第三編 物権及ヒ人権ヲ獲得スル方法
第千百一条 凡ソ物上及ヒ対人ノ諸権利ハ本編ノ両部ニ説明スル如ク特定ノ名義ニテ若ハ包括ノ名義ニテ之レヲ獲得スルヲ得
包括ノ名義ニテ獲得スル者ハ其前主ノ権利ヲ承継スルト同時ニ其義務ヲ承継ス
第一部 特定ノ名義ニテ獲得スル方法
第一章 先占
第千百二条 先占ハ無主ノ動産物ヲ自己ノ所有トスルノ意思ヲ以テ最先ニ占有セルニ因リ其所有権ヲ獲得スルノ方法ナリ
第千百三条 繞囲セシ土地内ニ其所有者ノ放チ置キ又ハ飼ヒ置ク野畜ヲ其允許ナク捕リシ者ハ現物又ハ対価物ヲ以テ返還ス可シ
繞囲セル私有ノ湖池若ハ水流中ニ於テ魚ヲ捕リシ者モ亦タ同シ
第千百四条 狩猟及ヒ捕漁ノ権利ノ行用並ニ河海ノ漂流物及ヒ陸上ノ遺失物ノ獲得ハ特別法ニ規定ス又戦時ニ行フ海陸ノ掠奪物ニ就テモ亦タ同シ
第千百五条 物ノ先占ニ関シ旧所有者ノ放棄セシモノナルヤ否ノ争論アル場合ニ於テハ随意ナル放棄ノ供証ハ先占ヲ効用スル者ノ任トス
第千百六条 単ニ偶然ノ事ヨリ他人ノ所有物中ニ発見セシ埋蔵物ニシテ其所有者ノ知レサルトキハ所有権ハ半ハ発見者ニ属ス
埋蔵物ノ包含セシ物ノ所有者其埋蔵物ニ就キ有スル権利ハ附添ノ章ニ規定ス
第千百七条 埋蔵物ノ旧所有者ハ発見後三年ノ期限内ニ非レハ前条ニ定メタル所有権付与ノ規則ニ反シテ自己ノ権利ヲ効用スルコトヲ得ス
発見セシ埋蔵物ヲ包含シタル物ノ所有者躬ラ其埋蔵物ノ所有者ナル場合ニ於テハ右ノ期限ヲ一年ニ減縮ス但此期限ハ右所有者埋蔵物ノ発見ヲ承知セシ時ヨリ起算ス
然レトモ埋蔵物ノ占有者悪意ナルトキハ通常ノ時証ヲ適用ス
第二章 附添
第千百八条 動産不動産ヲ問ハス一箇物ノ所有者ハ其物ニ合体スル総テノ従属物ヲ以下ニ定メタル区別及ヒ賠償方法ニ従ヒ獲得ス
第千百九条 土地又ハ建物ノ上下ニ為セシ総テノ築造植物其他各種ノ工作物ハ其土地又ハ建物ノ所有者自費ニテ為セシモノト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス
如何ナル場合ニ於テモ右築造及ヒ工作物ノ所有権ハ土地又ハ建物ノ所有者ニ属ス但第三ノ人ノ権証若ハ獲得時証アルトキハ此例ニ在ラス
植物ニ関スル場合ハ第千百十一条及ヒ第千百十二条ニ規定ス
第千百十条 土地又ハ家屋ノ所有者カ他人ニ属スル材料ヲ以テ築造其他ノ工作物ヲ為セシトキハ悪意ニ出シモノト雖之ヲ破壊シテ其材料ヲ返付スルヲ要セス又材料ノ本主ヘ其材料ヲ収去ス可シト請求スルコトヲ得ス但第九百五条ニ規定シタル区別ニ遵ヒ材料ノ所有者ニ賠償ヲ為ス可シ
第千百十一条 他人ニ属スル植物ニ就テハ其植附ノ時ヨリ一箇年内土地ノ所有者ハ之ヲ抜キ取リテ植物ノ所有者ヘ返還スルコトヲ要ス但此外植物ノ所有者ヘ損害ヲ致セシトキハ之ヲ賠償ス可シ
右植物ノ所有者之ヲ取戻スコトヲ好マサルカ又ハ一箇年ノ期限経過セシトキハ賠償金額ヲ領収スヘシ
第千百十二条 築造物ヲ解拆スル為メ若ハ植物ヲ抜取リ又ハ伐採スル為メ之ヲ売渡シ又ハ贈与セシ所有者ハ其建物又ハ植物ヲ保存スル為メ買主又ハ受贈者ニ賠償ヲ与ヘテ常ニ其解拆又ハ伐採ヲ絶止スルコトヲ得
第千百十三条 土地又ハ建物ノ善意ノ占有者其土地又ハ建物内ニ自己ノ材料又ハ草木ヲ以テ工事若ハ植附ヲ為セシ場合ニ於テ真ノ所有者ヨリ其土地又ハ建物ノ取戻ヲ受ケタルトキハ右ノ工事又ハ植物ヲ収去スルコトヲ要セス但真ノ所有者ハ自己ノ撰択ヲ以テ材料及ヒ工力ノ代価若ハ其工事ヨリ不動産ニ生スル増価額ヲ占有者ニ払フヘシ
悪意ノ占有者其築造又ハ植附ヲ為セシトキハ所有者ハ土地ヲ旧状ニ復スル為メ占有者ニ強テ工事及ヒ植物ヲ毀除セシメ且此外損害ヲ受ケタル時ハ其賠償ヲ払ハシムルコトヲ得又所有者ハ前項ニ述ヘタル如ク占有者ニ賠償ヲ与ヘテ工事及ヒ植物ヲ保存スルコトヲ得
第千百十四条 舟筏ノ通ス可キト否ヲ問ハス水流ノ漸積地ヨリ生シタル洲渚ハ沿岸ノ所有者ニ属ス
水流ニ併行シ又ハ殆ント併行シタル沿岸ノ数多ノ土地ニ漸積地ノ生シタルトキハ所有者ノ各自其所有地内部ノ広狭如何ニ拘ハラス水流ニ接シタル土地ノ幅面ニ相ヒ対スル漸積地ノ部分ヲ利得ス
又漸積地カ水流ト共ニ角度ヲ成シテ其角度ハ従来沿岸所有者ノ各自ニ沿岸者タル地位ヲ保タシメテ各自ノ部分ヲ確定スルコト難キトキハ一同ノ所有者ハ旧水流ニ接シタル土地ノ幅面ニ応シテ分配スルコト能ハサルモノト認メタル漸積地ノ部分ニ就キ未分ノ共有者タルヘシ
如何ナル場合ニ於テモ各沿岸者ハ行政庁ノ允許ナクシテ従来存セル挽船道又ハ揚場ノ位置ヲ変更シ又ハ漸積地上ニ挽船若ハ通航ノ便用ヲ妨碍スヘキ建物又ハ植附ヲ為スコトヲ得ス
第千百十五条 沿岸者ハ前条ト同一ナル区別及ヒ条件ニ従ヒ舟筏ノ通ス可キト否ヲ問ハス総テ河中ノ乾凅地即其水勢ノ偏倚シテ乾凅シタル川床ノ部分ヲ利得ス
然レトモ水流ノ川床沿岸者ニ属スル時ハ乾凅地ノ附添ハ旧川床ノ幅ヨリ出ルコトヲ得ス
湖池ニ関シテハ附添ノ権成立セス
海辺ノ浜地及ヒ乾凅地ニ関シテモ亦附添ノ権成立セスシテ此地ハ第五百二十六条ニ遵ヒ国ニ属ス
沿岸者ハ行政庁ニテ挙行セシ鑿溝又ハ築堤工事ニ因テ舟筏ノ通ス可キ河中ニ凅出シタル沿岸地ノ部分ヲ利得セス但行政法ニ規定シタル条件ニ従ヒ沿岸者先買権ヲ行フヲ妨ケス
第千百十六条 河川ノ水勢衝激シテ沿岸地ノ一分ヲ抜去シ土壌ヲ下流又ハ前面ノ沿岸地ニ押シ流シ其土壌ハ植物ノ有無ヲ問ハス旧所有地ノ一分ナリト認定スルコトヲ得ルトキハ旧所有者ハ其変災ヨリ一箇年内又ハ其一箇年ヲ経過セシ後ハ土壌ノ堆積セシ処ノ沿岸者之ヲ占有セサル間ニ非レハ土壌ヲ取戻スコトヲ得ス但旧所有者自費ニテ土壌ヲ収去シ且其収去ノ為メ右沿岸者ニ致セシ損害ヲ賠償ス可シ
又沿岸者ハ何時ニテモ旧所有者ニ対シ土壌ヲ取戻スカ又ハ之ヲ放棄スルカ二中其一ヲ撰定スヘシトノ照会ヲ為スヲ得可シ
此条例ハ河水衝激ノ為メ押シ流サレシ草木並ニ材料ハ勿論尚ホ其他ノ動産ニシテ洪水ニ因リ何処ヘ押シ流サレシ一切ノ物件ト雖同ク之ニ適用ス
第千百十七条 舟筏ノ通セサル水流中ニ現出スル島ハ川床ト等シク沿岸者ニ属ス
水流ノ両方ニアル沿岸者ノ権利ヲ定ムルニハ右水流ノ中心ニ沿流線ヲ画シテ各方ノ沿岸者ハ其方ニアル島又ハ其一分ヲ獲得ス
又一方ノ二箇又ハ数箇ノ所有地ノ前面ニ島アルトキハ第千百十四条第二項ヲ適用ス
舟筏ノ通スヘキ河中ニアル島ノ所有権ハ本編第八章ニ規定ス
第千百十八条 両岸所有者ニ属スル二箇ノ土地ノ界線ト為ル舟筏ノ通セサル水流ノ水脈突然変転セシトキハ旧川床ハ両岸所有者ニ属シ且前条ニ規定シタル島ニ於ケル如ク両方沿岸者ノ間ニ分割ス
又舟筏ノ通ス可キ水流ニ関スル時ハ旧川床ノ所属ハ第八章ニ規定ス
第千百十九条 第千百十六条ニ云ヘル如ク一箇ノ土地ヨリ抜去シタル土壌カ島ト成リテ水流中ニ存スルトキハ旧所有者ハ其現存スル処ニ於テ之ヲ占領スルヲ得然レトモ公有ノ水流ニ関スル場合ニ於テハ相当管轄庁ハ漸積島地所有権ノ事項ニ関シ第八章ニ定メタル区別ニ従ヒ予メ正当ノ賠償ヲ払ヒテ其島ノ引上ヲ請求スルコトヲ得
第千百二十条 舟筏ノ通ス可キ水流ニ他ノ新流ヲ生シ之カ為メ沿岸地ノ全部又ハ一分ヲ分劃シテ島ヲ成ストキハ旧所有者其所有権ヲ保有ス但前条ニ遵ヒ所有権引上ノ権利ヲ妨ケス
第千百二十一条 私有池沼ノ魚類及ヒ鳩舎中ノ鳩ニシテ別段計策ヲ以テ他ヘ之レヲ誘引シタルモノニモアラス又之レヲ保留シタルモノニアラス他ノ池沼又ハ鳩舎ニ転移シタルモノハ其遷住シタル土地ノ所有者ニ属ス但前所有者ヨリ其魚類及ヒ鳩ハ自己ノ所有物タルコトヲ証明シ一週日内ニ之レヲ請求スルコトヲ妨ケス
群ヲ為シテ隣地ニ飛転シタル蜜蜂ニ関シテハ其所有者ハ一週日内之レヲ追躡シ且ツ之ヲ請求スルコトヲ得然レトモ隣人之ヲ養取シ且ツ保留シタルトキハ右請求ノ権利ハ三日ニテ止息ス
又性質野獣ニシテ飼ヒ馴ラシタル禽獣ニ関スルトキハ其所有者ハ善意ニテ之ヲ養取シタル者ニ対シ一箇月内取戻権ヲ行フコトヲ得
第千百二十二条 第千百六条ニ従ヒ発見者ノ所属ト為サヽル埋蔵物ノ部分ハ附添権ニ依リ其物ノ隠没シタル動産物若ハ不動産物ノ所有者ニ属ス
又埋蔵物ノ隠没シタル物ノ所有者躬ラ偶然之ヲ発見セシトキハ一半ハ先占ニ依リ一半ハ附添ニ依リテ全部右所有者ニ属ス
又埋蔵物ノ発見ハ物ノ隠没シタル物ノ所有者自身又ハ其命令ニ因リ又ハ其命令ナクシテ第三ノ人ノ為シタル捜索ノ結果タリシトキハ其埋蔵物ノ全部ハ附添ニ因リ右所有者ニ属ス
第千百二十三条 第三ノ人カ所有者ノ異ナル二箇又ハ数箇ノ動産物ヲ其所有者ノ意思ニ因ラス集合シテ何レノ動産物ニモ著シキ損壊又ハ減価ヲ致スコトナクシテ容易ニ之ヲ分離スルコトヲ得ヘキトキハ所有者ノ各自ハ其分離ヲ請求スルコトヲ得但之レカ為メ賠償ヲ要スルトキハ其附合ヲ行ヒシ者之ヲ担当ス
附合前ニ係ル原物ノ変更又ハ混悪ヲ損壊ト見做スコトヲ得
第千百二十四条 二個物ハ分離ヲ為スコトヲ得ス若シ之ヲ為スコトヲ得ルモ著シキ損壊又ハ減価ヲ致シ又ハ余計ノ入費又ハ遅延ヲ以テスルニ非レハ分離スルコト能ハサルトキハ何レノ所有者モ其分離ヲ請求スルコトヲ得スシテ其物ノ全部ハ首タル物ノ所有者ニ属ス但其所有者ハ従タル物ノ所有者ノ損害ニテ利得シタル限度ニ循ヒ賠償ヲ担任スヘシ
一箇物ノ便益装飾又ハ補充ノ為メ集合シタル物ハ従タル物ト看做ス若シ此点ニ就キ二箇物トモ同様ノ性質ニ属スルトキハ其中低価ノ物ヲ以テ従タル物ト看做ス
其他ノ場合ニ於テハ首タリ又ハ従タル性質ハ裁判所ノ査定ニ任ス
第千百二十五条 首タル物ノ所有者ノ過愆又ハ欺詐ニテ附合ヲ行ヒテ前述ノ規則ニ循ヒ其分離ヲ為ス可カラサルトキハ従タル物ノ所有者ノ受クヘキ賠償ハ其被フル所ノ損害即第八百九十条及ヒ第九百五条ノ規則ニ照シ査定シタル損害ヲ程度トス
従タル物ノ所有者躬ラ附合ヲ行ヒシトキハ首タル物ノ所有者ノ得シ利得ノ分度内ニ於ケルニ非レハ自己ノ受ケタル損失ニ就キ賠償ヲ求ムルコトヲ得ス
第千百二十六条 不都合ナク分離スルコト能ハサル物ニシテ其中何レノ物モ他ニ比較シテ首タル物ト看做スコトヲ得サルトキハ其附合ニ因テ組成シタル物ハ平分ニテ総テノ所有者間ニ共有物タル可シ但過愆又ハ悪意アル者ニ対シ賠償ヲ負担セシムルコトヲ妨ケス
第千百二十七条 数人ノ所有者ニ属スル流動体、固形体又ハ金属ノ混合ニ就テモ右ノ規則ヲ同一ナル区別ニ従ヒ適用ス
第千百二十八条 附合又ハ混合カ所有者中一人ノ所為ヨリ生シタル場合ニ於テハ、他ノ所有者ハ自己ノ物件ノ優等ナルニ因リ自己ニ帰スル全部ノ所有権ヲ受諾スルニ及ハス又各自ノ物ノ主要及ヒ価額ノ同等ナル場合ニ於テハ未分ノ共有権ヲ受諾スルニ及ハス此際ニ於テハ右所有者ハ附添ヲ為セシ本人ニ対シ同分量及ヒ同品格ノ物若ハ金円ニテ其価額ヲ請求スルコトヲ得
第千百二十九条 何人ニ限ラス他人ノ材料ヲ用テ新ナル種類若クハ用法ノ物ヲ作リタルトキハ其原物ノ所有者ハ作工料又ハ其作工ノ為メ原物ニ致シタル増価ヲ弁済シテ右物件ノ所有権ヲ要求スルコトヲ得
然レトモ作工ノ価額著シク原物ノ価額ヲ超過スルトキハ新ナル物件ノ所有権ハ製作者ニ属ス但原物ノ所有者ニ相当ノ賠償ヲ為スヘシ
又製作者カ同時ニ原物ノ一分ヲ供シタルトキハ其原物ノ価額ヲ作工ノ価額ニ加ヘテ先取ノ権ヲ定ムヘシ
原物ノ所有者ノ承諾ナクシテ用井タルトキハ其所有者ハ常ニ自己ニ属スル先取ノ権ヲ放棄シテ品格並ニ分量トモ自己ノ原物ニ等シキ物又ハ金円ニテ其価額ヲ請求スルコトヲ得
第千百三十条 所有者ノ明瞭又ハ暗黙ノ承諾ニ因リテ附合、混合又ハ製作ヲ行フタルトキハ其合意ニ従ヒ所有権ヲ定ム若シ疑ハシキ場合ニ於テハ分離スルコト容易ニシテ且著シキ不都合ナキトキト雖其分離ヲ請求スルコトヲ得スシテ先取ノ権若ハ共有権ニ関スル条例ヲ適用ス
第千百三十一条 前数条ニ予定セサル動産ノ附添セシ場合ニ於テ裁判所ハ時宜ニ因リ本章ニ予定シタル場合ニ相ヒ類似スルトキハ之ニ憑拠シ且自然ナル条理ノ原則ニ基キ所有権及ヒ賠償ノ問題ヲ決定ス可シ
第三章 善意ナル占有者ノ果実収穫
第千百三十二条 善意ナル占有者ノ天然並ニ民法上ノ果実ノ獲得ノ事ハ第七百六条ニ規定ス
第四章 引渡
第千百三十三条 総テ量定物ノ所有権ハ第八百五十三条及ヒ第九百七十六条ニ従ヒ其物ノ属スル本主若ハ其名義ニテ為セシ引渡即交付ヲ以テ転移ス
引渡ナキ場合ニハ双方立会ノ上物ヲ指定スルヲ以テ足レリトス
第五章 公益ノ為メ所有権引上ヲ命スル裁判上又ハ行政上ノ処分
第千百三十四条 公益ノ為メ引上ニ属スヘキ財産ヲ熟議上譲渡サヽルニ於テハ其引上ヲ宣告スル裁判上又ハ行政上ノ処分ヲ以テ其記載シタル負担及ヒ条件ニ循ヒ所有権ヲ転移ス但此法律第五百三十二条及ヒ第八百六十八条ノ条例並ニ引上ニ関スル特別法ニ循フヘシ
第六章 差押ヘタル物ノ公売付権
第千百三十五条 裁判外ノ民事手続ニ係ル法律ニ遵ヒ裁判所ニ於テ言渡タル動産又ハ不動産差押ヘノ上其動産又ハ不動産ノ公売付権ハ其付権証書ニ記載シタル担当及ヒ条件ニ従ヒ其財産ノ所有権ヲ落札人ニ転移ス
第七章 特別ノ没収
第千百三十六条 刑法第四十三条及ヒ第四十四条ニ拠リ特別ノ没収ヲ宣告スル裁判言渡ハ国、邑若ハ此事ニ就キ法律及ヒ行政規則ニ指示シタル官衙ニ没収物ノ所有権ヲ転移ス
第八章 法律ノ直接ナル付与
第千百三十七条 舟筏ノ通スヘキ河川其川床ヲ変シタルトキハ其際多少浸没ヲ受タル土地ノ所有者各其失ヒシ部分ノ割合ニ応シテ損害賠償ノ名義ヲ以テ乾凅シタル旧川床ヲ獲得ス但旧川床ノ坪数一層広キトキト雖亦同シ
第千百三十八条 其他法律ノ直接ナル効力ニ拠リ所有権、用収権、地役、抵当及ヒ物上ト対人ヲ問ハス其他ノ権利ヲ獲得スル場合ハ其各事項ニ規定ス
第九章 特定名義ニ於ケル贈遺
第千百三十九条 無償名義ノ合意ヲ以テ処置スルコトヲ得ル財産ハ贈遺即遺嘱贈与ヲ以テ之ヲ処置スルコトヲ得
遺嘱ノ法式、遺嘱スル為メ必要ノ能力並ニ或ル相続人ノ為メニ貯存ス可キ財産ノ部分ニ関スル規則ハ本編第二部ノ目的タル包括名義ニ於ケル無償処置ノ事項ニ規定ス
第千百四十条 動産ト不動産トヲ問ハス各別ニ特定シタル一箇又ハ数箇ノ物ヲ目的トスル単純又ハ有期ノ贈遺ハ遺嘱者死去ノ時ヨリ受嘱者ノ知ルト知ラサルトニ拘ハラス其物ノ所有権ヲ受嘱者ニ転移ス但受嘱者之ヲ拒絶スルノ権利ヲ妨ケス
用収権、使用権又ハ地役権ノ贈遺ニ就テモ亦同シ
停止又ハ解除ノ未必条件ニ係ル贈遺ノ効力ハ合意ノ事項ニ規定シタル如ク其未必事件ノ到着如何ニ従フ
第千百四十一条 贈遺ノ目的量定物ナルトキハ所有権ハ其物ノ引渡シ又ハ相続人ト立会ノ上為シタル物ノ指定ニ拠ルニアラサレハ転移セス
第千百四十二条 受嘱者ハ相続人ニ対シ物ノ引渡ヲ請求シタル時ヨリニ非サレハ贈遺物ノ果実及ヒ利子ヲ受クルノ権利ヲ有セス但期限ノ到着シ又ハ未必条件ノ成就シタルコトヲ要ス
然レトモ左ノ三箇ノ場合ニ於テ受嘱者ハ遺嘱者ノ死去又ハ満期ノ時ヨリ請求ヲ待タス直チニ果実ヲ受クルノ権利ヲ有ス
第一 遺嘱者此権利ヲ明言シタルトキ
第二 贈遺ニ養料ノ性質アルトキ
第三 相続人故意ヲ以テ受嘱者ノ為メニ設ケタル遺嘱ヲ受嘱者ニ隠匿シタルトキ
第千百四十三条 遺嘱者遺嘱ヲ以テ自己ノ債務者ニ債務ノ釈放ヲ為セシトキハ遺嘱者死去ノ日ヨリ法律上当然債務ノ免除ヲ行ヒ及ヒ利子ノ発生ヲ止息ス
遺嘱者自己ノ相続人ノ債務者ニ債務ノ免除ヲ贈遺セシ時モ亦同シ
無償名義ニ於ケル合意上ノ釈放ニ関スル規則ハ総テ義務免除ノ贈遺ニ適用ス但之ヲ適用スヘキ場合ニ限ルヘシ
第千百四十四条 遺嘱者ハ其相続人ニ為シ又ハ為サヽルノ義務ヲ科スルコトヲ得但其効力ハ相続人カ受嘱者ニ対シ不当ノ利得又ハ法律ニ規因スル為シ又ハ為サヽルノ義務ヲ負担セシムルトキニ同シ
第千百四十五条 確定物ノ贈遺ハ遺嘱者死去ノ時其所有権ノ之ニ属セサルトキハ無効ナリ
然レトモ遺嘱者其物ノ他人ニ属セシコトヲ知リテ受嘱者ノ為メ之ヲ獲得スルノ義務ヲ相続人ニ科セント欲セシ証拠ヲ遺嘱書ニ記載シタルトキハ相続人此獲得ヲ為サヽレハ贈遺物ノ評価額ヲ負担ス
贈遺物カ相続人ニ属シテ遺嘱書中之ヲ指示シタルトキハ遺嘱者ニ右ノ意思アリシモノト推測スヘシ
第千百四十六条 遺嘱者只未分ノ権利ヲ有スル物ヲ贈遺セシトキハ受嘱者ハ遺嘱者ト同一ナル権利ヲ獲得シテ其参加スル分配ハ遺嘱者ニ対スルト同一ナル効力ヲ有ス
若シ遺嘱者ニ於テ未分ノ権利ヲ有スルニ過キサル相続又ハ其他包括財産ノ一分ヲ為ス物ヲ贈遺ノ目的ト為シタルトキハ受嘱者分配ニ参加セスト雖其物カ遺嘱者ノ相続人ノ配当部分ニ帰シタルトキハ現物ノ侭ニテ之ヲ受取リ又他ノ共有者ノ配当部分ニ帰シタルトキハ其価額ヲ受取ルヘシ
第千百四十七条 第三ノ人若ハ相続人ニ属スル不動産ノ贈遺ノ有効ナル場合ニ於テハ相続人ヨリ受嘱者ト取替ハス譲渡証書ノ登記ヲ為スヘシ
不動産ニ関スル物権ノ受嘱者ト他ノ譲受人トノ間ニ於ケル先取権ヲ規定スルニ就テハ第八百七十条ヲ適用ス
第千百四十八条 遺嘱者ニ属スル不動産ノ贈遺ニ係ルトキハ相続人随意ニ之カ引渡ヲ承諾シタル日ヨリ其日ヲ算入シテ十五日内ニ受嘱者登記ヲ為スヘシ
相続人贈遺ニ就キ争論スルトキハ其贈遺物引渡シ請求書ヲ摘録シ之ヲ登記簿冊ヘ記入シタル後ニ非サレハ其請求ヲ受理セサルモノニシテ其後裁判言渡ノ相続人ニ不利ナルトキハ其裁判ノ控訴ヲ為スヲ得サルモノト為リタル日ヨリ其日ヲ算入シテ十五日内ニ其裁判言渡ヲ簿冊ヘ登記シ且請求書登記面ノ欄外ニ之ヲ記入ス可シ
其他ノ場合ニ於テハ相続発開ノ時ヨリ一ヶ年内ニ贈遺ヲ登記スヘシ但未必条件ニ因リ贈遺ノ効力停止中ノモノト雖亦同シ
第千百四十九条 前条ニ規定シタル期限内ニ登記ナキトキハ不動産ノ贈遺ハ其不動産上ニ物権ヲ獲得シ且第八百六十八条以下ニ遵ヒ又ハ先取特権及ヒ抵当ノ事項ニ規定シタルモノニ遵ヒ其物権ヲ公示シシタル第三ノ人ニ対抗スルコトヲ得ス
