決議案 (明治二十八年十二月二十一日配付)
参考原資料
穂積陳重博士関係文書 第六部甲
第三編 債権
第一章 総則
第一節 債権ノ目的
第三百九十七条 債権ハ金銭ニ見積ルコトヲ得サルモノト雖モ之ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得
第三百九十八条 債権ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ債務者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ其物ヲ保存シ且其引渡ヲ為スヘキ時ノ現状ニテ之ヲ引渡スコトヲ要ス
第三百九十九条 債権ノ目的物ヲ指示スルニ種類ノミヲ以テシタル場合ニ於テ法律行為ノ性質又ハ当事者ノ意思ニ依リテ其品質ヲ定ムルコト能ハサルトキハ債務者ハ其種類ニ属スル物ニ付キ中等ノ品質ヲ有スルモノヲ選定シテ之ヲ給付スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ債務者カ物ノ給付ヲ為スニ必要ナル行為ヲ完了シ又ハ債権者ノ同意ヲ得テ給付スヘキ物ヲ指定シタルトキハ爾後其物ヲ以テ債権ノ目的物トス
第四百条 債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ債務者ハ其選択ニ依リ各種ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得但特種ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ハ此限ニ在ラス
債権ノ目的タル特種ノ通貨カ弁済期ニ於テ強制通用ノ効力ヲ失ヒタルトキハ債務者ハ他ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ要ス
前二項ノ規定ハ外国ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百一条 外国ノ通貨ヲ以テ債権額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ履行地ニ於ケル為替相場ニ依リ日本ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百二条 利息ヲ生スヘキ債権ニ付キ別段ノ定ナキトキハ其利率ハ年五分トス
第四百三条 利息カ一年分以上延滞シタル場合ニ於テ債権者ヨリ催告ヲ為スモ債務者カ其利息ヲ払ハサルトキハ債権者ハ之ヲ元本ニ組入ルルコトヲ得
第四百四条 債権ノ目的カ数個ノ給付中選択ニ因リテ定マルヘキトキハ其選択権ハ債務者ニ属ス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百五条 前条ノ選択権ハ相手方ニ対スル意思表示ニ因リテ之ヲ行フ
選択ハ相手方ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第四百六条 債権カ弁済期ニ在ル場合ニ於テ相手方ヨリ相当ノ期間ヲ定メテ催告ヲ為スモ選択権ヲ有スル当事者カ其期間内ニ選択ヲ為ササルトキハ其選択権ハ相手方ニ属ス
第四百七条 第三者カ選択ヲ為スヘキ場合ニ於テハ其選択ハ債権者又ハ債務者ニ対スル意思表示ニ因リテ之ヲ為ス
第三者カ選択ヲ為スコト能ハス又ハ之ヲ欲セサルトキハ選択権ハ債務者ニ属ス
第四百八条 債権ノ目的タルヘキ給付中始ヨリ不能ナルモノ又ハ後ニ至リテ不能ト為リタルモノアルトキハ債権ハ其残存スルモノニ付キ存在ス
選択権ヲ有スル者ノ相手方ノ過失ニ因リテ給付ノ不能ヲ生シタルトキハ前項ノ規定ヲ適用セス
第四百九条 選択ハ債権発生ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第二節 債権ノ効力
第一款 履行
第四百十条 債務ヲ履行スヘキ場所ニ付キ別段ノ定ナキトキハ特定物ノ引渡ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ履行ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
第四百十一条 債務ヲ履行スヘキ期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到来シタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス
債務ヲ履行スヘキ時期ニ付キ別段ノ定ナキトキハ債権者ハ何時ニテモ其履行ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ債務者ハ履行ノ請求アリタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス
第四百十二条 履行ノ費用ニ付キ別段ノ定ナキトキハ其費用ハ債務者之ヲ負担ス但債権者カ住所ノ移転其他ノ所為ニ因リテ履行ノ費用ヲ増加シタルトキハ其増加額ハ債権者之ヲ負担スルコトヲ要ス
第四百十三条 債務者カ債務ノ履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ強制履行ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス
債務ノ性質カ強制履行ヲ許ササル場合ニ於テ其債務カ作為ヲ目的トスルトキハ債権者ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ為サシムルコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
不作為ヲ目的トスル債務ニ付テハ債務者ノ費用ヲ以テ其為シタルモノヲ除却シ且将来ノ為メ適当ノ処分ヲ為スコトヲ請求スルコトヲ得
前三項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第二款 賠償
第四百十四条 債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ
第四百十五条 損害賠償ノ請求ハ債務ノ不履行ニ因リ通常生スヘキ損害ノ賠償ヲ為サシムルヲ以テ目的トス
特別ノ事情ヨリ生シタル損害ト雖モ当事者カ其事情ヲ予見シ又ハ予見スルコトヲ得ヘカリシトキハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得
第四百十六条 損害賠償ハ金銭ヲ以テ裁判所其額ヲ定ム
第四百十七条 債務ノ不履行ニ関シ債権者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ責任及ヒ其金額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス
第四百十八条 金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依リテ之ヲ定ム
前項ノ損害賠償ニ付テハ債権者ハ損害ノ証明ヲ為スコトヲ要セス又債務者ハ不可抗力ヲ以テ其抗弁ト為スコトヲ得ス
第四百十九条 当事者ハ債務ノ不履行ニ付キ損害賠償ノ額ヲ予定スルコトヲ得此場合ニ於テハ裁判所其額ヲ増減スルコトヲ得ス
賠償額ノ予定ハ履行又ハ解除ノ請求ヲ妨ケス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
違約金ハ之ヲ賠償額ノ予定ト看做ス但当事者ノ意思又ハ取引上ノ慣習カ之ニ反スルトキハ別ニ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ妨ケス
第四百二十条 前条ノ規定ハ当事者カ金銭ニ非サルモノヲ以テ損害ノ賠償ニ充ツヘキ旨ヲ予定シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百二十一条 他人ノ物ヲ喪失シ若クハ之ヲ抑留セシメ又ハ他人ノ権利ノ行使ヲ妨碍シタルニ因リテ損害賠償ノ責ニ任スル者カ其物又ハ其権利ノ価格ニ対スル賠償ヲ完済シタルトキハ其物又ハ其権利ニ関シ当然債権者ニ代位スルモノトス
第三款 第三者ニ対スル債権者ノ権利
第四百二十二条 債権ハ当事者及ヒ其包括承継人ノ間ニ非サレハ其効力ヲ有セス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百二十三条 債権者ハ自己ノ債権ヲ保護スル為メ其債務者ニ属スル権利ヲ行フコトヲ得但債務者ノ一身ニ専属スル権利ハ此限ニ在ラス
債権者ハ其債権ノ期限カ到来セサル間ハ裁判上ノ代位ニ依ルニ非サレハ前項ノ権利ヲ行フコトヲ得ス但保存行為ハ此限ニ在ラス
第四百二十四条 債権者ハ債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル法律行為ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ請求ニ付テハ債務者ノ行為ニ因リテ利益ヲ受ケタル者又ハ其転得者及ヒ債務者並ニ転譲者ヲ共同訴訟人トシテ訴フルコトヲ要ス
第四百二十五条 前条ノ規定ニ依リ取消スコトヲ得ヘキ行為ハ其受益者又ハ転得者カ其行為又ハ転得ノ当時債権者ヲ害スヘキ事実ヲ知リタルニ非サレハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス
第四百二十六条 前二条ノ規定ニ依リテ為シタル取消ハ総債権者ノ利益ノ為メニ其効力ヲ生ス
第四百二十七条 第四百二十四条ノ取消権ハ債権者カ取消ノ原因ヲ覚知シタル時ヨリ二年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキハ右ノ取消権ハ前項ノ規定ニ拘ハラス消滅ス
第三節 多数当事者ノ債権
第一款 総則
第四百二十八条 数人ノ債権者又ハ債務者アル場合ニ於テ別段ノ定ナキトキハ各債権者又ハ各債務者ハ平等ノ割合ヲ以テ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負フ
第二款 不可分債務
第四百二十九条 債権ノ目的カ其性質上又ハ当事者ノ意思ニ因リテ不可分ナル場合ニ於テ数人ノ債権者アルトキハ各債権者ハ総債権者ノ為メニ履行ヲ請求シ又債務者ハ総債権者ノ為メ各債権者ニ対シテ履行ヲ為スコトヲ得
第四百三十条 不可分債権者ノ一人ト其債務者トノ間ニ相殺更改又ハ免除アリタル場合ニ於テモ他ノ債権者ハ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得但其一人ノ債権者カ其権利ヲ失ハサレハ之ニ分与スヘキ利益ヲ債務者ニ償還スルコトヲ要ス
此他不可分債権者ノ一人ノ行為又ハ其一人ニ付キ生シタル事項ハ他ノ債権者ニ対シテ其効力ヲ生セス
第四百三十一条 数人カ不可分債務ヲ負担スル場合ニ於テハ前条ノ規定及ヒ連帯債務ニ関スル規定ヲ準用ス但第四百三十五条乃至第四百四十一条ノ規定ハ此限ニ在ラス
第四百三十二条 不可分債務カ可分債務ニ変シタルトキハ各債権者ハ自己ノ部分ニ付テノミ履行ヲ請求スルコトヲ得又各債務者ハ其負担部分ニ付テノミ履行ノ責ニ任ス
第三款 連帯債務
第四百三十三条 数人カ連帯債務ヲ負担スルトキハ債権者ハ其債務者ノ一人ニ対シ又ハ同時若クハ順次ニ総債務者ニ対シテ全部又ハ一部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得
第四百三十四条 連帯債務者ノ一人ニ付キ法律行為ノ無効又ハ取消ノ原因ノ存スル為メ他ノ債務者ノ債務ノ効力ヲ妨クルコトナシ
第四百三十五条 連帯債務者ノ一人ニ対スル履行ノ請求ハ他ノ債務者ニ対シテモ其効力ヲ生ス
第四百三十六条 連帯債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ更改アリタルトキハ債権ハ総債務者ノ利益ノ為メニ消滅ス
第四百三十七条 連帯債務者ノ一人カ債権者ニ対シテ債権ヲ有スル場合ニ於テ其債務者カ相殺ヲ援用シタルトキハ債権ハ総債務者ノ利益ノ為メニ消滅ス
右ノ債権ヲ有スル債務者カ相殺ヲ援用セサル間ハ其債務者ノ負担部分ニ付テノミ他ノ債務者ニ於テ相殺ヲ援用スルコトヲ得
第四百三十八条 連帯債務者ノ一人ニ対シテ為シタル債務ノ免除ハ其債務者ノ部分ニ付テノミ他ノ債務者ノ利益ノ為メニモ其効力ヲ生ス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百三十九条 連帯債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ混同アリタルトキハ債権ハ其債務者ノ部分ニ付テノミ消滅ス
