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債権担保編
総則
第一条 債務者ノ総財産ハ動産ト不動産ト現在ノモノト将来ノモノトヲ問ハス其債権者ノ共同ノ担保ナリ但法律ノ規定又ハ人ノ処分ニテ差押ヲ禁シタル物ハ此限ニ在ラス
債務者ノ財産カ総テノ義務ヲ弁済スルニ足ラサル場合ニ於テハ其価額ハ債権ノ目的、原因、体様ノ如何ト日附ノ前後トニ拘ハラス其債権額ノ割合ニ応シテ之ヲ各債権者ニ分与ス但其債権者ノ間ニ優先ノ正当ナル原因アルトキハ此限ニ在ラス
財産ノ差押、売却及ヒ其代価ノ順序配当又ハ共分配当ノ方式ハ民事訴訟法ヲ以テ之ヲ規定ス
第二条 義務履行ノ特別ノ担保ハ対人ノモノ有リ物上ノモノ有リ
対人担保ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 保証
第二 債務者間又ハ債権者間ノ連帯
第三 任意ノ不可分
物上担保ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 留置権
第二 動産質権
第三 不動産質権
第四 先取特権
第五 抵当権
第一部 対人担保
第一章 保証
第三条 保証ハ任意ノモノ有リ法律上ノモノ有リ又裁判上ノモノ有リ
下ノ第一節乃至第三節ノ規定ハ右三種ノ保証ニ共通ナリ
第一節 保証ノ目的及ヒ性質
第四条 保証ハ或人カ債務者ノ其義務ヲ履行セサルニ於テハ之ヲ履行スルコトヲ諾約スル契約ナリ此約務ハ債務者ノ過失ニ帰ス可キ不履行ノ場合ニ於テハ債権者ニ賠償スル約務ヲ暗ニ包含ス
第五条 保証ハ主タル義務ノ目的ト異ナルモノヲ目的ト為ストキハ保証トシテハ無効ナリ
然レトモ保証人ハ主タル債務者ノ諾約シタル物又ハ所為ノ対価トシテ不履行ヲ予見シタル過怠金額ヲ有効ニ諾約スルコトヲ得
第六条 保証人ノ義務ハ主タル義務ヨリ一層大ナルコトヲ得ス又一層重キ体様ニ服スルコトヲ得ス若シ保証人ノ義務カ一層大ナルトキ又ハ一層重キトキハ主タル義務ノ限度及ヒ体様ニ之ヲ減ス
第七条 前条ノ禁止ノ規定ハ債務者ヨリ其主タル義務ノ為メ物上担保ヲ供セサルトキ保証人ヨリ其従タル義務ノ物上担保ヲ供スルコトヲ妨ケス又保証人カ主タル債務者ヨリ一層厳ナル執行方法ニ服スルコトヲモ妨ケス
保証人ハ亦第三者ヲ引受人トシテ己レヲ保証セシムルコトヲ得此引受人ニ対シテハ保証人ハ主タル債務者ノ地位ヲ有ス
第八条 金額又ハ定マリタル物ニ制限シタル保証ハ其利息ニモ果実ニモ其他ノ附従物ニモ及フコト無シ
然レトモ主タル義務ノ無限ノ保証ハ填補ノ利息、遅延ノ利息其他此債務ノ天然上、法律上又ハ合意上ノ附従物ニ及ヒ又主タル債務者ニ対シテ為シタル最初ノ訴ノ費用ト其訴ヲ保証人ニ告知シタル以後ノ費用トニモ及フ
第九条 総テ有効ナル義務ハ之ヲ保証スルコトヲ得
無能力者ノ取消スコトヲ得ヘキ義務ト雖モ亦有効ニ之ヲ保証スルコトヲ得其義務カ裁判上ニテ取消サレタル後ト雖モ保証ハ其効力ヲ存ス但保証人カ其保証ノ際債務者ノ無能力ヲ知リタルトキニ限ル
第十条 何人ニテモ将来ノ債務ヲ保証スルコトヲ得又債権者又ハ債務者ノ方ニ於テ随意ノ条件ニ繋ル債務ヲモ保証スルコトヲ得但保証人ニ於テ其債務ノ性質及ヒ広狭ヲ査定スルコトヲ得ルトキニ限ル
第十一条 何人ニテモ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ其不知ニテ又ハ其意ニ反シテモ其保証人ト為ルコトヲ得
弁済シタル保証人ノ其債務者ニ対スル求償ハ第二節第二款ニ於テ之ヲ規定ス
第十二条 有効ニ保証人ト為ルニハ一般ナルト債務者ニ対スルトヲ問ハス無償ニテ義務ヲ負担スル能力ヲ有スルコトヲ要ス
然レトモ主タル契約カ有償ナルトキハ保証人ノ債務者ニ対スル無能力ハ債権者カ之ヲ知リタルトキニ非サレハ保証人ヨリ債権者ニ其無能力ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第十三条 債務ヲ保証スル意思ハ之ヲ明示セサルトキハ明カニ事情ヨリ生スルコトヲ要ス然レトモ其意思ハ契約者ノ一方ヲ他ノ一方ニ勧メ又ハ其一方ノ現在若クハ将来ノ有資力ヲ確言シタル事実ノミヨリ之ヲ推測スルコトヲ得ス
若シ証書ノ署名者中ノ一人カ共同債務者ナルカ又ハ保証人ナルカニ付キ疑アルトキハ之ヲ保証人ト看做ス
第十四条 保証人ノ義務ハ其相続人ノ負担ニ帰シ又債権者ノ相続人ノ利益ニ帰ス但反対ノ要約アルトキハ此限ニ在ラス
第十五条 債務者カ保証人ヲ立ツ可キ合意ヲ以テ義務ヲ負ヒタルトキハ其債務者ハ債務ノ性質及ヒ大小ニ応シ有資力ノ人ニ非サレハ保証人トシテ之ヲ立ツルコトヲ得ス
若シ右ノ保証人カ無資力ト為リタルトキハ債務者ハ前項ト同一ノ条件ヲ具備スル他ノ者ヲ立ツルコトヲ要ス
此他保証人ハ義務ヲ履行ス可キ控訴院ノ管轄地内ニ於テ住所ヲ有シ又ハ仮住所ヲ定ムルコトヲ要ス
債権者ヨリ人ヲ指定シテ保証人ヲ要約シタルトキハ本条ノ条件ヲ要セス
第十六条 債務者カ前条ノ条件ヲ具備スル保証人ヲ立ツルコト能ハサルトキハ十分ナル物上担保ヲ与フルコトヲ得
第十七条 商証券ノ保証及ヒ仲買人カ委託者ニ対シテ諾約シタル担保ノ特例ハ商法ニ於テ之ヲ規定ス
第二節 保証ノ効力
第一款 保証人債権者間ノ保証ノ効力
第十八条 債権者ハ債務者ニ義務履行ノ催告ヲ為シタルモ其効果アラサリシコトノ証拠ヲ保証人ニ示サスシテ之ヲ訴追スルコトヲ得ス
然レトモ債務者カ行方知レス又ハ破産ノ宣告ヲ受ケ若クハ顕然タル無資力ノ形状ニ在ルトキハ右ノ催告ヲ必要トセス
第十九条 保証人ハ右ノ外下ノ制限及ヒ条件ニ従ヒ債権者カ予メ債務者ノ財産ヲ検索シテ之ヲ売ラシムルコトヲ債権者ニ要求スルコトヲ得
第二十条 保証人ハ明示又ハ黙示ニテ財産検索ノ利益ヲ放棄シ又ハ主タル債務者ト連帯シテ義務ヲ負担シタルトキハ検索ノ利益ヲ享ケス
総テノ場合ニ於テ保証人ハ主タル債務ノ基本ヲ争フ前ニ検索ノ利益ヲ以テ債権者ニ対抗セサリシトキハ其利益ヲ失フ
第二十一条 検索ヲ要求スル保証人ハ債務者ノ不動産ニシテ義務ヲ履行ス可キ控訴院ノ管轄地内ニ在ルモノヲ債権者ニ指示スルコトヲ要ス
保証人ハ争ニ係ル不動産ヲモ他ノ債権者ニ優先ニテ抵当ト為リタル不動産ヲモ訴追債権者ニ抵当ト為リタル不動産ニシテ第三所持者ノ手ニ存スルモノヲモ指示スルコトヲ得ス
債務者ニ属スル動産ニ付テハ債務者之ヲ物上担保トシテ既ニ債権者ニ供シタルトキニ非サレハ保証人其検索ヲ要求スルコトヲ得ス
第二十二条 債権者検索ノ有効ナル対抗ヲ受ケ其検索ヲ為スコトヲ怠リテ債務者其後無資力ト為リタルトキハ保証人ハ債権者ノ検索ニ因リ得ヘカリシ金額ニ満ツルマテ其義務ヲ免カル
第二十三条 一人ノ債務者ノ為メ数人ノ保証人アルトキハ債務ハ均一ニテ当然其間ニ分タル但不均一ニテ分別スルコトヲ定メ又ハ其保証人カ或ハ債務者ト共ニ或ハ各自ノ間ニ連帯シテ義務ヲ負担シ若クハ其他ノ方法ニテ分別ヲ放棄シタルトキハ此限ニ在ラス
保証ノ義務カ各別ノ証書ヨリ生スルトキト雖モ分別ノ利益ハ存在ス
第二十四条 保証人ハ検索ノ利益ヲ用ヰタルト否ト分別ノ利益ヲ享クルト否トヲ問ハス訴追ヲ受ケタルトキハ第二十九条ニ明示シタル目的ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ参加セシムル為メ基本ニ付テノ答弁前ニ民事訴訟法ニ定メタル方式及ヒ条件ニ従ヒ延期抗弁ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得
第二十五条 保証人カ基本ニ付テ答弁スルトキハ主タル債務ノ組成又ハ其消滅ヨリ生スル抗弁ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得
保証人ハ債務ヲ保証スルニ当リ債務者ノ無能力又ハ其承諾ノ瑕疵ヲ知ラサリシトキハ此等ノ事項ヨリ生スル無効ノ理由ヲ以テモ対抗スルコトヲ得
第二十六条 右ノ抗弁ニ付キ債権者ト保証人トノ間ニ有リタル判決ハ債務者ヲ害スルコトヲ得ス然レトモ之ヲ利スルコトヲ得但其判決ノ牽連シタル箇条ハ債務者ニ利ナルモノト不利ナルモノトヲ分ツコトヲ得ス
第二十七条 債務者ニ対シテ時効ヲ中断シ又ハ債務者ヲ遅滞ニ付スル行為ハ保証人ニ対シテ同一ノ効力ヲ生ス
保証人ニ対シタル右同一ノ行為ハ保証人カ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ債務者ト連帯シテ義務ヲ負担シタルトキニ非サレハ債務者ニ対シテ効力ヲ生セス
第二十八条 主タル債務者ノ為シタル債務ノ自白ハ保証人ヲ害ス
保証人ノ為シタル自白ハ委任又ハ連帯アル場合ニ非サレハ債務者ヲ害セス
第二款 保証人債務者間ノ保証ノ効力
第二十九条 債権者ヨリ訴追ヲ受ケタル保証人ハ第二十四条及ヒ財産編第三百九十九条ニ掲ケタル如ク主タル請求ニ対シテ債務者ノ答弁ヲ要ス可キ場合ニ於テハ其答弁ヲ為サシムル為メ又債務者ノ敗訴ノ言渡ヲ受ク可キ場合ニ於テハ債務者ニ対シテ次条ニ定メタル賠償ノ言渡ヲ得ル為メ担保附帯ノ請求ヲ以テ債務者ヲ訴訟ニ召喚スルコトヲ得
右担保附帯ノ請求ハ債務者ノ委任ヲ受ケタル保証人ノミニ属ス
第三十条 主タル債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務者ニ義務ヲ免カレシメタル保証人ハ債務者ヨリ賠償ヲ受クル為メ之ニ対シテ担保訴権ヲ有ス但左ノ区別ニ従フ
第一 保証人カ債務者ノ委任ヲ受ケテ義務ヲ負担シタルトキハ其債務者ニ義務ヲ免カレシメ又ハ債務者ノ名ニテ弁済シタル元利、其担当シタル費用、立替ヲ為シタル時ヨリ其利息其他損害アルトキハ其賠償ノ金額ヲ債務者ヨリ償還セシムルコトヲ得又此委任ノ場合ニ於テ保証人ハ其分限ヲ以テ言渡ヲ受ケタルトキハ債務者ニ対シ直チニ其賠償ヲ受クル為メ訴ヲ為スコトヲモ得
第二 保証人カ債務者ノ不知ニテ義務ヲ負担シタルトキハ債務者ノ義務ヲ免カレシメタル日ニ於テ之ニ得セシメタル有益ノ限度ニ従ヒ右ノ賠償ヲ受ク
若シ保証人カ債務者ノ意ニ反シテ義務ヲ負担シタルトキハ保証人ノ求償ノ日ニ於テ債務者ノ為メ存在スル有益ノ限度ニ非サレハ右ノ賠償ヲ受クルコトヲ得ス
第三十一条 連帯又ハ不可分ニテ責ニ任スル数人ノ債務者ヨリ保証人ニ委任ヲ為シタル場合ニ於テハ其債務者ハ財産取得編第二百四十九条ニ従ヒ保証人ニ対シテ連帯ノ担保人タリ
第三十二条 債務者ヲ訴訟ニ参加セシムルコトヲ怠リタル保証人ハ其債務者カ債権者ニ対抗ス可キ排訴抗弁ヲ有シタルコトヲ証スルトキハ第三十条ニ定メタル求償権ヲ有セス
若シ債務者カ債権者ニ対抗ス可キ延期抗弁ノミヲ有シタルトキハ右ノ懈怠アル保証人ノ求償ニ対シ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得
第三十三条 保証人ハ有効ニ弁済シタルモ債務者ニ其旨ヲ有益ニ通知スルコトヲ怠リ為メニ債務者カ善意ニテ再ヒ弁済シ此他有償ニテ自己ノ免責ヲ得タルトキモ亦其求償権ヲ失フ
右ニ反シテ債務者カ自ラ債務ヲ消滅セシメタルコトヲ保証人ニ通知スルコトヲ怠リタルトキハ債務者ハ場合ニ従ヒ其債務ノ消滅後保証人ノ為シタル弁済ニ付キ責任アリトノ宣告ヲ受クルコト有リ
孰レノ場合ニ於テモ利害ノ関係アル当事者ハ受取ルコトヲ得サルモノヲ受取リタル債権者ニ対シテ求償権ヲ有ス
第三十四条 委任ヲ受ケテ義務ヲ負担シタル保証人ハ弁済ヲ為ス前又訴追ヲ受クル前ニテモ債務者ヨリ予メ賠償ヲ受クル為メ又ハ未定ノ損失ヲ担保セシムル為メ左ノ三箇ノ場合ニ於テ之ニ対シ訴ヲ為スコトヲ得
第一 債務者カ破産シ又ハ無資力ト為リ且債権者カ清算ノ配当ニ加入セサルトキ
第二 債務ノ満期ノ到リタルトキ
第三 満期ノ不定ナル債務カ其日附ヨリ十个年ヲ過キタルトキ
第三十五条 債権者カ完全ノ弁済ヲ受ケサル間ハ前条及ヒ第二十九条ニ依リ債務者ヨリ予メ保証人ニ供ス可キ賠償ハ債務者其債権者ニ対スル自己ノ免責ヲ保スル為メ債権者ノ名ヲ以テ之ヲ供託シ又ハ其他ノ方法ニテ之ヲ留存スルコトヲ得
第三十六条 主タル債務ヲ弁済シ其他ノ方法ニ因リ義務ヲ消滅セシメタル総テノ保証人ハ己レノ権利ニ基キテ有スル訴権ノ外債務者又ハ第三者ニ対シ債権者ノ有シタル総テノ権利ニ付キ財産編第四百八十二条第一号ニ従ヒテ代位ス但第三十二条及ヒ第三十三条ノ制限ニ従フコトヲ要ス
債権者カ債務者ノ不動産ニ付キ先取特権又ハ抵当権ヲ有シ其登記ヲ為シタルトキハ保証人ハ代位ヲ目的トシテ自己ノ条件附ノ債権ヲ此登記ニ附記スルコトヲ得又譲渡ノ場合ニ於テハ其不動産ヲ所持スル第三者ハ滌除ノ為メ債権者ノ外保証人ニ対シテモ亦提供ヲ為スコトヲ要ス
債権者カ有益ナル時期ニ於テ右ノ登記ヲ為ササリシトキハ保証人ハ第四十五条及ヒ財産編第五百十二条ニ従ヒ債権者ニ対シテ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得
第三十七条 連帯又ハ不可分ナル義務ノ数人ノ債務者アルトキハ保証人ハ其中ノ或ル者ヲ保証シ他ノ者ヲ保証セサルトキト雖モ右ノ代位ニ依リ債務者ノ各自ニ対シテ全部ニ付キ求償スルコトヲ得
第三款 共同保証人間ノ保証ノ効力
