旧民法・法例(明治23年)

民法草案 第四編

参考原資料

    法律取調委員会の議事筆記から抽出して作成した.

第四編 債権即チ人権ノ抵保即チ担保 前置条例 第千一条 法律ノ条例又ハ人ノ処分ニ因リ差押フルコトヲ得スト定メタル物ヲ除キ債務者ノ総テノ財産ハ動産ナルト不動産ナルト現在ノモノナルト将来ノモノナルトヲ問ハス其債権者ノ共同ノ抵保ナリ 差押ヘタル財産カ債務者ノ総テノ義務ヲ弁償スルニ足ラサル場合ニ於テハ其価額ハ債権ノ目的、原由、態様又ハ相互ノ日附如何ニ拘ハラス其債権額ノ割合ニ応シテ諸種ノ債権者ニ之ヲ付与ス但其債権者ノ間ニ優先ノ正当ナル原由アルトキハ此限ニ在ラス 財産ノ差押並ニ売買及ヒ順序ニ因レル代価配当即チ分配ノ方式ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス 第千二条 義務ノ履行ハ対人ト物上トヲ問ハス特別ナル担保ヲ以テ之ヲ保スルコトヲ得対人ノ抵保即チ担保ハ左ノ如シ 第一 保証 第二 債務者又ハ債権者ノ間ノ連帯 第三 任意ノ不可分 是等ノモノハ此編第一部ノ目的タリ 物上ノ抵保即チ担保ハ左ノ如シ 第一 留置権 第二 動産質権 第三 不動産質権 第四 先取特権 第五 抵当権 是等ノモノハ此編第二部ノ目的タリ 第一部 対人ノ抵保即チ担保 第一章 保証 第千三条 保証ハ債務者ヨリ任意ニテ債権者ニ供セラル但其法律上又ハ裁判上ニテ命セラレタル場合ハ此限ニ在ラス 此章ノ条例ハ三種ノ保証ニ共通ナリ 法律上及裁判上ノ保証ニ特別ナル規則ハ下ノ附録ニ之ヲ記載ス 第一節 保証ノ目的及ヒ本性 第千四条 保証ハ或ル人カ第三者ノ其義務ヲ履行セサルニ於テハ之ヲ弁償スルコトヲ約スル契約ナリ此約務ハ右ノ不履行カ債務者ノ過愆ニ帰ス可キトキハ其不履行ニ付キ債権者賠償スルノ約務ヲ暗ニ包含ス 第千五条 保証ハ若シ主タル義務ノ目的ニ非サル目的ヲ有スルトキハ保証トシテハ無効ナリ 然レトモ保証人ハ主タル債務者ノ約シタル物又ハ所為ノ対価ト看做シ不履行ヲ予見シタル過怠約定ト看做シタル金額ヲ有効ニ諾約スルコトヲ得 第千六条 保証人ノ義務ハ主タル義務ヨリ一層大ナルコトヲ得ス又主タル義務ヨリ一層重キ条件又ハ態様ニ服スルコトヲ得ス若シ保証人ノ負担シタル義務カ一層大ナルトキ又ハ一層重キトキハ主タル義務ノ限度及ヒ態様ニ之ヲ減ス 第千七条 債務者カ其主タル義務ノ為メ物上ノ抵保即チ担保ヲ供セサルトキハ前条ノ禁示条例ハ保証人カ其従タル義務ノ物上ノ抵保即チ担保ヲ供スルコトヲ妨ケス又保証人カ主タル債務者ヨリ一層厳ナル執行方法ニ服スルコトヲモ妨ケス 保証人ハ亦自ラ「保証人ノ引受人」ト称スル第三者ヲシテ己レヲ保証セシムルコトヲ得此引受人ニ対シテハ保証人ハ主タル債務者ノ資格ヲ有ス 第千八条 金額又ハ定マリタル物ニ制限セラレタル保証ハ負担セラレタル物ノ利息ニモ果実ニモ又其他ノ附従物ニモ及フコト無シ 然レトモ主タル義務ノ無限ノ保証ハ要約セラレタルト遅延ナルトヲ問ハス其利息及ヒ其他右債務ノ天然上、法律上又ハ合意上ノ附従物ニ及フ其保証ハ亦主タル債務者ニ対シテ為サレタル最初ノ請求ノ費用及ヒ訴追カ保証人ニ告知セラレタル後主タル債務者ニ対シテ為サレタル費用ニ及フ 第千九条 総テ有効ナル義務ハ保証サラルヽコトヲ得 無能力者ノ取消スコトヲ得ヘキ義務ト雖モ亦有効ニ保証セラルルコトヲ得テ其義務カ裁判上ニテ取消サレタル後ト雖モ保証ハ其効力ヲ保存ス但保証人カ其保証ノ際債務者ノ無能力ヲ知リタルトキニ限ル 其他第三者ノ天然義務ノ法定保証ノ場合ハ第五百八十八条以下ニ之ヲ規定ス 第千十条 何人ニテモ将来ノ債務ヲ保証スルコトヲ得然ノミナラス債権者又ハ債務者ノ方ニ於テ随意ノ条件ニ繋ル債務ヲモ保証スルコトヲ得但保証人ニ於テ其債務ノ本性及ヒ広狭ヲ査定スルコトヲ得ルトキニ限ル 第千十一条 何人ニテモ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ其不知ニ於テ又然ノミナラス其意ニ反シテ其債務者ノ保証人ト為ルコトヲ得 弁済シタル保証人ノ其債務者ニ対する求償ノ種々ノ場合ハ第二節第二款ニ於テ之ヲ規定ス 第千十二条 有効ニ第三者ノ保証人ト為ルニハ債務者ニ対スルト一般ナルトヲ問ハス無償名義ニテ義務ヲ負担スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス 然レトモ若シ主タル契約カ有償名義ナルトキハ債務ニ対スル保証人ノ相対無能力ハ債権者カ其無能力ヲ知リタルトキニ非サレハ保証人ヨリ債権者ニ之ヲ対抗スルコトヲ得ス 第千十三条 債務ヲ保証スルノ意思カ明確ニ表示セラレサルトキハ其意思ハ明ニ情況ヨリ生スルコトヲ要ス然レトモ其意思ハ契約者ノ一方ヲ他ノ一方ニ薦メ又ハ其一方ノ現在又ハ将来ノ有資力ヲ確言シタル事実ノミヨリ其意思ヲ推測スルコトヲ得ス 若シ証書ノ署名者中一人カ共同債務者ナリヤ又ハ保証人ナリヤニ付キ疑アルトキハ其一人ハ単純ナル保証人ト看做サル 第千十四条 保証人ノ約務ハ其相続人ノ負担ニ帰シ又債権者ノ相続人ノ利益ニ帰ス但反対ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス 第千十五条 債務者カ保証人ヲ供ス可キ合意ヲ以テ義務ヲ負ヒタルトキハ其債務者ハ債務ノ本性及ヒ重要ニ関シ顕然ナル又ハ証明スルニ容易ナル有資力ノ人ニ非サレハ保証人トシ又ハ保証人ノ引受人トシテ供スルコトヲ得ス 若シ右ノ如クニ供セラレタル保証人又ハ其引受人カ無資力ト為リタルトキハ債務者ハ之ト同一ノ条件ヲ具フル他ノ者ヲ供スルコトヲ要ス 其他保証人ハ弁済ノ為サル可キ控訴院ノ管轄地内ニ於テ住所ヲ有シ又ハ之ヲ選定スルコトヲ要ス 債権者ヨリ人ヲ指定シテ保証人ヲ要約シタルトキハ前記ノ条件ヲ要セス 第千十六条 若シ債務者カ上ニ要セラレタル条件ヲ具フル保証人又ハ引受人ヲ供スルコト能ハサルトキハ裁判所ノ認可ヲ得テ動産又ハ不動産ノ物上抵保ヲ与フルコトヲ得 第千十七条 商ヒ証券ノ保証ノ特例及ヒ仲買人カ委託者ニ対シテ約シタル担保ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス 第二節 保証ノ効力 第一款 保証人ト債権者トノ間ニ於ケル保証ノ効力 第千十八条 債権者ハ債務者ニ為シタレトモ効果アラサリシ弁済又ハ履行ノ催告ノ証ヲ供セスシテ保証人ヲ訴追スルコトヲ得ス 然レトモ若シ債務者カ行方知レス又ハ宣告セラレタル破産若クハ顕然タル無資力ノ形状ニ在ルトキハ右ノ催告ヲ必要トセス 第千十九条 其他保証人ハ下ノ制限及ヒ条件ニ従ヒ債権者カ予メ債務者ノ財産ヲ討索シテ之ヲ売ラシムルコトヲ債権者ニ要求スルコトヲ得 第千二十条 保証人カ明示又ハ黙示ニテ財産討索ノ利益ヲ放棄シ又ハ主タル債務者ト連帯シテ義務ヲ負担シタルトキハ保証人ハ討索ノ利益ヲ享ケス 総テノ場合ニ於テ若シ保証人カ基本ニ於テ主タル債務ヲ争フノ前ニ債権者ニ討索ノ利益ヲ対抗セサリシトキハ保証人ハ其利益ヲ失フ 第千二十一条 討索ヲ要求スル保証人ハ債権者ノ訴追ニ於テ債務者ノ不動産ニシテ弁済ノ為サル可キ控訴院ノ管轄地内ニ在ルモノヲ指示スルコトヲ要ス 保証人ハ争ニ係ル不動産ヲモ又優先ニテ他ノ債権者ニ抵当ト為サレタル不動産ヲモ又訴追シタル債権者ニ抵当ト為サレタル不動産カ第三保有者ノ手裏ニ存スルトキハ不動産ヲモ指示スルコトヲ得ス 債務者ニ属スル物又ハ移動有価物ニ関シテハ保証人ハ其物又ハ有価物カ物上抵保トシテ既ニ債権者ニ供セラレタルトキニ非サレハ其討索ヲ要求スルコトヲ得ス 第千二十二条 若シ債権者カ有効ニ討索ヲ対抗セラレタル債務者ノ財産ヲ討索スルコトヲ怠リテ債務者カ其後無資力ト為リタルトキハ保証人ハ債権者カ討索ニ因リ得タル可キ金額ニ満ツルマテ其義務ヲ免カル 第千二十三条 若シ人ノ債務者ノ為メ数名ノ保証人アルトキハ債務ハ分頭即チ均等ノ部分ニテ当然其間ニ分タル但其部分カ右ニ異ナリテ定メラレ又ハ右ノ保証人カ或ハ債務者ト共ニ或ハ自己ノ間ニ連帯シテ義務ヲ負担シ若クハ其他ノ方法ニテ分割ヲ放棄シタルトキハ此限ニ在ラス 保証ノ約務カ各別ノ証書ヨリ生スルトキト雖モ右ノ利益存在ス 第千二十四条 保証人カ討索ノ利益ヲ用ヒタルト否トヲ問ハス又分割ノ利益ヲ享クルト否トヲ問ハス裁判上ニテ訴追セラレタルトキハ其保証人ハ第千二十九条ニ明示シタル目的ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ参カラシムル為メ基本ニ於ケル総テノ答弁前ニ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ条件ニ従ヒ債権者ニ延期抗弁ヲ対抗スルコトヲ得 第千二十五条 保証人カ基本ニ付テ答弁スルトキハ債権者ニ主タル債務ノ組成又ハ其消滅ヨリ生シタル抗弁又ハ不受理ノ理由ヲ対抗スルコトヲ得 保証人カ債務ヲ保証スルニ当リ債務者ノ無能力又ハ其承諾ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ保証人ハ亦是等ノ事項ヨリ生スル無効方法ヲ対抗スルコトヲ得 第千二十六条 右ノ抗弁ニ付キ債権者ト保証人トノ間ニ為サレタル判決ハ債務者ヲ害スルコトヲ得ス然レトモ之ヲ利スルコトヲ得 然レトモ右ノ判決ノ牽連シタル箇条ハ債務者ニ利ナルモノト不利ナルモノトヲ分ツコトヲ得ス 第千二十七条 債務者ニ対シテ時効ヲ中断シ又ハ債務者ヲ遅滞ニ付スル所為ハ保証人ニ対シテ同一ノ効力ヲ生ス 保証人ニ対シテ為シタル右同一ノ所為ハ保証人カ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ債務者ト連滞シテ義務ヲ約シタルトキニ非サレハ債務者ニ対シテ時効ヲ中断セス 第千二十八条 主タル債務者ノ為シタル自白又ハ債務ノ認知及ヒ債務者ト債権者トノ間ニ為シタル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絶ハ保証人ヲ利シ又ハ之ヲ害ス 保証人ト債権者トノ間ニ為シタル右同一ノ所為ハ債務者ヲ利ス然レトモ委任又ハ連帯アル場合ニ非サレハ之ヲ害セス 第二款 保証人ト債務者トノ間ニ於ケル保証ノ効力 第千二十九条 債権者ヨリ訴追セラレタル保証人ハ第四百十九条及ヒ第千二十四条ニ掲ケタル如ク主タル請求ニ対シ債務者ノ答弁ヲ要ス可キ場合ニ於テ其答弁ヲ為サシムル為メ又債務者カ敗訴ノ言渡ヲ受クル場合ニ於テハ其債務者ニ対シ次条ニ定メタル賠償ノ言渡ヲ得ル為附帯ノ請求ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ召喚スルコトヲ得 右ノ附帯ノ担保請求ハ債務者ノ委任ヲ受ケテ義務ヲ約シタル保証人ノミニ属ス 第千三十条 主タル債務ヲ任意ニテ弁済シ又ハ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務者ニ義務免除ヲ得セシメタル保証人ハ下ニ定メタル区別ニ従ヒ債務者ヲシテ己レニ賠償セシムル為メ之ニ対シテ担保訴権ヲ有ス 第一 若シ保証人カ債務者ノ委任ニ憑テ義務ヲ約シタルトキハ其保証人ハ其債務者ニ義務免除ヲ得セシメ又ハ債務者ノ名ニテ弁済シタル元本及ヒ利息ノ額其担当シタル費用、立替ヲ為シタルトキヨリ其立替金ノ利息及ヒ其他損害アルトキハ総テ其損害賠償ノ金額ヲ債務者ヲシテ己レニ償還セシム 又此委任ノ場合ニ於テ保証人ハ其保証人タルノ分限ヲ以テ言渡ヲ受ケタル時ヨリ賠償ヲ受クル為メ訴フルコトヲモ得 第二 若シ保証人カ債務者ノ知ラサルニ事務管理者トシテ義務ヲ約シタルトキハ其保証人ハ債務者ノ義務免除ノ日ニ於テ之ニ得セシメタル有益ノ限度ニ於テ右ノ賠償ヲ受ク 若シ保証人カ債務者ノ意ニ反シテ義務ヲ約シタルトキハ右ノ賠償ハ保証人ノ求償ノ日ニ於テ債務者ノ為メ存在スル有益ノ限度ニ非サレハ保証人ニ弁済セラレス 第千三十一条 連帯又ハ不可分ニテ責ニ任スル数名ノ債務者ヨリ保証人ニ委任ヲ為シタル場合ニ於テハ其総テノ債務者ハ第九百四十五条ニ従ヒ保証人ニ対シ連帯ノ担保人タリ 第千三十二条 第千三十条ニ定メタル求償権ハ債務者カ請求ニ対抗ス可キ手続失効ノ答弁方法ヲ有シタルコトヲ証明スルトキハ其債務者ヲ訴訟ニ参カラシムルコトヲ怠リタル保証人ニ属セス 若シ債務者カ債権者ニ対抗ス可キ延期抗弁ノミヲ有シタルトキハ懈怠ノ保証人ノ求償ニ対シ亦之ヲ対抗スルコトヲ得 第千三十三条 保証人カ有効ニ弁済シタルモ債務者ニ有益ニ其弁済ヲ通知スルコトヲ怠リテ債務者カ善意ニテ再ヒ弁済シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ有償名義ニテ自己ノ免責ヲ得タルトキハ保証人ハ亦其求償権ヲ失フ 右ニ反シテ債務者カ自ラ債務ヲ消滅セシメタルコトヲ保証人ニ通知スルコトヲ怠リタルトキハ債務者ハ場合ニ従ヒ其債務ノ消滅後保証人ノ為シタル弁済ニ付キ責任アリト宣告セラルルコトヲ得 是等種々ノ場合ニ於テ利害ノ関係アル当事者ハ受取ルコトヲ得サルモノヲ受取リタル債権者ニ対シテ求償権ヲ有ス 第千三十四条 委任ヲ受ケテ義務ヲ約シタル保証人ハ弁済スル前然ノミナラス訴追セラルヽ前ト雖モ左ノ三箇ノ場合ニ於テ予メ債務者ヨリ賠償ヲ受クル為メ又ハ未定ノ損失ヲ担保セシムル為メ債務者ニ対シテ訴ヲ起スコトヲ得 第一 若シ債務者カ破産シ又ハ無資力ト為リテ債権者カ清算ニ於テ配当ヲ受ク可キ順序中ニ入ラサルトキ 第二 若シ債務ノ満期ニ到リタルトキ 第三 若シ債務カ其日附ヨリ十个年ヲ過キテ其満期カ極点ニ付テモ不定ナルトキ 第千三十五条 債権者カ完全ノ弁済ヲ受ケサル間ハ前条及ヒ第千三十条ニ拠リ予メ保証人ニ供ス可キ賠償ハ債務者其債権者ニ対シ自己ノ免責ヲ保スル為メ債権者ノ名ヲ以テ之ヲ供託シ又ハ其他ノ方法ニテ之ヲ留保スルコトヲ得 第千三十六条 主タル債務ヲ弁済シ又ハ其他ノ方法ヲ以テ債権者ニ弁済シタル保証人ハ己レノ権利ニテ有スル訴権ノ外第千三十二条及ヒ第千三十三条ニ定メタル制限ニ従ヒ債務者又ハ第三者ニ対シテ債権者ノ有シタル総テノ権利ニ付キ第五百四条第一号ニ従ヒテ代位ス 