第四百四十条 前五条ニ掲ケタル事項ニ付キ債権者ト連帯債務者ノ一人トノ間ニアリタル確定判決ハ其各条ニ定ムル範囲ニ於テ他ノ債務者ニ対シテモ其効力ヲ生ス
連帯債務者ノ一人カ為シタル弁済ニ関スル確定判決モ亦他ノ債務者ニ対シテ其効力ヲ生ス
第四百四十一条 前六条ニ掲ケタル事項ノ外連帯債務者ノ一人ニ付キ生シタルモノハ他ノ債務者ニ対シテ其効力ヲ生セス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百四十二条 連帯債務者一同又ハ其中ノ数人カ破産ノ宣告ヲ受ケタル場合ニ於テハ債権者ハ其債権ノ全額ニ付キ各破産ノ清算ニ加ハルコトヲ得
債権者カ各破産ノ清算ニ於テ受クヘキ配当ハ其債権ノ全額ニ従ヒテ之ヲ定ム但総額ニ於テ其債権額以上ヲ受クルコトヲ得ス
第四百四十三条 連帯債務者ノ一人カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルトキハ他ノ債務者ニ対シ其各自ノ負担部分ニ付キ求償権ヲ有ス
前項ノ求償ハ弁済其他免責アリタル日以後ノ法定利息及ヒ避クルコトヲ得サリシ費用ヲ包含ス
第四百四十四条 連帯債務者ノ一人カ債権者ヨリ請求ヲ受ケタルコトヲ他ノ債務者ニ通知セスシテ弁済ヲ為シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タル場合ニ於テ他ノ債務者カ債権者ニ対抗スルコトヲ得ヘキ事由ヲ有セシトキハ其負担部分ニ付キ之ヲ以テ其債務者ニ対抗スルコトヲ得但相殺ヲ以テ之ニ対抗シタルトキハ過失アル債務者ハ債権者ニ対シ相殺ニ因リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得
連帯債務者ノ一人カ弁済其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルコトヲ他ノ債務者ニ通知スルコトヲ怠リタルニ因リ他ノ債務者カ善意ニテ債権者ニ弁済ヲ為シ其他有償ニ免責ヲ得タルトキハ其債務者ハ自己ノ弁済其他免責ノ行為ヲ有効ナリシモノト看做スコトヲ得
第四百四十五条 連帯債務者中ニ償還ヲ為ス資力ナキ者アルトキハ其償還スルコト能ハサル部分ハ求償者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ其各自ノ負担部分ニ応シテ之ヲ分割ス但求償者ニ過失アルトキハ他ノ債務者ニ対シテ分担ヲ請求スルコトヲ得ス
第四百四十六条 連帯債務者ノ一人カ連帯ノ免除ヲ得タル場合ニ於テ他ノ債務者中ニ弁済ノ資力ナキ者アルトキハ債権者ハ其無資力者カ弁済スルコト能ハサル部分ニ付キ連帯ノ免除ヲ得タル者カ負担スヘキ部分ヲ負担ス
第四款 保証債務
第四百四十七条 保証人ハ主タル債務者カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ其履行ヲ為ス責ニ任ス
第四百四十八条 保証債務ハ主タル債務ニ関スル利息、違約金、損害賠償其他総テ其債務ニ従タルモノヲ包含ス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
保証人ハ其保証債務ニ付テノミ違約金又ハ損害賠償ノ額ヲ約定スルコトヲ得
第四百四十九条 保証人ノ負担カ債務ノ目的又ハ体様ニ付キ主タル債務ヨリ重キトキハ之ヲ主タル債務ノ限度ニ減縮ス
第四百五十条 無能力ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ債務ヲ保証シタル者カ保証契約ノ時ニ於テ其取消ノ原因ヲ知リタルトキハ主タル債務者ノ不履行又ハ其債務ノ取消ノ場合ニ付キ同一ノ目的ヲ有スル独立ノ債務ヲ負担シタルモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第四百五十一条 債務者カ保証人ヲ立ツヘキ義務ヲ負フ場合ニ於テハ其保証人ハ左ノ条件ヲ具備スル者タルコトヲ要ス
一 能力者タルコト
二 弁済ノ資力ヲ有スルコト
三 債務ノ履行地ヲ管轄スル控訴院ノ管轄内ニ住所ヲ有シ又ハ仮住所ヲ定メタルコト
保証人カ前項第二号又ハ第三号ノ条件ヲ缺クニ至リタルトキハ債権者ハ前項ノ条件ヲ具備スル者ヲ以テ之ニ代フルコトヲ請求スルコトヲ得
前二項ノ規定ハ債権者カ保証人ヲ指定シタル場合ニハ之ヲ適用セス
第四百五十二条 債務者カ前条ノ条件ヲ具備スル保証人ヲ立ツルコト能ハサルトキハ他ノ担保ヲ供シテ之ニ代フルコトヲ得
第四百五十三条 債権者カ債務ノ履行ヲ保証人ニ請求シタルトキハ保証人ハ先ツ主タル債務者ニ催告ヲ為スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得
主タル債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケ又ハ其行方カ知レサルトキハ保証人ハ前項ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第四百五十四条 債権者カ前条ノ規定ニ従ヒ主タル債務者ニ催告ヲ為シタル後ト雖モ若シ保証人カ主タル債務者ニ弁済ノ資力アリテ且執行ノ容易ナルコトヲ証明スルトキハ債権者ハ先ツ主タル債務者ノ財産ニ付キ執行ヲ為スコトヲ要ス
第四百五十五条 保証人カ主タル債務者ト連帯シテ債務ヲ負担シタルトキハ前二条ノ権利ヲ有セス
第四百五十六条 第四百五十三条及ヒ第四百五十四条ノ規定ニ従ヒ保証人ノ請求アリタルニ拘ハラス債権者カ催告又ハ執行ヲ為スコトヲ怠リ其後主タル債務者ヨリ全部ノ弁済ヲ得サルトキハ保証人ハ債権者カ直チニ催告又ハ執行ヲ為セハ弁済ヲ得ヘカリシ限度ニ於テ其義務ヲ免カル
第四百五十七条 数人ノ保証人アル場合ニ於テハ其保証人カ各別ノ行為ヲ以テ債務ヲ負担シタルトキト雖モ第四百二十八条ノ規定ヲ適用ス
第四百五十八条 主タル債務者ニ対スル履行ノ請求其他時効ノ中断ハ保証人ニ対シテモ其効力ヲ生ス
保証人ハ主タル債務者ノ債権ニ依リ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得
第四百五十九条 主タル債務者カ保証人ト連帯シテ債務ヲ負担スル場合ニ於テハ第四百三十五条乃至第四百四十一条ノ規定ヲ適用ス
第四百六十条 保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタル場合ニ於テ過失ナクシテ債権者ニ弁済スヘキ裁判言渡ヲ受ケ又ハ主タル債務者ニ代ハリテ弁済ヲ為シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務ヲ消滅セシムヘキ行為ヲ為シタルトキハ其保証人ハ主タル債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス
前項ノ求償ハ出捐ノ限度ニ於ケル債務ノ元本及ヒ利息、費用、免責ノ日以後ニ於ケル其法定利息其他損害ノ賠償ヲ包含ス
第四百六十一条 保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタルトキハ其保証人ハ左ノ場合ニ於テ主タル債務者ヨリ予メ賠償ヲ受クルコトヲ得
一 主タル債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケ且債権者カ其財団ノ配当ニ加入セサルトキ
二 債務カ弁済期ニ在ルトキ但保証契約ノ後債権者カ主タル債務者ニ許与シタル期限ハ之ヲ以テ保証人ニ対抗スルコトヲ得ス
三 債務ノ弁済期カ不確定ニシテ且其最長期ヲモ確定スルコト能ハサル場合ニ於テ保証契約ノ後十年ヲ経過シタルトキ
第四百六十二条 前二条ノ規定ニ依リ主タル債務者カ保証人ニ対シテ賠償ヲ為ス場合ニ於テ債権者カ全部ノ弁済ヲ受ケサル間ハ主タル債務者ハ保証人ヨリ担保ヲ供セシメ又ハ之ニ対シテ自己ニ免責ヲ得セシムヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得
右ノ場合ニ於テ主タル債務者ハ供託ヲ為シ、担保ヲ供シ又ハ保証人ニ免責ヲ得セシメテ其賠償ノ義務ヲ免カルルコトヲ得
第四百六十三条 主タル債務者ノ委託ヲ受ケスシテ保証ヲ為シタル者カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ主タル債務者ニ其債務ヲ免カレシメタルトキハ主タル債務者ハ其当時自己カ利益ヲ受ケタル限度ニ於テ賠償ヲ為スコトヲ要ス
主タル債務者ノ意ニ反シテ保証ヲ為シタル者ハ主タル債務者ノ為メ現存スル利益ノ限度ニ於テノミ求償権ヲ有ス但求償ノ日以前ニ主タル債務者カ相殺ニ因リテ債務ヲ免カルヘキ場合ニ於テハ保証人ハ債権者ニ対シ其相殺ニ因リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得
第四百六十四条 第四百四十四条ノ規定ハ保証人ニ之ヲ準用ス
保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタル場合ニ於テ主タル債務者カ弁済其他ノ方法ニ依リ免責ヲ得タルコトヲ保証人ニ通知スルコトヲ怠リタルトキハ保証人ハ其善意ニテ為シタル弁済其他免責ノ為メニスル出捐ニ付キ求償権ヲ有ス
第四百六十五条 連帯又ハ不可分債務者ノ一人ノ為メニ保証ヲ為シタル者ハ他ノ債務者ニ対シテ其負担部分ノミニ付キ求償権ヲ有ス
第四百六十六条 数人ノ保証人アル場合ニ於テ其間ニ連帯アルカ主タル債務カ不可分ナルカ又ハ各保証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約アル為メ一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第四百四十三条乃至第四百四十五条ノ規定ヲ準用ス
前項ノ場合ニ非スシテ一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第四百六十三条ノ規定ヲ準用ス
第四節 債権ノ譲渡
第四百六十七条 債権ハ之ヲ譲渡スコトヲ得但其性質カ之ヲ許ササルトキ又ハ特別契約ヲ以テ之ヲ禁シタルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ特別契約ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百六十八条 指名債権ノ譲渡ハ譲渡人カ之ヲ債務者ニ通知シ又ハ債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
前項ノ通知又ハ承諾ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ債務者以外ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百六十九条 債務者カ留保ヲ為サスシテ前条ノ承諾ヲ為シタルトキハ譲渡人ニ対抗スルコトヲ得ヘカリシ事由アルモ之ヲ以テ譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス但債務者カ譲渡人ニ払渡シタルモノアルトキハ之ヲ取返シ又譲渡人ニ対シテ負担シタル債務アルトキハ之ヲ成立セサルモノト看做スコトヲ妨ケス
譲渡人カ譲渡ノ通知ヲ為シタルニ止マルトキハ債務者ハ其通知ヲ受クルマテニ譲渡人ニ対シテ生シタル事由ヲ以テ譲受人ニ対抗スルコトヲ得
第四百七十条 指図債権ノ譲渡ハ其証券ニ譲渡ノ裏書ヲ為シテ之ヲ譲受人ニ交付スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百七十一条 指図債権ノ債務者ハ其証券ノ所持人及ヒ其署名、捺印ノ真偽ヲ調査スル権利ヲ有スルモ其義務ヲ負フコトナシ但債務者ニ悪意又ハ重大ノ過失アルトキハ其弁済ハ無効トス
第四百七十二条 前条ノ規定ハ証券ニ債権者ヲ指名シタルモ其証券ノ所持人ニ弁済スヘキ旨ヲ附記シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百七十三条 指図債権ノ債務者ハ其証券ニ記載シタル事項及ヒ其証券ノ性質ヨリ当然生スル結果ノ外原債権者ニ対抗スルコトヲ得ヘカリシ事由ヲ以テ善意ノ譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百七十四条 前条ノ規定ハ無記名債権ニ之ヲ準用ス
第五節 債権ノ消滅
第一款 弁済
第四百七十五条 債務ノ弁済ハ別段ノ定アル場合ノ外第三者之ヲ為スコトヲ得但利害ノ関係ヲ有セサル第三者ハ債務者カ不同意ヲ表シタルトキハ弁済ヲ為スコトヲ得ス
