旧民法・法例(明治23年)

民法財産取得編 内閣修正案

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民法 財産取得編 第十三章 相続 総則 第二百八十六条 相続ニ二種アリ家督相続及ヒ遺産相続是ナリ 第一節 家督相続 第二百八十七条 家督相続トハ戸主ノ死亡又ハ隠居ニ因ル相続ヲ謂フ 第一款 家督相続ノ通則 第二百八十八条 家督相続ヲ為スハ一家一人ニ限ル 何人ト雖モ二家以上ノ家督相続ヲ為スコトヲ得ス 第二百八十九条 婚姻又ハ養子縁組ニ因リ他家ニ入リテ其家ニ在ル者ハ実家其他ノ家ノ家督相続ヲ為スコトヲ得ス 第二百九十条 一人ニシテ数家ノ家督相続人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタル者ハ其中ノ一ヲ選択スルコトヲ得 第二百九十一条 推定家督相続人ハ他家ノ家督相続人ニ指定セラレ又ハ選定セラレタルモ其指定又ハ選定ハ無効トス 第二百九十二条 被相続人ヲ死ニ致シ又ハ死ニ致サントシタル為メ刑ニ処セラレタル者ハ相続ヨリ除斥セラル但過失ニ因ルモノハ此限ニ在ラス 第二百九十三条 相続除斥ノ訴権ハ被相続人ノ明示ノ宥免ニ因リテ消滅ス 第二百九十四条 家督相続人ハ姓氏、系統、貴号及ヒ一切ノ財産ヲ相続シテ戸主ト為ル 系譜、世襲財産、祭具、墓地、商号及ヒ商標ハ家督相続ノ特権ヲ組成ス 第二款 家督相続人ノ順位 第二百九十五条 法律ニ於テ家督相続人ト為ル可キ者ノ順位ヲ定ムルコト左ノ如シ 第一 被相続人ノ家族タル卑属親中親等ノ最モ近キ者 第二 卑属親中同親等ノ男子ト女子ト有ルトキハ男子 第三 男子数人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子 第四 女子ノミ数人アルトキハ其先ニ生マレタル者但嫡出子ト庶子又ハ私生子ト有ルトキハ嫡出子 然レトモ右ノ規定ニ従ヒテ家督相続人タル可キ者カ被相続人ニ先タチテ死亡シ又ハ第二百九十七条ニ掲ケタル原因ニ由リテ廃除セラレタル場合ニ於テ其者ニ卑属親アルトキハ其卑属親ハ法定ノ順位ニ依リテ家督相続人ト為ル 第二百九十六条 被相続人ハ正当ノ原因アルニ非サレハ法定ノ推定家督相続人ヲ廃除スルコトヲ得ス 第二百九十七条 法定ノ推定家督相続人ヲ廃除スルコトヲ得ヘキ正当ノ原因ハ左ノ如シ 第一 失踪ノ宣言 第二 民事上禁治産及ヒ准禁治産 第三 重禁錮一年以上ノ処刑 第四 家政ヲ執ルニ堪ヘサル不治ノ疾病 第五 祖父母、父母ニ対スル罪ノ処刑 第六 重罪ニ因レル処刑 第二百九十八条 推定家督相続人ノ廃除ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為シ又ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ為スコトヲ得 申述ニ基ク家督相続人ノ廃除ハ被相続人之ヲ取消スコトヲ得 廃除ノ取消ハ身分取扱吏ニ申述シテ之ヲ為ス 第二百九十九条 法定ノ家督相続人アルトキハ被相続人ハ家督相続人ヲ指定スルコトヲ得ス但此規定ニ違ヒタル指定ト雖モ被相続人ノ死亡ノ日ニ法定ノ家督相続人アラサルトキハ有効トス 第三百条 家督相続人ノ指定ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為ス可シ 第三百一条 法定又ハ指定ノ家督相続人アラサル場合ニ於テ其家ニ死亡者ノ父アルトキハ父、父アラサルトキハ母ハ左ノ順序ニ従ヒ家族中ヨリ家督相続人ヲ選定ス 第一 兄弟 第二 姉妹 第三 兄弟姉妹ノ卑属親中親等ノ最モ近キ男子若シ男子アラス又ハ放棄シタルトキハ女子 第三百二条 前条ノ場合ニ於テ父母アラサルトキハ家督相続人選定ノ権利ハ親族会ニ属ス但親族会ハ前条ニ定メタル選定ノ順序ヲ変更スルコトヲ得ス 第三百三条 第三百一条ノ規定ニ従ヒ選定ス可キ家督相続人アラサルトキ又ハ皆放棄シタルトキハ其家ニ在ル尊属親中親等ノ最モ近キ者任意ニ家督相続ヲ為スコトヲ得 第三百四条 前条ノ家督相続人アラサルトキハ配偶者家督相続ヲ為スコトヲ得 第三百五条 親族会ハ前数条ニ記載シタル相続人アラサルトキ又ハ皆放棄シタルトキニ非サレハ他人ヲ選定スルコトヲ得ス 第三款 隠居家督相続ノ特別規則 第三百六条 隠居ヲ為スニハ左ノ条件ノ具備スルコトヲ要ス 第一 満六十年以上ナルコト 第二 任意ニ出タルコト 第三 