第千百五十条 贈遺物ハ其贈遺ノ単純ナルトキハ当然ノ附従物ト共ニ贈遺者死去ノ際ニ其物現状ノ侭ニテ之ヲ受嘱者ニ引渡スヘシ又其贈遺ノ有期若ハ停止未必条件ニ係ルトキハ之カ引渡ヲ請求スルコトヲ得ヘキ日ニ其物現状ノ侭ニテ之ヲ受嘱者ニ引渡スヘシ
遺嘱者ノ贈遺物ニ加ヘタル改良若ハ損壊並ニ意外ノ変災若ハ難抗力ヨリ生シタル改良若ハ損壊ハ受嘱者ノ利益又ハ損害ニ帰ス
相続人贈遺物ニ加ヘタル同上ノ変更ハ其相続人ト受嘱者トノ間彼此賠償請求ノ権利ヲ生ス
解除ノ未必条件ヲ以テ贈遺ヲ為シタル場合ニ於テ其条権ノ成就スルトキハ受嘱者若ハ其相続人ヨリ贈遺物ヲ現状ノ侭ニテ還付スヘシ但意外ノ変災若ハ難抗力ノ結果ニ非サル改良若ハ損壊ニ就キ双方ノ間彼此賠償請求ノ権利ヲ妨ケス
第千百五十一条 不動産ノ受嘱者ハ遺嘱設定以後ニ遺嘱者ノ獲得シタル土地若ハ建物カ贈遺不動産ニ接シ又ハ其利用ヲ改良スル為メニ供ヘタルモノト雖之ヲ利得セス但受嘱者ノ為メ更ニ遺嘱条項ヲ設ケ又ハ遺嘱者躬ラ障囲ヲ設ケテ右獲得物ヲ遺嘱不動産ニ附着セシメタルトキハ此例ニ在ラス
贈遺地内ニ第三ノ人ノ為シタル建築及ヒ植附ニシテ遺嘱者ノ獲得シタルモノハ常ニ遺嘱者躬ラ其土地ニ之ヲ附着セシモノト看做ス
其他前章ニ規定シタル附添若ハ附合物ノ場合ニ於テモ亦同シ
第千百五十二条 贈遺物ノ他ヘ譲渡ハ停止未必条件ニ係リ其条件ノ欠缺シ又ハ解除未必条件ニ係リ其条件ノ成就セシトキト雖其贈遺ノ廃棄ヲ行フ但右何レノ場合ニ於テモ遺嘱者ノ意思其贈遺ノ廃棄ヲ未必条件ノ結果ニ従属セシムルニ在リシコト判明ナル時ハ此例ニ在ラス
又譲渡物ノ所有権カ買戻又ハ其他ノ原由ニ因リ再ヒ遺嘱者ニ帰シタルトキト雖贈遺ノ廃棄ハ尚ホ存立ス但承諾ノ瑕疵ニ基キタル無効申立ノ訴権ニ因リシ時ハ此例ニ在ラス
第千百五十三条 遺嘱者贈遺物ノ全部又ハ一分ノ譲渡ヲ為シタルトキハ交換ニ由ルト雖其譲渡ハ贈遺ノ廃棄ヲ行フ
所有権引上若ハ財産差押ニ因ル強令ノ譲渡ニ就テモ亦同シ
遺嘱者贈遺物ニ他人ノ為メ用収権、使用権、賃借権若ハ地役権ヲ設ケタルトキハ受嘱者ハ其他人ニ付与シタル権利ノ執行ヲ忍容スヘシ但受嘱者ハ譲受人ノ負担タルヘキ定期ノ供付額ヲ受取ル権利ヲ有ス
第千百五十四条 遺嘱ノ前後ニ遺嘱者ノ債務又ハ第三ノ人ノ債務ノ為メ贈遺物ヲ抵当ト為シタルトキハ相続人其物ノ引渡前之ヲ贖出スルニ及ハス然レトモ受嘱者抵当訴権ノ為メ其物ノ追奪ヲ受ケ又ハ債務ヲ弁償スルニ至リシトキハ相続人ニ対シ担保ノ追求権ヲ有ス
第十章 無名ノ合意及ヒ契約
第千百五十五条 法律カ次章以下ニ規則及ヒ効力ヲ規定シタル合意及ヒ契約ヲ除クノ外尚ホ各人ハ所有権又ハ其支分権ヲ転移シ変更シ又ハ消滅スル為メ若ハ人権又ハ義務ヲ創設シ変更シ又ハ消滅スル為メ適宜ノ合意又ハ契約ヲ為スコトヲ得但右何レノ場合ニ於テモ公ケノ秩序並ニ善良ナル風俗ニ背反セサルコトヲ要ス
此無名合意若ハ契約ハ第二編第二部ノ条例及ヒ有名契約ニシテ夫レト相ヒ類似スルモノヽ条例ノ適用ヲ受クヘシ
第十一章 生者間ノ贈与
第千百五十六条 生者間ノ贈与トハ贈与者カ無償即対価額ヲ受ケスシテ受諾スル受贈者ニ物権若ハ人権ヲ付与スルノ合意ヲ云フ又贈与者カ受贈者ノ物上ニ有スル物権ノ放棄又ハ之ニ対シテ有スル人権ノ釈放即無償ノ放棄ニ贈与ノ成立スルコトアリ
第千百五十七条 贈与ハ単純ナリ、有期ナリ又ハ未必条件ニ係ルコトアルヘシ然レトモ未必条件ハ停止ナルト解除ナルトヲ問ハス贈与者ノ方ノ純然タル随意ノモノタル可ラス但此規則ニ背クトキハ其贈与ハ無効トス
贈与者又ハ其相続人法律上允許シタル原由ニ拠ルニ非レハ贈与ヲ廃棄スルコトヲ得ス
第千百五十八条 他人ニ属スル物又ハ権利ヲ以テ生者間ノ贈与ノ目的ト為シタルトキハ贈与者ノ予定相続人ニ属スルトキト雖贈与ハ無効トス但此場合ニハ贈与者ニ於テ右ノ物ノ他人ニ属スルコトヲ知リタルコトヲ明言セシト否ヲ区別スルニ及ハス
贈与者ハ受贈者ノ受ケタル追奪ノ担保人タラス但其贈与己後ニ係ル贈与者一身ノ所為ヨリ生シタル追奪ハ此例ニ在ラス
第千百五十九条 不動産物権ノ生者間ノ贈与ハ第八百六十八条以下ニ定メタル規則ニ従ヒ登記ス可シ
此外有償名義ノ合意ニ関スル規則ハ贈与ニ適用ス但法律又ハ贈与証書ヲ以テ明瞭又ハ暗黙ニ別段定メタルモノハ此例ニ在ラス
第千百六十条 生者間ノ贈与、贈与ヲ為シ又ハ贈与ヲ受クルノ能力並ニ相続人ノ為メ貯存ス可キ財産ノ部分及ヒ贈与廃棄ノ原由ニ関スル規則ハ本編第二部第二章ノ包括名義ノ贈与ニ関スル事項ニ規定ス
第十二章 売買
第千百六十一条 売買ハ一方ヨリ一箇物ノ所有権又ハ其支分権ヲ転移シ若ハ転移スル義務ヲ約シ又他ノ一方ヨリ金円ニ定メタル代価ヲ払フ義務ヲ約スル契約ナリ
売買契約ハ有償名義ニシテ双務ナル契約ノ総則中以下ニ定メタル条則ニ反セサルモノニ就テハ其総則ニ従フ
第一節 売買ノ総則
第一款 売買ノ性質及ヒ組成
第千百六十二条 売買ハ双方ノ承諾ノミヲ以テ完成ス
然レトモ双方ノ者ハ公正ト私署トヲ問ハス各自ノ証拠ニ用井ル証書ノ記成ニ売買ノ組成ヲ従ハシムルコトヲ得
第千百六十三条 売渡又ハ買受ノ片約ハ約権者ノ請求ニ因リ約務者ヲシテ其片約中ニ定メタル代価ト条件トニ従ヒ契約ヲ為スノ義務ヲ負ハシム
約権者ノ受諾期限ヲ定メサリシトキハ約務者ハ裁判所ヘ時間ノ限定ヲ請求スルコトヲ得其時間ニ約権者右片約ノ執行ヲ求メサルトキハ片約ハ不成立トス
第千百六十四条 約務者契約ヲ為スコトヲ拒絶スルトキハ裁判所ハ売買契約ノ帯有スル効力ヲ以テ売買ノ完成シタルモノト言渡ス可シ
此裁判言渡ハ不動産上ノ権利ノ売買ニ関スルトキハ登記ス可シ
売買ノ片約ヲ既ニ登記シタルトキハ右登記面ノ欄外ニ其裁判言渡ヲ記入ス可シ此登記ハ売主ノ承権人ニ対シ既往ニ遡リテ其効力ヲ生ス
第千百六十五条 売渡ト買受トノ互相ノ約束アルトキハ前条ニ従ヒ双方互ニ他ノ一方ニ強ヒテ契約ヲ為サシムルコトヲ得
又裁判所ハ此場合ニ於テ双方ノ意思ヲ推定シテ右売買ノ約束ハ即時ニ完成売買ノ効力ヲ有シ且期限ヲ設ケタリト雖其期限ハ唯契約執行ノ為メニ過キサルモノト決定スルコトヲ得
第千百六十六条 結約者ノ一方又ハ双方共ニ後日ニ至リ売買ノ契約ヲ為ス可キコトヲ約束セシノミニシテ其約束ノ担保トシテ手附ヲ与ヘシ場合ニ於テ右契約ヲ為スコトヲ拒絶スル者ハ其与ヘタル手附ヲ失ヒ又ハ其受取リタル手附ヲ一倍ニシテ還付スヘシ
第千百六十七条 即時完成ノ売買ニ於テ与ヘシ手附ハ以下ノ区別ニ従フニ非レハ其売買ヲ解約スル方法トセス
第一 手附ヲ売主ヨリ与ヘシトキハ手附物ノ性質如何ヲ問ハス其手附ハ売主ニ於テ解約スル方法トス
第二 手附カ金円外ノ物ニシテ買主ヨリ之ヲ与ヘシトキハ其手附ハ買主ニ於テ解約スル方法トス
第三 双方互ニ手附ヲ与ヘテ明カニ解約方法ノ性質ヲ附シタルトキハ其手附ハ双方ニ於テ解約スル方法トス
第千百六十八条 如何ナル場合ニ於テモ既ニ契約ノ全部又ハ一分ノ執行アリシ以上ハ双方孰レニ於テモ解約スルコトヲ得ス
第千百六十九条 試験ノ上ニテ為ス売買ハ事情ニ因リ買主ノ適意ノ停止未必条件若ハ其拒絶ノ解除未必条件ニ係ルモノト看做ス
嘗試スル慣習アル需用品ノ売買ハ其適意ノ停止条件ニ係ルモノト推測ス可シ
第千百七十条 前条ニ規定シタル二箇ノ場合ニ於テ買主ハ権能ノ執行ノ為メ定メタル期限ナキトキハ成ルヘク速ニ決答スヘキ催促ヲ受ケ決答セスシテ買主其買取リシ物又ハ需用品ノ引渡ヲ受ルトキハ受諾シタルモノト推測シ又反対ノ場合ニ於テハ拒絶シタルモノト推測ス
第千百七十一条 売買ノ代価ハ其売買契約ヲ以テ定ム可シ但其全額ヲ指示セサレハ之ヲ知ルコトヲ得ル元素ヲ指示スルヲ必要トス
又代価ハ規定ヲ同種類ナル商品ノ現時又ハ近時ノ市価ニ任カセ若ハ契約ヲ以テ指定シタル第三ノ人ノ評価ニ任カスルコトヲ得
此末段ノ場合ニ於テ評価カ錯誤ニ出テ又ハ条理ニ反スルコト判明ナルトキハ之ヲ批難スルコトヲ得
第千百七十二条 売買証書ノ費用ハ平分シテ双方ノ担任トス可シ但別段ノ約定アルトキハ此例ニ在ラス
第二款 売渡及ヒ買受ノ無能力
第千百七十三条 動産不動産ヲ問ハス総テ売買契約ハ配偶者ノ間ニ為スコトヲ禁ス
代物弁済ニ就テモ亦同シ
然レトモ配偶者ノ一方他ノ一方ニ対シ負担セル誠実ニシテ正当ナル債務ヲ消滅スルコトニ関スルトキハ互ニ代物弁済ヲ為スコトヲ得
代物弁済ハ民事裁判所ニ於テ之ヲ認可シタル上ニ非レハ双方間ニ有効及ヒ完全ナルモノトセス又代物弁済ノ目的不動産上ノ物権ニ関スルトキハ本証書ノ登記面ニ右裁判所ノ認可ヲ記入シタル上ニ非レハ其代物弁済ハ第三ノ人ニ対シテ有効ノモノトセス
第千百七十四条 前条ニ基因シタル無効申立ノ訴権ハ売買ヲ為シ又ハ裁判所ノ認可セサル代物弁済ヲ為セシ配偶者及ヒ其相続人又ハ其承権人ニ属ス其他此訴権ハ第千六十六条以下ノ総則ニ従フ
第千百七十五条 法律上、裁判上又ハ合意上ノ代理人若ハ管理者ハ直接ニ自己ノ名義ニ因リ或ハ他人ノ名義ニ託シ熟議売買ト公売トヲ問ハス躬ラ売ルノ委任ヲ受タル財産ノ獲得者トナルコトヲ得ス
公売ヲ処弁シ若ハ之ヲ指揮スルコトヲ法律上任セラレタル公役人ニモ同一ノ禁止ヲ適用ス
第千百七十六条 前条ニ違反シテ為セシ売買ノ無効申立ノ訴権ハ旧所有者、其相続人及ヒ承継人ノミニ属ス
第千百七十七条 裁判官、検察官、書記並ニ試補ハ争訟ニ係ル物上若ハ対人権ニシテ其職掌ヲ行フ裁判所ニ於テ訴訟ノ論点ト為ルヘキ性質ヲ有スルモノヽ獲得者トナルコトヲ得ス
代言人及ヒ公証役ニモ其職務ヲ行フ裁判所ノ管轄ニ付スヘキ争訟ニ係ル権利ニ就テハ右同一ノ禁止ヲ適用ス
第千百七十八条 無効申立ノ訴権ハ譲渡人及ヒ其相続人又ハ承継人ノ外之ヲ行フコトヲ得ス但此訴権ノ行用ハ争訟ニ係ル権利譲渡ノ総テノ場合ニ於テ前条ニ反シテ権利ヲ譲渡シタル権利ノ対手人ニ与ヘタル取消シノ権利及ヒ前条ノ違反者ニ対スル懲戒刑ノ適用ヲ妨ケス
第三款 売買スルコトヲ得サル物
第千百七十九条 売買ノ目的物其性質上通易シ得サルモノナルカ又ハ特別法ヲ以テ各人ニ其処置権ヲ拒絶シタルモノナルトキハ其売買ハ無効トス
此売買ノ無効ハ抗弁ノ方法ニ拠ルト起訴ノ方法ニ拠ルトヲ問ハス双方之ヲ申立ルコトヲ得
双方ノ中一方売買ノ禁止ヲ隠蔽セントシタル欺詐ヲ行ヒシ者ハ損害賠償ノ責ニ任ス
第千百八十条 他人ノ物ノ売買ハ双方ノ者ニ対シ無効トス
然レトモ売主ハ売買ノ際其物他人ニ属スルコトヲ知ラサリシトキニ非サレハ其無効ヲ申立ルコトヲ得ス
双方ノ訴権及ヒ抗弁法ノ執行代価ノ返還並ニ売主ノ負担スヘキ賠償ニ関スル規則ハ次節第二款ニ至リ追奪担保ノ事項ニ定ム
第千百八十一条 契約ノ際物ノ全部既ニ滅尽セシトキハ其売買ハ無効トス但売主此滅尽ヲ知リタルトキ又ハ之ヲ知ラサルハ其過愆ナルトキハ善意ノ買主ニ賠償ヲ為スヘシ
又物ノ一分滅尽セシニ過キスシテ買主之ヲ知ラサリシトキハ買主ハ之ヲ取消スカ又ハ代価ノ相当ナル減下ヲ求メテ之ヲ保持スルカ両中一ヲ撰択スルコトヲ得但何レノ場合ニ於テモ売主ニ過愆アリシトキハ買主損害賠償ヲ求ムルコトヲ妨ケス
其取消ノ請求ハ買主一分ノ滅尽ヲ知リシヨリ一箇年又其代価減下ノ請求ハ同時ヨリ五箇年後ニ至テハ受理セス但其他明瞭又ハ暗黙ノ確認アリタルトキモ亦同シ
第二節 売買契約ノ効力
第一款 所有権ノ転移及ヒ危険担当
第千百八十二条 売買契約ハ売渡シタル物ノ所有権ノ転移及ヒ其危険担当ノコトニ就テハ第八百五十一条、第八百五十二条、第八百五十五条及ヒ第九百三十九条ニ定メタル普通法ノ規則ニ従フ
第千百八十三条 売買ノ目的物不動産ナルトキハ其売買契約ヲ売主ノ特定且善意ノ承継人ニ対抗スルニハ第八百六十八条以下ノ法文ニ従ヒ之ヲ登記ス可シ
無体動産及ヒ債権ノ売買ニ就テハ第八百六十六条及ヒ第八百六十七条ヲ適用ス
第二款 売主ノ義務
第千百八十四条 売主ハ量定物ノ売買ニ関シ所有権ヲ転移スル義務ノ外尚ホ総テ売渡シタル物ノ引渡ニ至ルマテ之ヲ保存スルノ義務其引渡ヲ為スノ義務並ニ以下ニ定メタル原因ニ基キタル妨碍及ヒ追奪ニ対シ買主ヲ担保スルノ義務ヲ有ス
第千百八十五条 売主ハ其合意ヲ以テ定メタル時期及ヒ場所ニ於テ売渡シタル物ヲ現状ノ侭ニテ引渡スノ義務ヲ負担ス但売主其物ノ保存上ニ懈怠アリタル場合ニ於テハ買主ニ対シ賠償ヲ負担スヘシ又引渡ノ時期及ヒ場所ノコトニ就キ約定ナキトキハ第八百五十四条第六項及ヒ第七項ヲ適用ス
然レトモ売主ハ其代価ノ弁済ヲ受ル迄売渡シタル物ノ占有ヲ保持スルコトヲ得但買主代価弁済ニ就キ期限ヲ約権セシトキハ此例ニ在ラス
又売主ヨリ買主ノ為メ代価弁済ノ期限ヲ許諾セシトキト雖買主売買ノ後破産シ又ハ無資力トナリ或ハ又売買前ヨリノ無資力ヲ隠蔽シタルトキハ売主ハ売渡シタル物ノ引渡ヲ延引スルコトヲ得
第千百八十六条 売主ハ一般ニ其約務シタル分量ヲ全ク過不及ナク引渡サヽル可カラス然レトモ以下ノ数条ニ掲ケタル場合及ヒ区別ニ循ヒ売主ハ此分量ヨリ多キモノヲ譲渡シ又獲得者モ之ヲ獲得スルノ義務ヲ有スルコトアルヘシ
第千百八十七条 特定不動産ノ売買ニシテ全面積ヲ明言シ其各坪数ノ代価ヲ指示シタル場合ニ於テ現実ノ面積約束ノ面積ヨリ少キトキハ売主其面積ノ担保ナク売渡シタルトキト雖猶ホ代価応分ノ減下ヲ忍容ス可シ
又現実ノ面積約束ノ面積ニ過ルトキハ買主代価応分ノ補足ヲ弁済ス可シ
第千百八十八条 不動産ノ全面積ヲ指示シ合一ノ代価ヲ以テ売渡シタルトキハ売主ハ其面積少キ場合ニ於テモ其悪意ニ出タルカ又ハ善意ナルモ其面積ヲ担保シタルカ又ハ其不足面積二十分ノ一以上ナルニ非レハ代価ノ減下ヲ為スニ及ハス
面積ヲ担保セス又ハ其概略見積リトノ記載アルモ其記載ハ悪意ナル売主ノ責任ヲ減セス
面積超過ノ場合ニ於テハ其超過面積二十分一以上ナルニ非レハ買主代価ノ補足ヲ払フニ及ハス
第千百八十九条 二箇又ハ数箇ノ土地ヲ唯一ノ契約ニ因リ其各箇ノ面積ヲ指示シテ合一ノ代価ヲ以テ売渡シタル場合ニ於テ其面積一箇ノ地ニ多ク他ノ地ニ少ナキトキハ一箇ニ不足スルモノト他ニ超過スルモノトノ填補ヲ為スヘシ但其填補ハ坪数ニ拠ラスシテ其価格ニ従ヒ之ヲ為シテ其填補ニ因リ過不及共ニ原代価二十分一以上ノ差ヲ生シタルトキニ非レハ代価ノ増減ヲ請求スルコトヲ得ス
又本条例ハ一箇ノ土地内ニ異別ノ性質ヲ有スル種々ノ部分アリテ其各性質ノ部分ノ面積ヲ指示シテ売渡シタル場合ニ適用ス
第千百九十条 買主面積不足ノ為メ代価ノ減下ヲ求ムルノ権利ヲ有スル諸般ノ場合ニ於テ約束ノ面積其需用ニ必要ナルコトヲ証明シ且其面積ノ担保ナケレハ此売買ヲ為サヽリシトキハ買主ハ其契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得
面積超過ノ場合ニ於テ買主二十分一ノ代価ノ補足ヲ払フヘキトキハ解約スルコトヲ得
第千百九十一条 以上ノ規則ハ石、砂、木、炭等ノ如キ動産物ニシテ約束ノ分量及ヒ度量ヲ買主ニ於テ即時容易ニ調査スルコト能ハサルモノヽ売買ニモ適用ス
第千百九十二条 以上ノ諸条ニ於テ准許セル代価ノ改正若ハ解約ノ訴権ハ不動産ニ関スルトキハ一箇年又動産ニ関スルトキハ一箇月ノ期限内ニ行フ可シ
此期限ハ売主ノ為メニハ契約ノ日ヨリ又買主ノ為メニハ売渡シタル物引渡ノ日若ハ其引渡前ニ合意上ノ代価全部ノ弁済ヲ行ヒタルトキハ其弁済ノ日ヨリ起算ス
第千百九十三条 動産若ハ不動産ノ売買ニ於テ売渡シタル物ノ品格上ニ錯誤アリタルトキハ第八百三十一条ヲ適用ス
第千百九十四条 他人ノ物ノ売買アリタル場合ニ於テ其担保ノコトニ就キ別段ノ合意ナキトキハ買主未タ其物ノ追奪ヲ受クルニ至ラス且契約ノ時其物売主ニ属セサルコトヲ知リテ売主之ヲ知ラサリシ場合ニ於テモ買主ハ売買ノ無効ヲ請求スルコトヲ得
第千百九十五条 買主悪意ナリシトキハ売買無効ノ効力及ヒ売主ノ担保ノ効力ハ只買主未済ノ代価ヲ弁済スル義務ヲ免レシメ又既済ノ分ヲ取還スルコトヲ得ルニ在ルヘシ
又買主ハ物ノ価額減少シタルトキト雖取還スヘキ代価ノ減下ヲ為スニ及ハス但其物ノ価額減少ハ買主ノ欺詐ヨリ生シ又ハ其利益ニ帰シタルトキハ此例ニ在ラス
第千百九十六条 買主契約ノ時善意ナリシトキハ代価ノ返還ヲ受ルノ外尚ホ左ニ記載スル弁償ヲ受クヘシ
第一 契約費用ノ中買主ノ弁済シタル分
第二 其買受タル物上ニ為セシ費用ノ中真ノ所有者ヨリ弁償ヲ受ルコト能ハサル分
第三 物ニ生スルコトアルヘキ価額ノ増加但偶然ノ事故ニ出タルモノモ亦同シ
第四 真ノ所有者物ノ取戻ヲ請求シタル日ヨリ収穫セシ果実ニシテ之ニ返還スヘキモノ
然レトモ買主ハ自己ノ都合ヲ以テ果実ノ代リニ収穫期相当ノ時間内代価ノ制限利子ヲ請求スルコトヲ得
其他尚ホ買主ハ普通法ニ従ヒ証明シタル損害賠償ヲ請求スルコトヲ得例ハ所有者ノ取戻ノ請求ニ対シ答弁ニ要シタル訴訟入費及ヒ右売買ノ担保請求ニ関スル訴訟入費ノ如シ
第千百九十七条 売主契約ノ時善意ナリシトキハ第九百五条ニ定メタル損害ノ分度内ニ非レハ前条ノ第二第三及ヒ其末項ニ予定シタル賠償ヲ負担セス
第千百九十八条 善意ノ売主契約以後ニ至テ其物他人ニ属セルコトヲ発見セシトキハ其売渡シタル物引渡ノ請求ヲ受ルニ際シ買主代価ノ弁済ヲ提出スト雖売主ハ抗弁方法ニ依リ売買ノ無効ナルコト及ヒ其担保義務ノ定メ方ヲ請求スルコトヲ得但買主他人ヨリ物ノ追奪ヲ受ルモ売主ニ対シ一切ノ追求権ヲ放棄スルコトヲ明瞭ニ申述スルトキハ此例ニ在ラス
