旧民法・法例(明治23年)

法律取調委員会 民法草案議事筆記 第1回

参考原資料

備考

  • 未校正のテキストデータです.
民法草案物權ノ部第一回議事筆記
自第五百一條至第五百十五條
(委員長)
民法草案第二編五百一條ヨリ始メマセウ
第五百一條朗讀
民法草案
第二編 財產
前置條例 財產及ヒ物ノ區別
第五百一條 財產ハ各個人若クハ社團又ハ國「デパルトマン」若クハ「コンミユヌ」又ハ公設所ノ資產ヲ組成スル權利ナリ
 此權利ニ二種アリ物權及ヒ人權卽チ債權是ナリ
(栗塚報吿委員)
修正案ヲ提出致シマシタ
(淸岡委員)
「デハルトマン」「コンミユヌ」抔ト云フハ如何ナル譯デ入レマシタカ
(箕作委員)
「ボアソナード」ガ入レタカラ其儘ヲ譯シタノデ御座イマスガ譯シ樣ガナイカラデ、日本文ニスレバ府、縣、郡、區、町、村トカ云フノデアリマスガ日本文ニ當テ方ガナイノデ其儘置キマシタカラ何トナク宜シク委員諸君ノ評議ノ上、報吿委員ノ修正ナリ何ナリ御決メヲ願ヒマス、又社團ト云フ字ハ會社デモ何デモ人間ノ集ツテ居ルモノヲ廣ク云ヒマシタノデアリマス
(淸岡委員)
組合トハ違ヒマスカ
(箕作委員)
組合ト商法會社、其中會社ト名付ケラレナイ共算商業組合ト云フモノモアリマスガ彼レハ組合ハ商業上ノ語デ使ヒ來ツタモノデスカラ彼レヲ變ヘル譯ニハ往カヌ故此ノ方ヲ變ヘナケレバナラヌ商法ノ方ヲ組合トシテ、此ノ方ヲ變ヘマシタ、原語ガ違ヒマスカラ、報吿委員ノ修正ナレバ十東一トカラゲデ、差支ヘハナイノデス
(鶴田委員)
物ノ區別ハ物件デハイケマセンカ
(栗塚報吿委員)
「件」ノ字ハ御座イマセン翻譯ノ方デハ「物」ト云フ字一字デ濟マスト云フコトニシマシタ
(鶴田委員)
是レヨリ先キニハ「物件」ト云フ字ハ御座イマセンカ
(栗塚報吿委員)
先キニハ御座イマセン、併シ物トアレバ「件」ノ字モ這入ツテ居ルモノトナルト「ボアソナード」ガ申シマシタ
(箕作委員)
「物件」ト云フ字ハ止ヲ得ナイトキハ使ヒマスケレドモ物權、人權ト權利ノ權ノ字ト音ガ混同シテ音ノ不都合モアリマス
(淸岡委員)
公設所ト云フノハ原文ニモ御座イマスガ、之レハ國トカ「デハルトマン」トカ云フモノノ外デスカ
(栗塚報吿委員)
病院、訓盲唖院、貧院トカ云フモノヲ皆今日迄ハ公舎ト譯シテアリマス
(淸岡委員)
ソレハ公私ノ無形人ノ中ヘ這入リソウナモノダ
(栗塚報吿委員)
報吿委員中ニモ其論ガアツタカラ申シマスガ、公私ノ無形人ト原案ニハ揭ゲマセンガ實ハ一遍書マシタノデ夫レヲ又削テ此ノ通リ社團「デハルトマン」「コンミユヌ」ト書イテ呉レト申シテ一旦ハ「及ヒ其他ノ無形人」ト云フコトニシマシタ、ソレガ又此度ビ更ニ向ウカラ申シ來テ「無形人」ト云フ字ハ入レルナト云テ來マシタ何ゼ無形人ヲ入レテ呉レルナト云テ來タカト我々仲間デ考ヘテ見マシタ所ガ、突然條ノ初メニ「無形人」ト云フ字ヲ書クノモ嫌忌ダ餘リ廣イ字ダト云フ尤モ第一編ノ方デ人事編ノ方デ「無形人」ト云フ語ガ拵テアルニモセヨ、此處ニドウモ無形人ト云フノハ穩カナラヌ、果シテ原案者ガ削テ來タノモ其意ヂヤアナイカト云フ說モアリマシタ、之モ御參考マデニ申上テ置キマス
(渡委員)
第一編ニ「無形人」ト云フコトガアレバ突然面出シヲスル譯デモアリマスマイ
(箕作委員)
私ハ「無形人」デモ頓着シマセンガ「財產ハ權利ナリ」ト云フコトハ奇妙奇天列デアリマス之レハ今迄御論ハアリマセンガ引込マセルノデハアリマセンカ
(南部委員)
五百一條カラ初メル樣ニナツテ五百條ハ未ダ本統ノ草案ニハナリマセンガ已ニ無形人ト云フ字ハ使ツテアルノデ、今突然デハナイ前ヲ承ケテ來タノデスカラ差支ナイ
(淸岡委員)
「無形人」ト云フハオカシイコトハアリマセン
(渡委員)
「財產ハ權利ナリ」ト云フノハドウ云フ御考ヘデアリマスカ
(箕作委員)
餘リ妙ナ字デアリマスカラ申シタノデス
(村田委員)
併シ之ハ此ノ主意デ貫ヒテ仕舞ヒマデ出來テ居リマセウ
(箕作委員)
固トヨリ貫ク考ヘデスガ、第一何所ノ國ニモ無イコトヲ出スノダカラ、貫クニハ違ヒナイガ、ソンナラト云テ必ラズ何所モ斯ウトハ御受合ニナリ兼マス「ロジツク」ニ合ヒマスカ合ヒマセンカバ保證シ難イ
(栗塚報吿委員)
報吿委員丈ケノ調ベニ因リマスレバ此先キ四十條ニ參リマセン前ニ「財產ハ權利ナリ及ヒ權利ノ目的ナリ」ト云フ意味ヲ含ダ條ガアリマスカラ三回目位ニハ此ノ御議場ノ問題ニモナロウト云フ考ヘデ居リマシタ、併シ此所デハ已ニ「財產ハ權利ナリ」ト云フコトデ三十條邊リ迄ハ貫テ居リマス三十條ノ先キハ或ハ「財產ハ權利ノ目的タル物ナリ」トアツテ家ヲ指シテモ財產馬一頭ヲ指シテモ財產道具ヲ指シテモ財產ナリト云フ、ソレニシテモ「財產ハ權利ナルノミナラス財產ハ權利ノ目的ナル物ナリ」ト云フ意味ヲ含ンダ所モアリマス、始終單純ノ物ハ財產デナイト云フコトハ云ハナイデ居ルカト申セバ然ウモ參リマセンコトモ先キヘ至テ分リマス、去リ連「財產ハ權利ナリ」ト云フ原則ニハ響キハアリマセン
(南部委員)
併シ財產ハ權利デナイト云テ反對ニ出ル理由ハ六ケ敷イデセウ
(箕作委員)
併シ斯ウ云フコトハドウ云フ譯カバ存ジマセンガ斯ウ云フ高尙ナル法律ノ空論ノ道理見タ樣ナ言ヲ今日活用スル法律ノ明文ニ揭ゲルハ何所ノ國ニモナイ、奇妙ナモノガ出來ルト云フ感覺ガアリマス
(今村報吿委員)
一寸申シマスガ「財產ハ權利ナリ」ト云フハ「ボアソナード」モ佛蘭西ノ法ニモ書テナイ、併シ之レハ古イ說デ只法律ノ成文法ニ出タノハ「ボアソナード」ガ初メデ御座イマスカラソレデ自慢ヲシマス「ボアソナード」ガ各個人若クハ無形人ノ財產ヲ流通スル權利ハ唯ダノ權利デハナイ例ヘバ政治上ノ權利ハ財產デナイト「ボアソナード」モ云フ、併シ歐羅巴人デハ斯ウ云フ說ヲ爲ス者ハソレモ財產ノ一ツデアルト云ヒマス財產ヲ廣クシテ第一自由權ハ財產ノ第一着ニ居ルモノデ、ソレカラ段々權利ガ出テ來ル、財產ハ何カナレバ各個人ノ自由權ガ財產ノ初メダト說ク人モアルケレドモ「ボアソナード」ハソレヲ狹バメ來テ、成程民法ノ制定ハソレデモ宜ウ御座イマセウ、所デ此問モ商法ニ就テ論ガアツタ商號抔ハ法律デ定メレバ矢張リ權利デ私ガ今村屋ト唱フレバ他ノ者ハ之ヲ冒スコトハ出來マセン權利デ然ウ云フモノモ此中ニ這入テ來ルノデアリマス、併シソレヂヤア財產ハ何デアルカト問ヘバ、權利ト答ヘルヨリ外ニ仕方ガナイ、物ナリトハ答ヘラレナイ、物ト人間ト直接ニ關係ヲ含ムデハナイ、物ト人間トノ關係ハ何カナレバ法律上權利ガアルカラデアリマス
(三好委員)
ケレドモ其權ガアルカラ物ヲ持テ居ラレルガ、物ガ無クテ唯ダ權利許リノ時ハ財產トハ云ヘヌノデセウ
(今村報吿委員)
人間カラ物ガ一足飛ニハ出來マセン、間ニ權利ガアルカラ關係ヲ生ズル故ニ權利ハ財產ト云フノデアリマス
(栗塚報吿委員)
此事ハ註釋デ御承知デ御座イマセウガ原案者ハ意ヲ明カニ申シテ居ラヌ樣ニ思ハレマス何レノ國ノ法律ト雖モ此旨意ヲ明カニ確カメタモノハナイ蓋シ何々ノ物ガ我々ニ屬スルカト云フニ吾人ガ平生慣用シテ來タケレドモ適實デナイ何トナレバ吾人ニ屬スルハ物ニアラズシテ其物ノ所有權ガ我々ニ屬シテ居ルノデアル又我々ガ受取ベキ物ガアル、ケレドモソレハ財產ニハ屬サナイ何トナレバ人ニ金ヲ貸シテ居ル者ハソレヲ請求スル權ガアルノデアル、金ヲ貸シテ居ル貸金ガ財產ト云フケレドモ、ソレガ未ダ人ノ手ニ在ルノデ、金ヲ取ル權利ガアルノダ、又此家ハ我ノ物ダト云フケレドモ家ガ己レニ屬シテ居ルノデハナイ、其家ヲ使用スル權利ガ騎シテ居ルノデアル、若シ權利ガナケレバ家ガアツテモ何ニモナラナイト申シテ居リマス「財產ハ權利ナリ」ト云フコトハ之レデ御分リニナリマセウ
(箕作委員)
原案者ハ全體ハ物權、人權ト分ツテ居ルカラ財產ハ權利デナイト云フコトハ出來ヌ、此先キモ財產ハ權利ト云フハ論ヲ俟タナイ物權人權ト云フ言葉ハ民法ヲ大別スルモ學理的ノコトデ近頃出來タ伊太利國ノ民法ニ斯ンナコトハナイ之レハ卽チ學理的ノ事ヲ今日ニ行ウト云フノデ理窟ハ尤モカバ知レヌガ無理ナ話シト云フ感觸ハアリマス
(今村報吿委員)
今一感御注意丈ケニ申シマスガ「ボアソナード」ハ一條ヲ書ク時分ニハ餘程學問上講究シテ書イタト見ヘル續イデ二、三條ヲ書クニ及ンデモ餘程考ヘタト見ヘルガソレガ先キ物ノ區別ヲ與ヘル考ガ少シ薄クナリハスマイカト思フ、ソレハ前置條例ノ場合ニ參ルト初メカラ「ボアソナード」ハ權利ハ財產ト云タカラ語ヲ用ユルニモ卑イ語ハ用ヒテ居ナイガ先キヘ行クト何時ノ間ニカ子供ノ時分カラノ考ヘガ浮ンダノカ權利モ財產モ物モ共ニ無茶苦茶ニ使ツタト思フ場所ガアルト云フハ此所デ許リ判然トシテ居マスカ先ヘ至テドチラモ意味ヲ區別セズ使ツタラシイ所モアリマスケレドモ漫リニ我々ガ變ヘル譯ニハ行キマセンカラ「財產」ト云フ語ガアレバ必ラズ「物」ト云フ語ヲ使フガ「ボアソナード」ガ財產ト云タラ何時モ然ウカト思フト先ヘ行クト然ウデナイコトガアリマスカラ御注意マデニ申シテ置キマス
(村田委員)
無形物デモ財產ハ物ダカラ權トハ云ハレナイソレデハ困ル
(栗塚報吿委員)
今日迄ハ有形ノ物ヲ指シテ居ルニ始メテ無形ノ物ヲ示シテ財產ト云フカラ耳新ラシク聞ヘルノデアリマス
(鶴田委員)
