民法再調査案 第二編
参考原資料
法律取調委員会の議事筆記から抽出して作成した.
備考
- 類似資料として,民法再調査案と民法再調査案(手稿)が存在する.(後者は,「民法仮法則」というタイトルが付いているが誤りだと考えられる)
第二編 財産
前置条例財産及ヒ物ノ区別
第一条 財産ハ各人又ハ公私ノ無形人ノ資産ヲ組成スル権利ナリ
此権利ニ二種アリ物権及ヒ人権是ナリ
第二条 物権ハ直チニ物ノ上ニ行ハレ且総テノ人ニ対抗シ得ヘキモノニシテ主タル有リ従タル有リ
主タル物権ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 完全又ハ虧缺ノ所有権
第二 用益権、使用権及ヒ住居権
第三 賃借権、永借権及ヒ地上権
第四 占有権
従タル物権ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 地役権
第二 留置権
第三 動産質権
第四 不動産質権
第五 先取特権
第六 抵当権
右第一ハ所有権ノ従タル物権ニシテ第二以下ハ人権ノ担保ヲ為ス従タル物権ナリ
第三条 人権即チ債権ハ定マリタル人ニ対シ法律ノ認ムル原因ニ由リテ其負担スル作為又ハ不作為ノ義務ヲ尽サシムル為メ行ハルヽモノニシテ亦主タル有リ従タルアリ
従タル人権ハ債権ノ担保ヲ為ス保証及ヒ連帯ノ如シ
第四条 著述者ノ著書ノ発行、技術者ノ技術物ノ製出又ハ発明者ノ発明ノ施用ニ付テノ権利ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第五条 権利ハ物権ト人権トヲ問ハス目的物ノ種々ノ区別ニ従ヒ其様ヲ変ス其区別ハ物ノ性質、人ノ意思又ハ法律ノ規定ヨリ生ス即チ下ニ掲クル如シ
第六条 物ニ有体ナル有リ無体ナル有リ
有体物ハ人ノ感官ニ触ルヽモノニシテ地所、建物、動物、器械ノ如シ
無体物ハ智能ノミヲ以テ理会スルモノニシテ左ニ掲クル如シ
第一 物権及ヒ人権
第二 著述、技術及ヒ製作ニ関スル権利
第三 発開シタル相続、解散シタル会社又ハ清算中ナル共通ニ属スル財産及ヒ債務ノ括束
第七条 物ハ其性質ニ因リ又ハ所有者ノ用方ニ因リ遷移スルト否トニ従ヒ移動物即チ動産タリ不移動物即チ不動産タリ此他法律ノ規定ノミニ因リテ動産タリ不動産タル物アリ
第八条 性質ニ因ル不動産ハ左ノ如シ
第一 耕地、宅地、道路其他土地ノ部分
第二 湖、池、河川、溜水、溝渠、堀割、泉源
第三 堤塘、水刎、波止場其他此類ノ工作物
第四 土地ニ定着シタル浴場、水車、風車又ハ水力蒸気ノ機器
第五 森林、竹木其他ノ植物但第十三条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第六 果実及ヒ収獲物ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ但第十三条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第七 鉱物、坑石、泥炭及ヒ肥料土ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ
第八 建物及ヒ其外部ノ戸扉但第十三条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第九 墻、籬、柵
第十 水ノ出入又ハ瓦斯温気ノ引入ノ為メ土地又ハ建物ニ附着シタル筒管
第十一 土地又ハ建物ニ附着シタル電気器具
其他総テ性質ニ因リ移動ス可キモノト雖モ建物ニ必要ナル附属物
第九条 動産ノ所有者カ其土地又ハ建物ノ利用、便益若クハ装飾ノ為メニ永遠又ハ不定ノ時間其土地又ハ建物ニ供附ケタル動産ハ性質ノ何タルヲ問ハス用方ニ因ル不動産タリ即チ左ノ如シ但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第一 土地ノ耕作、利用又ハ肥料ノ為メニ供ヘタル獣畜
第二 耕作用ニ供ヘタル器具、種子藁草及ヒ肥料
第三 養蚕場ニ供ヘタル蚕種
第四 樹木ノ支持ニ供ヘタル棚架及ヒ杭柱
第五 土地ニ生スル物品ノ化製ニ供ヘタル器具
第六 工業場ニ供ヘタル機械及ヒ器具
第七 不動産ノ常用ニ供ヘタル浮橋及ヒ小舟但其水流ノ公用ニ属スルトキモ亦同シ
第八 園庭ニ装置シタル石灯篭、水鉢及ヒ岩石
第九 建物ニ供ヘタル畳、建具其他ノ補足物及ヒ毀損スルニ非サレハ取離ス事ヲ得サル遍額、玻鏡、彫刻物其他各種ノ装飾物
第十 修繕中ノ建物ヨリ取離シテ再ヒ之ニ用ユ可キ材料
第十一条 法律ノ規定ニ因ル不動産ハ左ノ如シ
第一 上ニ列記シタル有体不動産ノ上ニ存スル物権
第二 不動産ノ上ニ存スル物権ヲ取得セントシ又ハ取回セントスル人権
第三 建築師ノ材料ヲ以テ建物ヲ築造セシムル債権
第四 動産ニ係ル債権ニシテ法律ニ因リテ不動産ト為シ又ハ各人カ法律ノ規定ニ依リテ不動産ト為シタルモノ
第十二条 自力又ハ他力ニ因リテ遷移スル事ヲ得ル物ハ性質ニ因ル動産タリ但第八条及ヒ第九条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第十三条 仮ニ土地ニ定着セシメタル物ハ用方ニ因ル動産タリ即チ左ノ如シ
第一 建築ノ足場及ヒ支柱
第二 建築ヲ為スノ間其用ニ供ヘタル小屋
第三 種樹者カ売ル為メニ培養又ハ保存シタル草木
第四 取毀ツ為メニ譲渡シタル建物其他ノ工作物又ハ収去ル為メニ譲渡シタル樹木及ヒ収獲物
第十四条 法律ノ規定ニ因ル動産ハ左ノ如シ
第一 上ニ列記シタル動産ノ上ニ存スル物権
第二 有体動産ヲ取得シ又ハ取回セントスル債権但不動産ヲ以テ其担保ニ充テタルトキモ亦同シ
第三 所為ヲ成就セシメ又ハ権利ノ行使ヲ止メシムル債権縦令其権利カ不動産タルトキモ亦同シ
第四 無形人タル会社存立ノ間社員カ其会社ニ対シ有スル権利縦令不動産カ会社ニ属スルトキモ亦同シ
第五 著述、技術及製作ニ関スル権利
第十五条 発開シタル相続、解散シタル会社又ハ清算中ナル共通ニ属スル財産ノ一分ニ付テ有スル権利ノ其動産タリ不動産タル性質ハ分割ニ於テ各当事者ノ受クル財産ノ性質ニ因リテ定マル
当事者ノ一方ノ選択ニ任スル動産又ハ不動産ヲ目的トスル択一債権ノ性質モ亦其弁済ニ付テ選択シタル物ノ性質ニ因リテ定マル
第十六条 物ハ他ニ附属セスシテ完全ナル効用ヲ為スト否トニ従ヒ主タル有リ従タル有リ
用方ニ因ル不動産ハ性質ニ因ル不動産ノ従ナリ地役ハ要役地ノ従ナリ債権ノ担保ハ債権ノ従ナリ
第十七条 物ハ左ノ如ク之ヲ観定スル事ヲ得
第一 特定物即チ某家、某田、某獣ノ如キ殊別ナル物
第二 定量物即チ金幾円、米幾石、布幾反ノ如キ数量尺度ヲ以テ算フル物
第三 聚合物即チ群畜、書庫ノ書籍、店舗ノ商品ノ如キ増減シ得ヘキ多少類似ナル物
第四 括束財産即チ相続ノ総動産若クハ総不動産又ハ相続ノ全部若クハ一分ノ如キ資産ノ全部又ハ一分ヲ組成スル物
第十八条 物ハ其性質ニ因リ一回ノ使用ニテ消耗スルト否トニ従ヒ消耗物タリ不消耗物タリ
第十九条 物ハ当事者ノ意思又ハ法律ノ規定ニ因リテ同種ノ物ヲ以テ代フル事ヲ得ルト否トニ従ヒ代替物タリ不代替物タリ
定量物及ヒ一回ノ使用ニテ消耗スル物ハ概シテ当事者ノ意思ニ因ル代替物ト看做サル
第二十条 物ハ其性質、当事者ノ意思又ハ法律ノ規定ニ因リ形体上又ハ智能上分割スル事ヲ得ルト否トニ従ヒ可分物タリ不可分物タリ
或ル地役及ヒ或ル作為又ハ不作為ノ義務ハ性質ニ因ル不可分物ナリ
物ノ一分ノ給付ヲ以テ約束ノ目的タル便益ヲ与フル能ハサルトキハ其物ハ当事者ノ意思ニ因ル不可分物ナリ
抵当及ヒ債権ノ物上担保ハ法律ノ規定ニ因ル不可分物ナリ
第二十一条 物ハ所有ニ属スルモノ有リ所有ニ属セサルモノ有リ
所有ニ属スル物トハ公又ハ私ノ資産ノ部分ヲ為スモノヲ謂フ
所有ニ属セサル物トハ無主又ハ公共ノモノヲ謂フ
第二十二条 公ノ資産ノ部分ヲ為ス物ニ公有及ヒ私有ノ二種アリ
第二十三条 公ノ無形人ニ属シ国用ニ供ヘタル物ハ公有ノ部分ヲ為ス即チ左ノ如シ
第一 国領ノ海及ヒ海浜但海浜ハ春分、秋分最高潮ノ至ル処ヲ以テ限ト為ス
第二 道路、鉄道、舟若クハ筏ノ通ス可キ川又ハ掘割及ヒ其床地
第三 城砦、塁壁其他陸海防禦ノ工作物
第四 軍用ノ倉庫、船艦、兵器械其他ノ物品
第五 皇宮及ヒ官庁ノ建物
第二十四条 公ノ無形人カ各人ト同一ノ名義ニテ所有スル物ニシテ金銭ニ見積ル事ヲ得ル収入ヲ生ス可キモノハ其私有ノ部分ヲ為ス即チ国有ノ海、瀉、森林、牧場ノ如シ
所有者ナキ不動産及ヒ相続人ナクシテ死亡シタル者ノ遺産ハ当然国ニ属ス
第二十五条 無主物トハ何人ニモ属セスト雖モ所有権ノ目的ト為ル事ヲ得ルモノヲ謂フ即チ委棄ノ物品、山野ノ鳥獣、河海ノ魚介ノ如シ
第二十六条 公共物トハ何人ノ所有ニモ属スル事ヲ得スシテ総テノ人ノ使用スル事ヲ得ルモノヲ謂フ即チ空気、光線、流水、大洋ノ如シ
第二十七条 物ハ私ノ所有権又ハ私ノ債権ノ目的ト為ル事ヲ得ルト否トニ従ヒ又所有者カ其物ヲ約束ノ目的ト為ス事ヲ得ルト否トニ従ヒ融通物タリ不融通物タリ
爵位、勲章、官職及ヒ発開セサル相続ノ如キ公ノ秩序ノ為メ法律ニ於テ処分ヲ禁シタル物及ヒ公有ノ財産ハ不融通ナリ
第二十八条 物ハ譲渡ス事ヲ得ルモノ有リ譲渡ス事ヲ得サルモノ有リ
所有権ヨリ支分シタル使用権若クハ住居権、要役地ヨリ引離セルモノト看做シタル地役及ヒ政府ノ与ヘタル開砿ノ特許其他ノ特権若クハ専占権ハ概シテ融通物ナリト雖トモ譲渡ス事ヲ得サルモノナリ
其他法律ニ於テ譲渡ノ禁セサル物又ハ法律カ任意ヲ以テ譲渡ヲ禁スル事ヲ許ス場合ニ於テ之ヲ禁セサル場合ハ譲渡スル事ヲ得ルモノナリ
第二十九条 物ハ法ニ定メタル条件ヲ具備スル占有ニ付着セル所得ノ推定ヲ受クルト否トニ従ヒ時効ニ罹ル事ヲ得ルモノ有リ時効ニ罹ル事ヲ得サルモノ有リ
第三十条 物ハ所有者ノ債権者カ強制売却ヲ請求スル事ヲ得ルト否トニ従ヒ差押フル事ヲ得ルモノ有リ差押フル事ヲ得サルモノ有リ
融通スル事ヲ得サル物、譲渡スル事ヲ得サル物其他法律若クハ人ノ処分ニテ差押ヲ禁シタル物ハ差押フル事ヲ得サル物ナリ即チ文武ノ恩給金及ヒ無償名義ノ設定ヲ以テ差押ヲ禁シタル養料終身年金権ノ如シ
第一部 物権
第一章 所有権
第三十一条 所有権トハ自由ニ物ノ使用、収益及ヒ処分ヲ為スノ権利ヲ謂フ
此権利ハ法律又ハ約束ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ制限スル事ヲ得ス
第三十二条 不動産ノ所有者ハ適法ニ認定シ及ヒ宣言シタル公益ニ因由シ公用徴収法ニ従ヒテ定メタル償金ノ払渡ヲ予メ受クルニ非サレハ公用徴収ノ為メ其所有権ノ譲渡ヲ強要セラルヽ事無シ
動産ノ公用徴収ハ毎回定ムル特別法ニ依ルニ非サンハ之ヲ行フ事ヲ得ス
官府ニ属スル先買権及ヒ徴発令ヲ以テ定メタル物ノ徴発又ハ凶災ノ時ニ行フ物ノ徴求ニ付テハ本条ノ例ヲ用ヒス
第三十三条 所有者ハ償金ヲ得ルニ於テハ公用工事ノ便利ノ為メ使有物ノ一時ノ占拠ヲ強要セラルヽ事有リ
第三十四条 物料ノ採掘、道路ノ劃線、樹木ノ伐採、水其他ノ物ノ収取ニ付キ全国又ハ一地方ノ公益ノ為メ設ケタル地役ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三十六条 鉱物ノ所有権及ヒ其試掘若クハ開坑ハ特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三十七条 所有者其物ノ占有ヲ妨ケラレ又ハ奪ハレタルトキハ所持者ニ対シ回復訴権ヲ行フ事ヲ得但動産及ヒ不動産ノ時効ニ関シ第五編ニ記載シタル規則ハ此限ニ在ラス
又所有者ハ第二百十二条乃至第二百二十五条ニ定メタル規則ニ従ヒ占有ニ関スル訴権ヲ行フ事ヲ得
第三十八条 数人一物ヲ不分ニテ共有スルトキハ持分ノ均不均ニ拘ハラス各共有者其物ノ全部ヲ使用スル事ヲ得但其用方ニ従ヒ且他ノ共有者ノ使用ヲ妨ケサル事ヲ要ス
各共有者ノ持分ハ相均シキモノト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
天然又ハ法定ノ果実及ヒ産出物ハ各共有者ノ権利ノ限度ニ応シ定期ニ於テ之ヲ分割ス
各共有者ハ其物ノ保存ニ必要ナル管理其他ノ行為ヲ為ス事ヲ得
各共有者ハ其持分ニ応シテ諸般ノ負担ニ任ス
右規定ハ使用、収益又ハ管理ヲ各別ニ定ムルノ約束ヲ妨ケス
第三十九条 処分権ニ付テハ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾アルニ非サレハ其物ノ形体ヲ変スル事ヲ得ス又自己ノ持分外ニ物権ヲ付スル事ヲ得ス
共有者ノ一人其持分ヲ譲渡シタルトキハ譲受人ハ他ノ共有者ニ対シ譲渡人ニ代ハリ其地位ヲ有ス但第十五条ニ掲ケタル分割ノ効力ヲ妨ケス
第四十条 各共有者ハ如何ナル約束アルニ拘ハラス共有物ノ分割ヲ請求スル事ヲ得
然レトモ共有者ハ五ケ年ヲ超エサル定期ノ時間分割セサルヲ約スル事ヲ得
此約束ハ何時ニテモ之ヲ更新スル事ヲ得但其時間ハ亦五ケ年ヲ超エル事ヲ得ス
右規定ハ数箇ノ所有地ニ共通ナル通路、井戸、籬壁、溝渠ノ互有ヨリ生スル共有権ニ之ヲ適用セス
第四十一条 相続人、夫婦又ハ社員ノ共有権ニ付テハ第三編相続夫婦財産契約及ヒ会社ノ各章ニ定メタル規則ニ従フ
第四十二条 数人ニテ一家屋ヲ区分シ各其一部分ヲ所有スルトキハ相互ノ権利及ヒ義務ハ左ノ如ク之ヲ規定ス
各共有者ハ離隔セル所有物ノ如クニ自己ノ持分ヲ処分スル事ヲ得
諸般ノ租税及ヒ建物並ニ其附属物ノ共用ノ部分ニ係ル大小修繕ハ各自ノ持分ノ価格ニ応シテ之ヲ負担ス
各自ハ己レニ属スル部分ノ床板及ヒ隔壁ノ費用ヲ一人ニテ負担ス
第四十三条 所有権ハ当事者ノ間ニ於ケルモ第三者ニ対スルモ本編及ヒ第三編ニ記載シタル原因及ヒ方法ニ依リ之ヲ取得シ保存シ及ヒ転付ス
主タル物ノ処分ハ従タル物ノ処分ヲ帯フ但反対ノ明示アルトキハ此限ニ在ラス
第四十四条 所有権ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 任意又ハ強要ノ譲渡
第二 他人ノ物ニ自己ノ物ノ添付
第三 法律ニ依リテ宣告シタル没収
第四 取得ノ解除、銷除又ハ廃罷
第五 物ヲ処分スル能力アル所有者ノ任意ノ委棄
第六 物ヲ不融通物ト為シタル当該官ノ命令
第七 物ノ全部ノ毀滅
第四十五条 動産及ヒ不動産ノ所有権ノ取得及ヒ消滅ニ関シ取得時効ト称スルモノヽ性質及ヒ効力ニ付テハ第五編末章ノ規定ニ従フ
第二章 用益権、使用権及ヒ住居権
第一節 用益権
第四十六条 用益権トハ所有権ノ他人ニ属スル物ニ付キ有期ニテ使用及ヒ収益ヲ為スノ権利ヲ謂フ
使用権及ヒ住居権ニ特別ナル規則ハ本章ノ附録ト為ス
第一款 用益権ノ設定
第四十七条 用益権ハ法律又ハ人意ニ因リテ設定スルモノトス
法律ニ因ル用益権ノ設定ハ父権及ヒ相続ノ各章ニ定メタル規則ニ従フ
人意ニ因ル用益権ノ設定ハ所有権ノ取得及ヒ移転ニ関スル規則ニ従フ
又用益権ハ有償又ハ無償ノ名義ニテ譲渡シタル財産ノ上ニ之ヲ留存シテ設定スル事ヲ得
夫婦ノ共通財産又ハ婦ノ特有財産ニ於ケル夫ノ用益権ハ第三編夫婦財産契約ノ章ニ定メタル規則ニ従フ
時効ヲ以テ用益権ノ取得ヲ証スル要件ハ時効ヲ以テ完全ノ所有権ノ取得ヲ証スル要件ニ同シ
第四十八条 用益権ハ動産ト不動産ト有体物ト無体物トヲ問ハス一切ノ融通物ノ上ニ之ヲ設定スル事ヲ得
又用益権ハ他ノ用益権、終身年金権又ハ包括資産ノ上ニ之ヲ設定スル事ヲ得
第四十九条 用益権ハ始時若クハ終時ヲ定メ又ハ時期ヲ定メスシテ之ヲ設定スル事ヲ得
又用益権ハ其始時又ハ終時ヲ未必条件ノ成就ニ繋ケテ之ヲ設定スル事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ其時期ハ用益者ノ終身ヲ超ユル事ヲ得ス
第五十条 用益権ハ一人又ハ数人ノ終身ヲ期シテ之ヲ設定スル事ヲ得数人ノ終身ヲ期シテ設定シタルトキハ数人同時ニ又ハ順次ニ之ヲ行フ
右孰レノ場合ニ於テモ用益権ハ其権利発開ノ時既ニ出生シ又ハ胎内ニ在ル者ノ為メニスルニ非サレハ之ヲ設定スル事ヲ得ス
第二款 用益者ノ権利
第五十一条 用益者ハ其権利ノ発開シタルトキ若シ始時ノ定メ有ラハ其時期ノ到来シタルトキハ次款ニ定メタル不動産形状書、動産目録ヲ作リ及ヒ保証ヲ立ルノ義務ヲ履行シタル後其用益権ノ存スル物ノ占有ヲ要求スル事ヲ得
用益者ハ用益物ヲ其現状ニテ受取ル可ク修繕又ハ調適ヲ求ムル事ヲ得ス但権利発開ノ後設定者若クハ其相続人ノ過失ニ因リ又ハ発開ノ前ト雖モ其悪意ニ因リテ用益物ヲ毀損シタルトキハ此限ニ在ラス
第五十二条 用益者カ収益ヲ始ムル事ヲ得ルヨリ以後ニ虚有者ノ収取シタル果実ハ用益者ニ属ス縦令用益者カ自ラ其収益ヲ遅延シタルモ亦同シ但其果実ノ収取及ヒ保存ノ費用ヲ虚有者ニ償還スル事ヲ要ス
用益者ハ収益ヲ始ムル時根枝ニ由リテ土地ニ附着スル果実ヲ其成熟ニ至リ収取スルノ権利ヲ有ス但耕耘、種子、栽培ノ費用ヲ虚有者ニ償還スル事ヲ要セス
第五十三条 用益者ハ其権利ノ継続、間用益物ヨリ生スル天然及ヒ法定ノ一切ノ果実ニ付キ所有者ニ同シキ権利ヲ有ス
第五十四条 天然ノ果実ハ自然ニ生シタルト栽培ニ因リテ得タルトヲ問ハス土地ヨリ之ヲ離シタル時直チニ用益者ニ属ス縦令事変又ハ盗奪ニ因リテ離レタルモ亦同シ
然レトモ果実カ其成熟前ニ土地ヨリ離レ且用益権カ通常ノ収取季節前ニ消滅シタルトキハ其利益ハ虚有者ニ帰ス
第五十五条 獣畜ノ子ハ其産出ノ時ヨリ用益者ニ属ス乳汁、肥料及ヒ剪毛季節ニ剪取シタル絨毛モ亦同シ
第五十六条 法定ノ果実ハ其払渡時期ノ如何ヲ問ハス収益ヲ始ムル事ヲ得ル時ヨリ用益権ノ消滅スルマテ用益者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
法定ノ果実ハ用益物ニ付キ第三者ヨリ金銭ヲ以テ払フ可キ納額即チ土地、建物ノ借賃、借入金ノ利息、会社ノ配当金、年金権ノ年金、鉱ノ坑ノ償金、石坑ノ借料ノ類ナリ
第五十七条 用益物中ニ金穀其他日用品ノ如キ消耗スルニ非サレハ使用シ及ヒ収益スル事ヲ得サル動産アルトキハ用益者ハ之ヲ消耗シ又ハ譲渡ス事ヲ得但用益権消滅ノ時同数量、同品質ノ物ヲ返還シ又ハ収益ヲ始ムル以前ニ評価ヲ為シタルニ於テハ其価金ヲ返還スル事ヲ要ス
右規定ハ用益権ヲ設定シタル商業株中ニ存スル商品其他ノ代替物ニ之ヲ適用ス
第五十八条 住居用ノ器具其他使用ニ因リテ毀損ス可キ用益物ニ付テハ用益者ハ其用方ニ従ヒテ之ヲ使用シ且用益権消滅ノ時其現状ニテ之ヲ返還スル事ヲ得但用益者ノ過失又ハ懈怠ニ因リテ重大ノ毀損ヲ致シタルトキハ此限ニ在ラス
又賃貸スル事ヲ得ヘキ性質ノ用益物ニ付テハ用益者ハ自己ノ責任ヲ以テ之ヲ賃貸スル事ヲ得
第五十九条 終身年金権ノ用益者ハ年金権者ト同シク其年金ヲ収取スルノ権利ヲ有ス但反対ノ条件アルトキハ此限ニ在ラス
既ニ設定シタル用益権ニ付キ更ニ用益権ヲ得タル者ハ原用益者ニ属スル一切ノ権利ヲ行使ス
第六十条 種類及ヒ員数ノミヲ以テ定メタル畜群ノ用益者ハ保存ヲ要セサル部分ヲ毎年処分スル事ヲ得但其子ヲ以テ全数ヲ保持スル事ヲ要ス
第六十一条 用益者ハ大小木ノ樹林及ヒ竹林ニ付キテハ従来ノ所有者ノ慣習及採伐方ニ従ヒ定期ノ採伐ヲ為シテ収益ス
採伐方ノ未タ確ニ定マラサルトキハ用益者ハ重モナル所有者又ハ公ノ無形人ニ属スル近傍樹林ノ慣習ニ従フ但採伐スル一个月前ニ虚有者ニ予告スル事ヲ要ス
第六十二条 従来ノ所有者ノ定期採伐ヲ為サヽリシ保存木及ヒ大樹木ニ付テハ用益者ハ其樹木ノ定期産出物ノミヲ得ルノ権利ヲ有ス
然レトモ用益権ノ存スル建物ノ大修繕ヲ要スルトキハ用益者ハ枯レ又ハ倒レタル大樹木ヲ之ニ用ユル事ヲ得且若シ生木ヲ要スルトキハ虚有者立会ニテ其必要ヲ証セシ後之ヲ採伐スル事ヲ得
第六十三条 用益者ハ用益樹木ヲ支持スルニ必要ナル棚架、支柱又ハ杭杙ニ用ユル竹木ヲ何時ニテモ其用益地ノ樹林及ヒ竹林ヨリ採取スル事ヲ得
第六十四条 用益者ハ用益樹木ヲ植続キ又ハ植増ス為メ其用益地ノ苗床ヨリ苗木ヲ採取スル事ヲ得
又用益者ハ其苗床ノ苗木ヲ定期ニ売ル事ヲ得但従来此用方アルトキ又ハ其生殖カ用益地ノ需用ニ余ルトキニ限ル
右孰レノ場合ニ於テモ用益者ハ苗芽又ハ種子ヲ以テ苗床ヲ保持スル事ヲ要ス
第六十五条 用益地ニ既ニ採掘ヲ始メ且特別法ニ従フヲ要セサル石類、石灰類其他ノ物ノ石坑アルトキハ用益者ハ従来ノ所有者ノ如ク其収益ヲ為ス
其石坑ヲ未タ採掘セス又ハ既ニ廃止シタルトキハ用益者ハ其用益財産中ノ建物、墻壁其他ノ部分ノ大小修繕ニ必要ナル材料ノミヲ採取スル事ヲ得但其土地ヲ損傷セシメス且第六十二条ニ記載シタル如ク予メ其必要ヲ証セシムル事ヲ要ス
又用益者ハ前二項ノ区別ニ従ヒ其用益地ノ泥炭及ヒ肥料土ニ付キ収益スル事ヲ得
第六十七条 用益者ハ用益地ヲ増加スル寄洲、中洲其他ノ添附地ニ付キ収益ス
然レトモ虚有者カ償金ヲ払フニ非サレハ添附地ヲ取得スル事ヲ得サリシトキハ用益者ハ用益権ノ継続間虚有者ニ其償金ノ利息ヲ払フ事ヲ要ス
用益者ハ用益不動産ニ於テ第三者ノ発見シタル埋蔵物ニ付キ権利ヲ有セス
第六十八条 用益者ハ用益地ニ於テ狩猟及ヒ捕漁ヲ為スノ権利ヲ有ス
第六十九条 用益者ハ用益不動産ニ属スル一切ノ地役権ヲ行フ若シ不使用ニ因リテ之ヲ消滅セシメタルトキハ虚有者ニ対シ其責ニ任ス
第七十条 用益者ハ直接ニ虚有者及ヒ第三者ニ対シ其収益権ニ関スル占有及ヒ権原ノ物上訴権ヲ行フ事ヲ得
又用益者ハ用益不動産ノ働方又ハ受方ノ地役ニ付キ自己ノ権利ノ範囲内ニ於テ占有ニ係ルト権原ニ係ルトヲ問ハス要請又ハ拒却ノ訴権ヲ行フ事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ第百一条ノ規定ヲ適用ス
第七十一条 父母ノ外ナル用益者ハ有償又ハ無償ノ名義ニテ其用益権ヲ譲渡シ賃貸シ又ハ用益ニ付スル事ヲ得且用益物カ抵当ト為ル可キモノナルトキハ其権利ヲ抵当ト為ス事ヲ得
如何ナル場合ニ於テモ用益者ノ付与シタル権利ハ其用益権ト同シキ期間、制限及ヒ条件ニ従フ
第七十二条 用益者ハ用益権消滅ノ時其収取セサリシ果実及ヒ産出物ノ為メ償金ヲ求ムルノ権利ヲ有セス其果実及ヒ産出物ノ猶ホ土地ニ附着スルトキト雖モ亦同シ
又用益物ニ改良ヲ加ヘテ価直ヲ増シタルトキト雖モ其改良ノ為メ虚有者ニ対シ償金ヲ求ムル事ヲ得ス
用益者ハ自己ノ設ケタル建物、樹林、装飾物其他ノ附加物ヲ収去スル事ヲ得但其用益物ヲ原状ニ復スル事ヲ要ス
第七十三条 虚有者ハ用益権消滅ノ時用益者又ハ其相続人ノ前条ニ従ヒ収去スル事ヲ得ヘキ建物及ヒ樹林ヲ鑑定人ノ評価シタル現時ノ価直ヲ以テ先買スル事ヲ得
用益者ハ虚有者ニ右先買権ヲ行フヤ否ヤヲ述フ可キノ催告ヲ為シ其後十日内ニ虚有者カ先買ノ陳述ヲ為サス又ハ之ヲ拒絶シタルトキニ非サレハ其収去ニ着手スル事ヲ得ス
虚有者カ先買ノ陳述ヲ為シタリト雖モ鑑定人又ハ裁判所ノ処決ノ確定シタル時ヨリ一个月内ニ其代金ヲ弁済セサルトキハ先買権ヲ失フ但損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス
用益者又ハ其相続人ハ代金ノ弁済ヲ受クルマテ建物ヲ占有スル事ヲ得
第三款 用益者ノ義務
第七十四条 用益者ハ用益財産ノ占有ヲ始ムル前ニ虚有者ト立会ヒ又ハ合式ニ之ヲ召喚シ完全精確ニ動産ノ目録、不動産ノ形状書ヲ作ル事ヲ要ス
第七十五条 当事者カ双方出会シ共ニ能力アルトキ又ハ有効ニ代理ヲ立テタルトキハ目録及ヒ形状書ハ私署ヲ以テ之ヲ作ル事ヲ得反対ノ場合ニ於テハ公吏之ヲ作ル
第七十六条 目録ニ記シタル代替物ノ評価ハ売買ニ同シキ効力ヲ有ス但反対ノ明言アルトキハ此限ニ在ラス不代替物ノ評価ハ目録ニ明記アルニ非サレハ売買ニ同シキ効力ヲ有セス
有償名義ヲ以テ用益権ヲ設定シタルトキハ目録及ヒ評価ノ費用ハ用益者、虚有者各其半額ヲ負担シ無償名義ノ場合ニ於テハ用益者一人ニテ之ヲ負担ス
第七十七条 用益権設定ノ時用益者ノ目録又ハ形状書ヲ作ルノ義務ヲ免除シタリト雖モ虚有者ハ常ニ用益者ト立会ヒ又ハ合式ニ之ヲ召喚シ自費ヲ以テ目録又ハ形状書ヲ作ル事ヲ得但此事ニ付キ虚有者ハ十一日以上収益ヲ遅延セシムル事ヲ得ス
第七十五条及ヒ第七十六条第一項ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
第七十八条 用益者ハ目録又ハ形状書ヲ作ルノ義務ヲ履行セスシテ収益ヲ始メタルトキハ善良ナル形状ニテ不動産ヲ受取リタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
動産ニ付テハ虚有者ハ通常ノ証拠ハ勿論世評ヲ以テ其実状及ヒ価格ヲ証スル事ヲ得
第七十九条 用益者ハ用益権消滅ノ時負担ス可キ返還及ヒ償金ノ為メ保証人ヲ立テ又ハ他ノ相応ナル担保ヲ供フルニ非サレハ収益ヲ始ムル事ヲ得ス
