旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第2回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案第二編物權之部第二回議事筆記
自第五百十六條至第五百三十條
(委員長)
始メマシヨウ
第五百十六條朗讀
第五百十六條 物ハ他ニ附屬セスシテ完全ナル効用ヲ爲スト否トニ從ヒ主タルアリ又從タルアリ
 例ヘハ用方ニ因ル不動物ハ本性ニ因ル不動物ノ從タリ地役ハ要役地ノ從タリ債權ノ擔保ハ其債權ノ從タリ
 主タル物ノ移付ハ其從タル物ノ移付ヲ帶フ但反對ノ明言アルトキハ此限ニ在ラス
(淸岡委員)
之ハ元ト首領地ノ從タルト御座イマスネ
(栗塚報吿委員)
ソレヲ要役地ト致シマシタ役ヲ要スル方デスカラ首領地ト云フヨリモ宜シイソウデ御座イマス、元來首領地ト云フハ初メ支配スル地ト云フ字ダカラ直譯シテ首領地ト申シタノデ御座イマセウガ却テ要役地ト申シタ方ガ宜イ、債權ノ擔保ハ御承知ノ通リ日々「ボアソナード」ガ送テヨコシマスニハ總テ擔保トカ留置權トカ先取特權トカ云フモノハ皆這入リマス、反對ノ明言アル時ハト云フハ今迄ノ保證ト違ヒ今迄ハ反對ノ證據アリト云フコト許リナノヲ殊ニ反對ノ明言アリト云フノモ意義ハ少シモ違フマイト思ヒマス、ケレドモ明言サレテアル時ハトアリマスカラ原案者ガ證據ト云フ字ヲ用イテ居リマセント證據ノ無イ時デモ證據ノ有無ニ拘ハラズ斯ウ云フ風ナ主タル物ノ移付ハ從タル物ノ移付ヲ帶ビヌトナレバ證據ト云フ字ハ□ イカラ置カヌ方ガ宜イト云フノデ譯ヲ改メマシタ
(村田委員)
例ヘバ不動產ヲ賣ルト動產ハ皆付イテ行ツテ仕舞フカラ金魚堀抔モ付イテ行ツテ仕舞フ
(尾崎委員)
明言シテ置カヌト云フ證據ガアレバ付イテ行カヌト云フノダカラ明言ガ宜イ
(村田委員)
明言ト云フト默ツテ居ルト動產ハ皆持テ行カレルカラ
(委員長)
「例ヘハ」除ケルコトニシタガ、ドウデスカ
(栗塚報吿委員)
勿々除カレマセン、物ノ區別ノ中ニハ餘程「例ヘハ」ガ御座イマスカラ「例ヘハ」ト云フコトハ原語デハ「箇樣ナルモノ」ト云フ意味デ御座イマスカラ
(渡委員)
此處ヘ入レルナレバ「故ニ」ガ宜イ
(村田委員)
「例ヘハ」モ惡ヒコトハナイ
(南部委員)
「故ニ」ト云フ字ハ用ヒテ居リマセンガ是レカラ用フルトシテハ如何デス
(委員長)
之ハ一體ノ權衡ガアロウカラ、一體ニ貫ク樣ニシタイ
(栗塚報吿委員)
ハイ
(鶴田委員)
「債權ノ從タルカ如シ」ト云フモ宜ヒ
(村田委員)
「如シ」デ行ケバ宜イ
(委員長)
「明言」ト云フ字ヲ書イテ「證據」ト云フ字ヲ書カヌ所以ヲ聞テ見テ、外ノ所ハ「反對ノ證據アルモノハ」トアルニ此處ニ「明言」ト書タハ何カ注意シテ書タニ相違ナイカラ
(栗塚報吿委員)
「若シ反對ヲ云ハレテアルナラバ」ト云フノデス
(尾崎委員)
明言デモ唯ダ牛ト馬トハ別デ御座イマスト云フテモイカン
(淸岡委員)
明言ト云フト限テアルカラ餘程狹クナルカラネ、證據ト云フト、事ヲ限ラヌカラ廣クナル
(鶴田委員)
「ボアソナード」ハ明言ノ方ガ廣イ積リデ御座イマセウ
(栗塚報吿委員)
廣イ積リデ御座イマセウ
(鶴田委員)
明言切リデハ行カヌデセウ
(渡委員)
明言ト云フハ證據ハ這入ラヌ樣ニ見ヘルガ、證據ト云フ字ノ必要アル所ニモ用ヒラルルカラ何ノ場合ニモ當テラレル樣ニナリマス
(淸岡委員)
然ウ云フ積リデ書タナラバ餘程弊ガアラウト思フ、證據ハ明言ヨリモ何處カラモ拾ヒ出シテ來ル、或ハ慣習ニ因リ裁判官ガ證據トシテ苛責ルコトガ出來ルガ明言ハ苛責ル譯ニ行カヌ、推測デ斯ウ云フ例ニ因リ慣行ニ因テ證據ニスルト云フト裁判ガ苛責ルコトガ出來マセン
(尾崎委員)
明言ガ出來ルガ、唯ダ云テモソレ丈デハ裁判官ノ働キハ付カヌ、日本ノ慣習ガアルモノヲ剥ギ取ロウトシテモアレハ許ス筈デハ御座イマセン、所有物デ云フト成程斯ウ云フ慣習ダカラ、クツ付イテ行ク物ヂヤナカロウト云フ裁判官ノ働キニ在ルカラ明言トシテ宜イ
(淸岡委員)
私ハ明言ト限テ置クト狹クナルト思フ、證據ト云フト明言モ證據其他ノコトモ證據ニナリマスカラ
(村田委員)
證據ト云フト明言ガ脫ケル樣ニナリマス、明言ノ方ガ却テ證據ヲ含ム樣ニ思ヒマス
(淸岡委員)
私ハ之レ々々聞キマシタト云フ、一方ハ云ヒマシタト云ヘバ明言ノ證據ニナルガ、一方ハ幾ラ言タト云テモ一方ガ一向決シテ承ハラヌト云フト、明言ガアツタカ無イカ分リマセン、然ウスルト明言ガ證據立ツコトハアリマセン、明言ノ證據爭ヒニナレバロデ言タ丈デハ行カヌ確乎トシタ證據ガナケレバ採ル譯ニハ行カヌ
(栗塚報吿委員)
以前ノ譯ニ「反對ノ證據アルトキ」トアルヨリモ「言ハレテナイトキ」ト譯シタ方ガ宜イ
(委員長)
原文ハドウデス
(栗塚報吿委員)
「反對ヲ言ハレテナイトキ」トアリマス之レハ唯ダ反對ノ證據アルトキト云フヨリモ意ヲ用ヒテアロウト思ヒマス
(南部委員)
此場合ニハ證據人ノ證言ガ用ヒラレルカ否ト云フノデスカ
(栗塚報吿委員)
然ウハ見ラレナイト思ヒマス前カラ言テナクツテハ行カヌゾヨト云フノガ當然ダ、ソレヲヤルニハ合意デドウニモ出來ルト云フ約束ノナイ以上ハ行カヌト云フノデス
(淸岡委員)
併シ約束ハ實際上カラ考ヘルト實ニ六ケ敷イモノデ書イテ置カヌト爭ヒノ起ラヌ時ハ宜イガ每時モ爭ヒノ起ルノハ一方ガ言ハヌト云フトキニ起ルノデスカラ
(栗塚報吿委員)
牛馬ノ價値五十圓マデハ證人ヲ以テ證據立テルコトヲ許スト、口約束デアリタトキハ五十圓ト極メタ牛馬ヲ鑑定スルニ五十圓以下ダカラ側ニ聞イテ居タ人ヲ喚ンデ聞クデト云フコトモ出來ルノデス
(鶴田委員)
然ウスルト證人ノ言葉ハ證言ニナルノデスネ
(栗塚報吿委員)
合意デドウデモナルト云フ主意デアリマス
(南部委員)
習慣ガ斯ウダト云テモソレハ行カヌト云フノデス
(委員長)
先キヘヤリマセウ
第五百十七條朗讀
第五百十七條 物ハ特定物卽チ確定物トシテ之ヲ觀定スルコトヲ得例ヘハ殊別シ卽チ定マリタル一箇ノ家一箇ノ田一箇一ノ獸ノ如シ
 或ハ數量尺度ヲ以テ定ムル量定物トシテ之ヲ觀定スルコトヲ得例ヘハ金幾圓米幾石酒幾樽ノ如シ
 或ハ增減シ得ヘキ多少類似ナル物ノ聚集トシ之ヲ觀定スルコトヲ得例ヘハ畜群書庫ノ書籍店舖ノ商品ノ如シ
 或ハ資產ノ全部又ハ一分ヲ組成スル財產ノ包括トシテ之ヲ觀定スルコトヲ得例ヘハ相續ノ總テノ移動物若クハ不動物又ハ相續ノ全部若クハ一分ノ如シ
(鶴田委員)
之ハ觀定法ヲ云タモノカ知ラヌ
(栗塚委員)
「觀定メル」ト云フ字デアリマス「物ヲ斯ウ云フ向キカラ見ラレルゾ」ト云フコトデ御座イマス、今迄物ヲ附屬物ト見ルコトモ出來タシ、動產不動產ト見ルコトモ出來タガ横合カラモ、此方カラモ、特定物ノ方カラモ見ルコトガ出來ルト云フ「インヌザーセ」ト云フノデス
(村田委員)
物ハ種々ノ見方ガアルゾト云フノデセウ
(栗塚報吿委員)
然ウデ御座イマス此ノ見方デ見ルトキハ斯ウ云フ風ニ見ヘルト云フコトデ御座イマス觀ト云フト訝リガ觀定メルト云フ字デ、日本語デ「觀ル」ト云フ意味丈ニ過ギマセン
(鶴田委員)
矢張リ「見ルコトヲ得」デ宜クハ御座イマセンカ、何ダカ鑑定人ノ如クニ見ヘル
(栗塚報吿委員)
物ヲ見ルニ特定物ト觀ルコトアリ、量定物ト觀ルコトアリ、聚集物ト見ルコトモアリ、包括ト見ルコトモアルト、四個ニ見ルコトヲ示シタノデアリマス、此數量、尺度ヲ直譯致シマスルト、目方員數、長短デ御座イマス目方、員數、長短ヲ定メルニ數量トシテ之ヲ觀ルコトヲ得ト云フコトデ御座イマス、實ハ一度修正ヲ致シマシタガ文字ノ修正デアリマスカラ格別申シマセン
(村田委員)
日本デハ書庫ノ書物讓リ受資治通鑑ガアツタトカ何トカガアツタカラ呉レロト云フトキ證據力ナケレバ出來ヌガ、斯ウ云フ極リガアレバ宜シイ
(西委員)
抵當品ヲ取タ方ノ人ガ氣ヲ付ケナケレバナラヌ愈々受出ス時アル丈ケカ取レマセン
(尾崎委員)
「特定物」トハ違ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
同ジデ御座イマス
(鶴田委員)
違テ居ル所モアリハシマセンカ、確定物デアツテ確定物デナイト云フコトガ
(栗塚報吿委員)
確定物ト云フハ一ツ物ト云フノデ繰リ返シテ云ヘバ極ツタ體ト云フノデス
(鶴田委員)
特定物トハ二ツト無ク、此レヨリ外ハ無イト云フ物デスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デゲス假令バ玻瓈ノ「コツブ」ハ幾個アルトモ此「コツプ」ト云フノデス
(西委員)
ソレデハ矢張リ確定物デス
(鶴田委員)
例ヘバ賣買ノトキ肥後米ヲ百俵賣ロウト云フト肥後米デサヘアレバ宜イガ、外ノ品デハ行カヌノデスカ
(栗塚報吿委員)
肥後米ト仙臺米ノ區別ハ特定物ニナルノデアリマス
(村田委員)
伊丹ノ酒ナレバ伊丹ノ酒デサヘアレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
肥後米ト仙臺米ト云フ物ノ區別ハ矢張リ特定物ノ區別デ、肥後米何俵トナレバ量定物トナルガ肥後米ト云ヒ俵モ數モ云ハヌトキハ特定物ニナリマス
(南部委員)
ソレハ特定物デハナイ
(栗塚報吿委員)
此ノ肥後米ト云ヘバ特定物デ御座イマス
(南部委員)
ソレハ然ウデス
(村田委員)
唯ダ肥後米ナレバ量定物デ御座イマス
(鶴田委員)
肥後米ト云テ、肥後デ出來タ米ナレバ何ノ肥後米デモ異議ヲ云フコトハ出來ヌガ、ソレナレバ確定物ダガ、モツト廣ヒノガアリハセンカ
(南部委員)
肥後米ト云ヘバ何ノ肥後米デモ宜イ之レト量定シタトキ始メテ定マルノデ、其前ニハ唯肥後米ト云テハ賣買ノ約束シテモ所有權ハ移リマセン
(栗塚報吿委員)
他ノ米ト對シテハ幾分カ特定ノ場合モアリマス