成年ニシテ且実際家政ヲ執ルノ能力アル家督相続人カ単純ノ受諾ヲ為シタルコト 第四 配偶者ノ承諾シタルコト 第三百七条 隠居者カ重病其他ノ原因ノ為メニ実際家政ヲ執ル能ハサルトキ又ハ分家ノ戸主カ本家ヲ承継スルノ必要アルトキハ本人ノ申立ニ因リ区裁判所ハ年齢ノ条件ヲ宥恕スルコトヲ得 第三百八条 隠居者ノ配偶者、親族及ヒ検事ハ左ノ原因ノ一ニ基キ隠居届出ノ日ヨリ六十日内ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得 第一 第三百六条第一号乃至第三号ノ条件ニ違ヒタル事実 第二 家督相続ヲ為ス者カ推定家督相続人ニ非サル事実 又隠居カ任意ニ出テサリシ場合ニ於テハ隠居者モ亦故障ヲ申立ツルコトヲ得 第三百九条 隠居カ第三百六条第四号ノ条件ニ違ヒタル事実アルトキハ隠居者ノ配偶者ニ限リ故障ヲ申立ツルコトヲ得 又隠居者カ債権者ヲ詐害スルノ意思ヲ以テ隠居ヲ為サントスルトキハ債権者ハ故障ヲ申立ツルコトヲ得 前条ノ期間ハ本条ニモ亦之ヲ適用ス 第三百十条 隠居ヲ為ストキハ当事者ヨリ其旨ヲ身分取扱吏ニ届出ツ可シ 第三百十一条 隠居家督相続ハ届出前ノ利害関係人ニ対シテハ第三百八条ニ定メタル期間満限ノ日ヨリ又故障アリタルトキハ其故障ノ棄却確定シタル日ヨリ死亡ニ因ル相続ト同一ノ効力ヲ生ス但隠居者ノ終身ヲ限度トスル権利及ヒ義務ヲ消滅セシメス 第二節 遺産相続 第三百十二条 遺産相続トハ家族ノ死亡ニ因ル相続ヲ謂フ 第三百十三条 家族ノ遺産ハ其家族ト家ヲ同フスル卑属親之ヲ相続シ卑属親ナキトキハ配偶者之ヲ相続シ配偶者ナキトキハ戸主之ヲ相続ス 第三百十四条 卑属親カ遺産ヲ相続スル場合ニ於テハ第二百九十五条ノ規定ヲ適用ス 第三節 国ニ属スル相続 第三百十五条 相続人アラサル財産ハ当然国ニ属ス 国ハ限定ノ受諾ヲ以テ相続ス 第三百十六条 国ニ属ス可キ相続財産ハ其領収ヲ為スニ至ルマテ相続人曠欠ノ財産ヲ管理スル如ク之ヲ管理ス 第四節 相続ノ受諾及ヒ放棄 第三百十七条 相続人ハ相続ニ付キ単純若クハ限定ノ受諾ヲ為シ又ハ放棄ヲ為スコトヲ得但法定家督相続人ハ放棄ヲ為スコトヲ得ス又隠居家督相続人ハ限定ノ受諾ヲ為スコトヲ得ス 第三百十八条 隠居家督相続ヲ除ク外相続人ハ相続財産ヲ調査スル為メ相続ノ日ヨリ三个月ノ期間ヲ有ス但裁判所ハ情況ニ因リ更ニ三个月内ノ延期ヲ許スコトヲ得 受諾又ハ放棄ヲ決定スル為メ一个月ノ期間ヲ有ス此期間ハ調査期間満限ノ日又ハ其前ニ実際ノ調査ヲ終了シタル日ヨリ之ヲ算ス 第三百十九条 相続人ハ調査又ハ決定ノ期間内相続財産ニ関スル一切ノ訴訟手続ヲ停止セシムルコトヲ得 第三百二十条 相続財産ニ関スル訴訟ニ要セシ費用ハ法律上ノ期間内ニ係ルモノト裁判所ノ許シタル延期内ニ係ルモノトヲ問ハス総テ相続財産ノ負担トス但相続人ノ所為又ハ過失ニ因リテ要セシ費用ハ此限ニ在ラス 第三百二十一条 相続財産中ニ損敗シ易ク又ハ保存スルニ著シキ費用ヲ要スル物品アルトキハ調査又ハ決定ノ期間内ト雖モ区裁判所ノ許可ヲ得テ其物品ヲ競売ニ付スルコトヲ得但日用品ハ裁判所ノ認可ヲ経スシテ之ヲ処分スルコトヲ得 第一款 単純ノ受諾 第三百二十二条 相続人カ被相続人ノ財産ニ関シ明示又ハ黙示ニテ其代表者ト為ルノ意思ヲ顕ハストキハ単純ノ受諾トス 第三百二十三条 左ノ如キ場合ニ於テハ黙示ノ受諾アリトス 第一 相続財産ノ一箇又ハ数箇ニ付キ他人ノ為メニ所有権ヲ譲渡シ又ハ其他ノ物権ヲ設定シタルトキ但財産編第百十九条以下ノ制限ニ従ヒタル賃借権ノ設定ハ此限ニ在ラス 第二 相続人カ第三百十八条ノ期間内ニ限定受諾又ハ放棄ヲ為ササルトキ 右ノ外尚ホ第三百二十七条第二号ノ場合ハ単純ノ受諾ヲ成ス 第三百二十四条 受諾ハ左ノ原因ノ一アルニ非サレハ之ヲ銷除スルコトヲ得ス 第一 身体又ハ財産ニ強暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ受諾シタルトキ 第二 詐欺ノ為メニ受諾シタルトキ 第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ受諾シタルトキ 第四 受諾ノ時成立セルコトヲ知ラサル債務ノ為メ破産又ハ無資力ト為ルニ至ル可キトキ 此銷除訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ規定シタル銷除訴権ノ期間及ヒ条件ニ従フ 第二款 限定ノ受諾 第三百二十五条 相続人カ相続財産ノ限度マテニ非サレハ債務ノ弁償ノ責ニ任セサルトキハ限定ノ受諾トス 