第千百九十九条 売渡シタル物引渡ノ後其他人ニ属セルコトヲ発見セシトキハ売主ハ買主ヲ無効申立ノ訴権執行ノ遅滞ニ付シタル場合ニ於テ又ハ双方立会ノ上第千百九十六条ニ基キ現ニ自己ノ負担スヘキ賠償額ヲ査定セシメタル場合ニ於テハ其収受シタル代価ニ右賠償額ヲ併セ実物ノ提供ヲ為セシ後之ヲ寄置スルトキハ売主ハ其他一切ノ責任ヲ免ルヘシ
然レトモ売主第千条ノ法文ニ拠リ寄置セシ金額ヲ引取ル権利ヲ行ヒシトキハ再ヒ本条ヲ効用スルコトヲ得ス
第千二百条 他人ノ物ノ売主其後売渡シタル物ノ所有者トナルトキハ何時ニテモ自己ノ負担ス可キ相当ノ損害賠償額ヲ明示シテ買主ニ無効ノ訴権ト売買確認トノ中一ヲ撰択スヘキコトノ催促ヲ為スヲ得
又此権利ハ他人ノ物ノ売主ニ相続シタル真ノ所有者ニモ属ス
第千二百一条 売渡シタル物ノ一分劃分シテ第三ノ人ニ属スルモノナル場合ニ於テ買主ヨリ此一分ハ其質又ハ其広サニ就キ実ニ有用ノモノニシテ之ヲ獲得スル能ハサルコトヲ予メ知ルニ於テハ其物ヲ買受ケサリシコトヲ証明スルトキハ買主ハ物ノ全部ノ追奪ヲ受ケタル場合ニ就キ定メタル如ク損害賠償ヲ得テ其売買契約ノ取消ヲ請求スルコトヲ得
又買主契約ノ取消ヲ宣告セシメサルトキト雖其受ケタル直接及ヒ現在ナル損害ノ限度ニ於テ賠償ヲ得ヘシ
又売渡シタル物ハ人為ノ不外見ナル地役ヲ負担シタルモノナルニ契約上之ヲ明言シタルカ又ハ其財産ノ一分若ハ全部ニ就キ他人ノ為メ存スル用収権又ハ賃借権ニシテ其将来継続スヘキ時間ハ家屋ニ就テハ一箇年、地所ニ就テハ二箇年ヲ超過ス可カラサルトキハ買主前同一ノ条件ニ従ヒ前同一ノ権利ヲ有スヘシ
第千二百二条 又第三ノ人ニ属スル分ハ未分ナルトキハ其部分ノ重要如何ヲ問ハス買主ハ契約ヲ取消スノ権利ヲ有スヘシ
又其契約ヲ取消サヽルトキト雖買主ハ常ニ其契約ノ入費及ヒ其物獲得ノ代価中ニテ右部分ニ相当ノ金円ヲ取還スヘシ但其売買以後物ノ価額減少シタルトキト雖亦同シ
又売渡シタル財産ノ全部ニ就キ他人ノ為メ存スル用収権又ハ賃借権ニシテ其期限尚ホ家屋ニ就テハ一年以上地所ニ就テハ二年以上ニ及フヘキトキハ買主ハ自己ノ為メニ存スル権利ノ不充分ナルコトヲ証明スルニ及ハスシテ其売買契約ヲ取消スコトヲ得
第千二百三条 売渡シタル土地ニ就キ先取特権又ハ抵当権ヲ有スル者アル場合ニ於テ契約上之ヲ明言シタルト否ヲ問ハス買主其代価弁済ノ前又ハ其際ニ之ヲ贖出スル為メ必要ナル法式ヲ履行セサルニ因リ売主ノ債権者ニ所有権ノ引上ヲ受タルトキハ買主ハ第千百九十六条及ヒ第千百九十七条ニ規定シタル如ク売主ニ対シ担保ノ追求権ヲ有ス
第千二百四条 物件差押ノ上公売ニ因リ売買ノ成立スルトキハ其物件ノ追奪ヲ受ケタル買主ハ差押ヲ被フリタル売主ニ対シテ代価ノ返還ヲ追求スルコトヲ得又売主ノ無資力ナル場合ニ於テハ買主ハ代価ノ分配ヲ受ケタル債権者ニ対シテ其追求ヲ為スコトヲ得
買主ハ物件差押人ニ対シテハ其物債務者ニ属セサルコトヲ差押ノ際差押人ノ了知シタルトキニ非レハ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得ス又債務者ニ対シテハ偽テ其物上ニ存スル第三ノ人ノ権利ヲ否咈シ又ハ之ヲ隠蔽シタルトキニ非レハ損害賠償ヲ請求スルコトヲ得ス
又公売ノ負担書及ヒ其手続書ノ認方ヲ引受ケタル公役人其職務上ノ本分ヲ欠キタルニ因リ買主ノ錯誤ヲ助成シタルトキハ損害賠償ノ責ヲ負担スルコトアルヘシ
第千二百五条 債権ノ売主ハ其債権ノ成立及ヒ有効ニ就キ法律上当然担保人トス
売主ハ其債務者ノ資力ニ就テハ担保スヘシト明約シタルニ非レハ担保人タラス
此明約アリタル場合ニ於テモ売主ハ債権ノ請求期限後ノモノニ就テハ其譲渡ノ日ニ於ケル債務者ノ資力ニ就キ受取リタル代価ノ限度ノミニ於テ其責ニ任ス但担保ノ意味一層広キ約束ノ場合及ヒ商業手形ニ関スル特別規則ハ此限ニ在ラス
又譲渡人請求期限未満ノ債権ニ対スル債務者ノ将来ノ資力ヲ担保シテ他ニ特約ヲ為サヽリシ場合ニ於テ期限到来以後一箇年後ニ至テ債務者無資力ト為リタルトキハ右ノ担保ハ止息ス又無期年金権ニ就キ譲渡ヨリ十箇年後ニ至テ債務者無資力ト為リタルトキモ亦同シ
第千二百六条 物権ト人権トヲ問ハス訟事ニ係ル権利ノ譲渡ニ就キ特別ノ合意ナク且譲受人ニ於テ其訟事ニ係ルモノナルコトヲ知リタルトキハ譲渡人ハ其主張スル事実ノ担保人タルノミニシテ其権真ニ成立スルコトニ就キ担保人タラス
此権利ハ其基本ニ就キ既ニ明瞭ナル争論ノアリシトキニ非サレハ本条ノ適用ノ為メ訟事ニ係ルモノト看做サス但其争論ハ裁判上ナルト裁判外ナルトヲ区別スルニ及ハス
第千二百七条 譲渡人前条ノ場合ニ於ケル担保ノ責ヲ負ヒタルトキハ譲渡ノ代価返還ノ外尚ホ譲受人ノ正当ニ希望シタル利益ノ賠償ヲ為スヘシ
第千二百八条 何人ニ限ラス発開シタル相続ノ全部又ハ一分ニ就キ自己ノ有スル権利ヲ売渡セシ者ハ其売渡シタル部分ニ就キ相続人又ハ包括名義ノ受嘱者タル身分ヲ以テ相続上ニ自己ノ有スル権利成立ノ担保人タルヘシ但分量ノ定マリタル利益額ヲ担保スヘキコトヲ陳述シタルトキニ非サレハ其担保人タラス
第千二百九条 又其者ニ於テ如何ナル部分ニ就キ相続人タリ又ハ受嘱者タルコトヲ特別ニ指定セスシテ自己ノ権利ノ存スル侭ニテ売渡セシトキハ買主ハ他ニ相続人又ハ受嘱者ノ欠ケタル部分ノ増加ヲ利得シ又其反対ノ場合ニ於テハ其部分ノ減少ヲ受クヘシ
第千二百十条 如何ナル場合ニ於テモ相続ノ譲受人ハ相続ノ負担タル債務ノ為メ生スヘキ総テ将来ノ訴訟ニ対シ売主ヲ担保ス
売主既ニ相続ノ負担タル債務ノ全部又ハ一分ヲ弁済シ又ハ其財産保存ノ為メ出費シ又ハ売主躬ラ其相続ニ対スル債権ヲ有スルトキハ譲受人ハ売主ニ之ヲ算付スヘシ
又売主ハ自己ヨリ相続ニ払フヘキモノ及ヒ相続ニ属スル債権ニ就キ他ヨリ領収シタルモノ並ニ其他相続ヨリ得タル利益ヲ譲受人ニ算付スヘシ
第千二百十一条 以上ノ場合ニ於テ担保ナク売買ヲ為セシコトノ合意アリシ場合ニ於テ買主追奪ヲ被フルトキハ売主代価ヲ返還スルノ義務ヲ負フ但買主当時ニ追奪ノ危険ヲ知リタルトキハ此例ニ在ラスシテ此場合ニ於テハ代価ノ返還ヲ負担スルニ及ハス
如何ナル場合ヲ問ハス買主危険ヲ担当シテ売買ヲ為セシトキモ亦同シ
第千二百十二条 前条々ノ外尚ホ追奪担保及ヒ之ヲ変更スルコトヲ得ル特別ノ合意ニ関スル規則ハ第九百十五条乃至第九百二十条ニ設定ス
第千二百十三条 売主ニ於テ買主ノ悪意ヲ論拠トシテ買主ノ受ケタル物ノ追奪ヨリ生スル担保義務ノ全部又ハ一分ヲ免ルヘシト主張スルトキハ第三ノ人ノ利益ニ存スル抵当ノ書入又ハ所有権転移ノ登記アリト雖売主ハ第三ノ人ノ権利アルコトヲ買主ノ知リタル直接ノ証拠ヲ供スルノ責ヲ免レス
第三款 買主ノ義務
第千二百十四条 買主ハ代価ヲ約定ノ時日ニ弁済スヘシ又特別ノ約定ナキトキハ物ノ引渡ノ時ニ弁済スヘシ
物ノ引渡ヲ延引スル合意ハ双方ノ意思ニ従ヒ暗ニ代価ノ弁済ヲモ延引スルモノト推測ス
又売主ニ於テ物ノ引渡ノ為メ裁判所ヨリ猶予期限ヲ得タルトキハ買主モ亦代価弁済ノ為メ同一ノ期限ヲ有ス
第千二百十五条 代価ノ弁済ハ有体ノ動産物ニ関シテハ其物ノ引渡ヲ実行スル場所ニ於テ之ヲ為シ又不動産、債権、訟事ニ係ル権利若ハ相続権ニ関シテハ其権証交付ノ場所ニ於テ之ヲ為スヘシ
又代価ノ弁済ヲ物ノ引渡前又ハ其後ニ請求スヘキトキハ買主ノ住所ニ於テ其弁済ヲ為スヘシ
第千二百十六条 売渡シタル物果実又ハ其他金円ニ見積ルヘキ利益ヲ生スルトキハ買主ハ其物ノ引渡ノ時ヨリ法律上当然代価ノ利子ヲ負担ス之ニ反スル場合ニ於テハ特別ノ合意ニ拠ルカ又ハ代価ヲ弁済スヘキ催促ヲ受ケシ上ニ非サレハ利子ヲ負担セス
第千二百十七条 買主カ所有権取戻ノ訴ニ因リ又ハ其他総テ物上訴権ニ因リ妨碍ヲ受ケ又ハ妨碍ヲ受ルノ恐アル正当ノ事由ヲ有スルトキハ売主其妨碍又ハ危険ヲ止息セシムルニ至ルマテ若ハ追奪ノ場合ニ於テハ其領収セシ代価ヲ返還スヘキ保証人ヲ立ルマテ買主ハ右訴権ノ軽重ニ従ヒ代価ノ全部又ハ一分ノ弁済ヲ拒絶スルコトヲ得但買主ニ於テ其物ノ他人ニ属セルコトヲ証明シテ売買ノ無効ヲ訟求シ及ヒ担保訴権ヲ執行スルノ権利ヲ妨ケス
第千二百十八条 売渡シタル不動産ニ就キ抵当又ハ先取特権ノ書入アルトキハ買主ハ抵当又ハ先取特権洗除ノ法式ヲ履行セシ後ニ非サレハ其代価ヲ弁済スルニ及ハス但制規ノ期限内ニ其洗除ヲ行フコトヲ要ス
第千二百十九条 前二箇条ニ予定シタル場合ニ於テ売主ノ先取特権ノ保存並ニ第三ノ人ニ対スル売買解除ノ権利ニ必要ナル法式ヲ遵奉セサルトキハ売主ハ買主ヨリ即時ニ双方ノ名義ヲ以テ代価ヲ資財預所ニ寄置シ双方ノ承諾ニ拠ルト裁判所ノ判決ニ拠ルトヲ問ハス其手続了終ノ後ニ非サレハ其代価ヲ引取ルコト能ハサル様為スコトヲ要求スルコトヲ得ヘシ
第千二百二十条 買主其買受ケタル物ノ引渡ヲ請求スル権利ヲ有スル時其引渡ヲ受ケサルトキハ売主ハ第九百九十五条乃至第千百条ニ従ヒ其提出及ヒ寄置ノ手続ヲ為スコトヲ得
然レトモ需用品其他忽チニ敗損スヘキ物件ニ関スルトキハ売主ハ買主ノ負担ニテ其物ヲ転売スヘシ但之ヲ為スコト能フトキニ限ルヘシ
第三節 売買ノ解除及ヒ取消
第一款 売買解除
第千二百二十一条 双方ノ中一方前条々ニ定メタル義務ノ全部又ハ一分若ハ其他総テ特別ニ其者ノ服従シタル義務ノ全部又ハ一分ヲ履行スルコトヲ欠キシ場合ニ於テ他ノ一方ハ第九百四十一条乃至第九百四十四条ニ従ヒ売買契約ノ解除ニ自己ノ受ケタル損失ヲ併セテ訟求スルコトヲ得
双方ノ間違約ノ為メ契約ノ解除ヲ明瞭ニ約定シタルトキハ裁判所ハ其違約者ニ猶予期限ヲ許容シテ其解除ヲ延引スルコトヲ得ス然レトモ契約ノ執行ヲ欠キタル者カ付遅滞在ルトキニ非ラサレハ右ノ解除ハ法律上当然其効力ヲ生セス
第千二百二十二条 代価ノ弁済期限ヲ定メタル動産ノ売買ニ就キ物ノ引渡ヲ実行セシトキハ売主ハ其代価ノ弁済ヲ受ケサル為メ買主ノ債権者ノ損害ニ拘ハラス売買解除ノ権利ヲ行フコトヲ得ス
又代価弁済ノ期限ヲ定メスシテ売買ヲ為セシトキハ売主ハ引渡ヨリ八日間ニ売買ヲ解除スルコトヲ得然レトモ善意ナル第三ノ人其物ニ就キ既ニ獲得シタル物権ヲ害スヘカラス
第千二百二十三条 売主ハ売買証書中ニ記載セル買戻ノ約定ニ拠リ買主ヘ代価及ヒ其支払タル費用ヲ返還シテ売買ヲ解除スヘシト約権スルコトヲ得
買戻期限ハ不動産ニ就テハ五箇年又動産ニ就テハ二箇年ヲ超過スルコトヲ得ス
買戻ノ約定ヲ一層長キ期限ニ定メタルトキハ其期限ヲ法律上当然右ノ定限ニ減縮ス
一旦期限ヲ定メタルトキハ二箇年又ハ五箇年ノ定限内ニテモ之ヲ伸暢スルコトヲ得ス
然レトモ此伸暢ハ買主ノ再売約束ト看做スコトヲ得此場合ニ於テハ第千百六十三条及ヒ第千百六十四条ノ条例ニ従フ
売買後即別証書ニ為シタル買戻約定ニ就テモ亦同シ
第千二百二十四条 売主其売買代価ノ半額又ハ半額以上ニ就キ弁済期限ヲ与ヘテ此期限ハ買戻ノ為メ定メタル期限ノ半ニ等シク又ハ其半以上ナルトキハ売主有効ニ買戻ノ権能ヲ約権スルコトヲ得ス
第千二百二十五条 不動産ニ関シテ制規ノ期限内ニ法律ノ定メタル条件ニ従ヒ買戻ノ権能ヲ執行セシトキハ其不動産ハ売買以後ニ買主ノ付与シ又ハ買主ヨリ第三ノ人ノ獲得セシ一切ノ物権ヲ免レテ売主ニ復帰スヘシ但賃貸ノ残余期限三箇年ヲ超過セサルモノハ此例ニ在ラス
又動産ニ関スルトキハ売渡シタル物ニ就キ善意ヲ以テ物権ヲ獲得シタル第三ノ人ニ対シテ買戻ノ権能ヲ執行スルコトヲ得ス
第千二百二十六条 売主ノ債権者ハ売主ニ代リテ買戻ノ権能ヲ執行スルコトヲ得
然レトモ買主ハ右債権者ニ於テ予メ売主ノ無資力ナルコトヲ証明シ且其買戻ノ権能ヲ執行スル為メ第八百五十九条ニ循ヒ裁判上売主ヲ代位スヘキコトヲ請求スルヲ得
又買主ハ債権者ニ売主ノ債務ヲ皆済シテ其買戻訴訟ヲ絶止スルコトヲ得但債権者ヨリ予メ買戻権ヲ行フニ就キ売主ニ返還スヘキ金額ヲ扣除スヘシ
第千二百二十七条 買戻ノ約束ヲ以テ売渡セシ物ニ就キ未タ買戻サヽル前ニ売主抵当又ハ其他ノ物権ヲ他人ニ与ヘシトキハ此権利ノ効力ハ売主躬ラ若ハ前条ノ場合ニ於ケル如ク売主ノ債権者ヨリ為ス買戻ノ執行ニ従フ
又売主カ買戻スコトヲ得ヘキ物ノ所有権ヲ譲渡セシトキハ其獲得者ハ自己ノ名義ヲ以テ買戻ヲ執行スルコトヲ得然レトモ其譲受前ニ売主ノ他人ニ承諾シ且登記式ニ因リ公示シタル物権ヲ認存ス可シ
第千二百二十八条 売主期限内ニ買戻ノ権能ヲ行フトキハ其売買ノ原代価及ヒ契約入費ノ外ニ尚ホ物ノ保存ノ為メ要シタル費用ヲ買主ニ弁償スヘシ
買主右金額ヲ受クルコトヲ拒絶スルトキハ直ニ之ヲ資財預所ニ寄置スヘシ
其他売主ハ物ノ改良ノ為メ要シタル費用ヲ弁償スヘシ但此事ニ関シテハ売主裁判所ニ相当ノ期限ヲ求ムルコトヲ得
以上ノ金額皆済ニ至ルマテ買主ハ物ノ留置権ヲ有ス
第千二百二十九条 買戻ノ約ニ於ケル売買ノ目的不動産未分ノ部分ナル場合ニ於テ買主他ヨリ其不動産分配ノ為メ公売ノ請求ヲ受ケタル際躬ラ其全部ノ落札人トナリシトキハ売主其受取リタル代価ニ公売ノ額ヲ加ヘ全部ノ為メニ非レハ買戻ヲ行フコトヲ得ス
買主モ亦其全部ノ買戻ニ対抗スルコトヲ得ス若シ買主其公売ヲ請求シタルトキハ売主ハ其売渡シタル部分ノ為メニ非レハ買戻ヲ行フコトヲ得ス
又買主ハ此場合ニ於テ全部ノ買戻ニ対抗スルコトヲ得
第千二百三十条 公売ノ付権カ共有者ノ一人又ハ外人ニ帰シタルトキハ何レノ方ヨリ其公売ヲ請求シタルヲ問ハス売主其公売ニ召喚ヲ受ケサリシニ於テハ自己ノ売渡シタル未分ノ部分ニ就キ落札人ニ対シ買戻ヲ行フノ権能ヲ保有ス又其公売ニ召喚ヲ受ケタルニ於テハ買戻ノ権利ヲ失フ
第千二百三十一条 売主ヲ召喚シタル上原物ニテ分配ヲ為セシトキハ其分配ヲ請求セシ者ノ何人タルヲ問ハス他ノ共有者ニ帰シタル部分ニ就キ売主ヨリ要求ヲ為スコトヲ得スシテ只買主ニ帰シタル部分ノミヲ取還スコトヲ得但此場合ニ於テ買主ノ供給シ又ハ受取リタル補足物アルトキハ売主買主ノ間互ニ之ヲ算付スヘシ
又分配ニ就キ売主召喚ヲ受ケサリシトキハ自己ノ撰択ニテ或ハ分配ヲ確認シテ買主ニ対シ前項ノ権利ヲ執行シ或ハ買主ヨリ受取リタル代価ヲ之ニ返還シテ其共有者ニ対シ更ニ分配ヲ請求スルコトヲ得ヘシ
第千二百三十二条 未分物ノ共有者合同シテ唯一ナル契約ニ因リ一口ノ代価ニテ買戻ヲ約シテ之ヲ売渡セシトキハ買主ハ一分ノ買戻ヲ忍容スルニ及ハス又売主ノ一人ヨリ求ムル全部ノ買戻ヲ拒ムコトヲ得但其者自余ノ売主ノ代理ニ拠リ之ヲ求ムルトキハ此例ニ在ラス
一人ノ売主数人ノ相続人ヲ遺シテ死去セシトキモ亦同シ
又共有者ノ各自カ別々ノ契約ニ因リ其部分ヲ売渡セシトキハ各別々ニ買戻ヲ行フコトヲ得但第千二百二十八条及ヒ第千二百三十条ヲ適用スヘキ場合ハ此例ニ在ラス
第千二百三十三条 数人ノ買主唯一ナル契約ニ因リ又ハ別々ナル契約ニ因リ売主ノ買戻ヲ約諾シテ一箇ノ土地ヲ獲得シタル後其分配ヲ為サヽル前ニ売主買戻ヲ行フコトヲ欲スルトキハ買主ノ各自ニ対シ其部分ノ為メ連合ニテ又ハ別々ニテ買戻ヲ行フコトヲ得又既ニ分配ヲ為シタル後ナレハ売主ハ買主ノ各自カ分配又ハ公売ニ因リ獲得セシ部分ニ非レハ之ニ対シテ買戻ヲ行フコトヲ得ス
一人ノ買主数人ノ相続人ヲ遺シテ死去セシトキモ亦此規則ヲ適用ス
又一箇ノ土地ヲ分劃シ別々ノ契約ニ因リ数人ノ買主ニ売渡セシトキハ其一人又ハ数人ニ対シ自余ノ者ニ拘ハラス別々ニ買戻ヲ行フコトヲ得
第二款 損失ノ為メ売買ノ取消
第千二百三十四条 不動産ノ売買ヲ契約ノ日ニ於ケル実価半額以下ノ代価ニテ為セシトキハ売買主其受ケタル損失ノ為メ売買ノ取消ヲ訟求スルコトヲ得但売主売買契約中ニ此取消ヲ求ムルコトヲ明瞭ニ放棄シ若ハ其実価ノ不足分ヲ放棄スルコトヲ明言セシトキモ亦同シ
第千二百三十五条 売買ノ取消ハ其売買ヲ為シタル日ヨリ二箇年内ニ訟求スルヲ要ス
買戻ノ権能ヲ約権シタルトキハ買戻ト取消トノ二箇ノ期限ハ其中ノ最モ短キ期限ニ至ルマテ混同ス
第千二百三十六条 売買ノ日ニ於ケル不動産価額ノ証拠ハ或ハ証書ニ因リ或ハ証人ニ因リ供スヘシ
又双方ハ各自一人ノ鑑定人ヲ指出スコトヲ請求スルヲ得
如何ナル場合ニ於テモ裁判所ハ職権ヲ以テ一人ノ鑑定人ヲ命スヘシ
総鑑定人一致セサルトキハ各自異別ノ報告ヲ為スヘシ
第千二百三十七条 損失ノ為メニ於ケル売買ノ取消ハ第八百七十二条ニ循ヒ為シタル其取消訟求ノ公示前ニ証書ヲ登記シタル転獲者ニ対シテ行フコトヲ得ス
第千二百三十八条 買主第千七十六条ニ於テ許与シタル正当ナル代価ノ不足ヲ充補スル権能ヲ行ハント欲トスルトキハ取消訟求ノ時ヨリ其利子ヲ負担ス
又物ヲ返還スルコトヲ択フトキハ其払ヒシ代価ヲ訟求後ノ利子ト共ニ取還シテ右同時ヨリ収穫セシ果実ヲ返還スヘシ
此終リノ場合ニ於テハ代価ノ全部返還ニ至ルマテ物ヲ留置スルコトヲ得
第千二百三十九条 第千二百二十八条乃至第千二百三十二条ニ定メタル買戻権能ノ可分若ハ不可分ナル執行ニ関スル規則ハ損失ノ為メニ於ケル売買ノ取消ニ適用ス
第千二百四十条 公売方法ニ拠リ為セシ売買ニ就テハ売主ノ随意ニテ之ヲ為セシトキト雖損失ノ為メニ於ケル売買ノ取消ヲ行フコトヲ得ス但不動産差押上ノ売買ニ関シ定メタル公示ノ方法及ヒ期限ヲ遵守シ且入札ノ自由ヲ妨ケタル情状ナキコトヲ要ス
第千二百四十一条 不確実ナル性質ヲ有スル売買ハ損失ノ為メ取消スコトヲ得ス
第三款 隠潜シタル瑕疵ノ為メ売買廃斥ノ訴権
第千二百四十二条 売渡セシ物ニ其契約ノ時買主ノ知ラサル不外見ニシテ修補スルコト能ハサル瑕疵又ハ損傷アリテ其瑕疵ハ物ノ性質上若ハ双方一致上ノ用方ニ其物不適当ナルカ又ハ買主瑕疵ヲ知ルニ於テハ其物ヲ買得セサルヘキ程ニ其用方ヲ減スルトキハ買主ハ売主ニ物ノ引取即売買ノ廃斥ヲ請求スルコトヲ得
