明治民法(明治29・31年)

(整)第三号 (明治二十七年十二月十九日配付)

参考原資料

第二編 物権 第一章 総則 第百七十六条 物権ハ本法其他ノ法律ニ定ムルモノノ外之ヲ創設スルコトヲ得ス 第百七十七条 物権ハ別段ノ定アル場合ヲ除ク外当事者ノ意思ノミニ因リテ之ヲ設定又ハ移転スルコトヲ得 第百七十八条 不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ規定ニ従ヒ登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第百七十九条 動産ニ関スル物権ノ譲渡ハ動産ノ引渡ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第百八十条 同一物ニ付所有権及ヒ他ノ物権カ同一人ニ帰スルトキハ其物権ハ消滅ス但其物又ハ其物権カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス 所有権以外ノ物権カ他ノ権利ノ目的タル場合ニ於テ双方ノ権利カ同一人ニ帰スルトキハ前項ノ規定ヲ準用ス 前二項ノ規定ハ之ヲ占有権ニ適用セス 第二章 占有権 第一節 占有権ノ取得 第百八十一条 占有権ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ物ヲ所持スルニ因リテ之ヲ取得ス 第百八十二条 占有権ハ代理人ニ依リテ之ヲ取得スルコトヲ得 法定代理人ハ自己ノ意思及ヒ所為ヲ以テ本人ノ為メニ占有権ヲ取得スルコトヲ得 第百八十三条 占有権ノ譲渡ハ占有物ノ引渡ニ因リテ之ヲ為ス 譲受人又ハ其代理人カ現ニ占有物ヲ所持スル場合ニ於テハ占有権ノ譲渡渡ハ当事者ノ意思ノミニ因リテ之ヲ為スコトヲ得 第百八十四条 代理人カ自己ノ占有物ヲ爾後本人ノ為メニ占有スル意思ヲ表示シタルトキハ本人ハ之ニ因リテ占有権ヲ取得ス 第百八十五条 代理人ニ因リテ占有ヲ為ス場合ニ於テ本人カ其代理人ニ対シ爾後第三者ノ為メニ其物ヲ占有スヘキ旨ヲ命シ第三者之ヲ承諾シタルトキハ其第三者ハ占有権ヲ取得ス 第百八十六条 権原ノ性質上占有者ニ所有ノ意思ナキモノトスル場合ニ於テハ其占有者カ占有ヲ為サシメタル者ニ対シ自己ニ所有ノ意思アルコトヲ表示シ又ハ新権原ニ因リ更ニ所有ノ意思ヲ以テ占有ヲ始ムルニ非サレハ占有ハ其性質ヲ変セス 第百八十七条 占有者ハ所有ノ意思ヲ以テ善意、平穏且公然ニ占有ヲ為スモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 前後二箇ノ時期ニ於テ占有ノ証拠アルトキハ其占有ハ継続シタルモノト推定ス但中断ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第百八十八条 占有者ノ承継人ハ其選択ニ従ヒ自己ノ占有ノミヲ主張シ又ハ自己ノ占有ニ前主ノ占有ヲ併セテ主張スルコトヲ得 前主ノ占有ヲ併セテ主張スル場合ニ於テハ其瑕疵モ亦之ヲ承継ス 第二節 占有権ノ効力 第百八十九条 占有者カ占有物ノ上ニ行使スル権利ハ之ヲ適法ニ有スルモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第百九十条 善意ノ占有者ハ占有物ヨリ生スル果実ヲ取得ス 善意ノ占有者カ本権ノ訴ニ於テ敗訴シタルトキハ其出訴ノ時ヨリ悪意ノ占有者ト看做ス 第百九十一条 悪意ノ占有者ハ果実ヲ返還シ且其既ニ消費シ、過失ニ因リテ毀損シ又ハ収取ヲ怠リタル果実ノ代価ヲ償還スル義務ヲ負フ但果実ノ通常ノ負担タル費用ノ償還ヲ請求スルコトヲ得 