第三百二十六条 相続人ニシテ限定ノ受諾ヲ為スノ意思ヲ有スル者ハ第三百十八条ノ期間内ニ調査シタル財産ノ目録ヲ相続地ノ区裁判所ニ差出タシ其申述ヲ為シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ 第三百二十七条 左ノ場合ニ於テハ相続人ハ限定受諾ヲ為スノ権利ヲ失フ 第一 単純ノ受諾ヲ為シタルトキ 第二 相続財産ヲ私取シ若クハ隠匿シ又ハ悪意ヲ以テ財産調査目録中ニ相続財産ノ幾分ヲ記載セサリシトキ 第三百二十八条 限定受諾者ハ其特有財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ以テ相続財産ヲ管理シ債権者及ヒ受遺者ニ其計算ヲ為ス可シ但此計算ハ債務及ヒ遺贈ノ弁済ノ為メ相続財産ヲ払尽シタル後一个月内ニ之ヲ完了スルコトヲ要ス 第三百二十九条 限定受諾者ハ動産ト不動産トヲ問ハス総テ相続財産ノ売却ヲ要スルトキハ区裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売ニ付ス可シ 第三百三十条 限定受諾者ハ適法ニ売却シタル財産ノ各箇ニ付テ得タル代価ヲ混同セス其各箇ニ付テ優先権ヲ有スル債権者ニ順次ニ弁済ス可シ 第三百三十一条 相続ノ負担スル債務又ハ遺贈ノ弁済ヲ差押ヘ又ハ其弁済ニ付キ異議ヲ述フル債権者又ハ受遺者アルトキハ限定受諾者ハ裁判ヲ以テ定メタル順次及ヒ方法ニ従フニ非サレハ其弁済ヲ為スコトヲ得ス 第三百三十二条 前条ノ差押又ハ異議アラサルトキハ債権者又ハ受遺者ノ要求ニ従ヒテ弁済ヲ為ス 弁済ノ為メニ相続財産ヲ払尽シタル後ト雖モ第三百二十八条ニ規定シタル計算ヲ完了セサル前ニ要求ヲ為ス債権者又ハ受遺者ハ左ノ区別ニ従ヒ既ニ弁済ヲ得タル債権者及ヒ受遺者ニ対シテ求償権ヲ行フコトヲ得 第一 債権者ハ先ツ受遺者ニ対シ次ニ債権者ニ対スルコト 第二 受遺者ハ単ニ受遺者ニ対スルコト 第三百三十三条 相続人カ計算ノ完了ヲ遅延シタル場合ニ於テハ債権者中未タ弁済ヲ得サル者ヨリ既ニ弁済ヲ得タル受遺者及ヒ債権者ニ求償スルコトヲ得ヘキ額ヲ直チニ相続人ノ特有財産ニ付キ求償スルコトヲ得 第三百三十四条 相続財産ヲ払尽シ計算ヲ完了シタル後ニ要求ヲ為ス債権者ハ単ニ弁済ヲ得タル受遺者ニ対スルニ非サレハ求償権ヲ行フコトヲ得ス 第三百三十五条 前三条ノ求償権ハ三个年間之ヲ行フコトヲ得但此期間ハ計算ノ完了前ニ係ルトキハ初メ相続人ニ要求シタル日又完了後ニ係ルトキハ其完了ノ日ヨリ之ヲ算ス 第三款 放棄 第三百三十六条 相続ヲ放棄セントスル相続人ハ相続地ノ区裁判所ニ其旨ヲ申述シ裁判所ハ別段ニ備ヘタル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ 第三百三十七条 放棄シタル相続ハ他ニ受諾シタル相続人アラサル間ハ放棄者更ニ之ヲ受諾スルコトヲ得然レトモ此受諾ハ第三百十八条ノ期間内ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス但相続財産ニ付キ第三者ノ有効ニ得タル権利ヲ害スルコト無シ 第三百三十八条 相続ヲ放棄シタル者ハ他ニ受諾シタル相続人アリト雖モ左ノ場合ニ於テハ其放棄ヲ銷除スルコトヲ得 第一 身体又ハ財産ニ強暴ヲ加ヘラレタルニ因リテ放棄シタルトキ 第二 詐欺ノ為メニ放棄シタルトキ 第三 無能力者又ハ後見人カ方式ニ違ヒテ放棄シタルトキ 此銷除訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ規定シタル期間及ヒ条件ニ従フ 第三百三十九条 債権者ヲ詐害スル意思ニ出テタル放棄ハ財産編第三百四十一条以下ニ定メタル区別及ヒ期間ニ従ヒ債権者自己ノ利益ノ為メ之ヲ廃罷スルコトヲ得 第三百四十条 適法ニ受諾シ又ハ受諾者ト推定セラレタル者ハ放棄ヲ為スコトヲ得ス 第三百四十一条 相続ニ包含スル物ヲ私取シ又ハ隠匿シタル相続人ハ其相続ヲ放棄スル権利ヲ失フ 第四款 相続人ノ曠欠セル相続財産ノ処分 第三百四十二条 相続人現出セス相続人ノ有無分明ナラス又ハ相続人相続ヲ放棄シタルトキハ相続人ノ曠欠セルモノト看做ス 第三百四十三条 相続地ノ区裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リテ相続財産ノ管理人ヲ命ス可シ 第三百四十四条 