(村田委員)
元トノニハ全部又ハ一扮ト人偏ガアツタガ、之レニハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
近頃車偏ニ分ト云フ字ヲ書イテ「人力車」トシタ樣ナモノデセウ
(淸岡委員)
包括ト云フハ相續スベキ人ガアツテソレヘ遣ルトキニナツテ來ルト畢竟遺產ニ屬スル物ハ之レヲドウスル、斯ウスルト分配ヲスル物ノ場合ヲ云フノデハナイカ
(栗塚報吿委員)
分配スル物ノ場合アルニ拘ハラズ先ヅ此處ニハ相續總テノ何ト云フニ及バズ、包括シタモノデスネ、何ガ這入ツテ居ルカ譯ガ分リマセン、案外負債許リカモ知レマセヌ
(尾崎委員)
確定物ト云フハ肥後米ト云ヘバ肥後米ト確定スルコト、特定物ハ肥後米ノ中此ノ肥後米デナケレバナラヌト云フトキデアリマスカ
(南部委員)
ソレハ「人權卽チ債權」ト云タノト少シモ違ヒマセヌ
(渡委員)
大別スレバ同ジコトニ成リマス
(渡委員)
墨書ノ方ガ却テ原文ニ適ツテ居ル樣ダ
(村田委員)
元トノガ分リ易ヒ
(渡委員)
「物ハ左ノ如ク觀定スルヲ得」ノ方ガ宜イ
(南部委員)
元トノ方ガ分リ易フ御座イマスネ
(栗塚報吿委員)
成程、其方ガ宜イ樣デ御座イマスネ、諸君方ノ御說ヲ代表シテ箕作サンニ直シテ貰ヒマセウ、「左ノ如シ」トハ原文ニアリマセンカラ「物ハ觀定スルヲ得」ト致シマシタガ、前ニモ「主タル物權ハ左ノ如シ」ト云ツテアリマスカラ合ハヌコトハナイト思ヒマス
(鶴田委員)
ドウカ然ウ願ヒタイモノデスネ
(渡委員)
之デハ分リマセンカラネ
(栗塚報吿委員)
「トシテ」トヤツタ以上ハ「之ヲ觀定スルヲ得」ト書カナケレバ日本文デ語ヲ爲サヌト云フノデアリマセウ、裁判所構成法ニ例ガアリマス、何々ヲ何々トシテ一番仕舞ヒニ「トシテ」ト書イタコトガアリマス彼ノ例デ觀定スルコトヲ得トシタノデ御座イマス「量定物トシテ金幾圓」デハ日本人ニハ分ラヌカラ
(南部委員)
「或ハ」ト云フ字ガアルカラ分ルデハ御座イマセンカ
(尾崎委員)
分ルニハ分リマスガ
(鶴田委員)
「量定物」トシテ後トハ「例ヘハ」デモ宜イデハアリマセンカ
(委員長)
別ニ違ヒハナイ
(栗塚報吿委員)
「觀定スルコトヲ得」ト一々入レンデハ日本文デ語ヲ爲サヌカラデアリマセウ
(委員長)
之ハ外ノ體裁ト合ハヌト行カヌカラ之デ措キマセウ宜シケレバ先キヘ移リマセウ
第五百十八條朗讀
第五百十八條 物ハ其本性ニ因リ一回ノ使用ニテ直チニ消費スルコトヲ得ヘキモノアリ又否ラサルモノアリ〔第五百八十七條〕
 右區別ハ用收權及ヒ消費貸借ノ事項ニ付キ主トシテ之ヲ適用ス
(村田委員)
例ヘバ酒トカ油トカ云フ樣ナ物デスネ
(栗塚報吿委員)
左樣
(淸岡委員)
區別以下ハ適用スルコトヲ云タノデスカネ
(栗塚報吿委員)
之ハ實ニ要用デナイ樣デス、主トシテ之ヲ適用スルト一五フノデス
(鶴田委員)
以前ノ案ニハ之ハ御座イマセヌ
(淸岡委員)
法律ノ上ニ於テハ要ヌコトデスネ
(栗塚報吿委員)
之レハドウ云フ所デ斯ウ云フ規則ヲ用フルカト云フコトデス
(淸岡委員)
「本性」ト云フハ是迄性質タリト云テ居タヲ本性ト變ヘタハ理由ガアリマセウカ
(栗塚報吿委員)
「質」ト云フ字ハナイト云フノデ質ト云フ字ヲ使ヒマセヌ「カラリテル」ト云フ字ヲ使ツテ居ル時分ニハ「性質」ト云フ字ヲ日本語ニ現ハサナケレバナラヌコトガアル、此ノ「カラリテル」ト「ナチウル」天性ト書譯ケナケレバナラヌコトデアリマスカラ性質ト云フ字ヲ使テ仕舞譯ニ行カヌ又他ノ性質ト云フ字ヲ使ハナケレバナラヌコトガアルカラ、ソレデ書カヌコトニ致シマシタ
(淸岡委員)
「本性」ト云フ字ハ日本デハ精神ニ關係シテ使テ居ル無神經ノ物ハ「本性」トハ云ハヌ石トカ、樹トトカ云フ物ニ本性ト云フ字ハ用ヒナイ之ハ始終性質ト使テ居ルカラ斯ウ云フ所ヘ本性ト云フ字ヲ使ウト馴レタラ格別少シ議論ヲ來シハシナイカ
(栗塚報吿委員)
何故性質ト書カズ本性ト書イタカナレバ「カラリテル」ト「ナチウル」ト二ツアリマス「ナチウル」ヲ「本性」トシテ「カラリテル」ヲ「性質」ト譯シタノデス之レハ「ナチウル」ダカラ「天性」トシテ差支ナイ
(南部委員)
石ニ對シテ性質トハ云ヘヌノデス
(栗塚報吿委員)
石ハ堅イ物ト云フ語ハ「實體」ト云フ字ガ使ツテアリマス、原質、實貨ト云フテアリマス「物ハ天然ニ因リ動物タリ不動物タリ」ト云テ宜イサウデス
(鶴田委員)
人造デモ性質ガ出來ルカラ
(渡委員)
人ハ本性ニ因リト云フハドウモ
(淸岡委員)
動物ニ使ウハ宜ヒ
(栗塚報吿委員)
「ナチウル」「カラリテル」「ジフスタンス」抔ヲ一々日本語デ書キ分ケルト矢張リ譯シタ人丈ケ知テ居ル丈デス、之ハ先ヘ行クト「原質」ト云フ字ガアリマス
(委員長)
之レハ歐羅巴人ノ使フ字ト一樣ニ致シマセウ
(栗塚報吿委員)
本性トシタハ原語ノ「ナチウル」ト云フ字ヲ譯シタト御了解ヲ願ヒマス、「物ハ動產、不動產」ト云フヲ「動財、不動財」ト云フモ同一デアリマス
(委員長)
詰リ文論ニ止ルガ「天性」ト云フ字ガ漢語ノ熟字ニアルカ知ラン
(村田委員)
アリマストモ「性ハ天也」ト云フコトガアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
「天ノ命ニ從フ之ヲ性ト云フ」抔ト御座イマス
(淸岡委員)
「本性」ト云フハドウカ直シタイ
(村田委員)
金銀デニモ質ノ良イノヲ「性」ガ良イト云フトキモ此ノ「性」ノ字デスネ
(委員長)
性ガ良イト云フネ
(南部委員)
性ト云フ字ハ「生レ」ト云フ字ダカラ
(尾崎委員)
宜カロウ
(村田委員)
「性」ノ字ヲ說明シタガ六ケ敷イ、孔子サヘモ二三代モ說イテ分ラナイカラ
(箕作委員)
孔子ハ六ケ敷クツテモ法律取調委員ニハ六ケ敷クナイ
(栗塚報吿委員)
言葉ニ富デ居ル國ノ文字ヲ言葉ノ少イ國ノ字ニ譯スノダカラ無理ナコトモアリマス
(委員長)
先キヘヤリマセウ
第五百十九條朗讀
第五百十九條 物ハ當事者ノ意思ニ因リ又ハ法律ノ條例ニ因リ等シキ物ヲ以テ代フルコトヲ得ルト否トニ從ヒ代補スルコトヲ得ルモノアリ又代補スルコトヲ得サルモノアリ〔第千二百九十一條〕
 量定物及ヒ使用ニ因テ直チニ消費スル物ハ槪シテ當事者ノ意思ニ因ル代補物ト看做ス
(村田委員)
當事者ノ意思ト双方同ジクナリマスカ
(栗塚報吿委員)
同ジコトデス、之レハ多クハ契約上ノ意思デス
(鶴田委員)
齊シクト、同ジクトハ違ヒマセウ
(栗塚報吿委員)
違ヒマス
(鶴田委員)
米ノ代リニ、金ヲヤツテ宜イト云フ意味デセウネ
(南部委員)
然ウデス
(西委員)
米ノ代リニ金ハ宜イ
(村田委員)
金ノ代リニ米ハ行カヌ
(箕作委員)
米ノ代リニ金、金ノ代リニ米デ宜シイ
(栗塚報吿委員)
金サイ有レバ世ノ中ハ何デモ代補物ニナリマス
(鶴田委員)
金ガ一番代補物デアリマス
(箕作委員)
是レカラ先キノ義務相殺抔ハ大變關係ガアリマス
(委員長)
「齊シキ」ハ「同シキ」デハナイカ
(栗塚報吿委員)
「ユキバラン」デ「同ジキ」デハ御座イマセン
(鶴田委員)
代補物ト云フハ米ヲ買オウト思テ金ヲ持テ行ク、然ウシテ米ヲ持テ來ル、金ガ卽チ代補物ト、斯ウ云フノダカラシテ、此文章デハ米ガ代補物デアルト云フコトニナリヤセヌカ
(箕作委員)
南方カラ云テ居ルノデス
(村田委員)
「右區別ハ所有權」何々ト云テ宜イ樣ナモノデアリマス、然ウシタラ此條ハ代補物ノ義務相殺トカ賃借ノ所ヲ適用トシナケレバナラヌ
(箕作委員)
御尤デスガ、ソレハ報吿委員デモ承ハツタガ、然ウ書テナイ、注ニハ義務相殺及ビ貸借ニ載セテ居ルノヲ適用スルト書イテアリマスデ御座イマスカラ、一旦五百十八條ノ區別ハ主トシテ適用云々ハ削タガドウ云フ譯カ復タ蘇生ツテ來マシタ
(村田委員)
之ハドウモ無イ方ガ宜イ
(南部委員)
五百十八條ニハ何モ例ガアリマセンカラ、ヤツタノデセウ
(委員長)
「當事者」ト云フハ佛蘭西語ナレバ復稱ダカラ宜シイガ日本デハ片側ノ奴ガ自分ガ然ウ思タラ直グニ代補物ヲ持出シハセヌカ
(栗塚報吿委員)
其時ハ當事者ト云ヘバ復構ト云フ意味ガ現ハレテ來マス
(南部委員)
五百十八條ニ當事者ノ一方ト御座イマスカラ
(委員長)
ソウスレバ當事者ト云ヘバ必ラズ復稱トナルカ
(栗塚報吿委員)
復稱デ御座イマス
(委員長)
直チニ消費スルト云フハドウ云フ譯カ
(箕作委員)
之ハ一回ノ使用ニ因テ消費スルデ宜シウ御座イマセウ
(栗塚報吿委員)
之ハ「因」ノ字ハ惡イ「量定物及ヒ一回ノ使用ニテ」トシテ宜イ
(箕作委員)
御尤デ御座イマス前ノ通リニナリマスカラ直チニト云フ占チハ削除シテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
削リマセウ
(委員長)
「一回ノ使用」トシテ「直チニ」ハ削除ニ決シ先キヘヤリマセウ
第五百二十條朗讀
第五百二十條 物ハ實體上又ハ智能上分割スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ可分ノモノアリ又不可分ノモノアリ〔第千二百十七條第千二百十九條及ヒ第千二百二十一條〕
 過半ノ地役及ヒ事ヲ爲シ若クハ爲サヽル若干ノ義務ハ本性ニ因リ不可分ノモノタリ
 抵當及ヒ其他債權ノ物上擔保ハ法律ノ條例ニ因リ不可分ノモノタリ〔第二千八百十三條及ヒ第二千百十四條〕
 物ノ一分ノ給付ニテハ當事者其合意ニ於テ見込ム所ノ便益ヲ得ル能ハサルトキハ其物ハ當事者ノ意思ニ因リ不可分ノモノタリ
(南部委員)
「法律ノ條例ニ因ル」デハアリマセンカ
(箕作委員)
「因リ」デス、一番初メノ書出シガ「因」デス
(栗塚報吿委員)
報吿委員ハ修正案ヲ出シマセンデ御座イマシタガ「可分、不可分」ハ「分ツヘキ物アリ、又分ツ可ラサル物アリ」ト云フ說モアリマシタガ、初メノ一項丈ケハ「分ツヘキ物分ツ可カラサル物」ト願ヒマス後チハ「可分、不可分」デ宜イ