此場合ニ於テ買主ハ其払ヒシ代価及ヒ契約入費ヲ取還スコトヲ得但右代価ノ利子ハ売買ノ廃斥請求ノ日ニ至ルマテ買主其物ニ就キ得タル収益又ハ使用ト相殺ス
第千二百四十三条 買主売買廃斥ノ訴権ヲ行フニ充分重大ナル隠潜ノ瑕疵アルコトヲ証明スルコト能ハサルトキ又ハ物ヲ保有スルコトヲ欲スルトキハ買主ハ其瑕疵ノ為メ受ケタル便益ノ不足ニ応シテ代価ノ減下ヲ請求スルコトヲ得
第千二百四十四条 買主カ売主ニ対シ売買ヲ廃斥スルコトヲ得ルト代価ノ減下ヲ得ルトヲ問ハス此二箇何レノ場合ニ於テモ尚ホ買主ハ其他ニ受ケタル損害ノ為メ又ハ失ヒタル利益ノ為メ賠償ヲ請求スルコトヲ得但此場合ニ於ケル賠償ハ普通法ニ従ヒ売主ノ善意又ハ悪意ヲ斟酌シテ定ムヘシ
第千二百四十五条 売買契約ノ時物ニ瑕疵ノ存在シ及ヒ其瑕疵ヨリ損害ノ生シタル証拠ハ第千二百三十五条ニ従ヒ証人又ハ鑑定ヲ以テ供スヘシ
第千二百四十六条 隠潜シタル瑕疵ヲ担保セストノ約定ハ売主ノ了知シテ隠秘シタル瑕疵ニ就テハ其売主ニ対シ無効トス
第千二百四十七条 売買廃斥ノ訴権及ヒ代価減下ノ訴権ハ左ノ期限内ニ行フコトヲ要ス
不動産ニ関シテハ十箇月
活動物ニ非サルノ動産ニ関シテハ三箇月又活動物ニ関シテハ一箇月
右ノ期限ハ物ノ引渡ノ日ヨリ起算ス然レトモ買主物ノ瑕疵ヲ知リタル証拠アルトキハ其瑕疵ヲ知リタル日ヨリ以後ノ残余期限ハ其半ニ減ス
又買主意外ノ変災又ハ難抗力ニ因リ右ノ期限内ニ其瑕疵ヲ発見スル能ハサリシコトヲ証スルニ於テハ期限経過ノ後ト雖其訴権ヲ受理スヘシ
第千二百四十八条 隠潜シタル瑕疵ニ基ク代価減下ノ訴権ハ買主其物ヲ無償名義又ハ有償名義ニテ他人ニ譲渡セシニ因リ其買主ノ為メ消滅セス但有償名義ノ場合ニ於テハ買主其瑕疵ノ為メ多少損失ヲ受テ之ヲ譲渡セシカ又ハ買主躬ラ其譲受人ニ訴ヘラレ若ハ訴ヘラルヽノ恐アルトキニ限ルヘシ
第千二百四十九条 隠潜シタル瑕疵ニ基因セル二箇ノ訴権ハ第九百三十九条ニ従ヒ物ノ全部或ハ其半以上ノ滅尽ニ因リ消滅ス但其瑕疵ヨリ右ノ滅尽又ハ毀損ノ生セシ場合ハ此例ニ在ラス
第千二百五十条 物ノ差押ノ上完全ノ法式ヲ以テ為シタル売買ハ其売買廃斥ノ訴権又ハ代価減下ノ訴権ヲ生セス
第千二百五十一条 或ル活動物及ヒ或ル物品又ハ飲食物ノ売買ニ於テ隠潜シタル瑕疵ノ効力ハ特別ノ法律ニ規定ス
附録 公売
第千二百五十二条 未分物ノ分配ヲ為スニ当リ共有者中ノ一人原物ノ分配ヲ拒絶スルニ於テハ其物ヲ或ハ熟議上ノ売買或ハ糶売即未分物ノ公売ニ付シ其代価ハ各有権者ノ有スル権利ノ部分ニ応シテ其間ニ配当ス
第千二百五十三条 関係人ニ於テ第三ノ人又ハ関係人中ノ一人ニ熟議上ノ売買ヲ為スコトニ就キ若ハ外人ノ参加ヲ許シテ其間ニ公売ヲ為スコトニ就キ一致セサルカ又ハ関係人中ニ一人ノ失踪者又ハ無能力者アルトキハ他ノ公売ニ要スル公示ヲ以テ且訴訟法ニ規定シタル法式ニ従ヒ裁判所ニテ又ハ裁判所ヨリ指名シタル公役人ノ前ニテ其糶売ヲ為スヘシ
第千二百五十四条 共有者中ノ一人物ノ全部ヲ獲得セシトキハ其公売又ハ熟議上ノ売買ハ共有者間ニ於テ分配ノ所為ト看做シテ会社ノ財産分配ノ事項ニ定メタル効力ヲ生ス
又公売又ハ熟議上ノ売買ヲ第三ノ人ニ為セシトキハ其公売ハ第三ノ人及ヒ旧共有者互相ノ間ニ此章ニ規定シタル普通売買ノ効力ヲ生ス
第十三章 交換
第千二百五十五条 交換ハ一方ノ者其獲得シ又ハ獲得スヘキ物ノ対価ト看做ス物ノ所有権ヲ他ノ一方ニ転移シ又ハ転移スルコトヲ約スル契約ナリ
交換物ノ中其一ノ価額カ他ノ価額ヨリ劣ルトキハ金円又ハ其他ノ物ヲ以テ不足ヲ充補スヘシ
金円ニ於ケル補足額カ交換ニ供シタル物ノ価額ヲ超過スルトキハ其契約ヲ売買ト看做ス
第千二百五十六条 双方ノ者ハ交換ニ供給シ若ハ供給スルコトヲ約束シタル物ニ関スル一切ノ妨碍及ヒ追奪ニ対シ互ニ担保ノ義務ヲ負担ス
一方ノ者自己ニ約権シタル権利ヲ獲得セサリシトキハ其撰択ニテ或ハ金円ニ於ケル対価ヲ要求スルカ或ハ契約ノ解除ヲ訴ヘ其与ヘタル物ヲ取還スコトヲ得但損害ヲ受ケシトキハ其賠償ヲ得ヘシ
此場合ニ於ケル解除ハ取戻ニ係ル不動産上ニ権利ヲ獲得シ且右解除ノ訴訟ヲ公示セサル前ニ第八百七十二条第一項ニ従ヒ権利獲得ノ証書ヲ登記シ若ハ記入シタル第三ノ人ニ対シテ行フコトヲ得ス
第千二百五十七条 売買ノ普通規則ハ以下ノ例外ヲ除キ交換契約ニ適用ス
第一 交換ハ配偶者間ニ為スコトヲ得但互相ニ授受シタル価額ノ不均等カ間接ノ利益ヲ搆造スル場合ニ於テ贈与ノ禁止若ハ制限規則ノ適用ヲ為スヘキハ勿論ナリ
第二 結約者ノ一方又ハ双方ノ為メ約権シタル交換ノ任意解除ハ第三ノ人ニ対抗スルコトヲ得ス
第三 交換ハ損失ノ為メニ取消スコトヲ得ス
第十四章 和解
第千二百五十八条 和解ハ双方ノ者カ互相ノ勘弁又ハ捐給ヲ以テ現在生シタル争論ヲ了結シ或ハ後来生スヘキ争論ヲ予防スル契約ナリ
和解ノ契約ハ其組成、有効、結果及ヒ其証拠ノコトニ就テハ以下ノ変則ノ外合意ノ総則ニ従フ
第千二百五十九条 無能力者ニ関スル和解契約ノ有効ナル為メ要スル条件ハ第一編ニ設定ス
公ケノ無形人ニ関スル和解契約ハ行政法ニ規定ス
第千二百六十条 和解契約ハ法律ノ錯誤ノ為メ取消スコトヲ得但其錯誤相手方ノ欺詐ニ出ルトキハ此例ニ在ラス
第千二百六十一条 和解契約ハ偽造ノ書類又ハ無効ノ権証アリシニ因リ之ヲ承諾シタルモノトシテ取消スコトヲ得但其偽造又ハ法律上右証書ヲ無効トスル事実ヲ申立ツルコトヲ得シ者ニ於テ当時其情ヲ知ラサリシトキハ此例ニ在ラス
第千二百六十二条 一箇又ハ数箇ノ争論ノ原由ニ基キ為シタル和解契約ハ其後発見シタル権証ニ因リ双方中ノ一方其争論ノ目的物上ニ権利ヲ有セサリシコト顕ハルヽニ於テハ其事実錯誤ノ為メ取消シ又ハ無効ト為スコトヲ得
確定裁判ヲ以テ争論既ニ了結シタルニ勝訴者之ヲ知ラスシテ和解シタルトキモ亦同シ
然レトモ和解契約ノ目的既往ノ原由ニ因リ双方ノ間ニ生スヘキ一切ノ争論ヲ了結シ又ハ予防スルニ在ルトキハ一方ノ利益ニ於ケル確カナル権証ノ発見ハ其和解契約取消ノ原由トナラス但相手方其所為ヲ以テ右権証ヲ扣留シタルトキハ此例ニ在ラス
第千二百六十三条 和解ヲ以テ双方其利益ノ為メ互ニ認定シタル権利カ既発又ハ予見ノ争論ニ関シタルトキハ其和解契約ハ双方ノ間ニ確定裁判ノ如ク権利告示ノ効力ヲ生ス此場合ニ於テハ既往ノ原由ニ因リ権利ヲ保有シタルモノト看做ス但双方ノ者ニ於テ義務ノ更改ヲ為シタルトキハ此例ニ在ラス
又和解ヲ以テ双方ノ者互ニ供給シ又ハ約務セシ利益ノ全部又ハ一分カ争論ニ係ラサルモノナルトキハ其和解契約ノ中此部分ハ物権ヲ転移シ又ハ義務ヲ生スル合意ノ規則ニ従フ
第十五章 特定名義ノ会社
第一節 会社ノ性質及ヒ設立
第千二百六十四条 会社ハ二人又ハ数人カ財産ヲ共通シ之ニ因テ得ヘキ利益ヲ共ニ分配スルコトヲ約スル契約ナリ
第千二百六十五条 会社ハ包括名義ノモノアリ又特定名義ノモノアリ
包括名義ノ会社ニ特別ノ規則ハ本編第二部第二章ニ規定ス
特定名義ノ会社トハ各社員カ特定ノ物ヲ共通シテ利用スル為メ若ハ定マリタル事業ヲ成シ又ハ定マリタル職業ヲ行フ為メ供資ヲ約スルモノヲ云フ
第千二百六十六条 社員ハ動産、不動産ノ所有権、収益権若ハ金円、労役、芸術ヲ以テ供資ト為スコトヲ得其供資ハ不均等ニシテ性質ノ異ナルコトアルヘシ
第千二百六十七条 民事会社ハ無形人ヲ組成ス但結約者ノ意思ニ出ルトキニ限ルヘシ
此場合ニ於テハ会社ニ社名ヲ付シ及ヒ商事会社公示ノ為メ法律上定メタル法式ニ従ヒ結社契約書ノ摘録ヲ以テ其契約ヲ公示ス可シ
会社ニ社名ヲ付シ又ハ結社契約書ヲ公示シタル所為ノミニテモ社員ノ意思無形人ヲ組成スルニ在リシモノト看做ス
第千二百六十八条 合意ノ普通規則ハ会社契約ニ適用ス殊ニ社員ノ承諾、契約ノ目的物及ヒ原由並ニ結約者ノ能力ニ関シテハ勿論ナリ
商事会社ニ特別ナル規則ハ商法ニ定ム
第千二百六十九条 民事会社ハ其社ノ資本ヲ株券ニ分チ及ヒ特別法ニ定ムル有限責任ヲ以テ差金会社又ハ無名会社ノ組織ニ為スコトヲ得但之カ為メ民事会社タルコトヲ妨ケス
第二節 社員ノ権利及ヒ義務
第千二百七十条 会社ハ其契約ノ日ヨリ開始ス但明瞭又ハ暗黙ニ期限若ハ未必条件ヲ設ケタルトキハ此例ニ在ラス
第千二百七十一条 各社員ハ同日及ヒ同様ノ約定ニ従ヒ其約シタル供資ヲ実行ス可シ若シ其義務ヲ履行セサルトキハ其社員ハ法律上当然果実及ヒ利子ヲ払ヒ且遅延ノ為メ会社ニ損害ヲ及ホストキハ金円ヲ以テ供資ト為セシトキト雖其賠償ヲ為スヘシ
第千二百七十二条 社員中供資トシテ会社ニ自己ノ芸術又ハ労役ヲ約シタル者其義務ヲ履行スルコトヲ欠キタルトキハ他ノ社員ノ撰択ニ従ヒ或ハ其義務ヲ欠キタル日ヨリ会社ノ受ケタル損害ノ賠償ヲ会社ニ為スカ或ハ会社外ニ於テ自己ノ時間又ハ芸術ヲ用井テ得タル利益ヲ会社ニ交付スヘシ
第千二百七十三条 動産、不動産ヲ問ハス確定物ノ所有権ヲ以テ会社ノ供資ト為スコトヲ約シタル社員ハ売主ト等シク其社ニ対シ物ノ追奪、面積又ハ分量ノ虧欠及ヒ隠潜シタル瑕疵ノ担保人タルヘシ
又社員只物件ノ収益権ノミヲ供資ト為スコトヲ約セシトキハ賃貸人ニ等シキ担保義務ヲ負フ
第千二百七十四条 結社契約ヲ以テ社員中ヨリ一人又ハ数人ノ管理者即支配人ヲ指定シタルトキハ各支配人ハ委任ヲ受ケタル権限ヲ超過ス可ラス
権限ノ定ラサル支配人ハ会社管理ノ通常事務ヲ権限トス然レトモ其社ノ目的ニ属スル事務ニ関シテハ一層重要ノ事ヲ執ルコトヲ得
支配人一致セサル場合ニ於テハ紛議ノ生シタル事務ヲ停止シテ社員ノ会議ニ付シ其多数決ヲ取ルヘシ
第千二百七十五条 結社契約ヲ以テ社員中ニ会社ノ管理事務ヲ委任セス且全社員ノ一致ヲ以テ其事ヲ定メサル間ハ各社員前条ニ定メタル事務ヲ執ルノ権ヲ有ス
第千二百七十六条 結社契約ヲ以テ其社ノ管理者ト指定シタル社員ハ其委任期限中ニ解任スルコトヲ得ス但之ヲ解任スヘキ正当ノ原由アルカ又ハ其管理者ノ承諾及ヒ全社員ノ一致ニ因ルトキハ此例ニ在ラス
会社設立以後ノ決議ヲ以テ指定シタル管理者ハ其指定シタル手続ニ従ヒ之ヲ解任スルコトヲ得テ其管理者ノ承諾ヲ要セス
第千二百七十七条 社員又ハ社員外ノ者ヲ管理者ト定メタル方法ノ如何ナルヲ問ハス管理者中ノ一人又ハ数人ノ死亡、辞職又ハ解任アルトキハ社員ノ多数決ヲ以テ其補欠ヲ定ム
第千二百七十八条 其他会社ノ定款執行上ニ要スル一切ノ処分方法モ社員過半ノ多数決ヲ以テ定ムヘシ
会社ノ定款ニ触ルヽコト又ハ其定款中ニ予定セサルコトヲ為サントスルトキハ全員ノ一致ヲ要ス
但定款又ハ法律ニ右ト反スルモノアルトキハ此例ニ在ラス
第千二百七十九条 第三ノ人カ会社ニ対シ及ヒ支配権ヲ有スル社員中ノ一人ニ対シテ同性質ノ義務ヲ負ヒタル場合ニ於テ其二箇ノ義務ヲ消滅スルニ不充分ナル金額又ハ有価物ヲ其社員ニ弁済シタルトキハ其社員ハ自己ノ債権ト会社ノ債権トノ割合ヲ以テセサレハ自己ノ債権ニ弁済ヲ充当スルコトヲ得ス但債務者ニ於テ充当ヲ為シタルトキハ之ヲ遵守スヘシ
然レトモ債務者自己ノ為メ正当ノ利益ナクシテ社員ノ債権上ニ充当ヲ為シタルトキハ其社員ハ弁済ノ内右割合ノ部分ヲ会社ニ交付スヘシ
債務者社員共ニ充当ヲ為サヽルトキハ第九百九十三条ニ従ヒ法律上ノ充当規則ヲ適用ス
第千二百八十条 会社ノ管理者タルト否ヲ問ハス社員其社ノ債務者ヨリ債務ノ一分ヲ受取リタルトキハ自己ノ受クヘキ分ケ前トシテ受取書ヲ付与セシトキト雖其受取リタル部分ヲ共同社員ニ利益セシムヘシ
第千二百八十一条 総テ社員ハ管理者タルト否ヲ問ハス其過愆又ハ懈怠ニ因リ会社ニ及ホシタル損害ヲ賠償スヘシ
此損害ハ其社員カ他ノ事務ニ就キ会社ニ得セシメタル利益ト相殺スルコトヲ得ス但其事務ノ互ニ関係ヲ有スルトキハ此例ニ在ラス
第千二百八十二条 結社契約ヲ以テ会社ノ管理者ヲ指定セサリシニ因リ社員中其事務ヲ管理シタル者自己ノ事務ニ於ケルト同様ノ注意ヲ加ヘタル以上ハ過愆ノ責ニ任セス
第千二百八十三条 各社員ハ其権利ノ割合ニ応シ会社ニ属スル物ノ必要ナル費用及ヒ保存ノ費用ヲ分担ス但会社ノ資本中其用ニ供スル金額アルトキハ此例ニ在ラス
第千二百八十四条 又支配人タルト否ヲ問ハス総テ社員ハ自己ノ供資外ニ会社ノ為メ有益ニ立替ヘタル金額ヲ其会社ヨリ返還セシメ若ハ会社ノ利益ニ善意ヲ以テ第三ノ人ト結ヒタル約束ハ会社ヲシテ確認セシメ若ハ会社ノ事務ノ為メ避クル能ハスシテ自己ノ財産上ニ受ケタル損害ハ会社ヨリ賠償セシムルコトヲ得
第千二百八十五条 会社ノ事務ノ為メ社員ヨリ立替ヘタル金額ハ之ヲ用井タル日ヨリ社員ノ為メ法律上当然利子ヲ生ス
又総テ社員ハ自己ノ事務ノ為メ会社ノ資本中ヨリ転用シタル金額ニ就テハ其社ノ為メ法律上当然利子ヲ負担ス但此場合ニ於テ会社カ別ニ損害ヲ受ケタルトキハ右利子ノ外尚ホ其賠償ヲ為スヘシ
第千二百八十六条 総テ社員ハ会社ノ継続中ニ得タル実益ヲ以テ其社ノ資本ヲ増加スルト又其間ニ受ケタル損失ニ因リ之ヲ減少スルトヲ問ハス其社解散ノ際ニ存スル資本ニ就キ各自ノ受クヘキ部分ヲ予メ結社契約ニ因リ若ハ其後ノ約定ニ因リ随意ニ定ムルコトヲ得但第千二百八十八条ニ定メタル二箇ノ規則ハ此例ニ在ラス
第千二百八十七条 社員ハ会社ノ利益及ヒ損失上其中一人又ハ数人ノ受クヘキ部分均等ナラサルコトヲ合意スルヲ得
然レトモ単ニ会社ノ利益ノミヲ予見シテ其配当部分ヲ予定シタルトキハ其損失ニ就テモ之ニ均シキ予定アルモノト看做ス
如何ナル場合ニ於テモ会社ノ受ケタル損失ヲ扣除シタル上其資本ノ能動高トシテ残ルモノニ非レハ社員間ニ分配スヘキ利益ト看做サス又右能動高ヲ払ヒ尽シタル後尚ホ会社ノ債務トシテ負担スヘキモノニ非レハ其社ノ損失ト看做サス
会社ノ継続中其利益及ヒ損失ノ部分ヲ配当スト雖総テ損益ニ関スル確定ノ決算ハ其社解散ノ時ニ為スヘシ
第千二百八十八条 会社資本ノ全額又ハ只其実益ノ全額ヲ社員中一人ニ帰スルノ約条ハ無効トス
社員中一人ニ会社ノ損失一切ノ分担ヲ免レシムルノ約条モ亦同シ但労動ノミヲ以テ供資ト為シタル社員ハ此例ニ在ラス
結社契約書中ニ右ノ約条ヲ掲載シタルトキハ其約条ハ結社契約ト共ニ無効タルヘシ又結社契約以後ニ右ノ如キ約条ヲ為シタルトキハ其約条ニ拘ハラス原契約ヲ保持シテ第千二百九十一条ニ従ヒ会社ノ損益ニ関スル決算ヲ為スヘシ
第千二百八十九条 社員ハ会社解散ノ時各自ノ受クヘキ分配ヲ其撰任シ若ハ撰任スヘキ一人又ハ数人ノ仲裁人ノ規定ニ因テ定ムヘキコトヲ結社契約又ハ其以後ノ合意ニテ約スルコトヲ得但仲裁人ハ社員中ナルト社員外ナルトヲ妨ケス
仲裁人ノ為セシ規定ハ仲裁契約ニ定メタル法式若ハ条件ニ従ハサルカ又ハ明瞭ニ条理ニ違ヒタル場合ニ非レハ之ヲ排撃スルコトヲ得ス
右規定ノ無効申立ノ請求ハ之カ為メ損失ヲ受ケタリト主張スル社員躬ラ其規定ノ執行ヲ助成シタル時又ハ右損失ヲ知リシ時ヨリ三ヶ月ヲ経過シタルトキハ其者ニ対シ之ヲ受理セス
第千二百九十条 各社員ノ分配高ノ規定ハ仲裁契約ノ方法ニ依ルヘキコトヲ結社契約ニ定メタル場合ニ於テ社員ノ多数決ニテ仲裁人ヲ撰任スルコト能ハサルトキハ裁判所ニ於テ之ヲ撰任ス可シ又撰任ヲ受ケタル仲裁人其規定ヲ為スコトヲ欲セサルカ又ハ之ヲ為スコト能ハサル場合ニ於テ社員之ヲ改撰スルニ就キ一致セサルトキモ亦同シ
第千二百九十一条 社員若ハ仲裁人ニ於テ分配高ノ規定ヲ為サヽリシトキ又ハ仲裁人ノ決定ヲ取消シタルトキハ各自ノ供資ニ応シテ会社ノ資本及ヒ損益ヲ分配ス
労動ノミヲ供資トシ予メ其評価ノ定メナキ社員ハ自余ノ社員中供資ノ最モ少キ者ト同様ノ取扱ヲ受クヘシ又労動ト共ニ他ノ財産ヲ供資ト為シタルトキハ其財産ノ多寡ニ従ヒ別ニ一部分ノ利益ヲ得又ハ損失ヲ負担ス
第千二百九十二条 総テ社員ハ自己ノ部分ニ就キ第三ノ人ト結合シ又ハ其部分ヲ質トシ若ハ譲渡スコトヲ得ヘシト雖此所為ヲ会社ニ対抗スルコトヲ得ス但結社契約中社員ニ此権利ヲ認許シタルカ又ハ会社ノ資本ヲ株券ニ分チタルトキハ此限ニ在ラス
右二箇ノ場合ニ於テ会社其社員ノ譲渡サント欲スル利益ノ持分又ハ株券ヲ先買スルノ権利ヲ有スルトキハ其約条ヲ遵守シテ社員ヨリ会社ニ於テ其先買権ヲ執行スルカ又ハ之ヲ放棄スルカニ就キ其社ヲ遅滞ニ付スヘシ
第千二百九十三条 会社ノ名義ヲ以テ又ハ其事務ノ為メ支配人ノ有効ニ結ヒタル約束ハ其社ノ資本ヲ以テ担保シ其約束ニ由来スル債権者ハ其社員一身ノ債権者ニ対シ其社ノ資本ヲ先取スルノ権利ヲ有ス但此先取権ハ其社カ無形人ヲ組成スルトキニ限ルヘシ
会社ノ資本其債務ヲ皆済スルニ不充分ナル場合又ハ会社ノ資本ヲ其債権者ニ明示セサル場合ニ於テハ各社員連帯ニテ其社ノ義務ヲ負担ス
会社無形人タラサルトキモ亦同シ
右二箇ノ場合ニ於テ社員間ノ確定決算ハ第千二百八十六条乃至第千二百九十条ニ定メタル如ク会社ノ能動高及ヒ所動高ニ就キ各社員ノ有スル部分ニ従ヒ規定ス
第三節 会社ノ止息
第千二百九十四条 会社ハ左ノ原由ニ因リ法律上当然了終ス
第一 結社契約ヲ以テ定メタル期限ノ満チタルコト又ハ解除ノ未必条件ニ従ヒ会社ヲ設立シタル後其条件ノ成就シタルコト
第二 一事業ノ為メニ会社ヲ設立シテ其事業ノ成就シタルコト又ハ其事業ヲ成就スル能ハサルコト
第三 会社資本ノ全額又ハ半額以上ノ滅尽シタルコト
第四 社員中労動又ハ収益ヲ以テ供資ト為シタル者其労動又ハ収益ニ於ケル供資ヲ引続テ実行スル能ハサルコト
第五 社員中一人ノ死去、禁治産、破産又ハ顕然無資力ト為リタルコト但第千二百九十七条ニ定メタルモノハ此例ニ在ラス
第千二百九十五条 左ノ場合ニ於テハ会社ヲ解散スルコトヲ得
第一 如何ナル場合ニ於テモ全社員会社ノ解散ニ同意シタルトキ