第四百七十六条 弁済者カ他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非サレハ其物ヲ取戻スコトヲ得ス
第四百七十七条 譲渡ノ能力ナキ所有者カ弁済トシテ物ノ引渡ヲ為シタルトキハ其所有者ノミ其弁済ヲ取消スコトヲ得但其所有者ハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非サレハ其引渡シタル物ヲ取戻スコトヲ得ス
第四百七十八条 前二条ノ場合ニ於テ債権者カ弁済トシテ受ケタル物ヲ善意ニテ消費又ハ譲渡シタルトキハ弁済者ハ其償還ヲ請求スルコトヲ得ス
第四百七十九条 債権ノ准占有者ニ為シタル弁済ハ弁済者ノ善意ナルトキニ限リ其効力ヲ有ス
第四百八十条 前条ノ場合ノ外弁済受領ノ権限ヲ有セサル者ニ為シタル弁済ハ債権者カ之ニ因リテ利益ヲ受ケタル限度ニ非サレハ其効力ヲ有セス
第四百八十一条 受取証書ノ持参人ハ弁済受領ノ権限アルモノト看做ス但弁済者カ反対ノ事情ヲ知リタルトキ又ハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス
第四百八十二条 弁済受領ノ能力ヲ有セサル債権者ニ為シタル弁済ハ其債権者ノミ之ヲ取消スコトヲ得但債権者カ之ニ因リテ利益ヲ受ケタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス
第四百七十九条ノ場合ニ於テ債権ノ准占有者カ弁済受領ノ能力ヲ有セサルトキ亦同シ
第四百八十三条 支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者カ自己ノ債権者ニ弁済ヲ為シタルトキハ差押債権者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ弁済ヲ為スヘキコトヲ第三債務者ニ請求スルコトヲ得但債務者ニ対スル第三債務者ノ求償権ヲ妨ケス
第四百八十四条 債務者カ債権者ノ承諾ヲ以テ其負担シタル給付ニ代ヘ他ノ給付ヲ為シタルトキハ其給付ハ弁済ノ効力ヲ有ス
第四百八十五条 債務者ノ為メニ弁済ヲ為ス者ハ其弁済ト同時ニ債権者ノ承諾ヲ以テ之ニ代位スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ代位者ハ第四百六十八条ノ規定ニ従ヒ債権者ニ代位シタルコトヲ債務者ニ通知シ又ハ債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ其代位ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百八十六条 弁済ヲ為スニ付キ利害ノ関係ヲ有スル者ハ弁済ニ因リテ当然債権者ニ代位ス
第四百八十七条 前二条ノ規定ニ依リテ債権者ニ代位シタル者ハ自己ノ権利ニ基キ求償ヲ為スコトヲ得ヘキ範囲内ニ於テ債権ノ効力及ヒ担保トシテ其債権者カ有セシ総テノ権利ヲ行フコトヲ得但左ノ規定ニ従フコトヲ要ス
一 保証人ハ予メ先取特権又ハ抵当権ノ登記ニ其代位ヲ附記シタルニ非サレハ其先取特権又ハ抵当権ノ目的タル不動産ノ第三取得者ニ対シテ債権者ニ代位セス
二 第三取得者ハ保証人ニ対シテ債権者ニ代位セス
三 第三取得者ノ一人ハ各不動産ノ価額ニ応スルニ非サレハ他ノ第三取得者ニ対シテ債権者ニ代位セス
四 前号ノ規定ハ自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者ノ間ニ之ヲ準用ス
五 保証人ト自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者トノ間ニ於テハ其頭数ニ応スルニ非サレハ債権者ニ代位セス但自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者カ数人アルトキハ保証人ノ負担部分ヲ除キ其残額ニ付キ各財産ノ価額ニ応スルニ非サレハ之ニ対シテ代位ヲ為スコトヲ得ス
右ノ場合ニ於テ其財産カ不動産ナルトキハ第一号ノ規定ヲ準用ス
第四百八十八条 債権ノ一部ニ付キ代位弁済アリタルトキハ代位者ハ其弁済シタル価額ニ応シテ債権者ト共ニ其権利ヲ行フ
前項ノ場合ニ於テ債務ノ不履行ニ因ル契約ノ解除ハ債権者ノミ之ヲ請求スルコトヲ得但代位者ニ其弁済シタル価額及ヒ其利息ヲ償還スルコトヲ要ス
第四百八十九条 代位弁済ニ因リテ全部ノ弁済ヲ受ケタル債権者ハ債権ニ関スル証書及ヒ質物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス
債権ノ一部ニ付キ代位弁済アリタル場合ニ於テハ債権者ハ代位者ノ要求ニ応シテ債権証書ニ其代位ヲ記入シ及ヒ受取証書ノ交付ヲ為スコトヲ要ス又質物アルトキハ代位者ヲシテ其質物ノ保存ヲ監督セシムルコトヲ要ス
第四百九十条 第四百八十六条ノ規定ニ依リテ代位ヲ為スヘキ債務者アル場合ニ於テ債権者カ故意又ハ懈怠ニテ其担保ヲ喪失又ハ減少シタルトキハ右ノ債務者ハ其喪失又ハ減少ニ因リ償還ヲ受クルコト能ハサル限度ニ於テ其責ヲ免カル
第四百九十一条 債務者カ同一ノ債権者ニ対シテ同種ノ目的ヲ有スル数箇ノ債務ヲ負担スル場合ニ於テ弁済トシテ提供シタル給付カ総債務ヲ消滅セシムルニ足ラサルトキハ弁済者ハ給付ノ時ニ於テ其弁済ヲ充当スヘキ債務ヲ指定スルコトヲ得
弁済者カ前項ノ指定ヲ為ササルトキハ弁済受領者ハ其受領ノ時ニ於テ其弁済ノ充当ヲ為スコトヲ得但弁済者カ其充当ニ対シテ直チニ異議ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第四百九十二条 当事者カ弁済ノ充当ヲ為ササルトキハ左ノ規定ニ従ヒ其弁済ヲ充当ス
一 総債務中弁済期ニ在ルモノト弁済期ニ在ラサルモノトアルトキハ弁済期ニ在ルモノヲ先ニス
二 総債務カ弁済期ニ在ルトキ又ハ弁済期ニ在ラサルトキハ債務者ノ為メニ弁済ノ利益多キモノヲ先ニス
三 債務者ノ為メニ弁済ノ利益相同シキトキハ弁済期ノ先ツ至リ又ハ至ルヘキモノヲ先ニス
四 前二号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ債務ノ弁済ハ各債務ノ額ニ応シテ之ヲ充当ス
第四百九十三条 一箇ノ債務ノ弁済トシテ数箇ノ給付ヲ為スヘキ場合ニ於テ弁済者カ其債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタルトキハ前二条ノ規定ヲ準用ス
第四百九十四条 債務者カ元本ノ外利息及ヒ費用ヲ払フヘキ場合ニ於テ弁済者カ其債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタルトキハ之ヲ以テ順次ニ費用、利息及ヒ元本ニ充当スルコトヲ要ス
第四百九十五条 弁済ノ提供ハ其提供ノ時ヨリ不履行ニ因リテ生スヘキ一切ノ責任ヲ免カレシム
第四百九十六条 弁済ノ提供ハ債務ノ本旨ニ従ヒテ現実ニ之ヲ為スコトヲ要ス但債権者カ予メ其受領ヲ拒ミ又ハ債務ノ履行ニ付キ債権者ノ所為ヲ要スルトキハ弁済ノ準備ヲ為シタル旨ヲ通知シテ其受領ヲ催告スルヲ以テ足ル
第四百九十七条 債権者カ弁済ノ受領ヲ拒ミ又ハ之ヲ受領スルコト能ハサルトキハ弁済者ハ債権者ノ為メニ弁済ノ目的物ヲ供託シテ其債務ヲ免カルルコトヲ得弁済者ノ過失ナクシテ債権者ヲ確知スルコト能ハサルトキ亦同シ
供託所ニ付キ法令ニ別段ノ定ナキトキハ裁判所ハ弁済者ノ請求ニ因リ供託所ノ指定及ヒ供託物保管人ノ選任ヲ為スヘシ
第四百九十八条 供託ハ債務ノ履行地ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス但裁判所カ供託所ヲ指定シタルトキハ此限ニ在ラス
供託者ハ遅滞ナク債権者ニ供託ノ通知ヲ為スコトヲ要ス
第四百九十九条 債権者カ供託ヲ受諾セス又ハ其供託カ確定判決ニ因リテ有効ト宣告セラレサル間ハ弁済者ハ其供託物ヲ取戻スコトヲ得此場合ニ於テハ供託ヲ為ササリシモノト看做ス
第五百条 弁済ノ目的物カ供託ニ適セス又ハ其物ニ付キ滅失若クハ毀損ノ虞アルトキハ弁済者ハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売シ其代価ヲ供託スルコトヲ得其物ノ保存ニ付キ過分ノ費用ヲ要スルトキ亦同シ
第五百一条 債務者カ債権者ノ給付ニ対シテ弁済ヲ為スヘキ場合ニ於テハ債権者ハ其給付ヲ為スニ非サレハ供託物ヲ受取ルコトヲ得ス
第二款 相殺
第五百二条 二人互ニ同種ノ目的ヲ有スル債務ヲ負担スル場合ニ於テ其債務カ弁済期ニ在ルトキハ各債務者ハ其対当額ニ付キ相殺ニ因リテ其債務ヲ免ルルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキ又ハ特別契約ヲ以テ之ヲ禁シタルトキハ此限ニ在ラス
前項ノ特別契約ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第五百三条 相殺ハ当事者ノ一方ヨリ其相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス但其意思表示ニハ条件又ハ期限ヲ附スルコトヲ得ス
前項ノ意思表示ハ各債務カ相殺ニ適シタル始ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第五百四条 相殺ハ双方ノ債務ノ履行地カ異ナルトキト雖モ之ヲ為スコトヲ得但相殺ヲ為ス当事者ハ其相手方ニ対シ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
第五百五条 時効ニ因リテ消滅シタル債権カ其消滅以前ニ相殺ニ適シタル場合ニ於テハ其債権者ハ相殺ヲ為スコトヲ得
第五百六条 債務カ不法行為ニ因リテ生シタルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス
第五百七条 債権カ差押ヲ禁シタルモノナルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス
第五百八条 支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者ハ其後ニ取得シタル債権ニ依リ相殺ヲ以テ差押債権者ニ対抗スルコトヲ得ス
第五百九条 相殺ニ適スル数箇ノ債務アル場合ニ於テ当事者ノ一方カ相殺ニ因リテ消滅スヘキ債務ヲ指定セスシテ相殺ノ意思表示ヲ為シタルトキハ第四百九十一条第二項及ヒ第四百九十二条ノ規定ヲ準用ス
第三款 更改
第五百十条 当事者カ債務ノ要素ヲ変更スル契約ヲ為シタルトキハ其債務ハ更改ニ因リテ消滅ス
条件附債務ヲ無条件トシ無条件債務ニ条件ヲ附スルハ債務ノ要素ヲ変更スルモノト看做ス債務ノ履行ニ代ヘテ為替手形ヲ発行スル亦同シ
第五百十一条 債務者ノ交替ニ因ル更改ハ債権者ト新債務者トノ契約ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得但旧債務者カ不同意ヲ表シタルトキハ此限ニ在ラス
第五百十二条 債権者ノ交替ニ因ル更改ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第五百十三条 第四百六十九条第一項ノ規定ハ債権者ノ交替ニ因ル更改ニ之ヲ準用ス
第五百十四条 新債務カ不法ノ原因若クハ当事者ノ知ラサル事由ニ因リテ成立セス又ハ取消サレタルトキハ旧債務ハ消滅セス
第五百十五条 更改ノ当事者ハ旧債務ノ目的ノ限度ニ於テ其債務ノ担保ニ供シタル質権又ハ抵当権ヲ新債務ニ移スコトヲ得但第三者カ之ヲ供シタル場合ニ於テハ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス
第四款 免除
第五百十六条 債権者カ債務者ニ対シテ債務ヲ免除スル意思ヲ表示シタルトキハ其債権ハ消滅ス
第五款 混同
第五百十七条 債権及ヒ債務カ同一人ニ帰シタルトキハ其債権ハ消滅ス
第二章 契約
第一節 総則
第一款 契約ノ成立
第五百十八条 承諾ノ期間ヲ定メテ為シタル契約ノ申込ハ之ヲ取消スコトヲ得ス
申込者カ前項ノ期間内ニ承諾ノ通知ヲ受ケサルトキハ申込ハ其効力ヲ失フ
第五百十九条 承諾ノ通知カ前条ノ期間後ニ到達シタルモ通常ノ場合ニ於テ其期間内ニ到達スヘカリシ時ニ発送シタルモノナルコトヲ知リ得ヘキトキハ申込者ハ直チニ相手方ニ対シテ其延著ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス但其到著前ニ遅延ノ通知ヲ発シタルトキハ此限ニ在ラス
申込者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ承諾ノ通知ハ延著セサリシモノト看做ス
