民法再調査案 第五編
参考原資料
法律取調委員会の議事筆記から抽出して作成した.
第五編 証拠時効編
第一部 証拠
総則
第千三百十四条 有的又ハ無的ノ事実ヨリ利益ヲ得ンカ為メ裁判上ニテ之ヲ主張スル者ハ此事実ヲ証シ即チ其真正ナルヲ表明スルコトヲ要ス
相手方ハ亦自己ニ対シテ証セラレタル事実ニ対抗スル反言ヲ疏明シ或ハ此事実ノ効力ヲ滅却セシムル事実トシテ主張スルモノヲ証スルコトヲ要ス
第千三百十五条 自己ノ主張ノ全部又ハ一分ヲ法律ニ従ヒテ疏明セス又判事カ証拠ヲ査定スルノ権ノ自由ナル場合ニ於テ判事ニ此主張ノ心証ヲ起サシメサリシ原告若クハ被告ハ其疏明セサリシ点ニ付キ請求又ハ抗弁ニ於テ敗訴ス
第千三百十六条 当事者ノ一方ハ或ル事実ノ証拠カ将来己レノ為メニ利益アルトキハ其利益ト証拠喪失ノ危険トヲ疏明シテ未タ訴訟手続ノ始マラサル前其事実ノ証ヲ立ツルコトヲ裁判上主トシテ請求スルコトヲ得
第千三百十七条 下ニ定メタル規則ハ物権、人権及ヒ人ノ身分ニ関スル証拠ニ共通ノモノトス但特別ノ規定ヲ妨ケス
右ノ規則ハ証拠ノ事項ニ関シテ前三編ニ記載シタル特別ナル条例ノ妨ケト為ラス
右ノ規則ハ人ノ身分ノ問題ニモ之ヲ適用但特ニ第一編ニ定メタルモノハ此限ニ在ラス
第千三百十八条 証拠ハ左ノ諸件ヨリ成ル
第一 裁判所自己ノ考覈
第二 直接証拠
第三 間接証拠
第一章 判事自己ノ考覈
第千三百十九条 判事ハ左ノ諸件ニ依リ主張セラレタル事実ノ確実ヲ得タルトキハ自己ノ考覈ニ依リテ争ヲ決スルコトヲ得
第一 当事者又ハ其代人ノ申述ノ聴取係争物並ニ証書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釈
第二 臨検
第三 鑑定
第一節 当事者申述ノ聴取係争物並ニ証書外ノ書類ノ調査及ヒ法律ノ解釈
第千三百二十条 当事者ノ自白アル場合ノ外当事者又ハ其代人ノ申述及ヒ説明ヨリ請求ノ証明セラレサル事又ハ請求ノ尚ホ早キコトノ顕ハルヽニ於テハ裁判所ハ其請求ヲ棄却シ又ハ其裁判ヲ為スコトヲ中止ス右裁判所ノ心証カ係争物及ヒ訴訟書類ノ調査ヨリ生スルトキモ亦同シ
第千三百二十一条 争カ受ケタル損害若クハ失ヒタル利益ニ付キ又ハ争ハレサル原因ノ為メニ供給ス可キ其他ノ価額ニ付キ為ス可キ評価ノミニ存スル場合ニ於テ裁判所カ当事者又ハ其代人ノ陳述ヲ聴キテ右ノ評価ニ必要ナル元素ヲ得タルトキハ自ラ其評価ヲ為スコトヲ得
第千三百二十二条 若シ争ハレサル事実ニ関シ法律ノ点ノミニ争ノ存スルトキハ裁判所ハ当事者又ハ其代弁人ノ陳述ヲ聴キタル後其精神ト其明文トニ因リ解釈シ且公正ト条理トノ普通原則ニ因リテ完補スヘキトキハ之ヲ以テ完補シタル法律ノ条例トニ基キ自己ノ心証ヲ取ル
第二節 場所ノ臨検
第千三百二十三条 所有地ノ境界、地役、占有、財産ノ損害不動産ニ於ケル工事ノ執行ニ関スル争其他右ニ類似ノ争ニ付テハ勿論裁判所ニ移送スルコトヲ得サル動産ノ景状ヲ証明スルニ関スルトキト雖モ若シ判事カ陳述セラレタル事実ヲ直接ニ且自ラ知ルコトヲ以テ訴訟事件ヲ明カナラシムルニ必要又ハ有益ナリト思考スルトキハ或ハ職権ヲ以テ或ハ当事者一方ノ請求ニ因リテ此カ為メ係争物又ハ争ノ決定元素ノ存在スル場所ニ臨検スルコトヲ得
若シ裁判所カ数名ノ判事ヨリ構成セラルルトキハ裁判所ハ其中一人ヲ右臨検ノ為メ委員判事ニ選任シ且臨検ノ報告ヲ為サシム
第千三百二十四条 当事者ハ判事ノ臨検ニ当リ其判事ノ定メタル日時ニ於テ其定メタル場所ニ自身ニテ出頭シ又ハ其代理人ヲ出頭セシムルノ催告ヲ予メ受ク可シ然レトモ其出頭セサル事ハ臨検ノ有効ヲ妨ケス
第千三百二十五条 判事ハ場所ノ臨検ノ為メ争ノ性質ニ従ヒテ適当ノ鑑定人ヲ己レニ添ユルコトヲ得
臨検ヲ命シタル判決ヲ以テ鑑定人ヲ選任シタルトキハ次節ニ定メタル鑑定ノ規則ヲ遵守ス可シ
若シ鑑定人ガ物ノ調査ニ於テ判事ヲ輔佐スル為メ臨検ノ当時ニ於テ召喚セラレタルトキハ其鑑定人ハ宣誓ヲ為サス又裁判所ニ報告ヲ為サヽルモノトス然レトモ其出頭ト其意見ハ判事ノ報告中ニ之ヲ記載ス
第三節 鑑定
第千三百二十六条 法律ニ於テ裁判所カ鑑定ニ依ル可キ旨ヲ定メタル場合ノ外争ノ判決ニ付キ特別ノ知識ヲ要スル時ハ裁判所ハ何時ニテモ或ハ職権ヲ以テ或ハ当事者一方ノ請求ニ因リテ自己ノ経験ヲ助ケシムル為メ鑑定人ノ報告ヲ為ス可キ旨ヲ命スルコトヲ得
鑑定ヲ命スル判決ニハ其鑑定ヲ為ス可キ事実ヲ定ム
第千三百二十七条 其判決ニ於テハ争ノ軽重又ハ難易ニ従ヒテ一人又ハ三人ノ鑑定人ヲ選任ス
然レトモ当事者ハ裁判所ヨリ自己ノ権利ノ告知ヲ受ケタル後協議ノ上自ラ一人又ハ三人ノ鑑定人ヲ選任スルコトヲ得
若シ当事者カ各一人ノ鑑定人ヲ選任スルコトノミヲ協議シタルトキハ裁判所ヨリ第三ノ鑑定人ヲ選任ス
第千三百二十八条 何人ニテモ日本臣民ニシテ且国士権ヲ行使スルノ権利ヲ有スル者ニ非サレハ鑑定人ニ選任セラルヽコトヲ得ス
然レトモ若シ争ノ判決カ外国ノ書類又ハ産物ノ調査ヲ要スルトキ其地ニ於テ必要ノ能力ヲ有スル日本臣民ヲ発見スルコトヲ能ハサルニ於テハ裁判所ハ此事ニ付キ当事者ノ申立ヲ聞キタル後判決中ニ右不能ノ旨及ヒ当事者ノ申立ヲ聴キタル旨ヲ証記シテ一人又ハ数人ノ外国鑑定人ヲ選任スルコトヲ得
第千三百二十九条 鑑定人ハ民事訴訟法ニ定メタル方式ニ従ヒ「謹慎且誠実ニ其委任ヲ履行ス可シ」トノ宣誓ヲ為ス
宣誓ハ鑑定ヲ命シタル裁判所又ハ鑑定ヲ為ス可キ裁判所ニ於テ之ヲ為スモノトス
第千三百三十条 鑑定ハ当事者ヲ立会ハシメ又ハ合式ニ之ヲ召喚シタル上ニテ之ヲ為ス
鑑定人忌避ノ原由及ヒ鑑定人ノ報告書ヲ録製シテ之ヲ裁判所ニ差出スノ方式ハ民事訴訟法ニ之ヲ規定ス
第千三百三十一条 裁判所ハ鑑定人総員一致ノ説ト雖モ之ニ従フノ義務ナシ
又裁判所ハ再度ノ鑑定ヲ命スルコトヲ得但其再度ノ鑑定ニ付キ更ラニ鑑定人ヲ選任スルノ必要アリト思量スルトキハ之ヲ命スヘシ
総テノ場合ニ於テ裁判所ハ訴訟本案ノ判決文中ニ鑑定人ノ報告ヲ取調ヘタル旨ヲ附記スルコトヲ要ス
第二章 直接証拠
第千三百三十二条 左ノ諸件ニ於テハ人ノ証言ヨリ生スル直接ノ証拠アリトス
第一 私書
第二 裁判上ノ自白
第三 宣誓
第四 公正証書
第五 証人ノ陳述
第一節 私書
第千三百三十三条 私書ノ証拠力ニハ其私書ノ対抗ヲ受クル当事者ノ之レニ署名シ又ハ捺印シタルト否トニ従ヒテ軽重アリ
第一款 私署証書
第千三百三十四条 私書証書ハ之ヲ以テ対抗セラルヽ者ニ不利ナル事実ノ陳述又ハ追認ヲ記載シ且其署名及ヒ印章又ハ其一アルハ署名捺印者ノ裁判外ノ自白即チ証言ヲ成スモノトス
右同一ノ条件ヲ有スル書状ハ私署証書ト同一ノ証拠力ヲ有ス
第千三百三十五条 自己ノ利益ニ於テ私署証書ヲ有スル者ハ争ノ生スル前ト雖モ其署名者ナリト主張シ又ハ思考スル者ニ対シテ手跡ヘ署名及ヒ印章ノ追認ヲ請求スルコトヲ得
署名者ナリト主張セラレタル者ハ或ハ合併シテ或ハ各別ニ其手跡署名又ハ印章ノ真正ナルコトヲ明確ニ追認シ又ハ否認スルコトヲ得ルノミ
裁判所ヨリ本条ノ規定ノ口諭ヲ受ケタル者否認ヲ為サヽルトキハ裁判所ハ其否認セサルモノニ付テハ之ヲ追認シタリト認定スルコトヲ得
第千三百三十六条 印章ニ関シテハ其印章ヲ提示セラレタル者ハ其印章ノ自己ノ印章ニ相違ナキコトヲ追認スルモ押捺ハ自身又ハ自己ノ許諾ニテ之ヲ為シタルコトヲ否認スルヲ得但総テノ方法ヲ以テ其証拠ヲ供スルコトヲ要ス
其追認証書ヲ与フル前ニ右ノ異議ヲ留メサリシトキハ其後ニ至リ右ノ抗弁ヲ利唱スルコトヲ得ス