強暴又ハ隠秘ニ因ル占有者ニモ亦前項ノ規定ヲ適用ス 第百九十二条 占有物ノ滅失又ハ毀損カ占有者ノ所為又ハ過失ニ因ルトキハ悪意ノ占有者ハ其回復者ニ対シ賠償ノ義務ヲ負ヒ善意ノ占有者ハ其滅失又ハ毀損ニ因リ利益ヲ受ケタル限度ニ応シ賠償ヲ為ス義務ヲ負フ但所有ノ意思ヲ有セサル占有者ハ其善意ナルトキト雖モ全部ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス 第百九十三条 所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ動産ノ占有ヲ始ムル者カ善意ニシテ且過失ナキトキハ即時ニ其動産ノ所有権ヲ取得ス 第百九十四条 前条ノ場合ニ於テ占有物カ盗品又ハ遺失物ナルトキハ其所有者ハ盗難又ハ遺失ノ時ヨリ二年間占有者ニ対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得 第百九十五条 占有者カ盗品又ハ遺失物ヲ競売若クハ公ノ市場ニ於テ又ハ其物ト同種ノ物ヲ販売スル商人ヨリ善意ニテ買受ケタルトキハ其所有者ハ其買受代価ヲ弁償スルニ非サレハ回復ヲ為スコトヲ得ス 第百九十六条 所有ノ意思ヲ以テ他人カ飼養セル家畜外ノ動物ヲ占有スル者ハ其占有ノ始善意ニシテ且二十日内ニ所有者ヨリ返還ノ請求ヲ受ケサルトキハ其動物ノ所有権ヲ取得ス 第百九十七条 占有者カ占有物ヲ返還スル場合ニ於テハ其物ノ保存ノ為メニ費シタル金額其他ノ必要費ヲ回復者ヨリ償還セシムルコトヲ得 占有者カ占有物ノ改良ノ為メニ費シタル金額其他ノ有益費ニ付テハ其価格ノ増加カ現存スル場合ニ限リ回復者ノ選択ニ従ヒ其費シタル金額又ハ其物ノ増価額ヲ償還セシムルコトヲ得 第百九十八条 占有者ハ回復者ヨリ償還ヲ受クヘキ金額ニ付キ占有物ノ上ニ留置権ヲ有ス 第百九十九条 占有者ハ以下数条ノ規定ニ従ヒ占有ノ訴ヲ提起スルコトヲ得他人ノ為メニ占有ヲ為ス者亦同シ 第二百条 占有者カ其占有ヲ妨害セラレタルトキハ占有保持ノ訴ニ依リ其妨害ノ停止及ヒ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 第二百一条 占有物ノ保全ニ付キ障害ノ虞アルトキハ占有者ハ占有保全ノ訴ニ依リ其障害ノ除却又ハ其予防若クハ損害賠償ノ担保ヲ請求スルコトヲ得 第二百二条 占有者カ其占有ヲ奪ハレタルトキハ占有回収ノ訴ニ依リ其物ノ返還及ヒ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 占有回収ノ訴ハ侵奪者ノ特定承継人ニ対シテ之ヲ提起スルコトヲ得ス但其承継人カ侵奪ノ事実ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第二百三条 占有保持ノ訴及ヒ占有回収ノ訴ハ妨害又ハ侵奪ヲ受ケタル時ヨリ一年内ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス 占有保全ノ訴ハ障害ノ原因ノ存スル間ハ之ヲ提起スルコトヲ得但新工事ニ因リ占有物ニ損害ヲ及ホス虞アル場合ニ於テ其工事ニ著手シタル時ヨリ一年ヲ経過シタルトキ又ハ其工事ノ竣成シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百四条 占有ノ訴ハ方権ノ訴ト互ニ相妨クルコトナシ 占有ノ訴ハ本権ニ基キテ之ヲ裁判スルコトヲ得ス 第三節 占有権ノ消滅 第二百五条 占有権ハ占有者カ占有ノ意思ヲ放棄シ又ハ占有物ノ所持ヲ失フニ因リテ消滅ス但占有者カ占有回収ノ訴ヲ提起シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百六条 