(箕作委員)
何所モ「分ツヘキ物」ト「分ツヘカラサル物」トスルコトハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
一項丈ケ御修正ヲ願ヒマス
(箕作委員)
ソレナレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
實ハ「得分、不得分」トヤラナケレバナラヌト云フコトデアリマシタ
(村田委員)
前ノト同ジニシタ方ガ宜イ
(南部委員)
然ウスルト、先キヘ行キ「移付スル物アリ、移付スヘカラサル物アリ」ト云フコトガアリマスナラ
(西委員)
「分ツヘキ物アリ」デ宜イデセウ
(南部委員)
「分ツヘキ物」デ宜イデセウ
(栗塚報吿委員)
「得分、不得分」トシテハドウデスカ
(箕作委員)
地役ハ十ノ八九ハ分ツ可ラザルモノデアルト云フノデセウ
(村田委員)
地役デモ隣ノ水ヲ汲ム抔ハ可分デアリマスケレドモ、地役ハ大體不可分ノモノト思テ居レバ宜イ
(箕作委員)
他人ノ地面ヲ觀下ロス抔ハ皆分ツベカラザルモノデ御座イマス
(尾崎委員)
末項ノ意味ハ如何ニ解シテ宜イカ說明ヲ請ヒマス
(南部委員)
「物ノ一分ノ給付ニテハ」云々ト云フハ例ヘバ馬ナレバ馬ヲ半分ニ割テハ當事者ガ自分ノ見込デ便益ヲ得ルコトハ出來マセンカラ不可分ノモノデアルト云フコトニナリマス
(栗塚報吿委員)
此ノ等ハ皆先キヘ行ケバ云テアリマス
(箕作委員)
アナタノ所デ十人ノ御客ヲスルニ八人前ノ物ヲ持テ來テハ、イケナイ、八人前デハ當事者ノ見込通リノ便益ヲ得ルコトヲ得ザルモノデアリマス、一體料理ハ十人ニ分ツ物ダケレドモ、大體服ヲ一揃持テ來イト云ヘバ帽ト「サーベル」モ持テ來ナケレバナラヌ、ソレヲ着物許リ持テ來タナレバ見込通リノ便益ハ得ラレナイ故ニ分ツベカラザル物ニナルノデアリマス
(松岡委員)
當事者ト云フハ義務者ノ權利ト云フコトデスカ
(西委員)
然ウデス
(委員長)
先キヘヤリマセウ
第五百二十一條朗讀
第五百二十一條 物ハ所有ニ係ルモノアリ又所有ニ係ラサルモノアリ
 所有ニ係ル物トハ私ノ資產又ハ公ノ資產ノ部分ヲ爲スモノヲ謂フ
 所有ニ係ラサル物ハ無上ノモノアリ又公共ノモノアリ 〔第五百三十七條以下〕
(栗塚報吿委員)
「公共」ノモノアリトハ太陽ノ光線ヲ云フノデアリマス、箕作サンノ前デスガ「公共」ト云フ字ハ宜イ字ガアツタラ御直シ下サイ
(箕作委員)
餘程苦ミマシタガ宜イ字ガナイカラデスガ「コンムーン」ト云フ字デカラ「公共」デ宜イトハ、躬ラモ思テハ居リマセン
(栗塚報吿委員)
「共同物揚場」抔ノ杭ニ斯ウ云フ「共」ノ字モアリマスカラ少シ嫌ヒガアリマス寧ロ所有ニ係ル物ニ見ヘマス
(箕作委員)
共嫌ヒハドウモアリマス、翻譯ハ少シ胡麻化シタ氣味デ御座イマス
(松岡委員)
所有ニアラザル物ト二ツアリマスガ
(栗塚報吿委員)
到底所有ノ出來ヌ物デアリマス
(箕作委員)
公共物ト云フ字ハオカシイカ知レヌガ、適當シタ字ガアリマセンノデス
(委員長)
「公共」ハ皆誰レモ寄テ持ツ物ト解譯スルヨリ外ハナイ
(箕作委員)
ソレデ間違フ樣ナルコトハアリマセン、空氣ノ爭ヒ物ハ起ル氣遣ヒハアリマセンカラ
(委員長)
占有權ノ所デ觀晴シノ好ヒ所ヘ境ヲサレタルガ、家ヲ建ラレルト觀晴シヲ害セラレ、其價ハ何千圓ニモ代ヘラレナイト云フ時分爭ヒガ起ロウ
(栗塚報吿委員)
ソレハ地役デ御座イマス
(松岡委員)
日本デハ水ガ一番喧嘩ノ出來易ヒ物デ御座イマセウ
(淸岡委員)
注釋ノ二十三條ニモ出テ居ルカラ宜イヂヤナイカ
(委員長)
先キヘ移リマセウ
第五百二十二條朗讀
第五百二十二條 無主ノ物トハ何人ニモ屬セヌト雖モ所有權ノ目的トナルコトヲ得ルモノヲ謂フ例ヘハ委棄シタル財產山野ノ鳥獸河海ノ魚介ノ如シ
(箕作委員)
「山野ノ鳥獸」ト云フハ翻譯ハ意譯デアリマス、「自由ニ願テ生活スル所ノ動物」トアリマスノデドウシテモ譯セナイカラ甚イ意譯デアリマス
(淸岡委員)
「無嗣ノ相續」ト云フコトヲ削リマシタカ
(栗塚報吿委員)
削リハ致シマセン
(淸岡委員)
「無嗣ノ相續」デス
(栗塚報吿委員)
ソレノ誤リダト申ス氣付キガアリマシタ何ゼナレバ五百二十六條ニ「所有者ナキ不動產ハ當然國ニ屬ス云々相續モ亦同シ」トアル然シテ見レバ無嗣デハナイ、國ニ屬セバ則チ國ガ所有者デハナイカト云ハレ、成程如何ニモ然ウダト云テ削リマシタ
(鶴田委員)
昔シノ國王ハ鷹場ヲ持テ居タガ鷹場抔ハ山野ノ鳥獸デハナイカ
(南部委員)
鷹場ハ宜サソウナモノデス
(鶴田委員)
昔シノ國王ハ三里ヤ五里ノ鷹場ヲ持テ居リマシタカラ
(栗塚報吿委員)
鷹場ハ宜イガ上ニ飛ブ雁ハ所有者ガナイ
(鶴田委員)
鷹場ノ鷹、鳩舎ノ如キ物デ鴨場ノ鴨ト同ジニナロウト思フガ「山野ノ鳥獸」ト云フト其方ヘ行クカモ知レヌ
(淸岡委員)
日光ノ御禁山ヘ入テ勝手ニ捕テ五百二十二條ニ依ルト云ヤアセヌカ
(栗塚報吿委員)
「何人ニ屬セスト雖モ所有者ノ目的ヲ得ルモノ」トアリマスカラ
(鶴田委員)
捕レバ目的ニナル
(栗塚報吿委員)
ケレドモ日光ノ山ヘ這入ツタノハ惡イノデセウ
(鶴田委員)
山ヘ這入レルノデス
(栗塚報吿委員)
山ニ這入ルノハ禁ヲ犯シタ丈ケデス
(村田委員)
圍ヒヲシテ居ル物ハ捕レヌ、併シ飛ンデ出レバ捕テ宜イ
(鶴田委員)
山野ニ居ルカラ山野ノ鳥デアルガ空ニ飛ンデ居レバ山野ノ鳥デハナイ
(委員長)
人ニ飼ハレテ居ル鳥ト飼ハレヌ鳥ト、獸類ナレバ飼テ居ルモノト飼ハヌモノトデアルカラ、山ニ居ロウガ河ニ居ロウガ構ヒバセヌ
(村田委員)
構ヘ内ニ居レバ捕レヌ
(委員長)
飽鳥デモ他ニ行テ居レバ行カヌ
(村田委員)
所有者ガ分チ居ルノデスカラ行カヌ
(委員長)
「無主ノ物」ト云テ居ルガ間違ヒナイカ、說明シニ撞着シヤセヌ
(松岡委員)
「河海」トアツテ見レバ「山野」ト書カレテ宜イガ此ノ物ハ誰ガ、捕ツテモ占有ニナリマスカ
(栗塚報吿委員)
物ヲ指シタ例丈ケデアリマス
(村田委員)
魚介ノ所ヘ海藻抔ハ這入リマセンカ
(箕作委員)
之ハ例ニ擧ゲタノデス
(栗塚報吿委員)
捕ツテ宜イカ惡イカハ行政法デ定メ、此處ハ例ヲ示シタノデスカラ之レデ宜イデセウ
(渡委員)
之デ措キマセウ
(委員長)
先キヘ行キマセウ
第五百二十三條朗讀
第五百二十三條 公共ノ物トハ所有權ハ何人ニモ屬スルコトヲ得スシテ其使用ハ總テノ人ニ屬スルモノヲ謂フ例ヘハ空氣老線大洋流水並ニ湖ノ水及ヒ圍ハサル池ノ水ノ如シ〔第七百十七條〕
(栗塚報吿委員)
此處ハ例デ御座イマスカラ「流水」丈ケニ御置キニナレバ、ソレ程宜イコトハアリマスマイ
(淸岡委員)
「流水」ト云フモ弊ガアル
(南部委員)
「大洋」デ止メテ置ケバ宜イ
(淸岡委員)
流水モ成程大變沖合ナレバ何ダガ流水ハ中々八釜シイゼ
(西委員)
八釜シクツテモ流水ハ斯ウ云フモノト云フコトハナケレバナラヌ勝手ニ使フコトハ出來マセンカラ
(淸岡委員)
勝手ニ使フノデセウ
(鶴田委員)
水ノ權ハ我ガ物トシテ爭フノデセウ
(西委員)
己レノ物ト云テ爭ヒバ出來マセン
(委員長)
水源ヲ持テ居ル奴ハドウカ知レヌ
(西委員)
我ガ物ト云フコトハ出來マセン
(鶴田委員)
町村ノ制度ニ因テハ水ヲ我ガ物ト云フコトガアル、夏ニナルト此ノ水ハ我ガ物ト云フコトニナル
(淸岡委員)
空氣、光線、我ガ流水トナル餘程惡イ
(委員長)
之レハ此處ニ例ヲ擧ゲテ慣習ニモ因ルノデス
(箕作委員)
河ニ流レテ居ル水ヲ手桶ニ一杯汲取レバ、所有者ノ所有ニナルガ、流水トシテ、所有權ハ出來ナイト、「ボアソナード」ガ說イテアリマス、又空氣デモ所有ハ得ラレナイガ呼吸シテ居ル中ハ所有デアリマス
(委員長)
然ウデ御座イマセウ
(松岡委員)
所有權ハ得ラレナイガ使用ハ所持人ニ屬スト云フ、然ウスルト我レノ田ヘ水ヲ引クト云フコトガ出來ヤアシマセンカ
(委員長)
ソレハ我レノ物ト云フコトハ云ハレナイ
(松岡委員)
使用權ハ所持人ニ屬スト云フト、使用權ヲ民法デ與ヘラレタカラ所有權ヲ得權トハ云ハヌ併シ我レノ畑ヲ田ニシテ水ヲ引コウト云フコトガ出來ハシマセンカ
(委員長)
ソレハ物ニ因テ區別シナケレバナラヌガ自分ノ田ヘ水ヲ引クト云フコトハ出來マスマイ
(村田委員)
ソレハ先キニ云テアリマス
(南部委員)
併シ流水ノコトハ云ハナクツテモ官一シイナレバ、大洋ノ所デ止メテハ如何デスカ
(栗塚報吿委員)
流水モ、湖ノ水モ、圍ハザル水モ、其水ヲ指シタ丈ケデス茲デ湖ヤ河ヲ指シタナレバ兎モ角モ其水ヲ飮ンデモ皆ンナガ改メルト云フノデアリマスカラ差支ヘアリマセン圍ハザル池トナルト八釜シクナリマス
(村田委員)
池デモ圍ヲシテ置カヌト直グニ公共ニナリマスカラネ
(栗塚報吿委員)
誰レガ行ツテモ汲メルト云フ意味デアリマセウ
(南部委員)
誰レノ所有ニモ屬セヌ池ノ水ト云フノデセウ
(箕作委員)
元トノ原案ノ通リデ宜イ、湖ノ水ハ後トカラ加ヘタ丈ケニ變デス
(村田委員)
元トノニハ空氣ト云フコトハ無カツタ樣デス
(委員長)
原書ニハアリマス
(南部委員)
併シ流水ヲ入レルト湖水モ入レ度クナリマス
(委員長)
併シ湖水デモ水ハ流レルカラ
(南部委員)
湖水ハ流水デスカ、溜テ居ルトキハ彼レヲ流水トハ云ヘ
(渡委員)
ソレカラ「湖ノ水、池」ノ水トナツタノデセウ
(栗塚報吿委員)
詰リ「河ノ水」ト云フト湖モアリ、池モアルト、段々深入リヲシテ斯ウナツタノデス
(村田委員)
日光邊ニ在ル瀧ノ水ハドウカ
(箕作委員)
アレハ流水デセウ
(栗塚報吿委員)
所有權ハ日光ノ霧降リノ瀧ニモセヨ、政府ニ屬シテ居ル、併シ使用ハ公共ニ屬シテ居リマス
(委員長)
「並ニ」カラ以下「池水」迄ヲ除テハドウデスカ
