法律取調委員会 民法草案議事筆記 第13回
参考原資料
- 法律取調委員会 民法草案第二編物權ノ部議事筆記 , 自 第十一回 至 第十六回 [国立国会図書館デジタルコレクション]
備考
- 未校正のテキストデータです.
民法草案第二編第十三回議事筆記
自第六百七十五條至第六百九十條
明治二十一年一月十六日午前第九時開會
(委員長)
ヤリマシヨウ
賃貸借
第六百七十五條朗讀ス
第六百七十五條 賃貸人ハ永借契約ノ當時ニ於ケル形狀ニテ賃貸物ヲ引渡ス
賃貸人ハ賃借權ノ時期ノ間大修繕ヲモ又保存修繕ヲモ決シテ擔任セス
(栗塚報吿委員)
「保存」ハ「保持」ト願ヒマス
(村田委員)
「永貸借契約」ダネ
(栗塚報吿委員)
「永貸借契約」デ御座イマス
(村田委員)
借リル方ハ永借人トシテ、貸ス方ハ賃貸人ト云テ宜イ
(栗塚報吿委員)
賃貸人デ宜イノデス
(淸岡委員)
修繕ヲ擔任セズ、然ウスルト借リタ奴ガシナケレバナラヌ譯ニナル、例ヘバ田地ノ如キハ川缺ケガ出來テ、ソレヲ抛ツテ置ケバ無クナツテ仕舞フ樣ナ場合ガアルト、川缺ケ修繕ノ如キハ一朝一タニハ出來マセン、田地ヲ維持スルニハ多分ノ費用ヲ掛ケナケレバナラヌ、所ガ之ハ永小作人ハ五年ト限テ居ル位ナコトデ修繕ハ迚モ仕マスマイ、然ウシテ見ルト地主ガ捨テ置ケバ、三五年ノ内ニハ地面ハ無クナツテ仕舞フ其場合ニハ何ウ云フ譯ニナリマスカ
(南部委員)
擔任セズト云フハ、義務ノ無イ丈ケノ話デ御座イマセウ
(尾崎委員)
義務ガナイト、大變ナコトガ出來マシヨウ、或ハ五ケ年ノ期限ガアル所ガ最早滿了ニ至ラントスル前、出水トカ何トカノ事變ニ因テ田地ガ傷ム、所ガ五年ハ未ダアルニ修覆セズニ居ルト全形ヲ變ジテ仕舞フ場合ニナル
(南部委員)
賃貸人ガスレバ宜シイ、後チニ利ガ出ルノダカラシナケレバナラヌ
(尾崎委員)
ドウモ解セヌガ、修覆シテモ利益ガナイカラ拡テ置クニ相違ナイ
(南部委員)
批テ置ケバ、所有者ガ五年ニナツタラ自分ノ方ヘ還テ來ルカラ、又修覆シナケレバナラヌ
(尾崎委員)
然ウ云フ場合ヲ法律デハ見テ居リマセンネ
(栗塚報吿委員)
法律デ見タノハ箇樣ナ旨意デアリマス、元ト永貸借ニ多イ場合ハ如何ナル場合カト云フニ、未耕地荒蕪地デアリマス、ソレヲ長イ間貸シテ置ク以上ハ、其利益ハ規則立テ利益ヲヤメルコトハ出來マセンガ、未耕地荒蕪地ノ如キモノヲ貸テ居ル以上ハ、丸ルデ賃貸人ニ義務ヲ負ハセテハ蒼蠅クナルダロウカラ賃貸入ノ義務トセズニ置クト云フ論ニナツテ居ル樣デス、若シ永貸借ガ尋常ノ田地ニ許リアルモノデアリマスレバ義務ノ如キハ何トカ書イタロウガ、多クハ未耕地荒蕪地デアレバ修繕ヲ殘ラズ賃貸人ガスルコトハ迚モ出來マセンシ、又長イ間永借人ガ利益ヲ占ムルナレバ、大槪保持修繕モ大修繕モ永借人ガスルダロウト云フ立法者ノ想像デ御座イマス
(淸岡委員)
日本ノ如キ山川ノ多キ國デハ、田地ノ川ハ珍ラシクナイ、山崩レモ澤山アルカラ、抛テ置ケバ無クナル場合ハ澤山アリマス、又之ハ其家屋ニモ及ンデ居ルカラ、家屋ハ少イトシテモ家屋ノ這入ラヌトモ云ヘナイ、家根ハ大漏リガシテ、大修繕シナケレバナラヌ場合ガアル、又早ク修繕シナケレバナラヌ
(村田委員)
併シシナケレバ自分ノ損ダナ
(淸岡委員)
イヤ賃借賃ヲ拂ハヌカラト云テ下ノ項ニ於テ解除スル場合ガアル
(村田委員)
當リ前デハ拂ハナケレバナラヌ
(淸岡委員)
八十一條ニ於テ「收益ヲ全ク爲ササレハ」云々ト云フコトガアリマス、此ノ時ハ永借人ハ最早解除シテ御返シ申スト云テモ宜シイ
(南部委員)
ソレデ宜シイ、所有者ガ修繕シナケレバナラヌカラ
(淸岡委員)
所有者ヘ返ヘシテモ傷ンデ、後チ返ヘシテハ修繕ハ出來マセン
(南部委員)
傷マナケレバ修繕ハ出來マセン、傷シタトキノ修繕ヲ云フノデアリマス
(淸岡委員)
少シ傷ンダ場合ニ之ヲ注文シテ置カナケレバナラヌ一問カ二間缺ケタカ又ハ石垣ガ崩レタトカナラ宜イガ、ソレヲ三五年打棄テ置ケバ多ク破損シテ、修繕ガ出來マセン樣ニナルカラ
(南部委員)
永小作ト云フ部類ヲ見ルニ小作人ガ修繕シテヤツテ居ルケレドモ、爲メニ別段ノ譯ノアツタコトハナイ
(栗塚報吿委員)
尤モ永小作デ御座イマス、地方凡例錄ヲ見テモ
(尾崎委員)
永小作ト此レトハ違ヒマス永小作ハ子子孫孫迄行クノデアリマス
(南部委員)
其儘續クト云フノデ、五十年デ切ルト云フ意デハアリマセン
(尾崎委員)
此期限ハ五十年ト見ナケレバナラヌカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス子子孫孫迄行クノハ五十年トシナケレバナラヌ
(淸岡委員)
若シ之ヲセズトキハ此方カラ其永借期限ヲ繼續スルカ否ヤハ其トキニ依テ、例ヘバ修繕シタラ修繕入用ヲ永小作人ガ引受ケレバ宜シイ、又修繕セヌトキハ取返ストカ云フコトヲ極メナケレバナラヌ
(南部委員)
永貸人ガ若シ大修繕ヲ擔任スルトナルト、尋常ノ賃借ト差ヒハナクナルカラ、卽チ之ガ區別アル所以デアリマス
(尾崎委員)
然ウダケレドモ、他ノ賃借年限デハ大修繕ト保持修繕ハ賃貸人ノ責任ニナツテ居ル此永借ノ修繕ニ至テハ或ハ永借人ト又ハ所有者ト、或ハ互ヒニ割前ヲ出シテ修繕スルコトヲ設ケナケレバ、遂ニ所有者ニ大ナル損害ヲ來ス譯ニナリハスマイカト思ヒマス
(淸岡委員)
川崩レヲ修繕シテモ宜イガ、小作人ニ對シテ修繕費ヲ貰フ譯ニモ行カズ又永借ノ契約ヲ解除スルコトモ出來マセン、抛テ置ケバ田地ハ段々流レル場合ニナツテ進退谷マルカラ然ウ云フコトハ出來ナイ
(委員長)
永小作ハ之デヤルカ、小作ハ又別ニ出來ルノダカラ
(淸岡委員)
小修繕ハスルガ、大修繕ハドウシテモ所有者ガシナケレバナラヌ書キ樣デスガ、小作人デハ迚モ出來マセン、地主ガ抛テ置ケバ、腐テ仕舞フ、共トキ地主ト小作人ト相談シテ、小作人ハ力役ヲ以テスルトカ云フ樣ナルモアル、茲デ一朝ニ議定ハ出來マセンカラ起案者ニ考ヘテ貰ヒタイ
(松岡委員)
大修繕保持修繕トモ永借人ノ爲スベキ性質ト云フガドウモ今迄ノ慣行ト實際ニ於テ、川缺ケ山崩レノ類ハ小作人ガ擔當スルト極ツテハ居リマセン、却テ地主ノ方デ反別割ニシテ、自身デヤツテ公租ヲ持テ居ル所有者ダカラ、反別割ヲ受ケテ大キナ修繕ヲシナケレバナラヌ、否應ハ云ヘヌケレドモ此處ノ性質ハ普通カラ云フト、當リ前ノ賃借ト云フノトハ丸ルデ違ウ、元ト荒蕪地ノモノダカラ形狀ヲ全クハ出來マセン、又保持修繕ハ永小作人ガスルガ宜イト云フハ一應ハ道理ガアルガ、大修繕トナルト慣行ガ違フト云フハ、後チニ「ボアソナード」ハ租稅ハ永借人ガスル程ニ見込ヲ立テ居ル、日本ニハ公租ハ所有者ノ名前デ擔當シテ居ルカラトノモ半官半民ノ堤防抔ニ關係シテハ所有者ニ掛ツテ來ルノデアリマス
(南部委員)
ソレハ租稅ノコトデス、六百四十七條デ修正モシテアリマスガ、永借人カラ拂ウコトナクシテ所有者ガ拂ウカ、負擔ハ永借人ガ負擔スル修正デ所有者カラ上ハ拂フトシマシタ、素ヨリ報吿委員デ說ノナカツタノデハナイ、唯ダ現行通リニ大修繕保持修繕ヲ賃貸人ニサセルナレバ永借ノ實ハナクナツテ仕舞フ、切角永借權ヲ置テモ效用ガナクナツテ、權衡ヲ取テ行クト何フモ賃貸人ガ擔當スルトハ云ヘヌト思フ
(淸岡委員)
「修繕擔任セス」トシテ擔任セヌハ宜イケレドモ、若シ今日現場ニ依テ田地ガ潰レレバ他ニ何百ノ田地ニ押込ムト云フトキハ、流シテモ宜イト云テモ、壓ヘテシナケレバナラヌ修繕ガアリマス、或ハ地方稅デヤルトカ云フ樣ナルトキハ永小作人ハ日本デハ矢張リ租稅モ出シテ自然地主ノ頭ヘ掛ツテ、官費ガ幾ラ國庫ガ幾ラトカ、自然地方稅カラ出シテ、地主ガドウシテモ擔當シナケレバナラヌトシテモ然ウ云フトキハヤラナケレバナラヌ、又之ヲ小ニシテモ地主ガ小作人ニ費用ヲ掛ケテ仕舞ツテハ仕樣ガナイ、我ハ擔當セヌカラト云テ居タトキハ兩方トモニ出來マセンカラ行カストナルカラ、今日慣行上カラ云テモ、現場ニ依テモ不都合ダカラ、箇樣ナ場合ニ於テ若シ小作人ガ擔當センデ、地主ガ己レノ損ニナツテモ置カナケレバナラヌトスルカ、又永小作ノ契約ヲ解除シテ、地主ガ取リ上ゲルコトガ出來ルトカ或ハ更ニ永小作人ニ負課スルトカ云フ樣ナル譯ニシ度イ
(委員長)
南部サン、保持修繕ハ永借人ガスルト大修繕ニ至テハ賃貸人ト費用ヲ半分ツタ分割デスルコトガ出來ルトシテハ何ウダロウ
(南部委員)
何ウ云フモノデアリマシヨウカ分合デ何レ定メナケレバナラヌガ
(委員長)
土地柄ニモ依ルガ年中災害ヲ蒙ル所モアルカラ、協議ニ依テ部分ヲ負擔スルトシタナレバ、互ヒニヤルコトモ出來ルガ「ボアソナード」ニ今一應聞イテ貰フカネ
(尾崎委員)
ソレハ誠ニ宜シウ御座イマスネ
(委員長)
之デモ宜イカ、實際ヲ考ヘルト地主ノ責ハ免レナイカラ
(村田委員)
永借ノ精神カラ云フト、賃借人ガシナケレバナラヌガ、畢竟荒蕪地ヲ改良スルノ旨意ダ、若シ其割ニ引合ハナケレバ返ヘスコトモ出來ルノダカラ、永借人ハ所有者ノ承諾ナクシテ田地ヲ變ズルコトモ出來ル、田ヲ畑ニシ、畑ヲ田ニスルコトモ出來ル
(南部委員)
田ヲ畑ニスル權モアレバ、從テ權力ヲ幾分カ其權ヲ殺ガナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
寧ロ永貸借ヲ廢メレバ宜イ
(松岡委員)
擔任スルコトハ義務ニ極メルナレバ宜イ、利益ハ幾ラ地面ガ良クナツテモ、昔シ五圓ノモノガ一反八十圓ニ賣レル價値ガ出來テモ小作人ハ詰リ年功デ住デ居ルト、地主ノ利益ハ增進シナイデ、川崩レ山崩レハ擔任シナケレバナラヌ
(村田委員)
ソレハ後チノ利益ニナルカラ宜イデハナイカ
(栗塚報吿委員)
起案者ノ旨意ハ、荒蕪地ヲ耕スニ開墾スルガ、永借人ノ旨意デアリマス、然ウシテ見レバ荒蕪地ヲ開墾スルト云フ性質ハ永貸借ガアルニ、賃貸人ニ義務ヲ負ハセルト云フコトハ出來マセンコトデ且價モ一體安イモノデアルソレカラ又新タニ開墾シタ土地ハ、是非自カラ不定ナモノデ、永借人ガ種々ノ不都合ニ出遇ヒ不慮ノ山崩レヤ或ハ川ノ崩レダノ費用ヲ負ハナケレバナラヌト云フガ、大槪差引勘定付クダロウ、何ゼナレバ貸賃ハ甚ダシク安イカラ賃借人ガシテ宜カロウト云フ旨意カラ書イタノデアリマス、ソレデ是非賃貸人ニ義務ガアルカナレバ義務ハナイ、尋常賃貸借トハ違ウゾヨト云フノデス
(淸岡委員)
ソレハ及バズ乍ラ考ヘテ居ルカラ旨意ハアルト思フガ、併シナガラ或ル場合ニ日本ニハ幾ラ荒蕪地ヲ開墾シテモ重モナル土臺ハ所有者ガ金ヲ出シテ買入レテ居ルノデアリマスカラ、山崩レトカ云フトキ堰モセズニ抛テ置クハ小作人モ困難デ、力及バヌト云フトキ、所有者ハ奮發シテシナケレバナラヌ場合ガアル海邊ノ開墾地抔ハ段々浪除ケヲシテ、小作ニ永小作同樣ニヤラシテ浪除ケハ小作人ノ力ニ及バヌカラ崩レ出シタトキハ地主ガ奮發シテセヌトキ遂ニ沈沒シテ仕舞フ場合ハ日本ニハ隨分澤山アリマス、ソレノミナラズ山川ノ多イ土佐邊ニハ往々アリマス然ウ云フ場合ヲ起案者ニ考ヘテ貰ヒ度イ
(村田委員)
崩レタ場合ニハ所有者ガ是非默ツテハ居リマセン、所有物ガ無クナルノダカラ、所謂民法ノ五百何條カニアリマス所有權ノ消滅スル次第ダカラ、然ウ云フ場合ニハ所有者ガヤルト思ハレル
(淸岡委員)
損害デハ任セヌト云フガ、六百七十五條ノ旨意デス
(村田委員)
所有權ヲ棄テ仕舞ヘバ宜イノデス
(西委員)
元トノ荒蕪地ニナルノダ
(尾崎委員)
然ウ云フ樣ニ一樣ニ論ジテ棄テ置クモノデナイ
(松岡委員)
堤防ノ類ハ自分ガスルカ
(南部委員)
賃貸人ト賃借人ノ間ヲ云フダカラ、堤防ノコトハ別ニアリマス
(尾崎委員)
日本ノ有樣ハ頗ル山川ノ間ニ田地ガアルソレ故ニ時々出水ノ爲メ少々ヅツ地面ヲ損スル、共場合ニ打棄テ置ケバ自分ノ田ノミナラズ他ノ所有者ノ田地迄損害ヲ與ヘル、其折ニ保持修繕モ大修繕モ永貸人ハセズトナルト、素ヨリ小作人ハ甚ダシキ貧者ダカラ、大修繕ヲ充分スル力ハナイカラ出來ズ、永貸人モセズ打棄テ置ケバ遂ニ他ノ所有者ニ損害ヲ及ボシ、隣地迄損害ヲ及ボスカラ永貸人ト永借人トシテ入費ヲ分擔シテ修覆ヲ加フルコトデモ一箇條設ケテスルカ、日本ノ現狀ヲ起案者ニ一應談ジテ貰ヒ度イ
(栗塚報吿委員)
成程日本今日迄云ヒ來リタル永代小作ナレバ何レノ負擔ニナリマスカ
(尾崎委員)
永代小作モ日本ノ慣習ハ必ラズ永借人ガスルノデハアリマセン、大修繕ハ何カナレバ、或ハ是レカラ幾年ノ間小作米ハ用拾シテヤルカラ、貴樣ハ力役シテ修覆シロ、去ル代リニ十分一ノ金ヲ出ストカ云フ、小作人トノ契約デ定マル必ラズ、一方ガ出サナケレバナラヌト云フ慣習デハナイ
(南部委員)
ソレハ少シ違ウ、契約ハ永代小作ニハアリマセン、契約ノアルノモアリマシヨウガ勘イ永代ハ多クハ契約ガナイ、是レ迄成立テ居ル例ニシテモ、永代小作ヲヤツテ居ルノヲ見ルニ、悉クデハアリマセンガ多クハ借リタモノノ方デ始終防ギヲシテ居ル、酷イコトニナレバ最初金ヲ出シタ切リデ地主ハ知ラヌト云フ樣ナコトモアル
(西委員)
結構ナ永小作ヲ見ルカラ行カヌ、結構ナ田地ニ永小作ヲスルモノハ是レカラ先ハアリマセン
(尾崎委員)
アリマス
(村田委員)
永小作ニスルモノハナイナ
(西委員)
永小作ハ荒蕪地未耕地デナケレバシナイ
(尾崎委員)
然ウデナイ
(淸岡委員)
西サンノ云フ所ハ間違イダ
(西委員)
決シテ間違デナイ、結構ナ田地ヲ長ク貸シテ打棄テ置クコトハアリマセン
(淸岡委員)
餘所ノ國ハ委シク知リマセンガ、永小作ハ荒蕪地ト云フモノデハアリマセン
(尾崎委員)
年期小作デ、二十年トスルモ、書面ヲ取換ハスノハ面倒ダカラトスルト、二十年以上ニナルモノハ幾ラモアル、ソレヲ法律上デ永借ト定メルノデスカラ
(西委員)
ソレハ是レ迄ノコトヲ仰シヤルガ、併シナガラ然ウデナイノデス、是レ迄永小作ナルモノハ行政處分ヲスルト迄ニ書ク位ソレダカラ決シテ民法ヲ立タ後チハ、永小作ヲスルニ結構ナ田地ニ爲ルコトハアリマセヌ
(松岡委員)
荒蕪地開墾ニモ種々アリ、地主ガ物料ヲ出シテ開墾サスルモアルシ或ハ小作人ガ鋤鍬ヲ以テ持込ンデ開墾スルモアル現ニ肥後ノ熊本ノ新田抔ハ三ツニナツテ居ル、百姓ト地主ト半分ヅツ出シテシタノモアリマス、北海道ノ如キモ重モニ左樣デアリマシヨウ、未ダ其他ニモアリマシヨウ
(西委員)
ソレハ雇人ヲ以テスルノデ、永借人ニハソレハナイ、今後ハアリマセン
(松岡委員)
全ク雇人トナルモノト、又契約デナルモノトアリマシヨウ、一槪ニ開墾ト云フハ荒蕪地ヲ投ゲ出シテ、向ウ任セトモ思ハレナイ
(西委員)
此條ハ永賃貸人、卽チ荒蕪地ヲ開クヲ以テト云フノデス
(尾崎委員)
永借ハ行政法ヲ以テ定メルニ買上ゲルトカ、地主ガ買上ゲルトカ云フノハ、定メヌ迄ハ永借デアルノデス
(南部委員)
然ウデアリマセン、此旨意ハ永貸人永借人ノ權利義務ヲ定メタノデ、一般ノ公益ニ關スルコトヲ云フノデハアリマセン
(尾崎委員)
ソレハ私モ論ズルコトデハアリマセン、唯ダ荒蕪地ニノミトハ見ラレナイ、永借人ト云フモノハ、總テ大修繕保持修繕モシナイノダカラ、今行政上買上ゲル處分ノ付ク迄ハ此條ヲ適用スルノデス
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(南部委員)
實際ヲ御考ヘニナラヌト、修繕ヲ擔任セズト許リ見ラレテハ行カヌ
(尾崎委員)
打棄テ置カレテハ溜ラス
(南部委員)
害ハナイ
(尾崎委員)
大ニアリマス
(西委員)
能ク御考ヘナスツテ宜イダロウ、今日立派ナ田地デ考ヘルト然ウナルガ、然ウ云フモノデハアリマセン
(松岡委員)
兩方ノ論ハ姑ク措テ、六百三十五條ハ僧人ノ義務ヲ定メ、賃貸人ハ期限間一切大修繕保持修繕モスベキデアル、但シ借人ガ何ゾ怠り抔カラ出來タル修繕ハ借リタ者ガスルトシテ、六百三十五條ニハ大修繕モ保持修繕モ貸人ガ擔當スルトシタガ最早左樣ニスルニハ及バヌト云フノデス
(栗塚報吿委員)
其前ニ前項ガアリマス
(村田委員)
共儘返ヘシテ仕舞フノダカラ、大變違フ
(松岡委員)
當リ前ノ賃借ナレバ立派ニシテヤラナケレバナラヌ之ハ有ノ儘デアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
收益ヲ擔保セヌト云フノデ、詰リ前項ハ收益ヲ擔保セヌ以上ハ收益カラ出ル修繕モシナイゾト云フノデス、此條ヲ止メレバ詰リ永貸借權ヲ廢スルノデアリマス
(松岡委員)
前ノ條ハ彼ノ通リニ、大修繕モ保持修繕モ義務アリトシテ此處デ借人ハ渡シ切リダカラ、跡ハ獲レテモ獲レナクツテモ擔保ノ責ニ任ゼヌ、大修繕ノ義務ハナイト云フタノデアリマス然ウシテ見レバ隣リノ地面ヘ害ヲ爲スコトモアリマシヨウ、今小修繕ヲスレバ宜イガ、打遣テ置ケバ後チニ誰ガ責ニ任ズルカ、六百十五條ヘ來タラ無クナツテ仕舞フ、何ゼナレバ三十五條デハ怠リガ何カノ分ハ、借人ガスルガ、其他ハ貸人ガシナケレバナラヌ此處デハ怠リデナク自ラ出來タモノハ借人ガ責ニ任ゼヌト云フ、然ウスルト用收權ヲ廢スル旨意カラ以テ見テモ、誠ニ不利益デアルシ、又借テ居ル人モ三十五條ヲ踐シタル以上ハ少々崩レテモ構ハヌト云フコトニナル