云ハレヌコトハアリマセンガ財產ガ權利ヲ專ラニシテ居ルカラ
(今村報吿委員)
財產ノ定義ヲスルニハ之レヨリ外ニ仕方ガナイカラ是レヨリ出尤ハ財產ノ定義ハ止メマス
(箕作委員)
止メルナレバ至極御同意ダ
(栗塚報吿委員)
此一條ヲソレ丈ケニ御奮發ニナレバ出來マセウガ千八百何條中何ノ位ノ削除ヲ加ヘナケレバナラン何ノ位ノ組織ヲ改メナケレバナランカ想像シ能ハヌ程困難ヲ生ジヤウト考ヘルノデアリマス、若シ充分此ノ案ヲ取捨折衷スルコトガ出來ルナレバ實ニ國家ノ爲メニ希望致シマス、併シ又我々報吿委員ノ所デモ僅カニ社團トカ「デハルトマン」位ヲ變ヘタ丈ケデ考ヘハドレ程モ御座イマセン、僅カノ文字ヲ直スコトヲ翻譯局ノ方ニ打合セテ頼ミマスルニ過ギマセン位デアリマス、何トナレバ此案ハ成程學理的カラ主トシテアリマス斯ク申シテハ起案者ヲ評スル言デハ御座イマセウガ、教科書ニ過ギヌ樣ナ體裁デアルト思フ、之ヲ日本ノ法律トシテ今日行ヒ得ルモノトシテ筆ヲ加ヘテ宜イモノナレバ勿勿ソレハ出來マセン全ク此案ハ寶玉デアリマスカラ之デ措キマシテ他ニ一ツ之ヲ見本ニシテ此先生ノ書イタモノニ就テ拔華ヲ書クコトハ出來マセウガ此中一條ヲ採リ二條ヲ採リスルコトハ到底出來マセン先ヅ日本ヘ參テ居ル佛蘭西學者中ノ一番ノ學者デ其人ノ書タモノニ筆ヲ加ヘルノハ實ニ六ケ敷イ、公私無形人位ノコトハ初メ書テ呉レタカラ手ヲ入レマシタガ書テナイソレモ度胸過テ出來ナカツタカト思フ、最初無形人トアツタ爲メニ其方ガ日本ノ人ニ分リ易イト云テ書キマシタ位デ此ノ調子デ此定義ヲ會議ニ於テナサルコトニナレバドウモ餘程全編ヲ御通讀ニナリマシテカラ御着手ニナリマセンデハ大キナ寶玉ヲ碎ヒテハ見タガ再ビ纏メルコトガ出來マセンカト云フ御懸念ガアリハスマイカト考ヘル、併シナガラ報吿委員ニ於テモ多少考ノナイデモナイ故自然其邊ノ議論ガ出來ルナレバ報吿委員ノ我々ニ於テモ考ヘガアリマスガ併シソレハ今日ハ申シマセン積リデ御座イマス
(鶴田委員)
私共ハ廣大無邊ナモノト看做シテ居ルガ財產ハ權利ナリト云フコトハ實用ニハ何ニモナリマセン
(村田委員)
日本デ民法ヲ作ルニハソウ云フニスルガ宜イカ、コウ云フニスルガ宜イカ日本人ハ財產ハ權利ナリ抔ト云フコトハ知ラヌカラ學理的ヲ示シタ方ガ宜クハナイカ、ドツチノ道分リハシナイ之ヲ崩シテモ先ノ作リ直シ位デアリマセウ
(箕作委員)
到底何所モ彼モ動カスコトガ出來マセン樣ニナリマス栗塚サンノ云フ通リ僅カノ所ヲぷちりト變ヘル位デ翻譯サヘ宜クシテ間違サヘ無ケレバ結構ニナラウト思フ
(栗塚報吿委員)
一寸申シマスガ已ニ御手ニ配テアル今日日本坑法ト云フ如キモノト牴觸シタコトガ御座イマス、ソレハ調ベテ出ス積リデアリマス
(南部委員)
之レハ斯ウ云フニ纏メテ出來テアリマスカラ況ンヤ法律デアルカラ一字一點デモ慢リニ削テモ全編ニ及ブカラ修正シテドウ斯ウスルコトハ迚モ出來マセン、新タニ作リ直スヨリ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
之ハ神棚ニ上ゲテ措キ臺所ノ方デ栗塚、貴樣、書クカト云ヘバ私一人デハ出來マセンガ報吿委員ニ於テ之レノ三分ノ一カ四分ノ一ノモノハ出來マセウ、夫レガ出來テ日本ノ實際ニ當ルカナレバ恐ラクハ高言ヲ吐クノデハアリマセンガ出來ナイコトハナイ併シ外ノ構成法訴訟商法ハ外國人ノ手ニ成テ居ルニ單リ民法ガ我々報吿委員ノ手ニ成テハ日本人コソ幸福デ御座イマスガ一般ノ權衡ガ如何デ御座イマセウカ是レ又御考ニナランデハナラヌコトト思ヒマス
(鶴田委員)
早ク出來マセウカ日々十五條位ヅツ
(栗塚報吿委員)
其事ガ採用ニナリマシタナレバ高言ヲ吐クノデハ御座イマセンガ私ノミナラズ都テノ人ガ皆助ケヲ假シテヤルト云フ約束ニナツテ居リマス之ハ報吿委員中内證ノコトデ御座イマス
(鶴田委員)
實ハソレヲ希望致シマスガ分リ易ヒ方ガ宜イ
(箕作委員)
之ヲ神棚ヘ上ゲルハ御同感デスガ、前置條例抔ハ成程神棚ニ上ゲナケレバナランガ其他實際役ニ立ツモノデ裁判所ヘ持出ス條ハ神棚ヘ上ゲナクツテモ宜サソウナモノデス
(栗塚報吿委員)
併シナガラソレヲ引拔イテ跡ヲ削テ「ボアソナード」ノ案カト云フニ案デハアリマセン神棚ヘ措クモノト臺所ヘ置クトノ差ヒデ之ニ手ヲ着クルノハ我々ハ「ボアソナード」ノ弟子ダカラ出來ヌト云フノデハアリマセン是レ程緻密ニ書イテアルモノニ鍬ヲ打込ムコトハ難イノデアリマス
(箕作委員)
契約編モアルカラ恐ラクハ此儘デ出シテモ差支ヘハナカラウ唯ダ學理的ノモノダケハドウモ宜シクナイ
(栗塚報吿委員)
モウ一應改メテ申マスガ良シ契約編ニモセヨ契約ニ付テ必要ナル箇條ガアルトソレヲ說明スル爲メ講義體ニナリマスカラ學者ノ講義本ヲ爲シタ樣ノ體裁ノ所ハ悉ク削テ實際的ノモノ計リニシナケレバナリマセン
(箕作委員)
「ボアソナード」ガ駁撃シテ居ル伊太利ノ財產ト云フコトヲ說明シタノハ惡イコトハナイガ、公ケノ總テノ目的トナル物ハ財產デアル海ノ魚、空中ノ鳥モ財產ト云ハナケレバナラヌ、天地ニ向テ駁撃スル樣ダガ少シ穴ガアル、公私ノ目的トナル物ハ財產ナリト云フハ漠然デハナク學理的デハ不都合ハナイ
(栗塚報吿委員)
御參考迄ニ申シマスガ元來此法律ノ書方ハ各自官民彼我ノ交際ヲ定メ、我ハ一個人々々々關係ヲ定メテ居ル民法デアリナガラ斯ウシタラ宜イデアラウ斯ウ云フモノデアルゾヨト示ス法文デ此案ノ立テ方ハ日本デ見レバ斯ウ立タラ宜カラウゾ之レナレバ何所ノ法律ニモナイ宜イ所ヲ採テアルゾヨト「ボアソナード」自身モ書テ居ル樣デアリマス、ソレデ一例ヲ擧レバ直グ御見分リニナリマセウ、右權利ハ第四編ニ之ヲ記載ストカ何權利ハ特別法ヲ以テ定メルトカ云フ樣ニ總テ日本ノ人ニ教ヘテ呉レル樣ナ姿ニナツテ移動物、留置、先取權ノ抵當ノ如キモノヲ抵當ダト云テ置ケバ宜シイニソレハ何所ニドウ說明カスゾヨト云フコトハ何所ノ法律ニモナイ、夫レ等ハ削除シヤウト思ヒマシタガケレドモ、然ウスルト此人ノ全體ノ旨意ヲ崩スカラ爲シ能ヒマセンデ手ヲ退キマシタ、併シ此邊ノ論ハ以前ノ民法編纂委員モ論ジラレタコトモアリマセウシ、又元老院ヘ廻ハツタコトモアリマセウシ、此案ヲ以テ日本ニ行フカ否ノ論ニ至テハ報吿委員デ云フベキデナイト存ジマシタ、且議場デモ「ボアソナード」ノ案ヲ以テ元トスルコトハ議定ニナツタ所ト存ジマシタカラ今更實ハ大體ニ就テ兎ヤ斯ウ報吿委員デ申スデモ御座イマセンカラ、モウ私ハ申上マセン積リデアリマス
(委員長)
到底前置條例ト云フモノガ重モニ目立ツノデ、夫レカラ全編ヲ通ジテ見ルニ先キニハ然ウ奇異ナ思ヒヲ爲スコトハナイト思フ、唯ダ前置條例ハ他國ノ法律ニナイカラオカシイト云フ感觸ノ起ルハ尤モデアリマスガ、併シ何ニセヨ是丈ケノモノヲ想像スルニハ餘程ノ考ヘヲ持テヤウテ居ルノデ、之ヲ以テ世界ノ人ニ對シヤウト云フ充分ノ考ヲ持テ居ルノダカラ、之ヲ止メテ臺所普請ニヤラウト云フコトハ迚モ出來マセンカラ、會議ノ初メニ皆サント約束シタヨウニ、害ニナルモノハ置カヌト云フコトニシテ議定ヲ願ハナケレバナラヌカラ「財產ハ權利ナリ」ト云フコトモ害ノ有ルコトナレバ除キ、害ガ無ケレバ置クト云フコトニ議定ヲ願ヒタイト思ヒマス
(箕作委員)
學理的デ其通リデアリマスカラ害ハアリマセン
(鶴田委員)
先ヅ今日ハ害ハナイト思ヒマス
(委員長)
臺所普請ニスレバ俟及ノ法律見タ樣ニスレバ單簡デ今日ノ仕事ハ立派ニ出來ルニ相違ナイガ、學者カラ云フト、恐ロシイ取合セ普請デ、人間ノ作タ法律トハ云ハレナイ、之ハ隨分全編ヲ貫ヒテアリマスカラ議論モ充分ナケレバナラヌ考モアルガ、此所デ論ズルヨリハ先ヘ行テ論ズルガ宜イト思フカラ、別ニ議論ガ無ケレバ先キヘ移ル方ガ宜イ
(今村報吿委員)
今日日本ノ制度ハ郡區町村ハ無形人デナイ樣ニナツテ居ル或ハ無形人ニスル說モアリ、又反對ノ說モアリマスガ、之レハ内務省ニモ大分說モアリマスカラ、縣ダノ郡ダノト云フ說ハナイ方ガ宜イト云フノデ「デハルトマン」「コンミユヌ」抔ハ無形人ト、一トロニ云タ方ガ宜イト云フ修正ノ理由デアリマス
(委員長)
ソレハ宜イガ、公私ノ無形人ト書テ宜イカドウカ御決メ下サレバ宜イ
(栗塚報吿委員)
「デハルトマン」ハ府縣ト入レ「コンミユヌ」ハ區町村トスルト郡ガ脫ケルト思ヒマス
(三好委員)
「デハルトマン」ハ恰度府縣ニ當ルノデスカ
(栗塚報吿委員)
左樣
(南部委員)
一々分ケルト、皆郡區ヲ分ケナケレバナラヌ、且之ハ財產權デ財產權ヲ有シテ居ル人ハ第一編ニ於テ有形人、無形人ト云フ區別ガ付クト思フ、故ニ此所ニ無形人ト云フ樣ナ大キナ字ヲ用ヒタ方ガ宜イ
(箕作委員)
修正ガ宜イ、且參考丈ケデスガ佛文ニ譯セバ「財產ハ各個人又ハ公若クハ私ノ」トシナケレバ行カヌト思フ
(栗塚報吿委員)
「公私ノ」トヤツテハドウデスカ
(箕作委員)
「各個人又ハ公若クハ私ノ」ト云ハントドウモ分ラン
(栗塚報吿委員)
「公私ノ」ト書ケバ譯ス時ニ「公ノ若クハ私ノ」ト譯セヌコトハナイ
(箕作委員)
日本流ニハ然ウシナケレバナラヌガ、此所許リ日本文ニシテ他ヲ翻譯文ニスルハ權衡ガ合ハヌト思フ
(今村報吿委員)
私ハ箕作サンノ說ノ如ク「公」ト云フ字ノ間ヘ「若クハ」ヲ入レテ宜イト思ヒマス
(委員長)