右代位ノ利益ハ総テノ保証人ノ為メニ存シ又債務者ノ意ニ反シテ義務ヲ約シタル保証人ノ為メニモ存ス 若シ債権者カ債務者ノ不動産ニ付キ先取特権又ハ抵当権ノ記入ヲ為シタルトキハ保証人ハ自己ノ得ヘキ代位ニ着目シテ自己ノ条件付ノ債権ヲ右記入ノ縁辺ニ附記セシムルコトヲ得又移付ノ場合ニ於テハ第三保有者ハ滌除ノ為メノ提供中ニ保証人ノ条件付ノ債権ヲ包含セシムルコトヲ要ス 若シ債権者カ有益ナル時期ニ於テ記入ヲ為サヽリシトキハ保証人ハ第五百三十四条及ヒ第千四十五条ニ従ヒ債権者ニ対シテ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得 第千三十七条 若シ連帯又ハ不可分ナル義務ノ数名ノ債務者アルトキハ保証人カ其中或ル者ヲ保証シ他ノ者ヲ保証セサルトキト雖モ保証人ハ右ノ代位ニ憑リ債務者ノ各自ニ対シ全部ニ付キ求償スルコトヲ得 第三款 共同保証人ノ間ニ於ケル保証ノ効力 第千三十八条 同一ノ債務ニ付キ数名ノ保証人即チ共同保証人アリテ其中ノ一人カ債務ノ全部ヲ弁償シタルトキハ任意ニ出テタルト否トヲ問ハス保証人ハ主タル債務者ニ対スル其求償ニ付キ上ニ記載シタル条件、制限及ヒ区別ニ従ヒ或ハ事務管理ノ訴権ニ因リ或ハ債権者ノ訴権ニ因リ分頭部分ニ付他ノ保証人ノ各自ニ対シテ求償スルコトヲ得 若シ右ノ保証人カ債務ノ全部ヲ弁償セスシテ自己ノ部分ヨリ多ク弁済シタルトキハ右ノ超過額ノ為メノ求償ハ他ノ共同保証人ノ間ニ平等ニ分タル 第千三十九条 若シ共同保証人ノ一人カ無資力ナルトキハ弁済シタルモノハ無資力者ヲ保証シ即チ引受ケタル者ニ対シテ求償権ヲ有ス引受人アラサルトキ無資力者ノ部分ハ債務ヲ弁償シタル者ヲ加ヘ他ノ有資力ナル共同保証人ノ間ニ配当セラル 第千四十条 前条ニ憑テ訴ヘラレタル共同保証人ハ未タ主タル債務者ノ財産ノ討索アラサルトキハ第千二十条以下ニ於テ此事ニ付キ定メタル規則及ヒ条件ヲ遵字シテ予メ主タル債務者ノ財産ノ討索ヲ請求スルコトヲ得 右同一ノ権利ハ保証人ノ引請人ニ属ス 第千四十一条 若シ数名ノ保証人カ連帯シテ義務ヲ約シ又ハ不可分債務ノ為メ義務ヲ約シタルトキハ全部履行ニ付キ訴ヘラレタルモノハ同一ノ判決ヲ以テ前数条ニ許サレタル言渡ヲ共同保証人ニ対シテ得ル為メ本訴ニ附帯シテ共同保証人ヲ担保ニ召喚スルコトヲ得 第千四十二条 保証人ノ一人ニ対シテ為サレタル時効中断ノ所為及ヒ付遅滞ハ他ノ保証人ニ対シテ其効ナシ但其約務カ連帯ナルトキハ此限ニ在ラス 債権者ト保証人一人トノ間ニ主タル債務ニ関シ為サレタル判決、自白、認知及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絶ハ他ノ保証人ヲ利ス可キトキハ之ヲ利ス然レトモ之ヲ害スルコトヲ得ス 第千四十三条 保証人ノ一人又ハ数人カ無資力ト為リタルトキハ相互ニ連帯シタル保証人ノ間又ハ債務者連帯シタル保証人ニ第千六十八条第千六十九条及ヒ第千七十条ヲ其各条記載シタル区別ヲ以テ適用ス 第三節 保証ノ消滅 第千四十四条 保証ハ義務消滅ノ通常ノ原由ニ因リ直接ニ消滅ス 保証ノ更改、合意上ノ釈放、相殺及ヒ混同ハ第五百廿四条、第五百三十三条、第五百四十三条及ヒ第五百六十条ニ之ヲ規定ス 第千四十五条 債権者カ故意ノ所為ニ因リ又ハ単純ナル懈怠ニ因リテモ保証人ノ其代位ニ因リテ得取スルコトヲ得ヘキ抵保ヲ減シ又ハ危クシタルトキハ保証人ハ債権者ニ対シ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得 総テ保証人ハ区別ナク又保証人ノ引受人ハ保証人ノ権利ニ依リ右ノ権利ヲ援唱スルコトヲ得 第千四十六条 保証ハ主タル義務ヲ了終スル総テノ原由ニ因リ間接ニ消滅ス 債権者ト主タル債務者トノ間ニ為サレタル代物弁済、更改、合意上ノ釈放、相殺及ヒ混同ノ保証人ニ対スル効力ハ第四百八十二条、第五百二十三条、第五百二十八条、第五百四十三条及ヒ第五百六十条ニ之ヲ規定ス 附録 法律上ノ保証及ヒ裁判上ノ保証 第千四十七条 法律ノ条例又ハ判決ニ従ヒ保証人ヲ立ツルノ責ニ任スル者ハ自ラ保証人ヲ立テント約シタルトキト同一ノ条件及ヒ第千十五条並ニ第千十六条ニ定メタル如キ条件ヲ具フル保証人ヲ立ツルコトヲ要ス 法律上及ヒ裁判上ノ保証人承認ノ方式ハ民事訴訟法ニ之ヲ規定ス 第千四十八条 裁判所ハ法律ヨリ其裁判執行ノ為メ保証人ヲ立テシムルノ権能ヲ付与セラレタル場合ニ非サレハ其裁判執行ノ為メ保証人ヲ立ツ可キコトヲ命スルコトヲ得ス 第千四十九条 裁判上ノ保証人モ又其引受人モ討索ノ利益ヲ有スルコトヲ得ス 第千五十条 法律上ノ保証人及ヒ裁判上ノ保証人ハ其債務者ニ対スル担保ノ求償ニ関シテハ常ニ債務者ノ代理人ト看做サル 第二章 債務者ノ間及ヒ債権者ノ間ニ於ケル連帯 前置条例 第千五十一条 目的ニ付テハ単一ナルモ主タル当事者トシテ之ニ関係スル人ニ付テハ複合ナル義務ハ第四百五十八条ニ指示シ且下ノ二節ニ説明スル如ク受方又ハ働方ニテ連帯タルコトヲ得 第一節 受方ノ即チ債務者ノ間ニ於ケル連帯 第一款 受方連帯ノ本性及ヒ原由 第千五十二条 受方ノ即チ共同債務者ノ間ニ於ケル連帯ハ共同債務者ヲシテ其共通ノ利益ニ於ケルト債権者ノ利益ニ於ケルトヲ問ハス相互ニ代人タラシム 其連帯ハ当事者間ノ合意又ハ遺嘱又ハ法律ノ条例ヨリ生スルコトヲ得連帯ハ推定セラレス総テノ場合ニ於テ明示ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス但不可分ニ関シ第千九十一条ニ記シタルモノハ此限ニ在ラス 第千五十三条 数多ノ債務者ノ連帯義務ハ同一ノ証書ヲ以テ負担セラレ又同一ノ時ニ於テ負担セラレ又同一ノ場所ニ於テ負担セラルヽコトヲ要セス但義務ハ目的及ヒ原由カ同一ナルコトヲ要ス 連帯債務者ハ亦異別及ヒ不均ノ態様又ハ負担ヲ以テ責ニ任スルコトヲ得 第二款 受方連帯ノ効力 第千五十四条 数名ノ連帯債務者アル債権者ハ其訴追セント択ミタル債務者ニ対シ其債務者カ唯一人ノ債務者タル如ク且其債務者ヨリ討索ノ利益ヲモ又分割ノ利益ヲモ対抗セラルヽコト無ク義務全部ノ履行ヲ要求スルコトヲ得 又債権者ハ皆済ヲ受クルニ至ルマテ同時又ハ順次ニ総テノ債務者ヲ訴追スルコトヲ得 第千五十五条 各債務者ハ訴ヘラレタルト否トヲ問ハス連帯債務全部ノ弁済ヲ受クルコトニ債権者ヲ強要スルコトヲ得 第千五十六条 連帯債務者カ債務ノ全部又ハ債務ニ於ケル自己ノ部分ヨリ多クニ付キ訴ヘラレタルトキハ其共同債務者ヲ訴訟ニ召喚シ且附帯ノ担保方法ヲ以テ共同答弁又ハ弁済ニ於ケル分担ヲ得ル為メ必要ナル期間ヲ請求スルコトヲ得 共同債務者ハ亦其利益保護ノ為メ任意ニ自費ヲ以テ訴訟ニ参カルコトヲ得 第千五十七条 連帯債務ノ履行ニ付キ訴ヘラレタル各債務者ハ自己ノ権利ヲ以テスルト其共同債務者ノ権利ヲ以テスルトヲ問ハス義務ノ組成又ハ消滅ヨリ生スル抗弁即チ答弁方法ニ全部ニ付キ債権者ニ対抗スルコトヲ得 右ノ外更改、釈放、相殺及ヒ混同ニ関シテハ第五百二十三条、第五百二十八条、第五百三十一条第五百四十三条及ヒ第五百五十七条ヲ遵守ス 第千五十八条 債務者ノ一人ノ無能力又ハ承諾ノ瑕疵ニ基キタル答弁方法ハ其一人ノ債務者自身ニ非サレハ之ヲ援唱スルコトヲ得ス然レトモ右ノ答弁方法カ一旦認許セラレタル上ハ他ノ債務者カ義務ヲ負担スルニ当リ義務履行ニ付テノ無能力者又ハ承諾ニ瑕疵アル者ノ分担ヲ期スルコト有リタルトキハ其答弁方法ハ債務ニ於ケル其者ノ部分ニ付キ他ノ債務者ヲ利ス 第千五十九条 前二条ニ規定シタル種々ノ事項ニ付キ債権者ト債務者ノ一人トノ間ニ為サレタル判決、自白及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絶ハ他ノ債務者ノ損害又ハ其利益ニ於テ前二条ニ等シキ限度及ヒ区別ヲ以テ其効力ヲ生ス 第千六十条 一人ノ債務者ノ他ノ債務者ニ対スル連帯ノ成立ノミニ関シテ為サレタル判決、自白及ヒ裁判外ノ宣誓又ハ其拒絶ハ他ノ債務者ノ一ヲ害セス又之ヲ利セス 第千六十一条 連帯債務者ノ一人ニ対シ債権者ノ利益ニ於テ時効ヲ中断シ又ハ付遅滞ヲ成ス原由ハ他ノ債務者ニ対シテ同一ノ効力ヲ有ス 債務者ノ一人ニ対シ債権者ノ利益ニ於テ成立スル時効停止ノ原由ハ他ノ債務者ノ利益ニ於テ其部分ノ為メ時効ノ経過スルコトヲ妨ケス 第千六十二条 若シ連帯債務者ノ一人カ数名ノ相続人ヲ遺シテ死亡シ其相続人ノ部分カ均等又ハ不均等ナルトキハ他ノ債務者ノ一人ニ関スル訴追ノ所為、言渡、自白及ヒ宣誓又ハ其拒絶ハ債務ノ全部ニ於ケル各相続人ノ相続部分ノ為メニ非サレハ其各相続人ニ対シテ効力ヲ生セス 各相続人ハ亦其相続部分ノ為メニ非サレハ訴追セラレス又前記ノ所為ノ効力ヲ受ケス此場合ニ於テ前記ノ所為ハ亦従来ノ債務者ノ各自ニ対シ同一ノ限度ヲ以テ其効力ヲ生ス 債権者ト右相続人ノ一人トノ間ニ為サレタル右同一ノ所為ハ其共同相続人ニ対シテ効力ナシ 第千六十三条 若シ負担セラレタル物ノ滅失又ハ総テ其他ノ義務履行ノ不能カ連帯債務者ノ一人ノ過愆ニ因リ又ハ其付遅滞後ニ生スルトキハ他ノ債務者ハ債権者ニ対シ連帯シテ損害賠償又ハ過怠約定ノ責ニ任ス但債務者中過愆アリ又ハ遅滞ニ在リシ者ニ対スル他ノ債務者ノ求償権ヲ妨ケス 従来ノ債務者ノ一人カ死亡シタルトキハ他ノ債務者ト死者ノ相続人トノ相互ノ責任ハ前条ニ従ヒテ之ヲ規定ス 第千六十四条 連帯債務者中ニテ自己ノ出捐ヲ以テ全部又ハ一部ニ付キ債務ヲ弁済シ又ハ共同ノ免除ヲ得セシメタル者ハ他ノ各債務者ニ対シ債務又ハ自己ノ弁済シタルモノニ於ケル其各債務者ノ実担部分ニ付キ自己ノ権利ヲ以テ求償権ヲ有ス 右ノ求償中ニハ会社及ヒ代理ノ規則ニ従ヒ弁償金及ヒ必要ナル出捐ノ賠償ノ外弁償以後ノ法律上ノ利息及ヒ避クルコトヲ得サリシ費用ヲ包含ス 第千六十五条 債務ノ全部又ハ一分ヲ弁済シタル債務者ハ亦債権者ノ実際受取リタルモノヽ限度ニ於テノミ第五百四条第一号ニ従ヒ法律上ノ代位ニ因リ其債権者ノ権利及ヒ訴権ヲ行フコトヲ得 然レトモ其債務者ハ前条ニ記載シタル如ク其共同債務者ノ各自ノ間ニ於テ自己ノ訴ヲ分ツノ義務アリ 第千六十六条 不注意ニテ弁済シタル保証人ニ対シ第千三十二条及ヒ第千三十三条ニ掲ケタル求償ノ失権ハ之ト同一ノ場合ニ於テハ訴追又ハ弁済ヲ共同債務者ニ告知スルコトヲ怠リタル連帯債務者ニ対シ之ヲ宣告スルコトヲ得 第千六十七条 若シ共同債務者ノ一人カ上ニ指示シタル方法ノ一ニ因リ求償ノ行ハレタル当時ニ於テ無資力ナルモ要求者ノ責ニ帰スヘキ懈怠アラサリシトキハ無資力者ノ部分ハ弁済シタル者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ割合ニ応シテ之ヲ配当ス 第千六十八条 若シ連帯債務者ノ一人ノ無資力カ何等ノ弁済モ有ラサル前ニ生シタルトキハ債権者ハ其債権ノ全額ニ付清算中ニ加ハルコトヲ得 此ノ如クシテ債権者ノ弁済ヲ受ケサルモノハ他ノ債務者之ヲ負担シ其債務者ノ自己ノ部分外ニ弁済シタルモノニ対スル求償カ其清算ニ加ハリタル他ノ債権者ヲ害スルコトヲ得ス 第千六十九条 若シ債務者ノ一人カ無資力ト為ル前ニ一回又ハ数回ノ一分弁済アリタルトキハ債権者ハ其未タ受ケサルモノヽ為メニ非サレハ無資力者ノ財産ノ清算中ニ加ハラス又一分弁済ヲ為シタル一人又ハ数人ノ債務者ハ第千六十四条ニ従ヒ自己ノ受ク可キモノヽ弁償ノ為メ清算ニ於テ債権者ト競分ス 第千七十条 総テノ連帯債務者又ハ其中ノ数人ガ何等ノ弁済モ有ラサル前ニ無資力ト為リタル場合ニ於テ債権者ハ其債権ノ全額ノ為メ各清算中ニ自己ノ債権ヲ記入セシム 然レトモ債権者カ清算ノ一ニ於テ最初ノ配当金ヲ受ケタルトキハ他ノ清算ニ於テ其債権ノ全額ニ従ヒ債権者ニ付与ス可キ新配当金ハ其未タ受ケサルモノヽ割合ニ応スルニ非サレハ債権者其払渡ヲ受クルコトヲ得ス 残余ノ物ハ各箇ノ清算カ名称債務ノ額内ニテ弁済シタルモノヽ割合ニ応シテ其各清算ヲ賠フ為メ特別ノ財団ヲ組成ス 第三款 受方連帯ノ絶止 第千七十一条 債権者其総テノ債務者ニ対スル連帯ノ放棄ハ第四百五十八条第一項ニ規定シタル如ク其債務者ノ間ニ於テ単ニ連合ノモノトシテ義務ヲ成立セシメ義務ノ其他ノ性質ヲ変スルコト無シ 第千七十二条 若シ放棄カ第五百三十二条ニ従ヒ明示又ハ黙示ニテ債務者ノ一人又ハ数人ニ対シテノミ為サレタルトキハ他ノ債務者ハ連帯ノ釈放ヲ得タル者ノ部分ニ於テノミ其義務ヲ免カル 若シ連帯ヲ免除セラレサル債務者中ニ無資力者アルトキハ債権者ハ其無資力中ニテ連帯ノ釈放ヲ為シタル者ノ部分ヲ負担ス 第千七十三条 債権者カ連帯債務者ノ一人ヨリ供シタル抵保ニシテ他ノ債務者カ弁済シテ代位スルコトヲ得ヘキモノヽ全部又ハ一分ヲ毀損シ又ハ滅失セシメタルトキハ他ノ債務者ハ債権者カ其抵保ヲ失ヒタル者ノ部分ニ付キ連帯ノ義務ヲ免カレント請求スルコトヲ得 此ノ如ク宣告セラレタル免責ハ連帯ノ任意釈放ト同一ノ効力ヲ有ス 第四款 単ニ完全ナル義務 第千七十四条 第百五十二条、第三百九十八条、第五百十九条第二項及ヒ其他総テ法律カ数人ノ債務者ノ義務ヲ其各自ニ対シ「完全即チ全部ノモノ」ト定メタル場合ニ於テハ其債務者ハ全部又ハ一分ニ付キ完全弁済ノ言渡ヲ受ケタルトキト雖モ相互代理ニ付セラレタル連帯ノ効力ヲ之ニ適用スルコトヲ得ス 然レトモ一人ノ債務者ノ為シタル弁済ハ債権者ニ対シテ他ノ債務者ヲ免除シ弁済シタル者ハ事務管理ノ訴権ニ依リ又ハ己レノ当然代位シタル債権者ノ訴権ニ依リ他ノ債務者ニ対シテ其部分ニ付キ求償権ヲ有ス 第二節 働方即チ債権者間ノ連帯 第一款 働方連帯ノ本性及ヒ原由 第千七十五条 同一債務者ノ数人ノ債権者間ニ於ケル連帯ハ権利ノ保存及ヒ行用ニ付キ債権者ヲシテ互ニ代人タラシム 其連帯ハ合意、遺嘱又ハ法律ノ明定ノミヨリ生スルコトヲ得 第千七十六条 数人ノ連帯債権者ニ対スル債務者ノ約務ハ同一ノ所為ヲ以テ又同一ノ時期ニ於テ又同一ノ場所ニ於テ之ヲ負担スルコトヲ必要トセス其義務ノ目的及ヒ原由カ同一ナルコトヲ要ス 債務者ハ亦数人ノ債権者ニ対シ種々ノ態様又ハ異別及ヒ不均ノ負担ヲ以テ義務ヲ負フコトヲ得 第二款 働方連帯ノ効力 第千七十七条 各連帯債権者ハ唯一ノ債権者ナル如ク義務全部ノ履行ヲ債務者ニ要求スルコトヲ得 債権者ノ一人カ訴ヲ起シタルトキハ他ノ各債権者ハ共通ノ利益及ヒ自己ノ利益ノ保護ノ為メ訴訟ニ参カルコトヲ得 