管理人ハ利害関係人ヲ召喚シテ相続財産ヲ調査シ其目録ヲ作リ財産ノ形状ヲ検証セシム可シ 管理人ハ此手続ヲ終了シタル後相続ニ属スル権利ヲ行使シ之ヲ訟求シ又其相続ニ対スル訟求ニ答弁ス可シ 金銭ハ相続財産中ニ存スルモノト其売却ヨリ得タルモノトヲ問ハス供託所ニ之ヲ供託ス可シ 相続ノ負担スル債務ハ区裁判所ノ許可ヲ得ルニ非サレハ之ヲ弁済スルコトヲ得ス 第三百四十五条 限定受諾者ノ義務及ヒ責任ニ関シ第三百二十八条以下ニ定メタル規則ハ管理人ニ之ヲ適用ス 第三百四十六条 管理人ハ計算ヲ完了シテ尚ホ相続財産ノ存スルニ於テハ区裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売ニ付シ其得タル金額ヲ供託所ニ供託ス可シ 管理人ハ其領収証ヲ区裁判所ニ差出タシ区裁判所ハ之ヲ保存ス可シ 第三百四十七条 相続人現出スルトキハ其相続人ハ区裁判所ヨリ供託所ノ領収証及ヒ相続人タル身分ノ証明書ヲ得テ之ヲ供託所ニ提出シ供託金額ヲ領収ス可シ 第三百四十八条 相続人アラサルコト確実ニ至リタルトキハ国ハ特別法ニ従ヒ供託金額ヲ領収ス可シ 第十四章 贈与及ヒ遺贈 総則 第三百四十九条 贈与トハ当事者ノ一方カ無償ニテ他ノ一方ニ自己ノ財産ヲ移転スル要式ノ合意ヲ謂フ 第三百五十条 贈与ハ単純、有期又ハ条件附ナルコト有リ 贈与ハ法律ノ認メタル原因アルニ非サレハ之ヲ廃罷スルコトヲ得ス 第三百五十一条 贈与者ハ贈与物ノ妨碍及ヒ追奪ヲ担保セス但其贈与以後ニ係ル贈与者ノ所為ヨリ生シタル妨碍及ヒ追奪ハ此限ニ在ラス 第三百五十二条 遺贈トハ当事者ノ一方カ他ノ一方ニ無償ニテ自己ノ財産ヲ遺言ニ因リテ死亡ノ時ニ移転スル行為ヲ謂フ 遺贈ハ遺言者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得 第三百五十三条 遺言書中ニ存スル不能又ハ不法ノ条件ハ之ヲ記セサルモノト看做ス 贈与書中ニ不能又ハ不法ノ条件アルトキハ其贈与ヲ無効ト為ス 第一節 贈与又ハ遺贈ヲ為シ又ハ収受スル能力 第三百五十四条 法律上特ニ無能力者ト定メタル者ヲ除ク外何人ニ限ラス贈与及ヒ遺贈ヲ為シ又ハ収受スル能力ヲ有ス 第三百五十五条 左ニ掲クル者ハ贈与ヲ為ス能力ヲ有セス 第一 贈与ヲ為ス時ニ於テ喪心シタル者 第二 禁治産者 第三 瘋癲ノ為メ病院又ハ監置ニ在ル者 第四 未成年者但夫婦財産契約ノ為メ法律ノ特ニ許ス場合ハ例外トス 第三百五十六条 准禁治産者ハ財産譲渡ノ為メ法律ノ要スル方式ニ従フニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス 第三百五十七条 左ニ掲クル者ハ遺贈ヲ為ス能力ヲ有セス 第一 遺贈ヲ為ス時ニ於テ喪心シタル者 第二 民事上ノ禁治産者 第三 瘋癲ノ為メ病院又ハ監置ニ在ル者 第四 未成年者但自治産者ハ此限ニ在ラス 第二節 贈与 第一款 贈与ノ方式 第三百五十八条 贈与ハ分家ノ為メニスルモノト其他ノ原因ノ為メニスルモノトヲ問ハス普通ノ合意ノ成立ニ必要ナル条件ヲ具備スル外尚ホ公正証書ヲ以テスルニ非サレハ成立セス 然レトモ慣習ノ贈物及ヒ単一ノ手渡ニ成ル贈与ニ付テハ此方式ヲ要セス 第三百五十九条 贈与ハ贈与者ノ現有ノ財産ノミヲ包含ス若シ将来ノ財産ヲ包含シタルトキハ其財産ニ付テハ贈与ハ無効トス 然レトモ数額ノ定マリタル金銭又ハ定量物ノ贈与ハ贈与者ノ現有スルト否トヲ問ハス有効トス 第三百六十条 贈与ノ性質又ハ諾約ニ因リテ受贈者カ贈与者ノ債務ヲ弁済スル義務ヲ負ヒタルトキハ其義務ハ贈与ノ時既ニ存在シタル債務ニ非サレハ包含セス 受贈者カ贈与者ノ将来ノ債務ヲ弁済ス可キノ諾約ヲ為シタルトキハ其諾約ハ無効トス 第三百六十一条 贈与者ハ自己ノ利益ニ於テスルニ非サレハ自己ニ先タチテ受贈者ノ死亡スルトキ其贈与ヲ解除ス可キ条件ヲ要約スルコトヲ得ス 若シ贈与者カ其相続人又ハ第三者ノ利益ニ於テ此解除条件ヲ要約シタルトキハ其条件ハ無効トス 第三百六十二条 前条第一項ノ規定ニ従ヒテ有効ニ要約シタル解除条件ノ成就ハ受贈者ノ相続人ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス普通ノ合意ニ於テ要約シタル解除条件ト同一ノ効力ヲ生ス 然レトモ受贈者ノ婦ハ解除ニ拘ハラス左ノ二箇ノ条件具備スルトキハ贈与財産ニ付キ法律上ノ抵当権ヲ保有ス 第一 贈与カ夫婦財産契約ヲ以テ夫ノ為メ為サレタルモノナルトキ 第二 