又其署名又ハ印章ヲ追認シタルトキハ其署名又ハ印章ノ得ラレン手段タル強暴錯誤又ハ詐欺ヲ最早主張スルコトヲ得ス但強暴カ既ニ止ミ又ハ錯誤若クハ詐欺ヲ既ニ発見シ且此事ニ付キ何等ノ異議ヲモ留メサリシトキニ限ル
異議ヲ留メタルトキハ追認証書ニ之ヲ記ス可シ
第千三百三十七条 署名者ナリト主張セラレタル者ノ相続人ヘ承継人又ハ代人ニ対シテ追認ノ請求アリタルトキハ被告ハ或ハ自己ノ代表スル者ノ署名若クハ印章ヲ知ラサル旨或ハ其使用ノ不確実ナル旨ヲ陳述スルニ止マルコトヲ得
右ノ相続人承継人又ハ代人ハ印章ノ不正当ナル押捺又ハ承諾ノ瑕疵ヨリ生スル無効ノ方法ヲ利唱スルノ権利ヲ失ハス但此事ニ関シ異議ヲ留ムルコトヲ怠リタルトキト雖モ又同シ
第千三百三十八条 被告ハ異議ヲ留メスシテ署名又ハ印章ヲ追認シタト雖モ後ニ捺印白紙ノ濫用又ハ署名若クハ印章ノ偽造アリタルコトヲ証スルノ権利ヲ失ハス
然レトモ捺印白紙ノ濫用ニ付キ異議ヲ留メスシテ追認アリタルトキハ之ヲ知リ其証書ニ依リ善意ニテ約定シタル第三者ニ証書無効ノ方法トシテ此濫用ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第千三百三十九条 一人又ハ数人ノ証人カ私署証書ニ加署シ又ハ加印シタルトキ其証人ヲ手跡験真ニ召喚スルヲ得ルニ於テハ之ヲ召喚ス可シ
第千三百四十条 手跡印章又ハ署名ノ験真ノ請求ニ関スル方式並ニ期間及ヒ被告又ハ其代人ノ出席セサルニ因リ是等ノ者ニ於テ印章又ハ署名ヲ追認シタリト為スコトヲ得ヘキ場合ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ定ム
署名者ナリト主張セラレタル者ノ明確ニ否認シ又ハ其相続人若クハ承継人ノ追認ヲ為サヽル場合ニ於ケル手跡験真手続ノ規則ニ付テモ亦同シ
第千三百四十一条 双務契約ヲ証記スル私署証書ハ反対ノ利益ヲ有スル主タル当事者ノ員数ニ応スル正本ヲ作リ且之ニ署名又ハ捺印スルコトヲ要ス
又各正本ニハ其作リタル正本ノ数ヲ附記スルコトヲ要ス
然レトモ当事者ハ一通ノミノ証書ヲ作ルコトヲ得但其証書中指定シタル第三者ノ方ニ之ヲ寄託スルコトヲ合意シタルトキニ限ル
右ノ場合ニ於テ第三者ハ各当事者ノ求メニ応シテ其証書ヲ示サヽル可カラス但総当事者ノ承諾ナクシテ之ヲ交付スルコトヲ得ス
第千三百四十二条 正本数通ノ証書ノ録製及ヒ其数ノ附記又ハ此ニ代ハル証書ノ寄託ハ当事者カ合意ノ組成ヲ繋ラシメタル条件ト看做ス
然レトモ前条ニ従ヒテ証書ノ録製アラサリシ契約ノ全部又ハ一分ヲ履行シタル当事者ハ最早条件ノ不履行ヲ利唱スルコトヲ得ス
第千三百四十三条 片務契約ヲ明定スル私署証書ニ金銭其他ノ定量物ヲ与ヘ弁済シ又ハ返還スルノ諾約ヲ包有スル場合ニ於テ債務者又ハ其代人カ証書ノ本文ヲ録製セサルトキハ債務者ハ其署名若クハ捺印ノ外ニ自筆ニテ金額若クハ数量ヲ記載シ又ハ金額若クハ数量ノ文字ニ捺印スルコトヲ要ス
然レトモ二名ノ証人ノ加署又ハ加印ヲ以テ右ノ認済又ハ認諾ニ代フルコトヲ得
若シ連帯ナルト否トヲ問ハス数人ノ債務者アルトキハ其中ノ一人右ノ方式ニ従フヲ以テ足レリトス
若シ外国文字ニテ証書ヲ録製スルトキハ金額又ハ数量ヲ全キ文字ヲ以テ証書ニ記載ス可ク数字ヲ以テ之ヲ記載ス可カラス
第千三百四十四条 若シ証書ノ本文ト認済又ハ認諾トノ間ニ金額又ハ数量ノ差違アルトキハ其証書ノ本文及ヒ認済又ハ認諾カ共ニ債務者ノ手ニ成レルトキト雖モ義務ハ其内ノ小ナル金額又ハ数量ノ為メニ非サレハ証明セラレス但其錯誤ノ孰レノ方ニ在ルヤ書面又ハ其他ノ方法ニテ証明セラル場合ハ此限ニ在ラス
第千三百四十五条 債務者ノ署名又ハ捺印アルノミニテ前条ノ方式ニ従ハサル証書ハ其証書ニ記載シタル金額又ハ数量ニ満ツルマテ人証ヲ許ス為メ書面ニ因ル証拠端緒トシテ有効タリ
全キ文字ニテ記載スルノ条件カ必要ナル場合ニ於テ金額ヲ全キ文字ニテ記載セサル証書ニ付テモ亦同シ
右ノ証書ニ記載シタル義務ヲ全部又ハ一分履行シタル債務者ハ其履行シタル限度ニ於テ最早共義務ヲ争フコトヲ得ス
第千三百四十六条 数通ノ正本及ヒ認済又ハ認諾ノ方式ハ商人ニ付テハ特ニ商法ニ定メタル場合ニ非サレハ之ヲ要セス
第千三百四十七条 数前条ノ方式ニ従ヒ録製シタル私署証書ニシテ其対抗ヲ受クル者ノ追認シ又ハ裁判上ニテ其者カ追認シタリト為シタルモノハ其主要ノ文言及ヒ之ト直接ノ関係ヲ有シ又ハ之ヲ補足スル文言ニ付テハ其者ニ対シテ完全ナル証トス
此他ノ文言ハ書面ニ因ル証拠端緒ノミニ之ヲ用ユルコトヲ得
第千三百六十五条ニ記載シタル自白不可分ナル原則ハ同条ノ区別ヲ以テ証書ノ各部分ニ之ヲ適用ス
第千三百四十八条 証書カ第千三百三十八条ニ規定シタル如ク捺印白紙ノ濫用又ハ偽造ノ攻撃ヲ受ケタルトキハ其証拠力ハ刑事裁判所ニ被告ノ送致アルニ因リテ停止セラレ其裁判所ノ判決ノ確定ト為ルマテ民事ノ判決ヲ中止ス
嫌疑アル人ノ死亡其他ノ原因ニ因リテ刑事審問ノ開カレサリシトキハ民事裁判所ハ主張セラレタル犯罪ヨリ生スル不受理ノ理由ニ付キ裁判アルマテ本案ノ判決ヲ中止ス
又刑事審問中ナルトキハ民事裁判所ハ当事者ノ要求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ其判決ヲ中止スルコトヲ得
第千三百四十九条 私署証書ハ其証書ヨリ後ニ当事者間ニ於ケルト同一ノ証ヲ為スモノトス然レトモ其日附ハ確定ナルトキニ非サレハ之ヲ援用スルコトヲ得ス
第千三百五十条 私署証書ハ左ノ諸件ニ因リテ確定ノ日附ヲ取得ス
第一 租税ノ為メノ記録
第二 財産ノ封印若クハ目録ノ調書其他ノ公正証書又ハ確定ノ日附ヲ有スル他ノ私署証書ニ於ケル記載
第三 手署シタル当事者中一人又ハ加署若クハ加印シタル証人ノ死亡又ハ是等ノ者ノ失踪ニ関スル裁判上ノ宣告
右ノ場合ニ於テ証書ハ登録記載死亡又ハ最後ノ音信ノ日ヨリ確定ノ日附ヲ有スルモノトス
第千三百五十一条 一箇ノ証書ヲ他ノ証書ニ附記シタル場合ニ於テ二箇ノ証書ヲ以テ設定シタル権利カ並存ス可カラサルモノナルトキハ優先ハ先キニ成立シタルモノトシテ記載セラレタル権利ニ属ス
二箇ノ証書カ同時ニ確定ノ日附ヲ有スル其他ノ場合ニ於テハ優先ハ物ノ占有ニ因リテ維持セラレタル証書ニ属シ又占有アラサルトキハ最初ニ裁判上ノ請求ノ用ニ供セラレタル証書ニ属ス
二箇ノ証書何レニモ確定ノ日附ナキトキハ優先ハ同一ノ区別ヲ以テ之ヲ規定ス
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ当事者ニシテ其自白ニ因リ約定シタル当時ニ於テ確定ノ日附ナキモ自己ノ証書ト並存セサル証書タルコトノ証セラレタル者ハ優先権ヲ失フ
第千三百五十二条 受取証書又ハ免責若クハ相殺ノ証書ハ確定ノ日附ヲ有セスト雖モ其日附ヲ以前ノ日附ニ為サレタリト思考ス可カラサルニ於テハ之ヲ以テ債権ノ譲受人、被代位人及ヒ差押債権者ニ対抗スルコトヲ得商事ニ於テハ私署証書ノ日附ハ真誠ノモノト推定ス但錯誤又ハ詐欺ヲ証スルハ此限ニ在ラス
第二款 署名捺印セサル証書
第千三百五十三条 商人ノ帳簿ハ総テノ人ノ為メ其商人ニ対シテ証ヲ為ス然レトモ其帳簿ヲ援用スル者ハ此ヨリ生スル自由ヲ分ツコトヲ得ス
商人ノ帳簿ハ商人ノ為メ商人ニ非サル者ニ対シ証ヲ為サス
此他右帳簿ノ証拠力ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス
第千三百五十五条 商人ニ非サル者ノ帳簿、覚書及ヒ家内ノ書類ハ其者ノ為メ証ヲ為サス
右ノ帳簿、覚書及ヒ家内ノ書類ハ其者ニ対シ下ノ区別ニ従ヒテ証ヲ為ス
第千三百五十六条 債権者ノ書面ハ左ノ場合ニ於テハ其債権者ニ対シテ証ヲ為ス
第一 債務者ノ弁済其他ノ免責ヲ明カニ掲クルトキ但債権者ニ於テ債務者ニ交付スル為メニ準備セル受取証書タルコトヲ証スルトキハ此限ニ在ラス
第二 債務者ノ証書又ハ従来ノ受取証書ニ免責ヲ書込ミ且其書類カ債務者ノ手ニ存スルトキ
第千三百五十七条 債務者ノ書面ニ其義務ヲ掲ケ且之ヲ以テ債権者ノ証書ノ用ニ供スルモノタルコトヲ記載スルトキハ其書面ハ債務者ニ対シテ証ヲ為ス
第千三百五十八条 前二条ノ場合ニ於テ抹殺シタル書面ハ之ヲ斟酌セス但其抹殺カ詐害又ハ錯誤ニ出タルノ証アルトキハ此限ニ在ラス
第千三百五十九条 商人ニ非サル者ハ裁判上ニテ其家内ノ帳簿及ヒ書類ヲ差出スノ義務ナシ然レトモ任意ニテ之ヲ差出シタルトキハ争ニ関スルモノヲ抄録シタル後ニ非サレハ之ヲ取戻スコトヲ得ス
第二節 口頭自白
第千三百六十条 一方ノ当事者カ己レニ対シテ権利上ノ結果ヲ生スルコト有ル可キ事実ニ付キ為セル口頭自白ハ或ハ裁判上ノモノ有リ裁判外ノモノ有リ
第一款 裁判上ノ自白
第千三百六十一条 裁判上ノ自白ハ特発ノモノ有リ又ハ民事訴訟法ニ規定シタル本人訊問ニ因リテ為スモノ有リ
第千三百六十二条 自白ハ其自白ニ繋ル権利ヲ処分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ有効ニ之ヲ為スコトヲ得ス但法律上自白ノ証拠ヲ禁シタル事実ニ非サルトキニ限ル
代理人ノ為シタル自白ハ其管理所為ニ関スルノ外特別ノ委任ニ依リタルトキニ非サレハ有効ナラス但裁判上ノ代人ノ自白ト其陳述ノ不認ノ方式及ヒ条件ニ関スル民事訴訟法ノ規定ヲ妨ケス
第千三百六十三条 相手方カ前条ニ従ヒテ為シタル自白ヲ受諾シ又ハ裁判所ヨリ其証書ヲ与ヘタルトキハ其自白ハ之ヲ為シタル者ニ対シテ完全ノ証ヲ為ス然レトモ其自白ハ事実ノ錯誤ノ為メニ之ヲ言消スコトヲ得
第千三百六十四条 自白ハ法律ノ錯誤ノ為メ之ヲ言消スコトヲ得ス
然レトモ相手方ノ権利ノ直接又ハ間接ノ追認ハ之ヲ為シタル者ヲシテ其権利ノ原因及ヒ存続ヲ争フノ権能ヲ失ハシメス
第千三百六十五条 複雑ナル自白ヲ援用セント欲スル者ハ陳述セラレタル数箇ノ事実ニ関シ其自白ヲ分ツコトヲ得ス即チ自白ノ効力ヲ全ク毀滅スル事実ハ勿論其効力ヲ制限スル事実ヲモ斥クルコトヲ得ス但是等ノ事実カ主タル事実ノ以前又ハ以後ナルヲ問ハス之ト牽連スルコトヲ要ス
然レトモ主タル事実ヲ変更スル事実ノ主張ハ通常ノ証拠方法ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得
第千三百六十六条 裁判上ノ自白ノ効力ハ裁判所ノ管轄違カ公ノ秩序ニ関セサルモノタルトキハ其管轄違ニ因リテ無効ト為ラス
反対ノ場合ニ於テハ自白ハ裁判外ノモノトシテノミ有効ナリ
第千三百六十七条 一方ノ当事者カ訴訟事件ノ或ル事実ノ成立ニ付キ陳述ス可キノ求メヲ受ケテ其事実ヲ争ハサルニ因リテ之ヲ追認シタリト看做ス場合ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
第千三百六十七条第二 一方ノ当事者カ廃疾其他ノ原因ニ由リ語ルコトヲ得スト雖モ書面又ハ容態ヲ以テ裁判所ニ答フルコトヲ得ルニ於テハ裁判上ノ自白ノ規則ヲ之ニ適用ス
第二款 裁判外ノ自白
第千三百六十八条 裁判外ノ自白ハ相手方又ハ其代人ノ面前ニ於テ口頭ニテ又ハ是等ノ者ニ送致シ若クハ交付シタル信書若クハ書類ニテ之ヲ為シタルニ非サレハ其効ヲ有セス
此末ノ場合ノ外口頭ノ自白ヲ受ケ及ヒ証スルノ資格ヲ有スル官庁ニ於テ其自白ヲ為サヽリシトキハ人証ヲ許ス場合ニ非サレハ証人ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得ス
第千三百六十九条 裁判上ノ自白ノ有効ナル為メ要スル能力、其証拠力、其言消及ヒ其不可分ニ関スル前数条ノ規定ハ裁判外ノ自白ニ之ヲ適用ス
然レトモ判事ハ十分確実ニシテ明白ナル自白ニ非サレハ之ヲ斟酌スルコトヲ得ス
第千三百七十条 前記ノ規定ハ義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ法律上ニテ其黙示ノ自白ト看做ス可キ場合ヲ妨ケス
第千三百七十一条 裁判外ノ自白ハ有効ニ之ヲ言消シタリト雖モ相手方ノ利益ニ於テ時効ノ停止ヲ生ス然レトモ時効ハ言消ノ日ヨリ再ヒ進行ス
第三節 裁判外ノ誓
第千三百七十二条 判事ハ如何ナル場合ニ於テモ原告タルト被告タルト又主タル者ナルト参加人ナルトヲ問ハス当事者ノ一方ニ対シ其請求又ハ抗弁ニ付テモ又争ニ係ル利益ノ額ニ付テモ誓ヲ為サシムルコトヲ得ス
当事者双方モ亦右ノ諸件ニ付キ裁判上ニテ互ニ誓ヲ為サシムルコトヲ得ス
誓ヲ為サシムルコトハ裁判外ノモノニシテ下ニ定メタル条件ニ従フ
第千三百七十三条 当事者双方ハ未タ其一方ノ利益ニ於テ何等ノ証拠ノ端緒モ成立セサルトキト雖モ争ヲ予防シ又ハ之ヲ止マシムル為メ互ニ裁判外ノ誓ヲ為サシムルヲ合意スルコトヲ得
此合意ハ和解ノ性質ヲ有シ下ノ変更ヲ以テ第七百五十七条乃至第七百六十二条ノ規定ニ従フ
第千三百七十四条 当事者双方ハ其争論ノ全部又ハ一分ヲ一方ノ誓ニ因リテ決ス可キコトヲ合意スルニ当リ左ノ諸件ヲ定ムルコトヲ要ス
第一 孰レノ一方ニ対シテ誓ヲ為サシム可キヤノコト
第二 有的又ハ無的ノ如何ナル事実ニ付キ誓ヲ為サシム可キヤノコト
第三 如何ナル場所、時期及ヒ何人ノ面前ニ於テ誓ヲ為ス可キヤノコト
第四 当事者ハ其宗教ノ神ヲ誠実ナルコトノ証人トシテ誓フ可キヤ将タ単ニ「其名誉又ハ良心ニ依リテ」確言ス可キヤノコト
第千三百七十五条 前記ノ合意ハ争ノ性質及ヒ軽重カ下ノ第八節ニ従ヒテ人証ヲ許ス可キ場合ニ非サレハ証人ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得ス
誓ヲ為シタルコト又ハ厳正ナル確言ヲ為シタルコト及ヒ其誓又ハ確言ノ合意ニ適合スルコトハ其誓又ハ確言ニ立会フ為メ当事者ノ召喚シタル各人ノ証ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得
第千三百七十六条 誓ノ求メヲ受ケタル一方ハ同一ノ方式ト同一ノ条件トヲ以テ他ノ一方ニ誓ヲ反求スルコトヲ得
第千三百七十七条 誓ハ相手方ノ一身上ノ事実ニ関シ又ハ相手方ニ関係ナキ事実ヲ相手方ノ自ラ知得スルコトニ関シ且此孰レノ場合ニ於テモ其事実カ争ノ決定ニ影響ヲ及ホス可キ性質ノモノタルニ非サレハ之ヲ求メ又ハ之ヲ反求スルコトヲ得ス
第千三百七十八条 和解ノ体裁ニテ裁判外ノ誓ヲ提出シ又ハ此ノ和解ヲ承諾シテ誓ヲ反求シタル一方ノ者ハ誓ヲ求メ又ハ之ヲ反求シタル有的又ハ無的ノ事実ヲ追認セサルモノト看做ス但其事実ヲ合式ニテ確言スルコトヲ要ス
其提供ノ承諾アリタルトキ及ヒ誓ノ為メニ許与シタル期間カ満了セサル間ハ右一方ノ者ハ其提出ヲ取消スコトヲ得ス
此ニ反シ其提出ヲ承諾シテ誓ヲ為スコト及ヒ其相手方ニ誓ヲ反求スルコトヲ拒絶スル者ハ右事実ノ真実ナルコトヲ暗ニ追認シタルモノト看做ス
第千三百七十九条 其提出ノ言消ナキトキハ定マリタル期間ノ満了後ト雖モ相手方自身ニテ出席シ又ハ特別ノ代人ヲシテ出席セシムルニ於テハ仍ホ誓ヲ為スコトヲ得
然レトモ相手方ノ不在ハ定マリタル時期ト場所トニ於テ為シタル誓ノ有効ナルコトヲ妨ケス
第千三百八十条 誓ヲ和解ニ従テ一旦為シタル上ハ之ヲ求メ又ハ之ヲ反求シタル者ヨリ民事上其虚偽ヲ陳弁スルコトヲ得ス
第千三百八十一条 保証、連帯及ヒ合意上ノ不可分ノ場合ニ在テ種々ノ利害関係人ノ間ニ於ケル裁判外ノ誓ノ効力ハ第千二十八条、第千五十九条、第千六十条、第千六十三条及ヒ第千九十二条ニ於テ之ヲ規定ス
第四節 公正証書
第千三百八十二条 公正証書ハ公吏カ当事者ヨリ証スルコトヲ託セラレタル事実ニ付テノ証言タリ
又官庁ノ代人トシテ事ヲ行フ官吏ノ録製シタル証書ハ公正ナリ
証書ハ之ヲ受ケタル公吏カ場所、証書ノ性質及ヒ其証書ニ関係スル人トニ付キ管轄ヲ有シ且一時無能力ノ形状ニ在ラスシテ法律ニ定メタル方式ニ従ヒテ之ヲ作リタルニ非サレハ公正ナラス
公証人及ヒ当事者ノ嘱託ニ応ス可キ其他ノ公吏ノ管轄及ヒ其証書ノ方式ハ特別法及ヒ規則ヲ以テ之ヲ定ム
第千三百八十三条 前条ニ従ヒテ作リタル証書ハ偽造ノ訴アルマテハ公吏自身ニテ又ハ其面前ニテ為シタル事実及ヒ申述ニ付キ其吏員ノ総テノ陳述ノ証ヲ為ス
此証書ハ之ニ記載シタル日附ニ付キ右同一ノ証ヲ為ス
公吏ノ名ニテ作リ且其署名及ヒ印章ヲ具ヘタル証書ハ偽造ノ訴アルマテハ其吏員ヨリ出テタルモノト推定ス
偽造ノ訴ノ手続ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
第千三百八十四条 追認アリタル私署証書ノ証拠力ヲ偽造ノ訴ニ因リテ中止スルコトニ関スル第千三百四十八条ノ規定ハ公正証書ニ之ヲ適用ス
主要ノ文言ト直接又ハ間接ノ関係アル各箇ノ説明ニ関スル第千三百四十七条モ亦同シ
第千三百八十五条 証書ニ公正証書トシテ有効ナル為メ上ニ定メタル条件ノ一ヲ缺クコトアルモ各当事者カ現実ニ之ニ署名シ又ハ捺印シタルトキハ其証書ハ第千三百四十一条及ヒ第千三百四十三条ニ定メタル条件ヲ履行セスト雖モ私署証書トシテ有効ナリ
第五節 反対証書
第千三百八十六条 当事者ハ秘密ニ存シ置ク可キ反対証書ヲ以テ公正証書又ハ私署証書ノ効力ノ全部又ハ一分ヲ変更シ又ハ滅却スルコトヲ得然レトモ其反対証書ハ公正証書又ハ確定ノ日附ヲ有スル私書ニ係ルトキト雖モ署名者及ヒ其相続人ニ対スルニ非サレハ効力ヲ有セス
然レトモ各当事者ノ債権者及ヒ特定名義ノ承継人カ当事者ト約定スルニ当リ反対証書アルヲ知リタルコトノ証セラルヽニ於テハ反対証書ヲ以テ其債権者及ヒ承継人ニ対抗スルコトヲ得
第千三百八十七条 不動産権利ニ関スル反対証書カ或ハ登記、記入ニ因リ或ハ其縁辺附記ニ因リテ公ニ為サレタルトキハ其反対証書ハ表顕証書ノ通常ノ効力ヲ取得ス
第千三百八十八条 総テノ場合ニ於テ各当事者ノ一般及ヒ特別ノ承継人ハ他ノ当事者及ヒ其相続人ニ反対証書ヲ以テ対抗スルコトヲ得
第六節 追認証書
第千三百八十九条 当事者ノ一方カ従来ノ公正又ハ私署ノ証書ノ成立ヲ己レニ対シテ追認スル証書ナリ
右ノ証書ハ債権者ヲシテ其原証書ヲ差出スノ義務ヲ免カレシメス又其証書中ニ原証書ヨリ更ニ多ク又ハ更ニ少ナキ事項ヲ記シ又ハ之ト異ナリタル事項ヲ記スルモノハ其効ナシ
第千三百九十条 然レトモ左ノ三箇ノ場合ニ於テハ追認証書ハ原証書ニ代ハルモノトス
第一 追認証書ニ原証書ノ包有事項ヲ再掲シタル旨ヲ記載スルトキ
第二 追認証書ニ之ヲ原証書ニ代用ス可キ旨ヲ明示スルトキ
第三 追認証書ノ日附ヨリ二十个年ヲ経過シ且債権者カ其証書ノミヲ既ニ権利ノ行使ニ用ヒタルトキ
第千三百九十一条 前記ノ場合ノ外債権者カ原証書ヲ差出スコトヲ得サルトキハ追認証書ハ其利益ニ於テハ書面ニ因ル証拠端緒トシテ有効ナリ
総テノ場合ニ於テ追認証書ハ時効ヲ中断ス
第七節 証書ノ写
第千三百九十二条 証書ノ写ハ之ヲ援用スル者ヲシテ其正本ヲ差出スノ義務ヲ免カレシメス但其者カ正本ノ滅失ヲ証シタルトキハ此限ニ在ラス
公正ノ正本又ハ裁判上追認アリタル私署ノ正本カ公吏ノ原本中ニ蔵メラレタルトキハ裁判所ヘ其正本ヲ差出スコトハ民事訴訟法及ヒ公吏ノ規則ニ従ヒ裁判所ノ定メタル方式及ヒ条件ヲ以テ之ヲ為ス
第千三百九十三条 正本ノ滅失シタルトキ其写ハ左ノ四箇ノ場合ニ於テハ正本ト同一ノ証拠力ヲ有ス
第一 公正証書ヲ受ケタル公吏ノ作リシ正式謄本タルトキ
第二 公正証書又ハ裁判上追認アリタル私署証書ニシテ公吏ノ原本中ニ蔵メタルモノヽ写ヲ当事者ノ要求ニ因リ其面前ニテ其公吏ノ作リタルトキ
第三 適法ニ正本ヲ預カリタル公吏カ裁判所ノ命ニ依リ当事者出席ノ上又ハ合式ニ之ヲ召喚シタル上ニテ其写ヲ作リタルトキ
第四 右ノ三箇ノ場合ノ外適法ニ正本ヲ預カリタル公吏ノ作リシ写カ異議ヲ受ケスシテ其日附ヨリ二十个年ヲ経過シタルトキ
写ニハ左ノ諸件ヲ附記スルコトヲ要ス
右第一ノ場合ニ於テハ其写ハ正式謄本タルコト
右第二ノ場合ニ於テハ当事者ノ出席シタルコト
右第三ノ場合ニ於テハ当事者ヲ裁判所ノ命ニ依リテ召喚シタルコト及ヒ当事者ノ出席シ又ハ出席セサリシコト
総テノ場合ニ於テ其写ヲ正本ト校合シタル旨又ハ其写ノ正本ニ符合スル旨ヲ之ニ附記スルコトヲ要ス
第千三百九十四条 前条ニ記載シタル四箇ノ場合ノ外ハ公吏ノ作リタル証書ノ写ハ書面ニ因ル証拠端緒ノ用ヲ為スノミ
第千三百九十五条 公吏ノ作リタル写ノ複写ハ人証ヲ許ス可キ場合ニ限リ単純ナル参考書ノ用ヲ為スノミ
然レトモ登記又ハ記入ノ公簿ニ於ケル公正証書ノ写又ハ謄本ノ附記ハ書面ニ因ル証拠端緒ナリ
裁判上追認アリタル私署証書ノ正本ノ右ニ同シキ写又ハ附記ハ又書面ニ因ル証拠端緒ノ効力ノミヲ有ス然レトモ写カ全文ノモノニシテ且異議ヲ受クルコト無ク其日附ヨリ二十ケ年ヲ経過シタルトキハ其写ハ第千三百九十三条第四号ニ従ヒテ完全ノ証トス
第八節 証人陳述
第千三百九十六条 物権又ハ人権ヲ創設シ、移転シ、変更シ又ハ消滅セシムル性質アル総テノ所為ニ付テハ其所為ヨリ各当事者又ハ其一方ノ為メニ生スル利益カ当時五十円ノ価額ヲ超過スルトキハ公正証書又ハ私署証書ヲ作ルコトヲ要ス
人証ハ右ノ価額ヲ超過セサルトキ又ハ法律上明示若クハ黙示ニテ例外ト為シタルトキニ非サレハ裁判所之ヲ受理セス但此事ニ関シ商法ニ定メタルモノハ此限ニ在ラス
第千三百九十七条 双務契約ニ於テハ証書ノ必要ニ付テハ最高ナル権利ノ価額ノミヲ考察ス
然レトモ第七百六十六条ノ明文ニ従ヒテ無形人ノ性質ヲ有スル会社ニ於テハ其関係アル利益ノ評価ハ会社資本ノ全額ニ付キ之ヲ為ス
第千三百九十八条 請求ノ目的カ金額ニ非サル場合ニ於テ被告カ争ノ価額五十円ヲ超過スル旨ヲ陳述シテ人証ニ異議ヲ申立ツルトキハ裁判所ハ訴訟ノ元素ニ従ヒ又ハ鑑定ニ従ヒテ予メ仮ノ評価ヲ為ス
第千三百九十九条 書面ヲ作リタル場合ニ於テハ書面ニ反スル事項若クハ書面外ノ事項ヲ証スル為メ又ハ書面ノ意義ヲ変更ス可キ様其録製ノ際若クハ其前後ニ申述シタルモノヲ証スル為メニハ縦令五十円ヨリ少ナキ利益ニ関スルモ人証ヲ許サス
此禁止ハ弁済、免除、更改其他ノ義務消滅ノ原因ヲ証スル為メ又ハ書面ヲ以テ証シタル権利ノ日後ノ変更ヲ証スル為メ上ニ定メタル制限内ニ於ケル人証ヲ阻却セス
総テノ場合ニ於テ主張セラレタル事実ノ日附及ヒ場所又ハ履行ノ為メニ定メタル時期及ヒ場所ノ脱漏ハ人証ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ得但此事ヨリ生スル利益ヲ主タル利益ニ加ヘテ価額五十円ヲ超過セサルトキニ限ル