(栗塚報吿委員)
削除シテ宜イト思ヒマス
(箕作委員)
「ボアソナード」ガ後トカラ入レタ丈ヲ除テ仕舞ヘバ宜イノデス、且「例ヘハ」削ルコトニシマシタガ此處モ削リマスカ
(西委員)
削ランデ宜シイ
(委員長)
除ルコトニ極マレバ除テモ宜イ
(箕作委員)
ジヤア削リマセウ
(委員長)
「並ニ」以下「池ノ水」迄ヲ削除ニ決シテ先キヲヤリマセウ
第五百二十四條朗讀
第五百二十四條 所有ニ係ル物ニシテ各個人ニ屬セサルモノハ公有物又ハ國「デパルトマン」若クハ「コンミユヌ」ノ私有物ノ部分ヲ爲スモノナリ
 此物ノ移付及ヒ管理ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
(栗塚報吿委員)
報吿委員デ申シマスガ國「デハルトマン」「コンミユヌ」ハ矢張リ「公ノ無形人」ト直シマス
(委員長)
殊更ニ「行政法」ト書カナケレバナラヌナレバ別ダガ、是レ迄大槪「特別法」ト書イテ居ルガ民法ニ至テ「ロアスピチヤル」ト云フハドウカ
(栗塚報吿委員)
「ロアスピチヤル」ト云フ語ヲ出シタコトハ澤山アリマス
(委員長)
一樣ニ「ロアスピチヤル」ト極メレバ宜イガ
(栗塚報吿委員)
五百四條ノ著述ノ所デハ「特別法」トアリマス
(委員長)
翻譯ノ方ハ一向申分ハナイケレドモ、此處デハ、ドウカ極メナケレバナラヌ
(渡委員)
「特別法」トシテ差支ヘナイ
(委員長)
折々「ロアスピチヤル」ト云フコトガ御座イマス「特別法」ヘハ「行政法」ヲ籠メラレルガ「行政法」ノ中ヘ「特別法」ハ籠メラレナイ又兩方一緒ニナツテ居ル時ハ何ト書クカト云フコトガ起テ來ルカラ
(村田委員)
政府ニ屬シテ居ルトキハ區村町ト云フ
(箕作委員)
第一條ニ「公若クハ私ノ無形人トスレバ後トモ各個人トシナケレバナラヌガ此處デ「各個人」ト云フト「私ノ無形人」ハドウシマスカ
(栗塚報吿委員)
「各個人」ノ中ニ私ガ這入ツテ居リマス
(南部委員)
「私ノ」字ヲ入レテハドウカ
(村田委員)
私ガ脫ケテ仕舞フネ
(箕作委員)
「各個人又ハ公ノ無形人」ト云フト「私ノ無形人」ガ脫ケテ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
原案者ノ意ハ私ハ各個人ノ中ニ在ル積リデス
(箕作委員)
私モ然ウ思フガ、何ダカ言葉ガ足ラヌ樣ニ思フ
(南部委員)
「各個人若クハ私ノ無形人ニ屬セサルモノハ」ト入レテ宜イ
(栗塚報吿委員)
更ニ提出致シマス「各個人又ハ私ノ無形人ニ屬セサルモノ」ト致シマス
(箕作委員)
「私有、公有」ト云フト形容詞ニナル、併シナガラ私有ノ說明ニナラヌカラ「物」ノ字ヲ入レマシタガ、併シ穩カデナイナレバドウデモ宜シ
(南部委員)
「供通」トナサレタ所ト同ジ積リデハ御座イマセンカ
(箕作委員)
「私有、公有」トシマスト「私有ノ財產」トカ「公有ノ財產」トカ云フコトハ使ヘナクナリマスネ
(村田委員)
「物」ト云フ字ハナイ方ガ宜イカモ知レヌ
(委員長)
「行政法」ト「特別法」ト云フコトハ一抔ニシテ貰ヒマセウ、先ヘヤリマセウ
第五百二十五條朗讀
第五百二十五條 國ノ使用又ハ用益ニ供ヘタル物ハ公有物ノ部分ヲ爲ス例ヘハ左ノ如シ〔第五百三十八條〕
 第一 國領ノ海及ヒ海濱但海濱ハ春分秋分最高潮ノ到ル處ヲ以テ限ト爲ス
 第二 道路、鐵道、舟ノ通スヘク若クハ木材ノ流下スヘキ川、又ハ堀割及ヒ其床地
 第三 城塞、壘壁及ヒ其他陸海防守ノ工作物
 第四 陸海軍ノ武庫並ニ其中ニ在ル各種ノ兵器器械運輸具及ヒ軍用品
 第五 海軍ヲ構成スル軍艦、軍用ノ運送船及ヒ其他ノ船舶並ニ其附屬物
 第六 皇宮並ニ中央及ヒ地方ノ官廳ノ建物
(栗塚報吿委員)
第二ノ所ハ「舟若クハ筏ノ通スヘキ川」ト改メマシタ
(南部委員)
修正案ニ在ル五百二十五條ノ挿入ハ無論ナクナリマシタカラ左樣御承知ヲ願ヒマス
(栗塚報吿委員)
「國ノ使用又ハ用益ニ供ヘタル」ト云フハ原文ニ依テ見ルト多少意味ハ見ヘマスガ、國ノ使用ト云フハ日本デハ官用又ハ國用ニ供ヘタルト云フ意味ガ現ハレマス、日本デハ國ノ使用、用益デハ何レ丈ケノ意味ガアルカ分リ惡イカラ「國用ニ供ヘタル物」ト修正致シマス、去リトテ官用、國用ト云フ意味ガ缺ケルカト云フニ、ソレハ少シ深入リ過ギルノデ、軍艦トカ建物トカバ國用トシタイ、官用、國用ノ二個ハ使ヒ分ケルガ宜イガ原文ニモ其意味ガ明カデモナシ、日本語ニハ迷ヒヲ生ズルカラ「國用」ト改メマシタ
(鶴田委員)
「用益、國用」ハ何ダカ分ラヌ
(淸岡委員)
「國ノ使用」ト云フト何モ箇モ這入テ來ル、道路トカ何トカ云フモノハ國ノ使用ニナル、官廳トカ臺場トカバ用益ニナル
(栗塚報吿委員)
其區別ガ出來レバ重壘デス
(淸岡委員)
ドウ云フ譯デ書分ケタカト云フニ、斯ウ云フ物ハ使用トスル、斯ウ云フ物ハ用益ニスルト云フコトハ後トカラ書譯ケガ出來ルガ、國用ニ供ヘルトスルト、何デモ箇デモ國用ニナリ諸官省ノ建物モ、國用ト云フ樣ニナルト却テ區別ガ付カヌ樣ニナル
(渡委員)
日本デハ皆國用ニナルカラソレデ宜カロウデハナイカ
(箕作委員)
私モ淸岡サント御同感デスガ、區別ハ、シ惡イガ、ドウセ註ヘハ講釋ヲシナケレバナラヌガ如何デアリマスカ
(栗塚報吿委員)
判然極マレバ宜イガ
(箕作委員)
講釋ヲ付ケレバ大凡デ見ヘル、國民ノ用ユル鐵道トカ何ントカ十抱一ト束ニスレバ濟ムガ、折角原案ニアルモノデスカラ
(栗塚報吿委員)
用益ト、國用デ分カロウト思ヒマス
(箕作委員)
原案ニハ「デルビジー、ドロア、ユーザージナシヨナール」トアルノデス
(栗塚報吿委員)
原案ハ「國ノ用益」デス
(淸岡委員)
一般ノ道路トカ、海トカ、鐵道トカ、河海トカ云フモノハ卽チ實ニ使用ノ廣イモノデ、一般ニ何方カラデモ使テ行カナケレバナラヌ、之ガ國ノ使用、又ハ官廳ノ臺場ノ如キハ用益ノ小サイモノデ、誰デモ勝手ニ使フト云フ譯ニハ行カヌ、ソレヲ國用ニ供ヘタ物トシテ打込ソデ仕舞ヘバ、國用デアルカラ道路モ、河海モ、同樣ニ使テ宜イト、道理上然ウナルカラ、幾分カ同ジ國用中ニモ、用益ニ供ヘルトカ、國用一方ニ供ヘルトカ云フ差別ノアツタ方ガ宜イ
(南部委員)
御尤デスガ、併シ一、二デ區別シテアレバデスガ、區別シテナイ
(栗塚報吿委員)
用益ト、使用デ分ケレバ夫レ程結權ナコトハアリマセンガ、恐ラクハ分リマセン
(村田委員)
私抔ハアツタ方ガ宜イト思ヒマス
(箕作委員)
かつきり之レハ使用、之レハ用益トシナイ方ガ宜イト思ヒマス
(松岡委員)
私モ淸岡サンノ說デアリマスガ、今迄用益ト云フ字ガ出テ居ルヤ否ヤハ分リマセンガ、公ノ使用ト云フ意味ニナリマスノカ「國ノ使用、又ハ用益」ト云フ字ハ
(栗塚報吿委員)
「國ノ用益」デ御座イマス、日本語デ云ヘバ、國用デナイガ、官用若クハ國用ニ供ヘト思テ居レバ宜イ
(松岡委員)
國ノ使用ト云ヘバ官府デ使フモノト、日本語デ聞ヘルガ、公ノコトヲスルト、鐵道、道路ノ如キガ出テ來ルト思フガ、國ノ用益ト云フト云テ何ニ使テ居ルカト、中ヲ見レバ道路鐵道ト淸岡サンノ云フ樣ナ官府ノ持物ト人民ニ思フ者ガアロウ、依テ「國ノ使用」トスルヨリハ「公ノ使用」トシテ宜カロウ
(村田委員)
「公」ト云フ字ハ「國」ト云フ字ガアルカラ云ハレヌ
(栗塚報吿委員)
初メ報吿委員ガヤリマシタトキ使用、用益ト何ウ違フカト段々練ツテ見タガ、官廳ノ建物又ハ造船所等ハ用益卽チ官用デ、國用ハ道路等ノ物ヲ云フデハナイカト、段々緻密ニナリ、ソレハ大變宜イ、ソレナレバ寧ロ「國用又ハ公用ニ供ヘタル」ト書コウカト云タラ、ソレハ、オカシイ、穿ヲ過ギタノデ宜クナイカラト云フノデ、修正案ヲ提出シタノデ御座イマス
(箕作委員)
歐文ヲ此儘措イテ「國用」トシマスカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(委員長)
「國ノ使用」ト云フハドウカ知ラヌ國ノ用ト云フト、一般ノ人ノ利益ヲ計ル爲メニヤルノデ、一人ノ仕事ヲスル爲メニ衆人ガ共ニ使フト云フコトニハ國ノ使用トハ云ヘヌカモ知レヌ、國ノ使用ト云ヘバ總テ政府トカ、或ハ町村トカ、郡區トカ、云フガ如キモノナレバ國ノ使用ト云ヘルガ、一人ガ川ヘ筏ヲ流スト云フガ如キハ大槪自分ノ利益ノ爲メニ使ウケレドモ誰レノ物デモナイ、川ハ公用デアルカラ使用ノ區別スルトキハ「私」ノ區別モアルト云ハナケレバ合ハヌト思フガ「ユザージ」ト云フ字ハ「ナシヨナル」ト云フ字ニ掛ツテ居ラヌモノデハナイカト思フ
(箕作委員)
「ナシヨナル」ト云フ字ハ日本ノ國ト云フ字ニ當ラヌト云フ所カラ御疑ヒガ起ルノデハアリマセンカ
(委員長)
所ニ因ルト「ナシヨナル」ガ當ルガ、此所デハ一個人ガ筏ヲ流スモノハ丸ルデ這入ヌコトニナル、一個人ガ筏ヲ流ス川ハ政府ノ有デモナケレバ町村ノ有デモナイカラ
(栗塚報吿委員)
國民ト云ヘバ宜イ
(委員長)
國民ノト云ヘバ「ナシヨナル」ハ當ルガ「國民ノ使用又ハ國益ニ供ヘタル」トシテ全部ヲ貫ケルカ、然ウナラ海陸軍ニ供ヘテモ國民ダカラ
(村田委員)
國民デ宜イネ
(松岡委員)
詰リ官府ト公用トナツタラ宜イノデセウ
(委員長)
左樣
(箕作委員)
官用公用トナツタラ宜イノデス
(南部委員)
ケレドモ、官用ハ甚ダ廣イカラ
(委員長)
官用許リデナイ、私ハ一種ノ論ダケレドモ一個人ノ使ウノデモ、公ノ使ウノデモ、一樣ノ文字ヲ以テ行カレルナレバ宜イガ、出來ヌナレバ二個ニ分ケナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
國用トシタラ何事モ網羅シ樣ト思テヤリマシタ
(淸岡委員)
論ジ詰メレバ然ウナルガ、今日ノ場合デハ物ニ自カラ制限ガアツテ道路ノ如キハ誰レデモ勝手ニ使ヘルガ、臺場、軍艦、諸役所ノ建物トナレバ國用デアルカラ、誰レガ行ツテ休ンデモ咎メナイト云フコトハナイ、總テ之ヲ國用ト改メテ置クト然ウ云フ區別ガ出來ル、成程大體カラ論ズレバ自カラ人民ノ爲メニ建テ置ク官省ダカラ、公用ト云テモ宜イガ、道理上宜シクナイ
