルダロウ
(南部委員)
地所ニ於テ證據ニ依ルトキハ標記カラシナケレバナリマセン
(委員長)
證據ニ依ルトシテモ幅ガ廣クナケレバ宜シイガ、併シ證據ト云テモ微々タルモノニナル
(栗塚報吿委員)
板塀ノ控ヘ柱ハ何レモ不便ナモノデアレバ、柱ガアル爲メニ所有者ハ害ヲ蒙ルト人ニ向テ云フガ邪魔ナモノノアルノハ自分ノモノデアルト云フ證據デアリマス又泥ヲ隣リノ地境ヘ揭ゲテモ自分ノ方ダカラト云フノデアリマス
(委員長)
一ト通リノ推測ハ左樣ダガ、外ニ反對ノ證據ノ確カナモノガアリタルトキモ無効ニナルハ如何ナモノデアルカ
(栗塚報吿委員)
互有ト非互有ノ爭ヒノアリタルトキデアリマス
(南部委員)
溝ニ付テ除ケ土ノ一方ニ存スル事又柱ガ一方ニ存スル場合ハ之ヲ非互有ト見マス、併シナガラ其外ノ場合ガアレバ其場合ハ制限シテナイト見テハ如何デスカ、例ヘバ板塀ノ控ハ柱或ハ板塀ノ内ニ棧ガアリテ貫ガ此方ヘ出テ居ル場合ガアリマスガソレヲ悉ク網羅シテ盡ス事ハ出來マスマイカラ、板竹ノ圍障ニ付テ支柱ノ單ニ一方ニ存スル場合ハ非互有ト見テハ如何デスカ
(松岡委員)
一方ニ支柱ノ存スルトキハ非互有ノ證據ガアルト推定スル場合ヲ示シタノデアリマスカラ此レヨリ外證據ヲ許サズト云フデハナクシテ此場合ハ非互有ニ看做スノデアリマス
(栗塚報吿委員)
左樣スルト「非互有ハ標記シタル」云々トハ云ハレナクナリマス裁判官其人ガ見テ非互有ノ推定ヲ下シ得ベキ有形ノ標記トシナケレバナリマセン次ノ條ニテ法律ヲ以テ非互有ノ標記ハ左ノ如シトハナクシテ、裁判官ガ推定ノ出來ル樣ニ別段ニシテアリマス、此所ノ左ノ如シト云フ意味ハ板塀ニ付テハ柱トカ溝ニ付テハ土トカ云フ如キモノノミヲ法律ガ之ヲ以テ非互有推定ヲ下スノデアリマス若シ法律ガ非互有ノ推定ヲ下スハ此レ丈ケニテハナク尙アルト云フ事ナレバソレヲ書カナケレバナリマセン
(南部委員)
詰リ同ジ事デアリマス法律ノ推定ニ屬セシムルト云フトキハ餘程確カナモノニ違イアリマセン此法律推定モ何所迄モ確定シタル推定デハアリマセン何故ナレバ證書ニ依テ又三十年ノ時効ニ依ルノデアリマス法律ノ推定ハ、板又ハ竹ノ圍障ニ付テハ支柱ノ單ニ一方ニ存スル場合ヲ見レバ宜シイデハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
左樣ニ解釋スルノハ六ケ敷イ、裁判官ガ推定シテ非互有ト見ルナレバ宜シイ、法律ガ非互有ノ推定ニ付シタル有形ノ標記トシテ列擧シタル外ニ尙ホ法律ノ非互有ノ推定ガアルゾヨト云フハ六ケ敷イ
(南部委員)
法律ハ此レ丈ケデアリマスガ裁判官ガ推定スル事ガ出來ルト云フノデアリマス
(鶴田委員)
左樣スレバ獨占所有權ヲ定メル證據トデモシテ置ケバ宜シイ
(松岡委員)
之ヲ互有ト見ラルルト云ヘバ或ハ權利ヲ奪ハルル考ヘカ知リマセンガ果シテ互有デナイト云ヘバ義務ヲ人ニ負ハセテ居ル考ヘデ見テ居ルラシイ
(南部委員)
地券ノ場合ニ登記簿ニ委ハシク載セテ獨專ノ所有權ガ生ズル證ガアレバ此レ丈ケハ我ノモノト云フ證據ガ立チマス
(委員長)
溝トカ籬トカ云フノハ
(南部委員)
地所ノ事ヲ云フノデス
(委員長)
籬、溝ガ境デアルカラ溝籬ガ何時モ爭ヒノ種子ニナル
(南部委員)
ソレハ境界論デ行クカラ差支アリマセン
(委員長)
其所カラ互有カ非互有カト云フ事ガ始マルノデ分界ガ互有カ否ヤハ間髪ヲ容レザル程デアリマス或ハ互有トカ或ハ互有ニ非ラズトカ今日ノ有樣ニテハ中々區分ガ出來兼ネマス大槪垣根ノアル所又ハ溝ノアル所ハ密着シテ居ルカラ、見出シノ自在ニ付ク樣デナケレバ不便デアリマシヨウ
(松岡委員)
栗塚サンニハ濟ミマセンガ間違ヘバ謝シマスルガ七十一條ハヤリ損ジタノデ同條ニテ互有ト推定セラルルト云ヒタルハ或ハ證書ニ依リ、相隣者ノ一人ノ爲メ反對ノ證據アルヲ以テ互有デハアリマセンカラ、保持修繕ニ關係ハアリマセン、如何トナレバ向ウニテ控ヘ柱ヲ除イテ裝飾シテ居ル彼ハ皆向ウ持ダカラ私ハ保持修繕ノ義務ヲ負ウ者デハアリマセン、依テ非互有デ御座イマスト云フ時分ニハ互有ハ互有ニスル事ヲ欲スレバ此方ハ逃ゲル樣ニナリ詰リ權利ノ爭ヒデナクシテ、義務ノ防ギヲスル事ニナリマス
(委員長)
ソレハ何方ラカラ云フノモ同ジデアロウ
(松岡委員)
防グ方カラ考ヘルトキハ廣クセザル方ガ宜シイ
(委員長)
一方カラ云ヘバ左樣ダロウガ、一方遁ルルト云ハズシテ干渉シ樣ト云フ方カラ云ヘバ廣クシテシナケレバナリマセン
(松岡委員)
干渉シ樣ト云フ事ハ法律ノ上ニハ云ハレマセン
(委員長)
何ゼニ
(松岡委員)
保持修繕ノ義務アルモノ許リデアリマスカラ
(委員長)
互有ニシテ貰ヒ度イト云フ人間モ出マシヨウ
(松岡委員)
左樣ナル事ヲ云フモノハ馬鹿者デアリマス
(委員長)
素ヨリ境界地ノ一方ガ互有ニセズシテ向ウノ土地ヘ這入ル事ガ出來レバ金ヲ出ス位ハ厭ハシマセン
(南部委員)
境界論ノ事ハ七百六十條ニテ盡キテ居リマス、此所ハ互有ノ事許リデアリマス
(委員長)
垣ヲ以テ境界ノ標トシテアル、所ガ垣ヨリ一尺丈ケノ收入ガ減ズルト云フ人ガアロウト思フ
(南部委員)
如何ナル所カラ爭論ガ起リマスカ
(委員長)
互有カ非互有カニテ起リマス
(南部委員)
一方カラ互有壁ヲ負擔セザル場合デアリマスカ
(委員長)
貴君ガ私ノ隣リヘ垣ヲ爲シタルトキ私ノ曰フニ私ノ地面ハ何所ノ垣ヲ以テ境トナスト云フ充分ノ證明ガアリ生籬ヲ以テ土地ノ界ト爲シテ居ル、其所ヘ勝手ニ爲シタル圍牆ハ所有權ノ幾分ヲ取ラルル事ハ明カニナルト云フ論ガ起リタルトキ生籬ヲ取ラレレバ從テ土地モ取ラルルカラ、容易ニヤル事ハ出來マセン
(南部委員)
垣ヲ兩方デ作ルノデアリマス
(委員長)
證據ニ依ルト生籬ハ雙方ノ土地境ノ標デアリマス
(南部委員)
所有權ノ爭ヒデアリマスト、私ガ取リマスレバ貴君ガ所有權ノ訴ヲシナケレバナリマセン
(委員長)
所有權ノ論ニシ樣ト思ヘバナルガ、生籬ノ一方ガ毀ハレテモ棄テ置キタルトキハ私ノ方ノ側ハ一人デヤル事ニナリ籬ヲ以テ證據ヲ立ル事ニナルダロウ
(南部委員)
ソレハ三十年モ經ツテカラデス
(委員長)
三十年經ズトモ占有デ私ノ地面ノ方ヲ占有シテ仕舞フデアリマシヨウ
(南部委員)
ソレハ所有權回復ノ訴ヲスレバ宜シイ
(委員長)
貴樣ハ其時云ハヌカラ今日トナリテハ出來ヌト云フトキハ如何シマスカ
(南部委員)
ソレハ籬ヲ爲シタル爲メニ所有權ヲ奪ハルル事ハアリマセン
(委員長)
我輩カラ云フノデ、柱一本南部サンガ建テモソレガ爲メニ打消シテ仕舞フハイカヌ
(栗塚報吿委員)
其推測ヲ法律ガ非互有ニ推定ヲ下スノデ、南部氏ノ介界柱ガアルカラ、南部サンノモノト卽チ法律ガ專獨ノモノト推定ヲ下スノデス、併シ打毀ハシノ出來ン事ハナイ
(委員長)
ドウシテ毀ハスカ
(栗塚報吿委員)
建テル事ハ左樣ダロウガ、費用ハ己レガ拂タト云ヘバ法律ガ斯ウ推定ヲ下シタカ打毀ス事ノ出來ル事ハナイ
(委員長)
證據ハナイダロウ
(栗塚報吿委員)
證據丈ケノ御氣付ハ宜シイガ、非互有ト法律ガ推定ヲ下スニハ南部氏ノ控ヘ柱ガアツタラ互有デナイト推定スルノデス
(委員長)
書イタモノガナケレバ取還ヘス事ハナラズト此法律デ見ナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
ソレハ別ノ問題デアリマス
(委員長)
書付ナシデ、ヤレルカ
(栗塚報吿委員)
其金高ハ人證ヲ許ス事ノ出來ル場合ト見テ、卽チ五十圓以下ノ場合ト見テ費用ヲ掛ケタトキハ誰々カト云フ事ハアルデシヨウ
(委員長)
此法文デハイケマイ
(栗塚報吿委員)
行ケマス「裁判所ハ情狀ニ從ヒ共通ナリト推測スルヤ否ヲ指定ス」トアルカラ必ズシモ控ヘ柱ガアツテハ他ニ證據ガアロウトモ非互有ノ推定ヲ打消ス事ノ出來ヌ方ノ推定デハアリマセン
(松岡委員)
出來ン方ダロウ
(委員長)
