明治民法(明治29・31年)

甲第七十一号議案 (明治二十九年十月十九日配付)

参考原資料

第五編 第六章 第二節 第二款 特別方式 第千七十八条 疾病其他ノ事由ニ因リ死亡ノ危急ニ迫リタル者カ遺言ヲ為サント欲スルトキハ証人三人以上ノ立会ヲ以テ其一人ニ遺言ノ旨趣ヲ口授シテ之ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ其口授ヲ受ケタル者之ヲ筆記シテ遺言者及ヒ他ノ証人ニ読聞カセ各証人ハ筆記ノ正確ナルコトヲ承認シタル後署名捺印スルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ依リテ為シタル遺言ハ遺言ノ日ヨリ十日内ニ証人ノ一人又ハ利害関係人ヨリ其確認ヲ裁判所ニ請求スルニ非サレハ其効ナシ 裁判所ハ確認ノ請求アル遺言カ遺言者ノ真実ノ意思ニ出テタル心証ヲ得ルニ非サレハ之ヲ確認スルコトヲ得ス 第千七十九条 普通方式ニ依リテ遺言ヲ為ス資力ナキ者又ハ文字ヲ読ムコト能ハサル者ハ裁判所ニ於テ遺言ヲ為スコトヲ得 前項ノ場合ニ於テハ第千七十条ノ規定ヲ準用ス但遺言者ノ口述ノ筆記ハ書記之ヲ為ス 第千八十条 伝染病ノ為メ行政処分ヲ以テ交通ヲ遮断シタル地ニ在ル者ハ警察官一人及ヒ証人一人以上ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第千八十一条 従軍中ノ軍人及ヒ軍属ハ将校又ハ相当官一人及ヒ証人二人以上ノ立会ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得若シ将校及ヒ相当官在ラサルトキハ下士一人ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得 従軍中ノ軍人又ハ軍属カ疾病又ハ傷痍ノ為メ病院ニ在ルトキハ其院ノ医師ヲ以テ前項ニ掲ケタル将校又ハ相当官ニ代フルコトヲ得 第千八十二条 従軍中傷痍其他ノ事由ニ因リ死亡ノ危急ニ迫リタル軍人及ヒ軍属ハ証人二人以上ノ立会ヲ以テ口頭ニテ遺言ヲ為スコトヲ得 前項ノ規定ニ従ヒテ為シタル遺言ハ証人其旨趣ヲ筆記シテ之ニ署名捺印シ且遅滞ナク之ヲ理事又ハ主理ニ提出シテ其確認ヲ請求スルニ非サレハ其効ナシ 第千七十八条第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千八十三条 艦船中ニ在ル者ハ軍艦ニ於テハ将校又ハ相当官一人及ヒ証人二人以上其他ノ船舶ニ於テハ船長又ハ事務員一人及ヒ証人二人以上ノ立会ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第千八十四条 第千八十条、第千十一条及ヒ前条ノ場合ニ於テハ遺言者、筆者、立会人及ヒ証人ハ各遺言書ニ署名捺印スルコトヲ要ス 署名又ハ捺印スルコト能ハサル者アルトキハ立会人又ハ証人ハ其事由ヲ附記スルコトヲ要ス 第千八十五条 第千六十九条第二項及ヒ第千七十五条乃至第千七十七条ノ規定ハ前七条ノ規定ニ依リテ為ス遺言ニ之ヲ準用ス 第千八十六条 第千七十八条乃至第千八十四条ノ規定ニ依リテ為シタル遺言ハ遺言者カ普通方式ニ依リテ遺言ヲ為スコトヲ得ルニ至リタル時ヨリ一年間生存スルトキハ其効ナシ 第千八十七条 外国ニ在ル日本人ハ第千六十九条ニ定メタル方式ニ従ヒ又ハ其国ノ法律ニ依リテ定マリタル方式ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得 日本ノ領事ノ駐在スル地ニ在ル日本人ハ公正証書又ハ秘密証書ニ依リテ遺言ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ公証人ノ職務ハ領事之ヲ行フ 第千八十八条 日本ニ在ル外国人ハ本節ノ規定ニ従ヒ又ハ其本国法ノ規定ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得