民法
人事編
第一章 私権ノ享有及ヒ行使
第一条 凡ソ人ハ活テ生マレタルトキハ私権ヲ享有ス
第二条 胎内ノ子ト雖モ其利益ヲ保護スルニ付テハ既ニ生マレタル者ト看做ス
第三条 何人ト雖モ法律ニ定メタル無能力者ニ非サル限リハ自ラ其私権ヲ行使スルコトヲ得
第四条 私権ノ行使ニ関スル成年ハ満二十年トス但法律ニ特別ノ規定アルトキハ此限ニ在ラス
第五条 外国人ハ法律又ハ条約ニ禁止アルモノヲ除クノ外私権ヲ享有ス
第六条 法人ハ公私ヲ問ハス法律ノ認許スルニ非サレハ成立スルコトヲ得ス又法律ノ条規ニ従フニ非サレハ私権ヲ享有スルコトヲ得ス
第七条 法律ハ外国法人ノ成立ヲ認許セス但条約又ハ特許アルトキハ此限ニ在ラス
成立ノ認許ヲ得タル外国法人ハ日本ニ成立スル同種ノ者ト同一ノ権利ヲ享有ス但条約中又ハ特許中ニ其権利ヲ制限シタルトキハ此限ニ在ラス
第二章 国民分限
第一節 国民分限ノ取得
第八条 日本人ノ子ハ外国ニ於テ生マレタルトキト雖モ日本人トス
父母分限ヲ異ニスルトキハ父ノ分限ヲ以テ子ノ分限ヲ定ム
父ノ知レサルトキハ子ハ母ノ分限ニ従フ
父母共ニ知レサルトキハ日本ニ於テ生マレタル子ハ日本人トス若シ其出生地ノ知レサルトキハ現ニ日本国内ニ在ル者ハ日本人トス
第九条 左ノ場合中ノ一ニ在ル子ハ日本人ノ分限ヲ選択スルコトヲ得
第一 父カ外国人タルモ母ノ日本人タルトキ
第二 外国人ノ子タルモ日本ニ生マレタルトキ
第三 日本人ノ分限ヲ失ヒタル者ノ子ニシテ其分限喪失ノ後ニ生マレタル者ナルトキ
第四 帰化人ノ子ニシテ成年者ナルトキ
第十条 日本人ノ分限ヲ選択セント欲スル子ハ本国法律ニ従ヒテ成年ニ至リシ時ヨリ一个年内ニ其意思ヲ申述シ且其申述ヨリ一个年内ニ住所ヲ日本ニ定ム可シ
成年ノ後ニ至リテ外国人ノ認知シタル私出子ハ認知ヨリ又帰化人ノ子ハ帰化ヨリ一个年内ニ右ノ申述ヲ為スコトヲ得
第十一条 日本人ト婚姻スル外国ノ女ハ日本人ノ分限ヲ取得シ婚姻解消ノ後ト雖モ其分限ヲ保有ス
第十二条 日本人ノ養子ト為リタル外国人ハ日本人ノ分限ヲ取得シ離縁ノ後ト雖モ其分限ヲ保有ス
第十三条 外国人ハ帰化ニ因リテ日本人ノ分限ヲ取得スルコトヲ得其条件及ヒ方式ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
帰化人ノ婦及ヒ未成年ノ子ハ日本ニ住居ヲ定メタルトキハ日本人ノ分限ヲ取得ス
第十四条 帰国ノ意ナク日本ニ住居ヲ定メタル外国人ハ二十个年ノ後日本人ノ分限ヲ取得ス其婦及ヒ未成年ノ子ハ前条第二項ノ規定ニ従フ
第二節 国民分限ノ喪失及ヒ回復
第十五条 日本人ハ左ノ場合ニ於テ其分限ヲ失フ
第一 帰国ノ意ナク外国ニ住居ヲ定メタルトキ
二十个年以上外国ニ住所ヲ有スル日本人ハ帰国ノ意ナシト推定ス但反対ノ挙証ヲ妨ケス
第二 随意ニ外国人ノ分限ヲ取得シタルトキ
第三 日本政府ノ允許ナクシテ外国政府ノ官職ヲ受ケ又ハ外国ノ軍隊ニ入リタルトキ
第十六条 前条ノ場合ニ於テ日本人ノ分限ヲ失ヒタル者ハ日本政府ノ允許ヲ得タル上帰国シテ其意思ヲ申述シ且一个年内ニ住所ヲ日本ニ定ムルトキハ其分限ヲ回復ス
第十七条 日本人ノ分限ヲ失ヒタル者ノ婦及ヒ未成年ノ子ハ引続キ日本ニ住居スルニ非サレハ日本人ノ分限ヲ失フ但婦ハ第十八条第二項ノ規定ニ従ヒ又未成年ノ子ハ第十条第一項ノ規定ニ従ヒ其分限ヲ回復スルコトヲ得
第十八条 外国人ト婚姻スル日本ノ女ハ日本人ノ分限ヲ失フ
然レトモ婚姻解消ノ後日本ニ住居シ又ハ復帰シ且日本ニ住所ヲ定ムルコトヲ申述スルトキハ其分限ヲ回復ス
第三節 国民分限変更ノ方式及ヒ効果
第十九条 国民分限ノ変更ニ関スル申述ハ日本ニ在リテハ住居地ノ身分取扱官吏ニ又外国ニ在リテハ日本公使館又ハ日本領事館ニ之ヲ為ス可シ
此申述ハ部理代理人ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
第二十条 国民分限ノ変更ハ如何ナル場合ニ於テモ将来ニ非サレハ其効果ヲ生セス
第二十一条 国民分限ハ出生ノ時ヲ以テ之ヲ定ム然レトモ懐胎ヨリ出生マテノ間父又ハ母ノ分限ニ変更アリタルトキハ子ハ日本ニ住居スル場合ニ限リ日本人ノ分限ヲ保有ス
第三章 親属
第一節 血属及ヒ姻属
第二十二条 血属トハ一始祖ヨリ出テタル者ノ間ニ連結セル血統ノ関係ヲ謂フ
此関係ハ婚姻ヨリ起ルト否トニ従ヒテ正出ノ血属タリ又ハ私出ノ血属タリ
六親等ノ外ハ血属ノ関係アルモ民法上ノ効果ヲ生セス
第二十三条 血属ノ遠近ハ世数ヲ以テ之ヲ定メ一世ヲ以テ一親等トス
親等ノ連続スルヲ親系ト為ス彼ヨリ此ニ直下スル者ノ親系ヲ直系ト謂ヒ其直下セスシテ同始祖ニ出ツル者ノ親系ヲ傍系ト謂フ
直系ニ於テ自己ノ出ツル所ノ血族ヲ尊属親ト謂ヒ自己ヨリ出ツル所ノ血族ヲ卑属親ト謂フ
第二十四条 直系ニ於テハ血族両人間ノ世数ヲ算シテ親等ヲ定ム
傍系ニ於テハ血族ノ一人ヨリ同始祖ニ遡リ又其始祖ヨリ他ノ一人ニ下タル其間ノ世数ヲ算シテ親等ヲ定ム
第二十五条 養子縁組ハ養子ト養父母及ヒ其血族トノ間ニ血属ニ同シキ関係ヲ生ス
嫡母、継父又ハ継母ト其配偶者ノ子トノ関係ハ親子ニ准ス
第二十六条 姻属トハ婚姻ニ因リテ夫婦ノ一方ト其配偶者ノ血族トノ間ニ生スル関係ヲ謂フ
夫婦ノ一方ノ血族ハ其親系及ヒ親等ニ於テ配偶者ノ姻族トス
姻属ノ関係ハ婚姻ノ解消ニ因リテ止ム但夫婦ノ一方ノ死亡シタル場合ハ此限ニ在ラス
又姻属ノ関係ハ遺存配偶者其家ヲ去ルニ因リテ止ム
第二節 養料ノ義務
第二十七条 直系ノ血族ハ正出ト私出トヲ分タス自ラ生活スル能ハサルトキハ其原因ノ如何ヲ問ハス相互ニ養料ヲ給スル義務ヲ負担ス
嫡母、継父又ハ継母ト其配偶者ノ子トノ間又婦又ハ入夫ト夫家又ハ婦家ノ尊属親トノ間モ亦同シ
第二十八条 兄弟姉妹ノ間ニハ其正出ト私出トヲ分タス疾病其他本人ノ責ニ帰セサル事故ニ因リテ自ラ生活スル能ハサル場合ニ限リ相互ニ養料ヲ給スル義務アリ
第二十九条 養料ノ義務ヲ負担ス可キ者ノ順位ハ左ノ如シ
第一 第二十七条ニ掲ケタル者
第二 兄弟姉妹
直系ノ血族ノ間ハ其親等ノ最近キ者養料ノ義務ヲ負担ス姻族ノ間モ亦同シ
養料ヲ受ク可キ者ノ順位モ亦本条ノ例ニ従フ
第三十条 養料ハ之ヲ受ク可キ者ノ必需ト之ヲ給ス可キ者ノ資産トニ応シテ其額ヲ定ム
第三十一条 養料ヲ給ス可キ者ハ或ハ金穀ヲ支給シ或ハ自己ノ住家ニ引受クルコトヲ得但裁判所ハ場合ニ因リテ其方法ヲ定ムルコト有ル可シ
第三十二条 養料ヲ給ス可キ同順位ノ者数人アルトキハ各自ノ資産ニ応シテ其分担ヲ定ム
第三十三条 養料ヲ受ク可キ者又ハ之ヲ給ス可キ者ノ資産ニ変更アリタルトキハ裁判ヲ以テ其額ヲ定メタル場合ト雖モ尚ホ増減ヲ請求スルコトヲ得
養料ヲ給ス可キ同順位ノ者数人アリテ其資産ニ変更アリタルトキモ亦分担額ノ増減ヲ請求スルコトヲ得
第三十四条 養料ハ他人ニ譲渡スコトヲ得ス又養料ニ原因スル債務ノ為メニ非サレハ之ヲ差押フルコトヲ得ス
第三十五条 養料ノ義務ハ裁判ニ基クトキト雖モ左ノ場合ニ於テ終了ス
第一 養料ヲ給ス可キ者ノ死亡シ又ハ之ヲ給スルコトヲ得サルトキ
第二 養料ヲ受ク可キ者ノ死亡シ又ハ自ラ生活スルコトヲ得ルトキ
第四章 婚姻
総則
第三十六条 婚姻ニ二種アリ普通婚姻及ヒ入夫婚姻是ナリ
婦カ夫ノ氏ヲ称シ其身分ニ従フトキハ之ヲ普通婚姻ト謂ヒ夫カ戸主タル婦ノ氏ヲ称シ其身分ニ従フトキハ之ヲ入夫婚姻ト謂フ
第三十七条 婚姻ヲ為サントスル約束ハ其婚姻ヲ為スノ義務ヲ生セス然レトモ約束者ノ一方カ正当ノ理由ナクシテ其履行ヲ拒ムトキハ他ノ一方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス
第一節 婚姻ヲ為スニ必要ナル条件
第三十八条 男ハ満十七年女ハ満十五年ニ至ラサレハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス
第三十九条 配偶者アル者ハ重子テ婚姻ヲ為スコトヲ得ス
第四十条 夫ノ失踪ニ原因スル離婚ノ場合ヲ除クノ外女ハ前婚解消ノ後六个月内ニ再婚ヲ為スコトヲ得ス
此制禁ハ其分娩シタル日ヨリ止ム
第四十一条 奸通ノ原因ニ由リテ離婚ノ裁判ヲ言渡サレタル曲者ハ相奸者ト婚姻ヲ為スコトヲ得ス
第四十二条 直系ニ於テハ尊属親ト卑属親トノ間正出ト私出トヲ分タス婚姻ヲ禁ス
第四十三条 傍系ニ於テハ夫婦ト為ラントスル双方ノ一方カ同始祖ト一親等ナルトキハ正出ト私出トヲ分タス婚姻ヲ禁ス
第四十四条 直系ノ姻族ノ間ハ其関係ノ止ミタル後ト雖モ婚姻ヲ禁ス
第四十五条 養子ト養父母又ハ其尊属親トノ間又養父母ト養子ノ配偶者又ハ其卑属親トノ間ハ離縁ノ後ト雖モ婚姻ヲ禁ス
第四十六条 子ハ父母ノ許諾ヲ受クルニ非サレハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス但男ハ満三十年女ハ満二十五年ノ後ハ許諾ヲ得スト雖モ之ヲ請フヲ以テ足ル
父母其意見ヲ異ニスルトキハ父ノ許諾ヲ以テ足ル
父母ノ一方カ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ他ノ一方ノ許諾ヲ以テ足ル
継父又ハ継母アル場合ニ於テ其配偶者タル母又ハ父ノ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ継父又ハ継母ノ許諾ヲ受ク可シ其許諾ニ付テハ第九章第三節ノ規定ヲ適用ス
第四十七条 父母共ニ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ子ハ其家ノ祖父母ノ許諾ヲ受ク可シ
祖父母其意見ヲ異ニスルトキハ祖父ノ許諾ヲ以テ足ル
祖父母ノ一方カ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ他ノ一方ノ許諾ヲ以テ足ル
第四十八条 父母、祖父母悉ク死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ子ハ満二十年ニ至ラサル間ニ限リ親族会ノ許諾ヲ受ク可シ
第四十九条 父ノ家ニ属スル私出子ハ其父ノ許諾ヲ受クルニ非サレハ婚姻ヲ為スコトヲ得ス若シ父ノ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ嫡母ノ許諾ヲ受ク可シ其許諾ニ付テハ第九章第三節ノ規定ヲ適用ス
母ノ家ニ属スル私出子ハ其母ノ許諾ヲ受ク可シ
右二項ノ私出子ニ付テモ亦第四十六条第一項但書第四十七条及ヒ第四十八条ノ規定ヲ適用ス
親子ノ分限確定セサル私出子及ヒ棄児ハ二十年未満ニ限リ親族会ノ許諾ヲ受ク可シ
第五十条 育児院ニ在リテ父母ノ知レサル子ノ婚姻ハ二十年未満ニ限リ院長ノ許諾ヲ受ク可シ
第五十一条 養子ハ養家ノ父母又ハ祖父母ノ許諾ヲ受ク可シ実家ノ父母又ハ祖父母ノ許諾ヲ受クルコトヲ要セス
養子ノ婚姻ニ付テハ第四十六条乃至第四十八条ノ規定ヲ適用ス
第二節 婚姻ノ儀式
第五十二条 婚姻ノ儀式ハ双方ノ一方ノ住所又ハ居所ニ於テ之ヲ行フ可シ
双方ハ婚姻ノ儀式ヲ行フ前ニ其地ノ身分取扱官吏ニ婚姻ヲ為サントスルノ申出ヲ為スコトヲ要ス
此申出ハ双方又ハ其代人ヨリ之ヲ為スコトヲ得
第五十三条 双方ハ前条ノ申出ヲ為ス時ニ於テ左ノ書類ヲ差出タス可シ
第一 出生証書
第二 前婚ノ解消ヲ証スル死亡証書又ハ裁判書
第三 婚姻ニ必要ナル許諾書又ハ其許諾ヲ得ル能ハサル事由ヲ証スル書類
第五十四条 双方又ハ一方カ出生証書ヲ呈示スル能ハサルトキハ出生地、住所又ハ居所ノ区裁判所ノ授付シタル保証書ヲ以テ出生証書ニ代用スルコトヲ得
保証書ハ男女ヲ問ハス又血族ト否トヲ問ハス証人三人カ左ノ諸件ニ付キ区裁判所ニ為シタル申述ヲ記載ス
第一 本人ノ氏名、職業、住所及ヒ居所並ニ其父母分明ナルトキハ其氏名、身分、職業、住所及ヒ居所
第二 本人ノ出生ノ地及ヒ年月日
第三 本人ノ出生証書ヲ呈示スル能ハサル原因及ヒ証人ノ其事実ヲ聞知シタル縁由
第五十五条 尊属親ハ婚姻ヲ為サントスル本人及ヒ他ノ一方ノ氏名及ヒ住所又ハ居所ヲ明記シテ署名捺印シタル証書ヲ以テ許諾ヲ与フ可ク且其許諾書ニハ自己ノ住所及ヒ其親等ヲ記載ス可シ