(栗塚報吿委員)
三十五條ノ目的トシテハ、永借デハアリマセン
(松岡委員)
ソレハ然ウ云フ迄ハナイガ三十五條デ兩方ガ負擔スルト委シク書キ此處デ大キナモノヲ負擔セヌト云ヘバ經濟上ヨリ云ヘバ此儘置テハ不都合ダロウト思フ
(栗塚報吿委員)
之ガ永貸借ノ本性質ヲ顯ハシタモノデス此條ガ惡ルイト云フナレバ永貸借ハ御止メニナルガ宜シイ
(村田委員)
段々減タモノヲ五十町歩ノ借賃ヲ出シテ拂テ店ルモノハアリマセン
(淸岡委員)
拂テ行カヌカラ、御返ヘシ申ス
(村田委員)
拂ヘナケレバ所有者ハ取上ゲテ仕舞フ
(西委員)
荒蕪地ナレバ元トノ默阿彌ニナルノデス
(尾崎委員)
荒蕪地許リハ見ラレナイト思フ
(西委員)
ソレハ違ウト思フ
(南部委員)
反對ガアルナレバ修正案ヲ御出シヲ願ヒマス
(栗塚報吿委員)
報吿委員デ論ジマシタガ、此條ヲ存スルヤ否ヤ永貸借ハ廢メテ、賃貸借期限ノ長キモノハ二十年トカ、五十年トカ制限ヲ付ケテ置ケバ宜イ、所ガ七十五條デ始メテ永貸借契約ニ於テ決シテ收益ガアロウガ、無カロウガ、擔保セヌト云フ、然レバ貸人ハ收益ヲ擔保セヌ以上ハ修繕モ何モ知ラヌト云フガ、永貸借ノ性質デアリマス、然ルニ修繕モシナケレバナラヌト云ヘバ、尋常ノ賃貸借權ト變リハアリマセン
(南部委員)
兎ニ角之ヲ變更スレバ永借ノ精神ニ背クト考ヘル、併シナガラ之デ宜イ、牴觸セズト云フナレバ修正文ヲ御提出ヲ願ヒタイ
(淸岡委員)
修正ヲ讀ムト、先刻來云フテ居ル通り擔任セズトアリマス、賃貸人ガ擔任スルト極メテモ、貸人ガ出來ル否ヤ、小作人ハ多クハ貧窮ナ者デ擔任ガ出來ヌト思フ、若シ出來ヌト云フトキハ、所有者ガ所有者ヲ保護シテ自ラ崩レナイ樣ニシナケレバナラヌ、民法ニ極メテアルカラ我ハ知ラヌト云ヘバ自カラ自分ノ物ヲ傷ケルノダカラ、地所ヲ持テ居レバ、勿論何トカシナケレバナラヌ、協議スルトカ、又ハ自分ノ人夫ヲ使テモ爲ナケレバナラヌ我ハ田地ガ缺ケテモ缺ケ次第ト云フ人ハ勘イコトデアリマス然シテ見ルト擔任スベカラザルモノヲ擔任ストナツテ賃貸人ハ小作人ガ爲スベキヲシナイカラ、仕方ナク自分デスルトナルカラ、小作人ニ係テ償ヒヲ取ラントスルモ、どつこい小作人ハ償ヒヲ取ラルル位ナレバ初メカラシマスルト云フ、其トキハ永貸借ハ其儘存シナケレバナラヌカラ自分ノ地面ヲ保護シタ丈ケハ利益ニナルガ、擔當スルニ及バヌコトヲシテ、數百圓ヲ費ス樣ニナル所ガ永借人ハ其樣ナル場合ニ損ヲシタトキハ八十一條ニ於テ永借人ガ損ヲシタトキハ永借權ノ契約ヲ絕テ、地主ヘ返ヘスノモ勝手デアリマス誠ニ不權衡ト思フ
(西委員)
三年間納メヌトキハ引上ゲル權ガアルカラ、ソンナ損ガ起テハ借賃ヲ出スコトハナイ
(南部委員)
若シ賃借人ガセヌトキハ賃貸人ガスルト云フコトハ差支ナイ、唯ダ何レノ義務カトシタ時分ニ賃借人ノ義務ニ負擔セシメテナケレバ、永借權ト云フ權力ハ無クナツテ仕舞フ
(淸岡委員)
小作人ノ爲スベキヲ己レガスルト云フコトハ差支ナイ其樣ナル場合ニ至テハ更ニ所有者ノ權ヲ確カメテヤルベキ方法ヲ付ケルガ宜イト思フ
(栗塚報吿委員)
元來永借デ、五十年モ先キカラ先キマデ、貸スト云フ旨意ナレバ恰モ今日永小作ガ貧困ノ者ト云ヒナガラ、ソレデ修繕スルト同然デアリマス若シ之ヲ當然デナイ貸シタモノハ借人ハ收益サセル義務ガアルト云フナレバ全體永貸借ノ性質ハ消ヘテ仕舞フ、尋常賃貸借トナルノデアリマス
(淸岡委員)
大修繕ノトキ我ハ六百七十五條デヤルカラ小作人デヤルト云フコトハ如何ニシテ云ハレヌ
(南部委員)
誰レニ對シテ賃貸人ガ云ハレヌカ
(淸岡委員)
一體堤防トカ、修繕トカ云フ場合ニナツテハ地所ニ係ルコト丈ケ法律デ定メテ置クト云フコトハ出來マセン、川上カラ川下ニヤル場合ガアル我ノ方ハ永小作地デ小作人ニ宛ガツテアルカライカヌト云フコトガアル
(村田委員)
ソレハ水利土工會デヤルカラ宜シイ
(委員長)
水利土工會ハ此處デ論ゼヌ方ガ宜イ、淸岡サンノ仰シヤルノハ此處デ永借永貸ト云フモノノ定義ヲ定メル所ダカラ、大修繕デモ何デモサセヌハ定メテ跡ノ權衡ハ定義ハ斯クシナケレバナラヌト定メルカ、又ハ定義ハ斯ク立テタガ現ニ地主ガ借人ニ向テ貴樣ハ難澁デアロウカラ、半分助ケ樣ト云フ場合ニハ自分ノ地面ヲ損スルカラ、金ヲ出シテヤツテモ要ヌコトヲヤツタト云フガ如クナツテ小作人ハ要ヌコトヲシタカラ、私ハ存ジマセント云フ樣ニスルガ宜イカ、共ニ負擔シ樣ト云フ場合ニハサセテモ宜イカトナル是非永借人ガ何處迄モ負擔サセナイモノト定メルガ宜イカ或ハ爲シタトキハ互ヒニ助ケ合テヤツテ、宜イトスルカ、二ツノ論ダネ
(淸岡委員)
定義ハ之デ負擔セヌトシテ宜イ併シ惡イトハ思フガ立タヌカラ仕方ガナイ、小作人ガ擔當シナイトキハ地主ガシナケレバナラヌ若シ爲シタトキハ斯クノ如クスルト云フコトニシタイト云フノデス
(委員長)
淸岡サンハ今一項付ケタイト云フノダネ
(淸岡委員)
左樣デス
(委員長)
今一項置クトスレバ若シ永借人ガ之ヲ負擔セヌ場合ニ於テハ永貸人ガソレニ代ツテ爲シタトキハ其費用ハ永借人ヨリ取立ルコトハ出來ルト云フノデスカ
(淸岡委員)
永借契約ハ元來小作人ガ義務ヲ盡サナカツタラ永借ノ契約ヲ取消シ解除ガ出來ルト云フ、地主ノ權ガ付ケバ宜イ
(委員長)
定義ヲ立ルニハ異存ハアリマセンナ
(淸岡委員)
ソレハ異存ハアリマセン
(松岡委員)
定義ガ誠ニ不適當ト云フノハ、前ノ方ハ成程何モ箇モ賃貸賃借ノ所デハ、大修繕ヲスル責ガアル所ヲ定メタノデアリマス、此處デハ責ニ任ズル人ヲ定メナイデ、任ゼナイ人ヲ法律デ書イタノデアルカラ、此處ノ意味ニシテモ大修繕保持修繕ノ責ハ永借人ガ任ズルトシナケレバ定義トスルニ足リナイ
(委員長)
ソレハ何方カラ書イテモ賃貸人ガ負擔セヌト云フタラ賃借人ガ負擔スルコトニナルカラ差支ナイ
(松岡委員)
ソレハ無理ナ見樣ト思ヒマス
(村田委員)
左樣ニ云ヘバ是非シナケレバナラヌト極付ケラルルカラ無理ダ
(松岡委員)
凡ソ消極許リ書クト云フ法律ハナイ
(村田委員)
永借人ガ是非シナケレバナラヌト云フ義務モナイ
(西委員)
詰リ此處ハ不良ノ地ガアル、私ニ五十年貸シテ下サイ然ラバ良イ田地ニシテ上ゲマシヨウト云フカラ、成立ツノデアリマス、ソレダカラ五十年ノ間使テ生活シ樣ト云フノダカラ、川上ノ危險ナ地所ヲ借ル奴ハアリマセン
(栗塚報吿委員)
ソレ故ニ收益ハアロウガ、無カロウガ知ラヌゾ一向責ニ任ゼヌゾヨト云フノデアリマス
(淸岡委員)
佛蘭西ノ如キ國柄デハソンナコトハナイガ、日本ニハアリマス
(栗塚報吿委員)
西サンノ云フ通リ荒地ヲ五千町持テ居ル内、百町許リ貸シテ呉レヌカ、貴方ガ棄テ置クナレバ、私ノ方ニハ小作人モ居リマスカラ百町貸サヌカト云フソレハ貸シテモ宜イガ、荒地ダカラ御前ガ損ガアロウガ、得ガアロウガ知ラヌゾヨ、宜シイ屹度收益ガアルトハ思ハヌ、不良ノ地ダカラト云テ、係ツタノダカラ現狀デ賃借物ヲ引渡スノデアリマス、ソレ故ニ大修繕保持修繕モ責ニ任ゼヌゾヨ、ソレヲ私ハ行ケマセント云ヘバ詰リ永貸借ハ成立ズ尋常ノ賃貸借ニナリマス
(尾崎委員)
之ハ必ラズ開墾ヲ初メル土地許リトハ云ヘヌカラ、ソレデ困ルノデス
(南部委員)
收益ヲ一方ガ擔保セヌ以上ハ修繕セヌト云フコトハアリマセン
(尾崎委員)
前年開墾シタ土地ヲ二十年以上デ契約シテ、現狀デ引渡シ、後チニ至テ先刻カラ申大破損ヲシタ場合ニハ
(南部委員)
修繕スルノハ貴君ガ賃貸ニスルノデセウ
(尾崎委員)
賃貸ト力役者トカシナケレバナラヌ
(南部委員)
然ルトキハ義務ハ生ジナイ
(尾崎委員)
一町歩ノ不良ノ地ヲ双方收益ガアルト見タトキ、利害得失ヲ計テ年ニ一石ナリ十石ナリ、小作米ヲ上ゲマシヨウト定メテ、收益ノアル分ハ取テ、全面ノ田地ガ皆無ニナルトキハ
(南部委員)
ソンナ馬鹿ナモノハ決シテアリマセン、永借權ハ賃錢ヲ拂フカラソンナコトハアリマセン
(尾崎委員)
大ニアリマス
(委員長)
尾崎サンノ說ハソレ程ニナルコトハアリマスマイ
(尾崎委員)
一町歩ノ田地ガ最早取リ處ナク、四方周圍ハ破レテ仕舞テ居ルトキハ大修繕ト看做スト云フハ何ウモ以テノ外デアリマス、保持修繕ハ田地ニ取テ必要デ少シノ破損ノトキ保持シテ置カナケレバ全面ニ及ブ、ソレヲ打棄テ置ケバ、大修繕ヲ生ジテ所有者ノ損害ニナル
(委員長)
棄テ置ケバ左樣ニナルガ、是非一町ナラ一町ノ土地ヲ借リルニハ租稅ヲ取ラナケレバナラヌ、其土地借リル規則ガアリマスカラ、又所有者ハ一ハ小作賃ガ取レヌカラ、貸賃ヲ取ロウト思テ、八釜敷ク云フカラ、棄テ置クコトハアリマセン、若シ督促シテヤラヌトキハ、ドウスルカ淸岡サンノ云フ通リニ自分ガ立換ヘル場合ヲ定メテ置クカ、或ハ定メテ置カズシテヤレルカ、詰リ勝手デアルト思フ、貴君ノ仰シヤル所ハ淸岡サンノ論ニ歸省スルニ違ヒナイ、詰リ小作人ニ任セテ置クベキモノトスルカ或ハ小作人ガ怠ルトキハ賃貸人ガ立入テヤツテ宜イ、之ヲヤツタ場合ニハ費用ハ小作人カラ取立ルコトガ出來ルカ、淸岡サンノモ、此處ニ賃貸人ハ大修繕保持修繕モ負擔セヌト云ヘバ定義ガ宜イノデシヨウ
(尾崎委員)
其所ハ少シ違ウ
(栗塚報吿委員)
其代ハリ收益ガナケレバ成立マセン
(尾崎委員)
怠テシナケレバ、セズデモ宜イデシヨウ
(委員長)
怠テヤラヌトキハ借賃ガアルカラ怠テ置ケバ、自分ノ損ニナルカラ是非シナケレバナラヌ、ソレガ自分ノ手デ出來マセントキハ御返ヘシ申スヨリ外ハナイ
(尾崎委員)
所ガ租稅ハ地主ガ拂フノデス
(栗塚報吿委員)
國庫ニ對シテト云フ丈ケデアリマス
(南部委員)
永借人ガ拂フノデアリマス
(尾崎委員)
表ニ立テ拂フノハ、所有者デアリマス
(南部委員)
左樣デスケレドモ永借人カラ實際ハ取ルノデス
(尾崎委員)
ソレハ償ヲ求ムルノデアリマス、卽チ國庫ヘ對シテ拂フハ所有者デアリマス
(委員長)
私ノ考ヘデハ之ハ此レデ置テ、先キヘ入レルト云フコトニシテ分ルト思フ、左樣スレバ貴君方ノ論ト向フノ論ト、三ツニナルト行カヌカラ纏メ樣ト思フ
(淸岡委員)
之ハ起案者ト相談シテ下サイ
(委員長)
彼方ノ意ヲ極メテヤラナケレバナラヌ、南部サンハ淸岡サンヤ尾崎サンノ論ハ此處ノ終リヘ一項ヲ入レテ「若シ永借人カ大修繕ヲ怠リタルトキハ賃貸人之ニ代リ修繕ヲ爲スコトヲ得此場合ニ於テハ永貸借契約ヲ解除シ又ハ永借人ヨリ年賦ヲ以テ其費用ヲ徵收スルコトヲ得」ト入レテハ如何デス
(南部委員)
ソレナレバ之ハ書キマセンデモ分ソテ居ル、之ハ責任ノナイ、義務ノナイ丈ケノ話シデ若シ所有者ガシ樣ト思ヘバ出來ルノデ、論ハアリマセン
(淸岡委員)
ソレハ必要デス
(南部委員)
契約ヲ解クトナルト、永借權ガ大變弱クナル
(淸岡委員)
負擔スベキヲシナイカラ
(松岡委員)
永借人ガ擔任スルカナレバ左樣デハナイ、シナクツテモ自分ノ算盤次第ダカラ、永借人ハ是非爲サナケレバナラヌ義務ハ持タヌノデス
(鶴田委員)
然ルヲ持ツ樣ニシ樣ト云フノデス
(委員長)
此處ハ隨分文章ハ意ヲ用ヒテ書イタモノカ知ラヌガ、何分曖昧ニナツテ居ル所モアリマス、永借人ハ悉ク義務ガナイト云ヘバ言ハレ、又裏カラ見レバ義務ガ付イテ居ル樣デス、之ハ當然義務ガアルトシテ宜イカ知レヌ
(栗塚報吿委員)
元來修繕ハ何ノ爲メニ必要デアリマスカ、社會ノ爲メカ、又收益ヲ得ル爲メノ修繕カト申セバ、社會ノ爲メデハナイ、收益ノ爲メニ修繕シナケレバナラヌ、ソレ故ニ修繕ヲシナイト、米モ取レヌ、然シテ見レバ誰カ五十年間モ收益ヲ得ル者ノ負擔シナケレバナラヌ、何ノ爲メニ地主ガ負擔シナケレバナラヌカ
(尾崎委員)
ソレハ社會デハアリマセンガ双方ノ爲メデス、之ハ委員長ノ書カレタ修正デ「ボアソナード」ノ意見ヲ聞イテ貰ヒタイ
(栗塚報吿委員)
ソレハ聞クヨリモ、修正ニナルガ宜シイ
(尾崎委員)
然ウデアリマセン
(南部委員)
起案者ノ旨意ハ分ツテ居リマスヨ
(尾崎委員)
本邦ハ田地ノ多イ國抔ダカラ、卽チ先刻來論ズル位ノコトハ入レテ欲イノダ
(栗塚報吿委員)
堤ガ切レテ、爲メニ一村害ヲ受ケルトナレバ水利土工會カ、町村費デヤルカデ權現堂ノ堤ガ切レタレバ水ガ出ル之レハ誰カシナケレバナラヌガ、永小作人デナシ貸タモノデモナシ、卽チ町村費デアリマスソレ故ニ六百四十七條モアルノデアリマス、此處ハ貸人借人ノ關係デ、借人ハ收益ガ無ケレバ義務モナイ、元ト永借ハ有ノ儘デ借り、荒蕪地未耕地ヲ貸シタ旨意ダカラ決シテ收益ガナイカラト云テモ、收益サセテハヤラヌト書イテアルノデス
(淸岡委員)
義務ノナイコトヲシタラ、解除スルトカ或ハ徵收スルトカ、權利ノアルコトニスレバ宜シイ
(西委員)
義務ノアルコトニナルト不都合デス永貸借ハ畑ヲ山ニスルコトモ出來ル、五十年ノ間ハ毀損ハ出來マセンガ、一體ガ毀損デナケレバ毀損シテモ宜シイ位デアリマス假令バ其一部ガ毀ハレテ居テモ打棄テ置テモ宜イ、小作人ハ獲レルコトヲ勉メルノデ其時ニ地主ガ出テ斯クノ如ク毀ハレテハナラヌ、此處ハ修覆スルカラ入費割ヲ出セト云フコトモ理由ガアリマセン
(淸岡委員)
永貸人ハ修繕セヌデモ宜イ所ヲ修繕シテ、入費ヲ出セト云フコトハ尤モニ聞ヘルガ我々ハ左樣云フノデハナイ、ソレハ小作人ノ見込ニ依テ、今年ノ收益ヲ以テスルト云フ樣ナコトハ勝手ナ話デス
(西委員)
勝手ナ話ダガ、併シ實際ノコトハ知ラヌ、借リタ方ガ御前ハ知ルマイ、土地ヲ持テ居ル許リデ、我ハ知テ居ルガ、箇樣ナ譯ガアツタト云フ變換ダカラ、左樣ナル場合ヲ見ナケレバナラヌ
(淸岡委員)
修繕シナクツテモ宜イトキ、地主ガ出ルハ、如何ナル場合ヲ云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ賃借人ノ利益デアリマス、何ゼナレバ元々賃借人ガ自分ハ收益シタイ爲メニハ、修繕スルトシナイハ勝手デアル、併シ修繕シテ呉レト云ヘヌト云テ居ルガ、賃借ノ便宜ヲ計テ立タ法デ、賃貸人モ自分デ苦シイ義務ヲ負擔セヌ樣ニシタノデ、彼レヲ作ツタ爲メ、賃借人ガ修繕スル義務ヲ他人ノ修繕デ出來ルノデス
(淸岡委員)
ソレハ大變間違テ居ル、例令バ百町歩ノ田地ヲ段々開拓スル、所ガ百町歩ノ開拓ハ一年ヤ二年デハ出來マセン、ソレデ十年モ二十年モ掛テ開拓シタラ稅ヲ納メマシヨウト云フ約束ガアルデシヨウ、一段開拓スレバ一段ノ米ヲ納メ、二段スレバ二段ノ米ヲ納メ、開拓ノ成リ上リニ從ヒ、地主ノ利益又小作人モ利益ヲ受ケル、其場合ニ於テ開拓シテ貰ハナケレバナラヌ、ソレ故貴君方ノ仰シヤル樣ナ場合許リデハアリマセン
(西委員)
其契約ナレバ契約デ以テスルガ宜イ
(栗塚報吿委員)
特別ノ合意ガアレバ、賃貸人ハ負擔スルニハ及バヌ
(委員長)
箇樣ナル場合ニハドウデ御座イマスカ、西サンノ先刻ノ話ノ樣ニ、借賃モ納メ、租稅モ納メルカラト云フノハ宜イガ、租稅モ納メズ、借賃モ錄ニ納メナイ、然ルニ破レバ大變ダケレドモ現ニ資本ノ無イ奴デ水ガ出ルト流レル場合ガ到來シタト見ル、其トキ貸人ハ得ヲスルガ、一方ハ作物ガ出來タラ遣ルガ、當年ハ出來マセント云テ居ルトキハ解クコトモ出來マセン、其トキニ貸主ガ自分デ修繕シタイ、改メタイト思テモ出來マセント、ナルノデス
(南部委員)
ソレハ別段デ御座イマス、跡デ取立ルコトハ出來マセンガ、修繕シテ遣ルコトハ出來ルノデス、左樣ナル場合ニハ解除ハ出來マセンガ、借賃ノ請求ガ出來ル、若シ無イトキハ身代限リニナリマス
(委員長)
身代限リニハ行クマイ
(南部委員)
ソレハ行キマシヨウ
(委員長)
借賃ハ取レルガ全體定義ガ借主ガスルト云フノダカラ借主ノ爲メニ拂タカラ取ルト云フモ、ソレハ入ラザルコトヲシタノダカラトナル、此處ハ何方モ保護シタニ違ヒナイ、若シシナケレバ害ヲ蒙ラナケレバナラヌ、一年前ニ修繕シタ爲メニ後チノ害ヲ遁ガルルトキハ小作人モ地主モ得ダガ、費用ヲ出シタ丈ケデ、取ルコトハ出來マセントナルデアロウ
(南部委員)
眞ニ義務ヲ負擔セヌモノデモ、亦別ニ費シタモノヲ以テ、爲メニ賃借人ヘ利益ヲ與ヘルモノハ不當ノ利益ダカラ其方デ行キマス義務ハ法律ニ揭ゲテナイガ、他人カラ利益ヲ受ケテ所有シテ其償ヲセヌ理窟ハアリマセン、ソレハ別ニ事務管理ノ原則ヲ適用スル
(委員長)
ケレドモ私ハ拂フコトハ出來マセン、契約モ無ケレバ又法律上ノ認メモナイカラ、貴君ニ辨償ハ出來マセント云フトキハ仕方ガナイ、其所デ明文デ押シテ行ケルカ、其所ニ至テ困ルト思フ
(村田委員)
永借ハ荒蕪地ヲ開墾シテ行クノダカラ、自分ガ開墾シテ行クニ田地ヲ傷メテハ損ニナルノダカラ、ソレヲ保護シテ金ヲ出スト云フコトハ出來マセン、良クシタ上金ヲ取ラルルコトハナイ
(委員長)
良クスルハ當然ダガ良クシナイトキデアリマス
(村田委員)
併シ勝手ニシテモ宜イノデアリマスカラ
(委員長)
爲スベキ義務アルヲ爲サズニ居ルノダカラ
(栗塚報吿委員)
借賃サヘ拂ヘバ賃貸人ニ爲シテ濟ムノデス
(委員長)