贈与財産ノ外ナル夫ノ財産ヲ以テ婦ノ特有財産ノ返還ヲ担保スルニ足ラサルトキ 第二款 贈与ノ廃罷 第三百六十三条 贈与ハ合意ヲ無効ト為ス普通ノ原因ノ外尚ホ贈与者ノ要約シタル条件ノ不履行ノ為メ之ヲ廃罷スルコトヲ得 第三百六十四条 条件ノ不履行ニ基ク贈与ノ廃罷ハ贈与者又ハ其承継人ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得 第三百六十五条 条件ノ不履行ニ基キ贈与ヲ廃罷シタル場合ニ於テハ受贈者ニ対スルト第三者ニ対スルトヲ問ハス未必条件ノ成就ニ因リテ合意ヲ解除シタルトキト同一ノ効力ヲ生ス 第三節 夫婦間ノ贈与ノ特例 第三百六十六条 未成年ノ夫又ハ婦ハ婚姻ノ許諾ヲ与フ可キ人ノ許諾及ヒ立会ヲ得且夫婦財産契約ヲ以テスルニ非サレハ贈与ヲ為スコトヲ得ス 第三百六十七条 夫婦間ノ贈与ハ何等ノ約款アルニ拘ハラス婚姻中贈与者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得 贈与ノ廃罷ハ第三者ニ対シテ効力ヲ有セス但贈与ノ登記ニ廃罷ノ訴状ヲ附記シタル後ニ受贈者ノ遺産所持者ヨリ贈与財産ニ付キ物権ヲ取得シタル第三者ニ対シテハ此限ニ在ラス 第四節 遺贈 第一款 遺言ノ方式 第三百六十八条 遺言ハ遺言者ノ自筆ノ証書、公正証書又ハ秘密ノ方式ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得 然レトモ二人以上ノ人ハ一箇ノ証書ヲ以テ遺言ヲ為スコトヲ得ス 第三百六十九条 自筆ノ遺言書ハ遺言者カ其全文、日附及ヒ氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其効ヲ有セス 第三百七十条 公正証書ニ依ル遺言ハ公証人一人及ヒ証人二人ノ前ニ於テ遺言者カ遺言ノ旨趣ヲ口授シ公証人之ヲ筆記シ朗読シタル後遺言者及ヒ証人各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルニ非サレハ其効ヲ有セス 然レトモ氏名ヲ自書スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ証書ニ記載スルヲ以テ足ル 第三百七十一条 秘密ノ方式ニ依ル遺言書ハ遺言者ノ自書シタルト他人ノ之ヲ書シタルトヲ問ハス左ノ諸件ヲ具備スルニ非サレハ其効ヲ有セス 第一 遺言者カ氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト 第二 遺言書ヲ封シテ遺言者カ之ニ封印シタルコト 第三 遺言者カ公証人一人及ヒ証人二人ノ前ニ封書ヲ提出シテ自己ノ遺言書タル旨ヲ陳述シタルコト 第四 公証人カ遺言者ノ陳述ト之ヲ聴キタル日附トヲ封紙ニ記シテ遺言者及ヒ証人ト共ニ各其氏名ヲ自書シテ捺印シタルコト但此場合ニ於テ氏名ヲ自書スル能ハサル証人アルトキハ公証人其事由ヲ封紙ニ記スルヲ以テ足ル 公証人ハ遺言者ノ死亡ノ後其相続人ノ立会ノ上ニ非サレハ開封セサル旨ヲ記シタル領収書ヲ遺言者又ハ其指定シタル証人中ノ一人ニ授付ス可シ 第三百七十二条 秘密ノ方式ニ依ル遺言トシテ有効ナル為メ前条ニ定メタル条件ニ欠クルモノ有リト雖モ其全文、日附及ヒ氏名共ニ遺言者ノ自書ニ係ルトキハ自筆ノ遺言書トシテ有効トス 第三百七十三条 受遺者、遺言ニ立会フ公証人ノ筆生其他普通ノ無能力者ハ証人ト為ルコトヲ得ス 第二款 遺言ノ特別方式 第三百七十四条 軍人及ヒ軍属ニシテ遠征中ニ在ル者又ハ内地ト雖モ交戦中若クハ合囲中ニ在ル者ハ将校一人証人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十五条 遠征中、交戦中又ハ合囲中ニ在ル軍人及ヒ軍属ニシテ疾病又ハ傷痍ノ為メ病院ニ在ル者ハ其院ノ医官及ヒ事務官ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十六条 伝染病ノ為メ行政処分ヲ以テ交通ヲ遮断シタル地方ニ在ル者ハ其疾病中ナルト否トヲ問ハス警察官一人及ヒ証人一人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十七条 航海中ニ在ル者ハ軍艦ニ在テハ将校一人其他ノ船舶ニ在テハ事務員一人及ヒ証人二人ノ補助ヲ以テ遺言書ヲ作ルコトヲ得 第三百七十八条 海上ニテ遺言書ヲ作リタルトキハ其旨ヲ航海日誌ニ記載ス可シ 第三百七十九条 