明治民法(明治29・31年)

甲第五十四号議案 (明治二十九年一月十一日配付)

参考原資料

第四編 第五章 親権 第一節 総則 第八百九十条 未成年ノ子ハ其家ニ在ル父ノ親権ニ服ス 父カ知レサルトキ、死亡シタルトキ又ハ親権ヲ行フコト能ハサルトキハ其家ニ在ル母之ヲ行フ 第八百九十一条 継父継母又ハ嫡母カ親権ヲ行フ場合ニ於テハ次章ノ規定ヲ準用ス 第二節 親権ノ効力 第八百九十二条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ其子ノ監護及ヒ教育ヲ為ス権利ヲ有シ義務ヲ負フ 第八百九十三条 子ハ親権ヲ行フ父又ハ母カ指定シタル場所ニ其居所ヲ定ムルコトヲ要ス 第八百九十四条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ必要ナル範囲内ニ於テ自ラ其子ヲ懲戒シ又ハ裁列所ノ許可ヲ得テ之ヲ相当ノ懲戒場ニ入ルルコトヲ得 子ヲ懲戒場ニ入ルル期間ハ六个月以下ノ範囲内ニ於テ裁判所之ヲ定ム但此期間ハ父又ハ母ノ請求ニ因リ何時ニテモ之ヲ短縮スルコトヲ得 第八百九十五条 子ハ親権ヲ行フ父又ハ母ノ許可ヲ得ルニ非サレハ職業ヲ営ミ又ハ兵役ヲ出願スルコトヲ得ス 第八百九十六条 親権ヲ行フ父又ハ母カ其子ニ職業ヲ営ムコトヲ許シ又ハ其許可ヲ取消シ若クハ之ヲ制限スルニハ親族会ノ認許ヲ得ルコトヲ要ス 第八百九十七条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ子ノ財産ヲ管理シ又其財産ニ関スル法律行為ニ付キ其子ヲ代表シ又ハ之ニ同意ヲ与フ 第八百九十八条 子ハ其配偶者ノ財産ヲ管理スヘキ場合ニ於テハ親権ヲ行フ父又ハ母ニ代ハリテ其財産ヲ管理ス 第八百九十九条 親権ヲ行フ父又ハ母カ子ニ代ハリテ左ニ掲ケタル行為ヲ為シ又ハ子ノ之ヲ為スコトニ同意スルニハ親族会ノ認許ヲ得ルコトヲ要ス 一 借財又ハ保証ヲ為スコト 二 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル権利ノ喪失ヲ目的トスル行為ヲ為スコト 三 不動産又ハ重要ナル動産ニ関スル和解又ハ仲裁契約ヲ為スコト 四 相続ヲ放棄スルコト 五 遺贈又ハ贈与ヲ拒絶スルコト 第九百条 親権ヲ行フ父又ハ母ト其子ト利益相反スル行為ニ付テハ父又ハ母ハ其子ノ為メニ特別代理人ヲ選任センコトヲ親権会ニ請求スルコトヲ得父又ハ母カ数人ノ子ニ対シテ親権ヲ行フ場合ニ於テ其一人ト他ノ子ト利益相反スル行為ニ付キ亦同シ 第九百一条 親権ヲ行フ父又ハ母カ其権限ヲ超エテ為シタル行為ハ父若クハ母又ハ子ニ於テ之ヲ取消スコトヲ得此場合ニ於テハ第十九条ノ規定ヲ準用ス 前項ノ規定ハ第百二十一条乃至第百二十六条ノ適用ヲ妨ケス 第九百二条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ自己ノ為メニスルト同一ノ注意ヲ以テ財産ノ管理ヲ為スコトヲ要ス 第九百三条 子カ成年ニ達シタルトキハ親権ヲ行ヒタル父又ハ母ハ遅滞ナク其管理ノ計算ヲ為スコトヲ要ス 第九百四条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ子ノ財産ノ収益ト其子ノ扶養、教育及ヒ財産ノ管理ノ費用ト之ヲ相殺スルコトヲ得 第九百五条 前条ノ規定ハ無償ニテ子ニ財産ヲ与フル者カ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ其財産ニ付テハ之ヲ適用セス 第九百六条 無償ニテ子ニ財産ヲ与フル者カ親権ヲ行フ父又ハ母ヲシテ之ヲ管理セシメサル意思ヲ表示シタルトキハ其財産ハ父又ハ母ノ管理ニ属セサルモノトス 前項ノ場合ニ於テ第三者カ管理者ヲ指定セサリシトキハ裁判所ハ子、其親族又ハ検事ノ請求ニ因リ其管理者ヲ選定ス 第三者カ管理者ヲ指定セシトキト雖モ其管理者ノ権限カ消滅シ又ハ之ヲ改任スル必要アル場合ニ於テ第三者カ更ニ管理者ヲ指定セス又ハ之ヲ指定スルコト能ハサルトキ亦同シ 第二十七条乃至第二十九条ノ規定ハ前二項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第九百七条 前条ノ規定ニ依リ父又ハ母カ管理セサル財産ニ付テハ第九百四条ノ規定ヲ適用セス 第九百八条 第六百五十三条及ヒ第六百五十四条ノ規定ハ父又ハ母ノ管理権ニ之ヲ準用ス 第九百九条 親権ヲ行ヒタル父又ハ母ト其子トノ間ニ財産ノ管理ニ付テ生シタル債権ハ其管理権消滅ノ時ヨリ五年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス 前項ノ期間ハ子カ未タ成年ニ達セサル間ニ管理権カ消滅シタルトキハ其子カ成年ニ達シ又ハ後任ノ法定代理人カ就職シタル時ヨリ之ヲ起算ス 第九百十条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ其子ニ代ハリテ戸主権又ハ親権ヲ行フ 第三節 親権ノ喪失 第九百十一条 父又ハ母カ其子ニ対シ刑法第三百四十六条乃至第三百四十九条又ハ第三百五十二条ノ罪ヲ犯シ刑ニ処セラレタルトキハ其子ニ対スル親権ヲ失フ 第九百十二条 父又ハ母カ親権ヲ濫用シ又ハ著シク不行跡ナルトキハ裁判所ハ子ノ親族又ハ検事ノ請求ニ因リ其親権ノ喪失ヲ宣告スルコトヲ得 第九百十三条 親権ヲ行フ父又ハ母カ管理ノ失当ニ因リ其子ノ財産ヲ危クシタルトキハ裁判所ハ子ノ親族又ハ検事ノ請求ニ因リ其管理権ノ喪失ヲ宣告スルコトヲ得 第九百十四条 親権ヲ行フ母ハ財産ノ管理ヲ辞スルコトヲ得 第九百十五条 前二条ノ場合ニ於テハ父又ハ母ハ第九百四条ニ定メタル利益ヲ失フ