明治民法(明治29・31年)

決議案 (明治二十七年十二月二十一日配付)

参考原資料

    穂積陳重博士関係文書 第七部I(整理案第四号)の地の文書

第七章 留置権 第二百九十四条 他人ノ物ヲ占有シ且其物ニ関シテ生シタル債権ヲ有スル者ハ其債権ノ弁済ヲ受クルマテ其物ヲ留置スルコトヲ得但其債権カ弁済期ニ在ラサルトキハ此限ニ在ラス 前項ノ規定ハ占有カ不法行為ニ因リテ始マリタル場合ニ之ヲ適用セス 第二百九十五条 留置権者ハ債権ノ全部ノ弁済ヲ受クルマテハ留置物ノ全部ヲ留置スルコトヲ得 第二百九十六条 留置権者ハ留置物ヨリ生スル果実ヲ収取シ他ノ債権者ニ先チテ之ヲ其債権ノ弁済ニ充当スルコトヲ得 前項ノ果実ハ先ツ之ヲ債権ノ利息ニ充当シ猶ホ余分アルトキハ之ヲ元本ニ充当スルコトヲ要ス 第二百九十七条 留置権者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ留置物ヲ占有スルコトヲ要ス 留置権者ハ債務者ノ承諾ナクシテ留置物ノ使用若クハ賃貸ヲ為シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但其物ノ保存ニ必要ナル使用ヲ為スハ此限ニ在ラス 留置権者ハ前ニ項ノ規定ニ違反シタルトキハ債務者ハ留置権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第二百九十八条 留置権者ハ留置物ノ保存費用ノ償還ヲ其所有者ニ請求スルコトヲ得 第二百九十九条 留置権ノ行使ハ債権ノ消滅時効ヲ停止セス 第三百条 債務者ハ相当ノ担保物ヲ供シテ留置権ノ消滅ヲ請求スルコトヲ得 第三百一条 留置権者ハ留置権ノ行使ヲ債務者ニ通知シテ弁済ノ催告ヲ為シタル後相当ノ期間内ニ弁済又ハ担保ヲ受ケサルトキハ質権ニ関スル規定ニ従ヒ留置物ノ競売ヲ請求シ其代金ヲ以テ弁済ニ充ツルコトヲ得 第三百二条 留置権ハ占有ノ喪失ニ因リテ消滅ス但第二百九十七条第二項ノ規定ニ依リ賃貸又ハ質入ヲ為シタル場合ハ此限ニ在ラス 第八章 先取特権 第一節 総則 第三百三条 先取特権者ハ本法其他ノ法律ノ規定ニ従ヒ其債務者ノ財産ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 第三百四条 先取特権ハ其目的物ノ売却、賃貸、滅失又ハ毀損ニ因リ債務者ノ受クヘキ金額其他ノ有価物ニ対シテモ之ヲ行フコトヲ得但先取特権者ハ其払渡又ハ引渡前ニ差押ヲ為スコトヲ要ス 債務者カ先取特権ノ目的物ノ上ニ設定シタル物権ノ対価ニ付キ亦同シ 第三百五条 先取特権ハ不可分ニテ債権ヲ担保ス 第二節 先取特権ノ種類 第一款 一般ノ先取特権 第三百六条 左ニ掲クル原因ヨリ生スル債権ヲ有スル者ハ下ノ規定ニ従ヒ債務者ノ総動産及ヒ総不動産ニ係ル一般ノ先取特権ヲ有ス 一 訟事費用 二 葬式費用 三 雇人給料 四 日用品供給 第三百七条 訟事費用ノ先取特権ハ債務者ノ財産ノ保存、清算又ハ配当ノ為メ各債権者ノ共同利益ニ於テ為シタル裁判上若クハ裁判外ノ行為ニ関スル費用ニ付キ存在ス 前項ノ費用中総債権者ニ有益ナラサリシモノニ付テハ先取特権ハ其費用ノ為メ利益ヲ受ケタル債権者ニ対シテノミ存在ス 第三百八条 葬式費用ノ先取特権ハ債務者ノ身分ニ応シテ為シタル其葬式ノ費用ニ付キ存在ス 前項ノ先取特権ハ債務者カ其同居親族又ハ其扶養スヘキ親族ノ身分ニ応シテ為シタル葬式ノ費用ニ付テモ亦存在ス 第三百九条 雇人給料ノ先取特権ハ債務者ヨリ雇人ノ受クヘキ最後ノ六个月ノ給料ニ付キ存在ス但其金額ハ五十円ヲ超ユルコトヲ得ス 第三百十条 日用品供給ノ先取特権ハ債務者又ハ其扶養スヘキ同居親族及ヒ其僕婢ノ生活ニ必要ナル最後ノ六个月間ノ飲食料及ヒ薪炭油ノ供給ニ付キ存在ス 