明治民法(明治29・31年)

甲第十一号議案 (明治二十七年五月十七日配付)

参考原資料

第二編 物権 第一章 総則 第百七十六条 物権ハ本法其他ノ法律ニ定ムルモノノ外之ヲ創設スルコトヲ得ス 第百七十七条 物権ハ別段ノ定アル場合ヲ除ク外当事者ノ意思ノミニ因リテ之ヲ設定又ハ移転スルコトヲ得 第百七十八条 不動産ニ関スル物権ノ得喪及ヒ変更ハ登記法ノ規定ニ従ヒ登記ヲ為スニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第百七十九条 動産ニ関スル物権ノ譲渡ハ別段ノ定アル場合ヲ除ク外其引渡アルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第二章 占有権 第一節 占有権ノ取得 第百八十条 占有権ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ物ヲ所持スルニ因リテ之ヲ取得ス 第百八十一条 占有権ハ代理人ニ依リテ之ヲ取得スルコトヲ得 法定代理人ハ自己ノ意思及ヒ所為ヲ以テ本人ノ為メニ占有権ヲ取得スルコトヲ得 第百八十二条 占有権ノ譲渡ハ占有物ノ引渡ニ因リテ之ヲ為ス 占有権ノ譲渡ハ当事者ノ意思ノミニ因リテモ之ヲ為スコトヲ得但此場合ニ於テハ譲受人又ハ其代理人カ現ニ其占有物ヲ所持スルコトヲ要ス 第百八十三条 占有取得ノ権限アル代理人カ自己ノ占有物ヲ爾後其本人ノ為メニ占有スヘキ意思ヲ表示スルトキハ本人ハ之ニ因リテ占有権ヲ取得ス 第百八十四条 代理人ニ依リ占有ヲ為ス場合ニ於テ本人カ其代理人ニ対シ爾後第三者ノ為メニ其物ヲ占有スヘキ旨ヲ命シ第三者之ヲ承諾シタルトキハ其第三者ハ占有権ヲ取得ス 第百八十五条 権原ノ性質上占有者ニ所有ノ意思ナキモノトスル場合ニ於テハ其占有者カ占有ヲ為サシメタル者ニ対シ自己ニ所有ノ意思アルコトヲ通知シ又ハ新権原ニ因リ更ニ所有ノ意思ヲ以テ占有ヲ始ムルニ非サレハ占有ハ其性質ヲ変セス 第百八十六条 占有者ハ所有ノ意思ヲ以テ善意、平穏且公然ニ占有ヲ為スモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 前後二箇ノ時期ニ於テ占有ノ証拠アルトキハ其占有ハ継続シタルモノト推定ス但中断ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス 第百八十七条 占有者ノ承継人ハ其選択ニ従ヒ自己ノ占有ノミヲ主張シ又ハ自己ノ占有ニ前主ノ占有ヲ併セテ主張スルコトヲ得 前主ノ占有ヲ併セテ主張スル場合ニ於テハ其瑕疵モ亦之ヲ承継ス 第二節 占有権ノ効力 第百八十八条 占有者カ其占有物ノ上ニ行使スル権利ハ反対ノ証拠ナキトキハ之ヲ適法ニ有スルモノト推定ス 第百八十九条 善意ノ占有者ハ其占有物ヨリ生スル果実ヲ取得ス 善意ノ占有者カ本権ノ訴ニ於テ確定ニ敗訴シタルトキハ其出訴ノ時ヨリ悪意ノ占有者ト看做ス 第百九十条 悪意ノ占有者ハ果実ヲ返還シ且其既ニ消費シ、過失ニ因リテ毀損シ又ハ収取ヲ怠リタル果実ノ代価ヲ償還スル義務ヲ負フ但之ニ対シテ果実ノ通常ノ負担タル費用ヲ償還セシムルコトヲ得 強暴又ハ隠秘ニ因ル占有者ニモ亦前項ノ規定ヲ適用ス 第百九十一条 占有物ノ滅失又ハ毀損カ占有者ノ所為又ハ過失ニ因ルトキハ悪意ノ占有者ハ其回復者ニ対シ賠償ノ義務ヲ負ヒ善意ノ占有者ハ其滅失又ハ毀損ニ因リ利益ヲ受ケタル限度ニ応シ賠償ヲ為ス義務ヲ負フ 