「公私ノ無形人」ト云フコトハ兎ニ角書キ方ハドウデモ入レルガ宜イ、論ガ多イカラ然ウ致シマセウ
(南部委員)
債權ノ所ハ五百三條ノ人權ノ定義ヲ與ヘタル明文ガアリマスカラ其所ニ債權ノ字ヲ入ルレバ最初ニ債權ヲ入レンデモ差支ナイ、依テ「卽チ債權」ノ四字ヲ削リマス
(今村報吿委員)
物權及ビ人權ヲ併セテ卽チ債權トモ讀メル然ウ讀マレテハ大變デスカラ
(渡委員)
削タ方ガ宜イ
(委員長)
「卽チ債權」ハ削除ニ決定シ次ギニ移リマセウ
第五百二條朗讀ス
第五百二條 物權ハ直チニ之ヲ物ノ上ニ行ヒ且總テノ人ニ對抗シ得ヘキモノニシテ主タルアリ又從タルアリ
 主タル物權ハ左ノ如シ
 第一 完全又ハ虧缺ノ所有權
 第二 用收權使用權及ヒ住居權
 第三 賃借權永借權及ヒ地上權
 第四 占有權
 此等ノ權利ハ一ノ所有權ヲ他ノ所有權ノ利益ニ於テ虧缺セシムル所ノ地役ト共ニ本編ノ第一部ニ之ヲ記載ス
 人權ノ擔保ヲ爲ス從タル物權ハ左ノ如シ
 第一 移動物質
 第二 不動物質
 第三 留置權
 第四 先取特權
 第五 抵當
 右權利ハ第四編ニ之ヲ記載ス
(南部委員)
第二ノ用收權使用權、住居權第三賃借權、及ビ地上權ト云フト、之ハ愈々物權ニナルカ、又ハ否ラザルヤ、此事ニ就テハ實際上ノ如何ハ此所デドウモ取調ル譯ニ參リマセンカラ、之ハ所有權、使用權、住居權、賃借權ノ條ガアリマス故、其條ヘ參テ講究シテ意見ヲ提出スル積リデアリマスカラ、之レハ假リニ御議定ニナル樣ニ願ヒマス
(委員長)
第二第三ハ姑ラク擱キマス
(淸岡委員)
用牧權抔ト云フハ外ニシ樣ハ御座イマセンカ、妙ナコトデ、講釋デモ聽ケバ成程ソンナモノカト思フ位ナモノデス
(箕作委員)
固メテ一ツノ文ニシタノデ、先ヅ之レナラバ宜カロウ位イデス
(村田委員)
第一ノ所ハ以前ハ支分權トナツテ居リマスガネ
(栗塚報吿委員)
支分所有權トアツタ爲メニ用牧權、使用權モ這入ツテ居タラウト云フ疑ヒヲ存シテ來マシタ故、聞マシタラ、ナクナツテ仕舞ツタト云フ譯デス
(箕作委員)
初メノ翻譯ハ間違ヒデアツタソウデヽ其使用權ト譯シタハ、使用許リデナク、預ケデモ利益ヲ取ルコトガ出來マスノデ、使用許リデ利益ハ取ラヌカ、然ウデナイ、然ウ致スト殆ンド名ヲ付ラレナイト云フ說ガアリ、用收權、使用權ハ不完全ノモノト註ニ在リマスカラ用收權ナルモノハ使用權ト制限サルル權ト見ナケレバナラヌ用收權ト云フモノハ日本ニ屹度嵌マルモノカ否ヤハ分リマセン、餘リ日本ニハナイト思ヒマス
(今村報吿委員)
地役ト云フハ前後ノ一、二、三、四五ニモ這入ラヌ誠ニ一種ノモノデ御座イマス
(委員長)
斯ウ書イテアルト地役ト云フコトヲ遺シテハナラヌカラ顔ヲ出シタ樣ニナル
(今村報吿委員)
此間「ボアソナード」ニ話シマシテ何故カタメタカト質問シマシタ所ガ地役ハ用收權ノ主タル所ガアルカラ何ゼナレバ跡ニ人權ニ地役ト二ツノ主タルモノガ出ルカラ止メタト云フヨリ他ハナイト云フ
(南部委員)
最初報吿委員デハ「權利ハ第四編ニ記載ス」ハ削テアリマシタ所有權ノ從タル物權ハ地役ト修正シマシタガ斯ウ云フ風ニ直ツタカラ地役ト共ニ一部ニ記載スト云ハナケレバナラン
(委員長)
斯ウ書テモ地役ハ物權タルヤ否ヤハ分リマセンネ
(淸岡委員)
跡カラ加ヘテ是等ノ權利ハ他ノ利益ニ云々ト云フコトハ誠ニ分リ兼ネマス是等ノ權利ハ地役ト共ニ一編ニ記載ストシテ宜イ
(箕作委員)
地役ノ講釋デス
(淸岡委員)
簡單ニ云フベキヲ矢鱈ニ長クシタカラ分リ惡クナツタノデスネ
(栗塚報吿委員)
之ハ一ノ所有權ヲ他ノ所有權ノ虧缺セシムルト云フ丈ハ削テモ原文ニ差支ヘハナイ、原案ノ意ヲ損スルコトハアリマセン
(箕作委員)
元トノガ宜イト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
併シ此レ等ノ權利ハ地役ト共ニト云テモ同ジコトデス
(淸岡委員)
虧缺セシム抔ト云フコトハ不要ノ所ヲ鄭重ニシタノダカラ迷ヒ易ヒ
(村田委員)
別ニシタラ宜イダラウ
(南部委員)
削タ方ガ宜イ
(委員長)
從タルコトハ云ヒ惡クハナイカ
(箕作委員)
精神ハ矢張リ從ダソウデス以前ノハ所有權ノ從タルモノトアツテ今度虧缺セシム抔ト書テハ其從タルト云フコトハ分リマセン
(栗塚報吿委員)
地役ハ所有權ノ從デナイ、所有物ノ從ダト云フ、然ウナルト一條ニ牴觸スルガ物ノ從デナイ權利ノ從ダト云フノデ、五百十六條ニモ果シテ云テ居リマス「地役ハ要役地ノ從タリ」ト云テ所有權ノ從タリトハ云テ居リマセン
(三好委員)
所有權ノ從タルモノハ大變アル樣ニナル
(工藤報吿委員)
茲ニナルト原則ガ乱レテ居ル
(委員長)
併シ「ボアソナード」モ牴觸ヲ厭ハズ書テ居ルノデハアリマスマイト思フカラ、今ヨリ撞着トカ牴虧トカ云テ此塵カラ論ジテ行ツテハイカヌ
(栗塚報吿委員)
「是等ノ權利ハ地役ト共ニ本編第一部ニ記載スト」云フ淸岡サンノ御論ヲ御採用ニナレバ宜イ
(箕作委員)
私ハ以前ノ翻譯ノ通リ第二項ニシタイ
(栗塚報吿委員)
地役ハ土地ノ權ダカラ誰デモ持タ人ガ地役權ヲ持テ居ル所有權ハ消ヘテモ地役ハ消ヘヌ地役ハ土地ノ權利デアツテ見レバ誰レデモ其土地ヲ持テ居ル者ガ地役ノ□ □ 權利ヲ持テ居ルソレ故ニ所有權ガ消ヘテモ地役ハ消ヘヌ
(南部委員)
所有權ノ消滅ハ何ヲ以テ消滅シマスカ私ノ持テ居ル權ヲ那方ニ議レバ地役モ共ニ移轉スル
(栗塚報吿委員)
地役ハ移轉シナイ
(今村報吿委員)
從ト云フコトハ云ヘナカラウト思フ後トニモ書テアル抵當ノ樣ニ齊シク從ト云フカト云フニ、私ハ從トハ云ヘナカラウト思フ、此ノ從ト云フノハ例ヘバ抵當ニシテ一、二、三、四、五、皆一ノ權ガ成立テ主タル重ナル權ヲ行テ、ソレガ差支ヘテ從ニ及ンデ行キ主ハ從タル權ト共ニ行フノデアリマスト云フコトヲ「ボアソナード」ニ論ズルト、答フルニ後トニ書タ擔保抔ハ第二ニ意味ヲ採ルカラ然ウダラウガ、擔保ト抵當ト云フハ卽チ從タル權利ハ一緒ニ起ルノデアルト私ノ云フ通リニシカ往カンヌデス
(委員長)
鳥渡道理ハアルダロウ地役一軒ノ家シカ通ラヌ二軒、三軒ノ通リニナル然ウ云フ地ノ爲メニハ地役ガ成テ居ラヌ三軒ノ爲メニ地役ガアリ一軒所有權ガ移ルト其時ハ外ノ奴ハ通ラナケレバナラヌ一ツ土地ガ他人ニ移テモ三軒デ使フカラ二人ノ奴ハ動カンデ依然トシテ居ル
(箕作委員)
向ウノ者ガ移レバ地役モ一緒ニ移リマス
(南部委員)
三人ノ分ハ動產質入デアツテ債權ノ移ル場合ニハ三人ノ内一人缺ケテモ代リガ出來マスカラ其三分ノ一丈ハ其人ニ移ル譯ニナリハシマセンカ
(栗塚報吿委員)
所有權ノ從デハナイト思フノハ用收權使用權ノ從ニナルコトモアルノデ、單リ所有權ノミナラズ、用收權、使用權、住居權ノ從ニモナルノデ、何ゼナレバ用收權ニ地役ガ無ケレバ水ヲ汲ムコトモ出來マセン又歩行クコトモ出來マセン、單リ所有權ノ從ト云フハ穩カデナイト思ヒマス
(箕作委員)
然シテ見ルト虧缺セシム云々モ穩カナラヌ
(南部委員)
之ハ重モナル所有權ヲ云タノデ、用收權使用權ハ云ハヌノデセウ
(栗塚報吿委員)
之レハ單リ所有權ノ從デハアリマスマイ、土地ニ住ム人或ハ耕ス土地ニ居ル人ノ爲メ從ト云ハナケレバナラヌ、然ウスレバ要役地ノ從トナツテ、敢テ所有權ノ從ト云フヨリハ分リ宜イト思ヒマス賃貸者デ元ト々々其地ヲ持タ人ノ權ニ從フモノダ、然ウスレバ所有權ノ從デナイ要役地ヲ耕ストカ家ニ居ルトカ要役ト云フモノニ付タ權利デアル
(箕作委員)
要役地ノ從トハ云ヘナイ
(栗塚報吿委員)
要役地ノ上ニ權利ヲ持テ居ル人ガ地役ヲ持テ居ルノデ、其證據ニハ袋町ガアツテ其袋町ヲ通ランデハ行ケマセン時ハ卽チ地役デ其袋町ヲ通行スル權利ハ所有者許リカナレバ然ウデナイ、賃借シテ居ル用收者デモ通ル權利ガアル、スレバ用收權ノ從ト云テ宜イ
(箕作委員)
要役ノ從トハドウシテモ云ヘナイガ「ボアソナード」ガ斯ウヤツタノハ、用收權、使用權モアルガ所有權カラ起ツタカラ所有權ノ從ト云ヘバ分ルト云フノデアリマセウ
(栗塚報吿委員)
論ジ詰メレバ同ジコトデアリマセウガ、要役地ノ從トシテモ差支ハアリマスマイ
(箕作委員)
委シク云ヘバ要役地ノ所有權ノ從トナリマス
(栗塚報吿委員)
此虛デハ要役地ノ從デアルカ所有權ノ從デアルカハ論ズルニハ及バヌト思ヒマス
(南部委員)
主從ノアルコトヲ示シタノデアリマスカラ若シ從デモ主デモナイモノハ書カナイデモ宜イト思フ
(栗塚報吿委員)
併シナガラ何ゼ書クカト云フニ地役ガアルゾヨト云フコトヲ書イテアリマスカラ差支ナイト思フ
(箕作委員)
地役ハ何ノ從カ
(栗塚報吿委員)
要役地ヲ持テ居ル人ノ權利ノ從デス
(南部委員)
主タル物カ從タル物カ所有デナイ、物權ダト云フコトヲ茲ニ揭ゲナケレバナラヌ、ソレヲ誰レモ分ラズニ地役ガドウシテト云フ必要ハナイ、ソレハ註釋ニ過ギナイ、因ミニ云フニ過ギナイ
(箕作委員)
畢竟云フト所有權ノ從デ御座イマス
(寺島報吿委員)
主ナレバ占有權ノ次ギヘ列ベテ書クノデアリマスガ列ベテ書カヌカラ主デハナイ
(委員長)
論ジ詰メレバ所有權ノ從タルニ違ヒナイカ
(栗塚報吿委員)
原案者ニ間合セマシタ時モ所有權ノ從ダト云フコトヲ制タガ所有權ノ從デナイ見込カト聞キマシタ所ガいや所有權ノ從ダガ書キ惡イカラ書カナイト云フコトヲ申シマシタ尤モ因ニ云フト云フ氣味ガアリマシタ