第五百二十条 遅延シタル承諾ハ申込者ニ於テ之ヲ新ナル申込ト看做スコトヲ得
第五百二十一条 承諾ノ期間ヲ定メスシテ隔地者ニ為シタル申込ハ申込者カ承諾ノ通知ヲ受クルニ相当ナル期間之ヲ取消スコトヲ得ス
第五百二十二条 第九十八条第二項ノ規定ハ申込者カ反対ノ意思ヲ表示シ又ハ其相手方カ死亡若クハ能力喪失ノ事実ヲ知リタル場合ニハ之ヲ適用セス
第五百二十三条 隔地者間ニ為ス契約ハ承諾ノ通知ヲ発シタルトキニ成立ス
申込者ノ意思又ハ取引上ノ慣習カ承諾ノ通知ヲ必要トセサル場合ニ於テハ契約ハ承諾ノ意思表示ト認ムヘキ事実アリタル時ニ成立ス
第五百二十四条 申込ノ取消ノ通知カ承諾ノ通知ヲ発シタル後ニ到達シタルモ通常ノ場合ニ於テ其前ニ到達スヘキ時ニ発送シタルモノナルコトヲ知リ得ヘキトキハ承諾者ハ直チニ申込者ニ対シテ其延著ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス
承諾者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ契約ハ成立セサリシモノト看做ス
第五百二十五条 承諾者カ申込ニ条件ヲ附シ其他変更ヲ加ヘテ之ヲ承諾シタルトキハ其申込ノ拒絶ト共ニ新ナル申込ヲ為シタルモノト看做ス
第五百二十六条 前八条ノ規定ニ異ナリタル意思表示又ハ慣習アルトキハ其意思表示又ハ慣習ニ従フ
第五百二十七条 或行為ヲ為シタル者ニ一定ノ報酬ヲ与フヘキ旨ヲ広告シタル者ハ其行為ヲ為シタル者ニ対シテ其報酬ヲ与フル義務ヲ負フ
第五百二十八条 前条ノ場合ニ於テ広告者ハ其指定シタル行為ヲ結了スル者ナキ間前ノ広告ト同一ノ方法ニ依リテ其広告ヲ取消スコトヲ得但其広告ニ取消ヲ為ササル旨ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス
前項ニ定メタル方法ニ依リテ取消ヲ為スコト能ハサル場合ニ於テハ他ノ方法ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得但其取消ハ之ヲ知リタル者ニ対シテノミ其効力ヲ有ス
広告者カ其指定シタル行為ヲ為ス期間ヲ定メタルトキハ其取消権ヲ放棄シタルモノト推定ス
第五百二十九条 広告ニ定メタル行為ヲ為シタル者数人アルトキハ最初ニ其行為ヲ為シタル者ノミ報酬ヲ受クル権利ヲ有ス
数人カ同時ニ右ノ行為ヲ為シタル場合ニ於テハ各平等ノ割合ヲ以テ報酬ヲ受クル権利ヲ有ス但報酬カ其性質上分割ニ不便ナルトキ又ハ広告ニ於テ一人ノミ之ヲ受クヘキモノトシタルトキハ抽籤ヲ以テ其権利者ヲ定ム
前二項ノ規定ハ広告ニ之ニ異ナリタル意思ヲ表示シタルトキハ之ヲ適用セス
第五百三十条 広告ニ定メタル行為ヲ為シタル者数人アル場合ニ於テ其優等者ノミニ報酬ヲ与フヘキトキハ其広告ハ応募ノ期間ヲ定メタルトキニ限リ其効力ヲ有ス
前項ノ場合ニ於テ応募者中何人ノ行為カ優等ナルヤハ広告ニ定メタル者之ヲ判定ス若シ広告ニ判定者ヲ定メサリシトキハ広告者之ヲ判定ス
応募者ハ前項ノ判定ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得ス
数人ノ行為カ同等ナリト判定セラレタルトキハ前条第二項ノ規定ヲ適用ス
第二款 契約ノ効力
第五百三十一条 双務契約当事者ノ一方ハ相手方カ其債務ノ履行ヲ提供スルマテハ自己ノ債務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得但相手方ノ債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ此限ニ在ラス
第五百三十二条 特定物ニ関スル物権ノ移転ヲ目的トスル双務契約ニ於テ其物カ債務者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ其滅失又ハ毀損ハ債権者ノ負担ニ帰ス
不特定物ニ関スル契約ニ付テハ第三百九十九条第二項ノ規定ニ依リテ其物カ確定シタル時ヨリ前項ノ規定ヲ適用ス
第五百三十三条 前条ニ掲ケタル場合ヲ除ク外当事者双方ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ債務ヲ履行スルコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ニ付キ権利ヲ有セス
債権者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ヲ受クル権利ヲ失ハス但自己ノ債務ヲ免カレタルニ因リテ利益ヲ得タルトキハ之ヲ債権者ニ償還スルコトヲ要ス
第五百三十四条 契約ニ依リ当事者ノ一方カ第三者ニ対シテ或給付ヲ為スヘキコトヲ約シタルトキハ其第三者ハ債務者ニ対シテ直接ニ其給付ヲ請求スル権利ヲ有ス
前項ノ場合ニ於テ第三者ノ権利ハ其第三者カ債務者ニ対シテ契約ノ利益ヲ享受スル意思ヲ表示シタル時ニ発生ス
第五百三十五条 前条ノ規定ニ依リテ第三者ノ権利カ発生シタル後ハ当事者ハ之ヲ変更又ハ廃棄スルコトヲ得ス
第五百三十六条 第五百三十四条ニ掲ケタル契約ニ基因スル抗弁ハ債務者之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得
第五百三十七条 本款ノ規定ハ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第三款 契約ノ解除
第五百三十八条 契約又ハ法律ノ規定ニ依リ当事者ノ一方カ解除権ヲ有スルトキハ其解除ハ相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス
前項ノ意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得ス
第五百三十九条 当事者ノ一方カ其債務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ相当ノ期間ヲ定メテ其履行ヲ催告シ若シ其期間内ニ履行ナキトキハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第五百四十条 契約ノ性質又ハ当事者ノ意思ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ノ目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期ヲ経過シタルトキハ相手方ハ前条ノ催告ヲ為サスシテ直チニ其契約ヲ解除スルコトヲ得
第五百四十一条 履行ノ全部又ハ一部ノ不能カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ生シタルトキハ債権者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第五百四十二条 当事者ノ一方カ数人アル場合ニ於テハ契約ノ解除ハ其全員ヨリ又ハ其全員ニ対シテノミ之ヲ為スコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ解除権カ当事者中ノ一人ニ付テ消滅スルトキハ他ノ者ニ付テモ亦消滅ス
第五百四十三条 当事者ノ一方カ其解除権ヲ行使シタルトキハ各当事者ハ其相手方ヲ原状ニ復セシムル義務ヲ負フ但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス
前項ノ場合ニ於テ返還スヘキ金銭ニハ其受領ノ時ヨリ利息ヲ附スルコトヲ要ス
解除権ノ行使ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第五百四十四条 第五百三十一条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五百四十五条 解除権ノ行使ニ付キ期間ノ定ナキトキハ相手方ハ解除権ヲ有スル者ニ対シ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ解除ヲ為スヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間内ニ解除ノ通知ヲ受ケサルトキハ解除権ハ消滅ス
第五百四十六条 解除権ヲ有スル者カ自己ノ所為又ハ過失ニ因リテ契約ノ目的物ヲ返還スルコト能ハサルニ至リタルトキ又ハ加工若クハ改造ニ因リテ之ヲ他ノ種類ノ物ニ変シタルトキハ解除権ハ消滅ス
契約ノ目的物カ解除権ヲ有スル者ノ所為又ハ過失ニ因ラスシテ滅失又ハ毀損シタルトキハ解除権ハ消滅セス
第五百四十七条 本款ノ規定ハ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第二節 贈与
第五百四十八条 贈与ハ当事者ノ一方カ自己ノ財産ヲ無償ニテ相手方ニ与フル意思ヲ表示シ其相手方カ之ヲ受諾スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第五百四十九条 贈与ハ書面ニ依リテ之ヲ為スニ非サレハ其履行ノ完了セサル部分ニ付テハ各当事者之ヲ取消スコトヲ得
第五百五十条 贈与者ハ贈与ノ目的タル権利又ハ物ノ瑕疵ニ付キ其責ニ任セス但贈与者カ其瑕疵ヲ知リテ之ヲ受贈者ニ告ケサリシトキハ此限ニ在ラス
負担附贈与ニ付テハ贈与者ハ其負担ノ限度ニ於テ担保ノ責ニ任ス
第五百五十一条 定期ノ給付ヲ目的トスル贈与ハ贈与者又ハ受贈者ノ死亡ニ因リテ其効力ヲ失フ
第五百五十二条 前二条ノ規定ハ契約ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第五百五十三条 負担附贈与ニ付テハ本節ノ規定ノ外双務契約ニ関スル規定ヲ適用ス
第五百五十四条 贈与者ノ死亡ニ因リテ効力ヲ生スヘキ贈与ハ第五編第六章及ヒ第七章ノ規定ニ従フ
第三節 売買
第一款 総則
第五百五十五条 売買ハ当事者ノ一方カ或権利ヲ相手方ニ移転スルコトヲ約シ其相手方カ代金ヲ支払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第五百五十六条 売買ノ一方ノ予約ハ相手方カ売買ヲ完結スル意思ヲ表示シタル時ヨリ売買ノ効力ヲ生ス
前項ノ意思表示ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ予約者ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ売買ヲ完結スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ相手方ニ催告スルコトヲ得若シ相手方カ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ予約ハ其効力ヲ失フ
第五百五十七条 買主カ売主ニ手附ヲ交付シタルトキハ当事者ノ一方カ契約ノ履行ニ著手スルマテハ買主ハ其手附ヲ放棄シ売主ハ其倍額ヲ償還シテ契約ヲ解除スルコトヲ得
第五百四十三条第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニハ之ヲ適用セス
第五百五十八条 売買契約ノ取結ニ関スル費用ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス
第五百五十九条 前二条ノ規定ハ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第五百六十条 本節ノ規定ハ売買以外ノ有償契約ニ之ヲ準用ス但其契約ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス
第二款 売買ノ効力
第五百六十一条 他人ノ権利ヲ以テ売買ノ目的ト為シタルトキハ売主ハ其権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スル義務ヲ負フ
第五百六十二条 前条ノ場合ニ於テ売主カ其売却シタル権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但契約ノ当時其権利ノ売主ニ属セサルコトヲ知リタルトキハ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