第千七十八条 債務者ハ自己ノ方ニ在テハ他ノ債権者ヨリ訴追又ハ適式ノ要求ヲ為サヽル間ハ債務ノ全額ノ弁済ヲ受取ルコトニ債権者ノ各自ヲ強要スルコトヲ得之ニ反スル場合ニ於テハ要求者ニ対スルニ非サレハ弁済ヲ為スコトヲ得ス 若シ同時ニ数箇ノ要求アルトキハ債務者ハ合同シタル要求者ニ対スルニ非サレハ弁済ヲ為スコトヲ得ス 第千七十九条 義務組成ノ瑕疵ヨリ生シタル抗弁ニ付キ為サレタル判決ハ総テノ債務ニ付キ総テノ債権者ノ不利ニ於テ又ハ其利益ニ於テ其効力ヲ生ス其名ヲ訴訟ニ表ハササリシ者ニ対シテ亦同シ 第千八十条 若シ判決カ義務消滅ノ原由ヨリ生シタル抗弁ニ付キ為サレタルトキハ其判決ハ下ノ区別ヲ以テスルニ非サレハ訴訟ニ参カラサリシ債権者ニ対シテ其効ナシ 第一 第千七十八条ニ定メタル条件ニ従ヒ債権者ノ一人ニ為シタル弁済ハ全部ニ付キ総テノ債権者ニ之ヲ対抗スルコトヲ得又第五百四十四条第三項ニ記シタル如ク債権者ノ一人ニ対シ債務者ノ得取シタル相殺ノ原由カ債務者ノ第千七十八条ニ従ヒ其債権者ニ有効ニ弁済スルコトヲ得ヘキ時期ニ於テ生シタルトキハ其相殺ニ付テモ亦同シ 第二 一人ノ債権者ノ所為又ハ権利ヨリ生スル更改、合意上釈放及ヒ混同ハ第五百二十三条第三項第五百三十七条第一項及ヒ第五百五十七条第二項ニ従ヒ其債権者ノ部分ニ非サレハ債務ヲ消滅セシメス右ノ所為カ他ノ債権者ヨリ何等ノ訴追又ハ要求モ有ラサル前ニ為サルコトヲ要ス又右ニ等シキ所為ニ関シ及ヒ弁済又ハ相殺ニ関スル裁判外ノ宣誓又ハ其拒絶及ヒ和解ニ付テモ亦同シ 第千八十一条 債権者中ノ一人ノ一身ニ関シ其債権者ニ対シ債務者ニ属スル抗弁ニ付キ為サレタル判決ハ他ノ債権者ヲ害セス又之ヲ利セス又債務者ト債権者ノ一人トノ間ニ於テ連帯ニ於ケル其債権者ノ権利ニ付キ為サレタル宣誓又ハ其拒絶及ヒ和解ニ付テモ亦同シ 第千八十二条 債権者ノ一人ノ其債務者ニ対シテ時効ヲ中断シ又ハ之ヲ遅滞ニ付スルノ所為ハ全部ニ付キ他ノ債権者ヲ利ス 債権者ノ一人ノ利益ニ於テ法律ノ設定シタル時効ノ停止ハ債権ニ於ケル其部分ニ限リ其一人ノミヲ利ス 第千八十三条 若シ連滞債権者ノ一人カ数人ノ相続人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債権ノ分割及ヒ前ニ指示シタル所為ノ効力ハ第千六十二条ニ記載シタル如ク受方連滞ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ働方ニテ生ス 第千八十四条 義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ得タル連帯債権者ハ他ノ債権者ノ特別ノ関係及ヒ共通ノ利益ニ於ケル其相互ノ部分ニ従ヒ之ニ其利益ヲ分ツコトヲ要ス 第三款 働方連帯ノ絶止 第千八十五条 働方連帯ハ放棄ニ因テ止ム其放棄ハ明示ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第千八十六条 連帯ノ放棄ハ債権者ノ一人若クハ数人又ハ其総員ヨリ之ヲ為スコトヲ得 総テノ債権者ノ働方連帯ノ放棄ハ第千七十一条ニ規定シタル如ク受方連帯ノ放棄カ共同債務者ニ対シテ生セシムルト同一ノ効力ヲ其債権者間ニ生セシム若シ債権者ノ一人又ハ数人ノミカ放棄ヲ為シタル者ノ部分ニ付テノミ訴ヲ為シ又ハ弁済ヲ受クルノ権利ヲ失フ 第三章 任意ノ不可分 第千八十七条 連帯ノ放棄ハ債務者ノ承諾ナクシテ有効ナリ 然レトモ其放棄ハ之ヲ債務者ニ告知セシカ又ハ債務者明確ニ之ヲ知リタルトキニ非レハ前ノ規定ヲ以テ債務者ニ許シタル弁済又ハ其他ノ行為ニ対シテ之ヲ援唱スルコトヲ得ス 債務者ハ放棄ヲ利唱スルノ利益アルトキハ之ヲ利唱スルコトヲ得又放棄カ其権利ノ詐害ニ於テ為サレタルトキハ之ヲ駁撃スルコトヲ得 第千八十九条 任意ノ不可分カ債務者ノ負担又ハ債権者ノ利益ニ於テ明示ニテ設定セラレタルトキハ之ト同一ナル本性ノ連帯ハ黙示ニテ設定セラレタルト看做サル但反対ノ約定アルトキハ此限ニ在ラス 第千九十条 若シ任意ノ不可分カ債務者ノ負担ニ於テノミ設定セラレタルトキハ其不可分ハ同時ニ債権者ノ利益ニ於テ働方タル可キコトノ明定アリタルトキニ非サレハ存立セス 又債権者ノ利益ニ於テ設定シタル不可分ハ其同時ニ受方タル可キコトノ定メラレタルトキニ非サレハ債務者ノ負担ニ於テ存立セス 第千九十一条 受方ナルト働方ナルトヲ問ハス任意ノ不可分カ明示ニテ設定セラレタルトキハ受方又ハ働方ノ連帯其モノカ明示ニテ排除セラレサルニ於テハ従来ノ債務者又ハ債権者ノ間ニ於テ右連帯ノ効力ヲ生セシム 其他若シ債務者又ハ債権者ノ一人カ数名ノ相続人ヲ遺シテ死亡シタルトキハ債務者ノ各相続人ハ全部履行ノ要求ヲ為スコトヲ得但其各自ノ間ニ於テ連帯アルコト無シ 第千九十二条 従来ノ債務者ノ一人ニ対シ又ハ死亡シタル債務者ノ相続人ノ一人ニ対シテ時効ヲ中断スル原由ハ亦総テノ債務ニ付キ他ノ債務者又ハ相続人ニ対シテ中断ヲ生ス 又従来ノ債務者ノ一人ノ権利又ハ死亡シタル債権者ノ相続人ノ一人ノ権利ヨリ生スル時効ノ中断又ハ其停止ノ原由ハ他ノ債権者又ハ相続人ヲ利ス 第千九十三条 相続人ノ一人ノ付遅滞及ヒ過愆ハ他ノ相続人ヲ害セス 相続人ノ一人ニ不利ナル被判事物、自白及ヒ裁判外ノ宣誓ニ付テモ亦同シ 第千九十四条 債権カ同時ニ受方又ハ働方ニテ連帯及ヒ不可分ナルトキハ第五百三十二条及ヒ第千八十五条ニ記載シタル区別ニ従ヒ明示ナルト黙示ナルトヲ問ハス連帯ノ放棄ハ亦任意不可分ノ放棄ヲ惹起ス 右ニ等シク二箇ノ抵保ノ併セ存スル場合ニ於テ不可分ノ放棄ハ連帯ヲ存立セシム 第千九十五条 天然不可分ノ事項ニ関スル四百六十五条乃至第四百七十条、第五百二十三条第四項、第五百二十八条第三項、第五百三十一条第一項、第五百三十五条、第五百三十七条第二項、第五百四十三条第四項、第五百五十八条及ヒ第五百五十九条第二項ノ条例ハ任意ノ不可分ニ適用スルコトヲ得ヘキトキハ之ヲ適用ス 債権者カ不可分ニテ義務ヲ負フタル債務者ノ代位ニ因テ得ルコト有ル可キ抵保ヲ滅失セシメ又ハ減少セシメタルトキハ其債務者ハ債権者ニ対シ第千七十三条ヲ援唱スルコトヲ得 第二部 物上ノ抵保即チ担保 第一章 留置権 第千九十六条 留置権カ此法律第二編及ヒ第三編ノ特別条例ヲ以テ債権者ノ為メニ認メラレタル場合ノ外亦債権者カ既ニ正当ノ原由ニ依リ其債務者ノ動産物又ハ不動産物ヲ占有シ且債権カ此占有ニ連繋シ又ハ債権カ債権者ヨリ為シタル其物ノ譲渡ニ因リ或ハ其物ノ保存ノ為メニ為シタル費用ニ因リ或ハ所有者カ其物ニ生セシメタル損害ノ責ニ任ス可キトキハ此損害ニ因リ其物ニ関シテ生シタルトキハ其債務者ノ動産物又ハ不動産物ニ付キ総テノ債権者ニ属ス 委任ヲ受ケスシテ他人ノ事務ヲ管理シタル者ハ必要ノ費用及ヒ保持ノ費用ノ為メニ非サレハ其管理シタル物ニ付キ留置権ヲ享有セス 第千九十七条 若シ債権者カ其留置スルノ権利ヲ有シタル物ノ一分ノミヲ留置シタルトキ保存シタル部分カ総テノ債務ヲ担保スルニ足ルニ於テハ其部分ハ総テノ債務ヲ担保ス 之ニ反シテ債権者又ハ其相続人ハ債務者又ハ其相続人ヨリ一分ノ弁済ヲ享ケタリト雖モ全部ノ弁済ヲ受クルニ至ルマテ留置権ニ服シタル総テノ物ヲ保存スルコトヲ得 第千九十八条 留置権ハ物ノ価額ニ付キ債権者ニ先取特権ヲ与ヘス 然レトモ若シ留置シタル物カ天然又ハ法定ノ果実又ハ産物ヲ生スルトキハ留置者ハ他ノ債権者ニ先タチテ之ヲ収取スルコトヲ得但其果実又ハ産物ハ其債権ノ利息ニ充当シ又附随ニテ元本ニ充当スルコトヲ要ス 留置者ハ其収取スルコトヲ怠リタル果実及ヒ産物ニ付キ其責ニ任ス 第千九十九条 留置権ハ債務者カ留置セラレタル物ヲ移付シ又他ノ債権者カ之ヲ差押ヘ及ヒ之ヲ売却セシムルノ妨ト為ラス但其物カ差押フルコトヲ得サルモノナルトキハ此限ニ在ラス 然レトモ右孰レノ場合ニ於テモ得取者ハ留置債権者ニ全ク弁済セスシテ其物ヲ占有スルコトヲ得ス 第千百条 右ノ外動産又ハ不動産ノ留置者ハ次ノ二章ニ規定シタル如ク動産質債権者又ハ不動産質債権者ノ責任ト同一ノ責任ニ従フ 其他動産質及ヒ不動産質ニ関スル条例ハ此章ノ条例ニ触レサル諸件ニ付キ留置権ニ之ヲ適用ス特ニ債権者カ実際留置権ヲ行フコトヲ怠リ又ハ之ヲ行フコトヲ止メタルトキハ其留置権ヲ失フ 第二章 動産質 第一節 動産質契約ノ本性及ヒ組成 第千百一条 動産質ハ債務者カ一箇又ハ数箇ノ動産ヲ特ニ其義務ノ担保ニ供スル契約ナリ 第千百二条 動産質契約ハ亦債権者ト債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ好意ニテ債務者ノ為メ担保ヲ供スル第三者トノ間ニ之ヲ為スコトヲ得 右孰レノ場合ニ於テモ動産質ヲ供シタル第三者ハ第千三十条及ヒ第千三十一条ニ従ヒ保証人ノ如ク債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス 第千百三条 債務者ヨリ動産質ヲ供シタルト第三者ヨリ之ヲ供シタルトヲ問ハス若シ此ニ因テ担保セラレタル義務カ純粋ニ天然ノモノナルトキハ其場合ハ第五百八十八条及ヒ第五百八十九条ニ之ヲ規定ス 第千百四条 動産質ハ質ト為シタル物ヲ処分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ有効ニ之ヲ供スルコトヲ得ス 合意上、法律上及ヒ、裁判上ノ代理人及ヒ管理者ニ付テモ亦同シ是等ノ者ハ其権限ヲ踰エサルコトヲ要ス 若シ動産質カ債務ニ関係ナキ第三者ヨリ供セラレタルトキハ其第三者ハ第千十二条ニ記載シタル如ク無償名義ニテ処分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス 第千百五条 動産質権ハ確定ノ日附ヲ有シ且主タル債権並ニ従タル債権アレハ其債権及ヒ質ト為シタル物ヲ明ニ指定セル証書ヲ録製シタルニ非サレハ同一ノ物ニ付キ債務者ト約定シタル第三者又ハ他ノ債権者ニ之ヲ対抗スルコトヲ得ス 右ノ物ハ之ヲ他物ニ易フルコトヲ得サル様詳細ニ記載シ且已ムヲ得サレハ之ヲ評価スルコトヲ要ス 若シ右ノ物カ量定物ナルトキハ其種類分量及ヒ其重量、数量又ハ尺度ヲ以テ之ヲ指定スルコトヲ要ス 第千百六条 法律ニ従ヒ証人ニ因リテ債権ヲ証スルコトヲ得ル場合ニ於テハ証書ノ作成ヲ要セス此場合ニ於テ債権ノ額及ヒ質ト為シタル物ニ相違ナキコト又ハ其物ノ本性及ヒ価額ヲ或ハ併合シ或ハ各別ニ人証ヲ以テ証明スルコトヲ得 第千百七条 動産質ハ動産質債権者カ質ト為サレタル有体物ノ現実ニシテ且継続ノ占有ヲ得且之ヲ保存シタルトキニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニモ他ノ債権者ニモ対抗スルコトヲ得ス 然レトモ質物ハ当事者双方ノ選定シ又ハ債権者カ自己ノ責任ヲ以テ選定シタル第三者ノ手裏ニ之ヲ寄託スルコトヲ得 此条例ハ所持人式債権証書ニモ之ヲ適用ス 第千百八条 若シ質物カ記名債権タルトキハ動産質債権者ハ其債権ヲ証明スル公正又ハ私ノ証書ヲ占有スルコトヲ要ス 其他動産質ノ設定ハ転譲ヲ告知スル通常ノ方式ヲ以テ第三債務者ニ之ヲ告知シ又ハ其第三債務者カ任意ニテ担保移転ノ所為ニ参カルコトヲ要ス 第三百六十七条ノ条例中ニテ前二項以外ノモノハ右ノ移転ニ之ヲ適用ス 右ハ総テ裏書ヲ以テ取引ス可キ商ヒ証券事項ニ関シ商法ニ記載シタルモノヽ妨ケト為ラス 第千百九条 民事ト商事トヲ問ハス会社ノ記名ノ株券又ハ債券ニ関スルトキハ担保移転ハ証書交付ノ外会社定款又ハ法律ニ於テ株券又ハ債券ノ譲渡ノ為メニ定メタル方式ヲ以テ之ヲ会社ニ告知シ其帳簿ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス 第千百十条 動産質ハ当事者ノ推定セラレタル意思ニ従ヒ働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但明示シタル反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス 動産質ハ債務者又ハ其相続人ノ一人ヨリ債務ノ一分ヲ弁償シタルトキト雖モ元本、利息及ヒ費用ノ皆済ニ至ルマテ質ト為サレタル物ノ全部及ヒ各箇ニ付キ存立ス 債権者ノ相続人ノ一人カ自己ノ部分ノ弁済ヲ受ケタルトキト雖モ動産質ハ債権ニ於ケル他ノ相続人ノ部分ノ為メ其相続人ノ担保トシテ全部ニ於テ存立ス 第二節 動産質契約ノ効力 第千百十一条 動産質債権者ハ質物ヲ返還スルマテ其監守及ヒ保存ニ付キ善良ナル管理者ノ総テノ注意ヲ加フルノ責アリ 動産質債権者ハ債務者ノ許諾ヲ受ケスシテ質物ヲ賃貸スルコトヲ得ス又之ヲ自己ノ使用ニ供スルコトヲモ得ス但右ニ付キ債務者ノ許諾ヲ受ケタルトキ又ハ其使用カ物ノ保持及ヒ保存ノ天然ノ方法タルトキハ此限ニ在ラス 若シ動産質債権者カ質物ヲ濫用スルトキハ其権利ヲ失ヒタリトノ宣告ヲ受クルコト有リ 第千百十二条 動産質債権者ハ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ自己ノ債権者ノ一人ニ自ラ質ト為スコトヲ得但自己ノ債権者ニ質ト為サヽレハ生セサル可キ意外又ハ不可抗力ノ場合ニ付テモ亦其責ニ任ス 第千百十三条 若シ質物カ果実又ハ産物ヲ生スルトキハ動産質債権者ハ右ニ関シテハ留置権アル債権者ノ為メ第千九十八条第二項ニ定メタル権利及ヒ義務ヲ有ス 質ト為サレタル債権ニ関シテハ動産質債権者ハ右ニ同シク其債権ノ利息ヲ収取シ之ヲ自己ノ債権ニ充当ス然レトモ債務者ノ特許ヲ受ケスシテ其債権ノ元本ヲ受取ルコトヲ得ス但裏書ヲ以テ取引ス可キ証券ニ関スルトキハ此限ニ在ラス 第千百十四条 若シ動産質債権者カ質物ノ保持又ハ保存ノ為メ必要ノ出費ヲ為シタルトキハ其弁償ハ右債権者ノ為メ自己ノ債権其モノニ先タチ動産質ヲ以テ担保セラル 質物ノ不表見ノ瑕疵ニ因リ債権者ノ受クルコトヲ有ル可キ損害ノ賠償ニ付テモ亦同シ 第千百十五条 動産質債権者ハ動産質ノ附キタル債務ノ主タルモノ並ニ従タルモノ及ヒ前条ニ従ヒ受ク可キ金額ノ皆済ニ至ルマテ債務者及ヒ債務者ヨリ譲受ケタル者ニ対シ質物ノ占有ヲ留置スルコトヲ得 