(南部委員)
國ノ用益ト書イテモ用益ト云フ字ハ國民ノ使用ノ道路ハ這入ラヌトハ決シテ見ヘマセン
(村田委員)
ソレハ這入ラヌトハ見ヘマセン
(箕作委員)
「ゼーナシヨン」ト云フ字ハ一ツ々々デナク、三千五百萬人ヲ一束ネニシタノデ、國民ト云フト一人々々ニナル、箕作ハ日本國民トハ云ヘルガ、箕作ハ「ナシヨン」トハ云ヘナイ
(委員長)
國民ト云ヘバ宜イ
(箕作委員)
ケレドモ宜イ字ガ御座イマセン
(栗塚報吿委員)
海外ニ對シテ云フトキハ内國人ヲ以テ國民トモ云ヘルガドウモ
(村田委員)
宮中、埋葬地、圖書館、博物館抔ハ例ニ出ナケレバナラヌ
(箕作委員)
牢屋、貧院兵營抔モ這入テ居タガ之ヲ削タ理由ハ此等ハ皆重大ノモノデナイ、唯例ヲ出スノグカラ、細カイモノハ出サンデ宜イ、或ハ詳細ニ出スト國民團ノ賦ヲ爲サヌモノガ這入ルト行ケヌカラ削ルト云フコトデ御座イマス
(委員長)
修正說ヲ採ルカ採ラヌカヲ決シマセウ「國用ニ供ヘタル」トスルカ原案ノ通リニシマスカ
(淸岡委員)
第六ノ「皇宮」ヲ國用ニ供ヘタルト直接ニ云フハ甚ダ慮ルベキコトデアロウト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
ソンナラ國ノ用益ハ如何デ御座イマスカ尙ホ慮ル所ガ御座イマス
(淸岡委員)
ソレハ別ノ問題トシテ、皇宮ト云フコトハ削テ置キ度イト思フ「皇宮」ノ字ヲ茲ニ持テ來テ、道路トカ、臺場トカ云フ物ト一緒ニ引込ムハドウモ嫌ウ、ソレハ成程道理カラ云ヘバ然ウ云フ譯ニモナルカ知レヌガ、今日ノ場合ニ於テ皇宮ト云フ物ハ卽チ國ノ使用國ノ用益ナリト云フハ、ドウモ何方工合ガ惡イカラ削ラレルナレバ削テ置キタイ
(鶴田委員)
淸岡サンノ說ハ宜シイ、天子樣ノ使用物デナイト云フコトハドウモ不都合デス
(栗塚報吿委員)
只今淸岡サンノ御說ハ國用使用ト云フニ拘ハラザル議論ト思ヒマス
(淸岡委員)
然ウデス
(栗塚報吿委員)
第六ノ「皇宮」ノ字ヲ削ル論ナレバ、別デ御座イマスカラ先ヅ、國用、國ノ用益ニ改メタカラ修正說ニ御決シヲ願ヒマス
(淸岡委員)
然ウ云フ内心ガアリマスカラ「公」ヲ「國用」ト云ハズ下ノ物ト幾分カ段階ヲ付ケテ道路、官廳ハ自カラ使用上ニ就テ用方モ違フカラ斯ウ云フ場合ハ成丈ケ原則カラ云ヘバ然ウ云フ道理ニモナロウガ實際カラ云ヘバごつちやごつちやニシテハ行カヌカラ成ル丈ケ別ニナル樣ニシタラ宜カロウ、然ウスレバ國用ヨリハ國ノ使用、用益ト別ニシタ方ガ宜イ、道路、鐵道ノ如キ國民一般ノ使用ニシテ用益ハ卽チ砲臺トカ、軍艦トカ云フ物デ人民ガ直チニ取テ使用スルコトハ出來マセン、故ニ區別ヲ付ケレバ宜イト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
果シテ「國ノ使用國ノ用益」ト云テ日本語デ區別シ得ラルルナレバ原案ノ儘デ宜イト思ヒマスガ、然ルニ國ノ使用、國ノ用益ト書イテハ其區別ハ得ラレナイト思タカラ修正シマシタ
(淸岡委員)
成程之丈ケデハ分リマスマイガ、然ウシタラ宜イヂヤナイカ、殊更ニ書譯ケタノデハナイ、意味ガアルカラデセウ
(松岡委員)
「用益」ト云フ字ハ前ニモアツテ免許ヲ得タノデスカ
(箕作委員)
未ダ始メデ御座イマス
(松岡委員)
「用益」ト云フ字ハ普通アルノデ御座イマスカネ
(栗塚報吿委員)
「用益」ト云フハ國民ノ徵兵ノ如キコトガ這入テ居リマス徵兵ニ取ラルルハ國ノ用益ニ取ラルルト云フ意味デ御座イマス
(南部委員)
穩カナラヌデセウ
(村田委員)
初メノ項ハ說ガ二ツニ岐レテ居リマスカラ決ヲ御採リナサツテハ如何デス
(委員長)
松岡サン、斯ウ云フ字ハ六ケ敷イカラ字ヲ定メルコトハ翻譯局ヘ任セテアルカラ、若シ文字ノ論ナレバ翻譯局ヘ行テ此字ヨリハ此ノ字ガ宜イヂヤナイカト、御氣付キガアル樣ニシタイ
(箕作委員)
宜イ字ガアレバ御說ニ從ヒマスルカラ何卒宜イ字ガアレバ御提出ヲ願ヒマス
(委員長)
西サンハドウデス
(西委員)
原案デ宜イ
(松岡委員)
原案デ宜イ
(村田委員)
原安不デ宜イ
(委員長)
原案多數ニ付原案ニ決シテ先キヘ行キマセウ
(南部委員)
「春分、秋分」ト云フ字ハ削テハ如何デスカ之ハ薩摩モ、北海道モ、春分、秋分ニハ必ラズ一緒ニ潮ガ高イト云フコトハナイ、要スルニ春分秋分ト云フコトハ必要デナケレバ、此四字ハ削除シテハ如何デスカ
(村田委員)
大贊成デス、實ハオカシイノデ御座イマス
(栗塚報吿委員)
之ハ農商務省ノ人ニ間合セテ、春分秋分ニハ最モ高潮カト云フコトヲ確カメタイ
(委員長)
春分、秋分ニハ高イニハ違ヒナイ、併シ何所デモ高イト云フコトハナイガ、大槪高イ樣ニナツテ居ル
(箕作委員)
之ハ削テモ矢張リ春分、秋分トナリマス
(南部委員)
之ハ削ラヌト云フ御說ガ出マスレバ提出ハ致シマセン
(委員長)
間違ウ氣遣ヒバ御座イマセンカラ措キマセウ
(淸岡委員)
第二ニ「舟ノ通スヘキ川」トアリマスガ、佛蘭西邊ニハ一定ノ川ガアツテ之ハ舟ノ通ズベキ川ト云フ定リガアルガ日本ニハ定メモナイ樣ダガ、舟ノ通ズベキ川ト云テ置テ差支ヘナイモノデ御座イマセウカ
(委員長)
追付ケ出來マセウ、今内務省デ調ベテ居ル、舟筏ノ通ズベキ川ト、通ズ可ラザル川トデ、土木費ノ負擔ヲ極メルノデ、ソコサニ之ガナイト困ルカラアツテ差支ナイ
(松岡委員)
筏ト舟ノ通ズル川ニ私有物ハ恐ラクハナイデセウ
(委員長)
私有物ハナイガ公右物トナルト、川上カラ川下マデ負擔ヲサセル或ハ稅マデ負擔スル樣ニナル
(淸岡委員)
併シソレガ定マラスト困リマセウ
(委員長)
今日ノ制度ハ一體山ノ中デ川ニ關係ノナイ者ニ川普請ノ錢ヲ出サセテ居ル、ソレ等ヲ改メル爲メデス
(南部委員)
國ノ使用、用益ニ供シタル物ノ例ヲ擧ゲタラ之デ宜カロウト思ヒマス
(箕作委員)
「例ヘハ」ヲ削ルハト云フハ宜イガ「部分ヲ爲ス左ノ如シ」デハ分ラヌ、「ツルソン」トアルノダカラ「其物左ノ如シ」デス
(栗塚報吿委員)
「其物左ノ如シデ」宜イ
(松岡委員)
床地ト云フハ何デス
(栗塚報吿委員)
下底デ御座イマス
(松岡委員)
川水ガ流レテ舟ガ通ズル隅田川ヘ出來タ床地ヲ云フノデスネ
(栗塚報吿委員)
大井川ノ如キハ水ガ澗レテ居ルガ水ノ流間ハ床地デ御座イマス
(松岡委員)
宜敷ウ御座イマス分リマシタ
(鶴田委員)
玉川抔ハ床地ニ畑ガアリマスネ
(栗塚報吿委員)
ソレハ七百三十七條以下ニ定メテアリマス
(淸岡委員)
「及ヒ其他ハ」要リマスカ
(栗塚報吿委員)
始終要リマス
(松岡委員)
工作物ハ鐵砲玉ヤ何カヲ持ヘル所デスカ
(栗塚報吿委員)
臺場ノ類デセウ
(淸岡委員)
第六ノ「皇宮」ハ削テ戴キタイ、之ハ一種特別ニシタイ
(渡委員)
ケレドモ此處ハ私有物ト分ケル所デアリマスカラ、之ヲ削ルト反對ノ公有ニ在ラザル物ハ私有トナルカラ、却テ淸岡サンノ目的ニ反シハシマセンカ
(淸岡委員)
天皇陛下ノ物トシテ宜イダロウ
(渡委員)
ソレハ却テ淸岡サンノ精神ニ反シハシナイカ
(村田委員)
然ウスルト天子樣モ稅ヲ梯ハナケレバナラヌ
(淸岡委員)
六ケ敷イモノデアロウガ、併シ今日ノ現況カラ云フト總テ皇宮抔ハ別ニナツテ居ル
(委員長)
別ニナツテハ居リマセン
(栗塚報吿委員)
私有ダカラ、地役ノ義務モ遵奉シナケレバナラズ稅モ梯ハナケレバナラヌ
(委員長)
天子樣ノ私有物ハ人民ノ私有物ト同ジデアリマス
(淸岡委員)
結果ハ同ジデスガ
(委員長)
日本デハ斯ウ云フヨリ外ハナイ、何所デモ然ウデスガ、日本國民ノ首宰タル天子樣ノ御在デナサル所ハ官廳モ同樣デアルカラ、公有物ノ外ニ在テハ濟マスコトデス
(淸岡委員)
然ウスルト國ノ使用用益ニ供ヘタル物トナリマスカ
(委員長)
然ウセヌト不都合デス
(淸岡委員)
諸官省ト同樣ニシナケレバナラヌト云フコトナレバ是非モナイガ、諸官省ト云テモ大小モアリマス、ケレドモ、總テ人民ノ爲メニ用益ニナルモノトハ一種特別ノ方ガ宜イト思フ
(委員長)
皇宮ハ國民ノ爲メニ在ルノデ、皇室ノ爲メニ在ルノデハアリマセン
(南部委員)
之ガ無イト、天子樣ハ國ノ君主ト云フコトガナクナツテ仕舞フ
(栗塚報吿委員)
天皇陛下ノ御住居ノ建物ト云フ譯デス、其建物ハ何ニ屬スカナレバ、則チ公有ニ屬スト云フノデアリマス
(松岡委員)
地面モ有ルノデセウ
(栗塚報吿委員)
併シ此處デハ建物デ宜イ
(尾崎委員)
宜カリソウナモノダ
(委員長)
之ヲ除イテ私有物ニナツテハ大變デス
(淸岡委員)
皇宮ニ附屬シタ離宮モ此場合ニ這入リマスカ
(委員長)
離宮ハ別デス
(栗塚報吿委員)
ソレハ行政法デ極メナケレバナラヌ
(渡委員)
原文ハ復稱ニ書テアリマスガ、ドウ云フ譯デスカ
(栗塚報吿委員)
實ハ内閣ト書キタイノデ主上ガ政事ヲ御執リナサル所ト書キタイノデス
(箕作委員)
離宮ハ這入リマセウ
(委員長)
ソレハ這入ルガ公ノ役ニ立タヌ物ハ這入ラヌ
(淸岡委員)
然ウ云フ範圍ヲ狹クスルト芝ノ離宮ノ如キハ何ウナリマスカ
(委員長)
芝ノ離宮ハ各國ノ公使モ國王モ來ルカラ必要ダ
(渡委員)
一體離宮ノ論ハ無要デ御座イマセウ
(尾崎委員)
箱根山ノ避暑ノ如キモアルカラソレハ今論ズル所デハナイ
(委員長)
總テ世ノ中ノ事ヲ網羅スルノダカラ
(淸岡委員)
世ノ中ノコトヲ網羅スルト云テモ天子樣ハ別デアルカラ法律デ網羅シナケレバナラヌト云フコトハナイ
(委員長)
天子樣デモ民法ノ中ヘ網羅シナケレバナラヌ、下乞弓ニ至ル迄モ民法ノ支配ヲ受ケナケレバナラヌ、取除ケヲスベキトキニハ取除ケヲシテ斯ウ云フ所ニハ取除ケハシナイ
(淸岡委員)
ソレナレバ刑法モ天子ノ罪ヲ同ジニシナケレバナラヌ(委員長)刑法ハ別デス
