明治民法(明治29・31年)

甲第十号議案 (明治二十七年五月一日配付)

参考原資料

第一編 第六章 時効 第一節 総則 第百四十五条 時効ノ効力ハ其起算日ニ遡ル 第百四十六条 時効ハ当事者之ヲ援用スルニ非サレハ判事之ニ依リテ裁判ヲ為スコトヲ得ス 第百四十七条 完成セサル時効ノ利益ハ之ヲ放棄スルコトヲ得ス 第百四十八条 時効ハ左ノ事由ニ因リテ中断ス 一 請求 二 差押又ハ仮差押 三 承認 第百四十九条 前条ノ時効中断ハ当事者及ヒ其承継人ノ間ニ於テノミ其効力ヲ有ス 第百五十条 裁判上ノ請求ハ左ノ場合ニ於テハ時効中断ノ効ヲ生セス 一 其請求カ却下セラレタルトキ 二 其請求カ取下ケラレタルトキ 第百五十一条 和解ノ為メニスル呼出ハ相手方カ出頭セス又ハ和解ノ調ハサルトキハ一个月内ニ訴ヲ提起スルニ非サレハ時効中断ノ効ヲ生セス任意出頭ノ場合ニ於テ和解ノ調ハサルトキ亦同シ 第百五十二条 破産手続参加ハ債権者之ヲ取消シ又ハ却下セラレタルトキハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十三条 催告ハ六个月内ニ裁判上ノ請求、和解ノ為メニスル呼出若クハ任意出頭、破産手続参加又ハ差押ヲ為スニ非サレハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十四条 差押ハ合式ニ其手続ヲ終結スルニ非サレハ時効中断ノ効ヲ生セス 仮差押カ取消サレタルトキハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十五条 差押及ヒ仮差押ハ時効ノ利益ヲ受クル者ニ対シテ之ヲ為ササルトキハ之ヲ其者ニ通知シタル後ニ非サレハ時効中断ノ効ヲ生セス 第百五十六条 時効中断ノ為メ相手方ノ権利ノ承認ヲ為スニハ之ニ関シテ管理ノ能力又ハ権限アルコトヲ要ス 第百五十七条 中断シタル時効ハ其中断ノ事由ノ終了シタル時ヨリ更ニ其進行ヲ始ム 裁判上ノ請求ニ因リテ中断シタル時効ハ判決ノ確定シタル時ヨリ更ニ其進行ヲ始ム 第百五十八条 未成年者又ハ禁治産者カ法定代理人ヲ有セサルトキハ其者カ能力者ト為リ又ハ法定代理人カ就職スル時ヨリ六个月内ハ之ニ対シテ時効完成セス 時効ノ残期カ六个月ヨリ短キトキハ前項ニ掲ケタル時ヨリ其残期ヲ起算ス 第百五十九条 無能力者カ其財産ヲ管理スル父若クハ母又ハ後見人ニ対シテ有スル権利ニ付テハ其者カ能力者ト為リ又ハ後任ノ法定代理人カ就職スルトキヨリ六个月内ハ時効完成セス 妻カ夫ニ対シテ有スル権利ニ付テハ婚姻解消ノ時ヨリ六个月内亦同シ 時効ノ残期カ六个月ヨリ短キトキハ前二項ニ掲ケタル時ヨリ其残期ヲ起算ス 第百六十条 相続財産ニ対シテハ相続人ノ確定シ管理人ノ選任セラレ又ハ破産ノ宣告アリタル時ヨリ六个月内ハ時効完成セス 前項ニ掲ケタル時ヨリ一个月内ハ相続財産ノ為ニモ時効ヲ完成セス 時効ノ残期カ前二項ノ期間ヨリ短キトキハ第一項ニ掲ケタル時ヨリ其残期ヲ起算ス 第百六十一条 時効ノ期間満了ノ時ニ当リ戦乱ノ為メ交通ノ塞カリタル為メ又ハ裁判事務停止ノ為メ権利ヲ行使シ又ハ時効ヲ中断スルコト能ハサルトキハ其妨碍ノ止ミタル後直チニ請求ヲ為スニ因リテ権利者ハ時効ヲ免カルルコトヲ得 第二節 取得時効 第百六十二条 二十年間他人ノ物ヲ平穏且公然ニ占有スル者ハ其所有権ヲ取得ス 十年間他人ノ不動産ヲ平穏且公然ニ占有スル者カ其占有ノ始善意ニシテ且過失ナカリシトキハ其不動産ノ所有権ヲ取得ス 