第二 社員中ノ一人其社ノ解散ヲ欲シタルトキ但会社ノ継続期限ヲ明瞭又ハ暗黙ニ定メサルトキニ限ルモノニシテ且解社ノ請求ハ悪意ニ出テス又其社ノ為メ不適当ナル時ニ為サヽルコトヲ要ス
第三 社員中ノ一人其義務ヲ執行セサルニ基因シテ結社契約ノ解除ヲ請求シタルトキ
第千二百九十六条 社員其社継続期限ノ満タサル前ニ明瞭又ハ暗黙ニ其期限ヲ延スコトヲ得
又暗黙ノ延期ハ会社ノ継続期限満チタル後ニモ為スヲ得ヘクシテ其延期ハ満期後尚ホ事務ヲ継続スルモ社員中之ニ対シテ故障ヲ述フル者アラサル事実ヨリ生ス但此場合ニ於テハ第千二百九十五条第二項ニ従ヒ社員中一人ノ意思ヲ以テ其延期シタル会社ヲ解散スルコトヲ得
第千二百九十七条 会社ノ資本ヲ株券ニ分チ其譲渡ヲ許容シタル場合ニ於テハ第千二百九十四条第五項ニ指示シタル解社原由ノ一カ株主中ノ一人ニ到来スルモ之カ為メ其社ヲ解散セス
其他ノ会社ニ於テモ亦以上ノ原由ヲ以テ会社ヲ解散セスシテ其原由ノ為メ社員タルノ資格止ミタル者ノ部分ヲ規定シタル上他ノ社員ト其社ヲ継続スヘキコト若ハ死去セシ社員ノ相続人又ハ無能力者若ハ無資力者ノ正当ナル名代人ト其社ヲ継続スヘキコトヲ合意スルヲ得
第四節 会社ノ清算及ヒ分配
第千二百九十八条 会社ノ解散後ハ各社員又ハ其承継人清算ヲ請求スルコトヲ得
会社ニ対スル債権者ノ多数其社ノ財産分配前ニ清算ヲ請求スルトキハ其分配前ニ之ヲ為ス可シ
第千二百九十九条 清算ハ起業事務ノ了終、会社ノ債務ノ弁済及ヒ会社カ第三ノ人ニ対シテ有スル債権ノ求済、各社員ト会社トノ各別ノ勘定並ニ各社員ノ分配ヲ受クヘキ能動高又ハ負担スヘキ所動高ニ就キ社員若ハ其名代人ノ部分ノ指定ヲ包含ス
第千三百条 結社契約ヲ以テ清算者ノ選任及ヒ其権限ニ関スルコトヲ定メタルトキハ之ヲ遵守ス可シ
其約条ナキトキハ全社員合併シテ清算ヲ為シ若ハ其中一人又ハ数人ノ社員ヲ選任シテ之ヲ為サシメ若ハ社員ノ一致ヲ以テ選任シタル第三ノ人ニ之ヲ為サシムルコトヲ得
清算者ノ選任ニ就キ社員一致セサルトキハ裁判所ヨリ之ヲ選任ス可シ
第千三百一条 如何ナル場合ニ於テモ清算者ハ会社所属ノ物件ニシテ其損壊又ハ滅尽ノ怱カナルモノヲ譲渡ス可シ
清算者ハ会社ノ債務償還ノ為メ必要ナルトキハ其他ノ動産ヲ譲渡スコトヲ得
清算者ハ社員ノ特別委任ヲ受ルニ非レハ不動産ヲ抵当ト為シ若ハ譲渡スコトヲ得ス
此終リノ場合ニ於ケル不動産ノ譲渡ハ公売方法ニ依テ為ス可シ但熟議上ノ譲渡ヲ許容シタル場合ハ此例ニ在ラス且公売ニ依ルト熟議ニ依ルトヲ問ハス其譲渡ノ方法ハ社員ノ多数決ヲ以テ定ム
清算者ハ全社員ノ名義ヲ以テ原告人又ハ被告人ト為リテ出訴スルコトヲ得
清算者其会社ノ債務又ハ債権ニ関シテ承諾シタル和解契約及ヒ仲裁契約ハ其第三ノ人ト通謀シタル欺詐アル場合ノ外排撃スルコトヲ得ス
第千三百二条 清算ノ総勘定ニ就テハ社員ノ認可ヲ受ク可シ
清算ノ総勘定ヲ認可スルハ社員ノ多数決ヲ以テ足レリトス
右ノ場合ニ於テ清算ノ総体ニ就キ又ハ其各部分ニ就キ可否ノ投票ヲ為スコトヲ得
清算ノ所為ノ中社員ノ承認セスシテ仕直スコトヲ得ルモノハ清算者ノ入費及ヒ其労力ヲ以テ其仕直ヲ為ス可シ又其所為仕直スコトヲ得サルトキハ清算者ハ代理契約ノ規則ニ従ヒ自己ノ過愆ヨリ生シタル損害ノ責ニ任ス
清算者其委任ヲ受ケタル権限内ニ於テ又ハ前条ノ規則ニ遵ヒ行ヒタル所為ハ常ニ善意ナル第三ノ人ノ為メ保持ス可シ
第千三百三条 資本ヲ株券ニ分チ民事会社ヲ組成シタルトキハ商事株券会社ノ規則ニ従ヒ清算ヲ為ス可シ
第千三百四条 会社ノ解散及ヒ清算ノ後ニハ旧社員ノ各自又ハ其承継人ハ未分財産ノ分配ヲ請求スルコトヲ得但第五百四十条ニ循ヒ社員其社ノ解散後ニ至テモ尚ホ未分ニ置クコトヲ約シタルトキハ此例ニ在ラス
第千三百五条 関係人カ各部分ノ定メ方及ヒ其配付ノコトニ就キ一致セサルトキハ相続及ヒ其他ノ合資分配ノ為メ訴訟法ニ定メタル規則ヲ遵守ス
第千三百六条 分配ニ因リ各社員ニ帰シタル物件ニ係ル権利ハ会社解散ノ日ニ遡リテ効力ヲ有シ又未分中自余ノ社員ヨリ右物件ニ就キ第三ノ人ニ付与シタル権利ハ解除ス
第千三百七条 共同分配者ハ分配ニ因リ各自ノ得タル権利ニ就キ第三ノ人ノ妨碍及ヒ追奪ヲ受ルトキハ互ニ担保スヘシ
共同分配者中ノ一人無資力トナリタルトキハ其負担スヘキ賠償ノ部分ハ自余ノ共同分配者及ヒ被担保者ニ於テ分担ス
第千三百八条 分配ハ丁年者間ニ為シ且動産ノ有価物ノミヲ目的トシタルトキト雖未分財産ニ就キ受クヘキ部分ノ四分一以上損失ヲ蒙リタル者ハ之ヲ取消スコトヲ得
右損失ヲ証明スル為メニハ売買ノ章第千二百三十五条ニ制定シタル法式ヲ遵守スヘシ
第十六章 不確実ノ契約
第千三百九条 不確実ノ契約トハ結約者双方又ハ一方ノ利益若ハ損失ニ関シ効力ノ全部又ハ一分カ将来ノ不確定ナル事件ニ係ル合意ヲ云フ
第千三百十条 契約ハ其性質ニ因リ不確実ノモノアリ又結約者ノ意思ニ因リ不確実ノモノアリ
性質ニ因ル不確実契約ハ左ノ如シ博奕、賭事、終身年金権其他終身権ノ設定、陸海上ノ保険並ニ典船貸借是ナリ
其他ノ契約ハ其成立又ハ効力カ停止若ハ解除ノ未必条件ニ係ルトキハ結約者ノ意思ニ因ル不確実ノモノナリ
第千三百十一条 海上保険及ヒ典船貸借ハ海上商業ニ関スル法律ニ循フ
第一節 博奕及ヒ賭事
第千三百十二条 博奕ノ債務執行ニ就テハ其性質博奕者ノ勇気、力量、巧技ヲ発達スヘキ体躯ノ運動ニ関スルモノニ非レハ裁判上ノ訴権ヲ行フコトヲ得ス
賭事ニ原由スル訴権ハ右運動ヲ為ス人ノ利益ニ於ルカ若ハ農、工、商ノ事ニ関シテ賭者ニ直接ノ関係アル事業ノ繁栄ニ係ルトキニ非サレハ之ヲ行フコトヲ得ス
又右博奕又ハ賭事ニ就キ約シタル金円又ハ価額カ其事情ニ照シテ過分ナルトキハ裁判所ニ於テ之ヲ減少スルコトヲ得スシテ其請求ヲ全ク棄却ス可シ
第千三百十三条 其他ノ場合ニ於テハ総テ博奕又ハ賭事ハ民事上又ハ自然上ノ義務ヲ生セスシテ之ニ関スル追認、更改又ハ保証ハ無効トス
然レトモ能力者右ノ約束ニ憑拠シテ任意ニ弁済シタルモノハ取還スコトヲ得ス但勝者ノ方ニ欺詐若ハ狡猾アリシトキハ此例ニ在ラス
第千三百十四条 官許ヲ経サル富講ハ訴権ナキ博奕及ヒ賭事ト同視ス
又商品若ハ公私ノ手形類ノ定期売買ニシテ双方ノ者契約ノ初ヨリ其約シタル物件ノ引渡又ハ価額ノ弁済ヲ実行スルノ意思ナク只互相ノ間相場ノ差ノミヲ受授スルノ意思タリシコトノ事実上判然スルトキハ其投機所為ニ就テモ亦同シ
第千三百十五条 被告人博奕ニ原由スル抗弁ヲ申立テサルトキハ裁判官其職権ヲ以テ之ヲ補足スルコトヲ得但債務ノ原由ヲ契約書中若ハ訴状中ニ明記シタルカ又ハ事実上其原由ノ明白ナルトキニ限ルヘシ
第二節 終身年金権
第一款 終身年金権ノ設定
第千三百十六条 終身年金権ハ動産又ハ不動産譲受ノ代価トシテ若ハ既ニ受ケ又ハ将来受クヘキ勤労ノ報酬トシテ有償名義ニテ設定スルコトヲ得
又贈与又ハ遺嘱ニ因リ無償名義ニテ之ヲ設定スルコトヲ得
右贈与又ハ遺嘱ヲ以テ年金権ヲ設定スル場合ニ於テハ其年金権ハ恩恵ノ法式、贈与シ及ヒ贈与ヲ受クル能力並ニ処置スルヲ得ル財産ノ部分ニ就テハ無償名義ニ於ケル所為ノ特別規則ニ従フ
第千三百十七条 終身年金権ハ其対価ヲ供給スル者ニ非サル人ノ利益ニ約権スルコトヲ得
此場合ニ於ケル年金権設定ノ契約ハ約権者ト約務者ノ間ニ於テハ有償ノ名義ニ於ケル契約ノ規則ニ従ヒ又約権者ト得益者ノ間ニ於テハ贈与契約ノ規則ニ従フ然レトモ贈与ノ法式ヲ履行スルニ及ハス
第千三百十八条 終身年金権ハ債権者ノ生命若ハ債務者ノ生命若ハ第三ノ人ノ生命ヲ限度トシテ設定スルコトヲ得
第三ノ人ノ生命ヲ限度トシテ設定シタル年金権有償名義ナルトキハ其契約組成ノ為メ第三ノ人ノ承諾ヲ必要トス但其承諾ナキ為メ年金権設定ノ契約無効ニ帰スルト雖既済ノ収額ヲ取還スコトヲ得ス
第千三百十九条 又数人ノ生命ヲ限度トシテ年金権ヲ設定スルコトヲ得但此場合ニ於テ其数人同時ニ収額ヲ所得シ若ハ甲死シテ乙ト順次ニ所得スヘキコトヲ約スルヲ妨ケス
此場合ニ於テハ用収権ニ関シテ定メタル第六百三条ノ規則ヲ適用ス
第千三百二十条 有償名義ヲ以テ設定シタル終身年金権ノ契約ハ或ル人ノ生命ヲ限度トシテ之ヲ設定シタルニ其人合意ノ際既ニ死去セシトキハ結約者双方其死ヲ知ラサルトキト雖無効タルヘシ
又其人合意ノ際既ニ疾病ニ罹リ合意ノ時ヨリ三十日以内ニ死去スルトキハ其契約ハ法律上当然解除ス
第千三百二十一条 無償名義ノ終身年金権ハ債権者ヨリ他ヘ譲渡ス可ラス又他ヨリ之ヲ差押フ可ラサルモノト設定者ニ於テ定メ置クコトヲ得
其譲渡及ヒ差押ノ禁制ニ関スル約款ハ其年金権設定書ニ明記セシニ非レハ之ヲ第三ノ人ニ対抗スルコトヲ得ス又終身年金権ヲ養料ノ為メ無償名義ニテ設定シタルトキハ其贈与契約書又ハ遺嘱書中ニ譲渡及ヒ差押ノ禁制ヲ明記セサリシト雖其年金権ハ法律上当然譲渡ス可ラス又差押フ可ラサルモノナリ
此条例ハ財産贈与者ノ為メ其贈与セシ財産上ニ扣取シタル年金権ニ適用セス
第千三百二十二条 終身年金権ノ譲渡及ヒ差押ノ禁制ハ設定者ニ於テ二箇ノ禁制中其一ノミヲ約定セシトキト雖二箇ノ禁制共ニ存ス
此禁制ハ決シテ要求期ニ至リタル収額ニ適用セス
第二款 終身年金権契約ノ効力
第千三百二十三条 有償名義ヲ以テ約定シタル終身年金権ノ債務者其収額担保ノ為メ約シタル抵保ヲ供給セス又ハ既ニ供給シタル抵保ヲ減少シタルトキハ債権者ハ契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得テ既ニ領収シタル収額ヲ返還スルニ及ハス
或ル人ノ生命ヲ以テ年金権ノ限度ト定メタル場合ニ於テ右契約ノ解除ニ関スル確定裁判前ニ其人死去セシトキハ其解除ヲ言渡サス
第千三百二十四条 年金権ノ債務者ハ其年金権ノ限度ニ取リタル人ノ存命中収額ヲ払フヘクシテ其間年金権ヲ買戻スコトヲ得ス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第千三百二十五条 収額ハ其弁済ヲ毎月為スヘキト一層長キ時期ニ為スヘキヲ問ハス日割ヲ以テ債権者之ヲ獲得ス
然レトモ収額ヲ前払ニスヘキ場合ニ於テハ其期ニ入リタル以上ハ一期分ノ全額ヲ払フヘシ
第千三百二十六条 債務者収額ノ弁済ヲ欠クト雖債権者ハ年金権ノ設定契約ヲ解除スヘキ権利ヲ約定シタル場合ヲ除クノ外之カ為メ其契約ノ解除ヲ請求スルコトヲ得スシテ唯債務者ノ財産中収額ノ支払ヲ確保スルニ足ル部分ヲ差押ヘ之ヲ売却セシメ其売買ヨリ生スル元本ヲ利用シ其収入ヲ以テ年金権ノ収額ヲ収受ス可シ但他ノ債権者アルトキハ此例ニ在ラス
第千三百二十七条 或ル人ノ生命ヲ以テ年金権ノ限度ニ定メタル場合ニ於テ其人カ収額支払ノ期日ニ生存シタル証拠ヲ債務者ニ供セサルトキハ債務者ハ其収額ノ弁済ヲ拒絶スルコトヲ得
生存ノ検認書ハ其人ノ現ニ居住スル地ノ相当官吏ヨリ之ヲ渡ス可シ
第三款 終身年金権ノ消滅
第千三百二十八条 終身年金権ハ第千三百二十条、第千三百二十三条及ヒ第千三百二十六条ニ予定シタル解除ニ因ル消滅ノ場合及ヒ普通法ニ許容シタル契約ノ取消又ハ廃棄ノ原由ニ因テ消滅スルノ外尚ホ年金権ノ限度ニ定メタル人死去セシトキハ其死去ノ原由ノ如何ヲ問ハス之ニ因テ消滅ス但此規則ハ第千三百二十条ノ適用ヲ妨ケス又債務者ノ責ニ帰スヘキ故殺又ハ過失殺ニ就キ次条ニ規定シタルモノハ此例ニ在ラス
又終身年金権ハ任意ノ買戻、更改、合意上ノ釈放、混同及ヒ時証ニ因リ消滅ス但時証ハ年金権設定ノ時ヨリ又ハ収額最終ノ支払ノ時ヨリ起算ス
然レトモ第千三百二十一条ニ循ヒ終身年金権ヲ譲渡ス可ラス又ハ之ヲ差押フ可ラサルモノト合意上定メ置キタルトキハ其年金権ニ就テハ時証ヲ申立ルコトヲ得ス
如何ナル場合ニ於テモ収額ハ一期分ツヽ其支払期限後五箇年ノ時証ニ因リ免除ス
第千三百二十九条 年金権ノ本主ノ死去ハ債務者ノ責ニ帰スヘキ不正当ノ原由ニ出テタル場合ニ於テ其年金権ハ有償名義又ハ贈与若ハ遺嘱ノ負担トシテ設定セシモノナルトキハ其年金権ノ設定契約又ハ恩恵ヲ解除シテ債務者ハ其得タル財産ヲ返還スヘシ但債務者ヨリ支弁セシ収額ハ取還スコトヲ得ス
又年金権ハ直接ノ贈与又ハ遺嘱ニ出テタルモノナルトキハ本主ノ多分生存スヘキモノト裁判所ニ於テ定ムル期限間死者ノ関係人ノ為メ引続テ収額ヲ給ス可シ
第三節 陸上保険
第一款 総則
第千三百三十条 陸上保険ハ火災、水害、収穫物若ハ活動物ノ滅尽又ハ其他合意中ニ特定シタル災害ヨリ財産ニ及ホスヘキ一切ノ損害ニ対シ約スルコトヲ得
又生命保険即死去ニ対スル保険モ其死去ヲ予トシタル原由又ハ其死去ノ時期如何ヲ問ハス陸上保険ト看做ス
航海ノ危険即海上ノ禍難ニ対スル保険ハ海上商法ニ循フ
第千三百三十一条 陸上保険ハ互相保険タルコトアリ又定料保険タルコトアリ
第千三百三十二条 互相保険トハ数人ノ間ニ約定スル民事上ノ結合ニシテ其特定シタル災害ニ因リ財産ニ及ホスコトアル損害ヲ其社員各自ノ供資ニ応シテ賠補スル為メニ供ヘタル共有資本ヲ用テ彼此保険人且被保人トナルニ在ルモノヲ云フ
第千三百三十三条 定料保険トハ被保人ヨリ保険人ノ負担シタル危険ノ継続スヘキ時間ニ従ヒ其危険ノ対価トシテ保険人ニ支払ヒ又ハ支払フヘキ額数ノ定マリタル金円即保険料ヲ以テ約スルモノヲ云フ
第千三百三十四条 定料保険ノ為メ設立シタル会社ハ商事会社ト看做ス然レトモ会社ト各被保人トノ合意ハ其被保人カ商業者又ハ工業者ニシテ且其保険ノ目的商業若ハ工業ノ物件ニ係ルトキト雖純粋ニ民事上ノモノナリ
第千三百三十五条 互相保険ノ民事会社及ヒ定料保険ノ商事会社ハ行政官庁ノ允許ヲ得タル上ニ非レハ之ヲ有効ニ設立スルコトヲ得ス
第二款 火災其他財産ニ及ホス損害ニ対スル保険
第千三百三十六条 総テ物件ハ其保存ニ就キ利益ヲ有スル者ニ非レハ之ヲ保険セシムルコトヲ得ス
然レトモ被保人其利益ヲ有スル者ノ如ク詐冒シタル身分ヲ保険証書ニ記載シタル場合ニ於テ被保人ハ既ニ支払ヒタル保険料ヲ返還セシムル為メ其詐冒ニ根拠シテ保険ノ無効ヲ申立ルコトヲ得ス
第千三百三十七条 被保人躬ラ物件ノ保存ニ就キ利益ヲ有セサルニ至リシトキハ其保険ハ将来ノ為メ法律上当然止息ス
然レトモ保険物ヲ譲渡セシ場合ニ於テハ既ニ支払ヒタル保険料ニ相当スル被保人ノ権利ハ其物ノ獲得者ニ移ルヘシ但反対ノ契約アルトキハ此例ニ在ラス
然レトモ被保人其物ノ獲得者ヲシテ自己ノ位置ニ代ラシメサルトキハ其保険ハ将来ノ為メ止息ス但之カ為メ保険人ノ受ケタル損害ハ賠償スヘシ
第千三百三十八条 保険ハ財産管理ノ所為ト看做ス故ニ自己ノ財産管理ノ権利ノミヲ有スル者及ヒ其財産ノ関係人ノ合意上、法律上若ハ裁判上ノ代理人ハ有効ニ保険ヲ結約スルコトヲ得
事務管理者モ亦財産ノ関係人ノ為メ其名義ニテ保険ヲ結約スルコトヲ得
第千三百三十九条 虚有者ノ為シタル保険ハ用収者ヲ利シ又用収者ノ為シタル保険ハ虚有者ヲ利ス但第五百九十四条ニ規定シタル条件ニ従フ
然レトモ用収者ニ於テ自己ノ為メニスルト虚有者ノ為メニスルトヲ特定セスシテ建物ヲ保険セシメタルトキハ先ツ第五百四十八条ニ設ケタル火災ノ責任ヲ虚有者ニ対シ躬ラ免ルヽ為メ其保険ヲ為シタルモノト看做ス
第千三百四十条 建物ノ賃借人其建物ニ就キ為シタル保険モ同ク第六百五十二条ニ設ケタル火災ノ責任ヲ所有者ニ対シ躬ラ免ルヽ為メ其保険ヲ為シタルモノト看做ス
右ノ保険ハ其賃借人失火シ之カ為メ延焼シタル隣家ノ賠償追求ニモ又其火災ニ因リ賃借権ノ止息シタル為メ躬ラ受ケタル損害ニモ当ツルコトヲ得ス但保険契約中ニ其事ヲ約定シタルトキハ此例ニ在ラス若シ其特約ナキトキハ保険ノ利益ハ建物ノ所有者ニ帰ス
第千三百四十一条 抵当トシタル建物ニ就キ其所有者ノ為シタル保険ハ其抵当権ヲ有スル債権者ヲ利ス但其債権者数人アルトキハ先取権ノ順序ニ従フ
又其順序ノ如何ニ係ハラス右債権者中一人若ハ信用貸ノ債権者中一人ノ為シタル保険ニ就テモ亦前項ニ同シ但先ツ其保険料ノ賠償高ヨリ険保ヲ為シタル者ノ従来支払ヒタル保険料ヲ扣除スヘシ
第千三百四十二条 停止若ハ解除ノ未必条件ニ係ル権利ヲ譲受タル者ノ為シタル保険ハ其停止ノ未必条件成就シ若ハ解除ノ未必条件虧欠シタル場合ニ於テ其者ノ利益ト為ルヘシ
反対ノ場合ニ於テハ其保険ハ譲渡人ノ利益ト為ルヘシ但其譲渡人ヨリ保険ヲ為シタル者ニ前条ニ定メタル如ク保険料ヲ償還スヘキハ勿論ナリ
第千三百四十三条 保険ノ目的其合意ノ時既ニ全部又ハ其半以上滅尽セシ物ニ在ルトキハ保険契約ハ無効トス
保険ノ目的被保人ノ保険財産ヨリ通常生スヘキ自然又ハ民法上ノ果実ノ外ナル未必ノ利益ニ在ルトキハ其保険モ亦無効トス
第千三百四十四条 保険契約ハ被保人ノ為メ決シテ利潤ノ原由トナラス就中其合意ノ時ニ於ケル物件ノ実価ニ超過シタル賠償額ニ就キ其物件ヲ保険セシムルコトヲ得ス但其物件ノ価額増スコトアルトキハ其増価額ニ就キ更ニ保険セシムルハ此例ニ在ラス
又契約ノ時其物件ノ価全額ニ就キ保険ヲ為サヽリシトキハ後日其余額ニ就キ同保険人若ハ他ノ保険人ニ保険セシムルコトヲ得
第千三百四十五条 補足ノ保険アラサリシ場合ニ於テ被保人ハ其保険ナキ価額ニ就テハ躬ラ之ヲ保険シタル者ト看做ス故ニ其物件ノ一分滅尽ノ場合ニ於テハ被保人ハ物件全部ノ中其保険セシメタル価額ニ割合シタル償金ノミヲ受取リ他ノ一分ハ其責任ニ帰ス
第千三百四十六条 被保人其物ノ価額ノ全部又ハ一分ニ就キ既ニ保険セシメタルトキハ予メ其事ヲ新保険人ニ告知スルニ非サレハ更ニ新保険人ヲシテ有効ニ其物件ヲ保険セシムルコトヲ得ス
然レトモ次条ノ規則ニ拠リ第一ノ保険無効ナルトキハ第二ノ保険ノ無効ヲ阻止ス