第二款 動産ノ先取特権 第三百十一条 左ニ掲クル原因ヨリ生スル債権ヲ有スル者ハ下ノ規定ニ従ヒ債務者ノ動産ニ係ル特別ノ先取特権ヲ有ス 一 不動産ノ賃貸借 二 旅店ノ宿泊 三 旅客又ハ荷物ノ運輸 四 公吏ノ職務上ノ過失 五 動産ノ保存 六 動産ノ売買 七 種苗又ハ肥料ノ供給 八 農工業ノ労役 第三百十二条 不動産賃貸ノ先取特権ハ其不動産ノ借賃其他賃貸借ノ関係ヨリ生スル賃借人ノ債務ノ為メ賃借人ノ動産ニ付キ存在ス 第三百十三条 土地ノ賃貸人ノ先取特権ハ賃借地又ハ其利用ノ為メニスル建物ニ備附ケタル動産、其土地ノ利用ニ供シタル動産及ヒ賃借人ノ占有ニ在ル其土地ノ果実ニ付キ存在ス 建物ノ賃貸人ノ先取特権ハ賃借人カ其建物ニ備附ケタル動産ニ付キ存在ス 第三百十四条 賃借権ノ譲渡又ハ転貸ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特権ハ譲受人又ハ転借人ノ動産ニ及フ譲渡人又ハ転貸人ノ受取ルヘキ金額ニ付キ亦同シ此場合ニ於テハ転借人ハ借賃ノ前払ヲ以テ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百十五条 賃借人ノ財産ノ総清算ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ先取特権ハ前期、当期及ヒ次期ノ借賃其他ノ債務及ヒ前期並ニ当期ニ於テ生シタル損害ノ賠償ノ為メニノミ存在ス 第三百十六条 賃貸人カ敷金ヲ受取リタル場合ニ於テハ其敷金ヲ以テ弁済ヲ受ケサル債権ノ部分ニ付テノミ先取特権ヲ有ス 第三百十七条 旅店宿泊ノ先取特権ハ旅客其従者及ヒ牛馬ノ宿泊料、飲食料ノ為メ其旅店ニ存スル手荷物ニ付キ存在ス 第三百十八条 運輸ノ先取特権ハ旅客又ハ荷物ノ運送賃及ヒ附随ノ費用ノ為メ運送人ノ手ニ存スル荷物ニ付キ存在ス 第三百十九条 第百九十二条乃至第百九十五条ノ規定ハ前七条ノ先取特権ニ之ヲ準用ス 第三百二十条 保証金ノ先取特権ハ之ヲ供スル義務アル公吏ノ職務上ノ過失ヨリ生スル債権ノ為メ其保証金ニ付キ存在ス 第三百二十一条 動産保存ノ先取特権ハ其保存費用ノ為メ其動産ニ付キ存在ス 前項ノ先取特権ハ動産ニ関スル権利ヲ保存、追認若クハ実行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ行為ノ費用ノ為メニモ亦存在ス 第三百二十二条 動産売買ノ先取特権ハ其代価及ヒ利息ノ為メ其動産ニ付キ存在ス 第三百二十三条 種苗肥料供給ノ先取特権ハ之ヲ用井タル時ヨリ一年間ノ果実ニ付キ存在ス 蚕種又ハ蚕ノ飼養ニ供スル桑葉ノ供給ニ付キ亦同シ 第三百二十四条 農工業労役ノ先取特権ハ農業ノ労力者ニ付テハ最後ノ一个年間工業ノ労力者ニ付テハ最後ノ三个月間ノ賃金ノ為メ其労役ヨリ生シタル果実又ハ製作物ニ付キ存在ス 第三款 不動産ノ先取特権 第三百二十五条 左ニ掲クル原因ヨリ生スル債権ヲ有スル者ハ下ノ規定ニ従ヒ債務者ノ不動産ニ係ル特別ノ先取特権ヲ有ス 一 不動産ノ工事 二 不動産ノ売買 第三百二十六条 不動産工事ノ先取特権ハ工匠、技師及ヒ請負人カ債務者ノ不動産ニ関シテ為シタル工事ノ為メ其不動産ニ付キ存在ス 前項ノ先取特権ハ工事ニ因リテ生シタル不動産ノ増価カ猶ホ存スルトキニ限リ其増加額ニ付テノミ存在ス 第三百二十七条 不動産売買ノ先取特権ハ其代価及ヒ利息ノ為メ其不動産ニ付キ存在ス 第三節 先取特権ノ順位 第三百二十八条 一般ノ先取特権ノ互ニ競合スル場合ニ於テハ其ノ優先権ノ順位ハ左ノ原因ニ依リテ之ヲ定ム 第一 訟事費用 第二 葬式費用 第三 雇人給料 第四 日用品供給 