債権者ハ其債権ノ満期ニ至ラサル間ハ債務者ノ他ノ債権者ヨリ為ス質物ノ差押及ヒ其競売ニ対抗スルコトヲ得 第千百十六条 動産質ノ附キタル債務カ要求ス可キモノト為リタルトキ債務者履行ヲ為サヽルニ於テハ動産質債権者又ハ総テ其他ノ債権者ヨリ質物ノ公ケノ競売ヲ求ムルコトヲ得動産質債権者ハ他ノ債権者ニ先タチ元本利息及ヒ費用トシテ受ク可キモノト第千百十四条ニ明示シタル原由ニ付キ賠償ノ名義ニテ受ク可キモノトノ弁済ヲ受ク 第千百十七条 若シ他ノ債権者ヨリ競売ヲ求メス又ハ競売ヲ実行スルコトヲ得サルトキハ動産質債権者カ債務者ト一致セサルニ於テハ其債権者ハ質物カ鑑定人ノ評価シタル価額ニ満ツルマテ弁済ノ為メ付与セラル可キコトヲ債務者ニ送付シタル請願書ヲ以テ裁判所ニ請求スルコトヲ得 質物ノ価額カ動産質債務ヲ超ユル場合ニ於テハ債権者ハ債務者ニ其超過額ヲ弁償スルコトヲ要ス 第千百十八条 総テ動産質契約ノ約款又ハ債務要求期前ノ合意ニシテ債権者ニ其債権ノ全部又ハ一分ニ付キ裁判上ノ評価ナクシテ弁済ノ為メ質物ヲ保存スルコトヲ許スモノハ当然無効タリ 債務者カ或ハ折損ヲ以テ又ハ折損ナク或ハ賃借シ又ハ賃借セスシテ債権者ニ為シタル買戻約定附ノ売却又ハ其他総テ本条禁止ヲ犯ス為メ為シタル合意ハ之ヲ無効ト宣告スルコトヲ得本条ニ定メタル無効ハ債権者ヨリ之ヲ援唱スルコトヲ得スシテ債務者又ハ其承権人ノミ之ヲ援唱スルコトヲ得 第千百十九条 質物カ債権者ノ手裏ニ存スル事ノミヲ以テハ債権者ノ利益ニ於テ債務者ノ免責時効ノ成就ヲ停止セス 第千百二十条 質物ノ占有ハ常ニ容仮ノ占有ニシテ其占有ノ継続期ノ如何ニ拘ハラス又債務カ弁済又ハ其他ノ方法ニテ消滅シタル後ト雖トモ動産質債権者ハ得取時効ヲ援唱スルコトヲ得ス 然レトモ第百九十七条ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テハ容仮タルコトハ止ム 第三章 不動産質 第一節 不動産質ノ目的、本性及ヒ組成 第千百二十一条 不動産質契約ハ不動産質債権者ニ他ノ総債権者ヨリ先ニ不動産ノ果実及ヒ入額ヲ債務ノ期限前ニ収取スルノ権利ヲ付与ス但不動産質債権者ハ其果実及ヒ入額ヲ債権ノ利息ニ充当シ超過額アルトキハ附随ニテ之ヲ元本ニ充当シ又債権カ利息ヲ生セサルトキハ其果実及ヒ入額ノ全部ヲ元本ニ充当スル事ヲ要ス 期限ニ至レハ債権者抵当権アル債権者ノ権利ヲ行フ 其期限ハ三十年ヨリ多ク遅延スル事ヲ得ス之ニ過クル場合ニ於テハ当然三十年ニ減縮ス 其期限ハ之ヲ伸暢スル事ヲ得ス 第千百二十二条 不動産質ハ債務者ノ為メ第三者ヨリ之ヲ設定スル事ヲ得其不動産質ハ債務者ト設定者トノ間ニ於テハ同一ノ方法ニテ設定セラレタル動産質ノ為メ第千百二条ニ定メタル効力ヲ生ス 第千百二十三条 不動産質ハ第千二百三条及ヒ第千二百四条ニ従ヒ抵当ト為ス事ヲ得ベク且設定者ニ属スル不動産権利ノ上ニ非サレハ之ヲ設定スル事ヲ得ス 設定者ハ質ト為シタル物件又ハ権利ノ収益権ヲ自カラ有スル事ヲ要ス其質ハ孰レノ場合ニ於テモ其収益権ノ継続期ヲ超過スル事ヲ得ス 不動産質ヲ設定スルカ為メニ要スル能力ハ第千二百十五条及ヒ第千二百十六条ニ定メタル如キ抵当設定ノ能力ト同一ナリ 第千百二十四条 不動産質カ合意上ノモノナルトキハ其質ハ合意上ノ抵当ノ為メ第千二百十一条ニ定メタル如キ公証人証書ヲ以テスルニ非サレハ当事者ノ間ニ於テ設定セラレス 其不動産質ハ此第千二百十八条ニ従ヒ遺言上ノ抵当ノ許サルル場合ニ於テハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スル事ヲ得 其不動産質ハ之ヲ証明スル証書又ハ之ヲ設定シタル口頭合意ノ成立ヲ認定スル判決書ヲ第三百六十八条第一号及ヒ第三号ニ従ヒ登記シテ公ニ為シタル当時ヨリ後ニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スル事ヲ得ス 右ノ登記ハ抵当ノ順位ヲ保存スル為メ記入ニ等シキ効力ヲ有ス 第千百二十五条 登記シタル証書又ハ判決書ニハ不動産質ト為シタル不動産ノ精確ナル指示ノ外元本及ヒ利息ニ於ケル債権ノ額ヲ記載スル事ヲ要ス 右ノ指示カ不十分ナル場合ニ於テハ既ニ為シタル登記ノ縁辺ニ補足合意ヲ附記シテ之ヲ補フ然レトモ右ノ附記ハ其日附ヨリニ非サレハ効力ヲ生セス 第千百二十六条 若シ不動産質ト為シタル物権カ用収権、賃借権永借権又ハ従前ノ不動産質権ナルトキハ右権利ノ設定証書ノ縁辺ニ其不動産質権ヲ附記スルヲ以テ足レリトス 第千百二十七条 不動産質債権者ハ右ノ外動産質ニ関シ第千百七条ニ記載シタル如ク其債権ヲ担保スル不動産権ノ現実ノ占有ヲ得且之ヲ保存スル事ヲ要ス 第千百二十八条 不動産質ハ第千百十条ニ於テ動産質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ 第二節 不動産質ノ効力 第千百二十九条 不動産質債権者ハ其債権ノ担保ノ為メ受取リタル不動産又ハ権利ヲ第百二十六条乃至第百二十九条ニ規定シタル制限ニ従ヒ賃貸スル事ヲ得但右ニ反スル約束アルトキハ此限ニ在ラス 又不動産質債権者ハ其不動産又ハ権利ヲ自己ノ権利ノ継続期間ニ限リ動産質ニ付キ第千百十二条ニ記載シタル如ク自己ノ責任ヲ以テ其不動産質ヲ譲渡スル事ヲ得 第千百三十条 不動産質債権者ハ租税及ヒ入額ノ其他ノ毎年ノ負担ヲ弁償スルノ責ニ任ス 不動産質債権者ハ亦保持ノ修繕及ヒ必要ニシテ且急迫ナル大修繕ヲ為スノ責ニ任ス若シ之ニ違フトキハ損害賠償ヲ負担ス但シ必要ニシテ且急迫ナル大修繕ノ費用ハ之ヲ償還ス 第千百三十一条 若シ不動産カ市府ノ財産ニ存スルトキハ債権者ハ自ラ其財産ヲ領スルト之ヲ賃貸スルト否トヲ問ハス其借賃ヲ自己ノ債権ノ利息ニ又超過額アレハ附随ニテ又ハ債権カ利息ヲ付セサルトキハ全部ニテ元本ニ充当ス 若シ不動産質カ田舎ノ財産ニ存スルトキハ当事者ノ間ニ於テ果実ノ計算ヲモ又利息ノ計算ヲモ為サス其果実及ヒ利息請負ニテ相殺ニ供セラレタリト看做サル但反対ノ合意アリ且他ノ債権者ニ対シ顕著ナル詐偽アルトキハ此限ニアラス 第千百三十二条 借賃ト利息トノ充当及ヒ果実アルトキニ其果実ト利息トノ充当ハ毎年ノ負担保持管理及ヒ栽培ノ費用ヲ減除シ純益価額ニ付テ之ヲ為ス 第千百三十三条 債権者ハ主タリ及ヒ従タル債務ノ皆済ヲ受クルマテ質ト為サレタル不動産又ハ権利ノ占有ヲ留保スル事ヲ得 第千百三十四条 売買ノ場合ニ於テハ質債権者ハ其順位ニ於テ其抵当ヲ行ヒ且其債権者カ如何ナル先取特権又ハ抵当権アル債権者ニモ先ンセラレサルトキハ獲得者ハ質債権者ノ尚ホ受クヘキモノヽ為メ第千百二十一条ニ従ヒ質ノ終了スヘキ時期ニ至ルマテ其留置権ヲ尊重スルノ責アリ 然レトモ若シ不動産質債権者カ自ラ競売ヲ求メタルトキハ其留置権ハ消滅ス但其公売ニ於テ明示シテ此権利ヲ留保シタルトキハ此限ニ在ラス 第千百三十五条 第千百十一条第千百十四条第千百十五条第千百十八条第千百十九条及ヒ第千百二十条ハ不動産ニモ之ヲ適用ス 第四章 先取特権 前置条例 第千百三十六条 先取特権ハ合意上ノ質ナキ場合ニ於テ或ル債権ノ原由ニ附着シタル優先権ナリ 先取特権ノ存在スルニ必要ナル原由、条件及ヒ其存在スル目的物ハ法律ニ制限シテ之ヲ定ム 先取特権カ第三保有者ニ対シ追及権ヲ与フル場合及ヒ其権利行用ノ条件ハ亦法律ヲ以テ之ヲ定ム 第千百三十七条 先取特権ハ第千百十条及ヒ第千百二十八条ニ於テ動産質及ヒ不動産質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ 第千百三十八条 若シ先取特権ノ負担アル物カ第三者ノ方ニテ滅失シ又ハ毀損シ第三者カ此カ為メ債務者ニ賠償ヲ負担シタルトキハ先取特権アル債権者ハ他ノ債権者ニ先タチ右ノ賠償ニ於ケル債務者ノ権利ヲ行フ事ヲ得但其先取特権アル債権者ハ弁済前ニ適正ノ方式ニ従ヒ弁済ニ付キ異議ヲ述フル事ヲ要ス 先取特権ニ属シタル物ノ売却又ハ賃貸アル場合及ヒ其物ニ関スル法律上又ハ合意上ノ権利ノ行用ノ為メ債務者ニ金額又ハ有価物ヲ弁済ス可キ総テノ場合ニ於テモ亦同シ但災害ノ場合ニ於テ保険者ノ負担スル賠償ニ関シ第八百三十九条ニ記載シタルモノヲ妨ケス 第千百三十九条 先取特権ノ種類ハ左ノ如シ 第一 一般ノモノ即チ債務者ノ総テノ動産及ヒ附随ニテ其総テノ不動産ニ係ルモノ 第二 或ル動産ニ付キ特別ノモノ 第三 或ル不動産ニ付キ特別ノモノ 第千百四十条 一般又ハ特別ノ先取特権ヲ有スル債権者ノ相互ノ順位ハ此章ノ各節ニ之ヲ規定ス 不動産ニ付キ先取特権ヲ有スル債権者ハ其同一ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ有スル債権者ニ先タツ但法律カ之ニ異ナリテ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス 同名義又ハ同順位ノ先取特権アル債権者ハ其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受ク 第千百四十一条 此法律ニ定メタル先取特権ハ商法又ハ各人若クハ公ノ金庫ノ為メ特別法ニ設定シ又ハ設定スヘキ先取特権ノ妨ケト為ラス 其他右ノ先取特権ハ別段ノ規定ナキ総テノ点ニ付テハ下ニ定メタル一般ノ規則ニ従フ 第一節 動産及ヒ不動産ニ係ル一般先取特権 第一款 一般先取特権ノ原由 第千百四十二条 動産及ヒ不動産ニ係ル先取特権ノ附キタル債権ハ下ニ定メタル制限及ヒ条件ヲ帯ヒタル左ノ諸件トス 第一 訴訟費用 第二 葬式費用 第三 最後ノ疾病ノ費用 第四 雇人ノ給料 第五 飲食品ノ供給 第一則 訴訟費用ノ先取特権 第千百四十三条 訴訟費用ト称スル費用ノ先取特権ハ或ハ債務者ノ財産ヲ保存ヲ保スル為メ或ハ其財産ヲ清算シ之ヲ換価シ及ヒ有権者間ニ其代価ヲ配当スル為メ金円ノ立替ニ於テ正当ニ為シタル裁判上若クハ裁判外ノ総テノ所為ニ付キ給料若クハ謝金ヲ受ク可キ債権者ニ属ス 若シ或ハ費用ハ財産ノ為メニノミ為サレ又ハ総テノ債権者ニ有益ナラサリシトキハ先取特権ハ特別ノモノニシテ其利益ニ於テ費用ノ為サレタル債権者ニ対スルニ非サレハ此レヲ対抗スル事ヲ得ス 第二則 葬式費用ノ先取特権 第千百四十四条 債務者ノ身分ニ応シ其慣習ニ従ヒ其欽葬土葬又ハ火葬ノ為メ為シタル俗事上及ヒ宗教上ノ費用ハ先取特権アリ 先取特権ハ亦債務者ノ担当タル其同居ノ家族ノ葬式ノ為メ為シタル費用ニ之ヲ適用ス 其先取特権ハ葬式ニ連続シタル出費ニ及ハス但其出費カ慣習上ノモノタルトキモ亦同シ 第三則 最後ノ疾病ノ費用ノ先取特権 第千百四十五条 最後ノ疾病ノ費用ノ先取特権ハ債務者又ハ前条ニ指定シアル家族ノ死亡前或ハ債務者ノ無資力前ノ疾病ニ関シ為シタル内科又ハ外科ノ医師薬商看病人及ヒ其他ノ費用ヲ包含ス 長病ノ場合ニ於テハ右ノ名義ニ於テ為シタル費用ノ先取特権ハ最後ノ年ノ費用ニ之ヲ制限ス 債務者又ハ其家族カ事変ノ為メニ死亡シ又費用ノ為サレタル疾病ノ外ナル原由ノ為メ死亡シタルトキト雖モ先取特権ハ尚ホ存在ス 第四則 雇人給料ノ先取特権 第千百四十六条 雇人ノ先取特権ハ債務者ノ一身、債務者ノ担当タル其同居ノ親族ノ一身ニ附従シ或ハ債務者ノ家又ハ都市若クハ田舎ノ所有物ニ附従シタル雇人ニ属ス 右ノ先取特権ハ最後ノ年ノ賃銀又ハ給料ノミヲ担保ス 第五則 飲食品供給ノ先取特権 第千百四十七条 飲食品供給ノ先取特権ハ債務者又ハ債務者ト同居スル家族及ヒ是等ノ者ノ雇人ニ供給シタル飲食品ニノミ之ヲ適用ス 右ノ先取特権ハ最後ノ六ケ月間ニ為シタル右ノ供給ノミヲ包含ス 第二款 一般先取特権ノ効力及ヒ順位 第千百四十八条 一般先取特権ハ先取特権アル各債権者カ動産ニ付キ配当順序中ニ入リタル後尚ホ其受ク可キモノヽ為メニ非サレハ不動産ニ付キ之ヲ行フ事ヲ得ス 然レトモ若シ動産ノ代価ノ配当ニ先タチテ不動産ノ代価ノ配当アルトキハ債権者ハ不動産ノ代価ニ付キ条件付ニテ自己ノ配当順序ヲ定メシムル事ヲ得但右ノ配当順序ニ於テハ動産ニテ弁済ヲ受ケサルモノヽミヲ受ク 動産ノ代価配当ニ付キ有益ノ時期ニ出席スル事ヲ怠リタル債権者ハ動産ニテ自己ノ受クヘカリシモノヽ限度ニ於テ不動産ニ付キ其優先権ヲ失フ 第千百四十九条 一般先取特権ノ全部又ハ一分カ互ニ抵触スル場合ニ於テハ第千百四十三条乃至第千百四十七条ニ列記シタル相互ノ順序ニ従テ配当順序ヲ定ム 前記ノ数条ニ掲ケタル同一ナ名法律上ノ名称中ニ在ル総テノ債権ハ同順位ニ於テ配当順序ヲ定メラル 若シ一般先取特権カ動産ニ係ル特別先取特権ト牴触スルトキハ其動産ニ係ル特別先取特権ニ対スル一般先取特権ノ順位ハ下ノ第二節ニ之ヲ規定ス 一般先取特権ハ不動産ニ係ル特別先取特権ニ先タヽル又後ニ設定セラレタリト雖モ詐害ナキニ於テハ特別抵当ニ因テ先タヽル 然レトモ一般先取特権ハ其発生ノ一般抵当ハ勿論其前得取シタル一般抵当ニモ先タツ 一般抵当ノ負担アル総テノ不動産ヲ同時ニ売却シタル場合ニ於テハ一般先取特権ハ各不動産ノ売却代価ノ割合ニ応シテ其総テノ不動産ニ付キ配当順序ヲ定メラル 若シ順次ニ右ノ不動産ヲ売却スルトキハ一般先取特権ハ初メ売却ニ付キ全部充当セラレ又次ノ売却ニ付キ附随ニテ充当セラル且各不動産間ノ配当ハ初ニ右ノ先取特権ノ負担ヲ受ケタル債権者ノ利益ニ於テ求償ノ方法ヲ以テノミ之ヲ為ス 第千百五十条 不動産ガ債務者ニ属スル間ハ一般先取特権ヲ他ノ債権者ニ対抗スル為メニ其不動産ニ付テノ記入ヲ免除セラル 第二節 動産ニ係ル特別先取特権 第一款 動産ニ係ル特別先取特権ノ原由及ヒ目的 第千百五十一条 上ノ第二章ニ於テ先取特権ヲ設定セラレタル動産質債権者ノ外左ノ各人ハ下ニ指定シタル債権ノ為メ下ニ指定シタル動産物ニ付キ先取特権ヲ有ス 第一 不動産ノ賃貸人 第二 種子及ヒ肥料ノ供給者 第三 農業及ヒ工業ノ職工 第四 動産物ノ保存者 第五 動産物ノ売主 第六 旅店主人 第七 舟車運送営業人 第八 保証ニ服シタル公役員ノ負担ノ所為ニ付キ其役員ニ対スル債権者 第九 右ノ保証ノ元資ヲ貸シタル者 第一則 不動産賃貸人ノ先取特権 第千百五十二条 居宅、倉庫又ハ其他ノ建物ノ賃貸人ハ賃借人ノ使用、商業又ハ工業ノ為メ右ノ建物内ニ備ヘタル動産物ニ付キ先取特権ヲ有ス 