第五百六十三条 売主カ契約ノ当時其売却シタル権利ノ自己ニ属セサルコトヲ知ラサリシ場合ニ於テ其権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ売主ハ損害ヲ賠償シテ契約ヲ解除スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ買主カ契約ノ当時其買受ケタル権利ノ売主ニ属セサルコトヲ知リタルトキハ売主ハ買主ニ対シ単ニ其売却シタル権利ヲ移転スルコト能ハサル旨ヲ通知シテ契約ヲ解除スルコトヲ得
第五百六十四条 売買ノ目的タル権利ノ一部カ他人ニ属スルニ因リ売主カ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ買主ハ其足ラサル部分ノ割合ニ応シテ代金ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ残存セル部分ノミナレハ買主カ之ヲ買受ケサルヘキトキハ善意ノ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
代金減少ノ請求又ハ契約ノ解除ハ善意ノ買主カ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス
第五百六十五条 前条ニ定メタル権利ハ買主カ善意ナリシトキハ事実ヲ知リタル時ヨリ悪意ナリシトキハ契約ノ時ヨリ一年内ニ之ヲ行使スルコトヲ要ス
第五百六十六条 数量ヲ指示シテ売買シタル物カ不足ナル場合及ヒ物ノ一部カ契約ノ当時既ニ滅失シタル場合ニ於テ買主カ其不足又ハ滅失ヲ知ラサリシトキハ前二条ノ規定ヲ準用ス
第五百六十七条 売買ノ目的物カ地上権、永小作権、地役権、留置権又ハ質権ノ目的タル場合ニ於テ買主カ之ヲ知ラサリシトキハ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ限リ買主ハ契約ヲ解除スルコトヲ得其他ノ場合ニ於テハ損害ノ賠償ノミヲ請求スルコトヲ得
前項ノ規定ハ売買ノ目的タル不動産ノ為メニ存セリト称セシ地役権カ存セサリシトキ及ヒ其不動産ニ付キ登記シタル賃貸借アリタル場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ場合ニ於テ契約ノ解除又ハ損害賠償ノ請求ハ買主カ事実ヲ知リタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第五百六十八条 売買ノ目的タル不動産ノ上ニ存シタル先取特権又ハ抵当権ノ行使ニ因リ買主カ其所有権ヲ失ヒタルトキハ其買主ハ契約ヲ解除スルコトヲ得
同一ノ場合ニ於テ買主カ出捐ヲ為シテ其所有権ヲ保存シタルトキハ売主ニ対シテ其出捐ノ償還ヲ請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ買主カ損害ヲ受ケタルトキハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得
第五百六十九条 強制競売ノ場合ニ於テハ競落人ハ前七条ノ規定ニ依リ債務者ニ対シテ契約ノ解除ヲ為シ又ハ代金ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ債務者カ無資力ナルトキハ競落人ハ代金ノ配当ヲ受ケタル債権者ニ対シテ其代金ノ全部又ハ一部ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
前二項ノ場合ニ於テ債務者カ権利又ハ物ノ欠缺ヲ知リテ之ヲ申出テス又ハ債権者カ之ヲ知リテ競売ヲ請求シタルトキハ競落人ハ其過失者ニ対シテ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
第五百七十条 債権ノ売主カ債務者ノ資力ヲ担保シタルトキハ契約ノ当時ニ於ケル資力ヲ担保シタルモノト推定ス
弁済期ニ至ラサル債権ノ売主カ債務者ノ将来ノ資力ヲ担保シタルトキハ満期日ニ於ケル資力ヲ担保シタルモノト推定ス
第五百七十一条 売買ノ目的物ニ隠シタル瑕疵アリタルトキハ第五百六十七条ノ規定ヲ準用ス但強制競売ニ付テハ此限ニ在ラス
第五百七十二条 第五百三十一条ノ規定ハ第五百六十四条乃至第五百六十七条及ヒ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス
第五百七十三条 売主ハ前十二条ニ定メタル担保ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ特約シタルトキト雖モ其知リテ告ケサリシ事実及ヒ自ラ第三者ニ与ヘタル権利ニ付キ其責ヲ免カルルコトヲ得ス
第五百七十四条 売買ノ目的物ノ引渡ニ付キ期限アルトキハ代金ノ支払ニ付テモ同一ノ期限ヲ附シタルモノト推定ス
第五百七十五条 売買ノ目的物ノ引渡ト同時ニ代金ヲ支払フヘキトキハ其引渡ノ場所ニ於テ代金ヲ支払フコトヲ要ス
第五百七十六条 未タ引渡ササル売買ノ目的物カ果実ヲ生シタルトキハ其果実ハ売主ニ属ス
買主ハ引渡ノ日ヨリ代金ノ利息ヲ払フ義務ヲ負フ但代金ノ支払ニ付キ期限アルトキハ其期限ノ到来マテハ利息ヲ払フコトヲ要セス
第五百七十七条 売買ノ目的ニ付キ権利ヲ主張スル者アリテ買主カ其買受ケタル権利ノ全部又ハ一部ヲ失フ虞アルトキハ買主ハ其危険ノ限度ニ応シ代金ノ全部又ハ一部ノ支払ヲ拒ムコトヲ得但売主カ相当ノ担保ヲ供スルトキハ此限ニ在ラス
第五百七十八条 買受ケタル不動産ニ付キ先取特権又ハ抵当権ノ登記アルトキハ買主ハ滌除ノ手続ヲ終ハルマテ其代金ノ支払ヲ拒ムコトヲ得但売主ハ買主ニ対シテ直チニ滌除ヲ為スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得
第五百七十九条 前二条ノ場合ニ於テ売主ハ買主ニ対シテ代金ノ供託ヲ請求スルコトヲ得
第五百八十条 本款ノ規定ハ契約又ハ慣習ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス但第五百六十五条、第五百六十七条第三項及ヒ第五百七十三条ノ規定ハ此限ニ在ラス
第三款 買戻
第五百八十一条 不動産ノ売主ハ売買契約ト同時ニ為シタル買戻ノ特約ニ依リ買主カ支払ヒタル代金及ヒ契約ノ費用ヲ返還シテ其売買ヲ解除スルコトヲ得但特別ノ契約ナキトキハ不動産ノ果実ト代金ノ利足トハ之ヲ相殺シタルモノト看做ス
第五百八十二条 買戻ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ之ヲ五年ニ短縮ス
買戻ニ付キ期間ヲ定メタルトキハ後日之ヲ伸長スルコトヲ得ス
買戻ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ二年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第五百八十三条 売買契約ト同時ニ登記シタル買戻ハ第三者ニ対シテモ其効力ヲ生ス
登記ヲ為シタル賃借人ノ権利ハ其残期一年間ニ限リ之ヲ以テ売主ニ対抗スルコトヲ得但売主ヲ害スル目的ヲ以テ為シタル賃貸借ニ付テハ此限ニ在ラス
第五百八十四条 売主ノ債権者カ第四百二十三条ノ規定ニ依リ売主ニ代ハリテ買戻ヲ為ストキハ買主ハ裁判所ニ於テ選定シタル鑑定人ノ評価ニ従ヒ不動産ノ現時ノ価額ヨリ売主カ返還スヘキ金額ヲ控除シタル残額ニ達スルマテ売主ノ債務ヲ弁済シ尚ホ余剰アルトキハ之ヲ売主ニ返還シテ買戻権ヲ消滅セシムルコトヲ得
第五百八十五条 売主ハ期間内ニ代金及ヒ契約ノ費用ヲ提供スルニ非サレハ買戻ヲ為スコトヲ得ス
買主カ不動産ニ付キ費用ヲ出タシタルトキハ売主ハ第百九十七条ノ規定ニ従ヒ之ヲ償還スルコトヲ要ス但有益費ニ付テハ裁判所ハ売主ノ請求ニ因リ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得
第五百八十六条 不動産ノ共有者ノ一人カ買戻ノ特約ヲ以テ其持分ヲ売却シタル後其不動産ノ分割又ハ競売アリタルトキハ売主ハ買主カ受クル部分又ハ代金ニ付キ買戻ヲ為スコトヲ得但売主ニ通知セスシテ為シタル分割及ヒ競売ハ之ヲ以テ売主ニ対抗スルコトヲ得ス
第五百八十七条 前条ノ場合ニ於テ買主カ不動産ノ競落人ト為リタルトキハ売主ハ競売ノ代金ヲ払ヒテ其不動産ノ全部ニ付キ買戻ヲ為スコトヲ得
他ノ共有者ヨリ分割ヲ請求シタルニ因リ買主カ競落人ト為リタルトキハ売主ハ其持分ノミニ付キ買戻ヲ為スコトヲ得ス
第四節 交換
第五百八十八条 交換ハ当事者カ互ニ金銭ノ所有権以外ノ権利ヲ移転スルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
当事者ノ一方カ他ノ権利ト共ニ金銭ノ所有権ヲ移転スルコトヲ約スルトキハ其金銭ニ付テハ売買ノ代金ニ関スル規定ヲ準用ス
第五節 消費貸借
第五百八十九条 消費貸借ノ目的トシテ金銭其他ノ物ヲ受取リタル者ハ同一ノ種類、品等及ヒ数量ノ物ヲ以テ之ヲ相手方ニ返還スル義務ヲ負フ
第五百九十条 消費貸借ノ予約ハ爾後当事者ノ一方カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ其効力ヲ失フ
第五百九十一条 利息附ノ消費貸借ニ於テ物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ貸主ハ瑕疵ナキ物ヲ以テ之ニ代フルコトヲ要ス但損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
無利息ノ消費貸借ニ於テハ借主ハ瑕疵アル物ノ価額ヲ返還スルコトヲ得但貸主カ其瑕疵ヲ知リテ之ヲ借主ニ告ケサリシトキハ前項ノ規定ニ依ル
第五百九十二条 当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ貸主ハ相当ノ期間ヲ定メテ返還ノ催告ヲ為スコトヲ得
借主ハ何時ニテモ返還ヲ為スコトヲ得
第五百九十三条 借主カ第五百八十九条ノ規定ニ依リテ返還ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ其時ニ於ケル物ノ価額ヲ償還スルコトヲ要ス但第四百条第二項ノ場合ハ此限ニ在ラス
第五百九十四条 前四条ノ規定ハ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第六節 使用貸借
第五百九十五条 使用貸借ノ目的トシテ或物ヲ受取リタル者ハ無償ニテ之ヲ使用スル権利ヲ有ス
第五百九十六条 借主ハ契約又ハ其目的物ノ性質ニ因リテ定マリタル用方ニ従ヒ其物ノ使用ヲ為スコトヲ要ス
借主ハ貸主ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ物ノ使用ヲ為サシムルコトヲ得ス
第五百九十七条 借主ハ借用物ノ通常ノ保存費ヲ負担ス
此他ノ費用ニ付テハ第五百八十五条第二項ノ規定ヲ準用ス
第五百九十八条 第五百五十条ノ規定ハ使用貸借ニ之ヲ準用ス
第五百九十九条 借主ハ契約ニ定メタル時期ニ於テ其借受ケタル物ヲ返還スルコトヲ要ス
当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ借主ハ契約ニ定メタル目的ニ従ヒ使用ヲ終リタル時ニ於テ返還ヲ為スコトヲ要ス但其以前ト雖モ使用ヲ為スニ足ルヘキ期間ヲ経過シタルトキハ貸主ハ直チニ返還ヲ請求スルコトヲ得
当事者カ返還ノ時期又ハ使用ノ目的ヲ定メサリシトキハ貸主ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得
第六百条 借主ハ借用物ヲ原状ニ復シテ之ニ附属セシメタル物ヲ収去スルコトヲ得
第六百一条 使用貸借ハ借主ノ死亡ニ因リテ其効力ヲ失フ
第六百二条 前六条ノ規定ハ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第六百三条 契約ノ本旨ニ反スル使用ニ因リテ生シタル損害賠償ノ請求及ヒ第五百九十七条第二項ノ規定ニ依ル費用償還ノ請求ハ貸主カ返還ヲ受ケタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第七節 賃貸借
第一款 総則
第六百四条 賃貸借ハ当事者ノ一方カ或物ヲ相手方ニ使用セシムルコトヲ約シ其相手方カ借賃ヲ支払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第六百五条 管理行為ヲ為ス能力又ハ権限ヲ有スル者カ賃貸借ヲ為ス場合ニ於テハ其賃貸借ハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
一 山林ニ付テハ十年
二 其他ノ土地ニ付テハ五年
三 建物ニ付テハ三年
四 動産ニ付テハ六个月