第千四百条 争ノ利益カ五十円ヲ超過スル場合ニ於テハ原告ハ縦令其以下ノ数項ニ請求ヲ減スルモ証人ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得ス
五十円ヲ超過セサル価額ノ請求カ此数額ヲ超過シタル価額ノ残余ナルトキモ亦同シ
第千四百一条 前条ニ規定シタル二箇ノ場合ニ於テ人証ノ効ニ依リ最初五十円ヲ超過シタル利益ナルコトヲ発見シタルトキハ人証ヲ許シタル裁判所ハ之ヲ取消スコトヲ要ス
此他人証ニ依リ法律上之ヲ許サヽル事情ヲ発見シタル場合ニ於テモ亦同シ
第千四百二条 前記ノ規定ハ填補利息又ハ過怠約款ヲ加フルカ為メニ五十円ノ額ヲ超過スル場合ニ於テ原告カ証人ヲ以テ其主タル債権ヲ証スル為メ此ノ従タル債権ヲ放棄シ得ルノ妨ト為サス
右ノ超過カ遅延利息又ハ要約セサル損害賠償ノミヨリ生スルトキハ全部ニ付キ人証ヲ許ス
第千四百三条 書面ニ依リ全ク証セラレスシテ人証ノ許サル可キ数箇ノ請求ヲ為スコトヲ得ヘキ者ハ其原因ノ如何ニ拘ハラス一箇ノ訴状ニ其数箇ノ請求ヲ併合スルヲ要ス但其請求カ総テ満期ノモノニシテ同一裁判所ノ管轄ニ属スルモノタルトキニ限ル
右ノ手続ヲ為サヽルニ於テハ最早其脱漏シタル請求ヲ証人ヲ以テ証スルコトヲ得ス
第千四百四条 当事者ノ一方カ他ノ一方ニ対シテ数箇ノ別異ナル権利ヲ利唱シ之ヲ併合スレハ五十円ノ価額ヲ超過スルトキハ此ノ権利ヲ併合シ証人ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得ス但此権利カ相異ナレル人及ヒ相異ナレル原因ヨリ生スルトキハ此限リニ在ラス
第千四百五条 左ノ場合ニ於テハ争ノ価額ノ如何ニ拘ハラス又書面外ノ事項又ハ書面ニ反スル事項ヲ証セントスルトキト雖モ人証ヲ許ス
第一 書面ニ因ル証拠端緒ノ存スルトキ証拠端緒トハ之ヲ以テセラルヽ人又ハ其人ヲ代表シタル者ヨリ出テタル総テノ書面ニシテ主張シタル事柄ヲ実ラシク為スモノヲ謂フ
第二 債権者カ自己ノ過失又ハ懈怠ニ帰ス可カラサル不可抗力又ハ意外ノ事ニ因リ其証書ヲ失ヒタルコトヲ証スルトキ
第三 主張シタル事柄ノ有リタル当時原告カ書証ヲ得ル能ハサリシトキ
第千四百六条 前条第三号ノ例外ハ殊ニ左ノ場合ニ之ヲ適用ス
第九百十六条及ヒ第九百十七条第一項ニ規定シタル急迫寄託
事変、不期ノ危険又ハ急迫ナル必要ノ場合ニ於テ負担シタル義務
合意以外ノ原因ヲ有スル義務
然レトモ此末ノ場合ニ於テ不当ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ規定ヨリ生シタリト主張スル義務カ書面ヲ以テ証ス可キ性質ノモノタル権利行為ヲ予想セシムルトキハ予メ此証ヲ供スルコトヲ要ス
第千四百七条 法律カ人証ヲ許ス場合ノ外人証ヲ争フニ利益ヲ有スル当事者カ人証ニ依リテ証ヲ立ツルコトヲ承諾スルトキハ裁判所ハ人証ヲ拒絶シ又ハ事件ヲ簡単ナリト思料スルトキハ之ヲ許スコトヲ得但人証ヲ許シタルトキハ簡略ナル証人訊問ノ方式ノミヲ以テス可シ
第千四百八条 証人ハ陳述ヲ為スニ先チ誠実ノ陳述ヲ為スヘキコトニ付キ定マリタル方式ニ従テ誓ヲ為ス
証人訊問並ニ反証人訊問ノ方式、期間ニ関スル規則、証人ヲ以テ証ス可キ事実ニ於テ必要ナル性質及ヒ証人ノ忌避又ハ異議ノ原由ハ民事訴訟法ニ之ヲ定ム
第千四百九条 相手方ノ利益ニ於テ反証人訊問ノ方法ニ依リ証人ヲ差出シタルト否トヲ問ハス又当事者ノ一方及ヒ他ノ一方ヨリ差出シタル証人ノ員数並ニ分限ノ如何ニ拘ハラス証人訊問カ終結シテ其証人カ有効ニ忌避セラレス又ハ異議ヲ申立テラレサルトキト雖モ判事ハ証人ノ証ニ因リテ拘束セラレス其心証ニ従ヒテ裁決ス
第九節 世評
第千四百十条 法律上特ニ世評ニ因ル証ヲ許ス場合ノ外法律カ其規定ヲ或ル事実ヲ顕著ナルトキ其事実ニ適用ス可キコトヲ定メタル各箇ノ場合ニ於テハ此証ヲ用フルコトヲ得
世評ニ因ル証ニ於テハ証人ハ事実ニ付キ直接ニ自ラ知ラサルモ公然顕著ナルニ因リテ知リタル所ノモノヲ陳述スルコトヲ得
第三章 間接証拠
第千四百十一条 間接証拠ナル推定ハ法律カ直接証拠ナキ場合ニ於テ知レタル事実ヨリ知レサル事実ニ自ラ推及シ又ハ裁判官ノ明識ト思慮トニ委スル結果ナリ
右第一ノ推定ヲ法律上ノ推定ト謂ヒ第二ノ推定ヲ事実ノ推定ト謂フ
第一節 法律上ノ推定
第千四百十二条 法律上ノ推定ニハ其証拠力ト其原因トニ従ヒテ左ノ区別アリ
第一 完全ニシテ公益ニ関スルモノ
第二 完全ニシテ私益ニ関スルモノ
第三 単純ナルモノ
第一款 公益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定
第千四百十三条 公益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定ハ法律ノ明示シテ定メタル場合及ヒ方法ニ従フニ非サレハ反対ノ証ヲ許サス此推定ハ左ノ如シ
第一 既判力
第二 取得又ハ免責ノ時効
第千四百十四条 既判力ハ真正ト推定セラル
然レトモ確定ト為ラサル判決ハ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ期間ニ於テ之ヲ攻撃スルコトヲ得
第千四百十五条 判決ノ確定ト為リタルトキハ同一ノ争ヲ再ヒ訴フルニ於テハ其争ハ既判力ニ依リテ斥ケラル
第千四百十六条 請求カ全部又ハ一分ニ付キ公ノ秩序ニ関スルトキハ既判力ニ因ル不受理ノ理由ハ裁判所職権ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ得
此他ノ場合ニ於テハ利害関係人ヨリ其不受理ノ理由ヲ以テ対抗スルコトヲ要ス
第千四百十七条 既判力ノ抗弁ヲ以テ新請求ニ対抗スルヲ得ルニハ其請求カ旧請求ニ比較シテ左ノ諸件アルコトヲ要ス
第一 目的又ハ権利ノ同一ナルコト
第二 権利ノ原因ノ同一ナルコト
第三 原告被告ノ権利上ノ資格ノ同一ナルコト
第千四百十八条 新請求ノ目的カ数量ニ付テノミ旧請求ノ目的ト異ナリタルトキハ新請求ノ目的ハ旧請求ニ包含シタルモノト看做サルヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ丶但旧請求ノ結論ニ依レハ其判事カ此数量ヲ許与スルノ権力ヲ有セシトキニ限ル
第千四百十九条 旧請求カ合意又ハ遺言ノ銷除、廃罷、又ハ解除ヲ目的トシタルトキハ其請求ノ際成立シタルモ原告ノ知リテ申立テサリシ他ノ原因ハ原告之ヲ放棄シタリト推定セラレ更ニ之ヲ新請求ノ原因トシテ用フルコトヲ得ス
方式ノ瑕疵ニ基因シタル行為ノ無効ニ於ケル旧請求中ニ申立テサリシ他ノ方式ノ瑕疵ニ付テモ亦同シ
本条ノ適用ニ於テ銷除又ハ無効ノ訴ノ為メニハ承諾ノ各種ノ瑕疵及ヒ各種ノ無能力ヲ同性質ノ原因ト看做シ又解除ノ訴ノ為メニハ合意不履行ノ各種ノ場合ヲ同性質ノ原因ト看做ス
第千四百二十条 既判力ハ判決ノ式文ニ附着スルノミナラス判決ノ理由カ主張シタル権利ノ原因又ハ其原因ノ欠缺ニ出ツルトキハ其理由ニモ亦附着ス
第千四百二十一条 当事者カ或ハ自身ニテ同一ノ資格ヲ以テ既ニ旧訴訟ニ出テタルトキ或ハ旧訴訟ニ於テ其先主若クハ代理人ニ因リテ代表セラレタルトキ或ハ利害関係人ノ結合カ暗ニ相互代理ヲ包含スルトキハ当事者ノ権利上ノ資格ハ同一ナリトス