第八十条 担保ノ性質ニ付キ当事者ノ間ニ議協ハサルトキハ裁判所ハ顕然資力アル第三者ノ引受ヲ認許シ又ハ供託物取扱所若クハ当事者ノ認諾スル第三者ニ金銭若クハ有価物ヲ寄託スルヲ認許シ又ハ動産質若クハ抵当ヲ認許スルコトヲ得
第八十一条 担保ス可キ金額ニ付テハ裁判所ハ用益権ノ直接ニ存スル金高未満ニ其金額ヲ定ムルコトヲ得ス又動産ノ評価カ売買ニ同シキ効力ヲ有スルトキハ其評価ノ全額未満ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス又評価カ売買ニ同シキ効力ヲ有セサルトキハ其評価ノ半額未満ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス
然レトモ右ノ末ノ場合ニ於テ若シ用益者カ評価セシ動産ニ係ル権利ヲ用益権ノ継続間ニ譲渡シ又ハ賃貸シタルトキハ虚有者ハ常ニ評価ノ全額ニ対シテ担保ヲ要求スルコトヲ得
不動産ノ担保金額ノ多寡ハ裁判所之ヲ裁定ス
第八十二条 担保ノ設定証書ニハ前条ニ定メタル金額ニ対スル保証人又ハ用益者ノ一身ノ引受ヲ併記ス
第八十三条 用益者カ動産又ハ不動産ニ対シ相応ナル担保ヲ供フル能ハス但当事者ノ間ニ別段ノ約束ナキトキハ左ノ如ク所弁ス
日用品其他ノ代替物ハ之ヲ公売シ其代金ハ虚有者、用益者連名ニテ用益権ノ直接ニ存スル金銭ト共ニ供託物取扱所ニ供託シ又ハ之ヲ国債劵ニ換ヘ用益者ハ其利息ヲ収取ス
其他ノ動産ハ虚有者之ヲ占有ス
不動産ハ之ヲ第三者ニ賃貸シ又ハ虚有者カ賃借ノ名義ニテ之ヲ保存シ用益者ハ保持費用及ヒ第九十二条ニ記載シタル負担ヲ扣除シテ貸賃ヲ収取ス
第八十四条 用益者カ担保ノ一分ニ非サレハ供フル能ハサルトキハ引渡ヲ受ク可キ用益物ニ付キ其担保ノ限度ニ応シテ選択ヲ為ス
第八十五条 用益者ノ保証人ヲ立ツルノ義務ハ設定ノ名義又ハ其後ノ行為ヲ以テ之ヲ免除スル事ヲ得但用益者ノ無資力ト為リタルトキハ此免除ハ其効ヲ失フ若シ用益者カ既ニ収益ヲ始メタルトキハ其用益物ヲ虚有者ニ返還シ且前ノ条ニ従ヒテ処弁ス
第八十六条 父母ノ法律上ノ用益権ニ付テハ保証人ヲ立ツルノ義務ナシ
生存者間ノ贈与物ニ付キ贈与者カ自己ノ利益ノ為メ留存シタル用益権ニ付テモ亦同シ
然レトモ父母又ハ贈与者ノ無資力ノ場合ニ於テハ用益金銭ニ対シ及ヒ第七十六条ニ従ヒ売買ニ同シキ効力ヲ有スル評価額ニ対シテ保証人ヲ立ツルコトヲ要ス
第八十七条 用益者ハ用益物ノ元資本体及ヒ用方ヲ変スル事ヲ得ス
用益者カ収益ヲ始メタルトキハ善良ナル管理者ノ如ク用益物ノ保存ニ注意スルコトヲ要ス
用益者ハ其過失又ハ懈怠ヨリ生スル用益物ノ喪失又ハ毀損ノ責ニ任ス但虚有者ノ権利ヲ保護スル為メ用益者ニ対シ第百七条ニ許可シタル処置ヲ為スコトヲ妨ケス
第八十八条 用益物ノ全部又ハ一分カ火災ニテ喪失シタルトキハ用益者ニ過失アリト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第八十九条 用益者ハ動産及ヒ不動産ノ小修繕ヲ負担シ求償権ヲ有セス
大修繕ハ用益者ノ過失ニ因リ又ハ小修繕ヲ為サヽルニ因リテ必要ト為リタルトキニ非サレハ用益者之ヲ負担セス
屋根若クハ重モナル墻壁ノ修繕又ハ重モナル梁柱若クハ基礎ノ変更ヲ建物ノ大修繕トス
石垣、堤塘及ヒ囲墻ノ改造モ亦之ヲ大修繕ト看做ス
第九十条 過失又ハ懈怠ノ場合ノ外用益者ハ虚有者ヲ立会ハシメ鑑定人ヲシテ大修繕ノ必要ヲ証明セシメタル後虚有者其大修繕ヲ為スコトヲ拒ミタルトキハ自ラ之ヲ為スコトヲ得
用益権ノ終ニ於テ虚有者ハ右修繕ヨリ生シタル現時ノ増価額ヲ用益者ニ弁償スルノ責ニ任ス
若シ虚有者カ大修繕ヲ為ストキハ用益者ヲ立会ハシメ鑑定人ヲシテ其必要及ヒ費用ヲ証明セシメ用益者ハ毎年其費用ノ利息ヲ虚有者ニ弁償ス
第九十一条 前条ノ規定ハ建物カ朽敗ノ為メ崩頽シ又ハ事変ニ因リテ破壊シタル場合ニモ之ヲ適用ス但第百十条ニ定メタル如ク此等ノ事ニ因リテ用益権ノ消滅ヲ致ストキハ此限ニ在ラス
第九十二条 用益物ニ賦セラルヽ租税及ヒ毎年通常ノ公課ハ其全国ニ係ルモノト一地方ニ係ルモノトヲ問ハス用益者之ヲ負担ス
用益権ノ継続間用益物ニ賦セラルヽコト有ル可キ非常ノ公課又ハ租税ニ付テハ虚有者ハ其元本ヲ払ヒ用益者ハ此時間毎年ノ利息ヲ弁償ス
非常ノ公課又ハ租税ト看做スモノハ左ノ如シ
第一 強要ノ借入
第二 増税又ハ新税但其法令ニ於テ臨時又ハ非常ノ名称ヲ付シタルトキニ限ル
第九十三条 用益者又ハ虚有者カ通常又ハ非常ノ租税ヲ納メサルトキハ不動産ハ完全ノ所有権ニ於テ之ヲ差押ヘ且売却シ其代金ヲ怠納租税ニ充ツ若シ残額アラハ其元本ハ虚有者ニ属シ其収益ハ用益者ニ属ス
此場合ニ於テ用益者ハ第百十三条ニ定メタル如ク其収益金額ニ付キ保証人ヲ立ツルコトヲ要ス
第九十四条 虚有者カ用益権設定ノ前ニ火災ニ対シ建物ヲ保険ニ付シタルトキハ用益者ハ毎年保険料ノ利息ヲ払フノ責ニ任ス但虚有者ハ火災ノ場合ニ於テ得タル償金ノ収益ヲ用益者ニ取ラシムルコトヲ要ス
若シ所有者カ用益権ノ存続中保険ヲ為シテ其保険カ完全ノ所有権ニ関スルトキハ用益者ハ保険料ノ利息ヲ担保スルノ義務ナシ然レトモ所有者ヨリ其自身ニテ支払タル保険料額ヲ扣取シタル残額上ニ非サレハ収益セス若シ又保険カ虚有権ノミニ関スルトキハ用益者ハ災害ノ場合ニ於テ償金ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス
海上ノ危険ニ対シ保険ニ付シタル船舶ニ付キ用益権ヲ設定シタルトキモ右ノ規定ヲ適用ス
第九十五条 又用益者ハ自己及ヒ虚有者ノ利益ノ為メ自費ヲ以テ保険ヲ約スルコトヲ得此場合ニ於テハ用益者ハ償金ノ額内ヨリ自己ノ払ヒタル保険料扣除シ其残額ニ付テ収益ス
若シ用益者カ其用益権ノ価格ノミニ付キ建物ヲ保険ニ付シタルトキハ用益者ハ一人ニテ毎年ノ保険料ヲ専担ス
凍、雹其他天然ノ事変ニ対シ用益者カ収獲物又ハ産出物ヲ保険ニ付シタルトキモ亦同シ
第九十六条 第四十八条ニ定メタル如ク相続ノ包括又ハ包括名義ノ用益者ハ其得益ノ割合ニ応シ相続ノ債劵ノ利息ヲ負担ス
右相続ノ負担タル養料又ハ終身年金権ノ年金モ亦同上ノ割合ニ応シテ之ヲ負担ス
第九十七条 特定財産ノ用益者ハ其用益財産カ抵当又ハ先取特権ヲ負担スルトキト雖トモ設定者ノ債務ノ弁済ヲ分担セス
用益者カ所持者トシテ追訴ヲ受ケタルトキハ債務者ニ対スル求償権ヲ有ス但用益権ノ設定者又ハ其相続人ニ対シ追奪担保ノ訴権ヲ妨ケス
第九十八条 虚有者カ元本ヲ負担シ用益者カ其利息ヲ負担ス可キ諸般ノ場合ニ於テハ左ノ三箇ノ方法ノ一ニ依リテ処弁ス
第一 虚有者カ元本ヲ払ヒ用益者カ其毎年ノ利息ヲ払フ
第二 用益者カ元本ヲ立替ヘ虚有者カ用益権ノ終ニ之ヲ用益者ニ償還ス
第三 要求ヲ受ク可キ金額ニ満ツルマテ用益財産ノ一分ヲ売却ス
第九十九条 用益権ノ継続間用益不動産ニ第三者カ虚有者ノ権利ヲ害ス可キ侵奪ヲ加ヘヌハ営作ヲ為ストキハ用益者ハ其事実ヲ虚有者ニ告発スルコトヲ要ス若シ此告発ヲ為サヽルトキハ為メニ生シタル総テノ損害及ヒ第三者ノ取得スル時効又ハ占有権ニ付キ其責ニ任ス
第百条 虚有者カ原告又ハ被告トシテ用益物ノ完全ノ所有権ニ係ル訴訟ヲ為ストキハ用益者ヲ其訴訟ニ召喚スルコトヲ要ス
用益者ハ右訴訟費用ノ利足及ヒ収益ノミニ関スル訴訟ノ費用ヲ負担ス然レトモ用益権ノ設定証書ヲ以テ用益者ニ追奪担保ノ権利ヲ与ヘタルトキハ用益者ハ総テノ訴訟費用ヲ負担セス
如何ナル場合ニ於テモ用益者ハ虚有権ノミニ関スル訴訟ノ費用ヲ分担セス
第百一条 訴訟ニ参加ス可クシテ之ニ参加セシメラレサリシ虚有者又ハ用益者ハ其判決ノ害ヲ受クルコト無シ然レトモ事務管理ノ規則ニ従ヒ其利ヲ受クルコトヲ得
第四款 用益権ノ消滅
第百二条 用益権ハ第四十四条ニ記載シタル所有権消滅ノ原因ト同一ノ原因ニ由リテ消滅スルノ外尚ホ左ノ原因ニ由リテ消滅ス
第一 用益者ノ死亡
第二 用益権ヲ設定シタル期間ノ経過
第三 用益者ノ明示シタル用益権ノ放棄
第四 三十ケ年間継続シタル不使用
第五 用益者ノ収益ノ濫委ニ因ル用益権ノ廃罷
第百三条 数人ノ終身ヲ期シテ同時ニ且不分ニテ用益権ヲ設定シタルトキハ死亡者ノ持分ハ生存者ヲ利ス其用益権ハ最後ノ死亡者ノ死亡ニ因ルニ非サレハ消滅セス
第百四条 無形人ノ為メニ設定シタル用益権ハ三十个年ノ期間ヲ以テ消滅ス但三十个年ヨリ短カキ期間ヲ以テ設定シタルトキハ此限ニ在ラス
第百五条 用益者ハ用益権ノ放棄ヲ以テ其放棄前ニ履行セサリシ義務ヲ免カルコトヲ得ス
又其放棄ハ用益者ノ権ニ基キ物ノ上ニ権利ヲ取得シタル第三者ヲ害スルコトヲ得ス
第百六条 不使用ハ未成年者ニモ其他ノ人ニシテ之ニ対シ時効ノ経過スルコトヲ得サル者ニモ対抗スルコトヲ得ス
免責時効ニ関スル此他ノ規則ハ不使用ニ之ヲ適用ス
第百七条 用益者カ用益物ニ重大ノ毀損ヲ加フルトキ又ハ保持ノ欠缺若クハ収益ノ濫委ニ因リテ用益物ノ保存ヲ危フスルトキハ裁判所ハ用益権消滅ノ他ノ原因ノ其一ノ生スルマテ用益者ノ費用ヲ以テ用益物ヲ監守ニ付シ又ハ此時間虚有者ヨリ毎年用益者ニ払フ可キ金額若クハ果実収額ノ部分ヲ定メ虚有者ノ為メ用益権ノ廃罷ヲ宣言スルコトヲ得
裁判所ハ右ト同時ニ其年ノ果実及ヒ産出物ノ分割ヲ定ム
将来ニ於テ用益者ニ払フ可キ金額又ハ果実ノ価額ハ用益者日割ヲ以テ之ヲ取得ス
用益権消滅ノ時ノ計算ハ其年用益権ノ継続シタル日数ニ応シテ之ヲ為ス
第百八条 用益権ノ廃罷ハ其廃罷前ニ用益者ノ加ヘタル損害ノ賠償ヲ妨ケス
第百九条 第百七条ニ掲ケタル場合ヲ除クノ外用益権ノ消滅ノ時猶ホ土地ニ附着スル果実及ヒ産出物ハ虚有者ニ属ス其栽培又ハ作業ノ費用ハ之ヲ償還スルコトヲ要セス但不動産賃借人カ果実ニ付キ既ニ得タル権利ヲ妨ケス
第百十条 事変又ハ朽敗ニ因リテ用益権ノ存スル建物ノ全部カ毀滅シタルトキハ用益者ハ土地ニ付テモ材料ニ付テモ収益スルコトヲ得ス但建物カ用益権ノ存スル土地ノ従タルトキハ此限ニ在ラス
第百十一条 虚有者又ハ用益者ノ保険ニ付セシ建物カ焼失シタルトキハ用益者ハ第九十四条ニ記載シタル区別ニ従ヒ其償金ニ付キ収益ス
第百十二条 用益物カ公用徴収ヲ受ケタルトキハ用益者ハ其償金ニ付キ収益ス
第百十三条 (改正第一項)用益者ハ前二条ニ憑リ其収益スル金額ニ対シ保証人ヲ立ツヘシ但右ノ場合ヲ予見シテ保証人ヲ立ツルノ義務ヲ免除セラレタルトキハ此限ニ在ラス
(新第二項)第九十三条ニ規定シタル場合ニ於テモ亦同シ
第百十四条 湖池ノ用益権ハ其永久乾凅スルニ至リシトキハ消滅ス
之ニ反シテ土地ノ用益権ハ水ノ永久其土地ヲ浸没スルニ至リシトキハ消滅ス
第百十五条 畜群ノ用益権ハ全群滅尽スルニ至リシトキハ消滅ス
若シ卒然ノ事変ニ因リテ滅尽シタルトキハ用益者ハ其皮ヲ虚有者ニ還付スルコトヲ要ス
第二節 使用権及ヒ住居権
第百十六条 使用権ハ使用者及ヒ其家属ノ需用ノ程度ニ限ルノ用益権ナリ
住居権ハ建物ノ使用権ナリ
使用権及ヒ住居権ハ用益権ト同一ノ方法ニ因リテ成立シ及ヒ同一ノ原因ニ由リテ消滅ス
第百十七条 使用権及ヒ住居権ノ程度ヲ定ムル為メ使用者ノ家属ヲ組成スト看做サルヽ者ハ使用者ト同居スル正当ノ配偶者其正当、養、私ノ卑族親又ハ尊族親及ヒ使用者又ハ此等ノ親属ノ随身僕婢ナリ
第百十八条 設定ノ名義又ハ其後ノ約束ヲ以テ土地ノ使用権ヲ行フノ方法ヲ定メス又ハ住居権ヲ行フ可キ建物ヲ定メサルトキハ当事者立会ノ上裁判所其意見ヲ聴キテ之ヲ定ム
第百十九条 使用権及ヒ住居権ハ之ヲ譲渡シ又ハ之ヲ賃貸スルコトヲ得ス
第百二十条 使用権又ハ住居権ヲ有スル者ハ用益者ト同シク動産ノ目録及ヒ不動産ノ形状書ヲ作リ且保証人ヲ立ツルノ責ニ任ス
又用益者ト同一ノ注意ヲ為シ及ヒ自己ノ過失ニ付テハ之ト同一ノ責ニ任ス
又其収益ノ割合ニ応シ用益者ト同シク修繕ノ費用毎年ノ公課及ヒ訴訟ノ費用ヲ分担ス
第三章 賃借権、永借権及ヒ地上権
第一節 賃借権
第百二十一条 動産ト不動産トヲ問ハス有体物ノ賃貸借ハ賃借人カ賃貸人ニ金銭其他ノ有価物ヲ定期ニ払フコトヲ約シ賃貸人カ賃借人ニ或ル時間賃借物ノ使用及ヒ収益ヲ為スノ権利ヲ与フ但後ノ第二款及ヒ第三款ニ定メタル如ク約束ニ因リ又ハ法律ノ効力ニ因リテ当事者ノ負担スル相互ノ義務ヲ妨ケス
第百二十二条 工作又ハ工業及ヒ傭使ノ賃貸借ノ契約ハ第三編ニ於テ之ヲ規定ス
獣畜ノ賃貸借ニ特別ナル規則モ亦第三編ニ於テ之ヲ規定ス
第百二十三条 国、府県、町村及ヒ公設所ニ属スル財産ノ賃貸借ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
第一款 賃借権ノ設定
第百二十四条 賃借権ハ賃貸借契約ヲ以テ之ヲ設定ス
賃借権ヲ贈遺シタル場合ニ於テハ相続人ハ遺言書ニ記載シタル項目及ヒ条件ニ従ヒテ受遺者ト賃貸借契約ヲ取結フコトヲ要ス
賃借権ヲ予約シタル場合ニ於テモ諾約者ハ要約者ト賃貸借契約ヲ取結フコトヲ要ス
第百二十五条 賃貸借契約ハ有償名義ナル双務ノ契約ノ通則ニ従フ但後ニ掲ケタル変例ヲ妨ケス
第百二十六条 法律上又ハ裁判上ノ管理者ハ其管理スル物ヲ賃貸スルコトヲ得然レトモ管理者カ期間ニ付キ特別ノ委任ヲ受ケスシテ賃貸スルトキハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス
第一 獣畜其他ノ動産ニ付テハ二个年
第二 居宅、店舗其他ノ建物ニ付テハ三个年
第三 耕地、牧場、樹林、池沼其他土地ノ部分ニ付テハ十五个年
第百二十七条 管理者ハ前条ニ記載シタル賃貸物ノ区別ニ従ヒ現期間ノ満了ニ先タツ三ケ月、四ケ月又ハ六ケ月内ニ非サレハ同一ノ期間ヲ以テ賃貸借ヲ更新スルコトヲ得ス
然レトモ右ノ期間ニ先タチ為シタル更新ハ管理者ノ委任ノ止ムヨリ前ニ既ニ新期間ノ始マリシトキハ無効ナラス
第百二十八条 管理者ハ金銭外ノ有価物ヲ貸賃ト為シテ賃貸スルコトヲ得ス
然レトモ田畠ニ付テハ其産出物ヲ貸賃ト為シテ賃貸スルコトヲ得
第百二十九条 前二条ノ規定ハ代理人ニ之ヲ適用ス但代理委任ノ書面ヲ以テ其権限ヲ伸縮シタルトキハ此限ニ在ラス
第百三十条 自己ノ財産ヲ管理スルコトヲ得ル婦及ヒ既脱後見ノ未成年者モ亦前二条ノ規定ニ従フニ非サレハ其財産ヲ賃貸スルコトヲ得ス
第百三十一条 前数条ニ反シタル賃貸借又ハ其更新ニシテ所有者其権利ヲ自在ニスルコトヲ得ルニ至リ追認シタルモノニ付テハ賃借人ハ其無効又ハ短縮ヲ請求スルコトヲ得ス
然レトモ賃借人ハ所有者ノ追認スルヤ否ノ意思ヲ第百二十六条ニ区別シタル賃借物ノ性質ニ従ヒ八日、十五日又ハ三十日ノ期間ニ述フルヲ常ニ要求スルコトヲ得
所有者カ其意思ヲ述フルコトヲ拒ムトキハ賃借人ハ起初又ハ更新ニ於テ定メタルカ如ク賃借期間ヲ存持セント述フルコトヲ得
第百三十二条 所有者ノ為シタル不動産ノ賃貸借カ二十ケ年ヲ超エルトキハ其賃貸借ハ永貸借ト為リ此種ノ賃貸借ノ為メ後ノ第二節ニ定メタル規則ニ従フ
第二款 賃借人ノ権利
第百三十三条 賃借人ハ賃借物ニ付キ用益者ト同一ノ利益ヲ収ムル権利ヲ有ス但其賃貸借設定ノ契約及ヒ法律ノ規定ヨリ生スル権利ノ増減ハ此限ニ在ラス
第百三十四条 賃借人ハ其収益ヲ始ムル為メニ定メタル時期ニ於テ賃借物ノ占有ヲ賃貸人ニ要求スルコトヲ得然レトモ財産ノ目録又ハ形状書ヲ作リ及ヒ保証人ヲ立ルノ責ニ任セス但契約ニ因リテ其責ニ任スルトキハ此限ニ在ラス
第百三十五条 賃借人ハ物ノ引渡前ニ其用方ニ従ヒ一切ノ修繕ヲ完好ニスルヲ賃貸人ニ要求スルコトヲ得
其他賃貸人ハ賃貸借ノ期間大小修繕ヲ為スノ責ニ任ス但下ノ二項ニ掲ケタル修繕及ヒ賃借人又ハ其僕婢ノ過失若クハ懈怠ニ因リテ必要ト為リタル修繕ハ賃借人之ヲ負担ス
賃貸人ハ賃貸借ノ期間畳、建具、塗採及ヒ壁紙ノ保持ヲ負担セス
又井戸、用水溜、汚物溜又ハ水道管ノ疏浚及ヒ普通ニ賃借人ノ為ス可キ修繕ヲ負担セス
第百三十六条 建物ニ必要ト為リタル大修繕ハ賃借人ヨリ之ヲ要求セス且此カ為メ賃借人ニ多少ノ不便ヲ生セシム可シト雖モ賃貸人之ヲ為スコトヲ得
然レトモ賃借人ハ右修繕ノ一ケ月ヨリ長ク継続スルニ因リテ損害ヲ被リタルトキハ其賠償ヲ受クルコトヲ得又時間ノ如何ヲ問ハス右修繕ノ為メ其賃借物中住居ス可キ全部又ハ商業若クハ工業ニ極メテ必要ナル部分ヲ失フ可キトキハ賃借人ハ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
第百三十七条 賃借人カ第三者ノ所為ニ因リテ収益ノ権利ニ妨害又ハ争論ヲ受ケ其原因ヲ賃借人ノ責ニ帰ス可カラサルトキ賃借人ヨリ合式ニ告知ヲ受ケタル賃借人ハ其訴訟ニ参加シテ賃借人ヲ担保シ又ハ損害ヲ賠償スルコトヲ要ス
第百三十八条 妨害カ戦争、旱魃、洪水、暴風、火災ノ如キ不可抗ノ力又ハ官ノ処分ヨリ生シ此カ為メ毎年ノ収益ノ三分一以上ノ損失ヲ致シタルトキハ賃借人ハ其割合ニ応シテ借賃ノ減少ヲ要求スルコトヲ得
又右ノ妨害カ引続キ三ケ年ニ及フトキハ賃借人ハ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得建物ノ焼失其他ノ毀滅ノ場合ニ於テ所有者カ一ケ年内ニ之ヲ再造セサルトキモ亦同シ
第百三十九条 土地又ハ建物ヲ以テ主タル目的物ト為シタル賃貸借ニ於テ其現在ノ坪数カ契約ノ坪数ヨリ少ナク又ハ多キトキハ土地又ハ建物ノ売買ニ於ケルト同一ノ条件ニ従ヒテ借賃ノ増減又ハ契約ノ銷除ヲ為スコトヲ得
第百四十一条 賃借人ハ賃貸人ノ明許ヲ要セスシテ賃借地ニ適宜ニ建物ヲ築造シ又ハ樹林ヲ栽植スルコトヲ得但現在ノ建物又ハ樹林ニ何等ノ変更ヲモ加フルコトヲ得ス
賃借人ハ旧状ニ復スルコトヲ得ヘキトキハ其築造シタル建物又ハ栽植シタル樹林ヲ賃貸借ノ終ニ収去スルコトヲ得但第百五十六条ヲ以テ賃貸人ニ与ヘタル権能ヲ妨ケス
第百四十二条 賃借人ハ賃貸借ノ期間ヲ超エサルニ於テハ其賃借権ヲ無償若クハ有償ノ名義ニテ譲渡シ又ハ其賃借物ヲ転貸スルコトヲ得但反対ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
賃借人ハ譲渡ノ場合ニ於テハ贈与者又ハ売主ノ権利ヲ有シ転貸ノ場合ニ於テハ賃貸人ノ権利ヲ有ス
右孰レノ場合ニ於テモ貸借人ハ賃貸人ニ対シ其義務ヲ免カルコトヲ得ス但賃貸人カ転借人ト更改ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
果実又ハ産出物ノ一分ヲ以テ借賃ト為シ金銭ヲ以テ之ニ代フルコトヲ許ササルトキハ賃借権ノ譲渡又ハ転貸ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第百四十三条 不動産ノ賃借人ハ其権利ヲ抵当ト為スコトヲ得但譲渡又ハ転貸ヲ禁セサルトキニ限ル
第百四十四条 賃借人ハ其権利ヲ保存スル為メ第三者ニ対シテ用益権ニ関シ第七十条ニ記載シタル訴権ヲ行フコトヲ得
第三款 賃借人ノ義務
第百四十五条 賃貸人其権利ヲ保存スル為メ賃貸物ノ目録又ハ形状書ヲ作ラント欲スルトキハ賃借人ハ何時ニテモ賃貸人カ己レト立会ヒテ之ヲ作ルヲ許諾スルコトヲ要ス但其書類ノ費用ヲ分担セス
賃借人モ亦賃貸人ヲ召喚シ立会ノ上自費ニテ右目録又ハ形状書ヲ作ルコトヲ得
目録又ハ形状書ヲ作ラサリシトキハ賃借人ハ修繕完好ノ形状ニテ賃借物ヲ受取リタリトノ推定ヲ受ク但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
目録ナキトキハ動産ノ実状及ヒ形態ノ証明ハ賃貸人ノ責ニ帰シ通常ノ方法ニ従ヒテ之ヲ為ス
第百四十六条 金銭ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ賃借人ハ約束ノ時期ニ之ヲ払ヒ約束ナキトキハ毎月末ニ之ヲ払フコトヲ要ス但地方ノ慣習之ニ異ナルトキハ此限ニ在ラス
果実ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ収獲後ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス収獲後ニ於テハ其全部ヲ要求スルコトヲ得
第百四十七条 賃借人カ右ノ払入ヲ為サス又ハ賃貸借ノ其他ノ特別ナル項目又ハ条件ヲ履行セサルトキハ賃貸人ハ訴訟ヲ以テ賃借人ニ対シ直接ニ其履行ヲ強要シ又ハ損害アルトキハ其賠償ヲ得テ賃貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
第百四十九条 賃借人ハ賃借物ニ直接ニ賦課セラルル通常及ヒ非常ノ租税ヲ負担セス租税法ニ依リ賃借人ヨリ懲収スル租税ハ其借賃ヨリ之ヲ扣除シ又ハ賃貸人ヨリ賃借人ニ之ヲ償還ス但反対ノ約束アルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ賃借人ノ築造シタル建物ニ賦課セラレ又ハ賃借不動産ニ於テ賃借人ノ営厶商業若クハ工業ニ賦課セラルル租税其他ノ公課ハ賃借人之ヲ負担ス
第百五十条 賃借人ハ明示ト黙示トヲ問ハス約束ヲ以テ定メタル用方ニ従フニ非サレハ賃借物ヲ使用スルコトヲ得ス其約束ナキトキハ契約ノ時ノ用方又ハ賃借物ノ性質ニ相応シテ毀損セサル用方ニ従フニ非サレハ之ヲ使用スルコトヲ得ス
第百五十一条 賃借人ハ賃借物ノ看守及ヒ保存ニ付キ用益者ト同一ノ義務ヲ負担ス
第三者カ賃借物ニ侵奪ヲ加ヘ又ハ営作ヲ為ストキハ賃借人ハ第九十九条ニ記載シタル如ク用益者ト同一ノ事ニ任ス
第百五十二条 一箇ノ建物ニ数人ノ賃借人アルトキハ各賃借人ハ所有者ニ対シ其賃借部分ノ価額ニ応シテ火災ノ責ニ任ス但各賃借人又ハ其幾人ニ過失ナキノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第百五十四条 所有者カ焼失セシ建物ノ一部分ニ住居シタルトキハ火災カ其部分ヨリ起ラサリシコトヲ証スルニ非サレハ賃借人ニ対シ賠償ヲ要求スルコトヲ得ス
第百五十五条 賃貸借ノ終ニ賃借人カ賃借物ヲ返還セサルトキハ賃貸人ハ其選択ヲ以テ対人訴権又ハ物上訴権ニテ之ヲ追訴スルコト得
第百五十六条 賃貸人ハ賃貸借ノ終ニ第百四十一条ニ依リテ賃借人ノ収去スルヲ得ヘキ建物及ヒ樹木ヲ先買タルコトヲ得此場合ニ於テハ第七十三条ノ規定ヲ適用ス
第四款 賃借権ノ消滅
第百五十七条 賃借権ハ左ノ諸件ニ因リテ当然消滅ス
第一 賃借物ノ全部ノ滅失
第二 賃借物ノ全部ノ公用徴収
第三 賃貸人ニ対スル追奪又ハ賃貸物ニ存スル賃貸人ノ権利ノ取消但其追奪及ヒ取消ハ賃貸借契約以前ノ原因ニ由リ裁判所ニ於テ之ヲ宣告セシトキニ限ル
第四 明示若クハ黙示ニテ定メタル期間ノ満了又ハ約束シタル解除ノ未必条件ノ成就
第五 初ヨリ期間ヲ定メサルトキハ解約告知ノ後法律上ノ期間ノ満了
右ノ外賃貸借ハ法律ニ定メタル条件ノ不履行其他ノ原因ノ為メ当事者ノ一方ノ請求ニ因リ裁判所ニテ宣告シタル取消ニ因リテ終了ス
第百五十八条 意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ賃借物ノ一分ノ滅失シタルトキハ賃借人ハ第百三十八条ニ記載シタル条件ニ従ヒテ賃貸借ノ解除ヲ請求シ又ハ賃貸借ヲ保持シテ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
公用徴収ノ為メ賃借物ノ一分カ徴収セラレタルトキハ賃借人ハ常ニ借賃ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
第百五十九条 期間ノ定メ有ル賃貸借ノ終リタル後賃借人仍ホ収益シ賃貸人之ヲ知リテ故障ヲ為ササルトキハ新賃貸借暗ニ成立シ前賃貸借ト同一ノ負担及ヒ条件ニ従フ
然レトモ前賃貸借ヲ担保シタル抵当ハ消滅シ保証人ハ義務ヲ免カル
新賃貸借ハ下ノ数条ニ記載シタル如ク解約申入ニ因リテ終了ス
第百六十条 家具ノ附キタル家屋ノ全部若クハ一分又ハ離屋ノ賃貸借ニシテ其期間ヲ明示セス其借賃ヲ一年、一月又ハ一日ヲ以テ定メタルモノハ一年、一月又ハ一日ノ間之ヲ為シタリト推定ス但前条ニ記載シタル黙示ノ更新ヲ妨ケス
動産ノミヲ以テ目的ト為シタル賃貸借ニ付テモ亦同シ
第百六十一条 家具ノ附カサル建物ノ賃貸借ハ期間ヲ定メサルトキ又ハ之ヲ定メタルモ黙示ノ更新アリタルトキハ年中何ノ時節ヲ問ハス当事者ノ一方ノ解約申入ニ因リテ終了ス
解約申入ヨリ返却マテノ時間ハ左ノ如シ
第一 全家ニ付テハ三ケ月
第二 建物ノ一分若クハ離屋又ハ尚ホ狭隘ナルモ賃借人ノ商業若クハ工業ヲ営メル住居ニ付テハ二ケ月
第三 総テ其他ノ家具ノ附カサル住居ニ付テハ一ケ月
第百六十二条 家具ノ附キタル家屋ノ賃貸借ニ付キ黙示ノ更新アリタルトキハ解約申入ヨリ返却マテノ時間ハ左ノ如シ
第一 前賃貸借ノ間ヲ三ケ月又ハ其以上ニ定メタルトキハ一ケ月
第二 三ケ月未満ノ賃貸借ニ付テハ原期間ノ三分一
第三 日日ノ賃貸借ニ付テハ二十四時
右規定ハ動産ノ賃貸借ニ付キ黙示ノ更新アリタル後ニモ亦之ヲ適用ス
第 条(新) 土地ノ賃貸借ニシテ期間ヲ定メサルモノ又ハ期間ヲ定メタルモ黙示ノ更新アリタルモノハ耕地ニ付テハ主タル収獲季節ヨリ不耕地ニ付テハ返却セシム可キ時期ヨリ一个年前ニ解約申入ヲ為スニ因リテ終了ス