親族会又ハ育児院長ノ許諾ハ右同一ノ記載アル書面ヲ以テ之ヲ証ス可シ
第五十六条 身分取扱官吏ハ婚姻ノ儀式ヲ行フノ障碍ト為ル可キ法律上ノ原因アルコトヲ知リタルトキハ其儀式ヲ行フヲ差止ムルコトヲ得
此場合ニ於テハ身分取扱官吏ハ理由ヲ記シタル差止書ヲ授付ス可シ
当事者此差止ヲ不当ナリト思料スルトキハ区裁判所ニ抗告シテ其取消ヲ求ムルコトヲ得
裁判所ハ休暇事件ト同シク之ヲ取扱フ可シ
第五十七条 婚姻ノ儀式ハ証人二人ノ立会ヲ得テ慣習ニ従ヒ之ヲ行フ可シ
双方ノ承諾ハ此儀式ヲ行フニ因リテ成立ス
第五十八条 婚姻ノ儀式ハ其申出ノ日ヨリ三日後三十日内ニ之ヲ行フコトヲ要ス
第五十九条 婚姻ノ儀式ヲ行ヒタルトキハ双方ヨリ儀式ニ立会ヒタル証人ヲ同伴シ十日内ニ身分取扱官吏ニ其届出ヲ為ス可シ
身分取扱官吏ハ双方カ夫婦財産契約ヲ為シタルヤ否ヤヲ届出人ニ問ヒ若シ之ヲ為シタルニ於テハ其契約書ノ日附及ヒ之ヲ作リタル公証人ノ氏名、役場ヲ申述セシ厶可シ
第三節 日本人外国ニ於テ為シ及ヒ外国人日本ニ於テ為ス婚姻
第六十条 外国ニ於テ日本人ノ間又ハ日本人ト外国人トノ間ニ婚姻ヲ為ストキハ其国ノ規則ニ従ヒテ儀式ヲ行フコトヲ得但本章第一節ニ定メタル条件ニ違背セサルコトヲ要ス
第六十一条 外国ニ於テ日本人ノ間ニ日本ノ規則ニ従ヒテ婚姻ヲ為ストキハ其国ニ在ル日本公使館又ハ日本領事館ニ婚姻ノ申出ヲ為スコトヲ要ス
婚姻ノ儀式ヲ行ヒタルトキハ第五十九条ノ規定ニ従ヒテ其届出ヲ為ス可シ
第六十二条 日本ニ於テ外国人カ婚姻ヲ為サントスルトキハ其能力ハ本国ノ法律ニ従フ但第三十九条乃至第四十五条ノ条件ニ違背セサルコトヲ要ス
外国人ハ婚姻ノ申出ヲ為ス時ニ於テ婚姻ヲ為スニ障碍ナキコトヲ証スル本国相当官署ノ認定書ヲ差出タス可シ
第四節 婚姻成立ノ証拠
第六十三条 何人ト雖モ婚姻成立ノ証拠ヲ挙クルニ非サレハ婚姻ヨリ生スル法律上ノ効果ヲ利スルコトヲ得ス
婚姻成立ノ証拠ハ婚姻証書ヲ以テ之ヲ挙ク可シ但第四百十条ニ規定スルモノハ此限ニ在ラス
第六十四条 夫婦ノ間ニ於ケルト夫婦ト第三者トノ間ニ於ケルトヲ問ハス婚姻ノ効果ヲ利スル為メ身分ノ占有ヲ以テ婚姻ノ成立ヲ証スルコトヲ得ス
然レトモ身分ノ占有カ婚姻証書ニ符合スルトキハ其証書ニ違式アリト雖モ占有ヲ以テ証書ノ無効ヲ銷却ス
第六十五条 父母共ニ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルニ因リテ其子カ父母ノ婚姻証書ヲ呈示スルコトヲ得スト雖モ出生証書ニ反セサル正出子ノ身分ヲ占有スルトキハ父母常ニ公然夫婦ノ如ク生活シタル事実ヲ以テ婚姻ノ成立ヲ証スルコトヲ得
第六十六条 婚姻証書ヲ増減シ毀棄シ隠匿シ又ハ片紙ニ記載シタル場合ニ於テ刑事又ハ民事ノ訴訟ニ因リテ婚姻ノ成立ヲ認メタル判決ハ之ヲ婚姻証書ニ代用スルコトヲ得
第五節 婚姻ノ不成立及ヒ無効
第六十七条 人違、喪心又ハ強暴ニ因リテ双方又ハ一方ノ承諾ノ全ク欠缺シタル婚姻ハ不成立トス
第四十二条乃至第四十五条ノ規定ニ違ヒテ為シタル婚姻モ亦不成立トス
婚姻ノ不成立ハ何人ニ限ラス何時ニテモ之ヲ申立ツルコトヲ得
第六十八条 第三十八条、第三十九条及ヒ第四十一条ノ規定ニ違ヒテ婚姻ヲ為シタルトキハ双方、尊属親、親族会又ハ現実ノ利益ヲ有スル者ヨリ何時ニテモ其無効ヲ請求スルコトヲ得
右同一ノ場合ニ於テ検事ハ夫婦ノ生存中ニ限リ職権ヲ以テ婚姻ノ無効ヲ請求スルコトヲ得
第六十九条 一方又ハ双方ノ不適齢ニ原因スル婚姻ノ無効ハ適齢ナル一方及ヒ不適齢ナルコトヲ知リテ許諾シタル尊属親又ハ親族会ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得ス
不適齢ニ付キ無効ヲ請求スルノ権利ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス
第一 適齢ナラサリシ者カ適齢ニ至レル後明示ニテ婚姻ヲ認諾シ又ハ三个月ヲ過キタルトキ
第二 無効ノ請求後ト雖モ婦カ適齢ナラスシテ懐胎シタルトキ
第三 夫カ適齢ナラスシテ婦ノ懐胎シタルトキ但婦ノ奸通ヲ証スルトキハ格別ナリトス
第七十条 重婚ニ原因スル婚姻無効ノ請求アリタル場合ニ於テ後婚ノ双方カ前婚ノ不成立、無効又ハ離婚ヲ主張スルトキハ先ツ其裁判ヲ為ス可シ
前婚ノ配偶者カ失踪シタルトキハ其失踪中ハ無効訴権ヲ行フコトヲ得ス
第七十一条 左ノ場合ニ於テハ婚姻ハ無効トス
第一 身分取扱官吏ニ婚姻ノ申出ヲ為サス又ハ其差止ヲ受ケタルニ拘ハラス儀式ヲ行ヒタルトキ
第二 身分取扱官吏ノ管轄違ナルトキ
第三 第五十八条ノ規定ニ違ヒテ儀式ヲ行ヒタルトキ
第四 証人二人ノ立会ナクシテ儀式ヲ行ヒタルトキ
此無効ハ第六十八条ニ掲ケタル者ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得但婚姻儀式後一个年ヲ過キタルトキハ無効訴権ヲ行フコトヲ得ス
第七十二条 第四十六条乃至第五十一条ニ定メタル許諾ナクシテ婚姻ヲ為シタルトキハ其許諾ヲ与フ可キ者又ハ之ヲ受ク可キ者ヨリ其無効ヲ請求スルコトヲ得
許諾アリタル場合ト雖モ其許諾カ強暴又ハ第七十六条ニ掲ケタル錯誤ニ原因シタルトキ亦同シ
第七十三条 前条ノ場合ニ於テ父又ハ祖父カ婚姻ヲ認諾セスシテ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ母又ハ祖母ハ無効訴権ヲ行フコトヲ得
婚姻ノ許諾ヲ与フ可キ者カ婚姻ヲ認諾セスシテ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ法律ニ定メタル順位ニ従ヒテ其許諾ヲ与フ可キ者ハ無効訴権ヲ行フコトヲ得
第七十四条 第七十二条ニ掲ケタル無効訴権ハ左ノ場合ニ於テ消滅ス
第一 婚姻ノ許諾ヲ受ク可キ者及ヒ許諾ヲ与フ可キ者ニ付テハ其許諾ヲ与フ可キ者カ認諾ヲ為シ又ハ婚姻アリタルコトヲ知リシ後三个月ヲ過キタルトキ
第二 許諾ヲ与フ可キ者ニ付テハ三个月内ト雖モ許諾ヲ受ク可キ者カ婚姻上ノ成年ニ至リ又ハ死亡シタルトキ
第三 許諾ヲ受ク可キ者ニ付テハ婚姻上ノ成年ニ至リタルトキ
第七十五条 強暴ニ因リテ承諾ニ瑕疵アル婚姻ノ無効ハ強暴ヲ受ケタル者ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得
第七十六条 家違又ハ不治ノ体具不能ニ基ク錯誤ニ因リテ承諾シタル婚姻ノ無効ハ錯誤シタル者ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得
第七十七条 前二条ノ場合ニ於テ配偶者ハ強暴ヲ免カレ又ハ錯誤ヲ知リタル後明示ニテ認諾シ又ハ三个月間引続キ同居シタルトキハ婚姻ノ無効ヲ請求スルコトヲ得ス其同居セサル場合ニ於テモ無効訴権ハ一个年ヲ以テ消滅ス
第七十八条 裁判所ハ婚姻ノ不成立又ハ無効ノ訴訟中夫婦ノ一方ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ婦又ハ夫ニ住家ヲ去ル可キヲ命スルコトヲ得
第七十九条 無効ノ言渡アリタル婚姻ハ双方又ハ一方ニ付テハ善意ナリシトキニ限リ法律上ノ効果ヲ生ス
善意ハ法律上ノ錯誤ニ因ルト事実上ノ錯誤ニ因ルトヲ問ハス婚姻ノ儀式ヲ行ヒタル時ニ存スルヲ以テ足ル
第八十条 無効ノ言渡アリタル婚姻ハ子ニ付テハ其出生ノ婚姻前後ナルヲ問ハス双方ノ善意ナラサリシトキト雖モ常ニ法律上ノ効果ヲ生ス
第六節 婚姻ノ効果
第八十一条 婚姻ハ其儀式ヲ行ヒタル日ヨリ効果ヲ生ス但夫婦財産契約ニ付テハ婚姻ノ届出後ニ非サレハ善意ナル第三者ニ対シテ婚姻ノ効果ヲ利唱スルコトヲ得ス
第一款 夫婦ノ権利及ヒ義務
第八十二条 夫ハ婦ヲ保護シ婦ハ夫ニ順従ス可シ
夫ハ婦ヲ住家ニ同居セシメ婦ハ夫ノ住家ヲ定ムル所ニ随行ス可シ
第八十三条 夫ハ婦ニ対シテ身分相応ノ給養ヲ為ス可シ
婦ハ夫ノ資力不十分ナル場合ニ於テハ其資力ニ応シテ夫ヲ補助ス可シ
第二款 婦ノ無能力
第八十四条 婦ハ夫ノ許可ヲ得ルニ非サレハ贈与ヲ為シ之ヲ受諾シ不動産ヲ譲渡シ之ヲ担保ニ供シ借財ヲ為シ債権ヲ譲渡シ之ヲ質入シ元本ヲ領収シ保証ヲ約シ及ヒ身体ニ羈絆ヲ受クル約束ヲ為スコトヲ得ス又和解ヲ為シ仲裁ヲ受ケ及ヒ訴訟ヲ起スコトヲ得ス
第八十五条 夫ノ許可ハ特定又ハ総括ナルコトヲ得但総括ノ許可ハ証書ヲ以テ之ヲ与フルコトヲ要ス
夫ハ夫婦財産契約ニ依リテ与ヘタル総括ノ許可ト雖モ之ヲ廃罷スルコトヲ得
第八十六条 左ノ場合ニ於テハ婦ハ夫ノ許可ヲ得ルコトヲ要セス
第一 夫カ未成年ナルトキ
第二 夫カ失踪ノ推定ヲ受ケタルトキ
第三 夫カ禁治産又ハ准禁治産ヲ受ケタルトキ
第四 夫カ瘋癲ノ為メ病院又ハ監置ニ在ルトキ
第八十七条 夫カ理由ナクシテ許可ヲ与フルコトヲ拒ムトキ又ハ夫ノ不在ニ因リテ許可ヲ請ヒ難キトキハ婦ハ住所ノ地ノ区裁判所ノ許可ヲ請求スルコトヲ得
夫ハ場合ニ因リテ婦ノ得タル許可ノ廃罷ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
第八十八条 夫ハ婦ニ与ヘタル許可ニ因リテ義務ヲ負担セス但夫婦財産契約ノ効果ニ因リテ此規定ニ変更ヲ生スルハ格別ナリトス
裁判所ノ与ヘタル許可ハ夫ノ利益ヲ害スルコトヲ得ス
第八十九条 夫又ハ裁判所ノ許可ヲ得スシテ婦ノ為シタル行為ハ之ヲ銷除スルコトヲ得
此銷除ハ夫婦ノ各自及ヒ婦ノ承継人ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第九十条 婦ハ夫ノ許可アルニ非サレハ其銷除シ得ヘキ行為ノ認諾ヲ為スコトヲ得ス
夫ノ与ヘタル認諾ハ婦カ之ヲ知ラサルトキト雖モ夫婦ニ対シテ其効ヲ有ス
婦ノ請求ニ因リテ裁判所ノ与ヘタル認諾ハ夫ニ対シテ其効ヲ有セス
第九十一条 夫婦ノ利害相反スル行為ヲ為サントスルトキハ婦ハ裁判所ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス
裁判所ノ許可ヲ得サル行為ノ銷除ハ婦及ヒ其承継人ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
裁判所ハ婦ノ請求ニ因リテ其行為ノ認諾ヲ与フルコトヲ得
第九十二条 夫ニ属スル銷除訴権ハ其銷除シ得ヘキ行為ヲ知リタル日ヨリ五个年ノ時効ニ因リ又ハ婚姻ノ解消ニ因リテ消滅ス
婦及ヒ其承継人ニ属スル銷除訴権ハ婚姻解消ノ日ヨリ五个年ノ時効ニ因リテ消滅ス
財産編第五百四十五条、第五百四十八条、第五百五十一条、第五百五十二条及ヒ第五百五十六条ノ規定ハ本条ノ銷除訴権ニ之ヲ適用ス
第七節 婚姻ノ解消
第九十三条 婚姻ハ左ノ原因ニ由リテ解消ス
第一 夫婦ノ一方ノ死亡
第二 婚姻無効ノ判決
第三 離婚
第八節 罰則
第九十四条 婚姻ノ申出ノ時ニ必要ノ書類ヲ差出タサシメス又ハ其届出ノ時ニ夫婦財産契約ノ有無ヲ問ハサル身分取扱官吏ハ三円以上三十円以下ノ過料ニ処ス
第九十五条 婚姻ノ不成立又ハ無効タル可キ法律上ノ原因アルヲ知リテ其儀式ヲ行フコトヲ差止メサル身分取扱官吏ハ十一日以上六月以下ノ軽禁錮又ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
第九十六条 第四十条ノ制禁ニ違背シテ再婚ヲ為シタル婦ハ三円以上三十円以下ノ罰金ニ処ス其情ヲ知リテ婚姻ヲ為シタル夫及ヒ婚姻ノ儀式ヲ行フコトヲ差止メサル身分取扱官吏モ亦同シ
第九十七条 夫婦ノ一方ニシテ婚姻ノ無効ヲ致シタル原因ヲ知リ之ヲ他ノ一方ニ隠秘シタル者ハ十一日以上一年以下ノ軽禁錮又ハ五円以上五十円以下ノ罰金ニ処ス
右ノ場合ニ於テ被害者ハ現実ノ損害ヲ証セスト雖モ其賠償ヲ要求スルコトヲ得
第五章 離婚
第一節 協議ノ離婚
第九十八条 夫婦ハ下ニ定メタル条件及ヒ方式ニ従ヒ協議ヲ以テ離婚ヲ為スコトヲ得
第九十九条 離婚セントスル夫婦ハ婚姻許諾ノ為メ第四章第一節ニ定メタル規則ニ従ヒ各其父母、嫡母、継父、継母、祖父母又ハ親族会ノ許諾ヲ受クルコトヲ要ス