第六百六条 前条ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間満了前土地ニ付テハ一年建物ニ付テハ三个月動産ニ付テハ一个月内ニ其更新ヲ為スコトヲ要ス
第六百七条 賃貸借ノ存続期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ賃貸借ヲ為シタルトキハ其期間ハ之ヲ十年ニ短縮ス
前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但更新ノ時ヨリ十年ヲ超ユルコトヲ得ス
第二款 賃貸借ノ効力
第六百八条 不動産ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ其不動産ニ付キ物権ヲ取得シタル者ニ対シテモ其効力ヲ生ス
第六百九条 賃貸人ハ賃貸物ノ使用ニ必要ナル修繕ヲ為ス義務ヲ負フ
賃貸人カ賃貸物ノ保存ニ必要ナル行為ヲ為サント欲スルトキハ賃借人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス
第六百十条 賃貸人カ賃借人ノ意ニ反シテ保存行為ヲ為サント欲スル場合ニ於テ之カ為メ賃借人カ賃借ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ賃借人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第六百十一条 賃借人カ賃借物ニ付キ賃貸人ノ負担ニ属スル必要費ヲ出タシタルトキハ賃貸人ニ対シテ直チニ其償還ヲ請求スルコトヲ得
賃借人カ有益費ヲ出タシタルトキハ賃貸人ハ賃貸借終了ノ時ニ於テ第百九十七条第二項ノ規定ニ従ヒ其償還ヲ為スコトヲ要ス但裁判所ハ賃貸人ノ請求ニ因リ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得
第六百十二条 収益ヲ目的トスル土地ノ賃借人カ不可抗力ニ因リ借賃ヨリ少ナキ収益ヲ得タルトキハ其収益ノ額ニ至ルマテ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但宅地ノ賃貸借ハ此限ニ在ラス
第六百十三条 前条ノ場合ニ於テ賃借人カ不可抗力ニ因リ引続キ二年以上借賃ヨリ少ナキ収益ヲ得タルトキハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第六百十四条 賃借物ノ一部カ賃借人ノ過失ニ因ラスシテ滅失シタルトキハ賃借人ハ其滅失シタル部分ノ割合ニ応シテ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ残存セル部分ノミニテハ賃借人カ賃借ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ賃借人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第六百十五条 賃借人ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ譲渡シ又ハ賃借物ヲ転貸スルコトヲ得ス
賃借人カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ物ノ使用ヲ為サシメタルトキハ賃貸人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第六百十六条 賃借人カ適法ニ賃借物ヲ転貸シタルトキハ転借人ハ賃貸人ニ対シテ直接ニ義務ヲ負フ此場合ニ於テハ借賃ノ前払ヲ以テ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得ス
前項ノ規定ハ賃貸人カ賃借人ニ対シテ其権利ヲ行使スルコトヲ妨ケス
第六百十七条 借賃ハ動産、建物及ヒ宅地ニ付テハ毎月末ニ其他ノ土地ニ付テハ毎年末ニ之ヲ払フコトヲ要ス但収穫季節アルモノニ付テハ其季節後遅滞ナク之ヲ払フコトヲ要ス
第六百十八条 賃借物カ修繕ヲ要シ又ハ賃借物ニ付キ権利ヲ主張スル者アルトキハ賃借人ハ遅滞ナク之ヲ賃貸人ニ通知スルコトヲ要ス但賃貸人カ既ニ之ヲ知レルトキハ此限ニ在ラス
第六百十九条 第五百九十六条第一項、第五百九十九条第一項及ヒ第六百条ノ規定ハ賃貸借ニ之ヲ準用ス
第六百二十条 前十一条ノ規定ハ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第三款 賃貸借ノ終了
第六百二十一条 当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ賃貸借ハ解約申入ノ後左ノ期間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス
一 土地ニ付テハ一年
二 建物ニ付テハ一个月
三 貸席及ヒ動産ニ付テハ一日
収穫季節アル土地ノ賃貸借ニ付テハ其季節後次ノ耕作ニ著手スル前ニ解約ノ申入ヲ為スコトヲ要ス
第六百二十二条 当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタルモ其一方又ハ各自カ其期間内ニ解約ヲ為ス権利ヲ留保シタルトキハ前条ノ規定ニ依ル
第六百二十三条 賃貸借ノ期間満了ノ後賃借人カ賃借物ノ使用ヲ継続スル場合ニ於テ賃貸人カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前賃貸借ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ為シタルモノト推定ス但各当事者ハ第六百二十一条ノ規定ニ依リ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得
前賃貸借ニ付キ当事者カ担保ヲ供シタルトキハ其担保ハ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス但敷金ハ此限ニ在ラス
第六百二十四条 賃貸借ヲ解除シタル場合ニ於テハ其解除ハ将来ニ向テノミ其効力ヲ生ス但当事者ノ一方ニ過失アルトキハ之ニ対スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第六百二十五条 前四条ノ規定ハ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第六百二十六条 賃借人カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ賃貸借ニ期間ノ定アルトキト雖モ賃貸人又ハ破産管財人ハ第六百二十一条ノ規定ニ依リ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テ各当事者ハ相手方ニ対シテ解約ヨリ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
第六百二十七条 契約ノ本旨ニ反スル使用ニ因リテ生シタル損害賠償ノ請求及ヒ第六百十一条ノ規定ニ依ル費用償還ノ請求ハ賃貸人カ返還ヲ受ケタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第八節 雇傭
第六百二十八条 雇傭ハ当事者ノ一方カ相手方ニ対シテ労務ニ服スルコトヲ約シ其相手方カ之ニ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第六百二十九条 労務者ハ其約シタル労務ヲ終ハリタル後ニ非サレハ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス
期間ニ依リテ定マリタル報酬ハ其期間ノ経過シタル後之ヲ請求スルコトヲ得
第六百三十条 使用者ハ労務者ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ第三者ニ譲渡スコトヲ得ス
労務者ハ使用者ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ自己ニ代ハリテ労務ニ服セシムルコトヲ得ス
労務者カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ労務ニ服セシメタルトキハ使用者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
第六百三十一条 雇傭ノ期間カ五年ヲ超過シ又ハ当事者ノ一方若クハ第三者ノ終身間継続スヘキトキハ当事者ノ一方ハ五年ヲ経過シタル後何時ニテモ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但此期間ハ商工業見習者ノ雇傭ニ付テハ之ヲ十年トス
前項ノ規定ニ依リ契約ヲ解除スルトキハ三个月前ニ其予告ヲ為スコトヲ要ス
第六百三十二条 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後二週間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス
報酬カ期間ニ依リテ定マリタル場合ニ於テハ解約ノ申入ハ次期以後ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得但其申入ハ当期ノ前半ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
報酬カ六个月以上ノ期間ニ依リテ定マリタル場合ニ於テハ前項ノ申入ハ三个月前ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第六百三十三条 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各当事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但其事由カ当事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ其相手方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第六百三十四条 雇傭ノ期間満了ノ後労務者カ引続キ其労務ニ服スル場合ニ於テ使用者カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前雇傭ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ雇傭ヲ為シタルモノト推定ス但各当事者ハ第六百三十二条ノ規定ニ依リ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得
第六百三十五条 使用者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ雇傭ニ期間ノ定アルトキト雖モ労務者又ハ破産管財人ハ第六百三十二条ノ規定ニ依リ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テ各当事者ハ相手方ニ対シテ解約ヨリ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
第六百三十六条 第六百二十四条ノ規定ハ雇傭ニ之ヲ準用ス
第六百三十七条 本節ノ規定ハ契約又ハ慣習ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス但第六百二十八条、第六百三十一条、第六百三十三条及ヒ第六百三十五条ノ規定ハ此限ニ在ラス
第九節 請負
第六百三十八条 請負ハ当事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手方カ其仕事ノ結果ニ対シテ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第六百三十九条 報酬ハ仕事ノ目的物ノ引渡ト同時ニ之ヲ与フルコトヲ要ス但仕事ノ目的物ノ引渡ヲ要セサルトキハ第六百二十九条第一項ノ規定ヲ準用ス
第六百四十条 仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキハ注文者ハ請負人ニ対シ相当ノ期限ヲ定メテ其瑕疵ノ修補ヲ請求スルコトヲ得但瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス
注文者ハ瑕疵ノ修補ニ代ヘ又ハ其修補ト共ニ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得此場合ニ於テハ第五百三十一条ノ規定ヲ準用ス
