明治民法(明治29・31年)

確定案 (明治二十七年十二月二十九日配付)

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第一編 総則 第一章 人 第一節 私権ノ享有 第一条 私権ノ享有ハ出生ニ始マル 第二条 外国人ハ法令又ハ条約ニ禁止アル場合ノ外私権ヲ享有ス 第二節 能力 第三条 満二十年ヲ以テ成年トス 第四条 未成年者カ法律行為ヲ為スニハ其法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得 第五条 未成年者ノ為メニ必要ナル行為ニ付テハ法定代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ要セス 未成年者カ単ニ権利ヲ得又ハ債務ヲ免カルヘキ行為ニ付キ亦同シ 第六条 法定代理人カ目的ヲ定メテ処分ヲ許シタル財産ハ其目的ノ範囲内ニ於テ未成年者随意ニ之ヲ処分スルコトヲ得目的ヲ定メスシテ処分ヲ許シタル財産ヲ処分スル亦同シ 第七条 一種又ハ数種ノ営業ヲ許サレタル未成年者ハ其営業ニ関シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス 前項ノ場合ニ於テ未成年者未タ其営業ニ堪ヘサル事跡アルトキハ親族編ノ規定ニ従ヒ其許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得 第八条 心神喪失ノ常況ニ在ル者ハ時々本心ニ復スルコトアルト否トヲ問ハス其治産ヲ禁スルコトヲ得 第九条 禁治産ハ本人、配偶者、四親等内ノ親族、戸主、後見人、保佐人又ハ検事ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得 禁治産ノ宣言ハ其登記ノ時ヨリ何人ニ対シテモ効力ヲ有ス 第十条 禁治産者ハ之ヲ後見ニ付ス 第十一条 禁治産者ノ行為ハ之ヲ取消スコトヲ得 第十二条 禁治産ノ原因止ミタルトキハ第九条ニ列挙セル者ノ請求ニ因リ其禁ヲ解クヘシ 第十三条 心神耗弱者、聾者、唖者、盲者及ヒ浪費者ハ准禁治産者トシテ之ニ保佐人ヲ附スルコトヲ得 第十四条 准禁治産ノ請求及ヒ其宣言ニ付テハ第九条ヲ適用ス 第十五条 准禁治産者カ左ニ掲クル行為ヲ為スニハ保佐人ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス 一 元本ヲ領収シ又ハ之ヲ利用スルコト 二 借財ヲ為スコト 三 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル権利ノ得喪ヲ目的トスル行為ヲ為スコト 四 訴訟行為ヲ為スコト 五 和解又ハ仲裁契約ヲ為スコト 六 相続ヲ承認シ又ハ之ヲ放棄スルコト 七 遺贈若クハ贈与ヲ拒絶シ又ハ負担附ノ遺贈若クハ贈与ヲ受諾スルコト 八 新築、改築、増築又ハ大修繕ヲ為スコト 九 第    条ニ定メタル期間ヲ超ユル賃貸借ヲ為スコト 裁判所ハ場合ニ依リ准禁治産者カ前項ニ掲ケサル行為ヲ為スニモ亦保佐人ノ同意アルコトヲ要スル旨ヲ宣言スルコトヲ得 前二項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得 第十六条 准禁治産ノ原因止ミタルトキハ第十二条ノ規定ヲ適用ス 第十七条 妻カ左ニ掲クル行為ヲ為スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス 一 元本ヲ領収シ又ハ之ヲ利用スルコト 二 借財ヲ為スコト 三 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル権利ノ得喪ヲ目的トスル行為ヲ為スコト 四 訴訟行為ヲ為スコト 五 和解又ハ仲裁契約ヲ為スコト 六 贈与ヲ為スコト 七 贈与若クハ遺贈ヲ受諾シ又ハ之ヲ拒絶スルコト 八 相続ヲ承認シ又ハ之ヲ放棄スルコト 九 保証ヲ為スコト 十 身体ニ羈絆ヲ受クヘキ契約ヲ為スコト 前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得 第十八条 一種又ハ数種ノ営業ヲ許サレタル妻ハ其営業ニ関シテハ独立人ト同一ノ能力ヲ有ス 第十九条 夫ハ其与ヘタル許可ヲ取消シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得 第二十条 左ノ場合ニ於テハ妻ハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要セス 一 夫ノ生死分明ナラサルトキ 二 夫カ妻ヲ遺棄シタルトキ 三 夫カ禁治産者又ハ准禁治産者ナルトキ 四 夫カ瘋癲ノ為メ病院又ハ私宅ニ監置セラルルトキ 五 夫カ重罪ノ刑ニ処セラレ其刑期中ニ在ルトキ 六 夫婦ノ利益相反スルトキ 第二十一条 夫カ未成年ナルトキハ己先ツ妻カ為サント欲スル行為ヲ為ス能力ヲ得ルニ非サレハ之ヲ許可スルコトヲ得ス 第二十二条 無能力者ノ相手方ハ其無能力者カ能力者ト為リタル後之ニ対シテ一个月以上ノ期間内ニ其取消シ得ヘキ行為ヲ追認スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ無能力者カ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ其行為ヲ追認シタルモノト看做ス 無能力者カ未タ能力者トナラサル時ニ於テ夫又ハ法定代理人ニ対シ前項ノ催告ヲ為スモ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキ亦同シ但法定代理人ニ対シテハ其権限内ノ行為ニ付テノミ此催告ヲ為スコトヲ得 特別ノ方式ヲ要スル行為ニ付テハ右ノ期間内ニ其方式ヲ践マサルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス 准禁治産者及ヒ妻ニ対シテハ第一項ノ期間内ニ保佐人ノ同意若クハ夫ノ許可ヲ得テ其行為ヲ追認スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間内ニ右ノ同意若クハ許可ヲ得サルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス 第二十三条 無能力者カ能力ヲ有スル旨ヲ明言シタルノミニシテ之ヲ信セシムル為メ自ラ詐術ヲ用井タルニ非サレハ其無能力ニ因リテ其行為ヲ取消スコトヲ妨ケス 第三節 住所 第二十四条 各人ノ生活ノ本拠ヲ以テ其住所トス 第二十五条 住所ノ知レサル場合ニ於テハ居所ヲ以テ住所ニ代用ス 第二十六条 日本ニ住所ヲ有セサル者ハ其日本人タルト外国人タルトヲ問ハス日本ニ於ケル居所ヲ以テ住所ニ代用ス但法例ノ定ムル所ニ従ヒ其住所ノ法律ニ依ルヘキ場合ハ此限ニ在ラス 第二十七条 或行為ニ付キ仮住所ヲ選定シタルトキハ其行為ニ関シテハ之ヲ以テ住所ニ代用ス 第四節 失踪 第二十八条 従来ノ住所又ハ居所ヲ去リタル者カ其財産ノ管理人ヲ置カサリシトキハ裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ其財産ノ管理ニ付キ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得但本人カ後日ニ至リ管理人ヲ置クトキハ其管理人、利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ其命令ヲ解クヘシ 本人ノ不在中管理人ノ権限消滅シタルトキモ亦前項ノ規定ニ依ル 第二十九条 不在者カ管理人ヲ置キタル場合ニ於テ其不在者ノ生死分明ナラサルトキハ裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ管理人ヲ改任スルコトヲ得 第三十条 前二条ノ規定ニ依リ裁判所ニ於テ選定シタル管理人ハ其管理スヘキ財産ノ目録ヲ調製スルコトヲ要ス但其費用ハ不在者ノ財産ヲ以テ之ヲ支弁ス 不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ利害関係人又ハ検事ノ請求アルトキハ裁判所ハ不在者カ置キタル管理人ニモ前項ノ手続ヲ命スルコトヲ得 右ノ外総テ裁判所カ不在者ノ財産ノ保存ニ必要ナリト認ムル処分ハ之ヲ管理人ニ命スルコトヲ得 第三十一条 裁判所ニ於テ選定シタル管理人ハ管理行為ノミヲ為ス権限ヲ有ス但他ノ行為ヲ必要トスルトキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ為スコトヲ得 不在者カ其管理人ノ権限ヲ定メ置カサリシトキ亦同シ 不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ其管理人カ不在者ノ定メ置キタル権限外ノ行為ヲ必要トスルトキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ為スコトヲ得 第三十二条 裁判所ハ管理人ヲシテ財産ノ管理及ヒ其返還ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得 裁判所ハ管理人ト不在者トノ関係其他ノ事情ニ依リ不在者ノ財産中ヨリ相当ト認ムル報酬ヲ管理人ニ与フルコトヲ得 第三十三条 不在者ノ生死十年間分明ナラサルトキハ利害関係人ハ失踪ノ宣言ヲ請求スルコトヲ得 戦地ニ臨ミタル者、沈没シタル船舶中ニ在リタル者其他死亡ノ原因タルヘキ危難ニ遭遇シタル者ニ付テハ戦争ノ止ミタル後、船舶ノ沈没シタル後又ハ其他ノ危難ノ去リタル後三年間生死分明ナラサルトキハ前項ノ請求ヲ為スコトヲ得 第三十四条 失踪ノ宣言ヲ受ケタル者ハ前条ノ期間満了ノ時ニ死亡シタルモノト看做ス 第三十五条 失踪者ノ生存セルコト又ハ前条ニ定メタル時ト異リタル時ニ死亡シタルコトノ証明アルトキハ裁判所ハ本人又ハ利害関係人ノ請求ニ因リ失踪ノ宣言ヲ取消スヘシ但失踪ノ宣言アリタルヨリ其取消アルマテニ善意ヲ以テ為シタル行為ハ其効力ヲ変セス 失踪ノ宣言ニ因リ財産ヲ得タル者ハ其取消ニ因リ権利ヲ失フモ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テノミ其財産ヲ返還スル義務ヲ負フ 第二章 法人 第一節 法人ノ設立 第三十六条 法人ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ依ルニ非サレハ成立スルコトヲ得ス 第三十七条 祭祀、宗教、慈善、学問、技芸其他公益ニ関スル社団若クハ財団ニシテ営利ヲ目的トセサルモノハ主務官庁ノ許可ヲ得テ之ヲ法人ト為スコトヲ得 第三十八条 営利ヲ目的トスル社団ハ商事会社設立ノ条件ニ従ヒ之ヲ法人ト為スコトヲ得 前項ノ社団法人ニハ総テ商事会社ニ関スル規定ヲ適用ス 第三十九条 外国法人ハ国、国ノ行政区劃及ヒ商事会社ヲ除ク外其成立ヲ認許セス但法律又ハ条約ニ依リテ認許セラレタルモノハ此限ニ在ラス 前項ノ規定ニ依リテ認許セラレタル外国法人ハ日本ニ成立スル同種ノ者ト同一ノ私権ヲ有ス但外国人カ享有スルコトヲ得サル権利及ヒ法律又ハ条約中ニ特別ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス 第四十条 社団法人ハ定款ヲ作リ之ニ左ノ事項ヲ記載スルコトヲ要ス 一 目的 二 名称 三 事務所 四 社員タル資格ノ得喪ニ関スル規定 五 資産ニ関スル規定 六 理事ノ任免及ヒ職務ニ関スル規定 七 総会ノ招集及ヒ決議ノ方法 八 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期 九 解散ノ場合ニ於テ財産ノ帰属スヘキ者ヲ定ムル必要アルトキハ其指定 第四十一条 社団法人ノ定款ハ定款中ニ別段ノ定ナキトキハ総社員ノ四分三以上ノ同意アルニ非サレハ之ヲ変更スルコトヲ得ス 定款ノ変更ハ主務官庁ノ認可ヲ受クルニ非サレハ其効力ヲ生セス 第四十二条 財団法人ニ付テハ其設立ヲ目的トスル寄附行為ヲ以テ左ノ事項ヲ定ムルコトヲ要ス 一 寄附ノ目的 二 寄附スヘキ財産 三 理事任免ノ方法 寄附者若シ理事任免ノ方法ヲ定メスシテ死亡シタルトキハ裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ其方法ヲ定ムルコトヲ得 