財産編
総則財産及ヒ物ノ区別
第一条 財産ハ各人又ハ公私ノ法人ノ資産ヲ組成スル権利ナリ
此権利ニ二種アリ物権及ヒ人権是ナリ
第二条 物権ハ直チニ物ノ上ニ行ハレ且総テノ人ニ対抗スルコトヲ得ヘキモノニシテ主タル有リ従タル有リ
主タル物権ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 完全又ハ虧缺ノ所有権
第二 用益権、使用権及ヒ住居権
第三 賃借権、永借権及ヒ地上権
第四 占有権
従タル物権ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 地役権
第二 留置権
第三 動産質権
第四 不動産質権
第五 先取特権
第六 抵当権
右地役権ハ所有権ノ従タル物権ニシテ留置権以下ハ人権ノ担保ヲ為ス従タル物権ナリ
第三条 人権即チ債権ハ定マリタル人ニ対シ法律ノ認ムル原因ニ由リテ其負担スル作為又ハ不作為ノ義務ヲ尽サシムル為メ行ハルヽモノニシテ亦主タル有リ従タル有リ
従タル人権ハ債権ノ担保ヲ為ス保証及ヒ連帯ノ如シ
第四条 著述者ノ著書ノ発行、技術者ノ技術物ノ製出又ハ発明者ノ発明ノ施用ニ付テノ権利ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第五条 権利ハ物権ト人権トヲ問ハス目的物ノ種種ノ区別ニ従ヒテ其様ヲ変ス其区別ハ物ノ性質、人ノ意思又ハ法律ノ規定ヨリ生ス即チ下ニ掲クル如シ
第六条 物ニ有体ナル有リ無体ナル有リ
有体物トハ人ノ感官ニ触ルヽモノヲ謂フ即チ地所、建物、動物、器具ノ如シ
無体物トハ智能ノミヲ以テ理会スルモノヲ謂フ即チ左ノ如シ
第一 物権及ヒ人権
第二 著述、技術及ヒ発明ニ関スル権利
第三 解散シタル会社又ハ清算中ナル共通ニ属スル財産及ヒ債務ノ包括
第七条 物ハ其性質ニ因リ又ハ所有者ノ用方ニ因リ遷移スルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ動産タリ不動産タリ此他法律ノ規定ニ因リテ動産タリ不動産タル物アリ
第八条 性質ニ因ル不動産ハ左ノ如シ
第一 耕地、宅地其他土地ノ部分
第二 池沼、溜井、溝渠、堀割、泉源
第三 土手、桟橋其他此類ノ工作物
第四 土地ニ定着シタル浴場、水車、風車又ハ水力、蒸気ノ機械
第五 樹林、竹木其他ノ植物但第十二条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第六 果実及ヒ収穫物ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ但第十二条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第七 鉱物、坑石、泥炭及ヒ肥料土ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ
第八 建物及ヒ其外部ノ戸扉但第十二条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第九 墻、籬、柵
第十 水ノ出入又ハ瓦斯、温気ノ引入ノ為メ土地又ハ建物ニ附着シタル筒管
第十一 土地又ハ建物ニ附着シタル電気機器
此他総テ性質ニ因リテ移動ス可キモノト雖モ建物ニ必要ナル附属物
第九条 動産ノ所有者カ其土地又ハ建物ノ利用、便益若クハ装飾ノ為メニ永遠又ハ不定ノ時間其土地又ハ建物ニ備附ケタル動産ハ性質ノ何タルヲ問ハス用方ニ因ル不動産タリ即チ左ノ如シ但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第一 土地ノ耕作、利用又ハ肥料ノ為メニ備ヘタル獣畜
第二 耕作用ニ備ヘタル器具、種子、藁草及ヒ肥料
第三 養蚕場ニ備ヘタル蚕種
第四 樹木ノ支持ニ備ヘタル棚架及ヒ杭柱
第五 土地ニ生スル物品ノ化製ニ備ヘタル器具
第六 工業場ニ備ヘタル機械及ヒ器具
第七 不動産ノ常用ニ備ヘタル小舟但其水流カ公有ニ係リ又ハ他人ニ属スルトキモ亦同シ
第八 園庭ニ装置シタル石灯篭、水鉢及ヒ岩石
第九 建物ニ備ヘタル畳、建具其他ノ補足物及ヒ毀損スルニ非サレハ取離スコトヲ得サル扁額、玻璃鏡、彫刻物其他各種ノ装飾物
第十 修繕中ノ建物ヨリ取離シテ再ヒ之ニ用ユ可キ材料
第十条 法律ノ規定ニ因ル不動産ハ左ノ如シ
第一 上ニ列記シタル有体不動産ノ上ニ存スル物権
第二 不動産ノ上ニ存スル物権ヲ取得セントシ又ハ取回セントスル人権
第三 建築師ノ材料ヲ以テ建物ヲ築造セシムル債権
第四 動産債権ニシテ法律カ不動産ト為シ又ハ各人カ法律ノ規定ニ依リテ不動産ト為シタルモノ
第十一条 自力又ハ他力ニ因リテ遷移スルコトヲ得ル物ハ性質ニ因ル動産タリ但第八条及ヒ第九条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第十二条 仮ニ土地ニ定着セシメタル物ハ用方ニ因ル動産タリ即チ左ノ如シ
第一 建築ノ足場及ヒ支柱
第二 建築ヲ為スノ間其用ニ備ヘタル小屋
第三 種樹者カ売ル為メニ培養シ又ハ保存シタル草木
第四 取毀ツ為メニ譲渡シタル建物其他ノ工作物又ハ収去スル為メニ譲渡シタル樹木及ヒ収穫物
第十三条 法律ノ規定ニ因ル動産ハ左ノ如シ
第一 上ニ列記シタル動産ノ上ニ存スル物権
第二 有体動産ヲ取得シ又ハ取回セントスル債権但不動産ヲ以テ其担保ニ充テタルトキモ亦同シ
第三 所為ヲ成就セシメ又ハ権利ノ行使ヲ止メシムル債権縦令其権利カ不動産タルトキモ亦同シ
第四 法人タル会社存立ノ間社員カ其会社ニ対シテ有スル権利縦令不動産カ会社ニ属スルトキモ亦同シ
第五 著述、技術及ヒ発明ニ関スル権利
第十四条 解散シタル会社又ハ清算中ナル共通ニ属スル財産ノ一分ニ付テ有スル権利ノ動産タリ不動産タル性質ハ分割ニ於テ各利害関係人ノ受クル財産ノ性質ニ因リテ定マル
当事者ノ一方ノ選択ニ任スル動産又ハ不動産ヲ目的トスル択一又ハ任意債権ノ性質モ亦其弁済ニ付キ選択シタル物ノ性質ニ因リテ定マル
第十五条 物ハ他ニ附属セスシテ完全ナル効用ヲ為スト否トニ従ヒテ主タル有リ従タル有リ
用方ニ因ル不動産ハ性質ニ因ル不動産ノ従ナリ地役ハ要役地ノ従ナリ債権ノ担保ハ債権ノ従ナリ
第十六条 物ハ左ノ如ク区別スルコトヲ得
第一 特定物即チ某家、某田、某獣ノ如キ殊別ナル物
第二 定量物即チ金幾円、米幾石、布幾反ノ如キ数量尺度ヲ以テ算フル物
第三 聚合物即チ群畜、書庫ノ書籍、店舗ノ商品ノ如キ増減シ得ヘキ多少類似ナル物
第四 包括財産即チ相続ノ総動産若クハ総不動産又ハ相続ノ全部若クハ一分ノ如キ資産ノ全部又ハ一分ヲ組成スル物
第十七条 物ハ其性質ニ因リ一回ノ使用ニテ消費スルト否トニ従ヒテ消費物タリ不消費物タリ
第十八条 物ハ当事者ノ意思又ハ法律ノ規定ニ因リ同種ノ物ヲ以テ代フルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ代替物タリ不代替物タリ
定量物及ヒ一回ノ使用ニテ消費スル物ハ概シテ之ヲ当事者ノ意思ニ因ル代替物ト看做ス
第十九条 物ハ其性質、当事者ノ意思又ハ法律ノ規定ニ因リ形体上又ハ智能上分割スルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ可分物タリ不可分物タリ
或ル地役及ヒ或ル作為又ハ不作為ノ義務ハ性質ニ因ル不可分物ナリ
物ノ一分ノ供与ヲ以テ合意ノ目的タル便益ヲ与フルコト能ハサルトキハ其物ハ当事者ノ意思ニ因ル不可分物ナリ
抵当及ヒ債権ノ物上担保ハ法律ノ規定ニ因ル不可分物ナリ
第二十条 物ハ所有ニ属スルモノ有リ所有ニ属セサルモノ有リ
所有ニ属スル物トハ公私ノ資産ノ部分ヲ為スモノヲ謂フ
所有ニ属セサル物トハ無主又ハ公共ノモノヲ謂フ
第二十一条 公ノ法人ニ属スル物ニ公有及ヒ私有ノ二種アリ
第二十二条 公ノ法人ニ属シ国用ニ供シタル物ハ公有ノ部分ヲ為ス即チ左ノ如シ
第一 国領ノ海及ヒ海浜但海浜ハ春分、秋分最高潮ノ到ル処ヲ以テ限ト為ス
第二 道路、鉄道、舟若クハ筏ノ通ス可キ川又ハ堀割及ヒ其床地
第三 城砦、塁壁其他陸海防禦ノ工作物
第四 軍用ノ工廠、船艦、兵器、機械其他ノ物品
第五 官庁ノ建物
第二十三条 公ノ法人カ各人ト同一ノ名義ニテ所有スル物ニシテ金銭ニ見積ルコトヲ得ル収入ヲ生ス可キモノハ其私有ノ部分ヲ為ス即チ国、府県、市町村有ノ海潟、樹林、牧場ノ如シ
所有者ナキ不動産及ヒ相続人ナクシテ死亡シタル者ノ遺産ハ当然国ニ属ス
第二十四条 無主物トハ何人ニモ属セスト雖モ所有権ノ目的ト為ルコトヲ得ルモノヲ謂フ即チ遺棄ノ物品、山野ノ鳥獣、河海ノ魚介ノ如シ
第二十五条 公共物トハ何人ノ所有ニモ属スルコトヲ得スシテ総テノ人ノ使用スルコトヲ得ルモノヲ謂フ即チ空気、光線、流水、大洋ノ如シ
第二十六条 物ハ私ノ所有権又ハ人権ノ目的ト為ルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ融通物タリ不融通物タリ
爵位、勲章及ヒ官職ノ如キ公ノ秩序ノ為メ法律ニ於テ処分ヲ禁シタル物及ヒ公有ノ財産ハ不融通物ナリ
第二十七条 物ハ譲渡スコトヲ得ルモノ有リ譲渡スコトヲ得サルモノ有リ
所有権ヨリ支分シタル使用権又ハ住居権、要役地ヨリ分離セルモノト看做シタル地役及ヒ政府ノ与ヘタル開坑ノ特許其他ノ特権ハ概シテ融通物ナリト雖モ譲渡スコトヲ得サルモノナリ
第二十八条 物ハ法律ニ定メタル条件ヲ具備スル占有ニ附着セル取得ノ推定ヲ受クルト否トニ従ヒテ時効ニ罹ルコトヲ得ルモノ有リ時効ニ罹ルコトヲ得サルモノ有リ
第二十九条 物ハ其所有者ノ債権者カ強制売却ヲ請求スルコトヲ得ルト否トニ従ヒテ差押フルコトヲ得ルモノ有リ差押フルコトヲ得サルモノ有リ
融通スルコトヲ得サル物、譲渡スコトヲ得サル物其他法律ノ規定又ハ人ノ処分ニテ差押ヲ禁シタル物ハ差押フルコトヲ得サルモノナリ即チ無償名義ノ設定ヲ以テ差押ヲ禁シタル養料、終身年金権ノ如シ
第一部 物権
第一章 所有権
第三十条 所有権トハ自由ニ物ノ使用、収益及ヒ処分ヲ為スノ権利ヲ謂フ
此権利ハ法律合意又ハ遺言ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ制限スルコトヲ得ス
第三十一条 不動産ノ所有者ハ適法ニ認メ及ヒ宣言シタル公益ニ因由シ公用徴収法ニ従ヒテ定メタル償金ノ払渡ヲ予メ受クルニ非サレハ公用徴収ノ為メ其所有権ノ譲渡ヲ強要セラルヽコト無シ
動産ノ公用徴収ハ毎回定ムル特別法ニ依ルニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
官府ニ属スル先買権及ヒ徴発令ヲ以テ定メタル物ノ徴発又ハ凶災ノ時ニ行フ物ノ徴求ニ付テハ本条ノ例ヲ用井ス
第三十二条 所有者ハ償金ヲ得ルニ於テハ公益工事ノ便利ノ為メ所有物ノ一時ノ占拠ヲ強要セラルヽコト有リ
第三十三条 物料ノ採掘、道路ノ劃線、樹木ノ採伐、水其他ノ物ノ収取ニ付キ一般又ハ一地方ノ公益ノ為メ設ケタル地役ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三十四条 土地ノ所有者ハ其地上ニ一切ノ築造、栽植ヲ為シ又ハ之ヲ廃スルコトヲ得
又其地下ニ一切ノ開鑿及ヒ採掘ヲ為スコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ公益ノ為メ行政法ヲ以テ定メタル規則及ヒ制限ニ従フコトヲ要ス
此他相隣地ノ利益ノ為メ所有権ノ行使ニ付シタル制限及ヒ条件ハ地役ノ章ニ於テ之ヲ規定ス
第三十五条 鉱物ノ所有権及ヒ其試掘若クハ開坑ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三十六条 所有者其物ノ占有ヲ妨ケラレ又ハ奪ハレタルトキハ所持者ニ対シ権原訴権ヲ行フコトヲ得但動産及ヒ不動産ノ時効ニ関シ証拠編ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
又所有者ハ第百九十八条乃至第二百十一条ニ定メタル規則ニ従ヒ占有ニ関スル訴権ヲ行フコトヲ得
第三十七条 数人一物ヲ共有スルトキハ持分ノ均不均ニ拘ハラス各共有者其物ノ全部ヲ使用スルコトヲ得但其用方ニ従ヒ且他ノ共有者ノ使用ヲ妨ケサルコトヲ要ス
各共有者ノ持分ハ之ヲ相均シキモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
天然又ハ法定ノ果実及ヒ産出物ハ各共有者ノ権利ノ限度ニ応シ定期ニ於テ之ヲ分割ス
各共有者ハ其物ノ保存ニ必要ナル管理其他ノ行為ヲ為スコトヲ得
各共有者ハ其持分ニ応シテ諸般ノ負担ニ任ス
右規定ハ使用、収益又ハ管理ヲ格別ニ定ムルノ合意ヲ妨ケス
第三十八条 処分権ニ付テハ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾アルニ非サレハ其物ノ形体ヲ変スルコトヲ得ス又自己ノ持分外ニ物権ヲ付スルコトヲ得ス
共有者ノ一人其持分ヲ譲渡シタルトキハ譲受人ハ他ノ共有者ニ対シ譲渡人ニ代ハリ其地位ヲ有ス
第三十九条 各共有者ハ如何ナル合意アルモ共有物ノ分割ヲ請求スルコトヲ得
然レトモ共有者ハ五个年ヲ超エサル定期ノ時間分割セサルヲ約スルコトヲ得
此合意ハ何時ニテモ之ヲ更新スルコトヲ得但其時間ハ亦五个年ヲ超ユルコトヲ得ス
右規定ハ数箇ノ所有地ニ共通ナル通路、井戸、籬壁、溝渠ノ互有ヨリ生スル共有権ニ之ヲ適用セス
第四十条 数人ニテ一家屋ヲ区分シ各其一部分ヲ所有スルトキハ相互ノ権利及ヒ義務ハ左ノ如ク之ヲ規定ス
各所有者ハ離隔セル所有物ノ如クニ自己ノ持分ヲ処分スルコトヲ得
諸般ノ租税及ヒ建物並ニ其附属物ノ共用ノ部分ニ係ル大小修繕ハ各自ノ持分ノ価格ニ応シテ之ヲ負担ス
各自ハ己レニ属スル部分ノ床板及ヒ隔壁ノ費用ヲ一人ニテ負担ス
第四十一条 所有権ハ当事者ノ間ニ於ケルモ第三者ニ対スルモ本編及ヒ財産取得編ニ記載シタル原因及ヒ方法ニ依リ之ヲ取得シ保存シ及ヒ転付ス
主タル物ノ処分ハ従タル物ノ処分ヲ帯フ但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第四十二条 所有権ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 任意又ハ強要ノ譲渡
第二 他人ノ物ニ自己ノ物ノ添附
第三 法律ニ依リテ宣告シタル没収
第四 取得ノ解除、銷除又ハ廃罷
第五 物ヲ処分スル能力アル所有者ノ任意ノ委付
第六 物ヲ不融通物ト為シタル相当官府ノ命令
第七 物ノ全部ノ毀滅
第四十三条 動産及ヒ不動産ノ所有権ノ取得及ヒ消滅ニ関スル時効ノ性質及ヒ効力ニ付テハ証拠編ノ規定ニ従フ
第二章 用益権、使用権及ヒ住居権
第一節 用益権
第四十四条 用益権トハ所有権ノ他人ニ属スル物ニ付キ其用方ニ従ヒ其元質本体ヲ変スルコト無ク有期ニテ使用及ヒ収益ヲ為スノ権利ヲ謂フ
第一款 用益権ノ設定
第四十五条 用益権ハ法律又ハ人意ニ因リテ設定スルモノトス
法律ニ因ル用益権ノ設定ハ別ニ定ムル法律ノ規定ニ従フ
人意ニ因ル用益権ノ設定ハ所有権ノ取得及ヒ移転ニ関スル規則ニ従フ
又用益権ハ有償又ハ無償ニテ譲渡シタル財産ノ上ニ之ヲ留存シテ設定スルコトヲ得
時効ヲ以テ用益権ノ取得ヲ証スル要件ハ時効ヲ以テ完全ノ所有権ノ取得ヲ証スル要件ニ同シ
第四十六条 用益権ハ動産ト不動産ト有体物ト無体物トヲ問ハス一切ノ融通物ノ上ニ之ヲ設定スルコトヲ得
又用益権ハ終身年金権ノ上、用益権ノ上又ハ包括名義ニテ資産ノ上ニ之ヲ設定スルコトヲ得
第四十七条 用益権ハ始時若クハ終時ヲ定メ又ハ時期ヲ定メスシテ之ヲ設定スルコトヲ得
又用益権ハ其始時又ハ終時ヲ未必条件ノ成就ニ繋ケテ之ヲ設定スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ其時期ハ用益者ノ終身ヲ超ユルコトヲ得ス
第四十八条 用益権ハ一人又ハ数人ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スルコトヲ得数人ノ終身ヲ期シテ設定シタルトキハ数人同時ニ又ハ順次ニ之ヲ行フ
右孰レノ場合ニ於テモ用益権ハ其権利発開ノ時既ニ出生シ又ハ胎内ニ在ル者ノ為メニスルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
第二款 用益者ノ権利
第四十九条 用益者ハ其権利ノ発開シタルトキ若シ始時ノ定アラハ其時期ノ到来シタルトキハ次款ニ定メタル不動産状書、動産目録ヲ作リ及ヒ保証ヲ立ツルノ義務ヲ履行シタル後其用益権ノ存スル物ノ占有ヲ要求スルコトヲ得
用益者ハ用益物ヲ其現状ニテ受取ル可シ修繕又ハ恰好ヲ求ムルコトヲ得ス但権利発開ノ後設定者若クハ其相続人ノ過失ニ因リ又ハ発開ノ前ト雖モ其悪意ニ因リテ用益物ヲ毀損シタルトキハ此限ニ在ラス
第五十条 用益者カ収益ヲ始ムルコトヲ得ルヨリ以後ニ虚有者ノ収取シタル果実ハ用益者ニ属ス縦令用益者カ自ラ其収益ヲ遅延シタルモ亦同シ但其果実ノ収取及ヒ保存ノ費用ヲ虚有者ニ償還スルコトヲ要ス
用益者ハ収益ヲ始ムル時根枝ニ由リテ土地ニ附着スル果実ヲ其成熟ニ至リ収取スルノ権利ヲ有ス但耕耘、種子、栽培ノ費用ヲ虚有者ニ償還スルコトヲ要セス
第五十一条 用益者ハ其権利ノ継続間用益物ヨリ生スル天然及ヒ法定ノ一切ノ果実ニ付キ所有者ニ同シキ権利ヲ有ス
第五十二条 天然ノ果実ハ自然ニ生シタルト栽培ニ因リテ得タルトヲ問ハス土地ヨリ之ヲ離シタル時直チニ用益者ニ属ス縦令事変又ハ盗奪ニ因リテ離レタルモ亦同シ
然レトモ果実カ其成熟前ニ土地ヨリ離レ且用益権カ通常ノ収取季節前ニ消滅シタルトキハ其利益ハ虚有者ニ帰ス
第五十三条 獣畜ノ子ハ其産出ノ時ヨリ用益者ニ属ス乳汁、肥料及ヒ剪毛季節ニ剪取シタル絨毛モ亦同シ
第五十四条 法定ノ果実ハ其払渡時期ノ如何ヲ問ハス収益ヲ始ムルコトヲ得ル時ヨリ用益権ノ消滅スルマテ用益者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
法定ノ果実ハ用益物ニ付キ第三者ヨリ金銭ヲ以テ払フ可キ納額即チ土地、建物ノ借賃、借入金ノ利息、会社ノ配当金、年金権ノ年金、石坑ノ借料ノ類ナリ
第五十五条 用益物中ニ金穀其他日用品ノ如キ消費スルニ非サレハ使用シ及ヒ収益スルコトヲ得サル動産アルトキハ用益者ハ之ヲ消費シ又ハ譲渡スコトヲ得但用益権消滅ノ時同数量、同品質ノ物ヲ返還シ又ハ収益ヲ始ムル以前ニ評価ヲ為シタルニ於テハ其代価ヲ返還スルコトヲ要ス
右規定ハ用益権ヲ設定シタル商業資産ヲ組成スル商品其他ノ代替物ニ之ヲ適用ス
第五十六条 住居用ノ器具其他使用ニ因リテ毀損ス可キ用益物ニ付テハ用益者ハ其用方ニ従ヒテ之ヲ使用シ且用益権消滅ノ時其現状ニテ之ヲ返還スルコトヲ得但用益者ノ過失又ハ懈怠ニ因リテ重大ノ毀損ヲ致シタルトキハ此限ニ在ラス
又賃貸スルコトヲ得ヘキ性質ノ用益物ニ非サレハ用益者ハ自己ノ責任ヲ以テ之ヲ賃貸スルコトヲ得ス
第五十七条 終身年金権ノ用益者ハ年金権者ト同シク其年金ヲ収取スルノ権利ヲ有ス但反対ノ条件アルトキハ此限ニ在ラス
既ニ設定シタル用益権ニ付キ更ニ用益権ヲ得タル者ハ原用益者ニ属スル一切ノ権利ヲ行フ
第五十八条 種類及ヒ員数ノミヲ以テ定メタル畜群ノ用益者ハ保存ヲ要セサル部分ヲ毎年処分スルコトヲ得但其子ヲ以テ全数ヲ保持スルコトヲ要ス
第五十九条 用益者ハ大小木ノ樹林及ヒ竹林ニ付テハ従来ノ所有者ノ慣習及ヒ採伐方ニ従ヒ定期ノ採伐ヲ為シテ収益ス
採伐方ノ未タ確ニ定マラサルトキハ用益者ハ近傍ノ重モナル所有者又ハ国、府県、市町村ニ属スル樹林ノ慣習ニ従フ但採伐スル一个月前ニ虚有者ニ予告スルコトヲ要ス
第六十条 従来ノ所有者ノ定期採伐ヲ為サヽリシ保存木及ヒ大樹木ニ付テハ用益者ハ其樹木ノ定期産出物ノミヲ得ルノ権利ヲ有ス
然レトモ用益権ノ存スル建物ノ大修繕ヲ要スルトキハ用益者ハ枯レ又ハ倒レタル大樹木ヲ之ニ用ユルコトヲ得且若シ生木ヲ要スルトキハ虚有者立会ニテ其必要ヲ証セシ後之ヲ採伐スルコトヲ得
第六十一条 用益者ハ用益樹木ヲ支持スルニ必要ナル棚架、支柱又ハ杭杙ニ用ユル竹木ヲ何時ニテモ其用益地ノ樹林及ヒ竹林ヨリ採取スルコトヲ得
第六十二条 用益者ハ用益樹木ヲ植続キ又ハ植増ス為メ其用益地ノ苗床ヨリ苗木ヲ採取スルコトヲ得
又用益者ハ其苗床ノ苗木ヲ定期ニ売ルコトヲ得但従来此用方アルトキ又ハ其生殖カ用益地ノ需用ニ余ルトキニ限ル
右孰レノ場合ニ於テモ用益者ハ苗芽又ハ種子ヲ以テ苗床ヲ保持スルコトヲ要ス
第六十三条 用益地ニ既ニ採掘ヲ始メ且特別法ニ従フヲ要セサル石類、石灰類其他ノ物ノ石坑アルトキハ用益者ハ従来ノ所有者ノ如ク其収益ヲ為ス
右石坑ヲ未タ採掘セス又ハ其採掘ヲ廃止シタルトキハ用益者ハ其用益物中ノ建物、墻壁其他ノ部分ノ大小修繕ニ必要ナル材料ノミヲ採取スルコトヲ得但其土地ヲ損傷セス且第六十条ニ記載シタル如ク予メ其必要ヲ証スルコトヲ要ス
又用益者ハ前二項ノ区別ニ従ヒ其用益地ノ泥炭及ヒ肥料土ニ付キ収益スルコトヲ得
第六十四条 用益者ハ用益地ヲ増加スル寄洲、中洲其他ノ添附地ニ付キ収益ス
然レトモ虚有者カ償金ヲ払フニ非サレハ添附地ヲ取得スルコトヲ得サリシトキハ用益者ハ用益権ノ継続間虚有者ニ其償金ノ利息ヲ払フコトヲ要ス
用益者ハ用益不動産ニ於テ第三者ノ発見シタル埋蔵物ニ付キ権利ヲ有セス
第六十五条 用益者ハ用益地ニ於テ狩猟及ヒ捕漁ヲ為スノ権利ヲ有ス
第六十六条 用益者ハ用益不動産ニ属スル一切ノ地役権ヲ行フ若シ不使用ニ因リテ之ヲ消滅セシメタルトキハ虚有者ニ対シテ其責ニ任ス
第六十七条 用益者ハ虚有者及ヒ第三者ニ対シ直接ニ其収益権ニ関スル占有及ヒ本権ノ物上訴権ヲ行フコトヲ得
又用益者ハ用益不動産ノ働方又ハ受方ノ地役ニ付キ自己ノ権利ノ範囲内ニ於テ占有ニ係ルト本権ニ係ルトヲ問ハス要請又ハ拒却ノ訴権ヲ行フコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ第九十八条ノ規定ヲ適用ス
第六十八条 用益者ハ有償又ハ無償ニテ其用益権ヲ譲渡シ賃貸シ又ハ用益ニ付スルコトヲ得且用益物カ抵当ト為ル可キモノナルトキハ其権利ヲ抵当ト為スコトヲ得
祖父母ノ用益権ハ此限ニ在ラス
如何ナル場合ニ於テモ用益者ノ付与シタル権利ハ其用益権ト同シキ期間、制限及ヒ条件ニ従フ但賃貸借ノ継続期間及ヒ其更新ニ付テハ第百十九条乃至第百二十二条ノ規定ヲ適用ス
第六十九条 用益者ハ用益権消滅ノ時其収取セサリシ果実及ヒ産出物ノ為メ償金ヲ求ムルノ権利ヲ有セス其果実及ヒ産出物ノ猶ホ土地ニ附着スルトキト雖モ亦同シ
又用益物ニ改良ヲ加ヘテ価格ヲ増シタルトキト雖モ其改良ノ為メ虚有者ニ対シテ償金ヲ求ムルコトヲ得ス
用益者ハ自己ノ設ケタル建物、樹木、装飾物其他ノ附加物ヲ収去スルコトヲ得但其用益物ヲ旧状ニ復スルコトヲ要ス
第七十条 用益権消滅ノ時用益者又ハ其相続人カ前条ニ従ヒテ収去スルコトヲ得ヘキ建物及ヒ樹木等ヲ売ラントスルトキハ虚有者ハ鑑定人ノ評価シタル現時ノ代価ヲ以テ先買スルコトヲ得
用益者ハ虚有者ニ右先買権ヲ行フヤ否ヲ述フ可キノ催告ヲ為シ其後十日内ニ虚有者カ先買ノ陳述ヲ為サス又ハ之ヲ拒絶シタルトキニ非サレハ其収去ニ着手スルコトヲ得ス
虚有者カ先買ノ陳述ヲ為シタリト雖モ鑑定人又ハ裁判所ノ処決ノ確定シタル時ヨリ一个月内ニ其代金ヲ弁済セサルトキハ先買権ヲ失フ但損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
用益者又ハ其相続人ハ代金ノ弁済ヲ受クルマテ建物ヲ占有スルコトヲ得
第三款 用益者ノ義務
第七十一条 用益者ハ用益物ノ占有ヲ始ムル前ニ虚有者ト立会ヒ又ハ合式ニ之ヲ召喚シ完全精確ニ動産ノ目録、不動産ノ形状書ヲ作ルコトヲ要ス
第七十二条 当事者カ双方出会シ共ニ能力アルトキ又ハ有効ニ代理セラレタルトキハ目録及ヒ形状書ハ私署ヲ以テ之ヲ作ルコトヲ得反対ノ場合ニ於テハ公吏之ヲ作ル
第七十三条 目録ニ記シタル代替物ノ評価ハ売買ニ同シキ効力ヲ有ス但反対ノ明言アルトキハ此限ニ在ラス不代替物ノ評価ハ売買ニ同シキ効力ヲ有スルコトヲ目録ニ明示スルニ非サレハ其効力ヲ有セス
有償ニテ用益権ヲ設定シタルトキハ目録及ヒ評価ノ費用ハ用益者、虚有者各其半額ヲ負担シ無償ノ場合ニ於テハ用益者之ヲ負担ス
第七十四条 用益権設定ノ時用益者ノ目録又ハ形状書ヲ作ルノ義務ヲ免除シタリト雖モ虚有者ハ常ニ用益者ト立会ヒ又ハ合式ニ之ヲ召喚シ自費ヲ以テ目録又ハ形状書ヲ作ルコトヲ得但此事ニ付キ虚有者ハ十一日以上収益ヲ妨クルコトヲ得ス