賃貸セシ建物ニ具ヘタル動産又ハ用方ニ因ル不動産ト看做ス可キ動産ノ賃貸借ハ其建物ノ賃貸借ノ終了スルニ非サレハ終了セス
第百六十三条 解約申込及ヒ返却ノ時期ニ関スル前数条ノ規定ハ其時期ニ付キ確実ナル地方ノ慣習ナキトキニ非サレハ之ヲ適用セス
第百六十四条 如何ナル場合ニ於テモ賃借人ノ権利ノ存スル一切ノ収獲物ヲ収去スル前ニ賃借ノ終了シタルトキハ賃貸人又ハ新賃借人ハ前賃借人ノ之ヲ収去スルニ委ヌルコトヲ要ス
又賃借人ハ土地ノ収獲物ヲ収去シタル部分ニ於テ賃貸借ノ終了前ニ急要ノ作業ヲ為スコトヲ賃貸人又ハ新賃借人ニ許スコトヲ要ス但賃借人此カ為メ確実ノ妨害ヲ受ク可キトキハ此限ニ在ラス
第百六十五条 賃貸人カ賃貸物ヲ譲渡サントシ又ハ自己ノ為メ若クハ他ノ特別ナル原因ノ為メ之ヲ取戻サントスルトキハ期間ノ満了前ト雖モ賃貸ヲ解除スルコトヲ得ルノ権能ヲ留存シタル場合又賃借人カ賃貸借ノ無用ト為ル可キ未定事故ヲ慮カリテ同一ノ権能ヲ留存シタル場合ニ於テハ各自ニ前数条ニ定メタル時期ニ於テ予メ解約申入ヲ為スコトヲ要ス
第二節 永借権及ヒ地上権
第一款 永借権
第百六十六条 永貸借トハ期間二十个年ヲ超ユル不動産ノ賃貸借ヲ謂フ
永貸借ハ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス此期間ヲ超ユル貸借ハ之ヲ五十个年ニ短縮ス
永貸借ハ常ニ之ヲ更新スルコトヲ得然レトモ其更新ノ時ヨリ五十个年ヲ超ユルコトヲ得ス
当事者カ永貸借契約ナルコトヲ明示シ其期間ヲ定メサルトキハ其貸借ハ四十ケ年ニシテ終了ス
本法頒布以前ニ期間ヲ定メテ為シタル不動産ノ賃貸借ハ五十个年ヲ超ユルモノト雖モ其全期間有効ナリ
本法頒布以前ニ期間ヲ定メスシテ為シタル荒蕪地又ハ未耕地ノ賃貸借及ヒ永小作ト称スル賃貸借ノ終了ノ時期及ヒ条件ハ日後特別法ヲ以テ之ヲ規定ス
第百六十七条 永貸借ハ永貸借契約ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス其遺贈又ハ予約ニ付テハ第百二十四条ノ規定ニ従フ
第百六十八条 当事者相互ノ権利及ヒ義務ハ永貸借ノ設定契約ヲ以テ之ヲ定ム
特別ノ約束ナキトキハ下ノ規定ニ従フノ外通常賃貸借ノ規則ニ従フ
第百六十九条 永借人ハ永借地ノ形質ヲ変スルコトヲ得但永久ノ毀損ヲ生セシメサルコトヲ要ス
永借人ハ常ニ沼沢ヲ乾凅スルコトヲ得又永借地ノ作業ニ益ス可キトキハ其土地ヲ通過スル水流ヲ変転スルコトヲ得
第百七十条 永借人ハ原野ヲ開墾スルコトヲ得然レトモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ輪伐ニ供シタル小木林ヲ取除クコトヲ得ス輪伐ニ供ヘサル樹木ト雖モ既ニ二十个年ヲ過キ且其成長ノ年期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノハ亦同シ
第百七十一条 永借人ハ如何ナル場合ニ於テモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ主タル建物ヲ取除クコトヲ得ス従タル建物ト雖モ其存立ノ時期カ貸借ノ期間ヲ超ユ可キモノハ亦同シ
第百七十二条 前二条ニ従ヒ永借人カ建物又ハ樹木ヲ取除キタルトキハ其物料及ヒ材木ハ所有者ニ属ス
第百七十三条 永借人ハ其分限ヲ以テ地底ニ在ル鉱物ノ採掘ヲ継続スルコトヲ得ス
永借人ハ採掘ノ特許ヲ得タル者ヨリ所有者ニ払ヘル償金ニ付キ何等ノ権利ヲモ有セス然レトモ右特許ヲ得タル者ノ地表ニ加ヘタル損害ノ為メ賠償ヲ受クルノ権利ヲ有ス
第百七十四条 永借地ニ既ニ採掘ヲ始メ且特別法ニ従フヲ要セサル石類石灰類其他ノ物ノ石坑アルトキハ永借人ハ其収益ヲ継続ス
其石坑ヲ未タ採掘セス又ハ其採掘ヲ廃止シタルトキハ永借人ハ永借地ノ改良ノ為メ石其他ノ物料ヲ採取スルコトヲ得
第百七十五条 永貸人ハ永貸借契約ノ当時ノ現状ニテ永貸物ヲ引渡スモノトス
永貸人ハ貸借ノ期間大小修繕ヲ負担セス
第百七十六条 意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ貸借ノ期間ニ起リタル毀損ハ借賃ヲ減スルノ理由ト為ラス但第百八十一条ニ定メタル解除ノ権利ヲ妨ケス
第百七十七条 永借物ニ賦セラルル通常又ハ非常ノ租税其他ノ公課ハ永借人之ヲ負担ス租税法ニ依リテ永借人ヨリ徴収スルトキハ永借人ハ之ヲ償還スルコトヲ要ス
第百七十八条 数人カ一箇ノ契約ヲ以テ一箇ノ不動産ヲ永借シタルトキハ借賃ヲ払フノ義務ハ各永借人又ハ其相続人ニ在テハ連帯ニシテ且不可分ナリ
第百八十条 永貸人ハ三个年間引続キ貸賃ノ払入ヲ受ケサルトキハ永貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
又永借人カ他ノ債権者ノ追訴ニ因リテ破産者又ハ無資力者ト宣言セラレタルトキハ永貸人ハ払入ノ不足ノ多少ニ拘ハラス解除ヲ請求スルコトヲ得但其債権者カ借賃ヲ規約ニ依リテ払入ルルコトヲ担保スルトキハ此限ニ在ラス
第百八十一条 永借人ハ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ三个年間引続キ全ク不動産ノ収益ヲ得ル能ハス又ハ其一分ノ毀損ニ因リテ将来ノ収益カ借賃ノ年額ヲ超ユ可キ見込ナキトキハ永貸借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
第百八十二条 永借人カ永借地ニ加ヘタル改良及ヒ栽植シタル樹林ハ永貸借ノ終了又ハ其言渡サレタル取消ニ当リ賠償ナクシテ之ヲ残置クモノトス
建物ニ付テハ通常賃貸借ニ関シ第百五十六条ニ記載シタル規定ヲ適用ス
第二款 地上権
第百八十三条 地上権トハ他人ノ所有ニ属スル土地ノ上ニ於テ建物又ハ樹林ノ完全ノ所有権ヲ以テ所有スルノ権利ヲ謂フ
第百八十四条 地上権設定ノ時其土地ニ建物又ハ樹林ノ既ニ存スルト否トヲ問ハス設定ノ基本、方式及ヒ公示ハ有償又ハ無償名義ノ不動産譲渡ノ通則ニ従フ
第百八十五条 地上権者カ譲受ケタル建物又ハ樹林ノ存スル土地ノ面積ニ応シテ土地ノ所有者ニ定期ノ納額ヲ払フ可キトキハ其権利及ヒ義務ハ其払フ可キ納額ニ付テハ通常賃貸借ニ関スル規則ニ従ヒ其継続スル期間ニ付テハ第百八十八条ノ規定ニ従フ
右納額ニ付テハ新ニ建物ヲ築造シ又ハ樹林ヲ栽植スル為メ土地ヲ賃借シタルトキモ亦同シ
第百八十六条 既ニ存セル建物又ハ樹林ニ於ケル地上権ノ設定ニ際シ従トシテ之ニ属ス可キ周辺ノ地面ヲ明示セサルトキハ左ニ掲クル規定ニ従フ
建物ニ付テハ地上権者ハ其建坪ノ全面積ニ均シキ地面ヲ得ルノ権利ヲ有ス此配置ハ鑑定人ヲシテ土地及ヒ建物ノ周囲ノ形状ト建物ノ各部ノ用方トヲ斟酌セシメテ之ヲ為ス
樹林ニ付テハ地上権者ハ其最長大ナル外部ノ枝ノ蔭蔽ス可キ地面ヲ得ルノ権利ヲ有ス
第百八十七条 地上権設定後ニ築造シタル建物又ハ栽植シタル樹林ニ付テハ地上権者ハ此種ノ物ノ為メ法律ヲ以テ相隣者ノ為メニ規定シタル距離及ヒ条件ヲ遵守ス可シ縦令其隣人カ地上権ノ設定者ナルモ亦同シ
又地上権者ハ働方又ハ承方ニテ其他ノ地役ノ規則ニ従フ
第百八十八条 既ニ存セル建物又ハ地上権者ノ築造ス可キ建物ニ付キ設定名義ヲ以テ地上権ノ継読期間ヲ定メサルトキハ右建物ノ存立ニ均シキ時期間其権利ヲ設定シタルモノト推定ス但其大修繕ハ土地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
既ニ存セル樹林又ハ地上権者ノ栽植ス可キ樹林ニ付テハ其地上権ハ樹林ヲ採伐スル時期マテ又ハ其有用ナル最長大ニ至ル可キ時期マテ之ヲ設定シタリト推定ス
地上権者ハ一个年前ニ予告ヲ為シ又ハ未タ払期限ノ至ラサル納額ノ一了年分ヲ払フトキハ常ニ解約申入ヲ為スコトヲ得
其他地上権ハ通常賃貸権ト同一ノ原因ニ由リテ消滅ス但所有者ノ為ス解約申入ハ此限ニ在ラス
第百八十九条 建物又ハ樹林ハ契約前ヨリ存スルト否トヲ問ハス土地ノ所有者カ鑑定人ノ評価ニ従ヒ其譲渡ヲ要求セサルニ非サレハ地上権者之ヲ収去スルコトヲ得ス
地上権者ハ土地ノ所有者ニ先買権ヲ行フヤ否ヲ述ヘ可キノ催告ヲ一个月前ニ為シタルニ非サレハ右建物又ハ樹林ヲ収去スルコトヲ得ス
右先買権ニ付テハ此他尚ホ第七十三条ノ規則ニ従フ
第百九十条 本法頒布ノ時ニ存スル地上権ハ左ノ規定ニ従フ
期限ヲ立テテ設定シタル地上権ハ其期限ニ至リ当然消滅ス
期限ヲ立テスシテ設定シタル地上権ハ第百八十八条ニ従ヒ建物ノ存立ト同シク継続ス
右両様ノ地上権ハ共ニ第百八十九条ニ規定シタル先買権ニ服ス
第四章 占有
第一節 占有ノ種類及ヒ占有シ得ヘキ物
第百九十一条 占有ニ法定、自然及ヒ容仮ノ三種アリ
第百九十二条 法定ノ占有トハ占有者カ自己ノ為メニ有スルノ意思ヲ以テスル有体物ノ所持又ハ権利ノ行使ヲ謂フ
権利ハ物権ト人権トヲ問ハス法定ノ占有ヲ受クルコトヲ得其種々ノ効力ハ場合ニ従ヒ下ニ之ヲ定ム
人ノ身分ニ適用スル占有ハ第一編ニ之ヲ規定ス
第百九十三条 法定ノ占有カ占有シタル権利ヲ授付ス可キ性質アル権利行為ニ基クトキハ譲渡人カ授付スルノ分限ナキヲ以テ其効力ヲ生スル能ハサルトキト雖モ其占有ハ正名義ノ占有ナリ
占有カ侵奪ニ成リタルトキハ其占有ハ無名義ノ占有ナリ
第百九十四条 正名義ノ占有ハ名義創設ノ当時ニ於テ占有者カ其名義ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ之ヲ善意ノ占有トシ此ニ反スルトキハ悪意ノ占有トス
法律上ノ錯誤ハ善意ニ付テノ利益ヲ受クル為メニ之ヲ申立ツルコトヲ許サス但第二百六条ニ記載シタル規則ヲ妨ケス
善意タルコトハ名義ノ瑕疵ヲ発見シタルトキハ止ム
第百九十五条 強暴又ハ隠密ノ占有ハ之ヲ瑕疵ノ占有トス
占有カ暴力又ハ脅迫ニ因リテ成リ又ハ保持セラレタルトキハ其占有ハ強暴ノ占有ナリ
占有カ公顕且表白ノ所為ニテ当事者ニ相応ニ見ハレサルトキハ其占有ハ隠密ノ占有ナリ
右占有カ平穏ト為リ又ハ公顕ト為リタルトキハ其瑕疵ハ消滅ス
第百九十六条 自然ノ占有トハ占有者カ自己ノ権利ヲ主張セスシテ為ス有体物ノ所持ヲ謂フ
公有物ニ付テハ各人ハ自然ノ占有ノミヲ為スコトヲ得
第百九十七条 容仮ノ占有トハ占有者カ他人ノ名ヲ以テ其人ノ為メニスル物ノ所持又ハ権利ノ行使ヲ謂フ
容仮ノ占有者カ自己ノ為メニ占有ヲ始メタルトキハ其占有ノ容仮ハ止ミテ法定ト為ル
然レトモ占有ノ基本タル名義ノ性質ヨリ生スル容仮ハ左ニ掲クル原因ノ一ニ由ルニ非サレハ止マス
第一 占有ノ利益ヲ受クル人ニ告知シタル裁判上又ハ裁判外ノ行為ニシテ其人ノ権利ニ対スル明確ノ異議ヲ含メルモノ
第二 契約者又ハ第三者ニ出テタル名義ノ転換ニシテ其占有ニ新原因ヲ付スルモノ
第百九十八条 占有者ハ常ニ自己ノ為メニ占有スルモノトノ推定ヲ受ク但占有ノ名義又ハ事実ノ情況ニ因リテ容仮ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第百九十九条 正名義ノ証拠アル占有ハ之ヲ善意ノ占有ナリト推定ス但反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第二百条 強暴ノ証拠ナキ占有ハ之ヲ平穏ノ占有ト推定ス
公顕ハ推定ヲ以テ之ヲ認メス必ス其証明ヲ為スコトヲ要ス
前後二箇ノ時期ニ於テ証拠アリタル占有ハ其中間継続シタリトノ推定ヲ受ク但其占有ノ截断又ハ停止ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第二節 占有ノ取得
第二百一条 法定ノ占有ハ或ル物ノ所有権又ハ或ル権利ヲ自己ノ有ト為スノ意思ヲ以テ其物ヲ把握シ又ハ其権利ヲ実行スルノ所為ニ因リテ之ヲ取得ス
第二百二条 物ヲ所持シ又ハ権利ヲ行使スルノ所為ハ之ヲ第三者ニ委スルコトヲ得但占有スルノ意思ハ占有ニ付キ利益ヲ得ント主張スル其人ニ存スルコトヲ要ス
然レトモ無能力者及無形人ハ其名代人ノ意思及ヒ所為ニ因リテ占有ノ利益ヲ受クルコトヲ得
第二百三条 把握ノ所為ハ簡易ノ引渡又ハ占有ノ改定ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得
権利ノ行使ニ付テハ初メ他人ノ名ヲ以テ行使セル者カ爾後自己ノ為メニ行使スルニモ亦当事者ノ意思ノミニテ足ル又初メ自己ノ為メ行使セル者カ爾後他人ノ為メニ行使スルニ付テモ亦同シ
初メ容仮ノ名義ヲ以テ占有シタル物ヲ其占有者ニ爾後自己ノ物ト看做スコトヲ得セシムル新名義ニ依リテ之ヲ留存セシメタルトキハ簡易ノ引渡アリタリトス
初メ物ヲ自己ニ属ストシテ占有シタル占有者カ爾後他人ノ名ヲ以テ其人ノ為メ占有ヲ継続スルコトヲ承諾シタルトキハ占有ノ改定アリタリトス
第二百四条 占有ハ前主ニ於テ存シタル占有ノ性質及ヒ瑕疵ヲ以テ其相続人及ヒ包括承継人ニ移転ス
物又ハ権利ノ特定名義ノ取得者ハ其利益ニ従ヒ或ハ自己ノ占有ノミヲ申立テ或ハ自己ノ占有ニ譲渡人ノ占有ヲ併セテ申立ツルコトヲ得
第三節 占有ノ効力
第二百五条 法定ノ占有者ハ反対ノ証拠ノ出ル有ルニ非サレハ其行使セル権利ヲ適法ニ有スルモノトノ推定ヲ受ク其権利ニ関スル権原ノ訴ニ付テハ常ニ被告タルモノトス
第二百六条 正名義且善意ノ占有者ハ天然ノ果実及ヒ産出物ニ付テハ自身又ハ代人ヲ以テ土地ヨリ分離シタル時ニ於テ之ヲ取得シ法定ノ果実ニ付テハ用益者ニ関シ規定シタル如ク日割ヲ以テ之ヲ取得ス
占有者カ正名義ヲ有セスシテ事実上又ハ法律上ノ錯誤ニ因リテ悪意ナキトキハ其消耗シタル果実ニ付キ利益ヲ得サリシ証拠ヲ挙クルニ於テハ之ヲ返還スルノ責ニ任ス
占有者カ其占有セシ物又ハ権利ノ自己ニ属セサルコトヲ発見シタルトキハ将来ニ向テ其返還ノ責ヲ生ス又訴訟ニ於テ確定ニ敗訴シタルトキハ其出訴ノ時ヨリ此責ヲ生ス
第二百七条 悪意ノ占有者ハ回復ノ要求ヲ受ケタル物又ハ権利ハ勿論現物ニテ仍ホ占有スル果実及ヒ産出物ヲ返還シ且其既ニ消耗シ又ハ過失ニ因リテ損傷シ又ハ収取ヲ怠リタル果実及ヒ産出物ノ価金ヲ返還スルノ責ニ任ス
回復者ハ果実ノ通常ノ負担タル費用ヲ占有者ニ償還スルコトヲ要ス
強暴又ハ隠密ノ占有者ハ其名義ノ正当ナルコトヲ自ラ信セシトキト雖モ果実ニ関シテハ常ニ之ヲ悪意ノ占有者ト看做ス
第二百八条 占有者ハ善意ナルト悪意ナルトヲ問ハス物ノ保存ノ為メ又ハ物ノ増価ノ為メ費シタル金額ヲ回復者ヨリ償還セシムルコトヲ得
右孰レノ占有者モ其分限ノミニテハ奢楽ノ為メ費シタル金額ノ償還ヲ求ムルコトヲ得ス
第二百九条 前二条ノ場合ニ於テ善意ノ占有者ハ回復者ノ言渡サレタル保存又ハ増価ノ為メノ費用ノ全償ヲ得ルマテ物ノ上ニ留置権ヲ有ス
悪意ノ占有者ハ保存ノ費用ノミニ付キ留置権ヲ有ス
第二百十条 物カ毀損ヲ受ケ又ハ価格ヲ減シ其責ヲ占有者ニ帰ス可キトキハ悪意ノ占有者ニ在テハ如何ナル場合ニ於テモ所有者ニ賠償ヲ為シ善意ノ占有者ニ在テハ其毀損又ハ減価ニ因リ利益ヲ得タル場合ニ於テ其利益ノ限度ニ応シ賠償ヲ為スコトヲ要ス
第二百十一条 占有者カ動産及ヒ不動産ノ所有権ノ取得時効ニ達スルコトヲ得ヘキ条件ハ第五編ニ之ヲ規定ス
第二百十二条 占有者ハ占有ヲ保持シ又ハ回収スル為メ下ノ区別ニ従ヒテ占有ニ関スル訴権ヲ有ス
占有訴権ハ保持訴権、新工告発訴権、急害告発訴権及ヒ回収訴権ノ四種ナリ
第二百十三条 保持訴権ハ不動産ト動産包括ト特定動産トヲ問ハス其占有ニ関シ第三者ヨリ反対ノ主張ヲ含メル事実上又ハ権利上ノ妨害ヲ受クル占有者ニ属ス
此訴権ハ妨害ヲ止マシメ又ハ賠償ヲ得ルヲ以テ其目的トス
第二百十四条 新工告発訴権ハ竣成ノ上占有ノ妨害ト為ル可キ隣地ノ新工事ヲ止マシメ又ハ変更セシムル為メ不動産ノ占有者ニ属ス
第 条(新) 急害告発訴権ハ或ハ建物、樹木其他ノ物ノ傾倒ニ因リ或ハ堤塘、水溜、水樋ノ破潰ニ因リ或ハ火、燃焼物、爆発物ノ必要ノ予防ヲ為サヽル使用ニ因リテ隣地ヨリ生スル損害ヲ惧ル可キ至当ノ事由アル不動産ノ占有者ニ属ス
此訴権ハ右危険ニ対スル予防ノ処分ヲ命令セシメ又ハ未定ノ損害ニ対スル賠償ノ保証人ヲ立テシムルヲ以テ其目的トス
第二百十五条 保持訴権及ヒ新工告発訴権ハ平穏且公顕ナル法定ノ占有者ノミニ属ス但不動産又ハ動産包括ニ付テハ其占有ノ満一个年以来継続シタルコトヲ要ス
第二百十六条 回収訴権ハ暴行、脅迫又ハ詐術ヲ以テ不動産若クハ動産包括若クハ特定動産ノ全部又ハ一分ノ占有ヲ奪ハレタル占有者ニ属ス但其占有カ被告ニ対シ此等ノ瑕疵ノ一ヲモ帯ヒサルコトヲ要ス
此訴権ハ侵奪ノ占有ヲ特定名義ニテ承継シタル者ニ対シ之ヲ行フコトヲ得ス但其者カ侵奪ノ不法ノ所為ニ関与シタルトキハ此限ニ在ラス
第 条(新) 回収訴権及ヒ急害告発訴権ハ法定ノ占有者及ヒ容仮ノ占有者ニ属ス縦令其占有カ未タ一个年ニ満タサルモ亦同シ
第二百十七条 保持及ヒ回収ノ訴ハ妨害又ハ侵奪ヲ受ケタルヨリ一个年内ニ非サレハ之ヲ受理セス
新工告発ノ訴ハ其工事ノ終ラサル間ハ之ヲ受理ス但其工事ニ付キ占有者カ妨害ヲ受ケタルトキハ其工事竣成ノ前後ニ拘ハラス妨害ヨリ一个年内ニ於テ保持訴権ノミヲ行フコトヲ得
急害告発ノ訴ハ危険ノ存スル間ハ之ヲ受理ス
第二百十八条 占有ノ訴ハ権原ノ訴ト並行スルコトヲ得ス
判事ハ当事者ノ権利ノ本源ヨリ出テタル理由ニシテ其権利ヲ予決ス可キモノニ基キテ占有ノ訴ヲ裁判スルコトヲ得ス
又判事ハ権原ノ訴カ既ニ審理中ニ在ルモ占有ノ訴ノ判決ヲ猶予スルコトヲ得ス
第二百十九条 占有ノ訴ヲ起シタル後当事者ノ一方カ其裁判所又ハ他ノ裁判所ニ権原ノ訴ヲ起シタルトキハ占有ノ訴ノ確定判決ニ至ルマテ権原ノ訴ノ訴訟手続ヲ中止スルコトヲ要ス
権原ノ訴ノ被告カ第二百二十一条ニ定メタル如ク其訴訟中ニ占有ノ訴ノ原告ト為リタルトキモ亦同シ
第二百二十条 権原ノ訴ノ原告ハ訴ヲ取下クルト雖モ其訴以前ノ事実ノ為メニ更ニ占有ノ訴ヲ起スコトヲ得ス然レトモ既ニ起シタル占有ノ訴ニ付テハ原告タルト被告タルトヲ問ハス之ヲ継続スルコトヲ得
凡ソ権原ノ訴ニ於テ確定ニ敗訴シタル者ハ占有ノ訴ヲ起スコトヲ得ス
第二百二十一条 権原又ハ占有ノ訴ノ被告ハ其訴訟中原告ト同一ノ訴権又ハ他ノ訴権ニ依リ反訴ニテ占有ノ訴ノ原告ト為ルコトヲ得
第二百二十二条 判事ハ占有ノ訴ニ於テ原告ヲ直者ト認ムルトキハ場合ニ従ヒ妨害ノ断止侵奪物ノ返還、告発新工ノ廃止若クハ変更又ハ告発急害ノ予防処分ヲ命令ス可ク若シ損害アラハ同時ニ其賠償ヲ言渡ス可シ
又判事ハ急害告発ノ訴ニ付テハ其将来不定ノ損害額ヲ断定シ之ニ対スル保証人ヲ立ツ可キヲ被告ニ命令スルコトヲ得
第二百二十三条 占有ノ訴ニ於テ敗訴シタル原告ハ仍ホ権原ノ訴ヲ起スコトヲ得
占有ノ訴ニ於テ敗訴シタル被告モ亦仍ホ権原ノ訴ヲ起スコトヲ得但既ニ受ケタル言渡ヲ履行セシ後ニ限ル若シ言渡ノ数額カ未定ナルトキハ其言渡ヲ履行スルニ相応ナル金額ヲ裁判所書記局ニ供託ス可シ
第二百二十五条 占有ノ訴ニ関スル裁判管轄及ヒ其他方式ノ規則ハ帝国裁判所構成法及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第四節 占有ノ喪失
第二百二十六条 占有ハ左ノ諸件ニ因リテ喪失ス
第一 自己又ハ他人ノ為メニ占有スル意思ノ断止
第二 物ノ所持又ハ権利ノ行使ノ任意ノ放棄又ハ其法律上強要ノ放棄
第三 不法ト否トヲ問ハス第三者ノ占有ノ握取但其占有カ保持訴権又ハ回収訴権ノ行使ヲ受クルコト無クシテ一个年ヨリ長ク継続シタルトキニ限ル
第四 占有ノ目的タル物ノ全部ノ毀滅又ハ其権利ノ消滅
第五章 地役
総則
第二百二十七条 地役トハ或ル不動産ノ便益ノ為メ他ノ所有者ニ属スル不動産ノ上ニ設ケタル負担ヲ謂フ
地役ハ法律又ハ人為ヲ以テ之ヲ設定ス
第一節 法律ヲ以テ設定シタル地役
第一款 隣地ノ立入又ハ通行ノ権利
第二百二十八条 凡ソ所有者ハ土地ノ分界ニ於ケルカ又ハ自己ノ土地ニ工事ヲ為シ得ルノ余地ナキ距離ニ於テ墻壁若クハ建物ヲ築造シ又ハ修繕スル為メ隣地ノ立入ヲ求ムルコトヲ得
第二百二十九条 右築造又ハ修繕ノ工事ハ急要又ハ極メテ必要ノ場合ヲ除クノ外収獲ヲ害ス可キ季節ニ於テモ隣地ノ所有者又ハ占有者ノ一時不在ノ場合ニ於テモ之ヲ為サヽルコトヲ要ス
如何ナル場合ニ於テモ隣地ノ承諾アルニ非サレハ右工事ノ為メ其住家ニ立入ルコトヲ得ス縦令其修繕ヲ要スル建物カ隣人ノ住家ニ連接スルモ亦同シ
第二百三十条 立入ヲ許諾セル隣人ハ工事ノ性質及ヒ時期ヲ啇量シテ其受ケタル妨害ニ応スル償金ヲ要求スルコトヲ得
第二百三十一条 或ル土地カ他ノ土地ニ囲繞セラレテ袋地ト為リ公路ニ通スル能ハサルトキハ囲繞地ハ公路ニ至ルノ通路ヲ其袋地ニ供スルコトヲ要ス但下ニ記載シタル如ク二様ノ償金ヲ払ハシムルコトヲ得
土地カ掘割若クハ河海ニ由ルニ非サレハ他ニ通スル能ハサルトキ又ハ崖岸アリテ公路ト著シキ高低ヲ為ストキハ之ヲ袋地ト看做スコトヲ得縦令其掘割カ公有ニ属スルモ亦同シ
第二百三十二条 袋地ノ利用又ハ其住居人ノ需用ノ為メ定期又ハ不断ニ車輌ヲ用ユルコトヲ要スルトキハ通路ノ幅ハ其用ニ相応スルコトヲ要ス
通行ノ必要又ハ其方法及ヒ条件ニ付当事者ノ議協ハサルトキハ裁判所ハ成ル可ク袋地ノ需用及ヒ通行ノ便利ト承役地ノ損害トヲ斟酌調和スルコトヲ要ス
第二百三十三条 通路ノ開設及ヒ保持ノ工事ハ袋地ノ負担ニ属ス
承役地ノ建物又ハ樹林ヲ取除キ又ハ変更セシムルノ必要アルトキハ一回限ノ償金ヲ其所有者ニ弁償ス
其他承役地ノ使用又ハ耕作ヲ減シ及ヒ永ク其地ノ価格ヲ減スルニ付テノ償金ハ毎年之ヲ弁償ス
第二百三十四条 袋地タルコトノ止ミタルトキハ通行ノ権利及ヒ償金ノ義務ハ随テ消滅ス
要役地ノ所有者ハ未タ払期限ノ至ラサル償金ノ六ケ月分ヲ払ヒテ常ニ通行ノ権利ヲ放棄シ及ヒ之ニ対スル義務ヲ免カルコトヲ得
第二百三十五条 当事者ハ通行ヨリ生スル永久ノ損害ノ償金ヲ定ムルニ元本ヲ以テシ又ハ毎年償金ヲ払フノ義務ヲ贖回スルノ契約ヲ取結フコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ袋地タルコトノ止ミタルトキハ元本ノ半額ヲ返還ス可シ但シ此ニ異ナル契約アルトキハ此限ニ在ラス
第二百三十六条 土地ノ一分ノ譲渡又ハ共有者間ノ分割ニ因リテ袋地ノ生シタルトキハ譲渡人又ハ分割者ハ償金ヲ受クル無クシテ通路ヲ供スルノ義務ヲ負担ス此義務ハ公路ノ創設ニ因リテ袋地タルコトノ止ミタルトキハ消滅ス
第二款 水ノ疏通、使用及ヒ引入
第二百三十七条 低地ノ所有者ハ人工ニ因ラスシテ自然ニ高地ヨリ流下スル雨水及ヒ泉水ヲ承クルノ義務アリ
人工ヲ以テ水ノ疏通路ヲ創設シ又ハ変更セシト雖モ其工事カ三十个年前ニ在ルカ又ハ年月ヲ知ル可カラサルトキハ亦同シ
第二百三十八条 堤、塘其他水ヲ湛フル工作物ノ破潰ニ因リ又ハ水樋掘割ノ阻塞ニ因リ高地ノ水量ヲ増シテ衝激ヲ致シ又ハ方向ヲ変セントスルトキハ低地ノ所有者ハ第二百十四条ノ二及ヒ第二百二十二条ニ従ヒ急害ノ告発ヲ為シ及ヒ高地ノ所有者ノ費用ヲ以テ其修繕ヲ為スコトヲ得
事変ニ因リ低地ニ於テ水流ノ阻塞シタルトキハ高地ノ所有者ハ平常ノ疏通ニ復スル為メ自費ヲ以テ必要ノ工事ヲ為スノ権利ヲ有ス然レトモ其義務ヲ負担セス
第二百三十九条 所有者ハ雨水ノ直チニ隣地ニ落ツル如キ屋根其他ノ工作物ヲ設クルコトヲ得ス
第二百四十条 泉源ノ所有者ハ随意ニ之ヲ使用シ且自然ニ隣地ニ流ル可キ余水ヲ隣人ニ与ヘサルノ権利ヲ有ス但次条及ヒ第二百九十六条ノ規定其他鉱泉ノ利用、収益ニ関スル行政法ノ規定ヲ妨ケス
第二百四十一条 泉源ノ水カ一町村又ハ一部落ノ住民ノ家用ニ必要ナルトキハ所有者ハ其水ノ不用ノ部分ヲ流過セシムルノ責ニ任ス
又町村ハ自費ヲ以テ水ノ聚合及ヒ引入ニ必要ナル工事ヲ泉源ノ土地ニ施スコトヲ得但其工事ノ為メ償金ヲ払ヒ且其土地ニ永久ノ損害ヲ生セシメサルコトヲ要ス
其他町村ハ水ノ使用ノ為メ償金ヲ払フコトヲ要ス但三十ケ年間無償ニテ使用ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス
第二百四十二条 私有泉源ノ余水カ何人ノ利益ヲモ為サスシテ外ニ流出スルトキハ其水ノ出口ニ最近ナル住人ハ前条ニ記載シタル如ク必要ノ工事ヲ為シ容仮ニテ己レノ方ニ其水ヲ導クノ権能ヲ求ムルコトヲ得
第二百四十三条 水流、掘割又ハ池ノ沿岸者ニシテ其床地ヲ所有スル者ハ家用及ヒ農工業用ニ其水ヲ使用スルコトヲ得然レトモ其水路及ヒ幅員ヲ変スルコトヲ得ス
同上ノ流水ノ通過スル土地ノ所有者ハ右ト同一ノ需用ノ為メ其地内ニ於テ水路ヲ変転スルコトヲ得然レトモ其水ノ出口ニ於テハ之ヲ自然ノ水路ニ復スルコトヲ要ス
右孰レノ場合ニ於テモ沿岸者ハ地方ノ規則ニ従ヒ捕漁ノ権利ヲ有ス
沿岸者ハ対岸者ニ損害ヲ及ホス可キトキハ己レノ方ニ於テ堤防ヲ築クコトヲ得ス
第二百四十四条 前条ニ定メタル二個ノ場合ニ於テ其水ヲ有用トス可キ沿岸者又ハ低地ノ所有者ヨリ争ヲ起シタルトキハ裁判所ハ地方ノ慣習ヲ斟酌シ且衛生ノ需用ト農工業ノ利益トヲ調和シテ之ヲ決ス