第百六十三条 所有権以外ノ財産権ヲ平穏且公然ニ行使スル者ハ前条ノ区別ニ依リ二十年又ハ十年ノ後其権利ヲ取得ス 第百六十四条 占有者カ任意ニ其占有ヲ中止シタルトキハ第百六十二条ノ時効ハ中断ス 占有者カ他人ノ為メニ其占有ヲ奪ハレタルトキ亦同シ但一年内ニ之ヲ取返シ又ハ同期間内ニ其取返ヲ訴ヘ終ニ之ヲ取返シタルトキハ此限ニ在ラス 第百六十五条 善意ノ占有者カ所有者ノ権利ヲ承認シタルトキハ第百五十七条ノ規定ニ依リテ更ニ進行スル時効ニ付テハ其善意ヲ主張スルコトヲ得ス 第百六十六条 前二条ノ規定ハ第百六十三条ノ場合ニ之ヲ準用ス 第三節 消滅時効 第百六十七条 消滅時効ハ権利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ進行ス 前項ノ規定ハ始期又ハ停止条件附権利ノ目的物ヲ占有スル第三者ノ為メニ其占有ノ時ヨリ取得時効ノ進行スルコトアルヲ妨ケス但権利者ハ其時効ヲ中断スル為メ何時ニテモ第三者ノ承認ヲ求ムルコトヲ得 第百六十八条 財産権ハ所有権ヲ除ク外特別ノ規定ナキトキハ二十年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 第百六十九条 前条ノ期間ハ年金権ニ付テハ其権利発生ノ時ヨリ起算ス但債務者ハ時効中断ノ証ヲ得ル為メ何時ニテモ債務者ノ承認書ヲ求ムルコトヲ得 第百七十条 年又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル金額其他ノ物ノ供与ヲ目的トスル債権ハ五年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 第百七十一条 左ニ掲クル債権ハ三年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 医師、産婆及ヒ薬剤師ノ治術、勤労及ヒ調剤ニ関スル債権 二 技師、棟梁及ヒ請負人ノ工事ニ関スル債権但此時効ハ其負担シタル工事終了ノ時ヨリ起算ス 第百七十二条 裁判所書記及ヒ弁護士ハ裁判ノ時ヨリ公証人及ヒ執達吏ハ其職務執行ノ時ヨリ三年ヲ経過スルトキハ其職務ニ関シテ受取リタル書類ニ付キ其責ヲ免カル 第百七十三条 弁護士、公証人及ヒ執達吏ノ職務ニ関スル債権ハ二年ヲ以テ時効ニ罹ル 前項ノ時効ハ其債権ノ原因タル事件終了ノ時ヨリ起算ス但其事件終了前既ニ五年ヲ経過シタル行為ニ付テハ請求ヲ為スコトヲ得 第百七十四条 左ニ掲クル債権ハ二年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 生産者、卸売商人及ヒ小売商人カ売却シタル動産ノ代価但其買主ノ商業ニ関スルモノハ此限ニ在ラス 二 居職人及ヒ製造人ノ仕事ニ関スル債権但其注文者ノ商業ニ関スルモノハ此限ニ在ラス 三 生徒及ヒ習業者ノ教育、衣食及ヒ止宿ノ代料ニ関スル校主、塾主、教師及ヒ師匠ノ債権 第百七十五条 左ニ掲クル債権ハ一年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 一 月又ハ之ヨリ短キ時期ヲ以テ定メタル雇人ノ給料 二 労力者ノ賃金及ヒ其供給シタル物ノ代価 三 運送賃 四 旅店、料理店、貸席及ヒ娯遊場ノ宿泊料、飲食料、席料、見物料、消費物ノ代価及ヒ立替金 五 動産ノ損料