明治民法(明治29・31年)

甲第六十三号議案明治二十九年六月二十六日配付

参考原資料

民法第一議案 [国立国会図書館デジタルコレクション]
第五編 第四章 相続ノ承認及ヒ抛棄 第一節 総則 第千一条 相続人ハ相続権ノ発生ヲ知リタル時ヨリ三个月内ニ単純若クハ限定ノ承認又ハ抛棄ヲ為スコトヲ要ス但此期間ハ裁判所ニ於テ之ヲ伸長スルコトヲ得 相続人ハ承認又ハ抛棄ヲ為ス前ニ於テ相続財産ノ調査ヲ為スコトヲ得 第千二条 相続人カ無能力者ナルトキハ前条第一項ノ期間ハ其法定代理人カ相続権ノ発生ヲ知リタル時ヨリ之ヲ起算ス 第千三条 法定家督相続人ハ抛棄ヲ為スコトヲ得ス 第千四条 相続人ハ相続財産ノ一部ニ付キ承認又ハ抛棄ヲ為スコトヲ得ス 家族ノ遺産相続人数人アル場合ニ於テハ各其相続シタル部分ニ付キ承認又ハ抛棄ヲ為スコトヲ得 第千五条 相続人ハ承認又ハ抛棄ヲ為スマテハ其固有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ヲ管理スルコトヲ要ス 裁判所ハ利害関係人ノ請求ニ因リ何時ニテモ相続財産ノ保存ニ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得 第千六条 相続人ハ承認又ハ抛棄ヲ為スマテハ相続財産ニ関スル訴訟手続ノ停止ヲ請求スルコトヲ得但強制執行ハ此限ニ在ラス 第千七条 相続財産ニ関スル費用ハ其財産中ヨリ之ヲ支弁ス但相続人ノ過失ニ因ルモノハ此限ニ在ラス 第千八条 相続人カ承認又ハ抛棄ヲ為ス前ニ死亡シタルトキハ其者ノ相続人ハ自己ノ相続権ノ発生ヲ知リタル時ヨリ三个月内ニ前相続ノ承認又ハ抛棄ヲ為スコトヲ得 第千四条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千九条 承認及ヒ抛棄ハ第千一条第一項ノ期間内ト雖モ之ヲ取消スコトヲ得ス 前項ノ規定ハ第一編及ヒ前編ノ規定ニ依リテ承認又ハ抛棄ノ取消ヲ為スコトヲ妨ケス但其取消権ハ追認ヲ為スコトヲ得ル時ヨリ六个月間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス承認又ハ抛棄ノ時ヨリ十年ヲ経過シタルトキ亦同シ 第二節 承認 第一款 単純承認 第千十条 相続人カ無限ニ被相続人ノ権利義務ヲ承継スル意思ヲ表示シタルトキハ其相続人タル身分ハ之ニ因リテ確定ス 第千十一条 左ニ掲ケタル場合ニ於テハ相続人ハ単純承認ヲ為シタルモノト看做ス 一 相続人カ相続財産ノ全部又ハ一部ヲ処分シタルトキ但保存行為及ヒ第六百二条ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸ヲ為スハ此限ニ在ラス 二 相続人カ第千一条第一項ノ期間内ニ限定承認又ハ抛棄ヲ為ササリシトキ 三 相続人カ限定承認又ハ抛棄ヲ為シタル後ト雖モ相続財産ノ全部又ハ一部ヲ私取若クハ隠匿シ又ハ悪意ヲ以テ之ヲ財産目録中ニ記載セサリシトキ但相続人カ抛棄為シタルニ因リテ相続権ヲ得タル者カ承認ヲ為シタル後ハ此限ニ在ラス 第千十二条 単純承認者カ承認ノ当時存在スルコトヲ知ラサリシ相続債務又ハ遺贈ノ為メ破産ノ宣告ヲ受クルニ至ルヘキトキハ其承認ヲ取消スコトヲ得 前項ノ取消権ハ取消ノ原因ヲ覚知シタル時ヨリ六个月間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス承認ノ時ヨリ十年ヲ経過シタルトキ亦同シ 第二款 限定承認 第千十三条 相続人ハ相続財産ノ限度ニ於テノミ被相続人ノ債務及ヒ遺贈ヲ弁済スヘキ責任ヲ以テ承認ヲ為スコトヲ得 第千十四条 相続人カ限定承認ヲ為サント欲スルトキハ第千一条第一項ノ期間内ニ財産目録ヲ調製シテ之ヲ相続開始地ノ裁判所ニ提出シ限定承認ヲ為ス旨ヲ申述スルコトヲ要ス 第千十五条 