代理人ニ依リテ占有ヲ為ス場合ニ於テハ占有権ハ左ノ事由ニ因リテ消滅ス 一 代理人カ占有物ノ所持ヲ失ヒタルコト 二 本人又ハ法定代理人カ占有ノ意思ヲ放棄シタルコト 三 代理人カ本人ニ対シ爾後自己又ハ第三者ノ為メニ占有物ヲ所持スル意思ヲ表示シタルコト 占有権ハ代理権ノ消滅ノミニ因リテ消滅セス 第四節 準占有 第二百七条 本章ノ規定ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ権利ノ行使ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス 第三章 所有権 第一節 所有権ノ限界 第二百八条 所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其所有物ノ使用、収益及ヒ処分ヲ為ス権利ヲ有ス 第二百九条 土地ノ所有権ハ法令ノ制限内ニ於テ其土地ノ上下ニ及フ 第二百十条 数人ニテ一棟ノ建物ヲ区分シ各其一部分ヲ所有スルトキハ建物及ヒ其附属物ノ共用部分ハ其共有ニ属ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 共用部分ノ修繕費其他ノ負担ハ各自ノ所有部分ノ価格ニ応シテ之ヲ分ツ 第二百十一条 土地ノ所有者ハ疆界又ハ其近傍ニ於テ 避若クハ建物ヲ築造シ又ハ之ヲ修繕スル為メニ必要ナル範囲内ニ於テ隣地ノ使用ヲ請求スルコトヲ得但隣人ノ承諾アルニ非サレハ其住家ニ立入ルコトヲ得ス 前項ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ得 第二百十二条 或土地カ他ノ土地ニ囲繞セラレテ公路ニ通セサルトキハ其土地ノ所有者ハ公路ニ至ル為メ囲繞地ヲ通行スルコトヲ得池沼、河渠若クハ海洋ニ由ルニ非サレハ他ニ通スルコト能ハス又ハ崖岸アリテ土地ト公路ト著シキ高低ヲ為ストキ亦同シ 第二百十三条 前条ノ場合ニ於テ通行ノ場所及ヒ本法ハ通行権ヲ有スル所有者ノ為メニ必要ニシテ且囲繞地ノ為メニ損害最モ少ナキモノヲ選フコトヲ要ス 進行権ヲ有スル所有者ハ必要アルトキハ通路ヲ開設スルコトヲ得 第二百十四条 通行権ヲ有スル所有者ハ通行地ノ損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス但通路開設ノ為メニ生スル損害ニ対スルモノノ外一年毎ニ其償金ヲ払フコトヲ得 第二百十五条 分割ニ因リ公路ニ通セサル土地ヲ生シタルトキハ其土地ノ所有者ハ公路ニ至ル為メ共同分割者ノ所有地ノミヲ通行スルコトヲ得同一所有者ニ属スル土地ノ一部ヲ譲渡シタルトキ亦同シ 前項ノ場合ニ於テハ償金ヲ払フコトヲ要セス 第二百十六条 土地ノ所有者ハ隣地ヨリ水ノ自然ニ流レ来ルヲ妨クルコトヲ得ス 第二百十七条 甲地ニ於テ貯水、排水又ハ引水ノ為メニ設ケタル工作物ノ破潰若クハ阻塞ニ因リ乙地ニ損害ヲ及ホストキハ乙地ノ所有者ハ甲地ノ所有者ヲシテ修繕ヲ為サシメ又必要アルトキハ予防工事ヲ為サシムルコトヲ得 事変ニ因リ低地ニ於テ水流ノ阻塞シタルトキハ高地ノ所有者ハ自費ヲ以テ其疏通ニ必要ナル工事ヲ為スコトヲ得 前二項ノ場合ニ於テ工事ノ費用ニ付キ別段ノ慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百十八条 土地ノ所有者ハ雨水ヲシテ隣地ニ注瀉セシムヘキ屋根其他ノ工作物ヲ疆界又ハ其近傍ニ設クルコトヲ得ス 第二百十九条 溝渠其他ノ水流地ノ所有者ハ其水路及ヒ幅員ヲ変スルコトヲ得ス 