一般ノ先取特権ト特別ノ先取特権ト競合スルトキハ特別ノ先取特権ハ一般ノ先取特権ニ先ツ但訟事費用ノ先取特権ハ其利益ヲ受ケタル総債権者ニ対シテ優先ノ効力ヲ有ス 第三百二十九条 同一ノ動産ニ付キ特別ノ先取特権アル諸種ノ債権競合スルトキハ其優先権ノ順序左ノ如シ 第一ノ順位ハ不動産賃貸人、旅店主人及ヒ運送人ニ属ス 第二ノ順位ハ先取特権ノ目的物ノ保存者ニ属ス若シ数人ノ保存者アリタルトキハ後ノ保存者ハ前ノ保存者ニ先ツ 第三ノ順位ハ売主、種苗又ハ肥料ノ供給者及ヒ農工業ノ労力者ニ属ス 第一ノ順位ニ在ル者カ債権取得ノ当時第二又ハ第三ノ順位ノ特別先取特権者アルコトヲ知リタルトキハ之ニ対シテ優先権ヲ行フコトヲ得ス第一ノ順位ニ在ル者ノ為メニ物ヲ保存シタル者ニ対シ亦同シ 果実ニ関シテハ第一ノ順位ハ農工業ノ労力者ニ第二ノ順位ハ種苗又ハ肥料ノ供給者ニ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ属ス 第三百三十条 同一ノ不動産ニ付キ特別ノ先取特権アル諸種ノ債権競合スルトキハ其優先権ノ順序左ノ如シ 第一ノ順位ハ工匠、技師及ヒ請負人ニ属ス 第二ノ順位ハ売主ニ属ス 逐次ノ売買アリタル場合ニ於テハ相互間ノ優先権ノ順序ハ時ノ前後ニ依ル 第三百三十一条 同一ノ目的物ニ付キ同一ノ順位ニ在ル先取特権者ハ其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受ク 第四節 先取特権ノ効力 第三百三十二条 先取特権ハ債務者カ其動産ヲ第三取得者ニ引渡シタル後ハ其動産ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス 第三百三十三条 先取特権ト動産質権ト競合スルトキハ動産質権者ハ第三百二十九条第二項ノ先取特権者ト同一ノ権利ヲ有ス 第三百三十四条 一般ノ先取特権者ハ先ツ動産ニ付キ弁済ヲ受ケ尚ホ不足アルニ非サレハ不動産ニ付テ弁済ヲ受クルコトヲ得ス 不動産ニ関シテハ先ツ特別ノ担保ノ目的物ニ非サル物ニ付キ弁済ヲ受クルコトヲ要ス 一般ノ先取特権者カ前二項ノ規定ニ従ヒ配当ニ加入スルコトヲ怠リタルトキハ其動産又ハ不動産ニ付キ受クヘカリシモノノ限度ニ於テハ登記ヲ為シタル第三者ニ対シテ其先取特権ヲ行フコトヲ得ス 前三項ノ規定ハ動産ノ代価ニ先チテ不動産ノ代価ヲ配当シ又ハ他ノ不動産ノ代価ニ先チテ特別ノ担保ノ目的タル不動産ノ代価ヲ配当スヘキ場合ニハ之ヲ適用セス 第三百三十五条 一般ノ先取特権ハ之ヲ以テ特別ノ担保ナキ債権者ニ対抗スル為メ不動産ニ付キ登記ヲ要セス 登記ヲ為シタル第三者ニ対シテハ其登記前ニ先取特権ノ登記ヲ為スコトヲ要ス 第三百三十六条 不動産工事ノ先取特権ハ工事ヲ始ムル前ニ其費用ノ予算額ヲ登記スルニ因リテ之ヲ保存ス 工事ヨリ生シタル不動産ノ増価額ハ配当加入ノ時裁判所ノ選任シタル鑑定人ヲシテ之ヲ評価セシムルコトヲ要ス 前二項ノ規定ニ従ヒ保存シタル先取特権ハ一切ノ抵当権ニ先チテ之ヲ行フコトヲ得 第三百三十七条 不動産売買ノ先取特権ハ未タ其代価又ハ利息ノ弁済アラサル旨ヲ附記シテ所有権移転ノ登記ヲ為スニ因リテ之ヲ保存ス 第三百三十八条 先取特権ノ効力ニ付テハ本節ニ定ムルモノノ外抵当権ニ関スル規定ヲ準用ス 第九章 質権 第一節 総則 第三百三十九条 質権者ハ其債権ノ担保トシテ債務者又ハ第三者ヨリ受ケタル物ヲ占有シ且其物ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 第三百四十条 質権ハ債権者ニ其目的物ノ引渡ヲ為スニ因リテ之ヲ設定ス 第三百四十一条 質権ハ設定行為ニ別段ノ定ナキトキハ元本、利息、違約金、質権実行ノ費用、質物保存ノ費用及ヒ債務ノ不履行又ハ質物ノ隠レタル瑕疵ヨリ生シタル損害ノ賠償ヲ担保ス 