第四十三条 生前処分ヲ以テ寄附行為ヲ為ストキハ贈与ニ関スル規定ヲ適用ス 遺言ヲ以テ寄附行為ヲ為ストキハ遺贈ニ関スル規定ヲ適用ス 第四十四条 生前処分ヲ以テ寄附行為ヲ為シタルトキハ寄附財産ハ法人設立ノ許可アリタル時ヨリ法人ノ財産ヲ組成ス 遺言ヲ以テ寄附行為ヲ為シタルトキハ寄附財産ハ遺言カ効力ヲ生シタル時ヨリ法人ニ帰属シタルモノト看做ス 第四十五条 法人ハ法令及ヒ定款又ハ寄附行為ニ因リテ定マリタル目的ノ範囲内ニ於テ権利ヲ有シ義務ヲ負フ 第四十六条 法人ハ理事其他ノ代理人カ職務ヲ行フニ際シテ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス 法人ノ目的ノ範囲内ニ在ラサル行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ其事項ノ議決ヲ賛成シタル社員、理事及ヒ之ヲ履行シタル理事其他ノ代理人ニ於テ連帯ノ責任ヲ負フ 第四十七条 法人ハ名称ヲ定メ事務所ヲ設クルコトヲ要ス 法人ノ住所ハ其主タル事務所所在ノ地ニ在ルモノトス 第四十八条 法人ハ其設立後二週間内ニ各事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ為スコトヲ要ス 法人ノ設立ハ其主タル事務所所在地ニ於テ登記ヲ為スニ非サレハ他人ニ対シテ其効ナシ 法人設立ノ後新ニ事務所ヲ設ケタルトキハ一週間内ニ登記ヲ為スコトヲ要ス 第四十九条 事務所ヲ移転シタルトキハ旧所在地ニ於テハ一週間内ニ移転ノ登記ヲ為シ新所在地ニ於テハ同期間内ニ法人ノ設立ニ必要ナル登記ヲ為スコトヲ要ス 同一ノ登記所ノ管轄区域内ニ於テ事務所ヲ移転シタルトキハ移転ノミノ登記ヲ為スコトヲ要ス 第五十条 登記スヘキ事項左ノ如シ 一 目的 二 名称 三 事務所 四 設立許可ノ年月日 五 存立時期ヲ定メタルトキハ其時期 六 理事ノ氏名、住所 七 資産ノ総額 八 出資ノ方法ヲ定メタルトキハ其方法 前項ニ掲ケタル事項中ニ変更ヲ生シタルトキハ一週間内ニ其登記ヲ為スコトヲ要ス登記前ニ在リテハ他人ニ対シテ其変更ノ効ヲ生セス 第五十一条 第四十八条第一項及ヒ第五十条ノ規定ニ依リ登記スヘキ事項ニシテ官庁ノ許可ヲ要スルモノハ其許可書ノ到達シタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス 第五十二条 第四十八条第三項、第四十九条及ヒ第五十条ノ規定ハ外国法人カ日本ニ事務所ヲ設クル場合ニモ亦之ヲ適用ス但外国ニ於テ生シタル事項ニ付テハ其通知ヲ受ケタル時ヨリ登記ノ期間ヲ起算ス 外国法人カ始メテ日本ニ事務所ヲ設ケタルトキハ其事務所所在ノ地ニ於テ登記ヲ為スマテハ他人ニ対シテ法人タル効ナシ 第五十三条 法人ハ設立ノ時及ヒ毎年初ノ三个月内ニ財産目録ヲ作リ常ニ之ヲ備ヘ置クコトヲ要ス但特ニ事業年度ヲ設クルモノハ設立ノ時及ヒ其年度ノ終ニ於テ之ヲ作ルコトヲ要ス 社団法人ハ社員名簿ヲ備ヘ置キ社員ノ変更アル毎ニ之ヲ訂正スルコトヲ要ス 第二節 法人ノ管理 第五十四条 法人ニハ理事ヲ置クコトヲ要ス 理事数人アル場合ニ於テ定款又ハ寄附行為ニ別段ノ定ナキトキハ其管理ニ関スル事項ハ理事ノ多数ヲ以テ之ヲ決ス 第五十五条 理事ハ総テ法人ノ事務ニ付キ法人ヲ代表ス但定款ノ規定又ハ寄附行為ノ趣旨ニ違反スルコトヲ得ス又社団法人ニ在リテハ総会ノ決議ニ従フコトヲ要ス 第五十六条 理事ノ代理権ニ加ヘタル制限ハ善意ノ相手方ニ対シテ其効ナシ 第五十七条 理事ハ定款、寄附行為又ハ総会ノ決議ニ依リテ禁止セラレサルトキハ特定ノ行為ニ付キ他人ヲシテ代理セシムルコトヲ得 第五十八条 理事ノ缺ケタル場合ニ於テ遅滞ノ為メニ損害ヲ生スル虞アルトキハ裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ仮理事ヲ選任スヘシ 第五十九条 法人ト理事トノ間ニ利益相反スル事項ニ付テハ理事ハ代理権ヲ有セス此場合ニ於テハ前条ノ規定ニ依リテ特別代理人ヲ選任スヘシ 第六十条 法人ニハ定款、寄附行為又ハ総会ノ決議ヲ以テ一人又ハ数人ノ監事ヲ置クコトヲ得 第六十一条 監事ノ職務左ノ如シ 一 法人ノ財産ノ状況ヲ監査スルコト 二 理事ノ業務施行ノ状況ヲ監査スルコト 三 財産ノ状況又ハ業務ノ施行ニ付キ不整ノ事アルヲ検出スルトキハ之ヲ総会又ハ主務官庁ニ報告スルコト但此報告ヲ為ス為メ特ニ総会ヲ招集スルコトヲ得 第六十二条 社団法人ノ理事ハ少クトモ毎年一回社員ノ通常総会ヲ開クコトヲ要ス 第六十三条 社団法人ノ理事ハ必要アリト認ムルトキハ何時ニテモ臨時総会ヲ招集スルコトヲ得又総社員ノ五分一以上ニ当ル社員ヨリ会議ノ目的ヲ示シテ請求ヲ為ストキハ臨時総会ヲ招集スルコトヲ要ス但此定数ハ定款ヲ以テ之ヲ増減スルコトヲ得 第六十四条 総会ノ招集ハ少クトモ五日前ニ其会議ノ目的及ヒ事項ヲ示シ定款ニ定メタル方法ニ従ヒテ之ヲ為ス但定款ニ別段ノ定アルトキハ予メ通知セサル事項ニ付テモ決議ヲ為スコトヲ得 第六十五条 社団法人ノ事務ハ定款ヲ以テ理事又ハ其他ノ役員ニ委任シタルモノヲ除ク外総テ総会ノ決議ニ依リテ之ヲ行フ 総会ニ出席セサル社員ハ書面ヲ以テ表決ヲ為スコトヲ得 第六十六条 各社員ノ表決権ハ平等ナルモノトス但定款ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第六十七条 社団法人ト或社員トノ関係ニ付キ議決ヲ為ス場合ニ於テハ其社員ハ表決権ヲ有セス 第六十八条 主務官庁ハ法人ノ業務ヲ監督シ何時ニテモ職権ヲ以テ其業務及ヒ財産ノ状況ヲ検査スルコトヲ得 第三節 法人ノ解散 第六十九条 法人ハ左ノ事由ニ因リテ解散ス 一 定款又ハ寄附行為ヲ以テ定メタル解散事由ノ発生 二 法人ノ目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能 三 破産 四 設立許可ノ取消 社団法人ハ右ニ掲クル場合ノ外左ノ事由ニ因リテ解散ス 一 総会ノ決議 二 社員ノ缺亡 第七十条 社団法人ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除ク外少クトモ総社員ノ四分三ノ承諾アルニ非サレハ解散ノ決議ヲ為スコトヲ得ス 第七十一条 法人カ其債務ヲ完済スルコト能ハサルニ至リタルトキハ裁判所ハ理事若クハ債権者ノ申立ニ因リ又ハ職権ヲ以テ破産ノ宣告ヲ為ス 第七十二条 法人カ其目的以外ノ事業ヲ為シ又ハ設立ノ許可ヲ得タル条件ニ違反シ其他公益ヲ害スヘキ行為ヲ為シタルトキハ主務官庁ハ其許可ヲ取消スコトヲ得 第七十三条 解散シタル法人ノ財産ハ定款又ハ寄附行為ヲ以テ帰属権利者ト定メタル人ニ帰属ス 定款又ハ寄附行為ヲ以テ帰属権利者ヲ指定セス又ハ之ヲ指定スル方法ヲ定メサルトキハ理事ハ主務官庁ノ許可ヲ得テ其法人ノ目的ト類似セル目的ノ為メニ其財産ヲ処分スルコトヲ得但社団法人ニ在リテハ総会ノ決議ヲ経ルコトヲ要ス 前二項ノ規定ニ依リテ処分セラレサル財産ハ国庫ニ帰属ス 第七十四条 解散シタル法人ハ清算ノ目的ノ範囲内ニ於テハ其清算ノ結了ニ至ルマテ尚ホ存続スルモノト看做ス 第七十五条 法人カ解散シタルトキハ破産ノ場合ヲ除ク外理事其清算人ト為ル但定款若クハ寄附行為ニ別段ノ定アルトキ又ハ総会ノ議決アルトキハ他人ヲ以テ清算人ト為スコトヲ得 第七十六条 前条ノ規定ニ依リテ清算人タル者ナキトキ又ハ清算人ノ缺ケタルカ為メ損害ヲ生スヘキ虞アルトキハ裁判所ハ利害関係人若クハ検事ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ清算人ヲ選任スルコトヲ得 第七十七条 重要ナル事由アルトキハ裁判所ハ利害関係人若クハ検事ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ清算人ヲ解任スルコトヲ得但其命令ニ対シ即時抗告ヲ為スコトヲ得 第七十八条 清算人ハ破産ノ場合ヲ除ク外解散後一週間内ニ其氏名、住所及ヒ解散ノ原因、年月日ノ登記ヲ為シ又何レノ場合ニ於テモ主務官庁ニ之ヲ届出ツルコトヲ要ス 清算中就職シタル清算人ハ就職後一週間内ニ其氏名、住所ノ登記ヲ為シ之ヲ主務官庁ニ届出ツルコトヲ要ス 第七十九条 清算人ノ職務左ノ如シ 一 現務ノ結了 二 債権ノ取立及ヒ債務ノ弁済 三 残余財産ノ引渡 清算人ハ前項ノ職務ヲ行フ為メニ必要ナル一切ノ行為ヲ為スコトヲ得 第八十条 清算人ハ其就職ノ日ヨリ二个月内ニ少クトモ三回ノ公告ヲ以テ債権者ニ対シ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス 前項ノ公告ニハ債権者カ期間内ニ申出ヲ為ササルトキハ其債権ハ清算ヨリ除斥セラルヘキ旨ヲ附記スルコトヲ要ス然レトモ清算人ハ知レタル債権者ヲ除斥スルコトヲ得ス 清算人ハ知レタル債権者ニハ各別ニ其申出ヲ催告スルコトヲ要ス 第八十一条 前条ノ期間後ニ申出テタル債権者ハ法人ノ債務ヲ済了シタル後未タ帰属権利者ニ引渡ササル財産ニ対シテノミ請求ヲ為スコトヲ得 第八十二条 清算中ニ法人ノ財産ヲ以テ其債務ヲ完済スル能ハサルコト分明ナルニ至リタルトキハ清算人ハ直チニ破産宣告ノ申立ヲ為シテ其旨ヲ公告スルコトヲ要ス 清算人ハ破産管財人ニ其事務ヲ引渡シタルトキハ其任ヲ終リタルモノトス 本条ノ場合ニ於テ既ニ債権者ニ支払ヒ又ハ帰属権利者ニ引渡シタルモノアルトキハ破産管財人ハ之ヲ取戻スコトヲ得 第八十三条 解散及ヒ清算ノ費用ハ現在ノ財産中ヨリ最モ先ニ之ヲ支払フモノトス 第八十四条 裁判所ハ法人ノ解散及ヒ清算ヲ監視シ何時ニテモ職権ヲ以テ其状況ヲ検査スルコトヲ得 第八十五条 清算カ結了シタルトキハ清算人ハ之ヲ主務官庁ニ届出ツルコトヲ要ス 第四節 罰則 第八十六条 法人ノ理事、監事又ハ清算人ハ左ノ場合ニ於テハ五円以上弐百円以下ノ過料ニ処セラル 一 本章ニ定メタル登記ヲ為スコトヲ怠リタルトキ 二 第五十三条ノ規定ニ反シ財産目録若クハ社員名簿ヲ備ヘス又ハ之ニ不正ノ記載ヲ為シタルトキ 三 第六十八条又ハ第八十四条ノ場合ニ於テ検査ヲ妨ケタルトキ 四 官庁又ハ総会ニ対シ不実ノ申立ヲ為シ又ハ事実ヲ隠蔽シタルトキ 五 第七十一条又ハ第八十二条ノ規定ニ反シ破産宣告ノ申立ヲ為スコトヲ怠リタルトキ 六 第八十条又ハ第八十二条ニ定メタル公告ヲ為スコトヲ怠リ又ハ不正ノ公告ヲ為シタルトキ 第八十七条 前条ニ掲ケタル過料ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ科ス但其命令ニ対シ即時抗告ヲ為スコトヲ得 第三章 物 第八十八条 本法ニ於テ物トハ有体物ヲ謂フ 第八十九条 土地及ヒ其定著物ハ之ヲ不動産トス 此他ノ物ハ総テ之ヲ動産トス 無記名債権ハ之ヲ動産ト看做ス 第九十条 物ノ所有者カ其物ノ常用ニ供スル為メ自己ノ所有ニ属スル他ノ物ヲ以テ之ニ附属セシメタルトキハ其附属セシメタル物ヲ従物トス 従物ハ主物ノ処分ニ随フ但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第九十一条 物ノ用方ニ従ヒ採取スル産出物ヲ天然果実トス 物ノ使用ノ対価トシテ受クヘキ金銭其他ノ物ヲ法定果実トス 第九十二条 天然果実ハ其元物ヨリ分離シタル時ニ於テ之ヲ採取スル権利ヲ有スル者ニ属ス 法定果実ハ之ヲ採取スル権利ノ存続期間中日割ヲ以テ之ヲ取得ス 第四章 法律行為 第一節 意思表示 第九十三条 意思表示ハ表意者カ其真意ニ非サルコトヲ知リテ之ヲ為シタル為メ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ但相手方カ表意者ノ真意ヲ知リタルトキハ其意思表示ハ無効トス 第九十四条 相手方ト通シテ為シタル虚偽ノ意思表示ハ無効トス 前項ノ無効ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第九十五条 意思表示ハ法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無効トス但表意者ニ重大ノ過失アリタルトキハ表意者自ラ其無効ヲ主張スルコトヲ得ス 第九十六条 詐欺又ハ強迫ニ因ル意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得 