第二百四十五条 右流水ニ関スル取締ハ地方官ニ属ス府県庁ハ其流水ノ疏通、保持及ヒ魚類ノ保育ニ付キ必要ノ処分ヲ令スルコトヲ得
第二百四十九条 全国又ハ一地方ノ公有ニ属スル水ノ使用及ヒ取締ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二百四十三条ニ掲ケタル水ノ疏通、保持及ヒ其魚類ノ保育ニ付テモ亦同シ
第二百五十条 自己ノ土地外ニ在ル天然又ハ人エノ水ヲ用ユル権利ヲ有スル所有者ハ家用又ハ農工業用ノ為メ償金ヲ払ヒ中間ノ土地ニ於テ其水ノ通過ヲ要求スルコトヲ得
第二百五十二条 低地ノ所有者ハ浸水地ノ排洩又ハ乾凅ニ由ル水ノ疏通ノ為メ及ヒ家用又ハ農工業用ノ余水ノ排洩ノ為メ公路公流又ハ下水道ニ至ルマテ其通路ヲ供スルノ責ニ任ス
家用又ハ農工業用ノ為メニ変質シタル水ノ通過ハ地下ニ於ケルニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
第二百五十三条 水ノ通路ハ成ル可ク承役地ノ損害少ナキ場所ニ之ヲ設クルコトヲ要ス
如何ナル場合ニ於テモ建物ノ下ヲ経又ハ住家ニ連接シタル庭園ヲ経テ水ノ通過ヲ要求スルコトヲ得ス
第二百五十四条 水ノ通路ニ必要ナル工作物ノ築造及ヒ保持費用ハ其工作物ニ付キ利益ヲ得ル所有者之ヲ負担ス
第二百五十五条 承役地ノ所有者ハ其土地ニ存スル水路ヲ要役地ニ出入スル水ノ全部又ハ一分ノ通路ニ供スルコトヲ得但従来其掘割ヲ通過スル水カ要役地ニ供シタル水ヲ変スルノ性質ナラサルトキニ限ル
又承役地ノ所有者ハ其土地ニ要役地ノ所有者ノ為シタル工作物ヲ右ト同一ノ条件ニ従ヒテ水ノ通過ノ為メ使用セント請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ他人ノ為シタル工作物ヲ使用スル者ハ自己ノ利益ノ割合ニ応シテ其築造及ヒ保持ノ費用ヲ分担ス
第二百五十六条 第二百四十三条第一項ニ従ヒ流水ヲ使用スルノ権利ヲ有スル所有者ハ堰ヲ設ケテ水ヲ高ムルノ要用アルトキハ償金ヲ払ヒテ其堰ヲ対岸ニ支持セシムルコトヲ得
同一ノ権利ヲ有スル対岸地ノ所有者ハ前条ニ記載シタル如ク費用ヲ分担シテ右ノ堰ヲ使用スルコトヲ得
第三款 経界
第二百五十七条 凡ソ相隣者ハ地方ノ慣習ニ従ヒ樹石杭杙ノ如キ標示物ヲ以テ其連接シタル所有地ノ界限ヲ定メント各自ニ強要スルコトヲ得
第二百五十八条 経界訴権ハ建物ニ付キ及ヒ垣柵等ノ囲障アル土地ニ付テハ行ハレス公路又ハ公流ニテ隔テタル土地ニ付テモ亦同シ
第二百五十九条 経界訴権ハ協議上又ハ裁判上ニテ界限ノ定マラサル間ハ何時ニテモ之ヲ行フコトヲ得
経界ノ訴ニ付キ被告カ原告ノ土地ノ全部又ハ一分ニ対シ取得時効又ハ一个年以上ノ占有ヲ申立ツルトキハ原告ハ先ツ回復又ハ回収ノ訴ヲ為スコトヲ要ス
第二百六十条 経界ハ界限ノ確定セサルトキ又ハ争論アルトキハ所有権ノ証書ニ記載シタル坪数及ヒ界限ニ従ヒテ之ヲ為ス其証書ナキトキハ之ニ代フルニ足ル他ノ証拠又ハ書類ニ依リテ之ヲ為ス
所有権ニ付キ争論アルトキハ予メ其裁判ヲ受クルコトヲ要ス
第二百六十三条 当事者カ協議ヲ以テ界限ヲ定メタルトキハ適宜ノ方式ニ従ヒテ其証書ヲ作ルコトヲ得此証書ハ坪数及ヒ界限ニ付キ各当事者ノ利害ヲ問ハス確定名義ノ効ヲ有ス
当事者ノ議協ハサルトキハ判決ヲ以テ坪数及ヒ界限ヲ定メ其裁判書ニ図面ヲ添フ此図面ニハ界標ヲ指示シ且各界標ノ距離及ヒ其近傍ノ移動ナキ目標ト各界標トノ距離ヲ記載ス
第二百六十四条 樹石杭杙ノ代価其設置ノ費用及ヒ証書並ニ訴訟ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス然レトモ判決ニ因リテ不当ト為リタル争論ノミニ関スル訴訟ノ費用ハ敗訴者之ヲ負担ス
測量ノ費用ハ当事者其土地ノ広狭ニ応シテ之ヲ分担ス
第二百六十五条 経界訴訟ノ裁判管轄及ヒ其他ノ方式ハ帝国裁判所構成法及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第四款 囲障
第二百六十六条 凡ソ所有者ハ適宜ノ材料ヲ用ヒ適宜ノ高サニ於テ自己ノ不動産ニ囲障ヲ設クルコトヲ得但其不動産カ法律上又ハ人為上ニテ隣人ノ立入又ハ通行ノ地役ニ腹スルトキハ其地役ヲ行フノ権能ヲ妨クルコトヲ得ス
第二百六十七条 二箇ノ住家又ハ農工業用建物ノ間ニ在ル中庭又ハ園圃ノ土地カ各個ノ所有者ニ分属スルトキハ所在地ノ如何ヲ問ハス各自其隣人ニ分界囲障ノ分担ヲ強要スルコトヲ得
当事者ノ議協ハサルトキハ其囲障ハ板塀又ハ竹垣ノ類ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
其高サハ分界線ノ平面ヨリ少ナクトモ六尺タル可シ
第二百六十八条 囲障ノ設置、保持及ヒ修繕ノ費用ハ相隣者平分シテ之ヲ負担ス
相隣者ノ一人ハ前条ニ定メタル材料ヨリ良好ナル他ノ材料ヲ用ヒ又ハ高サヲ増シテ囲障ヲ築造スルコトヲ得但築造費用ノ差額ヲ払ヒ且保持及ヒ修繕費用ノ全額ヲ負担ス
第二百六十九条 相隣者ノ一人カ他ノ一人ヲ囲障分担ノ遅滞ニ付セスシテ之ヲ築造シ又ハ修繕シタルトキハ其人ニ対シ費用ノ分担ヲ要求スルコトヲ得ス
第五款 互有
第二百七十条 前款ニ定メタル義務ニ因リ又ハ任意且協議ニ因リ共担ノ費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ築造シタル囲障ハ其性質ノ如何ヲ問ハス敷地ト共ニ相隣者ノ共有ニ属ス
性質ノ如何ヲ問ハス相隣者ノ建物ノ隔壁及ヒ溝渠、生籬、柴垣ニシテ共担ノ費用ヲ以テ土地ノ分界線上ニ設ケタルモノモ亦同シ
第二百七十一条 凡ソ土地ノ囲障又ハ建物ノ隔壁ニシテ分界線上ニ在ルモノハ其性質及ヒ所在地ノ如何ヲ問ハス共担ノ費用ヲ以テ設ケタルモノトシテ之ヲ互有ト推定ス但或ハ証書ニ因リ或ハ証人ニ因リ或ハ三十个年ノ時効ニ因リ或ハ下ニ示シタル非互有ノ目標ニ因リテ反対ノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第二百七十二条 相隣者ノ一人ノ専有権ヲ定ムル直接ノ証拠又ハ時効ノ存セサルトキハ非互有ヲ推定ス可キ目標ハ左ノ如シ
第一 土造、石造、煉瓦造ノ墻壁ニ付テハ屋根ノ傾斜面又ハ小櫓、窓孔其他ノ工作物又ハ粧飾物カ一方ノミニ存スルコト
第二 板塀、垣柵ニ付テハ其支柱カ一方ノミニ存スルコト
第三 溝渠ニ付テハ掘浚ノ泥土カ一方ノミニ存スルコト
第四 生籬、柴垣ニ付テハ一方ノ土地ノミ四面ヲ囲ハレタルコト
此四箇ノ場合ニ於テ専有権ハ右目標ノ存スル一方又ハ土地ノ全ク囲ハレタル一方ノ相隣者ニ属ス
第二百七十三条 高サノ不同ナル二箇ノ建物ヲ隔ツル墻壁ニ付テハ其墻壁カ低キ建物ヲ踰ユル部分ニハ互有ノ推定ヲ適用セス
又墻壁カ一箇ノ建物ノミヲ支持スルトキハ右ノ推定ハ如何ナル部分ニモ之ヲ適用セス
第二百七十四条 二箇ノ土地ヲ分界スル一箇ノ囲障其他ノ工作物ニ互有ノ目標ト非互有ノ目標トノ併存スルトキハ裁判所ハ状況ニ従ヒテ其所有権ノ共通ナルヤ専属ナルヤヲ査定ス
第二百七十五条 互有界ノ保持及ヒ修繕ハ互有者平分シテ之ヲ負担ス但其一人ノ所為ヨリ毀損ノ生シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ第二百六十七条ニ定メタル義務上ノ囲障ニ非サルトキハ互有者ノ各自ハ互有権ヲ放棄シテ保持及ヒ修繕ノ負担ヲ免カルヽ事ヲ得但自己ノ建物ヲ支持スル墻壁ノ保持及ヒ修繕又ハ自己ノ所為ニ因リテ必要ト為リタル修繕ヲ負担ス可キトキハ此限ニ在ラス
第二百七十六条 相隣者ハ互有界ヲ其性質及ヒ用方ニ従ヒ使用スル事ヲ得但其堅牢ヲ傷ハサル事ヲ要ス
相隣者ハ互有ノ墻壁ニ其厚サ四分ノ三ニ至ルマテ梁棟ヲ穿入シテ建物ヲ支持シ又ハ之ニ煖炉ヲ嵌入シ若クハ煙突、水管、瓦斯管、其他家用、工業用ノ為メ筒管ヲ通スル事ヲ得但其墻壁ノ性質及ヒ厚サカ此ニ耐フルトキニ限ル然レトモ互有者ハ其墻壁ニ窓孔ヲ鑿チ又室内用ノ為メ些少ノ凹穴ヲモ鑿ツ事ヲ得ス
互有者ハ互有ノ墻壁ノ高サヲ増ス事ヲ得但其墻壁ノ堅牢此ニ耐フルトキ又ハ自費ニテ堅牢ノ工事若クハ改築ヲ為ストキニ限ル此場合ニ於テ其高サヲ増シタル部分ハ互有ニ非ス
互有者ハ互有ノ溝渠ニ雨水又ハ家用、工業用ノ水ヲ流入スル事ヲ得
互有者ハ互有ノ生籬ヲ剪伐シタル樹枝ヲ平分スル事ヲ得又其生籬ニ存スル高木ノ伐除ヲ請求スル事ヲ得
第二百七十七条 相隣者ノ一人カ石又ハ煉瓦ニテ土地ノ囲障又ハ建物ノ墻壁ヲ分界線ニ接シ又ハ之ヨリ一尺ニ満タサル距離ニ於テ築造シタルトキハ他ノ一人ハ現時ノ相場ニテ材料代及ヒ築工費ノ半額ヲ償ヒテ常ニ其互有権ノ譲渡ヲ要求スル事ヲ得前条第三項ニ従ヒテ増築シタル墻壁ニ付テモ亦同シ
互有権ノ譲渡ヲ要求スル相隣者ハ囲障墻壁ノ敷地及ヒ之ト分界線トノ間ノ地面ニ付キ地上権ノミヲ要求スル事ヲ得此地上権ニ付テハ鑑定人ノ評定シタル年額ヲ建物ノ存立間払フノ責ニ任ス
増築セシ墻壁ノ互有権ヲ取得シタル者ハ前条ノ規定ニ従ヒテ之ヲ使用スル事ヲ得然レトモ人為上ノ観望ノ地役トシテ其墻壁ニ設ケタル窓孔ヲ塞カシムル事ヲ得ス
石造煉瓦造ニ非サル囲障、隔壁及ヒ籬棚、溝渠土手ニ付テハ共担ノ費用ヲ以テセル設定又ハ協議ノ譲渡ニ因ルニ非サレハ互有権ヲ生セス
本条ノ規定ハ土蔵ニ之ヲ適用セス
第二百七十七条ノ二 所有者ハ石造煉瓦造ニ非サル建物ヲ築造スルトキハ其建物ト土蔵ノ分界線トノ間ニ少クトモ一尺ノ距離ヲ存スル事ヲ要ス
此距離ヲ存セスシテ築造スルトキハ一方ノ相隣者ハ築造ノ間ハ第二百十四条ニ従ヒ新工告発ノ占有訴権ヲ行フ事ヲ得
右築造竣成ノ後一方ノ相隣者ガ建物ヲ築造セントシ其工事ノ為メ自己ノ地上ニ於テ分界線ヨリ一尺ヲ超ユル距離ヲ要スルニ因リ建物ヲ一尺外ニ却ケタルトキハ其余分ニ却ケタル地面ニ応シ前築造者ニ対シ償金ヲ要求スル事ヲ得
第六款 他人ノ所有地ニ対スル観望及ヒ明取窓
第二百七十八条 二箇ノ土地ノ分界線ヨリ少ナクトモ三尺ノ距離アルニ非サレハ建物ニ窓又ハ縁ヲ設ケテ他人ノ所有地ヲ直線ニ観望スル事ヲ得ス
此距離ハ窓又ハ縁ノ突出シタル部分ヨリ直角線ニテ分界線ニ至ルマテヲ測ス
第二百七十九条 右距離ノ制限ヲ遵守スルニ不便ナルトキハ目隠ヲ以テ窓ヲ蔽フ事ヲ要ス但其目隠ハ分界線上ニ突出スル事ヲ要ス
目隠ヲ設クル能ハサルトキハ寛仮ノ明取窓ニ非サレハ之ヲ設クル事ヲ得ス此明取窓ハ其下部ヨリ座上マテ少ナクトモ六尺ト為シ鉄又ハ木ノ格子ヲ附着シ其格眼ハ一寸以内タル事ヲ要ス
此場合ニ於テ隣地ノ所有者ハ目隠ノ一尺以上分界線ヲ踰エルヲ許シテ之ヲ設ケシムル事ヲ得
第二百八十条 観望又ハ明取窓ニ関スル前二条ノ規定ハ建物ト対向スル隣地ノ建物ニ窓ナキトキハ之ヲ適用セス
第七款 或ル工作物ニ要スル距離
第二百八十一条 自己ノ土地ニ井戸、用水溜、下水溜又ハ糞尿坑ヲ穿タントスル所有者ハ分界線ヨリ少ナクトモ六尺ノ距離ヲ存スル事ヲ要ス但土砂ノ崩壊又ハ水液ノ滲漏ヲ防クニ必要ナル工事ヲ為ス可シ
乾燥シテ覆蓋アル地窖ニ付テハ右距離ヲ三尺ニ減ス
水路ニ供シタル石樋又ハ溝渠ニ付テハ右距離ハ少ナクトモ其深サノ半ニ均シキ事ヲ要ス然レトモ三尺ヲ踰エル事ヲ要セス
右溝渠ハ分界線ノ方ノ崖ヲ斜ニ削下シ又ハ石垣若クハ木柵ヲ以テ之ヲ支持ス可シ
第二百八十二条 高サ三間ニ踰ユル樹木ハ分界線ヨリ六尺ニ満タサル距離内ニ之ヲ植付ケ又ハ保持スル事ヲ得ス
高サ三間ニ満タス一間ニ踰ユル樹木ニ付テハ二尺ノ距離ヲ存スル事ヲ要ス
其他矮小ノ樹木ハ直チニ之ヲ分界線ニ接著セシムル事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ相隣者ハ樹木ノ所有者ニ対シ分界線ヲ踰エタル枝ノ剪除ヲ要求スル事ヲ得又自己ノ土地ヲ侵セル根ヲ自ラ裁去スル事ヲ得
第二百八十三条 右ニ異ナリテ古ク且争ハレサル地方ノ慣習アルトキハ前二条ノ規定ニ依ラスシテ其慣習ヲ遵守ス
前二条ノ規定ハ二箇ノ土地ノ分界カ互有ナルトキト雖モ之ヲ適用ス
第二百八十四条 危険ヲ含ミ衛生ヲ害シ又ハ障碍ヲ為ス営業ニ付キ近隣ノ利益ノ為メニ要スル条件ハ行政法ヲ以テ之ヲ規定ス
前諸款ニ共通ナル規則
第二百八十五条 本節ノ規定ハ公ノ無形人ノ私有及ヒ公有ノ財産ニ付キ働方及ヒ受方ニテ之ヲ適用ス
然レトモ公有財産ハ水樋及ヒ互有要求ノ権ニ服セス
第二節 人為ヲ以テ設定シタル地役
第一款 人為ヲ以テ設定シタル地役ノ性質及ヒ種類
第二百八十六条 相隣者ハ其不動産ノ利益又ハ負担ニテ諸種ノ地役ヲ設定スル事ヲ得但其地役カ公ノ秩序ニ反セサル事ヲ要ス
所有者若クハ其不動産ニ在ル或人ノ労力ヲ主トスル負担又ハ所有者若クハ之ニ代ハル人ノ一身ノ利益ヲ主トスル負担ハ之ヲ地役ト看做サス此第一ノ負担ハ雇使ノ人権トシテ効力ヲ有シ第二ノ負担ハ情況ニ従ヒテ使用若クハ賃貸借ノ物権トシ又ハ使用貸借ヨリ生スル人権トシテ効力ヲ有スル事ヲ得但第三百五条第二項ノ規定ヲ妨ケス
第二百八十七条 地役ハ不動産ノ所有権カ他人ニ移転スルモ働方又ハ受方ニ於テ其不動産ニ従トシテ附着ス
働方ノ地役ハ要役地ヨリ引離シテ之ヲ譲渡シ賃貸シ又ハ抵当ト為ス事ヲ得ス又其地役ニ他ノ地役ヲ負ハシムル事ヲ得ス
第二百八十八条 地役ハ不動産カ数人ノ共有ニ属スルトキハ其一人自己ノ持分ニ付キ要役地ニ地役ヲ失ハシメ又承役地ニ之ヲ免レシムル事ヲ得サルニ因リテ之ヲ不可分トス
又土地ノ分割又ハ其一分ノ譲渡ノ場合ニ於テ地役ハ不可分ニテ承役地ノ各部分ヲ累ハシ又ハ要役地ノ各部分ヲ利ス但其地役カ承役地ノ一部分ニ対スルニ非サレハ有益ニ行ハレス又ハ要役地ノ一部分ノ為メニ非サレハ便益ヲ得セシメサル場合ハ此限ニ在ラス
第二百八十九条 要役地ノ所有者ハ自己ニ属スト主張スル地役ニ付キ占有ニ係ルト権原ニ係ルトヲ問ハス要請訴権ヲ行フ事ヲ得
又承役地ナリトノ主張ヲ受ケタル不動産ノ所有者ハ其争フ地役ノ行使ヲ拒ミ又ハ之ヲ止マシムル為メ占有ニ係ルト権原ニ係ルトヲ問ハス拒却訴権ヲ行フ事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ占有ノ章ニ定メタル規則及ヒ区別ヲ遵守ス可シ
地役ニ関スル用益者及ヒ賃借人ノ権利、訴権並ニ義務ハ第六十九条、第七十条、第九十九条、第百四十四条及ヒ第百五十一条ニ之ヲ規定ス
第二百九十条 前三条ノ規定ハ法律ヲ以テ設定シタル地役ニ之ヲ適用ス
第二百九十一条 地役ノ種類ハ左ノ如シ
第一 継続又ハ不継続ノ地役
第二 表見又ハ不表見ノ地役
第三 有為又ハ無為ノ地役
右孰レノ地役モ其設定、行使及ヒ消滅ハ下三款ノ規定ニ従フ
第二百九十二条 地役カ場所ノ位置ノミニ因リ人ノ助力ヲ要セスシテ間断ナク要役地ニ便ヲ与ヘ承役地ニ累ヲ為ストキハ継続地役ナリ
地役カ要役地ノ便益ノ為メ人ノ現時ノ所為ヲ要スルトキハ不継続地役ナリ
第二百九十三条 地役カ外見ノ工作物又ハ形跡ニ因リテ顕露スルトキハ表見地役ニシテ之ニ反スルトキハ不表見地役ナリ
第二百九十四条 地役ハ左ノ場合ニ於テハ有為地役ナリ
第一 不動産ノ所有者カ他人ノ不動産ヨリ或ル便益ヲ取ル事ヲ得ルトキ
第二 不動産ノ所有者カ相隣便益ノ為メ法律ノ普通ニ制禁スル或ル工作ヲ自己ノ不動産ニ為ス事ヲ得ルトキ
地役ハ左ノ場合ニ於テハ無為地役ナリ
第一 不動産ノ所有者カ普通ニ所有者ニ許サレタル所為ヲ隣人ノ自己ノ不動産ニ為スヲ禁スル事ヲ得ルトキ
第二 不動産ノ所有者カ普通ニ従ヒ自己ノ不動産ニ於テ相隣便益ノ為メニ為ス可ク又ハ許ス可キノ所為ヲ為サス又ハ許サヽル事ヲ得ルトキ
第二款 地役ノ設定
第二百九十五条 地役ハ約束又ハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スル事ヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ当事者ノ間ニ於ケルト第三者ニ対スルトヲ問ハス地役ノ有効ナル為メニハ不動産物権ノ無償又ハ有償ノ名義ノ譲渡ニ関スル通常規則ヲ遵守ス可シ
第二百九十六条 不動産所有権ニ関シ時効ヨリ生スル法律上ノ取得推定ハ継続且表見ノ地役ニノミ之ヲ適用ス
隣地ヨリ引ク水ノ取得ニ関スル時効ノ期間ハ其時効ヲ申立ツル所有者カ自己ノ土地又ハ承役地ニ於テ其便益ノ為メ水ヲ聚合シ及ヒ引入スル外見ノ工作物ヲ作リタル当時ヨリ起算ス
第二百九十七条 初メ一人ノ所有ニ属シタル二箇ノ土地カ末分ノ時既ニ継続且表見ノ地役ノ成立ス可キ位置ヲ成シ其分離ノ時此形状ヲ変更セス又之ヲ変更スル事ヲ約束セサリシトキハ所有者ノ用方ヲ以テ此種ノ地役ヲ設定シタルモノト看做ス
第二百九十八条 不継続地役及ヒ不表見地役ハ第二百九十五条ニ記載シタル二箇ノ名義ノ一ニ依ルニ非サレハ之ヲ設定スル事ヲ得ス
第二百九十九条 要役権ヲ有スト主張スル所有者ハ承役地ノ所有者又ハ其前所有者ノ一人ヨリ出タル地役追認ノ証書ヲ差出ス事ヲ得ルトキハ前ニ掲ケタル方法ノ一ニ因レル地役設定ノ直接ノ証拠ヲ挙クル事ヲ要セス
第三款 地役ノ効力
第三百条 適法ニ取得シタル地役権ハ其性質ニ従ヒテ行使ニ必要ナル従タル権利及ヒ権能ヲ帯フ
右ノ外約束又ハ遺言ヲ以テ設定シタル地役ニ付テハ其約束又ハ遺言ノ解繹ニ関スル普通ノ規則ニ従フ又時効ニ因リテ取得シタル地役ニ付テハ実際占有ノ広狭ヲ量リ所有者ノ用方ニ因リテ生シタル地役ニ付テハ設定者ノ意思ヲ推定シテ其権利ノ広狭ヲ定ム
第三百一条 通行ノ地役、継続若クハ不継続ナル取水ノ地役、牧畜又ハ物料採取ノ地役ニ付キ設定名義又ハ其後ノ約束ニ於テ行使ノ時日、場所、方法又ハ収取ノ数量ヲ定メサリシトキハ当事者ノ一方ハ常ニ他ノ一方ト立会ノ上其定メヲ裁判所ニ請求スル事ヲ得
此定メ方ニ付テハ裁判所ハ双方ノ需用ヲ斟酌シ且地役権行使ノ従来ノ実跡ヲ照査ス可シ
第三百二条 取水ノ地役ニ服スル不動産ノ所有者ハ自己ノ所為ニ因リテ水ノ缺乏ヲ生セシメタルトキニ非サレハ其責ニ任セス
二箇ノ不動産ノ需用ノ為メニ水ノ不足スルトキハ先ツ家用ニ次ニ農業用ニ次ニ工業用ニ之ヲ供ス右ハ総テ其不動産ノ分度ニ割合フ可シ
数箇ノ要役地アルトキハ各要役地ハ家用ノ為メ相共ニ水ヲ使用ス農工業用ニ付テハ取水ノ先後ハ地役権取得ノ先後ニ従フ
第三百三条 地役権ヲ有スル者ハ承役地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ正シク定置キタル行使ノ時日、場所又ハ方法ヲ変更スル事ヲ得ス但承役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ右変更ニ付キ正当ナル利益ヲ得且要役地ノ所有者カ如何ナル損害ヲモ受ケサルトキハ承役地ノ所有者ハ其変更ヲ請求スル事ヲ得
第三百四条 地役ヲ設定スル為メ或ル工作物ヲ必要トスルトキハ其費用ハ要役地ノ所有者ノ負担ニ属ス但承役地ノ所有者ノ負担ニ属ス可キ事ヲ約束シタルトキハ此限ニ在ラス
第三百五条 地役ノ行使ニ関スル工作物ノ保持及ヒ修繕ハ亦要役地ノ所有者ノ負担ニ属ス但修繕カ承役地ノ所有者ノ過失ニ因リテ必要ト為リタルトキハ此限ニ在ラス
又承役地ノ所有者カ保持及修繕ヲ負担ス可キヲ約束スル事ヲ得此場合ニ於テ承役地ノ所有者ハ地役ノ存スル不動産ノ部分ヲ要役地ノ所有者ニ委付スルトキハ常ニ右ノ負担ヲ免カル事ヲ得
第三百六条 承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ニ如何ナル妨碍ヲモ為サス又其便益ニ如何ナル減少ヲモ生セサルニ於テハ其所有権ノ固有スル適法ノ権能ヲ行フ事ヲ得
又承役地ノ所有者ハ地役ノ行使ノ為メ其不動産ニ設ケタル工作物ヲ便用スル事ヲ得但其所有者カ工作物ヨリ収ムル便益及其使用ニ因リテ増加ス可キ費用ニ応シ其建設又ハ保持ノ費用ヲ分担ス
第四款 地役ノ消滅
第三百七条 地役ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 地役ヲ設定シタル期間ノ満了
第二 設定名義又ハ設定者ノ権利ノ解除、銷除又ハ廃罷
第三 承役地ノ公用徴収
第四 放棄
第五 混同
第六 三十ケ年間ノ不使用
第三者カ地役ナキモノトシテ承役地ヲ占有シ其占有ニ不動産所有権ノ取得ニ関スル占有ニ必要ナル条件ヲ具フルトキハ地役ハ正当ナル原因ニ由リテ消滅シタリトノ推定ヲ受ク
第三百八条 地役ノ放棄ハ之ヲ明示スル事ヲ要ス然レトモ継続地役ノ行使ノ為メ承役地ニ設ケタル工作物ノ毀壊又ハ其使用ノ廃止ニ付キ要役地ノ所有者カ異議ヲ留メスシテ明示ノ承諾ヲ与ヘタルトキハ其地役ヲ放棄シタリト看做ス
放棄ハ放棄者カ自己ノ不動産権利ヲ譲渡スノ能力ヲ有スルトキニ非サレハ其効ナシ
第三百九条 地役ハ要役地及ヒ承役地ヲ一人ノ所有ニ併合シタルトキハ混同ニ因リテ消滅ス然レトモ其併合ノ行為ヲ裁判上ニテ解除シ銷除シ又ハ廃罷シタルトキハ其地役ヲ曽テ消滅セサリシモノト看做ス
右不動産ヲ再ヒ分離シタルトキハ継続且表見ノ地役ハ第二百九十七条ノ規定ニ従ヒテ再ヒ生出ス
第三百十条 地役ハ要役地ノ所有者カ任意タルト否トヲ問ハス其地役権ヲ行フ無クシテ三十ケ年ヲ経過シタルトキハ不使用ニ因リテ消滅ス
右期間ハ不継続地役ニ付テハ最後ノ使用ノ行為ヨリ之ヲ起算シ継続地役ニ付テハ地役ノ自然ノ作用ニ対スル形体上ノ妨碍ノ起レル当時ヨリ之ヲ起算ス
右妨碍カ承役地ニ起発シタル事変ヨリ生スルトキハ要役地ノ所有者ハ自費ニテ旧状ニ復スル事ヲ得又其妨碍カ承役地ノ所有者ノ所為ヨリ生スルトキハ其費用ヲ以テ復旧ス
第三百十一条 要役地カ数人ノ共有ニ属スルトキハ其一人ノ権利ノ行使ニ因リテ他ノ人ノ権利ヲ保存ス
此他免責時効ノ進行ノ停止又ハ中断ニ関スル規則ハ地役ノ不使用ニ之ヲ適用ス
第三百十三条 地役権ノ行使ノ時、場所及ヒ方法ニ関スル利益ハ不使用又ハ時効ノ結果ニ因リテ滅殺ヲ受クル事有リ
第二部 人権及ヒ義務
総則
第三百十四条 人権即チ債権ハ常ニ義務ト対当ス
義務ハ一人又ハ数人ヲシテ他ノ定マリタル一人又ハ数人ニ対シ或ル物ヲ与ヘ又ハ或ル事ヲ為シ若クハ為サヽル事ニ服従セシムル人定法又ハ自然法ノ羈絆ナリ
義務ヲ負フ者ハ之ヲ債務者ト名ツケ義務ニ因リテ利益ヲ得ル者ハ之ヲ債権者ト名ツク
第三百十五条 人定法ノ義務ハ其履行ニ付キ法律ノ許セル諸般ノ方法ニ依リテ債務者ヲ強要スル事ヲ得ルモノナリ
自然ノ義務ニ対シテハ訴権ヲ生セス
法律ハ道徳及ヒ宗教ノ義務ニ干渉セス
第一章 義務ノ原因
総則
第三百十六条 義務ハ左ノ諸件ヨリ生ス
第一 合意即チ契約
第二 不当ノ利得
第三 有意又ハ粗忽ニテ加ヘタル不正ノ損害
第四 法律ノ規定
第一節 合意及ヒ契約
第三百十七条 合意トハ物権ト人権トヲ問ハス或ル権利ヲ創設シ変更シ又ハ之ヲ消滅セシムルヲ目的トスル二人又ハ数人ノ意思ノ合致ヲ謂フ
合意カ人権又ハ義務ノ創設ヲ主タル目的トスルトキハ之ヲ契約ト名ツク
第一款 契約ノ種類
第三百十八条 契約ニハ双務ノモノアリ片務ノモノアリ
当事者相互ニ義務ヲ負担スルトキハ其契約ハ双務ノモノナリ
一方ノ当事者ノミカ他ノ一方ノ当事者ニ対シテ義務ヲ負担スルトキハ其契約ハ片務ノモノナリ
第三百十九条 契約ニハ有償名義ノモノ有リ無償名義ノモノ有リ
各当事者カ出捐ヲ為シテ相互ニ利益ヲ得又ハ第三者ヲシテ之ヲ得セシムルトキハ其契約ハ有償名義ノモノナリ
一方ノ当事者ノミカ何等ノ利益ヲモ給セスシテ他ノ一方ノ当事者ヨリ利益ヲ受クルトキハ其契約ハ無償名義ノモノナリ
第三百二十条 契約ニハ諾成ノモノ有リ要物ノモノ有リ
契約カ当事者ノ承諾ノミヲ以テ成立スルトキハ其契約ハ諾成ノモノナリ
契約カ当事者ノ承諾ノ外尚ホ目的物ノ引渡ヲ要スルトキハ其契約ハ要物ノモノナリ
第三百二十一条 契約ニハ要式ノモノ有リ不要式ノモノ有リ
公正証書ヲ以テ承諾ヲ与フ可キ契約ハ要式ノモノナリ
此他ノ場合ニ於ケル契約ハ不要式ノモノナリ
第三百二十二条 契約ニハ正定ノモノ有リ射倖ノモノ有リ
契約ノ成立及ヒ効力カ契約ノ当初ヨリ確実ナルトキハ其契約ハ正定ノモノナリ
契約ノ成立又ハ其効力ノ全部若クハ一分カ偶然ノ事ニ繋カルトキハ其契約ハ射倖ノモノナリ
第三百二十三条 契約ニハ主タルモノ有リ従タルモノ有リ
契約ノ成立カ他ノ契約ノ成立ニ関係ナキトキハ其契約ハ主タルモノナリ
反対ノ場合ニ於テハ其契約ハ従タルモノナリ
主タル契約ノ無効ハ従タル契約ノ無効ヲ惹起ス但従タル契約カ主タル契約ノ無効ノ場合ニ於テ之ニ代フルヲ目的トスルモノナルトキハ此限ニ在ラス
従タル契約ノ無効ハ主タル契約ノ無効ヲ惹起セス但当事者カ其二箇ノ契約ヲ分離ス可カラサルノモノト看做シタルトキハ此限ニ在ラス
第三百二十四条 契約ニハ有名ノモノ有リ無名ノモノ有リ
有名ノ契約ハ固有ノ名称アリテ本法又ハ商法ニ於テ格別ノ規則ヲ設クルノ目的タルモノナリ各別ノ規則ヲ設ケサル総テノ場合ニ於テハ其契約ハ本部ノ規則ニ従フ
無名ノ契約ハ本部ニ掲ケタル契約ノ通則ニ従フ又有名ノ契約ニ特別ナル規則ハ其契約ト最モ類似スル無名ノ契約ニ之ヲ適用スル事ヲ得