第千四百二十二条 刑事裁判所カ犯罪ノ所為ノ為メニ要求セシ民事上ノ賠償ニ付キ判決シタル場合ノ外、重罪、軽罪又ハ違警罪ノ判決ハ犯罪ニ附着スル民事上ノ利益ニ付キ既判力ヲ有ス但犯罪所為ノ真実、其犯罪ノ性質及ヒ被告人ノ罪責ニ付テノ裁判ニ関スルモノニ限ル
第二款 私益ニ関スル完全ナル法律上ノ推定
第千四百二十三条 法律上ノ推定ハ法律カ或ル行為ヲ其規定ニ触ルヽモノト推定シ定マリタル資格ノ人ノ為メ之ヲ取消ス場合ニ於テハ私益ニ関スル完全ノモノタリ
此犯則ノ法律上ノ推定ハ法律ノ明示シテ定メタル場合及ヒ方法ニ従フニ非サレハ反対ノ証ヲ許サス
然レトモ此推定ハ口頭自白ヲ以テ何時ニテモ之ヲ覆ヘスコトヲ得
第三款 単純ナル法律上ノ推定
第千四百二十四条 前記ノ法律上ノ推定ニ非サルモノハ単純ナル法律上ノ推定ナリ此推定ニ付テハ法律カ明示シテ反対ノ証ヲ留保セサルトキト雖モ総テ之ヲ許ス
此他反対ノ証ハ前章ニ規定シタル如ク其各固有ナル法式及ヒ条件ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ挙クルコトヲ得ス
又単純ナル法律上ノ推定ハ次条ノ場合ニ於テハ事実ノ推定ヲ以テ之ヲ駁撃スルコトヲ得
第二節 事実ノ推定
第千四百二十五条 法律カ裁判所ニ其決定ノ元素ヲ訴訟ノ事情ニ就キ採取スルコトヲ許ス特別ナル場合ノ外尚ホ裁判所ハ人証ヲ許ス可キ場合ニ於テハ何等ノ直接ノ証ヲモ挙ケサルトキト雖モ事情ヨリ生スル心証ニ従ヒテ争ヲ決スルコトヲ得
第二部 時効
第一章 時効ノ性質及ヒ適用
第千四百二十六条 時効ハ時ノ効力ト法律ニ定メタル其他ノ条件トヲ以テスル取得又ハ免責ノ法律上ノ推定ナリ但動産ノ瞬間時効ニ関シ第千四百八十一条以下ノ規定ヲ妨ケス
第千四百二十七条 正当ナル取得又ハ免責ノ推定ハ完全ニシテ公ノ秩序ニ関スルモノトス此推定ハ第千四百九十八条ノ如キ法律ノ定メタル場合及ヒ方法ニ従フニ非サレハ反対ノ証ヲ許サス
第千四百二十八条 取得時効ノ効力ハ占有ノ有益ニ始マリタル日ニ遡ル
免責時効ノ効力ハ債権者カ其権利ヲ第千四百六十一条以下ニ記載シタル区別ニ従ヒテ行フコトヲ得ヘカリシ日ニ遡ル
第千四百二十九条 或ル訴権ノ行使ノ為メ法律ニ定メタル期間ハ其訴権ノ性質ニ因リテ取得時効又ハ免責時効ノ一般ノ規則ニ従フ但法律カ明示又ハ黙示ニテ例外ヲ設ケタル場合ハ此限ニ在ラス
第千四百三十条 時効ハ総テノ人ヨリ之ヲ援用スルコトヲ得
又時効ハ総テノ人ニ対シテ進行ス但法律ニ依リ時効停止ノ利益ヲ受ケル人ニ対シテハ此限ニ在ラス
第千四百三十一条 総テ融通物ハ時効ニ罹ルコトヲ得但法律上之ニ異ナル規定ヲ設ケタルモノハ此限ニ在ラス
不融通物ハ時効ニ罹ルコトヲ得ス公有ノ財産ハ動産ト雖モ亦同シ
第千四百三十二条 自己ノ財産ニ付キ又ハ他人ニ対シ行フコトヲ得ル単純ナル権能ハ幾許ノ時期間之ヲ行ハサルモ為メニ喪失セス但法律、合意又ハ遺言ニ於テ之ニ異ナル定ヲ設ケタル場合ハ此限ニ在ラス
第千四百三十三条 判事ハ職権ヲ以テ時効ヨリ生スル訴又ハ抗弁ノ方法ヲ補足スルコトヲ得ス時効ハ其条件ノ成就シタルカ為メ利益ヲ受クル者ヨリ之ヲ申立ツルコトヲ要ス
第千四百三十四条 時効ヲ援用スルニ利益ヲ有スル当事者ノ総テノ承継人ハ或ハ原告ト為リ或ハ被告ト為リ其当事者ノ権ニ基キテ時効ヲ援用スルコトヲ得
債権者ハ第三百五十九条ニ従ヒテ右ト同一ノ権利ヲ有ス
第千四百三十五条 時効ハ訴訟中何時ニテモ之ヲ申立ツルコトヲ得又控訴ニ於テモ始メテ之ヲ申立ツルコトヲ得然レトモ上告ニ於テハ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
第千四百三十六条 年又ハ月ニ依リテ成就ス可キ時効ハ暦ニ従ヒテ之ヲ算ス
日ニ依リテ成就ス可キ時効ハ満二十四時間ヲ一日ト為シテ之之ヲ算ス
時効ノ進行ノ始マリタル日又ハ其中断若クハ停止ノ後再ヒ進行ノ始マリタル日ハ之ヲ算セス
最後ノ日ハ全ク経過スルコトヲ要ス
第二章 時効ノ放棄
第千四百三十七条 時効ハ予メ之ヲ放棄スルコトヲ得ス但第千四百五十六条第二項ニ記スル如ク占有者カ将来ニ向ヒテ其占有ノ容仮ヲ認ムルノ権利ニ妨ナシ
成熟シタル時効ハ之ヲ放棄スルコトヲ得ス又其進行中ト雖モ既ニ経過シタル時期ノ利益ハ之ヲ放棄スルコトヲ得
此場合ニ於テハ第千四百五十四条以下ニ記載セル相手方ノ権利ヲ追認シタル場合ニ於ケルト同シク時効ハ中断セラル
第千四百三十八条 放棄ハ黙示タルコトヲ得ルト雖モ明カニ事情ヨリ顕ハルヽコトヲ要ス
第千四百三十九条 成就シタル時効ヲ有効ニ放棄スルニハ取得シタリト推定セラルヽ権利ヲ譲渡シ又ハ消滅シタリト推定セラルヽ義務ヲ負担スルノ能力アルコトヲ要ス
第千四百四十条 債権者ハ其権利ヲ詐害シテ債務者ノ為メタル時効ノ放棄ニ対シテハ第三百六十条以下ニ定メタル条件及ヒ方法ニ従ヒ自己ノ名ヲ以テ之ヲ攻撃スルコトヲ得
第三章 時効ノ中断
第千四百四十一条 経過シタル時期ノ利益カ下ニ記シタル原因ノ一ニ由リテ消滅スルトキハ時効ハ中断セラル
中断セラレタル時効ハ中断ノ原因ノ止ミタルトキヨリ再ヒ進行ス
第千四百四十二条 時効ノ中断ハ自然ノモノ有リ法定ノモノ有リ
自然ノ中断ハ取得時効ニ関シテノミ生ス法定ノ中断ハ二種ノ時効ニ共通ナリ
第千四百四十三条 不動産ノ占有者又ハ動産及特定動産ノ包括ノ占有者カ真ノ所有者又ハ第三者ノ所為ニ因リテ一ケ年以上其占有ヲ奪ハレタルトキハ自然ノ中断ナリ
若シ占有ノ剥奪カ不可抗力ニヨリ生スルトキハ自然ノ中断ナシ
占有ヲ取回シタルトキハ新ナル時効ハ追行ヲ始ム
第千四百四十四条 自然ノ中断ハ各利害関係人ノ為メニ其効ヲ生ス
第千四百四十五条 占有者カ或ル時間任意ニテ其占有ヲ止メタルトキハ其占有不継続ノ効力ハ第千四百七十五条ニ於テ之ヲ規定ス
第千四百四十六条 法定ノ中断ハ左ノ諸件ヨリ生ス
第一 裁判上ノ請求
第二 勧解上ノ召喚又ハ任意出席
第三 執行文提示又ハ催告
第四 差押
第五 任意ノ追認
右ノ手続又ハ追認ノ行為カ時効ノ為メ害ヲ受クル者ノ権利ニ関係スルコトヲ要ス
第千四百四十七条 本訴ト支訴ト反訴トヲ問ハス裁判上ノ請求ハ時効ヲ中断ス但其請求カ方式ニ於テ無効タリ又ハ管轄違ノ裁判所ニ之ヲ為シタルトキモ亦同シ
然レトモ右但書ノ場合ニ於テ中断ハ初ノ請求ヲ棄却セシ判決アリタル時ヨリ一ケ月内ニ更ニ合式ナル召喚ヲ為サヽルニ於テハ之ヲ不成立ト見做ス
第千四百四十八条 中断ハ左ノ場合ニ於テモ亦之レヲ不成立ト見做ス
第一 請求カ其基本ニ於テ棄却セラレタルトキ
第二 原告カ取下ヲ為シタルトキ
第三 訴訟カ民事訴訟法ニ定メタル時間其手続ヲ中止シタルニ因リテ無効ナリト宣言セラレタルトキ
第千四百四十九条 裁判上ノ請求ヨリ生スル中断ハ訴訟ノ起頭ヨリ其判決ノ確定ト為ルマテ継続ス
第千四百五十条 勧解上ノ召喚又ハ任意出席ニ困ル時効ノ中断ハ勧解ヲ要セサル場合ニ於テモ亦生ス
時効ノ中断ハ勧解上ノ主タル請求ト同シク其反対ノ請求ヨリ生ス
召喚ノ無効ハ方式ノ瑕疵ニ因ルモ管轄違ニ因ルモ中断ヲ妨ケス但初ノ召喚ノ無効トナリタルヨリ一ケ月内ニ更ニ合式ノ召喚ヲ為スコトヲ要ス
合式ノ召喚ノ上勧解不調ノ場合及ヒ被告ノ欠席ノ場合ニ於テ中断ハ一ケ月内ニ裁判上ノ請求ヲ為サヽルトキハ之ヲ不成立ト看做ス
第千四百五十一条 執行文提示ヨリ生スル中断ハ一ケ年内ニ差押ヲ為サヽルトキハ之ヲ不成立ト看做ス
