第二編
第九章 質権
第一節 総則
第三百四十条 質権者ハ其債権ノ担保トシテ債務者又ハ第三者ヨリ受ケタル物ヲ占有シ且其物ニ付キ他ノ債権者ニ先チテ自己ノ債権ノ弁済ヲ受クル権利ヲ有ス
第三百四十一条 質権ハ債権者ニ其目的物ノ引渡ヲ為スニ因リテ之ヲ設定ス
第三百四十二条 質権ハ設定行為ニ別段ノ定ナキトキハ元本、利息、違約金、債務弁済ノ請求費、質権実行ノ費用、質物ノ保存費及ヒ債務ノ不履行又ハ質物ノ隠レタル瑕疵ヨリ生シタル損害ノ賠償ヲ担保ス
第三百四十三条 質権者ハ前条ニ掲ケタル債権ノ弁済ヲ受クルマテハ質物ヲ留置スルコトヲ得但其債権ノ弁済期ニ在ルト否トヲ問ハス自己ニ対シテ優先権ヲ有スル債権者ノ為メニスル質物ノ差押、仮差押、仮処分及ヒ競売ヲ拒ムコトヲ得ス
第二百九十六条乃至第二百九十九条ノ規定ハ質権ニモ亦之ヲ適用ス
第三百四十四条 質権者ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ転質ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ転質ヲ為ササレハ生セサルヘキ不可抗力ニ因ル損失ニ付テモ亦其責ニ任ス
第三百四十五条 質物カ毀損シ又ハ著シク其価格ヲ滅スル虞アルトキハ質権者ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ他ノ担保物ヲ供スヘキ旨ヲ質権設定者ニ請求スルコトヲ得若シ質権設定者カ其期間内ニ他ノ担保物ヲ供セサルトキハ質権者ハ質物ノ競売ヲ請求スルコトヲ得
前項ノ場合ニ於テ遅滞ノ為メ担保ヲ失フ危険アルトキハ質権者ハ直ニ競売ヲ請求スルコトヲ得
第三百四十六条 第三百四条及ヒ第三百五条ノ規定ハ質権ニモ亦之ヲ適用ス
第三百四十七条 質権ヲ以テ担保セル債権及ヒ質物ノ所有権カ同一ノ人ニ帰スルトキハ質権ハ消滅ス但其債権又ハ質物カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス
第三百四十八条 他人ノ債務ヲ担保スル為メ質権ヲ設定シタル者カ債権者ニ弁済シ又ハ質権ノ実行ニ因リテ質物ノ所有権ヲ失ヒタルトキハ保証債務ニ関スル規定ニ従ヒ債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス
第二節 動産質
第三百四十九条 動産質権者ハ継続シテ質物ヲ占有スルニ非サレハ其質権ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス但第二百一条ノ規定ニ従ヒ占有回収ノ訴ヲ提起スルコトヲ妨ケス
第三百五十条 第百九十二条乃至第百九十五条ノ規定ハ動産質ニ之ヲ準用ス
第三百五十一条 動産質権者カ其債権ノ弁済ヲ受ケサルトキハ正当ノ理由アル場合ニ限リ鑑定人ノ評価ニ従ヒ質物ヲ以テ弁済ニ充ツルコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但予メ債務者ニ其請求ヲ通知スルコトヲ要ス
第三百五十二条 数個ノ債権ヲ担保スル為メ同一ノ動産ニ付キ質権ヲ設定シタルトキハ其質権ノ順位ハ設定ノ前後ニ依ル
第三節 不動産質
第三百五十三条 不動産質権者ハ其権利ノ存続期間内ニ於テ其不動産ノ用方ニ従ヒ使用又ハ収益ヲ為スコトヲ得
第三百五十四条 不動産質権者カ自ラ不動産ヲ使用スル場合ニ於テハ其不動産ノ負担及ヒ管理ノ費用ヲ払フコトヲ要ス
前項ノ場合ニ於テ質権者ハ其債権ノ利息ヲ請求スルコトヲ得ス
第三百五十五条 不動産カ果実ヲ生スル場合ニ於テハ質権者ハ其果実ヨリ不動産ノ負担及ヒ管理ノ費用ヲ控除シ其残額ヲ以テ第二百九十六条ノ規定ニ従ヒ債権ノ弁済ニ充当スルコトヲ得
田畑山林ノ質ニ付テハ果実ト利息トハ計算セスシテ相殺シタルモノト推定ス
第三百五十六条 前三条ノ規定ハ設定行為ニ別段ノ定アルトキハ之ヲ適用セス
第三百五十七条 不動産質権者ハ其不動産ノ売却代金ニ付キ抵当債権者ト同一ノ権利ヲ有ス
第三百五十八条 不動産質ノ存続期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ不動産質ヲ設定シタルトキハ其期間ハ之ヲ十年ニ短縮ス
不動産質ノ設定ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間ハ更新ノ時ヨリ十年ヲ超ユルコトヲ得ス
第四節 権利質
第三百五十九条 質権ハ権利ノ上ニモ之ヲ設定スルコトヲ得
前項ノ質権ニ付テハ本節ノ規定ノ外第一節ノ規定ヲ準用ス
第三百六十条 質権ノ目的タル債権ノ証券アルトキハ質権ハ其証券ノ交付ヲ為スニ因リテ之ヲ設定ス
第三百六十一条 記名債権ヲ以テ質権ノ目的トシタルトキハ債権譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ第三債務者ニ其設定ヲ通知シ又ハ第三債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ第三債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百六十二条 会社ノ記名株式又ハ社債ヲ以テ質権ノ目的トシタルトキハ株式又ハ社債ノ譲渡ニ関スル規定ニ従ヒ之ヲ会社ニ通知シ其帳簿ニ記入スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ会社其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百六十三条 手形其他裏書ニ依リテ譲渡スコトヲ得ヘキ債権ヲ以テ質権ノ目的トシタルトキハ其証券ニ質権設定ノ旨ヲ裏書スルニ非サレハ質権者ハ其質権ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百六十四条 質権者ハ質権ノ目的タル債権ヲ直接ニ取立ツルコトヲ得
債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ質権者ハ自己ノ債権額ニ対スル部分ニ非サレハ之ヲ取立ツルコトヲ得ス
右ノ債権ノ期限カ質権者ノ債権ノ期限前ニ到来シタルトキハ第三債務者ハ其弁済金額ヲ供託スルコトヲ要ス
債権ノ目的物カ金銭ニ非サルトキハ質権者ハ弁済トシテ受ケタル物ノ上ニ質権ヲ有ス
第三百六十五条 質権者ハ前条ノ規定ニ依ル外民事訴訟法ニ定ムル執行方法ニ依リテ質権ノ実行ヲ為スコトヲ得