(栗塚報吿委員)
此處デ公有トシテ置テ天皇陛下ノ全權ヲ缺ケバ御尤モデアリマスガ、然ウデナイカラ
(南部委員)
天子樣ガ政事ヲ御執リナサル所ハ公ト見ナケレバナラン
(箕作委員)
先キノコトヲ考ヘルト、今迄ハ天子樣ハ大層ダガ、民法ガ出來ルト各國ノ振合ニナラヌト行カヌノデ御座イマスネ
(委員長)
人事ノ方デハ取除ケヲシナケレバナラン
(淸岡委員)
民法ニ取除ケナケレバナラヌコトハ他ニモアリマスカラ之レモ取除ケタラ宜クハナイカト思ヒマスガ、國ノ使用、用益ニ供ヘタルモノトシ「皇宮」ハ用益ニ供ヘタ物ト云フ譯ニナルト、幾ンド人民ガ勝手ニ供ヘタモノノ樣ニナツテ來ル嫌ヒガアリハスマイカ、日本ノ天子樣ハ理論カラ云フト、種々ナコトモアルガ、日本ノ天子樣ハ特別ノ者デアルカラ、範圍ノ内ニ入レナイト云フコトニシテ宜カロウト思ヒマス
(委員長)
然ウスルト却テ天子樣ノ御爲メニナラヌト云フノデス
(淸岡委員)
然ウナツテハ大變デス
(委員長)
天子樣ノ御爲メニ人民カラ持ヘテ上ゲナケレバナラヌノダカラ皇宮モ同樣公ノ物ト離ルルコトハ出來マセン
(栗塚報吿委員)
公私有ノ產財デ區別ナサルベキ物デナイ、卽チ國民ノ租稅デ普請シナケレバナラヌモノデアリマス
(淸岡委員)
ソレハ租稅ノ立方デ御座イマスガ、例ヘバ天子樣ノ歳計ノ上ニ於テ宮内省ト云フモノガ、百萬圓ナレバ百萬圓ヲ議院デ議シテ奉レト云フコトニスルト、ソレハ憲法ガ立タヌカラ分リマセヌガ、決シテ議院抔ノ增滅ノ議論ヲ容レラレナイ樣ニナルカ其處ニ至ルト天子樣ノ今日經濟ハ國民カラ奉ラナケレバナラヌハ分テ居ルガ、其額ハ人民ガ定メテ奉ル樣ニスルカ、或ハ決シテ人民ガ喙ヲ容レラレナイ樣ニナルカ、此ノ旨意ニ因ルト天子樣ノ御經濟ハ素ヨリ人民ガ供ヘザルヲ得ン、因テ國會ニ於テ議セラルルハ當然デアロウ、トナルト之ヲ百萬圓トシテモ議院ノ都合ニ依テハ或ハ五十萬圓ニナルコトモアロウ
(委員長)
天乎樣ノ御入川ヲ缺ク樣ナ國會ハ出來マセン、是レ丈ケハ是非皇室ヲ保存スルニ必要ダカラナケレバナラヌト極メルガ、御入川ヲ缺クコトハ出來ヌ樣ニナリマス、其金ハ誰レガ出スカナレバ悉ク人民カラ上ゲナケレバナラヌ、人民カラ奉レバ則チ公有物デアリマス、ソレデ天子樣ガ御貯蓄ナサレテ、田地ヤ出ヲ御持チニナレバ天子樣ノ所有物ダカラ、人民ト同ジク租稅モ御拂ヒナサラナケレバナラヌト別ニ規典ノ樣ナモノガ出來、夫レニ依テ極メルカラ民法ノ支配ヲ御受ケナサルハ人民モ天子樣モ同ジニナラナケレバナラヌ、故ニ公有物トナルハ當然デアリマス
(淸岡委員)
天子樣ノ御經濟ハ決シテ增減スルコトハ出來ナイ、諸官省ノ定額ト違テ一定シテ置クベキハ宜ウ御座イマセウ、然ウナツテ來ルト、都テ天子樣ガ幾ンド御贅澤ナ鴨場ヲ持ヘルトカ何ゾ拵ヘル榮耀ナレバ格別ダケレドモ、其他ハ特別ニシテモ不相當ナコトハアルマイト思フ
(委員長)
金ニシテモ限リナク使ウコトハ出來ナイ、限リヲ付ケルノハ人民カラ是丈ケノモノハ天子樣ガ御職掌ヲ盡スニ必要デアルカラ出シテ上ゲナケレバナラヌ、皇室ハ必要デアルカラ拵ヘテ上ゲナケレバナラヌ恰度役所ハ人民ヲ支配スル代リニ人民ガ建テナケレバナラヌト同ジデアリマス
(淸岡委員)
諸君ガ宜イトナレバ強テハ中シマセン
(委員長)
ソレデハ之レヲ措テ食事ヲヤリマセウ
(委員長)
次ギヲヤリマセウ
第五百二十六條朗讀
第五百二十六條 公ノ無形人カ各個人ト同一ナル名義ニテ有スル物ニシテ金錢ニ見積ルヲ得ル收入ヲ生スヘキモノハ此無形人ノ私有物ノ部分ヲ爲ス例ヘハ國有ノ海潟森林牧場ノ類ノ如シ
 所有者ナキ不動物ハ當然國ニ屬ス相續人ナクシテ死セシ者ノ相續モ亦同シ〔第五百三十九條及ヒ第七百十三條〕
 遺失物及ヒ漂流物ノ所有權ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス〔第七百十七條〕
(箕作委員)
修正ガ御座イマスカ
(南部委員)
御座イマセン
(淸岡委員)
「相續人ナクシテ死セシ者ノ相續モ亦同シ」ト云フハ嫁モナクシテ死ンダナレバ之ヲ酷ニ適用シテ行クト隨分苛イネ
(箕作委員)
親類モ、子モ、孫モ何モナイ者デ御座イマス
(村田委員)
コンナ者ハ滅多ニ出ル者デナイ
(鶴田委員)
「各個人ト同一ナル名義ニテ」ト云フト之ハ名義ニテ所持スル者ガアルカラ書イタノデスカ
(箕作委員)
左樣デス
(鶴田委員)
各個人ト同一ノ名義ニ非ラズシテ私有物ハ御座イマセンカ
(箕作委員)
ソレハ御座イマセン
(鶴田委員)
各個人ノ持ツタト同ジ稅モ所得稅モ納メナケレバナラヌカ
(箕作委員)
ソレハ稅デモ何デモ納メナケレバナラヌ
(鶴田委員)
假令バ富士ノ山ノ如キハ
(箕作委員)
公ノ無形人ハ同一ノ名義デナイ者ハ前ノ公有ニ屬スカラ、私有物デ居ナガラ同一ノ名義ト、然ウデナイモノト、二ツニ分ルコトハナイト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
公ノ無形人ハ各個人ト同一ノ名義デ有スルト、又同一ナラザル名義デ有スル者トハ、公有公ノ無形人ノ部分ト云フ二ツハ御座イマセン
(箕作委員)
私有ト云フ說キ明シニ過ギナイト思ヒマス
(鶴田委員)
然ウスルト稅ヲ拂フモノナレバ共有物デモ稅ヲ拂ハナケレバナラヌ
(村田委員)
收入ガ有レバ拂ハナケレバナラヌ
(箕作委員)
稅ノコトハ行政法デ定マルノデ私有公有、丈デ、國ノ私有ハ稅ヲ出サヌト定マレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
官府当ア取扱ヒマスル郵便物ハ外國デハ或ハ國西班牙ヲ除クノ外皆無稅デ御座イマスガ、田本デハ官府ノ物デモ郵便稅ヲ拂ヒマスルノデ彼云フモノデモ立テ方一ツデ稅ヲ拂フモノモアリ拂ハヌモノモアリマス
(淸岡委員)
府縣トカ云フモノナレバ拂ヒマスマイガ、郡村ノ共有トカ公有トカバ拂ハナケレバナラヌデセウ
(栗塚報吿委員)
併シ拂ツテモ地方稅ハ拂ウガ協議費ハ拂ハヌトカ云フコトモアリマセウ
(箕作委員)
富士ノ山ハ國ノ私有ダケレドモ寓士ノ出カラ稅ヲ取ルコトハナイ稅ノコトハ別デス之ハ公有カ私有カナレバ私布デ御座イマセウ、何方カナレバ國ノ私有デ御座イマスケレドモ、富士ノ山ハ稅ヲ拂フコトハナイ、拂下ゲヲ願ヘバ出來ルノデセウ
(鶴田委員)
天子樣デモ御領地丈ケハ稅ヲ拂ハナケレバナラヌト云ヘバ之モ拂ハナケレバナラヌ
(箕作委員)
稅ノコトハ別デ御座イマス公有私有ニ係ルコトハ御座イマセン、栗塚サン、削タ儘デ宜イ樣ウデス
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(松岡委員)
三字ヲ削ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣
(淸岡委員)
中ノ項デ「所有者ナキ不動產ハ國ニ屬ス相續ナクシテ死セシ者ノ相續モ亦同シ」ト云フハ之ハ不動產許リニ係ル樣ニ聞ヘマスルガ、之ハ動產モ皆這入ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
皆這入リマス
(淸岡委員)
之デ宜ウ御座イマセウカ
(箕作委員)
相續ハ動產、不動產モ併セテアル財產ヲ托シタモノデ「共通相續」ト云フ、其積リデス
(松岡委員)
相續ト云フ二字ハ遺產デハアリマセンカ
(箕作委員)
遺產デ御座イマス
(栗塚報吿委員)
意味ハ全ク遺產デ御座イマス
(松岡委員)
相續法ト云フモノハ何レ一定センナラヌガ、現行ノ日本ノ樣ニ正當ノ相續人ガ一旦相續シテ、ソレカラ他ニ對シテ義務ガ生ズルガ、英吉利ヤ獨逸ノ樣ニ人ガ死ンダラ其財產ニ對スル權利者ニ廣吿シテ、而シテ相續人ガ始メテ極ツテ來ルト云フ相續法ガ大變關係シテ來マシテ、此處ニ響キガ出テ來ヤウト思フ、比處デ「相續モ」ト云テ、相續スルコトガ極リマスト、死者ニ對スル權利者ハ其時ニ出ナケレバ權ヲ失テ仕舞フカ、又後トカラ出テモ實施期限ノアル間ハ政府ヲ相手取テ出訴スルコトヲ許ス樣ニナルガ相續人ナクシテ死ンダ者ノ物權ハ遺ツテ居テ、權利者ガ出テ來レバ政府ニ係リマセウ
(栗塚報吿委員)
誰デモ相續者トナレバ相續ノ義務ヲ盡サナケレバナラヌ、然ラバ相續法ガナイニ如何ニシテ出來ルカナレバ、之ハ佛蘭西流義ニ係ルカラ誰レデモ相續者ニナレバ相續者ノ義務ヲ盡サナケレバナラヌ
(鶴田委員)
スレバ政府ガ被吿ニナラナケレバナラヌカ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(西委員)
權利者ニモナルノデセウ
(栗塚報吿委員)
左樣デス
(箕作委員)
併シ此處デ云タノハ遺產ト云タニ相違ナイ、不動產ト云フ物ハ當然國ニ屬ス、相續人ナクシテ死ンダ者ノ不動產モ亦同ジ、國ニ屬スト云フノデアリマス
(松岡委員)
單純ナ物デアルト、財產ト云フコトニナツタ方ガ宜イト思フガ
(箕作委員)
之ハ「シユクセツシヨン」ト云フノデアリマス或ハ遺財トモヤリ、或ハ相續トモヤリ、區々ニナツテ日本字デ貫ク樣ナ字ガアリマセンカラ「シユリセツシヨン」ト云フ字ハ何處迄モ相續ト譯スト云フコトデアリマス
(栗塚報吿委員)
意味ヲ譯セバ遺產デアリマス、然ウナレバ遺產ト書クカ、然ウスルト遺產ノナイ處ハドウカ、ソレハ甚ダ困ルト云フノデ、此會議デ御修正ニナルハ別ダガ、翻譯ノ方ハ「シユクセツシヨン」ト云フ字ガアレバ、意味ハ遺產ト譯シテモ相續ト云フ字ニシマシタ
(松岡委員)
此處デハ相續ト書イテ置クト物ヲ政府ニ屬スル方ガ主ニナラズシテ、相續人ナクシテ死ンダ、者ノ相續ハ政府ガスルト、上ノ語ハ國ニ屬スル今ノデナイ樣ニ聞ヘルカト思フ
(栗塚報吿委員)
國ニ屬ス「相續モ亦」トアリマスカラ差支ヘアリマセン
(松岡委員)
相續ト云フ字ハ日本人ノ目カラ見レバオカシイ
(栗塚報吿委員)
「相續ハ働キヲ指シ、及ビ目的トナルモノヲ指ス」ト云フ佛蘭西語ガアツテ、日本ニハ相續ニ働キ字ガナイカラ、翻譯者ハ何時モ相續ハ物ヲ指シテ居ル、目的物ト云フモノニシテ居リマス
(箕作委員)
此處ノミナラズ「發開シタル」云々モ然ウデス
(松岡委員)
日本語デハ相續ト云フコトハ相續物トハ示シ惡イト思フニ相續人ナクシテ死セシ者ノ相續ト云フト目的物ハ出テ來マセン
(委員長)
其處ハ目ヲ閉ジテ考ヘナケレバナラヌ、相續ハ何カナレバ、何レ字書ガ出來マスガ、此ノ相續ハ死ンダ人ノ跡ニ遺ツタ品物ヂヤト見ナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
甚イ御不安心サヘナケレバ翻譯者ガ專斷デ此處ハ斯ウデアロウト云テヤレバ出來ヌコトハナイガ、隨分ソレハ報吿委員中デ異論ノ起タトキハ何方ニ意味ガアルカト、一々確カメテ行クト樂ダガサモナケレバ餘程六ケ敷イト思ヒマス
(箕作委員)
無理ニ極メタノダカラ、翻譯モ相續ハ遺產ノコトト簡單ニ云フハ不適當ナルハ、我々モ知テ居ルガ、思ヒ切テヤツテ居ルノデ御座イマス
(栗塚報吿委員)
無論其意味デ御座イマス、日本字デハ斯ウ書イタ方ガ宜イト知テモ、ソレヲヤルト我儘ガ出ルト云フノデ詰リ原案者ノ奴隷ノ筆デ書クノデアリマス
(松岡委員)
私ハ意味サヘ覺ヘテ居レバ字ハ讀メテモ讀メンデモ諸君方ニ任シテ置キマセウガ、實ニ法律字書デモ出來ンデハ大變ナ事ガ起ルノデスネ
(栗塚報吿委員)
「シユクセツシヨン」ト云フ我儘ナ字ヲ入レルヨリハ、大審院ノ人逹ガ云フ「遺留財產」ト見タラ宜イデセウ
(委員長)
適用シテ行ケバ分ルデセウ、先キヘヤリマセウ
第五百二十七條朗讀
第五百二十七條 物ハ私ノ所有權又ハ私ノ債權ノ目的ト爲スコトヲ得ルト否トニ從ヒ又所有者カ其物ヲ合意ノ目的ト爲スコトヲ得ルト否トニ從ヒ通易スルコトヲ得ルモノアリ又通易スルコトヲ得サルモノアリ〔第百二十八條〕
 發開セサル相續、爵位、勳章、官職、文武ノ恩給ノ如キ公ノ秩序ノ爲メ法律ニテ通易ヲ禁シタル物及ヒ公有ノ財產ハ通易スルコトヲ得サルモノタリ
(南部委員)
修正ガ一ツ御座イマス、原案ハ同ジコトヲ澤山續ケテ書イテアリマスガ五百三十條ヘ持テ行ツテ「文武ノ恩給」ト云フ字ヲ入レマシタ故ニ、從テ兩方ニ出テハ却テ惡イト云フ積リデ以テ此方ヲ除キマシタ
(松岡委員)
修正ハ至極宜シウ御座イマセウ
(淸岡委員)
修正ハ御尤モトモ思フガ、併シ強チニ重複トモ云ハレマスマイト思フ心持ガスル其理由デ五百二十七條ハ御差措キニナツタ方ガ宜クハナイカト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
五百三十條ニ參ツテ「國ニ對スル年金權」ト云フ代リニ「文武ノ恩給」ト入レテ本條ノヲ削リマシタハ文字ニ乏シイ國デアルカラ一ツモノヲ擔キ出スト云フ嫌ヒガアリマスカラ
(淸岡委員)
五百三十條ハ場合ガ違ウト思ヒマスカラ二ツニナツテモ宜カロウト思ヒマス、二十七條ハ通易ノ出來ルト云フコトヲ差示スノデアリマス、五百三十條ノ所ハ差押ヘニ付テノ條デアリマス故場合ガ違フカラ、強チ重複デハアリマスマイト思ヒマス、併シ削テモ分ラナイコトハナイ
(栗塚報吿委員)
勿論重複ト云フコトハアリマセン
(鶴田委員)
「通易」ト云フハ融通ト云フコトデスカ
(箕作委員)
融通デモナイ、通易トハ言葉ヲ換ヘテ云フト「各個人ガ自分ニ自由ニ處分スルコトノ出來ル」ト云フコトデ御座イマス
(栗塚報吿委員)
原語ヲ直譯スルト「商業物」デ、商ヒノ範圍内ニ在ルノデス
(箕作委員)
然ウ云フ字ダケレドモ「ボアソナード」ハ「各個人ノ自由ニ處分ノ出來ル」ト云フ處ニ使テ居ル已ニ八百二十五條ニモ使ウテ居リマス
(松岡委員)
草案ニ成丈ちつと用フルガ宜シカロウト書イテアル、詰リ自由ニ處分ノ出來ルト否ヤト云フコトヲ示ス處デスネ
(栗塚報吿委員)
日本語デ平タク云フト「賣買ノ出來ル物ト、出來ヌ物」ト云フノデス
(箕作委員)
五百三十條ニ入レナケレバ此處ニハアル方ガ宜イ
(尾崎委員)
先ヅ此處ハ除ケルナレバ無ウテモ宜イ
(村田委員)
先キヘ行ツテ入レルナレバ此處ハ無クナツテ宜イ
(箕作委員)
先キガ淋シイカラ先キヘ入レルト云フノデセウ
(南部委員)
淋シイノミナラズ法律ノ許ヲ受ケテヤツタ場合ガアリマス
(淸岡委員)
ケレドモ最初云フ通リアツテ差支ハナイ
(松岡委員)
ドウセ例ヲ擧ゲタ話シダカラ、三ツ、四ツモアレバ「文武ノ恩給」ヲ削テモ施政上ニ關係ヲ持タヌカラ言葉ハ翻譯者ニ任セルガ滿足スルト思フ
(箕作委員)
三十條ヘ入レルナレバ除テモ宜イ
(委員長)
「文武ノ恩給」ハ削除ノ方ガ多數デスカラ削除ニ決シテ次ギニ
第五百二十八條朗讀
第五百二十八條 物ニ移付スルコトヲ得ルモノアリ又移付スルコトヲ得サルモノアリ
 所有權ヨリ支分シタル後ノ使用權若クハ住居權、要役地ヨリ引離セルモノト看做シタル地役並ニ政府ノ與ヘタル開礦ノ特許及ヒ其他ノ特權若クハ專占權ハ槪シテ通易スルコトヲ得ルモノナリト雖モ移付スルコトヲ得サルモノタリ〔第千五百五十四條及ヒ第千五百九十八條〕
 其他法律ニテ移付ヲ禁セサル物又ハ人意ヲ以テ之ヲ禁スルコトヲ法律上允許スル場合ニ於テ之ヲ禁セサル物ハ移付スルコトヲ得ルモノタリ
(南部委員)
地役ハ引離セルト云フノハ双方ノ間ニ彼方ヘ地役ヲ設ケ此方ヘ設ケテ通行スルコトヲ双方ノ間ニ極メルコトガ出來ルト云フコトデス
(尾崎委員)
要役地ヨリ引離ルレバ地役ハ要セヌト云フ場合デスカ
(委員長)
道路抔ハ賣買ガ出來ヌカラ、ソレサニ引離スト云フハ賣買シテ仕舞フコトハ出來マセヌト云フノデス
(松岡委員)
註ヲ見タ樣ニ講釋ヲ入レタカラ、多少分リ惡イノデセウ
(箕作委員)
地役ヲ要役地ヨリ引離スト看做スモ移付スルコトハ出來マセント云フノデ御座イマス
(栗塚報吿委員)
隣リノ水ヲ汲ンデ通易スルコトハ出來ルガ他ノ人ニ移付スルコトハ出來ナイ、是レ等ハ地役ノ所ヲ御覽ニナレバ分リマス
(箕作委員)
通易スルヲ得ル物ガ公益ノ目的デアレバ地役ヲ通易スルヲ得ルモノデ、ケレドモ其要役地カラ引離シテ特許ノモノト看做シテモ移付ハ出來マセン
(村田委員)
使用權モ同ジデ御座イマセウ
(栗塚報吿委員)
專占權ノコトハ諸君方ニ御考ヘハアリマセンカ
(淸岡委員)
「專賣權」ガ「專占權」ト同ジニナツタノハ至極宜カロウト思ヒマス、之ハ今日、我國デ云フ專賣權ナレバ專賣權ガ宜イガ然ウデナケレバ專占權ガ宜イ
(箕作委員)
今日我國ニ在ルノハ移付スルコトノ出來ルモノデアリマスガ之ハ彼云フモノデナイ
(淸岡委員)
スレバ「專占權」ノ方ガ分リ易クナツテ居ル
(箕作委員)
一例ヲ擧レバ共同運輸會社トカ郵船會社トカ云フモノガアツテ日本海ヲ航海スルト云フ專占權ヲ以テ居ル其所デ政府ト約定シテ保護金ヲ貰ウトカシテ政府ノ郵便物ハ無賃デ載セルコトガ出來ル、ソレハ通易スルコトハ出來ルガ移付スルコトハ出來マセン併シ之レハ特權ニ當ルカ專占權ニ當ルカ判然トハ致シマセン
(淸岡委員)
「特權」ト「專占權」ノ區別ハ
(箕作委員)
其區別ハ私ニハ殆ンド分リマセン
(淸岡委員)
專占權卽チ特權デアリマセウ
(栗塚報吿委員)
「プリビジール」ハ特權デ「モノボール」ノ「モノ」ハ專「ボール」ハ賣デ三菱ガ郵便物ヲ運送スル權モ「モノボール」卽チ專賣ト譯シテ宜イカト思タガ西洋デ誤テ居ルカラソレヲ傳ヘルト云フ譯ハアリマセン
(箕作委員)
如何ナルモノガ專占權ダカ其區別ハ分リマセン
(村田委員)
何トカ區別ガ付テ居ナイト、尋ネラレテモ困リマスネ
(栗塚報吿委員)
原文ハ「特權卽チ專賣」ト云フ意味デアリマス
(村田委員)
「特權若クハ專占」ト書クト宜イ
(南部委員)
原文ニ然ウアルカネ、ソレナレバ「特權卽チ專占權」トシテ宜イ
(箕作委員)
使ヒ所ガ違ウノデセウ、共同運輸會社ガ郵便物ヲ運ブノハ「特權」デ「專賣」デハナイ、御用逹ガ筆、墨、炭、薪、ヲ諸官省ヘ納メルト云フハ「專占權」デス、ケレドモ判然トシタ區別ハドウモ分リマセン
(松岡委員)
「移付」ト云フノハ義解デモ出テ居リマセウカ
(栗塚報吿委員)
「讓リ渡ス」ト云フ意味デス、自分ノ權利ヲ他ノ人ニ移スト云フ、ソレハ金ヲ取テニモセヨ、取ラヌニモセヨデス
(松岡委員)
通易ハ金ヲ取テ物ヲ遣リ、金ヲ取ラズニ物ヲヤルノデアリマセウカ、其區別ハ、ドウ付マセウ
(栗塚報吿委員)
他人ニ權利ヲ移スコトハ出來ナイ
(南部委員)
政府ハ特許ヲ與ヘルコトハ出來ルガ併シ他人ニ移スコトハ出來ナイト云フノデス
(松岡委員)
一體開礦ノ特許ヲ得タ人權ハ通易スルコトガ出來ルデアロウ
(南部委員)
ソレハ出來ヌ、政府カラ特許ヲ與ヘルコトハ出來、所有權ヲ處分シテ人ニヤルコトハ出來ルガ、貰ウモノハ他ニモノニ讓リ渡スコトハ出來ヌ
(尾崎委員)
通易ハ二人ニ渉ルトキ、移付ハ三人ニ渉ルトキト、斯ウ見レバ宜イ
(松岡委員)
開礦ノ特許ト云フヲ、上カラヤルナレバ他ノ權利ヲ政府ガヤルト槪シテ云フコトニハ及バヌ答デ、早ク云フト通易スルト云フコトハ政府ガシテ居ルトハ見ヘナイ、特許ヲ得タ人ハ、右ヘハ出來ルガ左ヘハ出來ヌトシカ讀メヌ
(箕作委員)
「ボアソナード」ノ老婆心カモ知レヌガ一寸見ルト此ノ條ト前ノ條ガアレバ通易スルヲ得ザルモノモアレバ移付スルコトモ得ザルモノデアロウト思フガ然ウデナイ、通易スルモノデモ移付スルコトノ出來ルコトガアルカラト云フ、移付ト通易ノ區別ヲ判然ナラシムル老婆心ト思フ
(松岡委員)
相對ノ物許リ列ヘタ解釋ナレバ輒イガ、政府カラ與ヘタ特權ヲ以テ通易スルト云フト解釋ハ六ケ敷イ
(箕作委員)
政府デモ、國ト人トノ違ヒ丈デ同ジコトダロウト思ヒマス
(松岡委員)
ソレハ違ヒマセウ
(箕作委員)