第三百四十二条 質権者ハ前条ニ掲ケタル債権ノ弁済ヲ受クルマテハ質物ヲ留置スルコトヲ得但此権利ハ之ヲ以テ自己ニ対シ優先権ヲ有スル債権者ニ対抗スルコトヲ得ス 第二百九十六条乃至第二百九十九条ノ規定ハ質権ニモ亦之ヲ適用ス 第三百四十三条 質権者ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ転質ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ転質ヲ為ササレハ生セサルヘキ不可抗力ニ因ル損失ニ付テモ亦其責ニ任ス 第三百四十四条 第三百四条及ヒ第三百五条ノ規定ハ質権ニモ亦之ヲ適用ス 第三百四十五条 質権ヲ以テ担保セル債権及ヒ質物ノ所有権カ同一ノ人ニ帰スルトキハ質権ハ消滅ス但其債権又ハ質物カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス 第三百四十六条 他人ノ債務ヲ担保スル為メ質権ヲ設定シタル者カ債権者ニ弁済シ又ハ質権ノ実行ニ因リテ質物ノ所有権ヲ失ヒタルトキハ保証債務ニ関スル規定ニ従ヒ債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス 第二節 動産質 第三百四十七条 動産質権者ハ継続シテ質物ヲ占有スルニ非サレハ其質権ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百四十八条 第百九十二条乃至第百九十五条ノ規定ハ動産質ニ之ヲ準用ス 第三百四十九条 動産質権者カ其債権ノ弁済ヲ受ケサルトキハ正当ノ理由アル場合ニ限リ鑑定人ノ評価ニ従ヒ質物ヲ以テ弁済ニ充ツルコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但予メ債務者ニ其請求ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百五十条 数個ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ動産ニ付キ質権ヲ設定シタルトキハ其質権ノ順位ハ設定ノ前後ニ依ル 第三節 不動産質 第三百五十一条 不動産質権者ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ其不動産ノ用方ニ従ヒ使用又ハ収益ヲ為スコトヲ得 第三百五十二条 不動産質権者ハ其不動産ノ負担及ヒ管理ノ費用ヲ払フコトヲ要ス 第三百五十三条 不動産質権者ハ其債権ノ利息ヲ請求スルコトヲ得ス 第三百五十四条 前三条ノ規定ハ設定行為別段ノ定アルトキハ之ヲ適用セス 第三百五十五条 不動産質ノ存続期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ不動産質ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ十年ニ短縮ス 不動産質ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ十年ヲ超ユルコトヲ得ス 第三百五十六条 不動産質ニ付テハ本節ノ規定ノ外抵当権ニ関スル規定ヲ準用ス 第四節 准質 第三百五十七条 質権ハ権利ノ上ニモ之ヲ設定スルコトヲ得 前項ノ質権ニ付テハ本節ノ規定ノ外前三節ノ規定ヲ準用ス 第三百五十八条 質権ノ目的タル債権ノ証券アルトキハ質権ハ其証券ノ交付ヲ為スニ因リテ之ヲ設定ス 第三百五十九条 