明治民法(明治29・31年)

民法修正案

参考原資料

第四編 親族 第一章 総則 第七百二十五条 左ニ掲ケタル者ハ之ヲ親族トス 一 六親等内ノ血族 二 配偶者 三 三親等内ノ姻族 第七百二十六条 親等ハ親族間ノ世数ヲ算シテ之ヲ定ム 傍系親ノ親等ヲ定ムルニハ其一人又ハ其配偶者ヨリ同始祖ニ遡リ其始祖ヨリ他ノ一人ニ下ルマテノ世数ニ依ル 第七百二十七条 養子ト養親及ヒ其血族トノ間ニ於テハ養子縁組ノ日ヨリ血族間ニ於ケルト同一ノ親族関係ヲ生ス 第七百二十八条 継父母ト継子ト又嫡母ト庶子トノ間ニ於テハ親子間ニ於ケルト同一ノ親族関係ヲ生ス 第七百二十九条 姻族関係及ヒ前条ノ親族関係ハ離婚ニ因リテ止ム 夫婦ノ一方カ死亡シタル場合ニ於テ生存配偶者カ其家ヲ去リタルトキ亦同シ 第七百三十条 養子ト養親及ヒ其血族トノ親族関係ハ離縁ニ因リテ止ム 養親カ養家ヲ去リタルトキハ其者及ヒ其実方ノ血族ト養子トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム 養子ノ配偶者、直系卑属又ハ其配偶者カ養子ノ離縁ニ因リテ之ト共ニ養家ヲ去リタルトキハ其者ト養親及ヒ其血族トノ親族関係ハ之ニ因リテ止ム 第七百三十一条 第七百二十九条第二項及ヒ前条第二項ノ規定ハ本家相続、分家及ヒ廃絶家再興ノ場合ニハ之ヲ適用セス 第二章 戸主及ヒ家族 第一節 総則 第七百三十二条 戸主ノ親族ニシテ其家ニ在ル者及ヒ其配偶者ハ之ヲ家族トス 戸主ノ変更アリタル場合ニ於テハ旧戸主及ヒ其家族ハ新戸主ノ家族トス 第七百三十三条 子ハ父ノ家ニ入ル 父ノ知レサル子ハ母ノ家ニ入ル 父母共ニ知レサル子ハ一家ヲ創立ス 第七百三十四条 父カ子ノ出生前ニ離婚又ハ離縁ニ因リテ其家ヲ去リタルトキハ前条第一項ノ規定ハ懐胎ノ始ニ遡リテ之ヲ適用ス 前項ノ規定ハ父母カ共ニ其家ヲ去リタル場合ニハ之ヲ適用セス但母カ子ノ出生前ニ復籍ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 第七百三十五条 家族ノ庶子及ヒ私生子ハ戸主ノ同意アルニ非サレハ其家ニ入ルコトヲ得ス 庶子カ父ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ母ノ家ニ入ル 私生子カ母ノ家ニ入ルコトヲ得サルトキハ一家ヲ創立ス 第七百三十六条 女戸主カ入夫婚姻ヲ為シタルトキハ入夫ハ其家ノ戸主ト為ル但当事者カ婚姻ノ当時反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス 第七百三十七条 戸主ノ親族ニシテ他家ニ在ル者ハ戸主ノ同意ヲ得テ其家族ト為ルコトヲ得但其者カ他家ノ家族タルトキハ其家ノ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 前項ニ掲ケタル者カ未成年者ナルトキハ親権ヲ行フ父若クハ母又ハ後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第七百三十八条 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者カ其配偶者又ハ養親ノ親族ニ非サル自己ノ親族ヲ婚家又ハ養家ノ家族ト為サント欲スルトキハ前条ノ規定ニ依ル外其配偶者又ハ養親ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 婚家又ハ養家ヲ去リタル者カ其家ニ在ル自己ノ直系卑属ヲ自家ノ家族ト為サント欲スルトキ亦同シ 第七百三十九条 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者ハ離婚又ハ離縁ノ場合ニ於テ実家ニ復籍ス 第七百四十条 前条ノ規定ニ依リテ実家ニ復籍スヘキ者カ実家ノ廃絶ニ因リテ復籍ヲ為スコト能ハサルトキハ一家ヲ創立ス但実家ヲ再興スルコトヲ妨ケス 第七百四十一条 婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入リタル者カ更ニ婚姻又ハ養子縁組ニ因リテ他家ニ入ラント欲スルトキハ婚家又ハ養家及ヒ実家ノ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テ同意ヲ為ササリシ戸主ハ婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ復籍ヲ拒ムコトヲ得 第七百四十二条 離籍セラレタル家族ハ一家ヲ創立ス他家ニ入リタル後復籍ヲ拒マレタル者カ離婚又ハ離縁ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ亦同シ 第七百四十三条 家族ハ戸主ノ同意アルトキハ他家ヲ相続シ、分家ヲ為シ又ハ廃絶シタル本家、分家、同家其他親族ノ家ヲ再興スルコトヲ得但未成年者ハ親権ヲ行フ父若クハ母又ハ後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第七百四十四条 法定ノ推定家督相続人ハ他家ニ入リ又ハ一家ヲ創立スルコトヲ得ス但本家相続ノ必要アルトキハ此限ニ在ラス 前項ノ規定ハ第七百五十条第二項ノ適用ヲ妨ケス 第七百四十五条 夫カ他家ニ入リ又ハ一家ヲ創立シタルトキハ妻ハ之ニ随ヒテ其家ニ入ル 第二節 戸主及ヒ家族ノ権利義務 第七百四十六条 戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス 第七百四十七条 戸主ハ其家族ニ対シテ扶養ノ義務ヲ負フ 第七百四十八条 家族カ自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス 戸主又ハ家族ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ戸主ノ財産ト推定ス 第七百四十九条 家族ハ戸主ノ意ニ反シテ其居所ヲ定ムルコトヲ得ス 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ戸主ノ指定シタル居所ニ在ラサル間ハ戸主ハ之ニ対シテ扶養ノ義務ヲ免ル 前項ノ場合ニ於テ戸主ハ相当ノ期間ヲ定メ其指定シタル場所ニ居所ヲ転スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ家族カ其催告ニ応セサルトキハ戸主ハ之ヲ離籍スルコトヲ得但其家族カ未成年者ナルトキハ此限ニ在ラス 第七百五十条 家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ為スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 家族カ前項ノ規定ニ違反シテ婚姻又ハ養子縁組ヲ為シタルトキハ戸主ハ其婚姻又ハ養子縁組ノ日ヨリ一年内ニ離籍ヲ為シ又ハ復籍ヲ拒ムコトヲ得 家族カ養子ヲ為シタル場合ニ於テ前項ノ規定ニ従ヒ離籍セラレタルトキハ其養子ハ養親ニ随ヒテ其家ニ入ル 第七百五十一条 戸主カ其権利ヲ行フコト能ハサルトキハ親族会之ヲ行フ但戸主ニ対シテ親権ヲ行フ者又ハ其後見人アルトキハ此限ニ在ラス 第三節 戸主権ノ喪失 第七百五十二条 戸主ハ左ニ掲ケタル条件ノ具備スルニ非サレハ隠居ヲ為スコトヲ得ス 一 満六十年以上ナルコト 二 完全ノ能力ヲ有スル家督相続人カ相続ノ単純承認ヲ為スコト 第七百五十三条 戸主カ疾病、本家ノ相続又ハ再興其他已ムコトヲ得サル事由ニ因リテ爾後家政ヲ執ルコト能ハサルニ至リタルトキハ前条ノ規定ニ拘ハラス裁判所ノ許可ヲ得テ隠居ヲ為スコトヲ得但法定ノ推定家督相続人アラサルトキハ予メ家督相続人タルヘキ者ヲ定メ其承認ヲ得ルコトヲ要ス 第七百五十四条 戸主カ婚姻ニ因リテ他家ニ入ラント欲スルトキハ前条ノ規定ニ従ヒ隠居ヲ為スコトヲ得 戸主カ隠居ヲ為サスシテ婚姻ニ因リ他家ニ入ラント欲スル場合ニ於テ戸籍吏カ其届出ヲ受理シタルトキハ其戸主ハ婚姻ノ日ニ於テ隠居ヲ為シタルモノト看做ス 第七百五十五条 女戸主ハ年齢ニ拘ハラス隠居ヲ為スコトヲ得 有夫ノ女戸主カ隠居ヲ為スニハ其夫ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但夫ハ正当ノ理由アルニ非サレハ其同意ヲ拒ムコトヲ得ス 第七百五十六条 無能力者カ隠居ヲ為スニハ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス 第七百五十七条 隠居ハ隠居者及ヒ其家督相続人ヨリ之ヲ戸籍吏ニ届出ツルニ因リテ其効力ヲ生ス 第七百五十八条 隠居者ノ親族及ヒ検事ハ隠居届出ノ日ヨリ三个月内ニ第七百五十二条又ハ第七百五十三条ノ規定ニ違反シタル隠居ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 女戸主カ第七百五十五条第二項ノ規定ニ違反シテ隠居ヲ為シタルトキハ夫ハ前項ノ期間内ニ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 第七百五十九条 隠居者又ハ家督相続人カ詐欺又ハ強迫ニ因リテ隠居ノ届出ヲ為シタルトキハ隠居者又ハ家督相続人ハ其詐欺ヲ発見シ又ハ強迫ヲ免レタル時ヨリ一年内ニ隠居ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但追認ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 隠居者又ハ家督相続人カ詐欺ヲ発見セス又ハ強迫ヲ免レサル間ハ其親族又ハ検事ヨリ隠居ノ取消ヲ請求スルコトヲ得但其請求ノ後隠居者又ハ家督相続人カ追認ヲ為シタルトキハ取消権ハ之ニ因リテ消滅ス 前二項ノ取消権ハ隠居届出ノ日ヨリ十年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス 第七百六十条 隠居ノ取消前ニ家督相続人ノ債権者ト為リタル者ハ其取消ニ因リテ戸主タル者ニ対シテ弁済ノ請求ヲ為スコトヲ得但家督相続人ニ対スル請求ヲ妨ケス 債権者カ債権取得ノ当時隠居取消ノ原因ノ存スルコトヲ知リタルトキハ家督相続人ニ対シテノミ弁済ノ請求ヲ為スコトヲ得家督相続人カ家督相続前ヨリ負担セル債務及ヒ其一身ニ専属スル債務ニ付キ亦同シ 第七百六十一条 隠居又ハ入夫婚姻ニ因ル戸主権ノ喪失ハ前戸主又ハ家督相続人ヨリ前戸主ノ債権者及ヒ債務者ニ其通知ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ其債権者及ヒ債務者ニ対抗スルコトヲ得ス 第七百六十二条 新ニ家ヲ立テタル者ハ其家ヲ廃シテ他家ニ入ルコトヲ得 家督相続ニ因リテ戸主ト為リタル者ハ其家ヲ廃スルコトヲ得ス但本家ノ相続又ハ再興其他正当ノ事由ニ因リ裁判所ノ許可ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス 第七百六十三条 戸主カ適法ニ廃家シテ他家ニ入リタルトキハ其家族モ亦其家ニ入ル 第七百六十四条 戸主ヲ失ヒタル家ニ家督相続人ナキトキハ絶家シタルモノトシ其家族ハ各一家ヲ創立ス但子ハ父ニ随ヒ又父カ知レサルトキ、他家ニ在ルトキ若クハ死亡シタルトキハ母ニ随ヒテ其家ニ入ル 前項ノ規定ハ第七百四十五条ノ適用ヲ妨ケス 第三章 婚姻 第一節 婚姻ノ成立 第一款 婚姻ノ要件 第七百六十五条 男ハ満十七年女ハ満十五年ニ至ラサレハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス 第七百六十六条 配偶者アル者ハ重ネテ婚姻ヲ為スコトヲ得ス 第七百六十七条 女ハ前婚ノ解消又ハ取消ノ日ヨリ六个月ヲ経過シタル後ニ非サレハ再婚ヲ為スコトヲ得ス 女カ前婚ノ解消又ハ取消ノ前ヨリ懐胎シタル場合ニ於テハ其分娩ノ日ヨリ前項ノ規定ヲ適用セス 第七百六十八条 奸通ニ因リテ離婚又ハ刑ノ宣告ヲ受ケタル者ハ相奸者ト婚姻ヲ為スコトヲ得ス 第七百六十九条 直系血族又ハ三親等内ノ傍系血族ノ間ニ於テハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス但養子ト養方ノ傍系血族トノ間ハ此限ニ在ラス 第七百七十条 直系姻族ノ間ニ於テハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス第七百二十九条ノ規定ニ依リ姻族関係カ止ミタル後亦同シ 第七百七十一条 養子、其配偶者、直系卑属又ハ其配偶者ト養親又ハ其直系尊属トノ間ニ於テハ第七百三十条ノ規定ニ依リ親族関係カ止ミタル後ト雖モ婚姻ヲ為スコトヲ得ス 第七百七十二条 子カ婚姻ヲ為スニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但男カ満三十年女カ満二十五年ニ達シタル後ハ此限ニ在ラス 父母ノ一方カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ他ノ一方ノ同意ノミヲ以テ足ル 父母共ニ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ未成年者ハ其後見人及ヒ親族会ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第七百七十三条 継父母又ハ嫡母カ子ノ婚姻ニ同意セサルトキハ子ハ親族会ノ同意ヲ得テ婚姻ヲ為スコトヲ得 第七百七十四条 禁治産者カ婚姻ヲ為スニハ其後見人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス 第七百七十五条 婚姻ハ之ヲ戸籍吏ニ届出ツルニ因リテ其効力ヲ生ス 前項ノ届出ハ当事者双方及ヒ成年ノ証人二人以上ヨリ口頭ニテ又ハ署名シタル書面ヲ以テ之ヲ為スコトヲ要ス 第七百七十六条 戸籍吏ハ婚姻カ第七百四十一条第一項、第七百四十四条第一項、第七百五十条第一項、第七百五十四条第一項、第七百六十五条乃至第七百七十三条及ヒ前条第二項ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス但婚姻カ第七百四十一条第一項又ハ第七百五十条第一項ノ規定ニ違反スル場合ニ於テ戸籍吏カ注意ヲ為シタルニ拘ハラス当事者カ其届出ヲ為サント欲スルトキハ此限ニ在ラス 第七百七十七条 外国ニ在ル日本人間ニ於テ婚姻ヲ為サント欲スルトキハ其国ニ駐在スル日本ノ公使又ハ領事ニ其届出ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ前二条ノ規定ヲ準用ス 