旧民法・法例(明治23年)

法例草案

参考原資料

法例 第一条 法律ハ天皇裁可ノ後直チニ之ヲ公布ス 公布ハ官報ニ法律ヲ登載シタル日ニ完成シタルモノト看做ス 公布アリタル法律ハ官報ニ登載シタル日ヨリ満二十日ノ後全国ニ於テ各個人之ヲ了知シタルモノト看做ス但シ法律ノ明文ヲ以テ他ノ日限ヲ定メタルトキハ此例ニ在ラス 公布ノ日限過キタル後ハ何人ト雖モ法律ヲ遵守セサル可カラス但シ当事者其合意若クハ処置ヲ以テ法律ヲ免カルヽコトヲ得ヘキ場合若クハ法律上ノ錯誤ヲ宥恕スヘキ場合ハ此例ニ在ラス 公布ノ法式ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス 第二条 法律ハ将来ノミヲ規定シ遡及ノ効力ヲ有セス 第三条 社会ノ公益ヲ主タル目的ト為ス法律ハ各個人ノ私益ヲ害スルニ拘ラス遡及ノ効力ヲ有ス 第四条 社会ノ公益ニ関スル法律ト雖モ各個人其身分又ハ資産ニ付既ニ獲得シタル私権ヲ害スルコトヲ得ス但シ其権利ノ行用又ハ保存ノミヲ規定スルハ此例ニ在ラス 第五条 身分ハ其獲得ニ必要ナル条件ノ完備シタルトキ又資産ヲ組成スル権利ハ其由テ生スル行為ノ完結シタルトキハ其権利ノ未必ニ係ルトキト雖モ之ヲ既得権ト為ス 人ノ能力及ヒ法律ノ直チニ付与スル権能ハ既得権ト為サス但シ其能力ニ依リ為シタル行為及ヒ其権能ノ行用ニ依リ得タル利益ハ此限ニ在ラス 権利行為ノ法式及ヒ証拠ハ其行為ヲ為シタル当時ノ法律ニ従ヒ其適法ト否トヲ決定スヘキノ点ニ於テハ既得権ト為ス 第六条 私益ヲ規定スルコトヲ目的ト為ス法律ハ各個人ノ私権ヲ害セサルトキト雖モ遡及ノ効力ヲ有セス但シ法律ノ明文ヲ以テ遡及ノ効力ヲ付シタル場合ハ此例ニ在ラス 第七条 人ノ身分及ヒ能力ハ其本国法ヲ以テ之ヲ支配ス 親族ノ関係及ヒ其関係ヨリ生スル権利義務ニ付テモ亦同シ 第八条 動産ハ其所有者ノ本国法ニ服従ス 不動産ハ其所在地ノ法律ニ服従ス但シ私益ノミニ関スル法律ハ此例ニ在ラス 然レトモ相続ハ財産ノ性質ト其所在地トヲ問ハス死者ノ本国法ヲ以テ之ヲ規定ス 第九条 外国ニ於テ為シタル合意ニ係ルトキハ結約者ノ明瞭又ハ暗黙ナル意思ニ従ヒ之ニ適用スヘキ法律ヲ定ム可シ 若シ結約者ノ意思分明ナラサル場合ニ於テハ其同国人ナルトキハ本国法ヲ適用シ又其同国人ニ非サルトキハ合意ヲ為シタル国ノ法律ヲ適用ス可シ 結約者帝国ニ於テ其合意ノ公正証書ヲ作ルトキハ公証人ハ其結約者ニ本条ノ規則ヲ示ス可シ 第十条 外国人帝国ニ於テ合意ヲ為ストキハ其本国法ニ従ヒ能力者タルヤ又ハ無能力者タルヤヲ申述ス可シ若シ此申述ヲ為サヽルトキハ其外国人ト結約スル者善意ナルニ於テハ能力ニ関スル帝国法律ノ適用ヲ求ムルコトヲ得 外国人公正証書ヲ作ルトキハ公証人ハ其能力ニ関スル本国法ヲ申述セシム可シ若シ之ニ違フトキハ其責ニ任ス 第十一条 生存者間ニ於ケルト死去ニ原由スルトヲ問ハス一方ノ意思ノミニ由ル処置ハ之ヲ為ス者ノ本国法ニ服従ス但シ反対ノ意思アルトキハ此例ニ在ラス 第十二条 不当ノ利得ハ当事者同国人ナルトキハ其本国法ヲ以テ之ヲ支配シ又其同国人ニ非サルトキハ其原由ノ生シタル国ノ法律ヲ以テ之ヲ支配ス 法律上ノ管理ヨリ生スル義務ハ管理人ヲ付セラレタル者ノ本国法ヲ以テ之ヲ支配ス 不正ノ損害ハ有意ナルト無意ナルトヲ問ハス其事実ノ生シタル国ノ法律ヲ以テ之ヲ支配ス 第十三条 本国法ヲ適用スヘキ諸般ノ場合ニ於テ何レノ国民分限ヲモ有セサル者ハ住所又其住所知レサルトキハ其居所ノ法律ニ服従ス又日本人ト外国人トノ分限ヲ有スル者ハ帝国ノ法律ニ服従ス 第十四条 