右ノ物カ賃借人ニ属セスト雖モ若シ賃貸人カ其事実ヲ知ラス且賃貸シタル場所内ニ物ヲ持込ム事ヲ知リタル当時ニ於テ右ノ事実ヲ予見スルニ足ル可キ理由アラサリシトキハ先取特権ハ尚ホ存在ス 賃貸人ノ先取特権ハ現金、賃借人又ハ其家族ノ一身ノ使用ニ供シタル珠宝宝石ニ付キ又所持人式ナルモ債権証書ニ付キ之ヲ行フ事ヲ得ス 第千百五十三条 賃貸人ハ賃借人カ其賃借シタル場所内ニ現期間ノ借賃及ヒ後ノ一期分ノ借賃ノ弁済ヲ担保スルニ足ル可キ動産ヲ備フル事ヲ要求スル事ヲ得賃借人之ヲ為サス且右期間ノ借賃ノ前払又ハ之ニ相当スル其他ノ抵保ヲ供セサルトキハ賃貸人ハ損害アレバ其賠償ヲ得テ賃貸ヲ消除スル事ヲ得 若シ賃貸シタル場所ニ備ヘタル動産ヲ賃貸人ノ許諾ナクシテ取去リタルモ別ニ詐害ナキトキハ賃貸人ハ其担保カ不足ト為リタルトキ尚ホ賃借人ニ属スル権利ノ限度内ニ非サレハ右ノ取去ラレタル動産ヲ賃貸シタル場所ニ復セシムル事ヲ得ス 然レトモ賃貸人ノ権利ヲ詐害シテ為サレタル所為ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ第三百六十一条以下ニ記載シタル条件及ヒ区別ニ従ヒ第三者ニ対シテ其所為ヲ廃罷スル事ヲ得 右ハ総テ第千百三十八条ニ憑リ賃貸人ニ属スル権利ヲ妨ケス 第千百五十四条 賃借ト永貸トヲ問ハス田舎ノ土地ノ賃貸人ハ居宅並ニ土地利用ノ建物内ニ備ヘタル動産物ニ付キ及ヒ賃貸土地ノ利用ニ供シタル用具其他ノ器具又ハ機器ニ付キ右ト同一ノ限度ニ於テ先取特権ヲ有ス 其他右ノ賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ収獲物及ヒ其他ノ天然産物カ尚ホ土地ニ附看スルト土地ニ保存セラルヽトヲ問ハス其収獲物及ヒ産物ニ付キ先取特権ヲ有ス 鉱坑、炭坑又ハ石坑ニ関シテハ先取特権ハ鉱物、炭、石及ヒ其他ノ物料ノ既ニ採掘セラレテ仍ホ賃貸シタル土地ニ存スルモノニ及フ 分果賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ収獲物及ヒ其他ノ産物中ニテ自己ノ権利ヲ有スル部分カ尚ホ分果賃借人ノ手裏ニ存スル間ハ他ノ債権者ニ先タチ直接ニ之ヲ己レニ交付セシメテ其収獲物及ヒ其他ノ産物ニ付キ先取特権ヲ行フ 第千百五十五条 永借ト賃借ト分果賃借トヲ問ハス賃借人ハ賃貸人ノ担保ノ為メ賃借シタル土地ニ其年ノ収獲物及ヒ其他ノ産物ヲ保存スルノ責アリ但其収獲物及ヒ産物カ保存スル事ヲ得ヘキモノニシテ且其場所カ保存ニ適スルトキニ限ル 賃借人ハ如何ナル場合ニ於テモ賃貸人ノ許諾ヲ受ケス又ハ其年ノ自己ノ義務ヲ履行スル前ニ其収獲物及ヒ産物ヲ搬移シ又ハ之ヲ処分スル事ヲ得ス 第千百五十六条 賃借権ノ譲渡又ハ転貸ノ場合ニ於テハ賃貸人其賃貸シタル場所ニ備ヘ有ル動産及ヒ其他ノ物カ譲受人又ハ転借人ニ属スル事ヲ知ルト雖トモ賃貸人ノ先取特権ハ是等ノ物ニ及フ 此場合ニ於テ先取特権ハ亦第千百三十八条ニ従ヒ譲渡又ハ転貸ノ代価トシテ主タル賃借人ノ受ク可キ金額ニ及フ但前払ヲ以テ賃貸人ニ対抗スル事ヲ得ス 第千百五十七条 賃借人ノ財産ノ総清算ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ前年ト本年ト翌年トノ為メニ非サレハ借家賃又ハ借地賃及ヒ其他毎年ノ負担ニ付テハ前数条ニ定メタル先取特権ヲ受ケス 其他先取特権ハ賃貸ヨリ生スル他ノ合意上ノ義務、前年ト本年トノ間ノ賃借人ノ過愆又ハ懈怠ノ為メ賃貸人ノ受ク可キ賠償及ヒ賃貸人カ将来ニ向テ宣告セシムル事有ル可キ銷除ニ添フタル損害賠償ヲ担保ス 第千百五十八条 其他ノ債権者ハ初ヨリ如何ナル転貸ノ禁止アルニ拘ハラス自己ノ利益ニ於テ賃借ノ銷除ヲ妨止シ其賃借権ヲ転貸シ又ハ譲渡スル事ヲ得但経過ス可キ賃借残期ノ為メ賃貸人ニ借家賃、借地賃又ハ其他納額ヲ担保スル事ヲ要ス 第二則 種子及ヒ肥料ノ供給者ノ先取特権 第千百五十九条 所有者、用収者、賃借人又ハ占有者ニ土地ニ用ユル種子及ヒ肥料ヲ供給シタル者ハ右ノ供給物ヲ用ヰタル年ノ収獲ノ果実ニ付キ先取特権ヲ有ス 其年ニ於テ蚕種及ヒ蚕ノ飼養ニ供スル桑葉ヲ供給シタル者ニ付テモ亦同シ 第三則 農業及ヒ工業ノ職工ノ先取特権 第千百六十条 雇人ニ非スシテ其年ノ産物ノ栽培及ヒ収入ニ使役セラレタル職工ハ其年ニ受ク可キ給料ノ為メ右ノ産物ニ付キ先取特権ヲ有ス 右同一ノ先取特権ハ森林、鉱坑、炭坑、石坑、養蚕場ニ於テ使役セラレタル職工ニ属ス但其年ノ給料中最後ノ三个月分ノミニ限ル 第四則 動産物保存者ノ先取特権 第千百六十一条 動産物ノ修繕又ハ保存ノ費用ノ為メ債権者タル者ハ第千九十六条ニ従ヒ己レニ属スル留置権ヲ行ハサルトキト雖トモ其修繕シ又ハ保存シタル物ニ付キ先取特権ヲ有ス 右同一ノ先取特権ハ金額、有価物又ハ其他総テノ動産物ニ於ケル人権又ハ物権ヲ債務者ノ利益ニ於テ認知セシメ、保存セシメ又ハ実行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ所為ノ費用ニ之ヲ適用ス 第五則 動産物売上ノ先取特権 第千百六十二条 動産物ノ売主ハ代価弁済ニ付キ期限ヲ与ヘタルト否トヲ問ハス売却代価及ヒ利息アラハ其利息ノ為メ売却物ニ付キ先取特権ヲ有ス 若シ補足額ヲ以テスル交換アリテ其補足額カ移付シタル物ノ価額ノ半ヨリ多キトキハ先取特権ハ其補足額ニ付キ存在ス 第千百六十三条 先取特権ハ売却物カ用方ニ因リ又ハ不動産ニ合体スルニ因リ不動産ト為サレタルトキト雖モ変形セスシテ尚ホ買主ノ占有ニ存スル間ハ存続ス但合体ノ場合ニ於テハ不動産ヲ損壊セスシテ其物ヲ離分スル事ヲ得且如何ナル場合ニ於テモ其物カ変形セラレサル事ヲ要ス 第千百六十四条 売主ノ先取特権ハ第六百八十四条及ヒ第七百二十一条ニ規定シタル其留置及ヒ解除ノ権利ヲ妨ケス 第六則 旅店主ノ先取特権 第千百六十五条 旅店主ハ旅人其雇人及ヒ此ニ率来レル駄負又ハ牽挽ノ獣ノ宿泊及ヒ食料ノ債権ノ為メ其旅客ノ携帯シテ尚ホ旅館又ハ旅店ノ内ニ存スル手荷物ニ付キ先取特権ヲ有ス 第七則 舟車運送営業人ノ先取特権 第千百六十六条 商人タルト否トヲ問ハス舟車運送営業人ハ荷物又ハ商品若クハ人ノ運送賃並ニ食料ヲ携ヘタラハ其食料ノ運送賃ノ為メ及ヒ関税又ハ其他正当ナル附従ノ費用ノ為メ旅客ト共ニ又ハ旅客ト別ニ運送シ尚ホ自己ノ手裏ニ存スル物ニ付キ先取特権ヲ行フ 若シ運送営業人カ引渡ヨリ四十八時間内ニ債務者又ハ債務者ノ名ヲ以テ荷物ヲ受取リタル者ニ対シテ其物ノ占有ヲ返還シ又ハ自己ノ受取ル可キモノヲ弁済ス可キノ催告ヲ為シ且其効果ヲ生セシムル為メ短キ期間内ニ裁判上ノ請求ヲ為シタルトキハ其先取特権ハ物ノ引渡後ト雖モ存続ス如何ナル場合ニ於テモ第三取得者ニ対シテ物ノ回収ヲ請求スル事ヲ得ス第千百五十三条ニ規定シタル如ク詐偽アル場合ハ此限ニ在ラスシテ且第千百三十八条ノ適用ヲ妨ケス 第八則 負担ノ所為ノ為メノ債権者ノ先取特権 第千百六十七条 保証ニ服シタル公役員ノ其職務履行ニ於テ為シタル負担ノ所為、過愆又ハ濫用ヨリ生スル債権ハ其保証金ニ付キ先取特権アリ 第九則 保証金貸主ノ先取特権 第千百六十八条 保証トシテ差出シタル金円カ第三者ヨリ借受ケタルモノニシテ其第三者ハ貸付ノ当時ニ於テ又ハ弁済ニ付キ何等ノ異議ヲモ述ヘサル前ニ於テ規則ニ従ヒ其権利ヲ証明シタルトキハ其第三者ハ第二ノ順序ニ於テ即チ負担ノ所為ヨリ害ヲ受ケタル者ノ弁済ノ後右保証金ニ付キ先取特権ヲ有ス 第二款 動産ニ係ル特別先取特権ノ順位 第千百六十九条 動産ニ係ル特別先取特権ト一般先取特権ノ全部又ハ一分トノ間ニ抵触アルトキハ優先ノ順序ヲ左ノ如ク規定ス 第一 訴訟費用ハ其費用ノ有益タリシ総テノ債権者ニ其有益ノ限度又ハ割合ニ応シテ先タツ 第二 其他四箇ノ一般先取特権ハ亦其相互ノ重要ノ割合ニ応シ且第千百四十一条ニ定メタル順序ヲ以テ総テノ特別先取特権ニ先タツ但他ノ先取特権ニ服セサル動産ノ不足ナル場合ニ限ル 第千百七十条 若シ同一ノ動産ニ付キ特別先取特権ヲ有スル諸種ノ債権者ノ間ニ抵触ノ起ルトキハ其相互ノ優先権ハ下ノ順序及ヒ区別ニ従ヒテ生ス 第一ノ順位ハ先取特権ノ目的物ヲ保存シタル者ニ属ス 若シ保存ノ漸次ノ所為ニ因リ数名ノ債権者アルトキハ優先権ハ其間ニテ最モ近キ保存所為ヲ為シタル者ニ属ス 第二ノ順位ハ明示即チ合意上ノ動産質ニ因リ或ハ不動産ノ賃貸人、旅店主ニ又ハ運送営業人ノ如ク黙示ノ動産質ニ因リ物ヲ握有シタル債権者ニ属ス 第三ノ順位ハ右ノ物ノ売主ニ属ス 然レトモ質物トシテ握有スル債権者ハ動産質設定ノ時其物ノ保存費用ガ未ダ支払ハレザル事ヲ知ラザリシトキハ第一ノ順位ヲ得 之ニ反シテ質物トシテ握有スル債権者ハ若シ売却代価カ未タ支払ハラレサリシ事ヲ知リタルトキハ売主ニ先セラル 収獲物ニ関シテハ第一ノ順位ハ農業ノ職工ニ属シ第二ノ順位ハ種子及ヒ肥料ノ供給者ニ属シ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ属ス 工業ノ職工ハ亦鉱坑、石坑及ヒ其他土地ノ採掘事業又ハ土地ノ工業ヨリ生スル産物ニ付キ賃貸人ニ先タツ 公役員ノ保証金ニ関シテハ負担所為ノ為メ其役員ニ対スル各債権者ハ相共ニ其相互ノ債権ノ割合ニ応シ其債権ノ日付ニ関セスシテ総テノ他ノ債権者ニ先タチ又保証ノ金円ヲ貸シタル債権者ニモ先タツ其保証ノ金円ヲ貸シタル債権者ハ保証金ノ残額ニ付キ「第二ノ順序ト」称スル先取特権ヲ行フ 第三節 不動産ニ係ル特別ノ先取特権 第一款 不動産ニ係ル特別ノ先取特権ノ原由及ヒ目的物 第千百七十一条 左ノ債権ニ付テハ下ニ定メタル条件ニ従ヒ不動産ニ係ル先取特権アルモノトス 第一 売買交換又ハ其他ノ有償所為若クハ負担ヲ帯ル無償所為ニ関ルモ不動産ヲ移付シタルモノハ其移付シタル不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第二 共同派分者ハ派分中ニ包含シタル不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第三 工匠、土木師及ヒ工事請負人ハ自己ノ工事ニ因リテ不動産ニ生スル増価ニ付キ先取特権ヲ有ス 第四 先取特権ヲ発生セシムル所為ノ当時ニ於テ全部又ハ一分ニテ移付者、共同派分者、工事請負人ニ支払ヒタル金円ノ貸主ハ右同一ノ不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第五 死亡者ノ資産ト相続人ノ資産トノ離分ヲ請求スル相続ノ債権者及ヒ受嘱者相続ノ不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第一則 移付者ノ先取特権 第千百七十二条 移付者ノ先取特権ハ左ノ各人ニ属ス 第一 元本又ハ無期若クハ終身ノ年金ニテ定メタル売却代価、利息又ハ利子及ヒ売買ノ其他ノ負担ニ付テハ売主 第二 交換ニ於テ受ク可キ補足額並ニ負担ニ付キ及ヒ対換トシテ受取リタル物ニ於テ受クル事有ル可キ追奪ノ担保ニ付テハ共同交換者 第三 贈与ノ負担ニ付テハ贈与者又ハ其承継人 又受クル事有ル可キ的確又ハ未定ノ対価ニ付キ及ヒ得取者ノ課セラレタル負担ニ付テハ有償又ハ無償ノ名義ニ於ケル不動産ノ総テノ移付者 第千百七十三条 売却代価及ヒ交換補足額ノ外此等ノ移付ノ負担並ニ贈与ノ負担及ヒ交換並ニ其他有償名義ノ合意ニ於ケル追奪担保ノ未定ノ賠償ハ移付ノ証書又ハ日後ノ別証書ヲ以テ金円ニテ之ヲ定ムル事ヲ要ス 其他右ノ証書ハ次款ニ記載スル如ク之ヲ公示スル事ヲ要ス 第千百七十四条 交換又ハ不動産ノ其他ノ移付ノ対価トシテ受取リタル不動産ノ追奪担保ニ付テノ先取特権ハ其追奪カ移付ノ時ヨリ十箇年内ニ生シ且確定ト為リタル判決ニ因リテ一旦追奪ヲ受ケタル上一箇年内ニ担保ノ請求ヲ為シテ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス 対価トシテ受取リタル動産権利ニ関シテハ担保ノ先取特権ハ追奪カ一箇年内ニ生シ且確定ト為リタル判決ヨリ一箇月内ニ請求ヲ為シテ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス 第二則 共同派分者ノ先取特権 第千百七十五条 共同相続人、社員又ハ其他不分ノ共有者ハ或ハ抽籤ノ方法ニ因リ或ハ合意上ノ指定ニ因リ或ハ不分物公売ニ因レル派分ヨリ生スル左ノ債権ノ為メニハ其派分ニ於テ各自ノ得タル不動産ニ付キ互ニ先取特権ヲ有ス 第一 補足額又ハ配当部分ノ取戻ノ為メニハ其補足額ヲ負担セル共同派分者ニ帰シタル不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第二 不分物ノ公売ノ代価ノ為メニハ其公売シタル不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス 第三 共同派分者ノ一人カ其配当部分ニ於テ受ケタル追奪ノ担保ノ為メニハ他ノ共同派分者ニ帰シ又ハ他ノ共同派分者ノ為メ指定シタル総テノ不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス但義務ニ於ケル各共同派分者ノ部分ニ限ル 第千百七十六条 右ノ担保ハ共同派分者ノ一分派分ニ因リテ己レニ帰シタル動産及ヒ不動産ノ受ケタル追奪ニ之ヲ適用ス 右ノ担保ハ亦左ノ諸件ニ之ヲ適用ス 第一 共同相続人又ハ社員ニシテ他ノ共同相続人又ハ社員ニ対シ補足額又ハ不可分物公売ノ代価ヲ負担シタル者ノ無資力 第二 債権ガ一人ノ配当部分ニ加ヘラレタルトキ共同派分者タルト外人タルトヲ問ハス相続又ハ清算ニ於ケル会社ノ債務者カ派分ノ当時ニ既ニ無資力タルニ於テハ其債務者ノ無資力 第千百七十七条 第千百七十四条ハ共同派分者間ノ追奪担保ノ先取特権ニ之ヲ適用ス 共同派分者タルト否トヲ問ハス債務者ノ無資力ニ関シテハ其担保ハ要求期限ニ達シタル元本ノ全部又ハ一分ヲ弁済セサルヨリ一箇年内ニ請求ヲ為シテ公示シタルトキニ非サレハ当事者ノ間ニテモ又第三者ニ対シテモ負担セラレス 若シ債務カ無期又ハ終身ノ年金タルトキ債務者ノ無資力カ派分ノ日ヨリ十箇年後ニ生シタルニ於テハ其担保ハ負担セラルヽ事ヲ止ム 