第二款 婚姻ノ無効及ヒ取消 第七百七十八条 婚姻ハ左ノ場合ニ限リ無効トス 一 人違其他ノ事由ニ因リ当事者間ニ婚姻ヲ為ス意思ナキトキ 二 当事者カ婚姻ノ届出ヲ為ササルトキ但其届出カ第七百七十五条第二項ニ掲ケタル条件ヲ欠クニ止マルトキハ婚姻ハ之カ為メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ 第七百七十九条 婚姻ハ後七条ノ規定ニ依ルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第七百八十条 第七百六十五条乃至第七百七十一条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ各当事者、其戸主、親族又ハ検事ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但検事ハ当事者ノ一方カ死亡シタル後ハ之ヲ請求スルコトヲ得ス 第七百六十六条乃至第七百六十八条ノ規定ニ違反シタル婚姻ニ付テハ当事者ノ配偶者又ハ前配偶者モ亦其取消ヲ請求スルコトヲ得 第七百八十一条 第七百六十五条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ不適齢者カ適齢ニ達シタルトキハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス 不適齢者ハ適齢ニ達シタル後尚ホ三个月間其婚姻ノ取消ヲ請求スルコトヲ得但適齢ニ達シタル後追認ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 第七百八十二条 第七百六十七条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ前婚ノ解消若クハ取消ノ日ヨリ六个月ヲ経過シ又ハ女カ再婚後懐胎シタルトキハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス 第七百八十三条 第七百七十二条ノ規定ニ違反シタル婚姻ハ同意ヲ為ス権利ヲ有セシ者ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得同意カ詐欺又ハ強迫ニ因リタルトキ亦同シ 第七百八十四条 前条ノ取消権ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス 一 同意ヲ為ス権利ヲ有セシ者カ婚姻アリタルコトヲ知リタル後又ハ詐欺ヲ発見シ若クハ強迫ヲ免レタル後六个月ヲ経過シタルトキ 二 同意ヲ為ス権利ヲ有セシ者カ追認ヲ為シタルトキ 三 婚姻届出ノ日ヨリ二年ヲ経過シタルトキ 第七百八十五条 詐欺又ハ強迫ニ因リテ婚姻ヲ為シタル者ハ其婚姻ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 前項ノ取消権ハ当事者カ詐欺ヲ発見シ若クハ強迫ヲ免レタル後三个月ヲ経過シ又ハ追認ヲ為シタルトキハ消滅ス 第七百八十六条 婿養子縁組ノ場合ニ於テハ各当事者ハ縁組ノ無効又ハ取消ヲ理由トシテ婚姻ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但縁組ノ無効又ハ取消ノ請求ニ附帯シテ婚姻ノ取消ヲ請求スルコトヲ妨ケス 前項ノ取消権ハ当事者カ縁組ノ無効ナルコト又ハ其取消アリタルコトヲ知リタル後三个月ヲ経過シ又ハ其取消権ヲ放棄シタルトキハ消滅ス 第七百八十七条 婚姻ノ取消ハ其効力ヲ既往ニ及ホサス 婚姻ノ当時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知ラサリシ当事者カ婚姻ニ因リテ財産ヲ得タルトキハ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テ其返還ヲ為スコトヲ要ス 婚姻ノ当時其取消ノ原因ノ存スルコトヲ知リタル当事者ハ婚姻ニ因リテ得タル利益ノ全部ヲ返還スルコトヲ要ス尚ホ相手方カ善意ナリシトキハ之ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス 第二節 婚姻ノ効力 第七百八十八条 妻ハ婚姻ニ因リテ夫ノ家ニ入ル 入夫及ヒ婿養子ハ妻ノ家ニ入ル 第七百八十九条 妻ハ夫ト同居スル義務ヲ負フ 夫ハ妻ヲシテ同居ヲ為サシムルコトヲ要ス 第七百九十条 夫婦ハ互ニ扶養ヲ為ス義務ヲ負フ 第七百九十一条 妻カ未成年者ナルトキハ成年ノ夫ハ其後見人ノ職務ヲ行フ 第七百九十二条 夫婦間ニ於テ契約ヲ為シタルトキハ其契約ハ婚姻中何時ニテモ夫婦ノ一方ヨリ之ヲ取消スコトヲ得但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 第三節 夫婦財産制 第一款 総則 第七百九十三条 夫婦カ婚姻ノ届出前ニ其財産ニ付キ別段ノ契約ヲ為ササリシトキハ其財産関係ハ次款ニ定ムル所ニ依ル 第七百九十四条 夫婦カ法定財産制ニ異ナリタル契約ヲ為シタルトキハ婚姻ノ届出マテニ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第七百九十五条 外国人カ夫ノ本国ノ法定財産制ニ異ナリタル契約ヲ為シタル場合ニ於テ婚姻ノ後日本ノ国籍ヲ取得シ又ハ日本ニ住所ヲ定メタルトキハ一年内ニ其契約ヲ登記スルニ非サレハ日本ニ於テハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第七百九十六条 夫婦ノ財産関係ハ婚姻届出ノ後ハ之ヲ変更スルコトヲ得ス 夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ財産ヲ管理スル場合ニ於テ管理ノ失当ニ因リ其財産ヲ危クシタルトキハ他ノ一方ハ自ラ其管理ヲ為サンコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 共有財産ニ付テハ前項ノ請求ト共ニ其分割ヲ請求スルコトヲ得 第七百九十七条 前条ノ規定又ハ契約ノ結果ニ依リ管理者ヲ変更シ又ハ共有財産ノ分割ヲ為シタルトキハ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ夫婦ノ承継人及ヒ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第二款 法定財産制 第七百九十八条 夫ハ婚姻ヨリ生スル一切ノ費用ヲ負担ス但妻カ戸主タルトキハ妻之ヲ負担ス 前項ノ規定ハ第七百九十条及ヒ第八章ノ規定ノ適用ヲ妨ケス 第七百九十九条 夫又ハ女戸主ハ用方ニ従ヒ其配偶者ノ財産ノ使用及ヒ収益ヲ為ス権利ヲ有ス 夫又ハ女戸主ハ其配偶者ノ財産ノ果実中ヨリ其債務ノ利息ヲ払フコトヲ要ス 第八百条 第五百九十五条及ヒ第五百九十八条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百一条 夫ハ妻ノ財産ヲ管理ス 夫カ妻ノ財産ヲ管理スルコト能ハサルトキハ妻自ラ之ヲ管理ス 第八百二条 夫カ妻ノ為メニ借財ヲ為シ、妻ノ財産ヲ譲渡シ、之ヲ担保ニ供シ又ハ第六百二条ノ期間ヲ超エテ其賃貸ヲ為スニハ妻ノ承諾ヲ得ルコトヲ要ス但管理ノ目的ヲ以テ果実ヲ処分スルハ此限ニ在ラス 第八百三条 夫カ妻ノ財産ヲ管理スル場合ニ於テ必要アリト認ムルトキハ裁判所ハ妻ノ請求ニ因リ夫ヲシテ其財産ノ管理及ヒ返還ニ付キ相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得 第八百四条 日常ノ家事ニ付テハ妻ハ夫ノ代理人ト看做ス 夫ハ前項ノ代理権ノ全部又ハ一部ヲ否認スルコトヲ得但之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第八百五条 夫カ妻ノ財産ヲ管理シ又ハ妻カ夫ノ代理ヲ為ス場合ニ於テハ自己ノ為メニスルト同一ノ注意ヲ為スコトヲ要ス 第八百六条 第六百五十四条及ヒ第六百五十五条ノ規定ハ夫カ妻ノ財産ヲ管理シ又ハ妻カ夫ノ代理ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス 第八百七条 妻又ハ入夫カ婚姻前ヨリ有セル財産及ヒ婚姻中自己ノ名ニ於テ得タル財産ハ其特有財産トス 夫婦ノ孰レニ属スルカ分明ナラサル財産ハ夫又ハ女戸主ノ財産ト推定ス 第四節 離婚 第一款 協議上ノ離婚 第八百八条 夫婦ハ其協議ヲ以テ離婚ヲ為スコトヲ得 第八百九条 満二十五年ニ達セサル者カ協議上ノ離婚ヲ為スニハ第七百七十二条及ヒ第七百七十三条ノ規定ニ依リ其婚姻ニ付キ同意ヲ為ス権利ヲ有スル者ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第八百十条 第七百七十四条及ヒ第七百七十五条ノ規定ハ協議上ノ離婚ニ之ヲ準用ス 第八百十一条 戸籍吏ハ離婚カ第七百七十五条第二項及ヒ第八百九条ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス 戸籍吏カ前項ノ規定ニ違反シテ届出ヲ受理シタルトキト雖モ離婚ハ之カ為メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ 第八百十二条 協議上ノ離婚ヲ為シタル者カ其協議ヲ以テ子ノ監護ヲ為スヘキ者ヲ定メサリシトキハ其監護ハ父ニ属ス 父カ離婚ニ因リテ婚家ヲ去リタル場合ニ於テハ子ノ監護ハ母ニ属ス 前二項ノ規定ハ監護ノ範囲外ニ於テ父母ノ権利義務ニ変更ヲ生スルコトナシ 第二款 裁判上ノ離婚 第八百十三条 夫婦ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得 一 配偶者カ重婚ヲ為シタルトキ 二 妻カ奸通ヲ為シタルトキ 三 夫カ奸淫罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルトキ 四 配偶者カ重禁錮三年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ 五 配偶者ヨリ同居ニ堪ヘサル虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ 六 配偶者ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ 七 配偶者ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ 八 配偶者カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ 九 配偶者ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ 十 婿養子縁組ノ場合ニ於テ離縁アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離縁若クハ縁組ノ取消アリタルトキ 第八百十四条 前条第一号乃至第四号ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ行為ニ同意シタルトキハ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス 前条第一号乃至第七号ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ他ノ一方又ハ其直系尊属ノ行為ヲ宥恕シタルトキ亦同シ 第八百十五条 第八百十三条第四号ニ掲ケタル処刑ノ宣告ヲ受ケタル者ハ其配偶者ニ同一ノ事由アルコトヲ理由トシテ離婚ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百十六条 第八百十三条第一号乃至第八号ノ事由ニ因ル離婚ノ訴ハ之ヲ提起スル権利ヲ有スル者カ離婚ノ原因タル事実ヲ知リタル時ヨリ一年ヲ経過シタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス其事実発生ノ時ヨリ十年ヲ経過シタル後亦同シ 第八百十七条 第八百十三条第九号ノ事由ニ因ル離婚ノ訴ハ配偶者ノ生死カ分明ト為リタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百十八条 第八百十三条第十号ノ場合ニ於テ離縁又ハ縁組取消ノ請求アリタルトキハ之ニ附帯シテ離婚ノ請求ヲ為スコトヲ得 第八百十三条第十号ノ事由ニ因ル離婚ノ訴ハ当事者カ離縁又ハ縁組ノ取消アリタルコトヲ知リタル後三个月ヲ経過シ又ハ離婚請求ノ権利ヲ放棄シタルトキハ之ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百十九条 第八百十二条ノ規定ハ裁判上ノ離婚ニ之ヲ準用ス但裁判所ハ子ノ利益ノ為メ其監護ニ付キ之ニ異ナリタル処分ヲ命スルコトヲ得 第四章 親子 第一節 実子 第一款 嫡出子 第八百二十条 妻カ婚姻中ニ懐胎シタル子ハ夫ノ子ト推定ス 婚姻成立ノ日ヨリ二百日後又ハ婚姻ノ解消若クハ取消ノ日ヨリ三百日内ニ生レタル子ハ婚姻中ニ懐胎シタルモノト推定ス 第八百二十一条 第七百六十七条第一項ノ規定ニ違反シテ再婚ヲ為シタル女カ分娩シタル場合ニ於テ前条ノ規定ニ依リ其子ノ父ヲ定ムルコト能ハサルトキハ裁判所之ヲ定ム 第八百二十二条 第八百二十条ノ場合ニ於テ夫ハ子ノ嫡出ナルコトヲ否認スルコトヲ得 第八百二十三条 前条ノ否認権ハ子又ハ其法定代理人ニ対スル訴ニ依リテ之ヲ行フ但夫カ子ノ法定代理人ナルトキハ裁判所ハ特別代理人ヲ選任スルコトヲ要ス 第八百二十四条 夫カ子ノ出生後ニ於テ其嫡出ナルコトヲ承認シタルトキハ其否認権ヲ失フ 第八百二十五条 否認ノ訴ハ夫カ子ノ出生ヲ知リタル時ヨリ一年内ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス 第八百二十六条 夫カ未成年者ナルトキハ前条ノ期間ハ其成年ニ達シタル時ヨリ之ヲ起算ス但夫カ成年ニ達シタル後ニ子ノ出生ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 夫カ禁治産者ナルトキハ前条ノ期間ハ禁治産ノ取消アリタル後夫カ子ノ出生ヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス 第二款 庶子及ヒ私生子 第八百二十七条 私生子ハ其父又ハ母ニ於テ之ヲ認知スルコトヲ得 父カ認知シタル私生子ハ之ヲ庶子トス 第八百二十八条 私生子ノ認知ヲ為スニハ父又ハ母カ無能力者ナルトキト雖モ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス 第八百二十九条 私生子ノ認知ハ戸籍吏ニ届出ツルニ依リテ之ヲ為ス 認知ハ遺言ニ依リテモ亦之ヲ為スコトヲ得 第八百三十条 成年ノ私生子ハ其承諾アルニ非サレハ之ヲ認知スルコトヲ得ス 第八百三十一条 父ハ胎内ニ在ル子ト雖モ之ヲ認知スルコトヲ得此場合ニ於テハ母ノ承諾ヲ得ルコトヲ要ス 父又ハ母ハ死亡シタル子ト雖モ其直系卑属アルトキニ限リ之ヲ認知スルコトヲ得此場合ニ於テ其直系卑属カ成年者ナルトキハ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス 第八百三十二条 認知ハ出生ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス但第三者カ既ニ取得シタル権利ヲ害スルコトヲ得ス 第八百三十三条 認知ヲ為シタル父又ハ母ハ其認知ヲ取消スコトヲ得ス 第八百三十四条 子其他ノ利害関係人ハ認知ニ対シテ反対ノ事実ヲ主張スルコトヲ得 第八百三十五条 子、其直系卑属又ハ此等ノ者ノ法定代理人ハ父又ハ母ニ対シテ認知ヲ求ムルコトヲ得 第八百三十六条 庶子ハ其父母ノ婚姻ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得ス 婚姻中父母カ認知シタル私生子ハ其認知ノ時ヨリ嫡出子タル身分ヲ取得ス 前二項ノ規定ハ子カ既ニ死亡シタル場合ニ之ヲ準用ス 第二節 養子 第一款 縁組ノ要件 第八百三十七条 成年ニ達シタル者ハ養子ヲ為スコトヲ得 第八百三十八条 尊属又ハ年長者ハ之ヲ養子ト為スコトヲ得ス 第八百三十九条 法定ノ推定家督相続人タル男子アル者ハ男子ヲ養子ト為スコトヲ得ス但女婿ト為ス為メニスル場合ハ此限ニ在ラス 第八百四十条 後見人ハ被後見人ヲ養子ト為スコトヲ得ス其任務カ終了シタル後未タ管理ノ計算ヲ終ハラサル間亦同シ 前項ノ規定ハ第八百四十八条ノ場合ニハ之ヲ適用セス 第八百四十一条 配偶者アル者ハ其配偶者ト共ニスルニ非サレハ縁組ヲ為スコトヲ得ス 夫婦ノ一方カ他ノ一方ノ子ヲ養子ト為スニハ他ノ一方ノ同意ヲ得ルヲ以テ足ル 第八百四十二条 前条第一項ノ場合ニ於テ夫婦ノ一方カ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ他ノ一方ハ双方ノ名義ヲ以テ縁組ヲ為スコトヲ得 第八百四十三条 養子ト為ルヘキ者カ十五年未満ナルトキハ其家ニ在ル父母之ニ代ハリテ縁組ノ承諾ヲ為スコトヲ得 継父母又ハ嫡母カ前項ノ承諾ヲ為スニハ親族会ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第八百四十四条 成年ノ子カ養子ヲ為シ又ハ満十五年以上ノ子カ養子ト為ルニハ其家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第八百四十五条 縁組又ハ婚姻ニ因リテ他家ニ入リタル者カ更ニ養子トシテ他家ニ入ラント欲スルトキハ実家ニ在ル父母ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但妻カ夫ニ随ヒテ他家ニ入ルハ此限ニ在ラス 第八百四十六条 第七百七十二条第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前三条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第七百七十三条ノ規定ハ前二条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百四十七条 第七百七十四条及ヒ第七百七十五条ノ規定ハ縁組ニ之ヲ準用ス 第八百四十八条 養子ヲ為サント欲スル者ハ遺言ヲ以テ其意思ヲ表示スルコトヲ得此場合ニ於テハ遺言執行者、養子ト為ルヘキ者又ハ第八百四十三条ノ規定ニ依リ之ニ代ハリテ承諾ヲ為シタル者及ヒ成年ノ証人二人以上ヨリ遺言カ効力ヲ生シタル後遅滞ナク縁組ノ届出ヲ為スコトヲ要ス 前項ノ届出ハ養親ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス 第八百四十九条 戸籍吏ハ縁組カ第七百四十一条第一項、第七百四十四条第一項、第七百五十条第一項及ヒ前十二条ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス 第七百七十六条但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百五十条 外国ニ在ル日本人間ニ於テ縁組ヲ為サント欲スルトキハ其国ニ駐在スル日本ノ公使又ハ領事ニ其届出ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ第七百七十五条及ヒ前二条ノ規定ヲ準用ス 第二款 縁組ノ無効及ヒ取消 第八百五十一条 縁組ハ左ノ場合ニ限リ無効トス 一 人違其他ノ事由ニ因リ当事者間ニ縁組ヲ為ス意思ナキトキ 二 当事者カ縁組ノ届出ヲ為ササルトキ但其届出カ第七百七十五条第二項及ヒ第八百四十八条第一項ニ掲ケタル条件ヲ欠クニ止マルトキハ縁組ハ之カ為メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ 第八百五十二条 縁組ハ後七条ノ規定ニ依ルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第八百五十三条 第八百三十七条ノ規定ニ違反シタル縁組ハ養親又ハ其法定代理人ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但養親カ成年ニ達シタル後六个月ヲ経過シ又ハ追認ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 第八百五十四条 第八百三十八条又ハ第八百三十九条ノ規定ニ違反シタル縁組ハ各当事者、其戸主又ハ親族ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 第八百五十五条 第八百四十条ノ規定ニ違反シタル縁組ハ養子又ハ其実方ノ親族ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但管理ノ計算カ終ハリタル後養子カ追認ヲ為シ又ハ六个月ヲ経過シタルトキハ此限ニ在ラス 追認ハ養子カ成年ニ達シ又ハ能力ヲ回復シタル後之ヲ為スニ非サレハ其効ナシ 養子カ成年ニ達セス又ハ能力ヲ回復セサル間ニ管理ノ計算カ終ハリタル場合ニ於テハ第一項但書ノ期間ハ養子カ成年ニ達シ又ハ能力ヲ回復シタル時ヨリ之ヲ起算ス 第八百五十六条 第八百四十一条ノ規定ニ違反シタル縁組ハ同意ヲ為ササリシ配偶者ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其配偶者カ縁組アリタルコトヲ知リタル後六个月ヲ経過シタルトキハ追認ヲ為シタルモノト看做ス 第八百五十七条 第八百四十四条乃至第八百四十六条ノ規定ニ違反シタル縁組ハ同意ヲ為ス権利ヲ有セシ者ヨリ其取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得同意カ詐欺又ハ強迫ニ因リタルトキ亦同シ 第七百八十四条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百五十八条 婿養子縁組ノ場合ニ於テハ各当事者ハ婚姻ノ無効又ハ取消ヲ理由トシテ縁組ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但婚姻ノ無効又ハ取消ノ請求ニ附帯シテ縁組ノ取消ヲ請求スルコトヲ妨ケス 前項ノ取消権ハ当事者カ婚姻ノ無効ナルコト又ハ其取消アリタルコトヲ知リタル後六个月ヲ経過シ又ハ其取消権ヲ放棄シタルトキハ消滅ス 第八百五十九条 第七百八十五条及ヒ第七百八十七条ノ規定ハ縁組ニ之ヲ準用ス但第七百八十五条第二項ノ期間ハ之ヲ六个月トス 第三款 縁組ノ効力 第八百六十条 養子ハ縁組ノ日ヨリ養親ノ嫡出子タル身分ヲ取得ス 第八百六十一条 養子ハ縁組ニ因リテ養親ノ家ニ入ル 第四款 離縁 第八百六十二条 縁組ノ当事者ハ其協議ヲ以テ離縁ヲ為スコトヲ得 養子カ十五年未満ナルトキハ其離縁ハ養親ト養子ニ代ハリテ縁組ノ承諾ヲ為ス権利ヲ有スル者トノ協議ヲ以テ之ヲ為ス 養親カ死亡シタル後養子カ離縁ヲ為サント欲スルトキハ戸主ノ同意ヲ得テ之ヲ為スコトヲ得 第八百六十三条 満二十五年ニ達セサル者カ協議上ノ離縁ヲ為スニハ第八百四十四条ノ規定ニ依リ其縁組ニ付キ同意ヲ為ス権利ヲ有スル者ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第七百七十二条第二項、第三項及ヒ第七百七十三条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百六十四条 第七百七十四条及ヒ第七百七十五条ノ規定ハ協議上ノ離縁ニ之ヲ準用ス 第八百六十五条 戸籍吏ハ離縁カ第七百七十五条第二項、第八百六十二条及ヒ第八百六十三条ノ規定其他ノ法令ニ違反セサルコトヲ認メタル後ニ非サレハ其届出ヲ受理スルコトヲ得ス 戸籍吏カ前項ノ規定ニ違反シテ届出ヲ受理シタルトキト雖モ離縁ハ之カ為メニ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ 第八百六十六条 縁組ノ当事者ノ一方ハ左ノ場合ニ限リ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得 一 他ノ一方ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ 二 他ノ一方ヨリ悪意ヲ以テ遺棄セラレタルトキ 三 養親ノ直系尊属ヨリ虐待又ハ重大ナル侮辱ヲ受ケタルトキ 四 他ノ一方カ重禁錮一年以上ノ刑ニ処セラレタルトキ 五 養子ニ家名ヲ涜シ又ハ家産ヲ傾クヘキ重大ナル過失アリタルトキ 六 養子カ逃亡シテ三年以上復帰セサルトキ 七 養子ノ生死カ三年以上分明ナラサルトキ 八 他ノ一方カ自己ノ直系尊属ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキ 九 婿養子縁組ノ場合ニ於テ離婚アリタルトキ又ハ養子カ家女ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ離婚若クハ婚姻ノ取消アリタルトキ 第八百六十七条 養子カ満十五年ニ達セサル間ハ其縁組ニ付キ承諾権ヲ有スル者ヨリ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得 第八百四十三条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百六十八条 第八百六十六条第一号乃至第六号ノ場合ニ於テ当事者ノ一方カ他ノ一方又ハ其直系尊属ノ行為ヲ宥恕シタルトキハ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百六十九条 第八百六十六条第四号ノ場合ニ於テ当事者ノ一方カ他ノ一方ノ行為ニ同意シタルトキハ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百六十六条第四号ニ掲ケタル刑ニ処セラレタル者ハ他ノ一方ニ同一ノ事由アルコトヲ理由トシテ離縁ノ訴ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百七十条 第八百六十六条第一号乃至第五号及ヒ第八号ノ事由ニ因ル離縁ノ訴ハ之ヲ提起スル権利ヲ有スル者カ離縁ノ原因タル事実ヲ知リタル時ヨリ一年ヲ経過シタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス其事実発生ノ時ヨリ十年ヲ経過シタル後亦同シ 第八百七十一条 第八百六十六条第六号ノ事由ニ因ル離縁ノ訴ハ養親カ養子ノ復帰シタルコトヲ知リタル時ヨリ一年ヲ経過シタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス其復帰ノ時ヨリ十年ヲ経過シタル後亦同シ 第八百七十二条 第八百六十六条第七号ノ事由ニ因ル離縁ノ訴ハ養子ノ生死カ分明ト為リタル後ハ之ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百七十三条 第八百六十六条第九号ノ場合ニ於テ離婚又ハ婚姻取消ノ請求アリタルトキハ之ニ附帯シテ離縁ノ請求ヲ為スコトヲ得 第八百六十六条第九号ノ事由ニ因ル離縁ノ訴ハ当事者カ離婚又ハ婚姻ノ取消アリタルコトヲ知リタル後六个月ヲ経過シ又ハ離縁請求ノ権利ヲ放棄シタルトキハ之ヲ提起スルコトヲ得ス 第八百七十四条 養子カ戸主ト為リタル後ハ離縁ヲ為スコトヲ得ス但隠居ヲ為シタル後ハ此限ニ在ラス 第八百七十五条 養子ハ離縁ニ因リ其実家ニ於テ有セシ身分ヲ回復ス但第三者カ既ニ取得シタル権利ヲ害スルコトヲ得ス 第八百七十六条 夫婦カ養子ト為リ又ハ養子カ養親ノ他ノ養子ト婚姻ヲ為シタル場合ニ於テ妻カ離縁ニ因リテ養家ヲ去ルヘキトキハ夫ハ其選択ニ従ヒ離縁又ハ離婚ヲ為スコトヲ要ス 第五章 親権 第一節 総則 第八百七十七条 子ハ其家ニ在ル父ノ親権ニ服ス但独立ノ生計ヲ立ツル成年者ハ此限ニ在ラス 父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ、家ヲ去リタルトキ又ハ親権ヲ行フコト能ハサルトキハ家ニ在ル母之ヲ行フ 第八百七十八条 継父、継母又ハ嫡母カ親権ヲ行フ場合ニ於テハ次章ノ規定ヲ準用ス 第二節 親権ノ効力 第八百七十九条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ未成年ノ子ノ監護及ヒ教育ヲ為ス権利ヲ有シ義務ヲ負フ 第八百八十条 未成年ノ子ハ親権ヲ行フ父又ハ母カ指定シタル場所ニ其居所ヲ定ムルコトヲ要ス但第七百四十九条ノ適用ヲ妨ケス 