板塀ハ南部氏ガシタト云フ慣例ガアツタロウ然ルニ慣例ノアツタモノヲ、書イタモノハナイケレドモ、大工ハ現ニ使タ者ガ居ル處ガソレヲ貴君ノト推定ヲ下シタトキ、大工ガ行ツテ彼レハ山田顯義ノ爲メニ仕舞ヲシタト云フト、大工一人ノ言ヲ以テ裁判官ハソレハセヌト云フ事ハ出來ンダロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ問題デアリマス「ボアソナード」ハイケヌト云テ居ル、私ハイケルト思ヒマス
(南部委員)
法律上推定シテ、此レデナケレバ破ル事ハ出來ント云テ居ルカラ證人デハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
互有ト法律ガ云テ居ルモ、反對ノ證據ガアレバ推定ヲ破ル事ハ出來ルダロウ
(松岡委員)
ソレハサセヌガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレハ「ボアソナード」モサセヌガ宜シイト云テハアリマス、併シ推定ハ二ツアル、互有ノ推定ト非互有ノ推定トアル、委員長ノ云フノハ非互有ノ推定ハ單ニ彼レノミニ係テ居ルガ、外ニ何カ非互有ノ推定ヲ破ル事ガ出來ルヤ否ト云フ問題デ「ボアソナード」ハ互有ノ推定ヲ破ルニハ三ツシカナイ、證書、三十年ノ時効、有形ノ標記、ト此三箇シカナイ、然ルニ非互有ノ推定ヲ破ル事ノ出來ルノハ私ハ輒イト思ヒマス
(委員長)
互有ト推定スルニシテモ、板塀ノ支柱ノ一方ニ出テ居ルヨリ外ニ證據ハ採ラヌト云フト、川溝ノ土ヲ揚ゲタ樣ナ譯ニセラレナイト
(鶴田委員)
ソレハ非互有ノ推定デス
(栗塚報吿委員)
溝ヲ掘リタトカ、石垣ヲ一人デ致シタラ互有デナイト、又非互有ノ推定ヲ破ル事ノ出來ヌハ別デス
(松岡委員)
併シ一槪ニ互有ノミノ推定ハ出來マセン、依テ非互有ノ石除ケヲ法律ガ極メタノダカラ
(委員長)
反對カラ云フ話シデ、支柱ガアレバ之ハ非互有ノ方ガ支柱ノナイトキハドウスルカ
(松岡委員)
互有ニナルノデス
(委員長)
板塀ガアリテ互有ト推定ヲシテモ一人デシタ事モアルダロウ其後ノ證據ニナルト云フ話ダロウ
(松岡委員)
ソレハ向ウデ證據ニシタケレバ勝手デ、保持モ修繕モ一人デ錢ヲ出セト云バレル方ノ側デアリマスカラ
(委員長)
其トキハ所有權ノ中ニ入レテシロト云フカ、又所有權ノ内ヘ入レテハ困ルト云フカ、互有デナイ以上ハ一人デシロト云テモ、セヌト云フカモ知レヌ、ケレドモ籬ヲ一人デシロ互有デハセヌト、一方ガ云フト御前ノ地面ノ籬ダカラ爲ルシナイハ勝手デ自分デスル事ハナイト云タラ裁判ノシ樣ガナイ
(松岡委員)
ケレドモ今迄ヤツテ居タカラ義務ガ生ズル
(委員長)
ケレドモ非互有デナクシテ一人デ爲シタノデシヨウ、其トキ一方ノ者ハ所有權ニ關係スルト思フカラ互有デシナケレバナラント云フト、支柱ナク建タ籬ダト一方ハ互有デヤロウト云フ、一方ハ互有デハ厭ヤト云フ、其トキハ柱ガナイカラ、矢張リ他人ノ土地ヘ侵シテ造タ籬デモ非互有ノモノダト裁判官ハ見ナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
元來法律ガ互有ト看做シテ居ル、其互有ヲ破ルニハ三箇シカナイト云フ、所ガ非互有ノ推定ヲ破ルト何カナレバ互有トナリ、本體ニ復スノデアリマス
(南部委員)
左樣ニハ行クマイ、證書ガアレバ獨專所有權ヲ極メル證書、時効トアル、栗塚サンノ仰シヤル通リダト、現ハルル非互有ノ標記ト云ハナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
非互有ノ推定ヲ崩ス事モ出來ルカナレバ、矢張リ互有推定ト同ジカ違ウカハ問題デアリマス、互有ノ推定ヲ崩スハ難イガ、非互有ハ變則デ變則ヲ崩スハ正則ヲ崩スヨリハ輒イト云ハナケレバナラン、私ハ崩セルト思フ
(南部委員)
然レバ何デ此條ヘ加ヘナイカ
(栗塚報吿委員)
相隣者ノ一人ニ獨専所有權ヲ定メル證書ニテ非互有ニスル、互有ト推定セラレテ居ルケレドモ、破ルニ足ル證書又ハ互有ノ推定ヲ破ル時効ガナケレバナラン、所ガ非互有ノ推定ヲ破ルモノハ外ニアロウカ
(委員長)
反對ノ場合ニハ證人デモ反對ノ證據デ破レルトイカンカ
(栗塚報吿委員)
左樣デナケレバナラン、互有ノ推定ヲ破ルノハ證書、時効標記ノ三箇デナケレバナランゾヨ、非互有ノ推定ヲ破ルニハ證人ヲ以テ破テハナラヌトハ言テ居リマセン
(工藤報吿委員)
貴君ノ說ニスルト牴觸スル、但書ハ互有ト推定スル、セラレナイモノハ打破テシナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
此所ニ互有ニ推定ストアルモ非互有ノ推定ヲ破ル事ハ云テハ居リマセン、證人デモ何デモ宜シイ
(松岡委員)
栗塚サンノ云フノハ證據アルモノハアルモノトス位ノ事ダカラ溝ノ揚ゲ土ガアツテモ一方ニ標記アルモノト見ヘル併シ必ラズ溝ノ揚ゲ土ガ一方ニアルトハ限ラナイト、非互有トシテ取除ケルカ、一方ノ人ヘ義務ヲ負ハセル筈ダカラ之ヲ破ル他ノ證據ガ出來タラ元トノ互有ニ立戻サルルト云フガ宜シイダロウ
(委員長)
其解釋ナレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
第二ノ例デ申セバ板塀ガアル柱ハナイ、左樣スルト互有デハアリマセント云フノハ證書又ハ時効有形ノ標記ト三箇ナケレバ互有デナイトハ云ハレナイゾヨト云フノデス
(松岡委員)
私ハ些トモ手ヲ出シタ事ハアリマセント隣リノ者ガ云テ居ル、左樣云テモ是非出セト責メ付ケラレル
(南部委員)
左樣見ルハ格別ダガ、原案ノ旨意ハ左樣デナイ、若シ左樣ナ意味ナレバ七十三條ノ終リヘ「反對ノ證據アルトキハ此限ニアラス」トシナケレバナラン、併シナガラ修正スルハ格別デアリマス
(委員長)
解釋ハ違フニセヨ、南部サンノ家ノ如キハ現ニ舊慣ノアツタ事ハ誰モ知ツテ居ルガ、書面ハナイ、時効モナイ、柱モ立テナイ、板塀ノアツタトキハ現ニ私ガ造リマシタト云フ人間ガ居テモイカヌカ
(栗塚報吿委員)
起リガ互有ナレバ此三箇ノ場合ホカナイ、起リガ非互有デアリタヲ打消スニハ證人デモイケマス
(委員長)
南部サンガ裁判スレバ互有トスルカ
(南部委員)
左樣デス
(栗塚報吿委員)
支柱ガアツテモ、私ノ柱デ、南部サンノデハ御座イマセン、之ハ互有デ御座イマスト云タトキハ、非互有ノ場合ダカラ破レルノデ、證人デモ行ケルノデス
(松岡委員)
其通リデス
(委員長)
南部サンノ解釋デハ柱ハナイ板塀ガアルトキハ裁判官ガ困ルダロウ
(南部委員)
原案ヲ改メルハ格別、起案者ノ旨意ハ私ノ解釋通リデス
(委員長)
日本ニ施行スルニ此儘デ置イタラ斯ウ云フ害ガアルトカ、箇樣ナ場合ガアルト云フ事ヲ考ヘナケレバナランガ、日本ニ於テ原案通リデ宜シイカドウカ
(南部委員)
私ハ其前ニ言ヒ度イ事ガアリマス六百九十八條ニ「占有者云々、但シ容假ナル事カ其占有者ノ名義ニ因リ、又ハ事實ノ情況ニ因リ證セラルルトキハ此限ニ在ラス」ト云フ明條ガアリマスカラ
(委員長)
ソレハ宜シイガ、貴君ハ日本ニ施行スルニ「ボアソナード」ノ樣デ宜シイカ
(南部委員)
善イトハ存ジマセン
(委員長)
ソレナレバ之ハ實際施行スルニハ都合ノ好イ樣ニシナケレバナラン、栗塚ノ解釋ノ如クニシテハ「ボアソナード」ノ書方ガ本來反對ノ意見ナレバ反對ノ事ヲ入レルカドウカシナケレバナラン
(南部委員)
尙ホ講究シナケレバナラン
(鶴田委員)
栗塚サンノ云フ樣ニハ行レヌネ
(渡委員)
栗塚サンノ辯明ニハ感服ハ致シマセン、例ヲ擧ゲルト互有デナイ非互有デアルト主張スル者ガアツテソレハ何故主張スルカナレバ籬ノ支柱ガ一方ニアル、之ハ卽チ非互有ノ標記デ御座ルト云フテ、栗塚サンノ論デハ拵ヘタ大工其他ノ證人ガアレバ、ソレヲ呼出シテト云フ解釋ニスルト制限ガナイカラ、若シ其通リナレバ互有ト云フモノノ内カラ、互有デナイ證據ハ是レ々々デアルト、法律ガ極メ、一方ニ柱ガアルハ互有ニ非ザルモノト云フ力ハ無イ樣ニナル