第百条 離婚セントスル夫婦ハ予メ証書ヲ作リテ左ノ諸件ヲ定ム可シ
第一 子ニ関スル処置
第二 夫婦ノ財産ニ関スル処置
第百一条 夫婦ハ離婚協議書ヲ作リ之ニ左ノ書類ヲ添ヘテ区裁判所ニ差出タシ離婚ノ認可ヲ受ク可シ
第一 前条ニ記載シタル証書
第二 夫婦ノ婚姻証書
第三 子ノ出生証書又ハ死亡証書
第四 離婚ノ許諾ヲ与フ可キ者ノ許諾書若シ其者死亡シ又ハ意思ヲ表スル能ハサルトキハ死亡証書又ハ其事由ヲ証スル書類
親族会ノ許諾ヲ要スルトキハ其許諾書
第二節 特定原因ノ離婚
第一款 離婚及ヒ不受理ノ原因
第百二条 離婚ハ法律ニ定メタル原因アルニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第百三条 離婚ノ原因ハ左ノ如シ
第一 奸通但夫ハ婦ニ対シテ凌辱ヲ加フル場合ニ限ル
第二 同居ニ堪ヘサル暴虐、脅迫及ヒ重大ノ侮辱
第三 重罪ニ因レル処刑
第四 窃盗、詐欺取財又ハ猥褻ノ罪ニ因レル重禁錮一年以上ノ処刑
第五 悪意ノ遺棄
第六 失踪ノ宣言
第七 婦又ハ入夫ヨリ其家ノ尊属親ニ対シ又ハ尊属親ヨリ婦又ハ入夫ニ対スル暴虐、脅迫及ヒ重大ノ侮辱
第百四条 離婚ノ原因タル事実ノ生シタル後又ハ離婚ノ請求アリタル後夫婦ノ和諧シタルトキハ離婚ノ請求ヲ受理セス但夫婦ハ和諧ノ後ニ生シタル事実ニ付テ離婚ヲ請求スルトキハ以前ノ事実ヲモ援唱スルコトヲ得
第百五条 離婚ノ請求ヲ為ス一方ニ対シテ存スル離婚ノ原因ハ其請求不受理ノ原因ト為ラス此場合ニ於テハ他ノ一方モ反訴ヲ以テ離婚ヲ請求スルコトヲ得
然レトモ第百三条第三号及ヒ第四号ニ記載スル重罪又ハ軽罪ノ刑ニ処セラレタル一方ハ他ノ一方ノ処刑ヲ原因トシテ離婚ヲ請求スルコトヲ得ス
第二款 仮処置
第百六条 離婚ノ訴訟中子ノ監護ハ原告又ハ被告タルヲ問ハス夫ニ属ス但入夫及ヒ婿養子ニ付テハ婦ニ属ス
然レトモ裁判所ハ夫、婦、親族又ハ検事ノ請求ニ因リ子ノ利益ヲ慮リテ其監護ヲ他ノ一方又ハ第三者ニ命スルコトヲ得
第百七条 離婚ノ訴訟中婦ハ原告又ハ被告タルヲ問ハス裁判所ノ許可ヲ得テ住家ヲ去ルコトヲ得此場合ニ於テハ自己ノ衣服其他ノ日用物品ヲ持去リ且必要アルトキハ養料及ヒ訴訟費ヲ請求スルコトヲ得
裁判所ハ夫ノ意見ヲ聴キテ婦ノ移居ス可キ家屋ヲ指示スルコトヲ要ス若シ婦カ正当ノ理由ナクシテ其家屋ヲ去ルトキハ夫ハ養料及ヒ訴訟費ヲ拒ムコトヲ得
第百八条 入夫及ヒ婿養子ニ付テハ裁判所ハ離婚ノ訴訟中夫ヲシテ住家ヲ去ラシムルコトヲ得此場合ニ於テハ前条第一項ノ規定ヲ適用ス
第百九条 裁判所ハ住家ヲ去ル婦又ハ夫ノ請求ニ因リ其権利ヲ保存スル為メ必要ノ処置ヲ命スルコトヲ得
第三款 離婚ノ訴
第百十条 離婚ヲ請求スルノ訴権ハ夫婦ノミニ属シ一方ノ死亡スルトキハ消滅ス此場合ニ於テハ離婚ノ判決アリタルモ其未タ確定セサルトキハ当然其効ヲ失フ
第百十一条 夫婦ノ一方カ民事上ノ禁治産ヲ受ケタルトキハ後見人又ハ後見監督人ハ親族会ノ許可ヲ得テ離婚ヲ請求スルコトヲ得
第百十二条 離婚ノ原因ハ通常ノ証拠方法ヲ以テ之ヲ証ス可シ但自白ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得ス又卑属親ヲ除クノ外親族又ハ雇人ニ関スル忌避ノ規定ヲ適用セス
第三節 離婚ノ効果
第百十三条 離婚ハ其裁判ノ確定後ニ非サレハ効果ヲ生セス
離婚ノ裁判ハ適法ノ公示アルニ非サレハ之ヲ以テ善意ナル第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第百十四条 離婚ノ後子ノ監護ハ夫ニ属ス但入夫及ヒ婿養子ニ付テハ婦ニ属ス
然レトモ裁判所ハ夫、婦、親族又ハ検事ノ請求ニ因リ子ノ利益ヲ慮リテ之ヲ他ノ一方又ハ第三者ノ監護ニ付スルコトヲ得
第百十五条 父母ノ一方ニシテ子ノ監護ニ任スル者ハ親権ヲ行フ
子ノ監護ニ任スル第三者ハ其子ノ行状ニ付キ不満意ノ事由アルトキハ其意見ヲ親族会ニ申出テ親族会ヲシテ父母ノ意見ヲ聴キ第九章ニ定メタル懲戒処分ヲ許可セシムルコトヲ得
第百十六条 裁判所ハ離婚ノ裁判ニ於テ曲者タル一方ヨリ直者タル一方ニ養料ヲ給ス可キヲ命スルコトヲ得
此養料ノ義務ハ養料ヲ受ク可キ者ノ再婚シタルトキハ止ム
第六章 親子ノ分限
第一節 正親子ノ分限
第一款 正親子ノ分限ノ証拠
第百十七条 婚姻ノ成立ノ確実ナルトキハ其婚姻ニ因リテ生マレタル子ノ母子ノ分限ハ出生証書ヲ以テ之ヲ証ス但必要アルトキハ其子カ証書ニ指示スル者ト同人ナルコトヲ証ス可シ
同人ナルコトノ挙証ハ証人ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得但子カ出生証書ニ反スル身分ヲ占有スルトキハ書面ニ因ル証拠端緒アルコトヲ要ス
母子ノ分限ノ確実ナルトキハ父子ノ分限ノ証拠ハ下ニ定メタル法律上ノ推定ヨリ生ス
第百十八条 婚姻中ニ懐胎シタル子ハ夫ノ子ト推定ス但否認訴権ヲ妨ケス
第百十九条 婚姻ノ儀式ヨリ百八十日後又婚姻ノ解消ヨリ三百日内ニ生マレタル子ハ婚姻中ニ懐胎シタルモノト推定ス
第百二十条 前婚ノ解消又ハ夫ノ失踪ヨリ三百日内ニシテ婦ノ再婚ヨリ百八十日後ニ生マレタル子ニ付テハ裁判所ハ事実ヲ審査シテ其父子ノ分限ヲ定ム
第百二十一条 婚姻ノ解消又ハ夫ノ失踪ヨリ三百日後ニ生マレタル子ハ之ヲ正出子ト為サス
第百二十二条 出生証書ヲ呈示スル能ハサルトキハ親子ノ分限ハ正出子タル身分ノ占有ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得但第四百十条ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第百二十三条 身分ノ占有トハ夫婦ト其婚姻ニ因リテ生マレタリト主張スル者トノ間其者ノ出生ノ時ヨリ親子ノ分限ヲ証スルニ足ル可キ事実ノ湊合スルヲ謂フ其事実ノ著明ナルモノ左ノ如シ
第一 子ナリト主張スル者カ常ニ其父ナリトスル者ノ氏ヲ称シタルコト
第二 子ナリト主張スル者カ常ニ其父母ナリトスル者ヨリ正出子ノ如ク取扱ハレ其養育、教育ヲ受ケタルコト
第三 子ナリト主張スル者カ常ニ親族及ヒ世上ニ於テ正出子ト認メラレタルコト
第百二十四条 何人ト雖モ出生証書ニ符合スル身分ヲ占有スルトキハ之ト異ナル身分ヲ請求スルコトヲ得ス
何人ト雖モ出生証書ニ符合スル身分ヲ占有スル者ニ対シ其身分ヲ抗争スルコトヲ得ス
第百二十五条 前条ノ規定ニ拘ハラス子ノ取換又ハ虚設アリタルトキハ母子ノ分限ハ証人ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得
出生証書ヲ有セス及ヒ身分ヲ占有セサルトキ又ハ出生証書ニ父母ノ名ヲ記セス若クハ偽名ヲ記シタルトキモ亦同シ
第百二十六条 前条ノ場合ニ於テ原告ハ母ナリトスル婦ノ分娩シタルコト及ヒ生マレタル者ト子ナリトスル者ト同人ナルコトヲ証ス可シ但別ニ出生証書偽造ノ申立ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ要セス
此挙証ハ書面ニ因ル証拠端緒アルカ又ハ挙証ヲ待タスシテ確実ナル事実ヨリ生スル憑徴アルニ非サレハ之ヲ許サス
第百二十七条 書面ニ因ル証拠端緒トハ父母ノ帳簿、書簡其他ノ書類及ヒ現ニ訴訟ニ関係スル者又ハ現ニ生存スルニ於テハ訴訟ニ利害ヲ有ス可キ者ニ出テタル公私ノ書類ヲ謂フ
第百二十八条 被告ハ総テノ方法ヲ以テ原告カ母ナリトスル婦ノ子ニ非サルノ反証ヲ挙ケ又其子タルノ証拠アリシトキト雖モ其婦ノ夫ノ子ニ非サルノ反証ヲ挙クルコトヲ得
第二款 否認訴権
第百二十九条 婚姻中ニ懐胎シタル子ノ否認訴権ハ左ノ場合ニ非サレハ之ヲ許サス
第一 子ノ出生ヨリ遡算シ百八十日ヨリ三百日マテノ期間内夫カ失踪、離隔、重病又ハ体具不能ニ因リテ実際婦ト同房スル能ハサリシコトヲ証スルトキ
第二 右ノ期間内離婚ノ為メニ夫婦住家ヲ異ニシタル場合又ハ婦ノ奸通シタル場合ニ於テ尚ホ他ノ事実ヲ以テ夫カ婦ト同房スル能ハサリシコトヲ証シ又ハ生理上夫ノ子ニ非サルコトヲ証スルトキ
第百三十条 婚姻ノ儀式ヨリ百八十日ヲ過キサル前ニ生マレタル子ノ否認訴権ハ何等ノ条件ニモ服セス
然レトモ夫カ己レノ子ト明示又ハ黙示ニテ認知シタルトキハ否認訴権ヲ行フコトヲ得ス
黙示ノ認知ハ左ノ場合ニ限ルモノトス
第一 夫カ婚姻前ニ懐胎ノ事実ヲ知リタルトキ
第二 夫カ其誘拐シ又ハ強奸シタル女ト婚姻ヲ為シタルトキ
第三 夫カ自己若クハ部理代理人ヲ以テ出生ノ申述ヲ為シ又ハ自己カ出生ノ証人ト為リタルトキ但出生証書ニ子ノ認知ニ反スル記載アルトキハ此限ニ在ラス
否認セラレサル子ハ出生ノ時ヨリ正出子トス
第百三十一条 否認訴権ハ夫ノミニ属ス但子ノ出生後ニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
第百三十二条 夫カ民事上ノ禁治産ヲ受ケタルトキハ後見人又ハ後見監督人ハ親族会ノ許可ヲ得テ否認訴権ヲ行フコトヲ得
第百三十三条 夫カ否認訴権ヲ行ハスシテ死亡シタルモ第百三十五条ニ定メタル期間ヲ過キサルトキハ其家ノ尊属親ハ此訴権ヲ行フコトヲ得
相続人ハ子カ相続財産ヲ占有シ又ハ子カ相続財産ノ占有ヲ侵害セントスルニ非サレハ否認訴権ヲ行フコトヲ得ス
第百三十四条 否認ノ訴ハ子ノ住所ノ裁判所ニ之ヲ為ス可シ
子カ未成年ナルトキハ裁判所ハ之ヲ代表スル為メ特別代理人ヲ選任シ且職権ヲ以テ母ヲ訴訟ニ召喚ス可シ
第百三十五条 夫カ子ノ出生ノ場所ニ在ルトキハ出生ヨリ三个月ノ期間内ニ限リ否認訴権ヲ行フコトヲ得但夫カ婦ト住家ヲ異ニシ又ハ婦カ子ノ出生ヲ夫ニ隠秘シタルトキハ此期間ハ子ノ出生ヲ知リタル日ヨリ起算ス
若シ夫カ遠隔ノ地ニ在ルトキハ訴権ノ期間ヲ四个月トシ子ノ出生ヲ知リタル日ヨリ起算ス
第百三十六条 尊属親及ヒ相続人ハ否認訴権ヲ行フコトヲ得ヘキ日ヨリ四个月ノ期間ヲ有ス
第百三十七条 否認訴権ノ期間ハ時効ノ中断及ヒ停止ノ原因ニ服セス此期間ヲ過クレハ否認訴権ハ消滅ス
第三款 身分ノ請求及ヒ抗争ノ訴権
第百三十八条 親子タル身分ヲ請求スル訴権ハ子及ヒ其卑属親ノミニ属ス此訴権ハ時効又ハ放棄ニ因リテ消滅セス
第百三十九条 何人ト雖モ自己ノ血族ナリト主張スル者ニ対シテ其身分ヲ抗争スルコトヲ得此訴権ハ時効、放棄又ハ追認ニ因リテ消滅セス
第百四十条 身分ニ関スル判決ト雖モ既判力ヲ定ムル規則ニ従フ
第二節 私親子ノ分限
第一款 私親子ノ分限ノ証拠
第百四十一条 私出子ハ出生証書ヲ以テ母子ノ分限ヲ証スルコトヲ得但必要アルトキハ第百十七条第二項ノ規定ニ従ヒテ出生証書ニ指示スル者ト同人ナルコトヲ証ス可シ
第百四十二条 子ト父又ハ母ナリトスル者トノ間親子ノ関係ヲ指示スルニ足ル可キ事実ノ湊合スルトキハ子ハ父又ハ母ニ対シ身分ノ占有ヲ以テ親子ノ分限ヲ証スルコトヲ得
第二款 私出子ノ認知
第百四十三条 私出子ノ認知ハ身分取扱官吏ヘノ申述又ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為スコトヲ要ス
第百四十四条 認知ハ父又ハ母自ラ之ヲ為スコトヲ要ス無能力者ト雖モ亦自ラ之ヲ為スコトヲ得
第百四十五条 認知ハ左ノ場合ニ於テ不成立トス
第一 喪心中ニ認知シタルトキ
第二 第百四十三条ノ規定ニ違ヒタルトキ
第三 子ノ人違ナルトキ
第百四十六条 利害関係人ハ認知ヲ不実ナリトスルトキハ何時ニテモ之ヲ攻撃スルコトヲ得
又無能力者ノ為シタル認知カ詐欺又ハ誑惑ニ原因シタルトキモ亦同シ
第百四十七条 認知ハ一タヒ為シタルトキハ之ヲ廃罷スルコトヲ得ス但遺言書ヲ以テ為シタル認知ハ此限ニ在ラス
第百四十八条 父母又ハ子カ認知証書ニ指示スル者ト同人ナラストノ争ノ生シタルトキハ証人ヲ以テ同人ナルヲ証スルコトヲ得
第三款 身分捜索ノ訴権
第百四十九条 父子ノ分限ノ捜索ハ之ヲ禁ス但左ノ場合ニ限リ子及ヒ其卑属親又此等ノ者ノ為メ子ノ母及ヒ子ノ法律上代理人ニ之ヲ許ス
