第一編 総則
第一章 人
第一節 私権ノ享有
第一条 私権ノ享有ハ出生ニ始マル
第二条 外国人ハ法令又ハ条約ニ禁止アル場合ノ外私権ヲ享有ス
第二節 能力
第三条 満二十年ヲ以テ成年トス但法令ニ特別ノ規程アルモノハ此限ニ在ラス
第四条 未成年者カ法律上ノ行為ヲ為スニハ其法律上ノ代理人ノ同意ヲ得ルコトヲ用ス但単ニ権利ヲ得又ハ債務ヲ免スルヘキ行為ハ此限ニ在ラス
前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得
第五条 法律上ノ代理人カ目的ヲ定メテ処分ヲ許シタル財産ハ其目的内ニ於テ未成年者随意ニ之ヲ処分スルコトヲ得目的ヲ定メスシテ処分ヲ許シタル財産ヲ処分スル亦同シ
第六条 自治産未成年者カ左ニ掲クル行為ヲ為スニハ保佐人ノ同意ヲ得ルコトヲ処ス
一 元本ヲ領収シ又ハ之ヲ利用スルコト
二 借財ヲ為スコト
三 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル権利ノ得喪ヲ目的トスル行為ヲ為スコト
四 訴訟行為ヲ為スコト
五 和解又ハ仲裁契約ヲ為スコト
六 相続ヲ承諾シ又ハ之ヲ放棄スルコト
七 遺贈若クハ贈与ヲ拒絶シ又ハ負担附ノ遺贈若クハ贈与ヲ受諾スルコト
八 新築、改築、増築又ハ大修繕ヲ為スコト
九 第( )条ニ定メタル期間ヲ超ユル賃貸借ヲ為スコト
前項ノ規程ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得
第七条 一種又ハ数種ノ商業ヲ営ムコトヲ許サレタル未成年者ハ其商業ニ関シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス
第八条 一切ノ商業ヲ営ムコトヲ許サレタル未成年者ハ総テ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス
第九条 商業以外ノ職業ヲ営ムコトヲ許サレタル未成年者ハ其職業ニ関シテハ成年者ト同一ノ能力ヲ有ス
第十条 前三条ノ場合ニ於テ未成年者未タ其職業ニ堪ヘサル事跡アルトキハ親族編ニ規定スル所ニ従ヒ其許可ヲ廃止シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得
第十一条 心神喪失ノ常況ニ在ル者ハ時々本心ニ復スルコトヲ有スト否トヲ問ハス其治産ヲ禁スルコトヲ得
第十二条 禁治産ハ本人、配偶者、四親等内ノ親族、戸主、後見人、保佐人又ハ検事ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得
右ノ内一人ノ請求ニ因リテ為シタル禁治産ノ宣言ハ其登記ノ時ヨリ何人ニ対シテモ効力ヲ有ス
第十三条 禁治産者ハ之ヲ後見ニ付ス
第十四条 禁治産者ノ行為ハ之ヲ取消スコトヲ得但本法ニ反対ノ規定アルモノハ此限ニ在ラス
第十五条 禁治産ノ原因止ミタルトキハ第十二条ニ列挙スル者ノ請求ニ因リ其禁ヲ解クヘシ
第十六条 心神耗弱者、聾者、唖者、盲者及ヒ浪費者ハ準禁治産者トシテ之ニ保佐人ヲ付スルコトヲ得
第十七条 享禁治産ノ請求及ヒ其宣言ニ付テハ第十二条ヲ適用ス
第十八条 第六条ノ規定ハ之ヲ準禁治産者ニ適用ス
裁判所ハ場合ニ依リ享禁治産者カ第六条ニ掲ケサル行為ヲ為スニモ亦保佐人ノ同意アルコトヲ要スル旨ヲ宣言スルコトヲ得
第十九条 準禁治産ノ原因正シタルトキハ第十五条ノ規定ニ依ル
第二十条 妻カ左ニ掲クル行為ヲ為スニハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
一 元本ヲ領収シ又ハ之ヲ利用スルコト
二 借財ヲ為スコト
三 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル権利ノ得喪ヲ目的トスル行為ヲ為スコト
四 訴訟行為ヲ為スコト
五 和解又ハ仲裁契約ヲ為スコト
六 贈与ヲ為スコト
七 贈与若クハ遺贈ヲ受諾シ又ハ之ヲ拒絶スルコト
八 相続ヲ承諾シ又ハ之ヲ放棄スルコト
九 保証ヲ為スコト
十 身体ニ羈絆ヲ受クヘキ契約ヲ為スコト
前項ノ規定ニ反スル行為ハ之ヲ取消スコトヲ得
第二十一条 商業其他ノ職業ヲ営ム許可ヲ得タル妻ハ其職業ニ関シテハ独立人ト同一ノ能力ヲ有ス
第二十二条 夫ハ其与ヘタル許可ヲ廃止シ又ハ之ヲ制限スルコトヲ得其夫婦財産契約ヲ以テ与ヘタルモノ亦同シ
第二十三条 左ノ場合ニ於テハ妻ハ夫ノ許可ヲ受クルコトヲ要セス
一 夫ノ生死分明ナラサルトキ
二 夫カ妻ヲ遺棄シタルトキ
三 夫カ禁治産者又ハ準禁治産者ナルトキ
四 夫カ瘋癲ノ為メ病院又ハ私宅ニ監置セラルルトキ
五 夫カ重罪ノ刑ニ処セラレ其刑期中ニ在ルトキ
第二十四条 夫カ未成年ナルトキハ己先ツ妻カ為サルト欲スル行為ヲ為ス能力ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ許可スルコトヲ得ス
