明治民法(明治29・31年)

甲第七十三号議案 (明治二十九年十一月二十一日配付)

参考原資料

第五編 第六章 第四節 遺言ノ執行 第千百十一条 遺言書ノ保管者ハ相続ノ開始ヲ知リタル後遅滞ナク之ヲ相続開始地ノ裁判所ニ提出シテ其検認ヲ請求スルコトヲ要ス遺言書ノ保管者ナキ場合ニ於テ相続人カ遺言書ヲ発見シタル後亦同シ 前項ノ規定ハ公正証書ニハ之ヲ適用セス 封印アル遺言書ハ裁判所ニ於テ相続人ノ立会ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ開封スルコトヲ得ス 第千百十二条 前条ノ規定ニ反シテ遺言書ヲ提出スルコトヲ怠リ、其検認ヲ経スシテ遺言ヲ執行シ又ハ裁判所外ニ於テ其開封ヲ為シタル者ハ二百円以下ノ過料ニ処セラル 第千百十三条 遺言者ハ遺言ヲ以テ一人又ハ数人ノ遺言執行者ヲ指定シ又ハ其指定ヲ第三者ニ委託スルコトヲ得 遺言執行者指定ノ委託ヲ受ケタル者ハ遅滞ナク其指定ヲ為シテ之ヲ相続人ニ通知スルコトヲ要ス 第千百十四条 遺言執行者カ就職ヲ承諾シタルトキハ直チニ其任務ヲ行フコトヲ要ス 第千百十五条 相続人其他ノ利害関係人ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ就職ヲ承諾スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ遺言執行者ニ催告スルコトヲ得若シ遺言執行者カ其期間内ニ相続人ニ対シテ確答ヲ為ササルトキハ就職ヲ承諾シタルモノト看做ス 第千百十六条 無能力者及ヒ破産ノ宣告ヲ受ケタル者ハ遺言執行者ト為ルコトヲ得ス 第千百十七条 遺言執行者ナキトキ又ハ之ナキニ至リタルトキハ裁判所ハ利害関係人ノ請求ニ因リ遺言執行者ヲ選定スルコトヲ得 前項ノ規定ニ依リテ選定セラレタル遺言執行者ハ正当ノ理由アルニ非サレハ就職ヲ拒ムコトヲ得ス 第千百十八条 遺言執行者ハ就職後遅滞ナク相続財産ノ目録ヲ調製シテ之ヲ相続人ニ交付スルコトヲ要ス 遺言執行者ハ相続人ノ請求アルトキハ其立会ヲ以テ財産目録ヲ調製シ又ハ公証人ヲシテ之ヲ調製セシムルコトヲ要ス 第千百十九条 遺言執行者ハ相続財産ノ管理其他遺言ノ執行ニ必要ナル一切ノ行為ヲ為ス権利義務ヲ有ス 第六百四十四条乃至第六百四十七条及ヒ第六百五十条ノ規定ハ遺言執行者ト相続人トノ間ニ之ヲ準用ス 第千百二十条 前二条ノ規定ハ遺言カ特定財産ニ関スル場合ニ於テハ其財産ニ付テノミ之ヲ適用ス 第千百二十一条 遺言執行者ハ之ヲ相続人ノ代理人ト看做ス 第千百二十二条 遺言執行者ハ已ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ第三者ヲシテ其任務ヲ行ハシムルコトヲ得ス但遺言者カ其遺言ニ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス 遺言執行者カ前項ノ規定ニ依リ第三者ヲシテ其任務ヲ行ハシムル場合ニ於テハ相続人ニ対シテ第百五条ニ定メタル責任ヲ負フ 第千百二十三条 遺言執行者数人アルトキハ其任務ノ執行ハ過半数ヲ以テ之ヲ決ス但遺言者カ其遺言ニ別段ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス 各遺言執行者ハ前項ノ規定ニ拘ハラス保存行為ヲ為スコトヲ得 第千百二十四条 遺言執行者ハ遺言ニ報酬ヲ定メタルトキニ限リ之ヲ受クルコトヲ得 裁判所ニ於テ遺言執行者ヲ選定シタルトキハ裁判所ハ事情ニ依リ其報酬ヲ定ムルコトヲ得 遺言執行者カ報酬ヲ受クヘキ場合ニ於テハ第六百四十八条第二項及ヒ第三項ノ規定ヲ準用ス 第千百二十五条 遺言執行者アル場合ニ於テハ相続人ハ相続財産ヲ処分シ其他遺言ノ執行ヲ妨クヘキ行為ヲ為スコトヲ得ス 第千百二十六条 遺言執行者カ其任務ヲ怠リタルトキ其他正当ノ事由アルトキハ利害関係人ハ其解任ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得 遺言執行者ハ正当ノ事由アルトキハ其任務ヲ辞スルコトヲ得 第千百二十七条 遺言執行者ノ任務ハ其死亡、能力喪夫又ハ破産ニ因リテ終了ス 第千百二十八条 第六百五十四条及ヒ第六百五十五条ノ規定ハ遺言執行者ノ任務カ終了シタル場合ニ之ヲ準用ス 第千百二十九条 遺言ノ執行ニ関スル費用ハ相続財産ノ負担トス但之ニ因リテ遺留分ヲ減少スルコトヲ得ス