第一 誘拐又ハ強奸アリテ其時期カ母ノ受胎ノ時期ニ合スルトキ
第二 誑奸アリタルトキ但其誑奸カ書面ニ因ル証拠端緒アルコト又ハ挙証ヲ待タスシテ確実ナル事実ヨリ生スル憑徴アルコトヲ要ス
第三 子カ父母ナリトスル者ノ夫婦ノ如ク生活シタルトキ
第百五十条 母子ノ分限ノ捜索ハ子及ヒ其卑属親又此等ノ者ノ為メ子ノ父及ヒ子ノ法律上代理人ニ之ヲ許ス
此分限ヲ捜索スル者ハ母ナリトスル女ノ分娩シタルコト及ヒ生マレタル者ト子ナリトスル者ト同人ナルコトヲ証ス可シ但書面ニ因ル証拠端緒アルコト又ハ挙証ヲ待タスシテ確実ナル事実ヨリ生スル憑徴アルコトヲ要ス
第百五十一条 第百二十七条及ヒ第百三十八条乃至第百四十条ノ規定ハ之ヲ私出子ニ適用ス
第四款 私出子ノ正出子ト為ルノ権
第百五十二条 私出子ハ父母ノ婚姻ニ因リテ当然正出子ト為ル
第百五十三条 死亡シタル子ト雖モ父母ノ婚姻ニ因リテ正出子ト為ル此場合ニ於テハ其効果ハ子ノ生ミタル正出子又ハ私出子ヲ利ス
第百五十四条 正出子ト為リタル子ハ父母ノ婚姻ノ時マテニ其親子ノ分限ノ確定シタルトキハ婚姻ノ日ヨリ又婚姻ノ後ニ確定シタルトキハ確定ノ日ヨリ正出子ノ権利ヲ有ス
第三節 親子ノ分限ヨリ生スル効果
第百五十五条 子ハ終身父母ニ孝養ヲ尽シ其他尊属親ニ対シテモ尊敬ヲ致ス可シ
第百五十六条 父母ハ子ヲ養育シ訓戒シ及ヒ教育スルノ義務ヲ負フ
然レトモ子ノ教育方法、宗門及ヒ職業ヲ定ムルハ親権ヲ行フ者ニ属ス
本条ノ義務ハ父又ハ母カ其家ヲ去ルニ因リテ止ム
第百五十七条 正出子ノ父母ハ夫婦財産契約ニ従ヒ又私出子ノ父母ハ其資力ニ応シテ養育、教育ノ費用ヲ負担ス可シ
第百五十八条 子ハ父母ニ対シ婚姻其他ノ方法ニ依リテ一家ヲ立ツルノ資財ヲ求ムルコトヲ得ス
第七章 養子縁組
総則
第百五十九条 養子縁組ニ三種アリ普通養子縁組、婿養子縁組及ヒ遺言養子縁組是ナリ
第一節 養子縁組ニ必要ナル条件
第百六十条 何人ト雖モ養子ト為ル可キ者ヨリ年長ニシテ成年ナルニ非サレハ養子ヲ為スコトヲ得ス
遺言ヲ為スノ能力アル者ハ遺言養子ヲ為スコトヲ得
第百六十一条 家督相続ヲ為ス可キ卑属親アル者ハ其卑属親ノ正出子、私出子又ハ養子タルヲ問ハス養子ヲ為スコトヲ得ス但婿養子ヲ為スハ此限ニ在ラス
第百六十二条 後見人ハ管理ノ計算ヲ為サヽル前ニ被後見人ヲ養子ト為スコトヲ得ス但遺言養子ト為スハ此限ニ在ラス
第百六十三条 戸主ニ非サル者ハ養子ヲ為スコトヲ得ス但推定家督相続人ニシテ戸主ノ許諾ヲ得タル者ハ此限ニ在ラス
第百六十四条 配偶者アル者ハ其配偶者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ養子ヲ為スコトヲ得ス但配偶者カ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ此限ニ在ラス
配偶者アル者ハ其配偶者ト一致スルニ非サレハ養子ト為ルコトヲ得ス
第百六十五条 何人ト雖モ数家ノ養子ト為ルコトヲ得ス
第百六十六条 家督相続ニ因リテ戸主ト為リタル者ハ他人ノ養子ト為ルコトヲ得ス
又推定家督相続人ハ他人ノ養子ト為ルコトヲ得ス
然レトモ分家ヨリ本家ヲ承継スルノ必要アルトキハ本条ノ規定ヲ適用セス
第二節 養子縁組ノ方式
第百六十七条 普通養子縁組ハ当事者ノ承諾ニ因リテ成ル
此承諾ハ証人二人ノ立会ヲ得テ慣習ニ従ヒ縁組ノ儀式ヲ行フニ因リテ成立ス
縁組ノ儀式ヲ行フニ付テハ第五十二条、第五十六条及ヒ第五十八条ノ規定ヲ適用ス
第百六十八条 当事者ハ身分取扱官吏ニ縁組ノ申出ヲ為ス時ニ於テ左ノ書類ヲ差出タス可シ
第一 養子ヲ為ス者及ヒ養子ト為ル者ノ出生証書又ハ之ニ代用スル保証書
第二 養子ヲ為ス者ニ卑属親ナキコトヲ証スル身分取扱官吏ノ認定書又ハ推定家督相続人変更ノ証書
第三 配偶者ノ承諾若クハ一致ヲ証スル書類又ハ承諾ヲ得サル事由ヲ証スル書類
第四 後見管理ノ計算ヲ為シタル証明書
第五 縁組ニ必要ナル許諾書又ハ許諾ヲ得ル能ハサル事由ヲ証スル書類
第百六十九条 満十五年ニ至ラサル子ノ縁組ハ父母之ヲ承諾スルコトヲ得
父母ノ一方カ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ他ノ一方ニ於テ縁組ヲ承諾スルコトヲ得
父母共ニ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ其家ノ祖父母若シ其一方カ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ他ノ一方ニ於テ縁組ヲ承諾スルコトヲ得
第百七十条 満十五年ニ至リタル者ハ父母ノ許諾ヲ受ケテ縁組ヲ承諾スルコトヲ得
父母ノ一方カ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ他ノ一方ノ許諾ヲ以テ足ル
父母共ニ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ其家ノ祖父母ノ許諾ヲ受ク可シ若シ祖父母ノ一方カ死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ他ノ一方ノ許諾ヲ以テ足ル
第百七十一条 父母、祖父母悉ク死亡シ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ二十年未満ノ者ニ限リ前二条ニ定メタル年齢ノ区別ニ従ヒテ親族会之ヲ承諾シ又ハ其許諾ヲ与フルコトヲ得
第百七十二条 父又ハ母ノ家ニ属スル私出子ノ縁組ニ付テハ其父又ハ母之ヲ承諾シ又ハ其許諾ヲ与フ
親子ノ分限確定セサル私出子及ヒ棄児ニ付テハ前条ノ規定ヲ適用ス
第百七十三条 前数条ノ場合ニ於テ嫡母、継父又ハ継母アルトキハ第四十六条第四項及ヒ第四十九条第一項ノ規定ヲ適用ス
第百七十四条 育児院ニ在リテ父母ノ知レサル子ノ縁組ハ二十年未満ニ限リ第百六十九条及ヒ第百七十条ニ定メタル年齢ノ区別ニ従ヒテ院長之ヲ承諾シ又ハ其許諾ヲ与フルコトヲ得
第百七十五条 婿養子縁組ニ付テハ婚姻ノ申出ヲ為ス時ニ於テ当事者ハ婿養子縁組ヲ為スノ意思ヲ身分取扱官吏ニ届出ツ可シ
此縁組ニ必要ナル条件ノ欠缺スルトキハ身分取扱官吏ハ婚姻ノ儀式ヲ差止ムルコトヲ得
此縁組ハ婚姻ノ儀式ヲ行フニ因リテ成ル
第百七十六条 遺言養子縁組ハ遺言書ヲ以テ之ヲ為ス
此縁組ハ養子ヲ為ス者ノ死亡ノ日ニ家督相続ヲ為ス可キ正出又ハ私出ノ卑属親アリ又ハ生存中ニ為シタル養子アルトキハ其効ヲ失フ
第百七十七条 遺言ノ発開シタルトキハ第百六十九条以下ノ規定ニ従ヒテ縁組ノ受諾ヲ為ス可シ
第百七十八条 縁組ノ儀式ヲ行ヒ又ハ縁組ノ受諾ヲ為シタルトキハ当事者ヨリ儀式ニ立会ヒタル証人二人ヲ同伴シ十日内ニ身分取扱官吏ニ届出ツ可シ
第百七十九条 第六十条乃至第六十二条ノ規定ハ之ヲ縁組ニ適用ス但本章第一節ニ定メタル条件ニ違背セサルコトヲ要ス
第三節 養子縁組ノ証拠
第百八十条 縁組ハ縁組証書ヲ以テ之ヲ証ス可シ但第四百十条ノ規定ノ適用ヲ妨ケス
第六十四条及ヒ第六十六条ノ規定ハ縁組ニ之ヲ適用ス
第百八十一条 婿養子縁組ハ其事由ヲ記載シタル婚姻証書ニ依リテ之ヲ証スルコトヲ得
婚姻証書ニ縁組ノ事由ヲ記載セサルトキト雖モ身分ノ占有アリテ婚姻申出書ニ符合スルトキハ此ニ依リテ縁組ヲ証スルコトヲ得
第四節 養子縁組ノ不成立及ヒ無効
第百八十二条 縁組ハ人違、喪心又ハ強暴ニ因リテ承諾ノ全ク欠缺シタルトキハ不成立トス
第百八十三条 縁組ハ本章第一節ニ定メタル条件ノ一ニ違背シタルトキハ無効トス
此無効ハ第百八十五条ノ場合ヲ除クノ外当事者其他現実ノ利益ヲ有スル者及ヒ検事ヨリ何時ニテモ之ヲ請求スルコトヲ得
第百八十四条 縁組ハ左ノ場合ニ於テハ無効トス
第一 縁組ノ申出ヲ為サス又ハ身分取扱官吏ノ差止ヲ受ケタルニ拘ハラス儀式ヲ行ヒタルトキ
第二 証人二人ノ立会ナクシテ儀式ヲ行ヒタルトキ
第三 第五十八条ノ規定ニ違ヒテ儀式ヲ行ヒタルトキ
第四 縁組ノ申出ヲ受ケタル身分取扱官吏ノ管轄違ナルトキ
此無効ハ儀式後一个年内ニ限リ前条ニ掲ケタル者ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得
第百八十五条 第百六十二条又ハ第百六十三条但書ノ規定ニ違ヒタル縁組ノ無効ハ被後見人又ハ養家ノ戸主ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
被後見人カ成年ニ至リ又ハ戸主カ縁組ヲ知リタル後縁組ヲ認諾シ又ハ三个月ヲ過キタルトキハ其訴権ヲ失フ
第百八十六条 家違又ハ強暴ノ為メ承諾ニ瑕疵アル縁組ノ無効ハ錯誤ヲ為シ又ハ強暴ヲ受ケタル者ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得但錯誤ヲ知リ又ハ強暴ヲ免カレタル後縁組ヲ認諾シ又ハ三个月ヲ過キタルトキハ其訴権ヲ失フ
第百八十七条 第百七十条乃至第百七十四条ニ定メタル許諾ナクシテ為シタル縁組ノ無効ハ許諾ヲ与フ可キ者又ハ許諾ヲ受ク可キ者ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス
第七十二条第二項 第七十三条及ヒ第七十四条ノ規定ハ此無効訴権ニ之ヲ適用ス
第百八十八条 婿養子縁組ニ付テハ当事者ハ縁組又ハ婚姻ノ無効言渡ヲ原因トシテ婚姻又ハ縁組ノ無効ヲ請求スルコトヲ得但無効言渡ノ後三个月ヲ過キタルトキハ其訴権ヲ失フ
第五節 養子縁組ノ効果
第百八十九条 養子ハ実家ヲ去リ養家ニ入リ養家ノ氏ヲ称ス但親属ノ関係ヨリ生スル養料ノ義務ハ此カ為メニ変更スルコト無シ
第百九十条 養子ハ特別ニ職業ヲ営ムニ因リテ取得シタル利益及ヒ其齎帯シ又ハ相続、贈与若クハ遺贈ニ因リテ取得シタル財産ノ所有権ヲ有ス但未成年中ノ財産管理ハ第九章ノ規定ニ従ヒテ養父母ニ属ス
第百九十一条 養子ハ縁組ノ日ヨリ養家ニ於テ正出子ノ権利及ヒ義務ヲ有ス
第六節 罰則
第百九十二条 縁組申出ノ時ニ必要書類ヲ差出タサシメサル身分取扱官吏ハ三円以上三十円以下ノ過料ニ処ス
縁組ノ不成立又ハ無効タル可キ法律上ノ原因アルコトヲ知リテ其儀式ヲ行フヲ差止メサル身分取扱官吏ハ十一日以上六月以下ノ軽禁錮又ハ五円以上五拾円以下ノ罰金ニ処ス
第八章 養子縁組ノ離縁及ヒ解除
第一節 離縁
第一款 協議ノ離縁
第百九十三条 養子ヲ為シタル者及ヒ養子ト為リタル者ハ協議ヲ以テ離縁ヲ為スコトヲ得
然レトモ十五年未満ニテ養子ト為リタル者ノ離縁ハ満十五年ニ至ラサル間ニ限リ養子ヲ為シタル者ト縁組承諾ノ権ヲ有スル者トノ協議ヲ以テ之ヲ為ス
第百九十四条 離縁ヲ為サントスル養子ハ縁組許諾ノ為メ定メタル規則ニ従ヒ其父母、嫡母、継父、継母、祖父母又ハ親族会ノ許諾ヲ受クルコトヲ要ス
第百九十五条 協議ニ因リテ離縁ヲ為サントスルトキハ当事者ハ予メ財産上ノ事項ヲ約束ス可シ
第百九十六条 当事者ハ離縁協議書ヲ作リ之ニ左ノ書類ヲ添ヘテ区裁判所ニ差出タシ離縁ノ認可ヲ受ク可シ
第一 前条ニ記載シタル約束書
第二 縁組証書
第三 離縁ノ為メニ必要ナル許諾書又ハ許諾ヲ得ル能ハサル事由ヲ証スル書類
第二款 特定原因ノ離縁
第百九十七条 離縁ハ法律ニ定メタル原因アルニ非サレハ一方ヨリ之ヲ請求スルコトヲ得ス其原因ハ左ノ如シ
第一 養子ヨリ養家ノ尊属親ニ対シ又ハ養家ノ尊属親ヨリ養子ニ対スル暴虐、脅迫、遺棄又ハ重大ノ侮辱
第二 重罪ニ因レル処刑
第三 窃盗又ハ詐欺取財ノ罪ニ因レル重禁錮一年以上ノ処刑
第四 浪費
第百四条第百五条及ヒ第百十二条ノ規定ハ離縁ニ之ヲ適用ス
第百九十八条 離縁ヲ請求スルノ訴権ハ養子ヲ為シタル者及ヒ養子ト為リタル者ノミニ属ス
養子ヲ為シタル者又ハ養子ト為リタル者カ死亡シタルトキハ離縁ノ訴権ハ消滅ス但訴訟中ニ死亡シタル場合ニ於テハ現実ノ利益ヲ有スル者其訴訟ヲ継続スルコトヲ得
第百九十九条 養子ヲ為シタル者カ禁治産中ニ在ルトキハ後見人又ハ後見監督人ハ親族会ノ許可ヲ得テ離縁ヲ請求スルコトヲ得