或人ニ対スル意思表示ニ付キ第三者カ詐欺ヲ行ヒタル場合ニ於テハ相手方カ其事実ヲ知リタルトキニ限リ其意思表示ヲ取消スコトヲ得 詐欺ニ因ル意思表示ノ取消ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第九十七条 公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル行為ヲ目的トスル意思表示ハ無効トス 第九十八条 離隔地ニ在ル人ニ対スル意思表示ハ其通知カ相手方ニ到達シタル時ヨリ其効力ヲ生ス 表意者カ通知ヲ発シタル後ニ死亡シ又ハ能力ヲ失フモ意思表示ハ其効力ヲ妨ケラルルコトナシ 第九十九条 意思表示ノ相手方カ之ヲ受ケタル時ニ未成年者又ハ禁治産者ナルトキハ其意思表示ハ之ニ対シテ其効ナシ但其法定代理人カ之ヲ知リタルトキハ其時ヨリ効力ヲ生ス 第二節 代理 第百条 代理人カ其権限内ニ於テ本人ノ為メニスルコトヲ示シテ為シタル意思表示ハ直接ニ本人ニ対シテ其効力ヲ生ス 前項ノ規定ハ第三者カ代理人ニ対シテ為シタル意思表示ニ之ヲ準用ス 第百一条 代理人カ本人ノ為メニスルコトヲ示サスシテ為シタル意思表示ハ自己ノ為メニ之ヲ為シタルモノト看做ス 第百二条 代理人ハ能力者タルコトヲ要セス 第百三条 意思表示ノ効力カ意思ノ欠缺、詐欺、強迫又ハ或事情ヲ知リタルコト若クハ之ヲ知ラサル過失アリタルコトニ因リテ影響ヲ受クヘキ場合ニ於テ其事実ノ有無ハ代理人ニ付キ之ヲ定ム 特定ノ法律行為ヲ為スコトヲ委任セラレタル場合ニ於テ代理人カ本人ノ指命ニ従ヒ其行為ヲ為シタルトキハ本人ハ其自ラ知リタル事情ニ付キ代理人ノ不知ヲ主張スルコトヲ得ス其過失ニ因リテ知ラサリシ事情ニ付キ亦同シ 第百四条 代理権ノ範囲ニ付キ別段ノ定ナキトキハ代理人ハ管理行為ノミヲ為ス権限ヲ有ス 第百五条 代理人ハ左ノ場合ニ非サレハ復代理人ヲ選任スルコトヲ得ス 一 法令又ハ裁判所ノ命令ヲ以テ之ヲ許シタルトキ 二 本人ノ許諾ヲ得タルトキ 三 急迫ノ必要アルトキ 第百六条 前条ノ場合ニ於テ復代理人ヲ選任シタルトキハ代理人ハ其復代理人ノ選任及ヒ監督ニ付キ本人ニ対シテ其責ニ任ス 本人ノ指名ニ従ヒテ復代理人ヲ選任シタルトキハ代理人ハ復代理人ノ不適任又ハ不誠実ナルコトヲ知リテ之ヲ本人ニ通知スルコトヲ怠リ又ハ之ヲ解任スルコトヲ怠リタルニ非サレハ其責ニ任セス 第百七条 代理人カ第百五条ノ規定ニ反シ又ハ本人ノ指名ニ依ラスシテ復代理人ヲ選任シタル場合ニ於テ本人カ復代理人ニ対シテ直接ニ其権利ヲ行使シ又ハ義務ヲ履行シタルトキハ其選任ヲ追認シタルモノト看做ス 第百八条 復代理人ハ其権限内ノ行為ニ付キ本人ヲ代表ス 復代理人ハ本人ニ対シテ代理人ト同一ノ権利義務ヲ有ス 第百九条 代理人ハ別段ノ定ナキトキハ本人ニ代ハリテ自己ト法律行為ヲ為スコトヲ得ス但其自己ノ名義ヲ以テスルト第三者ノ代理人タル名義ヲ以テスルトヲ問ハス 法律行為カ単ニ債務ノ履行ニ係ルトキハ前項ノ規定ヲ適用セス 第百十条 第三者ニ対シテ他人ニ或事ヲ委任シタル旨ヲ表示シタル者ハ其委任ノ範囲内ニ於テ他人ト第三者トノ間ニ為シタル行為ニ付キ其責ニ任ス 第百十一条 代理人カ其権限外ノ行為ヲ為シタル場合ニ於テ第三者カ其権限アリト信スル正当ノ理由ヲ有スルトキモ亦前条ノ規定ヲ適用ス 第百十二条 代理権ハ左ノ事由ニ因リテ消滅ス 一 本人ノ死亡 二 代理人ノ死亡、禁治産又ハ破産 委任ニ因ル代理権ハ前項ニ掲ケタル事由ノ外第(ママ)条ニ掲クル事由ニ因リテ消滅ス 第百十三条 代理権ノ消滅ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス但第三者カ過失ニ因リテ其事実ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス 第百十四条 代理権ヲ有セサル者カ他人ノ代理人トシテ為シタル契約ハ其追認ナキ限ハ本人ニ対シテ其効力ヲ生セス 追認及ヒ其拒絶ハ相手方ニ対シテ之ヲ為スコトヲ要ス但相手方カ其事実ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第百十五条 前条ノ場合ニ於テ相手方ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ追認ヲ為スヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ本人ニ催告スルコトヲ得若シ本人カ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ追認ヲ拒絶シタルモノト看做ス 第百十六条 代理権ヲ有セサル者ノ為シタル契約ハ本人ノ追認ナキ間ハ相手方ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得但其契約ヲ為シタル当時ニ相手方カ代理権ナキコトヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第百十七条 追認ハ反対ノ意思ナキトキハ契約ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 第百十八条 他人ノ代理人トシテ契約ヲ為シタル者カ其代理権ヲ証明スルコト能ハス且本人ノ追認ヲ得サリシトキハ相手方ノ選択ニ従ヒ之ニ対シテ履行又ハ損害賠償ノ責ニ任ス 相手方カ代理権ナキコトヲ知リタルトキ若クハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキ又ハ代理人トシテ契約ヲ為シタル者カ其能力ヲ有セサリシトキハ前項ノ責任ヲ生セス 第百十九条 単独行為ニ付テハ其行為ノ当時ニ相手方カ代理人ト称スル者ノ代理権ヲ有セスシテ之ヲ為スコトニ同意シ又ハ其代理権ヲ争ハサリシトキニ限リ契約ニ関スル前数条ノ規定ヲ適用ス代理権ヲ有セサル者ニ対シ其同意ヲ得テ単独行為ヲ為シタルトキ亦同シ 第三節 無効及ヒ取消 第百二十条 無効ノ行為ハ追認ニ因リテ其効力ヲ生セス但当事者カ其無効ナルコトヲ知リテ追認ヲ為シタルトキハ新ナル行為ヲ為シタルモノト看做ス 第百二十一条 取消シ得ヘキ行為ハ無能力者若クハ瑕疵アル意思表示ヲ為シタル者、其代理人又ハ承継人ニ限リ之ヲ取消スコトヲ得 妻カ為シタル行為ハ夫モ亦之ヲ取消スコトヲ得 第百二十二条 取消シタル行為ハ初ヨリ無効ナリシモノト看做ス但無能力者ハ其行為ニ因リテ得タル利益カ現存スル場合ニ限リ之ヲ償還スル義務ヲ負フ 第百二十三条 取消シ得ヘキ行為ハ第百二十一条ニ掲クル者ニ於テ之ヲ追認シタルトキハ初ヨリ有効ナリシモノト看做ス但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 第百二十四条 追認ハ取消ノ原因タル情況ノ止ミタル後之ヲ為スニ非サレハ其効ナシ但夫又ハ法定代理人ノ為シタル追認ハ此限ニ在ラス 禁治産者カ能力ヲ回復シタル後其行為ヲ了知シタルトキハ其了知シタル時ヨリ追認ヲ為スコトヲ得 第百二十五条 前条ニ定メタル時ヨリ後取消シ得ヘキ行為ニ付キ左ノ事実アリタルトキハ追認ヲ為シタルモノト看做ス但異議ヲ留メタルトキハ此限ニ在ラス 一 全部又ハ一部ノ任意ノ履行 二 更改 三 担保ノ供与 四 履行ノ請求 五 取消シ得ヘキ行為ニ因リテ取得シタル権利ノ全部又ハ一部ノ譲渡 六 強制執行 第百二十六条 取消権ハ追認ヲ為スコトヲ得ル日ヨリ五年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス但此時効ハ相続人ニ対シテハ相続ノ日ヨリ其進行ヲ始メ又ハ之ヲ継続ス 取消シ得ヘキ行為ヲ為シタル日ヨリ普通ノ時効ニ必要ナル期間ヲ経過シタルトキハ取消権ハ前項ノ規定ニ拘ハラス消滅ス 第四節 条件及ヒ期限 第百二十七条 停止条件附法律行為ハ条件成就ノ時ヨリ其効力ヲ生ス 解除条件附法律行為ハ条件成就ノ時ヨリ其効力ヲ失フ 当事者カ条件成就ノ効果ヲ其成就以前ニ遡ラシムル意思ヲ有シタルトキハ其意思ニ従フ 第百二十八条 条件附法律行為ノ当事者ハ条件未定ノ間ニ於テ条件ノ成就ニ因リ其行為ヨリ生スヘキ相手方ノ利益ヲ害スルコトヲ得ス 第百二十九条 条件未定ノ間ニ於ケル当事者ノ権利義務ハ一般ノ規定ニ従ヒ之ヲ処分、相続、保存又ハ担保スルコトヲ得 第百三十条 条件ノ成就ニ因リテ不利益ヲ受クヘキ当事者カ故意ニ其条件ノ成就ヲ妨ケタルトキハ其条件ハ成就シタルモノト看做ス 第百三十一条 条件カ法律行為ヲ為ス時既ニ成就セル場合ニ於テ其条件カ停止条件ナルトキハ其法律行為ハ無条件トシ解除条件ナルトキハ無効トス 条件ノ不成就カ法律行為ヲ為ス時既ニ確定セル場合ニ於テ其条件カ停止条件ナルトキハ其法律行為ハ無効トシ解除条件ナルトキハ無条件トス 前二項ノ場合ニ於テ当事者カ条件ノ成就又ハ不成就ヲ知ラサル間ハ第百二十八条及ヒ第百二十九条ノ規定ヲ準用ス 第百三十二条 不法ノ条件ヲ附シタル法律行為ハ無効トス不法行為ヲ為ササルヲ以テ条件トスルモノ亦同シ 第百三十三条 不能ノ停止条件ヲ附シタル法律行為ハ無効トス 不能ノ解除条件ヲ附シタル法律行為ハ無条件トス 第百三十四条 停止条件附法律行為ハ其条件カ単ニ債務者ノ意思ノミニ係ルトキハ無効トス 第百三十五条 停止条件附法律行為ノ目的物カ条件未定ノ間ニ於テ滅失シタルトキハ其滅失ハ債務者ノ負担ニ帰ス 物カ債務者ノ過失ニ因ラスシテ毀損シタルトキハ其毀損ハ債権者ノ負担ニ帰ス 物カ債務者ノ過失ニ因リテ毀損シタルトキハ債権者ハ条件成就ノ場合ニ於テ其選択ヲ以テ損害賠償ト共ニ法律行為ノ履行又ハ解除ヲ請求スルコトヲ得 第百三十六条 法律行為ニ始期ヲ附シタルトキハ其法律行為ノ履行ハ期限ノ到来スルマテ之ヲ請求スルコトヲ得ス 法律行為ニ終期ヲ附シタルトキハ其法律行為ノ効力ハ期限ノ到来シタル時ニ於テ消滅ス 第百三十七条 期限ハ反対ノ証拠ナキトキハ債務者ノ利益ノ為メニ定メタルモノト看做ス 期限ノ利益ハ之ヲ放棄スルコトヲ得但之カ為メニ相手方ノ利益ヲ害スルコトヲ得ス 第百三十八条 左ノ場合ニ於テハ債務者ハ期限ノ利益ヲ主張スルコトヲ得ス 一 債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキ 二 債務者カ担保ヲ毀滅シ又ハ之ヲ減少シタルトキ 三 債務者カ其約シタル担保ヲ供セサルトキ 第五章 期間 第百三十九条 期間ノ計算法ハ法令、裁判上ノ命令又ハ法律行為ニ特別ノ定アル場合ヲ除ク外本章ノ規定ニ従フ 第百四十条 期間ヲ定ムルニ時ヲ以テシタルトキハ即時ヨリ之ヲ起算ス 第百四十一条 期間ヲ定ムルニ日、週、月又ハ年ヲ以テシタルトキハ期間ノ初日ハ之ヲ算入セス但其期間午前零時ヨリ始マルトキハ此限ニ在ラス 第百四十二条 前条ノ場合ニ於テハ期間ノ末日ノ終了ヲ以テ期間ノ満了トス 法定又ハ慣習ノ取引時間アルトキハ末日ノ取引時間ノ終了ヲ以テ期間ノ満了トス 第百四十三条 期間ノ末日カ大祭日、日曜日其他ノ休日ニ当タルトキハ其日ニ取引ヲ為ササル慣習アル場合ニ限リ其翌日ヲ以テ期間満了スルモノトス 第百四十四条 期間ヲ定ムルニ週、月又ハ年ヲ以テシタルトキハ暦ニ従ヒテ之ヲ算ス 週、月又ハ年ノ始ヨリ期間ヲ起算セサルトキハ最後ノ週、月又ハ年ニ於テ其起算日ニ応当スル日ノ前日ヲ以テ期間満了スルモノトス但月又ハ年ヲ以テ期間ヲ定メタル場合ニ於テ最後ノ月ニ応当日ナキトキハ其月ノ末日ヲ以テ満期日トス 第六章 時効 第一節 総則 第百四十五条 時効ノ効力ハ其起算日ニ遡ル 第百四十六条 時効ハ当事者カ之ヲ援用スルニ非サレハ裁判所ハ之ニ依リテ裁判ヲ為スコトヲ得ス 第百四十七条 時効ノ利益ハ予メ之ヲ放棄スルコトヲ得ス 第百四十八条 時効ハ左ノ事由ニ因リテ中断ス 一 請求 二 差押、仮差押又ハ仮処分 三 承認 第百四十九条 前条ノ時効中断ハ当事者及ヒ其承継人ノ間ニ於テノミ其効力ヲ有ス 第百五十条 裁判上ノ請求ハ却下又ハ取下ノ場合ニ於テハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十一条 支払命令ハ権利拘束カ其効力ヲ失フトキハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十二条 和解ノ為メニスル呼出ハ相手方カ出頭セス又ハ和解ノ調ハサルトキハ一个月内ニ訴ヲ提起スルニ非サレハ時効中断ノ効ヲ生セス任意出頭ノ場合ニ於テ和解ノ調ハサルトキ亦同シ 第百五十三条 