第七十二条及ヒ第七十三条第一項ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
第七十五条 用益者ハ目録又ハ形状書ヲ作ルノ義務ヲ履行セスシテ収益ヲ始メタルトキハ完好ナル形状ニテ不動産ヲ受取リタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
動産ニ付テハ虚有者ハ通常ノ証拠ハ勿論世評ヲ以テ其実体及ヒ価格ヲ証スルコトヲ得
第七十六条 用益者ハ用益権消滅ノ時負担ス可キ返還及ヒ償金ノ為メ保証人ヲ立テ又ハ他ノ相応ナル担保ヲ供スルニ非サレハ収益ヲ始ムルコトヲ得ス
第七十七条 担保ノ性質ニ付キ当事者ノ間ニ議協ハサルトキハ裁判所ハ顕然資力アル第三者ノ引受ヲ認許シ又ハ供託所若クハ当事者ノ認諾スル第三者ニ金銭若クハ有価物ヲ寄託スルヲ認許シ又ハ質若クハ抵当ヲ認許スルコトヲ得
第七十八条 担保ス可キ金額ニ付テハ裁判所ハ用益権ノ直接ニ存スル金額未満ニ其金額ヲ定ムルコトヲ得ス又動産ノ評価カ売買ニ同シキ効力ヲ有スルトキハ其評価ノ全額未満ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス又評価カ売買ニ同シキ効力ヲ有セサルトキハ其評価ノ半額未満ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス
然レトモ右ノ末ノ場合ニ於テ若シ用益者カ評価セシ動産ニ係ル権利ヲ用益権ノ継続間ニ譲渡シ又ハ賃貸シタルトキハ虚有者ハ常ニ評価ノ全額ニ対シテ担保ヲ要求スルコトヲ得
不動産ノ担保金額ノ多寡ハ裁判所之ヲ定ム
第七十九条 担保ノ設定証書ニハ前条ニ定メタル金額ニ対スル保証人又ハ用益者ノ一身ノ引受ヲ併記ス
第八十条 用益者カ動産又ハ不動産ニ対シテ相応ナル担保ヲ供スル能ハス且当事者ノ間ニ別段ノ合意ナキトキハ左ノ如ク処弁ス
日用品其他ノ代替物ハ之ヲ競売シ其代金ハ虚有者、用益者連名ニテ用益権ノ直接ニ存スル金銭ト共ニ供託所ニ供託シ又ハ之ヲ国債券ニ換ヘ用益者ハ其利息ヲ収取ス
此他ノ動産ハ虚有者之ヲ占有ス
不動産ハ之ヲ第三者ニ賃貸シ又ハ虚有者カ賃借ノ名義ニテ之ヲ保存シ用益者ハ保持費用及ヒ第八十九条ニ記載シタル負担ヲ扣除シテ貸賃ヲ収取ス
第八十一条 用益者カ担保ノ一分ニ非サレハ供スル能ハサルトキハ引渡ヲ受ク可キ用益物ニ付キ其担保ノ限度ニ応シテ選択ヲ為ス
第八十二条 用益者ノ保証人ヲ立ツルノ義務ハ設定ノ権原又ハ其後ノ合意ヲ以テ之ヲ免除スルコトヲ得但用益者ノ無資力ト為リタルトキハ此免除ハ其効ヲ失フ若シ用益者カ既ニ収益ヲ始メタルトキハ其用益物ヲ虚有者ニ返還シ且前二条ニ従ヒテ処弁ス
第八十三条 父母ノ法律上ノ用益権ニ付テハ保証人ヲ立ツルノ義務ナシ
贈与物ニ付キ贈与者カ自己ノ利益ノ為メ留存シタル用益権ニ付テモ亦同シ
第八十四条 用益者カ収益ヲ始メタルトキハ善良ナル管理者ノ如ク用益物ノ保存ニ注意スルコトヲ要ス
用益者ハ其過失又ハ懈怠ヨリ生スル用益物ノ喪失又ハ毀損ノ責ニ任ス但虚有者ノ権利ヲ保護スル為メ用益者ニ対シテ第百四条ニ許可シタル処置ヲ為スコトヲ妨ケス
第八十五条 用益物ノ全部又ハ一分カ火災ニテ滅失シタルトキハ用益者ニ過失アリト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第八十六条 用益者ハ動産及ヒ不動産ノ小修繕ヲ負担シ其求償権ヲ有セス
大修繕ハ用益者ノ過失ニ因リ又ハ小修繕ヲ為サヽルニ因リテ必要ト為リタルトキニ非サレハ用益者之ヲ負担セス
屋根若クハ重モナル墻壁ノ修繕又ハ重モナル梁柱若クハ基礎ノ変更ヲ建物ノ大修繕トス
石垣、土手及ヒ墻壁ノ改造モ亦之ヲ大修繕ト看做ス
第八十七条 過失又ハ懈怠ノ場合ノ外用益者ハ虚有者ヲ立会ハシメ鑑定人ヲシテ大修繕ノ必要ヲ証セシメタル後虚有者其大修繕ヲ為スコトヲ拒ミタルトキハ自ラ之ヲ為スコトヲ得
用益権消滅ノ時虚有者ハ右修繕ヨリ生シタル現時ノ増価額ヲ用益者ニ弁償スルノ責ニ任ス
若シ虚有者カ大修繕ヲ為ストキハ用益者ヲ立会ハシメ鑑定人ヲシテ其必要及ヒ費用ヲ証セシメ用益者ハ毎年其費用ノ利息ヲ虚有者ニ弁償ス
第八十八条 前条ノ規定ハ建物カ朽敗ノ為メ崩頽シ又ハ事変ニ因リテ破壊シタル場合ニモ之ヲ適用ス但第百六条ニ定メタル如ク此等ノ事ニ因リテ用益権ノ消滅ヲ致ストキハ此限ニ在ラス
第八十九条 用益物ニ賦課セラルヽ租税及ヒ毎年通常ノ公課ハ其全国ニ係ルモノト一地方ニ係ルモノトヲ問ハス用益者之ヲ負担シ其求償権ヲ有セス
用益権ノ継続間用益物ニ賦課セラルヽコト有ル可キ非常ノ公課又ハ租税ニ付テハ虚有者ハ其元本ヲ払ヒ用益者ハ此時間毎年ノ利息ヲ弁償ス
非常ノ公課又ハ租税ト看做スモノハ左ノ如シ
第一 強要ノ借入
第二 増税又ハ新税但其臨時又ハ非常ノ性質カ法令ニ明示アルトキ又ハ明示ナキモ明ニ情況ヨリ生スルトキニ限ル
第九十条 用益者又ハ虚有者カ通常又ハ非常ノ租税ヲ納メサルトキハ不動産ハ完全ノ所有権ニ於テ之ヲ差押ヘ且売却シ其代金ヲ怠納租税ニ充ツ若シ残額アラハ其元本ハ虚有者ニ属シ其収益ハ用益者ニ属ス
第九十一条 虚有者カ用益権設定ノ前ニ火災ニ対シテ建物ヲ保険ニ付シタルトキハ用益者ハ毎年保険料ノ利息ヲ払フノ責ニ任ス但火災ノ場合ニ於テ得タル償金ハ虚有者ニ属シ其収益ハ用益者ニ属ス
虚有者カ用益権ノ継続間ニ完全ノ所有権ヲ保険ニ付シタルトキハ用益者ハ保険料ノ利息ヲ負担セス其償金ニ関シテハ虚有者カ自己ノ払ヒタル保険料ノ金額ヲ扣除シタル残余ニ付キ収益ス又虚有者カ其虚有権ノミヲ保険ニ付シタルトキハ用益者ハ償金ニ付キ権利ヲ有セス
海上ノ危険ニ対シ保険ニ付シタル船舶ニ付キ用益権ヲ設定シタルトキモ亦右ノ規定ヲ適用ス
第九十二条 用益者ハ自己及ヒ虚有者ノ利益ノ為メ自費ヲ以テ保険ヲ約スルコトヲ得此場合ニ於テハ用益者ハ償金ノ額内ヨリ自己ノ払ヒタル保険料ヲ扣除シ其残額ニ付テ収益ス
又用益者ハ用益権ノ価格ノミニ付キ建物ヲ保険ニ付シタルトキハ一人ニテ保険料ヲ負担シ災害アリシトキハ其償金ヲ取得ス凍、雹其他天然ノ事変ニ対シ用益者カ収穫物又ハ産出物ヲ保険ニ付シタルトキモ亦同シ
第九十三条 遺言ニテ包括財産ノ用益権ヲ得タル者ハ其得益ノ割合ニ応シテ相続ノ債務ノ利息ヲ負担ス
此他相続ノ負担タル養料又ハ終身年金権ノ年金モ亦同上ノ割合ニ応シテ之ヲ負担ス
第九十四条 特定財産ノ用益者ハ其用益財産カ抵当又ハ先取特権ヲ負担スルトキト雖モ設定者ノ債務ノ弁済ヲ分担セス
用益者カ所持者トシテ訴追ヲ受ケタルトキハ債務者ニ対スル求償権ヲ有ス但用益権ノ設定者又ハ其相続人ニ対スル追奪担保ノ訴権ヲ妨ケス
第九十五条 虚有者カ元本ヲ負担シ用益者カ其利息ヲ負担ス可キ諸般ノ場合ニ於テハ左ノ方法ノ一ニ依リテ処弁ス
第一 虚有者カ元本ヲ払ヒ用益者カ其毎年ノ利息ヲ払フ
第二 用益者カ元本ヲ立替ヘ虚有者カ用益権消滅ノ時之ヲ用益者ニ償還ス
第三 要求ヲ受ク可キ金額ニ満ツルマテ用益物ノ一分ヲ売却ス
第九十六条 用益権ノ継続間用益不動産ニ第三者カ虚有者ノ権利ヲ害ス可キ侵奪又ハ作業ヲ為ストキハ用益者ハ其事実ヲ虚有者ニ告発スルコトヲ要ス若シ此告発ヲ為サヽルトキハ為メニ生シタル総テノ損害及ヒ第三者ノ取得スル時効又ハ占有権ニ付キ其責ニ任ス
第九十七条 虚有者カ原告又ハ被告トシテ用益物ノ完全ノ所有権ニ係ル訴訟ヲ為ストキハ用益者ヲ其訴訟ニ召喚スルコトヲ要ス
用益者ハ右訴訟費用ノ利息及ヒ収益ノミニ関スル訴訟費用ヲ負担ス然レトモ用益権ノ設定証書ヲ以テ用益者ニ追奪担保ヲ為シタルトキハ用益者ハ総テノ訴訟費用ヲ負担セス
如何ナル場合ニ於テモ用益者ハ虚有権ノミニ関スル訴訟費用ヲ分担セス
第九十八条 訴訟ニ参加ス可クシテ之ニ参加セシメラレサリシ虚有者又ハ用益者ハ其判決ノ害ヲ受クルコト無シ然レトモ事務管理ノ規則ニ従ヒテ其利ヲ受クルコトヲ得
第四款 用益権ノ消滅
第九十九条 用益権ハ第四十二条ニ記載シタル所有権消滅ノ原因ト同一ノ原因ニ由リテ消滅スルノ外尚ホ左ノ原因ニ由リテ消滅ス
第一 用益者ノ死亡
第二 用益権ヲ設定シタル期間ノ経過
第三 用益者ノ明示シタル用益権ノ放棄
第四 三十个年間継続シタル不使用
第五 用益権ノ廃罷
第百条 数人ノ終身ヲ期シテ同時ニ且不分ニテ用益権ヲ設定シタルトキハ死亡者ノ持分ハ生存者ヲ利ス其用益権ハ最後ノ死亡者ノ死亡ニ因ルニ非サレハ消滅セス
第百一条 法人ノ為メニ設定シタル用益権ハ三十个年ノ期間ヲ以テ消滅ス但三十个年ヨリ短キ期間ヲ以テ設定シタルトキハ此限ニ在ラス
第百二条 用益者ハ用益権ノ放棄ヲ以テ其放棄前ニ履行セサリシ義務ヲ免カルルコトヲ得ス
又其放棄ハ用益者ノ権ニ基キ物ノ上ニ権利ヲ取得シタル第三者ヲ害スルコトヲ得ス
第百三条 不使用ハ未成年者ニモ其他ノ人ニシテ之ニ対シ時効ノ経過スルコトヲ得サル者ニモ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
免責時効ニ関スル此他ノ規則ハ不使用ニ之ヲ適用ス
第百四条 用益者カ用益物ニ重大ノ毀損ヲ加フルトキ又ハ保持ノ欠缺若クハ収益ノ濫妄ニ因リテ用益物ノ保存ヲ危フスルトキハ裁判所ハ用益権消滅ノ他ノ原因ノ其一ノ生スルマテ用益者ノ費用ヲ以テ用益物ヲ管守ニ付シ又ハ此時間虚有者ヨリ毎年用益者ニ払フ可キ金額若クハ果実ノ部分ヲ定メ虚有者ノ為メ用益権ノ廃罷ヲ宣告スルコトヲ得
裁判所ハ右ト同時ニ其年ノ果実及ヒ産出物ノ分割ヲ定ム
将来ニ於テ用益者ニ払フ可キ金額又ハ果実ノ価額ハ用益者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
第百五条 用益権ノ廃罷ハ其廃罷前ニ用益者ノ加ヘタル損害ノ賠償ヲ妨ケス
第百六条 事変又ハ朽敗ニ因リテ用益権ノ存スル建物ノ全部カ毀滅シタルトキハ用益者ハ土地ニ付テモ材料ニ付テモ収益スルコトヲ得ス但建物カ用益権ノ存スル土地ノ従タルトキハ此限ニ在ラス
第百七条 用益物カ公用徴収ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ収益ス此場合ニ於テ用益者ハ其収益スル元本ニ対シテ相応ナル担保ヲ供スルコトヲ要ス但此場合ヲ予見シテ特ニ其義務ヲ免除シタルトキハ此限ニ在ラス
第九十条第九十一条及ヒ第九十二条ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同シ
第百八条 池沼ノ用益権ハ水ノ乾凅シテ旧状ニ復スルノ見込ナキトキハ消滅ス
之ニ反シテ土地ノ用益権ハ水ノ浸没シテ旧状ニ復スルノ見込ナキトキハ消滅ス
第百九条 第百四条ニ掲ケタル場合ヲ除クノ外用益権消滅ノ時猶ホ土地ニ附着スル果実及ヒ産出物ハ虚有者ニ属ス其栽培又ハ作業ノ費用ハ之ヲ償還スルコトヲ要セス但不動産賃借人カ果実ニ付キ既ニ得タル権利ヲ妨ケス
第二節 使用権及ヒ住居権
第百十条 使用権ハ使用者及ヒ其家属ノ需用ノ程度ニ限ルノ用益権ナリ
住居権ハ建物ノ使用権ナリ
使用権及ヒ住居権ハ用益権ト同一ノ方法ニ因リテ成立シ及ヒ同一ノ原因ニ由リテ消滅ス
第百十一条 使用権及ヒ住居権ノ程度ヲ定ムル為メ使用者ノ家属ト看做ス可キ者ハ使用者ト共ニ住居スル配偶者、卑属親又ハ尊属親及ヒ使用者又ハ此等ノ親族ノ随身僕婢ナリ
第百十二条 設定権原又ハ其後ノ合意ヲ以テ土地ノ使用権ヲ行フノ方法ヲ定メス又ハ住居権ヲ行フ可キ建物ヲ定メサルトキハ当事者立会ノ上裁判所其意見ヲ聴キテ之ヲ定ム
第百十三条 使用権及ヒ住居権ハ之ヲ譲渡シ又ハ賃貸スルコトヲ得ス
第百十四条 使用権又ハ住居権ヲ有スル者ハ用益者ト同シク動産ノ目録及ヒ不動産ノ形状書ヲ作リ且保証人ヲ立ツルノ責ニ任ス
又用益者ト同一ノ注意ヲ為シ及ヒ自己ノ過失ニ付テハ之ト同一ノ責ニ任ス
又其収益ノ割合ニ応シ用益者ト同シク修繕費用、租税、公課及ヒ訴訟費用ヲ分担ス
第三章 賃借権、永借権及ヒ地上権
第一節 賃借権
第百十五条 動産及ヒ不動産ノ賃貸借ハ賃借人ヨリ賃貸人ニ金銭其他ノ有価物ヲ定期ニ払フノ約ニテ賃借人ニ或ル時間賃借物ノ使用及ヒ収益ヲ為スノ権利ヲ与フ但後ノ第二款及ヒ第三款ニ定メタル如ク合意ニ因リ又ハ法律ノ効力ニ因リテ当事者ノ負担スル相互ノ義務ヲ妨ケス
第百十六条 国、府、県、市、町、村及ヒ公設所ニ属スル財産ノ賃貸借ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
第一款 賃借権ノ設定
第百十七条 賃借権ハ賃貸借契約ヲ以テ之ヲ設定ス
賃借権ヲ遺贈シタル場合ニ於テハ相続人ハ遺言書ニ記載シタル項目及ヒ条件ニ従ヒテ受遺者ト賃貸借契約ヲ取結フコトヲ要ス
賃借権ヲ予約シタル場合ニ於テモ諾約者ハ要約者ト賃貸借契約ヲ取結フコトヲ要ス
第百十八条 賃貸借契約ハ有償且双務ノ契約ノ一般ノ規則ニ従フ但後ニ掲ケタル変例ヲ妨ケス
第百十九条 法律上又ハ裁判上ノ管理者ハ其管理スル物ヲ賃貸スルコトヲ得然レトモ管理者カ期間ニ付キ特別ノ委任ヲ受ケスシテ賃貸スルトキハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
第一 獣畜其他ノ動産ニ付テハ二个年
第二 居宅、店舗其他ノ建物ニ付テハ三个年
第三 耕地、池沼其他土地ノ部分ニ付テハ五个年
第四 牧場、樹林ニ付テハ十个年
第百二十条 管理者ハ前条ニ記載シタル賃貸物ノ区別ニ従ヒ現期間ノ満了ニ先タツ一个月、三个月、六个月又ハ一个年内ニ非サレハ同一ノ期間ヲ以テ賃貸借ヲ更新スルコトヲ得ス
然レトモ右ノ時期ニ先タチ為シタル更新ハ新期間ノ始マリシ後尚ホ管理者ノ委任ノ止マサリシトキハ無効ナラス
第百二十一条 管理者ハ金銭外ノ有価物ヲ貸賃ト為シテ賃貸スルコトヲ得ス
然レトモ耕地ニ付テハ其産出物ヲ貸賃ト為シテ賃貸スルコトヲ得
第百二十二条 前三条ノ規定ハ代理人ニ之ヲ適用ス但代理委任ノ書面ヲ以テ其権限ヲ伸縮シタルトキハ此限ニ在ラス
第百二十三条 自己ノ財産ヲ管理スルコトヲ得ル婦及ヒ既脱後見ノ未成年者モ亦管理者ト同一ノ条件ニ従フニ非サレハ其財産ヲ賃貸スルコトヲ得ス
第百二十四条 賃借人ハ前数条ニ反シタル賃貸借又ハ其更新ノ無効又ハ短縮ヲ請求スルコトヲ得ス
然レトモ所有者其権利ヲ自在ニスルコトヲ得ルニ至リタルトキハ賃借人ハ所有者ノ認諾スルヤ否ノ意思ヲ第百十九条ニ区別シタル賃借物ノ性質ニ従ヒ五日、八日、十五日又ハ三十日ノ期間ニ述フルコトヲ常ニ要求スルコトヲ得
所有者カ其意思ヲ述フルコトヲ拒ムトキハ賃借人ハ起初又ハ更新ニ於テ定メタル如ク賃借期間ヲ維持セント述フルコトヲ得
第百二十五条 所有者ノ為シタル不動産ノ賃貸借カ三十个年ヲ超ユルトキハ其賃貸借ハ永貸借ト為リ此種ノ賃貸借ノ為メ後ノ第二節ニ定メタル規則ニ従フ
第二款 賃借人ノ権利
第百二十六条 賃借人ハ賃借物ニ付キ用益者ト同一ノ利益ヲ収ムル権利ヲ有ス但其賃貸借設定ノ契約及ヒ法律ノ規定ヨリ生スル権利ノ増減ハ此限ニ在ラス
第百二十七条 賃借人ハ其収益ヲ始ムル為メニ定メタル時期ニ於テ賃借物ノ占有ヲ賃貸人ニ要求スルコトヲ得然レトモ其目録又ハ形状書ヲ作リ及ヒ保証人ヲ立ツルノ責ニ任セス但契約ニ因リテ其責ニ任スルトキハ此限ニ在ラス
第百二十八条 賃借人ハ物ノ引渡前ニ其用方ニ従ヒテ一切ノ修繕ヲ完好ニスルヲ賃貸人ニ要求スルコトヲ得
其他賃貸人ハ賃貸借ノ期間大小修繕ヲ為スノ責ニ任ス但左ノ二項ニ掲ケタル修繕及ヒ賃借人又ハ其僕婢ノ過失若クハ懈怠ニ因リテ必要ト為リタル修繕ハ賃借人之ヲ負担ス
賃貸人ハ賃貸借ノ期間畳、建具、塗彩及ヒ壁紙ノ保持ヲ負担セス
又井戸、用水溜、汚物溜又ハ水道管ノ疏浚及ヒ普通ニ賃借人ノ為ス可キ修繕ヲ負担セス
本条ノ規定ニ反対ノ慣習アルトキハ其慣習ニ従フコトヲ妨ケス
第百二十九条 建物ニ必要ト為リタル大修繕ハ賃借人ヨリ之ヲ要求セサルモ又此カ為メ賃借人ニ多少ノ不便ヲ生セシム可キモ賃貸人之ヲ為スコトヲ得
然レトモ賃借人ハ右修繕ノ一个月ヨリ長ク継続スルトキハ借賃ノ減少ヲ要求スルコトヲ得又時間ノ如何ヲ問ハス右修繕ノ為メ其賃借物中住居ス可キ全部又ハ商業若クハ工業ニ極メテ必要ナル部分ヲ失フ可キトキハ賃借人ハ賃貸借ノ銷除ヲ請求スルコトヲ得
第百三十条 賃借人カ第三者ヨリ収益ノ権利ニ妨害又ハ争論ヲ受ケ其原因賃借人ノ責ニ帰ス可カラサルトキ賃借人ヨリ合式ニ告知ヲ受ケタル賃貸人ハ其訴訟ニ参加シテ賃借人ヲ担保シ又ハ損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
第百三十一条 妨害カ戦争、旱魃、洪水、暴風、火災ノ如キ不可抗力又ハ官ノ処分ヨリ生シ此カ為メ毎年ノ収益ノ三分一以上損失ヲ致シタルトキハ賃借人ハ其割合ニ応シテ借賃ノ減少ヲ要求スルコトヲ得但地方ノ慣習之ニ異ナルトキハ其慣習ニ従フコトヲ妨ケス
又右ノ妨害カ引続キ三个年ニ及フトキハ賃借人ハ賃貸借ノ銷除ヲ請求スルコトヲ得建物ノ一分ノ焼失其他ノ毀滅ノ場合ニ於テ所有者カ一个年内ニ之ヲ再造セサルトキモ亦同シ
第百三十二条 土地又ハ建物ヲ以テ主タル目的物ト為シタル賃貸借ニ於テ其現在ノ坪数カ契約ノ坪数ヨリ少ナク又ハ多キトキハ土地又ハ建物ノ売買ニ於ケルト同一ノ条件ニ従ヒテ借賃ノ増減又ハ契約ノ銷除ヲ為スコトヲ得
第百三十三条 賃借人ハ賃貸人ノ明許ヲ要セスシテ賃借地ニ適宜ニ建物ヲ築造シ又ハ樹木ヲ栽植スルコトヲ得但現在ノ建物又ハ樹木ニ何等ノ変更ヲモ加フルコトヲ得ス
賃借人ハ旧状ニ復スルコトヲ得ヘキトキハ其築造シタル建物又ハ栽植シタル樹木ヲ賃貸借ノ終ニ収去スルコトヲ得但第百四十四条ヲ以テ賃貸人ニ与ヘタル権能ヲ妨ケス
第百三十四条 賃借人ハ賃貸借ノ期間ヲ超エサルニ於テハ其賃借権ヲ無償若クハ有償ニテ譲渡シ又ハ其賃借物ヲ転貸スルコトヲ得但反対ノ慣習又ハ合意アルトキハ此限ニ在ラス
賃借人ハ譲渡ノ場合ニ於テハ贈与者又ハ売主ノ権利ヲ有シ転貸ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ権利ヲ有ス
右孰レノ場合ニ於テモ賃借人ハ賃貸人ニ対シテ其義務ヲ免カルルコトヲ得ス但賃貸人カ転借人ト更改ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
果実又ハ産出物ノ一分ヲ以テ借賃ト為シ金銭ヲ以テ之ニ代フルコトヲ許サヽルトキハ賃借権ノ譲渡又ハ転貸ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第百三十五条 不動産ノ賃借人ハ其権利ヲ抵当ト為スコトヲ得但譲渡又ハ転貸ヲ為スコトヲ得ヘキ場合ニ限ル
第百三十六条 賃借人ハ其権利ヲ保存スル為メ賃貸人及ヒ第三者ニ対シテ第六十七条ニ記載シタル訴権ヲ行フコトヲ得
第三款 賃借人ノ義務
第百三十七条 賃貸人其権利ヲ保存スル為メ賃貸物ノ目録又ハ形状書ヲ作ラント欲スルトキハ賃借人ハ何時ニテモ賃貸人カ己レト立会ヒテ之ヲ作ルヲ許諾スルコトヲ要ス但其書類ノ費用ヲ分担セス
賃借人モ亦賃貸人ヲ召喚シ立会ノ上自費ニテ右目録又ハ形状書ヲ作ルコトヲ得
形状書ヲ作ラサリシトキハ賃借人ハ修繕完好ノ形状ニテ賃借物ヲ受取リタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
目録ナキトキハ動産ノ実体及ヒ形状ノ証拠ハ賃貸人ノ責ニ帰シ通常ノ方法ニ従ヒテ之ヲ為ス
第百三十八条 金銭ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ賃借人ハ合意シタル時期ニ之ヲ払ヒ合意ナキトキハ毎月末ニ之ヲ払フコトヲ要ス但地方ノ慣習之ニ異ナルトキハ此限ニ在ラス
果実ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ収穫後ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
第百三十九条 賃借人借賃ヲ払ハス其他賃貸借ノ特別ナル項目又ハ条件ヲ履行セサルトキハ賃貸人ハ賃借人ニ対シテ其履行ヲ強要シ又ハ損害アルトキハ其賠償ヲ得テ賃貸借ノ銷除ヲ請求スルコトヲ得
第百四十条 賃借人ハ賃借物ニ直接ニ賦課セラルヽ通常及ヒ非常ノ租税ヲ負担セス若シ租税法ニ依リテ賃借人ヨリ徴収スルコト有ルトキハ其借賃ヨリ之ヲ扣除シ又ハ賃貸人ヨリ賃借人ニ之ヲ償還ス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ賃借人ノ築造シタル建物ニ賦課セラレ又ハ賃借不動産ニ於テ賃借人ノ営ム商業若クハ工業ニ賦課セラルヽ租税其他ノ公課ハ賃借人之ヲ負担ス
第百四十一条 賃借人ハ明示ト黙示トヲ問ハス合意ヲ以テ定メタル用方ニ従フニ非サレハ賃借物ヲ使用スルコトヲ得ス其合意ナキトキハ契約ノ時ノ用方又ハ賃借物ノ性質ニ相応シテ毀損セサル用方ニ従フニ非サレハ之ヲ使用スルコトヲ得ス
第百四十二条 賃借人ハ賃借物ノ看守及ヒ保存ニ付キ用益者ト同一ノ義務ヲ負担ス
第三者カ賃借物ニ侵奪又ハ作業ヲ為ストキハ賃借人ハ第九十六条ニ記載シタル如ク用益者ト同一ノ責ニ任ス
第百四十三条 賃貸借ノ終ニ於テ賃借人カ賃借物ヲ返還セサルトキハ賃貸人ハ其選択ヲ以テ対人訴権又ハ物上訴権ニテ之ヲ訴追スルコトヲ得
第百四十四条 賃貸人ハ賃貸借ノ終ニ於テ第百三十三条ニ依リテ賃借人ノ収去スルヲ得ヘキ建物及ヒ樹木ヲ先買スルコトヲ得此場合ニ於テハ第七十条ノ規定ヲ適用ス
第四款 賃借権ノ消滅
第百四十五条 賃借権ハ左ノ諸件ニ因リテ当然消滅ス
第一 賃借物ノ全部ノ滅失
第二 賃借物ノ全部ノ公用徴収
第三 賃貸人ニ対スル追奪又ハ賃貸物ニ存スル賃貸人ノ権利ノ取消但其追奪及ヒ取消ハ賃貸借契約以前ノ原因ニ由リ裁判所ニ於テ之ヲ宣告セシトキニ限ル
第四 明示若クハ黙示ニテ定メタル期間ノ満了又ハ要約シタル解除条件ノ成就
第五 初ヨリ期間ヲ定メサルトキハ解約申入ノ告知ノ後法律上ノ期間ノ満了
右ノ外賃貸借ハ条件ノ不履行其他法律ニ定メタル原因ノ為メ当事者ノ一方ノ請求ニ因リ裁判所ニテ宣告シタル取消ニ因リテ終了ス
第百四十六条 意外又ハ不可抗ノ原因ニ由リテ賃借物ノ一分ノ滅失シタルトキハ賃借人ハ第百三十一条ニ記載シタル条件ニ従ヒテ賃貸借ノ銷除ヲ要求シ又ハ賃貸借ヲ維持シテ借賃ノ減少ヲ要求スルコトヲ得
公用ノ為メ賃借物ノ一分カ徴収セラレタルトキハ賃借人ハ常ニ借賃ノ減少ヲ要求スルコトヲ得
第百四十七条 期間ノ定メアル賃貸借ノ終リタル後賃借人仍ホ収益シ賃貸人之ヲ知リテ故障ヲ為サヽルトキハ新賃貸借暗ニ成立シ前賃貸借ト同一ノ負担及ヒ条件ニ従フ
然レトモ前賃貸借ヲ担保シタル抵当ハ消滅シ保証人ハ義務ヲ免カル
新賃貸借ハ下ノ数条ニ記載シタル如ク解約申入ニ因リテ終了ス
第百四十八条 家具ノ附キタル建物ノ全部又ハ一分ノ賃貸借ニシテ其期間ヲ明示セス其借賃ヲ一年、一月又ハ一日ヲ以テ定メタルモノハ一年、一月又ハ一日ノ間賃貸借ヲ為シタリト推定ス但前条ニ記載シタル黙示ノ更新ヲ妨ケス
動産ノミヲ以テ目的ト為シタル賃貸借ニ付テモ亦同シ
第百四十九条 家具ノ附カサル建物ノ賃貸借ハ期間ヲ定メサルトキ又ハ之ヲ定メタルモ黙示ノ更新アリタルトキハ何時ニテモ当事者ノ一方ノ解約申入ニ因リテ終了ス
解約申入ヨリ返却マテノ時間ハ左ノ如シ
第一 建物ノ全部ニ付テハ二个月但賃借人ノ造作ヲ付シタルトキハ三个月
第二 建物ノ一分ニ付テハ一个月但賃借人ノ造作ヲ付シタルトキハ二个月
第百五十条 家具ノ附キタル建物ノ賃貸借ニ付キ黙示ノ更新アリタルトキハ解約申入ヨリ返却マテノ時間ハ左ノ如シ
第一 前賃貸借ノ期間ヲ三个月又ハ其以上ニ定メタルトキハ一个月
第二 三个月未満ノ賃貸借ニ付テハ原期間ノ三分一
第三 日日ノ賃貸借ニ付テハ二十四時
右規定ハ黙示ノ更新後ノ動産ノ賃貸借ニ付テモ亦之ヲ適用ス
第百五十一条 土地ノ賃貸借ニシテ期間ヲ定メサルモノ又ハ期間ヲ定メタルモ黙示ノ更新アリタルモノハ耕地ニ付テハ主タル収穫季節ヨリ六个月前又不耕地其他牧場、樹林ニ付テハ返却セシム可キ時期ヨリ一个年前ニ解約申入ヲ為スニ因リテ終了ス
賃貸セシ建物ニ備ヘタル動産又ハ用方ニ因ル不動産ト看做ス可キ動産ノ賃貸借ハ其建物ノ賃貸借ノ終了スルニ非サレハ終了セス
第百五十二条 解約申入及ヒ返却ノ時期ニ関スル前数条ノ規定ハ其時期ニ付キ地方ノ慣習ナキトキニ非サレハ之ヲ適用セス
第百五十三条 如何ナル場合ニ於テモ賃借人ノ権利ノ存スル一切ノ収穫物ヲ収去スル前ニ賃貸借ノ終了シタルトキハ賃貸人又ハ新賃借人ハ前賃借人ノ之ヲ収去スルニ委ヌルコトヲ要ス
又賃借人ハ土地ノ収穫物ヲ収去シタル部分ニ於テ賃貸借ノ終了前ニ急要ノ作業ヲ為スコトヲ賃貸人又ハ新賃借人ニ許スコトヲ要ス但賃借人此カ為メ妨害ヲ受ク可キトキハ此限ニ在ラス