養子ト為リタル者カ禁治産中ニ在ルトキハ実家ノ父母、祖父母又ハ戸主ヨリ離縁ヲ請求スルコトヲ得
第二百条 養子ノ満十五年ニ至ラサル間ハ縁組承諾ノ権ヲ有スル者ヨリ離縁ヲ請求スルコトヲ得
第二百一条 養子カ養父母ト同居スルトキハ裁判所ハ離縁ノ訴訟中養子ヲシテ住家ヲ去ラシムルコトヲ得
此場合ニ於テハ養子ハ衣服其他日用物品ヲ持去リ且必要アルトキハ養料及ヒ訴訟費ヲ請求スルコトヲ得
裁判所ハ養子ノ請求ニ因リテ権利保存ノ為メニ必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得
第三款 離縁ノ効果
第二百二条 離縁ハ其裁判ノ確定後ニ非サレハ効果ヲ生セス
離縁ノ裁判ハ適法ノ公示アルニ非サレハ之ヲ以テ善意ナル第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
第二百三条 養子ハ離縁ニ因リテ養家ヲ去ル若シ未成年ナルトキハ普通法ニ従ヒテ更ニ親権又ハ後見ニ服ス
養子ト其養家ニ於テ生ミタル子トノ間ノ養料ノ義務ハ離縁ノ為メニ変更スルコト無シ
第二百四条 離縁ト為リタル養子ハ自己ノ過失ノ有無ニ拘ハラス其所有財産ニ限リ之ヲ請求スルコトヲ得但養家ノ為メニ消費シタルモノハ此限ニ在ラス
第二百五条 婿養子縁組ニ付テハ当事者ハ離縁ヲ原因トシテ離婚ヲ請求シ又離婚ヲ原因トシテ離縁ヲ請求スルコトヲ得但離婚又ハ離縁ヨリ三个月ヲ過キタルトキハ其訴権ヲ失フ
第二節 縁組解除
第二百六条 満十五年ニ至ラサル前ニ養子ト為リタル者ハ満十五年ニ至リシ日ヨリ一个年内ニ住所ノ区裁判所ニ出頭シ左ノ事由ニ依リテ縁組解除ヲ請求スルコトヲ得
第一 養父母カ養子ニ資力相応ノ教育ヲ与ヘサルコト
第二 縁組カ養子ノ一身ヲ害ス可キ不良ナル目的ニ出テタルコト
第三 養父母ノ養子ニ対スル取扱ノ苛酷ナルコト
養子ノ満十五年ニ至ラサル間ト雖モ裁判所ハ急迫ノ場合ニ於テハ縁組承諾ノ権ヲ有スル者又ハ養子ノ請求ニ因リテ相当ノ処分ヲ命シ又ハ縁組解除ヲ許スコトヲ得
第二百七条 養子ハ縁組解除ノ後ト雖モ実家ニ於テ他ノ人ノ為メ既ニ発開シタル相続ニ権利ヲ有セス
第二百八条 養子ハ養家ニ於テ受ケタル養育及ヒ教育ノ費用ヲ償還スルノ義務ナシ
第二百四条ノ規定ハ之ヲ縁組解除ニ適用ス
第三節 離縁及ヒ縁組解除ニ関スル通則
第二百九条 離縁及ヒ縁組解除ハ養子ノ家督相続後之ヲ為スコトヲ得ス
第九章 親権
第一節 子ノ身上ニ対スル権
第二百十条 子ハ成年又ハ自治産ニ至ルマテ本章ニ規定スル親権ニ服ス
第二百十一条 婚姻ノ継続中ハ父親権ヲ行フ
父親権ヲ行フ能ハサルトキハ母之ヲ行フ
父母ノ一方ノ死亡シタルトキハ他ノ一方親権ヲ行フ但其家ヲ去リタルトキハ此限ニ在ラス
第二百十二条 親子ノ分限カ父又ハ母ニ対シテ確定シタル私出子ニ付テハ其父又ハ母親権ヲ行フ
若シ親子ノ分限カ父及ヒ母ニ対シテ確定シタルトキハ父親権ヲ行フ但子カ母ノ家ニ属スルトキハ母之ヲ行フ
第二百十三条 子ハ親権ヲ行フ父又ハ母ノ許可ヲ受クルニ非サレハ父母ノ住家又ハ其指定シタル住家ヲ去ルコトヲ得ス
子カ許可ヲ受ケスシテ其住家ヲ去リタルトキハ父又ハ母ハ区裁判所ニ申請シ強ヒテ帰家セシムルコトヲ得
第二百十四条 子ハ父、母又ハ後見人ノ許可ヲ受クルニ非サレハ未成年中ニ兵役ヲ出願スルコトヲ得ス
第二百十五条 父又ハ母ハ子ヲ懲戒スルノ権ヲ有ス但過度ノ懲戒ヲ加フルコトヲ得ス
第二百十六条 子ノ行状ニ付キ重大ナル不満意ノ事由アルトキハ父又ハ母ハ区裁判所ニ申請シテ其子ヲ相当ノ感化場又ハ懲戒場ニ入ルヽコトヲ得
入場ノ日数ハ六个月ヲ超過セサル期間内ニ於テ之ヲ定ム可シ但父又ハ母ハ裁判所ニ申請シテ更ニ其日数ヲ増減スルコトヲ得
右申請ニ付テハ総テ裁判上ノ書面及ヒ手続ヲ用ユルコトヲ得ス
裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キテ決定ヲ為ス可シ父、母及ヒ子ハ其決定ニ対シテ抗告ヲ為スコトヲ得
第二百十七条 父又ハ母カ其子ニ対シ刑法第三百五十二条ノ罪ヲ犯シテ刑ニ処セラレタルトキハ総テノ子ニ対シテ当然親権ノ行使ヲ禁止セラル可シ
第二百十八条 父又ハ母カ親権ヲ濫用スルトキ又ハ教育ヲ為ササルトキハ区裁判所ハ検事ノ請求ニ因リテ親権行使ノ禁止ヲ言渡スコトヲ得
第二百十九条 親権ノ行使ヲ禁止セラレタル父又ハ母ハ子ノ婚姻又ハ離婚ヲ許諾シ縁組又ハ離縁ヲ承諾シ又ハ許諾シ及ヒ自治産ヲ許スノ権ヲ失フ
第二節 子ノ財産ノ管理
第二百二十条 父ハ未成年ナル子ノ総テノ権利行為ニ付テ之ヲ代表シ自己ノ財産ニ於ケル如ク其財産ヲ管理ス
第二百二十一条 父ノ管理ニ於テハ第二百九十条及ヒ第二百九十一条第一号ニ記載シタル行為ハ尚ホ之ヲ管理行為ト看做ス
父ハ区裁判所ノ認可ヲ受クルニ非サレハ第二百九十一条第二号以下ニ記載シタル行為ヲ為スコトヲ得ス
動産、不動産ノ売却方法及ヒ元本ノ利用方法ニ付テハ第十章ノ規定ヲ適用ス
第二百二十二条 子ハ特別ニ職業ヲ営ムニ因リテ取得シタル利益及ヒ相続、贈与又ハ遺贈ニ因リテ取得シタル財産ノ所有権ヲ有ス
父ハ其管理ニ属スル財産ノ目録ヲ作ル可シ
第二百二十三条 父ハ管理ノ止ミタルトキハ子ニ其財産ヲ引渡ス可シ但収益ハ子ノ養育、教育ノ費用及ヒ管理ノ費用ニ供シタルモノト看做ス
財産ノ引渡ニ付テハ第三百十一条ノ時効ヲ適用ス
第二百二十四条 父カ其権限内ニ於テ為シタル行為ニ付テハ子ハ欠損ヲ原因トシテ銷除ヲ請求スルコトヲ得ス
父カ法律ニ定メタル条件ヲ遵守セスシテ為シタル行為ハ当然銷除セラル可キモノトス
第二百二十五条 財産ノ管理ニ於テ父カ重大ノ過失ヲ為シ又ハ不正実ノ所為ヲ為シタルトキハ区裁判所ハ検事ノ請求ニ因リテ子ノ保佐人ヲ命シ之ニ管理ヲ委任スルコトヲ得
父ノ浪費又ハ家事衰替ニ因リテ子ノ財産ニ危険ヲ来タスノ恐アルトキ亦同シ
第二百二十六条 本節ノ規定ハ母カ子ノ財産ヲ管理スル場合ニ之ヲ適用ス
然レトモ母ハ常ニ管理ヲ辞スルコトヲ得
第三節 嫡母、継父及ヒ継母ニ特別ナル規則
第二百二十七条 前二節ノ規定ニ拘ハラス嫡母、継父又ハ継母ノ親権ヲ行フ場合ニ於テハ相談人ヲ付スルコトヲ得
此相談人ハ配偶者公正証書若クハ遺言書ヲ以テ之ヲ定メ又ハ親族会其議決ヲ以テ之ヲ定ム
第二百二十八条 相談人ハ後見監督人ト同一ノ権限及ヒ義務ヲ有シ第二百十八条及ヒ第二百二十五条ノ処分ヲ請求スルコトヲ得
第二百二十九条 配偶者カ相談人ヲ定メサル場合ニ於テ親族会ヲ招集セサルトキ又ハ配偶者若クハ親族会ノ定メタル相談人ニ相談セサルトキハ区裁判所ハ検事ノ請求ニ因リ嫡母、継父又ハ継母ニ対シテ親権行使ノ禁止ヲ宣告スルコトヲ得
第十章 後見
総則
第二百三十条 後見ハ未成年者ノ父又ハ母ニシテ遺存スル者ノ死亡ニ因リテ開始ス
父母共ニ生存シ又ハ其一方ノ遺存スルモ親権ヲ行フ能ハサルトキ又ハ母カ子ノ財産ノ管理ヲ辞スルトキ亦同シ
第二百三十一条 一家ニ未成年者数人アルモ後見人ハ一人タル可シ
数人ノ未成年者ノ間ニ利益相反スルトキハ住所又ハ居所ノ区裁判所ハ親族会ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ特別ノ保護ヲ要スル未成年者ニ臨時保佐人ヲ付ス
第二百三十二条 親権又ハ後見ニ服スル未成年者ニ財産ヲ贈与シ又ハ遺贈スル者ハ其指名スル保佐人ヲシテ贈与又ハ遺贈ノ財産ヲ管理セシム可キ条件ヲ付スルコトヲ得此管理ニ付テハ保佐人ハ後見人ト同一ノ任務ヲ有ス
未成年者ノ成年ニ達セサル間ニ保佐人ノ管理止ムトキハ区裁判所其代替者ヲ命ス
第二百三十三条 後見人ハ親族会ノ認免ヲ得サル限リハ後見ヲ承諾ス可シ若シ後見人之ヲ承諾セス又ハ其任務ヲ怠ルトキハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リテ区裁判所ハ代務者ヲ命スルコトヲ得
後見人ハ代務者ノ管理ノ費用ヲ負担シ且其管理ニ付キ責ニ任ス
第一節 後見人
第二百三十四条 遺存シテ親権ヲ行フ父又ハ母ハ其生前ニ於テ血族、姻族又ハ他人ノ中ヨリ後見人タル可キ者ヲ指定スルノ権ヲ有ス
第二百三十五条 後見人ノ指定ハ遺言書若クハ公正証書ヲ以テ之ヲ為シ又ハ区裁判所ニ口述シテ之ヲ為ス可シ此口述ニ付テハ調書ヲ作ルコトヲ要ス
第二百三十六条 父又ハ母カ後見人ヲ指定セサリシトキハ其家ノ祖父後見人ト為ル但家族ニ付テハ成年ノ戸主後見人ト為ル
第二百三十七条 遺言後見人モ祖父若クハ戸主タル後見人モ有ラサルトキ又ハ此等ノ後見人カ認免セラレ除斥セラレ若クハ死亡シタルトキハ親族会ニ於テ後見人ヲ選定ス
第二百三十八条 未成年者ヲ有スル人ノ死亡シタルトキ又ハ未成年者ヲ有スル父若クハ母ノ婚姻其他ノ事故ニ因リテ他家ニ入リタルトキハ区裁判所ハ未成年者ノ親族若クハ利害関係人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ後見人ヲ設定スル為メ親族会ヲ招集ス可シ
何人ヲ問ハス後見人ヲ設定ス可キ事実アルトキハ区裁判所ニ之ヲ通告スルコトヲ得
第二百三十九条 父母又ハ其一方ニ対シテ親子ノ分限確定シタル私出未成年者ノ為メ後見ノ開始スルトキハ亦前数条ノ規定ヲ適用ス
第二百四十条 親子ノ分限確定セサル未成年者アルトキハ区裁判所ハ検事ノ請求ニ因リテ後見人ヲ指定ス
第二百四十一条 育児院ニ在リテ父母ノ知レサル未成年者ノ後見ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二節 後見監督人
第二百四十二条 後見ニハ一人ノ後見監督人ヲ付スルコトヲ得
後見監督人ハ後見人ヲ定ムルト同一ノ手続ニ従ヒ遺言ヲ以テ之ヲ指定シ又ハ親族会ニ於テ之ヲ選定ス
本章第四節及ヒ第五節ノ規定ハ後見監督人ニ之ヲ適用ス
第二百四十三条 後見監督人ヲ置カサル場合ニ於テ監督ヲ要スルコト有ルトキハ親族会ニ於テ会員一人ヲ選定シ臨時ニ後見監督人ノ任務ヲ行ハシム
第三節 親族会
第二百四十四条 親族会ハ未成年者ノ最近親族五人ヲ以テ之ヲ組成ス
会長ハ親族会員ノ互選ヲ以テ之ヲ定ム
会長若シ正当ノ事由アリテ其事務ヲ執ルコトヲ得サルトキハ会員一名ヲ指名シテ臨時ニ代理セシムルコトヲ得
第二百四十五条 未成年者ノ尊属親、兄弟、伯叔父ハ其順位ヲ逐フテ当然会員ト為ル
兄弟ノ間又ハ伯叔父ノ間ニ於テハ年長者会員ト為ル
此等ノ者アラサルトキハ区裁判所ハ未成年者ノ親等及ヒ利益ヲ酌量シテ其親族中ヨリ会員ヲ指定ス
親族アラサルトキハ区裁判所ハ未成年者ノ父母ト懇親ナルヲ以テ知ラレタル人ヲ選ヒテ会員ト為ス
第二百四十六条 後見人、後見監督人及ヒ臨時保佐人ハ管理事務ニ係ル説明ヲ為ス為メ親族会ノ会議ニ列ス
満十五年ニ達シタル未成年者モ亦会議ニ列スルコトヲ得
本条ニ依リ会議ニ列スル者ハ其評決ニ加ハルコトヲ得ス
第二百四十七条 会員タル可キ人カ住地ノ遠隔其他正当ナル事由ノ為メ会員タルコトヲ得サルトキハ区裁判所ハ之ヲ認免シ第二百四十五条ノ規定ニ従ヒテ其代替者ヲ指定ス
後見ノ継続中ニ会員ノ任務止ム場合ニ於テ其代替者ヲ指定スルモ亦第二百四十五条ノ規定ニ従フ
第二百四十八条 会員ハ親族ナルト他人ナルトヲ問ハス自ラ会議ニ列スルコトヲ要ス
正当ナル事由ナクシテ会議ニ列セサル会員アルトキハ区裁判所ハ他ノ会員ノ請求ニ因リテ之ヲ二円以下ノ過料ニ処ス
会議ヲ開ク毎ニ闕席スル会員アルトキハ区裁判所ハ之ヲ罷免ス此場合ニ於テハ二十円以下ノ過料ニ処スルコトヲ得
会員罷免ノ場合ニ於テ区裁判所カ代替者ヲ指定スルハ第二百四十五条ノ規定ニ従フ
第二百四十九条 父母又ハ父ノミニ対シテ親子ノ分限確定シタル私出未成年者ノ親族会ハ前数条ノ規定ニ従ヒテ之ヲ組成ス
然レトモ父ノ姻族及ヒ母ノ親族ハ会員タルコトヲ得ス又第三百七十条ノ場合ニ於テ未成年者カ母ノ家ニ在ルトキハ父ノ親族ハ会員タルコトヲ得ス
母ノミニ対シテ親子ノ分限確定シタル私出未成年者ノ親族会ノ組成モ亦前数条ノ規定ニ従フ
第二百五十条 親子ノ分限確定セサル未成年者ニ付テハ区裁判所ハ其管轄内ニ於テ市町村会議員タル可キ資格ヲ有スル者ノ中ヨリ会員ヲ指定ス