債務カ利息ヲ生スル元本ニシテ其満期カ十个年以上ニ及ヒシトキモ亦同シ 第三則 工匠、技術師及ヒ工事請負人ノ先取特権 第千百七十八条 工匠、技術師及ヒ工事請負人ハ建物、露台、堤塘若クハ堀割ノ造設若クハ修繕ノ為メ又ハ地上ニ為シタル乾凅潅漑、開墾、置土及ヒ其他之ニ類似スル土工ノ為メ自己ノ指揮シ又ハ挙行シタル工事ヨリ生スル債権ニ付キ先取特権ヲ有ス 右同一ノ先取特権ハ鉱坑及ヒ石坑ノ開掘若クハ利用又ハ其閉鎖若クハ廃止ニ関スル地下又ハ外部ノ工事ノ為メ技術師及ヒ工事請負人ニ属ス 第千百七十九条 前記ノ工事ヨリ生スル先取特権ハ其工事ニ因リ土地又ハ建物ニ生セシメタル増価ニシテ先取特権行用ノ当時ニ於テ尚ホ存在スルモノヽミニ付キテ存立ス 右ノ増価ハ裁判所ヨリ任命シタル鑑定人ノ作レル三箇ノ調書ヲ以テ之ヲ証明スル事ヲ要ス 其第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ作リテ場所ノ現状ヲ証明シ且目論見タル工事ノ概略ヲ指示スル事ヲ要ス 其第二調書ハ工事ノ受取カ争ハレ又ハ遅延セラレタルトキト雖モ其工事ノ竣成又ハ原由ノ如何ヲ問ハス其工事ノ絶止ヨリ三个月内ニ之ヲ作リ且右ノ工事ヨリ現ニ生スル増価ヲ証明スル事ヲ要ス 其第三調書ハ配当順序指定ノ請求ノ当時ニ於テ之ヲ作リ且右ノ増価中ニ就キ存在スル所ノモノヲ証明スル事ヲ要ス 第四則 金円ノ貸主ノ先取特権 第千百八十条 前数条ニ掲ゲタル先取特権ハ移付、派分又ハ工事請負人トノ契約ノ当時ニ於テ売買若クハ不分物公売ノ代価、交換若クハ派分ノ補足額又ハ工事ニ付キ内金トシテ支払ヒタル金額ノ弁済ノ為メ金円ヲ貸付ケタル者ニ直接ニ且法律ニ憑テ属ス但其金円ノ貸付及ヒ使用ヲ此等ノ所為ノ関係アル証書中ニ記載シタルトキニ限ル 若シ移付者共同派分者又ハ工事請負人ノ利益ニ於テ先取特権ノ発生セシ後ニ金円ヲ貸付ケタルトキハ貸主ハ第五百二条及ヒ第五百三条ニ定メタル条件ト方式トニ従ヒ債権者又ハ債務者ヨリ合意上ノ代位ヲ得タルトキニ非サレハ先取特権ヲ得取セス 右孰レノ場合ニ於テモ若シ金円ノ貸主カ債務ノ一分ノミヲ弁済シタルトキハ貸主ハ先取特権ノ行用ニ於テハ其弁済シタルモノノ割合ニ応シ第五百八条ニ従ヒテ主タル債権者即チ原債権者ト競分ス 第五則 資産離分ノ先取特権 第千百八十一条 相続ノ債権者及ヒ受嘱者カ死亡者ノ資産ト相続人ノ資産トノ離分ヲ請求スルノ権利ヲ行フニ付キ服従スル所ノ条件ハ相続ノ章ニ之ヲ規定ス 第千百八十二条 移付者、共同派分者及ヒ資産ノ離分ヲ請求シタル債権者並ニ受嘱者ノ先取特権ハ債務者自己ノ所為又ハ其権ニ基キ且債務者ノ費用ヲ以テ不動産ニ加ヘタル増加及ヒ改良ニ及ハス 第二款 不動産ニ係ル特別先取特権ノ債権者間ニ於ケル効力及ヒ其順位 第千百八十三条 前款ニ掲ケタル先取特権ハ下ニ定メタル方法、条件及ヒ期間ヲ以テ公示セラレ且保存セラレタルトキニ非サレハ之ヲ以テ他ノ債権者ニ対抗スル事ヲ得ス 第千百八十四条 売却代価及ヒ補足額ノ為メノ売主及ヒ共同交換者ノ先取特権ハ代価又ハ補足額ノ全部又ハ一分ヲ未タ弁済セサル旨ヲ記シタル所有権移転証書ノ登記ニ依リテ保存セラル 又証書ノ登記ハ交換ニ於ケル追奪担保ノ為メ及ヒ売買、交換其他所有権ヲ移転スル契約ノ附従負担ノ為メ先取特権ヲ保存ス但担保及ヒ負担カ証書其モノニ於テ金円ニテ評価セラレタルトキニ限ル 第千百八十五条 共同派分者ノ先取特権ハ裁判上又ハ裁判外ノ派分ヲ為ス所有権認定ノ証書ニシテ不可分物公売ノ代価額又ハ補足額若クハ配当部分ノ取戻額及ヒ追奪担保ノ評価額其他各配当部分ニ付セラレタル的確又ハ未定ノ負担ノ評価額ヲ記載シタルモノヲ登記スルニ因リテ保存セラル 第千百八十六条 右ノ移付又ハ派分ノ所為カ登記セラレサル間ハ凡ソ得取者又ハ共同派分者ノ承諾シ又ハ其権ニ基キテ生シタル物上抵保ハ工事ヨリ生スル先取特権アル債権ヲ除クノ外前記ノ抵保カ公示セラレタルトキト雖モ其物上抵保ヲ以テ先取特権アル債権者又ハ其一般若クハ特別ノ承権人ニ対控スル事ヲ得ス然レトモ利害関係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得スト雖モ何時ニ拘ハラス右ノ登記ヲ為サシムル事ヲ得 第千百八十七条 若シ移付又ハ派分ノ証書ニ其対価物ノ全部若クハ一分ヲ未タ弁済セサル事又ハ負担ノ付セラレタル事ヲ記載セサルトキハ債務ノ成立スル間ハ日後ノ証書ヲ以テ此遺脱ヲ補フ事ヲ得テ其証書ハ債権者ノ注意ヲ以テ移付ノ証書ト相合シテ之ヲ公示スル事ヲ得 若シ右ノ証書ヲ登記ヲ以テ公示セサルトキハ移付者ハ何時ニテモ抵当ノ章ニ定ムル所ノ方式ニテ為シタル要旨ノ記入ヲ以テ其証書ヲ表顕スル事ヲ得然レトモ此場合ニ於テ先取特権ハ単純ナル法律上ノ抵当ニ変性ス 二回ノ公示ノ間ニ於テ債務者ニ移転セラレタル不動産ニ付テノ物権ヲ債務者ノ権ニ基キテ得取シ且合式ニ之ヲ公示シタル第三者ニハ右ノ抵当ヲ以テ対抗スル事ヲ得ス 若シ移付若クハ派分ノ証書ニ記シタル負担又ハ担保ノ未定債権カ主タル証書ヨリ後ノ証書ニ於テノミ評価セラレタルトキモ亦同シ但其証書ノ抵当記入ハ其記入ヲ為シタル日附ノミニ於テ債権者ニ其順位ヲ付与ス 第千百八十八条 売主及ヒ其他ノ移付者又ハ共同派分者ノ先取特権ガ法律上ノ抵当ニ変性シタルトキハ右抵当ノ記入前ニ移付又ハ派分ノ目的タル不動産ニ付テノ物権ヲ債務者ノ権ニ基キテ得取シ且合式ニ保存シタル第三者ヲ害シテ義務不履行ノ為メノ解除訴権ヲ行フ事ヲ得ス 第千百八十九条 工匠、技術師又ハ工事請負人ノ先取特権ハ第千百七十九条ニ定メタル最初ノ二箇ノ調書ノ記入ニ因リテ保存セラル 場所ノ現状ヲ証明シ及ヒ行フ可キ工事ヲ指示スル第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ記入スル事ヲ要ス 竣成シ又ハ絶止シタル右ノ工事ヨリ生スル増価ヲ証明スル第二調書ハ前記ノ条ニ定メタル期間ニ為セシ其作成ヨリ一ケ月内ニ於テ之ヲ記入スル事ヲ要ス 第二調書ノ記入ノ効力ハ第一調書ノ日附ニ遡及シ総テ工事前又ハ工事後ニ債務者ト約定シタル各人ニ対シ先取特権アル債権者ニ其増価ニ付キ優先権ヲ保ス 利害関係人中一人ノ為シタル右調書ノ記入ハ委任ナキトキト雖モ他ノ者ニ利シ且総テノ者ヲシテ其債権ノ割合ニ応ジテ弁済ヲ受クル為メ同一ノ順位ヲ保有セシム但此カ為メニハ有益ノ時期ニ於テ必要ナル証明ヲ為ス事ヲ要ス 第千百九十条 若シ前条ニ規定シタル期間ニ於テ二箇ノ調書中一箇ノ記入ヲ為サヽリシトキハ先取特権ハ法律上ノ抵当ニ変性シ其抵当ノ順位ハ増価ニ付テハ左ノ日附ヲ以テ定メラル 第一 若シ第二調書ヲ工事ノ竣成又ハ絶止ノ時ヨリ三ケ月内ニ於テ作成シ且次月内ニ之ヲ記入シタルトキハ第一調書ノ遅延記入ノ日附 第二 若シ右ノ三ケ月内ニ於テ第二調書ヲ作成セス又ハ三ケ月内ニ於テ之ヲ作成シタルモ次月内ニ之ヲ記入セサルトキハ其第二調書記入ノ日附 第千百九十一条 得取、派分又ハ工事ノ為メ初メニ金円ヲ貸付ケタル者ニ第千百八十条第一項ニ従ヒテ属スル先取特権ハ其者ノ代リタル債権者ト同一ノ方法ヲ以テ保存セラル 若シ右貸主カ後日代位ニ因リテ債権者ニ承継シタルトキ未タ先取特権カ公示セラレサルニ居テハ其貸主ハ主タル証書及ヒ代位証書ノ登記又ハ記入ニ因リテ其公示ヲ為サシム 若シ公示ガ代位ニ先タツトキハ右貸主ハ登記シタル証書ノ縁辺ニ代位証書ノ附記ヲ請求スヘシ 右同一ノ公示ハ先取特権アル債権ノ譲受人ニ因リテ与ヘラル 此終ノ二箇ノ場合ニ於テ其規定セラレタル附記ヲ為サシムル事ヲ怠リタル代位者又ハ譲受人ハ以前善意ニテ債務者又ハ其承継人トノ間ニ為サレタル弁済又ハ其他ノ免除ノ所為ヲ非難スル事ヲ得ス 第千百九十二条 利息又ハ利子ヲ生スル先取特権又ハ抵当ノ附キタル債権ニシテ上ニ記載シタル如クニ保存セラレタルモノハ利息又ハ利子ノ二ケ年分ノミニ付テハ元本ト同一ノ順位ニ其配当順序ヲ定ムル事ヲ得但満期ノ利息又利子ノ中ニテ最モ旧キモノヽ為メ順次ニ特別ノ抵当記入ヲ為ス可キ債権者ノ権利ヲ妨ケス 第千百九十二条(第二) 死亡者ノ不動産ニ関シテ資産ノ離分ヲ請求スル債権者及ヒ受嘱者ハ自己ノ抵保ノ為メ留置セント欲スル財産ニ付キ相続ノ発開ヨリ六ケ月内ニ其債権又ハ贈遺ヲ記入スル事ヲ要ス 其記入ニハ債権又ハ贈遺ノ額ト其記入ヲ為ス主旨トヲ附記スル事ヲ要ス 相続人ノ権ニ基キ右ノ期間内ニ為シタル記入又ハ登記ハ離分者ニ之ヲ以テ対抗スル事ヲ得ス但請負人ノ先取特権ニ関シ次条ニ記載スルモノハ此限ニ在ラス 第千百九十三条 不動産ニ付キ先取特権アル債権者ノ間ニ於ケル相互ノ優先権ハ左ノ順序ニ従フ 第一 工匠、技術師及ヒ工事請負人ノ債権カ後ニ生シタルトキト雖モ是等ノ各人其工事ヨリ生スル増価額カ此等ノ各人ニ全ク弁済スルニ足ラサル場合ニ於テハ此等ノ各人ハ其債権ノ割合ニ応シ皆同一ノ順位ニテ配当順序ヲ定メラル 第二 移付者又ハ共同派分者 逐次ノ移付又ハ派分ノ場合ニ於テハ優先権ハ相互ノ間ニ於テ最モ旧キ債権者ニ属ス 金円ノ貸主ハ或ハ初ヨリ或ハ合意上ノ代位ニ因リ其金円ニテ全部又ハ一分ノ弁済ヲ受ケタル債権者ト同一ノ順位ヲ有ス 資産ノ離分ヲ請求スル債権者及ヒ受嘱者ハ死亡者ノ財産ニ付テハ其財産カ相続人ニ帰シタル後相続財産ニ増価ヲ与ヘタル工匠、技術師及ヒ工事請負人ノミニ因リテ先セラル 資産ノ離分ハ死亡者ノ債権者及ヒ受嘱者ノ間ニ於ケル其相互ノ権利ヲ変更セス 第千百九十四条 先取特権ノ記入ノ方法、其更新及ヒ記入ノ抹殺又ハ減少ヲ為ス可キトキハ其抹殺又ハ減少ニ関スル規則ハ先取特権及ヒ抵当権ニ共通ノモノニシテ抵当ノ事ニ付キ次章ニ於テ之ヲ掲示ス 第三款 第三保有者ニ対スル不動産ニ係ル先取特権ノ効力 第千百九十五条 前款ニ記載シタル如ク合式ニ公示シテ保存シタル先取特権ハ其先取特権ヲ負担シタル不動産ニ付テハ第三保有者ノ手裏ニ於テ之ニ追及ス 第三保有者カ後ノ条ニ定ムル方法ノ一ニ因リテ先取特権アル債権者ニ弁償セサルトキハ其先取特権アル債権者ハ不動産ノ代価ヲ先取特権及ヒ抵当権アル各債権者ノ間ニ其優先権ノ順序ニ従ヒテ配当スル為メ第三保有者ニ対シ其不動産ヲ差押ヘテ之ヲ競売ニ付スル事ヲ得 第千百九十六条 一般ノ先取特権ハ第三保有者ノ得取証書ノ登記前ニ記入セラレタルトキニ非サレハ其第三保有者ノ手裏ニ移転シタル不動産ニ付キ追及権ヲ与ヘス 第千百九十七条 初メニ登記シタル転得者ノ証書ノ登記前ニ登記セラレサル移付又ハ派分ニ因リテ先取特権ヲ有スル債権者ハ自己ノ先取特権ヲ生セシメタル証書ヲ登記セシムル事ニ付キ転得者ヨリ催告ヲ受ケタレトモ其催告カ距離ニ応シテ法律上ノ期間ヲ増加シタル一ケ月間其効ナカリシトキニ非サレハ其追及権ヲ失ハス 然レトモ新得取者ハ譲渡人カ十ケ年ヲ喩ユル時期間不動産ニ付キ法定ノ占有ヲ為シタルトキハ右ノ催告ヲ為スノ責ナクシテ旧所有者ノ総テノ先取特権ヲ免カレタリト自ラ看做ス事ヲ許サル 第千百九十八条 不動産ノ工事ニ因リテ先取特権ヲ有スル債権者ハ第一調書ノ記入ニ依リテ追及権ヲ行フ事ヲ得但工事ノ竣成又ハ其絶止ノ前ニ移付ノ証書ノ登記ヲ為シタル事ヲ要ス 工事カ竣成シ又ハ絶止セラレタルトキ工事ノ受取ト第二調書ノ記入トニ関スル二箇ノ期間ガ未タ経過セサルニ於テハ右ノ債権者ハ右期間ノ満了后又ハ其月内ニ於テ第二調書ヲ記入セシム可キ催告ヲ受ケタルニ其催告ニ応セサリシ后ニ非サレハ先取特権ヲ失ハス 第千百九十九条 先取特権アル債権者ニシテ追及権ヲ保存シ及ヒ之ヲ行フ為メニ必要ナル公示ヲ其先取特権ニ与ヘサル者カ自カラ債権者タル事ヲ知ラシメ且代価ノ弁済前又順序ヲ定ムルノ手続カ開始セラレタル場合ニ於テハ其順序ヲ定ムル手続ノ閉鎖前ニ自己ノ債権ヲ証明シタルトキハ其先取特権アル債権者ハ第三保有者ノ負担シタル譲受代価ニ付キ優先権ヲ失ハス 第千二百条 追及権、其条件並ニ其効力及ヒ第三保有者カ所有権ノ徴収ヲ避クル為メノ方法ニ関シテ先取特権及ヒ抵当権ニ共通ノ規則及ヒ先取特権ノ消滅スル原由ハ次章ノ附録ニ記載スル如ク抵当権ノ事項ニ於テ之ヲ定ム 第五章 抵当 第一節 抵当ノ本質及ヒ目的 第千二百一条 抵当ハ質ヲ設クル事ヲ要セスシテ法律又ハ人意ニ因リ或ル義務ヲ他ノ義務ニ先チテ弁償スルニ供シタル不動産ノ上ノ物権ナリ 第千二百二条 抵当ハ動産質及ヒ不動産質ニ付キ記載シタル如ク反対ノ合意アルニ非サレハ働方及ヒ受方ニテ不可分タリ 第千二百三条 抵当ハ不動産ノ完全所有権ノ上ノミナラス父母ノ法律上ノ用益権ヲ除クノ外ノ用益権、賃借権、永借権及ヒ地上権ノ上ニモ又虚有権ノ上又ハ右等ノ権利ヲ支分シタル不動産ノ上ニモ之ヲ設定スル事ヲ得 然レトモ完全ノ所有権ヲ有スル者ハ虚有権又ハ用益権ヲ離分シテ別々ニ之ヲ抵当ト為ス事ヲ得ス又建築若クハ植付ナクシテ土地ヲ抵当トナシ又ハ土地ナクシテ此等ノ物ヲ抵当ト為ス事ヲ得ス 之ニ反シテ右ノ者ハ其不動産ノ分レタル部分又ハ分レサル部分ヲ抵当ト為ス事ヲ得 地役ハ要役地ヨリ離分シテ抵当ト為ス事ヲ得ス又用方ニ因ル不動産ハ其附着スル不動産ヨリ離分シテ抵当ト為ス事ヲ得ス 鉱坑ノ開掘カ特許セラレタル場合ニ於テハ鉱坑ト土地ノ表面トカ同一ノ所有者ニ属スルト否トヲ問ハス同一ノ債権者又ハ異別ナル債権者ノ為メ其鉱坑及ヒ土地ノ表面ニ各別ニ抵当ヲ設クル事ヲ得 第千二百四条 下ニ掲クルモノハ之ヲ抵当ト為ス事ヲ得ス 使用権並ニ住居権及ヒ移付スル事ヲ得ス又ハ差押フル事ヲ得サル其他ノ財産 第十一条第二号及ヒ第三号ニ掲ケタル不動産債権 同第十一条第四号ニ掲ケタル如キ国ニ対スル年金権及ヒ不動産トセラレタル其他ノ債権但之ヲ不動産ト為ス事ヲ許可スル法律カ其抵当ヲ許サヽルトキニ限ル 動産但特別法ニ於テ船舶ニ付キ記スルモノヲ除ク 第千二百五条 此法律ノ条例ハ商法及ヒ特別法ニ之ト異ナリタル規定ヲ設ケサル総テノ点ニ付テハ商法及ヒ特別法ニ設定シタル抵当ニ之ヲ適用ス 第千二百六条 抵当ハ漸積地ノ如キ意外及ヒ無償ノ原由ニ因リ或ハ建築、植付又ハ其他ノ工作ノ如キ債務者ノ所為及ヒ費用ニ因リ不動産ニ生スル事アルヘキ増加又ハ改良ニ当然及フモノトス但他ノ債権者ニ対シテ詐欺ナキ事ヲ要シ且前章ニ規定シタル如キ工匠及ヒ工事請負人ノ増価ニ対スル先取特権ヲ妨ケス 其抵当ハ債務者カ新囲障ノ設立ニ因リ又ハ旧囲障ノ廃棄ニ因リ隣接地ヲ抵当不動産ニ合体シタルトキト雖モ債務者ノ有償ハ勿論無償ニテ得取シタルモノタリトモ其隣接地ニ及ハサルモノトス 