(栗塚報吿委員)
渡サンハドウカシテ私ノ言フ所ヲ間違ヘテ解シテ御座ル、何ゼナレバ法律ガ互有トシタニ、之ヲ互有デナイト云フニハ、互有ニ制限ガアルト云テ居ル所ガ非互有ト云フモノガアレバ何デモ出來ルノデス
(渡委員)
非互有ノ標記ガアリ、證明スレバ論ハナイダロウ
(栗塚報吿委員)
證書トカ、三十年ノ時効トカ、又ハ有形ノ標記トカ云フハ互有ノ推定ニ對シテ云フ辭デナイカラ見ナイデ宜シイ
(渡委員)
非互有ノ推定ハ七十二條デ出來ルノデ、標記アルモノハ必ラズ證據人ガアレバ破レルト云フ見解ダ、ソレナレバ非互有トスル精神ガ倒レテ仕舞ウ
(松岡委員)
誰ガ造ツタカ一向分ラヌトキハドウカ
(渡委員)
兎ニ角今一應御調ベヲ願ヒタイ、左樣デナイト區々ニ解スルカラ
(尾崎委員)
ソレガ宜シイ
(鶴田委員)
南部サン、土地所有權ノ事許リ云フナレバ七百六十條ノ二項ニアル、此所デ云フハ圍障ノ事許リ云フノデアルト、私ハ見ルガ、一體七十二條ハ土地ニ付非互有ノ標記トアル、七十一條ニモ土地又ハ建物トアリマス、所ガ前條建物ノミ別ニシテアル
(委員長)
何シロ二條ノ修正案ガ出テカラニシヨウ
(鶴田委員)
土地ニ付テ互有デ圍障デシヨウ、然ウスレバ土地ノ上ニアル板塀許リデナイ、土地ガ卽チ此方ヘ付クデシヨウ
(南部委員)
土地ノ所有權ヲ定メル證書トアリマスガ、所有權ヲ定メル證書ニ付テ議論スルナレバ此所デハ出來マセン、何ゼナレバ一方ニ所有權ヲ定メル證書ヲ出サズシテ一方ヲ論ズルノハ出來マセン、若シ攻撃アルトキハ證書デナケレバナラント云テ居ル
(松岡委員)
土地ニ付キ分界付デナケレバナラント云フ事ハナイ
(村田委員)
報吿委員カラ調ベテ出シテカラデ宜シイデハナイカ
(委員長)
報吿委員デ今一應教師ニ聞キ、尙ホ調ベテ貰フ事ニシテ先ヘ行キマシヨウ
本條ハ起案者ニ質問ノ上議スル事ニ決ス
○七百七十三條朗讀ス
第七百七十三條 不平等ナル高度ノ二箇ノ建物ヲ分界スル石造、煉化造又ハ土造或ハ木造ノ牆壁ニ關スルトキハ互有ノ推定ハ最モ高キ牆壁カ他ノ建物ヲ踰ユル部分ニ付テ止ム
若シ支持スル牆壁カ單ニ一箇ノ建物ヲ支持スルトキハ右ノ推定ハ如何ナル部分ニ付テモ存立セス
(栗塚報吿委員)
「支持スル」ト云フ四字ハ消ヘマシタ、之ハ元來原文ニナイ字ヲ書キマシタカラデス
(松岡委員)
此條ノ「牆」ノ字モ「壁」デ宜シイデシヨウ
(栗塚報吿委員)
何レ左樣ナルデアリマシヨウ、二項ハ云フニ及バヌ筈デスネ
(松岡委員)
當リ前ダナ
(工藤報吿委員)
併シ箇樣ナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
前ニ大キナ庇ヲ見タ樣ナモノガアル、壁ニ付テハ權利ガナイト云フ事デシヨウ
(工藤報吿委員)
左樣デス
(南部委員)
此條ハ尤モデアリマス
(栗塚報吿委員)
東京ニアル長屋ハ板塀抔ハ木造デアリマシヨウ
(鶴田委員)
二項ハ
(栗塚報吿委員)
二項ハ一軒建ノ家ノ壁ノ周圍ノ壁ハ互有デナイト推定セラルルデス
(松岡委員)
註解ヲ見ルト、高度ノ家ニ差ノアルトキハ互有デナイト推定スト、一ツアツテモ亦二ツアツテ上ハ互有デナイト云フノダカラ、書分ケテ見ルト、二項ハ要用ハナイ
(鶴田委員)
二項ハオカシイ
(委員長)
私ノ考ヘデハ寺抔ノ大キナ家ガアツテ、其家ノ大キナ屋根ヲ保ツ爲メニ壁モ尋常ノ壁デモアリマスマイ、大キナモノデ、隣リニ家ガアツテモ、決シテ隣リニ關係ハナイデシヨウ
(南部委員)
左樣ナルト、一項ニナツテ仕舞ヒマス
(委員長)
隣リノ方ハ同ジ壁ガ隣リノ用ヲ爲シテ居ルダロウ、一個壁ガアツテ隣リノ屋根ハ相持チデナイト、一軒家ト見テ宜シイ
(南部委員)
隣リニ家ガアツテモ宜シイ先ヅ一軒家デアリマス
(栗塚報吿委員)
其場合ヲ想像シテ居ルカラ知ラン
(松岡委員)
箇樣ナ事ガ起ルカネ、互ニ家ハ分界線ニ在テモト見ナケレバナラン、屋敷ノ眞中ナレバ云フ迄ハナイ
(委員長)
不用デモナケレバ置テ先ヘ行キマシヨウ
本條ハ第二項ノ「支持スル」ノ四字ヲ削リ他ハ原按ニ決ス
○第七百七十四條朗讀ス
第七百七十四條 二個ノ土地ヲ分界スル同一ノ圍障又ハ其他ノ工作物ニ付キ同時ニ互有ノ標記ト非互有ノ標記アルトキハ裁判所ハ情狀ニ從ヒ其所有權ハ相隣者ニ共通ナルヤ又ハ其一人ニ專屬スルヤヲ査定ス
(南部委員)
之ハナケレバナラン
(渡委員)
之ハ宜シイ
(南部委員)
七十二條中ノ事ヲ云フノデス
(渡委員)
彼レノ取捌キダ
(委員長)
七十二條ノ外ニハアリマセンカ
(工藤報吿委員)
アリマシヨウ、一方ニ反對シタ事ガアルカラ其捌キ方デアリマス
(松岡委員)
左樣デ、板塀ノ支柱ガ兩方ニ在タトキハ卽チ之デス
(尾崎委員)
之ハ宜シイ
(委員長)
標記ハ有効トシテテ宜シイカ
(渡委員)
證據ニナレバ宜シイデシヨウ
(委員長)
互有ノ標記ト云フ事ハ證據ト同ジニナルカドウカ
(栗塚報吿委員)
全體互有ノ證據ト非互有ノ證據トアルトキハトシタイ
(松岡委員)
證據トシタモ同ジデス
(栗塚報吿委員)
書キ回ハシテアルガ、非互有ノ打消シハ證人デモ宜シイカラ
(渡委員)
標記トシテモ分カル
(松岡委員)
標記デ宜シイ、本條ハ論ナシダロウ
(委員長)
宜シケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
○第七百七十五條朗讀ス
第七百七十五條 互有界ノ修繕及ヒ保持ハ平分シテ共有者平分シテ之ヲ負擔ス但毀損カ一人ノ所爲ヨリ生シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ第七百六十七條ニ從ヒ義務タルベキ圍障ニ關セサルトキハ共有者ノ各自ハ互有ノ權利ヲ抛棄シテ保持ノ負擔ヲ免カルル事ヲ得但自己ニ屬スル建物ヲ支持スル牆壁ニ關スルトキ及ヒ自己ノ所爲ニ因リ旣ニ必要ト爲リタル修繕ヲ負擔スベキトキハ此限ニ在ラス〔第六百五十五條第六百五十六條及ヒ第六百五十七條〕
(栗塚報吿委員)
翻譯デ「互有ノ分界ノ修繕」ト改メマス、又「平分シテ」ハ二ツアリマスガ上ノ方ハ誤リデアリマス
(渡委員)
宜シイ樣デス
(南部委員)
七百六十七條ノ場合デナケレバ宜シイノデス
(委員長)
左樣デナイ、何所迄モ二人デ遣ツタモノヲ私ハ否ヤダカラ止メ樣ト自分デ棄テル事ガアル
(南部委員)
破レレバ破レ次第デス
(委員長)
破レタラ一方ハ困ルダロウ
(南部委員)
一方ハ抛棄シタノデアリマスカラ困ルモノハ自分デ、アリマスカラ修繕シテ參リマス
(委員長)
ソレナレバ宜シイ
(村田委員)
所有權モ抛棄シテ仕舞ウデシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(工藤報吿委員)
ソレハ無論デス
(尾崎委員)
私ト松岡サントデ互有シテ居ル所ヲ、私ハ互有デシマセント云フト、松岡サンガ一方デシナケレバナラン
(淸岡委員)
但書ハオカシイネ
(村田委員)
抛棄スレバ免カルル、併シ自分ニ過失カ何カアツテ、修覆シナケレバナラントキハ義務ヲ棄テ所有權ヲ委ネテモ、費用ヲ償ハナケレバナラント云ツタノデアリマスカラ、要用デアリマス
(松岡委員)
ソレハ無論デアリマス
(淸岡委員)
宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
私ハ箇樣ナ考ヘガアリマス、佛蘭西ノ家ハ厚イ壁ダカラ金ヲ掛ケルトキハ大變利益ガアルカラ、抛棄スルモノハアリマスマイガ、日本ニ至テハ互有ハ壁許リデハナイ、種々繼ギ足シタモノモ互有ト見ルト、板塀モアレバ、生籬モアレバ、柴垣モアル、ソレ等ノ互有ハ有難カルマイト思ヒマス