第二百五十一条 未成年ナル養子ノ親族会ニハ実家ノ親族ヲモ其会員ニ指定スルコトヲ得
第二百五十二条 親族会ハ後見開始ノ時ニ於テ未成年者ノ住所又ハ居所ノ区裁判所前数条ノ規定ニ従ヒテ之ヲ組成ス
然レトモ第二百三十六条ノ場合ニ於テハ親族二人以上ノ申立ニ因リ区裁判所ハ親族会ヲ組成セサルコトヲ得
後見人又ハ会員ノ請求ニ因リテ区裁判所カ親族会ノ在所ヲ移サヽル限リハ組成ノ地ヲ以テ其在所トス
第二百五十三条 会長ハ自ラ親族会ヲ招集シ又ハ後見人、後見監督人、保佐人、親族会員、利害関係人若クハ検事ノ求メニ因リテ之ヲ招集ス
招集ヲ為ストキハ予メ会議ノ目的ヲ知ラシムルコトヲ要ス
第二百五十四条 親族会集会ノ期日及ヒ場所ハ会長之ヲ定ム
集会ノ日ト集会通達ノ日トノ間ニハ少ナクトモ三日ヲ存スルコトヲ要ス
第二百五十五条 参集セサル会員ノ出席ヲ待ツノ必要アルトキ又ハ其代替者ノ指定ヲ求ムルノ必要アルトキハ会長ハ集会ヲ延期スルコトヲ得
未成年者ノ利益カ集会ノ延期ヲ要スルトキ亦同シ
第二百五十六条 会議ヲ為スニハ総テノ会員ヲ招集シ会長ノ外少ナクトモ二人以上ノ会員ノ出席ヲ要ス
議事ハ過半数ヲ以テ之ヲ決シ同数ナルトキハ会長之ヲ決ス
第二百五十七条 会員ハ自己ノ利害ニ関係アル会議ニ列スルコトヲ得ス
第二百五十八条 決議カ全会一致ニ出テサルトキハ各会員ノ意見ヲ議事録ニ録存ス可シ
第二百五十九条 後見人、後見監督人、保佐人及ヒ検事ハ決議ノ本案ヲ攻撃スルコトヲ得
第二百六十条 親族会ノ決議ハ左ノ場合ニ於テハ不成立トス
第一 会長ノ出席又ハ関係ナクシテ会議ヲ為シタルトキ
第二 第二百五十六条ノ規定ニ違ヒタルトキ
第二百六十一条 前条ノ場合ヲ除キ他ノ違法ノ所為アリテ未成年者ノ利益ヲ害スルトキハ其決議ヲ無効ト為スコトヲ得
第二百六十二条 如何ナル場合ヲ問ハス親族会ヲ組成スル必要アルトキハ総テ本節ノ規定ヲ適用ス
第四節 後見ノ認免
第二百六十三条 左ニ掲ケタル者ハ当然後見人タルコトヲ認免セラル
第一 現役ニ服スル軍人、軍属
第二 後見ヲ設定スル市又ハ郡ノ外ニ於テ公務ニ従事スル人
第二百六十四条 前条ニ掲ケタル者カ後見ヲ承諾シタルトキハ職務ヲ有スル原因ノ為メ認免セラルヽコト無シ
又此等ノ者ノ職務止ムニ当リ現任ノ後見人カ解任ヲ求メ又ハ認免ヲ得タル者カ就任ヲ求ムルトキハ親族会ハ其求メヲ許スコトヲ得
第二百六十五条 未成年者ノ親族ニ非サル者ハ後見ヲ設定スル地ヨリ五里以内ニ後見ニ適スル親族アルトキハ後見ヲ承諾セサルコトヲ得
親族タル者ノ後見ヲ認免セラレタル原因止ムトキハ親族ニ非サル後見人ハ解任ヲ求ムルコトヲ得
第二百六十六条 後見人ハ認免又ハ解任ヲ得ル為メ法律ニ掲ケサル原因ヲモ申立ツルコトヲ得
第二百六十七条 認免及ヒ解任ノ求メハ総テ親族会ノ会議ニ付ス可シ
認免及ヒ解任ノ求メヲ拒却セラレタル者ハ区裁判所ニ抗告ヲ為スコトヲ得但決定アルマテハ後見ノ任務ヲ執行スルコトヲ要ス
第二百六十八条 後見人カ解任ヲ求ムルトキハ親族会ハ何時ニテモ未成年者ノ利益ノ為メニ之ヲ許スコトヲ得
第五節 後見人及ヒ親族会員ノ欠格、除斥及ヒ罷黜
第二百六十九条 左ニ掲ケタル者ハ後見人タルコトヲ得ス又親族会員タルコトヲ得ス
第一 未成年者
第二 民事上禁治産者及ヒ准禁治産者
第三 婦女但尊属親及ヒ戸主ハ後見人タルコトヲ得
第四 未成年者ノ身分ニ対シ又ハ財産ノ主要ナル部分ニ対シテ訴訟ヲ為ス人及ヒ其人ノ尊属親、卑属親、配偶者
若シ此等ノ欠格者カ後見事務ヲ取扱フトキハ親族会ノ決議ヲ以テ之ヲ放棄セシム
第二百七十条 左ニ掲ケタル者ハ後見及ヒ親族会ヨリ除斥セラル可シ現ニ任務ニ従事スル者ハ之ヲ罷黜ス
第一 甚シキ不行跡ナル人
第二 後見管理ニ不能又ハ不正実ヲ顕ハセル後見人
第三 裁判ヲ以テ子ノ財産ノ管理ヲ罷メラレタル父又ハ母
第四 不能又ハ不正実ノ原因ニ由リテ後見ヲ解任セラレ除斥セラレ罷黜セラレタル人又ハ親権行使ヲ禁止セラレタル父若クハ母
第五 任務ヲ免黜セラレタル裁判上ノ保佐人
第六 公権剥奪、公権停止及ヒ刑事上禁治産ヲ受ケタル人
第七 復権ヲ得サル破産者
第二百七十一条 後見人ノ除斥又ハ罷黜ハ後見監督人ノ求メニ因リ又ハ会長ノ意見ヲ以テ招集スル親族会ニ於テ之ヲ為ス
未成年者ノ四親等内ノ親族ヨリ此親族会ノ招集ヲ求ムルトキハ会長ハ之ヲ招集スルコトヲ要ス
第二百七十二条 後見人ノ除斥又ハ罷黜ニ関スル親族会ノ決議ニハ其理由ヲ付ス可シ但此決議ハ後見人ノ陳述ヲ聴キ又ハ召喚ヲ為シタル後ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第二百七十三条 後見人カ親族会ノ決議ヲ承認スルトキハ之ヲ議事録ニ載セ後任ノ後見人直チニ其任務ニ就ク可シ
若シ後見人カ決議ヲ承認セサルトキハ後見監督人又ハ会長ハ区裁判所ニ其決議ノ認可ヲ請求シ裁判所ハ後見人ノ陳述ヲ聴キテ決定ヲ為ス此決定ニ対シテハ抗告ヲ為スコトヲ得
除斥セラレ又ハ罷黜セラレタル後見人ハ其任務ヲ保持スル為メ後見監督人又ハ会長ニ対シテ起訴スルコトヲ得
第二百七十一条第二項 ノ規定ニ従ヒテ親族会ノ招集ヲ求メタル親族ハ訴訟ニ参加スルコトヲ得
此訴訟ハ休暇事件ト同シク取扱フコトヲ要ス
第二百七十四条 親族会員ノ除斥又ハ罷黜ニ付テモ亦第二百七十一条以下ノ規定ヲ適用ス
第六節 後見人ノ管理
第二百七十五条 後見人カ後見ノ開始ヲ知ルトキハ直チニ任務ニ就クコトヲ要ス若シ其場所ニ在ラサルトキハ何人ニテモ此開始ヲ区裁判所ニ通知シ裁判所ハ之ヲ後見人ニ通知ス
親族会ニ於テ後見人ヲ選定シ其後見人カ在席スルトキハ直チニ任務ニ就キ若シ在席セサルトキハ会長ノ通知ヲ得タル日ヨリ任務ニ就クコトヲ要ス
第二百七十六条 後見人ハ未成年者ヲ懇切ニ待遇シ未成年者ハ後見人ニ恭順ナルコトヲ要ス
第二百七十七条 後見人ハ未成年者ヲ監護シ其教育ヲ担任ス
選定後見人若シ未成年者ノ在来ノ住居又ハ教育方法ヲ変更セントスルトキハ親族会ニ協議ス可シ其議協ハサルトキハ区裁判所ニ申立テ裁判所ハ未成年者ノ満十二年以上ナルトキハ其意見ヲ聴キテ決定ヲ為ス
第二百七十八条 後見人ハ父母ノ如ク未成年者ヲ懲戒スルノ権ヲ有ス
未成年者ノ行状ニ付キ重大ナル不満意ノ事由アルトキハ後見人ハ親族会ノ許可ヲ得タル上第二百十六条ノ規定ニ従ヒテ未成年者ニ対スル処分ヲ為スコトヲ得
後見人カ其権ヲ濫用シ又ハ其義務ヲ怠ルトキハ未成年者其他総テノ親族ハ親族会長ニ之ヲ申告スルコトヲ得
第二百七十九条 後見人ハ未成年者ノ総テノ権利行為ニ付テ之ヲ代表シ善良ナル管理者ノ如ク其財産ヲ管理シ管理ノ失当又ハ過失ヨリ生スル損害賠償ノ責ニ任ス
第二百八十条 後見人ハ当然其任務ニ就ク可キ日ヨリ十日内ニ後見監督人ノ立会ヲ得テ未成年者ノ財産ヲ調査ス可シ但其財産ニ封印アルトキハ開放ヲ請求スルコトヲ要ス
財産目録ノ調製ハ一个月内ニ之ヲ終フルコトヲ要ス区裁判所ハ状況ニ従ヒテ延期ヲ許スコトヲ得
遺言ヲ以テ目録調製ヲ免除シタルトキト雖モ此免除ハ不成立トス
第二百八十一条 後見人カ未成年者ノ債務者又ハ債権者ナルトキハ目録ノ調製前其旨ヲ公証人又ハ親族会ニ明言スルコトヲ要ス
後見人カ債権ノ存立ヲ知リテ之ヲ明言セサリシトキハ其債権ヲ喪失ス又債務ノ存立ヲ知リテ之ヲ明言セサリシトキハ区裁判所ハ其後見人ヲ罷黜スルコトヲ得但罷黜ノ場合ニ於テハ三十円以下ノ過料ニ処スルコトヲ得
第二百八十二条 後見人カ適法ノ期間内ニ正確ナル目録ヲ調製セサリシトキハ区裁判所ハ其後見人ヲ罷黜スルコトヲ得此場合ニ於テハ前条ノ罰則ヲ適用ス
正確ナル目録ヲ調製セサリシ動産ノ箇数及ヒ価格ハ世評ヲ以テモ之ヲ定ムルコトヲ得
第二百八十三条 目録調製ヲ終ヘサル間ハ後見人ハ要急闕ク可カラサル管理行為ノミヲ為スコトヲ得
第二百八十四条 後見人ハ目録調製ヲ終へタル後親族会カ保存ヲ要セスト認ムル有体動産ヲ一个月内ニ後見監督人ノ立会ニテ競売ニ付ス
親族会ハ示談売却ヲ後見人ニ許スコトヲ得
第二百八十五条 後見任務執行ノ初ニ於テ親族会ハ未成年者ノ養育ノ需用、教育ノ程度ト其資産トニ従ヒ毎年費ス可キ金額及ヒ財産管理ニ係ル費用ヲ定ム
親族会ハ相当ノ給料ヲ与フル一人又ハ数人ノ管理者ヲ後見人ノ自己ノ責任ヲ以テ使用スルヲ許スコトヲ得
第二百八十六条 後見人ハ未成年者ノ元本及ヒ収益ノ剰額ヲ毎次ニ官ノ貯金預所ニ預ク可シ其預ケサリシ金額ニ付テハ法律上ノ利息ヲ弁済ス可シ
後見人カ未成年者ノ財産ノ利用方法ヲ変更セントスルトキハ親族会ノ許可ヲ受クルコトヲ要ス
後見人カ本条ノ規定ニ背キテ未成年者ノ財産ヲ自己ノ用ニ供シタルトキハ当然其利息ヲ弁済ス可ク且六个月ヲ過クレハ其利息ノ利息ヲ弁済ス可シ
第二百八十七条 尊属後見人及ヒ戸主後見人ヲ除クノ外後見人ハ親族会ノ指定スル時期ニ於テ一个年内ノ管理ノ状況ヲ親族会ニ報告ス可シ親族会ハ会員一人ニ命シテ之ヲ調査セシメ決議ノ上区裁判所ニ其状況書ヲ差出タス可シ
第二百八十八条 後見人ハ未成年者ノ財産ニ付テハ管理ノ権ヲ有スルニ止マリ此権外ノ行為ハ法律ニ定メタル条件ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
後見人ハ管理ノ為メ其権内ニ於テ債務ヲ約スルコトヲ得
第二百八十九条 親族会ハ法律ニ定メタル後見人ノ権限ヲ変更スルコトヲ得ス
第二百九十条 左ニ掲ケタル行為ニ関シテハ後見人ハ親族会ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス
第一 領収シタル元本ヲ利用スルコト
第二 有償ニテ動産ヲ譲渡シ又ハ之ニ物上権ヲ設定スルコト但果実ヲ時価ニテ売却シ又ハ損敗ス可キ動産ヲ売却スルハ此限ニ在ラス
第三 動産、不動産ヲ取得スルコト但未成年者ノ日用ノ為メ又ハ其財産ノ管理ノ為メニ取得スルハ此限ニ在ラス
第四 新築、改築、増築又ハ大修繕ヲ為スコト
第五 財産編第百十九条ニ定メタル期間ヲ超ユル賃貸ヲ為スコト
第六 相続、遺贈又ハ贈与ヲ受諾スルコト但相続ニ付テハ受諾ノ方法ヲモ定ムルコト
第七 分割又ハ仮分割ノ請求ヲ為スコト但分割請求ノ訴ニ対シテ答弁ヲ為スハ此限ニ在ラス
第二百九十一条 左ニ掲ケタル行為ニ関シテハ後見人ハ親族会ノ許可及ヒ区裁判所ノ認可ヲ得ルコトヲ要ス
第一 有償ニテ不動産又ハ債権ナル動産ヲ譲渡シ又ハ之ニ物上権ヲ設定スルコト
第二 借財ヲ為スコト
第三 相続若クハ遺贈ヲ放棄シ又ハ贈与ヲ拒却スルコト
第四 動産、不動産ノ本権ニ係ル訴権ヲ行ヒ若クハ之ヲ放棄シ又ハ答弁ヲ為スコト又本権ニ付キ請求ニ承服シ和解ヲ為シ又ハ仲裁ニ付スルコト但前条第二号ニ掲ケタル動産ニ付テハ親族会ノ許可ヲ以テ足ル
第二百九十二条 親族会ノ許可ハ各行為ニ対シテ特別ナルコトヲ要ス
財産譲渡、物上権設定又ハ借財ニ付テハ必要ナル原因又ハ明確ナル利益ノ存スルニ非サレハ許可ヲ与フルコトヲ得ス
親族会ハ売却ス可キ財産及ヒ其競売ニ係ル条件ヲ定ムルコトヲ要ス但親族会ハ示談売却ヲ許スコトヲ得
第二百九十三条 親族会ノ決議ニ付キ認可ノ請求アリタルトキハ区裁判所ハ検事ノ意見ヲ聴キテ決定ヲ為ス
裁判所ハ未成年者ノ利益ニ必要ナリト認ムルトキハ親族会ヲシテ再議セシムルコトヲ得
第二百九十四条 後見人ハ未成年者ノ財産ヲ譲受クルコトヲ得ス又未成年者ニ対スル権利ヲ譲受クルコトヲ得ス
第二百九十五条 後見人ハ親族会ノ許可ヲ得ルニ非サレハ未成年者ノ不動産ヲ賃借スルコトヲ得ス
第二百九十六条 後見人ノ其権内ニ於テ為シタル行為ハ未成年者ヲ羈束ス
第七節 後見監督人ノ任務
第二百九十七条 後見監督人ハ後見人ノ管理ヲ監視スルコトニ任ス
後見監督人ハ後見人ヲ欠クトキト雖モ後見ノ任務ヲ行フコトヲ得ス此場合ニ於テハ直チニ後任ノ後見人ヲ定ムル手続ヲ為スコトヲ要ス此手続ヲ為サヽルトキハ因テ生スル損害ヲ賠償スルノ責ニ任ス
第二百九十八条 未成年者ト後見人トノ間ニ利益相反スルトキハ後見監督人ハ未成年者ヲ代表ス此場合ニ於テハ臨時後見監督人ヲ選定ス
第二百九十九条 如何ナル場合ニ於テモ後見監督人ハ保存行為ヲ為スコトヲ得