第千三百四十七条 又被保人ハ更ニ同物ニ就キ約セント欲スル第二ノ保険ヲ第一ノ保険人ニ告知スヘシ若シ其告知ヲ為サスシテ第二ノ保険ヲ結約シタルトキハ将来第一保険ノ利益ヲ失フ但第一保険人ノ権利ハ被保人ノ失権ニ拘ハラス将来尚ホ既往ノ如ク毫モ減少セス
又其告知ヲ適法ニ為シテ第二ノ保険ヲ結約シタルトキハ第一保険人ハ自己ノ随意ヲ以テ第一ノ保険ヲ保持シ又ハ将来之ヲ取消スコトヲ得但之ヲ取消シタル場合ニ於テハ保険残期ノ為メ既ニ保険人ノ受取タル保険料ハ其半額ヲ返還シ又未タ受取ラサル保険料ハ将来其半額ヲ請求スルコトヲ得
又日附ノ同一ナル数箇ノ保険アルトキハ本条第一項ノ規則ヲ其各箇ニ適用ス
第千三百四十八条 同性質ノ危険ニ対シ一物ニ就キ漸次数人ノ保険人ヲシテ為サシメシ有効ナル数箇ノ保険契約アルトキハ次後ノ保険人ハ先前ノ保険ヲ以テ既ニ確保シタル価額ニ就キ其先前保険人ノ資力担保者ノ身分ニテ保険シタルニ過キサルモノト看做シ其代価額残余ノモノニ就キ通常ノ保険人ト看做ス
又数箇ノ保険契約ノ日附同一ナルトキハ其保険人ハ各自ノ約シタル保険金額ニ割合シテ危険ノ賠償ヲ負担ス
第千三百四十九条 前条々ノ規則ハ保険人躬ラ冒ス危険ノ全部又一分ニ就キ更ニ他ノ保険人ヲシテ其保険シタル物件ヲ保険セシムルコトヲ妨ケス
此場合ニ於テハ二箇ノ保険契約ノ条款ハ互ニ独立ス但第二保険人ノ約シタル賠償額ハ第一保険人ノ約シタル賠償額ニ超過スルコトヲ得ス
第千三百五十条 保険人其責任ノ原由中合意ヲ以テ明瞭ニ除去シタルモノヽ外尚ホ保険人ハ如何ナル明約アルニ拘ハラス左ノ件々ニ原由シタル災害ノ責ニ任セス
第一 被保人若ハ被保人ノ責任ニ在ル人ノ所為ニ原由セシトキ但其所為ハ合意、法律又ハ警察規則ヲ以テ制禁シタルカ若ハ其所為ノ服従スヘキ条件及ヒ予防方法ヲ守ラサリシトキニ限ルヘシ
第二 右同人ノ所為ニシテ制禁セサルモノト雖其性質ニ因リ若ハ其所為ヲ行ヒタルトキノ事情ニ因リ保険ノ目的トスル災害ヲ引起スコトノ判明ナルモノニ原由セシトキ
第千三百五十一条 火災保険ニ於テ保険人ハ内外ノ戦争、暴徒ノ乱行、火山ノ破裂、地震若ハ早急ニ儲蔵シ又ハ堆積シタル苅草又ハ収穫物自然ノ発火ニ原由シタル火災ノ責ニ任セス但其責ニ任スヘキ明約アルトキハ此例ニ在ラス
第千三百五十二条 保険人ハ保険シタル建物ノ焼失セサルトキト雖火災ノ延焼ヲ防止スル為メ之ヲ破壊シタルトキハ其責ニ任ス但其破壊ハ火災地ノ管庁又ハ防火具ヲ有効ニ指揮セシ者ニ於テ必要ノモノト認定シタルトキニ限ルヘシ
第千三百五十三条 被保人ハ保険ヲ依頼スル際成ル丈ケ保険人ノ負担スヘキ危険ノ大小軽重ニ影響ヲ及ホスヘキ情状ヲ陳述ス可シ
此点ニ就キ錯誤又ハ悪意ニ出テタル総テノ黙止若ハ齟齬ハ其情状及ヒ場合ノ軽重ニ従ヒ或ハ既済又ハ要求期後ノ保険料ヲ返還セスシテ保険ヲ無効トシ或ハ既往将来共ニ保険料ヲ増加スル原由トナルヘシ
又災害後ニ至テ其齟齬ヲ発見シ且保険人ニ於テ従来知ラサリシ危険ノ原由其災害ニ影響セシトキハ保険人其賠償金ノ全部又ハ一分ノ支払ヲ免ルヘシ又其原由災害ニ影響セサリシトキハ賠償額ノ中被保人ヨリ支払フヘキ保険料ニ超過スル額ヲ減除ス
第千三百五十四条 保険ノ間ハ保険人ノ承諾ヲ得スシテ危険ヲ増加スヘキ変更ヲ其物件ニ加フルコトヲ得ス之ニ背クトキハ前条同一ノ責ニ任ス
火災ニ対シ動産ヲ保険セシメタル場合ニ於テ保険契約ノ際其物件ノ存在シタル場所ヨリ火災ノ時焼失ヲ免ルヽ為メノ外保険人ノ承諾ヲ得スシテ之ヲ他所ニ運転シタルトキハ災害ノ場合ニ於テ被保人全ク其賠償ヲ受クルノ権利ヲ失フ
第千三百五十五条 数箇年間ノ保険契約ヲ為シタルトキハ其保険料ヲ被保人ノ住所ニ往請スヘシ但保険契約書又ハ其後ノ追加書ヲ以テ保険人ノ住所若ハ其他ノ場所ニ保険料ヲ逓送スヘキコトヲ定メタルトキハ此例ニ在ラス
又保険料ヲ被保人ノ住所ニ往請スヘキトキハ其保険料ヲ弁済セサルニ原由スル被保人ノ失権ハ正式ヲ以テ被保人ヲ保険料ノ弁済遅滞ニ付シタル後ニ非サレハ宣告ス可ラス
又保険料ヲ被保人ヨリ逓送スヘキ場合ニ於テ被保人支払ノ時期ニ其保険料ヲ弁済セサルトキハ法律上当然保険ノ利益ヲ失フ但保険契約ニ反対ノ約定アルトキハ此例ニ在ラス
右何レノ場合ニ於テモ保険人其時期後ニ保険料ヲ収受シ且保険料支払ノ時期ト之ヲ収受シタル時期ノ間ニ保険ニ関スル災害ナカリシトキハ被保人其失ヒタル権利ヲ恢復ス
保険人ヨリ保険料ヲ被保人ノ住所ニ往請スヘキトキト雖被保人ハ其支払ノ期限前後ヲ問ハス保険人ノ住所ニ於テ常ニ保険料ヲ弁済スルコトヲ得
互相保険ノ契約ニ於テハ其社ノ約款ヲ以テ社員ノ失権ヲ規定ス其規定ナキトキハ普通法ニ従フ
第千三百五十六条 被保人ハ災害ノ接近シ若ハ発生シタル際ニ保険契約ヲ以テ担保シタル危険ヲ防止シ又ハ減少スル為メ其身ニ及フ丈ケノ事ヲ躬ラ尽シ又ハ他人ヲシテ尽サシムルコトヲ要ス但其費用ハ以下ニ規定シタル如ク保険人ヨリ償還セシムルコトヲ得
第千三百五十七条 保険契約ヲ以テ担保シタル災害ノ生シタル場合ニ於テハ被保人ヨリ成ル丈ケ短キ時間内ニ保険人ヘ其災害ノ外見又ハ推測ノ原由及ヒ其災害ニ関スル損害ノ知レタル多寡ヲ指示シテ其災害ヲ告知スヘシ
此告知ハ常ニ最初ニ災害所在地方ノ管庁ニ為スコトヲ得又保険契約ヲ以テ之ヲ定メタルトキハ必ス最初ニ其告知ヲ右管庁ニ為スヘシ
第千三百五十八条 保険物ノ価額又ハ未必ノ賠償額ヲ保険契約又ハ其後ノ約束ヲ以テ定メサルトキハ其予見シタル災害ノ際保険人ハ災害ヨリ即時且直接ニ生セシ現実損害ノ全キ賠償額ト被保人其災害ヲ予防シ又ハ停止スル為メ若ハ其物保全ノ為メ正当ニ用井タル費額トヲ被保人ニ償還スヘシ
第千三百五十九条 保険物ノ価額ヲ見積リ置キタルトキハ以後其物件ノ価額増加スト雖物件ノ全部滅尽ノ際保険人ハ其見積価額外ノモノヲ払フニ及ハス
又以後其物件ノ価額減少シタルトキハ保険人ハ其災害ノ日ニ其物件ノ有シタル価額ノミヲ払フヘシ
災害ノ時ニ於ケル物件ノ価額ヲ証明スルハ被保人ノ任トス
其他賠償額ヲ請求スヘキ条件ニ就テモ亦同シ
第千三百六十条 保険物ノ一分滅尽セシ場合ニ於テハ保険人ハ前条ノ区別ニ従ヒ予定ノ賠償額又ハ其物件ノ現時価額ノ内右滅尽ニ相当スルモノヽ外負担スルニ及ハス
又被保人第千三百四十五条ニ記載シタル如ク其物ノ一分ヲ保険セシメ他ノ一分ニ就キ躬ラ保険シタルトキハ保険人ト共ニ躬ラ危険ノ一分ヲ負担ス
然レトモ一家屋ノ住人カ其家屋ノ所有者又ハ隣人ノ賠償額要求ヲ保険セシメタル場合ニ於テハ被保人即其住人ハ保険人ヲシテ予定賠償ノ全額ヲ超過スヘキモノニ非サレハ負担セス
第千三百六十一条 保険シタル動産物ノ内全ク災害ヲ免レタルモノアルトキハ保険人自己ノ随意ヲ以テ或ハ其全部滅尽セシトキニ於ケル如ク賠償全額ヲ支払ヒ其残物ヲ引取リ或ハ之ヲ被保人ニ渡シ賠償額ヨリ其物ノ価額ヲ扣除スルコトヲ得然レトモ単ニ破損シタル物件ニ就テハ保険人之ヲ引取リ又ハ自己ノ利益ニ之ヲ売却セシムルコトヲ得
又建物ニ関スルトキハ保険人其全ク残リタル建物一体ノ価額ヲ賠償金ヨリ常ニ扣除スヘシ又単ニ火ノ達シタル建物ニ就テハ保険人自己ノ随意ヲ以テ或ハ自費ニテ之ヲ修繕シ或ハ其材料ヲ引取リ之カ価額ヲ弁償スルコトヲ得
右何レノ場合ニ於テモ物件保全ノ費用ハ保険人ノ負担トス
第千三百六十二条 一家屋ニ備附ケタル動産一切ノ保険ハ現有金円若ハ債権証又ハ所有権証ヲ包含セス
著書ノ草稿及ヒ其他査定スヘキ估価ヲ有セサル物件モ亦其保険中ニ包含セス
第千三百六十三条 災害ノ賠償ヲ支払ヒタル保険人ハ其災害ノ責ニ任スヘキ賃借人、隣人及ヒ其他ノ人ニ対シテ被保人ノ有スル要償権及ヒ其訴権ニ代位ス
第千三百六十四条 保険物ノ全体又ハ其当時価額ノ半以上カ予見シタル災害ニ因リ若ハ其他意外又ハ難抗力ノ原由ニ因リ滅尽セシトキハ其物件最初ノ状態ニ復シタルトキト雖保険ハ将来止息ス
第三款 生命保険
第千三百六十五条 何人ニ限ラス若干ノ金円ヲ一時ニ払ヒ又ハ毎年若干ノ保険料ヲ払フヘキ約束ヲ以テ其死後ノ為メ其期ニ至リ相続人若ハ其他ノ人ノ利益ニ自己ノ死去ニ因リ其人ノ受クヘキ損害ノ賠償トシテ元本又ハ終身年金ノ支払ヲ確保セシムルコトヲ得
又第三ノ人ノ死ヲ期トシテ自己又ハ他人ノ為メ賠償ヲ約権スルコトヲ得
第千三百六十六条 第三ノ人ノ死ヲ期トスル保険契約ハ其人ノ明瞭ナル承諾ヲ以テスルニ非サレハ有効ナラス
此場合ニ於テ第三ノ人ノ死去ニ因リ要求期ニ至ル賠償額ハ其人ノ死生ニ就キ査定スヘキ利益ヲ有スル者ノ為メニ非サレハ約権スルコトヲ得ス
右保険契約ヨリ生スル権利ノ譲渡モ亦其第三ノ人之ニ承諾ヲ与ヘ且其譲受人之カ死生ニ就キ利益ヲ有スルトキニ非サレハ有効ナラス
第千三百六十七条 被保人ノ相続人タラサル人ノ利益ニ為シタル保険契約ハ其人ヨリ被保人ニ右保険ノ対価ヲ払ハサルトキハ其実被保人ヨリ一箇ノ贈与ヲ為シタルモノト看做ス
第千三百六十八条 被保人ノ方ニ欺詐アラサリシトキト雖危険ノ査定上ニ影響ヲ及ホスヘキ情状ヲ知テ之ヲ保険人ニ知ラシメサリシトキハ保険人其場合ノ軽重ニ従ヒ第千三百五十三条ニ拠リ或ハ其保険契約ノ取消或ハ其保険料ノ増加或ハ賠償ノ減額ヲ請求スルコトヲ得
第千三百六十九条 又被保人ハ自己ノ生命ニ関シ又ハ第三ノ人ノ生命ヲ期トシタルトキ其生命ニ関シテ躬ラ知リタル危険ノ非常ナル増加ヲ保険人ニ知ラシムヘシ
自己ノ随意ナルト強令ナルトヲ問ハス陸海軍ノ現役服務又ハ大航海ニ関スルトキハ保険人ハ保険料ノ増加ヲ要求シ又ハ既ニ保険ノ経過セシ時間ニ相当ノ賠償ヲ払ヒテ将来保険ノ取消ヲ請求スルコトヲ得
又被保人カ保険人ト保険料ノ追加ヲ規定セスシテ軍務又ハ航海ノ直接ナル結果ニ因リ死去セシトキハ保険契約ハ法律上当然解除ス
内国ノ此湊ヨリ彼湊ニ航スル旅行ノ外総テ海上旅行ハ本条ノ適用ニ係ル大航海ト看做ス
第千三百七十条 毎年ノ保険料支払ノ虧欠ハ第千三百五十五条ニ定メタル条件ニ従ヒ保険契約解除ノ原由トス
然レトモ保険料ヲ引続テ三年間又ハ其以上既ニ払ヒタルトキハ保険人其時間相当ノ賠償ヲ払フヘシ
第千三百七十一条 生命被保人カ決闘又ハ自殺ニ因リ死去セシトキハ保険人全ク賠償ヲ払フノ義務ヲ免ルヘシ
又死刑ニ因リ死去セシトキハ保険人既ニ領収シタル保険料ニ相当スル賠償ヲ其承継人ニ支払フヘシ
第千三百七十二条 相当ノ賠償ヲ支払フヘキ場合ニ於テ其計算ノ根拠ヲ保険契約ニ因リ規定セサリシトキハ裁判所ニ於テ其額数ヲ判定ス可シ
第千三百七十三条 第千三百三十四条第千三百三十五条第千三百四十六条第千三百四十七条及ヒ第千三百四十九条ハ生命保険ニ適用ス
然レトモ被保人第千三百四十六条及ヒ第千三百四十七条ノ場合ニ於テ保険契約ノ利益ヲ失ヒシトキハ既済ノ保険料ニ相当スル賠償ヲ受クヘシ
第千三百七十四条 生命互相保険ノ結社ハ其種類ノ何タルヲ問ハス政府ノ特別允許ヲ得シ上ニ非サレハ組成スルコトヲ得ス
第十七章 消費貸借並ニ永久年金権
第一節 消費貸借
第千三百七十五条 消費貸借トハ契約者ノ一方ヨリ代補物ノ所有権ヲ他ノ一方ニ転移シテ他ノ一方ニ於テハ或ル時日ノ後同量同等ナル同種類ノ物品ヲ返還スルノ負担アル契約ヲ云フ
第千三百七十六条 契約者双方ニ於テ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ裁判所ニ於テ其大概ノ意思及ヒ事情ニ従ヒ之ヲ判定ス
返還ノ場所定ラサリシトキハ無利子ノ貸借ナレハ貸主ノ住所ニ於テ返還スヘク又反対ノ場合ニ於テハ借主ノ住所ニ於テ返還スヘシ
第千三百七十七条 難抗力ニ因リ貸与シタル物品ノ返還ヲ為スコト能ハサルトキハ借主ハ其物品ノ査定価額ヲ返還スヘシ此価額ハ貸借ヲ為シタル其日及ヒ其場所ニ於テ計算ス又借主其借物ヨリ直ニ得タル利益カ査定価額ヲ超過スルトキハ其利益ヲ返還スヘシ
第千三百七十八条 貸主ニ属セサル物件ノ貸借ハ無効ニシテ其利子附キナルトキハ担保ノ義務ヲ生ス此賃借ハ左ノ場合ニ非サレハ有効ナラス
第一 借主善意ニテ貸借物ヲ消費セシトキ
第二 借主時証ニ依リ真ノ所有者ニ対シ取戻ノ訴権ヲ排斥セシトキ
第三 真ノ所有者ヨリ貸借ノ確認アリシトキ
総テ其他ノ場合ニ於テハ貸主ハ現存スル貸借物ノ償還ニ就キ期限ニ至リ借主ヲ訴フルコトヲ得
第千三百七十九条 貸借物件ノ外部ニ顕レス且貸主ハ了知セシ所ニシテ人ノ身体又ハ財産ニ損害ヲ及ホスヘキ性質ノ瑕疵アリテ実際借主ニ害アリシトキハ其犯罪又ハ准犯罪タルニ従ヒ第八百九十条及ヒ第九百五条ニ依リ貸主其責ニ任ス
又其貸借利子附ナルトキハ貸主現ニ知ラサル所ナルモ其知ルヘキ瑕疵ニ就キ責任ノ言渡ヲ受クルコトアルヘシ
第千三百八十条 第九百八十四条乃至第九百八十七条ハ金銀貨又ハ強令適用ヲ有スル紙幣ノ貸借ニ適用ス
然レトモ貸主ハ真ニ金銀貨幣又ハ他ノ貨幣若ハ紙幣ヲ以テ或ル価額ヲ貸与セシトキニ非サレハ第九百八十六条ニ准許シタル如ク金貨又ハ銀貨ヲ以テ其対価ノ償還ヲ約スルコトヲ得ス
第千三百八十一条 金塊又ハ銀塊ヲ以テ貸借ヲ為セシトキハ総テ自余ノ物品ニ関スルトキノ如ク借主ハ同質、同量及ヒ同等ノ金銀塊ヲ返還ス可シ
第千三百八十二条 金円、需用品又ハ商貨物ノ借主ハ其元本ノ外利子ノ名義ヲ以テ其借用価額ニ相当スル金円又ハ有価物ヲ弁済スヘキコトヲ約スルヲ得
第千三百八十三条 利子ハ之ヲ明約セシトキニ非サレハ借主ニ対シテ請求スルコトヲ得ス
利子ノ額ヲ定メスシテ借主ヨリ只利子ヲ払フヘキコトヲ約束セシトキハ其利子ハ法律上ノ制限ニ従フ
借主ノ随意ヲ以テ法律上定メタル限度ニ従ヒ其約定セサル利子ヲ弁済セシトキハ借主ハ其利子ヲ取還シ若ハ之ヲ元本ニ算入スルコトヲ得ス
第千三百八十四条 合意上ノ利子ハ法律上ノ利子ヲ超過スルコトヲ得ス但法律上之ヲ禁セサル場合ハ此例ニ在ラス
又利子ヲ法律ノ許容スル制限以上ノ額ニ明白ニ定メタルトキハ其制限額ニ減ス可シ又既ニ払ヒタル利子ノ制限額以外ノモノハ元本ニ算入シ若ハ取還スコトヲ得
貸主真ニ貸与シタル元本以上ノ額ヲ借用証書ニ記載セシメ若ハ其他総テノ方法ヲ以テ其利子ヲ隠匿セシメシトキハ其利子ハ弁済スルニ及ハス又既ニ之ヲ弁済セシトキハ全部ヲ取還スコトヲ得
第千三百八十五条 貸主ニ於テ要求期ニ至リタル利子ニ関スル権利ヲ貯存セスシテ元本ノ全部又ハ一分ヲ領収セシトキハ其利子ヲ受取リ又ハ之ヲ放棄シタルモノト看做ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス
第千三百八十六条 前条ノ規則ハ貸借ヨリ生シタル債務ノミナラス総テ原由ノ如何ヲ問ハス金円又ハ量定物ノ債務ノ弁済及ヒ法律上ノ利子ニ適用ス
第千三百八十七条 利子附貸借ヲ十年以上ノ期限ニテ為セシトキハ借主十年後ニ至レハ期限未満ト雖且反対ノ合意アルニ拘ハラス其債務ヲ償却スルノ権能ヲ有ス
第二節 無期年金権ノ契約
第千三百八十八条 利子附貸借ノ貸主ハ元本ヲ永久ニ請求セサルコトヲ約スルヲ得此場合ニ於ケル貸借契約ヲ年金権ノ設定ト云ヒ又其利子ヲ収額ト云フ
此永久ニ元本ヲ請求セサルコトハ明約アルカ又ハ事実上判明ナルコトヲ要ス
第千三百八十九条 無期年金権ノ借主ハ常ニ元本ノ返還ヲ為スコトヲ得但総テ反対ノ合意アルニ拘ハラス
然レトモ借主ハ或ル時間前返還セサルコトヲ約束スルヲ得其時間ハ十箇年ヲ超過ス可ラス此約束ハ常ニ更新スルコトヲ得ルト雖決シテ十箇年ヲ超過ス可ラス若シ十箇年ヲ超過シタル約束ヲ為セシトキハ此期限ニ減縮ス
第千三百九十条 左ノ場合ニ於テハ債務者ヲシテ強ヒテ元本ヲ償還セシムルコトヲ得
第一 第九百二十五条ニ於テ総テノ債務者法律上ノ期限ノ利益ヲ失フモノト定メタル初三箇ノ場合
第二 規則ニ従ヒ債務者ヲ債務ノ執行遅滞ニ付シタル後二箇年間継続シテ収額ノ弁済ヲ為サヽリシトキ
但此終リノ場合ニ於テ裁判所ヨリ第九百二十六条ニ循ヒ猶予期限ヲ債務者ニ許容セシトキハ此例ニ在ラス
第千三百九十一条 前条ノ規則ハ不動産譲渡ノ代価若ハ其譲受ノ負担条件トシテ設定シタル無期年金権ニ適用シ又無償名義ニテ設定シタル無期年金権ニ適用ス
右ノ場合ニ於テ債務者其年金債務ヲ免レントスルトキハ契約者双方ノ間ニ評価シ置キタル元本ヲ償還ス可シ又其評価ナキトキハ利子ノ制規ニ従ヒ計算シテ其収額ヲ生スヘキ元本ヲ償還スヘシ
第十八章 使用貸借
第一節 使用貸借ノ性質
第千三百九十二条 使用貸借ハ契約者ノ一方カ他ノ一方ニ一箇ノ動産又ハ不動産ヲ使用セシムル為メ其物ヲ交付シ又他ノ一方ニハ明瞭又ハ暗黙ノ期限後借受タル原物ヲ其侭返還スルノ義務アル契約ナリ
此貸借契約ハ性質上無償ノモノタリ
第千三百九十三条 借主ハ其借用物上ニ物権ヲ獲得スルコトナク只貸主及ヒ其相続人ニ対シテ人権ヲ獲得スルニ過キス
借主ノ権利ハ其相続人ニ転移セス但契約者双方ニ反対ノ意思アリタルコト明確ナルトキ及ヒ借主ノ相続人他ニテ同一ノ物品ヲ求ムル為メ必要ノ猶予期限ヲ与フヘキトキハ格別ナリ
第二節 貸借ヨリ生シ又ハ貸借ニ附テ生スル義務
第千三百九十四条 借主ハ借用物ノ性質ニ因リ又ハ合意ニ因リ定マリタル用方ニ従ヒ且貸借ノ期限内ニ非サレハ借用物ヲ使用スルコトヲ得ス
借主ハ他ノ用方又ハ期限後ノ使用ヨリ生シタル滅尽又ハ損壊ノ責ニ任シ又意外ノ滅尽ト雖此使用ニ原由シタルモノハ其責ニ任ス
第千三百九十五条 其他借主ハ自己ノ物ヲ使用シテ借用物ノ滅尽ヲ避クルコトヲ得ヘキカ又ハ自己ノ物ト借用物ニ共同ノ危険アリテ自己ノ物ヲ保全シタルトキハ意外ノ場合又ハ難抗力ヨリ生シタル滅尽ノ責ニ任ス
第千三百九十六条 借主ハ借用物保存ノ通常費ヲ負担ス但貸主ニ対シ追求権ヲ有セス