第六百四十一条 仕事ノ目的物ニ瑕疵アリテ之カ為メニ契約ノ目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ注文者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但建物其他土地ノ工作物ニ付テハ此限ニ在ラス
第六百四十二条 前二条ノ規定ハ仕事ノ目的物ノ瑕疵カ注文者ヨリ供シタル材料ノ性質又ハ注文者ノ与ヘタル指図ニ因リテ生シタルトキハ之ヲ適用セス但請負人カ其材料又ハ指図ノ不適当ナルコトヲ知リテ之ヲ告ケサリシトキハ此限ニ在ラス
第六百四十三条 前三条ニ定メタル瑕疵修補又ハ損害賠償ノ請求及ヒ契約ノ解除ハ仕事ノ目的物ヲ引渡シタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第六百四十四条 土地ノ工作物ノ請負人ハ其工作物又ハ地盤ノ瑕疵ニ付テハ引渡ノ後五年間其担保ノ責ニ任ス但此期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ金属造ノ工作物ニ付テハ之ヲ十年トス
工作物カ前項ノ瑕疵ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ注文者ハ其滅失又ハ毀損ノ時ヨリ一年内ニ第六百四十条ノ権利ヲ行使スルコトヲ要ス
第六百四十五条 請負人ハ第六百四十条及ヒ第六百四十一条ニ定メタル担保ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ特約シタルトキト雖モ其知リテ告ケサリシ事実ニ付キ其責ヲ免ルルコトヲ得ス
第六百四十六条 請負人カ仕事ヲ完成セサル間ハ注文者ハ何時ニテモ損害ヲ賠償シテ契約ヲ解除スルコトヲ得
第六百四十七条 注文者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ請負人又ハ破産管財人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ請負人ハ其既ニ為シタル仕事ノ報酬及ヒ其報酬中ニ包含セサル費用ニ付キ財団ノ配当ニ加入スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ各当事者ハ相手方ニ対シテ解約ヨリ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
第六百四十八条 本節ノ規定ハ契約又ハ慣習ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス但第六百三十八条、第六百四十四条第二項、第六百四十五条及ヒ第六百四十七条ノ規定ハ此限ニ在ラス
第六百四十三条及ヒ第六百四十四条第一項ノ期間ハ普通ノ時効期間内ニ限リ契約ニ依リテ之ヲ延長スルコトヲ得
第十節 委任
第六百四十九条 委任ハ当事者ノ一方カ法律行為ヲ為スコトヲ相手方ニ委任シ其相手方カ之ヲ承諾スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第六百五十条 受任者ハ委任ノ本旨ニ従ヒ忠実ニ其委任セラレタル事項ヲ処理スル義務ヲ負フ
第六百五十一条 受任者ハ委任者ノ請求アルトキハ何時ニテモ委任事項処理ノ状況ヲ報告シ又委任終了ノ後ハ遅滞ナク其顛末ヲ報告スルコトヲ要ス
第六百五十二条 受任者ハ委任事項ヲ処理スルニ当リテ受取リタル金銭其他ノ物ヲ委任者ニ交付スルコトヲ要ス其収取シタル果実ニ付キ亦同シ
受任者カ委任者ノ為メニ自己ノ名ヲ以テ取得シタル権利ハ之ヲ委任者ニ移転スルコトヲ要ス
第六百五十三条 受任者カ委任者ニ交付スヘキ金額又ハ其利益ノ為メニ用ユヘキ金額ヲ自己ノ為メニ消費シタルトキハ其消費シタル日以後ノ利息ヲ払フコトヲ要ス尚ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第六百五十四条 受任者ハ特約アルニ非サレハ委任者ニ対シテ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス
受任者カ報酬ヲ受クヘキ場合ニ於テハ委任履行ノ後ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス但報酬カ期間ニ依リテ定マリタルトキハ第六百二十九条第二項ノ規定ヲ準用ス
委任カ受任者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ其履行ノ半途ニ於テ終了シタルトキハ受任者ハ其既ニ為シタル履行ノ割合ニ応シテ報酬ヲ請求スルコトヲ得
第六百五十五条 委任事項ヲ処理スルニ付キ費用ヲ要スルトキハ委任者ハ受任者ノ請求ニ因リ其前払ヲ為スコトヲ要ス
第六百五十六条 受任者カ委任事項ヲ処理スルニ必要ト認ムヘキ費用ヲ出タシタルトキハ委任者ハ之ニ其費用及ヒ支出ノ日以後ニ於ケル其利息ヲ償還スルコトヲ要ス
受任者カ必要ト認ムヘキ債務ヲ負担シタルトキハ委任者ハ之ニ代ハリテ其弁済ヲ為スコトヲ要ス但其債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ受任者ハ委任者ヲシテ相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得
受任者カ委任事項ヲ処理スル為メ自己ニ過失ナクシテ損害ヲ受ケタルトキハ委任者ニ対シテ其賠償ヲ請求スルコトヲ得
第六百五十七条 委任ハ各当事者ニ於テ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得
当事者ノ一方カ相手方ノ為メニ不利ナル時期ニ於テ委任ヲ解除シタルトキハ其損害ヲ賠償スルコトヲ要ス但已ムコトヲ得サル事由アリタルトキハ此限ニ在ラス
第六百五十八条 第六百二十四条ノ規定ハ委任ニ之ヲ準用ス
第六百五十九条 委任ハ委任者又ハ受任者ノ死亡ニ因リテ終了ス
受任者カ治産ノ禁ヲ受ケタルトキ亦同シ
第六百六十条 委任ハ委任者又ハ受任者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルニ因リテ終了ス
第六百六十一条 委任終了ノ場合ニ於テ急迫ナル事情アルトキハ受任者、其相続人又ハ其法定代理人ハ委任者、其相続人又ハ其法定代理人カ他ノ方法ニ依リテ委任事項ヲ処理スルコトヲ得ルニ至ルマテ必要ナル処分ヲ為スコトヲ要ス
第六百六十二条 委任終了ノ事由ハ其委任者ニ出テタルト受任者ニ出テタルトヲ問ハス之ヲ相手方ニ通知シ又ハ相手方カ之ヲ知リタルトキニ非サレハ之ヲ以テ其相手方ニ対抗スルコトヲ得ス
第六百六十三条 本節ノ規定ハ契約又ハ慣習ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス但第六百四十九条及ヒ第六百六十条ノ規定ハ此限ニ在ラス
第十一節 寄託
第六百六十四条 寄託ノ目的トシテ或物ヲ受取リタル者ハ寄託者ノ為メニ之ヲ保管スル義務ヲ負フ
第六百六十五条 受寄者ハ寄託者ノ承諾アルニ非サレハ受寄物ヲ使用シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ保管セシムルコトヲ得ス
受寄者カ第三者ヲシテ受寄物ヲ保管セシムルコトヲ得ル場合ニ於テハ第百六条及ヒ第百八条第二項ノ規定ヲ準用ス
第六百六十六条 無報酬ニテ寄託ヲ受ケタル者ハ受寄物ノ保管ニ付キ自己ノ財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ為ス責ニ任ス
第六百六十七条 寄託物ニ付キ権利ヲ主張スル第三者カ受寄者ニ対シテ訴ヲ提起シ又ハ其物ニ付キ差押アリタルトキハ受寄者ハ直チニ其事実ヲ寄託者ニ通知スルコトヲ要ス
第六百六十八条 寄託者ハ寄託物ノ性質又ハ瑕疵ヨリ生シタル損害ヲ受寄者ニ賠償スルコトヲ要ス但寄託者カ過失ナクシテ其損害ヲ生スヘキ性質若クハ瑕疵ヲ知ラサリシトキ又ハ受寄者カ之ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス
第六百六十九条 寄託者ハ契約ニ寄託物返還ノ時期ヲ定メタルトキト雖モ何時ニテモ其返還ヲ請求スルコトヲ得
第六百七十条 受寄者ハ契約ニ受寄物返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ何時ニテモ其返還ヲ為スコトヲ得
返還時期ノ定アルトキハ受寄者ハ已ムコトヲ得サル事由アル場合ニ限リ其期限前ニ返還ヲ為スコトヲ得
第六百七十一条 寄託物ノ返還ハ其保管ノ場処ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス但受寄者カ正当ノ事由ニ因リテ其物ヲ転置シタルトキハ其現在ノ場処ニ於テ之ヲ返還スルコトヲ得
第六百七十二条 第六百五十二条乃至第六百五十五条及ヒ第六百五十六条第一項、第二項ノ規定ハ寄託ニ之ヲ準用ス
第六百七十三条 受寄者カ契約ニ依リ受寄物ヲ消費スルコトヲ得ル場合ニ於テハ消費貸借ニ関スル規定ヲ準用ス但契約ニ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ寄託者ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得
第六百七十四条 前九条ノ規定ハ契約又ハ慣習ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス
第十二節 会社
第六百七十五条 会社契約ハ各当事者カ出資ヲ為シテ共同ノ事業ヲ営ムコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
出資ハ労務ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得
第六百七十六条 各社員ノ出資其他ノ会社財産ハ総社員ノ共有ニ属ス
第六百七十七条 金銭ヲ以テ出資ノ目的ト為シタル場合ニ於テ社員カ其出資ヲ為スコトヲ怠リタルトキハ法定利息ヲ払フ外尚ホ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス
第六百七十八条 会社ノ業務執行ハ社員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス
会社契約ヲ以テ業務ノ執行ヲ委任シタル者数人アルトキハ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス
会社ノ常務ハ前二項ノ規定ニ拘ハラス各社員又ハ各業務執行者之ヲ専行スルコトヲ得但其結了前ニ他ノ社員又ハ業務執行者カ異議ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス
第六百七十九条 会社ノ業務ヲ執行スル社員ニハ第六百五十条乃至第六百五十六条ノ規定ヲ準用ス
第六百八十条 会社契約ヲ以テ一人又ハ数人ノ社員ニ業務ノ執行ヲ委任シタルトキハ其社員ハ正当ノ事由アル場合ニ限リ辞任ヲ為シ又ハ他ノ社員ノ一致ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得
第六百八十一条 各社員ハ会社ノ業務ヲ執行スル権利ヲ有セサルトキト雖モ其業務及ヒ会社財産ノ状況ヲ検査スルコトヲ得
第六百八十二条 契約ヲ以テ会社ノ損益分配ノ割合ヲ定メサリシトキハ其割合ハ各社員ノ出資ノ価額ニ応シテ之ヲ定ム
利益又ハ損失ニ付テノミ分配ノ割合ヲ定メタルトキハ其割合ハ利益及ヒ損失ニ共通ナルモノト推定ス
第六百八十三条 会社ノ債権者ハ社員ノ損失分担ノ割合ヲ知ラサリシトキハ各社員ニ対シ均一部分ニ付キ其債権ヲ行使スルコトヲ得
第六百八十四条 社員カ会社財産ニ付キ其持分ヲ処分シタルトキハ其処分ハ之ヲ以テ会社及ヒ会社ト取引ヲ為シタル第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
社員ハ清算前ニ会社財産ノ分割ヲ求ムルコトヲ得ス
第六百八十五条 会社ノ債務者ハ其債務ト社員ニ対スル債権トヲ相殺スルコトヲ得ス
第六百八十六条 会社契約ヲ以テ会社ノ存続期間ヲ定メサリシトキ又ハ或社員ノ終身間会社ノ存続スヘキコトヲ定メタルトキハ各社員ハ何時ニテモ退社ヲ為スコトヲ得但已ムコトヲ得サル事由アル場合ヲ除ク外会社ノ為メ特ニ不利ナル時期ニ於テ之ヲ為スコトヲ得ス
会社ノ存続期間ヲ定メタルトキト雖モ各社員ハ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ退社ヲ為スコトヲ得