(松岡委員)
田舎ニシテモ困ツテ居ル分界ナレバ、否應ハ云ハセナイゾト云フ、板塀デ見ヘルモノハ甚ダ少イダロウ
(栗塚報吿委員)
御前ガ勝手ニ二人デ修繕シヤウト云フガ、一體權利抔板塀ニ付テハ有リハシナイ壁抔ハ利益ガアルカラ一緒ニシヤウト云フカ知レンガト云ヘバ身モ蓋モナイガ、板塀デアツタヲ雙方デ負擔セヌデハ朽ル樣子ガ少シハ違ヒハセンカ、權利ヲ抛棄スルハ互有壁ノ佛蘭西カラ來タノデ、註釋ニハ利益ガアルカラ利益ヲ棄テ義務丈ケ負フ議論ハ宜シイガ、實ハ生籬柴垣ニ對シタモノデハナイカ知ラン
(南部委員)
ソンナモノハ標記モスマイ
(鶴田委員)
先ヅ之デ宜シカロウ
(南部委員)
彼方ハ抛棄スル事ハ許サヌノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
許スト、法文ニモアリマスガ、佛蘭西デハ互有壁ト思テ居ル感觸カラ、矢張リ板塀抔モ無理ニヤレト云フ權ヲ與ヘタカモ知レヌ
(南部委員)
無理ニヤラヌ方ガ宜シイデシヨウ
(鶴田委員)
論ハナイカラ此條ハ宜シイ
(委員長)
其他ノモノハ互有ノ權利アル建物デ、シヨウネ
(栗塚報吿委員)
建物ニ支持シテ居ル互有デアリマス
(委員長)
牆壁ハ卽チ互有デアリマシヨウ、自己ニ屬スル互有トナクツテモ宜シイカネ
(栗塚報吿委員)
宜シウ御座イマシヨウ
(委員長)
宜シケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
○第七百七十六條朗讀ス
第七百七十六條 互有ノ場合ニ於テハ各相隣者ハ互有ノ分界ヲ其本性及ヒ用方ニ從ヒ用ユル事ヲ得但其堅牢ヲ傷ハサル事ヲ要ス
各相隣者ハ互有壁ニ其厚サ四分ノ三ニ至ルマデ梁棟ヲ穿入シテ建物ヲ支持シ又ハ之ニ煖爐ヲ倚貼シ、若クハ煙突、水管、瓦斯、管其他家内用、又ハ工業用ノ爲メ管筒ヲ通スル事ヲ得但其壁ノ本性及ヒ厚サ之ヲ爲スニ堪フルトキニ限ル然レトモ各相隣者ハ其壁ニ窓ヲ鑿チ又房室ノ使用ノ爲メ些少ノ凹穴ヲモ爲ス事ヲ得ス〔第六百五十七條及ヒ第六百七十五條〕
又總テノ共有者ハ互有壁ヲ高ムル事ヲ得但其壁ノ堅牢之ニ堪フルトキ又ハ自費ニテ堅牢ナラシムル工事ヲ爲ストキニ限ル此場合ニ於テ其高メタル部分ハ互有ナラス〔第六百五十八條、第六百五十二條〕
互有ノ溝渠ニ關シテハ各相隣者ハ之ニ雨水、工業用又ハ家用ノ水ヲ流入スル事ヲ得但其溝渠ニ水ノ有害ナル淳滯ヲ避クルニ足ルベキ傾キアルトキニ限ル
生籬ニ關シテハ各相隣者ハ剪伐木ノ半ヲ利スル事ヲ得又其生籬ニ存スル高幹ノ樹木ノ採伐ヲ請求スル事ヲ得
(委員長)
一項ヅツヤリマシヨウ
(南部委員)
一項ハ宜シイ
(鶴田委員)
一項ハ宜シイ
(栗塚報吿委員)
煖爐ト云フ字ハ火ヲ焚ク所ト云フノデ、下丈ケデハナイ、上マデ出テ居ルノデアリマス
(鶴田委員)
四分ノ三ト云フノハ掘テ箝メ込ム丈ケノ穴デ、次ノ水管瓦斯管ハ別ニ本式ニ穴ヲ明ケルノデアリマスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、建物ヲ維持スル爲メニ四分ノ三ニ至ルマデ穴ヲ明ケルノデス
(鶴田委員)
煙突水管瓦斯管ノ如キハ突キ拔キマスカ
(南部委員)
矢張リ四分ノ三デス
(松岡委員)
四分ノ三ニハ限リマスマイ、水管デモ、煙突デモ、隣リノ家ヘ烟ガ出テハナラヌデシヨウ
(栗塚報吿委員)
原文デハ四分ノ三ニ至ルマデトアリマス
(鶴田委員)
水ハ壁ヲ突キ拔ケテモ宜シイノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
管ヲ突キ通シテデアリマス
(鶴田委員)
ドウモ些ト怪シイネ
(栗塚報吿委員)
各相隣者ハ互有壁ノ厚サ四分ノ三ニ至ルマデトシテ、又煖爐ヲ倚貼シ若クハ煙突水管瓦斯管其他家用ノ爲メニスル事ハ管筒ヲ壁ニ通ス事デアリマス
(松岡委員)
瓦斯管抔ハ指ヨリ細イノダカラ押入ヘ拵ヘルカモ知レンカラ
(南部委員)
拔クノガ主意デハアリマスマイ
(委員長)
日本ノ壁ノ如キ二三寸ノモノヲ云フノデハナイ「然レトモ壁ニ窓ヲ鑿チ些少ノ凹穴ヲモ爲ス事ヲ得ス」ト云フノハ承諾ガアレバ宜シイノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
承諾ガアレバ宜シイノデス
(委員長)
普通ノ原則デイケマスカ
(栗塚報吿委員)
佛蘭西ニハ六百七十五條ニ承諾ナシデハト云テ居ルガ、相隣者ノ中一方ガ其方法如何ヲ問ハズ云々トアリマス
(鶴田委員)
「相隣者其承諾ナクシテ」ト入レテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「各相隣者ノ一人ハ他ノモノト承諾アルニアラサレハ窓ヲ鑿チ些少ノ穴モ爲ス事ヲ得ス」トシテモ宜シイ
(鶴田委員)
「各相隣者ハ一方ノ承諾ナクシテ壁ニ穴ヲ鑿ツ事ヲ得ス」トシテハドウカ
(栗塚報吿委員)
左樣デナイト釘一本モ打ツ事ハナラヌノデシヨウネ
(委員長)
釘ト云ト甚ダシイガ、少シノモノヲ一寸付ケルトシテモ壁ニ傷ヲ付ケル事ハナラヌ意味デアロウト思フガ
(栗塚報吿委員)
凹ノ事デアリマス
(南部委員)
承諾ヲ得ルト云フ事ハ加ヘナイガ宜シクハナイカ
(委員長)
契約デ付ケルノガ普通ダガ承諾シテヤラント云フ事ハナイ
(南部委員)
此所許リデハアリマセンデシヨウ外ニモアリマシヨウカラ
(委員長)
普通ノ原則デヤレルナレバ宜シイドウモ私ハヤレヌト思フガ之ヲヤラヌト云フト隣リノ家ト家ノ間ヘ大變窓モ明ケヨウシ
(南部委員)
窓ヲ明ケテモ、一方ガ承知スレバ宜シイ
(委員長)
承知セズニ明ケル事モアロウ
(南部委員)
アリマセンデシヨウ
(委員長)
幾ラモアロウ
(南部委員)
共同壁デハアリマスマイ
(委員長)
宜シケレバ三項ハドウデス
(鶴田委員)
三項ハ宜シイ
(松岡委員)
大キナ蒸氣ヲ使テ水ヲ吐キ出シテハ隣リデ困ルト云フノデス
(渡委員)
ソンナ極端ヲ云フノデハナイ
(南部委員)
一方カラ考ヘテ見ルト、溝渠ハ傾キノナイ溝渠ハ少ナカランデシヨウ
(渡委員)
何レ府下ノ如キモノデハアリマスマイ
(南部委員)
傾キナクシテト云フト、水ガ後ト戻リヲシテ大變ダカラ
(渡委員)
何方ニモ流ルル場合ヲ云フノダカラ、溝渠ノ水デハ水車デ水ヲ引カナケレバ成立ヌノダカラ心配ハナイデシヨウ、只ダ雨水ハ御互ニ低地ニアル雨水ヤ臺所デ使フ水ヲ流シテハナラズトシテハ困リハシナイカ
(南部委員)
所ガ一方ノ水ヲ使フニモ、何程隔タナケレバナラント云フ事ガアリマス、彼ノ例カラ云フト、傾イテ流ルルモノデナケレバ流セナイ
(渡委員)
有害ヲ避ケナケレバナランハ至當ダガ、傾キガナケレバ流レ込ム事ハ相ナラズト云テハ困リマシヨウ
(南部委員)
ナラズトスレバ掘テ行クデシヨウ、掘タラ流ルルデシヨウ
(渡委員)
掘タ以上ハ傾キガアルト云ハナケレバナラン、ソンナ事ヲ書カレテハ輒チニ困ルデシヨウ
(南部委員)
傾キデアリマス
(鶴田委員)
但書ハナイ方ガ宜シイト思フガ、水ガ溜レバ申合セテ浚ハナケレバナラン、又警察例モアルカラ「淳滯ヲ避クル事ヲ要ス」位ニヤツテ置キ度イ
(渡委員)
ドウモ左樣デアリマス
(南部委員)
之ニアツテモ浚ヘル事ニハナリマスヨ
(鶴田委員)
些ト書直シテ宜シイデハナイカ
(渡委員)
私ハ但書ハ削リタイ
(委員長)
削テモ宜シイカ知ラ
(南部委員)
前ノ文章ノ照應ハドウカ、溝渠ノ水ハ是非一方ニ傾キト云テ居ルカラ、傾キトナケレバ溝渠トハ云ハレナイカモ知レン
(鶴田委員)
但書削除ナレバ同意シヨウ
(松岡委員)
ソレナレバ私モ同意ダ
(委員長)
削除ガ宜シイデシヨウ、次ギニ四項ヲヤリマシヨウ
(鶴田委員)
四項ハ宜シイ
(栗塚報吿委員)