第百五十四条 賃貸人カ賃貸物ヲ譲渡サントシ又ハ自己ノ為メ若クハ他ノ特別ナル原因ノ為メ之ヲ取戻サントスルトキハ期間ノ満了前ト雖モ賃貸借ヲ銷除スルコトヲ得ルノ権能ヲ留保シタル場合又賃借人カ賃貸借ノ無用ト為ル可キ未定事故ヲ慮カリテ同一ノ権能ヲ留保シタル場合ニ於テハ前数条ニ定メタル時期ニ於テ各自予メ解約申入ヲ為スコトヲ要ス
第二節 永借権及ヒ地上権
第一款 永借権
第百五十五条 永貸借トハ期間三十个年ヲ超ユル不動産ノ賃貸借ヲ謂フ
永貸借ハ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス此期間ヲ超ユル貸借ハ之ヲ五十个年ニ短縮ス
永貸借ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ其更新ノ時ヨリ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス
当事者カ永貸借契約ナルコトヲ明示シ其期間ヲ定メサルトキハ其貸借ハ四十个年ニシテ終了ス
本法実施以前ニ期間ヲ定メテ為シタル不動産ノ賃貸借ハ五十个年ヲ超ユルモノト雖モ其全期間有効ナリ
本法実施以前ニ期間ヲ定メスシテ為シタル荒蕪地又ハ未耕地ノ賃貸借及ヒ永小作ト称スル賃貸借ノ終了ノ時期及ヒ条件ハ日後特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第百五十六条 永貸借ハ永貸借契約ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス其遺贈又ハ予約ニ付テハ第百十七条ノ規定ニ従フ
第百五十七条 当事者相互ノ権利及ヒ義務ハ永貸借ノ設定契約ヲ以テ之ヲ定ム
特別ノ合意ナキトキハ下ノ規定ニ従フノ外通常賃貸借ノ規則ニ従フ
第百五十八条 永借人ハ永借地ノ形質ヲ変スルコトヲ得但永久ノ毀損ヲ生セシメサルコトヲ要ス
永借人ハ常ニ沼沢ヲ乾凅スルコトヲ得又永借地ノ作業ニ益ス可キトキハ其土地ヲ通過スル水流ヲ変転スルコトヲ得
第百五十九条 永借人ハ原野ヲ開墾スルコトヲ得然レトモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ定期採伐ニ供シタル小木林ノ樹木ヲ掘取ルコトヲ得ス又定期採伐ニ供セサル樹木ニシテ既ニ二十个年ヲ過キ且其成長ノ年期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノヲ採伐スルコトヲ得ス
第百六十条 永借人ハ如何ナル場合ニ於テモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ主タル建物ヲ取除クコトヲ得ス従タル建物ト雖モ其存立ノ時期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノハ亦同シ
第百六十一条 前二条ニ従ヒ永借人カ建物又ハ樹木ヲ取除キタルトキハ其物料及ヒ材木ハ所有者ニ属ス
永借人ハ地底ニ鉱物在ルトキ開坑ノ特許ヲ得タル者ヨリ所有者ニ払ヘル償金ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス然レトモ右特許ヲ得タル者ノ地表ニ加ヘタル損害ノ為メ賠償ヲ受クルノ権利ヲ有ス
第百六十二条 永借地ニ既ニ採掘ヲ始メ且特別法ニ従フヲ要セサル石類、石灰類其他ノ物ノ石坑アルトキハ永借人ハ其収益ヲ継続ス
右石坑ヲ未タ採掘セス又ハ其採掘ヲ廃止シタルトキハ永借人ハ永借地ノ改良ノ為メ石其他ノ物料ヲ採取スルコトヲ得
第百六十三条 永貸人ハ永貸借契約ノ当時ノ現状ニテ永貸物ヲ引渡スモノトス
永貸人ハ貸借ノ期間大小修繕ヲ負担セス
第百六十四条 意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ貸借ノ期間ニ起リタル毀損ハ借賃減少ノ理由ト為ラス但第百六十八条ニ定メタル銷除ノ権利ヲ妨ケス
第百六十五条 永貸人ニ対シ永借物ニ賦課セラルヽ通常又ハ非常ノ租税其他ノ公課ハ永借人之ヲ永貸人ニ弁済ス
第百六十六条 数人カ一個ノ契約ヲ以テ一個ノ不動産ヲ永借シタルトキハ借賃ヲ払フノ義務ハ各永借人又ハ其相続人ニ在テハ連帯ニシテ且不可分ナリ
第百六十七条 永借人カ第百六十五条ノ弁済ヲ為サス又ハ三个年間引続キ借賃ノ払入ヲ為ササルトキハ永貸人ハ永貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
又永借人カ他ノ債権者ノ訴追ニ因リテ破産又ハ無資力ノ宣告ヲ受ケタルトキハ永貸人ハ弁済ノ如何ナル不足ニ拘ハラス解除ヲ請求スルコトヲ得但其債権者カ借賃ヲ延滞ナク払入ルヽコトヲ担保スルトキハ此限ニ在ラス
第百六十八条 永借人ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ三个年間引続キ全ク不動産ノ収益ヲ得ル能ハス又ハ其一分ノ毀損ニ因リテ将来ノ収益カ借賃ノ年額ヲ超ユ可キ見込ナキトキハ永貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
第百六十九条 永借人カ永借地ニ加ヘタル改良及ヒ栽植シタル樹木ハ永貸借ノ満期又ハ其解除ニ当リ賠償ナクシテ之ヲ残置クモノトス
建物ニ付テハ通常賃貸借ニ関スル第百四十四条ノ規定ヲ適用ス
第二款 地上権
第百七十条 地上権トハ他人ノ所有ニ属スル土地ノ上ニ於テ建物又ハ竹木ヲ完全ノ所有権ヲ以テ占有スルノ権利ヲ謂フ
第百七十一条 地上権設定ノ時其土地ニ建物又ハ竹木ノ既ニ存スルト否トヲ問ハス設定行為ノ基本、方式及ヒ公示ハ不動産譲渡ノ一般ノ規則ニ従フ
第百七十二条 地上権者カ譲受ケタル建物又ハ竹木ノ存スル土地ノ面積ニ応シテ土地ノ所有者ニ定期ノ納額ヲ払フ可キトキハ其権利及ヒ義務ハ其払フ可キ納額ニ付テハ通常賃貸借ニ関スル規則ニ従ヒ其継続スル期間ニ付テハ第百七十五条ノ規定ニ従フ
右納額ニ付テハ新ニ建物ヲ築造シ又ハ竹木ヲ栽植スル為メ土地ヲ賃借シタルトキモ亦同シ
第百七十三条 既ニ存セル建物又ハ竹木ニ於ケル地上権ノ設定ニ際シ従トシテ之ニ属ス可キ周辺ノ地面ヲ明示セサルトキハ左ニ掲クル規定ニ従フ
建物ニ付テハ地上権者ハ其建坪ノ全面積ニ同シキ地面ヲ得ルノ権利ヲ有ス此配置ハ鑑定人ヲシテ土地及ヒ建物ノ周囲ノ形状ト建物ノ各部ノ用方トヲ斟酌セシメテ之ヲ為ス
樹木ニ付テハ地上権者ハ其最長大ナル外部ノ枝ノ蔭蔽ス可キ地面ヲ得ルノ権利ヲ有ス
第百七十四条 地上権設定後ニ築造シタル建物又ハ栽植シタル樹木ニ付テハ地上権者ハ此種ノ作業ノ為メ法律ヲ以テ相隣者ノ為メニ規定シタル距離及ヒ条件ヲ遵守ス可シ縦令其隣人カ地上権ノ設定者ナルモ亦同シ
又地上権者ハ働方又ハ受方ニテ其他ノ地役ノ規則ニ従フ
第百七十五条 既ニ存セル建物又ハ地上権者ノ築造ス可キ建物ニ付キ設定権原ヲ以テ地上権ノ継続期間ヲ定メサルトキハ此建物存立ノ時期間其権利ヲ設定シタルモノト推定ス但其大修繕ハ土地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
既ニ存セル樹木又ハ地上権者ノ栽植ス可キ樹木ニ付テハ其地上権ハ樹木ヲ採伐スル時期マテ又ハ其有用ナル最長大ニ至ル可キ時期マテ之ヲ設定シタリト推定ス
此他地上権ハ通常賃借権ト同一ノ原因ニ由リテ消滅ス但所有者ノ為ス解約申入ハ此限ニ在ラス
地上権者ハ一个年前ニ予告ヲ為シ又ハ未タ払期限ノ至ラサル納額ノ一个年分ヲ払フトキハ常ニ解約申入ヲ為スコトヲ得
第百七十六条 建物又ハ樹木ノ契約前ヨリ存スルト否トヲ問ハス地上権者之ヲ売ラントスルトキハ土地ノ所有者ニ先買権ヲ行フヤ否ヲ述フ可キノ催告ヲ一个月前ニ為スコトヲ要ス
右先買権ニ付テハ此他尚ホ第七十条ノ規定ニ従フ
第百七十七条 本法実施ノ時ニ存スル地上権ハ左ノ規定ニ従フ
期限ヲ立テヽ設定シタル地上権ハ其期限ニ至リ当然消滅ス
期限ヲ立テスシテ設定シタル地上権ハ第百七十五条ニ従ヒテ建物存立ノ時期間継続ス
右両様ノ地上権ハ共ニ前条ニ規定シタル先買権ニ服ス
第四章 占有
第一節 占有ノ種類及ヒ占有スルコトヲ得ヘキ物
第百七十八条 占有ニ法定、自然及ヒ容仮ノ三種アリ
第百七十九条 法定ノ占有トハ占有者カ自己ノ為メニ有スルノ意思ヲ以テスル有体物ノ所持又ハ権利ノ行使ヲ謂フ
権利ハ物権ト人権トヲ問ハス法定ノ占有ヲ受クルコトヲ得其種種ノ効力ハ場合ニ従ヒ下ニ之ヲ定ム
第百八十条 法定ノ占有カ占有ノ権利ヲ授付ス可キ性質アル権利行為ニ基クトキハ譲渡人ニ授付ノ分限ナキヲ以テ其効力ヲ生スル能ハサルトキト雖モ其占有ハ正権原ノ占有ナリ
占有カ侵奪ニ因リテ成リタルトキハ其占有ハ無権原ノ占有ナリ
第百八十一条 正権原ノ占有ハ権原創設ノ当時ニ於テ占有者カ其権原ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ之ヲ善意ノ占有トシ此ニ反スルトキハ悪意ノ占有トス
法律ノ錯誤ハ善意ニ付テノ利益ヲ受クル為メニ之ヲ申立ツルコトヲ許サス但第百九十三条ノ規定ヲ妨ケス
善意タルコトハ権原ノ瑕疵ヲ覚知シタルトキハ止ム
第百八十二条 強暴又ハ隠密ノ占有ハ之ヲ瑕疵ノ占有トス
占有カ暴行又ハ脅迫ニ因リテ成リ又ハ保持セラレタルトキハ其占有ハ強暴ノ占有ナリ
占有カ公然且外見ノ所為ニ因リテ当事者ニ容易ニ見ハレサルトキハ其占有ハ隠密ノ占有ナリ
右占有カ平穏ト為リ又ハ公顕ト為リタルトキハ其瑕疵ハ消滅ス
第百八十三条 自然ノ占有トハ占有者カ自己ノ権利ヲ主張スルノ意ナクシテ有体物ヲ所持スルヲ謂フ
公有物ニ付テハ各人ハ自然ノ占有ノミヲ為スコトヲ得
第百八十四条 容仮ノ占有トハ占有者カ他人ノ為メニ其他人ノ名ヲ以テスル物ノ所持又ハ権利ノ行使ヲ謂フ
容仮ノ占有者カ自己ノ為メニ占有ヲ始メタルトキハ其占有ノ容仮ハ止ミテ法定ト為ル
然レトモ占有ノ権原ノ性質ヨリ生スル容仮ハ左ニ掲クル場合ニ非サレハ止マス
第一 占有ヲ為サシメタル人ニ告知シタル裁判上又ハ裁判外ノ行為カ其人ノ権利ニ対シ明確ノ異議ヲ含メルトキ
第二 占有ヲ為サシメタル人又ハ第三者ニ出テタル権原ノ転換ニシテ其占有ニ新原因ヲ付スルトキ
第百八十五条 占有者ハ常ニ自己ノ為メニ占有スルモノトノ推定ヲ受ク但占有ノ権原又ハ事情ニ因リテ容仮ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第百八十六条 正権原ノ証拠アル占有ハ之ヲ善意ノ占有ナリト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第百八十七条 強暴ノ証拠ナキ占有ハ之ヲ平穏ノ占有ト推定ス
占有ノ公顕ハ之ヲ推定セス必ス之ヲ証スルコトヲ要ス
前後二箇ノ時期ニ於テ証拠アリタル占有ハ其中間継続シタリトノ推定ヲ受ク但其占有ノ中断又ハ停止ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第二節 占有ノ取得
第百八十八条 法定ノ占有ハ或ル物ノ所有権又ハ或ル権利ヲ自己ノ有ト為スノ意思ヲ以テ其物ヲ把握スルノ所為ニ因リ又ハ其権利ヲ実行スルニ因リテ之ヲ取得ス
第百八十九条 物ノ所持又ハ権利ノ行使ハ之ヲ第三者ノ所為ニ委ヌルコトヲ得但占有スルノ意思ハ占有ニ付キ利益ヲ得ント主張スル其人ニ存スルコトヲ要ス
然レトモ無能力者及ヒ法人ハ其代人ノ意思及ヒ所為ニ因リテ占有ノ利益ヲ受クルコトヲ得
第百九十条 物ノ把握ハ簡易ノ引渡又ハ占有ノ改定ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得
初メ容仮ノ名義ヲ以テ占有シタル物ヲ其占有者ニ爾後自己ノ物ト看做スコトヲ得セシムル新権原ニ依リテ之ヲ保存セシメタルトキハ簡易ノ引渡アリタリトス
初メ物ヲ自己ニ属ストシテ占有シタル占有者カ爾後他人ノ名ヲ以テ其他人ノ為メ占有ヲ継続スルコトヲ承諾シタルトキハ占有ノ改定アリタリトス
権利ノ行使ニ付テハ初メ他人ノ名ヲ以テ行使セル者カ爾後自己ノ為メニ行使スルニモ亦当事者ノ意思ノミニテ足ル又初メ自己ノ為メ行使セル者カ爾後他人ノ為メニ行使スルニ付テモ亦同シ
第百九十一条 占有ハ前主ニ於テ存シタル占有ノ性質及ヒ瑕疵ヲ以テ相続人其他包括名義ノ承継人ニ移転ス
物又ハ権利ノ特定名義ノ取得者ハ其利益ニ従ヒ或ハ自己ノ占有ノミヲ申立テ或ハ自己ノ占有ニ譲渡人ノ占有ヲ併セテ申立ツルコトヲ得
第三節 占有ノ効力
第百九十二条 法定ノ占有者ハ反対ノ証拠アルニ非サレハ其行使セル権利ヲ適法ニ有スルモノトノ推定ヲ受ク其権利ニ関スル本権ノ訴ニ付テハ常ニ被告タルモノトス
第百九十三条 正権原且善意ノ占有者ハ天然ノ果実及ヒ産出物ニ付テハ自身又ハ代人ヲ以テ土地ヨリ離シタル時ニ於テ之ヲ取得シ法定ノ果実ニ付テハ用益者ニ関シ規定シタル如ク日割ヲ以テ之ヲ取得ス
占有者カ正権原ヲ有セスシテ事実又ハ法律ノ錯誤ニ因リテ悪意ナキトキハ其消費シタル果実ニ付キ利益ヲ得サリシ証拠ヲ挙クルニ於テハ之ヲ返還スルノ責ニ任セス
占有者カ其占有セシ物又ハ権利ノ自己ニ属セサルコトヲ覚知シタルトキハ将来ニ向ヒテ果実返還ノ責ヲ生ス又訴訟ニ於テ確定ニ敗訴シタルトキハ其出訴ノ時ヨリ此責ヲ生ス
第百九十四条 悪意ノ占有者ハ回復ノ請求ヲ受ケタル物又ハ権利ハ勿論現物ニテ仍ホ占有スル果実及ヒ産出物ヲ返還シ且其既ニ消費シ又ハ過失ニ因リテ損傷シ又ハ収取ヲ怠リタル果実及ヒ産出物ノ代価ヲ償還スル責ニ任ス
回復者ハ果実ノ通常ノ負担タル費用ヲ占有者ニ償還スルコトヲ要ス
強暴又ハ隠密ノ占有者ハ其権原ノ正当ナルコトヲ自ラ信セシトキト雖モ果実ニ関シテハ常ニ之ヲ悪意ノ占有者ト看做ス
第百九十五条 占有者ハ善意ナルト悪意ナルトヲ問ハス物ノ保存ノ為メ又ハ物ノ増価ノ為メ費シタル金額ヲ回復者ヨリ償還セシムルコトヲ得
右孰レノ占有者モ其分限ノミニテハ奢靡ノ為メ費シタル金額ノ償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第百九十六条 前二条ノ場合ニ於テ善意ノ占有者ハ回復者ノ言渡サレタル保存又ハ増価ノ為メノ費用ノ全償ヲ得ルマテ物ノ上ニ留置権ヲ有ス
悪意ノ占有者ハ保存ノミノ費用ニ付キ留置権ヲ有ス
第百九十七条 物カ毀損ヲ受ケ又ハ価格ヲ減シ其責ヲ占有者ニ帰ス可キトキハ悪意ノ占有者ニ在テハ如何ナル場合ニ於テモ所有者ニ賠償ヲ為シ善意ノ占有者ニ在テハ其毀損又ハ減価ニ因リ巳ヲ利シタル場合ニ於テ其利シタル限度ニ応シ賠償ヲ為スコトヲ要ス
第百九十八条 占有者ハ占有ヲ保持シ又ハ回収スル為メ下ノ区別ニ従ヒテ占有ニ関スル訴権ヲ有ス
占有訴権ハ保持訴権、新工告発訴権、急害告発訴権及ヒ回収訴権ノ四種ナリ
第百九十九条 保持訴権ハ不動産ト包括動産ト特定動産トヲ問ハス其占有ニ関シ他人ヨリ反対ノ主張ヲ含メル事実上又ハ権利上ノ妨害ヲ受クル占有者ニ属ス
此訴権ハ妨害ヲ止マシメ又ハ賠償ヲ得ルヲ以テ其目的トス
第二百条 新工告発訴権ハ占有ノ妨害ト為ル可キ隣地ノ新工事ヲ廃止セシメ又ハ変更セシムル為メ不動産ノ占有者ニ属ス
第二百一条 急害告発訴権ハ或ハ建物、樹木其他ノ物ノ傾倒ニ因リ或ハ土手、水溜、水樋ノ破潰ニ因リ或ハ火、燃焼物、爆発物ノ必要ノ予防ヲ為サヽル使用ニ因リテ隣地ヨリ生スル損害ヲ惧ル可キ至当ノ事由アル不動産ノ占有者ニ属ス
此訴権ハ右危険ニ対スル予防ノ処分ヲ命令セシメ又ハ未定ノ損害ニ対スル賠償ノ保証人ヲ立テシムルヲ以テ其目的トス
第二百二条 保持訴権及ヒ新工告発訴権ハ平穏且公顕ナル法定ノ占有者ノミニ属ス但不動産又ハ包括動産ニ付テハ其占有ノ満一个年以来継続シタルコトヲ要ス
第二百三条 回収訴権ハ暴行、脅迫又ハ詐術ヲ以テ不動産若クハ包括動産若クハ特定動産ノ全部又ハ一分ノ占有ヲ奪ハレタル占有者ニ属ス但其占有カ被告ニ対シテ此等ノ瑕疵ノ一ヲモ帯ヒサルコトヲ要ス
此訴権ハ侵奪ノ占有ヲ特定名義ニテ承継シタル者ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得ス但其者カ侵奪ノ不法ノ所為ニ関与シタルトキハ此限ニ在ラス
第二百四条 回収訴権及ヒ急害告発訴権ハ法定ノ占有者及ヒ容仮ノ占有者ニ属ス縦令其占有カ未タ一个年ニ満タサルモ亦同シ
第二百五条 保持及ヒ回収ノ訴ハ妨害又ハ侵奪ヲ受ケタルヨリ一个年内ニ非サレハ之ヲ受理セス
新工告発ノ訴ハ其工事ノ竣成セサル間ハ之ヲ受理ス但其工事ニ付キ占有者カ妨害ヲ受ケタルトキハ其工事竣成ノ前後ニ拘ハラス妨害ヨリ一个年内ニ於テ保持訴権ノミヲ行フコトヲ得
急害告発ノ訴ハ危険ノ存スル間ハ之ヲ受理ス
第二百六条 占有ノ訴ハ本権ノ訴ト併行スルコトヲ得ス
判事ハ当事者ノ権利ノ本源ヨリ出テタル理由ニシテ其権利ヲ予決ス可キモノニ基キテ占有ノ訴ヲ裁判スルコトヲ得ス
又判事ハ本権ノ訴カ既ニ審理中ニ在ルモ占有ノ訴ノ判決ヲ猶予スルコトヲ得ス
第二百七条 占有ノ訴ヲ起シタル後当事者ノ一方カ其裁判所又ハ他ノ裁判所ニ本権ノ訴ヲ起シタルトキハ占有ノ訴ノ確定判決ニ至ルマテ本権ノ訴ノ訴訟手続ヲ中止スルコトヲ要ス
本権ノ訴ノ被告カ第二百九条ニ定メタル如ク其訴訟中ニ占有ノ訴ノ原告ト為リタルトキモ亦同シ
第二百八条 本権ノ訴ノ原告ハ訴ヲ取下クルト雖モ其訴以前ノ事実ノ為メニ更ニ占有ノ訴ヲ起スコトヲ得ス然レトモ既ニ起シタル占有ノ訴ニ付テハ原告タルト被告タルトヲ問ハス之ヲ継続スルコトヲ得
本権ノ訴ニ於テ確定ニ敗訴シタル者ハ占有ノ訴ヲ起スコトヲ得ス
第二百九条 本権又ハ占有ノ訴ノ被告ハ其訴訟中反訴ニテ占有ノ訴ノ原告ト為ルコトヲ得
第二百十条 判事ハ占有ノ訴ヲ正当ナリト認ムルトキハ場合ニ従ヒ妨害ノ断止、侵奪物ノ返還、新工事ノ廃止若クハ変更又ハ急害ノ予防処分ヲ命令ス可ク若シ損害アラハ同時ニ其賠償ヲ言渡ス可シ
又判事ハ急害告発ノ訴ニ付テハ其将来未定ノ損害額ヲ断定シ之ニ対スル保証人ヲ立ツ可キコトヲ被告ニ命令スルコトヲ得
第二百十一条 占有ノ訴ニ於テ敗訴シタル原告ハ仍ホ本権ノ訴ヲ起スコトヲ得
占有ノ訴ニ於テ敗訴シタル被告モ亦仍ホ本権ノ訴ヲ起スコトヲ得但既ニ受ケタル言渡ヲ履行セシ後ニ限ル若シ言渡ノ金額カ未定ナルトキハ其言渡ヲ履行スルニ相応ナル金額ヲ裁判所書記局ニ供託ス可シ
第四節 占有ノ喪失
第二百十二条 占有ハ左ノ諸件ニ因リテ喪失ス
第一 自己又ハ他人ノ為メニ占有スル意思ノ断止
第二 物ノ所持又ハ権利ノ行使ノ任意ノ放棄又ハ其法律上強要セラレタル放棄
第三 不法ト否トヲ問ハス他人ノ占有ノ握取但其占有カ保持訴権又ハ回収訴権ノ行使ヲ受クルコト無クシテ一个年ヨリ長ク継続シタルトキニ限ル
第四 占有ノ目的タル物ノ全部ノ毀滅又ハ其権利ノ消滅
第五章 地役
総則
第二百十三条 地役トハ或ル不動産ノ便益ノ為メ他ノ所有者ニ属スル不動産ノ上ニ設ケタル負担ヲ謂フ
地役ハ法律又ハ人為ヲ以テ之ヲ設定ス
第一節 法律ヲ以テ設定シタル地役
第一款 隣地ノ立入又ハ通行ノ権利
第二百十四条 凡ソ所有者ハ土地ノ分界ニ於テ又ハ自己ノ土地ニ工事ヲ為シ得ルノ余地ナキ距離ニ於テ墻壁若クハ建物ヲ築造シ又ハ修繕スル為メ隣地ニ立入ルヲ求ムルコトヲ得
第二百十五条 築造又ハ修繕ノ工事ハ収穫ヲ害ス可キ季節ニ於テモ隣地ノ所有者又ハ占有者ノ一時不在ノ場合ニ於テモ之ヲ為サヽルコトヲ要ス但急要又ハ極メテ必要ノ場合ハ此限ニ在ラス
如何ナル場合ニ於テモ隣人ノ承諾アルニ非サレハ右工事ノ為メ其住家ニ立入ルコトヲ得ス縦令其修繕ヲ要スル建物カ隣人ノ住家ニ連接スルモ亦同シ
第二百十六条 立入ヲ許諾セル隣人ハ工事ノ性質及ヒ時期ヲ商量シテ其受ケタル妨害ニ相応スル償金ヲ求ムルコトヲ得
第二百十七条 或ル土地カ他ノ土地ニ囲繞セラレテ袋地ト為リ公路ニ通スル能ハサルトキハ囲繞地ハ公路ニ至ルノ通路ヲ其袋地ニ供スルコトヲ要ス但下ニ記載シタル如ク二様ノ償金ヲ払ハシムルコトヲ得
土地カ堀割若クハ河海ニ由ルニ非サレハ他ニ通スル能ハサルトキ又ハ崖岸アリテ公路ト著シキ高低ヲ為ストキハ之ヲ袋地ト看做スコトヲ得
第二百十八条 袋地ノ利用又ハ其住居人ノ需用ノ為メ定期又ハ不断ニ車輌ヲ用ユルコトヲ要スルトキハ通路ノ幅ハ其用ニ相応スルコトヲ要ス
通行ノ必要又ハ其方法及ヒ条件ニ付キ当事者ノ議協ハサルトキハ裁判所ハ成ル可ク袋地ノ需用及ヒ通行ノ便利ト承役地ノ損害トヲ斟酌スルコトヲ要ス
第二百十九条 通路ノ開設及ヒ保持ノ工事ハ袋地ノ負担ニ属ス
承役地ノ建物又ハ樹木ヲ取除キ又ハ変更セシムルノ必要アルトキハ一回限ノ償金ヲ其所有者ニ弁償ス
此他承役地ノ使用又ハ耕作ヲ減シ及ヒ永ク其地ノ価格ヲ減スルニ付テノ償金ハ毎年之ヲ弁償ス
第二百二十条 袋地タルコトノ止ミタルトキハ通行ノ権利及ヒ毎年ノ償金ノ義務ハ従ヒテ消滅ス
要役地ノ所有者ハ未タ払期限ノ至ラサル償金ノ六个月分ヲ払ヒテ常ニ通行ノ権利ヲ放棄シ及ヒ之ニ対スル義務ヲ免カルコトヲ得
第二百二十一条 当事者ハ通行ヨリ生スル永久ノ損害ノ賠償又ハ毎年ノ償金ノ買戻ヲ随意ニテ元本ニテ定ムルコトヲ得
孰レノ場合ニ於テモ袋地ノ止ミタルトキハ右元本ハ之ヲ全ク返還スルモノトス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第二百二十二条 土地ノ一分ノ譲渡又ハ共有者間ノ分割ニ因リテ袋地ノ生シタルトキハ譲渡人又ハ分割者ハ償金ヲ受クルコト無クシテ通路ヲ供スルノ義務ヲ負担ス此義務ハ公路ノ創設ニ因リテ袋地タルコトノ止ミタルトキハ消滅ス
第二款 水ノ疏通、使用及ヒ引入
第二百二十三条 低地ノ所有者ハ人工ニ由ラスシテ自然ニ高地ヨリ流下スル雨水及ヒ泉水ヲ承クルノ義務アリ
人工ヲ以テ水ノ疏通路ヲ創設シ又ハ変更セシト雖モ其工事カ三十个年前ニ在ルカ又ハ年月ヲ知ル可カラサルトキハ亦同シ
第二百二十四条 堤塘其他水ヲ湛フル工作物ノ破潰ニ因リ又ハ水樋、堀割ノ阻塞ニ因リ高地ノ水量ヲ増シテ衝激ヲ致シ又ハ方向ヲ変セントスルトキハ低地ノ所有者ハ第二百一条及ヒ第二百十条ニ従ヒテ急害ノ告発ヲ為シ且高地ノ所有者ノ費用ヲ以テ其修繕ヲ為スコトヲ得
事変ニ因リ低地ニ於テ水流ノ阻塞シタルトキハ高地ノ所有者ハ平常ノ疏通ニ復スル為メ自費ヲ以テ必要ノ工事ヲ為スノ権利ヲ有ス然レトモ其義務ヲ負担セス
第二百二十五条 所有者ハ雨水ノ直チニ隣地ニ落ツル如キ屋根其他ノ工作物ヲ設クルコトヲ得ス
第二百二十六条 泉源ノ所有者ハ随意ニ之ヲ使用シ且自然ニ隣地ニ流ル可キ余水ヲ隣人ニ与ヘサルノ権利ヲ有ス但次条及ヒ第二百七十五条ノ規定其他鉱泉ノ利用、収益ニ関スル行政法ノ規定ヲ妨ケス
第二百二十七条 泉源ノ水カ一町村又ハ一部落ノ住民ノ家用ニ必用ナルトキハ所有者ハ其水ノ不用ノ部分ヲ流下セシムルノ責ニ任ス
又町村ハ自費ヲ以テ水ノ聚合及ヒ引入ニ必要ナル工事ヲ泉源ノ土地ニ施スコトヲ得但其工事ノ為メ償金ヲ払ヒ且其土地ニ永久ノ損害ヲ生セシメサルコトヲ要ス
此他町村ハ水ノ使用ノ為メ償金ヲ払フコトヲ要ス但三十个年間無償ニテ使用ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
第二百二十八条 溝渠、水流、堀割又ハ池ノ沿岸者ニシテ其床地ヲ所有スル者ハ家用及ヒ農工業用ニ其水ヲ使用スルコトヲ得然レトモ其水路及ヒ幅員ヲ変スルコトヲ得ス
同上ノ流水ノ通過スル土地ノ所有者ハ右ト同一ノ需用ノ為メ其地内ニ於テ水路ヲ変転スルコトヲ得然レトモ其水ノ出口ニ於テハ之ヲ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス
右孰レノ場合ニ於テモ沿岸者ハ地方ノ規則ニ従ヒテ捕漁ノ権利ヲ有ス
沿岸者ハ対岸者ニ損害ヲ及ホス可キトキハ己レノ方ニ於テ水除ヲ築クコトヲ得ス
第二百二十九条 前条ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ其水ヲ利用ス可キ沿岸者又ハ低地ノ所有者ヨリ争ヲ起シタルトキハ裁判所ハ地方ノ慣習ト且衛生ノ需用ト農工業ノ利益トヲ斟酌シテ之ヲ決ス
第二百三十条 右流水ニ関スル取締ハ地方庁ニ属ス地方庁ハ其流水ノ疏通、保持及ヒ魚類ノ保育ニ付キ必要ノ処分ヲ命スルコトヲ得
第二百三十一条 全国又ハ一地方ノ公有又ハ私有ニ属スル水ノ使用及ヒ取締ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二百三十二条 自己ノ土地外ニ在ル天然又ハ人工ノ水ヲ用ユル権利ヲ有スル所有者ハ家用又ハ農工業用ノ為メ償金ヲ払ヒ其水ノ通過ヲ中間ノ土地ニ要求スルコトヲ得
第二百三十三条 低地ノ所有者ハ浸水地ヲ乾カスニ由リ出水ノ疏通ノ為メ及ヒ家用又ハ農工業用ノ余水ノ排泄ノ為メ公路、公流又ハ下水道ニ至ルマテ其通路ヲ供スルノ責ニ任ス
家用又ハ農工業用ノ為メニ変質シタル水ノ通過ハ地下ニ於ケルニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