方式ノ瑕疵ニ因ル執行文提示ノ無効ハ時効ヲ中断スルコトヲ妨ケス但催告ヨリ生スル中断ノ為メ下ニ定メタル条件ヲ履行スルコトヲ要ス
第千四百五十二条 義務履行ノ催告ハ義務ノ目的及ヒ原因ヲ明カニ指示シ且六ケ月内ニ裁判上又ハ勧解上ノ請求ヲ為シタルトキニ非サレハ時効ヲ中断セス
第千二百七十四条ニ記載シタル如ク抵当ノ不動産ヲ委棄スルヤ債務ヲ弁済スルヤニ付キ其第三所持者ニ為シタル催告ハ之ニ対シテ抵当消滅ノ時効ヲ中断ス
第千四百五十三条 差押及ヒ払渡差押ヨリ生スル中断ハ其差押ノ手続カ合式ニ其終結マテ継続シタルニ非サレハ其効力ヲ存続セス
仮差押ハ六ケ月内ニ執行文提示差押又ハ裁判上若クハ勧解上ノ請求ヲ為シタルニ非サレハ時効ヲ中断セス
時効ノ益ヲ受クル者ニ対シテ差押ヲ為サヽルトキハ其差押ハ此者ニ之ヲ告知シタル後ニ非サレハ之ニ対シテ中断ノ効力ヲ有セス
第千四百五十四条 任意ノ追認ヨリ生スル時効ノ中断ハ裁判上ヨリ又ハ口頭タルト書面タルトヲ問ハス裁判外ノ行為ヨリ生スルコトヲ得
裁判上ノ追認ハ自発ナルコト有リ又ハ判事ノ訊問ヨリ生スルコト有リ
第千四百五十五条 追認ハ明示又ハ黙示ナルコトヲ得
占有者カ占有物ニ関スル果実又ハ賠償ノ要求ニ承服スルトキ又ハ此ニ反シテ占有者カ物ニ付キ為シタル必要若クハ有益ノ費用ノ為ノ賠償ヲ要求スルトキハ殊ニ取得時効ニ対スル黙示ノ追認アリトス
債務者カ利息又ハ債務ノ弁済ノ請求ニ承服スルトキ又ハ此ニ反シテ債務者カ提供ヲ為シ若クハ恩恵期間ノ請求ヲ為ストキハ殊ニ免責時効ニ対スル黙示ノ追認アリトス
第千四百五十六条 真所有者ノ権利ヲ追認シタル占有者ハ新時効ヲ再ヒ始ムルノ権利ヲ失ハス然レトモ占有者ハ最早其以前ノ善意ノ利益ヲ援用スルコトヲ得ス
若シ其占有者カ容仮ノ占有者ト為リタルトキハ将来ニ向ヒテ時効ノ利益ヲ失フ但第百九十七条ノ二箇ノ場合ノ適用ヲ妨ケス
第千四百五十七条 追認ニ因リテ中断セラレタル免責時効ハ即時ニ再ヒ進行ス然レトモ其時効ハ最初短期ノモノタリシトキト雖モ将来ニ向ヒテハ長期時効ノ期間ニ従フ
第千四百五十八条 時効ヲ中断スル追認ハ自己ノ財産ヲ管理スルノ能力又ハ時効ニ罹ルコト有ル可キ財産ヲ他人ノ為メニ管理スルノ権力ヲ有スル者ニ於テ之ヲ為シタルトキハ有効ナリ
然レトモ婦、無能力者又ハ委任者ノ利益ニ於テ不動産ノ取得時効ヲ中断スル為メ夫、後見人又ハ代理人ノ為シタル追認ハ不動産ノ請求ニ承服スル特別権力アルニ非サレハ有効ナラス
第千四百五十九条 時効ヲ中断スル追認ノ所為ニ付キ争アルトキハ通常ノ証拠方法ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ得
第千四百六十条 保証連帯及ヒ不可分ノ場合ニ於テ各利害関係人ニ対スル追認其他ノ方法ニ因ル時効中断ノ効力ハ第千二十七条、第千六十条、第千六十一条、第千八十二条及ヒ第千九十一条ニ於テ之ヲ規定ス
第四章 時効ノ停止
第千四百六十一条 時効ハ物権又ハ人権ニシテ其広狭又ハ行使カ相続ノ発開ニ繋ルモノニ対シテハ其発開後ニ非サレハ進行ヲ始メス
第千四百六十二条 遺言又ハ前主ノ合意ニ対シ相続人ニ属スル銷除訴権ノ時効ハ其遺言又ハ合意ヲ相続人ニ対シテ援用シ又ハ其相続人ヲ害スル権利行使ノ基礎トシテ用ヒタル後ニ非サレハ進行ヲ始メス
第千四百六十三条 権利ハ其行使カ確定若クハ不確定ノ期限ニ服従シ又ハ其発生カ停止ノ条件ニ繋ルトキハ其期限又ハ条件ノ到来後ニ非サレハ時効ニ罹ラス
第千四百六十四条 前記ノ場合ニ於テ時効ハ第三所持者ニ対シテ停止セス但所有権ノ取得時効又ハ抵当ノ免責時効ヲ中断セント欲スル利害関係人ニ於テ自己ノ権利ノ追認証書ヲ得ント請求スルコト又ハ裁判上其権利ヲ単ニ追認セシムルコトヲ妨ケス
第千四百六十五条 時効カ其進行中ニ停止セラルヽトキハ既ニ経過シタル時間ハ其時効ノ更ニ進行ヲ始ムル時ニ之ヲ併算ス
第千四百六十六条 時効ハ法律ノ定メタル場合及ヒ法律ノ定メタル人ノ利益ニ於ケルニ非サレハ停止ス
第千四百六十七条 期間五ケ年ナル時効ハ成年者ニ対スル如ク未成年者及ヒ禁治産者ニ対シテ進行ス但後見人カ其行フ可キ権利ヲ覚知セサルコトニ付キ正当ノ原因ヲ有セサル場合ニ於テハ是等ノ者ヨリ其後見人ニ対スル求債権ヲ妨ケス
五ケ年ヲ起ユル時効ニ関シテ成規上ノ期間カ未成年中又ハ禁治産中ニ経過シタルトキハ成年ト為リタル未成年者、能力ヲ回復シタル禁治産者又ハ是等ノ者ノ成年ノ相続人ヲシテ其権利ノ効用ヲ致サシムル為メ之ニ一ケ年ノ補足期間ヲ付与ス
若シ権利カ無能力者ニ移リタル当時ニ於テ尚ホ進行ス可キ残期カ一ケ年以下ナルトキハ補足期間ハ其残期ノ継続期ノミヲ有ス
第千四百六十八条 時効ハ婦ニ対シ第三者ノ利益ニ於テ進行ス但夫カ婦ノ為メニ管理スル財産ニ関シ其夫ノ方ニ於テ懈怠アル場合ニ於テハ婦ヨリ夫ニ対スル求償権ヲ妨ケス
然レトモ時効ノ成規上ノ期間カ結婚中ニ成就シタルトキハ婦又ハ其相続人ハ左ノ場合ニ於テハ解婚ノ後未成年者及ヒ禁治産者ト同一ノ補足期間ヲ享有ス
第一 婦ニ因ル行使カ婚姻上ノ合意ノ効力又ハ法律ニ依リテ遅延セラレタル選択ニ繋ル権利ニ関スルトキ
第二 第三者ニ対スル婦ノ訴カ担保其他ノ方法ニテ夫ニ対シテ反響ス可キトキ
第千四百六十九条 前二条ノ規定ハ無能力者自身ニテ為シタル行為ノ銷除訴権ノ時効停止ニ関シ第五百六十七条及ヒ第五百六十八条ニ定メタルモノヲ妨ケス
第千四百七十条 配偶者ノ一人ヨリ他ノ一人ニ対シテ行フ可キ権利ニ関シテハ配偶者間ニ在テ結婚中ハ時効進行セス
第千四百七十一条 時効ハ他人ノ財産ノ管理人ト其管理ヲ受クル者トノ間ニ於テ其保存スルコトヲ任セラレタル権利ニ付テハ管理人ニ対シテ停止ス
第千四百七十二条 上ニ定メサル場合ニ於テ時効ノ期間ノ満了スル時ニ当リ有権者カ交通ノ塞カリタルニ因リ又ハ地方ノ裁判事務ノ停止セラレタル因リテ其権利ノ効用ヲ致サシムル為メ又ハ時効ヲ中断スル為メニ全ク手続ヲ為スコト能ハサリシトキハ有権者其妨碍ノ止ム後直チニ請求ヲ為スニ於テハ其失権ヲ免カルヽコトヲ得
右ノ規定ハ陸海軍人カ内国又ハ外国ノ戦乱ノ時ニ於テ服役ノ為メ其権利ヲ行フコトヲ妨ケラレタル場合ニ於テハ其利益ノ為メ之ヲ適用ス
第千四百七十三条 物権又ハ人権ノ不可分リ生スル時効ノ停止ハ第三百十一条第四百六十七条及ヒ第千九十二条第二項ニ於テ之ヲ規定ス
第五章 不動産ノ取得時効
第千四百七十四条 不動産ノ取得時効ニ付テハ所有者ノ名義ニテ占有シ其中断ナク且平穏公顕ニシテ下ニ定メタル継続期アルコトヲ要ス
第百九十五条及ヒ第百九十七条ニ定メタル如キ容仮、強暴隠密又ハ隠密ノ占有ハ時効ヲ生ス
第千四百七十五条 占有者カ時効ニ因リテ取得セントスル物ニ付キ或ル長キ時間所有者ノ行為ヲ行フコトヲ任意ニテ止メタルトキハ其占有ハ不継続ニシテ時効ヲ生セス
占有者カ再ヒ所有者ノ行為ヲ行フトキハ其以前ノ占有ノ時間ハ占有者ノ為メニ之ヲ算セス
第千四百七十六条 若シ占有カ上ニ定メタル条件ノ外第百九十三条ニ記載シタル如キ正名義ニ基因シ且第百九十四条ニ従ヒテ善意ナルトキハ占有者ハ不動産ノ所在地ト時効ノ為メ害ヲ受クル者ノ住所又ハ居所トノ間ノ距離ヲ区別セス十五ケ年ヲ以テ時効ヲ得
第千四百七十七条 方式上無効タリ又ハ裁判上取消サレタル名義ハ時効ノ為メニ有益ナラス
第千四百七十八条 占有者カ正名義ヲ証スルコトヲ得ス又ハ之ヲ証スルモ第百九十九条ニ規定シタル如ク其悪意カ証セラルヽトキハ取得時効ノ期間ハ三十ケ年トス