變ナ詞デハ御座イマスガ、翻譯字デ「剪伐木」トヤリマシタソレカラ、「生籬ニ存スル高幹ノ樹木」トヤリマシタ
(鶴田委員)
大キナ樹ガ生籬ノ中ニ成長スル事ガアリマスヨ
(松岡委員)
「剪伐木」ハ極マツタ名詞ニナツタノデシヨウカ
(栗塚報吿委員)
「剪伐木」ハ時ヲ極メテ前カリ込ムノデス
(工藤報吿委員)
剪伐木ヲ半ニサレルト云フノデス
(委員長)
杉ハ何年、桃ハ何年ト云フダロウカ、此所デ云フト、生籬デサヘアレバ、何ノ木デモ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
「剪伐シタル樹木ノ半」トシテハ如何デス
(南部委員)
左樣シマシヨウ、其方ガ宜シイ
(鶴田委員)
「剪伐シタル樹木ノ半」ガ宜シカロウ
(栗塚報吿委員)
此所ト同論デアリマスガ、此所デ演ベルモ不都合デアリマスカラ、佛蘭西文ニ「承諾アルトキハ」トアルノデ、「相隣者四分ノ三ニ至ル迄建物」云々トアリ、裁判例ノ說キ明シヲ見ルト、他人ノ承諾ナキトキハ鑑定人ヲシテト云フ事ガアリマスノデ、相隣者ガ壁ヘ窓ヲ鑿チ墮スモ爲ス事ヲ得ズニモ承諾ト云フ事ガアリマス、所ガドウ云フ譯デ日本文ニナイカ、註ニモアリマセン、講義ニモアリマセン果シテ之ヲ置カヌナレバ調ベテカラ申上マス、恰モ高幹ノ樹木剪伐デス、ソレカラ註カラ見出シマシタガ、六百五十七條ノ註ノ說キ明シニ、互有壁ノ内ニ穿タント欲スル所有者ハ隣人ノ承諾ヲ請求セサルベカラズトアル上デハ承諾ナキトキハ鑑定人ヲ請フテ、大丈夫トシタ上デナケレバ出來ヌト六百六十二條ニ從テ鑑定人ヲ定メルトアリマス
(委員長)
宜シケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第四項但書刪除第五項「剪伐木」ヲ「剪伐シタル樹木」ト修正ス
○第七百七十七條朗讀ス
第七百七十七條 若シ相隣者ノ一人カ石造、煉瓦造又ハ土造ノ分界壁ヲ建築シタルトキハ他ノ相隣者ハ其現時價セシ代價ニテ土地、材料及ヒ工力ノ價格ノ半ヲ拂ヒテ常ニ其分界壁ノ全部又ハ一分ノ互有ヲ取得スル事ヲ得〔第六百六十一條及ヒ伊民第五百七十一條〕
前條ノ第三項ニ從ヒ爲シタル壁ノ增高ニ付テモ亦同ジ〔第六百六十條〕
右ノ如ク牆壁ノ互有ヲ取得シタル者ハ前條ニ記シタル如ク之ヲ用ユル事ヲ得然レトモ其壁ニ存スル窓カ人爲ニ因リ看望ノ地役トシテ設ケラレタルトキハ之ヲ閉チシムル事ヲ得ス
此條例ハ倉又ハ土藏ニ之ヲ適用スル事ヲ得ス
(修正) 初項三行目地ノ下「材料及ヒ工力」ノ六字ヲ刪リ「及ヒ壁」ノ三字ヲ挿入ス末項倉ノ下「又ハ土藏ニ」ノ五字ヲ刪リ「庫ニ」二字ヲ挿入ス
(栗塚報吿委員)
此レニハ修正ガ御座イマス、「材料及ヒ工力」ヲ「土地及ヒ壁ノ價ヲ拂ヒ」トシマシタ「工力」ト云フ字ハ日本デハ手間賃ト云フ字デ其手間賃ヤラ裝置ノ代ヤラヲ云フノデ詰リ「壁ノ價ヲ」デ宜シイダロウト云フノデアリマス
(工藤報吿委員)
又佛國伊太利デハ讓リ渡ストキ最初拵ヘタ代價ニ遡テ計算スルト「ボアソナード」ガ云テ居ル、卽チ、材料及ビ工力ト云テ居ルガ、土地ト壁ノ評價ガ出來ルカ、其時用ヒタハ幾許ト云フ事ハ分リ兼ネルカラ、壁ノ評價ガ立テバ自ラ代價ハ見出セル譯ダカラ、材料云々ハ削リマシタ
(鶴田委員)
宜シイ樣デス
(渡委員)
修正ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
ソレカラ原文ニハ土藏トアルノデ倉ト土藏ト二個アル樣ニ思テ困ルノデ、土藏ト云フ字ハ置キ度イ
(工藤報吿委員)
土藏ト云フト土藏許リ云ヒタクナリマスガ之ハ倉庫デス米ヲ入レルモ金ヲ入レルモ這入ルカラ
(鶴田委員)
修正ハ倉庫デシヨウカ
(工藤報吿委員)
左樣デス
(委員長)
相並ンデ居ル所デ壁ヲ使ハレタト云フトキハ矢張リ半分丈ケハ御前ノ方デ其時ノ相場デ拂テ呉レト云ハレルダロウ
(栗塚報吿委員)
互有壁ニシヨウト思ヘバ、拂ハナケレバナランノデス
(委員長)
互有壁ニシヨウト思ヘバ左樣ダロウ
(栗塚報吿委員)
界ヘ壁ヲ築イタハ互有デハアリマセン
(鶴田委員)
私ノ分界ニ跨テ居ルノデ、土地ノ價ヲ拂フノデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ左樣デシヨウ
(南部委員)
自分ノ土地デアリマシヨウ
(鶴田委員)
分界ハ自分ノ土地デシヨウ
(委員長)
分界壁ヲ建築スルトキハ土地ニ使タ分界壁トハ云ハレナイ
(鶴田委員)
此所ハ跨テ居ナイノデス
(松岡委員)
壁ガナクナツタラ、元ヘ戻リマスカ
(栗塚報吿委員)
ソレハドウシテモ部分ニテ屬スト云フ事ガアリマス
(松岡委員)
此所ハ分界線ヨリハ地役ハ餘リ苛酷ダネ、燒ケタト見ルト、三百坪ノ家ヲ拵ヘ得ベキ敷地ヘ十間ナリ八間ナリアルト地震デ轉覆シタトカ、大火事デ燒ケタトキハ隣リノ人ガ、一旦存シタラ何時迄モ壁ハ使ハナケレバナラン事ニナル
(栗塚報吿委員)
壁丈ケデ、元來左樣デナクテモ壁ハアルノダロウ、然ルニ向ウノ者ガ使ウト云フノダカラ、然ウナレバ金ヲ御出シナサイト云フノデアリマス
(松岡委員)
是非突キ付ケラレタカラ否應云ハレナイノデス
(南部委員)
地役ノ幾分ハ所有權ヲ制限シテ居ルノデス
(工藤報吿委員)
立案者ノ旨意ハ甚ダシキ損害ハナイト云フノデス
(栗塚報吿委員)
金モ取レルカラ宜シイデハ御座イマセンカ
(委員長)
土地ノ代價ヲ拂ハヌトキハドウカ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ暴デアリマス
(委員長)
「土地材料ノ代價ヲ拂フヲ得」トスルト
(南部委員)
左樣書クト分界互有壁ニナリマセン
(委員長)
壁ガ毀ハレタトキハ元トノ所有主ヘ還ヘルト云テモ宜シイ、松岡サンノ樣ニ考ヘテ見ルト、防ガナケレバナランガ、一方ノ人ガ金ヲ持テ居ルト見テ居ラレナイ、壁デモ築クト、一方ハ賣テ呉レト云フ、賣テ半分負擔サセテ呉レト云テ負擔サセテ、此度其壁ハ共有ニナルカラ賣買シヨウト云テ破レテモ繕ハナイト向ウハ又償ハナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
其トキハ權利ハナクナツテ抛棄セヌ以上ハ是非シロト云フ
(松岡委員)
向ウハ元ト分界線上ヘ建テ居ルカラ、圍障ハ良シ抛棄スルニシテモ、矢張リ圍障スル土地丈ケホカナイ此所ハ分界線上デハナイノデ、向ウガ抛棄シタカラト云テ、元ト持タ土地丈ケハ狹クナラヌノデス
(南部委員)
壁ノミ互有ニナラント云フ事ハナイ、互有壁ノ界ニナツテ居ル地面ト、互有ノ外ニナルト、互有中ニ明ケベキデハアリマスマイ
(松岡委員)
左樣デハアリマセン、土地ノ分界線上ヘ少シヅツ建タトキ、互有ニナルト壁ノアル間ハ地代ヲ出スト云フ、變體ノモノガ出テ居ルト云フノデ、協議デ拵ヘタノデハナイノデス
(南部委員)
貴君ノ云フ通リニナルト變ナモノニナル所有權ハ段々轉輾シテ仕舞ト變ナモノニナルカラ注意シナケレバナラン
(松岡委員)
互有デアリマスト壁ヲ半分削ルト云フ事ハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
併シナガラ權利ノ抛棄ハ出來ルノデ、私ノ跡ヘ買テ來タ人ハ壁ノ負擔ハセヌト云フト、貴君ノモノニナル、壁丈ケハ貴君ガ持テ居ルトナルノデス、所ガ之ヲ他所ノ人ヘ賣タト云フト、其人ノ地面デ壁丈ケハ貴君ガ負擔シナケレバナラン
(松岡委員)
其代リ壁ヲ除ケル事ハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
壁ノアル以上ハ土地ト壁ハ互有ゾヨト云テ居ル
(松岡委員)
分界線上ニハトアルノデ壁ガ互有ナレバ土地ガ一緒ニナルト云フノデハナイ、分界線上ニ造テアツタナレバ、土地ト壁ノアル限リハト云テ來タノデアリマス
(南部委員)