本款ノ規定ニ従ヒテ作リタル遺言書ニハ遺言者、代書者及ヒ立会人各其氏名ヲ自書シテ捺印ス可シ 氏名ヲ自書シ又ハ捺印スル能ハサル者アルトキハ其事由ヲ遺言書ニ記載スルヲ以テ足ル 第三百八十条 外国ニ在ル日本人ハ第三百六十九条ニ定メタル自筆ノ方式ニ依リ又ハ其地ニ用ユル公正ノ方式ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得 第三百八十一条 外国ニ於テ作リタル遺言書ハ遺言者ノ日本国内ニ有スル住所ノ区裁判所ノ簿冊ニ之ヲ登録シ若シ住所ノ知レサルトキハ最終居所ノ区裁判所ノ簿冊ニ之ヲ登録シタル後ニ非サレハ日本国内ニ在ル財産ニ付キ其遺言ヲ執行スルコトヲ得ス 又其遺言書ニ日本国内ニ在ル不動産ノ処分ヲ包含スルトキハ其不動産所在地ノ区裁判所ニ登記ヲ求メタル後ニ非サレハ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 第三百八十二条 日本ニ在ル外国人ハ日本ノ法律ニ従ヒ又ハ其本国ノ法律ニ従ヒテ遺言ヲ為スコトヲ得 第三款 遺贈ヲ為スコトヲ得ル財産ノ部分 第三百八十三条 遺贈ヲ為スコトヲ得ル財産ト相続人ニ貯存ス可キ財産トノ部分ヲ定ムルニハ家督相続ノ特権ヲ組成スルモノヲ控除ス 第三百八十四条 法定家督相続人アルトキハ被相続人ハ相続財産ノ半額マテニ非サレハ他人ノ為メ遺贈ヲ為スコトヲ得ス 家族ノ遺産ヲ相続スル卑属親アルトキモ亦同シ 第三百八十五条 用益権ノ如キ其存立時間ノ不確実ナル権利ハ相続ノ時ニ於ケル価額ヲ査定シテ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ定ム 其権利ノ価額カ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ超過スルトキハ相続人ハ或ハ被相続人ノ遺贈ヲ履行シ或ハ遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ノ完全ナル所有権ヲ与ヘテ其権利ヲ受戻スコトヲ得 第三百八十六条 遺贈ヲ為スコトヲ得ル部分ヲ超過スル遺贈ハ之ヲ其部分マテニ減殺ス 第三百八十七条 減殺ス可キ分量ハ相続ノ時ニ現存スル総テノ財産ノ評価額ヨリ被相続人ノ債務額ヲ控除シタル剰余額ニ付キ之ヲ算定ス 第三百八十八条 遺贈ノ幾分ヲ減殺シテ貯存ス可キ財産ノ分量ヲ組成ス可キトキハ包括ノ遺贈ト特定ノ遺贈トヲ問ハス其価額ノ割合ヲ以テ総テノ遺贈ヲ減殺ス可シ 第三百八十九条 総テ贈与ニシテ贈与者ノ死亡ノ後執行ス可キモノハ遺贈ト其効力ヲ同フス 第四款 遺言ノ効力及ヒ執行 第三百九十条 単純又ハ有期ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ時ヨリ受遺者ノ知ルト否トヲ問ハス包括ノ遺贈ニ付テハ其包含スル財産及ヒ債務ヲ受遺者ニ移転シ特定ノ遺贈ニ付テハ其遺贈物ノ権利ヲ受遺者ニ移転ス然レトモ有期ノ遺贈ハ満期ニ至ルマテ其執行ヲ止ム 停止又ハ解除ノ条件附ニ於ケル遺贈ノ効力ハ合意ノ事項ニ関シテ規定シタル如ク其条件ノ成就如何ニ従フ 遺贈ノ目的物カ代替物ナルトキハ其所有権ハ財産編第三百三十二条ノ規定ニ従ヒテ移転ス 如何ナル場合ニ於テモ受遺者ハ遺贈ヲ放棄スルコトヲ得 第三百九十一条 遺言者カ不分ノ権利ヲ有スル物ヲ遺贈シタルトキハ受遺者ハ遺言者ト同一ナル権利ヲ取得ス 第三百九十二条 受遺者ハ遺贈物ノ引渡ヲ要求シタル時ヨリ後ニ非サレハ遺贈物ノ果実ヲ収受スル権利ヲ有セス但期限ノ到来シ又ハ未必条件ノ成就シタルコトヲ要ス 然レトモ左ノ三箇ノ場合ニ於テハ受遺者ハ遺言者ノ死亡、満期又ハ条件成就ノ時ヨリ要求ヲ待タスシテ直チニ果実ヲ収受スル権利ヲ有ス 第一 遺言者カ果実ヲ収受スル権利ヲ明示シタルトキ 第二 遺贈カ養料ノ性質ヲ有スルトキ 第三 相続人カ悪意ヲ以テ遺言ヲ隠秘シタルトキ 第三百九十三条 遺贈物ハ其遺贈ノ単純ナルトキハ当然ノ附従物ト共ニ遺言者ノ死亡ノ時ニ於ケル現状ニテ之ヲ引渡ス可シ其遺贈ノ有期又ハ未必条件附ナルトキハ引渡ヲ請求スルコトヲ得ヘキ時ニ於ケル現状ニテ之ヲ引渡ス可シ 相続人カ遺贈物ニ加ヘタル改良又ハ毀損ハ相続人ト受遺者トノ間相互ニ賠償ヲ請求スル権利ヲ生ス 解除ノ未必条件ヲ以テ遺贈ヲ為シタル場合ニ於テ其条件ノ成就シタルトキハ受遺者又ハ其相続人ヨリ遺贈物ヲ現状ニテ還付ス可シ但人為ニ因ル改良又ハ毀損ニ付キ双方ノ間ニ於ケル相互ノ賠償ヲ妨ケス 