(西委員)
所有權ノ從デセウ
(寺島報吿委員)
ソコデ從ニ見ヘル樣ニ書カナケレバ本篇ノ一部ニ記載シテハ主カ從カ分ラヌ
(栗塚報吿委員)
我々ガ初メニ修正シタノハ「從タル物權ハ地役トス」ト書キマシタ
(箕作委員)
「ボアソナード」ガ所有權ノ從デナイト云ヘバ不定理千萬ナ譯ダ主タルアリ從タルアリト云フトドチラニカナラナケレバナラン又主タルアリ從タルアリト初メニ書テアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
主タルアリ、從タルアリト云ヒナガラ所有權ノ從ト云フニ苦シムト云フハ物權ノ從タルアリト云タラ宜シイガ然ウハ行カナイノデ御座イマセウ
(南部委員)
從タル物權デナイ、人權ノ擔保ヲ爲ス物權ト爲ス冠リガアリマスカラネ
(栗塚報吿委員)
「右權利ハ所有權ノ從タル地役ト共ニ本編ノ第一部ニ之ヲ記載ス」ト云テ如何デスカ
(西委員)
ソレナレバ結構デ御座イマス
(栗塚報吿委員)
右權利ト云フヲ止メテ「所有權ノ從タル物ハ地役トス」ト斯ウ云フコトニ願ヒマス
(南部委員)
「記載ス」デハ註譯ノ樣デ體裁ガ惡イ
(委員長)
本編第何部ハ書ナケレバナランカネ
(南部委員)
ナクテモ差支アリマセン
(委員長)
ソレナレバ除イテ宜イ
(南部委員)
「所有權ノ從タル物權ハ地役トス」トシソレカラ「右權利ハ第四編ニ之ヲ記載ス」ヲ削テ仕舞ヒマス
(箕作委員)
記載ト云フハ皆削リマスカ
(南部委員)
皆削リマス
(栗塚報吿委員)
原案者ノ考ヘデハ日本デハ體裁ガ宜シウ御座イマスケレドモ此方ハ四ツアツテ主タル物權、デアル、ソレニ從タル物權ヲ對等サセルニハ從タル物權デアリマスカラ駢ベテ行クコトガ出來マセン、餘リ一方ノ方ガ力ガ強イカラ因ミニナツテ仕舞ツタモノト思ヒマス
(箕作委員)
斷然贊成シマセウ、法律ラシクナツテ來マシタ
(委員長)
ソレデハ削ルコトニシマス
(南部委員)
ソレガ濟マシタラ「移動物質不動物質」ト出テ居リマスガ之ハ是迄申ス動產質不動產質ト云フ字デ御座イマスカラ
(箕作委員)
之ハ動產質不動產質トシタイ、物ノ區別ト云フ物ト權利ハ前置條例デ區別ガ生ジタカラ大層ノ違ヒモナイケレドモ、移動物不動物トスルヨリハ動產物不動產物トシタ方ガ宜イ
(淸岡委員)
ドウ云フモノデ斯ウシマシタカ
(箕作委員)
「ボアソナード」ノ了簡デハ動物不動物トハ云ヘヌノデ、財產ハ權利ナリトシタカラ何處モ物トシナケレバナラヌ去リトテ自ラ混淆シテ居ルノデアリマス
(南部委員)
通例聞馴レタ字ダカラ動產質不動產質トシタイ
(西委員)
動產不動產ト云フコトハ代言人カ何カデナケレバ知ラヌ
(南部委員)
併シ皆動產不動產ト云テ居ル
(西委員)
ソレハ二十年以來ノ言葉デセウ
(箕作委員)
如何デ御座イマセウ畢竟字句ノコトデスカラ其論ヲ云フトドチラニモ論ガアルカラ民法報吿委員ニ相談シテ極メル位ニシテ一旦ハ移動物不動物デ極メテ下スツテハ
(委員長)
之レハ五百七條ニ至テ始メテ動產不動產ト云ヒ出シテ宜シイト思フ「移動物卽チ動產、不動物卽チ不動產」トシテ置テ宜シイ
(栗塚報吿委員)
成程ソレガ宜シイ「移動物卽チ動產不動物卽チ不動產」トスレバ宜シイ
(委員長)
然ウ決メテ先ヘヤリマセウ
第五百三條朗讀
第五百三條 人權卽チ債權ハ定マリタル人ハ建物ノ利用便益若クハ裝飾ノ爲メニ永遠又ハ不定ノ時間其土地又ハ建物ニ供ヘタル移動物體ハ本性ノ何タルヲ問ハス用方ニ因ル不動物タリ〔第五百二十四條第一項第二項及ヒ第十三項〕
 土地又ハ建物ニ付テ有期ノ使用若クハ收益ノ權利ヲ有スル者カ右ニ同シキ目的ヲ以テ其土地又ハ建物ニ供ヘタル移動物體ニ付テモ亦右ニ同シ〔第五百二十五條〕
(栗塚報吿委員)
之レニハ修正ガ御座イマス
(淸岡委員)
削除シナイト工合ガ惡イノデスカネ
(南部委員)
物ノ區別ノ所ノ五百十六條末項ニ「主タル物アリ從タル物アリ」云々トアリ、ソコデ今甲ノ者ノ地所ヲ乙ガ使用シテ居ル場合ニ乙ガ五百十條ニ在ル所ノ不分ニナル石燈籠ヲ所有シテ居リ、甲ノ地所ノ内ヘ乙ガ持テ來タ場合ニ於テ、若シ土地ヲ本人カラ他ノ者ニ費渡シタル場合ニハ、主タル物ノ賣渡ニ因テ、從タル物ノ石燈寵モ附着テ行クト云フ恐レガアリ、其時反對ノ明言ガアレバ宜イガ、無ケレバ付イテ行クコトニナル不都合ガアリマス
(淸岡委員)
ソレハ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
之ハ物權ト云フ論デ出來タノニ對シ法律ノ認ムル原由ニ因テ其負擔スル行爲ノ義務又ハ封止ノ義務ヲ蓋サシムル爲メニ行フモノニシテ亦主タルアリ又從タルアリ主タル人權ハ本編ノ第二部ニ之ヲ記載ス從タル人權ニシテ他ノ債權ヲ擔保スルモノ例ヘバ保證及ビ連帶ノ如キハ第四編ニ之ヲ規定ス
(栗塚報吿委員)
修正案ヲ提出致シマス「主タル人權ハ本編ノ第二部ニ記載ス」ヲ削除シテ「主タル人權ニシテ他ノ」迄ヲ削リマス、債權ノ擔保ヲ爲ス主タル人權ハ擔保及ビ連帶ノ如シト
(箕作委員)
然ウスルト主タル人權ハ本編ノ第二ニ記載スハ削除デスカ
(南部委員)
「本編ノ第二部ニ規定ス」トヤリマス
(箕作委員)
新タノ修正ナレバ書テ出シテ下サイ
(栗塚報吿委員)
「主タル人權ハ本編ノ第二部ニ之ヲ規定ス從タル人權ニシテ他ノ債權ノ擔保ヲ爲ス保證及ヒ連帶ノ如キハ第四編ニ之ヲ規定ス」ト致シマス
(箕作委員)
從タルノ方ハ「例ヘハ」ヲ削タ丈デスネ
(栗塚報吿委員)
左樣デス一寸申シマスガ、モウ今日ハ出來上タカラシテ大槪申シ上テモ間違ハナカラウト思ヒマスガ第四編ガ出來テ參テ其中何ガ從タルモノデ他ノ人權ノ擔保ヲ爲スカト云フニ連帶保證ハ不可分ナルコトハ分ツテ居ルカラ「如キ」ノ字ハ要ラナクナリマス
(村田委員)
然ウナレバ不可分ト入レテ宜イ
(栗塚報吿委員)
未ダ此時ニハ出來ナカツタカラデ之ガ這入レバ「如キ」ハ無クナツテ仕舞ヒマス
(箕作委員)
私ハ異論ハ御座イマセン
(委員長)
宜ケレバ修正ニ決シテ先ヘ移リマセウ
第五百四條朗讀
第五百四條 著述者其著書ノ發行技術者其技術物ノ製出又ハ發明者其發明ノ適用ニ付テノ權利ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス〔伊民第四百三十七條〕
(栗塚報吿委員)
伊民第四百三十七條トアリマスノヲ報吿委員デ削ラヌノハ此所デ御參考ニ供スルト存ジマシタカラ削リマセンガ之レハ印刷ニスルトキハ削リマス之レニハ修正ハ加ヘマセンガケレドモ御註意マデニ申上ナケレバナラント思ヒマスハ、伊太利ノ民法ヲ見マスルト「規定ス」ト云フ方ノ意味デナク書テアリマス、卽チ斯ウ書テアリマス「著作ノ所有權ハ特別ノ法律ヲ以テ規定スル規則ニ準據シテ其著﹇作者ニ屬セシム」ト書テアリマスカラソレデ民法ニ書上ゲマスルニ、唯ダ規定スト云フハ講義體ノ文章ニナリ、權利ヲ定メタコトデナイ樣ニ見ヘルト報吿委員モ一旦ハ見マシタノデ、著述者ノ所有權ハ他ノ規則ニ準據シテ其著述者ニ屬セシムルト云ヘバ果シテ民法ニ書入レルノ效能ガアルガ、恰モ鑛山ノコトハ坑山法デ定メルト云フ樣ナモノデ當リ前ノコトデ、此法デ權利ヲ定メヌケレドモ他ノ法デ定メルト云フ方ガ宜イト思ヒマスガ、之ハ案ヲ出ソウト思タガ哲學者風ニ申セバ抑モ此ノ權利モ實ハ民法デ定メナケレバナラント思ヒマス、民法ハ人民ノ權利ヲ定ムルノナレバ著述技術ノ發明ノ如キハ大變必要ノ世ノ中ナレバ此等ハ主トシテ民法デ定ムルハ必要カモ知レヌ、併シナガラ著述權ハ特別法デ定ムルモ宜イガ兎モ角モ權利有ルト云フコトハ著作ノ所有權ハ其著作者ニ屬セシムル位ハアツテモ宜イト思ヒマス
(箕作委員)
註解カラ見ルト、先生モ然ウラシイ樣ニ見ヘル
(委員長)
民法中ニ書クモノデ何所ソコニ規定スト書キ他ノ法律デヤルモノハ今ノ樣ニ書イテ宜シイカラ
(栗塚報吿委員)
明日ノ會ニ提出致シマス
(委員長)
ソンナラ先ヘ移リマセウ
第五百五條朗讀
第五百五條 權利ハ物權人權ヲ問ハス其目的タル物ノ種々ノ區別ニ從ヒ改樣ス其區別ハ物ノ本性又ハ人ノ意思又ハ法律ノ條例ヨリ生スルモノニシテ以下ニ揭クル如シ
(箕作委員)
之レハ別ニ異論ハアリマセン
(委員長)
宜シケレバ先ヘ移リマセウ
第五百六條朗讀
第五百六條 物ニ有體ナルアリ又無體ナルアリ
 有體ナル物トハ人ノ感官ニ觸ルヽモノヲ謂フ例ヘハ地所建物動物用具ノ如シ
 無體ナル物トハ智能ノミニテ理會スルモノヲ謂フ卽チ左ノ如シ
 第一 物權又ハ人權其モノ
 第二 第五百四條ニ記載シタル著述技術又ハ製作上ノ所有權
 第三 發開シタル相續ニ解散シタル會社ニ又ハ淸算中ノ共通ニ係ル財產及ヒ債務ヲ包括シタルモノ
(南部委員)
第一ニ在ル「人權其モノ」ノ「其モノ」ハ削リマス
(村田委員)
「其モノ」トハオカシイ樣デスネ
(箕作委員)
オカシイケレドモ少シ意味ガアルノデス
(渡委員)
之ヲ削テモ害ハナイ
(鶴田委員)
「其モノ」ハ削リタイネ
(箕作委員)
「彼レ自ラ」ト云フ意味ガアルノデス
(委員長)
佛蘭西文ニスレバアツテモ宜イネ
(栗塚報吿委員)