第三百条 法律上後見監督人ノ立会フ可キ行為ニシテ其立会無クシテ為シタルモノハ無効トス
第八節 後見ノ終了
第三百一条 後見ノ任務ハ後見人ノ一身ニ止マリ其相続人ニ移転セス
相続人ハ後見人ノ為シタル管理ニ付キ責任ヲ有ス若シ相続人カ成年者ナルトキハ後任ノ後見人ノ任務ニ就クマテ管理ヲ継続ス可シ
第三百二条 罷黜セラレ認免セラレ又ハ解任セラレタル後見人ハ後任ノ後見人ノ任務ニ就クマテ後見ニ係ル管理ヲ担任ス
第三百三条 未成年者カ成年ニ達シ又ハ自治産ニ至ルニ因リテ後見ノ止ムトキハ後見人ハ其計算ヲ終フルマテ管理ヲ継続ス
第三百四条 前数条ノ規定ニ従ヒテ仮ニ管理ヲ為ス者ハ必要ナル行為又ハ明瞭ニ有益ナル行為ノミヲ為スコトヲ得
第九節 後見ノ計算
第三百五条 後見人ハ管理ノ終了スルトキハ其計算ヲ為ス可シ
如何ナル場合ニ於テモ計算ノ免除ハ不成立トス
第三百六条 後見ノ決算ハ後見監督人ノ立会ニテ未成年者ノ成年ニ達シタル者又ハ其自治産ニ至リタル者ニ対シテ之ヲ為ス
後見カ後見人ノ身上ニ係リテ終了スルトキハ決算ハ後任ノ後見人ニ対シテ之ヲ為シ親族会ノ許可ニ付ス但第百六十二条ノ場合ニ於テハ決算ハ後見監督人ニ対シテ之ヲ為ス
後見カ未成年者ノ死亡ニ因リテ終了スルトキハ決算ハ其相続人ニ対シテ之ヲ為ス
後見ノ決算ニ係ル費用ハ未成年者ノ負担ニ属ス
第三百七条 後見ノ決算ハ管理終了ノ日ヨリ三个月内ニ之ヲ為ス可シ
区裁判所ハ当事者ノ請求ニ因リテ延期ヲ許スコトヲ得
第三百八条 後見人ト未成年者ノ成年ニ達シタル者トノ合意ニシテ後見ノ決算前ニ為シタルモノハ総テ無効トス
第三百九条 後見ノ費用ハ予算ノ定額ヲ超ユルト雖モ後見人其有益タルコトヲ証スルトキハ後見人ニ之ヲ弁償ス可シ
第三百十条 後見人ヨリ未成年者ニ返済ス可キ金額ハ決算完結ノ日ヨリ当然利息ヲ生ス
未成年者ヨリ後見人ニ返済ス可キ金額ハ決算完結ノ後後見人ノ催告ニ因リテ利息ヲ生ス
第三百十一条 後見ノ計算ニ係ル未成年者ノ訴権ハ五个年ノ時効ニ因リテ消滅ス後見人其他仮ニ後見管理ヲ為シタル人ノ未成年者ニ対スル訴権モ亦同シ
未成年者ト後見監督人又ハ親族会員トノ間ノ後見ニ係ル訴権ニ付テモ亦前項ノ規定ヲ適用ス
此期間ハ未成年者ノ成年ニ達シ又ハ死亡シタル日ヨリ起算シ第三百八条ノ場合ニ於テ後見ノ計算ニ係ル訴権ニ付テハ合意無効ノ裁判言渡ノ日ヨリ起算ス
第三百十二条 後見監督人及ヒ仮ニ後見管理ヲ為シタル人ハ代理契約ノ原則ニ従ヒテ過失ノ責ニ任ス
第十一章 自治産
第三百十三条 未成年者ハ婚姻ヲ為スニ因リテ当然自治産ノ権ヲ得
第三百十四条 親権ヲ行フ父又ハ母ハ満十五年ニ達シタル未成年ノ子ニ自治産ヲ許スコトヲ得
此自治産ハ身分取扱官吏ニ為シタル申述ニ因リテ成立ス
第三百十五条 後見ニ服スル未成年者ノ満十八年ニ達シタルトキハ親族会ハ其未成年者ニ自治産ヲ許スコトヲ得
此自治産ハ親族会ノ決議ノ申述ニ因リテ成立ス
第三百十六条 後見人カ未成年者ニ自治産ヲ許スノ発議ヲ為サヽルトキハ会長ハ自ラ親族会ヲ招集シテ之ヲ議セシムルコトヲ得又親族ノ求メ有ルトキハ此親族会ヲ招集スルコトヲ要ス
第三百十七条 自治産ノ未成年者ハ之ヲ保佐ニ付ス
親権ヲ行ヒタル父又ハ母ハ当然保佐人ト為ル
遺存シテ親権ヲ行フ父又ハ母ハ其生前ニ第二百三十五条ノ規定ニ従ヒテ保佐人ヲ指定スルコトヲ得若シ之ヲ指定セサリシトキハ其家ノ祖父保佐人ト為リ家族ニ付テハ成年ノ戸主保佐人ト為ル
夫ハ当然未成年ノ婦ノ保佐人ト為ル
此他ノ場合ニ於テハ親族会ニ於テ保佐人ヲ選定ス
第三百十八条 後見人ニ関シテ定メタル認免、欠格、除斥及ヒ罷黜ノ規則ハ之ヲ保佐人ニ適用ス
第三百十九条 自治産ノ未成年者ハ単独ニテ純然タル管理行為ノミヲ為スコトヲ得
第三百二十条 自治産ノ未成年者ハ保佐人ノ立会アルニ非サレハ元本ヲ領収スルコトヲ得ス
保佐人ハ自治産ノ未成年者カ其日用ニ供セサル元本及ヒ収益ナル金額ヲ官ノ貯金預所ニ預クルコトヲ監視ス
此他ノ利用方法ニ付テハ保佐人ノ立会アルコトヲ要ス
第三百二十一条 第二百九十条ニ掲ケタル行為ニ付テハ自治産ノ未成年者ハ保佐人ノ立会アルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
分割請求ノ訴ニ対シ答弁ヲ為スニ付テモ亦保佐人ノ立会アルコトヲ要ス
第三百二十二条 第二百九十一条ニ掲ケタル行為ニ付テハ自治産ノ未成年者ハ親族会ノ許可及ヒ保佐人ノ立会アルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第二百九十二条ノ規定ハ此場合ニモ亦之ヲ適用ス
第三百二十三条 父母ニ非サル保佐人カ自治産ノ未成年者ノ行為ニ立会フコトヲ拒ムトキハ其未成年者ハ親族会ニ臨時保佐人ノ選定ヲ求ムルコトヲ得
第三百二十四条 父母ヲ除クノ外保佐人ハ後見人ト同シク過失ノ責ニ任ス
第三百二十五条 自治産ヲ許サレタル未成年者カ不行跡又ハ財産管理ノ失当ニ因リテ自治産者タルニ適セサルトキハ親族会ハ其自治産ヲ止ムルコトヲ得
親権ヲ行ヒタル父又ハ母ハ自治産ヲ廃止スルコトヲ得若シ此等ノ者アラサルトキハ親族会員又ハ保佐人ハ此廃止ヲ親族会ニ求ムルコトヲ得
未成年者ハ自治産廃止ノ日ヨリ親権又ハ後見ニ服シ成年ニ達スルマテ復タ自治産者ト為ルコトヲ得ス
第十二章 禁治産
第一節 民事上禁治産
第三百二十六条 心神喪失ノ常況ニ在ル者ハ仮令時々本心ニ復スルコト有ルモ其治産ヲ禁スルコトヲ得
第三百二十七条 禁治産ハ配偶者、四親等内ノ血族、戸主及ヒ検事ヨリ之ヲ区裁判所ニ請求スルコトヲ得
禁治産ヲ請求スル権利ヲ有スル一人ノ申立ニ因リテ言渡シタル裁判ハ総テノ人ニ対シテ既判力ヲ有ス
第三百二十八条 禁治産者ハ之ヲ後見ニ付ス
配偶者ハ当然相互ニ後見人ト為ル若シ配偶者アラサルトキハ其家ノ父後見人ト為リ父アラサルトキハ親権ヲ行フコトヲ得ヘキ母後見人ト為ル
父又ハ母ハ第二百三十五条ニ定メタル方式ニ従ヒテ後見人ヲ指定スルコトヲ得若シ指定セサリシトキハ第二百三十六条ノ規定ヲ適用ス
法律上ノ後見人モ遺言後見人モ有ラス又ハ此等ノ後見人カ認免セラレ除斥セラレ若クハ罷黜セラレタルトキハ第十章ニ定メタル方式ニ従ヒ親族会ニ於テ後見人ヲ選定ス
第三百二十九条 配偶者、尊属親、卑属親及ヒ戸主ヲ除クノ外何人タリトモ十个年以上禁治産者ノ後見ヲ担任スルコトヲ要セス
第三百三十条 未成年者ノ後見ニ係ル規定ハ禁治産者ノ後見ニ之ヲ適用ス
第三百三十一条 疾病ノ性質ト資産ノ状況トニ従ヒテ禁治産者ヲ自宅ニ療養セシメ又ハ之ヲ病院ニ入ラシムルハ親族会ノ決議ニ依ル但瘋癲病院ニ入ラシメ又ハ自宅ニ監置スル手続ハ特別法ヲ以テ之ヲ定ム
第三百三十二条 法律上ノ後見人ハ第二百八十七条ニ定メタル管理状況ノ報告ヲ為スコトヲ要セス
第三百三十三条 禁治産者ノ財産ヲ以テ其子孫ノ婚姻又ハ営業ノ資ニ供セントスルトキハ親族会ノ許可ヲ得ルコトヲ要ス但禁治産者カ婦ナルトキハ財産取得編夫婦財産契約ノ章ノ規定ニ従フ
第三百三十四条 禁治産者ハ禁治産ノ裁判言渡ノ日ヨリ無能力者トス
裁判言渡後ニ為シタル禁治産者ノ行為ハ之ヲ銷除スルコトヲ得
此銷除訴権ハ後見人、禁治産者、其相続人及ヒ承継人之ヲ行フコトヲ得
第三百三十五条 禁治産ノ裁判言渡前ニ為シタル禁治産者ノ行為ニ対シテモ其行為ノ当時ニ於テ喪心ノ明確ナルトキハ銷除訴権ヲ行フコトヲ得
禁治産者ト合意ヲ為シタル者カ喪心ノ状況ヲ知リタルトキハ仮令喪心ノ明確ナラサルモ其合意ニ対シテ銷除訴権ヲ行フコトヲ得
第三百三十六条 禁治産ノ原因止ミタルトキハ本人、其配偶者、親族、戸主、後見人又ハ検事ノ請求ニ因リテ其禁ヲ解ク可シ
禁治産者ハ解禁ノ裁判言渡後ニ非サレハ其権利ヲ回復スルコトヲ得ス
第二節 准禁治産
第三百三十七条 心神耗弱者、聾唖者、盲者及ヒ浪費者ハ准禁治産者ト為シテ之ヲ保佐ニ付スルコトヲ得
准禁治産ノ言渡ハ配偶者、三親等内ノ血族及ヒ戸主ノ請求ニ因リ区裁判所之ヲ為ス
保佐人ニ付テハ第三百二十八条及ヒ第三百二十九条ノ規定ヲ適用ス
第三百三十八条 第三百十八条、第三百十九条及ヒ第三百二十条乃至第三百二十四条ノ規定ハ之ヲ准禁治産ニ適用ス
裁判所ハ状況ニ従ヒ准禁治産者ニ対シテ保佐人ノ立会アルニ非サレハ管理行為ヲモ為スコトヲ得サル旨ヲ言渡スコトヲ得
第三百三十九条 准禁治産者カ保佐人ノ立会ナクシテ為シタル行為ニ付テハ第三百三十四条ノ規定ヲ適用ス
第三百四十条 准禁治産ノ原因止ミタルトキハ本人、其配偶者、親族、戸主、保佐人又ハ検事ノ請求ニ因リテ其禁ヲ解ク可シ
第三節 刑事上禁治産
第三百四十一条 刑事上禁治産ヲ受ケタル者ハ其財産ヲ管理スルコトヲ得ス又遺言ヲ以テスルノ外ハ其財産ヲ処分スルコトヲ得ス
此禁治産ノ効果ハ裁判確定ノ日ヨリ生ス
第三百四十二条 刑事上禁治産者ニハ後見人ヲ付シテ其財産ヲ管理セシム此後見人ノ指定及ヒ管理ノ方法ニ付テハ民事上禁治産者ノ後見ニ係ル規定ヲ適用ス
第三百三十三条ノ場合ニ於テハ禁治産者ノ同意ヲ得ルヲ以テ足ル
第三百四十三条 刑事上禁治産者ノ収益ハ刑期間之ヲ禁治産者ニ交付スルコトヲ得ス
第三百四十四条 刑事上禁治産ノ効果ハ主刑ノ終ニ於テ止ム
第四節 瘋癲者ノ財産ノ仮管理
第三百四十五条 禁治産ヲ受ケサル瘋癲者アルトキハ配偶者、親族、戸主及ヒ検事ハ区裁判所ノ許可ヲ得テ特別法ニ定ムル手続ニ従ヒ之ヲ瘋癲病院ニ入レ又ハ自宅ニ監置スルコトヲ得
此場合ニ於テハ裁判所ハ直チニ仮管理人ヲ指定ス
第三百四十六条 瘋癲病院ニ入リ又ハ自宅ニ監置セラレタル者ハ入院中又ハ監置中其財産ヲ管理シ及ヒ処分スルコトヲ得ス
第三百四十七条 仮管理人ハ瘋癲者ノ総テノ権利行為ニ付テ之ヲ代表シ禁治産者ノ後見人ト同視セラル但必要ナル行為又ハ明瞭ニ有益ナル行為ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第三百四十八条 瘋癲者ノ入院中又ハ監置中ニ為シタル行為ハ本人、其承継人及ヒ仮管理人之ヲ攻撃スルコトヲ得
瘋癲者ノ入院中又ハ監置中ニ行為ヲ為シタル証拠アルトキハ其行為ヲ銷除スルコトヲ得但相手方カ瘋癲者ノ本心ニテ行為ヲ為シタルコトヲ証スルトキハ此限ニ在ラス
第三百四十九条 瘋癲者ノ無能力ハ区裁判所カ仮管理ヲ解ク時ニ於テ止ム
仮管理ハ入院又ハ監置ヲ請求シタル原因止ムトキハ特別法ニ定ムル手続ニ従ヒテ之ヲ解クコトヲ得
第十三章 戸主及ヒ家族
第三百五十条 戸主トハ一家ノ長ヲ謂ヒ家族トハ戸主ノ配偶者及ヒ其家ニ在ル親族ヲ謂フ
戸主及ヒ家族ハ其家ノ氏ヲ称ス
第三百五十一条 戸主ハ其家ヲ整理シ家族ハ戸主ヲ補助ス
第三百五十二条 戸主ハ家族ニ対シテ養育及ヒ普通教育ノ費用ヲ負担ス但家族カ自ラ其費用ヲ弁スルコトヲ得ルトキ又ハ戸主ノ許諾ヲ受ケスシテ他所ニ在ルトキハ此限ニ在ラス
第三百五十三条 家族ハ特別ニ職業ヲ営ムニ因リテ取得シタル利益及ヒ其齎帯シ又ハ遺産相続、贈与若クハ遺贈ニ因リテ取得シタル財産ノ所有権ヲ有ス
然レトモ家族カ其家ノ為メ消費シタル財産ニ付テハ戸主ニ対シテ償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第三百五十四条 家族ハ婚姻又ハ縁組ヲ為サントスルトキハ年齢ニ拘ハラス戸主ノ許諾ヲ受ク可シ但推定家督相続人ニ非サル家族カ其家ヲ去ル場合ニ於テハ此許諾ヲ必要トセス
然レトモ戸主カ第四十六条、第四十七条又ハ第百七十条ノ規定ニ因リテ許諾ヲ与フ可キ者タルトキハ本条ノ許諾ヲ要セス
戸主ノ許諾書ハ推定家督相続人ニ付テハ婚姻又ハ縁組ヲ為サントスルノ申出ヲ為ス時其他ノ家族ニ付テハ婚姻又ハ縁組ノ儀式ヲ行ヒタル届出ヲ為ス時ニ於テ之ヲ身分取扱官吏ニ差出タス可シ
第三百五十五条 家族ハ推定家督相続人及ヒ自治産ニ至ラサル未成年者ヲ除クノ外分家ヲ為シ又ハ親族ニ係ル廃家若クハ絶家ヲ再興スルコトヲ得
第三百五十六条 廃家又ハ絶家ヲ再興セントスル者ハ其再興セントスル家ノ最近ノ親族ノ許諾ヲ受ク可シ但其家ノ本家又ハ分家アルトキハ其戸主ノ許諾ヲモ受ク可シ