第八百八十一条 未成年ノ子カ兵役ヲ出願スルニハ親権ヲ行フ父又ハ母ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス 第八百八十二条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ必要ナル範囲内ニ於テ自ラ其子ヲ懲戒シ又ハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ懲戒場ニ入ルルコトヲ得 子ヲ懲戒場ニ入ルル期間ハ六个月以下ノ範囲内ニ於テ裁判所之ヲ定ム但此期間ハ父又ハ母ノ請求ニ因リ何時ニテモ之ヲ短縮スルコトヲ得 第八百八十三条 未成年ノ子ハ親権ヲ行フ父又ハ母ノ許可ヲ得ルニ非サレハ職業ヲ営ムコトヲ得ス 父又ハ母ハ第六条第二項ノ場合ニ於テハ前項ノ許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得 第八百八十四条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ未成年ノ子ノ財産ヲ管理シ又其財産ニ関スル法律行為ニ付キ其子ヲ代表ス但其子ノ行為ヲ目的トスル債務ヲ生スヘキ場合ニ於テハ本人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第八百八十五条 未成年ノ子カ其配偶者ノ財産ヲ管理スヘキ場合ニ於テハ親権ヲ行フ父又ハ母之ニ代ハリテ其財産ヲ管理ス 第八百八十六条 親権ヲ行フ母カ未成年ノ子ニ代ハリテ左ニ掲ケタル行為ヲ為シ又ハ子ノ之ヲ為スコトニ同意スルニハ親族会ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 一 営業ヲ為スコト 二 借財又ハ保証ヲ為スコト 三 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル権利ノ喪失ヲ目的トスル行為ヲ為スコト 四 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル和解又ハ仲裁契約ヲ為スコト 五 相続ヲ放棄スルコト 六 贈与又ハ遺贈ヲ拒絶スルコト 第八百八十七条 親権ヲ行フ母カ前条ノ規定ニ違反シテ為シ又ハ同意ヲ与ヘタル行為ハ子又ハ其法定代理人ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得此場合ニ於テハ第十九条ノ規定ヲ準用ス 前項ノ規定ハ第百二十一条乃至第百二十六条ノ適用ヲ妨ケス 第八百八十八条 親権ヲ行フ父又ハ母ト其未成年ノ子ト利益相反スル行為ニ付テハ父又ハ母ハ其子ノ為メニ特別代理人ヲ選任スルコトヲ親族会ニ請求スルコトヲ要ス 父又ハ母カ数人ノ子ニ対シテ親権ヲ行フ場合ニ於テ其一人ト他ノ子トノ利益相反スル行為ニ付テハ其一方ノ為メ前項ノ規定ヲ準用ス 第八百八十九条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ自己ノ為メニスルト同一ノ注意ヲ以テ其管理権ヲ行フコトヲ要ス 母ハ親族会ノ同意ヲ得テ為シタル行為ニ付テモ其責ヲ免ルルコトヲ得ス但母ニ過失ナカリシトキハ此限ニ在ラス 第八百九十条 子カ成年ニ達シタルトキハ親権ヲ行ヒタル父又ハ母ハ遅滞ナク其管理ノ計算ヲ為スコトヲ要ス但其子ノ養育及ヒ財産ノ管理ノ費用ハ其子ノ財産ノ収益ト之ヲ相殺シタルモノト看做ス 第八百九十一条 前条但書ノ規定ハ無償ニテ子ニ財産ヲ与フル第三者カ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ其財産ニ付テハ之ヲ適用セス 第八百九十二条 無償ニテ子ニ財産ヲ与フル第三者カ親権ヲ行フ父又ハ母ヲシテ之ヲ管理セシメサル意思ヲ表示シタルトキハ其財産ハ父又ハ母ノ管理ニ属セサルモノトス 前項ノ場合ニ於テ第三者カ管理者ヲ指定セサリシトキハ裁判所ハ子、其親族又ハ検事ノ請求ニ因リ其管理者ヲ選任ス 第三者カ管理者ヲ指定セシトキト雖モ其管理者ノ権限カ消滅シ又ハ之ヲ改任スル必要アル場合ニ於テ第三者カ更ニ管理者ヲ指定セサルトキ亦同シ 第二十七条乃至第二十九条ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百九十三条 第六百五十四条及ヒ第六百五十五条ノ規定ハ父又ハ母カ子ノ財産ヲ管理スル場合及ヒ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第八百九十四条 親権ヲ行ヒタル父若クハ母又ハ親族会員ト其子トノ間ニ財産ノ管理ニ付テ生シタル債権ハ其管理権消滅ノ時ヨリ五年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス 子カ未タ成年ニ達セサル間ニ管理権カ消滅シタルトキハ前項ノ期間ハ其子カ成年ニ達シ又ハ後任ノ法定代理人カ就職シタル時ヨリ之ヲ起算ス 第八百九十五条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ其未成年ノ子ニ代ハリテ戸主権及ヒ親権ヲ行フ 第三節 親権ノ喪失 第八百九十六条 父又ハ母カ親権ヲ濫用シ又ハ著シク不行跡ナルトキハ裁判所ハ子ノ親族又ハ検事ノ請求ニ因リ其親権ノ喪失ヲ宣告スルコトヲ得 第八百九十七条 親権ヲ行フ父又ハ母カ管理ノ失当ニ因リテ其子ノ財産ヲ危クシタルトキハ裁判所ハ子ノ親族又ハ検事ノ請求ニ因リ其管理権ノ喪失ヲ宣告スルコトヲ得 父カ前項ノ宣告ヲ受ケタルトキハ管理権ハ家ニ在ル母之ヲ行フ 第八百九十八条 前二条ニ定メタル原因カ止ミタルトキハ裁判所ハ本人又ハ其親族ノ請求ニ因リ失権ノ宣告ヲ取消スコトヲ得 第八百九十九条 親権ヲ行フ母ハ財産ノ管理ヲ辞スルコトヲ得 第六章 後見 第一節 後見ノ開始 第九百条 後見ハ左ノ場合ニ於テ開始ス 一 未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者ナキトキ又ハ親権ヲ行フ者カ管理権ヲ有セサルトキ 二 禁治産ノ宣告アリタルトキ 第二節 後見ノ機関 第一款 後見人 第九百一条 未成年者ニ対シテ最後ニ親権ヲ行フ者ハ遺言ヲ以テ後見人ヲ指定スルコトヲ得但管理権ヲ有セサル者ハ此限ニ在ラス 親権ヲ行フ父ノ生前ニ於テ母カ予メ財産ノ管理ヲ辞シタルトキハ父ハ前項ノ規定ニ依リテ後見人ノ指定ヲ為スコトヲ得 第九百二条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ禁治産者ノ後見人ト為ル 妻カ禁治産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ夫其後見人ト為ル夫カ後見人タラサルトキハ前項ノ規定ニ依ル 夫カ禁治産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ妻其後見人ト為ル妻カ後見人タラサルトキ又ハ夫カ未成年者ナルトキハ第一項ノ規定ニ依ル 第九百三条 前二条ノ規定ニ依リテ家族ノ後見人タル者アラサルトキハ戸主其後見人ト為ル 第九百四条 前三条ノ規定ニ依リテ後見人タル者アラサルトキハ後見人ハ親族会之ヲ選任ス 第九百五条 母カ財産ノ管理ヲ辞シ、後見人カ其任務ヲ辞シ、親権ヲ行ヒタル父若クハ母カ家ヲ去リ又ハ戸主カ隠居ヲ為シタルニ因リ後見人ヲ選任スル必要ヲ生シタルトキハ其父、母又ハ後見人ハ遅滞ナク親族会ヲ招集シ又ハ其招集ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス 第九百六条 後見人ハ一人タルコトヲ要ス 第九百七条 後見人ハ婦女ヲ除ク外左ノ事由アルニ非サレハ其任務ヲ辞スルコトヲ得ス 一 軍人トシテ現役ニ服スルコト 二 被後見人ノ住所ノ市又ハ郡以外ニ於テ公務ニ従事スルコト 三 自己ヨリ先ニ後見人タルヘキ者ニ付キ本条又ハ次条ニ掲ケタル事由ノ存セシ場合ニ於テ其事由カ消滅シタルコト 四 禁治産者ニ付テハ十年以上後見ヲ為シタルコト但配偶者、直系血族及ヒ戸主ハ此限ニ在ラス 五 此他正当ノ事由 第九百八条 左ニ掲ケタル者ハ後見人タルコトヲ得ス 一 未成年者 二 禁治産者及ヒ準禁治産者 三 剥奪公権者及ヒ停止公権者 四 裁判所ニ於テ免黜セラレタル法定代理人又ハ保佐人 五 破産者 六 被後見人ニ対シテ訴訟ヲ為シ又ハ為シタル者及ヒ其配偶者並ニ直系血族 七 行方ノ知レサル者 八 裁判所ニ於テ後見ノ任務ニ堪ヘサル事跡、不正ノ行為又ハ著シキ不行跡アリト認メタル者 第九百九条 前七条ノ規定ハ保佐人ニ之ヲ準用ス 保佐人又ハ其代表スル者ト準禁治産者トノ利益相反スル行為ニ付テハ保佐人ハ臨時保佐人ノ選任ヲ親族会ニ請求スルコトヲ要ス 第二款 後見監督人 第九百十条 後見人ヲ指定スルコトヲ得ル者ハ遺言ヲ以テ後見監督人ヲ指定スルコトヲ得 第九百十一条 前条ノ規定ニ依リテ指定シタル後見監督人ナキトキハ法定後見人又ハ指定後見人ハ其事務ニ著手スル前親族会ノ招集ヲ裁判所ニ請求シ後見監督人ヲ選任セシムルコトヲ要ス若シ之ニ違反シタルトキハ親族会ハ其後見人ヲ免黜スルコトヲ得 親族会ニ於テ後見人ヲ選任シタルトキハ直チニ後見監督人ヲ選任スルコトヲ要ス 第九百十二条 後見人就職ノ後後見監督人ノ欠ケタルトキハ後見人ハ遅滞ナク親族会ヲ招集シ後見監督人ヲ選任セシムルコトヲ要ス此場合ニ於テハ前条第一項ノ規定ヲ準用ス 第九百十三条 後見人ノ更迭アリタルトキハ親族会ハ後見監督人ヲ改選スルコトヲ要ス但前後見監督人ヲ再選スルコトヲ妨ケス 新後見人カ親族会ニ於テ選任シタル者ニ非サルトキハ後見監督人ハ遅滞ナク親族会ヲ招集シ前項ノ規定ニ依リテ改選ヲ為サシムルコトヲ要ス若シ之ニ違反シタルトキハ後見人ノ行為ニ付キ之ト連帯シテ其責ニ任ス 第九百十四条 後見人ノ配偶者、直系血族又ハ兄弟姉妹ハ後見監督人タルコトヲ得ス 第九百十五条 後見監督人ノ職務左ノ如シ 一 後見人ノ事務ヲ監督スルコト 二 後見人ノ欠ケタル場合ニ於テ遅滞ナク其後任者ノ任務ニ就クコトヲ促シ若シ後任者ナキトキハ親族会ヲ招集シテ其選任ヲ為サシムルコト 三 急迫ノ事情アル場合ニ於テ必要ナル処分ヲ為スコト 四 後見人又ハ其代表スル者ト被後見人トノ利益相反スル行為ニ付キ被後見人ヲ代表スルコト 第九百十六条 第六百四十四条、第九百七条及ヒ第九百八条ノ規定ハ後見監督人ニ之ヲ準用ス 第三節 後見ノ事務 第九百十七条 後見人ハ遅滞ナク被後見人ノ財産ノ調査ニ著手シ一个月内ニ其調査ヲ終ハリ且其目録ヲ調製スルコトヲ要ス但此期間ハ親族会ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得 財産ノ調査及ヒ其目録ノ調製ハ後見監督人ノ立会ヲ以テ之ヲ為スニ非サレハ其効ナシ 後見人カ前二項ノ規定ニ従ヒ財産ノ目録ヲ調製セサルトキハ親族会ハ之ヲ免黜スルコトヲ得 第九百十八条 後見人ハ目録ノ調製ヲ終ハルマテハ急迫ノ必要アル行為ノミヲ為ス権限ヲ有ス但之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第九百十九条 後見人カ被後見人ニ対シ債権ヲ有シ又ハ債務ヲ負フトキハ財産ノ調査ニ著手スル前ニ之ヲ後見監督人ニ申出ツルコトヲ要ス 後見人カ被後見人ニ対シ債権ヲ有スルコトヲ知リテ之ヲ申出テサルトキハ其債権ヲ失フ 後見人カ被後見人ニ対シ債務ヲ負フコトヲ知リテ之ヲ申出テサルトキハ親族会ハ其後見人ヲ免黜スルコトヲ得 第九百二十条 前三条ノ規定ハ後見人就職ノ後被後見人カ包括財産ヲ取得シタル場合ニ之ヲ準用ス 第九百二十一条 未成年者ノ後見人ハ第八百七十九条乃至第八百八十三条及ヒ第八百八十五条ニ定メタル事項ニ付キ親権ヲ行フ父又ハ母ト同一ノ権利義務ヲ有ス但親権ヲ行フ父又ハ母カ定メタル教育ノ方法及ヒ居所ヲ変更シ、未成年者ヲ懲戒場ニ入レ、営業ヲ許可シ、其許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルニハ親族会ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 第九百二十二条 禁治産者ノ後見人ハ禁治産者ノ資力ニ応シテ其療養看護ヲ力ムルコトヲ要ス 禁治産者ヲ瘋癲病院ニ入レ又ハ私宅ニ監置スルト否トハ親族会ノ同意ヲ得テ後見人之ヲ定ム 第九百二十三条 後見人ハ被後見人ノ財産ヲ管理シ又其財産ニ関スル法律行為ニ付キ被後見人ヲ代表ス 第八百八十四条但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第九百二十四条 後見人ハ其就職ノ初ニ於テ親族会ノ同意ヲ得テ被後見人ノ生活、教育又ハ療養看護及ヒ財産ノ管理ノ為メ毎年費スヘキ金額ヲ予定スルコトヲ要ス 前項ノ予定額ハ親族会ノ同意ヲ得ルニ非サレハ之ヲ変更スルコトヲ得ス但已ムコトヲ得サル場合ニ於テ予定額ヲ超ユル金額ヲ支出スルコトヲ妨ケス 第九百二十五条 親族会ハ後見人及ヒ被後見人ノ資力其他ノ事情ニ依リ被後見人ノ財産中ヨリ相当ノ報酬ヲ後見人ニ与フルコトヲ得但後見人カ被後見人ノ配偶者、直系血族又ハ戸主ナルトキハ此限ニ在ラス 第九百二十六条 後見人ハ親族会ノ同意ヲ得テ有給ノ財産管理者ヲ使用スルコトヲ得但第百六条ノ適用ヲ妨ケス 第九百二十七条 親族会ハ後見人就職ノ初ニ於テ後見人カ被後見人ノ為メニ受取リタル金銭カ何程ノ額ニ達セハ之ヲ寄託スヘキカヲ定ムルコトヲ要ス 後見人カ被後見人ノ為メニ受取リタル金銭カ親族会ノ定メタル額ニ達スルモ相当ノ期間内ニ之ヲ寄託セサルトキハ其法定利息ヲ払フコトヲ要ス 金銭ヲ寄託スヘキ場所ハ親族会ノ同意ヲ得テ後見人之ヲ定ム 第九百二十八条 指定後見人及ヒ選定後見人ハ毎年少クトモ一回被後見人ノ財産ノ状況ヲ親族会ニ報告スルコトヲ要ス 第九百二十九条 後見人カ被後見人ニ代ハリテ営業若クハ第十二条第一項ニ掲ケタル行為ヲ為シ又ハ未成年者ノ之ヲ為スコトニ同意スルニハ親族会ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス但元本ノ領収ニ付テハ此限ニ在ラス 第九百三十条 後見人カ被後見人ノ財産又ハ被後見人ニ対スル第三者ノ権利ヲ譲受ケタルトキハ被後見人ハ之ヲ取消スコトヲ得此場合ニ於テハ第十九条ノ規定ヲ準用ス 前項ノ規定ハ第百二十一条乃至第百二十六条ノ適用ヲ妨ケス 第九百三十一条 後見人ハ親族会ノ同意ヲ得ルニ非サレハ被後見人ノ財産ヲ賃借スルコトヲ得ス 第九百三十二条 