水流ノ通過スル土地ノ所有者ハ其水路及ヒ幅員ヲ変スルコトヲ得但其下口ニ於テ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス 前二項ノ規定ニ異リタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百二十条 高地ノ所有者ハ浸水地ヲ乾カス為メ又ハ家用若クハ農工業用ノ余水ヲ排泄スル為メ公路、公流又ハ下水道ニ至ルマテ低地ニ水ヲ通過セシムルコトヲ得但低地ノ為メニ損害最モ少ナキ場所及ヒ方法ヲ選フコトヲ要ス 第二百二十一条 土地ノ所有者ハ其所有地ノ水ヲ通過セシムル為メ高地又ハ低地ノ所有者カ設ケタル工作物ヲ使用スルコト得 前項ノ場合ニ於テ他人ノ工作物ヲ使用スル者ハ其利益ヲ受クル割合ニ応シテ工作物ノ設置及ヒ保存ノ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十二条 水流地ノ所有者ハ堰ヲ設クル需用アルトキハ其堰ヲ対岸ニ支持セシムルコトヲ得但之ヨリ生スル損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス 対岸ノ所有者ハ水流地ノ一部カ其所有ニ属スルトキハ右ノ堰ヲ使用スルコトヲ得但前条ノ規定ニ従ヒ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十三条 土地ノ所有者ハ隣地ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ疆界ヲ標示スヘキ物ヲ設クルコトヲ得 第二百二十四条 界標ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス但測量ノ費用ハ其土地ノ広狭ニ応シテ之ヲ分担ス 第二百二十五条 二棟ノ建物カ其所有者ヲ異ニシ且其間ニ空地アルトキハ各所有者ハ他ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ其疆界ニ囲障ヲ設クルコトヲ得 当事者ノ協議整ハサルトキハ前項ノ囲障ハ板屏又ハ竹垣ニシテ高サ六尺タルコトヲ要ス 第二百二十六条 囲障ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ分担ス 第二百二十七条 相隣者ノ一人ハ第二百二十五条第二項ニ定メタル材料ヨリ良好ナルモノヲ用ヰ又ハ高サヲ増シテ囲障ヲ設クルコトヲ得但之ニ因リテ生スル費用ノ増額ヲ負担スルコトヲ要ス 第二百二十八条 前三条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百二十九条 疆界線上ニ設ケタル界標、囲障、墻壁及ヒ溝渠ハ相隣者ノ共有ニ属スルモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第二百三十条 一棟ノ建物ノ部分ヲ成ス疆界線上ノ墻壁ニハ前条ノ規定ヲ適用セス 高サノ不同ナル二棟ノ建物ヲ隔ツル墻壁ノ低キ建物ヲ踰ユル部分亦同シ但防火墻壁ハ此限ニ在ラス 第二百三十一条 相隣者ノ一人ハ共有ノ疆壁ノ高サヲ増スコトヲ得但其墻壁カ此工事ニ耐ヘサルトキハ自費ヲ以テ工作ヲ加ヘ若クハ其墻壁ヲ改築スルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ依リ墻壁ノ高サヲ増シタル部分ハ其工事ヲ為シタル者ノ専有ニ属ス 第二百三十二条 前条ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ得 