這入テ居ルハ利益ガ一ツアルノデ、此權利ハ其目的タルモノデ、卽チ他ノ權利ノ目的トナルモノト云フ積リデ文句付ケ這入ツテ居ルノデアリマセウ
(箕作委員)
字句ノ論デハ無暗ニ削ル譯ニハ行カヌ
(村田委員)
モウ少シ分ルコトガアレバ入レテ置キタイ
(栗塚報吿委員)
彼レ自カラ目的トナランモノデモ宜イ、無形物ト云フ意味デ之レ丈ケノ講釋ヲ「其モノ」デ分ラセルノハ難イノデ、其癖ニ原文デハ其講釋ハ註釋ガナイノデ御座イマス
(箕作委員)
削ルモ宜イ
(委員長)
ソレジヤア「其モノ」ハ削除ニ決シマスソレカラ製作上ノ所有權ハ
(栗塚報吿委員)
元來極昔シカラ使ヒ來リハ所有權ト書キ所有權ノ規定ハ斯ノ如キニ緻密ニ論ジラレナイ、今日所有權ト同ジカナレバ對人權ニナルコトハ往々アルノデ今日ノ著述權ハ版ヲ刷テ自ラ版權ヲ持テ居レバ兎モ角モ、他ノ商人ニヤラセル以上ハ金ヲ取ル權ガ損害賠償ノ權ニ屬シテ對人權ニナルノダカラ、所有權デナクナツテ仕舞ウカラ日本デハ製作上ノ權利トシテモ不都合ハナイト思ヒマス
(箕作委員)
「例ヘハ」ヲ削テハドウデス
(栗塚報吿委員)
成程「例ヘハ」ハオカシイナ、削リマセウ
(箕作委員)
「債務ノ包括」トシテハドウデス
(南部委員)
勞力ノ賃貸ハ無體物ダカラ人權ニナリ、賃貸ハ有體物ダカラ物權ニナル
(委員長)
字句ハ翻譯局トシテ修正スルガ宜イ
(栗塚報吿委員)
ソレデハ「假令ハ」ヲ削リマス
(委員長)
ソレガ宜カロウ
(淸岡委員)
「發開シタル相續」ハオカシイ
(栗塚報吿委員)
日本デ云ヘバ、要ラナイ樣デアリマスガ
(箕作委員)
會社ガアレバ閉ヂ居タノガ解ケル
(栗塚報吿委員)
之レハ先キニ至テ相續ノコトモ會社ノコトモ說明シガ付キマセウカラ
(三好委員)
所有權ト債務ノ他ハ財產デ御座イマスカ
(栗塚報吿委員)
詰リ權利義務デス
(南部委員)
ソレガ財產卽チ權利ダカラ
(栗塚報吿委員)
詰リ財產ハ貸方、債務ハ借方ト見レバ宜イ
(南部委員)
之レハ大事ナ字デ御座イマセウ、之レヲ除ケバ「財產ハ權利ナリ」ト云フコトハナクナツテ仕舞フ
(三好委員)
五百五條ニ「權利ハ物權人權ヲ問ハス」ト云テ茲ハ其性質デ御座イマセウ
(栗塚報吿委員)
包括ハ無體ダト云フノデアリマス
(箕作委員)
唯無體物有體物ヲ分ケテモ法律上仕方ガナイ、無體物ダカラこんな事ヲスル有體物ダカラこんな事ヲスルト云フコトハ出來ナイ
(栗塚報吿委員)
併シナガラ斯ウ云フテ來ヌト物ノ區別ヲスルニ釣合ガ惡イカラデアリマセウ
(委員長)
教師ノ講釋デ茲ハ眠イ所ダ、宜シケレバ先キヘ行キマセウ
第五百七條朗讀
第五百七條 物ハ其本性ニ因リ又ハ所有者ノ用方ニ因リ又ハ法律ノ規定ニ因リ其遷移スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ移動物タリ又不動物タリ〔佛民第五百十六條第五百十七條及ヒ第五百二十七條〕
(栗塚報吿委員)
此處ハ「移動物卽チ動產タリ、不動物卽チ不動產タリ」ト、後チニ直シマス
(淸岡委員)
栗塚サン、五百七條ニ遷移スルコトヲ得ルト云フノハ、之ハ磯部ガ云フニハ、遷移ト云フノハ上ノ本性ニ因リト云フノミニ限テ、所有者ノ用方ニ因リ、法律ノ規定ニ因ラヌト思フト「其遷移スルコトヲ得ルト否トニ從ヒ」ト云フ文字ハ削タ方ガ宜イト思フ、ト云ヒマシタガネ、成程ドウモ考ヘテ見ルト、磯部ノ云タコトモ或ハ其邊ニ見ヘルガ、削テ見ルト「法律ノ規定ニ因リ動物タリ、不動物タリ遷移スルト否トニ從ヒ」ト云フ字ハ工合ガ惡ヒノデ了解シ兼ル心持ガスルガ、ドウ云フモノデスカ
(村田委員)
之ハ要用ト思ヒマス
(栗塚報吿委員)
一寸先キヲ御覽ナサルト分ツコトガ出來ルト否トデ可分不可分アリ、移スコトノ出來ルト否トニ因テ、移付スルト移付スベカラザルモノアリノ例モアリマスカラ
(南部委員)
所有者ノ用方ニ因テ移轉スルハ所有者ノ意旨デ御座イマス、意旨ニ因テ區別ガ出來マスカラ差支ナイト思ヒマス
(箕作委員)
法律ガ動カス動カサヌヲ云フノハオカシイ樣ダガ、五百十一條ノ第四ニ國ニ對スル云々トアリマスカラ
(栗塚報吿委員)
移轉スルト云フノハ中止動詞ガ用ヒテアル、用方者ノ用方ニ因テ移轉セシムルト云タラ宜イノデアリマセウ、二ツノ働キニナル、用法ト法律ノ規定トニ因ル、然ルニ移轉スルト云フハ自カラ移轉ダカラ、恐ラクハ自己ノ論デアラウト思ヒマス、本性ニ因リ遷移スルト、用方ニ因リ遷移セシムルコトヲ法律ノ規定ニ因ルト云フト、自然ニ働ク意味ニ見ヘル
(箕作委員)
磯部ノハ「デプラースマン」抔トハ不適當ダト云フ論デアツタガ私ハ反對シテ法律ガ動カス動カサヌト云フ意味デアルト云タガ承知シマセンデシタガ其考ガ遺ツテ居ルノデセウ
(委員長)
本性ニ因テ動ク物デモ法律ニ因テ動カヌ物ガアルノデ然ウ云フコトモアル
(鶴田委員)
之デ宜イ樣ダネ
(委員長)
宜ケレバ之ニ決シテ食事ニシマセウ
(委員長)
初メマセウ
第五百八條朗讀
第五百八條 本性ニ因ル不動物ハ左ノ如シ
 第一 地所平路堆地及ヒ其他土地ノ部分〔第五百十八條〕
 第二 牆籬柵
 第三 貯水所、湖池、溝渠、堀割、泉源及ヒ種々ノ水流〔伊民第四百十二條〕
 第四 水ヲ湛ヘ又ハ水力ヲ殺ク爲メニ設ケタル堰堤杭及ヒ其他ノ工作物
 第五 土地ニ附着シタル浴場及ヒ土地ニ附着シテ水力若クハ風力ヲ用ユル輾磨機並ニ使用ノ何タルヲ問ハス定着シタル水力若クハ蒸氣ノ機器〔第五百十九條〕
 第六 森林、大小ノ樹木及ヒ其他土地ニ接着シタル種々ノ植物但第五百十三條ニ記載シタル培養草木ハ此限ニ在ラス〔第五百二十條〕
 第七 果實及ヒ收穫物ニシテ成熟シタリト雖モ未タ土地ヨリ離レサルモノ但第五百十三條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス〔第五百二十一條〕
 第八 本性ノ如何ヲ問ハス礦物及ヒ坑石ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ
 肥料土及ヒ泥炭モ亦右ニ同シ〔千八百十年四月二十一日ノ佛法律第一條乃至第四條第八條及ヒ第九條〕
 第九 所用又ハ用方ノ如何ナルト定期内ニ取毀ツヘキモノナルトヲ問ハス土地ニ定着シ又ハ支置シタル建物但第五百十三條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス〔第五百十八條〕
 第十 土地又ハ建物ニ附着シタル筒管ニシテ水ノ流入引入若クハ流出ノ爲メ又ハ瓦斯若クハ溫氣ノ引入ノ爲メニスルモノ〔第五百二十條〕
 第十一 土地又ハ建物ニ附着シタル電氣器及ヒ其附屬物
 第十二 前ニ記載シタル建物ノ外部ノ戶扉
 其他總テ本性ニ因リ轉移スヘキモノト雖モ建物ニ必要ナル一切ノ附屬物
(栗塚報吿委員)
第五ノ土地ニ付着シタル云々「輾磨機」ト云フハ如何ナル物ト御覽ニナルカ知レヌガ、實ハ修正シヤウト云フ說モアリマシタガ、面倒ナコトデアルダラウシ之ヲ存シテモ迚モ實際無カラウト云フノデ置キマシタ重モニ風車、水車ノコトデアリマス、之ヲ名付テ輾磨機トシマシタ
(淸岡委員)
附着、定着、接着トハ各差ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
牆ト、籬ト、柵ト、三個デ御座イマス
(委員長)
南部サン「何々如シ」ト云ヒ「左ノ如シ」ト云フハ「項二項三項ト皆含ソデ居ル積リデ御座イマセウカ
(南部委員)
無論然ウデス
(委員長)
然ウスルト、第二ノ牆、籬、柵ノ三ツ許リデナイ、其他類似ノ物モ這入ルノデセウネ
(南部委員)
左樣デス
(栗塚報吿委員)
十二迄然ウデ御座イマス
(箕作委員)
寶ハ一々註ノ樣ニ群ケバ宜イガ之レツ切リデハ分リマセン
(栗塚報吿委員)
末項ニ其他云々トアリマスカラ
(村田委員)
第四ノ所ハ此前私共ガ元老院ノ委員デ調ベタガ假令バ電信柱棧僑、街燈抔ガ脫ケルダラウト云ヒマシタ
(栗塚報吿委員)
其他ノ工作物デ分リマセウ
(寺島報吿委員)
註解ヲ見マスルト物權ニモ「左ノ如シ」トアリマスガ物權ハ制限シタモノト書イテアリマス
(委員長)
書方ガ違テ居レバ能ク分リマスガ註解ガ付テ居ラヌト區別スルコトガ出來ヌト見ナケレバナラヌ、報吿委員デ區別ヲ付ルコトヲサナツテハドウデス
(南部委員)
註解ヲ讀ミマスト物件ハ制限シタモノデアル、其他ハ例ヲ示シタノデアルカラ委員長ノ仰シヤル通リ書キ分ケマセウ
(箕作委員)
原文ニハ區別ガナイカラ翻譯局デハ區別ノ付ケ樣ガナイ是レカラ先キ分ラヌ所ハ間々アラウト思ヒマス
(南部委員)
一樣ニ、ズーツト極メルト云フコトハ六ケ敷イデセウ
(委員長)
六ケ敷イ所ハ定メヌコトニ書イテ置ケバ妨ゲナイ
(南部委員)
定メルコトハ學者ノ說、並ニ裁判所ノ判決ニ任セルトシテハドウデスカ
(委員長)
ソレモ宜イガ、併シ物ニ因レバ定メナケレバナラヌ場合ガアリマス
(南部委員)
物件ノ方ハ制限シテ居ルト註ニモアリマス、ソレモ「左ノ如シ」デス
(栗塚報吿委員)
「不動產左ノ如シ」ト書イテモ之レデ動產モ籠ルトハ見ヘマセン、南部君ノ云ハルル通リ、例ト申シテモ此所ハ宜イガ他デ例ト云フベキヲつい云ハヌ爲メニ例デナイコトニナルト恐ロシイカラ