第千三百九十七条 借主ハ約束ノ期限ニ其借用物ヲ返還スヘシ又其期限前ト雖約定シタル使用ヲ了リタルトキ又ハ貸主ノ為メニ急場不意ノ入用アルトキハ之ヲ返還スヘシ
又期限ヲ約定セスシテ借用物ノ使用ニ際限ナキトキハ裁判所ハ貸主ヨリ請求ノ上返還ノ為メ相当ナル時期ヲ定ムヘシ
第千三百九十八条 借用物ノ返還ハ其物ノ第三ノ人ニ属スルコトヲ知ルトキト雖貸主若ハ其代理人ニ為スヘシ但法式ニ従ヒ第三ノ人ヨリ右ノ返還ニ故障ヲ申立テタルトキハ此例ニ在ラス
此終リノ場合ヲ除クノ外借主ハ貸主若ハ其代理人ノ住所ニ於テ其借用物ヲ返還スヘシ
第千三百九十九条 数人連合シテ同時又ハ順次ニ使用スル為メ一箇物ヲ借受ケタルトキハ各人連帯ニテ前数条ノ義務ヲ負担ス
第千四百条 貸主ハ借主其借用物ノ保存ニ関シテ為シタル必要急迫ノ費用ヲ之ニ償還スルノ義務ヲ負担ス
第千四百一条 又貸借物ニ不外見ニシテ貸主ノ知リシ瑕疵アリタルニ借主之ヲ知ラス又貸主之ヲ借主ニ告知シ置カサルトキハ貸主ハ其瑕疵ニ因リ借主ノ受ケタル損害ヲ賠償スルノ義務ヲ負担ス
第千四百二条 貸主前二条ニ基キ負担シタルモノヲ償還スルマテ借主ハ其借用物ニ就キ留置権ヲ行フコトヲ得
第十九章 寄託及ヒ監守
第一節 通常ノ寄託
第千四百三条 通常ノ寄託ハ一人ヨリ他ノ一人ニ動産ヲ交付シ之ヲ受取リタル者之ヲ保管シ請求次第原物ノ侭之ヲ返還スヘキ契約ナリ
此寄託ハ必ス無償ノモノタリ
寄託ニ随意ノモノアリ又止ムヲ得サルモノアリ
第一款 随意ノ寄託
第千四百四条 随意ノ寄託トハ寄託者カ寄託ノ時日、場所及ヒ受寄者ヲ自由ニ撰択シタル場合ニ為セシモノヲ云フ
第千四百五条 寄託ハ其物品ノ所有者ノミナラス尚ホ其他総テ之カ監守保存ニ利益ヲ有スル人又ハ其代理人モ亦之ヲ為スコトヲ得
無能力者ノ法律上ノ名代人モ右同様ニ寄託ヲ為スコトヲ得
第千四百六条 寄託ハ契約ヲ為ス完全ノ能力ヲ有スル者ニ非サレハ受諾スルコトヲ得ス
然レトモ無能力者ハ尚ホ其手ニ現存スル受寄物又ハ其受寄ニ就キ利得シタル有価物ヲ民事上返還スル義務ヲ負担ス但此民事上ノ義務ハ受寄財物ニ関スル罪アル場合ニ於テ刑事訴権ヲ妨ケス
第千四百七条 受寄者ハ寄託物ノ監守及ヒ保存ニ就キ自己ノ財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ加フ可シ
然レトモ受寄者ヨリ寄託ヲ受クルコトヲ求メシカ又ハ単ニ受寄者ノ利益ノ為メ且要用ノ節ハ其寄託物ヲ使用スルコトヲ許シテ寄託ヲ為シタルトキハ善良ナル管理者ノ注意ヲ加フルノ義務アリ
此終リノ場合ニ於テハ第千三百九十五条ヲ適用ス
第千四百八条 前条ニ予定シタル終リノ場合ヲ除クノ外寄託物ト受寄者ノ所有物トニ共同ノ危険アルニ際シテ受寄者其中一ヲ救フコトヲ得ルニ止マル場合ニ於テ受寄物ノ価額優等ナルコト判明ナルトキハ之ヲ救フ可シ但自己ノ物ノ価額ヲ寄託者ニ賠償セシムルコトヲ得
第千四百九条 受寄物返還ノ付遅滞ニ在ル受寄者ハ普通法ニ循ヒ意外又ハ難抗力ニ因ル滅尽ノ責ニ任ス
第千四百十条 寄託者寄託物ノ品質ヲ秘シタルトキハ受寄者之ヲ知ルコトヲ探求ス可ラス又如何ナル場合ニ於テモ之ヲ第三ノ人ニ知ラシム可ラス但之ニ背キテ寄託者ニ損害ヲ致セシトキハ受寄者其賠償ノ責ニ任ス
第千四百十一条 受寄者ハ其受寄物ヲ使用シ且之ヨリ生スル果実ヲ消費スルコトヲ得ス但之ニ就キ寄託者ノ明瞭若ハ暗黙ノ認許アルトキハ此例ニ在ラス
此認許ハ寄託ニ使用貸借ノ性質ヲ付与セシモノト為スニ足ラス
第千四百十二条 受寄者ハ受寄物ニ其収受シタル果実及ヒ産物ヲ並セ若ハ之ヲ金円ニ変更シ置クヘキモノナリシトキハ其価額ヲ並セテ原物ノ侭返還スヘシ
受寄者其受寄物ニ関シテ或ル賠償金ヲ収受シ若ハ或ル権利ヲ獲得シタルトキハ之ヲ寄託者ニ転移スヘシ
受寄者故意ヲ以テ受寄物ヲ消費シ譲渡シ若ハ挪移シタルトキハ其受寄物返還ノ為メ受寄者ヲ遅滞ニ付スルコトヲ要セスシテ法律上当然損害賠償ノ責ヲ負ハシム但此賠償義務ハ受寄物ニ関スル罪ノ公訴権ヲ妨ケス
第千四百十三条 受寄者ノ相続人受寄物タルコトヲ知ラスシテ之ヲ消費シ若ハ譲渡セシトキハ之ニ就キ得タル利益ノ限度マテ賠償ノ義務ヲ負担ス
受寄者躬ラ遺忘又ハ錯誤ニ因リ自己ノ所有物ナリト思惟シテ受寄物ヲ処置セシトキモ亦右同一ノ規則ヲ適用ス
第千四百十四条 受寄物ノ返還ハ寄託者又ハ其相続人若ハ其法律上又ハ合意上ノ名代人ニ為ス可シ
第千四百十五条 受寄物返還ノ場所ヲ定メサルトキハ受寄者其寄託ヲ受ケシ後受寄物所在ノ場所ヲ変転シタリト雖其物件現時所在ノ場所ニ於テ返還ヲ為ス可シ但其場所ノ変転ニ就キ詐計ナキコトヲ要ス
第千四百十六条 寄託者ノ請求次第ニ受寄者其物件ヲ返還スヘキ義務ハ左ノ場合ニ於テ止息ス
第一 受寄者其物件ノ自己ニ属スルコトヲ証明スルヲ得ルトキ
第二 受寄者カ次条ニ従ヒ物件留置権ヲ行フコトヲ得ヘキ場合ニ在ルトキ
第三 受寄者他ヨリ制規ノ法式ニ適シタル物件ノ渡方差止又ハ其物件返還ニ対スル故障ヲ受ケタルトキ
第四 受寄者其物件ノ盗臓ナルコトヲ覚知シ且其所有者ヲ知リタルトキ但此場合ニ於テハ其受寄物ノコトニ就キ相当ノ期限ヲ定メ其期限内ニ寄託者ト立会ニテ所有者其物件ヲ要求スヘキ報知状ヲ以テ之ニ告知ヲ為スヘシ又右ノ期限ヲ経過スルモ所有者ノ来ラサルトキハ受寄者其物件ヲ寄託者ニ返還ス可シ
第千四百十七条 寄託者ハ受寄者其受寄物ノ保存ニ関シテ為シタル必要ノ費用及ヒ其受寄物ニ就キ受ケタル損害ヲ賠償スヘシ
右賠償皆済ニ至ルマテ受寄者ハ其受寄物上ニ留置権ヲ行フコトヲ得
第二款 止ムヲ得サル寄託及ヒ旅舎ニ為ス寄託
第千四百十八条 火災、水害、破船、地震、一揆ノ如キ意外ニ出テ抗拒ス可ラサル変災ニ因リ余義ナク為シタル寄託ヲ名ケテ止ムヲ得サル寄託ト云フ
止ムヲ得サル寄託ハ一切ノ方法ニ拠リ証スルコトヲ得又事実上ノ推定ニ拠リテモ証スルコトヲ得
其他止ムヲ得サル寄託ハ随意ノ寄託ニ関スル規則ニ従フ但寄託物ニ関スル犯罪ノ場合ニ就キ刑法ニ記載シタル刑ノ加重ハ格別ナリ
第千四百十九条 旅館主、旅店主其他宿泊店主ハ投宿シタル旅人ノ携帯セシ物件ニ就テハ止ムヲ得サル寄託ノ受寄者ト看做ス
舟車運送ノ営業者其他総テ水陸ノ通運営業者其運送ノ委任ヲ受ケシ荷物ニ就テモ亦同シ
然レトモ本条ニ予定シタル受寄者ハ有償名義ニ於ケル契約者ト同一ノ責ニ任ス
第二節 監守
第千四百二十条 監守トハ二人若ハ数人ノ反対ノ主張即争訟ニ係ル物ヲ第三ノ人ニ依付シタル寄託ヲ云フ
監守ハ動産又ハ不動産ヲ目的トスルコトヲ得
監守ニ合意上ノモノアリ又裁判上ノモノアリ
第千四百二十一条 合意上ノ監守ハ寄託ニ就テモ又監守人タルヘキ者ノ撰択ニ就テモ総関係人ノ承諾アルコトヲ要ス
裁判上ノ監守人ハ双方ニ於テ其撰択ニ就キ一致セサルトキニ非サレハ裁判所其職権ヲ以テ之ヲ撰択セス
裁判所ハ訴訟関係人中ノ一人ヲ以テ監守人ト為スコトヲ得
第千四百二十二条 合意上ト裁判上トヲ問ハス総テ監守人ハ給金ヲ受クルコトヲ得故ニ監守人ハ其監守スル物ニ就キ善良ナル管理者ノ尋常ナル注意ヲ加フルノ責ニ任ス
第千四百二十三条 裁判上ノ監守人ハ第六百二十六条ニ循ヒ監守物ノ賃貸ヲ為スコトヲ得然レトモ合意上ノ監守人ハ総関係人ノ特別代理ヲ有スルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
裁判上ノ監守人及ヒ合意上ノ監守人ハ監守物ノ占有ヲ保持シ又ハ恢復スル為メ占有訴権ヲ執行スルコトヲ得
監守人ノ占有ハ争訟ニ就キ結局勝訴スル一方ノ者ノ利益トナルヘシ
第千四百二十四条 監守ニ依付シタル物ハ双方ノ中勝訴シタル者ニ返還スルヲ要ス然レトモ監守人ハ其責任ヲ免ルヽ為メ訴訟関係人ノ允許又ハ裁判所ノ命令ヲ請求スルコトヲ得
第千四百二十五条 此外通常寄託ノ規則ヲ合意上及ヒ裁判上ノ監守ニ適用ス
第千四百二十六条 差押物ノ裁判上ノ監守及ヒ弁済ノ受諾ヲ拒ム債権者ニ弁済ノ為メ供セシ金額又ハ有価物ノ寄置ハ訴訟法ニ規定ス
第二十章 代理
第一節 代理ノ性質
第千四百二十七条 代理トハ一方ノ者カ他ノ一方ノ者ニ委任者ノ名義ヲ以テ其利益又ハ担当ニテ或ル事ヲ為スコトヲ委任スル契約ナリ
代理人委任者ノ利益及ヒ担当ニ於ケル事ヲ自己ノ名義ニテ行フヘキトキハ其契約ヲ秘名代理ト云フ
秘名代理ハ商法ニ規定ス
第千四百二十八条 代理ハ暗黙ニ委任シ及ヒ受諾スルコトヲ得
第千四百二十九条 代理ハ無償ノモノタリ但明瞭又暗黙ナル反対ノ合意アルトキハ此例ニ在ラス
第千四百三十条 代理ヲ分テ総管、限定又ハ特別ノ三種トス
総管代理即為スヘキ事務ヲ別段指定セサル代理ハ委任者ノ資産管理事務ノミヲ包含ス
代理ニ財産ノ管理若ハ処置若ハ義務負担ニ属スル限定ノ性質アル所為ノ集合ヲ包含スルトキハ其代理ハ限定ノモノタリ又此代理ハ裁判所ニ於テ原告、被告若ハ訴訟参預人ト為リテ或ル訴権ヲ行フヘキコトヲ包含スルコトアルヘシ
代理ノ目的右ニ指定シタル性質ノ唯一所為ヲ行フニ在ルトキハ代理ハ特別ノモノタリ
第千四百三十一条 限定又ハ特別代理ハ代理ノ目的タル所為ノ必要ナル引続キ事務ヲ包含ス
然レトモ義務ヲ結約スルノ権限ハ之ヲ弁償スルノ権限ヲ包含セス
約権スルノ権限ハ弁済ヲ受取ルコトヲ許サス
訴訟スルノ権限ハ請求ニ承服シ又ハ訴訟ヲ願下クルノ権限ヲ包含セス
争訟ニ就キ和解スルノ権限ハ之ヲ仲裁人ニ委ヌルコトヲ許サス
又仲裁人ヲ命スルノ権限ハ和解スルノ権限ヲ包含セス
第千四百三十二条 代理ハ躬ラ事ヲ為スノ能力ナキ者ニ委任スルモ有効トス但其代理人ハ委任者ニ対シ無能力者ノ制限内ニ非レハ其責ニ任セス
第千四百三十三条 代理人ハ其管理ノ所為ノ全部又ハ一分ニ就キ他人ヲ以テ自己ニ代ラシムルコトヲ得但他人ヲ以テ自己ニ代ラシムルノ権利ヲ明カニ代理人ニ拒絶セシトキ若ハ代理ノ事務ヲ代理人ニ限リ委托セシモノト看做スヘキ性質ナルトキハ此例ニ在ラスシテ此場合ニ於テハ代理人ハ自己ニ代ラシメタル者ノ管理ニ関シ自己ノ管理ノ如ク其責ニ任スルニ過キス
代理人自己ニ代ラシムヘキ人ヲ指定サレシトキハ其指定シタル撰択ニ従フコト能ハサル場合ト雖他人ヲ撰択スルコトヲ得ス又代理人其指定サレシ撰択ニ従ヒタルトキハ代リ代理人ノ無能力又ハ不信切ニ就キ責任ヲ負担スルハ其事ヲ了知シテ委任者ニ之ヲ通知シ若ハ代リ代理人ヲ解任スルコトヲ得シトキニ限ルヘシ
代リ代理ノ禁止ニ拘ハラスシテ之ヲ為シ又ハ允許外ノ人ヲ撰択セシ場合ニ於テハ此代リ代理ヨリ生シタル損害ハ意外ノ場合又ハ難抗力ニ原由スト雖代理人其責ニ任ス
第千四百三十四条 前条第一項第二項ニ予定シタル場合ニ於テ委任者ハ直ニ代リ代理人ニ対シ其管理ニ関スル一切ノ訴権ヲ執行スルコトヲ得委任者モ亦直接ニ其代リ代理人ニ対シ委任者タルノ義務ヲ負担ス
第三項ニ予定シタル変則ノ代リ代理ノ場合ニ於テハ委任者ハ間接ノ訴権ト直接ノ訴権トノ中撰択権ヲ有ス然レトモ直接ノ訴権ノ執行ハ代リ代理ノ追認ヲ帯有ス
第二節 代理人ノ義務
第千四百三十五条 第四節ニ列記シタル原由中ノ一ニ因テ代理ノ了終セサル間ハ代理人ハ其代理ノ旨趣ニ随ヒ且委任者ノ明示セサル意思ヲモ斟酌シテ之ヲ履行スルノ義務ヲ負フ但之ニ背クトキハ損害賠償ノ責ニ任ス
代理ノ全部ヲ履行スルコト能ハサルトキハ其一分ノ執行ハ委任者ニ有益ナルトキニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス又之ヲ為スノ義務ナシ
第千四百三十六条 定マリタル代価ヲ以テ物件買得ノ委任ヲ受ケタル代理人其以上ノ価ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ求ムルコトヲ得サリシトキハ其超過金額ヲ取還スコトヲ放棄シテ委任者ニ向ヒ其買得ノ追認ヲ請求スルコトヲ得又委任者ハ代理人ノ支払ヒシ代価ヲ以テ其物件ノ引渡ヲ請求スルコトヲ得
売渡代理ニ関シテ代理人カ委任者ノ定メタル代価未満ニテ売却セシトキハ其不足高ヲ補充シテ売渡ノ追認ヲ委任者ニ請求スルコトヲ得
第千四百三十七条 代理人ハ代理ヲ遂ルニ善良ナル管理者ノ為スヘキ一切ノ注意ヲ加フヘシ
然レトモ左ノ場合ニ於テハ其過愆ヲ稍々寛宥ニ査定スヘシ
第一 代理人報酬ヲ受クルトキヨリモ無償ニ代理ノ勤労ヲ為ストキ
第二 代理人躬ラ代理ヲ求メタルトキヨリモ之ヲ求メサルトキ
第三 委任者代理人ノ無能ヲ了知シ又ハ思料セシトキ
第四 代理人代理外ノ所為ヲ為シテ其所為ヨリ委任者ニ意外ノ利益ヲ与フルトキ
第千四百三十八条 代理契約ノ了終セシトキ及ヒ其了終前ト雖委任者ヨリ代理事務ノ計算ヲ求メシトキハ代理人証拠書類ヲ添ヘテ其管理ノ計算ヲ為スヘシ
第千四百三十九条 代理人カ委任者ノ為メ又ハ其管理ニ因テ受取リタル金額又ハ有価物ハ勿論正当ニ受取ルヘキモノニアラス若ハ之ヲ受取ルコトノ許容アラサリシモノト雖既ニ受取リタル以上ハ悉皆之ヲ委任者ニ返還スヘシ
代理人ハ右ノ金額又ハ有価物ニ自己ノ受取ルコトヲ怠リ又ハ自己ノ過愆ニ因テ失ヒシ有価物及ヒ前数条ニ拠リ負担スヘキ損害賠償ヲ添ヘテ返還スヘシ然レトモ其内ヨリ代理人ハ次節ニ従ヒ委任者ヨリ受取ルヘキモノヲ扣除スルコトヲ得
第千四百四十条 代理人カ委任者ノ許容ヲ受ケスシテ委任者ノ依託シタル元本ヲ自己ノ利益ニ使用セシトキハ其使用ノ時ヨリ起算シテ法律上当然利子ヲ払フヘシ但其他損害アリタルトキハ更ニ充分其賠償ヲ之ニ負担セシムルコトヲ妨ケス
代理人ヨリ返還スヘキ計算ノ残額ニ関シテハ代理人ハ其返還ヲ遅滞シタル時ヨリ起算シテ其利子ヲ払フヘシ
第千四百四十一条 同一ノ事務ヲ数人ノ代理人ニ託シタルトキハ唯一ノ証書ニ因リ之ヲ設定シタルト別々ノ証書ニ因リ之ヲ設定シタルトヲ問ハス其各自ハ自身一個ノ過愆ニ非サレハ其責ニ任セサルモノニシテ其数人間連帯ノ責任ハ之ヲ特約シタルトキカ又ハ通謀ノ過愆アルトキニ限ルヘシ
第千四百四十二条 代理人ハ第三ノ人ニ対シテ委任者ノ名義ヲ以テ之ト結約セシ所為ヲ担保スルノ責ニ任セス但代理人之ヲ担保スヘキコトヲ明瞭ニ約セシトキ又ハ自己ノ有セサル権限アルモノヽ如ク第三ノ人ト応接シタルトキハ此例ニ在ラス
第三節 委任者ノ義務
第千四百四十三条 委任者ハ左ノ件々ヲ行フ可シ
第一 代理人カ代理執行ノ為メ弁償シタル正当ノ立替及ヒ費用ト其弁償ノ日ヨリ起算シタル法律上ノ利子トヲ併セテ償還スルコト
第二 代理人カ其管理ノ結果ニ因リ又ハ之ニ附テ自己ノ過愆ナク受ケタル損失又ハ損害ヲ賠償スルコト然レトモ其損害ヲ予知シテ其全部又ハ幾分ヲ償フ為メ報酬ヲ約シタルトキハ此例ニ在ラス
第三 代理人カ管理ノ為メ其一身上ニ負担シタル義務ノ免除又ハ其賠償ヲ為スコト
第四 約束シタル報酬ヲ弁済スルコト
第千四百四十四条 代理人ハ前条ニ予定シタル立替ヲ為スコトヲ約束シタルトキニ非サレハ之ヲ為スノ義務ナシ然レトモ委任者ノ拒絶又ハ遅延ヲ検認セシメスシテ右ノ約束ナキ為メ代理ノ執行ヲ遅延スルコトヲ得ス
第千四百四十五条 報酬ハ全ク代理ヲ執行シタル後ニ非サレハ之ヲ払フニ及ハス但之ヲ分テ払フヘキコトヲ約セシトキハ此例ニ在ラス
代理人其責ニ帰スヘカラサル原由ノ為メ全部ノ執行ニ就キ妨碍ヲ受タルトキハ其遂ケタル分ニ応シテ報酬ヲ受クヘシ
第千四百四十六条 委任者ノ義務皆済ニ至ルマテハ代理人代理ニ因リ所持スル物ニ墓因シテ躬ラ債権者トナリタルモノヽ留置権ヲ有ス
第千四百四十七条 同一ノ証書ヲ以テシタルト別々ノ証書ヲ以テシタルトヲ問ハス数人ニテ共同事務ノ為メ代理ヲ設定セシトキハ各委任者連帯シテ以上ノ義務ヲ負担ス但反対ノ約定アルトキハ此例ニ在ラス
第千四百四十八条 代理人代理契約ニ循ヒ委任者ノ名義ヲ以テ第三ノ人ト結約セシトキハ委任者ハ第三ノ人ニ対シ右ノ結約ニ基因スル一切ノ義務ヲ負担ス
又左ノ場合ニ於テハ其付与シタル権限外ノ事ニ就テモ亦委任者之ヲ負担ス
第一 明瞭又ハ暗黙ニ其所為ヲ追認シタルトキ
第二 之カ為メ利益ヲ得タルトキ但負担ハ其得タル利益ノ限度ヲ超過セス
第三 第三ノ人善意ニテ代理人ニ其権限アルモノト信スヘキ正当ノ理由アリシトキ
第四節 代理ノ了終
第千四百四十九条 代理ハ其履行、其履行ノ不能及ヒ之ニ設ケタル期限若ハ未必条件ノ到来ニ因リ了終スルノ外尚ホ左ノ諸件ニ因リ了終ス
第一 委任者ノ為ス委任ノ廃棄
第二 代理人ノ為ス代理ノ放棄
第三 委任者又ハ代理人ノ死去、商事破産、民事分散若ハ禁治産
第四 委任者若ハ代理人ノ身ニ於ケル委任シ又ハ受任シタル資格ノ止息
第千四百五十条 単ニ委任者ノ利益ニ設定シタル代理ハ之ニ就キ報酬金ヲ約シ置キタルトキト雖委任者何時ニテモ随意ニ之ヲ廃棄スルコトヲ得
第千四百五十一条 代理ノ廃棄ハ将来ノミニ効力ヲ有スルモノニシテ廃棄ノ時マテ代理人ノ為シタル事務ノ効力ヲ妨ケス
第千四百五十二条 数人ノ委任者アルトキハ其一人ニ於テ為シタル廃棄ハ他ノ委任者ノ委任ヲ了終セス
第千四百五十三条 代理ノ廃棄ハ暗黙ニ出テヽ委任者同一ノ事務ヲ更ニ他人ニ委任シ若ハ委任者躬ラ其事務ノ管理ヲ取リタル事実ヨリ生スルコトアルヘシ
第千四百五十四条 代理人ノ為ス代理ノ放棄ニ因リ委任者ニ損害ヲ及ホストキハ委任者ノ為メ代理人其賠償ヲ為スヘシ但其放棄ハ正当若ハ必要ノ原由ニ出タル場合ハ此例ニ在ラス
代理ノ放棄モ亦暗黙ナルコトアルヘシ
第千四百五十五条 代理ヲ了終スル諸般ノ原由其委任者ノ方ヨリ出テタルト代理人ノ方ヨリ出テタルトヲ問ハス双方互ニ之ヲ通知シ若ハ別ニ通知セサルモ他ノ方法ニ因リ之ヲ確知シタルトキニ非サレハ互ニ其了終ヲ主張スルコトヲ得ス