破産手続参加ハ債権者之ヲ取消シ又ハ却下セラレタルトキハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十四条 催告ハ六个月内ニ裁判上ノ請求、和解ノ為メニスル呼出若クハ任意出頭、破産手続参加、差押、仮差押又ハ仮処分ヲ為スニ非サレハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十五条 差押、仮差押及ヒ仮処分ハ権利者ノ請求ニ因リ又ハ法律ノ規定ニ従ハサルニ因リ取消サレタルトキハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十六条 差押、仮差押及ヒ仮処分ハ時効ノ利益ヲ受クル者ニ対シテ之ヲ為ササルトキハ之ヲ其者ニ通知シタル後ニ非サレハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十七条 時効中断ノ為メ相手方ノ権利ノ承認ヲ為スニハ其権利ニ関シテ管理ノ能力又ハ権限アルコトヲ要ス 第百五十八条 中断シタル時効ハ其中断ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ其進行ヲ始ム 裁判上ノ請求ニ因リテ中断シタル時効ハ裁判ノ確定シタル時ヨリ更ニ其進行ヲ始ム 第百五十九条 時効ノ期間満了前六个月内ニ於テ未成年者又ハ禁治産者カ法定代理人ヲ有セサルトキハ其者カ能力者ト為リ又ハ法定代理人カ就職シタル時ヨリ六个月内ハ之ニ対シテ時効完成セス 第百六十条 無能力者カ其財産ヲ管理スル父若クハ母又ハ後見人ニ対シテ有スル権利ニ付テハ其者カ能力者ト為リ又ハ後任ノ法定代理人カ就職シタル時ヨリ六个月内ハ時効完成セス 妻カ夫ニ対シテ有スル権利ニ付テハ婚姻解消ノ時ヨリ六个月内亦同シ 第百六十一条 相続財産ニ関シテハ相続人ノ確定シ、管理人ノ選任セラレ又ハ破産ノ宣告アリタル時ヨリ六个月内ハ時効完成セス 第百六十二条 時効ノ期間満了ノ時ニ当リ天災其他避クヘカラサル事変ノ為メ時効ヲ中断スルコト能ハサルトキハ其妨碍ノ止ミタル時ヨリ二週間内ハ時効完成セス 第二節 取得時効 第百六十三条 二十年間所有ノ意思ヲ以テ他人ノ物ヲ平穏且公然ニ占有スル者ハ其所有権ヲ取得ス 十年間所有ノ意思ヲ以テ他人ノ不動産ヲ平穏且公然ニ占有スル者カ其占有ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス 第百六十四条 所有権以外ノ財産権ヲ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ平穏且公然ニ行使スル者ハ前条ノ区別ニ従ヒ二十年又ハ十年ノ後其権利ヲ取得ス 第百六十五条 占有者カ任意ニ其占有ヲ中止シ又ハ他人ノ為メニ其占有ヲ奪ハレタルトキハ第百六十三条ノ時効ハ中断ス 第百六十六条 前条ノ規定ハ第百六十四条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第三節 消滅時効 第百六十七条 消滅時効ハ権利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ進行ス 前項ノ規定ハ始期附又ハ停止条件附権利ノ目的物ヲ占有スル第三者ノ為メニ其占有ノ時ヨリ取得時効ノ進行スルコトヲ妨ケス但権利者ハ其時効ヲ中断スル為メ何時ニテモ第三者ノ承認ヲ求ムルコトヲ得 第百六十八条 所有権以外ノ財産権ハ二十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 第百六十九条 前条ノ期間ハ定期金ノ債権ニ付テハ其権利発生ノ時ヨリ起算ス但債権者ハ時効中断ノ証ヲ得ル為メ何時ニテモ債務者ノ承認書ヲ求ムルコトヲ得 第百七十条 年又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル金銭其他ノ物ノ供与ヲ目的トスル債権ハ五年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 第百七十一条 左ニ掲クル債権ハ三年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 医師、産婆及ヒ薬剤師ノ治術、勤労及ヒ調剤ニ関スル債権 二 技師、棟梁及ヒ請負人ノ工事ニ関スル債権但此時効ハ其負担シタル工事終了ノ時ヨリ起算ス 第百七十二条 弁護士ハ裁判ノ時ヨリ公証人及ヒ執達吏ハ其職務執行ノ時ヨリ三年ヲ経過シタルトキハ其職務ニ関シテ受取リタル書類ニ付キ其責ヲ免カル 第百七十三条 弁護士、公証人及ヒ執達吏ノ職務ニ関スル債権ハ二年ヲ以テ時効ニ罹ル 前項ノ時効ハ其債権ノ原因タル事件終了ノ時ヨリ起算ス但其事件終了前既ニ五年ヲ経過シタル行為ニ付テハ請求ヲ為スコトヲ得ス 第百七十四条 左ニ掲クル債権ハ二年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 生産者、卸売商人及ヒ小売商人カ売却シタル産物及ヒ商品ノ代価但其買主ノ商業ニ関スルモノハ此限ニ在ラス 二 居職人及ヒ製造人ノ仕事ニ関スル債権但其注文者ノ商業ニ関スルモノハ此限ニ在ラス 三 生徒及ヒ習業者ノ教育、衣食及ヒ止宿ノ代料ニ関スル校主、塾主、教師及ヒ師匠ノ債権 第百七十五条 左ニ掲クル債権ハ一年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 月又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル雇人ノ給料 二 労力者及ヒ芸人ノ賃金並ニ其供給シタル物ノ代価 三 運送賃 四 旅店、料理店、貸席及ヒ娯遊場ノ宿泊料、飲食料、席料、木戸銭、消費物代価及ヒ立替金 五 動産ノ損料 第二編 物権 第一章 総則 第百七十六条 物権ハ本法其他ノ法律ニ定ムルモノノ外之ヲ創設スルコトヲ得ス 第百七十七条 物権ハ別段ノ定アル場合ヲ除ク外当事者ノ意思ノミニ因リテ之ヲ設定又ハ移転スルコトヲ得 第百七十八条 不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ規定ニ従ヒ登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第百七十九条 動産ニ関スル物権ノ譲渡ハ其動産ノ引渡アルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第百八十条 同一物ニ付キ所有権及ヒ他ノ物権カ同一人ニ帰シタルトキハ其物権ハ消滅ス但其物又ハ其物権カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス 所有権以外ノ物権カ他ノ権利ノ目的タル場合ニ於テ双方ノ権利カ同一人ニ帰シタルトキハ前項ノ規定ヲ準用ス 前二項ノ規定ハ之ヲ占有権ニ適用セス 第二章 占有権 第一節 占有権ノ取得 第百八十一条 占有権ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ物ヲ所持スルニ因リテ之ヲ取得ス 第百八十二条 占有権ハ代理人ニ依リテ之ヲ取得スルコトヲ得 法定代理人ハ自己ノ意思及ヒ所為ヲ以テ本人ノ為メニ占有権ヲ取得スルコトヲ得 第百八十三条 占有権ノ譲渡ハ占有物ノ引渡ニ因リテ之ヲ為ス 譲受人又ハ其代理人カ現ニ占有物ヲ所持スル場合ニ於テハ占有権ノ譲渡ハ当事者ノ意思ノミニ因リテ之ヲ為スコトヲ得 第百八十四条 代理人カ自己ノ占有物ヲ爾後本人ノ為メニ占有スル意思ヲ表示シタルトキハ本人ハ之ニ因リテ占有権ヲ取得ス 第百八十五条 代理人ニ依リテ占有ヲ為ス場合ニ於テ本人カ其代理人ニ対シ爾後第三者ノ為メニ其物ヲ占有スヘキ旨ヲ命シ第三者之ヲ承諾シタルトキハ其第三者ハ占有権ヲ取得ス 第百八十六条 権原ノ性質上占有者ニ所有ノ意思ナキモノトスル場合ニ於テハ其占有者カ占有ヲ為サシメタル者ニ対シ自己ニ所有ノ意思アルコトヲ表示シ又ハ新権原ニ因リ更ニ所有ノ意思ヲ以テ占有ヲ始ムルニ非サレハ占有ハ其性質ヲ変セス 第百八十七条 占有権ハ所有ノ意思ヲ以テ善意、平穏且公然ニ占有ヲ為スモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 前後二箇ノ時期ニ於テ占有ノ証拠アルトキハ其占有ハ継続シタルモノト推定ス但中断ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第百八十八条 占有者ノ承継人ハ其選択ニ従ヒ自己ノ占有ノミヲ主張シ又ハ自己ノ占有ニ前主ノ占有ヲ併セテ主張スルコトヲ得 前主ノ占有ヲ併セテ主張スル場合ニ於テハ其瑕疵モ亦之ヲ承継ス 第二節 占有権ノ効力 第百八十九条 占有者カ占有物ノ上ニ行使スル権利ハ之ヲ適法ニ有スルモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第百九十条 善意ノ占有者ハ占有物ヨリ生スル果実ヲ取得ス 善意ノ占有者カ本権ノ訴ニ於テ敗訴シタルトキハ其出訴ノ時ヨリ悪意ノ占有者ト看做ス 第百九十一条 悪意ノ占有者ハ果実ヲ返還シ且其既ニ消費シ、過失ニ因リテ毀損シ又ハ収取ヲ怠リタル果実ノ代価ヲ償還スル義務ヲ負フ但果実ノ通常ノ負担タル費用ノ償還ヲ請求スルコトヲ得 強暴又ハ隠秘ニ因ル占有者ニモ亦前項ノ規定ヲ適用ス 第百九十二条 占有物ノ滅失又ハ毀損カ占有者ノ所為又ハ過失ニ因ルトキハ悪意ノ占有者ハ其回復者ニ対シ賠償ノ義務ヲ負ヒ善意ノ占有者ハ其滅失又ハ毀損ニ因リテ利益ヲ受ケタル限度ニ応シ賠償ヲ為ス義務ヲ負フ但所有ノ意思ヲ有セサル占有者ハ其善意ナルトキト雖モ全部ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス 第百九十三条 所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ動産ノ占有ヲ始ムル者カ善意ニシテ且過失ナキトキハ即時ニ其動産ノ所有権ヲ取得ス 第百九十四条 前条ノ場合ニ於テ占有物カ盗品又ハ遺失物ナルトキハ其所有者ハ盗難又ハ遺失ノ時ヨリ二年間占有者ニ対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得 第百九十五条 占有者カ盗品又ハ遺失物ヲ競売若クハ公ノ市場ニ於テ又ハ其物ト同種ノ物ヲ販売スル商人ヨリ善意ニテ買受ケタルトキハ其所有者ハ其買受代価ヲ弁償スルニ非サレハ回復ヲ為スコトヲ得ス 第百九十六条 所有ノ意思ヲ以テ他人カ飼養セル家畜外ノ動物ヲ占有スル者ハ其占有ノ始善意ニシテ且二十日内ニ所有者ヨリ返還ノ請求ヲ受ケサルトキハ其動物ノ所有権ヲ取得ス 第百九十七条 占有者カ占有物ヲ返還スル場合ニ於テハ其物ノ保存ノ為メニ費シタル金額其他ノ必要費ヲ回復者ヨリ償還セシムルコトヲ得 占有者カ占有物ノ改良ノ為メニ費シタル金額其他ノ有益費ニ付テハ其価格ノ増加カ現存スル場合ニ限リ回復者ノ選択ニ従ヒ其費シタル金額又ハ其増価額ヲ償還セシムルコトヲ得 第百九十八条 占有者ハ回復者ヨリ償還ヲ受クヘキ金額ニ付キ占有物ノ上ニ留置権ヲ有ス 第百九十九条 占有者ハ以下数条ノ規定ニ従ヒ占有ノ訴ヲ提起スルコトヲ得他人ノ為メニ占有ヲ為ス者亦同シ 第二百条 占有者カ其占有ヲ妨害セラレタルトキハ占有保持ノ訴ニ依リ其妨害ノ停止及ヒ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 第二百一条 占有物ノ保全ニ付キ障害ノ虞アルトキハ占有者ハ占有保全ノ訴ニ依リ其障害ノ除却又ハ其予防若クハ損害賠償ノ担保ヲ請求スルコトヲ得 第二百二条 占有者カ其占有ヲ奪ハレタルトキハ占有回収ノ訴ニ依リ其物ノ返還及ヒ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 占有回収ノ訴ハ侵奪者ノ特定承継人ニ対シテ之ヲ提起スルコトヲ得ス但其承継人カ侵奪ノ事実ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第二百三条 占有保持ノ訴及ヒ占有回収ノ訴ハ妨害又ハ侵奪ヲ受ケタル時ヨリ一年内ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス 占有保全ノ訴ハ障害ノ原因ノ存スル間ハ之ヲ提起スルコトヲ得但新工事ニ因リ占有物ニ損害ヲ及ホス虞アル場合ニ於テ其工事ニ著手シタル時ヨリ一年ヲ経過シタルトキ又ハ其工事ノ竣成シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百四条 占有ノ訴ハ本権ノ訴ト互ニ相妨クルコトナシ 占有ノ訴ハ本権ニ基キテ之ヲ裁判スルコトヲ得ス 第三節 占有権ノ消滅 第二百五条 占有権ハ占有者カ占有ノ意思ヲ放棄シ又ハ占有物ノ所持ヲ失フニ因リテ消滅ス但占有者カ占有回収ノ訴ヲ提起シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百六条 代理人ニ依リテ占有ヲ為ス場合ニ於テハ占有権ハ左ノ事由ニ因リテ消滅ス 一 代理人カ占有物ノ所持ヲ失ヒタルコト 二 本人又ハ法定代理人カ占有ノ意思ヲ放棄シタルコト 三 代理人カ本人ニ対シ爾後自己又ハ第三者ノ為メニ占有物ヲ所持スル意思ヲ表示シタルコト 占有権ハ代理権ノ消滅ノミニ因リテ消滅セス 第四節 准占有 第二百七条 本章ノ規定ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ権利ノ行使ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス 第三章 所有権 第一節 所有権ノ限界 第二百八条 所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其所有物ノ使用、収益及ヒ処分ヲ為ス権利ヲ有ス 第二百九条 土地ノ所有権ハ法令ノ制限内ニ於テ其土地ノ上下ニ及フ 第二百十条 数人ニテ一棟ノ建物ヲ区分シ各其一部ヲ所有スルトキハ建物及ヒ其附属物ノ共用部分ハ其共有ニ属ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 共用部分ノ修繕費其他ノ負担ハ各自ノ所有部分ノ価格ニ応シテ之ヲ分ツ 第二百十一条 土地ノ所有者ハ疆界又ハ其近傍ニ於テ墻壁若クハ建物ヲ築造シ又ハ之ヲ修繕スル為メ必要ナル範囲内ニ於テ隣地ノ使用ヲ請求スルコトヲ得但隣人ノ承諾アルニ非サレハ其住家ニ立入ルコトヲ得ス 前項ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ得 第二百十二条 或土地カ他ノ土地ニ囲繞セラレテ公路ニ通セサルトキハ其土地ノ所有者ハ公路ニ至ル為メ囲繞地ヲ通行スルコトヲ得 池沼、河渠若クハ海洋ニ由ルニ非サレハ他ニ通スルコト能ハス又ハ崖岸アリテ土地ト公路ト著シキ高低ヲ為ストキ亦同シ 第二百十三条 前条ノ場合ニ於テ通行ノ場所及ヒ方法ハ通行権ヲ有スル所有者ノ為メニ必要ニシテ且囲繞地ノ為メニ損害最モ少ナキモノヲ選フコトヲ要ス 通行権ヲ有スル所有者ハ必要アルトキハ通路ヲ開設スルコトヲ得 第二百十四条 通行権ヲ有スル所有者ハ通行地ノ損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス但通路開設ノ為メニ生シタル損害ニ対スルモノノ外一年毎ニ其償金ヲ払フコトヲ得 第二百十五条 分割ニ因リ公路ニ通セサル土地ヲ生シタルトキハ其土地ノ所有者ハ公路ニ至ル為メ共同分割者ノ所有地ノミヲ通行スルコトヲ得同一所有者ニ属スル土地ノ一部ヲ譲渡シタルトキ亦同シ 前項ノ場合ニ於テハ償金ヲ払フコトヲ要セス 第二百十六条 土地ノ所有者ハ隣地ヨリ水ノ自然ニ流レ来ルヲ妨クルコトヲ得ス 第二百十七条 甲地ニ於テ貯水、排水、又ハ引水ノ為メニ設ケタル工作物ノ破潰若クハ阻塞ニ因リ乙地ニ損害ヲ及ホストキハ乙地ノ所有者ハ甲地ノ所有者ヲシテ修繕ヲ為サシメ又必要アルトキハ予防工事ヲ為サシムルコトヲ得 事変ニ因リ低地ニ於テ水流ノ阻塞シタルトキハ高地ノ所有者ハ自費ヲ以テ其疏通ニ必要ナル工事ヲ為スコトヲ得 前二項ノ場合ニ於テ工事ノ費用ニ付キ別段ノ慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百十八条 土地ノ所有者ハ雨水ヲシテ隣地ニ注瀉セシムヘキ屋根其他ノ工作物ヲ疆界又ハ其近傍ニ設クルコトヲ得ス 第二百十九条 溝渠其他ノ水流地ノ所有者ハ其水路及ヒ幅員ヲ変スルコトヲ得ス 水流ノ通過スル土地ノ所有者ハ其水路及ヒ幅員ヲ変スルコトヲ得但其下口ニ於テ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス 前二項ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百二十条 高地ノ所有者ハ浸水地ヲ乾カス為メ又ハ家用若クハ農工業用ノ余水ヲ排泄スル為メ公路、公流又ハ下水道ニ至ルマテ低地ニ水ヲ通過セシムルコトヲ得但低地ノ為メニ損害最モ少ナキ場所及ヒ方法ヲ選フコトヲ要ス 第二百二十一条 土地ノ所有者ハ其所有地ノ水ヲ通過セシムル為メ高地又ハ低地ノ所有者カ設ケタル工作物ヲ使用スルコト得 前項ノ場合ニ於テ他人ノ工作物ヲ使用スル者ハ其利益ヲ受クル割合ニ応シテ工作物ノ設置及ヒ保存ノ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十二条 水流地ノ所有者ハ堰ヲ設クル需用アルトキハ其堰ヲ対岸ニ支持セシムルコトヲ得但之ヨリ生シタル損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス 対岸ノ所有者ハ水流地ノ一部カ其所有ニ属スルトキハ右ノ堰ヲ使用スルコトヲ得但前条ノ規定ニ従ヒ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十三条 土地ノ所有者ハ隣地ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ疆界ヲ標示スヘキ物ヲ設クルコトヲ得 第二百二十四条 界標ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス但測量ノ費用ハ其土地ノ広狭ニ応シテ之ヲ分担ス 第二百二十五条 二棟ノ建物カ其所有者ヲ異ニシ且其間ニ空地アルトキハ各所有者ハ他ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ其疆界ニ囲障ヲ設クルコトヲ得 当事者ノ協議整ハサルトキハ前項ノ囲障ハ板屏又ハ竹垣ニシテ高サ六尺タルコトヲ要ス 第二百二十六条 囲障ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス 第二百二十七条 相隣者ノ一人ハ第二百二十五条第二項ニ定メタル材料ヨリ良好ナルモノヲ用井又ハ高サヲ増シテ囲障ヲ設クルコトヲ得但之ニ因リテ生スル費用ノ増額ヲ負担スルコトヲ要ス 第二百二十八条 前三条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百二十九条 疆界線上ニ設ケタル界標、囲障、墻壁及ヒ溝渠ハ相隣者ノ共有ニ属スルモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第二百三十条 一棟ノ建物ノ部分ヲ成ス疆界線上ノ墻壁ニハ前条ノ規定ヲ適用セス 高サノ不同ナル二棟ノ建物ヲ隔ツル墻壁ノ低キ建物ヲ踰ユル部分亦同シ但防火墻壁ハ此限ニ在ラス 第二百三十一条 相隣者ノ一人ハ共有ノ墻壁ノ高サヲ増スコトヲ得但其墻壁カ此工事ニ耐ヘサルトキハ自費ヲ以テ工作ヲ加ヘ若クハ其墻壁ヲ改築スルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ依リ墻壁ノ高サヲ増シタル部分ハ其工事ヲ為シタル者ノ専有ニ属ス 第二百三十二条 前条ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ得 第二百三十三条 隣地ノ竹木ノ枝カ疆界線ヲ踰ユルトキハ其竹木ノ所有者ヲシテ其枝ヲ剪除セシムルコトヲ得 隣地ノ竹木ノ根カ疆界線ヲ踰ユルトキハ之ヲ截取スルコトヲ得 第二百三十四条 建物ヲ築造スルニハ疆界線ヨリ一尺五寸以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ違ヒテ建築ヲ為サントスル者アルトキハ隣地ノ所有者ハ其建築ヲ廃止シ又ハ之ヲ変更セシムルコトヲ得但建築竣成ノ後ハ損害ノ賠償ノミヲ請求スルコトヲ得 第二百三十五条 疆界線ヨリ三尺未満ノ距離ニ於テ他人ノ宅地ヲ観望スヘキ窓又ハ椽側ヲ設クル者ハ目隠ヲ附スルコトヲ要ス 前項ノ距離ハ窓又ハ椽側ノ最モ隣地ニ近キ点ヨリ直角線ニテ疆界線ニ至ルマテヲ測算ス 第二百三十六条 前二条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百三十七条 井戸、用水溜、下水溜又ハ肥料溜ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ六尺以上、池、地窖又ハ厠坑ヲ穿ツニハ三尺以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス 水樋ヲ埋メ又ハ溝渠ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ其深サノ半以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス但三尺ヲ踰ユルコトヲ要セス 第二百三十八条 疆界線ノ近傍ニ於テ前条ノ工事ヲ為ストキハ土砂ノ崩壊又ハ水若クハ汚液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル注意ヲ為スコトヲ要ス 第二節 所有権ノ取得 第二百三十九条 無主ノ動産ハ所有ノ意思ヲ以テ之ヲ占有スルニ因リテ其所有権ヲ取得ス 無主ノ不動産ハ国庫ノ所有ニ属ス 第二百四十条 埋蔵物ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為シタル後六个月内ニ其所有者ノ知レサルトキハ発見者其所有権ヲ取得ス但他人ノ物ノ中ニ於テ発見シタル埋蔵物ハ其物ノ所有者ト之ヲ折半ス 第二百四十一条 不動産ノ所有者ハ其不動産ノ従トシテ之ニ附合シタル物ノ所有権ヲ取得ス但権原ニ因リテ其物ヲ附属セシメタル他人ノ権利ヲ妨ケス 第二百四十二条 各別ノ所有者ニ属スル数個ノ動産カ附合ニ因リ毀損スルニ非サレハ分離スルコト能ハサルニ至リタルトキハ其合成物ノ所有権ハ主タル動産ノ所有者ニ属ス分離ノ為メ多額ノ費用ヲ要スルトキ亦同シ 第二百四十三条 附合シタル動産中ニ於テ主従ノ区別ヲ為スコト能ハサルトキハ各動産ノ所有者ハ其附合ノ当時ニ於ケル価額ノ割合ニ応シテ合成物ヲ共有ス 第二百四十四条 前二条ノ規定ハ各別ノ所有者ニ属スル物カ混和シテ識別スルコト能ハサルニ至リタル場合ニ之ヲ準用ス 第二百四十五条 他人ニ属スル動産ニ工作ヲ加ヘタルトキハ其加工物ノ所有権ハ材料ノ所有者ニ属ス但工作ニ因リテ生シタル価格カ著シク材料ノ価格ニ超ユルトキハ加工者其物ノ所有権ヲ取得ス 加工者カ材料ノ一部ヲ供シタルトキハ其価格ニ工作ニ因リテ生シタル価格ヲ加ヘタルモノカ他人ノ材料ノ価格ニ超ユルトキニ限リ加工者其物ノ所有権ヲ取得ス 第二百四十六条 前五条ノ規定ニ依リテ物ノ所有権カ消滅シタルトキハ其物ノ上ニ存セル他ノ権利モ亦消滅ス 右ノ物ノ所有者カ合成物、混和物又ハ加工物ノ単独所有者ト為リタルトキハ前項ノ権利ハ爾後合成物、混和物又ハ加工物ノ上ニ存シ其共有者ト為リタルトキハ其持分ノ上ニ存ス 第二百四十七条 前六条ノ規定ノ適用ニ依リテ損失ヲ受ケタル者ハ第    条及ヒ第    条ノ規定ニ従ヒ償金ヲ請求スルコトヲ得 第三節 共有 第二百四十八条 各共有者ハ其持分ノ多少ニ拘ハラス共有物ノ全部ヲ使用スルコトヲ得但他ノ共有者ノ使用ヲ妨ケサルコトヲ要ス 第二百四十九条 各共有者ハ他ノ共有者ノ同意アルニ非サレハ共有物ニ変更ヲ加フルコトヲ得ス 第二百五十条 共有物ノ管理ニ関スル事項ハ各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス但保存行為ハ各共有者之ヲ為スコトヲ得 第二百五十一条 各共有者ハ其持分ニ応シテ管理ノ費用ヲ払ヒ其他共有物ノ負担ニ任ス 共有者カ六个月内ニ前項ノ義務ヲ履行セサルトキハ他ノ共有者ハ相当ノ償金ヲ払ヒテ其者ノ持分ヲ取得スルコトヲ得 