後見人カ其任務ヲ曠クスルトキハ親族会ハ臨時管理人ヲ選任シ後見人ノ責任ヲ以テ被後見人ノ財産ヲ管理セシムルコトヲ得 第九百三十三条 親族会ハ後見人ヲシテ被後見人ノ財産ノ管理及ヒ返還ニ付キ相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得 第九百三十四条 被後見人カ戸主ナルトキハ後見人ハ之ニ代ハリテ其権利ヲ行フ但家族ヲ離籍シ、其復籍ヲ拒ミ又ハ家族カ分家ヲ為シ若クハ廃絶家ヲ再興スルコトニ同意スルニハ親族会ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 後見人ハ未成年者ニ代ハリテ親権ヲ行フ但第九百十七条乃至第九百二十一条及ヒ前十条ノ規定ヲ準用ス 第九百三十五条 親権ヲ行フ者カ管理権ヲ有セサル場合ニ於テハ後見人ハ財産ニ関スル権限ノミヲ有ス 第九百三十六条 第六百四十四条、第八百八十七条、第八百八十九条第二項及ヒ第八百九十二条ノ規定ハ後見ニ之ヲ準用ス 第四節 後見ノ終了 第九百三十七条 後見人ノ任務カ終了シタルトキハ後見人又ハ其相続人ハ二个月内ニ其管理ノ計算ヲ為スコトヲ要ス但此期間ハ親族会ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得 第九百三十八条 後見ノ計算ハ後見監督人ノ立会ヲ以テ之ヲ為ス 後見人ノ更迭アリタル場合ニ於テハ後見ノ計算ハ親族会ノ認可ヲ得ルコトヲ要ス 第九百三十九条 未成年者カ成年ニ達シタル後後見ノ計算ノ終了前ニ其者ト後見人又ハ其相続人トノ間ニ為シタル契約ハ其者ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得其者カ後見人又ハ其相続人ニ対シテ為シタル単独行為亦同シ 第十九条及ヒ第百二十一条乃至第百二十六条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第九百四十条 後見人カ被後見人ニ返還スヘキ金額及ヒ被後見人カ後見人ニ返還スヘキ金額ニハ後見ノ計算終了ノ時ヨリ利息ヲ附スルコトヲ要ス 後見人カ自己ノ為メニ被後見人ノ金銭ヲ消費シタルトキハ其消費ノ時ヨリ之ニ利息ヲ附スルコトヲ要ス尚ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス 第九百四十一条 第六百五十四条及ヒ第六百五十五条ノ規定ハ後見ニ之ヲ準用ス 第九百四十二条 第八百九十四条ニ定メタル時効ハ後見人、後見監督人又ハ親族会員ト被後見人トノ間ニ於テ後見ニ関シテ生シタル債権ニ之ヲ準用ス 前項ノ時効ハ第九百三十九条ノ規定ニ依リテ法律行為ヲ取消シタル場合ニ於テハ其取消ノ時ヨリ之ヲ起算ス 第九百四十三条 前条第一項ノ規定ハ保佐人又ハ親族会員ト準禁治産者トノ間ニ之ヲ準用ス 第七章 親族会 第九百四十四条 本法其他ノ法令ノ規定ニ依リ親族会ヲ開クヘキ場合ニ於テハ会議ヲ要スル事件ノ本人、戸主、親族、後見人、後見監督人、保佐人、検事又ハ利害関係人ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ招集ス 第九百四十五条 親族会員ハ三人以上トシ親族其他本人又ハ其家ニ縁故アル者ノ中ヨリ裁判所之ヲ選定ス 後見人ヲ指定スルコトヲ得ル者ハ遺言ヲ以テ親族会員ヲ選定スルコトヲ得 第九百四十六条 遠隔ノ地ニ居住スル者其他正当ノ事由アル者ハ親族会員タルコトヲ辞スルコトヲ得 後見人、後見監督人及ヒ保佐人ハ親族会員タルコトヲ得ス 第九百八条ノ規定ハ親族会員ニ之ヲ準用ス 第九百四十七条 親族会ノ議事ハ会員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス 会員ハ自己ノ利害ニ関スル議事ニ付キ表決ノ数ニ加ハルコトヲ得ス 第九百四十八条 本人、戸主、家ニ在ル父母、配偶者、本家並ニ分家ノ戸主、後見人、後見監督人及ヒ保佐人ハ親族会ニ於テ其意見ヲ述フルコトヲ得 親族会ノ招集ハ前項ニ掲ケタル者ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス 第九百四十九条 無能力者ノ為メニ設ケタル親族会ハ其者ノ無能力ノ止ムマテ継続ス此親族会ハ最初ノ招集ノ場合ヲ除ク外本人、其法定代理人、後見監督人、保佐人又ハ会員之ヲ招集ス 第九百五十条 親族会ニ欠員ヲ生シタルトキハ会員ハ補欠員ノ選定ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス 第九百五十一条 親族会ノ決議ニ対シテハ一个月内ニ会員又ハ第九百四十四条ニ掲ケタル者ヨリ其不服ヲ裁判所ニ訴フルコトヲ得 第九百五十二条 親族会カ決議ヲ為スコト能ハサルトキハ会員ハ其決議ニ代ハルヘキ裁判ヲ為スコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 第九百五十三条 第六百四十四条ノ規定ハ親族会員ニ之ヲ準用ス 第八章 扶養ノ義務 第九百五十四条 直系血族及ヒ兄弟姉妹ハ互ニ扶養ヲ為ス義務ヲ負フ 夫婦ノ一方ト他ノ一方ノ直系尊属ニシテ其家ニ在ル者トノ間亦同シ 第九百五十五条 扶養ノ義務ヲ負フ者数人アル場合ニ於テハ其義務ヲ履行スヘキ者ノ順序左ノ如シ 第一 配偶者 第二 直系卑属 第三 直系尊属 第四 戸主 第五 前条第二項ニ掲ケタル者 第六 兄弟姉妹 直系卑属又ハ直系尊属ノ間ニ於テハ其親等ノ最モ近キ者ヲ先ニス前条第二項ニ掲ケタル直系尊属間亦同シ 第九百五十六条 同順位ノ扶養義務者数人アルトキハ各其資力ニ応シテ其義務ヲ分担ス但家ニ在ル者ト家ニ在ラサル者トノ間ニ於テハ家ニ在ル者先ツ扶養ヲ為スコトヲ要ス 第九百五十七条 扶養ヲ受クル権利ヲ有スル者数人アル場合ニ於テ扶養義務者ノ資力カ其全員ヲ扶養スルニ足ラサルトキハ扶養義務者ハ左ノ順序ニ従ヒ扶養ヲ為スコトヲ要ス 第一 直系尊属 第二 直系卑属 第三 配偶者 第四 第九百五十四条第二項ニ掲ケタル者 第五 兄弟姉妹 第六 前五号ニ掲ケタル者ニ非サル家族 第九百五十五条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第九百五十八条 同順位ノ扶養権利者数人アルトキハ各其需要ニ応シテ扶養ヲ受クルコトヲ得 第九百五十六条但書ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第九百五十九条 扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クヘキ者カ自己ノ資産又ハ労務ニ依リテ生活ヲ為スコト能ハサルトキニノミ存在ス自己ノ資産ニ依リテ教育ヲ受クルコト能ハサルトキ亦同シ 兄弟姉妹間ニ在リテハ扶養ノ義務ハ扶養ヲ受クル必要カ之ヲ受クヘキ者ノ過失ニ因ラスシテ生シタルトキニノミ存在ス但扶養義務者カ戸主ナルトキハ此限ニ在ラス 第九百六十条 扶養ノ程度ハ扶養権利者ノ需要ト扶養義務者ノ身分及ヒ資力トニ依リテ之ヲ定ム 第九百六十一条 扶養義務者ハ其選択ニ従ヒ扶養権利者ヲ引取リテ之ヲ養ヒ又ハ之ヲ引取ラスシテ生活ノ資料ヲ給付スルコトヲ要ス但正当ノ事由アルトキハ裁判所ハ扶養権利者ノ請求ニ因リ扶養ノ方法ヲ定ムルコトヲ得 第九百六十二条 扶養ノ程度又ハ方法カ判決ニ因リテ定マリタル場合ニ於テ其判決ノ根拠ト為リタル事情ニ変更ヲ生シタルトキハ当事者ハ其判決ノ変更又ハ取消ヲ請求スルコトヲ得 第九百六十三条 扶養ヲ受クル権利ハ之ヲ処分スルコトヲ得ス 第五編 相続 第一章 家督相続 第一節 総則 第九百六十四条 家督相続ハ左ノ事由ニ因リテ開始ス 一 戸主ノ死亡、隠居又ハ国籍喪失 二 戸主カ婚姻又ハ養子縁組ノ取消ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ 三 女戸主ノ入夫婚姻又ハ入夫ノ離婚 第九百六十五条 家督相続ハ被相続人ノ住所ニ於テ開始ス 第九百六十六条 家督相続回復ノ請求権ハ家督相続人又ハ其法定代理人カ相続権侵害ノ事実ヲ知リタル時ヨリ五年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス相続開始ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ 第九百六十七条 相続財産ニ関スル費用ハ其財産中ヨリ之ヲ支弁ス但家督相続人ノ過失ニ因ルモノハ此限ニ在ラス 前項ニ掲ケタル費用ハ遺留分権利者カ贈与ノ減殺ニ因リテ得タル財産ヲ以テ之ヲ支弁スルコトヲ要セス 第二節 家督相続人 第九百六十八条 胎児ハ家督相続ニ付テハ既ニ生マレタルモノト看做ス 前項ノ規定ハ胎児カ死体ニテ生マレタルトキハ之ヲ適用セス 第九百六十九条 左ニ掲ケタル者ハ家督相続人タルコトヲ得ス 一 故意ニ被相続人又ハ家督相続ニ付キ先順位ニ在ル者ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル為メ刑ニ処セラレタル者 二 被相続人ノ殺害セラレタルコトヲ知リテ之ヲ告発又ハ告訴セサリシ者但其者ニ是非ノ弁別ナキトキ又ハ殺害者カ自己ノ配偶者若クハ直系血族ナリシトキハ此限ニ在ラス 三 詐欺又ハ強迫ニ因リ被相続人カ相続ニ関スル遺言ヲ為シ、之ヲ取消シ又ハ之ヲ変更スルコトヲ妨ケタル者 四 詐欺又ハ強迫ニ因リ被相続人ヲシテ相続ニ関スル遺言ヲ為サシメ、之ヲ取消サシメ又ハ之ヲ変更セシメタル者 五 相続ニ関スル被相続人ノ遺言書ヲ偽造、変造、毀滅又ハ蔵匿シタル者 第九百七十条 被相続人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ家督相続人ト為ル 一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス 二 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ男ヲ先ニス 三 親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス 四 親等ノ同シキ嫡出子、庶子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子及ヒ庶子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス 五 前四号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス 第八百三十六条ノ規定ニ依リ又ハ養子縁組ニ因リテ嫡出子タル身分ヲ取得シタル者ハ家督相続ニ付テハ其嫡出子タル身分ヲ取得シタル時ニ生マレタルモノト看做ス 第九百七十一条 前条ノ規定ハ第七百三十六条ノ適用ヲ妨ケス 第九百七十二条 第七百三十七条及ヒ第七百三十八条ノ規定ニ依リテ家族ト為リタル直系卑属ハ嫡出子又ハ庶子タル他ノ直系卑属ナキ場合ニ限リ第九百七十条ニ定メタル順序ニ従ヒテ家督相続人ト為ル 第九百七十三条 法定ノ推定家督相続人ハ其姉妹ノ為メニスル養子縁組ニ因リテ其相続権ヲ害セラルルコトナシ 第九百七十四条 第九百七十条及ヒ第九百七十二条ノ規定ニ依リテ家督相続人タルヘキ者カ家督相続ノ開始前ニ死亡シ又ハ其相続権ヲ失ヒタル場合ニ於テ其者ニ直系卑属アルトキハ其直系卑属ハ第九百七十条及ヒ第九百七十二条ニ定メタル順序ニ従ヒ其者ト同順位ニ於テ家督相続人ト為ル 第九百七十五条 法定ノ推定家督相続人ニ付キ左ノ事由アルトキハ被相続人ハ其推定家督相続人ノ廃除ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 一 被相続人ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルコト 二 疾病其他身体又ハ精神ノ状況ニ因リ家政ヲ執ルニ堪ヘサルヘキコト 三 家名ニ汚辱ヲ及ホスヘキ罪ニ因リテ刑ニ処セラレタルコト 四 浪費者トシテ準禁治産ノ宣告ヲ受ケ改悛ノ望ナキコト 此他正当ノ事由アルトキハ被相続人ハ親族会ノ同意ヲ得テ其廃除ヲ請求スルコトヲ得 第九百七十六条 被相続人カ遺言ヲ以テ推定家督相続人ヲ廃除スル意思ヲ表示シタルトキハ遺言執行者ハ其遺言カ効力ヲ生シタル後遅滞ナク裁判所ニ廃除ノ請求ヲ為スコトヲ要ス此場合ニ於テ廃除ハ被相続人ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス 第九百七十七条 推定家督相続人廃除ノ原因止ミタルトキハ被相続人又ハ推定家督相続人ハ廃除ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 第九百七十五条第一項第一号ノ場合ニ於テハ被相続人ハ何時ニテモ廃除ノ取消ヲ請求スルコトヲ得 前二項ノ規定ハ相続開始ノ後ハ之ヲ適用セス 前条ノ規定ハ廃除ノ取消ニ之ヲ準用ス 第九百七十八条 推定家督相続人ノ廃除又ハ其取消ノ請求アリタル後其裁判確定前ニ相続カ開始シタルトキハ裁判所ハ親族、利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ戸主権ノ行使及ヒ遺産ノ管理ニ付キ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得廃除ノ遺言アリタルトキ亦同シ 裁判所カ管理人ヲ選任シタル場合ニ於テハ第二十七条乃至第二十九条ノ規定ヲ準用ス 第九百七十九条 法定ノ推定家督相続人ナキトキハ被相続人ハ家督相続人ヲ指定スルコトヲ得此指定ハ法定ノ推定家督相続人アルニ至リタルトキハ其効力ヲ失フ 家督相続人ノ指定ハ之ヲ取消スコトヲ得 前二項ノ規定ハ死亡又ハ隠居ニ因ル家督相続ノ場合ニノミ之ヲ適用ス 第九百八十条 家督相続人ノ指定及ヒ其取消ハ之ヲ戸籍吏ニ届出ツルニ因リテ其効力ヲ生ス 第九百八十一条 被相続人カ遺言ヲ以テ家督相続人ノ指定又ハ其取消ヲ為ス意思ヲ表示シタルトキハ遺言執行者ハ其遺言カ効力ヲ生シタル後遅滞ナク之ヲ戸籍吏ニ届出ツルコトヲ要ス此場合ニ於テ指定又ハ其取消ハ被相続人ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス 第九百八十二条 法定又ハ指定ノ家督相続人ナキ場合ニ於テ其家ニ被相続人ノ父アルトキハ父、父アラサルトキ又ハ父カ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ母、父母共ニアラサルトキ又ハ其意思ヲ表示スルコト能ハサルトキハ親族会ハ左ノ順序ニ従ヒ家族中ヨリ家督相続人ヲ選定ス 