第三百九十四条 遺言者カ遺言ノ後ニ取得シタル土地又ハ建物ハ遺贈ノ不動産ニ接著シ又ハ其不動産ノ利用ヲ改良スル為メニ供ヘタルモノト雖モ其不動産ノ受遺者ヲ利セス 第三百九十五条 遺言書ハ公正証書ヲ除ク外相続地ノ区裁判所ノ検証ヲ得タル後ニ非サレハ之ヲ執行スルコトヲ得ス 封印アル遺言書ハ区裁判所ニ於テスルニ非サレハ開封スルコトヲ得ス 前二項ノ規定ニ違フ者ハ百円以下ノ過料ニ処ス 第三百九十六条 遺言ノ執行及ヒ遺贈物ノ引渡ニ関スル費用ハ相続財産ノ負担トス但貯存財産ニ負担セシムルコトヲ得ス 第三百九十七条 不動産物権ノ遺贈ハ遺言者ノ死亡ノ後受遺者カ其遺贈ヲ知リタル時ヨリ三十日内ニ之ヲ登記シタルニ非サレハ遺言者ノ死亡ノ日ニ遡リテ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス 登記ノ費用ハ受遺者ノ負担トス 第三百九十八条 遺言者ハ合意又ハ遺言ヲ以テ遺贈ノ執行ヲ一人又ハ数人ニ委託スルコトヲ得 遺言執行者ハ代理人ノ普通義務ニ服ス 第五款 遺言ノ廃罷及ヒ失効 第三百九十九条 遺言ハ遺言者随意ニ之ヲ廃罷スルコトヲ得廃罷ハ明示又ハ黙示ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得 第四百条 遺言者カ遺言ノ方式ニ従ヒ遺言ノ全部又ハ一分ヲ廃罷スル意思ヲ証書ニ記載シタルトキハ其廃罷ハ明示ノモノトス 第四百一条 後ノ遺言ヲ以テ前ノ遺言ニ包含スル特定物ヲ処分シタルトキハ其物ニ付テハ前ノ遺言ヲ黙示ニテ廃罷シタルモノトス 遺言者カ生存中遺言ニ包含スル特定物ヲ有償又ハ無償ニテ処分シタルトキモ亦同シ 第四百二条 廃罷ニ帰シタル遺言ハ前条ノ処分ノ無効ト為ルトキト雖モ有効ニ復セス 第四百三条 遺言ハ受遺者ノ条件不履行ノ為メ又ハ遺言者ヲ死ニ致シタル原因ノ為メ相続人ヨリ廃罷ヲ請求スルコトヲ得 第四百四条 遺言ハ方式上完全ノモノト雖モ左ノ場合ニ於テハ其効ヲ失フ 第一 受遺者カ遺言者ヨリ先ニ死亡シタルトキ 第二 停止条件附ノ遺言ニ付キ其条件ノ成就前ニ受遺者ノ死亡シタルトキ 第四百五条 廃罷又ハ失効ニ帰シタル遺言ノ部分ニ付テハ曽テ遺言アラサリシモノト看做ス但遺言者カ明示ヲ以テ其部分ヲ利得ス可キ者ヲ指定シタルトキハ此限ニ在ラス 第五節 包括ノ贈与又ハ遺贈ニ基ク不分財産ノ分割 第四百六条 包括ノ贈与又ハ遺贈ヲ為シタルニ因リ贈与者又ハ相続人ト受贈者又ハ受遺者トノ間ニ不分財産ヲ生シタルトキハ下ノ規定ニ従ヒ之ヲ分割ス受贈者又ハ受遺者数人アルトキモ亦同シ 第一款 分割 第四百七条 不分財産ノ所有者ノ各自ハ其財産ノ分割ヲ要求スルコトヲ得但財産編第三十九条ノ規定ニ従ヒテ分割セサルコトヲ約シタルトキハ此限ニ在ラス 第四百八条 分割ハ明示ヲ以テ之ヲ為スコトヲ要ス財産ヲ区別シテ収益スル事実ハ分割トセス 第四百九条 未成年者、禁治産者、瘋癲者及ヒ失踪者ノ不分財産ノ分割ハ人事編ノ規定二従ヒ之ヲ要求ス 第四百十条 不分財産ノ分割ハ所有者各自ノ合意ヲ以テ自由ニ之ヲ為スコトヲ得 然レトモ左ノ場合ニ於テハ裁判ヲ以テスルニ非サレハ其分割ヲ為スコトヲ得ス 第一 所有者中ニ未成年者、禁治産者又ハ瘋癲者アリテ其後見人又ハ仮管理人アラサルトキ 第二 所有者中ニ不在者アリテ有効ニ分割ヲ承諾スル権限ヲ有スル合意上ノ代理人アラサルトキ 第三 所有者中ニ合意上ノ分割ヲ承諾セサル者アルトキ 第四百十一条 裁判上ノ分割ヲ要スルトキハ相続地ノ区裁判所ハ相続人、債権者又ハ検事ノ請求ニ因リ封印ヲ為シ及ヒ目録ヲ作ラシム可シ 第四百十二条 裁判上ノ分割ヲ要セサルトキト雖モ債権者ハ区裁判所ノ許可ヲ得テ封印及ヒ目録調製ヲ請求スルコトヲ得但執行力アル証書ヲ有スルトキハ此許可ヲ要セス 封印ノ除去ニ付テハ総テノ債権者異議ヲ述フルコトヲ得 第四百十三条 所有者ノ各自ハ不分財産ノ現物ニテ其部分ノ引渡ヲ要求スルコトヲ得但債権者其払渡ヲ差押ヘタルトキ又ハ所有者ノ多数ヲ以テ其財産ノ負担スル債務及ヒ費用ヲ予メ弁済スル為メ売却ヲ必要ト決シタルトキハ此限ニ在ラス 第四百十四条 未成年者、禁治産者、瘋癲者又ハ不在者ノ為メ定メタル規則ニ違ヘル分割ハ其者ノ利益ニ於テノミ仮定ノモノトス 第四百十五条 分割ノ際利益ノ相反スル無能力者又ハ不在者ノ数人アルトキハ其各自ノ為メ臨時保佐人又ハ管理人ヲ指定ス可シ 第四百十六条 分割ノ結了シタルトキハ各所有者ハ其領収シタル物ノ証書ヲ保有ス 