指名債権ヲ以テ質権ノ目的トシタルトキハ債権譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ第三債務者ニ其設定ヲ通知シ又ハ第三債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ第三債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百六十条 会社ノ記名ノ株式又ハ社債ヲ以テ質権ノ目的トシタルトキハ株式又ハ社債ノ譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ会社ノ帳簿ニ記入スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ会社其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百六十一条 裏書ニ依リテ譲渡スコトヲ得ヘキ債権ヲ以テ質権ノ目的トシタルトキハ其証券ニ質権設定ノ旨ヲ裏書スルニ非サハ質権者ハ其質権ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百六十二条 質権者ハ質権ノ目的タル債権ヲ直接ニ取立ツルコトヲ得 債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ質権者ハ自己ノ債権額ニ対スル部分ニ非サレハ之ヲ取立ツルコトヲ得ス 右ノ債権ノ期限カ質権者ノ債権ノ期限前ニ到来シタルトキハ第三債務者ハ其弁済金額ヲ供託スルコトヲ要ス 債権ノ目的物カ金銭ニ非サルトキハ質権者ハ弁済トシテ受ケタル物ノ上ニ質権ヲ有ス 第三百六十三条 質権者ハ前条ノ規定ニ依ル外民事訴訟法ニ定ムル執行方法ニ依リテ質権ノ実行ヲ為スコトヲ得 第十章 抵当権 第一節 総則 第三百六十四条 抵当権者ハ債務者又ハ第三者カ占有ヲ移サスシテ債務ノ担保ニ供シタル不動産ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス 地上権及ヒ永小作権モ亦之ヲ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ本章ノ規定ヲ準用ス 第三百六十五条 抵当権ハ抵当地ノ上ニ存スル建物ヲ除ク外其目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物ニ及フ但設定行為ニ別段ノ定アルトキ及ヒ第    条ノ規定ニ依リ債権者カ債務者ノ行為ヲ取消スコトヲ得ル場合ハ此限ニ在ラス 第三百六十六条 前条ノ規定ハ之ヲ果実ニ適用セス但不動産ノ差押ノ後又ハ第三取得者カ第三百七十七条ノ通知ヲ受ケタル後ハ此限ニ在ラス 第三取得者カ第三百七十七条ノ通知ヲ受ケタルトキハ其後一年内ニ不動産ノ差押アリタル場合ニ限リ前項ノ規定ニ依ル 第三百六十七条 第三百四条、第三百五条、第三百四十五条及ヒ第三百四十六条ノ規定ハ抵当権ニ之ヲ準用ス 第二節 抵当権ノ効力 第三百六十八条 数箇ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ設定シタルトキハ其抵当権ノ順位ハ登記ノ前後ニ依ル 第三百六十九条 抵当権者カ利息其他ノ定期金ヲ請求スル権利ヲ有スルトキハ其満期ト為リタル最終ノ二年分ニ付テノミ其抵当権ヲ行フコトヲ得但其以前ノ定期金ニ付テモ満期後特別ノ登記ヲ為ストキニ限リ其登記ノ時ヨリ抵当権ヲ行フコトヲ妨ケス 第三百七十条 抵当権者ハ其抵当権ヲ以テ他ノ債権ノ担保ト為シ又同一ノ債務者ニ対スル他ノ債権者ノ利益ノ為メ其抵当権又ハ其順位ノミヲ譲渡シ若クハ放棄スルコトヲ得 