第千四百七十九条 性質上登記ヲ為ス可キ正名義ニ基因シタル時効ハ其名義ノ証書ヲ登記シタル後ニ非サレハ之ヲ算セス
第千四百八十条 前主ノ占有ヲ其相続人及ヒ包括若クハ特定ノ承継人ノ占有ニ併合シ又ハ継続スルコトハ第二百四条ニ於テ之ヲ規定ス
第六章 動産ノ取得時効
第千四百八十一条 正名義且善意ニテ有体動産物ノ占有ヲ取得スル者ハ即時ニ其所有者ト為ル
此場合ニ於テ反対カ証セラレサルトキハ占有者ハ正名義ニテ占有スルモノト推定セラル
第千四百八十二条 動産物ノ占有者カ正名義ヲ有シ且善意ナル場合ニ於テモ其物カ所有者ノ盗取セラレ又ハ遺失シタルモノナルトキハ其所有者ハ遺失又ハ盗難ノ時ヨリ一ケ年間ハ占有者ニ対シテ其物ノ回復ヲ請求スルコトヲ得但占有者カ其物ヲ有償名義ニテ受ケタルトキハ其譲渡人ニ対スル求償ヲ妨ケス
背信ニ因リテ隠窃シ又ハ詐欺ヲ以テ得タル物ニ本条ヲ適用セス前条ノ規定ニ従フ
第千四百八十三条 遺失シ又ハ盗取セラレタル物ヲ競売又ハ公ノ市場ニ於テ又ハ此類ノ物ノ商人若クハ古物商人ヨリ善意ニテ買受ケタルトキハ所有者ハ其買受代価ヲ弁償スルニ非サレハ回復ヲ為スコトヲ得ス此場合ニ於テハ右ノ代価ニ付キ所有者ハ売主ニ対シ又売主ハ譲渡人ニ対シテ求償権ヲ有シ終ニ盗取者又ハ拾得者ニ遡ル
第千四百八十四条 無記名債権証書ヲ遺失シ又ハ之ヲ盗取セラレタル場合ニ於テ其証書回復ノ期間及ヒ条件ハ特別規則ヲ以テ之ヲ定ム
第千四百八十五条 前記ノ場合ニ於テ回復者カ占有ノ無名義タリ又ハ悪意タルコトヲ証スルトキハ時効ハ三十ケ年ヲ経過スルニ非サレハ成就セス
第千四百八十六条 前記ノ規定ハ用方ニ因リテ不動産ト為リタル動産カ其附着シタル不動産ヨリ分離セラレタル場合ニ於テハ其動産ニ之ヲ適用ス
前記ノ規定ハ記名債権又ハ文学技術若クハ工芸ノ所有権ノ如キ無体動産ニモ又動産ノ包括ニモ之ヲ適用セス但此等ノ物ニ関スル時効ノ期間ハ第千四百七十四条乃至第千四百七十六条ニ記載シタル区別ニ従ヒ不動産ニ関スルモノト同一ナリ
第七章 免責時効
第千四百八十七条 義務ノ免責時効ハ債権者カ其権利ヲ行フコトヲ得ヘキ時ヨリ三十ケ年間之ヲ行ハサルニ因リテ成就ス但法律上別段短キ期間ヲ定メ又ハ債権ヲ時効ニ罹ラサルモノト定メタルトキハ此限ニ在ラス
第千四百八十八条 債務ノ元本カ年賦ニテ弁済ス可キモノタルトキハ利息ヲ包含スルト否トヲ問ハス時効ハ各年賦ノ要求期ニ達シタル時ヨリ格別ニ之ヲ算ス
第千四百八十九条 債権カ年金権ナルトキハ無期又ハ終身ノモノト雖モ其時効ハ証書ノ日附ヨリ三十ケ年ヲ以テ成就ス
然レトモ右ノ日附ヨリ二十八ケ年ノ後ニ至リ債権者ハ債務者ニ対シ時効ヲ中断スル為メ双方ノ費用ヲ以テ其権利ノ追認証書ヲ得ント要求スルコトヲ得
若シ債務者右ノ要求ヲ拒絶シ債権者裁判上自己ノ権利ヲ追認セシムルノ必要アルトキハ其費用ハ全ク債務者ノ負担タリ
第千四百九十条 動産質又ハ不動産質ノ返還ヲ得ル為メノ対人訴権ハ適法ナル方法又ハ免責時効ニ因リテ債務ノ消滅シタル後ニ非サレハ時効ニ罹ラス其時効ハ第千百十九条ニ記スル如ク債権者ガ質ヲ有スル事実ノミニ因リ停止セス
第八章 特別ノ時効
第千四百九十一条 人ノ身分ニ関スル訴権ハ法律カ其行使ヲ特別ノ期間ニ繋カラシムル場合ニ非サレハ時効ニ罹ラス
第千四百九十二条 相続人又ハ包括名義ノ受遺者若クハ受贈者ノ分限ヲシテ効用ヲ致サシムル為メノ遺産請求ノ訴権ハ相続人又ハ包括名義ノ受贈者若クハ受遺者ノ名義ニテ占有スル者ニ対シテハ相続発開ノ時ヨリ三十ケ年ヲ経過スルニ非サレハ時効ニ罹ラス
第千四百九十三条 免責時効ハ左ニ掲クル諸件ノ弁済ノ訴権ニ対シテハ五ケ年トス
第一 明額ナル金額ノ填補又ハ遅延ノ利息
第二 無期又ハ終身ノ年金権ノ年金
第三 養料又ハ恩給ノ一期ノ支払金
第四 借家賃又ハ借地賃
第五 果実又ハ日用品ノ毎期ノ給与額
第六 教師、番頭、手代、使用人、僕婢、乳母ノ謝金又ハ給料ニシテ一ケ年毎ニ定メラレタモノ
此他一般ニ一ケ年毎ニ定メタル金額又ハ有価物ノ債務但其弁済ハ更ニ短キ時期ヲ以テ為サル可キトキト雖モ亦同シ
債務者ハ右ノ時効ヲ申立ツルニ於テハ債権者ノ積帯セシメタル金額又ハ有価物ヲ弁済セサリシコトヲ自白スルトキト雖モ其時効ノ利益ヲ失ハス
第千四百九十四条 時効ハ左ノ訴権ニ対シテハ三ケ年トス
第一 内科外科ノ医師産婆製藁者ノ世話治術及ヒ調剤ニ関スル其訴権
第二 前条第六号ニ指定シタル教師使用人其他ノ者ノ給料カ一ケ年ヨリ短ク一ケ月ヨリ長キ時期ヲ以テ定メラレタル場合ニ於テハ其訴権
第三 技師工匠測量師製図師ノ雇使ノ終ラサルトキト雖モ其経画意見及ヒ工事ニ関スル其訴権
第四 不動産ニ関スル築造地均其他ノ工作ニ付テノ請負人ノ訴権
第千四百九十五条 公証人弁護士執達吏其他訴訟代人若クハ輔佐人カ職務ニ関シテ受ク可キモノニ付テノ其訴権ニ対スル時効ハ二ケ年トス
此場合ニ於テ時効ハ右各人ノ債権ヲ生セシメタル行為又ハ訴訟ノ了終後ニ非サレハ進行ヲ始メス
然レトモ了終セサル事件ニ関シテハ右各人ハ五ケ年余ニ遡ル行為ノ為メニ謝金ヲ要求スルコトヲ得ス
此規定ハ右各人カ其職務ノ為メニ為シタル立替金及ヒ支出金ニ之ヲ適用ス
第千四百九十六条 時効ハ左ノ訴権ニ対シテハ一ケ年トス
第一 非商人ニ為シタル供給ニ関スル日用品衣服其他動産物ノ御売又ハ小売商人ノ訴権但商人又ハ工業人ニ為シタル供給ト雖モ其者ノ商業又ハ工業ニ関セサル場合ニ於テハ亦同シ
第二 前記ノ区別ヲ以テ注文者ノ材料又ハ動産物ニ付キ仕事ヲ為ス居職ノ職工又ハ製造人ノ訴権
第三 生徒又ハ習業者ノ教育飲食及ヒ止宿ノ代料ニ関スル校長塾頭又ハ師匠ノ訴権
第千四百九十七条 時効ハ左ノ訴権ニ対シテハ六ケ月トス
第一 第千四百九十三条第六号及ヒ第千四百九十四条第二号ニ指定シタル教師、使用人、僕婢其他ノ者ノ給料カ一ケ月又ハ更ラニ短キ時期ニ定メラレタル場合ニ於テハ其訴権
第二 旅店又ハ料理店ノ主人ヨリ供給シタル宿泊料飲食料及ヒ消費物ニ関スル其訴権
第三 日雇月雇ノ職工又ハ労力者ノ給料及ヒ其仕事ニ際シ為シタル些少ノ供給ニ関スル其訴権
第千四百九十八条 前四条ニ規定シタル時効ノ期間中債権者ノ不行為ヨリ生スル弁済ノ推定ハ自発ニ因リ又ハ判事ノ訊問ニ因リ現実ニ弁済セサリシコトヲ自白シタル債務者之ヲ援用スルコトヲ得ス
若シ債務者ノ相続人、寡婦其他ノ一般承継人カ右ノ場合ノ一ニ於テ債務者ノ権ニ基キ時効ヲ援用スルニ於テハ其前主カ此名義ニテ原告ニ対シ何等ノモノヲモ負担セスト善意ニテ思考スル旨ヲ確言ス可キノ要求ヲ受クルコト有リ
第千四百九十九条 公証人裁判所書記弁護士執達吏ハ三ケ年ノ後ハ其職務ノ事件ニ関シテ交付セラレタル書類ノ責任ヲ免カレ其書類返還ノ証ヲ提示スルノ義務ヲ免除セラル然レトモ右等ノ者ハ予メ規則ニ定メタル捜索手数料ヲ弁済ヲ受ケテ一ケ月内ニ其記録保蔵所ニ於テ捜索ヲ為サシム可キノ要求ヲ受クルコト有リ
第千五百条 本章ニ規定シタル時効ハ当事者ノ間ニ明確ナル計算書定マリタル数額ニ付テノ債務ノ追認書又ハ債務者ニ対スル判決書アルトキハ之ヲ適用スルコトヲ得ス
補則
第千五百一条 本法領布ノ当時ニ於テ進行中ナル時効ハ上ニ定メタル規則ニ従フ
然レトモ其継続期ニ関シ旧時効カ新時効ヨリ一層長キ期間ヲ要スル場合ニ於テ債務者又ハ占有者ヘ本法領布ノ時ヨリ算シタル新時効ノ期間ヨリ旧時効ノ経過ス可キ残期カ短キトキハ旧時効ヲ利スルコトヲ得
新時効ヨリ一層短キ継続期ノ旧時効ニ関シテハ其期間ハ本法ニ定メタルモノニ同シキ期間ニ達スルマテ之ヲ伸長ス可シ