相続人カ限定承認ヲ為シタルトキハ其被相続人ニ対シテ有セシ権利義務ハ消滅セサリシモノト看做ス 第千十六条 限定承認者ハ其固有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ノ管理ヲ継続スルコトヲ要ス 第六百四十五条、第六百四十六条及ヒ第六百五十条第一項、第二項ノ規定ハ限定承認者ト相続債権者及ヒ受遺者トノ間ニ之ヲ準用ス 第千十七条 限定承認者ハ限定承認ヲ為シタル後五日内ニ一切ノ相続債権者及ヒ受遺者ニ対シ限定承認ヲ為シタルコト及ヒ一定ノ期間内ニ其請求ノ申出ヲ為スヘキ旨ヲ公告スルコトヲ要ス但其期間ハ二个月ヲ下ルコトヲ得ス 第七十九条第二項及ヒ第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第千十八条 限定承認者ハ前条第一項ノ期間終了前ニハ相続債権者及ヒ受遺者ニ対シテ弁済ヲ拒ムコトヲ得 第千十九条 第千十七条第一項ノ期間ノ終了シタルトキハ限定承認者ハ相続財産ヲ以テ其期間内ニ申出テタル債権者但其知レタル債権者ニ各其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ為スコトヲ要ス但優先権ヲ有スル債権者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 金銭以外ノ相続財産ハ之ヲ競売シテ其代価ヲ配当ス 限定承認者モ亦配当ニ加入シテ其債権ノ弁済ヲ受クルコトヲ得 第千二十条 限定承認者ハ弁済期ノ未タ至ラサル債権ト雖モ前条ノ規定ニ依リテ之ヲ弁済スルコトヲ要ス 条件附債権ニ付テハ限定承認者ハ裁判所ニ鑑定人ノ選定ヲ請求シ其鑑定人ノ評価ニ従ヒ之ヲ弁済スルコトヲ要ス 第千二十一条 限定承認者ハ前二条ノ規定ニ依リテ各債権者ニ弁済ヲ為シタル後ニ非サレハ受遺者ニ弁済ヲ為スコトヲ得ス 第千二十二条 限定承認者カ第千十七条ニ定メタル公告若クハ催告ヲ為スコトヲ怠リ又ハ其期間内ニ或債権者又ハ受遺者ニ弁済ヲ為シタルニ因リテ他ノ債権者又ハ受遺者ニ弁済ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ被害者ニ対シ自己ノ財産ヲ以テ其損害ヲ賠償スル責ニ任ス債権者又ハ受遺者ニ不相当ノ弁済ヲ為シ又ハ前条ノ規定ニ反シ債権者ニ完済ヲ為ス前ニ於テ受遺者ニ弁済ヲ為シタルトキ亦同シ 前項ノ規定ハ事情ヲ知リテ不当ニ弁済ヲ受ケタル債権者又ハ受遺者ニ対スル他ノ債権者又ハ受遺者ノ求償権ヲ妨ケス但此求償権ハ損害ヲ受ケタルコトヲ知リタル時ヨリ六个月内ニ之ヲ行フコトヲ要ス 第千二十三条 第千十七条第一項ノ期間内ニ申出テサリシ債権者及ヒ受遺者ハ残余財産ニ付テノミ其権利ヲ行フコトヲ得但相続財産ニ付キ優先権ヲ有スル者ハ此限ニ在ラス 第千二十四条 相続債権者及ヒ受遺者ハ自己ノ費用ヲ以テ相続財産ノ競売ニ参加スルコトヲ得此場合ニ於テハ第二百六十条第二項ノ規定ヲ準用ス 第三節 抛棄 第千二十五条 相続ノ抛棄ヲ為サント欲スル者ハ相続開始地ノ裁判所ニ其旨ヲ申述スルコトヲ要ス 第千二十六条 相続ノ抛棄ハ相続開始ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス 家族ノ遺産相続人数人アル場合ニ於テ其一人カ抛棄ヲ為シタルトキハ其抛棄シタル相続部分ハ他ノ相続人ノ相続部分ニ応シテ之ニ帰属ス 第千二十七条 相続ノ抛棄ヲ為シタル者ハ其抛棄ニ因リテ相続人ト為ル者カ相続財産ノ管理ヲ始ムルマテ自己ノ財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ其財産ノ管理ヲ継続スルコトヲ要ス 第六百四十五条、第六百四十六条及ヒ第六百五十条第一項、第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス