第二編
第十章 抵当権
第一節 総則
第三百六十四条 抵当権者ハ債務者又ハ第三者カ占有ヲ移サスシテ債務ノ担保ニ供シタル不動産ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス
地上権及ヒ永小作権モ亦之ヲ抵当権ノ目的ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ本章ノ規定ヲ準用ス
第三百六十五条 抵当権ハ其目的タル不動産ニ附加シテ之ト一体ヲ成シタル物ニ及フ但設定行為ニ別段ノ定アルトキ及ヒ第(ママ)条ノ規定ニ依リ債権者カ債務者ノ行為ヲ取消スコトヲ得ル場合ハ此限ニ在ラス
第三百六十六条 前条ノ規定ハ之ヲ果実ニ適用セス但不動産ノ差押ノ後又ハ第三取得者カ第三百七十七条ノ通知ヲ受ケタル後ハ此限ニ在ラス
第三取得者カ第三百七十七条ノ通知ヲ受ケタルトキハ其後一年内ニ不動産ノ差押アリタル場合ニ限リ前項ノ規定ニ依ル
第三百六十七条 第三百四条、第三百五条、第三百四十五条及ヒ第三百四十六条ノ規定ハ抵当権ニ之ヲ準用ス
第二節 抵当権ノ効力
第三百六十八条 数箇ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ設定シタルトキハ其抵当権ノ順位ハ登記ノ前後ニ依ル
第三百六十九条 抵当権者カ利息其他ノ定期金ヲ請求スル権利ヲ有スルトキハ其満期ト為リタル最終ノ二年分ニ付テノミ其抵当権ヲ行フコトヲ得但其余ノ定期金ニ付テモ満期後特別ノ登記ヲ為ストキニ限リ其登記ノ時ヨリ抵当権ヲ行フコトヲ妨ケス
第三百七十条 抵当権者ハ其抵当権ヲ以テ他ノ債権ノ担保ト為シ又同一ノ債務者ニ対スル他ノ債権者ノ利益ノ為メ其抵当権ヲ放棄シ又ハ其順位ノミヲ譲渡シ若クハ放棄スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ数人ニ対シ抵当権ノ処分ヲ為シタルトキハ其権利ノ順位ハ抵当権ノ登記ニ附記ヲ為シタル前後ニ依ル
第三百七十一条 前条ノ場合ニ於テハ債権譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ主タル債務者ニ抵当権ノ処分ヲ通知シ又ハ其債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ其債務者、保証人、抵当権設定者及ヒ其承継人ニ対抗スルコトヲ得ス
主タル債務者カ前項ノ通知ヲ受ケ又ハ承諾ヲ為シタルトキハ其処分ノ利益ヲ受クル者ノ承諾ナクシテ為シタル弁済ハ之ヲ以テ其受益者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百七十二条 抵当権ノ登記後ニ抵当不動産ニ付キ物権ヲ取得シタル第三者カ抵当権者ニ弁済シタルトキハ他ノ債権者ニ対シテ其抵当権者ノ権利ヲ行フコトヲ得
第三百七十三条 抵当不動産ニ付キ所有権又ハ地上権ヲ買受ケタル第三者カ抵当権者ノ請求ニ応シテ其代価ヲ弁済シタルトキハ抵当権ハ其第三者ノ為メニ消滅ス
第三百七十四条 抵当不動産ニ付キ所有権、地上権又ハ永小作権ヲ取得シタル第三者ハ下ノ規定ニ従ヒ抵当権者ノ承諾ヲ得タル金額ヲ払渡シ又ハ供託シテ抵当権ヲ滌除スルコトヲ得
第三百七十五条 主タル債務者、保証人及ヒ其承継人ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス
第三百七十六条 停止条件附第三取得者ハ条件未定ノ間ハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス
第三百七十七条 抵当権者カ其抵当権ヲ実行セント欲スルトキハ予メ第三百七十四条ノ第三取得者ニ其旨ヲ通知スルコトヲ要ス
第三百七十八条 第三取得者ハ前条ノ通知ヲ受クルマテハ何時ニテモ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得
第三取得者カ前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ一个月内ニ次条ノ送達ヲ為スニ非サレハ抵当権ノ滌除ヲ為スコトヲ得ス
前条ノ通知後ニ第三百七十四条ニ掲クル権利ヲ取得シタル第三者モ亦前項ノ期間内ニ次条ノ送達ヲ為スコトヲ要ス
第三百七十九条 第三取得者カ抵当権ノ滌除ヲ為サント欲スルトキハ登記ヲ為シタル各債権者ニ左ノ書面ヲ送達スルコトヲ要ス
一 取得ノ原因、年月日、登記ノ年月日、譲渡人及ヒ取得者ノ氏名、住所、抵当不動産ノ性質、所在及ヒ代価其他取得者ノ負担ヲ指示スル書面
二 抵当不動産ニ関スル登記簿ノ謄本但既ニ消滅シタル権利ニ関スル登記ハ之ヲ掲クルコトヲ要セス
三 債権者カ一个月内ニ次条ノ規定ニ従ヒ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ハ第一号ニ掲クル代価又ハ其指定スル金額ヲ債権ノ順位ニ従ヒテ弁済又ハ供託スヘキ旨ヲ記載スル書面
第三百八十条 債権者カ前条ノ送達ヲ受ケタルヨリ一个月内ニ増価競売ヲ請求セサルトキハ第三取得者ノ提供ヲ承諾シタルモノト看做ス
増価競売ハ若シ競売ニ於テ第三取得者カ提供シタル金額ヨリ十分一以上高価ニ抵当不動産ヲ売却スルコト能ハサルトキハ十分一ノ高価ヲ以テ自ラ其不動産ヲ買受クヘキ旨ヲ附言シ第三取得者ニ対シテ之ヲ請求スルコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テハ其代価及ヒ費用ニ付キ担保ヲ供スルコトヲ要ス
第三百八十一条 債権者カ増価競売ヲ請求スルトキハ前条ノ期間内ニ債務者及ヒ譲渡人ニ之ヲ通知スルコトヲ要ス
第三百八十二条 増価競売ヲ請求シタル債権者ハ登記ヲ為シタル他ノ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ其請求ヲ取消スコトヲ得ス
第三百八十三条 第三取得者カ第三百七十八条ニ定ムル期間内ニ債務ノ弁済又ハ滌除ノ通知ヲ為ササルトキハ抵当権者ハ抵当不動産ノ競売ヲ請求スルコトヲ得
第三百八十四条 第三取得者ハ競買人ト為ルコトヲ得
第三取得者カ競落人ト為リタルトキハ之ヲ其取得ノ登記ニ附記スルコトヲ要ス
第三百八十五条 第三取得者ニ非サル者カ競落人ト為リタルトキハ第三取得者ハ其取得前ニ不動産ノ上ニ有セシ権利ヲ失ハス
第三百八十六条 第三取得者カ抵当不動産ニ必要費又ハ有益費ヲ加ヘタルトキハ第百九十六条ノ区別ニ従ヒ不動産ノ代価ヲ以テ最モ先ニ其償還ヲ受クルコトヲ得
第三百八十七条 債権者カ数箇ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ有スル場合ニ於テ同時ニ其代価ヲ配当スヘキトキハ其各不動産ノ価額ニ準シ其債権ノ負担ヲ分配ス
前項ノ場合ニ於テ或不動産ノ代価ノミヲ配当スヘキトキハ抵当権者ハ其代価ニ付キ債権全額ノ弁済ヲ受クルコトヲ得此場合ニ於テハ次ノ順位ニ在ル抵当権者ハ前項ノ規定ニ従ヒ右ノ抵当権者カ他ノ不動産ニ付キ弁済ヲ受クヘキ金額ニ満ツルマテ之ニ代位シテ抵当権ヲ行フコトヲ得
第三百八十八条 前条ノ規定ニ従ヒ代位ニ因リテ抵当権ヲ行フ者ハ其抵当権ノ登記ニ其代位ヲ附記スルコトヲ得
登記官吏カ代価ノ配当ヲ了ヘタル不動産ニ付キ登記抹消ノ請求ヲ受ケタルトキハ其抹消ヲ為スト同時ニ代位ノ附記ヲ為スコトヲ要ス
第三百八十九条 抵当権者ハ抵当不動産ノ代価ヲ以テ弁済ヲ受ケサル部分ニ付テノミ他ノ財産ニ付キ其債権ノ弁済ヲ受クルコトヲ得
前項ノ規定ハ抵当不動産ノ代価ニ先チテ他ノ財産ノ代価ヲ配当スヘキ場合ニハ之ヲ適用セス但他ノ各債権者ハ抵当権者ヲシテ前項ノ規定ニ従ヒ弁済ヲ受ケシムル為メ之ニ配当スヘキ金額ノ供託ヲ請求スルコトヲ得
第三節 抵当権ノ消滅
第三百九十条 第(ママ)条ニ定メタル期間ヲ超エサル賃貸借ハ抵当権ノ登記後ニ登記シタルモノト雖モ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得
第三百九十一条 抵当権ハ債務者及ヒ抵当権設定者ニ対シテハ債権ト同時ニ非サレハ時効ニ因リテ消滅セス
第三百九十二条 債務者又ハ抵当権設定者ニ非サル者カ抵当不動産ニ付キ取得時効ニ必要ナル条件ヲ具備シタル占有ヲ為ストキハ抵当権ハ之ニ因リテ消滅ス
第三百九十三条 地上権又ハ永小作権ヲ抵当ト為シタル者カ其権利ヲ放棄スルモ之ヲ以テ抵当権者ニ対抗スルコトヲ得ス