第三十八条 一箇ノ債務ニ付キ数人ノ保証人アリテ其中ノ一人カ任意ナルト否トヲ問ハス債務ノ全部ヲ弁済シタルトキハ其保証人ハ主タル債務者ニ対スル求償ニ関シ上ニ記載シタル条件、制限及ヒ区別ニ従ヒ或ハ事務管理ノ訴権ニ因リ或ハ債権者ノ訴権ニ因リ他ノ保証人ノ各自ニ対シテ均一部分ニ付キ求償スルコトヲ得
右ノ保証人カ債務ノ全部ヲ弁済セスシテ自己ノ部分ヨリ多ク弁済シタルトキハ其超過額ノ為メノ求償ハ他ノ共同保証人ノ間ニ均一ニ之ヲ分ツ
第三十九条 共同保証人中ニ無資力ト為リタル者アルトキハ弁済シタル者ハ其無資力者ノ引受人ニ対シテ求償権ヲ有ス若シ引受人アラサルトキハ無資力者ノ部分ハ債務ヲ弁済シタル者ヲ加ヘ他ノ有資力ナル共同保証人ノ間ニ之ヲ分ツ
第四十条 前条ニ依リ訴ヲ受ケタル共同保証人ハ未タ主タル債務者ノ財産ノ検索アラサルトキハ第二十条以下ニ定メタル規則及ヒ条件ニ従ヒテ予メ其検索ヲ請求スルコトヲ得
右同一ノ権利ハ保証人ノ引受人ニモ属ス
第四十一条 連帯シテ又ハ不可分ナル債務ノ為メ義務ヲ負担シタル数人ノ保証人中全部履行ニ付キ訴ヲ受ケタル者ハ本訴ニ附帯シテ共同保証人ヲ担保ノ為メニ召喚シ之ニ対シ同一ノ判決ヲ以テ前数条ニ許サレタル言渡ヲ受ケシムルコトヲ得
第四十二条 保証人ノ一人ニ対スル時効中断又ハ付遅滞ノ行為ハ他ノ保証人ニ対シテ其効ナシ但其義務カ連帯ナルトキハ此限ニ在ラス
債権者ト保証人ノ一人トノ間ニ主タル債務ニ関シ有リタル判決及ヒ自白ハ他ノ保証人ヲ利スルコトヲ得然レトモ之ヲ害スルコトヲ得ス
第四十三条 相互ニ連帯シ又ハ債務者ト連帯シタル保証人中ニ無資力ト為リタル者アルトキハ各保証人ノ間ニ第六十七条乃至第六十九条ヲ適用ス但其各条ニ記載シタル区別ニ従フ
第三節 保証ノ消滅
第四十四条 保証ハ義務消滅ノ通常ノ原因ニ由リ直接ニ消滅ス
保証ノ更改、免除、相殺及ヒ混同ハ財産編第五百二条、第五百十一条、第五百二十一条及ヒ第五百三十八条ニ於テ之ヲ規定ス
第四十五条 債権者カ故意又ハ懈怠ニテ保証人ノ其代位ニ因リテ取得スルコトヲ得ヘキ担保ヲ減シ又ハ害シタルトキハ総テノ保証人ハ債権者ニ対シテ自己ノ免責ヲ請求スルコトヲ得
保証人ノ引受人ハ保証人ノ権利ニ基キ右ノ権利ヲ援用スルコトヲ得
第四十六条 保証ハ主タル義務消滅ノ総テノ原因ニ由リテ間接ニ消滅ス
債権者ト主タル債務者トノ間ニ為シタル代物弁済、更改、免除、相殺及ヒ混同ノ保証人ニ対スル効力ハ財産編第四百六十一条、第五百一条、第五百六条、第五百二十一条及ヒ第五百三十八条ニ於テ之ヲ規定ス
第四節 法律上及ヒ裁判上ノ保証ニ特別ナル規則
第四十七条 法律ノ規定又ハ判決ニ従ヒテ保証人ヲ立ツル責アル者ハ自ラ保証人ヲ立テント約シタルトキト同シク第十五条及ヒ第十六条ニ定メタル如キ条件ヲ具備スル保証人ヲ立ツルコトヲ要ス
法律上及ヒ裁判上ノ保証人ヲ承認スル手続ハ民事訴訟法ニ於テ之ヲ規定ス
第四十八条 裁判所ハ法律カ裁判執行ノ為メ保証人ヲ立テシムル権能ヲ付与シタル場合ニ非サレハ此カ為メ保証人ヲ立ツ可キコトヲ命スルヲ得ス
第四十九条 裁判上ノ保証人及ヒ其引受人ハ財産検索ノ利益ヲ有スルコトヲ得ス
第五十条 法律上及ヒ裁判上ノ保証人ハ其債務者ニ対スル担保ノ求償ニ関シテハ常ニ之ヲ債務者ノ代理人ト看做ス
第二章 債務者間及ヒ債権者間ノ連帯
総則
第五十一条 義務ノ目的単数ナルモ主タル当事者トシテ之ニ関係スル人複数ナルトキハ其義務ハ財産編第四百三十八条ニ指示シ且下ノ二節ニ記載スル如ク受方又ハ働方ニテ連帯タルコト有リ
第一節 債務者間ノ連帯
第一款 債務者間ノ連帯ノ性質及ヒ原因
第五十二条 債務者間ノ連帯即チ受方連帯ハ共同債務者ヲシテ其共通ノ利益ニ於テモ債権者ノ利益ニ於テモ相互ニ代人タラシム
此連帯ハ合意、遺言又ハ法律ノ規定ヨリ生ス
連帯ハ之ヲ推定セス如何ナル場合ニ於テモ明示ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス但不可分ニ関シ第八十八条ニ記載シタルモノハ此限ニ在ラス
第五十三条 数人ノ債務者ノ連帯義務ハ同一ノ行為ヲ以テ又同時、同所ニ於テ之ヲ契約スルコトヲ要セス但其義務ノ目的及ヒ原因ハ同一ナルコトヲ要ス
又連帯債務者ハ別異及ヒ不均一ノ体様又ハ負担ヲ以テ責ニ任スルコトヲ得
第二款 債務者間ノ連帯ノ効力
第五十四条 数人ノ連帯債務者ヲ有スル債権者ハ其訴追セント択ミタル債務者ニ対シ唯一人ノ債務者ニ於ケル如ク且其債務者ヨリ検索又ハ分別ノ利益ノ抗弁ヲ受クルコト無ク義務全部ノ履行ヲ要求スルコトヲ得
又債権者ハ皆済ヲ受クルニ至ルマテ同時又ハ順次ニ総債務者ヲ訴追スルコトヲ得
第五十五条 各債務者ハ訴ヲ受ケタルト否トヲ問ハス連帯債務全部ノ弁済ヲ受クルコトヲ債権者ニ強要スルコトヲ得
第五十六条 連帯債務者ニシテ債務ニ於ケル全部又ハ自己ノ部分ヨリ多額ニ付キ訴ヘラレタル者ハ共同債務者ヲ訴訟ニ召喚シ附帯ノ担保方法ヲ以テ其債務者ヲシテ答弁又ハ弁済ヲ担任セシムル為メ必要ナル期間ヲ請求スルコトヲ得但債権者ニ対シテハ訴追ヲ受ケタル債務者ノミ其対手人タル可シ
共同債務者ハ亦其利益保護ノ為メ任意ニ自費ヲ以テ訴訟ニ参加スルコトヲ得
第五十七条 連帯債務ノ履行ノ為メ訴ヲ受ケタル各債務者ハ自己ノ権利ニ基クト共同債務者ノ権利ニ基クトヲ問ハス義務ノ組成又ハ消滅ヨリ生スル答弁方法ヲ以テ債務ノ全部ニ付キ債権者ニ対抗スルコトヲ得
右ノ外更改、免除、相殺及ヒ混同ニ関シテハ財産編第五百一条、第五百六条、第五百九条、第五百二十一条及第五百三十五条ノ規定ニ従フ
第五十八条 債務者ノ一人ノ無能力又ハ承諾ノ瑕疵ニ基キタル答弁方法ハ其人自身ニ非サレハ之ヲ援用スルコトヲ得ス然レトモ此答弁方法カ一旦許サレタル上ハ債務ニ於ケル其者ノ部分ニ付キ他ノ債務者ヲ利ス但他ノ債務者カ契約ノ際義務履行ニ付キ其者ノ分担ヲ予期スルコト有リタルトキニ限ル
第五十九条 前二条ニ規定シタル種種ノ事項ニ付キ債権者ト債務者ノ一人トノ間ニ有リタル判決及ヒ自白ハ他ノ債務者ノ利害ニ於テ前二条ニ同シキ限度及ヒ区別ヲ以テ其効力ヲ生ス
第六十条 一人ノ債務者ト他ノ債務者トノ間ニ於ケル連帯ノ存在ノミニ関シテ其一人ト債権者トノ間ニ有リタル判決及ヒ自白ハ他ノ債務者ヲ害セス又之ヲ利セス
第六十一条 連帯債務者ノ一人ニ対シ債権者ノ利益ニ於テ時効ヲ中断シ又ハ付遅滞ヲ成ス原因ハ他ノ債務者ニ対シテ同一ノ効力ヲ有ス
債務者ノ一人ニ対シ債権者ノ利益ニ於テ存スル時効停止ノ原因ハ他ノ債務者ノ利益ニ於テ其部分ノ為メ時効ノ進行スルコトヲ妨ケス
第六十二条 義務ノ目的物ノ滅失其他総テ義務履行ノ不能カ連帯債務者ノ一人ノ過失ニ因リ又ハ其付遅滞後ニ生スルトキハ他ノ債務者ハ債権者ニ対シ連帯シテ損害賠償又ハ過怠約款ノ責ニ任ス但過失アリ又ハ遅滞ニ在リシ債務者ニ対スル他ノ債務者ノ求償権ヲ妨ケス
第六十三条 連帯債務者中ニテ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得セシメタル者ハ他ノ債務者ニ対シ弁済又ハ免責ノ限度ニ於テ其各自ノ負担部分ニ付キ自己ノ権利ニ基キテ求償権ヲ有ス
右ノ求償中ニハ会社及ヒ代理ノ規則ニ従ヒ弁償金及ヒ必要ナル出捐ノ賠償ノ外弁償以後ノ法律上ノ利息及ヒ避クルコトヲ得サリシ費用ヲ包含ス
第六十四条 債務ヲ弁済シタル債務者ハ債権者ノ実際受取リタルモノノ限度ニ於テノミ財産編第四百八十二条第一号ニ従ヒ法律上ノ代位ニ因リテ其債権者ノ権利及ヒ訴権ヲ行フコトヲ得
然レトモ其債務者ハ前条ニ記載シタル如ク其共同債務者ノ各自ノ間ニ於テ自己ノ訴ヲ分ツコトヲ要ス
第六十五条 不注意ニテ弁済シタル保証人ニ対シ第三十二条及ヒ第三十三条ニ規定シタル求償ノ失権ハ訴追又ハ弁済ヲ共同債務者ニ告知スルコトヲ怠リタル連帯債務者ニ対シテ之ヲ適用ス
第六十六条 共同債務者ノ一人カ上ニ指示シタル方法ノ一ニ因リ求償ノ行ハレタル当時ニ於テ無資力ナルトキハ無資力者ノ部分ハ弁済シタル者ヲモ加ヘテ他ノ資力アル者ノ間ニ割合ニ応シテ之ヲ分ツ但求償者ノ責ニ帰ス可キ懈怠アリシトキハ此限ニ在ラス
第六十七条 何等ノ弁済モ有ラサル前ニ連帯債務者ノ一人ノ無資力ト為リタルトキハ債権者ハ其債権ノ全額ニ付キ清算ニ加ハルコトヲ得
此場合ニ於テ弁済ノ残額ハ他ノ債務者之ヲ負担ス但其債務者ノ自己ノ部分外ニ負担シタルモノニ対スル求償ハ其清算ニ加ハリタル他ノ債権者ヲ害スルコトヲ得ス
第六十八条 債務者ノ一人ノ無資力ト為リタル前ニ一分ノ弁済アリタルトキハ債権者ハ弁済残額ノ為メニ非サレハ其清算ニ加ハルコトヲ得ス又一分ノ弁済ヲ為シタル他ノ債務者ハ第六十三条ニ従ヒ自己ノ受取ル可キモノヲ弁償セシムル為メ清算ニ加ハルコトヲ得
第六十九条 何等ノ弁済モ有ラサル前ニ総テノ連帯債務者又ハ其中ノ数人ノ無資力ト為リタル場合ニ於テ債権者ハ其債権ノ全額ニ付キ各清算ニ加ハルコトヲ得
然レトモ債権者カ清算ノ一ニ於テ配当金ヲ受取リタルトキハ他ノ清算ニ於テ其債権ノ全額ニ従ヒ債権者ニ充テタル新配当金ハ以前ノ配当ニ於テ未タ受取ラサルモノノ割合ニ応スルニ非サレハ債権者之ヲ受取ルコトヲ得ス
受取ノ残額ハ各清算ニ之ヲ返還ス但各清算ノ弁済シタルモノノ割合ニ従フ
第三款 債務者間ノ連帯ノ終了
第七十条 債権者カ総債務者ニ対シテ連帯ヲ放棄スルトキハ財産編第四百三十八条第一項ニ規定シタル如ク其債務者ノ義務ハ単ニ連合ノモノト為リテ存シ其他ノ性質ヲ変スルコト無シ
第七十一条 財産編第五百十条ニ従ヒ明示又ハ黙示ニテ債務者ノ一人又ハ数人ニ対シテノミ連帯ノ放棄アリタルトキハ他ノ債務者ハ連帯ノ免除ヲ得タル者ノ部分ニ於テノミ其義務ヲ免カル
連帯ノ免除ヲ得サル債務者中ニ無資力者アルトキハ債権者ハ其無資力ニ付キ連帯ノ免除ヲ得タル者ノ部分ヲ負担ス
第七十二条 債権者カ連帯債務者ノ一人ヨリ供シタル担保ニシテ他ノ債務者ノ弁済シテ代位スルコトヲ得ヘキモノノ全部又ハ一分ヲ毀損シ又ハ滅失セシメタルトキハ他ノ債務者ハ其担保ヲ供シタル者ノ部分ニ付キ連帯ノ義務ヲ免カレント請求スルコトヲ得
右ノ請求ニ因リテ宣告シタル免責ハ連帯ノ任意免除ト同一ノ効力ヲ有ス
第四款 全部義務
第七十三条 財産編第三百七十八条、第四百九十七条第二項及ヒ其他法律カ数人ノ債務者ノ義務ヲ其各自ニ対シ全部ノモノト定メタル場合ニ於テハ相互代理ニ付シタル連帯ノ効力ヲ適用スルコトヲ得ス但其総債務者又ハ其中ノ一人カ債務ノ全部ヲ弁済スル言渡ヲ受ケタルトキモ亦同シ
然レトモ一人ノ債務者ノ為シタル弁済ハ債権者ニ対シ他ノ債務者ヲ免カレシム又弁済シタル者ハ事務管理ノ訴権ニ依リ又ハ債権者ニ代位シテ得タル訴権ニ依リテ他ノ債務者ニ対シ其部分ニ付キ求償権ヲ有ス
第二節 債権者間ノ連帯
第一款 債権者間ノ連帯ノ性質及ヒ原因
第七十四条 債権者間ノ連帯即チ働方連帯ハ権利ノ保存及ヒ行使ニ付キ其債権者ヲシテ互ニ代人タラシム
此連帯ハ合意又ハ遺言ヨリ生ス
第七十五条 数人ノ連帯債権者ニ対スル債務者ノ約務ハ同一ノ行為ヲ以テ又同時、同所ニ於テ之ヲ契約スルコトヲ要セス但其義務ノ目的及ヒ原因ハ同一ナルコトヲ要ス
又債務者ハ数人ノ債権者ニ対シ別異及ヒ不均一ノ体様又ハ負担ヲ以テ責ニ任スルコトヲ得
第二款 債権者間ノ連帯ノ効力
第七十六条 各連帯債権者ハ唯一人ノ債権者ナル如ク義務全部ノ履行ヲ債務者ニ要求スルコトヲ得
債権者ノ一人カ訴ヲ起シタルトキハ他ノ各債権者ハ共通ノ利益及ヒ自己ノ利益ノ保護ノ為メ訴訟ニ参加スルコトヲ得
第七十七条 債務者ハ債権者ノ一人ヨリ訴追又ハ合式ノ要求ヲ受ケサル間ハ債務ノ全額ノ弁済ヲ受クルコトヲ債権者ノ各自ニ強要スルコトヲ得之ニ反スル場合ニ於テハ訴追者又ハ要求者ニ対スルニ非サレハ弁済ヲ為スコトヲ得ス
若シ同時ニ数人ノ訴追者又ハ要求者アルトキハ債務者ハ其総テノ者ニ対スルニ非サレハ弁済ヲ為スコトヲ得ス
第七十八条 義務組成ノ瑕疵ニ基キタル抗弁ニ付キ有リタル判決ハ債務ノ全部ニ対シ総債権者ノ利害ニ於テ其効力ヲ生ス但訴訟ニ其名ヲ出タササリシ者ニ対シテモ亦同シ
第七十九条 義務消滅ノ原因ニ基キタル抗弁ニ付キ有リタル判決ハ左ノ区別ニ従フニ非サレハ訴訟ニ与カラサリシ債権者ニ対シテ其効ナシ
第一 第七十七条ニ定メタル条件ニ従ヒ債権者ノ一人ニ為シタル弁済ハ全部ニ付キ総債権者ニ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得又財産編第五百二十一条第三項ニ記載シタル如ク債権者ノ一人ニ対シ債務者ノ有スル相殺ニ付テモ亦同シ但相殺ノ原因カ第七十七条ニ従ヒ債務者ヨリ其債権者ニ有効ニ弁済スルコトヲ得ヘキ時期ニ於テ生シタルトキニ限ル
第二 債権者ノ一人ノ行為ヨリ生シ又ハ其権利ニ基キテ生スル更改、免除及ヒ混同ハ財産編第五百一条第三項、第五百十五条第一項及ヒ第五百三十五条第二項ニ従ヒ其債権者ノ部分ニ非サレハ債務ヲ消滅セシメス但此行為ハ他ノ債権者ノ訴追又ハ要求ノ前ニ在ルコトヲ要ス
又右同一ノ行為ニ関シ及ヒ弁済又ハ相殺ニ関スル和解ニ付テモ亦同シ
第八十条 債権者中ノ一人ノ一身ニ限ル債務者ノ抗弁ニ付キ有リタル判決ハ他ノ債権者ヲ害セス又之ヲ利セス又債権者ノ一人カ其連帯ニ於ケル権利ニ付キ債務者ト為シタル和解ニ付テモ亦同シ
第八十一条 債権者ノ一人カ債務者ニ対シテ時効ヲ中断シ又ハ其債務者ヲ遅滞ニ付スル行為ハ全部ニ付キ他ノ債権者ヲ利ス
債権者ノ一人ノ利益ニ於テ法律ノ設定シタル時効ノ停止ハ其部分ニ限リ其一人ノミヲ利ス
第八十二条 義務ノ全部又ハ一分ノ履行ヲ得タル連帯債権者ハ他ノ債権者ノ特別ノ関係及ヒ其相互ノ部分ニ従ヒ之ニ其利益ヲ分与スルコトヲ要ス
第三款 債権者間ノ連帯ノ終了
第八十三条 債権者間ノ連帯ハ放棄ニ因リテ止ム其放棄ハ明示ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第八十四条 連帯ノ放棄ハ債権者ノ一人若クハ数人又ハ其総員ヨリ之ヲ為スコトヲ得
総債権者ノ働方連帯ノ放棄ハ第七十条ニ規定シタル如ク受方連帯ノ放棄カ共同債務者ニ対シテ生セシムルト同一ノ効力ヲ其債権者間ニ生セシム
若シ債権者ノ一人又ハ数人カ放棄ヲ為シタルトキハ他ノ債権者ハ此放棄ヲ為シタル者ノ部分ニ付テノミ訴ヲ為シ又ハ弁済ヲ受クル権利ヲ失フ
第八十五条 連帯ノ放棄ハ債務者ノ承諾ナクシテ有効ナリ
然レトモ其放棄ハ之ヲ債務者ニ告知セシカ又ハ債務者明確ニ之ヲ知リタルトキニ非サレハ上ノ規定ヲ以テ債務者ニ許シタル弁済其他ノ行為ニ対シテ債権者ヨリ之ヲ援用スルコトヲ得ス
債務者ハ放棄ヲ申立ツル利益アルトキハ之ヲ申立ツルコトヲ得又放棄カ其権利ノ詐害ニ於テ為サレタルトキハ之ヲ駁撃スルコトヲ得
第三章 任意ノ不可分
第八十六条 財産編第四百四十一条及ヒ第四百四十二条ニ規定シタル不可分ノ外債務ハ尚ホ数人ノ債務者ノ負担又ハ数人ノ債権者ノ利益ニ於テ債務履行ノ担保トシテ任意上不可分タルコトヲ得但財産編第四百四十三条ニ指示シタル如ク受方又ハ働方ノ連帯ニ併合シ又ハ併合セサルコト有リ
任意ノ不可分ハ合意又ハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得此不可分ハ明示タルコトヲ要ス
第八十七条 債務者ノ負担ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ働方タル可キコトノ明示アルニ非サレハ債権者ノ利益ニ於テ存立セス
又債権者ノ利益ニ於テ設定シタル不可分ハ同時ニ受方タル可キコトノ明示アルニ非サレハ債務者ノ負担ニ於テ存立セス
第八十八条 受方ナルト働方ナルトヲ問ハス任意ノ不可分ヲ設定シタルトキハ受方又ハ働方ノ連帯ヲ明示ニテ阻却セサル場合ニ限リ債務者又ハ債権者ノ間ニ此連帯ノ効力ヲ生セシム
第八十九条 債務者ノ一人ニ対シテ時効ヲ中断又ハ停止スル原因ハ総債務ニ付キ他ノ債務者ニ対シテ中断又ハ停止ヲ生ス
又債権者ノ一人ノ権利ヨリ生スル時効ノ中断又ハ其停止ノ原因ハ他ノ債権者ヲ利ス
第九十条 債権カ受方又ハ働方ニテ同時ニ連帯及ヒ不可分ナルトキハ第八十三条及ヒ財産編第五百十条ニ記載シタル区別ニ従ヒ明示ナルト黙示ナルトヲ問ハス連帯ノ放棄ハ亦任意ノ不可分ノ放棄ヲ惹起ス但不可分ノ放棄ハ連帯ヲ存立セシム
第九十一条 財産編第四百四十四条乃至第四百四十九条、第五百一条第四項、第五百六条第三項、第五百九条第一項、第五百十三条、第五百十五条第二項、第五百二十一条第四項、第五百三十六条及ヒ第五百三十七条第二項ノ規定ハ任意ノ不可分ニ之ヲ適用ス
債権者カ不可分ニテ義務ヲ負ヒタル債務者ノ代位ニ因リテ得ルコト有ル可キ担保ヲ滅失セシメ又ハ減少セシメタルトキハ其債務者ハ債権者ニ対シテ第七十二条ノ免責ヲ援用スルコトヲ得
第二部 物上担保
第一章 留置権
第九十二条 留置権ハ財産編及ヒ財産取得編ニ於テ特別ニ之ヲ規定シタル場合ノ外債権者カ既ニ正当ノ原因ニ由リテ其債務者ノ動産又ハ不動産ヲ占有シ且其債権カ其物ノ譲渡ニ因リ或ハ其物ノ保存ノ費用ニ因リ或ハ其物ヨリ生シタル損害賠償ニ因リテ其物ニ関シ又ハ其占有ニ牽連シテ生シタルトキハ其占有シタル物ニ付キ債権者ニ属ス
委任ナクシテ他人ノ事務ヲ管理シタル者ハ必要ノ費用及ヒ保持ノ費用ノ為メニ非サレハ其管理シタル物ニ付キ留置権ヲ有セス
第九十三条 債権者カ留置スル権利ヲ有シタル物ノ一分ノミヲ留置シタルトキ其部分ハ総債務ヲ担保スルニ足ルニ於テハ之ヲ担保ス
之ニ反シテ債権者ハ債務者ヨリ一分ノ弁済ヲ受ケタリト雖モ全部ノ弁済ヲ受クルニ至ルマテ留置権ニ服シタル総テノ物ヲ留置スルコトヲ得
第九十四条 留置権ハ留置物ノ価額ニ付キ債権者ニ先取特権ヲ付与セス
然レトモ留置物ヨリ天然又ハ法定ノ果実又ハ産出物ノ生スルトキハ留置権者ハ他ノ債権者ニ先タチテ之ヲ収取スルコトヲ得但其果実又ハ産出物ハ其債権ノ利息ニ充当シ猶ホ余分アルトキハ元本ニ充当スルコトヲ要ス
留置権者ハ其収取スルコトヲ怠リタル果実及ヒ産出物ニ付キ其責ニ任ス
第九十五条 留置権ハ債務者カ留置物ヲ譲渡シ又他ノ債権者カ之ヲ差押ヘ及ヒ売却セシムル妨ト為ラス
然レトモ孰レノ場合ニ於テモ取得者ハ留置権者ニ全ク弁済セスシテ其物ヲ占有スルコトヲ得ス
第九十六条 右ノ外動産又ハ不動産ノ留置権者ハ次ノ二章ニ規定シタル如ク動産又ハ不動産ノ質取債権者ト同一ノ責任ニ従フ
此他動産質及ヒ不動産質ニ関スル規定ハ此章ノ規定ニ触レサル限リハ留置権ニ之ヲ適用ス特ニ債権者カ有意ニテ留置権ヲ行フコトヲ怠リ又ハ実際之ヲ行フコトヲ止メタルトキハ其留置権ヲ失フ
第二章 動産質
第一節 動産質契約ノ性質及ヒ成立
第九十七条 動産質ハ債務者カ一箇又ハ数箇ノ動産ヲ特ニ其義務ノ担保ニ充ツル契約ナリ
第九十八条 動産質契約ハ債務者ノ委任ヲ受ケ又ハ好意ニテ債務者ノ為メ担保ヲ供スル第三者ト債権者トノ間ニモ亦之ヲ為スコトヲ得
孰レノ場合ニ於テモ動産質ヲ供シタル第三者ハ第三十条及ヒ第三十一条ニ従ヒ保証人ノ如ク債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス
第九十九条 動産質ハ其物ヲ処分スル能力ヲ有スル者ニ非サレハ有効ニ之ヲ供スルコトヲ得ス
合意上、法律上及ヒ裁判上ノ管理人ニ付テモ亦同シ此等ノ者ハ其権限ヲ踰エサルコトヲ要ス
若シ債務ニ関係ナキ第三者ヨリ動産質ヲ供シタルトキハ其第三者ハ第十二条ニ記載シタル如ク無償ニテ物ヲ処分スル能力ヲ有スルコトヲ要ス
第百条 動産質ハ債権及ヒ質物ヲ明カニ指定セル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
右質物ハ之ヲ他物ニ易フルコトヲ得サル様詳細ニ記載シ且要用アルトキハ之ヲ評価スルコトヲ要ス
若シ質物カ定量物ナルトキハ其種類、数量、尺度ヲ以テ之ヲ指定スルコトヲ要ス
第百一条 法律ニ従ヒ証人ニ依リテ債権ヲ証スルコトヲ得ル場合ニ於テハ証書ノ調製ヲ要セス此場合ニ於テハ債権ノ額及ヒ質物ノ相違ナキコト其性質、価額ヲ或ハ併合シ或ハ各別ニ人証ヲ以テ証スルコトヲ得
第百二条 動産質ハ質取債権者カ有体ナル質物ヲ現実ニ且継続シテ占有スルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニモ他ノ債権者ニモ対抗スルコトヲ得ス
然レトモ質物ハ当事者双方カ選定シ又ハ債権者カ自己ノ責任ヲ以テ選定シタル第三者ノ手ニ之ヲ寄託スルコトヲ得
此規定ハ債権ノ無記名証券ニモ之ヲ適用ス
第百三条 質物カ債権ノ記名証券ナルトキハ質取債権者ハ其証券ヲ占有スルコトヲ要ス
此他記名証券ノ質ノ設定ニ付テハ債権ノ譲渡ヲ告知スル通常ノ方式ヲ以テ第三債務者ニ其設定ヲ告知シ又ハ其第三債務者カ任意ニテ之ニ参加スルコトヲ要ス
又財産編第三百四十七条ノ規定ハ右ノ場合ニ之ヲ適用ス
右ハ総テ裏書ヲ以テ取引ス可キ商証券又ハ商品ノ質ニ関シ商法ニ記載シタルモノヲ妨ケス
第百四条 会社ノ記名ノ株券又ハ債券ヲ質ト為ストキハ証券ノ交付ノ外会社定款又ハ法律ニ於テ株券又ハ債券ノ譲渡ノ為メニ定メタル方式ヲ以テ之ヲ会社ニ告知シ其帳簿ニ之ヲ記入スルコトヲ要ス
第百五条 動産質ハ当事者ノ意思ニ従ヒ働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但反対ナル明示ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
動産質ハ債務者ヨリ債務ノ一分ヲ弁済シタルトキト雖モ元利及ヒ費用ノ皆済ニ至ルマテ質物ノ全部及ヒ各箇ニ於テ存在ス
第二節 動産質契約ノ効力
第百六条 質取債権者ハ質物ヲ返還スルマテ其看守及ヒ保存ニ付キ善良ナル管理人ノ注意ヲ加フル責アリ
質取債権者ハ債務者ノ許諾ヲ受ケスシテ質物ヲ賃貸スルコトヲ得ス又債務者ノ許諾ヲ受ケタルトキ又ハ物ノ使用カ其保存ニ必要ナルトキニ非サレハ自ラ之ヲ使用スルコトヲモ得ス
若シ質取債権者カ質物ヲ濫用スルトキハ裁判所ハ其失権ヲ宣告スルコトヲ得
第百七条 質取債権者ハ自己ノ責任ヲ以テ質物ヲ自己ノ債権者ニ転質ト為スコトヲ得此場合ニ於テハ転質ヲ為ササレハ生セサル可キ意外又ハ不可抗ノ危険ニ付テモ亦其責ニ任ス
第百八条 質物カ果実又ハ産出物ヲ生スルトキハ之ニ関シ質取債権者ハ第九十四条第二項ニ定メタル留置権者ノ権利及ヒ義務ヲ有ス
質ト為シタル債権ニ関シテハ質取債権者ハ其利息ヲ収取シ之ヲ自己ノ債権ニ充当ス然レトモ債務者ノ特別ナル委任ヲ受ケスシテ其元本ヲ受取ルコトヲ得ス但裏書ヲ以テ取引ス可キ証券ニ関スルトキハ此限ニ在ラス
第百九条 質取債権者カ質物保存ノ為メ必要ノ出費ヲ為シタルトキハ債権ニ先タチ動産質ヲ以テ其出費ノ弁償ヲ担保ス
質物ノ隠レタル瑕疵ニ因リテ債権者ノ受ケタル損害ノ賠償ニ付テモ亦同シ
第百十条 質取債権者ハ動産質ノ附キタル主従ノ債務及ヒ前条ノ償金ノ皆済ニ至ルマテ債務者及ヒ其譲受人ニ対シテ質物ノ占有ヲ留置スルコトヲ得
債権者ハ其債権ノ満期ニ至ラサル間ハ債務者ノ他ノ債権者ヨリ為ス質物ノ差押及ヒ其競売ヲ拒ムコトヲ得
第百十一条 動産質ノ附キタル債務カ満期ト為リタルトキ債務者履行ヲ為ササルニ於テハ質取債権者又ハ其他ノ債権者ヨリ質物ノ競売ヲ求ムルコトヲ得質取債権者ハ他ノ債権者ニ先タチ元利、費用及ヒ第百九条ニ掲ケタル償金ノ弁済ヲ受ク
第百十二条 他ノ債権者ヨリ競売ヲ求メス又ハ之ヲ実行スルコトヲ得サルトキ質取債権者ハ質物ヲ己レノ有ト為サントスルコトニ付キ債務者ト一致セサルニ於テハ鑑定人ノ評価シタル価額ニ達スルマテ質物ヲ弁済ニ充ツ可キコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其請求書ヲ債務者ニ予メ提示スルコトヲ要ス
質物ノ価額カ債務ヲ超ユル場合ニ於テハ質取債権者ハ債務者ニ其超過額ヲ弁償スルコトヲ要ス
第百十三条 総テ動産質契約ノ約款又ハ債務満期前ノ合意ニシテ債権者ニ其債権ノ全部又ハ一分ニ付キ弁済ノ為メ裁判上ノ評価ナクシテ流質ヲ許スモノハ当然無効タリ
本条ノ禁止ヲ犯ス為メ債務者カ債権者ニ為シタル受戻約款附ノ売買其他ノ合意ハ之ヲ無効ト宣告スルコトヲ得
本条ニ定メタル無効ハ質取債権者ヨリ之ヲ援用スルコトヲ得スシテ債務者又ハ其承継人ノミ之ヲ援用スルコトヲ得
第百十四条 質物カ質取債権者ノ方ニ存スル間ハ其債務ノ免責時効ノ成就ヲ停止ス
第百十五条 質物ノ占有ハ常ニ容仮ノ占有ニシテ其占有ノ継続期ノ如何ニ拘ハラス又債務カ弁済其他ノ方法ニテ消滅シタル後ト雖モ質取債権者ハ取得時効ヲ援用スルコトヲ得ス
然レトモ財産編第百八十五条ニ定メタル二箇ノ場合ニ於テハ容仮タルコトハ止ム
第三章 不動産質
第一節 不動産質ノ目的、性質及ヒ組成
第百十六条 不動産質契約ハ不動産質債権者ニ他ノ総債権者ヨリ先ニ其不動産ノ果実及ヒ入額ヲ収取スル権利ヲ付与ス
債務ノ満期ニ至レハ債権者ハ抵当権アル債権者ノ権利ヲ行フ
此期限ハ三十个年ヲ超過スルコトヲ得ス之ヲ超ユルトキハ当然三十个年ニ減縮ス
此期限ハ縦令之ヲ延フルモ前後通算シテ三十个年ヲ超過スルコトヲ得ス
第百十七条 不動産質ハ債務者ノ為メ第三者之ヲ設定スルコトヲ得其不動産質ハ債務者ト設定者トノ間ニ於テハ動産質ノ為メ第九十八条ニ定メタル効力ヲ生ス
第百十八条 不動産質ハ第百九十七条及ヒ第百九十八条ニ従ヒ抵当ト為スコトヲ得ヘキ財産ノ上ニ非サレハ之ヲ設定スルコトヲ得ス
此他設定者ハ質ト為ス財産ノ収益権ヲ自ラ有スルコトヲ要ス其質ハ如何ナル場合ニ於テモ其収益権ノ継続期間ヲ超過スルコトヲ得ス
不動産質設定ノ為メニ要スル能力ハ第二百九条及ヒ第二百十条ニ定メタル抵当設定ノ能力ト同一ナリ
第百十九条 不動産質カ合意上ノモノナルトキハ其質ハ公正証書又ハ私署証書ヲ以テスルニ非サレハ当事者ノ間ニ之ヲ設定スルコトヲ得ス
又不動産質ハ第二百十二条ニ従ヒ遺言上ノ抵当ノ許サルル場合ニ於テハ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得
不動産質ハ之ヲ設定スル証書又ハ遺言書ニ依リ財産編第三百四十八条ニ従ヒテ登記シタル後ニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
右ノ登記ハ抵当ノ順位ヲ保存スル為メ抵当ノ登記ニ同シキ効力ヲ有ス
第百二十条 不動産質ヲ設定スル証書又ハ遺言書ニハ其不動産ノ精確ナル指示ノ外元利ノ債権額ヲ指示スルコトヲ要ス
右ノ指示カ不十分ナル場合ニ於テハ既ニ為シタル登記ニ補足ノ合意ヲ附記ス然レトモ此附記ハ其日附後ニ非サレハ効力ヲ生セス
第百二十一条 質ト為シタル物権カ用益権、賃借権又ハ永借権ナルトキハ此権利ノ設定証書ニ依ル登記ニ其質権ヲ附記スルヲ以テ足レリトス
第百二十二条 質取債権者ハ右ノ外動産質ニ関シ第百二条ニ記載シタル如ク其債権ヲ担保スル不動産ヲ現実ニ占有スルコトヲ要ス
第百二十三条 不動産質ハ動産質ニ関シ第百五条ニ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
第二節 不動産質ノ効力
第百二十四条 質取債権者ハ質ニ取リタル不動産ヲ財産編第百十九条乃至第百二十二条ニ規定シタル制限ニ従ヒ且質契約ノ期間ニ限リ賃貸スルコトヲ得但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
又質取債権者ハ自己ノ権利ノ継続期間ニ限リ動産質ニ付キ第百七条ニ記載シタル如ク自己ノ責任ヲ以テ其不動産ヲ転質ト為スコトヲ得
第百二十五条 質取債権者ハ租税其他毎年ノ公課ヲ負担ス
質取債権者ハ小修繕及ヒ必要且急迫ナル大修繕ヲ為ス責ニ任ス若シ此ニ違フトキハ損害賠償ヲ負担ス但此大修繕ノ費用ハ債務者之ヲ償還ス
第百二十六条 建物、宅地ノ質ニ付テハ債権者ハ自ラ之ヲ領スルト之ヲ賃貸スルトヲ問ハス其貸賃ヲ自己ノ債権ノ利息ニ充当シ猶ホ超過額アルトキ又ハ債権カ無利息ナルトキハ元本ニ充当ス
田畑山林ノ質ニ付テハ当事者ノ間ニ於テ果実ト利息トハ計算セスシテ相殺シタリト看做ス但反対ノ合意アルトキ又他ノ債権者ニ対シ又ハ利息ノ法律上ノ制限ニ付キ顕著ナル詐害アルトキハ此限ニ在ラス
貸賃又ハ果実ヲ利息ニ充当スルニハ毎年ノ公課及ヒ保持、管理、栽培ノ費用ヲ控除シタル純益価額ニ付キ之ヲ為ス
第百二十七条 質取債権者ハ如何ナル反対ノ合意アルニ拘ハラス常ニ己レノ為メ負担重キニ過クルト思慮スル収益権ヲ将来ニ向ヒテ放棄シ無利息ニテ抵当権ノミヲ存スルコトヲ得然レトモ適当ノ時期ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
第百二十八条 債権者ハ債務ノ皆済ニ至ルマテ質ニ取リタル不動産ノ占有ヲ留置スルコトヲ得
然レトモ質取債権者ハ債務ノ満期前又ハ満期後ニ債務者又ハ他ノ債権者ヨリ求メタル売却ニ故障ヲ申立ツルコトヲ得ス
又質取債権者ハ満期後自ラ売却ヲ申立ツルコトヲ得
右ハ下ニ指示シタル別異ノ効力ヲ生ス
第百二十九条 他ノ債権者ヨリ求メタル売却ノ場合ニ於テハ質取債権者ハ其順位ニ於テ其抵当権ヲ行ヒ且其債権者カ如何ナル先取特権又ハ抵当権アル他ノ債権者ニモ先ンセラレサルトキ及ヒ先ンセラルルモ他ノ債権者カ総テノ代価ヲ取尽サスシテ残余アルトキハ取得者ハ質取債権者ノ尚ホ受ク可キモノノ為メ第百十六条ニ従ヒ質ノ終了ス可キ時期ニ至ルマテ留置権ニ遵フ責アリ
債務者ノ為シタル売却ニシテ先取特権若クハ抵当権アル債権者又ハ質取債権者ノ請求ニ因リテ増価競売ノ有リタル場合ニ於テモ亦同シ
然レトモ質取債権者自ラ売却ヲ求メタル場合ニ於テハ其収益権及ヒ留置権ハ消滅ス但其売却ニ付キ明白ニ此権利ヲ留保シ且順位ノ如何ヲ問ハス他ニ先取特権又ハ抵当権アル債権者アラサルトキハ此限ニ在ラス
右二箇ノ条件アルトキハ取得者債務ノ消滅ニ至ルマテ質権ニ遵フ責アリ
第百三十条 第百六条、第百九条、第百十条及ヒ第百十三条乃至第百十五条ハ不動産質ニモ之ヲ適用ス
第四章 先取特権
総則
第百三十一条 先取特権ハ合意ナキモ法律カ或ル債権ノ原因ニ附著セシメタル優先権ナリ但動産質及ヒ不動産質ヨリ生スル先取特権ハ合意上ノモノトス
先取特権ハ法律ノ制限シテ定メタル原因、条件及ヒ目的ニ於ケルニ非サレハ存在セス
先取特権カ第三所持者ニ対シテ追及権ヲ付与スル場合及ヒ其権利行使ノ条件モ亦法律ヲ以テ之ヲ定ム
第百三十二条 先取特権ハ動産質及ヒ不動産質ニ関シ第百五条及ヒ第百二十三条ニ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ
第百三十三条 先取特権ノ負担アル物カ第三者ノ方ニテ滅失シ又ハ毀損シ第三者此カ為メ債務者ニ賠償ヲ負担シタルトキハ先取特権アル債権者ハ他ノ債権者ニ先タチ此賠償ニ於ケル債務者ノ権利ヲ行フコトヲ得但其先取特権アル債権者ハ弁済前ニ合式ニ払渡差押ヲ為スコトヲ要ス
先取特権ノ負担アル物ヲ売却シ又ハ賃貸シタル場合及ヒ其物ニ関シ権利ノ行使ノ為メ債務者ニ金額又ハ有価物ヲ弁済ス可キ総テノ場合ニ於テモ亦同シ
第百三十四条 先取特権ノ種類ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 債務者ノ総動産及ヒ附随ニテ其総不動産ニ係ル一般ノ先取特権
第二 或ル動産ニ係ル特別ノ先取特権
第三 或ル不動産ニ係ル特別ノ先取特権
第百三十五条 一般又ハ特別ノ先取特権ヲ有スル債権者ノ相互ノ順位ハ本章ノ各節ニ於テ之ヲ規定ス
不動産ニ付キ先取特権ヲ有スル債権者ハ其同一ノ不動産ニ付キ抵当権ヲ有スル債権者ニ先タツ但法律ニ於テ特別ニ規定シタル場合ハ此限ニ在ラス
同原因又ハ同順位ノ先取特権アル債権者ハ其債権額ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受ク
第百三十六条 本法ニ定メタル先取特権ハ商法又ハ特別法ヲ以テ規定シ又ハ規定ス可キ先取特権ヲ妨ケス
商法又ハ特別法ノ先取特権ハ別段ノ規定ナキ場合ニ於テハ下ニ定メタル一般ノ規則ニ従フ
第一節 動産及ヒ不動産ニ係ル一般ノ先取特権
第一款 一般ノ先取特権ノ原因
第百三十七条 動産及ヒ不動産ニ係ル先取特権アル債権ハ之ヲ左ニ掲ク但下ニ定メタル制限及ヒ条件ニ従フ
第一 訟事費用
第二 葬式費用
第三 最後疾病費用
第四 雇人給料
第五 日用品供給
第一則 訟事費用ノ先取特権
第百三十八条 訟事費用ノ先取特権ハ或ハ債務者ノ財産ヲ保存スル為メ或ハ其財産ヲ清算配当スル為メ各債権者ノ共同利益ニ於テ正当ニ為セル裁判上若クハ裁判外ノ総テノ行為ニ付キ金銭ノ立替ヲ為シタル債権者又ハ給料若クハ謝金ヲ受取ル可キ債権者ニ属ス
総債権者ニ有益ナラサリシ費用ニ付テハ先取特権ハ特別ノモノニシテ其費用ノ為メ利益ヲ得タル債権者ニ対スルニ非サレハ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第二則 葬式費用ノ先取特権
第百三十九条 債務者ノ身分ニ応シ且慣習ニ従ヒテ為シタル葬式費用ハ先取特権アルモノトス
先取特権ハ債務者ノ担当ニ係ル同居親族ノ葬式費用ニモ亦之ヲ適用ス
此先取特権ハ葬式ニ連続シタル出費ニ及ハス縦令其出費カ慣習上ノモノタルモ亦同シ
第三則 最後疾病費用ノ先取特権
第百四十条 最後疾病費用ノ先取特権ハ債務者又ハ前条ニ指定シタル親族ノ死亡前ノ疾病ニ関スル医師、薬商、看病人其他此ニ類スル費用ヲ包含ス但債務者ノ破産前又ハ無資力前ノ疾病及ヒ其親族ノ疾病ニ関スル費用モ亦同シ
長病ノ場合ニ於テハ右ノ費用ノ先取特権ハ最後ノ一个年ノ費用ニ之ヲ制限ス
右ノ費用ヲ生セシメタル疾病ノ外ナル原因ノ為メ死亡アリタルトキト雖モ先取特権ハ猶ホ存ス
第四則 雇人給料ノ先取特権
第百四十一条 雇人ノ先取特権ハ債務者又ハ其担当ニ係ル同居親族ノ雇人ニ属ス
右ノ先取特権ハ最後ノ一个年ノ給料ノミヲ担保ス
第五則 日用品供給ノ先取特権
第百四十二条 日用品供給ノ先取特権ハ債務者又ハ其担当ニ係ル同居ノ親族及ヒ雇人ノ生活ニ必要ナル日用品ノ供給者ニ属ス
右ノ先取特権ハ最後ノ六个月間ノ供給ノミヲ包含ス
第二款 一般ノ先取特権ノ効力及ヒ順位
第百四十三条 一般ノ先取特権ハ先取特権アル各債権者カ動産ニ付キ配当ヲ受ケ尚ホ不足アルニ非サレハ不動産ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
然レトモ動産代価ノ配当ニ先タチ不動産代価ノ配当アルトキハ債権者ハ仮ニ条件附ニテ之ニ加入スルコトヲ得但日後動産代価ノ配当加入ニ於テ弁済ヲ得サル部分ニ非サレハ之ヲ受クルコトヲ得ス
動産代価ノ配当ニ有益ナル時期ニ加入スルコトヲ怠リタル債権者ハ動産ニ付キ受ク可カリシモノノ限度ニ於テ不動産ニ付キ其優先権ヲ失フ
第百四十四条 一般ノ先取特権ノ互ニ競合スル場合ニ於テハ第百三十八条乃至第百四十二条ニ列記シタル相互ノ順序ニ従ヒテ配当加入ヲ定ム
右ノ数条ニ掲ケタル同原因ノ債権ハ同順位ニテ配当ニ加入ス
若シ一般ノ先取特権カ動産ニ係ル特別ノ先取特権ト競合スルトキハ其順位ハ下ノ第二節ニ於テ之ヲ規定ス
不動産ニ係ル特別ノ先取特権ハ一般ノ先取特権ニ先タチ又特別ノ抵当ハ後ノ設定ニ係ルト雖モ詐害ナキニ於テハ一般ノ先取特権ニ先タツ
然レトモ一般ノ先取特権ハ其発生前ノ取得ニ係ル一般ノ抵当ニモ先タツ
一般ノ抵当ノ負担アル総不動産ヲ同時ニ売却シタル場合ニ於テハ一般ノ先取特権ハ各不動産ノ売却代価ノ割合ニ応シテ其総不動産ニ付キ配当ニ加入ス
若シ順次ニ右ノ不動産ヲ売却スルトキハ一般ノ先取特権ハ初ノ売却ニ付キ全部之ヲ充当シ尚ホ附随ニテ次ノ売却ニ付キ之ヲ充当ス且此先取特権ヲ負担セシ不動産ニ付キ一般ノ抵当ヲ有スル債権者ハ他ノ不動産ノ売却代価ニ付キ求償権ヲ有ス
第百四十五条 一般ノ先取特権ハ不動産カ債務者ニ属スル間ハ他ノ債権者ニ対抗スル為メ其不動産ニ付テノ登記ヲ要セス
第二節 動産ニ係ル特別ノ先取特権
第一款 動産ニ係ル特別ノ先取特権ノ原因及ヒ目的
第百四十六条 上ノ第二章ニ規定シタル先取特権ヲ有スル動産質取債権者ノ外下ニ指定シタル動産物ニ付キ先取特権ヲ有スル債権者ハ之ヲ左ニ掲ク
第一 不動産ノ賃貸人
第二 種子及ヒ肥料ノ供給者
第三 農業ノ稼人及ヒ工業ノ職工
第四 動産物ノ保存者
第五 動産物ノ売主
第六 旅店主人
第七 舟車運送営業人
第八 保証金ヲ供スル義務アル公吏ノ職務上ノ所為ニ対スル債権者
第九 右保証金ノ貸主
第一則 不動産賃貸人ノ先取特権
第百四十七条 居宅、倉庫其他ノ建物ノ賃貸人ハ賃借人ノ使用又ハ商工業ノ為メ此建物内ニ備ヘタル動産物ニ付キ先取特権ヲ有ス
右ノ動産物カ賃借人ニ属セスト雖モ先取特権ハ猶ホ存ス但賃貸人カ賃貸場所ニ此動産物ノ持込ヲ知リタル当時其物ノ賃借人ニ属セサル事実ヲ知ラス且其事実ヲ予見スルニ足ル可キ理由アラサリシトキニ限ル
賃貸人ノ先取特権ハ現金ニ付キ又賃借人及ヒ其家族ノ一身ノ使用ニ供シタル金玉宝石ニ付キ又無記名ナルモ証券ニ付キ之ヲ行フコトヲ得ス
第百四十八条 賃貸人ハ家賃ノ当期分及ヒ後ノ一期分ノ弁済ヲ担保スルニ足ル可キ動産ヲ賃貸シタル場所ニ備フルコトヲ賃借人ニ要求スルコトヲ得賃借人之ヲ為サス且此家賃ノ前払又ハ之ニ相当スル其他ノ担保ヲ供セサルトキハ賃貸人ハ賃貸借ヲ解除スルコトヲ得尚ホ損害アルトキハ其賠償ヲ求ムルコトヲ得
賃貸場所ニ備ヘタル動産ヲ賃貸人ノ許諾ナクシテ取去リタルモ別ニ詐害ナキニ於テハ賃貸人ハ其担保カ不足ト為リタルトキ且賃借人ニ属スル権利ノ限度内ニ非サレハ此動産ヲ其場所ニ復セシムルコトヲ得ス
然レトモ賃貸人ノ権利ヲ詐害シテ為シタル行為ニ付テハ賃貸人ハ財産編第三百四十一条以下ニ記載シタル条件及ヒ区別ニ従ヒ第三者ニ対シテ其行為ヲ廃罷セシムルコトヲ得
右ハ総テ第百三十三条ニ依リテ賃貸人ノ有スル権利ヲ妨ケス
第百四十九条 賃貸借ト永貸借トヲ問ハス田畑山林ノ賃貸人ハ賃借人カ居宅並ニ土地利用ノ建物内ニ備ヘタル動産ニ付キ及ヒ土地ノ利用ニ供シタル動物、農具其他ノ器具ニ付キ上ト同一ノ限度ニ於テ先取特権ヲ有ス
右ノ賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ収穫物其他ノ産出物カ猶ホ土地ニ附著スルト土地ニ保存シ有ルトヲ問ハス其収穫物及ヒ産出物ニ付キ先取特権ヲ有ス
分果賃貸人ハ賃貸シタル土地ノ収穫物其他ノ産出物ノ中ニテ自己ノ権利ヲ有スル部分カ猶ホ分果小作人ノ方ニ存スル間ハ直接ニ其収穫物其他ノ産出物ノ上ニ先取特権ヲ行フ
第百五十条 賃借権ノ譲渡又ハ転貸ノ場合ニ於テ賃貸人ハ賃貸場所ニ備ヘ有ル動産カ譲受人又ハ転借人ニ属スルコトヲ知ルト雖モ其先取特権ハ此等ノ物ニ及フ
此場合ニ於テ先取特権ハ第百三十三条ニ従ヒ譲渡又ハ転貸ノ代価トシテ主タル賃借人ノ受取ル可キ金額ニ及フ但前払ヲ以テ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得ス
第百五十一条 賃借人ノ財産ノ総清算ノ場合ニ於テハ賃貸人ハ土地、建物ノ借賃其他ノ負担ニ付キ前期、当期及ヒ次期ノ分ニ非サレハ前数条ニ定メタル先取特権ヲ有セス
此他先取特権ハ賃貸借ヨリ生スル他ノ合意上ノ義務、前期及ヒ当期ニ於テノ賃借人ノ過失又ハ懈怠ノ為メ賃貸人ノ受ク可キ賠償及ヒ賃貸人カ請求スルコトヲ得ヘキ解除ニ添ヒタル損害賠償ヲ担保ス
第百五十二条 右清算ノ場合ニ於テ他ノ債権者ハ自己ノ利益ノ為メ賃貸借ノ解除ヲ防止シ及ヒ初ヨリ転貸又ハ譲渡ノ禁止アルニ拘ハラス其賃借権ヲ転貸シ又ハ譲渡スコトヲ得但賃貸借残期ノ為メ賃貸人ニ土地、建物ノ借賃其他ノ納額ヲ担保スルコトヲ要ス
第二則 種子及ヒ肥料ノ供給者ノ先取特権
第百五十三条 所有者、用益者、賃借人又ハ占有者ニ種子及ヒ肥料ヲ供給シタル者ハ之ヲ用ヰタル年ノ果実ニ付キ先取特権ヲ有ス
蚕種及ヒ蚕ノ飼養ニ供スル桑葉ヲ供給シタル者ニ付テモ亦同シ
第三則 農業稼人及ヒ工業職工ノ先取特権
第百五十四条 雇人ノ外其年ノ耕耘収穫ノ為メ労動シタル稼人ハ一个年間ノ給料ノ為メ其収穫物ニ付キ先取特権ヲ有ス
又工業ノ職工ハ工業ヨリ生スル産出物又ハ製造品ニ付キ先取特権ヲ有ス但其年ノ給料中最後ノ三个月間ノ為メノミニ限ル
第四則 動産物保存者ノ先取特権
第百五十五条 動産物ノ修繕又ハ保存ノ費用ニ付テノ債権者ハ第九十二条ニ従ヒ己レニ属スル留置権ヲ行ハサルトキト雖モ其修繕又ハ保存シタル物ニ付キ先取特権ヲ有ス
右ノ先取特権ハ金額、有価物其他動産物ニ関スル物権又ハ人権ヲ債務者ノ為メニ追認シ保存シ又ハ実行セシメタル裁判上又ハ裁判外ノ行為ノ費用ニ之ヲ適用ス
第五則 動産物売主ノ先取特権
第百五十六条 動産物ノ売主ハ代価弁済ノ為メ期限ヲ許与シタルト否トヲ問ハス其代価及ヒ利息ノ為メ売却物ニ付キ先取特権ヲ有ス
若シ補足額ヲ以テスル交換アリテ其補足額カ譲渡シタル物ノ価額ノ半ヲ超ユルトキハ先取特権ハ其補足額ノ為メ交換ニ付キ存在ス
第百五十七条 先取特権ハ売却物カ用方ニ因リ又ハ不動産ニ合体スルニ因リテ不動産ト為リタルトキト雖モ猶ホ買主ノ占有ニ在リ且変形セサル間ハ存続ス但合体ノ場合ニ於テハ不動産ヲ毀損セスシテ其物ヲ分離スルヲ得ルコトヲ要ス
第百五十八条 売主ノ先取特権ハ財産取得編第四十七条及ヒ第八十二条ニ規定シタル留置及ヒ解除ノ権利ヲ妨ケス
第六則 旅店主人ノ先取特権
第百五十九条 旅店ノ主人ハ旅客其従者及ヒ牛馬ノ宿泊料、食料ノ為メ其旅客ノ携帯シテ尚ホ旅店ニ存スル手荷物ニ付キ先取特権ヲ有ス
第七則 舟車運送営業人ノ先取特権
第百六十条 舟車運送営業人ハ旅客又ハ荷物ノ運送賃ノ為メ及ヒ関税其他正当ナル附従ノ費用ノ為メ自己ノ手ニ存スル運送物ニ付キ先取特権ヲ有ス
運送営業人カ運送物ノ引渡ヨリ四十八時以内ニ債務者又ハ其名ヲ以テ其物ヲ受取リタル者ニ対シ其物ヲ返還スルカ又ハ運送賃其他ノ費用ヲ弁済スルカノ催告ヲ為シ且其効果ヲ生セシムル為メ成ル可ク短キ時間ニ裁判上ノ請求ヲ為シタルトキハ其先取特権ハ物ノ引渡後ト雖モ存続ス
如何ナル場合ニ於テモ第三取得者ニ対シテ物ヲ回復スルコトヲ得ス但第百四十八条ニ規定シタル如ク詐害アル場合ハ此限ニ在ラス且第百三十三条ノ適用ヲ妨ケス
第八則 職務上ノ所為ニ対スル債権者ノ先取特権
第百六十一条 保証ヲ供スル義務アル公吏ノ職務上ノ過失又ハ職権ノ濫用ヨリ生スル債権ハ其保証金ニ付キ先取特権アリ
第九則 保証金貸主ノ先取特権
第百六十二条 前条ノ保証金ヲ貸付タル第三者ハ職務上ノ所為ヨリ害ヲ受ケタル者ニ弁済アリシ後第二位ニテ此保証金ニ付キ先取特権ヲ有ス但第三者カ貸付ノ当時又ハ他ノ債権者ヨリ何等ノ故障ヲモ述ヘサル前規則ニ従ヒテ其権利ヲ証シタルトキニ限ル
第二款 動産ニ係ル特別ノ先取特権ノ順位
第百六十三条 動産ニ係ル特別ノ先取特権ト一般ノ先取特権ト競合スルトキハ優先ノ順序ヲ左ノ如ク規定ス
第一 訟事費用ハ其費用ノ有益タリシ総債権者ノ債権ニ先タツ但有益ノ限度又ハ割合ニ従フ
第二 此他四箇ノ一般ノ先取特権ハ第百三十七条ニ定メタル順序ヲ以テ総テノ特別ノ先取特権ニ先タツ但特別ノ先取特権ニ属セサル動産ノ不足ナル場合ニ限ル
第百六十四条 一箇ノ動産ニ付キ特別ノ先取特権ヲ有スル諸種ノ債権競合スルトキハ其相互ノ優先権ハ下ノ順序及ヒ区別ニ従ヒテ之ヲ定ム
第一ノ順位ハ先取特権ノ目的物ヲ保存シタル者ニ属ス
若シ数人ノ債権者漸次ニ保存ヲ為シタルトキハ優先権ハ其間ニテ最後ノ保存者ニ属ス
第二ノ順位ハ合意上ノ動産質ニ因リ或ハ不動産ノ賃貸人、旅店主人又ハ運送営業人ノ如ク黙示ノ動産質ニ因リテ物ヲ質ニ取リタル債権者ニ属ス
第三ノ順位ハ物ノ売主ニ属ス
然レトモ質取債権者ハ動産質設定ノ時其物ノ保存費用ノ未タ支払アラサルコトヲ知ラサリシトキハ第一ノ順位ヲ得
之ニ反シテ質取債権者カ売却代価ノ未タ支払アラサルコトヲ知リタルトキハ売主之ニ先タツ
収穫物ニ関シテハ第一ノ順位ハ農業ノ稼人ニ第二ノ順位ハ種子及ヒ肥料ノ供給者ニ第三ノ順位ハ土地ノ賃貸人ニ属ス
工業ノ職工ハ工業ヨリ生スル産出物又ハ製造品ニ付キ賃貸人ニ先タツ
公吏ノ保証金ニ関シテハ職務上ノ所為ニ対スル各債権者ハ相共ニ債権ノ割合ニ応シ其債権ノ日附ニ関セス他ノ債権者ニ先タチ又保証金ヲ貸付タル債権者ニモ先タツ其保証金ヲ貸付タル債権者ハ保証金ノ残額ニ付キ第二位ニテ先取特権ヲ有ス
第三節 不動産ニ係ル特別ノ先取特権
第一款 不動産ニ係ル特別ノ先取特権ノ原因及ヒ目的
第百六十五条 左ノ債権者ハ下ニ定メタル債権ノ為メ其条件ニ従ヒ不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス
第一 売買、交換其他有償ノ行為ニ因リ又無償ナルモ負担ヲ帯フル行為ニ因リテ不動産ヲ譲渡シタル者ハ其譲渡シタル不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス
第二 共同分割者ハ分割中ニ包含シタル不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス
第三 工匠、技師及ヒ工事請負人ハ工事ニ因リテ不動産ニ生シタル増価ニ付キ先取特権ヲ有ス
第四 先取特権ヲ生セシムル行為ノ当時譲渡人、共同分割者、工事請負人ニ支払ヒタル金銭ノ貸主ハ右同一ノ不動産ニ付キ先取特権ヲ有ス
第一則 譲渡人ノ先取特権
第百六十六条 譲渡人ノ先取特権ハ左ノ各人ニ属ス
第一 売買ノ代価及ヒ利息其他ノ負担ニ付テハ売主
第二 交換ノ補足額、負担及ヒ交換物ノ追奪担保ニ付テハ交換者
第三 贈与ノ負担ニ付テハ贈与者又ハ其承継人
此他ノ不動産譲渡人ハ一般ニ其対価及ヒ負担ニ付キ先取特権ヲ有ス
第百六十七条 売買代価、交換補足額ノ外売買、交換、贈与ノ負担及ヒ交換其他有償ノ合意ニ於ケル追奪担保ノ未定ノ賠償ハ譲渡ノ証書又ハ日後ノ証書ヲ以テ金銭ニテ之ヲ定ムルコトヲ要ス
此他右ノ証書ハ次款ニ記載スル如ク之ヲ公示スルコトヲ要ス
第百六十八条 交換其他不動産ノ譲渡ノ対価トシテ受取リタル不動産ノ追奪担保ノ為メノ先取特権ハ其追奪カ譲渡ノ時ヨリ十个年内ニ生シ且廃罷ス可カラサル判決ヨリ一个年内ニ担保ノ請求ヲ存シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
対価トシテ受取リタル動産ニ関シテハ担保ノ為メノ先取特権ハ追奪カ一个年内ニ生シ且廃罷ス可カラサル判決ヨリ一个月内ニ請求ヲ為シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ存在セス
第百六十九条 不動産ノ譲渡人ノ先取特権ハ債務者ノ所為ニ因リ又ハ其権利ニ基キ且其費用ヲ以テ不動産ニ加ヘタル増加及ヒ改良ニ及ハス
第二則 共同分割者ノ先取特権
第百七十条 社員其他ノ共有者ハ或ハ抽籤ノ方法或ハ合意上ノ指定或ハ不分物競売ニ因レル分割ヨリ生スル左ノ債権ノ為メ其分割ニ於テ各自ノ得タル不動産ニ付キ互ニ先取特権ヲ有ス
第一 補足額ノ為メ即チ配当過分ノ返還ノ為メニハ之ヲ負担セル分割者ニ帰シタル不動産ニ付キ先取特権アリ
第二 不分物競売ノ代価ノ為メニハ其競売シタル不動産ニ付キ先取特権アリ
第三 分割者ノ一人カ其配当部分ノ動産又ハ不動産ニ於テ受ケタル追奪ノ担保ノ為メニハ他ノ分割者ニ帰シタル総不動産ニ付キ先取特権アリ但各分割者ノ債務ノ部分ニ限ル
第百七十一条 右ノ担保ハ左ノ諸件ニ之ヲ適用ス
第一 社員ニシテ他ノ社員ニ対シ補足額又ハ不分物競売ノ代価ヲ負担シタル者ノ無資力
第二 分割者ノ一人ノ配当部分ニ債権ヲ充テタルトキ其債務者ノ無資力但其債務者ハ分割者タルト外人タルトヲ問ハス分割ノ当時無資力タリシコトヲ要ス
第百七十二条 第百六十八条ハ分割者間ノ追奪担保ノ先取特権ニ之ヲ適用ス
分割者タルト否トヲ問ハス債務者ノ無資力ニ関シテハ其担保ハ元本ニ於ケル債務ノ満期ヨリ一个年内ニ請求ヲ為シ之ヲ公示シタルトキニ非サレハ当事者ノ間ニテモ第三者ニ対シテモ之ヲ負担セシムルコトヲ得ス
債務カ無期又ハ終身ノ年金権タルトキ債務者ノ無資力カ分割ノ日ヨリ十个年後ニ生スルニ於テハ其担保ノ負担ハ止ム
債務カ利息ヲ生スル元本ニシテ其満期カ十个年以上ニ及フトキモ亦同シ
第百七十三条 第百六十九条ノ規定ハ分割者ノ先取特権ニモ亦之ヲ適用ス
第三則 工匠、技師及ヒ工事請負人ノ先取特権
第百七十四条 工匠、技師及ヒ工事請負人ハ建物、土手若クハ堀割ノ築造若クハ修繕又ハ地上ニ為シタル排泄、潅漑、開墾、置土其他之ニ類似スル工事ヨリ生スル債権ノ為メ先取特権ヲ有ス
右ノ先取特権ハ鉱坑及ヒ石坑ノ開掘、利用、閉鎖又ハ廃止ニ関スル地下又ハ外部ノ工事ノ為メ工匠、技師及ヒ工事請負人ニ属ス
第百七十五条 右ノ工事ヨリ生スル先取特権ハ其工事ニ因リ土地又ハ建物ニ加ヘタル増価ニシテ先取特権行使ノ当時猶ホ存スルモノノミニ付キ存在ス
右ノ増価ハ裁判所ノ選任シタル鑑定人ノ作レル三箇ノ調書ヲ以テ之ヲ証スルコトヲ要ス
此第一調書ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ作リテ場所ノ現状ヲ明定シ且目論見タル工事ノ概略ヲ指示スルコトヲ要ス
此第二調書ハ工事ノ受取ニ付キ争アルモ工事ノ竣成ヨリ又ハ原因ノ如何ヲ問ハス其工事ノ絶止ヨリ三个月内ニ之ヲ作リ且其工事ヨリ現ニ生スル増価ヲ証スルコトヲ要ス
此第三調書ハ配当加入ノ請求ノ当時之ヲ作リ且右増価ノ存スルモノヲ証スルコトヲ要ス
第四則 金銭貸主ノ先取特権
第百七十六条 前数条ニ掲ケタル先取特権ハ譲渡若クハ分割ノ当時又ハ工匠、技師若クハ工事請負人トノ契約ノ当時ニ於テ売買若クハ不分物競売ノ代価、交換若クハ分割ノ補足額又ハ工事ノ代金ノ弁済ノ為メ金銭ヲ貸付タル者ニ法律ニ依リテ直接ニ属ス但其金銭ノ貸付及ヒ使用ヲ此等ノ行為ノ証書中ニ記載シタルトキニ限ル
若シ譲渡人、分割者又ハ工事ノ為メノ債権者ノ利益ニ於テ先取特権ノ生セシ後ニ金銭ヲ貸付タルトキハ貸主ハ財産編第四百八十条及ヒ第四百八十一条ニ定メタル条件及ヒ方式ニ従ヒ債権者又ハ債務者ヨリ合意上ノ代位ヲ得タルトキニ非サレハ先取特権ヲ取得セス
孰レノ場合ニ於テモ金銭ノ貸主カ債務ノ一分ノミヲ払ヒタルトキハ貸主ハ其払ヒタルモノノ割合ニ応シ財産編第四百八十六条ニ従ヒ原債権者ト共ニ先取特権ヲ行フ
第二款 債権者間ニ於ケル不動産ノ特別先取特権ノ効力及ヒ順位
第百七十七条 前款ニ掲ケタル先取特権ハ下ニ定メタル方法、条件及ヒ期間ヲ以テ公示シ且保存シタルトキニ非サレハ之ヲ以テ他ノ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス
第百七十八条 売買代価ノ為メノ売主ノ先取特権及ヒ補足額ノ為メノ交換者ノ先取特権ハ代価又ハ補足額ノ全部又ハ一分ヲ未タ弁済セサル旨ヲ記シタル所有権移転証書ニ依ル登記ヲ以テ之ヲ保存ス
又交換ニ於ケル追奪担保ノ為メ及ヒ売買、交換其他所有権移転契約ノ附従負担ノ為メノ先取特権ハ証書ニ依ル登記ヲ以テ之ヲ保存ス但担保及ヒ負担ノ評価ヲ証書中ニ記載シタルトキニ限ル
第百七十九条 分割者ノ先取特権ハ分割証書ニ依ル登記ヲ以テ之ヲ保存ス但其証書ニ不分物競売代価又ハ補足額即チ配当過分ノ返還及ヒ追奪担保ノ評価其他各配当部分ノ負担ノ評価ヲ記載シタルトキニ限ル
第百八十条 右譲渡又ハ分割ノ証書ニ依ル登記ナキ間ハ取得者又ハ分割者ノ権利ニ基キ物上担保ヲ得タル債権者ハ其担保ヲ登記シタルトキト雖モ其登記ヲ以テ先取特権アル譲渡人又ハ分割者ニ対抗スルコトヲ得ス但工事ヨリ生スル先取特権アル債権ハ此限ニ在ラス
然レトモ利害関係人ハ原契約者ノ承諾ヲ得スト雖モ常ニ右譲渡又ハ分割ノ登記ヲ為サシムルコトヲ得
第百八十一条 譲渡又ハ分割ノ証書ニ其対価物ノ全部若クハ一分ノ未タ弁済アラサルコト又ハ負担ノ付シ有ルコトヲ記載セサルトキハ日後ノ証書ヲ以テ此脱漏ヲ補フコトヲ得且其補脱ハ債権者ノ注意ヲ以テ譲渡又ハ分割ト共ニ之ヲ公示スルコトヲ得
右ノ補脱ヲ譲渡又ハ分割ノ登記ト共ニ公示セサルトキハ債権者ハ何時ニテモ其補脱ヲ公示スルコトヲ得但此場合ニ於テハ先取特権ハ単純ナル法律上ノ抵当ニ変性ス
右ノ抵当ハ二箇ノ公示ノ間ニ於テ債務者ノ権利ニ基キ物上担保ヲ取得シ且合式ニ之ヲ公示シタル債権者ニ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
譲渡若クハ分割ノ証書ニ記シタル負担又ハ担保ノ評価ヲ日後ノ証書ニ記載シタルトキモ亦同シ但其証書ニ依ル抵当ノ登記ハ其登記ヲ為シタル日附ニ従ヒテ債権者ノ順位ヲ定ム
第百八十二条 譲渡人又ハ分割者ハ其先取特権カ法律上ノ抵当ニ変性シタルトキハ此抵当ノ登記前ニ債務者ノ権利ニ基キ物上担保ヲ取得シ且合式ニ保存シタル債権者ヲ害シテ義務不履行ノ為メノ解除訴権ヲ行フコトヲ得ス
第百八十三条 工匠、技師又ハ工事請負人ノ先取特権ハ第百七十五条ニ定メタル第一第二ノ調書ニ依リ登記スルヲ以テ之ヲ保存ス
此第一調書ニ依ル登記ハ工事ヲ始ムル前ニ之ヲ為スコトヲ要ス
第二調書ニ依ル登記ハ其調製ヨリ一个月内ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス
第二調書ニ依ル登記ノ効力ハ第一調書ノ日附ニ遡及シ且工事ノ前又ハ後ニ債務者ト契約シタル各人ニ対シ其増価ニ付テノ優先権ヲ先取特権アル債権者ニ保有セシム
利害関係人中ノ一人ノ為シタル右調書ニ依リテ為シタル登記ハ委任ナキトキト雖モ他ノ関係人ヲ利シ且総関係人ニ其債権ノ割合ニ応シテ弁済ヲ受クル為メノ同一ノ順位ヲ保有セシム但総テノ者カ有益ノ時期ニ於テ必要ナル疏明ヲ為スコトヲ要ス
第百八十四条 前条ニ指定シタル期間ニ二箇ノ調書ニ依ル登記ノ一ヲ為ササリシトキハ先取特権ハ法律上ノ抵当ニ変性シ其順位ハ左ノ日附ヲ以テ之ヲ定ム
第一 工事ノ竣成又ハ絶止ノ時ヨリ三个月内ニ第二調書ヲ調製シ且次月内ニ之ヲ登記シタルトキハ第一調書ノ遅延登記ノ日附
第二 右ノ三个月内ニ第二調書ヲ調製セス又ハ三个月内ニ之ヲ調製シタルモ次月内ニ之ヲ登記セサルトキハ其第二調書ニ依ル登記ノ日附
第百八十五条 取得、分割又ハ工事ノ為メ初ニ金銭ヲ貸付タル者ノ第百七十六条第一項ニ従ヒテ有スル先取特権ハ譲渡人、分割者又ハ工事請負人ニ於ケルト同一ノ方法ヲ以テ之ヲ保存ス
右貸主カ日後代位ニ因リテ譲渡人、分割者又ハ工事請負人ニ承継シタルトキ未タ先取特権ノ公示アラサルニ於テハ其貸主ハ主タル証書及ヒ代位証書ニ依ル登記ニ因リテ其公示ヲ為サシム
若シ代位前ニ公示アリタルトキハ貸主ハ登記ニ代位ノ附記ヲ請求ス可シ
又先取特権アル債権ヲ譲受ケタル者ハ譲渡ノ附記ヲ請求ス可シ
此末ノ二箇ノ場合ニ於テ附記ヲ為サシムルコトヲ遅延シタル代位者又ハ譲受人ハ其以前善意ニテ債務者又ハ其承継人ト原債権者トノ間ニ為シタル弁済其他ノ免責ノ行為ヲ駁撃スルコトヲ得ス
第百八十六条 上ニ記載シタル如クニ保存シタル先取特権又ハ抵当アル債権ニシテ利息又ハ年金ノ附キタルモノハ利息又ハ年金ノ満期ト為リタル最終ノ二个年分ニ非サレハ元本ト同一ノ順位ニテ配当ニ加入スルコトヲ得ス但満期ノ利息又ハ年金ノ中ニテ二个年以外ノモノノ為メ漸次ニ特別ノ抵当登記ヲ為ス可キ債権者ノ権利ヲ妨ケス
第百八十七条 不動産ニ付キ先取特権アル債権者間ノ相互ノ優先権ハ左ノ順序ニ従フ
第一 工匠、技師及ヒ工事請負人但其債権カ他ノ債権ヨリ後ニ生シタルトキモ亦優先権ヲ有ス
此工事ヨリ生スル増価額カ右ノ各人ニ全ク弁済スルニ足ラサル場合ニ於テハ債権ノ割合ニ応シ同一ノ順位ニテ其配当加入ヲ定ム
第二 譲渡人又ハ分割者
逐次ノ譲渡又ハ分割ノ場合ニ於テハ優先権ハ債権者間最モ旧キ者ニ属ス
金銭ノ貸主ハ或ハ初ヨリ或ハ合意上ノ代位ニ因リ貸付タル其金銭ニテ全部又ハ一分ノ弁済ヲ受ケタル債権者ト同一ノ順位ヲ有ス
第百八十八条 先取特権ノ登記及ヒ其更新、抹消、減少ニ関スル規則ハ先取特権及ヒ抵当権ニ共通ニシテ之ヲ次章ニ規定ス
第三款 第三所持者ニ対スル不動産先取特権ノ効力
第百八十九条 合式ニ公示シタル先取特権ハ其負担アル不動産ニ付キ第三所持者ニマテ追及ス
第三所持者カ下ニ定ムル方法ノ一ニ依リテ先取特権アル債権者ニ弁済セサルトキハ其債権者ハ第三所持者ニ対シ其不動産ヲ差押ヘ之ヲ競売ニ付スルコトヲ得
第百九十条 一般ノ先取特権ハ第三所持者ノ取得ノ登記前ニ之ヲ登記シタルトキニ非サレハ其第三所持者ニ移転シタル不動産ニ付キ追及権ヲ与ヘス
第百九十一条 転得者ノ取得ノ登記前ニ登記セサル譲渡又ハ分割ニ因リテ先取特権ヲ有スル債権者ハ其先取特権ノ生シタル権原ヲ登記スルコトニ付キ転得者ヨリ催告ヲ受ケタルモ一个月内ニ其登記ヲ為ササリシトキニ非レハ追及権ヲ失ハス但此一个月ニハ距離ニ応シテ法律上ノ期間ヲ加フ
然レトモ転得者ハ其譲渡人カ十个年以上不動産ニ付キ法定ノ占有ヲ為シタシトキハ右ノ催告ヲ為ス責ナク且旧所有者ノ総テノ先取特権ヲ免カル
第百九十二条 工事ニ因リ先取特権ヲ有スル債権者ハ工事ノ竣成又ハ其絶止ノ前ニ譲渡ノ登記アリタルモ第一調書ニ依ル登記ニ因リテ追及権ヲ行フコトヲ得
工事ノ竣成シ又ハ絶止シタルトキ第二調書ノ調製及ヒ之ニ依ル登記ノ二箇ノ期間カ未タ経過セサルニ於テハ右ノ債権者ハ此期間ノ満了後又ハ第二調書ヲ調製シ且之ニ依リテ登記ス可キ催告ヲ受ケタルモ一个月内ニ之ニ応セサリシ後ニ非サレハ先取特権ヲ失ハス
第百九十三条 先取特権アル債権者ハ追及権ヲ保存シ及ヒ之ヲ行フ為メニ必要ナル公示ヲ為ササルモ第三所持者ノ負担シタル譲受代価ニ付キ弁済ヲ受クル権ヲ失ハス但代価ノ弁済前又ハ順序配当手続ノ閉鎖前ニ自ラ債権者タルコトヲ知ラシメ且其債権ヲ証シタルトキニ限ル
第百九十四条 先取特権ニ関スル追及権、其条件、効力並ニ第三所持者カ所有権徴収ヲ避クル方法及ヒ先取特権消滅ノ原因ハ次章ノ第三節第五節乃至第七節ノ規定ニ従フ但先取特権ノ固有ノ規則ニ反スルモノハ此限ニ在ラス
第五章 抵当
第一節 抵当ノ性質及ヒ目的
第百九十五条 抵当ハ法律又ハ人意ニ因リテ或ル義務ヲ他ノ義務ニ先タチテ弁償スル為メニ充テタル不動産ノ上ノ物権ナリ
第百九十六条 抵当ハ動産質及ヒ不動産質ニ付キ記載シタル如ク働方及ヒ受方ニテ不可分タリ但反対ノ合意アルトキハ此限ニ在ラス
第百九十七条 抵当ハ不動産ノ完全所有権ノ上ノミナラス用益権、賃借権、永借権及ヒ地上権ノ上ニモ此等ノ権利ヲ支分シタル所有権ノ上ニモ之ヲ設定スルコトヲ得
然レトモ完全ノ所有権ヲ有スル者ハ虚有権又ハ用益権ノミヲ分離シテ之ヲ抵当ト為スコトヲ得ス
之ニ反シテ所有者ハ其不動産ノ限界ニ因リテ定マリタル部分又ハ其不分ノ幾部分ヲ抵当ト為スコトヲ得
地役ハ要役地ヨリ分離シテ之ヲ抵当ト為スコトヲ得ス又用方ニ因ル不動産ハ其附著スル不動産ヨリ分離シテ之ヲ抵当ト為スコトヲ得ス
第百九十八条 左ニ掲クルモノハ之ヲ抵当ト為スコトヲ得ス
第一 使用権、住居権其他譲渡スコトヲ得ス又ハ差押フルコトヲ得サル財産
第二 財産編第十条第二号及ヒ第三号ニ掲ケタル如キ不動産債権
第三 同条第四号ニ掲ケタル如キ不動産ト為シタル債権但之ヲ不動産ト為スコトヲ許可スル法律カ其抵当ヲ許ササルトキニ限ル
船舶ノ抵当ニ付テハ商法ノ規定ニ従フ
第百九十九条 此章ノ規定ハ商法其他特別法ニ於テ異例ヲ設ケサル限リハ此等ノ法律ヲ以テ設定シタル抵当ニ之ヲ適用ス
第二百条 抵当ハ意外及ヒ無償ノ原因ニ由リ或ハ債務者ノ所為及ヒ費用ニ因リテ不動産ニ生スルコト有ル可キ増加又ハ改良ニ当然及フモノトス但他ノ債権者ニ対シテ詐害ナキコトヲ要シ且前章ニ規定シタル如キ工匠、技師及ヒ工事請負人ノ先取特権ヲ妨ケス
抵当ハ債務者カ縦令無償ニテ取得シタルモノナルモ其隣接地ニ及ハサルモノトス但新囲障ノ設立又ハ旧囲障ノ廃棄ニ因リテ隣接地ヲ抵当不動産ニ合体シタルトキモ亦同シ
第二百一条 意外若クハ不可抗ノ原因又ハ第三者ノ所為ニ出テタル抵当財産ノ滅失、減少又ハ毀損ハ債権者ノ損失タリ但先取特権ニ関シ第百三十三条ニ記載シタル如ク債権者ノ賠償ヲ受ク可キ場合ニ於テハ其権利ヲ妨ケス
若シ抵当財産カ債務者ノ所為ニ因リ又ハ保持ヲ為ササルニ因リテ減少又ハ毀損ヲ受ケ此カ為メ債権者ノ担保カ不十分ト為リタルトキハ債務者ハ抵当ノ補充ヲ与フル責ニ任ス
此補充ヲ与フルコト能ハサル場合ニ於テハ債務者ハ担保ノ不十分ト為リタル限度ニ応シ満期前ト雖モ債務ヲ弁済スル責ニ任ス
第二百二条 抵当財産ノ差押ナキ間ハ債務者ハ財産編第百十九条及ヒ第百二十条ニ定メタル期間其不動産ヲ賃貸スルコトヲ得又其果実及ヒ産出物ヲ譲渡シ及ヒ管理ノ総テノ行為ヲ為スコトヲ得
第二節 抵当ノ種類
第二百三条 抵当ハ法律上合意上又ハ遺言上ノモノタリ
第一款 法律上ノ抵当
第二百四条 左ノ抵当ハ総テノ要約ニ関セス当然成立ス
第一 婦カ其夫ニ対シテ有スルコト有ル可キ総債権ノ為メ婚姻ノ日現ニ夫ニ属スルト日後之ニ属ス可キトヲ問ハス其夫ノ総不動産ニ付キ婦ノ有スル抵当但夫ノ未成年タルトキモ亦同シ
第二 未成年者及ヒ禁治産者カ其後見人ニ対シテ有スル総債権ノ為メ現在ニ属スルト将来ニ得ルトヲ問ハス後見人ノ総不動産ニ付キ有スル抵当
第三 国、府県、市町村及ヒ公設所カ行政法ノ定メタル限度ト条件トニ従ヒ会計吏員ノ管理ノ為メ其不動産ニ付キ有スル抵当
又第百八十一条及ヒ第百八十四条ニ従ヒテ変性シタル先取特権ヨリ生スル抵当ハ之ヲ法律上ノ抵当ト看做ス
第二款 合意上ノ抵当
第二百五条 合意上ノ抵当ハ公正証書又ハ私署証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ設クルコトヲ得ス
代理人ヲ以テ抵当ヲ設定スルトキハ委任ノ要旨ヲ抵当ノ設定証書ニ示スコトヲ要ス
第二百六条 本邦ニ存在スル財産ニ付キ外国ニ於テ為シタル抵当ノ合意ハ此種類ノ行為ノ為メ外国ニ於テ用ユル方式ニ従ヒ之ヲ為シタルトキハ其効ヲ生ス然レトモ特別法ニ規定シタル条件ニ従フニ非サレハ此合意ニ依リ本邦ニ於テ登記ヲ為スコトヲ得ス
第二百七条 抵当ノ設定証書ニハ義務ノ担保ニ充テタル不動産ヲ其性質及ヒ所在ヲ以テ特ニ指示スルコトヲ要ス
若シ抵当ノ設定カ債務者ノ現在ノ各不動産ヲ特ニ指示セスシテ其全部又ハ一分ヲ包含スルトキハ債務者ノ請求ニ因リ債権ノ担保ニ必要ナル限度ニ其抵当ヲ減少スルコトヲ得
債務者ノ将来ノ財産ニ付テノ一般又ハ特別ノ抵当ノ設定ハ無効タリ
第二百八条 抵当ノ設定証書ニハ右ノ外義務ノ原因、体様及ヒ其主従ノ目的ヲ明カニ指示スルコトヲ要ス
義務ノ目的カ金銭タラサルトキハ之ヲ評価ス可シ然レトモ其評価ハ登記ノ時ニ於テモ猶ホ之ヲ為スコトヲ得
第二百九条 抵当ハ抵当ニ充テント欲スル物ノ所有権又ハ収益権ヲ有シ且有償又ハ無償ニテ其物ヲ処分スル能力ヲ有スル者ニ非サレハ之ヲ承諾スルコトヲ得ス但第三者ノ抵当設定ニ関スル第二百十一条ノ規定ヲ妨ケス
若シ有期ノ物権ヲ抵当ト為シタルトキハ其抵当ハ此権利ノ時期外ニ効力ヲ生スルコトヲ得ス然レトモ抵当ト為リタル権利カ此時期ノ満了前或ル出来事ニ因リ物ノ価額ヲ代表スル償金ニ移リタルトキハ債権者此償金ニ付キ其権利ヲ行フ
第二百十条 未成年者、禁治産者及ヒ失踪者ノ財産ハ法律ニ定メタル原因及ヒ方式ニ依ルニ非サレハ其代人ニ於テ之ヲ抵当ト為スコトヲ得ス
第二百十一条 合意上ノ抵当ハ第九十八条及ヒ第百十七条ニ於テ動産質及ヒ不動産質ニ付キ記載シタル如ク債務者ノ債務ヲ担保スル為メ第三者ヨリ之ヲ設定スルコトヲ得
右ノ抵当ハ之ヲ設定セシムル為メ債務者カ何等ノ出捐モ為ササルトキハ債務者ニ対シテハ恩恵ナリトス
又抵当ハ債権カ無償ナルトキ又ハ有償ナルモ諾約ナクシテ主タル合意以後ニ之ヲ設定シタルトキハ債権者ニ対シテモ恩恵ナリトス
第三款 遺言上ノ抵当
第二百十二条 抵当ハ遺贈ノ担保ノ為メ又ハ第三者ノ債務ノ担保ノ為メニノミ遺言ヲ以テ之ヲ設定スルコトヲ得
第三節 抵当ノ公示
第一款 登記ノ条件及ヒ期間
第二百十三条 凡ソ法律上、合意上又ハ遺言上ノ抵当ハ下ニ定メタル条件ニ従ヒ其不動産所在地ノ登記所ニ於テ登記ヲ為シタルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス
数箇ノ登記所ノ管轄ニ跨カル不動産ノ全部ヲ抵当ト為シタルトキハ其主タル部分ノ所在地ヲ管轄スル登記所ニ於テ登記ヲ為シ他ノ登記所ニ於テハ其登記及ヒ日附ノ記載ノミヲ為ス
第二百十四条 抵当ハ其設定ノ後債務者ノ無資力カ正当ニ宣告セラレ又ハ其財産ノ全部若クハ過半ノ差押ニ因リ顕然ト為リタルトキハ有効ニ之ヲ登記スルコトヲ得ス但破産ノ場合ニ於ケル登記ノ権利ニ付テノ商法ノ制限ヲ妨ケス
抵当財産ノ譲渡アリタルトキ其譲受人ニ対シテ債権者ノ登記スル権利ノ制限ハ第五節ニ於テ之ヲ規定ス
第二百十五条 債権者カ財産ノ管理権ヲ有セサルトキハ抵当ノ登記ハ法律上又ハ裁判上ノ代人之ヲ為ス
抵当ノ登記ハ総理代理人及ヒ法律上又ハ合意上ノ抵当ノ附著シタル行為ヲ為ス委任ヲ受ケタル部理代理人ノ権利及ヒ義務ニ属ス
又登記ハ債権者ノ委任ナクシテ事務管理者之ヲ為スコトヲ得
第二百十六条 婦ノ法律上ノ抵当ハ夫カ婦ニ対シ契約其他ノ方法ニテ条件附ナルト否トヲ問ハス債務者ト為リタル時ヨリ夫又ハ裁判所ノ許可ヲ要セス婦ノ請求ニ因リテ之ヲ登記スルコトヲ得又其登記ハ婦ノ適当ト思考スル不動産ノ全部又ハ一分ニ付キ之ヲ為スコトヲ得但第二百二十六条ニ記載スル如ク夫ノ有スル抵当減少ノ権利ヲ妨ケス
婦カ登記ヲ為ササルトキハ夫ハ婦ノ担保ノ為メ十分ナル不動産ニ付キ其登記ヲ為スコトヲ要ス
婦又ハ夫カ登記ヲ為ササルトキハ縦令委任ナキモ婦ノ親族又ハ姻族ニテ之ヲ為スコトヲ得但婦ノ故障又ハ放棄ナキコトヲ要ス
第二百十七条 未成年者ノ法律上ノ抵当ハ夫カ婦ノ法律上ノ抵当ヲ登記スルト同一ノ場合ニ於テ同一ノ条件ニ従ヒ後見人之ヲ登記スルコトヲ要ス
後見人登記ヲ為ササルトキハ後見監督人又ハ親族会員其登記ヲ為スコトヲ要ス若シ之ヲ為ササルトキハ未成年者ニ対シ連帯シテ損害賠償ヲ負担ス
未成年者モ亦自治産者ト為リタル後ハ其登記ヲ求ムルコトヲ得
第二百十八条 前条第一項及ヒ第二項ノ規定ハ禁治産者ノ法律上ノ抵当ニ之ヲ適用ス
処刑言渡ニ因レル禁治産ノ場合ニ於テハ禁治産者ノ特別ノ代理人ニテモ登記ヲ求ムルコトヲ得
第二百十九条 債権者ノ相続人又ハ譲受人ハ原債権者ノミノ名ヲ以テ或ハ自己ト原債権者トノ連名ヲ以テ登記ヲ求ムルコトヲ得
債権者ノ代理人又ハ事務管理者ヨリ登記ヲ求ムルトキハ其名及ヒ分限ヲ本人ノ名及ヒ分限ト共ニ記載ス可シ
第二百二十条 債務者カ死亡シタルトキハ登記ハ債権者ノ選択ニ因リテ其債務者ニ対シ又ハ其相続人ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得
第三者ノ設定シタル抵当ニ関シテハ設定者ニ対シテ登記ヲ為スコトヲ要ス
第二百二十一条 法律上、合意上又ハ遺言上ノ抵当ノ登記ハ三十个年間其効力ヲ有ス三十个年後ハ債権ノ時効カ中断又ハ停止ニ係リタルトキト雖モ其登記ノ効力ヲ失フ
右抵当ノ時効ハ無能力者ニ対シテ停止セス但其代人ニ対スル求償ヲ妨ケス
然レトモ三十个年ノ期間満了前ニ登記ヲ更新シ旧登記ノ日附ヲ精確ニ記載シタルトキハ抵当ノ順位ハ旧登記ト同一ノ日附ニテ存ス
登記ノ効力ヲ失ヒシ後ノ更新ハ新登記ニ同シク其更新ノ日附ニ於テノミ効力ヲ生ス
第二百二十二条 三十个年ノ期間ニ於ケル登記ノ更新ハ旧登記後ニ起リタル債務者ノ破産、無資力又ハ死亡ニ拘ハラス之ヲ為スコトヲ得
第二百二十三条 登記ニ関スル争ハ抵当財産所在地ノ裁判所ニ之ヲ訴フ可シ
第二款 登記ノ抹消、減少及ヒ正誤
第二百二十四条 登記ノ抹消ハ左ノ場合ニ於テ之ヲ為ス
第一 債権カ無効タリ若クハ銷除ス可キモノタルトキ又ハ其全部ノ消滅シタルトキ
第二 抵当カ有効ニ設定セラレサルトキ
右ハ第二百三十条ニ記載シタル如ク或ル不動産ニ付テノ登記ヲ抹消スルコトヲ妨ケス
第二百二十五条 登記ノ抹消ハ債務者又ハ其承継人ノ請求ニ因リテ之ヲ宣告スルコトヲ要ス但下ニ規定シタル方式ニ於テ債権者ヨリ抹消ヲ許シタルトキハ此限ニ在ラス
第二百二十六条 婦ノ法律上ノ抵当ヲ或ル不動産ニ制限セサル場合ニ於テ其債権ノ担保ニ必要ナルヨリ多キ不動産ニ付キ登記アリタルトキ又ハ婚姻契約若クハ配偶者間ノ特別合意ニ因リテ婦ノ債権額ヲ評価セサル場合ニ於テ其債権ノ正当ナル評価ヨリ更ニ多キ金額ノ為メニ登記アリタルトキハ夫又ハ其承継人ハ不動産又ハ金額ニ関シ裁判上ニテ此登記ノ減少ヲ請求スルコトヲ得
第二百二十七条 右ニ同シク後見人又ハ其承継人ハ未成年者又ハ禁治産者ノ担保ニ必要ナルモノノ外ニ為シタル登記ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但親族会議ノ決議ニ因リテ抵当ヲ或ル不動産ニ制限セス又ハ債権額ヲ評価セサルトキニ限ル
第二百二十八条 合意上ノ抵当ハ債務者ノ現在ノ総財産ニ関シ過度ナルトキニ非サレハ第二百七条ニ記載シタル如ク債務者其減少ヲ請求スルコトヲ得ス
債務者ハ債権者ノ登記シタル債権ノ評価ノ減少ヲ請求スルコトヲ得但設定証書又ハ別証書ヲ以テ評価ヲ為ササルトキニ限ル
第二百二十九条 遺言上ノ抵当ハ相続ノ不動産ニ付キ遺言者其制限ヲ為サス又ハ債権ヲ評価セスシテ之ヲ設定シタルトキハ相続人其減少ヲ請求スルコトヲ得
第二百三十条 債務カ半額以上消滅シタルトキハ債権者ハ債務者ノ要求ニ因リ三種ノ抵当ニ付キ金額ノミノ登記ヲ減少ス可シ
債務者ハ一分ノ弁済ヲ為シタルトキハ常ニ自費ニテ登記ニ之ヲ附記スルコトヲ得
第二百三十一条 債務者ノ請求ヲ正当トスル判決ニハ抵当ヲ免カレタル不動産又ハ評価ヲ改メタル金額ヲ指示ス
右第一ノ場合ニ於テハ抵当ノ登記ヲ抹消シ第二ノ場合ニ於テハ之ヲ減少ス
第二百三十二条 前数条ニ従ヒ或ル不動産ニ抵当ノ登記ヲ減少シタル場合ニ於テ其不動産カ債権者ノ担保ニ不十分ト為リタルトキハ意外ノ事又ハ不可抗力ニ因ルト雖モ債権者ハ抵当ノ補充ヲ請求スルコトヲ得
第二百三十三条 登記ノ抹消又ハ減少ハ確定判決ニ依ルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス又証書ヲ以テスルニ非サレハ債権者之ヲ承諾スルコトヲ得ス
第二百三十四条 任意ノ抹消又ハ減少カ債務ノ消滅ニ基クトキハ其抹消又ハ減少ヲ承諾スルニハ債権者其債務ノ弁済ヲ受ケ又ハ之ヲ追認スル能力ヲ有スルヲ以テ足レリトス
抹消カ右ノ外第二百二十四条ニ記載シタル原因ノ一ニ基クトキハ債権者和解スルノ能力ヲ有スルコトヲ要ス
又抹消又ハ減少カ抵当ヲ無償ニテ放棄スル性質ヲ有スルトキハ債権者無償ニテ債権ヲ処分スル能力ヲ有スルコトヲ要ス
第二百三十五条 登記ノ抹消又ハ減少ヲ承諾スル為メノ委任ハ証書ヲ以テ之ヲ与フルコトヲ要ス
然レトモ抹消又ハ減少カ債務ノ消滅ニ基クトキハ債務者ノ免責ヲ承諾スル権限ヲ有シタル代理人ニ於テ其抹消又ハ減少ヲ承諾スルコトヲ得
和解又ハ無償ノ放棄ニ付テハ委任ハ明示タルコトヲ要ス
第二百三十六条 抹消又ハ減少ヲ為スニハ其合意又ハ判決ヲ登記ニ附記スルコトヲ要ス
第二百三十七条 抹消若クハ減少ヲ後日ノ判決又ハ債務者トノ合意ニテ銷除若クハ解除シタルトキハ其判決又ハ合意ヲ更ニ登記シ又ハ前登記ニ附記ス此場合ニ於テハ前登記ハ前債権者ノ為メ其効力ヲ回復ス然レトモ抹消若クハ減少ノ後ニ於テ不動産ニ付キ権利ヲ取得シ抵当ノ復旧ノ公示前ニ其権利ヲ登記シタル第三者ニハ此登記ヲ以テ対抗スルコトヲ得ス
第二百三十八条 登記、更新、抹消又ハ減少ニ訛誤又ハ脱漏アルモ此カ為メ銷除ヲ為スニ足ラサルトキハ当事者ノ協議又ハ判決ヲ以テ正誤ヲ為ス
第四節 債権者間ノ抵当ノ効力及ヒ順位
第二百三十九条 凡ソ不動産ニ付キ登記シタル抵当債権者ハ無特権債権者ニ先タチ其不動産ノ代価ノ配当ニ加入スルコトヲ得
法律上、合意上又ハ遺言上ノ抵当ヲ有スル数人ノ債権者間ニ於テハ其配当加入ノ順位ハ数箇ノ登記ヲ同日ニ為シタルトキト雖モ其登記ノ前後ニ因リテ之ヲ定ム
第二百四十条 登記ハ掲載シタル利息及ヒ定期ノ附従物ニ其経過シタル最後ノ二个年分ニ限リ主タル債権ト同一ノ順位ヲ得セシム但二个年以外ノ利息及ヒ附従物ノ為メ債権者ノ日後登記ヲ為スノ権利ヲ妨ケス然レトモ此登記ハ其日附後ニ非サレハ効力ヲ生セス
第二百四十一条 抵当ノ順位ハ債権カ条件附ナルトキ又ハ信用ヲ開キテ為ス貸付ノ如ク漸次ノ支払ヨリ生スルトキト雖モ亦登記ニ因リテ之ヲ定ム
第二百四十二条 債権者カ数箇ノ不動産ニ付キ抵当ヲ有シ其各箇ノ代価カ同時ニ清算アリシトキハ其債権ハ総不動産ノ価額ノ割合ニ応シテ之ヲ分配ス可シ
漸次ノ清算ノ場合ニ於テ右ノ債権者カ不動産中ノ一箇ノ代価ニ因リテ全ク弁済ヲ受ケ此一箇ノ不動産ニ付キ其債権者ノ次ニ抵当ヲ有スル一人又ハ数人ノ債権者カ為メニ弁済ヲ受クルコトヲ得サルトキハ其一人又ハ数人ノ債権者ハ他ノ各不動産ニ付テハ其相互ノ順位ヲ以テ右弁済ヲ受ケタル債権者ノ抵当ニ当然代位ス
第二百四十三条 前条ノ代位ハ原債権者ニ次テ右各不動産ニ付キ登記ヲ為シタル債権者ニ対シテ其効ヲ生ス
右ノ代位者カ登記ニ其代位ヲ附記シタルトキハ其代位者ヲ順序配当手続中ニ加ハラシムルコトヲ要シ且其承諾アルニ非サレハ何等ノ抹消又ハ減少ヲモ為スコトヲ得ス
第二百四十四条 凡ソ債権ヲ処分スル能力アル抵当債権者ハ同一債務者ノ他ノ債権者ノ利益ニ於テ自己ノ抵当又ハ其順位ノミヲ放棄スルコトヲ得但財産編第五百条及ヒ第五百三条ニ於テ更改ニ関シ規定シタルモノヲ妨ケス
若シ抵当債権ヲ数次ニ数人ニ対シ譲渡、放棄又ハ代位ノ目的ト為セシトキハ優先権ハ承継人中登記ニ自己ノ権利ノ設定権原ヲ附記シ又ハ登記ノ有ラサリシトキハ之ヲ為シテ其取得ヲ第一ニ公示シタル者ニ属ス
第二百四十五条 右ノ外第百八十五条ノ規定ハ前二条ノ場合ニ之ヲ適用ス
第二百四十六条 抵当債権者又ハ無特権債権者ハ他ノ抵当ノ登記ナキヲ知リタルコトヲ自認スト雖モ登記ノ欠缺ヲ申立ツル権利ヲ失ハス
第二百四十七条 不動産ノ売却代価ヲ以テ全部ノ弁済ヲ受ケサル抵当債権者ハ其残額ニ付テハ無特権債権者タリ
若シ不動産ノ売却ニ先タチテ動産有価物ノ配当ヲ為ストキハ抵当債権者ハ其債権全額ノ為メ無特権債権者トシテ仮ニ其配当ニ加入ス
其後ニ至リ抵当不動産ノ代価ノ配当アルトキハ抵当債権者ハ動産有価物ニ付キ何等ノ弁済ヲモ受ケサリシカ如ク其配当ニ加入ス然レトモ此配当ニ於テ全ク弁済ヲ受ク可キ者ハ動産ノ配当ニテ受取リタル金額ヲ控除スルニ非サレハ其抵当ノ配当額ヲ受取ルコトヲ得ス其控除シタル金額ハ動産財団中ニ之ヲ返還ス
不動産ノ代価ノ配当ニ於テ一分ノミノ弁済ヲ受クルコトヲ得ヘキ者ニ付テハ其残額ニ従ヒ其動産財団ニ対スル権利ヲ定ム但此割合外ニ受取リタルモノハ之ヲ動産財団中ニ返還ス
右ノ返還金額ハ純粋ノ無特権債権者ト有益ニ配当ニ加入スルヲ得サル抵当債権者及ヒ債権ノ一分ノミニ付キ之ニ加入シタル抵当債権者トノ間ニ於テ更ニ之ヲ配当ス
第五節 第三所持者ニ対スル抵当ノ効力
総則
第二百四十八条 抵当不動産カ譲渡サレ又ハ用益権其他ノ物権ヲ負担シタルトキハ其権原ノ登記前ニ登記ヲ為シタル抵当債権者ハ第三取得者ニ対シ債務ノ弁済ヲ請求スル権利ヲ保有シ又此不動産ノ売却代価ヲ以テ弁済ヲ受クル為メ其不動産ノ徴収ヲ訴追スル権利ヲ附随ニテ保有ス
然レトモ財産編第百十九条及ヒ第百二十条ニ規定シタル期間ヲ以テ為シ又ハ更新シタル賃貸借ハ抵当債権者之ヲ遵守スルコトヲ要ス
第二百四十九条 所有権ノ支分権ヲ抵当ト為シタル場合ニ於テ債務者其権利ヲ放棄シタルトキハ其放棄ノ登記前ニ抵当登記ヲ為シタル債権者ハ其放棄ニ拘ハラス追及権ヲ保有ス
第二百五十条 公正証書ヲ以テ設定シタル抵当ハ其不動産ヲ差押ヘ之ヲ売却セシメタル無特権債権者ニハ競落ノ登記前ニ其抵当登記ヲ為シタルトキハ之ヲ以テ対抗スルコトヲ得但第二百十四条ニ掲ケタル場合ニ於テ為セル登記ノ無効タルコトヲ妨ケス
第二百五十一条 第三所持者ノ破産又ハ無資力ハ其取得ノ登記アルマテハ抵当登記ノ妨碍ト為ラス
第二百五十二条 第三所持者ハ場合ニ従ヒテ左ノ方法ニ依ルコトヲ得
第一 抵当債務ヲ弁済スルコト
第二 滌除スルコト
第三 財産検索ノ抗弁ヲ以テ対抗スルコト
第四 不動産ヲ委棄スルコト
第五 所有権徴収ヲ受クルコト
第一款 抵当債務ノ弁済
第二百五十三条 第三所持者ハ抵当債務ノ満期ト為ルニ従ヒ之ヲ弁済スルニ於テハ所有権徴収又ハ妨碍ヲ受クルコト無シ
第二百五十四条 第三所持者ハ債務ノ全部又ハ一分ヲ弁済シタルトキハ財産編第四百八十二条第一号第四百八十三条第四号及ヒ第五号ニ従ヒ其弁済ヲ得タル債権者ニ属スル他ノ抵当、担保及ヒ利益ニ代位ス
又第三所持者ハ其弁済ヲ得サリシ債権者ヨリ所有権徴収ノ訴追ヲ受クルコト有ル可キ場合ノ為メ其所持セル不動産ノ負担スル抵当ニ付キ弁済ヲ得タル債権者ニ未定ニテ代位ス
第二款 滌除
第二百五十五条 第三所持者ハ登記シタル総テノ抵当債務ヲ弁済セサルモ債権者ニ其登記ノ順序ニ従ヒ不動産ノ取得代価、其評価若クハ之ニ超ユル金額ヲ払渡シ又ハ債権者ノ為メニ之ヲ供託シテ不動産ノ負担ヲ免カレシムルコトヲ得但下ニ規定セル如キ提供及ヒ滌除ノ手続ヲ為シタル後債権者ノ明示又ハ黙示ノ受諾アリタルコトヲ要ス
第二百五十六条 停止条件附ニテ不動産ヲ取得シタル者ハ条件ノ成就ニ因リテ其権利ノ定マラサル間ハ滌除スルコトヲ得ス
解除条件附ニテ取得シタル者ハ条件ノ到来セサルニ因リテ其権利ノ定マル前ト雖モ滌除スルコトヲ得
此場合ニ於テ第三所持者ノ提供カ承諾セラレタルモ其金額ハ抵当債務ヲ全ク弁済スルニ足ラスシテ其抵当ヲ抹消シタル後第三所持者ノ取得カ条件ノ到来ニ因リテ解除スルニ於テハ抹消ヲ受ケタル抵当債権者ノ登記ハ第二百三十七条ニ従ヒテ之ヲ回復ス
又右ノ場合ニ於テ提供カ承諾セラレスシテ下ニ規定セル如ク不動産ヲ競売ニ付シタルトキハ競落ハ第三所持者ノ為メ宣告アリタルト其他ノ者ノ為メ宣告アリタルトヲ問ハス以後解除条件ヲ免カレシム
第二百五十七条 抵当ヲ滌除スル権利ハ主タル債務者ト為リ又ハ保証人ト為リテ自身ニテ抵当債務ノ責ニ任スル第三所持者ニ属セス
又右ノ権利ハ他人ノ債務ノ為メ自己ノ財産ヲ抵当ト為シタル者ニ属セス
第二百五十八条 抵当債権者ヲ参加セシメタル総テノ競売ニ付テハ滌除ヲ為スノ限ニ在ラス
公用徴収ニ付テモ亦同シ
右ハ抵当債権者ノ其順位ヲ以テ競落代価又ハ徴収償金ノ配当ニ加入スル権利ヲ妨ケス
第二百五十九条 賃借権、使用権、住居権及ヒ地役権ハ滌除ヲ為ス限ニ在ラス
此等ノ権利ヲ抵当前ニ設定シタルトキハ其附著ノ侭ニ非サレハ不動産ヲ売却スルコトヲ得ス
抵当後ニ此等ノ権利ヲ設定シタルトキハ之ヲ斟酌セスシテ不動産ノ売却ヲ訴追スルコトヲ得
然レトモ此末ノ場合ニ於テ第三所持者ハ第二百四十八条第二項ニ記載シタル制限ニ従ヒ賃借権ヲ遵守スルコトヲ要ス
第二百六十条 第三所持者ハ債権者ヨリ訴追ヲ受ケサル間ハ何時ニテモ滌除スルコトヲ得又弁済ヲ為スカ又ハ不動産ヲ委棄スルカノ催告ヲ受ケタル後一个月内ニ滌除スルコトヲ得但此ニ違フトキハ其権ヲ失フ
然レトモ右ノ失権ハ当然生セス之ヲ請求スルコトヲ要ス但裁判所ハ第三所持者カ正当ノ障碍アリシコトヲ証シ且債権者カ其遅延ノ為メニ現実ノ損害ヲ受ケサル可キニ於テハ失権ヲ宣告セサルコトヲ得
又債権者ヨリ第二百六十五条第二号ニ規定シタル一个月ノ期間ニ失権ヲ請求セサルニ於テハ失権ヲ宣告スルコトヲ得ス
第二百六十一条 第三所持者ハ滌除ノ準備トシテ第三者ニ対スル自己ノ権利ヲ固定スル為メ其取得ヲ登記スルコトヲ要ス
右ノ後第三所持者ハ其不動産ノ負担セル先取特権又ハ抵当ノ目録ヲ登記官吏ニ要求ス
第二百六十二条 上ニ記載シタル一个月ノ期間ニ第三所持者ハ登記シタル各債権者ト第百十九条、第百七十八条及ヒ第百七十九条ニ従ヒ登記カ抵当ノ登記ニ同シキ効力ヲ有スル債権者トニ左ノ諸件ヲ告知スルコトヲ要ス