第一 配偶者但家女ナルトキ 第二 兄弟 第三 姉妹 第四 第一号ニ該当セサル配偶者 第五 兄弟姉妹ノ直系卑属 第九百八十三条 家督相続人ヲ選定スヘキ者ハ正当ノ事由アル場合ニ限リ裁判所ノ許可ヲ得テ前条ニ掲ケタル順序ヲ変更シ又ハ選定ヲ為ササルコトヲ得 第九百八十四条 第九百八十二条ノ規定ニ依リテ家督相続人タル者ナキトキハ家ニ在ル直系尊属中親等ノ最モ近キ者家督相続人ト為ル但親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ男ヲ先ニス 第九百八十五条 前条ノ規定ニ依リテ家督相続人タル者ナキトキハ親族会ハ被相続人ノ親族、家族、分家ノ戸主又ハ本家若クハ分家ノ家族中ヨリ家督相続人ヲ選定ス 前項ニ掲ケタル者ノ中ニ家督相続人タルヘキ者ナキトキハ親族会ハ他人ノ中ヨリ之ヲ選定ス 親族会ハ正当ノ事由アル場合ニ限リ前二項ノ規定ニ拘ハラス裁判所ノ許可ヲ得テ他人ヲ選定スルコトヲ得 第三節 家督相続ノ効力 第九百八十六条 家督相続人ハ相続開始ノ時ヨリ前戸主ノ有セシ権利義務ヲ承継ス但前戸主ノ一身ニ専属セルモノハ此限ニ在ラス 第九百八十七条 系譜、祭具及ヒ墳墓ノ所有権ハ家督相続ノ特権ニ属ス 第九百八十八条 隠居者及ヒ入夫婚姻ヲ為ス女戸主ハ確定日附アル証書ニ依リテ其財産ヲ留保スルコトヲ得但家督相続人ノ遺留分ニ関スル規定ニ違反スルコトヲ得ス 第九百八十九条 隠居又ハ入夫婚姻ニ因ル家督相続ノ場合ニ於テハ前戸主ノ債権者ハ其前戸主ニ対シテ弁済ノ請求ヲ為スコトヲ得 入夫婚姻ノ取消又ハ入夫ノ離婚ニ因ル家督相続ノ場合ニ於テハ入夫カ戸主タリシ間ニ負担シタル債務ノ弁済ハ其入夫ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ得 前二項ノ規定ハ家督相続人ニ対スル請求ヲ妨ケス 第九百九十条 国籍喪失者ノ家督相続人ハ戸主権及ヒ家督相続ノ特権ニ属スル権利ノミヲ承継ス但遺留分及ヒ前戸主カ特ニ指定シタル相続財産ヲ承継スルコトヲ妨ケス 国籍喪失者カ日本人ニ非サレハ享有スルコトヲ得サル権利ヲ有スル場合ニ於テ一年内ニ之ヲ日本人ニ譲渡ササルトキハ其権利ハ家督相続人ニ帰属ス 第九百九十一条 国籍喪失ニ因ル家督相続ノ場合ニ於テハ前戸主ノ債権者ハ家督相続人ニ対シテハ其受ケタル財産ノ限度ニ於テノミ弁済ノ請求ヲ為スコトヲ得 第二章 遺産相続 第一節 総則 第九百九十二条 遺産相続ハ家族ノ死亡ニ因リテ開始ス 第九百九十三条 第九百六十五条乃至第九百六十八条ノ規定ハ遺産相続ニ之ヲ準用ス 第二節 遺産相続人 第九百九十四条 被相続人ノ直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ遺産相続人ト為ル 一 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス 二 親等ノ同シキ者ハ同順位ニ於テ遺産相続人ト為ル 第九百九十五条 前条ノ規定ニ依リテ遺産相続人タルヘキ者カ相続ノ開始前ニ死亡シ又ハ其相続権ヲ失ヒタル場合ニ於テ其者ニ直系卑属アルトキハ其直系卑属ハ前条ノ規定ニ従ヒ其者ト同順位ニ於テ遺産相続人ト為ル 第九百九十六条 前二条ノ規定ニ依リテ遺産相続人タルヘキ者ナキ場合ニ於テ遺産相続ヲ為スヘキ者ノ順位左ノ如シ 第一 配偶者 第二 直系尊属 第三 戸主 前項第二号ノ場合ニ於テハ第九百九十四条ノ規定ヲ準用ス 第九百九十七条 左ニ掲ケタル者ハ遺産相続人タルコトヲ得ス 一 故意ニ被相続人又ハ遺産相続ニ付キ先順位若クハ同順位ニ在ル者ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル為メ刑ニ処セラレタル者 二 第九百六十九条第二号乃至第五号ニ掲ケタル者 第九百九十八条 遺留分ヲ有スル推定遺産相続人カ被相続人ニ対シテ虐待ヲ為シ又ハ之ニ重大ナル侮辱ヲ加ヘタルトキハ被相続人ハ其推定遺産相続人ノ廃除ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 第九百九十九条 被相続人ハ何時ニテモ推定遺産相続人廃除ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 第千条 第九百七十六条及ヒ第九百七十八条ノ規定ハ推定遺産相続人ノ廃除及ヒ其取消ニ之ヲ準用ス 第三節 遺産相続ノ効力 第一款 総則 第千一条 遺産相続人ハ相続開始ノ時ヨリ被相続人ノ財産ニ属セシ一切ノ権利義務ヲ承継ス但被相続人ノ一身ニ専属セシモノハ此限ニ在ラス 第千二条 遺産相続人数人アルトキハ相続財産ハ其共有ニ属ス 第千三条 各共同相続人ハ其相続分ニ応シテ被相続人ノ権利義務ヲ承継ス 第二款 相続分 第千四条 同順位ノ相続人数人アルトキハ其各自ノ相続分ハ相均シキモノトス但直系卑属数人アルトキハ庶子及ヒ私生子ノ相続分ハ嫡出子ノ相続分ノ二分ノ一トス 第千五条 第九百九十五条ノ規定ニ依リテ相続人タル直系卑属ノ相続分ハ其直系尊属カ受クヘカリシモノニ同シ但直系卑属数人アルトキハ其各自ノ直系尊属カ受クヘカリシ部分ニ付キ前条ノ規定ニ従ヒテ其相続分ヲ定ム 第千六条 被相続人ハ前二条ノ規定ニ拘ハラス遺言ヲ以テ共同相続人ノ相続分ヲ定メ又ハ之ヲ定ムルコトヲ第三者ニ委託スルコトヲ得但被相続人又ハ第三者ハ遺留分ニ関スル規定ニ違反スルコトヲ得ス 被相続人カ共同相続人中ノ一人若クハ数人ノ相続分ノミヲ定メ又ハ之ヲ定メシメタルトキハ他ノ共同相続人ノ相続分ハ前二条ノ規定ニ依リテ之ヲ定ム 第千七条 共同相続人中被相続人ヨリ遺贈ヲ受ケ又ハ婚姻、養子縁組、分家、廃絶家再興ノ為メ若クハ生計ノ資本トシテ贈与ヲ受ケタル者アルトキハ被相続人カ相続開始ノ時ニ於テ有セシ財産ノ価額ニ其贈与ノ価額ヲ加ヘタルモノヲ相続財産ト看做シ前三条ノ規定ニ依リテ算定シタル相続分ノ中ヨリ其遺贈又ハ贈与ノ価額ヲ控除シ其残額ヲ以テ其者ノ相続分トス 遺贈又ハ贈与ノ価額カ相続分ノ価額ニ等シク又ハ之ニ超ユルトキハ受遺者又ハ受贈者ハ其相続分ヲ受クルコトヲ得ス 被相続人カ前二項ノ規定ニ異ナリタル意思ヲ表示シタルトキハ其意思表示ハ遺留分ニ関スル規定ニ反セサル範囲内ニ於テ其効力ヲ有ス 第千八条 前条ニ掲ケタル贈与ノ価額ハ受贈者ノ行為ニ因リ其目的タル財産カ滅失シ又ハ其価格ノ増減アリタルトキト雖モ相続開始ノ当時仍ホ原状ニテ存スルモノト看做シテ之ヲ定ム 第千九条 共同相続人ノ一人カ分割前ニ其相続分ヲ第三者ニ譲渡シタルトキハ他ノ共同相続人ハ其価額及ヒ費用ヲ償還シテ其相続分ヲ譲受クルコトヲ得 前項ニ定メタル権利ハ一个月内ニ之ヲ行使スルコトヲ要ス 第三款 遺産ノ分割 第千十条 被相続人ハ遺言ヲ以テ分割ノ方法ヲ定メ又ハ之ヲ定ムルコトヲ第三者ニ委託スルコトヲ得 第千十一条 被相続人ハ遺言ヲ以テ相続開始ノ時ヨリ五年ヲ超エサル期間内分割ヲ禁スルコトヲ得 第千十二条 遺産ノ分割ハ相続開始ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス 第千十三条 各共同相続人ハ相続開始前ヨリ存スル事由ニ付キ他ノ共同相続人ニ対シ売主ト同シク其相続分ニ応シテ担保ノ責ニ任ス 第千十四条 各共同相続人ハ其相続分ニ応シ他ノ共同相続人カ分割ニ因リテ受ケタル債権ニ付キ分割ノ当時ニ於ケル債務者ノ資力ヲ担保ス 弁済期ニ在ラサル債権及ヒ停止条件附債権ニ付テハ各共同相続人ハ弁済ヲ為スヘキ時ニ於ケル債務者ノ資力ヲ担保ス 第千十五条 担保ノ責ニ任スル共同相続人中償還ヲ為ス資力ナキ者アルトキハ其償還スルコト能ハサル部分ハ求償者及ヒ他ノ資力アル者各其相続分ニ応シテ之ヲ分担ス但求償者ニ過失アルトキハ他ノ共同相続人ニ対シテ分担ヲ請求スルコトヲ得ス 第千十六条 前三条ノ規定ハ被相続人カ遺言ヲ以テ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ之ヲ適用セス 第三章 相続ノ承認及ヒ放棄 第一節 総則 第千十七条 相続人ハ自己ノ為メニ相続ノ開始アリタルコトヲ知リタル時ヨリ三个月内ニ単純若クハ限定ノ承認又ハ放棄ヲ為スコトヲ要ス但此期間ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ裁判所ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得 相続人ハ承認又ハ放棄ヲ為ス前ニ相続財産ノ調査ヲ為スコトヲ得 第千十八条 相続人カ承認又ハ放棄ヲ為サスシテ死亡シタルトキハ前条第一項ノ期間ハ其者ノ相続人カ自己ノ為メニ相続ノ開始アリタルコトヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス 第千十九条 相続人カ無能力者ナルトキハ第千十七条第一項ノ期間ハ其法定代理人カ無能力者ノ為メニ相続ノ開始アリタルコトヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス 第千二十条 法定家督相続人ハ放棄ヲ為スコトヲ得ス但第九百八十四条ニ掲ケタル者ハ此限ニ在ラス 第千二十一条 相続人ハ其固有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ヲ管理スルコトヲ要ス但承認又ハ放棄ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス 裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ何時ニテモ相続財産ノ保存ニ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得 裁判所カ管理人ヲ選任シタル場合ニ於テハ第二十七条乃至第二十九条ノ規定ヲ準用ス 第千二十二条 承認及ヒ放棄ハ第千十七条第一項ノ期間内ト雖モ之ヲ取消スコトヲ得ス 前項ノ規定ハ第一編及ヒ前編ノ規定ニ依リテ承認又ハ放棄ノ取消ヲ為スコトヲ妨ケス但其取消権ハ追認ヲ為スコトヲ得ル時ヨリ六个月間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス承認又ハ放棄ノ時ヨリ十年ヲ経過シタルトキ亦同シ 第二節 承認 第一款 単純承認 第千二十三条 相続人カ単純承認ヲ為シタルトキハ無限ニ被相続人ノ権利義務ヲ承継ス 第千二十四条 左ニ掲ケタル場合ニ於テハ相続人ハ単純承認ヲ為シタルモノト看做ス 一 相続人カ相続財産ノ全部又ハ一部ヲ処分シタルトキ但保存行為及ヒ第六百二条ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸ヲ為スハ此限ニ在ラス 二 相続人カ第千十七条第一項ノ期間内ニ限定承認又ハ放棄ヲ為ササリシトキ 三 相続人カ限定承認又ハ放棄ヲ為シタル後ト雖モ相続財産ノ全部若クハ一部ヲ隠匿シ、私ニ之ヲ消費シ又ハ悪意ヲ以テ之ヲ財産目録中ニ記載セサリシトキ但其相続人カ放棄ヲ為シタルニ因リテ相続人ト為リタル者カ承認ヲ為シタル後ハ此限ニ在ラス 第二款 限定承認 第千二十五条 相続人ハ相続ニ因リテ得タル財産ノ限度ニ於テノミ被相続人ノ債務及ヒ遺贈ヲ弁済スヘキコトヲ留保シテ承認ヲ為スコトヲ得 第千二十六条 相続人カ限定承認ヲ為サント欲スルトキハ第千十七条第一項ノ期間内ニ財産目録ヲ調製シテ之ヲ裁判所ニ提出シ限定承認ヲ為ス旨ヲ申述スルコトヲ要ス 第千二十七条 相続人カ限定承認ヲ為シタルトキハ其被相続人ニ対シテ有セシ権利義務ハ消滅セサリシモノト看做ス 第千二十八条 限定承認者ハ其固有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ノ管理ヲ継続スルコトヲ要ス 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項、第二項及ヒ第千二十一条第二項、第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千二十九条 限定承認者ハ限定承認ヲ為シタル後五日内ニ一切ノ相続債権者及ヒ受遺者ニ対シ限定承認ヲ為シタルコト及ヒ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ公告スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス 第七十九条第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千三十条 限定承認者ハ前条第一項ノ期間満了前ニハ相続債権者及ヒ受遺者ニ対シテ弁済ヲ拒ムコトヲ得 第千三十一条 第千二十九条第一項ノ期間満了ノ後ハ限定承認者ハ相続財産ヲ以テ其期間内ニ申出テタル債権者其他知レタル債権者ニ各其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ為スコトヲ要ス但優先権ヲ有スル債権者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 第千三十二条 限定承認者ハ弁済期ニ至ラサル債権ト雖モ前条ノ規定ニ依リテ之ヲ弁済スルコトヲ要ス 条件附債権又ハ存続期間ノ不確定ナル債権ハ裁判所ニ於テ選任シタル鑑定人ノ評価ニ従ヒテ之ヲ弁済スルコトヲ要ス 第千三十三条 限定承認者ハ前二条ノ規定ニ依リテ各債権者ニ弁済ヲ為シタル後ニ非サレハ受遺者ニ弁済ヲ為スコトヲ得ス 第千三十四条 前三条ノ規定ニ従ヒテ弁済ヲ為スニ付キ相続財産ノ売却ヲ必要トスルトキハ限定承認者ハ之ヲ競売ニ付スルコトヲ要ス但裁判所ニ於テ選任シタル鑑定人ノ評価ニ従ヒ相続財産ノ全部又ハ一部ノ価額ヲ弁済シテ其競売ヲ止ムルコトヲ得 第千三十五条 相続債権者及ヒ受遺者ハ自己ノ費用ヲ以テ相続財産ノ競売又ハ鑑定ニ参加スルコトヲ得此場合ニ於テハ第二百六十条第二項ノ規定ヲ準用ス 第千三十六条 限定承認者カ第千二十九条ニ定メタル公告若クハ催告ヲ為スコトヲ怠リ又ハ同条第一項ノ期間内ニ或債権者若クハ受遺者ニ弁済ヲ為シタルニ因リ他ノ債権者若クハ受遺者ニ弁済ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス第千三十条乃至第千三十三条ノ規定ニ違反シテ弁済ヲ為シタルトキ亦同シ 前項ノ規定ハ情ヲ知リテ不当ニ弁済ヲ受ケタル債権者又ハ受遺者ニ対スル他ノ債権者又ハ受遺者ノ求償ヲ妨ケス 第七百二十四条ノ規定ハ前二項ノ場合ニモ亦之ヲ適用ス 