第千二百七条 意外若クハ不可抗ノ原由又ハ第三者ノ所為ニ出テタル抵当財産ノ滅失減少又ハ損壊ハ債権者ノ損失タリ但先取特権ニ関シ第千百三十八条ニ記載シタル如ク賠償ヲ受クベキ場合ニ於テハ債権者ノ賠償ヲ受クルノ権利ヲ妨ケス 若シ抵当財産カ債務者ノ所為ニ因リ又ハ其保持ヲ為サヽルニ因テ減少又ハ損壊ヲ受ケ之ガ為メ債権者ノ担保ガ不十分ト為リタルトキハ債務者ハ債権者ニ抵当ノ補足ヲ与フルノ責ニ任ス 若シ其補足抵当ヲ与フル事能ハサル場合ニ於テハ債務者ハ債権者ノ担保ガ不十分ト為リタル限度ニ於テ満期前ト雖モ債務ヲ弁償スルノ責ニ任ス 第千二百八条 抵当財産ノ差押ラレサル間ハ債務者ハ第百二十六条及ヒ第百二十七条ニ定メタル期間中其不動産ノ賃貸シ、土地ヲ離レサルモノト雖モ其果実及ヒ産物ヲ移付シ及ヒ一般ニ総テ管理ノ所為ヲ為スノ権利ヲ保存ス 第二節 抵当ノ種類 第千二百九条 抵当ハ法律上、合意上又ハ遺嘱上ノモノタリ 第一款 法律上ノ抵当 第千二百十条 抵当ハ総テ要約ニ関セス左ノ各人ノ利益ニ於テ当然成立ス 第一 婦カ其夫ニ対シテ有スル事アルヘキ総テノ債権ノ為メニハ婚姻ノ日ニ於テ現ニ夫ニ属スル財産ト名義ノ如何ニ拘ハラス後日之ニ属スル事アルヘキ財産トヲ問ハス夫ノ未成年タルトキト雖モ其夫ノ総テノ不動産ニ対シ婚姻シタル婦ノ利益ニ於テ 第二 未脱後見ノ未成年者及ヒ乱心ノ為メ裁判上ニテ治産禁ヲ受ケタル者又ハ処刑言渡ノ効力ニ因リ法律上ニテ治産禁ヲ受ケタル者ノ其後見人ニ対シテ有スル総テノ債権ノ為メニハ現在ト将来トヲ問ハス後見人ノ総テノ財産ニ対シ此等ノ者ノ利益ニ於テ 第三 行政法ヲ以テ定メタル限度ト条件トニ従ヒ会計役員ノ管理ニ付テハ其会計役員ノ財産ニ対シ国、「デパルトマン」、「コンミユーヌ」及ヒ公設所ノ利益ニ於テ 又第千百八十七条及ヒ第千百九十条ノ明文ニ従ヒ変性シタル先取特権ヨリ生スル抵当ハ之ヲ法律上ノ抵当ト看做ス 第二款 合意上ノ抵当 第千二百十一条 合意上ノ抵当ハ公正証書ノ通常ノ方式ニ従ヒ公証人ノ面前ニテ為シタル合意ノミヨリ生スル事ヲ得若シ之ニ違フトキハ全ク無効トス 委任者ノ財産ニ対シ抵当ヲ承諾スルノ委任ハ特別ニシテ且右ニ同シク公証人ノ面前ニテ之ヲ与フル事ヲ要ス又其委任ハ抵当ノ合意中ニ其要旨ヲ掲クル事ヲ要ス 第千二百十二条 日本ニ存在スル財産ニ関シ外国ニ於テ為シタル抵当ノ合意ハ此種類ノ所為ノ為メ外国ニ於テ用ユル方式ニ従ヒ日本人ノ間ニ之ヲ為シタルトキハ其効ヲ生スル事ヲ得然レトモ第千二百十九条及ヒ第千二百二十四条以下ニ定メタル条件ヲ遵守スルニ非サレハ右ノ合意ニ依リ日本ニ於テ其記入ヲ為ス事ヲ得ス 第千二百十三条 抵当設定ノ証書ニハ義務ノ担保ニ供シタル不動産ヲ其本質及ヒ所在ニ因テ特ニ指示スル事ヲ要ス 若シ抵当ノ設定カ債務者ノ現在ノ各不動産ヲ特ニ指示セスシテ其不動産ノ全部又ハ一分ヲ包含スルトキハ債務者ノ請求ニ因リ債権ノ担保ニ必要ナルモノニ其抵当ノ設定ヲ減少スル事ヲ得 債務者ノ将来ノ財産ニ対スル一般又ハ特別ノ抵当ノ設定ハ全部ニ付キ無効タリ 第千二百十四条 合意上ノ抵当ノ設定証書ニハ右ノ外義務ノ原由、態様及ヒ主タルト従タルトヲ問ハス義務ノ目的物ヲ明カニ指示スル事ヲ要ス 目的物カ直接ニ金額タラサルトキハ金額ヲ以テ之ヲ評価スヘシ然レトモ此終ノ条件ハ第千二百二十六条ニ記載スル如ク記入ニ於テノミ之ヲ履行スル事ヲ得 第千二百十五条 抵当ハ抵当ニ供セント欲スル物ノ所有権又ハ収益権ヲ有シ且債務ノ原由ニ従ヒ有償又ハ無償ニテ之ヲ処分スルノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ承諾スルコトヲ得ス但第三者ノ抵当設定ニ付キ第千二百十七条ニ記載シタルモノヲ妨ケス 若シ一時ノ権利ニ関スルトキハ抵当ハ主タル権利ニ付キ定メラレタル時期外ニ効力ヲ生スルコトヲ得ス但右ノ時期ニ於テ抵当権カ既ニ或ル事変ニ因リ物ノ価額ヲ代表スル賠償金ニ移リタルトキハ此限ニ在ラス 第千二百十六条 未成年者、禁治産者及ヒ失踪者ノ財産ハ第一編ニ定メタル原由ノ為メ同編ニ定メタル方式ヲ以テスルニ非サレハ其代人ニ於テ之ヲ抵当ト為ス事ヲ得ス 商ヲ為ス事ヲ許サレタル既脱後見ノ末成年者及ヒ婚姻シタル婦ニ於テ抵当ヲ設定スルノ能力ハ商法ニ之ヲ規定ス 第千二百十七条 合意上ノ抵当ハ第千百三条第千百四条及ヒ第千百二十二条ニ於テ動産質及ヒ不動産質ニ付キ記載シタル如ク第三者ノ債務ヲ担保スル為メニ之ヲ与フル事ヲ得 此合意上ノ抵当ハ常ニ債務者ニ対シテハ恩恵ナリトス又其抵当ハ債権カ無償ノ原由ヲ有スルトキ又ハ其抵当カ有償ナルモ約束シタル事ナクシテ主タル合意以後ニ之ヲ設定シタルトキハ債権者ニ対シテモ恩恵ナリトス 第三款 遺嘱上ノ抵当 第千二百十八条 抵当ハ遺嘱者ノ贈遺ノ全部若クハ幾分ノ担保又ハ第三者ノ債務ノ担保ノ為メニ非サレハ遺嘱者ノ一箇又ハ数箇ノ不動産ニ対シ遺嘱ヲ以テ之ヲ与フル事ヲ得ス 有効ニ遺嘱上ノ抵当ヲ設定スルニハ設定者ヨリ債務者及ヒ債権者ニ対シ遺嘱ニ因テ互ニ授受スルノ能力アル事ヲ要ス 第三節 抵当ノ公示 第一款 記入ノ条件、方式及ヒ継続期 第千二百十九条 総テ法律上、合意上又ハ遺嘱上ノ抵当ハ下ニ定メタル条件及ヒ方式ニ従ヒ抵当不動産所在地ノ登記役所ニ於テ記入セラレタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スル事ヲ得ス 若シ財産カ甚タ広大ナルニ因リ二箇又ハ数箇ノ役所ノ管轄ヲ受クル場合ニ於テ其全部抵当ト為サレタルトキハ其財産ノ主タル部分ノ所在地ヲ管轄スル役所ニ於テ記入ヲ為シ其他ノ役所ニ於テハ右ノ記入ト其日附トノ記載ノミヲ為ス 第千二百二十条 抵当ハ左ノ二箇ノ場合ニ於テハ債務者ニ対シ有効ニ之ヲ記入スル事ヲ得ス 第一 抵当発生ノ後債務者ノ無資力カ適正ニ宣告セラレ又ハ其財産ノ全部又ハ其大部分ノ差押ニ因リ顕然ト為リタルトキ但商法ニ於テ破産ノ場合ニ於ケル記入ノ権利ニ加フル事アルヘキ其他ノ制限ヲ妨ケス 第二 債務者カ死亡シテ相続ヲ受クヘキ総テノ相続人カ単純ニ其相続ヲ受諾セサルトキ 若シ抵当ヲ負担シタル財産ヲ移付シタルトキハ債権者ノ第三保有者ニ対シテ記入スル権利ノ制限ハ第五節ニ之ヲ定ム 第千二百二十一条 若シ債権者カ其財産ノ管理権ヲ有セサルトキハ其法律上又ハ裁判上ノ代人ニ於テ記入ヲ為スモノトス 抵当ノ記入ハ亦一般代理人及ヒ法律上又ハ合意上ノ抵当ノ附着シタル所為ヲ行フノ委任ヲ受ケタル特別代理人ノ権利及ヒ責任ニ属スルモノトス 記入ハ亦債権者ノ為メニ事ヲ行フ事務管理人ニ於テ其債権者ノ委任ナクシテ之ヲ為スコトヲ得 第千二百二十二条 婦ノ法律上ノ抵当ハ夫カ条件附ナルモ契約又ハ其他ノ方法ニテ婦ノ債務者ト為リタルトキヨリ夫又ハ裁判所ノ許可ヲ要セス婦ノ請求ニ因リ之ヲ記入スルコトヲ得又其記入ハ婦ノ適当ト思考スル如ク不動産ノ全部又ハ一分ニ付キ之ヲ為スコトヲ得但第千二百四十一条ニ記載スル如キ夫ノ減少ノ権利ヲ妨ケス 婦ノ記入ヲ為サヽルトキハ夫ハ其債務者タル右ノ場合ニ於テ負担ナク又ハ不十分ノ負担アリテ婦ノ担保ノ為メ十分ナル不動産ニ対シ成ル可ク婦ノ為メニ記入ヲ為スコトヲ要ス 婦又ハ夫ノ記入ヲ為サヽルトキハ仮令委任ナキモ婦ノ血属又ハ縁属中ノ一人ニ於テ之ヲ為スコトヲ得但婦ノ故障又ハ放棄アラサルコトヲ要ス 第千二百二十三条 未成年者ノ法律上ノ抵当ハ夫ニ対スル婦ノ法律上ノ抵当ト同一ノ場合ニ於テ之ト同一ノ条件ニ従ヒ後見人ノ注意及ヒ請求ニ因リ之ヲ記入スルコトヲ要ス 後見人ノ注意ニテ記入ヲ為サヽルトキハ後見人監督者又ハ親族会議各員ノ請求ニ因テ右抵当ノ記入ヲ為スコトヲ要ス若シ之ヲ為サヽルトキハ是等ノ者ハ未成年者ニ対シ連帯シテ損害賠償ヲ負担ス 未成年者既ニ後見ヲ脱シタル後ハ未成年者自身ノ請求ニ因リ亦其抵当ノ記入ヲ為スコトヲ得 第千二百二十四条 前条第一項及ヒ第二項ノ条例ハ乱心ノ為メナルト処刑言渡ノ為メナルトヲ問ハス治産禁ヲ受ケタル者ノ法律上ノ抵当ニ之ヲ適用ス 処刑言渡ニ因レル禁治産ノ場合ニ於テハ禁治産者ノ特別ノ代理人ヨリモ記入ヲ求ムルコトヲ得 第千二百二十五条 抵当ノ記入ヲ求ムル者ハ下ニ記スル如ク己レノ利益ノ為メ又ハ己レノ代表スル債権者ノ利益ノ為メ抵当ノ成立スルコトヲ抵当保管人ニ証明スルコトヲ要ス 婚姻シタル婦未成年者又ハ禁治産者ノ法律上ノ抵当ニ関スルトキハ法律ニ依リ抵当ノ生スル原因タル婚姻又ハ後見ノ証ニ因テ証明スルコトヲ要ス 合意上ノ抵当ニ関スルトキハ抵当ヲ設定シタル公正証書ノ謄本ニ因テ証明スルコトヲ要ス 遺嘱上ノ抵当ニ関スルトキハ遺嘱書ノ正本又ハ其公正ナル写書ニ因テ証明スルコトヲ要ス 総テノ場合ニ於テ若シ保管人カ抵当ノ成立ニ付キ供セラレタル証ヲ争フトキ又ハ債務者ト帳簿ニ記載シタル如キ記入ノ求メラレタル不動産ノ所有者ト同人ナルコトカ十分保管人ニ証明セラレサルトキハ抵当保管人ハ自己ノ責任ニテ記入ヲ拒絶スルコトヲ得但其保管人ハ職権ヲ以テ其拒絶ノ精確ナル原由ノ陳述書ヲ供スルノ義務アリ 第千二百二十六条 請求者ハ其他左ノ諸件ヲ精確ニ指示スル二通ノ正本ニ於ケル明細書ヲ差出スモノトス 第一 債権者ノ氏名、職業、住所又ハ居所 第二 成ルヘキ丈債務者ノ氏名、職業住所又ハ居所 第三 抵当ノ原由及ヒ法律上ノ抵当以外ノ抵当ニ関スルトキハ設定証書ノ本質及ヒ日附 第四 債権ノ証書ノ本質、其日附、右ノ証書ニ記載シタル金額又ハ不確定ナル価額ノ債権ニ関スルトキハ現ニ金円ニテ評価シタル金額及ヒ債務ノ要求期限 第五 抵当ト為シタル不動産ノ本質及ヒ其所在地 前来ノ記入ノ縁辺ニ附記スヘキ譲渡又ハ合意上若クハ法律上ノ代位ノ場合ニ於テハ明細書ニ新債権者及ヒ其証書ノ指示ヲ記載スルヲ以テ足レリトス 第千二百二十七条 若シ婚姻シタル婦未成年者又ハ禁治産者ノ法律上ノ抵当ニ因テ担保セラレタル債権カ一箇ノ権利名義ヨリ生セサルトキハ債権ノ原由トシテ請求者ノ申述シタル事実及ヒ其主張シタル権利ノ金円ニ於ケル評価ノ要旨ヲ明細書ニ指示スヘシ 第千二百二十八条 若シ債権者ノ本住所カ記入ヲ為ス役所ノ管轄地内ニ在ラサルトキハ記入シタル抵当ニ関シテ其債権者ニ為スヘキ通知ノ為メ記入ニ於テ其債権者ノ為メ特別住所ノ選定ヲ為スコトヲ要ス 其住所ハ右ニ同シキ場所ト公示トノ条件ヲ以テ何時ニテモ之ヲ変更スルコトヲ得 第千二百二十九条 保管人ハ上ニ指定シタル書類ヲ受取リタル時請求者ノ面前ニテ切取帳簿ヨリ切離シタル受取証ヲ其請求者ニ付与ス但其受取証ニハ第千二百五十三条ノ適用ヲ保スル為メ同日ノ受取番号ト共ニ其受取ノ日ヲ記載スヘキモノトス 第千二百三十条 若シ請求者カ原債権者ノ相続人又ハ譲受人トシテ請求スルトキハ其原債権者ノミノ名ヲ以テ或ハ自己ト原債権者トノ連名ヲ以テ記入ヲ為スコトヲ得 若シ債権者ノ代理人又ハ事務管理人ヨリ記入ヲ求ムルトキハ委任者ノ名及ヒ分限ト共ニ其代理人又ハ事務管理人ノ名及ヒ分限ヲ特別ニ記載スヘシ 第千二百三十一条 若シ債務者カ死亡シタルトキハ記入ハ記入者ノ選択ニ因リ其債務者ニ対シ又ハ相合シテ其総テノ相続人ニ対シ之ヲ為スコトヲ得 負担アル不動産カ相続ノ派分ニ因テ相続人中一人ノ配当部分ニ帰シタル場合ニ於テハ其相続人ノミニ対シ記入ヲ為スコトヲ得 若シ第三者ノ債務ノ為メニ抵当ヲ設定シタルトキハ設定者ニ対シテ記入ヲ為スモノトス 第千二百三十二条 保管人カ記入帳簿ニ明細書ノ包有事項ヲ記載シタルトキハ其各明細書ニ記入ノ在ル帳簿ノ冊数及ヒ葉数ト請取帳簿ノ順序ノ番号トヲ指示シテ記入ノ所為、場所及ヒ日附ヲ証明シタル上、二箇ノ明細書ノ各葉ニ同一ノ割印ヲ押捺ス 明細書ノ一通ハ抵当ノ証明書ト共ニ之ヲ請求者ニ之ヲ還付シ他ノ一通ハ保管人自己ノ担保ノ為メ之ヲ保存ス 此ノ如クニ検書割印シ及ヒ毎年併合シタル明細書ハ記入ノ正本ヲ成シ又一箇ノ帳簿ニ其記入ノ見出ノミヲ記スヘキコトハ規則ヲ以テ之ヲ定ムルコトヲ得 第千二百三十三条 第三者ニ於テ記入ノ不完全ナルカ為メ其知ルコトニ利益ヲ有セシ抵当ノ或ル要点ヲ知リ得サリシヨリ生シタル損害ヲ証明スルトキハ其第三者ノ請求ニ因リ明細書ニ於ケル前規定ノ記載ニ遺脱、不十分又ハ不精確ノ廉アルカ為メ記入ノ無効ヲ宣告スルコトヲ得 第千二百三十四条 法律上、合意上又ハ遺嘱上ノ抵当ノ記入ハ三十年其効力ヲ保存スルノミニシテ此期間后ニ於テハ債権ノ時効カ中断セラレ又ハ停止セラレタルトキト雖モ其記入ノ効力ヲ失フ 右ノ期間ハ無能力者ニ対シテ進行ス但其代人ニ対スル求償ヲ妨ケス 然レトモ三十年ノ期間満了前ニ記入ヲ更新シテ前記入ノ日附ヲ精確ニ記載シタルトキハ其記入ハ抵当ニ前記入ト同一ノ日附ヲ以テ其順位ヲ保存セシム 記入ノ効力ヲ失ヒシ後ノ更新ハ通常ノ記入ニ等シク其更新ノ日附ニ於テノミ効力ヲ生ス 第千二百三十五条 三十年ノ期間内ニ於ケル記入ノ更新ハ原記入后ニ起リタル債務者ノ破産、無資力又ハ死亡ニ拘ハラス之ヲ許ス然レトモ右ノ事故ハ第千二百廿条ニ記載シタル如ク既ニ効力ヲ失ヒタル記入ノ更新ヲ妨ク 第千二百三十六条 保管人ハ前記入ニ関スル正本二通ノ請求書ヲ受取リタル上ニテ記入ノ更新ヲ為シ其正本一通ニハ割印ヲ附シ及ヒ其更新ヲ為シタル旨並ニ其日附ヲ記シテ之ヲ請求者ニ還付ス 第千二百三十七条 記入ノ費用ハ債権ヲ有償名義ニテ得取シ且反対ノ合意アラサルトキハ債務者及ヒ債権者各其半額ヲ負担ス 更新ノ費用ハ債権者独リ之ヲ負担ス 第千二百三十八条 記入ニ関スル争ハ抵当財産所在地ノ裁判所ニ之ヲ訴ヘ又債権者ニ対スル召喚又ハ告知ハ記入ニ於テ選択シタル住所ニ之ヲ為ス 第二款 記入ノ抹殺、減少及ヒ改正 第千二百三十九条 左ノ場合ニ於テハ記入ヲ抹殺ス 第一 記入ノ関係スル債権カ無効タリ若クハ取消スヘキモノタルトキ又ハ其債権カ全部消滅シタルトキ 第二 記入ヲ為シタル抵当カ有効ニ設定セラレス及ヒ法律ニ従テ成立セサルトキ 第三 記入其モノカ第千二百三十三条ニ依リ取消スヘキモノナルトキ 右ハ総テ第千二百四十五条ニ記載シタル如ク或ル不動産ニ対スル記入ノ抹殺ヲ妨ケス 第千二百四十条 記入ノ抹殺ハ債務者又ハ其承権人ノ請求ニ因リ裁判上ニテ之ヲ宣告スルコトヲ要ス但下ニ規定シタル方式ニ於テ債権者ヨリ之ヲ許シタルトキハ此限ニ在ラス 第千二百四十一条 