前項ノ場合ニ於テ数人ニ対シ抵当権ノ処分ヲ為シタルトキハ其権利ノ順位ハ抵当権ノ登記ニ附記ヲ為シタル前後ニ依ル 第三百七十一条 前条ノ場合ニ於テハ債権譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ主タル債務者ニ抵当権ノ処分ヲ通知シ又ハ其債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ其債務者、保証人、抵当権設定者及ヒ其承継人ニ対抗スルコトヲ得ス 主タル債務者カ前項ノ通知ヲ受ケ又ハ承諾ヲ為シタルトキハ其処分ノ利益ヲ受クル者ノ承諾ナクシテ為シタル弁済ハ之ヲ以テ其受益者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百七十二条 抵当権ノ登記後ニ抵当不動産ニ付キ物権ヲ取得シタル第三者カ抵当権者ニ弁済シタルトキハ他ノ債権者ニ対シテ其抵当権者ノ権利ヲ行フコトヲ得 第三百七十三条 抵当不動産ニ付キ所有権又ハ地上権ヲ買受ケタル第三者カ抵当権者ノ請求ニ応シテ其代価ヲ弁済シタルトキハ抵当権ハ其第三者ノ為メニ消滅ス 第三百七十四条 抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者ハ下ノ規定ニ従ヒ抵当権者ノ承諾ヲ得タル金額ヲ払渡シ又ハ供託シテ抵当権ヲ滌除スルコトヲ得 第三百七十五条 主タル債務者、保証人及ヒ其承継人ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス 第三百七十六条 停止条件附第三取得者ハ条件未定ノ間ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス 第三百七十七条 抵当権者カ其抵当権ヲ実行セント欲スルトキハ予メ第三百七十四条ノ第三取得者ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百七十八条 第三取得者ハ前条ノ通知ヲ受クルマテハ何時ニテモ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得 第三取得者カ前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ一个月内ニ次条ノ送達ヲ為スニ非サレハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス 前条ノ通知後ニ第三百七十四条ニ掲クル権利ヲ取得シタル第三者モ亦前項ノ期間内ニ次条ノ送達ヲ為スコトヲ要ス 第三百七十九条 第三取得者カ抵当権ノ滌除ヲ為サント欲スルトキハ登記ヲ為シタル各債権者ニ左ノ書面ヲ送達スルコトヲ要ス 一 取得ノ原因、年月日、譲渡人及ヒ取得者ノ氏名、住所、抵当不動産ノ性質、所在及ヒ代価其他取得者ノ負担ヲ指示スル書面 二 抵当不動産ニ関スル登記簿ノ謄本但既ニ消滅シタル権利ニ関スル登記ハ之ヲ掲クルコトヲ要セス 三 債権者カ一个月内ニ次条ノ規定ニ従ヒ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ハ第一号ニ掲クル代価又ハ其指定スル金額ヲ債権ノ順位ニ従ヒテ弁済又ハ供託スヘキ旨ヲ記載スル書面 第三百八十条 債権者カ前条ノ送達ヲ受ケタルヨリ一个月内ニ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ノ提供ヲ承諾シタルモノト看做ス 