第二款 契約ノ成立及ヒ有効ノ条件
第三百二十五条 凡ソ契約ノ成立スル為メニハ左ノ三箇ノ条件ヲ具備スルヲ必要トス
第一 当事者又ハ其代理人ノ承諾
第二 確定ニシテ各人カ処分権ヲ有スル目的事物
第三 真実且合法ノ原因
右ノ外尚ホ要式ノ契約ハ必要ノ方式ヲ遵守シ要物ノ契約ハ返還ス可キ物ノ引渡ヲ為シタルニ非サレハ成立セス
第三百二十六条 契約ノ成立ニ必要ナル条件ノ外尚ホ其有効ナル為メニハ左ニ掲クル二箇ノ条件ヲ具備スルヲ必要トス
第一 承諾ノ瑕疵ヲ成ス可キ錯誤又ハ強暴ノ無キ事
第二 当事者ノ能力アル事又ハ有効ニ代表セラレタル事
欠損ハ法律ヲ以テ定メタル場合ニ非サレハ契約ノ瑕疵ヲ成サス
第三百二十七条 承諾トハ利害関係者トシテ契約ニ加ハル総当事者ノ意思ノ合致ヲ謂フ
当事者中ノ一人カ承諾セサルトキハ他ノ当事者カ承諾シタルモ契約ハ成立セス但此ニ異ナル意思ノ存セシ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第三百二十八条 承諾ハ書面、口頭又ハ容態ヲ以テ之ヲ与フル事ヲ得但此末ノ場合ニ於テハ他ニ同意ヲ表スル所作ヲ得ス且其十分ニ承諾スル意思ノ確証アル事ヲ要ス
又承諾ハ事情ニ因リテ黙示ヨリ成ル事ヲ得
第三百二十九条 遠隔ノ地ニ於テ取結フ契約ノ言込ハ其承諾ノ為メ明示又ハ黙示ノ期間ナキトキハ承諾ノ報ナキノ間ハ之ヲ言消ス事ヲ得但言消ノ報ノ達スルニ先タチ承諾ノ報ヲ発シタルトキハ其承諾ハ有効ニシテ其言消ハ無効ナリ
右ニ反シ明示又ハ黙示ノ期間アルトキハ其期間ハ言込ヲ言消ス事ヲ得ス但言消ノ報カ言込又ハ期間指示ノ報ニ先タチ又ハ同時ニ先方ニ達シタルトキハ此限ニ在ラス
此指示期間ニ承諾ヲ為サヽルトキハ言込ハ期間満了ノミニテ消滅ス
承諾モ亦之ヲ言消ス事ヲ得但其報カ承諾ノ報ニ先タチ又ハ同時ニ言込人ニ達スル事ヲ要ス
言込人カ死亡シ又ハ契約スル能力ヲ失ヒタルモ先方カ未タ此事実ヲ知ラサル間ハ其承諾ハ有効ナリ
郵便、電信ノ錯誤ハ差出人ノ責ニ帰ス但郵便、電信ノ官署ニ対スル求償権アルトキハ之ヲ行フ事ヲ妨ケス
第三百三十条 当事者ノ錯誤ニテ契約ノ性質、目的又ハ原因ノ着眼ニ相違アリシトキハ其錯誤ハ承諾ヲ阻却ス
契約ノ縁由ノ錯誤ハ其錯誤ノミニテハ無効ノ原因ヲ成サス但当事者ノ一方ノ詭譎ニ関シテ定ムル規則ヲ妨ケス
当事者ノ身上ノ錯誤ハ其身上ニ付テノ着眼カ決意ノ原因タリシトキハ契約ノ不成立ヲ惹起ス
身上ノ着眼カ契約ノ附随ノ原因タルニ過キサルトキハ其契約ハ身上ノ錯誤ノ為メ単ニ取消ス事ヲ得ヘキモノナリ
第三百三十一条 物上ノ錯誤カ物ノ品質ニ存シ且其品質ニ付テノ着眼カ当事者ノ決意ヲ助成シタルトキハ其錯誤ハ承諾ノ瑕疵ヲ成ス
之ニ反シテ物ノ品格ニ存スル錯誤ハ承諾ノ瑕疵ヲ成サス但品格ニ着眼スルノ当事者ノ意思カ明示又ハ事情ニ因リテ明白ナルトキハ此限ニ在ラス時代出処又ハ用方ノ如キ物ノ思想上ノ品格ニ付テモ亦同シ
算数、名称、日附又ハ場所ノ錯誤ニ付テハ第五百八十二条ノ規定ニ従フ
第三百三十二条 法律ノ錯誤カ或ハ契約ノ性質、原因ニ存シ或ハ契約ノ法律上ノ効力ニ存スルトキ或ハ物ノ法律上ノ資格又ハ人ノ法律上ノ分限ニ存シテ其資格若クハ分限カ決意ヲ為サシメタルトキハ其錯誤ハ事実ノ錯誤ノ如ク承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ス
然レトモ裁判所ハ深ク注意シ且宥恕ス可キ情状アルニ非サレハ右錯誤ノ為メ契約ノ無効ヲ認許スル事ヲ得ス
法律ノ錯誤ハ責罰ニ対シ時期ヨリ生スル法律上ノ失権ニ対シ又ハ証書ノ違式ヨリ生スル無効ニ対シテモ其他公ノ秩序ニ係ル法律ノ不知ニ関シテモ当事者ヲ救護スル為メニ之ヲ認許セス
第三百三十三条 詭譎ハ承諾ヲ阻却セス又其瑕疵ヲ成サス但詭譎カ錯誤ヲ惹起シ其錯誤ノミヲ以テ前三条ニ記載セル如ク承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ストキハ此限ニ在ラス
此他ノ場合ニ於テハ詭譎ハ之ヲ行ヒタル者ニ対スル損害賠償ノ訴権ノミヲ生ス
然レトモ当事者ノ一方カ詭譎ヲ行ヒ其詭譎カ他ノ一方ヲシテ契約ヲ為ス事ニ決意セシメタルトキハ其一方ハ報復ノ名義ニテ契約ノ取消ヲ求メ且損害アルトキハ其賠償ヲ要求スル事ヲ得但其契約ノ取消ハ善意ナル第三者ヲ害スル事ヲ得ス
第三百三十四条 当事者ノ一方カ抵抗スル事ヲ得サル暴行ヲ受ケタルニ因リ枉ケテ契約ニ同意ヲ表シタルトキハ其強暴ハ承諾ヲ阻却ス
当事者ノ一方カ不可抗ノ力ニ出テタル急迫ノ災害ヲ避クル為メ熟慮スルノ暇ナクシテ過度ナル義務ヲ約束シ又ハ無思慮ナル譲渡ヲ為シタルトキモ亦同シ
暴行又ハ脅迫抗ス可カラサルニ非サルモ当事者又ハ第三者ノ身体財産ノ為メ切迫ニシテ一層重大ノ害ヲ避クル為メ当事者ヲシテ契約ヲ為ス事ニ決意セシメタルトキハ其承諾ニハ瑕疵アリトス
第三百三十五条 強暴ニ因リテ身体財産ニ危難ノ恐ヲ受ケタル第三者カ当事者ノ配偶者又ハ直系ノ親族若クハ姻族ナルトキハ其強暴ハ常ニ之ヲ当事者ニ加ヘタリト看做ス
此他ノ人ニ付テハ親族ナルト姻族ナルト又ハ外人ナルトヲ問ハス裁判所ハ此等ノ者ニ対シ加ヘタル強暴カ当事者ノ承諾ニ及ホセシ影響ヲ其事情ニ従ヒテ審判ス
第三百三十六条 強暴ハ当事者ノ一方ノ所為ニ出テタルト第三者ノ所為ニ出テタルト又第三者カ通謀セルト否トヲ問ハス上ノ区別ニ従ヒテ承諾ヲ阻却シ又ハ其瑕疵ヲ成ス
当事者ノ一方カ不可抗ノ災害ヲ避クル為メ危難ニ臨ミ熟慮スルノ暇ナクシテ過度ナル義務ヲ約束シ又ハ無思慮ナル譲渡ヲ為シタルトキハ総テ強暴ニ関シ上ニ定ムル規則ニ従フ
第三百三十七条 強暴ヲ受ケタル一方ハ契約ヲ無効ト為ス事ヲ得ル場合ニ於テ強暴ヲ行ヒタル者ニ対シ損害賠償ノミヲ請求シテ其契約ヲ保持スル事ヲ得
強暴カ契約ノ決意ノ原因トナラスシテ不利条件ノ承諾ノ原因トナリタルトキハ其契約ハ無効ト為ラス但賠償ノ請求ヲ妨ケス
第三百三十八条 強暴ノ場合ニ於テ裁判所ハ当事者ノ男女、年齢、強弱、智愚及ヒ相互ノ身分ヲ斟酌ス可シ
然レトモ卑属親ノ尊属親ニ対スル尊敬ノミニ出テタル畏惧ハ契約ヲ取消スノ理由ト為ラス
第三百三十九条 錯誤、強暴、詭譎、欠損及ヒ無能力ハ之ヲ推定セス其申立人ヨリ之ヲ証明スル事ヲ要ス
当事者双方ニ属スル無効ノ理由ハ相互ノ非理ニ基ツクトキト雖モ相殺セス但損害アルトキハ其賠償ノ相殺ヲ妨ケス
第三百四十条 前数条ノ場合ニ於ケル無効ノ訴権ハ無能力者又ハ瑕疵アル承諾ヲ与ヘタル者ノミニ属ス
然レトモ処刑ノ言渡ヨリ生スル無能力ハ其言渡ヲ受ケタル者ト契約ヲ為シタル者ヨリ之ヲ申立ツル事ヲ得
第三百四十一条 若シ取消ス事ヲ得ヘキ契約ヲ第三章第七節ニ定メタル期間ニ攻撃セサルトキハ黙示ニテ之ヲ認諾シタルモノト看做ス
此他黙示認諾ノ場合及ヒ明示認諾ノ方式ハ右同節ノ規定ニ従フ
第三百四十二条 契約ハ未来ニ係リ且生成ノ不的確ナル物ヲ目的トスル事ヲ得此場合ニ於テ諾約者ハ其契約ノ実施ヲ妨碍シ若クハ減縮スル何等ノ事ヲモ為サス又其実施ニ便ス可キ何等ノ事ヲモ放却シ若クハ懈怠セサル事ヲ要ス
然レトモ発開セサル相続ニ於ケル権利ヲ授受シ又ハ取捨スルノ契約ハ其相続ヲ遺留ス可キ人ノ承諾アリト雖モ之ヲ為ス事ヲ得ス但法律ヲ以テ特例ヲ明示シタル場合ハ此限ニ在ラス
第三百四十三条 契約ハ不法又ハ不能ノ作為又ハ不作為ヲ目的トスルトキハ無効ナリ
契約ノ目的タル第三者ノ作為又ハ不作為カ合法又ハ可能ナリト雖モ若シ諾約者カ其第三者ニ対シテ威権ヲ有セサルトキハ其契約ハ之ヲ不能ノ作為又ハ不作為ヲ目的トセルモノト看做ス
然レトモ何人ニテモ第三者ノ作為又ハ不作為ニ付キ明示ニテ担保人ト為ルコトヲ得此場合ニ於テハ諾約者ハ保証人ノ義務ニ服ス
又何人ニテモ第三者ニ代リテ諾約ヲ為シ若シ第三者カ之ヲ履行セサルニ於テハ過怠金ヲ弁済ス可キノ責ニ服スルコトヲ得
何人ニテモ第三者ノ名ヲ以テ引受ヲ為シ第三者ヲシテ之ヲ確認セシム可キコトノミヲ約束シタルトキハ其第三者ノ確認シタル時ヨリ義務ヲ免カル
第三百四十四条 要約者カ契約ニ付キ正当ニシテ且金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ利益ヲ有セサルトキハ其契約ハ原因ナキ為メ無効ナリ
第三者ノ利益ノ為メニ要約ヲ為シ且之ニ過怠約款ヲ加ヘサルトキハ其要約ハ之ヲ要約者ニ於テ金銭ニ見積ルコトヲ得ヘキ利害ヲ有セサルモノト看做ス
然レトモ第三者ノ利益ニ於ケル要約カ要約者カ自己ノ為メ為シタル要約ノ従タリ又ハ諾約者ニ為シタル贈与ノ従タル条件ナルトキハ其要約ハ有効ナリ
右二箇ノ場合ニ於テ従タル条件ノ履行ヲ得サルトキハ要約者ハ為ニ契約解除ノ訴権又ハ過怠約款履行ノ訴権ヲ行フコトヲ得
第三百四十五条 主タリ又ハ従タル要約ハ相続法カ一人ノ相続人ヲ利シテ他ノ相続人ヲ害スル事ヲ許セル限度及ヒ条件ニ従ヒ常ニ要約者ノ相続人ノ一人若クハ数人ノ利益ノ為メ之ヲ為ス事ヲ得
又主タリ又従タル諾約ハ諾約者ノ相続人ノ一人若クハ数人ノ負担トシテ之ヲ為ス事ヲ得
第三百四十六条 前二条ノ場合ニ於テ第三者ノ利益ノ為メニ為シタル要約ハ得益者ノ之ヲ承諾セサル間ハ要約者ハ自己ノ利益ノ為メ之ヲ廃罷シ之ハ之ヲ他人ニ移転スル事ヲ得
第三百四十七条 契約ノ証書ニ原因ヲ明示シタルト否トヲ問ハス其原因ノ不成立、虚妄又ハ不法ナルコトノ証明ハ被告ヨリ之ヲ為ス可キモノトス但原因ノ明示ナキトキハ被告ハ先ツ債権者ヲシテ其原因ヲ陳述セシムル為メニ之ニ催告スルコトヲ得
第三款 契約ノ効力
第一則 当事者及ヒ其承接人ニ対スル契約ノ効力
第三百四十八条 適法ニ取結ヒタル契約ハ当事者間ニ於テ法律ニ同シキ効力ヲ有ス
其契約ハ当事者ノ双方カ承諾スルニ非サレハ之ヲ廃罷スルコトヲ得ス但法律カ一方ノ意思ヲ以テ廃罷スルコトヲ許セル場合ハ此限ニ在ラス
第三百四十九条 当事者ハ特別ノ契約ヲ以テ普通法ノ規定ニ由ラス又ハ其効力ヲ増減スルコトヲ得但公ノ秩序及ヒ善良ノ風俗ニ触ルヽコトヲ得ス
第三百五十条 契約ハ当事者ノ明示及ヒ黙示シタル効力ノミナラス尚ホ公正ノ理若クハ慣習ノ例ヨリ生シ又ハ契約ノ性質ニ従ヒテ法律ノ規定ヨリ生スル効力ヲ有ス
第三百五十条(二) 契約ハ善意ヲ以テ之ヲ履行スルコトヲ要ス
第三百五十一条 特定物ヲ授与スルノ契約ハ引渡ヲ要セスシテ直チニ其所有権ヲ移転ス但停止条件ニ関スル下ノ規定ヲ妨ケス
第三百五十二条 代替物ヲ又ハ定量物授与スルノ契約ハ諾約者ヲシテ其物ノ所有権ヲ契約上ノ性質、品質及ヒ分量ヲ以テ要約者ニ移転スルノ義務ヲ負ハシム此場合ニ於テ所有権ハ物ノ引渡ニ因リ又ハ当事者立会ニテ為シタル其指定ニ因リテ移転ス
第三百五十三条 前二条ノ場合ニ於テハ契約上ノ時日及ヒ場所ニ於テ諾約者ノ注意及ヒ費用ニテ物ノ引渡ヲ為スコトヲ要ス
引取ノ費用ハ要約者之ヲ負担ス
証書ノ費用ハ有償行為ニ於テハ当事者双方之ヲ負担シ無償行為ニ於テハ得益者之ヲ負担ス
不動産ノ引渡ハ証書ノ交付及ヒ場所ノ明渡ヲ以テ之ヲ為ス但簡易ノ引渡及ヒ占有ノ改定ニ関スル第二百三条ノ規定ヲ妨ケス
債権ノ引渡ハ証書ノ交付ヲ以テ之ヲ為ス
引渡ノ期限ヲ定メサリシトキハ即時ニ引渡ヲ要求スルコトヲ得
引渡ノ場所ヲ定メサリシトキハ特定物ニ付テハ契約ノ当時其物ノ存在セシ場所代替物ニ付テ引渡前ニハ其物ノ指定ヲ為シタル場所其他ノ場合ニ在テハ諾約者ノ住所ニ於テ引渡ヲ為ス
第三百五十四条 諾約者ハ特定物ノ引渡ヲ為スマテ善良ナル管理者タルノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スルコトヲ要ス懈怠又ハ悪意アルトキハ損害賠償ノ責ニ任ス
無償ニテ譲渡シタル物ノ保存ニ付テハ諾約者ハ自己ノ物ニ加フルト同一ノ注意ヲ加フルノミノ責ニ任ス
此他諾約者カ右ト同一ノ注意ノミヲ負担スル場合ハ其各事項ニ於テ之ヲ規定ス
第三百五十五条 授与スルノ契約カ特定物ヲ目的トスルトキハ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ出テタル其物ノ滅失又ハ毀損ハ諾約者カ危険ヲ負担シタル場合及ヒ停止条件ニ関スル規定ヲ除クノ外要約者ノ損ニ帰シ其物ノ増加ハ要約者ノ益ニ帰ス
然レトモ諾約者カ物ノ引渡ノ遅滞ニ付セラレ且若シ引渡ヲ為シタルニ於テハ滅失又ハ毀損ヲ致サヽル可キトキハ其損失ハ諾約者ノ負担ニ帰ス
第三百五十六条 左ノ場合ニ於テハ諾約者其他ノ債務者ハ遅滞ニ付セラレタルモノトス
第一 期限ノ到来後ニ裁判所ニ請求ヲ為シ又ハ合式ニ催告若クハ督促ヲ為シタルトキ
第二 期限ノ到来ノミニ因リテ遅滞ニ付スルコトヲ法律又ハ契約ヲ以テ定メタル場合ニ於テ其期限ノ到来シタルトキ
第三 諾約者カ或ル時期ニ後レタル履行ハ要約者ニ無用ナルコトヲ知リテ其時期ヲ経過セシメタルトキ
第三百五十七条 作為又ハ不作為ノ義務ヲ定ムル契約ノ効力ハ第四百二条ノ規定ニ従フ
第三百五十八条 契約ハ当事者ノ相続人及ヒ其承接人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス但法律又ハ契約ニ於テ格別ノ定メヲ為シタル場合ハ此限ニ在ラス
第三百五十九条 債権者ハ其債務者ニ属スル権利ヲ申立テ及ヒ其訴権ヲ行フコトヲ得
債権者ハ此事ノ為メ或ハ差押ヲ為シ或ハ債務者カ原告又ハ被告タル訴ニ参加シ或ハ民事訴訟法ニ従ヒテ得タル裁判上ノ代位ヲ以テ第三者ニ対スル間接ノ訴ヲ行フ
然レトモ債権者ハ債務者ニ属スル純然タル権能又ハ債務者ノ一身ニ専属スル権利ヲ行フコトヲ得ス又法律又ハ契約ノ明文ヲ以テ差押ヲ禁シタル財産ヲ差押フルコトヲ得ス
第三百六十条 右ニ反シ債権者ハ其債務者カ第三者ニ対シ承諾シタル義務、放棄又ハ譲渡ニ付キ其損害ヲ受ク但債権者ノ権利ヲ詐害スルノ行為ハ此限ニ在ラス
債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ自己ノ働方財産ヲ減シ又ハ自己ノ受方財産ヲ増シタルトキハ之ヲ詐害ノ行為トス
第三百六十一条 詐害ノ行為ノ廃罷ハ債務者ト約束シタル者又ハ転得シタル者ニ対シ次条ノ区別ニ従ヒ債権者ヨリ廃罷訴権ヲ以テ之ヲ請求ス
債務者カ詐害スルノ意思ヲ以テ故ラニ訴訟ニ失敗シ又ハ請求ノ却下ヲ受ケタルトキハ債権者ハ民事訴訟法ニ従ヒ第三者故障申立ノ方法ニ依リテ訴フルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ヲ訴訟ニ参加セシムルコトヲ要ス
債権者カ詐害ノ行為ノ廃罷ヲ得ル能ハサルトキハ被告ニ対シ損害賠償ヲ要求スルコトヲ得
第三百六十二条 債権者ハ攻撃スル行為ノ如何ヲ問ハス其債務者ノ詐害ヲ証明スルコトヲ要ス又有償名義ノ行為ニ付テハ債務者ト約束シ又ハ之ト訴訟シタル者ノ通謀ヲ証明スルコトヲ要ス
譲渡ニ対スル廃罷訴権ハ有償名義又ハ無償名義ノ転得者カ最初ノ譲受人ト約束スルニ当リ債権者ニ加ヘタル詐害ヲ知リタルトキニ非サレハ其転得者ニ対シ之ヲ行フコトヲ得ス
第三百六十三条 詐害行為ニ先タチ権利ヲ取得シタル債権者ニ非サレハ廃罷ヲ請求スルコトヲ得スト雖トモ廃罷ヲ得タルトキハ其廃罷ハ総債権者ヲ利ス但各債権者ノ間ニ於テ適法ノ優勝原因ノ存スルトキハ此限ニ在ラス
第三百六十四条 廃罷訴権ハ詐害所為ノ有リタル時ヨリ三十个年ニシテ時効ニ罹リ消滅ス若シ債権者カ詐害ヲ覚知シタルトキハ其覚知ノ時ヨリ二个年ニシテ消滅ス
右ノ時効ハ第三者故障申立ノ訴権ニ之ヲ適用ス
第二則 第三者ニ対スル契約ノ効力
第三百六十五条 契約ハ当事者間ニ於テシ及ヒ其承接人ニ対スルニ非サレハ効力ヲ有セス然レトモ法律ニ定メタル場合ニ於テシ且其条件ニ従フトキハ第三者ニ対シテ効力ヲ生ス
第三百六十六条 所有者カ一箇ノ有体動産ヲ二箇ノ契約ヲ以テ各別ニ二人ニ与ヘタルトキハ其二人中現ニ占有スル者ハ証書ノ日附ハ後ナリトモ其所有者タリ但其者カ自己ノ契約ヲ為ス当時ニ於テ前ノ譲渡ヲ知ラス且前ノ契約ヲ為シタル者ノ財産ヲ管理スル責任ナキコトヲ要ス此規則ハ無記名証劵ニ之ヲ適用ス
第三百六十七条 記名証劵ノ譲受人ハ債務者ニ其譲受ヲ合式ニ告知シ又ハ債務者カ公正証書若クハ確定日附ノ証書ヲ以テ之ヲ承諾シタル後ニ非サレハ自己ノ権利ヲ以テ譲渡人ノ承接人及ヒ債務者ニ対抗スルコトヲ得ス
債務者ハ譲渡ヲ承諾シタルトキハ其原債権者ニ対スル排斥理由又ハ拒却理由ヲ以テ新債権者ニ対抗スルコトヲ得ス又譲渡ニ付テノ単一ナル告知ハ債務者ヲシテ其告知後ニ生スル排斥理由ノミヲ失ハシム
右ノ行為ノ一ヲ為スマテハ債務者ノ弁済、義務免除ノ契約、譲渡人ノ債権者ヨリ為シタル払渡差止又ハ合式ニ告知シ若クハ承諾ヲ得タル新譲渡ハ総テ善意ニテ之ヲ為シタルモノト推定シ懈怠ナル譲受人ハ之ニ抗争スルコトヲ得ス
当事者ノ悪意ハ書面上又ハ裁判上ニ為シタル其自白ニ因ルニ非サレハ之ヲ証明スルコトヲ得ス然レトモ譲渡人ト通媒シタル詐害アリシトキハ其通謀ハ通常ノ挙証方法ヲ以テ之ヲ証明スルコトヲ得
裏書ヲ以テスル商証劵ノ譲渡ニ特別ナル規則ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三百六十八条 左ニ掲クル書類ハ財産所在地ノ区裁判所ニ備ヘタル登記簿ニ之ヲ登記ス
第一 公正ト私署トヲ問ハス有償名義又ハ無償名義ヲ以テスル不動産所有権其他ノ不動産物権ノ譲渡ヲ記載シタル生存者間ノ証書
第二 右同一ノ権利ノ変更又ハ放棄ヲ記載シタル証書
第三 前二号ノ行為ノ一ヲ目的トスル口頭契約ノ成立ヲ認定シタル裁判書
第四 差押ヘタル不動産ノ競落ノ裁判書
第五 公用徴収ヲ宣言シタル裁判上又ハ行政上ノ証書
不動産ノ抵当及ヒ不動産ニ関スル先取特権ノ公示ハ第四編ノ規定ニ従フ
第三百六十八条(ノ二) 登記ハ公示スヘキ証書ノ正本二通ヲ区裁判所ニ寄托スルヲ以テ之ニ代フルコトヲ得区裁判所ハ其正本二通ヲ校合シタル後各通毎葉ノ緑辺ニ登記ノ割印ヲ押捺ス
正本ノ一通ハ其要旨ヲ登記簿ニ記載シテ区裁判所ニ之ヲ保存シ他ノ一通ハ其寄托ノ場所ト日附トヲ緑辺ニ記載シテ当事者ニ還付ス
登記ニ関スル此他ノ法式ハ特別ノ規則及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三百六十九条 登記ハ関係人ノ請願ニ因リ其合式ニ証明シタル後其費用ヲ以テ之ヲ為ス
請願者ニハ証書ヲ登記シタル保証書ヲ交付ス
何人ニテモ某ノ不動産ニ関スル登記簿ノ抄本ヲ其費用ヲ以テ要求スルコトヲ得
登記ニ関スル方式ハ特別法及ヒ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第三百七十条 第三百六十八条ニ掲ケタル証書ノ効力ニ因リテ取得シ変更シ又ハ取回シタル物権ハ其登記ヲ為スマテハ仍ホ名義上ノ所有者ト此物権ニ付キ約束シタル承接人又ハ此所有者ノ権ニ基キテ此物権ト相容レサル権利ヲ取得シタル承接人ニ対抗スルコトヲ得ス但其承接人ノ善意ニシテ且其行為ノ登記ヲ要スルモノナルトキハ予メ之ヲ為シタルトキニ限ル
悪意及ヒ通謀ニ付テハ第三百六十七条ノ規定ニ従ヒ之ヲ証明スルコトヲ得
第三百七十一条 法律裁判又ハ契約ニ因リテ前取得者ノ為メ登記ヲ為スノ義務アル者カ之ヲ為サスシテ後ニ取得者ト為リタルトキハ善意タリト雖トモ自己又ハ其相続人若クハ総般承接人ヨリ登記ナキコトヲ申立テヽ前取得者ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百七十二条 登記ヲ経タル譲渡ノ解除、銷除又ハ廃罷ヲ為サントスル訴カ善意ノ転得者ニ対シテ行ハレサル場合ニ於テハ原告ハ爾後自己ニ対抗シ得ヘキ登記ヲ防止スル為メ其攻撃スル行為ノ登記ノ縁辺ニ訴状ヲ抄記セシム
右ノ訴権ヲ総テノ転得者ニ対シテ行フコトヲ得ル場合ニ在テハ其攻撃スル行為ノ登記ノ縁辺ニ訴状ヲ抄記セサル間ハ裁判所ニ於テ其訴訟ヲ受理セス
行為取消ノ判決書ハ仮執行タリトモ其執行以前ニ訴状ノ登記ノ末尾ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス縦令執行ナキモ亦其判決ノ確定ト為リタル時ヨリ一ケ月内ニ之ヲ記載スルコトヲ要ス此ニ違ヒタルトキハ其判決ヲ得タル者ヲ五円以上五十円以下ノ過料ニ処ス
裁判所ハ請求ヲ却下シ又ハ其手続ノ失効ヲ宣言シタルトキハ其判決ノ確定ニ至リテ請求ノ記載ヲ抹消セシムル為メ職権ヲ以テ予メ其抹消ヲ命ス
原告カ取下ヲ為シタルトキハ関係人ノ請願ニ因リテ請求ノ記載ヲ抹消ス
第三百七十三条 登記ヲ経タル行為ノ協議上ノ解除、銷除又ハ廃罷ハ総テ之ヲ任意ノ譲戻ト看做シ第三百六十八条乃至第三百七十一条ノ規定ニ従ヒ登記ヲ為スコトヲ要ス
右登記ハ登記官吏其職権ヲ以テ原行為ノ登記ノ縁辺ニ之ヲ記入ス
第三百七十四条 登記及ヒ縁辺記入ハ総テ利害ノ関係ヲ有スル者ヨリ其抹消又ハ改正ヲ請求スルコトヲ得
右請求及ヒ其判決ハ第三百七十二条ニ規定シタル如ク其争訟スル行為ノ登記ノ縁辺ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス此ニ違フ者ノ責罰モ亦同条ノ規定ニ従フ
能力ヲ有シ又ハ合式ニ代理セラレ若クハ輔佐セラレタル当事者ハ協議ニテ抹消又ハ改正ヲ承諾スルコトヲ得
裁判上ニテ合式ニ命シ又ハ協議ニテ承諾シタル抹消又ハ改正ハ正当ニ登記ヲ為シタル権利者ヲ此事ニ付キ異議ヲ為ス為メニ召喚シ又ハ其承服ヲ得タルニ非サレハ之ニ対抗スルコトヲ得ス
第三百七十五条 登記官吏ハ前数条ニ掲ケタル登記、記入、抹消若クハ改正又ハ登記保証書ニ於ケル脱漏又ハ訛誤ニ付キ請願人又ハ関係人ニ対シテ其責ニ任ス
第四款 契約ノ解繹
第三百七十六条 契約ノ解繹ニ付テハ裁判所ハ当事者ノ用ヒタル語辞ノ字義ニ拘ハランヨリ寧ロ当事者ノ共通ノ意思ヲ推尋スルコトヲ要ス
第三百七十七条 一箇ノ語辞カ各地ニ於テ意義ヲ異ニスルトキハ当事者双方ノ住所ヲ有スル地ニ於テ慣用スル意義ニ従フ
一箇ノ語辞ニ本来二条ノ意義アルトキハ其契約ノ性質及ヒ目的ニ最モ適スル意義ニ従フ
第三百七十八条 契約ノ各項目ハ契約ノ全体ト最モ善ク一致スル意義ニ従ヒテ相互ニ之ヲ解繹ス
一箇ノ項目ニ二様ノ意義アリテ其一カ項目ニ有益ナル効力ヲ与フルトキハ其意義ニ従フ
第三百七十九条 契約ノ語辞カ何様ニ広泛ナルモ其語辞ハ当事者ノ契約ヲ為スニ付キ期望シタル目的ノミヲ包含セルモノト推定ス
当事者カ契約ノ自然若クハ法律上ノ効力ノ一ヲ明言シ又ハ特別ノ場合ニ於ケル其適用ヲ明言シタルモ慣習若クハ法律ニ因リテ生スル他ノ効力又ハ適当ニ受ク可キ他ノ適用ヲ阻却セント欲シタルモノト推定セス
第三百八十条 総テノ場合ニ於テ当事者ノ意思ニ疑ヒ有ルトキハ其契約ノ解繹ハ諾約者ノ利ト為ル可キ意義ニ従フ
双務ノ契約ニ於テハ此規定ハ各項目ニ付キ各別ニ之ヲ適用ス
第二節 不当ノ利得
第三百八十一条 何人ニテモ有意ト無意ト又錯誤ト故意トヲ問ハス正当ノ原由ナクシテ他人ノ財産ニ付キ利ヲ得タル者ハ其不当ノ利得ノ取戻ヲ受ク
此規定ハ下ノ区別ニ従ヒ主トシテ左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 他人ノ事務ノ管理
第二 負担セスシテ弁済シタル物及ヒ虚妄若クハ不法ノ原由ノ為メ又ハ成就セス若クハ消滅シタル原因ノ為メニ供与シタル物ノ領受
第三 贈遺其他遺言ノ負担ヲ付シタル相続ノ承諾
第四 第三編第一部第二章ニ規定シタル如ク所有物ニ他人ノ物ノ添附シ又ハ他人ノ労力ヨリ生スル増加
第五 他人ノ物ノ占有者カ不法ニ収取シタル果実、産出物其他ノ利益及ヒ之ニ反シテ占有者カ其占有物ニ加ヘタル改良但第二百六条乃至第二百十条ニ規定シタル区別ニ従フ
第三百八十二条 不在者其他ノ人ノ物ニ患害アリト見ユルトキ契約上、法律上又ハ裁判上ノ委任ナク好意ヲ以テ其事務ヲ管理スル者ハ本主ノ物ヨリ収メタル利益ヲ返還シ且其管理ノ際自己ノ名ニテ取得シタル権利及ヒ訴権ヲ本主ニ移転スルノ責アリ
右管理者ハ本主又ハ其相続人カ自ラ管理ヲ為シ得ルニ至ルマテ其管理ヲ継続スルノ責アリ
又右管理者ハ過愆又ハ懈怠ニ因リテ本主ニ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但管理者カ其管理ニ任スルニ至レル事情ヲ酌量スルコトヲ要ス
第三百八十三条 本主ハ管理者カ管理ノ為メニ出シタル必要又ハ有益ナル諸費用ヲ賠償シ及ヒ管理者カ其管理ノ為メニ自身ニ負担シタル義務ヲ免カシメ又ハ其担保ヲ為スコトヲ要ス
第三百八十四条 債権者ニ非スシテ弁済ノ名義ヲ以テ供与ヲ受ケタル者ハ其善意ト悪意ト又弁済者ノ錯誤ト故意トヲ問ハス総テ其取戻ヲ受ク
第三百八十五条 弁済ヲ受ケタル者カ債権者ナルモ債務者ニ非サル者ヨリ之ヲ受ケタルトキハ弁済者カ錯誤ニテ弁済ヲ為シタルトキニ非サレハ其取戻ヲ許サス
債権者カ弁済ヲ受ケタル為メニ善意ニテ其債権証書ヲ毀滅セシトキモ亦同シ
右二箇ノ場合ニ於テ弁済者カ事務管理ノ訴権ニ依リ又ハ弁済ノ部ニ掲ケタル代位ノ規則ニ依リ真ノ債務者ニ対シテ有スル求償権ヲ妨ケス