第二百三十三条 隣地ノ竹木ノ枝カ疆界線ヲ踰ユルトキハ其竹木ノ所有者ヲシテ其枝ヲ剪除セシムルコトヲ得 隣地ノ竹木ノ根カ疆界線ヲ踰ユルトキハ之ヲ截取スルコトヲ得 第二百三十四条 建物ヲ築造スルニハ疆界線ヨリ一尺五寸以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ違ヒテ建築ヲ為サント欲スル者アルトキハ隣地ノ所有者ハ其建築ヲ廃止シ又ハ之ヲ変更セシムルコトヲ得但建築竣成ノ後ハ損害ノ賠償ノミヲ請求スルコトヲ得 第二百三十五条 疆界線ヨリ三尺未満ノ距離ニ於テ他人ノ宅地ヲ観望スヘキ窓又ハ椽側ヲ設クル者ハ目隠ヲ附スルコトヲ要ス 前項ノ距離ハ窓又ハ椽側ノ最モ隣地ニ近キ点ヨリ直角線ニテ疆界線ニ至ルマテ測算ス 第二百三十六条 前二条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百三十七条 井戸、用水溜、下水溜又ハ肥料溜ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ六尺以上、池、地窖又ハ厠坑ヲ穿ツニハ三尺以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス 水樋ヲ埋メ又ハ溝渠ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ其深サノ半以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス但三尺ヲ踰ユルコトヲ要セス 第二百三十八条 疆界線ノ近傍ニ於テ前条ノ工事ヲ為ストキハ土砂ノ崩壊又ハ水若クハ汚液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル注意ヲ為スコトヲ要ス 第二節 所有権ノ取得 第二百三十九条 無主ノ動産ハ所有ノ意思ヲ以テ之ヲ占有スルニ因リテ其所有権ヲ取得ス 無主ノ不動産ハ国庫ノ所有ニ属ス 第二百四十条 埋蔵物ハ特別法ノ定ムル所ニ従ヒ公告ヲ為シタル後六个月内ニ其所有者ノ知レサルトキハ発見者其所有権ヲ取得ス但他人ノ物ノ中ニ於テ発見シタル埋蔵物ハ其物ノ所有者ト之ヲ折半ス 第二百四十一条 不動産ノ所有者ハ其不動産ノ従トシテ之ニ附合シタル物ノ所有権ヲ取得ス但権原ニ因リテ其物ヲ附属セシメタル他人ノ権利ヲ妨ケス 第二百四十二条 各別ノ所有者ニ属スル数個ノ動産カ附合ニ因リ毀損スルニ非サレハ分離スルコト能ハサルニ至リタルトキハ其合成物ノ所有権ハ主タル動産ノ所有者ニ属ス分離ノ為メ多額ノ費用ヲ要スルトキ亦同シ 第二百四十三条 附合シタル動産中ニ於テ主従ノ区別ヲ為スコト能ハサルトキハ各動産ノ所有者ハ其附合ノ当時ニ於ケル価額ノ割合ニ応シテ合成物ヲ共有ス 第二百四十四条 前二条ノ規定ハ各別ノ所有者ニ属スル物カ混和シテ識別スルコト能ハサルニ至リタル場合ニ之ヲ準用ス 第二百四十五条 他人ニ属スル動産ニ工作ヲ加ヘタルトキハ其加工物ノ所有権ハ材料ノ所有者ニ属ス但工作ニ因リテ生シタル価格カ著シク材料ノ価格ニ超ユルトキハ加工者其物ノ所有権ヲ取得ス 加工者カ材料ノ一部ヲ供シタルトキハ其価格ニ工作ニ因リテ生シタル価格ヲ加ヘタルモノカ他人ノ材料ノ価格ニ超ユルトキニ限リ加工者其物ノ所有権ヲ取得ス 第二百四十六条 前五条ノ規定ニ依リテ物ノ所有権カ消滅シタルトキハ其物ノ上ニ存セル他ノ権利モ亦消滅ス 右ノ物ノ所有者カ合成物、混和物又ハ加工物ノ単独所有者ト為リタルトキハ前項ノ権利ハ爾後合成物、混和物又ハ加工物ノ上ニ存シ其共有者ト為リタルトキハ其持分ノ上ニ存ス 