(南部委員)
「建物左ノ如シ」ト云フ風ニ自カラ文字ノ上デ見ヘルガ左ノ物トシタラ宜イカ知レン
(栗塚報吿委員)
限ラヌ物ハ學者ノ說大審院ノ評定官ニ任セルヨリ外ハナイ
(村田委員)
此前元老院デハ第四ノ場合ニ街燈抔ハ加ヘ樣ト云フ話ハアツタガ、ドウナリマスカ
(箕作委員)
此處御詮議次第デ御座イマス
(村田委員)
却テ端ノ物ガ出テ居テ肝要ナ物ガ脫ケテ居ル樣ニ思フ
(栗塚報吿委員)
併シ電信柱抔ハ先キノ橋梁ノ所デ區別ガ出來マセウ
(箕作委員)
いじくろうト思ヘバ報吿委員ノ方デモ幾ラモいじくられるデセウ
(栗塚報吿委員)
然ウデス
(尾崎委員)
是レヨリ他ニナイト云フノデハアリマセンカラ、宜イデセウ
(箕作委員)
土地ニ附着シタ浴場ノ條ガ未ダ先ニモアリマス
(村田委員)
船ノ浴場抔肝腎ノ物ガ脫ケテ居ル
(箕作委員)
日本人ガ入レ直スト大變ナ條項ニナル
(栗塚報吿委員)
ヤラナケレバナラヌノデセウガ、ドチラカト申スト斯ウ云フ所ハ能ク書ヲ分ケテ置クト日本ノ人ニ目立タナイト思フ、原則ニ財產ハ權利ナリト云フヨリモ、日本ニアリソウナ物ハ擧ゲテ置クト素人見ハ宜イト思ヒマスガ
(村田委員)
日本ニ在ル物ハ揭ゲナケレバナラヌ
(箕作委員)
土地ニ附着シタル浴場抔ト奇ナ物ガアルト云フ丈デ御座イマスネ
(委員長)
日本ニ無イ物ヲ例ニシテモ人ニ感ジナイカラ、無イ物ハ止メナケレバナラヌ有ル物ハ皆書クコトハ出來マセンガ人ニ分ル丈ケニシテハドウカ
(箕作委員)
水ニ浮ベル浴場抔ハ無イカモ知レヌ
(委員長)
例丈ケ報吿委員デ調ベテハドウデス
(鶴田委員)
土地ニ附着シテ居ル物ハ宜イ
(村田委員)
日本ノ臼抔ハ土地ニ附着シテ居ル
(栗塚報吿委員)
附着ト云フハ「結ヒ付ケラレタ」ト云フノデ定着固着デちやんト極マツテ居ル動カヌト云フコト、接着ハ地ヨリ離レザル物ヲ云フノデス、之レハ淸岡サンノ先刻ノ御尋ニ付キ申シマス
(淸岡委員)
溫泉場ハ
(村田委員)
溫泉場抔ハ皆附着シテ居ル
(尾崎委員)
浴場ト云ヘバ附着シテ居ルノデ御座イマセウ
(委員長)
「所用」ト云フノハドウダカ
(箕作委員)
「共用」トシテモ宜ウ御座イマス
(栗塚報吿委員)
之レモ現在ナケレバ「所用」トモ「用方」トモ云ハズニ「用ヒ方」トシマスガ何分「所有」ト云フ字ト「用方」ト二ツアリマスカラ
(鶴田委員)
「共用」ノ方ガ宜イ
(栗塚報吿委員)
然ウスレバ宜イ
(村田委員)
以前ハ「共用」トナツテ居タノデスネ
(委員長)
マア是レデ措キマシテ例丈ケハ成リ丈ケ分リ宜イ樣ニシテ貰ヒマセウ
(南部委員)
日本ニ適用シテ最モ多イ物ヲ書出ス樣ニ致シマスカ
(委員長)
然ウデス此中デ日本ニ分リ易ヒ物ハ宜イ、風力ヲ用ヒルトカ水ノ上ノ浮風呂トカ云フ物ノ外ハ置テモ宜イ
(南部委員)
人ニ分リ惡イモノハ削ルコトニ致シマセウ
(箕作委員)
第一ノ「地所、平路、堆地」トアルハ、平地ハ地所道路ト直ス樣ナコトデ分ラウト思ヒマス
(委員長)
然ウデス
(栗塚報吿委員)
溝渠トアルハ例ヘバ御城ノ周圍ニ在ル堀ノ如キモ這入ツテ居ルガ溝渠ト云テ仕舞フ又堆地トハ天然ノ地所デナイ卽チ英吉利公使館ノ旗棹ノ下ガ堆クナツテ居リマスガ彼レモ人工ヲ以テ堆積シタ物デアリマスカラ不動產ト云フ意味デ御座イマス堆地平路ト云フモ、天然デナイ物デモ不動產ヂヤト云フ意味デ去リトテ其他ノ土地ノ分部ト云テ居リマスカラ
(南部委員)
總テ例ニ擧ゲタ物ハ疑ハシイ物ヲ揭ゲテアルノデスカラ
(栗塚報吿委員)
日本ニハ「板塀、練塀」ト云フ字ガアリマスガ「塀」ト云フ字ハ使ヒマセン「牆」ノ字ヲ使テアリマス
(村田委員)
森林、樹木トアリマスガ日本デハ「竹」ガ有ルモソレハ脫ケテ居ル
(箕作委員)
其他トアリマスカラ脫ケナイ
(委員長)
強テ向ウニ書テアル物ハ悉皆揭ゲナケレバナラヌト云フ譯ハナイカラ一、二例ヲ擧ゲテ、出來ヌ物ヲ無理ニ持ヘルト却テ迷ヒノ種子ニナルカモ知レヌ今一遍調ベテ貰ヒマセウ
(南部委員)
承知致シマシタ
(村田委員)
礦物ト云ヘバ破石ハ云ハナクツテモ宜イデセウネ
(栗塚報吿委員)
之ハ困タ土偏ニ坑ト云フ字デ日本坑法ノ坑ノ字デ、礦物ト云ヘバ金偏モ石偏モアルノデ斯ウ書キ分ケマシタガ、改メルコトニ致シマセウ
(箕作委員)
原文ニ因ルト斯ウシナケレバナラヌトナツタノデス
(委員長)
例ハ報吿委員デ定メルトシテ一體ノ不動產ト見認ムル箇條ハドウデスカ
(淸岡委員)
土地ニ付イタ物ハ悉ク不動產ト云フ意味デ殊ニ寄ツタラ今ハ考ヘツカヌガ之ヲ不動產ニ入レラレテハ困ルト云フコトハナイトモ云ヘナイガ之デ定メテ置キマセウ
(委員長)
然ラバ先ヘ移リマセウ
第五百九條朗讀
第五百九條 移動物體ノ所有者カ其土地又ハ建物ノ利用便益若クハ裝飾ノ爲メニ永遠又ハ不定ノ時間其土地又ハ建物ニ供ヘタル移動物體ハ本性ノ何タルヲ問ハス用方ニ因ル不動物タリ〔第五百二十四條第一項第二項及ヒ第十三項〕
 土地又ハ建物ニ付テハ有期ノ使用若クハ收益ノ權利ヲ有スル者カ右ニ同シキ目的ヲ以テ其土地又ハ建物ニ供ヘタル移動物體ニ付テモ亦右ニ同シ〔第五百二十五條〕
(栗塚報吿委員)
之レニハ修正ガ御座イマス
(淸岡委員)
削除シナイト工合ガ惡イノデスカラネ
(南部委員)
物ノ區別ノ所ノ五百十六條末項ニ「主タル物アリ從タル物アリ」云々トアリ、ソコデ今甲ノ者ノ地所ヲ乙ガ使用シテ居ル場合ニ乙ガ五百十條ニ在ル所ノ不分ニナル石燈籠ヲ所有シテ居リ、甲ノ地所ノ内ヘ乙ガ持テ來タ場合ニ於テ、若シ土地ヲ本人カラ他ノ者ニ賣渡シタル場合ニハ、主タル物ノ賣渡シニ因テ、從タル物ノ石燈籠モ附着テ行クト云フ恐レガアリ、其時反對ノ明言ガアレバ宜イガ、無ケレバ付イテ行クコトニナル不都合ガアリマス
(淸岡委員)
ソレハ仕方ガナイ
(栗塚報吿委員)
之ハ物權ト云フ論デ出來タノデ、土地ニ物權ヲ持テ居ル者ハ何ンデモ出來ルト云フ主意ダカラ石油、石灰又ハ「セメント」ヲ以テ動產ヲ不動產ニ附着シタル物ハ齊シク不動產ト看做スト云フ、又引離ストキハ毀損ヲ來ス物ハ不動產ト云フノデス
(淸岡委員)
引離シテ跡ハ大變ニ破レテ破毀ニ至ルト云フ物ナレバ兎モ角モ仕方ガナイ、併シ反對ノ明言ノアル時ハ格別
(南部委員)
佛蘭西デハ所有者ガ造タ時デス
(栗塚報吿委員)
不動產ノ所有者ガ收益ノ爲メ用方ニ因リ、不動產タルハ好キダカラ單ニ借家人ガシタリ、用收權ヲ持テ居ル者ハ出來ヌコトハナイガ文法カラ申セバ所有者ガヤルコト丈ケアツテ使用權、收益權ヲ持テ居ル者ガヤルトハ御座イマセン
(淸岡委員)
起案者ハ同一ニシナケレバナラヌ爲メニ殊更ニ書イタト思ヒマスガ起案者ガ殊更ニ入レタハ理窟ガアリマスカ
(栗塚報吿委員)
臆測デハ御座イマスガ、說明セヨトナレバ私ノ考ヘデハ有期ノ使用收益ハ一條ノ二三ムタ如ク卽チ物權デアル、物權ヲ持テ居ル者ナレバ完全ノ所有權ヲ持テ居ル者ト同ジト云フ所カラ入レタモノデハナイカト考ヘラレマス
(淸岡委員)
其精神ナレバ宜サソウナモノデス
(栗塚報吿委員)
借地人ガ石燈籠ヲ建テ又ハ手洗鉢ヲ供シマスレバ石燈籠ヤ手洗鉢ハ動產ニセヨ用方ニ因ル不動產ニナルゾヨ、貴君ノ御屋敷ヲ買タ者ニ付テ行ツテ仕舞フノデス
(淸岡委員)
制限ガアルカラ然ウハ行カス
(村田委員)
默テ居タラ仕方ガナイ
(鶴田委員)
之ハ行カヌ
(村田委員)
私ハ立退ク時之ヲ持テ行クト云フ者ハナイカラネ
(淸岡委員)
假令バ自分ガ借家ノ家ヘ煖爐ヲ据付タ時ハ壁モ破ラナケレバナラヌシ、又煉瓦モ付ケナケレバナラヌ譯デ、ソレヲヤルニハ他人ノ家ヲ借リテ破テ煖爐ヲ据付ルナレバ之ヲ崩セバ何レ跡ハ奮ノ如ク修復シナケレバナラヌ、併シ冬丈ケ持ヘルト云フ者モアラウ、然ウ云フ者ハ卽チ本人ガ私ハ借リテモ參丈ケヲ凌グノデ先キハドウナツテモ宜イ、永遠置テモ宜シト云フ心持デヤルコトモアラウ、ソレハ下ノ項ニ這入テ宜イ
(南部委員)
ソレハ這入リマセン
(村田委員)
不動產ニ動產ヲ付タラ皆不動產ニナル
(栗塚報吿委員)
淸岡サンガ家ヲ質ニ入レルト煖爐モ入ルコトニナルソレデハ困ルデハアリマセンカ
(村田委員)
法律ヲ知テ居レバ明言シテ置クガ然ウハ行カヌカラネ
(淸岡委員)
商賣ノ上デハ我々官員ガ模樣替ヘヲ贅澤ニスルノデハナイ商賣上必要トシテヤル奴ガアル、然ウ云フ時ハ自カラ約束ヲシナケレバナラヌ
(栗塚報吿委員)
縱令契約シテモ第三者ニ向テ登記シテ置カヌ時ハ効ハナイ貴君ノ庭ヲ借リテ居ル栗塚ガ石燈籠ヲ置テ契約シテモ登記役所ニ書テ置カヌト第三者ニ對シテハ効ハナイ、ソレハ成程淸岡サント栗塚ノ間ニハ約定ハアツタラウガ、第三者ガ地面ヲ買タラ石燈籠ハ從タル物ダカラ主タル物ニ付クト云フコトニナル、ソレデハ溜ラント云フノデス
(淸岡委員)
私ノ便利ノ爲メヤツタラ、ソレヲ皆不定時間ノ積リデ買ウトカ抵當ニ取タ奴トカバ五百九條ノ永遠不定時間ニ置ク物デナケレバナラヌト云フノデハナイカ
(南部委員)
不定永遠ト云フハ註ニモアリマスガ從テ五百十條ニモ例ヲ擧テアルガ、不定時間永遠ト云フハ實際現ハレタ樣ニナツテ居ルガ、收益者用益者ハドレ丈ケガ使用時間ト裁判シナケレバナラヌト云フハ六ケ敷コトデス
(箕作委員)