第二十五条 無能力者ノ相手方ハ其無能力者カ能力者トナリタル後之ニ対シテ二週日以上ノ期間内ニ其取消シ得ヘキ行為ヲ追認スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ其行為ヲ追認シタルモノト看做ス
無能力者カ未タ能力者トナラサル時ニ於テ夫又ハ法律上ノ代理人ニ対シ右ノ催告ヲ為スニモ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキ亦同シ但法律上ノ代理人ニ対シテハ其権限内ノ行為ニ付テノミ此催告ヲ為スコトヲ得又特別ノ方式ヲ要スル行為ニ付テハ若シ其期間内ニ其方式ヲ践マサルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス
自治産未成年者、準禁治産者及ヒ妻ニ対シテハ第一項ノ期間内ニ保佐人ノ同意若クハ夫ノ許可ヲ得テ其行為ヲ追認スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間内ニ右ノ同意若クハ許可ヲ得サルトキハ之ヲ取消シタルモノト看做ス
第二十六条 無能力者カ能力ヲ有スル旨ヲ明言シタルノミニシテ之ヲ信セシムル為メ自ラ詐術ヲ用ヒタルニ非サレハ其無能力ニ因リテ其行為ヲ取消スコトヲ妨ケス
第三節 住所
第二十七条 各人ノ生活ノ本拠ヲ以テ其住所トス
第二十八条 住所ノ知レサル場合ニ於テハ居所ヲ以テ住所ニ代用ス
第二十九条 日本ニ住所ヲ有セサルモノハ其日本人タルト外国人タルトヲ問ハス日本ニ於ケル居所ヲ以テ住所ニ代用ス但法例ノ定ムル所ニ従ヒ其住所ノ法律ニ依ルヘキ場合ハ此限ニ在ラス
第三十条 或行為ニ付キ仮住所ヲ選定シタルトキハ其行為ニ関シテハ之ヲ以テ住所ニ代用ス
第四節 失踪
第三十一条 従来ノ住所又ハ居所ヲ去リタル者其財産ノ管理人ヲ置カサリシトキハ裁判所ニ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ其財産ノ管理ニ付キ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得但本人後日ニ至リ管理人ヲ置クトキハ其管理人利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ其命令ヲ解クヘシ
本人ノ不在中管理人ノ権限消滅シタルトキモ亦前項ノ規定ニ依ル
第三十二条 不在者カ管理人ノ置キタル場合ニ於テ其不在者ノ生死分明ナラサルトキハ裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リ管理人ヲ改任スルコトヲ得
第三十三条 前二条ニ依リ裁判所ニ於テ選定シタル管理人ハ其管理スヘキ財産ノ目録ヲ調製スヘシ其費用ハ不在者ノ財産ヲ以テ之ヲ支弁ス
不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ利害関係人又ハ検事ノ請求アルトキハ裁判所ハ不在者カ置キタル管理人ニモ前項ノ手続ヲ命スルコトヲ得
右ノ外総テ裁判所カ不在者ノ財産ノ保存ニ必要ナリト認ムル処分ハ之ヲ管理人ニ命スルコトヲ得
第三十四条 裁判所ニ於テ選定シタル管理人ハ管理行為ノミヲ為ス権限ヲ有ス但他ノ行為ヲ必要トスルトキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ為スコトヲ得
不在者カ其管理人ノ権限ヲ定メ置カサリシトキ亦同シ
不在者ノ生死分明ナラサル場合ニ於テ其管理人カ定メ置カレタル権限外ノ行為ヲ必要トスルトキハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ為スコトヲ得
第三十五条 裁判所ハ管理人ヲシテ財産ノ管理及ヒ其返還ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得
裁判所ハ管理人ト不在者トノ関係其他ノ事情ニ依リ不在者ノ財産ノ中ヨリ相当ト認ムル報酬ヲ管理人ニ与フルコトヲ得
第三十六条 十年間不在者ノ生死不分明ナルトキハ利害関係人ハ失踪ノ宣言ヲ請求スルコトヲ得
戦地ニ臨ミタル者、沈没シタル船舶中ニ在リタル者其他死亡ノ原因タルヘキ危難ニ遭遇シタル者ニ付テハ戦争ノ止ミタル後、船舶ノ沈没シタル後又ハ其他ノ危難ノ去リタル後三年間生死不分明ナルトキ前項ノ請求ヲ為スコトヲ得
第三十七条 失踪ノ宣言ヲ受ケタル者ハ前条ノ期間満了ノ時ニ死亡シタルモノト看做ス
第三十八条 失踪者ノ生存セルコト又ハ前条ニ定メタル時ト異リタル時ニ死亡シタルコトヲ証明アルトキハ裁判所ハ本人又ハ利害関係人ノ請求ニ因リ失踪ノ宣言ヲ廃棄シ又ハ之ヲ変更ス但失踪ノ宣言アリタルヨリ其廃棄又ハ変更アルマテニ善意ヲ以テ為シタル行為ハ其効力ヲ変セス
失踪ノ宣告ニ因リ財産ヲ得タル者ハ其廃棄又ハ変更ニ因リ権利ヲ失フモ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テノミ其財産ヲ返還スル義務ヲ負フ