第三百五十七条 他家ニ入リテ夫、婦又ハ養子ト為リタル者ハ婚姻ノ無効、縁組ノ無効若クハ解除、離婚又ハ離縁ノ場合ニ於テハ実家ニ復帰ス
然レトモ此者カ婚姻又ハ縁組ニ付キ実家戸主ノ許諾ヲ受ケサリシトキハ戸主ハ復帰ノ事由ヲ知リタル日ヨリ一个月内ニ身分取扱官吏ニ申立テ復帰ヲ拒ムコトヲ得
第三百五十八条 他家ニ入リテ夫又ハ婦ト為リタル者ハ其配偶者ノ死亡シタルトキト雖モ婚家ヨリ更ニ他ノ家ニ入ルコトヲ得ス
然レトモ婚家及ヒ実家ノ戸主ノ許諾ヲ受ケテ実家ニ復帰スルコトヲ得
第三百五十九条 実家ニ復帰ス可キ者又ハ復帰セントスル者カ復帰スル能ハサルトキハ一家ヲ新立ス
第三百六十条 推定家督相続人ニ非サル家族タル男子カ戸主ノ許諾ヲ受ケスシテ普通婚姻ヲ為シタルトキハ当然一家ヲ新立ス
第三百六十一条 家督相続ニ因リテ戸主ト為リタル者ハ其家ヲ廃スルコトヲ得ス但分家ヨリ本家ヲ承継シ其他正当ノ事由アルトキハ区裁判所ノ許可ヲ得テ廃家スルコトヲ得
第三百六十二条 戸主カ国民分限ヲ喪失シタルトキハ当然廃家シタルモノトシ推定家督相続人ハ一家ヲ新立シ前戸主ノ家族ハ新戸主ノ家ニ入ル
第三百六十三条 戸主カ婚姻其他ノ原因ニ由リテ適法ニ他家ニ入リテ廃家シタルトキハ其家族モ亦従テ其家ニ入ル
第三百六十四条 分家ヲ為シ廃家若クハ絶家ヲ再興シ又ハ一家ヲ新立シタル者ノ婦及ヒ卑属親ハ当然其者ノ家ニ入ル
第三百六十五条 卑属親ヲ有スル家族カ婚姻又ハ縁組ニ因リテ他家ニ入ルトキハ卑属親ハ仍ホ実家ニ属ス
第三百六十六条 卑属親ヲ有スル者カ婚姻若クハ縁組ノ無効又ハ離婚若クハ離縁ニ因リテ婚家又ハ縁家ヲ去ルトキハ卑属親ハ仍ホ其家ニ属ス
第三百六十七条 父又ハ母ニ対シテ親子ノ分限確定シタル私出子ハ其父又ハ母ノ家ニ属シ父母ニ対シテ同時ニ親子ノ分限確定シタル私出子ハ父ノ家ニ属ス但父又ハ母カ配偶者ヲ有シ又ハ家族タルトキハ其配偶者又ハ戸主ノ許諾ヲ受ケテ認知シタルコトヲ要ス
若シ父及ヒ母カ其配偶者又ハ戸主ノ許諾ヲ受ケスシテ認知シタルトキハ其私出子ハ当然一家ヲ新立ス
正出子否認ノ訴ノ判決確定シタルトキハ否認セラレタル子モ亦前項ニ同シ
第三百六十八条 父母ノ知レサル子ハ当然一家ヲ新立ス
第三百六十九条 他家ニ入リテ夫、婦又ハ養子ト為リタル者ハ配偶者又ハ養子ヲ為シタル者ト協議ノ上両家ノ戸主ノ許諾ヲ受ケテ実家ニ在ル卑属親ヲ自家ニ引取ルコトヲ得
婚姻若クハ縁組ノ無効又ハ離婚若クハ離縁ニ因リテ婚家又ハ縁家ヲ去リタル者ハ配偶者又ハ養子ヲ為セシ者ト協議ノ上両家ノ戸主ノ許諾ヲ受ケテ其家ニ在ル卑属親ヲ自家ニ引取ルコトヲ得
卑属親カ其家ノ推定家督相続人タルトキ又ハ引取人カ悪意ニ因リテ婚姻若クハ縁組ノ無効ヲ惹起セシ一方タリシトキハ本条ノ規定ヲ適要セス
第三百七十条 私出子ノ父母ハ協議ニ因リテ一方ノ家ニ属スル私出子ヲ他ノ一方ノ家ニ引取ルコトヲ得
私出子ノ父又ハ母ハ一家ヲ新立シタル私出子ヲ自家ニ引取ルコトヲ得
前二項ニ掲ケタル場合ニ於テ父母カ配偶者ヲ有シ又ハ家族タルトキハ各其配偶者又ハ戸主ノ許諾ヲ受ク可シ
第三百七十一条 前二条ノ規定ニ従ヒテ引取ラレタル者ハ引取ノ日ヨリ其家ノ家族ト為リ且引取リタル者ノ子タル権利ヲ有ス
第三百六十三条ノ場合ニ於テモ亦本条ノ規定ニ従フ
第三百七十二条 戸主カ家族ニ対シテ婚姻其他ノ事件ニ付キ許諾ヲ与フ可キ場合ニ於テ未成年ナルトキ又ハ其意思ヲ表スル能ハサルトキハ戸主ニ対シテ親権ヲ行フ者又ハ戸主ノ親族会之ヲ代表ス
第三百七十三条 入夫婚姻ノ場合ニ於テハ婚姻ノ継続中入夫ハ戸主ヲ代表シテ其権ヲ行フ
第三百七十四条 戸主失踪ノ宣言アリタル後其家督相続ノ占有ヲ得タル者ハ其占有中戸主ト為ル
第三百七十五条 単身戸主失踪ノ宣言アリタル後其亡失若クハ最後音信ノ日ヨリ満三十个年ニ至リ又ハ其齢満百年ニ至ルモ家督相続ノ占有者ナキトキハ当然絶家ス
第三百七十六条 戸主死亡シテ一个年内ニ家督相続人ノ申述ナキトキハ当然絶家シ其家族ハ一家ヲ新立ス
第十四章 住所
第三百七十七条 何人ト雖モ民法上ノ権利関係ニ付テハ其生計ノ主要タル地ニ住所ヲ有ス
生計ノ主要タル地ハ本籍地ニ在ルモノト看做ス
第三百七十八条 家督相続ニ因リテ戸主ト為ル者ハ前戸主ノ住所ヲ以テ其住所ト為ス
家族ハ能力者タリト雖モ戸主ノ住所ヲ以テ其住所ト為ス
第三百七十九条 戸主ハ本籍ヲ移ス地ノ身分取扱官吏ニ申述シテ住所ヲ変更スルコトヲ得
未成年者又ハ民事上禁治産者タル戸主ノ住所ハ親族会ノ許可ヲ得テ後見人之ヲ変更スルコトヲ得
第三百八十条 家族カ独立シテ一家ヲ成ストキハ本籍ヲ定ムル地ノ身分取扱官吏ニ其意思ヲ申述シテ住所ヲ設定スルコトヲ得
一 家新立ノ未成年者ニ付テハ親族会ノ許可ヲ得テ後見人住所ヲ設定ス可シ
第三百八十一条 外国人始メテ日本ニ住所ヲ定ムルトキハ其意思並ニ本国、氏名及ヒ出生年月日ヲ其地ノ身分取扱官吏ニ申述シ家族アルトキハ其氏名及ヒ出生年月日ヲモ申述ス可シ
第三百八十二条 本籍地カ生計ノ主要タル地ト異ナルトキハ主要地ヲ以テ住所ト為ス
第三百八十三条 左ノ場合ニ於テハ居所ヲ以テ住所ニ代用ス
第一 住所ノ知レサルトキ
第二 日本ニ住所ヲ定メサル外国人ニ関スルトキ
第三百八十四条 何人ト雖モ或ル行為又ハ事務ノ為メニ仮住所ヲ選定スルコトヲ得但此選定ハ書面ヲ以テスルコトヲ要ス
第十五章 失踪
第一節 失踪ノ推定
第三百八十五条 住所及ヒ居所ヨリ亡失シ又ハ音信絶エテ生死分明ナラサル人ハ之ヲ失踪者ト推定ス
此推定ノ裁判ハ本人ノ住所ノ区裁判所之ヲ為ス
第三百八十六条 失踪ノ推定ヲ受ケタル者カ総理代理人ヲ定置キタルトキハ其代理人ハ失踪ノ推定中本人ノ財産ヲ管理ス但必要アルトキハ裁判所ハ現実ノ利益ヲ有スル関係人、推定相続人又ハ検事ノ請求ニ因リテ代理人ノ解任ヲ言渡シ又ハ其後任ヲ指定スルコトヲ得
第三百八十七条 失踪ノ推定ヲ受ケタル者カ総理代理人ヲ定置カサリシトキハ裁判所ハ前条ニ掲ケタル者ノ請求ニ因リテ管理人ヲ指定ス
此管理人ニハ成ル可ク推定相続人ヲ指定スルコトヲ要ス
第三百八十八条 代理人又ハ管理人ハ管理行為ヲ為スノ権限ノミヲ有ス他ノ行為ニ付テハ必要ノ場合ニ限リ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ為スコトヲ得
代理人又ハ管理人ハ本人ノ利益ニ関係アル目録調製、計算、分割及ヒ精算ニ付テ本人ヲ代表ス
第三百八十九条 管理人ハ公証人ヲシテ失踪者ノ動産及ヒ証書ノ目録ヲ調製セシム可シ又管理人ハ不動産ノ形状ヲ確定セシムル為メ鑑定人ノ選定ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得鑑定人ノ報告書ハ裁判所ノ認可ニ付スルコトヲ要ス此等ノ手続ノ費用ハ本人ノ財産ヲ以テ之ヲ支弁ス
関係人、推定相続人又ハ検事ノ請求アルトキハ本条ノ規定ヲ代理人ニ適用スルコトヲ得
第三百九十条 代理人又ハ管理人ハ其請求ニ因リテ裁判所ノ定メタル給料ヲ受ク裁判所ハ場合ニ因リ管理及ヒ財産返還ノ担保トシテ保証人其他相当ノ担保ヲ立テシムルコトヲ得
第三百九十一条 失踪者ノ子孫ノ婚姻又ハ営業ノ為メ資財ヲ与フルコトニ付テハ親族会ノ許可ヲ除クノ外第三百三十三条ノ規定ヲ適用ス
第二節 失踪ノ宣言
第三百九十二条 失踪者カ代理人ヲ定置カサリシトキハ満五个年又代理人ヲ定置キタルトキハ任期ノ長短ヲ問ハス満七个年ニ至ルモ其生死ノ音信ヲ得サルニ於テハ失踪者ノ死亡ニ因リテ発生スル権利ヲ其財産上ニ有スル者ハ失踪者ノ住所ノ区裁判所ニ失踪ノ宣言ヲ請求スルコトヲ得
第三百九十三条 右請求ノ允許ス可キモノナルトキハ裁判所ハ失踪者ノ住所及ヒ其最後ノ居所ノ地ニ於テ証人訊問ヲ為ス可キコトヲ命ス可シ此証人訊問ニ付テハ民事訴訟法ニ定メタル忌避ノ規則ヲ適用セス
第三百九十四条 証人訊問ヲ命スル決定アリタルトキハ裁判所ハ官報又ハ公報ヲ以テ其決定ヲ公示ス可シ
第三百九十五条 失踪宣言ノ裁判ハ証人訊問ヲ命シタル決定ヨリ満一个年ノ後ニ非サレハ之ヲ宣告スルコトヲ得ス
此裁判ハ前条ノ手続ニ従ヒテ之ヲ公示ス可シ
第三節 失踪宣言ノ効果
第三百九十六条 失踪宣言ノ裁判アリタルトキハ失踪者ノ遺言書ハ関係人、推定相続人又ハ検事ノ請求ニ因リテ之ヲ開封ス可シ又失踪者ノ亡失又ハ最後音信ノ日ニ於ケル推定相続人其他失踪者ノ死亡ニ因リテ発生スル権利ヲ其財産上ニ有スル者ハ直チニ其財産ヲ占有スルコトヲ得
第三百九十七条 失踪者ニ属スル財産ノ占有ニ付テハ総テ相続ニ関スル規定ヲ適用ス
此占有ヲ得タル者ハ第三者ニ対シテハ財産ノ所有者トス
然レトモ占有者ハ財産返還ノ担保トシテ裁判所カ相当ト認ムル保証人其他ノ担保ヲ立ツ可シ若シ之ヲ立ツル能ハサルトキハ動産ニ付テハ裁判所ノ命スル利用方法ニ従フコトヲ要ス其保証人ノ義務又ハ担保ハ満十五个年ノ後当然止ム
第三百九十八条 失踪者ノ現出シ又ハ音信アリタルトキハ失踪宣言ノ効果ハ即時ニ止ム
失踪者ハ其財産ヲ現状ノ侭ニテ取回シ又占有者ノ処分ニ因リテ不当ニ利得シタルモノヲ取戻スコトヲ得
第三百九十九条 果実ニ付テハ失踪者カ其亡失又ハ最後音信ノ日ヨリ満十五个年内ニ現出スルトキハ其五分ノ一満十五个年後ニ現出スルトキハ其十分ノ一ヲ取戻スコトヲ得満三十个年後ハ其全部ヲ失フ
第四百条 失踪者ノ相続順位ニ在ル者ハ他ノ者カ財産占有ヲ得タル日ヨリ満三十个年間其財産ノ返還ヲ請求スルコトヲ得
此場合ニ於テモ果実ハ前条ノ規定ニ従ヒテ之ヲ取戻スコトヲ得
第四百一条 失踪者ノ死亡シタル確証アルトキハ其相続ハ死亡ノ日ニ於テ相続ヲ為スノ資格ヲ有スル者ノ為メニ発開ス
此者ハ相続発開ノ日ヨリ満三十个年間財産占有者ニ対シテ相続財産ヲ請求スルコトヲ得但第三百九十九条ノ規定ニ依リテ占有者ノ取得シタル果実ハ此限ニ在ラス
第四節 失踪ノ推定及ヒ宣言ニ関スル通則
第四百二条 失踪シテ生存ノ確実ナラサル人ニ帰ス可キ権利ヲ請求スル者ハ其人カ権利ノ発生セシ日ニ生存シタルヲ証スルコトヲ要ス此挙証ヲ為サヽル間ハ其請求ヲ受理セス
第四百三条 失踪シテ生存ノ確実ナラサル人ノ為メニ相続ノ発開スルトキハ其相続ハ同順位又ハ次順位ノ者ニ属ス
失踪者ニ帰ス可キ財産ヲ相続スル者ハ財産目録ヲ調製ス可シ其財産ノ返還ニ付テハ第三百九十七条第三項ノ規定ヲ適用ス
第四百四条 前二条ノ規定ハ失踪者又ハ其相続人及ヒ承継人ニ属スル相続ノ請求其他ノ権利ヲ行フヲ妨クルコト無シ此等ノ権利ハ普通ノ時効ニ因ルニ非サレハ消滅セス
第四百五条 失踪者又ハ其相続人及ヒ承継人ノ其権利ヲ行ハサル間ハ相続ヲ為シタル者ハ善意ニテ収取シタル果実ヲ返還スルコトヲ要セス
第五節 不在者ニ関スル規則
第四百六条 生存ノ確実ナル人カ住所若クハ居所ヲ去リテ其財産ヲ管理スル者アラサルトキ又ハ裁判所カ未タ失踪ヲ推定セサルモ本人ノ不在ノ為メ其財産ノ放置セラルヽトキ又ハ失踪ノ推定中若クハ宣言後ニ失踪者ノ生存ノ確実ト為リタルトキハ区裁判所ハ利害関係人又ハ検事ノ請求ニ因リテ必要ノ保存処分ヲ命スルコトヲ得
第四百七条 日本ニ住所又ハ居所ヲ有スル外国人ノ亡失シテ其財産ノ放置セラレタル場合ニモ亦前条ノ規定ヲ適用ス
第十六章 身分ニ関スル証書
第四百八条 出生、婚姻、養子縁組、死亡其他各人ノ身分ニ関スル事件ハ身分取扱官吏ノ主管スル帳簿ニ之ヲ記載ス可シ
第四百九条 帳簿ニ記載シタル証書ハ公正証書ノ証拠力ヲ有ス但違法ノ記載ハ効力ナシ
合式ノ謄本ハ証書ト同一ノ効力ヲ有ス
第四百十条 帳簿ノ設備ナク若クハ中絶シタルトキ又ハ其全部若クハ一分ノ毀損シ亡滅シタルトキ又ハ其記載上甚シキ違式、錯誤若クハ脱漏アリテ信用ヲ置ク可ラサルトキ又ハ身分取扱官吏ノ詐欺若クハ過失ニ因リテ証書ヲ作ラサリシトキハ証人又ハ私ノ書類ヲ以テ先ツ其事実ヲ証シ且身分上ノ事件ヲ証スルコトヲ得
第四百十一条 証書ノ訂正ハ裁判ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第四百十二条 帳簿ノ調製、証書ノ記載、届出ノ手続其他ノ事項ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス