旧民法・法例(明治23年)

民法編纂局上申案

参考原資料

第二編 財産 前置条例財産並ニ物ノ区別 第五百一条 財産ハ各人若ハ公私ノ無形ナル人ノ資産ヲ組成スル権利ナリ 此権利ニ二種アリ物上ノ権及ヒ対人ノ権即債権是ナリ 第五百二条 物権ハ直ニ之ヲ物ノ上ニ行ヒ且諸人ニ対抗シ得ヘキモノニシテ首タルアリ又従タルアリ 首タル物権ハ左ノ如シ 第一 完全ノ所有権又ハ支分ノ所有権 第二 用収権、使用権及ヒ住居権 第三 賃借権、永借権及ヒ地上権 第四 占有権 右権利ハ本編ノ第一部ニ記載ス 所有権ノ従タル地役モ亦本編ニ記載ス 人権ノ担保ヲ作ス従タル物権ハ左ノ如シ 第一 動産質 第二 不動産質 第三 留置権 第四 先取特権 第五 抵当 右権利ハ第四編ニ記載ス 第五百三条 人権即債権ハ定マリタル人ニ対シ法律ノ認ムル原由ニ因テ其負担スル給作ノ義務又ハ封作ノ義務ヲ尽サシムル為メニ行フモノニシテ亦首タルアリ又従タルアリ 首タル人権ハ本編ノ第二部ニ記載ス 従タル人権ニシテ他ノ債権ヲ担保スル保証及ヒ連帯ノ如キハ第四編ニ規定ス 第五百四条 著述者其著書ノ発行、技術者其技術物ノ製出又ハ発明者其発明ノ適用ニ就テノ権利ハ特別ノ法律ニ因リ規定ス 第五百五条 権利ハ物権人権ヲ問ハス其目的タル物ノ種々ノ区別ニ従ヒ改様ス、其区別ハ物ノ性質若ハ人ノ意思若ハ法律ノ条例ヨリ生スルモノニシテ以下ニ掲クル如シ 第五百六条 物ニ有体ナルアリ又無体ナルアリ 有体ナル物トハ人ノ感官ニ触ルヽモノヲ云フ例ハ地所、建物、活動物、用具ノ如シ 無体ナル者トハ智能ノミニテ理会スルモノヲ云フ即左ノ如シ 第一 物権又ハ人権 第二 第五百四条ニ記載シタル著述、技術又ハ製作ノ所有権 第三 発開シタル相続、解散シタル会社又ハ清算中ニ於ケル合資ニ係ル財産及ヒ債務ノ包括 第五百七条 物ハ其性質ニ因リ若ハ所有者ノ用方ニ因リ若ハ法律ノ規定ニ因リ其遷移スルヲ得ルト否ラサルトニ従ヒ動産タリ又不動産タリ 第五百八条 性質ニ因ル不動産ハ左ノ如シ 第一 地所、田畠、平路、堆地及ヒ其他土地ノ部分 第二 墻、籬、柵 第三 貯水所、湖池、溝渠、漕河、泉源及ヒ種々ノ水流 第四 水ヲ湛ヘ又ハ水力ヲ殺ク為メニ設ケタル陂障、埭堰、堤掃及ヒ其他ノ工作物 第五 土地ニ附著シタル浴場並ニ水力又ハ風力ヲ用井ル碾麿機及ヒ用方ノ何タルヲ問ハス土地ニ定止シタル水力又ハ蒸気ノ機器 第六 森林並ニ大小ノ樹木其他土地ニ接著シタル種々ノ植物但第五百十三条ニ記載シタル培養草木ハ此例ニ在ラス 第七 果実及ヒ収穫物ノ成熟シタリト雖未タ土地ヨリ離レサルモノ 第八 性質ノ如何ヲ問ハス砿物及ヒ砿石ノ未タ土地ヨリ離レサルモノ又肥料土及ヒ泥炭モ亦同シ 第九 土地ニ定止シ又ハ支持シタル建築物又ハ建物但其建築物及ヒ建物ハ其所用又ハ供用ノ如何ナルト定期内ニ解拆ス可キモノナルトヲ問ハス其第五百十三条ニ記載シタルモノハ此例ニ在ラス 第十 土地又ハ建物ニ附著シタル管ニシテ自然水又ハ家用水ノ流入引致又ハ流出ノ為メ又ハ瓦斯、温気ノ引致ノ為メニスルモノ 第十一 土地又ハ建物ニ附著シタル電気器及ヒ其附属物 第十二 前数項ノ建物ノ外部ノ闔扉 此他総テ物件ノ性質ニ因リ転移スヘキモノト雖居宅ニ必要ナル附属物ヲ組成スルモノ 第五百九条 動産物ノ所有者カ其土地又ハ建物ノ利用、便益又ハ装飾ノ為メニ永遠若ハ不定ノ時間其土地又ハ建物ニ供ヘタル動産物ハ性質ノ何タルヲ問ハス用方ニ因ル不動産タリ 土地又ハ建物ニ就テ有期ノ使用又ハ収益ノ権利ヲ有スル者カ右ニ同シキ目的ヲ以テ其土地又ハ建物ニ供ヘタル動産物ニ就テモ亦同シ 第五百十条 前条ニ従ヒ用方ニ因ル不動産ト看做スモノ左ノ如シ但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第一 土地ノ耕作又ハ利用ノ為メニ供ヘタル駄負ノ獣又ハ牽挽ノ獣 第二 肥料ノ為メニ土地ニ畜ヒ置キタル獣類 第三 耕作ノ道具及ヒ用具 第四 土地ノ耕作ノ為メニ供ヘタル種子、藁及ヒ肥料但其土地ヨリ生シタルモノニ非ルトキモ亦同シ 第五 養蚕場ノ利用ノ為メニ供ヘタル蚕種 第六 葡萄、果樹及ヒ其他ノ樹木ヲ支持スル為メニ供ヘタル棚架、椿柱及ヒ竹竿 第七 土地ノ農業ノ産物ヲ変製シ又ハ其価直ヲ有セシムル為メニ供ヘタル器具及ヒ用具例ハ搾器、釜、蒸溜器、桶及ヒ樽ノ如シ 第八 工業場ノ利用ニ供ヘタル機器、器具及ヒ用具 第九 土地ノ常用ニ供ヘタル浴船、舟梁又ハ小舟但其水流ノ公有ニ係リ又ハ他ノ所有者ニ属スルトキモ亦同シ 第十 園庭ニ装置シタル石灯篭、水鉢、岩石又ハ建物ニ附著セシメタルモノニシテ毀損スルニ非レハ取離スヲ得サル扁額、玻鏡、彫刻物及ヒ種々ノ装飾物 第十一 畳、建具及ヒ其他ノ動産物ニシテ居宅又ハ其他ノ建物ノ使用ヲ容易ナラシムル為メ又ハ其装飾ヲ完充スル為メニ通常之ニ供ヘ附タルモノ 第十二 修復中ノ建築物ヨリ取離シテ再ヒ之ニ用井ル為メニ供ヘタル材料 第十三 池中ノ魚、窩中ノ蜜蜂、鳩舎中ノ鳩 第五百十一条 法律ノ規定ニ因ル不動産ハ左ノ如シ 第一 上ニ列記シタル有体ノ不動産ニ係ル物権 第二 不動産ニ係ル物権ヲ得ントシ又ハ取還サントスル人権 第三 建築者ノ材料ヲ以テスルト債権者ノ材料ヲ以テスルトヲ問ハス建物ノ築造ヲ目的トスル債権 第四 国ニ対スル年金権及ヒ其他動産ノ債権ニシテ法律ニ因テ不動産ト為シ又ハ法律ノ条例ニ拠リ各人カ不動産ト為シタルモノ 第五百十二条 活動物ノ如キ自力ニ因リ又ハ活動ナキ物ノ如キ他力ニ因テ遷移スルヲ得ヘキ物ハ性質ニ因ル動産ナリ但第五百八条及ヒ第五百十条ニ記載シタルモノハ此例ニ在ラス 第五百十三条 一時ノ目的ヲ以テ仮ニ土地ニ定止セシメタル物件ハ所有者ノ用方ニ因ル動産ナリ即左ノ如シ 第一 建築ノ足場及ヒ橕柱 第二 建築ノ間職工及ヒ材料ヲ蓋フカ為メニ供ヘタル小屋 第三 樹芸者及ヒ園工カ売却スル為メニ土地ニ培養シ又ハ保存シタル草木 第五百十四条 法律ノ規定ニ因ル動産ハ左ノ如シ 第一 前ニ指定シタル動産ニ係ル物権 第二 金円、飲食物、商貨物其他有体ノ動産ヲ得ントシ又ハ取還サントスル債権但不動産ヲ以テ債権ノ担保トシタルトキモ亦同シ 第三 物ノ給付ヲ、所為ノ成就ヲ又ハ不動産ノ権利タリトモ権利ノ執行ノ封作ヲ他人ニ要求スル債権 第四 無形人タル民事又ハ商事ノ会社ノ解散ニ至ラサル間社員カ其会社ニ有スル権利但会社ニ不動産ノ属スルトキモ亦同シ 第五 第五百四条ニ指名シタル著述、技術及ヒ製作ノ所有権 第五百十五条 発開シタル相続、解散シタル会社又ハ清算中ニ於ケル合資ノ一分ニ就テ有スル権利ノ動産タリ又ハ不動産タル性質ハ分配ノ時ニ其関係人カ各受クル財産ノ性質ニ因テ定マルモノナリ 結約者ノ一方ノ撰択ニ任スル動産又ハ不動産ヲ目的トスル択一ノ債権ノ性質モ亦弁済ニ就テ撰択シタル物ノ性質ニ因テ定マルモノナリ 第五百十六条 物ハ他ニ附属セスシテ完全ナル功用ヲ為スト否ラサルトニ従ヒ首タリ又従タリ 例ハ用方ニ因ル不動産ハ性質ニ因ル不動産ノ従タリ地役ハ首領地ノ従タリ債権ノ担保ハ其債権ノ従タリ 首タル物ノ譲渡ハ其従タル物ノ譲渡ヲ帯有ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第五百十七条 物ハ左ノ如ク観定スルヲ得 或ハ特定物即確定物例ハ殊別シ即定リタル一箇ノ家、一箇ノ田、一箇ノ獣ノ如シ 或ハ数、量、尺度ヲ以テ定ムル量定物例ハ金幾円、米幾石、酒幾樽ノ如シ 或ハ増減シ得ヘキ多少類似ナル物ノ聚集例ハ獣群、書庫ノ書籍、店舗ノ商貨物ノ如シ 或ハ資産ノ全部又ハ一分ヲ組成スル財産ノ包括、例ハ相続ノ総テノ動産又ハ総テノ不動産、相続ノ全部又ハ一彬ノ如シ 第五百十八条 物ハ其性質一回ノ使用ニ因テ直ニ消費スルヲ得ヘキモノアリ又否ラサルモノアリ 第五百十九条 物ハ双方ノ意思ニ因リ又ハ法律ノ条例ニ因リ等シキ物ヲ以テ代フルヲ得ルト否ラサルトニ従ヒ代補スルヲ得ヘキモノアリ又代補スルヲ得サルモノアリ 量定物及ヒ使用ニ因テ直ニ消費スル物ハ概シテ双方ノ意思ニ因ル代補物ト看做ス 第五百二十条 物ハ物体上又ハ智能上分割スルヲ得ルト否ラサルトニ従ヒ可分ノモノアリ又不可分ノモノアリ 地役ノ過半及ヒ事ヲ為シ又ハ為サヽル義務ノ若干ハ性質ニ因ル不可分ノモノタリ 抵当其他債権ノ物上担保ハ法律ノ条例ニ因ル不可分ノモノタリ 物ノ一分ノ給付ニテハ双方其合意ニ於テ見込ム所ノ便益ヲ得ル能ハサルトキハ其物ハ双方ノ意思ニ因ル不可分ノモノタリ 第五百二十一条 物ニハ所有ニ係ルモノアリ又所有ニ係ラサルモノアリ 所有ニ係ル物トハ私ノ資産若ハ公ノ資産ノ部分ヲ為スモノヲ云フ 所有ニ係ラサル物ハ無主ノ物タリ又ハ公共ノモノタリ 第五百二十二条 無主ノ物トハ何人ニモ属セスト雖所有権ノ目的ト為ルヲ得ルモノヲ云フ例ハ委棄シタル財産、無嗣ノ相続、山野ノ鳥獣、河海ノ魚介ノ如シ 第五百二十三条 公共ノ物トハ何人ト雖其所有権ヲ獲ルコトヲ得スシテ其使用ノ諸人ニ属スルモノヲ云フ例ハ流水大洋ノ如シ 第五百二十四条 所有ニ係ル物ニシテ各人ニ属セサルモノハ公有又ハ公ケノ無形人ノ私有ノ部分ヲ為スモノナリ 此物ノ譲渡及ヒ管理ハ行政法ニ規定ス 第五百二十五条 国ノ使用又ハ用益ニ供ヘタル物ハ公有ノ部分ヲ為ス例ハ左ノ如シ 第一 国領ノ海及ヒ海浜但海浜ハ最高キ潮汐ノ到ル処ヲ以テ限ト為ス 第二 道路、舟楫ノ通スヘキ川、漕河及ヒ鉄道 第三 城塞、塁壁、其他軍備地及ヒ海岸防守ノ工作物 第四 海陸軍ノ武備所及ヒ其中ニ在ル各種ノ兵器、器械、運輸具及ヒ軍用品 第五 国ノ海軍ヲ搆成スル軍艦、軍用ノ運送船、其他ノ船舶、並ニ其附属物 第六 皇宮、中央並ニ地方ノ官庁 第五百二十六条 公ケノ無形人カ各人ト同一ナル名義ニテ有スル物ニシテ金円ニ見積ルヲ得ヘキ収入ヲ生スルモノハ此無形人ノ私有ノ部分ヲ為ス例ハ国有ノ森林、牧場ノ如シ 人民ノ所有ニ属セサル不動産ハ当然国ニ属ス、相続人ナクシテ死セシ者ノ相続モ亦同シ 遺失物及ヒ漂流物ノ所有権ハ特別法ニ循フ 第五百二十七条 物ハ私ノ所有権又ハ私ノ債権ノ目的ト為スヲ得ルト否ラサルトニ従ヒ又所有者カ其物ヲ合意ノ目的ト為スヲ得ルト否ラサルトニ従ヒ通易スルヲ得ルモノアリ又通易スルヲ得サルモノアリ 発開セサル相続、爵位、勲章、官職、文武ノ恩給ノ如キ公ケノ秩序ノ為メ法律ニテ通易ヲ禁シタル物及ヒ公有ノ財産ハ通易スルヲ得サルモノタリ 第五百二十八条 物ニ譲渡スヲ得ルモノアリ又譲渡スヲ得サルモノアリ 所有権ヨリ支分シタル後ノ使用権、住居権、又政府ノ与ヘタル開砿ノ特許其他ノ特権又ハ専売権ハ概シテ通易スルヲ得ルモノナリト雖譲渡スヲ得サルモノタリ 右ノ外法律ニテ譲渡ヲ禁セサル物又ハ人意ヲ以テ之ヲ禁スルコトヲ法律上允許スル場合ニ於テ其禁ヲ設ケサル物ハ譲渡スヲ得ルモノタリ 第五百二十九条 物ハ法律ニ定メタル条件ヲ具備スル占有ニ因リ獲得スルヲ得ルト否ラサルトニ従ヒ時証ヲ申立ルコトヲ得ルモノアリ又之ヲ申立ルコトヲ得サルモノアリ 第五百三十条 物ハ債権者カ其代価ヲ以テ弁済ヲ得ル為メ強売ヲ請求スルヲ得ルト否サルトニ従ヒ差押フルヲ得ルモノ即得押物アリ又差押フルヲ得サルモノ即難押物アリ 通易スルヲ得サル物、譲渡スヲ得サル物其外法律又ハ人ノ処置ニテ差押ヲ禁シタル物ハ難押物タリ例ハ国ニ対スル年金権及ヒ恩恵ヲ以テ設ケタル畢生ノ年金権又ハ養料ノ如シ 第一部 物権 第一章 所有権 第五百三十一条 所有権トハ最モ広ク物ヲ使用シ収益シ及ヒ処置スル自然ノ権利ヲ云フ但シ法律又ハ合意ヲ以テ定メタル制限及ヒ条件ニ循フヘシ 所有者其所有物ニ合体シ又ハ附添シタルモノヲ獲得シ又ハ其全キ化成ヨリ生シタルモノヲ獲得スルノ規則及ヒ条件ハ第三編ニ之ヲ定ム 第五百三十二条 法律ニ循ヒ認定シ及ヒ宣告シタル公益ノ為メニ非レハ不動産ノ所有者ニ強ヒテ之ヲ譲渡サシムルコトヲ得ス但其不動産ヲ譲渡サシムルトキハ取上ル前ニ所有権引上法ニ循ヒ定メタル償金ヲ払フ可シ 公益ノ為メ動産ノ所有権引上ハ各場合ニ於テ特ニ設クル法律ニ拠ラサレハ之ヲ行フコトヲ得ス 国又ハ官庁ニ属シ又ハ属スヘキ先買権及ヒ交戦、攻囲又ハ世上凶災ノ時ニ於テ行フ飲食物ノ要求ハ前項ノ例ニ在ラス 第五百三十三条 公益事業ノ執行ヲ容易ナラシムル為メ所有者ニ其所有物ノ一時占領ヲ強ヒテ承允セシムルコトヲ得但其償金ヲ払フ可シ 第五百三十四条 物料ノ採掘、道路ノ劃線、樹木ノ伐採、水及ヒ其他ノモノヽ収取ニ係リ全国又ハ地方ノ公益ノ為メ設ケタル地役ハ行政法ニ循フ 第五百三十五条 土地ノ所有者ハ便宜ニ従ヒ其地上ニ於テ一切ノ建築、植付、耕作、池塘ヲ設為シ又ハ之ヲ廃毀スルコトヲ得 又其地下ニ於テ一切ノ開鑿、試掘及ヒ物料ノ採掘ヲ為スコトヲ得 但右何レノ場合ニ於テモ一般ノ利益ノ為メ定メタル行政法ノ規則及ヒ制限ニ循フヘシ 其他相隣地ノ利益ノ為メ設ケタル所有権執行ノ制限及ヒ条件ハ地役ノ章ニ規定ス 第五百三十六条 所有者ハ其地下ニ有ルヘシト思料スル砿物捜索ノ為メ試掘ヲ為スコトヲ得但開坑ハ砿物ニ関スル特定法ニ循ヒ政府ノ特許ヲ得シ後ニ非サレハ為スコトヲ得ス 第五百三十七条 所有者其物ノ占有ヲ妨碍又ハ奪取セラレタルトキハ総テ其物ノ所持人ニ対シ占有ノ訴権又ハ所有取戻ノ訴権ヲ行フコトヲ得但動産及ヒ不動産ノ時証ニ就キ第五編ニ記載シタルモノハ此例ニ在ラス 又所有者ハ自己ノ土地ニ地役ノ権利ヲ行フ者ニ対シ其権利存セスト主張シテ拒却訴権ヲ行フコトヲ得 右何レノ場合ニ於テモ裁判管轄及ヒ訴訟手続ハ訴訟法ニ規定ス 第五百三十八条 数人一物ヲ共有シ部彬ノ均不均ニ拘ハラス其未分中ハ各共有者其物ノ全部ヲ使用スルコトヲ得但其用方ニ従ヒテ他ノ共有者ノ使用ヲ妨ク可カラス 其物ノ果実及ヒ産物ハ各共有者其権利ノ分ニ応シテ定期ニ分配ス 各共有者ハ其物ノ保存ニ必要ナル管理ノ所為ヲ行フコトヲ得 共有物ニ関スル負担ハ各自其部分ニ応シテ分任ス可シ 但本条ノ規則ハ仮リ分配其他ノ方法ヲ以テ使用、収益又ハ管理ノコトヲ規定スル合意ヲ妨ケス 第五百三十九条 処置権ニ就テハ各共有者ハ他ノ共有者ノ承諾ナクシテ其物ノ形状ヲ変更スルコトヲ得ス又自己ノ未分ノ部彬ヲ越テ他人ノ為メ其物ニ物権ヲ設クルコトヲ得ス 共有者中ノ一人其未分ノ部彬ヲ譲渡ストキハ譲受人ハ他ノ共有者ニ対シ譲渡人ノ地位ヲ有スヘシ但第五百十五条ニ掲ケタル分配ノ効力ヲ妨ケス 第五百四十条 各共有者ハ常ニ共有物ノ分配ヲ請求スルコトヲ得但之ニ反スル合意アルヲ問ハス 然レトモ共有者ハ定期ノ時間未分ニ置クコトヲ約スルヲ得但五个年ヲ超過スルコトヲ得ス 此期限ハ何レノ時ヲ問ハス常ニ更新スルコトヲ得但更新モ亦五个年ヲ超過スルヲ得ス 此条例ハ数箇ノ所有地ニ共同ノ通庭、通路、井戸、籬壁、溝渠ノ共用ニ係ル未分ノ共有権ニ適用セス 第五百四十一条 相続人ノ間、夫婦ノ間又ハ社員ノ間ノ共有権ニ各別ナル規則ハ第三編相続ノ章夫婦財産契約ノ章及ヒ会社ノ章ニ定ム 第五百四十二条 数人ニテ一家屋ヲ分隔シ各其一部分ヲ所有スルトキハ互相ノ権利及ヒ義務ハ左ノ如ク規定ス 各所有者ハ其家屋ノ自己ニ属スル部分ノ価直ニ応シテ共ニ国税、地方税ヲ負担ス可シ門戸、繞囲、基礎、重要ナル柱梁、大壁、屋脊、井戸、雨水溜、水管等ノ如キ共有者ノ皆同時ニ用井ル家屋ノ部分並ニ其附属物ノ部分ノ保存修復モ亦同シ 各所有者ハ自己ニ属スル部分ノ床板及ヒ中仕切ニ関スル費用ヲ専担ス可シ又数層ノ楼アルトキハ各其居所ニ至ル梯子ノ部分ノ保存ヲ分担ス可シ 第五百四十三条 所有権ハ双方ノ間ニ於ケルモ第三ノ人ニ対スルモ本篇第二部並ニ第三編ニ記シタル原由及ヒ方法ニ因リ獲得シ保存シ及ヒ転移ス 第五百四十四条 所有権ノ消滅スルコト左ノ如シ 第一 随意又ハ強令ノ譲渡 第二 自己ニ属スル物ト他人ニ属スル物トノ附添又ハ合体但不当ノ利ヲ得タル者ハ其賠償ヲ為ス可シ 第三 刑法ニ拠テ宣告シタル没収 第四 獲得ノ解除、取消又ハ廃棄 第五 処置スルノ能力アル所有者ノ随意ナル物件ノ放棄 第六 物ヲ通易スルヲ得サルモノト為シタル官ノ処分 第七 物ノ全部ノ毀滅但他人其責ニ任スヘキトキハ所有者賠償ヲ求ムルコトヲ得 第五百四十五条 動産及ヒ不動産ノ所有権ノ獲得及ヒ消滅ニ関スル時証ノ性質並ニ効力ハ第五編ノ末章ニ規定ス 第二章 用収権、使用権及住居権 第五百四十六条 用収権ハ所有権ノ他人ニ属スル物ニ就キ其用方ニ従ヒ本性、元質ヲ変セス有期ニテ善良ナル管理者ノ如ク使用シ及ヒ収益スルノ権利ナリ 使用権及住居権ノ特別規則ハ本章ノ附録ニ記載ス 第一節 用収権ノ設定 第五百四十七条 用収権ハ法律、人意又ハ時証ニ因テ設定ス 法律上ノ用収権ハ父権ノ章及ヒ相続ノ章ニ規定ス 人意ヲ以テ用収権ヲ設定スルノ方法ハ所有権ヲ獲得シ及ヒ転移スルノ方法ニ同シ 夫婦ノ合資又ハ婦ノ自有財産ニ係ル夫ノ用収権ハ第三編夫婦財産契約ノ章ニ規定ス 用収権ノ時証ハ所有権ノ時証ト同一ノ期限及ヒ条件ニ従フ 第五百四十八条 用収権ハ動産ト不動産ト又有体ト無体トヲ問ハス一切ノ通易物ニ設定スルコトヲ得又用収権ハ他ノ用収権又ハ終身ノ年金権ニ設定スルコトヲ得 又用収権ハ包括名義ヲ以テ資産上ニ設定スルコトヲ得即一切ノ動産又ハ不動産上若ハ資産ヲ組成スル一切ノ財産上若ハ動産又ハ不動産若ハ資産全部ノ未分ノ部分上ニ設定スルカ如シ 第五百四十九条 用収権ハ単純ニ又ハ始時若ハ終時ヲ定メテ設定スルコトヲ得 又未必条件ノ成就ニ従テ用収権ノ始時又ハ終時ヲ定ムルコトヲ得 用収権ハ単純ナルト有期ナルト又未必条件ニ従フモノナルトヲ問ハス用収者ノ生涯ヲ超過スルコトヲ得ス 第五百五十条 用収権ハ一人又ハ数人ノ為メ設定スルコトヲ得但数人ノ為メニ設定シタルトキハ数人同時ニ若ハ順次ニ其権利ヲ行フヘシ 如何ナル場合ニ於テモ用収権ハ其権利発開ノ時既ニ出生シ又ハ胎内ニ在ル者ノ為メニ非レハ設定スルコトヲ得ス 第二節 用収者ノ権利 第五百五十一条 用収者ハ其権利ノ発開シ及ヒ其施行期限ノ到来セシ上次節ニ定メタル財産目録並ニ保証ニ関スル義務ヲ履行シテ其用収権ニ属シタル物ノ占有ヲ求ムルコトヲ得 用収者ハ其物ノ修復又ハ整理ヲ求ムルコトヲ得ス現在ノ形状ニテ之ヲ受取ルヘシ但権利発開ノ後設定者若ハ其相続人ノ過愆ニ因リ又ハ其発開前ト雖悪意ニテ其物ヲ毀損シタルトキハ此例ニ在ラス 第五百五十二条 用収者ハ収益スルノ権利ヲ得シ後ハ自ヲ収益ヲ遅延スト雖虚有者ノ収取シタル果実ヲ得ルノ権利ヲ有ス但其果実ノ収穫及ヒ保存ノ費用ハ虚有者ニ償還スヘシ 用収者収益スルノ権利ヲ得シ時枝根ニ由テ土地ニ附著スル果実ニ就テハ耕耘、種子、培養ノ費用ヲ償還セスシテ成熟ノ時之ヲ収取スルノ権利ヲ有ス 第五百五十三条 用収者ハ権利ノ継続間其物ヨリ生スル天然上及ヒ民法上一切ノ果実ニ就キ所有者ニ等シキ権利ヲ有ス 第五百五十四条 天然上ノ果実ハ自然ニ生シタルト耕作ニ因リ得タルトヲ問ハス総テ土地ヲ離レシ時直ニ用収者ニ属ス但其土地ヲ離レタルハ用収者ノ所為又ハ其名代ノ所為ニ由ルト偶然ノ事件若ハ盗奪ノ所為ニ由ルトヲ問ハス 然レトモ果実成熟前ニ土地ヲ離レ且用収権モ通常ノ収穫期前ニ了終セシトキハ其果実ノ利益ハ虚有者ニ属スヘシ 第五百五十五条 獣畜ノ子ハ其産出ノ時ヨリ用収者ニ属ス剪毛ノ時節ニ剪取シタル絨毛モ亦同シ 乳汁及ヒ肥料モ亦用収者ニ属ス 第五百五十六条 民法上ノ果実ハ其給付又ハ要求ノ時期ニ拘ハラス用収権発開ノ時ヨリ其了終ノ時マテ日割ヲ以テ用収者ニ属ス 此規則ハ用収権ニ属シタル物ニ就キ第三ノ人ヨリ払フヘキ金円ノ納額ニ適用ス即土地家屋ノ借賃、貸金又ハ預金ノ利子、会社ノ株券又ハ持分ニ宛タル配当金、年金権ノ収額及ヒ第三ノ人ノ開掘ニ係ル鉱坑及ヒ石坑ノ借料ニ適用スルカ如シ 第五百五十七条 金穀其他飲食物ノ如キ消費セサレハ使用シ及ヒ収益スルコト能ハサル動産ノ用収権ニ係ルトキハ用収者ハ其物ヲ消費シ又ハ譲渡スコトヲ得但用収権了終ノ時同量同質ノ物ヲ返還スヘシ 若シ用収権設定ノ際其物ノ価ヲ定メ置キタルトキハ其価額ヲ償還スヘシ 此規則ハ商業ノ資本ヲ組成スル商貨物及ヒ前置条例第五百十九条ニ規定シタル代補物ニ適用ス 第五百五十八条 住居用及ヒ其他動産ノ使用ニ因リ早晩毀損スヘキ用具、布帛及ヒ衣服ノ如キ物件ニ就テハ用収者其用方ニ従ヒ之ヲ使用シ用収権了終ノ時現状ニテ之ヲ還付スルコトヲ得但用収者ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ重大ナル毀損アリシトキハ此例ニ在ラス 又物件ノ性質賃貸スルコトヲ得ヘキトキハ用収者自己ノ責任ヲ以テ之ヲ賃貸スルコトヲ得 第五百五十九条 終身年金権ノ用収者ハ年金者ト等シク其収額ヲ得ルノ権利ヲ有ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 以前設定シタル用収権ニ就キ用収権ヲ有スル者モ亦元ノ用収者ニ属スル一切ノ権利ヲ行フ 第五百六十条 牧場、牛羊ノ群畜、養蚕場、家畜其他特ニ種類及ヒ員数ヲ以テ定メタル獣類ノ用収者ハ保存ヲ要セサル獣類ノ部分ヲ毎年処置スルコトヲ得但其獣類ノ子ヲ以テ群畜ノ全数ヲ保持ス可シ 第五百六十一条 用収者ハ小樹林及ヒ竹林ニ就テハ勿論又大樹林ニ就テモ前来所有者ノ循ヒタル慣習及ヒ栽伐方ニ依リ定期ニ伐採シテ収益ス 栽伐方ノ未タ正シク定マラサルトキハ用収者ハ公ケノ無形人又ハ重立タル所有者ニ属スル近傍森林ノ慣習ニ循フ但伐採スル一个月前ニ虚有者ニ報告スヘシ 第五百六十二条 前来所有者ノ定期伐採ヲ為サスシテ保存シタル樹木ニ就テハ用収者ハ只其樹木ノ定期産物ヲ得ルノ権利ヲ有ス 然レトモ用収権ニ属シタル建物ノ大修復ヲ要スルトキハ用収者ハ事変ニ因テ折倒シ又ハ枯死シタル樹木ヲ用井ルコトヲ得又之カ為メ生木ヲ要スルトキハ虚有者立会ノ上其必要ナルコトヲ証明シテ採伐スルコトヲ得 第五百六十三条 森林及ヒ竹林ノ用収者ハ其樹木ヲ支持スルニ必要ナル棚架、椿柱又ハ架柱ニ用井ル竹木ヲ何時ニテモ其森林及ヒ竹林ヨリ取ルコトヲ得 第五百六十四条 用収者ハ樹木ヲ植続キ又ハ植足ス為メ其土地ノ培養場ヨリ苗木ヲ取ルコトヲ得 又用収者ハ其培養場ノ樹木及ヒ苗木ヲ定期ニ売ルコトヲ得但前来ノ用方売物ニ供シタルトキナルカ又ハ其植生土地ノ需用ニ余ルトキニ限ルヘシ 然レトモ右何レノ場合ニ於テモ用収者ハ芽苗又ハ種子ヲ以テ培養場ヲ存養ス可シ 第五百六十五条 用収権ニ属スル土地ニ前来ノ開掘ニ係ル石塊、大理石若ハ石灰、灰沙、砂利其他砿物ノ砿坑アリテ其開掘特別法ニ循フコトヲ要セサルトキハ用収者ノ前来所有者ノ如ク自己ノ利益ノ為メ引続キ其開掘ヲ為スコトヲ得 其未タ開掘セサル砿坑ニ就テハ用収者ハ只其用収権ニ属スル財産中ノ建物、墻壁其他ノ部分ノ保存及ヒ修復ニ必要ナル材料ヲ取ルコトヲ得但第五百六十二条ニ循ヒ予メ其必要ナルコトヲ証明シ且其土地ヲ損スルコトナカル可シ 又用収者ハ前ノ区別ニ循ヒ其土地ノ泥炭及ヒ肥料土ヲ使用スルコトヲ得 第五百六十六条 用収権ノ内ニ政府ノ許可ヲ得テ開掘シタル砿坑ヲ包含スルトキハ用収者ハ開掘ノ方法及ヒ条件ニ就キ坑法ニ循ヒ収益スルコトヲ得 土地ノ用収権ヲ設定シタルトキ其土地ニ所有者ノ許可ヲ得タル砿坑アルモ其設定証書ニ明記アルニ非サレハ砿坑ノ用収権ヲ付与セス 第五百六十七条 用収者ハ用収権ニ属スル土地ニ増加シタル漸積地、島嶼其他附添物ニ就キ収益スルコトヲ得 然レトモ虚有者カ償金ヲ払フニ非サレハ附添物ヲ得ル能ハサリシトキハ用収者ハ用収権ノ期限間虚有者ニ其償金ノ利子ヲ払フ可シ 用収権ニ属スル土地ニ於テ第三ノ人カ埋蔵物ヲ発見スルモ用収者ハ其埋蔵物ニ就キ権利ヲ有セス 第五百六十八条 用収者ハ用収権ニ属スル土地ニ於テ狩猟及ヒ捕漁ノ権利ヲ有ス 第五百六十九条 用収者ハ用収地ニ属スル一切ノ地役ヲ行フ若シ無使用ニ因リ之ヲ消滅セシメシトキハ虚有者ニ対シ其責ニ任ス 第五百七十条 用収者ハ直ニ虚有者並ニ第三ノ人ニ対シ其収益権ニ関シテ占有及ヒ本権ノ物上訴権ヲ行フコトヲ得 用収者ハ用収地ニ就キ地役ノ有無ニ関シ自己ノ権利ニ応シテ聴認及ヒ拒却ノ訴権ヲ行フコトヲ得 第五百七十一条 用収者ハ有償又ハ無償ノ名義ニテ自己ノ権利ヲ譲渡シ、賃貸シ又ハ用収権ニ供スルコトヲ得又用収物ノ性質抵当ト為スコトヲ得ヘキモノナルトキハ之ヲ抵当ト為スコトヲ得但父母ノ法律上ノ用収権ハ此例ニ在ラス 如何ナル場合ニ於テモ用収者ノ付与シタル権利ハ其用収権ノ期限、制限及ヒ条件ニ従フ 第五百七十二条 用収者ハ用収権ノ終期ニ於テ果実及ヒ産物ヲ収穫セスシテ猶ホ土地ニ附著スルトキト雖其賠償ヲ求ムルノ権利ヲ有セス 又用収権ニ属スル物件ニ改良ヲ加ヘ其価直ヲ増シタルトキト雖所有者ニ対シ其賠償ヲ求ムルコトヲ得ス 用収者ハ只其躬ラ設置シタル建物、植物、装飾物其他ノ附加物ヲ収去スルコトヲ得但最初ノ形状ニ復ス可シ 第五百七十三条 虚有者ハ用収者又ハ其相続人ヲシテ前条ニ従ヒ収去スルコトヲ得ヘキ建物及ヒ植物ヲ鑑定人ノ評価スル現時ノ価直ヲ以テ用収権了終ノ時ニ譲渡サシムルコトヲ要求スルヲ得 右ニ就キ用収者ハ所有者ニ先買権ヲ行フノ意アルヤ否ヲ述ヘシムル為メ予メ之ニ報告シ其報告ノ後十日ヲ過キ又ハ所有者其権利ヲ行フコトヲ辞謝セシ後ニ非サレハ建物及ヒ植物ノ取去ニ著手スルコトヲ得ス 所有者先買権ヲ行フコトヲ述ルト雖鑑定人又ハ裁判所ノ処決確定シタル時ヨリ一月内ニ其代価ヲ払ハサルトキハ其先買権ヲ失フ但損害アルトキハ賠償ノ責ニ任ス 用収者及ヒ其相続人ハ鑑定人又ハ裁判所ノ処決及ヒ代価ノ弁済アラサル間ハ建築物ヲ占有スルコトヲ得 第三節 用収者ノ義務 第五百七十四条 用収者ハ其権利ニ属スル財産ヲ占有セサル前虚有者ノ立会ヲ得ルカ又ハ成規ニ循ヒ之ヲ召喚セシ上ニテ其動産ニ就テハ完全精確ナル目録ヲ造リ不動産ニ就テハ景状書ヲ造ル可シ 第五百七十五条 双方出会シテ能力者タルカ若ハ適正ニ名代人ヲ差出ストキハ動産ノ目録及ヒ不動産ノ景状書ハ私署ヲ以テ之ヲ造ルコトヲ得反対ノ場合ニ於テハ公証役ニ之ヲ造ラシム可シ 第五百七十六条 代補物ニ就キ目録ニ評価アルトキハ其評価ハ売買ニ等シキ効力ヲ有ス但反対ノ明記アルトキハ此例ニ在ラス 又不代補物ニ就テハ目録ニ明記アルニ非サレハ其評価ハ売買ニ等シキ効力ヲ有セス 目録及ヒ評価ノ費用ハ用収者、虚有者各其半額ヲ負担ス 第五百七十七条 用収権設定ノ時用収者動産ノ目録又ハ不動産ノ景状書ヲ造ルノ義務ヲ免除セラレタリト雖虚有者ハ常ニ用収者ノ立会ヲ得又ハ成規ニ循ヒ之ヲ召喚セシ上自己ノ費用ヲ以テ目録又ハ景状書ヲ造ルコトヲ得但右ニ就キ虚有者ハ用収権発開ノ後十日以上収益ノ執行ヲ遅延セシムルコトヲ得ス 第五百七十五条及ヒ第五百七十六条第一項ハ本条ノ場合ニ適用ス 第五百七十八条 用収者財産ノ目録及ヒ景状書ヲ造ルノ義務ヲ免除セラレサリシトキ之ヲ造ラシメスシテ其財産ヲ占有シタルトキハ不動産ハ善良ナル形状ニテ受取リシモノト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 動産ニ就テハ虚有者通常ノ証拠ハ勿論世評ヲ以テ其物数及ヒ価直ヲ証明スルコトヲ得 第五百七十九条 又用収者ハ用収権了終ノ時物件ノ返還其他担任スヘキ賠償ノ為メ保証人ヲ立テ又ハ相当ノ担保ヲ出セシ上ニ非サレハ収益スルコトヲ得ス 第五百八十条 担保ノ性質ニ就キ双方ノ示談調ハサルトキハ裁判所ハ顕然資力アル者ノ保証ヲ認可シ又ハ資財預所若ハ双方ノ信任スル者ニ金円又ハ有価物ヲ寄託スルコトヲ認可スルヲ得又質若ハ抵当ヲ認可スルコトヲ得 第五百八十一条 保証ノ金額ニ就テハ裁判所ハ用収権ニ属シタル金額以下ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス又動産ノ評価カ売買ニ等シキ効力ヲ有スルトキハ其評価額以下ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス又評価カ売買ニ等シキ効力ヲ有セサルトキハ其半額以下ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス 然レトモ右最終ノ場合ニ於テ若シ用収者カ用収権ノ継続中評価シタル動産ニ就キ其権利ヲ譲渡シ又ハ賃貸スルトキハ常ニ評価額全部ノ担保ヲ差出スヘシ 不動産ニ就テハ裁判所ニ於テ保証ノ金額ヲ裁定スヘシ 第五百八十二条 担保ヲ設定スル証書ニハ前条ニ定メタル金額ニ就キ保証人又ハ用収者其一身ノ義務ヲ併記スヘシ 第五百八十三条 用収者相当ナル担保ヲ差出スコト能ハス且双方ノ間ニ別段ノ合意ナキトキハ左ノ如ク処置ス 飲食物其他ノ代補物ハ之ヲ公売シ其代価ハ現金ヲ以テ用収者及ヒ虚有者ノ連名ニテ資財預所ニ寄託シ若ハ国ニ対スル年金権ニ換ヘ用収者ハ其利子又ハ収額ヲ収受ス 其他ノ動産ハ虚有者之ヲ占有ス 不動産ハ第三ノ人ニ賃貸スルカ又ハ虚有者賃借ノ名義ニテ保有シ用収者ハ保存費其他毎年ノ負担ヲ扣除シテ家賃又ハ地代ヲ収受ス 第五百八十四条 用収者一分ノ担保ニ非サレハ差出スコト能ハサルトキハ其受取ル可キ物件ニ就キ担保ノ限度ニ応シテ採択ヲ為スヘシ 第五百八十五条 用収者ハ設定証書ヲ以テ保証人ヲ立ルノ義務ヲ免除セラルヽコトヲ得但其権利発開ノ後無資力ト為リタルトキハ此免除ハ止息ス 右ノ場合ニ於テハ其物件ヲ虚有者ニ返還シ前二条ニ従テ処弁ス 第五百八十六条 父母ハ其法律上ノ用収権ニ就キ常ニ保証ヲ立ルノ義務ヲ免カルヘシ 贈与者其贈与物ニ就キ自己ノ為メ貯存シタル用収権ニ就テモ亦同シ 但父母又ハ贈与者無資力ノ場合ニ於テハ金円並ニ第五百七十六条ニ循ヒ売買ニ等シキ効力ヲ有スル評価額ニ就キ保証人ヲ立ツ可シ 第五百八十七条 用収者其物件ヲ占有シタル上ハ善良ナル管理者ノ心得ニテ其保存ニ注意ス可シ 用収者ハ其過愆又ハ懈怠ニ由リ其物ヲ滅尽シ又ハ毀損セシメタルトキハ其責ニ任ス但虚有者ノ権利ヲ保護スル為メ第六百七条ニ認可シタル用収者ニ対スルノ処置ヲ行フコトヲ妨ケス 第五百八十八条 用収権ニ属シタル物ノ全部又ハ一分火災ニテ滅尽シタルトキハ用収者ノ過愆ニ出テタルモノト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第五百八十九条 用収者ハ動産及ヒ不動産ノ保存修復ヲ担任ス但其費用ニ就キ追求権ヲ有セス 大修復ニ就テハ用収者其過愆ニ由リ又ハ保存修復ヲ怠リタルニ由テ其必要ト為リタルトキニ非レハ之レヲ担任セス 用収者其担任セサル大修復ヲ為シタルトキト雖此事ニ就キ賠償ヲ求ムルノ権利ヲ有セス 第五百九十条 虚有者モ亦大修復ヲ担任セス若シ之ヲ為シタルトキハ費用ノ分担ヲ用収者ニ訟求スルコトヲ得ス 第五百九十一条 一個又ハ数個ノ重立タル梁柱ノ変更並ニ屋又ハ重立タル壁ノ修復ハ一分タリト雖建築物ノ大修復ト看做ス 屋蓋、支持壁、陂障及ヒ繞囲壁ノ全部ノ改造若ハ其表面十分一以上ノ改造モ亦同シ 第五百九十二条 用収者ハ其用収権ヲ有スル土地ニ賦課スル毎歳通常ノ租税其他公ケノ負担ハ其全国ニ係ルト地方ニ係ルトヲ問ハス之ヲ担任ス 第五百九十三条 用収権ノ期限間所有権ニ賦課スヘキ非常ノ負担又ハ税金ニ就テハ虚有者ハ其元本ヲ払ヒ用収者ハ用収権ノ期限間毎歳ノ利子ヲ負担ス 新税又ハ旧税ノ増額ハ非常ノ負担ト看做ス但之ヲ設定シタル法律ニ於テ一時又ハ非常ノ名義ヲ附シタルトキニ限ルヘシ 第五百九十四条 用収権設定ノ前ニ所有者其建物ニ就キ火災ノ保険ヲ約シ置キタルトキハ用収者ハ毎歳保険料ノ利子ヲ負担ス但虚有者ハ火災ノ場合ニ於テ受取リタル賠償金ノ収益ヲ用収者ニ与フヘシ 又用収者ハ虚有者ト自己トノ利益ノ為メ自己ノ費用ヲ以テ保険ヲ約スルコトヲ得此場合ニ於テハ用収者ハ賠償金ノ中ヨリ自己ノ払ヒシ保険料ノ額ヲ扣除シ其残額ニ就テ収益ス 又海上保険ヲ約シタル船舶ニ就キ用収権ヲ設定シタルトキモ右ノ条例ヲ適用ス 第五百九十五条 又用収者ハ用収権ノ価額ニ就テモ建物ノ保険ヲ約スルコトヲ得此場合ニ於テハ用収者ハ毎歳ノ保険料ヲ専担シ火災アリシトキハ賠償金額ハ完全ノ所有権ニテ用収者ニ属ス 凍、雹其他自然ノ変災ニ就キ用収者カ収穫物又ハ産物ノ保険ヲ約シタルトキモ亦同シ 第五百九十六条 第五百四十八条ニ定メタル如ク相続ノ包括用収者又ハ包括名義ノ用収者ハ其得益ノ割合ニ応シ相続ノ債務ノ利子ヲ担任ス 又右相続ノ負担タル終身者金権ノ収額又ハ養料モ同上ノ割合ニ応シテ担任ス 第五百九十七条 一箇又ハ数箇ノ特定財産ノ用収者ハ其用収権ニ属スル財産ニ抵当又ハ先取特権ノ負担アリシトキト雖設定者ノ債務ノ弁済ヲ分担セス 右財産ノ所持人タル資格ヲ以テ訟ヲ受ケシトキハ用収者ハ債務者ニ対シ追求権ヲ有ス但設定者又ハ其相続人ニ対シ追奪ニ係ル担保ノ訴権ヲ妨ケス 第五百九十八条 負担ニ就キ虚有者其元本ヲ払ヒ用収者其利子ヲ担任スヘキ諸般ノ場合ニ於テハ左ノ三箇ノ方法中其一ニ依リ処弁ス 或ハ虚有者ハ元本ヲ払ヒ用収者ハ毎歳其利子ヲ払フコト 或ハ用収者ハ元本ヲ立替ヘ虚有者ハ用収権了終ノ時其元本ヲ用収者ニ返還スルコト 或ハ必要ナル金額ニ達スルマテ用収権ニ属スル財産ノ一分ヲ売却スルコト 第五百九十九条 用収権ノ期限間其権ニ属スル土地ニ於テ第三ノ人カ虚有者ノ権利ヲ害スヘキ占奪又ハ侵略ヲ為ストキハ用収者ハ其事実ヲ虚有者ニ報告スヘシ若シ報告ヲ為サスシテ損害ノ生シタルトキ及ヒ第三ノ人カ時証又ハ占有権ヲ獲得シタルトキハ用収者総テ其責ニ任ス 第六百条 虚有者カ原告又ハ被告ト為リテ土地ノ完全ナル所有権ニ係ル訴訟ヲ為ストキハ其訴訟ニ就キ用収者ヲ召喚ス可シ用収者ハ訴訟入費ノ利子ヲ担任ス 用収者ハ単ニ収益ニ関スル訴訟ノ入費ヲ専担ス 右何レノ場合ニ於テモ用収権設定ノ証書ヲ以テ用収者ニ追奪担保ノ権利ヲ与ヘタルトキハ用収者ハ入費ヲ担任セス 如何ナル場合ニ於テモ用収者ハ単ニ虚有権ニ関スル訴訟入費ヲ分担セス 第六百一条 虚有者又ハ用収者訴訟ニ参預スヘキ場合ニ於テ参預セサリシトキハ裁判言渡ハ其参預セサリシ者ヲ害スルコトヲ得ス但事務管理ノ規則ニ循ヒ其者ヲ利スルコトヲ得 第四節 用収権ノ消滅 第六百二条 用収権ハ第五百四十四条ニ循ヒ所有権了終ノ原由ト同一ナル原由ヲ以テ消滅ス 此外用収権ノ消滅スル原由左ノ如シ 第一 用収者ノ死去 第二 用収権ヲ設定シタル期限ノ了終 第三 用収権ノ明白ナル棄絶 第四 三十年間継続セシ無使用 第五 収益ノ濫用ニ由ル用収権ノ廃棄 第六百三条 数人ノ為メ同時ニ未分ニテ用収権ヲ設定シタルトキハ先ニ死去シタル用収者ノ部分ハ生存スル者ノ利益ト為リ用収権ハ最後ニ死スル者ノ死去ニ非サレハ消滅セス 第六百四条 無形人ノ為メニ設定シタル用収権ハ三十年ノ期限ヲ以テ消滅ス但三十年以下ノ期限ヲ以テ設定シタルトキハ其期限ニ従フ 第六百五条 用収者ハ其権利ノ棄絶ヲ以テ其棄絶以前ニ執行セサリシ義務ヲ免レス 又棄絶ハ用収者ヨリ物上ニ権利ヲ得タル第三ノ人ヲ害スルコトヲ得ス 第六百六条 無使用ハ幼者其他時証ノ経過スルコトヲ得サル人ニ之ヲ対抗スルコトヲ得ス 其他免責時証ニ関スル諸規則ハ無使用ニ適用ス 第六百七条 用収者其物ニ重大ノ毀損ヲ為ストキ又ハ其保存ヲ欠キ若ハ収益ヲ濫用シテ其物ノ存滅ヲ顧ミサルトキハ裁判所ハ他ノ原由ニテ用収権ノ消滅マテ用収者ノ入費ヲ以テ其物ヲ監守ニ付スルコトヲ得又ハ虚有者ヨリ用収者ニ毎歳払フヘキ金円若ハ果実又ハ入額ノ部分ヲ定メ虚有者ノ為メ用収権ノ消滅ヲ言渡スコトヲ得 裁判所ハ並ニ其年ノ果実及ヒ産物ノ分配ヲ規定ス 将来用収者ニ払フヘキ金円又ハ果実ハ前年用収権ノ継続シタル時間ニ応シ日割ヲ以テ用収者ニ属ス 第六百八条 用収権ノ廃棄ハ其廃棄前ニ用収者ノ加ヘタル損害ニ就キ賠償ヲ求ムルコトヲ妨ケス 第六百九条 用収権ノ止息セシトキ尚ホ土地ニ附著シタル果実及ヒ産物ハ第六百七条ニ掲ケタル場合ヲ除クノ外虚有者ニ属ス耕作及ヒ利用ノ入費ハ償還スルニ及ハス但賃借小作人、分菓小作人ノ既得ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス 第六百十条 変災又ハ朽廃ニ由リ用収権ニ属スル建物ノ全部壊頽シタルトキハ用収者ハ土地又ハ材料ニ就キ収益スルコトヲ得ス但建物カ用収権ニ属スル土地ノ従タルトキハ此例ニ在ラス 第六百十一条 虚有者又ハ用収者建物ノ保険ヲ約シ其焼失シタルトキハ用収者ハ第五百九十四条及ヒ第五百九十五条ニ記シタル区別ニ循ヒ賠償金ニ就キ収益ス 第六百十二条 用収権ニ属スル物ヲ公益ノ為メ引上ケタルトキハ用収者ハ賠償金ニ就キ収益ス 第六百十三条 前二条ニ定メタル場合ニ於テ用収者ハ其収益スル金円ニ就キ保証人ヲ立ツヘシ但右ノ場合ヲ予見シテ特ニ保証人ヲ立ルノ義務ヲ免除シタルトキハ此例ニ在ラス 第六百十四条 湖池ノ用収権ハ其永久乾凅スルニ至リシトキハ消滅ス 又耕地ノ用収権ハ水ノ永久其土地ヲ浸没スルニ至リシトキハ止息ス 然レトモ土地ノ無使用未タ三十年ニ到ラサル前ニ湖池ノ水自然ニ生シ又ハ耕地ノ浸水自然ニ退キテ旧状ニ復シタルトキハ本条ニ拠リ用収権消滅ノ裁判言渡アリシト雖用収権ハ再生ス 第六百十五条 群畜ノ用収権ハ全群ノ尽クルニ非サレハ消滅セス 右ノ場合ニ於テ卒然ノ変災ニ由リ其全ク尽キタルトキハ用収者ハ皮ヲ虚有者ニ還付ス可シ 附録 使用権ニ特別ナル規則 第六百十六条 使用権ハ使用者ノ需要ノ限度及ヒ其家族ノ需要ニ限ル用収権ナリ 住居権ハ建物ノ使用権ナリ 使用権及ヒ住居権ハ用収権ト同一ノ方法ニ因リ設定シ同一ノ原由ニ因リ消滅ス 第六百十七条 使用権及ヒ住居権ノ限度ヲ定ムル為メ左ノ人々ヲ以テ使用者ノ一家族ヲ組成スルモノト見做ス即使用者ト同居スル使用者ノ正当ノ配偶者、正当ノ卑属親又ハ尊属親、養卑属親又ハ養尊属親、私ノ卑属親又ハ私ノ尊属親及ヒ此人々ノ身ニ随侍スル僕婢 第六百十八条 設定証書又ハ設定以後ノ合意ニテ土地ノ使用権執行ノ方法ヲ定メサルカ又ハ住居権ヲ行フヘキ建物ヲ定メサルトキハ裁判所ハ立会ノ上双方ノ意見ヲ聴キ之ヲ定ム 第六百十九条 使用権及ヒ住居権ハ譲渡シ又ハ賃貸スルコトヲ得ス 第六百二十条 使用権又ハ住居権ヲ有スル者ハ用収者ト同シク動産ノ目録及ヒ不動産ノ景状書ヲ造リ保証人ヲ立ツヘシ 又用収者ト同一ノ注意ヲ為スヘク及ヒ自己ノ過愆ニ就キ又同一ノ責ニ任スヘシ 又用収者ト同シク其収益ノ割合ニ応シ修復、毎歳ノ負担及ヒ訴訟入費ヲ分担ス 第三章 賃借権、永借権及ヒ地上権 前置条例 第六百二十一条 有体物ノ賃借ハ動産ニ係ルト不動産ニ係ルトヲ問ハス賃借人ヨリ賃貸人ニ定期ニ金額又ハ有価物ヲ払フコトヲ約シテ或ル時間賃借人ニ賃借物ヲ使用シ及ヒ収益スルノ権利ヲ与フ但以下第二節第三節ニ定メタル如ク合意又ハ法律ノ効力ニ因リ結約者ノ負担スル互相ノ義務ヲ妨ケス 第六百二十二条 工作即工芸ノ賃借及ヒ使役ノ賃借契約ヨリ生スル権利及ヒ義務ハ第三編ニ規定ス 獣畜ノ賃借ニ特別ナル規則モ亦第三編ニ規定ス 第六百二十三条 公ケノ無形人ノ財産ノ賃借ハ行政法ニ規定ス 第一節 賃借権ノ設定 第六百二十四条 賃借権ハ賃借又ハ賃貸ノ契約ヲ以テ設定ス 遺嘱ヲ以テ賃借権ヲ贈遺シタルトキハ相続人ハ其書中ニ記シタル条目及ヒ条件ニ循ヒ受嘱者ト賃借契約ヲ為ス可シ 賃借ノ約束ノ場合ニ於テモ亦約務者ハ約権者ト賃借契約ヲ為ス可シ 第六百二十五条 物ノ賃借契約ハ有償ノ名義ニシテ双務ナル契約ノ総則ニ従フ但以下ニ掲ケタル規則ハ此例ニ在ラス 第六百二十六条 他人ノ物ノ法律上又ハ裁判上ノ管理者ハ其物ヲ賃貸スルコトヲ得 然レトモ賃貸期限ニ就キ管理者特別ナル委任ナクシテ賃貸ヲ為ストキハ其賃貸ハ左ノ年限ヲ超過スルコトヲ得ス 獣畜其他ノ動産ニ就テハ二年 家宅、店舗其他ノ建築物ニ就テハ五年 耕地、森林、池塘、石坑其他土地ノ部分ニ就テハ十年 第六百二十七条 管理者ハ前条ニ記シタル賃貸物ノ区別ニ従ヒ期限ノ終ラサル前三箇月、六箇月又ハ一箇年内ニ非サレハ同一ナル期限ヲ以テ賃貸ヲ更新スルコトヲ得ス 然レトモ管理者期限前ニ更新スト雖其委任ノ了終ニ臨ミ新期限ノ始マリシトキハ其更新ハ無効ト為ラス 第六百二十八条 他人ノ物ノ管理者ハ金円外ノ有価物ニテ賃貸スルコトヲ得ス 然レトモ米其他穀物ノ耕作ニ就テハ借賃ハ地方ノ時価ニ従ヒ借地ノ産物ヲ以テ払フコトヲ約スルヲ得但賃借人金円ヲ以テ全部ノ弁済ヲ望ムトキハ此例ニ在ラス 第六百二十九条 前三条ニ記シタル規則ハ総理ト部理トヲ問ハス合意上ノ代理人又ハ管理者ニ適用ス但書面ヲ以テ代理者ノ権限ヲ伸縮シタルトキハ此例ニ在ラス 第六百三十条 後見ヲ免カレタル幼者及ヒ自己ノ財産ヲ管理スルコトヲ得ル婦ハ他人ノ物ノ管理者ト同一ナル条件ニ従フニ非サレハ其財産ヲ賃貸スルコトヲ得ス 第六百三十一条 賃借人ハ前数条ニ反シタル賃借又ハ更新ノ無効又ハ短縮ヲ請求スルコトヲ得ス 賃借人ハ何時ニテモ第六百二十六条ニ区別シタル賃借物ノ性質ニ従ヒ八日、十五日又ハ三十日ノ期限内ニ右ノ事ニ就キ只所有者ノ其意思ヲ申述スルコトヲ請求スルヲ得 所有者之ニ応ヘサルトキハ賃借人ハ従前定メタル如ク賃借期限ヲ存セント申述スルコトヲ得 第六百三十二条 所有者ノ為シタル不動産ノ賃貸三十年ヲ超過スルトキハ其賃借ハ永借ト為シ附録ニ設ケタル特別ナル規則ニ循フ 第二節 賃借人ノ権利 第六百三十三条 賃借人ハ賃借物ニ就キ用収者ト同一ナル利益ヲ収取スルコトヲ得但設定証書並ニ法律ノ条例ヲ以テ賃借人ノ権利ヲ増減シタルモノハ此例ニ在ラス 第六百三十四条 賃借人ハ財産ノ目録又ハ景状書ヲ造リ並ニ保証人ヲ立ルノ義務ナクシテ其収益ヲ始ムル為メ定メタル時期ヨリ賃借物ノ占有ヲ賃貸人ニ請求スルコトヲ得但契約ヲ以テ其義務ヲ負担シタルトキハ此例ニ在ラス 第六百三十五条 賃借人ハ物ノ引渡前ニ其用方ニ従ヒ完全ニ一切ノ修復ヲ為サンコトヲ賃貸人ニ請求スルヲ得 其他賃貸人ハ賃借ノ期限間大修復及ヒ保存修復ヲ負担スヘシ但賃借人及ヒ其僕婢ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ修復ヲ要スルニ至リシトキハ賃借人之ヲ負担ス 賃貸人ハ賃貸ノ期限間畳、建具、塗色及ヒ壁紙ノ修復ヲ負担セス 家用又ハ工業用水ノ管筩ヲ除クノ外井戸、雨水溜、溝渠其他自然水又ハ雨水ノ管筩ノ疏浚ハ賃貸人ノ負担スル保存修復中ニ属ス但地方ノ慣習之ニ反スルトキハ此例ニ在ラス 第六百三十六条 賃貸人ハ賃借人ヨリ大修復ヲ請求セス且賃借人ノ為メ多少ノ不便ヲ生スト雖建物ノ大修復ヲ要スルニ至ルトキハ之ヲ為スコトヲ得 然レトモ右修復ノ一箇月以上継続シ又一箇月以下ト雖賃借人其建物ノ住居スヘキ全部若ハ商業又ハ工業ニ全ク必要ナル部分ヲ失フトキハ賃借人ハ其賠償ヲ得ヘシ 第六百三十七条 第三ノ人ノ所為ニ由リ賃借人カ収益ニ就キ権利上ノ妨碍又ハ争訟ヲ受クルコトアリテ其原由賃借人ノ責ニ帰スヘキモノニ非サルトキ賃借人ヨリ成規ニ循ヒ其報告ヲ為シタルニ於テハ賃貸人之ニ参預シテ賃借人ヲ担保シ又ハ損害ヲ賠償スヘシ 第六百三十八条 戦闘、洪水、火災ノ如キ難抗力若ハ官庁ノ処分ニ由リ妨碍ヲ生シ賃借人之カ為メ収益即毎歳ノ利得ノ三分一又ハ其以上ノ損失ヲ受ケシトキハ賃借人ハ之ニ応シテ借賃ノ減殺ヲ求ムルコトヲ得 又右ノ妨碍三年間継続スルトキハ賃借人ハ賃借契約ヲ解除セシムルコトヲ得建物ノ焼失其他壊頽ノ場合ニ於テモ所有者壊頽ノ年内ニ之ヲ再築セサルトキハ亦同シ 第六百三十九条 土地ヲ以テ首タル目的物ト為シタル賃借ニ就キ其土地ノ面積カ契約書ニ記載シタルモノヨリ少キトキハ賃借人ハ賃借契約ヲ解除スルコトヲ得但土地ノ買主面積ノ不足ノ為メ売買ヲ解除スルトキト同一ナル条件ニ循フ 第六百四十条 賃借人小売商業ヲ営ム為メ建物ノ賃借ヲ為セシ場合ニ於テ賃貸人之ニ連接シ又ハ其構内ニ在ル建物ノ一部ヲ保有シタルトキハ賃借人ト同一ナル商業ヲ営ム為メ之ヲ他人ニ賃貸シ又ハ自身ニ占領スルコトヲ得ス 第六百四十一条 賃借人ハ賃貸人ノ明許ヲ得スト雖賃借地ニ適宜ニ建物ヲ搆造シ又ハ植物ヲ栽種スルコトヲ得但現在ノ建物又ハ植物ヲ変更スルコトヲ得ス 賃借了終ノ時旧状ニ復スルコトヲ得ルトキハ賃借人ハ其搆造シタル建物又ハ栽種シタル植物ヲ収去スルコトヲ得但第六百五十六条ニ於テ賃貸人ニ許与シタル権能ハ此例ニ在ラス 第六百四十二条 賃借人ハ賃借ノ期限間無償又ハ有償ノ名義ニテ其賃借権ヲ譲渡シ又ハ転貸スルコトヲ得但反対ノ約定アルトキハ此例ニ在ラス 譲渡ヲ為シタルトキハ賃借人ハ贈与者又ハ売主ノ権利ヲ有シ転貸ヲ為シタルトキハ賃貸人ノ権利ヲ有ス 右何レノ場合ニ於テモ賃貸人カ転借人ト更改ヲ為サヽルトキハ賃借人ハ賃貸人ニ対シ其義務ヲ免カルヽコトヲ得ス 果実ノ一分ヲ以テ借賃ト為ス賃借即会社ノ性質アル分菓小作ニ就テハ賃貸人ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ賃借人ヲ変易スルコトヲ得ス 第六百四十三条 不動産ノ賃借人ハ其権利ヲ抵当ト為スコトヲ得但譲渡及ヒ転貸ヲ禁シタルキハ此例ニ在ラス 第六百四十四条 賃借人ハ其権利ノ保存及ヒ土地ニ附著スル地役ノ収益ノ為メ第三ノ人ニ対シ用収権ノ章第五百七十条ニ記載シタル訴権ヲ行フコトヲ得 第三節 賃借人ノ義務 第六百四十五条 賃貸人其権利ヲ保存スル為メ動産ノ目録及ヒ場所ノ景状書ヲ造ラント欲スルトキハ賃借人ハ収益ヲ始ムル時其他何時ニテモ立会ノ上賃貸人ニ之ヲ造ルコトヲ許諾ス可シ但賃借人ハ其費用ヲ分担セス 又賃借人モ賃貸人ヲ召喚シタル上自己ノ費用ヲ以テ右ノ目録又ハ景状書ヲ造ルコトヲ得 動産又ハ不動産ノ景状書ヲ造ラサリシトキハ賃借人ハ善良ナル形状ニテ受取タリト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 動産ノ目録ナキトキハ其物数及ヒ景状ノ証拠ハ賃貸人通常ノ方法ニ従ヒ之ヲ挙ク可シ 第六百四十六条 金円ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ賃借人ハ約定ノ期限ニ払フ可シ其約定ナキトキハ毎月末ニ払フ可シ 果実ヲ以テ借賃ト為シタルトキハ収穫後ニ非サレハ要求スルコトヲ得ス但収穫シタル時其全部ヲ要求スルコトヲ得 第六百四十七条 賃借人カ借賃ヲ払ハス其他賃借ノ特別ナル条目及ヒ条件ヲ履行セサルトキハ賃貸人ハ賃借人ニ其義務ヲ実行セシメ又ハ賠償ヲ得テ賃借契約ヲ解除スルコトヲ得 第六百四十八条 賃借地ニ産物ヲ蔵置スヘキ場所アルトキハ賃借人之ヲ売却セサル間ハ賃貸人ノ為メ担保トシテ其場所ニ蔵置ス可シ但賃借人其年分ノ借賃ヲ前払ニスルトキハ此例ニ在ラス 第六百四十九条 直ニ賃借物ニ賦課スル通常税又ハ非常税ハ賃借人之ヲ担任セス然レトモ税法ヲ以テ賃借人ヨリ之ヲ徴収スルコトアルトキハ借賃中ヨリ其税額ヲ扣除シ又ハ賃貸人之ヲ償還スヘシ但反対ノ合意アルトキハ此例ニ在ラス 然レトモ賃借人ノ搆造シタル建物ニ賦課シ又ハ賃借地ニ於テ営ム商業及ヒ工業ニ賦課スル租税其他ノ負担ハ賃借人之ヲ担任ス 第六百五十条 賃借人又ハ転借人ハ明許ト黙許トヲ問ハス合意ヲ以テ定メタル用方ニ従ハサレハ賃借物ヲ使用スルコトヲ得ス其合意ナキトキハ結約ノ時ノ用方ニ従フカ又ハ物ノ性質ニ因リ毀損スルコトナキ用方ニ従フニ非サレハ使用スルコトヲ得ス 第六百五十一条 賃借人ハ賃借物ノ監守及ヒ保存ニ就キ用収者ト同一ナル義務ヲ負担ス 第三ノ人カ賃借物ニ就キ横奪其他ノ侵略ヲ為ストキハ賃借人ハ用収者ニ関シ第五百九十九条ニ定メタル責任ヲ負ヒテ其事ヲ賃貸人ニ報告ス可シ 第六百五十二条 一箇ノ建物ニ数人ノ賃借人アルカ又ハ一構内ニ於テ一所有者カ有スル数箇ノ建物ニ数人ノ賃借人アルトキハ賃借人ハ所有者ニ対シ連帯シテ火災ノ責ニ任スヘシ但賃借人中ニ過愆ナキノ証拠アル者ハ此例ニ在ラス 第六百五十三条 償金ヲ立替ヘシ者ノ追求金額ハ裁判所ニテ各賃借人ノ借用場所ノ広狭ト其営業並ニ行状ヨリ生スヘキ危害ノ軽重トヲ調査シテ総賃借人ニ分担セシムヘシ 第六百五十四条 一構内ニ在ル建物ノ焼失シ所有者其一分ニ住居セシトキハ其住家ヨリ起リシ火災ニ非サルコトヲ証明セサレハ賃借人ニ対シ賠償ヲ要求スルコトヲ得ス又賃借人賠償ヲ負担スヘキ場合ニ於テモ其連帯ノ責任ハ借用場所ノ価ヲ超過スルコトヲ得ス 第六百五十五条 賃借了終ノ時賃借人賃借物ヲ返還セサルトキハ賃貸人ハ随意ニ対人訴権又ハ物上訴権ヲ行フコトヲ得 第六百五十六条 賃貸人ハ賃借了終ノ時第六百四十一条ニ依リ賃借人ノ収去スルヲ得ヘキ建物及ヒ植物ニ就キ鑑定人ノ鑑定ニ従ヒ現価ヲ以テ其譲渡ヲ要求スルコトヲ得 第五百七十三条ハ右ノ先買権ニ適用ス 第四節 賃借ノ了終 第六百五十七条 賃借ハ左ノ方法ニ因リ当然了終ス 第一 賃借物ノ全部ノ滅失但過愆ニ因リ滅失ノ責ニ任スヘキ者ハ其賠償ヲ為ス可シ 第二 公益ノ為メ物ノ全部ノ引上 第三 賃貸人ニ対スル賃貸物ノ追奪又ハ其物ニ就キ賃貸人ノ権利ノ取消但右ノ追奪及ヒ取消ハ賃貸契約前ニ存セシ原由ニ基キ裁判所ニ於テ其宣告アリシトキニ限ルヘシ 第四 明定又ハ黙定ノ期限ノ了終又ハ解除ノ未必条件ノ成就 第五 最初ヨリ期限ヲ定メサルトキハ解約申入ノ後法律上ノ期限ノ経過 其他賃借ハ条件ノ不執行ノ為メ又ハ法律上定メタル諸原由ノ為メニ双方中一方ノ訟求ヲ以テ裁判所ニテ宣告シタル解除又ハ廃棄ニ因リ了終ス 第六百五十八条 難抗又ハ意外ノ原由ニテ賃借物一分ノ滅失ノ場合ニ於テハ賃借人ハ第六百三十八条ニ記載シタル条件ニ循ヒ賃借ノ解除ヲ請求スルカ又ハ借賃ヲ減下シテ其賃借ノ保持ヲ請求スルコトヲ得 公益ノ為メ其一分ノ引上ノ場合ニ於テハ賃借人ハ常ニ借賃ノ減下ヲ請求スルコトヲ得 第六百五十九条 有期賃借了終ノ時ニ於テ賃借人尚ホ収益シ賃貸人其事ヲ知リテ故障ヲ為サヽルトキハ賃借契約ハ暗ニ更新ス但前賃借ト同一ナル負担及ヒ条件ニ循フ 然レトモ最初ノ賃借ヲ担保シタル保証人ノ義務並ニ担保ノ名義ヲ以テ供シタル抵当ハ消滅ス 新賃借ハ以下数条ニ記載シタル如ク解約ニ因テ了終ス 第六百六十条 期限ヲ明定セスシテ什具ノ附タル家屋ノ全部又ハ一分ヲ賃借シ其借賃ヲ一年、一月又ハ一日ヲ以テ定メタルトキハ其賃借契約ハ一年、一月又ハ一日ニ定メタルモノト推測ス但前条ニ記載シタル黙許ノ更新ハ此例ニ在ラス 一箇又ハ数箇ノ動産ヲ以テ目的ト為シタル賃借ニ就テモ亦同シ 第六百六十一条 什具ノ附カサル建物ノ賃借ニ就キ其期限ヲ定メサルトキ又ハ期限ノ終ニ於テ黙許ノ更新アリタルトキハ更新ヨリ一年内何時ニテモ一方ノ者ヨリ他ノ一方ノ者ニ申入タル解約ニ因リ其賃借ハ了終スヘシ 解約申入ノ時ヨリ退去マテノ時間ハ左ノ如シ 一家屋全部ニ就テハ三箇月 建物又ハ住家ノ一分又ハ尚ホ狭隘ナリト雖賃借人ノ商業又ハ工業ヲ営ム場所ニ就テハ二箇月 其他総テ什具ノ附カサル場所ニ就テハ一箇月 第六百六十二条 什具ノ附タル場所ノ賃借ニ就キ最初ノ期限ヲ三箇月又ハ其以上ニ定メタル場合ニ於テ黙許ノ更新アリタルトキハ解約申入ノ時ヨリ退去マテノ時間ハ一箇月タルヘシ 三箇月以下ノ賃借ニ就テハ其時間ハ最初ノ期限ノ三分一タルヘシ 日々ノ賃借ニ就テハ二十四時タルヘシ 右ノ期限ハ黙許ノ更新ノ後ニハ動産ノ賃借ニ適用ス但最初ニ期限ヲ定メスシテ其賃借ヲ為シタルトキ賃借ヲ了終スルニハ十五日前ニ解約ノ申入ヲ為スヘシ 然レトモ賃借ノ建物ニ具ヘタル動産又ハ用方ニ因ル不動産ト看做シタル動産ニ就テハ其賃借ハ建物ノ賃借ノ了終スルニ非サレハ了終セス 第六百六十三条 田畠ノ賃借ニ就キ期限ヲ定メサルトキハ解約ハ其年ノ重立タル収穫期ヨリ一箇年前ニ其申入ヲ為ス可シ 獣類ノ賃借期限ハ第三編ニ規定ス 第六百六十四条 何レノ場合ニ於テモ賃借人ノ権利ヲ有スル一切ノ収穫物ヲ分離シ又ハ収取スル前ニ賃借ノ了終シタルトキハ賃貸人又ハ新賃借人ハ前賃借人ノ之ヲ収取スルニ任カス可シ 又収穫物ヲ収取シタル土地内ニ於テ賃借了終ノ前ニ賃貸人又ハ新賃借人急要ノ事業ヲ為サント欲スルトキハ賃借人為メニ損害ヲ受ケサルニ於テハ賃貸人又ハ新賃借人ノ事業ヲ為スニ任カス可シ 第六百六十五条 賃借物ヲ譲渡ス場合ニ於テ又ハ賃貸人カ自己ノ為メ其他特別ノ原由ノ為メ収益ヲ取戻ス場合ニ於テ賃貸人カ定期満限ノ前ニ賃貸ヲ取消スヘキ権能ヲ有スルトキ又賃借人モ其賃借ノ無用ニ属スヘキ偶然ノ事件ヲ予想シテ同一ノ権能ヲ有スルトキハ各自互ニ前数条ニ定メタル期限ニ循ヒ予メ解約ヲ申入ルヘシ但合意ニ依リ其経過スヘキ期限カ尚ホ短キトキハ此例ニ在ラス 附録 永借権及ヒ地上権 第一款 永借権 第六百六十六条 永借トハ長期即三十年以上ノ不動産ノ賃借ヲ云フ 此賃借ハ五十年ヲ超過スルヲ得ス但五十年以上ノ期限ヲ以テ賃借シタルトキハ五十年ニ之ヲ節縮ス可シ 永借ハ常ニ更新スルコトヲ得但更新ヨリ五十年ヲ超過スルコトヲ得ス 此法律頒布以前ニ期限ヲ定メテ為シタル不動産賃借ハ五十年以上ナリト雖其約定ノ期限間ハ有効タルヘシ 頒布以前ニ期限ヲ定メスシテ為シタル荒蕪地又ハ未耕地ノ賃借ハ一方ヨリ他ノ一方ニ解約ヲ申入シ時ヨリ十年ニテ了終ス 従前無期ノ明約アル賃借ニ就キ永借人其借地買取ノ権能並ニ条件ハ将来特別法ヲ以テ規定ス 第六百六十七条 永借権ハ永借契約ヲ以テスルニ非サレハ設定スルコトヲ得ス 第六百二十四条ハ永借ノ贈遺又ハ約束ニ適用スルコトヲ得 第六百六十八条 双方ノ権利及ヒ義務ハ永借権ノ設定証書ヲ以テ規定ス 特別ノ合意ナキ場合ニ於テハ上文ニ規定シタル通常賃借ノ規則ヲ永借ニ適用ス但以下ニ記載シタルモノハ此例ニ在ラス 第六百六十九条 土地ノ永借人ハ其土地ノ性質ヲ変更スルコトヲ得但永久ノ損壊ヲ生セサルトキニ限ルヘシ 永借人ハ常ニ沼地ヲ乾凅スルコトヲ得 又土地利用ノ為メ利益アルニ於テハ其土地ヲ通過スル水流ヲ変更スルコトヲ得 第六百七十条 永借人ハ荒地、叢野、竹林ヲ関墾スルコトヲ得然レトモ所有者ノ承諾アルニ非サレハ小樹林ノ樹木ヲ抜取スルコトヲ得ス又定期伐採スヘキ樹木ニ非スシテ既ニ二十年以上ヲ経過シ且其成木ノ年期賃借ノ期限外ニ出ツヘキモノモ抜取スルコトヲ得ス 第六百七十一条 何レノ場合ニ於テモ永借人ハ所有者ノ承諾アルニ非サレハ首タル建物ハ勿論従タル建物ト雖賃借期限後ニ至リ尚ホ存留スヘキモノハ取払フコトヲ得ス 第六百七十二条 前二条ニ循ヒ永借人建物又ハ樹木ヲ取払フコトヲ得ル場合ニ於テ其取払ヒタル材料及ヒ樹木ハ所有者ニ属ス 第六百七十三条 永借人ハ其身分ヲ以テ地底ニ有ル鉱物ノ開掘ヲ継続スルコトヲ得ス 永借人ハ開坑ノ特許ヲ得シ者ノ納ムル借料ニ就キ権利ヲ有セス 然レトモ開坑ノ特許ヲ得シ者地表ニ損害ヲ及ホストキハ永借人其賠償ヲ受クルコトヲ得 第六百七十四条 永借地内ニ鉄、石、石灰、沙礫其他地内ヨリ掘出シ又ハ地表ニ於テ採取スル物料アルトキハ賃借人ハ前来ノ開掘ヲ自己ノ為メ継続スルコトヲ得 未タ開掘セサルモノニ就テハ賃借人只其土地ノ改良ノ為メ石塊其他ノ物料ヲ採取スルコトヲ得 第六百七十五条 賃貸人ハ其永借ヲ契約セシ時ノ現状ニテ賃貸物ヲ引渡スヘシ 賃貸人ハ賃借権ノ期限間大修復又ハ保存修復ヲ担任セス 第六百七十六条 永借ノ期限間意外ノ変災又ハ難抗力ニ因リ生セシ損壊ノ為メ賃借人ハ借賃ノ減下ヲ求ムルコトヲ得ス但第六百八十一条ニ循ヒ賃借ヲ解除スルノ権利ヲ妨ケス 第六百七十七条 永借人ハ通常税ト非常税トヲ問ハス一切ノ地税ヲ納メ其追求ヲ為スコトヲ得ス但非常税ヲ賦課スル法律之ニ異ナルトキハ此例ニ在ラス 第六百七十八条 一箇ノ契約ヲ以テ一箇ノ土地ヲ数人ニ永貸シタルトキハ毎歳借料ヲ払フノ義務ハ各賃借人又ハ其相続人ノ間ニ於テ連帯ニシテ且不可分トス 第六百七十九条 永借権ノ譲渡又ハ転貸ノ場合ニ於テハ前数条ノ義務ハ其譲受人又ハ転借人ニ転移シ譲渡人又ハ転貸人ハ保証人トシテ其担保ヲ為スヘシ但賃貸人カ其譲渡人又ハ転貸人ニ明ニ其義務ヲ免カレシメタルトキ又ハ其譲渡人又ハ転貸人ニ対スル権利ヲ保有セスシテ其譲渡又ハ転貸ヲ承諾シ其所為ニ参預シタルトキハ此例ニ在ラス 第六百八十条 賃貸人三年間引続キテ借料ノ弁済ヲ得サルトキハ永貸ノ解除ヲ請求スルコトヲ得 賃借人他ノ債権者ノ訟求ニ因リ破産又ハ無資力ノ言渡ヲ受ケシトキハ借料弁済ノ不足些少ナルモ賃貸人之カ為メ賃貸ノ解除ヲ請求スルコトヲ得但債権者ヨリ借料ノ定期弁済ヲ確保スルトキハ此例ニ在ラス 第六百八十一条 難抗力ニ因リ三年間引続キ全ク土地ノ利益ヲ収ムル能ハサルカ若ハ一分ノ損壊ニ因リ毎歳ノ借料ニ過クル利益ヲ将来得ヘカラサルトキハ賃借人ハ賃借ノ解除ヲ請求スルコトヲ得 第六百八十二条 賃借ノ満期若ハ其解除ノ時ニ至リ賃借人ハ其土地ニ為シタル植物並ニ改良物ヲ遺シ置ク可シ但其賠償ヲ求ルコトヲ得ス 建物ニ就テハ通常賃借ノ為メ第六百五十六条ニ記載シタル条例ヲ適用ス 第二款 地上権 第六百八十三条 地上権トハ他ノ所有者ニ属スル地上ニ於テ建物又ハ樹木ヲ完全ナル所有権ニテ有スル権利ヲ云フ 第六百八十四条 地上権ハ不動産ノ所有権ヲ獲得シ及ヒ転移スル通常ノ方法ヲ以テ設定シ及ヒ転移ス 第六百八十五条 地上権設定ノ時既ニ建物其土地ニ存スルトキハ其設定ノ基本、法式並ニ公示ノ方法ハ総テ有償又ハ無償ノ名義ヲ以テスル不動産譲渡ノ普通規則ニ循フ 第六百八十六条 地上権者其譲受ケタル建物又ハ樹木ノ存スル敷地ニ応シテ土地ノ所有者ニ其土地毎歳ノ借料ヲ弁済スヘキコトヲ設定証書ニ定メシトキハ其権利及ヒ義務ハ通常ノ賃借ニ就キ前ニ定メタル規則ニ循フ 建物ヲ築造シ又ハ樹木ヲ植附クル為メ土地ヲ賃借シタルトキモ借料ノ事ニ就テハ亦同シ 第六百八十七条 従来存シタル建物ニ就キ地上権ヲ設定セシトキ其附従トシテ之ニ属スル土地ノ部分ヲ明記セサルニ於テハ地上権者ハ建物ノ周辺ニ於テ其建坪ニ等シキ土地ノ面積ニ権利ヲ有ス此面積ノ配当ハ鑑定人ヲシテ建物各部ノ用方ト土地並ニ建物トノ形状ヲ考察セシメ之ヲ定ムヘシ 樹木ニ係ルトキハ地上権者ハ其成長ノ後樹枝ノ蔭蔽スヘキ面積ニ権利ヲ有ス 第六百八十八条 従来存シタル建物又ハ地上権者ノ将来築造スヘキ建物ニ就キ地上権設定証書ニ其期限ヲ定メサルトキハ其権利ハ建物ノ存留スル間設定シタルモノト推測ス但其大修復ハ土地ノ所有者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 従来樹木ノ植附アリ又ハ地上権者其植附ヲ為スヘキトキハ地上権ハ其樹木ヲ伐採スルマテ又ハ其有益ナル成長ニ至ルマテ継続スル為メ設定シタルモノト推測ス 又地上権ハ通常ノ賃借権ト同一ナル原由ニ因リ消滅ス但土地ノ所有者ヨリ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得ス 地上権者ハ一个年前ニ通知ヲ為スカ又ハ更ニ一个年分ノ借地料ヲ払フトキハ常ニ解約ヲ申入ルヽコトヲ得 第六百八十九条 建物及ヒ樹木ハ従来存シタルモノト地上権者ノ設ケタルモノトヲ問ハス土地ノ所有者カ鑑定人ノ評価ニ従ヒ其譲渡ヲ請求セサルトキニ非サレハ地上権者ハ之ヲ収去スルコトヲ得ス 地上権者ハ土地ノ所有者ニ於テ先買権ヲ行フヤ否ヲ申述スルコトヲ一月前ニ報告シタル上ニ非サレハ其建物又ハ樹木ヲ収去スルコトヲ得ス 地上権者カ右ノ建物又ハ樹木ヲ拆解セントスルトキハ所有者ハ先買スルノ意思ヲ常ニ地上権者ニ告知スルコトヲ得 此他第五百七十三条ノ条例ハ上文ノ場合ニ適用ス 第六百九十条 此法律頒布前ヨリ設定シタル地上権ハ左ノ如ク規定ス 期限ヲ定メテ設定シタル地上権ハ其期限ノ終ルトキハ当然消滅ス 双方地上権ノ期限ヲ定メス且此法律頒布ノ時一方ノ者ヨリ成規ニ循ヒ解約ヲ申入サリシトキハ其地上権ハ第六百八十八条ニ循ヒ建物ノ存留スル間継続ス 前二項ノ地上権ハ第六百八十九条ニ定メタル先買権ニ循フ 第四章 占有権 第一節 占有ノ種類並ニ占有スルコトヲ得ヘキ物 第六百九十一条 占有ニ自然ノモノアリ又民法上ノモノアリ 第六百九十二条 自然ノ占有トハ所持人カ有体物上ニ権利ヲ有スルコトヲ主張セスシテ其物ヲ所持スルコトヲ云フ 公有ノ財産ハ自然ノ占有ニ非サレハ各人之ヲ為スコトヲ得ス 第六百九十三条 民法上ノ占有トハ自己ノ為メニ有スルノ意思ヲ以テ有体物ヲ所持シ又ハ権利ヲ行フコトヲ云フ 総テ権利ハ物権ト人権トヲ問ハス民法上ノ占有ヲ為スコトヲ得其各種ノ効力ハ場合ニ従ヒ以下ニ定ムル如シ 人ノ身分ニ適用スル占有ハ第一編ニ規定ス 第六百九十四条 民法上ノ占有ハ占有シタル権利ヲ移付スヘキ性質アル法律上ノ所為ニ基クトキハ譲渡人ニ其身分ナキヲ以テ移付ノ効力ヲ生スル能ハスト雖之ヲ正当ナル名義又ハ正当ナル原由ノ占有ト云フ 横奪ヲ以テ占有ヲ為シタルトキハ之ヲ無名義又ハ無原由ノ占有ト云フ 第六百九十五条 正当ナル名義ノ占有ハ其名義ヲ創設シタルトキニ占有者名義ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ之ヲ善意ノ占有ト云フ 反対ノ場合ニ於テハ之ヲ悪意ノ占有ト云フ 法律上ノ錯誤ヲ以テ善意ト為スコトヲ得ス 善意ハ名義ノ瑕疵ヲ発見スルトキハ止息ス 第六百九十六条 暴行ヲ用井又ハ隠密ニテ占有スルトキハ之ヲ瑕疵アル占有ト云フ 腕力又ハ脅迫ヲ以テ占有ヲ獲得シ又ハ保存スルトキハ之ヲ暴行ノ占有ト云フ 公然タル外見ノ所為ニ因リ其占有ノ十分関係人ニ現ハレサルトキハ之ヲ隠密ノ占有ト云フ 占有ノ安静ト為リ又ハ公然ト為リシトキハ其瑕疵ハ止息ス 第六百九十七条 占有者カ他人ノ名ヲ以テ他人ノ為メニ物ヲ所持シ又ハ権利ヲ行フトキハ其自然ノ占有ヲ暫仮ノ占有ト云フ 占有者自己ノ為メニ占有ヲ始ムルトキハ暫仮ノ占有ハ止息シテ民法上ノ占有トナルヘシ 然レトモ暫仮ノ占有カ其基ク名義ノ性質ヨリ生スルトキハ其占有ハ左ノ二原由ノ一ニ因ルニ非レハ止息セス 第一 占有ノ利益ヲ得ル者ニ宣示シ其者ノ権利ニ明白ナル駁斥ヲ記載シタル裁判上又ハ裁判外ノ文書 第二 契約者又ハ第三ノ人ニ出テタルモノニシテ占有ニ新ナル原由ヲ付スル名義ノ変換 第六百九十八条 証書若ハ事実ノ情状ニ因リ暫仮ノ占有タルコトヲ証明セラレサルトキハ常ニ占有者ヲ自己ノ為メニ占有スル者ト推測ス 第六百九十九条 正当ナル名義ヲ以テ占有スルコトヲ証明スル者ハ善意ニテ占有スル者ト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第七百条 暴行ヲ証明セサル限リハ占有ハ安静ナルモノト推測ス 占有ハ公然ナルモノト推測セス必ス之ヲ証明ス可シ 別々ナル両時ノ占有ヲ証明スルトキハ其間ハ占有ノ継続シタルモノト推測ス但其間ニ於テ占有ノ中断又ハ停止アリシ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第二節 占有ノ獲得 第七百一条 民法上ノ占有ハ物ノ所有権又ハ其行フ権利ヲ自己ノ有ト為スノ意思ニテ其物ノ掌握又ハ其権利ノ実行ニ因テ獲得ス 第七百二条 物ノ所持又ハ権利ノ実行ハ第三ノ人ノ所為ニ因リ成立スルコトアルヘシ但占有スルノ意思ハ占有ニ就キ利益セント主張スル者ニ存スヘシ 然レトモ無能力者及ヒ無形人ハ其名代人ノ所為及ヒ意思ニ因リ占有ヲ利スルコトヲ得 第七百三条 有形ナル占有ヲ為スコトハ簡易ノ引渡又ハ占有ノ改設ヲ以テ之ニ代フルコトヲ得ヘシ 従来暫仮ノ名義ヲ以テ占有セシ物ヲ将来自己ノ物ト看做スヘキ新ナル名義ヲ以テ占有スルトキハ簡易ノ引渡アリトス 従来自己ノ物トシテ物ヲ占有セシ者カ将来他人ノ名義ヲ以テ其利益ノ為メ其物ヲ所持スルコトヲ申述スルトキハ占有ノ改設アリトス 第七百四条 占有ハ相続人及ヒ包括承継人ニ転移ス但其占有ハ本人ノ時ノ形質並ニ瑕疵共ニ継続ス 一箇ノ物又ハ一箇ノ権利ノ特定ナル名義ニ於ケル獲得者ハ其利益ニ従ヒ或ハ自己ノ占有ノミヲ申立或ハ自己ノ占有ニ譲渡者ノ占有権ヲ併合シテ之ヲ申立ルコトヲ得 第三節 占有ノ効力 第七百五条 民法上ノ占有者ハ反対ノ証拠アラサル間ハ其行フ権利ヲ正当ニ有スルモノト推測ス故ニ占有者ハ常ニ此権利ニ関スル本権又ハ取戻ノ訴権ニ就テハ被告人タリ 第七百六条 正当ノ名義ニシテ善意ナル占有者ハ自身又ハ其名代ニテ天然又ハ人工ノ果実及ヒ産物ヲ土地ヨリ分離セシ時ニ之ヲ獲得ス 占有者ハ用収者ニ就キ定メタル如ク日々ニ民法上ノ果実ヲ獲得ス 占有者正当ノ名義ヲ有セスシテ善意ナルトキハ其消費シタル果実ニ就キ利益ヲ得サリシコトヲ証明スレハ之ヲ返還スルノ義務ヲ免除ス 占有者其占有シタル物又ハ権利ノ自己ニ属セサルコトヲ発見セシトキハ右ノ利益ハ将来ニ就キ止息ス又何レノ場合ニ於テモ裁判所ニ出訴シ確定ノ勝訴ト為ルトキハ其出訴ノ時ヨリ止息ス 第七百七条 悪意ノ占有者ハ尚ホ原物ニテ占有スル果実及ヒ産物若ハ其消費シ又ハ過愆ニテ損壊シタル果実及ヒ産物ノ価直並ニ収取ヲ怠リタル果実及ヒ産物ノ価直ヲ其取戻サルヽ物又ハ権利ト共ニ返還ス可シ 又取戻人ハ果実ヲ以テ通常支給スヘキ費用ヲ償還ス可シ 暴行ニ因リ若ハ隠密ニ占有スル者ハ其名義ヲ正当ノモノト信セシトキト雖果実ニ就テハ常ニ悪意ノ占有者ト推測ス 第七百八条 総テ占有者ハ善意又ハ悪意ノ別ナク必要ノ費用即物ノ保存ニ係ル費用並ニ有益ノ費用即物ノ価直ヲ増加セシ費用ハ取戻人ヨリ償還セシムルコトヲ得 如何ナル占有者ト雖奢費即純粋ノ娯楽ニ係ル費用ノ償還ヲ求ムルコトヲ得ス 第七百九条 前二条ノ場合ニ於テ占有者ハ裁判言渡ニ依リ取戻人ヨリ償還スヘキ費用ノ皆済ヲ得サル間ハ占有物ノ留置権ヲ有ス 第七百十条 占有物ノ損壊ニ就テハ悪意ノ占有者ハ何レノ場合ニ於テモ所有者ニ其賠償ヲ為スヘシ又善意ノ占有者ハ其損壊ニ就キ利益ヲ得タル場合ニ限リ利益ノ限度ニ応シ賠償ヲ為スヘシ 第七百十一条 動産並ニ不動産ノ所有権ニ就キ占有者ノ得ヘキ獲得時証ノ条件ハ第五編ニ規定ス 第七百十二条 占有者ハ占有ヲ保持シ又ハ恢復スル為メ以下ノ区別ニ循ヒ保持訴権、新工又ハ急迫ナル損害ノ訴権及ヒ恢復訴権ト称スル占有ノ訴権ヲ有ス 第七百十三条 保持訴権ハ第三ノ人ヨリ占有ニ反対スル申立ヲ以テ事実上又ハ権利上ノ妨碍ヲ被ラシメタルトキ其占有者ニ属ス 此訴権ハ妨碍ヲ拒止シ又ハ賠償セシムルヲ目的トス 此訴権ハ一個ノ不動産並ニ包括ノ動産又ハ特定ノ動産ノ占有者ニ属ス 第七百十四条 新工訴権ハ隣地ニ起作スル工事ノ成就スルトキハ占有ニ妨碍ノ生スヘキヲ以テ之ヲ拒止シ又ハ改避セシムル為メ不動産ノ占有者ニ属ス 急迫ナル損害ノ訴権ハ必要ノ予防ヲ為サヽルニ於テハ建物、樹木其他物ノ壊頽ニ因リ若ハ陂障、貯水所、水管ノ破壊ニ因リ若ハ火燭、燃質物、爆発物ノ使用ニ因リ占有不動産ニ損害ヲ受クヘキ正当ノ理由アル占有者ニ属ス此訴権ハ右ノ危害ニ就キ予防ノ方法ヲ言渡サシメ又ハ未必ノ損害賠償ノ為メ保証人ヲ差出サシムルコトヲ目的トス 第七百十五条 保持訴権及ヒ新工又ハ急迫ナル損害ノ訴権ハ安静ニシテ公然ナル民法上ノ占有者ニ非サレハ之ヲ有セス但不動産ノ占有者ニ就テハ右ノ外其占有ノ満一年継続セシコトヲ要ス 第七百十六条 恢復訴権ハ虐為、脅迫又ハ詐術ヲ以テ包括ノ動産又ハ特定ノ動産ノ全部又ハ一分ノ占有ヲ奪レタル占有者ニ属ス但其占有ハ被告人ニ対シ同一ナル瑕疵ナキコトヲ要ス 此訴権ハ横奪シタル占有ヲ特定ノ名義ニテ承継シタル人ニ対シテハ其者カ横奪ノ所為ニ干渉セシトキニ非サレハ行フコトヲ得ス 此訴権ハ民法上ノ占有者ハ勿論暫仮ノ占有者及ヒ一年未満ノ占有者ニモ属ス 第七百十七条 保持及ヒ恢復ノ訴権ハ妨碍又ハ奪失ヨリ一年内ニ非サレハ受理セス 新工訴権ハ其工事ノ終ラサル間ハ之ヲ受理ス但其工事未タ終ラスト雖占有者妨碍ヲ受ケシ時ヨリ一年ヲ経ルトキハ受理セス 急迫ナル損害ノ訴権ハ危害ノ存スル間ハ之ヲ受理ス 第七百十八条 占有ノ訴権ハ本権ノ訴権ト併セ行フコトヲ得ス 占有訴権ノ裁判官ハ双方ノ本権ニ起因シ及ヒ其権利ヲ予決スヘキ性質ノ理由ニ拠リ判決スルコトヲ得ス 且占有ノ裁判ハ本権ノ訴訟アリト雖双方本権ノ判決ヲ受クルニ至ルマテ中止スルコトヲ得ス 第七百十九条 既ニ占有ノ訴ヲ為シタル後双方ノ一方ヨリ其裁判所又ハ他ノ裁判所ニ本権ノ訴ヲ為ストキハ占有ノ確定裁判アルマテ本権ノ裁判ヲ中止ス可シ 本権訴訟ノ被告人カ第七百二十一条ニ循ヒ其訴訟中占有訴権ノ原告人ト為ルトキモ亦同シ 第七百二十条 本権ノ訴ヲ為シタル者ハ之ヲ願下クルト雖其訴ヘ以前ノ事実ニ基キ占有ノ訴ヲ為スコトヲ得ス然レトモ本権ノ訴ヘ前ニ為シタル占有ノ訴ニ就テハ原告人又ハ被告人ト為リテ之ヲ継続スルコトヲ得 如何ナル場合ニ於テモ本権ノ裁判確定シテ敗訴セシ者ハ占有訴権ヲ失フ 第七百二十一条 本権若ハ占有ノ訴権ノ被告人ハ其訴訟中原告人ト同一ナル訴権又ハ其他ノ訴権ニ因リ反訴ニテ占有訴権ノ原告人ト為ルコトヲ得 第七百二十二条 占有権ノ判明ナルトキハ裁判官ハ場合ニ従ヒ妨碍ノ拒止、横奪シタル物ノ返還、新工ノ絶止又ハ改避若ハ急迫ナル損害ノ予防方法ヲ命スヘシ又損害アリシトキハ同時ニ其賠償ヲ被告人ニ言渡スヘシ 又新工又ハ急迫ナル損害ノ訴ノ場合ニ於テハ裁判官ハ未必ノ損害ヲ審定シテ賠償金額ニ就キ保証人ヲ差出スコトヲ被告人ニ命スルヲ得 第七百二十三条 被告人ハ占有訴権ニ敗訴スト雖其裁判言渡ヲ履行セシ後本権ノ訴ヲ為スコトヲ得 若シ之ヲ履行セサルニ於テハ相当ノ保証金ヲ裁判所ノ書記局ニ寄託シテ其履行ニ代フルコトヲ得 第七百二十四条 原告人其申立タル事実ヲ証明セサル為メ占有ノ訴ニ敗訴セシトキ又ハ其訴ノ期限ニ晩レ若ハ占有ノ条件具備セサル為メ不受理ノ言渡ヲ受ケシトキト雖尚ホ本権ノ訴ヲ為スコトヲ得 第七百二十五条 占有訴権ニ関スル裁判管轄其他ノ規則ハ訴訟法ニ規定ス 第四節 占有ノ消滅 第七百二十六条 占有ノ消滅スルコト左ノ如シ 第一 自己若ハ他人ノ為メニ占有スル意思ノ止息 第二 物ノ所持又ハ権利執行ノ随意ナル棄絶若ハ法律ニ拠ル強令ノ棄絶 第三 第三ノ人ノ占有不法ニ出ルト雖原占有者ニ於テ保持訴権又ハ恢復訴権ヲ行ハスシテ一年以上継続シタル其第三ノ人ノ占有 第四 占有ニ係ル物ノ全部ノ毀壊若ハ其権利ノ消滅 第五章 地役 第七百二十七条 地役トハ一箇ノ土地ノ便益ノ為メ他人ニ属スル土地ノ負担ニテ行フ権利ヲ云フ 地役ハ法律又ハ人為ヲ以テ設定ス 第一節 法律ヲ以テ設定シタル地役 第一款 隣地ニ立入リ又ハ隣地ヲ通行スル権利 第七百二十八条 所有者ハ隣地トノ境界ニ於テ墻壁又ハ建物ヲ築造シ若ハ修復スル為メ又ハ其境界ニ接近シタル自己ノ土地ニ於テ其工事ヲ為スニ余地ナキ為メ隣地ニ立入ルコトヲ求ムルヲ得 第七百二十九条 至急又ハ必要ノ場合ヲ除クノ外築造又ハ修復ノ工事ハ隣地ノ収穫ノ害ト為ルヘキ時節若ハ其所有者ノ一時不在ナル時ニハ之ヲ為ス可ラス 如何ナル場合ニ於テモ隣人ノ承諾アルニ非サレハ築造シ又ハ修復スヘキ建物カ隣人ノ住家ニ接近スルトキト雖右工事ノ為メ其住家ニ立入ルコトヲ得ス 第七百三十条 如何ナル場合ニ於テモ立入ヲ許セシ隣人ハ工事ノ性質及ヒ時間ニ従ヒ其受ケタル妨碍ニ応シテ賠償ヲ求ムルコトヲ得 第七百三十一条 若シ一箇ノ土地カ他ノ一箇又ハ数箇ノ土地ニ繞囲セラレ公道ニ通スルコト能ハス即袋地ナルトキハ相当ノ賠償ヲ為シテ公道ニ達スルマテ其繞囲地ニ通路ヲ求ムルコトヲ得 又土地ニ公私ノ堀割又ハ河海ノ外通路アラサルトキ又ハ其土地カ公道ノ崖上崖下ニ在ルトキハ之ヲ袋地ト看做ス 第七百三十二条 袋地住居人ノ需用又ハ其土地利用ノ為メ車馬ノ使用ヲ要スルトキハ通路ノ幅之ヲ通スルニ足ラシムヘシ 通路ノ開設及ヒ保存ニ係ル工事ハ袋地ノ負担トス 第七百三十三条 通路線ヲ定ムルニ就キ関係人ノ示談調ハサルトキハ裁判所ハ成ルヘク通路ノ便宜ヲ量リ且通行地ニ損害ノ少キ様之ヲ定ム可シ 第七百三十四条 通路ノ賠償金ハ元本ニテ定ムヘシ但早晩公道ノ開設アルヘキニ由リ又ハ其他ノ事件ニ由リ右ノ通路ヲ要セサルニ至ルモノト双方又ハ裁判所ニ於テ思料スルトキハ其賠償金ハ年払ニ定ムヘシ 賠償金ヲ年払ニ定メタル場合ニ於テ袋地ノ止ミシトキハ将来通路及ヒ賠償金ヲ互ニ求ムルコトヲ得ス 元本ヲ以テ賠償金ヲ定メタル後袋地ノ止ミシトキハ供用地ノ所有者ハ其受取リシ賠償金ヲ返還シテ通路ノ地役ヲ免カルヽヲ得 第七百三十五条 双方若ハ裁判所ニ於テ賠償金ヲ年払ニ定メタル場合ニ於テ其義務ヲ負フ所有者ハ五年ノ後年払金二十倍ニ当ル元本ヲ弁済シテ其義務ヲ免カルヽコトヲ得 又供用地ノ所有者法式ニ循ヒ催促スト雖年払金ノ義務者之ヲ弁済セスシテ二年ニ過クルトキハ右ト同一ナル元本ヲ要求スルコトヲ得 第七百三十六条 土地ノ一分ノ譲渡又ハ共有地ノ分配ニ因リ袋地ヲ生セシトキハ賠償金ヲ受クルコトナクシテ其譲渡人又ハ共同分配者ヨリ通路ヲ供スヘシ此通路モ亦公道ノ開設ニ因リ袋地ノ止息スルニ従ヒ止息ス 第二款 水ノ流通、使用及ヒ引致 第七百三十七条 低地ノ所有者ハ人工ヲ用井スシテ自然高地ヨリ流出スル雨水及ヒ泉源ノ水ヲ容受スヘシ 人工ヲ以テ水ノ流通ヲ開設シ若ハ変更セシトキト雖三十年以上ヲ経又ハ其時ヲ知ルコト能ハサルトキハ其地役ヲ争訟スルコトヲ得ス 第七百三十八条 岸崖、陂障其他水ヲ湛フル工作物ノ破壊ニ因リ又ハ水道若ハ堀割ノ閉塞ニ因リ高地ニ溢レテ水力ヲ増加シ又ハ其方向ヲ変更セントスルトキハ低地ノ所有者ハ急迫ナル損害ノ告知ヲ為シ第七百十四条及ヒ第七百二十二条ニ拠リ高地ノ所有者ノ費用ヲ以テ其修復ヲ為スコトヲ得 低地ニ於テ偶然水流ノ閉塞セシトキハ高地ノ所有者ハ自費ヲ以テ平常ノ流通ニ復スルカ為メ必要ナル工事ヲ為スコトヲ得但之ヲ為スノ義務ヲ負担セス 第七百三十九条 所有者ハ家用水ハ勿論自然水ト雖工業又ハ潅漑ニ由リ其質ヲ変シタル水ヲ隣地ニ流通セシムルコトヲ得ス但第七百五十二条ニ定メタル水道ノ地役ニ係ル場合ハ此例ニ在ラス 又直ニ雨水ノ隣地ニ落ツヘキ屋蓋又ハ堆地ヲ作ルコトヲ得ス 第七百四十条 泉源ノ所有者ハ随意ニ其水ヲ使用スルコトヲ得ルハ勿論且自然ニ隣地ヘ流出スル余水ヲ隣人ニ給セサルコトヲ得但時証ニ因ル此水ノ獲得ニ就キ次節ニ規定シ並ニ鉱泉ノ利用及ヒ収益ニ就キ別ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス 第七百四十一条 泉源ノ水一邑又ハ一村住民ノ家用ニ必要ナルトキハ所有者ハ其水ノ自己ニ無用ナル部分ヲ邑村ヘ流通セシム可シ 又邑村ハ其費用ヲ以テ水ノ渟集及ヒ引致ニ必要ナル工事ヲ所有者ノ地内ニ為スコトヲ得但此工事ノ為メ賠償金ヲ払ヒ且其地内ニ永遠ノ損害ヲ致サヽルコトヲ要ス 又邑村ハ其水使用ノ為メ賠償金ヲ払フ可シ但三十年間無償ニテ之ヲ使用シタルトキハ此例ニ在ラス 第七百四十二条 其他ノ場合ニ於テ私有泉源ノ余水人ノ利益スル所ト為ラスシテ所有地外ニ流出スルトキハ其水ノ出口ニ接シタル隣人ハ前条ノ如ク必要ナル工事ヲ為シ暫仮ノ名義ニテ自己ノ地内ニ之ヲ引致スルコトヲ請求スルヲ得 第七百四十三条 第五百二十五条ニ定メタル公有ノ部分ニ入ラス又各人ニモ属セサル流水ニ接シタル土地ノ所有者ハ家用又ハ田畠ノ潅漑又ハ工業ノ為メ水ノ通路ニ於テ之ヲ使用スルコトヲ得但其水路ヲ変更スルコトヲ得ス 又右同様ノ流水カ所有者ノ地内ヲ通過スル場合ニ於テハ其所有者ハ前項同一ナル需用ノ為メ其土地内ニ於テ水路ヲ変更スルコトヲ得但所有地ヨリ其水ノ流出スル処ハ本然ノ水路ニ復ス可シ 右何レノ場合ニ於テモ沿岸ノ所有者ハ其地方ノ規則ニ循ヒ捕漁ノ権利ヲ有ス 第七百四十四条 前条ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テ其流水ノ利益ヲ受クヘキ低地ノ所有者ヨリ争訟ヲ為ストキハ民事裁判所ハ地方ノ慣習ヲ斟酌シ且家用並ニ衛生ノ需用ト農業及ヒ工業ノ利益トヲ酌量シテ裁定スヘシ 第七百四十五条 又同上ノ性質ノ流水ニ関スル一般ノ取締ハ府県庁ノ管轄ニ属ス右各庁ハ其水ノ流通及ヒ保存ニ就テハ勿論魚類ノ保存ニ就テモ亦必要ナル規則ヲ設定スルコトヲ得 第七百四十六条 同上水路ノ疏通ハ沿岸所有者ノ担任トス但其所有者ハ此事ニ就キ共ニ商議シ又ハ結社スルコトヲ得 地方庁ノ定メタル時期ニ至リ右所有者水路ノ疏通ヲ為サヽルトキハ地方庁ニ於テ之ヲ為シ其費用ハ所有者ニ担任セシムヘシ 各所有者ノ分担スヘキ費用ハ地方税ト同一ナル方法ヲ以テ徴収ス 第七百四十七条 沿岸ノ所有者ハ対岸ノ所有者ニ損害ヲ及ホスヘキトキハ自己ノ側ニ陂障ヲ築造スルコトヲ得ス 地方庁ニ於テ陂障ノ築造ヲ必要ナリト認メ且沿岸数多ノ所有者ニ益アル時ニ於テ其執行ニ就キ所有者ノ商議調ハサルトキハ前条ノ如ク地方庁ニ於テ之ヲ為シ其費用ハ所有者ニ担任セシムヘシ 第七百四十八条 前五条ノ条例ハ前記ノ流水ト同一ナル情状アル湖池ニ就テモ適用スルコトヲ得 第七百四十九条 全国又ハ地方ノ公有ニ係ル水ノ使用及ヒ取締ハ行政法ニ循ヒ上等ノ官庁又ハ地方庁ニ於テ之ヲ規定ス 第七百五十条 総テ自己ノ所有地外ニ在ル自然水又ハ人工水ヲ使用スルノ権利ヲ有スル者ハ潅漑、工業及ヒ家用ノ為メ相当ノ賠償金ヲ払ヒテ中間ノ土地ニ其水ノ通路ヲ求ムルコトヲ得 第七百五十一条 前条ノ条例ハ行政庁並ニ各人ノ許与セシ引水ニ適用ス但行政庁ノ許与セシ引水ニ就テハ期限ノ如何ヲ問ハスト雖各人ノ許与セシ引水ニ就テハ畢生間継続スルカ又ハ将来五年以上ノ定期間継続スルコトヲ要ス 第七百五十二条 沼地ノ水捌キ又ハ水乾シヨリ来ル水ノ流通及ヒ家用、農業又ハ工業ニ用井シ水ノ流出ノ為メ低地ノ所有者ハ公道若ハ公ケノ下水道又ハ水路ニ到ルマテ其通路ヲ供ス可シ 家用又ハ工業用ノ為メ汚穢シタル水ナルトキハ其通路ハ地下ニ非サレハ要求スルコトヲ得ス 第七百五十三条 水路ハ成ルヘク供用地ニ損害少キ場所ニ開設スヘシ 如何ナル場合ニ於テモ建物ノ敷地ハ勿論住家ニ接近シタル庭園ニ水路ヲ求ムルコトヲ得ス 第七百五十四条 如何ナル場合ニ於テモ水路ニ必要ナル工事ノ設立並ニ保存ハ其利益ヲ得ル所有者ノ費用ヲ以テ為スヘシ 第七百五十五条 供用地内ニ掘割ノ存スルトキハ其所有者ハ流水通路ノ為メニスル水路ノ全部又ハ一分ニ其掘割ヲ供用セント求ムルコトヲ得但掘割ノ幅此水路ニ供スルニ足リ且其水ノ性質首領地ニ供スル水ヲ汚穢セサルコトヲ要ス 又供用地ノ所有者モ首領地ノ所有者カ供用地ニ為シタル工作物ヲ右同一ノ条件ヲ以テ其水ノ通路ニ用井ルコトヲ請求スルヲ得 右何レノ場合ニ於テモ他人ノ工作物ヲ用井ル者ハ自己ノ利益ニ応シテ其設立及ヒ保存ノ費用ヲ分担ス 第七百五十六条 第七百四十三条第一項ニ循ヒ流水ヲ使用スルノ権利ヲ有スル所有者カ堰ヲ設ケテ水ヲ高ムルコトヲ要スルトキハ賠償金ヲ払ヒテ対岸ニ其堰ヲ支持スルコトヲ得 対岸ノ所有者モ其流水ヲ使用スルノ権利ヲ有スルトキハ前条ノ如ク其費用ヲ分担シテ自己ノ為メ右ノ堰ヲ用井ルコトヲ得 第三款 経界 第七百五十七条 総テ相隣ノ所有者ハ地方ノ慣習ニ従ヒ木、石、杭、溝ノ如キ所有ヲ表示スヘキ相当ノ標記ヲ以テ其相接シタル所有地ノ境界ヲ立ルコトヲ互ニ要求スルヲ得 第七百五十八条 建物ニ就キ並ニ石造、土造又ハ木造ノ囲障アル土地ニ就テハ経界ノ訴権成立セス 又公ケノ道路又ハ水流ニテ彼此分レタル土地ニ就テモ此訴権成立セス 第七百五十九条 経界ノ訴権ハ熟議又ハ裁判ニテ境界ノ定マラサル間ハ不得時証ノモノタリ 然レトモ相隣者ノ一人経界ノ要求ヲ受ケタル土地ノ全部又ハ一分ニ就キ獲得時証又ハ一年間ノ占有ヲ主張スルトキハ原告人ハ予メ恢復訴権又ハ取戻訴権ヲ行フコトヲ要ス 第七百六十条 以上ノ場合ヲ除クノ外界限ノ曖昧ナルトキハ争論アルトキハ経界ハ所有ノ証書ニ記載シタル面積及ヒ界限ニ従テ之ヲ定ム若シ其証書ナキトキハ其欠ヲ補フヘキ他ノ証拠又ハ書類ヲ以テ之ヲ定ム 若シ所有権ニ係リ争論アルトキハ予メ其事ニ就キ管轄裁判所ニ於テ其裁定ヲ受ク可シ 第七百六十一条 相隣者ノ一方ニ面積ノ不足アリテ他ノ一方ニ之ヲ有セサル場合ニ於テハ争フヘカラサル界限ニ至ルマテノ隣次者ヲ訴訟ニ参預セシメ立会ノ上総体ノ経界ヲ設ク可シ 其総体ニ就キ面積ノ余分又ハ不足アルトキハ各地所ノ広狭ニ応シテ其損益ヲ配当ス 第七百六十二条 前条ニ循ヒ土地ノ減殺ヲ為スニ就キ第七百五十八条ニ記載シタル建物並ニ囲障アル土地ヲ截取スルヲ要スルトキハ賠償金ヲ以テ其減殺ニ代フヘシ 第七百六十三条 総関係人ノ熟議ヲ以テ経界ヲ設クルトキハ適宜ニ其証書ヲ造ルヘシ此証書ハ各所有地ノ面積及ヒ界限ニ就キ各関係人ノ為メニ於ケルト之ニ対スルトヲ問ハス確定ノ権証トス 其議一致セサルトキハ裁判ヲ以テ面積及ヒ界限ヲ定メ其言渡書ニ図面ヲ添フヘシ此図面ニハ各界標ノ距離並ニ其地方ノ確定ナル標点ト各界標トノ距離ヲ記載シテ界標ヲ明示ス可シ 第七百六十四条 界標ノ代価及ヒ其設置ノ費用ハ平分シテ之ヲ境界ト為ス者ノ負担トス 測量ノ入費及ヒ証書又ハ訴訟ノ入費ハ総関係人其地所ノ広狭ニ応シテ担任ス 然レトモ不当ナリト裁判セラレタル争論ニ関スル訴訟入費ハ敗訴者ノ負担トス 第七百六十五条 経界訴権ニ関スル裁判管轄及ヒ其他ノ法式ハ訴訟法ニ規定ス 第四款 囲障 第七百六十六条 総テ所有者ハ適宜ノ材料ヲ用井テ適宜ノ高度ニ其土地ヲ囲障スルコトヲ得 然レトモ其土地カ隣人ノ立入又ハ通行ヲ許容スル法律上又ハ人為上ノ地役ニ服スルトキハ其地役ヲ行フノ権能ヲ妨クルコトヲ得ス 第七百六十七条 隣接ノ土地カ住居ニ供シ若ハ農業又ハ工業ニ供スル建物ノ間ニ庭園ヲ成ストキハ其所有者ハ囲障ノ費用ヲ隣人ニ分担セシムルコトヲ得 相隣者中ノ一人カ囲障ノ分担ニ就キ他ノ隣人ヲ遅滞ニ付セスシテ自ヲ囲障ヲ設ケ之ヲ落成シタルトキハ其隣人ニ費用ヲ分担セシムルコトヲ得ス 第七百六十八条 隣人ニ要求スルコトヲ得ル囲障ハ人畜ノ穿過ヲ防止スヘキ性質ナルコトヲ要ス 何レノ地ニ於テモ囲障ノ高度ハ極低六尺タルヘシ 囲障ノ高度ハ高地ノ表面ヨリ起算ス 第七百六十九条 保存及ヒ修復ハ共同費ヲ以テシ各其半額ヲ分担スヘシ 然レトモ相隣者ノ一人自己ノ為メ前条外ノ高度ニ囲障ヲ設ケントスルトキハ躬ラ其建築費ノ余分ヲ払ヒ常ニ之ヲ設ルコトヲ得但此場合ニ於テハ保存及ヒ修復ハ其者ノ専担トス 第五款 共用界 第七百七十条 前款ニ定メタル義務ニ拠リ又ハ双方ノ随意ナル協議ニ拠リ共同費ヲ以テ両地ノ分界線上ニ囲障ヲ作ルトキハ其性質ノ如何ヲ問ハス此囲障ハ其敷地ト共ニ不分ニテ各相隣者ニ属シ之ヲ共用界ト云フ 相隣者双方ノ建物ヲ間隔スル石造又ハ土造ノ墻壁並ニ隣接地ノ分界線上ニ共同費ヲ以テ掘開シタル溝渠又ハ設置シタル籬柵モ亦同シ 第七百七十一条 土地又ハ建物ノ囲障並ニ分界ハ其性質及ヒ所在ノ如何ニ拘ハラス共同費ヲ以テ分界線上ニ造リタル共用界ト推測ス但証書ニ因リ又ハ三十年ノ時証ニ因リ若ハ以下ニ於テ法律カ共用界ニ非サルノ推測ヲ為ス有形ナル標記ノ一ニ因リ相隣者中一人ノ為メ反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第七百七十二条 土地ニ係リテ相隣者中一人ニ所有権ノ専属スルコトヲ証明スル証書又ハ時証ナキトキニ於テ共用界タラサルノ標記ハ左ノ如シ 第一 石造、煉瓦又ハ土造ノ墻壁ニ就テハ雨水流通ノ為メ設ケタル側斜又ハ小簷、孔穴、鑿洞其他種々ノ工作物及ヒ粧飾物ノ唯一方ニ在ルコト 第二 木板又ハ竹竿ヲ以テ造リタル囲障ニ就テハ其支柱ノ唯一方ニ在ルコト 第三 溝渠ニ就テハ其泥土ヲ唯一方ニ堆積シタルコト 第四 籬柵ニ就テハ唯一地所ノミ四面ヲ閉囲シタルコト 此四箇ノ場合ニ於テハ一人ニ専属スル所有権ハ相隣者中其特別ナル工事ノ存スル方ニ在ル者又ハ四面ヲ閉囲シタル土地ノ所有者ニ属スルモノト推測ス 第七百七十三条 高度平等ナラサル二箇ノ建物ヲ間隔スル土造、石造又ハ木造ノ墻壁ニ関シ共用壁タルノ推測ハ最高ナル墻壁他ノ建物ヨリ高キ部分ニ就キ止息ス 又唯一箇ノ建物ヲ支持スル墻壁ニ関シテハ如何ナル部分ニ就テモ共用壁タルノ推測成立セス 第七百七十四条 両地ヲ間隔スル囲障其他ノ工作物ニ共用界タルノ標記ト共用界タラサルノ標記アルトキハ裁判所ハ其情状ニ従ヒ所有権ハ相隣者ノ共用ナルヤ又ハ其一人ニ専属スルヤヲ査定スヘシ 第七百七十五条 共用界ノ修復及ヒ保存ハ平分シテ各共用者ノ担任トス但一方ノ所為ヨリ損壊ノ生セシトキハ此例ニ在ラス 然レトモ第七百六十七条ニ定メタル義務上ノ囲障ニ係ラサルトキハ各共用者ハ共用界ノ権利ヲ放棄シテ保存ノ義務ヲ免ルヽコトヲ得但自己ノ所為ヲ以テ修復ヲ要スルニ至リシトキハ其費用ヲ償還スルコトヲ要ス 如何ナル場合ニ於テモ自己ノ建物ヲ支持スル墻壁ニ就テハ共用界ノ権利ヲ放棄シテ保存ノ義務ヲ免ルヽコトヲ得ス 第七百七十六条 共用界アル場合ニ於テハ各相隣者ハ其性質及ヒ用方ニ従ヒ之ヲ使用スルコトヲ得但其堅牢ヲ傷フコトヲ得ス 各相隣者ハ共用壁ノ厚サ四分ノ三ニ至ルマテ其壁ニ梁柱ヲ穿入シテ建物ヲ支持シ又ハ炉洞ヲ設ケ若ハ煙筒、水管、瓦斯管其他家用、工業用ノ為メ管ヲ通スルコトヲ得但共用壁ノ性質及ヒ其厚サ右ノ使用ニ堪フルトキニ限ルヘシ然レトモ各相隣者ハ其壁ニ孔穴ヲ鑿チ又室内用ノ為メ些少ノ鑿洞ヲモ為スコトヲ得ス 各共用者ハ共用壁ヲ高ムルコトヲ得但其壁ノ堅牢之ニ堪フルカ又ハ自己ノ費用ヲ以テ加工シ堅牢ナラシムルコトヲ要ス其高メタル部分ハ共用ノモノニ非ス 共用ノ溝渠ニ就テハ其水潦充分順流シテ渟滞ノ害ナキニ於テハ各相隣者ハ雨水、工業用水又ハ家用水ヲ放出スルコトヲ得 籬垣ニ就テハ各相隣者ハ剪伐セシ竹木ノ半分ヲ取ルコトヲ得又高幹ニ至ル樹木ノ剪伐ヲ請求スルコトヲ得 第七百七十七条 相隣者ノ一人石造、煉瓦又ハ土造ノ分界壁ヲ築造セシトキハ他ノ隣人現時ノ価ニテ土地、材料及ヒ工力ノ価半分ヲ払ヒ常ニ其全部又ハ一分ノ共用権ヲ獲得スルコトヲ得 前条第三項ニ循ヒ高メタル壁ノ部分ニ就テモ亦同シ 右ニ従ヒ壁ノ共用権ヲ得タル者ハ前条ニ記載シタル如ク之ヲ使用スルコトヲ得但人為上ノ看望ノ地役存セシトキハ其壁ノ窓ヲ掩閉スルコトヲ得ス 此規則ハ倉又ハ土蔵ニ適用スルコトヲ得ス 第六款 他人ノ所有地ニ臨ム看望及ヒ寛仮ノ亮窓 第七百七十八条 両地ノ分界線ヨリ少ナクトモ三尺ノ距離アルニ非サレハ窓窓、楼縁又ハ縁側ヲ造リテ他人ノ所有地ヲ直下ニ看望スルコトヲ得ス 分界線ニ併行スルカ又ハ角度四十五度即環線八分一ノ距離ナル建物又ハ工作物ニ存スル看望ハ直下ノ看望ト看做ス 其他四十六度ヨリ九十度ノ角度ニ至ル看望ハ分界線ヨリ一尺ノ距離ニテ設クルコトヲ得 右二箇ノ場合ニ於ケル距離ハ分界線ト看望ノ存スル建物ノ最モ突出シタル部分トノ間ヲ計算ス 第七百七十九条 前条ニ記載シタル距離ヲ遵守スルノ不便ナルトキハ目隠ヲ以テ窓戸ヲ蔽フヘシ但分界線上ニ目隠ヲ突出セシムルコトヲ得ス 目隠ヲ設クル能ハサル場合ニ於テハ寛仮ノ亮窓ニ非サレハ設クルコトヲ得ス此寛仮ノ亮窓ハ其下部少ナクトモ牀板ヨリ六尺以上ノ処ニ在リテ鉄造若ハ木造ノ格子ヲ据付ク可シ但其槅ノ距離二寸ヨリ広クスルコトヲ得ス 此場合ニ於テ隣地ノ所有者一尺又ハ其以上分界線ヲ超過シテ目隠ヲ設クルコトヲ承諾スルニ於テハ其亮窓ニ目隠ヲ要求スルコトヲ得 第七百八十条 前二条ニ設ケタル看望又ハ亮窓ノ制限ハ其建物ニ対向スル側ニ於テ隣地ノ建物ニ窓戸ナキトキハ止息ス 第七款 工作物ニ就キ必要ナル距離 第七百八十一条 自己ノ土地ニ井戸又ハ水溜ヲ作リ若ハ下用水ヲ貯ヘ又ハ人畜ノ糞ヲ貯フル窖ヲ作ラントスル所有者ハ少クトモ分界線ヨリ六尺ノ距離ヲ存スヘシ但土ノ崩壊シ又ハ水ノ漏泄スルヲ防クニ必要ナル工事ヲ為スコトヲ要ス 乾燥シテ覆蓋シタル窖ニ就テハ其距離ヲ減シテ三尺トス 水ノ通路ニ供シタル小渠、石溝又ハ小堀ニ就テハ其距離ハ少クトモ其深サノ半タルヘシ三尺以上ナルコトヲ要セス又小堀ハ分界線ノ側ヲ斜ニ削下スルカ又ハ木石ヲ以テ其側ヲ支持スヘシ 第七百八十二条 高サ三間以上ノ樹木ハ分界線ヨリ六尺ヲ距ルニ非サレハ之ヲ植付又ハ存シ置クコトヲ得ス 高サ三間以下一間以上ノ樹木ニ就テハ二尺ノ距離アルヘシ 其他ノ小樹木ハ直ニ分界線ニ逼リテ植ルコトヲ得 如何ナル場合ニ於テモ隣人ハ樹木ノ所有者ニ分界線ヨリ越出シタル樹枝ヲ剪伐スルコトヲ請求スルヲ得又自己ノ土地内ヲ侵ス樹根ヲ躬ラ截去スルコトヲ得 第七百八十三条 各地方ニ於テ古来確実ナル慣習アルトキハ前二条ノ条例ニ循ハスシテ其慣習ニ循フ 但前二条ノ条例ハ両地共用ノ分界ニモ適用ス 第七百八十四条 右ノ外近隣ノ利益ノ為メ若ハ危害ヲ生シ健康ヲ害シ又ハ障碍ヲ致スヘキ工業ヲ営厶為メ必要ナル条件ハ行政法ニ規定ス 第七款ノ通則 第七百八十五条 此節ニ定メタル所有者ノ負担及ヒ条件ハ能動、所動ヲ問ハス公ケノ無形人ノ私有財産ニ適用ス 此負担及ヒ条件ハ所動ニテハ公有財産ニ適用セスト雖其利益ノ為メ能動ニテ之ニ適用ス 第二節 人為ヲ以テ設定スル地役 第一款 地役ノ性質及ヒ其種類 第七百八十六条 相隣地ノ所有者ハ互ニ其土地ノ利益又ハ負担ニテ諸般ノ地役ヲ設定スルコトヲ得但公ケノ秩序ニ触レサルコトヲ要ス 土地ノ利益ノ為メ他ノ土地ノ所有者又ハ居住者一身ノ力作ヲ主トスル負担若ハ土地ノ負担ニテ他ノ所有者又ハ之ニ代ル者一身ノ利益ヲ主トスル権利ハ地役ト看做サス右一身ノ力作ヲ主トスル負担ハ其負担者ニ使役ヲ要求スル人権ヲ生シ又土地ノ負担ニテ一身ノ利益ヲ主トスル権利ハ使用又ハ賃借ノ物権ヲ生ス但第八百五条第二項ニ記載シタルモノヲ妨ケス 第七百八十七条 地役ハ其地所ノ何人ニ移ルヲ問ハス能動若ハ所動ニテ其地所ノ従トシテ存ス 能動ノ地役ハ首領地ト分離シテ譲渡シ賃貸シ又ハ抵当ト為スコトヲ得ス又首領地ノ地役ニ他ノ土地ノ為メ更ニ地役ヲ設クルコトヲ得ス 第七百八十八条 地役ハ不可分物トス故ニ数人首領地又ハ供用地ヲ未分ニテ有スルトキハ其一人自己ノ部分ニ就キ首領地ノ地役ヲ失ハシメ又供用地ノ地役ヲ免レシムルコトヲ得ス 首領地又ハ供用地ヲ分配シ又ハ其一分ヲ譲渡シタル場合ニ於テモ地役ハ不可分ニテ供用地ノ各分ニ存シ又ハ首領地ノ各分ヲ利ス但供用地ノ一分ニ於テスルニ非サレハ有益ニ地役ヲ行フコトヲ得ス又ハ首領地ノ一分ノ為メニ非サレハ地役ヲ利スルコト能ハサルトキハ此例ニ在ラス 第七百八十九条 首領地ノ所有者ハ自己ニ属スルモノト主張スル地役ニ就キ占有ニ係ルト本権ニ係ルトヲ問ハス聴認訴権ヲ行フコトヲ得 又供用地ナリトノ訴ヲ受ケタル土地ノ所有者ハ其争フ地役ノ執行ヲ予防シ又ハ之ヲ拒絶スル為メ占有ニ係ルト本権ニ係ルトヲ問ハス拒却訴権ヲ行フコトヲ得 右何レノ場合ニ於テモ占有ノ章ニ定メタル規則及ヒ区別ニ循フ 地役ニ就キ用収者及ヒ賃借人ノ権利、訴権並ニ義務ハ第五百六十九条、第五百七十条、第五百九十九条、第六百四十四条及ヒ第六百五十一条ニ規定ス 第七百九十条 前三条ノ規則ハ法律ヲ以テ設定シタル地役ニモ適用ス 第七百九十一条 地役ノ種別左ノ如シ 第一 継続地役、不継続地役 第二 外見地役、不外見地役 第三 有為地役、無為地役 右諸種ノ地役ハ以下三款ノ規則ニ循ヒ設定シ、執行シ及ヒ消滅ス 第七百九十二条 場所ノ位置ノミニ依リ人力ヲ要セスシテ首領地ニ永久ノ利ヲ得セシムルノ地役即間断ナク供用地ノ負担スル地役ヲ継続地役ト云フ 首領地ニ利スル為メ常ニ人力ヲ要スルノ地役ヲ不継続地役ト云フ 第七百九十三条 外面ノ工作物即標記ニ因リ見ユル地役ヲ外見地役ト云フ 反対ノ場合ニ於テハ不外見地役ト云フ 第七百九十四条 有為地役ハ左ノ如シ 第一 首領地ノ所有者供用地ヨリ若干ノ利益ヲ取用スルコトヲ得ル地役 第二 首領地ノ所有者自己ノ土地ニ於テ法律カ一般ニ隣人ノ利益ノ為メ禁止スル工事ヲ為スコトヲ得ル地役 無為地役ハ左ノ如シ 第一 土地ノ所有者カ隣地ノ所有者ニ対シ総テ所有者ノ一般ニ為スコトヲ得ヘキ所為ヲ隣地ニ於テ為スコトヲ禁止スルヲ得ル地役 第二 土地ノ所有者普通法ニ於テ自己ノ土地ニ隣地ノ為メ行フヘキコト又ハ許与スヘキコトヲ命スル所為ヲ行フコト又ハ負担スルコトヲ免ルヽヲ得ル地役 第二款 地役ノ設定 第七百九十五条 総テ地役ハ所有者間ノ合意ニ因リ又ハ遺嘱ニ因テ設定スルコトヲ得 右何レノ場合ニ於テモ双方ノ間ニ於ケルト第三ノ人ニ対スルトヲ問ハス地役ノ有効ナル為メニハ不動産物権ニ係ル有償又ハ無償ノ譲渡ノ通常規則ニ循フ 第七百九十六条 継続ニシテ外見ナル地役ハ不動産ノ所有権ヲ得ルニ就キ定メタル性質ノ占有及ヒ期限ヲ以テ時証ニ因リ獲得スルコトヲ得 隣地ヨリ水ヲ引クノ地役ニ就テハ時証ノ期限ハ之ヲ申立ル所有者カ自己ノ為メ其地ニ水ヲ渟集シ及ヒ引致スルノ用ニ供シタル外部ノ工事ヲ成セシ時ヨリ起算ス 第七百九十七条 現今分レテ二箇ト成リタル土地カ其初一人ノ所有者ニ属セシトキ其地内ニ於テ継続ニシテ外見ナル地役ヲ設定スヘキ場所ノ位置ヲ設ケ又ハ存シ置キ且其土地ヲ分チシトキ此形状ヲ変更スルコトナク又之ヲ変更スルノ約条モナキトキハ所有者ノ用方ニ因リ暗ニ其地役ヲ設定セシモノト看做ス 第七百九十八条 不継続地役及ヒ不外見地役ハ第七百九十五条ニ記載シタル二箇ノ名義中其一ニ因ラサレハ設定スルコトヲ得ス 第七百九十九条 首領地ナリト主張スル土地ノ所有者カ供用地ノ現所有者又ハ其前所有者中ノ一人ニ於テ前ニ掲載シタル三方法中ノ一ヲ以テ前来設定シタルモノト地役ヲ追認シタル証書ヲ差出スコトヲ得ルニ於テハ地役設定ノ原証書ヲ差出スニモ及ハス又時証又ハ所有者ノ用方ニ因テ地役ヲ獲得セシコトヲ直接ニ証スルニモ及ハス 第三款 地役ノ効力 第八百条 適法ニ獲得シタル地役ノ権利ハ其性質ニ従ヒ之ヲ行フニ必要ノ従タル権利及ヒ権能ヲ帯有ス 合意又ハ遺嘱ニ因リ地役ヲ設定セシトキハ合意又ハ遺嘱ノ解釈ノ普通規則ニ循ヒ又時証ニ因テ地役ヲ獲得セシトキハ其限度ハ実際占有ノ限度ニ因テ量定シ又所有者ノ用方ヨリシテ地役ノ生セシトキハ其限度ハ設定者ノ意思ヲ推測シテ之ヲ定ム 第八百一条 通行ノ地役、継続又ハ不継続ナル取水ノ地役、牧畜其外他人ノ土地ヨリ物料ヲ採取スルコトヲ得ル地役ノ場合ニ於テ設定証書又ハ設定後ノ合意ヲ以テ採取スヘキ物料ノ高並ニ地役ヲ行フ時間、場所又ハ方法ヲ定メサリシトキハ各関係人ハ常ニ先方ト立会ノ上ニテ之ヲ定ムルコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得ヘシ 此定メ方ニ就テハ裁判所ハ両地彼此ノ需用ヲ酌量シ及ヒ前来地役ヲ行ヒシ成跡ヲ参照スヘシ 第八百二条 取水ノ地役ニ服スル土地ノ所有者ハ自己ノ所為ニ因リ水ノ欠乏セシトキニ非サレハ其責ニ任セス 両地ノ需用ニ水ノ不足スル場合ニ於テハ先ツ人用及家用ニ供シ次ニ農業ノ需用ニ供シ後ニ工業ノ需用ニ供ス但総テ其土地ノ需用如何ニ応スヘシ 首領地数箇処アルトキハ其家用ニ就テハ水ノ使用ヲ共ニ分ツヘシ農業及ヒ工業ノ需用ニ就テハ先取ハ首領地ノ中最先ニ地役ヲ得タル土地ニ属ス 第八百三条 首領地ノ所有者ハ供用地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ地役ヲ行フニ就キ正シク定マリタル方法、時間及ヒ場所ヲ変更スルコトヲ得ス但其変更ニ就キ供用地ノ所有者損害ヲ受ケサルトキハ此限ニ在ラス 又供用地ノ所有者ハ首領地ノ所有者ニ損害ヲ致サスシテ自己ノ為メ右同様ノ変更ヲ為スニ正当ナル利益ヲ有スルトキハ其変更ヲ請求スルコトヲ得 第八百四条 地役ノ設定ニ就キ両地ノ一ニ工事ヲ要スルトキハ其工事ハ首領地所有者ノ負担タルヘシ但供用地所有者之ヲ負担スヘキコトヲ設定証書ニ約定シタルトキハ此例ニ在ラス 第八百五条 地役ヲ行フニ関スル工事ノ保存及ヒ修復モ亦首領地所有者ノ負担タルヘシ但供用地所有者ノ過愆ニ因リ此修復ヲ要スルニ至リシトキハ此例ニ在ラス 又供用地所有者ニ過愆ナカリシトキト雖保存及ヒ修復ヲ其負担ト為スコトヲ約スルヲ得然レトモ此場合ニ於テハ供用地所有者ハ常ニ其土地ノ地役ニ服スル部分ヲ首領地ノ所有者ニ放棄シテ此負担ヲ免ルヽコトヲ得 第八百六条 供用地所有者ハ地役ニ妨碍ヲ致サス又其便益ヲ減セサル限リハ其所有権ニ固著シタル一切正当ノ権能ヲ行フノ権利ヲ地役ノ為メ失フモノニ非ス 又供用地所有者ハ其土地ニ首領地所有者ノ地役ヲ行フ為メ設ケタル工作物ヲ便用スルコトヲ得但其工作物ニ就テ得ル便用ニ応シ並ニ其便用ヨリ生スル費用増加ノ割合ニ応シテ設立又ハ保存ノ費用ヲ分担スヘシ 第四款 地役ノ消滅 第八百七条 地役ハ左ノ諸件ニ因リ消滅ス 第一 地役ニ定メタル時間ノ満期 第二 設定ノ名義又ハ設定者ノ所有権ノ廃棄、解除並ニ取消 第三 公益ノ為メ供用地ノ引上 第四 放棄 第五 混同 第六 三十年間ノ無使用 第七 第三獲得者ノ為メ存スル供用地ノ自由ノ獲得時証 第八百八条 地役ノ放棄ハ明瞭ナルコトヲ要ス然レトモ継続地役ヲ行フ為メ供用地ニ為セシ工作物ニ就キ首領地ノ所有者其権利ヲ将来ニ保有セスシテ明瞭ナル承諾ヲ与ヘシ上其工作物ヲ破壊シ又ハ使用スヘカラサルモノト為セシトキハ地役ハ放棄ニ因リ消滅セシモノト看做ス 放棄者其不動産権ヲ譲渡スノ能力ヲ有スルトキニ非サレハ地役ノ放棄ハ有効タラス 第八百九条 首領地ト供用地ト一人ノ手ニ合併スルトキハ地役ハ混同ニ因リ消滅ス然レトモ裁判上両地合併ノ事由ヲ廃棄シ解除シ又ハ取消ストキハ地役ハ曽テ消滅セサルモノト看做ス 継続ニシテ外見ナル地役ニ関シ其地所ノ位置ニ変更ナクシテ如何ナル時ト原由トヲ問ハス再ヒ土地ヲ分ツトキハ地役ハ第七百九十七条ニ循ヒ再生ス 第八百十条 首領地ノ所有者有意ナルト否トヲ問ハス地役ヲ行ハスシテ三十年ヲ経過スルトキハ地役ハ無使用ニ因リ消滅ス 三十年ノ期限ハ不継続地役ニ係ルトキハ最終ノ使用ヨリ起算シ継続地役ニ係ルトキハ地役ノ自然ナル行用ニ有形ナル障碍ノ生セシトキヨリ起算ス 右何レノ場合ニ於テモ地役使用ノ障碍ハ供用地ニ生セシ意外ノ変災ニ起因スルトキハ首領地ノ所有者ハ自己ノ費用ヲ以テ其旧状ニ復スルコトヲ得又其障碍ハ供用地有所者ノ所為ニ起因スルトキハ其費用ヲ以テ旧状ニ復スルコトヲ得 第八百十一条 数人未分ニテ首領地ヲ有スルトキハ共有者ノ一人地役ヲ行フニ因リ他ノ共有者ノ権利ヲ保存ス 又免責時証ノ経過ヲ停止シ又ハ中断スルノ原由ハ地役ノ無使用ニ適用ス 第八百十二条 不動産権ノ獲得時証ニ就キ定メタル期限間地役ノ行ハレスシテ第三ノ人地役ノ義務ナキモノトシ供用地ヲ獲得シ及ヒ占有シタルトキハ地役ハ時証ニ因リ消滅ス 第八百十三条 地役ノ与フル利益ノ限度ハ之ヲ行フノ方法、時間又ハ場所ニ就キ無使用又ハ時証ノ効力ニ因リ減少ス 第二部 人権即債権並ニ義務ノ総則 前置条例 第八百十四条 人権即債権ハ第五百三条ニ定義シタル如ク常ニ義務ト相対ス 義務トハ一人又ハ数人ヲシテ他ノ定リタル一人又ハ数人ニ対シ事物ヲ与ヘ又ハ為シ又ハ為サヽラシムル所ノ制定法又ハ自然法ノ束縛ヲ云フ 義務ヲ負フ者ヲ債務者ト云ヒ義務ニ因リ利益ヲ受クル者ヲ債権者ト云フ 第八百十五条 制定法ノ義務ハ債務者カ其執行ノ為メ総テ法律及ヒ官憲上ノ方法殊ニ法衙ニ出訴スルノ方法ニ因リ強制ヲ受クルモノナリ 自然ノ義務ハ裁判上ノ訴権ヲ生セス其効力ハ此第二部ノ附録ニ規定ス 法律ハ純然タル道徳上ノ義務ノ執行並ニ宗教上ノ心務ノ遵守ニ干渉セス 第一章 義務ノ原由即本源 第八百十六条 義務ノ生スル原由左ノ如シ 第一 合意及ヒ契約 第二 不当即原由ノ正当ナラサル利得 第三 有意又ハ不注意ニ因リ致シタル不正ノ損害 第四 法律ノ条例 第一節 合意及ヒ契約 第八百十七条 合意トハ物権、人権ヲ問ハス権利ヲ創設シ改様シ又ハ消滅スルコトヲ目的トスル二人又ハ数人ノ意思ノ一致ヲ云フ 人権又ハ義務ノ創設ヲ合意ノ主タル目的トスルトキハ特ニ之ヲ契約ト云フ 第一款 契約又ハ合意ノ種類 第八百十八条 契約ニ双務ノモノアリ又片務ノモノアリ 結約者双方相共ニ義務ヲ負フトキハ双務ノ契約タリ 結約者中一方ノミ義務ヲ負ヒテ他ノ一方義務ヲ負ハサルトキハ片務ノ契約タリ 第八百十九条 契約ニ有償名義ノモノアリ又無償名義ノモノアリ 結約者ノ各自彼此ノ為メ又ハ第三ノ人ノ為メニ捐給ヲナストキハ有償名義ノ契約タリ 結約者中一方ハ自己ヨリ利益ヲ与ヘスシテ他ノ一方ヨリ之ヲ受クルトキハ無償名義即恩恵ノ契約タリ 第八百二十条 契約ニ唯諾ノモノアリ又実行ノモノアリ 契約ノ組成ニ就キ結約者ノ承諾ノ外他ニ要スルモノナキトキハ唯諾ノ契約タリ 承諾ノ外尚ホ契約ノ目的タル物ノ引渡ヲ要スルトキハ実行ノ契約タリ 第八百二十一条 契約ニ有式ノモノアリ又無式ノモノアリ 公ケノ証書即公正証書ニテ承諾ヲ表スルコトヲ要スルトキハ有式ノ契約タリ 総テ其他ノ場合ニ於テハ無式ノ契約タリ 第八百二十二条 契約ニ確実ノモノアリ又不確実ノモノアリ 合意ノ時ヨリ契約ノ成立及ヒ効力ノ確定ナルトキハ確実ノ契約タリ 契約ノ成立並ニ其効力ノ全部又ハ一分偶然ノ事件ニ従フトキハ不確実ノ契約タリ 第八百二十三条 契約ニ首タルモノアリ又従タルモノアリ 契約ノ成立他ノ契約ノ成立ニ拘ハラサルトキハ首タル契約タリ 右ニ反スル場合ニ於テハ従タル契約タリ 首タル契約ノ無効ハ従タル契約ノ無効ヲ帯有ス但従タル契約ノ目的首タル契約ノ無効ヲ償補スルニ在ルトキハ此例ニ在ラス 従タル契約ノ無効ハ首タル契約ノ無効ヲ帯有セス但結約者ニ於テ首従二箇ノ契約ヲ不可分ノモノト看做セシトキハ此例ニ在ラス 第八百二十四条 契約ニ有名ノモノアリ又無名ノモノアリ 有名ノ契約トハ固有ノ名称アリテ此法典又ハ商法ニ於テ特ニ其条例ヲ存スルモノヲ云フ又此有名ノ契約ハ其条例中ニ特別ノ規定ナキ場合ニ就テハ此第二部ノ規則ニ循フ 無名ノ契約ハ此部ノ普通規則ニ循フ又有名契約ト類似スル無名契約ニハ其有名契約ノ特別ナル規則ヲ適用スルコトヲ得 第二款 合意ノ成立並ニ有効ノ条件 第八百二十五条 一般ノ合意ノ成立ニハ左ノ三箇ノ条件ヲ必要トス 第一 結約者又ハ其名代人ノ承諾 第二 結約者ノ所置権ヲ有スル確定ノ目的物 第三 真実ニシテ適法ナル原由 有式ノ合意即有式ノ契約ハ右ノ外尚ホ必要ノ法式ニ循ハサレハ成立セス 第八百二十六条 合意ノ成立ニ必要ナル条件ノ外其有効ニ就キ左ノ二箇ノ条件ヲ必要トス 第一 承諾ノ瑕疵タル錯誤及ヒ暴行ノナキコト 第二 結約者ニ能力アリ又ハ其適正ナル名代アルコト 損失ハ法律ニ定メタル場合ニ非サレハ合意ノ瑕疵トナラス 第八百二十七条 承諾トハ関係人トシテ合意ニ加ハル結約者ノ意思ノ一致ヲ云フ 結約者中一人ノ承諾ナキトキハ他ノ結約者ノ間ニ於テモ合意ハ成立セス但之ニ反スル意思ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第八百二十八条 承諾ハ文書、言語又ハ形容ヲ以テ与フルコトヲ得但形容ヲ以テ之ヲ与フル場合ニハ他ノ方法ヲ以テ承諾ヲ表スル能ハス且意思ノ完全ナル確証アルコトヲ要ス 又承諾ハ情状ニ因リ暗黙ニ成ルコトアリ 第八百二十九条 承諾ハ提意即言込ノ後与フルコトヲ得但其提意ヲ変改セサル間ニ限ルヘシ 又提意ハ承諾ヲ与ヘサル間変改スルコトヲ得 右何レノ場合ニ於テモ受諾及ヒ変改ノ先後ヲ定ムルニハ双方ノ者互ニ之ヲ了知スルヤ否ニ拘ハラス只其受諾及ヒ変改ノ日附ヲ比照ス可シ 若シ受諾ノ前ニ一方ノ者死去シ又ハ約スルノ能力ヲ失フトキハ提意ハ法律上当然廃滅ス 第八百三十条 結約者双方カ錯誤ニ因リ同一ナル合意ヲ為スコトニ会得セス又ハ同一ナル目的物若ハ同一ナル原由ヲ主眼トセサルトキハ承諾ナシトス 合意ノ遠因ノ錯誤ノミニテハ無効ノ原由トナラス但一方ノ行ヒタル欺詐ニ就キ定ムルモノハ此例ニ在ラス 結約者ノ身上ニ係ル錯誤ハ恩恵ノ契約ニ於ル如ク其身上ノ観察カ合意決定ノ原由ナリシトキニ限リ其合意ノ完全ナル無効ノ原由トス 身上ノ観察ハ債務者無資力ノ危険アル有償名義ノ契約ニ於ル如ク合意ノ次キナル原由ニ過キサリシトキハ単ニ合意取消ノ原由トス 第八百三十一条 物上ノ錯誤カ其物ニ備ハルト思量セシ主タル品格ニシテ其物ヲ約権又ハ約務シ若ハ獲得又ハ譲渡スルコトニ結約者ノ決意ヲ助成シタル其品格ノ一又ハ数箇ニ係ルトキハ錯誤ハ単ニ承諾ノ瑕疵トス 物ノ本質ハ反対ノ証拠アルマテ結約者ノ意思ニ於テ主タル品格ト観察セシモノト推測ス 又物ノ本質ニ非サル品格ハ主タル品格ト看做サス但此事ニ就キ結約者其意思ヲ明言シ又ハ事情ニ因リ其意思ノ分明ナルトキハ此限ニ在ラス 時代、出処又ハ用方ノ如キ物ノ無形ナル品格ニ就テモ亦同シ 計算、名称、日附、場所ノ錯誤ハ第千八十二条ニ規定ス 第八百三十二条 法律上ノ錯誤カ合意ノ性質其法律上ノ効力又ハ其原由ニ係リ若ハ物又ハ人ノ法律上ノ品格ニ在リテ多少決意ノ原由タルトキハ事実上ノ錯誤ト同ク承諾ノ廃滅又ハ其瑕疵トス 然レトモ裁判所ハ法律上ノ錯誤ノ為メ合意ノ無効ナルコトヲ認定スルニ深ク注意シ且事情ニ因リ錯誤ノ宥恕スヘキトキニ限ルヘシ 時期ヨリ生スル法律上ノ失権ニ関シ又ハ証書ニ就キ定メタル法式ノ違背ヨリ生スル無効ニ関スルトキ又ハ其他公ケノ秩序ニ係ル法律条例ノ不諳ニ関スルトキハ法律上ノ錯誤ニ因テ結約者ノ受クヘキ責罰ヲ宥恕スルコトヲ得ス 第八百三十三条 欺詐ハ承諾ノ廃滅又ハ其瑕疵トスルコトヲ得ス但前三条ニ定メタル錯誤ヲ生スルトキハ此限ニ在ラス 其他ノ場合ニ於テハ欺詐ハ其行ヒタル者ニ対シ単ニ損害賠償ノ訴権ヲ生ス 然レトモ結約者ノ一方躬ラ欺詐ヲ行ヒ他ノ一方ノ者若シ其詐術ナクハ結約セサルヘキ事情アリシトキハ被欺者ハ要償ノ名義ヲ以テ合意ノ取消ヲ求メ且損害アリシトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得 此場合ニ於ル合意ノ取消ハ善意ナル第三ノ人ヲ害スルコトヲ得ス 第八百三十四条 合意ニ就キ結約者一方ノ唯諾ヲ其抗抵ス可カラサル虐為ニ因テ迫成シタルトキハ其暴行ハ承諾ヲ廃滅ス 人ニ思慮スルノ能力ヲ失ハシムル切迫ナル危害ノ難抗力ニ出シトキト雖之ヲ避ル為メ過度又ハ無稽ナル約束ヲ成シ若ハ無分別ナル譲与ヲ為セシトキモ亦同シ 虐為、脅迫又ハ危害ノ抗抵ス可カラサルニ非スト雖結約者カ自己又ハ他人ノ身体又ハ財産ニ即時又ハ不日ニ生スヘキ一層大ナル痛害ヲ避ル為メ結約スルコトニ決意セシトキハ其暴行ハ唯承諾ノ瑕疵トス 第八百三十五条 暴行又ハ脅迫ニ因リ身体又ハ財産ニ危害ヲ受ケントスル人カ結約者ノ配偶者其直系ノ親属又ハ直系ノ姻属ナルトキハ常ニ暴行ハ直ニ結約者ニ対シテ行フモノト同視ス 此他ノ親属、姻属又ハ外人ニ係ルトキハ裁判所ハ事情ニ従ヒ此者ニ対シ行ヒシ脅迫ハ結約者ノ承諾上ニ勢力ヲ及ホシタルヤ否ヲ事情ニ従テ査定ス 第八百三十六条 暴行ハ結約者一方ノ所為ニ出ルト第三ノ人ノ所為ニ出ルトヲ問ハス且第三ノ人ニ結約者トノ通謀ナシト雖以上ニ定メタル区別ニ従ヒ承諾ノ廃滅又ハ瑕疵トス 第八百三十七条 暴行ヲ受ケタル結約者契約ノ無効ヲ求ムルコトヲ得ル場合ニ於テ暴行者ニ只損害賠償ヲ要求シテ其契約ヲ保持スルコトヲ得 暴行ハ合意ヲ決定セシムルノ原由ニ非スシテ唯不利ノ条件ヲ受諾セシメタルトキハ合意ヲ保持スヘシ但其賠償ヲ求ムルコトヲ妨ケス 第八百三十八条 総テ暴行ノ場合ニ於テハ裁判所ハ双方ノ年齢、男女、体格、精神ノ形状及ヒ身分ヲ照察スヘシ 然レトモ卑属親ノ尊属親ニ対シ又ハ婦ノ夫ニ対スル純一ナル尊敬ノ畏惧ハ合意ヲ取消スニ足ラス 第八百三十九条 錯誤、暴行、欺詐、損失及ヒ無能力ハ之ヲ申立ル者ヨリ其事実ヲ証明ス可シ 結約者双方ニ属スル無効申立ノ訴権ハ双方ノ非理ニ基クトキト雖共ニ消滅セス但損害賠償ノ相殺ヲ妨ケス 第八百四十条 前数条ニ予定シタル場合ニ於テ無効申立ノ訴権ハ承諾ノ瑕疵アル者又ハ無能力者ニ非サレハ之ヲ有セス 然レトモ処刑ヨリ生スル無能力ハ此処刑人ト結約シタル者モ之ヲ申立ルコトヲ得 第八百四十一条 取消スコトヲ得ル合意ハ第三章第七節ニ定メタル期限内ニ其取消ヲ求メサルトキハ暗ニ確認シタルモノト看做ス 其他暗黙ナル確認ノ場合及ヒ明瞭ナル確認ノ法式ハ右同節ニ規定ス 第八百四十二条 合意ハ未来ニ係リ且存立ノ不確実ナル物ヲ目的ト為スコトヲ得此場合ニ於テ約務者ハ決シテ其成果ヲ妨碍シ又ハ減省スル事ヲ行フヲ得ス又其成果ヲ幇助スヘキ事ヲ放却シ又ハ懈怠スルコトヲ得ス 然レトモ未タ発開セサル相続ニ関シテハ其財産現所有者ノ承諾ヲ得ルト雖其相続権ヲ付与シ又ハ除去スル合意ヲ為スコトヲ得ス但法律ニ於テ明カニ設ケタル例外ノ場合ハ此限ニ在ラス 第八百四十三条 合意ハ不法若ハ不能ノ所為又ハ封作ヲ目的トスルトキハ無効トス 約務者第三ノ人ノ所為又ハ封作ヲ約シタルトキハ適法又ハ可能ノ事ナリト雖其第三ノ人ノ身上ニ権力ヲ有セサルニ於テハ不能所為ノ約束ト看做ス 然レトモ約務者ハ第三ノ人ノ所為又ハ封作ニ就キ明約ヲ以テ担保人タルコトヲ得此場合ニ於テハ約務者ハ保証人ノ義務ヲ負フヘシ 又約務者ハ第三ノ人躬ラ其約束ヲ履行セサル場合ニ就キ過代ノ約条ヲ為スコトヲ得 約務者カ第三ノ人ノ名義ヲ以テ躬ラ約束シ単ニ第三ノ人ヲシテ其約束ヲ確認セシムルコトヲ約セシトキハ約務者ハ其確認ヲ得レハ自己ノ義務ヲ免カルヘシ 第八百四十四条 合意ハ約権者正当ニシテ査定ス可キ利益ヲ有セサル時ハ原由ナキモノトシテ無効トス 約権ヲ第三ノ人ノ利益ニ為セシトキハ其約権ハ約権者ノ為メ査定スヘキ利益ナキモノト看做ス但約権者ノ為メ過代約条ヲ設ケタルトキハ此例ニ在ラス 然レトモ他人ノ利益ニ於ル約権ハ約権者自己ノ為メニ為セシ約権ノ従タル条件ナルカ又ハ約務者ノ為メニ為セシ贈与ノ従タル条件ナルトキハ其約権ハ有効トス 右二箇ノ場合ニ於テ其従タル条件ノ不執行ハ只約権者ニ合意解除ノ訴権又ハ過代約条執行ノ訴権ヲ与フ 第八百四十五条 首タリ又ハ従タル約権ハ常ニ約権者ノ相続人中一人又ハ数人ノ為メニ為スコトヲ得但相続法ニ於テ相続人中一人ヲ利シテ他者ヲ害スルコトヲ許ス限度及ヒ条件ニ循フ 又首タリ又ハ従タル約務モ約務者ノ相続人中一人又ハ数人ノ負担ニテ為スコトヲ得 第八百四十六条 前二条ニ予定シタル場合ニ於テ他人ノ利益ニ為シタル約権ハ其得益者之ヲ受諾セサル間約権者自己ノ利益ニ取回シ又ハ別人ニ之ヲ転移スルコトヲ得 第八百四十七条 合意ヲ記シタル証書中ニ其原由ヲ明示シタルト否ヲ問ハス原由ノ存セサルコト若ハ其虚妄ナルコト若ハ其不法ナルコトヲ証明スルハ被告人ノ任トス但原由ヲ明示セサリシ場合ニ於テハ被告人ハ只債権者ニ其合意ノ原由ヲ陳述セシムルコトヲ得 第三款 合意ノ効力 第一 結約者及ヒ其承継人ニ関スル合意ノ効力 第八百四十八条 適法ニ成リタル合意ハ之ヲ為セシ者ニ対シ其効力法律ニ等シ 合意ハ結約者双方ノ承諾アルニ非サレハ廃棄スルコトヲ得ス但法律ニ於テ一方ノ意思ヲ以テ其廃棄ヲ許ス場合ハ此限ニ在ラス 第八百四十九条 各人ハ合意ヲ以テ普通法ノ外ニ出テ其効力ヲ増減スルコトヲ得但公ケノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反戻スルコトアルヲ得ス 第八百五十条 合意ハ結約者カ明示セシ効力及ヒ暗ニ其意思ニ含蓄セシ効力ヲ生スルノミナラス尚ホ其合意ノ性質ニ従ヒ条理、慣習又ハ法律ノ之ニ付与スル効力ヲ生ス 合意ハ善意ヲ以テ履行ス可シ 第八百五十一条 動産、不動産ヲ問ハス有償又ハ無償ノ名義ヲ以テ確定物ヲ与フルノ合意ハ其引渡ニ関セス直ニ所有権ヲ約権者ニ転移ス但合意ニ設クルコトアル停止ノ未必条件ニ就キ後ニ規定スルモノハ此例ニ在ラス 第八百五十二条 代補物又ハ数、量、尺度ヲ以テ量定スル物ヲ与フルノ合意ハ其約シタル性質、品格及ヒ分量ヲ以テ其物ノ所有権ヲ約権者ヘ転移スルノ義務ヲ約務者ニ負ハシム此場合ニ於テ所有権ハ物ノ引渡ニ因リ又ハ双方立会ノ上為シタル指定ニ因リ転移ス 第八百五十三条 前二条ノ場合ニ於ル物ノ引渡ハ約務者ノ配慮及ヒ費用ヲ以テ約定ノ時日及ヒ場所ニ於テ之ヲ為ス可シ 引取ノ費用ハ約権者ノ負担トス 証書ノ費用ハ有償ノ合意ニ係ルトキハ双方ノ負担トシ又無償ノ合意ニ係ルトキハ得益者ノ負担トス 不動産ノ引渡ハ権証書類ノ交付及ヒ場所ノ明ケ渡シニテ完成ス但簡略ノ引渡及ヒ占有ノ改設ニ就キ第七百三条ニ記載シタルモノハ此例ニ在ラス 債権ノ引渡ハ権証書類ノ交付ニテ完成ス 引渡ノ期限ヲ定メサリシトキハ即時ニ引渡ヲ求ムルコトヲ得 引渡ノ場所ヲ定メサリシトキハ確定物ニ就テハ合意ノ時其物ノ在リシ場所ニ於テ引渡ヲ為シ又代補物ニ就テハ其物ノ指定ヲ為セシ場所ニ於テ之ヲ為スヘシ其他ノ場合ニ於テハ債務者ノ住所ニ於テ之ヲ為スヘシ 第八百五十四条 約務者ハ確定物ノ引渡ヲ為スマテ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ之ヲ保存ス可シ若シ懈怠又ハ悪意アルトキハ其損害賠償ノ責ニ任ス 然レトモ無償ノ譲与ニ係ルトキハ約務者ハ其物ノ看守ニ就キ自己ノ物ニ於ルト同一ナル配慮ヲ為スノ外責ヲ負担セス 其他債務者同上ナル配慮ノ責ノミヲ負担スル例外ノ場合ハ其適用アル各契約ノ処ニ規定ス 第八百五十五条 総テ与フルノ合意ノ目的確定物ナル場合ニ於テハ変災又ハ難抗力ヨリ来リシ滅尽又ハ損壊ハ約権者ノ損失トス但約務者危険ノ責ニ任シタルトキト停止ノ未必条件ニ就キ定メタルモノハ此例ニ在ラス又総テ物ノ増加ハ約権者ノ利益トス 然レトモ約務者引渡ヲ遅延シタル場合ニ於テ早ク其物ヲ引渡セシニ於テハ必ス滅尽又ハ損壊セサルヘキトキハ其損失ハ約務者ニ帰ス 第八百五十六条 約務者其他総テ債務者ハ左ノ事由ニ因リ付遅滞ニ至ルヘシ 第一 定期満限ノ後ニ為ス訟求若ハ法式ニ適シタル催促書又ハ要決書 第二 定期ノ唯一ナル満限但法律又ハ合意ヲ以テ明カニ其事ヲ定メタルトキニ限ルヘシ 第三 約務者定期後ニ至ラハ義務ノ執行ハ約権者ニ最早益ナキコトヲ知リテ其定期ヲ経過セシメタル所為 第八百五十七条 事ヲ為シ又ハ為サヽルノ義務ニ係ル合意ノ効力ハ次章中此義務ノ処ニ規定ス 第八百五十八条 合意ハ結約者ノ相続人其他総括承継人ノ利益トナリ又損害トナルヘシ但法律又ハ合意ヲ以テ別段ニ定メタル場合ハ此例ニ在ラス 第八百五十九条 債権者ハ其債務者ニ属スル権利ヲ伸暢シ及ヒ物権ニ係ルト人権ニ係ルトヲ問ハス其訴権ヲ行フコトヲ得 右ニ就キ債権者ハ渡方差留ノ方法ニ因リ若ハ他人ニ対シテ債務者ノ行ヒ又ハ債務者ニ対シテ他人ノ行フ訴訟ニ参加スルノ方法ニ因リ若ハ訴訟法ニ遵ヒ裁判上ノ代位ヲ得テ第三ノ人ニ対シテ行フ間接ノ訴権ニ因リ弁理ス 然レトモ債権者ハ債務者ニ属スル単純ナル法律上ノ権能又ハ特ニ債務者ノ一身ニ属スル権利ヲ行フコトヲ得ス又法律又ハ合意ヲ以テ難押物ト定メタル財産ヲ差押フルコトヲ得ス 第八百六十条 債権者ハ債務者ノ他人ノ為メ承諾シタル義務ノ効力、権利放棄又ハ財産譲渡ノ効力ヲ忍容ス但債権者ノ権利ヲ詐害スルノ所為ハ之ヲ廃棄スルコトヲ得 債務者其所為ノ債権者ニ害アルコトヲ知リテ能動分ヲ減シ又ハ所動分ヲ増シタルトキハ詐害アリトス 第八百六十一条 債権者ヲ詐害スル所為ノ取消ハ債務者ト結約セシ第三ノ人ニ対シ債権者ヨリ廃棄訴権ニ因リ訟求スルコトヲ得又転獲者ニ対シテハ次条ニ定メタル区別ニ従ヒ訟求スルコトヲ得 債務者被告又ハ原告トナリ故意ヲ以テ敗訴シタルトキハ債権者ハ訴訟法ニ遵ヒ事外故障ヲ為スコトヲ得 如何ナル場合ニ於テモ債務者ヲ訴訟ニ参預セシム可シ 被告人ニ対シ直接ニ其所為ノ廃棄ヲ得ル能ハサルトキハ被告人ハ債権者ノ為メ損害賠償ニ処セラルヘシ 第八百六十二条 取消ニ係ル所為ノ如何ニ拘ハラス債権者ハ債務者ノ詐害ノ証拠ヲ供ス可シ此外有償名義ノ所為ニ係ルトキハ債権者ハ債務者ト結約シ又ハ共ニ訴訟セシ第三ノ人其詐害ニ通謀セシコトヲ証明ス可シ 譲渡廃棄ノ訴権ハ最初ノ獲得者カ債権者ニ対シテ詐害ヲ行ヒシコトヲ知リテ其獲得者ト有償又ハ無償ノ名義ヲ以テ結約セシ転獲者ニ対シテ行フコトヲ得 第八百六十三条 廃棄ハ詐害所為ノ前ニ権利ヲ得タル債権者ニ非サレハ訟求スルコトヲ得ス然レトモ廃棄ヲ得ルトキハ其廃棄ハ区別ナク総債権者ノ利益トナルヘシ但其債権者中ニテ法律上先進取償ノ原由ヲ有スルモノハ此例ニ在ラス 第八百六十四条 廃棄訴権ハ詐害ノ所為アリシ時ヨリ起算シ三十年ヲ経過スルトキハ時証ニ因リ消滅ス然レトモ債権者詐害ヲ発見スルトキハ期限ヲ減シテ其時ヨリ十年トス 此条例ハ事外故障ニ適用ス 第二 第三ノ人ニ対スル合意ノ効力 第八百六十五条 合意ハ概シテ結約者ノ間及ヒ其承継人ニ対スルニ非サレハ効力ヲ有セス故ニ法律ニ定メタル場合ニ於テ其条件ニ従フニ非サレハ第三ノ人ノ利益トナラス又之ニ対抗スルコトヲ得ス 第八百六十六条 然レトモ所有者有体ナル動産ヲ与フルノ合意ヲ両度ニ各別ナル二人ト為シタルトキハ其二人中現ニ其物ヲ占有スル者ハ証書ノ日附ハ後ナリト雖優等トシテ其所有者トス但其合意ヲ為ス時ニ於テ最先ノ譲渡アリシコトヲ知ラス且最先合意者ノ財産管理ニ躬ラ任セサリシコトヲ要ス 此条例ハ無記名債権ニ適用スルコトヲ得 第八百六十七条 記名債権ノ譲受人ハ被譲債務者ヘ適正ニ其譲受ヲ宣示シ又ハ其債務者公正証書若ハ確定日附ノ証書ヲ以テ其譲受ヲ受諾シタル以後ニ非サレハ譲渡人ノ承継人又ハ其債務者ニ対抗スルコトヲ得ス 被譲債務者其受諾後ハ譲渡人ニ対抗スルコトヲ得シ一切ノ抗弁又ハ不受理ノ原由ヲ譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス但譲受ノ単純ナル宣示ハ被譲債務者ヲシテ其宣示後ニ生シタル抗弁ヲ失ハシムルニ過キス被譲債務者ノ受諾又ハ譲受人ノ宣示アルマテハ債務者ノ弁済又ハ其義務免除ノ合意若ハ譲渡人ノ債権者ヨリ為シタル渡方差留若ハ適正ニ宣示シ又ハ受諾シタル債権ノ新ナル獲得ハ総テ善意ニテ為シタルモノト推測シ懈怠セシ譲受人ニ対抗スルコトヲ得 関係人ノ悪意ハ其自認ニ因リ又ハ法衙ニ於テ為ス宣誓ノ拒絶ニ由ルニ非サレハ証スルコトヲ得ス然レトモ譲渡人ト通謀シタル詐害アリシトキハ其通謀ハ総テ通常ノ証拠方法ヲ以テ証スルコトヲ得 裏書ヲ以テ為ス商業手形ノ譲渡ニ特別ナル規則ハ商法ニ規定ス 第八百六十八条 財産所在地ノ管轄役所ニ別段備ヘタル簿冊ニ全文ヲ登記スヘキ書類左ノ如シ 第一 公正証書ト私署証書トヲ問ハス又有償名義ト無償名義トニ拘ハラス総テ不動産ノ所有権其他不動産上ノ物権ノ譲渡ヲ記載シタル生者間ノ証書 第二 右同一ナル権利ノ改様又ハ放棄ヲ記載シタル証書 第三 右ノ事物ニ係ル口上ノ合意ノ成立ヲ認メタル裁判宣告書 第四 不動産差押ノ上公売付権ノ裁判宣告書 第五 公益ノ為メ引上ヲ言渡シタル裁判上又ハ行政上ノ書 不動産ノ抵当及ヒ先取特権ノ公示ニ特別ナル規則ハ第四編ニ規程ス 第八百六十九条 登記ハ相当ノ手続ニ従ヒ関係人ノ請求ニ因リ其費用ヲ以テ之ヲ為スヘシ 請求人ニ登記セシ書面ノ主要ナル条目ヲ摘録シタル登記済ノ検認書ヲ渡スヘシ 又何人ニ限ラス自己ノ費用ヲ以テ不動産ニ関スル登記簿冊ノ摘録書ヲ請求スルコトヲ得 其他登記ニ関スル手続ハ訴訟法ニ規定ス 第八百七十条 登記セサル間ハ上ニ掲示セシ所為ニ因リ獲得シ改様シ又ハ取還シタル物権ハ善意ヲ以テ其物権ニ就キ外見本主ト結約シ又ハ其本主ヨリ右ノ物権ト牴触スル権利ヲ獲得シ且其証書ノ必要ナル登記又ハ書入ヲ躬ラ為サシメタル承継人ニ対抗スルコトヲ得ス 悪意及ヒ通謀ハ第八百六十七条ニ遵ヒ之ヲ証スルコトヲ得 第八百七十一条 先獲得者ノ為メ法律、裁判又ハ合意ニ因リ登記ヲ為スノ義務ヲ負ヒタル者ハ其後善意ニテ獲得者又ハ譲受人ト為リタリト雖先獲得者ニ登記ナキコトヲ対抗スルヲ得ス但其相続人及ヒ総括承継人ニ就テモ亦同シ 第八百七十二条 既ニ登記セシ譲渡ノ解除取消又ハ廃棄ニ係ル訴権ヲ善意ノ転獲者ニ対シ行フコトヲ得サル場合ニ於テハ将来原告人ニ対抗スヘキ登記又ハ書入ヲ停止スル為メ其訟求ヲ排撃ニ関スル証書ノ登記簿欄外ニ摘録スヘシ 総テ転獲者ニ対シ区別ナク右ノ訴権ヲ行フコトヲ得ルトキハ其訟求ハ排撃ニ関スル証書ノ登記簿欄外ニ之ヲ摘録セシ上ニ非サレハ受理ス可カラス 又所為ノ取消ヲ言渡セシ裁判書ハ仮リ執行ナリト雖之ヲ執行セサル前訟求書ノ登記面末尾ニ記入ス可シ且如何ナル場合ニ於テモ裁判確定ノ時ヨリ一箇月内ニ其記入ヲ為ス可シ但此規則ニ背キタルトキハ其裁判ヲ得タル者ニ十円以上百円以下ノ罰金ヲ科ス 訟求ヲ却下シ又ハ其失権ヲ言渡ストキハ其却下又ハ失権ノ裁判確定ニ至リテ訟求書ノ記入ヲ塗抹スル為メ裁判所ハ職権ヲ以テ予メ其塗抹ヲ命ス可シ 原告人願下ヲ為ストキハ関係人ノ求メニ由リ訟求書記入ノ塗抹ヲ為ス可シ 第八百七十三条 既ニ登記セシ証書ニ載セタル所為ノ解除、取消又ハ廃棄ヲ双方熟議ノ上承諾セシトキハ如何ナル場合ニ於テモ之ヲ随意ノ譲戻ト看做シ第八百六十八条乃至第八百七十一条ニ規定シタル登記ヲ為ス可シ 此登記ハ簿冊ノ保管人職権ヲ以テ取消シタル証書ノ登記面欄外ニ記入スヘシ 第八百七十四条 簿冊ニ載セタル登記及ヒ欄外記入ハ其塗抹又ハ改正ニ就キ利益ヲ有スル一切ノ関係人ヨリ裁判上之ヲ争訟スルコトヲ得 其訟求及ヒ裁判ハ第八百七十二条ニ定メタル如ク争訟ニ係ル登記面ノ欄外ニ之ヲ記入ス可シ之ニ背クトキハ同条ノ罰金ヲ科ス 関係人能力者ナルカ又ハ適法ノ名代又ハ補助ヲ受ルトキハ熟議ヲ以テ塗抹又ハ改正ヲ承諾スルコトヲ得 裁判上適正ニ命令シ又ハ熟議ヲ以テ承諾セシ塗抹又ハ改正ハ正当ニ登記シ又ハ書入タル権利ヲ有スル者ヲ抗弁ノ為メ召喚シ又ハ其者塗抹改正ニ承服セシトキニ非サレハ之ニ対抗スルコトヲ得ス 第八百七十五条 簿冊ノ保管人ハ前数条ニ指示シタル登記又ハ記入、塗抹又ハ改正ニ就キ若ハ簿冊ノ形状ヲ知ル為メノ検認書ニ就キ漏脱誤謬アルトキハ請求人又ハ関係人ニ対シ其責ニ任ス 第四款 合意ノ解釈 第八百七十六条 合意ノ解釈ニ就テハ裁判所ハ文字上ノ意義ニ拠ランヨリ寧ロ結約者双方ノ意思ヲ推求ス可シ 第八百七十七条 同一ノ言句ニシテ其意義又ハ力度各地ニ於テ異ナルトキハ結約者双方ノ住所地ニ於テ慣用スル意義ニ拠ル可シ又其住所地相異ナルトキハ契約ヲ結ヒシ地ニ於テ慣用スル意義ニ拠ル可シ 其言句二様ノ意義ニ解スルコトヲ得ルトキハ合意ノ性質及ヒ目的ニ最モ適合スル意義ニ解ス可シ 第八百七十八条 総テ合意ノ条款ハ其各条款ニ証書ノ全体ト適合スル意義ヲ付シ相ヒ通シテ之ヲ解ス可シ 一条款ヲ二様ニ解スルコトヲ得テ一ノ解釈之ニ有益ナル効力ヲ与フルトキハ効力ヲ与ヘサル解釈ニ従ハスシテ其効力ヲ与フル解釈ニ従フ可シ 第八百七十九条 合意ノ文義何程広キモ双方結約ノ時企図シタル目的ノ外ハ包含セサルモノト推測ス 又結約者カ合意ノ自然上又ハ法律上ノ効力中其一ヲ明言シ又ハ特別ナル場合ノ為メ其適用ヲ明言セシト雖唯之ヲ以テ結約者ハ慣習又ハ法律カ其合意ニ付スル効力ヲ除去シ又ハ当然其受クヘキ適用ヲ除去セシモノト推測セス 第八百八十条 如何ナル場合ニ於テモ結約者ノ意思ニ疑アルトキハ合意ヲ解釈スルニ約権者ノ為メニセスシテ約務者ノ為メニスヘシ 双務ナル合意ノ条款曖昧ニ属シ又ハ数義ニ渉ルトキハ前項規則ヲ各箇ノ条款ニ就キ別々ニ適用ス 第二節 不当ノ利得即准契約 第八百八十一条 有意ナルト無意ナルトヲ問ハス又錯誤ニ出ルト故意ニ出ルトヲ別タス総テ正当ノ原由ナクシテ他人ノ財産ヲ利シタル者ハ其不当ニ得タル利益ヲ返還ス可シ 此条例ハ以下ノ区別ニ従ヒ殊ニ左ノ事件ニ適用ス 第一 他人ノ事務ノ管理 第二 物ノ不当ナル領収即虚妄若ハ不法ノ原由又ハ成就セス若ハ滅絶セシ原由ニ因リ供給セシ物ノ領収 第三 遺嘱ノ負担アル相続ノ受諾 第四 他人ノ物ノ附添又ハ其労力ヨリ生セシ所有物ノ増加 第五 他人ノ物ノ占有者カ不法ニ得シ果実、産物其他ノ利益及ヒ占有者カ其占有セシ物ニ加ヘタル改良 第八百八十二条 合意上法律上又ハ裁判上ノ代理ナクシテ不在者又ハ其他ノ人ノ財産ニ憂慮アルトキ其事務ノ全部若ハ一分ヲ甘意ニ管理スル者ハ此管理ニ就キ本人ノ物件ヨリ獲取シタル総テノ得益及ヒ利潤ヲ返還シ且自己ノ名ニテ得タル権利及ヒ訴権ヲ本人ニ移スノ義務アリ 管理者ハ本人又ハ其相続人ノ躬ラ管理スルコトヲ得ルニ至ルマテ管理ヲ継続スルノ義務アリ 管理者ハ其管理ヲ為スニ至リシ事情ニ照シ自己ノ過愆又ハ懈怠ニ因リ本人ニ加ヘシ損害ノ責ニ任ス 第八百八十三条 又本人ハ管理者カ総テ其管理ノ為メニ為シタル必要又ハ有益ナル費用ヲ償還シ及ヒ其管理ノ為メ自身ニ負ヒタル義務ヲ弁済シ又ハ担保スヘシ 第八百八十四条 債権者ニ非サル者弁済ノ名義ヲ以テ物ノ給付ヲ得シトキハ其善意ナルト悪意ナルトヲ問ハス又弁済セシ者ノ錯誤ニ出ルト故意ニ出ルトヲ別タス其取還ニ服ス可シ 第八百八十五条 弁済ヲ収受セシ者債権者タリシト雖債務者ニ非サル者ヨリ之ヲ収受セシトキハ弁済者ノ錯誤ニ出シトキニ非サレハ取還ニ服セス 又弁済ノ後権利者カ善意ニテ其債権ノ証書ヲ毀滅セシトキモ其取還ニ服セス 右二箇ノ場合ニ於テ弁済者ハ事務管理ノ訴権ニ因リ又ハ弁済ノ処ニ述フル代位ニ因リ真ノ債務者ニ対シテ追求ヲ為スコトヲ妨ケス 第八百八十六条 真ノ債務者ヨリ真ノ債権者ニ弁済ヲ為セシトキハ債務者カ錯誤ニ因テ其弁済スヘキ物ト異ナル性質ノ物ヲ与ヘ又ハ自己ニ属セサル物ヲ与ヘシトキニ非サレハ其取還ヲ為スコトヲ得ス 期限前ニ於テ又ハ弁済ヲ為スヘキ場所ト異ナル場所ニ於テ又ハ約定物ト異ナル品格価額又ハ得用ノ物ヲ以テ弁済ヲ為セシトキハ其取還ヲ為スコトヲ得ス但双方中一方ニ錯誤アリテ其者害ヲ受ケシトキハ他ノ一方ノ利益ノ限度ニ従ヒ賠償ヲ請求スルコトヲ妨ケス 第八百八十七条 右ノ外第八百八十一条第二項ニ記載シタル給付ニ弁済ノ性質ナシト雖第八百八十四条ヲ適用ス 然レトモ不法ノ原由ノ為メ与ヘシ物ハ之ヲ与ヘシ者ニ不法ノ原由アルトキハ其取還ヲ為スコトヲ得ス 第八百八十八条 悪意ニテ第八百八十一条第二項ニ記載シタル給付ヲ収受セシ者ハ其取還ノ訴ヲ受ケシ日マテ不当ニ得タル利益ノ外尚ホ返還スヘキモノ左ノ如シ即元本ニ就テハ収受セシ時ヨリ法律上ノ利子又確定物ニ就テハ収穫ヲ怠リシトキト雖其果実及ヒ産物又収受者ノ過愆、懈怠ニ因リ生シタル滅失又ハ損壊ハ意外ノ変災又ハ難抗力ニ起因セシト雖其物ヲ給付セシ者ノ居所ニ於テ其滅尽又ハ損壊ノ生セサルヘキトキハ其賠償ヲ為ス可シ 第八百八十九条 不当ニ不動産ヲ収受シ且之ヲ他ニ譲渡シタルトキハ之ヲ給付セシ者ハ自己ノ撰択ニ因リ或ハ第三ノ占有者ニ対シテ之ヲ取戻シ或ハ収受者ニ対シテ其取還ヲ求ムルコトヲ得 収受者ノ悪意ノ場合ニ於テハ取還ニ係ルモノハ不動産ノ評価額タルヘシ又善意ノ場合ニ於テハ其不動産ニ就キ得タル代価又ハ代価ノ請求訴権タルヘシ 第三節 不正ノ損害即犯罪及ヒ准犯罪 第八百九十条 自己ノ過愆又ハ懈怠ニテ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ之ヲ償フ可シ 致害ノ所為有意ニ出ルトキハ之ヲ民事ノ犯罪トシ其無意ニ出ルトキハ之ヲ准犯罪トス 犯罪及ヒ准犯罪ノ責任ノ広狭ハ次章第二節ニ記載シタル如ク合意ノ執行上犯セシ欺詐及ヒ過愆ノ責任ト同様ニ之ヲ定ム 第八百九十一条 各人ハ自己ノ所為又ハ懈怠ニ就キ其責ニ任スルノミナラス亦自己ノ権下ニ在ル者ノ所為及ヒ懈怠ニ就キ並ニ自己ニ属スル物ニ就テモ以下ノ区別ニ従ヒ其責ニ任ス 第八百九十二条 父権ヲ行フ尊属親ハ其同居ノ幼年者タル卑属親ノ致シタル損害ノ責ニ任ス 幼年者ノ致シタル損害ニ就テハ其後見人又婦ノ致シタル損害ニ就テハ其夫右同一ノ責ニ任ス但各同居シタルトキニ限ルヘシ 瘋癲者又ハ白痴者ヲ監守スル者ハ其致シタル損害ノ責ニ任ス 教師、授業者、工場長ハ幼年ナル生徒、受業人、職工ノ致シタル損害ノ責ニ任ス但其監督スル時間ニ致シタル損害ニ限ルヘシ 此条ニ指定シタル者ノ責任ハ其致害ノ所為ヲ防止スルコト能ハサリシコトヲ証スルトキハ止息ス 第八百九十三条 主人、棟梁並ニ工事、運送其他使役ノ頭取人、官庁及ヒ私ノ事務所ハ其僕婢、職工、使用人又ハ属員其委託ヲ受ケタル職事ヲ行フニ就キ又ハ之ヲ行フノ序ニ致シタル損害ノ責ニ任ス 第八百九十四条 獣畜ノ致シタル損害ニ就テハ其所有者又ハ損害ノ時ニ之ヲ使用セシ者其責ニ任ス但意外又ハ難抗力ノ変災ニ係ルトキハ此例ニ在ラス 第八百九十五条 建物、堆地其他築造シタル工作物ノ所有者ハ修復ヲ怠リ又ハ築造ノ瑕疵アリテ其崩壊セシ為メ致シタル損害ノ責ニ任ス但築造ノ瑕疵アリシ場合ニ於テハ所有者其築造ノ頭取人ニ対シ賠償ノ追求ヲ為スコトヲ得 陂障ノ破壊ニ因リ若ハ樹木、柱竿、目隠、看板、雨樋其他建物ノ堅牢ナラサル部分ノ倒墜ニ因リ若ハ繋纜又ハ碇錨ノ完全ナラサル艦舶、舟艇ニ因リ致シタル損害ニ就テモ右同一ノ責任アリトス 第八百九十六条 幼年者ハ後見ヲ免レタルト否ヲ問ハス刑法上ノ責任ヲ免ルヘキトキト雖其有意又ハ不注意ヲ以テ致シタル不正ノ損害ノ全部又ハ一分ニ就キ民法上其責ニ任ス 又其僕婢及ヒ傭人ノ致シタル損害若ハ其所有物ノ致シタル損害ニ就キ民法上其責ニ任ス但場合ニ因リ後見人ニ対シテ追求スルコトヲ妨ケス 第八百九十七条 前数条ニ予定シタル場合ニ於テ致害者自身ニ其所為ノ責任アリト看做スヘキトキハ裁判所ハ之ニ対シ首タル裁判ヲ言渡シ又民事担当人ノ従タル義務ノ広狭ヲ定ムヘシ但致害者ニ対シ民事担当人追求権ヲ有スルハ当然ナリ 民事担当人ハ致害者ニ対シ言渡サルヘキ罰金ヲ担当セス但法律ニ於テ特ニ定メタル場合ハ此限ニ在ラス 第八百九十八条 此節ニ予定シタル諸般ノ場合ニ於テ数人一箇ノ所為ニ就キ其責ニ任シテ各自ノ過愆又ハ懈怠ノ分度ヲ知ルコト能ハサルトキハ其義務ハ一同ノ間ニ連帯タルヘシ 第八百九十九条 民事ノ犯罪又ハ准犯罪カ刑法ニ於テ罰スル犯罪ヲ組成スルトキハ犯罪者ニ就テモ亦民事担当人ニ就テモ治罪法ニ定メタル私訴ノ管轄及ヒ期満免除ノ規則ニ従フヘシ 第四節 法律ヲ原由トスル義務 第九百条 義務ノ中人ノ所為ニ拘ハラス法律ノ命スルモノアリ即左ノ如シ 或ル親属及ヒ姻属間ニ於ル養料ノ義務 宥恕又ハ免除ヲ許サヽル場合ニ於テ後見ヲ為スノ義務 共有者ノ間及ヒ相隣者ノ間ニ於ル地役外ノ義務 以上義務ノ特別ナル規則ハ其各事項ニ定ム 第二章 義務ノ効力 第九百一条 義務ノ首タル効力ハ以下第一節第二節及ヒ第三節ニ記載シタル区別ニ従ヒ其義務ノ直接ナル執行ノ為メ又其執行ナキトキハ損害賠償ノ為メ法衙ニ訴フルノ権利ヲ債権者ニ与フルニ在リ 右ノ外義務ノ効力ハ第四節ニ記載シタル如ク義務ノ諸種ノ変体ニ従テ多少ノ差等アルヘシ 第一節 直接ノ執行ヲ求ムル訴権 第九百二条 債権者カ義務ノ旨趣ニ従ヒ其義務ノ直接ナル執行ヲ請求シ且債務者ノ身体ヲ拘束セスシテ其執行ヲ得ヘキ諸般ノ場合ニ於テハ裁判所ハ左ノ如ク命ス可シ 有体物ノ引渡ニ関シ其物債務者ノ財産中ニ在ルトキハ裁判所ノ権力ヲ以テ之ヲ差押ヘテ債権者ニ引渡スヘシ 為スノ義務ノ執行ニ関シテハ裁判所ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三ノ人ニ之ヲ執行セシムルコトヲ債権者ニ允許スヘシ 為サヽルノ義務ニ関シテモ亦債務者義務ニ背キ為シタルモノヲ其費用ニテ破壊シ且将来ノ為メ適当ナル処置ヲ為スコトヲ債権者ニ允許スヘシ 右何レノ場合ニ於テモ損害アリシトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ妨ケス 債務者ニ対スル強令ノ執行方法ハ訴訟法ニ規定ス 第二節 損害賠償ノ訴権 第九百三条 債務者カ義務ヲ執行スルコトヲ拒絶シ又ハ之ヲ執行スルコト能ハサルノ責債務者ニ在ル場合ノミナラス尚ホ其執行遅延ノミノ場合ニ於テモ債権者ハ強令ノ執行欠缺スルトキハ債務者ニ対シテ損害賠償ヲ求ムルコトヲ得 法律上損害賠償ノ額ヲ定メタル場合ヲ除クノ外且双方ノ之ヲ定メサリシトキハ以下ノ区別及ヒ条件ニ従ヒ裁判所ニテ之ヲ定ムヘシ 第九百四条 債務者第八百五十六条ニ遵ヒ付遅滞ニ在ルニ非サレハ損害賠償ヲ負担セス 然レトモ為サヽルノ義務ニ係ルトキハ債務者ハ常ニ付遅滞ニ在ルヲ法律上当然トス 第九百五条 概シテ損害賠償ハ債権者ノ受ケタル損害ノ償還ト失ヒタル利得ノ填補トヲ包含ス 然レトモ義務ノ不執行又ハ遅延カ債務者ノ欺詐又ハ悪意ニ出テスシテ懈怠ヨリ生セシトキハ損害賠償ハ双方ノ者合意ノ時ニ予見シ又ハ予見スルヲ得ヘキ損害若ハ利得ノ虧失ニ非サレハ包含セス 悪意ノ場合ニ於テハ予見セサリシ損害タリトモ債務者ハ其責ニ任ス但不執行ヨリ必ス生スヘキモノニ限ルヘシ 第九百六条 損害賠償ヲ以テ本訴ノ目的トスルトキハ裁判言渡ニ其額ヲ金円ニテ定ムヘシ直接ノ執行ヲ求ムル訴権又ハ解除ノ訴権ニ附帯シテ損害賠償ヲ請求スルトキハ裁判所ハ本訴ヲ裁定スル時其損害賠償ノ清算証明ヲ得サルニ於テハ未定額ノ損害賠償ヲ言渡コトヲ得 又裁判所ハ債務者ニ直接ナル執行ヲ命スル時其執行遅延ノ期限ヲ立テ期限内一日又ハ一月ニ就キ遅延ノ賠償金ヲ定メ債権者ノ為メ之ヲ言渡スコトヲ得若シ其期限ヲ過キシトキハ執行ノ実施ヲ裁定スヘシ 前項ノ場合ニ於テ債務者ハ不執行ノ為メ賠償ノ即時清算ヲ求ムルコトヲ得 第九百七条 遅延又ハ不執行ニ関シ双方ニ過失アルトキハ裁判所ハ損害賠償ヲ定ムルニ其情状ヲ酌量スヘシ 第九百八条 双方ノ者過代約条ヲ設ケテ不執行又ハ遅延ノ為メ損害賠償ノ額ヲ予定スルコトヲ得 第九百九条 裁判官ハ決シテ過代約条ノ額ニ増加ヲ為スコトヲ得ス然レトモ一部分ノ執行アリシカ又ハ不執行若ハ遅延カ単ニ債務者ノ過愆ニ出テサリシトキハ過代約条ノ額ヲ減下スルコトヲ得 第九百十条 双務契約ノ場合ニ於テ義務ノ不執行ノ為メ過代ヲ約権セシ債権者ハ解除ノ権利ヲ失ハス但明瞭ニ其権利ヲ放棄セシトキハ此例ニ在ラス 債権者ハ単ニ執行遅延ノ為メ過代ヲ約権セシトキニ非サレハ解除ト過代トヲ兼併スルコトヲ得ス 第九百十一条 義務ノ目的金円ナルトキハ執行遅延ノ損害賠償ハ裁判所ニ於テ利子制限法ト異ナル金額ニ之ヲ定ムルコトヲ得ス但法律ニテ特定シタル場合ハ此限ニ在ラス 双方ノ者私ニ損害賠償ヲ定ムルトキハ合意上ノ利子制限額以内ニ定ムルコトヲ得ヘシト雖其以外ニ定ムルコトヲ得ス 第九百十二条 債権者前条ニ定メタル賠償ヲ求ムルニハ損失ヲ証明スルニ及ハス又債務者ハ意外ノ変災又ハ難抗力ヲ証スルコトヲ得ス 第九百十三条 遅延ノ利子ヲ生セシムル為メ必要ナル付遅滞ハ債権者ヨリ右利子ヲ裁判所ニ訟求スルカ又ハ債務者ノ特別ナル追認アルニ非サレハ成立セス但法律上当然利子ヲ生セシムル場合及ヒ通常ノ催促書其他之ニ等シキ手続ヲ以テ之ヲ生セシムルコトヲ法律上許容スル場合ハ此例ニ在ラス 第九百十四条 填補ノ利子ト遅延ノ利子トヲ問ハス要求期ニ至リタル元本ノ利子ハ特別ナル合意又ハ訟求ニ拠リ且其時以後ニ非サレハ之ヲ元本ト為シ更ニ利子ヲ生セシムルコトヲ得ス但此合意又ハ訟求ハ要求期ヨリ一箇年満期ノ後ニ在ルコトヲ要ス且毎歳此ニ同シ 然レトモ家賃、地代、無期又ハ終身年金権ノ収額並ニ果実又ハ産物返還ノ如キ要求期ニ至リタル諸入額ニ就テハ一箇年未満ノ分ト雖訟求又ハ合意ノ時ヨリ更ニ利子ヲ生セシムルコトヲ得 債務者免責ノ為メ第三ノ人ヨリ払ヒタル元本ノ利子ニ就テモ亦同シ 第三節 担保 第九百十五条 何人ニ限ラス物権又ハ人権ヲ与ヘシ者又ハ之ヲ与フルコトヲ約セシ者ニハ其譲渡前ノ原由若ハ譲渡人ノ責ニ帰スヘキ原由ニ基ク一切ノ追奪又ハ権利上ノ妨碍ニ対シ其譲渡シタル権利ノ完全ナル執行及ヒ自由ナル収益ヲ担保スルノ義務アリ 此担保ニ二箇ノ目的アリ即第三ノ人ノ申立ニ対シ譲受人ヲ防衛シ保護スルコト並ニ妨碍及ヒ追奪ヲ防止スルコト能ハサリシトキハ其損害ヲ賠償スルコト是ナリ 第九百十六条 担保ハ有償名義ノ所為ニ就テハ法律上当然存ス可シ但之ニ反スル約定アルトキハ此例ニ在ラス又無償ノ所為ニ就テハ其担保ハ之ヲ約定シタルトキニ限ル可シ 然レトモ如何ナル場合ニ於テモ又如何ナル約定ニ拠ルモ譲渡人躬ラ譲受人ニ妨碍ヲ加フルコトヲ得ス又譲渡人ハ担保ナクシテ為シタル譲渡ノ前ニ躬ラ第三ノ人ニ与ヘタル権利ニ依リ其第三ノ人ノ致ス妨碍又ハ奪取ニ就テモ均シク担保人タル可シ 譲渡人ノ相続人モ右同一ナル義務ヲ負フ可シ 第九百十七条 買主ノ為メニスル売主ノ担保、賃借人ノ為メニスル賃貸人ノ担保並ニ共同分配者互相ノ担保ニ各別ナル規則ハ其契約及ヒ所為ノ処ニ規定ス 第九百十八条 他人ト共ニ又ハ他人ノ為メニ義務ヲ負ヒタル者ハ連帯不可分及ヒ保証ノ処ニ於テ規定シタル如ク他人免責ノ為メ其弁済セシモノニ就キ担保ノ追求権ヲ有ス 又債権者中ノ一人連帯又ハ不可分ナル義務ノ全額ヲ領収セシトキハ他ノ債権者ハ領収者ニ対シ其受ケタル利益ノ分与ヲ求ムル為メ特別ノ訴権ナキニ於テハ担保ノ訴権ヲ有ス 第九百十九条 被担保者他ヨリ訴ヲ受クルトキハ訴訟法ニ規定シタル手続ニ循ヒ其訴訟ニ担保人ノ参預ヲ請求スルコトヲ得 第九百二十条 担保人ヲ訴訟ニ参預セシメサルトキハ追奪ヲ受ケシ者又ハ他人ノ債務ヲ弁済セシ者本訴ヲ以テ担保ノ履行ヲ請求スルコトヲ得但担保人前訴訟ヲ却下セシムルニ足ルヘキ抗弁方法ヲ有シタルコトヲ証スルトキハ担保ノ責ヲ免ルヘシ 第四節 義務ノ諸種ノ変体 第九百二十一条 義務ノ効力ハ以下各款ニ記シタル如ク其種類ニ従ヒ変更ス 第一 義務ノ成立ノ単純ナルトキ、有期ナルトキ又ハ未必条件ニ係ルトキ 第二 義務ノ目的ノ単一ナルトキ、択一ナルトキ又ハ任意ナルトキ 第三 債権者、債務者ノ員数単独ナルトキ又ハ許多ナルトキ 第四 義務ノ性質又ハ其執行カ可分又ハ不可分ナルトキ 能動及ヒ所動ノ連帯ノ効力並ニ合意上不可分ノ効力ハ債権ノ抵保トシテ第四編ニ規定ス 第一款 成立ノ単純ナル義務、有期ナル義務並ニ未必条件ニ係ル義務 第九百二十二条 義務ノ組成スル時ヨリ其成立確実ニシテ要求期直到スルトキハ其義務ハ単純ナリ 第九百二十三条 債権者或ル時期前ニ又ハ必到スヘキ事件ニシテ其到着期確実ナラスト雖其事件前ニ義務ノ執行ヲ請求スルコトヲ得サルトキハ其義務ハ有期ナリ 期限ヲ双方又ハ法律ニテ定ムルトキハ其期限ヲ法律上ノ期限ト云フ 債務者ノ能フヘキ時又ハ其欲スル時ニ弁済スヘシト定メタルトキハ裁判所ハ債権者ノ請求ニ因リ其事情ヲ酌量シ及ヒ双方ノ意思ヲ推測シテ其期限ヲ定ムヘシ 第九百二十四条 債務者ハ期限ヲ放棄シテ要求期前ニ其義務ヲ履行スルコトヲ得但約定ニ因リ又ハ事実ノ情状ニ因リ双方ノ為メ又ハ債権者一方ノ為メニ期限ヲ設ケタルコトヲ証スルトキハ此例ニ在ラス此末段ノ場合ニ於テハ債権者モ亦期限ヲ放棄スルコトヲ得 一方ノ者錯誤ニ因リ要求期前ニ弁済ヲ為セシ場合ハ第八百八十六条ニ規定ス 第九百二十五条 債務者ハ左ノ場合ニ於テハ法律上ノ期限ヲ失フ 第一 債務者破産セシトキ又ハ顕然無資力ト成リタルトキ 第二 債務者其財産ノ多分ヲ浪費シタルトキ又ハ他ノ債権者其多分ヲ差押ヘタルトキ 第三 債務者抵保物ヲ破壊シ若ハ減少シタルトキ又ハ其約セシ抵保物ヲ差出サヽルトキ 第四 債務者填補ノ利子ヲ払ハサルトキ 第九百二十六条 法律上ノ期限ノ有無ヲ問ハス又執行力アル証書アルトキト雖裁判所ハ債務者ノ不幸ニシテ善意ナルトキ且債権者猶予ノ為メ重大ナル損害ヲ蒙ラサルトキハ債務者ニ相当ノ猶予期限ヲ与フルコトヲ得 又裁判所ハ右同一ナル条件ニ従ヒ債務ノ一分ノ執行ヲ允許スルコトヲ得 総テ本条ニ反スル約定ハ無効トス 第九百二十七条 猶予期限ヲ得タル債務者ハ第九百二十五条ニ予定シタル原由ノ為メ此期限ヲ失フノ外尚ホ左ノ場合ニ於テモ亦之ヲ失フ 第一 債務者逃亡スルトキ又ハ住所ヲ去リテ債権者ニ其居所ヲ隠秘スルトキ 第二 債務者一年以上ノ禁錮ニ処セラレタルトキ 第三 債務者裁判言渡ヲ以テ命セラレタル条件中ノ一ヲ行ハサルトキ 第四 法律上ノ義務相殺アル場合ニ於テ債務者躬ラ其債権者ノ債権者ト成リタルトキ 猶予期限一回経過セシトキハ裁判所ハ再ヒ之ヲ延ハスコトヲ得ス 第九百二十八条 双方ノ者又ハ法律ニ於テ義務ノ成立又ハ其解除ヲ未来ニシテ不確定ナル事件ニ係ラシムルトキハ其義務ハ未必条件ノモノナリ義務ノ成立ヲ其事件ニ係ラシムル場合ニ於テハ之ヲ停止ト云ヒ又義務ノ解除ヲ其事件ニ係ラシムル場合ニ於テハ之ヲ解除ト云フ 又物権モ其首タルト従タルトヲ問ハス停止若ハ解除ノ未必条件ニ係ラシムルコトヲ得 第九百二十九条 停止ノ未必条件ハ其予想事件ノ成就スルトキハ合意ノ日ニ遡リテ効力ヲ有ス 解除ノ未必条件ノ成就スルトキハ双方各其合意前ノ地位ニ復スヘシ 第九百三十条 停止又ハ解除ノ未必条件ノ成就セサル間ハ双方各自ハ合意ノ目的物ニ就キ自己ノ権利ト同一ナル未必条件ニ係ル権利ヲ他人ニ与フルコトヲ得 然レトモ双方ノ中一方又ハ其承継人ハ第八百六十七条及ヒ第八百六十八条ニ記載シタル公示ノ方法ヲ以テ他ノ一方又ハ其承継人ニ未必条件ヲ知ラシメシトキニ非サレハ其者ニ対抗スルコトヲ得ス 第九百三十一条 解除ニ係ル権利ヲ有スル者善意ニシテ法律ニ従ヒ為シタル管理ノ所為ハ第三ノ人ノ為メ之ヲ保持ス 第三ノ人ト解除ニ係ル権利ヲ有スル者トノ受ケシ裁判ハ他ノ一方又ハ其承継人ニ於テ之ヲ申立ルコトヲ得然レトモ抗弁ノ為メ其者ヲ訟庭ニ召喚セサリシトキハ其裁判ヲ之ニ対抗スルコトヲ得ス但其裁判カ管理ノ所為ノミニ関スルトキハ此限ニ在ラス 第九百三十二条 未必条件ノ成就スルトキハ物又ハ金額ヲ引渡シ又ハ返還スヘキ者ハ未必条件ノ成就セサル間ニ収取シ又ハ要求期ニ至リタル果実、利子ヲ給付ス可シ但事情ニ因リ双方ノ意思之ニ反スル証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第九百三十三条 合意ハ其首タル目的物不能又ハ不法ナル条件ニ係ルトキハ無効ナリ 一方ノ者禁制ノ所為ヲ行フニ因リ又ハ其尽クスヘキ本分ヲ尽クサヽルニ因リ之ニ利益ヲ与フルノ条件若ハ禁制ノ所為ヲ行ハサルニ因リ又ハ其尽クスヘキ本分ヲ尽クスニ因リ之ニ害ヲ加フルノ条件ハ不法ノ未必条件ナリ 不能又ハ不法ナル条件カ合意ノ従タル効力ノミニ係ルトキハ之ニ関スル条款ハ無効ノモノナリ 第九百三十四条 偶然ノ未必条件及ヒ多少約権者ノ意思ニ任カスル未必条件ニ就キ約務者カ其成就ヲ妨ケタルトキハ之ヲ成就セシモノト看做ス 第九百三十五条 随意ノ条件即双方ノ中一方ノ意思ノミニ任カスル条件ニ就テハ他ノ一方ハ其意思ヲ述フヘキ時間ノ定限ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得此場合ニ於テ定限内ニ意思ヲ述ヘサルトキハ其条件ハ成就セサルモノトス 第九百三十六条 双方又ハ裁判所ニ於テ指有条件成就ノ時間ヲ限定セシ場合ニ於テ此定限内ニ事件ノ到来セサルトキハ其条件ハ成就セサルモノトス又条件成就ノ時間ヲ限定シタルト否ニ拘ハラス事件ノ到来セサルコト確定スルトキモ亦其条件ハ成就セサルモノトス 指無条件ノ時間ヲ限定セシ場合ニ於テ予想事件其定限内ニ到来セサルトキハ其条件ハ成就セシモノトス又定限ノ有無ニ拘ハラス事件ノ到来セサルコト確定スルトキモ亦其条件ハ成就セシモノトス 右何レノ場合ニ於テモ双方ノ定メタル期限ハ裁判官之ヲ延ハスコトヲ得ス 第九百三十七条 一方又ハ双方共ニ条件ノ成就シ若ハ成就セサル前ニ死去スルトキハ能動、所動ニ拘ハラス合意ハ其相続人ニ対シテ存スヘシ但其条件ノ性質ニ由リ又ハ双方ノ意思ニ因リ約権者又ハ約務者ノ一身ニ条件ヲ繋着セシトキハ此例ニ在ラス 第九百三十八条 右ノ外条件ハ如何ナル場合ニ於テ成就スルモノト為スヤ又如何ナル時ニ於テ成就シ又ハ成就セサルモノト為スヤノ問題ハ双方ノ明瞭又ハ暗黙ナル意思ニ従テ之ヲ決スヘシ又其条件一分ノ成就ノ効力ニ就テモ亦同シ 第九百三十九条 停止条件ノ成就セサル前ニ約務者又ハ譲渡人ノ約務シ又譲渡セシ物カ其過愆ナクシテ価額ノ全部又ハ其半分以上滅尽セシトキハ其合意ヲ不成立ノモノトシ双方共ニ如何ナル請求ヲモ為スコトヲ得ス 又解除ノ条件ニ係ル約務又ハ譲渡ニ就キ右同一ナル滅尽又ハ損壊アルトキハ約権者又ハ譲受人ノ権利確定シテ其損失ニ帰シ之カ為メ償還ヲ求ムルコトヲ得ス 同上ノ場合ニ於テ物ノ滅尽又ハ損壊其価額ノ半ハニ過キサルトキハ条件ノ成就ハ合意ノ効力ヲ生ス 第九百四十条 双方ノ中一方ノ責ニ帰スヘキ滅尽又ハ損壊ノ場合ニ於テハ他ノ一方ハ其撰択ヲ以テ合意ノ執行ニ滅尽ノ賠償ヲ併セ又ハ合意ニ賠償ヲ併セテ請求スルコトヲ得 第九百四十一条 総テ双務ノ契約ニ於テ双方ノ中一方其義務ノ全部ヲ履行セサルトキハ義務ヲ執行シ若ハ其執行ヲ為スコトヲ提出スル他ノ一方ノ為メ解除ノ条件常ニ存スヘシ 此場合ニ於テハ契約ノ解除ハ法律上当然成立セス被害者ヨリ之ヲ裁判所ニ訟求スヘシ但裁判所ハ第九百二十六条ニ従ヒ違約者ニ猶予期限ヲ与フルコトヲ得 第九百四十二条 双方ノ者ハ明瞭ナル合意ヲ以テ右解除ノ条件ヲ撤去スルコトヲ得 又双方共ニ義務ノ執行ニ就キ付遅滞ニ至ル者ニ対シ当然解除ヲ行フヘキコトヲ明約スルヲ得但遅滞者ハ解除ノ請求ヲ受ケシ後ニ非サレハ躬ラ其解除ヲ効用スルコトヲ得ス 第九百四十三条 一方ノ不執行ニ因ル被害者ハ暗黙ナル解除ノ場合ニ於テ裁判上未タ其請求ヲ為サス又ハ明約アル解除ヲ効用セサル間ハ解除ヲ放棄スルコトヲ得 第九百四十四条 裁判上ノ解除ヲ求メ又ハ法律上当然ノ解除ヲ申立ル者ハ尚ホ其受ケシ損害ノ賠償ヲ求ムルコトヲ得 第九百四十五条 売買契約ニ用井ル随意ノ停止又ハ解除ノ条件ハ第三編売買ノ章ニ規定ス 第九百四十六条 停止条件ニ係ル権利ヲ有スル者若ハ法律上ノ期限又ハ猶予期限ニ因リ執行ノ遅延スル訴権ヲ有スル者ト雖其間民法並ニ訴訟法ニ規定シタル如ク総テ其権利ノ保存処置ヲ為スコトヲ得 第二款 目的物ノ単純ナル、択一ナル又ハ任意ナル義務 第九百四十七条 義務ノ目的一箇又ハ数箇ノ確定物若ハ量定物若ハ物ノ聚集又ハ包括ニ在ルトキハ単純ノ義務ナリ 又義務ノ目的同時若ハ漸次ニ行フヘキ数箇別異ナル物ノ給付ニ在ルトキモ之ヲ単純ノモノト看做ス但其給付ヲ一回ノ合意又ハ附帯ノ合意ヲ以テ約シタルトキニ限ルヘシ 右数箇ノ場合ニ於テ債務者ハ約シタル総テノ物ヲ給付スルニ非サレハ其義務ヲ免レス 第九百四十八条 義務ノ目的二箇又ハ数箇ノ別異ナル物ニ在リテ債務者其中ノ一箇又ハ数箇ノ物ヲ給付シテ義務ヲ免ルヽトキハ択一ノ義務ナリ 給付スヘキ物ノ撰択ハ債務者ニ属ス但撰択権ヲ債権者ニ与ヘタルトキハ此例ニ在ラス 然レトモ債務者ハ択一義務ニ係ル数箇物ノ一分ヲ債権者ニ強ヒテ受取ラシムルコトヲ得ス又債権者モ其一分ヲ債務者ニ強ヒテ引渡サシムルコトヲ得ス 第九百四十九条 撰択権ノ義務者ニ属スル場合ニ於テ其過愆ニテ二箇物中其一滅尽セシトキハ義務ハ尚ホ現在ノ物上ニ存シ債務者ハ滅尽セシ物ノ価額ヲ与ヘテ義務ヲ免ルヽコトヲ得ス 二箇ノ物共ニ債務者ノ過愆ニテ逐次ニ滅尽セシトキハ債務者ハ最後ニ滅尽セシ物ノ価額ヲ払フヘシ 又二箇物共ニ同時ニ滅尽シ債務者其二物又ハ一物ノ滅尽ニ就キ過愆アリシトキハ二箇物中其一ノ価額ヲ撰択スルノ権ハ債権者ニ属ス 第九百五十条 同ク撰択権ノ債務者ニ属スル場合ニ於テ二箇物中其一債権者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債務者ハ義務ヲ免ルヘシ但債務者ニ於テ尚ホ其存在スル物ヲ与ヘテ滅尽セシ物ノ価額ヲ自己ニ償還セシムルコトヲ欲スルトキハ此例ニ在ラス 又二箇物共ニ債権者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債務者ハ自己ノ撰択ヲ以テ其中一物ノ価額ヲ自己ニ償還セシムルコトヲ得 又二箇物共ニ同時ニ滅尽シテ此一ハ債権者ノ過愆ニ出テ彼一ハ意外ノ変災ニ出シトキハ債務者ハ其義務ヲ免レ債権者ニ対シテ償還ヲ求ムルコトヲ得ス 第九百五十一条 合意ヲ以テ撰択権ヲ債権者ニ与ヘシ場合ニ於テ二箇物中其一債務者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債権者ハ尚ホ其存スル物ヲ請求シ又ハ滅尽セシ物ノ価額ヲ請求スルコトヲ得 又二箇物共ニ債務者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債権者ハ二箇物中其一ノ価額ヲ択取スルコトヲ得 又二箇物共ニ同時ニ滅尽シテ此一ハ債務者ノ過愆ニ出テ彼一ハ意外ノ変災ニ出シトキハ債権者ハ債務者ノ過愆ニ因リ滅尽セシ物ノ価額ヲ償還セシムルコトヲ得 第九百五十二条 同ク撰択権ノ債権者ニ属スル場合ニ於テ二箇物中其一債権者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債務者ハ義務ヲ免ルヘシ又二箇物共ニ同時ニ債権者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債務者ノ撰択ニテ二箇物中其一ノ価額ヲ償還セシムルコトヲ得 二箇物共ニ同時ニ滅尽セシ場合ニ於テ此一ハ債権者ノ過愆ニ出テ彼一ハ意外ノ変災ニ出シトキハ債務者ハ其義務ヲ免レ債権者ニ価額ヲ償還セシムルコトヲ得ス 第九百五十三条 撰択権ヲ有スル者債務者ナルト債権者ナルトヲ問ハス二箇物中其一意外ノ変災ニテ滅尽セシトキハ義務ハ単純ト成リ尚ホ現在ノ物上ニ存ス 又二箇物共ニ意外ノ変災ニテ滅尽セシトキハ義務ハ消滅ス 意外ノ変災又ハ難抗力ニ因リ二箇物中其一ノ価額半ハ以上損壊シ又ハ滅尽セシトキハ債務者其物ヲ撰択シテ債権者ニ与フルコトヲ得ス 第九百五十四条 撰択権ヲ有スル者死去シテ相続人数人アルトキハ其相続人ハ不可分義務ノ処ニ記シタル如ク唯一ノ撰択権ヲ行フ為メ合同スヘシ 現物提出ノ方法ヲ以テ債務者一旦撰択権ヲ行ヒ又ハ正式ニ従ヒシ訟求ヲ以テ債権者一旦之ヲ行ヒシトキハ先方ノ承諾ヲ得スシテ改択スルコトヲ得ス 第九百五十五条 前数条ニ拠リ択一ノ義務一箇ノ物上ニ存スルニ至リシトキ又ハ撰択権ヲ有スル者一物ヲ撰択セシトキハ停止ノ未必条件ニ係ル義務ニ就キ第九百二十九条ニ記シタル如ク其効力ハ既往ニ遡ルヘシ 第九百五十六条 債務者主眼トシテ一箇又ハ数箇ノ確定物ヲ与フルノ義務ヲ負フト雖他ノ一箇又ハ数箇ノ物ヲ与ヘテ其義務ヲ免ルヘキ権能ヲ有スルトキハ任意ノ義務ナリ 主眼タル義務ハ債務者ノ意ニ任カスル物ノ給付ニ因テ解除スヘキ未必条件ニ係ルモノトス 主眼タル物意外ノ変災又ハ難抗力ニ因リ滅尽セシトキハ債務者ハ其義務ヲ免ルヘシ 主眼タル物債務者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債務者ハ其価額ニ賠償ヲ添ヘテ払フヘシ但債務者ハ其意ニ任カスル物ヲ与ヘテ義務ヲ免ルヽコトヲ得 二箇物中其一債権者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債務者ハ其義務ノ免除ヲ申立テ又ハ滅尽セシ物ノ賠償ヲ求メテ尚ホ現在ノ物ヲ与フルコトヲ得 二箇物共ニ債権者ノ過愆ニテ滅尽セシトキハ債務者ハ其義務ヲ免レ且自己ノ撰択ヲ以テ其中一物ノ価額ヲ償還セシムルコトヲ得 二箇物共ニ同時ニ滅尽シテ此一ハ意外ノ変災ニ出テ彼一ハ債権者ノ過愆ニ出テヽ其過愆何レノ物ニ係ルコトヲ知ル能ハサルトキハ債務者ハ其義務ヲ免レ且自己ノ撰択ヲ以テ債権者ヲシテ二箇物中其一ノ価額ヲ償還セシムルコトヲ得 第三款 債権者及ヒ債務者ノ単独又ハ許多ナル義務 第九百五十七条 債権者及ヒ債務者各一人ナルトキハ単独ノ義務ナリ又初メヨリ数人ノ債権者若ハ数人ノ債務者アルカ又ハ双方中ノ一方死去シテ数人ノ相続人アルトキハ許多ナル義務ナリ 許多ナル義務ニ分帯ノモノアリ又連帯ノモノアリ又次款ニ記載シタル如ク不可分ノモノアリ 第九百五十八条 分帯義務ニ係ルトキハ次款ニ記載シタル如ク各債権者ハ債権中自己ノ有スル部分ニ非サレハ請求スルコトヲ得ス又各債務者ハ債務中自己ノ負担スル部分ニ非サレハ請求ヲ受ケス 連帯義務ニ係ルトキハ各債権者ハ自己ノ名ヲ以テシ自己ノ部分ニ於ルト他ノ債権者ノ名ヲ以テシ其部分ニ於ルトヲ問ハス全部ニ就キ請求スルコトヲ得又各債務者モ右同様ニ請求ヲ受クヘシ但第四編ニ記載シタル如ク各債権者ハ其収受シタルモノヽ中自己ノ得分ヲ扣除シ其余ヲ他ノ債権者ニ還付スヘシ又各債務者ハ其弁済シタルモノヽ中自己ノ担分ヲ扣除シ其余ヲ他ノ債務者ニ追求スルコトヲ得 第四款 義務ノ性質又ハ其執行ニ就キ可分又ハ不可分ナル義務 第九百五十九条 第九百五十七条ニ規定シタル単純ノ義務ハ債権者ト債務者トノ間ニ於テハ不可分義務トシテ之ヲ執行ス可シ但第九百二十六条ニ拠リ裁判所ノ職権ヲ以テ分賦弁済ヲ許容スルコトヲ得 第九百六十条 分帯義務ニ就キ各債権者ノ請求スルコトヲ得又ハ各債務者ノ請求ヲ受クヘキ真ノ部分ハ合意ニ従ヒ又ハ事実ノ情状ニ従ヒ之ヲ定ム 此部分ヲ定ムルコトヲ得サルトキハ分頭ニテ計算ス但債権又ハ債務ニ関シ各自ノ真ノ得分又ハ真ノ担分ニ落着スル為メ各人互ニ追求スルコトヲ得 第九百六十一条 債権者又ハ債務者ノ死去セシトキハ単純又ハ分帯ノ債権若ハ義務ハ各相続人ノ其相続ニ就キ受クヘキ部分ニ応シテ其間ニ分割ス 連帯義務モ亦双方ノ相続人ノ間ニ分割ス 第九百六十二条 債権者又ハ債務者ノ許多ナル義務ハ左ノ場合ニ於テハ其間ニ不可分ノモノナリ 第一 義務ノ目的物ノ性質ニ従ヒ物質上及ヒ法律上分賦執行ヲ為ス能ハサルトキ 第二 義務ノ性質分ツヘシト雖明約又ハ双方ノ企図セシ目的若ハ其他ノ事情ニ顕ハルヽ双方ノ意思ニ於テ分賦ヲ以テ執行ス可ラサルコトヲ会得シタルトキ 第九百六十三条 義務ノ性質分ツヘシト雖左ノ場合ニ於テハ尚ホ双方ノ意思ニ因リ所動ニテ不可分ノモノナリ 第一 債務者中其一人ノ手ニ在ル確定物ノ引渡ニ係ルトキハ其債務者ニ対シ全部ノ請求ヲ為スコトヲ得但此場合ニ於テ数人ノ債権者アルトキハ債務者ハ総債権者ニ対シ其義務ヲ免ルヽ為メ之ヲ訴訟ニ参預セシムルコトヲ得 第二 証書ニ於テ債務者中其一人全部ノ執行ヲ担当シタルトキハ其債務者一人ニ対シ全部ヲ請求スルコトヲ得 第九百六十四条 又第四編ニ規定シタル如ク性質上分ツヘキ債務執行ノ抵保トシテ債務者ノ連帯ニ不可分ヲ併合シテ約権スルコトヲ得 第九百六十五条 債権者中一人ニテ不可分義務ノ弁済ヲ得タル者ハ他ノ債権者ノ権利ノ分度ニ応シテ其利益ヲ分配スヘシ 又債務者中一人ニテ義務ヲ執行シタル者ハ他ノ債務者ニ対シ義務ノ原由ニ従ヒ又ハ従前彼此ノ関係ニ従ヒ各債務者ノ分担スヘキ部分ニ就キ担保ノ追求ヲ為スコトヲ得 第九百六十六条 債権者中何人ニ限ラス約定ノ如ク弁済ヲ受クルニ非サレハ他ノ債権者ノ権利ノ減少シ又ハ消滅スルコトヲ得ス 債権者中一人カ総債務者又ハ其中一人ノ義務ヲ免レシムヘキ義務ノ更改、釈放又ハ其他ノ合意ヲ為セシトキ若ハ右債権者ニ対シ法律上ノ相殺ノ原由アルトキト雖他ノ債権者ハ尚ホ債務全部ノ執行ヲ求ムルコトヲ得但第千二十三条第四項第千三十七条第二項第千四十三条第四項及ヒ第五項ニ規定シタル如ク且此諸条ニ設ケタル区別ニ従ヒ其債権者ハ右一人ノ債権者尚ホ権利ヲ有スルニ於テハ其受クヘキ価額ヲ被告債務者ニ算付スヘシ 第九百六十七条 債権者中一人ノ行ヒタル付遅滞其他債権保存ノ所為ハ他ノ債権者ニ利スヘシ 又債権者中一人ノ為メニ時証ヲ停止スル法律上ノ原由ハ他ノ債権者ノ為メ同ク時証ヲ停止ス 第九百六十八条 債務者中何人ニ限ラス他ノ債務者ノ地位ヲ加重スルコトヲ得ス又債務者中一人ノ付遅滞ヲ他ノ債務者ニ対抗スルコトヲ得ス 然レトモ債務者中一人ニ対抗スルコトヲ得ル債務ノ追認其他時証ノ中断又ハ停止ノ原由ハ同ク他ノ債務者ニ対抗スルコトヲ得 第九百六十九条 債務者中一人ノ過愆ニ因リ不可分義務ヲ執行スルコト能ハサルトキハ損害賠償又ハ約定過代ハ過愆アル者ニ非サレハ其責ニ任セス但其過代ハ可分義務ノ全部執行ヲ確保スル為メニ設ケシトキモ亦同シ 第九百七十条 第九百六十二条ノ場合ニ於テ不可分義務執行ノ為メ訴ヲ受ケタル債務者ハ他ノ債務者ト併合シテ其処分ヲ受ル為メ且之ニ対スル追従訟求ノ判決ヲ得ル為メ其債務者ヲ訴訟ニ参預セシムルニ相当ナル猶予期限ヲ請求スルコトヲ得 第三章 義務ノ消滅 第九百七十一条 義務ハ左ノ条件ニ因テ消滅ス 第一 弁済 第二 更改 第三 合意上ノ釈放 第四 相殺 第五 混同 第六 執行不能 第七 取消 第八 廃棄及ヒ解除 第九 免責時証 第一節 弁済 第九百七十二条 弁済即義務ノ旨趣ニ従ヒタル執行ハ以下第一款及ヒ第四款ニ記載シタル区別ニ因リ単純ナルモノアリ又代位ナルモノアリ 数箇ノ債務アリテ一箇ノ弁済ヲ為セシトキハ第二款ニ従ヒ之ヲ其義務ノ一箇又ハ数箇ニ充当ス 債権者弁済ヲ領収スルコト能ハス又ハ領収スルコトヲ欲セサルトキハ債務者ハ第三款ニ記載シタル如ク実物ノ提出及ヒ寄置ノ手続ニ因リ義務ヲ免ルヽコトヲ得 債務者其債権者ニ自己ノ財産ノ委棄ヲ為スコトヲ得ル場合ハ訴訟法ニ規定ス 第一款 単純ノ弁済 第九百七十三条 債務ノ連帯又ハ不可分ナルトキハ其弁済ハ債務者又ハ共同債務者中一人適正ニ為スコトヲ得ルノミナラス保証人及ヒ債務ノ抵当物ヲ所持スル第三ノ人ノ如キ追補債務者又ハ関係人モ適正ニ之ヲ為スコトヲ得 又債務ニ関係ナキ第三ノ人ト雖債務者ノ名ニテ若ハ自己ノ名ニテ弁済ヲ為スコトヲ得 第九百七十四条 義務ニ関係ノ有無ヲ問ハス第三ノ人ノ為ス弁済ノ有効ナル為メニハ債権者ノ承諾ヲ必要トセス但事ヲ為スノ義務ニ関シテ債務者ノ身上ヲ特ニ観察シタルトキハ此例ニ在ラス 又義務ニ関係ナキ第三ノ人弁済ヲ為ストキト雖債務者ノ承諾ヲ必要トセス但関係ナキ第三ノ人弁済ヲ為ス場合ニ於テ債務者及ヒ債権者共ニ承諾セサルトキハ弁済ヲ為スコトヲ得ス 第九百七十五条 弁済ヲ為セシ第三ノ人ハ法律又ハ合意ニ因リ債権者ノ権利ニ代位スル場合ニ拘ハラス尚ホ債権者其弁済ニ因リ得タル利益ノ分度ニ応シテ之ニ対シ追求スルコトヲ得 第九百七十六条 義務ノ目的量定物ノ所有権ヲ転移スルニ在ルトキハ弁済ハ其物ノ引渡ニ因ルト又ハ其他ノ方法ニ因ルトヲ問ハス其所有者ニシテ譲渡ヲ為スノ能力アル者ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス他人ノ物ヲ引渡セシトキハ双方共ニ其弁済ノ無効ナルコトヲ申述スルヲ得 譲渡ヲ為スノ能力ナキ所有者物ヲ引渡セシトキハ其者ノミ弁済ノ無効ヲ請求スルコトヲ得 右何レノ場合ニ於テモ債務者ハ有効ナル弁済ヲ提出スルニ非サレハ其引渡セシ物ヲ取還スコトヲ得ス 債権者弁済ノ為メ領収シタル動産ヲ善意ニテ消費シ又ハ譲渡セシトキハ債務者ハ其取還ヲ為スコトヲ得ス 又債権者ハ他人ノ物ノ弁済ヲ確認スルコトヲ得但真ノ所有者ヨリ取戻ノ訴権ヲ行フ場合ニ於テ債権者ニ対シ担保ノ訴権ヲ行フコトヲ妨ケス 第九百七十七条 弁済ハ債権者又ハ其名代人ニ為ス可シ但弁済ヲ受ルノ身分ヲ有セサル者ニ弁済ヲ為スト雖債権者之ヲ確認シ又ハ之ニ就キ利益セシトキハ其弁済ハ有効ナリ 第九百七十八条 真ノ債権者ニ非サル債権ノ占有者ニ債務者善意ニテ弁済ヲ為セシトキハ其弁済ハ有効ナリ 外見ナル相続人又ハ包括継産者、記名債権ノ外見ナル譲受人並ニ無記名証書ノ所持人ハ債権ノ占有者ト看做ス 第九百七十九条 領収スルノ能力ナキ債権者又ハ占有者ニ為セシ弁済ニ就テハ其者ヨリ弁済ノ無効ヲ請求スルコトヲ得但其利益セシ部分ハ此例ニ在ラス 第九百八十条 訴訟法ニ遵ヒ適正ニ行ヒ又正ク継続シタル債務ノ弁済差留ノ後弁済ヲ為セシトキハ差留債権者ハ其被リタル損害ノ分度ニ応シ其差留ヲ受ケタル債務者ヲシテ更ニ弁済ヲ為サシムルコトヲ得但右債務者ハ最初ノ弁済ヲ領収セシ債権者ニ対シ其追求ヲ為スコトヲ妨ケス 第九百八十一条 債権者ハ債務者ノ提出セシ物其受取ルヘキ物ト異ナルトキハ価額超過スト雖弁済ノ為メ之ヲ受取ルニ及ハス 又債務者ハ債権者ノ要求スル物其弁済スヘキ物ト異ナルトキハ価額低下ナリト雖之ヲ与フルニ及ハス 又代補物ニ係ルトキハ債務者ハ品格最良ナル物ヲ与フルニ及ハス又債権者ハ品格最悪ナル物ヲ受取ルニ及ハス 第九百八十二条 双方一致ニテ弁済ノ為メ金円ノ代リニ物又ハ物ノ代リニ金円又ハ此物ノ代リニ他物ヲ与ヘ又ハ約セシトキハ原義務ハ更改シタルモノト看做シテ其所為ハ場合ニ因リ売買又ハ交換ノ規則ニ循フ 第九百八十三条 確定物ノ債務者ハ引渡ヲ為スヘキ時ノ現状ニテ之ヲ引渡シ其義務ヲ免ル可シ但未必条件ニ係ル義務ノ危険担当ノ事ニ就キ第九百三十九条ニ記載シタルモノハ此例ニ在ラス 債務者ノ費用ヲ以テ物ヲ保存シ又ハ改良シ若ハ其過愆又ハ懈怠ニ因リ之ヲ毀損セシトキハ第一章第二節及ヒ第三節ニ遵ヒ双方ノ間彼此賠償ヲ負担スヘシ 第九百八十四条 債務ノ目的金円ナルトキハ債務者ハ其撰択ニ従ヒ法律上通用貨タル金銀ノ国幣又ハ紙幣ヲ払ヒテ其義務ヲ免ルヘシ 債務者ハ貨幣ノ名目上ノ価格又ハ其正味上ノ割合ニ於テ法律上ノ変更アルニ拘ハラス約定ノ円数ニ非サレハ負担セス 右二箇ノ規則ノ一ニ違フ合意ハ無効トス但第九百八十六条第二項ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス 第九百八十五条 然レトモ弁済期ニ至リ兌換市価ニ於テ貨幣ト紙幣ノ間騰貴又ハ下落ノ差アルトキハ債務者ハ法律上ノ通用貨ヲ平均シ其価額ヲ適宜ノ貨幣ニテ弁済シ双方間其差ヲ填補スヘキコトヲ約スルヲ得 第九百八十六条 義務ノ額数ヲ金貨又ハ銀貨幾円ト定メシトキハ債務者ハ常ニ他ノ通貨ヲ兌換市価ニテ弁済シ其義務ヲ免ルヽコトヲ得但其市価ノ差ヨリ生スル損益ハ債務者ニ帰ス 義務ノ額数ヲ金貨又ハ銀貨ニテ弁済スヘキコトヲ約権セシトキモ亦同シ 外国ノ貨幣ニテ弁済ヲ為スヘキコトヲ約シタルトキモ債務者ハ常ニ右両項ノ規則ニ従ヒ通貨ニテ其価額ヲ給付シテ義務ヲ免ルヽコトヲ得 第九百八十七条 銅貨ハ五円以上ノ弁済ニ又五十銭以下ノ銀貨ハ五十円以上ノ弁済ニ給付スルコトヲ得ス但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス 第九百八十八条 金円ノ貸借ニ特別ナル規則ハ第三編其契約ノ章ニ定ム 第九百八十九条 双方ニ於テ弁済ヲ為スヘキ場所ヲ定メサリシトキハ債務者ノ本住所ニ於テ弁済ヲ為スヘシ但或ル契約ニ就キ後ニ規定スルモノ並ニ第八百五十三条ニ従ヒ確定物ノ引渡ニ係ルモノハ此例ニ在ラス 双方中其住所ニ於テ弁済ヲ為スヘキ者詐害スルノ意ナク転住セシトキハ兌換市価ノ差並ニ人ノ往返又ハ物ノ運送ニ係ル補充費ヲ他ノ一方ニ算付スヘシ 其他弁済ノ費用ハ債務者ノ負担トス 第九百九十条 弁済ヲ為スヘキ時期ハ前第九百二十三条乃至第九百二十七条ニ定ム 弁済ノ為メ定メタル日国祭日ニ当ルトキハ其翌日ニ非サレハ弁済ヲ請求スルコトヲ得ス 第二款 弁済ノ充当 第九百九十一条 一人ノ債権者ニ対シ債務者性質ノ同キ数箇ノ義務ヲ負ヒテ皆済スルニ充タサル弁済ヲ為ストキハ其弁済ノ時数箇中何レノ義務ヲ弁済スルノ意ナルヤヲ明言シテ其充当ヲ受取証書ニ記入セシムルコトヲ得 然レトモ債務者ハ債権者ノ承諾ヲ得ルニ非サレハ債権者ノ為メ設ケタル期限未満ノ債務ニ充当ヲ為シ又ハ費用及ヒ利子ニ先チ元本ニ充当ヲ為シ又ハ数箇ノ義務ニ分派シテ充当ヲ為スコトヲ得ス 第九百九十二条 債務者有効ナル充当ヲ為サヽルトキハ債権者躬ラ自由ニ受取証書ニ弁済ノ充当ヲ為スコトヲ得但会社ノ契約ニ関シテ定ムルモノハ此例ニ在ラス 債務者異議ナク又異議ヲ遺サスシテ受取証書ヲ領受セシトキハ自己ノ錯誤アルカ若ハ債権者ノ行ヒシ詐害又ハ欺騙アルニ非サレハ充当ヲ批難スルコトヲ得ス 第九百九十三条 債務者ニ於テモ亦債権者ニ於テモ有効ニ充当ヲ為サヽリシトキハ法律上当然充当スルコト左ノ如シ 第一 期限未満ノ義務ヲ後ニシテ満期ノ義務ヲ先ニス 第二 元本ヲ後ニシテ費用及ヒ利子ヲ先ニス 第三 数箇ノ債務皆弁済期ニ至リ又ハ皆弁済期ニ至ラサルトキハ債務者弁済スルニ就キ最モ利益アル債務ヲ先ニス 第四 此債務ヲ弁済スルヨリモ彼債務ヲ弁済スルニ就キ別ニ利益ナキトキハ最初満期ニ至リシ債務又ハ満期ニ最近ナル債務ヲ先ニス 第五 諸事均同ナルトキハ各債務ノ額数ニ分充ス 第九百九十四条 前数条ノ規則ハ出入勘定ノ払込ニ適用セス此払込ハ単ニ之ヲ為ス者ノ貸分ニ記入ス 第三款 弁済ノ提出及ヒ寄置 第九百九十五条 債権者弁済ヲ受取ルコトヲ欲セス又ハ受取ルコト能ハサルトキハ債務者ハ以下ノ区別ニ従ヒ提出及ヒ寄置ノ手続ヲ以テ義務ヲ免ルヽコトヲ得 第九百九十六条 第一 金円ノ債務ニ係ルトキハ提出ハ実物ヲ以テシ即貨幣ノ指出ト共ニ行フ可シ 第二 確定物ノ債務ニ係リ其所在地ニ於テ引渡スヘキトキハ債務者ハ債権者ニ之ヲ収去スヘキ催促状ヲ送ルヘシ 第三 確定物ヲ債権者ノ住所又ハ其他ノ場所ニ於テ引渡スヘキ場合ニ係リ且其運送ノ多費、困難又ハ危険ナルニ於テハ債務者ハ合意ニ従ヒ直ニ引渡ヲ実行スルニ差支ナキコトノ申告ヲ以テ提出トス 第四 量定物ニ係ルトキモ亦同シ 第五 債権者ノ立会又ハ参同ヲ要スル為スコトノ義務ニ係ルトキハ債務者ハ常ニ其義務ヲ執行スルニ差支ナキコトヲ申告スルヲ以テ足レリトス 第九百九十七条 提出ハ右ノ外尚ホ弁済有効ノ為メ以上ニ記載シタル条件ヲ具備シ且訴訟法ニ定メタル手続及ヒ条件ニ従ヒテ之ヲ為スニ非サレハ有効ナラス 第九百九十八条 有益ノ時間ニ為セシ有効ナル提出ハ法律ヲ以テ定メ又ハ合意ヲ以テ約シタル失権、解除又ハ責罰ヲ防止ス 又提出ハ付遅滞ヲ防止シ又既ニ付遅滞アルトキハ将来ノ為メ其効力ヲ止息セシメ且遅延利子ノ発生ヲ絶止ス 第九百九十九条 債権者提出ヲ領収スルコトヲ拒ムトキハ債務者ハ其金額ヲ相当ノ官庫ニ寄置スルコトヲ得但其寄託ノ日マテ債務ヨリ生セシ填補利子ヲ右金額ニ添附スヘシ 確定物又ハ量定物ニ係ルトキハ債務者ハ其物ヲ寄託スヘキ場所及ヒ其監守人又ハ預リ人ノ指定ヲ裁判所ニ請求スヘシ 其他寄置ノ手続及ヒ条件ハ訴訟法ニ規定ス 第千条 有効ニ為セシ寄置ハ債務者ノ義務ヲ免除シ且躬ラ意外ノ変災ノ責ニ任セシトキト雖其物ノ危険ヲ債権者ニ移帰スヘシ 然レトモ債権者其寄置ヲ受諾セサルカ又ハ債務者ノ請求ニ因リ確定裁判ノ効力アル裁判ヲ以テ之ヲ有効ナリト宣告セサル間ハ債務者寄置物ヲ引取ルコトヲ得テ其義務ノ免除ハ不成立ノモノト看做ス 債権者受諾ノ後又ハ寄置有効ナル確定裁判ノ後ト雖債務者ハ尚ホ債権者ノ承諾ヲ得テ寄置物ヲ引取ルコトヲ得但共同債務者及ヒ保証人ノ免除並ニ動産質及ヒ抵当権ノ消滅其他寄置物ニ就キ債権者ノ債権者ヨリ行ヒタル渡方差留ノ効力ヲ妨クルコトヲ得ス 第四款 代位弁済 第千一条 第三ノ人代位ヲ以テ弁済スルトキハ債務者ハ債権者ニ対シ其義務ヲ免レ債権ハ其担保及ヒ効力ト共ニ第三ノ人ニ転移ス但其場合ニ従ヒ事務管理又ハ代理ノ訴権ヲ行フコトヲ妨ケス 代位ハ以下ノ区別ニ従ヒ債権者、債務者又ハ法律ヨリ付与スルモノアリ 第千二条 債権者ノ付与セシ代位ハ受取書中ニ明示スルニ非サレハ有効ナラス但第三ノ人其債務ニ就キ関係ヲ有スルヤ否ヲ問ハス又自己若ハ債務者ノ名ヲ以テ弁済スルヲ分タス 第千三条 債務者ハ債権者ノ承諾ヲ得スト雖自己ノ債務弁済ノ為メニ必要ナル金額又ハ価額ヲ貸与スル第三ノ人ヲ債権者ノ権利ニ代位セシムルコトヲ得 右ニ就キ借用証書ニ其用方ヲ記載シ又受取書ニ弁済ノ為メ受ケシ価額ノ出処ヲ記載スヘシ 第三ノ人ニ対シテ此所為ノ証拠ト為スヘキモノハ公正証書又ハ確定ノ日附アル証書ニ限ルヘシ 然レトモ借用ト弁済トノ間ニ経過セシ時間其必要ノ程度ヲ越ユルトキハ裁判所ハ代位ノ不成立ヲ言渡スコトヲ得 第千四条 代位ハ左ノ者ノ為メ法律上当然成立ス 第一 身上負担ニテ若ハ先取特権又ハ抵当ニ服シタル財産ノ所持人トシテ他人ト共ニ又ハ他人ノ為メ義務ヲ負ヒ之ヲ弁済スルノ利益ヲ有スル者 第二 債権者ニシテ他ノ債権者ノ行フ抵当訴権ヲ予防スル為メ若ハ不動産差押又ハ契約解除ノ請求ヲ拒止スル為メ之ニ弁済スル者 第三 享益相続人若ハ善意ナル外見相続人ニシテ自己ノ財産ヲ以テ相続ノ債務ノ全部又ハ一分ヲ弁済スル者 第千五条 前三箇条ニ定メタル代位者ハ物権ト人権トヲ問ハス債権ノ効力又ハ担保トシテ原債権者ニ属セシ一切ノ権利及ヒ訴権ヲ行フコトヲ得但左ニ定メタルモノハ此例ニ在ラス 第一 契約上代位者ニ転移スヘキ権利及ヒ訴権ヲ限定シタルトキハ此定限ニ循フ 第二 第三ノ所持人其資格ヲ以テ義務ヲ弁済セシトキハ抵当洗除ノ方法ニ因リ不動産ヲ贖出スル為メ自己ノ資本ヲ以テ立替セシ金額ニ非サレハ保証人ニ対シ代位スルコトヲ得ス 第三 同上第三ノ所持人弁済セシ場合ニ於テ同ク其債務ノ抵当タル他ノ不動産アリテ他ノ第三ノ所持人之ヲ所持スルトキハ弁済セシ所持人ハ各不動産ノ価額ノミニ非サレハ他ノ所持人ニ対シ代位スルコトヲ得ス 第四 彼此担保者タル共同債務者中ノ一人債務ヲ弁済セシトキハ弁済者ハ他ノ共同債務者ノ各自単ニ実際分担スヘキ額数ノミニ非レハ之ニ対シテ代位スルコトヲ得ス 第千六条 代位者ハ其立替セシ金額ノミニ非サレハ債権者ノ訴権ヲ行フコトヲ得ス 第千七条 代位ハ原債権者ニ害スヘカラス故ニ債権者ハ其債権中ノ一ニ係ル代位カ他ノ債権ノ抵保ヲ減スルトキハ其代位弁済ヲ拒絶スルコトヲ得 第千八条 債権ノ一分ノミニ就キ代位弁済ヲ為セシトキハ代位者ハ其立替セシ額数ニ応シテ原債権者ト其権利ヲ均分ス 然レトモ皆済ナキニ因ル契約ノ解除ハ債権者独リ之ヲ行フ 第千九条 代位弁済ニ因リ皆済ヲ得タル債権者ハ代位者ニ債権ノ諸権証及ヒ質物ヲ交付スヘシ 一分ノ弁済ヲ領受セシトキハ代位者入用ノ節毎子ニ之ニ諸権証ヲ交付シ及ヒ質物ノ保存ヲ看守スルコトヲ得セシムヘシ 第千十条 弁済ノ有効ナル為メ必要ナル条件ニ関シ及ヒ弁済ノ充当並ニ提出、寄置ニ関スル前三款ノ条例ハ代位弁済ニモ適用ス 第二節 更改 第千十一条 更改即従前ノ義務ヲ新ナル義務ニ代替スルコトハ左ノ四箇ノ方法ニ因リ成立ス 第一 双方ノ者従前ノ義務ノ目的物ニ替ヘ新ナル目的物ヲ約スルトキ 第二 義務ノ目的物ハ替ハラスト雖双方ノ者他ノ名義即他ノ原由ヲ以テ之ヲ約スルトキ 第三 新ナル債務者カ従前ノ債務者ニ替ハルトキ 第四 新ナル債権者カ従前ノ債権者ニ替ハルトキ 第千十二条 双方ノ者期限、未必条件又ハ物上ト対人トヲ問ハス抵保ノ追加又ハ退除ニ因リ若ハ執行場所ノ変更ニ因リ若ハ義務ノ目的物ノ分量又ハ品格ノ変更ニ因リ単ニ義務ヲ改様セシトキハ更改ナシトス 又商業約束手形ヲ以テスル債務ノ弁済規約ニ債務ノ原由ヲ記載スルトキハ更改ナシ又従前ノ債務ノ追認証書ハ執行書式ノ記載アルモノト雖義務ヲ更改セス 第千十三条 弁済ヲ領受スルノ能力アル債権者ハ従前ノ債権及ヒ其担保タル抵保ヲ放棄スルノ能力ヲ有スルトキハ更改ヲ承諾スルコトヲ得 右ノ規則ハ合意上、法律上又ハ裁判上ノ管理者及ヒ代理人ニ適用ス但其総理ナラサルトキニ限ルヘシ 第千十四条 債権者ニ就テハ更改ノ意思ヲ推測セス証書又ハ事情ニ因リ其意思ノ明瞭ナルコトヲ要ス然レトモ双方ノ間ニ更改アリシカ又ハ二箇ノ義務並立スルノ疑アルトキハ其疑ハ第八百八十条ニ遵ヒ債務者ノ為メニシ且更改アリシト解釈スヘシ 第千十五条 従前ノ義務停止又ハ解除ノ未必条件ニ係リシトキハ更改モ同一ノ未必条件ニ係ルモノト推測ス 又新ナル義務未必条件ニ係ルトキハ停止ノ条件ナレハ其成就シ又解除ノ条件ナレハ其成就セサリシトキニ非サレハ更改ナシトス 但右何レノ場合ニ於テモ双方単純ナル更改ヲ為セシ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第千十六条 従前ノ義務カ本来法律上成立セス又ハ法律ノ認ムル原由ノ一ニ因リ取消サレシトキハ更改ハ無効ニシテ新ナル義務ハ成立セス 又新ナル義務カ成立及ヒ有効ニ関スル法律上ノ条件ヲ具備セサルトキハ従前ノ義務ハ存立ス 但右何レノ場合ニ於テモ双方カ民法上ノ義務ヲ自然義務ニ替ヘ又ハ自然義務ヲ民法上ノ義務ニ替フルコトヲ承諾セシ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第千十七条 債務者異議ナク又ハ異議ヲ遺サスシテ従前ノ義務ヲ更改スル為メ有効ニ新ナル義務ヲ約セシトキハ自己ノ認知シ且従前ノ義務ニ関シテ存セシ抗弁又ハ不受理ノ申立ヲ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス 又債務者次条ニ遵ヒ従前ノ債権者ノ嘱託ノ上新ナル債権者ニ対シ義務ヲ約セシトキモ亦同シ 第千十八条 債務者ノ更替ニ因ル更改ハ従前ノ債務者ヨリ新ナル債務者ニ為ス嘱託即代理委任ニ因リ又ハ従前ノ債務者ノ承諾ナクシテ新ナル債務者甘意ノ関渉ニ因リ成立ス 嘱託ニ完全ナルモノアリ又不完全ナルモノアリ 第三ノ人ノ甘意ノ関渉ハ以下ニ示ス如ク除前約又ハ補後約ヲ組成ス 第千十九条 嘱託ハ債権者明瞭ニ従前ノ債務者ヲ免除スルノ意ヲ表セシトキニ非サレハ完全タラスシテ更改ヲ組成セス此意ナキニ於テハ嘱託ハ不完全ノモノニシテ二人ノ債務者ハ連帯ノ義務ヲ負担ス 第三ノ人甘意ノ関渉ノ場合ニ於テ債権者従前ノ債務者ヲ免除セシトキハ除前約ニ因ル更改アリトス之ニ反スル場合ニ於テハ補後約ノミニシテ債権者ハ全部ニ就キ第二ノ債務者ヲ有ス但其債務者ハ連帯セサルヘシ 第千二十条 完全ナル嘱託及ヒ除前約ノ場合ニ於テ新ナル債務者債務ヲ償却スルコト能ハサルトキハ債権者其嘱託又ハ除前約ノ時新ナル債務者ノ既ニ無資力ナルコトヲ知ラサリシトキニ非サレハ従前ノ債務者ニ対シテ担保ノ追求権ヲ有セス但此担保ヲ増減スル別段ノ合意アルトキハ此例ニ在ラス 第千二十一条 債権者ノ更替ニ因ル更改ハ債務者ト新旧債権者トノ承諾アルニ非サレハ成立セス 第千二十二条 債権者或ル人ヲ恵ム為メ又ハ或ル人ニ対シテ自己ノ負担スル債務償却ノ為メ第千二十五条ニ循ヒ自己ノ債権ヲ担保セシ抵保ノ全部又ハ一分ヲ貯存シテ其債務者ヲ右或ル人ニ嘱託セシトキハ其受託者ハ債権譲渡ノ為メ第八百六十七条ニ記載シタル条件ニ従フニ非サレハ第三ノ人ニ対シテ其債権ヲ有セス 第千二十三条 債権者ト連帯債務者中ノ一人又ハ不可分債務者中ノ一人トノ間ニ為シタル更改ハ他ノ債務者及ヒ保証人ヲ免除ス 然レトモ債権者更改未必ノ条件トシテ共同債務者及ヒ保証人其更改ニ加入スヘキコトヲ約シテ其共同債務者又ハ保証人之ヲ拒ムトキハ更改ハ不成立トス 連帯債権者中ノ一人ト為シタル更改ハ其債権者ノ得分ニ非サレハ債務者ヲ免除セス 従前ノ債務不可分ナリシトキハ債権者中ノ一人ト為シタル更改ハ債権ノ全部ニ就キ他ノ債権者ノ訴権ノ存留ヲ妨ケス但第九百六十六条ニ記載シタル賠償ヲ為スヘシ 第千二十四条 保証人ト為シタル更改ハ其保証ニ就キ為セシモノト推測シ首タル債務ニ其効力ヲ及ホサス故ニ首タル債務者並ニ他ノ保証人ヲ免除セス但結約者ノ意思之ニ反スルノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第千二十五条 従前ノ債権ヲ担保セシ物上抵保ハ新ナル債権ニ移ラス但債権者之ヲ貯存セシトキハ此例ニ在ラス 此貯存ハ共同債務者及ヒ保証人ノ所持スル抵当物並ニ第三ノ人ノ所持スル抵当物ニ就キ為スコトヲ得 此貯存ニ就テハ只更改ヲ為ス者ノ承諾ヲ必要トス 如何ナル場合ニ於テモ其抵当ハ従前ノ義務ヲ其程度トス 第三節 合意上ノ釈放 第千二十六条 債務ノ全部又ハ一分ニ就キ合意上ノ釈放即免除ハ有償又ハ無償ノ名義ヲ以テ為スコトヲ得 有償ノ場合ニ於テハ釈放ハ其事情ニ従ヒ代物弁済、更改、和解又ハ解除ヲ組成ス又無償ノ場合ニ於テハ贈与ヲ組成ス但贈与ニ特別ナル法式ニ従フヲ要セス 破産債務者ノ為メ債権者ノ商議ニ因リ許与シタル一分ノ釈放即寛約ハ商法ニ規定ス 第千二十七条 債務ノ釈放ハ明許ナルコトアリ又黙許ナルコトアリ但疑ハシキ場合ニ於テハ法律ニ特ニ予定シタルトキニ非サレハ釈放ヲ推測セス 第千二十八条 首タル債務者ニ為シタル債務ノ釈放ハ保証人ヲ免除ス 連帯債務者中ノ一人ニ為シタル釈放ハ他ノ債務者ヲ免除ス但債権者カ他ノ債務者ニ対シ其権利ヲ貯存セシトキハ此例ニ在ラス此場合ニ於テモ権利ノ貯存ハ釈放ヲ得シ者ノ担分ヲ扣除スルニ非サレハ其効力ヲ生セス 不可分債務者中ノ一人ニ為シタル釈放モ亦同シ然レトモ債務ノ性質不可分ニシテ債権者他ノ債務者ニ対シ其権利ヲ貯存セシトキハ債務ノ全部ニ就キ其権利ヲ行フコトヲ得但其訟求ヲ受ケシ債務者ニ其釈放ヲ得シ債務者ノ担分ヲ算付スヘシ 第千二十九条 保証人ニ為シタル釈放ハ首タル債務者並ニ他ノ保証人ヲ免除ス 第千三十条 債務ノ釈放ヲ得シ共同債務者及ヒ保証人ハ債権者ヨリ共同ノ免除ヲ得ル為メ実際之ニ給付セシ価額ノ外他ノ共同債務者又ハ共同保証人ニ対シ追求スルコトヲ得ス 第千三十一条 債務者中ノ一人ニ為シタル単ニ連帯又ハ合意上ノ不可分ノ釈放ハ他ノ債務者ノ担分ニ就キ其者ヲ免除シ又其者ノ担分ニ就キ他ノ債務者ヲ免除ス 債務者中ノ一人ニ物ノ性質ニ因ル不可分ノ釈放ヲ為ストキハ債権者ハ他ノ各債務者ニ全部ヲ請求スルノ権利ヲ保有ス但釈放ヲ得シ者ノ担分ハ価額ニテ之ニ算付スヘシ 第千三十二条 左ノ場合ニ於テ債権者ハ債務者中ノ一人ニ連帯又ハ合意上ノ不可分ノ釈放ヲ為セシモノト推測ス 第一 債権者其担保ノ権利ヲ貯存セスシテ債務者中ノ一人ヨリ債務中其担分ト述ヘシ金額又ハ有価物ヲ受取リシトキ 第二 債権者其担保ノ権利ヲ貯存セスシテ債務者中ノ一人ニ対シ其担分ト称シテ裁判上請求ヲ為シ且債務者其請求ニ承服シ又ハ其弁済ノ言渡ヲ受ケシトキ 第三 債権者異議ヲ遺サス十年間継続シテ債務者中ノ一人ヨリ債務中其担分ノ利子又ハ収額ノ弁済ヲ受取リシトキ 第千三十三条 保証人ニ為シタル保証ノミノ釈放ハ首タル債務者ヲ免除セス又保証ノ釈放ヲ得シ保証人ノ担分ノ外他ノ保証人ヲ免除セス但保証人連帯ナルトキハ此例ニ在ラスシテ此場合ニ於テハ第千二十八条第二項ニ記載シタル如ク債権者他ノ保証人ニ対シ其権利ヲ貯存セサルトキハ保証人一同保証ノ責ヲ免ルヘシ 第千三十四条 債権者質物又ハ抵当ヲ放棄スト雖債権ヲ減少セス然レトモ保証人保証ヲ約セシトキ其物上担保ノ代位ヲ心算セシコトヲ証明スルトキハ右ノ放棄ニ基キ債権者ニ対シテ保証ノ免除ヲ請求スルコトヲ得 第千三十五条 共同債務者又ハ保証人中ノ一人単ニ連帯、不可分又ハ保証ノ釈放ヲ得ル為メ債権者ニ給付セシモノハ債務ヲ減少セスシテ他ノ共同債務者ニ対シテ追求スルコトヲ得ス 第千三十六条 確定物ヲ引渡シ又ハ返還スヘキ義務ノ釈放ハ債務者ノ為メ譲還シ又ハ譲渡ヲ為サスシテ所有者ノ取戻ノ権利ヲ存留ス 第千三十七条 連帯債権者中ノ一人ノ為シタル債務又ハ連帯ノミノ釈放ハ債権中其得分ノ外他ノ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス 義務ノ不可分ナルトキハ債権者中一人ノ為シタル釈放ハ他ノ債権者ニ害スルコトナク他ノ債権者ハ第四百六十六条ニ遵ヒ債権ノ全部ヲ行フコトヲ得 第千三十八条 債権者随意ニテ義務ノ証書ノ正本ヲ債務者ニ交付セシトキハ其証書ニ義務ヲ免除スルコトヲ記載セスト雖債務ノ釈放ヲ為セシモノト推測ス但債権者ハ之ニ異ナル意思アリシコトヲ証スルヲ得 公正証書又ハ裁判言渡書ノ抄本ノ随意交付ハ之ニ執行書式ノ記載アルモノト雖義務ノ釈放ヲ推測スルニ足ラス但裁判所ニ於テ事実ノ情状ニ因リ其釈放ヲ推定スルコトヲ妨ケス 又債務者右諸証書ヲ所持スルトキハ債権者随意ニ之ヲ交付セシモノト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第千三十九条 債権者証書ノ全部又ハ債務者ノ手署其他証書ノ緊要ナル部分ヲ随意ニ毀滅シ撕破シ又ハ塗抹セシトキハ前条ニ記載シタル区別ニ従ヒ随意ノ交付ト同ク債務ノ釈放ヲ推測ス 右毀抹ノ時債権者其証書ヲ所持セシトキハ毀抹ハ債権者躬ラ又ハ其承諾ヲ以テ為セシモノト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 第千四十条 債務ノ釈放ハ其明許ニ係ルト黙許ニ係ルトヲ問ハス又直接ニ其証拠ヲ挙クルト法律上ノ推測ニ出ルトヲ分タス有償ノ名義ニテ為セシモノト推測ス但反対ノ証拠アルトキハ此例ニ在ラス 然レトモ双方彼此物ヲ贈与シ又ハ贈与ヲ受ルノ能力ナキ者ノ間ニ於テ釈放ヲ為セシトキハ有償ノ名義ニテ之ヲ為セシ直接ナル証拠ヲ挙クルコトヲ要ス 第四節 相殺 第千四十一条 相殺ハ両人互ニ債権者タリ債務者タルトキニ成立ス此場合ニ於テ二箇ノ債務ハ較少ナキ債務ノ相当額マテ消滅ス 相殺ニハ以下ノ条件及ヒ区別ニ従ヒ法律上ノモノアリ任意上ノモノアリ又裁判上ノモノアリ 第千四十二条 法律上ノ相殺ハ二箇ノ債務共ニ首タルモノタリ共ニ代補物タリ共ニ清算ナルモノタリ且共ニ要求期ニ至リタルモノニシテ法律ノ条例ニ因リ若ハ双方ノ明示又ハ黙示ノ意思ニ因リ相殺ヲ禁セサリシトキハ双方之ヲ知ラスト雖法律上当然成立ス 第千四十三条 債務者ハ債権者ヨリ保証人ニ対シテ負担スル債務ニ基キ相殺ヲ対抗スルコトヲ得ス然レトモ請求ヲ受ケシ保証人ハ債権者ヨリ債務者ニ対シテ負担スルモノト自己ニ対シテ負担スルモノトヲ問ハス之ニ基キ債権者ニ相殺ヲ対抗スルコトヲ得 連帯債務者ハ債権者ヨリ共同債務者ノ一人ニ対シテ負担スル債務ニ基キ連帯債務中右一人ノ担分ニ非サレハ相殺ヲ対抗スルコトヲ得ス但債権者ヨリ自己ニ対シテ負担スル債務ニ就テハ其全額ニ基キ相殺ヲ対抗スルコトヲ得 数人ノ連帯債権者アルトキハ債務者ハ債権者中ノ一人ヨリ自己ニ対シテ負担スル債務ノ全部ニ基キ常ニ請求者ニ対シ相殺ヲ対抗スルコトヲ得 債務者ノ間又ハ債権者ノ間義務ノ不可分ナルトキハ所動又ハ能動ノ連帯ニ於ルト同一ナル方法ニ従ヒ相殺ヲ許容ス 第千四十四条 双方中一方ヨリ他ノ一方ニ対シ地方市場ノ物価表ニ掲クル飲食物ヲ定期ニ給付スヘキ義務ヲ負フトキハ其義務ハ他ノ一方ノ負担スル金額ト相殺ス 第千四十五条 清算ナル債務トハ善意ニテ争訟スルトキト雖其成立其性質其分量ノ確実ナルモノヲ云フ 第千四十六条 裁判所ノ許与セシ猶予期限ハ相殺ヲ妨ケス又債務者ノ懇請ニ因リ債権者ノ恩恵ニテ許与セシ期限ニ就テモ亦同シ 二箇ノ債務ハ其一解除ノ未必条件ニ係ルトキト雖相殺ス但其相殺ハ偶成ナル解除ニ循フ 第千四十七条 二箇ノ債務同一ナル場所又ハ同一ナル貨幣ニテ弁済スヘキモノニ非スト雖相殺ヲ妨ケス但場所ノ異ナル場合ニ於テハ貨幣ノ運送費又ハ為替賃ヲ算付シ又貨幣ノ異ナル場合ニ於テハ兌換ノ差ヲ算付スヘシ 第千四十八条 左ノ場合ニ於テハ法律上ノ相殺成立セス 第一 債務中ノ一ハ他人ノ財産ノ不正ナル所得ヲ原由ト為ストキ 第二 変例ナル寄託物ノ返還ニ係ルトキ 第三 債権中ノ一ハ難押物ヲ目的ト為ストキ 第四 双方中ノ一方予メ相殺ノ便益ヲ放棄セシトキ又ハ債権者ト為ルニ際シ其企図セシ目的相殺ノ為メ達セサルトキ 第千四十九条 被譲債務者ハ債権譲渡ノ単一ナル通知ヲ受クルト雖其譲渡人ニ対抗スルコトヲ得シ法律上ノ相殺ノ原由ヲ譲受人ニ対抗スルノ権利ヲ失ハス 被譲債務者既ニ譲渡人ニ対シテ得シ法律上ノ相殺ニ就キ自己ノ権利ヲ貯存セスシテ譲渡ヲ受諾セシトキハ譲受人ニ対シテ其相殺ヲ申立ルコトヲ得ス 但右二箇ノ場合ニ於テ被譲債務者其相殺ヲ対抗シ得サリシ金額ヲ譲渡人ヨリ償還セシムルノ権利ヲ妨ケス 第千五十条 渡方差留ヲ受ケシ者ハ其後其債権者ニ対シテ得シ債権ニ基キ相殺ヲ以テ差留人ニ対抗スルコトヲ得ス 又渡方差留以前ヨリ存セシ相殺ノ原由ト雖訴訟法ニ定メタル手続及ヒ期限ニ循ヒ相殺ヲ申立テシニ非サレハ之ヲ対抗スルコトヲ得ス 但右何レノ場合ニ於テモ渡方差留ヲ受ケシ者ハ其金額ニ就キ差留人ト共ニ自己ノ債権ノ為メ分償ヲ求ムルノ権利ヲ有ス 第千五十一条 既ニ相殺ニ因リ消滅シタル債務ヲ弁済セシ者ハ其錯誤ニ出ルト雖不当ノ利得取還ノ訴権ニ非サレハ行フコトヲ得ス但次条ニ記載シタル場合ハ此例ニ在ラス 第千五十二条 前三箇条ニ予定シタル場合ニ於テ既ニ相殺ニ因リ消滅シタル債務ヲ差留人又ハ譲受人ノ為メニ追認シ又ハ債権者ニ弁済セシ者ハ自己ノ旧債権ヲ担保セシ保証、先取特権又ハ抵当ヲ効用スルコトヲ得ス但既成ノ相殺ヲ知ラサル正当ノ原由ヲ証明スルトキハ此例ニ在ラスシテ此場合ニ於テハ旧債権ハ抵保及ヒ其他ノ性質ヲ具シ其者ニ復帰ス 第千五十三条 任意ノ相殺ハ法律上ノ相殺ヲ禁止スル場合ニ於テ双方中其禁止ノ利益ヲ受クル者ヨリ之ヲ対抗スルコトヲ得又如何ナル場合ニ於テモ総関係人承諾スルトキハ合意ヲ以テ任意ノ相殺ヲ為スコトヲ得 任意ノ相殺ハ効力ヲ既往ニ及ホサス 第千五十四条 裁判上ノ相殺ハ被告人カ原告人ニ対シテ有スル債権ヲ追認セシメ又ハ清算セシムル為メ反訴ノ方法ニ因テ之ヲ求ムルコトヲ得 此場合ニ於テ裁判所ハ事情ニ従ヒ或ハ先ツ本訴ヲ裁定シ或ハ之ヲ中止シテ相殺ヲ行ヒ且債務ノ較多キ者ニ対シ其超過額ヲ弁済スヘキコトヲ宣告シテ本訴及ヒ反訴ヲ併セ裁定スルコトヲ得 裁判上ノ相殺ハ之ヲ申立テシ日ニ遡リテ効力ヲ有ス 第千五十五条 双方中ノ一方カ他ノ一方ニ対シテ法律上又ハ裁判上ノ相殺ニ服スル数箇ノ債務ヲ有スルトキハ其債務ヲ相殺スル順序ハ第九百九十三条ニ規定シタル弁済ノ法律上充当ノ順序ニ循フ 任意又ハ合意上ノ相殺ニ係ルトキハ第九百九十一条及ヒ第九百九十二条ノ規則ニ従ヒ又ハ双方ノ一致ニ従ヒ相殺ノ充当ヲ為スヘシ 第五節 混同 第千五十六条 同一ナル義務ニ就キ債権者タリ債務者タルノ資格カ相続又ハ其他ノ事ニ因リ一人ノ身ニ集マルトキハ義務ハ混同ニ因リ消滅ス 若シ混同ノ以前ニ存セシ法律上ノ原由ニ就キ之ヲ解除シ取消シ又ハ廃棄セシトキハ義務ハ消滅セサルモノト看做ス 第千五十七条 債権者其連帯債務者中ノ一人ニ相続シ又ハ債務者中ノ一人其債権者ニ相続スルトキハ連帯債務ハ右一人ノ担分ノミニ非サレハ消滅セス 連帯債権者中ノ一人ト債務者トノ間ニ混同ノ生スルトキモ亦其得分ノミニ非サレハ混同ナシトス 第千五十八条 義務ノ不可分ナルトキハ債権者中ノ一人ト債務者中ノ一人トノ間ニ生スル混同ハ他ノ者ノ利益又ハ負担ニテ義務ノ全部ヲ存留セシム但其身ニ就キ混同アリシ者ハ第九百六十六条ニ遵ヒ担分ノ賠償ヲ給シ又ハ得分ノ賠償ヲ受ルニ非レハ義務ノ全部ヲ請求スルコトヲ得ス又請求ヲ受ケス 第千五十九条 連帯債権者数人ノ資格又ハ連帯債務者数人ノ資格カ一人ノ身ニ集マルトキハ権利又ハ義務ノ消滅ナクシテ右各資格ノ其身ニ集マリシ者ハ或ハ自己ノ名義ニ因リ或ハ其相続セシメシ人ノ名義ニ因リ債権者ノ利益ニ従ヒ義務ノ全部ヲ請求シ又ハ其請求ヲ受クヘシ 能動又ハ所動ナル不可分ノ義務ニ就テモ亦同シ 第千六十条 保証人其債権者ニ相続スルカ又ハ債権者其保証人ニ相続スルトキハ保証ハ其附従ト共ニ消滅ス 債務者其保証人ニ相続スルカ又ハ保証人其債務者ニ相続スルトキハ債権者ハ債務者ニ対シ又共同保証人及ヒ保証人ノ担保人ニ対シテモ其訴権ヲ保有ス又保証ニ附着シタル質物並ニ抵当モ亦同シ 第六節 執行ノ不能 第千六十一条 確定物ノ引渡ヲ義務ノ目的ト為ス場合ニ於テ債務者ノ過愆ナク且其付遅滞ニ至ラサル前ニ其物ノ滅尽シ紛失シ又ハ不通易ト為リシトキハ其義務ハ消滅ス又定リタル物ノ聚集中ヨリ取ルヘキ一箇物ヲ義務ノ目的ト為ス場合ニ於テ其聚集物全ク引渡スコト能ハサルモノト為リシトキモ亦同シ 事ヲ為シ又ハ為サヽルノ義務モ其執行又ハ封作ノ右同一ナル条件ニ因リ能ハサルモノト為リシトキハ均シク消滅ス 第千六十二条 債務者意外ノ変災及ヒ難抗力ヲ自身ニ引請ケシトキ又ハ第八百五十六条及ヒ第九百四条ニ遵ヒ債権者ノ所為ニ因リ若ハ義務ノ性質ニ因リ債務者付遅滞ニ在ルトキハ前条ノ原由ヲ以テ義務ヲ免ルヽコトヲ得ス 犯罪ニ因リ他人ノ物ヲ返還スルノ義務ヲ負フ者ハ法律上当然付遅滞ニ在ルモノト看做ス 第千六十三条 債務者ハ躬ラ申立ル意外ノ変災又ハ難抗力ヲ証明ス可シ 債務者付遅滞ニ在リテ第八百五十五条第二項ニ遵ヒ義務ノ免除ヲ得ル為メ其物債権者ノ方ニ在ルモ等シク滅尽スヘキモノト申立ルトキハ其証拠ヲ挙ク可シ 第千六十四条 債務者執行ノ不能ニ因リ其義務ヲ免ルヽトキハ執行ニ就キ既ニ為セシ捐給ノ限度内ニ非サレハ自己ノ為メ約セシメタル対価ヲ請求スルノ権利ヲ有セス 第千六十五条 単ニ物ノ一分ノ滅尽ニ係ル場合ニ於テ又ハ債務者其滅尽ニ基キ第三ノ人ニ対シ要償ノ訴権ヲ有スル場合ニ於テハ債権者ハ物ノ残余ヲ請求シ又ハ右要償ノ訴権ヲ行フコトヲ得 第七節 取消即無効 第千六十六条 無能力者ノ結約セシ義務又ハ自己ノ錯誤ニ因リ若ハ他方ノ暴行又ハ欺詐ニ因リ承諾ヲ与ヘシ者ノ結約セシ義務ハ自己又ハ其名代人ノ請求ニ因リ若ハ他方ノ起訴ニ係ル執行ノ請求ニ対抗スル義務無効ノ抗弁ニ因リ五箇年ノ間裁判上之ヲ取消シ又ハ無効ト為スコトヲ得 損失ニ基ク取消訴権ヲ行ヒ又ハ其抗弁ヲ対抗スル為メ丁年者ニ右同一ノ期限ヲ許与ス但法律上特ニ其期限ヲ短縮シタル場合ハ此例ニ在ラス 第千六十七条 此時証ノ期限ハ暴行ノ場合ニ於テハ其止息スルマテ錯誤ノ場合ニ於テハ其醒悟スルマテ欺詐ノ場合ニ於テハ其発覚スルマテ無能力ノ場合ニ於テハ其止息スルマテ停止ス 然レトモ白痴瘋癲ノ為メ裁判上治産ノ禁ヲ受ケタル者又ハ事実上精神ヲ喪ヒタル者ノ結ヒシ合意ニ係ルトキハ時証ノ期限ハ能力ノ復セシ後其曽テ記シタル証書中ノ要目ノ通知ヲ受ケシ時又ハ之ヲ知リシ時ヨリ起算ス 法律上治産ノ禁ヲ受ケタル処刑者ニ就テハ無効申立ノ訴権及ヒ抗弁ハ処刑者ヨリ之ヲ申立ルト他方ヨリ之ヲ申立ルトヲ問ハス時証ハ処刑ノ満チシ時ヨリ起算ス 丁年者ノ損失ノ場合ニ於テ時証ハ契約ノ日ヨリ起算ス 右ノ外免責時証ノ停止及ヒ中断ノ通常原由ハ本節ノ時証ニ適用ス 第千六十八条 無効申立ノ訴権ヲ有スル者同上ノ期限内ニ死去セシトキハ其訴権ハ相続人ニ移ルヘシ 相続人ニ就テハ此訴権ノ時証ハ死者存生中起算ス可ラサリシトキハ相続権ノ発開ヨリ起算シ又死者存生中ヨリ起算セシトキハ自余ノ時間ニ之ヲ通算ス 第千六十九条 幼年者又ハ禁治産者ノ財産ニ関シ後見人ノ為シタル合意及ヒ其他ノ所為ハ無能力者ノ利益ノ為メ法律上定メタル手続及ヒ条件ニ違ヒシトキハ之ヲ取消スコトヲ得 又禁治産者ノ所為ニ就テハ如何ナル場合ヲ問ハス幼年者ノ所為ニ就テハ法律上必要ノ手続ニ違ヒシトキ並ニ浪費者及ヒ遅鈍者ノ所為ニ就テハ裁判所ヨリ命シタル輔佐人ノ立会ナキトキモ亦同シ 但右ノ外無能力者ハ取消即無効申立ノ訴権ヲ能力者ニ与フル原由ニ従ヒ此訴権ヲ行フコトヲ妨ケス 第千七十条 特別ナル手続又ハ条件ヲ要セサル合意又ハ所為ヲ幼年者一己ニテ承諾セシトキハ自己ノ為メ金額ニ見積ルコトヲ得ル損失又ハ其他ノ損害アリシトキニ非サレハ取消ノ訴権ヲ受理セス 又後見ヲ免レタル幼年者法律上補管人ノ立会ノミヲ要スル場合ニ於テ其立会ナク行ヒシ所為モ亦損失ノ為メニ非サレハ取消スコトヲ得ス 損失ハ其所為ヲ行ヒシ時ニ就テ量定ス故ニ偶然ニシテ予見スヘカラサル事変ヨリ生セシ損失ハ之ヲ問ハス 第千七十一条 幼年者ノ単ニ為セシ丁年ナリトノ陳述ハ其丁年ナルコトヲ信セシムル為メ別ニ詐欺ノ所為ヲ用井サリシニ於テハ無能力又ハ損失ヲ原由トシテ償還ヲ求ムルコトヲ妨ケス 其他ノ無能力者ノ虚妄ナル陳述ニ就テモ亦同シ 第千七十二条 商業ヲ営ミ又ハ工業ヲ行フノ允許ヲ得シ後見ヲ免レタル幼年者ハ其商業又ハ工業ニ関スル所為ニ就テハ丁年者ト看做ス 然レトモ不動産ノ譲渡ハ幼年者ノ普通法ニ循フニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第千七十三条 婦ノ所為及ヒ約束ハ夫婦互相ノ権利及ヒ義務ニ就キ法律ノ定メタル場合ニ非サレハ婦又ハ夫ノ請求ニ因リ之ヲ取消スコトヲ得ス 第千七十四条 丁年者承諾ノ瑕疵又ハ損失ノ為メ其所為又ハ約束ノ取消ヲ得シトキハ此所為ニ因リ受取リタルモノヲ返還スヘシ 無能力者其所為ノ取消ヲ得シトキハ其所為ニ因リ所得シテ尚ホ現存スルモノニ非サレハ返還スルニ及ハス 此返還ヲ求ムル訴権ハ通常ノ時証ニ因ルニ非サレハ消滅セス 第千七十五条 無能力、錯誤又ハ暴行ニ因ル瑕疵アル不動産ノ譲渡又ハ損失ノ為メ取消スコトヲ得ヘキ不動産ノ譲渡ハ第八百七十二条及ヒ第八百七十三条ニ記載シタル区別及ヒ条件ニ従ヒ第三ノ獲得者ニ対シ之ヲ取消スコトヲ得 第千七十六条 損失ノ為メ取消ノ訴ヲ受クル被告人ハ原告人ノ証明セシ損失ノ賠償全額並ニ裁判費用ヲ之ニ提出スルニ於テハ事実ノ裁判確定ニ至ルマテ其訴訟ノ効力ヲ停止スルコトヲ得 第千七十七条 第千六十六条乃至第千六十八条ニ定メタル時証ニ因リ取消訴権ノ消滅スル場合ノ外尚ホ取消ノ訴権ヲ有スル者カ第千六十七条ニ遵ヒ其訴権ニ就キ時証ノ起算ヲ聴容スヘキ時ニ至リシ後其合意ヲ明許又ハ黙許ニテ確認セシトキ亦取消ノ訴権ヲ行フコトヲ得ス 第千七十八条 明許ナル確認ハ取消スコトヲ得ル合意ノ要目ヲ記載シ其瑕疵タル取消ノ原由ヲ指明シ且無効ノ請求ヲ放棄スル意思ヲ述ヘタル明確ナル証書アルトキニ存立ス 若シ合意ニ数多ノ瑕疵アルトキハ明許ノ確認ハ其瑕疵中特別ニ確認証書ヘ記載シタルモノニ非サレハ消除セス 丁年者ノ受ケタル損失ノ為メ取消スコトヲ得ル所為ノ確認ハ明許ナルニ非サレハ為スコトヲ得ス又此確認ハ右所為ヲ記載シタル証書中ニ為スコトヲ得ス 第千七十九条 黙許ナル確認ハ合意ノ全部又ハ一分ノ随意ナル執行又ハ異議ナク且異議ヲ遺サヽル強令ノ執行ニ因テ存立ス又更改及ヒ物上又ハ対人ノ抵保ノ随意ナル付与ニ因テ存立ス又債権者其取消スコトヲ得ル合意ノ執行ヲ裁判所ニ請求シ若ハ右ノ合意ニ因リ獲得セシ物ノ全部又ハ一分ヲ随意ニ他人ヘ譲渡セシコトニ因テ存立ス 此外黙許ナル確認ノ場合ハ裁判所ノ査定ニ任ス 第千八十条 確認ハ無効申立ノ訴権ヲ有スル者ノ特定承継人ノ権利此訴権ノ行用ニ随テ存スヘキトキハ之ヲ害スルコトヲ得ス 第千八十一条 根本ヨリ無効ナル所為ハ確認スルコトヲ得ス但法式上無効ナル贈与又ハ遺嘱ニ就キ相続人ノ為ス確認ニ関シ以下ノ附録ニ記載スルモノハ此例ニ在ラス 第千八十二条 計数、姓名、日附並ニ場所ノ錯誤ヲ更正スルコトヲ目的トスル訴権ニ就テハ時証ヲ申立ルコトヲ得ス但之ニ附属シテ存スル権利ノ時証ヲ妨ケス 第八節 廃棄及ヒ解除 第千八十三条 債権者ヲ詐害スルノ意ヲ以テ結ヒタル約束ノ廃棄及ヒ廃棄訴権ノ時証ハ第八百六十条乃至第八百六十四条ニ規定ス 贈与者及ヒ其相続人ノ為メ定メタル廃棄ノ特別ナル原由ハ贈与契約ノ事項ニ規定ス 第千八十四条 義務ハ第九百二十九条、第九百四十一条、第九百四十二条ニ循ヒ明瞭ニ約定シ又ハ裁判上得タル合意ノ解除ニ因リ消滅ス 解除ヲ裁判所ニ請求スヘキトキハ解除訴権ハ通常時証ノ期限ニ拠ラサレハ時証ニ因リ消滅セス但法律ニ於テ較短キ期限ヲ定メタル場合ハ此例ニ在ラス 第九節 時証 第千八十五条 免責時証ハ獲得時証ト共ニ第五編末章ニ規定ス 附録 自然義務 第千八十六条 自然義務ノ執行ハ訴権ヲ行ヒ又ハ相殺ノ抗弁ヲ申立テ之ヲ請求スルコトヲ得ス其執行ハ債務者ノ随意ニ在リテ法律ハ債務者ノ善意良心ニ聴任ス 又自然義務ハ第三ノ人ヨリ債務者ノ名義又ハ自己ノ名義ヲ以テ之ヲ償還スルコトヲ得 第千八十七条 債務者又ハ第三ノ人随意ニ弁済シ又ハ償却セシモノハ不当ノ弁済トシテ之ヲ取還スコトヲ得ス 但自然義務ヲ償還スル意思ニ出シ証拠事実上明瞭ナルトキハ弁済ノ原由ヲ示明スルニ及ハス 第千八十八条 自然義務ハ随意ナル執行ナキニ於テハ債務者ノ明瞭ナル承認、第三ノ人ノ保証若ハ債務者又ハ第三ノ人ノ為ス更改、若ハ与フル動産質又ハ抵当ノ目的ト為スコトヲ得 此諸般ノ場合ニ於テ承認シ更改シ又ハ担保セシ自然義務ハ通常民法上ノ義務ノ効力ヲ生ス 第千八十九条 債務者ノ代理委任ヲ受ケスシテ第三ノ人自然義務ノ執行、更改又ハ担保ヲ為セシトキハ債務者ハ其償還ニ就テハ自然義務ニ非サレハ負担セス 第千九十条 自然義務ノ随意ナル執行、承認、担保ハ財産ヲ譲渡シ又ハ義務ヲ負フノ能力アル人之ヲ為セシトキニ非サレハ有効ナラス 第千九十一条 自然義務ハ民法上必要ナル承諾ヲ廃滅スル錯誤ノ為メ若ハ目的物ノ指定ナク又ハ其指定ノ不十分ナル為メ若ハ法律ノ要求スル正式ノ欠クル為メ元来無効ナル合意ヨリ生スルコトアルヘシ 然レトモ法式ノ欠クル為メ無効ナル贈与ニ係ルトキハ贈与者躬ラ之ヲ自然義務トシテ執行シ又ハ承認スルコトヲ得スト雖其相続人又ハ承継人ハ之ヲ為スコトヲ得 此条例ハ法式ノ無効ナル遺嘱書ヲ遺セシ者ノ相続人ニ適用ス 第千九十二条 原由ノ欠缺ノ為メ又ハ不法ノ原由ノ為メ無効ナル合意ハ自然義務ヲ生セス又公ケノ秩序ノ為メ結約スルコトヲ禁シタル物ヲ以テ目的トスル合意ニ就テモ亦同シ 第千九十三条 他人ノ所為ノ約束及ヒ他人ノ利益ニ於ル約権ニ就キ第八百四十三条及ヒ第八百四十五条ニ指定シタル無効ハ約務者ノ方ニ自然義務ヲ生スルコトヲ妨ケス 第千九十四条 債務者不当ノ利得、不正ノ損害又ハ法律ノ条例ニ因リ民法上ノ義務ヲ負フ場合ノ外尚ホ之ニ基因シテ躬ラ自然義務ヲ負フモノト有効ニ承認スルコトヲ得 第千九十五条 民法上ノ義務ノ取消、廃棄又ハ解除ヲ法衙ニ於テ言渡セシ後ト雖自然義務ハ猶ホ存立スルコトアルヘシ 此外義務消滅ノ方法ニ由リ民法上ノ義務ノ消滅セシ後ト雖亦同シ 第千九十六条 免責時証又ハ獲得時証ヲ行用セシ者若ハ確定裁判ヲ得タル勝訴者若ハ自己ノ権利又ハ義務免除ノ推定又ハ証拠ヲ挙示スルコトヲ得ル者ハ躬ラ自然義務者タリト承認スルコトヲ得 第千九十七条 自然義務ニ対スル債権ノ譲渡ハ破産者ノ債権者寛約ヲ以テ破産者ニ釈放セシ金額ノ為メニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス 第千九十八条 民法上連帯又ハ不可分ナリシ義務ニ補充シ又ハ後存スル自然義務ハ連帯又ハ不可分タリ 第千九十九条 通常裁判所ハ自然義務ノ随意ナル執行、承認其他法律上ノ効力ニ就キ裁定スヘキトキハ主権ヲ以テ義務者ノ意思ヲ裁判ス但前条々ノ適用ヲ誤リシトキハ其裁判ハ破毀セラルヘシ 第千百条 双方ノ者未タ随意ナル執行又ハ承認アラサル前ト雖仲裁契約ヲ以テ自然義務ノ成立又ハ広狭ノ判断ヲ仲裁人ニ委ヌルコトヲ得此場合ニ於テ自然義務ヲ認定セシ仲裁人ノ判断ハ民法上ノ義務ヲ生ス然レトモ法律上自然義務ヲ認定セサル場合ニ於テ仲裁人之ヲ成立セリト認メ又ハ法律上自然義務ヲ認定スル場合ニ於テ仲裁人之ヲ成立セスト判断セシトキハ其判断ハ無効タルヘシ但右何レノ場合ニ於テモ双方ノ者仲裁人ニ調処者タル全権ヲ与ヘシトキハ此限ニ在ラス