第三百八十六条 真ノ債務者ヨリ真ノ債権者ニ弁済ヲ為シタル場合ニ於テハ債務者カ其負担シタル物ニ異ナル性質ノ物又ハ自己ニ属セサル物ヲ錯誤ニ因リ弁済トシテ与ヘタルトキニ非サレハ其取戻ヲ許サス
或ハ期限ニ先タチテ弁済ヲ為シ或ハ弁済ヲ実行ス可キ場所外ニ於テ弁済ヲ為シ或ハ約束シタル物ニ異ナル品質、品格若クハ価格ノ物ヲ以テ弁済ヲ為シタルトキモ亦其取戻ヲ許サス但当事者ノ一方ノ錯誤ニ出テタルトキハ其一方ハ為メニ受ケタル損失ヲ他ノ一方ノ得タル利益ノ割合ニ応シテ賠償セシムルコトヲ妨ケス
第三百八十七条 第三百八十一条第二号ニ掲ケタル供与ニシテ弁済ノ性質ヲ有セサルモノニモ亦第三百八十四条ノ規定ヲ適用ス
然レトモ不法ノ原因ノ為メ供与シタル物又ハ有価物ハ其原因カ之ヲ供与シタル者ノ方ニ於テ不法ナルトキハ其取戻ヲ許サス
第三百八十八条 第三百八十一条第二号ニ掲ケタル供与ヲ悪意ニテ領受シタル者ハ其不当ニ得タル物ノ外ニ尚ホ左ノ物ヲ返還ス可シ
第一 元本ヲ領受セシ時ヨリノ適法ノ利息
第二 特定物ノ果実及ヒ産出物但其収取ヲ怠リタルトキト雖モ亦同シ
第三 自己ノ過失又ハ懈怠ニ因ル物ノ滅失又ハ毀損ノ替償縦令其滅失又ハ毀損カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因ルモ其物カ供与者ノ方ニ在ルニ於テハ此損害ヲ受ケサリシトキハ亦同シ
第三百八十九条 不当ニ領受シタル物カ不動産ニシテ且之ヲ第三者ニ譲渡シタルトキハ初ノ引渡人ハ其選択ヲ以テ或ハ第三占有者ニ対シテ回復ヲ訴ヘ或ハ領受者ニ対シテ取戻ヲ訴フルコトヲ得
善意ナル領受者ニ対シテハ単ニ不動産ノ譲渡代金ヲ取戻シ又ハ其代金ニ関スル訴権ヲ要求シ悪意ナル領受者ニ対シテハ其評価額ノ替償ヲ取戻スコトヲ得
第三節 不正ノ損害
第三百九十条 過失又ハ懈怠ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ其賠償ヲ為ス責ニ任ス
其損害ノ所為カ有意ニ出テタルトキハ其所為ハ民事ノ犯罪ヲ成シ無意ニ出テタルトキハ其所為ハ民事ノ犯罪ヲ成シ無意ニ出テタルトキハ准犯罪ヲ成ス
犯罪及ヒ准犯罪ノ責任ノ軽重ハ契約ノ履行ニ於ケル詭譎、及ヒ過失ノ責任ノ軽重ニ関スル次章第二節ノ規定ニ従フ
第三百九十一条 何人ヲ問ハス自己ノ所為又ハ懈怠ヨリ生スル損害ニ付キ其責ニ任スルノミナラス尚ホ自己ノ威権ノ下ニ在ルモノヽ所為又ハ懈怠及ヒ自己ニ属スル物ヨリ生スル損害ニ付キ下ノ区別ニ従ヒテ其責ニ任ス
第三百九十二条 父権ヲ行フ尊属親ハ己レト同居スル未成年ノ卑属親ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
後見人ハ己レト同居スル受後見人ノ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
瘋癲者ノ看守人ハ瘋癲者ノ加ヘタル損害ニ付其責ニ任ス
教師師長又ハ工場長ハ未成年ノ生徒、徒弟又ハ職工カ自己ノ監督ノ下ニ在ルノ間ニ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
本条ニ指定シタル責任者ハ損害ノ所為ヲ防止スル能ハサリシコトヲ証明スルトキハ其責ニ任セス
第三百九十三条 主人、親方又ハ工事、運送等ノ営業人若クハ公私ノ事務所ハ其使用人、職工、又ハ属員カ受任ノ職務ヲ行フ為メ又ハ之ヲ行フニ際シテ加ヘタル損害ニ付キ其責ニ任ス
第三百九十四条 動物ノ加ヘタル損害ノ責任ハ其所有者又ハ損害ノ時ニ於ケル其使用者ニ帰ス但其損害カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ出テタルトキハ此限ニ在ラス
第三百九十五条 建物其他ノ工作物ノ所有者ハ此等ノ工作物ノ崩頽カ修繕ノ欠缺又ハ築造ノ瑕疵ノ結果ニ出テタルトキハ其崩頽ニ因リテ加ヘタル損害ノ責ニ任ス但此末ノ場合ニ於テハ築造営業人ニ対スル求償権ヲ妨ケス
堤防ノ破潰ニ因リ、投錨若クハ繋纜ノ粗忽ニ因リ又ハ樹木、柱竿、目隠、看板、屋瓦其他堅牢ヲ缺ケル建物ノ部分ノ崩頽堕落ニ因リテ加ヘタル損害ニ付テモ亦同シ
第三百九十六条 既脱後見ナルト否トヲ問ハス未成年者ハ其有意又ハ粗忽ニテ加ヘタル不正ノ損害ニ付テハ刑事上責任ヲ免カル可キトキト雖モ民事上責任アリト宣言セラルヽコト有リ
又右未成年者ハ其使用人若クハ属員又ハ自己ニ属スル物ノ加ヘタル損害ニ付キ民事上其責ニ任セシメラルヽコト有リ但後見人ニ対スル求償権ヲ妨ケス
第三百九十七条 前数条ノ場合ニ於テ加害者ニ責任アリト認ムルトキハ裁判所ハ之ニ対シテ主タル裁判ヲ言渡シ且民事担当人ノ従タル義務ノ広狭ヲ定ム但民事担当人ハ犯罪者ニ対シテ当然求償権ヲ有ス
民事担当人ハ法律ニ特定シタル場合ニ非サレハ犯罪人ノ言渡サレタル罰金ノ責ニ任セス
第三百九十八条 本節ニ定メタル総テノ場合ニ於テ数人カ同一ノ所為ニ付キ責ニ任シ各自ノ過失又ハ懈怠ノ部分ヲ知ル能ハサルトキハ其義務ハ併同ナリ
第三百九十九条 民事ノ犯罪又ハ准犯罪カ刑事ノ犯罪ヲ成ストキハ犯罪人ニ付テモ民事担当人ニ付テモ刑事訴訟法ヲ以テ定メタル民事訴訟ノ管轄及ヒ時効ニ関スル規則ヲ適用ス
第四節 法律ノ規定
第四百条 或ル義務ハ人ノ所為ニ拘ハラス法律ニ依リテ之ヲ負担セシム即チ左ノ如シ
第一 或ル親属間又ハ或ル姻属間ノ養料ノ義務
第二 後見ノ義務但法律上免除ヲ得サル場合ニ限ル
第三 共有者間ノ義務
第四 相隣者間ノ義務但地役ヲ成サヽルトキニ限ル
此等ノ義務ニ特別ナル規則ハ其各事項ニ於テ之ヲ掲ク
第二章 義務ノ効力
総則
第四百一条 義務ノ主タル効力ハ下ノ第一節第二節及ヒ第三節ニ定メタル区別ニ従ヒ其義務ヲ直接ニ履行セシムル為メ又不履行ノ場合ニ於テハ従トシテ損害ヲ賠償セシムル為メノ訴権ヲ債権者ニ与フルニ在リ
右ノ外義務ノ効力ハ第四節ニ定メタル義務ノ諸種ノ体様ニ従ヒテ其広狭ヲ異ニス
第一節 直接履行ノ訴権
第四百二条 義務ノ本旨ニ従ヒテ直接ノ履行ヲ債権者ヨリ請求シ且債務者ノ身体ヲ拘束セスシテ履行セシムルコトヲ得ル場合ニ於テハ裁判所ハ其直接履行ヲ命スルコトヲ要ス
引渡ス可キ有体物ニシテ債務者ノ財産中ニ在ルモノニ付テハ裁判所ノ威権ヲ以テ差押ヘ之ヲ債権者ニ引渡ス
作為ノ義務ニ付テハ裁判所ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ作為セシムルコトヲ債権者ニ許スコトヲ要ス
不作為ノ義務ニ付テハ其義務ニ背キテ作為シタルモノヲ債務者ノ費用ヲ以テ毀壊セシメ及ヒ将来ノ為メ適当ノ処分ヲ為スヲ債権者ニ許スコトヲ要ス
此等ノ場合ニ於テ損害アリタルトキハ其賠償ヲ為サシムルコトヲ妨ケス
債務者ニ対スル強制執行ノ方法ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二節 損害賠償ノ訴権
第四百三条 債務者カ義務履行ヲ拒絶シ又ハ義務履行ノ不能カ其責ニ帰ス可キ場合及ヒ義務履行ノ遅延シタルノミノ場合ニ於テモ債権者ハ強制執行ヲ得サルトキハ債務者ヲシテ損害賠償ヲ為サシムルコトヲ得
法律ヲ以テ損害賠償ノ額ヲ定メタル場合ノ外当事者之ヲ定メサリシトキハ下ノ区別及ヒ条件ニ従ヒ裁判所之ヲ定ム
第四百四条 損害賠償ハ債務者カ第三百五十六条ニ従ヒ遅滞ニ付セラレタル後ニ非サレハ之ヲ負担セス
然レトモ不作為ノ義務ニ於テハ債務者ハ常ニ当然遅滞ニ在リ犯罪ニ因リ他人ニ属スル金銭其他ノ有価物ヲ返還スルノ責ニ任スル者モ亦之ニ准ス
第四百五条 損害賠償ハ債権者ノ受ケタル損失ノ替償及ヒ其失ヒタル利得ノ填補ヲ包含ス
然レトモ債務者ノ悪意ナク懈怠ノミニ出テタル不履行又ハ遅延ニ付テハ損害賠償ハ当事者カ契約ノ時ニ予見シ又ハ予見スルヲ得タル損失ノ替償及ヒ利得ノ填補ノミヲ包含ス悪意ノ場合ニ於テ予見スルヲ得サル損害カ不履行ノ避ク可カラサル結果タルトキハ債務者其賠償ヲ負担ス
第四百六条 損害賠償カ主タル訴ノ目的タルトキハ裁判所ハ金銭ニテ其額ヲ定ム
損害賠償ノ請求カ直接履行ノ訴又ハ契約解除ノ訴ノ従タルトキハ裁判所ハ主タル請求ヲ決スルト同時ニ先ツ数額不定ノ損害賠償ヲ債務者ニ言渡シ其清算ハ証明ヲ待チテ日後ニ之ヲ為サシムルコトヲ得
又裁判所ハ債務者ニ直接履行ヲ命スルト同時ニ極度ノ期間ヲ定メ若シ此ヲ過クレハ確定ニ決ス可シトシテ其遅延スル日毎ニ又ハ月毎ニ若干ノ替償ヲ払フ可キヲ言渡スコトヲ得此場合ニ於テハ債務者ハ常ニ即時ノ清算ヲ請求スルコトヲ得
第四百七条 不履行又ハ遅延ニ関シ当事者双方ニ非理アルトキハ裁判所ハ損害賠償ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス
第四百八条 当事者ハ予メ過怠約款ヲ設ケ不履行又ハ遅延ニ付テノ損害賠償ヲ約束スルコトヲ得
第四百九条 裁判所ハ過怠約款ノ数額ヲ増スコトヲ得ス又不履行若クハ遅延カ債務者ノ過失ノミニ出テサルトキ又ハ一分ニ履行アリタルトキニ非サレハ其数額ヲ減スルコトヲ得ス
第四百十条 双務ノ契約ニ於テ不履行ニ付テノ過怠約款ヲ設ケタル債権者ハ其解除ノ権利ヲ失ハス但明白ニ其権利ヲ放棄シタルトキハ此限ニ在ラス
債権者ハ遅延ニ付テノ過怠約款ヲ設ケタルトキニ非サレハ解除ト過怠トヲ併セテ要求スルコトヲ得ス
第四百十一条 金銭ヲ目的トスル義務ノ遅延ノ損害賠償ニ付テハ裁判所ハ法律上ノ利息ノ割合ト異ナル額ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス但法律ノ特例アル場合ハ此限ニ在ラス
当事者カ損害賠償ノ数額ヲ定ムルトキハ契約上ノ利息ノ最上限以下タルコトヲ要ス
第四百十二条 債権者ハ右ノ損害賠償ヲ請求スル為メニ何等ノ損失ヲモ証明スルノ責ニ任セス又債務者ハ其請求ヲ拒ム為メニ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ヲ申立ツルコトヲ得ス
第四百十三条 遅延利息ヲ生セシムル為メ債務者ヲ遅滞ニ付スルニハ裁判所ニ其利息ヲ請求シ又ハ債務者ノ特別ノ追認ヲ得ルコトヲ要ス但法律カ当然此利息ヲ生セシメ及ヒ催告其他ノ行為ニ因リテ此利息ヲ生セシムルヲ許セル場合ハ此限ニ在ラス
第四百十四条 要求スルヲ得ヘキ元本ノ利息ハ填補タルト遅延タルトヲ問ハス其一ケ年分ノ延滞セル毎ニ特別ニ約束シ又ハ裁判所ニ請求シ且其時ヨリ後ニ非サレハ此ニ利息ヲ生セシムル為メ元本ニ組入ルヽコトヲ得ス
然レトモ家屋又ハ土地ノ貸賃無期又ハ終身ノ年金権ノ年金返還ヲ受ク可キ果実又ハ産出物ノ如キ満期ト為リタル入額ハ一ケ年未満ノ延滞タルトキト雖モ請求又ハ契約ノ時ヨリ其利息ヲ生スルコトヲ得債務者ノ免責ノ為メ第三者ノ払ヒタル利息ニ付テモ亦同シ
第三節 担保
第四百十五条 権利ヲ譲渡シタル者ハ譲渡以前ノ原因又ハ自己ノ責ニ帰ス可キ原因ニ基キタル追奪又ハ妨碍ニ対シ其権利ノ完全ナル行使及ヒ自由ナル収益ヲ担保スルノ責ニ任ス
担保ニ二箇ノ目的アリ即チ第三者ノ主張ニ対スル譲受人ノ妨禦及ヒ防止スル能ハサリシ妨碍若クハ追奪ノ替償是ナリ
第四百十六条 担保ハ有償名義ノ行為ニ付テハ反対ノ要約ナキトキハ当然存立シ無償名義ノ行為ニ付テハ之ヲ諾約シタルニ非サレハ存立セス
然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル要約ノ為メニモ譲渡人ハ自ラ譲受人ニ妨碍ヲ加フルコトヲ得ス又第三者カ譲渡人ノ授与シタル権利ニ依リ譲受人ニ妨碍ヲ加ヘ又ハ追奪ヲ為シタルトキハ譲渡人ハ無担保ニテ譲渡ヲ為シ且授与カ譲渡ノ以前ニ在リト雖モ亦其担保ヲ為スノ責ニ任ス
右担保ノ義務ハ譲渡人ノ相続人ニ移転ス
第四百十七条 買主又ハ賃借人ノ為メニスル売主又ハ賃貸人ノ担保及ヒ共同分割者ノ相互ノ担保ニ特別ナル規則ハ其担保ヲ生スル契約及ヒ行為ノ各事項ニ於テ之ヲ規定ス
第四百十八条 他人ト共ニ又ハ他人ノ為メニ義務ヲ負担スル者ハ保証、連帯及ヒ不可分ノ事項ニ於テ規定シタル如ク他人ノ免責ノ為メニ為シタル弁済ニ付キ担保ノ求償権ヲ有ス
又債権者ノ一人カ連帯又ハ不可分ノ義務ノ皆済ヲ受ケタルトキハ他ノ債権者ハ其一人ノ収メタル利益ノ分配ニ付キ之ニ対シテ特別ノ訴権ヲ有セサルトキハ担保ノ訴権ヲ有ス
第四百十九条 担保ヲ受クル権利ヲ有スル者ハ訴ヲ受ケタルトキ民事訴訟法ニ従ヒ担保人ニ訴訟参加ヲ請求スルコトヲ得
第四百二十条 担保人ヲ訴訟ニ参加セシメスシテ追奪ヲ受ケ又ハ他人ノ債務ヲ弁済シタル者ハ主タル訴権ヲ以テ担保ヲ要求スルコトヲ得但担保人カ請求ヲ却下セシムルニ有効ナル方法ヲ有セシコトヲ証明スルトキハ此限ニ在ラス
第四節 義務ノ諸種ノ体様
第四百二十一条 義務ハ左ノ場合ニ従ヒテ其体様ヲ変ス
第一 義務ノ成立ノ単一有期又ハ有条件ナルトキ
第二 負担ノ目的ノ単一選択又ハ任意ナルトキ
第三 債権者又ハ債務者ノ単数又ハ複数ナルトキ
第四 義務ノ性質又ハ其履行ノ可分又ハ不可分ナルトキ
義務ハ其体様ノ変スルニ従ヒテ其効力モ亦変ス
働方並ニ受方ノ連帯ノ効力及ヒ契約上ノ不可分ノ効力ハ債権ノ抵保トシテ第四編ニ之ヲ規定ス
第一款 成立ノ単一有期又ハ有条件ナル義務
第四百二十二条 義務ノ成立カ初ヨリ正確ニシテ且即時ニ要求スルコトヲ得ヘキトキハ其義務ハ単一ナリ
第四百二十三条 債権者カ或ル時期前又ハ時期ハ確定セサルモ必ス到来ス可キ或ハ事件ノ到来前ニ履行ヲ求ムルコトヲ得サルトキハ其義務ハ有期ナリ
当事者ノ定メタル期限又ハ法律ニ依リ許与シタル期限ハ之ヲ権利上ノ期限トス
債務者ノ為シ得ヘキ時又ハ欲スル時ニ弁済ス可シト約束シタルトキハ裁判所ハ債権者ノ請求ニ因リ事情ニ従ヒ及ヒ当事者ノ意思ヲ推定シテ其履行ノ期間ヲ定ム但当事者カ無期ノ年金権ヲ設定セント欲シタル場合ハ此限ニ在ラス
第四百二十四条 債務者ハ期限ノ利益ヲ放棄シテ満期前ニ其義務ヲ履行スルコトヲ得但要約ニ因リ又ハ事情ニ因リ当事者双方ノ利益又ハ債権者ノミノ利益ノ為メ期限ヲ定メタル証拠アルトキハ此限ニ在ラス
債権者ノミノ利益ノ為メニ期限ヲ定メタル場合ニ於テハ債権者モ亦其期限ヲ放棄スルコトヲ得
当事者カ錯誤ニ因リ満期前ニ弁済シタル場合ハ第三百八十六条ニ之ヲ規定ス
第四百二十五条 債務者ハ左ノ場合ニ於テハ権利上ノ期限ノ利益ヲ失フ
第一 債務者カ破産シ又ハ顕然無資力ト為リタルトキ
第二 債務者カ財産ノ多分ヲ譲渡シ又ハ其多分カ他ノ債権者ノ差押ヲ受ケタルトキ
第三 債務者カ其供シタル特別ノ抵保ヲ毀滅シ若クハ減少シ又ハ其予約シタル担保ヲ供セサルトキ
第四 債務者カ填補利息ヲ払ハサルトキ
第四百二十六条 権利上ノ期限ノ有無ヲ問ハス又執行力ヲ有スル証書アル場合ト雖モ債務者カ不幸且善意ニシテ債権者カ猶予ノ為メ確実ノ損害ヲ受ケサル可キトキハ裁判所ハ債務者ニ相応ナル恩恵上ノ期間ヲ許与スルコトヲ得
又裁判所ハ右ト同一ナル条件ニ従ヒ債務ノ一分ツヽノ履行ヲ許スコトヲ得
右ニ反スル要約ハ総テ無効ナリ
第四百二十七条 恩恵上ノ期間ヲ得タル債務者ハ第四百二十五条ニ定メタル原因ニ由リテ之ヲ失フノ外尚ホ左ノ場合ニ於テモ之ヲ失フ
第一 債務者カ逃亡シ又ハ住所ヲ去リテ債権者ニ其居所ヲ隠秘スルトキ
第二 債務者カ一ケ年以上ノ禁錮ノ刑ヲ受ケタルトキ
第三 債務者カ言渡ヲ受ケタル条件ノ一ヲ行ハサルトキ
第四 債務者カ法律上ノ相殺ヲ為シ得ヘキ場合ニ於テ自ラ其債権者ノ債権者ト為リタルトキ
恩恵上ノ期間ハ裁判所ニ於テ更ニ之ヲ延フルコトヲ得ス
第四百二十八条 当事者又ハ法律カ義務ノ発生又ハ消滅ヲ未来且不確定ノ事件ノ有無ニ繋ラシムルトキハ其義務ハ有条件ナリ此条件ハ第一ノ場合ニ於テハ停止ニシテ第二ノ場合ニ於テハ解除ナリ
又物権ハ主タルト従タルトヲ問ハス之ヲ停止又ハ解除ノ条件ニ繋ラシムルコトヲ得
第四百二十九条 停止条件ノ成就スルトキハ契約ノ日ニ遡リテ其効ヲ生ス
解除条件ノ成就スルトキハ当事者ヲシテ契約前ノ各自ノ地位ニ復セシム
第四百三十条 停止又ハ解除ノ条件カ成就セサル間ハ当事者ノ各自ハ条件ヲ帯ヒタル権利ヲ其侭ニ第三者ニ授与スルコトヲ得
然レトモ其条件ヲ第三百六十七条以下ニ定メタル方法ニ従ヒテ公示シタルニ非サレハ当事者ノ一方又ハ其承接人ハ之ヲ以テ他ノ一方ノ承接人ニ対抗スルコトヲ得ス
第四百三十一条 解除条件ヲ帯ヒタル権利ヲ有スル者ノ善意ニ出テ且法律ニ従ヒテ為シタル管理ノ行為ハ第三者ノ利益ノ為メニ之ヲ保持ス
解除条件ヲ帯ヒタル権利ヲ有スル当事者ノ一方ト第三者トニ対シテ言渡サレタル判決ハ他ノ一方ノ当事者又ハ其承接人之ヲ援用スルコトヲ得
然レトモ右判決ハ他ノ一方ノ当事者又ハ其承接人ヲ異議申述ノ為メニ訴訟ニ召喚セサリシトキハ之ヲ以テ其当事者又ハ承接人ニ対抗スルコトヲ得ス但其判決カ管理ノ行為ノミニ関スルトキハ此限ニ在ラス
第四百三十二条 条件ノ成就シタルトキハ物又ハ金銭ヲ引渡シ又ハ返還ス可キ当事者ハ其成就セサル間ニ収取シ又ハ満期ト為レル果実若クハ利息ヲ交付スルコトヲ要ス但当事者間ニ反対ノ意思アル証拠カ事情ヨリ生スルトキハ此限ニ在ラス
第四百三十三条 契約ノ主タル目的ヲ不能又ハ不法ノ条件ニ繋ラシメタルトキハ其契約ハ無効ナリ
当事者ノ一方カ或ハ禁止ノ所為ヲ行ヒ又ハ本文ノ責務ヲ尽サヽルニ因リテ自己ニ利ヲ得或ハ禁止ノ所為ヲ行ハス又ハ本分ノ責務ヲ尽スニ因リテ自己ニ害ヲ受ク可キトキハ其条件ハ不法ナリ
不能又ハ不法ノ条件カ契約ノ従タル効力ノミニ関スルトキハ其約款ノミ成立セス
第四百三十四条 条件カ偶然ナルトキ又ハ其全部若クハ一分カ要約者ノ随意ナルトキ諾約者カ其成就ヲ妨ケタルニ於テハ其条件ハ之ヲ成就シタルモノト看做ス
第四百三十五条 条件カ全ク当事者ノ一方ノ随意ナルトキハ他ノ一方ハ其成否ヲ決ス可キ或ル期間ヲ定メント裁判所ニ請求スルコトヲ得
第四百三十六条 有為条件ノ為メ当事者又ハ裁判所カ或ル期間ヲ定メタル場合ニ於テ事件カ到来セスシテ此期間ヲ経過シタルトキハ其条件ハ之ヲ成就セサルモノト看做ス又条件ノ成否ノ為メ期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス事件ノ到来セサルコトノ確実ト為リタルトキハ又同シ
無為条件ノ為メ或ル期間ヲ定メタル場合ニ於テ事件カ到来セスシテ此期間ヲ経過シタルトキハ其条件ハ之ヲ成就シタルモノト看做ス又其期間ヲ定メタルト否トヲ問ハス事件ノ到来セサルコトノ確実ト為リタルトキハ又同シ
右孰レノ場合ニ於テモ裁判所ハ当事者ノ定メタル期間ヲ延フルコトヲ得ス
第四百三十七条 当事者ノ一方又ハ双方カ条件ノ成就又ハ不成就ノ前ニ死亡シタルトキハ契約ノ効力ハ其相続人ニ対シ働方又ハ受方ニテ存在ス但条件カ其性質ニ因リ又ハ当事者ノ意思ニ因リテ要約者又ハ諾約者ノ一身ノミニ附着シタルトキハ此限ニ在ラス
第四百三十八条 条件カ如何様ニ成就ス可キヤ又如何ナル時ニ成就シ又ハ成就セスト看做サル可キヤヲ知ルノ問題ハ当事者ノ明示又ハ黙示ノ意思ニ従ヒテ之ヲ決ス其条件ノ一分ノ成就ヨリ生ス可キ効力ニ付テモ亦同シ
第四百三十九条 約束シ又ハ譲渡シタル物カ諾約者又ハ譲渡人ノ過失ナクシテ停止条件ノ成就前ニ其価格ノ全部ヲ喪失シ又ハ其過半ノ毀損ヲ受ケタルトキハ契約ハ之ヲ成立セスト看做シ且孰レノ方ヨリ何等ノ要求ヲモ為スコトヲ得ス
之ニ反シ解除条件ヲ以テ約束シ又ハ譲渡シタルトキハ右同一ノ喪失又ハ毀損ハ要約者又ハ譲受人ノ権利ヲ確定シテ其負担ニ帰シ且何等ノ返還ヲモ要求スルコトヲ得ス
前二項ノ場合ニ於テ喪失又ハ毀損カ価格ノ半ヲ超エサルトキハ条件ノ成就ハ契約ノ効力ヲ生ス
第四百四十条 当事者ノ一方カ喪失又ハ毀損ノ責ニ任ス可キトキハ他ノ一方ハ自己ノ撰択ヲ以テ或ハ損失ノ替償ト共ニ契約ノ履行ヲ請求シ或ハ損害ノ賠償ト共ニ其解除ヲ請求スルコトヲ得
第四百四十一条 凡ソ双務契約ニハ当事者ノ一方カ義務ヲ完全ニ履行セサル場合ニ於テ義務ヲ履行シ又ハ履行ノ言込ヲ為セル他ノ一方ノ利益ノ為メ常ニ解除条件ヲ包含ス
此場合ニ於テ解除ハ当然ニ行ハレス損害ヲ受ケタル一方ヨリ之ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ要ス然レトモ裁判所ハ第四百二十六条ニ従ヒ他ノ一方ニ恩恵上ノ期間ヲ許与スルコトヲ得
第四百四十二条 当事者ハ前条ノ解除ヲ行ハサル旨ヲ明約スルコトヲ得
又当事者ハ履行ノ遅滞ニ付セラレタル一方ニ対シ解除ノ当然ニ行ハル可キ旨ヲ明約スルコトヲ得然レトモ遅滞ニ付セラレタル一方ハ自己ニ対シテ他ノ一方カ其解除ヲ申立ツルニ非サレハ自己ヨリ之ヲ申立ツルコトヲ得ス
第四百四十三条 不履行ノ為メニ損害ヲ受ケタル裁判上ニテ請求セス又ハ明示ノ解除ノ場合ニ於テ未タ之ヲ援用スル旨ヲ述ヘサル間ハ其解除ヲ放棄スルコトヲ得
第四百四十四条 裁判上ニテ解除ヲ請求シ又ハ当然ニ行ハレタル解除ヲ援用スル当事者ハ其受ケタル損害ノ賠償ヲ要求スルコトヲ得
第四百四十五条 当事者ハ其権利カ停止条件ニ服シ又ハ其訴権カ権利上若クハ恩恵上ノ期限ノ為メニ阻止ヲ受クルト雖モ其間ニ於テ本法及ヒ民事訴訟法ノ規定ニ従ヒ自己ノ権利ノ保存処分ヲ為スコトヲ得
第四百四十六条 売買契約ニ於テ特ニ慣用スル随意ノ停止又ハ解除ノ条件ハ第六百六十六条乃至第六百六十九条ニ於テ之ヲ規定ス
第二款 負担ノ目的ノ単一、選択又ハ任意ナル義務
第四百四十七条 義務ヲ特定物、定量物或ハ物ノ聚集又ハ財産ノ包括ヲ目的トスルトキハ其義務ハ単一ナリ
又義務カ同時又ハ順次ニ各別ナル数箇ノ供与ヲ為スヲ目的トスル場合ト雖モ唯一又ハ連繋ノ契約ヲ以テ其供与ヲ負担シタルトキハ尚ホ其義務ハ之ヲ単一ナリト看做ス
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ハ負担シタル総テノ物ヲ供与スルニ非サレハ其義務ヲ免カルコトヲ得ス
第四百四十八条 義務カ各別ナル二箇又ハ数箇ノ目的ヲ有スルモ債務者カ其中ノ一箇又ハ数箇ノ供与ヲ為スニ因リテ義務カ免カル可キトキハ其義務ハ選択ナリ
供与ス可キ物ノ選択ハ債務者ニ属ス但其選択ヲ債権者ニ許与シタルトキハ此限ニ在ラス
然レトモ債務者ハ選択ニテ負担シタル数箇ノ物ノ各ノ一分ヲ受クルコトヲ債権者ニ強ヒ又債権者ハ其各ノ一分ヲ与フルコトヲ債務者ニ強フルコトヲ得ス
第四百四十九条 選択ヲ有スル当事者ノ孰レタルヲ問ハス二箇ノ物ノ一カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ滅失シタルトキハ義務ハ単一ト為リテ其残ル所ノ物ニ存ス
二箇ノ物カ共ニ全部滅失シタルトキハ義務ハ消滅ス
二箇ノ物ノ一カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因リテ其価ノ半額ヨリ多キ部分ヲ喪失シタルトキハ其物ハ債務者ノ撰択ノ目的タルコトヲ得ス
第四百五十条 選択ヲ有スル当事者カ数人ノ相続人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ其相続人ハ不可分義務ニ関シ規定シタル如ク唯一ノ選択ヲ行フ為メ協合スルコトヲ要ス
債務者カ実物ノ提供ヲ為シ又ハ債権者カ合式ノ請求ヲ為シテ一旦有効ニ行フタル選択ハ他ノ当事者ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ言消スコトヲ得ス
第四百五十一条 選択カ債務者ニ属スル場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ其過失ニ因リテ滅失シタルトキハ義務ハ残ル所ノ物ニ存シ債務者ハ滅失シタル物ノ価金ヲ与ヘテ其義務ヲ免カルコトヲ得ス
第四百五十二条 同上ノ場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル但債務者ハ自己ノ選択ヲ以テ残ル所ノ物ヲ与ヘ滅失シタル物ノ償金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ自己ノ選択ヲ以テ一個ノ物ノ償金ヲ要求スルコトヲ得
二個ノ物カ一ハ債権者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ債権者ニ対シテ償金ヲ要求スルコトヲ得ス
第四百五十三条 契約ヲ以テ債権者ニ選択ヲ与ヘタル場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債権者ハ残ル所ノ物ヲ要求シ又ハ滅失シタル物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債権者ハ自己ノ選択ヲ以テ一箇ノ物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得二箇ノ物カ一ハ債務者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキモ亦同シ