私モ然ウ思タ成程註ヲ見ルト五年間据付タ石燈籠ヲ置イタトナレバ用方ニ因テ不動產トナル、然ウスルト十日借リテモ用方ニ因テトナルト註ニ判然ト書イテアルガ、十日間デモ用方ニ因テ不動產ニナル
(栗塚報吿委員)
私モ削ル方デ、實ハ維持ノ說ヲ主張シマシタガ登記役所ニ登記シテナイト石燈籠モ付テ行ツテ仕舞フウデ御座イマスカラ
(箕作委員)
之ハドウモ餘リ「ボアソナード」モ淺墓デス
(栗塚報吿委員)
彼ノ人ハ物權ヲ持テ居ル人ハ所有權ト同ジデ、用收權デモ、使用權デモ、物權ヲ持テ居ル者ハ同ジデアルト云フノデ、實際ノ不都合ニ氣ガ付カナカツタカト想像致シマス
(淸岡委員)
「右ニ同シキ目的ヲ以テ」云々トアレバ先刻私ガ申シタコトモアラウト思フガ、併シ起案者ガ然ウ云フ精神ナレバ削リマスカ
(村田委員)
削ルハ贊成ダガ併シ削テモ疑默ガ押シ移テ行クト思フ
(栗塚報吿委員)
書イテ無ケレバ借リタ者ガ置イタ石燈籠水鉢ハ動產ニナリマス
(村田委員)
然ウナレバ宜イ
(箕作委員)
假令バ用收權ヲ使ウ者ガアルトシテ三、四十年使フ者ガ用收者一生涯ナレバ宜イガ、永遠ト云フ理窟ハドウカ
(栗塚報吿委員)
ソレモ仕方ガナイ動產デス
(箕作委員)
動產ナルガ、ソレハ動產トスベキカ不動產デスカ
(栗塚報吿委員)
ソレハ動產デ御座イマス、第二項ニ至テ始メテ不動產トナルノデス
(箕作委員)
今日法律ヲ設定スルニ當テ永遠ニ供ヘタラ用方ニ因ル不動產トスル物カト思ハルル
(村田委員)
不動產ニナル物ト思フ
(栗塚報吿委員)
永遠デアレバ借家人デモ所有者ノ置イタト同ジ時間ナレバ不動產トナルト思フ
(淸岡委員)
裝飾ノ爲メ大キナ鏡ヲ供ヘレバドウデス
(栗塚報吿委員)
所有者ガ置ケバ不動產ト云ハナケレバナラヌ二項ヲ削リ借家人ガ置ケバ動產ト看做サナケレバナラヌ
(南部委員)
終ル時ニ置テソレマデ期限ヲ定メタモノト見テ地面ト物ト離レテ居レバ動產トシテ宜イ
(淸岡委員)
「竹木」ト云フ物モアラウガ
(箕作委員)
用收者デモ永遠ノ爲メニ看做スト云テモ用收權ハ一生涯限リノモノ故、何デモ不動產ト云フハ如何ニモ過タ論デハアリマスマイカ
(南部委員)
地面ヲ持テ居ル者ガ付ケレバ永イ物デアリマスガ、期限ガ來ルト離レルト見ナケレバナラヌ永イ物モアリマセウガ仕方ガナイ、ソレヲ小分ケシテ半年トモスルコトハ出來マセン
(淸岡委員)
使用者ノ置イタノト所有者ノ置イタノト差別ガ付クトナルト少シ違フコトガアリマセンカ
(渡委員)
永遠ニ拘ハラズ持主ガ變レバ離レナケレバナラヌ
(淸岡委員)
他人ノ土地ヘ家ヲ建テ地所ト家主トハ違ウコトガアル
(渡委員)
土地ハ地主ノ所有物、家ハ借主ノ所有物ダカラ持主ト借主ノ間ヘ附着シタ物ハ土地ニ付テ仕舞フノデス
(尾崎委員)
二項ヲ削ルトちやんトスル
(村田委員)
除イタ方ガ宜イ
(栗塚報吿委員)
賃借シテ居ル人ガ他人ノ家ヲ借リテ居テ其所ヘ物好キニ取分ルコトノ出來ヌ物ヲ置ク氣遣ヒハナイ、他人ノ家ヲ借リテ居テ石燈籠ヲ置ク樣ナ者ハナイデセウ
(寺島報吿委員)
ソレハナイトハ謂ハレマセン、現ニ我輩共ハヤツテ居ル
(淸岡委員)
アンマリ馬鹿氣タコトデアラウト思ハルル
(委員長)
ソレナレバ二項ハ先ヅ今ノ論デハ修正說ガ出テ見レバ他ニ「ボアソナード」カ何ントカ云フ論ガナケレバ除ク方ニ決メ若シ「ボアソナード」ガ之ニ付テ議場ニ現ハレテ居ラヌ論ガアツテ是非置カナケレバナラヌト云フ樣ナレバ其時ハ別ニ會議ヲ要スコトトシマセウ
(箕作委員)
ソレハ誠ニ安心デ御座イマス
(淸岡委員)
差支ナケレバ削テ下サイ
(委員長)
ソレナレバ先ヘ移リマセウ
第五百十條朗讀
第五百十條 前條ニ從ヒ用方ニ因ル不動物ト看做スモノハ左ノ如シ但反對ノ證據アルトキハ此限ニ在ラス〔第五百二十四條第三項乃至第十二項參照〕
 第一 土地ノ耕作又ハ利用ノ爲メニ供ヘタル駄負ノ獸又ハ牽挽ノ獸
 第二 肥料ノ爲メニ土地ニ畜ヒ置キタル獸類
 第三 耕作ノ道具及ヒ用具
 第四 土地ノ耕作ノ爲メニ供ヘタル種子、藁及ヒ肥料但其土地ヨリ生シタルモノニアラサルトキモ亦同シ
 第五 養蠶場ノ利用ノ爲メニ供ヘタル蠶種
 第六 葡萄果樹及ヒ其他ノ樹木ヲ支持スル爲メニ供ヘタル棚架杭柱及ヒ竹竿
 第七 土地ノ農產物ニ變體ヲ加ヘ又ハ其價直ヲ有セシムル爲メニ供ヘタル器具及ヒ用具例ヘハ搾器、釜、蒸溜器、桶及ヒ樽ノ如シ
 第八 工業場ノ利用ニ供ヘタル機器々具及ヒ用具
 第九 水ニ浮ヘル浴場土地ノ常用ニ供ヘタル舟梁又ハ小舟但其水流ノ公有ニ係リ又ハ他ノ所有者ニ屬スルトキモ亦同シ〔伊民第四百九條〕
 第十 園庭ニ裝置シタル石燈籠水鉢及ヒ岩石
 第十一 建物ニ附着セシメタルモノニシテ毀損スルニアラサレハ取離スコトヲ得サル匾額玻鏡彫刻物及ヒ種々ノ裝飾物〔第五百二十五條〕
 第十二 疊建具及ヒ其他之ニ類スル居宅ノ補足物但所有者ノ仕附ケタルモノニシテ其家屋ニ人ノ住セス又ハ他人之ニ住スルトキニ限ル
 第十三 修復中ノ建物ヨリ取離シテ再ヒ之ニ用ユヘキ材料 〔第五百三十二條〕
 第十四 池中ノ魚窩中ノ蜜蜂鳩舍中ノ鳩
(南部委員)
修正ガ御座イマス「水ニ浮ヘル浴場」トアルヲ「庫船」トシマス
(箕作委員)
南部サン、之ハ全體「水ニ浮ヘル浴場」ト云フハアルノデハナイデセウ庫船ナレバ日本ニ在ルト云フ主意カラデセウガ、之モ矢張リモウ一遍調ベ直スガ宜シウ御座イマセウ
(南部委員)
併シ十二ノ但書カラ下ノ所ヲ一應御覽下サイ
(渡委員)
「水ニ浮ヘル浴場」ハ水練場デセウネ
(栗塚報吿委員)
アレデ御座イマス
(南部委員)
十二ノ但書ハ九條ヲ削レバ無論削除ニナルモノト思ヒマス
(箕作委員)
ソレデ宜シウ御座イマスガ、假リニ九條ノ二項ハ削ル樣ニナリマシタガ、ソレニシテモ未ダ入用ハアリマセンカ
(南部委員)
明家ニナラヌ時ハドウデアリマセウ、明家ニナラズトモ疊ヲ敷イテ所有者ガ居タ時、登記スルコトガ出來マセウカ
(寺島報吿委員)
其時ハ反對ノ動產ニナリマスガ所有者ガ住ンデ居ル場合ニハ動產ニナラナケレバナラヌ動產ニナルト、九條ノ一項ト牴觸スルト考ヘマス
(南部委員)
石燈籠ヨリモ疊建具ノ方ハ御勘考ハ御座イマセンカ
(寺島報吿委員)
報吿委員ハソレデハ丸デ貸長家ノ樣ニ思ハルルガ、貸長家デアリマスト、モウ少シ明瞭ニ書カント然ウ見ヘマセンカラ、只今申上タ通リニ牴觸ヲ起スト思ヒマスカラ、一項ハナクツテ差支ナイト思ヒマス
(箕作委員)
立案者ノ主意ハ、疊建具ハ動產ニ違ヒナイ、雨戶ハ家ニ附隨シテ居ルカラ、本性ノ不動產ノ樣ダガ、疊建具ハ本性ノ不動產デハナイ、ドウシテモ然ウシテ見レバ何トカ云フコトガナケレバ用方ニ因ル不動產トハ思ハレナイ、使用者ノ使テ居ルニハ腰掛、箪笥ト同ジ持運ブ物ト見ヘル所有者ガ住ンデ居ナイデ疊建具ガアルト所有者ノ意旨用方ニ因ル不動產トスル意旨ガアルト看做シタノデアリマス
(南部委員)
起案者ノ旨意ハ然ウデ御座イマセウ
(淸岡委員)
起案者ノ或ハ其積リデ、疊建具ヲ置去リニシテアレバ不動產ノ積リデ、人ガ住ンデ使用シテ居ルナレバ然ウハ看做サヌト云フ爲メ自ラ住ンデ用ヒテ居レバ不動產トシナイ精神デ設ケタノデアリマセウ
(南部委員)
理論カラ云ヘバ其理窟デアリマスケレドモ所有者ガ据付ケテ置テ、其場合ニ人ノ住ハヌ時、又ハ人ニ貸シテ住ハシテ置ク時ハ、不動產ヂヤアト云フガ、實際明家カ何カデナケレバ用方ニ因ル不動產トハナラヌノミナラズ、園庭ニ裝飾シタ水鉢抔ハ必ラズ取離スコトガ出ルカラ、庭宅ヲ賣テ水鉢迄賣タトハ見ヘヌガ、之ヲ永遠置クト云フ意旨アルモノハ用方ニ因ル不動產、疊建具モ住居ニハ必要ノ品ダカラ之ヲ永遠ニ付ル物ト見ル方ガ一般ノ主意デハナイカト思ヒマス
(三好委員)
之ハ日本ノ習慣ヲ調ベテ、但書ヲ加ヘタモノデハアリマスマイ、日本デハ習慣ガアルノデハアリマセンカ、貸家ハ重モニ所有者ノ仕付ケタルモノト云フ、疊建具ハ借人ガ去ル時ハ置テ去テ仕舞フ習慣ガアリマス、然ウ云フノハ動產ト云ハナケレバナラン
(南部委員)
此中ヘ這入ルヤ否ヤノ論點デナク永遠ハ存シマスカ
(三好委員)
一項ノ例ヲ擧ゲタカラ取除ケタノデス
(南部委員)
永遠ナレバ則チ用方ニ因ル不動產ニナリマス
(三好委員)
借人ガヤツテ居ルナレバ
(南部委員)
ソレハ削リマシタカラ
(箕作委員)
抑モ起案者ト諸君方ノ考ヘタトハ違フノデ、所有者ハ住ンデ居ル時モ用方ニ因ル不動產ト云フガ、ソレヲ「ボアソナード」ハ殘ラズ動產ト云テ些ツトモ箪笥、長持ト區別ハナイト云フノデ、衝立モ唐紙モ同ジデ、唯ダ明家ニシテ置クカ他人ニ貸シテ置時ハ所有者ノ用方ニ因ル不動產ト云フ論點トサヘ極メレバ分ツテ仕舞ヒマス
(淸岡委員)
五百九條ノ「裝飾ノ爲メ永遠又ハ不定ノ時間ト定メタルモノハ」ト云フ所ト十二ノ但書ト牴觸シタヤウナ心持ガシマスガ
(南部委員)
登記ニ疊建具ハ付ク物トシテ居リマス
(淸岡委員)
私ノ考ヘニハ五百九條カラ以テ來レバ尤モダガ、起案者ハ西洋ノ絨毯ヲ日本ノ疊ト譯シタカト思フニ然ウデナイ、シテ見ルト起案者ハ丸デ今ノ說ニ反對シタ說ニ違ヒナイ、其思慮ガアルト論及シ兼ネル
(箕作委員)
元ト人ガ住ハヌ時デ、他ニ動產ノナイ時デ、他ニ動產ガアツテハ行カヌ、純粋ノ明家デ御座イマス、其時ハ元トノ民法編纂委員ハ他ニ動產ガアツテハ行カヌト云タノデ、ソレヂヤア右下駄一足アツテモ用方ニ因ル不動產ト云フノデ今日ノ樣ニナリマシタ