第六百八十七条 前条ニ掲ケタル場合ノ外社員ハ左ノ事由ニ因リテ退社ス
一 死亡
二 破産
三 禁治産
四 除名
第六百八十八条 社員ノ除名ハ正当ノ事由アル場合ニ限リ他ノ社員ノ一致ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得但除名シタル社員ニ其旨ヲ通知スルニ非サレハ之ヲ以テ其社員ニ対抗スルコトヲ得ス
第六百八十九条 退社員ト他ノ社員トノ間ノ計算ハ退社ノ当時ニ於ケル会社ノ業務ノ状況ニ従ヒ之ヲ為スコトヲ要ス
退社員ノ持分ハ其出資ノ種類如何ヲ問ハス金銭ヲ以テ之ヲ払戻スコトヲ得
退社ノ当時ニ於テ未タ結了セサル事項ニ付テハ其結了後ニ計算ヲ為スコトヲ得
第六百九十条 会社ハ其目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能ニ因リテ解散ス
第六百九十一条 已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各社員ハ会社ノ解散ヲ請求スルコトヲ得
第六百九十二条 第六百二十四条ノ規定ハ会社契約ニ之ヲ準用ス
第六百九十三条 会社カ解散シタルトキハ総社員共同ニテ又ハ其多数決ヲ以テ選任シタル者ニ於テ清算ヲ為スコトヲ要ス
第六百九十四条 清算人数人アルトキハ第六百七十七条ノ規定ヲ準用ス
第六百九十五条 会社契約ヲ以テ社員中ヨリ清算人ヲ選任シタルトキハ第六百七十九条ノ規定ヲ準用ス
第六百九十六条 清算人ノ職務及ヒ権限ニ付テハ第七十九条ノ規定ヲ準用ス
残余財産ハ各社員ノ出資ノ価額ニ応シテ之ヲ分割スルコトヲ要ス
第六百九十七条 本節ノ規定ハ契約ニ別段ノ定アル場合ニハ之ヲ適用セス但第六百七十五条、第六百八十一条、第六百八十三条、第六百八十六条第二項、第六百八十七条第二号、第四号及ヒ第六百九十一条ノ規定ハ此限ニ在ラス
第十三節 終身定期金
第六百九十八条 終身定期金契約ハ当事者ノ一方カ自己、相手方又ハ第三者ノ死亡ニ至ルマテ定期ニ金銭又ハ其他ノ物ヲ相手方又ハ第三者ニ供与スルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第六百九十九条 終身定期金ハ日割ヲ以テ之ヲ供与スルコトヲ要ス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第七百条 定期金債務者カ定期金ノ供与ヲ怠リ又ハ其他ノ義務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ定期金ノ元本トシテ債務者ニ与ヘタル財産ノ返還ヲ請求スルコトヲ得但既ニ受取リタル定期金ノ中ヨリ其財産ノ価額ノ利息ヲ控除シタルモノヲ債務者ニ返還スルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第七百一条 第五百三十一条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス
第七百二条 死亡カ定期金債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ生シタルトキハ裁判所ハ債権者又ハ其相続人ノ請求ニ因リ相当ト認メタル期間債権ノ存続ヲ宣告スルコトヲ得
前項ノ規定ハ第七百条ニ定メタル権利ノ行使ヲ妨ケス
第七百三条 本節ノ規定ハ終身定期金ノ遺贈ニ之ヲ準用ス
第十四節 和解
第七百四条 和解ハ当事者カ互ニ譲歩ヲ為シテ其間ニ存スル争ヲ止ムルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス
第七百五条 当事者ノ一方カ和解ニ依リテ争ノ目的タル権利ヲ有スルモノト認メラレ又ハ相手方カ之ヲ有セサルモノト認メラレタル場合ニ於テ其者カ従来此権利ヲ有セサリシ確証又ハ相手方カ之ヲ有セシ確証出テタルトキハ其権利ハ和解ニ因リテ其者ニ移転シ又ハ消滅シタルモノトス
第三章 事務管理
第七百六条 義務ナクシテ他人ノ為メニ事務ヲ管理スル者ハ其事務ノ性質ニ従ヒ最モ本人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ管理ヲ為スコトヲ要ス
管理者カ本人ノ意思ヲ知リタルトキ又ハ之ヲ推知シ得ヘキトキハ其意思ニ従ヒテ管理ヲ為スコトヲ要ス
第七百七条 管理者カ本人ノ身体、名誉又ハ財産ニ対スル急迫ノ危害ヲ免レシムル為メニ其事務ノ管理ヲ為シタルトキハ悪意又ハ重大ノ過失アルニ非サレハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス
第七百八条 管理者ハ其管理ヲ始メタルコトヲ遅滞ナク本人ニ通知スルコトヲ要ス但本人カ既ニ之ヲ知レルトキハ此限ニ在ラス
第七百九条 管理者ハ本人、其相続人又ハ其法定代理人カ管理ヲ為スコトヲ得ルニ至ルマテ其管理ヲ継続スルコトヲ要ス但其管理ノ継続カ本人ノ意思ニ反シ又ハ本人ノ為メニ不利ナルコト明カナルトキハ此限ニ在ラス
第七百十条 第六百五十一条乃至第六百五十三条ノ規定ハ事務管理ニ之ヲ準用ス
第七百十一条 管理者カ本人ノ為メニ有益ナル費用ヲ出タシタルトキハ本人ニ対シテ其償還ヲ請求スルコトヲ得
管理者カ本人ノ為メニ有益ナル債務ヲ負担シタルトキハ本人ハ之ニ代ハリテ其弁済ヲ為スコトヲ要ス此場合ニ於テハ第六百五十六条第二項ノ規定ヲ準用ス
管理者カ本人ノ意ニ反シテ管理ヲ為シタルトキハ本人ノ為メ現存スル利益ノ限度ニ於テノミ前二項ノ規定ヲ適用ス
第七百十二条 本章ノ規定ニ異ナリタル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ
第四章 不当利得
第七百十三条 法律上ノ原因ナクシテ他人ノ財産ヨリ利益ヲ受ケタル者ハ其利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負フ
第七百十四条 悪意ノ受益者ハ其受ケタル利益ニ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス尚ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス
第七百十五条 債務ノ弁済トシテ給付ヲ為シタル者カ其当時債務ノ存立セサリシコトヲ知リタルトキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス
第七百十六条 債務者カ弁済期ニ在ラサル債務ノ弁済トシテ給付ヲ為シタルトキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス但債務者カ錯誤ニ因リテ其給付ヲ為シタルトキハ債権者ハ之ニ因リテ得タル利益ヲ返還スルコトヲ要ス
第七百十七条 債務者ニ非サル者カ錯誤ニ因リテ債務ノ弁済ヲ為シタル場合ニ於テ債権者カ善意ニテ証書ヲ毀滅シ、担保ヲ放棄シ又ハ時効ニ因リテ其債権ヲ失ヒタルトキハ弁済者ハ返還ノ請求ヲ為スコトヲ得ス
前項ノ規定ハ弁済者ヨリ債務者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス
第七百十八条 不法ノ原因ノ為メ給付ヲ為シタル者ハ其返還ヲ請求スルコトヲ得ス但其不法ノ原因カ受益者ニ付テノミ存スルトキハ此限ニ在ラス
第五章 不法行為
第七百十九条 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス
第七百二十条 他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規定ニ依リ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス
第七百二十一条 他人ノ生命ヲ害シタル者ハ被害者ノ父母、配偶者及ヒ子カ其財産権ヲ害セラレサリシトキト雖モ之ニ対シテ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス
第七百二十二条 未成年者カ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ其行為ノ責任ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具ヘサリシトキハ其行為ニ付キ賠償ノ責ニ任セス
第七百二十三条 心神喪失ノ間ニ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ賠償ノ責ニ任セス但故意又ハ過失ニ因リテ一時ノ心神喪失ヲ招キタルトキハ此限ニ在ラス
第七百二十四条 前二条ノ規定ニ依リ無能力者ニ責任ナキ場合ニ於テ之ヲ監督スヘキ法定ノ義務アル者ハ其無能力者カ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但監督義務者カ其義務ヲ怠ラサリシコトヲ証明シタルトキハ此限ニ在ラス
監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
第七百二十五条 或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但使用者カ被用者ノ選任及ヒ其事業ノ監督ニ付キ相当ノ注意ヲ加ヘタルトキ又ハ相当ノ注意ヲ加フルモ損害カ生スヘカリシトキハ此限ニ在ラス
使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
前二項ノ規定ハ使用者又ハ監督者ヨリ被用者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス
第七百二十六条 注文者ハ請負人カ其仕事ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス但注文又ハ指図ニ付キ注文者ニ過失アリタルトキハ此限ニ在ラス
第七百二十七条 土地ノ工作物ノ設置又ハ保存ニ瑕疵アルニ因リテ他人ニ損害ヲ生シタルトキハ其工作物ノ占有者ハ被害者ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス但占有者カ損害ノ発生ヲ防止スルニ必要ナル注意ヲ為シタルトキハ其損害ハ所有者之ヲ賠償スルコトヲ要ス
前項ノ規定ハ竹木ノ栽植又ハ支持ニ瑕疵アル場合ニ之ヲ準用ス
前二項ノ場合ニ於テ他ニ損害ノ原因ニ付キ其責ニ任スヘキ者アルトキハ占有者又ハ所有者ハ之ニ対シテ求償権ヲ行使スルコトヲ得
第七百二十八条 動物ノ占有者ハ其動物カ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但動物ノ性質ニ従ヒ相当ノ注意ヲ以テ其保管ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
占有者ニ代ハリテ動物ヲ保管スル者モ亦前項ノ責ニ任ス
第七百二十九条 数人カ共同ノ不法行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ各自連帯ニテ其賠償ノ責ニ任ス共同行為者中ノ孰レカ其損害ヲ加ヘタルカヲ知ルコト能ハサルトキ亦同シ
教唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行為者ト看做ス
第七百三十条 他人ノ不法行為ニ対シ自己又ハ第三者ノ権利ヲ防衛スル為メ已ムコトヲ得スシテ加害行為ヲ為シタル者ハ損害賠償ノ責ニ任セス但被害者ヨリ不法行為ヲ為シタル者ニ対スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
前項ノ規定ハ他人ノ物ヨリ生シタル急迫ノ危難ヲ避クル為メ其物ヲ毀損シタル場合ニ之ヲ準用ス
第七百三十一条 胎児ハ損害賠償ノ請求権ニ付テハ既ニ生マレタルモノト看做ス
第七百三十二条 第四百十六条ノ規定ハ不法行為ニ因ル損害ノ賠償ニ之ヲ準用ス
被害者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌スルコトヲ得
第七百三十三条 他人ノ名誉ヲ毀損シタル者ニ対シテハ裁判所ハ被害者ノ請求ニ因リ損害賠償ニ代ヘ又ハ損害賠償ト共ニ名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ命スルコトヲ得
第七百三十四条 不法行為ニ因ル損害賠償ノ請求権ハ被害者又ハ其法定代理人カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス但第百六十八条ノ適用ヲ妨ケス