所有者ノ総体又ハ数人ニ分割シタル一箇ノ物ノ証書ハ其最大ノ部分ヲ領収シタル者之ヲ保有ス 最大ノ部分ヲ領収シタル者ナキトキハ各所有者ノ協議ヲ以テ其保有者ヲ定ム若シ議協ハサルトキハ裁判所之ヲ指定ス 何レノ場合ニ於テモ証書ノ保有者ハ他ノ所有者ノ求メニ応シテ之ヲ便用セシム可シ 第四百十七条 所有者ハ各自ニ受クル部分ノ割合ヲ以テ債務ヲ分担ス 第二款 分割ノ効力及ヒ担保 第四百十八条 分割ノ効力ニ付テハ第百五十五条ノ規定ヲ適用ス 第四百十九条 各所有者ハ分割前ノ原因ニ基ク分割物ノ妨碍及ヒ追奪ニ付キ互ニ担保ノ責ニ任ス但別段ノ合意ヲ以テ担保ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス 第四百二十条 債権ニ付テハ分割ノ当時ニ於ケル債務者ノ資力ノ限度マテニ非サレハ各所有者担保ノ責ニ任セス 第三款 分割ノ銷除 第四百二十一条 分割ハ財産編第三百四条以下ニ定メタル区別ニ従ヒ不成立又ハ無効タル外尚ホ所有者ノ一人カ其領収シタル部分ニ付キ四分一以上ノ欠損ヲ被フリタルトキハ其欠損ノ為メ之ヲ銷除スルコトヲ得 欠損ノ査定ハ分割ノ時ニ於ケル物ノ価格ニ従ヒテ之ヲ為ス可シ 第四百二十二条 分割銷除ノ訴権ハ財産編第五百四十四条以下ニ定メタル時効及ヒ認諾ニ因リテ消滅ス 第十五章 夫婦財産契約 第一節 総則 第四百二十三条 夫婦財産契約ハ婚姻ノ儀式前ニ之ヲ為シ及ヒ公証人ヲシテ其証書ヲ作ラシムルニ非サレハ成立セス 婚姻ノ儀式後ハ契約ヲ変更スルコトヲ得ス 第四百二十四条 婚姻ヲ為スコトヲ得ル未成年者ハ婚姻ノ許諾ヲ与フ可キ尊属親又ハ後見人ノ立会ニテ財産契約ヲ為スコトヲ得 第四百二十五条 財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為シタルトキハ財産ノ関係ハ法定ノ制ニ従フ 第四百二十六条 日本ニ於テ財産契約ヲ為サスシテ婚姻ヲ為シタル外国人ハ夫タル者ノ本国ニ行ハルル普通ノ制ニ従ヒタルモノト看做ス 第二節 法定ノ制 第四百二十七条 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ現ニ所有シ又ハ将来ニ所有ス可キ特有財産ヨリ婚姻中ニ生スル果実及ヒ自己ノ労力ニ因リテ婚姻中ニ得タル所得ハ婚姻中ノ費用分担ノ為メニ之ヲ配偶者ニ供出シタルモノト看做ス 第四百二十八条 夫又ハ戸主タル婦カ配偶者ノ特有財産ニ付テ有スル権利ハ用益者ノ権利ニ同シ又配偶者ノ特有財産ニ関シテ収益ヲ為ス夫又ハ戸主タル婦ハ用益者ノ負担スル修繕其他収益ヲ以テ弁済ス可キ義務ヲ負フ 第四百二十九条 夫ハ婦ノ特有財産入夫ハ戸主タル婦ノ財産ヲ管理ス 第四百三十条 夫又ハ入夫ハ婦又ハ戸主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婦ノ特有財産又ハ戸主タル婦ノ財産ヲ譲渡シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但人事編第二百二十九条及ヒ第二百七十五条ノ場合ハ此限ニ在ラス 第四百三十一条 入夫ハ戸主タル婦ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ婚姻中ノ所得ヲ譲渡シ又ハ之ヲ担保ニ供スルコトヲ得ス但其特有財産ヨリ生スル果実及ヒ自己ノ労力ニ因リテ得タル所得ハ此限ニ在ラス 第四百三十二条 夫カ婦ノ特有財産ニ付キ入夫カ戸主タル婦ノ財産ニ付キ其承諾ヲ得スシテ為ス賃貸借ニ関シテハ財産編第百十九条以下ノ規定ヲ適用ス 第四百三十三条 管理ノ失当ニ因リ夫又ハ入夫カ婦ノ特有財産又ハ戸主タル婦ノ財産ヲ危険ニ置クトキハ婦又ハ戸主タル婦ハ自ラ其財産ヲ管理セント請求スルコトヲ得 第四百三十四条 婦又ハ入夫カ婚姻ノ儀式ノ時ニ於テ負ヘル債務及ヒ婚姻中ニ生スル債務ニ付テハ債権者ハ婦又ハ入夫ノ特有財産ニ対シテ権利ヲ行フコトヲ得 第四百三十五条 婦ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債権者ハ其債務カ家事管理ノ為メ生シタルコトヲ証スルトキニ限リ夫ニ対シテ其弁済ヲ請求スルコトヲ得 入夫ノ名ヲ以テ生セシメタル債務ニ付テハ債権者ハ其債務ノ財産管理ノ為メニ生シタルコトヲ証スルトキニ限リ戸主タル婦ニ対シテ其弁済ヲ請求スルコトヲ得 第四百三十六条 婦又ハ入夫ノ特有財産タルコトヲ証セサル財産ハ総テ夫又ハ戸主タル婦ニ属スルモノト看做ス