明治民法(明治29・31年)

甲第十二号議案 (明治二十七年六月五日配付)

参考原資料

第二編 第三章 所有権 第一節 所有権ノ限界 第二百九条 所有者ハ法令ノ制限内ニ於テ自由ニ其所有物ノ使用、収益及ヒ処分ヲ為ス権利ヲ有ス 第二百十条 土地ノ所有権ハ法令ノ制限内ニ於テ其土地ノ上下ニ及フ 第二百十一条 数人ニテ一棟ノ建物ヲ区分シ各其一部分ヲ所有スルトキハ建物及ヒ其附属物ノ共用部分ハ其共有ニ属ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 諸般ノ租税及ヒ共用部分ノ修繕費ハ各自ノ所有部分ノ価格ニ応シテ之ヲ負担ス 第二百十二条 土地ノ所有者ハ疆界又ハ其近傍ニ於テ墻壁若クハ建物ヲ築造又ハ修繕スル為メ必要ナルトキハ隣地ニ立入ルコトヲ得但隣人ノ承諾アルニ非サレハ其住家ニ立入ルコトヲ得ス 前項ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ得 第二百十三条 或土地カ他ノ土地ニ囲繞セラレテ公路ニ通セサルトキハ其土地ノ所有者ハ公路ニ至ル為メ囲繞地ヲ通過スルコトヲ得池沼、河渠若クハ海洋ニ由ルニ非サレハ他ニ通スルコト能ハス又ハ崖岸アリテ土地ト公路ト著シキ高低ヲ為ストキ亦同シ 第二百十四条 前条ノ場合ニ於テ通行ノ場所及ヒ方法ハ通行権ヲ有スル所有者ノ為メニ必要ナルモノニ限ル 通行権ヲ有スル所有者ハ必要アルトキハ通路ヲ開設スルコトヲ得 第二百十五条 通行権ヲ有スル所有者ハ通行地ノ損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス但通路開設ノ為メニ生スル損害ニ対スルモノノ外年年其償金ヲ払フコトヲ得 第二百十六条 分割ニ因リ公路ニ通セサル土地ヲ生シタルトキハ其土地ノ所有者ハ公路ニ至ル為メ共同分割者ノ所有地ノミヲ経過スルコトヲ得同一所有者ニ属スル土地ノ一部ヲ譲渡シタルトキ亦同シ 前項ノ場合ニ於テハ償金ヲ払フコトヲ要セス 第二百十七条 土地ノ所有者ハ隣地ヨリ水ノ自然ニ流レ来ルヲ妨クルコトヲ得ス 第二百十八条 堤防其他水ヲ湛フル工作物ノ破潰ニ因リ又ハ水樋、溝渠ノ阻塞ニ因リ隣地ノ水量ヲ増シタルトキハ其所有者ヲシテ修繕ヲ為サシメ又必要アルトキハ新ニ堤防ヲ設ケシムルコトヲ得 事変ニ因リ低地ニ於テ水流ノ阻塞シタルトキハ高地ノ所有者ハ自費ヲ以テ其疏通ニ必要ナル工事ヲ為スコトヲ得 前二項ノ場合ニ於テ工事ノ費用ハ其利益ヲ受クヘキ所有者之ヲ分担スル慣習アルトキハ其慣習ニ従フ 第二百十九条 土地ノ所有者ハ雨水ヲシテ隣地ニ急注セシムヘキ屋根其他ノ工作物ヲ疆界又ハ其近傍ニ設クルコトヲ得ス 第二百二十条 溝渠其他ノ水流地ノ所有者ハ其水路ヲ変スルコトヲ得ス 水流ノ通過スル土地ノ所有者ハ其水路ヲ変スルコトヲ得但其下ロニ於テ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス 第二百二十一条 高地ノ所有者ハ湿地ヲ乾カス為メ又ハ家用若クハ農工業用ノ余水ヲ排泄スル為メ公路、公流又ハ下水道ニ至ルマテ低地ニ水ヲ通過セシムルコトヲ得但家用又ハ農工業用ノ為メニ不潔ト為リタル水ハ之ヲ地下ニ通過セシムルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ拠リ水ヲ通過セシムルニハ低地ノ為メニ最モ損害少ナキ場所ヲ選フコトヲ要ス 第二百二十二条 土地ノ所有者ハ其所有地ノ水ヲ通過セシムル為メ高地又ハ低地ノ所有者カ為シタル工作物ヲ使用スルコトヲ得 前項ノ場合ニ於テ他人ノ工作物ヲ使用スル者ハ其利益ヲ受クル割合ニ応シテ工作物ノ築造及ヒ保存ノ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十三条 水流地ノ所有者ハ堰ヲ設クルノ需用アルトキハ其堰ヲ対岸ニ支持セシムルコトヲ得但之ヨリ生スル損害ニ対シテ償金ヲ払フコトヲ要ス 