第三編 債権
第一章 総則
第一節 債権ノ目的
第三百九十七条 債権ハ金銭ニ見積ルコトヲ得サルモノト雖モ之ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得
第三百九十八条 債権ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ債務者ハ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ其物ヲ保存シ且其引渡ヲ為スヘキ時ノ現状ニテ之ヲ引渡スコトヲ要ス
第三百九十九条 債権ノ目的タル特定物カ債務者ノ過失ニ因ラスシテ滅失又ハ毀損シタルトキハ其滅失又ハ毀損ハ債権者ノ負担ニ帰ス但債務者カ其危険ヲ負担シタル場合ハ此限ニ在ラス
第四百条 債権ノ目的物ヲ指示スルニ種類ノミヲ以テシタル場合ニ於テ法律行為ノ性質又ハ当事者ノ意思ニ依リテ其品質ヲ定ムルコト能ハサルトキハ債務者ハ其種類ニ属スル物ニ付キ中等ノ品質ヲ有スルモノヲ選定シテ之ヲ給付スルコトヲ要ス
第四百一条 債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ債務者ハ其選択ニ依リ強制通用ノ効力ヲ有スル各種ノ貨幣又ハ紙幣ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得但特種ノ貨幣又ハ紙幣ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ハ此限ニ在ラス債権ノ目的タル特種ノ貨幣又ハ紙幣カ弁済期ニ於テ強制通用ノ効力ヲ失ヒタルトキハ債務者ハ強制通用ノ効力ヲ有スル他ノ貨幣又ハ紙幣ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ要ス
前二項ノ規定ハ外国ノ貨幣又ハ紙幣ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百二条 外国ノ貨幣又ハ紙幣ヲ以テ債権額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ履行地ニ於ケル為替相場ニ依リ日本ノ貨幣又ハ紙幣ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百三条 利息ヲ生スヘキ債権ニ付キ別段ノ定ナキトキハ其利率ハ年五分トス
第四百四条 利息カ一年分以上延滞シタル場合ニ於テ債権者ヨリ催告ヲ為スモ債務者カ其利息ヲ払ハサルトキハ債権者ハ之ヲ元本ニ組入ルルコトヲ得
第二節 債権ノ効力
第一款 履行
第四百五条 債務ヲ履行スヘキ場所ニ付キ別段ノ定ナキトキハ特定物ノ引渡ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ履行ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
第四百六条 債務ヲ履行スヘキ時期ニ付キ別段ノ定ナキトキハ債権者ハ何時ニテモ其履行ヲ請求スルコトヲ得
第四百七条 履行ノ費用ニ付キ別段ノ定ナキトキハ其費用ハ債務者之ヲ負担ス但債権者カ住所ノ移転其他ノ所為ニ因リテ履行ノ費用ヲ増加シタルトキハ其増加額ハ債権者之ヲ負担スルコトヲ要ス
第四百八条 債務者カ債務ノ履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ強制履行ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス
債務ノ性質カ強制履行ヲ許ササル場合ニ於テ其債務カ作為ヲ目的トスルトキハ債権者ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ為サシムルコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
不作為ヲ目的トスル債務ニ付テハ債務者ノ費用ヲ以テ其為シタルモノヲ除却シ且将来ノ為メ適当ノ処分ヲ為スコトヲ請求スルコトヲ得
前三項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス
第二款 賠償
第四百九条 債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得但其不履行カ債務者ノ責ニ帰スヘカラサルトキハ此限ニ在ラス
第四百十条 損害賠償ノ請求ハ通常ノ場合ニ於テ債務ノ不履行ヨリ生スヘキ損害ノ賠償ヲ為サシムルヲ以テ目的トス
当事者カ始ヨリ予見シ又ハ予見スルコトヲ得ヘカリシ損害ニ付テハ特別ノ事情ヨリ生シタルモノト雖モ其賠償ヲ請求スルコトヲ得
第四百十一条 損害賠償ハ金銭ヲ以テ裁判所其額ヲ定ム
第四百十二条 債務ノ不履行ニ関シ債権者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ責任及ヒ其金額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス
第四百十三条 当事者ハ債務ノ不履行ニ付キ損害賠債ノ額ヲ予定スルコトヲ得此場合ニ於テハ裁判所其額ヲ増減スルコトヲ得ス
賠償額ノ予定ハ履行又ハ解除ノ請求ヲ妨ケス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百十四条 前条ノ規定ハ当事者カ金銭ニ非サルモノヲ以テ損害ノ賠償ニ充ツヘキ旨ヲ予定シタル場合ニ之ヲ準用ス
第四百十五条 金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依リテ之ヲ定ム
前項ノ場合ニ於テハ債権者ハ損害ノ証明ヲ為スコトヲ要セス又債務者ハ不可抗力ヲ以テ其抗弁ト為スコトヲ得ス
第四百十六条 他人ノ物ヲ喪失シ若クハ之ヲ抑留セシメ又ハ他人ノ権利ノ行使ヲ妨碍シタルニ因リテ損害賠償ノ責ニ任スル者カ其物又ハ其権利ノ価格ニ対スル賠償ヲ完済シタルトキハ其物又ハ其権利ニ関シ当然債権者ニ代位スルモノトス
第三款 第三者ニ対スル債権者ノ権利
第四百十七条 債権ハ当事者及ヒ其他ノ包括承継人ノ間ニ非サレハ其効力ヲ有セス但別段ノ定アルトキハ此限ニ在ラス
第四百十八条 債権者ハ自己ノ債権ヲ保護スル為メ其債務者ニ属スル権利ヲ行フコトヲ得但債務者ノ一身ニ専属スル権利ハ此限ニ在ラス
債権者ハ其債権ノ期限カ到来セサル間ハ裁判上ノ代位ニ依ルニ非サレハ前項ノ権利ヲ行フコトヲ得ス但保存行為ハ此限ニ在ラス
第四百十九条 債権者ハ債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル法律行為ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
前項ノ請求ハ債務者ノ行為ニ因リテ利益ヲ受ケタル者又ハ其転得者ニ対シテ之ヲ為ス但債務者及ヒ転譲者ヲ其訴訟ニ参加セシムルコトヲ要ス
第四百二十条 前条ノ規定ニ依リ取消スコトヲ得ヘキ行為ハ其受益者又ハ転得者カ其行為又ハ転得ノ当時債権者ヲ害スヘキ事実ヲ知リタルニ非サレハ其取消ヲ請求スルコトヲ得ス
第四百二十一条 前条ノ規定ニ依リテ為シタル取消ハ総債権者利益ノ為メニ其効力ヲ生ス
第四百二十二条 第四百十九条ノ取消権ハ債権者カ取消ノ原因ヲ覚知シタル時ヨリ二年ヲ経過シタルトキハ時効ニ因リテ消滅ス
行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキハ右ノ取消権ハ前項ノ規定ニ係ラス消滅ス