ケレドモ十町ヲ所有シテ居ルダロウ、ソレヲバ九町ニナツテ一町缺カレテモ、賃ヲ拂テ居ルカラ義務ハナイト云フダロウガ、券面ノ十町ガ九町ニナツタニ相違ナイ場合ニハ尙ホ棄テ置ケバ、八町ニナルカモ知レヌトキハ、修繕シナケレバナラヌ、其トキ修繕ハ入ラザル御世話トナルダロウ
(南部委員)
ソレハ却テ宜イ、ト云フノハ一方ガ缺ケテ、今修繕シテモ益ハナイ、一方ニ荒蕪地ガアル、其所ヲ開墾シテ其利益ヲ以テト云フコトニナルカラ
(委員長)
ソレハ所有權ヲ認メル以上ハ、成程所有權ノ券面十町ヲ缺カヌ以上ハ勝手ニスルガ宜イガ、十町ヲ九町ニシテハ困ル
(南部委員)
ソレデハ御座イマセン、永久ノ毀損デナイトキハ如何ナルコトモ出來ルト云フノデス
(委員長)
修繕シテ返ヘソウトシテモ、川ニナツタラ出來マセンデシヨウ
(南部委員)
若シ永久ノ毀損ナレバ、解除ガ出來ル
(栗塚報吿委員)
借賃ヲ拂テ居ル以上ハ、永借人ハ所有者ト同ジデアル、賃貸人ガ喙ヲ容レルコトハナイ、其證據ハ沼ヲ涸ラスコトモ出來ル、水流ヲ改樣スルコトモ出來ル、其費用ハ一々誰ガ出スデスカ、永借人ガシナケレバナラヌ
(委員長)
其所ハ宜イガ、若シ其論カラ推シテ、所有權ノ部分ニ立入テ、十町ノ田地ヲ九町ニサレテモ、借賃サヘ納メレバ所有者默シテ居テ、ソレヲ云フ權利ハナイコトニナルト、永借權ハ所有權ヲ狼藉スルニ至ルカラ、其立方デ書イタノハ良クナイカモ知レヌ、所有權ハ所有權ノ樣ニ立テ居ラヌト、第六百何條カノ樣ニ、毀損サレテモ利益ノ爲メナレバ宜イト云ナレバ分ルケレドモ所有權ノ何ト云フコトヲ書上ゲテアツテ其所有權ハ、人體デ云フト片足ヲ取ラレタケレドモ、一本殘リタル足デ、能ク飛ブト云フノデ貴樣ハ何トモ云ヘヌト云フガ何回ウダカ
(栗塚報吿委員)
併シナガラ左樣ナル精神デアリマス、恰度想像シテ見ルニ、今ノ御說ノ、十町ガ九町ニナツテモ十町ヨリ收益ガ能クナツタラ如何デアリマシヨウ
(委員長)
ソレハ分テ居ルガ、開墾地ハ以前ニ比ベルト開ケルニ從テ、收益ガ多クナルカラ、元ノ通リ賃金ハ拂ハセルケレドモ賃金サヘ拂ヘバ十町ガ一町ニナツテモ構ハヌ、賃金サヘ納ムレバ七地ノ形チハ無クナツテモ構ハヌト云フハ、當ルモノカ、當ラヌモノカ
(栗塚報吿委員)
收益スル人ハ然ウナツテモ宜イデシヨウ、借人ハ成丈ケ殖ス方ノ側ヲ考ヘルガ當前デ、借賃サヘ拂ヘバ收益ハナクナツテモ宜イト云フコトハ、毛頭御座イマセンデシヨウ
(委員長)
道理ノ上デ云フト、所有權ト云フ權力ガ借人ノ爲メニハ、身體デ云フト足ヲ一本剥ガルルマデニヤラレテハ困ル
(栗塚報吿委員)
所有權ハ矢張リ收益權デ地面ノ欲シイノデハナイ、物ノ上リガ欲シイノデ之ガ所有者ノ目的デアリマシヨウ
(淸岡委員)
此處デハ收益ノコトヲ云フニハ違ヒナイガ、日本ノ慣習デハ田地ハ大切ニシナケレバナラヌ、又何所ノ國ヘ行キマシテモ物ガ廢レテモ構ハヌト云フ道理ハ決シテナイ、ダカラ賃借ノ内ノ竹木ニシテモ、毀ハシテ賣ルヨリモ家主ノ方ニ賣ラセテ宜イト云フ議論ヲスルダロウ、此處モ收益サヘアレバ田地ハドウデモ宜イト云フ傾キニハ論ジラレナイ、營繕ハ隨分大切ニシナケレバナラヌ、成程小作人ト地主間ハ五十年ノ間ハ收益ニナルカ知レヌガ、遂ニ之ガ爲メニ田地ガ缺ケレバ缺ケタ所カラ稅ヲ取ルコトハ出來マセン、左スレバ政府ノ收稅ニモ關係スルカラ、修繕ハ其樣ニ權ハナイ缺ケレバ缺ケ次第、何モ地主カラ八釜敷ク云フコトハナイ、小作人ハ當り前ノモノヲ持テ行ケバ宜イ、十町ガ五反ニナルモ宜イト云フ冷淡ナコトハ出來マセン
(南部委員)
十町ガ五反ニナルモ、十町ノ收益ガアルカラデス
(淸岡委員)
收益上ニノミ傾イテ議論シナケレバナラヌガ
(栗塚報吿委員)
收益ノミト思フ、抗拒スベカラザルカノ永借ニ付キ起リシ損壞ハ賃貸ノ減少ヲ生ゼズデアリマス
(淸岡委員)
此場合デ許リ論ズルト左樣デスガ此所丈ケデハ論ジラレナイト云フノデス、收益ノミトシテ論ズルト、日本ノ田地ハ半分流シテモ地主ニ收益サヘアレバ宜イト云フコトハナイ、政府カラ國庫金ヲ出シテ修正スルモ、負擔シ得ル丈ケハ爲ル習慣デ、官民共ニ修繕シナケレバナラヌ、ソレヲ修繕ハ如何ニシテモ宜イ收益サヘアレバ地主ハ構ハヌト云テ棄テハ置カレナイ
(南部委員)
收益ノ多クナルノハ賀スベキデ、良シ田地ガ減テモ收益ガ多クナレバ經濟ト云フ主義カラ論ズレバ左樣ニナル
(委員長)
荒蕪地ヲ開クト、何レ荒蕪地ダカラ四五年ハ獲レヌ、其場合ニ鍬下年限ト定メル其トキニ收益ガ多クナラナケレバナラヌト云フコトハナイ最初十町トシテモ、五町ノ價ヲ拂ヘレバ濟ム其場合ニハ土地ガ一町二町缺ケテモ其約束シタ丈ケニ遂ゲラレナイコトハナイガ、全體小作人ハ自分ノ收益ハ其缺ケタ丈ケ少クナルニ違ヒナイ、自分ハ病人ガ多イカラトカ、或ハ負債ガ多クツテナラヌトカデ、米ヲ食ウ處ヲ、芋サヘ食ヘバ宜イガ收益ハ減ツテ居ル、之ハ自分ガ前カラ取タ利益ガアレバ未ダシモ宜イガ、利益ガ貰ヘテ居ラヌニ違ヒナイ、然ウスルト遂ニ全體ノ上カラ云フトソレ丈ケノ利益ガ減ジテ居ル見ス々々減テ來テ稅ヲ出スコトガ出來ナイト云フコトヲ地主ガ見ルト、貴樣ニ三十年間貸テ居ルガ、修覆センカト云フトキ、私ハドウモ今年ハ箇樣ナル譯ダカラ出來マセント云フトキ、ソンナラ私ガ負擔スルカラ、御前ハ追々此費用ヲ返ヘシテ呉レト云フトキ、私ハ嫌忌デ御座イマスト云タトキソンナラ仕方ガナイカラ、自分デヤルコトガ出來ル樣ナレバ、九町ニ減ツタノガ復タ八町ニナルコトハナイ、ソレヲ若シ小作人ガ御斷リヲシテ左樣ト云テ止メレバ九町ガ八町ニナリ、八町ガ七町ニナルカモ知レヌケレドモ、借賃ト租稅ハ拂ウテモ、自分ハ芋ヲ食ウ位ニスレバ濟ムカ知レヌガ國益ノ上カラ云フト、減テ居ルニ相違ナイ、其トキモ賃借ノ權ヲ保護シナケレバナラヌカ如何カ
(栗塚報吿委員)
三年ヲ待テ解除スルコトガ出來マス、又永借ノ時期ノ間ニ起リシ損害ハ借賃減少ガ出來マセン、ソレハ初メニ借賃丈ケヲヨコセバ宜イト云フ精神カラ見ルト、此法律デハ永貸借ハ只今ノ御懸念ハ毛頭アリマセン
(委員長)
ドウシテ無イカ
(栗塚報吿委員)
十町ノモノガ九町ニナルトモ、地主カラハ何トモ云フコトハ出來マセントアリマス
(委員長)
國益ノ上カラ減テモ地主ハ何トモ云ヘヌト云アノカ
(栗塚報吿委員)
十町デモ開ヒテ呉レタハ仕合セデス
(委員長)
國益ハ十町全イトキハ政府モ稅ヲ取リ地主モ取リ借主モ取ルカラ宜イガ、例ヘバ其前ニハ百圓取タ收入ガ、一町缺ケタカラ、小作人ハ八十圓カ取レヌ場合ニハ、小作人ノ懷中ハ減タニ違ヒナイ、唯政府ニ取ルモノト、貸主ノ得ルモノハ減ラヌケレドモ、小作人ノ收益ハ減タ場合ニ臨ンデ地主ノ言フニ收益ガ無イカラ現ニ是レ丈ケノモノヲ棄テ置ケバ又來年モ減ルカラソレデハ往カヌカラ箇樣ニシ樣ト云フテモ嫌忌ト云フト仕方ガナイ、棄テ置カナケレバナラヌト云フ、殊ニ三年續カナケレバナラヌ
(南部委員)
元ト荒蕪地ヲ開カセルト云フ精神ダカラ、荒蕪地ヲ開カセルコトヲ依託シテ居ルカラ、向ウガ開キマシテ缺ケタ方ハ惡イ、開イタ方ハ善イカラ理窟ハ違ウト思ヒマス
(委員長)
開イタ方ヲ持ツトカ云フコトハ約束スルカラ
(南部委員)
永借ニハ何レ初メカラ何年ノ間貸シ何レ拂フト云フ極メモアリマシヨウ必ラズ段々開ケルニ從テ借賃モ借スト云フ契約計リニ限リマセン、ソレノミナラズ初メ開クト云フコトヲ約束シテヤルノデアリマスカラ、ソレデ荒蕪シテモ其責ヲ向ウニ負ハセテ修繕ヲ負擔サセルト負擔ガ重クナル
(委員長)
荒蕪位ナラ宜イガ水ノ爲メニ缺ケテ當人ハ收益ガ減タニ相違ナイ、然ルトキハ全國中ノ大經濟上カラ見ルト收益ハ減タト云ハナケレバナラヌ
(南部委員)
ケレドモ開墾サセタニ付テ、增シテ居ルノデス
(委員長)
增シテ居ルガ去年ノ收益ヨリハ減タニ相違ナイ、然ラバ來年モ復來年モ減ラナケレバナラヌ、收益ノ上カラ許ス譯ニ往カヌ、收益ガ減タト云ハナケレバナラヌ、單ニ貸人ノ收益上カラ云テハ、收益トハ云ヘヌガ、收益ト云フハ國庫モ貸人モ、借人モ共ニ收益ノ多イトキヲ云フノデ、一部分減テハ矢張リ全部減タモ同ジダカラ、減タ以上ハイケナイ
(南部委員)
左樣御覽ニナレバダガ、何ニモナラヌモノヲ開キマシタ所ヲ云フノデス
(村田委員)
賃借人ハ例ヘバ十町アル所ニ沼ガアルソレヲ一町丈ケ殖セバ十一町ニナル、其場合ニハ金ヲヤラナケレバナラヌ
(委員長)
沼ハ涸レテモ宜イト云フコトガアルカラ、ソレハ構ハヌ
(栗塚報吿委員)
八十一條ノ場合ハ如何ナルコトガ出樣カト見ルニ、只今ノ例ハ誠ニ適當シヨウト思ヒマス、此デ見マスルト事柄ハ所有者ノ收獲ヲ減ラヌ樣ニシナケレバナラヌト云フコトハナイ樣デアリマセンカ
(委員長)
何故ニ
(栗塚報吿委員)
今迄十町アルモノガ九町ニナツテ、九町ニナレバトテモ、十町ノ利益ト變ラヌト云フノデアリマス
(委員長)
總テノ賃借人ハ皆ナ誰モ彼レモ修繕シテヤルト云フ人許リ居レバ箇樣ナ論ハ出ナイガ、賃貸人ト合意ノ時分ハスルニ相違ナイ矢張リ賃借人ガスルモノト思テ居ル、其人ハ八十一條ヲ適用セラルルコトニナル、ソレハ賃借人ガ損ヲスルニ相違ナイカラ三年間續ケバ斷ハルコトガ出來ルガ、其トキニハ淸岡サンノ論ノ如ク、合意ガ賃貸人ニ於テ損ヲシナケレバナラヌ箇樣ナコトガ若シモアツタナラバ箇樣ナ手續ヲスルコトガ出來ルト云タラ、所有權ヲ減ズルコトモナクシテ濟ムダロウ、賃貸人ガ是非シナケレバナラヌトスルニハ及バヌ
(栗塚報吿委員)
賃借人ハ物ヲ取テ無用ナコトトハ思ハナイ何ゼナレバ御前其フ云フコトヲシテ呉レル爲メニ五ケ年ノ月ニシテ呉レルナレバ宜イガ
(淸岡委員)
ソレハ己レノモノデナイカラ、ドウデモ宜イ
(松岡委員)
内般ノ說ダケレドモ、七十五條ハ成程論究スルト、適當デアロウ、大修繕モ貸人ハ擔當セヌトナレバ、永借人ニ義務ガアルカナレバ義務ハナイ、利益カラ干渉シテ宜イト思ヘバ爲シ又シナクツテモ宜イト云フハ、普通ノ賃借トハ違テ、永貸借ニハソレ丈ケノ區別ガアル、之ハ原案通リガ宜イ、堤防ヤ或ハ道路ノ爲メニ、地面カラ錢ヲ出サナケレバナラヌ場合ガ後ノ七十七條ヘイツテ、地稅非常稅ノコトガアルカラ、非常稅ヲ拂ハヌハ別ニシテ、彼ノ方ヘ讓テ他ニ關係スルコトハ、此條デ云ハヌトシテ置ケバ其所丈ケハ宜イ、又委員長ノ御說ノアツタ所ヲ想像シテ見ルト能ク日本ニアリマスノハ大阪近傍カラ中國筋ニハ、海邊ニ小作地ニナツテ居ル處ガアル、彼ノ樣ナ所デハ何ヨリ石崖抔ノ修繕ヲ能ク加ヘマス、之ヲ借人ノ方カラ云フト、一、二間浪ノ爲メニ崩レタト云フト、借人ハ強テヤラズトモ、三十年五十年ヲ限テ見ルト中ニハ短イ期限モアルシ、又先ヅ缺ケガアツテモ、充分屆カヌノデ、一二間ノ石崖ノ破壞ヲ抛棄テ置ク、然シテ見ルト、段々大破ニナル、其トキ利益カラ云フト強テ關係ガナイカラト云フ、永借人ハ抛棄シテ置クモ責メラレナイガ、大破トナルト、詰リ所有權ハ波ニ持テ行カレル、此場合ニハ借人ガ如何ナル譯デシナイカト云フト、格別ニ思ハヌカラシナイ、又シタイト思テモ、力ガナイト云フ時分ニ宜シク貸人ガ這入テ修繕スルト、立派ニ收益ガ保存シテ行ケル、保存ノ出來ル樣ニナツタノハ貸人ガ修繕シテ、收益ハ借人ガ取ルト云フト、此場合デハ償ヒヲ出セト云フコトハ出來ナイハ些ト旨過ギルダロウ、今委員長修正文ノ所デハ鑑定人デモ用ヒテ分擔シナケレバナラヌト云フコトニナレバ完カロウト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
七百十四條ノ占有ノ所デ、二項ヲ見ルト只今ノ樣ナル堤ガ切レルトカ云フトキハ、急迫損害、吿發訴權ガアリマス、是非シテ下サイト云フコトハ不動產占有者ニ屬シテ居リマスカラ
(松岡委員)
今云タノハ所有者ノ方デ御座イマス、之ヲ約メテ申スト、本文ハ此原則デ宜イガ止ヲ得ヌトキハ何トカ云フ樣ナモノヲアラシメタイノデス
(南部委員)
大槪論モ盡キタト思ヒマス
(西委員)
波ニ持テ行カルル如キトキハ地主ガ修覆シテ宜シイ
(南部委員)
永借人カラ費用ヲ取ルハ穩カナラヌト思フ
(委員長)
賃借人ノ負擔トシテハ惡イノデスカ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ唯ノ賃借人ニナリマスカラ
(南部委員)
負擔ヲ重クシタラ、永借人ノ權利ガ少クナルト思フ
(松岡委員)
卽チ重クナルノデス、賃借ハ皆貸人ガスルガ原則デ永貸借ハ貸人ガ持ツガ原則ト云フナレバ極ク宜シイ、併シナガラ七十五條ノ大修繕保持修繕、何モ彼モ責任ガアルト云フデハアリマセン
(南部委員)
ソレハオカシイ
(栗塚報吿委員)
何卒此儘ニシテ置キタイノハ此六百六十九條ノ一項ニ損壞ヲ生ゼシメズトアリマスハ委員長ノ懸念ノ永久ノ損害ヲ生ゼシメズト云フノデアリマスカラ
(委員長)
利益サヘアレバ、縱令形チハ變フテモ宜イト今ハナツテ居ルネ
(栗塚報吿委員)
「永久ノ損壞ヲ生セシメサルヲ要ス」ト御座イマスカラ、此所ハ假令ヘバ修繕ノ所デ「但此等ノ修繕ヲ爲ササル爲メ賃貸物ヲ永久ノ損壞ヲ來スノ虞アルトキハ賃借人ハ費用ヲ負擔セヨ」ト云フコトガアレバ宜イノデシヨウ
(元尾崎委員)
ソレナレバ凡ソ似寄ツタモノデス
(松岡委員)
事柄ハソレデ纏リハ付ク
(栗塚報吿委員)
何卒ソレモ御廢メナスツテ下サイ
(南部委員)
變ナモノニナルカラネ
(委員長)
變ナモノニナルト、貴君方ガ考ヘルハ不都合ト思フ、成丈ケ存シテ置キタイト思フノハ今ノ樣ナトキ現ニ國家ノ利益カラ云フト、損ニ違ヒナイ、貸人等ガ錢ヲ取ル丈ケデ損ハナイトハ云ヘナイ
(栗塚報吿委員)
決シテ實際アロウ筈ハナイ、何ゼナレバ損ガ立テモ、己レガ月々拂フモノハ拂フカラ己レノ收益ハ減テモト、云フノデアリマスカラ
(委員長)
無イトハ云ヘヌ
(栗塚報吿委員)
一文デモ收益ガ減レバ、借賃ヲ減ラシテ貰イ度イノハ當リ前デアリマス
(委員長)
三十年ハ動カサレヌト云フタカラ、ヤツテモ無駄ダカラ、腹ヲ減ラシテ默ツテ居ラナケレバナラヌト云フモノハアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
然ウナルト私ハ永借人デ、貴君ノ地面ヲ五十年開墾スルヲ作ロウト思テ、麥畑ヘ麻ヲ作ツタガ麻ヨリハ田ニシタ方ガ良イト考ヘテ、今迄貴君ニ麥ヲ百俵上ゲラレタモノヲ土地ガ田ニ適セヌデ其後私ノ收益ハ七十俵ニナツタノハ國家ニ取リマシテハ三十俵ハ私ガ下手ナコトヲヤツタ爲メニ損ヲスル、其トキハ私ハ改メテ田ニモシ樣シ、利益ノアル樣ニスルカラ
(委員長)
良クナル方ノ側ハ宜イ、不利益ノコトヲシテハナラヌト云フノダカ、此處ハ田地ガ損シタニ相違ナイ、ソレヲヤリ直ストキニ貸人ガ田ヲ出スコトガ出來ナイカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ註ノ旨意デハ、大抵スルデシヨウ、土地ノ保證ハ賃貸人ガスル、元ト荒地ダカラ、收益ニ關スル變災ヤ妨ゲハ充分防グカラ修繕スルダロウ
(委員長)
貸主ガ擔任セズト云フト、自分ガシテヤロウト思フコトガアツテモ行ケナイ、例ヘバ費用ヲ取返スト云フトキ、取返ヘサヌデ無償デヤルト云フモノガアル、ソレモイケナイ
(栗塚報吿委員)
擔任セヌト云フノハ、賃借人カラ責テ來ラレタトキ、我ハ知ラヌト云フノデスカラ、好ンデヤレバ宜ウ御座イマス、徳義上都合ノ好イ地主ト云ハナケレバナラヌ
(委員長)
永借人カラ御禮モ云ハレズ、小言ヲ云ハレテモ差支ル
(西委員)
永借人カラ修覆シテト云テモ、利益ノナイ所ナレバ手ヲ着ケナイカ知レヌ
(村田委員)
然ウスルト賃貸人ガ是非スルト云フ權ガ出マス、併シ賃借人ハ五十年ノ間ニ十町ノ田地ヲ九町ニシテモ、還ヘストキ十町ニサヘスレバ宜イ、永借人ハ此等ノ修繕ヲ爲ササル爲メ、賃貸物ノ永久ノ損壞ヲ來スノ虞アルトキハ出來マス
(西委員)
賃貸人ガ自分ノ費用デシタラ、金ヲ取ルノガ宜イ
(栗塚報吿委員)
ソレナレバ虞アルトキハ賃貸人之ヲ爲スヲ妨ゲズトスレバ宜イ
(鶴田委員)
ソンナ無駄ナコトヲ書ヌデモ宜イ
(松岡委員)
此修正ハ如何デスカ「但永借人此等ノ修繕ヲ爲ササル爲メ永久ノ損壞ヲ生スヘキノ虞アルトキハ賃貸人之ヲ爲シ永借人ヲシテ其費用ヲ分擔セシムルコトヲ得」トシテハ
(淸岡委員)
分擔ノ出來ヌトキハ解除スルノカ
(松岡委員)
ソレハ然ウダロウ
(村田委員)
ソレデハ却テ荒蕪地ヲ開墾スルノ妨ゲニナル
(委員長)
西サンハドウデスカ
(西委員)
私ハ御免ヲ蒙リ度イ、分擔抔出テ來テハ、永借權ハ潰ルデス
(松岡委員)
「ボアソナード」ハ佛蘭西ニ生レテ、日本ニ在テモ北海道ノ樣ナ所ノ開墾地ハ見タガ、九州邊ノ永借スルコトヲ知ラヌノダ
(委員長)
議論ガ纏マラヌカラ、多數デ決シマシヨウ、ソレヨリ仕方ガナイ
(村田委員)
我々ハ寧ロ永借權ハ廢メル方ガ宜イト思ヒマス
(南部委員)
六百八十一條ト牴觸シバセヌカト思フ
(委員長)
今一應報吿委員デ研究シテハドウカ
(栗塚報吿委員)
ハイ
(淸岡委員)
能ク平心ニ考ヘナイト往カヌ
(西委員)
