2 契約による債権の履行請求権の限界事由
契約による債権(金銭債権を除く。)につき次に掲げるいずれかの事由(以下
「履行請求権の限界事由」という。)があるときは,債権者は,債務者に対してその履行を請求することができないものとする。
ア 履行が物理的に不可能であること。
イ 履行に要する費用が,債権者が履行により得る利益と比べて著しく過大なものであること。
ウその他,当該契約の趣旨に照らして,債務者に債務の履行を請求することが相当でないと認められる事由
(概要)
契約による債権につき,履行請求権がいかなる事由がある場合に行使できなくなるか(履行請求権の限界)について,明文規定を設けるものである。従来はこれを「履行不能」と称することが一般的であったが,これには物理的に不可能な場合のみならず,過分の費用を要する場合など,日常的な「不能」の語義からは読み取りにくいものが広く含まれると解されている(社会通念上の不能)。そうすると,これを「不能」という言葉で表現するのが適切か否かが検討課題となる。そこで,履行不能に代えて,当面,「履行請求権の限界」という表現を用いることとするが,引き続き適切な表現を検討する必要がある。
現行民法には,履行請求権の限界について正面から定めた規定はないが,同法第415条後段の「履行をすることができなくなったとき」という要件等を手がかりとして,金銭債権を除き,一定の場合に履行請求権を行使することができなくなることは,異論なく承認されている。そこで,本文では,履行請求権が一定の事由がある場合に行使することができなくなることと,その事由の有無が契約の趣旨(その意義につき,前記第8,1参照) に照らして評価判断されることを定めるものとしている(本文ウ)。また,履行請求の限界事由に該当するものの例として,履行が物理的に不可能な場合(本文ア)及び履行に要する費用が履行により債権者が得る利益と比べて著しく過大なものである場合(本文イ)を示すこととしている。