(南部委員)
登記ノ區別ハ登記ヲ求メル時疊建具ハ用方ニ因テ不動產デナイト云フト疊建具丈ケノ時人ニ貸ト云フ時分ニハ今度ハ用方ニ因ル不動產トシナケレバナラヌ、此權ハドソナ時ニ行ハルルカ實ニ奇體ナ話ト私ハ思ヒマス
(委員長)
ソレハ人ニ貸ス時盤建具造作付ト書クダラウ
(南部委員)
之ハ單純ニ極メタ方ガ取扱上便利ヲ得樣ト思ヒマス
(委員長)
但書ヲ削ルト一切諸君方ノ論ノアル家宅裝飾物ハ皆用方ニ因ル不動產トナリマスネ
(栗塚報吿委員)
竈、流シノ水瓶抔モ殊ニ寄ルト這入ラナケレバナラヌ
(寺島報吿委員)
愚考デハ他ノ動產ト云フコトヲ削タカラ妙ナコトニナツタト思ヒマス、一體疊建具ハ九條デ用方ニ因ル不動產ニナツテ居ルト思フ、他ノ動產ノ中、火鉢抔ト共ニ運ンデ仕舞フカ知レヌト云フコトダラウト想像致シマスガ、ドウモソレヲ削タカラ妙ナモノガ出來テ、私ハ九條ノ一項ト牴觸スル樣ナ、感覺ガ致シマス
(淸岡委員)
詰リ疊建具ハ動產ニスルカ否ヤ丈デス
(鶴田委員)
但書ハ削レバ宜イ
(渡委員)
動產、不動產ノ境ヲ定メレバ宜イ、而シテ私ハ不動產トシナケレバナラヌト思ヒマス
(箕作委員)
然ウシテ反對ノ證據ガアル時ハ別ナモノト、宜イデセウ
(委員長)
削ル方ガ宜ケレバ然ウシマセウ
(南部委員)
十四ノ所モ削ルガ宜イ
(委員長)
斯ウ云フ物モ不動產ト答ヘルカネ
(栗塚報吿委員)
「兎舎中ノ兎」トナルベキデアルノデ羅馬法以來昔シカラ云フ來テ居リ、之レガ無イト民法ラシクナイト云フノデス
(委員長)
日本デ之レガ動產デ御座ルカ否ヤト問ヘバドウ答ヘマスカ
(栗塚報吿委員)
動產デ御座ルト答ヘマス
(委員長)
ソレナレバ用方ニ因テ不動產トシナケレバナラヌ蜜蜂抔ハ付イテ居ランゼ
(南部委員)
自然動產ニナルノデス
(委員長)
蜂ヲ動產ト云フカ蜂ガ集ヲ造テ中ニ居ルカラ不動產デアラウ
(南部委員)
不動產ト定メテモ差ナイ
(委員長)
斯ンナ物ハドウシタカ
(栗塚報吿委員)
鳩ヲ指シテ用方ニ因ル不動產ト云フ
(尾崎委員)
蜜蜂抔ト云フモノハ錢ニナリマスゼ
(栗塚報吿委員)
私ノ所ニ鳩小家ガアレバ不動產トシテ書入ガ出來ルガ、大審院ヲ書入レルト鳩小家ガ有ルカラ登記簿ヘ付ケナケレバナラヌ
(箕作委員)
貴方ガ家ヲ賣ルト、鳩舎中ノ鳩抔ガアルト之ヲ動產トシテ賣ルト否ヤ不動產ハ賣タガ鳩ハ賣ラヌト云ヒマスカ
(栗塚報吿委員)
其積リデアリマス
(南部委員)
庭ノ金魚抔ヲ一緒ニ賣タト云フコトハ未ダ聞キマセン
(栗塚報吿委員)
日本ノ慣習ニ一緒ニ賣ルト云フコトハ聞キマセン
(箕作委員)
「駄質ノ獸牽挽ノ獸」ハ「ホツセリシヨン」カラデス
(栗塚報吿委員)
駄負ノ獸牽挽ノ獸ハ「ホツセツシヨン」デナイ捕レバ動產デ御座イマス捕ズ鳩小家ニ居ル聞ハ不動產ト云フハ如何ニモ非道イ
(委員長)
蜜蜂ヲ先ヅ質入スルト但書ニ「蜂ハ格別ナリ」トシナケレバ價値ハナイガ動產ト不動產ト一緒ニ書入レナケレバナラヌ、然ウスレバ書入モ質入モ兩方入レナケレバナラヌコトニナル
(栗塚報吿委員)
飛ンデ仕舞テハ行カヌ小家ノ中ニ居ル間ハ不動產ト云フハ不都合デス
(委員長)
蜜蜂ハ箱ノ中ニ有ルカラ効能ガアルノデ
(渡委員)
蜜蜂ハ佛蘭西デハ大變大切ナ物デス
(三好委員)
鳩舎中ノ鳩ハ景色ヲ添ヘル物デハアリマセンカ
(村田委員)
鴨堀抔ハ實ニ大變ナ物デ日本デハ之ヲ不動產ニ入レナケレバナラン
(淸岡委員)
其理窟ヲ云ヒ出シタラ勿々容易デハアリマスマイ、寧ロ削テ宜イ
(委員長)
削テハ動產ニナリマス
(淸岡委員)
動產トスルカ不動產トスルカヲ定メル丈ケニシテ宜シイ
(栗塚報吿委員)
日本デハ地面ヲ賣レバ、馬ヤ何カノ動物モ付テ行クカ否ヤノ慣行ヲ想像スルニ、佛蘭西デハ慣習トシテ土地ヲ賣レバ駄負ノ獸モ牽挽ノ獸モ付クト云フ慣行ガアルカラ、斯ウナツテ居ルガ、本性ノ動產ヲ無理ニ不動產トスル、何ゼト云フニ、農業ヲ保護スルト云フ精神ハ註ニモアリマス、今日平常牽挽ノ獸、駄負ノ獸、馬ヤ牛、豚ノ類ヲ肥料ヲ取ル爲メニ置テモ其牛ヤ豚ヲ矢張リ土地ヲ賣ル時付ケテ賣ルト云フ慣行ガ日本ニアルヤ否ヤ之レニ付テハ報吿委員中ノ議論デアツテ、用方ニ因テ不動產ト見ル大槪農業ノコトハ茶畑ヲ買タ人ハ屹度茶焙ト云フ物ヲ付ケテ賣ル、之ハ茶畑ヲ賣タ人ガ持テ居テモ役ヲシナイカラ添ヘテ賣ルト云フハ自カラ慣行ガアリマス、所ガ地ヲ耕ス爲メ居ル獸ハドウカト云フニ、特別ノ約ヲスル樣ニ見ヘル、然ウスルト佛蘭西法ノ羅馬法以來ノ慣習デ、ソレカラ總テ不動產ヲ賣ル時ハ斯ウ云フ物ハ皆付クカラト云フノデ入レタ旨意デアラウト思ヒマス、日本デハ皆動產ニナル、其中ニ上ノ如キ毀ハサナケレバ引離セナイ物ハ別デモ御座イマセウガ、庭園ニ裝置シタ石燈籠ハ日本デハ動產ト見テ宜イ、又水鉢ノ如キモ然ウデス
(淸岡委員)
御說ノ通リ駄負ノ獸抔ハ、土地ヲ賣ル時ニ付ケテ賣ルコトハ滅多ニナイ、小金ノ原デモ賣ル時ハ格別、通例一町又ハ一反位ヲ回買ルニ然ウ云フコトハアリマセン
(栗塚報吿委員)
養蠶場ノ入用ニスル種紙ヲ以テ不動產ト看做ス感覺ハ何所カラ出マスカ實ニオカシイ
(委員長)
用方ニ因ル不動產ト云フ格別ノ物ヲ揭ゲテ、其他ハ「特別ノ契約アルモノハ此限ニ在ラス」トシテハドウカ
(栗塚報吿委員)
五百九條ニ於テ云テ居リマスカラ裁判官ガ握ツテ居レバ大丈夫デス
(尾崎委員)
御尤デス、ソレガ宜イ
(渡委員)
ソレガ宜イ
(委員長)
モウ一遍調ベテ貰フコトニ致シマセウ
(栗塚報吿委員)
ヘイ
(委員長)
先ヘ移リマセウ
第五百十一條朗讀
第五百十一條 法律ノ規定ニ因ル不動物ハ左ノ如シ
 第一 上ニ列記シタル有體ノ不動物ニ係ル物權〔第五百二十六條〕
 第二 不動物ニ係ル物權ヲ得ントシ又ハ回復セントスル人權
 第三 建築者ノ材料ヲ以テスル建物ノ築造ヲ目的トスル債權
 第四 國ニ對スル年金權及ヒ其他移動物ニ係ル債權ニシテ法律ニ因テ不動物ト爲シ又ハ法律ノ條例ニ依リ各個人カ不動物ト爲シタルモノ
(南部委員)
第四項ニ修正ガ御座イマス
(渡委員)
之ハ宜イナ
(委員長)
「其他」以上ヲ削リ他ニ異論ガナケレバ先ヘ移リマセウ
第五百十二條朗讀
第五百十二條 動物ノ如キ自力ニ因リ又ハ生活セサル物ノ如キ他力ニ因テ遷移スルコトヲ得ヘキ物ハ本性ニ因ル移動物ナリ但第五百八條及ヒ第五百十條ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス〔第五百二十八條〕
(村田委員)
之ハ宜イ
(委員長)
宜ケレバ先ヘ移リマセウ
第五百十三條朗讀
第五百十三條 一時ノ目的ヲ以テ假ニ土地ニ定着セシメタル物體ハ用方ニ因ル移動物ナリ卽チ左ノ如シ
 第一 建築ノ足場及ヒ支柱
 第二 建築ノ間職工及ヒ材料ヲ蓋フカ爲メニ供ヘタル小屋
 第三 樹藝者及ヒ園工カ賣ル爲メニ土地ニ培養シ又ハ保存シタル草木
 第四 取毀ツ爲メニ移付シタル建物及ヒ其他ノ工作物並ニ拔取ル爲メニ移付シタル大小ノ樹木及ヒ收穫物
(村田委員)
能ク分テ居リマス
(委員長)
異論ガナケレバ先ヘ
第五百十四條朗讀
第五百十四條 法律ノ規定ニ因ル移動物ハ左ノ如シ
 第一 前ニ指定シタル移動物ニ係ル物權
 第二 金錢飮食品及ヒ其他有體ノ移動物ヲ得ントシ又ハ回復セントスル債權但不動物ヲ以テ債權ノ擔保ニ充テタルトキモ亦同シ
 第三 所爲ノ成就ヲ又ハ不動物ニ係ル權利タリトモ權利行用ノ封止ヲ他人ニ要求スル債權
 第四 無形人タル民事又ハ商事ノ會社ノ解散ニ至ラサル間社員カ其會社ニ對シテ有スル權利但會社ニ不動物ノ屬スルトキモ亦同シ〔第五百二十九條〕
 第五 第五百四條ニ指定シタル著述技術及ヒ製作上ノ所有權
(栗塚報吿委員)
「所有人」ハ「權利」トナリマス
(箕作委員)
「上ニ列記シタル」ハ「前ニ」トカシタラ宜シウ御座イマセウ
(栗塚報吿委員)
「前ニ」ト致シマセウ
(鶴田委員)
前ガ宜イ
(村田委員)
「右ニ」ガ宜イ
(箕作委員)
「上ノ」字ガ宜イ
(南部委員)
擔保ハ債權ノ擔保ヨリハアリマセン
(三好委員)
亦同ジハ反對デハアリマセンカ
(栗塚報吿委員)
成程
(箕作委員)
「但何ニハ限リニ在ラス」トアリマスカネ
(三好委員)
訴訟法ノ時カラ然ウ云フ文デ御座イマス
(渡委員)
動產デアル、但不動產デモ動產デアルト云フノダカラ但デ宜イ
(栗塚報吿委員)
成程然ウデス
(南部委員)
債權ト云フコトガ付ケバ、擔保モ亦同ジト云テモ宜イ位デス
(委員長)
異論ガナケレバ先ヘ移リマス
第五百十五條朗讀
第五百十五條 發開シタル相續、解散シタル會社又ハ淸算中ノ共通ノ一分ニ付テ有スル權利ノ移動物タリ又ハ不動物タル本性ハ分配ノ時ニ其各當事者カ受クル財產ノ本性ニ因テ定マルモノナリ
 當事者ノ一方ノ撰擇ニ任スル移動物又ハ不動物ヲ目的トスル擇一債權ノ本性モ亦辨濟ニ付テ撰擇シタル物ノ本性ニ因テ定マルモノナリ
(箕作委員)
「移動物質不動物質」ヲ「動產不動產」トスル其說ガ宜ケレバ前ノ五百三條モ「動產質不動產質」トシマスカラ
(委員長)
異論ガナケレバ決シマシテ今日ハ是レデ置キマス