能ク考ヘナイト誤ルガ、併シ熱心ニ反對說ヲ云フデモナイガ、永借權ニ傷ケルト思フ
(村田委員)
私抔モ然ウデス
(委員長)
ソレデハ報吿委員ニ預ケルコトニシテ是レデ食事ニ致シマシヨウ
本條ハ紬報吿委員ニ於テ再ヒ調査スルコトニ決ス
于時正午十二時休憩
午後第一時開會
(委員長)
ヤリマシヨウ
第六百七十六條朗讀ス
第六百七十六條 意外ノ事又ハ抗拒スルコトヲ得サル力ニ因テ永借ノ時期ノ間ニ起リシ損壞ハ賃借ヲ減少スルノ理由ヲ生セス但第六百八十一條ヲ以テ賃借人ニ留保シタル解除ノ權利ヲ妨ケス
(鶴田委員)
詰リ三年スレバ解除ガ出來ルノデスネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
法律上、借賃ヲ減ズルコトハ出來マセンネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(鶴田委員)
理由ハドウ云フ譯デシヨウ
(栗塚報吿委員)
理由ハ註ヲ讀ムニ借賃サヘ納メレバ宜イ、元ト利益ノアルモノデハナイ、自分デ出來ヌカラ、他人ニ開墾サセル旨意ダカラ向ウガ收益ガ增ストモ、借賃ヲ增スコトモ出來マセン借人ハ取り放題デ、又借賃ヲ減ズルコトモ云ハセヌゾヨト云フノデス
(鶴田委員)
借賃ノ爲メニ貸人ノ方ハ增スコトモ出來マセン、ソレ故一分ノ缺ケタトキハ解約ガ出來ル、ソレガ出來レバ一部分缺ケタ分ハ、借賃ヲ減ジテ呉レト云フコトハ出來ソウナモノダ
(栗塚報吿委員)
元來高イモノデモナシ、又新タニ開墾シタ土地ハ利益モ多イガ、又物ニ因テ意外ノコトデ、損モシ樣ケレドモ、損ガアツテモ、償ヒガ出來ルダロウト云フ理由デス
(鶴田委員)
一部分ノ缺ケタトキハ一部分ノ借賃ヲ減ズルコトハ出來ソウナモノデス
(尾崎委員)
ソレハ出來マセン
(委員長)
八十一條ガアルカラ出來ルダロウ
(尾崎委員)
八十一條ハ一分ト雖モ賃ヲ拂フヨリ損害ニ至ル場合ノアツタ折、解除ヲ求メラレル一時ノ損害デ、併シ大變得ヲシテ居ルカラ出來マセヌ
(鶴田委員)
解除ガ出來ル程ナレバ、減ラシテ呉レト云フコトハ出來ソウナモノデス
(村田委員)
出來マセン
(尾崎委員)
年々己レガ拂フベキ賃ヨリモ損害ヲ蒙リテ、始メテ出來ルノデ、僅カ一年損害ガアツテモ先キニ得ヲシテ居ルヤラデス
(委員長)
宜カロウ
(淸岡委員)
翻譯デアリマスガ、此「留保」ト云フハ、普通ニ云フ留保トハ違フカ、六百八十一條デハ法律ノ規定ニ因テ解除ノ權利ヲ與ヘテ居ルガ、如何ニモ賃借人ニ「留保」トスルハオカシイ
(栗塚報吿委員)
與ヘタルト同ジデアリマス
(淸岡委員)
下ノ六百七十九條ノ「留保」ハ適シテ居ル
(鶴田委員)
「留保」ト云フ字ハ八十一條ノ三年丈ケダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣ナル意味デハアリマセン、解除ノ權利ハ賃借人ニ與ヘテアルト同ジデアリマス
(淸岡委員)
法律上與ヘテ居ルノデ、契約上留保シテ居ルノデハナイカラ、意味ガ當ラズ樣ニ思ハルル
(鶴田委員)
三年ノ間待テ、收益ガ無ケレバト云フノデアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
左樣デハアリマセン、併シ與ヘルト云フ字ニ直シテモ一向差支ハアリマセン
(淸岡委員)
「留保」ト云テハ違ウダロウ
(栗塚報吿委員)
「留保」ト云フ字ハ箕作サント、相談致シマシヨウガ、意味ハ變リハ御座イマセン
(委員長)
宜カロウ
(尾崎委員)
宜ウ御座イマシヨウ
(松岡委員)
六百八十一條ハ「一年ハ毀損」トアリマスガ
(栗塚報吿委員)
アレハ「損壞」トナリマス
(松岡委員)
ソレナレバ宜シイ
(委員長)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ決ス
第六百七十七條朗讀ス
第六百七十七條 賃借人ハ求償權ナクシテ通常ト非常トヲ問ハス一切ノ地稅ヲ拂フ但非常稅ヲ設定スル法律カ格別ニ定メタルトキハ此限ニ在ラス〔但同上第千五百五十八條〕
(修正) 永借物ニ賦課セラルルコトアルヘキ通常又ハ非常ノ租稅ハ國庫ニ對シテハ其所有者之ヲ擔任スト雖トモ永借人ハ賃貸人ニ對シ之ヲ償還スヘシ
(南部委員)
修正ガアリマス
(村田委員)
之ハ修正ノ樣ニナラヌトイカヌ
(委員長)
修正通リデ宜イダロウネ
(淸岡委員)
御尋ネ致シマスガ、此所デハ地稅ヲ拂フトアリマスガ、此修正デハ永借物トシテ仕舞ヒ、土地デモ其他ノ物デモ總テ行クトアリマスガ、原案デハ地所許リデアリマス、之ハ如何ナルモノデスカ
(栗塚報吿委員)
原案デハ總テノ家屋ノアルノモ地稅トカシマス物ノ一切ノ所有、土地家屋ニ拘ハラズ、稅ト云フ字デスカラ地稅ト譯シタノデス
(淸岡委員)
「地稅」ト云フト家ハ這入ラヌ樣ダガ
(栗塚報吿委員)
書クニハ家モ地稅ト看做シテ居ルカラデス
(淸岡委員)
オカシイ
(栗塚報吿委員)
一切家、土地ノ稅ト云フ意味デ御座イマス
(淸岡委員)
原案ニ地稅トシタハ翻譯ガ惡ルイノデスカ
(栗塚報吿委員)
不動產ニ拘ハラズ稅ト云フ意味デ御座イマス、家モ矢張リ地ノ内ノ一ツト見テ居ルカラデス
(松岡委員)
日本デハソレハ具合ガ惡イナ
(淸岡委員)
修正ノ方デハ永借物ニ賦課スルトアルガ、永借物トナレバ、總テノ物ヲ云フノデスナ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、家モ土地モデ御座イマス
(村田委員)
地面許リトスルト、地稅トハ云ヘヌ、地租ト云ハナケレバナラヌ
(南部委員)
大體ハ如何デスカ
(淸岡委員)
六十七條ト此處ト違ウガ、地稅ト云フト、地面許リ賃借物ト云フト總テデアルカラ之ヲ聞カヌト論ジラレナイ
(鶴田委員)
地稅ト云フハ、土地モ家モ一緒ニ見タノダロウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
六百四十五條ニハ「賃貸物ノ租稅」云々トアルガ
(鶴田委員)
南部サン、此賃借賃ト永借賃トハ別ニシテ、借人ニ掛ケナケレバナラヌ譯ニナツタノデアリマスネ
(南部委員)
別デアリマス、契約ノナイトキハ擔當スルコト、國庫ヘ對シテハ地主ガ擔當スル、併シナガラ誰ガ詰リ出スカナレバ永借人ガ出ス、其金ハ箇樣ナル契約ノナイ場合ニ定メル丈ケデアリマス
(鶴田委員)
今日トハ餘程違ウネ、永借ニモセヨ借賃ハ日本デハ一ツデアリマス、ソレガ箇樣ニナレバ先ヅ稅ハ掛ケテ、其上ノ餘分ハ借リ貸ヘ掛ケルトナル
(松岡委員)
如何ナル習慣カト云フコトハ云ヘヌガ稅ハ何レ所有者ガ拂ウダロウナ
(栗塚報吿委員)
地方凡例錄ニハ年貢諸掛リヲ負擔シ且ツ年ニ幾ラ拂フト云フ極メモアリ、又年貢諸掛リハ地主ガ負擔シテ借賃ヲ何程拂ウト云フノモアリマス
(松岡委員)
二十年以上ハ永小作ト認メルト、當り前ノ賃借モ永小作ニナルカ知レヌ
(尾崎委員)
多クハ小作人ガ拂ウ
(淸岡委員)
大體ハ修正案ガ宜イ
(委員長)
「賦課セラルヘク」トアルト如何カ知レヌ
(南部委員)
「賦課セラルル」ト云フハ定ツテ居ルデシヨウガ、前ノ例ガ御座イマスカラ、六百四十九條ノ文例ヲ用ヒタ丈ケデアリマス
(委員長)
現在ニ書イテハドウ云フモノカ、併シ未來ニ書クト云フ理由ガアレバ格別ダ
(栗塚報吿委員)
徳川氏ノ時分ニハ特別ニ課シタモノデス
(尾崎委員)
修正ガ宜イト思ヒマス
(鶴田委員)
所有者ガ稅ヲ拂フ義務アツテ、擔任スルナレバ永借人ハ矢張リ永借賃トシテ納メルノミデ宜イト思フ
(南部委員)
詰リ元トノ案ノ通リニシタイケレドモ、今日ハ租稅ノ法ガアツテ、所有者カラ徵收スルコトニナツテ居リマスカラ、之デ民法デ以テ、改メルコトハ出來マセン故ニ話デ止ヲ得ズ所有者カラ政府ヘ出シテ、課賦サルルトシタ丈ケデ實ハ永借人ニ擔任セシムルノ旨意ハ存シテ居ル積リデアリマス、永借人ハ負擔セズ償還セズトナレバ永借權上ニ影響ヲ與ヘルノデ、迚モ左樣ニハ出來マセン
(鶴田委員)
一切維新後ハ所有者ガ擔當スルコトニナツテ、永借人ガ納ムルコトハナイ
(栗塚報吿委員)
小作人ハ地主ニアルノデ宜イ
(鶴田委員)
地主ニヤルノハ借リ貸トシテヤルノデス
(栗塚報吿委員)
年貢諸ヲ勤メタ上デス
(鶴田委員)
ソレハ昔ノデ、今日金納ニナツテハ無イ
(南部委員)
ナイケレドモ昔ノ習慣ヲ今日再ビ施行スル位ノモノデス、永借權ハ其所ニ御注意シテ下サラヌト困リマス
(鶴田委員)
舊幕時代ノ名許リニシテ一向實ハナクナツテ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
此通リデ實ハ名ヲ替ヘタ丈ケデ御座イマス、國庫ニ對シテ所有者ガ擔任スト云々置カヌト所有者ヘ行クノハ政府カラ取立ルトキデス、併シ實ハ永借人ガ拂フノデ借賃ニテ拂フカ知ラヌガ、負擔ハ誰ガスルカト云フト、内幕ニハ永借人卽チ小作人ガ拂フト云フノデ、原案ト一ツモ變ラヌノデアリマス、名前ハ國庫ヘ對シテ所有者ガ拂フトシナイト、稅法ニ違フカラデアリマス
(鶴田委員)
賃借人ト同ジ仕方デ宜カロウ
(南部委員)
貸賃トナルト、貸賃トナツテ仕舞フカラ直接ニ拂フガ、直グニ伺ウカラ取立ルコトガ出來ル借賃ナレバ期限ガ來ナケレバ取立ラレナイ
(栗塚報吿委員)
永借人ハ何人アツテモ、戶長役場カラハ直チニ徵收ガ出來ル、若シ左樣デナイト、小作人ガ拂ハヌトキハ地主ハ迷惑ヲスル
(鶴田委員)
小作人ニ對シテ政府カラ稅ヲ拂ハスコトハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
恰度永借人ガ差配人ニナルノデス
(尾崎委員)
借賃ガ三年滯ルト、解除ガ出來ルガ、租稅ヲ一度モ拂ハヌト滯タ場合ニハドウナルカ
(栗塚報吿委員)
身代限迄ハ行クノデス
(淸岡委員)
租稅ヲ一箇年納メナイト、公賣處分ニ逢フ、永作人ガ租稅ヲ納メナイト、地主ハ身代限リシナケレバナラヌ
(南部委員)
此度ノ規則ニハ差押規則ノ樣ナモノガ起案ニナツテ居ルコトヲ見テ居ル、然ラバ賃借人ハ賃貸人ニ對シ、償還スル金高ハ差押フルコトガ出來ル、ソレデ賃借人ニ係テ取テ宜シイ
(淸岡委員)
併シ地主ダカラ相應ノ資產ガアルカラ、ソレ位ノコトハ賃借人ガ拂ハズデモ身代限公賣處分ヲサレルコトハナイ
(南部委員)
左モナクツテモ、解除權ハ成立テアリマス
(淸岡委員)
租稅ヲ納メナイト、ドウシマスルカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ當リ前ノ契約ト同ジデ、身代限リニナリマス
(淸岡委員)
租稅ニ關スルコトハ別段ニシナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
租稅ニ關スルト書イテアリマス
(淸岡委員)
貴君方ハ六百八十條ハ殘ラズ第二ガ適用スルト云フノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ解除デアリマス
(鶴田委員)
催促ガ出來ダロウ
(栗塚報吿委員)
催促シテ拂ハヌト云フト、解除ニナルノデアリマス
(淸岡委員)
三年ノ間每年訴訟ヲ起サナケレバナラン
(栗塚報吿委員)
取立樣ト思ヘバ訴訟ヲ起ス
(淸岡委員)
併シ地主ハドウカナレバ、訴訟ガ起ツタラ直グ公賣サレル、所ガ永借人ハ一向處分ハナイ
(南部委員)
身代限リニナレバ處分ヲ受クルノデス
(淸岡委員)
ソレハ普通ノ權利義務上ノ處分デス
(栗塚報吿委員)
取立樣ト思テ還ヘサヌトキハ訴訟シナケレバナラヌ
(淸岡委員)
ソレハ權衡ガ惡イト云フノデス
(松岡委員)
七十七條ハ此儘ニシテ、八十條デ他ノ債權者ノ訴追云云トアル、ソレニ地租ヲ地主ガ出シタ時分如何スルカ、或ハ借人ガ出サヌトキハ如何スルト云フハ八十條デハ見テハナイノグ
(栗塚報吿委員)
見テアル筈ハナイ、併シ之ヲ償還スベシトシテ裁判所ヘ訴ヘラレナイコトハナイ
(鶴田委員)
最初私ガ質問シタ、借賃ト稅ト云フモノノ二ツヲ賦課スルノハ、永借人ガ負擔スル筈デスカ
(栗塚報吿委員)
一ツノ契約ガ成立テ、一ツハ法デ極メタモノデス
(鶴田委員)
政府ハ所有者ニ對シテ稅ヲ納メサセルカラ、政府カラ小作人ニ係ルコトハナイ稅ハ我ガ納メルカラ、貴樣ハ此丈ケ負ハナケレバナラヌト、法律ガ云フ、其外賃借ハ此丈ケ出セト云フコトニナリマシヨウ
(南部委員)
其積リデ、借賃ヲ好イ加減ニ極メルノデス
(鶴田委員)
然ラバ八十一條ノ納額ハ、稅モ這入テ居リマスカ
(栗塚報吿委員)
決シテ這入リマセン、借賃許リデ御座イマス
(鶴田委員)
這入テ居ナイト云フコトナレバ稅ガ取レヌトキハ如何スルト極メナケレバナラヌ
(村田委員)
六百四十九條ニモ償還スベシトアル、彼レト同ジコトデス、彼ノトキ償還シナケレバ身代限ヲ爲ナケレバナラヌ
(鶴田委員)
アレハ賃借デス、永小作ノ場合トハ違フ
(南部委員)
同ジコトデス、償還スベシハ同ジデス
(松岡委員)
ソレハ早過ギル論ダロウ、修正ノ通リニスルカ否ヤヲ極メテ偖テソウトシタ時分ニ、八十條デ租稅ヲ拂ハヌトキハ、解除ノ種子ニナルガ、何モ云ハズニ置テ、不充分ト云フナレバ彼所デ極メテ宜イ、修正者ニ尋ネテモ、恐ラクハソレハシナカツタ時分ハ何ノ箇條デアルト云フコトハ見テ居リハスマイ
(栗塚報吿委員)
要ヌ、何ゼナレバ解除權ハ三年ノ間家賃ヲ拂ハナケレバイケヌト云フ、此處ハ稅ヲ拂フ義務ハ誰カナレバ國庫ヘ對シテハ所有者デ詰リハ賃借人カラ拂フ、偖テ拂ハヌトキハ如何カナレバ、裁判所ヘ訴ヘラレル、貴君方ノ仰シヤルノハ實ニ分ラヌ、貴君方ハ解除ト云フモノト混ジテ御イデナサルト思フ
(松岡委員)
此處ハ修正ガ宜イカ、何方カ極メテ、八十條ヘ行ツテ論究シテ宜イ
(委員長)
ソレデ宜イ、所有者ニ掛ケルト云フコトガ實際ニモセヨ、何レ稅法モ定マルカラ、今民法デ極メテモ別ニ法ヲ立ルカ知レヌカラ
(村田委員)
修正ガ宜シイ
(松岡委員)
此處ハ先ヅ修正ノ大體ヲ採ルヤ否ヤヲ決シマシヨウ
(委員長)
大體ハ採ルコトニナツテ居ルノデス
(松岡委員)
私ハ修正ハ素ヨリ贊成デ御座イマス、此所ニ非常租稅トナツテ居ルガ、堤防破損、道路修繕ノ爲メ、地所ニ掛ケテ賦課サレル協議費抔ハ租稅ノ二字デ含蓄スルヤ否ヤ
(栗塚報吿委員)
ソレハ論モアツタガ、大キイ字ヲ使ヘバ、小サイ字ハ使ウニ及バヌ、通常非常ヲ問ハズノ意味ダカラ、非常ノ租稅ト云テ置ケバ總テ這入ル、其證據ハ今日云フ協議費、町村費ハ矢張リ租稅ト云フモノデアリマス、尤モ字ハ負擔ト云フ字ニシテモ差支ナイ
(松岡委員)
前ニモ負擔ト云フ字ガアツタ樣ダ
(南部委員)
六百四十九條モ左樣ニ云ハナケレバナラヌトナル、此所許リデハアリマセン
(鶴田委員)
ソウスルト、國庫ニ對シテト云フハドウカ
(南部委員)
「國庫ヘ對シテ」ノ字ガ惡ルケレバ除イテモ宜シイ
(尾崎委員)
「所有者カラ、賦課セラルル租稅ハ」ト云ヘバ國庫ハ除イテ宜シイ
(鶴田委員)
「國庫ニ對シテ」ハ除イテ宜シイ
(村田委員)
除イテ宜シイダロウ
(委員長)
除イテ宜シイ樣ダネ
(松岡委員)
四十九條ノ二項目ノ商業ヤ建物ニ幾ラ負擔ト云テ宜イノダロウ負擔ト入レルト宜イ、凡例錄ヲ見テモ年貢諸掛リトアルカラ、此所デモ租稅ト云フ字ト、國庫ト云フハ差支ナイ
(委員長)
負擔ト云フハ小サイモノモアルガ、負擔ト云フト、公賣處分ニハナラヌノダネ
(南部委員)
負擔ノ字ハ加ヘヌ方ガ宜シイ
(松岡委員)
併シ大キナ堤防デナク、小サイモノデアレバ
(栗塚報吿委員)
ソレハ町村費ニナリマス
(松岡委員)
租稅ト云フハ、言葉デハ御年貢ト云フカラネ
(栗塚報吿委員)
地方稅迄租稅ト仰シヤルガ、國稅地方稅、町村費、租稅ト云テ居ル
(委員長)
衞生上ノ費用、警察上ノ費用ハ公益ニ關スルカラ一般ノ爲メニ出サヌコトハ出來マセンガソレハ公賣處分デ行ク、其他宮ヲ建換ヘルトカ一村ノ鎭守ヲ建換ヘル等ノ費ハ公賣處分ニハナラヌカラ「國庫」ト云フ字ハ除イテ宜カロウデハナイカ
(尾崎委員)
宜シイ
(松岡委員)
「負擔」ト入レテ貰イタイガ
(委員長)
ソレデハ地主ハ餘リ酷イ
(淸岡委員)
償還スベシト此所迄書イタガ、先刻ノ例ニ依テ考ヘルニ箇樣ナルコトニ償還スベシ抔ト云フコトハ餘リナイ
(栗塚報吿委員)
前ニアリマス
(村田委員)
六百四十九條ヲ御覽ナサイ「償還スヘシ」トアリマス
(委員長)
宜カロウ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ左ノ如ク議決ス
永借物ニ賦課セラルルコトアルヘキ通常又ハ非常ノ租稅ハ其所有者之ヲ擔任セスト雖モ永借人ハ賃貸人ニ對シ之ヲ償還スヘシ
第六百七十八條朗讀ス
第六百七十八條 唯一ノ契約ヲ以テ一箇ノ土地ヲ數人ニ永借ニ付シタルトキハ每年借料ヲ拂フノ義務ハ各賃借人又ハ其相續人ニ在テハ連帶ニシテ且不可分ナリ
(栗塚報吿委員)
