959条
扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クヘキ者カ自己ノ資産又ハ労務ニ依リテ生活ヲ為スコト能ハサルトキニノミ存在ス自己ノ資産ニ依リテ教育ヲ受クルコト能ハサルトキ亦同シ
兄弟姉妹間ニ在リテハ扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クル必要カ之ヲ受クヘキ者ノ過失ニ因ラスシテ生シタルトキニノミ存在ス但扶養義務者カ戸主ナルトキハ此限ニ在ラス
第九百五十九條 扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クヘキ者カ自己ノ資產又ハ勞務ニ依リテ生活ヲ爲スコト能ハサルトキニノミ存在ス自己ノ資產ニ依リテ敎育ヲ受クルコト能ハサルトキ亦同シ
兄弟姉妹間ニ在リテハ扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クル必要カ之ヲ受クヘキ者ノ過失ニ因ラスシテ生シタルトキニノミ存在ス但扶養義務者カ戶主ナルトキハ此限ニ在ラス（人二七、二九、二十四年十一月十七日文部省一六號一、二項、二、二項）
本條ハ扶養ノ義務ノ生スヘキ場合ヲ定メタルモノナリ蓋シ扶養ノ義務ハ敢テ自活スルコトヲ得ル者ニ對シテ尙ホ給養ヲ爲サシムルモノニ非ス唯扶養權利者カ自活スルコト能ハサル場合ニ限リ此義務アルモノトセリ蓋シ子カ莫大ノ收入ヲ有スル場合ニ於テハ父ハ自活スルコトヲ得サルニ非サルモ尙ホ是レカ衣食ノ資ヲ助クルハ孝養ノ道ニ於テ固ヨリ當然ナリト雖モ是レ自ラ道義上ノ問題ニシテ敢テ法律上ノ義務ト爲スヘキモノニ非ス法律カ扶養ノ義務ヲ命スルニ自活スルコト能ハサル者ヲシテ先ツ近親ニ賴ラシメ近親ナキカ又ハ其近親ニ之ヲ助クルノ資力ナキ場合ニ限リ國又ハ地方自治體ニ於テ之ヲ救助スヘキモノトシタルニ因レリ故ニ各人カ自活スル以上ハ法律上之ニ對シテ給養ヲ爲スヘキ義務ヲ負ハシムルモノニ非ス故ニ若干ノ財產アル者ハ其收益ノミニテハ自活スルコト能ハサル者ト雖モ元本ヲ盡クシテ之ヲ生活ノ費用ニ充テタル後ニ非サレハ他ニ向ケテ扶養ヲ求ムルコト能ハス又身體健全ニシテ苟モ勞務ニ服スル以上ハ生活ノ費用ヲ得ルニ難カラサル場合ニ於テハ唯安居シテ他ノ扶養ヲ受ケント欲スルモ得ヘカラサルナリ但其身體健全ナルモ或ハ年少ニシテ專ラ敎育ヲ受クヘキ時期ニ在リ又ハ老年ニシテ勞務ニ堪エ難キ者ハ勿論假令壯年ナルモ其人ノ身分ニ依リ勞力ニ服シ難ク而モ身分ニ應スル職業ニ必要ナル知識ヲ有セサル場合ニ於テハ固ヨリ扶養ヲ請求スル權利アルモノトス華族カ不幸ニ遭遇シテ俄ニ財產ヲ失エル場合ノ如キハ多クハ車夫、馬丁ト爲リテ力役ヲ爲スコト難カルヘク高等ノ敎育ヲ受ケタル者ニ非サレハ官吏、會社員等ト爲リテ其口ヲ糊スルコト能ハサルヘシ此場合ニ於テハ固ヨリ扶養ヲ請求スル權利アルモノトス尙ホ敎育ヲ受クヘキ年齡ニ在リテ自己ノ資產ニ依リテ敎育ヲ受クルコト能ハサル者ハ又扶養ヲ請求スル權利アルモノトス蓋シ敎育ハ文明國ニ在リテハ必須欠クヘカラサルモノニシテ敎育ナキ生活ハ殆ト生活ト爲スニ足ラサルモノナルカ故ニ資力ナキ者ハ扶養義務者ノ費用ヲ以テ敎育ヲ受クルコトヲ得ルモノトセサルコトヲ得ス唯其敎育ノ程度ニ至リテハ次條ニ於テ論スル所アルヘシ
扶養權利者ハ現在生活スルコト能ハサル狀態ニ在ル以上ハ其是ニ至リタル原因ノ如何ヲ問ハス總テ扶養ヲ請求スル權利アルヲ原則トス例ヘハ父カ放蕩ノ爲メ資產ヲ浪費シ竟ニ自活スルコト能ハサルニ至リタルトキト雖モ多少ノ資力アル子ハ必ス之ヲ扶養セサルヘカラサルカ如シ唯例外トシテ兄弟姊妹ノ間ニ在リテハ其自活スルコト能ハサルニ至リタル者ノ過失ニ因リテ是ニ至リタルトキハ敢テ扶養ヲ請求スル權利ナキモノトス蓋シ兄弟姊妹間ニ在リテハ親子間ニ於ケルカ如ク互ニ相助クヘキ必要アルコトハ寧ロ例外ニ屬ス唯其一人カ戶主ニシテ他ノ者カ家族ナル場合ニ於テハ戶主トシテ家族ヲ養ウヘキコトハ既ニ論シタルカ如シト雖モ（七四七）是レ必スシモ兄弟姊妹ナルカ故ニ非ス故ニ戶主、家族ノ關係ナキ兄弟姊妹ハ通常互ニ相扶助スヘキ地位ニ在ラサル者ト謂ッテ可ナリ然リト雖モ若シ其一人カ不幸ニ遭遇シ自活スルコト能ハサルニ至リタルトキハ他ノ者ハ之ヲ傍觀スルコトヲ許サス必ス之ヲ扶養スヘキモノトセルハ我邦ノ人情ニ於テ固ヨリ當然ナル所ナリト雖モ而モ其者カ自己ノ過失ニ因リテ自活スルコト能ハサルニ至リタルトキハ他ノ者カ之ヲ扶養スルノ必要ナキモノトシタルハ亦至當ト謂ハサルコトヲ得ス例ヘハ兄弟姊妹ノ中自己ノ不品行ニ因リ父母ヨリ讓受ケタル財產ヲ蕩盡シ竟ニ自活スルコト能ハサルニ至リタル者アルトキハ他ノ者ハ法律上ハ之ヲ顧ミサルモ可ナルカ如シ
本條第二項但書ノ規定ハ固ヨリ當然ニシテ殆ト言フヲ俟タサルカ如シ蓋シ我邦ノ家制ニ在リテハ戶主其家ノ全財產ヲ有シ家族ハ一切ノ財產ヲ有セサルヲ本則トスルカ故ニ家族ハ如何ナル理由ニ因リテ自活スルコト能ハサルニ至ルモ戶主ハ必ス之ヲ扶養セサルコトヲ得ス然ルニ其者カ兄弟姊妹タルノ故ヲ以テ其權利却テ是ヨリ遠キ親族ニ及ハス其過失ニ因リテ自活スルコト能ハサルニ至リタルトキハ戶主タル兄弟姊妹ノ扶養ヲ受クルコト能ハストセハ其不權衡固ヨリ言フヲ竢タス故ニ本條第二項本文ノ規定ハ單ニ家族ト家族ノ間若クハ扶養ヲ受クヘキ者カ戶主ナル場合又ハ其家ヲ同シウセサル場合ニ於テノミ其適用アルモノトス