婚姻シタル婦ノ法律上ノ抵当カ或ル不動産ニ制限セラレサルトキ又ハ債権カ婚姻契約ニ因リ若クハ配偶者間ノ特別合意ニ因テ定マリタル金額ニ評価セラレスシテ婦ノ未定ノ担保ニ必要ナルヨリ多クノ不動産ニ対シテ記入ヲ為シ若クハ債権ノ正当ナル評価ヨリ更ニ大ナル金額ノ為メニ記入ヲ為シタルトキハ夫又ハ其承権人或ハ不動産ニ関シ或ハ評価シタル金額ニ関シ裁判上ニテ右記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得 第千二百四十二条 右ニ等シク後見人又ハ其承権人ハ其職務ニ就キタル当時又ハ其後ニ於テ後見会議ノ決議ニ因リ或ル不動産ニ抵当ヲ制限スルコト又ハ定マリタル金額ニ債権ヲ評価スルコトヲ為サヽリシトキハ未成年者又ハ禁治産者ノ担保ニ必要ナルモノヽ外ニ為シタル記入ノ減少ヲ請求スルコトヲ得 第千二百四十三条 抵当カ合意上ノモノタルトキハ債務者ハ其牴当カ現在ノ財産ニ係ル一般ノモノニシテ第千二百十三条ニ記シタル如ク過度ナルトキニ非サレハ裁判上ニテ其減少ヲ請求スルコトヲ得ス 総テノ場合ニ於テ債務者ハ設定証書又ハ別証書ヲ以テスル評価アラサルトキハ記入ニ於テ債権者ノ為シタル債権ノ評価ノ減少ヲ請求スルコトヲ得 第千二百四十四条 遺嘱上ノ抵当ハ相続ノ不動産ニ関シ遺嘱者ヨリ制限ナク之ヲ設定シ又ハ債権ニ関シ評価ナクシテ之ヲ設定シタルトキハ亦相続人ノ請求ニ因リ之ヲ減少スルコトヲ得 第千二百四十四条ノ二 若シ債務カ半額以上消滅シタルトキハ記入セラレタル金額ノミニ関シ亦三種ノ抵当ノ記入ヲ減少ス 債務者ハ其為シタル一分ノ弁済ヲ何時ニテモ自費ニテ記入ノ縁辺ニ附記セシムルコトヲ得 第千二百四十五条 全部又ハ一分ニ付キ債務者ノ請求ヲ認可スル判決ニハ若シ抵当ヲ免カレシムル不動産アラハ其不動産又ハ評価ヲ改メタル其金額ヲ指示ス 右第一ノ場合ニ於テハ負担ヲ免カレタル不動産ニ対シテ為シタル記入ヲ抹殺シ第二ノ場合ニ於テハ之ヲ減少ス 第千二百四十六条 前数条ニ従ヒ或ル不動産ニ記入ヲ減少シタル場合ニ於テ若シ右ノ不動産カ債権者ノ担保ニ不十分ト為リタルトキハ仮令意外ノ原由又ハ不可抗力ニ出ツルトキト雖モ債権者ハ抵当ノ補足ヲ請求スルコトヲ得 第千二百四十七条 記入ノ抹殺及ヒ減少ハ公正ノ方式ニ於ケル証書ヲ以テスルニ非サレハ債権者ニ於テ之ヲ承諾スルコトヲ得ス 第千二百四十八条 任意ノ抹殺又ハ減少カ債務ノ全部又ハ一分ノ消滅ニ基クトキハ其抹殺又ハ減少ヲ承諾スルニハ債権者其債務ノ弁済ヲ受取リ又ハ之ヲ認知スルノ能力ヲ有スルヲ以テ足レリトス 若シ又抹殺又ハ減少カ第千二百三十九条ニ記載シタル他ノ原由ノ一ニ基クトキハ債権者和解スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス 若シ右ノ抹殺又ハ減少カ抵当ノ無償ノ放棄又ハ合意上ノ釈放ノ性質ヲ有スルトキハ債権者無償ニテ債権ヲ処分スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス 第千二百四十九条 記入ノ抹殺又ハ減少ヲ承諾スル為メノ委任ハ亦公正証書ヲ以テ之ヲ与フルコトヲ要ス 然レトモ若シ抹殺又ハ減少カ債務ノ全部又ハ一分ノ消滅ニ基クトキハ債務者ノ義務免除ニ参加スルノ権限ヲ有シタル総テノ代理人ニ於テ其抹殺又ハ減少ヲ承諾スルコトヲ得 若シ和解又ハ無償ノ放棄アルトキハ委任ハ明示ノモノタルコトヲ要ス 第千二百五十条 抹殺及ヒ減少ハ其抹殺及ヒ減少ヲ許シタル合意又ハ之ヲ命シタル判決ヲ記入ノ縁辺ニ附記スルニ因リテ之ヲ為ス 保管人ハ公証人ノ証書又ハ判決書ノ公正ナル謄本ヲ受取リタル上ニ非サレハ右ノ附記ヲ為サス但判決書ノ謄本ヲ差出ス場合ニ於テハ裁判所書記其謄本ニ判決ノ確定ト為リタル旨ヲ証明スルコトヲ要ス 第千二百二十五条ノ末項ハ保管人ノ拒絶及ヒ其責任ニ之ヲ適用ス 第千二百五十一条 若シ抹殺又ハ減少カ後日ノ判決ニ因テ取消サレ若クハ解除セラレタルトキハ其判決ヲ更ニ記入ノ縁辺ニ附記シテ其記入ハ前債権者ニ関シテ効力ヲ回復ス然レトモ二箇ノ判決ヲ間ニ於テ不動産ニ対シテ権利ヲ得取シ第二ノ判決ノ公示前ニ其権利ヲ記入シタル第三者ニ右ノ記入ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス 第千二百五十二条 若シ最初ノ記入、更新、抹殺又ハ減少ニ不精確又ハ遺脱ノ廉アルモ之カ為メ取消ヲ為サシムルニ足ラサルトキ当事者ノ協議セサルニ於テハ判決ヲ以テ其不精確又ハ遺脱ヲ改正ス 第四節 債権者間ニ於ケル抵当ノ効力及ヒ順位 第千二百五十三条 総テ不動産ニ付キ有効ニ記入シタル抵当債権者ハ其不動産ノ代価ニ付キ有益ニ配当順序ノ定メヲ受クルコトヲ得ルニ因リ無特権債権者ニ先ツモノトス 法律上、合意上又ハ遺嘱上ノ抵当ヲ有スル債権者ノ間ニ於テハ配当順序ハ数名ノ債権者ニ関スルニ二箇又ハ数箇ノ記入ヲ同日ニ為シタルトキト雖モ其記入ノ前後ニ因テ之ヲ定ム但保管人ノ第千二百廿九条ニ従ヒ交付ノ番号ヲ遵守セサル場合ニ於テハ之ニ対スル責任ノ訴権ヲ妨ケス 第千二百五十四条 記入ハ債権ノ利息ニ其満期トナリタル最後ノ二ケ年分ニ限リ主タル債権及ヒ之ニ添ヘル定期ノ従タル債権ト同一ノ順位ヲ得セシム但債権者ノ一層旧キ利息ノ為メ後ニ記入ヲ為スノ権利ヲ妨ケスト雖トモ此記入ハ其日附ニ於テノミ効ヲ生スルモノトス 第千二百五十五条 抵当ノ順位ハ債権カ条件付タルトキ又ハ信用ノ開始ニ於ケル如ク順次ノ払込ヨリ生スルトキト雖モ亦記入ニ因テ之ヲ定ム 第千二百五十六条 債権者カ各箇ノ代価ノ同時ニ清算セラレタル数箇ノ不動産ニ付キ抵当ヲ有スルトキハ其債権ハ総テノ不動産ニ其重要ノ割合ニ応シテ之ヲ配当ス可シ 順次ノ清算ノ場合ニ於テ若シ右ノ債権者カ不動産中一箇ノ代価ニ因テ全ク弁済ヲ受ケ此一箇ノ不動産ニ付キ其債権者ノ次ニ抵当ヲ有スル一人又ハ数人ノ債権者ノ為メニ損失ノ生スルトキハ其一人又ハ数人ノ債権者ハ他ノ各不動産ニ付テハ其己レニ先チタル債権ニ於ケル其各不動産ノ分担部分ニ対シ自己ノ債権ノ為メ其相互ノ順位ヲ以テ右弁済ヲ受ケシ債権者ノ抵当ニ当然代位ス 第千二百五十七条 前条ノ代位ハ右ノ如ク其権利ノ移転セラレタル債権者ニ次テ右不動産ニ付キ記入ヲ為シタル債権者ニ対シテ其効ヲ生ス 若シ右ノ代位者カ其為シタル記入ノ縁辺ニ其代位ヲ附記セシメタルトキハ其代位者ハ順序規定ノ手続中ニ指名シテ之ヲ加ハラシムルコトヲ要シ其承諾アルニ非サレハ何等ノ抹殺又ハ減少ヲモ為スコトヲ得ス 若シ弁済ヲ受ケシ債権者ノ抵当ニ供シタル他ノ不動産ニ付キ其抵当ヲ記入セサリシトキハ代位者其記入ヲ為シ且右ト同一ノ目的ニテ其縁辺附記ヲ為スコトヲ得 第千二百五十八条 総テ債権ヲ処分スルノ能力アリ又ハ合式ニ代理セラレ若クハ此カ為メニ許可セラレタル抵当債権者ハ抵当ヲ有スルト無特権ナルトヲ問ハス同一債務者ノ他ノ債権者ノ利益ニ於テ自己ノ抵当又ハ単ニ其順位ヲ放棄スルコトヲ得但第五百二十二条及ヒ第五百二十五条ニ更改ニ関シテ記載シタルモノヲ妨ケス 若シ抵当債権カ順次ニ譲渡、放棄又ハ代位ノ目的タリシトキハ優先権ハ既ニ為シタル記入ノ縁辺ニ自己ノ権利ノ設定証書ヲ附記シ又記入カ未タ為サレサリシトキハ特ニ之ヲ為シテ其得取ヲ第一ニ公示シタル承権人ニ属ス 第千二百五十九条 右ノ外第千二百九十一条ノ条例ハ前二条ノ場合ニ之ヲ適用ス 第千二百六十条 抵当債権者又ハ無特権債権者カ記入セサル抵当ヲ知リテ之ヲ自認シタリト雖トモ其債権者ヲシテ記入ノ欠缺ヲ利唱スルノ権利ヲ失ハシメス 第千二百六十一条 不動産売払代価ヲ以テ全部ノ弁済ヲ受ケサル抵当債権者ハ其尚ホ受ク可キモノニ付テハ無特権債権者タリ 若シ不動産ノ売払ニ先チテ動産有価物ノ全部又ハ一分ノ配当ヲ為ストキハ抵当債権者ハ其債権全額ノ為メ無特権債権者トシテ仮リニ其配当ニ加ハル 其後ニ至リ抵当不動産ノ代価ヲ配当スルトキハ右ノ債権者ハ動産有価物ニ付キ何等ノモノヲモ受取ラサリシカ如ク其配当順序ニ加ハル然レトモ此ノ如クシテ全ク弁済ヲ受ク可キ者ハ無特権債権者トシテ受取リタル金額ヲ減除スルニ非サレハ其抵当ノ配当額ヲ受クルコトヲ得スシテ其減除シタル金額ハ動産財団中ニ之ヲ返還ス 抵当ニ因テ一分ノミノ弁済ヲ受クルコトヲ得可キ者ニ付テハ其動産財団ニ対スル権利ハ有益ニ順序ニ加ハラサル所ノ金額ニ従ヒ確定ニ定メラレ其者ノ右ノ割合外ニ受取リタルモノハ其抵当ノ配当額中ヨリ扣除シ之ヲ動産財団中ニ返還ス 右ノ如ク返還セラレタル金額ハ純粋ノ無特権債権者ト配当順序ニ加ハルヲ得ス又ハ債権ノ一分ノミニ付キ之ニ加ハリタル抵当債権者トノ間ニ於ケル新配当ノ目的ヲ成ス 第五節 第三保有者ニ対スル抵当ノ効力 前置条例 第千二百六十二条 抵当不動産カ全部又ハ一分譲渡サレ又ハ用益権若クハ其他ノ物権ヲ負担スルトキハ譲渡又ハ所有権支分ノ設定証書ヲ登記スル前ニ其不動産ニ対シ記入ヲ為シタル抵当債権者ハ第三取得者ニ対シ尚ホ己レニ受ク可キモノヽ弁済ヲ請求スルノ権利ヲ保存シ又右不動産カ譲渡サレス又ハ支分セラレサルトキノ如ク自己ノ抵当順位ヲ以テ其代価ニ因リ弁済ヲ受クル為メ右不動産ノ徴収ヲ訴追スルノ権利ヲ附随ニテ保存ス 然レトモ第百二十六条及ヒ第百二十七条ニ記載シタル継続期ヲ以テ為シ又ハ更新シタル賃借ハ既ニ記入シタル債権者ニ於テ之ヲ遵守スルコトヲ要ス 第千二百六十三条 若シ抵当カ所有権ノ支分ニ存シテ債務者其権利ヲ放棄シタルトキハ其放棄ノ登記前ニ記入シタル債権者ハ其放棄ニ拘ハラス追及権ヲ保存ス 第千二百六十四条 抵当ハ其記入カ公売競落ノ登記前ニ為サレタルトキニ非サレハ抵当不動産ヲ差押ヘテ之ヲ売却セシメタル無特権債権者ニ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス但第千二百二十条ニ掲ケタル二箇ノ場合ニ於テ為シタル記入ノ無効タルヲ妨ケス 第千二百六十五条 第三保有者ノ破産無資力又ハ死亡ハ其取得証書ノ登記アルマテハ抵当記入ノ妨碍ト為ラス 第千二百六十六条 第三保有者ノ場合ニ従ヒ左ノ方法ヲ用フルコトヲ得 第一 総テノ抵当債務ヲ弁済スルコト 第二 滌除スルコト 第三 討索ノ抗弁ヲ以テ対抗スルコト 第四 不動産ヲ委棄スルコト 第五 所有権徴収ヲ受クルコト 第一款 抵当債務ノ弁済 第千二百六十七条 第三保有者カ抵当債務ノ満期ト為ルニ従ヒ之ヲ弁済スルニ於テハ其第三保有者ハ所有権徴収又ハ妨碍ヲ受クルコト無シ 第千二百六十八条 第三保有者カ債務ノ全部又ハ一分ヲ弁済シタルトキハ其第三保有者ハ第五百四条第一号及ヒ第五百五条第三号及ヒ第四号ニ従ヒ自己ノ弁済シタル債権者ノ其他ノ抵当抵保及ヒ利益ニ代位ス 又第三保有者ハ其弁済セサリシ債権者ヨリ所有権徴収ノ訴追ヲ受クルコトアル可キ場合ノ為メ自己ノ保有スル不動産ノ負担スル抵当ニ付キ未定ノ代位ヲモ取得ス 第二款 滌除 第千二百六十九条 第三保有者ハ記入シタル総テノ抵当債務ヲ弁済セサルモ債権者ニ其記ノ順序ヲ以テ弁済シ又ハ債権者ノ為メニ自己ノ取得代価若クハ不動産ノ評価額若クハ之ニ超ユル金額ヲ供託シテ不動産ノ負担ヲ免カレシムルコトヲ得但右ニ付テハ下ニ規定セル如キ提供及ヒ滌除ト称スル手続ヲ為シタル後債権者ニ於テ明示又ハ黙示ニテ承諾シタルコトヲ要ス 第千二百七十条 停止条件附ノ取得者ハ其権利カ条件ノ成就ニ因テ固定セサル間ハ滌除スルコトヲ得ス 解除条件附ノ取得者ハ其権利カ条件ノ缺クルニ因テ固定セサル前ト雖トモ滌除スルコトヲ得 此場合ニ於テ若シ第三保有者ノ提供カ承諾セラレタルモ元資ノ不足スル抵当抹殺ノ後其第三保有者ノ取得カ解除セラルヽニ於テハ抹殺シタル記入ハ第千二百四十九条ニ従ヒ之ヲ回復ス 若シ右ノ場合ニ於テ提供カ承諾セラレスシテ下ニ規定セル如ク不動産ヲ競売ニ付シタルトキハ競落ハ其第三保有者ノ利益ニ於テ宣告セラレタルト其他ノ者ノ利益ニ於テ宣告セラレタルトヲ問ハス以後解除ヲ免カルヽモノトス 第千二百七十一条 抵当ヲ滌除スルノ権利ハ主タル債務者ト為リ又ハ保証人ト為リテ一身上ニ抵当債務ノ責ニ任スル第三保有者ニ属セス 右ノ権利ハ亦設定者ノ連合共同債務者ニ属セス但第一ノ抵当訴追前ニ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ弁済シタルトキハ此限ニ在ラス 又如何ナル場合ニ於テモ右ノ権利ハ債務者ノ相続人ニシテ債務ニ於ケル自己ノ相続部分ノミヲ弁済シタル者ニ属セス 又右ノ権利ハ他人ノ債務ノ為メ自己ノ財産ニ付キ抵当ヲ設定シタル者又ハ其者ノ相続人ニ属セス 第千二百七十二条 抵当債権者ノ参加スル為メニ招換セラレタル不動産差押ノ上ノ公競落、増競売ノ上ノ公競落、抵当訴追ノ上ノ公競落又ハ其他ノ公競落ニ付テハ滌除ヲ為スコトヲ得ス 公益ニ因由スル所有権、徴収ニ付テモ亦同シ 右ハ抵当債権者ノ其順位ヲ以テ競落代価又ハ所有権徴収ノ賠償金ニ付キ配当順序ノ定メヲ受クルノ権利ヲ妨ケス 第千二百七十三条 使用権、住居権及ヒ地役権ニ付テハ滌除ヲ為サヽルモノニシテ債務者ノ是等ノ権利ノ負担セシメタル不動産ニ付キ抵当ヲ有スル債権者ハ右ノ如クニ付与シタル是等ノ権利ヲ斟酌セスシテ債務者ニ対シ其不動産ノ売却ヲ訴追スルコトヲ得 債務者ノ第千二百六十二条ニ記シタル制限ヲ超ヘテ為シタル賃貸ニ付テモ亦同シ 第千二百七十四条 第三保有者ハ債権者ヨリ訴追ヲ受ケサル間ハ何時タリトモ滌除スルコトヲ得又遅クトモ弁済スルヤ又ハ不動産ヲ委棄スルヤノ催告ヲ受ケタル後一个月内ニ滌除スルコトヲ得但之ニ違フトキハ失権ト為ルモノトス 然レトモ右ノ失権ハ当然生スルモノニ非スシテ裁判所ニ之ヲ請求スルコトヲ要ス但裁判所ハ第三保有者カ正当ノ障碍アリシコトヲ証明シ且債権者ノ其遅延ノ為メニ現実ノ損害ヲ受ケサルヘキニ於テハ失権ヲ宣告セサルコトヲ得 又債権者提供ニ答フル為メ第千二百七十八条ニ依リ付与セラレタル一个月ノ期間ニ失権ヲ請求セサルニ於テハ失権ヲ宣告スルコトヲ得ス 第千二百七十五条 第三保有者ハ滌除ノ予式トシテ第三者ニ対シテ自己ノ権利ヲ固定シ且第千百八十四条及ヒ第千百八十五条ニ従ヒ譲渡人ノ先取特権ヲ公示スル為メ自己ノ証書ヲ登記セシムルコトヲ要ス 右ノ後第三保有者ハ保管人ヲシテ自己ノ不動産ノ負担セル先取特権又ハ抵当ノ目録ヲ交付セシム