第二百三十四条 水ノ通路ハ成ル可ク承役地ノ損害少ナキ場所ニ之ヲ設クルコトヲ要ス
如何ナル場合ニ於テモ建物ノ下ヲ経又ハ住家ニ連接シタル庭園ヲ経テ水ノ通過ヲ要求スルコトヲ得ス
第二百三十五条 水ノ通路ニ必要ナル工作物ノ築造及ヒ保持ハ其工作物ニ付キ利益ヲ得ル所有者ノ費用ニテ之ヲ為ス
第二百三十六条 承役地ノ所有者ハ其土地ニ存スル堀割ヲ要役地ニ出入スル水ノ全部又ハ一分ノ通路ニ供スルコトヲ得但従来其堀割ヲ通過スル水カ要役地ニ供シタル水ヲ変スルノ性質ナラサルトキニ限ル
又承役地ノ所有者ハ其土地ニ要役地ノ所有者ノ為シタル工作物ヲ右ト同一ノ条件ニ従ヒテ水ノ通過ノ為メ使用セント請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ他人ノ為シタル工作物ヲ使用スル者ハ自己ノ利益ノ割合ニ応シテ其築造及ヒ保持ノ費用ヲ分担ス
第二百三十七条 第二百二十八条第一項ニ従ヒ流水ヲ使用スルノ権利ヲ有スル所有者ハ堰ヲ設ケテ水ヲ高ムルノ要用アルトキハ償金ヲ払ヒテ其堰ヲ対岸ニ支持セシムルコトヲ得
同一ノ権利ヲ有スル対岸地ノ所有者ハ前条ニ記載シタル如ク費用ヲ分担シテ右ノ堰ヲ便用スルコトヲ得
第三款 経界
第二百三十八条 凡ソ相隣者ハ地方ノ慣習ニ従ヒ樹石杭杙ノ如キ標示物ヲ以テ其連接シタル所有地ノ界限ヲ定メント互ニ強要スルコトヲ得
第二百三十九条 経界訴権ハ建物ニ付キ及ヒ垣柵等ノ囲障アル土地ニ付テハ行ハレス公路又ハ公流ニテ隔テタル土地ニ付テモ亦同シ
第二百四十条 経界訴権ハ協議上又ハ裁判上ニテ界限ノ定マラサル間ハ時効ニ罹ルコト無シ
経界ノ訴ニ付キ被告カ原告ノ土地ノ全部又ハ一分ニ対シ取得時効又ハ一个年以上ノ占有ヲ申立ツルトキハ原告ハ先ツ回復又ハ回収ノ訴ヲ為スコトヲ要ス
第二百四十一条 経界ハ界限ノ確定セサルトキ又ハ争論アルトキハ所有権ノ証書ニ記載シタル坪数及ヒ界限ニ従ヒテ之ヲ為ス其証書ナキトキハ之ニ代フルニ足ル他ノ証拠又ハ書類ニ依リテ之ヲ為ス
所有権ニ付キ争論アルトキハ先ツ其裁判ヲ受クルコトヲ要ス
第二百四十二条 当事者カ協議ヲ以テ界限ヲ定メタルトキハ其証書ヲ作ルコトヲ要ス此証書ハ坪数及ヒ界限ニ付キ当事者ノ利害ヲ問ハス確定権原ノ効ヲ有ス
当事者ノ議協ハサルトキハ判決ヲ以テ坪数及ヒ界限ヲ定メ其判決書ニ図面ヲ添フ此図面ニハ界標ヲ指示シ且各界標ノ距離及ヒ其近傍ノ移動ナキ目標ト各界標トノ距離ヲ記載ス
第二百四十三条 樹石杭杙ノ代価其設置ノ費用及ヒ証書並ニ訴訟費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス然レトモ判決ニ因リテ不当ト為リタル争論ノミニ関スル訴訟費用ハ敗訴者之ヲ負担ス
測量費用ハ当事者其土地ノ広狭ニ応シテ之ヲ分担ス
第四款 囲障
第二百四十四条 凡ソ所有者ハ適宜ノ材料ヲ用井適宜ノ高サニ於テ自己ノ不動産ニ囲障ヲ設クルコトヲ得但其不動産カ法律又ハ人為ニテ隣人ノ立入又ハ通行ノ地役ニ服スルトキハ其地役ヲ行フノ権能ヲ妨クルコトヲ得ス
第二百四十五条 二箇ノ住家又ハ農工業用建物ノ間ニ在ル中庭又ハ園圃ノ土地カ各箇ノ所有者ニ分属スルトキハ各自其隣人ニ分界囲障ノ分担ヲ強要スルコトヲ得
当事者ノ議協ハサルトキハ其囲障ハ板屏又ハ竹垣ノ類ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
其高サハ分界線ノ平面ヨリ少ナクトモ六尺タル可シ
第二百四十六条 囲障ノ設置、保持及ヒ修繕ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス
相隣者ノ一人ハ前条ニ定メタル材料ヨリ良好ナル他ノ材料ヲ用井又ハ高サヲ増シテ囲障ヲ築造スルコトヲ得但築造費用ノ差額ヲ払ヒ且保持及ヒ修繕ノ費用ノ全額ヲ負担ス
第二百四十七条 相隣者ノ一人カ他ノ一人ヲ囲障分担ノ遅滞ニ付セスシテ之ヲ築造シ又ハ修繕シタルトキハ其人ニ対シテ費用ノ分担ヲ要求スルコトヲ得ス
第五款 互有
第二百四十八条 前款ニ定メタル義務ニ因リ又ハ任意且協議ニ因リ共担ノ費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ築造シタル囲障ハ其性質ノ如何ヲ問ハス敷地ト共ニ相隣者ノ互有ニ属ス
性質ノ如何ヲ問ハス相隣者ノ建物ノ隔壁及ヒ溝渠、生籬、柴垣ニシテ共担ノ費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ設ケタルモノモ亦同シ
第二百四十九条 凡ソ土地ノ囲障又ハ建物ノ隔壁ニシテ分界線上ニ在ルモノハ其性質ノ如何ヲ問ハス共担ノ費用ヲ以テ設ケタルモノトシテ之ヲ互有ト推定ス但或ハ証書ニ因リ或ハ証人ニ因リ或ハ三十个年ノ時効ニ因リ或ハ下ニ示シタル非互有ノ目標ニ因リテ反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第二百五十条 相隣者ノ一人ノ専属権ヲ定ムル直接ノ証拠又ハ時効ノ存セサルトキハ非互有ヲ推定ス可キ目標トナル可キモノハ左ノ如シ
第一 土造、石造、煉瓦造ノ墻壁ニ付テハ屋根ノ傾斜面又ハ小簷、窓孔其他ノ工作物又ハ粧飾物カ一方ノミニ存スルコト
第二 板屏、垣柵ニ付テハ其支柱カ一方ノミニ存スルコト
第三 溝渠ニ付テハ掘浚ノ泥土カ一方ノミニ存スルコト
第四 生籬、柴垣ニ付テハ一方ノ土地ノミ四面ヲ囲マレタルコト
此四箇ノ場合ニ於テ専属権ハ右目標ノ存スル一方又ハ土地ノ全ク囲マレタル一方ノ相隣者ニ属ス
第二百五十一条 高サノ不同ナル二箇ノ建物ヲ隔ツル墻壁ニ付テハ其墻壁カ低キ建物ヲ踰ユル部分ニハ互有ノ推定ヲ適用セス
又墻壁カ一箇ノ建物ノミヲ支持スルトキハ右ノ推定ハ如何ナル部分ニモ之ヲ適用セス
第二百五十二条 二箇ノ土地ヲ分界スル一箇ノ囲障其他ノ工作物ニ互有ノ目標ト非互有ノ目標トノ併存スルトキハ裁判所ハ事情ニ従ヒテ其所有権ノ共通ナルヤ専属ナルヤヲ査定ス
第二百五十三条 互有界ノ保持及ヒ修繕ハ互有者平分シテ之ヲ負担ス但其一人ノ所為ヨリ毀損ノ生シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ第二百四十五条ニ定メタル義務上ノ囲障ニ非サルトキハ互有者ノ各自ハ互有権ヲ放棄シテ保持及ヒ修繕ノ負担ヲ免カルルコトヲ得但自己ノ建物ヲ支持スル墻壁ノ保持及ヒ修繕又ハ自己ノ所為ニ因リテ必要ト為リタル修繕ヲ負担ス可キトキハ此限ニ在ラス
第二百五十四条 相隣者ハ互有界ヲ其性質及ヒ用方ニ従ヒテ使用スルコトヲ得但其堅牢ヲ傷ハサルコトヲ要ス
相隣者ハ互有ノ墻壁ニ其厚サ四分ノ三ニ至ルマテ梁棟ヲ穿入シテ建物ヲ支持シ又ハ之ニ煖炉ヲ嵌入シ若クハ煙突、水管、瓦斯管其他家用、工業用ノ為メ筒管ヲ通スルコトヲ得但其墻壁ノ性質及ヒ厚サカ此ニ耐フルトキニ限ル然レトモ互有者ハ其墻壁ニ窓孔ヲ鑿チ又室内用ノ為メ些少ノ凹穴ヲモ鑿ツコトヲ得ス
互有者ハ互有ノ墻壁ノ高サヲ増スコトヲ得但其墻壁ノ堅牢此ニ耐フルトキ又ハ自費ニテ工事ヲ加ヘ若クハ改築ヲ為シテ堅牢ナラシムルトキニ限ル此場合ニ於テ其高サヲ増シタル部分ハ互有ニ非ス
互有者ハ互有ノ溝渠ニ雨水又ハ家用、工業用ノ水ヲ注下スルコトヲ得
互有者ハ互有ノ生籬ヲ剪伐シタル樹枝ヲ平分シ又其生籬ニ存スル高木ノ伐除ヲ要求スルコトヲ得
第二百五十五条 相隣者ノ一人カ石又ハ煉瓦ニテ土地ノ囲障又ハ建物ノ墻壁ヲ分界線ニ接シ又ハ此ヨリ一尺ニ満タサル距離ニ於テ築造シタルトキハ他ノ一人ハ現時ノ相場ニテ材料代及ヒ手間賃ノ半額ヲ償ヒテ常ニ其互有権ノ譲渡ヲ要求スルコトヲ得前条第三項ニ従ヒテ増築シタル墻壁ニ付テモ亦同シ
互有権ノ譲渡ヲ要求スル相隣者ハ囲障、墻壁ノ敷地及ヒ之ト分界線トノ間ノ地面ニ付キ地上権ノミヲ要求スルコトヲ得此地上権ニ付テハ鑑定人ノ評定シタル年額ヲ建物ノ存立間払フノ責ニ任ス
本条ニ依リ墻壁ノ互有権ヲ取得シタル者ハ前条ノ規定ニ従ヒテ之ヲ使用スルコトヲ得然レトモ人為上ノ観望ノ地役トシテ其墻壁ニ設ケタル窓孔ヲ塞カシムルコトヲ得ス
石造、煉瓦造ニ非サル囲障、隔壁及ヒ籬柵、溝渠、土手ニ付テハ共担ノ費用ヲ以テセル設定又ハ協議上ノ譲渡ニ因ルニ非サレハ互有権ヲ生セス
第二百五十六条 所有者ハ石造、煉瓦造ニ非サル建物ヲ築造スルトキハ其建物ト土地ノ分界線トノ間ニハ其地方ノ慣習ニテ定マリタル尺度ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス
此距離ヲ存セスシテ築造スルトキハ一方ノ相隣者ハ築造ノ間ハ第二百条ニ従ヒテ新工告発ノ占有訴権ヲ行フコトヲ得
右築造竣成ノ後一方ノ相隣者カ建物ヲ築造セントシ其工事ノ為メ自己ノ地上ニ於テ分界線ヨリ慣習ノ尺度ヲ超ユル距離ヲ要スルニ因リ建物ヲ其尺度外ニ退ケタルトキハ其余分ニ退ケタル地面ニ応シ前築造者ニ対シテ償金ヲ要求スルコトヲ得
第六款 他人ノ所有地ニ対スル観望及ヒ明取窓
第二百五十七条 二箇ノ土地ノ分界線ヨリ少ナクトモ三尺ノ距離アルニ非サレハ建物ニ窓又ハ縁側ヲ設ケテ他人ノ所有地ヲ直線ニ観望スルコトヲ得ス
此距離ハ窓又ハ縁側ノ突出シタル部分ヨリ直角線ニテ分界線ニ至ルマテヲ測算ス
第二百五十八条 右距離ノ制限ヲ遵守スルニ不便ナルトキハ目隠ヲ以テ窓ヲ蔽フコトヲ要ス但其目隠ハ分界線上ニ突出スルコトヲ得ス
目隠ヲ設クル能ハサルトキハ明取窓ニ非サレハ之ヲ設クルコトヲ得ス此明取窓ハ其下部ヨリ床板マテ少ナクトモ六尺ト為シ格子ヲ附着シ其格子目ハ一寸以内タルコトヲ要ス
此場合ニ於テ尚ホ隣地ノ所有者ハ目隠カ一尺以上分界線ヲ踰ユルヲ許シテ之ヲ設ケシムルコトヲ得
第二百五十九条 観望又ハ明取窓ニ関スル前二条ノ規定ハ建物ト対向スル隣地ノ建物ニ窓孔ナキトキハ之ヲ適用セス
第七款 或ル工作物ニ要スル距離
第二百六十条 自己ノ土地ニ井戸、用水溜、下水溜又ハ糞尿坑ヲ穿タントスル所有者ハ分界線ヨリ少ナクトモ六尺ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス但土砂ノ崩壊又ハ水液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル工事ヲ為ス可シ
乾燥シテ覆蓋アル地窖ニ付テハ右距離ヲ三尺ニ減ス
水路ニ供シタル石樋又ハ溝渠ニ付テハ右距離ハ少ナクトモ其深サノ半ニ同シキコトヲ要ス然レトモ三尺ヲ踰ユルコトヲ要セス
右溝渠ハ分界線ノ方ノ崖ヲ斜ニ削下シ又ハ石垣若クハ木柵ヲ以テ之ヲ支持ス可シ
第二百六十一条 高サ三間ニ踰ユル竹木ハ分界線ヨリ六尺ニ満タサル距離内ニ之ヲ栽植シ又ハ保持スルコトヲ得ス
高サ三間ニ満タス一間ニ踰ユル竹木ニ付テハ二尺ノ距離ヲ存スルコトヲ要ス
此他矮小ノ竹木ハ直チニ之ヲ分界線ニ接着セシムルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ相隣者ハ竹木ノ所有者ニ対シ分界線ヲ踰エタル枝ノ剪除ヲ要求スルコトヲ得又自己ノ土地ヲ侵セル根ヲ自ラ截去スルコトヲ得
前条及本条ノ規定ハ二箇ノ土地ノ分界カ互有ナルトキト雖モ之ヲ適用ス
第二百六十二条 右ニ異ナリテ古ク且争ハレサル地方ノ慣習アルトキハ前二条ノ規定ニ依ラスシテ其慣習ヲ遵守ス
第二百六十三条 危険ヲ含ミ衛生ヲ害シ又ハ障害ヲ為ス営業ニ付キ近隣ノ利益ノ為メニ要スル条件ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
前諸款ニ共通ナル規則
第二百六十四条 本節ノ規定ハ国、府県、市町村ノ私有及ヒ公有ノ財産ニ付キ働方及ヒ受方ニテ之ヲ適用ス
然レトモ公有財産ハ水ノ疏通及ヒ互有ノ要求権ニ服セス
第二節 人為ヲ以テ設定シタル地役
第一款 人為ヲ以テ設定シタル地役ノ性質及ヒ種類
第二百六十五条 相隣者ハ其不動産ノ利益又ハ負担ニテ諸種ノ地役ヲ設定スルコトヲ得但其地役カ公ノ秩序ニ反セサルコトヲ要ス
第二百六十六条 地役ハ不動産ノ所有権カ何人ニ移転スルモ働方又ハ受方ニ於テ其不動産ニ従トシテ附着ス
働方ノ地役ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ譲渡シ賃貸シ又ハ抵当ト為スコトヲ得ス又地役ノ上ニ地役ヲ設定スルコトヲ得ス
第二百六十七条 地役ハ不動産カ数人ノ共有ニ属スルトキハ其一人自己ノ持分ニ付キ要役地ニ地役ヲ失ハシメ又承役地ニ之ヲ免カレシムルコトヲ得サルニ因リテ之ヲ不可分トス
又土地ノ分割又ハ其一分ノ譲渡ノ場合ニ於テ地役ハ不可分ニテ承役地ノ各部分ヲ累ハシ又ハ要役地ノ各部分ヲ利ス但其地役カ承役地ノ一部分ニ対スルニ非サレハ有益ニ行ハレス又ハ要役地ノ一部分ノ為メニ非サレハ便益ヲ得セシメサル場合ハ此限ニ在ラス
第二百六十八条 要役地ノ所有者ハ自己ニ属スト主張スル地役ニ付キ占有ニ係ルト本権ニ係ルトヲ問ハス要請訴権ヲ行フコトヲ得
又承役地ナリトノ主張ヲ受ケタル不動産ノ所有者ハ其争フ地役ノ行使ヲ拒ミ又ハ之ヲ止マシムル為メ占有ニ係ルト本権ニ係ルトヲ問ハス拒却訴権ヲ行フコトヲ得
第二百六十九条 前三条ノ規定ハ法律ヲ以テ設定シタル地役ニ之ヲ適用ス
第二百七十条 地役ノ種類ハ左ノ如シ
第一 継続又ハ不継続ノ地役
第二 表見又ハ不表見ノ地役
第三 有為又ハ無為ノ地役
第二百七十一条 地役カ場所ノ位置ノミニ因リ人ノ所為ヲ要セスシテ間断ナク要役地ニ便ヲ与ヘ承役地ニ累ヲ為ストキハ継続地役ナリ
地役カ要役地ノ便益ノ為メ時々人ノ所為ヲ要スルトキハ不継続地役ナリ
第二百七十二条 地役カ外見ノ工作又ハ形跡ニ因リテ顕露スルトキハ表見地役ニシテ之ニ反スルトキハ不表見地役ナリ
第二百七十三条 地役ハ左ノ場合ニ於テハ有為地役ナリ
第一 不動産ノ所有者カ他人ノ不動産ヨリ或ル便益ヲ取ルコトヲ得ルトキ
第二 不動産ノ所有者カ相隣便益ノ為メ法律ノ普通ニ制禁スル或ル工作ヲ自己ノ不動産ニ為スコトヲ得ルトキ
地役ハ左ノ場合ニ於テハ無為地役ナリ
第一 不動産ノ所有者カ普通ニ所有者ニ許サル可キ所為ヲ隣人カ自己ノ不動産ニ為スヲ禁スルコトヲ得ルトキ
第二 不動産ノ所有者カ普通法ニ従ヒ自己ノ不動産ニ於テ相隣便益ノ為メニ為ス可ク又ハ許ス可キノ所為ヲ為サス又ハ許サヽルコトヲ得ルトキ
第二款 地役ノ設定
第二百七十四条 地役ハ合意又ハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ当事者ノ間ニ於ケルト第三者ニ対スルトヲ問ハス地役ノ有効ナル為メニハ不動産物権ノ譲渡ニ関スル通常規則ヲ遵守ス可シ
第二百七十五条 不動産所有権ニ関シ時効ヨリ生スル法律上ノ取得推定ハ継続且表見ノ地役ニノミ之ヲ適用ス
隣地ヨリ引ク水ノ取得ニ関スル時効ノ期間ハ其時効ヲ援用スル所有者カ自己ノ土地又ハ承役地ニ於テ其便益ノ為メ水ヲ聚合シ及ヒ引入スル外見ノ工作物ヲ作リタル当時ヨリ起算ス
第二百七十六条 初メ一人ノ所有ニ属シタル二箇ノ土地カ未分ノ時既ニ継続且表見ノ地役ノ成立ス可キ位置ヲ成シ其分離ノ時此形状ヲ変更セス又之ヲ変更スルコトヲ要約セサリシトキハ所有者ノ用方ニ因リ此種ノ地役ヲ設定シタルモノト看做ス
第二百七十七条 不継続地役及ヒ不表見地役ハ第二百七十四条ニ記載シタル二箇ノ名義ノ一ニ依ルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
第二百七十八条 要役権ヲ有スト主張スル所有者ハ承役地ノ所有者又ハ其前所有者ヨリ出テタル地役追認ノ証書ヲ差出スコトヲ得ルトキハ前ニ掲ケタル方法ノ一ニ因レル地役設定ノ直接ノ証拠ヲ挙クルコトヲ要セス
第三款 地役ノ効力
第二百七十九条 適法ニ取得シタル地役権ハ其性質ニ従ヒテ行使ニ必要ナル従タル権利及ヒ権能ヲ帯フ
右ノ外合意又ハ遺言ヲ以テ設定シタル地役ニ付テハ其合意又ハ遺言ノ解釈ニ関スル一般ノ規則ニ従フ又時効ニ因リテ取得シタル地役ニ付テハ実際占有ノ広狭ヲ量リ所有者ノ用方ニ因リテ生シタル地役ニ付テハ設定者ノ意思ヲ推定シテ其権利ノ広狭ヲ定ム
第二百八十条 通行ノ地役、継続若クハ不継続ナル取水ノ地役、牧畜又ハ物料採取ノ地役ニ付キ設定権原又ハ其後ノ合意ニ於テ行使ノ時日、場所、方法又ハ収取ノ数量ヲ定メサリシトキハ当事者ノ一方ハ常ニ他ノ一方ト立会ノ上其定方ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得
此定方ニ付テハ裁判所ハ双方ノ需用ヲ斟酌シ且地役権行使ノ従来ノ実跡ヲ照査ス可シ
第二百八十一条 取水ノ地役ニ服スル不動産ノ所有者ハ自己ノ所為ニ因リテ水ノ缺乏ヲ生セシメタルトキニ非サレハ其責ニ任セス
二箇ノ不動産ノ需用ノ為メニ水ノ不足スルトキハ先ツ家用ニ次ニ農業用ニ次ニ工業用ニ之ヲ供ス右ハ総テ其不動産ノ分度ニ割合フ可シ
数箇ノ要役地アルトキハ各要役地ハ家用ノ為メ相共ニ水ヲ使用ス農工業用ニ付テハ取水ノ先後ハ地役権取得ノ先後ニ従フ
第二百八十二条 地役権ヲ有スル者ハ承役地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ正シク定置キタル行使ノ時日、場所又ハ方法ヲ変更スルコトヲ得ス但承役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ右変更ニ付キ正当ナル利益ヲ得且要役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ承役地ノ所有者ハ其変更ヲ要求スルコトヲ得
第二百八十三条 地役ヲ設定スル為メ或ル工作物ヲ必要トスルトキハ其費用ハ要役地ノ所有者ノ負担ニ属ス但承役地ノ所有者ノ負担ニ属ス可キコトヲ要約シタルトキハ此限ニ在ラス
第二百八十四条 地役ノ行使ニ関スル工作物ノ保持及ヒ修繕ハ亦要役地ノ所有者ノ負担ニ属ス但修繕カ承役地ノ所有者ノ過失ニ因リテ必要ト為リタルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ保持及ヒ修繕ヲ負担ス可キヲ合意スルコトヲ得此場合ニ於テ承役地ノ所有者ハ地役ノ存スル不動産ノ部分ヲ要役地ノ所有者ニ委付スルトキハ常ニ右ノ負担ヲ免カルコトヲ得
第二百八十五条 承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ニ如何ナル妨碍ヲモ為サス又其便益ニ如何ナル減少ヲモ生セサルニ於テハ其所有権ニ固有ナル適法ノ権能ヲ行フコトヲ得
又承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ノ為メ其不動産ニ設ケタル工作物ヲ使用スルコトヲ得但其所有者カ工作物ヨリ収ムル便益及ヒ其使用ニ因リ増加ス可キ費用ニ応シテ其建設又ハ保持ノ費用ヲ分担ス
第四款 地役ノ消滅
第二百八十六条 地役ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 地役ヲ設定シタル期間ノ満了
第二 設定権原又ハ設定者ノ権利ノ解除、銷除又ハ廃罷
第三 承役地ノ公用徴収
第四 放棄
第五 混同
第六 三十个年間ノ不使用
第三者カ地役アルコトヲ知ラスシテ承役地ヲ占有シ其占有ニ不動産所有権ノ取得ニ関スル時効ニ必要ナル条件ヲ具備スルトキハ地役ハ消滅シタリトノ推定ヲ受ク
第二百八十七条 地役ノ放棄ハ之ヲ明示スルコトヲ要ス然レトモ継続地役ノ行使ノ為メ承役地ニ設ケタル工作物ノ毀壊又ハ其使用ノ廃止ニ付キ要役地ノ所有者カ異議ヲ留メスシテ明示ノ承諾ヲ与ヘタルトキハ其地役ヲ放棄シタリト看做ス
放棄ハ放棄者カ自己ノ不動産権利ヲ譲渡スノ能力ヲ有スルトキニ非サレハ其効ナシ
第二百八十八条 地役ハ要役地及ヒ承役地ヲ一人ノ所有ニ併合シタルトキハ混同ニ因リテ消滅ス然レトモ其併合ノ行為ヲ裁判上ニテ解除シ銷除シ又ハ廃罷シタルトキハ其地役ヲ曽テ消滅セサリシモノト看做ス
右不動産ヲ再ヒ分離シタルトキハ継続且表見ノ地役ハ第二百七十六条ノ規定ニ従ヒテ再ヒ生出ス
第二百八十九条 地役ハ要役地ノ所有者カ任意タルト否トヲ問ハス其地役権ヲ行フ無クシテ三十个年ヲ経過シタルトキハ不使用ニ因リテ消滅ス
右期間ハ不継続地役ニ付テハ最後ノ使用ノ行為ヨリ之ヲ起算シ継続地役ニ付テハ地役ノ自然ノ作用ニ対スル形体上ノ妨碍ノ起レル当時ヨリ之ヲ起算ス
右妨碍カ承役地ニ起発シタル事変ヨリ生スルトキハ要役地ノ所有者ハ自費ニテ旧状ニ復スルコトヲ得又其妨碍カ承役地ノ所有者ノ所為ヨリ生スルトキハ其費用ヲ以テ復旧ス
第二百九十条 要役地カ数人ノ共有ニ属スルトキハ其一人ノ権利ノ行使ニ因リテ他ノ人ノ権利ヲ保存ス
此他免責時効ノ進行ノ停止又ハ中断ニ関スル規則ハ地役ノ不使用ニ之ヲ適用ス
第二百九十一条 地役権ノ行使ノ時日、場所及ヒ方法ニ関スル利益ハ不使用又ハ時効ノ結果ニ因リテ減殺ヲ受クルコト有リ
第二部 人権及ヒ義務
総則
第二百九十二条 人権即チ債権ハ常ニ義務ト対当ス
義務ハ一人又ハ数人ヲシテ他ノ定マリタル一人又ハ数人ニ対シテ或ル物ヲ与ヘ又ハ或ル事ヲ為シ若クハ為サヽルコトニ服従セシムル人定法又ハ自然法ノ羈絆ナリ
義務ヲ負フ者ハ之ヲ債務者ト名ツケ義務ニ因リテ利益ヲ得ル者ハ之ヲ債権者ト名ツク
第二百九十三条 人定法ノ義務ハ其履行ニ付キ法律ノ許セル諸般ノ方法ニ依リテ債務者ヲ強要スルコトヲ得ルモノナリ
自然ノ義務ニ対シテハ訴権ヲ生セス
法律ハ道徳及ヒ宗教ノ義務ニ干渉セス
第一章 義務ノ原因
総則
第二百九十四条 義務ハ左ノ諸件ヨリ生ス
第一 合意
第二 不当ノ利得
第三 不正ノ損害
第四 法律ノ規定
第一節 合意及ヒ契約
第二百九十五条 合意トハ物権ト人権トヲ問ハス或ル権利ヲ創設シ若クハ移転シ又ハ変更シ若クハ消滅セシムルヲ目的トスル二人又ハ数人ノ意思ノ合致ヲ謂フ
合意カ人権ノ創設ヲ主タル目的トスルトキハ之ヲ契約ト名ツク
第一款 合意ノ種類
第二百九十六条 合意ニハ双務ノモノ有リ片務ノモノ有リ
当事者相互ニ義務ヲ負担スルトキハ其合意ハ双務ノモノナリ
当事者ノ一方ノミカ他ノ一方ニ対シテ義務ヲ負担スルトキハ其合意ハ片務ノモノナリ
第二百九十七条 合意ニハ有償ノモノ有リ無償ノモノ有リ
各当事者カ出捐ヲ為シテ相互ニ利益ヲ得又ハ第三者ヲシテ之ヲ得セシムルトキハ其合意ハ有償ノモノナリ
当事者ノ一方ノミカ何等ノ利益ヲモ給セスシテ他ノ一方ヨリ利益ヲ受クルトキハ其合意ハ無償ノモノナリ
第二百九十八条 合意ニハ諾成ノモノ有リ要物ノモノ有リ
合意カ当事者ノ承諾ノミヲ以テ成立スルトキハ其合意ハ諾成ノモノナリ
合意カ当事者ノ承諾ノ外尚ホ目的物ノ引渡ヲ要スルトキハ其合意ハ要物ノモノナリ
第二百九十九条 合意ニハ要式ノモノ有リ不要式ノモノ有リ
公正証書ヲ以テ承諾ヲ与フ可キ合意ハ要式ノモノナリ
此他ノ場合ニ於ケル合意ハ不要式ノモノナリ
第三百条 合意ニハ実定ノモノ有リ射倖ノモノ有リ
合意ノ成立及ヒ効力カ合意ノ当初ヨリ確実ナルトキハ其合意ハ実定ノモノナリ
合意ノ成立又ハ其効力ノ全部若クハ一分カ偶然ノ事ニ繋カルトキハ其合意ハ射倖ノモノナリ
第三百一条 合意ニハ主タルモノ有リ従タルモノ有リ
合意ノ成立カ他ノ合意ノ成立ニ関係ナキトキハ其合意ハ主タルモノナリ
反対ノ場合ニ於テハ其合意ハ従タルモノナリ
主タル合意ノ無効ハ従タル合意ノ無効ヲ惹起ス但従タル合意カ主タル合意ノ無効ノ場合ニ於テ之ニ代ハルヲ目的トスルモノナルトキハ此限ニ在ラス
従タル合意ノ無効ハ主タル合意ノ無効ヲ惹起セス但当事者カ其二箇ノ合意ヲ分離ス可カラサルノモノト看做シタルトキハ此限ニ在ラス
第三百二条 合意ニハ有名ノモノ有リ無名ノモノ有リ
有名ノ合意ハ固有ノ名称アリテ本法又ハ商法ニ於ケル特別ノ規則ノ目的タルモノナリ特別ノ規則ヲ設ケサル総テノ場合ニ於テハ其合意ハ本部ノ規則ニ従フ
無名ノ合意ハ本部ニ掲ケタル合意ノ一般ノ規則ニ従フ又有名ノ合意ニ特別ナル規則ハ其合意ト最モ類似スル無名ノ合意ニ之ヲ適用スルコトヲ得
第二款 合意ノ成立及ヒ有効ノ条件
第三百三条 凡ソ合意ノ成立スル為メニハ左ノ三箇ノ条件ヲ具備スルヲ必要トス
第一 当事者又ハ代人ノ承諾
第二 確定ニシテ各人カ処分権ヲ有スル目的物
第三 真実且合法ノ原因
右ノ外尚ホ要式ノ合意ハ必要ノ方式ヲ遵守シ要物ノ合意ハ返還セラル可キ物ノ引渡ヲ為シタルニ非サレハ成立セス
第三百四条 合意ノ成立ニ必要ナル条件ノ外尚ホ其有効ナル為メニハ左ニ掲クル二箇ノ条件ヲ具備スルヲ必要トス
第一 承諾ノ瑕疵ヲ成ス可キ錯誤又ハ強暴ノ無キコト
第二 当事者ノ能力アルコト又ハ有効ニ代理セラレタルコト
第三百五条 承諾トハ利害関係人トシテ合意ニ加ハル総当事者ノ意思ノ合致ヲ謂フ