第千三十七条 第千二十九条第一項ノ期間内ニ申出テサリシ債権者及ヒ受遺者ニシテ限定承認者ニ知レサリシ者ハ残余財産ニ付テノミ其権利ヲ行フコトヲ得但相続財産ニ付キ特別担保ヲ有スル者ハ此限ニ在ラス 第三節 放棄 第千三十八条 相続ノ放棄ヲ為サント欲スル者ハ其旨ヲ裁判所ニ申述スルコトヲ要ス 第千三十九条 放棄ハ相続開始ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス 数人ノ遺産相続人アル場合ニ於テ其一人カ放棄ヲ為シタルトキハ其相続分ハ他ノ相続人ノ相続分ニ応シテ之ニ帰属ス 第千四十条 相続ノ放棄ヲ為シタル者ハ其放棄ニ因リテ相続人ト為リタル者カ相続財産ノ管理ヲ始ムルコトヲ得ルマテ自己ノ財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ其財産ノ管理ヲ継続スルコトヲ要ス 第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項、第二項及ヒ第千二十一条第二項、第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第四章 財産ノ分離 第千四十一条 相続債権者又ハ受遺者ハ相続開始ノ時ヨリ三个月内ニ相続人ノ財産中ヨリ相続財産ヲ分離センコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得其期間満了ノ後ト雖モ相続財産カ相続人ノ固有財産ト混合セサル間亦同シ 裁判所カ前項ノ請求ニ因リテ財産ノ分離ヲ命シタルトキハ其請求ヲ為シタル者ハ五日内ニ他ノ相続債権者及ヒ受遺者ニ対シ財産分離ノ命令アリタルコト及ヒ一定ノ期間内ニ配当加入ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ公告スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス 第千四十二条 財産分離ノ請求ヲ為シタル者及ヒ前条第二項ノ規定ニ依リテ配当加入ノ申出ヲ為シタル者ハ相続財産ニ付キ相続人ノ債権者ニ先チテ弁済ヲ受ク 第千四十三条 財産分離ノ請求アリタルトキハ裁判所ハ相続財産ノ管理ニ付キ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得 裁判所カ管理人ヲ選任シタル場合ニ於テハ第二十七条乃至第二十九条ノ規定ヲ準用ス 第千四十四条 相続人ハ単純承認ヲ為シタル後ト雖モ財産分離ノ請求アリタルトキハ爾後其固有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ノ管理ヲ為スコトヲ要ス但裁判所ニ於テ管理人ヲ選任シタルトキハ此限ニ在ラス 第六百四十五条乃至第六百四十七条及ヒ第六百五十条第一項、第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千四十五条 財産ノ分離ハ不動産ニ付テハ其登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第千四十六条 第三百四条ノ規定ハ財産分離ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千四十七条 相続人ハ第千四十一条第一項及ヒ第二項ノ期間満了前ニハ相続債権者及ヒ受遺者ニ対シテ弁済ヲ拒ムコトヲ得 財産分離ノ請求アリタルトキハ相続人ハ第千四十一条第二項ノ期間満了ノ後相続財産ヲ以テ財産分離ノ請求又ハ配当加入ノ申出ヲ為シタル債権者及ヒ受遺者ニ各其債権ノ割合ニ応シテ弁済ヲ為スコトヲ要ス但優先権ヲ有スル債権者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 第千三十二条乃至第千三十六条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千四十八条 財産分離ノ請求ヲ為シタル者及ヒ配当加入ノ申出ヲ為シタル者ハ相続財産ヲ以テ全部ノ弁済ヲ受クルコト能ハサリシ場合ニ限リ相続人ノ固有財産ニ付キ其権利ヲ行フコトヲ得此場合ニ於テハ相続人ノ債権者ハ其者ニ先チテ弁済ヲ受クルコトヲ得 第千四十九条 相続人ハ其固有財産ヲ以テ相続債権者若クハ受遺者ニ弁済ヲ為シ又ハ之ニ相当ノ担保ヲ供シテ財産分離ノ請求ヲ防止シ又ハ其効力ヲ消滅セシムルコトヲ得但相続人ノ債権者カ之ニ因リテ損害ヲ受クヘキコトヲ証明シテ異議ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス 第千五十条 相続人カ限定承認ヲ為スコトヲ得ル間又ハ相続財産カ相続人ノ固有財産ト混合セサル間ハ其債権者ハ財産分離ノ請求ヲ為スコトヲ得 第三百四条、第千二十七条、第千二十九条乃至第千三十六条、第千四十三条乃至第千四十五条及ヒ第千四十八条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但第千二十九条ニ定メタル公告及ヒ催告ハ財産分離ノ請求ヲ為シタル債権者之ヲ為スコトヲ要ス 第五章 相続人ノ曠欠 第千五十一条 相続人アルコト分明ナラサルトキハ相続財産ハ之ヲ法人トス 第千五十二条 前条ノ場合ニ於テハ裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ相続財産ノ管理人ヲ選任スルコトヲ要ス 裁判所ハ遅滞ナク管理人ノ選任ヲ公告スルコトヲ要ス 第千五十三条 第二十七条乃至第二十九条ノ規定ハ相続財産ノ管理人ニ之ヲ準用ス 第千五十四条 管理人ハ相続債権者又ハ受遺者ノ請求アルトキハ之ニ相続財産ノ状況ヲ報告スルコトヲ要ス 第千五十五条 相続人アルコト分明ナルニ至リタルトキハ法人ハ存立セサリシモノト看做ス但管理人カ其権限内ニ於テ為シタル行為ノ効力ヲ妨ケス 第千五十六条 管理人ノ代理権ハ相続人カ相続ノ承認ヲ為シタル時ニ於テ消滅ス 前項ノ場合ニ於テハ管理人ハ遅滞ナク相続人ニ対シテ管理ノ計算ヲ為スコトヲ要ス 第千五十七条 第千五十二条第二項ニ定メタル公告アリタル後二个月内ニ相続人アルコト分明ナルニ至ラサルトキハ管理人ハ遅滞ナク一切ノ相続債権者及ヒ受遺者ニ対シ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ公告スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス 第七十九条第二項、第三項及ヒ第千三十条乃至第千三十七条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス但第千三十四条但書ノ規定ハ此限ニ在ラス 第千五十八条 前条第一項ノ期間満了ノ後仍ホ相続人アルコト分明ナラサルトキハ裁判所ハ管理人又ハ検事ノ請求ニ因リ相続人アラハ一定ノ期間内ニ其権利ヲ主張スヘキ旨ヲ公告スルコトヲ要ス但其期間ハ一年ヲ下ルコトヲ得ス 第千五十九条 前条ノ期間内ニ相続人タル権利ヲ主張スル者ナキトキハ相続財産ハ国庫ニ帰属ス此場合ニ於テハ第千五十六条第二項ノ規定ヲ準用ス 相続債権者及ヒ受遺者ハ国庫ニ対シテ其権利ヲ行フコトヲ得ス 第六章 遺言 第一節 総則 第千六十条 遺言ハ本法ニ定メタル方式ニ従フニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第千六十一条 満十五年ニ達シタル者ハ遺言ヲ為スコトヲ得 第千六十二条 第四条、第九条、第十二条及ヒ第十四条ノ規定ハ遺言ニハ之ヲ適用セス 第千六十三条 遺言者ハ遺言ヲ為ス時ニ於テ其能力ヲ有スルコトヲ要ス 第千六十四条 遺言者ハ包括又ハ特定ノ名義ヲ以テ其財産ノ全部又ハ一部ヲ処分スルコトヲ得但遺留分ニ関スル規定ニ違反スルコトヲ得ス 第千六十五条 第九百六十八条及ヒ第九百六十九条ノ規定ハ受遺者ニ之ヲ準用ス 第千六十六条 被後見人カ後見ノ計算終了前ニ後見人又ハ其配偶者若クハ直系卑属ノ利益ト為ルヘキ遺言ヲ為シタルトキハ其遺言ハ無効トス 前項ノ規定ハ直系血族、配偶者又ハ兄弟姉妹カ後見人タル場合ニハ之ヲ適用セス 第二節 遺言ノ方式 第一款 普通方式 第千六十七条 遺言ハ自筆証書、公正証書又ハ秘密証書ニ依リテ之ヲ為スコトヲ要ス但特別方式ニ依ルコトヲ許ス場合ハ此限ニ在ラス 第千六十八条 自筆証書ニ依リテ遺言ヲ為スニハ遺言者其全文、日附及ヒ氏名ヲ自書シ之ニ捺印スルコトヲ要ス 自筆証書中ノ挿入、削除其他ノ変更ハ遺言者其場所ヲ指示シ之ヲ変更シタル旨ヲ附記シテ特ニ之ニ署名シ且其変更ノ場所ニ捺印スルニ非サレハ其効ナシ 第千六十九条 公正証書ニ依リテ遺言ヲ為スニハ左ノ方式ニ従フコトヲ要ス 一 証人二人以上ノ立会アルコト 二 遺言者カ遺言ノ趣旨ヲ公証人ニ口授スルコト 三 公証人カ遺言者ノ口述ヲ筆記シ之ヲ遺言者及ヒ証人ニ読聞カスコト 四 遺言者及ヒ証人カ筆記ノ正確ナルコトヲ承認シタル後各自之ニ署名、捺印スルコト但遺言者カ署名スルコト能ハサル場合ニ於テハ公証人其事由ヲ附記シテ署名ニ代フルコトヲ得 五 公証人カ其証書ハ前四号ニ掲ケタル方式ニ従ヒテ作リタルモノナル旨ヲ附記シテ之ニ署名、捺印スルコト 第千七十条 秘密証書ニ依リテ遺言ヲ為スニハ左ノ方式ニ従フコトヲ要ス 一 遺言者カ其証書ニ署名、捺印スルコト 二 遺言者カ其証書ヲ封シ証書ニ用ヰタル印章ヲ以テ之ニ封印スルコト 三 遺言者カ公証人一人及ヒ証人二人以上ノ前ニ封書ヲ提出シテ自己ノ遺言書ナル旨及ヒ其筆者ノ氏名、住所ヲ申述スルコト 四 公証人カ其証書提出ノ日附及ヒ遺言者ノ申述ヲ封紙ニ記載シタル後遺言者及ヒ証人ト共ニ之ニ署名、捺印スルコト 第千六十八条第二項ノ規定ハ秘密証書ニ依ル遺言ニ之ヲ準用ス 第千七十一条 秘密証書ニ依ル遺言ハ前条ニ定メタル方式ニ欠クルモノアルモ第千六十八条ノ方式ヲ具備スルトキハ自筆証書ニ依ル遺言トシテ其効力ヲ有ス 第千七十二条 言語ヲ発スルコト能ハサル者カ秘密証書ニ依リテ遺言ヲ為ス場合ニ於テハ遺言者ハ公証人及ヒ証人ノ前ニ於テ其証書ハ自己ノ遺言書ナル旨並ニ其筆者ノ氏名、住所ヲ封紙ニ自書シテ第千七十条第一項第三号ノ申述ニ代フルコトヲ要ス 公証人ハ遺言者カ前項ニ定メタル方式ヲ践ミタル旨ヲ封紙ニ記載シテ申述ノ記載ニ代フルコトヲ要ス 第千七十三条 禁治産者カ本心ニ復シタル時ニ於テ遺言ヲ為スニハ医師二人以上ノ立会アルコトヲ要ス 遺言ニ立会ヒタル医師ハ遺言者カ遺言ヲ為ス時ニ於テ心神喪失ノ状況ニ在ラサリシ旨ヲ遺言書ニ附記シテ之ニ署名、捺印スルコトヲ要ス但秘密証書ニ依リテ遺言ヲ為ス場合ニ於テハ其封紙ニ右ノ記載及ヒ署名、捺印ヲ為スコトヲ要ス 第千七十四条 左ニ掲ケタル者ハ遺言ノ証人又ハ立会人タルコトヲ得ス 一 未成年者 二 禁治産者及ヒ準禁治産者 三 剥奪公権者及ヒ停止公権者 四 遺言者ノ配偶者 五 推定相続人、受遺者及ヒ其配偶者並ニ直系血族 六 公証人ト家ヲ同シクスル者及ヒ公証人ノ直系血族並ニ筆生、雇人 第千七十五条 遺言ハ二人以上同一ノ証書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得ス 第二款 特別方式 第千七十六条 疾病其他ノ事由ニ因リテ死亡ノ危急ニ迫リタル者カ遺言ヲ為サント欲スルトキハ証人三人以上ノ立会ヲ以テ其一人ニ遺言ノ趣旨ヲ口授シテ之ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ其口授ヲ受ケタル者之ヲ筆記シテ遺言者及ヒ他ノ証人ニ読聞カセ各証人其筆記ノ正確ナルコトヲ承認シタル後之ニ署名、捺印スルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ依リテ為シタル遺言ハ遺言ノ日ヨリ二十日内ニ証人ノ一人又ハ利害関係人ヨリ裁判所ニ請求シテ其確認ヲ得ルニ非サレハ其効ナシ 裁判所ハ遺言カ遺言者ノ真意ニ出テタル心証ヲ得ルニ非サレハ之ヲ確認スルコトヲ得ス 第千七十七条 伝染病ノ為メ行政処分ヲ以テ交通ヲ遮断シタル場所ニ在ル者ハ警察官一人及ヒ証人一人以上ノ立会ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第千七十八条 従軍中ノ軍人及ヒ軍属ハ将校又ハ相当官一人及ヒ証人二人以上ノ立会ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得若シ将校及ヒ相当官カ其場所ニ在ラサルトキハ準士官又ハ下士一人ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得 従軍中ノ軍人又ハ軍属カ疾病又ハ傷痍ノ為メ病院ニ在ルトキハ其院ノ医師ヲ以テ前項ニ掲ケタル将校又ハ相当官ニ代フルコトヲ得 第千七十九条 従軍中疾病、傷痍其他ノ事由ニ因リテ死亡ノ危急ニ迫リタル軍人及ヒ軍属ハ証人二人以上ノ立会ヲ以テ口頭ニテ遺言ヲ為スコトヲ得 前項ノ規定ニ従ヒテ為シタル遺言ハ証人其趣旨ヲ筆記シテ之ニ署名、捺印シ且証人ノ一人又ハ利害関係人ヨリ遅滞ナク理事又ハ主理ニ請求シテ其確認ヲ得ルニ非サレハ其効ナシ 第千七十六条第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千八十条 艦船中ニ在ル者ハ軍艦及ヒ海軍所属ノ船舶ニ於テハ将校又ハ相当官一人及ヒ証人二人以上其他ノ船舶ニ於テハ船長又ハ事務員一人及ヒ証人二人以上ノ立会ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 前項ノ場合ニ於テ将校又ハ相当官カ其艦船中ニ在ラサルトキハ準士官又ハ下士一人ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得 第千八十一条 第千七十九条ノ規定ハ艦船遭難ノ場合ニ之ヲ準用ス但海軍ノ所属ニ非サル船舶中ニ在ル者カ遺言ヲ為シタル場合ニ於テハ其確認ハ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス 第千八十二条 第千七十七条、第千七十八条及ヒ第千八十条ノ場合ニ於テハ遺言者、筆者、立会人及ヒ証人ハ各自遺言書ニ署名、捺印スルコトヲ要ス 第千八十三条 第千七十七条乃至第千八十一条ノ場合ニ於テ署名又ハ捺印スルコト能ハサル者アルトキハ立会人又ハ証人ハ其事由ヲ附記スルコトヲ要ス 第千八十四条 第千六十八条第二項及ヒ第千七十三条乃至第千七十五条ノ規定ハ前八条ノ規定ニ依ル遺言ニ之ヲ準用ス 