政府カラ與ヘタ物デモ爵位、動章抔ハ通易ハ出來ナイ
(委員長)
政府カラ與ヘタ物ヲ通易スルト云フノデハアリマセン、政府ノ特許ヲ得タモノハ通易スルコトガ出來ル
(鶴田委員)
私ガ政府カラ貰ツタ物ヲ貴君ニ通スルコトガ出來マセウカ
(委員長)
双方ノ間ニ合意サヘアレバ出來マス
(箕作委員)
通易スルコトヲ得ルト云フノハ外ノ人ニヤルコトハ出來マセン
(委員長)
移付スルコトハ出來ヌガ、合意ノ目的トスルコトハ出來ル
(箕作委員)
例ヘバ政府カラ開礦ノ特許ヲ得テ居リマシテ、ソレヲ尾崎サンニ渡スコトガ出來マスカ
(委員長)
賣ルコトハ出來ヌガ相談ヅクデ、私ノ貰テ居ル物ヲ尾崎サンガ引受ケテヤレバ、請負見タ樣ニナロウ
(箕作委員)
開礦ノ特許ト云フモノヲ得テ、政府ト私トノ間ニ金ヲ出スナリ何ナリシテ、政府ト箕作トノ合意ノ特許ダカラ出來ルガ、前ノ爵位、動章ハ通易スルコトハ出來ナイ、併シ開礦ノ特許ハ二人ノ間契約ノ目的ニナルガ、ケレドモ尾崎サンニ移付スルコトハ出來マセン
(松岡委員)
政府ガ礦山ノコトヲ許スカ、或ハ板權免許、發明品ノ免許ヲ與ヘルコトハ通易ヲ與ヘルノデ、之ハ畢竟保護ノ點デアリマスカラ、政府ト所有者ノ契約トスルノハ如何デスカ
(箕作委員)
吾妻橋ノ鐵橋ヲ架ケルニ大倉組ガ政府ノ特別ヲ受ケタノモ、矢張リ其權ハ通易デアツテ、移付スベカラザルモノデアリマス
(栗塚報吿委員)
通易スルト云フノハ金ヲ取テ賣ルコトノ出來ルモノデ、人ニ移スコトハ出來ナイトスレバ輒ク分リマス、併シ實際ノ効能ハ生ゼヌコトガアロウト考ヘマス
(委員長)
所有權カラ岐レテ、使用權ヤ、住居權ヤ、地役ト云フ樣ニ見ヘルガ
(松岡委員)
御講釋ヲ聽クト、意味丈ハ分リマシタガ、文字ノ上カラ云フト、政府ノ與ヘタル何々ト云フハ、過去ニナツテ居ルモノト見ヘルガ、文字ハドウデモ宜イナレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
「通易物ナリ」ト云ヘバ分リマセウ
(南部委員)
箕作サン、之ハ「通易物ナリト雖モ」トシテハ如何デセウ
(箕作委員)
ソレハ宜シウ御座イマセウ
(尾崎委員)
其方ガ宜イ
(淸岡委員)
之ハ住居權ト、使用權ト云フモノデセウ
(栗塚報吿委員)
然ウデス、何ゼト云フニ「人權、物權其モノ」ト云フ「其モノ」ヲ削リマシタカラ
(松岡委員)
少シバ宜イケレドモ未ダ分ラヌ
(淸岡委員)
餘リ宜クハナイ樣ニ見ヘル
(松岡委員)
通易ト云フノハ二人ノ間デ、甲、乙、丙ト三人ニナルト其事ハ解釋ガナクツテモ宜ウ御座イマスカ
(栗塚報吿委員)
大槪宜シウ御座イマス
(松岡委員)
賣買ト云ヒ、讓渡ト云ヒ、日本デハ第三ノ人ニ關係ハ御座イマセンゾ、讓渡、賣渡ハ何時モ甲乙ノ間ニ用ユル言葉デ始メテ免許ヲ得タ見世ガ出來テモ、其移付ハ第三ノ人迄關係スルト云フコトガ分リマセウカ
(栗塚報吿委員)
人民ノ權利ヲ移スニ當テハ、三人デモ、四人デモ、權利ヲ移ス方ハ廣ヒ方ガ宜イ、重モニ權利ノ讓渡スハ民法上デ債主權ヲ人ニ讓ル場合ハ讓渡ト云フ字ヲ使テ居ル、其讓渡ト區別スル爲メ移付ト云フ字ヲ用ヒルノデ御座イマス、今度ハ讓渡ヨリ一層緻密ノ移付ト云フ字ヲ使フノデ御座イマス
(松岡委員)
移付ト云フハ既得ノ權利ヲ他人ニ移スト云フコトニナリマシタカ
(栗塚報吿委員)
然ウデス
(松岡委員)
其所デ疑ヒマス、凡ソ法律ニ義解ヲ入レルト、入レナイトハ大問題デ御座イマスガ、法律ニ義解ヲ委シク入レル先例ニナツテ居リマスカ
(栗塚報吿委員)
法律ニ義解ヲ加ヘルハ惡イケレドモ斯ノ如キコトハ云ハナケレバナラヌ「財產ハ權利ナリ」トハ云ヒタクナイケレドモ必要トナツタトキハ云フト云フノデアリマス
(松岡委員)
其大問題ハ既定ノコトデアリマスカラ云ヒマセンガ、已ニ義解ヲ加ヘルコトニナツタ以上ハ箇樣ナ移付ト云フハ耳新シイ文字デ、新見世ノ字ハ義解ヲ入レテ「既得ノ權利ヲ移スヲ移付ト云フ」ト加ヘタ方ガ宜イ、然ウデナイト普通ノ意味ニ解釋スルハ當然ト云ハナケレバナラヌ當然ニ解釋スルト混淆シテ解釋ガ六ケ敷クハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ翻譯者ノ責メデ御座イマセウガ、起案者ノ責メカト云フニ起案者ハ知テ書イタ丈ハ義解ヲ寫シ出シテ入レ、其他「物ニ移付スルモノアリ移付スルコトヲ得サルモノアリ」ト云フモ、矢張リ義解デ、物ノ移付ト云フ字ハ新シイケレドモ「物ハ其本性ニ因リ一回ノ使用ニ於テ消費スヘキ物アリ又ハ消費スヘカラサルモノアリ」ト云フ條抔モ「消費」ノ義解ヲ附スルト同ジデ御座イマス
(松岡委員)
分リマシタ、實ニ其通リ移付ト云フコトハ既得ノモノニ限ルト致シマスト槪シテト云フ解釋ハ大變邪魔ニナリハシマセンカ
(栗塚報吿委員)
移付ト云フ字ハ分リ惡イカラト云テ、事柄迄分リ惡イト云フハ恰モ初メ動產ト云フ字ガ分ランデ動產ニ「遷移」ト云フ字ヲ付ケタガ、遷移ト云フ字ガ分ランデ、又ソレニ註ヲ付ケテ未ダ分ラヌト云フ、際限ガアリマセンカラ移付ハ移付ナリトナツテ御置キヲ願ヒマス
(松岡委員)
ソレハ分リマシタガ移付ノ解釋ハ
(栗塚報吿委員)
移付ノ解釋ハ今箕作サンノ御氣付キデ御座イマスガ、實ハ報吿委員デ直スコトハ卽チ松岡サンノ仰シヤル義解ニナラヌコトガ生ジテ之ヲ改メマスガ、二項ノ「法律ニテ移付ヲ禁セサルモノ」ト云フ移付ヲ讓渡ト云フコトニ願ヒマス
(箕作委員)
何ゼ移付セザルコトヲ得ザルモノニ解釋ヲ入レヌカト云フニ、移付スルコトノ出來ルモノガ世間ニ多イカラ、其方ノ解釋ヲ付ケレバ分ルト云フノデ、移付スルコトヲ得ザルモノハ入レナクテモ分ルト云フノデ、箇樣ニ致シマシタ
(栗塚報吿委員)
次ギノ條ニ移付致シマセウカ
(委員長)
次ギヲヤリマセウ
第五百二十九條朗讀
第五百二十九條 物ハ法律ニ定メタル條件ヲ具備スル占有ニ因リ得取スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ時効ニ係ルコトヲ得ルモノアリ又之ニ係ルコトヲ得サルモノアリ〔第千五百六十條第千五百六十一條及ヒ第二千二百二十六條〕
(松岡委員)
意味ニ於テハ疑ヒハ御座イマセンナ
(委員長)
宜シケレバ次ギヲヤリマセウ
第五百三十條朗讀
第五百三十條 物ハ其所有者ノ債權者カ其代價ヲ以テ辨濟ヲ得ル爲メ強賣ヲ請求スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ差押フルコトヲ得ルモノアリ又差押フルコトヲ得サルモノアリ
 通易スルコトヲ得サル物、移付スルコトヲ得サル物及ヒ其他法律若クハ人ノ處分ニテ差押ヲ禁シタル物ハ差押フルコトヲ得サル物タリ例ヘハ國ニ對スル年金權及ヒ恩惠ノ設定ニ因リ差押フヘカラスト定メタル終身ノ年金權若クハ養料ノ如シ〔佛訴訟法第五百八十一條第五百八十二條、第五百九十二條及ヒ第五百九十三條〕
(南部委員)
之レニハ修正ヲ提出シテ御座イマス
(淸岡委員)
「文武ノ恩給」デハオカシイカラ「文武官」トシタラ宜サソウナモノダ
(栗塚報吿委員)
「文官、武官ノ恩給ハ」ガ宜シウ御座イマセウ
(鶴田委員)
若シ官デナクシテ恩給ヲ受ケル者ガアリハセンカ
(委員長)
役目ヲシテ居テ死ンダ者ノ妻子ニ呉レルノト、ソレカラ然ウデナシニ官ハナクシテ務メヲ一時スル爲メニ死ンダ者ニ遣ルト云フコトガアルト「官」ノ字ガアルト困ル
(村田委員)
「文武ノ恩給」デ分ルコトハ分ル
(栗塚報吿委員)
私ノ方デハ「官」ノ字ハ入レテモ入レヌデモ、何方デモ差支ヘナイ
(松岡委員)
修正案ノ通リデ宜シイ
(箕作委員)
「強賣」ト云フト、無理ニ賣ルト云フ、押賣リニ見ヘルソウデ御座イマスガ、「バントホルセー」ト云フ字デ否ヤデモ張イテ賣ラセルト云フ字ヲ用ヒマシタ
(南部委員)
強イテ賣ルノダカラ「強賣」デ御座イマセウ
(栗塚報吿委員)
唯ダ「公賣」ト御讀ミニナラヌ樣ニ願ヒマス
(松岡委員)
言葉ノ通シ易ヒ方ガ宜ウ御座イマセウ
(栗塚報吿委員)
併シ可分物、不可分物、動產不動產ト云フ字ガ使テアリマスカラ一槪ニハ申サレマセンガ
(松岡委員)
御氣付キノ所結構デ御座イマセウ
(委員長)
人ノ處分ニテ差押ヘルコトヲ禁ズルト云フコトハドウデ御座イマセウカ
(箕作委員)
法律ニ鍋、釜、職業ノ機具抔ハ必要デ御座イマセウ外ニ禁ジタルハ要□ ヲ禁ジタルノデアリマス
(栗塚報吿委員)
夫婦ノ婚姻契約ノ中ニ女房ノ財產ハ差押ヘルコトハ出來マセン、ソレヲ「ノテール」ノ前デ書キ分ケテ置クノデ、嫁ニ來タトキノ財產ハ押ヘルコトハ出來ヌト廣吿スルト、第三者ガ亭主ノ財產ハ之レ丈ケダ之レヨリ外ハ女房ノ財產ダト云フコトヲ知テ居ルカラ女房ノ物ハ抵當ニ取ラヌト云フノデス
(箕作委員)
法律ガ自ラ禁ジタノデハナイ
(松岡委員)
然ウスルト公證ヲ經タモノニ限ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
然ウデス
(箕作委員)
法律デ禁ジタモノハ文武ノ恩給デ御座イマセウ
(委員長)
ドウシテモ法律ト云フ字ガ頭カラ冠ツテ居ラヌ
(栗塚報吿委員)
何レ他ノ法律デ出來マセウ
(委員長)
矢鱈無性ニ借金ヲシテ之レハ家内ノ品ダ云ハレルト困ル
(淸岡委員)
「畢生」ト云フコトヲ「終身」トシタノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣
(松岡委員)
土臺、必要カラ起ル法律ダカラコンナコトハ分リハセヌ
(栗塚報吿委員)
總テ人事編デ定マルト思ヒマス
(箕作委員)
「ボアソナード」ハ國ニ對スル年金ハ差押ベカラザルモノト、日本ハ公債證書モ差押フベカラザルモノト云フテ居ル
(委員長)
他ニ異論ガ無ケレバ報吿委員ノ修正ヲ容レテ今日ハ是デ置キマセウ