当事者中ノ一人カ承諾セサルトキハ他ノ当事者カ承諾シタルモ合意ハ成立セス但此ニ異ナル意思ノ存セシ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第三百六条 承諾ハ書面、口頭又ハ容態ヲ以テ之ヲ与フルコトヲ得但此末ノ場合ニ於テハ他ニ同意ヲ表スルノ手段ナキコト且承諾スル意思ノ確証アルコトヲ要ス
又承諾ハ事情ニ因リテ黙示ヨリ成ルコトヲ得
第三百七条 遠隔ノ地ニ於テ取結フ合意ノ言込ハ其受諾ノ為メ明示又ハ黙示ノ期間ナキトキハ受諾ノ報ナキノ間ハ之ヲ言消スコトヲ得但言消ノ報ノ達スルニ先タチ受諾ノ報ヲ発シタルトキハ其受諾ハ有効ニシテ其言消ハ無効ナリ
右ニ反シ明示又ハ黙示ノ期間アルトキハ其期間ハ言込ヲ言消スコトヲ得ス但言消ノ報カ言込又ハ期間指示ノ報ニ先タチ又ハ同時ニ先方ニ達シタルトキハ此限ニ在ラス
此指示期間ニ受諾ヲ為サヽルトキハ言込ハ期間満了ノミニテ消滅ス
受諾モ亦之ヲ言消スコトヲ得但其報カ受諾ノ報ニ先タチ又ハ同時ニ言込人ニ達スルコトヲ要ス
言込人カ死亡シ又ハ合意スル能力ヲ失ヒタルモ先方カ未タ此事実ヲ知ラサル間ハ其受諾ハ有効ナリ
郵便、電信ノ錯誤ハ差出人ノ責ニ帰ス但郵便、電信ノ官署ニ対スル求償権アルトキハ之ヲ行フコトヲ妨ケス
第三百八条 当事者ノ錯誤ニテ合意ノ性質、目的又ハ原因ノ着眼ニ相違アリシトキハ其錯誤ハ承諾ヲ阻却ス
合意ノ縁由ノ錯誤ハ其錯誤ノミニテハ無効ノ原因ヲ成サス但当事者ノ一方ノ詐欺ニ関シテ定ムルモノハ此限ニ在ラス
当事者ノ身上ノ錯誤ハ其身上ニ付テノ着眼カ決意ノ原因タリシトキハ其錯誤ハ承諾ヲ阻却ス
身上ノ着眼カ合意ノ附随ノ原因タルニ過キサルトキハ其合意ハ身上ノ錯誤ノ為メ単ニ取消スコトヲ得ヘキモノナリ
第三百九条 物上ノ錯誤カ物ノ品質ニ存シ且其品質ニ付テノ着眼カ当事者ノ決意ヲ助成シタルトキハ其錯誤ハ承諾ノ瑕疵ヲ成ス
之ニ反シテ物ノ品格ニ存スル錯誤ハ承諾ノ瑕疵ヲ成サス但当事者ノ意思カ明示又ハ事情ニ因リテ品格ニ着眼シタルコト明白ナルトキハ此限ニ在ラス
物ノ時代、出処又ハ用方ノ如キ思想上ノ品格ニ付テモ亦同シ
算数、名称、日附又ハ場所ノ錯誤ニ付テハ第五百五十八条ノ規定ニ従フ
第三百十条 法律ノ錯誤カ或ハ合意ノ性質、原因又ハ効力ニ存スルトキ或ハ物ノ資格又ハ人ノ分限ニ存シテ其資格若クハ分限カ決意ヲ為サシメタルトキハ其錯誤ハ事実ノ錯誤ノ如ク承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ス
然レトモ裁判所ハ宥恕ス可キ情状アルニ非サレハ右錯誤ノ為メ合意ノ無効ヲ認許スルコトヲ得ス
法律ノ錯誤ハ責罰ニ対シ時期ヨリ生スル法律上ノ失権ニ対シ又ハ証書ノ違式ヨリ生スル無効ニ対シ其他公ノ秩序ニ係ル法律、規則ノ不知ニ対シテモ当事者ヲ救護スル為メニ之ヲ認許セス
第三百十一条 詐欺ハ承諾ヲ阻却セス又其瑕疵ヲ成サス但詐欺カ錯誤ヲ惹起シ其錯誤ノミヲ以テ前三条ニ記載セル如ク承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ストキハ此限ニ在ラス
此他ノ場合ニ於テハ詐欺ハ之ヲ行ヒタル者ニ対スル損害賠償ノ訴権ノミヲ生ス
然レトモ当事者ノ一方カ詐欺ヲ行ヒ其詐欺カ他ノ一方ヲシテ合意ヲ為スコトニ決意セシメタルトキハ其一方ハ補償ノ名義ニテ合意ノ取消ヲ求メ且損害アルトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得但其合意ノ取消ハ善意ナル第三者ヲ害スルコトヲ得ス
第三百十二条 強暴ハ当事者ノ一方カ抵抗スルコトヲ得サル暴行、脅迫ヲ受ケタルニ因リ枉ケテ合意ヲ為シタルトキハ承諾ヲ阻却ス
当事者ノ一方カ不可抗力ニ出テタル急迫ノ災害ヲ避クル為メ熟慮スルノ暇ナクシテ過度ナル義務ヲ約シ又ハ無思慮ナル譲渡ヲ為シタルトキモ亦同シ
暴行、脅迫又ハ災害カ抵抗ス可カラサルニ非サルモ当事者又ハ第三者ノ身体、財産ノ為メ切迫ニシテ一層重大ノ害ヲ避クル為メ当事者ヲシテ合意ヲ為スコトニ決意セシメタルトキハ強暴ハ承諾ノ瑕疵ヲ成ス
第三百十三条 強暴ニ因リテ身体財産ニ危難ノ恐ヲ受ケタル第三者カ当事者ノ配偶者又ハ直系ノ親属若クハ姻属ナルトキハ其強暴ハ常ニ之ヲ当事者ニ加ヘタリト看做ス
此他ノ人ニ付テハ親属ナルト姻属ナルト又ハ外人ナルトヲ問ハス裁判所ハ此等ノ者ニ対シテ加ヘタル強暴カ当事者ノ承諾ニ及ホセシ影響ヲ其事情ニ従ヒテ審定ス
第三百十四条 強暴ハ当事者ノ一方ノ所為ニ出テタルト第三者ノ所為ニ出テタルト又第三者カ其一方ニ通謀セルト否トヲ問ハス上ノ区別ニ従ヒテ承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ス
第三百十五条 強暴ヲ受ケタル一方ハ合意ヲ無効ト為スコトヲ得ル場合ニ於テモ強暴ヲ行ヒタル者ニ対シ損害賠償ノミヲ請求シテ其合意ヲ維持スルコトヲ得
強暴カ合意ノ決意ヲ為サシメタルニ非スシテ単ニ不利ナル条件ヲ承諾セシメタルトキハ其合意ハ無効ト為ラス但賠償ノ要求ヲ妨ケス
第三百十六条 強暴ノ場合ニ於テ裁判所ハ当事者ノ男女、年齢、強弱、智愚及ヒ相互ノ身分ヲ斟酌ス可シ
然レトモ卑属親ノ尊属親ニ対スル尊敬ノミニ出テタル畏惧ハ合意ヲ取消スノ理由ト為ラス
第三百十七条 錯誤、強暴、詐欺及ヒ無能力ハ之ヲ推定セス其申立人ヨリ之ヲ証スルコトヲ要ス
当事者ノ双方ニ属スル無効訴権ノ方法ハ相互ノ非理ニ基クトキト雖モ互ニ毀滅セス但損害アルトキハ其賠償ノ相殺ヲ妨ケス
第三百十八条 前数条ノ場合ニ於ケル無効訴権ハ無能力者又ハ瑕疵アル承諾ヲ与ヘタル者ノミニ属ス
然レトモ処刑ノ言渡ヨリ生スル無能力ハ其言渡ヲ受ケタル者ト合意ヲ為シタル者ヨリ之ヲ申立ツルコトヲ得
第三百十九条 取消スコトヲ得ヘキ合意ヲ第三章第七節ニ定メタル期間ニ攻撃セサルトキハ黙示ニテ之ヲ認諾シタルモノト看做ス
此他黙示認諾ノ場合及ヒ明示認諾ノ方式ハ右同節ノ規定ニ従フ
第三百二十条 合意ハ未来ニ係リ且成立ノ不確定ナル物ヲ目的トスルコトヲ得此場合ニ於テ諾約者ハ其諾約ノ実施ヲ妨碍シ若クハ減縮スル何等ノ事ヲモ為サス又其実施ニ便ス可キ何等ノ事ヲモ放却シ若クハ懈怠セサルコトヲ要ス
然レトモ相続ニテ受ク可キ財産ヲ譲渡スノ合意ハ其相続ヲ遺ス可キ人ノ承諾アリト雖モ之ヲ為スコトヲ得ス
第三百二十一条 合意ハ不法又ハ不能ノ作為又ハ不作為ヲ目的トスルトキハ無効ナリ
合意ノ目的タル第三者ノ作為又ハ不作為カ合法又ハ可能ナリト雖モ若シ諾約者カ其第三者ニ対シテ威権ヲ有セサルトキハ其諾約ハ之ヲ不能ノ作為又ハ不作為ヲ目的トセルモノト看做ス
然レトモ何人ニテモ第三者ノ作為又ハ不作為ニ付キ明示ニテ担保人ト為ルコトヲ得此場合ニ於テハ諾約者ハ保証人ノ義務ニ服ス
又何人ニテモ第三者ニ代ハリテ諾約ヲ為シ若シ其第三者カ之ヲ履行セサルニ於テハ過怠金ヲ弁済ス可キノ責ニ服スルコトヲ得
何人ニテモ第三者ノ名ヲ以テ合意ヲ為シ第三者ヲシテ之ヲ承認セシム可キコトノミヲ諾約シタルトキハ其第三者ノ承認シタル時ヨリ義務ヲ免カル
第三百二十二条 要約者カ合意ニ付キ金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ正当ノ利益ヲ有セサルトキハ其合意ハ原因ナキ為メ無効ナリ
第三者ノ利益ノ為メニ要約ヲ為シ且之ニ過怠約款ヲ加ヘサルトキハ其要約ハ之ヲ要約者ニ於テ金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ利益ヲ有セサルモノト看做ス
然レトモ第三者ノ利益ニ於ケル要約ハ要約者カ自己ノ為メ為シタル要約ノ従タリ又ハ諾約者ニ為シタル贈与ノ従タル条件ナルトキハ有効ナリ
右二箇ノ場合ニ於テ従タル条件ノ履行ヲ得サルトキハ要約者ハ単ニ合意ノ解除訴権又ハ過怠約款ノ履行訴権ヲ行フコトヲ得
第三百二十三条 主タリ又ハ従タル要約ハ常ニ要約者ノ相続人ノ利益ノ為メニ之ヲ為スコトヲ得
主タリ又ハ従タル諾約ハ諾約者ノ相続人ノ負担トシテ之ヲ為スコトヲ得
第三百二十四条 前二条ノ場合ニ於テ第三者又ハ相続人ノ利益ノ為メニ為シタル要約ハ享益者ノ之ヲ承諾セサル間ハ要約者ハ自己ノ利益ノ為メニ之ヲ廃罷シ又ハ之ヲ他人ニ移転スルコトヲ得
第三百二十五条 合意ノ証書ニ原因ヲ明示シタルト否トヲ問ハス其原因ノ不成立、虚妄又ハ不法ナルコトノ証拠ハ被告ヨリ之ヲ為ス可キモノトス若シ原因ノ明示ナキトキハ被告ハ先ツ原告ヲシテ其原因ヲ陳述セシムル為メニ之ニ催告スルコトヲ得但其原因ニ付キ争フコトヲ妨ケス
第三款 合意ノ効力
第一則 当事者間及ヒ其承継人間ノ合意ノ効力
第三百二十六条 適法ニ為シタル合意ハ当事者ノ間ニ於テ法律ニ同シキ効力ヲ有ス
其合意ハ当事者ノ双方カ承諾スルニ非サレハ之ヲ廃罷スルコトヲ得ス但法律カ一方ノ意思ヲ以テ廃罷スルコトヲ許セル場合ハ此限ニ在ラス
第三百二十七条 当事者ハ合意ヲ以テ普通法ノ規定ニ依ラサルコトヲ得又其効力ヲ増減スルコトヲ得但公ノ秩序及ヒ善良ノ風俗ニ触ルヽコトヲ得ス
第三百二十八条 合意ハ当事者ノ明示及ヒ黙示ノ効力ノミナラス尚ホ合意ノ性質ニ従ヒテ条理若クハ慣習ヨリ生シ又ハ法律ノ規定ヨリ生スル効力ヲ有ス
第三百二十九条 合意ハ善意ヲ以テ之ヲ履行スルコトヲ要ス
第三百三十条 特定物ヲ授与スルノ合意ハ引渡ヲ要セスシテ直チニ其所有権ヲ移転ス但合意ニ附帯スルコト有ル可キ停止条件ニ関シ下ニ規定スルモノヲ妨ケス
第三百三十一条 代替物ヲ授与スルノ合意ハ諾約者ヲシテ其物ノ所有権ヲ約束シタル性質、品格及ヒ分量ヲ以テ要約者ニ移転スルノ義務ヲ負ハシム此場合ニ於テ所有権ハ物ノ引渡ニ因リ又ハ当事者立会ニテ為シタル其指定ニ因リテ移転ス
第三百三十二条 前二条ノ場合ニ於テハ約束シタル時日及ヒ場所ニ於テ諾約者ノ注意及ヒ費用ニテ物ノ引渡ヲ為スコトヲ要ス
引取ノ費用ハ要約者之ヲ負担ス
証書ノ費用ハ有償行為ニ付テハ当事者双方之ヲ負担シ無償行為ニ付テハ得益者之ヲ負担ス
不動産ノ引渡ハ証書ノ交付及ヒ場所ノ明渡ヲ以テ之ヲ為ス但簡易ノ引渡及ヒ占有ノ改定ニ関シ第百九十条ニ規定シタルモノヲ妨ケス
債権ノ引渡ハ証書ノ交付ヲ以テ之ヲ為ス
引渡ノ期限ノ定マラサリシトキハ即時ニ引渡ヲ要求スルコトヲ得
引渡ノ場所ノ定マラサリシトキハ特定物ニ付テハ合意ノ当時其物ノ存在セシ場所、代替物ニ付テハ其物ノ指定ヲ為シタル場所其他ノ場合ニ在テハ諾約者ノ住所ニ於テ引渡ヲ為ス
第三百三十三条 諾約者ハ特定物ノ引渡ヲ為スマテ善良ナル管理者タルノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スルコトヲ要ス懈怠又ハ悪意アルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス
無償ニテ譲渡シタル物ノ保存ニ付テハ諾約者ハ自己ノ物ニ加フルト同一ノ注意ヲ加フルノミノ責ニ任ス
此他諾約者カ右ト同一ノ注意ノミヲ負担スル場合ハ其各事項ニ於テ之ヲ規定ス
第三百三十四条 授与スルノ合意カ特定物ヲ目的トスルトキハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ出テタル其物ノ滅失又ハ毀損ハ諾約者カ危険ヲ負担シタル場合及ヒ停止条件ニ関スル規定ヲ除クノ外要約者ノ損ニ帰シ其物ノ増加ハ要約者ノ益ニ帰ス
然レトモ諾約者カ物ノ引渡ノ遅滞ニ付セラレタルトキハ其滅失又ハ毀損ハ諾約者ノ負担ニ帰ス但縦令引渡ヲ為シタルモ滅失又ハ毀損ヲ免ル可カラサリシ場合ハ此限ニ在ラス
第三百三十五条 左ノ場合ニ於テハ諾約者其他ノ債務者ハ遅滞ニ付セラレタルモノトス
第一 期限ノ到来後ニ裁判所ニ請求ヲ為シ又ハ合式ニ催告書ヲ送達シ若クハ執行文ヲ示シタルトキ
第二 期限ノ到来ノミニ因リテ遅滞ニ付スルコトヲ法律又ハ合意ヲ以テ定メタル場合ニ於テ其期限ノ到来シタルトキ
第三 諾約者カ或ル時期ニ後レタル履行ハ要約者ニ無用ナルコトヲ知リテ其時期ヲ経過セシメタルトキ
第三百三十六条 作為又ハ不作為ノ義務ヲ定ムル合意ノ効力ハ第三百八十一条ノ規定ニ従フ
第三百三十七条 合意ハ当事者ノ相続人其他一般ノ承継人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス但法律又ハ合意ニ於テ格別ノ定ヲ為シタル場合ハ此限ニ在ラス
第三百三十八条 債権者ハ其債務者ニ属スル権利ヲ申立テ及ヒ其訴権ヲ行フコトヲ得
債権者ハ此事ノ為メ或ハ差押ノ方法ニ依リ或ハ債務者ノ原告又ハ被告タル訴ニ参加スルコトニ依リ或ハ民事訴訟法ニ従ヒテ得タル裁判上ノ代位ニ依リテ第三者ニ対スル間接ノ訴ヲ行フ
然レトモ債権者ハ債務者ニ属スル純然タル権能又ハ債務者ノ一身ニ専属スル権利ヲ行フコトヲ得ス又法律又ハ合意ノ明文ヲ以テ差押ヲ禁シタル財産ヲ差押フルコトヲ得ス
第三百三十九条 右ニ反シ債権者ハ其債務者カ第三者ニ対シ承諾シタル義務、放棄又ハ譲渡ニ付キ其損害ヲ受ク但債権者ノ権利ヲ詐害スルノ行為ハ此限ニ在ラス
債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ自己ノ財産ヲ減シ又ハ自己ノ債務ヲ増シタルトキハ之ヲ詐害ノ行為トス
第三百四十条 詐害ノ行為ノ廃罷ハ債務者ト約束シタル者又ハ転得者ニ対シ次条ノ区別ニ従ヒ債権者ヨリ廃罷訴権ヲ以テ之ヲ請求ス
債務者カ原告タルト被告タルトヲ問ハス詐害スルノ意思ヲ以テ故サラニ訴訟ニ失敗シタルトキハ債権者ハ民事訴訟法ニ従ヒ再審ノ方法ニ依リテ訴フルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ヲ訴訟ニ参加セシムルコトヲ要ス
債権者カ詐害ノ行為ノ廃罷ヲ得ル能ハサルトキハ被告ニ対シテ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得
第三百四十一条 債権者ハ攻撃スル行為ノ如何ヲ問ハス其債務者ノ詐害ヲ証スルコトヲ要ス此他有償ノ行為ニ付テハ債務者ト約束シ又ハ之ト訴訟シタル者ノ通謀ヲ証スルコトヲ要ス
譲渡ニ対スル廃罷訴権ハ有償又ハ無償ノ転得者カ最初ノ取得者ト約束スルニ当リ債権者ニ加ヘタル詐害ヲ知リタルトキニ非サレハ其転得者ニ対シテ之ヲ行フコトヲ得ス
第三百四十二条 廃罷ハ詐害行為ニ先タチ権利ヲ取得シタル債権者ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス然レトモ廃罷ヲ得タルトキハ総債権者ヲ利ス但各債権者ノ間ニ於テ適法ノ先取原因ノ存スルトキハ此限ニ在ラス
第三百四十三条 廃罷訴権ハ詐害行為ノ有リタル時ヨリ三十个年ニシテ時効ニ罹リ消滅ス若シ債権者カ詐害ヲ覚知シタルトキハ其覚知ノ時ヨリ二个年ニシテ消滅ス
右ノ時効ハ再審申立ノ訴権ニ之ヲ適用ス
第二則 第三者ニ対スル合意ノ効力
第三百四十四条 合意ハ当事者及ヒ其承継人ノ間ニ非サレハ効力ヲ有セスト雖モ法律ニ定メタル場合ニ於テ且其条件ニ従フトキハ第三者ニ対シテ効力ヲ生ス
第三百四十五条 所有者カ一箇ノ有体動産ヲ二箇ノ合意ヲ以テ各別ニ二人ニ与ヘタルトキハ其二人中現ニ占有スル者ハ証書ノ日附ハ後ナリトモ其所有者タリ但其者カ自己ノ合意ヲ為ス当時ニ於テ前ノ合意ヲ知ラス且前ノ合意ヲ為シタル者ノ財産ヲ管理スル責任ナキコトヲ要ス
此規則ハ無記名証券ニ之ヲ適用ス
第三百四十六条 記名証券ノ譲受人ハ債務者ニ其譲受ヲ合式ニ告知シ又ハ債務者カ公正証書ヲ以テ之ヲ承諾シタル後ニ非サレハ自己ノ権利ヲ以テ譲渡人ノ承継人及ヒ債務者ニ対抗スルコトヲ得ス
債務者ハ譲渡ヲ承諾シタルトキハ譲渡人ニ対スル抗弁ヲ以テ新債権者ニ対抗スルコトヲ得ス又譲渡ニ付テノ告知ノミニテハ債務者ヲシテ其告知後ニ生スル抗弁ノミヲ失ハシム
右ノ行為ノ一ヲ為スマテハ債務者ノ弁済、免責ノ合意、譲渡人ノ債権者ヨリ為シタル払渡差押又ハ合式ニ告知シ若クハ承諾ヲ得タル新譲渡ハ総テ善意ニテ之ヲ為シタルモノトノ推定ヲ受ケ且之ヲ以テ懈怠ナル譲受人ニ対抗スルコトヲ得
当事者ノ悪意ハ其自白ニ因ルニ非サレハ之ヲ証スルコトヲ得ス然レトモ譲渡人ト通謀シタル詐害アリシトキハ其通謀ハ通常ノ証拠方法ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得
裏書ヲ以テスル商証券ノ譲渡ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三百四十七条 左ニ掲クル書類ハ財産所在地ノ区裁判所ニ備ヘタル登記簿ニ之ヲ登記ス
第一 不動産所有権其他ノ不動産物権ノ譲渡ヲ記載シタル公正又ハ私署ノ証書
第二 右ノ権利ノ変更又ハ放棄ヲ記載シタル証書
第三 前二号ノ行為ノ一ヲ目的トスル口頭合意ノ成立ヲ証記シタル判決書
第四 差押ヘタル不動産ノ競落ノ判決書
第五 公用徴収ヲ宣言シタル裁判上又ハ行政上ノ証書
抵当及ヒ不動産ニ関スル先取特権ノ公示ハ債権担保編ノ規定ニ従フ
第三百四十八条 登記ハ当事者ノ請願ニ因リテ合式ニ疏明シタル後其費用ヲ以テ之ヲ為ス
請願者ニハ証書ヲ登記シタル認証書ヲ交付ス
何人ニテモ不動産ニ関スル登記簿ノ抄本ヲ其費用ヲ以テ要求スルコトヲ得
登記ニ関スル方式ハ特別法及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三百四十九条 第三百四十七条ニ掲ケタル証書ノ効力ニ因リテ取得シ変更シ又ハ取回シタル物権ハ其登記ヲ為スマテハ仍ホ名義上ノ所有者ト此物権ニ付キ約束シタル者又ハ其所有者ヨリ此物権ト相容レサル権利ヲ取得シタル者ニ対抗スルコトヲ得ス但其者ノ善意ニシテ且其行為ノ登記又ハ記入ヲ要スルモノナルトキハ之ヲ為シタルトキニ限ル
悪意及ヒ通謀ニ付テハ第三百四十六条ノ規定ニ従ヒテ之ヲ証スルコトヲ得
第三百五十条 法律、裁判又ハ合意ニ因リテ前取得者ノ為メ登記ヲ為スノ義務アル者カ之ヲ為サスシテ後ニ取得者ト為リタルトキハ善意タリト雖モ自己又ハ其相続人若クハ一般ノ承継人ヨリ登記ナキコトヲ申立テヽ前取得者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百五十一条 登記ヲ経タル譲渡ノ解除、銷除又ハ廃罷ヲ為サントスル訴権ヲ善意ノ転得者ニ対シテ行フコトヲ得サル場合ニ在テハ原告ハ爾後自己ニ対抗スルコトヲ得ヘキ登記又ハ記入ヲ防止スル為メ其攻撃スル行為ノ登記ニ縁辺ニ予メ訴状ノ抜抄ヲ附記ス
右ノ訴権ヲ総テノ転得者ニ対シテ行フコトヲ得ヘキ場合ニ在テハ其攻撃スル行為ノ登記ノ縁辺ニ訴状ヲ附記セサル間ハ裁判所ニ於テ其訴訟ヲ受理セス
行為取消ノ判決書ハ仮執行タリトモ其執行以前ニ訴状ノ附記ノ末尾ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス縦令執行ナキモ亦其判決ノ確定ト為リタル時ヨリ一个月内ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス此ニ違ヒタルトキハ其判決ヲ得タル者ヲ五十円以下ノ過料ニ処ス
裁判所ハ請求ヲ却下シ又ハ其手続ノ失効ヲ宣告シタルトキハ其判決ノ確定ニ至リテ訴状ノ附記ヲ抹消セシムル為メ職権ヲ以テ予メ其抹消ヲ命ス
原告カ取下ヲ為シタルトキハ当事者ノ請願ニ因リテ訴状ノ附記ヲ抹消ス
第三百五十二条 登記ヲ経タル行為ノ協議上ノ解除、銷除又ハ廃罷ハ総テ之ヲ任意ノ譲戻ト看做シ第三百四十七条乃至第三百五十条ノ規定ニ従ヒテ登記ヲ為スコトヲ要ス
右登記ハ登記官吏其職権ヲ以テ取消ト為リタル行為ノ登記ノ縁辺ニ之ヲ附記ス
第三百五十三条 登記及ヒ縁辺附記ハ総テ利害ノ関係ヲ有スル者ヨリ其抹消又ハ改正ヲ請求スルコトヲ得
右請求及ヒ其判決ハ第三百五十一条ニ規定シタル如ク其争フ行為ノ登記ノ縁辺ニ之ヲ附記スルコトヲ要ス此ニ違フ者ノ責罰モ亦同条ノ規定ニ従フ
能力ヲ有シ又ハ合式ニ代理セラレ若クハ輔佐セラレタル当事者ハ協議ニテ抹消又ハ改正ヲ承諾スルコトヲ得
裁判上ニテ合式ニ命シ又ハ協議ニテ承諾シタル抹消又ハ改正ハ登記又ハ記入ヲ為シタル権利者ヲ此事ニ付キ異議ヲ述ヘシムル為メニ召喚シ又ハ其承服ヲ得タルニ非サレハ之ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百五十四条 登記官吏ハ前数条ニ掲ケタル登記、記載、抹消若クハ改正又ハ登記認証書ニ於ケル脱漏又ハ訛誤ニ付キ請願人又ハ利害関係人ニ対シテ其責ニ任ス
第四款 合意ノ解釈
第三百五十五条 合意ノ解釈ニ付テハ裁判所ハ当事者ノ用井タル語辞ノ字義ニ拘ハランヨリ寧ロ当事者ノ共通ノ意思ヲ推尋スルコトヲ要ス
第三百五十六条 一箇ノ語辞カ各地ニ於テ意義ヲ異ニスルトキハ当事者双方ノ住所ヲ有スル地ニ於テ慣用スル意義ニ従ヒ若シ同一ノ地ニ住所ヲ有セサルトキハ合意ヲ為シタル地ニ於テ慣用スル意義ニ従フ
一箇ノ語辞ニ本来二様ノ意義アルトキハ其合意ノ性質及ヒ目的ニ最モ適スル意義ニ従フ
第三百五十七条 合意ノ各項目ハ合意ノ全体ト最モ善ク一致スル意義ニ従ヒテ相互ニ之ヲ解釈ス
一箇ノ項目ニ二様ノ意義アリテ其一カ項目ヲ有効ナラシムルトキハ其意義ニ従フ
第三百五十八条 合意ノ語辞カ如何ニ広泛ナルモ其語辞ハ当事者ノ合意ヲ為スニ付キ期望シタル目的ノミヲ包含セルモノト推定ス
当事者カ合意ノ自然若クハ法律上ノ効力ノ一ヲ明言シ又ハ特別ノ場合ニ於ケル其適用ヲ明言シタルモ慣習若クハ法律ニ因リテ生スル他ノ効力又ハ適当ニ受ク可キ他ノ適用ヲ阻却セント欲シタルモノト推定セス
第三百五十九条 総テノ場合ニ於テ当事者ノ意思ニ疑アルトキハ其合意ノ解釈ハ諾約者ノ利ト為ル可キ意義ニ従フ
双務ノ合意ニ於テハ此規定ハ各項目ニ付キ各別ニ之ヲ適用ス
第二節 不当ノ利得
第三百六十条 何人ニテモ有意ト無意ト又錯誤ト故意トヲ問ハス正当ノ原因ナクシテ他人ノ財産ニ付キ利ヲ得タル者ハ其不当ノ利得ノ取戻ヲ受ク
此規定ハ下ノ区別ニ従ヒ主トシテ左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 他人ノ事務ノ管理
第二 負担ナクシテ弁済シタル物及ヒ虚妄若クハ不法ノ原因ノ為メ又ハ成就セス若クハ消滅シタル原因ノ為メニ供与シタル物ノ領受
第三 遺贈其他遺言ノ負担ヲ付シタル相続ノ受諾
第四 他人ノ物ノ添附ヨリ又ハ他人ノ労力ヨリ生スル所有物ノ増加
第五 他人ノ物ノ占有者カ不法ニ収取シタル果実、産出物其他ノ利益及ヒ之ニ反シテ占有者カ其占有物ニ加ヘタル改良但第百九十三条乃至第百九十七条ニ規定シタル区別ニ従フ
第三百六十一条 不在者其他ノ人ノ財産ニ患害アリト見ユルトキ合意上、法律上又ハ裁判上ノ委任ナク好意ヲ以テ其事務ヲ管理スル者ハ本主ノ財産ヨリ収メタル利益ヲ返還シ且其管理ノ際自己ノ名ニテ取得シタル権利及ヒ訴権ヲ本主ニ移転スルノ責アリ
右管理者ハ本主又ハ其相続人カ自ラ管理ヲ為シ得ルニ至ルマテ其管理ヲ継続スルノ責アリ
又右管理者ハ過失又ハ懈怠ニ因リテ本主ニ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但管理者カ其管理ニ任スルニ至レル事情ヲ酌量スルコトヲ要ス
第三百六十二条 本主ハ管理者カ管理ノ為メニ出シタル必要又ハ有益ナル諸費用ヲ賠償シ及ヒ管理者カ其管理ノ為メニ自身ニ負担シタル義務ヲ免カレシメ又ハ其担保ヲ為スコトヲ要ス
第三百六十三条 債権者ニ非スシテ弁済ヲ受ケタル者ハ其善意ト悪意ト又弁済者ノ錯誤ト故意トヲ問ハス訴ヲ受ケタル日ニ於テ現ニ己レヲ利シタルモノヽ取戻ヲ受ク
第三百六十四条 弁済ヲ受ケタル者カ債権者ナルモ債務者ニ非サル者ヨリ之ヲ受ケタルトキハ弁済者カ錯誤ニテ弁済ヲ為シタルトキニ非サレハ其取戻ヲ許サス
債権者カ弁済ヲ受ケタル為メニ善意ニテ債権証書ヲ毀滅セシトキモ亦其取戻ヲ許サス
右二箇ノ場合ニ於テ弁済者カ事務管理ノ訴権ニ依リ又ハ代位弁済ノ規則ニ依リ真ノ債務者ニ対シテ有スル求償権ヲ妨ケス
第三百六十五条 真ノ債務者ヨリ真ノ債権者ニ弁済ヲ為シタル場合ニ在テハ債務者カ其負担シタル物ニ異ナル性質ノ物又ハ自己ニ属セサル物ヲ錯誤ニ因リ弁済トシテ与ヘタルトキニ非サレハ其取戻ヲ許サス
或ハ期限ニ先タチテ弁済ヲ為シ或ハ弁済ヲ実行ス可キ場所外ニ於テ弁済ヲ為シ或ハ諾約シタル物ニ異ナル品質、品格若クハ価格ノ物ヲ以テ弁済ヲ為シタルトキモ亦其取戻ヲ許サス但当事者ノ一方ノ錯誤ニ出テタルトキハ其一方ハ為メニ受ケタル損失ヲ他ノ一方ノ得タル利益ノ割合ニ応シテ賠償セシムルコトヲ妨ケス
第三百六十六条 第三百六十条第二号ニ掲ケタル供与ニシテ弁済ノ性質ヲ有セサルモノニモ亦第三百六十三条ノ規定ヲ適用ス
然レトモ不法ノ原因ノ為メ供与シタル物又ハ有価物ハ其原因カ之ヲ供与シタル者ノ方ニ於テ不法ナルトキハ其取戻ヲ許サス
第三百六十七条 第三百六十条第二号ニ掲ケタル供与ヲ悪意ニテ領受シタル者ハ訴ヲ受ケタル日ニ於テ其不当ニ己レヲ利シタルモノヽ外尚ホ左ノ物ヲ返還ス可シ
第一 元本ヲ領受セシ時ヨリノ法律上ノ利息