相續人アル場合ニハ可分ナリト、前ニアリマスソレデモ不可分ヂヤゾト、云フノデアリマス
(淸岡委員)
唯一ノ契約ト云フハ
(栗塚報吿委員)
一箇ノ契約ト云フ、單一ノ契約デト云フノデアリマス
(委員長)
實際ハドウ云フモノカネ
(尾崎委員)
箇樣ナコトハアリマス、一町程ノ田地ヲ十人シテ借テ居ル、五年目ニ鬮ヲ引イテ甲ノ土地ヲ貴君ガ持テ、又五年目ニ南部サンガ持ツト云フコトガアリマス
(松岡委員)
此等ハ害モナイカラ、此儘置イテモ宜シイ
(淸岡委員)
連帶ニシテ、且不可分ニシテ置カヌト、貸人ガ大變困ルカラ「連帶ニシテ且不可分」ト殊更ニヤツタノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(淸岡委員)
斯樣ニシテ置ケバ、澤山ニ缺カレルコトハナイ
(栗塚報吿委員)
私ガ新規ニ人ヲ置テ開墾サセ樣ト云フコトヲ五人ニ頼ムト、五人ノ内一人死ヌ當リ前ニスルト可分ダガ、息子ニ對シテハ四人連帶デ一人ノモノト見ル、然ウスルト矢張リ五人デアルト云フ意味デ御座イマス
(松岡委員)
宜シイ
(尾崎委員)
宜シイ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原按ニ可決ス
第六百七十九條朗讀ス
第六百七十九條 永借ノ讓渡又ハ轉貸ノ場合ニ於テハ前ニ記載シタル義務ハ其讓受人又ハ轉借人ニ移リ讓渡人ハ保證人トシテ其擔保ヲ爲ス但賃貸人カ明示シテ其義務ヲ免レシメタルトキ又ハ己レノ權利ヲ留保セスシテ讓渡ヲ承諾シ之ニ參與シタルトキハ此限ニ在ラス〔同上第千五百六十二條〕
(村田委員)
伊太利デハ復タ貸ハ出來マセン、舊幕府ノ時分ト同ジデアリマス
(松岡委員)
此條ハ適當ラシイネ
(栗塚報吿委員)
餘程奇體デス、私ガ委員長ノ地面ヲ拝借シテ、南部サンニ復タ貸スルト私ガ委員長ニ對シテ保證人ニナル、南部サンガ又復タ貸ヲスル、然ウスルト南部サンバ私ニ對シテ彼ハ急度納メマスルト云フノデ保證スル、恰度商業上ノ表書入ヲ見タ樣ニ義務ヲ負フノデアリマス
(尾崎委員)
栗塚サンガ南部サンニ貸借ヲ讓リ渡スト云フニ委員長ガサセヌト云フコトガ出來ヌ、ソレハ困ル、南部君ガアレ狡猾ナ奴デアルカラ、迚モ小作米モ持テ來ナイト云フトキハ困ルダロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ栗塚ガ南部サンノ保證人ニナルノデス
(尾崎委員)
栗塚君ガ覺束ナイト見ルトキガアル其トキハ困ルナ
(栗塚報吿委員)
唯ノ賃貸借デモ、讓ルコトガ出來ルノデアリマスカラ
(尾崎委員)
仕方ガナイカ
(委員長)
若シ復タ貸ヲ許スマイト思ヘバ、栗塚ニ貸ストキ、御前ダカラ貸スガ、御前ガ他人ニ貸スノハ契約外ダト云テ置ケバ宜シイ
(村田委員)
例令バ己レノ權利ヲ破ラズ貸與スルトキハ義務ノ更改トカ、其時分ニ之デハ義務ヲ更ヘル譯ニ行キマスマイ
(栗塚報吿委員)
今迄通リデ宜シイ、義務ハ更改シテモ特約ガアレバ宜シイ
(村田委員)
左モナイト今迄ノ通リダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
宜シケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原案ニ可決ス
第六百八十條朗讀ス
第六百八十條 賃貸人ハ引續キ三年間納額ノ辨濟ナキトキハ永貸ノ解除ヲ請求スルコトヲ得〔同上第千五百六十五條〕
然ノミナラス賃借人他ノ債權者ノ訴追ニ因リ破產又ハ無資力ト宣言セラレタルトキハ賃貸人ハ辨濟ノ如何ナル不足ニ付テモ解除ヲ請求スルコトヲ得但此債權者ヨリ納額ノ正シキ辨濟ヲ保スルトキハ此限ニ在ラス
(栗塚報吿委員)
「辨濟ノ如何ナル不足ニ付テモ」ト申スハ直譯デアリマス、意味ハ引續キ三年間デナクツテモ宜イト云フ意味ニ御解シ下サイ
(淸岡委員)
例ヘバ今年無資力ト宣言セラレタルトキハ、到底來年納メラレナイコトハ明瞭デアリマス、依テ不足ハ無論ダカラソレハ解除スルト云ハレルダロウ
(栗塚報吿委員)
併シ一遍ノ滯リデハ行カヌノデス
(村田委員)
少シ許リ不足シテモト云フノデスネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、一年滯ツテモ解除ヲ訴ヘラルルト云フノデス
(尾崎委員)
左樣ニシナケレバナラヌナ、己レノ受取ルベキトキ滯ツテ三年ノ間解除ガ求メラレナイト云テハ困ル
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
今年身代限ヲ言渡サレ、借賃ヲ拂ツタトスルト無資力ノ言渡ヲ受ケテ、來年ノ出來物ニ先取權ガ有ルカ無イカ
(栗塚報吿委員)
先取權ハナイ
(村田委員)
普通ノ奴ナレバ、一年デヤツテ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
此所ハ三年デナケレバ往カヌ、併シ二項ノ場合ニハ一年デモ往クゾヨト云フノデス
(松岡委員)
ドウシテ左樣ニシナケレバナラヌカ
(栗塚報吿委員)
危イカラデス
(淸岡委員)
其所ニ至ルカラ、自分ノ方ハ辨濟ハ滯タモノハナイケレドモ決シテ山山來マセント云フコトハ知レテ居ルカラ、無資力ノモノニ貸テ置クノハ危イ
(栗塚報吿委員)
其旨意ダケレドモ、拂ヒハ一遍滯ツタ事實ガナイト往カヌノデアリマス
(尾崎委員)
一項ハ三ケ年納額ノ辨濟ナキトキハ解除ハ出來マセント後チハ訴追セラレテ無資力ニ宣言セラレタ折、又賃貸人ニ對シテ少シモ納メナイトキハ解除ハ求メラレルト、己レニ對シテ拂ハヌトキハ三ケ年ノ間解除ハ出來マセント、他人カラ訴ヘラレタトキハ一年デモ解除ガ出來ルト云フカ
(栗塚報吿委員)
他人カラ訴ヘラレタノデ、貧乏ガ明カニナツタラ危イノデアリマス、三ケ年引續カズシテ解除ノ請求ガ出來ル場合ハ何カナレバ、訴ヘラレテ居ル樣ナトキ出來ルト云フノデアリマス、併シナガラ如何ナル不足ニ付テモ未ダ不足デハ出來マセンノデス
(尾崎委員)
三年ノ間滯ルハ、抑モ初メ一年滯ツタ場合ニハ貸主ハ取ラントシテモ動カズ、一向無資力デ拂ヘヌト云ヘバ、地主ハ解除ハ求メラルルダロウネ
(栗塚報吿委員)
ソレハ他ノ債權者カラ訴追セラレナケレバ往カヌ
(尾崎委員)
ソレハオカシイ、己レニ對シテ小作米ヲ拂ハヌトキ其者ハ身代限ヲスルカラ、他人カラ訴追セラレタトキデナクトモ解除ガ出來ルダロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ永借人ダカラ憐ムノデアリマス
(委員長)
小作米ヲ取ル方カラ云ヘバ三年待タナケレバナラヌ、其差ヒヲ見セタノデアルト思ヒマス
(淸岡委員)
先刻カラ論ズル通リノ貸主ト借主ハ永貸借ノコトダカラ三年待ツハ相當ト云フ精神ハ其筈デアリマス、元ト紀案者ハ賃借人カラ租稅ヲ納メルト云フ所ガ今度修正ニ依テ租稅ヲ本人ガ納メルコトニナリマシタ然ルニ六百八十條ハ矢張リ三年待タナケレバ解除ガ出來ヌトナルト起按者ノ意想外ニナルト思フ
(委員長)
強テヤレバ身代限リニナリ財產ハナイ樣ニナルカラ、自然解除ニナルト借主ハ逃ゲルカラ
(淸岡委員)
元ト起案者ハ租稅ハ永借人カラ拂ハセルカラ此通リデ宜シウ御座イマシヨウ、我々ノ考ヘデモ亦八十條ノ如キデ宜イ併シ修正ニ依テ租稅ハ地主ガ拂フ賃借人ハ知ラヌト云フコトニナリ然シテ其拂方ガ少シ滯レバ猶豫ハナイトシナケレバナリマセン然ルニ八十條デ矢張リ三年待タナケレバナラヌト云フハ甚ダ不權衡ナ譯デアリマス
(委員長)
小作米ト同ジデ貸主ト借主ノ間ハ同ジデアリマス
(村田委員)
「納額」ハ「借料」ト直シタ方ガ宜シイ
(栗塚報吿委員)
「借料」ト直シマス
(鶴田委員)
解除ハ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
解除ト身代限リハ別デ御座イマス、併シ他カラ訴ヘラレタルトキハ解除ガ出來ルソレハ仕方ガナイ
(鶴田委員)
ソレガ仕方ノアル樣ニシ度イ
(村田委員)
ソレダカラ實際ハ身代限迄ハシナイダロウ
(栗塚報吿委員)
身代限ヲスル話ト、解除ヲ求ムルトハ別ノコトデアリマス
(松岡委員)
ソレ故ニ本文ノ通リ置ケバ、拂ハヌトキハ身代限ヲシロト云フハ差支ナイカ、身代限ヲシテモ尙ホ二年アルカラト云テ解除ハ出來マセンデシヨウ
(栗塚報吿委員)
何ゼ出來ナイカナレバ、他ノ債權者カラ訴追シテナイカラ、出來マセン
(松岡委員)
自分ガ公租ヲ立替ヘテ賃借人ニ金ガ出來マセンデ、身代限ヲシテモ、解除ハ出來マセン矢張リ三年待タナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
永借ダカラ仕方ガナイト見テ居ルノデシヨウ、併シ淸岡サンノ云フ通リ起案者ハ其所迄ハ見テナカツタノダ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(淸岡委員)
出來ヌモノヲ知テ居テ、讓リ渡轉貸抔ヲ勝手ニヤラレテ溜ルモノカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ修正ニハ關係ハアリマセン
(淸岡委員)
ケレドモ修正シテ一層甚ダシクナツタト云フハ、租稅ノ負擔ハ大變重イモノデアリマシテ、鳥渡シタ費用デナイ、ソレ丈ケノモノヲ地主ガ負擔シテ見レバ賃借人ハ大變宜クナツタノデアリマス、貴君方ノ修正デハ賃借人ガ良クナツタノデシヨウ
(南部委員)
良クナラヌノデス
(淸岡委員)
ナラヌト云テモ、直接ニ官ニ取ラレルト、地主ノ私ニ取ラルルトハ大變違フ
(栗塚報吿委員)
日本デハ直接ニ賃借人カラ取立ルコトハ出來マセンノデス
(淸岡委員)
其處ハ無理トハ云ハヌガ、修正ニナツテ見ルト偏頗ニナツテ起案者ノ旨意トハ違フカラ、此所ハ何トカ差別ヲ付ケナケレバナラヌト云フ心配デス
(鶴田委員)
三年間待ツニ及バヌト云フノデス
(南部委員)
六百四十九條ニ同樣ナコトガアツテ其場合ニ賃借人カラ償還スベシト云テアルカラ異シムコトハナイ
(鶴田委員)
賃借人ハ無論引上テモ宜イ原則デハナイカ
(淸岡委員)
賃借ニ三年待タナケレバナラヌコトハナイ、無理ナ話ダ、法律デ貸主ノ形チヲ變ヘタ爲メニ三年間平氣ナ顔ヲシテ居ルコトハ出來マセン、元ノ原案ノ如ク永借人ガ租稅ヲ拂ハナケレバナラヌトナレバ直グニ公賣サルルデアロウ、所デ日本ノ政府ハ叶ハヌカラ止ヲ得ズ修正シタノデシヨウ
(栗塚報吿委員)
原案ノ通リニシテ置キマシテモ、賃借人ノ負擔トシテ敗レマスカ
(南部委員)
賃借權ハ公賣ガ出來ノデアリマス
(淸岡委員)
兎ニ角身代限ハスルガ、併シナガラ解除ニハナラヌト云フノガ宜クナイ素ヨリ永借人ガ租稅ヲ拂フナレバ仕方ガナイ地主ヘ責任ヲ持タセタ爲メニ、三年間知ラヌ顔シテ居ル
(南部委員)
其代バリ請求シテ、永借人ガ拂ハズトキ、直グ身代限ニナルカラ、賃借權ヲ公費スルモ矢張リ同ジデアリマス
(栗塚報吿委員)
解除ノ請求ガ出來マセン丈ケデ、三年間辨償ノナイトキハ、訴ヘラレテハ仕方ガナイ、唯ダ永借ノ解除ハ三年間引續イテ居ナケレバナラヌト云フノデス
(尾崎委員)
償還センデモ、納額ヲ拂ハンデモ、同ジデアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(淸岡委員)
永借權許リト云ノカ、租稅ノ方ハ、ソウデハアリマセンカ
(南部委員)
永借人カラ永貸人ニ拂フコトノ出來ヌ場合ニ、永借人ニ係テ訴訟ヲ起シテ、其訴訟ニ於テ、永借人ガ身代限シテ永借權ノ公賣ガ出來ルカラ、永借人ノ負擔ヲ輕クシテ宜イト云フコトハ決シテアリマセン
(淸岡委員)
元トノ原案ノ通リニシテ租稅ヲ納ムルコトハ出來マセント、取ル租稅ノ額ハ何レ丈ケニナツテ居ルカ、賃借權ヲ訴ヘタトテモ足ラヌトキハ、素ヨリ租稅ダカラ地所カラ取テハ困ルカラ修正ニナツタノデ、永借權ハ元ト原案ノ通リナレバ、理窟ハ云ヘヌガ、修正ナサレテ見ルト困ル
(南部委員)
仕方ガナイデハアリマセンカ、若シ轉倒ス積リナレバ御同意致シマス
(淸岡委員)
修正ハ惡クハ云ヘヌガ、今一ツ修正シテハドウデス
(栗塚報吿委員)
ソレハ償還シロト云テ、償還シナイカラ、訴ガ出來テモ解除ハ出來マセント云フノダカラ、修正仕樣トモ賃借人ニ權利ガアル
(南部委員)
原按ノ通リニシテ、賃借人ガ租稅ヲ納メヌガ爲メニ權利ヲ賣ルモ勝手ニスル、賣タ所ガ解除ニハナラヌ、矢張リ他ヘ權利ガ移ルノダカラ解除ノ原因ニハナラヌ、元ト原按デモ解除スル意味ハ少シモアリマセンカラ、原案ノ通リナレバ解除ハ出來マシヨウガ修正シテハ出來マセント云フノデハアリマセン
(委員長)
大槪ナレバ、原案ノ通リデ行キマシヨウ
(淸岡委員)
實ニ不都合デアリマスゼ
(西委員)
原案デ宜イ
(松岡委員)
私ハ公租ヲ償還セヌトキハ、解除ノ原因ニナレルト云フヲ加ヘ度イト思ヒマス、何ゼカナレバ淸岡サンノ云ハレル通リ、地主ガ持テ居テモ、公租ヲ納メヌトキハ所有權ヲ取上ゲテ仕舞ハレル、依テ其人ハ自分ガ作テ居テモ、租稅ノ爲メニ勝手次第ニ賣ラルルモノガアル、今一ツ言ヒ詰メルト、昔シノ永小作ニシテモ、地所ヲ澤山持テ居タガ、今ハ貧乏シテ漸ク地所ヲ貸テ居ル貸賃デ食テ居ル後家產ノナイトハ云ヘヌ其時分ニ公租ヲ納メナケレバナラヌ、何デ納メルダロウカ、錢ガナイ、錢ガ無ケレバ地面ヲ賣ルトナル、其地面ヲ賣ラレテ仕舞フ、ソレデモ其小作人ハ自分ガ償還スル金デ、己ノ方ハ解除サレナイ、誰ガ借リ樣トモ己レガ作ルト云フト永小作ノ地面ノ價ハ安イト云ハナケレバナラヌ、所有者ノ轉輾スルトキデモ、解除期限ニナラヌ抔ト云フハ旨過ギル話デス
(栗塚報吿委員)
其後家サンガ、訴ヲ起シテ小作人ニ償ヒヲ求メテモ解除ハ出來マセン丈ケデ無資力ニナラナケレバナラヌ
(松岡委員)
ケレドモ無資力ハ次ノ項ニ於テドウナルカ、他ニ鍬鋤ノ農業ニ必要ノ物ガ遺テ居ルトスルト、小作人ハ自分ノデ作テ居ル
(栗塚報吿委員)
アレハ大變宜イデハアリマセンカ
(南部委員)
ソレ丈ケ貧窮ナ者カラ租稅ヲ徵收スル場合ニ解除ガ出來タラバ金ガ出來マスルカ
(松岡委員)
解除ガ出來ルト、永小作ノ付イタ地面ヲ賣ルシ、十圓ニ外ナラヌモノモ、解除ガ出來ル以上ハ五十圓ニモ賣レルノハ明カデス
(淸岡委員)
ソレハ左樣デス
(松岡委員)
永小作ガ離レタラ、二十圓ノモノハ三十圓ニ賣レル
(南部委員)
良シ左樣ニ賣レルト假定シテモ、ソレナレバ公賣ハソレガ爲メニ止メルコトハ出來マセン、行政處分ダカラ解除シテ後チニハ效ガアルガ、解除前ニ效ヲ及ボスコトハ出來マセン
(松岡委員)
然ラバ百兩ノ爲メニ、三萬兩ノ地面ヲ賣ル樣ナル甚ダシキニ至ランデ宜シイ
(南部委員)
ソレナレバ永借權ハ惡イト云ハナケレバナラヌ
(松岡委員)
永借權ガ付イテ居ルカラ十圓ダガ解除ニナレルト云ヘバ、三十圓ニモナル、然ラバ十圓ナレバ三反賣ラナケレバナラヌガ、三十圓ナレバ一反賣テモ濟ムデシヨウ
(南部委員)
畢竟永借權ヲ置クノハ、所有權ニ制限ヲ加ヘテ、永借權ハ妄リニ動カセナイ所ヲ制定シテ初メテ永借權ニ效能ガアルノデアリマス
(村田委員)
永借權ノ解除ハ非常ナ場合デナケレバ出來マセン、左モナイト、今迄ノ建物モ植木モ皆ナ置カナケレバナラヌカラ
(松岡委員)
後家殿ノ地面ヲ借リ、永借權ヲ持テ居ル人ニ困リ、地所ヲ賣テ仕舞ハレルハ酷イ自分ガ裸體ニナツテモ永借人ニ旨イコトヲサセルト云フコトハナイ
(栗塚報吿委員)
併シナガラ是カラ先キハ後家サンガ差押ヘラレタトキハ私ガ身代ガアツテモ私ハ自分ノ小作人カラ出サセ樣ト思フト、ソレハ一旦拂テ、ソレカラ後チニ小作人ニ係ルハ勝手ダガ後家サンバ承知セズ私ハ利益ガナイカラ構フ譯ニ往ケマセント云フト、後家サンガ訴ヲ起シタトキニドウシテモ資力ガナイト云フハ恰モ納額ノ辨濟ガナイト同ジデ納額ノ辨濟ナイトキハ訴ヲ起シテ三ケ年間ハ解除ノ出來マセント同ジデアルカラ、租稅ノトキ許リ一年デ出來ルト云フ筈ハナイ
(松岡委員)
原案ノ通リニスレバ、租稅ハ借人ガ拂フト見テ居ルソレ故ニ貸人ガ自分ノ貸賃丈ケ取レンデモ、三年待タナケレバナラヌトシテアル、今度ノ租稅ハ所有者ガ持タナケレバナラヌ、ソレデ租稅ヲ持切ルノデ元トノデハ租稅ハ向ウデ持テ居ルト云フ之ヲ一緒ニシテハ偏頗ガスルト思フ
(栗塚報吿委員)
納額サヘ持テ行ケバ宜イト、其婆サンガ、訴ヲ起シタガ、償還セヌト云フテ解除サレテハ溜リマセン、納額丈ケヤツテ置テモイカヌニ相違ナイ、納額丈ケハ拂ウガ、償還スル丈ケハ無イト云フタナラバ先ヅ償還シタモノヲ呉レト云フカモ知レヌ、ソレモ出來マセントハ云ハセナイ、併シ償還モ出來マセンモノガ納額丈ケ出來ルコトハ實際アリマセン、然ルトキハ三年間租稅ヲ所有者ガ拂ヒ、償還セズシテ訴ヘヲ起シテモ拂ハヌモノガ、三年ノ納額辨濟ヲ怠ラズト云フ想像ハ出マセン納額モ屹度怠リタルニ違ナイ、納額ハ出來テ償還ハ出來マセント云フコトハナイ、借賃ヲ拂フ前ニ租稅ヲ拂テ居ルカラ、アレヲ拂テ呉レト云テモ、否應ヲ云フコトハ出來マセンカラ結果ハ同ジデアリマス