ソレデハ互有ニナラン、互有ト云フノハ壁ト敷地ト一所ニナツテ仕舞フガ原則デアリマス、土地ガ丸デ分レテ仕舞フトナルト、壁ハ何時モ毀ツ事ガ出來ル、或ハ酷ニ云フト、土地ハ賣テ、壁下ハ穴ヲ明ケル事モ出來ル、何ゼナレバ共通ノ所有ダカラト云ハレル
(松岡委員)
ソレハ土地ガアルカラ云ハレナイデハナイ
(南部委員)
然カモ互有壁ヲ買ウテ來タ人デ、權利ヲ抛棄シテ權利ヲ持タナイ、貴君一人ノ壁ダカラ卽チ底地ハ自己ノ物ダカラ勝手ニスルト云テハドウスルカ
(松岡委員)
壁ノアル限リハ然ウハイカヌ、人ノ錢ヲ取テ貸タモノガ取テ宜シイト云フ事ハアリマセン、牆壁ノアラン限リハ錢ヲ出サンデ置クト云フノデ、互有ニ至ツテハ貴君ガ心配ナレバ毀ハレタトキハ元トノ分界線上ヲ拵ヘルガ宜シイ
(委員長)
左樣デナイト惡ルイ、分界線上サヘ協議ト云フト庭園ノ分界ヲ付ケルニ承諾シナイトキハト制限シテ居ルケレドモ、私有地ナレバ壁ヲ互有ニスルノミナラズ、土地迄互有ニシヨウト云フ、隣リノ者ニ權利ヲ付ケル樣ニナルカラ、相談スルダロウ、ソレガ出來レバ、分界線上ハ無論宜シサソウナモノデス
(栗塚報吿委員)
私ガ僅カ練塀ヲ建テ、隣リノ人ガ練塀ノ何分ヲ負擔シタイカラ賣テ呉レヌカ、其代リ練塀ノ代價モ出ソウト云ツタトキハ如何デスカ
(委員長)
我輩ナレバ否ダト云フ
(栗塚報吿委員)
土地ノ半分ヲ取ラルルガ否ダカラデシヨウ
(委員長)
相談スルノガ面倒ダカラ堅牢ニ造タ方ガ宜シイカラ、自分限リヤルノデ、御前サンノ厄介ニハナリ度クナイカラ、勝手ニヤルト云フ、隣リノ者ハ是非半分呉レト云フハ不當デハナイカ
(南部委員)
部分ト云フ事ハ上ガ部分ニナツテ、下ノ地面ト籬ルルト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
「若シ相隣者ノ一人カ石造、煉化造、土造ノ建築ヲシタトキハ承諾アルニ於テハ他ノ相隣者ト互有スル事ヲ得」トシテハ如何デスカ
(委員長)
ソレハ我輩ノ望ム所デアリマス
(松岡委員)
私ノハソレノ中庸ニアルノデ、土地ノ所有權迄壁ハ勿論行ツテ仕舞フハ氣ノ毒ダカラ、壁ノアル間ハ地役デ仕方ガナイ、壁ノ命チト一緒ト見テ行クノダカラ、土地ハ原有者ヘ戻ルトシタイ
(委員長)
ソレモ宜シイカト思タガ、能ク考ヘルト惡ルイ、自分ノ土地限リ造タノダカラ、他人ガ來テ半分シナケレバナラント云フハ地役ナレバ然ウシナケレバナランガ、自分ノ界ヘ一方ノ家ヲ造タ者ハ權ガアル人デシヨウ
(南部委員)
御考ヘヲ願ヒタイハ、佛ノ六十六條ニモアリマス、地役ハ幾分カ所有權ヲ滅殺スル法デアリマス、恰度袋地ノ者ガ他ノ地面ヲ通リ、一方ノ者ハ之ニ道ヲ供シナケレバナランハ地役ノ眞面目デアリマス、卽チニ方ニ壁ヲ建テ置キマシテ、壁ト云フモノガ敷地カ外ニ何カ付ケル事ガアリマスレバ宜シイガ、壁ハ煉化造又ハ石造ノ種類ダカラ、度々拵ヘル事モアリマスマイト云フヲ理由トシテ、雙方ノ便宜ヲ計テ、一方デ金ヲ出シ、互有スルトシテ、土地モ互有シタ方ガ地役ノ眞面目デ甚ダ相當ト思ヒマス
(委員長)
私ハ相當トモ思ハヌト云フノハ分界線上ニ造タカラ、自分ノ土地限リニ造タナレバ、若シ地役ノ眞面目カラ云ヘバ、壁ヲ勝手ニ毀ツ事ハナラヌ、保存シナケレバナラント云フ事ヲ其土地所有者ニ義務ヲ持タセバ宜シイケレドモ壁ニセヨ、土地ニセヨ、隣リノ者ニ共有シナケレバナラヌ權力ノアルト云フノハ、ドウモ地役ヲ保護スル事ガ過ルト思フ、一旦築イタ圍障壁ハ毀ハス事ハナラヌ、修繕ヲ怠テハナラヌト云フナレバ、ソレ丈ケノ事ヲ爲スベキ義務アルト云フ丈ケナレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
註ニモ餘程重ク書イテアリマス、元來佛蘭西デハ經濟上ノ原則ニ依テ壁ヲ二重ニ建テル事ハナイ、所有者ガ一人デ壁練塀ヲ建築シタカ、又ハ建築シタ練塀ヲ土地ト共ニ買ウタトキハ隣リノ人ノ共有權ヲ隣リノ人ニ讓リ渡ス權ヲ持テモ甚ダシキ損害ハ受ケヌダロウ、ドンナ不便ガアルカナレバ、是非栗塚ガ持タ練塀ハ松岡サンガ隣リヘ來タラ、ヤラナケレバナラン義務トシテハ如何ナル不便ガアルカナレバ、栗塚ハ自在ニ毀ハセナイ丈ケデ、又其練塀ヲ造リ換ヘル事ガ出來マセン丈ケデアリマス、又栗塚ガ之ヲ松岡サンニヤラナケレバナラントキハ公平ナ償ヒモスル筈デ、ソレヲ栗塚カラ考ヘルト、松岡サンハ僅カノ費用デ、練塀ヲ建タト同ジデ、栗塚ノ不便ハ毀ハレタリ又ハ變改ノ出來マセン丈ケハ不便デ、此事ハ輒クシテハナラヌト制限シテ石造煉化造土造カ練塀デナケレバナラン、又金モ拂ハナケレバナランカラ土藏ノ如キハ制限シタカラ恐敷イ事ハアリマスマイ、併シナガラ立法者ノ意デハ毛頭土地ヲ取ラルルト云フ樣ナル事ハ頭マノ内ニ這入ツテ居ラヌ、是非練塀ヲモ造テ居ルト、人ガ來タラ又モウ一ツ練塀ヲ造ルガ宜シイト云フヨリハ錢ヲ取タラ遣テモ宜シイト云フノデ立法者ノ旨意ナレバ分テ居リマス
(委員長)
其旨意ナレバ之ヲ見テモ左樣シヨウト思ヘバ、石造煉化造、又ハ土藏ノ分界壁ヲ建築シタトキハ決シテ有樣ヲ變換スル事ハ出來マセント、又決シテ隣人ノ損害トナリ、或ハ障碍トナル樣ナ事ヲシテハナラヌト書イテ置ケバソレデ宜シイダロウ
(栗塚報吿委員)
隣リノ者ガ買ヒ度イト云タトキデアリマス
(委員長)
其トキハ賣ル事ハナラヌト云ハレル
(南部委員)
左樣スルト無用ニナリハ致シマスマイカ
(委員長)
一方デ造タカラ、造ラヌデ宜シイダロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ苦シイ話デ私ガ練塀ヲ造テ、貴君ガ隣リノ土地ヘ來テ居ルカラトテモ、私ノ造タノデアレバ、毀ハソウトモ自由デアリマス、互有デナイ以上ハ自在デアリマスガ、互有ニナツタ以上ハ權ガナイ
(委員長)
互有デナクツテ地役デ行キマシテモ宜シイデシヨウ、左樣シタトキハ害ハ少ヒダロウ、是非互有ニシナケレバナラヌト、土地迄其者ノ所有ニナツテハ大變デ、先祖代々持テ居ル物ガ半分減テハナラヌト云フダロウ
(栗塚報吿委員)
矢張リ全部兩方デ持テ居ルノデス
(松岡委員)
此樣ナ事ガアルト、是非直スト元トノ通リ互有ゾヨト、卽チ自分ノ地所ヲ占有セラルルノデ、人ノ所有權ヲ何ンデ然ウスルカナレバ、社會ノ經濟ガ一ツ壁デ濟ム、二個ニスルハ無益ト云フガ壁丈ケナレバ壁ノ有ラン限リトシテ宜シイガ、一旦崩レタラドウデス
(栗塚報吿委員)
ソレ故金ヲ出ス
(松岡委員)
金ヲ出シタラ人ノ所有權ヲ傷ケテモ宜シイト云フ事ハアリマスマイ
(南部委員)
「ボアソナード」一人ノ考ヘナレバ兎モ角モ佛蘭西ノヲ適用シタノデアリマスカラ
(松岡委員)
金ヲ出スト云フガ人ノ所有權ハ貴重デアリマス、其レガ壁ノアル爲メニ在ル間ナレバ宜シイガ、後チモ奪ハレル樣ニナツテ仕舞フカラ
(栗塚報吿委員)
互有ニスル爲メ所有權ヲ奪ハルル事ハアリマセン
(松岡委員)
失フノデアリマス、失ハヌナレバ錢ヲ取ル事ハアリマセン
(栗塚報吿委員)
今迄互有壁デナカツタガ、互有壁ニシタ爲メ失ウ事ハアリマセン
(委員長)
一旦築イタナレバ變換ハナラヌト書イテ置ケバ隣リノ垣ニナル
(松岡委員)
梁ヲ插ミ込ンデ家ヲ拵ヘテモ許スノデスカ
(委員長)
許スノデス
(鶴田委員)
委員長ノ云フ樣ニスレバ、本式ノ地役トハ云ハレナイ
(委員長)
地役ト云フハ隣リノ妨害ニナラヌ樣ニスルノデアルカラ
(渡委員)
松岡サンノ論旨ニスルト全廢スルノデスカ
(松岡委員)
意味ハ使用費ダカラ、壁ノ有ラン限リトシテ壁ガ無クナツタラ、土地ノ所有權ハ元トノ人ニ戻ル事ニシタイノデス
(渡委員)
互有ニシテハ修繕シナケレバナランデシヨウ
(松岡委員)
地震トカ、火事トカ云フ天災ガアツテ復タ建ルトキ分界線ヘ持テ來ルノデス
(渡委員)
他ノ一方ヨリ壁ヲ互有ニセン事ヲ望ムカラ壁ノ半價ヲ拂テ互有ニシヨウト云フノデス
(松岡委員)
土地ヲ借リル地代ヲ云フノデス
(鶴田委員)
七十條ハ分界線上ニ造リ、七十一條ハ土地ガ分界ノ互有ト云フケレドモ、一番地ヘ長家ヲ煉化デ拵ヘルト、造ル人ハ部分デモ中ノ壁ハ互有ノ壁ト見ルノデ、例ヘバ門ノ前ニ煉化石デ造テ、自分ニシヨウトモ中ノ壁ハ互有ノ壁ト見ラルルデシヨウ
(栗塚報吿委員)
土地モ互有デアリマス
(渡委員)
私ハ何方ニモ理ノアル事ト思ヒマスガ、之ガ中庸ヲ採テ略ボ松岡サンノ論ニ似マスルガ、土地ト壁ノ代價ヲ半分拂テ互有ノ得收ガ出來ルト、壁ヲ抛棄シタトキハ先キニ拂タ代價ヲ得テ、土地ノ本主ニ還ヘストシタナレバ宜シイト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
短カク詰メルナレバ其說ヲ採用ニナツテモ宜シイ
(渡委員)
委員長ニ申シマスガ、今双方ノ論ハ御聞ノ通リデ貴君ノ御論モ承ハツタガ、地役ノ定義デアリマスカラ、承諾ヲ得テト云タガ地役ノ條ニ承諾ヲ得ルト云テハ困リハセンカト云フ恐レガアリマスカラ、中間說デ、左ガ半分、右ガ半分ト云テ宜シイ譯デ、是レハ一個ノ提出シタ論デハアリマセンガ、抛棄ノ所ヘ行テ「互ヒニ其土地及ヒ代價ノ半ヲ拂ヒテ互有ヲ得取スルヲ得」トシテ「但牆壁ノ崩毀シタトキハ曩キニ拂タ土地ノ代價ヲ得テ土地ハ本主ニ還ヘス」ト云フ事ニシタナレバ先刻來松岡サンノ論ゼラルル壁ヲ自己ノ土地ヘ建テ、隣リノ人ガ互有ニシヨウト云フ、壁ハ宜シイガ互有ヲ承諾シタ爲メニ、壁ノ敷地ノ半分ヲ取ラレテ仕舞フト云テハ土地ノ所有權ヲ害スルカラ之ハ一理アロウト思フ、畢竟壁ハ一個アルカラ二個ニスルニ及バヌ、一方カラ地役ヲ望ミ、壁ノ代價、土地ノ代價半分ヲ拂ヘバ宜シイト、壁ガ崩レタトキハ曩キニ拂タ代價ハ戻シ、ソレデ土地ハ本主ニ戻ルト云ヘバ、壁ノ存スル間ハ互有ノ精神ハ成立チ、地役モ成立チハスマイカト思フガ、先ヅ其位デ折合テハ如何デス
(鶴田委員)
ソレナレバ宜シイ
(松岡委員)
ソレナレバ置キマシヨウ
(南部委員)
今ノ所デ御採用ヲ願ヒマス
(栗塚報吿委員)
「但分界壁ノ切レマシタトキハ敷地ハ何々ニ依リ代價ヲ拂テ舊所有者ニ還ヘル」ト云フ意味デ書キマシタ
(渡委員)
文字ハ後デ直シテ宜シイ、崩レテ仕舞テ互有スル壁ガ無クナツタトキハ前ニ拂タ金ヲ戻シテ本ノ持主ヘ還ヘルトサヘナレバ宜シイ
(委員長)
倉ハ石藏ノ家ト何レ丈ケ違フカ隨分分ラヌ
(栗塚報吿委員)
藏ハ互有ニナラヌト云フノデアリマス
(渡委員)
倉庫ト云フカ家ハ傷ケテモ宜シイ、倉ハ恐ルルト云フ道理ガアリマスカ
(松岡委員)
家ハ構ハヌト云フ事ハアリマセン
(渡委員)
凡ソ賣物ヨリハ人ノ生命程貴イモノハナイ、然ルニ人ノ住スル家ハ相持ニスルト云フ理由ハ何所ニアリマスカ、ソレ故ニ私ハ此末項ハ削除シナケレバナラント思ヒマス
(松岡委員)
互有ニシテ穴ヲ開ケテ、壁ノ本性堪ヘルヤ否ヤノ條件デアリマスカラ、土藏ト雖モ火ヲ導ク憂ガナケレバ人ノ住居モ同ジデアリマス
(南部委員)
藏ハ助ケテ置イテ宜シイデシヨウ
(鶴田委員)
人ハ逃ゲレバ逃ゲラレルカラ差支ナイガ藏ハ逃ゲラレナイ故ニ藏ヲ入レタノデアリマシヨウ、土藏ノ如キハ穴ヲ開ケテモ三分ノ二丈ケモ宜シイト云テ突キ込マレテハ溜ラン
(松岡委員)
倉ハ置カレマセン
(工藤報吿委員)
ソレデハ互有ノ全體ヲ削ラナケレバナラン事ニナリマシヨウ
(委員長)
此隨分八釜敷イカラ諸君ガ皆揃テ今一應調ベテ、削ルトシテ、先キヘヤリマシヨウ
本條ハ未定
○第七百七十八條朗讀ス
第六款 他人ノ所有地ニ對スル看望及ヒ寬假ノ取明窓
第七百七十八條 二個ノ土地ノ分界線ヨリ少ナクトモ三尺ノ距離アルニアラサレハ建物ニ物觀窓、樓緣又ハ緣側ニ因リ他人ノ所有地ニ對シ直卽チ正面ノ看望ヲ有スル事ヲ得ス〔第六百七十八條、伊民第五百八十一條〕
分界線ニ併行シ又ハ分界線ヨリ角度四十五度卽環線八分一ノミヲ距ツル建物又ハ工作物ヨリ得ル看望ハ直看望ト看做ス
其他四十六度乃至九十度ノ角度ニテ得ル斜卽チ側面ト稱スル看望ハ分界線ヨリ一尺ヲ距テヽ之ヲ設クル事ヲ得〔第六百七十九條〕
右二個ノ場合ニ於テ距離ハ分界線ト看望ヲ與フル工作物ノ最モ突出シタル部分トノ間ニ之ヲ計算ス
(委員長)
一項ヅツ議シマシヨウ「少ナクモ三尺ノ距離」ト云フノハ如何ナル方向ニ三尺デスカ
(栗塚報吿委員)
界目カラ窓迭リガ三尺デアリマス
(委員長)
三尺隔テ居レバ、直看望ニシテ宜シイ、二尺ナレバ惡ルイト云フノハドウ云フ譯デスカ
(栗塚報吿委員)
餘リ側ダカラデアリマシヨウ
(委員長)
何ゾ人間ノ目ニ度ガアルナレバ三尺ノ効能モアルガ、然ウデナイト分ラヌ
(栗塚報吿委員)
何レモ我儘ナ極メ方デ御座イマス
(南部委員)
建物ニ對向スルト家ト家ト對シテ、向ウニ窓ノアル場合ヲ想像シタノデアリマシヨウ
(委員長)
目ニ見ヘル所ヲ直看望ト云フノデスカ
(南部委員)
左樣デス、物ヲ投ゲ込ンダリ、何カスル距離モアリマシヨウ
(鶴田委員)
直卽チ正面ト云フノハ如何ニモ妙デス
(委員長)
溝ガアレバ其所迄距離ガ一尺トカ何トカ云フノデシヨウ
(工藤報吿委員)
只今ノ東京始審裁判所所長ガ居ル所ハ斯ウ云フ風デアリマス
(栗塚報吿委員)
日本ハ三尺、佛ハ六尺、伊太利ハ五尺デス
(委員長)
之ハ建築學者ニ相談シテ極メル方ガ宜シイ
(松岡委員)
ソレガ宜シウ御座イマス
(委員長)
先キヘヤリマシヨウ
本條ハ建築家ニ間合セノ上議スル迄未定
○第七百七十九條朗讀ス
第七百七十九條 前條ニ定メタル距離ヲ遵守スルニ不便ナルトキハ目隱ヲ以テ窓ヲ蔽フヘシ但其目隱ハ分界線上ニ突出スル事ヲ得ス
目隱ヲ設クル能ハサル場合ニ於テハ寬假ト稱スル取明窓ニアラサレハ作ル事ヲ得ス其寬假ノ取明窓ハ其下部少ナクトモ床板ヨリ六尺以上ノ處ニ設ケテ鐵又ハ木ノ定着シタル格子ヲ付スヘシ但其槅眼ハ多クモ二寸タルヘシ〔第六百七十六條及ヒ第六百七十七條〕
此場合ニ於テ相隣地ノ所有者カ目隱カ一尺又ハ其以上分界線ヲ踰ユル事ヲ承諾スルニ於テハ目隱ヲモ要求スル事ヲ得
(栗塚報吿委員)
「二寸」トアルノハ「一寸」ノ誤リデアリマス
(松岡委員)
之ハ默許デスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
承諾ハナクツテモ宜シイカ
(工藤報吿委員)
要シマセン
(栗塚報吿委員)
「但格子眼」トシタ方ガ宜シイ
(松岡委員)
其方ガ宜シイ
(渡委員)
「格子眼」デ宜シイ
(委員長)
宜シイ
(鶴田委員)
分ル事ハ分リマシヨウガ、目隱シト云フノハ身隱シデハアリマセンカ
(委員長)
身隱カモ知レン
(工藤報吿委員)
矢張リ目隱デアリマス
(松岡委員)
寛假ト稱スレバ承諾アルニ及バヌト云フト寛假トヤラズ直ニヤツテハ如何デス
(南部委員)
寛假取明窓ニハ制限ガアリマス、ソレデ漸々堪忍シテ貰タノガ取明窓デス
(松岡委員)
開ケタリ閉メタリスル窓ガ寛假カ
(工藤報吿委員)
惡戲ヲシテハナラヌカラト註ニモアリマス
(委員長)
取明窓ハ其下部ト云フノカ
(栗塚報吿委員)
板ノ上ニ少クトモ六尺デアリマシヨウ
(委員長)
少クトモ其下部ノ板ヨリト云フ方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
取明窓ノ下部デアリマス
(委員長)
取明窓ノ下部ガ少ナクトモカ
(南部委員)
取明窓ハ其下部トシテ宜シイノデシヨウ
(委員長)
分ル事ハ分ルネ
(鶴田委員)
目隱シハ明日皆ニ相談シテ極メマスガ目ヲ隱スト云フ事ハアリマセン
(栗塚報吿委員)
之ハ如何ニモ手ヲ着ケラレナイノデス
(鶴田委員)
一字モ削ル能ハズカ
(松岡委員)
「寛假ノ」ノ三字丈ケハ削除シタイ
(栗塚報吿委員)
宜シウ御座イマシヨウ
(松岡委員)