第二 収取ヲ怠リ又ハ消費シタル特定物ノ果実及ヒ産出物
第三 自己ノ過失又ハ懈怠ニ因ル物ノ価額ノ喪失又ハ減少ノ償金縦令其喪失又ハ減少カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ルモ其物カ供与者ノ方ニ在ルニ於テハ此損害ヲ受ケサル可カリシトキハ亦同シ
第三百六十八条 不当ニ領受シタル物カ不動産ニシテ且之ヲ第三者ニ譲渡シタルトキハ初ノ引渡人ハ其選択ヲ以テ或ハ第三所持者ニ対シテ其不動産ノ回復ヲ訴ヘ或ハ領受者ニ対シテ其代金ノ取戻ヲ訴フルコトヲ得
善意ナル領受者ニ対シテハ単ニ不動産ノ譲渡代金ヲ取戻シ又ハ其代金ニ関スル訴権ヲ要求シ悪意ナル領受者ニ対シテハ其代金ヲ評価ニテ取戻スコトヲモ得
第三節 不正ノ損害即チ犯罪及ヒ准犯罪
第三百六十九条 過失又ハ懈怠ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ其賠償ヲ為スノ責ニ任ス
其損害ノ所為カ有意ニ出テタルトキハ其所為ハ民事ノ犯罪ヲ成シ無意ニ出テタルトキハ准犯罪ヲ成ス
犯罪及ヒ准犯罪ノ責任ノ広狭ハ合意ノ履行ニ於ケル詐欺及ヒ過失ノ責任ニ関スル次章第二節ノ規定ニ従フ
第三百七十条 何人ヲ問ハス自己ノ所為又ハ懈怠ヨリ生スル損害ニ付キ其責ニ任スルノミナラス尚ホ自己ノ威権ノ下ニ在ル者ノ所為又ハ懈怠及ヒ自己ニ属スル物ヨリ生スル損害ニ付キ下ノ区別ニ従ヒテ其責ニ任ス
第三百七十一条 父権ヲ行フ尊属親ハ己レト同居スル未成年ノ卑属親ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
後見人ハ己レト同居スル被後見人ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
瘋癲白痴者ヲ保管スル者ハ瘋癲白痴者ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
教師、師匠及ヒ工場長ハ未成年ノ生徒、習業者及ヒ職工カ自己ノ監督ノ下ニ在ルノ間ニ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
本条ニ指定シタル責任者ハ損害ノ所為ヲ防止スル能ハサリシコトヲ証スルトキハ其責ニ任セス
第三百七十二条 主人、親方又ハ工事、運送等ノ営業人若クハ公私ノ事務所ハ其雇人、使用人、職工又ハ属員カ受任ノ職務ヲ行フ為メ又ハ之ヲ行フニ際シテ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
第三百七十三条 動物ノ加ヘタル損害ノ責任ハ其所有者又ハ損害ノ時ニ於ケル其使用者ニ帰ス但其損害カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ出テタルトキハ此限ニ在ラス
第三百七十四条 建物其他ノ工作物ノ所有者ハ此等ノ工作物ノ崩頽カ修繕ノ欠缺又ハ築造ノ瑕疵ニ出テタルトキハ其崩頽ニ因リテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但此末ノ場合ニ於テハ築造営業人ニ対スル求償権ヲ妨ケス
堤防ノ破潰ニ因リ投錨若クハ繋纜ノ粗忽ニ因リ又ハ樹木、柱竿、目隠、看板、屋瓦其他堅牢ヲ缺ケル建物ノ部分ノ崩頽堕落ニ因リテ加ヘタル損害ニ付テモ亦同シ
第三百七十五条 既脱後見ナルト否トヲ問ハス未成年者ハ其有意又ハ粗忽ニテ加ヘタル不正ノ損害ニ付テハ刑事上責任ヲ免カル可キトキト雖モ民事上責任アリト宣告セラルヽコト有リ
又右未成年者ハ其雇人若クハ使用人又ハ自己ニ属スル物ノ加ヘタル損害ニ付キ民事上其責ニ任セシメラルヽコト有リ但後見人ニ対スル求償権ヲ妨ケス
第三百七十六条 前数条ノ場合ニ於テ加害者ニ責任アリト認ムルトキハ裁判所ハ之ニ対シテ主タル裁判ヲ言渡シ且民事担当人ノ従タル義務ノ広狭ヲ定ム但民事担当人ハ犯罪者ニ対シテ当然求償権ヲ有ス
民事担当人ハ法律ニ特定シタル場合ニ非サレハ犯罪者ノ言渡サレタル罰金ノ責ニ任セス
第三百七十七条 本節ニ定メタル総テノ場合ニ於テ数人カ同一ノ所為ニ付キ責ニ任シ各自ノ過失又ハ懈怠ノ部分ヲ知ル能ハサルトキハ各自全部ニ付キ義務ヲ負担ス但共謀ノ場合ニ於テハ其義務ハ連帯ナリ
第三百七十八条 民事ノ犯罪又ハ准犯罪カ刑事ノ犯罪ヲ成ストキハ犯罪者ニ付テモ民事担当人ニ付テモ刑事訴訟法ヲ以テ定メタル民事訴訟ノ管轄及ヒ時効ニ関スル規則ヲ適用ス
第四節 法律ノ規定
第三百七十九条 或ル義務ハ人ノ所為ニ拘ハラス法律ニ依リテ之ヲ負担セシム即チ左ノ如シ
第一 或ル親族間又ハ或ル姻族間ノ養料ノ義務
第二 後見ノ義務
第三 共有者間ノ義務
第四 相隣者間ノ地役外ノ義務
此等ノ義務ニ特別ナル規則ハ其各事項ニ於テ之ヲ掲ク
第二章 義務ノ効力
総則
第三百八十条 義務ノ主タル効力ハ下ノ第一節第二節及ヒ第三節ニ定メタル区別ニ従ヒテ其義務ヲ直接ニ履行セシムル為メ又不履行ノ場合ニ於テハ附随トシテ損害ヲ賠償セシムル為メノ訴権ヲ債権者ニ与フルニ在リ
右ノ外義務ノ効力ハ第四節ニ定メタル義務ノ諸種ノ体様ニ従ヒテ其広狭ヲ異ニス
第一節 直接履行ノ訴権
第三百八十一条 義務ノ本旨ニ従ヒテ直接ノ履行ヲ債権者ヨリ請求シ且債務者ノ身体ヲ拘束セスシテ履行セシムルコトヲ得ル場合ニ於テハ裁判所ハ其直接履行ヲ命スルコトヲ要ス
引渡ス可キ有体物ニシテ債務者ノ財産中ニ在ルモノニ付テハ裁判所ノ威権ヲ以テ差押ヘ之ヲ債権者ニ引渡ス
作為ノ義務ニ付テハ裁判所ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ為サシムルコトヲ債権者ニ許ス
不作為ノ義務ニ付テハ其義務ニ背キテ為シタルモノヲ債務者ノ費用ヲ以テ毀壊セシメ及ヒ将来ノ為メ適当ノ処分ヲ為スコトヲ債権者ニ許ス
此等ノ場合ニ於テ損害アリタルトキハ其賠償ヲ為サシムルコトヲ妨ケス
債務者ニ対スル強制執行ノ方法ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二節 損害賠償ノ訴権
第三百八十二条 債務者カ義務履行ヲ拒絶シタル場合ニ於テ債権者強制執行ヲ求メサルカ又ハ義務ノ性質上強制執行ヲ為スコトヲ得サルトキハ債権者損害賠償ヲ為サシムルコトヲ得債務者ノ責ニ帰ス可キ履行不能ノ場合ニ於テモ亦同シ
又債権者ハ履行遅延ノミノ為メ損害賠償ヲ為サシムルコトヲ得
法律ヲ以テ損害賠償ノ額ヲ定メタル場合ノ外当事者之ヲ定メサリシトキハ下ノ区別及ヒ条件ニ従ヒテ裁判所之ヲ定ム
第三百八十三条 損害賠償ハ債務者カ第三百三十五条ニ依リテ遅滞ニ付セラレタル後ニ非サレハ之ヲ負担セス
然レトモ不作為ノ義務ニ於テハ債務者ハ常ニ当然遅滞ニ在リ
犯罪ニ因リテ他人ニ属スル金銭其他ノ有価物ヲ返還スルノ責ニ任スル者モ亦同シ
第三百八十四条 損害賠償ハ債権者ノ受ケタル損失ノ償金及ヒ其失ヒタル利得ノ填補ヲ包含ス
然レトモ債務者ノ悪意ナク懈怠ノミニ出テタル不履行又ハ遅延ニ付テハ損害賠償ハ当事者カ合意ノ時ニ予見シ又ハ予見スルヲ得ヘカリシ損失ト利得ノ喪失トノミヲ包含ス
悪意ノ場合ニ於テハ予見スルヲ得サル損害ト雖モ不履行ヨリ生スル避ク可カラサル結果タルトキハ債務者其賠償ヲ負担ス
第三百八十五条 損害賠償カ主タル訴ノ目的タルトキハ裁判所ハ金銭ニテ其額ヲ定ム
損害賠償ノ請求カ直接履行ノ訴又ハ契約解除ノ訴ノ従タルトキハ裁判所ハ主タル請求ヲ決スルト同時ニ先ツ数額不定ノ損害賠償ヲ債務者ニ言渡シ其計算ハ疏明ヲ待チテ日後ニ之ヲ為サシムルコトヲ得
又裁判所ハ債務者ニ直接履行ヲ命スルト同時ニ其極度ノ期間ヲ定メ其遅延スル日毎ニ又ハ月毎ニ若干ノ償金ヲ払フ可キヲ言渡スコトヲ得
此場合ニ於テハ債務者ハ直接履行ヲ為サスシテ損害賠償ノ即時ノ計算ヲ請求スルコトヲ得
第三百八十六条 不履行又ハ遅延ニ関シ当事者双方ニ非理アルトキハ裁判所ハ損害賠償ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス
第三百八十七条 当事者ハ予メ過怠約款ヲ設ケ不履行又ハ遅延ノミニ付テノ損害賠償ヲ定ムルコトヲ得
第三百八十八条 裁判所ハ過怠約款ノ数額ヲ増スコトヲ得ス又不履行若クハ遅延カ債務者ノ過失ノミニ出テサルトキ又ハ一分ノ履行アリタルトキニ非サレハ其数額ヲ減スルコトヲ得ス
第三百八十九条 双務契約ニ於テ不履行ニ付テノ過怠約款ヲ要約シタルトキト雖モ其債権者ハ其解除ノ権利ヲ失ハス但明白ニ其権利ヲ放棄シタルトキハ此限ニ在ラス
債権者ハ遅延ノミニ付テノ過怠約款ヲ要約シタルトキニ非サレハ解除ト過怠トヲ併セテ要求スルコトヲ得ス
第三百九十条 金銭ヲ目的トスル義務ノ遅延ノ損害賠償ニ付テハ裁判所ハ法律上ノ利息ノ割合ト異ナル額ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス但法律ノ特例アル場合ハ此限ニ在ラス
当事者カ損害賠償ノ数額ヲ定ムルトキハ合意上ノ利息ノ最上限以下タルコトヲ要ス
第三百九十一条 債権者ハ右ノ損害賠償ヲ請求スル為メニ何等ノ損失ヲモ証スルノ責ニ任セス又債務者ハ其請求ヲ拒ム為メニ意外ノ事又ハ不可抗力ヲ申立ツルコトヲ得ス
第三百九十二条 遅延利息ヲ生セシムル為メ債務者ヲ遅滞ニ付スルニハ裁判所ニ其利息ヲ請求シ又ハ債務者ノ特別ノ追認ヲ得ルコトヲ要ス但法律カ当然此利息ヲ生セシムル場合及ヒ法律カ催告其他ノ行為ニ因リテ此利息ヲ生セシムルヲ許セル場合ハ此限ニ在ラス
第三百九十三条 要求スルヲ得ヘキ元本ノ利息ハ填補タルト遅延タルトヲ問ハス其一个年分ノ延滞セル毎ニ特別ニ合意シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル為メ元本ニ組入ルヽコトヲ得ス
然レトモ建物又ハ土地ノ貸賃、無期又ハ終身ノ年金権ノ年金、返還ヲ受ク可キ果実又ハ産出物ノ如キ満期ト為リタル入額ハ一个年未満ノ延滞タルトキト雖モ請求又ハ合意ノ時ヨリ其利息ヲ生スルコトヲ得
債務者ノ免責ノ為メ第三者ノ払ヒタル元本ノ利息ニ付テモ亦同シ
第三節 担保
第三百九十四条 物権ト人権トヲ問ハス権利ヲ譲渡シタル者ハ譲渡以前ノ原因又ハ自己ノ責ニ帰ス可キ原因ニ基キタル追奪又ハ妨碍ニ対シテ其権利ノ完全ナル行使及ヒ自由ナル収益ヲ担保スルノ責ニ任ス
担保ニ二箇ノ目的アリ即チ第三者ノ主張ニ対シ譲受人ヲ保護スルコト及ヒ防止スル能ハサリシ妨碍若クハ追奪ニ対シ償金ヲ払フコト是ナリ
第三百九十五条 担保ハ有償ノ行為ニ付テハ反対ノ要約ナキトキハ当然存立シ無償ノ行為ニ付テハ之ヲ諾約シタルニ非サレハ存立セス
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル要約ノ為メニモ譲渡人ハ自ラ譲受人ニ妨碍ヲ加フルコトヲ得ス又第三者カ譲渡人ノ授与シタル権利ニ依リテ譲受人ニ妨碍ヲ加ヘ又ハ追奪ヲ為シタルトキハ譲渡人無担保ニテ譲渡ヲ為シタリト雖モ担保ノ責ニ任ス権利ノ授与カ其譲渡ノ以前ニ在リト雖モ亦同シ
右担保ノ義務ハ譲渡人ノ相続人ニ移転ス
第三百九十六条 買主又ハ賃借人ノ為メニスル売主又ハ賃貸人ノ担保及ヒ共同分割者ノ相互ノ担保ニ特別ナル規則ハ其担保ヲ生スル契約及ヒ行為ノ各事項ニ於テ之ヲ規定ス
第三百九十七条 他人ト共ニ又ハ他人ノ為メニ義務ヲ負担スル者ハ保証、連帯及ヒ不可分ノ事項ニ於テ規定シタル如ク他人ノ免責ノ為メニ為シタル弁済ニ付キ担保ノ求償権ヲ有ス
又債権者ノ一人カ連帯又ハ不可分ノ義務ノ皆済ヲ受ケタルトキハ他ノ債権者ハ其一人ノ収メタル利益ノ分配ニ付キ之ニ対シテ特別ナル訴権ヲ有セサルトキハ担保ノ訴権ヲ有ス
第三百九十八条 担保ニ付キ権利ヲ有スル者ハ訴ヲ受ケタルトキ民事訴訟法ニ従ヒテ担保人ノ訴訟参加ヲ請求スルコトヲ得
第三百九十九条 担保人ヲ訴訟ニ参加セシメスシテ追奪ヲ受ケ又ハ他人ノ債務ヲ弁済シタル者ハ主タル訴権ヲ以テ担保人ニ対シ担保ヲ請求スルコトヲ得但担保人カ前ノ請求ヲ却下セシムルニ有効ナル方法ヲ有セシコトヲ証スルトキハ此限ニ在ラス
第四節 義務ノ諸種ノ体様
第四百条 義務ハ左ノ場合ニ従ヒテ其体様ヲ変ス
第一 義務ノ成立ノ単純、有期又ハ条件附ナルトキ
第二 義務ノ目的ノ単一、選択又ハ任意ナルトキ
第三 債権者又ハ債務者ノ単数又ハ複数ナルトキ
第四 義務ノ性質又ハ其履行ノ可分又ハ不可分ナルトキ
義務ハ其体様ノ変スルニ従ヒテ其効力モ亦変ス
連帯ノ効力及ヒ任意ノ不可分ノ効力ハ債権担保編ニ之ヲ規定ス
第一款 成立ノ単純、有期又ハ条件附ナル義務
第四百一条 義務ノ成立カ初ヨリ正確ニシテ且即時ニ要求スルコトヲ得ヘキトキハ其義務ハ単純ナリ
第四百二条 債権者カ或ル時期前又ハ時期ハ確定セサルモ必ス到来ス可キ或ル事件ノ到来前ニ履行ヲ求ムルコトヲ得サルトキハ其義務ハ有期ナリ
当事者ノ定メタル期限又ハ法律ニ依リテ許与シタル期限ハ之ヲ権利上ノ期限トス
債務者ノ為シ得ヘキ時又ハ欲スル時ニ弁済ス可シトノ語辞アルトキハ裁判所ハ債権者ノ請求ニ因リ事情ニ従ヒ及ヒ当事者ノ意思ヲ推定シテ其履行ノ期間ヲ定ム但当事者カ無期ノ年金権ヲ設定セント欲シタル場合ハ此限ニ在ラス
第四百三条 債務者ハ期限ノ利益ヲ放棄シテ満期前ニ其義務ヲ履行スルコトヲ得但要約ニ因リ又ハ事情ニ因リテ当事者双方ノ利益又ハ債権者ノミノ利益ノ為メニ期限ヲ定メタル証拠アルトキハ此限ニ在ラス
債権者ノミノ利益ノ為メニ期限ヲ定メタル場合ニ於テハ債権者モ亦其期限ヲ放棄スルコトヲ得
当事者カ錯誤ニ因リテ満期前ニ弁済シタル場合ニ於テハ第三百六十五条ノ規定ニ従フ
第四百四条 債務者ハ左ノ場合ニ於テ債権者ノ請求ニ因リ権利上ノ期限ノ利益ヲ失フ
第一 債務者カ破産シ又ハ顕然無資力ト為リタルトキ
第二 債務者カ財産ノ多分ヲ譲渡シ又ハ其多分カ他ノ債権者ノ差押ヲ受ケタルトキ
第三 債務者カ其供シタル特別ノ担保ヲ毀滅シ若クハ減少シ又ハ其予約シタル担保ヲ供セサルトキ
第四 債務者カ填補利息ヲ払ハサルトキ
第四百五条 権利上ノ期限ノ有無ヲ問ハス又執行力ヲ有スル証書アル場合ト雖モ債務者カ不幸且善意ニシテ債権者カ猶予ノ為メ確実ノ損害ヲ受ケサル可キトキハ裁判所ハ債務者ニ相応ナル恩恵上ノ期間ヲ許与スルコトヲ得
又裁判所ハ右ノ条件ニ従ヒテ債務ノ一分ツヽノ履行ヲ許スコトヲ得
右ニ反スル要約ハ総テ無効ナリ
第四百六条 恩恵上ノ期間ヲ得タル債務者ハ第四百四条ニ定メタル場合ノ外尚ホ左ノ場合ニ於テモ之ヲ失フ
第一 債務者カ逃亡シ又ハ住所ヲ去リテ債権者ニ其居所ヲ隠秘スルトキ
第二 債務者カ一个年以上ノ禁錮ノ刑ヲ受ケタルトキ
第三 債務者カ言渡ヲ受ケタル条件ノ一ヲ行ハサルトキ
第四 債務者カ法律上ノ相殺ヲ為シ得ヘキ場合ニ於テ自ラ其債権者ノ債権者ト為リタルトキ
恩恵上ノ期間ハ裁判所ニ於テ更ニ之ヲ延フルコトヲ得ス
第四百七条 当事者又ハ法律カ義務ノ発生又ハ消滅ヲ未来且不確定ノ事件ノ有無ニ繋ラシムルトキハ其義務ハ条件附ナリ
此条件ハ第一ノ場合ニ於テハ停止ニシテ第二ノ場合ニ於テハ解除ナリ
物権モ亦主タルト従タルトヲ問ハス之ヲ停止又ハ解除ノ条件ニ繋ラシムルコトヲ得
第四百八条 停止条件ノ成就スルトキハ合意ノ日ニ遡リテ其効ヲ生ス
解除ノ条件ノ成就スルトキハ当事者ヲシテ合意前ノ各自ノ地位ニ復セシム
第四百九条 停止又ハ解除ノ条件カ成就セサル間ハ当事者ノ各自ハ条件ヲ帯ヒタル権利ヲ其侭ニ第三者ニ授与スルコトヲ得
然レトモ其条件ヲ第三百四十六条以下ニ定メタル方法ニ従ヒテ公示シタルニ非サレハ当事者ノ一方又ハ其承継人ハ之ヲ以テ他ノ一方ノ承継人ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百十条 解除条件ヲ帯ヒタル権利ヲ有スル者ノ善意ニ出テ且法律ニ従ヒテ為シタル管理ノ行為ハ第三者ノ利益ノ為メニ之ヲ保持ス
解除条件ヲ帯ヒタル権利ヲ有スル当事者ノ一方ト第三者トニ対シテ言渡サレタル判決ハ他ノ一方又ハ其承継人之ヲ援用スルコトヲ得
然レトモ右判決ハ他ノ一方ノ当事者又ハ其承継人ヲ異議申述ノ為メニ訴訟ニ召喚セサリシトキハ之ヲ以テ其当事者又ハ承継人ニ対抗スルコトヲ得ス但其判決カ管理ノ行為ノミニ関スルトキハ此限ニ在ラス
第四百十一条 条件ノ成就シタルトキハ物又ハ金銭ヲ引渡シ又ハ返還ス可キ当事者ハ其成就セサル間ニ収取シ又ハ満期ト為レル果実若クハ利息ヲ交付スルコトヲ要ス但当事者間ニ反対ノ意思アル証拠カ事情ヨリ生スルトキハ此限ニ在ラス
第四百十二条 合意ノ主タル目的ヲ不能又ハ不法ノ条件ニ繋ラシメタルトキハ其合意ハ無効ナリ
当事者ノ一方カ或ハ禁止ノ所為ヲ行ヒ又ハ本分ノ責務ヲ尽サヽルニ因リテ自己ニ利ヲ得或ハ禁止ノ所為ヲ行ハス又ハ本分ノ責務ヲ尽スニ因リテ自己ニ害ヲ受ク可キトキハ其条件ハ不法ナリ
不能又ハ不法ノ条件カ合意ノ従タル効力ノミニ関スルトキハ其約款ノミ成立セス
第四百十三条 条件カ偶然ニ係ルモノナルトキ又ハ其全部若クハ一分カ要約者ノ随意ナルトキ諾約者カ其成就ヲ妨ケタルニ於テハ其条件ハ之ヲ成就シタルモノト看做ス
第四百十四条 条件カ全ク当事者ノ一方ノ随意ナルトキハ他ノ一方ハ其成否ヲ決ス可キ或ル期間ヲ定メント裁判所ニ請求スルコトヲ得
第四百十五条 有的条件ノ為メ当事者又ハ裁判所カ或ル期間ヲ定メタル場合ニ於テ事件カ到来セスシテ此期間ヲ経過シタルトキハ其条件ハ之ヲ成就セサルモノト看做ス条件ノ成否ノ為メ期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス事件ノ到来セサルコトノ確実ト為リタルトキモ亦同シ
無的条件ノ為メ或ル期間ヲ定メタル場合ニ於テ事件カ到来セスシテ此期間ヲ経過シタルトキハ其条件ハ之ヲ成就シタルモノト看做ス又其期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス事件ノ到来セサルコトノ確実ト為リタルトキモ亦同シ
右孰レノ場合ニ於テモ裁判所ハ当事者ノ定メタル期間ヲ延フルコトヲ得ス
第四百十六条 当事者ノ一方又ハ双方カ条件ノ成就又ハ不成就ノ前ニ死亡シタルトキハ合意ノ効力ハ其相続人ニ対シ働方又ハ受方ニテ存在ス但条件カ其性質ニ因リ又ハ当事者ノ意思ニ因リテ要約者又ハ諾約者ノ一身ノミニ附着シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百十七条 条件カ如何様ニ成就ス可キヤ又如何ナル時ニ成就シ又ハ成就セスト看做サル可キヤヲ知ルコトハ当事者ノ明示又ハ黙示ノ意思ニ従ヒテ之ヲ決ス其条件ノ一分ノ成就ヨリ生ス可キ効力ニ付テモ亦同シ
第四百十八条 諾約シ又ハ譲渡シタル物カ諾約者又ハ譲渡人ノ過失ナクシテ停止条件ノ成就前ニ其価額ノ全部又ハ其過半ノ喪失シタルトキハ合意ハ之ヲ成立セスト看做シ且孰レノ方ヨリ何等ノ要求ヲモ為スコトヲ得ス
之ニ反シ解除条件ヲ以テ諾約シ又ハ譲渡シタルトキハ右同一ノ喪失ハ要約者又ハ譲受人ノ権利確定シテ其負担ニ帰シ且何等ノ返還ヲモ要求スルコトヲ得ス
前二項ノ場合ニ於テ喪失カ価額ノ半ヲ超エサルトキハ条件ノ成就ハ合意ノ効力ヲ生ス
第四百十九条 一分ノ喪失カ当事者ノ一方ノ責ニ帰ス可キトキハ他ノ一方ハ自己ノ選択ヲ以テ或ハ損失ノ償金ト共ニ合意ノ履行ヲ請求シ或ハ損害ノ賠償ト共ニ合意ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
又全部喪失ノ場合ニ於テハ損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
第四百二十条 凡ソ双務契約ニハ義務ヲ履行シ又ハ履行ノ言込ヲ為セル当事者ノ一方ノ利益ノ為メ他ノ一方ノ義務不履行ノ場合ニ於テ常ニ解除条件ヲ包含ス
此場合ニ於テ解除ハ当然行ハレス損害ヲ受ケタル一方ヨリ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ第四百五条ニ従ヒ他ノ一方ニ恩恵上ノ期間ヲ許与スルコトヲ得
第四百二十一条 当事者ハ前条ノ解除ヲ行ハサル旨ヲ明約スルコトヲ得
又当事者ハ履行ノ遅滞ニ付セラレタル一方ニ対シテ解除ノ当然行ハル可キ旨ヲ明約スルコトヲ得然レトモ遅滞ニ付セラレタル一方ハ他ノ一方カ其解除ヲ申立ツルニ非サレハ自己ヨリ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
第四百二十二条 不履行ノ為メニ損害ヲ受ケタル当事者ハ当然行ハレサル解除ノ場合ニ於テ未タ之ヲ裁判上ニテ請求セサル間又ハ当然行ハル可キ解除ノ場合ニ於テ未タ之ヲ援用スル旨ヲ述ヘサル間ハ其解除ヲ放棄スルコトヲ得
第四百二十三条 裁判上ニテ解除ヲ請求シ又ハ援用スル当事者ハ其受ケタル損害ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得
第四百二十四条 当事者ハ其権利カ停止条件ニ繋リ又ハ其訴権カ権利上若クハ恩恵上ノ期間ノ為メニ阻止ヲ受クルト雖モ其間ニ於テ本法及ヒ民事訴訟法ノ規定ニ従ヒテ自己ノ権利ノ保存処分ヲ為スコトヲ得
第四百二十五条 売買契約ニ於テ特ニ慣用スル随意ノ停止又ハ解除ノ条件ニ付テハ財産取得編第二十九条乃至第三十二条ノ規定ニ従フ
第二款 目的ノ単一、選択又ハ任意ノ義務
第四百二十六条 義務カ一箇若クハ数箇ノ特定物又ハ定量物或ハ物ノ聚集、財産ノ包括ヲ目的トスルトキハ其義務ハ単一ナリ
又義務カ同時又ハ順次ニ数箇ノ各別ナル供与ヲ目的トスル場合ト雖モ唯一又ハ連繋ノ合意ヲ以テ其供与ヲ負担シタルトキハ尚ホ其義務ハ之ヲ単一ナリト看做ス
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ハ負担シタル総テノ物ヲ供与スルニ非サレハ其義務ヲ免カルルコトヲ得ス
第四百二十七条 義務カ数箇ノ各別ナル目的ヲ有スルモ債務者カ其中ノ幾箇ノ供与ヲ為スニ因リテ義務ヲ免カル可キトキハ其義務ハ選択ナリ
供与ス可キ物ノ選択ハ債務者ニ属ス但其選択ヲ債権者ニ許与シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ債務者ハ選択ニテ負担シタル数箇ノ物ノ各ノ一分ヲ受クルコトヲ債権者ニ強ヒ又債権者ハ其各ノ一分ヲ与フルコトヲ債務者ニ強フルコトヲ得ス
第四百二十八条 選択ヲ有スル当事者ノ孰レタルヲ問ハス二箇ノ物ノ一カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ滅失シタルトキハ義務ハ単一ト為リテ其残ル所ノ物ニ存ス
二箇ノ物カ共ニ全部滅失シタルトキハ義務ハ消滅ス
二箇ノ物ノ一カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ其価ノ半額ヨリ多キ部分ヲ喪失シタルトキハ其物ハ債務者ノ選択ノ目的タルコトヲ得ス
第四百二十九条 債務者カ実物ノ提供ヲ為シ又ハ債権者カ合式ノ請求ヲ為シテ一旦有効ニ行フタル選択ハ当事者ノ一方承諾アルニ非サレハ之ヲ言消スコトヲ得ス
第四百三十条 選択カ債務者ニ属スル場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ其過失ニ因リテ滅失シタルトキハ義務ハ残ル所ノ物ニ存シ債務者ハ滅失シタル物ノ価金ヲ与ヘテ其義務ヲ免カルコトヲ得ス
二箇ノ物カ債務者ノ過失ニ因リテ順次ニ滅失シタルトキハ債務者ハ後ニ滅失シタル物ノ価金ヲ負担ス
又二箇ノ物カ同時ニ滅失シテ債務者カ其二箇又ハ一箇ニ対シ過失アリタルトキハ選択ハ債権者ニ移転シ之ヲシテ一箇ノ物ノ価金ヲ得セシム
第四百三十一条 同上ノ場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル但債務者ハ自己ノ選択ヲ以テ残ル所ノ物ヲ与ヘ滅失シタル物ノ償金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ自己ノ選択ヲ以テ一箇ノ物ノ償金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ一ハ債権者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ債権者ニ対シテ償金ヲ要求スルコトヲ得ス
第四百三十二条 合意ヲ以テ債権者ニ選択ヲ与ヘタル場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債権者ハ残ル所ノ物ヲ要求シ又ハ滅失シタル物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債権者ハ自己ノ選択ヲ以テ一箇ノ物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得二箇ノ物カ一ハ債務者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキモ亦同シ