対岸ノ所有者ハ水流地ノ一部カ其所有ニ属スルトキハ右ノ堰ヲ使用スルコトヲ得但前条ノ規定ニ従ヒ費用ヲ分担スルコトヲ要ス 第二百二十四条 土地ノ所有者ハ隣地ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ疆界ヲ標示スヘキ物ヲ設クルコトヲ得 界標カ正当ノ位置ニ在ラサルトキハ之ヲ改置スルコトヲ得 第二百二十五条 界標ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス但測量ノ費用ハ其土地ノ広狭ニ応シテ之ヲ分担ス 界標改置ノ費用ハ相隣者ノ一人ニ過失アルトキハ其過失者ノミ之ヲ負担ス 第二百二十六条 二棟ノ建物カ其所有者ヲ異ニシ且其間ニ空地アルトキハ各所有者ハ他ノ所有者ト共同ノ費用ヲ以テ其疆界ニ囲障ヲ設クルコトヲ得 当事者ノ協議整ハサルトキハ前項ノ囲障ハ板屏又ハ竹垣ニシテ高サ六尺タルコトヲ要ス 第二百二十七条 囲障ノ設置及ヒ保存ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス 第二百二十八条 相隣者ノ一人ハ第二百二十六条第二項ニ定メタル材料ヨリ良好ナルモノヲ用ヰ又ハ高サヲ増シテ囲障ヲ設クルコトヲ得但之ニ因リテ生スル費用ノ増額ヲ負担スルコトヲ要ス 第二百二十九条 共同ノ費用ヲ以テ疆界線上ニ設ケタル界標、囲障、墻壁、溝渠及ヒ其敷地ハ相隣者ノ共有ニ属ス 第二百三十条 疆界線上ニ設ケタル界標、囲障、墻壁及ヒ溝渠ハ反対ノ証拠ナキトキハ相隣者共同ノ費用ヲ以テ設ケタルモノト推定ス 第二百三十一条 一棟ノ建物ノミノ為メニ設ケタル疆界線上ノ墻壁ニハ前条ノ規定ヲ適用セス 高サノ不同ナル二棟ノ建物ヲ隔ツル墻壁ノ低キ建物ヲ踰ユル部分亦同シ但防火墻壁ハ此限ニ在ラス 第二百三十二条 相隣者ノ一人ハ共有ノ墻壁ノ高サヲ増スコトヲ得但其墻壁カ此工事ニ耐ヘ又ハ之ニ耐ヘシムル為メ自費ヲ以テ工事ヲ加ヘ若クハ其墻壁ヲ改築スルコトヲ要ス 前項ノ規定ニ依リ墻壁ノ高サヲ増シタル部分ハ其工事ヲ為シタル者ノ専有ニ属ス 第二百三十三条 前条ノ場合ニ於テ隣人カ損害ヲ受ケタルトキハ其償金ヲ請求スルコトヲ得 第二百三十四条 土地ノ所有者カ疆界線ニ接シテ界標、囲障又ハ墻壁ヲ設ケタルトキハ隣地ノ所有者ハ自己ノ所有地ニ対スル部分ニ付キ其費用ノ半額及ヒ敷地ノ半価ヲ償ヒテ其共有権ヲ取得スルコトヲ得第二百三十二条ノ規定ニ依リ墻壁ノ高サヲ増シタル部分ニ付キ亦同シ 第二百三十五条 疆界線ニ在ル竹木ハ相隣者ノ共有ニ属ス 相隣者ノ一人カ竹木ヲ栽植シタル場合ニ於テハ前項ノ規定ヲ適用セス但他ノ相隣者ハ之ヲ除去セシメ又ハ前条ノ規定ニ依リ其共有権ヲ取得スルコトヲ得 第二百三十六条 隣地ノ竹木ノ枝カ疆界線ヲ踰ユルトキハ其竹木ノ所有者ヲシテ其枝ヲ剪除セシムルコトヲ得 隣地ノ竹木ノ根カ疆界線ヲ踰ユルトキハ之ヲ截取スルコトヲ得 第二百三十七条 建物ヲ築造スルニ疆界線ヨリ一定ノ距離ヲ存スル慣習アルトキハ其慣習ニ従フコトヲ要ス 前項ノ規定ニ違ヒテ建築ヲ為サントスル者アルトキハ隣地ノ占有者ハ占有保全ノ訴ニ依リ其建築ヲ防止シ又ハ変更セシムルコトヲ得 建築竢成ノ後ト雖モ隣地ノ所有者カ損害ヲ受ケタルトキハ之ヲ賠償セシムルコトヲ得 第二百三十八条 井戸、用水溜、下水溜又ハ肥料溜ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ六尺以上地窖又ハ厮坑ヲ穿ツニハ三尺以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス 水樋ヲ埋メ又ハ溝渠ヲ穿ツニハ疆界線ヨリ其深サノ半以上ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス但三尺ヲ踰ユルコトヲ要セス 第二百三十九条 疆界線ノ近傍ニ於テ前条ノ工事ヲ為ストキハ土砂ノ崩壊又ハ水若クハ汚液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル注意ヲ為スコトヲ要ス