増価競売ハ若シ競売ニ於テ第三取得者カ提供シタル金額ヨリ十分一以上高価ニ抵当不動産ヲ売却スルコト能ハサルトキハ十分一ノ高価ヲ以テ自ラ其不動産ヲ買受クヘキ旨ヲ附言シ第三取得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス 前項ノ場合ニ於テハ其代価及ヒ費用ニ付キ担保ヲ供スルコトヲ要ス 第三百八十一条 債権者カ増価競売ヲ請求スルトキハ前条ノ期間内ニ債務者及ヒ譲渡人ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス 第三百八十二条 増価競売ヲ請求シタル債権者ハ登記ヲ為シタル他ノ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其請求ヲ取消スコトヲ得ス 第三百八十三条 第三取得者カ第三百七十八条ニ定ムル期間内ニ債務ノ弁済又ハ滌除ノ通知ヲ為ササルトキハ抵当権者ハ抵当不動産ノ競売ヲ請求スルコトヲ得 第三百八十四条 土地ニ建物アル場合ニ於テ土地又ハ建物ノミヲ抵当トシタルトキハ抵当権設定者ハ競売ノ場合ニ付キ地上権ヲ設定シタルモノト看做ス但地代ハ当事者ノ請求ニ因リ裁判所之ヲ定ム 第三百八十五条 抵当権設定後ニ其設定者カ抵当地ニ建物ヲ築造シタルトキハ抵当権者ハ土地ト共ニ之ヲ競売スルコトヲ得但其優先権ハ土地ノ代価ニ付テノミ之ヲ行フコトヲ得 第三百八十六条 第三取得者ハ競買人ト為ルコトヲ得 第三取得者カ競落人ト為リタルトキハ之ヲ其取得ノ登記ニ附記スルコトヲ要ス 第三百八十七条 第三取得者ニ非サル者カ競落人ト為リタルトキハ第三取得者ハ其取得前ニ不動産ノ上ニ有セシ権利ヲ失ハス 第三百八十八条 第三取得者カ抵当不動産ニ必要費又ハ有益費ヲ加ヘタルトキハ第百九十六条ノ区別ニ従ヒ不動産ノ代価ヲ以テ最モ先ニ其償還ヲ受クルコトヲ得 第三百八十九条 債権者カ数箇ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ有スル場合ニ於テ同時ニ其代価ヲ配当スヘキトキハ其各不動産ノ価額ニ準シ其債権ノ負担ヲ分配ス 前項ノ場合ニ於テ或不動産ノ代価ノミヲ配当スヘキトキハ抵当権者ハ其代価ニ付キ債権全額ノ弁済ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵当権者ハ前項ノ規定ニ従ヒ右ノ抵当権者カ他ノ不動産ニ付キ弁済ヲ受クヘキ金額ニ満ツルマテ之ニ代位シテ抵当権ヲ行フコトヲ得 第三百九十条 前条ノ規定ニ従ヒ代位ニ因リテ抵当権ヲ行フ者ハ其抵当権ノ登記ニ其代位ヲ附記スルコトヲ得 第三百九十一条 抵当権者ハ抵当不動産ノ代価ヲ以テ弁済ヲ受ケサル部分ニ付テノミ他ノ財産ニ付キ其債権ノ弁済ヲ受クルコトヲ得 前項ノ規定ハ抵当不動産ノ代価ニ先チテ他ノ財産ノ代価ヲ配当スヘキ場合ニハ之ヲ適用セス但他ノ各債権者ハ抵当権者ヲシテ前項ノ規定ニ従ヒ弁済ヲ受ケシムル為メ之ニ配当スヘキ金額ノ供託ヲ請求スルコトヲ得 第三百九十二条 第    条ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸借ハ抵当権ノ登記後ニ登記シタルモノト雖モ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得 第三百九十三条 抵当権ハ債務者及ヒ抵当権設定者ニ対シテハ債権ト同時ニ非サレハ時効ニ因リテ消滅セス 第三百九十四条 債務者又ハ抵当権設定者ニ非サル者カ抵当不動産ニ付キ取得時効ニ必要ナル条件ヲ具備シタル占有ヲ為ストキハ抵当権ハ之ニ因リテ消滅ス 第三百九十五条 地上権又ハ永小作権ヲ抵当ト為シタル者カ其権利ヲ放棄スルモ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得ス