前項ノ権利ハ債務者ノ特定承継人ニ対シテモ之ヲ主張スルコトヲ得 第二百五十二条 前四条ノ規定ニ異ナリタル契約アルトキハ其契約ハ各共有者ノ特定承継人ニ対シテモ其効力ヲ有ス 第二百五十三条 共有者ノ持分ハ相均シキモノト看做ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第二百五十四条 共有者ノ一人カ其持分ヲ放棄シタルトキ又ハ相続人ナクシテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰属ス 第二百五十五条 各共有者ハ何時ニテモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得但五年ヲ超エサル期間分割セサル旨ヲ約スルコトヲ妨ケス 此契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ス 此契約ハ各共有者ノ特定承継人ニ対シテモ其効力ヲ有ス 第二百五十六条 前条ノ規定ハ第二百十条及ヒ第二百二十九条ニ掲クル共有物ニハ之ヲ適用セス 第二百五十七条 分割ニ付キ共有者一致セサルトキハ裁判所ニ於テ分割ヲ為スコトヲ要ス但現物ヲ以テ分割ヲ為スコト能ハサルトキ又ハ分割ニ因リテ著シク其価格ヲ減スル虞アルトキハ裁判所ハ其競売ヲ命スルコトヲ得 第二百五十八条 共有者ノ一人カ他ノ共有者ニ対シテ共有ニ関スル債権ヲ有スルトキハ分割ニ際シ債務者ニ帰スヘキ共有物ノ部分ヲ以テ其弁済ヲ為サシムルコトヲ得 債権者ハ右ノ弁済ヲ受クル為メ債務者ニ帰スヘキ共有物ノ部分ヲ売却スル必要アルトキハ其売却ヲ請求スルコトヲ得 債権者ハ債務者ノ特定承継人ニ対シテモ前二項ノ権利ヲ主張スルコトヲ得 第二百五十九条 各共有者ノ債権者ハ自己ノ費用ヲ以テ分割ニ参加スルコトヲ得 前項ノ規定ニ依リテ参加ノ請求アリタルニ拘ハラス分割ヲ為シタルトキハ其分割ハ債権者ニ対シテ其効ナシ 第二百六十条 各共有者ハ他ノ共有者カ分割ニ因リテ得タル物ニ付キ売主ト同シク其持分ニ応シテ担保ノ責ニ任ス 第二百六十一条 分割カ結了シタルトキハ各分割者ハ其受ケタル物ニ関スル証書ヲ保存スルコトヲ要ス 共有者一同又ハ其中ノ数人ニ分割シタル物ニ関スル証書ハ其最大部分ヲ受ケタル者ニ於テ之ヲ保存スルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テ最大部分ヲ受ケタル者ナキトキハ分割者ノ協議ヲ以テ証書ノ保存者ヲ定ム若シ協議整ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス 証書ノ保存者ハ他ノ分割者ノ要求ニ応シテ之ヲ使用セシムルコトヲ要ス 第二百六十二条 入会権カ共有ノ性質ヲ有スルトキハ各地方ノ慣習ニ従フ外本節ノ規定ニ依ル 第二百六十三条 本節ノ規定ハ数人ニテ所有権以外ノ権利ヲ有スル場合ニ之ヲ準用ス但法令ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第四章 地上権 第二百六十四条 地上権者ハ他人ノ土地ニ於テ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ其土地ヲ使用スル権利ヲ有ス 第二百六十五条 地上権者カ土地ノ所有者ニ定期ノ地代ヲ払フヘキトキハ第二百七十二条乃至第二百七十四条ノ規定ヲ準用ス 此他地代ニ付テハ賃貸借ニ関スル規定ヲ準用ス 第二百六十六条 第二百十一条乃至第二百三十八条ノ規定ハ地上権者間又ハ地上権者ト土地ノ所有者トノ間ニ於テモ亦之ヲ適用ス但第二百二十九条ノ推定ハ地上権設定後ニ為シタル工事ニ付テノミ之ヲ地上権者ニ適用ス 第二百六十七条 設定行為ヲ以テ地上権ノ存続期間ヲ定メサルトキハ別段ノ慣習アル場合ノ外左ノ規定ニ従フ 地上権者ハ何時ニテモ其権利ヲ放棄スルコトヲ得但地代ヲ払フヘキトキハ一年前ニ予告ヲ為シ又ハ未タ期限ノ至ラサル一年分ノ地代ヲ払フコトヲ要ス 地上権者カ前項ノ規定ニ依リ其権利ヲ放棄セサルトキハ裁判所ハ当事者ノ請求ニ因リ十年以上五十年以下ノ範囲内ニ於テ工作物又ハ竹木ノ種類及ヒ状況其他地上権設定ノ当時ノ事情ヲ斟酌シテ其存続期間ヲ定ム 第二百六十八条 地上権者ハ其権利消滅ノ時ニ土地ヲ原状ニ復シテ其工作物及ヒ竹木ヲ収去スルコトヲ得但土地ノ所有者カ時価ヲ提供シテ之ヲ買取ルヘキ旨ヲ通知スルトキハ地上権者ハ正当ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス 前項ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第五章 永小作権 第二百六十九条 永小作人ハ小作料ヲ払ヒテ他人ノ土地ニ耕作又ハ牧畜ヲ為ス権利ヲ有ス但土地ニ永久ノ損害ヲ生スヘキ変更ヲ加フルコトヲ得ス 第二百七十条 永小作人ハ其権利ヲ他人ニ譲渡シ又ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ耕作若クハ牧畜ノ為メ土地ヲ賃貸スルコトヲ得但設定行為ヲ以テ之ヲ禁シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百七十一条 永小作人ノ義務ニ付テハ本章ノ規定及ヒ設定行為ヲ以テ定ムルモノノ外賃貸借ノ規定ヲ準用ス 第二百七十二条 永小作人ハ不可抗力ニ因リ収益ニ付キ損失ヲ受クルモ小作料ノ免除又ハ減少ヲ請求スルコトヲ得ス 第二百七十三条 永小作人ハ不可抗力ニ因リ引続キ三年以上全ク収益ヲ得ス又ハ五年以上小作料ヨリ少ナキ収益ヲ得タルトキハ永小作権ヲ放棄スルコトヲ得 第二百七十四条 永小作人カ引続キ二年以上小作料ノ弁済ヲ怠リ又ハ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ地主ハ永小作権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第二百七十五条 前六条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百七十六条 永小作権ノ存続期間ハ十年以上五十年以下トス若シ五十年ヨリ長キ期間ヲ以テ永小作権ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ五十年ニ短縮ス 永小作権ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其時間ハ更新ノ時ヨリ五十年ヲ超ユルコトヲ得ス 設定行為ヲ以テ永小作権ノ存続期間ヲ定メサルトキハ別段ノ慣習アル場合ノ外之ヲ三十年トス 第二百七十七条 第二百六十八条ノ規定ハ永小作権ニモ亦之ヲ適用ス 第六章 地役権 第二百七十八条 地役権者ハ設定行為ヲ以テ定メタル目的ニ従ヒ他人ノ土地ヲ自己ノ土地ノ便益ニ供スル権利ヲ有ス但第三章第一節中ノ公ノ秩序ニ関スル規定ニ違反セサルコトヲ要ス 共有ノ性質ヲ有セサル入会権ニ付テハ各地方ノ慣習ニ従フ外本章ノ規定ヲ準用ス 第二百七十九条 地役権ハ要役地ノ所有権ノ従トシテ之ト共ニ移転シ又ハ要役地ノ上ニ存スル他ノ権利ノ目的タルモノトス但設定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 地役権ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ譲渡シ又ハ他ノ権利ノ目的ト為スコトヲ得ス 第二百八十条 土地ノ共有者ノ一人ハ其持分ニ付キ其土地ノ為メニ又ハ其土地ノ上ニ存スル地役権ヲ消滅セシムルコトヲ得ス 土地ノ分割又ハ其一部ノ譲渡ノ場合ニ於テハ地役権ハ其各部ノ為メニ又ハ其各部ノ上ニ存ス但地役権カ其性質ニ因リ土地ノ一部ノミニ関スルトキハ此限ニ在ラス 第二百八十一条 地役権ハ継続且表現ノモノニ限リ時効ニ因リテ之ヲ取得スルコトヲ得 第二百八十二条 共有者ノ一人カ時効ニ因リテ地役権ヲ取得シタルトキハ他ノ共有者モ亦之ヲ取得ス 共有者ニ対スル時効中断ハ地役権ヲ行使スル各共有者ニ対シテ之ヲ為スニ非サレハ其効ナシ 地役権ヲ行使スル共有者数人アル場合ニ於テ其一人ニ対シテ時効停止ノ原因アルモ時効ハ各共有者ノ為メニ進行ス 第二百八十三条 用水地役権ノ承役地ニ於テ水カ要役地ト承役地トノ需用ノ為メニ不足ナルトキハ其各地ノ需用ニ応シ先ツ之ヲ家用ニ供シ其残余ヲ他ノ用ニ供スルモノトス但設定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 同一ノ承役地ニ付キ数個ノ用水地役権ヲ設定シタルトキハ後ノ地役権者ハ前ノ地役権者ノ水ノ使用ヲ妨クルコトヲ得ス 第二百八十四条 設定行為又ハ特別契約ニ因リ承役地ノ所有者カ其費用ヲ以テ地役権ノ行使ノ為メニ工作物ヲ設ケ又ハ其修繕ヲ為ス義務ヲ負担スルトキハ其義務ハ承役地ノ所有者ノ特定承継人モ亦之ヲ負担ス 第二百八十五条 承役地ノ所有者ハ何時ニテモ地役権ニ必要ナル土地ノ部分ノ所有権ヲ地役権者ニ委棄シテ前条ノ負担ヲ免カルルコトヲ得 第二百八十六条 承役地ノ所有者ハ地役権ノ行使ノ為メ其土地ノ上ニ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得但地役権ノ行使ヲ妨ケサルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テハ承役地ノ所有者ハ其利益ヲ受クル割合ニ応シテ工作物ノ設置及ヒ保存ノ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百八十七条 承役地ノ占有者カ取得時効ニ必要ナル条件ヲ具備シタル占有ヲ為ストキハ地役権ハ之ニ因リテ消滅ス 第二百八十八条 前条ノ消滅時効ハ地役権者カ其権利ヲ行使スルニ因リテ中断ス 第二百八十九条 第百六十八条ニ規定セル消滅時効ノ期間ハ不継続地役権ニ付テハ最後ノ行使ノ時ヨリ之ヲ起算シ継続地役権ニ付テハ其行使ヲ妨クヘキ事実ノ生シタル時ヨリ之ヲ起算ス 第二百九十条 要役地カ数人ノ共有ニ属スル場合ニ於テ其一人ノ為メニ時効ノ中断又ハ停止アルトキハ其中断又ハ停止ハ他ノ共有者ノ為メニモ其効力ヲ生ス 第二百九十一条 地役権者カ其権利ノ一部ヲ行使セサルトキハ其部分ノミ時効ニ因リテ消滅ス 第七章 留置権 第二百九十二条 他人ノ物ヲ占有シ且其物ニ関シテ生シタル債権ヲ有スル者ハ其債権ノ弁済ヲ受クルマテ其物ヲ留置スルコトヲ得但其債権カ弁済期ニ在ラサルトキハ此限ニ在ラス 前項ノ規定ハ占有カ不法行為ニ因リテ始マリタル場合ニハ之ヲ適用セス 第二百九十三条 留置権者ハ債権ノ全部ノ弁済ヲ受クルマテハ留置物ノ全部ヲ留置スルコトヲ得 第二百九十四条 留置権者ハ留置物ヨリ生スル果実ヲ収取シ他ノ債権者ニ先チテ之ヲ其債権ノ弁済ニ充当スルコトヲ得 前項ノ果実ハ先ツ之ヲ債権ノ利息ニ充当シ猶ホ余分アルトキハ之ヲ元本ニ充当スルコトヲ要ス 第二百九十五条 留置権者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ留置物ヲ占有スルコトヲ要ス 留置権者ハ債務者ノ承諾ナクシテ留置物ノ使用若クハ賃貸ヲ為シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但其物ノ保存ニ必要ナル使用ヲ為スハ此限ニ在ラス 留置権者カ前ニ項ノ規定ニ違反シタルトキハ債務者ハ留置権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第二百九十六条 留置権者ハ留置物ノ保存費用ノ償還ヲ其所有者ニ請求スルコトヲ得 第二百九十七条 留置権ノ行使ハ債権ノ消滅時効ヲ停止セス 第二百九十八条 債務者ハ相当ノ担保物ヲ供シテ留置権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第二百九十九条 留置権ハ占有ノ喪失ニ因リテ消滅ス但第二百九十五条第二項ノ規定ニ依リ賃貸又ハ質入ヲ為シタル場合ハ此限ニ在ラス 第八章 先取特権 第一節 総則 第三百条 先取特権者ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ従ヒ其債務者ノ財産ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 