(松岡委員)
此本文ハ三年ノ引續キガ要用デ、當リ前ノ賃借ナレバ雙務契約デ直グ解除ガ出來ル、此處ハ三年デナケレバナランガ公租償還ハドウ云フモノダカ
(栗塚報吿委員)
ソレモ拂ハナケレバナラヌ
(松岡委員)
ソレハ三年ハ構ハヌカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ十年拂ハンデモ構ハヌ解除ノ話デハアリマセン
(松岡委員)
當リ前ナレバ一年デ無論解除ニナルガ永借ダカラ三年待タナケレバナラヌト云フト、償還ヲセヌモノハ何ウスルカ
(栗塚報吿委員)
解除ノ原因ニハナラヌ
(松岡委員)
書イテナカツタラ如何スルカ、當リ前ノ賃借契約デ云フト、一方ガシナケレバ解ケルハ當り前デ、永貸借ハ普通ノ賃貸借トハ違ヒ取除ケガアルカラ、揭ゲテナケレバ普通デヤレマセンカ
(栗塚報吿委員)
金ヲ貸テ、三年返サヌトキハ解除ニハナラヌデシヨウ、此所ノ解除ノ原因ニナルノハ、賃ヲ三年納メヌトキト云フノデ、現在納ムベキ租稅ヲ納メヌカラト云フ譯ニハ往カヌ
(松岡委員)
後家サン臍操金ヲ貸タト云フノト、租稅法カラ定メタモノト同ジニ云フノハオカシイ
(栗塚報吿委員)
ソレハ同ジデス
(松岡委員)
ソレハ大變ダ
(委員長)
起按者ノ旨意ハ小作人ニ掛ケル積リデシヨウ
(南部委員)
賃借ノ解除トハナリマセン
(村田委員)
原案ノ儘デモ同ジデ御座イマス
(尾崎委員)
償還シナケレバナラヌモノヲ滯ツタトキハ如何ニスルト云フコトハ規定ガナイト往カヌ
(委員長)
此原按ノ儘六百八十條ハ此レデ良イカ惡イカ、三年迄ハ待タズ、租稅ヲ立替ヘタ辨濟ニ付テハ賃借人ニ對シテ期限ヲ短クスル丈ケノ權力ヲ賃貸人ニ持タセルカ否ヤヲ決シマシヨウ
(村田委員)
元トノ原案ヲ改正シテ出シタト云フガ同ジデス
(委員長)
元トノ原按ハナイモノトシテ、此度ノ按ハ卽チ日本ニ適當スル樣修正シテ、七十七條ヲ見ルト其小作人ト地主ノ間ノ權限ト云フモノハ、尋常貸借トナツテ居テハ、租稅徵收ノ手續ト違ヒ地主許リ酷イ目ニ逢テ借人ト地主トノ間ガ緩慢デアルカラ嚴シクシテハ如何ダロウト云フノダロウ
(村田委員)
元ト六百七十七條ノ但書デモ、例ヘバ非常稅ヲ所有者カラ取タ許リデハナイ、矢張り所有者ガ出シテ置テ、賃借人カラ取ル、其場合ニモ矢張り解除ハ出來マセン
(松岡委員)
私ハ一項ハ論ガナイカラ宜シケレバ二項ヲヤリ度イ
(委員長)
「納額」ハドウシマスカ
(栗塚報吿委員)
此「三年間納額」ト云フノハ借賃デナイト云フ疑ヒハ出マセン、借賃許リデアリマス
(松岡委員)
償還シナカツタトキハ解除條件トナルト加ハリサヘスレバ宜イ、跡ハ「然ノミナラス」ハ三項ニナル譯ニアリマス
(栗塚報吿委員)
貴君方ノ論ニスルト「但シ六百七十七條ニ定メタル租稅償還ヲ怠リタルトキハ此限ニ在ラス」ト云フノデス
(松岡委員)
三年ト云フハ例外ニ以テ來タノダカラ
(栗塚報吿委員)
「然ノミナラス」ハ入レテモ宜シイ「又ハ租稅償還ヲ何々シタトキハ辨濟ハ如何ナルコトニシテ解除ヲ得ル」トシテモ宜イデスカ
(松岡委員)
ソレデ宜シイ
(栗塚報吿委員)
併シソレハ申スニ及バヌト思フ
(尾崎委員)
償還ノコトニ付テ規定シテ置ケバ宜イ
(委員長)
「三年間借料」トスルカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス、此ハ願クバ今一應報吿委員ニ御任セ下スツテハ、如何デスカ
(松岡委員)
加ヘルカ否ヲ決シテハ如何デス然シテ其文章ハ報吿委員デ爲テ貰ウコトニ致シマシヨウ
(淸岡委員)
無論入レナケレバナラヌ
(委員長)
左樣ニシテ貰ウカ
(村田委員)
私ハ原案デ宜シイ
(委員長)
ソレデ此條ハ措キマセウ
(淸岡委員)
之ヲ修正ニナルナレバ六百七十七條ニ償還スベシトアル、所ガ之ハ普通ノコトヲ云フト、公租ト云フモノハ段々遲クナリ、此ノ小作人カラ地主ヘ納メルノハ十一月頃納メ切リニナルノデ、箇樣ナコトハ跡カラ償還スルトナルト地主ノ迷惑デ、之ハ地主ヘ取テモ物ヲ貯ヘテ外ノ金デスルダロウガ、米ハ安ク見ルカラ上納スル所ハ今日現場ノコトヲ壞サヌ樣ニシ度イ
(栗塚報吿委員)
其論モアリマシタガ、是非所有者ヘ一遍ハ來ルガ文例ヲ見ルト「所有者何々所有者ノ内小作人何々」トアリ、小作人ノ拂ハヌトキハ如何スルカ、小作人ガ無資力トナレバ、矢張リ所有者ヘ係ル、所有者ヘ行テモ償還サセナクモ宜イカト云フニドウシテモ償還シナケレバナラヌ
(淸岡委員)
「償還」ト云フ字ニ弊ガアロウト思フ
(栗塚報吿委員)
結局左樣ニナルノデ、結局ヲ書イタ場合デアリマス、當リ前ハ箇樣ニ書ケバ先キニ所有者ガ拂フニ及バヌ、小作人ハ納稅期限ガ來タラ、五日ノ間ニ拂ヘト云ヒ、諾ト云テ拂ヘバ濟ムシ、又ソレガ拂ヘヌトキハ如何スルカ矢張リ國庫ノ取立ハ戶長役場ヘ來ルダロウ
(淸岡委員)
他ノ國ハ知ラヌガ、小作人等ノ納メルノハ十一月限リデ收入ガ遲ケレバ春ダガ、高知抔ハ早イカラ大抵十一月ニ皆取テ仕舞ヒ、公租ハ春デス、其間ニ地主ハ米ヲ賣テ納メル、其現場ヲ以テ見レバ賃借人ハ賃貸人ヘ納額ヲ納メテ、賃貸人ガ租稅ヲ納メル樣ニナツテ居ルカラ其方ノ害ニナラヌ樣ニシタイ
(委員長)
淸岡サンノ論モアレバ、報吿委員デ尙ホ講究シテ先キヘ移リマシヨウ
本條ハ第一項ノ「納額」ヲ「借料」ト改メ尙ホ左ノ如ク議決ス
第六百七十七條ニ定メタル賃借人ヨリ賃貸人ニ租稅ヲ償還サセルトキハ解除スルノ明文ヲ揭ケ其文章取調フルコトニ決スハ報吿委員ニ於テ
第六百八十一條朗讀ス
第六百八十一條 賃借人ハ意外ノ事若クハ抗拒スルコトヲ得サルカニ因リ引續キ三年間土地ノ收益ヲ全ク爲ス能ハサルニ至リ又ハ一分ノ毀損ニ因リ每年拂フヘキ借料ヲ踰ユル利益ヲ將來得ヘカラサルトキハ賃借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得〔同上第千五百五十九條及ヒ第千五百六十條〕
(松岡委員)
之ハ「全ク」ト云フ字ニ意味ガアルノデスネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(淸岡委員)
畢竟實際カラ考ヘルト、永小作人ガ請求致セバ地主ハ悦ブ話デアリマス
(鶴田委員)
先ヅ之デ宜イ
(南部委員)
文字上ノ修正ヲ出スハ特別ダガ「永貸借ノ解除ヲ請求スルヲ得」ト書イテ宜シイト思フ
(村田委員)
賃借人ト云フガアリ、前ハ永借人デアリマス
(栗塚報吿委員)
前カラ皆左樣ニヤリマシヨウ
(委員長)
文字ガ同ジニナレバ一定ニシテ宜イ此條ハ宜ケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ「賃借」ヲ「永貸借」ト修正スルコトニ決ス
第六百八十二條朗讀ス
第六百八十二條 賃借ノ滿了又ハ其解除ニ當リ賃借人ハ其土地ニ爲シタル植付及ヒ改良ヲ賠償ナクシテ遺シ置クヘシ
建物ニ付テハ通常ノ賃借ノ爲メ第六百五十六條ニ載セタル條例ヲ適用ス〔同上第千五百六十六條〕
(委員長)
之モ宜ケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
第六百八十三條朗讀ス
第二款 地上權
第六百八十三條 地上權トハ他ノ所有者ニ屬スル地上ニ於テ建築又ハ樹木若クハ竹ノ植付ヲ完全ナル所有權ニテ占有スルノ權利ヲ謂フ
(村田委員)
之ハ竹木抔ハ這入ルノデスネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
立派ニ分ル、此條ハ宜イ樣ダカラ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
第六百八十四條朗讀ス
第六百八十四條 地上權ハ不動產ノ所有權ヲ得取シ及ヒ轉付スル通常ノ方法ヲ以テ之ヲ設定シ及ヒ之ヲ轉付ス
(委員長)
「轉付」ト云フノハ
(栗塚報吿委員)
「トランスメツトル」ト云フ原語デ間ヲ飛ンデ移付スルト云フノデアリマス、東京ノ町家丈ケハ能ク地上權デ分ルノデアリマス
(委員長)
之モ宜カロウカラ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ原按ニ決ス
第六百八十五條朗讀ス
第六百八十五條 地上權設定ノ當時旣ニ其土地ニ建築ノ存スルトキハ其設定證書ノ基本及ヒ方式ト公示トハ場合ニ隨ヒ有償又ハ無償ノ名義ヲ以テスル不動產移付ノ一般ノ規則ニ從フ
(尾崎委員)
「基本及ヒ方式」ト云フハ如何ナルコトデスカ
(栗塚報吿委員)
「基本」トハ能力ガアルトカナイトカ契約者ガ一丁者デアツタトカ、瘋癲人デナカツタトカ、又ハ社會ノ秩序ヲ紊スル樣ナモノデアツタト、云フノデアリマス
(鶴田委員)
「公示」トハ
(栗塚報吿委員)
之ハ不動產ノ賣買ナレバ、區役所トカデ、登記シナケレバナラヌトカ、何日ノ間公示シナケレバナラヌトカ云フコト「方式」ト云フハ書キ方デ御座イマス
(松岡委員)
「基本」ト云フハ「能力」ト云テハ足ラヌカ
(栗塚報吿委員)
足リマセン、適法デナケレバナラヌト云フコトハ基本デ御座イマス
(村田委員)
「基本」ト云フハ宜クナイ
(淸岡委員)
「當時」ト云フハオカシイネ
(栗塚報吿委員)
「設定ノ時既ニ」ト云フヨリモ「當時」ト云テ「トキ」ト云フノト同ジニ見テ宜イ
(淸岡委員)
「當時」ト云フト既往ノコトヲ云フ字ダカラ
(栗塚報吿委員)
設定ノ當時ナレバ既ニ當時トナルデシヨウ
(淸岡委員)
將來カラ既往ヲ看ルトキハ當時デ分ルガ、下ノ方ニ當時ト云フコトハ多クハ書カヌダロウ
(栗塚報吿委員)
「既ニ」ト云フハ、トキニ家ガアツタラバト云フ意味デ御座イマス
(委員長)
設定ノ當時ト云フコトハ能ク分テ居ル
(尾崎委員)
宜イデシヨウ
(栗塚報吿委員)
「相續」ト「相續物」ト云タ樣ナモノデ「建築」ト云フハ建築ヲ爲ストキモト兩方含マセタ字デ御座イマス、建築物ヲ爲スト云フノト、建築ヲ爲スト云フノト同ジデ御座イマス
(委員長)
一定ニシナケレバナラヌ「物」ト書イタトキト「建築」ト書イタトキト、區別ガアツテハ往カヌ、翻譯局デ一定スレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
此儘デ御置キヲ願ヒマス
(鶴田委員)
「移付」ト何ノ位違ウカ
(栗塚報吿委員)
土地ニ建築ノ存スルトキ、物ヲ賣ツタリスルハ如何スルノカ、當リ前ノトキハ、有償無償ニテ、不動產移付ノトキハ一般ノデ御座イマス
(鶴田委員)
建築物ノ存スル丈ケ違ヘテ居ルガ通常ニ關スルナレバ前條デ以テヤラナケレバナラン
(南部委員)
前ニ「轉付スル通常ノ方法ヲ以テ設定シ轉付ス」ト云フノカ、書面ヲ以テ設定スルトカ、轉付スルニハ或ハ事故ニ因テ轉付ガ出來ルノデス
(委員長)
前ハ地上權ヲ云ヒ、後チハ地上權設定セヌモノハ品物丈ケヲ移付スル場合ヲ云フノダ、之ハ既往ハアツテモ宜イノダ
(鶴田委員)
別段異論ハアリマセン
(委員長)
先ヘヤリマセウ
本條ハ原案ニ決ス
第六百八十六條朗讀ス
第六百八十六條 地上權者其讓受ケタル建築又ハ植付ノ存スル地面ニ應シテ土地ノ所有者ニ每年ノ納額ヲ拂フヘキコトヲ設定證書ニ定メタルトキハ其權利及ヒ義務ハ此事ニ付キ通常ノ賃借ノ爲メニ上ニ定メタル條例ニ從フ但下ノ第六百八十八條ニ定メタル如ク建築又ハ植付ノ時期ニ關シテハ此限ニ在ラス
建造スル爲メ又ハ植付ヲ爲ス爲メ土地ヲ賃借シタルトキモ右ニ記載シタル納額ニ關シテハ亦同シ
(修正) 「每年」ヲ「定期」ト改ム
(村田委員)
之ハ修正ガ宜シイ
(淸岡委員)
私ハオカシイト思フ
(栗塚報吿委員)
「定期」ト云ヘバ每年モ這入ルカラ
(松岡委員)
「每年」ガ宜イ
(淸岡委員)
每月拂フコトモアロウシ、又二ケ月每ニ拂フコトモアロウシ、四ケ月ニ拂フコトモアロウカラ
(栗塚報吿委員)
年々幾ラト定メテモ月々定メハ申セマス
(淸岡委員)
六百八十一條ハ每年拂フベキト云フカ
(栗塚報吿委員)
永借デ御座イマスカラ每年ト思テ居ル
(淸岡委員)
之ニシテモ年々幾ラト必ラズ定メナケレバナラヌト云フコトハナイカラ
(南部委員)
ソレダカラ「定期」トシタノデアリマス
(淸岡委員)
上ノ方バ改メテ宜サソウナモノデス
(松岡委員)
上ハ年ト云フガ一般ラシイ、此方ハ普通ヲ云フト、月ガ多イ位デアリマス、併シ田舎ヘ行ケバ一年モ半年モアルカラ「定期」ト云ヘバ宜イ
(淸岡委員)
修正スル程ノ理由ハアリマスマイ
(松岡委員)
「上ニ定メタル」ハオカシイ
(栗塚報吿委員)
「下ニ」トシテモ分ランコトハナイv
(南部委員)
「上ニ」ト云フタカラ「下」ト云フ字ガ出タノデアリマス
(委員長)
「讓受ケ」ト云フ字ハ、總テ買受ケモ唯ダ貰タモ皆ナ這入ルカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
地上權ハ植物カ建物ノ外ハナイカ
(栗塚報吿委員)
ナイノデアリマス
(松岡委員)
植物ガアリマシヨウカ
(委員長)
アリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
地ノ上ニ地上權ガアルノデス誠ニ少イガ、東京ノ市中ハ誠ニ能ク當リマス
(委員長)
家ガアルトカ、植物ガアルト睹易ヒガ其外ニモアリソウナモノダ
(村田委員)
皆動クモノラシイ
(尾崎委員)
池ヲ掘テ鯉デモ飼ウコトハ出來マセンカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ地上權デハアリマセンソレハ地下權デアリマス、之ハ先ヅ家デスナ
(松岡委員)
家屋ニナルト、東京ノ如キハ極ク宜イガ、樹ヲ植ヘル爲メ、竹ヲ植ヘル爲メニ、必要ト云フコトハナイ樣デス
(尾崎委員)
ケレドモアル方ガ宜イ
(委員長)
「每年」ト云フノヲ「定期」トスルカ
(尾崎委員)
「定期」ガ宜ウ御座イマス
(委員長)
ソレナラ修正シマス
(淸岡委員)
「下ノ」丈ケハ削テハ如何デス
(松岡委員)
三百坪借リテ二百坪ノ家ヲ建タガ跡ノ百坪ハ何モ作ラナイノハ
(栗塚報吿委員)
ソレハイケナイ、建テナケレバナラヌ建テ始メテ生ズルノデアリマス
(松岡委員)
然ルトキハ庭ニシテ置クノハ永貸借デモ何デモナイ
(淸岡委員)
無用ノ樣ニ思ハルルネ
(栗塚報吿委員)
東京デハ地上權ノナイ爲メニ酷ヒ目ニ遇ヒマス
(村田委員)
地所ヲ作リテ家ヲ建ルモノハ、皆地上權デアリマス
(松岡委員)
納額ヲ拂フベキヲ納ズト、通常ノ權利ト違ハヌネ
(委員長)
格別論ガナケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第六百八十七條朗讀ス
第六百八十七條 旣ニ爲シタル建築及ヒ植付ニ於ケル地上權ノ設定ニ際シ從トシテ之ニ屬スル周圍ノ土地ノ部分ヲ明記セサルトキハ地上權者ハ建築ノ周邊ニ於テ其建坪ノ全面積ニ均シキ土地ノ部分ニ付キ權利ヲ有ス此地面ノ配當ハ鑑定人ヲシテ土地及ヒ建物ノ面形ト建物各部ノ用方トヲ斟酌セシメテ之ヲ爲ス
樹木又ハ竹ノ植付ニ關シテハ地上權者ハ最長大ニ至リタル外部ノ枝ノ陰蔽スルコトアルヘキ部分ニ付キ權利ヲ有ス
(修正) 末項「樹木又ハ」ノ四字ヲ刪リ「竹」ノ下「木」ノ一字ヲ加フ
(南部委員)
「竹木」ト直リマス
(松岡委員)
契約證書ノ設定トハナリマセンカ
(南部委員)
明記セヌトキノコトヲ云フノデス
(松岡委員)
初メハドウシテスルノカ、八十四條五條カラ決シテ來ルト、箇樣ナルコトガ出來ルダロウガ
(村田委員)
末項ハ妙ナモノデアリマスネ
(松岡委員)
註ニハ妙ナコトヲ言テ居ルガ、樹ヲ植ヘタトキハ地上權ハアルハ物丈ケト思フガ左樣デハナイ、根デ定メ樣フト思フガ根ガ分ラヌカラ、見ヘル所ノ枝デ定メタト云フガ理由ガアロウカ
(尾崎委員)
唯ダ珍ラシイ丈ケデ害ハナイ
(委員長)
宜シケレバ先ヘヤリマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第六百八十八條朗讀ス
第六百八十八條 旣ニ爲シタル建築又ハ地上權者ノ爲スヘキ建築ニ付キ設定證書ニ地上權ノ時期ヲ定メサルトキハ其權利ハ右建築ノ時期ニ均シキ時ノ間設定シタルモノト推測ス但其建築ノ大修繕ハ土地ノ所有者ノ承諾アルニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
旣ニ土地ニ植付アリ又ハ上ニ記載セル如ク地上權者植付ヲ爲スヘキトキハ地上權ハ樹木ヲ採伐スル期節又ハ其有用ナル最長大ニ至ルヘキ期節マテ引續ク爲メ之ヲ設定シタルモノト看做ス
其他地上權ハ通常ノ賃借權ト同一ナル原由ニ因リ消滅ス但土地ノ所有者ヨリ爲ス賃借了終申入ヲ除ク