双方ノ中一方ノ者死去セシ場合ニ於テハ死者ノ相続人ニ右ノ通知ヲ為シ又ハ死者ノ相続人ヨリ之ヲ為スヘシ
第千四百五十六条 前条ニ掲ケタル代理ノ了終ニ関スル諸般ノ原由ハ委任者其代理人ヨリ委任状ヲ取戻シタリト雖代理ノ止息後善意ヲ以テ代理人ト結約シタル第三ノ人ニ対抗スルコトヲ得ス
第千四百五十七条 以上ノ原由ノ一ニ因リ代理ノ了終セシトキハ代理人又ハ其相続人ハ委任者若ハ其相続人自身ニテ又ハ他ノ代理人ヲ以テ旧代理人既ニ着手シタル利益ヲ処理スルコトヲ得ルニ至ルマテ之カ処理ヲ為ス可シ
此規則ハ代理ノ了終委任者ノ廃棄ニ出テスシテ代理人ノ放棄ニ出テタルトキハ一層厳重ニ適用ス
第二十一章 使役、労力及ヒ工作ノ賃貸
第一節 使役ノ賃貸
第千四百五十八条 使役人、番頭、手代其他主人ノ身ニ附侍シ又ハ家ニ奉仕スル僕婢並ニ労動者又ハ日雇人及ヒ農業又ハ工作ノ職工ハ一年、一月又ハ一日ノ極メニ因リ其定期ニ定メタル賃銀ニテ各其使役ヲ賃貸スルコトヲ得
此種々ノ場合ニ於ケル賃貸ハ其地方慣習上ノ時期ニ又ハ其慣習ナキトキハ何時ニテモ双方ノ中一方ヨリ与フル解雇ニ因リ了終セサル間ハ継続ス但其解雇ハ不都合ノ時期ニアラス又悪意ニ出テサルコトヲ要ス
第千四百五十九条 前条ニ掲ケタル人々ノ使役ノ賃貸ハ一定ノ時間ニ就テモ約スルコトヲ得ヘシト雖其時間ハ使役人及ヒ僕婢ニ就テハ五年、職工及ヒ労動者又ハ日雇人ニ就テハ一年ヲ超過スヘカラス但職工ノ習業契約ニ関シテ後ニ記載シタルモノハ此例ニ在ラス
右ノ時間ヨリ一層長キ賃貸契約ヲ為シタル場合ニ於テハ双方ノ中一方ノ随意ヲ以テ制規ノ時間ニ減縮スルコトヲ得但満期毎ニ賃貸ヲ更新スルコトヲ妨ケス
第千四百六十条 時間ヲ定メテ使役ノ賃貸ヲ約セシトキト雖其賃貸ハ双方ノ中一方ノ義務不執行ニ基因スル契約ノ解除ニ因リ若ハ正当ニシテ止ムヲ得サルモノト認知スヘキ双方中一方ノ原由ニ因リ満期前ニ了終スルコトヲ得
主人ノ死去ハ如何ナル場合ニ於テモ其主人ノ身ニ奉侍スル使役人ノ賃貸ヲ法律上当然了終ス
第千四百六十一条 使役ノ賃貸ヲ了終セシムル正当ノ原由主人又ハ棟梁ノ身ニ出テヽ其時期ハ地方ノ慣習上使役賃貸人ニ於テ更ニ賃貸ヲ約スルコト難キ時ニ在ルトキハ裁判所ニテ其事情ニ従ヒ定メタル相当ノ賠償金ヲ賃貸人ニ与フヘシ
第千四百六十二条 如何ナル場合ニ於テモ使役ヲ供スル者ノ死去ハ賃貸契約ヲ了終スルモノニシテ之カ為メ其相続人ヨリ賠償金ヲ出スニ及ハス但将来ノ時期ニ係ル賃銀即給料ヲ前借シタルトキハ此例ニ在ラス
第千四百六十三条 以上ノ規則ハ俳優、音楽師、蹈舞師、手術師ト演劇、観物其他公衆ノ観覧ニ供スル諸般ノ遊戯営業人トノ間ニ結ヒタル賃貸契約ニ適用ス
其他撃剣、武芸、手細工又ハ工業ノ授業者又ハ教師及ヒ獣医ニモ亦此規則ヲ適用ス
第千四百六十四条 医師、代言人、学術、文学、心芸又ハ美術ノ教師ハ其労務ヲ賃貸スルモノニアラスシテ其病者、訴訟人、又ハ生徒ニ与ヘンコトヲ約シ又ハ与ヘ始メタル世話ヲ与ヘ又ハ継続スヘキ民事上ノ義務ヲ有セス又病者、訴訟人、生徒ハ此人々ヨリ世話ヲ受クヘキコトヲ求メ其約諾ヲ得シ後必ス其世話ヲ受クヘキ民事上ノ義務ヲ有セス
然レトモ世話又ハ労務ヲ全ク又ハ幾分カ与ヘシトキハ結約者互相ノ資格ト慣習及ヒ合意トヲ照準シテ報酬ヲ裁判所ニ訟求スルコトヲ得
右人々ニ世話又ハ労務ヲ約セシメテ正当ノ原由ナク之ヲ拒絶スル者ハ其人ニ対シ此拒絶ヨリ金円上ノ損害ヲ致セシトキハ之カ賠償ノ責ニ任ス
又世話又ハ労務ヲ約シテ正当ノ原由ナク之ヲ拒絶スル者モ此拒絶ヨリ生スルコトアルヘキ損害賠償ノ責ニ任ス
第二節 習業契約
第千四百六十五条 工業人、技工又ハ商人ハ習業契約ニ因リ男女ノ習業者ニ自己ノ職業又ハ営業上ノ智識ト実験トヲ教フルコトヲ約スルヲ得又習業者ハ其工業人、技工又ハ商人ノ職業ニ就キ助カスルコトヲ約ス
幼年ノ習業者ハ其父、後見人又ハ其他総テ其身上ニ権力ヲ有スル者ヲ立会ハシメ又ハ自己ニ名代セシムルニ非サレハ習業契約ヲ結フコトヲ得ス
第千四百六十六条 適法ニ立会ヲ受ケタル幼年者又ハ其名代人ノ結ヒタル習業契約ハ其幼年ノ時期ヲ超過スルコトヲ得ス但丁年者トナリタル習業者ヨリ習業契約ヲ更新スルハ此限ニ在ラス
第千四百六十七条 習業契約ハ結約者互相ノ義務ノ性質及ヒ広狭ヲ規定ス
習業師又ハ棟梁ハ習業者ニ衣食住ヲ給ス可シ但反対ノ約定アルトキハ此例ニ在ラス
習業師又ハ棟梁ハ習業者ヲシテ習業ノ目的タル職業又ハ営業ヲ学ハシムル為メ必要ノ時間、世話及ヒ総テノ便利ヲ之ニ与フ可シ
第千四百六十八条 幼年ノ習業者未タ読書算筆ヲ知ラサルトキハ之ヲ学ハシムル為メ棟梁ハ休憩時間ノ外ニ毎日少ナクモ一時間ヲ与フ可シ
第千四百六十九条 又習業者ハ自己ノ時間及ヒ其学フヘキ職業又ハ営業ニ関スル役務ヲ棟梁ニ供給ス可シ
第千四百七十条 習業者疾病又ハ其他難抗力ニ因リ一月以上引続テ其役務ヲ供セサルコト一回又ハ数回ニ及ヒシトキハ休暇セシ時間丈ケ其習業契約ノ満期後ニ服務ヲ継続ス可シ
第千四百七十一条 習業契約ハ左ノ諸件ニ因リ法律上当然了終ス
第一 棟梁又ハ習業者ノ死去
第二 棟梁又ハ習業者陸海軍ノ服役
第三 三月以上ノ禁錮ニ処スヘキ重罪又ハ軽罪ニ就キ棟梁又ハ習業者ノ受刑
第四 合意又ハ法律ニテ定メタル習業時期ノ了終
第千四百七十二条 習業契約ノ解除ハ左ノ件々ニ就キ関係人ノ請求ニ因リ裁判所ニ於テ之ヲ宣告ス
第一 難抗力ニ原由スト雖互相ノ義務ノ不執行
第二 習業者取扱ノ苛酷
第三 習業者平生身持ノ不品行
第四 習業契約ヲ執行スヘキ府県外ニ棟梁ノ転居
本条ニ拠リ契約解除ノ宣告ヲ受ケタル敗訴者ニ過愆アリタルトキハ其解除ノ外相手方ノ為メ損害賠償ノ言渡ヲ受ルコトアルヘシ又前条ニ予定シタル処刑言渡ノ場合ニ於テモ亦同シ
第三節 海陸運送ノ賃貸
第千四百七十三条 鉄道会社、河海ノ郵船会社、運送営業人、船夫及ヒ船舶所有者ニシテ人及ヒ物ノ運送ヲ営業ト為ス者ハ其営業者タル身分ニ因リ商人ト看做シテ左ニ記載スル条例ノ外商法ノ総則及ヒ其営業ノ特別規則ニ従フ
此営業者ハ其運送ノ委託ヲ受ケタル物件ニ就キ第千四百十九条第二項ニ従ヒ特ニ止ムヲ得サル受託者ト看做ス
第千四百七十四条 請負ニテ若ハ積荷ノ分量及ヒ通路ノ里程ニテ定メタル賃金ヲ受ケテ物品ノ運送ヲ担任スル者ハ総テ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ其物品ヲ保存スルノ義務ヲ負担ス
物品ノ滅尽及ヒ損壊ハ営業者ノ担任トス但営業者ニ於テ其滅尽及ヒ損壊ハ物品固有ノ瑕疵若ハ意外ノ変災又ハ難抗力ヨリ生シタルコトヲ証明スルトキハ此例ニ在ラス
第千四百七十五条 右ノ責任ハ運送スヘキ物品ノ積込又ハ船積前ニテモ且其運賃ハ物ヲ量定シ又ハ其他ノ査定ニ付シテ定ムヘキニ未タ之ヲ定メサル前ニテモ其運送物ヲ営業人又ハ其属員ニ交付シタル時ヨリ始マルヘシ
運送契約ハ未必条件ニ従ヒテモ未タ成立セサルトキハ其成立前ニ為シタル物品ノ交付ハ特ニ随意ノ寄託ヲ組成ス
第千四百七十六条 人ノ運送ニ任シタル者ハ其人ノ身上ニ到来シタル変災並ニ損害ノ責ヲ負担ス但其変災及ヒ損害ハ運送担任者ノ過愆又ハ懈怠ニ基因シタルコトヲ証明スルトキニ限ルヘシ
右ノ責任ハ運送人、舟夫、船長又ハ其属員ノ指揮シタル舟、車ニ其人ノ乗込ミタル時ヨリ始マルヘシ
第千四百七十七条 運送営業人ハ自己固有ノ過愆ニ於ケル如ク其傭人又ハ属員ノ過愆又ハ懈怠ノ責ニ任ス
第千四百七十八条 運送物ノ受取人又ハ其属員別段異議ナク又異議ヲ遺サスシテ物品ヲ収受シタルトキハ善良ノ形状ニテ全部ヲ収受シタルモノト看做ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス
然レトモ物品ノ運賃ハ其受取人ニ於テ支払フヘキトキハ受取人運賃ヲ支払ヒ且其支払ニ就キ別段異議ヲ遺サヽリシトキニ非レハ右ノ推定ハ成立セス
又物品収受ノ際異議ヲ述ヘ又ハ異議ヲ遺シタルトキト雖運送営業人又ハ其属員ノ立会ナクシテ荷箱、荷握又ハ荷包ヲ開封シタルトキハ反対ノ証拠ヲ受理セス但右ノ場合ニ於テ物品ニ関シ運送営業人又ハ其属員ノ方ニ欺詐又ハ挪移ノ所為アリシ証拠アルトキハ此例ニ在ラス
第千四百七十九条 運送物損壊ノ性質又ハ原由ニ就キ争論ノ起リタル場合ニ於テ双方ノ者一人又ハ数人ノ鑑定人ノ撰択ニ就キ一致セサルトキハ裁判所ニ於テ猶予ナク鑑定人ヲ命ス可シ
第千四百八十条 契約ノ時又ハ其後結約者ノ一致ヲ以テ運送物ノ見積価額ヲ定メ置カサリシトキハ其価額ハ物件些細ノ損壊又ハ一分ノ滅尽ノ場合ニ於テハ其残存物ニ基キ鑑定人ニ之ヲ定メシメ又其物件全部滅尽ノ場合ニ於テハ挙証ノ通常方法ニ因テ之ヲ定ム可シ然レトモ運送営業人ニ悪意アラサリシトキハ其評価ハ予知スルコトヲ得シ価額ノ限度ヲ超過ス可ラス
第千四百八十一条 運送物ノ到着延引シタル場合ニ於テハ損害ノ賠償ハ第九百五条ニ遵ヒ運送人ノ単一ナル過愆ニ出タルヤ将タ悪意ニ出タルヤ如何ヲ斟酌シ其情状ニ因テ規定ス
総テ運送物到着ノ期限ヲ受取人又ハ其名代人ト約定シタルカ又ハ其物件交付前若ハ交付ト共ニ送リタル運送状又ハ通知状又ハ其他ノ書類ヲ以テ右到着期限ヲ受取人又ハ其名代人ニ知ラシメタルニ到着延引ノ事ニ就キ異議ナク又異議ヲ遺サスシテ運送物ヲ収受シタルトキハ其収受ハ運送営業人ノ過愆ヲ芟除ス
第千四百八十二条 鉄道、船舶又ハ乗合馬車ノ運送営業者職務上ノ義務ハ特別規則ニ定ム
第四節 工作及ヒ工業ノ賃貸
第千四百八十三条 一個人工業又ハ手工ニ係ル特定仕事ノ全部ノ為メ若ハ其種々ノ部分又ハ尺度ノ為メ請負ニテ即予定ノ代価ヲ以テ其仕事ヲ執行スルコトニ任スル場合ニ於テ仕事ノ注文者ヨリ重立タル材料ヲ給スルトキハ其合意ハ工作又ハ工業ノ賃貸ナリ又仕事ヲ請合ヒタル製造人又ハ職工ヨリ材料及ヒ仕事ヲ給スルトキハ其合意ハ仕事ノ執行ニ係ル未必条件ニ従フ売買ナリ
第千四百八十四条 前条ニ区別セシ二箇ノ場合ニ於テ仕事ノ全部又ハ一分ヲ既ニ執行セシ物カ意外ノ変災又ハ難抗力ニ因リ滅尽セシトキハ材料ノ所有者ハ其材料ノ損失ヲ担当シ職工ハ其仕事賃ヲ失フ但他ノ一方ノ者其仕事ヲ検査シ及ヒ之ヲ受取ルコトヲ遅滞セシトキハ此例ニ在ラス
双方ノ中一方其滅尽ヲ醸成セシトキカ又ハ物ノ引渡若ハ検査ヲ遅滞セシトキハ材料及ヒ作力ノ損失ヲ専担ス但右ノ外損害アリシ場合ニ於テハ其賠償ヲ払フヘシ
職工ヨリ材料ヲ給セシ場合ニ於テ物ノ一分滅尽シ又ハ単ニ其物ニ損壊ヲ来シ且其滅尽又ハ損壊カ其物ニ価額ノ半以上ヲ失ハシムルトキハ之ヲ全部ノ滅尽ト同視ス又其損壊価額ノ半以下ナルトキハ第六百五十八条、第九百三十九条第三項及ヒ第九百四十条ノ規則ヲ適用ス
又仕事ノ注文者ヨリ材料ヲ給セシトキハ材料ノ残存部分ニ仕事ヨリ生セシ価額増加ノ程度ニ応シテ仕事賃ヲ払フヘシ
第千四百八十五条 注文者ヨリ材料ヲ給スル場合ニ於テ仕事ノ全部落成シタル上ニ非サレハ引渡ヲ為スヘカラサルトキト雖注文者其既成ノ各分ヲ検査シ及ヒ承認スルコトヲ合意スルヲ得此場合ニ於テ注文者之ヲ検査シ及ヒ承認セシカ又ハ之ヲ検査スルノ遅滞ニ在リシトキハ職工ハ其既成ノ仕事賃ヲ失ハス
仕事中注文者ヨリ職工ニ前金又ハ内金ヲ払フノ事実ハ其既成ノ仕事ヲ承認セシコトヲ包含セス但工作物カ其確定ノ承認前又ハ注文者ノ付遅滞ニ在ル前ニ滅尽セシトキハ注文者既成ノ仕事賃ヲ超過セシ部分ノ為ニ非サレハ其前金又ハ内金ヲ取還スコトヲ得ス
第千四百八十六条 注文者異議ヲ遺サスシテ工作物ヲ承認セシト雖後日其用方ニ不合格ナル不外見ノ瑕疵アルコトヲ発見セシトキハ注文者右承認ヲ取消シテ仕事賃未済ノ分ハ其減下又既済ノ分ハ其一分ノ返還ヲ請求スルノ権利ヲ失ハス
右請求ノ訴権ハ注文者ニ属スル動産又ハ不動産上ニ成行セシ仕事ニ関スルトキハ工作物ノ全部承認ノ後三箇月ニテ消滅ス
又職工ヨリ材料ヲ給セシ製作物ニ関スルトキハ第千二百四十六条ヲ適用ス
第千四百八十七条 又請負ニテ為ス建物、屋蓋、墻壁、均地、陂障其他地上ニ為ス右ニ類似ナル土木工事ノ築造ニ関スルトキハ其事業ヲ指揮シ又ハ執行セシ工師又ハ頭取人ハ其建築又ハ土地ノ瑕疵ヨリ生セシ工作物ノ全部又ハ一分ノ滅尽並ニ損壊ノ責ニ任ス但右工事ヲ他人ノ土地ニ為セシト自己ノ土地ニ為セシト又材料ヲ給セシト否ヲ区別スルコトヲ要セス
右責任ノ期限左ノ如シ
墻壁、均地其他木、石、瓦ヲ用井テ地上ニ成行セシ工作物ニ就テハ其承認後二年
重モニ木材ヲ用井テ築造セシ建物ニ就テハ五年
石造又ハ煉瓦ノ建物及ヒ倉庫ニ就テハ十年
第千四百八十八条 前条ノ責任ニ基因スル要償訴権ハ工作物全部ノ滅尽アリシ場合ニハ其滅尽ノ時ヨリ一年又工作物ノ損壊又ハ其一分ノ滅尽アリシ場合ニハ頭取人其責ニ任スヘキ期限満チタル時ヨリ六箇月ノ時証ニ因リ消滅ス
第千四百八十九条 工師、頭取人、注文者ハ原図劃ト事業ノ変更セシコトヲ口実トシテ約定代価ノ増減ヲ請求スルコトヲ得ス但書面ヲ以テ右ノ増減ヲ更ニ約定セシトキハ此限ニ在ラス
此条例ハ請負中ニ包含セシ工事ト全ク異別ナル築造ノ増加又ハ約定工事中ノ判明ナル一分ヲ廃止セシ場合ニ適用セス此場合ニ於テ双方一致セサルトキハ裁判所ニ於テ原代価ノ増減ヲ定ム
又頭取人ハ原図劃又ハ其変更ハ注文者ノ命セシモノナルコトヲ口実トシテ第九百八十七条ニ定メタル責任ヲ免ルヽコトヲ得ス但書面ヲ以テ右責任ノ免除ヲ得シトキハ此限ニ在ラス
第千四百九十条 頭取人単ニ其仕事ヲ給セシト材料モ共ニ給セシトヲ問ハス注文者又ハ其相続人ハ随意ニ契約ヲ取消スコトヲ得但既成ノ仕事賃並ニ其既ニ準備セシ材料ノ損失ハ勿論尚ホ其契約ヨリ頭取人ノ得ヘキ正当ノ利潤ヲ之ニ賠償スヘシ
第千四百九十一条 注文者カ頭取人躬ラ仕事ニ従事スルコトヲ主眼トシテ契約ヲ為セシトキハ其契約ハ頭取人ノ死去又ハ其仕事ノ執行不能ニ因リ解除ス
右何レノ場合ニ於テモ注文者ハ頭取人又ハ其相続人ニ対シ其企図セシ目的ニ就キ利得シタル既成ノ工事又ハ材料ノ価額ヲ弁済スルノ義務ヲ負担ス
第千四百九十二条 仕事ノ各部分ニ任シタル下請人ハ其頭取人トノ各別ナル関係ニ就キ前条々ノ規則ニ従フ
頭取人カ其下請人ニ仕事賃ノ支払ヲ為サヽルトキハ下請人ハ直ニ注文者ニ対シ自己ノ名義ヲ以テ支払ヲ請求スルコトヲ得但注文者ハ頭取人ニ対シ尚ホ負担スル債務ノ分度ニ非レハ支払フニ及ハス
職工モ亦頭取人其仕事賃ノ支払ヲ為サヽルトキハ注文者ニ対シテ前同一ノ権利ヲ有ス
第二十二章 畜類ノ賃借
第一節 単純ナル畜借
第千四百九十三条 単純ナル畜借トハ牛馬其他ノ家畜ニ係ル大小禽獣ノ賃借ニシテ借主其群畜ヨリ生スル産物ノ一分ヲ得テ其全数又ハ幾分ヲ保存シ及ヒ飼養スルコトニ任スル契約ナリ
右ニ就キ特別ノ合意ナキトキハ借主其畜子及ヒ絨毛ノ半並ニ卵、乳、肥料及ヒ使役ノ全部ニ権利ヲ有ス
第千四百九十四条 借主ハ群畜ノ全部又ハ一分ノ滅尽ノ責ニ任セス但自己ノ直接又ハ間接ナル過愆ニ出シトキハ此例ニ在ラス
又借主ハ意外又ハ難抗力ノ変災ヨリ生セシ滅尽ノ責ニ任セス
群畜ニ就キ為シタル評価ハ賃借後群畜損死ノ原由意外ノ事変ニ係ルコトヲ借主ヨリ証明セサル場合ニ於テ其責任ヲ定ムル基本トナルヘシ
右ノ場合ニ於テ貸主ハ全部滅尽ノ後群畜ノ価増加シタルコトヲ申立ルヲ得ス
第千四百九十五条 借主ハ借蓄ノ子ヲ以テ斃死又ハ用ヲ成サヽル畜類ヲ補充セシ後其余分ニ非サレハ分配ヲ請求スルコトヲ得ス
又貸主ニ予告シタル後ニ非サレハ絨毛ヲ剪取スルコトヲ得ス
第千四百九十六条 双方畜借ニ就キ期限ヲ定メサリシトキハ其畜借ハ一箇年間継続ス
又右ニ就キ最モ長延ナル期限ヲ定メシトキハ借主ハ一箇年ノ後其権利ヲ放棄スルコトヲ得但此場合ニ於テハ予メ貸主ニ告知シ之ニ新借主ヲ覓ムルノ猶予ヲ与フヘシ
又畜借ノ継続ニ就キ期限ヲ定メタルト否ヲ問ハス借主其賃借ノ適正ニ了終スヘキ時期後ニ至リ尚ホ借畜ヲ占有スルトキハ更ニ一箇年ノ期限ニ就キ暗黙ノ更新アリトス
第千四百九十七条 借主畜借人ナルト同時ニ他ノ所有者ニ属セシ土地ノ小作人ナルトキハ土地所有者ハ小作料弁済ノ為メ畜類ヲ差押フルコトヲ得但其畜類小作人ニ属セサルコトヲ知ラサルトキニ限ルヘシ
第二節 通常小作人又ハ分菓小作人ノ畜借
第千四百九十八条 通常小作ト分菓小作トヲ問ハス総テ土地ノ貸主耕作ノ附属トシテ其小作人ニ牛馬其他ノ畜類ヲ交付セシトキハ畜類ハ借地ノ従タルモノニシテ其期限ハ首タル賃借ノ期限ニ同シ
第千四百九十九条 通常小作人ハ其借畜ヨリ生スル一切ノ産物ヲ得ヘシト雖毎歳其子ヲ以テ斃死又ハ用ヲ成サヽル畜類ヲ補充ス可シ
又明約ヲ以テ意外ノ滅尽ヲ負担スルコトヲ得
第千五百条 分菓小作人ハ乳汁ノ全部ニ権利ヲ有スト雖絨毛ニ就テハ只其借地ニ於テ得ヘキ果実ト同一ノ部分ニ非サレハ権利ヲ有セス但総テ反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
又借畜ニ生スル意外ノ滅尽ヲ負担スルコトヲ得ス
第千五百一条 如何ナル場合ニ於テモ小作人其小作地外ノ耕作ニ借畜ヨリ生スル肥料ヲ使用シ且借畜ヲ使役スルコトヲ得ス
第三節 会社ノ性質アル畜借
第千五百二条 畜類ノ所有者数人ニテ均等又ハ不均等ナル供資ヲ為シ畜類ニ係ル共有元本ヲ組成シ其内一人ニ之カ保存、飼養及ヒ注意ヲ委ヌルコトヲ得畜子及ヒ絨毛ハ供資ノ割合ニ応シテ各所有者ノ間ニ分配スル
意外又ハ難抗力ニ出テシ滅尽ハ右同一ノ割合ヲ以テ各所有者之ヲ分担ス
畜類ノ保存ニ任スル者ハ之カ乳汁、肥料及ヒ使役ヲ利得ス
右ノ外単純ナル畜借ノ規則ハ会社ノ性質アル畜借ニ適用ス