第四百五十四条 同上ノ場合ニ於テ二箇ノ物ノ一カ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カル
二箇ノ物カ共ニ債権者ノ過失ニ因リテ同時ニ滅失シタルトキハ選択ハ債務者ニ移転シ之ヲシテ一箇ノ物ノ価金ヲ得セシム
二箇ノ物カ一ハ債権者ノ過失ニ因リ一ハ意外ノ事ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ債権者ニ対シテ償金ヲ要求スルコトヲ得ス
第四百五十五条 前数条ノ規定ニ従ヒ選択ノ義務カ一箇ノ物ニ帰着シタルトキ又ハ当事者カ其選択ヲ為シタルトキハ其義務ノ効力ハ停止条件ノ義務ニ関シ第四百二十九条ニ規定シタル如ク既往ニ遡ホル
第四百五十六条 債務者カ某ノ物ヲ主トシテ負担スルモ他ノ物ヲ与ヘテ義務ヲ免カルノ権能ヲ有スルトキハ其義務ハ任意ナリ
右義務ハ任意ニテ負担スル物ノ弁済ヲ以テ条件トスル一種ノ解除条件ニ服スルモノナリ
主トシテ負担スル物カ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因リ滅失シタルトキ債務者ハ義務ヲ免カル
主トシテ負担スル物カ債務者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ其価金ノ償還及ヒ損害ノ賠償ニ任ス然レトモ債務者ハ任意ニテ負担スル物ヲ与ヘテ義務ヲ免カルノ権能ヲ有ス
二箇ノ物ノ一カ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ其義務免除ヲ申立テ又ハ残ル所ノ物ヲ与ヘテ滅失シタル物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ共ニ債権者ノ過失ニ因リテ滅失シタルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且自己ノ選択ヲ以テ一箇ノ物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
二箇ノ物カ一ハ意外ノ事ニ因リ一ハ債権者ノ過失ニ因リテ同時ニ滅失シ其過失カ孰レノ物ノ上ニ存シタルヤヲ知リ得サルトキハ債務者ハ義務ヲ免カレ且任意ニテ負担シタル物ノ価金ヲ要求スルコトヲ得
第三款 債権者及ヒ債務者ノ単数又ハ複数ノ義務
第四百五十七条 債権者及ヒ債務者カ各一人ナルトキハ其義務ハ単数ナリ
債権者又ハ債務者カ初メヨリ数人ナルトキ又ハ当事者カ数人ノ相続人ヲ遺シテ死亡シタルニ因リ債権者又ハ債務者カ数人ナルトキハ其義務ハ複数ナリ
複数ノ義務ニハ連合ノモノ有リ連帯ノモノ有リ不可分ノモノアリ
第四百五十八条 連合ノ義務ニ於テハ次款ニ定ムル如ク各債権者又ハ各債務者ハ自己ノ部分外ニ履行ヲ要求シ又ハ訴追ヲ受クルコトヲ得ス
連帯ノ義務ニ於テハ各債権者又ハ各債務者ハ自己ノ名ヲ以テ自己ノ部分ノ為メニスルト他人ノ名ヲ以テ他人ノ部分ノ為メニスルトヲ問ハス全部ニ付キ履行ヲ求メ又ハ訴追ヲ受クルコトヲ得但第四編第一部第二章ニ規定シタル如ク各自カ其実地ノ部分ヲ踰ヱテ受取リ又ハ支払ヒタルトキハ担保訴権ニ因レル相互ノ求償権ヲ妨ケス
第四款 性質又ハ履行ノ可分又ハ不可分ノ義務
第四百五十九条 第四百五十七条ニ掲ケタル単数ノ義務ハ債権者ト債務者トノ間ニ在テハ不可分タル如ク之ヲ履行スルコトヲ要ス但第四百二十六条ヲ以テ一分ノ弁済ヲ許スコトニ付キ裁判所ニ与ヘタル権能ヲ妨ケス
第四百六十条 連合ノ義務ニ於テハ債権者ノ各自カ履行ヲ求メ又ハ債務者ノ各自カ訴追ヲ受ク可キ実地ノ部分ハ契約ニ従ヒ又ハ事情ニ従ヒテ之ヲ定ム
前項ノ規定ニ従フヲ得サルトキハ其実地ノ部分ハ平分ニテ之ヲ計算ス但債権ノ利益又ハ債務ノ負担ニ於テ各自カ其実地ノ部分ニ復スル相互ノ求償権ヲ妨ケス
第四百六十一条 債権者又ハ債務者ノ死亡シタル場合ニ於テ単数又ハ連合ノ義務ハ各相続人カ死亡者ヲ代表スル部分ニ付キ働方又ハ受方ニテ其各自ノ間ニ可分ナリ
連帯ノ義務モ当事者ノ相続人ノ間ニ於テハ亦可分ナリ
第四百六十二条 複数ノ義務ハ左ノ場合ニ於テ債権者又ハ原債務者及ヒ其相続人ノ間ニ不可分ナリ
第一 負担スル目的ノ性質ニ因リテ一分ノ履行カ形体上及権利上不能ナルトキ
第二 義務カ性質ニ因リテ可分ナルモ当事者ノ明示又ハ黙示ニテ一分ノ履行ヲ許サヾルノ意思アルトキ
第四百六十三条 義務ハ其性質ニ因リテ可分ナルモ左ノ場合ニ於テハ尚当事者ノ意思ニ因リ受方ノミニテ不可分ナリ
第一 債務者ノ一人ノ処分権内ニ在ル特定物ノ引渡ニ関スルトキ
第二 債務者ノ一人カ債務ノ設定名義ニ因リ独リ履行ニ任シタルトキ
右第一ノ場合ニ於テ数人ノ債権者アルトキハ其一人ノ債務者ハ此数債権者ニ対シテ同時ニ義務ヲ免カル為メ其数債権者ノ訴訟参加ヲ要求スルコトヲ得
第四百六十四条 不可分ハ第四編第一部第三章ニ規定シタル如ク性質ニ因リテ可分ナル債務ノ履行ノ抵保ノ為メ連帯ニ併合シ又ハ合併セスシテ之ヲ要約スルコトヲ得
第四百六十五条 債権者ハ一人ニテ不可分債務ノ履行ヲ得タルトキハ他ノ債権者ノ権利ノ限度ニ応シテ之ニ其利益ヲ分与スルコトヲ要ス
又債務者ハ一人ニテ義務ヲ履行シタルトキハ義務ノ原因ニ従ヒ又ハ従来相互ノ関係ニ従ヒテ他ノ債務者ノ分担ス可キ部分ニ付キ之ニ対シ担保ノ求償権ヲ有ス
第四百六十六条 債権者ノ一人ハ要約シタル如ク弁済ヲ受クルニ非サレハ他ノ債権者ノ権利ヲ減少シ又ハ消滅セシムルコトヲ得ス
債権者ノ一人カ総債務者若クハ其一人ノ義務解脱ヲ主旨トスル更改、免除其他ノ契約ヲ為シタルカ又ハ其一人ノ債権者ニ対シ適法ナル相殺ノ原因ノ存スルモ他ノ債権者ハ尚ホ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得然レトモ他ノ債権者ハ右一人ノ債権者カ其権利ヲ失ハサリシナラハ第五百二十三条第四項、第五百三十七条第二項、第五百四十三条第三項第四項ノ規定ニ従ヒ其一人ノ債権者ニ分与ス可キ利益ニ付訴追ヲ受ケタル債務者ニ対シテ計算ヲ為ス
第四百六十七条 債権者ノ一人ノ為シタル付遅滞其他ノ保存ノ行為ハ他ノ債権者ヲ利ス
又債権者ノ一人ノ利益ノ為メニ時効ヲ停止スル適法ノ原因アルトキハ亦他ノ債権者ノ利益ノ為メ之ヲ停止ス
第四百六十八条 債務者ノ一人ハ他ノ債務者ノ負担ヲ加重スルコトヲ得ス又債務者ノ一人ノ付遅滞ハ之ヲ以テ他ノ債務者ニ対抗スルコトヲ得ス
然レトモ債務ノ認定及ヒ其他債務者ノ一人ニ対抗スルコトヲ得ヘキ時効ノ中断又ハ停止ノ原因ハ之ヲ以テ他ノ債務者ニ対抗スルコトヲ得
第四百六十九条 債務者ノ一人ノ過失ニ因リテ不可分ノ義務ヲ履行スルコトヲ得サルトキハ損害賠償又ハ過怠約款ハ過失者ノミ之ヲ負担ス可分義務ノ全部ノ履行ヲ保スル為メ過怠約款ヲ設ケタルトキト雖トモ亦同シ
第四百七十条 第四百六十二条ノ場合ニ於テ不可分義務ノ履行ノ為メ訴ヘラレタル債務者ハ若シ己レト共ニ言渡ヲ受ケシム可キトキハ之ヲ受ケシムルコトニ付キ他ノ債務者ヲ訴訟ニ参加セシムル為メ及ヒ之ニ対スル自己ノ求償ヲ裁決セシムル為メ期間ヲ請求スルコトヲ得
第三章 義務ノ消滅
第四百七十一条 義務ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 弁済
第二 更改
第三 免除
第四 相殺
第五 混同
第六 履行ノ不能
第七 銷除
第八 廃罷及ヒ解除
債務者カ免責ト称スル時効ヲ申立ツルコトヲ得ルノ条件ハ第五編第二部ニ之ヲ規定ス
民法第十九回改正 十月十一日配付
第四百七十一条末項左ノ如ク改ム
其他義務ハ免責ト称スル時効ノ条件カ第五編第二部ニ従ヒ具備スルトキハ消滅シタルモノト看做ス
第一節 弁済
第四百七十二条 弁済ハ義務ノ本旨ニ従フノ履行ナリ
数箇ノ債務アリテ只一箇ノ弁済ヲ為ストキハ第二款ニ従ヒ債務ノ一箇又ハ数箇ニ付キ弁済ノ充当ヲ為ス
債務者カ弁済ヲ受クルコト能ハス又ハ欲セサルトキハ債務者ハ第三款ニ記載シタル如ク実物提供及ヒ供託ノ方法ヲ以テ自ラ義務ヲ免カルコトヲ得
債務者カ債権者ニ対シテ自己ノ財産ヲ委棄スルコトヲ得ル場合ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第一款 単一ノ弁済
第四百七十三条 弁済ハ債務者ノ外尚ホ保証人又ハ抵当財産ヲ所持スル第三者ノ如キ附随ノ義務者ヨリ有効ニ之ヲ為スコトヲ得
又弁済ハ利害ノ関係ナキ第三者ヨリ或ハ債務者ノ名ヲ以テ或ハ自己ノ名ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得
第四百七十四条 利害ノ関係ヲ有スルト否トヲ問ハス第三者ノ為シタル弁済ノ有効ナル為メニハ債権者ノ承諾ヲ必要トセス但作為ノ義務ニ関シ債権者カ特ニ債務者ノ一身ニ着眼シタルトキハ此限ニ在ラス
右同一ノ場合ニ於テハ債務者ノ承諾モ亦之ヲ必要トセス但利害ノ関係ヲ有セサル第三者ノ弁済ニ付テハ債務者及ヒ債権者ノ承諾ナキトキハ其弁済ハ成立セス
第四百七十五条 代理ノ委任ヲ受ケスシテ弁済ヲ為シタルトキハ第三者ハ弁済ノ為メ債務者ニ得セシメタル利益ノ限度ニ応シ之ニ対シテ求償権ヲ有ス但法律又ハ契約ニ依リテ債権者ノ権利ニ代位スル場合ヲ妨ケス
第四百七十六条 義務カ定量物ノ所有権ノ移転ヲ目的トスルトキハ其物ノ所有者ニシテ且之ヲ譲渡スノ能力アル者ニ非サレハ引渡其他ノ方法ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得ス
他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ当事者各自ニ其弁済ノ無効ヲ主張スルコトヲ得
譲渡スノ能力ナキ所有者カ物ヲ引渡シタルトキハ其所有者ノミ弁済ノ無効ヲ請求スルコトヲ得
右孰レノ場合ニ於テモ債務者ハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非サレハ引渡シタル物ヲ取戻スコトヲ得ス
債権者カ弁済トシテ受ケタル動産物ヲ善意ニテ消耗シ又ハ譲渡シタルトキハ債務者ハ其取戻ヲ為スコトヲ得ス
又債権者ハ他人ノ物ヲ以テセル弁済ヲ認諾スルコトヲ得但真ノ所有者ヨリ回復ヲ訴ヘタルトキハ債務者ニ対スル担保ノ訴権ヲ妨ケス
第四百七十七条 弁済ハ債権者又ハ其代人ニ之ヲ為スコトヲ要ス弁済ヲ受クルノ分限ヲ有セサル者ニ為シタル弁済ト雖モ債権者カ之ヲ認諾シ又ハ之ニ因リテ利得シタルトキハ有効ナリ
第四百七十八条 真ノ債権者ニ非サルモ債権ヲ占有セル者ニ為シタル弁済ハ債務者ノ善意ニ出テタルトキハ有効ナリ
表見ナル相続人、表見ナル包括承接人、記名債権ノ表見ナル譲受人及ヒ無記名証劵ノ占有者ハ之ヲ債権ノ占有者ト看做ス
第四百七十九条 受クルノ能力ナキ債権者又ハ債権占有者ニ為シタル弁済ハ其債権者又ハ債権占有者ノ請求ニ因リテ之ヲ取消スコトヲ得但其利得シタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス
第四百八十条 民事訴訟法ニ従ヒ正シク為シ及ヒ続行シタル払渡差押ノ後債務者カ弁済ヲ為シタルトキハ差押債権者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ弁済ス可キヲ債務者ニ強要スルコトヲ得但弁済ヲ受ケタル債権者ニ対スル債務者ノ求償権ヲ妨ケス
第四百八十一条 債権者ハ己レニ対シテ負担シタル物ヨリ他ノ物ヲ弁済ニ受クルノ責ニ任セス他ノ物ノ価格カ高キトキト雖モ亦同シ
債務者ハ其負担シタル物ヨリ他ノ物ヲ与ルノ責ニ任セス請求ヲ受ケタル物ノ価格カ低キトキト雖モ亦同シ
代替物ヲ目的トセル債務ニ於テハ債務者ハ最良品ヲ与ヘ債権者ハ最悪品ヲ受クルノ責ニ任セス
第四百八十二条 双方一致ニテ物ヲ金銭ニ、金銭ヲ物ニ又ハ或ル物ヲ他ノ物ニ代ヘテ弁済ノ為メ之ヲ与ヘ若クハ約束シタルトキハ原義論ヲ更改シタリト看做シ其行為ハ場合ニ因リテ売買又ハ交換ノ規則ニ従フ
第四百八十三条 特定物ノ債務者ハ引渡ヲ為ス可キ時ノ現状ニテ其物ヲ引渡スニ因リテ義務ヲ免カル但有条件義務ノ危険ニ関スル第四百三十九条ノ規定ヲ妨ケス
債務者ノ費用ニテ物ヲ保存シ若クハ改良シ又ハ其過失若クハ懈怠ニ因リテ之ヲ毀損シタルトキハ替償ハ上ノ第一章第二節第三節ニ従ヒ当事者相互ニ之ヲ負担ス
第四百八十四条 金銭ヲ以テ目的トセル債務ニ於テハ債務者ハ其選択ヲ以テ金若クハ銀ノ国貨又ハ強制通用ノ紙幣ヲ与ヘテ義務ヲ免カル
債務者ハ法律ニ依リ貨幣ノ名価又ハ純分ニ変更ヲ生スルモ約束シタル数額ヨリ多ク又ハ少ナク負担セス
本条ノ規則ニ違背スル契約ハ無効ナリ但第四百八十六条第二項ノ規定ヲ妨ケス
第四百八十五条 右ニ反シ弁済期ニ於テ諸種ノ貨幣ノ為替相場ヨリ生ス可キ相互ノ高低ノ差ハ債務者ノ選択スル法律上ノ貨幣ヲ以テ平均価額ノ弁済ヲ為シ当事者ノ間ニ之ヲ平分スル契約ヲ為スコトヲ得
第四百八十六条 金貨又ハ銀貨ノ価額ヲ以テ負担ノ金額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ独リ為替相場ノ損益ヲ受ケ法律上ノ他ノ貨幣ヲ以テ義務ヲ免カルコトヲ得
金貨又ハ銀貨ヲ以テ負担ノ金額ヲ弁済ス可キコトヲ約束シタルトキモ亦同シ
外国ノ貨幣ヲ以テ弁済ヲ為ス可キコトヲ約束シタルトキハ債務者ハ右ノ規定ニ従ヒ自己ノ選択スル法律上ノ貨幣ヲ以テ其外国ノ貨幣ノ価額ヲ弁済シテ義務ヲ免カルコトヲ得
第四百八十七条 銅貨及ヒ補助銀貨ハ特別法ニ定メタル数額ヨリ多ク弁済トシテ之ヲ交付スルコトヲ得ス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第四百八十八条 金銭ノ貸借ニ特別ナル規則ハ第八百七十八条ニ於テ之ヲ規定ス
第四百八十九条 当事者カ弁済ノ場所ヲ定メサリシトキハ弁済ハ債務者ノ実地ノ住所ニ於テ之ヲ為ス但後ニ掲クル或ル契約ノ場合及ヒ第三百五十三条ニ従ヒ特定物ノ引渡ニ関スル場合ハ此限ニ在ラス
自己ノ住所ニ於テ弁済ヲ受ク可キ当事者カ詭譎ナクシテ転任シタルトキハ弁済ハ其新住所ニ於テ之ヲ為ス但其当事者ハ為替相場ノ差額及ヒ人ノ往復若クハ物ノ運送ノ補足費用ヲ一方ノ当事者ニ払フコトヲ要ス
弁済ノ其他ノ費用ハ債務者之ヲ負担ス
第四百九十条 弁済ヲ為ス可キ時期ハ第四百二十三条乃至第四百二十八条ニ於テ之ヲ規定ス
弁済ノ期日カ法律上ノ休暇日ナルトキハ弁済ハ其翌日ニ非サレハ之ヲ要求スルコトヲ得ス
第二款 弁済ノ充当
第四百九十一条 一人ノ債権者ニ対シ一様ノ性質ナル数箇ノ債務ヲ有スル債務者カ総債務ヲ全消スルコトヲ得サル弁済ヲ為ストキハ債務者ハ弁済ノ時ニ於テ其孰レノ債務ニ充当セントスルノ意ヲ述ヘ且此充当ヲ受取証書ニ記入セシムルコトヲ得
然レトモ債務者ハ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ債権者ノ利益ノ為メ定メタル期限ノ至ラサル債務ニ充当ヲ為シ又費用及ヒ利息ニ先タチ元本ニ充当ヲ為シ又一分ツヽ数箇ノ債務ニ充当ヲ為スコトヲ得ス
第四百九十二条 債務者カ有効ナル充当ヲ為サヽルトキハ債権者ハ受取証書ニ於テ自由ニ弁済ノ充当ヲ為スコトヲ得但会社契約ニ関スル第七百七十七条ノ規定ヲ妨ケス
債務者カ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ受取証書ヲ受取リタルトキハ債務者ハ自己ノ錯誤又ハ債権者ノ欺瞞アリタルニ非サレハ充当ヲ非難スルコトヲ得ス
第四百九十三条 債務者及ヒ債権者カ有効ニ充当ヲ為サヽルトキハ当然左ノ如ク充当ス
第一 期限ノ至リタル債務ヲ先ニシ期限ノ至ラサル債務ヲ後ニス
第二 費用及ヒ利息ヲ先ニシ元本ヲ後ニス
第三 総債務カ期限ニ至リ又ハ至ラサルトキハ債務者ノ為メ最モ弁済ノ利益アル債務ヲ先ス
第四 債務者カ弁済ノ先後ニ付キ利益ヲ有セサルトキハ期限ノ最モ先キニ至リタル又ハ至ル可キ債務ヲ先キニス
第五 総債務カ何レノ点ニ於テモ相等シキトキハ充当ハ各債務ノ額ニ応シテ之ヲ為ス
第四百九十四条 上ノ規定ハ交互計算上ノ振込ニ之ヲ適用セス此振込ハ振込人ノ貸方ニ之ヲ記入ス
第三款 弁済ノ提供及ヒ供託
第四百九十六条 債権者カ弁済ヲ受クルヲ欲セス又ハ之ヲ受クル能ハサルトキハ債務者ハ左ノ区別ニ従ヒ提供及ヒ供託ヲ為シテ義務ヲ免カルコトヲ得
第一 債務カ金銭ヲ目的トスルトキハ提供ハ貨幣ヲ提示シテ之ヲ為スコトヲ要ス
第二 債務カ特定物ヲ目的トシ其存在スル場所ニ於テ引渡サル可キトキハ債務者ハ其物ノ引取ノ為メ債権者ニ催告ヲ為ス
第三 特定物ヲ債権者ノ住所其他ノ場所ニ於テ引渡ス可クシテ其運送カ多費、困難又ハ危険ナルトキハ債務者ハ契約ニ従ヒ引渡ヲ即時ニ実行スルノ準備ヲ為シタルコトヲ提供中ニ述フ定量物ニ関シテモ亦同シ
第四 債権者ノ立会又ハ参同ヲ要スル作為ノ義務ニ関シテハ債務者カ義務履行ノ準備ヲ為シタルコトヲ述フルヲ以テ足ル
第四百九十七条 右ノ外提供ハ弁済ノ有効ナル為メ上ニ定メタル条件ヲ具備シ且民事訴訟法ノ方式及ヒ条件ニ従フニ非サレハ有効ナラス
第四百九十八条 時期ヲ失セス且有効ニ為シタル提供ハ法律ヲ以テ規定シ若クハ契約ヲ以テ約束シタル失権、解除及ヒ責罰ヲ予防ス
此提供ハ付遅滞ヲ防止シ又既ニ付遅滞ノ存セルトキハ将来ニ向テ其効力ヲ止マシメ且遅延利息ヲ停ム
第四百九十九条 債権者カ提供ヲ承諾セサルトキハ債務者ハ供託ノ日マテニ債務ニ生シタル填補ノ利息ト共ニ弁済ノ金額ヲ供託物取扱所ニ供託スルコトヲ得
特定物又ハ定量物ニ付テハ債務者ハ其物ヲ供託ス可キ場所ヲ指定スルコト及ヒ其監守ヲ選任スルコトヲ裁判所ニ請求ス
供託ノ方式及ヒ条件ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第五百条 有効ニ為シタル供託ハ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且債務者カ意外ノ事ニ任シタルトキト雖モ其物ノ危険ヲ債権者ニ帰セシム
然レトモ債権者カ供託ヲ承諾セス又ハ其供託カ債務者ノ請求ニ因リテ有効ト裁判セラレ其裁判ノ確定ニ至ラサル間ハ債務者ハ其供託物ヲ引取ルコトヲ得
債権者ノ承諾アリ又ハ裁判ノ確定ト為リタル後ト雖モ債務者ハ債権者ノ承諾ヲ以テ供託物ヲ引取ルコトヲ得然レトモ共同債務者及ヒ保証人ノ義務免除ヲモ動産質権及ヒ抵当権ノ消滅ヲモ又供託物ニ付キ債権者ノ債権者カ為シタル差押故障ヲモ妨碍スルコトヲ得ス
第四款 代位ノ弁済
第五百一条 代位ヲ以テ第三者ノ為シタル弁済ハ債権者ニ対シテ債務者ニ義務ヲ免カレシメ且其債権及ヒ之ニ附着セル担保ト効力トヲ併セテ其第三者ニ移転ス但場合ニ従ヒ第三者ノ有スル事務管理又ハ代理ノ訴権ヲ妨ケス
代位ハ下ノ区別ニ従ヒ債権者若クハ債務者ヨリ之ヲ許与シ又ハ法律ヲ以テ之ヲ付与ス
第五百二条 債権者ノ許与シタル代位ハ受取証書ニ之ヲ明記スルニ非サレハ有効ナラス但弁済ニ付第三者ノ利害ノ有無及ヒ弁済者ノ名義ノ誰タルヲ問ハス
第五百三条 債務者ハ其債務ノ弁済ニ必要ナル金額又ハ有価物ヲ己レニ貸与シタル第三者ヲシテ債権者ノ承諾ナク其権利ニ代位セシムルコトヲ得
右ノ場合ニ於テ借用証書ニハ其金額又ハ有価物ノ用方ヲ記載シ受取証書ニハ其出所ヲ記載ス
公正証書又ハ確定ノ日附アル証書ニ非サレハ他ノ第三者ニ対シテ右ノ行為ノ証トスルコトヲ許サス
然レトモ借用ト弁済トノ間ニ不相当ナル長キ時間ノ経過シタルトキハ裁判所ハ代位ヲ不成立ト宣言スルコトヲ得
第五百四条 代位ハ左ノ者ノ利益ノ為メ当然成立ス
第一 或ハ他人ト共ニ又ハ他人ノ為メ義務ヲ負担シタルニ因リ或ハ先取特権又ハ抵当権ヲ負担スル財産ノ第三所持人トシテ他人ノ為メ義務ヲ負担シタルニ因リ其義務ヲ弁済スルニ付キ利害ノ関係ヲ有スル者
第二 或ハ抵当訴権ヲ予防スル為メ或ハ不動産ノ差押又ハ契約解除ノ請求ヲ止ムル為メ他ノ債権者ニ弁済シタル債権者
第三 自己ノ財産ヲ以テ相続ノ債務ノ全部又ハ一分ヲ弁済シタル享益相続人又ハ表見ニシテ善意ナル相続人
第五百五条 前三条ニ依リ代位シタル者ハ債権ノ効力又ハ担保トシテ債権者ニ属セシ総テノ対人及ヒ物上ノ権利及ヒ訴権ヲ行フコトヲ得但左ニ掲クル場合ヲ例外トス
第一 当事者カ代位者ニ移転セシメシ権利及ヒ訴権ヲ制限シタルトキハ其制限ニ従フ
第二 第三所持人カ債務ヲ弁済シタルトキハ保証人ニ対シテ代位セス保証人カ債務ヲ弁済シ第千三十六条ノ規定ニ従ヘルトキハ第三所持人ニ対シテ代位ス
第三 一箇ノ債務ノ抵当トナリタル数箇ノ不動産カ各別ニ数箇ノ第三所持人ノ手ニ存スル場合ニ於テ其一人カ債務ヲ弁済シタルトキハ各不動産ノ価格ノ割合ニ応スルニ非サレハ他ノ第三所持人ニ対シテ代位ノ権ヲ行フコトヲ得ス
第四 互ニ担保人タル共同債務者ノ一人カ債務ヲ弁済シタルトキハ弁済者ハ他ノ債務者カ分担ス可キ債務ノ限度ニ応スルニ非サレハ其各自ニ対シテ代位スルコトヲ得ス
第五百六条 代位者ハ自己ノ支払ヒタル金額ヲ超エテ債権者ノ訴権ヲ行フコトヲ得ス
第五百七条 代位ハ原債権者ヲ害セサルコトヲ要ス
数箇ノ債権ヲ有スル者ハ其一箇ニ係ル代位弁済カ他ノ債権ノ抵保ヲ減スルトキハ之ヲ拒ムコトヲ得
第五百八条 代位弁済カ債務ノ一分ノミニ係ルトキハ代位者ハ自己ノ弁済ノ割合ニ応シテ原債権者ト共ニ其権利ヲ行フ
然レトモ原債権者ハ全部ノ弁済ヲ受ケサルトキハ独リ契約ノ解除ヲ行フ但代位者ニ賠償スルコトヲ要ス
第五百九条 代位弁済ニ因リテ全部ノ弁済ヲ受ケタル債権者ハ債権ノ証書及ヒ質物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス
債権者カ一分ノ弁済ノミヲ受ケタルトキハ要用ニ応シテ代位者ニ証書ヲ出示シ且質物ノ監護ヲ之ニ許スコトヲ要ス
第五百十条 代位弁済ノ有効、充当、提供及ヒ供託ニ付テハ前三款ノ規定ニ従フ
第二節 更改
第五百十一条 更改即チ新義務ヲ以テ旧義務ニ代フルコトハ左ノ四箇ノ方法ニ因リテ成ル
第一 当事者カ義務ノ新目的ヲ以テ旧目的ニ代フル契約ヲ為ストキ
第二 当事者カ義務ノ目的ヲ変セスシテ其名義ノミヲ変スルノ契約ヲ為ストキ
第三 新債務者カ旧債務者ニ替ハルトキ
第四 新債権者カ旧債権者ニ替ハルトキ
第五百十二条 当事者カ期限、条件又ハ抵保ノ加除ニ因リ又ハ履行ノ場所若クハ負担物ノ数量、品質ノ変更ニ因リテ単ニ義務ノ体様ヲ変スルトキハ之ヲ更改ト為サス
商証劵ヲ以テスル債務ノ弁済方ハ其劵面ニ債務ノ原因ヲ指示シタルトキハ更改ヲ成サス又債務ノ認定ハ其証書ニ執行式アルトキト雖モ亦同シ
第五百十三条 債権者ハ原債権及ヒ其抵保ヲ有償名義ニテ処分スルノ能力ヲ有スルニ非サレハ更改ヲ承諾スルコトヲ得ス
右規定ハ契約上、法律上又ハ裁判上ノ管理者及ヒ代理人ニ之ヲ適用ス但代理ノ総般ナラサルトキニ限ル
第五百十四条 更改ノ意思ハ債権者ニ在リテハ推定ヨリ生セス明カニ証書又ハ事情ヨリ生スルコトヲ要ス
然レトモ当事者ニ交替ナキ場合ニ於テ義務ノ更改アリタルヤ又ハ二箇ノ義務ノ両存セルヤノ疑ヒアルトキハ第三百八十条ニ依リ債務者ノ利益ノ為メニ更改ノ意義ニ従フ
第五百十五条 旧義務カ停止又ハ解除ノ条件ニ従シヒトキハ更改ハ同一ノ条件ニ従フモノトノ推定ヲ受ク
又新義務カ有条件ナルトキハ更改ハ停止条件ノ成就シ又ハ解除条件ノ成就セサルトキニ非サレハ成ラス
右孰レノ場合ニ於テモ当事者カ単一ナル更改ヲ為サント欲シタルノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第五百十六条 旧義務ガ初メヨリ法律上成立セス又ハ法律ノ定ムル原因ニ由リテ消滅シ若クハ取消サレタルトキハ更改ハ無効ニシテ新義務ハ成立セス
又新義務カ其成立及ヒ有効ニ要スル法律上ノ条件ヲ具備セサルトキハ旧義務ハ存立ス
右孰レノ場合ニ於テモ当事者カ自然義務ヲ法律義務ニ又ハ法定義務ヲ自然義務ニ変換セント欲シタルノ証拠アルトキハ此限ニ在ラス
第五百十七条 旧義務ヲ更改スル為メ異議ナク又ハ異議ヲ留メスシテ有効ニ新義務ヲ約束シタル債務者ハ其了知セル旧義務ノ無効ノ理由ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス
債務者カ次条ニ従ヒ旧債権者ノ嘱託ニ因リ新債権者ニ対シテ義務ヲ約束シタルトキモ亦同シ
第五百十八条 債務者ノ交替ニ因ル更改ハ或ハ旧債務者ニ為セル嘱託ニ因リ或ハ旧債務者ノ承諾ナクシテ新債務者ノ随意ノ干渉ニ因リテ行ハル
嘱託ニハ完全ノモノ有リ不完全ノモノ有リ
第三者ノ随意ノ干渉ハ下ニ記載スル如ク除約又ハ補約ヲ成ス
第五百十九条 債権者カ明カニ旧債務者ヲ免除スルノ意思ヲ表セサルトキハ嘱託ハ不完全ニシテ更改ハ行ハレス且債権者ハ新旧債務者ヲ連帯ニテ訴追スルコトヲ得
第三者ノ随意干渉ノ場合ニ於テ債権者カ旧債務者ヲ免除シタルトキハ除約ニ因ル更改行ハル之ニ反セル場合ニ於テハ単一ノ補約成リテ債務ノ全部ニ付キ新旧債務者両存ス然レトモ此債務者ハ連帯ノ義務ニ任セス