第千八十五条 前九条ノ規定ニ依リテ為シタル遺言ハ遺言者カ普通方式ニ依リテ遺言ヲ為スコトヲ得ルニ至リタル時ヨリ六个月間生存スルトキハ其効ナシ 第千八十六条 日本ノ領事ノ駐在スル地ニ在ル日本人カ公正証書又ハ秘密証書ニ依リテ遺言ヲ為サント欲スルトキハ公証人ノ職務ハ領事之ヲ行フ 第三節 遺言ノ効力 第千八十七条 遺言ハ遺言者ノ死亡ノ時ヨリ其効力ヲ生ス 遺言ニ停止条件ヲ附シタル場合ニ於テ其条件カ遺言者ノ死亡後ニ成就シタルトキハ遺言ハ条件成就ノ時ヨリ其効力ヲ生ス 第千八十八条 受遺者ハ遺言者ノ死亡後何時ニテモ遺贈ノ放棄ヲ為スコトヲ得 遺贈ノ放棄ハ遺言者ノ死亡ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス 第千八十九条 遺贈義務者其他ノ利害関係人ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ遺贈ノ承認又ハ放棄ヲ為スヘキ旨ヲ受遺者ニ催告スルコトヲ得若シ受遺者カ其期間内ニ遺贈義務者ニ対シテ其意思ヲ表示セサルトキハ遺贈ヲ承認シタルモノト看做ス 第千九十条 受遺者カ遺贈ノ承認又ハ放棄ヲ為サスシテ死亡シタルトキハ其相続人ハ自己ノ相続権ノ範囲内ニ於テ承認又ハ放棄ヲ為スコトヲ得但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第千九十一条 遺贈ノ承認及ヒ放棄ハ之ヲ取消スコトヲ得ス 第千二十二条第二項ノ規定ハ遺贈ノ承認及ヒ放棄ニ之ヲ準用ス 第千九十二条 包括受遺者ハ遺産相続人ト同一ノ権利義務ヲ有ス 第千九十三条 受遺者ハ遺贈カ弁済期ニ至ラサル間ハ遺贈義務者ニ対シテ相当ノ担保ヲ請求スルコトヲ得停止条件附遺贈ニ付キ其条件ノ成否未定ノ間亦同シ 第千九十四条 受遺者ハ遺贈ノ履行ヲ請求スルコトヲ得ル時ヨリ果実ヲ取得ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第千九十五条 遺贈義務者カ遺言者ノ死亡後遺贈ノ目的物ニ付キ費用ヲ出タシタルトキハ第二百九十九条ノ規定ヲ準用ス 果実ヲ収取スル為メニ出タシタル通常ノ必要費ハ果実ノ価格ヲ超エサル限度ニ於テ其償還ヲ請求スルコトヲ得 第千九十六条 遺贈ハ遺言者ノ死亡前ニ受遺者カ死亡シタルトキハ其効力ヲ生セス 停止条件附遺贈ニ付テハ受遺者カ其条件ノ成就前ニ死亡シタルトキ亦同シ但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第千九十七条 遺贈カ其効力ヲ生セサルトキ又ハ放棄ニ因リ其効力ナキニ至リタルトキハ受遺者カ受クヘカリシモノハ相続人ニ帰属ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第千九十八条 遺贈ハ其目的タル権利カ遺言者ノ死亡ノ時ニ於テ相続財産ニ属セサルトキハ其効力ヲ生セス但其権利カ相続財産ニ属セサルコトアルニ拘ハラス之ヲ以テ遺贈ノ目的ト為シタルモノト認ムヘキトキハ此限ニ在ラス 第千九十九条 相続財産ニ属セサル権利ヲ目的トスル遺贈カ前条但書ノ規定ニ依リテ有効ナルトキハ遺贈義務者ハ其権利ヲ取得シテ之ヲ受遺者ニ移転スル義務ヲ負フ若シ之ヲ取得スルコト能ハサルカ又ハ之ヲ取得スルニ付キ過分ノ費用ヲ要スルトキハ其価額ヲ弁償スルコトヲ要ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第千百条 不特定物ヲ以テ遺贈ノ目的ト為シタル場合ニ於テ受遺者カ追奪ヲ受ケタルトキハ遺贈義務者ハ之ニ対シテ売主ト同シク担保ノ責ニ任ス 前項ノ場合ニ於テ物ニ瑕疵アリタルトキハ遺贈義務者ハ瑕疵ナキ物ヲ以テ之ニ代フルコトヲ要ス 第千百一条 遺言者カ遺贈ノ目的物ノ滅失若クハ変造又ハ其占有ノ喪失ニ因リ第三者ニ対シテ償金ヲ請求スル権利ヲ有スルトキハ其権利ヲ以テ遺贈ノ目的ト為シタルモノト推定ス 遺贈ノ目的物カ他ノ物ト附合又ハ混和シタル場合ニ於テ遺言者カ第二百四十三条乃至第二百四十五条ノ規定ニ依リ合成物又ハ混和物ノ単独所有者又ハ共有者ト為リタルトキハ其全部ノ所有権又ハ共有権ヲ以テ遺贈ノ目的ト為シタルモノト推定ス 第千百二条 遺贈ノ目的タル物又ハ権利カ遺言者ノ死亡ノ時ニ於テ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ受遺者ハ遺贈義務者ニ対シ其権利ヲ消滅セシムヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得ス但遺言者カ其遺言ニ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス 第千百三条 債権ヲ以テ遺贈ノ目的ト為シタル場合ニ於テ遺言者カ弁済ヲ受ケ且其受取リタル物カ尚ホ相続財産中ニ存スルトキハ其物ヲ以テ遺贈ノ目的ト為シタルモノト推定ス 金銭ヲ目的トスル債権ニ付テハ相続財産中ニ其債権額ニ相当スル金銭ナキトキト雖モ其金額ヲ以テ遺贈ノ目的ト為シタルモノト推定ス 第千百四条 負担附遺贈ヲ受ケタル者ハ遺贈ノ目的ノ価額ヲ超エサル限度ニ於テノミ其負担シタル義務ヲ履行スル責ニ任ス 受遺者カ遺贈ノ放棄ヲ為シタルトキハ負担ノ利益ヲ受クヘキ者自ラ受遺者ト為ルコトヲ得但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第千百五条 負担附遺贈ノ目的ノ価額カ相続ノ限定承認又ハ遺留分回復ノ訴ニ因リテ減少シタルトキハ受遺者ハ其減少ノ割合ニ応シテ其負担シタル義務ヲ免ル但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第四節 遺言ノ執行 第千百六条 遺言書ノ保管者ハ相続ノ開始ヲ知リタル後遅滞ナク之ヲ裁判所ニ提出シテ其検認ヲ請求スルコトヲ要ス遺言書ノ保管者ナキ場合ニ於テ相続人カ遺言書ヲ発見シタル後亦同シ 前項ノ規定ハ公正証書ニ依ル遺言ニハ之ヲ適用セス 封印アル遺言書ハ裁判所ニ於テ相続人又ハ其代理人ノ立会ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ開封スルコトヲ得ス 第千百七条 前条ノ規定ニ依リテ遺言書ヲ提出スルコトヲ怠リ、其検認ヲ経スシテ遺言ヲ執行シ又ハ裁判所外ニ於テ其開封ヲ為シタル者ハ二百円以下ノ過料ニ処セラル 第千百八条 遺言者ハ遺言ヲ以テ一人又ハ数人ノ遺言執行者ヲ指定シ又ハ其指定ヲ第三者ニ委託スルコトヲ得 遺言執行者指定ノ委託ヲ受ケタル者ハ遅滞ナク其指定ヲ為シテ之ヲ相続人ニ通知スルコトヲ要ス 遺言執行者指定ノ委託ヲ受ケタル者カ其委託ヲ辞セントスルトキハ遅滞ナク其旨ヲ相続人ニ通知スルコトヲ要ス 第千百九条 遺言執行者カ就職ヲ承諾シタルトキハ直チニ其任務ヲ行フコトヲ要ス 第千百十条 相続人其他ノ利害関係人ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ就職ヲ承諾スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ遺言執行者ニ催告スルコトヲ得若シ遺言執行者カ其期間内ニ相続人ニ対シテ確答ヲ為ササルトキハ就職ヲ承諾シタルモノト看做ス 第千百十一条 無能力者及ヒ破産者ハ遺言執行者タルコトヲ得ス 第千百十二条 遺言執行者ナキトキ又ハ之ナキニ至リタルトキハ裁判所ハ利害関係人ノ請求ニ因リ之ヲ選任スルコトヲ得 前項ノ規定ニ依リテ選任シタル遺言執行者ハ正当ノ理由アルニ非サレハ就職ヲ拒ムコトヲ得ス 第千百十三条 遺言執行者ハ遅滞ナク相続財産ノ目録ヲ調製シテ之ヲ相続人ニ交付スルコトヲ要ス 遺言執行者ハ相続人ノ請求アルトキハ其立会ヲ以テ財産目録ヲ調製シ又ハ公証人ヲシテ之ヲ調製セシムルコトヲ要ス 第千百十四条 遺言執行者ハ相続財産ノ管理其他遺言ノ執行ニ必要ナル一切ノ行為ヲ為ス権利義務ヲ有ス 第六百四十四条乃至第六百四十七条及ヒ第六百五十条ノ規定ハ遺言執行者ニ之ヲ準用ス 第千百十五条 遺言執行者アル場合ニ於テハ相続人ハ相続財産ヲ処分シ其他遺言ノ執行ヲ妨クヘキ行為ヲ為スコトヲ得ス 第千百十六条 前三条ノ規定ハ遺言カ特定財産ニ関スル場合ニ於テハ其財産ニ付テノミ之ヲ適用ス 第千百十七条 遺言執行者ハ之ヲ相続人ノ代理人ト看做ス 第千百十八条 遺言執行者ハ已ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ第三者ヲシテ其任務ヲ行ハシムルコトヲ得ス但遺言者カ其遺言ニ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス 遺言執行者カ前項但書ノ規定ニ依リ第三者ヲシテ其任務ヲ行ハシムル場合ニ於テハ相続人ニ対シ第百五条ニ定メタル責任ヲ負フ 第千百十九条 数人ノ遺言執行者アル場合ニ於テハ其任務ノ執行ハ過半数ヲ以テ之ヲ決ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 各遺言執行者ハ前項ノ規定ニ拘ハラス保存行為ヲ為スコトヲ得 第千百二十条 遺言執行者ハ遺言ニ報酬ヲ定メタルトキニ限リ之ヲ受クルコトヲ得 裁判所ニ於テ遺言執行者ヲ選任シタルトキハ裁判所ハ事情ニ依リ其報酬ヲ定ムルコトヲ得 遺言執行者カ報酬ヲ受クヘキ場合ニ於テハ第六百四十八条第二項及ヒ第三項ノ規定ヲ準用ス 第千百二十一条 遺言執行者カ其任務ヲ怠リタルトキ其他正当ノ事由アルトキハ利害関係人ハ其解任ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 遺言執行者ハ正当ノ事由アルトキハ就職ノ後ト雖モ其任務ヲ辞スルコトヲ得 第千百二十二条 第六百五十四条及ヒ第六百五十五条ノ規定ハ遺言執行者ノ任務カ終了シタル場合ニ之ヲ準用ス 第千百二十三条 遺言ノ執行ニ関スル費用ハ相続財産ノ負担トス但之ニ因リテ遺留分ヲ減スルコトヲ得ス 第五節 遺言ノ取消 第千百二十四条 遺言者ハ何時ニテモ遺言ノ方式ニ従ヒテ其遺言ノ全部又ハ一部ヲ取消スコトヲ得 第千百二十五条 前ノ遺言ト後ノ遺言ト牴触スルトキハ其牴触スル部分ニ付テハ後ノ遺言ヲ以テ前ノ遺言ヲ取消シタルモノト看做ス 前項ノ規定ハ遺言ト遺言後ノ生前処分其他ノ法律行為ト牴触スル場合ニ之ヲ準用ス 第千百二十六条 遺言者カ故意ニ遺言書ヲ毀滅シタルトキハ其毀滅シタル部分ニ付テハ遺言ヲ取消シタルモノト看做ス遺言者カ故意ニ遺贈ノ目的物ヲ毀滅シタルトキ亦同シ 第千百二十七条 前三条ノ規定ニ依リテ取消サレタル遺言ハ其取消ノ行為カ取消サレ又ハ効力ヲ生セサルニ至リタルトキト雖モ其効力ヲ回復セス但其行為カ詐欺又ハ強迫ニ因ル場合ハ此限ニ在ラス 第千百二十八条 遺言者ハ其遺言ノ取消権ヲ放棄スルコトヲ得ス 第千百二十九条 負担附遺贈ヲ受ケタル者カ其負担シタル義務ヲ履行セサルトキハ相続人ハ相当ノ期間ヲ定メテ其履行ヲ催告シ若シ其期間内ニ履行ナキトキハ遺言ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 第七章 遺留分 第千百三十条 法定家督相続人タル直系卑属ハ遺留分トシテ被相続人ノ財産ノ半額ヲ受ク 此他ノ家督相続人ハ遺留分トシテ被相続人ノ財産ノ三分ノ一ヲ受ク 第千百三十一条 遺産相続人タル直系卑属ハ遺留分トシテ被相続人ノ財産ノ半額ヲ受ク 遺産相続人タル配偶者又ハ直系尊属ハ遺留分トシテ被相続人ノ財産ノ三分ノ一ヲ受ク 第千百三十二条 遺留分ハ被相続人カ相続開始ノ時ニ於テ有セシ財産ノ価額ニ其贈与シタル財産ノ価額ヲ加ヘ其中ヨリ債務ノ全額ヲ控除シテ之ヲ算定ス 条件附権利又ハ存続期間ノ不確定ナル権利ハ裁判所ニ於テ選定シタル鑑定人ノ評価ニ従ヒ其価格ヲ定ム 家督相続ノ特権ニ属スル権利ハ遺留分ノ算定ニ関シテハ其価額ヲ算入セス 第千百三十三条 贈与ハ相続開始前一年間ニ為シタルモノニ限リ前条ノ規定ニ依リテ其価額ヲ算入ス一年前ニ為シタルモノト雖モ当事者双方カ遺留分権利者ニ損害ヲ加フルコトヲ知リテ之ヲ為シタルトキ亦同シ 第千百三十四条 遺留分権利者及ヒ其承継人ハ遺留分ヲ保全スルニ必要ナル限度ニ於テ遺贈及ヒ前条ニ掲ケタル贈与ノ減殺ヲ請求スルコトヲ得 第千百三十五条 条件附権利又ハ存続期間ノ不確定ナル権利ヲ以テ贈与又ハ遺贈ノ目的ト為シタル場合ニ於テ其贈与又ハ遺贈ノ一部ヲ減殺スヘキトキハ遺留分権利者ハ第千百三十二条第二項ノ規定ニ依リテ定メタル価格ニ従ヒ直チニ其残部ノ価額ヲ受贈者又ハ受遺者ニ給付スルコトヲ要ス 第千百三十六条 贈与ハ遺贈ヲ減殺シタル後ニ非サレハ之ヲ減殺スルコトヲ得ス 第千百三十七条 遺贈ハ其目的ノ価額ノ割合ニ応シテ之ヲ減殺ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ其意思ニ従フ 第千百三十八条 贈与ノ減殺ハ後ノ贈与ヨリ始メ順次ニ前ノ贈与ニ及フ 第千百三十九条 受贈者ハ其返還スヘキ財産ノ外尚ホ減殺ノ請求アリタル日以後ノ果実ヲ返還スルコトヲ要ス 第千百四十条 減殺ヲ受クヘキ受贈者ノ無資力ニ因リテ生シタル損失ハ遺留分権利者ノ負担ニ帰ス 第千百四十一条 負担附贈与ハ其目的ノ価額中ヨリ負担ノ価額ヲ控除シタルモノニ付キ其減殺ヲ請求スルコトヲ得 第千百四十二条 不相当ノ対価ヲ以テ為シタル有償行為ハ当事者双方カ遺留分権利者ニ損害ヲ加フルコトヲ知リテ為シタルモノニ限リ之ヲ贈与ト看做ス此場合ニ於テ遺留分権利者カ其減殺ヲ請求スルトキハ其対価ヲ償還スルコトヲ要ス 第千百四十三条 減殺ヲ受クヘキ受贈者カ贈与ノ目的ヲ他人ニ譲渡シタルトキハ遺留分権利者ニ其価額ヲ弁償スルコトヲ要ス但譲受人カ譲渡ノ当時遺留分権利者ニ損害ヲ加フルコトヲ知リタルトキハ遺留分権利者ハ之ニ対シテモ減殺ヲ請求スルコトヲ得 前項ノ規定ハ受贈者カ贈与ノ目的ノ上ニ権利ヲ設定シタル場合ニ之ヲ準用ス 第千百四十四条 受贈者及ヒ受遺者ハ減殺ヲ受クヘキ限度ニ於テ贈与又ハ遺贈ノ目的ノ価額ヲ遺留分権利者ニ弁償シテ返還ノ義務ヲ免ルルコトヲ得 前項ノ規定ハ前条第一項但書ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千百四十五条 減殺ノ請求権ハ遺留分権利者カ相続ノ開始及ヒ減殺スヘキ贈与又ハ遺贈アリタルコトヲ知リタル時ヨリ一年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス相続開始ノ時ヨリ十年ヲ経過シタルトキ亦同シ 第千百四十六条 第九百九十五条、第千四条、第千五条、第千七条及ヒ第千八条ノ規定ハ遺留分ニ之ヲ準用ス