第三百一条 先取特権ハ其目的物ノ売却、賃貸、滅失又ハ毀損ニ因リ債務者ノ受クヘキ金銭其他ノ物ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得但先取特権者ハ其払渡又ハ引渡前ニ差押ヲ為スコトヲ要ス 債務者カ先取特権ノ目的物ノ上ニ設定シタル物権ノ対価ニ付キ亦同シ 第三百二条 先取特権ハ不可分ニテ債権ヲ担保ス 第二節 先取特権ノ種類 第一款 一般ノ先取特権 第三百三条 左ニ掲クル原因ヨリ生スル債権ヲ有スル者ハ下ノ規定ニ従ヒ債務者ノ総財産ニ係ル一般ノ先取特権ヲ有ス 一 訟事費用 二 葬式費用 三 雇人給料 四 日用品供給 第三百四条 訟事費用ノ先取特権ハ債務者ノ財産ノ保存、清算又ハ配当ノ為メ各債権者ノ共同利益ノ為メニ為シタル裁判上若クハ裁判外ノ行為ニ関スル費用ニ付キ存在ス 前項ノ費用中総債権者ニ有益ナラサリシモノニ付テハ先取特権ハ其費用ノ為メ利益ヲ受ケタル債権者ニ対シテノミ存在ス 第三百五条 葬式費用ノ先取特権ハ債務者ノ身分ニ応シテ為シタル葬式ノ費用ニ付キ存在ス 前項ノ先取特権ハ債務者カ其同居親族又ハ其扶養スヘキ親族ノ身分ニ応シテ為シタル葬式ノ費用ニ付テモ亦存在ス 第三百六条 雇人給料ノ先取特権ハ債務者ノ雇人カ受クヘキ最後ノ六个月ノ給料ニ付キ存在ス但其金額ハ五十円ヲ超ユルコトヲ得ス 第三百七条 日用品供給ノ先取特権ハ債務者又ハ其扶養スヘキ同居親族及ヒ其僕婢ノ生活ニ必要ナル最後ノ六个月間ノ飲食料及ヒ薪炭油ノ供給ニ付キ存在ス 第二款 動産ノ先取特権 第三百八条 左ニ掲クル原因ヨリ生スル債権ヲ有スル者ハ下ノ規定ニ従ヒ債務者ノ動産ニ係ル特別ノ先取特権ヲ有ス 一 不動産ノ賃貸借 二 旅店ノ宿泊 三 旅客又ハ荷物ノ運輸 四 公吏ノ職務上ノ過失 五 動産ノ保存 六 動産ノ売買 七 種苗又ハ肥料ノ供給 八 農工業ノ労役 第三百九条 不動産賃貸ノ先取特権ハ其不動産ノ借賃其他賃貸借ノ関係ヨリ生スル賃借人ノ債務ノ為メ賃借人ノ動産ニ付キ存在ス 第三百十条 土地ノ賃貸人ノ先取特権ハ賃借地又ハ其利用ノ為メニスル建物ニ備附ケタル動産、其土地ノ利用ニ供シタル動産及ヒ賃借人ノ占有ニ在ル其土地ノ果実ニ付キ存在ス 建物ノ賃貸人ノ先取特権ハ賃借人カ其建物ニ備附ケタル動産ニ付キ存在ス 第三百十一条 賃借権ノ譲渡又ハ転貸ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特権ハ譲受人又ハ転借人ノ動産ニ及フ譲渡人又ハ転貸人ノ受クヘキ金額ニ付キ亦同シ此場合ニ於テハ転借人ハ借賃ノ前払ヲ以テ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百十二条 賃借人ノ財産ノ総清算ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特権ハ前期、当期及ヒ次期ノ借賃其他ノ債務及ヒ前期並ニ当期ニ於テ生シタル損害ノ賠償ノ為メニノミ存在ス 第三百十三条 賃貸人カ敷金ヲ受取リタル場合ニ於テハ其敷金ヲ以テ弁済ヲ受ケサル債権ノ部分ニ付テノミ先取特権ヲ有ス 第三百十四条 旅店宿泊ノ先取特権ハ旅客其従者及ヒ牛馬ノ宿泊料、飲食料ノ為メ其旅店ニ存スル手荷物ニ付キ存在ス 第三百十五条 運輸ノ先取特権ハ旅客又ハ荷物ノ運送賃及ヒ附随ノ費用ノ為メ運送人ノ手ニ存スル荷物ニ付キ存在ス 第三百十六条 第百九十三条乃至第百九十六条ノ規定ハ前七条ノ先取特権ニ之ヲ準用ス 第三百十七条 保証金ノ先取特権ハ之ヲ供スル義務アル公吏ノ職務上ノ過失ヨリ生スル債権ノ為メ其保証金ニ付キ存在ス 第三百十八条 動産保存ノ先取特権ハ其保存費用ノ為メ其動産ニ付キ存在ス 前項ノ先取特権ハ動産ニ関スル権利ヲ保存、追認若クハ実行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ行為ノ費用ノ為メニモ亦存在ス 第三百十九条 動産売買ノ先取特権ハ其代価及ヒ利息ノ為メ其動産ニ付キ存在ス 第三百二十条 種苗肥料供給ノ先取特権ハ其代価及ヒ利息ノ為メ其種苗又ハ肥料ヲ用井タル時ヨリ一年間ニ生シタル果実ニ付キ存在ス 前項ノ先取特権ハ蚕種又ハ蚕ノ飼養ニ供スル桑葉ノ供給ノ為メニモ亦存在ス 第三百二十一条 農工業労役ノ先取特権ハ農業ノ労力者ニ付テハ最後ノ一年間工業ノ労力者ニ付テハ最後ノ三个月間ノ賃金ノ為メ其労役ヨリ生シタル果実又ハ製作物ニ付キ存在ス 第三款 不動産ノ先取特権 第三百二十二条 左ニ掲クル原因ヨリ生スル債権ヲ有スル者ハ下ノ規定ニ従ヒ債務者ノ不動産ニ係ル特別ノ先取特権ヲ有ス 一 不動産ノ保存 二 不動産ノ工事 三 不動産ノ売買 第三百二十三条 不動産保存ノ先取特権ハ其保存費用ノ為メ其不動産ニ付キ存在ス 第三百十八条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第三百二十四条 不動産工事ノ先取特権ハ工匠、技師及ヒ請負人カ債務者ノ不動産ニ関シテ為シタル工事ノ為メ其不動産ニ付キ存在ス 前項ノ先取特権ハ工事ニ因リテ生シタル不動産ノ増価カ現存スル場合ニ限リ其増加額ニ付テノミ存在ス 第三百二十五条 不動産売買ノ先取特権ハ其代価及ヒ利息ノ為メ其不動産ニ付キ存在ス 第三節 先取特権ノ順位 第三百二十六条 一般ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先権ノ順位左ノ如シ 第一 訟事費用ノ先取特権 第二 葬式費用ノ先取特権 第三 雇人給料ノ先取特権 第四 日用品供給ノ先取特権 一般ノ先取特権ト特別ノ先取特権ト競合スル場合ニ於テハ特別ノ先取特権ハ一般ノ先取特権ニ先ツ但訟事費用ノ先取特権ハ其利益ヲ受ケタル総債権者ニ対シテ優先ノ効力ヲ有ス 第三百二十七条 同一ノ動産ニ付キ特別ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先権ノ順位左ノ如シ 第一 不動産賃貸、旅店宿泊及ヒ運輸ノ先取特権 第二 動産保存ノ先取特権但数人ノ保存者アリタルトキハ後ノ保存者ハ前ノ保存者ニ先ツ 第三 動産売買、種苗肥料供給及ヒ農工業労役ノ先取特権 第一順位ノ先取特権者カ債権取得ノ当時第二又ハ第三ノ順位ノ先取特権者アルコトヲ知リタルトキハ之ニ対シテ優先権ヲ行フコトヲ得ス第一順位者ノ為メニ物ヲ保存シタル者ニ対シ亦同シ 果実ニ関シテハ第一ノ順位ハ農工業ノ労力者ニ第二ノ順位ハ種苗又ハ肥料ノ供給者ニ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ属ス 第三百二十八条 同一ノ不動産ニ付キ特別ノ先取特権カ互ニ競合スル場合ニ於テハ其優先権ノ順位左ノ如シ 第一 不動産保存ノ先取特権 第二 不動産工事ノ先取特権 第三 不動産売買ノ先取特権但逐次ノ売買アリタルトキハ売主相互間ノ優先権ノ順序ハ時ノ前後ニ依ル 第三百二十九条 同一ノ目的物ニ付キ同一ノ順位ニ在ル先取特権者ハ其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受ク 第四節 先取特権ノ効力 第三百三十条 先取特権ハ債務者カ其動産ヲ第三取得者ニ引渡シタル後ハ其動産ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス 第三百三十一条 先取特権ト動産質権ト競合スルトキハ動産質権者ハ第三百二十七条ニ掲クル第一順位ノ先取特権者ト同一ノ権利ヲ有ス 第三百三十二条 一般ノ先取特権者ハ先ツ不動産以外ノ財産ニ付キ弁済ヲ受ケ尚ホ不足アルニ非サレハ不動産ニ付テ弁済ヲ受クルコトヲ得ス 不動産ニ付テハ先ツ特別ノ担保ノ目的物タラサルモノニ付キ弁済ヲ受クルコトヲ要ス 一般ノ先取特権者カ前二項ノ規定ニ従ヒ配当ニ加入スルコトヲ怠リタルトキハ其配当加入ニ因リテ受クヘカリシモノノ限度ニ於テハ登記ヲ為シタル第三者ニ対シテ其先取特権ヲ行フコトヲ得ス 前三項ノ規定ハ不動産以外ノ財産ノ代価ニ先チテ不動産ノ代価ヲ配当シ又ハ他ノ不動産ノ代価ニ先チテ特別ノ担保ノ目的物タル不動産ノ代価ヲ配当スヘキ場合ニハ之ヲ適用セス 第三百三十三条 一般ノ先取特権ハ之ヲ以テ特別ノ担保ナキ債権者ニ対抗スル為メ不動産ニ付キ登記ヲ要セス 登記ヲ為シタル第三者ニ対シテハ其登記前ニ先取特権ノ登記ヲ為スコトヲ要ス 第三百三十四条 不動産保存ノ先取特権ハ保存行為完了ノ後直チニ登記ヲ為スニ因リテ之ヲ保存ス 第三百三十五条 不動産工事ノ先取特権ハ工事ヲ始ムル前ニ其費用ノ予算額ヲ登記スルニ因リテ之ヲ保存ス 工事ヨリ生シタル不動産ノ増価額ハ配当加入ノ時裁判所ニ於テ選任シタル鑑定人ヲシテ之ヲ評価セシムルコトヲ要ス 第三百三十六条 前二条ノ規定ニ従ヒ保存シタル先取特権ハ一切ノ抵当権ニ先チテ之ヲ行フコトヲ得 第三百三十七条 不動産売買ノ先取特権ハ未タ其代価又ハ利息ノ弁済アラサル旨ヲ附記シテ所有権移転ノ登記ヲ為スニ因リテ之ヲ保存ス 第三百三十八条 先取特権ノ効力ニ付テハ本節ニ定ムルモノノ外抵当権ニ関スル規定ヲ準用ス 第九章 質権 第一節 総則 第三百三十九条 質権者ハ其債権ノ担保トシテ債務者又ハ第三者ヨリ受取リタル物ヲ占有シ且其物ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 第三百四十条 質権ハ債権者ニ其目的物ノ引渡ヲ為スニ因リテ之ヲ設定ス 第三百四十一条 質権者ハ質権設定者ヲシテ自己ニ代ハリテ質物ノ占有ヲ為サシムルコトヲ得ス 第三百四十二条 質権ハ元本、利息、違約金、質権実行ノ費用、質物保存ノ費用及ヒ債務ノ不履行又ハ質物ノ隠レタル瑕疵ヨリ生シタル損害ノ賠償ヲ担保ス但設定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第三百四十三条 質権者ハ前条ニ掲ケタル債権ノ弁済ヲ受クルマテハ質物ヲ留置スルコトヲ得但此権利ハ之ヲ以テ自己ニ対シ優先権ヲ有スル債権者ニ対抗スルコトヲ得ス 第二百九十四条乃至第二百九十七条ノ規定ハ質権ニモ亦之ヲ適用ス 第三百四十四条 質権者ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ転質ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ転質ヲ為ササレハ生セサルヘキ不可抗力ニ因ル損失ニ付テモ亦其責ニ任ス 第三百四十五条 第三百一条及ヒ第三百二条ノ規定ハ質権ニモ亦之ヲ適用ス 第三百四十六条 他人ノ債務ヲ担保スル為メ質権ヲ設定シタル者カ債権者ニ弁済シ又ハ質権ノ実行ニ因リテ質物ノ所有権ヲ失ヒタルトキハ保証債務ニ関スル規定ニ従ヒ債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス 第二節 動産質 第三百四十七条 動産質権者ハ継続シテ質物ヲ占有スルニ非サレハ其質権ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百四十八条 第百九十三条乃至第百九十六条ノ規定ハ動産質ニ之ヲ準用ス 第三百四十九条 動産質権者カ質物ノ占有ヲ奪ハレタルトキハ占有回収ノ訴ニ依リテノミ其質物ヲ取返スコトヲ得 第三百五十条 動産質権者カ其債権ノ弁済ヲ受ケサルトキハ正当ノ理由アル場合ニ限リ鑑定人ノ評価ニ従ヒ質物ヲ以テ弁済ニ充ツルコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但予メ債務者ニ其請求ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百五十一条 数個ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ動産ニ付キ質権ヲ設定シタルトキハ其質権ノ順位ハ設定ノ前後ニ依ル 第三節 不動産質 第三百五十二条 不動産質権者ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ其不動産ノ用方ニ従ヒ使用及ヒ収益ヲ為スコトヲ得 第三百五十三条 不動産質権者ハ管理ノ費用ヲ払ヒ其他不動産ノ負担ニ任ス 第三百五十四条 不動産質権者ハ其債権ノ利息ヲ請求スルコトヲ得ス 第三百五十五条 