第五百二十条 完全嘱託及ヒ除約ノ場合ニ於テ新債務者カ債務ヲ弁済スルコトヲ得サルトキハ債権者ハ嘱託又ハ除約ノ当時ニ於テ新債務者ノ既ニ無資力タリシコトヲ知ラサルニ非サレハ旧債務者ニ対シテ担保ノ求償権ヲ有セス但特別ノ契約ヲ以テ此担保ヲ伸縮スルコトヲ得
第五百二十一条 債権者ノ交替ニ因ル更改ハ債務者ト新旧債務者トノ承諾アルニ非サレハ成ラス
第五百二十二条 債権者カ第五百二十五条ニ定メタル如ク其債権ノ抵保ヲ留保シ或ル人ニ嘱託シテ自己ノ債務者ヨリ弁済ヲ受ケシムルトキハ其受嘱託人ハ債権ノ譲渡ニ関スル第三百六十七条ノ規定ニ従フニ非サレハ第三者ニ対シ其債権ヲ主張スルコトヲ得ス
第五百二十三条 債権者ト連帯債務者ノ一人又ハ不可分債務者ノ一人トノ間ニ為シタル更改ハ他ノ債務者及ヒ保証人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
然レトモ債権者カ右共同債務者及ヒ保証人ノ同意ヲ更改ノ条件ト為シタル場合ニ於テ共同債務者及ヒ保証人ノ之ヲ拒ムトキハ更改ハ成立セス
連帯債権者ノ一人ト為シタル更改ハ其債権者ノ持分ニ付テノミ債務者ヲシテ義務ヲ免カレシム
性質ニ因ル不可分債務ノ債権者ノ一人ト更改ヲ為シタルトキハ他ノ債権者ハ全部ニ付キ訴追ノ権利ヲ有ス但第四百六十六条ニ定メタル替償ノ負担ニ任ス
第五百二十四条 保証人ト為シタル更改ハ反対ノ意思アル証拠ナキトキハ保証ニ付テノミ之ヲ為シタリトノ推定ヲ受ケ主タル債務者ニモ他ノ保証人ニモ義務ヲ免カレシメス
第五百二十五条 旧債権ノ物上抵保ハ新債権ニ移ラス但債権者之ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス
此留保ハ共同債務者、保証人又ハ第三所持人ノ手ニ存スル抵保財産ニモ之ヲ行フコトヲ得
此留保ニ付テハ更改ノ相手方ノ承諾ノミヲ必要トス
右ノ場合ニ於テ財産ハ旧債務ノ限度ヲ超エテ抵保ヲ負担セス
第三節 契約上ノ免除
第五百二十六条 債務ノ全部又ハ一分ニ付テノ契約上ノ免除ハ有償名義又ハ無償名義ニテ之ヲ為スコトヲ得
有償名義ノ免除ハ事情ニ従ヒ代物弁済、更改、和解又ハ解除ヲ成シ無償名義ノ免除ハ生贈ヲ成ス但此第二ノ場合ニ於テハ公式ノ特別規則ニ従フコトヲ要セス
協階契約ヲ以テ破産シタル債務者ニ許与スル一分ノ免除ハ商法ヲ以テ之ヲ規定ス
第五百二十七条 債務ノ免除ハ明示又ハ黙示ヨリ成リ推定ヨリ成ラス但法律ニ特定シタル場合ハ此限ニ在ラス
第五百二十八条 主タル債務者ノ債務ノ免除ハ保証人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
連帯債務者ノ一人ノ債務ノ免除ハ他ノ債務者ヲシテ其債務ヲ免カレシム但債権者カ他ノ債務者ニ対シテ其権利ヲ留保シタル場合ハ此限ニ在ラス此場合ニ於テモ免除ヲ受ケタル債務者ノ部分ヲ控除スルコトヲ要ス
不可分債務者ノ一人ノ債務ノ免除ニ付テモ亦同シ然レトモ性質ニ因ル不可分債務ノ債権者カ他ノ債務者ニ対シ其権利ヲ留保シタルトキハ債権者ハ免除ヲ受ケタル債務者ノ部分ヲ扣除シ残余ノ部分ニ付キ其権利ヲ行フ
第五百二十九条 保証人ノ一人ノ債務ノ免除ハ主タル債務者及ヒ他ノ保証人ヲシテ其債務ヲ免カレシム
第五百三十条 債務ノ免除ヲ受ケタル債務者及ヒ保証人ハ債権者ヨリ共通ノ免除ヲ得ル為メ実際供与シタル数額ニ付テノミ他ノ共同債務者及ヒ共同保証人ニ対シテ求償権ヲ有ス
第五百三十一条 連帯債務者ノ一人ニ対シ単ニ其連帯ヲ免除シタルトキハ其一人ヲシテ他ノ債務者ノ部分ヲ免カレシメ且他ノ債務者ヲシテ其一人ノ部分ヲ免カレシム
又契約上ノ不可分債務者ノ一人ニ対シ単ニ其不可分ヲ免除シタルトキモ亦同シ性質ニ因ル不可分債務ニ付テハ債権者ハ債務者ノ各自ニ対シ全部ノ要求ヲ為スノ権利ヲ失ハス然レトモ免除ヲ受ケタル債務者ノ負担ス可キ債額ヲ如除スルコトヲ要ス
第五百三十二条 債権者ハ左ノ場合ニ於テハ債務者ノ一人ニ対シ単ニ連帯又ハ契約上ノ不可分ヲ免除シタリトノ推定ヲ受ク
第一 債権者カ担保ノ権利ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ヨリ其債務ノ部分ナリト明言シタル金額又ハ有価物ヲ受取リタルトキ
第二 債権者カ担保ノ権利ヲ留保セスシテ債務者ノ一人ニ対シ其債務ノ部分ナリト称シテ裁判上ノ請求ヲ為シタルニ其一人請求ニ承服シ又ハ弁済ヲ為ス可キ旨ノ言渡ヲ受ケタルトキ
第三 債権者カ異議ヲ留メスシテ債務者ノ一人ヨリ十ケ年間引続キ其負担ス可キ利息又ハ年金ノ部分ヲ受ケタルトキ
第五百三十三条 保証人ノ一人ノ保証ノミヲ免除シタルトキハ主タル債務者ハ其債務ヲ免カレス他ノ保証人ハ保証ノ免除ヲ受ケタル一人ノ部分ニ付キ其義務ヲ免カル然レトモ保証人ノ間ニ連帯ヲ為セル場合ニ於テ債権者カ第五百二十八条第二項ニ準依シ他ノ保証人ニ対シテ自己ノ権利ヲ留保セサルトキハ他ノ保証人ヲシテ其義務ヲ免カレシム
第五百三十四条 債権者ノ動産質又ハ抵当ノ放棄ハ其債権ヲ減セス然レトモ連帯債務者又ハ保証人ハ其放棄ニ因リ此等ノ担保ニ於ケル代位ヲ妨ケラレタルカ為メ第千四十五条及ヒ第千七十三条ニ依リ債権者ニ対シテ自己ノ義務免除ヲ請求スルコトヲ得
第五百三十五条 共同債務者ノ一人カ連帯若クハ不可分ノミノ免除ヲ得ル為メ又ハ保証人ノ一人カ保証ノ免除ヲ得ル為メ債権者ニ出捐ヲ為シタルモ其債務ヲ減セス且他ノ共同債務者又ハ共同保証人ニ対シテ求償権ヲ有セス
第五百三十七条 連帯債権者ノ一人ノ為シタル債務又ハ連帯ノミノ免除ハ其一人ノ部分ニ付テノミ他ノ債権者ニ対シ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得
債務カ性質ニ因ル不可分ナルトキハ債権者ノ一人ノ為シタル免除ハ他ノ債権者ヲ害スルコトヲ得ス他ノ債権者ハ第四百六十六条及ヒ第五百二十八条ノ規定ニ従ヒ全債権ヲ行フ
第五百三十八条 債権者カ債務者ノ義務ヲ記載シタル本証書ヲ任意ニテ債務者ニ交付シタルトキハ其証書ニ免除ノ旨ヲ附記セスト雖モ債権者ハ債務ノ免除ヲ為シタリトノ推定ヲ受ク但債権者ノ反対ノ意思ヲ証明スル権利ヲ妨ケス
公正証書又ハ判決書ノ正本ノ任意ノ交付ハ其書類ニ執行式ヲ具備スルモ債務ノ免除ヲ推定セシムルニ足ラス但裁判所ハ事情ニ因リ其免除ヲ認定スルコトヲ妨ケス
債務者カ右ノ書類ヲ所持スルトキハ反対ノ証拠アルマテハ債権者ヨリ任意ノ交付アリタリトノ推定ヲ受ク
第五百三十九条 債権者カ証書ノ全文又ハ債務者ノ署名若クハ其他ノ緊要ナル部分ヲ有意ニテ毀滅シ扯破シ又ハ抹銷シタルトキハ前条ノ区別ニ従ヒテ任意ノ交付ニ準シ債務ノ免除アリタリト推定ス
右毀滅扯破又ハ抹銷ハ之ヲ為シタル当時其証書カ債権者ノ占有ニ係リシトキハ反対ノ証拠アルマテ債権者ノ所為又ハ其承諾ニ出テタリトノ推定ヲ受ク
第五百四十条 債務ノ免除ハ明示ト黙示ト直接ノ証明ト法律上ノ推定トヲ問ハス反対ノ証拠アルマテ有償名義ニテ之ヲ為シタリトノ推定ヲ受ク
然レトモ互ニ授受スルノ能力ナキ者ノ間ニ於ケル免除ハ有償名義ニテ之ヲ為シタリトノ直接ノ証拠ヲ挙クルコトヲ要ス
第四節 相殺
第五百四十一条 二人互ニ債権者タリ債務者タルトキハ下ノ条件及ヒ区別ニ従ヒ法律上、任意上又ハ裁判上ノ相殺カ成立ス
相殺ハ二箇ノ債務ヲシテ其最寡少ナル債務ノ数額ニ満ツルマテ消滅セシム
第五百四十二条 二箇ノ債務カ主タルモノ明確ナルモノ互ニ代替スルヲ得ヘキモノ及ヒ要求スルヲ得ヘキモノニシテ且法律ノ規定又ハ当事者ノ明示若クハ黙示ノ意思ヲ以テ其相殺ヲ禁セサルトキハ当事者ノ不知ノ間ニテモ法律上ノ相殺ハ当然行ハル
第五百四十三条 主タル債務者ハ自己ノ債務ト債権者カ保証人ニ対シテ負担スル債務トノ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス然レトモ訴追ヲ受ケタル保証人ハ債権者カ主タル債務者又ハ自己ニ対シテ負担スル債務ノ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得
連帯債務者ハ債権者カ其連帯債務者ノ他ノ一人ニ対シ負担スル債務ニ関シテハ其一人ノ債務ノ部分ニ付テノミ相殺ヲ以テ対抗スルコトヲ得然レトモ自己ノ権ニ俶キ相殺ヲ以テ対抗ス可キトキハ全部ニ付キ之ヲ申立ツルコトヲ得
数人ノ連帯債権者アルトキ債務者ハ債権者ノ一人カ自己ニ対シテ負担スル債務ニ付テハ第千七十八条ニ依リ債権者ニ弁済ノ領受ヲ強要スルコトヲ得ヘキ場合ニ在リテハ総債務ノ相殺ヲ以テ常ニ訴追者ニ対抗スルコトヲ得
債務カ債務者ノ間又ハ債権者ノ間ニ於テ意思ニ因ル不可分ナルトキハ相殺ハ受方又ハ働方ノ連帯ニ於ケルト同一ノ方法ニ従フ又性質ニ因ル不可分ノ債務ナルトキハ第四百六十六条ノ規定ニ従フ
第五百四十四条 当事者ノ一方カ他ノ一方ニ対シ地方市場ノ相場書アル日用品ノ定期ノ供与ヲ負担シタルトキハ其供与ハ他ノ一方ノ負担スル金銭ト相殺スルコトヲ得
第五百四十五条 債務ノ成立其目的ノ性質及ヒ分量カ確実ナルトキハ其債務ハ善意ニテ争ハルヽトキト雖モ之ヲ明確ナリトス
第五百四十六条 裁判所ノ許与シタル恩恵上ノ期間ハ相殺ノ妨ヲ為サス債務者ノ請求ニ因リ無償ニテ債権者ノ許与シタル期間ニ付テモ亦同シ
二箇ノ債務ノ一カ解除条件ニ従フトキト雖モ相殺ハ行ハル但条ノ成就シタルトキハ相殺ヲ解除ス
第五百四十七条 二箇ノ債務カ同一ノ場所ニ於テ又ハ同一ノ貨幣ヲ以テ弁済ス可キモノニ非サルトキト雖モ尚ホ相殺ハ行ハル但第一ノ場合ニ於テハ運送費又ハ為替料ヲ計算シ第二ノ場合ニ於テハ両替賃ヲ算スルコトヲ要ス
第五百四十八条 左ノ場合ニ於テハ法律上ノ相殺ハ行ハレス
第一 債務ノ一カ不正ニ他人ノ財産ヲ押取シタルコトヲ以テ原因トナセルトキ
第二 変例ト称スル寄託物ノ返還ニ関スルトキ
第三 債権ノ一カ不可押ナル有価物ヲ目的トスルトキ
第四 当事者ノ一方カ予メ相殺ノ利益ヲ放棄シタルトキ又ハ債権者ト為ルニ当リ期望シタル目的カ相殺ノ為メ達スルコトヲ得サルトキ
第五百四十九条 債権ノ譲受人カ其譲受ヲ債務者ニ告知シタルノミニテハ債務者ハ譲渡人ニ対シテ従来有セル法律上ノ相殺ヲ以テ譲受人ニ対抗スルノ権利ヲ失ハス
債務者カ譲渡人ニ対シ既ニ得タル法律上ノ相殺ノ権利ヲ留保セス譲渡ヲ承諾シタルトキハ債務者ハ譲受人ニ対シ其権利ヲ申立ツルコトヲ得ス
右二箇ノ場合ニ於テ債務者カ相殺ヲ申立ツルコトヲ得サリシ金額又ハ有価物ヲ譲渡人ヲシテ自己ニ償還セシムルノ権利ヲ妨ケス
第五百五十条 払方差止ヲ受ケタル債務者ハ差止人ノ債務者即チ自己ノ債権者ニ対シテ差止後ニ取得シタル債権ノ相殺ヲ以テ差止人ニ対抗スルコトヲ得ス
又相殺ノ従来ノ原因ニ付テモ払方差止ヲ受ケタル債務者ハ民事訴訟法ニ掲ケタル方式及ヒ期間ニ従ヒテ其原因ヲ述ヘタルニ非サレハ之ヲ以テ差止人ニ対抗スルコトヲ得ス
右孰レノ場合ニ於テモ払方差止ヲ受ケタル債務者ハ差止ノ金額又ハ有価物ニ付キ自己ノ債権ノ弁済ヲ得ル為メ差止人ト共ニ入班スルノ権利ヲ有ス
第五百五十一条 相殺ニ因リテ既ニ消滅シタル債務ヲ弁済シタル債務者ハ其錯誤ニ出テタルトキト雖モ不当利得ノ取戻訴権ノミヲ行フコトヲ得但次条ニ記載スル場合ハ此限ニ在ラス
第五百五十二条 前三条ニ掲ケタル場合ニ於テ相殺ニ因リ既ニ消滅シタル債務ヲ譲受人若クハ差止人ノ利益ノ為メ認定シ又ハ自己ノ債権者ニ弁済シタル者ハ自己ノ旧債権ヲ担保シタル保証、先取特権若クハ抵当ヲ申立ツルコトヲ得ス但既ニ行ハレタル相殺ヲ知ラサル正当ノ原因アリシコトヲ証明スルトキハ此限ニ在ラス此場合ニ於テ原債権ハ其資格ヲ以テ抵保ト共ニ復旧ス
第五百五十三条 任意上ノ相殺ハ法律カ法律上ノ相殺ヲ許サヽル為メ利益ヲ受クル一方ノ当事者ヨリ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得利害ノ関係アル各人ノ承諾ヨリ成ル相殺ハ之ヲ契約上ノモノトス
任意上ノ相殺ハ既往ニ遡ルノ効ヲ有セス
第五百五十四条 裁判上ノ相殺ハ被告カ原告ニ対シ自己ノ利益ノ為メ債権ヲ認定セシメ又ハ清算セシムルヲ主旨トスル反訴ノ方法ニ依リテ之ヲ得
裁判所ハ場合ニ従ヒ或ハ主タル訴ヲ裁判シ或ハ相殺ヲ行ヒ二箇ノ訴ヲ併セテ裁判スルコトヲ得
裁判上ノ相殺ハ之ヲ以テ対抗シタル日ニ遡リテ効ヲ有ス
第五百五十五条 当事者ノ一方カ他ノ一方ニ対シ法律上又ハ裁判上ノ相殺ニ服ス可キ数箇ノ債務ヲ有スルトキハ其債務ヲ相殺スルノ順序ハ第四百九十三条ニ掲ケタル弁済ノ法律上ノ充当ノ規定ニ従フ
任意上又ハ契約上ノ相殺ノ充当ハ第四百九十一条及第四百九十二条ノ規定又ハ当事者ノ協議ニ従フ
第五節 混同
第五百五十六条 一箇ノ義務ノ債権者タリ及ヒ債務者タルノ分限カ相続其他ノ名義ニテ一人ニ併合シタルトキハ義務ハ混同ニ因リテ消滅ス
右ノ混同カ従来ノ適法ノ原因ニ由リ解除、銷除又ハ廃罷ヲ受ケタルトキハ義務ハ之ヲ消滅セサリシモノト看做ス
第五百五十七条 債権者カ連帯債務者ノ一人ニ相続シ又ハ連帯債務者ノ一人カ債権者ニ相続シタルトキハ連帯債務ハ其一人ノ部分ニ付テノミ消滅ス
混同カ連帯債権者ノ一人ト債務者トノ間ニ行ハレタルトキモ亦其混同ハ債務ノ一分ニ付テノミ成ル
第五百五十八条 義務カ性質ニ因ル不可分ナルトキハ債権者ノ一人ト債務者ノ一人トノ間ノ混同ハ他ノ者ニ関シ其義務ヲ全存セシム然レトモ其混同ヲ得タル者ハ第四百六十六条ニ従ヒ一分ノ替償ヲ供シ又ハ受クルニ非サレハ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルヽコトヲ得ス
第五百五十九条 一人カ二人ノ連帯債権者又ハ二人ノ連帯債権者ノ分限ヲ併合シタルトキハ権利又ハ義務ノ消滅ナシ其身ニ就キ併合ノ成リタルモノハ債権者ノ利益ニ従ヒ或ハ自己ノ名ヲ以テ或ハ己レカ相続シタル者ノ名及ヒ権利ヲ以テ全部ニ付キ訴追シ又ハ訴追セラルヽコトヲ得
働方又ハ受方ニテ不可分ナル義務ニ付テモ亦同シ
第五百六十条 保証人カ債権者ニ相続シ又ハ債権者カ保証人ニ相続シタルトキハ保証ハ其附従ノモノト共ニ消滅ス
債務者カ保証人ニ相続シ又ハ保証人カ債務者ニ相続シタルトキハ債権者ハ主タル債務者、共同保証人若クハ保証人ノ担保人ニ対シ及ヒ保証ニ附着シタル動産質若クハ抵当ニ付キ其権利ニ変更ヲ受クルコト無シ
第六節 履行ノ不能
第五百六十一条 義務カ特定物ノ引渡ヲ目的トシタル場合ニ於テ其目的物カ債務者ノ過失ナク且遅滞ニ在ル前ニ滅失シ紛失シ又ハ不融通物ト為リタルトキハ其義務ハ履行ノ不能ニ因リテ消滅ス若シ義務カ数箇ノ特定物中ノ若干ヲ目的トシタル場合ニ於テ其一箇ノ引渡モ不能ト為リタルトキハ亦同シ
作為又ハ不作為ノ義務ハ其履行カ右ト同シ条件ヲ以テ不能ト為リタルトキハ消滅ス
第五百六十二条 債務者カ意外ノ事又ハ不可抗ノ力ニ因ル損失ヲ担任シ若クハ第三百五十六条及ヒ第四百四条ニ従ヒテ遅滞ニ在ルトキハ其債務者ハ前条ノ原因アルモ其義務ハ消滅セス
犯罪ニ因リ他人ニ属スル金銭其他ノ有価物ヲ返還スルノ責ニ任スルモノモ亦之ニ準ス
第五百六十三条 債務者ハ自己ノ申立ツル意外ノ事又ハ不可抗ノ力ヲ証明スルノ責ニ任ス
債務者カ第三百五十五条第二項ニ依リ其義務ヲ免カル為メ其物カ債権者ノ方ニ在リト雖モ亦滅失ス可キコトヲ申立ツルトキハ其証拠ヲ挙クルコトヲ要ス
第五百六十四条 債務者カ履行ノ不能ニ因リテ義務ヲ免カレタルトキハ其債務者ハ己レノ受ク可キ対価ニ付テハ其履行ノ為メ既ニ出捐シタル限度ニ於テノミ権利ヲ有ス
第五百六十五条 物ノ全部又ハ一分ノ滅失ノ場合ニ於テ債務者カ其滅失ノ為メ第三者ニ対シ或ル報復訴権ヲ有スルトキハ債権者ハ残余ノ物ヲ要求シ且右ノ訴権ヲ行フコトヲ得
第七節 銷除
第五百六十六条 能力ナキ人、錯誤ニ因リテ承諾ヲ与ヘタル人又ハ他ノ一方ノ強暴若クハ詭譎ニ因リテ承諾ヲ獲ラレタル人ノ約束シタル義務ハ五个年ノ間ハ或ハ其人又ハ其代人ノ請求ニ因リ或ハ履行ノ訴ニ対スル排斥ニ因リ裁判上之ヲ銷除スルコトヲ得
右ノ期間ハ欠損ニ付テノ銷除訴権ヲ行フ為メ又ハ欠損ノ排斥ヲ申立ツル為メ之ヲ成年者ニ許与ス但法律カ此訴権又ハ排斥ニ付キ特ニ其期間ヲ短縮シタル場合ハ此限ニ在ラス
第五百六十七条 右時効ノ期間ハ強暴ニ付テハ其強暴ノ止ムマテ錯誤ニ付テハ其錯誤ヲ覚知スルマテ詭譎ニ付テハ其詭譎ヲ発見スルマテ無能力ニ付テハ其無能力ノ止ムマテ之ヲ停止ス
然レトモ瘋癲者又ハ喪神ニ因ル禁治産者ノ契約ニ付テハ此時効ハ其者カ能力ヲ復シタル後其承諾シタル契約ノ要旨ノ通知ヲ受ケ又ハ其契約ヲ了知シタル時ヨリ経過ヲ始ム
法律上治産ヲ禁セラレタル処刑人ニ付テハ銷除ノ訴権及ヒ排斥ハ自他ノ為メ其刑期満了後ニ非サレハ時効ニ罹ラス
成年者ノ欠損ノ場合ニ於テハ時効ハ契約ノ時ヨリ経過ヲ始ム
此他免責時効ノ停止及ヒ中断ノ通常ノ原因ニ関スル規定ハ此時ニ之ヲ適用ス
第五百六十八条 銷除訴権ヲ有セル人カ前条ノ期間ノ満了前ニ死亡シタルトキハ訴権ハ其相続人ニ移転ス
右ノ場合ニ於テ期間カ死亡者ニ対シ未タ経過ヲ始メサリシトキハ相続人ノ訴権ハ其相続権ノ発開ノ時ヨリ時効ニ罹リ既ニ経過ヲ始メタルトキハ其残期ヲ以テ時効ニ罹ル
第五百六十九条 未成年者又ハ禁治産者ノ財産ニ関シ後見人ノ為シタル契約及ヒ行為ハ無能力者ノ利益ノ為メ法律ノ定メタル方式及ヒ条件ヲ遵守セサリシトキハ之ヲ銷除スルコトヲ得
未成年者ノ行為ニ付テハ之ニ要スル方式ナキトキ浪費者ノ行為ニ付テハ裁判上ノ輔佐人ノ輔佐ナキトキ及ヒ禁治産者ノ行為ニ付テハ何等ノ場合ヲ問ハス亦其行為ヲ銷除スルコトヲ得
右規定ハ此他ノ原因ニ由リ有能力者ノ為メニ許与セル銷除ノ訴権ヲ妨ケス
第五百七十条 未成年者一人ニテ特別ナル方式又ハ条件ノ必要ナキ契約又ハ行為ヲ承諾シタルトキハ銷除訴権ハ其未成年者ノ為メ金銭ヲ以テ見積ルコトヲ得ヘキ欠損アルトキニ非サレハ之ヲ受理セス
法律カ保管人ノ輔佐ノミヲ要シタルトキ其輔佐ナクシテ既脱後見ノ未成年者ノ為シタル右ト同一ナル性質ノ行為ハ欠損ニ因ルニ非サレハ之ヲ攻撃スルコトヲ得ス
欠損ハ行為ノ時ニ於テ之ヲ見積リ其偶然ノ事件ヨリ生スルモノハ之ヲ算入セス
第五百七十一条 未成年者カ成年ナリトノ陳述ノミニテハ其無能力又ハ欠損ニ因ル訴権ヲ妨ケス但其成年タルコトヲ信セシムル為メ詐術ヲ用ヰタルトキハ此限ニ在ラス此他ノ無能力者ノ虚偽ノ陳述ニ付テモ亦同シ
第五百七十二条 商業又ハ工業ヲ営ムノ許可ヲ得タル既脱後見ノ未成年者ハ其営業ニ関スル行為ニ付テハ之ヲ成年者ト看做ス
第五百七十三条 婦ノ行為及ヒ義務ハ配偶者ノ相互ノ権利及ヒ本分ニ関シ本法ニ定メタル場合ニ非サレハ婦又ハ夫ノ請求ニ因リテ之ヲ銷除スルコトヲ得ス
第五百七十四条 承諾ノ瑕疵又ハ欠損ニ因リ行為ノ銷除ヲ得タル成年者ハ其行為ニ因リテ既ニ受取リタル総テノ物ヲ返還スルノ責ニ任ス
無能力者ハ銷除ヲ得タル行為ニ因リテ仍ホ現ニ己レヲ利スル物ノミヲ返還スルノ責ニ任ス
右返還ヲ要求スル訴権ハ通常ノ時効ニ因ルニ非サレハ消滅セス
第五百七十五条 不動産ノ譲渡カ無能力錯誤強暴又ハ缺損ノ瑕疵ニ因ル銷除ニ服スルトキハ第三百七十二条及ヒ第三百七十三条ノ区別及ヒ条件ニ従ヒ第三取得者ニ対シテ其銷除ヲ為スコトヲ得
第五百七十六条 缺損ニ因ル銷除ノ訴ノ被告ハ事実ノ判決カ確定セサル間ハ正当ト認メラレタル缺損ノ全部ノ替償ト裁判費用トヲ原告ニ提供シテ其訴ノ効力ヲ止ムルコトヲ得
第五百七十七条 利害ノ関係アル当事者カ時効ノ開進ニ関シ第五百六十七条ニ定メタル時期ノ後銷除ノ原因アル契約ヲ明示又ハ黙示ニテ認諾シタルトキハ其銷除ノ訴権ヲ行フコトヲ得ス
第五百七十八条 明示ノ認諾ハ契約ノ要旨及ヒ其銷除ノ原因ヲ記シ且銷除訴権ノ放棄ヲ述ヘタル明白ナル証書ニ因リテ成ル
銷除ノ数箇ノ原因アルトキハ明示ノ認諾ハ時ニ証書ニ記シタル原因ノミヲ除去ス
成年者ノ利益ノ為メ欠損ニ因ル銷除ニ服スル行為ハ明示ヲ以テシ且原契約ノ後ニ於テスルニ非サレハ之ヲ認諾スルコトヲ得ス
第五百七十九条 黙示ノ認諾ハ左ノ行為ニ因リテ成ル
第一 契約ノ全部若クハ一分ノ任意ノ履行
第二 異議ヲ為サス又ハ異議ヲ留メサル強制ノ執行
第三 更改
第四 物上又ハ対人ノ担保ノ任意ノ供与
債権者ニ在リテハ黙示ノ認諾ハ裁判上ノ履行請求及ヒ銷除ニ服スル契約ヲ以テ取得シタル物ノ全部又ハ一分ノ任意譲渡ニ因リテ成ル
此他ノ黙示ノ認諾ハ之ヲ裁判所ノ審定ニ委ス
第五百八十条 認諾ハ銷除訴権ヲ有スル者ノ特定ノ承接人ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス
第五百八十一条 根源ヨリ無効ナル行為ハ之ヲ認諾スルコトヲ得ス但方式上無効ナル生贈又ハ遺言ノ相続人ノ認定ニ関シ下ノ附録ニ掲ケタル規定ヲ妨ケス
第五百八十二条 算数、氏名、日附又ハ場所ノ錯誤ノ改正ヲ目的トスル訴権ハ時効ニ罹ルコト無シ但右ニ関係スル権利ノ時効ヲ妨ケス
第八節 廃罷及ヒ解除
第五百八十三条 債権者ノ詐害ニ因リテ約束シタル義務ノ廃罷及ヒ廃罷訴権ノ時効ハ第三百六十条乃至第三百六十四条ノ規定ニ従フ
生贈者及ヒ其相続人ノ利益ノ為メ設ケタル特別ノ廃罷ハ生贈ノ章ニ掲ケタル規定ニ従フ
第五百八十四条 義務ハ第四百二十九条、第四百四十一条及ヒ第四百四十二条ニ従ヒ契約上又ハ裁判上ノ解除ニ因リテ消滅ス
解除ノ訴権ハ通常ノ時効期間ニ従フ但法律ヲ以テ其期間ヲ短縮シタル場合ハ此限ニ在ラス
附録 自然義務
第五百八十六条 自然義務ノ履行ハ訴ノ方法ニ依リテモ相殺ノ排斥ニ依リテモ之ヲ要求スルコトヲ得ス其履行ハ債務者ノ任意ナルコトヲ要シ法律ハ其道義心ニ委ス
又自然義務ハ第三者ヨリ債務者ノ名ヲ以テシ又ハ自己ノ名ヲ以テ之ヲ弁済スルコトヲ得
第五百八十七条 債務者又ハ第三者ノ任意ノ弁済又ハ供与ハ不当ノ弁済ナリトシテ之ヲ取戻スコトヲ得ス
自然義務ヲ弁済シタル意思ノ証拠カ事情ヨリ生スルニ於テハ弁済ノ原因ヲ明示センコトヲ必要トセス
第五百八十八条 自然義務ハ債務者ノ明白ナル認定、第三者ノ保証、債務者若クハ第三者ノ為セル更改又ハ動産質若クハ抵当ノ供与ノ目的タルコトヲ得
此諸種ノ場合ニ於テ自然義務ハ通常ノ法定ノ効力ヲ生ス
第五百八十九条 第三者カ債務者ノ代理ノ委任ヲ受ケスシテ自然義務ノ履行、更改又ハ担保ヲ為シタルトキハ債務者ハ其償還ニ付テハ自然義務ノミヲ負担ス
第五百九十条 自然義務ノ任意履行、更改、認定又ハ担保ハ譲渡ヲ為シ又ハ義務ヲ負担スルノ能力アル人ニ出ツルニ非サレハ其効ナシ
第五百九十一条 自然義務ハ法定ノ承諾ヲ阻却スル錯誤ノ為メ目的ノ指定ノ欠缺若クハ不足ノ為メ又ハ必要ナル公式ノ欠缺ノ為メ根源無効ナル契約ヨリ生スルコトヲ得
然レトモ方式ノ欠缺ノ為メ無効ナル生贈ニ関シテハ生贈者自ラ自然義務ノ履行又ハ認定ヲ為スコトヲ得ス其相続人又ハ承接人ノミ之ヲ為スコトヲ得
前項ノ規定ハ方式上無効ナル遺言ヲ為セル者ノ相続人ニ之ヲ適用ス
第五百九十二条 原因ノ欠缺又ハ不法ノ原因ノ為メ無効ナル契約ハ自然義務ヲ生スルコトヲ得ス公ノ秩序ノ為メ契約ノ目的トスルコトヲ禁シタル物ヲ目的ト為ス契約ニ付テモ亦同シ
第五百九十三条 第三百四十三条及ヒ第三百四十四条ニ因リ無効ナル契約ハ諾約者ノ自然義務ヲ生スルコトヲ得
第五百九十四条 債務者カ不当ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ規定ニ因リ法定義務ヲ負担スルコト有ル可キ場合ノ外債務者ハ此名義ニテ自然義務ヲ負担シタリト有効ニ自ラ認定スルコトヲ得
第五百九十五条 自然義務ハ法定義務ノ銷除、廃罷又ハ解除カ裁判上ニテ宣告セラレタル後存立スルコトヲ得
此他法定義務カ法律上ノ消滅方法ニ因リ消滅シタル後ニ於テモ亦同シ
第五百九十六条 免責又ハ取得ノ時効ノ利益ヲ用ヒタル者確定シタル判決ノ利益ヲ受ケタル者又ハ其他ノ推定若クハ証拠ヲ申立ツルコトヲ得ヘキ者ハ尚ホ自然義務ヲ負担セリト自ラ認定スルコトヲ得
第五百九十七条 自然債権ノ法定ノ譲渡ハ協諧契約ヲ以テ破産者ニ免除シタル金額ニ付キ其債権者ノ之ヲ為シタル場合ノミ有効ナリ
第五百九十八条 連帯又ハ不可分ノ資格ヲ有スル法定義務ニ代替シ又ハ其消滅後ニ存立スル自然義務ハ連帯又ハ不可分タルコトヲ得
第五百九十九条 裁判所カ自然義務ノ任意履行、認定其他ノ法律上ノ効力ヲ裁判ス可キトキハ全権ヲ以テ債務者ノ意思ヲ判決ス然レトモ裁判所カ前数条ノ規定ニ付キ誤謬ノ適用ヲ為シタルトキハ其判決ハ之ヲ破毀ニ付ス
第六百条 当事者ハ自然義務ノ任意ノ履行又ハ認定アラサル前ト雖モ仲裁契約ヲ以テ其自然義務ノ成立又ハ広狭ヲ仲裁人ノ決定ニ委スルコトヲ得此場合ニ於テハ自然義務ヲ宣言シタル其決定ハ法定ノ義務ヲ生ス然レトモ法律カ自然義務ヲ無シトスル場合ニ於テ有リトシ之ヲ有リトスル場合ニ於テ無シト宣言シタルトキハ其決定ハ無効ナリ但右孰レノ場合ニ於テモ当事者ガ仲裁人ニ仲裁ノ全権ヲ与ヘタルトキハ此限ニ在ラス