公正証書及ヒ私証書ノ法式ハ之ヲ作ル国ノ法律ニ従フ 此法式ハ当事者ノ国民分限ノ如何ヲ問ハス之ヲ遵守セサル可カラス但シ一個人又ハ同国人ナル数人ノ作ル私証書ニ係ルトキハ其本国法ニ従フモ自由ナリトス 第十五条 有式ノ契約若クハ行為ト雖モ之ヲ為ス国ノ法式ニ従フトキハ法式上有効トス但シ故意ヲ以テ帝国ノ法律ヲ脱シタルトキハ此例ニ在ラス 第十六条 外国ニ於テ作リタル証書ハ不動産物上権ヲ移転スル行為ニ係ルトキハ其不動産所在地ノ地方裁判所長又其他ノ行為ニ係ルトキハ当事者ノ住所又ハ居所ノ地方裁判所長其証書ニ認印シタル上ニ非サレハ帝国ニ於テ効力ヲ生スルコトヲ得ス 所長ハ其証書ノ法式ハ之ヲ作リタル国ノ法律ニ適フヤ否ヤヲ検査ス可シ 所長ノ決定ニ対スル抗告ハ控訴院長ニ之ヲ為ス可シ 第十七条 人ノ身分及ヒ能力ニ関スル法式ハ其人ノ本国法ヲ以テ之ヲ支配ス 第十八条 第三者ノ利益ノ為メニ設定スル公示ノ法式ハ不動産ニ係ルトキハ其所在地又其他ノ場合ニ於テハ其原由ノ生シタル国ノ法律ヲ以テ之ヲ支配ス 第十九条 訴訟手続ハ其訴訟ヲ為ス国ノ法律ニ従フ 証拠ノ方法ハ身分、物上権又ハ対人権ニ係ルヲ問ハス其行為ノ生シタル国ノ法律ニ従フ 裁判及ヒ契約ノ執行方法ハ其執行ヲ為ス国ノ法律ニ従フ 第二十条 前数条ノ条例ニ拘ラス社会ノ権利ニ関スルトキハ行為ノ地、当事者ノ国民分限及ヒ財産ノ性質如何ナルヲ問ハス帝国ノ法律ヲ適用ス可シ 此規則ハ就中左ノ法律ニ適用ス 一 公法及ヒ刑法ニ係ル法律 二 保安ニ係ル法律 三 善良ノ風俗ニ係ル法律 四 時効ニ関スル法律但シ獲得時効ハ財産所在ノ国ノ法律ニ従ヒ免責時効ハ義務ヲ生シタル国ノ法律ニ従フ 第二十一条 判事ハ法律ノ不明不備又ハ欠缺ヲ口実トシテ裁判ヲ拒絶スルコトヲ得ス〔若シ此規則ニ違フトキハ裁判拒絶ノ刑ニ処ス〕 第二十二条 法律ノ不備若クハ欠缺アルトキハ判事ハ其裁判スヘキ事件ト同様ノ場合又ハ類似ノ事項ニ関スル法律ノ条例ヲ適用ス可シ 第二十三条 刑罰法及ヒ制限法ハ其特ニ明示シタル場合ノ外ニ及ホス可カラス 第二十四条 判事ハ法律ノ特ニ慣習ニ譲リタル場合ニ非サレハ慣習ニ拠リ裁判スルコトヲ得ス 第二十五条 判事ハ法律ヲ非理、不正ナリト思料スルニ拘ラス又法律カ各個人ノ私権ヲ害スルトキト雖トモ之ヲ適用セサル可カラス 第二十六条 判事ハ其請求ヲ受ケタル事件ニ付一般成規ト為スノ方法ニ依リ宣告スルコトヲ得ス又将来ニ係ル裁判ヲ為スコトヲ得ス但シ将来ニ係ル義務執行ノ為メ予メ損害賠償ヲ宣告スルコトヲ得 第二十七条 法律ハ其明瞭又ハ暗黙ニ廃セラレサル間ハ之ヲ適用ス可シ其適用ノ断絶ハ法律ノ効力ヲ廃滅セス 第二十八条 法律明カナルトキハ其精神ヲ推究スルコトヲ口実トシテ其正文ヲ没スルコトヲ得ス 第二十九条 法律ハ解釈上其規定シタル目的ニ限ル可ク其関係ナキ他ノ目的ニ及ホス可カラス 第三十条 法律ニ例外ノ存セサルトキハ之ヲ補足スルコトヲ得ス但シ法律ニ存セサル例外ト雖モ他ノ規則ノ適用タルトキハ此限ニ在ラス 第三十一条 法律ノ区別セサル処ニ区別ヲ為ス可カラス但シ法律ノ理由ヨリ生スル必要ノ区別ハ此限ニ在ラス 第三十二条 公ケノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ関スル法律ニ牴触シ又ハ其適用ヲ免レントスル合意若クハ処置ハ不成立トス 第三十三条 身分又ハ能力ヲ規定スル法律ヲ免カルヽ合意又ハ処置ハ無効トス 第三十四条 権利行為ハ其成立ニ必要ナル条件ノ一ヲ欠キタルトキハ不成立トス 第三十五条 権利行為ノ無効ハ法律ノ正条ニ拠ルコトヲ要シ之ヲ補足スルコトヲ得ス