末項ノ又一尺以上ト云フハ分界線ヲ踰ユル事ヲ所有者ガ承諾スルニ於テハ分ラヌ
(南部委員)
目隱シハ一尺以上踰ヘテ、分界線ヲ拵ヘテ一方ガ承諾シタラト云フノデス
(栗塚報吿委員)
「此場合ニ於テ、所有者ハ目隱シヲモ要求スル事ヲ得」ト讀ムノデ、如何ナルトキカナレバ目隱シガ一尺又ハ其一尺以上分界線ヲ踰ユル事ヲ相隣ノ所有者ガ承諾スルニ於テハデス
(松岡委員)
目隱シハ分界線ヲ過ス事ハ出來マセンガ、一尺以上ヲ許ストキハ求ムル事ヲ得ト云フナレバ、宜シイガ目隱シヲ造ルニ許スト云フノハ
(南部委員)
此場合ニ於テデス
(松岡委員)
私ガ云ヒ立テ、私ノ相隣地ノ栗塚ガ「松岡、貴樣目隱シハ一尺又ハ一尺以上二尺デモ通常ノ目隱シデ分界線外ニ造ル事ヲ許ス」ト云ヘバナンデセヌト云フカ
(南部委員)
相隣地ノ松岡カラ要求スルヲ得ルノデス、若シ以下ノトキハ向ウデ承諾シテモ出來ヌト裏デ含ンデ居ルノデアリマス
(南部委員)
一尺又ハ一尺以上ト云フハ必要デス
(松岡委員)
分界線デ突出スルヲ得ズ、併シ許シヲ得タラ構ハヌト云フノデシヨウ
(鶴田委員)
左樣デハナイ、造ラヌ中ニ何レ許スヤ否ハ極マルカラ分界線ヲ踰ヘテ許スカラト云ヘバ造ラナケレバナラン、許シサヘスレバ併セテ作ルト云フ事ガ要求スル事ガ出來ルト云フノデス
(栗塚報吿委員)
相隣者目隱シヲ要求スル事ヲ得、若シ承諾ヲ得タナレバト云フノデス
(南部委員)
目隱シヲスル人ノ話デス
(松岡委員)
ソレハ大變オカシイ話デ、私ガ貴君ノ地面ヘ目隱シヲ一尺突出シテシタイト求メマシタ、貴君ガ許スト承諾シタラ私ハ目隱シヲ爲ル事ハ極マツテ居ルノデス
(南部委員)
承諾シテモ一方ガセヌカモ知レヌ、目隱シガ一尺又ハ一尺以上踰ユル丈ケ承諾シタノダカラ作ルト云フガ別段ニ其トキ栗塚サンガ要求スル事ガ出來ルト云フノデス
(栗塚報吿委員)
目隱シヲ拵ヘレバ許スガ、ソレデ君ガ作ラヌト、私ガ一尺デモ宜シイト承諾シタナラ貴君ハ作ラヌカラ何卒作テ呉レト云フノデアリマス
(松岡委員)
何故ニ
(南部委員)
此レ丈ケサヘ承諾シテ勘辨スレバ、要求ガ出來ルト云フ旨意デアリマス
(渡委員)
一方カラ界ノ線ヨリ一尺以上目隱ヲシテ呉レト云フノデス
(松岡委員)
ナンデ云フカ
(南部委員)
取明窓ヲ作テ目隱シヲスル場合デアリマス
(工藤報吿委員)
前項ノ場合ニ於テ分界線ニ突出スルナレバ實際設ケル事ヲ得ズ、然レドモ一尺以上突出スルモ承諾スル者ハ要求スルヲ得ルノデス
(南部委員)
承知スルナレバ出來ルト云フノデス
(工藤報吿委員)
承知スルナレバ目隱シヲ要求スル事ガ出來ルト云フノデアリマス
(南部委員)
「所有者ハ」ト改メテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
宜シイデシヨウ
(松岡委員)
目隱シト云フノト、窓ハ別デシヨウ
(栗塚報吿委員)
窓ノ話ハナイ
(松岡委員)
承諾シナカツタラ、目隱シノ窓ハ出來マセンノデ、ソレヲ許スノハ目隱シヲスルカラ許スノデシヨウ「者又ハ」トアル一尺以上突出スルナレバ請求スルヲ得ルト云フノハ、作ラヌナレバ契約ニ背ク丈ケデス
(南部委員)
末項ハ作ル事ヲ云ヒ度クナイノデス
(松岡委員)
許ス人ハ要求スル事ハ要ラヌ筈デス
(南部委員)
寛假取明窓デハイカヌ、ドウシテモ目隱シヲシテ呉レナケレバナラヌト云フノデアリマス
(委員長)
理由ガアレバ別段デスガ、我輩ノ考ヘルニハ、左樣ノ事ハナイト思フガ、一方ノ人ガ承諾スル以上ハ、三尺ヲ一尺ニシテ宜シイカ知レヌ、其所ヲ承諾ト云ヘバ何デモ看望ダカラ此所ニ極マツテ承諾スルカモ知レヌト云フ事ハアリマスマイ
(南部委員)
却テ承諾シナイカモ知レヌ、一方ガ取明窓デヤラレテハ迷惑ダカラ目隱シヲシテト云テモ、一方ガ塞ガナイノデスカラ協議上ノ成立トハ違ヒマス
(鶴田委員)
隣リノ奴ガ寛假目隱シヲ作ルデシヨウ、併シ私ノ方デ作テト云ヘバ否トハ云ハレナイ作ル義務ガアルノデ、其所デ協議上成立トハ違フノデス
(栗塚報吿委員)
「此場合ニ於テ相隣地ノ所有者ハ目隱シヲ一尺又ハ其以上分界線ヲ踰ユル事ヲ許シテ、之ヲ要求スル事ヲ得」トスレバ宜シイ之ヲト云フハ目隱シヲ指スノデス
(鶴田委員)
ソレデ宜シイ
(委員長)
ソレナレバ分ルガ、ソウシテハドウカ
(南部委員)
其方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
直譯語ニハ茲ニ書イタ通リガ宜シイ
(南部委員)
當リ前取明窓ヲ拵ヘル場合ニ一尺又ハ一尺以上ヲ許スナレバ目隱シヲ要求スル事ガ出來ル、取明窓ノ場合ト變タ事ハアリマセン
(鶴田委員)
目隱ヲ設ケル事ノ出來ル旨意デシヨウ
(委員長)
物好キニ目隱シヲ拵ヘルノデ取明窓デハアリマセン
(栗塚報吿委員)
取明窓ガ出來ルトキハアリマス、此ノ上ニモ尙ホ目隱シヲ付ケテ呉レト云フノデシヨウ
(松岡委員)
ソレガイカヌノデス
(委員長)
栗塚ノ修正ノ通リデ宜シイ
(松岡委員)
意味ハ分リマシタガ、文字ガ分ラヌ
(南部委員)
註ヲ見ルト、貴君ノ說ノ樣デハアリマセン、取明窓ヲ作ルヨリモ寧ロダカラ、原書ヲ御覽ナサイ
(栗塚報吿委員)
取明窓ガアルカラ、ソレ故ニデス
(南部委員)
取明窓ヲ設ケラルルヨリモト云フノデシヨウ
(渡委員)
左樣デハアリマセン、前ニ分界線ヲ踰ヘテハナラヌトアリマス
(南部委員)
輿論ガ左樣ナレバ宜シイ
(栗塚報吿委員)
此場台ト云フハ二項ノ場合デス
(南部委員)
二項ハ設クル能ハザル場合デアリマス
(栗塚報吿委員)
目隱シヲ設クル能ハザル場合ダカラ取明窓ヲ作タノデス
(南部委員)
私ノ作タナラヤツテモ宜シイ、併シ取明窓デナクツテモ從前ノ窓ヘ突出シテモ宜シイト云フノデス
(栗塚報吿委員)
取明窓ヲ作タ上ニモ尙ホ目隱シヲ要求スル事ヲ得ルト云フノデス
(松岡委員)
栗塚サンノ初メ云タ樣ニ「之ヲ」ト云タラ宜シイ
(委員長)
寛假取明窓ノミナラズト云フノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣云フ意味デ御座イマス
(委員長)
寛假デハ充分堅牢デナイカラ、取明窓ヲ拵ヘルノミナラズ目隱シヲ拵ヘロト云ヘル事ガ出來ルト云フノデ、日本文デハオカシクハナイガ「ヲモ」ト云フ字ガ這入タ方ガ前條ニ適シテ宜シイ
(渡委員)
此レデ確カデ御座イマス
(委員長)
多數デ修正ニ決シマシヨウ
本條ハ左ノ如ク決ス
第二項「寛假ノ」ノ三字ヲ刪リ「槅眼」ヲ「格子目」ト修正ス第三項ハ左ノ如ク修正ス此場合ニ於テ相隣地ノ所有者ハ目隱シヲ一尺又ハ其以上分界線ヲ踰ユル事ヲ許シテ之ヲモ要求スル事ヲ得
○第七百八十條朗讀ス
第七百八十條 看望又ハ取明窓ノ自由ニ付キ前二條ニ設ケタル制限ハ其建築ニ對向スル隣地ノ部分モ窓ナキ建築ナルトキハ止ム
(栗塚報吿委員)
「モ」ノ字ガ消ヘテ「其モノカ」ト翻譯デ這入リマス
(鶴田委員)
「其モノ」ハアツテモ宜シカロウ
(委員長)
對向スル隣地ノ部分ト云フノハ何カ
(栗塚報吿委員)
向ウ合テ居ル部分ガデアリマス
(鶴田委員)
向ウ合テ居ル是々ノ窓ナレバ、目隱取明窓ヲ拵ヘルニ及バヌト云フノデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
「建築ナル」ハ餘計デス
(松岡委員)
「窓ナキトキハ止ム」デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「其建築ニ對向スル隣地ノ建築ニ窓ナキトキハ止ム」トシテハ如何デス
(鶴田委員)
ソレデ宜シイ
(南部委員)
ソレガ宜シイ
(松岡委員)
宜シイ
(委員長)
ソレデハ修正ニ決シテ今日ハ是レ迄ニ致シテ置キマス
本條ハ左ノ如ク決ス制限ハノ下「其建築ニ窓ナキトキハ止ム」ト改ム
于時午後第十一時閉會