地上權者ハ一ケ年前ニ豫吿ヲ爲シ又ハ未タ拂期限ノ到ラサル一ケ年分ノ年賦金ヲ拂フトキハ常ニ賃借了終ノ申入ヲ爲スコトヲ得
(修正) 初項但以下左ノ如ク改ム但其建築物ニ付梁柱基礎等ノ改造ノ如キ大修繕ハ土地ノ所有者ノ承諾アルニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
(南部委員)
一項ニ修正ガアリマス
(淸岡委員)
「大修繕」トスルコトハ出來マセンカ
(栗塚報吿委員)
著シキモノヲ揭ゲタラ分ルダロウト思ヒマス
(淸岡委員)
「改造ノ如キ大修繕」ト云フト、外ノコトハシテモ構ハヌト云フノカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(栗塚報吿委員)
反對ノ結果ハ何時迄ト云テハ困ルカラト云フ旨意デ、此通リ修正スルナレバ矢張り大修繕トシテ置ケバ、所有者ノ承諾アルニ非ラサレバ出來ナイカラ、其分ガ宜イ、家根ガ剥レテモ構ハヌト云フノハ惡ルイ
(南部委員)
然ルトキハ瓦ガ壞ハレテモ葺キ替ヘルコトハ出來ヌ
(淸岡委員)
大修繕ト云フト、土地ノ所有者ノ承諾ヲ經ナケレバナラヌガ原按ノ旨意デス
(松岡委員)
大修繕ハ悉ク承諾シナケレバナラヌト云フト家根ノ壞レモ天井ノ破レモ修繕サセナケレバナラヌトナルカラ
(栗塚報吿委員)
兩方ノ利益ヲ計テ云タノデス
(松岡委員)
修正ハ宜イガ、修正ハ大キナモノヲ制限シテ見セル樣ニシナイト、修正ノ目的ヲ遂ゲス、却テ同ジ結果ニナリハスマイカ、例ヲ擧ゲタト云ヘバ「築柱、基礎何々大修繕」ト云ヘバ宜イガ「如キ」ト云フト精神ニ反スルコトニナル
(村田委員)
共方ガ分ル
(栗塚報吿委員)
ソレハ宜シイ、報吿委員デモ異存ハ御座イマセン
(村田委員)
佛蘭西デハ堅牢ナル樹林ハ、這入ラヌトシテアル
(栗塚報吿委員)
續ケラレテハ溜ラヌト云フノデス
(鶴田委員)
承諾セヌト云ハレルトドウスルカ
(淸岡委員)
無暗ニ承諾セヌト云フコトハアリマスマイ
(松岡委員)
アリマス
(淸岡委員)
一方カラ云フト、左樣ナコトモ或ハ無イトモ云ヘヌガ、又一方カラ云フト梁柱基礎ヲ修繕セズシテ、地界ニ鐵ノ捧ヲ突イテ保存スルト云ヘバドウシテモ退カヌト云フ、何ノ樣ニ破レテモ修繕スルコトハナラヌ、修繕ガナラヌナレバ、鐵ノ捧ヲ突イテ維持スルトシテモ、承知セヌト云フトキノ道ガナイノデス
(松岡委員)
鳥渡修繕シテ何時迄モ動カセヌト、地主ガ迷惑致シマス
(栗塚報吿委員)
借リテ居ル人カラ云フノデス
(淸岡委員)
地代ヲ上ゲルトカ、愈々地主ガ置カヌト思ヘバ置カヌ具合モアルダロウ
(村田委員)
賃借ヲ拂ハヌトキハ、三年ヲ待タズ、解除ガ出來ルカラ
(委員長)
修止ヲ容レルヤ否ヤ
(松岡委員)
修正ノ大體ハ宜イト思ヒマス
(淸岡委員)
私ハ原按贊成デアリマス
(西委員)
修正ガ宜イ
(鶴田委員)
修正ガ宜イ
(尾崎委員)
修配デモ宜イ
(委員長)
ソレナレバ修正ヲ採リマシヨウ
(松岡委員)
修配ノ意味ハ「ノ如キ」ヲ存シタカラ床下、天井、屋根マデモ矢張リ及ボスコトガ出來ルダロウ
(委員長)
ケレドモ大修繕トアリマスネ
(栗塚報吿委員)
松岡サンノハ大修繕ハ刪ルノデス
(委員長)
ソレハ容易ニ報吿委員デ折合テハ行クマイゼ
(栗塚報吿委員)
梁柱基礎ノ改造ハ六ケ敷イ、土臺柱ガ腐レレバイカヌト云フノガ旨意ダカラ「ノ如キ」ハ除イテモ宜イ
(淸岡委員)
日本ノ今日ヲ許リ見ルト左樣ダガ、追々煉化石造モ建テルカラ
(委員長)
「梁柱等ノ大修繕ハト」シヨウ
(鶴田委員)
「建築物ノ存立時間ニシテ」宜イ、下ハ「時間」トハ云ハレナイカ
(尾崎委員)
「存續ノ時期」ト云フガ宜イ
(栗塚報吿委員)
「存續」ハ宜イ
(南部委員)
宜イ
(鶴田委員)
「存續ニ均シキ時間」トシテ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
宜イ
(松岡委員)
樹木ノ採伐スル期節ハ竹ハ三年ニナレバ切ルカネ
(南部委員)
竹ハ宜シイ
(松岡委員)
三十年五十年デ、竹藪ノ枯レルコトハアリマセン
(委員長)
何年間借ルト云フ期限ガアレバ宜イナケレバ竹ノ子ノ來年子ハ別ダトスレバ古イ竹ノ子ハ苅ルニ相違ナイ
(南部委員)
スルト地上權デアルカラ竹ハ寧ロ除イテハ如何デス
(松岡委員)
竹ヲ植ヘテモ、中々二三年目ニ藪ニハナラヌ
(委員長)
竹藪ヲ借リテ作ルニ年限ヲ極メナケレバナラヌ、若シモヤレバ貸方カラ十年間トカ云フノデ貸スニ相違ナイ
(尾崎委員)
竹ハ除イテ宜イナ
(村田委員)
除クハ宜クナイ
(淸岡委員)
竹ハ悉ク除テ宜イ
(栗塚報吿委員)
木ガアレバ竹モ置カナケレバナラヌデシヨウ
(淸岡委員)
地上權ハ初メカラ樹木丈ケニシテ宜イ、殊ニ占有ニモ竹ハ無イノダカラ
(村田委員)
占有ニハ無イガ、竹ハ樹木ヨリ收益ガアリマシヨウゼ
(南部委員)
ソレデハ竹モ入レマシヨウ
(鶴田委員)
最長大ニ至ルマデト云フト、其上ハ取テモ宜シイカ
(南部委員)
左樣デス
(委員長)
契約ガアレバ、契約ニ從フカラ宜カロウ
(栗塚報吿委員)
「有用ノ最大長」トアリマス、有用ト云フ字ガアリマスカラ充分大キクナツタ意味デアリマス、委シク云ヘバ保存シテ置クニ及バヌ、保存シテモ大キク利益ノナイト云フ時ヲ以テ限ツタノデアリマシテ其時限リ止ムカラ切テモ宜イト云フノデアリマス、貯ヘテ置テモ金ノ價ヒヲ增サヌト云フトキヲ示シタト註ニアリマス
(鶴田委員)
宜シイ
(委員長)
「年賦金」トアリマスハ如何ダロウ
(村田委員)
成程「年賦金」ハオカシイ樣デス、年賦金ト云フト一ケ年貸タガ幾ラ々々ヲ賦ニスルトナル、之ハ賃料ダカラ「一ケ年ノ借料」デ宜イ
(栗塚報吿委員)
「借料」デモ宜イシ「賃料」デモ宜イガ「納額」ト致シマシヨウ
(尾崎委員)
「納額」デ宜カロウ
(鶴田委員)
一ケ年ノ豫吿ト云フコトハ
(栗塚報吿委員)
賃借者ハデ御座イマスカラ分リマシヨウ
(委員長)
先ヘヤリマシヨウ
本條ハ左ノ如ク議決ス
既ニ爲シタル建築又ハ地上權者ノ爲スヘキ建築ニ付キ設定證書ニ地上權ノ時期ヲ定メサルトキハ其權利ハ右建築ノ存續ニ均シキ時間設定シタルモノト推測ス但其建築物ニ付キ梁杭基礎ノ大修繕ハ土地ノ所有者ノ承諾アルニアラサレハ之ヲ爲スコトヲ得ス
第二項「樹木」ハ「木竹」ニ修正ス第三項原按ニ可決ス第四項「年賦金」ヲ「納額」ニ修正ス
第六百八十九條朗讀ス
第六百八十九條 建築及ヒ植付ハ契約前ニ設ケタルモノト地上權者ノ爲シタルモノトヲ問ハス土地ノ所有者カ鑑定人ノ評償ニ從ヒ其讓渡ヲ要求セサルニアラサレハ地上權者之ヲ收去スルコトヲ得ス
地上權者ハ土地ノ所有者ニ先買權ヲ行フノ意アルヤ否ヲ述フヘキノ催吿ヲ一月前ニ爲シタル上ニアラサレハ前ニ記載シタル植付又ハ建築ニ收去スルコトヲ得ス
第五百七十三條ノ此餘ノ條例ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
(修正) 初項問ハスノ下左ノ如ク改メニ項三項ヲ刪除ス「其先買權ニ付テハ第六百五十六條ノ規則ヲ適用ス」
(南部委員)
修正ガアリマス、之ハ前ノ條ト同ジコトガアリマシタカラデス
(村田委員)
之ハ是非修正ノ通リニシナケレバナラヌ
(委員長)
「一ケ月前ニ爲ス」ト云フハ六百五十六條ノ催吿ヲ爲スト云フコトデハナイカ
(栗塚報吿委員)
六百五十六條ヲ引イテアリマス
(鶴田委員)
五十六條ノ賃借ノ終ルトキノコトデスネ
(南部委員)
唯ダ一月ガ十日ニナリマシタ、償却セントスル場合ト此方ハ取去リニ着手スル場合デ同ジコトデアリマス
(鶴田委員)
之ハ期限ノアルニ、終リタル場合ナレバ宜イガ、其前他人ニ賣ルト云フトキハ用ヒラレナイ
(南部委員)
賣ル場合ニ適用スルノデアリマス六百五十六條ノ終リタル場合デアリマス
(鶴田委員)
前ニハ償却スルト云フ字ガアリマス
(南部委員)
ソウ云ヘバ終ル場合デモ、償却スルコトモアルカモ知レヌ
(委員長)
六百五十六條ヲ見タラ、專賣權ヲ賣買許リトハ見ヘマイカラ分リマシヨウ
(村田委員)
賃借ノ終ルトキデナケレバ出テ來ナイ
(委員長)
分リマシヨウ修正ニ決シテ先ヘ行キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決ス
第六百九十條朗讀ス
第六百九十條 此法頒布ノ當時ニ存在スル地上權ハ左ノ如ク之ヲ規定ス
時ヲ定メテ設定シタル地上權ハ其指定シタル時ト共ニ當然止ム
當事者定マリタル時期ヲ指定セス且右ノ當時ニ其孰レヨリモ式ニ遵ヒ賃借了終ノ申入ヲ爲サヽリシ地上權ハ第六百八十八條ニ從ヒ建物ト等シク引續ク
右何レノ地上權モ第六百八十九條ニ規定シタル先買權ニ從フ
(修正) 第二項ヲ左ノ如ク改ム當事者定マリタル時期ヲ指定セサル地上權ハ第六百八十八條ニ從ヒ建物ト等シク引續ク
(栗塚報吿委員)
之ハ修正ヲ致シマシテ「當事者定マリタル時期ヲ指定セサル地上權ハ」トナルノデアリマス
(南部委員)
原按ノ通リニ致シマスト習慣ニ反スル譯デアリマスカラ修正致シマシタ
(尾崎委員)
初メノ項ハ、彼ノ御入用次第何時ニテモ明渡スト云フハ東京一般ノ慣習ニシテ居ルガ左樣ナルモノハ前ノ條デ當然止ムトナルカ
(南部委員)
ソレハ事實ニ因リマシヨウ、果シテ此ノ契約ヲ以テ同ジコトニ定メテアリマス地上權ナレバ適用致シマシヨウ、併シナガラ左ノ場合ニ於テト餘計ナ文句ヲ書入テ居ルケレドモ、實際住所トシテ立退クコトガナイトナレバ一種ノモノダカラ此處ヲ適用スルコトハ出來マスマイト思フ
(尾崎委員)
適用ハ出來マスマイト思フガ、之ヲ明カニシ度イト思フガ仕樣ハナイカネ
(南部委員)
陽ハニハ言ヘヌ樣ニ思ヒマス、殊ニ又ソレ一年ノ間必ラズ立退ク主意デ貸借シタノデアルカラ裁判官ノ認定ニ任スヨリ外ハアリマスマイト思フ
(栗塚報吿委員)
縱令箇樣ニ書イテアロウトモデス
(尾崎委員)
ソレハ苦情ノ起ル基ニナル、今東京ノ家ハ御入用次第返ヘス契約ガアルニ、此法律ガ出レバ御前ハ立退イテ下サイト云ハレテモ仕方ガナイ樣ニナツテ大變ナコトニナル
(委員長)
三年間ナレバ三年間ト云フコトガ定メテアレバ法律ノ爲メニ妨ゲハナイ
(尾崎委員)
御入用次第ト云フト、入用ニナツタ場合ノトキニナルカラ困ル
(委員長)
定マツテ居ラヌカラ未ダトキハ云フモノデハナイ
(栗塚報吿委員)
裁判官ノ認定ニ任スヨリ外ハアリマスマイ
(淸岡委員)
私ハ修正ハ大不同意デアリマス
(南部委員)
裁判官ノ認定ニ任シテ宜イ、一定シテハ不都合デアリマス
(委員長)
結局ハ左樣ダロウガ、東京ノ慣習ニシテモ御入用ノ節ハ何時ニテモト云フハ、無期限同樣デアリマス
(南部委員)
併シナガラ何方カ明カニ契約シテ、何年何月迄ニ立退キマシヨウト云タニ違イナイカラ、矢張リ當事者ノ意思ヲ認定シテ裁判官ガ認定スルヨリ外ハアリマスマイ
(栗塚報吿委員)
縱令今日迄ノ慣例ニ左樣ニ書イテアロウトモ、意思ハ左樣デハナイ、鳥渡立退ケルモノデハナイ、若シ立退ク意思ナレバ裁判所デハ許スト云フ今日ノ有樣デアリマス已ニ芳川東京府知事ノトキ高輪近所ノ地面ヲ買ツタ所土藏ノ二箇モアル質屋ヲ立退カセナケレバナラヌ、買主ノ芳川ガ訴ヘタトキ證文ガアツタガ、其證文ニ何時ニテモ立退クト云フ證文デアツテ寛政年間ノ證文デアツタガ、其時分カラ今日迄立退ケト云ハズニ於テハ、立退ケト云フ權利ヲ抛棄シタモノト云ハナケレバナラヌトナリマシタ
(尾崎委員)
近頃大審院ノ裁決デモ、入用次第トアツテモ立退ケト云フコトノナイ樣ニ裁判スルノデス
(淸岡委員)
裁判ハ人民ニ對シテ左樣ニ云ヘルガ、官廳ハ如何ダロウ
(南部委員)
官廳ハ別デ御座イマス、併シ裁判ノ場合ヲ論ジテモ無駄デアリマシヨウ
(淸岡委員)
時ヲ定メテ指定シタノダカラ、時ト共ニ止ムハ一言モナイ話デアリマス
(尾崎委員)
今申スノハ御入用次第トアルト、入用ガ卽チ時期デアルト論ズルコトモアロウ然ルトキハ當然止ムノナツテハナリマセン今委員長ノ云フ通リ定マラヌモノダト云フコトナレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
之ハ報吿委員デモ論ガアツテ、如何ナルコトガ書イテアロウトモ、意思ハ何レニアツタカラ見ルコトニシナケレバナラヌ、就中東京ガ左樣デアリマス
(淸岡委員)
地稅ヲ上ルカラ自然居ラレヌ樣ニナル
(尾崎委員)
所ガ無闇ニ上ゲ樣トシテモ承知セヌ
(委員長)
先ヅ修正ハ如何デスカ
(松岡委員)
修正ノ前ニ、先ヅ以テ日本ニ於テ地上權ト云フハ如何ナルモノデアルカ、此後地上權ト云フコトガ出來ルカ知レヌケレドモ、先ヅアルマイト思フガ
(栗塚報吿委員)
名ハ箇樣デナクツテモ事實アルカラ
(委員長)
若シ地上權デナケレバ無クテ宜イ、若シアツタラバダ
(松岡委員)
壓シ付ケタ樣ニ聞ヘヤセンカネ
(委員長)
松岡サンノ云フノハ地上權ト認ムベキモノカト云フノデスカ
(松岡委員)
判然地上權ト云フモノハ如何ナモノカ見當リマセン今ノ借地人トシテアルカラ明カニ地上權ト名ヲ付ケルノハ如何カト云フノデス
(南部委員)
地上權ト認メルノハ宜カロウ
(委員長)
「地上權ト認ムヘキモノハ」云々トシテ宜イカ
(南部委員)
左樣スルト「永借權ト認ムヘキモノハ」云々トシナケレバナラヌカラ
(淸岡委員)
「地上權ハ」ト云フハ如何ニモオカシイ
(南部委員)
ソレヲ云フト、占有權ト云フモ日本ニハナイカラ
(鶴田委員)
修正デ宜サソウナモノデス
(尾崎委員)
修正デ宜シイ
(委員長)
地上權ノ說キ明シハ六百八十三條ニアリマス、此通リニシテ居ラヌト、當時存在スルハ地上權トハ云ハレナイカラ、此通リノモノガナクツテ定期ノ約束アラザルモノハ法律デ支配サレナイコトニナル
(南部委員)
本統ノモノナレバ、是レ丈ケノモノハアリマシヨウ
(栗塚報吿委員)
他人ノ地面ニ家ヲ建レバ、皆地上權ト云テ宜イ
(委員長)
土地所有權ノ如ク、借リテ居ル地面ヲ所有地ノ如ク支配スルハ不當デハナイカモ知レヌ
(村田委員)
家デアリマス
(委員長)
家丈ケデスガ、土地ノ上ヘ建タ人ガ、土地ヲ持タ人ト同樣ノ支配ヲ受ケルカラ地上權デシヨウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
解釋通リノモノガナイト法律ガ適用サレヌ
(栗塚報吿委員)
裁判官ハ看做シテ認定致シマスカラ
(村田委員)
地上權ト認ムルモノト云テ宜イデハナイカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ法律デ認メルノデナイ認ムルハ裁判官ガ認ムルノデアリマス
(委員長)
我輩ノ考ヘルニ裁判官ガ困ルダロウト思フ、前ニ「テフニーシヨン」ガナケレバ宜イガ、兵隊ガ、草鞋ヲ穿イテ、股引デ竹鑓ヲ持テ居ルヲ兵隊ト見ル、今度ハ法律ノ頒布ノ當時ニ於テ存在スル地上權ハ其兵隊ガ鐵砲ヲ持テ居ルコトニナル、ソレヲ裁判官ガ見分ケナケレバナラヌ、ソレヲ矢張リ兵隊ト裁判官ガ云フノダケレドモ元ノ「テフニーシヨン」ガ草鞋ヲ穿イテ竹鑓ヲ以テ居ルノガ兵隊ノ性質デアルトナツテ居ルカラ「テフニーシヨン」ガ合ハヌダロウ、箇樣ナルモノヲ以テ愈々兵隊ト云フハ裁判官モ困ルダロウ
(栗塚報吿委員)
賃貸借權ト云フモノハナイノダカラ質屋ヘ物ヲ入レルハ、動產質ト云タガ、今ハ唯ダ質ト云テ居ル、動產質ト云フハ今迄ノ質デアリマス、不動產留置權トカ、先取特權トカ、新ラシキ名ヲ出シテモ今日爲シテ居事實ト合ウヤ否ヤ、取拾シナケレバナラヌト云フコトハ分ラヌ、事實ヲ以テ法ニ當嵌メルガ宜シイ
(松岡委員)
名ハ如何デモ宜イガ、箇樣ナルコトヲシテ居レバ斯ノ如キ名ヲ付ケルト極メタノデアリマスカラ、仕樣ガ違ウト、具合ガ惡イノデス
(鶴田委員)
之デ裁判官ニ任シテ宜シイ
(松岡委員)
然シテ仕舞ヒハ效能ガ薄クナル
(委員長)
八十三條ノ土地ノ面積ハ如何ダロウ
(栗塚報吿委員)
八十三條丈ケデ跡ハ地上權ガアレバ箇樣ナルモノモ入レル丈ケデアリマス
(松岡委員)
地上權ハ宜クナルガ、八十四條デアリマス
(栗塚報吿委員)
所有權ト云フモノハ、完全ナル所有權ヲ云フノデス、兵隊ナレバ今日鐵砲ヲ持テ居ルモノモ、往昔ノ鑓ヲ持テ居ルモノモ同ジデアリマス
(松岡委員)
何々シテ居ルモノハ兵隊ト云フト、住ンデ居ルモノハ卽チ兵隊デアリマス
(淸岡委員)
之ハ起按者ハ左樣ナル意味デハナイカト思フ
(栗塚報吿委員)
日本ノ最モ古クカラ地上權ノ行ハレテ居ルハ何故カナレバ家賃ハ高シ、又家ヲ建ルノハ輒ク出來ル又火事ノアルニモ拘ハラズ木デ造ルカラ他人ノ地面ノ上ニ建ルコトガアル自身ノ爲メデモアルカ知レヌガ日本程地上權ノ多クアル國ハナイト起案者ガ云フテ居リマス之ハ事實ガアルカラデス、詰リ他人ノ土地ノ上ヘ家ヲ建レバ完全ナル所有者デ支配シテ居ルモノガ多イト見タカラデアリマス
(淸岡委員)
專實ハアリマスガ、式ニ從ヒ賃借了終ノ申込ヲ爲サザル地上權ト云フハ何ヲ云フノデヌカ