前三条ノ規定ハ設定行為ニ別段ノ定アルトキハ之ヲ適用セス 第三百五十六条 不動産質ノ存続期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ不動産質ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ十年ニ短縮ス 不動産質ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ十年ヲ超ユルコトヲ得ス 第三百五十七条 不動産質ニ付テハ本節ノ規定ノ外抵当権ニ関スル規定ヲ準用ス 第四節 准質 第三百五十八条 質権ハ権利ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得前項ノ質権ニ付テハ本節ノ規定ノ外前三節ノ規定ヲ準用ス 第三百五十九条 質権ノ目的タル債権ノ証券アルトキハ質権ハ其証券ノ交付ヲ為スニ因リテ之ヲ設定ス 第三百六十条 指名債権ヲ以テ質権ノ目的ト為シタルトキハ債権譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ第三債務者ニ其設定ヲ通知シ又ハ第三債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ第三債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百六十一条 記名ノ株式又ハ社債ヲ以テ質権ノ目的ト為シタルトキハ株式又ハ社債ノ譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ会社ノ帳簿ニ記入スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ会社其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百六十二条 裏書ニ依リテ譲渡スコトヲ得ヘキ債権ヲ以テ質権ノ目的ト為シタルトキハ其証券ニ質権設定ノ旨ヲ裏書スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百六十三条 質権者ハ質権ノ目的タル債権ヲ直接ニ取立ツルコトヲ得 債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ質権者ハ自己ノ債権額ニ対スル部分ニ非サレハ之ヲ取立ツルコトヲ得ス 右ノ債権ノ期限カ質権者ノ債権ノ期限前ニ到来シタルトキハ第三債務者ハ其弁済金額ヲ供託スルコトヲ要ス此場合ニ於テ質権者ハ其供託金ノ上ニ質権ヲ有ス 債権ノ目的物カ金銭ニ非サルトキハ質権者ハ弁済トシテ受ケタル物ノ上ニ質権ヲ有ス 第三百六十四条 質権者ハ前条ノ規定ニ依ル外民事訴訟法ニ定ムル執行方法ニ依リテ質権ノ実行ヲ為スコトヲ得 第十章 抵当権 第一節 総則 第三百六十五条 抵当権者ハ債務者又ハ第三者カ占有ヲ移サスシテ債務ノ担保ニ供シタル不動産ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 地上権及ヒ永小作権モ亦之ヲ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ本章ノ規定ヲ準用ス 第三百六十六条 抵当権ハ抵当地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外其目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物ニ及フ但設定行為ニ別段ノ定アルトキ及ヒ第    条ノ規定ニ依リ債権者カ債務者ノ行為ヲ取消スコトヲ得ル場合ハ此限ニ在ラス 第三百六十七条 前条ノ規定ハ之ヲ果実ニ適用セス但不動産ノ差押ノ後又ハ第三取得者カ第三百七十八条ノ通知ヲ受ケタル後ハ此限ニ在ラス 第三取得者カ第三百七十八条ノ通知ヲ受ケタルトキハ其後一年内ニ不動産ノ差押アリタル場合ニ限リ前項ノ規定ニ依ル 第三百六十八条 第三百一条、第三百二条及ヒ第三百四十六条ノ規定ハ抵当権ニ之ヲ準用ス 第二節 抵当権ノ効力 第三百六十九条 数個ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ設定シタルトキハ其抵当権ノ順位ハ登記ノ前後ニ依ル 第三百七十条 抵当権者カ利息其他ノ定期金ヲ請求スル権利ヲ有スルトキハ其満期ト為リタル最終ノ二年分ニ付テノミ其抵当権ヲ行フコトヲ得但其以前ノ定期金ニ付テモ満期後特別ノ登記ヲ為ストキニ限リ其登記ノ時ヨリ抵当権ヲ行フコトヲ妨ケス 第三百七十一条 抵当権者ハ其抵当権ヲ以テ他ノ債権ノ担保ト為シ又同一ノ債務者ニ対スル他ノ債権者ノ利益ノ為メ其抵当権又ハ其順位ノミヲ譲渡シ若クハ放棄スルコトヲ得 前項ノ場合ニ於テ数人ニ対シ抵当権ノ処分ヲ為シタルトキハ其権利ノ順位ハ抵当権ノ登記ニ附記ヲ為シタル前後ニ依ル 第三百七十二条 前条ノ場合ニ於テハ債権譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ主タル債務者ニ抵当権ノ処分ヲ通知シ又ハ其債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ其債務者、保証人、抵当権設定者及ヒ其承継人ニ対抗スルコトヲ得ス 主タル債務者カ前項ノ通知ヲ受ケ又ハ承諾ヲ為シタルトキハ其処分ノ利益ヲ受クル者ノ承諾ナクシテ為シタル弁済ハ之ヲ以テ其受益者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百七十三条 抵当権ノ登記後ニ抵当不動産ニ付キ物権ヲ取得シタル第三者カ抵当権者ニ弁済シタルトキハ他ノ債権者ニ対シテ其抵当権者ノ権利ヲ行フコトヲ得 第三百七十四条 抵当不動産ニ付キ所有権又ハ地上権ヲ買受ケタル第三者カ抵当権者ノ請求ニ応シテ其代価ヲ弁済シタルトキハ抵当権ハ其第三者ノ為メニ消滅ス 第三百七十五条 抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者ハ下ノ規定ニ従ヒ抵当権者ノ承諾ヲ得タル金額ヲ払渡シ又ハ供託シテ抵当権ヲ滌除スルコトヲ得 第三百七十六条 主タル債務者、保証人及ヒ其承継人ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス 第三百七十七条 停止条件附第三取得者ハ条件未定ノ間ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス 第三百七十八条 抵当権者カ其抵当権ヲ実行セント欲スルトキハ予メ第三百七十五条ノ第三取得者ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百七十九条 第三取得者ハ前条ノ通知ヲ受クルマテハ何時ニテモ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得 第三取得者カ前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ一个月内ニ次条ノ送達ヲ為スニ非サレハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス 前条ノ通知後ニ第三百七十五条ニ掲クル権利ヲ取得シタル第三者モ亦前項ノ期間内ニ次条ノ送達ヲ為スコトヲ要ス 第三百八十条 第三取得者カ抵当権ノ滌除ヲ為サント欲スルトキハ登記ヲ為シタル各債権者ニ左ノ書面ヲ送達スルコトヲ要ス 一 取得ノ原因、年月日、譲渡人及ヒ取得者ノ氏名、住所、抵当不動産ノ性質、所在及ヒ代価其他取得者ノ負担ヲ指示スル書面 二 抵当不動産ニ関スル登記簿ノ謄本但既ニ消滅シタル権利ニ関スル登記ハ之ヲ掲クルコトヲ要セス 三 債権者カ一个月内ニ次条ノ規定ニ従ヒ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ハ第一号ニ掲クル代価又ハ其指定スル金額ヲ債権ノ順位ニ従ヒテ弁済又ハ供託スヘキ旨ヲ記載スル書面 第三百八十一条 債権者カ前条ノ送達ヲ受ケタルヨリ一个月内ニ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ノ提供ヲ承諾シタルモノト看做ス 増価競売ハ若シ競売ニ於テ第三取得者カ提供シタル金額ヨリ十分一以上高価ニ抵当不動産ヲ売却スルコト能ハサルトキハ十分一ノ高価ヲ以テ自ラ其不動産ヲ買受クヘキ旨ヲ附言シ第三取得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テハ其代価及ヒ費用ニ付キ担保ヲ供スルコトヲ要ス 第三百八十二条 債権者カ増価競売ヲ請求スルトキハ前条ノ期間内ニ債務者及ヒ譲渡人ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百八十三条 増価競売ヲ請求シタル債権者ハ登記ヲ為シタル他ノ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其請求ヲ取消スコトヲ得ス 第三百八十四条 第三取得者カ第三百七十九条ニ定ムル期間内ニ債務ノ弁済又ハ滌除ノ通知ヲ為ササルトキハ抵当権者ハ抵当不動産ノ競売ヲ請求スルコトヲ得 第三百八十五条 土地及ヒ其上ニ存スル建物カ同一ノ所有者ニ属スル場合ニ於テ其土地又ハ建物ノミヲ抵当ト為シタルトキハ抵当権設定者ハ競売ノ場合ニ付キ地上権ヲ設定シタルモノト看做ス但地代ハ当事者ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ定ム 第三百八十六条 抵当権設定後ニ其設定者カ抵当地ニ建物ヲ築造シタルトキハ抵当権者ハ土地ト共ニ之ヲ競売スルコトヲ得但其優先権ハ土地ノ代価ニ付テノミ之ヲ行フコトヲ得 第三百八十七条 第三取得者ハ競買人ト為ルコトヲ得 第三取得者カ競落人ト為リタルトキハ之ヲ其取得ノ登記ニ附記スルコトヲ要ス 第三百八十八条 第三取得者ニ非サル者カ競落人ト為リタルトキハ第三取得者ハ其取得前ニ不動産ノ上ニ有セル権利ヲ失ハス 第三百八十九条 第三取得者カ抵当不動産ニ必要費又ハ有益費ヲ加ヘタルトキハ第百九十七条ノ区別ニ従ヒ不動産ノ代価ヲ以テ最モ先ニ其償還ヲ受クルコトヲ得 第三百九十条 債権者カ数個ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ有スル場合ニ於テ同時ニ其代価ヲ配当スヘキトキハ其各不動産ノ価額ニ準シ其債権ノ負担ヲ分ツ 前項ノ場合ニ於テ或不動産ノ代価ノミヲ配当スヘキトキハ抵当権者ハ其代価ニ付キ債権全額ノ弁済ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵当権者ハ前項ノ規定ニ従ヒ右ノ抵当権者カ他ノ不動産ニ付キ弁済ヲ受クヘキ金額ニ満ツルマテ之ニ代位シテ抵当権ヲ行フコトヲ得 第三百九十一条 前条ノ規定ニ従ヒ代位ニ因リテ抵当権ヲ行フ者ハ其抵当権ノ登記ニ其代位ヲ附記スルコトヲ得 第三百九十二条 抵当権者ハ抵当不動産ノ代価ヲ以テ弁済ヲ受ケサル部分ニ付テノミ他ノ財産ニ付キ其債権ノ弁済ヲ受クルコトヲ得 前項ノ規定ハ抵当不動産ノ代価ニ先チテ他ノ財産ノ代価ヲ配当スヘキ場合ニハ之ヲ適用セス但他ノ各債権者ハ抵当権者ヲシテ前項ノ規定ニ従ヒ弁済ヲ受ケシムル為メ之ニ配当スヘキ金額ノ供託ヲ請求スルコトヲ得 第三百九十三条 第    条ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸借ハ抵当権ノ登記後ニ登記シタルモノト雖モ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得 第三節 抵当権ノ消滅 第三百九十四条 抵当権ハ債務者及ヒ抵当権設定者ニ対シテハ債権ト同時ニ非サレハ時効ニ因リテ消滅セス 第三百九十五条 債務者又ハ抵当権設定者ニ非サル者カ抵当不動産ニ付キ取得時効ニ必要ナル条件ヲ具備シタル占有ヲ為ストキハ抵当権ハ之ニ因リテ消滅ス 第三百九十六条 地上権又ハ永小作権ヲ抵当ト為シタル者カ其権利ヲ放棄スルモ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得ス