第一 取得証書ノ旨趣、其日附及ヒ登記ノ日附、譲渡人及ヒ取得者ノ氏名、職業、住所、譲受ケタル不動産ノ性質、其所在地、譲渡ノ代価及ヒ其負担ヲ指示スル要領書但交換、贈与若クハ遺贈ニ因リテ権利ヲ取得シタルトキハ其評価ヲ指示ス可シ
第二 各抵当登記ノ日附、其帳簿ノ葉数、其債権者ノ氏名、住所及ヒ主タル債権トシテ登記シタル金額ヲ明示スル登記表
第三 第三所持者ハ右ノ債権者カ法律ニ従ヒ且一个月ノ期間ニ増価競売ヲ求メサルニ於テハ満期、未満期又ハ条件附ノ債権ヲ区別セスシテ各債権者ノ抵当登記ノ順序ニ従ヒ之ニ不動産ノ代価、其評価若クハ之ニ超ユル金額ノ弁済又ハ其債権者ノ為メニ金額ノ供託ヲ為サントスルノ陳述
第二百六十三条 抵当ヲ登記シタル債権者ノ中ニ先取特権ヲ有スル譲渡人又ハ分割者アルトキハ前条第三号ニ定メタル陳述ニハ此債権者ヲシテ右一个月ノ期間ニ其解除訴権ヲ行ハント欲スル旨ヲ述ヘシムル為メノ催告ヲ添フルコトヲ要ス但第百八十一条及ヒ第百八十二条ノ明文ニ因リ法律上ノ抵当ニ変性シタル先取特権ヲ有スル者ニ付テモ亦同シ
第二百六十四条 譲渡証書中ニ抵当ト為シ及ヒ為ササル財産アルトキハ取得者ハ抵当財産ノ為メニノミ提供ヲ為スコトヲ得又増価競売ハ此提供ニ基キ之ヲ為スコトヲ要ス
第二百六十五条 凡ソ抵当ヲ登記シタル債権者ニシテ上ニ定メタル提供ヲ受諾セサル者ハ左ノ方式、期間及ヒ条件ヲ以テ抵当財産ノ競売ヲ要求スルコトヲ要ス
第一 其要求ニハ提供金額ノ上少ナクトモ十分一ノ増価ニテ買受クルコトト其増額シタル代価ノ全部及ヒ費用ノ為メ十分ナル保証人又ハ担保ヲ供スル旨ノ陳述トヲ添フルコトヲ要ス若シ此ニ違フトキハ其要求ハ無効タリ但此場合ニ於テハ総テノ正本ニ要求者又ハ其特別代理人ノ署名アルコトヲ要ス
第二 右ノ要求ハ提供告知ヨリ一个月内ニ第三所持者ニ之ヲ送達スルコトヲ要ス若シ此ニ違フトキハ其要求ハ亦無効タリ
第三 右ノ期間ニ於テ債務者タルト否トヲ問ハス前所有者ニ右ニ同シキ送達ヲ為スコトヲ要ス
第四 主タル債務者ニ非サル者カ抵当ヲ設定シタルトキモ亦同一ノ期間ニ於テ其債務者ニ送達ヲ為スコトヲ要ス
第二百六十六条 譲渡人又ハ分割者ニシテ其解除訴権ノ行使ヲ留保セスシテ前条ニ規定シタル如ク増価競売ヲ要求シタル者ハ其訴権ヲ放棄シタルモノト看做ス
若シ譲渡人又ハ分割者カ右ノ訴権ヲ保存セント欲スルトキハ増価競売ノ為メ許与セラレタル期間ト同一ノ期間ニ第三所持者ニ其旨ヲ告知スルコトヲ要ス若シ此ニ違フトキハ無効タリ但主タル債務者ナル前所有者ニ対シテ此ニ同シキ告知ヲ為スコトヲ妨ケス
第二百六十七条 定マリタル方式及ヒ期間ヲ以テ増価競売ノ告知ヲ為シタルトキハ其競売ノ要求者ハ抵当ノ登記ヲ為シタル他ノ債権者ノ承諾ナクシテ競売ヲ言消スコトヲ得ス其債権者ハ此増価競売ノ実行ヲ要求スルコトヲ得
若シ競売ノ実行アリタルトキハ第二百七十八条以下ヲ適用ス
第二百六十八条 孰レノ債権者ヨリモ有効ニ競売ヲ求メサリシトキハ不動産ノ滌除ハ債権者間ノ熟議上若クハ裁判上ノ順序配当ニ依ル弁済ヲ以テ又ハ債権者ノ名ニ於テスル供託ヲ以テ不動産ヲ滌除ス但此供託ニ付テハ予メ実物提供ヲ為スコトヲ要セス
此場合ニ於テ総テノ抵当ハ之ヲ抹消ス其元資ノ不足シタルモノト雖モ亦同シ
第二百六十九条 右ノ如ク滌除ヲ実行シタル後第三所持者ハ左ノ区別ニ従ヒ其譲渡人ニ対シテ担保ノ求償権ヲ有ス
第一 売買ノ場合ニ於テハ其売買代価外ニ提供シ及ヒ弁済シタルモノノ為メ
第二 交換其他ノ有償契約ノ場合ニ於テハ譲渡人ニ対スル自己ノ義務外ニ弁済シタルモノノ為メ但自己ノ供給シタル対価物ノ返還ヲ受ケサルトキニ限ル
第三 贈与又ハ遺贈ノ場合ニ於テハ贈与者又ハ遺言者ノ免責ニ付キ弁済シタルモノノ為メ
第四 総テノ場合ニ於テ自己ノ負担シタル滌除手続ノ費用ノ為メ
第三款 財産検索ノ抗弁
第二百七十条 主トシテ抵当債務ノ責ニ任セサル第三所持者ハ訴追債権者ニ対シ同一債務ノ為メニ抵当ト為リタル他ノ不動産ヲ予メ検索シテ之ヲ売却セシメント求ムルコトヲ得但此カ為メニハ左ノ諸件ヲ具備スルコトヲ要ス
第一 其不動産カ義務ヲ履行ス可キ場所ノ控訴院ノ管轄内ニ在ルコト
第二 其不動産カ猶ホ主タル債務者ニ属スルコト
第三 其不動産カ争ニ係ラサルコト
第四 其不動産カ債権者ノ登記ノ順位ト其価額トヲ斟酌シテ之ニ全部ノ弁済ヲ得セシムルニ不十分ナルコトノ明白ナラサルコト
右ノ抗弁ハ訴追ノ起初ニ之ヲ提出スルコトヲ要ス
第二百七十一条 第三所持者ハ第二十条乃至第二十三条ニ従ヒ保証人ノ分限ヲ以テ己レニ属スル検索ノ利益ヲ放棄シタルトキト雖モ抵当財産検索ノ抗弁ノ利益ヲ失ハス
第二百七十二条 他人ノ債務ノ為メ自己ノ不動産ヲ抵当ト為シタル者ハ検索ノ抗弁ヲ以テ対抗スルコトヲ得
連合債務者ノ中ニテ訴追前ニ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ弁済シタル者ニ付テモ亦同シ
第四款 委棄
第二百七十三条 第三所持者ハ所有権徴収ノ手続中何時ニテモ訴追ノ目的タル不動産ヲ委棄スルコトヲ得其委棄ニ因リ第三所持者ハ訴追債権者ニ所持ノミヲ委付シ不動産ノ所有権ト其法定ノ占有トヲ保存シテ其危険ヲ担任ス
第二百七十四条 主タル債務者又ハ保証人トシテ自身ニ債務ヲ負担シタルモノニ非サル第三所持者ノミ委棄ヲ為スコトヲ得
連合債務者ノ中ニテ債務ニ於ケル自己ノ部分ヲ弁済シタル者及ヒ供物保証人ハ訴追中ト雖モ委棄ヲ為スコトヲ得
第二百七十五条 有効ニ委棄ヲ為スニハ自身ナルト代人ノ資格ナルトヲ問ハス所有権徴収ノ訴追ニ被告トシテ出頭スル能力ヲ有スルヲ以テ足レリトス
第二百七十六条 委棄ハ委棄者又ハ其部理代理人抵当財産所在地ノ裁判所ノ書記課ニ於テ之ヲ陳述シ其陳述書ニ署名シテ訴追債権者ニ告知スルコトヲ要ス
裁判所ハ訴追債権者又ハ第三所持者其他ノ利害関係人ノ請求ニ因リテ委棄ニ付テノ管財人ヲ選任ス但所有権徴収ノ訴追ハ此管財人ニ対シテ継続ス
第二百七十七条 第三所持者又ハ其代人ハ競落アルマテハ何時ニテモ委棄ヲ為シタルト同一ノ方式ヲ以テ其委棄ヲ言消スコトヲ得此場合ニ於テハ訴追債権者ニ対スル総債務ト其時マテノ費用トヲ一个月内ニ弁済シ又ハ供託スルコトヲ要ス但他ノ債権者ノ訴追ノ権利ヲ妨ケス又滌除ノ期間カ経過セサルニ於テハ其債権者ニ対スル滌除ノ権利ヲモ妨ケス
第五款 競売及ヒ所有権徴収
第二百七十八条 第三所持者カ弁済ヲ為サス委棄ヲ為サス又滌除ヲ提出セサルトキハ抵当債権者ハ民事訴訟法ニ規定シタル方式ト公示トヲ以テ不動産ヲ競売ニ付ス
滌除ノ目的ニテ為シタル提供ノ受諾ヲ得サル場合ニ於テ増価競売ノ請求アリタルトキモ亦同シ
第二百七十九条 譲渡人又ハ分割者カ第二百六十六条ノ明文ニ従ヒ其先取特権又ハ法律上ノ抵当権ヲ閣キテ其解除訴権ヲ行ハント欲スル旨ヲ陳述シタルトキハ競売前ニ其訴ヲ為スコトヲ要ス但第三所持者ノ請求ニ因リテ裁判所カ此事ニ付キ定メタル期間ヲ超ユルコトヲ得ス
第二百八十条 総テノ場合ニ於テ解除ノ請求ナク又ハ其認許ナキトキハ第三所持者ハ競売ノ際競買人ト為ルコトヲ得
第三所持者ノ利益ニ於テ競落ヲ宣告シタルトキハ其判決ハ原証書確認ノ証拠トシテ其原証書ニ依ル登記ニ之ヲ附記スルノミ
第二百八十一条 第三所持者ニ非サル者ノ利益ニ於テ競落ヲ宣告シタルトキハ其判決ハ所有権移転ノ証拠トシテ特ニ之ヲ登記シ且前登記ニ之ヲ附記ス
第二百八十二条 前条ノ場合ニ於テハ競落ノ不動産ト第三所持者ニ属スル他ノ不動産トノ間ニ存在セシ地役権ハ一旦混同シタルモ働方及ヒ受方ニテ再生シ其混同ハ解除セラル
第三所持者ニ其取得前ヨリ属セシ用益権、賃借権其他ノ所有権ノ支分ニ付テモ亦同シ
第二百八十三条 競落ノ孰レノ場合ニ於テモ第三所持者カ競落ノ不動産ニ付キ登記シタル抵当ヲ有セシトキハ其順位ニテ配当ニ加入ス
第二百八十四条 各債権者ニ其登記ノ順序ニ従ヒテ競落代価ヲ弁済シ尚ホ剰余アルトキハ其剰余ハ競落人タルト否トヲ問ハス第三所持者ニ属ス
若シ競落前ニ第三所持者ノ債権者カ右ノ不動産ニ付キ抵当ノ登記ヲ為シタルトキハ其債権者ハ前所有者ニ対シテ登記シタル債権者ニ次キ配当ニ加入ス
第二百八十五条 第三所持者カ抵当不動産ノ占有中其所為ニ因リテ之ヲ毀損シ又ハ之ニ必要若クハ有益ノ出費ヲ為シタルトキハ第三所持者ト抵当債権者トノ間ニ於テ其計算ヲ為ス
第二百八十六条 第三所持者ハ委棄スルカ又ハ弁済スルカノ催告ヲ受ケタル後ニ非サレハ債権者ニ対シテ果実ノ計算ヲ為スコトヲ要セス
第二百八十七条 如何ナル場合ニ於テモ競落代価ノ弁済又ハ其供託ノ後ハ登記シタル総抵当ハ之ヲ抹消シ不動産ハ滌除セラル其元資ノ不足シタル抵当モ亦同シ
第二百八十八条 競落ノ後第三所持者ハ左ノ如ク譲渡人ニ対シテ担保ノ求償権ヲ有ス
第三所持者カ競落人ト為リタルトキハ第二百六十九条ニ記載シタル如ク賠償ヲ受ク
外人ノ利益ニ於テ競落ノ宣告アリタルトキハ第三所持者ハ普通法ニ依リテ追奪担保ニ付テノ権利ヲ有ス但左ノ区別ニ従フ
第一 売買其他ノ有償取得ノ場合ニ於テ競落代価カ取得ノ原代価又ハ対価ヲ超過シタルトキハ此差額ハ第三所持者カ権利ヲ有スル損害賠償中ニ増価トシテ之ヲ加フ
第二 贈与又ハ遺贈ノ場合ニ於テハ第三所持者ハ競落カ贈与者若クハ遺言者ノ相続人ヲシテ抵当債務ヲ免カレシメタル限度ニ非サレハ贈与者又ハ遺言者ノ相続人ヨリ賠償ヲ受ケス
手続ノ費用ハ競落人ヨリ之ヲ第三所持者ニ弁償ス
第六節 登記官吏ノ責任
第二百八十九条 登記官吏ノ民事上ノ責任ニ関スル財産編第三百五十五条ハ抵当登記ノ脱漏又ハ訛誤ニ之ヲ適用ス
第二百九十条 登記官吏カ第三所持者ノ為メ登記ヲ為シタル後之ニ交付シタル認証書中一箇又ハ数箇ノ抵当登記ヲ脱漏シ此脱漏ノ為メ登記債権者カ滌除ノ提供又ハ競落ノ手続ニ加ハラサリシトキト雖モ猶ホ不動産ノ抵当ハ滌除セラル
第二百九十一条 滌除ノ提供ニ対スル増価競売ノ為メ第二百六十五条ニ定メタル期間ノ満了セサル間ハ脱漏セラレタル債権者ハ其脱漏ヲ第三所持者ニ告知シ之ニ提供ノ通示ヲ求メ増価競売ヲ要求シ又所有権徴収ノ手続カ終了セサルトキハ之ニ加ハルコトヲ得然レトモ此カ為メ其手続ヲ遅延スルコトヲ得ス
如何ナル場合ニ於テモ右ノ債権者ハ協議上又ハ裁判上ニテ発開シタル順序配当手続ノ閉鎖セサル間ハ之ニ加ハルコトヲ得
右ハ前記ノ債権者カ脱漏ニ因リテ損害ヲ受ケタルコトヲ疏明スルニ於テハ登記官吏ニ対スル求償権ヲ妨ケス
登記官吏ハ主タル債務者又ハ其保証人ノ免責ノ為メ右ノ求償ニ因リテ弁済シタルモノニ付キ之ニ対シテ求償権ヲ有ス
第七節 抵当ノ消滅
第二百九十二条 抵当ハ左ノ諸件ニ因リテ消滅ス
第一 主タル義務全部ノ確定ノ消滅但更改ノ場合ニ付キ財産編第五百三条ニ記載シタルモノヲ妨ケス
第二 債権者ノ抵当ノ放棄
第三 時効
第四 滌除但債権者提供ヲ受諾シ且第二百六十八条ニ従ヒテ提供金額ノ弁済又ハ供託アリタルトキ
第五 競落但第二百五十八条及ヒ第二百八十七条ニ従ヒテ競落代価ノ弁済又ハ供託アリタルトキ
第六 抵当不動産ノ全部ノ滅失但第二百一条ニ従ヒテ債権者ノ権利カ其滅失ヨリ生ス可キ賠償ニ移転スルコトヲ妨ケス
第七 公用徴収但抵当債権者ニ其償金ヲ弁済スルコトヲ妨ケス
第二百九十三条 義務ノ消滅カ裁判上ニテ認メラレタル原因ニ由リテ取消サレタルトキハ登記ヲ抹消シタリト雖モ抵当ハ其原順位ニ復ス
然レトモ其抵当ハ抹消ノ後新登記ヲ為ス前又ハ登記ヲ復シタル判決ヲ原登記ニ附記スル前ニ登記ヲ為シタル債権者ヲ害スルコトヲ得ス
第二百九十四条 抵当ノ放棄ハ場合ニ従ヒ有償又ハ無償ニテ債権ヲ処分スル能力ヲ有スル債権者ニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス
債権者其抵当順位ノミノ放棄ヲ為ストキモ亦同シ
抵当又ハ順位ノ放棄ハ黙示タルコトヲ得
債権者カ譲渡人ト共ニ抵当不動産ノ譲渡ニ参加シタルトキハ追及権ノミニ関シテ其抵当ヲ放棄シタリト看做ス但法律上特別ニ其参加ヲ要スル場合ハ此限ニ在ラス
第二百九十五条 抵当ノ時効ハ不動産カ債務者ノ資産中ニ存スル場合ニ於テハ債権ノ時効ト同時ニ非サレハ成就セス
右ノ場合ニ於テ債権ニ関シ時効ノ進行ヲ中断スル行為及ヒ之ヲ停止スル原因ハ抵当ニ関シテ同一ノ効力ヲ生ス
第二百九十六条 抵当不動産ノ所有者タル債務者カ其不動産ヲ譲渡シテ取得者又ハ其承継人カ之ヲ占有スルトキハ登記シタル抵当ハ抵当上ノ訴訟ヨリ生スル妨碍ナキニ於テハ取得者カ其取得ヲ登記シタル日ヨリ起算シ三十个年ノ時効ニ因リテノミ消滅ス但債権カ免責時効ニ因リテ其前ニ消滅ス可キ場合ヲ妨ケス
第二百九十七条 真ノ所有者ニ非サル者カ不動産ヲ譲渡シタルトキハ占有者ハ其善意ナルト悪意ナルトニ従ヒ所有者ニ対シテ時効ヲ得ル為メニ必要ナル時間ノ経過ニ因リ抵当債権者ニ対シテ時効ヲ取得ス
無権原ニテ不動産ヲ占有スル者ニ付テモ亦同シ
第二百九十八条 第三所持者ノ為メノ抵当消滅ノ時効ハ登記ノ更新ニ因リテ中断セラレス然レトモ其時効ハ占有者ノ任意ニテ為シタル抵当ノ追認及ヒ第二百六十条ニ規定シタル如ク其占有者ニ為シタル催告ニ因リ其他証拠編第百九条以下ニ規定シタル如ク総テ抵当権ニ効力ヲ与フル行為ニ因リテノミ中断セラル
右ノ時効ハ債権ニ附著スル期限又ハ条件ニ因リテ停止セラレス但債権者ハ証拠編第百二十八条ニ規定シタル如ク其権利ヲ保存スルコトヲ得
此他証拠編第百三十一条乃至第百三十六条ニ規定シタル停止ノ原因ハ抵当ニ之ヲ適用ス