第四百三十三条 同上ノ場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル
二箇ノ物カ共ニ債権者ノ過失ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキハ選択ハ債務者ニ移転シ之ヲシテ一箇ノ物ノ価金ヲ得セシム
二箇ノ物カ一ハ債権者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ債権者ニ対シテ償金ヲ要求スルコトヲ得ス
第四百三十四条 前数条ノ規定ニ従ヒテ選択ノ義務カ一箇ノ物ニ帰着シタルトキ又ハ其権利ヲ有スル当事者カ選択ヲ為シタルトキハ其義務ハ停止条件ノ義務ニ関シ第四百八条ニ規定シタル如ク既往ニ遡リテ効ヲ生ス
第四百三十五条 債務者カ一定ノ物ヲ主トシテ負担スルモ他ノ物ヲ与ヘテ義務ヲ免カルルノ権能ヲ有スルトキハ其義務ハ任意ナリ
主トシテ負担スル物ヲ与フルノ義務ハ任意ニテ負担スル物ヲ弁済スルニ於テハ解除ス可シトノ条件ニ繋カルモノト看做ス
主トシテ負担スル物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル
主トシテ負担スル物カ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ其価金ノ償還及ヒ損害ノ賠償ニ任ス然レトモ債務者ハ任意ニテ負担スル物ヲ与ヘテ義務ヲ免カルノ権能ヲ有ス
二箇ノ物ノ一カ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ其免責ヲ申立テ又ハ残ル所ノ物ヲ与ヘテ滅失シタル物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且自己ノ選択ヲ以テ一箇ノ物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ一ハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ一ハ債権者ノ過失ニ因リテ同時ニ滅失シ其過失カ任意ニテ負担スル物ノ上ニ存スルトキ又ハ其過失カ孰レノ物ノ上ニ存シタルヤヲ知リ得サルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且任意ニテ負担シタル物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
第三款 債権者及ヒ債務者ノ単数又ハ複数ナル義務
第四百三十六条 債権者及ヒ債務者カ各一人ナルトキハ其義務ハ単数ナリ
債権者又ハ債務者カ数人ナルトキハ其義務ハ複数ナリ
複数ノ義務ニハ連合ノモノ有リ連帯ノモノ有リ全部ノモノ有リ不可分ノモノ有リ
第四百三十七条 連合ノ義務ニ於テハ次款ニ定ムル如ク各債権者又ハ各債務者ハ自己ノ部分外ニ履行ヲ求ムルコトヲ得ス又訴追ヲ受クルコト無シ
連帯ノ義務ニ於テハ各債権者又ハ各債務者ハ自己ノ名ヲ以テ自己ノ部分ノ為メニスルト他人ノ名ヲ以テ他人ノ部分ノ為メニスルトヲ問ハス全部ニ付キ履行ヲ求ムルコトヲ得又訴追ヲ受クルコト有リ但担保訴権ニ因レル相互ノ求償権ヲ妨ケス
全部義務ハ債権担保編第七十三条ニ於テ之ヲ規定ス
第四款 性質又ハ履行ノ可分又ハ不可分ナル義務
第四百三十八条 単数ノ義務ハ債権者ト債務者トノ間ニ在テハ不可分タル如ク之ヲ履行スルコトヲ要ス但第四百五条ヲ以テ一分ノ弁済ヲ許スコトニ付キ裁判所ニ与ヘタル権能ヲ妨ケス
第四百三十九条 連合ノ義務ニ於テハ債権者ノ各自カ履行ヲ求メ又ハ債務者ノ各自カ訴追ヲ受ク可キ実地ノ部分ハ合意又ハ事情ニ従ヒテ之ヲ定ム
前項ノ規定ニ従フヲ得サルトキハ其各自ノ部分ハ平分ニテ之ヲ計算ス但債権ノ利益又ハ債務ノ負担ニ於テ各自カ其実地ノ部分ニ復スル相互ノ求償権ヲ妨ケス
第四百四十条 複数ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ債権者又ハ債務者ノ間ニ不可分ナリ
第一 負担スル目的物ノ性質ニ因リテ一分ノ履行カ形体上及ヒ権利上不能ナルトキ
第二 義務カ性質ニ因リテ可分ナルモ当事者ノ明示ノ意思又ハ其期望シタル目途其他事情ヨリ見ハルヽ意思カ一分ノ履行ヲ許サヽルトキ
第四百四十一条 義務ハ其性質ニ因リテ可分ナルモ左ノ場合ニ於テハ尚ホ当事者ノ意思ニ因リ受方ノミニテ不可分ナリ
第一 債務者ノ一人ノ処分権内ニ在ル特定物ノ引渡ニ関スルトキ
第二 債務者ノ一人カ債務ノ設定権原ニ因リテ独リ履行ニ任シタルトキ
右第一ノ場合ニ於テ数人ノ債権者アルトキハ其一人ノ債務者ハ此数債権者ニ対シテ同時ニ義務ヲ免カルヽ為メ其数債権者ノ訴訟参加ヲ要求スルコトヲ得
第四百四十二条 不可分ハ債権担保編ニ規定スル如ク性質ニ因リテ可分ナル債務ノ履行ノ担保ノ為メ債務者ノ負担又ハ債権者ノ利益ニ於テ連帯ニ併合シ又ハ併合セスシテ之ヲ要約スルコトヲ得
第四百四十三条 債権者ノ一人カ不可分債務ノ履行ヲ受ケタルトキハ他ノ債権者ノ権利ノ限度ニ応シテ之ニ其利益ヲ分与スルコトヲ要ス
又債務者ノ一人カ義務ヲ履行ヲ為シタルトキハ義務ノ原因ニ従ヒ又ハ従来相互ノ関係ニ従ヒテ他ノ債務者ノ分担ス可キ部分ニ付キ之ニ対シテ担保ノ求償権ヲ有ス
第四百四十四条 債権者ノ一人ハ要約シタル如ク弁済ヲ受クルニ非サレハ他ノ債権者ノ権利ヲ減少シ又ハ消滅セシムルコトヲ得ス
債権者ノ一人カ総債務者若クハ其一人ノ義務解脱ヲ主旨トスル更改、免除其他ノ合意ヲ為シタルモ又ハ債務者カ其一人ノ債権者ニ対シテ適法ナル相殺ノ原因ヲ有スルモ他ノ債権者ハ尚ホ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得然レトモ他ノ債権者ハ此一人ノ債権者カ其権利ヲ失ハサリシナラハ第五百条第四項、第五百十四条第二項、第五百二十条第三項第四項ノ規定ニ従ヒ其一人ノ債権者ニ分与ス可キ利益ニ付キ其訴追ヲ受ケタル債務者ニ対シテ計算ヲ為ス
第四百四十五条 債権者ノ一人ノ為シタル付遅滞其他ノ保存ノ行為ハ他ノ債権者ヲ利ス
又債権者ノ一人ノ利益ノ為メニ時効ヲ停止スル適法ノ原因アルトキハ他ノ債権者ノ利益ノ為メ之ヲ停止ス
第四百四十六条 債務者ノ一人ハ他ノ債務者ノ負担ヲ加重スルコトヲ得ス又債務者ノ一人ニ対スル付遅滞ハ之ヲ以テ他ノ債務者ニ対抗スルコトヲ得ス
然レトモ債務者ノ一人ニ対抗スルコトヲ得ヘキ時効ノ中断又ハ停止ノ原因ハ之ヲ以テ他ノ債務者ニ対抗スルコトヲ得但債権者訴追ヲ受ケタル債務者ニ対シ時効ニ因リ義務ヲ免カレタル債務者ノ債務ノ部分ニ付キ計算ヲ為ス
第四百四十七条 債務者ノ一人ノ過失ニ因リテ不可分ノ義務ヲ履行スルコトヲ得サルトキハ損害賠償又ハ過怠約款ハ過失者ノミ之ヲ負担ス可分義務ノ全部ノ履行ヲ保スル為メ過怠約款ヲ設ケタルトキト雖モ亦同シ
第四百四十八条 第四百四十条ノ場合ニ於テ不可分義務ノ履行ノ為メ訴ヲ受ケタル債務者ハ他ノ債務者ヲ訴訟ニ参加セシメ共ニ裁判ヲ受ル為メ及ヒ之ニ対スル自己ノ求償ニ付キ裁判ヲ受ル為メ期間ヲ請求スルコトヲ得
第三章 義務ノ消滅
第四百四十九条 義務ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 弁済
第二 更改
第三 合意上ノ免除
第四 相殺
第五 混同
第六 履行ノ不能
第七 銷除
第八 廃罷
第九 解除
其他義務ハ免責時効ノ条件ノ具備スルトキハ之ヲ消滅シタルモノト看做ス
第一節 弁済
第四百五十条 弁済ハ義務ノ本旨ニ従フノ履行ナリ
弁済ハ下ノ第一款及ヒ第四款ニ記載シタル区別ニ従ヒテ単純ナル有リ代位ナル有リ
数箇ノ債務アリテ只一箇ノ弁済ヲ為ストキハ第二款ニ従ヒテ債務ノ一箇又ハ数箇ニ付キ弁済ノ充当ヲ為ス
債権者カ弁済ヲ受クルコト能ハス又ハ欲セサルトキハ債務者ハ第三款ニ記載シタル如ク提供及ヒ供託ノ方法ヲ以テ自ラ義務ヲ免カルルコトヲ得
債務者カ債権者ニ対シテ自己ノ財産ヲ委付スルコトヲ得ル場合ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第一款 単純ノ弁済
第四百五十一条 弁済ハ債務者又ハ共同債務者ノ一人ヨリ有効ニ之ヲ為スノ外尚ホ保証人又ハ抵当財産ヲ所持スル第三者ノ如キ附随ノ義務者ヨリ有効ニ之ヲ為スコトヲ得
又弁済ハ利害ノ関係ナキ第三者ヨリ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
第四百五十二条 利害ノ関係ヲ有スルト否トヲ問ハス第三者ノ為シタル弁済ノ有効ナル為メニハ債権者ノ承諾ヲ必要トセス但作為ノ義務ニ関シ債権者カ特ニ債務者ノ一身ニ着眼シタルトキハ此限ニ在ラス
又債務者ノ承諾モ亦之ヲ必要トセス但利害ノ関係ヲ有セサル第三者ノ弁済ニ付テハ債務者又ハ債権者ノ承諾アルコトヲ要ス
第四百五十三条 代理ノ委任ヲ受ケスシテ弁済ヲ為シタル第三者ハ弁済ノ為メ債務者ニ得セシメタル利益ノ限度ニ応シ之ニ対シテ求償権ヲ有ス但法律又ハ合意ニ依リテ債権者ノ権利ニ代位スル場合ヲ妨ケス
第四百五十四条 義務カ定量物ノ所有権ノ移転ヲ目的トスルトキハ其物ノ所有者ニシテ且之ヲ譲渡スノ能力アル者ニ非サレハ引渡其他ノ方法ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得ス
他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ当事者各自ニ其弁済ノ無効ヲ主張スルコトヲ得
譲渡スノ能力ナキ所有者カ物ヲ引渡シタルトキハ其所有者ノミ弁済ノ無効ヲ請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非サレハ引渡シタル物ヲ取戻スコトヲ得ス
債権者カ弁済トシテ受ケタル動産物ヲ善意ニテ消費シ又ハ譲渡シタルトキハ債務者ハ其取戻ヲ為スコトヲ得ス
又債権者ハ他人ノ物ヲ以テセル弁済ヲ認諾スルコトヲ得但真ノ所有者ヨリ回復ヲ訴ヘタルトキハ債務者ニ対スル担保ノ訴権ヲ妨ケス
第四百五十五条 弁済ハ債権者又ハ其代人ニ之ヲ為スコトヲ要ス弁済領受ノ分限ヲ有セサル者ニ為シタル弁済ト雖モ債権者カ之ヲ認諾シ又ハ之ニ因リテ利得シタルトキハ有効ナリ
第四百五十六条 真ノ債権者ニ非サルモ債権ヲ占有セル者ニ為シタル弁済ハ債務者ノ善意ニ出テタルトキハ有効ナリ
表見ナル相続人、其他ノ包括承継人、記名債権ノ表見ナル譲受人及ヒ無記名証券ノ占有者ハ之ヲ債権ノ占有者ト看做ス
第四百五十七条 領受ノ能力ナキ債権者又ハ債権占有者ニ為シタル弁済ハ其債権者又ハ債権占有者ノ請求ニ因リテ之ヲ取消スコトヲ得但其利得シタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス
第四百五十八条 民事訴訟法ニ従ヒ正当ニ為シタル払渡差押ノ後債務者カ自己ノ債権者ニ弁済ヲ為シタルトキハ差押債権者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ弁済ス可キヲ債務者ニ強要スルコトヲ得但弁済ヲ受ケタル債権者ニ対スル債務者ノ求償権ヲ妨ケス
第四百五十九条 債権者ハ己レニ対シテ負担シタル物ヨリ他ノ物ヲ弁済トシテ受取ルノ責ニ任セス他ノ物ノ価格カ高キトキト雖モ亦同シ
債務者ハ其負担シタル物ヨリ他ノ物ヲ与フルノ責ニ任セス請求ヲ受ケタル物ノ価格カ低キトキト雖モ亦同シ
代替物ヲ目的トセル債務ニ於テハ債務者ハ最良品ヲ与ヘ債権者ハ最悪品ヲ受取ルノ責ニ任セス
第四百六十条 双方一致ニテ物ヲ金銭ニ、金銭ヲ物ニ又ハ或ル物ヲ他ノ物ニ代ヘテ弁済シ若クハ弁済スルコトヲ諾約シタルトキハ原義務ヲ更改シタリト看做シ其行為ハ場合ニ因リテ売買又ハ交換ノ規則ニ従フ
第四百六十一条 特定物ノ債務者ハ引渡ヲ為ス可キ時ノ現状ニテ其物ヲ引渡スニ因リテ義務ヲ免カル但条件附ノ義務ノ危険ニ関スル第四百十八条ノ規定ヲ妨ケス
債務者ノ費用ニテ物ヲ保存シ若クハ改良シ又ハ其過失若クハ懈怠ニ因リテ之ヲ毀損シタルトキハ償金ハ上ノ第一章第二節第三節ニ従ヒテ当事者相互ニ之ヲ負担ス
第四百六十二条 金銭ヲ目的トセル債務ニ於テハ債務者ハ其選択ヲ以テ金若クハ銀ノ国貨又ハ強制通用ノ紙幣ヲ与ヘテ義務ヲ免カル
債務者ハ法律ニ依リ貨幣ノ名価又ハ其純分ノ割合ニ変更ヲ生スルモ諾約シタル数額ヨリ多ク又ハ少ナク負担セス
本条ノ規則ニ違背スル合意ハ無効ナリ但第四百六十四条第二項ノ規定ヲ妨ケス
第四百六十三条 右ニ反シ弁済期ニ於テ諸種ノ貨幣ノ為替相場ヨリ生ス可キ相互ノ高低ノ差ハ債務者ノ選択スル法律上ノ貨幣ヲ以テスル平均価額ノ弁済ニ因リテ当事者ノ間ニ之ヲ填補スルノ合意ヲ為スコトヲ得
第四百六十四条 金貨又ハ銀貨ヲ以テ負担ノ金額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ独リ為替相場ノ損益ヲ受ケ法律上ノ他ノ貨幣ヲ以テ義務ヲ免カルルコトヲ得
金貨又ハ銀貨ヲ以テ負担ノ金額ヲ弁済ス可キコトノ要約アリタルトキモ亦同シ
外国ノ貨幣ヲ以テ弁済ヲ為ス可キコトヲ合意シタルトキハ債務者ハ右ノ規定ニ従ヒ自己ノ選択スル法律上ノ貨幣ヲ以テ其外国ノ貨幣ノ価額ヲ弁済シテ義務ヲ免カルコトヲ得
第四百六十五条 銅貨及ヒ補助銀貨ハ特別法ニ定メタル数額ヨリ多ク弁済トシテ之ヲ与フルコトヲ得ス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第四百六十六条 金銭ノ貸借ニ特別ナル規則ハ財産取得編第百八十五条ニ之ヲ定ム
第四百六十七条 弁済ノ場所ノ定メナキトキハ弁済ハ債務者ノ住所ニ於テ之ヲ為ス但後ニ掲クル或ル契約ノ場合及ヒ第三百三十二条ニ掲ケタル場合ハ此限ニ在ラス
自己ノ住所ニ於テ弁済ノ有ル可キ当事者カ詐欺ナクシテ転住シタルトキハ弁済ハ其新住所ニ於テ之ヲ為ス但其当事者ハ為替相場ノ差額及ヒ人ノ往復若クハ物ノ運送ノ補足費用ヲ一方ノ当事者ニ払フコトヲ要ス
弁済ノ其他ノ費用ハ債務者之ヲ負担ス
第四百六十八条 弁済ノ期日カ一般ノ休日ナルトキハ弁済ハ其翌日ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
第二款 弁済ノ充当
第四百六十九条 一人ノ債権者ニ対シテ一様ノ性質ナル数箇ノ債務ヲ有スル債務者カ総債務ヲ全消スルコトヲ得サル弁済ヲ為ストキハ債務者ハ弁済ノ時ニ於テ其孰レノ債務ニ充当セントスルノ意ヲ述ヘ且此充当ヲ受取証書ニ記入セシムルコトヲ得
然レトモ債務者ハ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ債権者ノ利益ノ為メ定メタル期限ノ至ラサル債務ニ充当ヲ為シ又費用及ヒ利息ニ先タチテ元本ニ充当ヲ為シ又一分ツヽ数箇ノ債務ニ充当ヲ為スコトヲ得ス
第四百七十条 債務者カ有効ナル充当ヲ為サヽルトキハ債権者ハ受取証書ニ於テ自由ニ弁済ノ充当ヲ為スコトヲ得但財産取得編第百二十九条ノ会社契約ニ関スル規定ヲ妨ケス
債務者カ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ受取証書ヲ受取リタルトキハ債務者ハ自己ノ錯誤又ハ債権者ノ欺瞞アリタルニ非サレハ充当ヲ非難スルコトヲ得ス
第四百七十一条 債務者及ヒ債権者カ有効ニ充当ヲ為サヽルトキハ当然左ノ如ク充当ス
第一 期限ノ至リタル債務ヲ先ニシ期限ノ至ラサル債務ヲ後ニス
第二 費用及ヒ利息ヲ先ニシ元本ヲ後ニス
第三 総債務カ期限ニ至リ又ハ至ラサルトキハ債務者ノ為メ最モ弁済ノ利益アル債務ヲ先ニス
第四 債務者カ弁済ノ先後ニ付キ利益ヲ有セサルトキハ期限ノ最モ先ニ至リタル又ハ至ル可キ債務ヲ先ニス
第五 総債務カ何レノ点ニ於テモ相同シキトキハ充当ハ各債務ノ額ニ応シテ之ヲ為ス
第四百七十二条 弁済充当ノ規定ハ交互計算上ノ振込ニ之ヲ適用セス此振込ハ振込人ノ貸方ニ之ヲ記入ス
第三款 弁済ノ提供及ヒ供託
第四百七十三条 債権者カ弁済ヲ受クルヲ欲セス又ハ之ヲ受クル能ハサルトキハ債務者ハ左ノ区別ニ従ヒ提供及ヒ供託ヲ為シテ義務ヲ免カルルコトヲ得
第一 債務カ金銭ヲ目的トスルトキハ提供ハ貨幣ヲ提示シテ之ヲ為スコトヲ要ス
第二 債務カ特定物ヲ目的トシ其存在スル場所ニ於テ引渡サル可キトキハ債務者ハ其物ノ引取ノ為メ債権者ニ催告ヲ為ス
第三 特定物ヲ債権者ノ住所其他ノ場所ニ於テ引渡ス可クシテ其運送カ多費、困難又ハ危険ナルトキハ債務者ハ合意ニ従ヒテ引渡ヲ即時ニ実行スルノ準備ヲ為シタルコトヲ提供中ニ述フ定量物ニ関シテモ亦同シ
第四 債権者ノ立会又ハ参同ヲ要スル作為ノ義務ニ関シテハ債務者カ義務履行ノ準備ヲ為シタルコトヲ述フルヲ以テ足ル
第四百七十四条 提供ハ前条ノ外上ニ定メタル弁済ニ必要ナル条件ヲ具備シ且特別法ニ定ムル方式ニ従フニ非サレハ有効ナラス
第四百七十五条 時期ヲ失セス且有効ニ為シタル提供ハ法律ヲ以テ規定シ若クハ合意ヲ以テ要約シタル失権、解除及ヒ責罰ヲ予防ス
此提供ハ付遅滞ヲ防止シ又既ニ付遅滞ノ存セルトキハ将来ニ向ヒテ其効力ヲ止メ且遅延利息ヲ停ム
第四百七十六条 債権者カ提供ヲ承諾セサルトキハ債務者ハ供託ノ日マテニ債務ニ生シタル填補利息ト共ニ弁済ノ金額ヲ供託所ニ供託スルコトヲ得
特定物又ハ定量物ニ付テハ債務者ハ其物ヲ供託ス可キ場所ヲ指定スルコト及ヒ其管守者ヲ選任スルコトヲ裁判所ニ請求ス
供託ノ方式及ヒ条件ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第四百七十七条 有効ニ為シタル供託ハ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且債務者カ意外ノ事ニ任シタルトキト雖モ其物ノ危険ヲ債権者ニ帰セシム
然レトモ債権者カ供託ヲ受諾セス又ハ其供託カ債務者ノ請求ニテ既判力ヲ有スル判決ニ因リテ有効ト宣告セラレサル間ハ債務者ハ其供託物ヲ引取ルコトヲ得但此場合ニ於テハ義務ハ旧ニ依リ存在ス
右ノ受諾又ハ判決アリタル後ト雖モ債務者ハ債権者ノ承諾ヲ以テ供託物ヲ引取ルコトヲ得然レトモ共同債務者及ヒ保証人ノ義務解脱ヲモ質権及ヒ抵当権ノ消滅ヲモ供託物ニ付キ債権者ノ債権者カ為シタル払渡差押ヲモ妨碍スルコトヲ得ス
第四款 代位ノ弁済
第四百七十八条 代位ヲ以テ第三者ノ為シタル弁済ハ債権者ニ対シテ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且其債権及ヒ之ニ附着セル担保ト効力トヲ其第三者ニ移転ス但場合ニ従ヒテ第三者ノ有スル事務管理又ハ代理ノ訴権ヲ妨ケス
代位ハ下ノ区別ニ従ヒテ債権者若クハ債務者ヨリ之ヲ許与シ又ハ法律ヲ以テ之ヲ付与ス
第四百七十九条 債権者ノ許与シタル代位ハ受取証書ニ之ヲ明記スルニ非サレハ有効ナラス但第三者カ弁済ニ付キ利害ノ関係ヲ有スルヤ否及ヒ自己ノ名又ハ債務者ノ名ニテ弁済スルヤ否ヲ区別スルコトヲ要セス
第四百八十条 債務者ハ其債務ノ弁済ニ必要ナル金額又ハ有価物ヲ己レニ貸与シタル第三者ヲシテ債権者ノ承諾ナク其権利ニ代位セシムルコトヲ得
右ノ場合ニ於テ借用証書ニハ其金額又ハ有価物ノ用方ヲ記載シ受取証書ニハ其出所ヲ記載ス
公正証書ニ非サレハ他ノ第三者ニ対シテ右ノ行為ノ証トスルコトヲ許サス
然レトモ借用ト弁済トノ間ニ不相当ナル長キ時間ノ経過シタルトキハ裁判所ハ代位ヲ不成立ト宣告スルコトヲ得
第四百八十一条 代位ハ左ノ者ノ利益ノ為メ当然成立ス
第一 他人ト共ニ又ハ他人ノ為メニ義務ヲ負担シタルニ因リ其義務ヲ弁済スルニ付キ利害ノ関係ヲ有スル者及ヒ先取特権又ハ抵当権ヲ負担スル財産ノ第三所持者トシテ他人ノ義務ヲ弁済スルニ付キ利害ノ関係ヲ有スル者
第二 或ハ抵当訴権ヲ予防スル為メ或ハ不動産ノ差押又ハ契約解除ノ請求ヲ止ムル為メ他ノ債権者ニ弁済シタル債権者
第三 自己ノ財産ヲ以テ相続ノ債務ノ全部又ハ一分ヲ弁済シタル善意ナル表見ノ相続人
第四百八十二条 前三条ニ依リテ代位シタル者ハ債権ノ効力又ハ担保トシテ債権者ニ属セシ総テノ対人及ヒ物上ノ権利及ヒ訴権ヲ行フコトヲ得但左ニ掲クル場合ヲ例外トス
第一 当事者カ代位者ニ移転セシ権利及ヒ訴権ヲ制限シタルトキハ其制限ニ従フ
第二 保証人ハ債務ヲ弁済シ債権担保編第三十六条ノ規定ニ従ヒタルトキニ非サレハ第三所持者ニ対シテ代位セス
第三 第三所持者カ債務ヲ弁済シタルトキハ保証人ニ対シテ代位セス
第四 一箇ノ債務ノ抵当ト為リタル数箇ノ不動産カ各別ニ数箇ノ第三所持者ノ手ニ存スル場合ニ於テ其一人カ債務ヲ弁済シタルトキハ各不動産ノ価額ノ割合ニ応スルニ非サレハ他ノ第三所持者ニ対シテ代位ノ権ヲ行フコトヲ得ス
第五 互ニ担保人タル共同債務者ノ一人カ債務ヲ弁済シタルトキハ弁済者ハ他ノ債務者カ分担ス可キ債務ノ限度ニ応スルニ非サレハ其各自ニ対シテ代位セス
第四百八十三条 代位者ハ自己ノ支払ヒタル金額ヲ超エテ債権者ノ訴権ヲ行フコトヲ得ス
第四百八十四条 代位ハ原債権者ヲ害セサルコトヲ要ス
数箇ノ債権ヲ有スル者ハ其一箇ニ係ル代位弁済カ他ノ債権ノ担保ヲ減スルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得
第四百八十五条 代位弁済カ債務ノ一分ノミニ係ルトキハ代位者ハ自己ノ弁済ノ割合ニ応シテ原債権者ト共ニ其権利ヲ行フ
然レトモ原債権者ハ全部ノ弁済ヲ受ケサルトキハ独リ契約ノ解除ヲ行フ但代位者ニ賠償スルコトヲ要ス
第四百八十六条 代位弁済ニ因リテ全部ノ弁済ヲ受ケタル債権者ハ債権ノ証書及ヒ質物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス
債権者カ一分ノ弁済ノミヲ受ケタルトキハ要用ニ応シテ代位者ニ証書ヲ出示シ且質物ノ保存ニ注意スルヲ之ニ許スコトヲ要ス
第四百八十七条 弁済ノ有効、充当、提供及ヒ供託ニ関スル前三款ノ規定ハ代位弁済ニ之ヲ適用ス
第二節 更改
第四百八十八条 更改即チ旧義務ノ新義務ニ変更スルコトハ左ノ場合ニ於テ成ル
第一 当事者カ義務ノ新目的ヲ以テ旧目的ニ代フルノ合意ヲ為ストキ
第二 当事者カ義務ノ目的ヲ変セスシテ其原因ヲ変スルノ合意ヲ為ストキ
第三 新債務者カ旧債務者ニ替ハルトキ
第四 新債権者カ旧債権者ニ替ハルトキ
第四百八十九条 当事者カ期限、条件又ハ担保ノ加減ニ因リ又ハ履行ノ場所若クハ負担物ノ数量、品質ノ変更ニ因リテ単ニ義務ノ体様ヲ変スルトキハ之ヲ更改ト為サス
商証券ヲ以テスル債務ノ弁済ハ其証券ニ債務ノ原因ヲ指示シタルトキハ更改ヲ成サス前来ノ債務ノ追認ハ其証書ニ執行式アルトキト雖モ亦同シ
第四百九十条 債権者ハ其債権及ヒ担保ヲ有償ニテ処分スルノ能力ヲ有スルニ非サレハ更改ヲ承諾スルコトヲ得ス
右規定ハ合意上、法律上又ハ裁判上ノ管理者及ヒ代理人ニ之ヲ適用ス
第四百九十一条 更改ノ意思ハ債権者ニ在テハ之ヲ推定セス明カニ証書又ハ事情ヨリ見ハルヽコトヲ要ス
然レトモ同一ノ当事者間ニ於テ義務ノ更改アリタルヤ二箇ノ義務ノ共ニ存スルヤノ疑アルトキハ第三百五十九条ニ依リテ債務者ノ利益ノ為メニ更改ノ意義ニ解釈ス
第四百九十二条 旧義務カ停止又ハ解除ノ条件附ナリシトキハ更改ハ同一ノ条件ニ従フモノトノ推定ヲ受ク
又新義務カ条件附ナルトキハ更改ハ停止条件ノ成就シタルトキ又ハ解除条件ノ成就セサルトキニ非サレハ成ラス
右孰レノ場合ニ於テモ当事者カ単純ナル更改ヲ為サント欲シタルノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第四百九十三条 旧義務カ初ヨリ法律上成立セス又ハ法律ノ定ムル原因ニ由リテ消滅シ若クハ取消サレタルトキハ更改ハ無効ニシテ新義務ハ成立セス
又新義務カ其成立及ヒ有効ニ要スル法律上ノ条件ヲ具備セサルトキハ旧義務ハ存在ス
右孰レノ場合ニ於テモ当事者カ自然義務ヲ法定義務ニ又ハ法定義務ヲ自然義務ニ変セント欲シタルノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第四百九十四条 旧義務ヲ更改スル為メ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ有効ニ新義務ヲ諾約シタル債務者ハ其了知セル旧義務ノ無効ノ理由ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス
債務者カ次条ニ従ヒ旧債権者ノ嘱託ニ因リ新債権者ニ対シテ義務ヲ諾約シタルトキモ亦同シ
第四百九十五条 債務者ノ交替ニ因ル更改ハ或ハ旧債務者ヨリ新債務者ニ為セル嘱託ニ因リ或ハ旧債務者ノ承諾ナクシテ新債務者ノ随意ノ干渉ニ因リテ行ハル
嘱託ニハ完全ノモノ有リ不完全ノモノ有リ
第三者ノ随意ノ干渉ハ下ニ記載スル如ク除約又ハ補約ヲ成ス
第四百九十六条 債権者カ明カニ第一ノ債務者ヲ免スルノ意思ヲ表セサルトキハ嘱託ハ不完全ニシテ更改ハ行ハレス且債権者ハ第一第二ノ債務者ヲ連帯ニテ訴追スルコトヲ得
第三者ノ随意干渉ノ場合ニ於テ債権者カ旧債務者ヲ免シタルトキハ除約ニ因ル更改行ハル之ニ反セル場合ニ於テハ単一ノ補約成リテ債権者ハ債務ノ全部ニ付キ第二ノ債務者ヲ得然レトモ此債務者ハ連帯ノ義務ニ任セス
第四百九十七条 完全嘱託及ヒ除約ノ場合ニ於テ新債務者カ債務ヲ弁済スルコトヲ得サルトキハ債権者ハ嘱託又ハ除約ノ当時ニ於テ新債務者ノ既ニ無資力タリシコトヲ知ラサルニ非サレハ旧債務者ニ対シテ担保ノ求償権ヲ有セス但特別ノ合意ヲ以テ此担保ヲ伸縮スルコトヲ得
第四百九十八条 債権者ノ交替ニ因ル更改ハ債務者ト新旧債権者トノ承諾アルニ非サレハ成ラス
第四百九十九条 債権者カ第五百二条ニ定ムル如ク其債権ノ物上担保ヲ留保シテ或ハ他人ヲ恵ム為メ或ハ他人ニ対スル債務ヲ免カルヽ為メ其人ニ嘱託シテ自己ノ債務者ヨリ弁済ヲ受ケシムルトキハ其受嘱託人ハ債権ノ譲渡ニ関スル第三百四十六条ノ規定ニ従フニ非サレハ第三者ニ対シテ其債権ヲ主張スルコトヲ得ス
第五百条 債権者ト連帯債務者ノ一人又ハ不可分債務者ノ一人トノ間ニ為シタル更改ハ他ノ債務者及ヒ保証人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
然レトモ債権者カ右共同債務者及ヒ保証人ノ新義務ニ同意スルコトヲ更改ノ条件ト為シタル場合ニ於テ共同債務者及ヒ保証人ノ之ヲ拒ムトキハ更改ハ成立セス
連帯債権者ノ一人ト為シタル更改ハ其債権者ノ部分ニ付テノミ債務者ヲシテ義務ヲ免カレシム
性質ニ因ル不可分債務ノ債権者ノ一人ト更改ヲ為シタルトキハ他ノ債権者ハ全部ニ付キ訴追ノ権利ヲ有ス但第四百四十四条ニ従ヒ計算ヲ為スコトヲ要ス
第五百一条 保証人ト為シタル更改ハ反対ノ意思アル証拠ナキトキハ保証ニ付テノミ之ヲ為シタリトノ推定ヲ受ケ主タル債務者ニモ他ノ保証人ニモ義務ヲ免カレシメス
第五百二条 旧債権ノ物上担保ハ新債権ニ移ラス但債権者之ヲ留保スルトキハ此限ニ在ラス
此留保ハ共同債務者、保証人又ハ第三所持者ノ手ニ存スル担保負担ノ財産ニモ之ヲ行フコトヲ得
此留保ニ付テハ更改ノ相手方ノ承諾ノミヲ必要トス
右ノ場合ニ於テ財産ハ旧債務ノ限度ヲ超エテ担保ヲ負担セス
第三節 合意上ノ免除
第五百三条 債務ノ全部又ハ一分ニ付テノ合意上ノ免除ハ有償又ハ無償ニテ之ヲ為スコトヲ得
有償ノ免除ハ事情ニ従ヒテ代物弁済、更改、和解又ハ解除ヲ成ス又無償ノ免除ハ贈与ヲ成ス然レトモ公式ノ特別規則ニ従フコトヲ要セス
協諧契約ヲ以テ破産シタル債務者ニ許与スル一分ノ免除ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第五百四条 債務ノ免除ハ明示又ハ黙示ヨリ成リ推定ヨリ成ラス但法律ニ特定シタル場合ハ此限ニ在ラス
第五百五条 主タル債務者ニ為シタル債務ノ免除ハ保証人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
連帯債務者ノ一人ニ為シタル債務ノ免除ハ他ノ債務者ヲシテ其債務ヲ免カレシム但債権者カ他ノ債務者ニ対シテ其権利ヲ留保シタル場合ハ此限ニ在ラス此場合ニ於テモ免除ヲ受ケタル債務者ノ部分ヲ扣除スルコトヲ要ス
不可分債務者ノ一人ニ為シタル債務ノ免除ニ付テモ亦同シ然レトモ性質ニ因ル不可分債務ノ債権者カ他ノ債務者ニ対シテ其権利ヲ留保シタルトキハ債権者ハ先ツ全部ニ付キ其権利ヲ行ヒ免除ヲ受ケタル債務者ノ部分ヲ計算ス
第五百六条 保証人ノ一人ニ為シタル主タル債務ノ免除ハ債務者及ヒ他ノ保証人ヲシテ其債務ヲ免カレシム
第五百七条 債務ノ免除ヲ受ケタル債務者及ヒ保証人ハ債権者ヨリ共通ノ免除ヲ得ル為メ実際供与シタル数額ニ付テノミ他ノ共同債務者及ヒ共同保証人ニ対シテ求償権ヲ有ス
第五百八条 共同債務者ノ一人ニ対シテ連帯ノミ又ハ任意ノ不可分ノミノ免除アリタルトキハ其一人ヲシテ他ノ債務者ノ部分ヲ免カレシメ且他ノ債務者ヲシテ其一人ノ部分ヲ免カレシム
性質ニ因ル不可分ノミノ免除ニ付テハ債権者ハ債務者ノ各自ニ対シテ全部ノ要求ヲ為スノ権利ヲ失ハス但免除ヲ受ケタル債務者ノ負担ス可キ債額ヲ計算スルコトヲ要ス
又債権者ハ免除ヲ受ケタル債務者ニ対シ全部ノ要求ヲ為スコトヲ得但他ノ債務者ノ負担ス可キ債額ヲ計算スルコトヲ要ス
第五百九条 債権者ハ左ノ場合ニ於テハ債務者ノ一人ニ対シテ連帯ノミ又ハ任意ノ不可分ノミヲ免除シタリトノ推定ヲ受ク
第一 債権者カ担保ノ権利ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ヨリ其債務ノ部分ナリト明言シタル金額又ハ有価物ヲ受取リタルトキ
第二 債権者カ担保ノ権利ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ニ対シ其債務ノ部分ナリト称シテ裁判上ノ請求ヲ為シタルニ其一人請求ニ承服シ又ハ弁済ヲ為ス可キ旨ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第三 債権者カ異議ヲ留メスシテ十个年間引続キ債務者ノ一人ヨリ其負担ス可キ利息又ハ年金ノ部分ヲ受取リタルトキ
第五百十条 保証人ノ一人ニ保証ヲ免除シタルトキハ主タル債務者ハ其債務ヲ免カレス他ノ保証人ハ保証ノ免除ヲ受ケタル一人ノ部分ニ付キ其義務ヲ免カル然レトモ保証人ノ間ニ連帯ヲ為セル場合ニ於テ債権者カ第五百五条第二項ニ記載シタル如ク他ノ保証人ニ対シテ自己ノ権利ヲ留保セサルトキハ他ノ保証人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
第五百十一条 債権者ノ質又ハ抵当ノ放棄ハ其債権ヲ減セス然レトモ連帯債務者又ハ保証人ハ其放棄ニ因リテ此等ノ担保ニ代位スルコトヲ妨ケラレタルカ為メ債権担保編第四十五条及ヒ第七十二条ニ依リ債権者ニ対シテ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得
第五百十二条 共同債務者ノ一人カ連帯若クハ不可分ノミノ免除ヲ得ル為メ又ハ保証人ノ一人カ保証ノ免除ヲ得ル為メ債権者ニ出捐ヲ為シタルモ其債務ヲ減セス且他ノ共同債務者又ハ共同保証人ニ対シテ求償権ヲ有セス
第五百十三条 特定物ヲ引渡スノミ又ハ返還スルノミノ義務ヲ免除スルモ債務者ノ利益ニ於テ壌戻又ハ壌渡ヲ惹起セス其所有者ハ回復ノ権利ヲ失ハス
第五百十四条 連帯債権者ノ一人ノ為シタル債務又ハ連帯ノミノ免除ハ単ニ其一人ノ部分ニ付キ之ヲ以テ他ノ債権者ニ対抗スルコトヲ得
債務カ性質ニ因ル不可分ナルトキハ債権者ノ一人ノ為シタル免除ハ他ノ債権者ヲ害スルコトヲ得ス他ノ債権者ハ第四百四十四条及ヒ第五百五条ノ規定ニ従ヒテ全債権ヲ行フ
第五百十五条 債権者カ債務者ノ義務ヲ記載シタル本証書ヲ任意ニテ債務者ニ交付シタルトキハ其証書ニ免除ノ旨ヲ附記セスト雖モ債権者ハ債務ノ免除ヲ為シタリトノ推定ヲ受ク但債権者ノ反対ノ意思ヲ証スルノ権利ヲ妨ケス
公正証書ノ正本又ハ判決書ノ正本ノ任意ノ交付ハ其書類ニ執行式ヲ具備スルモ債務ノ免除ヲ推定セシムルニ足ラス但裁判所カ事情ニ従ヒテ其免除ヲ推測スルコトヲ妨ケス
債務者カ右ノ書類ヲ所持スルトキハ反対ノ証拠アルマテハ債権者ヨリ任意ノ交付アリタリトノ推定ヲ受ク
第五百十六条 債権者カ証書ノ全文又ハ債務者ノ署名其他緊要ナル部分ヲ有意ニテ毀滅シ扯破シ又ハ抹消シタルトキハ前条ノ区別ニ従ヒテ任意ノ交付ニ準シ債務ノ免除アリタリト推定ス
右毀滅、扯破又ハ抹消ハ其当時証書カ債権者ノ占有ニ係リシトキハ反対ノ証拠アルマテ債権者ノ所為又ハ其承諾ニ出テタリトノ推定ヲ受ク
第五百十七条 債務ノ免除ハ明示ナルト黙示ナルト又直接ニ証スルト法律上推定スルトヲ問ハス反対ノ証拠アルマテ有償ニテ之ヲ為シタリトノ推定ヲ受ク
然レトモ授受スルノ相対ノ能力ナキ者ノ間ニ於ケル免除ハ有償ニテ之ヲ為シタリトノ直接ノ証拠ヲ挙クルコトヲ要ス
第四節 相殺
第五百十八条 二人互ニ債権者タリ債務者タルトキハ下ノ条件及ヒ区別ニ従ヒテ法律上、任意上又ハ裁判上ノ相殺カ成立ス
相殺ハ二箇ノ債務ヲシテ其寡少ナル債務ノ数額ニ満ツルマテ消滅セシム
第五百十九条 二箇ノ債務カ主タルモノ互ニ代替スルヲ得ヘキモノ明確ナルモノ及ヒ要求スルヲ得ヘキモノニシテ且法律ノ規定又ハ当事者ノ明示若クハ黙示ノ意思ヲ以テ其相殺ヲ禁セサルトキハ当事者ノ不知ニテモ法律上ノ相殺ハ当然行ハル
第五百二十条 主タル債務者ハ自己ノ債務ト債権者カ保証人ニ対シテ負担スル債務トノ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス然レトモ訴追ヲ受ケタル保証人ハ債権者カ主タル債務者又ハ自己ニ対シテ負担スル債務ノ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得
連帯債務者ハ債権者カ其連帯債務者ノ他ノ一人ニ対シ負担スル債務ニ関シテハ其一人ノ債務ノ部分ニ付テニ非サレハ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス然レトモ自己ノ権ニ基キ相殺ヲ以テ対抗ス可キトキハ全部ニ付キ之ヲ申立ツルコトヲ得
数人ノ連帯債権者アルトキ債務者ハ債権者ノ一人カ自己ニ対シテ負担スル債務ノ相殺ヲ以テ訴追者ニ対抗スルコトヲ得
債務カ債務者ノ間又ハ債権者ノ間ニ於テ任意不可分ナルトキハ相殺ハ受方又ハ働方ノ連帯ニ於ケルト同一ノ方法ニ従フ又性質ニ因ル不可分ノ債務ナルトキハ第四百四十四条ノ規定ニ従フ
第五百二十一条 当事者ノ一方カ他ノ一方ニ対シ地方市場ノ相場アル日用品ノ定期ノ供与ヲ負担シタルトキハ其供与ハ他ノ一方ノ負担スル金銭ト相殺スルコトヲ得
第五百二十二条 債務ノ成立、其目的物ノ性質及ヒ分量カ確実ナルトキハ其債務ハ善意ニテ争ハルヽトキト雖モ之ヲ明確ナリトス
第五百二十三条 裁判所ノ許与シタル恩恵上ノ期間ハ相殺ノ妨ヲ為サス債務者ノ要求ニ因リ無償ニテ債権者ノ許与シタル期間ニ付テモ亦同シ
二箇ノ債務ノ一カ解除条件附ナルトキト雖モ相殺ハ行ハル但其条件ノ成就シタルトキハ相殺モ亦解除ス
第五百二十四条 二箇ノ債務カ同一ノ場所ニ於テ又ハ同一ノ貨幣ヲ以テ弁済ス可キモノニ非サルトキト雖モ尚ホ相殺ハ行ハル但第一ノ場合ニ於テハ運送費又ハ為替料ヲ計算シ第二ノ場合ニ於テハ両替賃ヲ計算スルコトヲ要ス
第五百二十五条 左ノ場合ニ於テハ法律上ノ相殺ハ行ハレス
第一 債務ノ一カ他人ノ財産ヲ不正ニ取リタルヲ原因ト為ストキ
第二 消費ヲ許セル寄託物ノ返還ニ関スルトキ
第三 債権ノ一カ差押フルコトヲ得サル有価物ヲ目的トスルトキ
第四 当事者ノ一方カ予メ相殺ノ利益ヲ放棄シタルトキ又ハ債権者ト為ルニ当リ期望シタル目的カ相殺ノ為メ達スルコトヲ得サルトキ
第五百二十六条 債権ノ譲受人カ其譲受ヲ債務者ニ告知シタルノミニテハ債務者ハ譲渡人ニ対シテ従来有セル法律上ノ相殺ヲ以テ譲受人ニ対抗スルノ権利ヲ失ハス
債務者カ譲渡人ニ対シテ既ニ得タル法律上ノ相殺ノ権利ヲ留保セスシテ譲渡ヲ受諾シタルトキハ債務者ハ譲受人ニ対シテ其権利ヲ申立ツルコトヲ得ス
右二箇ノ場合ニ於テ債務者カ相殺ヲ申立ツルコトヲ得サリシ金額又ハ有価物ヲ譲渡人ヲシテ自己ニ償還セシムルノ権利ヲ妨ケス
第五百二十七条 払渡差押ヲ受ケタル債務者ハ自己ノ債権者ニ対シテ差押後ニ取得シタル債権ノ相殺ヲ以テ差押人ニ対抗スルコトヲ得ス
又従来有セル相殺ノ原因ニ付テモ払渡差押ヲ受ケタル債務者ハ民事訴訟法ニ掲ケタル方式及ヒ期間ニ従ヒテ其原因ヲ述ヘタルニ非サレハ之ヲ以テ差押人ニ対抗スルコトヲ得ス
右孰レノ場合ニ於テモ払渡差押ヲ受ケタル債務者ハ差押ノ金額又ハ有価物ニ付キ自己ノ債権ノ弁済ヲ得ル為メ差押人ト共ニ配当ニ加入スルノ権利ヲ有ス
第五百二十八条 相殺ニ因リテ既ニ消滅シタル債務ヲ弁済シタル者ハ不当利得ノ取戻訴権ノミヲ行フコトヲ得但次条ニ記載スル場合ハ此限ニ在ラス
第五百二十九条 前三条ニ掲ケタル場合ニ於テ相殺ニ因リ既ニ消滅シタル債務ヲ譲受人若クハ差押人ノ利益ノ為メ追認シ又ハ自己ノ債権者ニ弁済シタル者ハ自己ノ旧債権ヲ担保シタル保証、先取特権若クハ抵当ヲ利唱スルコトヲ得ス但既ニ行ハレタル相殺ヲ知ラサル正当ノ原因アリシコトヲ証スルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ旧債権ハ其資格ヲ以テ担保ト共ニ復旧ス
第五百三十条 任意上ノ相殺ハ法律カ法律上ノ相殺ヲ許サヽル為メ利益ヲ受クル一方ノ当事者ヨリ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得又各利害関係人ノ承諾アルトキ総テノ場合ニ於テハ相殺ハ之ヲ合意上ノモノトス
任意上ノ相殺ハ既往ニ遡ルノ効ヲ有セス
第五百三十一条 裁判上ノ相殺ハ被告カ原告ニ対シテ自己ノ利益ノ為メ債権ヲ追認セシメ又ハ清算セシムルヲ主旨トスル反訴ノ方法ニ依リテ之ヲ求ムルコトヲ得
此場合ニ於テ裁判所ハ或ハ先ツ主タル訴ヲ裁判シ或ハ二箇ノ訴ヲ併セテ裁判スルコトヲ得
裁判上ノ相殺ハ之ヲ以テ対抗シタル日ニ遡リテ効ヲ有ス
第五百三十二条 当事者ノ一方カ他ノ一方ニ対シテ法律上又ハ裁判上ノ相殺ニ服スル数箇ノ債務ヲ有スルトキハ其債務ヲ相殺スルノ順序ハ第四百七十一条ニ掲ケタル弁済ノ法律上ノ充当ノ規定ニ従フ
任意上又ハ合意上ノ相殺ノ充当ハ第四百六十九条及ヒ第四百七十条ノ規定又ハ当事者ノ協議ニ従フ
第五節 混同
第五百三十三条 一箇ノ義務ノ債権者タリ及ヒ債務者タルノ分限カ相続其他ノ名義ニテ一人ニ併合シタルトキハ義務ハ混同ニ因リテ消滅ス
右ノ混同カ其以前ノ適法ノ原因ニ由リテ解除、銷除又ハ廃罷ヲ受ケタルトキハ義務ハ之ヲ消滅セサリシモノト看做ス
第五百三十四条 債権者カ連帯債務者ノ一人ニ相続シ又ハ連帯債務者ノ一人カ債権者ニ相続シタルトキハ連帯債務ハ其一人ノ部分ニ付テノミ消滅ス
混同カ連帯債権者ノ一人ト債務者トノ間ニ行ハレタルトキモ亦其混同ハ債務ノ一分ニ付テノミ成ル
第五百三十五条 義務カ性質ニ因ル不可分ナルトキハ債権者ノ一人ト債務者ノ一人トノ間ノ混同ハ他ノ者ニ関シテ其義務ヲ全存セシム然レトモ其混同ヲ得タル者ハ第四百四十四条ニ従ヒテ一分ノ償金ヲ供シ又ハ受取ルニ非サレハ全部ニ付キ訴追スルコトヲ得ス又ハ訴追セラルヽコト無シ
第五百三十六条 二人ノ連帯債権者又ハ二人ノ連帯債務者ノ分限カ一人ニ併合シタルトキハ権利又ハ義務ノ消滅ナシ其身ニ就キ併合ノ成リタル者ハ或ハ自己ノ名或ハ己レカ相続シタル者ノ名ニテ全部ニ付キ訴追スルコトヲ得又ハ訴追セラルヽコト有リ
働方又ハ受方ニテ不可分ナル義務ニ付テモ亦同シ
第五百三十七条 保証人カ債権者ニ相続シ又ハ債権者カ保証人ニ相続シタルトキハ保証ハ其附従ノモノト共ニ消滅ス
債務者カ保証人ニ相続シ又ハ保証人カ債務者ニ相続シタルトキハ債権者ハ主タル債務者、共同保証人若クハ保証人ノ担保人ニ対シ及ヒ保証ニ附着シタル質若クハ抵当ニ付キ其権利ニ変更ヲ受クルコト無シ
第六節 履行ノ不能
第五百三十八条 義務カ特定物ノ引渡ヲ目的トシタル場合ニ於テ其目的物カ債務者ノ過失ナク且付遅滞前ニ滅失シ紛失シ又ハ不融通物ト為リタルトキハ其義務ハ履行ノ不能ニ因リテ消滅ス若シ義務カ定マリタル物ノ中ノ数箇ヲ目的トシタル場合ニ於テ其一箇ヲモ引渡スコト能ハサルトキハ亦同シ
作為又ハ不作為ノ義務ハ其履行カ右ト同一ノ条件ヲ以テ不能ト為リタルトキハ消滅ス
第五百三十九条 債務者カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ル危険及ヒ災害ヲ担任シ若クハ第三百三十五条及ヒ第三百八十三条ニ従ヒテ遅滞ニ付セラレタルトキハ其債務者ハ前条ノ原因ニ由ルモ其義務ヲ免カレス
第五百四十条 債務者ハ自己ノ申立ツル意外ノ事又ハ不可抗力ヲ証スルノ責ニ任ス
債務者カ第三百三十四条第二項ニ依リテ其義務ヲ免カル為メ縦令其物カ債権者ノ方ニ在ルモ亦滅失ス可カリシコトヲ申立ツルトキハ其証拠ヲ挙クルコトヲ要ス
第五百四十一条 債務者カ履行ノ不能ニ因リテ義務ヲ免カレタルトキハ其債務者ハ己レノ受取ル可キ対価ニ付テハ其履行ノ為メ既ニ出捐シタル限度ニ於テノミ権利ヲ有ス
第五百四十二条 物ノ全部又ハ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ其滅失ヨリ第三者ニ対シテ或ル補償訴権ノ生スルトキハ債権者ハ残余ノ物ヲ要求シ且此訴権ヲ行フコトヲ得
第七節 銷除
第五百四十三条 無能力者又ハ錯誤ニ因リテ承諾ヲ与ヘタル人又ハ強暴若クハ詐欺ニ因リテ承諾ヲ獲ラレタル人ノ約シタル義務ハ五个年ノ間ハ或ハ其人又ハ其代人ノ請求ニ因リ或ハ履行ノ訴ニ対シ此等ノ者ヨリ為シタル抗弁ニ因リテ裁判上之ヲ銷除スルコトヲ得
第五百四十四条 右時効ノ期間ハ強暴ニ付テハ其強暴ノ止ムマテ錯誤ニ付テハ其錯誤ヲ覚知スルマテ詐欺ニ付テハ其詐欺ヲ発見スルマテ無能力ニ付テハ其無能力ノ止ムマテ之ヲ停止ス
然レトモ瘋癲者又ハ喪心ニ因ル禁治産者ノ合意ニ付テハ右時効ハ其者カ能力ヲ復シタル後其承諾シタル行為ノ要旨ノ通知ヲ受ケ又ハ其行為ヲ了知シタル時ヨリ進行ス
治産ヲ禁セラレタル処刑人ニ付テハ銷除ノ訴権及ヒ抗弁ハ自他ノ為メ其刑期満了後ニ非サレハ時効ニ罹ラス
此他免責時効ノ停止及ヒ中断ノ通常ノ原因ニ関スル規定ハ右時効ニ之ヲ適用ス
第五百四十五条 銷除訴権ヲ有セル人カ前条ノ期間ノ満了前ニ死亡シタルトキハ訴権ハ其相続人ニ移転ス
右ノ場合ニ於テ期間カ死亡者ニ対シテ未タ進行ヲ始メサリシトキハ相続人ノ訴権ハ其相続権ノ発開ノ時ヨリ時効ニ罹リ既ニ進行ヲ始メタルトキハ其残期ヲ以テ時効ニ罹ル但証拠編第百二十九条ニ記載セル停止ハ此限ニ在ラス
第五百四十六条 未成年者又ハ禁治産者ノ財産ニ関シ後見人ノ為シタル合意及ヒ行為ハ無能力者ノ利益ノ為メ法律ノ定メタル方式及ヒ条件ヲ遵守セサリシトキハ之ヲ銷除スルコトヲ得
未成年者ノ行為ニ付テハ之ニ要スル方式ナキトキ浪費者ノ行為ニ付テハ裁判上ノ輔佐人ノ輔佐ナキトキ及ヒ禁治産者ノ行為ニ付テハ何等ノ場合ヲ問ハス亦其行為ヲ銷除スルコトヲ得
右規定ハ有能力者ノ為メニ許与セル銷除ノ訴権ヲ妨ケス
第五百四十七条 未成年者一人ニテ特別ナル方式又ハ条件ノ必要ナキ合意又ハ行為ヲ承諾シタルトキハ銷除訴権ハ其未成年者ノ為メ欠損アルトキニ非サレハ之ヲ受理セス
法律カ保管人ノ輔佐ノミヲ要シタルトキ其輔佐ナクシテ自治ノ未成年者ノ為シタル右ト同一ナル性質ノ行為ニ対シテモ亦欠損ニ因ルニ非サレハ銷除訴権ヲ行フコトヲ得ス
欠損ハ行為ノ時ニ於テ之ヲ見積リ其偶然ノ事件ヨリ生スルモノハ之ヲ算入セス
第五百四十八条 未成年者カ成年ナリト陳述シタルノミニシテ成年タルコトヲ信セシムル為メ自ラ詐術ヲ用井サルトキハ其無能力又ハ欠損ニ因ル銷除訴権ヲ妨ケス
此他ノ無能力者ノ虚偽ノ陳述ニ付テモ亦同シ
第五百四十九条 商業又ハ工業ヲ営ムノ許可ヲ得タル自治ノ未成年者ハ其営業ニ関スル行為ニ付テハ之ヲ成年者ト看做ス
然レトモ其未成年者ハ普通法ニ従フニ非サレハ不動産ヲ壌渡スコトヲ得ス
第五百五十条 婦ノ行為ハ配偶者ノ相互ノ権利及ヒ本分ニ関シ法律ニ定メタル場合ニ非サレハ婦又ハ夫ノ請求ニ因リテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
第五百五十一条 承諾ノ瑕疵ニ因リテ行為ノ銷除ヲ得タル成年者ハ其行為ニ因リテ既ニ受取リタル総テノ物ヲ返還スルノ責ニ任ス
無能力者ハ銷除ヲ得タル行為ニ因リテ仍ホ現ニ己レヲ利スル物ノミヲ返還スルノ責ニ任ス
右返還ヲ要求スル訴権ハ通常ノ時効ニ因ルニ非サレハ消滅セス
第五百五十二条 不動産ノ譲渡カ無能力、錯誤又ハ強暴ノ瑕疵ニ因ル銷除ニ服スルトキハ第三百五十一条及ヒ第三百五十二条ノ区別及ヒ条件ニ従ヒ第三取得者ニ対シテ其銷除ヲ為スコトヲ得
第五百五十三条 銷除訴権ハ第五百四十三条乃至第五百四十五条ニ定メタル時効ニ因リテ消滅スルノ外第五百四十四条ニ従ヒテ時効ノ進行ヲ始メタル後利害関係人カ銷除スルコトヲ得ヘキ合意ヲ明示又ハ黙示ニテ認諾シタルトキハ之ヲ行フコトヲ得ス
第五百五十四条 明示ノ認諾ハ銷除スルコトヲ得ヘキ合意ノ要旨及ヒ其銷除ノ原因ヲ記シ且銷除訴権ノ放棄ヲ述ヘタル明白ナル証書ニ因リテ成ル
銷除ノ数箇ノ原因アルトキハ明示ノ認諾ハ特ニ証書ニ記シタル原因ニ付テノミ其効ヲ生ス
第五百五十五条 黙示ノ認諾ハ左ノ行為ニ因リテ成ル
第一 合意ノ全部若クハ一分ノ任意ノ履行
第二 異議ナキ又ハ異議ノ留保ナキ強制ノ執行
第三 更改
第四 物上又ハ対人ノ担保ノ任意ノ供与
黙示ノ認諾ハ債権者ニ在テハ銷除スルコトヲ得ヘキ合意ノ履行ノ請求ニ因リ又ハ其合意ヲ以テ取得シタル物ノ全部若クハ一分ノ任意譲渡ニ因リテ成ル
第五百五十六条 認諾ハ銷除訴権ヲ有スル者ノ特定ノ承継人ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス
第五百五十七条 初ヨリ無効ナル行為ハ之ヲ認諾スルコトヲ得ス但第五百六十四条ニ掲ケタル規定ヲ妨ケス
第五百五十八条 算数、氏名、日附又ハ場所ノ錯誤ノ改正ヲ目的トスル訴権ハ時効ニ罹ルコト無シ但此訴権ノ附属スル主タル権利ノ時効ヲ妨ケス
第八節 廃罷
第五百五十九条 債権者ヲ詐害シテ約シタル義務ノ廃罷及ヒ廃罷訴権ノ時効ハ第三百三十九条乃至第三百四十三条ノ規定ニ従フ
贈与者及ヒ其相続人ノ利益ノ為メニ設ケタル特別ノ廃罷ハ贈与ニ関スル規定ニ従フ
第九節 解除
第五百六十条 義務ハ第四百八条、第四百二十条及ヒ第四百二十一条ニ従ヒ明示ニテ要約シタル解除又ハ裁判上得タル解除ニ因リテ消滅ス
裁判上請求ス可キ解除訴権ハ通常ノ時効期間ニ従フ但法律ヲ以テ其期間ヲ短縮シタル場合ハ此限ニ在ラス
第四章 自然義務
第五百六十一条 自然義務ノ履行ハ訴ノ方法ニ依リテモ相殺ノ抗弁ニ依リテモ之ヲ要求スルコトヲ得ス其履行ハ債務者ノ任意ナルコトヲ要シ之ヲ其良心ニ委ス
第五百六十二条 債務者ノ任意ノ弁済ハ不当ノ弁済ナリトシテ之ヲ取戻スコトヲ得ス
自然義務ヲ弁済シタル意思ノ証拠カ事情ヨリ生スルニ於テハ弁済ノ原因ヲ明示スルコトヲ要セス
第五百六十三条 自然義務ハ追認、更改又ハ質若クハ抵当ノ供与ノ目的タルコトヲ得
右諸種ノ場合ニ於テ自然義務ハ通常ノ法定ノ効力ヲ生ス
第五百六十四条 自然義務ハ法定ノ承諾ヲ阻却スル錯誤ノ為メ目的ノ指定ノ欠缺若クハ不足ノ為メ又ハ必要ナル公式ノ欠缺ノ為メ初ヨリ無効ナル合意ニ因リテ生スルコトヲ得
然レトモ方式ノ欠缺ノ為メ無効ナル贈与ニ関シテハ贈与者自ラ自然義務ノ履行又ハ追認ヲ為スコトヲ得ス其相続人又ハ承継人ノミ之ヲ為スコトヲ得
前項ノ規定ハ方式上無効ナル遺言ヲ為セル者ノ相続人ニ之ヲ適用ス
第五百六十五条 原因ノ欠缺又ハ不法ノ原因ノ為メ無効ナル合意ハ自然義務ヲ生スルコトヲ得ス公ノ秩序ノ為メ合意ノ目的トスルコトヲ禁シタル物ヲ目的ト為ス合意ニ付テモ亦同シ
第五百六十六条 第三者ノ所為ノ諾約及ヒ第三者ノ利益ニ於ケル要約ニ関シ第三百二十一条及ヒ第三百二十二条ニ定メタル無効ハ諾約者ノ自然義務ノ生スルコトヲ妨ケス
第五百六十七条 債務者カ不当ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ規定ニ因リテ法定義務ヲ負担スルコト有ル可キ場合ノ外債務者ハ此名義ニテ自然義務ヲ負担シタリト有効ニ自ラ追認スルコトヲ得
第五百六十八条 自然義務ハ法定義務ノ銷除、廃罷又ハ解除カ裁判上ニテ宣告セラレタル後ト雖モ存立スルコトヲ得
法定義務カ此他ノ消滅方法ニ因リテ消滅シタル後ニ於テモ亦同シ
第五百六十九条 免責又ハ取得ノ時効ノ利益ヲ援用シタル者既判力ノ利益ヲ受クル者又ハ其他ノ推定若クハ証拠ヲ申立ツルコトヲ得ヘキ者ハ尚ホ自然義務ヲ負担シタリト自ラ追認スルコトヲ得
第五百七十条 自然債権ノ法定ノ譲渡ハ協諧契約ヲ以テ破産者ニ免除シタル金額ニ付キ其債権者ノ之ヲ為シタル場合ノミ有効ナリ
第五百七十一条 当事者ハ自然義務ノ任意ノ履行又ハ認定アラサル前ト雖モ仲裁契約ヲ以テ其自然義務ノ成立又ハ広狭ヲ仲裁人ノ決定ニ委ヌルコトヲ得此場合ニ於テハ自然義務ヲ宣言シタル其決定ハ法定ノ義務ヲ生ス