第二百四十七条 本款ノ規定ノ適用ニ依リテ損失ヲ受ケタル者ハ第   条及ヒ第   条ノ規定ニ従ヒ償金ヲ請求スルコトヲ得 第三節 共有 第二百四十八条 各共有者ハ其持分ノ多少ニ拘ハラス共有物ノ全部ヲ使用スルコトヲ得但他ノ共有者ノ使用ヲ妨ケサルコトヲ要ス 第二百四十九条 各共有者ハ他ノ共有者ノ同意アルニ非サレハ共有物ニ変更ヲ加フルコトヲ得ス 第二百五十条 共有物ノ管理ニ関スル事項ハ各共有者ノ持分ノ価格ニ従ヒ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス但保存行為ハ各共有者之ヲ為スコトヲ得 第二百五十一条 各共有者ハ其持分ニ応シテ管理ノ費用ヲ払ヒ其他共有物ノ負担ニ任ス 共有者カ六个月内ニ前項ノ義務ヲ履行セサルトキハ他ノ共有者ハ相当ノ償金ヲ払ヒテ其者ノ持分ヲ取得スルコトヲ得 前項ノ権利ハ債務者ノ特定承継人ニ対シテモ之ヲ主張スルコトヲ得 第二百五十二条 前四条ノ規定ニ異ナリタル契約アルトキハ其契約ハ各共有者ノ特定承継人ニ対シテモ其効力ヲ有ス 第二百五十三条 共有者ノ持分ハ相均シキモノト看做ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第二百五十四条 共有者ノ一人カ其持分ヲ放棄シタルトキ又ハ相続人ナクシテ死亡シタルトキハ其持分ハ他ノ共有者ニ帰属ス 第二百五十五条 各共有者ハ何時ニテモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得但五年ヲ超エサル期間分割セサル旨ヲ約スルコトヲ妨ケス 此契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ス 此契約ハ各共有者ノ特定承継人ニ対シテモ其効力ヲ有ス 第二百五十六条 前条ノ規定ハ第二百十条及ヒ第二百二十九条ニ掲クル共有物ニハ之ヲ適用セス 第二百五十七条 分割ニ付キ共有者一致セサルトキハ裁判所ニ於テ分割ヲ為スコトヲ要ス但現物ヲ以テ分割ヲ減スル虞アルトキハ裁判所ハ其競売ヲ命スルコトヲ得 第二百五十八条 共有者ノ一人カ他ノ共有者ニ対シテ共有ニ関スル債権ヲ有スルトキハ分割ニ際シ債務者ニ帰スヘキ共有物ノ部分ヲ以テ其弁済ヲ為サシムルコトヲ得 債権者ハ右ノ弁済ヲ受クル為メ債務者ニ帰スヘキ共有物ノ部分ヲ売却スル必要アルトキハ其売却ヲ請求スルコトヲ得 債権者ハ債務者ノ特定承継人ニ対シテモ前二項ノ権利ヲ主張スルコトヲ得 第二百五十九条 各共有者ノ債権者ハ自己ノ費用ヲ以テ分割ニ参加スルコトヲ得 前項ノ規定ニ依リテ参加ノ請求アリタルニ拘ハラス分割ヲ為シタルトキハ其分割ハ債権者ニ対シテ其効ナシ 第二百六十条 各共有者ハ他ノ共有者カ分割ニ因リテ得タル物ニ付キ売主ト同シク其持分ニ応シテ担保ノ責ニ任ス 第二百六十一条 分割ノ結了シタルトキハ各分割者ハ其受ケタル物ニ関スル証書ヲ保存スルコトヲ要ス 共有者一同又ハ其中ノ数人ニ分割シタル物ニ関スル証書ハ其最大部分ヲ受ケタル者ニ於テ之ヲ保存スルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テ最大部分ヲ受ケタル者ナキトキハ分割者ノ協議ヲ以テ其証書保存者ヲ定ム若シ協議整ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス 証書ノ保存者ハ他ノ分割者ノ要求ニ応シテ之ヲ使用セシムルコトヲ要ス 第二百六十二条 入会権カ共有ノ性質ヲ有スルトキハ各地方ノ慣習ニ従フ外本節ノ規定ニ依ル 第二百六十三条 