(栗塚報吿委員)
後來ノコトヲ云フノデアリマス
(淸岡委員)
之迄ハ賃借了終デ行カナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
之ハ早速改メマスル、此間モ日間ト譯セバ宜イノデシタガ不注意デアリマシタ
(淸岡委員)
賃借ノ了終ヲ申込ト云フハ如何ニモ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
之ハ「賃借權了絡申入」ト直リマシタカラ
(委員長)
現在地上權ガアルナレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
地上權ニ似寄リノモノガアツタラバ箇樣ニスルゾヨト云フノデハ
(委員長)
賃借ト云フ如キハ人ノ今日云フ事柄ト違テ居ルハ兎モ角モ是レヨリ地上權ト云フコトガアロウカ
(栗塚報吿委員)
他人ノ所有スル土地ヘ家ヲ建テ完全ナル建築物ヲ所有スルコトノ事實ガアル以上ハ宜カロウト思ヒマス
(委員長)
家ニ付イテハ左樣ダロウガ土地ニ付テハ賃借ト、裁判官ガ見ルカモ知レヌ
(南部委員)
借地ト見ルデシヨウ
(委員長)
愈々地上權ヲ土地モ家モ共ニ見テ、地上權ト見ラレルカ如何カ
(鶴田委員)
總テ東京ノ家ノ建テタ所ハ地上權ト云フノデアリマス
(委員長)
土地ニ存在スルヤ否ヤト云フノデ確カニ認メラレナイモノハ認メラレナイ樣ニ書クガ實際ニ適合スルデアリマシヨウ、之ヲ書クニ書カレヌコトハナイケレドモ、地上權ハ皆兩方ニ固着スルカモ知レヌ
(南部委員)
左樣ニナリマスマイト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
六百三十八條ヲ適合スルナレバ宜イ、ソレデ適合シナイモノハ地上權デナイ土藏付キノ家ヲ持テ、東京市中ニ住ム者ハ或ハ一方デ地上權ハナイ、賃貸借權デアルト云フ裁判ヲ下スカモ知レヌ、其トキハ大審院ニ於テ地上權ト云フコトニナルノデアリマス
(委員長)
普通ヲスレバ地主ニ相談シナケレバナラヌトカ、或ハ他ノ人ヲ住マセルニハ地主ニ相談シナケレバナラヌトカ、何ハ地主ガスルトカ云フ樣ニナル慣習ガアツテ、是非地主ニ相談シテ示談ノ上デ成ルノダカラ、完全ナル所有權トハ云ハレヌカモ知レマセン
(栗塚報吿委員)
其所ニナルト、此法律頒布ノ當時存在スト地上權ノ見込ハナイノデス
(委員長)
私ノ見ルニハ裁判官ハ無イモノト見ルダロウ、ソレデモ宜イト云フナレバ一向構ハヌ
(栗塚報吿委員)
詰リ裁判例デ、大審院ニ於テ地上權トナレバ今日迄賃借シテ居ルハ貸借カラ生ジテ居ル、土地ノ貸借デ、地ノ上ヘ建タモノハ地上權ニナリマシヨウ
(委員長)
大審院迄來レバ分ルガ、一方ハ賃借ナリト云フ、一方ハ地上權ナリト云フコトガ全國中ニアツテモ惡ルイ
(栗塚報吿委員)
地上權ト裁判官ガ認メタルモノハトシテモ結構ナ話デス
(委員長)
此處ニ云ヒ盡シテ惡ルイト思フノハ、此處ハ法律デ認メズ政府ガ存在スルト云フハ過言ト思フ、畢竟法律ガ云フ間敷キコトヲ云フノダ
(栗塚報吿委員)
「此法頒布ノ當時ニ在テ建築物ノ」トスルノデス
(委員長)
地上權ト云フ字ヲ極メテ居ルカラ、地上權ハ何カ定メテナケレバアリ樣ガナイ、頒布後ハ誰ニ向テモ言ハレルガ頒布前ニ地上權ガアツタト云ハレルヤ否ヤ
(栗塚報吿委員)
有タト云ハレルト思ヒマス、恰モ賃借權ガアルノデ又借リテ居ル以上ハ使用モ出來、收益サセル義務トモ名ガ付カズ、又權利トモ名ガ付カズ、賃貸借ト云フ名ガナクモ、事實定メテ御座イマストキガアレバ貸借デ裁判スルモ同ジデ、此法頒布ノ當時ニ在テ、他ノ所有者ノ土地ニ屬スル建築物ガアレバ地上權トナリマスカラ、差支ナイ
(委員長)
例ヘバ山田顯義ガアルト、生レナガラ名ヲ付ケズ、十年目ニ名ガ付イタトシテ、其前九年間ニ山田顯義ヲ爲シタル事柄ニ箇樣ナルコトハ言ヘルカ
(栗塚報吿委員)
言ハレマシヨウ、假令ヘバ貴君ハ何々ヲ爲シタル人デアルト云テ居ル、八十三條ニ地上權トハ何々ノ權利ヲ云フトアリマス、故ニ貴君ノ名ヲ以テ來レバ宜シイ
(委員長)
山田顯義ノ出來タ後ハ山田顯義ガ始メテ出ルガ、其前ハ權兵衞ヤラ、八兵衞ヤラ分ラヌニ、山田顯義ガ爲シタト政府カラ言ハレルカ
(栗塚報吿委員)
私ハ申セルト思ヒマス
(委員長)
「當時某ハ何」ト云ハレルカ知レヌ
(鶴田委員)
ソレハ言ハレマヌ貴君ガ若シ名ガ替ツテ、ソレハ山田ガ爲シタルノデハナイ、權兵衞ガ爲シタノダト云テ遁ガルルカ決シテ遁ガレハシナイ
(委員長)
事ハ遁ガサヌガ、政府カラハ名ノ付キタル當時カラデナケレバ認メラレマイ
(鶴田委員)
往キマス
(淸岡委員)
ソレハ往キマセン、太政官ハ十八年ニ内閣トナツタガ是迄ノ内閣トハ云ハレナイ
(南部委員)
ソレハ組織ガ違ヒマス
(栗塚報吿委員)
内閣ハ政事ヲ總理スル所ト云フ、今度ハ從來ノ内閣ハト云フコトハ立派ニ云ヘマス
(南部委員)
然ウ云ハナケレバナラヌ
(村田委員)
之ヲ云ヒ出シテハ地役ノ所ニモ云ハナケレバナラヌカラ
(栗塚報吿委員)
此法頒布ノ當時ニ在テ他ノ所有者ニ屬スル土地ハ建築物ハ所有者ノ權利ニ關係ノモノト同ジデス
(委員長)
ソレナレバ宜イガ
(鶴田委員)
「頒布ノ當時ニアツテ第六百八十三條ニ定ムル權利ヲ有スルモノハ」ト書イテモ同ジニナル
(委員長)
全ク同ジナレバ云ヘルガ
(栗塚報吿委員)
全ク同ジト見ラレマス、地上權ハ外ニ名ノ付イタモノガ御座イマシテ、六百八十三條ノ義解ニ適セヌモノダ、ソレヲ適シタモノト見ルナレバ私モ斷乎ト主張ハ致シマセンガ、併シナガラ六百八十三條ニアリタルモノヲ、地上權ト書イタ丈ケデ所有者ノ土地ヘ完全ニ所有スル物トノ權ト書イタト、同ジデアリマス
(委員長)
到底解釋ハ同ジト見テ自分ヲ益スルモノ丈ケヲ地上權ト見レバ宜イ、眞ノ所有者ト云フモノハ別段ト解釋スレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
地上權ト譯シタハ之ヲ地借權トスレバ分リマスデシヨウ、唯ダ名ガ新ラシイカラ心配ガ出ル樣デスガ「地上權」ヲ「地借槽」トシテ宜イデシヨウ
(委員長)
定義ニ依ルカラ縱令字ハ如何樣ニ書イテアロウトモ裁判官ハ定義ニ依ラスル
(鶴田委員)
今ノ借地トハ違ウ
(尾崎委員)
委員長ガ御勘辯ニナレバ宜イ
(淸岡委員)
私モ、オカシイト思フ
(松岡委員)
火元ヲ退キマシヨウ
(委員長)
腹ガ減タ位デ退カレテハ困ルゼ
(淸岡委員)
私ハ三項ノ所ハ誠ニ困ルノデス、解釋ガ間違タカ知レヌガ、修正ノ如クデハ時期ヲ指定セザル地上權ト云フカ、時期ヲ指定セズモノハ澤山アリマシヨウ、時期ヲ指定セヌモノハ建物ト同ジク引繼グコトニナレバ案外長イコトニナツテ、大迷惑ヲ受クルモノガ出來ル
(栗塚報吿委員)
ソレハ反對スル人ハ困ルデシヨウ、東京ノ馬喰町本町ノ大店ヲ見ルニ基礎ノ修正モシ樣シ梁柱モシ樣大槪今日地上權ハ成立テ居ル、土藏ト云フ堅牢ナル物ガアツテ永世不朽ニ借リテ居ルト云フハ東京丈ケノ慣習ニシテ大阪邊ノ人家ノ稠密ノ所ノ慣習ニナルト起案者ガ六百八十八條デハ酷クト云テモ、亦一方デ反對致シマヌ、併シナガラ土地ノ所有者ノ身ニナツテ見テモ、六百八十八條ノ精神ヲ考ヘテ見ナケレバナラヌ
(淸岡委員)
貴君方ノ旨意ハ分テ居リマス、所ガ之ハ時期ヲ指定セザルニ因テ例ヘバ地所ノ所ノ所有者ガ指定セヌトキハ何時デモ之ハ取レルト云フ位ノ積リデ居ル、所ガ其指定ヲシナカツタ爲メニ法律ガ飛ビ出シテ直チニ其家ガ潰レル、地上權ハ人ニ取ラレテハ困ツタ話デアリマス
(栗塚報吿委員)
家藏ヲ建タモノヲ壞ハサルルコトヲ御考ヲ願ヒマス
(淸岡委員)
此法律ガ出タ爲メニ直グ立退ケト云フコトハアリマセンカ
(南部委員)
ソレハアリマス
(栗塚報吿委員)
「地上權了終申入レヲ爲ササル地上權ハ」デアリマスカラ
(淸岡委員)
直グ立退ケト云フ樣ナレバ此法律ガ出ナイデモ立退ク樣ニナリマシヨウ、松岡君ノ通リニスルト、其トキニ一旦捌カレテ仕舞フ精神ニナル
(栗塚報吿委員)
左樣ニナルカラ大變デス
(淸岡委員)
上ノ方ハ時期ヲ指定シテアリ、之モ時期ガ指定シテアルカラ當然止ムト云テモ、何時デモ立退クト云フノハ當然止ムト云テハ大變ダ、此項デ時期ヲ定マセントキ、此法律ガ出ナイデモ立退イテ呉レト云フコトハ出來樣、時期ノ定メガナイカラ立退ケト云ヘバ云ヘルダロウ、併シナガラ貸借上法律ガ教唆スルコトハアリマスマイ、若シ修正ノ如クスレバ時期ノ指定ノナイモノハ直チニ建物ト等シク引繼グカラ建物ハ中々容易ニ崩レナイカラ大變ニナル
(栗塚報吿委員)
修正ガ惡イノデスカ、原案ガ惡イノデスカ
(淸岡委員)
修正ガ惡イノデス
(栗塚報吿委員)
地上權ハ六百八十八條ニ從ヒ建物ト等シク引續クトアルノガ惡ルイ樣ニ聞ヘマヌ
(委員長)
淸岡サンノハ「且右ノ」ヲ入レヌト時期ヲ定メテ居ラヌモノハ、六百八十八條ニナツテ建物ヲ建テ居ル間ハ無論動カスコトガ出來ヌト云フコトニナルカラ、是迄ノ考ヘハ時期ヲ定メナイコトハ考ヘナイ、其コトハ出來ヌ樣ニナルト云フ心配デアリマシヨウ
(南部委員)
實際裁判例ヲ御覽ニナツテモ時期ヲ定メナイモノハ立退カセルト云フコトハアリマスマイ
(委員長)
相談ヅクデハ、是迄ハ無契約デアツタガ、是レカラハ契約デ年々箇樣ニヤリマシヨウ所ガ此法律ガ出レバ、法律ノ通リヤリマシヨウト云フモノガ出來樣
(栗塚報吿委員)
法律ガ智慧ヲ付ケルノハ當然デアルガ、此法律ガ出タ爲メニ一方カラ申込ンダ許リデ家藏ヲ壞ハサナケレバナラヌト云フノガ當然デアロウカ、ソレヲ目方ニ掛ケテ見マシタ所ガ時期ヲ定メテ置カヌノハ何時デモ立退カセルト云フノデハナイ、土藏ノ續キ丈ケハ貸テ居ルト云フカラ、建テ居ル、若シ立退クナレバ權利ノ比例ガ立タズ、不朽ノ地上權ヲ持テ居ルモノハ、立退カヌ積リデ家藏ヲ建テ居ル「ボアソナード」ノ考ヘデハ、一方カラ立退イテ呉レト云フ慣例デアルト思テ居ル
(委員長)
此案ハ宜クナイケレドモ、尾崎サンノ仰シヤル樣ニ御入用ノトキハ何時デモ立退クト云フノガ慣習ニナツテ居テ、裁判官ガ立退カセヌデモ左樣ナルコトガ慣例ニナツテ居ル、ソレ故ニ淸岡サンノ考ヘモ起ルカト思フ
(淸岡委員)
「ボアソナード」モ彼レ丈ケノ人デアルカラ、裁判例ヲ知ラヌト云フコトハアルマイ、箇樣ナルコトニスレバ何所ノ國ニモナイ裁判例ヲ、サセルコトハナイ
(尾崎委員)
堅牢ナ物ヲ建テサセレバ、ソレガ朽チ果テル迄ハ借ルト云フコトニ見ナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
「ボアソナード」ニ質問シマシタノハ、當時何方モ云ハナカツタガ時期ガ指定シテアレバ勿論指定シテナクツテヤツテ、ヤツタモノハ如何スルカ、賃借了終ヲ指定シタモノハ賃借ノ定メテナイ時期ヲ指定セヌモノノ内ニ小譯ガアリソウナモノダ、其モノハ或ハ云ハヌ場合ガアロウカ、ソレハ行政法デ極メタカラ宜イ、ソレカラ借リタトキハ建タト云フ考ヘガアルカラ、ソレデ申入ヲ爲シタモノト云フ場合ハ起案者ガ見テ居ラヌ、時期ガ指定シテナクツテ申入ヲ爲サヌモノハ宜イガ、爲シタモノガアツタラバト云フノデ、行政法デ極メタラ宜イト云テ居リマヌ、報吿委員デハ餘程合鮎ト申シテ居リマス
(村田委員)
ソレハ、ソレニ違ヒナイ
(栗塚報吿委員)
起案者ハ案外不注意デアリマスカラ、報吿委員カラ突込ンダノデアリマス
(村田委員)
修正デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
修正ヲ御採用願ヒマス
(委員長)
私ハ淸岡サンノ說デ云ヘバ、何レヨリモ賃借了終ノ期限ヲ定メザリシ云々ト云ハナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
三日トカ、四日トカ定メタトキハ
(委員長)
ソレモ云ハヌノデ、御入用ノ節ハ立退キマシヨウトアルガ、法律デハ無效トナルカラ此法律ガ出タラ立退カヌトナルカラ、其所ガ違ウ
(南部委員)
消滅スレバ了終スル譯デアリマス
(委員長)
一年地代ヲ拂ハヌカラト云テモ、直グ行ケルト云フコトハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
公用ノ爲メ、物ノ同部ノ罷シタトキハ止ムト六百五十七條ニモアリマス
(委員長)
不履行ハ止ムダロウガ、一ケ年地代ヲ拂ハンデ建物ヲ直グ裁判官ガ取除ケサセテ仕舞フコトハ出來マセンダロウ、故ニ淸岡サンノ意モ少シバ取テ宜カロウト思フ、現ニ東京ノ慣習ハ何時ニテモ立退キマシヨウトカ云フコトガアルカラ貸主ガ直グニト云ハズトモ、二、三年置ケバ取除カヌト思タ所ヲ、法律ガ出ルト借主ハ大變懶惰ナ奴デ平常勝手次第ノ所業ガアルト、地主カラ云フト困ル奴ガ居ルダロウ、何時カ機會ガアツタラ約束シ樣ト思テ居ル所ヘ、此法律ガ出ルト、借リ主先生ハ家ノ朽チル迄居ル、先キノ契約ガアツテモ無效ダカラ、何ト云テ來テモ、家ノ建チマシタ限リハ、法律上地主ガ地借主ヲ逐出スコトハ出來マセンコトガアロウト思フ
(栗塚報吿委員)
當事者ノ契約デ時期ヲ定ムベシデ御座イマスカラ、ソレハ效能ハ御座イマセン、當事者ノ定マリタル地上權ノ設定ハ、此法律發布ノ當時特別ノ契約ヲ以テ時期ヲ定ムベシ若シ時期ガナケレバ、引續クベシトアリマス、期限ノアツタトキハ法律ガ云ハンデモ宜イ、契約ハ當事者ノ自由デアリマスカラ、結果ハ同ジデアリマス
(松岡委員)
其疑ノ起ルノハ三個アル、一ハ期限ヲ立派ニ定メテ居ル、卽チ二項何時ニテモト云フノデス、何時ニテモガ無ケレバ全ク無期限デアル、第三ノ淸岡サンノ云フノハ全ク舞期限デハナイ、期限ヲ定メタノト、定メナイトノ中間ニ立ツモノノ捌キ方ニ關係シテ居ル
(淸岡委員)
第二カラノ論ヲ御聽キ下サイ、尾崎サンガ心配サレタノハ東京ノ慣習デ、何時ニテモトアルガ、立派ナ家ヲ建テ、明日立退ケト云フコトハ出來ナイ、何時デモト云フノハ無期限ト同一ニ看做サナケレバナラヌト云フ樣ナ所カラ來テ、立退クコトハナラヌト裁判スルト云フ論デアル
(松岡委員)
ソレハ違ツテ居ルヨ、裁判例ハ無期ノモノデハナイケレドモ、直チニト云フコトハ出來マセン、立退カントスレバ、引越料ヲ請求シ樣トナル
(淸岡委員)
何時ニテモト云ヒ、日數ノ定メガ無イカラ、卽チ定メザルモノト看做スト云フ論デス、而シテ見レバ時期ヲ定メザルモノト看テ其者ガ建タ物ト等シク引續イテ宜イモノデアリマシヨウカ、東京ノ廣キ繁昌ナル所ニ建物ヲ建テタカラト云テ、建物ト一緒ニ引續グ柄ト云フ料見ノモノ計リハアリマセン、中ニハ一時貸シテ、何時デモ立浪クト思テ、從前ノ慣行模樣ニ依テ見ルニ、五年七年位デヤツテ居ルモノデアル、所ヘ此法律ガ出テ智慧ヲ付ケ建物ト一緒ニ引續グト云フハ大變貸タ者ガ困リ頗ル困難ヲ來シマス、又借リタル者ハ法律ガ出タ爲メニ勢ヒヲ得テ來ル、良シ地代ヲ上ゲ樣トシテモ、我ハ建物ト一緒ニ等シク旧引續グト云フコトニナリ地代モ上ゲラレナイ
(栗塚報吿委員)
ソレハ別問題デアリマス
(淸岡委員)
其樣ナル苦情ガ出ル然ラバ地代ヲ引上ゲ樣トシテモ今日迄ノコトデハ容易ニ上ゲラレナイト云フコトニナツテ居ルカラ、其建物ト引續ガレルコトハドウモイカヌカラ、何トカ考ヘヲシナケレバナラヌト思フ
(栗塚報吿委員)
事實ヲ取テ箇樣ナル事實ガアルガ、之ハ如何ナル條ニ當テテ適用スルト云フコトハ御止メ下サイ、今日箇樣ナル證丈ノアリタルトキハ、只今ハ何ニ依テスルカト云フコトハ、大審院長ニ御任セ下サイ、唯其定義ヲ定メテアレバ宜イ、ソレカラ迷惑サノ秤リノ掛ケ方デス、大體七八年デ立退クト思テ建テサセタノハ一種ダガ家ノ朽チル迄ト云フモ一種デ御座イマシヨウ、默テ建タトキハ地主モ、何時デモ立退カヌト思テ建テサセルダロウカ、或ハ家ノ續ク限リ地面ヲ貸ス積リデ貸マシタロウカ、ソレハ偶々不都合ノコトモアリマシヨウガ、何方ノ不都合ガ多イカト云ヘバ、家藏ヲ壞ハシテモ此方ノ都合次第ト云ヘバ世ノ中ノ騒動ガ多イ、又契約デヤルト云フカ、ソレハ契約ハアツテモ無クツテモ同ジデアリマスカラ此條ハ御置キ下サイ
(淸岡委員)
贊成ガナイカラ止メマシヨウ
(村田委員)
「建物ト等シク引續ク」トアリマスガ、竹木ハ如何シマスカ
(栗塚報吿委員)
同ジコトデス
(村田委員)
六百八十八條ニ從フト云タラ、宜サソウナモノデス
(尾崎委員)
宜ウ御座イマセウ
(南部委員)
樹木ノ場合ハナイ
(村田委員)
有タトキハ如何シマスカ
(栗塚報吿委員)
有タトキハ八十八條デ支配スル
(淸岡委員)
竹木ハ宜カロウ
(委員長)
地上權ノ中ニ建物モ木モ竹モ這入テ居ルト見レバ分ラヌコトハナイ、修正ノ通リデ宜シウ御座イマスカ
(鶴田委員)
宜カロウ
(西委員)
修正通リデ宜イ
(委員長)
宜ケレバ修正ニ決シテ今日ハ是レデ置キマシヨウ
本條ハ報吿委員ノ修正ニ決シ他ハ原案ニ決ス
于時午後第七時閉會ス