第百九十二条 所有ノ意思ヲ以テ平穏且公然ニ動産ノ占有ヲ始ムル者カ善意ニシテ且過失ナキトキハ即時ニ其動産ノ所有権ヲ取得ス 第百九十三条 前条ノ場合ニ於テ占有物カ盗品又ハ遺失物ナルトキハ其所有者ハ盗難又ハ遺失ノ時ヨリ二年間ハ占有者ニ対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得 第百九十四条 占有者カ盗品又ハ遺失物ヲ競売若クハ公ノ市場ニ於テ又ハ其物ト同種ノ物ヲ販売スル商人ヨリ善意ニテ買受ケタルトキハ其所有者ハ其買受代価ヲ弁償スルニ非サレハ回復ヲ為スコトヲ得ス 第百九十五条 占有者カ占有物ノ返還ヲ言渡サレタル場合ニ於テハ其物ノ保存ノ為メニ費シタル金額其他ノ必要費ヲ回復者ヨリ償還セシムルコトヲ得 占有者カ占有物ノ改良ノ為メニ費シタル金額其他ノ有益費ニ付テハ其価格ノ増加カ現存スル場合ニ限リ回復者ノ選択ニ従ヒ其費シタル金額又ハ其物ノ増価額ヲ償還セシムルコトヲ得 第百九十六条 占有者ハ回復者ヨリ償還ヲ受クヘキ金額ニ付キ占有物ノ上ニ留置権ヲ有ス 第百九十七条 占有者ハ其占有ノ瑕疵アルト否トヲ問ハス其占有ノ妨害ニ対シテ占有ノ訴ヲ提起スルコトヲ得 第百九十八条 占有者カ其占有ヲ障害セラルルトキハ占有保持ノ訴ニ依リ其障害ノ停止又ハ之ト共ニ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 第百九十九条 占有物ノ保全ニ付キ危害ノ虞アルトキハ占有者ハ占有保全ノ訴ニ依リ其危害ノ予妨又ハ損害賠償ノ担保ヲ請求スルコトヲ得 第二百条 占有者カ其占有ヲ奪ハレタルトキハ占有回収ノ訴ニ依リ其物ノ返還又ハ之ト共ニ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 占有回収ノ訴ハ侵奪者ノ特定承継人ニ対シテ之ヲ提起スルコトヲ得ス但其承継人カ侵奪ノ事実ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス 第二百一条 占有保持ノ訴及ヒ占有回収ノ訴ハ障害又ハ侵奪ヲ受ケタル時ヨリ一年内ニ之ヲ提起スルコトヲ要ス 占有保全ノ訴ハ危険ノ存スル間ハ之ヲ提起スルコトヲ得但新工事ニ因リ占有物ニ危害ヲ及ホスヘキ虞アル場合ニ於テ其工事ノ竣成シタルトキ又ハ之ニ著手シタル時ヨリ一年ヲ経過シタルトキハ此限ニ在ラス 第二百二条 占有ノ訴ハ本権ノ訴ト互ニ相妨クルコト無シ 判事ハ本権ニ基キテ占有ノ訴ヲ裁判スルコトヲ得ス 第二百三条 占有ノ訴ノ被告ハ反訴ニテ占有ノ訴ヲ起スコトヲ得但本権ノ訴ハ反訴トシテ之ヲ提起スルコトヲ得ス 第二百四条 占有ノ訴ハ本権ノ訴ト併合スルコトヲ得ス 第三節 占有権ノ消滅 第二百五条 占有権ハ占有者カ占有ノ意思ヲ放棄シ又ハ占有物ノ所持ヲ失フニ因リテ消滅ス 第二百六条 占有者カ他人ノ侵奪ニ因リ占有物ノ所持ヲ失ヒタルトキハ其占有者ハ占有回収ノ訴ヲ提起セスシテ一年ヲ経過シタルニ因リ占有権ヲ失フ 第二百七条 代理人ニ依リ占有ヲ為シタル場合ニ於テハ占有権ハ左ノ事由ニ因リテ消滅ス 一 代理人カ占有物ノ所持ヲ失ヒタルコト 二 本人又ハ法定代理人カ占有ノ意思ヲ失ヒタルコト 三 代理人カ本人ニ対シ占有物ヲ爾後自己又ハ第三者ノ為メニ所持スル意思ヲ表示シタルコト 占有権ハ代理権ノ消滅ノミニ因リテ消滅セス 第四節 準占有 第二百八条 本章ノ規定ハ自己ノ為メニスル意思ヲ以テ権利ノ行使ヲ為ス場合ニ之ヲ準用ス