本節ノ規定ハ数人ニテ所有権以外ノ権利ヲ有スル場合ニ之ヲ準用ス但法令ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 第四章 地上権 第二百六十四条 地上権者ハ他人ノ土地ニ於テ工作物又ハ竹木ヲ所有スル為メ其土地ヲ使用スル権利ヲ有ス 第二百六十五条 地上権者カ土地ノ所有者ニ定期ノ地代ヲ払フヘキトキハ第二百七十二条及ヒ第二百七十三条ノ規定ヲ準用ス 此他地代ニ付テハ賃貸借ニ関スル規定ヲ準用ス 第二百六十六条 第二百十一条乃至第二百三十八条ノ規定ハ地上権者間又ハ地上権者ト土地ノ所有者トノ間ニ於テモ亦之ヲ適用ス但第二百二十九条ノ推定ハ地上権設定後ニ為シタル工事ニ付テノミ之ヲ地上権者ニ適用ス 第二百六十七条 設定行為ヲ以テ地上権ノ存続期間ヲ定メサルトキハ別段ノ慣習アル場合ノ外左ノ規定ニ従フ 地上権者ハ何時ニテモ其権利ヲ放棄スルコトヲ得但地代ヲ払フヘキトキハ一年前ニ予告ヲ為シ又ハ未タ期限ノ至ラサル一年分ノ地代ヲ払フコトヲ要ス 地上権者カ前項ノ規定ニ依リ其権利ヲ放棄セサルトキハ裁判所ハ当事者ノ請求ニ因リ十年以上五十年以下ノ範囲内ニ於テ工作物又ハ竹木ノ種類及ヒ状況其他地上権設定ノ当時ノ事情ヲ斟酌シテ其存続期間ヲ定ム 第二百六十八条 地上権者ハ其権利消滅ノ時ニ土地ヲ原状ニ復シテ其工作物及ヒ竹木ヲ収去スルコトヲ得但土地ノ所有者カ時価ヲ提供シテ之ヲ買取ルヘキ旨ヲ通知スルトキハ地上権者ハ正当ノ理由ナクシテ之ヲ拒ムコトヲ得ス 前項ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第五章 永小作権 第二百六十九条 永小作人ハ小作料ヲ払ヒテ他人ノ土地ニ耕作又ハ牧畜ヲ為ス権利ヲ有ス但土地ニ永久ノ損害ヲ生スヘキ変更ヲ加フルコトヲ得ス 第二百七十条 永小作人ハ其権利ヲ他人ニ譲渡シ又ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ耕作若クハ牧畜ノ為メ土地ヲ賃貸スルコトヲ得但設定行為ヲ以テ之ヲ禁シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百七十一条 永小作人ノ義務ニ付テハ本章ノ規定及ヒ設定行為ヲ以テ定ムルモノノ外賃貸借ノ規定ヲ準用ス 第二百七十二条 永小作人ハ不可抗力ニ因リ収益ニ付キ損失ヲ受クルモ小作料ノ免除又ハ減少ヲ請求スルコトヲ得ス 第二百七十三条 永小作人ハ不可抗力ニ因リ引続キ三年以上全ク収益ヲ得ス又ハ五年以上小作料ヨリ少ナキ収益ヲ得タルトキハ永小作権ヲ放棄スルコトヲ得 第二百七十四条 永小作人カ引続キ二年以上小作料ノ弁済ヲ怠リ又ハ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ地主ハ永小作権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第二百七十五条 前六条ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百七十六条 永小作権ノ存続期間ハ十年以上五十年以下トス若シ五十年ヨリ長キ期間ヲ以テ永小作権ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ五十年ニ短縮ス 永小作権ノ設定ハ之ニ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ五十年ヲ超ユルコトヲ得ス 設定行為ヲ以テ永小作権ノ存続期間ヲ定メサルトキハ別段ノ慣習アル場合ノ外之ヲ三十年トス 第二百七十七条 第二百六十八条ノ規定ハ永小作権ニモ亦之ヲ適用ス 第六章 地役権 第二百七十八条 地役権者ハ設定行為ヲ以テ定メタル目的ニ従ヒ他人ノ土地ヲ自己ノ土地ノ便益ニ供スル権利ヲ有ス但第三章第一節中ノ公ノ秩序ニ関スル規定ニ違反セサルコトヲ要ス 共有ノ性質ヲ有セサル入会権ニ付テハ土地ノ便益ノ為メニセサルモノト雖モ各地方ノ慣習ニ従フ外本章ノ規定ヲ準用ス 第二百七十九条 地役権ハ要役地ノ所有権ノ従トシテ之ト共ニ移転シ又ハ要役地ノ上ニ存スル他ノ権利ノ目的タルモノトス但設定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 地役権ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ譲渡シ又ハ他ノ権利ノ目的ト為スコトヲ得ス 第二百八十条 土地ノ共有者ノ一人ハ其持分ニ付キ其土地ノ為メニ又ハ其土地ノ上ニ存スル地役権ヲ消滅セシムルコトヲ得ス 土地ノ分割又ハ其一部ノ譲渡ノ場合ニ於テハ地役権ハ其各部ノ為メニ又ハ其各部ノ上ニ存ス但地役権カ其性質ニ因リ土地ノ一部ノミニ関スルトキハ此限ニ在ラス 第二百八十一条 地役権ハ継続且表現ノモノニ限リ時効ニ因リテ之ヲ取得スルコトヲ得 第二百八十二条 共有者ノ一人カ時効ニ因リテ地役権ヲ取得シタルトキハ他ノ共有者モ亦之ヲ取得ス 共有者ニ対スル時効中断ハ地役権ヲ行使スル各共有者ニ対シテ之ヲ為スニ非サレハ其効ナシ 地役権ヲ行使スル共有者数人アル場合ニ於テ其一人ニ対シテ時効停止ノ原因アルモ時効ハ各共有者ノ為メニ進行ス 第二百八十三条 用水地役権ノ承役地ニ於テ水カ要役地ト承役地トノ需用ノ為メニ不足ナルトキハ其各地ノ需用ニ応シ先ツ之ヲ家用ニ供シ其残余ヲ他ノ用ニ供スルモノトス但設定行為ニ別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス 同一ノ承役地ニ付キ数個ノ用水地役権ヲ設定シタルトキハ後ノ地役権者ハ前ノ地役権者ノ水ノ使用ヲ妨クルコトヲ得ス 第二百八十四条 設定行為又ハ特別契約ニ因リ承役地ノ所有者カ其費用ヲ以テ地役権ノ行使ノ為メニ工作物ヲ設ケ又ハ其修繕ヲ為ス義務ヲ負担スルトキハ其義務ハ承役地ノ所有者ノ特定承継人モ亦之ヲ負担ス 第二百八十五条 承役地ノ所有者ハ何時ニテモ地役権ニ必要ナル土地ノ部分ノ所有権ヲ地役権者ニ委棄シテ前条ノ負担ヲ免カルルコトヲ得 第二百八十六条 承役地ノ所有者ハ地役権ノ行使ノ為メ其土地ノ上ニ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得但地役権ノ行使ヲ妨ケサルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テハ承役地ノ所有者ハ其利益ヲ受クル割合ニ応シテ工作物ノ設置及ヒ保存ノ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百八十七条 承役地ノ右者カ取得時効ニ必要ナル条件ヲ具備シタルトキハ地役権ハ之ニ因リテ消滅ス 第二百八十八条 前条ノ消滅時効ハ地役権者カ其権利ヲ行使スルニ因リテ中断ス 第二百八十九条 第百六十八条ニ規定セル消滅時効ノ期間ハ不継続地役権ニ付テハ最後ノ行使ノ時ヨリ之ヲ起算シ継続地役権ニ付テハ其行使ヲ妨クヘキ事実ノ生シタル時ヨリ之ヲ起算ス 第二百九十条 要役地カ数人ノ共有ニ属スル場合ニ於テ其一人ノ為メニ時効ノ中断又ハ停止アルトキハ其中断又ハ停止ハ他ノ共有者ノ為メニモ其効力ヲ生ス 第二百九十一条 地役権者カ其権利ノ一部ヲ行使セサルトキハ其部分ノミ時効ニ因リテ消滅ス